感染して体が化物になっても自我は消えませんでした (影絵師)
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データ集
※登場人外紹介 


 「バイオハザードに味方側のクリーチャーが登場していたら」という本編を書いていますが、登場してきたラピンたちや活躍中チェシャたちを紹介します。
 


「Resident Evil」

・ラピン

 

年齢 24歳

 

性別 女

 

 T-ウイルスに二次感染し、兎の性質を持った女性研究員。

 赤目に白いミディアムヘアーに同じく白く長い耳と丸い尾、そして毛皮に覆われた全身という兎を人の形にしたと言える容姿をしていて、人間の耳だった器官にメガネをかけている。服装は白シャツにこげ茶のズボン、赤いネクタイとベストにシルクハットといった「時計うさぎ」を思わせるもので本人は気に入ってる。

 アンブレラの一員であったため、冷酷なところもあるが、S.T.A.R.S.と協力していくうちに人の心を取り戻していく。そして変態であんなことをしたり、喜んでされたり……

 戦闘は兎の脚を生かした蹴りと、洋館のとある部屋に飾られていた長短の短剣。時には銃火器を使うことも。

 

 

 

 

・カーミラ

 

年齢 不明

 

性別 不明

 

 T-ウイルスにより群体生物に進化したコウモリたちで、捕食した女性研究員に擬態しているB.O.W。

 人間らしいロングの黒髪に白い肌、人外らしい赤い瞳と長く尖った耳、そして針に例えられる程の鋭利の犬歯が口から出ている。服装は黒いドレスと「闇のお姫様」と思わせる。姿と服装はあらゆるものに変えられる。

 アンブレラの一人としては良心があったらしく、レベッカが所属するS.T.A.R.S.を脱出させようとしている。性格は真面目で誰にでも敬語をよく使うが、時々貴族のような振る舞いをする。

 戦闘は鋭い爪と歯、体から分離したコウモリを武器に変えて使用する。

 

 

 

「Resident Evil2」

・チェシャ

 

年齢 80歳

 

性別 男性

 

 T-ウイルスを使用して作り出された謎の薬で猫の性質を持つようになったラピンの祖父。

 三角耳と横幅が変化する瞳孔に3対の細いヒゲ、感情を表す長い尾と顔と全身を覆う三色の毛皮が特徴。服装はこげ茶のベストとズボンに白シャツといった渋い感じのものを好む。

 ラピンが幼い頃から可愛がり、今も大人になった彼女に懐かれている。頑固なところがあるが、子供には優しい。話すときは「な」を「にゃ」と言ったり、語尾に「にゃ」とつくようになり、本人は気に入らにゃいようにゃ。

 戦闘は猫パンチ(握りこぶしと、開いた状態のパターンがあるが、前者はただのパンチ、後者はひっかくという知ってる猫パンチではない)、猫キック(これも痛いとは済まないやつ)。孫と同じように銃を使うかも

 

 

 

 

・リスベット

 

年齢 22歳

 

性別 女性

 

 チェシャが忘れていった謎の薬の一つを自殺用として飲み、竜の性質(正確には爬虫類、鳥類、哺乳類を組み合わせたもの)を持つようになった女性警官。

 桜色のセミショートの髪とそこから生えている二つの角、先端が鋭い尾、蝙蝠の羽、桜色の鱗に覆われているという空想のドラゴンそのものを人の形にしたような容姿。制服を着ているが、袖や背中など破れている部分がある。

 ヘタレ、臆病、怖がり、この言葉だけでどういう人外なのか済ませられる。こんな彼女でも主役になれるかもしれない。

 戦闘は警官らしく銃を使い、時には竜らしく重々しい武器を使うかもしれない……




 彼らのことで質問や何かのリクエストがあったらメッセージ等で送ってください。

 それと一ヶ月程度、家畜人工授精師の講習会に行くのでしばらく小説の投稿はできません。


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Resident Evil
初対面


 7月 24日

 

 バイオハザードの影響で人間じゃなくなってから約二ヶ月が過ぎた。人間の時の体型を保ちながら長い耳や白い毛皮、跳ぶのに適した足などのうさぎの性質を持つ怪物に生まれ変わった私は今日まで生き延びてきた。食料庫にあった野菜や少しの肉、うさぎのようにあんなものまで食べたり、襲ってくるゾンビを殺したりした。

 変異してからエッチなことをしたくなってきたけど、今では落ち着いてこれからどうしようか考えている。この洋館をさまようゾンビや化物みたいに自我や理性がなかったらフラフラしていたと思うけど、どういうわけが私はそれらを失わなかった。アンブレラ社がこれを知ったら大喜びかもしれない。

 それはある意味よかったかもしれないし、よくなかったかもしれない。だって怪物みたいに何も考えられずに済んだかもしれないんだよ。いつ奴らに殺されるのかって怯えるのは辛いよ……

 そんな時だった。聴力が発達した私の耳にある音が聞こえた。何かが高速に回転する音、エンジンのような音の二種類でヘリコプターだとわかった。どうやらそれでこの近くに何者かが来ている。しかし、一体誰なの? この洋館の周りにはあの化け犬がうじゃうじゃいるんだよ。まさか知らずにここに来たっていうわけ?

 一応確認しに行ってみるか。ウイルスに感染してから自室と食料庫を行き来しているだけで、別の部屋とかにも行ってないでこうして日記を書き続けているけど、これももうすぐ終わりそうだ。読み返すとうさぎ人間になる前から続いているね。なってからいろいろとやばいのが書いてるけど。

 そんなことだから私の日記はこの日で終わる。

 

―人間だった化けウサギのラピン

 

 

 

 

 

 

 今にも切れそうな灯りに照らされる机で日記を書く一人の女性。いや、人間の体型をしているが、それは人間ではない。

 鉛筆を握っているその手は白い毛皮に覆われており、全身と頭も同じ感じだ。頭の横にあるはずの耳がなく、人間と変わらない白いミディアムヘアーから二つの長い耳が伸びている。それはうさぎを人間の形にしたようなものだ。日記の最後を書き終え、椅子から立って背伸びするうさぎ人間。

 毛皮に覆われているため、服どころか下着を着てなくても子供が見てはいけない部分は分厚い毛に隠されているが、胸の大きさ、くびれ、腰周りを見て肉体的な魅力を持っている。顔つきもうさぎの特徴が少しある程度で、メガネをかけている。

 

「これで日記は終わりっと。あとは誰がどんな用でこのお化け屋敷に来るのかを見てみよっか」

 

 人間だった時と変わらずはっきりと言葉を言う。私物で散らかっている部屋から出ようとした時、自分の格好を扉のそばに置いてある鏡で見た。

 何も着ておらず、胸と股が丸見えの全裸だ。ただし毛皮に覆われているため、毎日この格好で過ごしていた。しかし、さっき聞こえたヘリコプターが使えるということは生きた人間が来ているかもしれない。もしも見られたらいろんな意味で問題になりそう。

 タンスを開けて着ていく服を選ぶが、ほとんど虫に食われていて穴だらけだった。どうにか無事だった物を取り出し、黒いブラジャーとパンティをつけてからタンスからの物を身につけていき、再び鏡の前に立つ。

 白シャツの上にベストを着ていて首元に黒いネクタイを巻きつけている。黒い長ズボンを履いているが、尻に穴を開けて丸いしっぽを出している。今の格好を見たうさぎは頷き、それで落ちそうになったメガネを抑える。アンブレラ社に入社した時、お祝いにもらった懐中時計の蓋を開き、今は夜であることを知る。

 支度を終え、部屋から出るうさぎ―ラピン。廊下に出てあの腐ったやつがいないのを確認すると、玄関ホールへ向かう。その間に何発かの銃声が聞こえたから人間だと確信すると同時に警戒する。私の姿を見て発砲するのはありえそうね。

 廊下の角で曲がろうとした時に立ち止まった。運悪くゾンビがいた。そいつはラピンに気づくと手を伸ばしてゆっくりと近づいてくる。腐ってるくせに新鮮な物を食べようとするのね。普通の人間が素手でこいつを倒すのは絶対無理だ。普通の人間なら……

 ゾンビに掴まれる前に一歩後ろに下がり、その場から足を離してゾンビに向かって飛び蹴りを食らわせるラピン。うさぎのキックを食らったゾンビは後方の壁に激突してもまだ動こうとする。ラピンはもう一発の蹴りを顔面に食らわせ、トドメを刺した。足の裏にべっとりとついた肉を床で拭き取り、移動を始める。もうすぐ玄関ホールだ。ここに来たのは一体どんな人物なんだろう?

 

 

 

「ウェスカー? ウェスカー! どこだ!」

 

 広い玄関ホールでそこに待機していた隊長の名を呼ぶ緑色の防弾チョッキの男性。そのそばにはオレンジ色の防弾チョッキの男性と、帽子をかぶった女性がウェスカーを探している。

 彼らは特殊作戦部隊S.T.A.R.S.のアルファチームに所属するクリス・レッドフィールド、ジル・バレンタイン、バリー・バートンだ。この付近で起こっている猟奇事件を捜査に向かった同部隊のブラヴォーチームが行方不明になり、クリスたちが捜索に来た。

 だが、墜落したヘリとパイロットの遺体を発見。その後、腐った犬に襲われ、隊員の一人が死亡、ヘリで待機していた隊員は恐れをなして仲間を置いたままヘリで飛び去ってしまった。残された隊員たちは古びた洋館を発見してそこに逃げ込んだ。

 しかし、それだけでは終わらなかった。一発の銃声が玄関ホールに届く。クリスとジル、バリーが銃声のした方角の部屋へ向かうと、そこには腐っていて明らかに死んでいるはずの人間―ゾンビと、それに食い殺されたブラヴォーチームのひとりの遺体があった。見たこともない怪物に驚きながらも、どうにか排除したクリスたちは玄関ホールにいるウェスカーに報告しようとするが、彼の姿はなかった。ホールを探し回ったが、いない。

 

「わけがわからないわね」

「同感だな」

 

 ジルがため息を付きながら言い、バリーもそう言う。クリスもそうだと頷き、ある提案をした。

 

「とにかく手分けして捜そう。バリーは食堂に戻って調べてくれ。俺とジルは反対の部屋から」

「ええ、わかったわ。まずは一階ね」

「そうだ、ジル。キーピックだ。お前が持っていたほうがいいだろう。何かあったらこのホールに―」

 

 バリーが言っている間にどこかから扉が開く音が聞こえ、三人は銃を構える。またゾンビかもしれない。周囲を見回して音の正体を探し始める。そしてクリスが見つけ、引き金を引こうとする。

 しかし、ゾンビとは違う見たことのない姿を目にして指を止める。ジルとバリーもそれに銃口を向けるが、すぐに発砲しなかった。

 真新しいとは言えないが、ゾンビの物よりはマシな服装を着ている。だが、着ているのは人間じゃない。白い毛皮に長い耳、そして赤い瞳がうさぎだと思わせる。クリスたちが知る小さい体ではなく、女性の体型をしている。そいつはゾンビと違ってすぐに近寄らず、その場で立ち止まって両手を上げている。

 

「何なんだ? お前は」

 

 銃を下ろさないまま、うさぎ人間に問うクリス。こいつが言葉をわかるのは知らないが、銃を向けられたことで両手を上げたということは人間の常識を知っているようだ。

 一方、訪問者を確認しに来たうさぎは彼らの格好に書かれているのを見てS.T.A.R.S.の隊員だとわかった。だが、どうして彼らがここに来たのかを知りたい。質問に答えようとするが、アンブレラ社の研究員って言ったら面倒なことになりそう……あ、でも今の私は研究員でもないし、人間でもないや。

 だからこう答えた。

 

 

 

「普通のうさぎのラピンよ」

 

 その答えを聞いた三人は無言で銃を構え続けたが、ようやく下ろした。バリーが苦笑いしてこう言う。その後にジルも口を開く。

 

「俺たちは不思議の国に来たみたいだな」

「私たちがアリスってことかしら?」  

 

to be continue

 




 どうしてクリスとジル、それにバリーが一緒にいるかと言うと、それぞれのイベントを書いてみたいからです(オリ主のラピン視点ですが)
 もし、これが初代ではなくてBSAAの時に会ったら瞬殺されていますね;
 


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少しは協力

 

「……冗談はやめてくれないかしら」

 

 うさぎ人間―ラピンから話を聞いたジルは呆れたように言った。クリスとバリーも同じ様子だ。

 ラピンが言うにはここはジルたちがいた世界とは異なる世界にある館であり、三人が倒してきたゾンビや化け犬はここの住人だと言う。本当はラクーンシティのそばにあるアークレイ山地に研究所として建てられている洋館で、ゾンビや犬、そして私はここで起きたバイオハザードに巻き込まれて変異したんだけど。

 でも、下手にそういうことを言ったらいろいろ面倒なことになりそうだし、感染されないように私を殺して燃やすかもしれない。だから適当なことを言って追い返そう。と思ったんだけど、信じてくれない。まあ、普通に信じられるわけないか。

 別の言い訳を考えているラピン。その時、自分を睨むヒゲの男―バリーに気づき、彼の顔を見る。

 

「何?」

「何を隠している? 怪しすぎるぞ」

 

 うん、怪しまれて当たり前だね。そもそもここは別世界だなんて言うのはまずかったのかも。とりあえず、あんな腐った連中とは一緒じゃないことを伝えよう。

 

「これだけは言うけど、私はゾンビじゃないからね。現にこうやって私と話してるじゃない」

「だが、人間ではないことは確かだ」

 

 クリスはそう言い、友好的とは思えない態度を見せる。……なにこれ。私が化物みたいにされてるけど。いや、本当にバケモンなんだけど。

 どうにかしようと考えている時に、ジルはバリーとクリスに向かってこう言った。

 

「少し落ち着きましょう。人間じゃないとはいえ、こうやって話し合っているわ。ここが異世界だと言うのが嘘だとしても、この館のことは知っているかもしれないわ」

「……仕方ないな、うさぎの話でも聞いてやるか」

「重要な手掛かりがあるならな」

 

 彼らの会話を聞いて一応、自分のことを信じてくれるようになったと思うラピン。とはいえ、アンブレラの研究所だと知ったらいけないからね。それ以外の情報でも教えてあげようか。

 彼らにこの洋館の一部を説明を始める。

 

「前に住んでいた人たちはちょっと厄介な動物に襲われていたからね、そこらへんに銃や弾薬があるから拾っといた方がいいんじゃない? まあ、私は人間のご……人間と違ってそんなのは必要ないね。この蹴りであの世に逝かせてやるから」

「ああ、ありがたく使わせてもらうぜ。腐った連中をどうにかするためにな」

「それで? ほかに大事なことは?」

 

 銃や弾薬が多くあると聞いて頷くバリー。たずねるジルにはこう言った。

 

「そうね……ちょっといろいろな仕掛けがあってね。それを解かないと開けられなかったり、下手したら罠みたいのもあるし」

「……ここは一体どういうものなんだ?」

「知らないよ。私は自分の部屋と食料庫を行き来してたから」

 

 クリスにそう返して最後に「バイオハザードが発生してからね」と、心の中で付け出すラピン。まあ、この三人が重要なところにたどり着くはずがないし、ゾンビになったらなったで処分すればいいし。

 そう思いながら長い両耳を動かす彼女を見つめたあと、バリーは食堂へ向かう扉の前に立って言った。

 

「クリスに言われた通り、俺はこっちから調べる。お前たちも気をつけな」

「ああ、無理はするな」

 

 クリスに頷き、玄関ホールから出る。クリスはジルにこう言う。

 

「俺たちは二階に行って分かれて調べるぞ」

「ええ、わかったわ」

 

 クリスとジルの会話を聞いて、ラピンは思わず言った。

 

「えっ? どうしてそれぞれ単独で調べに行くわけ?」

「固まって行動するよりは効率がいい。それに俺たちはそう簡単には死なない」

「そういうことよ。あなたのことも期待してるからね、ラピン」

 

 階段を上がり、二階で二手に分かれ探索を始めるクリスとジル。彼らはそれぞれこれからも信頼できる相棒を持っているのだ。

 

 

 

 一方、玄関の前に残されたラピンは大きくため息をついて、こうつぶやいた。

 

「まったく兎使いの荒い人たちね」

 

 床を無意識に足ふみしながら行動を始める。とりあえずバリーがいる食堂の方でも一緒に行こうか。

 バリーのあとを追い、食堂に入るラピンの長耳に柱時計の音が一定間隔に入る。そこにはバリーの姿はなく、先に進んで行ったんだろう。奥の扉を開けて廊下を出る。

 そこには真新しい死体がそこに転がっていた。服装からしてS.T.A.R.S.の一員のようだ。首を食いちぎられている。……さっき、銃は必要ないって言ったけど、念の為持っていこう。

 死体のそばに落ちている拳銃を握り締める。廊下の先を進んでいくと、階段があり、そこにも死体があった。ゾンビとして起き上がらないように頭部を蹴り潰し、階段を上がっていく。

 その先にあった扉を開け、二階の廊下に立つラピン。姿は見えないが、奴らのうめき声が耳に入ってくる。慎重に歩くと、前方の曲がり角からゾンビが現れた。拳銃で排除しようとするが、B.O.W.でもないこいつは蹴ればいいだけだ。噛み付こうとする下顎を蹴り上げ、絶命させる。

 そんな死体を見下ろしていると、廊下に置かれている首のない天使の像の胸に刺さっている黄金の矢が目に映る。気になって引き抜くと、矢尻がペリドットでできている。

 それを見てラピンはあることを思い出した。洋館の近くにあるいくつかの墓の中に天使の絵が彫られたのがあり、この矢尻はその鍵であることを。そして、そこにはあの赤い化物が封印されていることも。

これはS.T.A.R.S.には隠しとこ。あれが解放されたら私も危ないし、あそこには重要な鍵があるし。

 そう思いながら食堂への扉を開けると、そこにはクリスが銃を構えて立っていた。ラピンは両耳を一旦縮めて伸ばし、矢尻を落としてしまう。そんなラピンの姿を見て、銃を下ろすクリス。

 

「お前か。驚かすな」

「そっちこそ! 兎はこういうのに弱いのよ!」

 

 そう返してしゃがんで矢尻を取ろうとする。だが、それに気づいたクリスが先に取った。緑色のそれをしばらく眺めてからラピンに言った。

 

「これを貸してくれ。お前が言う墓場にある仕掛けに必要だと思うんだ」

「いや、それは関係ないやつだって」

 

 どうにか取り返そうとするが、ラピンから矢尻を遠ざけるクリス。彼の行動にイライラしてきて蹴り飛ばそうと考えたが、矢尻を持ってない方の彼の手が拳銃に伸ばしているのが見えて、諦める。化物に食い殺されちゃえ。

 クリスから距離を取り、心の中で罵倒しながらメガネをかけ直すラピン。長い耳を後ろに倒して足ふみしている彼女を見て、クリスはある疑いを持つ。

 

「ラピン……お前に聞きたいことがある」

「何よ」

「お前もここのゾンビと同じ人間だったのか?」

 

 ……まさかと思うけど、否定せずにどうしてそう思うのかを聞いてみる。

 

「どうしてそんなことを聞くわけ?」

「あまりにも人間らしいからな、兎の割には。奴らよりはマシだが」

「私にとっては嬉しい言葉だけど、ただの人外よ」

 

 今はね。心の中で付け足して玄関ホールへ戻るラピンと一緒に歩くクリス。彼は墓場に行くつもりだろう。

 玄関ホールにつき、その場でラピンと分かれて墓場に向かうクリス。そんな彼の姿を見送るラピンは「もしもあれが私みたいになるとしたらゴリラかもね」と想像する。さて、反対側の方も調べに行くか。

 そこに行く前に窓に映っている自分の姿を見た。白シャツとベストとネクタイ、長ズボンを着た白い毛皮に覆われ、長い耳が特徴の兎だ。まさかT-ウイルスでこういう風に変異するなんてね……

 誰かに見下ろされる気配を感じ、振り返って見上げるが、玄関ホールの二階には誰もいなかった。気のせいかと思い、もう片方を調べに行く。

 

to be continue




 よくよく考えてみると、クリスとクレアを救ったクリーチャーもいましたね。前者は同僚、後者は彼氏。
 今回は兎人間のラピンを見たクリスたちの反応や、洋館のひみつを隠そうとするラピンの行動でした。
 次回はクリーチャーのラピンが人助けをします。そのことで多少は信頼されますが、感染者の遺書などを見つけてラピンからウイルスが移るかもしれないという疑いをするかもしれません。
 次回もお楽しみに!


