無口で無表情 (マツユキソウ)
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第一章
プロローグ



どうしても書きたくて書いてしまいました。





(何この無駄にデカイケーキ)

 

この世界に生を受けて一年目。

私は無駄にデカイバースデーケーキを前にそんな事を思っていた。

 

えーと、誤解しないで欲しいのですが、私の年齢は二十二歳です。

赤ちゃんではありません。

何が言いたいのかといいますと、要するに……私は転生しました。

転生して今日で一年ということです。

おめでとう私。ありがとう私。

気がついたら見知らぬ場所……何とも非現実的な事なのですが、起こってしまったことなので現実として受け入れるしかありません。

臨機応変に対応ですッ!!

まぁ、転生というか見た目や価値観が変わって別の世界に来ちゃった。って感じなんですけどね。

 

っと、今では冷静に受け入れていますが転生した直後は混乱して建物を壊してしまったのを覚えています。

あぁ、またまた誤解しないで欲しいのですが前世の私は非力な一般人でした。その辺に転がっている石と変わらない存在でした。

そんな私が一撃で建物を破壊できる力を得た。それほどの力がないと生きていけない世界に転生してしまった私。

それだけでもかなり物騒な世界に転生してしまったんだなと思っていた矢先、私の頭の中に様々な情報が入り込んできた。

帝国やら将軍……極めつけはナイトレイドに帝具という存在。

私は絶望した。それはもう絶望した。

 

私が転生したのは『アカメが斬る!』の世界でした。

あはは…………笑えないよ。

 

漫画の世界だからそう簡単には死なないんじゃ……という希望があると思いきや、待っているのは殺しや暗殺、虐殺など様々な死が蠢く腐敗した国。

女だから、子供だからといって見逃してくれない何とも嬉しくない平等な世界。

 

この国が変わるまで引き篭っていたいのですが、とあるデブがそうさせてくれないので…………ムカつくんですよね。

 

「グフフ……今日もここに居られましたか。エリア将軍」

 

私が声の聞こえた方を見ると、グチャグチャと汚い咀嚼音を響かせながら肉を食べるデブがいた。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

少女がこの宮殿内にある温室に現れたのは、ちょうど一年前の今日であった。

 

皇帝陛下がいきなり『オネスト!温室内に女の子がッ!!』と興奮した様子で言ってきた。

大臣であるオネストは、子供に良く見られる自分の世界に入り込んでしまって現実と妄想がごちゃまぜになってしまう症状だと思い、軽く微笑むだけで聞き逃していた。

しかし、『オネスト! オネストッ!!』と袖を引っ張る幼い皇帝は中々に諦めが悪く、遂に根負けしたオネストは、渋々手をつけていた書類を後にして皇帝に引っ張られる形で温室に連れて行かれた。

 

温室内のちょうど中心にあるテーブルとイスが置かれた場所に、少女が座っていた。

そしてオネストは疑問に思った。

様々な植物が植えてあるこの温室は、終始宮殿に居る皇帝陛下のお気に入りの場所であった。

この温室に入るには鍵が必要で皇帝陛下とオネスト、そして宮殿内の警護をしているブドー大将軍以外は持っていない。

つまり誰かが鍵を開けて少女をこの中に入れたのだが……

皇帝陛下は目の前の少女を『知らない』と答え、当然オネストもこの少女のことを知らなかったので、嫌々オネストは近衛兵と鍛錬をしていたブドー大将軍に聞いてみたが『知らん』と答えた。

 

オネストは困り果て、とりあえず皇帝陛下と自身の安全を考えて皇拳寺羅刹四鬼(こうけんじらせつよんき)の内の二人、イバラとシュテンを呼ぶことにした。

イバラとシュテンは帝国最高と言われている拳法寺。皇拳寺から派遣されたオネスト大臣専用の手駒でその実力は折り紙付き、帝具を持った人間ですら倒したことのある程なのだ。

イバラとシュテンが来たことで少しだけ心に余裕が出来たオネストは、少女のことを調べようと近づく。

 

近づいても何の反応も示さないあたり、どうやら少女は寝ているらしく背もたれに寄りかかったまま微動だにしなかった。

 

「きひっ……どうやらおじょーさんは眠っちまってるらしいねぇ」

「その笑いはやめろイバラ。この娘とお前の容姿も合わさって色々と危ない」

「そんなこと言ったらよぉ、お前とこのおじょーさんも似合わないぜぇ。美女と野獣って感じだよぉ」

「ふむ……」

 

全くもってその通りだと思ったオネストは、未だに起きる様子を見せない少女を観察する。

顔立ちは整っており、髪をツインテールにしているせいか少し幼いように感じる。

服装は、何故か白銀に輝く鎧を着ている。

しかし、肩から篭手の部分は薄い布で覆われ、下は髪色と同じ紫色のスカートを履き、肝心の鎧の部分は上半身だけであった。

ドレスアーマーとでもいうのであろうか、防御力よりもお洒落を意識した服装であった。

そして、鎧には帝国のエンブレムが彫ってある所を見るとこの少女は帝国軍の人間ということになる。

他にも何かわかることがないか少女をジロジロと見ていると……いつの間にか目を開けていた少女と目があった。

 

その瞬間、オネストは体が鉄の様に重くなり地面に倒れた。

イバラとシュテンも同様に地面に倒れ、何が何だかわからないといった顔をしていた。

少女は何も言わず立ち上がると、屍人の様な目でオネストを見下す。

何も写さず、見た者を闇へと引きずり込むような目。

 

「おっお前は何者だ! 私に手を出せばただじゃすまされんぞ!!」

 

このままでは殺されると思ったオネストは、何とも見苦しいセリフを吐いた。

 

「…………」

 

しかし、何の反応も示さない少女は、何かを包み込むように両手を構えた。

 

その後のことをオネストと羅刹四鬼の二人は覚えていない。

彼等が気がついた時には少女はイスに座り、皇帝陛下はこの騒ぎに慌てて駆けつけたブドー大将軍と何やら話をしているようだった。

殺されなかったことにホッとする大臣だったが、それもつかの間。信じられない光景を目にする。

なんと……温室の約半分が消滅していたのだ。

何をしたのかはわからない。

しかし、羅刹四鬼の内の二人を簡単に倒した力量、体を拘束したり温室の半分を消滅させる力……十中八九帝具の力だと推理したオネストは、是非とも手駒として取り込もうと少女と話をすることにした。

 

「ふむ、お前は何者でどこからやってきた?」

「…………」

「ここがどこだかわかるかね?」

「…………」

「お前は帝具を持っているのだろう?」

「…………」

 

何を聞いても一言も喋らず、表情を変えない少女。

どうしたものかと困っていると、そんなオネストを見て皇帝陛下が笑って言った。

 

「はは、オネストよ。この子の名前はエリアというそうだ」

「陛下……どうやってこの少女の名前を?」

「ん? エリアは喋れん様だからな、筆談というやつだ」

 

そう言って皇帝陛下はテーブルの上を指さすと、『うん』『エリア』『ごめんなさい』等と書かれた紙が散らばっていた。

 

「なるほど、エリアと言ったな……お前は何者だ?」

 

オネストの問いにエリアは何も書かれていない紙に一言。

 

『人間』

 

と書いて見せた。

何とも的外れな答えを返されたオネストは頭を数回掻く。

このままではこの少女のペースに飲まれてしまう。

そう思ったオネストは本音を打ち明かす。

 

「ふぅ、お前が何者かはしらんが私の命を奪わないということは敵ではないということだろう。この際お前の素性は気にせん、どうだ、帝国で働く気はないか? もちろん悪いようにはしない。将軍の位をくれてやる」

 

素性もわからない人物に対しては破格の条件であった。

しかし、それほどまでにオネストはこの少女を敵に回したくなかった。

少女は先程も言ったが帝具持ちである。しかも性能を見る限りかなり強力な物だと考えられる。

そんな帝具を持った少女が帝国の敵になったら、幾ら帝国最強のエスデス将軍やブドー大将軍がいるといっても苦戦は免れないだろう。

そして、この少女が味方になれば……今よりより一層自分の思い通りに国を動かせる。

酒池肉林を思う存分振る舞える。

そう思っての条件であった。

 

「…………」

 

エリアは何も書かず、唯々オネストを光の失った目で見つめるだけであった。

 

どれくらい経ったのであろうか。静寂を破ったのはオネストでもエリアでもなく、皇帝陛下の隣で黙ってこの様子を眺めていたブドー大将軍であった。

 

「エリアと言ったな、陛下の宮殿を壊した罪は大きい……が、陛下がお前のことを気に入ったようだ。どうだ、私と一緒に陛下に尽くす気はないか?」

 

そう言って手を差し出した。

堅物で知られているブドー大将軍のまさかの援護に目を丸くするオネストであったが、すぐにエリアの方を見る。

 

『よろしく』

 

そう書かれた紙が一枚、オネストの目の前に置かれていた。

 

 

 

無事にエリアを味方につけて一年が経った。

相変わらず彼女は一言も話さず、何かあれば紙に書いて自分の意思を伝えるだけであった。

年端もいかない少女、しかも話せない、素性もわからない……そんな少女が将軍になったということもあり、軍の内部はかなり混乱した。

しかし、将軍としての仕事はきっちりこなすので、初めは反発していた輩も徐々に彼女を認めるようになり、極めつけはエスデス将軍の『エリアは私が認めた者だ!』発言も大きかった。

 

将軍としての仕事、特に賊軍の掃討を担当しているエリアをオネストはエスデス将軍の次に頼っていた。

北の異民族の侵攻が激しくなり、エスデス将軍を中核とする北方征伐部隊を派遣して暫く立つが、どうにも帝都内で賊共の不穏な動きがあるようなのでエリアにその反乱分子を排除してもらおうとオネストは頼みに来ていた。

 

(また見ない内に知らん草木が増えたな……)

 

賊共の資料をエリアに渡したオネストはそんなことを思っていた。

エリアは仕事がない日はいつもこの温室にいる……というよりこの温室がエリアの部屋なのだ。

皇帝陛下に頼み、この温室を賊軍討伐の褒美として貰ったエリアは何処からともなく取ってきた草や種を植えている。

一見、何の考えもなく取ってきては植えているように見えるが、どうやら彼女が植えているものは何かしらの役に立つものであった。

オネストも時々食後のデザートとして果物を貰いに来たりしている。

 

(ちょうど肉も食べ終わりましたし、今日も何か貰うとしましょう……)

 

そんなことを考えていたオネストは、ふと自分を見ているエリアに気づく。

どうやら資料を読み終えた様で、サラサラと何か書いていた。

 

「どうでしょうかエリア将軍、やってくださりますかな?」

 

オネストはニンマリと意地汚い笑みを浮かべる。

そんなオネストを無表情で見つめるエリアは書き終わった紙を見せる。

 

『却下』

 

その文字を見た瞬間、オネストは目を丸くする。

今までどんな仕事でも『了解』と書いてきた彼女が、まさかの『却下』。

 

「どっどうしてですか?」

 

流石のオネストもこれには驚きを隠せなかった。

 

『早い』

 

エリアがその文字を見せると、またもオネストは意地汚い笑みをする。

なる程、今殺したところで反乱分子はまだまだ出てくる……大きくなったところを叩き潰す。という事ですか、流石は賊共から殺戮人形(キラードール)と恐れられているだけはありますね。

 

「わかりました。時期が来たらお願いしますよ」

『わかった』

 

オネストは満足げに頷くと温室を後にしようと歩き出す。

数歩ほど歩くと、鼻を掠める甘ったるい匂い。

甘いものが好きなオネストはその匂いの発生源を突き止めるべく辺りを見渡す。

後ろを見ると、拳大ほどの大きさのある紫色の果物を持ってエリアが立っていた。

 

「ほほぅ……これを私にくれるのですか?」

『ほい』

「ありがとうございます。良いのですか、こんなに沢山貰って」

『ケーキのお礼』

「あぁ、それなら気にしないで下さい。それにしても、これは何ですか? 見た感じ馬鹿デカイ苺に見えますが……」

『マーグベリー。育てるのに苦労した』

「ヌフフ……ありがとうございます」

 

カゴいっぱいにマーグベリーを貰ったオネストは上機嫌に温室を後にした。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

さて、目を開けたらいきなりのゲス顔デブ&上半身裸のいやらしい目つきの男に筋肉モリモリヒゲもじゃ男がいたらどうするか。

 

まずはビックリして悲鳴をあげますよね。

私も悲鳴をあげようとしたんですが、何故か声が出ないんですよ。

ヤバいッ!? と思ったので今度は逃げようとしたのですが、ここで冷静になりましょう。

ゲス顔デブは兎も角、いやらしい男とヒゲもじゃ男は筋肉モリモリ……逃げても絶対に捕まると思いました。

よって私に残された選択肢は一つ。

捨て身の迎撃ですッ!!!!

そう考えた瞬間に頭の中に情報が入ってくる。

その情報通りに体を動かし、何故か持っていた【帝具】を使ったら何かスカウトされました。

 

勿論私は…………OKですよ。

 

いや、帝国軍側……しかも原作主人公たちが殺そうとしているゲス野郎のオネスト大臣に付くとか正直勘弁って思いましたよ。

でもね、断ったら私死ぬじゃん。

羅刹四鬼の最強イバラさんにシュテンさん、それにブドー大将軍までいるとか、どう考えても無理ゲーです。

確かに私の帝具を使えば逃げられるかもしれません。

でも、その後が問題なんですよ。

 

『羅刹四鬼とブドーから逃げた』→『そんなに強い奴がいるのか!!』→『闘争大好き原作チートキャラのエスデスさん登場』

 

絶対こうなりますッ!!

誰が好き好んで原作チートキャラのエスデスさんに狙われないといけないんですか。

っという訳で私は死にたくないので帝国軍にめでたく就職しました。

アレですね。意外に雇用条件いいですね。

しっかり働けば給料アップにボーナスまで……

これも民の方が重税で苦しんでるおかげです。本当にごめんなさい。

 

 

 

…………って思っておけばいいですかね。

正直な話、私は漫画の主人公やその仲間たちのように自分の命と引き換えに巨悪と戦う。なんて無謀なことできません。

本当にごめんなさい。

私の守りたいものは自分の命と手が届く命だけ……それ以外は知らない。

弱肉強食の世界なら強者になればいい、ただそれだけです。

それに私の価値観はどうやら他の人たちとは違うらしく、人を殺しても何とも思わないんですよね。

まぁ、そうじゃないと私みたいな平和な世界で生きていた人間には生きていけない世界なんですよね。

 

そういえば、あのデブが帝都にいる賊を殺して欲しいって言ってましたけど……十中八九ナイトレイドですよね。

渡された資料にも帝具、一斬必殺『村雨』を持ってるアカメちゃんとか万物両断『エクスタス』とか書いてありました。

 

勿論引き受けません。

私が拒否すると大臣はすっごい目を丸くして驚いていましたがそんなこと知らん。

だって怖いんだもん。

この世に四十八個しかなく、一騎当千の力を持つと言われ物まである超兵器『帝具』。

簡単に説明すれば某国民的アニメの未来から来たネコ型ロボットが持っているひみつ道具みたいなものです。オーバーテクノロジーです。

そんなチート性能な帝具を持った者同士で戦うと……相打ちはあっても両者生存はありえない。つまりどちらかが必ず死ぬということです。

そしてナイトレイドの皆さんが持っている帝具は六個。対するのは私の帝具だけ……六対一。

せめてエスデスさんが北の異民族討伐から帰ってきてからならまだしも、何の計画もなくただ『コイツらウザイから殺してー』なんて嫌です。ノーサンキューです。

確かに私の帝具と高い身体能力があれば殺せるかもしれません。

しかーし、原作が始まってもいないのに原作キャラを殺すのって……大丈夫なんですかね。

最悪、世界の修正力みたいなものが働いて私という存在が消されて何事もなかったことになりそうで怖いんですよ。

 

という訳で色々と不確定要素が含まれるので却下です。

原作に関わるようなお仕事は始まってからにして下さい。

私に断られた大臣は暫くフリーズしていましたが、再起動と共に気持ち悪い笑みを浮かべました。

『顔面殴りたい』

そんなことを思いながらもそんな気持ちを微塵も出さないクールな私の顔。

どんな事が起こっても鉄仮面のごとく表情を変えないマイ、フェイス。

無口で無表情とかどんだけコミュニケーション力がないんだ……大丈夫かよって思っていましたが意外になんとかなるものですね。

 

さて、仕事の依頼を断ったので何かお詫びの品でも送ろうかと思いましたが、生憎私が用意できる物は今が旬のマーグ高地産のマーグベリーだけです。

私が態々任務の合間を縫って取ってきた大変貴重な果物です。感謝しなさいッ!!

……実らせるまでに苦労しましたが、今では雑草の様に沢山生えてしまっているので困っていたんですよね。

適当にカゴに取って渡し、ついでにテーブルの上に置かれていたバースデーケーキのお礼をする。

こんな無駄にデカイケーキをくれるのは大臣しかいませんので。

何とも似合わない優しい笑みを浮かべた大臣が温室から出て行った後、私はイスに座り目を瞑る。

 

私がこの世界に転生した年が帝歴1023年。

つまり、一年経ったということは帝歴1024年…………アカメが斬る!の原作が始まる年です。

 

 

 

さて、原作を知っている私という異常者はどう物語に関わるのでしょうね。

私は立ち上がり温室の外へと続く扉を開ける。

まずは、原作の主役であるタツミ君のお出迎えといきますか。

 





ここまで読んで下さった方ありがとうございます。
こんな感じで書いていくと思いますので暇なときにでも読んで下さい。
無口&無表情キャラっていいですよねぇ……

感想書いて下さると作者の書く気力&テンションがあがりますッ!!!



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考えましたねタツミ君

アカメが斬る!の物語が始まるのは帝歴1024年、タツミ君が帝都近郊で一級危険種土竜を倒して輸送隊の方々を助けるところから始まります。

つまり、『土竜に襲われたがタツミという名の少年が助けてくれた』という報告があがったその日が原作開始ということになります。

 

『こんにちは』

「これはエリア将軍、また報告書の確認ですか?」

『うむ』

「はは、本当に仕事熱心な方ですよ貴女は。そう思ってこちらに用意してあります」

 

私は諜報部の方にお辞儀をして今日起こったばかりの事件や事故等の様々な報告書を目に通す。

まだお昼前なのにたくさんあります……流石は無駄にデカイ帝都です。

確か広さ二十万平方キロでしたっけ、大きいですねー。

 

原作キャラであるタツミ君にどうしても会いたい私は将軍としての地位を有効に活用して情報を集める。主に兵士の方に。

ククク……権力最高!!

 

コホン。

それにしても、腐れ外道大臣がやりたい放題している国なだけあって殺人やら強盗が多いですね。

私は報告書を一枚ずつ手に取って確認する。

お目当ての報告書だけ探せば時間が省けて良いのですが、一応私も将軍ですし、賊軍の討伐を主にやっていますし……こういった情報は確認しておいて損はないのでやっておきます。

いやぁー、前世で鍛えていた速読スキルがこんな所で役に立とうとは……ハハハッ!! 読める、読めるぞぉおおお!!

 

っと、何枚か気になる報告書がありましたね。

おーい兵士さんや、この報告書間違ってるから直してもらうように言ってください。

私は何枚かの報告書の修正部分を赤ペンで印&間違っている理由を書いて兵士さんに渡す。

 

『間違ってる。直すように』

「私達の仕事なのに、申し訳ございませんエリア様……」

 

いえいえですよ。

私も貴方たちにはお世話になってるので恩返しというヤツです。

でも、これだけ報告書があると間違いや嘘の報告書を見つけるのが大変そうですね。

手伝いませんよ?

私が手伝ったらこの人たちの仕事が無くなっちゃいますからね。

それに私のお仕事は基本的に『殺し』です。これでも一応武官ですからね。

帝国に仇なす賊を排除し、帝都に蔓延る悪党を排除するッ!!

そしてお給料と特別ボーナスを貰います。

いわゆる仕事の殺しってヤツです。

 

『あれ……私って民の為に良い事してるんじゃない?』 って思った時期がありましたが、そんなものは幻想ですッ! ぶち壊れろ私の幻想。

確かに私は世紀末に出てきそうな悪い人たちを殺して帝国を守ったことがあります。

しかし、何回か大臣に頼まれて裏のお仕事もしたことがあります。

最近だと帝国の驚異である賊軍という名の革命軍を沢山殺しました。

 

その後からでしょうか、『殺戮人形』なんて言う変な異名がついたのは。

確かに、私は人を殺す時も食事を摂る時も会話をする時も終始無表情ですよ。喋りませんよ。

だから人形って言われても仕方ないことだと思います。それは許します。

しかしッ!! 『殺戮』って二文字、お前はダメだ。許さないッ!!

別に私は殺しが好きな人ではありません。死にたくないだけです。

革命軍を殲滅した時だって『今すぐ逃げれば殺さない』ってちゃんと紙に書いて丁寧に見張りの人に渡しましたもん。

なんてったって、あの時の私の仕事は賊軍の『アジト』の壊滅ですからね。そのアジトを壊せば中の人たちをどうしようが私の勝手なので逃げるように提案しました。

でもね、あの人たち何を考えたのか全員武器を持って私を攻撃してきたんですよ。

殲滅大好きエスデス様なら絶対にありえない選択肢を与えてあげたにも関わらず、あろう事か私を攻撃してくるとか……幾ら温厚な私もこの時ばかりは怒りました。無表情で。

それに向こうから攻撃してきたので私のは正当防衛です。タブン。

 

だっだからッ!! 私が『殺戮人形』なんて呼ばれる筋合いはないのですッ!!

呼ぶならせめて……もっとこう……す、スタイリッシュな感じで!!!

 

 

 

はぁ、バカやってないで報告書の確認します。

がんば私。

…………何枚目かわかりませんが無事にお目当ての報告書を発見できました。

この報告書によりますと、帝都に向けて物資輸送中に一級危険種土竜に襲われるも近くを通りかかった少年に助けられた。というものでした。

どうみてもタツミ君です。本当にありがとうございます。

 

さて、無事に原作が開始されたようなので……

 

「おや、今日はもうよろしいのですか?」

『世話になった』

「いえいえ、またいつでも来てください」

 

私は諜報部の方にお礼をした後、一目散に兵舎へと向かう。

タツミ君に会いに行きましょ~~う!!!

強くて純粋で素直な彼を生で見てみたいんですよね。

タツミ君は敵側であるナイトレイドに入ってしまうので、この日を逃せばいつ会えるかもわかりません。

フフフ……あわよくば彼の笑顔を拝見してみたいものです。

 

顔は無表情だが意気揚々と兵舎へ向かう私であったが、このあと私は散々な目に遭うのであった。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「はぁー! すげぇ……ここが帝都かぁ」

 

地方から来たタツミは、生まれて始めて来た帝都を物珍しそうに見渡す。

道端には沢山の出店が並び、人々の活気溢れる声が聞こえる。

 

(流石は帝都だぜ、噂通りの賑わいっぷり!! それに何もかもデケーぜ……こりゃぁ、出世すれば金が沢山手に入りそうだな。)

 

タツミは暫く帝都の景色を眺めていたが、兵舎に向かってまっすぐ歩き出す。

帝都から離れた地方の田舎は重税により苦しい生活を余儀なくされていた。

そんな村の若者たちは、村を救うべく『帝都で出世』という夢を見て帝都へとやってくるのであった。

タツミもそのうちの一人であった。

そして、帝都で出世するのに一番早いのは軍に志願することであった。

実力さえあれば将軍にもなれるということで、地方から来た者たちの殆どが軍人として働いていた。

しかし、帝国は三方を異民族に囲まれており、仕官したばかりの兵たちは国境で彼らと戦いに駆り出されることが殆どであった。

国境での彼等との戦いは過酷で、新兵の約三分の一は一週間もしないうちに殉職するという噂であった。

 

(覚悟はしてるさ……)

 

タツミは力強く拳を握りしめて兵舎の扉を開ける。

中はかなりの人で賑わっており、タツミは「受付」と書かれた場所に向かう。

 

「俺、軍に入りたいんだけど」

「あぁー、お前も入隊希望者か。じゃあ、この書類を書いて俺んとこに持ってきてくれ」

 

受付の担当であろう黒い軍服を着た中年の男が気だるそうに言う。

どうやら、タツミ以外にも入隊希望者がいるらしくその対処に追われているのであろう、目の下にはクマが出来ていた。

 

「これって一兵卒からスタートなのか?」

 

タツミは一通り書類に目を通した後、中年の男に質問をする。

 

「当然だろ」

 

全くもって当然である。

軍務経験がない輩にいきなり部隊長や副長などが務まるはずもなく、新兵は決まって一兵卒からのスタートで大概は辺境行きである。

 

「そんなのんびりやっていられるかよ!!」

 

バンッ!!と強く机を叩いたタツミは自慢の剣技を見て貰おうと鞘から剣を抜こうとするが……

 

『それ以上抜いたら斬る』

「へっ……!?」

 

そう書かれた紙が目の前に現れ、首元には剣が突きつけられていた。

 

「え、エリア将軍!? こ、ここの様な所にどうして……」

 

中年男は慌てて立ち上がり敬礼をする。

遅れて他の兵士たちも立ち上がり敬礼すると、兵舎は何とも重い空気に満たされた。

 

『たまたま通りかかった』

 

エリアは紙に書いて見せると、タツミの首元に突きつけていた剣を収め、近くにいた兵士に渡すとすぐに兵舎を出て行ってしまった。

 

「……あの子、誰?」

 

突然のできごとで呆然としていたタツミであったが、エリアが出て行ったと同時に我に返る。

 

「バカ野郎!! あの方は将軍、エリア様だ」

「そうなのか、あの人が将軍…………」

 

タツミは暫くエリアが出て行ったドアを眺めていたが、不意に走り出し彼女を追うようにドアを開けて出て行った。

 

『悪い予感がする』

 

兵舎の中にいる全員がそう思っていた。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

無事にタツミ君を見れましたが、色々と疲れました。

 

話は変わりますが、帝国は千年続いているだけあって大きいですよねー。あ、これ二回目ですか、ごめんなさい。

さて、これだけ大きな帝都には一体いくつの兵舎があると思いますか?

大きいのから小さいの、中くらいのにそれはもう沢山の兵舎&兵舎……その中からタツミ君が行った兵舎を見つけるのは、本当に……本当に大変でした。

『なにしてんだろ、私……』と、若干ネガティブになっていた私の目の前に飛び込んできたのは、あろう事か兵舎の中で抜剣しようとしていたタツミ君でした。

 

さて、よくわからん奴が兵舎でいきなり剣を振り回したらどうなるか……簡単ですね、拘束されます。最悪、殺されます。

原作ではタツミ君は剣を構えても兵舎を追い出されるだけで済みましたが、心配性の私は必死の思いでタツミ君を止めました。

 

なんとかタツミ君を止めることはできましたが、ここで問題が起きました。

『タツミ君と何を話せばいいの!?』です。

タツミ君を止めるためとはいえ剣を突きつけてしまったのです。間違いなく好印象ということはないでしょう。

それに、私はタツミ君のことを知っていますが、彼は私のことを知りません。

初対面の人にいきなり『貴方に会いたかったです』なんて言ったら絶対ドン引きされます。

仕方がないのでそのままスルーします。

顔を見れただけで満足します…………断腸の思いでスルーします。

 

「エリアさん!!」

 

どこからか先程スルーしたタツミ君の声が聞こえます。

ははっ……タツミ君を意識しすぎたせいで幻聴が聞こえるようになってしまったのでしょうか。

私は声が聞こえた方を見ると…………タツミ君がいました。

幻聴じゃなかった。

 

「はぁ~~、良かった。見つけれた」

 

ど、どどどういうことでしょうか。

原作キャラのタツミ君が私を探していた!?

何故……ッハ!?

あの時私が彼に剣を突きつけたからそのお礼参り……

『どんな理由があろうとも一発は一発です』ポリシーですか!?

っく、恐るべき子です……ですが、そう簡単にやられる私ではありませんよ!

 

「エリアさん、俺の剣を見てくれ!! そんで、使えるようなら隊長クラスにでも仕官させてくれよ」

「……」

 

タツミ君はそう言って剣を抜く。

人通りの多い場所で剣を抜いたこともあり周りの人が驚いていましたが、私がいることがわかったら落ち着いた顔をしましたね。

 

さてと……『使えるようなら仕官させて欲しい』ですかぁ。

つまり彼と模擬戦の様な事をして使えそうなら雇って欲しいと……なるほど、考えましたねタツミ君。

でも残念です。貴方の純粋スマイルで堕ちるチョロインエスデス将軍なら即決で雇ったと思いますが……

 

『いーよー、かかってこい』

「おおッ!! じゃあ遠慮なくいくぜッ!!」

 

面接官が原作を知っている私では、貴方が本社に合格できる確率はゼロ%です。

幾ら将軍級の才能があろうとも、心がドキドキする笑顔をされても絶対に雇いません。

 

 

タツミ君の絶対に落ちる試験が始まった。

 

 

 

 

 




お気に入り件数15件!!
登録してくださった方&読んでくださった方ありがとうございます。
色々と読みづらいと思いますが楽しく読んでくれたら幸いです。


皆様、GWはいかがお過ごしですか?
私は明日から2泊3日のお泊りです。タノシミダワー


次の話にちょっとだけ主人公の帝具の性能が書ければいいなぁー。


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賄賂ダメ! 絶対!!

お気に入り件数30件突破!
ありがとうございます。とてもうれしいです!!
そして、相変わらず話の繋ぎ方が下手な私です





「はぁあああああああああ!!」

 

上段からの最速斬撃。

私は難なく後ろにステップして避ける。

 

「っく……当たんねぇ。気配は全然たいしたことないのに、どうなってるんだ」

 

そう言ってタツミ君は頭を傾げる。心なしか頭の上にハテナマークが見える様な気がします。

まぁー、彼が慌てるのも無理はないでしょう。

私は実力を隠しています。『能ある鷹は爪を隠す』というヤツです。

だから、相手の力量を測ることができるタツミ君にも見破れなかったという事です。

彼から見たら私はそこら辺の兵士と変わらない実力だと感じたことでしょう。

だからなのか、私と模擬戦をする時に『真剣で良いんですか?』って心配そうに聞いてきたんですよね。

勿論ですが真剣で大丈夫です。今のタツミ君の実力なら余裕で避ける事ができます。

タツミ君にOKサインを出すと、少し戸惑いながらも打ち始めてくれました。

 

『一般兵の実力しかない将軍……でも、将軍だから彼女を倒して実力を認めてもらえれば大出世間違いなしッ!!』とでも思ったのでしょうが、残念でしたね。

模擬戦を始めてかれこれ十分程経ちますが、未だに彼の剣が私に届くことはありません。

 

でも、アカメちゃんやエスデス将軍から『将軍級の器』と称されるだけあって、タツミ君の実力には目を見張るものがあります。

 

「これならッ!! どうだ!!」

 

間合いを詰めて……下段からの斬撃。

後ろに飛んで回転しながら回避します。

あ、普通に後ろにステップすれば回避できましたが、何となく格好良く回避したくて回転してみました。

 

「くっそぉおお!! これもダメなのか……」

 

タツミ君は私に攻撃を当てられなくて物凄い悔しがっていますが、こうしている間にも彼は着実に進歩しています。

私はタツミ君に気づかれないように鎧を見ると、少しだけ……目を凝らさないと見えない程度ですが傷がついています。

先程までの彼の斬撃ならあの速さで回避できていましたが、いやぁー、凄いですね。

まさに才能の原石。

磨けば磨くほど強くなっていくのですから、鍛錬好きのブドー大将軍が見たら大喜びしそうですね。

まぁー、あの人は基本宮殿にある練兵場から出てきませんから、彼がタツミ君をこの時期(ナイトレイド加入前)に見ることはないでしょう。

 

…………あのヒッキー大将軍『私と一緒に帝国を守ろう』みたいなこと言ったくせに、『大将軍が賊狩りなど、兵の士気が下がるようなことはせん』とか言って全部私に押し付けやがって……でも、間違ったこと言ってないんですよねー。

大将軍が一々雑魚を倒しに行くのは嫌ですからね。

例えるなら万引き犯を捕まえるために特殊部隊が出動する感じです。無駄遣いです。

でも、ちょっとくらい手伝ってくれても……

 

「隙アリッ!!!」

 

ん? ……わわ!? 考えることに夢中になってタツミ君を見ていなかった……目の前まで接近されましたが、余裕の回……先程よりも数段速い斬撃ッ!?

 

回避は間に合わない。

じゃあ、真剣白羽取り……ごめんなさい嘘!! やり方はわかるけどやったことないから無理ッ!

足払いや篭手で受け止めるのも今の彼には通用しなそう……

うむむ……帝具……使っちゃいます。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

(やった、当たるッ!!)

