Stand up!リリカルプリキュア (電動ガン)
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一章 プリキュアの出会い
オバケパニック!私が大変身!?


「ほら。索敵が甘いよ。」

 

「はい!」

 

「今度はスピードが落ちてる。的になるよ?」

 

「っぐ!はい!!」

 

「いい調子。でも撃墜。」

 

「はい…はっ!?」

 

汗だくで走りまわっていたあたしの頭上から光の柱が降り注いだ。

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

・・

 

 

まぶしい…冷たい地面の感覚が気持ちいい…地面!?

 

「っは!?」

 

「大丈夫?」

 

「た、高町教官・・・」

 

「ごめんね…ちょっと力が入りすぎちゃった。頑張ってる子を見てると答えて挙げたくて…」

 

「いえ!高町教官!あたしもすぐ熱くなっちゃって…」

 

「でもすごいね。ヨシコちゃん、でもまだランクはもらえてないんだよね・・・?」

 

「あはは・・・仕方ないですよ・・・じつりょくを発揮出来ないあたしが悪いんです・・・」

 

自己紹介が遅れました。あたしは結目芳子。14才。出身世界は第97管理外世界。自分の住む永友町から海鳴市へ遊びに行ったとき喫茶店でご飯食べてたら・・・ロストロギア?の暴走に巻き込まれちゃった・・・

そんなところを高町なのはさんが助けてくれたの!

自分の住む世界以外に世界があって・・・それだけじゃなくて魔法もあってあたしも使えるなんて夢みたい!でも漫画みたいにはいかなくて…絶賛なのはさんと訓練中。これがもー大変!!あたしの魔力は普通じゃないらしく魔法を使うのはすごく体力勝負。

メルヘンなものだ思ったら大分スポ根だったよ・・・

 

「それじゃあ帰ろうか。今日はフェイトちゃん帰ってくるって。」

 

「はい!」

 

このミッドチルダではあたしはなのはさんのお宅にお世話になっている。驚きなのはなのはさん、子持ち。ヴィヴィオちゃんっていうとっても可愛い娘さん!どうやらなにやらいろいろ事情があるらしく…まぁそういうの聞くのは野暮だよね。もう一人のママさんのフェイトさんもとっても美人だった。いろいろ出るとこ出ていて…あたしも将来は!

 

「ヨシコちゃん。立てる?」

 

「あ、大丈夫…」

 

(うらめしぃ…)

 

「!!?」

 

なに…いまの?嫌な感じ、背骨につららを突っ込まれたみたいな…

 

「ヨシコちゃん?」

 

「あ、なんでもないです!お腹すきました!」

 

「うん!フェイトちゃんが作るって言ってたから期待しといて!」

 

「えへへ…」

 

「・・・。」

 

なんだったんだろう…さっきのは。よくわからないけどすごく怖かった…

 

・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・・

 

・・

 

 

「うわあああああ!!!」

 

「いひっ…いひひひひ!!!」

 

「や、やめろ!許して!許してくれ!!」

 

クラナガンのどこか・・・薄暗い路地裏で男が追い詰められている

 

「いひひひひ…」

 

「ひぃぃぃぃ!!」

 

男の前にいる女は緑と赤の柄の着物を着ていて…首が異様な程長かった。首の先にある頭には顔がなく、髪を振り乱しながら狂ったように笑っている。

 

「おい、程ほどにしておけよ。」

 

「ワレラ…使命…ワスレルナ…」

 

「いーひっひっひ…わかってるよぉ」

 

「あなたは…いつもそれ…」

 

着物の女の近くにふよふよと燃え盛る車輪と白い装束で頭に天冠付けた薄く透けた女が寄ってくる。その後ろに5mはあろうか牛の頭を持つ巨人が現れた。

 

「ひぇっ…ひ…ひぃいいああああああああ!!!!!」

 

「いひひ…うるさいねぇ…すぐ終わるから黙っておれぇ…」

 

「な、なんだお前ら!何が目的なんだ!金なら出す!だから見逃してくれ!!頼む。娘が…娘が帰りを…」

 

着物の女が自分の首を男に巻き付け押さえると懐から不気味な木の面を取りだし男に被せた。

 

「おごっ!?う…うぎぎぎきギギギィィィィ!!!!」

 

面を被せられた男がボコボコと変形し、変貌する。

 

「いーひっひっひ!!!お行きウラメシーナ!ヨウカイの世を取り戻すのよ!!!」

 

「ウラメシヤァァァァァァ!!!!」

 

男は面を被り金棒を持った赤黒い肌の巨大な鬼に変貌した。

 

「人間共に・・・思い出させる…」

 

「ワレラ…スグチカクニ…イルコト…」

 

「いーひっひっひ!!!怖い怖いよ!!」

 

「三大妖怪さえ蘇ればこっちのものさ…」

 

・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・・

 

・・

 

 

「ヨシコー!おかえりー!」

 

「ヴィヴィオ!今日はストライクアーツの練習おやすみ?」

 

「うん。ノーヴェが急にお仕事入ったって…」

 

「そっかー。あ、フェイトさんは?」

 

「今ごはん作ってる!」

 

「今日の晩御飯なんだろうねー」

 

「えっとね。確かボルシチ…?だとかなんとか。」

 

・・・ぞわり

 

「!!?」

 

背中に何か不気味なものを感じて振り替える・・・うう気味悪いなぁ…ミッドチルダでもオバケとかいるのかな…

 

「ヨシコ?」

 

「え?ああなんでもないよ。ご飯作るの手伝いに行こうか?」

 

「おっけー!」

 

二人でキッチンに向かおうとするとフェイトさんがエプロンをつけたまま険しい顔で出てきた…うひゃーなんかヤバイ事件でも起きたのかな…

 

「あ…二人ともごめん…仕事が入っちゃって…たぶんなのはも出ると思うからご飯は二人で食べて。」

 

「なのはママも?」

 

「もしかしてテロ…とか…はは」

 

「!」

 

フェイトさん固まっちゃった…わかりやすいなぁ・・・

 

「うん…そう。テレビで情報確認しながら家にいてね。絶対に出ちゃダメだよ!わかった?」

 

「わかりました!」

 

「はーい!」

 

あたしもそうだがヴィヴィオも実は前衛向きの魔導師ではないのだ。ストライクアーツは強いんだけどね

 

フェイトさんが玄関から飛び出していく。そのときチラッとだけどバリアジャケットを着たなのはさんが見えた。

 

「とりあえず…ごはんたべちゃおう。ヴィヴィオテレビ着けてー。」

 

「はーい。」

 

キッチンにはいいにおいが立ち込めていてお皿にボルシチをよそって…ああーいいにおいー

 

「うわぁ…なにあれ・・・」

 

「どったのー?それなんの映画?」

 

テレビには色とりどりの光線をものともせず町を破壊する鬼が写っている。

 

《ご覧ください!陸士隊と航空隊の決死の攻撃ですが怪物はびくともしません!ああ!航空魔導師の一人が捕まってしまいました!》

 

「なんだこれ…」

 

「あ、ママ達だ。」

 

ピンクも黄色の光が飛んで行って…なのはさんのディバインバスターが出た!

 

「流石だねーもう終わったかな?」

 

「終わってないリル。」

 

「「へ?」」

 

誰だ今の。ヴィヴィオ?あれ?ヴィヴィオじゃない?

 

「ヨシコ、こっちだリル。」

 

こっち?リュック背負った犬みたいなぬいぐるみがふんぞり返ってる…なんだこれ…

 

「うわぁー!ヨシコ見て!ぬいぐるみがしゃべってる!ヨシコのデバイス?」

 

「い、いやあたしデバイス持ってないし・・・」

 

「マクリルはぬいぐるみじゃ…まぁいいリル。ヨシコ、君にお願いがあるリル。」

 

犬のぬいぐるみがふわりと浮かんで顔の前に・・・キター!?

 

「マクリルの名前はマクリルって言うリル。よろしくヨシコ。」

 

「へ、あぁうん。よろ、しく?」

 

「ヴィヴィオって言います。はじめまして・・・」

 

「うむ。ヴィヴィオもよろしくリル。」

 

「時間が無いから簡単に説明するリル。マクリルはメグメルというこの人間界とは別な世界から来たリル。マクリルはそのメグメルで常夜の住人を見張る仕事をしているリル。」

 

「はぁ…」

 

「そして、この人間界で悪意ある魔の力が溢れるのを観測したリル。それがあれリル。」

 

マクリルが指差したのはテレビに映る鬼。ウラメシヤーーー!と叫びながら暴れている。

 

「あ、あれ!?」

 

「あれを倒すのにヨシコの力を貸して欲しいリル。」

 

「えぇ!?無理無理無理!!だめだよぉ!あたし魔導士ランクの試験も落ちてばっかでダメダメだから・・・役には立てないよ・・・」

 

「それなら私が行く!!!私の方が戦い慣れてるよ!」

 

「ヴィヴィオじゃダメリル。魔力の影響が強すぎるリル。」

 

「どうして!?」

 

「この人間界でいう魔力は、魔の力なんだリル。だから同じ魔の力の塊であるウラメシーナには勝てないリル。」

 

「ウラメシーナ…ってあの怪物のこと?」

 

「そうリル。あれを…あいつらを倒すには光の力に溢れる伝説の戦士プリキュアじゃないと倒せないリル。頼むヨシコ!プリキュアになれる可能性があるのはヨシコだけリル!」

 

「あ、あたししか…」

 

「このままだとこの人間界は悪意ある魔の力に蹂躙されてしまうリル…豊かなこの世界に常夜の住人を跋扈させるわけには行かないリル…ヨシコ…お願いリル…!」

 

「ヨシコ…」

 

「で、でもフェイトさんに家にいろって…言われたし?それにあたしは飛べないし足手まといになるだけだよ…」

 

「ヨシコッ!!!」

 

「ッ!」

 

ヴィヴィオが立ち上がってあたしを睨む。いつもの顔とは違い、何か風格がある真剣な顔だった。

 

「あのねヨシコ…なのはママが言ってたよ。困っている人がいて、助けてあげられる力が自分にあるなら、

そのときは迷っちゃいけないって・・・言い付けを守らなかったらすごく怒られると思う。ここで行かなかったら怒られないけどすごく後悔する!」

 

「ヴィヴィオ…」

 

「大丈夫!ママ達にはちゃんとお家にいたって言うから!」

 

「ヴィヴィオ…」

 

《大変です!陸士隊の防衛戦を怪物が突破しました!!住宅街までさほど距離がありません!管理局は巡洋艦の使用を決定したようです!》

 

「マクリル…後であたしより強い人が出てきても途中で変わったりしないんだからね!あたしの決意は固結びで絶対ほどけないんだから!!」

 

「ヨシコ…ありがとうリル!」

 

「ヴィヴィオ!あたし行ってくる!!」

 

「うん…気を付けてね。」

 

ヴィヴィオ…あたしちゃんと帰ってくるからそんな悲しそうな顔しないでね。

 

「あ!ボルシチ全部食べないでね!」

 

「わ、私そんなに食いしん坊じゃないよ!」

 

あたしはコートを取ってマクリルを抱え玄関から飛び出した。

 

 

・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・・

 

・・

 

 

 

「くっ…全然効いてない…!!」

 

「なのは!危ない!」

 

フェイトがなのはを抱えて振り回される金棒を避ける。

 

「フェイトちゃんありがとう!」

 

「陸士隊は壊滅したって…アイツはいったいなんなんだ。どこかの実験施設から逃げたの…?」

 

『違うで。』

 

「はやて!」

 

フェイトとなのはの前に空間モニターが浮かび、焦燥しきった顔のはやてから通信が届く。

 

『目撃証言やと突然出現したらしいで。転移魔法の痕跡も無し。ものの見事に突然出現しおったんや。』

 

「あれだけの質量のあるものをどこに…」

 

「とにかく!このままだと住宅区に入っちゃう!ダメージが通らないなら足止めだけでもしなくちゃ!」

 

「ウラメシヤアアアアア!!!」

 

「きゃあっ」

 

鬼の金棒が二人のすぐ前を通りすぎて空間モニターを砕く。すぐさま体勢を立て直した二人は残りの局員に指示をだす。

 

「みんな聞いて!防衛線が突破された今このままだとクラナガンの被害が増えるばかりで住宅区にも被害が出かねない!バインドで動きを止めます!!」

 

指示が飛ぶと直ぐ様様々な箇所からバインドが伸び怪物を縛って行く。

 

「ウラメシヤーーー!?」

 

「よし!動きは止められる…でもこれからどうしよう…」

 

「私が!このまま砲撃で港まで吹き飛ばす!」

 

「で、出来るの!?」

 

『やってもらうしかあらへんな。』

 

再び空間モニターが現れはやてから指示が届く。

 

『なのはちゃん、こっちで管制するから余計なこと考えずに遠慮なくぶっぱなしてええで。全力全開や。』

 

「わかった!行くよレイジングハート!!」

 

《All right.》

 

「カートリッジロード!!」

 

《cartridge load.》

 

煙を吹き出しながらカートリッジを3発ロードする。

ピンク色の魔力が収束されている。

 

「アンカー接地!」

 

なのはが地面に足を付けると腰と足首からバインドが射出され体が固定される。

 

「はやてちゃん!」

 

『角度修正…風向き…重力計算…おっけーや!!レイジングハート!』

 

《complete.》

 

「みんな対ショック防御!」

 

「「「「了解」」」」

 

「ディバインバスター!」

 

《Divine Buster Extension》

 

地響きと共に光の奔流がレイジングハートから放出され怪物をバインドごと根こそぎ吹っ飛ばす。

 

「ウラ!?ウラメシヤァァァァァァァァァ!!!」

 

『ええで!なのはちゃん!計算通りぶっ飛んでくれとる!』

 

「それはいいけど…これは…」

 

なのはの周辺は砲撃の衝撃波で道路は砕け、ビルの窓は吹き飛ばされ、車は大破して転がっている。

しばらくすると怪物が落下したのであろう轟音が聞こえてきた。

 

「私は飛んだ向こうを見てくる!」

 

「お願い!」

 

フェイトが港の方へ吹き飛んだ怪物を追おうと魔法を使おうとしたその時。

 

『待った!フェイトちゃん!』

 

怪物が 落下した場所で光の柱が上がる

 

「こ、今度はなに!?」

 

『わからん…魔力とは違う高エネルギー反応…まさかあの怪物が…!?』

 

「・・・違うと思う。」

 

「なのは?」

 

『なんでや?』

 

「あの光からは…あの怪物から感じた背筋が凍るような感じはしない…それよりも優しくて…暖かい光…」

 

『とにかく…こっちは私らに任せて航空隊率いて急行して!』

 

「了解!」

 

・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・・

 

・・

 

 

「だめだよぉ!マクリル!規制線張られてて近寄れないよ!」

 

「なんとか入るリル!」

 

「そんなこと言ってもぉ!」

 

勢いよく出てきたけど心折れそう…局員の人いっぱい見張ってるし。走って走って…どこに行こう…

 

「もっと速く走れないリル?」

 

「そうしたら局員にバレちゃうよ、戦うどころじゃなくなるけど…」

 

「ウラメシヤァァァァァァ」

 

「きゃああああ!」

 

「リルゥゥゥゥ!?」

 

すっごい衝撃波…なのはさんのディバインバスターでウラメシーナが港の方まで吹き飛んでる。

 

「あっちなら早い!いちかばちか・・・行くよマクリル!」

 

「うごご…はっ!待つリル!待っt」

 

辺りは衝撃波でパニックになってる一般人が多い…これなら唯一使えるブリッツアクションで走ってもバレないしすぐ行ける!水路を行けばもっと早い!

 

「水路に出るよ!」

 

「は、早い!早いリル!うわぁー!」

 

ビュンビュン壁やライトが通りすぎて行く。あたしが思ってた魔法っていうのは暖かい太陽の光が降り注ぐ青空を雲と一緒に空を飛んだりとかお花を出したりとか…うう…

 

「うう…」

 

「・・・ごめんリル…」

 

「マクリル?」

 

「ヨシコ…泣くほど怖がってるリル…ヨシコには大変なことを任せてしまったリル…戦いは大人の仕事のはずリル…」

 

「今さら辞めらんないよ!戦うのは怖いけどね…さっきも言ったけどあたしの決意はもう絶対ほどけないの!固結びで結んじゃったんだから!」

 

「・・・本当にありがとうリル。」

 

「そろそろ着くよ!」

 

水路を抜けると…ウラメシーナのすぐ近くだった。大きなクレーターの中で蠢く赤鬼は近くで見るとすごく大きい…怖い…

 

「ヨシコ、これを使うリル!」

 

「え?」

 

脇に抱えたマクリルのリュックから小さな光の塊がふわふわと出てきて…これは…?

 

「これはリリカルコミューン。プリキュアになるための変身アイテムリル!」

 

「こ、これを使えばいいのね!マクリル危ないから離れてて!」

 

「わ、わかったリル!」

 

怖い!怖い!

 

「ウラメシヤァァァァァァァァァ!!!」

 

穴から出てきた…立ち上がったらもっと大きい…!怖い!怖い!怖い!

 

「ここここの赤鬼!!あたしが相手よ!!!」

 

「ウラァァァ!?」

 

「ひぃっ…!」

 

なのはさんやフェイトさんの魔法は効いてなかった…厳しい訓練をしている局員さんも勝てなかった…

 

「ウラァァァメシィィィヤァァァ!!!」

 

金棒が降ってくる!でも逃げない!涙流してカッコ悪くても立ち向かわなきゃ!一度決めたあたしの心はほどけない!

 

「だぁぁぁぁぁ!!!」

 

《break open!》

 

リリカルコミューンが開いて…!?体が浮き上がるような感覚がして…いつのまにか光に包まれている…リリカルコミューンが開いて…これは、宝石?ピンクと緑と黄色と青の宝石のうちピンクの宝石が光って?!

 

「プリキュア!スタンドアップ!」

 

《reload!》

 

口ががが、勝手に喋った!?というかリリカルコミューンの声もあたしの声!?

 

《Go!Go!stand up precure!》

 

自分の体が光に包まれ外巻きショートの頭と腰に大きなリボンが結ばれる。すごい勢いで服が切り替わっていって…デニムはフレアスカートにシャツはブローチの付いた白にピンクの差し色の意匠のドレスは動きやすく体の動きを全く邪魔しない。

 

「やッ!」

 

手を打ち鳴らすと顔にバイザーが装着され腰にポーチの付いたベルトが巻かれる。ポーチにリリカルコミューンがすっぽり収まり。ヒールのあるブーツでも着地はばっちり!

 

光の渦が晴れると変身が終わり先程の港のウラメシーナの前に戻る。

 

「温良篤厚、春香る優しさの魔法!キュアリボン プリム!!!」

 

ビシッと決めポーズと名乗り!決まった。

 

「ウグググ!?」

 

ウラメシーナがたじろいでる!ということは成功なんだ!

 

「他所のお家を荒らす悪漢!一罰百戒、恥を知れ!!!」

 

決め台詞終わってなかった。グサッとウラメシーナを指差して追い討ちかぁ…

 

「せ、成功リル!ヨシコやったリル!」

 

「マ、マクリル!なんか身体が勝手に動いて勝手に喋ってるけど・・・!?」

 

「大丈夫リル!名乗りはやっぱり大事リル。名乗ってる間は強固に守られているから・・・」

 

「時空管理局です!あなたは何者・・・!?」

 

マクリルのいる方へ振り向いたら上空にフェイトさんが!?変身見られた…?バレてないよね!?ね!?

 

 

 

 

 

 




No.1オニウラメシーナ


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超過酷!戦いの覚悟!

「ふわぁぁ!?どうしよう!?早速見つかっちゃったぁぁぁ!!」

 

「今すぐそこを離れて!そいつには魔法じゃ有効なダメージが与えられない!」

 

「わ、わかってます!けど…」

 

「ウラメシーヤァァァァァァ!!!」

 

「きゃああああっ!!」

 

「あなた!」

 

金棒の直撃。余所見をしていたら振り上げられた金棒に気づかなかった…しかし以外と体に違和感はない。頭…冴えてる。腕…痛くない。足…走れる!土煙が晴れて自分の姿を見て驚いた!

 

「う、受け止めた?」

 

「し、身体強化も無しに!?」

 

「な、なら!よっしゃあー!今度はこっちの番だよーっ!!」

 

受け止めた金棒を…そのままあたしを軸にぶん回す!港じゃ被害が広がっちゃうから…

 

「海まで飛んでけーっ!!!」

 

「ウラァァァ!?」

 

「なんてパワー…」

 

面白いほど体が自由に動く。勝手に動いていてもそれはあたしの望んだ動きであってオートじゃない。戦える。これなら!

 

「プリキュアってすごい…!どりゃぁぁぁぁ!!!」

 

「ウラメシーヤァァァァァァ」

 

踵落とし!振り落とされたそれはウラメシーナの頭に直撃して大きくよろめいて顔の面に大きなヒビが入 った。

 

 

・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・・

 

・・

 

 

「すごい…魔法も無しに…」

 

「フェイトちゃん!」

 

「なのは…」

 

「あれは!?誰が戦ってるの?!」

 

「わからない…でもあたしたちがどうあがいても足止めが精一杯だったのにあの子は押してる…魔法も無しでどうして…」

 

「とにかく!お話はあとで聞くとして今は怪物を倒さないと!」

 

「わ、わかった!」

 

海で格闘戦を繰り広げるあの子は飛行魔法も無しに空を舞い、身体強化魔法も無しに巨大な拳を受けとめ、攻撃魔法も無しに怪物を追い詰めている。悔しい…私たちは無力だ…今はそんなこと考えても仕方ない!あの子を守らないと!

 

「あなた!今から怪物を足止めします!その間に攻撃して!」

 

「へうぇ!?」

 

「今!あの怪物と戦えるのはあなただけなの!わかる!?」

 

「わ、わかりました!」

 

まだなんともあどけなさが残るあの子…バイザーで顔が分からないが誰なんだろうか…あの怪物となんの関係があるのか…どこかの機関からあの怪物の始末の為に送られたのか…それとも…

 

「航空隊!怪物にバインドを!」

 

怪物を再び拘束…身動きが取れない怪物にどんどん打ち込んでいくあの子は人間なのか。魔力の反応が無いということは人体に改造を施されているのではないか…魔力無しにあれほどの動きが出来るのを見ると…戦闘機人を思い出す。

 

「ッ…」

 

あれが。まだあの残酷な所業が行われているのか…そう思うと無力な私が憎い…

 

「っだぁぁぁぁ!!!」

 

あの子の拳が拘束のバインドごと怪物を吹き飛ばした。カートリッジ三発を使用したなのはのディバインバスター以上の威力があるパンチ…どういう原理なのだろうか…

 

「すごい…なんて威力のパンチ…」

 

「本当に…私達が拘束とか手助けする必要も無さそうだ…あの子はいったい…」

 

「魔力無しにということは戦闘機人…?」

 

「スカリエッティは逮捕したんだ!そんな筈は…」

 

「でも…」

 

あの子も…被害者なのか…時折誰かと会話しているような素振りを見せるからやはり自分のマスターと通話しながら…戦闘レポートを取りながら戦って本当に戦闘機人なのか…どちらにせよ

 

「私達が…何もしないわけには…!」

 

 

・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

・・

 

 

ウラメシーナは弱って来てるように見える。このまま殴って蹴ってを続ければ勝てるかも…!

 

「リボン!浄化技で悪意を浄化するリル!」

 

「え!?ど、どうやるの!?」

 

「気合いを貯めて出すカリル!」

 

「戦闘中にそんなこと出来るわけないじゃん!」

 

「いいからはやくするリル!弱ってる今がチャンスリル!」

 

「わ、わかった!むむむむ~!!出ろー!」

 

両手を広げてやってみるがプスンとも言わない。うっそー!!!

 

「出ないよー!うそつきー!!」

 

「気合いが足りないリル!リボン危ない!」

 

「へ!?うきゃあっ!!」

 

金棒が再び直撃!受け止めたけど下が海で沈んじゃう!!!

 

「ゴボゴボガボボボ!!」

 

「リ、リボンーーー!?」

 

「ぷはあっ!このぉぉぉぉ!!」

 

勢いよく飛び出してそのままアッパーカットを食らわせる!危ない危ない…このまま沈んでお魚さんとお友だちになるにはまだ早いよ~

 

「もう怒ったよ!!!いっくぞー!!!ってうわわわ!?」

 

これからまたもう一発お見舞いしてやろうとしたらリリカルコミューンが光を放ち出して!気合い貯まった?

 

「リボン!今リル!」

 

「よし!」

 

脇を絞めて肘を曲げて!いざ!

 

「プリキュア!」

 

また体が勝手に動き出す。腰を低くして左の拳をパワーを溜めるように引く、すると魔法使うときの魔方陣の様に前方に五枚の花びらが現れる。水面で踏ん張れるか心配だったけど何も問題ないみたい。

 

「プリムヴェールシャイニィィィング!!!」

 

左の拳をウラメシーナ目掛けて解放すると…ピンク色の光の奔流がウラメシーナを飲み込んだ。

 

「ナムサンンンンンンン!!!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ウラメシーナが消し去られるまで光の放出は続いて衝撃波でたなびく頭と腰のリボンが静けさを取り戻すと…戦いが終わった安堵があたしを満たした。

 

「かっ…勝ったの…?」

 

「リボン、お疲れさまリル。」

 

「あなた!」

 

「ひぅっ!!!!」

 

頭の上から声がして振り向くと…そこにはなのはさんとフェイトさんと…たくさんの航空隊員。 フェイトさんがゆっくり降りて来て水面に立つあたしの手を握ると…

 

「お疲れさま…辛かったね…でも少しだけ、お話、聞かせてくれる?」

 

「え、えーっとぉ…」

 

わかるッ!!わかるぞ!!フェイトさんのこの顔は!!!何かあたしにすごい勘違いをしている顔!!!

 

「もう、嫌々戦わなくてもいいの…全部私たちに任せて…ね?」

 

「あ、あははは…で、出来ればそうしたいですね…」

 

「大丈夫!私がもうそんなことさせないから!だから…もう…いいの…」

 

うわあああフェイトさん抱きついて来て涙が!お胸が!…なのはさんも静かに見守られては…困る!!!このままではバレる!!!

 

「(マクリル助けて!)」

 

「(こういう言葉があるリル。)」

 

「(なによ!!)」

 

「(三十六計逃げるに如かず、リル。)」

 

「(うっそー!!!)」

 

やるしかない。バレるよりは…いい。今戦ってたのが芳子だとバレたら・・・バインドで捕まえられてサンダーレイジされる!!!!ごめんなさい。フェイトさんなのはさん本当にごめんなさい。心で唱えながらフェイトさんを…剥がす!

 

「あ、大丈夫…?」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

「え?」

 

「ごめんなさぁぁぁい!!!」

 

「うわあっ!?」

 

「フェイトちゃ…うぐ!」

 

フェイトさんをなのはさんに向かってぶん投げて!力一杯逃げる!!!わぁおひと蹴りでデッカイ水柱が…それにあんなに離れて…というかキーンて音がしてソニックブーム?音速系女子?

 

「とりあえず人目の無いとこまで行って変身を解こう!マクリル置いてきてごめん!」

 

「いるリル。」

 

「え!?」

 

「ここリル!」

 

リリカルコミューンからにょきって…気持ち悪…

 

「気持ち悪…」

 

「本音出てるリル!どうして逃げるリル?プリキュアの正体は別にバレても一応問題はないリル。」

 

「あたしが問題あるの!うえぇぇぇん!どうしよお~!」

 

・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・・

 

・・

 

 

「いたた…ごめんなのは…」

 

「ううん…大丈夫?フェイトちゃん…」

 

「うん…でも、逃げられちゃった…」

 

「すっごい速かったね…もう見えないよ。」

 

「・・・。」

 

「フェイトちゃん?」

 

「あの子…ごめんなさいって言う時、とても苦しそうだった。きっと何か辞められない理由があるんだ。家族が人質とか・・・」

 

「フェイトちゃん…!」

 

「なのはも見たでしょ?あの身体能力、最後の魔法も怪物を塵も残さず吹き飛ばす程の威力だった。限界を越えた改造を施されているに違いないよ…」

 

「あの子…戦闘機人なのかな…」

 

「わからない…わからないけど…あの怪物と一緒にあの子についても調べなくちゃ!」

 

無力な私でも力を発揮出来る場所はある!あんな、悲しいごめんなさいはもう二度と聞きたくないから…

 

「行こうなのは…今日は徹夜だね。」

 

「うん…一回家に帰ってヴィヴィオとヨシコちゃんの様子見に行かないとね。きっとヨシコちゃんはこんなの初めてだから怖がってるよ。」

 

「そっか…そうだね。まずはヨシコを安心させてあげないと…」

 

「私達はあの怪物には無力だったけどね…」

 

「・・・。」

 

そうだ…私達はあの怪物に対して無力だった…あの怪物もいったいなんなのだろうか。町を破壊するのが目的だったのか…魔法が全然効かないのは何故か…どこから現れたのか…生物兵器にしては…

 

「人型…怪物…まさかあの怪物も…実験生物兵器…!」

 

全身の毛が逆立ちそうだ。あの子は改造を施されても少女だった。怪物はどうだ。人型ということは人間に改造を施した結果…なのか。 なんて…なんて酷いことを…

 

 

「フェイトちゃん。とりあえず戻ろう?」

 

「あ、うん…ごめんなのは。航空隊の皆さんは残留物の捜索、お願いします。」

 

・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・・

 

・・

 

 

「ふへぇ~えぇ~ただいまヴィヴィオ~・・・」

 

「おかえりヨシコ」

 

無事帰ってこれた。追跡は…されてないはず・・・たぶん…かなり遠くで変身を解いたから走った走った…

 

「もー汗だく…シャワー浴びてくるね…」

 

「じゃあ一緒に入ろ!私も入るところだったから!」

 

「いいねーそうしようか。」

 

コートをかけて部屋に着替えを取りに…タオルは…

 

「これかぁ…ふわぁああ」

 

「ヨシコ~先に入るね~」

 

「はぁーい。」

 

疲れた…変身が解けたあと、とてつもない疲労感がきた。まるでフルマラソン走ったみたいな疲労感だ。そこから走って帰ってくるんだからもう大変だった。もう動けない…

 

「むにゃ・・・ヤバイ…汗流さないと…ぐー…zzz」

 

「ヨシコ~?どうしたの~?ヨシコ~?」

 

ああ…風呂場からヴィヴィオ呼んでる…でももう動けないや…

 

「すや…」

 

ごめんヴィヴィオ…あたし寝るわ~

 

・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・・

 

・・

 

 

あの怪物との戦闘の後にも関わらず報告書は多くなかった。それよりも上が下した決断が納得の行くものではなかった。

 

「・・・公式には私が倒したことにするって…」

 

「あの子の正体がわからない以上仕方がないとは思うけど…いい気分しないね。」

 

「エースオブエースか…今回はそんな活躍してないのに…それに混乱に生じて海に落ちた人がいたのを救助しただけだし・・・」

 

とぼとぼと二人で帰路に着いたのは22時を過ぎていた。到着するとバタバタと少し家の中が慌ただしい。

 

「ただいまー。ヴィヴィオ?もうこんな時間に何してるの?」

 

「あっ!?ママ!?あの…えっとヨシコが!」

 

「ヨシコちゃんが…?」

 

「ヨシコがどうしたの!?」

 

ヨシコに何かあったの?私達がいない間に?実は怪物は複数体いたの?

