腐った私と腐った目の彼 (鉄生)
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プロローグ?

初ssになります。

アニメの俺ガイル2期を見直していて、衝動的に書きたくなったお話です。

初心者ですので、誤字脱字などありましたら教えて頂けるとうれしいです。

時系列は原作に沿って進めていくつもりです。

八幡視点だったり姫菜視点だったり、話によって代えるつもりです。

今回は姫菜視点です。



いつからだろう。ふとした瞬間、彼を目で追ってしまうようになったのは。

 

いつからだろう。彼の行動の本当の意味を理解できるようになったのは。

 

よくよく考えると、初めてちゃんと彼を見た時から気にはなっていたのかもしれない。彼ならと、期待していたのかもしれない。

 

初めてまともに彼を見たのは、優美子達とテニスコートへ押しかけた時。

彼は訳の分からないことを言いながらも、戸塚くんの大切な場所を守って見せた。

 

初めてちゃんとした交流をしたのは千葉村へ行った時。

いきなり話し掛けたらビクッとしてたなぁ。

あの時は誰も思いつかない、普通の人には思いつけない方法で問題を「解消」していたな。

 

そしてつい先日行われた文化祭。彼は学校一の嫌われ者になった。

私はまったく興味が無かったけれど、相模という女子はそれなりに周囲への影響力があったようで、噂はあっという間に広がっていった。

 

 

 

 

 

そんな彼にも、居場所はあった。

 

『奉仕部』

 

私の友達である由比ヶ浜結衣と、才色兼備な雪ノ下雪乃さんと、彼。

 

 

そんな彼の居場所でもある奉仕部のドアの前に今私は立っている。

名目上は奉仕部への依頼の為に。

 

けれど彼なら、きっと理解してくれるだろう。

私の言葉の本当の意味を。

私の蓋をしてしまった心の中を見透かすように。

 

さぁ、いつまでもこの場に立ち止まっていないで行きますか。

 

偽りの仮面を被って。

 

 

ガラガラ…

 

「失礼します。やぁ結衣、はろはろ〜」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

私からの依頼について一通りの説明は終わった。

戸部っちの名前が出た時の結衣のリアクションからして、戸部っちもここに相談をしに来た事はすぐにわかってしまった。

 

 

彼女達は、本当に私が今のグループが変わってしまうことを心配しているのだと思っているのだろう。

 

けれど、そうじゃない。

 

私の本当の依頼はまた別にある。

 

彼ならきっとわかるだろう。

 

 

念のため、部室からの帰り際に

 

 

「ヒキタニく〜ん、よろしくね〜」

 

 

と言っておいたし、きっと大丈夫だろう。

 

 

彼は今回、どんな方法で私を助けてくれるのかな。

 

「ふふっ♪」

 

柄にもない。けれど楽しみでしかたない。

 

彼の行動に期待しつつ、私は家路についた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

そして修学旅行最終日の夜、私は戸部っちに呼び出された。

 

 

あれー?ヒキタニくん?

私の本当の依頼に、まさか気づいてないわけないよね?

なにかしらしてくるんだよねー?

 

 

呼び出された場所に私は向かう。

ここから見えるのは戸部っち一人。

 

 

あれ…?

 

 

戸部っちが私に向かい合い、何かを伝えようとする。

 

 

あぁ…私のお願い、彼には理解してもらえなかったのかな。

それとも、理解はしたけど助けてくれないのかな。

 

 

私は半ば諦めて、目線を下に向け、戸部っちの言葉を聞こうとする。

 

 

そんな時

 

 

ザッザッザッ…

 

 

足音?

私は気になって顔を上げる。

 

 

そこには彼がいる。

私が、きっと理解してくれるだろうと期待していた彼がいる。

 

 

そんな彼が口を開く。

 

 

「ずっと前から好きでした。俺と付き合ってください」

 

 

……ぷっ。ダメだ笑っちゃいそう。

私の予想を遥かに超えてきた。

 

 

わかる、わかるんだよ?

これで私が

「ごめんなさい。今は誰とも付き合う気がないの。誰に告白されても、付き合う気はないよ」

と言えば、この場は終わるのだろう。

戸部っちも告白できず、私達のグループはこれまでどおり。

 

 

 

 

 

でも、ごめんね☆

 

 

 

 

「こんな私でよければ、お願いします。『比企谷』くん♪」

 

 

 

 

「「…………………は?」」

 

 

 

あ、二人がハモった。これはとべはちの予感!




ここまでご覧頂きありがとうございました。

何か思う事があれば、ご意見頂けるとうれしいですm(_ _)m

次の話は八幡視点になると思います!


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そして彼と彼女の修学旅行は終わりを迎える

とりあえず途中まで書いてあった修学旅行編を完成させてみました。

今回の話は八幡視点になります。

なかなか思うように表現できない部分もありますが、読んでみて頂けるとうれしいです。


「「…………………は?」」

 

いかんいかん戸部とハモってしまった。

 

…って、ちょっと待て!!!!!

状況が理解できん。

 

海老名さん?あなた今何て言った?

というか『比企谷』くんって言った?名前知ってたの?

 

 

「いや、あの…」

 

「話はもう終わりかな?じゃあ私はもう行くねー。これからよろしくね、『比企谷』くん♪」

 

満面の笑みでそう言うと、海老名さんは立ち去ろうとする。

 

「いや、ちょっと待ってくれ」

 

俺は引き止める。

 

「あ、そうかそうか。今後の話だよね。じゃあ、帰りの新幹線に乗る前に、駅の屋上に来てくれるかな?もちろん一人で!」

 

じゃあね〜と言いながら今度こそ立ち去ってしまう。

 

……………いやいやいやいやいや、は!???!?

え?どういうこと何これ?

 

おそらく海老名さんの依頼の男子同士で仲良くというというのは、自分に男子を近づけないでほしいという意味で間違いないはずだ。

だが戸部からの依頼を放棄するわけにもいかず、俺は戸部の意思を確認し、戸部が告白してしまう前に手を打った。

 

 

これで海老名さんが

「今は誰とも付き合う気はない」

とでも言ってくれれば今回の件はすべて丸く収まるはずだった。

 

はず、だったのだが……

 

「どうしてこうなった……」

 

「ヒキタニくん、さすがにこれはないわ〜…」

 

「戸部、今は一度宿に戻ろう」

 

戸部は葉山に連れられ宿へと戻る。

 

あぁ、理解が追いつかない。

なんだこれ。え?俺彼女できたの?リア充の仲間入りなの?

 

「とりあえず俺も戻るか……」

 

俺も一旦宿に戻ろうと振り返る。

 

 

 

 

そこには顔を真っ赤にして頬を膨らませている由比ヶ浜と、なぜか笑顔の雪ノ下がいた。

 

 

「よーっし、ちょっと夜の竹林でも散歩してくるかな」

 

俺は再度振り返る。よし、ダッシュで逃げよう。3、2、1で走り出そう。

 

3、2、、、

 

「比企谷くん?」

「ヒッキー!?」

 

あぁ、愛しの妹小町よ、お兄ちゃんはもう千葉に帰れないかもしれません……

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「比企谷くん、まずは説明してもらえるかしら?」

 

なんだよその笑顔怖い、怖いよ。あと怖い。

 

「そうだよヒッキー!なんでヒッキーが姫菜に告ってんの!?なんでおっけーされてんの!?二人は付き合うの!?」

 

質問多いね、うん。

 

「いや、説明って言われたって俺にだってこの状況がよくわか「なぜ告白したの?」ってない…」

 

いや、最後まで言わせろよ…

 

「まぁ、それはあれだ、どうせ戸部があのまま告白したって振られるのはわかりきってただろ?だから俺が告白し「ヒッキーは姫菜の事が好きなの!?」てだな…」

 

だから最後まで言わせろよ!

 

「いや、好きじゃねぇよ。あそこで俺が戸部の目の前で告白して、海老名さんに今は誰とも付き合う気はないと振ってもらえれば戸部の告白は防げただろ。そうす「なんで戸部っちが告白しちゃいけないの?」れば……」

 

あのね?由比ヶ浜さん?お願いだから話を聞いて?

 

「あー、それはだな、嵐山に行く前に海老名さんと少し話をしたんだが、その時に告白されたくないような事を間接的に言われてだな、葉山にも相談したらしいんだがあいつは戸部を止めることができなかったから、仕方なく俺が行動を起こしたんだよ…」

 

ようやく言いたいことを伝え終わると雪ノ下に睨みつけられる。

 

「話はわかったわ。でもそれがどうしてあなたが告白する理由になるの?あわよくばOKをもらってしまおうなどと下衆な考えをしていたのではないかしら?だいたいOKをもらってあなたは彼女と付き合うの?告り谷くん?」

 

「いやだから俺も理解が追いついてねーんだよ…振られるつもりだったって言っただろ?」

 

「では海老名さんを今すぐここに呼んで、私達の前できっぱりと彼女に言いなさい。さっきの告白は嘘でした、付き合う気はありません、と」

 

「いやいやなんでそうなるんだよ」

 

「では付き合うの?」

 

「だからそんなつもりはねーって。どうせ帰りの新幹線に乗る前に呼び出されてんだから、その時にでも話はつけてくるよ…」

 

「なら私達も行くわ」

 

「そーだよ!なんかよくわかんないけど私も行くよ!」

 

「さっきの話聞いてた?一人で来いって言われてたろ。まぁ俺一人で行ってもなんとかなるだろ…」

 

「そう…なら詳細はあとで報告しなさい。絶対によ」

 

「隠し事はダメだからね!ヒッキー!」

 

「わーったよ」

 

 

あぁ、今から先が思いやられる…。まずは海老名さんが何を考えてあんな返事をしたのか聞いてからだな。きっとあの人の事だから、俺の告白の真意には気づいていたはずだ。じゃあ、なぜあの返事を?ここが俺にはわからない。戸部を諦めさせるために意図してやったのか、それとも別の考えがあったのか、今の俺にはわからない。

 

色々と考え込みながら宿に戻っていると、ふと自販機が目に入る。

これだけの事があった日だ。考える事が多すぎて頭も回らなくなってきた。千葉県民のエナジードリンクでも飲んで、糖分を補給しよう。

 

そして自販機の目の前、俺は絶望する事になる。

 

「……京都にはマッ缶ねぇんだった」

 

早く千葉に帰りたいと、切実に思った。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

京都駅 屋上

 

 

「はろはろ〜。お待たせしちゃった?」

 

「うす」

 

「あははー。釣れないなぁ。先にお礼を言っておくね。ありがとう。」

 

「別に言わなくていい。相談された事についちゃ解決はしてない。むしろ俺が宿に戻った後なんて男子同士で気まずくなったまである」

 

「あー……でも、理解はしてたでしょ?」

 

やはり、俺の予想は当たっていた。海老名さんの言う男子同士で仲良く、という依頼は自分から男子を遠ざけてほしい、ひいては戸部の告白を未然に防いでほしいという事だったらしい。

 

でも、だったら…

 

「なんであんな返事をしたんだ?俺の考えもわかってただろ?」

 

「うん。わかってた。比企谷くんの考えを、私は理解してた」

 

「じゃあ…」

 

「私、腐ってるから」

 

俺の言葉を遮り、海老名さんは続ける。

 

「こんな趣味だし、普通の人に理解をしてもらえるとは思えない。けどさ、今は周りに普通の友達がいるじゃない?こんな私と仲良くやってくれる、今の自分の周りが好きなんだよ」

 

「こういうの久しぶりだから、なくすのは惜しいなって。今いる場所が、一緒にいてくれる人達が好きなんだ」

 

「けどね、その好きはLikeであって恋愛的な感情ではないんだよ。それなのに私に、誰かが恋愛感情をぶつけたら、きっとあのグループは壊れちゃうよね。まずそれが、戸部っちからの告白を防いでもらいたかった理由」

 

それは俺もわかっていた。俺に言わせれば、その程度で壊れる関係なんて上辺でしかない。その程度で壊れる関係なんてあってもなくても同じだ。だが、海老名姫菜はそれを守りたかったのだろう。

 

「それはなんとなくわかってたし、葉山も同じような事を言っていた。だけど、あの返事をする必要はなかっただろ?」

 

俺がもっともはっきりさせたい事は、これだ。 

 

「比企谷くんさ、鈍感だよね」

 

「………ふぇ?」

 

思わず変な声出ちゃったよ!