 

そう思ったタツミの口から笑みがこぼれる。

実力を見てもらい、使えるようなら仕官させてもらおうとエリア将軍に意気揚々と模擬戦を挑んだのだが、先程から何十回とエリアに自慢の剣技を避けられていた彼はようやく当てる事ができると純粋に喜んでいた。

 

鍛えれば将軍にもなれる程の才能を持つタツミだが、今は成長段階であって、実力が違いすぎるエリアに一太刀入れることなど不可能なのだが……エリアの雰囲気が彼の判断を鈍らせていた。

 

『将軍って言われてるけど、あんまりたいした事ないな』

 

タツミがエリアを見た第一印象がそれであった。

成長段階といっても、タツミの実力は既に並みの兵士なら数人でかかっても倒せない一級危険種を一人で狩れるほどに成長している。

そして、危険種を一人で討伐でき、相手の実力を測れるほど成長しているタツミが彼女の実力を測った結果が『たいした事ない』であった。

勿論そんなことはない。

タツミでは気づくことが出来ない程、彼女の隠し方が上手だったのだ。

 

そもそもな話、兵士たちから『将軍』と敬られているのだからその実力は確かなものなのだが……

 

もう一つ、タツミの判断を鈍らせた理由があった。

エリアの顔はとても美しかったのだ。

まるで故郷の村に積もる新雪の様に美しく、それでいて凛とした顔立ちであった。

腰の辺りまでの長さがある青紫色の髪はツインテール。毛先まで手入れが行き届いており、陽の光に当てられて美しく輝いていた。

身長は160cm程でタツミと同じくらいであった。

服装はドレスと甲冑が合わさったようなもので、上半身は帝国のエンブレムが大きく掘られた白銀の甲冑で覆われ、下はドレスであった。

 

全てが美しい彼女に見とれていたタツミであったが、直ぐにその異様さに気づく。

エリアの顔は『無』であった。

人間というのは少なからず何かしらの反応を示す。

しかし、エリアからは何も感じられず、剣を避ける時も……もう少しでタツミの剣が当たるという時も彼女は表情を変えず、唯々タツミを見るだけであった。

 

そして、タツミはそんな彼女の視線に目を合わせようとしなかった。

理由は簡単である。恐ろしかったのだ。

美しい顔とは裏腹に、彼女の瞳は濁りきっていた。

目の部分だけポッカリと穴が空いた様な……どこまでも闇が続く瞳。

うっかり彼女の瞳を覗けば、そのまま闇に吸い込まれてしまいそうな錯覚にまで陥ってしまった。

 

(怖がんな俺ッ!! この程度で怖気付いたら村のみんなに笑われちまう!!)

 

タツミは自分を奮い立たせる。

 

(このままだとエリアさんが傷ついちまうから……甲冑の部分に当てる感じで……)

 

タツミは剣先を少し上げて甲冑に当てるように軌道を変えると、そのまま振り抜く。

 

スカッ。

 

「はっ……へぇえええええええええ!?」

 

エリアの胴に当たると思っていた……いや、確実に当たっていた剣は対象を見失い空を斬る。

タツミは声を上げ、慌てて辺りを見渡すと

 

『今のは良かった』

 

そう書かれた紙を持ってエリアが後ろに立っていた。

 

「嘘だろ……おい」

 

タツミは幽霊でも見るかの様に彼女を見る。

絶対に当たっていた剣を避け、気づかれることなく背後に回る、などというとんでもない行動をした彼女の実力は、自分よりも数段……いや、数百倍上なのだと自覚した瞬間であった。

 

『少しだけ』

 

そう書かれた紙をタツミに見せたエリアが、何かを掴むように右手を横にする。

 

「嘘…………だろ……」

 

何かが軋む様な……とても不快な音が響いたかと思うと、彼女の手には大きな鎌が握られていた。

 

(ど、どうやって出したんだ。ってかさっきのどうやって避けたんだよッ!?)

 

頭で理解できないことを立て続けに経験したタツミは、『うむむ』と唸るとそのまま座り込んでしまった。

そして、誰が見ても明らかな隙をエリアが見逃すはずもなく、これまたいつの間にか大鎌を仕舞った彼女は、音もなくタツミに近づくと……

 

『未熟』

「っへ!?」

 

そう書かれた紙をタツミの額に貼り付けて、そのままどこかへ行ってしまった。

一人残されたタツミは呆然とする。

未熟……つまりエリアの及第点に自分の実力は達しなかっということであろう。

タツミはそのまま仰向けに倒れる。

 

「はぁー、何もできなかったな……俺」

 

タツミは自分の無力さを思い知らされ、これからどうしようかと考えていると

 

「お困りのようだねぇ少年! お姉さんが力を貸してやろうか?」

 

明るく元気な女性の声が聞こえたかと思うと、タツミの目の前に二つの大きな山……否、大きな胸の女性が現れる。

 

(で、デケぇ……これが帝都か!?)

 

何とも意味のわからない事を思い、女性の胸を凝視していたタツミであったが彼女の言葉で我に返る。

 

「少年はさ、帝都にロマンを求めてやってきた口だろう?」

「な、なぜわかる!!」

「そりゃ、帝都に長く住んでればわかるさ。で、私手っ取り早く仕官できる方法を知ってるんだけど……」

「マジッ!?」

 

女性の言葉に飛びつくタツミであったが、先ほどのエリア将軍との出来事もあり、少し思考する。

 

「あぁーエリア将軍の事は気にするな少年。アレは少し変わった将軍だからさ」

「え……そうなのか?」

「そうだよー。あの将軍とは関わらない方が身の為ってヤツだ」

 

目の前の女性の言い方に少し引っかかる所があったタツミだが、基本的に人の言う事をホイホイ信じてしまう性格な為、何の疑いもなく彼女の言葉を信じる。

 

「さてと、どうする少年?」

「そりゃぁー勿論、仕官する方法を教えてくれ!!」

 

右手をぐっと握り締めたタツミが力強く言うと、彼女……レオーネはニッコリと笑って

 

「んじゃ、日もだいぶ落ちてきたし、夕食も兼ねてお姉さんにご飯奢って」

 

そう言った。

見るとタツミ達がいる通りは建物の影で薄暗くなっていた。

 

「よっしゃ! 俺に任せとけ」

 

力強く胸を叩いたタツミは、レオーネの案内のもと人混みの中へと消えていった。

 

 

 

『……』

 

 

 

その様子を、薄暗くなった通りの影の中から見ている人物に気づくことなく……

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

いやはや……誰かに見られていると思ったら、やっぱり原作キャラのレオーネさんでしたね。

あの時タツミ君の斬撃を帝具の力で避けた私は、そのまま帝具を使って彼を気絶させようと思いましたが、誰かの視線を感じてやめたんですよね。

私達の模擬戦を何人かの野次馬が見ていましたが、その視線とは別の……私を探るような視線だったので咄嗟に帝具を仕舞って正解でした。

レオーネさんはナイトレイドの一員で、帝具『百獣王化ライオネル』を持っている人だったと思います。

多分、タツミくんの後をつけて来たら私がいたので情報収集をしようとしたんでしょうね。

でも残念でした、私はそう簡単には帝具の性能は見せませんよ!

まぁー、私は革命軍の件でナイトレイドの標的になっていると思う……いえ、絶対になっているのでいつか戦う時が来るのでお楽しみに~です。

ですから、その時まではナイトレイドには手を出しません。お仕事じゃなければ戦いたくないです!

 

さてと、原作通りタツミくんはレオーネさんに任せて、私は私のお仕事をするとしましょう。

私は急ぎ足でとある場所へと向かう。

いざ、帝都警備隊隊長のオーガさんの元へ!!

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「オーガ隊長、見回りご苦労様です」

「おう、俺が留守の間、なんか変わったことはないか?」

「いつも通りです。それと、オーガ隊長にお会いしたいという方がおりまして……隊長のお部屋へと案内しておきました」

「ご苦労さん」

 

帝都警備隊隊長であるオーガが数人の部下を連れて帝都の見回りから帰ってみると、詰め所の雰囲気がいつもと違っていた。

警備隊の皆々が額に汗をかき、縮こまっていたのだ。

 

(どうやら、俺に会いたいという人物のせいで部下がこんなに情けなくなっているのか。

まぁ、どんな奴かは知らんが俺様の前じゃソイツも部下たちの様に縮こまるしかねぇんだけどな)

 

オーガはニヤリと笑って二回にある隊長室へと向かう。

帝都警備隊隊長。文字の通り帝都を警備する者たちの一番上……つまり、彼が一声警備隊を招集すれば全員が集まり、彼が罪人だと言った人物が罪人になるのだ。

この街では誰もオーガには逆らえない、警備隊の隊長ということもあるのだが、もう一つ理由がある。

『鬼のオーガ』……鬼と呼ばれるだけあり、その剣の腕は鬼人の如く力強く、犯罪者たちから恐怖の対象であった。

まさに敵なし、オーガは帝都では王様の様な存在であった。

 

くどい様だが、彼の前ではいかなる人物も逆らえないのだ……唯一、逆らえるとしたら彼より上の階級である大臣や、実力を持つ将軍くらいであろう。

 

「おう、待たせたな。俺が警備隊の隊長オーガ……!?!?」

 

オーガが隊長室のドアを開けると、『こんばんは』と書かれた紙を持った少女が待っていた。

青紫色の髪をツインテールにし、ドレスアーマーを着た少女の姿に一瞬だけ停止するオーガであったが、直ぐに再起動する。

 

「こ、こんばんはであります!! エリア将軍」

 

見事なまでに直立して敬礼をするオーガ。

普段の彼なら絶対に見せない行動なのだが、相手が将軍では無理もない。

しかも、ただの将軍ではない、相手は賊軍三万をたった一人で皆殺しにし、殺戮人形と恐れられている将軍なのだ、鬼如きでは到底勝てるものではない。

 

『楽にしていいですよ』

 

人を殺せるとは思えないほど綺麗な手で文字を書き、オーガがいつも座っている正面のイスに座るように手を向ける。

言われるがまま……ではなく書かれるがままにエリアの指示に従い、自身のイスに座るオーガであったが、疑問に思うことがあった。

 

(なんで、エリア将軍がこんなとこにいんだ?)

 

エリア将軍の職務は基本的に賊軍の排除並びに帝都の治安維持である。

後者は帝都警備隊……オーガたちが目を光らせているので、余程の事件じゃないと将軍は動かない。

そして、エスデス将軍と同格とも言われているエリア将軍の実力は、前者の賊軍の排除にこそ輝くのだ。

 

そんなエリアが事件でもないのに態々自分に会いに来るとは、想像していなかった。

オーガは額に汗をかきながら、自分の目の前に座っているエリアを見る。

『殺戮人形』と恐れられているにも関わらず、エリアが身に纏っている気はとても静かで、禍々しいものではなかった。

目の前にいる美しい少女は傍から見ればたいした事ない存在であろう。

しかし、オーガは知っていた。エリアの実力を…………

 

『いつも見回りご苦労』

「恐縮です。エリア様もいつもお疲れ様です」

『そんなことはない』

カキカキ

『さて、早速だが本題に入る』

カキカキ

『私がここに来たのには』

「は、はい」

カキカキ

『理由がある』

「はっ…はぁ……」

(……もう少し、紙を大きくすればいいじゃねえのか? アレだと大変そうだ)

 

何枚も何枚も書いては見せ……を繰り返しているエリアに少し同情するオーガであったが、彼女が次に書いた内容を見た瞬間、オーガは銅像の様に固まる。

 

『賄賂ダメ!絶対!!』

 

 

 




帝具チラ見せで終わった主人公……そして、タツミくんは原作通りレオーネさんにお金取られてアリア宅にお泊りします。
がんばタツミ!!

主人公であるエリアさん、警備隊隊長オーガさんとお話です。
どうやら色々と考えている様で……って、オーガさんとの絡みとか需要あるんですかね……

感想書いて下さると作者のテンション上がります!! 




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お金は大切。でも仕事増えるのは嫌。


お気に入り件数50件突破……まさかこんなに読んで下さる方がいるなんて……
本当にありがとうございます。

この回は独自設定が入ります。お気をつけて。


突然ですが……『お金』はとても大切です。

食べ物を買う時に、衣類を買う時、家や土地を買う時に……

怪我をしてお医者さんに看て貰う為にもお金が必要です。

よく、『お金じゃ買えない物があるッ!!』と言う人がいますが、私からしたら『あ、そうですか』って思います。

そんな綺麗事言っても生活できない時代ですし……

 

さて、お金じゃ買えない物を例えるならば命でしょう。

しかし、命を養うにしても守るにしてもお金が必要になります。

ちょっと難しいことを考えて頭が混乱してきましたが、私が言いたいことを簡単に説明すると……

 

『お金は大切!!』という事です。

 

さてと、先程も言いましたが私が生きている時代は綺麗事を言っても何も得をしない……むしろ損をする時代です。お金と力が全ての時代です。

人の命もお金で買えてしまうこのご時世、安定してお金を稼ぐには幾つか方法があります。

 

一つ、軍に仕官する。

腐っても帝国、軍人になれば安定した給金を貰えますし、頑張って働けばボーナス&昇格できます。

それに帝国から支給される武具は素晴らしいですよ。

私も前に一般兵の方に武器を見せてもらいましたが、所々に帝具の技術が使われていて驚きました

剣には自己修復機能が付いていたり、大型の銃には精神エネルギーを撃ち出す物までありました。要するにビームを撃てます。

そういう所も踏まえて軍に仕官するのは良いと思います。

 

……デメリットは死ぬ確率が上がることと、アカメちゃん達から狙われるって所ですかね。

でも、悪いことしなければアカメちゃん達も見逃してくれると思います。タブン。

あとは、上司の人がエスデス将軍だったら最悪です。

あの人は『弱者は私の隊にはいらない』精神で部下を訓練しますからね。

あまりに過酷で死人も何人か出たと聞きました。怖いですね。

 

さて、二つ目は帝都で店を出す。ですね。

帝都は無駄に広いだけあって人も沢山います。

帝都で暮らしている人やタツミ君の様に田舎から帝都に来る人、旅人なんかもチラホラ来ます。

そんな人たちを対象にしたお店を出せば大儲け間違いなしです。

特に食べ物を取り扱うお店はおすすめですね。

上手くいけばあの肥満大臣に気に入られてお金を沢山貰えたりします。

勿論、私も気に入ったお店にはよく行くようにしています。

最近では、原作でエスデス将軍が行った『甘えん坊』というお店に行ってみましたが、流石はメインストリートに店を構えているだけあって、名物であるソフトクリームがとても美味しかったですね。

そういえば、甘えん坊の主人が私に賄賂を差し出したんですが、丁重にお断りしました。

何を思って私に賄賂を差し出したのかはわかりませんが、そんなことしなくても私のお気に入りのお店になったので、時間が空いたときは行くようにしますよ。

あと、気になっているお店があるんですが、中々に見つからなくて苦労しているんですよね。

まぁ、まだ時間があるので良いのです。のんびり探すとします。

 

さて、他にも危険種を討伐してお金を稼いだり、鉱石を採掘してお金を稼ぐ方法がありますが……もっと効率良くお金を稼ぐ方法があります。

それは強盗や賄賂等、犯罪を犯してお金を稼ぐ方法です。

前にも似た様な事を言いましたが、『帝都は強者が全て』です。

弱い者……つまり何の権力、力を持っていない民は権力者や犯罪者から色々な方法でお金を取られます。

私は武官なので税のことはノータッチですが、強盗等の事件が起きたら参上します。

勿論私にも『お仕事』がありますから暇な時にしか手伝いませんけどね。

 

まぁ……暇なときなんて殆どないからいつも帝都警備隊の方に任せています。

面倒臭いワケじゃないですよ?

正直な話、強盗とかは警備隊の方のお仕事なので将軍である私が手伝う必要はないんですよね。

でもでも、幾ら将軍の仕事じゃなくても働かないといけない時もあるんですよ。

それは、『軍の規律を乱す者の排除』です。

一応……私の直属の上司はブドー大将軍ですし、あの堅物大将軍は規律を大切にする人なので、『規律を乱す人は問答無用で斬って良し!!』って言われています。

 

そうですねぇ、規律を乱す人って言われても難しいと思うので、例えるなら……『商人から賄賂を受け取り、罪もない人にその商人が犯した罪を着せて処罰』なんて酷いことをする人は首スパーンですね。

例えそれが警備隊隊長のオーガさんでも……

 

私はオーガさんを見る……って、オーガさんすっごい震えてるんですけどッ!?

何て言うか、壊れた玩具みたいにガタガタしてます。怖い。

まぁ、彼が震えるのも無理はないでしょうね。

自分がやった悪いことを将軍が直々に言ってくるとか……死刑宣告してるようなものですからね。

でも、ここで私が彼を殺さなくても、数日もすれば民からの依頼でタツミ君がオーガさんを殺すんですよね。

つまり私がここに来る必要なんてこれっぽっちもないんですが……

 

私はもう一度オーガさんを見る。

生まれたての子鹿の様に震えているオーガさんですが、犯罪者たちから恐れられているだけあって彼の実力は本物です。

それに、資料でしか見ていませんが、オーガさんが警備隊隊長になるまでにどれほど苦労してきたことか……彼の左目の傷も警備隊の仕事をしていた時に付いたものだと聞きました。

 

『強者が全て』という考えを持っていますが、この時代では仕方のないことだと思います。

 

……正直な話、私はオーガさんを殺されるには惜しい人物だと思っています。

別に私が帝国側の将軍だからとかそう言った理由ではありません。

純粋に彼を殺されるには惜しいと思ったからです。

 

オーガさんには『鬼のオーガ』という異名があり、彼の剣技は力強く豪快で、犯罪者たちから恐怖の対象とされています。

タツミ君のナイトレイド加入後の初任務の標的として簡単に殺されましたが、アレはお酒を飲んでいた為に普段の力が出せなかったからだと私は判断します。

そうじゃないと、帝都警備隊隊長の実力を疑ってしまいますので……

 

さて、犯罪者たちから恐れられているオーガさんが殺されれば帝都の治安はどうなるでしょうか?

簡単ですね。恐怖の対象がいなくなるので犯罪件数が増加します。

確かに彼は人として許せない行為をしました。

でもそれって……私には何も言えない……っていうか誰に言えるんですか?

彼にだってこの世界に生まれてきたのです。生きる権利があります。

『人の命を奪っておいてそんなこと言えるのかッ!!』と言われてしまえばソレで終わりでしょう。

ですが、人は生きていく上で何かしらの命を奪っています。

例えるならば家畜に大切な人が殺されたとしましょう。

その大切な人の家族や恋人は『私たちは家畜の命を奪って生きているから、殺されても文句は言えないな』って納得しますか? しませんよね。

人間なんて身勝手な生き物なんですよ。

だから私も身勝手に生きます。――人間だもん。

 

 

 

 

 

 

 

 

こんな感じで良いですかッ!!

すっごい良い言い訳……じゃなくて理由なんで、オーガさんを助けることを見逃してくださいッ!! この世界の神様!!

本音言っちゃいますけど、オーガさんの強さが犯罪の抑止力になっているので彼を殺されると非常に不味いんですよ。仕事増えたら嫌なんですよ。

オーガさんに殺された人には申し訳ないですが、帝都の治安維持の為にこれからも頑張ってもらいたいのです。

 

仕事増えるから助けるのは嘘ですよ?

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

『賄賂ダメ! 絶対!!』

 

エリア将軍が書いた紙を見た瞬間、オーガは全てが終わったと思った。

オーガは商人である油屋のガマルから賄賂を受け取り、ガマルが悪事を行う度に代理の犯罪者をでっちあげていた。

どうやって調べたのかはわからないが、エリアが直々に来たのだ。言い逃れる事など出来るはずがなかった。

もしも嘘を吐こうものなら、直ぐにでも自分の首が飛ぶであろう。

それ程までにエリアの纏っている雰囲気が禍々しいものに変わっていた。

 

 

……オーガも初めから悪人だったわけではなかった。

いや、初めから悪に染まっている者などいないのだ。

全ては帝都の闇が、彼を蝕んでしまったのだ……力がなければ何も守れない、救えない。日常茶飯事に行われる非人道的な犯罪の数々、社会的な地位による格差、そんな過酷な中で『生きる』という事はどれほど大変なことか……

 

(いつから俺は金に目が眩むようになったんだ? いや、違うな…………俺は金が欲しかったんじゃない。唯々、権力を振りかざしたかっただけ……なんだ)

 

オーガが警備隊の隊長に昇格した日。

その日からオーガを取り巻く環境は一転した。

今まで散々見下してきた富裕層の連中は尻尾を振って彼をもてなし、彼が道を歩けば人は皆、彼が歩きやすいように道を開ける。

自分を慕ってくれる部下たち。実力を知って恐れる犯罪者ども。自分の名を目当てに媚を売ってくる商人ども。

 

世界は自分を中心に回っているのでは? と勘違いさせるような素晴らしい日々。

それと同時に思い出すのは、自分が何の罪もないのに殺してきた人々の顔。

絶望、悲しみ、恨み、怒り……様々な表情を顔に浮かべて死んだ者たち。

守るべき民を自らの私欲の為に殺す。これでは自分が犯罪者ではないか。

 

(…………いつから俺は、こんなに汚れちまったんだ)

 

ピチャン。

固く握られていた自分の拳に雫の落ちる音がする。

久しく流していなかったモノが、オーガの片目から溢れです。

 

(はは、男が女の前で涙流すなんざカッコ悪いな………………これが報いだ。男ならウジウジしねぇで潔く罰を受ける)

 

オーガは自分が犯した罪を認め、その報いを受けようとエリアを見ると。

 

『もうしないように、以上』

 

そう書かれた紙が一枚……オーガのぼやけた視界に入ってきた。

てっきり死刑宣告を受けると思っていたオーガは目を丸くして驚く。

 

「っな!? エリア将軍、俺は罪もない民を殺したんですよ」

『知ってる』

「では、何故……」

『私がそう判断した』

カキカキ

『不服?』

「あぁ! 不服だッ! 俺は罪を犯した……守るべき民を私欲の為に殺した。ソイツ等に報いる為にも俺は死んで償わないといけねぇんだ」

『わかった』

カキカキ

『貴方を誑かした商人』

カキカキ

『殺しに行きましょう』

「えーと、エリア将軍……俺の話聞いてました?」

『聞いてたよ?』

 

そう書いて首を傾げるエリア。

無表情だが、『自分は何も間違ったことを言ってない』という雰囲気を醸し出している。

 

「俺に対する罰はねぇんですか?」

 

オーガが質問すると、ポン! と思い出したかの様に手を叩いたエリア。

初めて見たエリアの仕草に少し意表をつかれたが、次に見せた彼女の言葉に目を更に丸くする。

 

『貴方が殺した人の分まで』

カキカキ

『生きること』

カキカキ

『私もそうしてる』

「ッ!?」

 

エリアはオーガに生きろと書いた。それが自分に対する罰なのだと。

絶対的な強者であるエリア将軍。

命令されるがまま、まるで虫を潰すかの様に人を殺すエリアには心がない……それこそ人形の様な人物だとオーガは思っていた。

しかしそれは違ったのだ、彼女も人を殺すことに抵抗があり、その事を悔やんでいたのだ。

 

このご時世、命令に逆らえば処刑されることは間違いない。

自分が死なない為に、生きる為に断腸の思いで人を殺してきたに違いない。

そして、そのストレスのせいでエリア将軍は声が出なくなり、無表情になってしまったのだろう……

こんな自分よりも年下の少女ですら、自分が犯した罪に目を背けず、その罪を背負って生きていこうとしている。

なのに自分はなんだ? 自分が犯した罪から早く解放されたくて、『死ぬ』という一番簡単な償い方をしようとしていた。

 

「わかりました……俺は自分の犯した罪から逃げねぇ。俺の一生をかけて民を守っていく、それが俺にできる精一杯の償いだ」

『これからも頑張って』

 

氷の様に冷たいエリアの顔が少し……微笑んでいるように見えたのはオーガの心情の変化がもたらした幻だったのだろうか……

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

『罪から逃げずに一生かけて償っていく』素晴らしいですね。

オーガさんにも人間の心が残っていてくれて良かったです。

ふふっ、本当に良かった。

 

 

 

 

 

………やっっっっっと納得してくれやがりまして。

震えが収まったと思ったらフリーズして、フリーズが直ったと思ったら今度は泣き出しちゃって……適当に『もうしないよう』って書いて帰りたかったんですが、罪を犯した罰が欲しいみたいで文句言いやがって……

オーガさんの事だから、罪に問われないから喜ぶと思っていましたがどうやら違うようですね。

彼はドMです。間違いなくドMです。

これからは警備隊隊長ドMのオーガって異名にすればいいと思いますよ。

エスデス将軍が帰ってきたらオーガさんがドMだって伝えてやるッ!! そんで拷問を受けてしまえッ!

 

まぁいいや。

時間は掛かりましたが納得してくれたので良しとします。

はぁ、タツミ君の件といい……今日は何だか時間が掛かるイベントばかりですね。

直ぐにでも帰って温室で植物に囲まれながら休みたいのですが、あともう一つやりたいことがあるので我慢します。

 

私は壁に掛かっている時計を見ると、あと十分程で二十三時であった。

……大臣に言えば残業代出してくれるかな。無理か。

うぐぐ、この鬱憤は油屋のガマルにぶつけるとしましょう。

そう、オーガさんに賄賂を贈って自分の罪を隠したカエルみたいな顔の悪人です。

アイツは生かしていても何のメリットもないので殺します。

 

『ガマルの居場所はどこ?』

「アイツは確か……今日は色町にある別荘で遊んでると思いますぜ」

『わかった』

「エリア将軍、ガマルを殺すんですか?」

 

オーガさん、当たり前の事を聞かないでください。

あんな大臣の劣化版みたいな奴は死んでどうぞ。逝ってどうぞ。

ったく……人が夜遅くまで働いているのに色町で遊んでる? 喧嘩売ってるんですか!!

 

『うむ』

「そうっすか、俺も行きます」

『好きにしろ』

「ありがとうございます」

 

どうやらオーガさんもついてくる様ですね。

仕事熱心で感心感心です。

あ、残業代は払いませんよ? 私が欲しいくらいなんで。

 

私とオーガさんはガマルのいる別荘に向かう為に詰め所の一階に降りる。

 

「エリア将軍、オーガ隊長も今から見回りですか?」

「おう! ちょっと色町の方に行ってくる」

「わかりました。留守は私に任せてください!! このセリュー・ユビキタス、民が安らかに眠れるように頑張りますッ!!」

 

ドンッと胸を叩いてやる気を見せる警備隊の少女。

いやぁ、何だか暑苦しい人ですね。

セリューって言いましたっけ、貴女の声が民の安眠の妨げになっている気がします。それだけ大きかったです。

 

って、貴女は原作キャラの……一に正義、二に正義、三四が正義で五に正義の頭の中の約九割が正義で埋め尽くされている正義厨さんじゃないですか。

一見真っ直ぐで純粋な少女だと思いますが、騙されてはいけません。

セリューさんは異常な正義主義者です。

まぁ、今は貴女には構っていられないので特に何も言いません。

話すと五月蝿そうなので。

 

私は歩調を少し早めてセリューさんから逃げるように詰め所を後にしようとするが。

 

「エリア将軍ッ!」

 

呼び止められました。最悪……絶対話が長くなる。

私が振り向くと、キラキラと目を輝かせて近寄ってくる正義さんが…………嫌だ。

 

「エリア将軍の噂はよく耳にします! 悪党どもを滅殺して帝都を守ったり、間違っている書類は丁寧に修正箇所をして下さったり……将軍は私の憧れです!! 凛々しくて美しくて、悪を狩る姿を拝見したことはありませんが、きっと正義という素晴らしい二文字のように真っ直ぐで輝かしい戦い方なんでしょうねぇ」

 

そう言ってウットリとするセリューさん。

褒めてくれてありがとうございます。でも、最後の方は何言ってるかわかりません。日本語で話してください。

 

「失礼だとは思いますが、今度時間がありましたら私に指導して欲しいのですが……」

『わかった』

「本当ですか!! ありがとうございますッ!! 正義の代行者であるエリア将軍にご指導して頂けるなんて……とても嬉しいですッ!!!」

 

わかりましたから……もうわかりましたから……私を開放してください。

 

「コロ! エリア将軍に指導して貰えるって! やったね!!」

 

そう言ってセリューさんはリードで繋がっている犬のぬいぐるみの様な帝具に抱きつく。

彼女はコロと呼びましたが、この子の正式な名前は生物型帝具『ヘカトンケイル』。

生物型は普通の帝具とは違い、ある程度自分の意思で行動し、身体のどこかにある核を破壊しないと壊れません。

 

「コロ、どうしたの?」

 

セリューさんはコロが何やらいつもと違う様子で首を傾げる。

そういえば、原作ではいつも『きゅっきゅー』って鳴いていますが、今日は一度も鳴いていませんね。

私もコロちゃんを見ると……何だか私を黒豆みたいな目で凝視しています。

私何かしましたっけ?

 

「うーん、エリア将軍に会って緊張してるのかな?」

「そりゃぁーねぇと思うが……セリュー、エリア将軍が行けねぇからそろそろ手を離せ」

「っハ!? も、申し訳ありませんエリア将軍」

 

オーガさんよく言ったぁあああ!!

そうなんですよ、いつの間にかセリューさんに手を握られていたので行くに行けない状態だったんですよ。

 

「では、行きましょうかエリア将軍」

『その必要はない』

「「え!?」」

『もう殺した』

 

いやぁ、あんまり時間が掛かると困るので……帝具使ってガマルさん殺しちゃいました。

夜で良かったです。

 

「そ、そうですか……じゃあ、俺はこのまま見回りに行きます」

『私は帰る。じゃあね』

「はっ……はぁ、わかりました」

 

ビシッと敬礼をして私たちを見送るセリューさん。

何が何だかわからないって顔をしていますが、また呼び止められては適わないので直ぐに詰め所を出ます。

私たちが詰め所を出ると、月は雲に隠れ、まるで帝都の現状を表しているかの様な闇が広がっていた。

 

 

 

 

 




はい、オーガさん生存ルートに入りました。
でもでも、まだ安心はできませんよ~

そして死ぬ描写すら書かれないガマルさんの扱いの酷さ。
でも、帝具の性能をまた少し書けたので良かった?です。

感想等ありましたら書いて下さると嬉しいです。
嬉しいです!!


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ナンパされたけど嘘でした。

お気に入り件数が80件を突破した・・・だと・・・

本当に嬉しいです。そしてありがとうございます。

この回はオリジナルキャラが一人登場します。


 

少し肌寒い朝。

時刻はそうだな……四時三十分位か。

いつも通り、少し汚れた前掛けと軍手を付け、頭には手拭いを巻いた俺は宮殿内にある温室の扉の前に立つ。

 

「うっし、今日も一日頑張るか!!」

 

一日の始まりには必ず言っている言葉を口にして自分に気合を入れる。

そして……温室の扉の横に付いている呼び鈴を鳴らす。

チリリィン! と少し甲高い鈴の音が辺に響く。

 

この温室の世話係りになって約一年だが、どうにもこの呼び鈴を鳴らすのには慣れねえな。

いや、なんだ……普通、温室に呼び鈴なんて付いているわけがないんだが、この温室に住んでいる変わり者が居るんだよ。

俺もこの事を初めて聞いた時は信じられなかったが、大将軍が言った事だったから嘘ではないと思った。現に住んでいたんだしな……

 

そういえば、変わり者で思い出したんだが、警備隊隊長のオーガも変わったよなぁ。

前までのアイツからはあまり良い噂は聞かなかった。だが、一週間ほど前からか? まるで人が変わったかの様に民に尽くす奴になった。

奴が変わるほどの出来事が一週間前にあったんだろうな……

 

一週間前といえば、ナイトレイドによる富裕層一家の惨殺事件もあったな。

俺も事件の詳しいことは知らんが……ナイトレイドか。

アイツ等のせいで重役や富裕層の連中が殺されている。

一応、警備隊の方でもナイトレイド専門の警備隊を編成したそうだが、成果は得られていない。

それもそうだよなぁ……相手は帝具という、帝国を築いた始皇帝が叡智を集結して作った武器を持っているんだ。

それに、ナイトレイドには戦上手で知られていたナジェンダ元将軍と、元軍人のブラートさん……そして、帝国最凶と言われていた暗殺者アカメがいるんだ。

生半可な実力と武器では敵うはずがない。

 

そうだな、もしもナイトレイドの奴等に敵う人がいるとしたらブドー大将軍やエスデス将軍、そしてこの温室に住んでいる人くらいだろうな。

あー、大臣直属の部下である羅刹四鬼もいるが、上で挙げた御三方に比べたら実力は天と地の差だな。

まぁ、羅刹四鬼よりも実力が下の俺が言えたことじゃないだが……

 

 

 

ってか遅いな。

いつもなら呼び鈴を鳴らして一分もしない内に扉を開けてくれるんだが、もう四分位経過しているぞ。

俺はもう一度呼び鈴を鳴らす。今度は少し強めに。

 

チリリリリィン!

 

 

 

この音なら温室の中には聞こえたと思うが……オカシイな。開く気配がしない。

あの人もこの時間帯には起きているし、寝てるなんてことはないだろう。

単に気付かないだけか?

 

チリリリリリリリィイイン!!