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救助する感染者

 玄関ホールで墓場を調べに行くクリスと別れたラピンは食堂の反対側の扉を開けて入る。そこには美術品が壁などに飾られていて、真ん中に石像が置かれている。奥に置かれているはずの棚が石像のそばに動かされているのを見ると、誰かがそれに乗って石像のツボの中にあるこの館の地図を取ったようだ。

 とはいえ、この部屋には重要な鍵はない。奥の扉を開けて廊下に出る。玄関ホールと同じくらいの明るさのそこを歩き、角を曲がろうとした。

 突然、ガラス窓を突き破って何かが廊下に現れた。それは腐った死体、いや、正確にはB.O.W.として作られた化け犬―ケルベロスだ。そいつはラピンに顔を向け、すぐに走ってきた。口を開けて噛み付こうと飛びかかったところを、横に避けられてしまい、そのままラピンの蹴りで壁に叩き付けられた。

 そいつを足で壁に押し付けているラピンはさらに力を入れる。何かが折れる音と同時にケルベロスは止まった。足を離すと、壁に赤いのを残して床に落ちた。それを見下ろすラピンはジルとバリーが生き残れるか、少し不安に思った。

 

「ゾンビくらいはなんとかなるかもしれないけど、こいつや私のような化物に勝てるかしら」

 

 そうつぶやき、先を進む。また廊下に出た。正面と左に分かれているが、正面の浴室に重要なものはないから左に行こうとした。

 そこの扉が突き破れ、赤い何かが鋭い爪でラピンに襲ってきた。クリムゾン・ヘッドだ。誰かが処分し忘れたようだ。クリムゾン・ヘッドは腕を振ってラピンの右腕を切りつける。白い毛皮が赤く染まる。そこを押さえながらしゃがみ蹴りをし、赤い変異体を転ばす。起き上がろうとするそいつの頭を踏み潰して殺した。

 ゾンビよりは厄介な化物を倒したラピンは安堵のため息を漏らす。切られた腕が痛むけど、化物になった彼女はしばらくすれば回復する。もうすぐ傷が癒えそう。

 

「バリー! クリス! 誰か助けて!」

 

 ジルの助けを呼ぶ声が長い耳に入り、すぐにその方向へ向かった。確か近くに壁をかけられているショットガンを取ると、天井が降りてくる部屋があったはず。そうでもなければさっきの赤いやつに襲われているかもしれない。

 とにかくその部屋に行ってみるしかない。走ってそこの扉を開けようとするが、鍵がかかっている。向こうからジルの叫び声が聞こえる。

 

「誰かいるの!? ドアが開かないの!」

 

 力任せに蹴りつけてドアを破る。その部屋の天井はもう腰の高さまで下がっていて、ジルは横になって潰されないようにしている。彼女の腕を掴むとすぐに引っ張り出した。

 彼女の体が廊下に出た直後に天井が床についたところだった。ジルはそれを見つめたあと、立ち上がってラピンの顔を見る。

 

「ありがとう、もう少しでサンドイッチにされるところだったわ」

「これからよく考えて行動してくれる? それに浴室にいたゾンビも殺し損ねていたでしょ?」

「ごめんなさい……あなたの言葉を少し信じてなかった」

 

 腕組みしているラピンにジルは申し訳なく謝った。その時、ラピンが怪我しているのに気づき、ポーチから緑色の薬草―ハーブの粉を取り出して、傷口に塗りこむ。痛いといえば痛いが、さっきよりは回復してきた。

 

「これで借りを返したわ」

「……まあ、これでチャラにするよ。それとそのショットガンは持ってて。私には必要なさそうだし」

「ええ、使わせてもらうわ。ところで……」

 

 ジルはラピンに聞いた。

 

「ほかのみんなはどうしたかしら? 別れてからクリスとバリーに会ってないけど」

「クリスは墓場を調べてる途中。バリーは見てないけど」

「そう。おそらく食堂の方にいると思うから見てきてくれない?」

「いいよ」

 

 彼女の頼みを引き受けたラピンはさっき来た廊下を戻る。その途中にゾンビとかはいたが、蹴り飛ばして進んでいく。

 食堂の方まで来たラピン。しかし、バリーの姿はなかった。上を見上げて二階の方も見るが、一階からだとよく見えない。ラピンは少ししゃがみ、次の瞬間に跳んだ。二階の手すりを掴み、通路に立つ。そこにもバリーはいなかった。奥に進んで、廊下に出る。

 すると、拳銃を構えて廊下を歩くバリーの姿が見えた。彼に近寄って話しかけようとする。それより先にバリーが気づいた。

 同時に拳銃を彼女に向け、こう言った。

 

「止まれ! それ以上近寄ると撃つぞ!」

 

 すぐに立ち止まったラピンはメガネ越しに彼を睨みつける。音が響くほど、強く足踏みしてたずねる。

 

「どういうわけなの?」

「下手に感染したら困るからだ」

 

 その言葉を聞いて、ラピンは一瞬焦った。私がウイルスに感染して人外になったのを知っているんだったら、どうしてゾンビができたのか、この洋館はどういう場所なのか、そういうのを彼は知ってしまったの?

 彼女の頭上を見たバリーは銃を構えたまま言った。

 

「その長い耳の動かし方……どうやら図星のようだな。お前も奴らと同じ感染者か……?」

「どういうところまで知ってるのかしら?」

「さっき調べた部屋に残されたこの破れた手紙に『感染している』、『生ける屍』という言葉が書かれている。これは何かに感染してる者がゾンビになったということか?」

「……そういうこと。私もそれになるはずだったけど、どういうわけか、自我と知性は消えずにこの姿になったのよ」

 

 問題なのはこの男が何をするかだ。

 この姿を知ったほかの研究員たちのようにヤるつもりは全くないだろう。移らないように私を殺すのかな? もしそうだったら抵抗してやるよ。

 しばらくにらみ合っている時、バリーはまた質問した。

 

「感染したら症状が出ると書かれていたが、どういうものなんだ?」

「……普通は発熱、かゆみ、もしくは馬鹿になっていくってところかな」

 

 それを聞いたバリーはしばらくして銃を下ろした。その行動に少し驚くラピンに彼は言った。

 

「今のところ、そういったのはないからな。それにお前と関わってから時間が経っていても、こうして新鮮なままだからお前からの感染は心配しなくていいだろう」

「空気感染は弱まってるし、ゾンビに噛まれていない限りは……ね」

「いきなり銃を向けて悪かった。変わりにこれで許してくれ。この館の仕掛けを知ってるお前が持ってた方がいいだろう」

 

 

 彼からウインドクレストを受け取った。彼曰く、これを手にするのにデカイ蜂をなんとかしてたとか。

 バリーと別れたラピンは部屋に入って、少し休んだ。バリーから破れた手紙をもらい、読んでいる。これを書いた人物は自分の恋人に自分が死ぬことを伝えている内容だ。まあ、その恋人はこのことを知らないと思うけど。

 手紙を放り投げ、自分の耳をいじっている時に手紙であることを思い出した。自分が書いた黒歴s……秘密の日記がクリスたちにバレたらやばい。すぐに部屋を出て、自分の寝室へ走る。どれだけ走ったか覚えていない。

 その部屋の扉の前で立ち止まり、ぶち破った。誰も入ってないようで、ラピンがクリスたちに会いに行った時のままだ。机に例の日記が置かれているのが見え、床に落としてライターで火をつける。

 燃え上がるノートを見て、安心した。ちょっと惜しい気持ちはあるが、こうするしかなかった。

 ベッドに横たわって、天井を見つめる。彼らが来るまではずっとここにいたが、このままでいいのだろうかと思う。はっきり言えばゾンビまみれのこんなところからすぐに出たいし、街で買い物してみたい。

 だけど、それは不可能であるのはわかっている。兎人間が街の中に現れたら目立つでしょ。そしてアンブレラ社に捕まって実験とか解剖とかされたりすることになるだろうし。

 まあ、そうされるつもりは全くないけどね。

 

to be continue

 



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感染者=悪とは限らない

 

 自分の部屋で少し休んだラピンは玄関ホールのところに来た。そこにはジルとクリス、バリーの姿があり、彼らが気づくと彼女を呼び寄せた。そばまで来ると、クリスが警戒して遠ざかる。私やほかの化け物のことをバリーから聞いたんだろう。彼に向ってバリーが言った。

 

「落ち着け。さっきも言ったが、こいつからの感染はないと思った方がいい」

「……フォレストが化け物にされたんだ。こいつらに接触してな」

 

 ラピンを睨みつけるクリス。一方、フォレストを知らないラピンはしばらく彼を見ていると、ジルが教えた。

 

「私たちの仲間よ。もうこの世にいないけど」

「あいつはグレネードランチャーの扱いがうまかった。しかし、あいつの遺体のそばにその遺品がなく、せっかく見つけたこれも意味がないな」

 

 そう言いながらバリーは硫酸弾取り出して見せる。化け物を飼っていたとはいえ、洋館にそんなものまであったのかと、見て思うラピン。

 バリーがそれをしまう間、ジルがクリスを宥める。

 

「クリス、ラピンを責めたいのはわかるけど、彼女はゾンビじゃないし、フォレストを殺した者でもないわ」

「だが、感染者だ。放っておけば、面倒なことになる」

 

 その言葉に頭にきたラピンは一回足踏みして、クリスの前に立つ。彼女の行動にバリーとジルが止めようとするが、ラピンの口が先に動いた。

 

「ちょっとあなた、感染してる=悪って考えてるの? 化け物になった人間はゾンビになりたいって思ったわけでもないし、私もこうなりたいと願ったわけでもない。勝手に善悪決めつけないでくれる?」

「なんだと?」

 

 クリスの表情が険しくなっても、ラピンは続ける。

 

「もしかしてあなたが感染しちゃってゾンビになりかけたら人間のままで死にたいって方? するんだったら私がヤるよ。それとも化け物に殺されたくないなら自決でもしたら?」

「さっきから聞いてれば! 人間とは思えないな!」

 

 クリスがラピンの首元を掴み、彼女を殴りつけようとした。その時、眼鏡を落としたラピンも彼の腹を蹴ろうとするが、バリーがクリスを引き離した。ざまあみろと言おうとした時に、ジルに頬を叩かれた。

 痛いというより叩かれたことに驚いて、その頬を押さえているラピンにジルが叱った。

 

「ラピン、今のはあなたが悪いのよ。クリスは変わり果てたフォレストの姿を見てショックを受けている。そんな彼にさっきの言葉をぶつけるのは許せない。もう二度としないように」

 

 そして、クリスとジルに捜索を続けると言って玄関ホールを去った。ラピンが床に落ちている眼鏡を取り上げる時に、バリーが声をかける。

 ジルと同じように怒りを感じている。

 

「もうふざけたことは言うなよ。フォレストのことは俺たちもショックだ」

 

 そう言い残して、彼も去った。

 ラピンと共に残されたクリスは彼女を睨み続けていたが、しばらくして黙って別の部屋に行った。その場に立ち続けていたラピンは首を横に振り、探索を再開した。

 ……どういうわけか、両耳が垂れて鬱陶しい。いつもはピンと立っているのに。そのままにして二階に上がる間に自分がクリスに言ったことを思い出す。

 私も被害者のようなことを言ってたけど、そんなことを言う権利はなかった。むしろ、加害者の方だ。

 人間だった頃はT-ウイルスでB.O.W.を作る時にほかの人間を使ったり、出来上がった生物兵器のテストをするために標的を人間にしたりなど、まともとは言えなかった。そしてこの姿になったきっかけのバイオハザードも自分たちが扱っていたT-ウイルスが漏れてしまったのが原因だ。ゾンビが大量発生したのも私のせいだ。

 そのことを反省してるのかというと、はっきり言ってしてない。罪悪感も感じない。後悔はしているといえばそうだが、ずっとここにこもっていたことにだ。こんな怪物(というよりは誰かに受けそうなんだけど)の姿になったのは驚きだけど、人間を超えた力を持っているのもいいね。人間に戻ろうとは思わない。

 ……でもまあ、あんなことを言ったのは悪く思うけどね。あとで謝ろ。

 心の中でそう思い、玄関ホールの二階にある東側の扉を開けて入る。確か、この近くには甲冑や剣が飾られている部屋があったね。あのクリムゾン・ヘッドみたいなやつにあったら武器が必要なんだけど、弾が必要な借りた銃より近接武器の方がいいね。

 ラピンがその部屋の中に入った途端に並べられていた鎧が動き出した。えーと、これを戻すのに順番があったような……右手奥、手前左、手前右で最後は左手奥だったかしら? 記憶を便りに元の場所に戻していくと、最後の左手奥の鎧が自分で戻っていく。中央に置かれているボタンを押すと、奥の壁の一部が開かれた……

 が、何も入ってなかった。おそらく、ジルたちの誰かが不気味な仮面を取ったんだろう。

 

「まあ、私は武器を取りにきたんだけどね」

 

 つぶやいて部屋を見渡す。B.O.W.に鎧をつけていくなんてとんでもない。長剣、曲剣、大剣、刀などがいろいろあるけど、どれも私に似合いそうにない。

 ふと、まるで長針と短針のような長短の双剣が目に入る。私が大事に持ってる懐中時計の針と似たデザインをしている。長いの右手に、短いの左手にして持ち、試しに甲冑を相手する。

 頭に長剣を突き刺し、短剣で脇腹を引き裂く。よし、これは使えるかもしれない。それの鞘を腰の後ろに吊り下げ、納刀する。武器を手に入れて満足したラピンはその部屋を出て、屋根裏部屋の方に行く。

 そこへ通じる扉を開けた時に見知らぬ二人が壁際にいた。どうやらS.T.A.R.S.のメンバーのようだ。怪我をしている男性がラピンに気づくと、銃を取り出して狙いを定める。

 

「くそ! ゾンビに化け犬、そして大蛇の次はうさぎ人間かよ!」

「待って、あれは襲ったりはしないわ」

 

 ……あの三人よりは冷静だねこの子は。ラピンがそう思いながら近づいていく。男は左腕に大怪我をしていて、苦しそうだ。どうやら毒にやられているみたいだ。

 

「毒蛇に噛まれたのね。それもかなりでかいのに」

「ああ……あれはバケモンだ……お前のような馬鹿みたいに可愛くしたのと違ってな……」

「……楽にしようか」

 

 短剣を握りしめてそう言った。二十の女性が手で止めながら言う。

 

「血清が必要なの……でも、ほかの部屋に置いて来たの……」

「……血清の場所は知ってるよ、私が取りに行く」

 

 通路を出て、洋館の西側へ走っていくラピン。彼女がいなくなると、男性―リチャードは女性―レベッカに言った。

 

「レベッカ……あんなのを見ても……驚かないなんてな」

 

 しばらくしてからレベッカはこう返した。

 

「あれみたいな人は初めてじゃないから」

 

 レベッカは洋館に来る前にとある場所で死刑囚と人外と協力したことがある。今はそのことをここに書かないが、いつか書くときが来るだろう。

 その頃、西側の保管庫にたどりついたラピンは棚に置かれている血清の瓶を手にして、急いで戻る。途中でゾンビやクリムゾン・ヘッドが襲ってきたが、長剣で奴らの首を刎ねてやった。リチャードとレベッカがいるところまで戻り、血清を渡した。

 

「これでしょ、血清」

「ええ、ありがとう」

 

 感謝を言い、リチャードに声をかけるレベッカ。

 

「今、血清を打つわ。しっかりして」

 

 その様子を見守るラピン。ヨーンというふざけた名を研究員に付けられた大蛇はすぐ近くにいるのが聴力でわかり、警戒していると少し顔色が良くなったリチャードに声をかけられた。

 

「……お前のことを疑ってたぜ……化物のお前が血清を持ってくるなんて思ってもいなかった……悪かったよ……」

「クリスとジル、バリーがこの館にいる。会いたいなら死なないで」

「へっ……あいつらもここに来てるのか。だったら生きるしかねえな……」

 

 それだけ言うと目を閉じて動かなくなった。ラピンがすぐに耳を立てて彼の体を触れる。まだ暖かい。気絶しているだけのようだ。

 とはいえ、ここにいるのは危険だ。ラピンとレベッカはリチャードを運んで血清があったところまで移動した。

 




 今回はレベッカとリチャードが登場しました。……まあ、ちょっと地味になるんですけど
 ラピンがクリスと喧嘩したのは「人間とクリーチャーが共存するのは難しい」と示したかっただけです。いつか和解するつもりです。
 今回からラピンは専用武器を使います。ウェスカーのように銃火器で戦わせることも考えましたが、彼女の個性を出したかったので。
 次回もお楽しみに!


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兎の大蛇狩り

 

 ラピンが持ってきた血清で一命を取り留めたリチャードは血清があった部屋のベッドで眠っている。彼を見守っているレベッカにラピンは声をかけた。

 

「それじゃあ私はここから離れるよ。ジルやクリスたちに会ったら伝えとくから」

「ええ、彼が目を覚ましたら二人で探索をするわ」

 

 そう返す彼女にラピンは頷き、部屋を出た。レベッカやリチャードのことをジルたちに伝えると言ったけど、揉め事のあとだから信じてくれるかな?

 心の中で思いながら、彼女たちを見つけた場所へ向かう。そこの近くには大きなあくびをする蛇がいるはずだ。リチャードはそいつにやられたんだ。その場所まで行き、さらに奥の扉を開ける。

 目に飛び込んだのは蜘蛛の巣が張り巡らされた扉だ。いかにもその扉の向こうに危険な奴がいることが勘でわかる。まあ、鍵がかかっていて入れないが、向こうから大蛇が来ることもない。準備してから進むか。

 そういうことでその扉とは違う方の扉に入るラピン。そこにはピアノが置かれていて、楽譜もあった。それを見た彼女はあることを思い出した。人間だった頃、この近くで歩いていると演奏が聞こえてくるのを。それも一回ではなく、何回もだ。

 

「まさか、これも仕掛けの一つなの?」

 

 そうつぶやき、ピアノの鍵盤に手を置く。楽譜に目を通して弾こうとする……が、思ったとおりの音が出ない。タイミングが合ってない。

 それでも諦めずにピアノを弾き続け、耳にいいとは言えない音楽が部屋に響く。もううんざりしているラピンの手が止まる時だった。部屋に誰かが入ってきて、ラピンはとっさに構える。

 入ってきたのは化物ではなく、ジルとクリスだ。相変わらず彼はラピンを睨んでいるが、先ほどよりは落ち着いている。ジルがラピンに言った。

 

「レベッカとリチャードに会ったわ。二人を助けてくれたのね」

「……まあ、それくらいならやってやるからね」

「ありがとう。ブラボーチームに生き残りがいてよかった」

 

 感謝するジルとは違って、何も言わないクリス。そんな彼に謝ろうすると、ラピンが弾いていたピアノを見て彼女に聞く。

 

「さっきから聞こえていたのはあなたが? ということはこれも仕掛けなのね」

「よくわかんないけどね。前にここから演奏が何回も続いたことくらいしか」

「私が弾いてみるわ。こういうのは得意なの」

 

 ラピンの代わりに演奏するジル。すると、ラピンが弾いていたのよりかなりまともな音楽だ。目を閉じ、長い耳をゆったりと揺らして聴いているラピン。続いた音楽が止まった。

 黙っていたクリスがジルを褒めた。

 

「うまいぞ、ジル。そんな特技があったとは」

「ええ、まさかこんなところでやるなんてね。少しは平和なところで弾きたかったわ」

 

 その時、部屋の壁が上がってその先に進めるようになった。奥に何かが光っている。ラピンが入ろうとするが、クリスが止めた。

 彼に言おうとした時に、思ってもいない言葉をクリスが発した。

 

「罠かもしれない。俺が調べてみる」

「えっ? いや、私が調べるよ。何かあっても私なら―」

「お前はここに残ってろ」

 

 それだけ言って、隠し部屋に入るクリス。そんな彼の態度に耳を後ろに倒し、強く足踏みしようとした。

 その時、彼女に言ったジルの言葉がラピンの動きを止めた。

 

「あれはクリスなりの感謝と謝罪よ。前者はあなたがリチャードとレベッカを助けたことと、後者はひどいことを言ったこと。もしもあの部屋で何かあった時のためにあなたより先に入ったの」

「えっ?」

「ちょっと頑固なところがあるけど、少なくともあなたをただの化物として見ていないわ」

 

 ……なんだが私が馬鹿みたいだな。上げていた足をゆっくりと戻し、耳も少し立つ。今のうちに謝った方がいいかも。

 そう思い、クリスのあとを追う。しかし、隠し部屋に入る直前に壁が降りて閉まった。ラピンは思わず壁を叩き、閉じ込められているクリスに呼びかけた。

 

「クリス!? ねえ、クリス! 大丈夫!? 私が悪かったから! あなたが出てこないとごめんなさいって謝れないじゃん!」

 

 すると、壁がまた上がり、クリスが前に立っていた。ラピンの声が聞こえていたのが、口の端が上がっている。その表情に両耳にきたラピンは彼を蹴り飛ばそうと考えたが、クリスにこう言われて落ち着く。

 

「ああ。俺も言いすぎた、悪い。それとリチャードとレベッカを救ってくれてありがとう」

 

 ……あの時からあった重い気持ちがなくなった。ラピンが微笑むと、ジルがクリスにたずねる。

 

「何かあったの? 壁が降りてきたけど」

「ああ、奥にあったこの鍵を手にしたらそうなった。その時俺はその鍵の模型を持っていたのを思い出して、それを取り付けたら壁が上がったんだ」

 

 ジルにそう説明したあと、取ってきたという鍵をラピンに渡した。

 

「この洋館を大体知っているお前が持ってくれ。俺とジルは見落としていないか、確認してくる」

「気をつけてね、ラピン」

 

 部屋を出て行くクリスとジル。残ったラピンは渡された鍵を眺めながら、部屋を出る。そして、すぐそばにある例の扉を見る。あれは鍵がかかっていたけど、もしかして……

 クリスからもらった鍵で試してみる。やっぱり開いた。クリスがあのまま鍵を持たなくてよかった。ドアノブに手をかけ、開く。

 そこは屋根裏部屋のようで、床が埃に覆われていた。長い何かが引きずったあとが残っているのを見ると、やはりここにいる……ラピンが長剣と短剣を片手ずつ握りしめ、耳をあらゆる角度に動かして化物の位置を探る。

 

 シャァァァ……

 

 実験で聞きなれた音。しかし、大きさが違う。そんな鳴き声が頭上から聞こえる。見上げると、牙の生えた大きな口がまっすぐ落ちてくる。すぐに横に跳び、丸呑みされずにすむ。

 立っていた場所を向くと、そこには人の数倍の蛇―ヨーンが首を持ち上げて大きなあくびを見せている。人間ではなくても、あれに呑み込まれたらただですまない。

 

「まあ、こいつの武器は口くらいだけどね」

 

 メガネをかけ直して、長短の剣を握る。ヨーンが口を開けて突進してきた。それを床を蹴って飛び越え、太い胴体を切りつける。切り傷ができて、血が噴き出るもののこれで終わるわけがない。

 再び、開口して迫るヨーン。どうやらその口を狙うしかなさそうだが、あの毒の牙があるのに接近戦で挑むのはちょっと……剣をしまい、代わりにハンドガンを取り出し、口内を狙う。引き金を引いて数発撃った。

 怯んで勢いを止める大蛇を見て、弱点部位を確信したラピン。怒ったのか、あくびではなく威嚇をしたヨーンは自分の体を彼女に巻きつける。少し油断したラピンは跳び遅れた。

 

「きゃっ!」

 

 下半身と胸を締め付けられた彼女にヨーンの開いた口がゆっくりと近づいてくる。どうにか腕だけは抜け出したラピンは長剣を手に取り、ヨーンの牙を叩き切る。

 大きくのけぞる隙にヨーンの胴体を何度も突き刺し、どうにか解放された。そして、トドメに口内から上顎に長いのを、下顎に短いのをそれぞれ刺し、そして一気に手前に引き裂く。

 大きく体を揺らして周囲に血を噴き散らかしたあと、倒れこむヨーン。どうにか厄介な化物を倒したラピンは部屋の奥に不自然なものが落ちているのに気づき、それを調べるために大蛇のそばを通る。

 一瞬何かの鼓動が聞こえた直後、体を突き飛ばされて壁に激突するラピン。体を起こすと、まだ生きているヨーンが口を開けて近寄る。武器を取り出そうとするが、手の届かない場所に落ちていてすぐに拾えない。

 

「……ここまでのようね」

 

 体を強く打ってまともに動けないラピンが諦めかけたその時だった。

 扉の方から誰かの叫び声が聞こえ、彼女とヨーンがそちらに向く。声の持ち主はヨーンにやられていたリチャードで、彼の手にはグレネードランチャーがあった。

 

「これでも喰らってやがれ!」

 

 榴弾を何度も発射させ、ヨーンを爆撃する。何発に続いたが、大蛇はまだ死なず、ついにグレネードランチャーが弾切れになった。引き金を引いても発射しないことに気づいたリチャードは舌打ちをした。

 リロードしながらヨーンを挑発する。

 

「ちっ、弾切れかよ! おい、化け蛇! こっちに来やがれ!」

「リチャード、動いて!」

 

 ラピンがそう叫んでも、リチャードは動かない。そんな彼にヨーンが飛びかかり、呑み込んだ。その瞬間を見たラピンは目を見開き、思わず叫んだ。

 

「リチャァァァドオォォォッ!!」

 

 突然、リチャードを呑み込んだヨーンの頭が爆発し、胴体だけになって倒れた。そんな光景を見たラピンは一瞬思考停止したが、すぐに駆け寄る。大蛇の頭があったところに血まみれのグレネードランチャーが落ちている。

 まさか、自爆……? 見ず知らずのこんな私のために……? どうして……

 その場に跪くラピン。ふとグレネードランチャーに紙が挟まれているのに気づいて取る。それには文字が書かれていた。

 

 

 

 これを読んでいるということは俺はもう死んでるだろうな。

 毒で死にかけた時に兎が助けてくれたが、噛まれてから熱が出て、おまけにかゆくなってきてた。これはもうゾンビになっちまうってことだ。洋館でそのような手紙があった。

 俺はあんな化物になるのはごめんだ。どうせなら誰かの命を救って、化物を道連れにしてやる。

 この紙が挟まれていたグレネードランチャーはフォレストの物だが、あいつはもうやられた。俺が代わりに使うつもりだったけど、この紙を読んだやつは使ってくれ。

 S.T.A.R.S.の仲間が洋館から脱出するのをあの世から応援するぜ。

―リチャード

 

 

 

 読み上げたラピンはその紙をポケットにしまい、グレネードランチャーを持つ。落ちている自分の武器を拾い、メガネを掴んだ。そこに目元が濡れているラピンの顔が映った。腕で拭き取ったあと、奥に落ちていた不気味な仮面を拾い上げた。

 ありがとう、リチャード……

 

to be continue             




 リチャード、死亡。ただし原作よりちょっとかっこよく死にました。えっ? 某青狸の二次創作でそういうのを見たって? 気のせいでしょう。
 ラピンに専用武器があるのに拳銃を使った件。ウェスカーと似た感じかな(彼も銃火器を使用しているから)
 あと、ピアノの部屋で手に入れるアイテムを変更しました。エンブレムだと長くなりそうだし……
 次回もお楽しみに!