 

「私、まだ恋愛とかはよくわからないけど、比企谷くんのこと、嫌いじゃないよ。それに比企谷くんとなら、うまく付き合えると思う」

 

「……じょ、じょ、冗談でもやめてくれ、そんな適当なこと言われるとうっかり勘違いして惚れそうになる」

 

じょじょじょってなんだよ大事なとこでどもっちゃったよ。

 

「冗談じゃないよ。きっと比企谷くんさ、普段の私が『本当の』私じゃないってわかってるよね?」

 

俺を見つめる海老名さんの目は真剣なものだった。

 

「今回の依頼は、比企谷くんを試したっていうのもあったんだよ。比企谷くんは、本当の私を、私の本音を察して理解してくれるのかなぁって。そしたらさ、告白されちゃうんだもん。私の本音を理解してくれて、その上告白までしてくれた。比企谷くんの事はある程度理解してるつもりだったけど予想以上だったよ」

 

「私の予想を超えてくれて本当にうれしかったし、そんな比企谷くんと付き合うのも面白そうだなーって思っちゃって、だからおっけーしてみました!」

 

そう言うと、海老名さんがここに来てから初めて笑った。この笑顔が偽りのものなのかそうでないのか今の俺はなんとなくわかってしまう。だが…

 

「……それはあれだな。俺を随分と高く評価してくれてるみたいだが、俺はそんな立派な人間じゃない。つまり勘違いだ」

 

「だから俺なんてやめておけ。今ならまだ噂も全然広まってもないみたいだし、いくらでも後戻りはできんだろ。つまりあの告白はなしってことで。じゃ」

 

おっけー八幡超クール。自分から告白しといてこんなこと言うのはさすがにあれだが、これで海老名さんも引いてくれるだろう。

 

俺は屋上を後にし、クラスメイト達が待機している列の目の前まで戻ってきた。思い出話に花を咲かせているクラスメイト達は少し離れた場所でも声が聞こえるくらいガヤガヤとしていた。

 

俺は戸塚を見つけてから列に戻ろうと、周りをキョロキョロと見渡す。そんな時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひきがやく〜ん。どうして『彼女』の私を置いて先に行っちゃうの〜」

 

 

 

 

なぜか俺の腕に海老名さんが抱きついてきた。

柔らかいいい匂いやばい柔らかい意外とあるんすね柔らかい。

 

 

 

じゃなくて!!!

再び周りを見渡すと、クラスメイト達はシーンと静まり返り、俺と海老名さんに目線を向けている……

 

 

「はぁ、もう帰りたい。……あ、これから帰るのか」

 

生きて帰れるかな……




ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

次回からは生徒会選挙編になります。次の話も八幡視点です。

あまり接点のないいろはすと海老名さんを絡ませるのが楽しみです。

誤字や脱字があったりと、読みづらい部分もあると思いますが、次回も読んで頂けるとうれしいですm(_ _)m


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不本意ながら彼女との関係は終わらない

コメントをして頂いたり、お気に入りに登録して頂いた方々、ありがとうございます。

このSSを読んでくださる方々に感謝し、できるだけ楽しんでもらえるよう頑張ります!

今回は八幡視点です。

自分が大好きなあの子も出ます。


「学校行きたくねぇ……」

 

俺は小町の作ってくれた朝食を食べながら、あの出来事を思い出しついぼやいてしまう。

 

修学旅行からの帰りの新幹線を待つクラスメイト。突然俺の腕に抱きついてきた海老名さん。一気に注目を集めてしまった俺はその視線に耐えきれず、新幹線乗車のギリギリまでトイレに身を潜め、新幹線に乗車するとすぐに目を閉じた。

なんとか誰にも話しかけられる事なく帰宅したはいいものの、学生である俺は今日も今日とて学校である。

 

「お兄ちゃん、なんかあった?」

 

何もないとは言えないが、ありのままの話をするわけにはいかず、適当にごまかす。

 

「まぁあれだ、なんもなかったとは言えないんだが、正直俺自身も理解が追いついてない部分もあってだな……」

 

「まーたなんかやらかしたのかこのごみいちゃんは…仕方ないなぁ、小町も一緒に考えてあげるから一つ一つ話してみそ!」

 

「そう言われてもだな…」

 

修学旅行でクラスメイトの女の子に告白したらおっけーもらって彼女ができましたまる。

なんて素直に言えるわけないんだよな…

 

「あのな、正直ちょっと俺もわかってないことが多すぎるんだわ。曖昧な部分が多すぎてそれがどういう事になってるかは多分これから学校へ行けばわかるんだろうが今の段階ではなんとも言えない。だがそれをはっきりさせてしまうとおそらく俺はとてつもなく面倒な事に巻き込まれそうなんだ。だから学校に行きたくない。なんならこのまま引きこもりたいまである」

 

「はぁ…」

 

ちょっと小町ちゃん?何その目?お兄ちゃん泣いちゃうよ?

 

「とりあえず!お兄ちゃんは学校へ行きなさい!そして色々とはっきりさせて、全てを!事細かに!小町に報告しなさい!じゃないと一生口きかない!」

 

はぁ……

小町にここまで言われてしまったら仕方ない。俺は重い腰を上げ、学校へ向かう決意をした。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

教室に到着するなり机に突っ伏し、なんとか午前中の授業を乗り切った。

昼休みになると俺はすぐに教室を脱出し、購買にてパンを買い、愛しのマッ缶も購入しベストプレイスへと向かう。

心が休まる時間を、ようやく迎えられたというのに、ベストプレイスにはすでに誰かがいるようだ。まぁ誰かって言っても海老名さんなんですけどね。はい。

 

「やぁやぁヒキタニくん、はろはろ〜」

 

「え、なんでいんの?」

 

「やだなぁ、せっかく彼女が一緒にランチしようと思って来たのに、その言い方〜」

 

「いや、俺一人で食いたいんだけど…というかなんでこの場所知ってんの?」

 

「ヒキタニくんの事で、私が知らない事なんてないのだよ!」

 

えっへん!とでも聞こえてくるような態度で胸を張る海老名さん。

まぁちょうどいい。この間の件についてしっかりと話をしておきたいと思ってはいたしな。教室で俺から声をかけるわけにもいかんし。

 

「はぁ…まぁいいわ。隣座るぞ」

 

「どうぞどうぞ」

 

ある程度の距離をとって座り、買ってきたパンを食べながら話を始める。

え?なんでこの子近づいてくるの?俺のこと好きなの?

 

「あのさぁ、その彼女ってやつなんなの?俺、あの告白はなしってことでって言ったよな?」

 

「あぁ〜、言ってたねぇ。けど私、それを了承した覚えはないし、了承するつもりもないよ?」

 

「いや、おかしいでしょ。好きでもないやつと付き合う必要ないし、付き合う事にメリットがない。戸部だってすぐに告白しようなんて思わないだろうしな」

 

「ヒキタニくんこそ私の話聞いてた?私、ヒキタニくんの事嫌いじゃないよ。」

 

「嫌いじゃないから付き合うって意味わからんでしょ…つーかこの間はちゃんと俺の名前呼んでなかった?」

 

「あははー、気になっちゃう?一応学校では周りに合わせといたほうがいいかなーって思ってね」

 

「まぁなんでもいいけどよ…とりあえず付き合うってのはなしな。海老名さんの周りにはそっちから説明しといてくれ。俺はそんな説明して回るのはごめんだ」

 

「うん、やだ。あと彼女なんだし姫菜って呼んでいいよ。海老名さんってなんかよそよそしい」

 

「は?いやいや待ってくれ。俺と付き合うメリットもないし、だいたいこれ、付き合ってるってことになってんの?そのへんすら曖昧なんだが」

 

「へ?ヒキタニくんが私に告白をしてくれて、私はそれを受けたんだから付き合ってるでしょ?」

 

何言ってんだこいつ?みたいな表情をする海老名さん。

とりあえずこれだけははっきりした。俺と海老名さんは不本意ながら付き合っているらしい。だったら…

 

「そうか、だったら別れてくれ。あの告白は間違いだ。俺は海老名さんのことを好きともなんとも思ってない」

 

「や」

 

「いや、やってなんだよやって…」

 

「あ!もうすぐ昼休み終わっちゃうよ。そろそろ戻ろうか〜ヒキ…『八幡』くん」

 

「は?」

 

そう言うと海老名さんは俺の袖を掴み、一緒に教室へと向かって歩き出す。

いやいやいやいや話がまったくわからん。というか通じない。え?本当に付き合うの?マジで?

海老名さんは何を考えてんだよ…

 

そうこう考えているうちに教室へと辿り着く。その時、俺と海老名さんへ、またあの時と同じ目線が向けられる。あぁ、またかこの感じ。なんだかお腹痛くなってきたな…

 

「はぁ…帰りたい…」

 

俺は即座に自分の机に突っ伏し、午前中と同じように狸寝入りを始めるのだった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

放課後、HR終了とともに俺は教室から逃げ出す。だがそのまま素直に部室へ行く気にはなれず、マッ缶片手に校内をぶらついていた。時刻は16時を過ぎたあたり、俺はまだ部室へ行くのを躊躇っていた。

 

「はぁ…本当に行きたくねぇ…もういいかな帰っちゃっても…」

 

と言いつつも、ようやく部室前に到着する。中からは二人の話し声が聞こえる。

 

「っし、行くか…」

 

ガラッ…

 

部室のドアを開けると、二人の会話は止まる。なんなら空気が止まったまである。

気にせずに定位置に座り、読みかけの本を開くとふいに声がかけられる。

 

「ようやく来たわね」

 

「あぁ…」

 

「では、どうなっているのか全て説明してもらいましょうか」

 

雪ノ下、めっちゃ笑顔。何その笑顔。えーやだ超怖いんですけどー…

 

「京都駅ではクラスメイトの前でイチャイチャと腕を組み、今日の昼休みは手を繋ぎながら教室へ戻ってきたそうね。これはどういう事かしら?あなた私達に言った事を忘れたの?付き合うつもりはない、話はつけてくると言ったわよね?話をつけたうえで、あなたはこんな行動しているのかしら、チャラ谷くん」

 

「ちょっと待て、手は繋いでない」

 

「そんな事どうだっていいからちゃんと説明してヒッキー!姫菜に聞いても『あははー』とか『えへへー』とか、そんな感じでしか答えてくれないし、クラスの子達はみんなヒッキーと姫菜が付き合ってると思ってるよ!優美子だってヒッキー呼び出して話つけてくるとか言ってたんだから!」

 

「あー…めんどくせ」ボソッ

 

「比企谷くん、なにか?」

 

「い、いえ、なんでもないでしゅよ?」

 

なんで聞こえてんだよ怖えよ思わず噛んじゃったよ!

 

「簡単に説明すると、俺は海老名さんと付き合ってる、らしい。不本意だが」

 

「「は?」」

 

ハモるなよ怖えって…

 

「あなた、海老名さんとどういう話をつけにいったの?今後の交際について?」

 

「違ぇよ…俺はちゃんとあの告白はなしだと言ったんだが、海老名さんはそれを了承しなかった。だったら別れてくれとも言ったが「や」の一言で済まされちまったんだよ。俺にはあの人が何を考えてんのかよくわからん」

 

「や」って言われてなんだこいつかわいいなとか思ってしまったのは秘密だ。

 

「じゃあ本当にヒッキーと姫菜は付き合ってるの?」

 

「形上そうなるな。不本意だが」

 

「そう…なんだ…」

 

「あぁ、だから今後どうなるか今の段階ではまだなんとも言えんが、俺は交際を続けていくつもりはないぞ」

 

「けどさ、姫菜が本当にヒッキーを好きで、ヒッキーも姫菜のいいところを見つけて好きになっちゃったら?」

 

「いや、俺なんかを好きになるやつなんているわけないだろ。海老名さんも、俺のことは嫌いじゃないと言うだけで、好きとは言われてない」

 

「「はぁ…」」

 

今度は二人揃って溜め息ですかそうですか。

 

コンコン…

 

そんな時、部室のドアをノックする音が聞こえた。

 

ガラッ

 

「邪魔するぞー。少し頼みたい事があるんだが…ん?何かあったのかね?」

 

平塚先生、あんた今輝いてるよ。ようやく質問攻めが終わる…

 

「いや…それよりなんか用で「比企谷くんに彼女ができたらしいので話を伺っていました」すか…」

 

おい!余計なこと言うな!平塚先生、開いた口が塞がってないだろーが!