 

オラ、早く開けろ。

俺がありったけの力を振り絞って呼び鈴を鳴らすと、扉の内側からガチャリと鍵が外れる音がする。

やっと気付いてくれたか。

背筋を伸ばして扉が開くのを待つのと同時に空気をありったけ肺に溜め込む。

そう、朝の挨拶というヤツだ。

挨拶されて嫌な気分になる人なんていない。だから大きな声で挨拶をするのが俺流の……っと、そんな事思ってたら扉が開いたな。

よしっ! 言うぞ。

 

「おっっはようございますっ!! 今日も一日元気にがっぐほぇええええええ!?」

 

俺の渾身の挨拶は最後まで言うことができず、いきなり現れた拳に腹部を殴られた俺はそのまま倒れこむ。

あっ挨拶されたら返すのが礼儀ってもんだが、拳の挨拶とは……これは効いた。朝なのにハード過ぎるぜ。めっちゃ痛い。

 

「も、もう少し手加減……」

『黙れ』

 

痛いのを我慢して顔を上げると、無表情で俺を見下す少女が立っていた。

そう、俺に拳の挨拶をしてきた冷徹で無表情なこの少女が俺の上司であり、この温室に住んでいる変わり者、エリア将軍だ。

 

エリア将軍は約一年前にいきなり将軍になったツインテールの少女だ。

その髪型のせいで少し幼く見えるが、年齢はエスデス将軍と同じで二十代前半らしい。

まぁ、当時の俺たちにはどうでもいい事だった。

それよりも気になったこと……いや、気に入らなかったことがあった。

何故こんな少女が将軍になったのか? だった。

普通、将軍というのは『実力があり、戦況によって臨機応変に対応できる頭の優れた軍人』がなるものであった。

しかし、目の前にいる少女は頭は良くても、将軍級の実力がある様には見えなかった。

他の奴等もそう思っているだろう、今すぐにでも声を上げて抗議したかったが…………それができなかった。

ブドー大将軍の横にいる少女が、俺たちをジッと見ていたからだ。

笑えばとても美しいであろう少女の顔は今こうしている間も変化はなく、瞳は闇を連想させる黒。そこに光が入る余地など一切なかった。

そんな瞳で凝視されたら……何か怖くて文句が言えなかった。

『まぁ、どうせエスデス将軍に叩きのめされて辞めるだろうよ』

そう思っていた俺たちだが…………俺たちは彼女の実力を測り間違えていた。

やはりというか、エリア将軍の実力を試すために模擬戦をしたエスデス将軍は『エリアは私が認めた強者だッ!』と彼女を称した。

あの英傑で知られているエスデス将軍がだ。

それだけでも彼女に実力があるという事がわかったが、賊軍をたった一人で皆殺しにしたという知らせを聞いた時は驚いたもんだ。

それと同時に、俺たちは彼女に恐怖した。

その事を俺の親友であり、帝国海軍で働いてる奴に話したら「何で味方に恐怖するんだ?」って言われたから「お前もエリア将軍に会えばわかる」って言ってやった。

別に意地悪をしたわけじゃない。エリア将軍が纏っている雰囲気を言葉に表せられなかったからだ。

何ていうか、人だけど人じゃないみたいな……俺たちとは違う何かだと思った。

 

「あぁ~痛え……エリア様ってもしかしてS?」

「……」

 

俺の質問を普通に無視して温室に入っていくエリア将軍。

ッフ、いつもの事だから気にしないぜ。

何を隠そうエリア将軍は喋れない……らしい。

「らしい」って付けたのは、今日まで一言も話さず、筆談で済ませているからだ。

理由は聞かねぇようにしてる。そういう事は相手から話して貰うまで待つのが俺流だ。

 

まぁ、無表情で本当の無口とか、どんだけ愛想がないんだよ!! って思うだろ?

実際そうなんだよ。

エリア将軍は俺が冗談を言ったりしても何にもリアクション取らないんだぜ? ツッコミ書いてくれないんだぜ?

俺も意地張って何回も言ってるんだが、なーんにも反応しない。悲しくなってくる。

まぁ、約一年もこの人と接していると、無口で無表情で無感情というレッテルを貼られているエリア将軍が可愛く見えてきてしまう今日この頃。

 

(笑えばホント可愛いのにな……)

 

俺はそんな天地がひっくり返っても起きない事を思いながらエリア将軍の後ろ姿を眺める。いつものドレスアーマーを着ている彼女の背中は、身長の割に大きく……そして儚く感じ取れた。

 

(全く、何も言わないから色々と心配だぜ)

 

俺も立ち上がり、彼女の後を付いていく感じで温室に入ろうとする。

しかし、エリア将軍がこちらを振り返ったと思ったら…………扉を閉めて……!?!?

 

「ってちょっと待ってぇええええええええ!!」

 

直ぐにドアノブに手をかけて開けようとするが、開かないッ!?

どうやらエリア将軍が押さえているようで、押しても引いても叩いても横にスライドさせようとしてもピクリとも動かないッ!! どんだけ力あんだよ…………

そういえば、エリア将軍を慕う? 奴等で構成された『エリア将軍を見守る会』の連中からは『帝国最強のツンデレ』なんて言われてたな。

一ついいかお前ら、ツンデレっていうのはな……デレがあってこそのツンデレだッ!!!

もう一度言うぞ、デレがあってこそのツンデレだッ!!!

この、ツンでしか構成されてない人をツンデレと認めるほど俺も甘くないッ。

 

って、マジで開かないんですが……

 

「っちょ! エリア将軍、中に入れて下さい!!」

 

扉の隙間から『なぜ?』と書かれた紙が出てくる。

いや……こっちが聞きたいです。

 

「お願いしますぅ~~~、さっきの冗談は嘘ですから! ホントすみません!!」

 

俺は誠心誠意心を込めて扉の前で土下座する。

ははっ、もう土下座も慣れたもんだぜ……

土下座をして数分。やっと扉を開けてくれた。

 

「いやぁ、ありがとうございますエリア様」

 

俺はお礼を言って中に入る。

そんな俺を一度も見ないで温室の奥へと進んでいくエリア将軍……

 

前言撤回。

やっぱ、この人は可愛げないわ。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

あぁあああああああああ!! 五月蝿いッ!!

朝早くから何回鳴らすんですかッ!! あの馬鹿野郎。

オーガさんを説得した日から約一週間が経過し、

 

私の眠りは今も聞こえる滅茶苦茶五月蝿い呼び鈴によって妨げられる。

今の時間は……あぁ、朝の四時四十分ですか。

いつもの私なら三十分には起きているので、不審に思ったんでしょうね。

 

………ッチ。

何故将軍である私が、あのムカつく奴に合わせないといけないんですか?

そう思いながらもベッドから出た私はいつもの服装に着替えて深呼吸をする。

沢山の花の香り……私はこの花々の香りを嗅ぐとてもリラックスできます。

今も鳴っている呼び鈴の音さえ無ければ!! ですが。

 

私の至福の時を邪魔した罪は大きいです。

扉の鍵を開けた私は左足を前に突き出す形で踏ん張る。

どうせ開けた瞬間、この呼び鈴に負けない程の五月蝿い声で挨拶をしてくるのです。

私もお返しに拳で返してあげるとしましょう。

 

右ストレートでぶっとばす。真っすぐいって、ぶっとばす。ですッ!!!

 

「おっっはようございますっ!! 今日も一日元気にがっ『くらえッ!!』

 

私が繰り出した渾身の右ストレートは、挨拶をした人物の腹部目掛けて一直線に進み……クリーンヒット!!

よくわからない悲鳴を上げてその場に倒れる害虫……失礼、カインさん。ざまぁーみやがれ! です。

 

無様に床に倒れたカインさんを見下す。

「くふふ、お前にはその姿がお似合いだ」と言えないのが残念です。

カインさんは、元ブドー大将軍の精兵部隊、近衛兵の一人でした。

将軍の一人である私にも直属の部下を持たせて貰えるのですが、私の戦闘は単騎でこそ輝くものなので『部下じゃなくて温室の管理者が欲しい』って書きました。

べっ別に隊を指揮したことがないから心配だったとか、部下の訓練とか管理とかが大変そうだからって理由じゃないですよッ!!

 

そ、それで私の名誉ある下僕(部下)に選ばれたのが、私と一緒に植物の水やりをやっているカインさんというわけです。

 

物覚えが早く、近衛兵からこんな雑用係みたいな職になってしまったのにも関わらず、今日まで文句を言わない彼は、とても優秀な部下だと思います。

ただ……

 

「エリア様、手伝いますよ」

 

私が無駄に金をかけて作った池からジョウロに水を汲んでいると、そう言って持って行ってしまった。

気遣いが行き過ぎていると言いますか……優しすぎるといいますか……とにかく、何でもかんでも手伝おうとするんですよ。

この前も、私が大きな鉢を持っていると「力仕事は男がするもんだ」とか言って横取りされましたし……でも、私の力ってカインさんより数倍上なんですよね。

あ、これ言っちゃうとカインさんが拗ねそうなので言いません。

 

「そういえばエリア様、富裕層の一家がナイトレイドに殺された事件があったじゃないですか、あの事件の生存者っていないって聞きましたが本当ですか?」

『そう聞いている。何故?』

「あっ……いやぁー、金目当てにしてはやりすぎって言いますか、残忍な奴等だなっと思いまして」

 

そう言って笑顔でポリポリと頭を搔くカインさん。

……一週間前に起こったナイトレイドによる富裕層一家襲撃事件、世間では金目当ての犯行ということになっていますが、本当は違います。

ナイトレイドによって殺された富裕層一家は、田舎者を甘い言葉で自分たちの家に招き入れ、死ぬまで拷問して弄ぶサド家族でした。

そう……原作一巻でタツミ君の仲間であるサヨさんとイエヤス君を殺した一家です。

つまり、その非道な家族に天誅を下すべくナイトレイドが参上したということです。

 

さて、『残虐非道な一家をナイトレイドが殺した』なんていう知らせを真っ当な軍人が耳にしたらどう思うか。

「じゃあ、今までのナイトレイドによる殺しも何か訳が」と思う人が出てくると思います。こんな帝都の現状ですからね。

心の迷いは大きな隙を作る……そこを突かれたらひとたまりもありません。軍の士気が下がること必須です。

あ、エスデス将軍の部隊は別です。あの人たちは戦闘狂なので知りません。

 

そういう訳で真実は隠しています。隠蔽というヤツです。

もしも、真実を言いふらそうものなら……処刑されます。

まぁ、姑息な大臣がやりそうなことですね。

勿論ですが私は何も言いません。処刑されたくないですからね……エスデス将軍に狙われたくないですからね。

騙しているみたいで……っていうか騙しているので心が痛む……なんてことはありません。

非情? 無情? 外道? 何とでも言いなさい! 

殺戮人形って言われている私にはもう何も怖くないッ!!

 

 

 

………そういえば、原作一巻のオーガさん暗殺イベントってどうなったんだろう。

オーガさんを助けるって決めたのは良いけど、タツミ君がオーガさんを暗殺しに来る日がわからない私です。

いや、オーガさんが非番の日に狙ってくると思うんですが、今の彼は仕事の虫に取り付かれたかの様に仕事熱心になってしまいまして……非番の日がないんですよ。彼曰く「年中無休」を目標にしているみたいです。馬鹿ですね。

さて、原作よりも悪い人じゃなくなったオーガさんですが、彼が犯した罪は消えません。

オーガさん暗殺イベント。絶対起きると思います。

一応、オーガさんを説得した次の日から見張っていましたが、タツミ君が来る気配がないのです。

 

うーん、もしかしたらオーガさんの死亡フラグは回避されたかもしれませんから、今日で見張るのも最後にしましょう。あんまりそちらばかりを気にしていては仕事ができませんので……

 

よしッ! そうと決まれば早速詰め所に行きましょう。

私が時計を見ると、時計の針は六時五十分を指していた。

ふむ、中々良い時間ですね。

今日のオーガさんの見回り時間は夕方からですが、帝都の見回りも兼ねてのんびり行けば丁度いいと思います。サボりじゃないですよッ!!

 

『出かけてくる。夜まで戻らない』

「わかりました」

『あとは任せた』

「了解です。エリア様もナンパされないように気をつけて下さいね」

 

そう言ってニッコリと微笑むカインさん。

 

あ? カインよ……それは嫌味か? 嫌味だなッ!!

私がナンパされたことないの知ってていっただろッ!!

 

優秀な部下と言いましたが前言撤回です。

コイツは唯のムカつく奴です。

 

「痛えぇえええ!? なんでいきなり殴るんですか!?」

 

ふんっ、そんな事もわからない馬鹿は減給です。減給ッ!!

私は痛がるカインさんに目もくれず、そのまま温室を後にした。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「エリアさん! あの店の料理も美味いんだぜ!」

 

キラキラと瞳を輝かせてお店の案内をしてくれるタツミ君。

ごめんなさいタツミ君、貴方が今もこうしてドヤ顔でお店を紹介してくれていますが、ここのお店は私もよく行くお店なので知っています。

っていうか、私はタツミ君に聞きたいことがあるんですが……どうして貴方がここにいるのッ!?!?

 

私が帝都メインストリートを歩いていると「あっ! エリアさん!!」という元気な少年の声。

振り返るとそこには、何故か手を振って近づいてくるタツミ君の姿が……

無表情ですが、呆然としている私にタツミ君は

 

「この前は無礼なことしてごめんなさい! お詫びに何か奢るんで」

 

そう言ってきた。

私としては突然の出来事で何が何だかわからない状態で、何も考えずに頷いてしまい……今に至ります。

 

ホント何ですかこれ?

私はこの状況を理解しようと情報を整理する。

タツミ君はこの前のお詫びとして私に奢ると言ってきた。

この前というのは、タツミ君が私に仕官させて欲しいと模擬戦を挑んできた時のことですね。

そのお詫びとして奢ると声をかけてきた…………

 

こっこれって……つ、つつまり……

 

私、タツミ君にナンパされちゃった!?!?

そっそうですよ!! ナンパですよ! ナンパ!!

「君可愛いね~お兄さんとお茶しない?」 で有名なナンパですよ!!

 

「―――さん?」

 

ふふ~、どうだカインよ。

私でもナンパされるんだぞ。これは帰ったらカインの奴に『ナンパされた』って書くしかありませんね。

クックック、奴の驚いた顔が目に浮かびます。

 

「エ――さん?」

 

大体、無表情だからってこんなに可愛い子をナンパしない方がオカシイんですよ。あ、ナルシストじゃないですよ?

その点を踏まえてタツミ君は素晴らしい。流石は原作主役キャラです。

 

「エリアさんッ!!」

 

ふぁッ!?

いつの間にか、私の目の前にタツミ君がいました。

どうやら考え事していてボーッとしていたようです。ごめんなさいタツミ君。

 

そして……いつの間にか私とタツミ君は人気がない裏路地へと入っていました。

 

「あれ……オカシイな。こっちであってたと思うんだけどなぁ」

 

そう言って辺りを見渡すタツミ君。

どうやらお店を案内する途中で道に迷ってしまったようですね。

ふふっ、ここは私に任せなさい!!

伊達に帝国の将軍名乗ってるわけじゃ~ありません。

えーと、この辺りですと……

 

「エリアさんッ!!」

 

突然タツミ君が声を上げる。

少し驚いた私はタツミ君が指差す方向を見ると……暗闇から黒髪の少女が現れた。

 

「……」

 

黒髪の少女は一言も話さず持っていた刀を抜く。

 

「うぉおおおおお!!」

 

タツミ君が剣を抜いて黒髪の少女に斬りかかる……しかし、簡単に躱されるのと同時に背中を蹴られたタツミ君は壁にぶつかり倒れる。

 

 

 

あぁ、そういう事でしたか。

てっきり……タツミ君がナンパしてくれたのかと思っていましたが、嘘でしたか。

彼の役割は「私をここまで誘導すること」。

そして……

私は黒髪の少女を見る。

赤目に黒の学生服……そして彼女が持っている特徴的な刀。

一度も会ったことはありませんが、直ぐにわかりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

貴女が…………アカメちゃんですね。

 

「葬る」

 

まるで私の思考を読み取ったかの様に一言そう告げた彼女は、私の右肩から左脇腹の辺りを切り裂いた。

 

 

 




超展開、エリア斬られる。


次回もお楽しみに? です

感想書いて下さると作者のテンションが限界突破します。
そして、読者の皆様。いつも感想ありがとうございます。


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いやぁあああああああああああああ!?


お気に入り件数100件突破!!
とても嬉しいです(毎回言っている気がします)

今回はタツミ君視点が入ります。

サブタイトルは気にしないで下さい。いつも適当に付けているので……



人間は後悔する生き物である。

あの時こうしていれば……こう発言していれば……と、今の状況の反対である最も良い選択肢を思い浮かべる。

しかし、後悔したところで何も始まらない。ただの現実逃避だ。

では、なぜ人間は後悔するのか? その理由は至って簡単だ。

人間は後悔することで成長する生き物だからだ。

失敗したら次は成功するようにと勉強や仕事を頑張る。そうやって人間は成長していく。

後悔することは人間にとって大切なことである。

 

 

 

 

 

しかし、後悔してもそれで終わりの時もある。

それは………………死ぬ瞬間である。

 

 

 

 

 

タツミがナイトレイドに入って一週間程過ぎた日。

死亡率が高い初任務を数日前に終えたタツミと、元帝国の暗殺部隊に所属していたアカメにナイトレイド屈指のイケメン! だけど女性のボスであるナジェンダから任務が言い渡された。

任務の内容は、『革命軍約三万の命を奪ったエリア将軍の実力と帝具の能力』を調査することであった。

対象はエスデス将軍と同格とも言えるエリアの調査。

様々なパターンを考えた結果、帝都に手配書が回っておらず且つ対象に警戒される確率が低いタツミが人気の少ない場所まで対象を誘導し、アカメが襲撃する。という手はずで行った。

敵地である帝都で、一度の失敗も許されない任務。

危険を冒してまでエリア将軍の調査をする必要があるのか? 答えはyesである。

ナイトレイドの標的のリストとして名前が載っているエリアだが、革命軍から貰った彼女の情報が少なすぎたのだ。

確かに革命軍三万を殺したのはエリアだ、これは間違いない情報である。

しかし、その殺しの方法がわからなかった。

革命軍の死体を調べてみたが……剣で斬られていたり、槍の様な物で突かれていたり、身体の半分が無かったり……と、様々な死に方をしていた。と報告書には書かれていた。

 

彼女の帝具は何だ? 何ができるんだ?

彼女の扱っている武器は剣か槍か? それとも様々な武器を使えるのか?

そもそも、エリア将軍が率いている独自の部隊でもあるのではないのか?

 

様々な疑問が浮かび上がり、それを解消するべくエリアを襲撃したのだが……

結果として…………実にあっけないものであった。

たった一斬、それだけで彼女は倒れ、動かなくなった。

 

(やった! アカメの奴……やりやがったぜ!!!)

 

演技として、アカメに蹴られて倒れたタツミからはアカメの背中しか見えないが、エリアが肩から脇腹を帝具一斬必殺『村雨』で斬られた瞬間を見ていた。

帝具『村雨』は斬った場所から呪毒を体内に流し込み、確実に相手を殺す刀型の帝具だ。

間違いなく死んでいる。

直ぐにでも起き上がり、アカメの所まで駆け寄りたかったタツミだが、アカメが合図するまで気絶したふりをしなければならなかったので我慢してその時を待った。

 

 

 

アカメは目の前の光景に自分の目を疑った。

エリア将軍が……消えたのだ。

いや、溶けたと言うべきだろう。まるで乾いた地面に雨が染み込むように地面に沈んでいったエリア。

その光景に驚いたアカメであったが、直ぐに気持ちを切り替え……瞬間、アカメは背後からの殺気に気づき、咄嗟に振り向き刀を振るう。

 

「ッ!?」

『……』

 

身体がよろける程の衝撃と金属が擦れる音。

後ろに跳躍し、直ぐに体勢を立て直したアカメの目の前には…………無傷で立っているエリアがいた。

 

(確かに斬った……帝具の力か)

 

先手必勝。

アカメはエリアの実力を見極める為に、そして異変があれば直ぐにでも逃走できる様に斬りかかる。

無駄のない動き、体格からは想像できない程の重い斬撃。

一撃の世界で生きてきたアカメだからこそ出来る一斬をエリアに振るう。

 

『……』

 

しかし、その斬撃は対象に届くことはなく。

腹部を圧迫する感覚を感じた瞬間、アカメは衝撃で数メートル飛ばされる。

 

「かはっ」

 

何をされたのかわからない。いや、エリアの体勢から見て拳を打ち込まれたのはわかった。

だが、見えなかった。

銃の弾も避けられる程の動体視力と反射神経を持っているアカメですら、エリアの攻撃が見えなかった。

それ程までにエリアの速度が早かったのだ。

 

アカメは後悔する。

エリアと戦ったことに…………あの時、エリアを斬った瞬間にそのまま逃げていれば良かったと、その後の確認はタツミに任せておけば良かった……と。

今回の任務は情報収集がメインで戦うことではなかった。

しかし、アカメはそうしなかった。

心のどこかに、『一度攻撃を当てれたんだ。もう一度……』という邪念が残っていたからだ。

 

『……』

 

後悔しても既に手遅れであった。

腹部を殴られた衝撃によって動けないアカメに向かって、無表情で見つめている殺戮人形がゆっくりと近づいてきた。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

あ~~ビックリした。

普通の人間だったら今の斬撃で死んでいましたよアカメちゃん。

アカメちゃんに斬られる瞬間、帝具の力を発動させた私はギリギリ……じゃなくて余裕で回避して後ろから殴る。

村雨で受け止められたのでもう一度殴る。

私に腹パンされたアカメちゃんは衝撃で少し後ろに吹き飛び、片膝をついて私を見る。

 

(あっ……篭手付けてなかったら今の危なかったかも)

 

何て思いながら殴ったせいで気絶させれなかった。

アカメちゃん痛いでしょ? 苦しいでしょ? 今楽にしてあげるね。

私は今度こそアカメちゃんを気絶させるべく一歩ずつ用心して近づく。

相手は原作主役キャラのアカメちゃん、何をしてくるかわかりません。

動けないフリをして間合いに入った瞬間……ズバッ!! っと斬られるかもしれませんからね。警戒警戒です。

それに、後ろで気絶したフリをしているタツミ君にも気を配らないといけません。

彼は仲間のピンチを放っては置けない真っ直ぐ主人公タイプの人間なので、作戦そっちのけで私に斬りかかってくるかもしれません。

 

さて……私を暗殺しようとしたのか、それとも私の帝具の情報が知りたかったのかは知りませんが、一発は一発ですよ? アカメちゃん。

え? さっきの腹パンは一発にカウントされるじゃないかって? あははっ、あれは0.5発ですよ。残りの0.5発分を今からやるんです。

 

勿論ですが、アカメちゃんは殺しません。気絶させてタツミ君を助けるふりをします。

やった事はありませんが、首元にシュッって手刀を打ち込んで気絶する……はず。

 

(首元にシュッ。首元にシュッ)

 

イメージトレーニングをしながらもアカメちゃんとタツミ君の動作に警戒する。

そして、何とか出来そうだと自信がついたのでアカメちゃんの目の前まで歩いた私は、彼女の鋭い視線に負けない様に見下す。

 

(視線が……滅茶苦茶怖いんですけど)

 

眼力だけで射殺出来そうな程睨むアカメちゃん、可愛い顔が台無しです。そして視線を逸らしたい。

でも、私は負けないッ!! 

私も負けずとありったけの威圧感&殺気を出して応戦する。無表情だけど。

目と目が合って数十秒。

私とアカメちゃんの戦いは、私の勝利で幕を閉じだ。

 

って、そんな事してる場合じゃありません!!

早くアカメちゃんを気絶させないと、回復して面倒臭い事になります。

首元にシュッ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………計画変更。

やっぱり腕の一本でも貰っておきます。

 

「っく!!」

 

私はアカメちゃんの右脇腹目掛けて右足を蹴る。

痛みから少しだけ回復していた様で、私のつま先が脇腹に当たるか当たらないかのギリギリの所で避けたアカメちゃんは、そのままうつ伏せで倒れこむ。

あ、丁度良い具合に倒れてくれましたね。

私はそのまま右足でアカメちゃんの背中を踏みつけ、動けないようにする。

そして……アカメちゃんの左腕を真っ直ぐ伸ばす形で持つ。

えーと、上腕骨を折りたいけど人体の構造っていうのかな……よくわからないので棒を折る感じでいきます。

ありったけの力を込めて、掌底を上腕骨にぶつければ折れるはずです。折れなかったら違う方法で折ります。

 

私が心変わりした理由は簡単です。

殺されそうになったのに、原作キャラだからって気絶させるだけとか甘すぎない? って訳ですよ。

あんまりのんびりしているとアカメちゃんが完全回復しちゃうのでパッと折ってパパッと逃げます。

 

痛いですけど、命を取られないだけマシだと思ってくださいアカメちゃん。

 

私がアカメちゃんの腕を折ろうとした瞬間、一発の銃声が帝都の闇に響く。

咄嗟にアカメちゃんの拘束を解いて離れると、私の頭があった部分に光が横切り……そのまま地面にぶつかる。

ビームですか、危ないですね。

それにこの射角……頭部を狙った正確な射撃、距離からして撃ったのは間違いなくナイトレイドの一員で、帝具浪漫砲台『パンプキン』所有者のマインちゃんですね。

私と同じツインテールでピンク髪のツンデレマインちゃん、原作だと他の任務でいなかったはずですが、任務の帰りに偶然見かけたのでしょうか? だとしたら運が良いこと……

 

やはり、ここでアカメちゃんが負傷すると神様的に不味いんですかね。

だとしたら、今ここで無理やりにでもアカメちゃんの腕を折る必要はないですね。

 

(この世界の神様、私はこのまま逃げるんでそれで良いですか?)

 

この世界の神様に一度もあったことありませんが(ホントにいるのかな?)一応言っておく。

勿論、神様からの返答はなく……代わりにもう一発私の頭部を狙ったパンプキンの砲撃がきました。

 

腕を折ることが出来ないのなら、長居する必要はありませんね。

私は気絶したフリをしているタツミ君を担ぎ上げる。

え? どうして罠にはめた張本人を連れて行くのかって?

それは勿論助けるためですよ。

 

『一般人(タツミ君)が私に迷惑をかけたので、お詫びも兼ねて美味しいご飯の店を案内していたが道に迷ってしまい、しかも暗殺集団ナイトレイドのアカメちゃんに襲撃される。一般人は勇気を振り絞ってアカメちゃんに攻撃するが返り討ちに遭って気絶してしまう。

そんな勇気ある一般人を放って逃げれるはずもないので、私ことエリア将軍は数回の戦闘の後、一般人を安全な場所まで退避させるべく暗殺者アカメから仕方なく逃走する』

 

報告書の内容はこんな感じで良いですね。

こうやってナイトレイドの作戦に乗っておけば、私も報告書を書くのが楽!! ナイトレイドも何の被害もなく良かった!! で、終わると思うので……タブン。

もしも大臣が「どうして一般人を見捨てて賊を殺さなかったのですか?」って聞いてきたらその場のノリで誤魔化します。最悪、殴って記憶を物理的に消去します。

 

「まっ待て!! どうして私を殺さないッ!!」

 

私がタツミ君を抱き上げて逃げようとすると、後ろから怒気の篭った声。

後ろを振り返ると、案の定すっごい睨んでいるアカメちゃんが立っていた。

何ですかアカメちゃん、貴女はそんなに死にたいんですか?

それとも、殺せたのに殺さなかったから? 殺す価値がないと思われたから怒ったのかな。

うーん、困るなぁ。このまま無視して逃走しても良いけど、何か悪い気がします。

……ッハ!! 名案を思いつきましたよ!

 

私は一度タツミ君を降ろし、『任務じゃないから』と書いた紙をアカメちゃんに渡す。

え、アカメちゃん、なにその『何書いてんのこの人……』みたいな顔はッ!? そんなにおかしい理由!? 私としては、これ以上の名案は思い浮かばないんだけど……

 

まぁいいや、答える質問にも答えたし、お腹空いたし、タツミ君を助ける演技をしないといけないし、お腹空いたし、お腹空いたし……逃げますッ!!!

 

私はそのままタツミ君を抱き上げ、今度こそアカメちゃんから逃走するべく帝都の闇へと消えていった。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

まさかアカメでも歯が立たないなんて……エリア将軍、恐ろしい人だ。

でも、アカメが殺されなくて良かった。

あの時の砲撃も多分だがマインが撃ったものだろうし、今頃はアカメの奴もマインと合流しているだろう。

 

あとは……あとは俺が無事にこの人から逃げ出すだけだぜッ!!

焦るな俺、もう少ししたら何食わぬ顔で起き上がって、適当に言葉を交わしてサヨナラすれば良いんだ。簡単だ。

一つ問題があるとすれば……

今もこうして後頭部から伝わる柔らかな感触と女の子特有の良い香り。

エリアさんに運ばれる際にチラっとだけ見えた公園のベンチ。

そう、俺ことタツミは、帝国最凶と言われているエリアさんに夜の公園で膝枕をしてもらっている最中なのだ。

 

美少女(無表情で目が怖いけど)に膝枕されるとか……俺は幸せだ。

 

ってそんなこと思ってる場合じゃない!!

起きるタイミングがわからない……流石エリアさん、隙がないぜ。

 

でも、俺がナイトレイドの皆から聞かされたエリアさんと、今のエリアさんの印象は違う気がするな。

『殺戮人形』って言われてるけど、今のこの人は優しい感じがする人だ。

もしかしたら……無表情で無口だから誤解されているだけなんじゃないのか? 本当は心の優しい人なんじゃ……

 

いやっ、帝都でそんなに人をホイホイ信じちゃダメだ。

この人は俺たちが倒すべき標的なんだ。今は無理だとしても、いつか必ず倒してみせる。

 

「……?」

 

不意に俺の頬を撫でる感触。

どうやらエリアさんが俺の頬を撫でたみたいだ。

思わず目を開けると、夜にも負けないくらい暗い二つの瞳。

こっ怖ぇええええ。やっぱりエリアさんの目は桁違いに怖いぜ……

 

『起きた』

「あ……はい、起きました」

『良かった。ケガはない?』

「まだ蹴られた所が痛いですが、大丈夫です! それよりもエリアさんも大丈夫ですか?」

『大丈夫。君を危険な目に』

カキカキ

『さらしてしまった』

「い、いえ! そんな事ないです!! 二人とも無事で良かった。それでいいじゃないですか」

『そうだな』

「そうですよ! いやぁー本当無事で良かった……ハハッ」

 

……気まずい。空気が重い。帰りたいッ!!

標的って言ったけど、こんなに俺の事を心配してくれてる? 女の子を騙してる自分が情けねぇ。

これ以上ここにいたら罪悪感で押し潰されそうだし

 

「じゃあエリアさん、俺は帰るよ」

 

逃げる!!

『送る?』というエリアさんのご好意を丁寧にお断りした俺は一目散にその場を去る。

 

この後、無事にアカメたちと合流できた俺はナイトレイドのアジトへと帰路に着くのであった。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

あぁ、行っちゃったよタツミ君……逃げ足の速いこと速いこと……

私は小さくなっていくタツミ君の背を見ながら心の中で

 

ご飯奢るって言ったじゃないですかぁああああああああああああ!!

 

叫ぶ。それはもう叫ぶ。声が出ないことをいいことに滅茶苦茶叫ぶ。

何? ご飯奢るっていうのも嘘なの?? あんなにドヤ顔でお店の案内をしてくれてたのにアレも演技だったの? だったら絶対ユルサナイ。タツミ君フルボッコ、慈悲はない。

食べ物の恨みは恐ろしいですよタツミ君、今度会ったら絶対奢ってもらいますからね。

 

……はぁ、今日は朝から疲れました。

カインさんの五月蝿いモーニングコールで起こされて、タツミ君に騙されてアカメちゃんに襲撃されたり……もう散々です。

この分だとオーガさんの暗殺イベントは回避されたと見て良いでしょう。代わりに私が襲われたんですからね。

確かに疲れましたが、この程度の苦労で済むならオーガさんを助けた甲斐があるってものですよ。

いやぁー良かっ「あれ? そこにいるのはもしや……エリア将軍!!」

 

……何処かで聞いたことのある声がする。

明るくて騒がしい声……そう、一週間前に警備隊の詰め所で聞いた声。

私が振り返ると、そこには満面の笑みで近付いてくるセリューさん&コロちゃんの姿がッ!?

 

いやぁあああああああああああああああああああああああ!!

どうしてッ!! どうしてなの!?

私が「この程度の苦労」なんていったせいなの? そうなのねッ!!

だったら今すぐ言い直しますッ!! 本当に大変だったので見逃して下さいぃ。

セリューさんと話すと疲れるんです……だから、だからッ!