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人の心を持つ感染者

 リチャードの特攻で倒されたヨーンを残して部屋を出るラピン。毒にやられていたリチャードがいた通路に戻ると、レベッカとバリーが来ていた。ラピンはレベッカにたずねられた。

 

「リチャードは!? ラピンが来ていた部屋に行ったはずなの!」

 

 その質問にラピンは何も言わず、彼が持っていたグレネードランチャーに挟まれていた紙を渡す。それに書かれている内容を読んだレベッカとバリーは顔を曇らせる。レベッカは泣きそうだ。

 それを見たラピンが謝った。

 

「ごめんなさい……私がヘマをしなかったら」

「いや、お前は悪くない。化物がいる館にいれば誰か死んでもおかしくない」

 

 バリーがそう言ってくれるが、あの蛇をちゃんと殺していれば彼は死ななかったはずだった。バリーにグレネードランチャーを譲ろうとして、彼は受け取った。

 

「ジルに持たせる。クリスにもリチャードのことを言わないとな」

 

 表情が暗いレベッカを連れてジルを探しにいくバリー。残されたラピンは部屋で見つけた不気味な仮面を見る。これはどこで使うんだろう?

 そう思いながら襲ってくるゾンビを斬りながら玄関ホールまで戻る。ふと、クリスが調べに行った墓場のことを思い出し、そこに行く。並べられている墓標の中に緑色の矢尻がはめられているのがあり、地下に行けるようになっている。階段を下っていき、棺桶が鎖で吊るされている地下室に来た。

 その棺桶から血が滴っている。中にあの赤いのがいるのだろう。入り口の近くに四つの石像があり、一つを除いて仮面を付けられている。やはりここか。大蛇がいた部屋で拾った仮面を最後の石像につけた。

 棺桶が落ち、蓋が外れた。中にクリムゾン・ヘッドが眠っている。ラピンがゆっくりと近づく。

 その時、入り口から物音が聞こえ、振り向くと鉄格子で塞がれている。そして、棺桶の中からうめき声が……

 クリムゾン・ヘッドが立ち上がり、白くなりかけている瞳をこちらに向けている。走り出して、ラピンに爪を振った。後ろに下がって避けた彼女は両手に剣を持ち、クリムゾン・ヘッドの胴体を連続で斬りつける。血が彼女に飛び散って、服と白い毛皮が赤く染まる。

 それでも死なずにラピンを掴み、噛み付こうとするクリムゾン・ヘッドの口に短剣を突き刺した。ようやく絶命して硬い床に倒れる。そいつが眠っていた棺桶に近づくラピンはアンブレラのマークを模した石と鉄製のオブジェを見つけた。

 それを見たラピンは自分がしてきたことを思い出す。アンブレラ社に入ったのはあらゆる生物にかかる病気を治す薬を作ろうと思った。だけど、入社してすぐにこの洋館に隠されている研究所でいろいろな生物兵器を作れと命じられた。最初は嫌だったし反対したけど、脅されていやいや実験した。

 数週間後、自分から新しい生物兵器を作るようになった、疑問を持たずに。結局、私もあのサングラス野郎と同じクズだ。そして、今みたいに化物になってもこの姿に満足して人間に戻ろうとは考えられない。

 でも、自分を助けてくれたリチャードが死んだのはショックだった。泣きそうになった。彼はついさっきあったばかりなのに。

 

「……リチャードが死んだことは悲しいのに、この会社で働いたことや実験したことには一度も罪悪感が感じない。それとこれとは別ってわけね……」

 

 そう冷たくに笑って手にし、鉄格子が開かれたことで地上に出る。すると、そこにはクリスがいた。彼の顔を見て何も言えずにいると、クリスが口を開く。

 

「リチャードのことは聞いた……あの世から応援してくれるなんてな」

「クリス、私は……」

「お前があいつを殺したわけじゃない。それより、お前が持っているオブジェと同じ形のくぼみが中庭らしいところへ繋がるところにあったな。その先を調べてくれないか? 俺は万が一のために弾薬と医療品を集める」

 

 ラピンの頭を撫でてから洋館へ戻るクリス。少し心地よく感じたラピンは彼に言われた通りに洋館の東側から中庭に行ける扉をオブジェを使って開ける。

 研究員であったラピンは記憶を便りに林の中を歩いて中庭へ向かおうとする。その時、灯りがついている小屋に気づく。だけど、こんなところに人なんている? S.T.A.R.S.の生き残りなの? 気になって先にそちらに行く。その途中でバリーからもらったウインドクレストを使ったからくりを解いてマグナムリボルバーを手にいれた。

 小屋の前まで来たラピン。ここに来るまで鎖の音や悲しそうな声が聞こえてきた。この小屋に何かがいる……

 双剣を構え、小屋に入る。暖炉の中でまだ新しい薪が燃えているのを見て、何者かがここに住んでいたらしい。だけど今は誰もいないようだ。武器をしまい、小屋を探索し始める。奥にクランクがあるのを見つけ、手にして立ち去ろうとした時に何かの写真を見つけた。

 家族の写真だ。親と子供が写っている。その裏に何かが書かれているのに気づく。

 

 

 

19

 

お父さん 一つ くっつけた 

お母さん 二つ くっつけた

 

中身はやぱりかたく ヌルヌル

白くてかたかた

 

ホントのお母さ 見つからない

 

お父 んわからない

また お母さ 今日見つけた

 

お母さ をくつけたら

お母 ん動かなくなた

 母さんは悲鳴を上げていた

 

なぜ? 

私は一緒に居たかただけ

 

 

 

お母さん 

どこ?

 

会いたい

 

 

 

「かわいそうに……私が言えることじゃないけどね」

 

 随分前に書かれていたと思うそれを読んだラピンはそうつぶやく。その続きがまだあるのに気づき、目を通したラピンは一瞬寒気を感じた。

 つい最近書いてあったらしく、真新しい赤いインクでこう書いてあった。

 

 

 

ウサギがお父さんを殺した

せっかく見つけたのに

 

殺してやる

 

 

 

「なんなの、これ」

 

 横から迫ってくる何かに気づかず、食らってしまうラピン。壁に強くぶつかった彼女は鎖や手錠で拘束されている化物が近寄るのを見たあと気を失ってしまう。

 リサ・トレヴァー。洋館の設計をした担当した建築家であるジョージ・トレヴァーとその妻のジェシカ・トレヴァーの娘である。彼女の家族はアンブレラ社に狂わされた。ジョージは洋館の仕掛けを知り尽くしていることから口封じに拘束され、脱出するも衰弱死してクリムゾン・ヘッドとなる。ジェシカはウイルスの実験台にされて死亡する。

 そして、娘のリサも母親と同じように実験台にされ、怪物になってしまう。その後、様々な理由で処分されたが死亡せず、林の中の小屋で生活していた。

 彼女は父と母が死んだことを知らずに両親を探し続けていた。女性研究員の顔を母親のものだと思い、それを引き剥がして自分に貼り付けていた。それを母に返すために。

 それから数十年後の今、墓の下にあった棺桶で赤くなった父を見つけた。母を探すつもりだったが、それでも嬉しく思った。一緒に母を探そうとした。

 しかし、それはできなくなった。目の前で失神しているこの兎が殺したからだ。よくもお父さんを。

 リサはラピンの足を引っ張り、部屋の中心に引きずる。そして彼女の上に乗り、首元に手を伸ばす。ラピンの首を掴んだ手に力が入る。息苦しくなって、目を開いたラピンは自分の首を絞めている手を掴んで離そうとする。

 だが、人外のラピンでもリサの力にはかなわなかった。酸素が脳に届かず、意識がまだ飛びそうになる。その前に首の骨が折れてしまうかもしれない。ラピンは足を屈伸して、リサの腹を蹴り当てる。大きく深呼吸して離れたところに転がっている彼女を一瞥したあと、落ちていたメガネを拾い上げて小屋から出て離れる。

 

「……あれが例の化物? ある意味あれも私に似たものかしら」

 

 小屋を振り向くラピン。首がまだ痛むが、あいつから逃げないと。中庭へ走っていく。

 

to be continue 



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時計ウサギ

 林の中に建っている小屋でリサに遭遇したラピンは彼女から逃げ続けた。彼女の父親を殺したことで狙われているが、墓の下にあった棺桶に寝ていたクリムゾン・ヘッドがその父親だなんてそんなことを知るわけがない。

 貯水池のところまで来たラピン。後ろを振り向き、リサの姿がないことに大きく深呼吸した。すると、クリスとジルがいて彼女に話しかけた。

 

「ラピン、どうしたの? 慌てて走ってきたようだけど」

「鎖の化物にあっちゃってね。あれはどんなに殺しても死なないタイプだから」

「ウェスカーが言っていたのはそいつか。やつとあわないようにしなければ」

 

 その時、ラピンは驚いた表情でクリスを見た。聞き覚えのある名前が彼の発言にあったからだ。

 

「ウェスカー……?」

 

 思わずアルバート・ウェスカーと言ってしまいそうになり、口を閉じる。下手して金髪でグラサンが特徴の彼のことを知っているとバレたら面倒なことになりそうだ。

 研究員だった彼女はアルバート・ウェスカーのことを疑問に思っていた。軍人や警察といった戦闘のプロという言葉が似合う彼が生物兵器の研究員をしているのを場違いだと見ていたが、逃げ出したB.O.W.を処分する役目だと思って気にしなかった。

 バイオハザードが起こる前にウェスカーは姿を消し、人外となったラピンは彼が洋館に来ないと思っていた。そのウェスカーが館に来ている? クリスとジルにたずねた、初めて聞いたという形で。

 

「誰なの? そのウェスカーって」

「S.T.A.R.S.総隊長だ。彼と一緒にブラボーチームを捜しに来たが、姿が見えなくなったんだ」

「でも、通信機からウェスカーの声が聞こえたから、まだ生きていると思うわ。鎖の化物にやられていなければね」

 

 あの彼が本当に警察になってるわけ? じゃあ、ここに来たのは仕事のため? ……どうも怪しい。

 そう疑ってもクリスとジルに本当のことを言うわけにもいかないし、とにかく様子を見てみるか。この二人が貯水池から先に行かないのも気になるし。

 その理由はすぐにわかった。

 

「あー、水が抜かれてないのね」

「ええ、排水して進みたいけど、クランクが必要みたいなの」

「それなら私が持っているけど」

 

 クランクを取り出し、装置に差し込んで回し始める。しばらくして、水位が下がっていき、足場が現れた。それを渡っていき、中庭までもうすぐの時だった。

 クリスが持っている通信器から声が聞こえた。

 

『こちらブラッド、S.T.A.R.S.アルファチーム応答願います……ちくしょう、誰かいないのか』

「こちらクリス……」

 

 クリスは通信機を耳にあて、応答する。しかし、聞こえてないのか繰り返すブラッドの言葉。

 

『こちらブラッドだ。S.T.A.R.S.アルファチーム……ブラボーでも構わねえ! 誰か応答してくれ、こちら……』

「ブラッド! こちらクリス! ブラッド……!」

 

 そう怒鳴るも、ブラッドの声が聞こえなくなった。耳から離したクリスは通信機を睨みつけてこう吐いた。

 

「くそ! 壊れてやがる」

「ブラッドって?」

「アルファチームの一人だ。だが、俺たちを置いて逃げやがったはずだ」

「でも、まだ近くを飛んでいるかもしれないわ。燃料が切れてないといいけど」

 

 そんな会話をして、中庭へ行くエレベーターに乗って下るラピンたち。その間にふとあることを頭に思い浮かびクリスたちに聞いてみた。

 

「ねえあなたたち、私のことをどう思う?」

「最初はゾンビと同じ化物だと思っていたが、今は人間と変わらない。リチャードとレベッカを見つけてくれた恩人だ」

「でも、そのリチャードは私を庇って……」

「あなたを救おうとしたのよ、彼は。だからあなたは生きているのよ」

 

 私に人間の心が残っているとこの二人は思っているようだが、人外になる前から人の心を持っていたとは思えないことをしてきた。さっきもウイルスの感染者だという理由でクリスに冷たい目を向けられていたが、人外になっていなくても研究のことを知ったら同じように冷たい目を向けるだろう。

 エレベーターが停止し、中庭に到着した。この近くに建っている寄宿舎に泊まったことはないけど、おそらくゾンビがいるだろう。ラピンは手に入れたマグナムをクリスに渡す。

 

「これは?」

「仕掛けを解いた景品みたいなもの。私には必要ないよ」

「お前が持っていた方がいいじゃないか?」

「大丈夫、私には」

 

 腰に吊り下げている二つの鞘から双剣を抜き、逆手で構えてクリスとジルに見せつける。

 

「これだけあれば平気だから」

 

 収めてメガネをかけ直すラピン。三人で寄宿舎の入り口まで行き、扉を開ける。玄関にゾンビがいることはここも生存者はいないようだ。クリスが銃を構えてゾンビの頭を撃って倒したあとに、ジルとラピンに言った。

 

「ここは分かれて調べた方がいい。油断はするな」

「ええ、わかったわ」

 

 ジルがそう言い、単独で行動を始め、クリスも別の方向を調べ始める。ラピンはリサから逃げた時の疲れを癒すために近くの個室に入る。

 椅子に座り、メガネを外して机に置いて頭上の長い耳をいじりながら、今の姿であるうさぎの性質を思い出す。うさぎは自分の○○○を食べるらしいけど、絶対に食べない。クリスたちが来る前は空腹に耐え切れずに食べちゃったけど、これからは絶対に食べない。あとは普通のうさぎは肉食動物に狙われやすいから子孫を多く増やそうと……

 気がつけば右手は自分の左胸をつかみ、反対側の手はズボンの中に入ろうとしている。確かにうさぎはよく発情するし、私もこの姿になってしばらくはヤっていたけどさ、R-18でもないのにクリスとジルが来たらマジで終わる。しかし、息が荒くなっていて体が熱い。一回やらないと済まない。手の動きを止めないで、そのまま……

 床の一部が割れてそこから何かが飛び出したおかけで中断になった。細長い触手がラピンの首に巻きつく。短剣を取り出して切り離すが、ほかの触手が現れてラピンに何らかの液体を吹き付けた。それも切り裂いたラピンは液が付着した服の異変に気づく。

 蒸発する音を立てながら溶けていく。ベストを脱いで自分の体につかないようにするが、シャツやズボンにも溶けかけていて、仕方なく脱ぐ。ネクタイも必要なくなったので外す。

 どうにか体に酸がつかなくなったラピンは窓ガラスに映っている自分の姿を見る。シャツとズボンで隠されていた白い毛皮の全身、胸と腰には黒い下着、その上には二つの剣を吊り下げるためのベルトをつけている。新しい服を探さないとね、クリスたちに見つからないように。

 メガネをかけて部屋から出る前に自分の姿が写っている窓ガラスになんとなく体を沿って胸を突き出したり、背中を向けてふさふさした丸い尻尾が出ている黒いパンティに手を添えて突きつけたりした。気が済んだ彼女は部屋を出て探索を始めた。

 

「下着を脱いでもあれが見えないけど、あの人たちに見られたら終わりだし、今の格好もやばいし」

 

 さっきの個室にはタンスはなく、別の部屋に行って探そうとする。耳を立てて誰かが近づいてこないかを確認しながら廊下を歩く。

 一つの扉を見つけてドアノブに手をかける。しかし、鍵がかかっていたので廊下を歩き始める。その先に開く扉があり、部屋に入った。そこに誰もいない上、タンスがあったので開けると服がたたんであった。それを着て、そばに置かれている鏡を見る。

 映っているのは首元に赤いネクタイがついている白いシャツの上に赤いベストを着ていて、こげ茶の長ズボンを履いている。色が違う点ではさっきまで着ていたのと同じだが、タンスの中にあった黒いシルクハットが気に入り、頭に被っている。穴が空いていたため、そこから両耳が出ている。

 鏡の中の自分の姿を笑顔で見たあと、懐中時計で今の時刻を調べるラピン

 

「……さて、本格的に探索を始めるとしますか」

 

to be continue



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真似をするコウモリたち

 アークレイ山で頻発に起きる猟奇殺人。その調査に向かったS.T.A.R.S.のブラボーチームが行方不明になり、彼らを捜索するアルファチームが見つけたのは、異形の怪物と腐った死体が彷徨う謎の洋館。後に洋館事件と呼ばれるこの出来事。クリスとジルを中心としたS.T.A.R.S.の生き残りによる調査で、生物災害が発生したアンブレラの生物兵器研究所だと判明したが、バイオハザードの原因は不明だった。ブラボーチームのレベッカから説明するまでは……

 洋館にたどり着き、ラピンという自我を持ち続ける人外と出会う前にレベッカはアンブレラの幹部養成所で似たような人外と行動していた。

 

 

 

 

 

 

 どこか遠いところから爆発音が聞こえた。

 アンブレラを復讐しようとしたマーカスさんは養成所の爆発で死んだのだろうか。同じ化物だからなのか少し同情してしまうけど、無関係の人間を巻き込むなんてひどすぎる。これで彼の気が済むことを願おう。

 私たちもみんなのためにこの世から……

 

「どこに行くの? カーミラ」

 

 洋館が見える丘にいるレベッカが立ち去ろうとする少女に声をかけた。彼女と脱出した男性―ビリーも少女を見つめる。振り向いた少女は人間とは思えない。

 黒いドレスを着ていて、ロングの黒髪に真っ白な肌特徴だ。その点を見ても人間だと言えるが、赤い瞳と長く尖った耳、そして口から出ている針に例えられる程の鋭利の犬歯が人ではないと教える。

 彼女はバイオハザードに巻き込まれたアンブレラの研究員……ではなく、本人が飼育していたコウモリたちが飼い主を捕食し、飼い主の記憶と人格をコピーした化物だ。マーカスが使っていたヒルのようにコウモリが集まって飼い主の姿になっている。

 

「私たちはあなた方二人とは違うのです……ウイルスに感染した私たちはご主人様を食い殺し、姿を真似したただのコウモリです。もうここにはいられません」

「だから自殺するつもりか?」

 

 座っていたビリーが立ち、カーミラに近づく。彼女はウイルスを移さないように彼から離れる。それを見てビリーは立ち止まり、困った表情でレベッカを見る。人外ではあるが、このコウモリたちはビリーとレベッカの命の恩人だ。

 少し考え、レベッカはカーミラに言った。

 

「カーミラ、友人としてあなたに頼みたいことがあるの」

「なんでしょう?」

「生き続けて。何があっても生きることから逃げないで」

 

 その約束を守るのは難しいと思った。

 私たちが食べてしまったご主人様の記憶も取り込まれている。ウサギを飼っていたおかしな研究員程ではないが、多くの人を使って実験したこともあった。アンブレラ社に入社して頼まれた研究を好奇心で引き受け、バイオハザードが起こった時には罪悪感を感じたけど遅すぎた。

 ご主人様を食べてしまい、私たちも人間といられない存在になってしまった。そんな私たちに「生き続けて」?