 

「あー…えっと…その…」

 

「ヴィヴィオ、落ち着いて?ヨシコに何があったの!?」

 

「フェイトちゃんも落ち着いて!」

 

「そ、そう!ヨシコったらテレビで怪物見てびっくりして気絶しちゃったの!魘されてて汗が酷いから体を拭いてあげてたんだけど…」

 

「ヨシコ!」

 

家の中に飛び込んでヨシコの部屋に向かう。あまり物の多くない片付いた綺麗な部屋。端のベッドにうんうんと唸るヨシコがいた。私は手汗に濡れた手を握る…

 

「ヨシコ!・・・ごめん…怖かったね…そばにいられなくてごめんね…」

 

「フェイトちゃん。」

 

ヨシコはロストロギアの暴走で怖い目にあったから今回の事も案の定・・・すごく怖かったよね・・・なのはか私か家に残れれば良かった・・・

 

「ふわ・・・フェイトさん・・・?んん!?フェイトさん!?」

 

「ヨシコ?起きた?大丈夫?」

 

「はははい!大丈夫ですぅ!?」

 

「どうしたの慌てて・・・?それにまだ顔色悪いよ。」

 

「あ、いや、えへへ。そ、そうですか?」

 

ヨシコは顔色が悪い、それになんか汗もすごくかいてるし・・・それか落ち着きがない。

 

「ヴィヴィオはもう寝よっか?明日も学校でしょ?ヨシコはわたしとフェイトちゃんに任せてね。」

 

「う、うん!ありがとママ!ヨシコもお大事に!」

 

「ありがとヴィヴィオ。」

 

「ヨシコも、もう寝る?お薬とかいる?」

 

「あ、だ、大丈夫です。ありがとうございます。」

 

「そう・・・それじゃあお休み。お大事にね。」

 

ヨシコのこともっとしっかり見てあげないと・・・せっかく魔導士になるためにミッドに来てるんだから。なのはばっかりじゃなくて私も見てあげなくちゃ。有給・・・すごいたまってたっけ・・・

 

・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・・

 

・・

 

 

危なかった・・・追求されてたら。あたしどんなボロ出しちゃうかわかんないからなぁ・・・フェイトさん・・・すごい心配してたなぁ・・・もしかしてバレてた?

 

「(危なかったぁ~ありがとヴィヴィオ~)」

 

「(ううんヨシコもお疲れ様。大丈夫だった?)」

 

「(すんごい怖かったよ・・・戦うって大変だね・・・私が負けたら、みんなやられちゃうと思うと、プレッシャーに潰されそう。)」

 

「(そうだよ。戦うっていろんな人の想いが重なり合うからすごく大変・・・覚悟が無いと潰されちゃうよ。)」

 

「(うん・・・というかヴィヴィオはなんか・・・達観してる・・・ね?)」

 

「(昔、ちょっとね。)」

 

魔法の練習はしてるけど、やっぱり戦うのはあたしには難しいのかな。なのはさんにもあたしは優しすぎるって言われちゃったことあるけど・・・でもマクリルにあたししか出来ないって言ってたし途中で諦めるのは嫌だ。

 

「ヨシコ。」

 

「ん、なぁにマクリル?」

 

「プリキュアの力は使うごとに強くなるリル。使うごとにくる疲労も慣れることで楽になるリル。最初はかなりしんどいと思うけど、頑張って欲しいリル。」

 

「うん。わかったよ。ありがとうマクリル。」

 

「ほんとは・・・マクリル達が戦いたいリル。でもマクリルのようなメグメルの妖精に戦う力は無いリル。ヨシコのような女の子が戦っているのに見ていることしか出来ないのはホントに辛いリル・・・申し訳ないリル・・・」

 

「ううん。良いんだよマクリル。あたしにしか出来ないんでしょ?出来る人がやらなきゃ。」

 

「ごめんリル・・・」

 

「マクリルももう寝よ?疲れたでしょ?」

 

「おやすみヨシコ。」

 

「おやすみ・・・」

 

そういえば・・・マクリルは常夜の住人達って言ってたっけ・・・これから何度も戦わなきゃいけないんだ・・・頑張らなきゃ。その為にも今はゆっくり休もう。

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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SOS!大海原で危機一髪!

「うわぁー!きれー!」

 

「ヨシコ?あんまり乗り出すと落っこちちゃうよ?」

 

今日は船に乗ってフェイトさんとクルージングです!すごーく大きな船で中にレストランやオペラホールまであるいわゆる豪華客船っていうやつです!フェイトさん、忙しいのにお休みとって先日寝込んでしまったあたしの為に連れてきたそうです。うう・・・罪悪感が・・・

 

「フェイトさん、今日は本当にありがとうございます。執務官のお仕事忙しい筈なのに・・・」

 

「いいの。いつもはなのはばっかりでしょ?たまには私とお出かけして欲しかったな。」

 

「じゃあこれからはフェイトさんともいっぱいお話します!それといっぱいお出かけもして・・・えっと・・・」

 

「大丈夫。焦らなくても。上層部から有給使ってくれって言われてるからもっとお休みとるから時間はいっぱいあるよ。」

 

「はい!」

 

「とりあえず、あと30分くらいでミュージカルが始まるみたいだから見に行かない?」

 

「ミュージカル・・・楽しみです。」

 

あれからプリキュアとして戦うようなことは無かったし常夜の住人っていうのも案外忙しかったりして?というか船が大きすぎて迷いそう。ちゃんと地図見て覚えておかないと・・・

 

「(ヨシコ)」

 

「(なにマクリル?)」

 

「(海初めてみたリル。あとでもう一回海をみたいリル)」

 

「(わかった。ミュージカルがどれくらいかかるかわかんないけど後でもう一回甲板に出るよ。)」

 

「(ありがとうヨシコ)」

 

一応マクリルもいっしょです。万が一も考えて、付いてきてもらいました。正直、何も無いことに越したことはないんだけどね。

 

「ヨシコー?こっちだよ-?」

 

「はーい!」

 

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「ヨシコいーなー今頃フェイトママと豪華客船の旅かー」

 

私はおうちのソファーで足をぶらつかせてヨシコから送られてきた写真を見ています。ひろーい海、キレイな空。私も行きたかったなー行きたかったなー!

 

「フェイトさんが有給取るってなったら本局は大慌てだったのよ。レティ提督は船旅のチケットまで用意しちゃって。」

 

「あはは・・・フェイトちゃん愛されてるねぇ。そういえばティアナはちゃんと休んでる?」

 

「はい。まぁ休むとき残った仕事はいつもフェイトさんがいつのまにか持っていってしまってたんで・・・なんとかしなきゃとは思ってましたけど・・・」

 

「そうなんだ。はいコーヒー、ヴィヴィオはココアね。今日のおやつはシフォンケーキでーす!」

 

「わーい。」

 

「ありがとうございます。・・・ふぅ。今回はほとんど書類関係は終わらせて来たので私もしっかり休めてます。スバルは休めなかったみたいですけど・・・それより、なのはさん。」

 

「なに?」

 

気がついたらティアナさんとなのはママの雰囲気が変わってる・・・仕事の話かな?私は部屋に戻ったほうがいいかな?

 

「最近流行ってる都市伝説・・・聞いたことありますか?」

 

「都市伝説・・・?」

 

「あー!知ってる!知ってるよ!」

 

知ってます。学校でもその話で持ちきりです。

 

「夜になるとオバケがやってきて人間を食べちゃうやつでしょ?」

 

「オバケ?」

 

「・・・はい。」

 

「ミッドチルダでオバケとか幽霊なんてそんなの・・・」

 

「この間の魔法の効かない怪物、あれは確かなのはさんも出動されてましたよね?」

 

「・・・うん。10メートルくらいの人型の怪物だよね。ディバインバスターも効かなくてすごく焦ったよ。」

 

「あれが都市伝説のオバケなのではないか・・・という話が本局で上がっています。」

 

「嘘・・・」

 

「ヴィヴィオ、都市伝説の話は一般人の噂のほうがより具体的に描写されてる筈だから教えてくれない?局内じゃあんまり信じてる人いなくて詳しい話は聞いたことないのよね。」

 

「はい、えっと・・・」

 

そういえばこの都市伝説、いろんなバリエーションがあったんだっけ・・・一番メジャーなのは・・・

 

「・・・夜になると、どこからともなくオバケが現れて『うらめしやー』って声を掛けてくる。その時に恨みや妬み、嫉み、負の気持ちを持っているとオバケに食べられてしまう。オバケに食べられた人はまた新しいオバケになってしまう・・・ってやつ。オバケから逃げるにはシャツを裏表逆に着るとか靴を片方だけ脱いで逃げると逃げられるとかもあるよ。」

 

「そ、そんなのがあったんだ。まるで口裂け女みたいだね。」

 

「ありがとうヴィヴィオ。うん・・・私の知ってるやつは逃げ方なんては聞いてなかったわね。」

 

「あといっぱいバリエーションがあるよ。そのオバケは人間の悪意の気持ちが具現化した存在だとか別な世界から来た侵略者だとか。」

 

「それは・・・知らなかったわね。都市伝説なんてほんと聞き込みしないと調べられないから大変なのよね。」

 

「・・・そうなんだ・・・」

 

「学校でも放課後は寄り道しないで早く帰るように言われてるよ。」

 

「そうだね。ヴィヴィオも帰りは一人で帰らないで誰かお友達と帰ってきてね。」

 

「はーい。」

 

「それでその『オバケ』らしきものに戦ったなのはさんにお話を聞こうと思いまして。」

 

「それならフェイトちゃんも戦ってたよ?」

 

「あー・・・フェイトさんも都市伝説信じてない派なんで・・・どこかの違法実験生物だって言ってるんですよ・・・フェイトさんがそっち方面で調べるなら補佐官の私は別な方向から調べようと思いまして。」

 

「そうなんだ・・・まったくフェイトちゃん・・・じゃあね、あの怪物に遭遇したときはね・・・」

 

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-

 

「はぁー・・・どうしよう・・・」

 

時は逢魔が時、場所は火災があって封鎖された空港内、誰も立ち入ることが無い場所に男はいた。この男、船乗りの元管理局員。元なのは次元航行艦の退役によってリストラされてしまったからだ。

 

「まだ・・・船に乗りたかった・・・せっかく資格もとって階級も上がってくると思ったのに・・・あんまりだよ・・・なんで俺がこんな目に遭うんだ・・・もっとクビになってもいいやついるだろうがクソ・・・マークとかサボってばっかりで・・・ポーンもこないだ書類ミスして怒られてた役立たずじゃねーか・・・なんでだよ・・・なんで俺が・・・自分の船があれば・・・でっかい・・・でっかい船の船長になりたかったなぁ・・・」

 

「ナラバ、フネ、ウバエバイイ。」

 

「奪うなんてそんなの犯罪じゃ・・・んっ?えっ!?」

 

男が声のした方向に振り返ると、そこには巨大な牛の頭、牛頭はぬうっと闇から巨大な身体を乗り出して男に近づいた。

 

「オレ、ウシオニ。ホシイナラ、ウバエ、チカラデ、テニイレロ。」

 

「な、あ・・・あぅ・・・ひ・・・え・・・」

 

「オレ、チカラ、ヤル。オマエニ。」

 

牛鬼の口からぬらりと長い舌が出される。舌の先には黒ずんだ不気味な木の面、面はおびえる男の顔にすぅーと張り付くとゴボゴボとヘドロのようなものが溢れ始める。

 

「うあああああ!!!!んごっ・・・!?ごぶ・・・がぼっ・・・」

 

「イケ。テニイレロ。ウラメシーナ」

 

「ゴボゴボゴボボボボボボ!!!!!ウラメシヤーーーーー!!!!」

 

ヘドロでふくれあがった男は怪物と化し、悪臭を放つヘドロを撒き散らしながら海へと飛び込んでいった。

 

 

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「なかなか面白かったね。」

 

「そうですね!あの車がきりもみ回転しながら飛び出して来た時はドキドキしました!」

 

「しかも運転手、普通に出てきて踊り出すからアクターってすごいね。」

 

「ほんとですねータフさなら管理局員にも並ぶとも劣らない感じですね。」

 

「そこは、負けてられないかな。」

 

ミッドチルダのミュージカルは楽しかった。とにかくあたしの知っているミュージカルというものを木端微塵にぶちこわしてくれた。別世界の芸能だから少し不安だったけど心配がバカらしくなる。魔法の技術をふんだんに使った素晴らしいステージだった。魔導士って管理局員以外にもこんな仕事も出来るんだなぁ。こういう方向に行くのも楽しそう・・・

 

「大分時間遅くなったし、ご飯食べに行こうか。この船は第77管理世界アシュトルム出身の有名なシェフが作る鷹狩りをする大型の豚、ホークダウンの料理が美味しいんだって。」

 

「その料理、地上部隊に好かれてそうですね。」

 

「なんで知ってるの?味は最高だって聞いてるから食べてみたかったんだよね。」

 

「じゃあさっそく食べに行きましょう!」

 

「あ、ヨシコ待ってレストランはこっち。」

 

「えへへ・・・すみません・・・」

 

「もう。せっかちなんだか・・・ごめんヨシコ、ちょっと通信が。」

 

そういうとフェイトさんが空間モニターを開いてどこかと通信を始めてしまう。なんか「休暇中申し訳・・・」とか「緊急事態・・・」なにやら物騒な単語が聞こえて来ると船に警報が鳴り響いた。

 

「ヨシコ!部屋に戻って鍵を閉めて待ってて!私は船長と話してくるから!」

 

「ええっと・・・なんかマズイ感じですか?」

 

「よくわからないけど・・・この海域にいる船が次々に何かに襲われてるみたいなの。海賊の可能性があるから部屋から出ちゃだめだよ。」

 

フェイトさんが言うと同時に船内放送で部屋に戻って、係員の指示に従って等の放送が流れた。せっかくの船旅が台無しだ。

 

「ヨシコ、絶対に、絶対に部屋から出ちゃダメだよ!私が守るから・・・お願いね。」

 

「あ・・・」

 

フェイトさんがバリアジャケットを展開して瞬時に駆け出して行く。・・・とりあえず部屋に戻ろう。

 

「ヨシコ!」

 

「マクリル!?カバンから出てきちゃダメ!」

 

「ウラメシーナが近づいて来てるリル!」

 

「うそでしょ!!?」

 

「早く変身するリル!」

 

「ここじゃばれちゃうでしょ!?ええっと・・・どこなら人がいないかな・・・」

 

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-

 

「くそ・・・!ミッドチルダで海賊だなんて・・・」

 

「船長・・・港との通信が途切れました!へんなノイズが走っていて・・・」

 

「呼びかけ続けるんだ!」

 

「船長!進路は!?」

 

「港へ引き返すぞ!到着港に戻るよりは早い!襲われた船のあるルートは避けろ!」

 

「アイサー!」

 

「船長!ハラオウン執務官が面会を求めています。」

 

「なに!?執務官だと!助かる・・・入れてくれ!」

 

「はい!」

 

「船長!フェイト・T・ハラオウンです。状況は?」

 

「港との通信が取れない。このまま到着予定港に向かうより引き返した方が早い。船内に警備隊を配備して厳重警戒する予定です。」

 

「船の武装は?」

 

「ありません・・・武装になりそうなものは消化用の放水砲くらいです。」

 

「レーダーなどに反応があったら・・・」

 

「船長!レーダーに感あり・・・これは・・・」

 

「どうした!?」

 

「船・・・です・・・船の残骸が・・・おかしい・・・船がいつのまにか航行ルートをかなりの距離引き返しています・・・!」

 

「なに・・・?」

 

船長達が船の窓から周囲を見渡すと、大小問わず真っ二つになった船や燃えさかる残骸が見えた。

 

「な、なんだこれは・・・いったいなにが・・・」

 

船長がつぶやいた瞬間船の電気が消えて船に大きな振動が走る。気がつくと船の周りは濃い霧に包まれていて10メートル先も見えなくなっていた。

 

「船長!機関停止!電力ダウン!」

 

「なにが・・・起きているの・・・!!」

 

「わかりません執務官・・・しかし今のでわかったことがあります。」

 

「船長・・・?」

 

船長の顔は血の気が引いて青ざめていた。そして窓の外を見つめて固まっている。

 

「これは海賊なんかの仕業じゃありません。」

 

フェイトが船長の見る窓の先へ顔向けると赤い目が輝く巨大な顔とこちらを潰さんと迫る腕が見えた。

 

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--

 

-

 

「きゃーーーーーー!!!!」

 

「リルウウウウウウ!?」

 

あたしは部屋に戻らず、甲板へ向かっていた。緊急放送で人が避難している今なら誰もいないと思ったからだ。しかし甲板に向かう途中船が揺れて驚いて転んでしまった。

 

「なになになに今の!?何が起きたの!?」

 

「ウラメシーナが現れたリル!急ぐリル!」

 

「もーせっかくのフェイトさんとの旅行が台無しじゃないの!!!」

 

「外が見えたリル!」

 

甲板は予想通り誰もいなかった。しかし目がしみるような悪臭が辺りを漂っていてとてもじゃないがいられない。

 

「くっさああああ!!なにこれ!?」

 

「うぐぅ・・・マクリルは鼻がいいからこれはしんどいリル・・・」

 

「ってでっか!なにあれ!?前のと違くない!?」

 

「あれがウラメシーナリル!いろんな姿のウラメシーナがいるリル!」

 

「こっちに近づいてくるよ!マクリル捕まってぇぇぇ!!!」

 

「ウラメシヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

ウラメシーナの咆吼と共に船に一際大きな衝撃が走ったあたしは振り落とされないようにするのが精一杯だった。

 

「臭いし怖いしううううもうやだあああああ!!!!マクリル!早く変身!!」

 

「わかったリル!」

 

マクリルがリリカルコミューンに変身するとあたしの手に収まる。

 

「みんなの楽しみを台無しにしてくれて・・・!絶対に許さない!」

 

《break open!》

 

「プリキュア!スタンドアーップ!」

 

《reload!》

 

リリカルコミューンは準備万端と言わんばかりに開いて中のピンクの宝石を光らせる。

 

《Go!Go!Stand up precure!》

 

まぶしく輝いたリリカルコミューンを勢いよく閉じるとあたしのからだがピンクの光に包まれる。身体にピンクの光の帯が巻き付きブローチの付いたピンクの差し色の入ったドレスに、フレアスカートに、ヒールブーツにと変わっていく。

 

「やっ!」

 

手を打ち鳴らして顔にバイザーが装着され頭と腰に大きなピンクのリボンが結ばれる。

最後にリリカルコミューンの収まるポーチが付いたベルトが巻き付き、浮き上がった身体が着地する。

 

「温良篤厚、春香る優しさの魔法!キュアリボン プリム!!!」

 

顔を上げて巨大なウラメシーナをにらみつけて物申す!

 

「他所のお家を荒らす悪漢!一罰百戒、恥を知れ!!!」

 

「ウラメシーナァァァ!!!」

 

「きゃーーーーっ!!!」

 

ウラメシーナが再び船を揺らす。流石にこれだけ振り回されると立っていられないよ!それにこのままだと船の中の人が危ない!

 

「この・・・やめなさいってのーーーー!!!!」

 

なんとか踏ん張って飛び出してキックを食らわせ・・・たがドロドロとした表面に足がめり込んでしまった。蠢いていてすごく気持ち悪い!

 

「きゃあああーーーーー!!!!くさいーーーー!!!きもちわるいーーー!!!」

 

「ウーラメシヤーーーーー!!!!」

 

「え・・・うわあああーーっ!!!」

 

ウラメシーナが顔面のあたしを振り払おうと手で・・・あたしサイズだともう壁が迫ってくると言った方が早い。ヘドロにまみれた壁があああ!?

 

「いぃーーーーやぁぁーーーーー!!!!」

 

ばたばたともがいても足は抜けない動けない。もうおわりかと思ったらリリカルコミューンが光った。

 

「プリキュア!スプリングシャワー!」

 

両手を突き出すと手のひらから無数の光弾が発射され、巨大なヘドロの手を吹き飛ばして腕はアタシの遥か下を通り過ぎていった。

 

「な、なんか出た!」

 

「プリキュアの技は一つじゃ無いリル!出そうと思えばいろいろやれるリル!」

 

「そういうの早くいってよね!!!」

 

「ウウウラメシヤーーー!!」

 

「きゃーーーーーーー!!!!」

 

うっかりしてた。腕は普通二本あるのである。

 

「アークセイバー!」

 

ウラメシーナの左手に金色の爆発が起こり腕ごと吹き飛ばす。この金色の魔力光・・・普段から見慣れているので間違いないと思うのですが・・・

 

「ッ!あなたは!」

 

「あはは・・・こ、こんばんは・・・」

 

やっぱりフェイトさんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




No.2ウミボウズウラメシーナ


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恐怖!人を喰らう闇

「あなた!今度こそ話を…」

 

「危ない!」

 

空に浮かぶフェイトさんを凪ぎ払う様に再生された腕が迫る。いくらなんでもあの質量で殴られたらフェイトさんでもひとたまりもない!

 

「くっ…フォトンランサー!」

 

「きゃっ!」

 

無数のフォトンランサーが腕を破壊し、難なく回避する。流石フェイトさんだ。

 

「あの腕は再生するのか…!もう人の原型を留めていない…なんてことを…」

 

「ううううりゃああああ!!!」

 

あたしも埋まった足を引き抜いてウラメシーナを蹴飛ばし船に着地する。そしてなんか臭う。

 

「うわあああ…くさいぃぃ…」

 

「あなた、大丈夫?とりあえずは私にまかせて!」

 

「あ、フェイトさん待っ・・・」

 

「!?」

 

しまった。ついフェイトさんを名前で呼んでしまった… ば、バレたかな!?

 

「・・・そう。私のことも調べてるのね。当然か…」

 

「・・・?」

 

「それより、早くなんとかしないとこの船もあいつに沈められてしまう!」

 

なんかあんまり突っ込まれなかったな…なんだろ…

「ま、待ってください!あいつもこの間のやつと一緒で魔法は効かないはずです!」

 

「でも腕は吹き飛ばせた。大丈夫だよ。」

 

「ダメリル!本体はあの泥の中にいるリル!泥をなんとかしないと攻撃は届かないリル!」

 

「ぬ、ぬいぐるみが…!?」

 

「マクリルはぬいぐるみじゃ…二人とも危ない!」

 

「ウラァァァァメシィィィィ!!!」

 

マクリルに注意されなければウラメシーナの張り手で吹き飛ばされるところだった。フェイトさんは上空に、あたしはしゃがんで避ける。

 

「アーク!セイバァァァ!!!」

 

フェイトさんのアークセイバーが腕を切り落とし、胴体に刺さると爆発、ヘドロを吹き飛ばすも本体がどこにあるかはわからなかった。

 

「あなたは下がっていて!時空管理局に任せてください!てやぁぁぁぁ!!!」

 

「ウゥゥゥゥラァァァァァァメシヤーーーーーー!!!!」

 

ウラメシーナに空中から一方的な攻撃を繰り広げるもどれも決定打にならない。ウラメシーナが大きすぎるんだ・・・

 

「本体はどこ・・・!」

 

「ウラァァァァ!!!!」

 

「ッぐ!?ううう!!!」

 

あれだけの大きさのウラメシーナに一人ではフェイトさんもかなりきつそうである。空を飛べないあたしだと・・・

 

「ま、マクリル!あたしはなにか出来ないの!?」

 

《reloading!》

 

「うわっ!?コミューンが…?」

 

《break open!》

 

ポーチからリリカルコミューンが開き、青い宝石が輝きだす。

 

「フォームチェンジするリル!それで有利に戦えるはずリル!」

 

「ふぉ、ふぉーむちぇんじ?わかった!」

 

コミューンのシリンダーを動かして青い宝石が真上に来るようにセットする。するとコミューンから冷たく煌めく空気が溢れ始めた。

 

《complete!formchange!stand up narcissus!》

 

「フォームチェーーーンジ!!」

 

変身した時の様に青い光に包まれる。

 

「な、なに!?あの青い光・・・」

 

「ウララララ!!!!!」

 

「くっ!」

 

コミューンの入ったポーチ付きベルトを残してプリムのドレスが光の粒子となって消えると青い光の帯が身体に巻き付いていく。プリムとは違い温かそうなドレスに変化し、青いスパッツが穿かれ、手にはミトンのような手袋、白い靴紐の付いた青いスノーブーツ。至る所にファーのあしらわれた青いドレスに変わる。

 

「やぁぁっ!」

 

手を叩くと胸に羽の付いたブローチが付き、腰には青の大きなリボンが巻かれる。最後にリボンのアクセサリーの付いたフードが被せられて顔の下半分を隠すように青のマフラーが巻かれる。

 

「深厚博大!冬恋し愛の魔法!キュアリボン ナルキッソス!!」

 

青の光が晴れてウラメシーナに向き直る。なんだか姿が随分暖かそうになってしまったが・・・ひんやりとした空気が辺りにあふれている。

 

「す、姿が変わった・・・?あれはいったい・・・」

 

「ウラメェェェシヤァァァァァァァァ!!!!!」

 

「あ、危ない!!」

 

ウラメシーナの巨大な腕があたしを潰さんと迫る・・・それなら・・!

 

「プリキュア!グロリアスコフィーン!!!」

 

突き出した両手から冷気が放たれウラメシーナを腕から凍り漬けにしていく。

 

「ウルルルラァァァ!?」

 

「凍り付けぇぇぇぇ!!!」

 

バキバキと音を立てて凍り付いていくウラメシーナ、遂には海までも巻き込み凍り付いて氷山のようになっていく。・・・すごい力だなぁ。

 

「・・・・。」

 

「よし!フェイトさん!」

 

「な、なに?」

 

「フォトンランサーファランクスシフトであいつを粉々に砕いてください!それで本体が出て来る筈です!」

 

「わ、わかった。」

 

「マクリル!こっちも浄化技の準備するよー!」

 

「ちょっと待つリル、ウラメシーナの様子が変リル!!」

 

氷山と化した巨大なウラメシーナの身体が轟音と共に振動している・・・なにかいやーな感じが・・・

 

「オオオォォォォォォォォ!!!!!!」

 

「!?」

 

氷山の一部を砕きながら小さな影が飛び出してきて凍った海面に降り立つ。不気味な木の面を付けたそいつは耳をつんざくような叫びをあげている。

 

「ギャアアアアァァァァァァァ!!!!!!!」

 

「・・・あれが本体かな?」

 

「そうみたいですね・・・それにしても・・・」

 

「ギイィィィィィィィ!!!!!」

 

「やばそうな感じがプンプンしますね・・・」

 

ヘドロにまみれたウラメシーナは緩慢な動きながらも船へ向かってきている。

 

「船へは行かせない!とりゃあああああ!!!」

 

「ウラメシャァァァ!!!」

 

「えっ!?ウソォ!!!!」

 

渾身の蹴りはウラメシーナに片手で止められてしまう。成人男性より少し大きなほどの大きさからは想像も出来ない胆力。そしてそのまま振り回されてえぇぇぇぇ

 

「うわわわわぁぁあああ!?」

 

「あなた!」

 

「ウラメッシャァァァ!!!!」

 

「ぐがっ!?」

 

氷の上に叩きつけられた。あまりの衝撃に氷を砕き海中にまで沈んでしまった・・・水が冷たい・・・身体が・・・重い・・・

 

--------

 

------

 

----

 

--

 

-

 

「な、なんてこと・・・」

 

「グボボボボボボ!ウラァァガボボボボ!!!」

 

あの怪物は再び大きな身体になろうとしているのかヘドロを吐き出しながらもだえている。船に近づきながら。

 

「これ以上は行かせない!アークセイバー!」

 

「!?」

 

あの子がこれくらいではやられてない・・・と思いたいが。すぐに海中から出てこないところを見るとかなりのダメージらしい。

 

「ッシャァ!!」

 

「なっ・・・」

 

いとも簡単にアークセイバーを砕き、爆風もものともしない怪物。やはり以前の怪物と一緒で魔法が効かないのか・・・

 

「魔法が効かないからって・・・!諦めるわけには!!バルディッシュ!ザンバーフォーム!」

 

《Yes sir》

 

「てやああぁぁぁ!!!」

 

「ヴラ゙メ゙ジーーヤ゙ーーー!!!!」

 

そして見えた。見てしまった。怪物を袈裟斬りにしたとき弾き飛んだヘドロの身体の中を。

 

「オゴ・・・オゴゴオゴ・・・」

 

「そ、そんな・・・」

 

見慣れた紺色の制服。時空の海を守る正義の象徴。時空管理局の制服だった。なんで、そんな馬鹿な。この怪物は本局の、しかも航行船の局員なのか。

 

「ウゴゴゴ・・・ゴボ・・・」

 

「あ・・・ああ・・・」

 

怪物の身体からヘドロにまざって見える赤い液体。辺りに散らばった服の切れ端と・・・スタッフの名札。急いで拾い上げて確認。間違い、ない、管理局員だ。それも二佐だ。もうすぐ提督にでもなれるだろう。何故、そんな、人物がこんな怪物に。

 

「ゴボ・・・ナンデ・・・」

 

「!?」

 

「ナンデ・・・オレハ・・・ナンデ・・・ゴボボボボ」

 

「しゃ、しゃべ・・・」

 

動きの鈍くなった怪物は溢れたヘドロが形を作れず辺りへ流れ出していく。そして人の身体が段々と露わになっていき、膝をついた。

 

「フネ・・・フネ・・・マダ・・・ノリタカ・・・ガボガボ・・・フネ・・・」

 

「あ・・・しょ、正気に!正気に戻って!気を確かに!しっかりして!」

 

「ゴボボ・・・フネ・・・フネホシイ・・・ナンデ・・・」

 

「このお面・・・これのせいなんじゃ・・・!」

 

頑なにはがれない木の面を引きはがそうと手を掛ける・・・

 

「ギャアアアァァァァァァァ!!!!!!!」

 

「きゃっ!?」

 

木の面に手が触れた瞬間狂ったように暴れ始め、突き飛ばされてしまう。男は再びヘドロを纏い始めて怪物の姿に戻ってしまった。

 

「そんな・・・」

 

「やあああああ!!!!」

 

「オゴゴゴボゴボボボ!!!!???」

 

次の瞬間、怪物の真下の氷が弾けて先ほどの少女が怪物を殴り飛ばして現れた。

 

「ふぅー・・・ふぅー・・・流石に・・・海の中は・・・きつかったよ・・・ふぅー・・・」

 

--------

 

------

 

----

 

--

 

-

 

あまりの衝撃で身体の感覚がなくなって意識が飛んで行きそうになった時、始めて戦ってるっていうのを実感した。

 

「(こわい・・・こわい・・・こわい・・・!!!)」

 

暗い海中で身動きも取れず、息苦しい、これから死んでしまうのかと少しでも思うと恐怖が身体を支配していった。

 

「(死にたくない・・・!こわいよ・・・)」

 

死にたくないと思っても身体は動かない。いやだ、こわい。

 

「(フェイトさん・・・なのはさん・・・お母さん・・・)」

 

「ヨシコ!しっかりするリル!ヨシコ!ヨシコ!!」

 

「・・・ガボゴボ?(マクリル?)」

 

「こんなとこで絶対に死なせないリル!ヨシコ!しっかりするリル!」

 

マクリルが必死に泳いであたしを海面まで押し上げている。・・・ありがとうマクリル。そうだよあたしが死んじゃったら変身したままだからマクリルも一緒に海の底に沈んじゃうよね。

 

「うぐぐぐ・・・上がれリルゥゥゥ!」

 

「(うおおおおおお!!!)」

 

ぼろぼろの身体をむち打ってなんとか動かす。このまま諦めてはいけない!ウラメシーナと戦えるのはあたしだけなんだから!!!