私を助けて下さい。神様。

 

「やっぱりエリア将軍でしたか!! 私のこと覚えていますか? 帝都警備隊所属セリュー・ユビキタスあ~~んどコロですッ!!」

 

神は死んだ。

そして私は後悔する。

どうしてさっさと帰らなかったのかと……

だけど、もう遅かった。遅すぎた……

 

私の目の前には、眩しいくらいの笑顔で立っているセリューさんと、黒豆みたいな目で見つめてくるコロちゃんがいた。

 

 

 

私が宮殿へと帰った後、オネスト大臣直々に『首斬りザンク』の討伐任務が言い渡されるのは、セリューさんの数時間にも及ぶ【正義について】の講義&訓練をした……数日後のことだった。

 

 

 

 




【少しだけ説明】
原作ではオーガさん暗殺任務がタツミ君の初任務でしたが、このお話ではタツミ君の初暗殺任務は既に終了して、無事にアカメちゃんの笑顔も見れています。

そしてタツミ君の口調とか難しい~……

アカメちゃんを軽くあしらっちゃうエリアは間違いなく最凶です。
帝具の能力は……ザンク戦で書こうと思うので今しばらくお待ちください。


感想書いて下さるとry


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タツミと友達~ふんふふ~ん

評価13件、お気に入り件数390件突破……(°д°)why?

とても驚きました。そして嬉しかったです。それはもう嬉しすぎて課長に絡みたくなるくらい……ごめんなさい嘘です。

でも、本当に嬉しいです。
お気に入り&評価&感想を書いてくださった方、本当にありがとうございます。

『今回のお話注意点』
・オリキャラ出現。
・このお話からザンク戦に突入しますが、少しだけシリアス? になるかもです。
・サブタイトルのネーミングセンスのなさ。


何時もと同じ時間に起きて、何時もと同じようにカインさんが来て植物たちのお世話をする。

そんな光景を見ながら、私は自分の支度をする。

本来なら私もカインさんと一緒に植物たちのお世話をするんですが、生憎今日は大事なお仕事があるので彼に任せています。

 

「首斬りザンクの討伐ですか、それはまた面倒な任務を受けましたねエリア様」

『仕方がない。任務だからな』

「ははッ、貴女らしい意見です。しかし、貴女に限ってあるとは思いませんが……相手は帝具持ちです。油断なさらないように」

『わかっている』

 

アカメちゃんたちに襲撃されて数日が経ったある日、オネスト大臣の自室に呼ばれた私は首斬りザンクの討伐と、彼が持っている帝具の回収を命じられた。

初めての帝具持ち原作キャラとの戦い。

何ていうか、わかっていた事だったので対して何も感じませんね。

あっ、アカメちゃんと戦いましたが、アレは殺す気で戦ってないのでノーカウントです。

 

さて、私の標的であるザンクさんは元帝国の監獄で働く首斬り役人で、オネスト大臣のせいで毎日毎日命乞いする人間の首を切り落としていたら、首を斬るのがやめられない止まらない~っと、某えびせんのCMの様になり、狂ってしまい辻斬りになってしまったそうです。

その際に討伐隊が組織されましたがそれっきり姿を消してしまったそうです。

そして何の因果かはわかりませんが、ザンクさんは帝都に現れて夜な夜な首を切り取っているそうです。

まるでホラーですね。いえ、ホラーです。

勿論、そんな極悪人を改心オーガさん率いる帝都警備隊が黙っているはずもなく、討伐隊を組織しましたが被害は増える一方で……オーガさんも困り果てていると聞きました。

まぁーそれもその筈です、ザンクさんは獄長の持っていた帝具『スペクテッド』を盗んで所持していますからね。

帝具『スペクテッド』は五視の能力が使えます。

相手の表情を見ることで思考がわかったり、遠くの物が見えたり、筋肉の動きで相手の次の動きが見えちゃうものなんかもあります。

こんなんチートや……チーターやッ!!

 

こほん。

つまりですね、オーガさんたち帝都警備隊の皆さんには悪いですが……貴方たちでは力不足というわけです。

これ以上警備隊の皆さんに死なれると私の仕事が増え……じゃなくて治安維持に困るので、メインストリート辺りの警備を担当してもらうことにしました。

あの辺りなら宮殿から近いですし、深夜でも明るく、人もそれなりに居るのでザンクさんも避ける場所だと思いますからね。

 

あぁ、勿論ですがメインストリート以外の所は私がしっかり守りますよ。

何時もと違ってちゃんとしたお仕事ですからね。きっちりやらせていただきます。

そういえば……ナイトレイドの皆さんもザンクさんを討伐するために深夜、コッソリと見回りをしているようなので鉢合わせしないようにしないと……幸せなことに、今夜は満月になる少し前なので、ザンクさん対タツミ君&アカメちゃんの戦いは起きないと思います。

起きるとしたら明日かなぁ、それまでにザンクさんを見つけて殺したいけど……何分帝都は広いですかね。

見つかるかどうか……頑張ります。

 

『では、行ってくる』

「はい、お気をつけて」

 

カインさんも、私が真面目お仕事モードだとわかったのか何時もの生意気な態度ではなく、深々とお辞儀をしてくれました。

何だか、執事とお嬢様って感じです!! ちょっと照れくさいですね。

 

「その姿で首斬りにナンパされる……なんてことはないと思いますが、お気をつけて」

 

……前言撤回。

コイツは何時でもムカつく奴でした。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

『今回の標的は、今帝都で噂の連続通り魔だ』

 

エリア将軍の情報収集任務から数日経ったある日、俺たちはナジェンダさんから『連続通り魔、首斬りザンク』の討伐任務を言い渡された。

首斬りザンク。

その名の通り深夜、無差別に現れて首を切り取っていく極悪人。

被害者の約三割は帝都警備隊員で実力は折り紙付き、しかも帝具を持っているらしいからまさに敵なし。厄介な奴だぜ。

 

「タツミ、アンタとアカメはここからが受け持ちの区画だから、ちゃんと覚えておきなさいよ」

「あぁッ! バッチリ下見して、ザンクの奴を俺とアカメでぶっ倒してやるぜ!!」

「おぉ~やる気に満ち溢れてるねぇタツミ。その調子で頑張ってくれたまへ」

「フン、やる気があるのは良い事だけど、アンタ馬鹿だから道に迷ってアカメに迷惑かけないことね」

「なっ……何イ!!」

「ププッ、それはあり得るかもなぁ」

「ね、姐さんまで……」

「まぁー、迷っても何とかなるって!! それじゃ、時間になったらこの場所に集合ね」

「おうッ!」

「わかったわ」

 

そして、帝都に手配書が回っていない俺とマイン、姐さんの三人は、各自今夜からの見回りの担当である区画の下見に来ていた。

 

「やっぱ、辻斬り怖さに人が殆ど出歩いてねえな……この分だと夜になったら皆、家に引き篭っちまうんじゃね」

 

マインたちと別れた俺は、自分の担当である区画の地図を見ながら道や建物を暗記するように目を配る。

こうやって目印になりそうな建物を覚えておけば、道に迷ったときに安心だからな。さすが俺、今日も冴えてるぜ。

しっかし、お昼過ぎなのに開いている店がないな……まぁ、こうも人が出歩いていなくちゃ、店を開けても客が来ないか。

 

ぎゅぅううぐるるるる。

……ハラ、減ったな。

昼前にアジトを出てきたから、昼飯を食ってないんだよなぁ。

でも、開いている店はないし……ちくしょう、こんなことなら弁当を作って持って来れば良かったぜ。

 

 

 

クソ、後悔したって腹が膨れるわけじゃないんだ。男だったら昼飯を抜いたくらいでウジウジしねぇ。

頑張れ俺ッ!!

俺は自分に気合を入れるために両手を上げようとすると。

 

「っきゃ」

 

右手に何か柔らかいものがぶつかった感触がして、後ろから女の子の声が聞こえた。

振り返るとそこには、茶髪の女の子が尻餅をついていた。

 

白か……ってそんな事思ってる場合じゃねぇ!!

 

「だっ大丈夫ですか?」

「大丈夫です。でも、気をつけて下さいね」

 

パンッパンッと、女の子はスカートに付いたホコリを片手で払いながら、微笑んでそう言ってきた。

クソ、何やってんだ俺は……周りを見てなかったせいでこんなに可愛い女の子に迷惑かけちまった。

 

「えーと、服はドコカ破れてる所は……無いみたい。良かったぁ」そう言ってクルクルと日傘を回す女の子は、どこかのお嬢様って感じだった。

服はマインが良く着ている様なフリフリが沢山付いた物で、髪型はアカメと同じくらい長く、目も赤色だった。

でも、アカメと違って表情がころころと変わる子で、何ていうか元気なお嬢様って感じだ。

 

ただ、あんまりお嬢様には良い思い出がないから警戒しちまうな……

そんな事を思いながら目の前の少女を見ていると、不意に彼女が質問をしてきた。

 

「そういえば、アナタはこんな所で何をしていたんですか?」

「え? えーと………… がっガッツポーズの練習をしてたんだよ!」

「ガッツポーズ……ですか」

 

何言ってんだ俺はぁああああああああああああ!!

いきなりの質問でビックリしちまって意味わからんこと言っちまった。

道のど真ん中でガッツポーズの練習とか、完全に頭がおかしい人じゃないかよ!!

何やってんだよ俺……

 

「ふふっ、アナタって面白い人ですね」

 

あ、あれ? 

笑ってくれたってことはおかしな奴だって思われてないってことかな。

良かったぜ……

 

「もし良かったら、アナタの名前を教えて下さりませんか?」

「あぁ、いいぜ! 俺の名前はタツミって言うんだ。君の名前は?」

「申し遅れました。私、ティーンって名前です。タツミさん」

「タツミさんだなんてやめてくれよ、俺の事はタツミでいいぜティーンさん」

「はい、わかりましたタツミ。では、私のこともティーンと呼んで下さい」

「いいぜ、あとさ……その~、出来れば敬語もやめてくんないかな? 見た感じ同い年くらいだし、仰々しいのは無しってことでさ」

 

俺がそう言うと、キョトンとした顔で見つめてくるティーン。

何だ? 俺、変なこと言ったのかな。

 

「う……」

「う?」

「嬉しいッ!!」

「ぐはッ!?」

 

いきなりティーンに抱きつかれた俺は後ろに倒れそうになるが何とか耐える。

む、胸が……ティーンの胸が当たってるッ!! 

めっちゃラッキー、じゃなくて色々と不味い。あと、日傘の先の部分がちょくちょく頭に当たって痛い!

 

「てッティーン、離れてくれ……苦しい」

「あっ、ごめんなさい。何だか友達が出来たみたいで嬉しくってつい……ごめんね」

 

そう言って悲しそうな顔をするティーン。

友達……か。

そういえば、俺も帝都に来てから友達って呼べる奴と出会わなかったな。

俺は目の前で落ち込んでいる女の子を見る。

どこかのお嬢様みたいで警戒しちまったけど、今までの会話でこの子が悪い子じゃないって思えたな。

あ~いや、アリアの件で帝都の人を簡単に信じちゃいけないってのはわかってるんだが、この子は信じても大丈夫な気がする。

…………よしッ!!

 

「ティーンさえ良ければさ……俺と友達にならないか?」

「え……ホント?」

「あぁ! 男に二言はない! 俺と友達になろうぜ、ティーン!!」

「う、嬉しい……ホントに嬉しいッ!! ありがとうタツミ、よろしくね!!」

「よろしくな! ティーン」

 

帝都で初めて友達が出来た瞬間だった。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

太陽が沈み始め、街灯の明かりが、暗闇に飲み込まれる商店街を明るく照らす。

何時もならこの時間帯は夕御飯の買い出しや、仕事終わりの一杯を楽しむ人々で賑わっているのだが、今日は人の姿はどこにもなく、どの店も扉を閉めていた。

それもその筈、帝都には今話題の『連続通り魔』が出没するからである。

深夜、無差別に現れては首を切り取っていく悪鬼。

その悪鬼を討伐しようと帝都警備隊も見回りを強化しているらしいが、尽く打ち破られているらしい。

そんな噂を聞いてしまえば、帝都に住む人々は恐怖で家から出られないのは当然である。

 

しかし、そんな悪鬼が出没する確率が上がる時間帯に、二人の若い男女の楽しそうな会話が聞こえる。

 

「タツミと友達~ふんふふ~ん」

「そっそんなに嬉しいのか?」

「嬉しいに決まってるじゃん!! 友達だよ? と・も・だ・ちッ!! タツミは嬉しくないの?」

「俺も嬉しいよ」

「そうだよねぇ、ふへへ」

「ティーン、笑い方が危ない人みたいになってるぞ」

「えー、そうかな? そうかもッ!!」

「おっおう……」

 

「えへへ」とティーンが笑い、タツミもつられて笑う。

見る者が見れば嫉妬で爆発してしまいそうな何とも微笑ましい光景であるが、通り魔が出没しているというのに無用心に笑い合っているタツミたちの光景は異様にも見える。

そして、何故この二人は出歩いているのだろうと疑問に思う者もいるだろう。

 

しかし、タツミがここにいるのには理由がある。

ナイトレイドの任務として『通り魔、首斬りザンク』の討伐をアカメと二人で行う為、今夜からの見回りの区画の下見に来ていたのだ。

 

しかし、ティーンの方はどうなのだろうか?

彼女はナイトレイドでもない、ただの一般人である。

そんな彼女がどうして通り魔がいる帝都を一人で歩いていたのだろう……疑問に思ったタツミは意を決して質問してみることにした。

 

「ティーンはさ、どうして一人で出歩いてるの?」

「え……?」

「あっ、いやぁー……ほら、今って辻斬りが出没するだろ? なのに一人でブラブラしてるなんて、何か大事な用事でもあるのかな~なんて思ってさ」

「えっえーと、通り魔も怖いけど……今じゃないと会えない人がいるからさ」

「会えない人?」

「うん、エリア将軍だよ」

 

エリア将軍。

その言葉を聞いたタツミは少しばかり驚く。

あの殺戮人形と言われているエリア将軍と、ティーンは何か関わりがあるのだろうか。

まさか……ティーンも軍人なのだろうか?

そうなってしまうと、表向きは帝都の敵であるナイトレイドに所属しているタツミとしては、ティーンの次の発言によっては彼女に対して態度を改めないといけないと思った。

 

「私ね、数ヶ月前にエリア将軍に助けられたの、だからそのお礼が言いたくって……今なら通り魔の討伐の為に帝都の見回りをしてるって聞いたからさ」

「そ、そうなんだ」

 

タツミは内心ホッとすると同時に、タツミの中でエリアの見方が少し変わった。

ティーンを助けてくれたんだ、やっぱりエリア将軍は誤解されているだけで本当は優しい人なんじゃないのか? と……。

 

疑問に思っていたことが解消されたタツミは、ティーンと一緒にエリア将軍を見つけるために街中を歩く。

人探しという目的があるが久しぶりの楽しいひと時、このままずっとこうしていたいと思うタツミであったが、楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、気が付けば任務開始まで残り三十分であった。

 

「うむむ、一日中歩いていたけど見つからないなぁ……悔しいけど、今日はもうエリア将軍を探すのは諦めるよ」

「それが良いよ。通り魔もいることだしな」

「そうだね。エリア将軍を探すのは明日にするッ!!」

「おう! 頑張れよ」

 

「また会おうね! ブイブイ!!」と、Vサインをして去っていったティーンは、夜の暗闇にも負けない程の明るい笑顔だった。

 

「あ……そういや、ティーンの家の場所を聞かなかったな……まぁ、また今度会った時でいいか」

 

一人残されたタツミは、ティーンが去っていった方向を一度振り返り、レオーネたちとの合流地点に向かうのであった。

 

余談ではあるが、合流地点に向かう途中に道に迷ったタツミは、任務開始のギリギリの時間に戻り、マインに罵られ、レオーネには爆笑されるのであった。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「うーん……やっぱり見つからないなぁ」

 

タツミと別れた私は、どうしても諦められなくて暗くなった商店街を歩いていた。

何時もなら活気に溢れている商店街だけど……こうも人がいないんじゃ、何だかお化けでも出てきそうな雰囲気です。

 

「こんばんはお嬢さん、こんな時間に一人でお散歩ですかな?」

「こんばんは、お散歩じゃなくて人を探してるん……え?」

 

私の後ろから声が聞こえ、振り向くとそこには耳あてを付けた変な男の人が立っていた。

 

「おじさんは誰ですか?」

 

私が男の人に質問すると、ニンマリと意地汚い笑みを浮かべた男はこう言った。

 

「おじさんよりも、こう呼んで欲しいなぁ……親しみ込めて、首斬りザンクと……」

「え……あ…レ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の何かが離れる……感じガ……………………シタ。

 

 

 

 




はい、オリジナルキャラクターの登場&ザンクさん(最後だけ)の登場回でした。
次の話から、本格的にザンクさんとの戦いを書いていきたいと思います。

え? オリキャラの退場が早すぎるって? 次回のお話で重要な役割を持っているので仕方ないんです。
…………ダッ(逃走)

『次話予告』みたいなナニカ(変更ありますので本気にしないで下さい)

「さっきのお嬢さんにも言ったが……オッサンよりもこう呼んでくれ、親しみ込めて……首斬りザンクと」

「お前がッ!! お前がティーンをッ!!!」

「タツミ! ソイツから離れてッ!!」

次回の無口で無表情もお楽しみに~です。

『私の出番……』
あ、エリアさんの出番もありますから!! そんなに落ち込まないで……
茶番失礼しましたm(_ _)m









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避けれますか?受け止められますか?逃げれますか?

お気に入り件数が800件突破してました。
まさかです……ナニコレです。

そしてありがとうございます。

『今回のお話注意点』
・ゴチャゴチャしててわかりにくい。
・曖昧な表現があってわかりにくい。
・サブタイトルのネーミングセンスのなさ。
・一番最後の文を変更しました。



「やっぱ、そんなホイホイと出ては来ないか」

「根気よく行くしかない」

「そうだよなぁ……っと、ちょっと失礼」

「トイレだな」

 

ティーンと別れた俺は、アカメと一緒に深夜の帝都を見回っていた。

三回目の任務ということで緊張していたせいかトイレに行きたくなってしまった俺は、一旦アカメと離れて用を足しに裏路地へと入る。

はぁ、緊張してんな……俺。

 

そして、アカメの所に戻ろうと振り返った先には、アリアに殺されたはずのサヨが立っていた。

どういうことだ? 

確かにサヨはあの時……でも、目の前にいるのは間違いなくサヨだ。

何時もの様に花の形をした髪留めを付け、黒髪で長髪のサヨは俺を見て微笑むと……向きを変えてどこかへ走っていってしまった。

 

「まっ待ってくれ!!」

 

俺はいても立ってもいられず、サヨを追いかけていった。

 

 

 

どれくらい走ったのだろうか、広場の様な場所で走るのをやめたサヨは俺の方を振り向く。

 

「何だよ……生きてんじゃねえかよ……」

 

俺は何の疑いもなくサヨに近づき、抱きついた。

サヨから感じる暖かい体温が、幽霊でないことを証明している。

本当、良かった。

サヨが生きてたんだ。イエヤスの奴も生きてるに違いねぇ!!

俺はサヨが生きていることに安堵していると。

 

「熱烈だなぁ、我ながら良いモン見せてあげれたらしい……」

「え……?」

 

俺の頭上で男の声が聞こえた。

それと同時にサヨの骨格が太くなり、柔らかい肌の感触も何だか硬くなって……!?

 

「クク、こんばんは」

「うげぇ!! サヨが怪しいオッサンに!?」

 

いつの間にか俺は……白いコートを着たオッサンに抱きついていた。

オッサンに抱きつくとか、何やってんだ俺!?

ってかサヨはどこに行ったんだ? 

俺は消えたサヨを探そうとキョロキョロと周りを見渡す。

しかし、人の気配は一つしかなく、その気配も今もこうして俺の事をニヤニヤと見つめている怪しいオッサンだけだった。

 

「さっきのお嬢さんにも言ったが……オッサンよりもこう呼んでくれ、親しみ込めて……首斬りザンクと」

 

そう言った目の前のオッサン……いや、ザンクは両腕に付けていた剣を出す。

 

コイツがッ!! コイツが罪もない人達を殺している首斬りザンク……

コイツのせいで、俺の様に大切な人を殺されて悲しんでいる人がいる……絶対に許さないッッ!!

 

俺は自分の気持ちを抑えきれず、背負っていた剣を勢い良く抜く。

 

ボスから言われた情報だとザンクは帝具を持っている。

一体一の戦いは相手の方が有利と見て良い……アカメが来るのを待ったほうが……いや、そんな猶予があるのか?

それに、奴が言っていた「さっきのお嬢さん」って言葉も気になるな。

……俺と出会う前にコイツは誰かを襲ったんじゃないのか?

 

「ほぅ、顔の割には中々考えているじゃないか。お前の思っている通り、俺はここに来る途中で可愛い可愛いお嬢さんの首を切り取ってやったのさ」

 

そう言ってニヤっと笑うザンク。

どういうことだ!? 心が読まれた……

ザンクの額に付いている目玉みたいなモノ……あの目が帝具か。

 

「ピンポーン。帝具スペクテッド、五視の能力の一つ、洞視を使ってお前の表情を読み取り思考を読んだのさ……観察力が鋭い! の究極系だな」

 

やっぱりアレが帝具か……兄貴のインクルシオと違って何かカッコ悪いな。ダサい。

 

「ダサいだなんて酷いこと言うなぁ、こう見えてかなり使える帝具なんだがな」

「そうかい、それにしても……さっき言ってた首を切ったお嬢さんって……」

 

よく喋る奴だから俺の疑問にもホイホイ答えてくれるだろ。

 

「くく、趣味はお喋りだからな。あぁ、さっきの可愛い茶髪のお嬢さんか……名前確かティーン。だったか……おっと!!」

 

俺はザンクの首目掛けて剣を振ったが避けられてしまった。

今……コイツはティーンと言った。

「えへへ」と明るく笑う彼女の顔が思い浮かぶ。

茶髪の可愛らしい少女……俺の帝都で初めての

 

「友達で間違いないよぉ。残念だったな、一日もしない内にサヨナラだなんて……」

「てめぇえええええ!!」

 

もう一度ザンクに斬りかかったが、また避けられてしまった。

 

「中々に鋭い剣捌きだが……無理無理、お前の動き、心は全て視えているからな」

 

ッ!? 

ふざけんな……ふざけんなぁああああああああああ!!

 

「うぉおおおおお!!」

 

思いっきり踏み込んで上から切り刻んでやるッ。

 

「思い切り踏み込んで上段からの斬り」

 

避けられた……次だッ!!

そのまま剣を振り上げて斬るッ!!

 

「返すカタナで切り上げ」

 

ガキンッ!!

ッ……受け止められた。

ちくしょう、切り上げからのフェイクで喉仏を狙って突き……

 

「下段はフェイクで喉仏を狙っての突き……と、思っていただろう?」

「ッ!?」

 

全ての攻撃を避けられ、受け止められた俺は腹の辺りを斬られる。

掠った程度だが……強え、今までの相手とは桁違いだ。

 

「首を切り取られた時の表情ってさぁ、堪らなくイイんだよなぁ……意外に多いのはキョトンとした顔でね。え? っていう……君の友達のティーンもそんな表情だったなぁ」

「てめぇええええええええええええええええええええええええ!!」

「お前はどんな表情をするのかな……愉快愉快♥」

 

俺とザンクの戦いが始まった。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「はぁあああああ!!」

「いいねぇ、若いっていうのは真っ直ぐだねぇ」

 

剣と剣がぶつかり合い、血飛沫が月に明るく照らされたレンガ造りの道を赤く染めた。

死闘ではない。

一方的な戦いであった。

 

「愉快愉快……我ながら程良い傷を負わせたな」

「な……に?」

 

そう言って余裕の笑みを浮かべたザンクにはかすり傷一つなかった。

そして、ザンクと戦っているタツミは疲労困憊。服の所々がザンクによって斬られ、傷口から流れる血で真っ赤に染まっていた。

 

タツミとザンクには決定的な差があった。

実力的な面ではない、武具的な面でだ。

ザンクは、始皇帝が叡智を集結させて作った、帝具『スペクタッド』を持っていた。

額に付ける目玉型のスペクタッドは、五視の能力が使えるのだ。

霧や嵐の中でも遠くを見られる『遠視』の力を使ってタツミたちを見つけ、対象の最も愛する者の幻を見せる『幻視』の力を使ってサヨを見せたザンクは、タツミを誘き出すことに成功し、今に至るのだ。

 

暗殺集団ナイトレイドに入り、日々鍛錬をして成長しているタツミの実力には目を見張るものがあった。

しかし、そんなタツミを息切れ一つしないでなぶり殺しにできるザンク。

たった一つの武具だけで、こうも実力が付いてしまうのだ。

帝具持ちと戦ということは、生半可な実力と覚悟では到底無理な話であった。

 

「やっぱり、戦ってるんですね」

 

そして、そんな二人の戦いを近くの建物の屋根から見ている人物がいた。

夜風に靡いた長髪を右手で押さえ、所々にフリルが付いた服を着ている少女は。

 

「うーん、原作だと満月の夜にタツミとザンクさんが戦う描写が描かれていたのになぁ。外れてしまった」

 

そう言って残念そうなリアクションを取った。

聞いている者がいたら間違いなく変人扱いされる発言をした彼女の名前はティーン。

タツミの帝都で出来た初めての友達であり……ザンクに首を切られた少女であった。

 

誤解しないで欲しい。

普通の人間であれば首を切られたら死ぬのだが、彼女は普通ではない。故に死ななかった。

 

「原作だとタツミはそろそろ倒れて、アカメちゃんが助けに来る予定なんだけど……何だかタツミが粘っているなぁー」

 

普通の人間ではないティーンが疑問符を浮かべながら広場を覗くと、疲労感と傷口の痛みに我慢しながら勇敢にザンクに挑むタツミの姿があった。

 

「クク、傷口が痛いだろう……さぁ、諦めて嘆願しろ! 仲間が来るまでの時間稼ぎになるかもしれないぞぉおお」

「お前何かに……」

「んんー?」

「俺の友達を殺したお前何かにッ!! 首を切るしか脳のない腐れドブネズミに命乞いするわけねえだろうがッ!!」

 

タツミは傷口を押さえて叫んだ。

ザンクに命乞いをすれば確かに時間稼ぎにはなる。そして、その時間の間にアカメが助けに来るかも知れない。

だが、タツミはそうしなかった。

自分の命よりも、今もこうして目の前で卑劣な笑みを浮かべているザンクに……友達を殺したクソ野郎に命乞いをするなど、タツミのプライドが許さなかった。

 

しかし、普通の人間であればプライドよりも自分の命を取るはずだ。

では何故タツミはそうしなかったのか? 

タツミを知っているものであれば、その理由は単純明確であった。

 

「タツミは心の強い子だからかな。全く、やれやれです……死んだら終わりなのに」

 

そう言ってティーンは肩をすくめた。

 

「ほんの少し会っただけなのに、そこまで友達思いの君は優しすぎるんだよ……」

 

ティーンは目を閉じて深呼吸した。

 

「今日戦うなんて想定外だけど……まぁ、今日は色々と想定外のことが起こりすぎたから……これは想定内かな」

 

そう言って「クスクス」と笑う彼女の瞳は、闇そのものだった。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

心が読まれてんなら……いっそシンプルに……

 

「この一撃に、全てを賭けるッ!!!」

「ほーう、勇敢だな。傷が痛いだろうに……首切りの達人が介錯してやろう」

 

俺は全神経を集中させる。

 

「いッくッぞ!!!!」

「なっ!?」

 

奴の首めがけて一閃。

避けられたが確かに手応えはあった。

見ると、奴の左頬から血が流れていた。

へへ、俺の全力の斬撃はどうやら奴に届いたらしいな。良かったぜ。

それに、俺の首が今もこうしてくっついてるってことは、どうやら奴は切れなかったみたいだな。

 

「へっ、斬り損なってるじゃねえか。何が首切りの達人だ、笑わせんなよヘボ野郎」

「だッ黙れぇ!!」

 

全ての力を出し切った俺は地面に吸い込まれるように倒れる。

そして、さっきまでの余裕の顔と違い、顔を歪め、悪態をついて俺に斬りかかってくるザンク。

あぁ、やべえ……身体が動かねえや。

 

(ごめんなティーン、お前の仇……取れなかった)

 

そんな事を思っていると。

 

「ぶへッ!」

 

ザンクが……こけたッ!?

足がもつれたのか、それともレンガにでも躓いたのか知らないが盛大にこけたザンク。

何ていうか……めっちゃカッコ悪い。

 

「間に合って良かったです」

「え……?」

 

聞こえるはずのない少女の声が辺に響く。

そして、うつ伏せに倒れたザンクの後ろには、いつの間にかティーンが立っていた。

「あっ……この場合は私がアカメちゃんの代わりにタツミを助けるから……」等と意味がわかない事を呟いたティーンは。

 

「良い悪態だ。精神的には君の勝ちですね。タツミ」

 

そう言って微笑んだ。

 

「何で、そんな……確かにザンクは君を殺したっ「何故だぁあああああああああああああああ!!」

 

突如、ザンクが狂ったかのように叫ぶ。

当たり前か、首を切り落とした人物がいきなり現れたら誰だって驚くからな。

 

「いきなり大きな声を上げて何ですか?」

「お前の首は確かに切ったッ!! なのに何故生きている!」

 

それは確かに気になるな。

ティーンはどうやってコイツを騙したんだ?

 

「そんなの、秘密に決まってるじゃないですか」

 

ですよね。

 

「くっ……どんな手品を使ったのか知らないが、もう一度首を切り取るまで」

「物騒なことで」

「ッ!?」

 

「ふふっ」と笑ったティーンが消えた。

と、思った次の瞬間にはザンクの後ろに現れ、奴の右脇腹目掛けて回転蹴りを繰り出す。

両手の剣をクロスさせて防いだザンクは、数メートル吹き飛ばされる。

 

 

 

…………待て、色々とおかしくないか。

ティーンが生きていたのは良かった。本当に嬉しい。

だけど、何だ今の動き!? 

消えたと思ったらザンクの後ろに現れて、物凄い威力の蹴りを繰り出してザンクと戦っている。

それに、ザンクの帝具は相手の考えが視える物。

それなのに奴は何故ティーンの動きが見えなかった? 考えが読めなかったんだ?

 

「ほぅ、まさかとは思ったが帝具の力か……」

「そういうことです」

 

そう言ってティーンは何かを握るように右手を横にする。

聞き覚えのある不快な音が辺に響いたと思ったら、彼女の両手には大きな鎌が握られていた。

どういうことだ? あの鎌は……

 

「ティーン、その鎌は……」

「説明は後です。タツミはそこで見ていて下さい」

 

「ふぅ」と一息吐いたティーンは大鎌を構え、止める間もなくザンクに向かっていった。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

(馬鹿な、どうなっている)

 

ザンクは目の前の光景が信じられなかった。

首を切り落とした少女が生きており、今もこうして自分の攻撃を軽々と避けている彼女にだ。

筋肉の動きで相手の次の行動が読める未来視を使い、ティーンに猛撃しているザンクであったが、一向に当たる気配がしなかった。

それどころか、先程から何回か彼女の斬撃かザンクを掠めていた。

 

(一旦距離を取って様子を見るか? それともこのまま……ッ!?)

 

「よいしょっと!」

「ック……」

 

一瞬の戸惑い。

その隙を逃すことなくティーンは自分の背丈ほどの大鎌を振るった。

彼女の大鎌が自分の命を刈り取ろうと唸り声を挙げて襲って来るのを、両手の剣で受け止めたザンクはその一撃の重さに顔を歪めた。

そして、右腕の尺骨が折れる音がした。

当たり前だ。

当たれば一撃で身体が半分に分かれる威力を持った一撃を受け止めたのだ。無事でいられるはずがなかった。

 

未来視の力で彼女の攻撃が見えていたザンクであったが、避ける事を選ばず、受け止める事を選んだのには理由があった。

避けた瞬間に、殺されると思ったからだ。

 

(へぇ、右腕を犠牲にして…………今の攻撃を受け止めたのは正解でしたね)

 

そして、その選択はあっていた。

ティーンは、ザンクが攻撃を避けた瞬間に帝具の力で一気に殺そうと考えていた。

命拾いをしたザンク、しかし、その選択も結果的にはほんの少しだけ寿命を延ばす程度にしかならなかった。

 

「今夜は良い日ですね」

「……?」

 

攻撃を辞めたティーンは、ザンクから少し離れて夜空を見上げた。

釣られてタツミと、痛む右腕を抑えながらザンクは空を見上げるが、月と星は雲に隠れていた。

 

(どういうことだ?)