 

「えぇ〜!?比企谷くん、彼女さんができたの〜!?」

 

「城廻先輩?」

 

「あ、いきなりごめんね〜。ちょっと相談したいことがあって…入っていいよ」

 

「失礼しまーす」

 

「あ、いろはちゃん!やっはろー!」

 

「結衣先輩、こんにちはでーす!」

 

そこには見知らぬ女子生徒が立っていた。

八幡センサーが告げている、関わると面倒な事になると。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「生徒会選挙の候補者?」

 

「はい!…あ、今向いてなさそうとか思いませんでした?よく言われるからわかるんですよ〜。トロそうとか〜鈍そうとか〜」

 

「あ、いや、別に」

 

何なのこの子やりづらい。

 

「あのね、一色さんは生徒会長に立候補してるんだけど…その…当選しないようにしたいの」

 

「ならなぜ立候補を?」

 

「私が自分で立候補したんじゃなくて〜勝手にされてて〜」

 

え?なにそれどこのアイドル?…しかしあれだな、こいつ本当に女子に嫌われてそう。

かわいい自分を見せて男子を手玉にとるのは上手いんだろうが、そんな姿見てたら女子からは反感をかう。

 

「やりたくないなら選挙で落ちればいい。というかそれしかないだろ」

 

「う〜ん…ただ立候補が一色さんだけだから…」

 

「となると、信任投票ですね」

 

「信任投票で落選って超かっこ悪いじゃないですか〜」

 

「応援演説をやる奴は決まってるのか?」

 

「いえ…」

 

「なら手っ取り早い。最悪、信任投票になっても確実に落選できて、一色はノーダメージで切り抜けられればいいんだろ?だったら応援演説が原因で不信任になればいい。それなら誰も一色のことは気にしないだろ」

 

「ねぇ、その演説ってさ、誰が、やるのかな……?」

 

「……そのやり方を認めるわけにはいかないわ」

 

「理由は?」

 

「確実性がないからよ。第一、どこかの誰かさんはつい先日、他の誰かの代わりに好きでもない人に告白をして、予想外のOKをもらって付き合う事になってしまうという失敗をしたじゃない。全てがあなたの思いどおりになると思って?弄び谷くん」

 

…ここで、この状況でそれ言う?

 

「すぐに結論は出なそうだな…城廻、一色、今日のところは一度帰りたまえ。また後日にしよう」

 

城廻先輩と一色が部室を後にし、雪ノ下は何かを思い出したように先生に尋ねる。

 

「平塚先生、今のところ勝敗はどうなっていますか?」

 

「勝敗って」

 

「…誰が一番人に奉仕できるか、人の悩みを解決できるかって勝負だな。勝ったらなんでも言うことを聞いてもらえる」

 

「そんなのあったんだ!?」

 

「…………あ。そ、そうだなぁ、まだまだ勝敗を判断するには皆の奉仕が足りないかな!あはは…」

 

「はぁ…つまりまだ勝負はついていないと?」

 

「そういうことになるな」

 

「なら私達の意見が割れてもなんら問題ないというとになりますね」

 

「まぁそうだな。お互い無理に合わせる必要はない」

 

「わかりました。由比ヶ浜さん、ちょっと…」

 

そう言うと雪ノ下は由比ヶ浜に何かを耳打ちしている。

嫌な予感しかしねぇ…ここは退散するか…

 

「そういうことなら、俺はこれで」

 

ガラッ…

 

俺は奉仕部をなんなく退室できた。これはこれでなんか怖い。

廊下を歩いていると、不意に肩を掴まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「比企谷!彼女ができたとはどういう事かね!?ラーメンでも食べながら詳しく話を聞こうかこの裏切り者が!!!!!!」

 

残念!静ちゃんでした!!!!

 

一難去ってまた一難とはまさにこの事である。

 




いかがだったでしょうか。一部原作に忠実になりすぎた部分もあったとは思いますが、今回はこんな感じです。

次回は姫菜視点になります。早く一色ちゃんと絡ませたいですね…

最後まで読んで頂き、ありがとうございました!


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こうして彼女と彼の関係はようやく始まる

投稿遅れてしまい申し訳ないです。
最後の部分で妄想が膨らみすぎまして…

気づけばUAが7000を超え、お気に入りも300を超えていました。

自分の未熟な文章を読んでくれている方々に感謝です。

今回は姫菜視点になります。


彼が奉仕部の部室を出たことを確認した後、私はこの扉の前に立っていた。

さすがにね、この部活の人達にはしっかりとお話しておこうと思ったんだ。

結衣には悪いことしちゃったかな。でもね、私はもう引くつもりないんだよ。

 

コンコン…

 

私は柄にもなく深呼吸をして気持ちを落ち着けてから、部室の扉を叩いた。

 

「どうぞ」

 

「失礼しまーす。やぁ結衣、雪ノ下さんも、はろはろ〜」

 

あぁ、そんなキョトンとした顔しちゃって。

二人共私がいきなり来たことに驚きを隠せてない。

 

「いきなりごめんねー。二人には、ちゃんとお話しておこうと思って。もう本人からも聞いてると思うけど、私と『八幡』くん、付き合うことになったから」

 

私が彼を名前呼びした瞬間、雪ノ下さんは表情が固まり、結衣は口を開けたまま文字通りぽかーんとしている。

 

「……彼がどこの誰と付き合ったとしても、私達には関係のないことなのだけれど」

 

雪ノ下さんが話始める。素直じゃないなぁ。

 

「そっか。まぁそうだよねぇ。けど一応、八幡くんと同じ部活のお二人には『彼女』の私からもちゃんと伝えておきたかっただけなんだよ」

 

あれれ?私こんなキャラだった?

 

「姫菜さ、教室で聞いてもちゃんと答えてくれなかったけど、本当にヒッキーと付き合うの?その…ヒッキーのこと、好き、なの?」

 

「付き合うよ。離れるつもりもないしね。好きかどうかと聞かれると…私って恋愛経験ないからよくわからないんだけど、八幡くんのことは嫌いじゃないよ」

 

「好きでもないのによくあんな男と付き合おうなんて思えるものね。彼はあなたと付き合うことを不本意だと言っていたわ。つまりお互い好き同士というわけではない。そんな気持ちのまま交際をしてもお互いメリットがないと思うのだけれど」

 

「あははー、雪ノ下さん、何か勘違いしてない?」

 

「どういうこと?」

 

「好きの反対は無関心だってよくいうけど、私はそのとおりだと思う。私もね、それなりに男子から声をかけられたり、告白みたいなことをされたこともあった。けど、その男子達には興味をもてなかった。けどね、八幡くんは違うんだ。少なくとも嫌いじゃないと思えるくらいには惹かれてるって言えばいいのかな?」

 

「あなたの気持ちはわかったわ。けれど比企谷くん自身が付き合うことを不本意だと言っている以上、まともな交際にはならないと思うわ」

 

あぁ、そうなのか。

雪ノ下さんも結衣も、奉仕部として同じ時間を過ごしていたはずなのに、彼の本質に気づいていないんだ。彼は多少強引にいかないとビクともしないだろうに。

二人のことはライバルになるかもしれないと思ってたけど、これなら……

 

「それはまぁ、これから私がどうにかするよ」

 

それだけ言い残して、私は奉仕部をあとにした。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

奉仕部をあとにした私は、八幡くんの最寄駅に来ていた。

なんで最寄駅を知ってるかって?

八幡くんの事で私が知らない事なんてないのだよ!

…とまぁ、冗談はおいといて、あのあとメールで結衣に聞いたのだ。

 

その理由としては、八幡くんの連絡先を手に入れるためだったりする。

付き合い始めたのにお互いの連絡先を知らないというのはさすがにね……

あと、ちょっと聞きたいこともあったり。

 

けれど私は八幡くんの家までは知らないので、たまたま会えたらいいなぁ、くらいの気持ちで最寄駅に来てみたのであります。

 

ただそこはさすがというかなんというか、八幡くん、いました。

駅前のドーナツショップの中で、綺麗なお姉さんと他校の女子二人に囲まれてね。

ほほぅ…これはあまりいい気分にならないなぁ…

これが嫉妬って感情なのかな?まぁとりあえず、行ってみますか。

 

 

「八幡く〜ん!」

 

「うわぁ……」

 

いやいや思いっきり嫌な顔しないでよ!

 

「え、なんでいんの?ここ地元じゃないよな?」

 

「違うよー。けど、八幡くんにちょっと用があって。たまたま見かけたから声をかけに来たんだよ」

 

「比企谷くん、お姉さんにこの子紹介してほしいなぁ☆八幡くんって呼ばれてるけど、まさか彼女さんとかー?」

 

綺麗なお姉さんが私を値踏みするように上から下に目線を向けながら声をかけてくる。

 

「いや、こいつは普通にただのクラスメ「彼女ですよー」イト…」

 

「ふーん。その話、詳しく聞きたいなぁ」

 

「比企谷に彼女とか、ウケる!」

 

他校の女子生徒さんも会話に入ってきた。

あ、私きっとこの人苦手だ。

 

「あ、じゃあ俺このあとちょっとあれがあれなんで…」

 

私はとっさに八幡くんの腕を掴んでいた。

 

「はぁ…マジでなんなんだよ今日は…せっかく平塚先生から逃げ切ったっつーのに…」

 

「はじめまして。私は海老名 姫菜といいます。八幡くんとは同じクラスで、修学旅行のときに告白されてお付き合いをしてます」

 

「ちょっ!」

 

「はじめましてー。私は雪ノ下 陽乃ね。そっかそっかー。今日だけで比企谷くんが告白した女の子二人に会えるなんてお姉さんは運がいいなぁ」

 

「二人?」

 

「あ、はじめましてー!私、折本 かおりっていいます。比企谷とは中学の同級生ですー。私も中学のとき比企谷に告られてさー」

 

ふいと私から顔を逸らす八幡くん。

これは後で詳しく話を聞く必要があるね。

 

「そうだったんですか。あの、私ちょっと彼とお話があるので、連れて行ってもいいですか?」

 

「えー!これから隼人もくるし、よかったら海老名ちゃんも一緒にお茶していかない?私、比企谷くんとのこともっと詳しく聞きたいなぁ」

 

ハヤ×ハチ…だと…?

……っていやいや違う。今日はそんな目的で来たわけじゃない。

 

「すいません、私門限があるのであまり遅くなるのはちょっと…」

 

「そっかそっかー。ま、今日はいいや。比企谷くん、この子達には私から隼人を紹介しとくから、帰ってもいいよー」

 

「……うす」

 

こうして、私と八幡くんは無事にドーナツショップから脱出した。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「まぁ、なに、あれだ、俺もあの場からはさっさと退散したかったんだよ。だからまぁ…助かった。とりあえず送ってくわ」

 

照れくさそうに頭をガシガシとかく彼。

あぁ、これが噂の捻デレか。思ってた以上の破壊力だ。

お言葉に甘えて送ってもらっている私は、ふいに彼に話しかける。

 

「…八幡くんてさ、ああいう子がタイプだったんだね。なんか意外」

 

「ばっ、ばかおまえあれはあれだ、タイプとかそういうんじゃねぇよ」

 

「でも好きだったから告白したんでしょ?」

 

「いや…あれを好きだったとは言わねぇよ。勝手に自分の理想を相手に押しつけて、勝手に期待してただけだ。ようするにノーカン」

 

「へぇ〜…」

 

「なんだよその反応…つーかさらっと名前で呼ぶのやめてくんね?勘違いしちまうだろ」

 

「彼女に名前で呼ばれることに勘違いもなにもないんだけどなぁ…あ、そうだそうだ、私八幡くんに用があったの。あそこの公園にちょっと寄っていいかな?」

 

帰り道にある小さな公園に寄ろうという私の提案を、彼は渋々ながら受け入れてくれた。

二人で公園のベンチに座り、話を始める。

 

「で、用って何?俺は早く帰って愛しの妹が作ってくれる夕飯食いたいんだが」

 

「まずさ、八幡くん、私に連絡先教えてよ」

 

「え、やだよ」

 

即答!?これはひどい…けど八幡くんだしね…

 

「大丈夫、私はそこらへんの女の子達とは違うし、毎日メールしてーとか毎日電話してーとか言わないからさ。ただ、本当に用があったときに彼氏の連絡先知らないって不便だなーと思って」

 

「そういうことならまぁ…ほれ、勝手にやってくれ」

 

「あっさり人に携帯渡せるってどうなのかな…って、この星だらけのゆいってまさか結衣?」

 

「あ?あぁそれな。由比ヶ浜のやつが勝手にやったんだが、変えるのが面倒だからそのままにしてあるだけだ。むしろ変え方知らん」

 

なるほど…

なら私は『愛しの姫菜ちゃん』っと。

あれ?これまた私のキャラじゃないかな?