 カーミラは少ししてからこう言った。

 

「できる限りはそうします」

 

 レベッカはビリーが死んだことにすると言い、ビリーも二人に親指を上に立てたあとに立ち去る。洋館へ向かうレベッカの姿が見えなくなったあと、カーミラは無数のコウモリに分離し、洋館のそばにある寄宿舎へ飛んでいった。

 そこなら人間が来ない。レベッカが死んでしまうのはいやだけど、彼女とビリーのほかに接してくれる人間はもういない。ゾンビのまずい血を吸ってひっそりと生きよう。彼女はこんな生き方をしろと言ったわけではないが、これしかない……

 

 

 

 

 

 

「……それで、こんなところにいたのね。人のをこっそり見るなんてね」

「こんなところでやる人はいますか!? 普通に!!」

「もう人じゃないけどね、心も体も」

「……こんな変態に会うんじゃなかった」

 

 寄宿舎のバーで話し合うウサギ人間のラピンと人間に擬態しているコウモリたちのカーミラ。レベッカと別れたカーミラが寄宿舎の屋根裏で静かに生きようとした時、バーを調べていたラピンはまた発情してしまい、またアレをやろうとしたのをカーミラに見られてしまった。

 その後、少しはやりあったが、お互いが自我を持っていることに気づき、会話をしている。

 

「レベッカさんとS.T.A.R.S.の皆様がまだ洋館にいるなんて……」

「私は彼らの脱出の手伝いと研究をしていたっていう証拠を隠しているところなんだけど、あなたたちはどうするの?」

「私たちは……」

 

 もしその人たちに会って、私たちからウイルスが移ったらどうしよう……もうこれ以上誰かを怪物にさせたくない。

 そう悩んでいるカーミラを見ているラピン。自分がおとぎ話に出てくるあのウサギだとしたら、この子たち(?)は吸血鬼かな。日光に照らされても死なないけど。ふと、カウンターに新鮮なフルーツを乗せている皿が置かれているのに気づいた。それを食べようと手を伸ばした時、カーミラが止めた。

 

「ちょっと待ってください。ここでバイオハザードが起こってから数ヶ月は過ぎていますよ。誰がそんな果物を用意したのですか?」

「まあまあ、腹が減っては調べもできないって日本の言葉があるじゃない」

 

 そのまま果物を触れた瞬間、先ほどラピンの服を溶かした二本の触手が床から飛び出て二人の体に巻き付く。カーミラがラピンに怒鳴った。

 

「だから怪しいものに手を触れないでくださいよ!」

 

 ラピンも言い返そうとしたが、触手によって床に引きずり込まれる。カーミラは分離して脱出しようとするが間に合わず、そのまま床に引きずり込まれた。その際に頭を強くぶつけてしまい、気を失ってしまう。

 

to be continue

 




 今回から新しいオリキャラ「カーミラ」が登場です。理由はラピン一人だと会話が全くないからです(初期のバイオハザードは単独行動ですから)。
 カーミラはラピンと同じ人間ではないですが、元人間というわけではありません。擬態できるコウモリたちです。
 



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時計ウサギと吸血鬼

 気がつけば真っ暗なところで寝ていた。ラピンは体を起こし、周りを見渡しながら耳をあらゆる方向に向ける。何も見えず、何も聞こえない。一緒に引きずり込まれたカーミラの気配が感じない。寄宿舎の中にこんなところがあったっけ?

 そう思いながら立ち上がる彼女の耳に銃声が入った。聞こえてきた方向に体を向け、走っていく。しばらくすると、クリスとジルの姿が見えた。ラピンは手を振って、呼びかけた。

 

「何か見つかったかしら」

 

 二人のそばに来た時だった。クリスがラピンに銃を向け、発砲した。胴体に飛んでくる弾丸を横に避け、彼を睨みつけるラピンは自分を狙っているジルに気づく。ラピンは身構えながらクリスとジルに言った。

 

「どういうわけ? まさか手のひらを返すの?」

「……そういうことになるな」

 

 そう返す彼とその隣に立つジルの格好が変わっていることにラピンは気づいた。S.T.A.R.S.の制服ではなく、特殊部隊の物を装備している。それにどういうわけか老けているように見える。自分は夢に似たようなものを見ているのではないかとラピンは疑う。

 夢か現実なのかはわからないけど、この二人が自分を撃ち殺そうとしていることは確かだ。ラピンは大きくため息をして口にした。

 

「結局こうなるのね。自我が残っていても、感染者とは一緒にいられないってこと?」

「私も残念に思っているわ。でも、ウイルスを拡大させるわけにはいかないのよ」

「だから処分するのね? まあ、私も黙ってやられないけどね!」

「楽にはできなさそうだ……恨むなよ」

 

 そうつぶやいたあとに構えなおすクリスとジル。ラピンは双剣を構え、二人に飛びかかる。

 人間と感染者が共存できないのはラピンも知っている。ウイルスが広がって普通の人間がいなくなるか、人間がウイルスを滅ぼすか、どちらが生き残るかの問題だ。

 

 

 

 

 

 

「いつまで寝ているんですか!? ラピンさん!!」

 

 突然の叫び声に飛び上がったラピン。暗いところでクリスとジルを相手にしていたはずが、何らかの植物に張り巡らされた大広間で寝ていたようだ。天井には大きい花がぶら下がっている。それを見上げていると、何かが迫ってきた。長剣を握りしめて、斬りつけるラピン。

 それはバーでラピンとカーミラに巻き付いた触手だ。ラピンに斬られた先端が床を転がる。近くにカーミラが立っていて、襲ってくる触手を爪で切り裂いている。夢から覚めたラピンがようやく立ち上がったことに気づいた彼女は文句を言った。

 

「全く危ないところで気を抜きますね、バーの時もアレをしようとしていましたし。臆病なウサギとは思えませんよ」

「ウサギは性欲あるし、私は普通じゃないもん」

「そんなこと言っている場合ではありません! あの植物をどうにかしなければここから出られません」

 

 そう言って天井を見上げるカーミラ。この場所が観測ポイント42と指定されたことで『プラント42』と名付けられた怪植物。大広間に自分たちを連れてきたやつだ。

 そいつの触手がカーミラに襲いかかる。彼女は無数のコウモリに分離し、攻撃を避ける。離れたところでコウモリが集まり、カーミラに戻った。そして、鋭い爪で触手を輪切りにする。

 ラピンも長剣と短剣を構え、天井にぶら下がっている本体のそばまで跳ぶ。目の前まで近づいた時に斬りつけるが、花弁に食い込んだだけであまりダメージを与えられなかった。長剣を抜けずに落下するラピンは着地し、刺さったままのそれを見上げる。

 

「あの花弁は硬すぎるか、剣がダメなのか」

 

 そう言いながら伸びてくる触手を体をそらして回避し、短剣で斬る。カーミラが答える。

 

「両方だと思います。まあ、私たちがトドメをさします」

 

 その言葉にラピンが振り向くと、カーミラの体を構成しているコウモリの一部が彼女の周りを飛んでいる。次の瞬間にそのコウモリたちが一つになり、鋭利な槍に変化した。その光景を見てラピンが驚いていると、カーミラが槍を掴んでプラント42に投げる。

 花弁を貫通して、本体を貫く。槍が数匹のコウモリに戻り、カーミラの周りに集まる。穴を空けられた本体は花弁を落としながら縮小していき、完全に止まった。落ちていた花弁の中に長剣が刺さったものがあり、ラピンはそれを引き抜く。長剣を取り返したラピンはカーミラの方を見て言った。

 

「あなたはB.O.W.の最高傑作かもね」

「……私たちはそのように作り出されましたが、嬉しくないです。こんな人間離れの力を持つなんて」

「そもそも元から人間じゃないけどね、私と違って」

 

 カーミラは何も言わない。そんな彼女をほっといてラピンは蔓で閉ざされていた扉を開けて出ようとした時に彼女のことを考えた。

 クリスとジルたちがカーミラと遭遇したらどうなるだろう。ゾンビや私と違って、人間に近い彼女をすぐに撃たないで普通に接するかな。でも、ここでバイオハザードが起こったことをS.T.A.R.S.はもう知っているし、感染するのを恐れるはず。下手すればさっきの夢に出たクリスとジルと同じ行動に出るかも。

 目を閉じてため息をして、片耳を動かして誘う。黙っていたカーミラがそれに気づくと、ラピンはこう言う。

 

「一緒に来なさい。S.T.A.R.S.のみんなには私から説明するから」

「レベッカさんの仲間たちにですか? お願いします」

 

 大広間から出る二人。クリスとジルを探そうとした時にどこかから銃声が聞こえた。きっと、その二人だろう。聞こえた方へ歩くラピンとカーミラ。

 そこで怪物を倒していたのはクリスでもジルでもバリーとレベッカでもない。金髪にサングラスをかけた男だった。その姿を見たラピンとカーミラは驚き、カーミラは思わずその男の名を口にしてしまった。

 

「ウェスカーさん……!!」

 

 ラピンが彼女の口を塞ぐが、遅い。アンブレラ社の研究員がS.T.A.R.S.の隊長になっているのも驚きだが、洋館についてすぐに姿が見えなくなっていた彼がこんなところにいたなんて。

 さて、カーミラがウェスカーの名を言ってしまったからアンブレラ社の元研究員(一人は研究員の記憶と人格をコピーした生物兵器そのものだが)だと気づいて口封じに殺すか、ただのクリーチャーとして殺すか、そのどちらかの行動をすると思っていたラピン。しかし、彼は銃を下ろして言った。

 

「君たちはクリスとジルが言っていた味方か。彼らから撃たないでくれと言われた」

「クリスたちにあったの?」

「ああ、あの二人は私と一緒にここを調べている。君たちは洋館を探索してくれないか? バリーとレベッカの様子も見てきて欲しい」

「……やけに私たちを信用しているようね。初めて会った時のクリスとジル、バリーと違って」

 

 少し疑うラピン。ウェスカーは彼女たちに背を向けて、こう言い残した。

 

「君たちはS.T.A.R.S.と同じように重要だからだ。私を失望させないようにしてくれ」

 

 その場を立ち去るウェスカー。彼が行った方向を見ながらラピンとカーミラは会話をする。

 

「あいつも私と同じように自分のことを隠しているのね」

「では、ここに来たのはアンブレラ社の研究員だった証拠を消しに……」

「化物だらけの洋館にそんな目的で来るかしら?」

 

 少し話し合ったが、ウェスカーがここに来た目的がわからない。とにかく洋館に戻ってレベッカとバリーに聞いてみようか。

 寄宿舎の玄関を出て、中庭を通って洋館へ戻る二人。そんな彼女たちを寄宿舎の窓から観察するものがいた。アルバート・ウェスカーだ。

 

「あの二つはおそらく偶然できたモノだが、人間並の知能があって性能も最高だ。しかし、自我があることは兵器として使えん」

 

 to be continue

 



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小さかった時の夢

 

 カーミラを連れて洋館に戻ったラピン。この館に残っているバリーとレベッカに合流しようと探し始めた時だった。後ろから何かが追ってくる。人間やゾンビの足音ではない。

 確認しようとラピンが振り向く。彼女の後ろに立っていたカーミラも後方を見るが、彼女の首が飛んだ。

 

「えっ?」

 

 今の光景に頭が追いつかないラピンを床に押し倒す“緑の怪物”。鋭い爪でカーミラの首を切り離したのもこいつだ。その怪物がラピンの首元を押さえつけ、もう片方の腕を振り上げている。短剣をどうにか取り出して怪物の胸に突き刺し、怯んだそいつの腹を蹴り飛ばすラピン。

 立ち上がった彼女はあまり使っていない拳銃を構えて怪物の頭部を撃ち抜く。一発目は死なないが、もう二発撃って殺した。鋭い爪を持ち、緑の鱗に覆われているその怪物をラピンは知っている。アンブレラ社が開発しているB.O.W.の一つ、“ハンター”だ。

 

「こいつも逃げ出したのね……S.T.A.R.S.が生き残れるか不安になってきた」

「これと戦える私たちが守らなければいけません。罪滅ぼしにはなりませんが」

「私はそんなのどうでもいいけど―」

 

 そこで気づいた。ハンターにやられたはずのカーミラと会話しているのを。

 彼女を見ると、傷一つないカーミラが立っている。彼女の足元に数匹の蝙蝠の死骸が落ちていること、少し背が縮んでいるのが気になる。混乱しているラピンにカーミラは説明した。

 

「首などを狙われたとしても私たちの一部がやられるだけです。だからといって無敵というわけではないですが」

「……マジですごい生物兵器だよ」

「私たちはそんなものではありません」

 

 そう返すカーミラにラピンは頷き、バリーとレベッカの捜索を再開する。ただし、ゾンビがいなくなってその代わりとなるハンターがうろつく洋館の中で。彼女たちは苦戦した。ゾンビは剣だけで倒せる雑魚だが、兵器として作られたハンターは強敵で何度も斬りつけられている。こいつには銃を使わないといけない。

 倒し続けていたラピンは壁に寄りかかり、座り込んだ。シャツの一部が破れて赤く染まっている。一緒に行動しているカーミラが彼女を心配そうに見守る。

 

「大丈夫ですか? 少し休みましょうか?」

 

 その言葉にラピンは首を横に振った。なんとか立ち上がり、二人を探し続ける。……なにやってんだろう私は。S.T.A.R.S.の生き残りが減っていっても構わなかったのに……リチャードが死んでからほかの皆をどうにか助けようとしている。

 突然、真上から悲鳴が聞こえた。レベッカ!

 カーミラを置いてすぐに走るラピン。階段を駆け上がり、二階の部屋の扉を開ける。そこにはレベッカにゆっくりと近づくハンター。ラピンはその間に割り込み、ハンターに蹴りを食らわす。だが、あっさりと避けられてしまった。

 まっすぐ伸びている彼女の足を掴んだハンターはラピンを引っ張る。そして腹に爪を突き刺した。

 

「がはっ!!」

 

 口から血を吹き出すラピン。なんとかハンターを離そうとするが、壁に押し付けられてトドメを刺されそうになる。武器を掴む力は持っていない。……私、死んじゃうな。

 ハンターが自分に爪を振るう直前に銃声が聞こえたけど、それから何も見えずに何も聞こえなくなった。

 ラピンに重傷を負わせたハンターの後頭部に穴が空き、その場に倒れる。部屋の入り口にマグナム銃を構えたバリーが立っていた。彼はハンターに近寄って死んでいることを確認したあと、ラピンの体を抱き上げる。気を失っていてまだ生きているが、腹部から血が出ている。手当しないと危ない。バリーはレベッカに言った。

 

「レベッカ! こいつの手当をしてくれ! 仲間を救ってくれた奴を死なせられん!」

「……分かりました!」

 

 レベッカはそう返し、毛皮に覆われている獣人の治療は初めてだが、なんとか怪我を治す。

 彼女がラピンの怪我を治し終え、安堵の息を漏らす。横たわっているラピンの腹は包帯に巻かれている。治療する間に怪物が来るのを見張っていたバリーはレベッカを褒める。

 

「よくやった。しばらくすればウサギも元気になるだろう」

「ラピンは私をかばって……」

「誰のせいでもない。ゾンビには慣れたが、あの緑の化物まで出てくるとはな。あれもバイオハザードで生み出されたやつか?」

「……バリー、洋館に来る前に私はある施設を調べていました。そこもここと同じように怪物が彷徨っていました」

 

 バリーがレベッカの話を聞こうとした時だった。部屋の扉が開き、そこには黒いドレスを着た少女が立っていた。S.T.A.R.S.にはこんな子はいないし、ゾンビが着ているボロい服装をしていない。おそらくラピンのような感染者だろう。

 そう考えたバリーは銃を向けるが、レベッカに止められる。

 

「バリー! この子は知っています! 私を助けてくれました!」

「レベッカさん、無事だったんですね……ラピンさん!? その怪我は!?」

「……今回は獣ではないか」

 

 

 

 

 

 

 私、おじいちゃんが長生きできるようにしたいの!

 

 それは小さい頃に大好きなおじいさんに言っていた言葉だ。

 おじいさんは小さかった私が寝る前におとぎ話をしてくれた。彼が話す言葉を聞いて、私は頭の中でその物語の世界と住人を想像してワクワクした。特に『不思議の国のアリス』が好きで、懐中時計を欲しかったり、ウサギを飼い始めたの。

 ある程度成長してからおとぎ話は聞かないが、私はおじいさんが好きだ。ヒゲが長く、シワだらけで怖いけど、とても優しいおじいさんだ。一緒にご飯を食べたり、散歩をしてたりした。

 私が高校生の時、おじいさんは弱っていた。昔は元気いっぱいで動いていたのに、その時はベッドで寝て一日を過ごすことがあった。死なない人なんていないってのはとっくにわかっているけど、私は死んで欲しくなかった。彼をどうにか長生きさせようとして、好きじゃなかった勉強をたくさんしてなんとかアンブレラ社に入った。

 

 ……その時から間違っていたかもしれない

 

 アンブレラ社の研究員になった私はT-ウイルスを使って、ある薬を作った。寿命が延びるという薬だ。身体能力が高まるっていう副作用があるけど、デメリットには見えないね。それを上部に発表した。そしてこの言葉が来た。

 

「君の腕は確かだが、この薬は売れん」

 

 薬を売ろうとは考えていない。おじいさんに使ってもらうだけだ。

 だけど、そんなのはいやだと後に思った。

 アンブレラ社は製薬会社だ。そして、生物兵器を作って売っている。私もそうするように命令された。

 最初は嫌だった、醜い化物を作るなんて。だけど、いつの間にか自分からB.O.W.を作って実験をした。私の手で生み出された怪物がどのように行動するのか、どのように殺すのか、どのような弱点を持つのか……そんな好奇心が私を動かしたのだ。

 悪魔のような私が作った薬をおじいさんに飲ませるわけなんていかない……今更すぎる

 

 結局私は何をしたかったの……?

 

 バチが当たったのか、バイオハザードに巻き込まれて化物になるし……

 

 それに自分が作ったB.O.W.に殺されたし……

 

 

 

 

 

 

 両目を開けたラピンはベッドに横たわっているのに気づいた。あれ? あんなに痛かったのに死んでないの?

 上半身を起こそうとしたが、腹に痛みが走る。うめき声を上げて、起き上がるのを諦める。すると、視界に誰かの顔が映り、ラピンを見下ろしている。クリスとジルだ。名前を呼ぼうとした時だった。

 

「ラピン、お前はアンブレラ社の研究員だったか?」

 

 クリスの言葉に目を見開く。何も言えずにいると、彼は続ける。

 

「仲間のエンリコがここはアンブレラ社の研究所だと言っていた。その直後に殺されてしまったがな」

「ねえラピン、本当にそうなの?」

 

 そう聞くジルにラピンはどう答えるのか悩んだ。もう隠せそうにないが、自分がアンブレラ社の生物兵器を作っている研究員ですって言ったら面倒なことになりそうだ。

 ……もう本当のことを言おう、疲れてきたし。



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呉越同舟

 

 腹の痛みがなくなったラピンはベッドで上半身を起こし、部屋を見渡す。S.T.A.R.S.のクリス、ジル、バリー、レベッカ、そしてすぐ横に自分と同じ化物のカーミラが立っている。ウェスカーの姿が見えないけど、勤めていたアンブレラがやってきたことを知ったS.T.A.R.S.のところには来ないか。

 そう考えるラピン。そんなことは置いといてクリスとジルの質問に答えた。

 

「ええ……アンブレラの研究員だったの。今はクビにされているかもしれないけど」

「その製薬会社は何をやっているんだ? 化物に変えてしまうT-ウイルスを研究してまで」

「その化物が目当てなの」

 

 クリスに返したその言葉を聞いたジルはラピンにたずねた。

 

「化物が目当て……どういう意味なの?」

「洋館を彷徨う怪物を見てきたでしょ。腐った素早い犬とデカイ鮫とさっきのトカゲ人間、それらとカーミラは兵器として使えそうよね? 私は偶然なっちゃったけど」

「兵器……まさか!?」

 

 大声を上げるジルと同じように驚くクリスとバリーにカーミラが頷き、口を開こうとした時だった。

 

「アンブレラは生物兵器を産み出し、それらを売っています。」

 

 これから言おうとする内容をレベッカが言ったことに驚いたが、責める気はないと目で伝える彼女にカーミラは感謝した。養成所でレベッカさんとビリーさんに出会った時は殺すか、殺されるかと考えていた。飼い主である研究員を食らって奪ったとはいえ自我と理性があっても、無数の蝙蝠で出来ている私たちは人間のように接してくれないと思っていた。

 案の定戦った。彼らが放ってきた弾丸を分離して避けたり、私たちの一部を二人に襲わせたりした。だけど、しばらくしてレベッカさんが攻撃を止めて私たちに話しかけてくれた。私たちの話を聞いてくれた。彼女曰く、犯罪者よりはマシだと。その犯罪者さんも私たちの話を聞いてくれる優しい人だった。そんな二人と行動していた時に私たちはアンブレラ社の裏の顔を話しました。

 ……こうやって私たちが思っていても、クリスさんとジルさんとバリーさんは驚きと怒りの二つを表していますけど。

 彼女が思っている通り、クリスはラピンに怒鳴っている。

 

「生物兵器だと……? なぜそんなものを!!」 

「性能のいいB.O.W.が高く売れるからね。薬の方でも結構儲かるけど、アンブレラの偉い人が欲張りだから」

「そんな化物をお前たちが作ったんだ!! 多くの人間を犠牲にして!!」

「……それには言い返せないね。最初は人のためいい薬を作ろうと入社したはずだったのに、作ってきたB.O.W.の性能が気になって他人を実験台にしてきたマッドサイエンティストにしか見えないからね、私は。今はうさぎ人間だけど」

 

 ラピンがそう言い終えた瞬間、バリーが銃を取り出して彼女に向ける。その行動にクリスとレベッカとカーミラが驚き、ジルが止めようとする。

 

「バリー! 何をしているの!?」

「ジル、もうこいつらと一緒にいる必要はなくなった。こいつらが研究をしていなければ俺たちは地獄を見ずに済んだはずだ」

「確かにアンブレラは許されないことをしてきたわ。でも、この洋館を知る彼女を殺したら私たちが生きて帰れなくなるわよ!」

「仲間が死んだのはこいつらのせいだ! 俺の家族―」

 

 そう叫んで引き金を引こうとするバリー。そんな彼に撃ち殺されそうなラピンはすぐ動くことができないうえ、武器を取り上げられている。まさに絶体絶命だ。

 しかし、部屋にいる誰かがバリーの腕を掴んで彼女を救った。クリスだ。クリスがバリーに首を横に振り、こう言った。

 

「確かにアンブレラとこいつらのせいで俺たちは地獄を見た、仲間も死んだ……だから俺たちは生きて帰るべきだ。そのためにはこの二人の協力が必要なんだ。どうか納得してほしい」