 

普通の感性を持っている人間であれば満月や星が輝く夜に言う言葉であるが、彼女は違った。

そして、言い様のない悪寒がザンクを襲った。

 

「なッ!?」

 

視線を夜空からティーンに向けた瞬間、彼女が地面へと消えていった。

右腕の痛みを忘れて彼女を探すザンクであったが、不意に自分の足元から声が聞こえた。

 

「私の帝具は影を操る……避けれますか? 受け止められますか? 逃げれますか?」

 

そう言ってザンクの影の中から出てきたティーン。

彼女の帝具は影を操り、影から影へと移動できる帝具であった。

 

「形成……完了」

 

ティーンの右手と左手にドロリとした影が集まり、武器を形成した。

右手にはレイピア、左手に直剣を持った彼女は一瞬でザンクの間合いへと入り斬撃を繰り出した。

 

隙のない連撃。

次から次へと影の武器を形成し、様々な間合い、方法で攻撃を繰り出すティーンを止める方法など無かった。

いや、一つだけあった。

しかし……その方法を取ればザンクに待っているのは逃れようのない死。

その方法とは、ティーンの斬撃をくらうことであった。

 

「うおぉおおお!! 死んでたまるかぁああああ!!」

 

ザンクは叫び、決死の反撃を試みたがそれは明らかに悪手であった。

左手に付いている剣でティーンの首を狙ったが……影の大剣によって腕ごと弾かれた。

体勢を崩したザンクに、攻撃を受け止める手段はない。

 

「かはっ……」

 

左脇腹、右足太もも、左胸を貫かれ……そして……ティーンの連撃は止まった。

 

仰向けに倒れたザンクに、ティーンはゆっくりと近付いていった。

貫かれた傷口からは血がとめどなく溢れ、止めを刺さなくても確実に死ぬことがわかった。

傷口を一通り見たティーンは、ザンクの顔を覗き込むように見た。

 

「これでもう、うめき声は聞こえないでしょ?」

「ッ……」

 

ティーンが微笑むのと同時にザンクが付けていた耳当てが壊れた。

ザンクの耳当てはお洒落で付けていたものではなく、終始聴こえてくる『声』を遮断するものであった。

 

ザンクは、元帝国最大の監獄で働く首斬り役人であった。

来る日も来る日も命乞いをする人間の首を切り取ってきた彼には、首を切り落とした人間の声が聞こえたのだ。

 

『怨むぞ……怨む怨む怨むッ!!!』

『どうしてお前は死なない……早く死ねぇ……堕ちろォオオオオオオオオオオオ』

 

呪怨の声が聞こえ、早く地獄に堕ちろと叫ぶ声が聞こえた。

勿論、死者からの声は聞こえない、ザンクだけに聞こえる……彼の罪の意識からくる幻聴であった。

 

さて、首切り役人という仕事はその職業柄、精神的に強い者がなる職種だ。

その為、首切り役人になる為には精神的な訓練を何ヶ月もやって初めて一人前の首切り役人として働くことができる。

では、何故訓練を受けたザンクは狂ってしまったのか?

それは、罪のない人間の首を切り落としていたからだ。

オネストが大臣になって以降、彼に異論を唱えた者、脅威になる者の家族を……何の罪もない人間を殺してきた。

罪人を殺すことに抵抗がなかったザンクではあるが、一般人……それも泣いて命乞いをする人間の首を切り落とすなどたまったものではなかった。

故にザンクは狂ってしまった。

 

そして、声から逃げるように耳当てを付けていたザンクだが、今彼に聞こえるのは声ではなかった。

夜風によって揺れる葉の音。水の流れる音……

 

「ありがとよ……ティーン」

 

ザンクは目の前の少女にお礼を言った。

声から開放してくれてありがとう。罪から開放してくれてありがとう。

心の底からティーンに感謝した。

 

そして、どうして彼女が「これでもう聞こえないでしょ?」と聞いてきたのかザンクにはわかってしまった。

微笑んでいた彼女の瞳は血の様に赤く、そして……死んでいた。

その瞳をしている人物が、どんな奴等なのか知っていた。

当たり前だ、ザンクは監獄で散々見てきたのだ。見間違えるはずがなかった。

 

その瞳を、屍人のように光がない目をした人物は…………皆、狂った人殺しであった。

 

(何故そんな目をしている。何故俺より狂っているお前が俺を助ける)

 

疑問に思うザンクであったが……………………彼は、目を閉じた。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「やったぜティーン!! お前凄いんだなッ!!」

「……そんなことないよ」

 

痛みと疲労から回復した俺はティーンへと駆け寄る。

まさかティーンが帝具持ちで、あんなに強いなんて思わなかったけど……無事で良かったぜ。

まだザンクを見ているから表情はわからないけど、返事は返してくれたから大丈夫だろう。

 

「タツミッ!! ソイツから離れてッ!!」

 

俺はティーンの肩へと手を伸ばそうとすると、後ろから声が聞こえた。

振り返るとそこには、肩で息をしながらアカメが走って来ていた。

 

「おぉ! アカメじゃないか! どうだアカメ! ティーン……つってもわかんないか、この子が帝具でザンクをやっつけてくれたんだぜ!」

「ティーン……やっぱり、今すぐその子から離れろタツミッ!!」

 

そう言って帝具『村雨』を構えるアカメ。

何そんな怒ってんだ? 

ははぁ~ん、さては獲物を横取りされて怒ってんだな。

全く、意外にアカメも子供っぽい所があるんだな。

 

「……アカメちゃん、どうしてそんなに怒鳴るの?」

 

ほら、ティーンの奴も怖がって顔を伏せちまってるじゃないか。

 

「半年程前、帝都で連続猟奇殺人事件が起きた……」

「アカメ、いきなりどうしたんだ?」

「黙って聞けタツミ! そして、その事件の犯人の異名が、ブラッディ・ティーン。お前の目の前にいる子だ」

「まさか……」

 

俺は俯いているティーンを見る。

 

「だけど、ブラッディ・ティーンはエリア将軍によって殺されたはずだ」

「え……じゃあ、この子は……」

 

ブラッディ・ティーンはエリアさんに殺されたなら、目の前のティーンはソイツのそっくりさん? それとも双子? はたまたアカメが間違えているだけ?

 

あぁッ!! 訳わかんねえ……どうなってるんだよ。

 

「とにかくソイツから離れろタツ『あははっアハ……アハハハハハハハハハハハハハハ!!』

 

突然ティーンが狂ったように笑い出す。

何だよ……嘘だよな。

まさか、そんな。

 

「私は太陽が嫌いなの……眩しいし、身体に纏っている影が消えちゃうし……」

「何言ってんだ……?」

 

俺はティーンから離れるように後退りする。

 

『君たちの敵ってこと』

 

何故か紙に書いて見せた彼女を、雲に隠れていた月が照らす。

 

「え……?」

 

俺は自分の目を疑った。

月明かりに照らされた彼女には、影がなかった。

 

 

 




ティーンの正体は……私が言わなくてもわかりますね。
わからない人は私の説明力不足です。本当にごめんなさい。

ってことでわかりやすいかはわかりませんが、ティーンの説明(追記5/31)

ティーン=エリアと思った方もいると思います。正解です。
しかし、ティーン=エリアじゃないんですよ。ティーンは喋っていますが、エリアは喋れないので……どう言葉で表せばいいかわからなくなった…
次回でティーンの本当の正体がわかりますので、お待ちください。


そして戦闘描写って難しいですよねぇ(唐突)

『次回予告』みたいなナニカ(本気にしないで下さい)

タツミ&アカメVSエリア(任務終わったから帰りたい)

オネストVSエリア(特別ボーナスよこせ)




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そんなに残業代を払うのが嫌ですかぁああああああああああ!!

お気に入り件数が1100件を突破していました。
ツッコミ所満載なのに……本当にありがとうございます。
これからも頑張っていきたいと思います。


『今回のお話注意点』

・エリアの帝具の性能がわかりずらい。
・エリアVSアカメ&タツミと言ったな……アレは嘘だ。(申し訳ないです)
・サブタイトルのネーミングセンスのなさ。





「敵って……どういうことだよッ!!」

「タツミ、わからないの? そのまんまの意味だよ」

「どうしてだよ……昼間のアレは全部嘘だったのかよッ!!!」

「嘘じゃないよ。私の友達はタツミ。初めての友達がタツミ……とっても嬉しかった」

「じゃあ、何で「タツミ、それくらいにしろ」

 

声を荒らげて質問するタツミをアカメは止めた。

月明かりが帝都の闇を照らす中、タツミは困惑していた。

目の前にいる少女の行動、性格、正体……全てがわからなかったからだ。

いや、名前と見た目だけはわかっていた。

彼女の名前はティーン。

茶髪の髪を腰まで伸ばし、フリルの服を着ているミニスカートの女の子で、タツミが帝都に来て初めて出来た友達であり、ザンクに殺されそうになっていた所を助けてくれた命の恩人であった。

 

しかし、彼女はザンクに首を斬られて死んだはずだった。

いや、その前に彼女は死んでいるはずなのだ。

 

数ヶ月前に起きた連続猟奇殺人事件。

エリア将軍の手によって犯人は殺され、解決したその事件の犯人の異名がブラッディ・ティーンであり、今もこうしてタツミたちと相対しているティーンがその人物であった。

 

「タツミ、私たちの任務はザンクの討伐と帝具の奪取だ」

「あぁ、そうだな。目的は達成したって言いたいんだろ? だけど、ティーンは……」

「冷静になれ、彼女の正体を暴くにしても不確定要素が多すぎる。ここは私が彼女を引き止めておく、お前はザンクの帝具を持って皆の集合場所までいけ!!」

 

アカメは帝具、一斬必殺『村雨』を構え直した。

今は沈黙を保ち、アカメをジッと見ているティーンだが、『君たちの敵』と言ったのだ、行動しだいでは直ぐにでも斬れるようにと思っての行動であった。

 

掠っただけでも相手を死に至らしめる帝具『村雨』を向けられているにも関わらず、顔色一つ変えないティーンは笑顔も相まって不気味であった。

いや、そもそも彼女の存在自体が不気味なのだ。

影がなく、殺されたはずの人間が目の前にいるなど、世の中の決まりとしてあってはならない事だった。

 

「一応言っておくぞ、ティーンの帝具はあの大鎌だ。影から影に移動できたり、影を集めて武器を形成できる」

「そうか、少しでも帝具の性能がわかれば対処できる……タツミ、どうした?」

「……あの大鎌と同じ物を持っている人がいる…………エリア将軍だ。あの人も大鎌を持っていた」

「馬鹿な、タツミの見間違えではないのか?」

「いや、そんなわけ無い」

 

タツミの言い方からして嘘ではないと悟ったアカメは、ここまでの情報を整理した結果、一つの結論にたどり着いた。

 

ティーンは、エリアの帝具によって操られている。

 

どういった性能かは未だはっきりしないが、おそらくティーンの影、または影を纏わせて彼女を操っていると結論づけたアカメは、操り主であるエリアを探すべく周囲に目を配らせるが、どこにも姿はなかった。

 

(私の思い違いか? それとも、エリア将軍は影の中に隠れて……どちらにしてもザンクとの戦いで消耗しているタツミをここから逃がさなければ)

 

アカメがチラッとタツミを見ると、ザンクから受けた傷は浅いようで血は止まっていたが、肩で息をしていた。

当たり前だ。

帝具持ちと一対一で戦ったのだ、少しの傷と疲労感だけで済んで良かったというものだ。

 

「タツミ、もう一度言うぞ。お前は皆の所に行け」

「でもよ、それじゃあアカメが……」

「大丈夫だ、絶対に戻るから」

「ッ!! ……そうかい! 絶対戻って来いよ」

 

アカメを一人で残したくはなかったが、今のタツミでは彼女の足を引っ張るだけだった。

唇を噛み締めて、タツミはアカメの言ったことを信じて……従うしかなかった。

 

(俺は助けられてばっかりだ……もっと強くならないと……)

 

自身の無力さを痛感したタツミは、ザンクが持っていた帝具『スペクテッド』を右手に持ち、レオーネたちとの待ち合わせ場所に向かって走り出した。

 

途中、ティーンの横を通り過ぎタツミであったが、彼女はタツミに目も呉れずに唯々アカメを見つめているだけであった。

 

(声、かけられなかったな……良かったけど、何だか寂しいぜ)

 

てっきり声をかけられると思っていたタツミは、少し残念そうにティーンを横目で見た。

昼間に出会った時と同じ服装、同じ髪型をしているティーンであったが、今の彼女からは明るさや元気さなど微塵も感じられず、まるでティーンの皮を被った化け物のようであった。

 

(あの時の笑顔は、話は全部嘘だったのか? ティーン……)

 

タツミは立ち止まり……振り返ることなく走り出した。

今はティーンよりも、一緒に帝都の闇と戦うと決意したアカメたちの方が、タツミにとって大切な存在だと感じたからだ。

 

傷の痛み、疲労感と戦いながら走るタツミを、止める者はいなかった。

 

 

 

「ブラッディ・ティーン……お前は一体何者だ!!」

「私は君たちの敵。タツミの友達……」

「違う、どうしてお前は生きているんだ?」

「私は影。影は死なない」

「それは一体どう言う意味だ……?」

「質問してばっかりね。ちょっとは自分で考えたらどうかな」

 

ティーンはそう言って時計塔の方を見た。

釣られてアカメも見てみたが、特に何かある様には見えなかった。

 

「はぁ、お喋りしても良いじゃない。私はきっちり殺したんだから」

 

突然、ティーンが喋りだした。

肩をすくめて呆れたティーンは、まるで誰かと会話をしている様子だったが、彼女が見ている方向には時計台しかなく、そこに誰かが居る気配はしなかった。

 

「帝具の奪取をしていない? それは貴女がやればいいじゃない。私はそろそろ影に戻るわ」

「ティーン、何を言っている……」

「……わかったわよ。ちゃんと命令通り動くから、私を消さないで…………ありがとう」

 

アカメには訳がわからなかった。

いや、むしろこの状況でわかる人物など……ティーンともう一人しかいなかった。

 

「さてと、私はもう消えるから」

「待てッ! 消えるというのはどういう意味だ。それにさっきまで話していたのは……」

「それは自分で考えてみたら? あんまり喋ると消されちゃうから、バイバイ」

 

二度三度手を振ったティーンは、黒いドロドロした物に変わり……闇へと溶けていった。

 

「何が……どうなっているんだ」

 

その様子を唯々見ているしかなかったアカメは、一人残された広場に呆然と立ち尽くしていた。

 

『……』

 

その様子を、帝都の街中で一番高い時計塔から見ている人物に気付くことなく……

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

ふぅ……ティーンの勝手に振り回されるとは思いませんでした。

やっぱりあの子の『友達』に対する思いは強すぎたのかな……上手に動いてくれていたのに、途中から自我が強くなって勝手な行動をしだすなんて思いもしませんでした。

 

うーん、人の影を操るのは便利だけど……やっぱりその人の思いが影にも移っているから操るのは難しいんですよねぇ。

それが帝都でブラッディ・ティーンなんて呼ばれていた殺人鬼になれば尚更……かな。

 

私は、持っていた大鎌をひと振りすると黒いモヤモヤした物が一箇所に集まり、見る見る内に人の形を形成していく。

 

私の帝具は影を操ります。

ティーンが先程やっていたように、影から影に移動したり武器を形成したりと、色々な事に使えます。便利です。

でも、動物や人間の影は難しいですね。

本来、影とはその人と一生を共にするものです。言うなればもう一人の自分という奴です。

そんな影を強制的に切り離して使うなんて事は、いくら帝具と言えど出来るものではありません。

ですから私が使う影は建物等の自分の意思を持たない物です。

 

ただ、死んでいる人間や動物の影なら切り取って操る事ができます。

つまりですね。

散々アカメちゃんを悩ませて、私の意志とは関係なく勝手にタツミ君と友達になったティーンは、ティーンの影と言うことです。本体は原作開始前に私が殺しました。

しかし、切り取った影は太陽の光に弱く、切り取ったまま一定時間が経つと消滅してしまうので、何時もは私の影の中に入れているんですが……これが問題でした。

 

「ども~、ティーンちゃんです。どうしたんですか? 原作に登場しないエリアしょ~ぐん!」

『黙れ』

「お~怖い怖い……あ、いつも怖かった。ごめんね」

 

私がもう一度睨むと、ティーンの影が舌を出して謝ってきた。

 

ッチ。

ティーンにもこんな感じでからかわれた事があったので、ある程度は我慢できますが、私の支配下にある影にも言われると……ちょっとムカつきます。

まぁ、支配下といってもある程度の自由は与えていますので、優しい私は目を瞑ることにします。

 

少し話が逸れてしまいました。

問題点というのは……ティーン(影ですが)が原作知識を得てしまったことです。

どうしてそうなってしまったのかは、はっきりとわかりませんが、影の中に入れたせいで私の影とティーンの影が合わさり、一つの影になってしまった事により、私の知識がティーンにも流れてしまったんだと思います。

そんな事聞いていませんよッ!? と、思っても既に時遅し……仕方がないのである程度の自由を取引に黙っていて貰うことにしました。私が主なのに、チクショウ。

まぁ、私の影からティーンの影を帝具で切り離し、消してしまえばそれで万事OKなのですが、中々に便利な存在なので消さないようにしています。戦闘力も高いですしね。

勿論、勝手な行動をしたり約束を破ったら消しますよ。

所詮は帝具の力で自由を得た「影」。私の忠実な駒でしかありません。

今回はタツミと友達になってしまうという失態を犯しましたが、ザンクを殺したので良しとします。

 

まぁ……本当は、なるべく原作キャラと絡ませたくなかったのですが、流石に一人でザンクさんを探すのは骨が折れるので、ティーンの影に手伝って貰った私が悪いんですよね。

 

「それで、私を呼び出したのはどうしてかな?」

『もう一度だけ警告』

カキカキ

『今度勝手な真似したら』

「消す。でしょ? わかってるよ。」

 

わかっているのなら良いのですよ! わかっているのならね。

さてと……

私はティーンの横を通り過ぎて時計台の上からある通りを見る。

深夜&ザンクさんが出没するということで帝都の民は家に引き籠もり、通りには人がいません。

しかし、その中を一人の少年が駆け抜けています。

 

「ありゃ? エリアちゃんはタツミに用事が……そういえばザンクの帝具を持っていたね」

『そう。私の任務は』

カキカキ

『終わっていない』

「でも良いの? この時期にタツミがナイトレイドに入っているってバレるのは不味いんじゃないの?」

 

ティーンはそう言って私の隣に立ってタツミ君を見つめる。

うーん、そうなんですよね。

この時期にタツミ君がナイトレイドに所属しているとわかってしまい、手配書が出回れば原作を大きく変えてしまいます。

それだけは避けたいのですが…………私の任務は『ザンクの討伐と帝具の奪取』です。

 

幾ら原作を壊してしまう出来事だとしても、私も仕事なのできっちりこなしたいのです。

しかし……でも……うーん、困りました。

 

「エリアちゃんが何を考えているのか、影の私にはわからないけど。やめておけば?」

『何故?』

「だってここからタツミのいる場所まではかなりの距離があるよ。幾ら影から影に移動出来ても移動距離に限度があるし、タツミの所まで行く前に仲間に合流される。……そうでしょ?」

『そう』

「だったら無理に追ってナイトレイドのメンバーと戦うなんて馬鹿らしいよ。ナイトレイドと戦うのは正式な任務として受けてないんでしょ?」

『うむ』

「じゃあ、見逃してあげなよ……それとも、アレ使うの?」

『迷っている』

「確かにアレを使えばタツミの所まで直ぐに行けるけど……あの力は…………ううん、私は貴女の影。唯の駒に過ぎない存在だから……ガタガタ言ってもしょうがないよね。貴女が決めて、私はそれに従う」

 

……任務は『ザンクの討伐と帝具の奪取』です。

ザンクの討伐は出来ましたが……帝具がないとその証明ができない。

つまり、私がいくらザンクを殺したと言っても、ザンクの帝具を持っていなければ意味がない。

うーん。

 

 

 

決めました。

ザンク討伐の手柄……原作通りタツミ君たちナイトレイドに譲りましょう。

ザンク討伐のボーナスを貰えなくなるのが悔しいですが、ティーンが言った様に無理に追っても危険が増えるだけなので仕方ないです。

大臣には、『私が駆け付けるも既にザンクは殺され、帝具は奪われていた』と報告書に書けば良いのです。

 

『見逃す』

「そっか……ごめんなさい。影の私が色々言って」

『気にするな』

「ありがとう」

 

「バイバイ」と手を振ったティーンを、帝具の力を使って影の中に戻した私は深呼吸する。

ふぅ……これで、原作通り進むかな。

 

 

 

 

 

 

…………原作通り……か、私は……この世界で生きているんだよね。

誰かに敷かれたレールの上を、唯々歩くだけの、操り人形じゃないよね?

 

 

 

 

 

って、何しんみりしちゃってるんでしょうね。

さっさと帰って、大臣に残業代を請求するとしましょう。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「ヌフフ、今日も良い仕事をしました。明日に備えて寝るとしましょう」

 

オネストが自室に戻ろうと無駄に長い廊下を歩いていると、前から少女がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

青紫色の髪をツインテールにし、ドレスアーマーを着た無表情な少女。

そんな格好で宮殿内を彷徨いている少女は、一人しかいなかった。

 

「おやおや、エリア将軍ではありませんか……こんな時間に……ッ!?」

 

オネストがエリアに声を掛けようとすると……いきなり彼女が走り出した。

 

人間というのは追われれば逃げるものである。

それはオネストにも言えることで。

 

「え……ちょっちょっと待って下さい! ひぃいいいい」

 

巨体に似合わず、全速力でエリアから逃げるように走り出した。

 

「はっはぁ……はぁ……」

 

僅か数十m走っただけで息が上がり始めたオネストは、チラっと後ろを振り向き……直ぐにまた前を向いた。

オネストの五十m程後ろから、無表情で追いかけてくるエリア将軍が見えたからだ。

追われている理由はわからない。

だが、何時も物静かで任務の時以外は温室に篭っているエリアが、走って自分を追いかけて来ているのだ。

間違いなく何かエリアの癇に障ることをしたに違いないと思ったオネストは。

 

「はぁ…はぁ…らっ羅刹四鬼!! ええ、えっエリア将軍を止めろ!!」

「「承知しました!」」

 

大臣の手駒である皇拳寺羅刹四鬼を呼び出した。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

えーと、時間外に働いたから残業代貰おうと思って請求書を書いたんですが、肝心のオネスト大臣が自室にいなかったので探していました。

ザンクさんの帝具は奪取できませんでしたけど……残業代は奪取します。必ず奪取します。絶対奪取します。

殺る時はきっちり殺る。貰う時は際限なく貰う。

それが私のポリシーですッ!!

タダ働き? そんなものは改心オーガさんにでも任せておけば良いんですよ。

 

帝都も広いですが、宮殿の中もかなり広いので探すのに苦労すると思っていましたが、すぐに見つけることができました。良かった。

早く貰って早く寝たかったので駆け足で大臣に近づいていくと……逃げました。

私の顔を見るなり走って逃げるなんて……あのデブ大臣が走って逃げるなんて……

 

そんなに残業代を払うのが嫌ですかぁあああああああああああああああああああ!!!

 

絶対に捕まえる。

そして残業代を請求してやるッ!!

私とデブの鬼ごっこが始まった。

 

 

 

「へっへっへ、エリア将軍、こっから先は」

「行かせられぬな」

 

数m走った所で……天井から何か降ってきました。

って、貴方たちは、皇拳寺羅刹四鬼のイバラさんにシュテンさんの、いやらしい目つき&ヒゲもじゃ筋肉オヤジの変態コンビじゃないですか。

 

そして……

 

私の真上と、横の柱から同時に出てくる人影。

まずは柱の裏から出てきた黒髪の女性、スズカさんに腹パンして動きを止めた所に、透かさず右手を持って……天井裏から襲ってきた褐色肌の女の子、メズちゃんに向かってぶん投げる。

 

「そんなっ!? 私たちの攻撃が見破られ……かはッ!?」

「っ……あぁ、やっぱりエリア様の拳は、とてもイイわぁ」

 

空中でぶつかった二人はそのまま地面に真っ逆さま、ドゴンという少し痛そうな音がして落ちました。

 

「いてて……やっぱりエリア様を止めるのなんて無理なんだよぉ~」

「はぁはぁ、そうね……でも今のプレイ、堪らなかったわ」

 

「うわっきもっ」と言ったメズさんは、同僚のスズカさんをまるでゴミを見るかの様な目で見た。

私も、今の発言にはドン引きしたのでスズカさんを睨みつけたいのですが、彼女はドMなので無視するのが一番です。触れたらダメ。

 

所で、気になったことがあるんですが……

 

『メズちゃん』

「はい、どうしたんですか?」

『私を止めるって』

カキカキ

『どういうこと?』

「あははっ……よくわかんないけど、オネスト大臣の命令……です」

 

ほぅ。

大臣、羅刹四鬼を出してまで私に残業代を払うのが嫌ですか。

流石は「自分の為なら手段を選ばない!」で有名な大臣です。

……そっちがその気なら。私にも考えがあります。

 

『メズちゃん』

「はっはい!!」

『私を止める?』

「い、いえ……どうぞ行ってください」

『うむ。命令違反は』

カキカキ

『私が何とかするから』

カキカキ

『気にしない様に』

カキカキ

『あと、スズカさんもね』

「は、はいッ!! ありがとうございます」

「少し残念だけど、ありがとうございますエリア様」

 

さてと、メズちゃんとスズカさんは無力化出来ましたが。

 

「へっへ、メズもスズカもダメじゃないかぁ。俺たちの上司は大臣、上司の命令は絶対だよぉ」

「うむ。そういうことだ」

 

目の前の男二人は引いてくれないみたいですね。

困りました。

このままだと、大臣に逃げられてしまいます。

あぁ~困った困った。

ってことで。

 

『少し本気でいくぞ』

「なっ!?」

 

一瞬で二人との距離を詰めた私は、そのままの勢いで右拳を前に突き出す。

思いっきり踏ん張ったせいで廊下に敷いてあったタイルが砕けましたが、気にしません。

 

「鍛え抜かれたこの身体ッ! 拳如きで崩れる程甘くはないぞッ!!」

「へっへ、シュテン任せたぜぇ」

「噴っっっ!!!!」

 

イバラさんはシュテンさんの巨体の後ろに隠れ、シュテンさんは私の拳を受け止める構えを取りましたか……流石は羅刹四鬼、しっかり反応してきましたね。

 

しかし、私を甘く見てもらっては困ります。

私が唯々、右ストレートを繰り出すとでも? 

甘いですよ。私が出すのは衝撃波……そんなガード等無意味です。

この技はエスデス将軍と模擬戦をした際に使った技……当たれば確実に相手を戦闘不能にする程の威力があります。

喰らえッ!! 

 

「グハッ!?」

 

シュテンさんに当たる寸前で拳を止め、後ろに隠れていたイバラさんをも倒すこの技の名は……『ちょっと本気!! 寸止め右ストレートッ!!』

ふふっ、我ながらわかりやすくてカッコイイ最高の技名です。

 

「ッ……へっへ、流石エリア様だぜ…………惚れちまいそうだよぉ」

 

それはどうもシュテンさん。

でも、私は貴方見たいな人はタイプじゃないので、告白してきてもお断りしますね。

あ、友達ならオッケーです。友達なら!!

 

『あとは任せた』

「はーい、頑張って下さいね」

 

シュテンさんとイバラさんの手当をメズちゃんたちに任せた私は、そのまま大臣の追跡を開始した。

 

 

 

「はぁ……はぁ……ぜぇぜっぇ……ちょっっと、だけ待って……下さい」

 

そう言いながらもフラフラと私の前を走って? 逃げるオネスト大臣。

何時もの偉そうに余裕ぶっている彼の姿はなく、まるで弱々しい豚の様です。

ははっ、どこへ行こうというのだね。

 

もう既に捕まえられる距離にいますが、こんな弱った大臣を見たことがないので、面白半分でかれこれ三十分程追いかけている私です。

ですが、それももう終わりのようですね。

 

『逃げないの?』

「ぜっはぁ……ぇはぁ……いっ行き止まりです……か」

 

追い詰められた豚……失礼、大臣は汗を滝の様に流し、絶望した表情で私の方を振り向く。

 

あれ? 

私の方を見ていますが、何だか視線が上の「エリア将軍」

 

ッ!?!?

突然、私の後ろから声が聞こえ、物凄い覇気に当てられる。

宮殿の中でこんな覇気を出せる人は、私は一人しか知りません。

嫌な予感がします。

恐る恐る振り向くとそこには……仁王立ちしたブドー大将軍が……

ウソデショ。

 

「エリア、深夜にも関わらず騒ぎを起こし、陛下の宮殿を壊す等あってはならんことだ……覚悟はいいな」

 

そう言って右腕を振りかぶるブドー大将軍。

不味いッ!! 非常に不味いです!!