登録を終えた私は彼にスマホを渡す。

 

「ん。…ってなんだよこれ普通に名前で登録しろよ!」

 

「いやいやー、結衣がそれなのに彼女の私が普通じゃつまらないかなーって」

 

「あのなぁ…昼にも言ったが、おまえ本気で俺と付き合うつもりか?俺はおまえのことをなんとも思ってねーんだぞ?」

 

「うん。というか八幡くん、いい加減観念して私の名前呼んでくれない?」

 

「いや、いきなり無理だから恥ずかしいわ普通に」

 

「まぁいいや、名前呼びはそのうちね。じゃあ次の話。八幡くんさ、なんでそんなに私と付き合うことを嫌がるの?不本意なんて言われて傷ついちゃったなー」

 

八幡くんがまだ私のことを好きではないとわかってはいるけど、ここまで拒否反応を示す理由はなんだろう。それが私は気になっていた。

 

「いや、だっておまえ、由比ヶ浜とか三浦とかと話してる時もなんとなく自分を隠してるだろ?一歩引いてるっつーか、どっか遠慮してるっつーか。そんな人が俺みたいなやつといきなり付き合うってなんだから信用できるわけねーだろ。なに?罰ゲーム?」

 

驚いた。素直に驚いた。

教室で結衣や優美子達と話しているときは、私は楽しんでいるつもりだった。

あの場所が好きだし、なくしたくないとも思ってた。

なのに彼から見た私は、どこか遠慮が見えたのだろう。やっぱり…

 

「やっぱり…やっぱり私、八幡くんとならうまく付き合えると思う。八幡くんは気づいてくれたみたいだけど、私って他人に一線引いちゃうんだ。けど、今いるあの場所は本当になくしたくないと思えるくらい大切なはずだったんだけどなぁ…」

 

「まぁ、一回癖になっちまったもんはそう簡単にはなくならねぇだろ。そう思えるようになったってだけでも充分な進歩なんじゃねーの?知らんけど。つーかそれでなんで俺とうまく付き合えるって話になんだよ」

 

「だって八幡くん、私のそういうとこ、気づいてくれてたんでしょ?理解してくれてたんでしょ?」

 

「まあな。ぼっちの人間観察スキルなめんな」

 

「私のこと観察してたんだ…」

 

「い、いやおまえ今のはだな…」

 

「あはは〜。ごめん、いじわる言っちゃったね」

 

あぁ、楽しいなぁ…

素直に人と話すのって、こんなに楽しかったのかな。

でも、こんな私の本音を引っ張り出せるのは、きっと彼だから。

 

「ねぇ、八幡くん。真面目なお話するね。やっぱり私、八幡くんのこと嫌いじゃないよ。むしろ惹かれてるんだと思う。けどね、私って基本的に腐ってるから、本気で人を好きになったことってないんだ。だからこの感情が好きってことなのかはわからないんだけど、やっぱり八幡くんとは付き合っていきたいと思うの」

 

「お、おう…」

 

「……あなたのその目から見た今の私は、嘘をついてるように見えますか?」

 

「俺の目ってなんだよ腐ってるってこと?」

 

「茶化さないで」

 

「はぁ…わかったよ。今のおまえが嘘をついてるようには見えん。これでもし嘘だったとしたらおまえは某超強化外骨格以上ってことになる。そんな人間いてほしくない」

 

「なにそれ…」

 

「ただまぁやっぱり、俺なんかと付き合っていくってきついんじゃね?クラスでもぼっちだし、文化祭のせいで悪名高くなっちまったし、そんなやつと付き合ってたらおまえもなんて言われるかわかんないだろ」

 

「もしかして私のことを心配してくれてる?」

 

「い、いや、別にそんなつもりじゃねぇけど…」

 

やっぱりこの人はずるい。

あっさりと私の偽りの仮面の下を見破り、蓋された心を見透かし、さらにそんな私の心配までしてくれるんだね。

 

「はぁ…もしこれで今後付き合ってくれないとか言うならハヤ×ハチの薄い本を描いて校内にバラまくからね。あ、トツ×ハチのほうがいい?」

 

「やめろ!マジでやめろ!けどトツ×ハチは個人的にくれ。戸塚の魅力を余すことなく描きあげてくれ」

 

「ん、じゃあよろしくね?八幡くんにはこれからどんどん私を好きになってもらうからさ」

 

そっと私は彼に手を差し出した。

 

「はぁ………マジでか………しゃーねぇな。わかったわかった」

 

彼はビクつきながらも私の手を握ってくれた。

 

「じゃあとりあえず私のことを名前で呼んでみよっか」

 

「いや、そういうの無理なんで」

 

「んー…じゃあ、えいっ」

 

私は握った手を引き、そのまま彼の腕に抱きつく。

そして、実は先程から準備していた自分のスマホを構える。

 

パシャッ

 

おお、我ながらいいのが撮れました。

 

スマホの画面には、自分でも初めて見るような笑顔の私と、うっすらと頬を赤くし、面白い顔をする彼が写っていた。

 

「今日はこれで勘弁してあげるね。今度ちゃんとしたのも撮ろうね!あ、これ私の待ち受けにしとくから」

 

「あの…キャラ変わりすぎじゃないですかね?」

 

「八幡くんの前でだけだよ」

 

私がそう言うと彼はまた照れくさそうに頭をガシガシとかきながら立ち上がる。

彼も少しは私に心を開いてくれたかな?

 

「とりあえずもうこんな時間だし帰るぞ。さっさと送ってくから」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

帰り道、私は自然に彼と手を繋げていた。

 

 

私と彼の恋人同士の関係は、ようやくスタートできた気がする。

 

これからもよろしくね、八幡くん。




いかがだったでしょうか。

海老名さんはこんなキャラじゃねぇよ!って思ってしまった方がいましたらすいません。
きっとデレたらこんなふうになるだろうなっていう私の勝手な妄想でございます。

今回もいろはすと海老名さん絡ませられませんでしたが、そのお楽しみはまた次回!

次回は八幡視点になります。


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彼と彼女はお互いに心を開き始める

世間はバレンタインですね。
八×姫のバレンタイン特別編も考えましたが、本編を優先したかったのでそれはまた後日にでも書ければいいなと思ってます。

前回の投稿から感想やお気に入りが増え、かなり驚いております。
このSSを読んでくれている方々には感謝しかありません!ありがとうございます!

今回は八幡視点になります。


「お兄ちゃーん、今日は随分遅かったねー。お風呂にする?小町にする?ご飯にする?それとも小町?」

 

放課後、平塚先生の魔の手からなんとか逃げ出した俺は、ほんの気まぐれで寄ったドーナツショップで魔王に捕まってしまったり、その店に居合わせた中学の同級生に黒歴史を暴露されたり、海老名さんとなんやかんやあったり…

そんなこんなでいつもよりかなり遅い時間に帰宅をした。

 

というか小町ちゃん?今小町って2回言ってなかった?大事な事だったの?

 

「あー…とりあえず風呂入ってくるわ。出たら飯で」

 

「いやーそこは迷わず小町って言うところでしょ!ポイント低いよお兄ちゃん!」

 

「ん、まぁここ最近色々あったからな。小町には色々と済ませてからゆっくりと話したいんだよ。お、今の八幡的にポイント高い」

 

「…………………え、お兄ちゃん、だよね?なんか変な物でも食べた?」

 

え?なんなのこの反応?ひどくない?

 

「食ってねーよ。まぁ今回のことに関しては相談にのってほしいっていうのもあるからな。詳しくは後で言うわ」

 

その後、さっさと風呂に入り夕飯も済ませた俺は、小町と二人でリビングのソファーに腰かけ、ここ数日の間にあったことを話し始める。

 

「あー…小町、最初に言っとくが、今から俺はものすごく衝撃的な発言をする。なんとか正気を保てよ」

 

「お兄ちゃん何言ってんの?ばかなの?」

 

「あのな、俺に彼女ができた」

 

ドッスーン!

 

小町がソファーから転がり落ちた。驚かれるのは予想してたがリアクションでかすぎだろ。

 

「お、おい、大丈夫か?」

 

「あ、ありえない…ありえないよお兄ちゃん!目を覚まして!帰ってきて!」

 

「いや、俺もまだあまり実感はないんだが、これは現実だ」

 

「そ、そんな…こんな急展開はさすがに予想外だよ…ちなみに彼女さんて?結衣さん?雪乃さん?もしくは大穴で大志くんのお姉さん?」

 

「は?なんであいつらの名前が出てくんだよ。おまえも千葉村で会ってる海老名さん。眼鏡の」

 

俺がそう言った瞬間、小町の表情が固まる。

あ、これあれですね、覚えてないってやつですね。

 

「あー…なんだ、この人だよこの人」

 

どんな人か思い出せないであろう小町に、先程海老名さんが撮影し、いらないと言ったのに無理矢理送りつけてきた写真を見せる。

べ、別に初めてできた彼女に浮かれて自慢してるわけじゃないんだからね!

…なんだよこれ。俺のツンデレとか誰得だよ。

 

「ほえ!?あ、あーこの人か。う、うん!覚えてるよ!覚えてる!ていうかこんな写真撮ってるってことは本当に付き合ってるの…?」

 

「おまえはまだ俺の言うことを信じてなかったの!?」

 

「いやー、本当に信じられないくらい衝撃的だったよ。小町なんか疲れちゃったしもう寝るね…」

 

それだけ言い残し、小町はそそくさと自室に戻っていった。

正直まだ聞いてもらいたい話はあったのだが、まぁ今日のところはいいか。

 

「本当に、付き合うんだな。海老名さんと」

 

リビングに残された俺は、自分のスマホに表示される写真を見つめながら、そう呟くのだった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

翌日、いつもどおりに登校し、教室へ到着するなり机に突っ伏す。

彼女ができたからといって、俺のこの教室内での立ち位置は変わらない。

このまま寝たふりでもしながら適当に朝のHRをやり過ごすだけだ。

 

 

 

なんて考えていた時代が俺にもありました。

 

トントン…

 

ふいに肩を叩かれ顔を上げると、そこには海老名さんの姿が。

 

「やぁやぁヒキタニくん、はろはろ〜」

 

「は?」

 

あれ?この子昨日俺の事名前呼びしてなかったっけ?え、夢?

 

などと考えていると、彼女は俺の動揺を察したのか、顔を耳元まで近づけ俺にしか聞こえないくらいの声で囁く。

 

「もしかして、名前で呼ばれないのがご不満かな?昨日の昼休みにも言ったけど、一応周りに合わせてるだけだよ。名前で呼んで変に注目集めるのも嫌かと思って」

 

呼び方に気をつかえるなら俺の袖を掴みながら教室に戻ってきたりするのもやめてもらいたかった…

というか今の行動のせいで由比ヶ浜とか川なんとかさんからやたら睨まれてる気がするのは気のせいか?

 

「それに言ったよね?私があぁなるのは、八幡の前でだけだよ」

 

そう言い残すと彼女はさっさと自分の所属するグループの元へ戻っていった。

 

なんだよ今の!うっかりときめいちまったじゃねぇか!!!!!

 

「…驚いたな」

 

「あ?なんだ葉山か」

 

「やぁ比企谷。ちょっといいかな?」

 

「いや、ちょっと今あれだから無理だ」

 

「まぁまぁ…昨日の折本さん達との事なんだけどさ」

 

「は?あぁ、そういや雪ノ下さんが紹介するとか言ってたな」

 

「それで、今度の日曜とかどうかな?」

 

「なにが?」

 

「いやいや、一緒に出かけるって話だよ。もしかして折本さんから連絡いってない?」

 

「知らん。連絡先も知らん」

 

「困ったな…陽乃さんに比企谷は絶対に連れて行くよう言われてるんだが…」

 

「どっちにしても休みの日は無理だ。なんでわざわざ休みの日に出かけなきゃいけねーんだ。俺にもまぁ、色々とあんだよ」

 

プリ◯ュア見たりとかゴロゴロしたりとかな。

 

「そうか…じゃあ今日の放課後とかどうかな?言っとくが、君が来ないようなら陽乃さんが迎えに来るとも言ってたぞ」

 

「なんだよそれ逃げ場ねぇじゃねぇか…」

 

「まぁそういうことだから、よろしく頼むよ」

 

奉仕部は…まぁいいか。

あんな状態だし俺が言ったところでどーにもならんだろ。

なんにしてもめんどくせぇ…

そんなことを考えつつ、俺はようやく机の上で眠りにつくのだった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「葉山くんお待たせー!」

 

放課後、雪ノ下さんに迎えに来られても困るので、俺は大人しく葉山と共に千葉駅に来ていた。

はぁ…帰りたい…

 

「あれ?比企谷も来たんだー?ウケる!」

 

「まぁなりゆきでな」

 

これ俺が来る必要なかったじゃん。帰っていい?

 

「で、これからどうしよっか?映画見たいんだっけ?」

 

「うん!映画見たいよねー!どんなの見よっかー?」

 

「んー、恋愛ー?」

 

「それある!やっぱり恋愛だよねー!」

 

はは…くだらねぇ…

 

千葉駅唯一の映画館である京成ローザへと向かう葉山御一行。

俺は少し離れて歩きながら付いていった。

 

 

 

映画はまぁ可もなく不可もなくといった内容だった。

映画を見終えた俺達は、葉山の発案で近くにあるショッピングモールに来ていた。

折本とその友人である女子は葉山と楽しそうにウインドウショッピングをしている。

…ていうか本当に俺がここにいる意味ある?