「クリス、お前は何を―」

「こいつらに怒りをぶつけたいならここから抜け出してからだ。今は生きることを考えるんだ」

 

 そして、ラピンとカーミラを見て鋭く言う。

 

「お前たちも協力するんだ。後で罪を償ってもらうがな」

「……もちろん、こんなところに置き去りなんて嫌だからね」

「私たちも協力します。それで許されるとは思いませんが」

 

 そう答える二人。彼女をしばらく睨んだバリーはようやく銃を下ろした。納得している様子ではないが、二人を殺すつもりはなさそうだ。それを見たラピンはベッドから降り、全員に言った。

 

「みんなはここでバイオハザードが起こったって知ってるけど、研究室らしいところは見つけた?」

「いや、そんなものはこの洋館にはなかったが……知っているのか?」

「もちろん、ここの研究員だったからね」

 

 クリスにそう返し、部屋から出るラピン。S.T.A.R.S.とカーミラは戦闘に備えて彼女について行く。彼らたちが倒したハンターとゾンビが廊下に転がっているのを見て、自分とカーミラもこうなっていたはずと考えるラピン。

 どうして私を生かしているのだろう? 人間らしいところがあったから? 自我と理性が残っていたから? ウイルスがまた体にあるのに、いつか自分を抑えられなくなるのに……理解できない。

 そうしているうちに玄関ホールに来た一行。そこの二階へ上がる階段の裏に移動し、そこにある扉の前で立ち止まる。ジルがラピンにたずねた。

 

「この先に研究室が……?」  

「室じゃなくて所だけど、ここからまっすぐよ。洋館の屋上に繋がるエレベーターもそこにある」

「屋上にブラッドが来てくれるなら助かるかもしれないわ」

「一つ聞くけど、ウェスカーはどうしているの?」

 

 ラピンの言葉を聞いたクリスは答える。

 

「寄宿舎で会ってから姿が見えなくなった。このまま、行っていいのかは……」

「あの男のことだ。死んでいるとは考えられねえ」

 

 

 

 



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夢でおわらせない

 

 研究所の最深部に繫がるエレベーターの前に一匹の兎が待っている。元アンブレラの研究員であり、T‐ウイルスに感染し兎の能力を持ちながらも自画と理性が残ったB.O.W.のラピンだ。洋館のホールの階段裏に隠された通路の先にある研究所にたどり着いたラピンとカーミラ、そしてS.T.A.R.S.の生き残りたちはそこを捜索しているところだ。

 ラピンとカーミラのB.O.W.は単独で、S.T.A.R.S.はクリスとバリー、ジルとレベッカに分かれた。彼らが襲いかかる怪物を倒しながら調査を進めている時、ラピンは“あのB.O.W.”が眠る培養室に繫がるエレベーターが来るまである子供を思い出していた。

 

「リサ……」

 

 ラピンはそうつぶやいた。

 

 

 

 このアークレイ研究所、洋館の設計者であるジョージ・ドレヴァーをアンブレラは口封じに幽閉し、その妻と娘は被験者にした。その娘がラピンの心に残るリサ・ドレヴァーだ。

 ……あの子はもうあの世に行っている。いや、行ってると思いたい。両親を失っただけでなく、死ぬこともできない怪物にされたからせめて楽にして欲しい。バイオハザードに巻き込まれる前の人間だった頃のラピンはリサのことをそう思っていなかった。むしろ、「生き続けるだけの屑」と呼んでいた。

 だけど研究所に向かう前にリサと遭遇し、戦闘することになった時は心が痛くなった。化物となったリサは「母の顔をつけた偽物から顔を取り返す」という目的で女性研究員を襲っていた。しかし、ラピンとカーミラに攻撃をしている時はそんな目的ではないと二人は気づいた。

 向かってくる腕と背中から生えた触手を避け、どれだけ斬りつけても、撃っても、貫いても死なない彼女からある思いを感じ取った。

 

 わた…しを……ころ……して…

 

 同じB.O.W.だから思いが伝わるといったファンタジーは絶対にありえないが、確かに伝わった。それに悲しそうに頷いたカーミラは彼女を奈落に突き落とした。リサの体が暗闇の底に消える直前にまた思いが伝わった。

 

 あり……がと……

 

 どうして私にも感謝するの? 感謝の気持ちを伝えたいならカーミラだけに伝えてよ。できるんだったら、クリスとジルとバリーとレベッカにも伝えなさいよ。自分の好奇心のために多くの人間を実験台に使って生物兵器を生み出してきた人でなしに伝えなくても……兎になってから人間の心を取り戻すような皮肉なやつなんかに……

 あのあと、カーミラとジルとレベッカに慰められたけど、そんなことをしてもらう理由がない。せめてS.T.A.R.S.を脱出させないと。

 

 

 

 自分でも変わったなと思いながらエレベーターが来るのを待っていると、後ろから誰かがやってきた。振り向くと、バリーとレベッカの二人だ。ラピンは彼らに訪ねた。

 

「二人ども、それぞれの相棒はどうしたの?」

「ジルはこの研究所で行われた実験のレポートを集めると近くの部屋で別れたわ」

「俺は……クリスの足手まといになってるみたいだからな。お前さんといることにした」

 

 ……バリーの様子がおかしい。

 ラピンがそう思っているとエレベーターがこの階に来た。エレベーターに乗って下りた先には“暴君”がいる。二人を連れて行くわけには……

 そう心配するラピンのビクビク動く長い両耳を見たバリーが言った。

 

「おいおい、俺たちのことを信用してくれ。あの時は思わずお前らを撃とうとしたが、今は協力するべきだ。信じて欲しいぜ」

「バリーの言うとおりよ。ここに来るまでゾンビやほかの怪物に襲われたけど、なんとか倒してきたわ。この先にもいたとしても、私たちなら大丈夫よ」

「……そう、そうね。なんだろう、あなたたちもそうだけどクリスとジルも生物兵器以上の強さを持ってる気がするんだけど」

「それは流石に失礼だぞ」

 

 バリーにそう返されたラピンは微笑み、彼らとエレベーターに乗り込んだ。

 ……カーミラはもちろん、クリスとジルならどんな生物兵器にも勝てそうな気がするからその心配はない。気になるのはサングラスの男だ。研究所に入る前からS.T.A.R.S.の隊長―アルバート・ウェスカーの姿を見てない。アンブレラの研究員だった頃の写真は調べている時に見つけただけで、本人を見かけてない。おそらくこの先にいるかもしれない。

 下の階に到着したエレベーターから降り、通路の奥にある培養室に入った。そこである人物に出会った。それと同時に後ろから撃鉄を起こす音がラピンの耳にはいった。

 彼女が振り向こうとした時、出会った人物がこう発言した。

 

「後ろを見るな、女が死ぬぞ」

 

 レベッカが人質ってことはやっぱりバリーは……

 悪い予感があたってしまったと思うラピンの表情を見て彼女の前で銃を構えている男―ウェスカーが興味深そうに言った。

 

「洋館に来てから気づかれないように貴様を観察していたが、やはりただのB.O.W.ではないな。人間の体をベースにウサギやコウモリといった動物の性質を持ちながらも、自我や理性、知性を失っていない。兵器として使うなら自我と理性は不要だがな」

「まったく、あんたみたいな奴に目をつけられるなんてね。私とカーミラがホントかわいそう」

「ついでにその話し方も余計だ」

 

 そう付け出してラピンの後ろにいるバリーに顎でラピンの斜め前に移動するように命令した。バリーはレベッカに拳銃を突きつけながらウェスカーが指摘した場所に立つ。

 そんな彼をラピンが睨みつけると、ウェスカーは言った。

 

「バリーを責めないでくれ、うさぎ君。私の命令を実行しないと可愛い娘と妻の命が危うくなるそうだ。彼も思わず、その事を言っていたがね」

「……あの時の」

 

 ラピンはバリーの言葉を思い出した。

 

“仲間が死んだのはこいつらのせいだ! 俺の家族―”

 

 その言葉の意味を理解した瞬間、ウェスカーに怒りが込み上がった。家族を人質にして悪事をやらせたわけ? 私が言えることじゃないけど、こいつはマジでクズだ。

 

「ふっ、アンブレラに勤めていたからそうだと思っていたけど、あなたよりB.O.W.の方がマシね」

「貴様とあの女のような自我と理性が残っているモノだけのことだな? 貴様らのようなゴミが自分で生物兵器になるとは思わなかったが」

「……わかってるのね、私とカーミラがなんなのかは」

「そっくりの研究員を知っている、うさぎを研究室に持ち込む女とどこかの貴族の娘のような女を。ここのバイオハザードに巻き込まれて死んだか、怪物になったかは想像したが、まさかこんな見たこともない怪物になるとはな」

 

 ……褒められたって嬉しくない。

 そう苦虫を噛み潰したような顔をするラピンからレベッカに顔を向けるウェスカーは彼女に言った。

 

「君からも質問を許可してやろう」

「……いつからアンブレラに?」

「その様子だとあのコウモリ共から聞いていないようだな。君は私がS.T.A.R.S.をアンブレラに売ったと思っているが、それは勘違いだ。私はアンブレラの人間であったことを隠し、S.T.A.R.S.の隊長になったというのが正しい」

「まさか、この洋館でバイオハザードが起きたのを知っていて私たちを連れて!? どうしてそんなことを!?」

 

 思わず大声を上げるレベッカにウェスカーは答える。

 

「S.T.A.R.S.のような強者共を相手にした場合のB.O.W.の実戦データを取るためだ。まさか、君たちが生き残るとは私も驚いたが、ラピンとカーミラの存在を知った今ではS.T.A.R.S.はもう用済みだ。生き残りの一人は必ず死ぬだろうな」

 

 その言葉を聞いたラピンはバリーと行動していたクリスの姿が頭に思い浮かぶ。

 

「クリス!」

「そう、彼はバリーによってこの研究所のどこかに閉じ込められている。じきにB.O.W.の餌になるだろう」

「あんたってやつは!」

 

 ベルトにぶら下げている短剣を鞘から抜き、ウェスカーに飛びかかろうとするラピン。

 次の瞬間、床から離れている彼女の膝に弾丸が貫通し、その場に落下した。引き金を引いたウェスカーが近寄り、膝の傷を押さえているラピンの耳を掴み上げてこう吹き込んだ。

 

「馬鹿な女だ。あの男に惚れたかは知らんが、その感情は兵器に必要ない。お前とカーミラを回収して調教してやる」

「誰があんたみたいな男にッ……」

「バリー、レベッカをこいつに殺されたように見せかけて始末して地上で待機しろ」

 

 ウェスカーの命令に頷いたバリーはレベッカを無理やり連れて培養室から出た。レベッカは抵抗していたが、無駄だった。その場に残ったウェスカーはラピンにこう言った。

 

「お前には仕事がある。こいつは知っているな?」

 

 彼の近くにある一回り大きい透明なカプセル。その中に人間……いや、人間に似た怪物が入っている。ゾンビのように皮膚が腐ってないが、右胸に巨大な心臓が飛び出ており、左手の爪はかなりの長さだ。

 ウェスカーとこの場にいないカーミラと同じようにアンブレラの人間だったラピンが知っている怪物だ。「究極の生命体」として作られたタイラント。コンピュータでそのカプセル内の液体を抜くウェスカーは言葉を続ける。

 

「お前がこいつの相手になった場合のデータを取っておきたいものだ。私を失望させるな」

「偉そうなことを言わないでちょうだいッ! 私だって簡単に死ぬつもりはないんだからッ!」

 

 床に落ちたメガネとシルクハットをかけ直し、膝の痛みを耐えながら立ち上がるラピン。両手それぞれに長剣、短剣を握り締め、戦闘に備える時計うさぎの格好をしたB.O.W.にウェスカーは首を横に振った。

 次の瞬間、液体を抜かれたカプセルから爪が飛び出し、ウェスカーの腹を貫く。彼の体が持ち上げられ、横に投げ飛ばされた。ウェスカーを殺害したB.O.W.―タイラントがカプセルから出ると、ラピンに視線を向ける。

 

「かかってきなさい! このハゲ頭!」

 

 殺意を向けられたうさぎはそう啖呵を切る。戦いの始まりだ。

 左手の爪で切り裂くためにラピンに近づくタイラント。ラピンは武器を構え直してタイラントの隙を探る……そしてあることに気づいた彼女は一歩一歩下がる。タイラントが詰め寄ってくる。背中が何かに当たらないようにラピンが後進すると、タイラントがゆっくりと歩いてくる。

 獲物が距離を取るとタイラントは接近するのは当たり前。でも走らずに歩きで近づく。

 彼女は確信した。こいつは鈍すぎる!!

 

「これが最高傑作!? 遅すぎるじゃん!!」

 

 呆れたラピンは短期戦に持ち込んだ。床を蹴ってタイラントの懐まで接近し、でかい心臓に短剣を差し込んだ。そこから血が噴き出してラピンを赤く染めるが、タイラントの動きは止まらない。右手で彼女の首を掴み上げた。

 その右腕を掴んで脱出しようとするラピンに左手の爪を向けるタイラント。それを見た彼女は思いっきりタイラントの頭を蹴りつけ、どうにか解放された。

 最高傑作ってのはある意味間違っていないね……

 呼吸を整えるラピンは短剣が刺さっている奴の心臓を見て考えを改めて、長剣を両手で構える。たとえこいつに弱点がないとしても、もう一度あそこに攻撃をすれば!

 再び接近するラピン。さっきの行動を覚えたのか、タイラントが左腕を振ろうとしている。首に当たりそうなそれをしゃがんで回避し、心臓に向かって長剣を突き出す。

 剣が心臓に入り込み、その反対側の背中から先端が突き出た。

 すぐに手放し、距離を取るラピン。二本の剣に貫かれた心臓に右手を伸ばすタイラントだが、うつぶせに倒れ込んだ。それを見たうさぎは深呼吸し、つぶやいた。

 

「勝った―」

『非常事態発生 起爆装置起動……』

「え?」

 

 突然のアナウンスに黙るラピン。そしてあることを思い出した。タイラントのようなかなりヤバイB.O.W.が暴走する程だったら研究所が爆破することを。

 ……得物を回収する暇がない! 膝の痛みが収まったラピンはタイラントに刺さったままの双剣を抜かずに培養室の扉へ向かう。エレベーターに乗る直前に背後から近寄る何かに気づいた。

 バリーだ。彼は申し訳なさそうにラピンに言った。

 

「お前さんがあの化物を倒すとはな……ウェスカーもくたばったようだし……」

「見てたの? バリー」

「ああ、レベッカを先に逃がしたあとにな。本当にすまねえ……家族を殺すとあいつに脅されて」

「今はそれどころじゃないって! この研究所が爆破するから早く!」

 

 バリーの腕を掴んでエレベーターに乗り込んだラピン。上の階に到着して降りた二人に駆け寄る者がいた。黒いドレスが特徴の美女―カーミラだ。

 

「ラピンさん、バリーさん、無事ですね! この研究所から早く逃げましょう! ジルさんとレベッカさんは屋上へ繫がるエレベーターの前にいます! あとはあなたたち二人とクリスさんを―」

「バリー! クリスはどこに!?」

「監禁室だ!」

 

 バリーから聞いたラピンはすぐに走り出した。監禁室までの通路にはゾンビだけでなく、ハンターやキメラなどのB.O.W.がいたが、彼女はそれを蹴り飛ばして行き、監禁室の前に来た。

 怪物の鳴き声が中から聞こえる……遅かった……

 突然、銃声も聞こえ、ラピンは扉越しに声をかけた。

 

「クリス! まだ生きてる!?」

「その声はラピンか! なんとかやってる!」

「えっ!? マジで生きてるの!? そんな密室で化物共と戦ってんの!?」

「バリーに閉じ込められた時、武器を奪われずに済んだ! しかし、このままでは不利だ! 早く開けてくれ!」

 

 扉の横に電子ロックがあることに気づき、それを操作するラピン……この電子ロックも一種のパズルになっていて、全てのマスを光らせないと開かないというやつだ。彼女は頭を働かせてマスを押しまくり、なんとか光らせた。

 扉を開けるクリスが監禁室に何かを投げてから扉を閉める。彼の無事に喜ぶラピンだが……

 

「クリス!」

「耳を塞げ!」

「え?」

 

 次の瞬間、監禁室から爆発音が広がり、ラピンの耳にダメージを与えた。クリスが監禁室に向かってこう吐いた。

 

「どうだ! 俺を楽しませてくれたお礼だ!」

「クリス! 私のことも考えなさいよ!」

「ああ、すまん。つい熱くなってな……それよりここは危険だ。早くみんなのところへ!」

 

 彼の言葉にラピンは頷き、二人は屋上行きのエレベーターに向かう。そのエレベーターの前にはジル、レベッカ、バリー、カーミラの姿があった。ジルがクリスに気づくと駆け寄った。

 

「クリス、無事だったのね! よかった……」

「ラピンに助けられたんだ。それより屋上に行けば助かるのか?」

「ヘリを操縦しているブラッドが上空で待機しているわ。彼が私たちを気づいてくれたら……」

 

 通路から怪物の鳴き声が聞こえてきた。それが大きくなっていくことは奴らが近づいてきてることだ。戦闘に備えるラピンとカーミラにクリスは指示した。

 

「お前たちは先に行ってブラッドに伝えてくれ! ここは俺たちが引き受ける」

「いや、普通はあなたたちが伝えるべきじゃないの? いろんな意味で」

「二人共目立ちやすいからブラッドも気づいてくれるはずだ!」

 

 そう言ってクリスは拳銃を握りしめてB.O.W.の襲撃に備える。ジル、レベッカ、バリーも武器を構えているのを見て、ラピンとカーミラは頷き、エレベーターに乗って上がった。

 屋上に上がる途中、カーミラがラピンに話しかける。

 

「もうすぐここから脱出できますね。レベッカさんとS.T.A.R.S.の皆さんを帰せますし、私たちもここから抜け出せます」

「私たちが抜け出したらどうするの?」

「少しは平穏に暮らしていきたいと思います。人が来ない自然の中でゆったりと生活しようと考えています」

「あなたってほんとに変わってるね……」

 

 カーミラのこれからについてラピンがそう言いながら考えた。

 ……バイオハザードが起こってこんな姿になってから一度も外に出たことはなかった。もしもS.T.A.R.S.が来なかったら一生この洋館にこもり続けていたかもしれない。クリスとジルに感謝しないとね。まあ、彼らが来た理由はウェスカーの企みだけど。

 屋上に到着した二人はエレベーターから降り、周りを見渡す。床に不自然な穴が空いているが、ヘリが着地できる程の広さはある。あとは上空を飛んでいるブラッドにどう伝えるべきか…… 

 信号弾を見つけたラピンは空にめがけて発射する。しばらくするとエンジンの音が近づいてきた。背後からエレベーターが到着した音も聞こえ、振り向くと四人のS.T.A.R.S.が降りてきた。

 

「ブラッドが気づいてくれたのね……」

 

 レベッカが安心してそう漏らす。これで地獄から抜けられる……

 その瞬間、穴から何かが飛び出してきた。それは床に着地するとラピンたちを睨む。ウサギはその姿に驚きを隠せない。

 二種類の剣が刺さっているむき出しの心臓の持ち主―タイラント。奴は確かに死んだはずだ。そんなヤツが特にラピンを睨んでいる。

 それに気づいた彼女はクリスたちから離れた場所に跳んだ。バリーがラピンを止めようとしたが、ラピンに対するタイラントの反応に気づく。

 

「あの怪物、ラピンに恨みを持ってるのか!」

「そりゃあ、心臓にグサグサと刺したらね。とにかくあなたたちは安全なところにいて!」

 

 そう話すラピンにタイラントが走って爪を振り下ろした。ノロマだったやつの高スピードに驚くラピンはすぐ横へ避ける。彼女が立っていた床が砕かれた。

 体勢を立て直すラピンのそばに無数のコウモリたちが集まり、カーミラに変化した。彼女はラピンに話す。

 

「のんびりしてはいられません。研究所が爆破する前に早く暴君を倒して彼らをヘリに乗せないと間に合いません」

「それはそうだけど、流石の私でもあれを倒せるかは……」

「だったら私たちに任せてください」

 

 カーミラはそう言うと、自分の体から数匹のコウモリを分離し、それを槍に変化させた。それを構えてタイラントに突撃する。そんな彼女を返り討ちにしてやると言わんばかりに奴も走り出した。

 タイラントの左腕がカーミラに直撃する、瞬間に彼女は無数のコウモリに分離して攻撃をかわした。獲物を失い、ラピンを標的にするタイラントの背後にコウモリが集まっていく。

 そのコウモリがカーミラに変化し、持っていた槍を背中に突く。

 しかし、皮膚が硬くなっているため弾かれた。彼女に気づいたタイラントが右腕で殴り飛ばした。壁に激突したカーミラは意識を失ってしまう。

 

「カーミラ! ッ!!」

 

 彼女に駆け寄ろうとしたラピンをタイラントが捕まえた。右手に力を込めてウサギの首を絞めていき、左手の爪で引き裂こうとしている。培養室の時のようにこいつを蹴飛ばす力もなく、完全に殺される直前まで来た……

 その時、ラピンの長い耳に銃声が聞こえた。それと同時に首を解放された感覚を感じた。床に落ちた彼女が見上げると心臓から血を噴き出しているタイラントの姿、そして銃声が聞こえた方向に視線を移す。

 銃口から小さい白煙が出ているマグナムを下ろすジル。そのそばにはどこから持ってきたかはわからないロケットランチャーを構えるクリスの姿があった。彼はラピンに叫んだ。

 

「離れろ!!」

 

 すぐに床を蹴ってタイラントから距離を取るラピン。それを確認したクリスは引き金を引く。ロケットが発射され、タイラントにまっすぐ飛んでいく。

 着弾、そして爆発。周囲に奴の一部が飛び散る。

 その光景を瞬きせず見ていたラピンのそばの床に何かが刺さった。それぞれ長短の双剣だ。彼女はそれを引き抜き、鞘に収める。これで終わった。

 目を覚ましたカーミラも例の光景を見ていてクリスにたずねた。

 

「クリスさん、それはどこで?」

「ヘリから落ちてきたんだが……」

「なんでヘリにそんなものがあるんですか?」

「犯人はもうわかるが」

 

 そう言うクリスに睨まれたバリーは知らん顔した。

 

 

  

 数分後、洋館から遠ざかるヘリと人影を乗せた無数のコウモリたち。さらに約十秒後、洋館が大爆発し、瓦礫が周囲に飛び散るが、朝日が照らす空を飛ぶものに当たりはしなかった。

 クリス、ジル、レベッカ、バリーを回収したブラッドは隣に並んで飛んでいるウサギ付きの無数のコウモリたちを不気味がり、それから逃げるようにラグーンシティへ帰還する。クリスたちは窓越しにラピンとカーミラに笑顔で手を振ったり、感謝の言葉を送ったりしたが、臆病ブラッドのせいで二人から離れていった。

 S.T.A.R.S.のそれを見ていたラピンは嬉しそうな表情でカーミラ=無数のコウモリに話しかける。

 

「これからどうする? 自然豊かなところで暮らす?」

「まあ、あくまでそう考えているですが、あの人たちと約束しましたし」

「……『アンブレラの悪事をバラす』ってこと? 長生きできないよ」

「別にあなたの手を借りるつもりはありません。私たちはご主人様の後始末をしなければいけません」

 

 カーミラが言う「私たち」とは彼女の体を構成しているコウモリたちのことでラピンは含まれていない。

 

「別に私は長生きできないって言っただけで協力しないとは言ってないよ。あいつらに借りがあるし」

「特にクリスさんにですよねえ? 彼がヘリコプターに乗る前にキスしようとしてたんですよねえ? ジルさんに止められたんですけどねえ?」

「……あんたマジムカつくとこあるのね。そこはコピーしなくても良かったんじゃないの?」

「すいませんねえ。ご主人様のすべてをコピーしていたんで」

 

 朝日の光の中、自我を持った人外たちの揉め事はしばらく続いた。

 この先、再び自分だけでなく身内もアンブレラに関わることを彼女たちはまだ知らなかった。

 

―Fin




 どうも久しぶり影絵師です。
 この頃pixivをやっていたのでハーメルンの小説は投稿できませんでした。すみません。

 今回で初代BIOHAZARDの物語は終わりです。
 原作ではそれぞれのルートでレベッカ、バリーのどちらかだけを救えるシステムでしたが、この小説ではどちらも生還しました。クリスたちが地獄から抜け出してほっとしているエンディングでしたし、ラピンたちも明るい感じで終わらせました。
 さて、これから「バイオハザード2」を元にした物語を考えていますが、これにも二人のオリジナル味方人外を登場させます。その人外の設定を少しここに載せます。

・ラピンかカーミラのどちらかの身内
・見た目的には強そうな生き物だが臆病者、もうひとりは弱そうだが勇敢な人
・二人共女ではなく、男女である

 それでは続編もお楽しみに!
 