どうにか鉄拳を受けない言い訳を……

 

『ブドーさん』

「何だ」

『騒ぎの原因は』

カキカキ

『羅刹四鬼が襲ってきたから』

「そうか。アイツ等にもたった今、刑を執行してきた所だ」

 

あ……これ、詰んでますね。

 

『ブドーさん』

「まだ何かあるのか?」

『私、さっきまで働いてた』

カキカキ

『残業代。欲しい』

「そうか、ご苦労」

 

そう言って私の頭を撫でるブドー大将軍。

硬くてゴツゴツしている手ですが、何だか暖か……ッ。

 

「これが残業代だ」

 

ガツンという音と共に私の脳天に物凄い衝撃がして……その後の事を私は覚えていない。

 

目が覚めると、私はいつの間にか温室にいた。

どうやらブドー大将軍がここまで運んでくれたらしく、『昨日の騒ぎの件。陛下には私から説明しておく』という紙が置かれ、その隣には……金貨が数枚入った袋が置かれていた。

 

 

 

 




よくよく考えたらエリア=ティーンじゃないのかも、と思ってしまった。
でも、ティーンはエリアの影だからさ……影はもう一人の自分だからさ……

何だか、話数を重ねる毎に文字数が多くなっている気がするような……誤字脱字がないか確認していますが、もしも見つけたらご指摘頂けると幸いです。


宮殿でバカやってブドー大将軍に怒られる無表情主人公。
そして、意味なく走らされるオネスト大臣……これがやりたかった。

でも、深夜に無表情の少女が追いかけてくるとか……ホラーです(追いかけられたいかも)





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過去の出来事!あの日あの時、何を思う①

お久しぶりです……更新が遅くなって申し訳ないです。



『今回のお話注意点』

・過去編です
・エリアは出てこないよ?
・サブタイトルのネーミングセンスのなさ


あの時の戦いの中、西の異民族の騎士たちが抱いていた気持ちを言葉で表すのなら「圧倒的」が最も適切であろう。

 

 

 

帝国を三方で囲んでいる異民族の内の一つ、西の異民族。

独自の製法と帝国にも負けず劣らない技術で武具を作り出す西の異民族は、幾度となく帝国の侵略を防いでいた。

そんな西の異民族の軍隊は、全身を甲冑で覆った騎士と呼ばれる者たちで構成されており、突撃槍による騎馬戦を最も得意としていた。

彼等の厚い鎧と盾は、嵐の様な帝国の銃撃をいとも容易く跳ね返し、彼等の突撃はまるで一つの生き物の様に帝国の兵たちを飲み込んでいった。

圧倒的な勝利で帝国を追い返している騎士たちであるが、死者が出ない日はない。

運悪く鎧の隙間に銃弾が入り込み死ぬ者もいるし、落馬してそのまま後続の味方に踏み潰される者もいる。

勿論、後者の場合は味方を巻き込んでの大惨事になるので、騎士になる者たちが一番初めに訓練するものは乗馬からだ。

「一人が落馬すれば味方二百人が死ぬと思え」。

新米騎士たちが耳にタコができるほど聞かされた言葉である。

二百人は少し言い過ぎなような気がするが、自分のせいで味方が死ぬなど絶対にあってはならない事である為、新米騎士たちは今一度心を引き締めて訓練に励むのであった。

 

そして、西の異民族は昔から仲間を大切にする民族であった。

とある人物の教えによるものも大きかったが、千年前から帝国という強大な脅威にさらされてきたからこそ、仲間と連携して戦わなければ勝利はないということがわかっているからこその思考であった。

その為、西の異民族は死者を大切にする民族でもある。

しかし、先祖が眠る墓地の場所は帝国の領土と隣接している場所……つまり、墓地が戦場になってしまう可能性があるのだ。

死者が眠る場所を戦場にしてはならないという民族全員の思いから、墓地の前、帝国との国境に強固な防衛拠点を作り、騎士の中でも選りすぐりの者たちを配置した。

 

 

そんな拠点の中を、赤髪の少女が駆け抜けていた。

全身に甲冑を着けているにも関わらず、息切れ一つしないで周囲を見渡しながら駆け抜けている少女は、赤い甲冑も相まって赤き稲妻の様であった。

そんな必死に走っている少女を見た他の騎士たちは「おっ!我らが紅のヴァルキュリー様は今日も隊長の面倒ですか」「全く、せいがでますなぁ」等と言いながら笑い合っていた。

自分を馬鹿にしたような言い方に、少女は特に怒る気はしなかった。

これがこの隊の特徴である為だ。

「どんな時でも笑顔を忘れるな」それがこの隊の方針であり、いつも隊長が言っている事だったからだ。

だから少女も、今自分にできる精一杯の笑顔で彼等に言葉を投げる。

 

「アルドさんたちも、そんな所でエビルバードの群れみたいにピーピー鳴いてないで武具の手入れでもしてきなよっ!! 今日から革命軍の人たちがこの拠点に来るんだから、そんな汚らしい鎧じゃ笑われちゃうよ?」

 

少女に言われた騎士たちは一瞬黙り込み……再び笑い出す。今度は先程の笑い声より数段大きく。

 

「ははっ、ちげぇねえな。よっしゃ、ルキアちゃんに言われた通り、俺らは武具の手入れでもするか。革命軍の仲間に笑われるなんざこの隊の恥だぜ」

 

アルドと呼ばれた短髪で丸眼鏡を付けた男が、他の騎士たちを連れて自分たちのテントへと歩いていく。途中、アルドは振り返ってルキアに親指を立てた右手を掲げて、ニカッと笑いかけた。

その様子を見たルキアも同じように親指を立てて笑うと、隊長を探しに拠点の中を駆け回るのであった。

 

数分ほど拠点の中を駆け回ると、巨木の枝の上で読書をしている一人の男が目に止まった。

ルキアは、その人物が自分が探していた隊長だとわかると、走るのをやめて歩いて近づいていった。

 

「はぁ……アセス隊長、やっと見つけましたよ!!」

「おっ、今日は昨日より五分ほど見つけるのが早いな」

「もうっ!! 別に私は隊長と毎日隠れんぼをしているわけじゃないんですからね!!」

「お~怖い怖い、流石はヴァルキュリー様だ」

 

木の枝から飛び降りたアセスは、肩を震わせて怖がる素振りをするが、ルキアの顔が鬼人の様な形相に変化していくのを感じ取り、咳払いを一つしてルキアに話しかける。

 

「あぁ~すまん!今のは冗談だ、それで、ルキアが来たってことは革命軍の奴等がもう少しでここに来るのか?」

「はい、あと一時間もすれば到着すると思います」

 

「そうか……」と呟いたアセスは、本を顔の上に乗せて黙り込む。

アセスが本を顔に乗せるときは、決まって何か考え事をしている時か、あまり言いたくないことをどうやって柔らかく伝えようか考えている時なので、ルキアは黙ってその様子を眺めていた。

憶測ではあるが、アセス隊長は革命軍の事をあまり良く思っていない様子なので、今回の場合は後者であると判断したルキアは、何を言われてもいいように気持ちの準備をしておくのであった。

 

「なぁルキア、お前は革命軍との同盟をどう考える?」

「最良の判断だと思います。今の帝国は最盛期より劣っているとはいえ、兵力や財力……兵の練度以外の全てが我々より優れています。その為、帝国の技術力を持ち、今も尚各地で増え続けている革命軍と同盟を組むことで、これからも起こるであろう帝国との戦いも幾分かは楽になると思いますから」

「ふむ……」

 

ルキアの意見を聞いたアセスは、彼女の考えは最もなものであり、これから起こる戦のことも考えた素晴らしいものだと思った。

ルキアが言った様に、昔に比べて帝国の力は衰えている。

それは単に、帝国の皇帝が何も知らない無知な子供であるが為と、その子供を騙し、自分の欲望のまま好き勝手に政策をしている大臣のせいだと革命軍から聞かされていた。

そして、そんな悪逆非道な大臣から帝国を救うべく立ち上がったのが我々革命軍なのだとも聞かされていたが、アセスにとっては決起の理由などどうでも良いことであった。

その理由は、「自分たち西の異民族は、昔から帝国と戦っていた」からである。

確かに、革命軍から聞かされた大臣の悪行には虫唾が走った。

だが、だからといって態々敵である帝国の民を助けようとは思わなかった。

「誰が好き好んで敵に塩を送るような真似をする」という考えの者が殆どであった。

だから、殆どが帝国の民や兵士で構成されている革命軍からの同盟依頼を、西の異民族は断ろうと考えていた。

しかし、革命軍の提示した革命が成功した後の領土の返還と、今後の戦いや若い者たちの未来を考えた西の異民族の長たちは、革命軍と同盟を組むことにした。

長たちが決めた事に文句はない。

しかし、アセスをどうしても不安にさせる思いがあった。

 

「ルキア、お前の意見は未来の事を考えたとても良いものだと思う。その事に俺から言うことは何もない……だが、俺はどうしても不安なんだ。革命軍と同盟を組んだ事により、更なる火種が、脅威が生まれてしまうのではないか……とな」

 

アセスはひと呼吸おいて静かに話しだす。

 

「お前も知っていると思うが、帝国にはエスデス将軍とブドー大将軍という英傑がいる。この二人と、二人が指揮する軍隊だけ別格の強さを持っている」

「つまり、その二人と軍隊を潰してしまえば、帝国の力は大きく削がれることになると?」

「まぁそうだな。だが、それが安易にできるほど奴等は弱くない。二人共帝具を所持しているし、エスデスに至っては危険種狩猟民族のパルタス族出身だと聞く」

「なっ!?アセス隊長が絶対に敵に回したくないと言っていたパルタス族の……」

「そうだ、彼等は数年前に北の異民族によって殆どの者が殺されたらしいが、彼等の身体能力は我々の遥か上を行く」

「確かに、パルタス族出身の者で帝具持ちとの戦いとなると、我々はかなりの被害が出ますね……隊長は、革命軍と同盟を組むことで我々が、エスデス将軍と戦う事になるということを心配して……」

「まぁ、そんなところかな。お前たちの強さは知っているし、信頼している。だからこそ誰も失いたくないんだよ。俺に残されてるものは……もうお前たちしかいないからな」

「隊長…………」

 

アセスは優しく微笑むと、ルキアの頭を優しく撫でた。

傍から見ればその光景は、我が子を思う父の様であった。

 

「だっ大丈夫ですよ!!隊長と私の帝具があれば、エスデスなんて簡単に倒せますって!現に隊長は、エスデスとの戦いで引き分けに持ち込んだ訳ですし……じゃっじゃあ、私はこの辺りでしっ失礼しみゃす!!!」

 

アセスに頭を撫でられたルキアは、頬を赤く染めながら慌ててその場から走り去っていった。

走り去っていくルキアの背中を見送ったアセスは、巨木に立てかけてあった自分の槍を見る。

漆黒の柄とは対照的な白銀に輝く矛先は、所々返しが付いており、一度刺されば安易に抜けない作りになっている。

そして、この槍こそがアセスの帝具『ゲイボルグ』であった。

 

「ルキア……確かにエスデスとブドーは厄介な存在だ。だが、俺が心配しているのは今ある脅威じゃない、これから生まれるであろう脅威なんだよ」

 

ゲイボルグを見ながらそう呟いたアセスは、拠点の中央へと視線を移す。

そこには、六枚の翼を背中から生やし、鎧とドレスが合わさった様なものを着ている女性の石像が立っていた。

 

「エリアル様、どうか我らをお守り下さい」

 

アセスは跪き、頭を下げる。

この女性の石像こそが西の異民族が最も尊敬する人物であり、守り神的存在でもあった。

エリアルは始皇帝時代の人物で、帝国の将であるにも関わらず西の異民族と友好的な関係を築こうと奮闘された方だと聞かされていた。

そして、西の異民族の為に命を落とされた方だとも聞かされていた。

そんなエリアルを称えて石像を作り、彼女が言った「仲間とは家族と同じです。家族の為ならば、私はこの身を犠牲にしてでも守りましょう」と言う言葉通り、西の異民族は自分の家族の様に仲間を大切にしてきた。

そんな教えを残したエリアルであるが、彼女は英雄豪傑であったとも言い伝えられている。

言い伝えによると、エリアルの戦いは圧倒的で、それはまるで戦乙女(ヴァルキュリー)の様であったと言われている。

その為、西の異民族は最も優れた女騎士にヴァルキュリーという称号を与える。

 

「そういやルキアのヴァルキュリー祝いがまだだったな、今度隊の皆でお祝いしてやるか…………にしても、エリアル様に羽六枚は流石にないと思うぜ、ご先祖様たちよぉ」

 

そう言ってアセスは、帝具を片手にテントの方へと歩いて行った。

 

余談ではあるが、あの後革命軍が到着したことを知らせる為に、またも拠点内を駆け回っていたルキアが見た光景は、「となると盛大にやらないといけないな……あとでアルドに相談しておくか」等と何かをブツブツと呟きながら歩いているアセスであった。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「ルキア、帝国兵の数はどれくらいだ」

「はい、目測ですが歩兵隊が三百程かと」

「三百か……少なすぎるな。アルド、後詰めの可能性は?」

「俺もルキアと一緒に偵察してきたが、その可能性はかなり低いな」

「ふむ……ルキアとアルドは担当の騎馬隊の所で待機しておけ」

『はっ!』

 

ルキアとアルドは敬礼をした後、それぞれの持ち場へと走っていく。

その、無駄のない訓練された動きに見とれ、「革命軍もあれほどの練度になりたいものだ」と思っていた革命軍の女将軍は、アセスの咳払いで意識を戻されると、少しだけ頬を赤らめて自分の意見を提案する。

 

「でっでは、短期決戦という事で直ぐにでも突撃して殲滅しますか?」

「いや、我々は動かずに帝国兵の動きを見たい。革命軍の皆さんで拠点内から銃による攻撃をしてもらいたい」

「わかりました」

 

革命軍の将軍の意見を断り、銃撃してもらう様にお願いしたのには理由があった。

確かに帝国兵三百人など、この拠点の騎士と数日前に合流した革命軍の兵士、合計で約三万人の前では無力であろう。

しかし、油断してはならない。

いつも、数で圧倒する戦術を取る帝国が、今日に限ってそれをしてこない。

間違いなく何かあると感じたアセスは、相手の出方を伺うために遠距離からの攻撃をしてみて、どんな反応をするのか確かめてみることにした。

 

「鉄砲隊! 帝国兵三百に対して……攻撃開始!!」

 

革命軍の将軍の合図と共に鉄砲隊五千人による容赦ない銃撃。

鉄砲隊から発射された何億という弾丸は、無慈悲に三百という小さな帝国兵たちを飲み込み……そして。

 

「嘘……でしょ」

「ふむ……」

 

無傷であった。

あれだけの銃撃を受けておきながら、帝国兵が全員無傷なのには理由があった。

 

「やはり、前衛の帝国兵が構えているタワーシールドは特殊な素材で作られているようだな」

「そう……ですね。まさか我々の銃撃が全て跳ね返されるとは、あの大盾は帝具の技術を使って作られたものだと思います。アレだけの性能を持った盾を持っている部隊となると……」

「皇帝陛下直属の部隊か、もしくは少数精鋭部隊である可能性が?」

「はい、ここに来るのが私ではなく元帝国の将軍であるナジェンダさんだったら、彼等の装備を見て何か心当たりがあると思うのですが……すみません」

「いえいえ、気にしないで下さい」

 

頭を下げて謝る女将軍に対してアセスは頭を上げるように微笑んで言うと、何故か顔を真っ赤にしていた。

何故顔を赤くしているのか、どこか調子が悪いのだろうか? と疑問に思うアセスであったが、一つだけどうしても気になる事があった。

 

「シュリン将軍、あの部隊を率いているのはエスデス将軍だと思いますか?」

「それはないですね。エスデス将軍は守ることよりも攻める方を重視する方です。ですから、兵たちにあのような大盾を持たせる事はしないでしょう」

「言われてみれば……そうですね。ありがとうございます。少しだけ気が楽になりました」

「いっいえ!! お役に立てて光栄です」

 

エスデス将軍が率いる部隊でないという事がわかったが、だったらあの部隊の指揮は誰がとっている。

アセスは砦の上から眺めて指揮官らしき人物を探す。

しかし、目に飛び込んでくるものは、黒一色で統一された重装甲を着た帝国の兵士ばかりで、帝国の指揮官らしき人物はどこにも見当たらない。

いや、部隊の中央だけ、上からの攻撃にも耐えられるようにタワーシールドが掲げられていた。

あの場所に帝国の指揮官がいると判断したアセスは、注意深くその場所を観察していると。

 

「アセス隊長!! 帝国の将軍からこんな紙が……」

 

門の前を守っていた騎士が数枚の紙を持って現れた。

騎士の報告に少し違和感を覚えるアセスだったが、帝国の将軍が我々に接触してこようとしている事に驚き、紙に書かれている内容を確認しようと見たアセスとシュリンは、目を丸くして驚く。

 

そこには、『いきなりですが』『今すぐ拠点を放棄して撤退しろ』『そうすれば命だけは助けてやる』と書かれた紙が広がっていた。

 

 

 

 




はい、本当にお久しぶりです。
更新できなかった言い訳をさせて下さい。
私に任される仕事の方が中々に重要な仕事内容で、帰宅しても小説を書けない日々が続いていました。
何とかお盆休みを取ることができて速攻で仕上げたものなので、もしかしたら所々直す場合があるかもしれません。


はい!こっからは小説の内容になりますが、あんまり原作を通りに話を進めても面白くないと思って過去編を書いてみました。
今回のお話で色々とフラグなんかを仕込んだつもりです。
あと、察しの良い読者様達ならわかると思いますが、アセスさんたちの運命は……まぁ期待していてください?


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第二章
正義って何ですか?


友「おい、過去編とかわけわからん話書くより本編進めろ」

私「え……だって……」

友「お前に選択しをやる。書かずに俺に殴られるか、書いてから俺に殴られるか……どっちだ?」

私「かっ書きます!! 書くので殴らないで!!」

と、いうわけで本編を書きました。殴られるの嫌なので(^_^;)
過去編は、別に読んでも読まなくてもどっちでも良いので……本編進めます。



『暇だ』

 

何となく紙に書いて、机の隅に置く。

宮殿内で騒ぎを起こしてしまったということで、久しぶりの休日という名の三日間の謹慎処分を受けた私は、温室の植物を眺めながら優雅に午後の紅茶を楽しんでいた。

紅茶の味なんてよく分からないけどね。

いや、別に皇帝陛下からは「お前はよく頑張っているから、そのくらい気にしなくて言いぞ!」って言ってくれたのに、オネスト大臣が余分なことを言ったせいで謹慎処分になりました。

まぁ、久しぶりの休日だから嬉しかったし、「じゃあ、お前も謹慎だな」って陛下が満面の笑みで大臣に言ってたから良しとします。ザマーみやがれです。

あ、でも「ぐふふ、今日は大切な会議ですので」とか言って自室から出て行ったって近衛兵が言ってたなぁ。

コラー!! 皇帝陛下の命令を聞けない大臣とか、打ち首だ!! って言える人いないの? いないか。

 

…………はぁ。暇ですね。

午前中の内に植物たちの水やりも終わりましたし、雑草抜きに新しい種子の植え付けも完了。

何時もなら情報部に行って報告書の確認や練兵所で鍛錬したり、帝都に行ってその辺をぶらぶらしながら警備したり…………何か、こうやって見ると、私の一日って華がなくて地味だなぁ。

私も一応夢見る女の子。

帝都で流行っている洋服とか、アクセサリー等を付けてお洒落したい……のかな。

仕事で忙しすぎてそういう事を考えてなかった。

 

この話題はやめよう。考えたらどんどん悲しくなってくる。

そうですよ。

私は殺戮人形と恐れられている帝国軍人、帝国の為に、働くことが私の全て。

 

ならば、私のするべき事は一つ!!

帝国を守るために、鍛錬鍛錬タンレンジャー!!!

……くだらない事言ってないで練兵場に行こう。

私は飲みかけの紅茶をそのままにして、練兵場へと向かった。

 

 

 

「ダメだ」

『ダメ?』

「ダメだ」

『鍛錬ダメ?』

「ダメだ」

『ほんとに?』

「ダメだ」

 

謹慎処分者は、鍛錬ダメだそうです。

私は、修練場のヌシことヒッキー大将軍……失礼、ブドー大将軍に鍛錬をしても良いか聞いた所、一つ返事で全て返されています。

 

くそ、何時もなから一緒に鍛錬してくれるのに、皇帝陛下が絡むと脳みそガッチガチに固めやがって。

こうなれば……『奥の手!!』発動です。

 

『お願い』

 

私は紙を鼻の辺りまで持ってきて、上目遣いでブドー大将軍にお願いしてみる。

どうだ!! 帝都メインストリートを通った時に、近くの少女たちからたまたま聞こえた女の子の必殺技!! 『上目遣いでお願いすれば、どんな男もイチコロよ』だ!!

 

「ダメだ……どうして紙で鼻を隠す? くしゃみか?」

『嫌いだ!』

「なっ!?」

 

紙を丸めてブドーの顔面目掛けて投げつけた私は、温室へと戻っていった。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「もっ申し上げます。ナカキド将軍、ヘミ将軍が離反……革命軍に合流した模様です!!」

「馬鹿な、戦上手のナカギド将軍が……兵たちにこのことは?」

「一部の兵たちに動揺は見られますが、士気にこれといって影響はありません」

「そうか……それは良かった」

「しかし、革命軍が恐るべき勢力に育っているぞ」

「確かに、今はまだ地方でどうにか出来ているが……このままでは」

 

謁見の間。

兵からの知らせを聞かされたオネスト派の重臣たちは、動揺を隠しきれなかった。

ヘミ将軍は武勇に優れ、ナカキド将軍は知略に優れた将……その二人が革命軍に入ったとなると……

重臣たちは今後起こりうる事態を考え、頭を抱える。

 

「うろたえるでないッ!!」

『ッ!?』

 

しかし、皇帝陛下の一声によって静まる重臣たち。

大臣の傀儡の様に操られている幼い皇帝ではあるが、それでも代々受け継がれている気品や威厳は失われていなかった。

 

「所詮は南端にある勢力、こちらに攻めて来るにしても時間が掛かるからいつでも対処できる!! それに、反乱分子は出来るだけ集めて掃除した方が効率が良い!!」

『おぉ!!』

「……で、良いのであろう大臣?」

「ヌフフ……陛下、勿論でございます。それに、いざとなったらブドー大将軍やエリア将軍が陛下をお守りしますぞ」

「おぉっ! それなら安心だな」

「はい」

 

皇帝陛下の受け答えに、普段の意地汚い笑みとは正反対の、優しい笑顔で対応するオネスト大臣。

そして、その笑顔に釣られて笑う皇帝陛下。

まるで父親が子供を見守る様な姿から、己の欲の為ならどんな非道で外道な行いもやってのける悪人だとは、皇帝陛下は露程にも思っていなかった。

いや、『思っていなかった』というより、そう思わせない様にゆっくりと時間を掛けてオネストの人形に仕立て上げてきたのだ。

 

「遠くの反乱軍なら幾らでも対処できますが、近くの賊ではこうはいきません。奴等は病原体の様に帝都に蔓延っています…………」

 

そこまで言ったオネストは肉を食べるのを辞めて静かに下を向く。

五秒程の静寂が、謁見の間を支配した。

誰もがオネストの次の声を待つ

顔を上げたオネストの表情は悲しみ。

まるで最愛の者を亡くした時の様な表情を『作った』オネストは、ポツリポツリと話しだした。

 

「優秀な文官であったフェニルは殺され……私の縁者であるイヲカルは殺され……首斬り魔も殺したのはナイトレイドで帝具は持っていかれる。やられたい放題ッ!! 悲しみで体重が増えてしまいます!!!」

 

『え? その体型でまだ体重のことを気にしてたの!?』 と、謁見の間にいる全員が思っていたが、誰もそのことは口にしない。

 

「北を制圧したエスデス将軍を、帝都に呼び戻します」

「なっ!?」

「しっしかし、帝都にはブドー大将軍とエリア将軍がおりましょう!!」

「大将軍が賊狩り等、彼のプライドが許さないでしょう。エリア将軍とエスデス将軍の二人で、賊狩りを行ってもらいます」

「エスデスか……彼女ならブドーやエリアと並ぶ英傑、安心だ。しかしオネスト、たかが数人の賊……幾ら何でも将軍二人は…………」

「陛下、先程も言いましたが奴等は病原体の様なものです。弱みを見せれば、甘さを見せればそこから侵入されて手遅れになります」

「そうであったな!! お前が言うことに間違いはない、早速エスデス将軍を呼び戻すように手配しろ!!」

「っは!」

 

兵士が駆け足で出て行った後、謁見の間は少しばかりの静寂が支配する。

『これで今回の会議は終わりだろうか?』と思っていた重臣たちの耳に、皇帝陛下とオネストの会話が聞こえた。

 

「しかし、オネストよ」

「陛下、どうしましたかな?」

「エスデスとエリアは犬猿の仲……というよりエリアが一方的にエスデスを避けているようだが、そんな状態で大丈夫なのか?」

「ヌフフ……陛下、あれはエリア将軍の照れ隠しというやつですよ。一見、エスデス将軍の事を嫌っているように見えますが、エリア将軍はエスデス将軍の事を実の姉の様に慕っています。しかし、彼女は喋れません……どうやって自分の気持ちをエスデス将軍に伝えようか日々努力している結果が……」

「あの態度という事か……なる程、深いな!!」

「エリア将軍にも、意外に可愛らしい所があるのですよ」

 

オネストの性格と風情からして最もかけ離れた爽やかな笑みを陛下に見せた。

その様子を黙って聞いていた重臣たちは、『きっと先日のエリア様との鬼ごっこの件を恨んでの仕返しなんだろうな。』と思い、心の中でエリアに合掌するのであった。

 

「そういえばオネストよ。最近、エリアの温室に対エスデス用の温室防護壁が出来ていたが……アレも一種の照れ隠しという奴か?」

「……」

 

流石のオネストも、笑顔を見せて黙ることしかできなかった。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「エリア将軍、お待ちしておりました」

 

ペコリと頭を下げて私を出迎える少女がいた。

長い髪をポニーテールにして……帝都警備隊の制服を着ていて……犬みたいなぬいぐるみの生物型帝具を抱えている少女は、私の記憶では一人しか思いつきません。

 

『セリュー・ユビキタス?』

「はい! 帝都警備隊所属、セリュー・ユビキタスです」

『うん』

カキカキ

『座って』

「はい、失礼します」

 

礼儀正しいですねー。

まぁ立ち話もなんですし、座って話しましょう。

冷めてる紅茶欲しいですか? あ、いらない。わかりました。

 

 

……どういうことッ!?!?

何で私の温室にセリューちゃんがいるの!? ナニコレ新手の嫌がらせなの!?

ブドー大将軍に必殺技が聞かなかったせいで、しょんぼりしながら帰ってきたらまさかまさかのセリューちゃんの登場&出現。

帰れッ!! って言いたいけど、何時もと様子がおかしいので取りあえずは話を聞いてから追い返すか決めます。

 

「エリア将軍、正義って何ですか?」

 

え……セリューさん、今なんて言いました……あの正義厨のセリューちゃんが、正義に付いて考え事?

まさかこのセリューさんは、偽物か何かですか。

でも、コロちゃんがいるから本物ですよね……

 

『どうした?』

「いえ……正義って何なのか、わからなくなってしまって」

 

暗い表情のまま、セリューさんは一枚の紙を机の上に置く。

それは、報告書だった。

 

『これは?』

「オーガ隊長が見せてくれました……先日のナイトレイドによる富裕層一家殺害事件の……本当の報告書です」

 

ッ!?

オーガさんめ……余計なことをしましたね。

本当に余計な事をしましたね。

なる程、オーガさんを生かした事が、こんな形で影響を及ぼすとは……

 

「この報告書を見る限りじゃ、この悪一家は何の罪もない人を拷問して殺す趣味があり、そんな悪を殺す為にナイトレイドが襲撃した……という風に見えます」

『ふむ』

「だから私は……ナイトレイドが関わった事件の真相を確かめました。そしたら……ッ」

 

セリューちゃんは、今にも泣き出しそうになりながらボロボロに破れた一枚の紙を私に見せる。

 

「……今までナイトレイドが関わっていた事件全てが、犠牲者が悪である証拠です」

 

そこには、事細かに書かれた事件の詳細が書かれていた。

情報を操作しているにも関わらず、ここまで調べれるとは大したものです。

 

「これじゃあナイトレイドが正義で、悪は私たちじゃないですかッ!!」

 

バンッと強く机を叩いたセリューちゃんの顔は、涙で濡れていた。

……はぁ、困りましたね。

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

『ついてこい』

「その前に、教えて……」

『二度は書かん』

 

エリア様に言われるが……書かれるがままに後をついて行った私は、帝都近郊にある一つの墓地へとたどり着く。

確かこの辺りの墓地は、市民墓地だった気がします。

薄暗く、ジメジメしている雰囲気に少しだけ肩を震わせる私を気にせず、どんどん墓地の奥に進んでいくエリア様。

急いで後を追いかけると、エリア様は一つの墓の前で止まり、名前が掘られている場所をジッと見つめながら何かを書いていた。

 

『この辺りの墓から』

カキカキ

『私が将軍になって』

カキカキ

『救えなかった民だ』

「え……」

 

私は自分の目を疑った。

だってエリア様が指をさして教えてくれた範囲にあるお墓の数って……少なく見ても約千個……いえ、それ以上の数がありました。

私は信じられなかった。

憧れであったエリア様でも救えなかった人がこんなに沢山いるなんて……

 

『だが、将軍であったから』

カキカキ

『救えた民もいる』

カキカキ

『確かにこの国は腐っている』

カキカキ

『間違っている』

カキカキ

『しかし』

カキカキ

『私が軍人を辞める理由にはならんな』

カキカキ

『軍人だからこそ救える民もいれば』

カキカキ

『救えない民もいる』

カキカキ

『お前の人生だ。お前が決めろ』

カキカキ

『お前の正義だ。お前が決めろ』

「ッ……」

 

私の正義は……私の正義はッ!!

 

「エリア将軍、私は……私はこの国を変えたい!! 悪を全て滅ぼしたい!! エリア様では裁けない悪を、私が裁きたいッ!!! だから私は……私はッ」

 

ナイトレイドに、入ります。

 

『そうか』

 

私の言葉を最後まで聞かずに、エリア様はそう書くと、後ろを向いてしまった。

後ろを見ているから、見なかったことに、聞かなかったことにするから行けという事なのだろうか。

 

「エリアさ……ッ!?」

 

エリア様に頭を下げようとした瞬間、殺気を感じた私は後ろに飛び退く。

その瞬間、私が先程まで立っていた場所に、大きなクレーターが出来る。

当たれば即死だった。良かった。等という感情は浮かんでこなかった。

唯唯、驚き……そして、悲しみ。

 

「どうして……ですか」

 

私は、涙に滲んだ瞳を腕で拭い、土埃が風で流されていく中、

クレーターを作った人物を見つめる。

青紫色の綺麗な髪をツインテールにし、白銀のドレスアーマーを着た少女。

美しい顔に表情はなく、暗く冷たい両の瞳が私を見つめる。

 

『今この瞬間』

カキカキ

『貴様は私の敵になった』

カキカキ

『殺す以外の選択肢が』

カキカキ

『あると思っているのか?』

「ッ……コロ!!」

「キュッキューー!!!」

 

私の目の前には、私の知っているエリア様はいなかった。

そう……私の目の前には、唯唯敵を殺す。

無慈悲な殺戮人形が、立っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




話の繋ぎ方が下手くそですみません(土下座
研究してるんですけど、上手くいかないものです……こうしたらどうかな?っていうアドバイスがあったら教えてくださると助かります。

さて、本編は完全にオリジナル要素が入りました。
まさかまさかのセリューちゃんが良い人方向に……ナイトレイド加入に?

しかし、エリアにその事を打ち明けたのがまずかった?かね~


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お前は私を怒らせた



新キャラの登場!
いつもより千文字ほど少ないです。


『どうしてですか』って言われても……困ります。

セリューちゃんが正義について聞いてきたから、態々謹慎中の身をこうして墓地まで運んで来たんじゃないですか。

あの場で正義について説明しても、正義厨の貴女の事だから納得しないでしょ? 師弟関係にあるオーガさんならまだ説得できるかもしれませんが、私と貴女の接点なんて性別と軍人である事くらいしかないですよ。

それに私に正義についてなんて聞かないで下さい。

ここに来たのだって、適当に言いたいこと言って雰囲気で誤魔化すためなんですから。

むしろ私が正義について聞きたいですよ。

セリューちゃんが思う正義って何ですか?

拷問する家族が悪で、成敗したナイトレイドが正義ですか?

でもセリューちゃん、ナイトレイドの皆さんは、自分たちの存在を正義だなんて思っていませんよ。むしろ逆の事を思っています。

 

「コロッ!! 腕!!」

「キュー!!」

 

どうやらセリューちゃんはやる気みたいですね。覚悟は決まったのかな?

生物型帝具、コロちゃんの腕の筋肉が何十倍にも盛り上がり、私の腹部目掛けて迫ってくる。

常人では殴られた事すらわからない程の速度、そして速度に見合った威力のコロちゃんパンチを両手で受け止めながら後ろに跳躍する。

なる程なる程……早さと威力は及第点。

しかし、その腕の盛り上がりでこの程度の威力なのでしょうか? だとしたら幻滅です。失望です。

 

「ギャゥ」

「コロッ!?」

 

伸びきったコロちゃんの右腕に、適当に拳を叩き込んで使えなくした後、痛みで呻き声をあげたコロちゃんに肉薄して……そのまま頭を吹き飛ばす。

頭を粉砕されたコロちゃんは断末魔を挙げることなくその巨体を地面に沈める。

コロちゃんの欠片が私の鎧に付着しましたが気にしませんッ!!

核は破壊していないので壊せませんが、暫くは再起不能でしょう。

 

さて、優しい私はセリューちゃんに選択肢を与えましたが、どうやらセリューちゃんは私の敵になりたいようなので、その覚悟を試そうかと思います。

帝国という強大な力を前にして、たかが数人の暗殺者集団ナイトレイドに命運を託している革命軍に入る覚悟があるのか? それとも死ぬ確率が一番高いナイトレイドに入る覚悟があるのか?

そのテストをするとしましょうセリュー・ユビキタス。

貴女の考えが変わった事はとても嬉しい。

あの原作の様に歪みきった正義を掲げて暴走するバケモノより、今の貴女の方が私は好きです。応援してあげたいです。

しかし、それは味方だったらの話です。

 

『この程度の力で』

カキカキ

『巨悪を倒せると思っているのか?』

「ひっ……」

 

前にも言いましたが、私は自分の手が届く命なら守ります。

それは貴女も含まれていたのですよ。一応。

ナイトレイドに入ってしまえば…………私の手の届かぬ所に行くというのなら、その力を見せろ、セリュー・ユビキタス。

 

「あらあら、こんな所でナニしてるのかしらぁ?」

「えっ?」

 

ッ!?

セリューちゃんと私の間に割って入るかのように顔を黒フードで覆い、全身を黒マントで隠した女(声が女性だった)が現れた。

そして、私が黒マントに一歩近づいた瞬間……私の胸の中心めがけてナイフを投擲。

篭手付きの右手でナイフを弾いた私は、お返しに『ちょっと本気!! 寸止め右ストレート!!』を黒マントの鳩尾狙って叩き込む。

しかし。

 

「ふーん、少女の体格している割に、良いストレートじゃないの。でも、まだまだね」

 

私の寸止めストレートによって生み出された衝撃波を鳩尾に受けた黒マントの女は、数メートル後ろに飛ばされ……倒れることなく、何事もなかった様に立っている。

マジですか。羅刹四鬼のシュテンさんたちですら倒れた技ですよ。

それを、真正面から受け止めて立っていられるなんて……ちょっとショック。

 

「ん~~、セリューちゃん。貴女はこの場から立ち去りなさい」

「でっでも……」

「でもじゃない。今逃げないと、エリアちゃんが貴女を殺しちゃうよ? 可愛い顔して何人もの人間を殺してきた、殺戮人形なんですからねぇ」

「っ……わかりました。いくよ!!コロ」

 

やけにあっさり行っちゃったな……セリューちゃん。

もっとこう、「エリア将軍に攻撃した貴女は悪ですッ!!」みたいな事言って共闘を期待した私がいたのですが、無駄に終わりました。

 

 

 

……どうしましょッ!?

え、どうすればいいの? 

この黒マントなんて原作キャラにいましたっけ。

私が知っている原作知識(単行本11巻まで)で、こんな黒マントなんて登場しなかったのに……もしかして、私と同じ転生者?

ありえますね。

セリューちゃんの名前を知っていましたし、私の寸止めストレートを受け止められる耐久力、もしかしたらとんでもない性能の帝具を持っているかもしれません。

警戒しなければ、私の名前と二つ名を知っていたということは、私が帝国の将軍だということも知っているはず。

普通の転生者なら間違いなくナイトレイド側につきます。私だって生まれる場所が帝国じゃなかったらナイトレイドについてましたもん……いや、今からでも遅く…………手遅れですね。

 

「さてと、セリューちゃんもいなくなったし……貴女を殺すわ」

『お前は何者だ』

「私? 私は通りすがりの一般人に過ぎないわ」

 

嘘つけ!!

貴女みたいな一般人がいるかッ!!

どうやら、正体を隠す気マンマン。ついでに殺る気も満々って感じですね。

 

ティーン!!