 

「ヨシコ!」

 

「(もう大丈夫だよ!ありがとうマクリル!!)」

 

身体を捻ってなるべく勢いをつける。氷の上でフェイトさんが・・・ん?

 

「(フェイトさんが動いてない・・・もしかして・・・大変!急がなきゃ!!!)」

 

突き出した拳がウラメシーナの真下を貫く。

 

「やあああああ!!!!」

 

「オゴゴゴボゴボボボ!!!!???」

 

「ふぅー・・・ふぅー・・・流石に・・・海の中は・・・きつかったよ・・・ふぅー・・・」

 

「あ、あなた・・・」

 

「フェイトさん!大丈夫ですか!?すぐ!すぐにあいつをやっつけますから!!!」

 

「ッ!!だめ!あの怪物は人が変身してるようなの!!」

 

「!?」

 

「助けなくちゃ・・・あなたの魔法ではきっと中の彼は耐えられない!」

 

「マクリル!どういうこと!?」

 

「・・・ウラメシーナは人間が常夜の住人になるまでの途中の姿リル。ウラメシーナがたくさんの人間の恐怖の対象となることで本物の常夜の住人になるリル。」

 

ウラメシーナは人間が変身していたの・・・?じゃあ、前のウラメシーナは、あたしが、倒しちゃって、変身してた人は・・・

 

「ど、どうしよう・・・マクリル、あたし・・・前に戦ったウラメシーナは、あたしが消し飛ばしちゃった・・・どう、どうしようあたし、人を・・・なんで教えてくれなかったのマクリル!!!」

 

「落ち着くリル!大丈夫リル!プリキュアの技は浄化技リル。ウラメシーナになってしまった人間を浄化して元に戻すリル!前の人もきっと誰かが助けてくれているリル!教えなかったのは・・・聞かれなかったからリル・・・ごめんリル・・・」

 

「・・・帰ったら全部教えてもらうからね。マクリル。」

 

「わかった・・・リル・・・」

 

「ちょっと待って!」

 

「フェイトさん・・・大丈夫です、あたしが、あたしがあの人を絶対に助けます。だから、信じてください!お願いします!」

 

フェイトさんは、信じられないものを見ている顔だ。・・・それもそうだ。正体不明の怪物と戦う正体不明の人物だ。普通は信じられるものじゃない。

 

「ガボボォ・・・ウラメシヤ・・・ウラメシヤ・・・」

 

「!!」

 

「まずい!」

 

「ウラメシヤーーーーー!!!!!」

 

ウラメシーナがヘドロの腕を高速で伸ばし、フェイトさんを突き刺そうと狙ってくる。

 

「リボン!」

 

「わかった!」

 

「ッ!?ダメ!!!やめて!!!」

 

「プリキュア!」

 

あたしが右手を掲げると辺りの風が渦を巻き、暗い夜の空を荒れさせる。あたしの足下に水仙の花弁の形をした青い魔方陣が輝き現れる。

 

「ナルシッソス!トーネードォォォォ!!!」

 

掲げた腕をウラメシーナへ向けると氷の竜巻がウラメシーナを飲み込んだ。ヘドロの身体を氷のつぶてが容赦無く襲い砕いていく。

 

「ナ、ナムサンンンンンン!!!!!!!!」

 

「あ、ああ・・・そんな・・・」

 

・・・後ろでフェイトさんの暗い声が聞こえる。ごめんなさい・・・ごめんんさいフェイトさん・・・

 

竜巻が収まると、氷の上に男性が倒れていた。その男性は本局の制服を着ていて・・・ぐったりとしたまま動かない。

 

「・・・はっ!しっかりして!!」

 

フェイトさんが走り寄っていって彼を抱える、身体をすこし調べた後、安堵した表情を見せているところ無事な様だった。

 

「・・・マクリル。」

 

「・・・何リル?」

 

「あたしってさ。ほんとに正義の味方なのかな。」

 

「プリキュアは、伝説の戦士であって正義の味方じゃないリル。」

 

「・・・っ!」

 

「ヨシコ、マクリルは正義の味方なるかならないかっていうのはヨシコが決めることだと思うリル。プリキュアの力をどう使うかはヨシコ次第だからリル。」

 

「そう、だね・・・」

 

「ヨシコ、マクリルのこと、信じられなくなってるってわかるリル。でもこれだけは覚えておいて欲しいリル。」

 

「・・・なに?」

 

「マクリルは、人間界を救いに来たリル。誰からの命令でもなく、自分の意思で来たリル。人間が好きで、常夜の住人に蹂躙されて荒んでしまうのは嫌リル・・・。」

 

「・・・マクリル?」

 

「ヨシコ?」

 

「あのね?もっと、いっぱいお話しよ。あたしマクリルのこと全然知らないから。いっぱいいっぱいお話しよう?マクリルのこといっぱい知りたいしマクリルにあたしをいっぱい知ってもらいたいよ。」

 

「・・・ありがとうヨシコ。」

 

「あの・・・あなた。」

 

いつの間にか彼を背負ったフェイトさんが近くまで来ていた。あたし達を見る目はなんだか半信半疑な目で・・・少なくとも敵対しようという目ではない、としかわからない。

 

「前は聞きそびれちゃったから聞くね・・・あなたは、何者なの?」

 

なんて答えたらいいだろうか・・・なんて考えは浮かばなかった。さっきマクリルから聞いた真実はショックが大きかったけど、途中でなやんでしまってやめるという答えは無い。プリキュアを諦めるという選択肢は無かった。あたしは迷わずこう答えた。

 

「あたしは・・・」

 

--------

 

------

 

----

 

--

 

-

 

あの子はいったい何者なのだろうか。しゃべるぬいぐるみは何かの通信端末なのか。先日始めてあった時から不思議な子だと思っていた。人々を守る為に戦っているのかと思えばさっきのように犠牲は付きものだと言わんばかりに容赦無く今担架で運ばれている彼が変身していた怪物に強大な魔法を叩き込んだ。

 

「プリ、キュア・・・」

 

あの子に何者なのかという質問をしたら自分たちはプリキュアだと答えられた。そしてその後再び疾風のように駆け抜けてどこかへ行ってしまった。プリキュアとはいったい何なのだろうか。はたして正義の味方なのかそれともどこかの組織の一員なのか。あの人が変身する怪物とはどういう関係なのか。

 

「一応は・・・私達の敵じゃないってことなのかな。」

 

あの子が彼を討つ時に、自分を信じてくれと言った。絶対に助けるとも言ったそして現にどうやったのかあの強大な魔法で怪物の部分だけを倒し、彼を無傷で助けたのだ。・・・私が斬ってしまったキズごと治して。

 

「あの怪物よりあの子を調べた方がこの事件は調査が進みそうだ・・・」

 

船の医務室に彼を見送り、心配にしてた自分が身元を引き受けている子の元へ向かう。

 

「・・・ヨシコ?大丈夫?起きてる?」

 

「あ、フェイトさんおかえりなさい。大丈夫でしたか?」

 

「うん・・・もうすぐ管理局の船が乗員乗客を迎えにくるから、それまで少し待っててね。」

 

「はい。・・・フェイトさんも、少し休んだ方がいいんじゃないですか?」

 

「それは・・・そうだね。」

 

ヨシコ・・・すっごく顔色悪い。きっとすごく怖かったんだろう・・・本当なら傍にいてあげたいけど・・・私は執務官だから・・・ごめんね、ごめんねヨシコ。

 

「じゃあフェイトさん!こっち!こっちのベッドで一緒に寝ましょう!フェイトさんのベッド、クローゼットが倒れてて使えませんし・・・どうですか?」

 

「うん、いいよ。ヨシコも、こんな状況だけどゆっくり休んで。」

 

「はい!」

 

ヨシコの隣に寝るとヨシコに手を握られた。私もゆっくり、でもしっかりと握り返してあげた。

 

「えへへ・・・」

 

「ふふ・・・さ、寝ようヨシコ。」

 

「はい。おやすみなさい・・・」

 

「おやすみ・・・ヨシコ・・・」

 

そういえば私は休暇中だ。少しくらい、こうして休んでも文句は言われないだろう・・・今は休もう。瞼を閉じて。ゆっくり・・・ゆっくり・・・と・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うらめしや・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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光と闇。近づいてくる足音。

フェイトさんとの旅行先での事件から数日。普通に帰ってきたあたしは玄関で倒れてしまって大騒ぎになった。私はフェイトさんに「しばらく治療すること!なのはには言っておくから!」と病院にぶちこまれてしまった。

 

「はいヨシコ、あーん。」

 

「ヴィヴィオ・・・恥ずかしいよ・・・」

 

「個室なんだから大丈夫だよ。はい!あーん!」

 

「もぐ・・・」

 

もう一週間も入院しているんだが一向に退院させてはくれない。まぁまだフラフラなわけだけど。

 

「まだ退院出来ないんだっけ?」

 

「うん。フェイトさんがお医者さんと相談して決めるらしいんだけど・・・」

 

「あちゃーそれなら大分長くなりそうだね。フェイトママはすっごい過保護だから・・・愛が深いとも言うけど。」

 

「あははは・・・」

 

ともかく退院出来ない理由もあるわけだけど・・・プリキュアのフォームチェンジ。変身を解いて船室に戻った後に立っていられないほどの疲労感に襲われたんだ。なんとかごまかす為にフェイトさんと一緒に眠ってしまったけど・・・立ち上がれないと知ったフェイトさんの慌て様はすさまじかった。

 

「ねぇ、マクリル。」

 

「なにリル?ヴィヴィオ。」

 

「そのプリキュア、ほんとにわたしはなれないの?こんなにヨシコがぼろぼろになってるのにわたしはなにも出来ないの?」

 

「・・・ダメリル。この世界の人間はプリキュアにはなれないリル。」

 

「この世界の人間ってことはなのはママは出来るの?なのはママはヨシコと同じ世界出身なんだけど。」

 

「なのはママ?・・・あああの茶髪の人かリル。不可能リル。魔力を使いすぎているリル。」

 

「プリキュアになれるかなれないかって魔力が影響するんだ。」

 

「それもそうだけど・・・もっと根本的な問題でもあるリル。」

 

ヴィヴィオの膝に座っているマクリルはぽつりぽつりと話始めた。あの一件以来、あたしはまだマクリルとちゃんとお話出来ていない。ちゃんと・・・お話しないとね。

 

「ヨシコにいっぱいお話しようと言われてたし・・・まずはマクリルの方から話をしようと思うリル。」

 

「え、あ、うん。」

 

「まず、伝説の戦士プリキュア。プリキュアはマクリルの住んでいた世界、メグメルに伝わる滅びの危機から世界を救う戦士の事リル。といっても滅びの危機がやってきたことなんてメグメルの歴史には一度も無かったけどリル・・・」

 

「へぇーすごいねメグメル!そんな次元世界があったなんて。」

 

「この世界の文明レベルでは辿りつけないリル。次元空間の解釈の方法が違うリル。といってもマクリルは専門家じゃないから詳しくは説明出来ないリル。」

 

「うっそぉミッドの技術でも辿りつけないなんて。」

 

「ヴィヴィオ、まだこの世界には知らないことがいっぱいあるリル。」

 

「そうだね・・・世界って広いね。メグメルはどんな所なの?」

 

「メグメルはマクリルの様な妖精が住む世界リル。すごく豊かで、光に溢れたキレイな世界リル。周りの世界にの住人には楽園なんて言われてたリル。大きなお城があって女王様が治めていた平和な国だったリル。」

 

「ねぇ・・・ちょっと待ってマクリル・・・だったってどういうこと?」

 

「・・・メグメルは常夜の住人に滅ぼされたリル。」

 

「え・・・」

 

「ご、ごめん・・・」

 

「一応はメグメルに近い世界だったから交流もあったしお互い力の差もあったから監視しあっていたリル。」

 

「・・・なんで常夜の住人が攻めてきたのかな。」

 

「わからないリル。メグメルは、楽園と言われていたリル。常夜の住人の世界もメグメルほどではないけど豊かだった筈リル・・・いつの間にか貧困化して資源を求めてきたんじゃないかとも思ったリル」

 

「そんな・・・!」

 

「実際は本当に何故なのかわからないリル・・・本当にいきなりで、驚いたし、戦う力の無いメグメルの妖精は逃げるか怯えて怖がることしか出来なかったリル。」

 

マクリルは明らかに落ち込んでいて、うなだれてしまった。そんな理由があったなんて知らなかった。

 

「・・・それでなんとかメグメルを復活させる方法を探してる時にプリキュアのことを知ったリル。リリカルコミューンも見つけ出すことが出来たリル。それから常夜の住人がメグメルがある次元空間から人間の住む次元空間へ侵攻したことも・・・」

 

「そうだったんだ・・・そんなことが・・・」

 

「とりあえずプリキュアの話に戻すリル。」

 

マクリルがふわりと浮いてあたしのベッドに乗る。

 

「今の所プリキュアになることが出来るのはヨシコだけリル。そこは大丈夫リル?」

 

「うん。」

 

「でもどうしてなの?」

 

「さっき言った通り根本的な問題で・・・マクリルみたいに妖精的に言うとヨシコは光の人間。ヴィヴィオ達は闇の人間リル。」

 

「ええええ!?わたしは闇なの!?」

 

「・・・それを判断するのが魔力なのね。」

 

「そうリル。魔力は闇の力・・・魔力に触れ続けた人間はどんどん闇の力に染まって行くリル。プリキュアは闇とは真逆の光の力で変身するリル。魔力で魔法を使い、闇の力が身体に浸透したこの世界の・・・ミッドチルダだったリル?ミッドチルダの人間は光の力と反発し合うから変身出来ないリル。」

 

「ねぇ・・・マクリル。闇の人間ってことは、わたしたちはプリキュアの・・・ヨシコの敵なの?」

 

「!!」

 

「・・・敵かどうかを決めるのはヨシコリル。ひとつ言わせてもらえるとすれば闇の力は決して悪の力じゃないリル。常夜の住人達とマクリル達妖精は少しの間でも手を取り合うことが出来たリル。たまたまヨシコとヴィヴィオ達は配られたカードが違うだけなんだリル。だからプリキュアは伝説の戦士であって正義の味方じゃないリル。」

 

「そっか・・・」

 

「大丈夫だよヴィヴィオ!あたしはウラメシーナとか常夜の住人からみんなを守る為にプリキュアになったんだから!」

 

「そうだよね。ありがとうヨシコ。」

 

「それにプリキュアに変身してもヴィヴィオには勝てる気がしないね・・・」

 

「もー!!ヨシコそれどういう意味!?」

 

「あははは!」

 

「・・・次は常夜の住人についてリル。といっても実はあんまりよくわかっていないリル。メグメルの近くに存在する世界の住人で純粋な闇の力の権化だということ。今ウラメシーナという僕を使って仲間を増やそうとしていること。ミッドチルダの人間を狙っていること。そして何故急に侵略行為をしたかわからないことがわかっているリル。」

 

「それ・・・ほとんど何もわかってないのと一緒じゃない!」

 

「事実そうリル。メグメル以外の世界でも調べたけど何もわからなかったリル。常夜の住人の世界の名前もわからなかったリル。そもそも常夜の住人というのもマクリル達メグメルの妖精が住人の住む世界の雰囲気でそう呼んでいただけで正式にはなんて呼ばれているのかは教えてくれなかったリル。それどころじゃなかったリル。メグメル以外のの世界ではメグメルはヴァルハラ、エリュシオン。常夜の住人の住む世界はコキュートスとか黄泉とか言われてて架空の世界扱いになってたリル!心外リル!」

 

「・・・詳細不明、正体不明。常夜の住人っていうのはいったい何なんだろう。」

 

マクリルはヴィヴィオが剥いたリンゴを人かじりする。あたしもお茶を一口。ヴィヴィオもリンゴをほおばった。

 

「とにもかくにも・・・常夜の住人がなにかとんでもないことをしようとしているのは間違いないリル・・・」

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

病室にリンゴを咀嚼する音だけが響く。

 

「あと何か聞きたいことはあるリル?」

 

「マクリル、わたしからひとついい?」

 

「何リル?」

 

「ウラメシーナを使って仲間を増やそうとしてるって・・・どうやってるの?」

 

「・・・ッ!」

 

「・・・同じ闇の力を持つミッドチルダの人間をノーメーンという呪具を使ってウラメシーナに変身させるリル。ウラメシーナは成長して、やがて人間の体を捨てて常夜の住人と同じ存在になるリル。」

 

「嘘・・・とし・・・つと・・・なじ・・・」

 

「・・・ヴィヴィオ?」

 

「・・・。」

 

「えっと・・・それじゃあ、常夜の住人ってどんな姿なの?あたしまだウラメシーナしか見たことないし・・・」

 

「常夜の住人の姿、リル?・・・うーん・・・なんて言ったらいいか・・・まず人間や妖精のように基本になる姿がないリル。頭が牛ですごく大きかったり、人間の身体で首がすごく長かったり・・・無機物だったりするリル。」

 

「へぇ・・・バラバラだねぇ。」

 

「性格は様々あるリル。でも基本はちょっと乱暴で喧嘩が好きだったりとかするけど、情に厚くて陽気な連中リル。ほんとに何が常夜の住人を変えてしまったのかさっぱりわからないリル・・・どうして・・・どうしてこんなことになってしまったリル・・・」

 

「・・・ねぇヨシコ。ちょっとね聞いて欲しいんだけど・・・」

 

「なにヴィヴィオ?」

 

「気になってたんだけど・・・やっぱり無関係じゃないと思うんだ。都市伝説。」

 

「としでんせつ?」

 

「今ねミッドチルダで流行ってるの。あのね・・・」

 

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--

 

-

 

 

私の執務室で頭をうんうん唸らせてこの間の戦闘映像をチェックする。攻撃パターン・・・目的・・・なんでもいい。なにか気づくことが出来れば。

 

「なのは・・・この怪物、以前現れたものと姿形は異なるけどが共通点が結構あるんだ。」

 

「ほんとだね・・・特にこのマスク・・・」

 

「フェイト執務官、こちら調査結果です。」

 

「ありがとうティアナ。」

 

「都市伝説との照らし合わせ・・・どう?」

 

「まだ何にも・・・この怪物側の情報が少なすぎます。」

 

「うーん・・・そっかぁー・・・そうだよねー・・・」

 

「そういえばはやてが対策チームを立ち上げるって言ってたよ。メンバーはあの怪物と戦ったことがある人間だって。」

 

「そうなんだ・・・はやてちゃん。仕事が早いなぁ。」

 

「私はちょっと別口で調べてみようと思うから参加するのは遅くなると思う。ごめん。」

 

「別口・・・?フェイトさん別口って・・・?」

 

「二度も怪物を退けたあの子・・・あの子を追ってみようと思うの。」

 

映像に映るピンクのドレスのバイザーを付けた子と青いドレスのフードとマフラーを付けた子。この二人が同一人物であるのは確信している。

 

「この子・・・」

 

「あの怪物が現れる所に必ず現れる子・・・未知の魔法で怪物を退ける子・・・」

 

「港での戦いでも魔法らしい反応はありませんでしたよね。魔導士なんですか?」

 

「わからない・・・でも船の戦いの時に少しだけ話が出来たよ。プリキュア・・・そう名乗った。」

 

「ぷりきゅあ?」

 

「うん。何者かって聞いたら・・・自分はプリキュアだって。そのあとまた逃げられちゃったけど・・・」

 

「そっか・・・プリキュア・・・」

 

「この子を追えば、もっといろいろわかるかも知れない。」

 

「そうやな。フェイトちゃんは頼む前から動いてくれて助かるわぁ。」

 

「ひゃわあ!」

 

はやて・・・せめてノックして。けっこうびっくりしちゃったよ。それにしても頼む前って事は私がやろうとしてることわかったんだ。

 

「うーん・・・プリキュア・・・ねぇ・・・プリティー、キュアーか。随分とファンシーな名前しとるなぁ。」

 

「えっとはやて、あの彼の身辺調査終わった?」

 

「もちろんや。タルカス・マクラーレン二佐、魔導士ランクA+、次元航行部隊、巡洋艦シヴァーの操舵手。提督になる直前でシヴァー退役に伴いリストラ・・・ってとこやな。」

 

「操舵手・・・提督昇格直前・・・だから船に乗りたいっていってたんだ・・・」

 

「どうして怪物化したかは不明・・・フェイトちゃんが嘘付いてるとは思えへんし、港での怪物も人が変身しとったんかな。救助者リストをさらったけどそれらしき人はわからんかった。」

 

「そっか・・・」

 

「それでやフェイトちゃん?今日はそのプリキュアとやらの話を聞きに来たんや。怪物出現事件で謎の少女対策としてな。」

 

「わかった。ごめんなのは、ティアナ。ちょっと言ってくる。」

 

「フェイトちゃん借りるでー。」

 

「うん。じゃあティアナ早く報告書書いちゃおう。」

 

「はい。」

 

人の弱みにつけ込んであんな怪物の実験体にするなんて許せない。プリキュアと名乗るあの少女も、あんな無謀な戦い方をして、無茶な人体改造を施しているに違いない。そんな危険なことを止めさせなくては。あれだけ強力に強化するなんてそれ相応の施設がないと不可能な筈。間違いなく組織に属しているか、操られているはず。また・・・しらみつぶしに違法研究施設を調べて回るしかない。地道だが、こういうのが解決に近づく筈だ。一日10件回るので遅ければ100件回ればいい。ごめんヨシコ。またしばらくお休み取れなさそう・・・ごめんね・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「うらめしや・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ありえなーい!恐怖の黄泉帰り!

キツい表現があります。注意してください。


船の事件から数週間。怪物が出現したという報告は無い。それもそうだろう。あれだけ強力な力だ、制御して運用するには時間がかかるのは明白だ。

 

「ここもハズレ…施設は無かった…」

 

プリキュアという少女もそうだ。全力に近い戦いをして連続で戦えるわけがない。

 

「ここは無い…遠すぎる…」

 

恐らく私の予想は当たっているだろう。今回の事件は二つの組織の抗争だ。怪物とプリキュア、お互いの行動や性質が違い過ぎる。怪物の方は人間の力の昇華だと思う。巨大化、影響範囲、効果時間・・・まさしく兵器だ。精神面での汚染もあるとわかっている。人道も何もあったものではない。

 

「やはりミッドチルダの中にセーフハウスがあると考えるのが…妥当かな。」

 

「なるほどなぁ…報告ありがとう。」

 

プリキュアの方は純粋な強化…共闘…と言えるかはわからないが一緒に戦ったからわかる。人間のままで攻撃の強化…いや、あれはもはや超絶強化とも言えるだろう。しかしあれだけの強化だ。心身に異常が無いなんてありえない。意識ははっきりしていたがいつまで保つのだろうか…まだ少女なのに。

 

「フェイトちゃんは…どこに見当付ける予定?」

 

「私は…エルセアか…一番ありそうなのは…アルトセイム。」

 

「なるほど…わかった。フェイトちゃんはアルトセイムの方調べて貰ってもええかな?西部は私達が調べてみる。」

 

「わかった。」

 

「未確認生物対策本部が発足するまでもう時間はかからんと思う。それまでにもう少し情報を集めておきたいな。怪物もプリキュアも。」

 

「うん。被害を抑えないと、どんなことになるかわからないしね。」

 

はやてと話をしたのが昨日。今はアルトセイムにいる。ここは…よく覚えている。よく覚えているといっても…それは私ではなくアリシアの記憶のもの…

 

「あるなら地下…これだけ辺境なら研究施設を隠すなら楽だろうしね。バルディッシュ」

 

《yes sir》

 

サーチャーを飛ばして洞窟や地下の入り口を探す。

 

「一番近いのはどこ?」

 

《200yard this 》

 

「ありがとう。行こう。」

 

--------

 

------

 

----

 

--

 

-

 

「マクリル…最近はウラメシーナ出ないね?」

 

「リルゥ…邪悪な気配は感じないリル。」

 

あたしは退院して家でゆっくりしていた。フェイトさんはなのはさんに魔法の練習はダメだとぷんぷんしていたので魔法はお休み。

 

「ヨシコー!チーズケーキ作ってみた!」

 

「チーズケーキって作るものだっけ。」

 

「わーいリルゥ!チーズケーキ大好きリルゥ!」

 

「なのはママも忙しそうだし。なんか部署が変わったって言ってたよ。」

 

「へー…時空管理局って大変だね…」

 

「ヨシコは魔導士になりたいんだよね。魔導士になってなにするの?」

 

「うーん…そこはまだ考え中なんだ。管理局員になるっていうのが普通って聞くけど、この間の船で見たアクターさんもいいなって思ったの。人を笑顔に出来る方法はいっぱいあるんだね。」

 

「ミュージカルだっけ?いいなー私はストライクアーツの選手かな。一番になりたい!」

 

「流石ヴィヴィオ…武闘派だね。」

 

もーもー言いながらポコポコ殴ってくるヴィヴィオを躱しながら。応戦する。そこへヴィヴィオのデバイス、クリスに通信がきた。

 

「なのはママ?」

 

『あ、ヴィヴィオ?あのね、私とフェイトちゃん、ちょっとしばらく帰れそうにないの…』

 

「え、そうなの?」

 

「何かあったんですか?」

 

『ごめんねヨシコちゃん…ちょっと忙しくなっちゃって…』

 

「そうなんですか…」

 

「ママ、アイナさんは?」

 

『アイナさんも忙しいみたいで…行けないみたいなの…ごめんね…』

 

「え…じゃ、じゃあどうすればいいの?」

 

『一応ヴィヴィオなら大丈夫だとは思ってるんだけど…リンディさんとアルフが来てくれることになってるよ。クロノ君も様子を見に来るって行ってくれてるし。』

 

「リンディさん達がですか!」

 

『うん。ヨシコちゃんは久しぶりだよね。』

 

「はい!」

 

「リンディママ達はいつ来るの?」

 

『到着する前に連絡するって言ってたから…うちに来たら失礼の無いようにね!』

 

「はーい。」

 

リンディさんは海鳴で事故に巻き込まれた時にお母さんと一緒に保護してもらった人だ。お母さんと一緒にすごくお世話になった。クロノさんはリンディさんの息子さんで今は艦隊を指揮する提督さん。娘のフェイトさんは執務官でスーパーエリートなお家。

 

「じゃあママ、お仕事頑張ってね。」

 

『うん、ありがとうヴィヴィオ。もう切るね。』

 

通信が切れて静寂が訪れる。

 

「・・・ママ、帰ってこれないんだって。」

 

「そんなに忙しいのかな新しい部署。」

 

「そうなのかな…それにしてもリンディさんだけじゃなくてクロノさんも様子を見に来るって…何かあったのかな?」

 

少し…少しぞわぞわと嫌な予感がする。

 

「あ、通信来たよ。」

 

『もしもし?ヴィヴィオー?』

 

「リンディママ!」

 

『今ミッドチルダに着いたからこれから向かうわね。』

 

「はーい!」

 

--------

 

------

 

----

 

--

 

-

 

「ずっと洞窟…ここはハズレかな。」

 

《Don't worry sir》

 

「ありがとうバルディッシュ…じゃあ次に」

 

「うらめしや…」

 

「ッ!誰!!」

 

サイズフォームのバルディッシュを暗闇に向ける。分かる…誰か…誰か…いる!!!

 

「うらめしや…」

 

「時空管理局です!姿を現しなさい!」

 

サクッ…サクッ…と土を踏む音が近づき、徐々に姿を現す。

 

「そ、そんな・・・!!」

 

《Why・・・》

 

「うらめしや…」

 

「うらめしや…」

 

暗闇から現れたのは二人だった…忘れるはずがない。私の記憶に焼き付く虚数空間に落ちていった顔。私を大嫌いだと言った顔。そして私そっくりの顔。母さんの優しい笑顔を向けられていた顔。

 

「フェイト…」

 

「フェイト…!」

 

「あ…ああ…!」

 

暗闇から現れたのは…母さんと姉さん…プレシア・テスタロッサとアリシア・テスタロッサだった。

 

「フェイト…フェイト…!」

 

「フェイト…」

 

サーチャーには異常はない。間違いなく二人を捉えているし目の前にいる二人が幻だとは思えない。

 

「ば、バルディッシュ・・・幻惑魔法は…」

 

《No sir》

 

「そんなバカな!」

 

「フェイト…何故なの…」

 

「フェイト…フェイト…」

 

「あ、う…いや…そんなバカな…そんな…」

 

もうてを伸ばせば触れられる距離、私は動けずに立ち尽くすことしか出来ない

 

「フェイト…」

 

「フェイト…!」

 

偽者じゃ…ないの…なんだか…頭が…

 

「母さん…!姉さん…!」

 

二人に触れたくて…足を踏み出した…その時だった。

 

「フェイト…何故あなたが生きているの。」

 

「!?」

 

「う、ああ…うあ゛あ゛あ゛」

 

母さんの顔は憎悪に歪み、目は黒く窪んで光が見えない。美しかった髪はボサボサに荒れている。 アリシアは…見ていられない。体が腐り落ち、金糸の様な髪はどす黒い液体で汚れ、至るところからウジがわいている。嫌だ、来ないで…来ないで!