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Resident Evil 2
とある女性警察官の日記


 

 8月8日

 

 S.T.A.R.S.のクリスさんとジルさんとバリーさん、そしてレベッカが帰還してきてから2週間が経った。ひどい傷まみれだった彼らはもう回復したけど、多くの仲間を失ったみたいで、それも怪物に襲われたと……ついでにうさぎと吸血鬼に助けられたらしい。

 それは真実なのかはわからないけど、はっきり言ってS.T.A.R.S.に入らなくてよかった。そんな死んでもおかしくないところに行かされるのは嫌だったし。

 

 

 8月16日

 

 ラグーンシティに見たこともない怪物が住み着いたという噂を同僚と話している時、一人のおじいさんが警察署に来た。アンブレラで働いている孫から連絡が来ないらしく、そのアンブレラに訪ねたけどちゃんと説明してくれなかったため、私たち警察に相談しに来たみたい。

 話を聞こうとした時、署長がやってきて「その暇はない」とおじいさんを追い払ってしまった。そのことに頭に来て少しは言ってやりたいけど、クリスさんと違って私にそんな勇気はなかった…… 

 

 

 8月24日

 

 S.T.A.R.S.の四人組が長期休暇届を出したことにびっくりし、私はレベッカに聞いてみたけど彼女は「他人を巻き込むわけにはいかない」と言って詳しいことはわからなかった。だけど、彼女とクリスさんたちは何かを止めようと動いているのはわかる。まるで、あの事件が四人を強くさせたとしか思えない。

 彼らと違って私は怖がりで、怪物の噂を聞いてから夜中にトイレに行けなくなるほど……

 

 

 9月10日

 

 パトロールをしている途中、署長に追い払われたおじいさんと出会った。私は謝ったけど、おじいさんは気にしてなかったみたい。それでもご馳走してあげたかったので、お昼は一緒に食べた。その時、彼が探している孫はアンブレラで薬を作って成功したらしく、大金が送ってくれたのを聞いたけど、彼自身は自分の孫を会いたいようだ。

 彼と別れたあと、見せてくれた薬の一つを忘れてる。おじいさんの家を知らないので、私が持つことにした。またあった時に渡せばいい……HunterD? これほんとに薬?

 

 

 9月22日

 

 クリスさんたちを信じればよかった。いや、ラグーンシティから逃げ出せばよかった。そこらじゅうにゾンビが現れて民間人を食べ、食べられたのはゾンビになって、傷つけられた人たちもゾンビに……私も死ぬか、奴の仲間になるかも。

 もう私は生きていけない。民間人を救うために同僚たちが戦ってるのに、私だけは使われてない部屋に逃げ込み内側から鍵をかけた。卑怯者だ、屑だ、犯罪者だ。

 こうして日記を書いても無駄。ゾンビが入ってきて生きながら食べられていく。そうなるんだったら、あのじいさんの薬を飲んで自殺するか。この地獄を生み出したのがアンブレラだったら、どうせこの薬も

 

 

 なんがつ23にち?

 

 あたまがすごくいたいいたい まるであたまがかわっていくみたい ゆびさきがわれてそこからつめがでた にっきがちまみれ かわのしたからかたいのがはえてくる せなかがやぶれた おしりからなにかがはえた

 かってににげてごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんごめんごめんごめんごめん

 

 

 書く必要がない

 

 もう戻れない

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 皆さん、お久しぶりです。影絵師です。
 pixivで小説を投稿してきた為、こちらでの投稿はあまりしませんでしたが、しばらくこちらで投稿しようと思います。
 次回から「バイオハザード2」を元にした物語を始めます。原作主人公はレオンとクレアで、人外主人公は……まだ内緒です。
 それでは次回もお楽しみに!


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猫と竜

 

 9月29日

 

 日記を書きながらグリーンハーブ入りのタバコを吸うのもこれで最後になるだろう。密室となったマンションの一室で聞こえた爆発音、人食いに気づかれないように外を見ると、炎上するトレーラーからそれぞれ離れる二人の人影が見えた。動きからして普通の人間だ。二人はゾンビを避けて走るが、やがて捕まってしまうだろう。

 この時、一週間前の出来事が書かれているページを見た。そこにはゾンビに襲われる人々の悲鳴、住人を守ろうと立ち向かった警察官たちの最後、そして私の体の異変も詳しく書かれていた。

 今でも忘れられない。老いて動けなくなり、このままやつらの餌食になるかもしれなかった。孫の顔を見れずに死ぬなら、彼女が作った薬を飲んでも構わないだろう。そう思い、孫が隠していた薬を飲み込んだ直後に意識が飛んだ。

 気がついた時は驚くことばかりだった。目が覚めた私の視界には寝室の天井が映り、死にきれなかったと顔に手を当てた。同時に柔らかい何かが顔に当たる触感がしたが、自分の硬い手とは思わなかった。次の瞬間、その手が変化したことに気づいた。白色、黒色、茶色の三色の毛皮に覆われて、掌と指の腹に肉球があった。その手で自分の顔を触れて形を確かめ、ズボンを脱いで尻からあのふさふさの尾が生えているのを見て理解した。

 猫になっていた。しかも孫に話していた物語に出るような人の形の。

 当時はひどく雑乱したが、今は私が猫になったという現実を見なければいけない。おまけに老いたはずの私の体も若い頃のようによく動けるようになり、頭もはっきりした。

 孫が作った薬が原因であるとしか思えない。まさか孫から連絡が来ないのはこの薬とアンブレラに関係あるのか?

 こうして日記に書き込んで考えるなど時間の無駄だ。猫になるのは予想外だが、動ける今なら警察署に逃げ込める。

 日記はこれでおしまいだ。これから偽名でも名乗るか。

 

―老人だったチェシャの日記

 

 

 

 

 

 

 書き終えた日記に鉛筆を転がす猫人間。三角耳と瞳孔が開いている目、そして口元に生えている3対の細いヒゲが特徴の毛皮に覆われた顔、尻から生えた尾が特徴の同じく三色の毛皮に覆われた体をしている。体格は痩せた青年のと一緒だ。

 日記を書いていた机から離れた彼は腕を上に向けて背伸ばし、衣類がしまっているタンスに向かう。このまま部屋を出てもいいが、生存者が見たらどう思われるか。タンスを開けて気に入った服を選び、下着を身につけてから服を着て、隣の鏡の前に立つ。

 ワイシャツの上にこげ茶のベストを着ていて、黒いスラックスを履いている。スラックスの腰に穴を開けて尾を出している……何故だが過去の仮装パーティーに出た孫と似た格好だ、その時彼女は兎耳をつけていたが。

 そんなことを思い出しても孫は戻ってこない。猫人間―チェシャは壁に掛かっている時計を見て午後の六時だと知り、自宅の玄関に視線を移す。この体になってからゾンビが入ってこないようにいくつかの家具で塞いでいるため、そこから出られない。ベランダから飛び降りるか。

 そう考え、窓を開けてベランダに出る。しかし、その考えが甘いとそこから見下ろして気づく。二階とはいえ人が降りられるような高さじゃない。下手したら着地した瞬間に骨折し、そのままゾンビのお仲間だ。普通の人なら……

 チェシャは躊躇いもなく手すりを飛び越え、そのまま道路に落ちていく。地面にぶつかる瞬間、両足を真下に向けて足裏の肉球で着地時の衝撃を吸収した。しばらくその場で立ち尽くすが、ようやく体を動かして警察署へ走る。猫になったのは確かだが、普段なれないことはするべきじゃない。彼は落下する時のスリルを忘れられないだろう。

 警察署へ向かうチェシャに何体かのゾンビが襲いかかってくる。着ている制服や服装から見て、警官や住民たちだったものだ。奴らと戦っている暇はない。チェシャは避け、ゾンビが登れないバスの上に飛び乗ったりなど進んでいく。そして警察署に繫がるとあるガンショップに入った瞬間だった。店主らしき男がこちらに気づくとすぐさま銃を向けてきた。

 

「止まれ! ……って化物か! 撃ち殺してやる!」

「ま、待つにゃ! 私はゾンビではにゃいにゃ!」

 

 一応言うが、猫になってからこの話し方になった。どういう副作用だ、孫よ。

 もちろん、店主にとってはゾンビではなく化け猫が来たようなもので化物に変わりはない。銃を下ろす様子がない彼を見て、チェシャは両腕を上げたまま店主に言う。

 

「とにかく私はにゃにもしない! ここの裏口から出て警察署に行きたいだけにゃ!」

「……その語尾はなんとなく腹が立つが、どうやら奴らとは違うようだな」

 

 ゾンビの同類ではないと理解してくれたようだが、銃を下ろしてくれなかった。そのままチェシャが入ってきた扉に近づき、鍵をかける。そして早く行けと言わんばかりに睨みつく。これにはチェシャも仕方ないとしか思えなかった。

 この姿で警察署に行っても銃を向けられるだろうな。不安になりながら裏口に向かい、その扉を開けようとした瞬間だった。

 ガラスが割れる音と奴らのうめき声が入り口から聞こえ、振り向くと三体のゾンビが店主に迫ってきている。店主は銃で応戦するが、噛み付かれて床に押し倒されてしまった。生きながらゾンビに食われる彼の姿にチェシャは後ろに下がり、裏口を通り抜けた。そのあとはただ走っていたことしか覚えていない。孫の謎の薬を飲んで肉体が青年に戻っただけでなく猫の性質を持つようになっても、心は年取ったただの一般人だ。逃げたくなる。

 ようやく、警察署の敷地に入った。後ろからゾンビの声が聞こえる。すぐに署内に駆け込み、警官の姿を探した。

 

「誰か! 誰かいにゃいか!?」

 

 大声を上げると、ホールの奥から人影が出てきて近づいてくる。あの不快な匂いがしないとすると、生存者のようだ。自分の姿を見て敵意を表さないのを願いながらこちらも近づいていく。ようやく人影の正体が見えてきた……

 

「ば、化け猫!? ゾンビに化け犬、次は化け猫なの!?」

 

 やはりその反応か……

 

 

 

 って、そっちも人のことが言えないぞ!? しかもそっちの方が猫よりよっぽど危なさそうだ!

 チェシャの姿を見て驚いたのは女性警官だ。いや、人間の体型をして制服を着ているが、それは人間ではない。

 腕や顔などが桜色の鱗に覆われている。頭には同じ桜色のセミショートの髪とそこから生えている二つの角。尻からは先端が鋭い尾が生えている。そして背中には蝙蝠の羽というまさに空想のドラゴンそのものを人間の形にしたようなもの……顔はシャチに似た丸みを帯びた感じだが。

 そんな彼女が体を震わせてチェシャと距離を取っていく。竜が猫を怖がるとはな……そう思わずにいられなかったが、とにかく彼女を落ち着かせるか。私とおなじようにただの化物ではなさそうだ。

 

「待つにゃ。奴らと違ってお前を食べようとは思わにゃいにゃ、食べれそうににゃいし」

「そ……そんなことを言っても、どうせ殺すでしょ!? 化物はそうでしょ!?」

「……獰猛でしかも空想上のはずのお前が言っても説得力にゃいにゃ」

「私だってこの姿になりたくなかったの!」

 

 私の中のドラゴンが崩れていく……にゃん




 今回は人外主人公の紹介みたいな感じで、原作主人公は次回から登場します。
 しかし、人外主人公の一人を竜にするのはちょっと悩みました。兎や猫でも十分なのに架空の動物を出すのはバランス的におかしいと思いました。性格はヘタレにしたり、吸血鬼と同じポジションにするとはいえ……
 いいところや悪いところ(バイオらしくないとか)があったら言ってください。
 次回もお楽しみに!



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人外恐怖症の人外

「……落ち着いたにゃ?」

「うん……あなたも私と同じなのね? おじいさん」

「ああ……以前、お前さんと別れたあとに薬が足りないと思ったが、まさか飲んだとはにゃ」

「仕方なかったの。仲間を置いていって、ゾンビに食われるなら自殺するしかないと、おじいさんが忘れた薬を……」

 

 警察署のホールでそれを聞いた年老いた民間人だった三毛猫―チェシャは呆れながら元女性警察官の桜色ドラゴン―リスベットの額を撫でて慰める。二人は人外になる前、いや、ゾンビが発生する前に知り合った関係だ。

 孫が幼かった頃、学校でいじめられて帰ってきた彼女をこうやってなぐさめていたな。思い出しながら撫で続けていると、リスベットが手から離れて、目元から漏れてる涙を拭き取りながらチェシャにたずねた。

 

「ところでおじいさんの名前は? 私はリスベットって言います」

「チェシャ……人間だった時の名前は捨てたにゃ」

「チェシャね? あなたが持ってた薬はいったい……」

「まだアンブレラで働いてるかはわからん私の孫、ラピンが作ったものにゃ。ただし、私から隠してたにゃ。孫から連絡が来なくにゃってから見つけたんにゃ」 

 

 それはゾンビが発生する前、つまり自分たちが人間だった頃に聞いた。今のチェシャである老人が連絡が来なくなった孫を探して欲しい警察署に来たときにリスベットもその場にいた。しばらくして老人は署長に追い払われてしまうが、彼をほっとけないリスベットがパトロール中に老人と会うたびに話を聞いたりした。

 ……その時は自分が竜になった原因の薬をおじいさんの孫が作っていたなんて思わなかった。そのおじいさんも猫になるとは思わずに薬を飲んでいたようだけど……クリスさんたちがアンブレラを調べていたのってそのことなの? しかもゾンビだけじゃなく、今の私たちみたいになる薬も作っているなんて……

 そう考え込むリスベットから離れるチェシャ。彼も孫がアンブレラで何をやっているのかを気になっていた。ただの製薬会社が猫や竜になってしまうような薬を作るなんておかしすぎる……いったいどういうことなんだ? しばらく頭を働かせるが、はっきりとした答えは出なかった。それに人喰いが襲ってきてもおかしくないこの場所に居続けては危険だ。リスベットに振り向き、これからのことを話す。

 

「リスベット、ここで考えても時間の問題にゃ。何か脱出に使えそうにゃものをここから探すべきにゃ」

「……ゾンビが彷徨いているここから?」

 

 彼女が恐る恐る言うと、すぐに首を真横に何度も振った。

 

「いや、絶対にいや! あの恐ろしいのに噛まれたらどうするの!?」

「……お前、竜だろ? その鱗は硬そうにゃけど」

「私はこうなりたくなったの! あの時、猫のを飲むべきだった~!」

「にゃんだ!? それでも警察にゃのか!? ドラゴンにゃのか!?」

「警察!」

 

 くそッ、まともな警官はほかにいないのか!? できればあの腹立つ署長以外のを頼む!

 ドラゴンのくせに臆病なリスベットにチェシャが苛立っている時だった。ホールの何処かの扉が開く音がした。チェシャとリスベットが口を閉じると、聞こえた方にチェシャの後ろにリスベットがべったりとくっつく形で少しずつ近づく。「動きにくい」とチェシャが小声で言っても首を振って彼女は離れなかった。

 どうやら玄関のそばに立っている二人組が扉を開けて入ったらしい。一人はリスベットとは違う制服の男性、もう一人はポニーテールに赤いベストと短パンが特徴の女子大生だ。二人共銃を握りしめて辺りを見渡す様子を見て、ゾンビではないと安心するチェシャ。しかし、だからといって今の姿で彼らの前に出たら命が危ない。なるべく刺激しないように彼らに近づくが……

 

「よかったぁ、普通の人間だ!」

 

 チェシャの背後に隠れていたリスベットが喜びを隠せずに二人に駆け寄った。おい待て! 確かにほかの生存者と会いたいが、今のお前だと……!

 次の瞬間、銃声が何発も鳴り響いた。ほら言わんこっちゃにゃい……

 

 

 

「いきなりひどいじゃないの! 別の生存者に撃つなんて!」

「いや、数発撃たれても生きてるお前が人間に見えんにゃ。迫ってきたら誰だって抵抗したくにゃるにゃ」

「……ゾンビの次は化け猫にドラゴンか。俺が勤めるラクーンシティは異世界にでも飛ばされたのかい」

「ダークファンタジーはあまり好きじゃないわ」

 

 鱗で銃弾を防いだとはいえ、二人が撃ってきたことに怒るリスベットを呆れながらもなだめるチェシャ、その光景を少し信じられない新米警官のレオン・S・ケネディと兄を探しに来たという女子大生のクレア・レッドフィールド。この二人は本日来たばかりで事件のことを知らなかったらしい。

 ようやくリスベットが落ち着き、彼女をなだめたチェシャはレオンとクレアに説明をする。

 

「信じられにゃいと思うが、私とこいつはもともと人間でアンブレラにいた孫が作った薬を飲んだらこの体ににゃったんだ。人外といえば人外だが、襲ってくるゾンビとは違うことをわかってほしいにゃ」

「……少し信じられないけど、こうして話をするほどの知能は残ってるのね。襲わないのなら安心よ」

 

 クレアは納得したようだが、レオンの方は腕組みしてリスベットを睨みつくのを見てまだ信用できないかとチェシャは少し困る。

 しかし、彼は別の意味でリスベットを信用できないことを彼の発言でわかった。

 

「するとこのドラゴンが俺の先輩になるはずの人か? 臆病そうで頼りなさそうだが」

「ちょっと、先輩に向かってそれはなに!? 別に私は臆病じゃないし!」

「ついさっき、猫の私に怖がってたのはどこの誰にゃ?」

「ドラゴンなのにか?」

 

 レオンが驚いてそう言うのでチェシャは大きく頷くと、リスベットは何も言えずにチェシャを睨む。

 ……こんなことをやっている場合じゃない、ゾンビだらけのこの街から脱出しないと。最初は羽を持つリスベットに乗って空を飛んで逃げることを提案するが、墜落する危険性が高いので没になった。どうやら警察署の中から脱出に使えそうなものを地道に探すしかなく、レオンとクレア、チェシャとリスベットの二人組に分かれて探索しようとするが、組み合わせにリスベットが反対した。

 

「できればレオン君と一緒のがいいな……警察官同士だし」

「本音は?」

「化け猫と一緒にいるのが怖い」

「ドラゴンといるレオンのことも考えろにゃ」

 

 チェシャがそう言うが、リスベットがどうしてもと駄々をこねるので渋々レオンとリスベット、チェシャとクレアという組み合わせに変わり、探索を始めた。

 女って面倒だにゃ……

 

to be continued




 ちょっとギャグがメインになったバイオらしくない回だと思います(公式で豆腐とか出るけど)。ここからクレア表、レオン裏という形で進めていこうと考えていますが、原作とは違う展開になるかもしれません。
 


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舐める者

 

 ホールの西側にあるオフィスに入るチェシャとクレア。リスベットとレオンは反対側にある玄関近くの扉に入っていったが、彼女がレオンの足を引っ張らないことを祈るチェシャに何かを見つけたクレアが話しかけた。

 

「チェシャ、あそこに怪我人がいるわ!」

 

 彼女の視線の先には引っ掻いたあとがあるロッカーに寄りかかっている警官がいた。制服が赤く染まっていて、息が荒い。二人はその人物に近づき、クレアが声をかける。

 

「しっかりして! まだ助かるわ」

「き、君は?」

 

 警官が声を震わせながらクレアにたずねる時、そのそばに立っているチェシャが彼の視界に入らないように静かに移動する。下手に刺激させて、リスベットと同じ目に会いたくないから。警官の質問にクレアは答えた。

 

「クレア レッドフィールド。兄のクリスを探しているの」

「彼からは十日以上連絡がない。クリス、ジル、バリー、そしてレベッカ……S.T.A.R.S.のメンバーは皆消息を絶ってしまった、彼らを信じていれば……」

「どういうこと?」

 

 それからの話の内容は以前、リスベットから聞いたことがある。二ヶ月前、郊外のアークレイ山地で現れた人喰いをS.T.A.R.S.が調査に向かったが、生還したのは数名だけ。アンブレラ社が恐ろしい生物兵器を作っていると彼らは言ったが、リスベットと瀕死の警官を含む同僚たちは誰も信じなかったと。

 今の話で確信した。アンブレラは単なる製薬会社ではなく、裏で怪物を生み出している。そして孫もそれに携わっている、今の姿になる薬が証拠だ。そしてラクーンシティが地獄と化したのも……なんてことだ。

 目元を手で覆い、ため息をつくチェシャ。心が重くなる猫に気づいてないのか、警官はクレアにこう言った。

 

「俺のことはどうでもいい……それよりほかの生き残りを助けてくれ、早く行け」

「でも……」

「行くんだ!」

 

 ……この警官は自分より他人のために行動してきたのか。ドラゴンになった誰かとは大違いだ。チェシャがそう思う中、クレアは警官の頼みを聞き入れ、それでも彼を見捨てることができずにこう言い残した。

 

「わかったわ。でも、必ず戻ってくるから!」

 

 オフィスからホールに出るクレアのあとを追うチェシャだが、誰かに呼び止められた。その場にいるのは自分と負傷した警官だけだが、気のせいか? 