 

「あっ」

 

どこからか聞き覚えのある声が聞こえる。

 

「ん?」

 

振り向くと、そこには海老名さんと三浦の姿があった。

これはあかん…

 

「お、おい葉山、そろそろ行ったほうがいいぞ」

 

「え?」

 

「あれ、隼人くんじゃね?隼人くーん」

 

海老名さん達がいるところとは別の方向から葉山を呼ぶ声が聞こえる。

そこには戸部と…誰だっけこの子?どっかで見た気が…あぁ城廻先輩が連れて来た依頼のやつだ。たしか一色だっけか。

 

「ちょ、隼人くん聞いてよー。いろはすが新しいジャージ欲しいって言うから来たのにプロテインばっかりー」

 

くそ!戸部!俺達はここから一刻も早く離脱しなきゃいけないんだ邪魔するな!

 

「せーんぱい!」

 

「は?」

 

気がつくと俺の真横には一色が立っていた。

いろはす速い近い速い怖い!

 

「せんぱいこんなところで何してるんですかー?私今日奉仕部に昨日のことを詳しくお話しに行ったのにいなかったですよねー?遊んでるんですかー?」

 

「…ていうか、あの女なんですか?あ、あれが先輩の彼女さんとか?でも二人いるじゃないですかー?どういう繋がりですか?」

 

怖っ!いろはす怖っ!なんでそんな低い声出せんの?

いやまぁ部活ばっくれたのは俺が悪いけどさ…

 

「いろはごめん、俺が付き合ってもらってるんだ」

 

「あ、そうなんですかー」

 

 

「ちょ、隼人それどーいう意味?あーしの誘い断ってヒキオと遊んでんの?」

 

あぁ…遅かったか…

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

あのままショッピングモール内で立ち話するわけにもいかず、俺達は近くの喫茶店に来ている。

ちなみに折本とその友人、それと戸部は逃げるように先に帰った。

つまりこの場には俺、葉山、海老名さん、三浦、一色の五人が残っているのだ。

 

「つーか、ヒキオは何してんの?」

 

「は?お、俺?」

 

「決まってるっしょ。あんさー、あんた海老名と付き合ってるんしょ?何さっそく他の女と遊んでるわけ?ふざけてんの?」

 

「あ、この方がせんぱいの彼女さんだったんですねー。本当に部活までサボって何してるんですかー?」

 

「……………」

 

こいつらの言ってる事が正論すぎて何も言えねぇ…

 

「まぁまぁ。私別にそういうの気にしないし、きっとヒキタニくんにも何かあったんだよ。ね?」

 

「そ、そうなんだよ。比企谷は俺から誘ったんだ。今日一緒にいた子達とは中学のときの知り合いみたいだったからさ」

 

「そ。まぁ海老名がそういうならいいけど。けどヒキオ」

 

「ひ、ひゃい!」

 

三浦の睨み怖ぇ…声裏返っちまった…

 

「あんた、もし海老名を悲しませるようなことしたら……わかってんでしょうね?」

 

「うす!!」

 

「ところでせんぱい、私の依頼はほったらかしなんですかー?」

 

「あ?それならあれだ今回は雪ノ下と由比ヶ浜とは別行動だ」

 

「へー。でも私の依頼の事なんて考えてる様子じゃなかったですよねー?」

 

「べ、別にそんなことねーし色々と考えてるからなマジで」

 

「そ、そろそろいい時間だし今日のところはこの辺でお開きにしようか。ほら、優美子といろはは駅まで送るからさ」

 

ナイスだ葉山。俺は今初めておまえのことをいいやつだと思ってしまった。

 

「じゃあ、海老名、さんは俺が送るわ」

 

ようやくこの修羅場から脱出できる…

 

「あーし隼人の話まだなんも聞いてないんだけど。あの女とはなんなの?」

 

「いや、それは…」

 

「あ、私も葉山先輩のお話聞きたいでーす」

 

…おい。帰らせてくれよ。

 

「じゃあ、私達は先に帰ろっか。ね?ヒキタニくん。優美子、悪いけど先に行くね」

 

「あーい」

 

海老名さん、あなたは天使か。

 

海老名さんのナイスなアシストもあり、俺は一足早くあの修羅場からの脱出に成功したのだった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

海老名さんを送ると言った俺は、さすがに駅までじゃ悪いと思い家の近くまで送っていく事にした。

しかし海老名さんの最寄駅についてからは終始無言。

ぶっちゃけ気まずい。などと考えていると…

 

ギュッ…

 

ふいに手を繋がれていた。

 

「ねぇ八幡くん、本当はね、私、少し気にしちゃってるんだ」

 

「へ?」

 

「さっきは優美子達もいたしあんなふうに言っちゃったけどさ、気にしちゃってるの。八幡くんが他の女の子達と遊んでたってこと」

 

「お、おう…」

 

「ごめんね。こういうの重いよね。けどね、今日もそうだし、昨日のドーナツショップの時もそう。八幡くんが私の知らないところで他の女の子達と一緒にいるところを見ちゃうと、胸がきゅーってなるの。こんなこと初めてなんだけど、きっとこれが嫉妬なんだろうね。あはは…」

 

昨日から海老名さんは、俺と二人きりの時に限り普段つけている仮面を外すようになった。

本人は自覚してないだろうし、俺がその仮面の下を見破っていると思っているようだがそれは違う。海老名さんが外してくれるようになったんだ。そんなの今の彼女の表情を見ればわかる。こんな無理矢理作ったような、辛そうな笑顔を見れば。

 

「すまん、俺が軽率だった」

 

「え?あ、いーよいーよ気にしないで!こんなの私のわがままだし…」

 

「いや、そうじゃなくてだな…その、なに、せっかく海老名さんが俺に対して色々と思ってくれてるのに、俺はまだどこかでそれを信じきれてなかった。だから今日も海老名さんの気持ちなんて何も考えず誘われるがまま軽率な行動しちまった。だからすまん」

 

「…ちょっと遠回しすぎてよくわからないんだけど、それは私のことを信じてくれるようになったっていうこと?」

 

「ああ。まぁ言い訳に聞こえるだろうが、俺も昔色々あったからな。だから疑心暗鬼になっちまう部分もあったんだが、それはもうやめるわ」

 

「そっか。うれしいなぁ…えへへー」

 

そうだ。もう彼女を疑う事はやめよう。まだはっきり好きと言われたことはないが、こんなにも真剣に俺を思ってくれている彼女の事を疑うのは。

彼女のこの思いは、きっと『本物』だ。

 

「お詫びと言っちゃなんだが、何か俺にしてやれることはないか?言っとくが、金はないぞ」

 

「じゃあ名前で呼んで」

 

「それ以外でお願いします」

 

「えー!!!!」

 

「それは恥ずかしいんでまだ無理だ」

 

こんなふうに海老名さんのこと意識し始めちゃったときにいきなり名前呼びとかマジで無理だから。

こういうときサラッと名前で呼んだらかっこつくんだろうが、残念ながら俺は比企谷八幡なのだ。

 

 

 

 

「じゃあ、一色さんの言ってた依頼に、私も協力させて?結衣とか雪ノ下さんとは別行動って言ってたし、きっとまた一人で抱え込もうとしてたでしょ?だから、私に協力させてほしい」

 

「………は?」

 

随分と俺に理解されている事を喜んでたみたいだが、この人も俺の事めちゃくちゃ理解してくれてんじゃねぇか。

なるほどな、これはたしかに嬉しいわ。

 

「私は八幡くんの彼女なんだし、彼氏には頼られたいんだよ。ダメ、かな?」

 

「すまん、正直助かる。じゃあ、まぁ、頼むわ、姫菜」

 

「ふぇっ!?」

 

前言撤回。呼んじゃったわ普通に。

 

「ほら、さっさと帰るぞ。あんまり遅くなると小町に心配かけちまう」

 

「ちょ、ちょっと!八幡くん、もう一回!もう一回!」

 

「いや無理だからもう限界だから」

 

柄にもない事をしたと、自分でも思う。

だけどたまにはこんな青春ラブコメも悪くないと思った。

 

 

俺の隣を、一緒に歩いてくれている彼女となら。




いかがだったでしょうか。

自分で見直してみて、ちょっと詰め込みすぎたかな?とも思いましたが、最後の部分はどうしても書きたかったので…

海老名さんにはめっちゃヤキモチを焼いてほしいという自分の願望丸出しですいません。
ヤキモチを焼いてくれる海老名さんって想像するとめちゃくちゃかわいくないですか…?

次回は生徒会長選挙解決編で、姫菜視点になります。


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彼女は彼に対する気持ちを明確にする

このSSを読んでくれている皆様、いつもありがとうございます。

自分の中で本日の更新分は、ある意味第一章の終わりだと思っております。

あまり前書きで長く語っても仕方ないので、詳しくは後書きにて。

今回は姫菜視点になります。


八幡くんの依頼を手伝う事になった私は、帰宅後に電話で依頼の内容を聞いた。

簡単に依頼の内容を整理すると、一色さんは勝手に生徒会長に立候補をさせられてしまい、本人はやりたくない、だからなんとかしてほしいとのこと。

 

八幡くんは応援演説で自分が酷い演説をすればなんとかなると思ってたみたいだけど、それはもちろん却下した。雪ノ下さんも言ってたらしいけど、たしかに確実性がないしね。

 

どういった対処をするか決めるのは一旦保留にしてもらって、まずは結衣と雪ノ下さんがどんな対処をしようとしているか私から探りを入れて、それを踏まえてどうするか考えよう、という結論に至った。

 

 

翌日、いつもの教室、いつものグループで他愛もない話をしている時に、私は結衣にさり気なく探りを入れるため、声をかける。

 

「そういえば結衣さ、一色さんって知ってる?」

 

「ふぇっ?いろはちゃん?知ってるよー?なんでー?」

 

「昨日会ったんだけどね、なーんかヒキタニくんと仲良さげだったんだよ。あの二人何かあるのかなぁって」

 

「あー、それはたぶんあれだよ。今いろはちゃんから奉仕部に依頼がきててさ、その話してたとかなんじゃないかな?」

 

「あ、そうなんだ。でもヒキタニくん一人に話すことなの?結衣とか雪ノ下さんには?」

 

「それは…今回はちょっと理由があって別行動みたいな感じといいますか…昨日もあたしとゆきのんのところにはちゃんとお話しにきてくれたし!」

 

「うーん、ヒキタニくん一人にさせちゃうとまた何かやらかしそうだねぇ…私からも変なことしないように言っておくよ」

 

「それは助かるかも。ヒッキー、また一人でなんとかしようとしてたからさ、今回は私とゆきのんも頑張りたいんだ」

 

「そっか。結衣達にももう何か考えてる事とかあるの?」

 

「うん!ゆきのんの話は難しくてよくわかんないんだけど、とりあえず代わりにやってくれる人を見つけようって。誰にお願いするかはまだ相談中なんだけど…」

 

「いい人が見つかるといいね。雪ノ下さんと頑張ってね」

 

「うん!ありがとう姫菜!」

 

うぅ…笑顔が眩しい…

ごめんね結衣、こんなふうに探りを入れちゃって…思ってたよりも罪悪感あるなぁ…

なんて考えていると

 

「……海老名さぁ、あとでちょっといい?」

 

ふいに優美子から声をかけられる。

 

「どうしたの優美子?」

 

「まぁ、ちょっとね。とりあえず昼休みに屋上ね。たまにはあーしと二人でランチも悪くないっしょ」

 

「わかった」

 

なんだろう?優美子から呼び出しなんて珍しい。

まぁ昨日も色々とあったし、話したいこともあるんだろうな。

とりあえず、午前の授業を乗り切ろう。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

昼休み、私は優美子と二人で屋上に来ている。

なぜか終始無言で、もくもくとお弁当を食べていた。気まずい…

話があるんじゃなかったのかな?

 

「あんさぁー」

 

「え?」

 

気まずい空気を察したのか、ようやく優美子が話始めてくれた。

 

「海老名ここ最近、つーか、修学旅行から帰ってきてから変わったよね」

 

「変わった…?」

 

「その、なに、前まではあーしらの前でヒキオの話なんてほとんどしなかったっしょ?なのに結衣とヒキオの話してたからさ。そんなにあんなやつがいいわけ?」

 

「あんなやつって、一応彼氏なんだけどなぁ」

 

「あー…そんなにヒキオが好きなん?」

 

「んー…好き、なのかなぁ。結衣達にも言ってるんだけど、私まだ好きとかよくわかんないんだよねぇ。だけどヒキタニくんは嫌いじゃないの」

 

「は?なに?そんなんでヒキオと付き合ってたの?あーしの紹介断りまくってたあの海老名が?」

 

「だってそれは知らない人達だったでしょ。ヒキタニくんはちゃんと知ってる人だし、ヒキタニくんの色んな面を知って、惹かれてるんだと思う。でも私、人をちゃんと好きになったことないから、これが好きっていう事なのかよくわからないんだよねぇ」

 

「じゃあさ、ちょっと想像してみ?例えば、雪ノ下さんとヒキオが二人仲良く買い物」

 

八幡くんと雪ノ下さんが仲良く買い物…

 

「結衣とヒキオが二人でディスティニーデート」

 

八幡くんと結衣が二人でディスティニーデート…

 

 

 

嫌だ。

 

そんなの想像するのも嫌。

 

 

「ちょ、海老名そんな怖い顔すんなし。目のハイライト完全に消えてっし…」

 

「え?」

 

「海老名のそんな顔、あーしが無理矢理男紹介しようとした時ぶりに見た…」

 

「あぁ…そうかもだねぇ…」

 

「はぁ…他の女といるとこ想像するだけでそんな顔になっちゃうってことは、海老名がそんだけヒキオのこと好きってことっしょ?」

 

これが、好き?