 

「ひっ…あ、い…や…やだ…!」

 

《Sir!!!sir!!!》

 

「フェイト…何故あなたが生きているの…何故私が、アリシアが死ななければならないの…」

 

「ごぼ…フ゛ェ゛イ゛ト゛ぉぉぉぉ…ぐる゛じい゛よ゛ぉぉぉ」

 

母さんの荒れた手が私の首の首にかかり、力強く絞め始める。

 

「どうして…どうしてアリシアが苦しんでいるのに…あなは幸せなぉぉぉぉぉぉぉ」

 

「フ゛ェ゛イ゛ト゛ぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 

腐ったアリシアが私の体をよじ登り始める…ウジがボロボロと落ちて、腐った肉が体に張り付く。

 

「あ、う…いやぁぁぁぁぁぁ!!!!ごめんなさい!!!ごめんなさい!!!ごめんなさい!!!ごめんなさい!!!ごめんなさい!!!」

 

「うらめしや…うらめしや…」

 

「フ゛ェ゛イ゛ト゛ぉぉぉぉく゛る゛し゛い゛よ゛ぉぉぉ痛゛い゛よ゛ぉぉぉぉ」

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!怖いぃぃぃ!!!やだ!やだ!助けて…助けてなのは!!お兄ちゃん!!!助けてぇ!!!!」

 

《Sir!!!》

 

べしゃり。アリシア、の頭が私の体に張り付いて潰れている。それを見てなのか母さんの首を絞める力が強まる。

 

「死ね!」

 

「し゛ね゛!」

 

母さんのの口から、潰れたアリシアの頭が私を追い詰める。

 

「ぐ…げ…げぼ…」

 

「死ね!死ねフェイト!!」

 

「し゛ね゛…し゛ね゛…!」

 

「あ゛…あ゛…」

 

もう、首が折れそうだ…母さんは、アリシアはこれほどまで私を恨んでいたのか、憎んでいたのか。

 

「死ね!死になさい!フェイトォォォ!!!」

 

「し゛ね゛ぇぇぇぇ」

 

「た゛す゛け゛て゛!!!な゛の゛は゛!!お゛兄゛ち゛ゃ゛ん゛!!!た゛す゛け゛て゛ぇぇぇ」

 

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

 

「しねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしね

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

おもむろに骨が露出している腐ったアリシアの腕が動き、私の顔に何かを被せた。

 

--------

 

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-

 

「あああああああああああああああああああああ!!!!」

 

「クロクビーナも…牛鬼も…甘い…我々は怖がられてなんぼたと…いうのに…恐怖以外で…作ったウラメシーナ…弱い…」

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「我々の悲願…達成には三大ヨウカイの復活…まだまだ…かかる…」

 

「ああああああ…ウラメシ…ウラメシャアアアアアアアア!!!!!」

 

「行け…ウラメシーナ…人間の恐怖を…取り戻せ…!!!!」

 

「ウラメッシャアアアアア!!!!」

 

---------

 

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--

 

-

 

「・・・以上がバルディッシュに記録されていた映像の全てや。」

 

「なに…これ…」

 

アルトセイムでフェイトちゃんが行方不明になった。調査中に敵に襲われたとバルディッシュから緊急救助信号があった。現場に残っていたのはバルディッシュだけだった…

 

「敵の拠点がアルトセイムだとは限らん。プレシア・テスタロッサとアリシア・テスタロッサを用意していたことからフェイトちゃんが狙われていたんじゃないかと考えとるけどな。」

 

「・・・ジョークじゃ…ないですよね…」

 

「そんならさっさとフェイトちゃんに帰ってきてもらって別室でみんなの様子見てもらうな。」

 

「敵は何が目的なんでしょうか。フェイトさんをこんな目に合わせて…」

 

「死者が甦るなんて何が…!」

 

「クローンという可能性もあるな。死なせる為にだけ作ったクローン…命をなんと思っとるんや!!!」

 

はやてちゃんが机を殴る。静寂が発足したばかりの未確認生物対策部の会議室を包む。

 

「はやてちゃん…フェイトちゃんの行方は?」

 

「わからん…だけど恐らく、次に会うときはフェイトちゃんは間違いなく敵や…映像にプレシアとアリシア以外の敵が写っていない以上捜索も難しい。怪物化したフェイトちゃんも放っておけんしなぁ。」

 

「今までの怪物の行動を見ると間違いなく人を襲い始めます。しかし情報が少なすぎて対策が取りづらく後手に回って犠牲者を出さないというのはほぼ不可能です。」

 

「なのはちゃん…すまんけど教導部隊から本格的にうちに出向してもらうことになる…」

 

「わかった…フェイトちゃんの為だもん。頑張るよ。」

 

「しばらく出っぱなしになる…ヴィヴィオとヨシコちゃんに連絡してや。リンディさんにも連絡しとくから。」

 

「わかった。」

 

「また・・・プリキュアが出てくるんですかね…」

 

「あんま頼りたくないけどな…来るやろな…」

 

プリキュア…今まで魔導士が歯も立たなかった怪物を退けている存在。何故怪物に立ちはだかっているのか謎が多い存在。

 

「フェイトちゃん…助けてあげる…絶対助けてあげるからね…!」

 

---------

 

-------

 

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--

 

-

 

「リンディママ!アルフさん!いらっしゃい!」

 

「ヴィヴィオ!芳子ちゃん!久しぶりね。」

 

「お久しぶりです。リンディさん!」

 

「芳子ちゃん。お母さんが心配してたわ。でもその様子だと心配ないみたいね。」

 

綺麗な緑の髪をした女性…リンディさん!この容姿で20才を越える息子さんがいるとはほんとに思えない。ありえない。なのはさんのお母さんといいどうなっているのか…

 

「ヨシコ、久しぶり。元気にしてたかい?」

 

オレンジの髪に露出の高い服。スタイル抜群のこの人はフェイトさんの使い魔のアルフさん。将来はこれぐらいのスタイルになりたいな!

 

「それじゃあしばらくお世話になるわね。」

 

「いえいえこちらこそ!よろしくお願いしますリンディさん!」

 

「よろしくお願いします!」

 

「夕飯くらいにはクロノも来るはずだから一緒にどこかに食べに行きましょうか?あ、でも芳子ちゃんは入院してたんですって?大丈夫?」

 

「はい!大丈夫です!」

 

「無理しちゃダメよ?」

 

リンディさん達を部屋に案内してリビングでお茶にする。アルフさんが…終始落ち着かない様子だったから気になったけど…それと嫌な胸騒ぎがずっと収まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 




No.3カマイタチウラメシーナ


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疾風迅雷!恐怖のコンセントレイト!

フェイトちゃんがいなくなってから三日、怪物への対策方法。戦力の増強。捜索、探索、調査。あらゆる対策が取られた。それでも手がかりは何も掴めず、発足したばかりの未確認生物対策部は言い知れない恐怖が蔓延していた。

 

「なのはちゃん、リンディさん連絡ついたで。三日後くらいにはミッドチルダに来るって。混乱させるとあれやからヴィヴィオ達には簡潔に言っといてな。」

 

「わかった。ありがとうはやてちゃん。」

 

「フェイト執務官が行方不明なのは内密にしとる。エリオやキャロには話したけども…ヴィヴィオやヨシコに内容話すのは止めといた方がええやろな。」

 

「うん…ヨシコちゃんは最近具合悪そうだったし余計な心配かけさせたくないしね。」

 

「ヨシコも…難儀な子やな…海鳴でロストロギアの暴走に巻き込まれたり、こっちで怪物に巻き込まれたり。相当参ってるはずやろな…」

 

「ヨシコちゃんのお母さんともお話ししたけど…手の施しようが無いのが辛いって…」

 

「八神部長!これを!!」

 

「なんやティアナ。ビックリするやん。」

 

「す、すみません…先程ギンガさんの所へ寄ってきた時にみたんですが…とりあえず資料もらってきたのでこちらを見てください!」

 

「・・・通り魔事件?クラナガンでか?」

 

「はい。」

 

「ティアナ、これがどうしたの?」

 

ティアが持ってきたのは通り魔事件の資料だった。一日に三件から多いときには五件。日付は…フェイトちゃんがいなくなった日からだ。

 

「これ、変なんですよ。通り魔にあった時間が午後17時、18時からの夕暮れ時から夜。そして狙われたのが娘を連れた母親ばかりです。鋭利なものでざっくり…もう10人近くやられています。」

 

「こんの困った時にこんな狂人がいるんやな…それでこれがどうしたん?」

 

「被害者の女性は正面の肩から袈裟斬り、重傷です。しかし子供は無傷。そして誰も犯人を見ていないんです。」

 

「犯人を見てない…?そんだけざっくりやられるのを黙って待ってたんか?それはおかしいやろ。」

 

「・・・これ、怪物化したフェイトちゃんの仕業ってこと?」

 

「・・・私は、そう思い、ます。」

 

ごめんねティアナ、嫌な役回りさせちゃって…ティアナの仕事はあらゆる可能性から考えることなのに…

 

「状況を娘さん達に聞いたところ突然突風がふいて気がついたら…母親が血を流して倒れていた…皆口を揃えていいました。」

 

「・・・まるでカマイタチやな…?プリキュアは?」

 

「今のところ確認されていません。」

 

「そうか…もうこんだけ被害が出てるのに出てこないんか…よし。なのはちゃんは陸士隊と共にパトロールや。エースオブエースがパトロールしてるってなると市民に安心感も与えられるやろ。」

 

「そうですね。あともうひとつ新しい噂が…作られていました。出所は不明です。」

 

「新しい噂?」

 

「はい。親を殺された動物が人間に復讐しに夜な夜な歩き回っている…なんていうのが。」

 

「これまた曖昧やな…」

 

「被害に合っているのが母親ばかりなので噂の拡散速度は凄まじいです。」

 

「なのはちゃんのパトロールは早めた方がええな。」

 

「了解。」

 

「ティアナは噂含め調査頼むな。フェイトちゃんいなくて大変やと思うけど…なんかあったら私に聞いてな。」

 

「捜査官が一緒なら百人力です。」

 

「それフェイトちゃん聞いたら泣いちゃうで。」

 

ほんのりと対策部のオフィスに笑顔が戻る。しかしすぐさま鳴りを潜めて仕事に戻った。

 

「なのはちゃんは陸士隊と打ち合わせ、ティアナは調査、私は部隊の再構成…恐らく機動六課にいた面子を集めることになるけども…うまく行けばええな。」

 

「うん…フェイトちゃん…無事でいて。」

 

--------

 

------

 

----

 

--

 

-

 

リンディさんにつれて来てもらったのはクラナガンのお洒落なレストラン。とある管理世界の文化を取り入れたらしく、料理もとても美味しいがお菓子がすごく美味しいらしい。

 

「・・・。」

 

「(マクリル?どうかしたの?)」

 

「(おかしいリル。一週間くらい前からウラメシーナらしき気配が出たり消えたりをずっと繰り返しているリル。完全にはとらえきれなくて…嫌な予感がするリル。さっきも一瞬感じたけど…すぐに消えてしまったリル。)」

 

「芳子ちゃん?大丈夫?あんまり食べてないけど…」

 

「へ?あ、いえ!いやー美味しくてちょっと意識飛んでました!」

 

「あらあらそれは良かったわ。ここ私のお気に入りなのよ。管理局に入った時にお給料が入ったらずっとここに通ってたのよ!」

 

「そうなんですか!ちょっとシックな感じでとっても雰囲気いいですね!」

 

「そうでしょう?ここのデザートがとっても甘くて美味しいのよ~」

 

「(マクリル!どうして早く言わないのよ!)」

 

「(確証がなかったリル!それに、ヨシコの負担になりすぎているリル!)」

 

「(私の負担はどうでもいいでしょ!)」

 

「(ダメリル!マクリルにもプリキュアについてまだわからないことが多いリル!無理はさせられないリル!)」

 

「リンディママ!わたしこれ食べていい?」

 

「いいわよ~私もそれ食べたかったしね。」

 

「えへへへありがとうリンディママ!店員さーん!」

 

「孫とお食事っていいわねーつい甘やかしちゃう…っとクロノ遅いわね…」

 

「アルフさん、あんまり食べないの?」

 

「ん?あ、あああたしゃ最近燃費が良くなったからそんなに食べなくても大丈夫になったんだ。ここのはたくさん食べなくても満足できるし、いい店だよ。」

 

「へー…今度はフェイトさんと一緒にいきたいですね。」

 

あたしがフェイトさんと言ったらアルフさんが固まってしまった。何かまずいこと言った…かな?

 

「アルフ。・・・ダメ。」

 

「あ、ああ。わかってるよお母さん・・・」

 

「アルフさん?」

 

「いや、なんでもない…なんでもないよ。あたしもデザート頼もうかな…ってさ。」

 

アルフさんも店員を呼んでアイスを頼む。注文し終わったと同時にクロノさんが中に入ってきた。

 

「母さん、アルフ、遅れてすまない…ヴィヴィオ、芳子、久しぶりだね。」

 

「クロノさん!お久しぶりです!」

 

「お久しぶりです!」

 

「ああ。仕事も一段落させてきたからね。しばらくはミッドにいるよ。」

 

「そうなんですか!お仕事、忙しいはずなのに…お疲れさまです。」

 

「ははは!艦長と言っても人間だから休まなきゃ何もできないさ。」

 

「あ、クロノさん!ユーノさんから伝言が…」

 

ヴィヴィオが思い出した言葉を紡ぎ出すとクロノさんが怪訝な顔をした。

 

「・・・ユーノから?」

 

「はい。『いい加減にしろ。』これだけ言えばわかるって…」

 

「・・・ははははは!文句が言えるならまだ大丈夫だな。」

 

「・・・?」

 

「はぁー…クロノ?程ほどにね?あんまりやり過ぎるとボイコットされるわよ?」

 

「そこら辺、引き際はわかってますよ。母さん?」

 

「もう…どうなってもしらないわよ?・・・お帰りなさいクロノ。エイミィも寂しがってわ。」

 

「ただいま母さん。子供達にも…会いたいし…しかし…」

 

「・・・。」

 

急に黙ってしまった…念話をしているのかな?

 

「お待たせしました。」

 

「わぁー!リンディママ!来たよ!」

 

「まぁ!ヴィヴィオちゃん食べましょうか。」

 

「すまない、コーヒーをもらえないかな?」

 

「かしこまりました。」

 

「お客様!どうなさいましたか!?」

 

「この感じ…まさか…!?」

 

「…アルフさん?」

 

急に店内がざわつき始める。すると入り口の方に店員が数人集まっている…

 

「なんだ…?」

 

「芳子ちゃん、ヴィヴィオ…私から離れないで。」

 

「は、はい。」

 

「なにかあったのかな…?」

 

「アルフ!いつでも逃げられる準備を!」

 

「ああ!・・・お母さん、あの…客が…」

 

アルフさんがリンディさんに近づき何か耳打ちする、リンディさんはすごく驚いた表情だが何かあったのか…

 

「やめてください!他のお客様にご迷惑になります!」

 

「ウ・・・ラ…」

 

ちらっと店員の隙間から見えた…ボロボロのローブと深く被ったフードから見える金色の毛並みの獣の耳…無理矢理入ろうとしているのか…

 

「(芳子…マズイリル。)」

 

「(どうしたのよ。)」

 

「(あそこにいるあいつ…ウラメシーナリル…!)」

 

「(え、嘘!?)」

 

「(こんなに近づくまで気づかなかったリル…かなり成長してるリル…!)」

 

マクリルに言われて振り向いたその時だった。店内に突風が吹き荒れて前を向いていられなくなった。

 

「きゃああああ!」

 

「うわああああ!?」

 

「なんだ?!この風は!?」

 

「またテロなの!?」

 

店内は大パニックで店員が慌ただしく避難を促している。突風が止んであたしはヴィヴィオとリンディさんにつれられて裏口に向かった。

 

「母さん!」

 

「クロノ!頼んだわよ!」

 

「はい!時空管理局だ!都市内でのテロ行為…!?」

 

クロノさんが先程の店員が取り押さえようとしていた場所を見ると…そこはもぬけの殻…次の瞬間ヴィヴィオの悲鳴が辺りを響かせた。

 

「きゃああああ!リンディママ!リンディママ!!」

 

「う…ぐ…な、何故…」

 

「お母さん!くそっ…どうやって…!」

 

「母さん!いや、他にも!?」

 

リンディさんは袈裟斬りにされかなりの出血だ。それだけじゃない。店内の至るところで女性が血を流して倒れている。

 

「リンディさん!大丈夫ですか!?」

 

「ヴィヴィオ…芳子ちゃん…!は、早く逃げて…!」

 

「ウラ…ウラメシヤ…」

 

「ウラメシーナ…!」

 

「ウラメシーナ…?この人が…?」

 

いつのまにかあたし達の近くにいたウラメシーナ。人型だが四つん這いで獣のようだ。薄汚れたローブから見える腕は金色の毛で毛むくじゃら。長い尻尾は血で汚れ左手には大型の草刈り鎌のような鎌。フードから見える顔には不気味な木の面、耳はツンと立って警戒しているように見える。

 

「(ヨシコ!変身するリル!)」

 

「(で、でもここじゃ人が!)」

 

「(ヨシコ!わたしが結界を張るからそこで変身して!)」

 

「(ヴィヴィオ!)」

 

「(誰かに見られたらマズイんだよね!?早く!!!)」

 

「(わかった!)」

 

念話が終わると同時にヴィヴィオが小さく結界を張りウラメシーナごと外界を遮断する。

 

「ヨシコ!わたしは結界はあんまり得意じゃないから急いで!」

 

「わかった!よくもリンディさんを!!みんなの楽しい夕食の時間を邪魔して!!絶対に許さない!!!マクリル!」

 

「・・・ヨシコ、あんまり無茶はしないでほしいリル。」

 

「あたししか戦えないのにそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

 

「・・・わかったリル。」

 

マクリルがリリカルコミューンに変身してあたしの手に収まる。ウラメシーナは四つん這いで屈んだままぼんやりとあたしを見つめたままだ。表情の無い面が不気味だ。

 

《break open!》

 

「プリキュア!スタンドアーップ!」

 

《reload!》

 

リリカルコミューンは準備万端と言わんばかりに開いて中のピンクの宝石を光らせる。

 

《Go!Go!Stand up precure!》

 

まぶしく輝いたリリカルコミューンを勢いよく閉じるとあたしのからだがピンクの光に包まれる。身体にピンクの光の帯が巻き付きブローチの付いたピンクの差し色の入ったドレスに、フレアスカートに、ヒールブーツにと変わっていく。

 

「やっ!」

 

手を打ち鳴らして顔にバイザーが装着され頭と腰に大きなピンクのリボンが結ばれる。

最後にリリカルコミューンの収まるポーチが付いたベルトが巻き付き、浮き上がった身体が着地する。

 

「温良篤厚、春香る優しさの魔法!キュアリボン プリム!!!」

 

顔を上げてウラメシーナをにらみつけて物申す!

 

「他所のお家を荒らす悪漢!一罰百戒、恥を知れ!!!」

 

「ウラメシヤ…」

 

「わたしも!セットアーップ!」

 

ヴィヴィオもセットアップして大人モードになる。構える姿には隙がない。

 

「うう…すごい…プレッシャー…セットアップしたら結界が維持出来ない…これが光の力の影響なの…!」

 

「なんだかわからないけどあたしもすごい力がみなぎってきてる…!うおおおおお!!!」

 

ヴィヴィオの結界が消失して店内の喧騒が戻る。近くでクロノさんがリンディさんを抱えて治療を施している。アルフさんは牙を向いてウラメシーナを睨んだまま動かない。

 

「ヴィヴィオ!!…と誰だ君は!芳子は!?」

 

「・・・。」

 

「く、クロノさん・・・え、えっとヨシコは転移で逃がしました!そ、そしたらこの人が転移に割り込んできて…えっと…」

 

「勝手に転移を使ったのか!?・・・緊急時だから目を瞑ろう。それより君は!」

 

「え、あたし!?えっと…あたしは…うわぁあ!?」

 

クロノさんがあたしに詰め寄ろうとした瞬間、再び突風が吹く。

 

「きゃあああ!?」

 

「ヴィヴィオ!?」

 

「っぐ…大丈夫…腕を切っただけ…!」

 

「ウラメシヤ…ウラメシャーーーー!!!!」

 

「!ヴィヴィオーーーーー!!」

 

追い討ちをかけようとしたウラメシーナにアルフが飛びかかり取り押さえる。

 

「君!ヴィヴィオを連れて逃げるんだ!!もうすぐ武装隊が駆けつける!」

 

「クロノ!こいつはあたしに任せな!いや、あたしがやる!!!」

 

「だめです!魔導士じゃウラメシーナには敵いません!あたしが外に出さないように戦いますので!」

 

「何を言ってる!君一人にまかせられない!この現場は時空管理局の…」

 

「シャーーーーッ!!!」

 

「危ないッ!!!このぉぉぉぉぉ!!!」

 

ウラメシーナの振り上げた鎌を拳で弾き飛ばす。弾きとんだ鎌が壁に突き刺さり、回りにいた店内の客が逃げ惑っている。

 

「たいへん!」

 

「わたしもぉぉぉぉ!!!アクセルシューター!!!」

 

「ヴィヴィオ!無理はするな!」

 

ヴィヴィオの放つアクセルシューターがウラメシーナの頭部を直撃する。フードがボロボロと消え去ると頭が露になる。木の面と獣の耳が目立つが長い金髪が隠されていた。そして懐から更に鎌を取り出して四足で構える。

 

「ッ!!!やっぱり!!!」

 

「あれは…まさか!!!」

 

「嘘…!」

 

「聞いていた通りか!!封時結界!!!」

 

ウラメシーナが構えた瞬間にクロノさんが結界で外界を拒絶する。それよりもウラメシーナの姿に我々は動けなくなっていた。

 

「クロノさん!!聞いていた通りって、どういうことですか!」

 

「部外者には…」

 

「なんでフェイトさんがウラメシーナになってるんですか!?」

 

「!?」

 

「お前!!なんか知ってるのか!?教えろ!!フェイトに何があったんだ!?」

 

アルフさんが掴みかかって来て揺さぶられる。この様子だと…リンディさんがあたし達のところに来たのはなのはさんに私達の様子を見てと言われたからでは絶対無い。

 

「君…何か知っているのかい。」

 

「え、いや、あたしは…その…」

 

「言え!教えろ!!さもないと…」

 

「アルフ!脅迫したところで…君はあの使い魔にも見えなくない怪物について何か…」

 

「クロノさん!アルフさん!ヨシ…プリキュア!ウラメシーナの様子が変だよ!」

 

「君!後で話を聞かせてもらうぞ。今はあいつだ!」

 

「ウラ…ウラ…」

 

四つん這いでいたウラメシーナが二足で立ち上がり木の面に大きなヒビが入る。

 

「・・・ウラメシーナが成長するリル。」

 

「!?なんだいお前は!?」

 

「ぬいぐるみ…ソフトシェルのデバイスか?」

 

「ぬわーっ!マクリルはぬいぐるみじゃないリル!マクリルはようせ…」

 

「うわーっ!?マクリルしゃべっちゃダメ!!!」

 

「今はなんでもいい!あいつに何が起こっている!教えるんだ!」

 

「ウラメシーナが人間の恐怖を得て成長しているリル!このままだと人間に戻れなくなるリル!」

 

「なんだって!?じゃあフェイトは…!」

 

「ディバイーン!!バスター!!!」

 

会話の途中でピンク色の砲撃がウラメシーナを襲った。

 

「これは…」

 

「ママ!」

 

「やっぱり!ヴィヴィオ!」

 

「なのは!ということは武装隊が到着したのか・・・」

 

「うん!他の隊員は外で救助活動に専念してもらってる!」

 

「なのは!大変なんだ!言った通りだ!!あの動物みたいな怪物、フェイトなんだよ!精神リンクで伝わってくるんだ…すっごく…すっごく怖がってるのが伝わってくるんだ!」

 

「アルフ…うん、私が、私がフェイトちゃんを助けるから…絶対助けるから!!」

 

「カアサン…ゴメンナサイ…カアサン…アリシア…ゴメンナサイ…!」

 

ウラメシーナがボソボソと喋り出す。悲痛な、怯えきった声で。それを聞いてあたしとなのはさん、クロノさん、ヴィヴィオが構え直す。

 

「ママ!わたしも戦う!フェイトママを助けるよ!!」

 

「ヴィヴィオダメだ!ここは局員に任せて…」

 

「いいよ。クリス、リミッター解除。」

 

「なのは!?」

 

「私はあの怪物と戦ったことがあるよ・・・戦闘影響範囲を考えて逃げられない。それにあの怪物には魔法は効かないの!クロノ君は怪物を絶対逃がさないように結界を維持して!ヴィヴィオは身を守ってもらわないとこっちが戦えない…それにあなた。」

 

「へ、あたしですか?」

 

「うん。ちゃんと話すのは初めてだよね。プリキュアさん。」

 

「は、はい…!」

 

「あなたの魔法があの怪物に有効なのはわかってる…お願い、手伝って!」

 

「!」

 

「なのは、この現場は未確認生物対策部に任せる。そして僕とアルフはなのはの指揮下に入る。そしてその…プリキュア?だったか?は何者なのかこの際聞かない。味方でいてくれよ。」

 

「ひえぇ…」

 

「ヴィヴィオ!プリキュアさん!行くよ!…フェイトちゃん…今助けるからね…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 



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プリキュア危機一髪!第三の変身!

少々キツイ表現が必要になってきたためこれからこの小説にはR15とグロ注意のタグを付けたいと思います。


「どりゃああああああ!!!!!」

 

「ハァァァァーーーーーー!!!!」

 

あたしの拳とウラメシーナの鎌がぶつかり合う。プリキュアの力で拳が切り裂かれたりしないからと言っても刃面を殴るのはすごく怖い。

 

「アクセルシューター!」

 

「ディバインシューター!」

 

ウラメシーナへの追撃にヴィヴィオとなのはさんのシューターが降り注ぐ。しかしウラメシーナはアクロバティックに躱してあたしを執拗に狙ってくる。

 

「ハァァァァーーーーーーー!!!!!!」

 

「くっ・・・!フェイトさん!しっかりして!!!正気に戻って!」

 

なんとか受け流して鎌の連続斬りを躱すがフェイトさんが変身しているとなるとどうしても攻撃が撃ちづらい。

 

「プリキュアさん!躊躇っちゃダメ!躊躇ったらもっと被害が出るしフェイトちゃんが更に苦しむことになるの!」

 

「わ、わかってます・・・わかってますけど・・・!時間がないんです!早くしないと!」

 

「ヨ、プリキュア!危ない!」

 

「シャアアアァァァーーー!!!!」

 

ウラメシーナのしっぽが巨大な鎌に変化し、あたしの目の前を通り過ぎる。するとブラウスの一部が切り裂かれてはじけ飛ぶ。

 

「な・・・」

 

「リボン!いくらリボンでも今のを受けたら真っ二つリル!気を付けるリル!」

 

「チェーンバインド!」

 

「ストラグルバインド!」

 

アルフさんとなのはさんのバインドがウラメシーナを取り押さえて身動きを封じる。

 

「プリキュアさん!今!」

 

「はい!早く・・・早くしなければ・・・うおおおおおおッ!!!!」

 

コミューンがピンク色の光を放ち、技の準備が整った事を知らせる。

 

「プリキュア!スプリングシャワーッ!」

 

「!!!!」

 

突き出した両手から無数の光弾が一斉発射され、ウラメシーナに降り注ぐ。ピンク色の光と爆音が辺りを包み、爆風があたし達を襲った。

 

「やったか!?」

 

「その台詞はやってないやつですよ!」

 

クロノさんの発言にすぐさま返して構え直す。思った通り、煙が晴れるとバインドを抜け出したウラメシーナが佇んでいた。

 

「カアサン・・・ゴメンナサイ・・・カアサン・・・」

 

「フェイトちゃん!プレシアさんはもう亡くなったの!フェイトちゃんに恨み事を言うなんて出来ないの!だから正気に戻って!」

 

「カアサン・・・!!」

 

「くっそおおおおぉぉぉ!!!!」

 

「ハァァァッ!!!」

 

大きな風切り音と共にしっぽの鎌が振られて、なんとか避けるも前髪がぱっつんと揃えられてしまった。ガッデム。

 

「ひぃっ!?首!マクリルあたしの首ついてる!?」

 

「大丈夫リル!前髪がキュートになっただけリル!」

 

「そんなぁぁぁ!」

 

「プリキュア・・・えっとリボン?今はそんなこと気にしてる場合じゃないでしょ!」

 

「ご、ごめんヴィヴィオ・・・」

 

「近接しかしてこないなら・・・ここは私が!」

 

「ママ!?待って!!!」

 

なのはさんが突撃し、ウラメシーナに飛びかかる。シューターを一度、二度、三度、緩急を付けて撃ち出す。

 

「マ、マ・・・?カアサン!!!!」

 

急にウラメシーナの動きが俊敏になり、なのはさんに向かって行く。撃ち出されたシューターは鎌にはじかれ、撃ち出されてもすぐにかき消されていた。もうあたしは眼中にないらしく完全になのはさんに狙いを変えたようだった。

 

「カアサン!カアサン!!!」

 

「うぐ・・・!は、はや・・・」

 

「フェイトママ!!!もうやめてよ!!!!」

 

「ハァァァァッ!!」

 

「きゃあっ!?」

 

ついになのはさんは体勢を崩され、首に草刈り鎌を、頭上にしっぽの巨大鎌が振り上げられる。

 

「ママァッ!!」

 

「ヴィヴィオだめっ!」

 

なのはさんをかばうようにヴィヴィオが、更にソレをかばうようにあたしが前に出る。

 

「シャアァッ!!!!!」

 

あたしの目の前で振り下ろされる巨大鎌。とっさに腕を交差し防御する、が、避けたらヴィヴィオに、なのはさんに当たってしまう。・・・覚悟を決めよう。

 

「リボンーーーーーー!?」

 

ザクリと、肉を切られる感覚がした。

 

「ッ!!?」

 

「あ・・・ひっ・・・いや・・・ヨ、・・・うう・・・リボン!!!!」

 

「そんな・・・!」

 

「ぐ・・・ああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

 

腕を切り落とされることは無かったものの鎌の刃はあたしの腕に深々と斬り込み、今にも切り落さんと震えている。腕に溶けた鉄を流し込まれたような熱さが襲い、全身から力が失われていく。傷口からは熱い光の粒子が血液のかわりに吹き出してウラメシーナに浴びせる。

 

「リボン!リボン!!急いでフォームチェンジするリル!!キズはそれだけでふさがるリル!!!リボン!!!」

 

「あぐ・・・う・・・ひぃ・・・いや・・・マクリル・・・腕・・・腕が・・・うわああああああああああああああああああ!!!!」

 

「リボン!!リボン!!!!」

 

「ひどい・・・!フェイト!もうやめとくれよぉ!!!」

 

《reloading!》

 

ポーチから飛び出したリリカルコミューンが緑色の光を衝撃波と共に放ち、ウラメシーナを吹き飛ばす。ウラメシーナは店内の狭い空間に張られた結界の端にぶつかってよろめいていた。

 

《break open!》

 

「はっ・・・!はっ・・・!ひっ・・・!ううっ・・・!」

 

「リボン!フォームチェンジと叫ぶリルゥゥゥ!急ぐリルゥゥゥ!!!」

 

マクリルがシリンダーを動かして緑の宝石を上面にセットする。

 

《complete!formchange!stand up géranium!》

 

「ハァッ・・・ハァッ・・・!フォ、フォーム・・・チェンジッ・・・!」

 

緑色の光の柱に包まれて血に染まったピンクのドレスが光の粒子となって霧散する。

 

「うわっ!?なんだ!!この光は!?」

 

「リボン・・・!」

 

「間に合ってくれリル・・・!」

 

「そんな・・・あの子に怪我をさせてしまった・・・私は・・・!何をしているの・・・!」

 

緑の光の帯が体を包み始める。両腕の切り傷はふさがり、肘まであるプロテクターやナックルガードの付いたの緑色の剛健なグローブが装着され、足にはタクティカルロングブーツ。緑色のキュロットにサスペンダー、が装着されて白に緑色の差し色のついたフリルブラウスに変化する。

 

「てやぁぁっ!」

 

指を鳴らすと顔に航空眼鏡を装着し、胸に星形の勲章の様なブローチ、頭と腰に大きな緑色のリボンが巻かれる。

 

「光風霽月!秋めく慈しみの魔法!キュアリボン ジェラニオム!」

 

気がつくと、頭は冴え渡り、気持ちは落ち着いていた。ミリタリーチックな衣装に身を包んだあたしはフォームチェンジしたのだとそれが終わってから気づいた。

 

「・・・マクリル?あたしの腕、ついてる?さっきの、なに?」

 

「大丈夫リル!良かった・・・リボンほんとによかったリル・・・恐らく、いまリボンの体は光の力のエネルギーに変換されているんじゃないかと思うリル・・・たぶん…」

 

「取り乱してごめんなさい・・・あたしまだ行けます!」

 

「そんなわけが・・・とにかく無理はダメだよ!あの・・・ウラメシーナだっけ?の一撃があれほど威力があるなら用心しないと!魔導士はシールドもあるしバリアジャケットもあるんだからかばわなくても大丈夫だから!次は絶対あんなことしちゃダメ!」

 

「は、はい・・・」

 

「リボン~!!!良かったよぉ!無事だったんだね!」

 

「ごめんねヴィヴィオ驚かせちゃって・・・もう大丈夫だから!」

 

とはいったが・・・動悸は収まらない。まだばくばくと脈打って胸から飛び出しそうだ。

 

「(正直・・・もういっぱいいっぱい・・・キズは直ってるけど消耗した分は戻らないみたいで既に明瞭だった意識は朦朧としかけてる・・・でも、あたしがやらなきゃフェイトさんはずっと苦しんだままなんだ・・・そんなの絶対嫌だ!あたしは絶対に諦めない!!!)」

 

「ウラ・・・メシヤ・・・」

 

瓦礫からウラメシーナが立ち上がり巨大鎌を振り回す。

 

「プリキュアさん!ウラメシーナの狙いは今は私みたいだから!なんとか捕まえるから魔法の準備を!」

 

「はいっ!はああぁぁぁっ!」

 

腰を落とし、両腋を閉めて拳を握るとコミューンが光り出してグローブが緑色の光を纏いエネルギーを溜め始める。それと同時にウラメシーナが一瞬でなのはさんに距離を詰め巨大鎌を振り下ろす。

 

「ママッ!」

 

「同じ手は食わない!ラウンドシールド!」

 

「ウラッ!?」

 

巨大な鎌がシールドに阻まれ受け止められる、が同時にシールドにも無数のひびが入りそう長く保ちそうではない。

 

「くうっ・・・!バインディングシールド!」

 

「ウラッ・・・ッシャアアァァァ!?」

 

シールドから伸びたバインドがウラメシーナを捕らえる。

 

「チェーンバインド!」

 

「リングバインド!」

 

アルフとヴィヴィオもバインドで更に拘束する。三人分のバインドは流石に破るのは難しい様で先ほどよりウラメシーナがもがいている。

 

「シャアアアァァァ!?ギィィィイィ!!」

 

「プリキュアさん!今!今度こそやっちゃって!!!」

 

「はい!で、でも結界が・・・」

 

「君!全力全開でやれ!君の魔法でフェイトは死にはしないんだろう!?結界はなんとしてでも破らせない!これでも僕もエースだ!」

 

「わかりました!はぁぁぁぁッ!」

 

足下にゼラニウムも模した花びらの魔方陣が浮かぶ。同時にグローブの輝きも一層増して光る。ウラメシーナが心底憎らしそうに顔をこちらに向けてにらみつけている。

 

「フェイトさんッ!いますぐッ!!助けますからッ!!ちょっとだけ我慢してくださぁぁぁい!!!!」

 

姿勢を伸ばして腕を構え直す。輝きは最高潮に達した。

 

「プリキュア!!!」

 

「ウラメシヤァァァァァァァ!!!!!!!!」

 

あたしが何をしようとしたのかわかったのかウラメシーナは激しく抵抗しバインドを何本か引きちぎっている。

 

「逃がしゃしないよフェイト!ここで終わらせるんだ!」

 

「フェイトママ!お願い!元に戻ってええぇぇぇ!!!」

 

腕を頭上に掲げ、一気に浄化技を放つ!