 

「はいはーい!」

 

私の影から黒くドロドロしたモノが溢れ出ると、みるみる内に人の形を形成していく。

僅か数秒で私の下僕……失礼、ブラッディ・ティーンの名で帝都の民を震え上がらせていたティーンの影が現れた。

 

「今エリアちゃん私のこと下僕って……」

『そんなことより』

カキカキ

『目の前の敵に』

カキカキ

『集中しろ』

「へーい…………へぇ、お前結構強そうだな」

「あらあら、貴女は確かブラッディ・ティーンよね。エリアちゃんに殺されたって聞いていたけど、生きていたのかしら」

「生きてはいないよ。私はティーンの影」

「なるほど……」

 

ティーンの言葉を聞いた黒マントは、考え込む様に腕を交差してブツブツ何かを言っている。

何を言っているのか気になった私は、耳を澄ませて聞いてみる。

「どうりで―――たいを―――も―――動かない――。か――ない―じゃ」

かなり小さな声で言っているようでよく聞き取れなかった。

気になる。

 

「まぁ、いいわ。計画に変更はないから、宣言通り貴女を殺すわ」

「そんなこと私がさせると思って―――るの?」

 

ティーンが一気に黒マントに接近して、影で形成したレイピアを突き出す。

常人では見切る事すらも不可能な速度で放った一撃は、黒マントの胸に吸い込まれるかのように深く突き刺さった。

 

「なーんだ、呆気ない……」

「あら?私はこっちよ」

「ッ!?」

 

レイピアが刺さった黒マントがユラリと揺らいで消えると、ティーンの後ろに現れた黒マントは、振りかぶっていた右腕をそのままティーンの右頬に叩き込み、空いている左手を私の方へと向けて……何か紫色に輝く石を投げてきた。

それ程早くない速度で私の方へと向かって来た石は、私の目の前に落ちて…………ッ!! マズイです!!!

 

「ふふっ、流石の私も二対一じゃ不利だから、エリアちゃんはそこで休憩ね」

 

黒マントがそう言った瞬間、石を中心に私を覆うように紫色の膜が貼られる。

やられました。

これは私を隔離するためのバリアの様な物……奴が持っているかもしれない帝具にばかり意識を集中しすぎたせいで、こんな初歩的な戦術にかかるとは、不覚です。

……今はこのバリアを破る力を溜めるとしましょう。

その間だけ、奴の相手は任せましたよ。ティーン。

私がティーンの方を向くと、殴り飛ばされた時に付いたホコリを叩いて立ち上がる所だった。

影だから外傷を与えることは不可能ですが、ダメージを受けすぎると形を維持できなくなる……今は大丈夫そうだけどあの威力のパンチをあと数発受ければ確実に影に戻ってしまうな。

形を維持できなくなって戦闘不能になるのも心配ですが、もう一つ心配なんことがあるんですよね。

私はティーンの表情を見る。超満面の笑み。

あっ、これはマズイですね。完全にキレてます。

 

「……やってくれたなこのクソマント。てめぇは生きたまま内臓ぶちまけてカラスの餌にして……あげる」

「あらあら、笑顔の割に怖いこと言うのね。でも、貴女に出来るかしら?」

「やってあげるよぉ。あと十秒でね」

「あら、それは勝利宣言かしら? なら私もあと五秒で貴女を消してあげる」

 

ティーンは、キレると攻撃こそ激しくなりますがその分隙が大きくなる。ティーンが負ける様な事はそうそうありませんが、黒マントの実力は未知数……これは、私も少し本気で戦わなければいけないかもしれませんね。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「舐めるなっ!!」

 

ティーンが両手に影のナイフを持ち、黒マントに向かう。両者の距離は僅か十メートル。

数秒で両者がぶつかる距離を全速力で詰めるティーンが、左手のナイフを黒マントの胸めがけて投擲した。

常人では捉えることすら出来ない速度で放たれたナイフは、そのままの速度で黒マントに向かっていく。

しかし、ナイフが黒マントに当たる事はなかった。

左手の甲をナイフの先に当てて軌道を逸らした黒マントは、右手に持っていた白銀のナイフをティーンに向かって投げる。

 

「嘘で……」

 

ティーンが投げたナイフよりも数倍速い速度で投げられたソレは、三つ。

一つはティーンの右目に刺さり、彼女の視界を奪う。

一つは利き手である右手の掌に刺さり、彼女の攻撃を鈍らせる。

そして最後の一つは首に刺さり、彼女の声を封じる。

 

「ふふ、あと二秒ね」

「かっ……ひゅっ…………」

 

動きの止まったティーンに、黒マントがナイフを投擲する。

肩に、太ももに、腹に、左目に、胸に、ティーンの体中にナイフが刺さる。

首にナイフが刺さっているせいで声にならない悲鳴をあげて倒れこんだティーン。

そこに向かって黒マントが歩いていくと、ティーンの後頭部を右足で押さえ込み、常人ではありえない力でティーンの頭を潰した。

最後の一撃により一定以上のダメージを受けたティーンの影は、そのまま溶けるように消えていった。

 

「さてと、今度は貴女の番ね。今のティーンちゃんみたいに、跡形もなく消して……ッ!?」

 

黒マントがエリアを閉じ込めていた結界の方を向くと、そこには結界を破壊したエリアが、いつもと変わらない無表情で立っていた。

だが、黒マントは感じた。いや、黒マントにだけ向けられる明確な殺意を感じた。

見たものを奈落へと引きずり込む。そんな気がしてしまう両の瞳が、黒マントから一瞬も離れない。

黒マントは、先程までとは違う本気のエリアに、恐怖した。

 

『久しぶりに』

カキカキ

『怒りました』

 

エリアが紙に書いて黒マントに見せた瞬間、暗黒が墓場を覆う。

夜が来たわけではない。夜が来たなら、月が顔を出し、星が輝く。しかし、夜とは違う暗さが、墓場を覆う。

ソレは、何色にも染まらない黒。光り一つない暗さが、辺り一面を覆う。

黒マントは、その光景を唯唯見入る事しかできなかった。

 

『影よ。我の元へ』

『この地に眠る兵士よ。深き眠りを覚ますこと許せ。』

『さぁ影よ。偽りの器へ』

 

墓場を包んでいた暗黒が消え、夕日が墓場を照らす。

 

「ッ……たった一人の相手にここまでとは……ね」

『お前は私を怒らせた』

カキカキ

『それだけだ』

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!』

 

夕日が照らすのは、墓場だけではなかった。

それは人影だ。

黒マントに相対するように立つエリアの後ろに、約千の人影が並ぶ。

全身鎧を着ている人影は、片手には剣を持ち、片手には盾を持っている。

その姿は、帝国の精鋭である近衛兵のモノ……しかし、全てが生あるものではない。

帝具の力を使い、仮初の器に移された影でしかない。

 

『さぁ、かかってくるがいい。私の命を奪えるなら奪ってみろ』

 

漆黒の鎧に包まれたエリア将軍が、無表情に黒マントを見つめた。

 






エリアの原作知識は11巻まで、ちょっと重要だったりそうじゃなかったり。


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違和感

皆さん、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします!!



『お知らせ』
黒マントはオリジナルキャラ!


『どうした? 私はここだぞ』

『私を殺すのだろう? それとも、尻尾を巻いて逃げるか?』

 

挑発的な文章と共に、エリアが黒マントを見下ろす。

何も感じない表情からは想像が出来ない程の強い殺意を受けながら、黒マントは自分が間違った選択をしたことを悔やむ。

エリアを結界で隔離して、彼女が影から出したティーンを消した所までは良かった。

しかし、その消し方が不味かったらしく、彼女の逆鱗に触れたのだ。

当たり前だ。

ただでさえいきなり現れた正体不明の存在に殺すと言われ、自分の影の一部となったティーンをなぶり消されたのだ。

それは、自分が可愛がっていた子犬を、理由もなく見ず知らずの者になぶり殺さることと同じ、加害者側からしたら面白いかもしれないが、被害者側からしたらちっとも面白くない。

もし黒マントが被害者側だったら、加害者を許すことはないだろう。言い換えればそれは、エリアも黒マントを許さないということだ。

黒マントの実力はかなりのものだ。しかし、数の暴力には勝てない。

約千人の影近衛兵と、その主であるエリアに、たった一人で勝てるだろうか。まず無理だろう。それは、撤退にも言えることだ。

もしも黒マントが逃げようとすれば、エリアは確実に追って来る。無防備になった背中を見逃しはしないだろう。

ならば、黒マントに残された道はひとつ。

 

「ふふっ……イイわ!!最高よっ!! 一発で仕留めてあげる」

 

黒マントが高らかに笑い、地面を強く蹴ってエリアに向かって突撃する。

エリアを殺せば終わる。

影の主であるエリアを倒せば、全て終わる。幾ら影の兵士をだそうが、エリアが死んでは唯の影に戻ってしまう。

そう思っての全力疾走。全力攻撃。

エリアと黒マントの距離は約50メートル。その間にはエリアが影を使って作り出した兵士が三百程いる。

突破は容易ではない。

しかし、この数の追ってから逃げるより、自身の速さを生かした攻勢に転じた方が良いと判断した。

 

「遅いわ!!そんな木偶の坊たちでは、私を捉えることはできないぃいいい!!!」

 

次々に襲いかかってくる影の兵士の攻撃を躱しながら、変則的な動きでエリアに迫る黒マント。

主の元へは行かせまいと、自身の身体を使って道を塞ぐ影の兵士の身体を突き破り、返り血の様に影を浴びた黒マントは、とうとうエリアの目前まで迫った。

 

「これはっ!躱せないでしょうっ!!!」

 

黒マントはエリアに向かってナイフを投擲。

エリアの上半身は鎧で、首元はゴルゲットで守られているが、黒マントのナイフは容易く鎧を貫く切れ味と威力を持っている。

(見た所コイツの鎧は普通の物……帝具というわけではないだろう。なら、私のナイフは貫ける。)

黒マントの思惑通り、エリアに向かって投げられたナイフの全てが、彼女の着ている鎧を貫いて深く刺さった。

その光景を見た黒マントは、フードの中で小さく笑い……瞬間、自分の目を疑った。

 

『なる程な』

「嘘……でしょ」

 

黒マントの目の前には、何事もなかったかの様に立っているエリアがいた。

しかし、エリアの首元や左目、身体の至る所にナイフが刺さっている。

常人であれば死んでいる傷を負っているにも関わらず立っているエリアは、冷たい瞳を黒マントに向けて書いた。

 

『どうした?まだ戦いは始まったばかりだ。何を怯える。先程まであんなに楽しそうに私の手駒を消したろ』

「ひっ……」

 

いつの間にか刺さっていたナイフが消え、美しい顔に戻ったエリア。

しかし、彼女からは禍々しいまでの覇気が溢れ出す。

無表情で無口、自分の気持ちを表すことがないエリアから放たれるソレは、彼女の唯一の感情表現なのだろうか。

しかし、これ程の覇気が果たして人間に出せるだろうか。あのエスデス将軍ですら出せないのではないか。

そんな覇気を間近で当てられた黒マントは、恐怖でその場に座り込む。

(この力は予想外すぎる……こんな力聞いてない)

黒マントは、とある人物にエリアの実力を聞いていた。

だが、その中にこんな力があるなんて聞いていなかった。

これではまるで、人の皮を被った化物ではないか。

(いや、コイツは化物なのかもしれない。そう感じたから……あの方はコイツを消すように……)

黒マントの全てがエリアから逃げろと警告する。

だが―――

 

「だからこそ、お前は――――ここで私が殺す」

 

恐怖心を押さえ込む。

ふらふらとよろめきながらも立ち上がった黒マントは、目の前の化物の心臓部分へとナイフの刃先を向ける。

 

 

 

しかし、時すでに遅し。

黒マントがエリアの目の前に来た時には、既に勝負はついていた。

黒マントの敗北という形で……

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「お前は――――ここで私が殺す」

 

私の所まで来るのに体力を使ってしまったのか、ナイフを数本投げていきなり座り込んじゃった黒マントが、立ち上がり、本日何回目になるかわからない「お前殺す」発言。

わー……物騒。ムカつきます。

私を殺す理由があるなら聞きましょう。親を殺された! 仲間を殺された! 大切な家族を殺された! そういった理由で私を殺そうとするなら結構結構……私も死にたくないので相手してあげますよ。

でもね、理由も言えない奴に、しかも私の大切な手駒を散々痛めつけて消した奴に殺すとか言われたらね……怒ります。

だから、私も久しぶりにやる気スイッチが入りました。殺る気スイッチじゃないですよ?

戦うやる気スイッチの方です!

 

私は、自分の影の中に取り込んでいた「自分の意思を持たない」影を大量に放出して、一つの命令を出す。ついでに格好つけて召喚呪文みたいな事も書いてみた。

(近衛兵の姿になって、私を守れ)

その命令を受けた影たちは近衛兵の姿になり、何故か『オオオオ!!』という紙を大量に持って現れた影たちは、私を囲むように整列した。

 

いや……やる気があるようで結構ですけど、その大量の紙……私の発言何回分ですか……

あと、消える時にその紙は持ち帰ってくださいね。絶対に持ち帰ってくださいね。

 

でも、そのお陰もあってか、黒マントは影たちの姿にビビリ、突進という一番やってはいけない選択をして私の目の前まで来てくれました。

私が出した影たちへの命令は、私を守れというもの。黒マントを攻撃しろという命令ではないので、コイツが私に殺意むき出しで突進なんて馬鹿なことしなければ、影たちは何もしないでソコにいるだけの存在だった。

 

というか、黒マントを攻撃しろなんていう命令を出したら、コイツ以外の黒マントを着ている人たちも対象になっちゃうから出来ないのですよね。

それに、自分の意思を持っていない無の影には、単純な命令しかできないのです。

ティーンたちは本体が生き物だったので色々細かな命令ができます。時々生前抱いていた強い思いに引き寄せられて勝手な事をする時がありますけど……

 

まぁ、とにかく何もしないで影の消滅を待つか、朝を待つか、そのまま諦めて帰れば黒マントも無事でいられたのです。

別に逃げてくれる分にはそれで構いませんでした。そうしたら後日私が全力で、ありとあらゆる手を使って貴女の事を調べますけどね。

でも、逃げないで向かって来てくれて嬉しいです。

嬉しすぎて、ちょっとテンションがおかしくなった様な気がしますが、それ程嬉しかったのです。

仕事増えるのは嫌なのです。面倒事が増えるのは嫌なのです。なので、貴女はここで退場してもらいます。

 

私は両手を前に出し、黒マントを包むように広げる。

 

「何を……」

 

黒マントが怯えた声をあげる。

ふふっ、簡単なことです。貴女は先程影を浴びた。

それは死を意味します。

あの時、影を突き破る等という愚かな行為をしなければ……

 

私はそのまま両手を合わせ……両手の掌を外側に向けて一気に離す!

ブッズン。という聞けば不快になる何かが切れた音がする。

 

身体が半分になって死ぬなんて、あり得なかったのですけどね。

ふふ、この技を喰らって生きていたものはいない。って言えないのが残念です。

私がやった事は簡単。

黒マントが影を浴びた瞬間、影を奴の体内へと染みこませ……腕を広げるタイミングと同時にドパッと体内から切り裂きました。

 

断末魔もあげず、無残にも身体が半分に分かれて死んだ黒マントを見ながら、私は……って臭いッ!? 何この臭い!! 吐きそう!!

まるで腐敗した死体の様な臭いが、私の嗅覚を刺激して……腐敗した死体の臭い?

私は警戒しながら黒マントに近づき、着ているマントを脱がす。

所々色が変わった肌。浮き出た骨。腐って溶けた眼球。

案の定といいますか、最悪といいますか……黒マントの中身は、腐った死体でした。

長い髪や、胸の膨らみを見るに女性だったと判断できますが、これはかなりおかしな事になりました。

この人が死んだのは、身体の腐敗具合を見るにかなり前、なのに、先程まで動いていた。

死体が喋って動く。

こんな非現実的なことが出来るのは、帝具の力以外考えられないです。

でも、『死者の復活』等というヤバイ力の帝具は存在しないはず……

可能性としてはクロメちゃんが持っている死者を操ることが出来る八房型の帝具だけど、コイツには確かに明確な意思があった。とても操られているとは思えません。

なら、憑依系の帝具? ありえますね。正体を隠すために、死体に憑依して私を殺そうとした。

 

少し嫌な予感がするので私の影に命令を出しておく。

 

でも、一体誰が私を…………革命軍からの刺客、ナイトレイド、もしかしたらの転生者、異民族……あかん! 色々心当たりがありすぎて訳がわからない!!

とにかく、この事はオネスト大臣辺りに報告するのが一番得策でしょう。

あの人は最低の屑野郎ですが、一応帝国の大臣、色々と情報を持っているので聞いておいて損はありません。それに、悪知恵だけは帝国最強だと思っているので、こういった襲撃ももしかしたら……ッハ!?

私に刺客を差し向けたのは、大臣?

ありそうだけど、ありえませんね。

あの人は、一応私の実力をわかっている内の一人です。

もし大臣が私を殺そうとするなら、エスデスさん位の実力がある人を寄越すはずです。

っとなると、私に恨みを持っている人間の犯行かもしれませんね。

恨みを持っている人間ほどタチが悪いものはありません。これからも何回か襲撃があると見ていいでしょう。なるべく人通りが多い場所を歩いて、警戒しなければ……報告書を書くの面倒だし……

 

さーてと、セリューちゃんの裏切りと謎の黒マントによる襲撃の報告を、大臣にするとしますか。

あ、オーガさんにも言わないとなぁ。明日でいいか。

私は今まで放置していた影たちを消して、腐った死体に黒マントを被せる。

この死体がどこの誰かは知りませんが、明日丁重に供養するように言っておかないといけませんね。オーガさんにッ!!

私は何となく手を合わせ、後ろを振り返ると……そこには、大量の紙が散らばっていた。

 

ッフ。

 

 

 

まずは、この大量に散らばった紙の片付けからですね。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「グフフ、エスデス将軍の帰還と共に、帝都に蔓延る賊を一匹残らず駆逐して頂きましょう。そうすれば私の邪魔者はいなくなったも同然……グフフフ……おや?」

 

オネストが月明かりに照らされた中庭を横切っていると、前から少女がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

月明かりに照らされて、優しく輝く青紫色の髪をツインテールにし、白銀に輝くドレスアーマーを着た無表情な少女。

そんな格好をしている者は、この宮殿内に……いや、帝都内に一人しかいない。

エリア将軍だ。

美しい少女の外見をしているが、賊軍約三万を殺した実力を持っている。

そして、終始無表情、無口な為、何の感情もなく人を殺す殺戮人形と恐れられている。

オネスト大臣も真夜中に彼女と出会い、無表情で追いかけられた時は本気で逃げ回ったが、今回は違う。

何時も見せているいやらしい笑顔と共に、エリアに声をかけた。

 

「おやおや、エリア将軍ではありませんか。こんな夜中にどうしたのですか?」

 

オネストに声をかけられたエリアは、ピタリと歩くのを止めて周囲を見渡す。

まるで誰かを探しているか、周囲に誰かいないか確認する様に見渡すエリアに、オネストは首を傾げる。

(この前の様に、私に何か用事があって探しているのかと思いましたが、どうやら私ではないようですね)

そうと分かれば長居は不要。

 

「では、私はこれで、エリア将軍も早く寝たほうが良いですよ。夜更しはお肌の敵といいますから……グフフ」

 

エリアの横を通り過ぎて自室へと向かおうと歩きだしたオネスト。

しかし、エリアの青紫色の目が彼を捉える。

何か違和感を感じる。

 

「エリア将軍、私に何か用事でもあるのでしょうか?」

 

額から流れる嫌な汗をハンカチで拭い、自分を見つめるエリアに問いかけた。

――瞬間。

エリアが両手を広げ、オネストの前に立ち塞がる。

まるで、「ここから行っちゃダメ!」と行っているかの様に通せんぼをするエリア。

普段の彼女らしからぬ行動に、オネストは更に違和感を覚える。

しかし、何がおかしいのかわからない。

 

「では、私はこれで」

 

特に何も書いてこないのでそのままエリアの横を通り過ぎたオネストは、数歩歩いて立ち止まる。

何だ、この違和感は、自分は何か大変な過ちを犯したのではないのか。

(気のせいだ。疲れているのだろう……)

そんな気持ちを何とか押さえ込み、再び歩き出したオネストであった。

 

 

 






オネストが抱いた違和感の正体、読者の皆様ならすぐにわかると信じていますw






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この偽物め!!!

お久しぶりです。



「ほほぉ、貴女が襲われるとは! エリア将軍、怨まれていますなぁ」

 

そう言って目の前のデブスト……失礼。オネストは、意地汚い笑みを浮かべて私の報告書を眺めた。

お前ほどじゃねぇよ! どの口が言うんだ!と言ってやりたいが、私の恥ずかしがり屋な口は相変わらず言葉を発することはない。

シャイな口の代わりに思いっきり睨んでやったが、報告書とにらめっこしている大臣は気付くことはなかった。

 

(こうなったらハエが居たとか言って顔面ぶん殴ってやろうか……)

 

そんな事を思っていると、大臣がこちらを見た。

 

「かなりの手練だったということですが、それよりも問題なのは」

『未知の帝具』

「はい。正直言うとわからないですな……」

 

大臣はヒゲを撫でながら首を傾げる。

あの姑息で、悪知恵だけは世界広しといえどオネストに敵う者なしと言われている大臣ですらわからないとなると……困りました。

 

「将軍には悪いですが、現状維持……つまり動きがあるまで放置ですかねえ」

『わかった』

 

「そういえば、セリュー・ユビキタスという少女の行方を知っていますかな?」

『知らない。なぜ?』

「いえいえ、深い意味はないのですがエリア将軍なら何か知っているかなと思いましてね」

 

あー、これ絶対セリューちゃんが裏切ったって知ってる奴じゃん。

クソ大臣め。何処からその情報を仕入れたのかは知りませんが、「私知りません」みたいな顔して聞いてくる辺り大臣の性格の悪さが目立ちますね。

 

「それにしても……」

 

大臣は、私の体を上から下まで舐めるように見る。

すっごい気分が悪いですが、真面目な顔して見てる分まだマジですね。

もし下卑た視線を一瞬でも見せたら、その顔面に私の渾身の右ストレートをお見舞いしてやりますが。

 

「力を――影を使いすぎた様子ですね」

『反省してる』

 

私は篭手を外して自分の手を見る。

何時見ても自分の手とは思えないほど綺麗な手ですが、今は少しだけ違います。どう違うのかと言われると回答に困りますが、とりあえず影を沢山使うと私の身体にその使った分だけの負担がかかるんですよね。暫くは反動で思うように動けないし、動くと色々とヤバい。

だから、本当に先日の戦闘は反省しています。

特に良くわからないパッとでの奴にあんなに力をみせたのは猛省です。過去に戻れるならあの時の調子乗ってた自分を全力、全身全霊で止めたい。

 

「暫くは安静にしていてくださいね。貴女はこの帝国になくてはならない存在ですから」

 

そう言って優しく微笑むオネスト大臣……おぅ、ちょっと待ってください。

色々とツッコミたいんですが良いですかね? 

まず、貴方あのオネスト大臣ですよね? 

何か悪いことや人が死んだり不幸になったら大体全部オネストのせいって言われてる地獄行き確定のあの大臣ですよね?

それがどうして本気で人の心配してるんです? もう一度言います。どうして貴方が他人の心配してるんですか!? あの自己中で右に出る者なしどころか天元突破してるオネスト大臣が他人の心配って……っは!?

 

「ちょっ!? 痛い痛いエリア将軍!? 何故私の頬を抓るんですかっ!?」

 

私は思いっきり大臣の頬っぺたを引っ張る。

理由は簡単だ。このオネストは偽物だからだ。

どこの世界に心の底から他人を心配するオネスト大臣が存在するんですか!! 綺麗な大臣なんて大臣じゃないッ!!

よって今私の目の前にいる大臣は、原作キャラのチェルシーちゃんが帝具『ガイアファンデーション』を使って変身しているに違いありません。

確かチェルシーちゃんはもう少ししたらナイトレイドに加入するんでしたっけ……つまり手土産に私の首を取っていこうとしたんですね。

危ない危ない。

もう少しでコロコロされちゃうところでしたが、間一髪で気づいて良かったです。

 

『偽物め』

「えっエリア将軍!! 何かとてつもない勘違いをしている様子なんですがっ!!」

 

大臣に化けたチェルシーちゃんは中々頑固なようで、幾ら引っ張っても自分が偽物だと認めず、変身が溶けるようなことはない。

ははぁーん……わかりました。

今偽物だとバレると私に殺されちゃうと思ってるんですね。

確かに敵地で偽物だとバレる=死または拷問が待っていますからね。そりゃあ意地でも自分が本物だと貫き通しますよ。

安心してくださいチェルシーちゃん。貴女は私が安全に返してあげますから。

貴女はもう少し先の話……ですから今は見逃してあげます。

 

『ついて来て』

「あのエリア将軍……本当に勘違いなのですが」

 

私がオネストに化けたチェルシーちゃんの手を引いて部屋から出ようとすると、運悪くオネストの自室に入ってくる人物がいた。

その人物を見た瞬間――入ってきた瞬間に、私は今の最速の手刀をその人物めがけて振るう。

しかし。

 

「甘いな」

 

もう少しで私の手刀が届くというところで、その人物――ブドー大将軍に止められてしまった。

クソ! もう少しだったのに……ってか降ろして欲しい。

私は今ブドー大将軍に手刀を受け止められて右手で持ち上げられている。身長差がありすぎて私の足が地面に着いてないんですが? 降ろして頂けませんかね?

 

『降ろして』

「なぜだ? 降ろしたらまた攻撃してくるだろう」

『しない』

「信頼に値しないな……お前は最近やらかしすぎている」

 

そう言うとブドー大将軍の頭上に小さなカミナリ雲ができた。

えっ、なにその可愛い雲。怒ってるってこと? すごい似合わないってかすっごい帝具の無駄遣いしてません?

 

『雲』

「あぁ、これか。私は怒っているというのをわかりやすく表現したのだ」

『あ、はい』

 

ちょっと待って欲しい。ブドー大将軍ってこんなキャラなの。

もっと威厳ある堅物脳筋武人なイメージがあったんですが、こんな馬鹿……失礼、ユーモア溢れるというか天然混じってたんですかね。

いやー、意外です。でも、私としてはそっちの方が絡みやすいと思うのでそのまま行って欲しいですね。

 

って、そんな事よりいい加減離して欲しいのですがッ!!

 

『そろそろ離して』

「ふむ……仕方がない」

 

ブドー大将軍は私の体を見た後、ゆっくりと地面におろしてくれた。

いやー、どうなるかと思いましたが何事もなくてよかったです……いや、良くないですッ!!

どうしようこの状況。

何とか大臣に化けてるチェルシーちゃんを逃がしたいんですが、ブドー大将軍が居るとちょっと難しい……っていうかほぼ詰んでますね。

 

「ブドー大将軍良い所にっ! エリア将軍が私を偽物だとか言って乱暴をしてくるのです」

 

バカッ! チェルシーちゃん!!

私が止めるまもなくチェルシー……面倒なので偽オネストはブドー大将軍の後ろに隠れる。

イメージとしては、お母さんの後ろに隠れる子供のような感じでしょうか。だが残念な事に今は美少女チェルシーちゃんではなくオネスト大臣なので、厳つい初老の後ろに隠れるブタ男という誰得とも言える何とも汚い絵面が出来上がっている。ある意味R18指定ですね。耐性がある人にしか見せれないです。

 

ってそんなことはどうでもよくて!!よくないけど!! 

 

私でもわかったくらいなので確実に大臣が偽物だとブドー大将軍にバレる。

どうする私……考えろ私……

 

「ほぅ……」

 

そう言うとブドー大将軍は顎に手を当てて何か考え事をしているようだった。

その間に私もどうやってチェルシーちゃんを助けようか考えるが、良い案が浮かばない。

 

「なるほどな。エリアの言い分はよくわかった。あとは私に任せてもらおうか」

「えっ?」

『えっ?』

 

ブドー大将軍の発言に、私は無表情だけど驚く。

見れば偽オネストも驚いているようで、不細工な顔を更に不細工にして驚いていました。チェルシーちゃんじゃなければあまりの不細工さに耐えきれず、反射的に殴っていたかもしれません。

 

「では、行こうか偽物」

「大将軍ッ!?ちょっと待ってください!?」

 

回れ右したブドー大将軍は、偽オネストの肩をガッシリ掴むとそのまま部屋を出ていこうとする。

流石にこのままだと不味いと思った私は、ブドー大将軍を止める。

 

「どうしたエリア?」

『偽物。殺さない?』

 

私は直球で聞いてみた。流石に今チェルシーちゃんに退場されるのは不味い。

彼女はタツミ君……ナイトレイドにとって必要な存在だから。

だから、ブドー大将軍の返答次第では本気で彼女を助けなければいけない。

 

「ふっ、大丈夫だ。悪いようにはしないさ」

 

そう言ってブドー大将軍は優しく笑い、私の頭をゆっくり撫でた。

精神年齢二十代前半の身としては撫でられることにすっごい抵抗があって恥ずかしいですが……まぁ、悪い気はしません。

それに、ブドー大将軍は約束を守る男なので偽オネストを間違っても殺すことはしないと断言できます。

よかったよかった。

 

『わかった』

「あぁ、では行こうか偽物」

「あぁあぁぁぁっ!? ちょっと!ちょっと待ってください!お二人共私の話を……私の話をぉおおお」

 

ブドー大将軍と引きずられる偽オネストが扉を出て行く瞬間、「良い機会だ。私が直々に鍛えてやる」という物騒なことが聞こえたような気がするが、まぁ聞き間違いでしょう。

私は静かになったオネスト大臣の自室から出る。

かなり広い廊下の奥からまだ偽オネストの断末魔が聞こえるが、その方向とは反対に歩き出した私はオーガさんの元へと急ぎ足で向かった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

帝都警備隊隊長のオーガが見回りから帰ってくると、詰所の雰囲気が何時もと違っていた。

机に座って仕事をしている部下たちの顔色が悪いのだ。

ある者は額から大量の汗を流し、ある者は顔を真っ青にしている。

デジャブである。

オーガは軽いめまいがしたが、まだそうと決まったわけではないので留守番を任せていた部下の一人に祈るように声をかける。

 

「俺がいない間に何か変わったことはないか?」

「…………いつも通りです。それと、オーガ隊長にお会いしたいという方がおりまして……隊長のお部屋へと案内しておきました」

「そうか」

 

デジャブである。

というよりも最近全く同じことが起きた。

だから、何となく自分に会いに来た人物が誰かわかってしまった。

オーガは足取り重く二階にある隊長室へと向かう。

 

(……俺は何をした)

 

見当がつかない。

しかし、あの人――エリア将軍が来るということは何か問題が起きた事は確定だ。

もしかしたら先日の「首斬りザンク」の事件で民間人と警備隊に数名の犠牲者が出たことだろうか。

そうだとしたら、納得がいく。

帝具持ちとはいえ、たった一人すら捕まえることができなかったのは自分たちの実力不足が原因だ。

その為あの日を境に隊員たちと一から鍛えてきたが、どうやらそれも今日で終わりだ。

自分は責任を問われ、処罰されるだろう。

その事に不満はない。しかし、悔しかった。もっと民のため国のために働きたかった。

しかし、隊長室の前についてしまう。

前は分からなかったが、今ならわかる。この扉の向こう側に、エリア将軍の気配がした。

深呼吸をしたオーガは、自室にも関わらず扉をノックしてそのまま中へと入っていった。

 

 

「失礼します。エリア様、お待たせしてしまい申し訳ありません」

 

見事としか言いようがない敬礼をしたオーガは、頭を下げてそのまま動かない。

上げていいと許可が降りるまでそのままでいるつもりだ。

その様子を待ち人――エリア将軍は濁った目で見つめる。

どれほど時間が経っただろうか。数分、あるいは数秒だったかもしれないその時間は、オーガの肩を叩く少女の手で終わりを告げる。

恐る恐る頭を上げたオーガは、自分の頭に何かが当たった感触がしてそのままその位置で停止する。

右に左に頭の上を行ったり来たりするソレが何なのか気になったオーガは、顔を動かして正面を向く。

 

「なっ!?」

 

そして、有り得ない物をオーガは見てしまった。

エリア将軍が、オーガの頭を撫でていたのだ。理由はわからない。

反射的に直立したので今は撫でられているわけではないが、自分の顔が羞恥で赤くなっているのは明白だった。

「ごほんごほん」と態とらしく咳払いをしたオーガは、姿勢を正してエリア将軍を見た。

 

『今のは気にしないで』

 

すごい気にします。とは言えないオーガだが、次にエリアが書いた内容を目にして驚愕する。

 

『セリューがナイトレイドに入りました』

 