いや、どちらかというとただの嫉妬な気が…

 

「どうだろうねぇ…」

 

「ま、海老名に自覚がないなら別にいーけど。普段腐ってる海老名がいきなり恋愛脳になるっていうのも無理な話っしょ」

 

「つか、海老名がいくら大事に思ってても、ヒキオが海老名を泣かすようなことしたらあーしが全力でヒキオとっちめるからね。ヒキオにも言っといて」

 

……優美子は私の気持ちを確認しにきてくれたのかな?

本当に優美子は面倒見いいなぁ。八幡くんから見た私は、こんなに大切な友達にも遠慮が見えてたのか。さすがに自己嫌悪だよ。

 

「…優美子あのね、もし私が自分の気持ちに悩んだり、戸惑ったりしてよくわかんなくなっちゃったら、その時は相談に乗ってくれる?」

 

「は?何言ってんの?あーしと海老名は友達なんだからそんくらい当たり前っしょ」

 

「ありがとう…」

 

本当に、本当にありがとう。

 

 

 

 

そうだ、優美子なら、あの依頼の解決の手がかりをくれるかもしれない。

 

「さっそく相談があるんだけど…」

 

「さっそく?もうヒキオのやつなんかやらかしたん?」

 

「そういうわけじゃないんだけど…放課後一緒にヒキタニくんの話聞いてくれない?」

 

「ヒキオの話ね…まぁ、わかった。結衣は呼ばなくていいん?」

 

「うん。なんか今回は別行動らしいから」

 

こうして私は、優美子と放課後の約束をして屋上をあとにした。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「……なんで三浦もいんの?」

 

「は?あーしは海老名に呼ばれたから来ただけだし、つーかヒキオガムシロ使いすぎっしょ。きっも」

 

放課後、私と八幡くんと優美子は3人でサイゼに来ている。

 

「まぁまぁ、優美子には依頼のことでちょっと相談に乗ってもらおうと思ってさ」

 

「依頼のこと?」

 

「なんだ、まだなんも説明してないのか?」

 

「うん、ヒキタニくんからしたほうがいいかと思って」

 

八幡くんが依頼の内容を説明したり、私が今日結衣に聞いた事を一通り説明した後、優美子が話を始める。

 

「なーんか海老名が結衣に変なこと聞いてると思ったらそういうことね。つーかこんなん悩むこともないっしょ」

 

「いや三浦、そんな簡単そうに言うけどな…」

 

「だってそーっしょ?ヒキオのやり方もダメ、結衣達のいう代わりの人を見つけるってのも大変、だったらあの生意気な後輩に生徒会長やってもらえばよくない?」

 

「だから、本人がそれを嫌がってるんだっつの」

 

「そう?あの一色って子、やたら外面気にしてるっぽかったし、ヒキオならうまく言いくるめられそうな気がすんだけど。あんた相模大泣きさせるくらいなんだからそれなりに口は達者っしょ?」

 

「…………………」

 

八幡くん黙っちゃった。でも何か思いついたような顔してるなぁ。

 

「ねぇ優美子、例えばどんな言い方すれば一色さんは乗ってくると思う?」

 

「んー、同級生にナメられたままでいいの?とか?それに生徒会長ってそれなりのステータスな感じもするし」

 

「なるほどな…三浦、わりぃ、正直助かったわ」

 

「は?別にヒキオのためにやったわけじゃないし。あーしは海老名に頼まれたから話聞きに来ただけだっての」

 

「優美子、私からもありがとう。なんか助かっちゃった」

 

「別にこんくらいいいっしょ。んじゃ、あーしそろそろ帰るから、海老名はヒキオにあの伝言よろしく」

 

「あ、うん。本当にありがとうね」

 

優美子はそれだけ言い残し、一足先に帰っていった。

 

「……三浦からの伝言てなんだ?」

 

「あー、もし八幡くんが私を泣かせるようなことしたら全力でとっちめるって」

 

「怖っ。そういや昨日も同じようなこと言われたな…」

 

「まぁ八幡くんはそんなことしないよねー。で、何か思いついたの?」

 

「あぁ、まぁな。考えてもなかったが、一色に生徒会長をやらせるってのは問題の解消方法としては一番手っ取り早い。あとはどうやってあいつをその気にさせるかだが、さっき三浦が言っていたのもそうだし、+αの餌を用意してやればいい」

 

「餌って?」

 

「まぁはっきり言うと餌は葉山だな。あいつに少しばかり手を借りる。昨日の態度を見る限り、一色は葉山に対してそれなりの好意を向けてんだろ。だからそれを利用する」

 

八幡くんが…葉山くんを…利用…手を借りる…

 

「ぐ腐腐腐、八幡くんは隼人くんの手を借りてナニをするのかなぁ…いや、ナニに利用するのかなぁ…やっぱり八幡くんは受けだよね…捻デレ受け、悪くない…」

 

「おい!ばっか違うから!やめろ!つーかその属性久し振りに見た気がすんな」

 

「一色さんに餌を与えると同時に私にも餌を与えるなんて、八幡くんなかなかやるね」

 

「俺でそういう妄想すんのはやめてくれませんかねぇ…まぁ話戻すけど、葉山には海老名さんから頼んでくれると助かるんだが。具体的には応援演説とかを」

 

「……………………」

 

「え?この距離で無視?」

 

「……………………………」

 

「……無視しながらなんでそんな笑顔なの?」

 

「……………………………………」

 

「はぁ…わかったよ…姫菜から頼んでくれると助かるんだが」 

 

「わかった」

 

八幡くんならわかってくれると思ってたよ。

名前で呼ばれるの、むず痒いけどやっぱりうれしいなぁ。

 

「じゃあ一色のほうはこっちでなんとかするわ。…送ってくからそろそろ帰るか」

 

…変に意識してなかったけど、これじゃ3日連続で送ってもらうことになっちゃうな。

 

「さすがにそんなに毎日送ってもらわなくても大丈夫だよ?妹さんも待ってるんでしょ?」

 

「ばっかおまえ彼女を一人で帰らせたとか小町にバレたら怒られんだろ。変な気つかわなくていいから早く帰んぞ」

 

やさしいなぁ。というかもう妹さんにも彼女ができたとか話ししてくれてるんだね。

 

「そういうことならお言葉に甘えて。というか私のことちゃんと妹さんに紹介してほしいなー」

 

「まぁ、今度な」

 

私のことを妹さんに紹介してもらうという約束をとりつけ、私と八幡くんはサイゼをあとにした。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

後日談、というか今回のオチ。

 

 

 

ごめんなさいこれ一回言ってみたかっただけなの…

おし×こよ…ぐ腐腐…

 

 

気を取り直して。

 

後日、私は八幡くんに言われたとおり隼人くんに一色さんの応援演説を頼み、了承をもらうと、すぐに八幡くんにそれを伝えた。

 

それを聞いた八幡くんは、

葉山が応援演説をするから、その打ち合わせってことにすればその時間はおまえが葉山を独占できる。とか、部活を言い訳にすれば生徒会はうまくサボれるし逆もまた然り。とか、何か困ったことがあったら葉山に相談すればいい。あいつが応援演説するんだからそれくらいの責任とってもらえ。とか…

まぁ見事に一色さんを言いくるめてその気にさせたみたいです。

立派な生徒会長になって勝手に立候補させたやつを見返してやれ。とも言ったらしいけど、これは優美子の受け売りかな。

 

奉仕部のほうには一色さんが、

やっぱり生徒会長やる気になったので依頼は取り消しでお願いします!

と伝えに行ったらしい。

 

これであとは生徒会選挙当日を待つだけだ。

 

まぁ、とにかく…

 

 

「八幡くん、今回はお疲れ様」

 

「おう。つーかこっちこそ色々と助かったわ」

 

事後処理も含め色々と片付いた私と八幡くんは、いつものように一緒に下校をしている。というか私が送ってもらっている。

 

「いやいやー、私は隼人くんに応援演説お願いしに行っただけだよ」

 

「いや、三浦も連れてきてくれたりしてくれただろ。それに、もし俺一人で解決策を考えてたとしたら多分今回みたいな結果にはなってねーよ。だから、その、まぁ、ありがと…な」

 

「八幡くんって素直にお礼言えんたんだ」

 

「は?俺とか超素直だろ」

 

「あー、はいはい」

 

「なんか俺の扱い雑になってませんかねぇ…」

 

「あれれ?八幡くん拗ねちゃった?冗談だよー、ごめんね?」

 

「別にいいけどよ…あーそういや、今回はなんか世話になっちまったし、一応礼がしたいんだが、なんか俺にしてほしい事とかあるか?言っとくが前回みたいなやつはなしで」

 

「んー…じゃあ八幡くん、私とデートしよっか」

 

「へ?」

 

「だからデートだよ。私達って、付き合ってからまだどこにも出かけてないじゃない?いつも八幡くんがこうやって私を家まで送ってくれてるけど、手を繋ぎながら送ってくれてるけど、たまにはおでかけしたいなーって」

 

「なんで今手を繋ぎながらって言い直したの?意識しちゃうと恥ずかしくなるからやめてくんね?…まぁ、たしかにどこにも行ったことないしな。まぁ、わかった。そのうちな」

 

「そのうちじゃダメだよー。今度の日曜とかどうかな?」

 

「日曜はプリキュ…なんでもないですすいません行きます。行きますからその手の力を緩めてください」

 

「じゃあよろしくね。どこ行こっか?池袋?池袋かな?ぐ腐腐…」

 

「普通の人が言う池袋と海老…って手痛ぇ…姫菜の言う池袋って別世界な気がするからなんかやだ。つーかちゃんと名前で呼んだんだから手の力緩めろっての」

 

「んー、そっかぁ。じゃあしょうがないね。じゃ、幕張にあるショッピングモールにしよっか。あそこなら広いし色々と見て回れるよね?」

 

「あー、あそこな。なんだかんだ買い物はららぽに行っちまうからあんまり行ったことないんだが、まぁ、そこで」

 

「うん」

 

 

 

 

「あー…あとよ、その、あれだ。ここ最近、一色の相手ばっかしててあんまり一緒にいてやれなくて悪かったな。あんなふうに言ったばかりだっつーのに、いくら依頼とはいえずっと他の女子といてすまんかった」

 

「え……?」

 

「え?ってなんだよ。え、なに?俺の自意識過剰?今日微妙に俺に対する態度がおかしいのって、そういうの気にしてたからだと思ったんだが…」

 

本当にこの人は、なんで私のことをこんなに理解してくれているのだろうか。

はっきり言うとそのとおりで、私は一色さんにヤキモチを焼いてしまってた。

こんな事考えちゃう私って…

 

「私って、なんか嫌な女だね…ごめんね、たしかに一色さんは八幡くんとずっと一緒にいれていいなーとか思ってたけど、まさかそんなに態度に出てるなんて…」

 

「いや、別にいいんじゃねーの?ヤキモチ?っていうのは、一種の愛情表情だってどっかの本で見た気がするしな。まぁ度が過ぎるのは困るが、俺になんも言わずに抱え込まれたほうが困る」

 

「でも、八幡くんはそういうのしないでしょ?」

 

「………………………」

 

無言で赤くなった。あれ?