 

「ジェラニウゥゥゥゥゥム!!!クロォォォォォス!!!!」

 

放った浄化技は巨大なX字の衝撃波。瓦礫を吹き飛ばしながらウラメシーナに直撃し、緑色の奔流に飲み込まれた。

 

「やぁぁぁぁぁぁッ!!!うわぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」

 

「アアアアアアアアアアッナムサンンンンンンン!!!!!」

 

「きゃあああああっ!?」

 

「うわわわわわわ!」

 

「なんて威力だ・・・・ッ!」

 

「フェイトぉぉぉぉぉ!!!」

 

光の奔流が収まると・・・瓦礫の上に管理局制服姿のフェイトさんが横たわっている。・・・勝った・・・終わった・・・!

 

「フェイトちゃんっ!」

 

「フェイトママ!」

 

「フェイトォォ!」

 

「フェイトッ!」

 

四人が一斉に駆け寄り、なのはさんがフェイトさんを抱きかかえる。

 

「ん・・・?な・・・のは?アルフ?ヴィヴィオまで・・・お兄ちゃんも・・・」

 

「フェイトちゃん!良かったっ・・・良かったよぉ・・・!」

 

「フェイトママ・・・フェイトママァ・・・!」

 

「うう・・・うわぁぁぁん!フェイト・・・フェイトォォォォ!」

 

「心配かけて・・・このバカ妹・・・!」

 

「えっと・・・何が起きて・・・これは・・・!?」

 

「フェイトさん・・・大丈夫ですか・・・?」

 

「あなたは・・・プリキュア・・・!?」

 

抱えられたフェイトさんがあたしの姿を見て驚愕に表情を変えた・・・恐らくここで戦闘があったことも理解したのだろう。

 

「ありがとうプリキュアさん・・・あなたのおかげです。」

 

「僕からも例を言う・・・フェイトを、妹を助けてくれて本当に感謝する。」

 

「ありがとおおおおお!ほんとに・・・ほんとにぃぃぃ!」

 

「リボン・・・!」

 

ヴィヴィオが涙目であたしの手を握る・・・なんだか照れくさいなぁ・・・

 

「あれ・・・なんか力が・・・」

 

ふっと脱力し、その場にぺたりと座り込んでしまった・・・どうやら、安心して腰が抜けたみたい。

 

「リボン・・・お疲れ様リル・・・」

 

「マクリル・・・今回はいつもより、大変だったかな・・・はは・・・」

 

「さて・・・安心してるところ悪いが・・・少し付いてきてもらうぞ。事情聴取させてもらう。」

 

「あっ」

 

「そうだ・・・プリキュア、今度こそ、お話聞かせてくれるよね?」

 

「ああ~えっとぉ~そのぉ~」

 

しまった・・・腰が抜けてる場合じゃ無い・・・はやく逃げなきゃならな

 

「見たぞ!!!」

 

「!?」

 

不意にとても不気味な声が聞こえた。それは体の中に直接響く様な、人の心をわしづかみにするようなとても恐ろしい声。

 

「ミタゾ。」

 

「見たぞ・・・」

 

「見たぞ見たぞ!」

 

「な、なんだ!?どこにいる!!」

 

「フェイト・・・なんだかやばいよ・・・はやく、早く逃げないと・・・」

 

「アルフ・・・警戒して!」

 

「ママ・・・」

 

「ヴィヴィオ!離れないで!」

 

いつの間にか結界は解かれ、辺りは静まりかえっている。すると夜の闇の中から・・・一個の車輪が転がってくる。その車輪は普通ではなく、火を噴きながら走っており更に車輪の中心に顔が付いていた。

 

「見たぞ!見たぞ!貴様が!我々の邪魔をしていたのだな!」

 

「なに・・・あれ・・・!」

 

「僕は夢でも見ているのか・・・?」

 

「ひっ・・・」

 

「ヴィヴィオ・・・!」

 

「ナゼ オレタチノ ジャマ スル。」

 

次に現れたのは巨大な牛の頭の巨人。大きな斧をちらつかせながらこちらを見定めるように周りを歩いている。

 

「ウラメシーナが育たないと思ったら・・・まさか人間に退治されていたなんてねぇ・・・ヨウカイ退治が出来る人間がいるなんて思わなかったよぉ・・・ひひひひひひ!!」

 

「せっかく・・・私が・・・作った・・・ウラメシーナ・・・育ったのに・・・無念・・・!!」

 

後ろから緑と赤の着物を着た顔の無い、首の長い女と、宙に浮く半透明の女が近づいてくる。怖い。本能が。警告している。こいつらにかかわるなと。はやくにげろと。

 

「ひ・・・い・・・」

 

「ひひひひひひひ!時間がないんだよぉ・・・」

 

「時間が無い!」

 

「オレタチ モウスグ ジカンナイ」

 

「ひどい・・・ひどいわぁぁぁぁぁ」

 

周りを見ると全員顔面蒼白、パクパクと震えて声も出ていない・・・恐怖し焦燥しきり、もう行動不能だ。この生物では到底叶わないと本能が訴えかけている怪物は、なんだ。

 

「常夜の住人・・・!」

 

「マクリル・・・!?」

 

「こいつらリル!メグメルを・・・マクリル達の国を滅ぼしたのは!こいつら常夜の住人リル!!!」

 

「こ、こいつらが・・・常夜の・・・住人・・・!」

 

「何故!」

 

「ナゼ」

 

「なぁぜぇ?」

 

「なんで・・・?」

 

常夜の住人達は他の四人には目もくれず、あたしに近づいてくる。いやだ。やめて。こないで、こないで!!!

 

「ひ・・・いいいぃぃい!?」

 

「人間・・・ここで殺してしまおう・・・」

 

「クロクビーナ、お前はいつも気が短いと・・・」

 

「なんだいカッシャ!あんた状況は考えてるのかいぃ?気も短くなるってんだよ!」

 

「クロクビーナの言うとおり・・・ノーメーンも・・・時間も・・・残り少ない・・・」

 

「ソウ レイリン タダシイ。」

 

「ギュウキ・・・そんなこたぁわかってる。殺してしまったら恐怖は得られない・・・だが・・・」

 

「こいつらは」

 

「シマツ シテ」

 

「置かないとぉねぇ!」

 

「もう・・・戻れない。」

 

常夜の住人の気配が・・・恐怖に殺意が混ざり始める。だめだ、なのはさん達を、殺すきだ。いま助けたばかりのフェイトさんを、命の恩人を、親友を殺す気だ。

 

「・・・せ、ない」

 

「んん~なんだい人間?」

 

「そんなことさせない!!!」

 

「プリ、キュア・・・?」

 

あたしは疲労で朦朧とする意識をなんとか掴み取り、悲鳴を上げる体に鞭打って立ち上がる。

 

「そんなこと!絶対にさせない!!!」

 

「・・・人間、調子に乗るなよ。」

 

あたしは自分を鼓舞するためにも、常夜の住人達を指刺して叫ぶ。

 

「他所のお家を荒らす悪漢!」

 

「マズハ オマエカラダ」

 

謎の車輪の憎しみに満ちた顔が恐ろしく心が折れそうだ・・・

 

「一罰百戒!」

 

「ひーっひひひひ!!粋がるねぇ人間!」

 

不気味な巨人と笑う異形の女・・・

 

「恥を知れ!!!」

 

「愚かな人間・・・」

 

どうしようもない謎の本能的恐怖に、あたしも膝が笑い、涙がこぼれ、声が震える。でも常夜の住人と戦えるのはあたしだけだ。・・・みんなを守らないと!!!

 

「ヨウカイの」

 

「キョウフヲ」

 

「思い出させてやるよぉ!!!」

 

「我らを『畏れよ』・・・人間。」

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 



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大決戦!光と闇の最悪の出会い。

「ヴォオオオオオオ!!!!」

 

「だぁああああっ!」

 

牛鬼の振り下ろす斧を弾き、突進してくる朧車を避ける。震える足で立つのが精一杯のあたしは体中が嫌な汗でべっとりと濡れている。

 

「わたしたちぉぉぉぉぉぉぉ忘れないでおくれよぉぉぉぉぉぉ」

 

「おのれ・・・うらめしやぁぁぁ」

 

ろくろ首が火の玉をいくつも放ち、幽霊がおどろおどろしい鬼火を放つ。

 

「っぐ・・・!?がはっ・・・」

 

どうしても避けきれず後ろの五人に当たらぬ様かばう。火の玉や鬼火が体に当たって弾ける度に悲鳴をあげてしまう。

 

「リボン!」

 

「プリキュアさん!いま手を貸すから・・・」

 

「プリキュア!一人じゃダメだ!」

 

「だめ!早く逃げて!!」

 

横たわってしまった体に鞭打って立ち上がる時、五人から声がかかる・・・早く五人を逃がさないと・・・

 

「そんなこと出来ないよ!リボン私達も・・・」

 

「ジャマなの!!!」

 

「!!」

 

ぼろぼろの緑色のドレスをはためかせて・・・立ち上がる。もう立っていられない。倒れたままでいたい、帰りたい、お母さん・・・苦しいよ・・・でも・・・

 

「・・・みんなを守らなきゃ」

 

「くっ・・・ブレイクキャノン!」

 

クロノさんの砲撃がろくろ首めがけて放たれたが目前でかき消えて・・・

 

「ひぃーひっひっひ・・・面白い人間だね・・・ただのマヌケか・・・それとも何か企んでいるのか?そこの黒いの?」

 

「魔法が・・・何故・・・!?」

 

「さっきも言ったじゃないですか!こいつらには魔法が効かない!だから魔導士はジャマなの!早く逃げてよぉ!!!お願いッ・・・」

 

「・・・なのはママ、フェイトママ、逃げよう。」

 

「ヴィヴィオ・・・でも!」

 

「そうだ!管理局員が一般人を置いて逃げるなど・・・」

 

「周りに一般人はいるんですか?クロノさん?」

 

「なに・・・これは」

 

そう、辺りは謎の闇で包まれていて一般人の姿は見えない。管理局員以外を一般人というならあたしとヴィヴィオだけだ。

 

「わたしは少し周りが見えるようになってきました・・・さっきまで恐怖に飲まれてて何も考えられてませんでした。少し落ち着いて、周りをみてください!」

 

「・・・なのは、お兄ちゃん、逃げよう。」

 

「フェイトちゃん?」

 

「フェイト・・・」

 

「私はアイツらと三回も戦ったからわかる。今目の前にいる奴らは今までのとはわけが違う。敵わないんだ。逃げるしかない。見て?アルフなんか気絶してるよ・・・」

 

「管理局員が彼女を一人残して逃げるわけにはいかないだろう!?それにそれほどの脅威だとわかっているならなおさら・・・」

 

「一般人ならこっちにヴィヴィオがいる!それに・・・デバイスの無い私も戦力にならない。奴らと戦うには魔導士だと戦えない・・・」

 

「・・・クロノ君、フェイトちゃん達を連れて逃げて。」

 

「なのは!?」

 

「私の火力なら足止めくらいは出来る。みんなが逃げる時間稼ぎも・・・早く!」

 

「わかった、なのはも危なくなったら・・・」

 

「うわああああああっ!?」

 

朧車の体当たりをもろにもらってドレスが燃える。大きく吹っ飛んでみんなの所に落下した。

 

「クロノ君!急いで!!」

 

「リボン!・・・頑張ってッ・・・!」

 

あたしはヴィヴィオの言葉にサムズアップするしか出来なかった。肺に息が入らず呼吸が出来ない。

 

「君!・・・帰ったら話を聞かせてもらうからな!!」

 

「・・・げほ、あ゛い゛・・・」

 

「プリキュアさん!私も戦うよ。足止めくらいしか出来ないと思うけど・・・!」

 

「・・・ありがとう、ございます。」

 

よろめきながらも立ち上がり、常夜の住人を睨む。

 

「ふぅーむ・・・なかなかしぶといな。人間。」

 

「時間がないってのに・・・嫌になるねぇ・・・」

 

「フーッ!フーッ!ブモオオオオオオ!!!!!」

 

「ウシオニ・・・すこし落ち着いて・・・」

 

「ディバイーン!!!バスタァー!!!!」

 

ピンク色の光が奴らに迫るも目前でかき消える・・・なのはさんの顔が歪む。

 

「結構力いれたんだけどな・・・!」

 

「ううう・・・げほっげほっ・・・消耗が激しい・・・っ!」

 

再び構え直そうと足に力を入れたその時だった。ポーチからマクリルが飛び出してあたしたちの前で仁王立ちする。

 

「ま、マクリル・・・!危ない、から!戻って!」

 

「・・・どうしてメグメルを滅ぼしたリル!!」

 

「まさか・・・妖精?」

 

「嘘・・・」

 

・・・なんだろう。奴らがマクリルの姿を見たら動揺し始めた。

 

「・・・ヨウセイ、ソンナ、ゼンインケシタハズ。」

 

「しくじった・・・?生き残りが・・・いるなど・・・」

 

「こっちの質問に答えるリル!」

 

ちら、とマクリルと目が合った。・・・時間を稼ぐから、休めということだろうか。

 

「・・・妖精、私が答えよう。」

 

朧車が火を噴きながら前に出て来る。今のうちに、少しだけでも体を休める・・・

 

「メグメルを滅ぼしたのは他でも無い。我々の力を誇示するためだ。」

 

「・・・ふざけんなリル。」

 

「ふざけていない。我々はそういう生き物だ。貴様も妖精ならば見ていただろう。日々決闘に明け暮れ、自身の強さを見せつける様を。それを我々の世界だけではなく他の者にも見せつけてやろうと思ったのだ!手始めにどうにもちまちまと目障りな世界があったので・・・な?」

 

「この・・・!!!こっちにはプリキュアがいるリル!お前達を倒せる光の力を持ったこっちの切り札リル!降参して自分の世界に帰るリル!」

 

「切り札だと?笑わせる・・・半分も力を引き出すことが出来ず、満身創痍で我々に怯えるそこの少女が、か?」

 

「・・・!?」

 

やばい、休んだら意識がもうろうとしてきた・・・なのはさん・・・?

 

「プリキュアさん!?しっかりして!?プリキュアさん!?」

 

「しまったリル!」

 

「ふははははは!!!妖精の切り札もたいしたことないのだなぁ・・・」

 

「・・・なぁカッシャぁ」

 

「クロクビーナ、今更戻れん。」

 

「オレ・・・オレハ・・・ウオオオオオオ!!!!ブモオオオオ!!!!」

 

「ギュウキ・・・!?」

 

やばい!!牛鬼の咆吼で目を覚ますと、その巨体はマクリルを踏み越えてあたしとなのはさんの目の前に迫っている。

 

「キエロ!!!プリキュア!!!!」

 

「くっ・・・うわあああっ!!!」

 

「リボンーーーーーッ!!」

 

あたしは蹴飛ばされて瓦礫の山を転がる。牛鬼は更に詰め寄り、斧を振りかぶる。

 

「間に合って!!リングバインド!!!」

 

「ブモオオオオォォォォ!!!!」

 

「うが・・・げほ・・・」

 

牛鬼はバインドを引きちぎりながら、虫の息のわたしに斧を振り下ろした。

 

「っぐ!!うわあああああああああああっ!!」

 

「いやっ・・・!」

 

「リボン・・・!」

 

瓦礫を吹き飛ばしてあたしは地面にめりこんでいく。ジェラニウムフォームが防御特化だったらしく体が両断されるという悲劇は回避出来たが、航空ゴーグルは吹き飛び、頭のリボンはほどけ、グローブは砕け散った。

 

「も、もうだめリル・・・リボン!逃げるリル!この世界から逃げるリル!リボンだけでも生き延びるリル・・・お願いリル・・・リボン・・・!」

 

「プリキュアさ・・・嘘・・・!ヨシコちゃん・・・!?」

 

「あ・・・ぐ・・・うぅ・・・」

 

「ヨシコちゃん!ヨシコちゃんしっかりして!?」

 

「・・・マクリルーーーーーッ!!!!」

 

なのはさんに抱きかかえられ、もはや飛んでしまった意識で無意識にマクリルの名前を叫ぶ。マクリルは光の玉となってコミューンに収まった。

 

「・・・させ、ないッ!」

 

「ヨシコちゃん!もうやめて!」

 

「この世界でもう好き勝手させないんだからっ!!!」

 

《reloading!》

 

「あたしが!あたしが守るの!!!」

 

コミューンがまばゆい金色の光を放ち、闇を照らす。

 

「・・・世界の救世主か、そんなものが我々にもいてくれたらな。」

 

「そんなの最初からいやしないさ・・・カッシャ?私達は最初から日陰者だろう?」

 

「マブシイ・・・ヒカリ・・・アタタカイ・・・!!」

 

「・・・みんな、来るよ。」

 

《break open!》

 

「フォームッ!チェーンジッ!!」

 

なのはさんの腕からふわりと浮き上がって奴らに立ちはだかる。もう後が無い。限界なのがわかる。この変身が終わったらどうなってしまうのか、見当も付かない。今までは疲労で動けなくなる程度だった。今回は明らかに致命傷となる攻撃を受けすぎた。

 

「・・・ヨシコちゃんがずっと戦ってたんなんて・・・最初から、いままで、ずっとぼろぼろになって・・・」

 

コミューンのシリンダーが回転して金色の宝石がセットされる。

 

《complete!formchange!stand up tournesol!》

 

ほぼ裸同然になったぼろぼろのジェラニウムフォームのドレスが光の粒子となって消える。金色の光の帯が体に巻き付いて、金のラインがいくつも入ったワンピースドレスに変わる。金色のまぶしいリボンが腰と頭に巻かれ、小さなリボンのついた金の意匠の白いドレスグローブが装着される。ブーツは金の靴紐のロングブーツが履かれる。

 

「ッ!」

 

指を鳴らすと金のヴェネチアンマスク、金のロングスカーフが巻かれる。

 

「疾風怒濤!夏燃ゆる情熱の魔法!キュアリボン トゥルヌソル!」

 

眩しい光を放ちながら、ゆっくりと着地する。

 

「ヨシコ・・・ちゃん・・・?」

 

「なのはさん・・・正体、ばれちゃいましたね。」

 

「なんで・・・どうして言ってくれなかったの!」

 

「最初は、ウラメシーナが出現したときフェイトさんの家から出ちゃダメだよっていう言いつけを守る為でした・・・それがずるずると引き延ばされちゃって・・・」

 

「そんなの・・・!」

 

「この力・・・あたしにしか使えないそうなんです。困っている人がいて、助けてあげられる力があるなら迷っちゃいけないってヴィヴィオが教えてくれました・・・なのはさんの言葉だって・・・」

 

「確かに・・・そうだけど・・・それはわたしのお父さんの言葉で・・・」

 

「なのはさん!今はあいつらを!!!」

 

「世界の救世主・・・プリキュアと言ったか。」

 

「そうだよ・・・あなたたちの好きなようにはさせない。」

 

「そうか。ならば私が相手だ。クロクビーナ、後は頼む。」

 

「そうかい・・・達者でな、カッシャ。行くよギュウキ、レイリン。」

 

「カッシャ オイテクノカ?ダメダ ミンナデカエル」

 

「ギュウキ・・・仕方ないんだ・・・いくよ・・・」

 

「カッシャ!カッシャ!ダメダ!」

 

「・・・ッ!」

 

牛鬼とろくろ首と幽霊が闇の中に消えてあっという間に見えなくなって逃げた・・・でも追えない。目の前の朧車が並々ならぬ殺気を放っていてうごけない。

 

「我々も後に退けない。」

 

「後に退けなくなるんならどうして、メグメルを滅ぼしたりしたの!」

 

「我々にとっては必要なことだった。」

 

「だからって!誰かを苦しめるなんてことは許されない!」

 

「その許されないことがどうしても必要だった・・・我々は生きるためには悪になるしか道はない。」

 

「あるよ!きっとある!どうして他の道を探そうとしなかったの・・・!」

 

「・・・もう話すことはない。いくぞ。」

 

朧車のまわりに瓦礫の木材や石が集まり、巨大な牛車を構成していく。骨の塊ように見えるその巨体は一瞬で10メートルを超え炎につつまれていた。

 

「・・・なのはさん、お手伝いしてもらってもいいですか!」

 

「わかった・・・ヨシコちゃん。でも魔法は効かないんだよね?」

 

「はい・・・それでも撃ち続けてください!人間が・・・この世界の人が、魔導士が!抵抗し続けなければならないと思うんです!全力全開で!!!」

 

「全力全開・・・そういうのなら得意だよ。じゃ、一緒にやろっかヨシコちゃん。」

 

「精一杯やります!わたしが負けたら、それこそ終わりですし。絶対に、諦めない!!あたしの決意は固結びで絶対ほどけないんだからッ・・・!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 



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さよなら魔法!決意の固結び!

「覚悟しろ人間!!ここから先は人の踏み入れてはならぬ領域だ!!!」

 

「うぞ…でかっ…!!」

 

「ヨシコちゃん…!」

 

骨の塊のような巨大な牛車と化した朧車。辺りの瓦礫や車の残骸を巻き込み、さらに大きくなる。レストランがあった建物はもう影も形もない。周辺は撤退したクロノさんの仕業か一般人はおろか魔導士の姿もない。夜の闇の様な謎の結界もなく、戦闘の音以外はなにもしない。

 

「行くぞ人間!!!うおおおお!!!」

 

「させないっ!ディバインバスター!!!」

 

なのはさんの魔法は朧車にではなく、地面に向かって放たれている。地面を抉り、朧車の車輪を走行出来ないよう妨げている。

 

「でやあああ!!」

 

「んぐぉっ!?」

 

あたしはというとなのはさんの魔法で体勢を崩された朧車をひたすら殴り続けている。この光輝くフォーム、トゥルヌソルの拳は金色の粒子を撒き散らしながら放たれて当たると凄まじい衝撃波が起こる。というかそれしか出来なかった。マクリルはだんまりで技があるのかすらわからない。

 

「ふぅ…はぁっ…!徒手空拳だけは…すごくきつい…!なんだか…消耗もさっきよりひどい気がする…!」

 

「ぐぬぬ…プリキュア…よいパワーだがそれしか芸がないなら我々を倒すなど夢のまた夢だ。」

 

「うるさい…!あたしは…!諦めない…!」

 

「ヨシコちゃん!大丈夫なの!?顔色が…!」

 

「うぅ…!」

 

「ふん…!プリキュア…もっとだ!!もっと思いの丈を込め立ち向かってこい!!そうでなければ誰かを守る等不可能だ!!」

 

「なにを…!」

 

朧車の体が変形し始め、無数の骨の腕が伸び、瓦礫を掴んで投げつけてくる。なんとか避けながらも突貫する。既に戦い始めて何時間たったのか、金色のドレスは泥だらけだ。体中から金色の粒子が溢れてまるで異常を伝えているようだ。

 

「動いて…!あたしの体…!ここで動かないと大好きな人達を守れないのよ…!」

 

「くっ…リングバインド…!」

 

「むっ!?やるな人間!!」

 

「効いた…?なら!!ヨシコちゃん!私に続いて!」

 

「はい!」

 

「ディバインバスター!!!」

 

「ぐおおおおっ!?なにぃぃぃぃ!?」

 

「これでぇぇぇぇぇ!!!」

 

牛車の正面に付いた朧車の大きな顔面を渾身の力で殴る。金色の拳は朧車の顔を歪ませて巨体を構成する骨を吹き飛ばす。少しずつだけど…攻撃が効いてきている。朧車が弱っているのか…はたまたあたしの力が強くなってきたのかはわからない。でも、このまま行けば勝てる!

 

「なのはさん!!」

 

「うん!バインドで縛るからその隙に!」

 

「はい!!」

 

体をバネのように使い空中に飛び跳ねる。空に浮かぶなのはさんまで届き、合図を送る。

 

「レストリクトロック!!!」

 

「・・・!?なんとぉ!!」

 

「くらえええぇぇぇぇ!!!!」

 

朧車の巨体にドロップキックを繰り出し、木っ端微塵に破壊する。骨の残骸や瓦礫が散らばり、最後にカツン…と朧車の車輪が落ちる。

 

「うっ…ぐっ…!?」

 

倒した、と思った次の瞬間体に激痛が走る。体から漏れ出す光の粒子が増え始めて力が入らなくなり、思わず膝をついた。

 

「うぎっ…!?なに…これ…!?」

 

「ヨシコちゃん!大丈夫!?どうしたの!?」

 

「あ…だ、大丈夫です…さっきのダメージがきたみたいで…それよりあいつは!」

 

なのはさんに体を支えられて朧車に近づく。そこには最初より小さくなった車輪。弱々しい朧車がいた。

 

「・・・。」

 

「とどめ…だよ…!マクリル!ねぇマクリル!!聞いてるの!?」

 

「ヨシコちゃん。マクリルってさっきのぬいぐるみ?」

 

「はい…なんか妖精?らしくって…でもさっきから返事がなくて…」

 

「おい、プリキュア。」

 

朧車が弱々しく呼んできた。戦っていた時の覇気はなく、今にも消えてしまいそうな声だった。

 

「なによ…!まだやるき!?」

 

「プリキュア、お前は本気じゃなかったみたいだが良い喧嘩だった。」

 

「はぁ!?」

 

「喧嘩!?その喧嘩で何人の人が犠牲になったと思ってるの・・・!」

 

なのはさんがレイジングハートを朧車に向けて威嚇する。朧車はどこ吹く風であたしに話しかけてくる。

 

「はは…もうこんなことすることもないのか。プリキュア、聞け。我が名はカッシャ、妖怪朧車のカッシャだ。」

 

「妖怪…?」

 

「ふざけて・・・!」

 

「ふざけるもなにも我々は存在する。それを忘れた人間達は信じないだろうがな。そのせいで我々がどれ程苦しめられているかも知らずに…」

 

「どういうこと…えっ!?」

 

話している途中でカッシャの車輪が腐り崩れていく。カッシャが苦しそうに顔を歪めてもがく。

 

「これだけ暴れても畏れは得られないか…やはり我々はもう存在すら許されないのか…」

 

「あなた何を言っているの?!」

 

「聞け、プリキュア、人間。我々を畏れよ。我々は人間のいるところのすぐ側にいるぞ。いつでも人間を攫い食ってやる。怖いだろう?」

 

「ちょっと!こっちの話も聞きなさいよ!あなた達はいったい何者なの!?どうして人間を襲うの!!」

 

「妖怪に何故人を襲うのか聞くのか…やはり、もう、妖怪の時代は終わったのか…もっと生きていたかった。ならば…散り際くらいは思い出させてみせよう!!!」

 

カッシャから炎が渦巻き巨大な炎の玉が出来上がる、辺りを熱波が吹きすさび怨念の籠もった叫びような音がオオオォォォ・・・と鳴り響く。

 

「畏れぬならば!!!畏れの力がどういうものか見せつけてくれるわぁぁぁ!!!!」

 

「最後の最後まで・・・!」

 

炎の玉の表面には恐怖に歪んだ人の顔のような模様が這い回り、熱風が地面を焼いていく。

 

「なのはさん!!あたしが浄化技であいつごと!!!下がってください!!!」

 

「くっ・・・そうだね・・・あれは魔法で相殺出来そうにない・・・それならヨシコちゃんは私が守るから!遠慮無くやって!!!全力全開で!!」

 

「マクリル!!起きて!なにしてるの!?」

 

コミューンはうんともすんとも言わず、火球は膨らみ続ける。

 

「・・・ど、どうすれば・・・!そういえばマクリルは気合いを溜めて出すって・・・!よぉぉぉぉぉぉしっ!!!!わあああああああああっ!!!!」

 

気合いが溜まり始めたのかポーチの中で暴れるコミューンに大きなひびが入りポーチがはじけ飛ぶ、すると勢いよく金色の光の粒子が吹き出し始める。

 

「うそ・・・コミューンが・・・!マクリル、ゴメン!でも頑張って耐えてぇぇぇぇ!!!!!」

 

「うおおおおおおおッ!!!うらめしやぁぁぁぁぁぁああああッ!!!!」

 

「プリキュア!!!!」

 

体中やコミューンから吹き出した光の粒子が球体にまとまり、あたしの足下にひまわりの魔方陣が現れる。

 

「ソレイユ!エクス!プロージョーッン!!!!」

 

火球と光球がぶつかり合い、炎と光の粒子が撒き散らされる。辺りはあっという間に破壊されて戦場の様な風景が広がっていく・・・夜なのに昼のように明るくて・・・とても不気味だ。

 

「ぐ・・・馬鹿なぁッ・・・!?」

 

「ヨシコちゃんッ!オーバルプロテクションッ!」

 

「やああああぁぁぁぁぁッ!!!フィナァァァァァァッレェェェェェッ!!!!」

 

「うあああぁぁぁぁぁ!?南無・・・三・・・ッ!!!」

 

火球が金色の光球に飲み込まれ、まばゆい光が辺りを照らす。光が収まると・・・瓦礫の上に小さな車輪が落ちてくると、ぐしゃり…崩れた車輪にカッシャの顔は無く、静けさだけが残った。

 

「ハァッ…ハァッ…結局、なにもわからなかった・・・」

 

あたしは地面に降り立つと、変身が溶けて倒れ込む。体は尋常ではない疲労感が襲い、頭はガンガンと鳴り物を鳴らされているようにうるさく右も左もわからない。

 

「うげっ・・・ぐ・・・はぁ・・・うえぇ・・・」

 

「ヨシコちゃん!!ヨシコちゃん大丈夫!!!」

 

「あ、あははは・・・ちょっと・・・疲れちゃいました・・・そえより・・・あいつは・・・」

 

「倒した!倒したよ!しっかりして!!」

 

「はぁ・・・はぁ・・・それよりも・・・戻らないと・・・あたしはヴィヴィオに・・・転移魔法で・・・家に帰ったことになってるので・・・」

 

「わかった・・・家に着いたらお話を・・・ヨシコちゃん?ヨシコちゃん!!しっかりして!ヨシコちゃん!!!」

 

 

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嘘リル。信じたくないリル。

 

「本当のことです。残念ながら。助けられなくてもうしわけありませんマクリル・・・」

 

女王様、ずっと見ていることしかできなかったリル?