 

「おい……そこの猫……」

 

 気のせいではなかった。どうやら警官がチェシャを呼んでいたようだ。クレアを追いたいが、撃たれるのを警戒しながら警官に近づいてしゃがむ。彼はチェシャの顔をしばらく見ると、こうつぶやいた。

 

「……お前は人間だったんだろ……俺の後輩にドラゴンになったのがいる」

「リスベットのことにゃ? いや、それより何故私が元人間だとわかった?」

「似ていたんだ、化物になっていてもチキンのままの彼女と……人間らしいところがな……」

「……そんな理由でわかってくれても嬉しくにゃいにゃ」

 

 少し顔をしかめるチェシャ。肩を借りたいと頼む警官に肩を貸して立たせると、ホールへの扉まで移動する。警官と一緒に出ようとした時、彼に止められこう言われた。

 

「お前はクリスの妹を守ってくれ……俺はもうすぐゾンビになってしまう。お前やリスベットと違って自我を失い……そうなる前にここに閉じこもって、自分の手で……リスベットは臆病だがやるときはやる奴だ、少しは頼りな……」

「……わかったにゃ、まだ諦めるにゃ。名前は?」

「マービン……マービン・ブラナーだ」

 

 警官―マービンを扉のそばに降ろし、オフィスから出るチェシャ。後ろから鍵をかける音が聞こえ、目の前にはクレアが待っていた。こんな人外を待ってくれるとは……異常事態を引き起こしたアンブレラに勤める研究員の祖父でもある私を……

 クレアはチェシャに尋ねた。

 

「あの警官は?」

「内側から鍵をかけたようにゃ。ゾンビににゃっても誰かを襲わにゃいようにと」

「そう……チェシャ、彼に頼まれたことをやり遂げましょう」

 

 その言葉に頷く。誰かの命を救って孫の罪が軽くなるなら……いや、なるわけがない。ただの自己満足だが、それでも……

 オフィスにあった受付の向こう側である待合室への扉を通る。そこでクレアはチェシャに聞いた。

 

「武器を持ってないよね? さっきの人から聞くべきだったわ」

「武器にゃ、この姿ににゃってからも戦いはしてにゃいが……」

 

 そう言いながら自分の指先を見つめる。指の腹に肉球がある毛皮に包まれたそれ。指先に力を入れると、鋭いカギ爪が出てきた。太さは指より少し小さいが、ゾンビ程度なら……

 カギ爪をクレアに見せながら「大丈夫にゃ」と言う。彼女は少し心配そうな表情をしたが、「銃を見つけたら渡す」と返した。移動を再開し、奥の扉に向かおうとした。

 その横にある窓に何かがいて、去った。

 それを目にした二人は立ち止まり、小声で話し合う。

 

「今の見たにゃ?」

「ええ……ゾンビとは違う感じだったわ」

 

 警戒しながら扉を開けると、廊下に繋がっていた。壁や床、天井などに大量の血がかかっている。近くの窓を見るが、先ほどの何かはいない。慎重に進むチェシャとクレア、彼女の息がやけに荒い……このような場所は刺激すぎるだろう。曲がり角を曲がった瞬間、全身の毛が逆立った。

 死体がある。ここに来るまで動く死体やそれに食い殺された人の死体を見てきたため、この場に死体があっても驚きはしない。

 問題なのはそれに残る殺され方だ。首が切られている。刃物ではなく、まるでねじ切られたようなエグいものだ。ゾンビがこうしたのか? それとも……

 

「恐ろしい何かがいるようにゃ……」

「……ええ」

 

 これはリスベットではなくとも誰もか恐怖を感じるに決まっている。そこからさらにゆっくりと歩く、何度も前後左右に目を配らせながらながら。そして前を向いた瞬間だった。

 何かが落ちた。見下ろすと何かの液体だ。血ではなく透明な液体だ。

 ……ゆっくりと見上げる。

 天井に張り付く何かがチェシャたちに近づいている。

 人を腐らせただけのゾンビとは違い、鋭い舌を出している大きく裂けた口の上に脳そのものがあり、両腕には巨大な爪が生えているという化物だ。その姿を目にしたチェシャは何も言えず、クレアは息を飲んだ。

 そいつが目の前に降りた瞬間、すぐに発砲するクレア。両肩と脳に着弾し血が吹き出るも、化物は叫びながら彼女に飛びかかる。巨大な爪がクレアに振り下ろされる……直前にチェシャがとっさに彼女の腕を引いて救った。獲物を逃した化物が振り向いた瞬間、奴の頭に右手のカギ爪を突き刺すチェシャ。

 脳に爪が食い込んだのにも関わらず、化物に掴まれて押し倒されたが、左手で喉元を切りつける。そこから血が噴出し、チェシャの顔を赤く染めながら力尽きていく怪物。そして動かなくなったそいつをなんとか押しのけ、立ち上がるチェシャにクレアが声をかける。

 

「チェシャ、大丈夫!?」

「ああ……にゃんとかにゃ。こんにゃ化物もいるとは……」

「猫とドラゴンも出てきたからほかにもいると思ったけど、まさかグロテスクだったとはね……」

「……レオンとリスベットが心配にゃ」

 

 

 

 警察署のホール二階通路でレオンがショットガンの引き金を引いた。射線上には舌の化物が散弾に貫かれて活動停止していた。それに近づき、死んでいることを確認したレオンは後ろの手すりに隠れている桜色のドラゴンに伝える。

 

「先輩、得体の知れない化物を倒したぞ」

「……ほんとに?」

「そんなに怖いならどこかに隠れたらどうだ? そんな場所はこの街になさそうだが」

「……ッ!! そ、それだけはいや」

 

 あのことを思い出すが、頭を振ってレオンに近づくリスベット。後悔するのはいやだ、二度と誰かを置いて逃げたりはしない。せめて私ができるのはそれくらい……

もしかしたら……またしてしまうかもしれない……

 

to be continued



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自覚

 猫の人外がクレアと行動している時、臆病な竜の人外もレオンと一緒に警察署の東側を探索していた。銃を持っているとはいえ、普通の人間であるクレアを己の爪と牙で守っていた老いぼれ猫――チェシャと違って桜色の竜――リスベットは普通の人間であるはずのレオンに戦闘を任せっきりで自分はすぐそばに隠れてばかりだった。

 ……このままでいいのかな?

 探索で見つけたショットガンを持って歩くレオンのあとをついていくリスベットはそう疑問に思う。部屋に篭っている間にゾンビのほかに、ムキムキ脳みその化物も出てきたなんて――おまけにドラゴンになるし――こうなるならずっと部屋に篭りたがったけど、ついにゾンビが入ってきたから泣く泣くそこから出ることになった。そのあとは同じように孫の薬で猫になったおじいさんと再会し、クレアとレオン君にも出会ったんだ。撃たれたけど。

 こうして今は警官同士――チェシャじいさんだったとはいえ、化け猫と一緒にいるのは怖いし――ということで後輩のレオン君と組んでいるけど、ついさっきホール二階でのように彼に化物を倒してもらっている。もちろん、初めてこの警察署に来たレオン君を何かありそうな場所に案内したりとか、守ってもらう代わりにやれることをしたりとか……

 本当にこれだけしかできないのかな?

 銃を無くしちゃったりドラゴンになったのは仕方ないけど、だからといって素手でゾンビや筋肉脳みそに立ち向かえるなんて絶対にやだ。角と牙と爪、尻尾の意味? 私は望んでこの姿になったわけじゃない。

 ……でも……あの時みたいに置いて逃げたりは……絶対にしない。

 

「先輩」

 

 レオンの呼びかけにリスベットが慌てて顔を向ける。またべろんべろんお化け!? それとも勝手に逃げた私を恨んでゾンビになった同僚がいるの!?

 

「安心してくれ。この事故現場をどうにかしたいだけだ」

 

 そういうレオンの視線の先には確かに事故現場があった。廊下の壁を突き破ったヘリコプターが炎に包まれている。墜落したのだろう。そのそばに二つの扉があるが、このまま進んで火だるまになるバカではない。これが原因で警察署が全焼するというわけではないが、先に消火するべきだ。リスベットは周囲を見渡しながらあるものを探す。

 

「消火器……近くにはないね」

「消火器で消せるような火災にはみえないが。大量の水でないと」

「大量の水って、それこそ近くにあるわけが……」

「ここは後回しにするべきか。この反対側には何があるんだ?」

「そっちは屋上と階段があるよ」

 

 すぐに消さなくてもいい火災現場をあとにしてそれらに繋がる廊下を進む二人。その時、大きな一瞬の揺れが襲った。倒れそうになったリスベットをレオンが支える。優しい彼に少し嬉しく思うが、今の揺れに不安を感じた。

 

「今のって地震? こんな時に」

「いや。何か重いモノが落下したようだ」

「その重いモノって――」

 

 揺れが発生してから数秒後、廊下の曲がり角から現したそいつを見て恐怖を感じたリスベット。

 季節外れの分厚いコートをスキンヘッドの男。その特徴だけでもおかしい男性といえる。しかし、石のような肌の色にゾンビと同じ白目、レオンとドラゴンの自分より大きい体。それらが教えているのは……

 化物。それもゾンビや脳の化物以上の。

 気づけば踵を返して走っていた。あんなの、銃なんかで倒せるわけがない。だからレオン君も一緒に逃げてるはず……だと思いたい。とにかくあの大男から隠れられる場所を探しながら逃げる。そのうち、視界に一つの扉があり、その部屋に入って閉めた。奴が来ないのを願いながら……

 

 

 

 どれくらい時間が経ったんだろう。怪物が入ってこないように扉を押さえていたリスベットは力を抜き、その場に座り込む。そしてレオンに声をかける。

 

「怖かった……なんなのあれ」

 

 返事がない。

 首を動かして彼を探すが、いなかった。警察署がまだ美術館だった時の大量の美術品が保管されている倉庫に自分と鎖で縛られている英雄の石像だけだ。それを理解したリスベットに不安が募る。

 

「また……置いて行っちゃった……で、でも、流石に見殺しにしたわけじゃないよね……レオン君も別のところに逃げてるかもしれないんだし……もしかしたら……クレアとチェシャが助けに来ているんだ……そう、そうなんだよ」

 

 そう思いたい。そう思わないと耐えられない。気づけば目元から鱗に覆われた頬に何かが流れる、それを拭き取ろうとして両手を目元に当てる、肩を震わせて謝罪の声を上げる……

 

「ごめんなさいっ……ごめんなさいっ……」

 

 ドラゴンも泣けるんだなと心のどこかで思いながらも涙を止めないでいた。嫌なことがあったら、こうやって泣いているとすっきりする。泣くのは恥ずかしいって言う人はいるけど、泣くことも大切って小さい頃お母さんに教えられた。そしてそのことは私も誰かに教えるべきだって。

 しばらく泣き続け、ようやく落ち着くことができた。これからどうしようか。この倉庫から出るかまた篭るかにしても、あの化物に出会ったら終わりだ。ここから使えそうな物を探し始めようと考えた瞬間だった。

 頭上からガラスが割れる音が聞こえた。

 見上げるとガラスの破片と共に筋肉質の怪物が落下していく。落下地点から離れていたため、怪物の下敷きにならずに済んだが、やつに気づかれた。怪物が飛びかかり、後ろに倒れこむリスベットは声を上げながら腕と足、羽、尾を振り回して抵抗する。

 

「いやっ! あっちにいって!! この化物!!」

 

 人間のままだったら瞬殺されていたが、人外と化した彼女の力は人より上回っており、怪物を突き飛ばした。それでも再び飛びかかろうとする奴から後ずさりするリスベットの手が棒のような何かを触れた。

 怪物が跳んだ瞬間にその何かを掴み、目の前まで迫ってきたそいつに振った。

 何かが裂ける音と同時に不気味な程暖かい液体を浴びた。痛みはない。しばらく呆然としたリスベットは握っている何かに目を向ける。

 先端が赤く濡れ、長い柄の斧が彼女の手に握られている。保管されている美術品の一つみたいだ。あの化物はどうなったんだろう? 前方を見ると、上半身を斬られてそこから血を吹き出している怪物が血だまりで死んでいる。

 

「これ……わたしが……?」

 

 この現状に驚く桜色の竜。銃を使わずに怪物を倒せるなんてありえない。斧や剣といったものを使えばなんとかなるかもしれないけど、私が握っているのは女性では持てそうにないはずの斧だ。これを私は枝切れのように振って怪物を倒したってわけ……そんなの……人間離れのことを……

 ……そっか……いまのわたしは……チェシャじいさんの孫の薬を飲んで……

 

「……ばかみたい」

 

 この出来事で恐怖が消えたり、自信を持つようになったわけではないけど……普通の人間だと思い続けるのはやめることにした。そしてこの体でみんなの脱出を助けたい。

 リスベットは立ち上がり、斧を持ってその部屋の扉に向かう。制服が血で濡れちゃったけど……替えのはなさそうだし……そう思いながら扉を開けて部屋から出ようとした時だった。

 彼女がいる廊下に雨が降りだした、消防用のスプリンクラーによって。リスベットが部屋に逃げ込む時に気づかなかったが、その部屋は燃えていたヘリコプターのそばにあったものだ。そのことを思い出した彼女は自分の制服を見ると、確かに少し焦げている箇所があったが、全身を覆う鱗にはそれがない。火にも耐えるようだ。

 大量の散水によって火は消え、行き来できるようになった廊下に何かが立っていた。

 三毛の老いぼれ猫――チェシャだ。彼の毛皮に覆われた手にはカウボーイに使われていたリボルバー拳銃が握られていて、スプリンクラーに向けているのをみると、彼がそこに撃って火を消したらしい。

 チェシャがリスベットに気づくと、銃を下ろして声をかける。

  

「リスベットか……こんにゃ所いたとは。レオンはどうしたにゃ?」

 

 相変わらずの猫語で尋ねるチェシャの呆れた表情を見て、(どうせ、おいて逃げただろう)と自分がそう思われているのに気づいたリスベットは少々ごまかす。

 

「まあ、ちょっと見たこともない化物も出てきたから……分かれて逃げた――」

「ほんとにゃ?」

「ホントだって!! 半分は……」

「やはりにゃ」

 

 どうやらまだ臆病者って思われているリスベットは少し不満を感じたが、この今が怖くないってわけじゃないから当たり前だ。

 クレアと行動していたはずのチェシャが一人でここにいるってことは……人のこと言えないじゃん。

 

「おじいさんこそ、クレアと一緒じゃなかったの?」

「一緒だったにゃ……一人の少女を見つけるまではにゃ」

 

 予想外の返答にリスベットは驚いた。

 子供まで警察署に避難していたの……?




 どうも皆さん一ヶ月ぶりです、人工授精師の講習から帰ってきました影絵師です。
 今回は臆病だったリスベットがリッカーを倒し、斧を手に入れ、ある少女を探しにきたチェシャとの再会です。
 ……臆病なキャラが勇気を持つようになって活躍するのって好きなシーンですが、自分で書くとなると……そもそも誰かによって勇気を持つのが普通だし。
 次回はあの人気キャラを追いかけるチェシャの話になります。まさかあの子がああなるとは……


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脱出する理由

 

 レオンとはぐれてしまったリスベットが倉庫でえーんえーんと泣いていた時、三毛猫のチェシャとクレアはとあるオフィスを調べに入った。クレアの兄――クリスが所属していた特殊部隊『S.T.A.R.S.』が使用するものであり、情報収集に使われる大型通信機に、それぞれの机の上に隊員の私物が置かれていて、棚には大会で優勝した証のトロフィーが飾られていた。

 一階のオフィスと比べて個性的なこの部屋を見渡しながらクレアがつぶやく。

 

「ここが……兄さんの職場。ゾンビが現れる前に来たかったわ」

「ここには初めて来たのにゃ?」

「ええ。以前から『ここに来たい』って言ったけど、断られたの」

「見せられにゃいものがあるかもしれにゃいにゃ」

 

 冗談を言いながら部屋を探索するチェシャにやれやれと首を振ったクレアは心当たりのある机に近づく。両親とを亡くした私にとって、兄さんは憧れだった。子供の頃から運動ができる方で、軍人になったり警察の特殊部隊に入れたり、射撃の腕も良くてそういった大会での優勝を自慢してきたのも忘れられない。

 ……でも、そんな彼にいくつかの欠点がある。その中の一つに私はこう指摘してきた。

 

『兄さん、机の上が汚い! 綺麗にして!』

 

 口を酸っぱくする程注意してきたのに、ラクーンシティに住んでからも治ってないみたい。その証拠が私の目の前の机にあった。ごちゃごちゃ散らかっているそれを見て兄のものであるとオフィスに入ってすぐ分かった。こんなので兄のものだって分かっても嬉しくない……

 少し落ち込んでいるクレアの視線は一冊のノートに止まった。表示に「クリス・レッドフィールド」と書かれているのを見れば、日記か何かだろう。彼女はそれを手に取り、内容を読み始める。

 

 

 

 8月8日

 今日も署長にかけ合ったが、やはり信じてくれない。アンブレラがあの洋館で、恐ろしいTウイルスの実験をしていたのは間違いないのだ。

 Tウイルスに感染すると、人間はゾンビか怪物になってしまう。

 だが洋館は爆発してしまい、ラピンとカーミラも俺たちから離れてしまって証人がいない。彼女らからもらったデータだけでは証拠にならず、その上、この町はアンブレラの薬品工場で食っているようなもので町の人は恐れて誰も口を開かない……

 うさぎと吸血鬼に助けられたと言っても信じてもらえず、どうしたらいいのだ。

 

 

 8月17日

 最近、おかしな事件が頻発している。

 夜中、町のあちこちで見たこともない化物が出現するというのだ。

 アンブレラが再び動き出したに違いない。

 

 

 8月24日

 ジル、バリー、そしてレベッカと協力して、ついに情報を掴んだ。

 アンブレラは、Tウイルスに代わる新しいGウイルスの研究に乗り出したというのだ。正体を隠して俺たちに近づいたカーミラの話だと、生物兵器には向かないものらしいが、危険なものに変わりはない。

 とにかく4人で相談し、極秘で捜査するためにアンブレラの本拠があるヨーロッパへ飛ぶことにした。妹には連絡しない。危険にさらしたくないからだ。許してくれクレア。

 

 

 

 クリスの日記を読み終えたクレアはそれを閉じて机に置いた。兄さんは今でも憧れだ。ラクーンシティを地獄に変えたようにウイルスで何かを企むアンブレラを止めようとするヒーローだが、それでも私に連絡しないのは納得できない。私が兄さんの立場だったら家族を巻き込まないように同じことをするかもしれないが、待っている私が知らないうちに兄さんが死んだっていうニュースを突きつけられたら生きていられない。

 このラクーンシティに兄さんはいない。それが分かればここから脱出するだけだ、レオンやチェシャ、リスベットと一緒に。

 

「にゃあ」

 

 突然、鳴き声を上げたチェシャにクレアが驚いて尋ねた。

 

「どうしたの? いきなりにゃーって鳴いて」

「いや、鳴いていたんじゃにゃくて、この写真に君の兄さんが写ってにゃいかを聞きたくて」

 

 そう言うチェシャの前の壁にS.T.A.R.S.の集合写真がかけられていた。「ああ、『なあ』って言おうとしたのね」と、理解しながらクレアはその写真を見る。中心によく知っている男性が写っていた。兄さんだ。銃を構えたその姿は映画の主人公らしくてかっこいい。

 クレアの表情に気づいたチェシャは彼女に聞いた。

 

「兄さんのことが好きにゃ?」

「どちらかといえばそうね。普段から兄さんにいろいろとおしえてもらったりとかね」

「ふーむ、どのようにゃことを?」

「主に格闘術や銃の使い方とかの護身に使えるものを。今でもロケットランチャーの撃ち方を教えてもらったことを忘れられないわ」

 

 ……護身にしてはやりすぎではないか? 彼女の兄にそう思いながらも、クレアの言葉を聞き続ける。

 

「もっと教えてもらうことがまだあるわ。そのためにはヨーロッパまで行って兄さんに会うの」

「ここにはいにゃいんだにゃ」

「だからこの町から生きて脱出するつもりよ」

 

 兄を会いに行くために、この町から脱出か。それならここから生きて出るという行動ができるのだ。家族がいるのはいいことだ。

 ……あの子はまだ生きているだろうか? 年をとって動けなくなった私のために好きじゃない勉強を毎日して、製薬会社のアンブレラに入社した孫は。この災害に巻き込まれてもういないのか? それとも知らないところで生きているのか? 会いたい……もう一度あの子に会いたい……

 再会を望むチェシャにクレアが兄の日記を渡そうとするが、知らない人物の日記を読むわけにはいかない。断った彼はオフィスのロッカーを開け、二種類の銃火器を見つけた。一つはリボルバー、もう一つはやけにでかい銃だが……

 

「これは……ショットガンにしては大きさが違うにゃ」

「グレネードランチャーね。爆発する弾を発射できるものよ」

「にゃぜ君がそれを……ああ、兄さんからが」

 

 いくら妹が心配とはいえ、必要ない知識を普通に教えるか?