 

「もしかして、八幡くんもそういうの、してたりする?」

 

「………………………いや?」

 

「………なんも言わずに抱え込まれたほうが困るなー」

 

「………いや、まぁ、ほら、俺も普通の一般的な男子高校生だし?それなりに?」

 

「なにそれー…そっか、私には言ってくれないんだね…」

 

「べっ、別にそういうわけじゃねぇけど…」

 

「はぁ……」

 

「……あーもう、わかった。俺が悪かった。俺も似たようなこと思ってたよ」

 

「…………具体的には」

 

「…はっ、…はや…まと…二人で…話し合い…してるとき…とか、だな…。あーもういいだろお互いさまって事でもうやめようぜこの話…」

 

 

 

 

 

 

 

ギュッ…

 

 

私は、気がつくと思いっきり八幡くんに抱きついていた。

 

 

ギューッ

 

「あ、あの、海老名さん?ほら、人目が、ですね」

 

「ありがとう」

 

「は!?」

 

「私に対して、そんなふうに思ってくれて、ありがとう…八幡くん」

 

「おーけーわかった。わかったから一旦離れよう。な?」

 

「今はちょっと無理だよ…」

 

「はぁ…まじかよ…」

 

 

嬉しい。嬉しい。嬉しい。

お互いが、お互いのことを、まだ好きだと言ったこともない。

それなのに、お互いのことをこんなにも思えている。

 

『はぁ…他の女といるとこ想像するだけでそんな顔になっちゃうってことは、海老名がそんだけヒキオのこと好きってことっしょ?』

 

ふいに、大切な友達から言われた言葉を思い出す。

 

あぁ、そっか、好きになるって、こういう事なんだね。

 

「ねぇ、八幡くん」

 

「なんだよ…恥ずかしすぎて死にそうなんだが…」

 

 

 

 

「私、好きだよ。八幡くんのことが。本当に、大好き」

 

 

 

それだけ言い終えると、私はパッと八幡くんから離れた。

彼の顔を見上げると、今まで見たこともないくらい真っ赤になってる。 

 

「初デート、期待してるから。よろしくね、八幡くん」

 

「お、おう……」

 

まだ顔を真っ赤にしている彼の手をとり、私は家のある方へ歩いて行く。

まだ一緒にいたい気持ちもあるけれど、私もそろそろ恥ずかしさの限界だ。

 

 

 

 

 

彼は、私の仮面の下を見破ってくれた。

 

彼は、固く蓋をされたはずの私の心を見透かし、さらにその蓋を外してくれた。

 

そんな彼へと向けられるこの感情は『恋』だ。

 

私は、ようやく自分の気持ちを明確にすることができた。

 

 

 

今、私は、初恋の彼とのデートが、楽しみでしょうがない。




いかがだったでしょうか。
一色いろはすの依頼、あっさり解決しすぎだろ!と感じてしまわれた方には申し訳ありません。
自分自身、いろはす大好きなのでこの扱いのままでいくかはすごく悩んたのですが、このSSはあくまでも姫菜をメインヒロインとしてやっていきたかったので今回のようになりました。もし至らない部分があったとすれば、それは自分の力不足です…

今回で、姫菜の気持ちは明確なものになりました。あーしさん本当にナイスアシスト…
自分の中での第一章は、姫菜の気持ちを明確にするところまでだと思っていたので、まずはここまで書き続ける事ができてよかったです。もちろんこのSSは今後も続けます。

さてさて対する八幡の気持ちは今後どうなるのか。

次回は、念願だったデート回です!

デート回は、八幡視点になります。


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こうして彼も彼女への気持ちを明確にする

深夜の更新申し訳ありません。
最後の部分を書いていたらテンション上がってしまいまして…

このssを読んでくれている皆様のおかげで、UA27000突破いたしました!
本当にありがとうございます!

さて、いよいよデート回です。今までは基本的に原作の流れに沿って書いていたので、丸々オリジナルなのはこの話が初めてです。至らない部分もあると思いますが、読んでもらえると嬉しいです。

今回は八幡視点になります。



『私、好きだよ。八幡くんのことが。本当に、大好き』

 

彼女に言われたその一言が、俺の頭から離れない。

 

今まで似たような事を言われたことがないわけではない。

だがそれは、いずれにしても

 

ごっめーん罰ゲームでしたー☆

 

というオマケつきのもの。

 

今回の彼女の一言は、そんなものとは違う。

俺は彼女を疑う事をやめると決めた。

彼女は、少しずつではあるが確実に心を開き、真剣に俺を思ってくれているのだ。

 

 

じゃあ俺は?

 

俺は彼女の事をどう思っているのだろう?

 

自分に対してここまで真剣に好意を向けてくれている彼女の事を。

 

「はぁ……」

 

「どしたのお兄ちゃん?さっきからにやにやしたり落ち込んだり急に真顔になったり気持ち悪いよ」

 

「なぁ、小町」

 

「なぁに?」

 

「人を好きになるって、どういう事なんだろうな」

 

「…………………は?え、本当に大丈夫?」

 

「すまん、なんでもない」

 

「いやいや、なんでもないわけないでしょーに!もしかして、もう彼女さんと別れた?」

 

「ばっか別れてねーから」

 

「そ。なら早く小町にちゃんと紹介してね。未来のお義姉ちゃんにはちゃんとご挨拶したいし!」

 

「あー…じゃあ日曜にな」

 

「え!?本当に!?あのお兄ちゃんが素直だ!」

 

「たまたまその日は一緒に出かけるからな。そのついでだ」

 

「デデデデデデ、デート!?デートなのお兄ちゃん!?」

 

「ん、まぁ」

 

「小町は、小町は嬉しいよお兄ちゃん…もう小町ポイントもカンストだよ…」

 

まぁ紹介してってのは向こうも言ってたしな。

海老名さんには悪いが、出かける前に一度家に寄ってもらうか。目的地も家からならそんなに遠くないし。

とりあえずあとでメールでもしておけばいいだろう。たしか俺の家は知らないはずだし、一応住所も送っておくか。

 

「んじゃ、そろそろ寝るわ」

 

「はーい。おやすみお兄ちゃん」

 

俺は、なんだかんだで海老名さんと出かける事を楽しみに思ってしまっている。

 

彼女と一緒にいられるこんな日常が続けばいいと、そう思っている。

 

俺がそんな彼女に抱くこの感情はなんなのだろうか。今はまだ、その答えがわからない。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「八幡くーん、そろそろ起きてー?」

 

本日、日曜日。彼女との初デート決行日である。

予定では10時頃に駅まで迎えに行き、一度俺の自宅に寄ってもらい、それから出掛けるはずだった。

だったのだが…

 

「え?なんでいんの?つーかどうやって家入ったの?」

 

「八幡くんが約束の時間になってもなかなか来ないから心配になって家まで来たんだよ。電話も繋がらないから外で待ってたんだけど、小町ちゃんが入れてくれたんだー」

 

慌ててスマホを見る。ディスプレイには不在着信と新着メールのおしらせが表示されている。そして時刻は11時30分。うん、これはあれですね。寝坊ですね。

 

「……………すいませんでしたあああああ!!!!」

 

俺は華麗に土下座をきめる。

 

「これはですね、なんというか、遠足前日の幼稚園児的なあれで、昨日なかなか寝付けなくてですね…」

 

「私とのデートが楽しみでなかなか眠れなかった?」

 

「はい、そのとおりでございます…」

 

「そう。なら許してあげる」

 

「いやいや姫菜さん!甘い!甘いですよ!お兄ちゃんがよく飲んでるコーヒーより甘い!」

 

姫菜さん?もう仲良くなったのか?さすが小町、コミュ力高いな。

ていうかいつからいたの?

 

「ごみいちゃん、姫菜さんはこうやって言ってるけどね、家の前で待ってた姫菜さん、すごーく悲しそうな顔してたんだよ!こんないい人を悲しませるなんて、ごみいちゃんの馬鹿!ボケナス!八幡!」

 

「八幡は悪口じゃねぇだろ…いや、本当にすまん。すぐに支度する」

 

「もう!姫菜さん、馬鹿な兄がご心配をおかけして本当にごめんなさい!お詫びといってはなんですが、私が姫菜さんにふさわしい彼氏になれるようばっちりコーディネートしますので!」

 

「大丈夫だよ小町ちゃん。そんなに気にしないで」

 

「いえいえそーいうわけにはいきません!今日は特別に髪もしっかりセットさせますので!少々お待ちを!」

 

「じゃ、じゃあ、お願いしようかなー…」

 

「まかせてください!ほら、お兄ちゃん行くよ!」

 

「おい、おまえの勢いに海老名さんが引いちゃってるだろーが。海老名さん、悪いがもう少しだけ待っててくれ」

 

「わかった」

 

ここからの俺の扱いは酷かった。

まずは風呂に投げ込まれ、あがったと思えばすぐに服を着せられたり脱がされたり…

服が決まったかと思えば洗面台の前に座らされ、小町による髪のセットが始まった。ワックスなんてつけるのはいつぶりだ…

一通り頭をこねくり回して小町も満足したようで、ようやく俺は解放された。

 

「やばいよお兄ちゃん!会心の出来だよ!早く姫菜さんに見せてあげて!」

 

「おう。すまんな小町、助かったわ」

 

扱い方は酷かったが、鏡に写る俺はなかなかいい感じな気がしないでもない。

にしても、服装から髪型まで何もかも妹任せっつーのもなんかあれだな…

帰りに何かお礼でも買ってくるか。

 

ガチャッ

 

「本当にすまん、待たせた」

 

俺は自分の部屋のドアを開け、再度彼女に謝罪の言葉を告げる。

 

「………………誰ですか?」

 

「あ?おいおい、たしかに寝坊したのは俺が悪かったが、彼氏に向かって誰?っつーのはさすがにひどくねぇか…」

 

「え!?八幡くん!?あ、その目は八幡くんだ」

 

「目でわかっちゃうのかよ…まぁいいわ。俺のせいでこんな時間になっちまったな。さっそく行くか」

 

「別にいいよー。八幡くん、今日は私のお願いなんでも聞いてくれるみたいだし」

 

「おいちょっと待て俺はそんな話知らん」

 

「小町ちゃんが言ってたよ?」

 

ちょっと小町ちゃん何言ってくれちゃってんの!?

さっきまでの俺の感謝の気持ち返して!

 

「まぁ今日はしかたねぇか…行こうぜ」

 

「はーい」

 

「お兄ちゃん、姫菜さん、いってらっしゃーい!」

 

「「いってきます」」 

 

予定よりも時間は遅くなってしまったが(主に俺のせいで)、こうしてようやく俺と彼女の初デートが始まる。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「でかっ」

 

本日の目的地である幕張のショッピングモールに到着したときの率直な感想である。

わりと新しいこのショッピングモールには、グランドモール、ファミリーモール、ペットモール、アクティブモールという4つのモールがあるらしい。

 

「ファミリーには行かなくてもはいいだろ。あとアクティブ。俺みたいなやつが行くところじゃない」

 

「そうだねー。でも、将来のために一応ファミリーには行っておく?」

 

「はぁ!?」

 

「冗談だよー。全部周ってたら疲れちゃいそうだし。とりあえずグランドモールのほうに行こっか?」

 

「んだよ…まぁそうだな。というか、もういい時間だし先に昼飯にするか。なんか食いたいものある?寝坊の詫びとして奢るぞ?」

 

「このショッピングモール、たしか焼肉屋さんあったよね?」

 

「さすがに勘弁してくれ……」

 

いくら謝ったといっても、やっぱり怒ってますよね…

まぁ自業自得なんだけどね…

 

それから俺達は、無難なフードコートで昼食を済ませた。

食べながらどのように周るかを相談した結果、とりあえず上から順に周ろうということになり3Fへ移動する。

 

「八幡くん、ちょっとここ寄っていい?」

 

彼女が指差すのはメガネ屋だった。

新しいのでも買うのか?

 

「はいよ。じゃあ俺はここで座ってるわ」

 

ギュッ

 

この日、初めて手を繋がれた。

ものすごい力で。

 

「一緒に来て」

 

「すいません行きます。行かせてください」

 

それから海老名さんは、ものすごく真剣に眼鏡を選んでいた。

ん?でもこれって…

 

「はい八幡くん、ちょっとこれかけて」

 

だと思った。そりゃ今見てたのメンズのだしな。

 

「いや、俺別に目悪くないんだが……」

 

「大丈夫だよ、これ伊達メガネだし。いいから早くかけて」

 

俺はメガネを受取り渋々かける。

 

「やっぱり八幡くんメガネ似合うね。んー…けどさすがにこの色はダメかな。次こっち」

 

「はいよ」

 

「うん、こっちのほうがいいかな。じゃあこれ買ってくるね」

 

「へ?」

 

「八幡くん、今日1つ目のお願い。私が買うこのメガネ、今日1日外さないで」

 

そう言い残して彼女はそそくさとレジへと行ってしまう。

 

ちょっと待ってくれ。

最初に俺がメガネは真っ赤なフレームだった。

そして今かけたのは、一見黒のようだが光を当てると若干赤にも見えるフレーム。

 

つまり

 

「八幡くんお待たせ。はい、これかけて」

 

「いや、でもこれじゃまるで…」

 

「うん、私とお揃いだよ」

 

お揃いである。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

俺にメガネをかけさせる事に成功したからか、メガネ屋を出てからは彼女の機嫌も少し良くなったようだ。

それからは特に何を買うわけでもなく、気になる店があれば寄ったりはするものの、基本的にはひたすら広いモール内を歩き回った。

 

というかこのショッピングモール、普通にフィギュアやらコスプレの衣装やらが売ってる店まであるのな。

お互いそういったものには理解があるので、その店では大いに盛り上がった。

 

「八幡くん、2つ目のお願いいいかな?」

 

3Fもそろそろ1周し終えるかというときに、彼女から声をかけられる。

 

「俺にできる範囲であればな」

 

「なら大丈夫だね。せっかくだしプリクラ撮ろう?」

 

プリクラ…リア充御用達のあれか…

俺だって撮った事ないわけじゃない。以前戸塚と2人で撮った事がある。え?もう1人誰か忘れてるって?ナニソレハチマンシラナイ

 

「別にいいが、俺そういうの慣れてないぞ?」

 

「私だってそんなに撮るわけじゃないよ。というか誰かと撮った事あるの?」

 

「おう、戸塚と」

 

「……あんなに狭いほぼ密室の中に男子2人…一体ナニをしてたのかな?ぐ腐腐…」

 

「いやいやそういうんじゃねぇから…」

 

そんな事を話しつつ、俺達はゲーセンにあるプリクラコーナーに到着した。

 

「えーと、機械はこれでいいかな。ちょうど空いたみたいだし入ろっか」

 

「お、おう」

 

やばい!緊張してきた!女子と2人でプリクラなんて初めてだし…って海老名さん俺の腕に抱きついてこないで本当にいい匂いだから!