 

「はい・・・こうしてコミューンの中に宿ってから私はどうすることも出来ず、ヨシコさんの苦しむ姿を・・・」

 

・・・女王様は悪くないリル。これも・・・

 

「マクリル、もうヨシコさんもコミューンも限界です。光の力・・・プリキュアの力は戦うべき相手ではないときヨシコさんに強い負荷をかけ続けます。・・・踊らされている彼らは討つべき相手ではないと。」

 

わかりましたリル。他に・・・何かわかったことは有りますかリル?

 

「・・・私が、先代のプリキュアです。」

 

・・・!!どうりでメグメルにプリキュアの伝説が伝わるのに滅びの危機の記録が無いわけリル。女王様が伝説でメグメルの始まりだったリルね・・・

 

「今・・・わかったのはこれだけです。・・・それとマクリル、外に出るときは気を付けてくださいね・・・コミューンが負荷のかかりすぎで破損したようです。」

 

!!?ヨシコが危ないリル!!!

 

「ですが・・・頼りになるひとがいるようですね・・・マクリル・・・あとは・・・頼みますよ・・・」

 

「わかりましたリル!女王様、きっと、世界を救って見せるリル!!!」

 

「マクリル・・・彼らも、メグメルも人間の世界もマクリルにかかっています。」

 

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-

 

 

「落ち着いた?ヨシコちゃん。」

 

「はい・・・ありがとうございました。あの・・・」

 

夜も明けようとする時間にあたしたちは帰ってきて、ベッドに寝かされたあたしはなのはさんにヒーリングを掛けられて治療された・・・なんとか意識は投げ出さずに済んだが体は指いっぽん動かない。

 

「ヴィヴィオ達は・・・」

 

「ヴィヴィオやフェイトちゃん達は病院だって。ヴィヴィオは二、三日入院。フェイトちゃんとリンディさんはちょっとどれくらいになるかわからないかな・・・クロノ君は・・・まだ何にも言ってない。」

 

「そう・・・ですか・・・」

 

「・・・ねぇヨシコちゃん。あの力はどうやって手に入れたの?」

 

「えっと・・・」

 

「それはマクリルが説明するリル。」

 

「マクリル!」

 

ボロボロのコミューンから光の玉が飛び出してマクリルが現れる。

 

「ごめんヨシコ・・・遅くなったリル。」

 

「あなたが・・・」

 

「マクリルが、ヨシコを・・・プリキュアにしたリル。」

 

なのはさんはマクリルに掴みかかり、強く揺さぶる。

 

「あなたのせいで!ヨシコちゃんはこんな辛い目にあってる!!それがわかってるの!?」

 

「ぐ・・・ぶふぅ・・・」

 

「なのはさん!待って!あたしが!あたしが自分で決めたことなの!マクリルは悪くないんです!」

 

「ヨシコちゃん・・・」

 

「うぐぅ・・・まずは話しをきいて欲しいリル・・・」

 

「わかった・・・しっかりお話しようか。」

 

マクリルはなのはさんに全て話した。プリキュアのこと、プリキュアになれる人間のこと、ウラメシーナのこと、常夜の住人のこと、メグメルのこと、常夜の住人の世界のこと。時折なのはさんはわたしに確認をしながら、飲み物を用意してくれたり体を拭いてくれたりしながらもしっかりと話を聞いていた。

 

「これが、今までわかった事リル。そしてこのことを教えてくれた人はメグメルの女王様、先代のキュアリボンリル。」

 

「先代・・・!?先代のプリキュアがいたの!?」

 

「そうリル。そして今女王様はメグメルの崩壊から逃れる為に命の形を変えて、リリカルコミューンになったリル。マクリルはその女王様から少しずつ話を聞いていたリル。」

 

「あの・・・マクリル?コミューン・・・ボロボロになっちゃったんだけど・・・」

 

「大丈夫リル。中で話を聞いた時は無事だったリル。・・・ただしばらく変身は無理リル・・・本当の敵を探さなければ、ならないリル。」

 

「本当の敵?それはあの妖怪っていた奴や大きな怪物とは違うの?」

 

「女王様がいうにはどうやら違う見たいリル。プリキュアとして戦っているヨシコの負荷がかかりすぎているのはどうやら戦う相手を間違えているから、ということらしいリル。そのせいでプリキュアの力が発揮出来ないらしいリル・・・」

 

「それじゃああたしがこんなになっているのは・・・無駄だったっていうこと・・・?それに全然関係無いのに・・・倒しちゃって・・・そんな・・・ははあたしって、なにしてたの・・・?」

 

「ヨシコちゃん!ヨシコちゃんはちゃんとみんなを守ったよ!大丈夫だよ、無駄何かじゃないよ!」

 

「そうリル。ヨシコは立派にみんなを守ったリル・・・!」

 

「・・・。」

 

「マクリル・・・それで、戦わなきゃならない相手はわかるの?」

 

「・・・わからないリル。でも常夜の住人を人間界に仕向けたやつがいるのは間違いないリル。」

 

「・・・ヨシコちゃん。地球に帰りなさい。ミッドチルダのことは、ミッドチルダで解決するから。」

 

「・・・!?でも!!あいつらには魔法が効かないんですよ!それでどうやって勝つんですか!?あたしがやらないと・・・!またフェイトさんの様に苦しむ人が増えるのは・・・」

 

「・・・ヨシコちゃん。あのね、そうしてこの世界の人達のことを考えてくれるのはとても嬉しいし、他の人をそういう風に思いやれることはとっても尊いことだよ・・・でも、ヨシコちゃんは無茶をしすぎる。それじゃあ自分がダメになっちゃう・・・私も、昔そういう風になって大怪我しちゃって・・・ヨシコちゃんにそんな風になって欲しくない。私と同じ失敗をシテ欲しくない・・・!」

 

なのはさんが優しく動けないあたしを抱きしめて、あたたかいものがあたしの頬に落ちる。あたしも涙がこぼれ始めれる。

 

「なのは・・・マクリルからもお願いリル。マクリルは人間が好きで、人間を守りたくてプリキュアの、光の力ををこの世界に呼び寄せたリル。でも・・・ヨシコも大好きリル。大好きなヨシコが傷つくのは見たく無いリル・・・なのは、酷く辛い道だと思うけどこの世界での常夜の住人は魔導士だけで・・・」

 

「だめだよぉ!」

 

「ヨシコちゃん・・・」

 

「ヨシコ・・・」

 

「マクリル!あたしは、あたしは止めないよ!だって、だってもう知り合っちゃったし!話も聞いちゃったもん!放っておけないよ!あたしが戦えるんでしょ!?お願いなのはさん!無茶はしないから、あたしも、あたしも戦うよ・・・!」

 

「・・・ヨシコちゃん、ヨシコちゃんはプリキュアでしょう?プリキュアにとって、あの怪物たちは戦うべき相手じゃないんでしょう?それならば尚更、戦わせられない。」

 

「そんな、そんなぁ・・・なのはさん・・・」

 

「だめ・・・戦わせられない。」

 

「なのは、マクリルは残るリル。できる限り協力するリル。」

 

「ありがとう・・・あなたも大変なのにごめんなさい・・・」

 

「マクリル・・・!」

 

「ヨシコ・・・全て終わったら、また会えるリル。」

 

「・・・ごめんね、ヨシコちゃん。」

 

なのはさんの手があたしの首筋に触れるとバチンとピンク色の火花が散って、あたしの意識はまどろみに落ちていった。

 

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-

 

管理局、地上本部のどこかにある未確認生物対策部の部室。しかめっ面をしたクロノと頭を抱えるはやて。

 

「こんなん報告出来へんやないですか・・・堪忍してつかぁさい・・・」

 

「だがそれを報告するのが君の仕事だ。なのはからの報告では、『ヨウカイ』という組織によるテロだとのことだ。」

 

「あんなクロノ君、妖怪ってのは地球に伝わる伝説みたいなもんなんや。魔法よりファンタジーなものなんや。それが突然現れましたー言うんはちょっと無理がありすぎるかなーって・・・」

 

「『ヨウカイ』についてはユーノに調べてもらっている。」

 

「だからー調べても無理なんやて・・・妖怪の存在を証明するものなんか次元世界のどこをさがしても出て来るわけがないんやて!アレは概念なんや!人間の理解を超えた自然現象を表現したものでしかないんや!生き物でも、何でも無い!」

 

「じゃあ実際現れて暴れ回った奴らはなんだ!人智を越えた力!人を逸脱した容姿!はやて、次元世界は広いんだ。必ずある!しらべて見てくれ。」

 

「フェイトちゃんと同じ事いうけど・・・妖怪を探すより生物兵器の実験所を探した方が絶対早いと思うねん・・・はぁー・・・これが通称『黒の宣告』かぁ・・・私のとこにくるなんて思わなかったわぁ・・・」

 

「それと芳子は地球に送り返すそうだ。レストランでのテロのショックで情緒不安定で家族の元で治療させてやりたいらしい・・・許可は僕が出した。」

 

「ホンマか!?芳子ちゃん・・・お見舞いに行ってあげたいなぁ・・・」

 

「面会謝絶だそうだ。魔法に関わるものには触れさせない。関わらせないで収まるの待つそうだ・・・芳子も、僕の妹のようなものだ。心配だが、魔法に関わる環境でのトラウマだ。しばらくは放っておいてやった方がいい。」

 

「・・・そうか・・・クロノ君は?これからは?」

 

「・・・しばらくはミッドにいる。『ヨウカイ』と接触した数少ない局員だからな・・・情報提供をしろとレティ提督から言われている。クラウディアも停泊して『yヨウカイ』対策に動ける様戦力を出せる。」

 

「とりあえず、スカリエッティ以来の都市型テロや。市民はテロの恐怖に怯えとるし・・・私もヴォルケンリッターを招集せなあかんかなぁ・・・どうみても過剰戦力やけど。」

 

「いや、許可は大丈夫だろう。それだけの戦力が必要になる事案だと照明する証拠は充分にある。僕もかけあってみる。」

 

「・・・ありがとうクロノ君。フェイトちゃん達の様子は?レストランの事件から三日経つけど。」

 

「・・・フェイトは怪我は少ないが、暴れていた時の記憶はあるらしい。たくさんの人を斬ったことを覚えている。精神状態は著しく良くない。母さんは・・・怪我が大きいだけで命に別状はない。意識もあるし回復に向かっている。時間はかかるみたいだが。ヴィヴィオはもともとほとんど怪我はない。すぐに退院出来るだろう。」

 

「フェイトちゃんが心配やな・・・」

 

二人でうんうんと唸っているところに電子音が響き、通信が来たことを知らせる。

 

「む、席を外そう。」

 

「いや、なのはちゃんや。プライベート回線やけど・・・大丈夫やろ。もしもーし。」

 

《・・・はやてちゃん?今一人?》

 

「いや、クロノ君もおるで。秘密のお話中やった。」

 

《あ、ごめん、かけ直すね。》

 

「平気やで。クロノ君も一緒でええなら。」

 

《ううん大丈夫。ちょうど良かった。》

 

「ちょうど良かった?何か急用?PV回線使うなんて珍しいな。」

 

《うん。さっき地球から帰ってきたんだけど・・・事件解決の糸口になりそうな協力者を見つけたよ。》

 

「ッ!?ホンマか!?なのはちゃん遂に妖怪の域に足を踏みこんでしまったんか!?どないしよクロノ君!!親友がどんどん人外になってまう!!」

 

「小さい頃から化け物なんじゃないかとは思っていたが。」

 

《二人とも・・・お話する?》

 

「冗談や・・・んで協力者っていうのはどういうこっちゃ。まさか妖怪捕まえたとか言い出すちゃうやろな。」

 

《妖怪は・・・捕まえてないけど、妖精には出会ったよ。》

 

「リィンのこと言うとるんやったらしばくでホンマ。こっちは悪名高い『黒の宣告』受けたところなんや。」

 

《ちがうよ!リィンじゃない。あ、ちょ、マクリル待っ》

 

《どうもリルぶちょーさん。メグメルの妖精のマクリルって言うリル。》

 

「・・・ほー。」

 

「お前!!プリキュアと一緒にいたぬいぐるみ!!」

 

《マクリルはぬいぐるみじゃないリル!次は許さないリル!》

 

《マクリル・・・ちょっと待ってって言ったじゃない。》

 

《なのはは話が遅いリル。》

 

「・・・あー、なのはちゃん?私な?ちょっと脳みそが追いつかんねん。なんて?妖精?妖怪じゃなくて?」

 

「・・・はやて、妖精も調べて見よう。」

 

「あああああああ!!!」

 

《は、はやてちゃん!?》

 

「・・・なんでもない。真実より事実が先に出てきてはちゃめちゃが押し寄せてきただけや・・・それで協力者っていうのはその妖精君か?」

 

《マクリルリル。全部、話すリル。プリキュアのことも。常夜の住人のことも。》

 

《プリキュアには逃げられちゃったけど・・・この妖精さんとは合流出来たの。これから向かうから。それじゃ。》

 

通信が切れて部室に静寂が広がる。クロノが腕を組み、少し考えた後口を開いた。

 

「・・・メグメルなんて世界聞いたことないな。」

 

「・・・やめてください。フェイトちゃんが動けなくて動くの誰やと思ってるんですか。人間の腕は二本。持てるのは二つまでです。」

 

「メグメルをこれより第0未確認世界とし捜索の任務を出そう。頼むぞ八神二佐?」

 

「スリィィィィィカードォォォォォォォ!!!!!!うわぁぁぁぁぁん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 



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二章 プリキュアの戦い
たすけてお母さん!あたしのほんとの気持ち!


地球の永友町に返されてからもう一ヶ月が経つ。ミッドチルダはどれほど時差があるのかはわからないから向こうがどれだけたったのかはわからない。

 

「芳子~ばんごはんよぉ~」

 

「はーい今行くー」

 

なのはさんとマクリル以外のみんなにはどうして地球に帰ったか本当の理由は教えないという約束だ。たぶん別な嘘の理由を言っているはずだけどそれでも心配をかける理由になるのはあたしでも想像出来る。

 

「今日のご飯なに?」

 

「芳子の好きな焼きそばとお好み焼きよぉ。もちろんかつおぶしたっぷり。」

 

「ありがとうお母さん。」

 

地球で魔法に関わるのはダメだと教えられた。魔法に関わっている人に会うのもダメだとも。エイミィさん達にも翠屋に行くのもダメだろう。今のあたしは誰かの役に立つ力を持っているのにそれを奮うことは許されない。

 

「・・・。」

 

「芳子・・・?そろそろ元気出して?」

 

「あたしは元気だよお母さん。」

 

リリカルコミューンも大きなキズが残ったままでうんともすんとも言わない。プリキュアに変身出来た時にはそこにあるだけで輝いて見えたのに今はくすんで見える。・・・どうして、あたしは戦えないのだろう。確かに無茶をしすぎたのはわかる。でもそうする必要があった筈だ。黙っていたのも申し訳なく思っている。黙っている必要なんてなかったし、ちゃんと相談すれば無茶をする必要もなかったのでは・・・とも思った。

 

「芳子・・・」

 

「・・・。」

 

そういえば・・・前にヴィヴィオが言ってたっけ。戦うっていろんな人の想いが重なり合うからすごく大変だって、覚悟が無いと潰されちゃうって。あたしは・・・覚悟、出来てたのかな。マクリルの話を聞いてあたしがやらなきゃってやる気にはなったけど覚悟が出来てたかどうかは・・・わからない。

 

「芳子!」

 

「あ痛っ!?お母さん!?」

 

「芳子?せっかくご飯食べてる時にそんな怖い顔しないの!帰ってきてからずーっとよ?ミッドで美味しい物食べて・・・ママのご飯美味しくなくなっちゃった・・・?」

 

「そ、そんなことないよ!お母さんのご飯美味しいよ!」

 

「じゃあ怖い顔しないの!ね?それとも向こうで・・・何かあった?」

 

「・・・なにもないよ。」

 

この人はあたしのお母さん、結目頼子。ふんわりしているけど・・・すごくいいお母さん。消防士だったお父さんがいなくなってから家族を支えるためにずーっとお仕事に行ってるけどあたしが帰ってきてるからかあたしとなるべく一緒にいるようにしてくれてる。

 

「・・・ごちそうさまでした!」

 

「・・・芳子?紅茶飲む?ママね、新しい銘柄の紅茶見つけてきたのよ~」

 

「飲む!」

 

帰ってきた時こそ落ち込んでお母さんにはすごく心配かけた。でももう立ち直ってこうして生活している。学校の方も・・・なんとかなっている。

 

「はい、どうぞ?」

 

「ありがとうお母さん。」

 

お母さんは天然っていう性格なんだろう。でも勘の鋭さは一級品。きっと・・・あたしが怪我をして帰ってきたっていうのが嘘だってわかってる。

 

「おいしい~!これどこのやつ?」

 

「これはねぇ駅の向こう側のね・・・」

 

あたしはどうしたらいいんだろう。プリキュアの力で戦うのか、戦っていいのか・・・覚悟は・・・あるのか。小さい頃から一度言ったことは絶対に途中で止めないで何でもやってきた・・・だからあたしは自分を覚悟を決めるのが早い人間だと思ってた・・・でも違ったみたい。あたしはただ諦めの悪い子なだけだったんだ。そういう意味ではあたしはお母さんより、お父さん似なのかもしれない。お父さんはお母さんと付き合う為になんども告白してきたってお母さん言ってたし、仕事も、昔あった謎の植物事件で逃げ遅れた人を絶対助け出すってビルの中に残ってそのままビルの下敷きになっちゃったし・・・つくづくあたしってお父さんに似てるんだなぁ

 

「ねぇ芳子?」

 

「なぁにお母さん。」

 

「・・・怪我をして帰ってきたんじゃないんでしょう?」

 

「・・・!」

 

ああ・・・早速お母さんに先手を打たれてしまった。

 

「・・・。」

 

「ママね、芳子が心配なのよ?今まで見たことない顔してるんだもの・・・お父さんが火事のニュース見てる時の顔にそっくり。」

 

「そう、なんだ・・・」

 

「ママはリンディさんや桃子さんみたいにしっかりしたママじゃないけど・・・他のママよりはもっともーっと子供のこと見てるのよ?この一ヶ月・・・芳子のこと見ていたけど・・・なのはさんの話は方便なんだなぁって・・・すぐわかったわ。」

 

「・・・。」

 

「・・・言いづらいなら、別にいいのよ?ママはちょっと頼りないから・・・相談されても答えをあげられないかもしれない。それでもママは芳子のママだから・・・相談して欲しいな?」

 

「・・・。」

 

ずるいよ、お母さんは・・・

 

「おか・・・ママ・・・あのね・・・」

 

「ふふ、お母さんじゃなくてママなのね。なぁに?」

 

「あたしね・・・ミッドチルダで、あたしを頼ってくれて、あたしにしか出来ないことがあったの。なのはさんたちには・・・それをナイショにしちゃって・・・でもそれを一生懸命やってたんだけど・・・すっごく大変でボロボロになっちゃった・・・」

 

「うん。」

 

「ボロボロになったあたしを見て、頼ってくれた人も、なのはさんもあたしにやらせられないって・・・それで地球に帰されちゃった・・・」

 

「そう、だったの・・・」

 

「しかもね、あたしがボロボロになって一生懸命やってたことは、間違ってたみたいで、あたしどうすればいいかわかんなくなっちゃって・・・ママ、あたしどうしたらいいの・・・?」

 

「芳子は・・・まだそのことを続けたいの?魔導士になる目標より?」

 

「今は・・・今はそう。あたしにしか出来ないことはちゃんと解決してなくて・・・なのはさん達が頑張ってるの・・・魔導士になりたいっていう夢は、ミッドチルダにいってわかったんだけど・・・すごく難しくて・・・才能ないみたいで・・・あたし・・・あたし・・・!ままぁ・・・どうしよう・・・どうしたらいいのぉ!ままぁ!!うわあああぁぁぁん!!!」

 

「・・・芳子はパパに似てるとおもってたけど、ママに似てたのね。ママの観察眼もまだまだね・・・」

 

「いまも、いまもなのはさんが、ヴィヴィオがっ・・・あぶないめにあってるのに!ひっぐ、あたし、なんにもできないよ!せっかく、あたしを、たよってくれたのに!っぐ!うえ・・・あたしなんのやくにも・・・ひっぐ・・・たてなかった・・・うぅ・・・うええぇぇん!」

 

「芳子・・・」

 

ママがやさしくあたしを抱きしめてくれる。あったかくて、やわらかくてそれがまたあたしの涙腺を刺激する。

 

「くやしいよ・・・くやしいよぉ・・・!ままぁ・・・!うわああぁぁぁ!」

 

「自分で決めたことを曲げられない気持ち、逃げたくない気持ち、ママも分かるから。ママもそうだったから・・・」

 

「あたし、悪い子だった!ひっぐ・・・何にも、覚悟を決められない、ただの諦めの悪い、わがままな子だったの・・・ごめんなさい!ごめんなさい・・・ままぁ・・・」

 

「いいのよ、今は悪い子でも。悪い子でもママの娘だもの。絶対に守ってあげるし、ずーっと芳子の味方だから、悪い事をしたときはママが止めてあげるから・・・ママが良い子にしてあげる。最初から良い子なんていないわ。みんな変わってく、変わっていかなきゃ、いけないの。」

 

「うええ・・・ごめんなさい・・・えっぐ・・・ごめんなさい・・・」

 

「・・・あらら、眠っちゃうの?・・・おやすみ、芳子、今は休む時よ。心も、体も。」

 

 

--------

 

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-

 

 

「なのは!向こうリル!邪悪な気配を感じるリル!」

 

「向こうね!わかった!」

 

《なのはちゃん!反応キャッチできたで!マクリル君様々や!》

 

「それほどでもないリル。」

 

「いた!マクリル!お願い!!」

 

「ウラッ!?ウラメッシャーーーー!!!」

 

「わかったリル!ふぉぉぉ!!!」

 

『counter boost』

 

「レイジングハート!実戦は始めてだけど頑張って!」

 

『OK. system change mode daylight』

 

「なのは!いつでもいけるリル!!」

 

「今日こそ仕留める!!デイライトシューター!!」

 

「ウラァァァァ!!!!ギ・・・ア・・・」

 

「効いてる!」

 

「成功リル!」

 

「レイジングハート!」

 

『sorry・・・overheat.』

 

「嘘!?」

 

「ウラララララ・・・オノレ・・・オノレ・・・」

 

「ッ!?喋った・・・!」

 

「かなり成長してるリル・・・早くしないと・・・」

 

「ウラーメシヤー・・・」

 

「!!消える!・・・また逃げられた・・・」

 

「・・・申し訳ないリル・・・」

 

「マクリルのせいじゃないよ。」

 

『sorry master・・・』

 

「レイジングハートも・・・でも早くしないと・・・とりあえず戻ろう。」

 

--------

 

------

 

----

 

--

 

-

 

「いやーいけるとおもっとったんやけど・・・」

 

「ごめんはやてちゃん・・・」

 

「いやいやしゃーない。もともと光の力っちゅーもんがよくわかっとらんからなぁ。それをほぼ実験無しで実戦投入しとるから無茶されたら逆に困るで。」

 

「ごめんリル・・・マクリルが技術者だったらもうちょっと有効な方法を見つけられたかもしれないリル・・・」

 

「それこそ言ってもしゃーないやろ。課題は見つかったけど今回で使用は可能だってことがわかっただけでも充分やで。マクリル君のデイライトシステムがなかったら打つ手無しやからな。」

 

マクリルがきたことでウラメシーナに有効な光の力の使用が可能になった。現代のミッドチルダの技術では観測不可能だった光の力をマクリルからもたらされた観測方法で認識、マクリルとデバイスで観測し続け、魔力を光の力に置き換えて魔法を使用するデイライトシステムが完成した。ただ闇の力である魔力とは相性がとことん悪いらしく闇の力を運用する魔導士にもデバイスにも大きな負荷がかかる。もともと人間には認識出来ない力だけあって非常に難航しているが、プリキュアがいなくても闇の力の眷属たちに打撃を与えられる兆しが見えてきていた。しかし問題点はそれらだけで終わらなかった。急ごしらえのものなのでレイジングハートにしか搭載されておらず外付けでデイライトシステムの光の力を観測する大型観測機が装備されていて攻撃方法が限られる。マクリルが近くにいないと光の力を観測出来ない。等々・・・数えだしたらきりがない。

 

「あ、せやマクリル君。マリーさんが呼んどったで。あとレイジングハートのことも見といてくれへんか?」

 

「わかったリル。」

 

「なのはちゃんも休んどいてな。来週にはヴォルケンリッターを集結させられるわ。」

 

「わかった。ヴィータちゃん達がくると頼もしいね。」

 

「ベルカ式の頑丈なデバイスの方がデイライトシステムの負荷にも耐えられると素人並にも考えとるしな。そいじゃ、もう少しでクロノ君も帰って来るし30分後に対策会議するで。」

 

「うん。じゃあまた後で。」

 

この未確認生物対策部も大分稼働し始めてきている。もはや三度の襲撃を受けたからか重い腰を上はやっと上げたようだった。人員も増え、部隊ごとの武力所持制限の枠を越えた戦力を割り振られている。クロノ君率いる巡洋艦も正式に割り振られた。しかしJS事件で大分浄化されたといってもまだまだ管理局は膿を出し切れていない。そしてウラメシーナについてもあのレストラン事件の後からわかったことがいくつかある。ウラメシーナは一体しか出現出来ないこと・・・これは憶測でしかないがレストラン事件の後結構経ったが出現したウラメシーナは今日逃がしたやつ以外に出現していない。そして二つ目、原因は不明だがウラメシーナの成長が遅いこと。フェイトちゃんが変身したウラメシーナが異常な成長速度だとマクリルは言っていたけど・・・

 

「(プリキュアが・・・ヨシコちゃんがいない今、私達でなんとかしないと。)」

 

「・・・なのは、難しい顔してるリル。」

 

「え、あ、ごめんマクリル。」

 

「・・・ヨシコと同じようなことになるのはもうゴメンリル。」

 

「うん・・・ありがとうマクリル。ヨシコちゃんなにしてるかなぁ・・・」

 

「ゆっくり休めていれればいいけどリル。力尽くで元の世界に追い返したみたいなものだから・・・悪い事をしたリル・・・」

 

「・・・ヨシコちゃんは戦いの覚悟がなかった。昔の私と同じ。あれじゃあもっと辛い目にあうし・・・それにいつか取り返しのつかない失敗をしてしまう。」

 

「・・・なのは、なのはも辛くなったら言うリル。マクリルのパートナーはほんとはプリキュアだけど今はなのはリル。」

 

「伝説の戦士じゃないなら魔法少女ってとこかな?・・・そんな歳じゃないか。」

 

「マクリルはいいと思うリル。」

 

「いやぁ・・・やめとこうかな・・・はははは~」

 

「やろうリル。魔法少女とマスコットは定番リル。その方がかっこいいリル。」

 

「え、ちょ、ちょっと待ってマクリル!本気なの!?」

 

「本気も本気リル!マリーのところに行く前にちょっとはやてに・・・」

 

「ま、マクリル!ダメ!だめぇ!!!!」

 

「むぐ・・・!?なのは、苦しいリルッ・・・!」

 

「ダメダメダメ!そんな恥ずかしいこと絶対しないんだから!!!」

 

「魔法少女の何が恥ずかしいリル~!ぐえええ魔法少女はヒーローじゃないのかリル~!!ちょ、ま、なのは苦し、たすけ、助けてヨシコーッ!!!」

 

・・・

 

「うーん・・・むにゃむにゃ・・・へっぷし!・・・むにゃ・・・ぐぅ・・・」

 

「あらあらあら寒いのかしら・・・毛布もう一枚かけましょうね~」

 

「ううん・・・マクリルゥ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 






№4 オオグモウラメシーナ


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恐怖蔓延!妖怪のあり方!