そう書かれた紙は誰かに見られたら不味いのか一瞬にして消えたが、言葉にできない衝撃がオーガを襲う。

足に力が入らず、その場に倒れるように座り込んだ。

何故だ。どうしてセリューはナイトレイドに。そう自問するオーガだが、そんな事はわかりきっていた。

自分のせいだった。オーガがセリューに真実を教えてしまったからだ。

だからエリア将軍が来たのだろう。他言無用の報告書をセリューに見せてしまい彼女が裏切ったから。

 

「俺が悪いんです……全て俺が、だからセリューをどうか、どうか許してやってください」

 

気づけばオーガは土下座をしていた。

謝って許されることではない。しかし、セリューだけはどうにか助けて欲しいと必死に懇願するオーガを、エリアはただ呆然と見つめていた。

何度も額を床に打ち付け謝るオーガの目の前に、一枚の紙が差し出された。

 

『大丈夫です。安心して』

 

オーガは顔を上げ、エリア将軍を見る。

一瞬だが、エリア将軍の顔が微笑んでいるように見えたのは、オーガの勝手な妄想だったのだろうか。

わからないが、しかしこれだけははっきりした。

エリア将軍は『殺戮人形』なんかじゃない。心の優しい少女なのだとオーガは思った。

 

「エリア将軍! ありが……」

「き、緊急!!!」

 

オーガがエリアにお礼を言おうとした瞬間、部下の一人がノックもなしに入ってきた。

自分だけならまだ知らず、エリア将軍もいる中での部下の無礼な態度に激怒しそうになったオーガだが、彼の青ざめた顔を見て喉まで出かかった言葉を飲み込む。

 

「どうした!」

「チブル様が何者かに殺されたという報告がっ!!」

 

チブルという名をオーガは知っている。

表向きは薬を売っている大商人だが、裏では麻薬を売りさばいている極悪人だ。もう少し証拠が集まり容疑がまとまれば捕まえる予定だったが、その前に殺されるとは思わなかった。極悪人であると同時に、チブルは用心深い男でも有名だったからだ。殺されて困る人間は、それこそ麻薬の密売人たちだろう。

しかし、殺しは殺しだ。

 

「わかった。警戒網を敷いて怪しい奴は片っ端から職務質問していけ。ただし、油断するなと隊員たちには言っておけ!! 俺もすぐに行く」

「はっはい!!」

 

部下を見送ったオーガは、エリアに向き直り頭を下げる。

 

「エリア様申し訳ありません」

『大丈夫。行ってらっしゃい』

「はっ。いってきます」

 

敬礼をして自室を後にするオーガを、エリアは無表情に手を振って見送る。

誰もいなくなった部屋で、窓際まで移動したエリアは外の風景を眺める。

腐り、悪がはびこる帝都だが、街明かりが明るく夜を照らしている。しかし、エリアの暗く冷たい瞳は何も映さず漆黒であった。

 

「……」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「まったく! チブルって標的用心深いにも程があるわっ!」

「えぇ、ですが無事に片付いてよかったです」

 

帝都の闇夜に紛れて走る二つの影。

一つは銃を右手に持ち、桃色の髪を二つに結んだ小柄な少女だ。もう一つは大きなハサミを背中に背負い、メガネをかけた女性である。

二人共対照的ではあるがどちらも美人である。

しかし、ただの美人ではない。彼女達は殺し屋集団『ナイトレイド』。天が裁けぬ悪を、闇の中で裁く暗殺集団である。

そんな二人は標的であったチブルを殺してアジトへと帰る途中であった。

 

「最近どーもやりにくくなったわね」

 

桃色の髪の少女――マインが愚痴る。

やりにくくなったというのは勿論暗殺である。前までは感じたことすらなかったが、最近は特に帝都内の警備が厳しくなった。その為犯罪件数も減ってはいるが、自分たちのような暗殺者たちはかなり動きづらくなっていた。

 

「そうですね。でも、最近入ってくれたセリューちゃんのおかげで警備の穴をつけています」

「まぁ、そうだけど……っ!?」

 

大きなハサミを背負った女性――シェーレの言葉に頷いたマインは――突然の殺気に横に避ける。

瞬間、大きな衝撃と共に砂埃が舞った。

帝具を構えたマインは、シェーレと目配せをして油断しないように身構えた。

 

「よぉ、こんな夜中に嬢ちゃん達は何処へ向かうんだ?」

 

砂埃が晴れると、そこには一人の大男が立っていた。

警備隊の鎧を付け、大剣を肩に担いだ男の左目は傷によって塞がれている。

油断なく、ピリピリとした殺気にも似た気配は、その男がただの警備隊員ではないことを示していた。

 

「警備隊隊長のオーガ……厄介ね」

「えぇ……」

 

帝都警備隊隊長オーガ。鬼のオーガと呼ばれ、犯罪者たちから恐れられている人物だ。最近まではいい噂は聞かなかったが、ここ最近は人が変わったように民に尽くすようになった。帝都の警備が厳しくなったのも彼の影響を受けているからだろう。

だからこそ、オーガとは出会いたくはなかった。

 

「手配書の顔と一緒だな……もう一人の少女も持ってる帝具からナイトレイドと判断する。悪いが一緒に来てもらおうか」

「嫌だと言ったら?」

 

マインの発言に一瞬キョトンとしたオーガは豪快に笑うと――シェーレへと距離を詰める。

 

「手荒だが仕方ない」

「っぐ!?」

「シェーレっ!?」

 

オーガは持っていた大剣を振りかぶり、シェーレに斬りつける。

咄嗟に大きなハサミ――帝具『万物両断エクスタス』で受け止めたシェーレだったが、オーガの力に圧倒されて数メートル吹き飛ばされた。

マインはシェーレを援護するように帝具『浪漫砲台パンプキン』をオーガに撃ち込むが、よけられてしまった。

 

「大丈夫ですマイン」

「良かったわ! コイツ、厄介すぎるわ」

 

シェーレの元へと駆けつけたマインは、彼女を庇うように前に立つとオーガに帝具の銃口を向ける。シェーレもエクスタスを布の鞘から取り出して構えた。

 

「悪いけど、今捕まるわけにはいかないのよ!!」

「すいません。貴方に恨みはありませんが、立ちはだかるなら始末させて頂きます」

「っは! 鬼のオーガの剣さばき。たっぷり味わってもらうぜ」

 

闇夜の中、暗殺集団ナイトレイドと帝都警備隊隊長の戦いが始まった。

 

 

 



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エリアVSマイン&シェーレ

 

さて、どうしたものでしょうか。

時刻は既に深夜一時すぎ。普通ならお仕事も終わって休んでいる時間帯です。

こんな時間まで仕事をしているのは、警備隊の皆さんか飲み屋だけでしょう……ま! 私もお仕事なんですけどね!!

流石、あの外道大臣が腐りに腐らせた帝国ですよ。人使いが荒すぎて困ります。

まぁ、その分たんまりとお金を請求するので良いですけどね。

私――エリアは、右手に持っていた指令書をチラリと見る。

そこには……

 

『帝国に仇なす凶賊ナイトレイドを狩りとれ』

 

何回も再読して確認しましたが、やはり同じ内容ですね。

ナイトレイドが現れたと言って出て行ったオーガさんと別れた後、直ぐに兵士の方から渡されたので、タイミング良すぎて偽の指令書かと思いましたよ。大臣直ぐに偽物の指令書とかでっち上げて作るから……話が脱線しましたね。

とりあえず、大将軍と陛下のハンコもあるので本物の指令書だと判断します。

 

さて、どうしたものでしょうか。

 

私は眼下で繰り広げられる戦いを静かに観察する。

帝都警備隊隊長オーガとナイトレイドのマイン&シェーレの戦いだ。

そうなんです。何故かオーガさんとマインちゃんとシェーレちゃんが戦ってるんですよ。

 

いや、原作と変わちゃってるよ……どうすんのこれ!?

 

本当だったら正義厨のセリュー&生物型帝具のコロちゃんVSマイン&シェーレだけど、セリューちゃんまさかのナイトレイド加入しちゃったからね……その代わりにオーガさんが戦う感じになったのかな。

この世界の神様もどうにか原作の流れを戻そうとしたのかな? 戻そうとした結果がコレならもう手遅れな感じするけど……。

 

そう、何が手遅れかっていうと……

 

「グッ……やはりナイトレイド……そう簡単にはいかねぇか」

「当たり前よ!! 私達を舐めないでよね」

 

そう言って片膝をついて悔しそうに顔を歪めるオーガさん。

その目の前では、まだまだ余裕そうなマインちゃん&シェーレのナイトレイド組。

ナイトレイド組が攻撃を食らったのも初めの一発だけで、見た所かすり傷さえ負っていない。

オーガさんは全身血だらけの満身創痍。何時倒れてもおかしくない状態ですね。

 

いやいやいや……オーガさんじゃ無理ですよね!! 私でもわかりますよッ!! 

 

幾ら改心オーガさんでも帝具持ち二人――しかも凄腕の暗殺者を相手に勝てる訳が無い。

初めは持ち前の怪力と剣捌きで善戦してましたが、近距離でオーガさんの攻撃を受け止め受け流すシェーレちゃんと、的確なタイミングで援護射撃をするマインちゃん。

流石としか言えませんね。オーガさんの剣を受け止めるシェーレちゃんも相当ヤバイですが、もっとヤバイのはマインちゃんです。

あの子、絶妙なタイミングで援護してくる&正確な射撃で隙あらば殺しにくるからオーガさんすっごいやりにくそうでしたね……まぁ、それを紙一重で避けてたオーガさんも相当な手練ですけど。

 

って、すっごい冷静に見てましたけど、今回の戦いは色々と不味いんですよ。

死んでるはずのオーガさんの参戦とか、セリューちゃん不在とかも不味いけど、一番不味いのはこの戦いでシェーレちゃんが死んでないことです。

 

シェーレちゃんの死亡。それはナイトレイド側の初めての犠牲であり負けイベント、主人公タツミ君の心構えやレベルアップに繋がる重要な出来事なんです。

そりゃ、原作を知る私からすればシェーレちゃんが生きてて嬉しいですよ。天然美人お姉さんのシェーレちゃんの活躍がこれからもあると思うと私の無表情な顔もニッコリです。ま、表情は変わりませんが。

 

しかし。

 

『ナイトレイドを狩る』というお仕事をもらった身としては、楽観してるわけにも行きません。

前までは原作がーと言って手を出すのを躊躇っていましたがもう原作突入してます。

私も一応お仕事もらったのでそろそろ本気で働かないと私の立場がヤバインデスヨネ。

ザンクさんの件やアカメちゃんを逃がすとか失態続きなので、挽回しないと私が消されちゃいます。

それに、せっかく改心してくれたオーガさんをこの場で失うのはひじょーに困ります。

オーガさんのおかげで犯罪件数めっちゃ減ってるんで!!

 

よし、やリますか。

 

私は一度伸びをする。

ぐるぐると両手を回してその場で屈伸――そのまま二度三度ジャンプして――バランスを崩してしまった。

あっ危なかった……私はなんとか両手をついて持ちこたえましたが、下手したらそのままオーガさんたちの所に落ちてました。

やっぱり先日の戦いで力を使いすぎて身体に異常が出てますね。

まぁ、何とかなる精神で頑張りましょう。ふぁいと私。

 

パンパンと自分の頬を両手で叩いて気合を入れた私は、そのまま時計台からジャンプしてオーガさんの目の前に降り立った。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

(あぁ、死んだな……)

 

迫り来る巨大なハサミ型の帝具『万物両断エクスタス』を目の前にし、オーガは静かに目を瞑る。

走馬灯のように今までの思い出が蘇るが、何故かここ最近のものが多かった。

充実しているからだろうか。改心したからだろうか。

オーガにはわからないが、沢山の思い出の中で二人の少女の姿が浮かぶ。

一人はエリア将軍。

無口で無表情な人形のような少女だ。殺戮人形と皆に恐れられているが、心優しき少女だとここ最近彼女と接してわかった。この弱肉強食の世界で強者でありながら弱者を思いやり、自身の罪と向き合っている彼女を、オーガは心の底から慕っていた。

もう一人はセリューだ。

オーガを慕い、逆にオーガも自分の娘の様に気にかけていた。正義という純粋な思いを胸に、日々民の為正義の為に警備隊として働く彼女。

しかし、オーガはセリューに帝国の闇を教えてしまい――彼女はナイトレイドに加入してしまった。

後悔はしていない。だが、セリューに悪い事をしたと思っている。

 

(結局……俺はセリューに自分の犯した罪を言うことができなかった)

 

それだけが、オーガの心残りであった。

そして、大罪を犯した自分がここで死ぬのも当然の報いだとオーガは覚悟を決める。

 

しかし、何時までたっても想像していた痛みは来なかった。

 

「…………っ!?」

 

不思議に思ったオーガが目を開けると、目の前には一人の少女が立っていた。

紫色の髪をツインテールに結び、白銀のドレスアーマーを着けた少女をオーガは一人しか知らない。

 

「えっエリア様」

 

オーガが目の前の少女――エリアの名を呼ぶと、自分の目の前に『どうも』『待機』という紙が落ちてきた。

 

「もっ申し訳ありません」

 

搾り出すように答えたオーガは、右手を強く握りこむ。

わかっている。負傷した自分が参戦したところで足でまといにしかならない。

わかってはいるが、悔しかった。

何が鬼のオーガだ。何が警備隊隊長だ……賊二人も捕まえられない己の力不足をこれほど恨んだことはない。

だからこそオーガは、自分の気持ちを抑え込むようにエリアの勝利を願った。

 

「まさかこんな所でこんな大物が現れるなんてね……ついてないわ」

「えぇ、同感ですマイン」

 

それにと付け加えたマインは、帝具『浪漫砲台パンプキン』をエリアに向けて叫ぶ。

 

「あんた! 私と髪型被ってんのよっ!!」

「「……」」

 

マインの甲高い声が辺りに響き渡る。

言ってやったと満足そうに頷くマイン。

一瞬の沈黙。

オーガは当然、味方のシェーレも呆気にとられてマインを見る。かけていたメガネがズレているのはお決まりな出来事だろう。

そんな何とも言えない空気の中、当事者であるエリアは無表情。

一枚の紙を取り出してマイン達に見せた。

 

『では、貴女が消えて下さい』

「ッ!? シェーレ!!」

「わかってます。マイン」

 

一瞬で戦闘態勢に入った二人は、前方にシェーレ。後方にマインという形でエリアと対峙する。

 

「っち、流石は殺戮人形ね。冗談が通じないわ」

「あ……冗談だったんですね」

「半分半分よ! 髪型が被っててムカついてたけどアカメを見逃してくれたから話のわかる奴かと……シェーレ!!」

 

何処からともなく大鎌を取り出したエリアが、シェーレに斬りかかる。

一気に距離を詰めたそのままの勢いでシェーレの脳天めがけて大鎌を振るったエリアだが、シェーレの帝具『エクスタス』によって防がれてしまう。

そして、足の止まったエリアをマインと帝具が狙う。持ち主の精神エネルギーを原料に、高出力のビームを二発撃ちだした。

狙った場所は頭と胴体。寸分たがわず撃ち出されたビームは、エリアに命中する瞬間――黒い渦によって吸い込まれた。

 

『暴食』

「厄介な能力ね。シェーレ!!」

「わかりました」

 

エリアの無防備な腹に、シェーレの回し蹴りが炸裂した。

天然キャラとはいえ、暗殺者養成カリキュラムを受けたシェーレの蹴りはかなりの威力があった。

篭手で防いだにも関わらず、数メートル吹き飛ばされたエリアが受身を取って立ち上がると――目の前に『エクスタス』を構えたシェーレがいた。

 

「すいません……」

 

お決まりのセリフを吐いたシェーレが、エリアの胴体めがけて『エクスタス』を振るう。両足に力を込めて左に攻撃を回避したエリアだったが、回避した瞬間またもマインがビームを撃ち込む。

ビームを黒い渦――『暴食で貪欲』で受け止めたエリアは、そのまま自身の影の中へと沈んでいった。

 

「何処に……マインッ!!」

「ちっ!!」

 

静かにマインの()()()から出てきたエリアが、彼女の首めがけて大鎌を振るう。それを間一髪で避けたマインだったが、体勢を崩してそのまま転がる。その隙を見逃さなかったエリアは、追撃とばかりに影で作った剣を放とうとして――やめる。

 

『黒犬』

 

代わりに影で作った犬を二匹呼び出してマインとシェーレに向かわせた。

二匹の犬はマイン達を中心にしてぐるぐると一定の距離を守って取り囲む。

 

「このっ!!鬱陶しい!!」

 

マインとシェーレは黒犬達に攻撃を仕掛けるが、簡単によけられてしまった。

そして、また黒犬達はマイン達の周りをぐるぐると回る。

エリアも黙ってその様子を眺めている。

 

「かかってきなさいよ!!」

 

攻撃をしてくる気配が一切ない犬とエリアに、マインは苛立ちを覚えた。

 

(おかしい……エリア様がおかしい)

 

オーガはエリアの様子が何時もと違うことに気づいた。

何時もと同じように無口で無表情ではあるが、本調子でないことは確かだ。

でなければエリアが攻撃を食らうことなどまずありえない。

確かにナイトレイドの二人の連携は見事なものだ。しかし、だからといってあんな簡単に接近を許して攻撃を食らうなどありえないのだ。

それに、エリアの攻撃が何処か単調なのだ。

何時もの彼女ならもっと影を使って多種多様な攻撃を仕掛ける。対複数戦でも影を召喚してその差を埋めて戦うのに、今日に限ってそれをしない。

 

(とりあえず援軍を……ッ!?)

 

警笛を吹こうとしたオーガの元に、『エクスタス』を持ったシェーレが駆け出す。

援軍を呼ぶことに気づかれていた。

しかし、シェーレを見逃す黒犬とエリアではない。彼女よりも早くオーガの下にたどり着いた黒犬がオーガを庇うようにシェーレに飛びつく。その後ろではエリアが影を使って黒剣を形成してシェーレに放っていた。

 

鋏!!!(エクスタス)

 

その時だった。

シェーレの持っていた帝具が奥の手を発動した。

昼間と見間違うほどのまばゆい光が辺り一面を照らす。

強烈な光に何が起こったのかわからず目を瞑ったオーガが目を開けると――。

 

「すいません」

 

目の前にエクスタスを構えたシェーレがいた。

回避も防御も間に合わない。迫り来る巨大なハサミを前に、今度こそオーガは自身の死を覚悟した。

 

『影替え』

 

オーガの視界が一瞬暗転したかと思うと、見ている景色が変わった。

何時の間にか自分の前にはエリアが居たのだ。

オーガを庇う様に、ナイトレイドに背を向けたエリアの顔は何時も通り無表情。

だがおかしい。

何故戦いの最中だというのにエリアは微動だにしないのだろうか。

 

「あぁああっ!? そんなっエリア様ッ!?」

 

オーガは気づいてしまった。

どうしてナイトレイドは攻撃してこないのか。

どうしてエリアは動かないのか――自分に向かっていた攻撃が届かなかったのか。

 

オーガは自身の頬に付いた液体を拭って見る。街灯に照らされた液体は紅く輝き、生臭かった。

 

『退却しなさい』

 

ごぼりと口から血を噴き出したエリアが、無表情にオーガを見つめていた。

鳩尾を『エクスタス』の片刃で貫かれたまま。

 

 

 

 

 

 

 



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エリアVSマイン&シェーレ2

お久しぶりです。


気づいたら体が勝手に動いていました。

 

私は自分の体を貫いている異物を見る。

 

帝具―――万物両断『エクスタス』。

 

文字通り全てを叩き切る事ができるそのハサミの様な帝具は、私の鳩尾から片刃が「こんにちは!」していた。

 

すっごいショッキングな光景ですね。

 

幸いな事に痛みはありません。

そんなものがあったら、こんな冷静に考えることはできませんからね。

まぁ、それはそれでどうかと思いますが無いものは無いのでしょうがないです。

とりあえずそのままでいると上半身と下半身がさようならしそうなので―――そうなる前にシェーレちゃんを蹴り飛ばします。

 

「ぐっ!?」

「シェーレ!! このっ死にぞこない!!」

 

シェーレちゃんを回転蹴りして吹き飛ばせたのは良いですが、マインちゃんが私に向かって二発撃ってきました。

焦っていたのか、単調な弾道で飛んできたビームを避けるのは今の私でも楽勝です―――が、『エクスタス』が刺さったままなので一発目は何とか避けれましたが、もう一発は髪の毛をかすりました。

 

ばさりと髪の毛が下に落ちる感覚。

 

見れば、ビームが髪留めに当たったようで私の自慢のツインテールはサイドテールになっていた。

まだだ!まだもう片方残ってる!!

 

―――ってそんなふざけたこと言ってる場合でもありませんね。

 

ごぼり――紅い液体が口から再度漏れて地面と服を紅く染める。

 

鳩尾を貫かれ、髪を落とされ泥だらけ―――戦闘の継続は不可能どころか戦闘不能一歩手前といったところでしょうか。

ちらりとシェーレちゃんとマインちゃんの様子を見れば、二人は油断なく私を見ています。

どうやら私の傷を見て力尽きるかその寸前になるまで待っているのでしょう。

チラリとこの場にいるもう一人、オーガさんの方を見ると―――私の元に一目散に駆けてきた。

 

(オーガさん元気そうでよかった…………えっ!? なになになにっ?! なにするのっ!?!?)

 

オーガさんはそのまま私に刺さっていた帝具『エクスタス』を引き抜いた。

 

「エリア様にぃいいいい!!! 死ねぇえええええ!!!!」

 

吠えるオーガさん。

そしてそのまま力一杯『エクスタス』をぶん投げた。

全身を使った全力の投擲によって『エクスタス』はシェーレちゃん目掛けて一直線に飛んでいき―――シェーレちゃんに普通にキャッチされた。

 

デ、デスヨネー!! そりゃ、シェーレちゃんの帝具だもんね!! ある意味相棒ともいえる帝具の扱いはぴか一ですもんね!! 流石です。

 

勢いを殺すようにその場で回転して『エクスタス』を受け止めたシェーレちゃんは、少しだけズレた眼鏡を直して私たちを冷たい目で見る。

 

「次は確実に仕留めます」

 

シェーレちゃんさらっと怖いこと言いますね。

まぁ、仲間には優しいお姉さんなシェーレちゃんですが、私たちは彼女たちの敵ですからね。

当たり前か……悲しい。

 

「エリア様!! 傷が!!」

 

オーガさんが私のお腹に空いてる刺傷を見て動揺する。

いや、貴方がエクスタスを引っこ抜いたからこうなったんですからね? そこ忘れないでもらえます?

いい感じに止まってたのにまた流れ出ちゃったじゃないですか!!

 

流れ出た血を止めるように鳩尾に手を当てますが、勿論そんなことじゃ止まりません。

 

「あぁ、エリア様!? そ、そんな……っぐ?!」

 

とりあえず、色々と集中できないのでオーガさんには眠っててもらいましょう。

私はオーガさんの首に手刀をして気絶させる。

 

上手くいった―――あの時練習しといてよかったです。

 

気絶させたオーガさんをお姫様抱っこで近くの時計台の下に運んだ私は、シェーレちゃん&マインちゃんと対峙する。

 

「あんた…………」

『なに』

 

マインちゃんが私に何か言おうと口を開きましたが、そのまま黙る。

そして、ごもごもと口を開けたり閉じたりしています。

不思議に思って私は彼女が何を言うのか待っていましたが、彼女はブルブルと首を横に激しく動かすと――

 

「何でもないわっ」

 

そう言って帝具『浪漫砲台パンプキン』を構えた。

マインちゃんに触発されるように帝具『万物両断エクスタス』を構えたシェーレちゃん。

先程と変わらない構図。

いえ、違いますね。

私はエクスタスによって鳩尾を貫かれ、パンプキンによって髪の毛を落とされました。

状態としては私の方が圧倒的に不利……さて、この状況どうすれば……

 

「いたぞ! あそこだ!」

「交戦してる……エリア様!? いそげ!!」

 

どうしようか迷っていると、予想外の声が聞こえた。

私とマインちゃんたちは反射的に声が聞こえた方を振り向く。

そこには、帝都警備隊の隊員六名がこちらに向かってきていた。

原作でも彼らはセリューちゃんの援軍として登場しますが、今は最悪なタイミングです。

それは彼らが弱いという事と、ナイトレイド組がまだピンピンしているからです。

 

(どうしよう。どうしましょう!?)

 

私が無表情で悩んでいる内に、警備隊六名が私を守る様にマインちゃんたちと対峙する。

あかん。この状況はあかんです!!

 

「エリア様とオーガ隊長を守れっ」

 

私が止める間もなくシェーレちゃんとマインちゃんに攻撃を仕掛ける帝都警備隊の皆さん。

大剣と長剣を持った二名の隊員がシェーレちゃんに斬りかかり、三名の隊員がマインちゃんに向けて銃を発砲する。

 

何やってるのこの人たち?! 幾ら人数で勝ってても相手は凄腕の暗殺者集団ですよ!?

勝てるわけないじゃないですか!! 

 

『てったいしろ。めいれい』

 

今は、漢字で書く時間すら惜しい。

私は急いで書いた紙を近くにいた警備隊の人に渡すが、何故か拒まれた。

 

「自分たちの事はお気になさらず。今は貴女様とオーガ隊長の命が優先です。さぁ、早く撤退を」

 

私には、その隊員の言っていることが理解できなかった。

いえ、理解はできます――理解したくなかった。

 

そうしてる間にも、隊員が一人頭を撃ち抜かれて死んだ。

 

隊員たちの命より私とオーガさんの命の方が大事……オーガさんの命が大事なのはわかります。隊員たちに好かれていましたからね。隊長ですし。

でも私は、私は誰かの命より重いなんてありえない……死にたくはない。でも、だからと言って彼らが私のために犠牲になる必要は―――。

 

また一人エクスタスによって真っ二つにされて死んだ。

 

この状況を作ったのは私のせいだ。

オーガさんを生かし、原作組と中途半端に戦い―――見逃した私のミスだ。

だから彼らが命を張って私を逃がす必要はない。

全部自業自得だから、己で蒔いた種だから。

 

隊員がまた一人死んだ。

 

「っく!? エリア様たちが撤退する時間を稼げ!!」

 

「「うぉおお」」と己を奮起し、勇ましく吠えた隊員たちがシェーレちゃんたちに斬りかかる。

でも、駄目だった。

一瞬で隊員たちの命は刈り取られ、地面に亡骸が転がった。

 

―――あぁ、嫌だ。なんでこうなるの。何で私の知ってる展開にならないの。

 

私という異物が入ったから? オーガさんを助けたから? 真面目に戦わなかったから?

 

違う。違う……違う!!

 

私が、この世界をしっかり見て――生きていないからだ。

所詮物語だと浮かれ、何処か他人事でいたからだ。

 

原作だとかストーリー通りだとか関係ない。

この世界が物語だろうと私が異物だろうと関係ない。

 

私はこの世界で生きてるんだ。

 

それはたった今死んだ彼らも同じだった。

この世界で生きて、死んだ。私のせいで死んでしまった。

夢も希望も、家族もいたに違いない。

民の為国の為に必死に働いていた彼らを、私の愚かな行動で殺してしまった。

 

私の自分勝手な行動のせいで……違うっ!! 今は悔やんでる場合じゃない。

一刻も早く生き残ってる人たちをこの場から撤退させるべきだ。

 

『影飛び』

 

一瞬で生き残っていた隊員とオーガさんをこの場から強制的に移動させた私は、深く深呼吸をして立ち上がる。

シェーレちゃんとマインちゃんが驚いていますね。

 

「まさかその傷でまだ立ち上がれるなんて……」

『褒めてくれてありがと』

「褒めてないわよっ!! 驚いたの!!」

『そう』

「それで、瀕死のあんただけ残ってどうすんの? まさかまだ私たちとやり合おうってわけじゃないわよね?」

『そのまさか』

「あんた馬鹿でしょ……ま、いいわ。悪いけど仕留めさせて貰うから」

 

シェーレちゃんと目配せして頷いたマインちゃんは、再び帝具を構える。

流石ナイトレイドですね。油断も隙もありません。

でも、私も負けません―――絶対に負けられない。

だからこそ、私はここで死力を尽くす。

 

【奥の手。発動】

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「な、なに!? 何が起きてるの!!」

「わかりません。ですが、この感じ……嫌な予感がします」

 

瀕死の重傷を負ったエリアが、何か技を発動させた。

その瞬間、言いようのない悪寒が二人を襲う。体の芯から震え、直感が早く逃げろと警笛を鳴らす。

だが、エリアに変化はない。

貫かれた鳩尾から血を流し、無表情にマインたちを見つめている。

死人のような瞳。泥と血で汚れた鎧を着ているため、見た目は完全に死体だ。

 

「ッ!?」

 

そんなエリアが、マインたちにゆっくりと近づく。

一歩踏み出すごとに鳩尾から血が零れ、地面を紅く染める。

もはや彼女のドレスアーマーは血を吸収しすぎて紅く染まりきっていた。

 

ゆっくり―――ゆっくりと着実に近づいてくる死人。

 

「こっちに来るんじゃないわよっ!!」

 

恐怖に耐えかねたマインが、エリアの頭部目掛けてビームを放つ。

避けることも防ぐこともせずエリアはマインを見つめ――そのままエリアの頭部をビームが貫いた。

 

「うそ……でしょ」

「ありえません!!」

 

しかし、エリアは倒れなかった。

ビームが貫通した右目はぽっかりと穴が開き、後ろの景色がその穴から見えている。

誰がどう見ても即死の傷だ。だが彼女は無表情のまま何事もなかったかのように向かってくる。

 

そして、エリアの傷はいつの間にか治っていた。

 

エクスタスで貫かれた傷も、パンプキンで開けられた穴もきれいさっぱりなくなっている。

しかし、アルカドールの服だけは彼女の血で紅く染まったままであった。

 

傷が一瞬で治る人間なんているはずがない。そんな超常的な能力など―――。

 

そこまで考えた二人は、一つの結論にたどり着いた。

互いに目配せをすると、先程と同じようにシェーレが前衛、マインが後衛になる。

そして、マインがエリアの正体の答え合わせをした。

 

「あんた、生物型の帝具でしょ」

『正解』

 

瞬間。エリアの姿が闇に―――いや、陰に溶ける。

 

マインたちの反応は早かった。

互いの死角をカバーするように、背中合わせに周囲を見渡す。上下左右何処からの攻撃が来ても反応できるように、彼女たちは全神経を集中させた。

 

一秒―――二秒―――三秒。

 

静まり返る帝都。マインたちの息遣いだけが、静かに聞こえる。

 

四秒―――五秒―――六秒。

 

襲ってくる気配がない。

逃げたのか? そんな思いがマインの中に芽生える。

 

「シェーレ……あいつ、逃げたんじゃないの?」

 

周囲を油断なく警戒しながら、マインは背中越しに相棒であるシェーレに声をかける。

しかし、彼女からの返事はない。

 

「ねぇシェーレ、聞こえてた?」

 

マインは静かに彼女の返答を待つ。

周囲に動きはない。背中越しではあるが、シェーレの微かな動きが背中に伝わる。

 

どうしたのだろうか?

 

マインがもう一度彼女に声をかけようとしたその時―――。

 

「マインッ!!」

 

自分を呼ぶ、聞きなれた声がした。

反射的にそちらを―――自分の正面を見るマイン。

 

「……え?」

 

信じられないことに、彼女の前方からボロボロの状態のシェーレが、エクスタスを支えにしながらこちらに歩いて来ていた。

 

 

「シェーレ!? どうして―――」

「後ろですッ!!!!マインッ!!!」

 

普段は見せない彼女の必死の形相。

こちらに手が届くことは無いのに、マインに向かって必死に手を伸ばすシェーレ。

 

そうだ。シェーレは自分の後ろにいるはずなのに、どうして前にいるのか?

背中越しに感じるこの感触は―――。

 

そこまで考えた所で、マインは気づいた。背中越しから伝わる死人のような冷たさに。

 

「ッ!?」

 

振り向いた瞬間―――エリアが居た。すぐそばに、拳一つ分もない距離にいた。唇と唇がほんの少しでも動けばくっついてしまいそうだった。

彼女の濁った瞳が、ぎょろりとマインに向けられた。

 

「貰うね」

「えっ……?」

 

エリアの口が、確かにそう動いた。

何を貰うと言うのか。

マインは一瞬思考の海に沈み―――激痛で引き戻された。

 

「あっ……があっああああ!?」

「マインッ!!」

 

鮮血が舞う。

立つことすらままならず、マインはその場にうずくまる様に片膝を着いた。

 

「はぁはぁ……くぅっ!?」

 

激痛のする右腕を抑えようとして―――左手が空を切る。

どういうことだろう?

一瞬、痛みも忘れてマインは自身の右側を見ると、そこにはあるはずの右手がなかった。

 

えっ……え?

右手がない。血が溢れている……誰の?止血しないと……あれ? 私の右手は?

 

『ここだよ』

 

マインの心情を読み取ったエリアが、彼女に一枚の紙を見せて現実に引き戻す。

 

「あっ……あぁぁあぁぁぁ!?!?」

 

マインの悲痛にまみれた叫び声が、帝都に響いた。

 



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