 グレネードランチャーはどう使うかは教わっているクレアが持ち、チェシャはリボルバーを手に取る。クレアとレオンのハンドガンと同じ弾が使えるようだ。シリンダーに弾薬を一つ一つ肉球つきの指で装填し、右腕を伸ばして照準の確認をしたあと、同じロッカーに入っていたショルダーホルスターを身につけてそこに収納する。

 もうここに用はない。大型通信機は壊れているのか、使い物にならず助けを呼べそうにない。クレアと共にオフィスを立ち去ろうとした時だった。

 どこからか受信したファックスから紙が出てきた。それを読もうと取るクレアだが、廊下に出ていたチェシャはそれどころではない。

 少女が歩いていた。金髪にカチューシャ、セーラー服と青い短パンを着ている小中学生の彼女がチェシャを見た瞬間、後ろに下がっていく。慌てて呼び止めようとするが、踵を返して逃げていった。すぐにクレアへ伝えて少女を追うチェシャ。

 

「クレア! すまんが、あの子供を追うにゃ!」

「えっ、ちょっと待ってチェシャ!」

 

 クレアの声が三角耳に入るが、立ち止まるわけがない。こんな危険な場所に子供を一人にするわけにはいかない。走りながら少女を止めようと声を上げる。

 

「にゃあ、君! ちょっと待つにゃ!」

 

 ……この時考えてなかったが、ゾンビか一般人なのかすぐに判断できない。だが、異形が目の前に現れたら、怪物だと思うのは当たり前だ。少女は追いかけてくるチェシャを怪物とみて逃げているのをチェシャは全く気づかなかった。閉まっている扉の隙間に逃げられたり、ゾンビやブレインモンスターに妨害されるが、なんとか突破して少女に追いつこうと走り続ける。

 そして廊下で少女との距離が自分の腕以下になったところで、彼女をつかもうとする。

 

「だから待つにゃ――ぐえっ!?」

 

 首に何かが当たり、後ろに倒れ込んだ。上半身を起こすと窓に貼られている板の隙間から腐った手が伸びており、その向こうに少女が離れていく。

 

 

 

 ……外からのゾンビに邪魔され、少女を見失ってしまったチェシャ。クレアと合流するべきだが、子供を放っておけず単独で探し回っていた時に署内のヘリコプター墜落現場を見つけ、スプリンクラーを撃って消火した直後に奥の扉から斧を持ったリスベットが出てきて今に至る。

 チェシャから話を聞いたリスベットは顎に手を当てて考えていた。子供ね……確かに警察署に避難してきてもおかしくないけど、親はどうしてるんだろう? その子から話を聞ければいいけど、流石に私たちだとね。レオン君とクレアに合流してから探しに行けばいいかな……って、どっちも場所がわからないし。子供より先に二人を探しに行こう。そのことをチェシャに話そうとした時だった。

 ヘリコプターのすぐ横の歪んだ扉の向こうから悲鳴が聞こえた。チェシャとリスベットが顔を合わせる。

 

「まだ生存者がいたとは! リスベット、これを退かせられるにゃ!?」

「……やってみる! ちょっと離れて」

 

 ついさっきまでドラゴンになったことを認めなかった彼女だが、もう逃げたりはしない。扉に向かって突進し、ぶち破ろうとする。数回タックルするうちに扉が音を立てて崩れそうになる。あともう一発のところだった。

 左から巨大な拳が迫ってくる。

 体をひねって避け、羽の一部に触れる程度に済んだ。少し慌ててチェシャのそばに移動し、攻撃を仕掛けたものを見る。

 ……コートに身を包んだ大男が瞳のない目を二体の人外に向けていた。

 

to be continued   



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臆病者

 

 

 ヘリコプターが墜落したことで発生した火災が消火されたばかりの警察署の廊下で、チェシャとリスベットを文字通り白い目で見下ろす大男。リスベットが後輩であるレオンと離れてしまったきっかけでもある先程の分厚いコートの男だと気づいた彼女は、斧を構えてチェシャに忠告した。

 

「チェシャ、こいつがさっき言った見たことのない化物よ。これだったら逃げたくなるよね?」

「……さらっと逃げたことを正当化しようとしたにゃ? 確かにゾンビにゃんかより恐ろしいモノだが」

 

 そう言い返した直後、大男の拳が自分に振り下ろされるのに察し、後ろに下がる。そのまま床に叩きつけられた拳によってできたクレーターを見て、下手すれば自分がああなったと息を飲んだチェシャはすぐにリボルバーを大男に向け、引き金を引く。

 3発の銃声が鳴り、大男の体に着弾した。しかし、コートに着弾した弾が弾かれるように見え、大男は怯みもしない。どうやらゾンビや脳の化物と違って防弾性のコートを着ているようだ。なぜ化物がそんなのを着ているかはわからないが、丸出しの頭部になら……頭に狙いを定めようとしたが、大男がそれを許すはずがない。一歩前に出て銃を向ける老いぼれ猫の腕を握り締め、持ち上げる。床から足が離れ、腕が圧迫される痛みにチェシャは呻き声を上げたが、指から爪を出したもう片方の腕を伸ばして大男に振り下ろす。

 何かが爪に引っかかる感覚から届いたと思ったが、奴の右目の上辺りに小さな切り傷があるだけで、その瞳のない目がチェシャを睨む。握られている腕がさらに圧迫されていき、折られてもおかしくなかった。

 

「離せぇッ!!」

 

 耳に入ってくる怒鳴り声と同時に何かがチェシャの横を突き出し、大男の左肩に刺さる。腕を解放され、床に落ちたチェシャは痛みをこらえながら見上げると、奴の左肩に食い込んでいたのは赤く濡れた斧でリスベットがそれの柄を握り締めていた。

 薬品で桜色のドラゴンになっていたとはいえ、内心は臆病だった彼女が勇敢な行動に出るとは思いもしながったが、彼女の一撃でも大男は倒れない。自分に食い込んでいる斧を握ろうとする大男の腹を蹴り飛ばし、放した斧を構え直したリスベットは先ほど自分の行動に驚いていた。

 チェシャと再会する前も似たようなことが起こった。脳の怪物に襲われた時、とっさに手元の斧で斬り殺したことだ。あの時は「死にたくない」と頭の中がいっぱいになり、気がついたらこの斧で殺していた……そしてさっきこの大男が現れた時は頭の中が真っ白になったけど、殺されそうになったチェシャを見て体が動いたのだ。

 ……それでも私は臆病者に変わりはないけどね。この今もチェシャを置いて逃げ出したいくらいだ。

 蹴り飛ばされた大男が体勢をとり、老いぼれ猫と臆病ドラゴンに迫っていく。立ち上がったチェシャが銃を構えるが、腕に痛みが走り狙いを定められない。リスベットはなんとか恐怖を抑え、弧を描いて振り下ろせるように斧の刃を斜め後ろに動かす。コートに覆われているこいつの体を攻撃しても意味がないだろうが、それに覆われていない頭を叩き斬れば……そのあとは考えたくない。

 大男が間合いに来た瞬間に斧を振り上げ、そのまま奴の頭に向かって落ちる。

 外れた。刃を見上げた大男が首を傾け、真横の肩に当たってしまった。先ほどよりかなり食い込んで血が吹き出すが、致命傷にはならない。大男がそれを掴み、リスベットが離そうと必死に振り上げるが、離されなかった。

 リスベットの動きを止めた大男が拳を彼女に叩き込もうと片腕を動かし始め、それを見たリスベットは斧を手放そうとした。

 一瞬、不思議な感覚が襲う。がくっと沈むような感覚が……この感覚に覚えがある。ラクーンシティがまだ平和だった時、眠っていると高いところから落ちるような感覚を何度も経験していた。同僚のレベッカによると、極度に疲れた時によく出るらしい。

 けど自分は眠っていない。この街で起こっている惨劇がただの悪夢であり、早く覚めたいと思った。でも、いくつかの出来事が現実だと教える。それじゃあ今私が落ちているのは……? 下から物音が聞こえ、見下ろす。

 彼女と大男の足元の床が崩れていく。最初、チェシャを狙った大男の攻撃が外れた時に床にクレーターができ、そして床に当たらなかったとはいえ先程のリスベットの攻撃がきっかけとなり、足場が崩壊していく。先に大男が視界から消えたが、リスベットも落ちるところだ。

 

「リスベット!」

 

 二人から離れていた場所にいて、落下に巻き込まれないチェシャが叫び、手を伸ばす。リスベットがそれを掴もうとするが間に合わず、落下して強く背中を打ち、気を失った。

 

 

 

 

 

 

 雨が降り注ぐ暗闇の中、必死に走る若い婦警がいた。長時間走っていたのか息が荒く、足に痛みが感じる。それでも走り続ける。そうしないと奴らに捕まって喰われるから……

 彼女は一瞬、後ろを向いた。そこにいたのは同じ警察署で働く同僚、いつも行く店の店員、パトロール中に街で挨拶してくれる市民の皆、何気ない日常を共にした人たちが屍人となり彼女を追っていた。理性を失い目の前の餌を捕らえるようになった彼らだが、彼女にとっては別の理由で自分を追っているのかと思っている。耳にこんな声が聞こえる……

 

 ナゼワタシタチヲオイテニゲタ

 イタカッタ コワカッタ イマデモワスレラレナイ

 オレタチハタタカッテイタノニオマエハニゲタ

 ユルセナイ ユルセナイ 

 

 

 

 ゼッタイ ニガサナイ

 

 

 

 謝りたがった。償いたがった。

 心の中でそう思っても、いつも恐怖が勝り、私の体がそれに従う。どれくらい走ったのかは知らないが、彼らの姿が見えなくなると婦警はその場に腰を下ろした。大きく息を吸い、酸素を多く取り入れる。しばらくその場で休んだ彼女は疲れが残る体をなんとか立たせようとする。

 突然、体に激痛が走る。うめき声を上げて倒れる彼女の体に異変が現れ始めた。

 体中の皮膚の下から硬い何かが突き出し、全身を覆う。皮が突き破られるという激しい痛みに転げまわる。

 臀部からは音を立てて大きな尻尾が生えていく。それは長く立派に成長し、先端が鋭い形になった。

 背中からも皮を破り腕や足とは違う膜で作られた二つの羽が飛び出す。

 鱗に覆われた両手足の爪が硬質化し鋭く尖ったものに変容する。

 激しい頭痛と同時に頭が変化していき、鋭い牙が生えた口が鼻と共に前に突き出てマズルを形成する。

 髪の中から一対の角が後ろに伸びる。

 死んだように動かなくなった婦警だったソレは体を起こし、自分の姿を手で確認した。冷たい感じの鱗、背中や腰から生えた羽と尻尾、鋭い爪、肉食の爬虫類に近い顔……そばに水溜りを見つけ、そばに寄って映し出されているのを目にすると同時に雷がなった。

 桜色の髪の毛と鱗をした人の形の竜が見返していた。

 これが今の私の姿。

 あの猫になっているおじいさんの孫が作っていた薬品を飲んだら、こうなった。

 体が化物になっても自我は消えなかった。

 

 

 

 

 

 

 肩を軽く叩かれ、悪夢から覚ましたリスベット。体は痛むが、なんとか顔を上げて周囲を見渡す。穴が空いている天井がある東側一階の廊下で瓦礫の中に横だわっていて、そばには後輩のレオンが見下ろしていた。彼の姿が視界に入ると、すぐに体を起こそうとしたが激痛が走り、顔を下ろした彼女は口を開いた。

 

「無事だったんだね、レオン君……」

「ああ。先輩こそ無事でよかった」

 

 お互いが生きていることを喜ぶ二人。しかし、気を失う前の記憶を思い出したリスベットは質問した。先ほど見渡した時、近くにいるはずのあの怪物の姿がない。

 

「あの化物は……?」

「怪物……例の大男か。派手な物音が聞こえてここに来た時は気絶した先輩一人だけだった」

「そっか。チェシャは?」

「あの猫はクレアと合流したようだ。これで彼女に通信した時に聞いた」

 

 腰のポーチからレシーバーを取り出して見せるレオン。それを見たリスベットは自分のは前から壊れたんだっけと思い出しながら、そばにあった斧を杖代わりにしてゆっくりと体を起こす。ある程度痛みは引いてきたようだ。

 さてと……これからどうしようか。これでまたレオンと行動できるようになったけど、脱出に使えそうなのあったかな。

 

「レオン君、何か見つけた?」

「新しくマグナムと弾薬。銃の一つくらい先輩が持ってくれ」

「……射撃は得意な方じゃないけど」

 

 そう言いながらも彼からハンドガンを受け取ったリスベットは、廊下の端にある下りの階段を指差すレオンに尋ねられた。

 

「あの先は?」

「地下の駐車場だよ。武器庫や変電室があって留置場や犬舎もあるよ……やっぱ行く?」

 

 留置場にはもちろん拘束された者がいて、犬舎にも犬が飼育されている。普段なら苦手な人は来れそうにない場所だが、今のラクーンシティの状況を考えると……来る人なんて一人もいないはず。でもそこに脱出に使えそうなのがあるかもしれないから……

 

「そのやっぱだ。安心してくれ、俺が守ってやるから」

「い、いいよ、もう人間じゃないから自分の身は自分で……」

「でも先輩が女性であることは変わりない。レディを守るのが男だ」

 

 その言葉に思わず「ありがとう」と言ってしまうリスベット。レオンからもらったハンドガンを腰のホルスターに入れ、斧を片手に彼と一緒に地下への階段に向かう。

 

 

to be continued




 どうも読者の皆さんお久しぶり、初めての方ははじめまして、Pixivで小説を書いていた影絵師です。
 コメントが来ない、低評価をつけた理由を伝えてくれない等でPixivに移りましたけど、そこでもトラブルに巻き込まれてしまい、落ち着くためにここにきました。
 今回は臆病ドラゴンのリスベットがメインでした。次回は老いぼれ猫チェシャとクレア、そして重要キャラ――シェリーのやりとりです。

 コメントを書いて高評価にして、次回もお楽しみに。(低評価をつけたいならつけてもいいですが、なるべく理由と直す点を書いてください。そうしないと続けられないので)


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セーラー服の子供

 

 大男とリスベットが床の崩れに巻き込まれて消えた今、チェシャだけが二階の廊下に座り込んでいた。すぐ彼女の無事を確かめに穴に飛び込むことを考えるが、大男が出現する前の目的を思い出し、ヘリコプターの横の歪んだ扉を見る。リスベットの体当たりのおかげでどうにかこじ開けられそうだ。

 大男の攻撃で痛む体をなんとか起こし、その扉の前に移動する。両手で押して隙間を作るが、猫の自分が通れても普通の人間は通れそうにない。人を連れて戻ることを考えるなら歪んた扉を破壊した方がいいだろう。

 一歩下がり、瞬発力を活かして突進した。が、戦闘後の体に激痛が走り、扉に変化はない。リスベットだから動かせる程度に崩せたかもしれない。そう思いながら特に扉にぶつけた肩を押さえ、リスベットの下に行こうと床に空いた穴に飛び込もうとした。

 

「チェシャ!」

 

 誰かの呼び声に振り向くと、S.T.A.R.S.のオフィスに置いていってしまったクレアが駆け寄る。

 

「勝手に走って行かないで。いくらあなたでも無事でいられる保証がないわ」

「……すまにゃい。今度からは気をつけるにゃ」

 

 彼女に謝る時に何かを持っているのが目に入り、指差して尋ねる。

 

「それは?」

「プラスチック爆弾よ。押収物倉庫に保管されてた物を何かに使えないかと持ってきたの。信管も一階のオフィスで見つけたわ」

「一階のオフィス……マービンが鍵をかけたはずにゃ」

「……彼がかけてない扉から入ったけど、もう」

 

 彼女の表情と言葉で彼はもうこの世にいないと察した。ゾンビではなく人として死んだことを願いながらチェシャは突進したばかりの扉に視線を移し、クレアに聞く。

 

「それの使い方は知っているのにゃ?」

「ええ。こういうのは粘土のような爆弾に信管を埋め込み、離れてから爆発させるって兄さんが」

「……君の兄さんは心配性だにゃ」

 

 そう呆れながらも彼女に任せた。例の扉から離れた場所にチェシャは待機し、クレアの行動を見守る。信管を埋めた爆弾を扉に貼り付け、チェシャの下に移動してスイッチを押した。

 大きな揺れと同時に爆発音が鳴り響く。思わず両耳を塞ぎ忘れたことを後悔するチェシャはクレアと共に角から顔を出して確認する。扉が綺麗な爆破され、塞がれていた通路が姿を現した。

 

「派手にやったにゃ」

「まさかここまでの威力があったなんて。あの廊下も安全だと言えないわ」

 

 チェシャが前を歩いて新たな通路の床にダメージがないかを確認し、クレアに伝えて歩かせる。廊下の先にあるドアにたどり着き、取っ手を握り開けようとした時にクレアが止める。

 

「待って。もしも人がいたらチェシャを見てパニックを起こすかもしれない。それに……」

 

 取り出した一つの書類を渡されて、それに目を通した。

 

――

 連邦警察局・内務調査報告書

 

 ラクーンシティ警察署 『S.T.A.R.S.』隊員 クリス・レッドフィールド殿

 

 貴殿より依頼があった件につき、内偵した結果、以下のことが判明した。

 

(1)アンブレラ社が極秘に開発中のGウイルスについて

 現在のところ、Gウイルスなるものが存在するかどうかは判明せず。引き続き内偵を続ける。

 

(2)ラクーンシティ警察署長 ブライアン・アイアンズについて

 署長ブライアン・アイアンズは、過去五年間に渡り、アンブレラ社から、多額の賄賂を受け取っていた疑惑あり。おそらくアンブレラ社が引き起こしたと思われる洋館事件及び数々の不審な事件のもみ消し工作に一役買っていたと考えられる。

 また署長は、大学時代、二度に渡り女子学生に乱暴を働いた疑いがあり、精神鑑定を受けたが、成績優秀のため不問に付されている。

 

 以上のことから、今後は十分に注意をして行動されたし。

 

 合衆国連邦警察局内務調査室課長 ジャック・ハミルトン

――

 

 あの署長……アンブレラ社に勤めている孫から連絡が来ないので警察に相談しに来た時に署長が話を聞かずに私を追い払った記憶はあるが、こういうことだったのか。洋館事件から生還したクリスたちの話を信じなかったのも署長の妨害によるものだな。

 署長に対する怒りが強まったが、今更この報告書を見せたのかが気になった。

 

「あんにゃ署長がどうかしたのにゃ」

「さっき地図を見たけど、この扉の向こうが署長室なの。必ずいるとは思わないけど、仮にブライアン署長がいたらあなたを殺すつもりよ。チェシャはこの近くに隠れて、私一人が調べに行くわ」

「待つにゃ。この報告書には女子学生に乱暴してたと書いてあったにゃ。あの無礼者に君を行かせるわけには行かにゃい」

「大丈夫よ。兄さんから護衛術を教えてもらったし、十分な武器も持っているから平気だわ」

 

 ……確かにグレネードランチャーならあの署長も手出ししないだろう。クレアの提案をのみ、廊下の陰に身を潜める。

 怪物が襲撃して来ないか警戒しながらもリボルバーを回転させて退屈しのぎをする。数分間が経ち、彼女一人で行かせたのは間違いだったのかという焦りが募り始め、署長室に突入しようと考え始めた時だった。

 その部屋に続く廊下に誰かが飛び出した。チェシャの半分程の背丈のそれは見覚えがある。クレアと別れるきっかけであるセーラー服の少女だ。猫の姿を見た少女が一瞬怯えるのを見て、チェシャはため息をつく。署長ではなくとも、今の私を見れば誰だってそういう反応をするだろうな。

 しかし、少女は近寄らないが逃げ出そうとせず呼んだ。

 

「もしかして……チェシャ?」

 

 予想外の反応に驚くが、頷いて答える。

 

「そうだが、どうして逃げにゃいにゃ?」

「クレアが言ってたの、言葉を喋れる優しい年寄り猫さんがいるって。本当にいたんだ」

 

 もっとまともな説明をしなかったのかいと思いながらも、この子がいたはずの部屋に行ったクレアのことを尋ねる。

 

「そのクレアはどうしたにゃ? 一緒じゃにゃかったのか?」

「化物がやってくる……ゾンビより大きい化物が私を探してるの! さっき聞こえたの、早く逃げないと――」

「待て。逃げたい気持ちはわかるが、何も考えず逃げ続けると危険にゃ目に合うにゃ。今は私とクレアと一緒にいにゃさい」

「でも、パパとママもここのどこかに……」

 

 なんとか説得しているとクレアも署長室から出てきた。少女の姿を見て安心した彼女は駆け寄り、チェシャに感謝する。

 

「ありがとう、シェリーを止めてくれて。危ない目に合わせるところだったわ」

「シェリー……にゃ。いい名前じゃにゃいか。どうしてこの子が警察署に?」

「両親に言われてここに避難したの。きっと安全だと思ってたけど、もう危険な場所よ。ところで署長に会わなかった?」

「いや……この子と君が部屋から出たのは見たが、署長は出てこにゃかったにゃ」

 

 それを聞いたクレアが驚いた。彼女からの詳しい話によると、シェリーに出会う前に署長と会っていたらしい。市長の娘の死体を机に置く、それがゾンビになるのを防ぐための対策を自慢げに説明する、部屋に飾られていた剥製を見せつけるなど、報告書に書かれていた問題ある人物に間違いない。

 その後、謎の怪物の咆哮を聞いて走り出すシェリーをクレアが追ったが、先ほどいたはずの署長が死体と共に消えたらしい。

 

「……ブライアン署長のことも気になるけど、ハートの形をした鍵を見つけたわ。これで一階の扉を開けるかもしれない」

「そうか。シェリー……だにゃ? パパとママを見つけるまでは私たちと一緒にいた方が安全にゃ」

「でも化物が……」

「大丈夫にゃ。下には強いドラゴンもいるし、いざとにゃったら化け猫のチェシャがやっつけるにゃ」

 

 とはいえ、あの大男には苦戦したがな……

 子供を失望させないよう口に出さず、シェリー、クレアと共に一階に向かうのだった。

 

 

to be continued




 どうも影絵師です。

 バイオハザード7を楽しんでいますか? シリーズ始め頃にあったホラー並で常に心臓の鼓動が激しくなりました。動物的なクリーチャーを期待してたのですが、それはもう出たのでいいとしましょう。でもまさか公式で自我ありのやつが出るとは……
 余談ですが、健全じゃない方の作品のネタがもう……竜×猫の続きは時間的に合わないし、流石に今回出てきた子を襲うのも……(書かないとは書いてない)
 それでは次回もお楽しみに。


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