「それでは会議を始める。」

 

クロノ君がディスプレイの前に立って会議の開始を告げた。私も一層背筋が伸びる。

 

「でははやて部長、現在追跡中のスパイダーについて報告を。」

 

「はい。」

 

はやてちゃんが映像を出すとそこには今日私が逃がしてしまった三本腕のウラメシーナ。

 

「レストラン事件以降現れた蜘蛛タイプのウラメシーナ・・・スパイダーについてですが、現在目立った被害の報告は無く、明確な目的を持って活動していたこれまでのウラメシーナとは違い目的が不明。討伐に出た高町一等空尉からも逃亡を繰り返しています。」

 

「わかった。マクリル特別三等空尉、デイライトシステムについて報告を。」

 

「はいリル。マクリルはこの階級とかよくわからないからマクリルの言葉で言わせてもらうリル。」

 

「大丈夫だ。」

 

「デイライトシステムについては・・・まず使う側に負担を掛けすぎているリル。もともとこの世界には無いものであるし、マクリルもここまで光の力を調べたのは始めてリル。」

 

「負担・・・どれほどのものなんだ?」

 

「このままデイライトシステムを使い続ければ・・・そうリルね・・・常夜の住人に滅ぼされる前に間違いなく自滅するリル。それだけ闇の力を使い続けてきた人間にとって光の力は劇薬リル。」

 

「・・・現在使用している高町一等空尉への影響は?」

 

「レイジングハートが抑えているから安心リル。ただこれじゃあレイジングハートが焼き切れちゃうリル!」

 

「うそ・・・!」

 

「・・・わかった。現在の進行状況は?」

 

「ぶっちゃけマクリルがわかったことが増えただけで、魔導士側が光の力について何かわかったとは思えないリル。プリキュアに頼るのが一番・・・リル。」

 

プリキュアの名前を出したら会議室の皆が様々な表情をしている。実際に見た者は苦い顔を、見たこと無い者はいぶかしむ顔を、なんのことかわからぬ者は・・・黙ったままだ。

 

「・・・わかった、ありがとうマクリル特尉。」

 

「あんまり役にたてなくて申し訳ないリル・・・」

 

「大丈夫だ・・・やつらについてわかっただけでも充分すぎるくらいなんだ。次、ランスター執務補佐官。」

 

「はい。」

 

ティアナがたくさんのディスプレイを開く。そういえばティアナは都市伝説や噂について調べていたけど・・・

 

「都市伝説や、噂なんですが・・・はっきり言うと異常です。とてもじゃないですが私一人では追い切れません。」

 

「それはどういう意味だ?」

 

「レストラン事件以後、数が増えているんです。影響力も尋常ではありません。棒が倒れてもそれが超常現象に結びつけてしまうくらい市民の心に影を落としています。」

 

「なるほどリル。」

 

「マクリル特尉?なにか。」

 

「常夜の住人は人間に恐怖されることで力を増すリル。以前は物理的に制圧するやり方だったけど方法を切り替えたリルね・・・」

 

「どういうことだ?」

 

「制圧する方法だと楽に恐怖させることが出来るけど返り討ちにされたら恐怖は打ち消されるリル。ハイリスクハイリターンの方法だったリル。それを時間がかかるけど確実な方法へ、噂を流し、じわじわと人々に恐怖を植え付ける・・・噂だと例え噂が廃れても恐怖は残るリル。上手いリル・・・」

 

「恐怖・・・ほんとに、規格外な連中だな・・・ありがとうマクリル特尉。ランスター執務補佐官、続けてくれ。」

 

「はい。噂の内容についてですが夜な夜な誰もいないところから声が聞こえる、夜中に顔が無い女に出会うとどこかに連れ去られる、夕方の海に一人でいると牛の化け物に食べられる・・・これらはまだ話だけで実害はありません。そして・・・」

 

「・・・なんだ。」

 

「・・・最近原因不明の熱病が流行っているのはご存じですか?」

 

「ああ・・・管理外世界から持ち込まれた疫病ではないかと言われているが・・・発病してるのが小さな男の子ばかりだということでつながりがわからないと。」

 

「最近の噂のひとつに病気を振りまく大きな蜘蛛が町に潜んでいる、というのがあります。歳を取って進化した蜘蛛が狩りの標的を人間に変えていつも狙っている・・・私はもしかしてと思って昨日聴取に伺ったんですが全員意識混濁の重症で・・・聴取は出来ないと思ったんですが・・・これを。」

 

ティアナがひとつのディスプレイを拡大するとそこには病院のベッドでうなされる子供と子供の手を握る母親が映し出された。

 

『うぅー・・・ううーん・・・・』

 

『レオ!レオ!!大丈夫よ!お母さんがそばにいるわ・・・!』

 

『こわいよ・・・こわいよぉ・・・』

 

『大丈夫よこわくない!お母さんがすばにいるからこわくないわ!』

 

『クモが・・・クモがくる・・・クモがくる・・・!』

 

『蜘蛛?お母様、この子は毒蜘蛛に・・・?』

 

『いいえ、違います、執務官さん・・・噛まれた跡はありませんし・・・』

 

『そうですか・・・管理外世界から害虫などが運び込まれたとも思ったんですが・・・』

 

『いやだぁ・・・たべないでぇ・・・たすけてぇ・・・』

 

『レオ!レオ!!』

 

『うわぁ!!』

 

『!?』

 

「なんだ・・・?」

 

「これが恐らくひとつの噂が本当になった始めての事例です。」

 

画面の中の子供が急に起き上がり、母親とも撮影しているティアナでもない窓の方向をうつろな目で見つめている。

 

『ギャアアアーーーーーーーー!!!!!』

 

『ッ!?なに!?』

 

『いやだあああああああああああ!!!!!来ないでぇぇぇぇぇ!!!!!』

 

映像にガサガサと謎のノイズが入り始めて映像が乱れ始める。そして一瞬だが窓の外に腕が何本もある謎の影が映り込んでいた。

 

『ウーーーーーラーーーーー・・・・・』

 

『レオ!レオ!!!どうしたの!!!誰か!誰かぁ!!!』

 

『クロスミラージュ!索敵!!』

 

『ギャアアアアアアアアアーーーーーー・・・・・』

 

慌ただしかった映像が子供が黙ってしまうことで不穏な静寂を取り戻す。子供に繋がれていた計器が甲高い音を鳴らし続けている。

 

『クロスミラージュ!』

 

『《Failure 》』

 

『チッ・・・お母様!レオ君は・・・!?』

 

『レオ・・・レオ・・・目を開けてぇ・・・』

 

子供は血の気がなくベッドに倒れ込んだままぴくりとも動かない。

 

『うそ・・・』

 

『どうしましたか!』

 

『こどもが・・・うちの子がぁ・・・急に苦しみだして・・・』

 

『ッ!?執務官さん申し訳ありませんが今日は・・・』

 

『わかりました・・・』

 

そしてそこで映像は終わった。会議室に集まった面々は硬直したまま動かない。

 

「この映像の子供・・・レオ・ブガッティ君はこの後死亡が確認されました・・・」

 

「くっ・・・!」

 

「なんてこと・・・」

 

「ここの映像に映り込んでいる謎の影・・・私は現場では目視していません。サーチ結果も不発です。この影がいったい何なのか今調査中で・・・」

 

「スパイダーだよ・・・」

 

「・・・高町一等空尉?」

 

「間違いない・・・映像の影はスパイダーです。」

 

「なのは・・・落ち着くリル・・・」

 

「落ち着いていられないよ!!!遅かった!間に合わなかった!!あんな小さな子が苦しんでたのに・・・!私はもたもた逃げられてばかり・・・!」

 

「ふぐぅぅぅ苦しいリルゥゥゥ」

 

思わず立ち上がってマクリルに掴みかかってしまった。自分であいつらに

 

「高町一等空尉、座りなさい。」

 

「ッ・・・はい。失礼しました。」

 

「ランスター執務補佐官・・・それで関係は?」

 

「はい・・・もしスパイダーならばマクリル特尉の情報であった成長が遅いというのが・・・これからは早くなるのではないかと。」

 

「早くなる・・・?」

 

「それはウラメシーナに成長が促進される時期があるって事リル?」

 

「はい。恐らく原因不明熱病はスパイダーの仕業で患者はスパイダーの餌・・・でないいか。私はそう推理します。」

 

「・・・。」

 

「各々、今回の報告で調査や対策の方向が変わるかもしれない。未曾有の危機という状況一時も油断出来ないが・・・ちょうど来週からヴォルケンリッターも異動してくる。なんとか協力して被害を未然防止に努めよ。以上だ。」

 

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-

 

「なのは、お疲れ様リル。」

 

「マクリルも・・・ごめんね、また私熱くなっちゃって・・・」

 

「仕方がないリル。これからは陸士隊とクラウディアの武装隊がパトロールに回ってくれる筈リル。なのははヴィヴィオとフェイトの様子でも見に行ったらどうリル?」

 

「そうだね・・・ねぇマクリル。武装隊がパトロールなんてしたらいかにもクラナガンで何か起きてますよって捉えられないかな?それでまた恐怖を植え付けたりしちゃわないかな?」

 

「恐怖は、簡単に拭えるものじゃないリル。それこそプリキュアにも、リル。」

 

「そっか・・・でもパトロールをしないわけにもいかないし・・・こんな、特殊な戦い方をするなんて始めてだからもうどうしたらいいのか・・・」

 

「・・・なのは、ひとつ勘違いをしているようだから言っておくリル。」

 

「なに?」

 

「恐怖は、払拭するものじゃなくて立ち向かうものリル。なのは、なのははそうやって戦ってきたんじゃないリル?だからヨシコにあそこまで言えたんじゃないリル?」

 

「・・・ありがとうマクリル。」

 

「今のマクリルはなのはのパートナーリル。当然リル。だから絞めるのは勘弁してほしいリル。妖精も死ぬリル。」

 

「努力するね。」

 

「その答えは聞きたくなかったリル!なのは!なのはーっ!」

 

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-

 

「うーん・・・むぐ・・・あれ?」

 

あたしは確か・・・ごはん食べて・・・紅茶飲んで・・・そうだ、マ、お母さんにとお話して・・・そのまま疲れて寝ちゃったのか・・・でもなんかすこしすっきりした!

 

「喉渇いたなぁ・・・」

 

時間を見たら深夜2時。お母さんも寝てるだろうし・・・静かにお水を飲みに行こう。

 

「そーっと・・・そーっと・・・」

 

そういえばあたしのお気に入りのコップ、ミッドのなのはさんの家に置いてきたまんまだ・・・なんてこった。おばあちゃんに買ってもらった大事なコップ・・・あーあ・・・

 

「まぁいいかぁ・・・なのはさんに連絡しちゃえ。・・・んん?」

 

おかしい・・・廊下に明かりが漏れている。リビングの電気が付けっぱなしだ。お母さん起きてるのかな・・・?

 

「・・・ちゃ・・・しい・・・あた・・・・」

 

「・・・の・・・・ならば・・・たのし・・・」

 

「へへ・・・にんげ・・・の・・・おいし・・・」

 

「ま・・・ゆっく・・・おき・・・しまう・・・だろ・・・」

 

・・・たくさんの声がする。こんな時間にお客さんなわけないし・・・ずっと家にいた?それはない。今日はあたしも一日家にいたんだ。お客さんがいたらわかる。あたしは部屋に戻り壊れてしまったリリカルコミューンを握りしめる。

 

「見に行こう・・・!」

 

リビングのドアの前に来ると静かにドアを少しだけ開ける。

 

「うそ・・・でしょ・・・!?」

 

リビングにいたのは・・・一つ目が付いた傘のオバケ、提灯のオバケ、そして長い黒髪とキレイな着物を着た女性・・・しかし焔が揺らいでいてその危険さを物語っている。その膝にはしっぽがいくつもある小さな狐が眠っている。

 

「は・・・え・・・なんで・・・常夜の・・・住人・・・!?」

 

ふととすんと背中に何かが当たった。

 

「芳子ぉ?どぉしたのぉ?」

 

振り向いたらお母さん。その時はいつもの優しい笑顔が、これ以上なく不気味に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 



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みんなお友達!お母さんの器!

「芳子?」

 

再びあたしに声をかけてくるお母さん。あたしはもうどうしたらいいかわからなくて返事も出ない。プリキュアに変身出来るかどうかもわからない今、常夜の住人に牙を向けられたらひとたまりも無い。

 

「あ!リビングのみんなを見ちゃったのねぇ。びっくりしちゃったわよね。芳子にも紹介するわ。」

 

「え、あ、おかあ」

 

「ひのこちゃーん?」

 

いつもののんびりした口調でリビングの誰かに声をかけると。着物を着た女性がゆっくりと出てきた。

 

「ちゃんづけは辞めな頼子。・・・誰だい君は。」

 

「私の娘、芳子よ?前に話したじゃない?」

 

「ああそういえば・・・起こしてしまったか?」

 

「あう・・・あ・・・い・・・」

 

ひのこと呼ばれた女性はあたしの前に来てゆらゆらと焔を揺らめかせながら屈んで目線を合わせてくる。

 

「芳子、ご挨拶は?」

 

「まぁ待て頼子。見ろ、怯えてる。初めて妖怪を見たんだから無理もない。」

 

「私は平気だったわ?」

 

「頼子はそうでも他は違う。えーっと・・・芳子、だったか?」

 

「ひゃいぃ!」

 

ばつが悪そうに頭を搔きながらあたしから少し距離をとる女性。あたしはどうやって逃げようか、どうやって変身するかなどで頭がいっぱいで名前を呼ばれて驚いてしまった。

 

「私は妖怪・・・飛縁魔のひのこだ。妖怪を見てびびってると思うが・・・とりあえずはとって食ったりしないから落ち着いて欲しい。」

 

「は、え・・・」

 

「とりあえず中でお話しない?お茶が冷めちゃうわぁ」

 

「そうだな。」

 

「芳子もいらっしゃい?」

 

「は、はい・・・」

 

あたしはリリカルコミューンを握りしめてリビングへと足を踏み入れた。

 

--------

 

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--

 

-

 

 

「主はやて、遅くなってしまい申し訳ありません。」

 

「ええってシグナム。やっこさんの動きが早すぎただけや。」

 

「しっかしはやて?ヴォルケンリッター全員を招集させなきゃならないなんて・・・」

 

「そうかシグナムとヴィータは任務中やったから知らんのか・・・二人はなのはちゃんの下についてもらう予定や。なのはちゃんに聞いといてくれへん?」

 

「わかりました。」

 

「りょーかい!」

 

「シャマルは?」

 

「私も・・・噂でのことしか。」

 

「そうかザフィーラは?」

 

「私は局員ではなくなったので何も・・・しかし門下生が不穏な噂に怯えているのは存じています。」

 

「むむむ・・・機密扱いにしたから動きづらくなっとるんか・・・それじゃあみんな!高町一等空尉とマクリル特務三等空尉とミーティングして情報共有せよ!」

 

「「「「了解!」」」」

 

四人が早足で部長室から出て行くと入れ替わりにクロノが入ってくる。

 

「失礼する。ヴォルケンリッター集合か・・・頼もしい限りだが奴らに通用するかどうか・・・」

 

「クロノ君そんな後ろ向きなこと言わんといて。うちの自慢の家族やで?」

 

「・・・すまん。」

 

「ええで。・・・それで?随分顔色悪いけど、何かあったんか?」

 

「二体目だ・・・」

 

「・・・なんやて?」

 

「二体目が現れた。」

 

「なんでそんなのんびりしとるんや!緊急しゅつど・・・」

 

「待て!今回も様子を見るしかないんだ!」

 

「くっ・・・状況は?」

 

「クラナガン3番ストリートに巨大な半透明の蛇が出現した。しかしそこに存在は見えるが触ることも出来ず、ぴくりとも動かない。そして見える部分は胴体の部分だけで、遠方念写やサーチャーで観測しても頭と尾にたどり着かない。とんでもない巨大さだ。」

 

「・・・影響は?」

 

「今のところ無い。強いて言うならば市民が不気味がって三番ストリートに近づこうとしないので商業が麻痺している。」

 

「わかった・・・武装隊を送って監視させる。手を出さないよう厳命してな。」

 

「了解した。」

 

「これより標的Bをボアと呼称する・・・はぁ・・・いつからミッドはびっくりワールドになったんや。」

 

「もともと住んでいた側からするとたまったもんじゃないよ。では。」

 

「ほなな。」

 

クロノが出て行くと部長室に静けさが充満した。はやてはため息をひとつついて椅子に座り直す。

 

「妖怪・・・ね。・・・ん?妖怪?・・・もしかして!!!おーいクロノ君!!!待ってーなー!!!」

 

何を思いついたのかはやては部長室を飛び出してクロノを追いかけていった。

 

--------

 

------

 

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--

 

-

 

あたしはリビングに入った時点でもう死んだと思った。しかしこれはなんだろう。

 

「頼子殿!聞いてくだされ!頼子殿に言われたとおり昨日の逢魔が時に我が輩が華麗にとびはねて男の前に飛び出してやったらさぞかし驚いてくれおったわ!いやぁ愉快愉快!首も繋がって満足ですわ。」

 

「それは良かったわぁ」

 

「待て傘の字、お前さん首なんてなかろうに。」

 

「あれま!ほんとだ!がはははは!!」

 

「頼子さん、明日はわしが脅かしに行こうと思うのですがどういう兵法で行きましょうか?」

 

「そうねぇ・・・やっぱりシンプルに出会い頭にばあ!っていうのが良いわね。驚いたら高笑いしながらすーっと消えていくの。」

 

「提灯の!これがぞくにいうしんぷるいずべすとってやつだな!がははは!!!」

 

「傘の字・・・若干違うぞ。」

 

「だいたいあってるから平気よぉ。」

 

「どうした?芳子、眠いか?」

 

「ねぇー!芳子芳子撫でて撫でて!」

 

「う、うん大丈夫、です。」

 

「カルカルカル・・・気持ちいい~」

 

あたしは膝に小さな狐を抱えて優しく撫でていて目の前でひのこさんがお茶をすすってケーキを食べている。となりでは傘と提灯がお母さんと仲良くお話してて盛り上がる。

 

「ふふ・・・芳子も意外と馴染んでくれたようで良かった。まぁ頼子の娘だから平気だと思ってたがな!」

 

「おお!あんたが頼子殿の娘っ子か!!我が輩は傘化けのじんぺいだ!」

 

「傘の字、声がデカイ・・・お嬢が怯えているではないか。わしは化け提灯のたけみつだ。よろしくな。」

 

「は、はは・・・傘と提灯が喋ってる・・・」

 

「僕はねー!九尾の狐のしろかね!カルカルカル~」

 

「・・・。」

 

「ケーキって菓子は美味いな!人間は物作りがほんとに上手だ!」

 

やいやいと騒いで近所迷惑にはならないのだろうかと頭が回り始めたころにやっと思い出した。彼女たちに聞きたいことがあったのだ。

 

「ねぇ・・・」

 

「ん?どうした芳子。ケーキが欲しいのか?」

 

「ちがう!あなたたちは、常夜の住人はこの世界で何をするつもりなの!?もしみんなを恐怖に陥れるつもりならあたしは・・・!」

 

しろかねをテーブルにおいて立ち上がる。

 

「あたしは戦う!」

 

リリカルコミューンを取り出して、いつも変身するように力を込める。

 

《b・・・rea・・・k o・・・pen・・・!》

 

ノイズ混じりのボイスを唱えたコミューンの亀裂から光の粒子が吹き出してぎこちなくシリンダーが開く。

 

「これは・・・!!プリキュア・・・!?」

 

「なななな何事か何事か!?」

 

「なんとまばゆい光だろうか・・・」

 

「うえぇーん!」

 

「芳子!?何をするの!?」

 

「お母さんは黙ってて!こいつらは・・・こいつらは!」

 

「ふむ・・・私達を始末するならば好きにするがいい。今の私達はその不完全な力でも充分滅することが出来るだろうな。」

 

「ッ!?」

 

「常夜の住人・・・私達のその呼び名をどこで知ったかはしらんが・・・確かに私達はそう呼ばれていた。」

 

「芳子!やめて!!」

 

「お母さん!早く逃げて!」

 

「やめなさぁい!!」

 

コミューンに意識を向けていたら不意に頭に衝撃が走りコミューンを落としてしまう。落としたコミューンからは光が消えていて痛む頭を上げたら、お母さんにげんこつされたことがわかった。お母さんにげんこつされたのなんて小さい頃以来だ。すごい痛い。

 

「いったぁーい!」

 

「むぐぐ・・・お母さん何を・・・」

 

「ふーっ!ふーっ!いたたた・・・早速止めに入るなんて思わなかったわぁ」

 

「!?」

 

「芳子?ひのこちゃん達はね。帰る世界がもう無いんですって・・・」

 

「ど、どういうこと?!」

 

「芳子がプリキュアだとは知らなかったが・・・まぁ私達の呼び名も知っていたことだし、私達の友が何かしでかしたのだろう。私達に何が起きたのか話そう。」

 

「そう、だね・・・それに帰る世界が無いってどういうことなのかわからないし・・・」

 

「その前にだ・・・」

 

「・・・!なに?」

 

「ケーキのおかわりをもらえないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく



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眺める深淵、覗く深淵。

リンディさんでひらめいた


「・・・さて、芳子、私達の友に何をされたのかは置いておいてまず私達の話からだ。」

 

「うん・・・」

 

おかわりしたケーキをほおばりながらひのこは真剣な目つきで答える。

 

「私達のいた世界は・・・突然だが終焉を迎えた。理由はわからない。」

 

「なにそれ・・・」

 

「前兆はあった。名のある妖怪達が姿を消し始めたからな。天狗・・・ぬえ・・・河童・・・玉藻前・・・いずれも大妖怪と言える連中だ。特に玉藻前は私達の世界を治めていたほどの大物だった。」

 

そこまで言ってお茶を一啜り・・・静かな雰囲気のまま再びひのこは口を開く。

 

「この大妖怪の消失・・・それはそれはおかしなことだった。普通なら名も無い妖怪が畏れを失って存在出来なくなる・・・これならよくある。人間の畏れの大体を受け持つ大妖怪達が消える等ありえないことだ。生存に必死になり原因をさがすべくあらゆる世界に調査に旅立った。しかし原因はわかることはなかった。だが事の重大さは尋常ではない。わからないでは済まされなかった。大妖怪が失われることで私達の世界は大きく畏れを削がれてバランスが崩れていく。滅びまで時間がない。」

 

「そ、それで・・・」

 

「私達は悟った・・・これは世界の運命ではないのか、私達は滅ぶ運命なのだと。そして有る一団が行動に出た。もっとも近い世界を襲撃し、滅びまでを先延ばしにするべく力づくで畏れを得ようとし始めたのだ。」

 

「それ、マクリルの妖精の国・・・!」

 

「ほうメグメルのことも知っていたか。まぁプリキュアなら当然か。しかしその一団の目論見は失敗した。単純だ。畏れを得ようとしていた対象が人間ではない上に対象を殺してしまったからだ。畏れを得るものを消してしまっては得られる物は無い。そしてメグメルと同時に私達の世界も滅んだ。」

 

「なんてことを・・・!」

 

「私達の世界の者はそこから二分した。滅びの運命に抗う者と運命を受け入れる者・・・ここにいる者や私は後者だ。どうにもならないと思ったから悠々と残りの時間を楽しもうと思ってここにいる。」

 

「しろかねもお菓子美味しいからここにいるカル~」

 

「・・・。」

 

「恐らく芳子が遭遇したのは前者だろう。そっちの友は生き残ることに必死だ。どんな手段でも取る。無くした畏れを取り戻す為に神変を得た人間を増やして妖怪を増やそうとしたのだろう。」

 

「そうだよ・・・その所為で・・・!」

 

「・・・。私が謝ったところで解決もしなければ進展もない。芳子も私に謝らせたいわけではないだろう?」

 

「・・・。」

 

「ここにいる提灯も傘も玉藻の形見も、戦いなんか望みはしない。畏れを得られない今無理に生きようとも思わない。静かに・・・余生を過ごしたいだけなんだ。そこだけはわかってくれプリキュア。」

 

「わかりました・・・」

 

「しかしだ・・・腑に落ちない部分もある。」

 

「何故大妖怪が滅んだのかってことですか?」

 

「それもだが・・・誰がメグメルを攻めたのかだ。」

 

「え?」

 

「わからないのだ。妖怪の誰かだという以外は。」

 

「別な世界の誰かではないんですか?」

 

「それはありえない。私達の世界のある場所は私達の世界とメグメルしか存在しない。」

 

「!?」

 

「・・・なんだ?知らなかったのか?」

 

「は、初めてききました!」

 

「いったい芳子はどれだけ何を知っているんだ・・・?そうだな・・・この世界のある場所を木としよう。世界は葉だ。世界の移動はこの木の幹を伝って移動する。私達の世界のある場所の木は小さく、葉は私達の世界とメグメルの二枚しかない。この木はいくつもあるが・・・私達の世界がある木は他の木からは小さすぎて観測することが出来ない。観測出来ないなら無いのと一緒だ。それに私達の世界とメグメル以外で木から木へ飛び移る技術を持つ世界は見たことがない。」

 

「次元空間が・・・いくつも・・・?」

 

「ほう、次元空間と人間は呼んでいるのか。」

 

「あ、はい。この世界ではないですけど・・・」

 

「この世界のある木は大木らしい。かなり青々とした木のようだしな。それで他の木からわざわざ乗り込んできて・・・というのはタイミングが良すぎるし。文明的にもありえないと判断した。」

 

「その・・・メグメルを滅ぼしたのってカッシャって名前の妖怪だったとおもうんですけど・・・」

 

「・・・カッシャ・・・あぁ朧車か・・・奴が・・・?」

 

「それとろくろ首と牛鬼と幽霊・・・」

 

「ふむ・・・確かにいた・・・が・・・そいつらは・・・」

 

「どうかしたんですか?」

 

「いや・・・本当にそいつらがメグメルを滅ぼしたのかと思ってな・・・大妖怪達ほどじゃないが名のある妖怪達だ。しかし私達の世界が滅びに向かったとき私達妖怪は力を失ってしまったのに・・・やつらにメグメルを滅ぼせるほどの力があったのかと・・・」

 

「・・・?いったいどういうことですか?」

 

「・・・本当に何が起きてるんだろうな。私も何をいってるのかわからなくなってきた。何故、運命は私達を一思いに消し去ってくれなかったのか。何故、世界は我々に牙を向けたのか。」

 

ひのこ達は俯き黙ってしまう。それもそうだ・・・自分たちの故郷が無くなったなど気分のいい話でもない・・・

 

「・・・しろかねもケーキ食べたい!カルカルカル~」

 

「あ、ああごめんね!すぐ持ってくるわね!」

 

「うちのエンゲル係数が・・・」

 

「ああ・・・菓子の代金か?それは心配するな。私達には財を招く力もある。一人一人は微々たる物だが・・・まぁ四人もいれば孫の代まで遊ぶくらいの財は呼べる。」

 

「そ、そうなの?」

 

かっかと笑いひのこがお茶を飲み干す。小気味いい音がテーブルとカップが響出すとひのこやじんぺいたちの目つきが変わる。

 

「・・・プリキュアよ。あなたが現れたなら、私達穏健派の意見は大きく変わる。」

 

「一度命を諦めた身ではあるが世界を救う伝説の戦士プリキュアならば・・・」

 

「希望が見えた。我が輩達にも生の光が見えた。」

 

「死にたくない・・・死にたくない!カル!」

 

妖怪達の目は悲しみ・・・悔しさ・・・様々な感情で溢れていた。あたしに助けを求めてこぼれ落ちる心は・・・あたしを突き動かすには充分だった。

 

「・・・まぁもともと人に害為す妖怪が人に助けを求めるなど・・・虫の良すぎる話か・・・?」

 

「あたし、やるよ。」

 

「な・・・」

 

「カル・・・?」

 

「あたしね・・・覚悟が出来てないって追い返されてここに帰ってきたの・・・でもあたしは覚悟なんてわからない。ずっと誰かを守りたくて戦ってた・・・」

 

「芳子・・・」

 

「助けるよ。ひのこ達も暴れてる妖怪達も。プリキュアなら・・・あたしなら出来る!ここでみんなに会えたのも何かの縁なんだよ!それにさ・・・助けを求めてるのに、手をさしのべなかったらお父さんに怒られちゃうしね。」

 

「芳子・・・すまない・・・すまない・・・!」

 

「ううん・・・今度はね。誰かを守る為じゃなくて助ける為に戦うの。あたしに、世界を救うプリキュアにどーんと任せて!!」

 

「ありがとう・・・!」

 

《Full care!!》

 

「うわっ!?」

 

リリカルコミューンが光りを放ち大きなヒビが修復されていく。そしてそこには人影のような光が映し出される。

 

「な、なんだ・・・!」

 

『ヨシコさん・・・』

 

「え!?誰!?きゃあああっ!?」

 

光の粒子に包まれ目を閉じていても視界が白に染まる。再びめを開けると・・・あたしは不思議な空間に浮いていた。

 

「うわっ・・・なにこれ・・・」

 

『ここは・・・コミューンの中です・・・』

 

「へ!?こここコミューンのなかぁ!?」

 

『私はメグメルの女王テスラ・・・ヨシコさん・・・あなたには・・・過酷な運命に巻き込んでしまってすみません・・・』

 

「女王様・・・い、いえ・・・」

 

『あなたは・・・遂に真のプリキュアとして覚醒しました・・・救済のプリキュアとして・・・』

 

「救済のプリキュア・・・」

 

『以前は・・・救済するべき相手との戦いでした・・・お力添え出来ずに・・・ごめんなさい・・・』

 

「いや・・・仕方ないですよ・・・あたしも・・・ほら、わかんなかったし。」

 

『ヨシコさん・・・あなたがプリキュアとして覚醒したならば・・・先代プリキュアの私はもうすぐ消滅するでしょう・・・ふふ、既に肉体も失っていますし今までこうして残れたことが奇跡なんですね・・・』

 

「女王様!だめですよ!マクリルが待ってます!」

 

『なりません・・・私は・・・既にこの世を去る身です・・・なので私からもお願いを・・・』

 

「・・・そんな。」

 

『メグメルも・・・メグメルも救って・・・お願い・・・ヨシコさん・・・』

 

「・・・わかった。絶対に救い出すよ。」

 

『ありがとう・・・最後に、敵は・・・』

 

「女王様!?」

 

まばゆい空間に浮かぶ光の人影はゆらゆらと揺らめきはじめて消えかかっていく。

 

 

『敵は・・・』

 

「敵はなんなんですか!?あたしは!何からみんなを救い出せばいいの!?」

 

『敵は・・・時間と空間を飛び越える・・・暗黒・・・ヨシコさん・・・負けない・・・で・・・・』

 

ゆらぎが小さくなって消えてしまうと・・・光が晴れてリビングに戻る。

 

「・・・はっ!?」

 

「芳子!どうしたんだいいったい!どこ行ってたんだい!?」

 

「・・・。」

 

床に落ちていたコミューンを拾うと、前とは意匠が違っていた。各所にリボンをあしらった装飾があり、金のラインがはいっている。

 

「いかなきゃ・・・」

 

「もういくのか・・・!」

 

「時間と空間を飛び越える、暗黒・・・嫌な予感がする・・・!」

 

あたしは玄関に向かって走り出す。その途中でお母さんとすれ違った。

 

「芳子?こんな時間にどこいくの!」

 

「なのはさん達が危ない!」

 

「待って芳子!しろかねもいくカル~!」

 

「だ、ダメだよ!あぶないって!」

 

「同胞の命を救う約束をしてくれたのに指くわえて見てるなんていかないカル!」

 

「しろかね・・・」

 

「それに、芳子だけでそうやって世界を渡るカル~?」

 

「そ、それは~・・・ちょっと知り合いに~・・・」

 

「芳子!」

 

飛び出した玄関の先でまごまごしているところをお母さんが呼び止めてきた。

 

「・・・お母さん。」

 

「芳子・・・あなた、今お父さんが出動の連絡がきたときと同じ顔してるわ。」

 

「え、お父さんと同じ顔ってあんまりうれしくないかも・・・」

 

「そうじゃないわ。・・・誰かを助けることが出来る力を・・・奮いに行く時の顔!かっこいいわよ。芳子。」

 

「お母さん・・・」

 

「いってらっしゃい。」

 

「・・・いってきますっ!しろかねお願い!」

 

「転移呪術式!」

 

あたしは夜風に曝されたお母さんを残して青白い狐火の中に消えた。

 

「・・・お願い芳子、あなたまでいなくならないで。」

 

 

 

 

 

 

つづく



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プリキュア復活!背後の暗黒

息抜きが楽しくなって長引くのあるよね


「これより、標的Aスパイダー討伐作戦を開始する。みんな!刀は持っとるな!?」

 

「はい!」

 

熱病にうなされる子供の病室で、反りのある片刃のブレード、通称日本刀と呼ばれる武器を構えたはやてとザフィーラ、通信の向こうには同じく刀を構えたなのはとヴィータ、別の画面でもシグナムとシャマルが刀を持って返事をする。

 

「ええな!足や。スパイダーの足を狙うんやで。こっちの予想が正しければそれで一撃で倒せる。プリキュアじゃあなくてもや。」

 

『しかし主・・・奥様方にまでも刀を渡すのは・・・』

 

「それは仕方ない・・・大蜘蛛の伝承では母親がキーになっとる。魔法が効かないから用心の質量兵器やと言っとき。部長が地球出身だからとかなんとか言ってお守りやーみたいな」

 

『はぁ・・・』

 

「なのはちゃんも同じや。これがうまくいくならばきっとこれから好転する。頼むで!」

 

『わかった。』

 

「それぞれ病院の熱病患者のいる病室周辺をパトロールや・・・一応施設周辺にも検問はしいてあるけどな・・・」

 

『そんなんじゃ止められないしね。』

 

「せや。」

 

『しっかしよく考えついたなはやて。妖怪退治には手順があるなんて。』

 

「妖怪っちゅーのを未確認生物だと決めつけてたのが悪かった・・・ミッドに染まっとるやなぁ・・・

 

。。。

 

。。

 

 

 

「クロノ君!クロノ君待ってーな!」

 

「な、なんだはやて・・・」

 

「スパイダーやボアをやっつける方法思いついたで!」

 

「なんだと!?それは!!」

 

「地球には大昔に妖怪退治を生業にしとる人がおってな・・・それで・・・」

 

「地球にも妖怪がいたのか・・・!?何故其れを早く言わないんだ!」

 

「ちゃうんや!地球での妖怪の扱いは物語の中だけなんや!せやからどうやって現れるとかどういう悪さするかとか、どうやって退治するか、弱点なんかも書いてある!」

 

「物語の中の存在なのに討伐する人間がいたのか・・・?はやて・・・もうちょっとまとめてから言ってくれ・・・」

 

「だからぁ!大昔過ぎるからぁ!実際にあったことも物語として伝わってるかもしれないやろ!?そこで退治する方法とかを調べて試していくんや!!!今新しい力を模索するよりも先人の知恵を借りた方が圧倒的にはやいやろ!?」

 

「なるほど・・・すぐ、ユーノに地球の資料を調べさせる。はやて、スパイダーはどうやって?」

 

「そこでやクロノ君。ちょっとお願いが・・・」

 

。。。

 

。。

 

 

『ウラメシーナにそんなのが本当に効果有るかわからないリル・・・でも一番有力そうリルね。』

 

「せやろー?はい!妖精にお墨付きもらった!仕事に戻ってな-!」

 

ウィンドウが閉じると病室には静けさがもどった。あれだけ豪語したけど・・・不安が無いわけではない。

 

「(・・・これが失敗したら間違いなく子供達はお陀仏や・・・子供達から引き離すだけでもせぇへんと・・・)」

 

「あの・・・主、ウラメシーナとやらは人間が変身してるのですよね?剣で斬ってしまって大丈夫でしょうか?」

 

「・・・もう、そいつは一人子供を確実にやっとる。どのみち力尽くしかないんや。」

 

「・・・御意。」

 

「さぁ!どっからでもかかってこんかーい!!!」

 

「病院では静かにしてください!」

 

「あ、すみません・・・」

 

「申し訳ありませんでした・・・」

 

看護師さんに怒られてしまった・・・それより気を引き締めんとな。

 

--------

 

------

 

----

 

--

 

-

 

 

「うわああああああああ!!!!」

 

あたしは今暗闇の中を猛烈な勢いで落っこちている。いや上も下もわからないから落っこちてるのか飛んでいるのかわからない。

 

「しろかねぇぇぇぇどうなってるのぉぉぉぉぉぉ」

 

「もうすぐ到着するカル~」

 

「あああああああああ!!!!」

 

かれこれ20分以上は落っこちているだろうか。一向に暗闇が晴れる様子は無く、光はない。

 

「ひぃぃぃぃぃ!ミッドとは全然違うんだねやっぱりぃぃぃぃぃぃぃ」

 

「着くカル!」

 

一瞬であたりが眩しく光ったかと思うと・・・あたしはミッドのどこかのビルの屋上にいた。

 

「あれ・・・?あたし落っこちてたんじゃ・・・」

 

「次元の狭間を通ってるだけだから落っこちる分けないカル。」

 

「あー・・・そころへんはもう考えないことにする・・・」

 

「顔色悪いカル?大丈夫芳子?」

 

「うん大丈夫・・・それよりここは病院・・・?とりあえずなのはさんと・・・ッ!?」

 

不意に身の毛のよだつ気配を感じ振り返るとそこには・・・

 

「ウラメシーナ・・・!」

 

「・・・あれがカル?」

 

「ウララララララ・・・」

 

大きさは二メートルほど・・・あまり大きくない・・・?でも腕は三対で体は毛むくじゃら、顔はもう蜘蛛そのものである。気持ち悪いの言葉以外が出てこない様な容姿だ。

 

「ギチギチギチ・・・!」

 

「やば!こっち気づいた!しろかね!どこかに隠れてて!」

 

「わかったカル!芳子、あいつなんかヤバイ感じカル!もう人間を食べたのかもしれないカル!それならもうほとんどしろかね達と一緒の存在リル!」

 

「すごい成長してるってわけね・・・わかった、ありがとうしろかね!」

 

リリカルコミューンを取り出してこちらにゆっくり迫る蜘蛛のウラメシーナを睨む。

 

「ゴホホホホ・・・ニンゲン・・・ウマソウナニンゲン・・・!」

 

「この・・・!あたしは美味しくないったら!」

 

《Lock and Load!!!!》

 

コミューンが放射状に展開し、内部の蕾の形のカートリッジが露わになる。辺りにはコミューンの中を満たしていた粒子が桜の花びらの形に変化して漂っている。

 

「ウラメシーナって人を食べるんだ・・・それも全部本当は必要の無いことなのに・・・!そんなことさせないッ!プリキュア!スタンドアーップ!!!」

 

《ready Go!!! Stand up precure!!cure ribbon!!!》

 

蕾が開き桜のような花の形に・・・以前とは違う一つだけになったピンクの宝石が強く輝いて桃色の光がコミューンから溢れだし屋上に光の柱を作り出す。すごい、前の変身とは違う・・・体の中を暖かい光が満たしていくような・・・

 

「ウラメシヤ・・・!?」

 

ショートの髪はブラウンから明るい輝く金色に変わり、瞳は翡翠色に。桃色の光の帯が体に巻き付きドレスを形成していく。セパレートされてお腹が露出したピンクに金のラインの入ったワンピースドレス。袖にはフリルが付き、オーバーウェストスカートとアームカバーが形作られ、編み込みの白いロングブーツが穿かされる。

 

「やぁぁっ!」

 

手を打ち鳴らすと胸にリボンのブローチ、腰に大きなリボン、頭にリボンの付いたカチューチャが装着され、ポーチに収まったコミューンがベルトで腰に固定される。

 

「もう・・・顔を隠す物はいらない!!」

 

光が弾け、柱が消える。辺りにはより一層輝く花びらが舞い散っていく。

 

「紡げや生命の縁!!合縁奇縁の出会いの魔法!キュアリボン!!!」

 

 

「ウラララ・・・!?プリ・・・キュア・・・!?」

 

「貴方の暴悪の縁!今すぐ断ち斬って差し上げます!!」

 

ウラメシーナを指刺して喝を入れる。たじろぐウラメシーナは唸るばかりだった。そこへ屋上へ通ずる扉を開けて二つの影が突入してきた・・・

 

「なんや!!!なにごとや・・・うぉお!?なんやこの花びら・・・」

 

「主!危険です!!ここは私が先に・・・む、あの黒いのと・・・もう一方は・・・?」

 

「は、はやてさん!?なんで病院に・・・?」

 

「んんん!?噂のプリキュアか!!!それにしても誰かに似てるような・・・?」

 

「主!騎士甲冑を!!!」

 

「せやった!プリキュアさんでええな!あいつはぎょーさん悪い事してる虫や!悪いけどやっつけるの協力してくれへん!?」

 

「こちらこそ!願ってもありません!!!」

 

「よっしゃ!いくでぇザフィーラ!!」

 

「御意!!!」

 

「ウラァァァアアアアアア!!!!メシヤァァァアアアアアア!!!!!」

 

「(なんで日本刀持ってるんだろう!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく



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帰ってきたよ!ミッドチルダ!!

6年ぶりなので初投稿です。


「はぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」

 

「ウラッ!!」

 

あたしの拳がウラメシーナの攻撃を弾き、はやてさん達の日本刀がウラメシーナを襲う。そんな攻防がどれくらい続いたかわからない。でもひとつわかったことがある。

 

「あいつ・・・日本刀を避けてる・・・!?」

 

「どうやら効果はばっちりのようやなぁ・・・!」

 

「ウラッ・・・ウラメッシャーーーー!!!」

 

「なら・・・!はやてさん攻撃を続けてください!その隙にあたしが!」

 

「わかった!行くでザフィーラ!」

 

「御意!」

 

剣撃が拳がウラメシーナに襲い掛かるあたしはそこに更に攻撃を撃ち込んでいく。ウラメシーナは鬱陶しがるように攻撃を避けていくがどうにも決定打に欠けていた。

 

「この・・・!プリキュア!スプリングシャワー!!!」

 

無数の光弾がウラメシーナに命中したがたじろぐだけでまったく意に介さない。

 

「ウラララ・・・!!」

 

「くっ・・・これが成長したウラメシーナ・・・それなら!」

 

「プリキュア!?何を・・・」

 

「でやぁぁぁぁぁーーーっっっ!!!」

 

一瞬で距離を詰めウラメシーナに組み付き、屋上から飛び降りる。そのまま地面に叩きつけた。あたしも結構痛かった!

 

「うぐぐ・・・結構痛かった・・・でも今なら!!」

 

「ウ・・・ウラ・・・メシ・・・!」

 

「いくぞぉぉぉーーー!!!!!うわあああああっっっ!!!」

 

拳を腰だめに構え気合いを溜める。拳がピンクゴールドの輝きを放ち、一気に解き放つ!

 

「プリキュア!プリムヴェール!シャイニーーーング!!!」

 

解き放たれた光線が地面を砕きながらウラメシーナに迫る。あたしは一層力を込めて光線を放ちウラメシーナを倒そうとした。

 

「ウラララララララァァァァァァァァ!!!!ナムサンンンンンンンン!!!!」

 

「やぁぁぁぁぁッ!!」

 

辺りを爆発が包み込みそれが晴れるとクレーターの中に倒れる男の人。やった・・・倒せた!

 

「おおいプリキュア!倒せたんか!?」

 

「え!?あ、はい!!ウラメシーナの元になった人を救助してください!」

 

「あいわかった!ザフィーラ!!」

 

「御意・・・本当に人間が変身していたのですね。」

 

「そうや・・・私も見るのは初めてだけど・・・フェイトちゃんの報告通りやな。」

 

「主、この方はこのまま病院ですか?」

 

「せやな。巻き込まれた人ってことで搬送する。頼むで。」

 

「御意。」

 

はやてさんが何やら話してる内にあたしは考えた・・・これって無断渡航では・・・?そして今は顔も隠してないし逃げても生活が出来ない・・・もしかしてあたし詰んだってやつなのでは・・・?

 

「あ、そうだプリキュア。」

 

「あ、はい。」

 

ガチャン。と手元に手錠がはめられる。こうきたかぁ〜

 

「・・・。」

 

「いやー重要参考人やろ?戦闘力から見てもこれが無駄なんはわかってるけど・・・大人しくしてくれるな?」

 

「ああ〜はいぃ〜」

 

「よぉしよし。悪いようにはせんからなぁ。」

 

「うう〜」

 

・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・・

 

・・・

 

・・

 

 

「はやてちゃん!プリキュアさんを捕まえたって本当!?」

 

「おおーなのはちゃん。ほんまやで。今は隔離室や。」

 

「ヨシコちゃん・・・どうやって・・・」

 

「ん?なんや?」

 

「プリキュアに会わせてくれない?知り合いなの。」

 

「うーん・・・まぁええか。手続きは踏んでもらうけども。」

 

「ありがとう。」

 

ヨシコちゃん・・・どうして戻ってきたんだろう。いや聞かなくてもわかる。諦めきれなかったんだろう。でもポートはヨシコちゃんが使えないようにしてた筈・・・いったいどうやって・・・ううんこれも聞けばわかること。まずはお話ししないことには始まらないよね。

 

「なのは・・・プリキュアが戻ってきたってほんとリル?」

 

「マクリル・・・本当みたい。ウラメシーナを倒したって・・・」

 

「ヨシコ・・・覚悟が決まったってことリル?」

 

「ううんそれはまだわからない。でも戻ってきたってことはそういうことだよね・・・」

 

「また無茶な戦いかたをしないと良いリルゥ・・・」

 

「そうだね・・・また戦っていくならしっかり言い聞かせておかないと。」

 

「な、なのは・・・顔が怖いリル・・・」

 

「おっと・・・」

 

「おおーいなのはちゃん。この書類にサインしてー。」

 

「はーい。」

 

さらさらっと書類にサインし、はやてちゃんに渡す。はやてちゃんはうんうん唸って確認した後私に鍵を渡してきた。

 

「それで・・・プリキュアが芳子ちゃんなら今地球にいるはずやろ?どうやってミッドチルダに来たんや?」

 

「それは・・・これからお話しする。」

 

「ほどほどにな・・・」

 

「わかってるよ。」

 

「ほんまやで。ウラメシーナ対策の要なんやから変に畏縮させんといてや?」

 

「わかってるって!」

 

「ほんまかいなぁ・・・」

 

・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・・

 

・・・

 

・・

 

 

隔離室、未確認生物対策本部として設置された隊舎の奥に位置する部屋。そこにあたしは留置されていた。

 

「・・・。」

 

静かだ・・・まるで時が止まったみたい。それぐらいの静寂に包まれた部屋は簡単に抜け出せそうもない。いやプリキュアパワーを使えば簡単そうだけれどもそんなことをすれば今度こそ本当に逮捕だ。大人しくしてるしかない。

 

「変身、解いて大丈夫かな・・・大丈夫だよね。」

 

ぱぁっと光が体から霧散し金色だった髪はブラウンに翡翠色だった瞳もブラウンに。身に纏っていた衣装もシャツとジーパンに戻る。コミューンはいつの間にかポケットに入っていた。はぁ・・・なのはさんに会ったらどうなっちゃうんだろう。

 

「はぁ・・・」

 

「ヨシコちゃん。入るよ。」

 

「ぴぇ!」

 

スーッと扉が開いて入って来たのはなんとなのはさん!!こちらの心の準備が何も出来ていない・・・!!なのはさんはテーブルの向かいの椅子に座りこちらを見つめてくる。くぅ顔が良い・・・!

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

しばらく会話は無い。なのはさんはニコニコとしているがわかる。これは怒っている・・・!当然だ・・・勝手に帰って来たんだから・・・

 

「ヨシコちゃん。」

 

「ひぅ!ははははい!」

 

「戻って来たってことは・・・良いんだよね?」

 

「!?」

 

「ね?」

 

「・・・はい。」

 

そうだ。戻って来たということはそういうことなのだ。あたしは戦う。そう決めて戻ってきたのだ。

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

「・・・わかった。覚悟決めたんだね。」

 

「・・・はい。」

 

「じゃあ私から特に言う事は無し!どうやって戻ってきたかとかも聞きたかったけどそれは後で。」

 

「・・・あっ。」

 

しまった・・・!!!しろかね!!!置いて来ちゃった!!!

 

「・・・あって何?」

 

「いやーそのーえっと・・・」

 

「特に言うことは無かったけど・・・どうやって戻って来たか・・・お話ししてもらおうかな?」

 

ひ、ひぇええ〜!!!

 

・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・・

 

・・・

 

・・

 

 

「じゃあそのしろかね?って子の能力で来たんだけど、現場に置いて来ちゃったのね・・・」

 

「ひぃう・・・はい・・・」

 

「はぁ・・・じゃあその子も捜索しないとね。」

 

「すみません・・・」

 

「ううん、いいの。こっちではポートを使って来たと言うことにしとくから・・・」

 

「はい・・・その、勝手に帰ってる・・・というのは無いはずなんんですが・・・」

 

「わかった。じゃあ今日はこれで終わり。はやてちゃんに報告して解放してもらえるようにするね。」

 

「・・・はい!ありがとうございます!」

 

「今回キリだよ?」

 

「はい・・・ほんとすみませんでした・・・」

 

「うん。じゃあ私は報告して来るから。また後でね。」

 

「はい・・・」

 

私がなのはさんに叱られている頃。しろかねはというと・・・

 

「はぁ・・・芳子も連れてかれちゃうし・・・どうしたもんカル。」

 

「あれ・・・?」

 

「ヴィヴィオ?どうしたの?」

 

「いま何か白いのが・・・」

 

「え?」

 

「いたーーーー!!!」

 

「カルゥ!?」

 

「ねぇあなたどこにいくの?なんて名前なの?かわいいね!」

 

「わーーー!!離すカルゥ!しろかねは食べても美味しくないカル!」

 

「しゃべった!?」

 

「しまったカル!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく



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大変!のっぺらぼうの恐怖!!

「へへ・・・またたんまりと獲物が取れたぜ。」

 

ミッドチルダの路地裏で佇む男が一人。この男、スリの常連で逮捕歴もある男だ。その男が今日奪った分の勘定をしていると影が刺した。

 

「あん・・・?誰だ・・・?」

 

男が振り向くとそこには異世界の服、着物が身を包む女が一人。そしてその女の顔は・・・

 

「な、なに!!?」

 

顔は無かった。あるべき目と鼻と口が無い。紛れも無くバケモノであった。男は恐慌状態に陥り尻餅を突く。

 

「いいねぇ・・・悪感情・・・悪意・・・それに満たされている・・・」

 

「はひっ・・・ひぇ・・・」

 

「その力あたし達に貸しておくれよぉ。」

 

女の首がみるみる伸びていき男の眼前に迫る。男は恐怖から言葉を無くし、失神寸前であった。

 

「はひぇ・・・!???!!」

 

「ひひひ・・・お行きウラメシーナ・・・!」

 

男の顔にすっぽりと木の面が被せられ、男は路地裏の奥へと消えていった・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・・

 

・・・

 

・・

 

 

「あのーなのはさん。」

 

「なぁにヨシコちゃん。」

 

「あたしってこんなに簡単に釈放されて良かったんですか?」

 

「釈放って・・・ヨシコちゃんは重要参考人だからお話しが終わったら解放されるんだよ?」

 

あたしは今、なのはさんのお家にいる。ココアをいつものカップで貰いのんびりと過ごしているがどうにも居心地が悪い。ヴィヴィオはまだ学校から帰って来ていないらしい。

 

「はぁそうなんですか。」

 

「一応プリキュアだってことは内緒にしてあるから正々堂々と協力依頼は出来ないけど・・・頼むね?」

 

「はい!それはもちろん!あたしが戦います!」

 

「ふふっ・・・お願いね。私達じゃウラメシーナに歯が立たないから・・・」

 

「はい・・・そういえばマクリルはどうしたんですか?」

 

「マクリルは特別三等空尉として管理局に出てもらってるよ。妖怪達に対抗する力の開発に携わってもらってる。」

 

「そんなこと出来たんですか!?」

 

「うん・・・なんとか形にはなったけど問題が山積みでね?」

 

「そうなんですか・・・その話、あたしが聞いていいんですか?」

 

「まぁプリキュアだし・・・大丈夫かな。」

 

そうなんだ・・・と感心していると。玄関を開く音が聞こえた。ヴィヴィオが帰って来たのかな?ただいまーと声がしてなのはさんが玄関に向かう。するとちょっと騒がしくなり始めた。

 

「・・・?どうしたんだろう・・・?」

 

「ねぇママこの子飼っちゃダメ?行くとこないんだって!」

 

「ダメです!元いたところに返してらっしゃい!」

 

「そんなぁ〜」

 

「なのはさんどうかしたんですか?」

 

「あ!ヨシコ!?」

 

「ヴィヴィオ久しぶり・・・て!」

 

「ヨシコ!見つかって良かったカル!」

 

「しろかね!」

 

「喋った・・・!」

 

「ヨシコの知り合いなの?」

 

「うん。」

 

ヴィヴィオは胸にしろかねを抱えて帰ってきた。しろかねは涙目で離すよう訴えており、ヴィヴィオはゆっくりしろかねを降ろす。しろかねはそのまま走ってあたしにひっついてきた。

 

「寂しかったカルゥ!芳子は連れてかれちゃうしどうしたもんかと思ってたカルゥ・・・」

 

「よしよし。ごめんねー」

 

「ヨシコちゃん、この子が言ってたしろかね?」

 

「はい、そうです。この子の力で転移してきました。」

 

「へーそうなんだ・・・よろしくね。しろかね。わたしはなのは。」

 

「カルゥ・・・危うく愛玩動物になる所だったカル。」

 

「あはは・・・ごめんねーしろかね。」

 

「ヴィヴィオももういいカル。こうして芳子にまた会えたし・・・」

 

「あはは・・・」

 

しろかねを捜索する手間が省けたし。なのはさんとのお話しを進めよう。あたし達はリビングに戻りヴィヴィオは着替えに部屋へと行った。

 

「さて・・・しろかね。貴方にもお願いしたいことがあるの。」

 

「なにカル?」

 

「常夜の住人・・・妖怪に対して対抗する為に力を貸して欲しいの。」

 

「カルゥ・・・しろかねも妖怪だけど良いカル?」

 

「えっ!!??」

 

「そうだ。なのはさん。あたしが帰った時の事なんですけど・・・」

 

「なに?何かあったの?」

 

「はい・・・それが・・・」

 

あたしはなのはさんにひのこさん達の事を話した。妖怪達にも派閥があり、ミッドチルダの事件は過激派が起こしていること。次元世界に散った妖怪がいることを。

 

「ふぅん・・・なるほど。じゃあしろかね達は穏健派ってことなんだね。」

 

「はい・・・私は滅んでしまったマクリルのいたメグメルだけじゃなく、妖怪達のいた世界も救いたい。そう思っています。」

 

「そうなんだ・・・偉いねヨシコちゃんは・・・」

 

「いえ・・・」

 

「私達は妖怪を退治することしか考えてなかった。酷い目にもあったのにヨシコちゃんは妖怪も救うことを考えてたんだね。」

 

「妖精の女王様にも言われました・・・救済のプリキュアとして、頑張りたいと思います。」

 

「ふふっ・・・すごいね!」

 

「あぁ〜でも具体的な方法とかは〜まだ何も解ってないんですけんどね〜・・・」

 

「まぁそうだよね・・・世界を救う方法なんてそんな簡単にはわからないよ。」

 

「そうですよね・・・」

 

「まぁとりあえず。ご飯の準備しよっか?」

 

「はい!お手伝いします!」

 

「ふふ・・・よろしくね?」

 

・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・・

 

・・・

 

・・

 

 

「もし・・・そこなお嬢さん・・・」

 

「はい・・・?」

 

ここは人通りのない道・・・辺りは夕闇で薄暗い・・・そこを通っていた一人の女学生が不意に声をかけられていた。声をかけた男の背格好は背が高く、帽子を目深く被っている為表情が窺い知れない。女学生は得体の知れない寒気を感じるが応答していた。

 

「な、なんでしょう・・・」

 

「人を探しているんだ・・・ちょうど背丈は私くらいで・・・顔は・・・」

 

男が顔に手をかけると木の面を取り外し女学生へと顔を曝け出す。

 

「こぉぉぉんな顔をしてる人だよぉぉぉ!!!」

 

男の顔は目、口、鼻が無く、モゴモゴと波打っている顔だった。女学生はあまりの出来事に声を失い尻餅を突いてしまう。

 

「ばぁぁぁぁぁああああ!!!!」

 

顔の無い顔が女学生へと近づき、女学生の顔が恐怖に染まる。堪らず叫び声をあげてしまった。

 

「きゃああああああああ!!!!」

 

「いひひひひふひひひはぁーっはっはっはっは!!!!」

 

男はぴょんぴょんと飛び跳ねながら夕闇に消えていく。女学生は失神していた・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・・

 

・・・

 

・・

 

 

芳子がミッドチルダに帰ってきてから翌日。未確認生物対策部には重苦しい空気が流れていた。

 

「以上が通り魔事件の詳細です。」

 

「うむ。ありがとうティアナ。」

 

未確認生物対策部の会議室に沈黙が包み込む。

 

「これは・・・判断がつかへんな・・・ただの変質者なのか・・・妖怪の仕業なのか・・・」

 

「もう変質者の事案として学校などの施設に通知がいっています。集団登校、下校をさせるとの返事ももらっていますが・・・」

 

「マクリル特尉からは何かあるか?」

 

「リルゥ・・・一瞬過ぎて邪悪な気配があるかどうか判断付かないリル。」

 

「わかった・・・ありがとう。」

 

「あの・・・」

 

「なのはちゃん?どうしたんや?」

 

「あの、報告漏れというか・・・来てからこの会議だったから報告出来なかったというか・・・」

 

「うん・・・?はっきりせぇへんな珍しい。」

 

「あのね・・・味方の妖怪と出会ったの。」

 

会議室はなのはの一言で一気に喧騒に包まれた。

 

「味方!?味方の妖怪言うたかなのはちゃん!!」

 

「とうとう人外へと足を踏み入れたか!」

 

「なのはどういうことリル!?」

 

「ま、待って!一気に話しかけられても答えられないよ!」

 

「静粛に!!!」

 

はやてが一喝し会議室に静寂が戻る。そしてはやてはなのはをしっかり見定め言葉を紡いだ。

 

「して?なのはちゃん味方の妖怪とはどういうことや?」

 

「えっと・・・あのね?」

 

なのはは芳子から聞かされた妖怪の話を話した。会議室の面々は呆気に取られた顔をしていたが徐々に冷静さを取り戻して行く。そしてなのはは最後の言葉を話す。

 

「それで・・・妖怪のしろかねって子と仲良くなったの。今はヨシコちゃんと一緒に家にいるよ。」

 

「さよか・・・どうするクロノ君。」

 

「第97管理外世界には僕が行こう。芳子の母親とも面識がある。僕が行っても現れてくれるかどうかはわからないが・・・」

 

「わかった・・・なのはちゃん。ヨシコと一緒に来てもらえるよう頼めんかな?」

 

「わかった。連絡するね。」

 

「ありがとう。」

 

「・・・。」

 

「マクリル特尉?どうかしたか?」

 

「常夜の住人側にも事情があったなんて知らなかったリル・・・」

 

「まぁ・・・世界が滅ぼされとるし、踏ん切りはつかへんやろけどな・・・?」

 

「わかってるリル。今は管理局の特尉リル私情は挟まないリル。」

 

「ん・・・ありがとうな」

 

「はやてちゃん。連絡付いたよすぐに向かってくれるって。」

 

「ん。わかった。さて妖怪さんと御対面やで!気合い入れなアカンな!」

 

・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・・

 

・・・

 

・・

 

 

あたしはなのはさんに呼び出され未確認生物対策部へとレールウェイを乗り継ぎ向かっていた

 

「しろかね・・・なんの用事で呼ばれたんだろうね・・・」

 

「カルゥ・・・悪いようにはしないってなのはは言ってたカルゥ。」

 

「しろかねをやっつけるって話じゃ無いと良いけど・・・」

 

「怖いこと言わないで欲しいカル!」

 

「多分なのはさんの報告から呼ばれたんだよね・・・大丈夫だと良いけど・・・」

 

レールウェイが対策部の最寄駅に到着して降りる。しろかねを抱っこしながらだけど特に怪しまれている様子は無い。使い魔だと思われているんだろうか・・・

 

「ふぅ・・・遠かったなぁ。」

 

しばらく歩くと対策部の本舎が見えてきた。あたしは受け付けでIDを見せ、中に案内される。待合室で少し待たされると迎えのはやてさんがやってきた。

 

「おおー芳子。昨日ぶりやなぁ。それで?その子が妖怪の子?」

 

「あ、はいそうです。」

 

「九尾の狐のしろかねカル〜」

 

「ほうほう九尾の狐とは大物やな・・・」

 

「まだ子供だから大したことは出来ないカル」

 

「そかそか。それじゃあまあ行こっか?」

 

はやてさんに案内され本舎の中を巡る。あたしは何度も来ることになるだろうからとのことだった。そして会議室に案内された。

 

「戻ったで〜」

 

「し、失礼しまーす。」

 

会議室にはなのはさん、クロノさん、マクリル、オレンジ髪の知らない人がいた。

 

「貴方がヨシコ?初めましてになるわね。私はティアナ・ランスター。フェイトさんの執務官補佐をやってるの。」

 

「よろしくお願いしますティアナさん!」

 

「元気でいいわね。それと・・・」

 

「あ、皆さん紹介します。しろかねです。」

 

「カル〜よろしくカル。」

 

「マクリルも久しぶり!」

 

「ヨシコ・・・もうなんともないリル?」

 

「うん!元気一杯だよ!」

 

「良かったリル・・・」

 

なのはさんの横に座り、クロノさんが取り仕切り始める。あたしが聞いたのは変質者通り魔事件の事だった。

 

「この通り人を失神するまで脅かして逃げていったところまで解っている。しろかねには妖怪側からこれがウラメシーナによるものなのかただの変質者なのか見解を聞きたい。」

 

「カルゥ・・・」

 

「しろかね、思ったことをそのまま言えば良いんだよ。」

 

「カルゥ・・・やってることは基本的な妖怪のやってることカル。」

 

「ほう・・・」

 

「逢魔時に現れて、脅かして、立ち去る。妖怪らしいカル。でもこれだけじゃウラメシーナかどうかはわからないカル〜」

 

「そうか・・・ありがとうしろかね。」

 

「どういたしましてカル。」

 

「対策を取ろうにもどこに現れるのかさえわからん・・・捜査は難航だな・・・」

 

「とりあえず大きな怪我人が出てないのが幸いやな。」

 

「今はそうだけどいずれはどうか分からないよ。失神した人を食べちゃったり連れ去ったりするかも知れないし・・・」

 

「対策としては一人にならないように周知徹底させるしかないな・・・」

 

「そうだね・・・現状それしか対応出来ない。」

 

「よし!そうと決まったら関係各所に通知するで!入念にな!」

 

「了解だ・・・!」

 

「マクリル・・・マクリルもウラメシーナかどうかわからないの?」

 

「一瞬過ぎてわからなかったリル・・・でもこのまま捜査が進めば進展する筈リル。」

 

「そうだね・・・ただの変質者だったら良いのに。」

 

いや良く無いが。自問自答しながら今回の事件も早く片がつくよう願うあたしだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




No.5ノッペラボウウラメシーナ


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