 

「八幡くん、顔強張ってるよ。笑って笑ってー」

 

「ていうか顔近くないですか」

 

「プリクラなんだから当たり前じゃない?」

 

1枚、2枚と続々とシャッターが切られていく。

 

「あ、八幡くん、最後はアップだって。もう少ししゃがんでカメラに近づいて」

 

「う、うす」

 

 

 

 

 

チュッ

 

 

 

パシャッ

 

 

 

へ?

 

 

 

「おまおまおま、お前なにしてくれちゃってんの!?」

 

「あははー、そういえばこういう事するの初めてだねぇ」

 

 

結論から言おう。いきなりホッペにキスされました。

 

 

「いいじゃない、初デートの記念になったでしょ?」

 

「だからって、おまえ……」

 

「だいたい八幡くん、今日まだ一回も私の事名前で呼んでくれてないよね?小町ちゃんの前でも海老名さんだったし。だから仕返しだよ」

 

むしろご褒美です。はい。

というかしてきた本人がなんでそんなに顔を赤くしてるんですかねぇ。

まぁ俺も今確実に真っ赤なんだろうけどさ。

 

 

突然の出来事に放心していた俺は、撮影終了後のらくがきを全て彼女に任せ近くの椅子に座っていた。

 

「お待たせしちゃった?はいこれ、半分こ」

 

「お、おう、ありがとな」

 

出来上がったプリクラを見てみる。ふむ、悪くない。

らくがきに関してはさすがと言ったところか、よく頭の悪いカップルが書くような『ずっといっしょ』やら『forever〜』みたいな事は書かれておらず、全体的にシンプルな仕上がりとなっている。

ただ、このほっぺにキスをしている1枚に関しては、大きめのハートが書かれていた。

 

「こうやって見ると、めちゃくちゃ恥ずかしいんですが…」

 

「私だって恥ずかしいんだからお互い様だよ。こういうの初めてなんだから。そうだ八幡くん、ちょっとスマホ貸してくれる?今撮ったプリクラ送るから」

 

「お、おお、わかった。ほれ」

 

彼女は慣れた手つきでスマホを操作し、満足げな表情でスマホを返してくる。

 

「3つ目のお願い。八幡くんは絶対にスマホの待受画面を変えないでください」

 

「は?」

 

恐る恐る、俺はスマホの待受を確認する。

そこには予想通り、俺のほっぺにキスする彼女と、素っ頓狂な顔をした自分の顔が写っていた。

 

「さすがにこれは……」

 

「大丈夫、私もだから。今までは前に撮った写メだったけど、やっとちゃんとしたやつが撮れたね。えへへ」

 

その彼女の笑顔を見てしてまうと断るわけにもいかず、人前では絶対にスマホを操作しないと、そう固く心に決めた俺だった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

プリクラを撮り終えた後は、2F、1Fと順番に見て周り、一通り周り終えたところで休憩のため書店近くの喫茶店に入っている。

 

「いやー、ここ本当に広いねぇ。ちょっと疲れちゃった」

 

「だな。普段歩き回る事がないから結構疲れたわ。やっぱり休みの日は家でゴロゴロするに限る」

 

「じゃあ次は八幡くんの家でお家デートかな?」

 

「なんでそうなんだよ…別にいいけど何もないぞ」

 

「私は八幡くんと一緒にいられればそれでいいよー」

 

「いきなりそういう恥ずかしい事言うのやめてくれませんかねぇ…」

 

「今日のデートで改めて思ってたんだけど、私、八幡くんと一緒にいるとなんか落ち着くんだよね。だから一緒にいられるならどこでもいいかな」

 

「ま、まぁ俺も海老…すいません。姫菜と一緒にいるのは悪くないな。あの、ちょっと、もうその目やめてくれませんか?」

 

海老名さんて言いかけただけで目からハイライトが消えやがった…

 

「あ、そういや前から言おうと思ってたんだが、別に俺のこと呼び捨てでいいぞ?つーかなんでずっとくん付けてたの?」

 

「ヒキタニくんからの流れでねー。でも呼び捨てか…は、はは、ち…ダメだ緊張する…」

 

「緊張の基準がわからねぇ…まぁそのうちな。と、すまん。俺小町にお土産買ってくんだったわ。悪いが少しだけここで待っててくれるか?」

 

「え?私も行くよ?」

 

「いや、もう買うものはだいたい決めてあるんだわ。疲れてるだろうしこのまま休んでてくれ」

 

「ふーん…私がナンパされちゃっても知らないからね」

 

「その時は呼んでくれ。すぐ戻ってくる」

 

「はーい」

 

 

彼女は渋々了承してくれたが、俺がこれから買う物は、まだ彼女には見せられないのだ。

小町へのお土産というのはあくまでも建前で、本当は……

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

俺が買い物を終えて戻る頃にはもう日も暮れ始めていたので、そろそろ彼女を送っていくことにした。

 

 

 

彼女の最寄り駅へ着くと、いつもどおり、いつもの道を二人で並んで歩いていく。

 

本当に、修学旅行前の俺じゃあ考えもしなかっただろうな。

海老…いや、姫菜とこんな関係になるなんて。

 

思い返せば最初は不本意だった。

あの嘘告白、付き合うつもりはもちろんなかったし、あんな返答がくるなんて思いもしなかった。

俺から突き放そうともしたが、それでも彼女は俺から離れようとはしなかった。

 

彼女から俺との距離を縮めてくれたってのはやっぱりでかかったな。

最初はまったく信用してなかった俺も、彼女の真剣な思いは嘘ではないと、信用に値すると、そう思えるようになった。

 

そしていつしか、俺からも心を開くようになった。

 

時にはふざけあい、時には真面目に語り合い、確実に一緒の時間を積み重ねてきた。

 

 

 

 

俺も、そろそろ認めてもいいんじゃないか。

 

自分の中にあるこの感情を。

 

人を好きになるってどういう事か、なんて、今までの俺基準じゃわかるわけなかったろ。

 

今までの俺には抱いた事がなかったこの感情。

 

この感情こそが、きっと『本物』だ。

 

 

 

 

「なぁ、ちょっとあそこの公園に寄ってもいいか?」

 

俺と彼女の関係が、ちゃんとスタートしたあの公園に。

 

「珍しいねー、どうしたの?もしかして帰るのが寂しくなっちゃった?」

 

「ああ、そうかもな」

 

「………なにそれ、もうっ」

 

彼女は繋いでいた手を離し、俺の腕に抱きついてくる。

 

「私だって寂しいの我慢してたのに、ずるいよ。そんな事言われたら帰りたくなくなっちゃう」

 

「すまん、ちょっとだけな」

 

そう言って、あの時と同じベンチに俺達は腰掛ける。

 

「渡したいものがあるんだ」

 

それだけ伝えると、俺は先程買っておいた箱を彼女に渡す。

 

「何?」

 

「とりあえず開けてみてくれ。いらなきゃ小町にでもやるから」

 

彼女は箱を開ける。

 

その中には、薄いピンク色の小さな石が埋め込まれたネックレスが入っている。

 

「…………え?これどうしたの?」

 

「まぁ俺らしくないよな。なんつーかだな、その、今日も含めてここ最近の色々な事への礼だ。それに、さすがに俺だけこれもらうっていうのもなんかあれだったしな」

 

「別に私、そんなつもりでそのメガネあげたわけじゃなかったのに…」

 

「やっぱりこんなのいらねーか。まぁそうだよな。俺のセンスの無さは自他共に認めてる。ほれ、返してくれ」

 

「やだ。やだよ。八幡くん、私のために選んでくれたんでしょ?」

 

「あー…あれだな、一緒にぶらついてる時に目に止まったというか、似合うだろうな、って思っちまったんだよ」

 

そんな俺らしくもない恥ずかしいセリフを伝えると、彼女の頬に一筋の涙が流れる。

 

「え?何?泣くほどきもかった?」

 

「あはは、八幡くんはばかだなぁ。こんなの嬉し涙に決まってるじゃん…」

 

「そ、そうか。ならよかった?」

 

「なんで疑問形なの?…ねぇ、八幡くん、今日最後のお願い、いいかな?」

 

「お願いまだあんの…?」

 

 

 

 

 

 

 

「私に、キス、してほしい」

 

 

 

 

彼女のその一言を、聞いて俺は固まってしまった。

 

 

 

「え?マジで?」

 

「こんな事、冗談で言わないよ」

 

「そうか…」

 

 

覚悟を決めるしかないようだ……

 

俺は彼女の前へと移動する。彼女はそれに合わせて目を閉じる。

 

少しずつ、彼女の唇へと近づいていく。

 

俺の唇と彼女の唇が触れるまで、あと少し……

 

 

 

 

 

 

コツン

 

 

 

 

 

 

メガネとメガネがぶつかった。

 

 

「ぷっ…あはは!もう台無しだよー」

 

「すっ、すまん…普段かけるもんじゃないからだな…」

 

「じゃあ、今は外してもいいよ?」

 

 

仕切り直し、俺はメガネを外す。

同じような失敗をしないように、彼女のメガネも外す。

 

 

先程と同じように、彼女は目を閉じる。

 

 

先程と違い、ようやく二人の唇が触れる。

 

 

俺はあまりの恥ずかしさに、ほんの数秒で離れる。

 

 

「……ふふ、しちゃったねー」

 

「恥ずかしくて死にそうなんですが…」

 

「これはもう責任とってもらわなきゃだね、八幡くん」

 

「努力するわ…じゃ、今日はもう帰るか」

 

「だねー。八幡くん、好きだよ」

 

「ばっ、ばかおまえいきなり何を…」

 

 

 

俺ももう、認めてもいいだろ。

 

 

 

「まぁ、なに、俺も、その、好き、かもしれん…」

 

「ちょ、八幡くん、私今の聞こえなかった。もう一回言って?」

 

「無理」

 

「お願い…」

 

「さっきのが最後だっつったろ」

 

それから俺は、逃げるように彼女の家の方へと歩き出す。 

 

 

 

もう、認めよう。

俺は、比企谷八幡は、海老名姫菜を好きになったんだと。

 

 

 

大切な彼女へと送ったネックレス。

 

そのネックレスに埋め込まれた小さな石は、インカローズ。

 

石言葉は

 

《新しい愛》




いかがだったでしょうか。

実はこの話を書き始める前に、今回のデートの舞台であるショッピングモールに実際に行ってきました。
本当に1日じゃ周りきれないくらい広かったです。

お話としては、前回姫菜の気持ちが明確になり、今回で八幡の気持ちが明確になりました。
7話目にしてようやく両思いになることができた今後の二人に期待です。

次回からは原作のお話に戻り、いろはすがクリスマスイベントの相談に来るあたりから始めます。

次回も八幡視点になります。


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彼の日常や心境は少しずつ変化している

最新話の投稿、遅くなってしまい申し訳ありません。
今回のお話はかなり悩む部分もありまして…詳しくは後書きにて。

読者の皆様のおかげで、日間ランキングに入ることができました。
ランキングに入るなんて想像もしていなかったので、とても嬉しいです。
いつも本当にありがとうございます!

今回は八幡視点になります。


彼女とのデートから数日が経った。

 

あの日、俺の気持ちは明確になった。彼女にしっかりと伝えられたわけではないが…

それにより俺の学校生活も少しずつ変化している。

 

まず、教室内で彼女と話す回数が増えた。俺から話しかける事まである。

文化祭での一件や、戸部の気持ちを考えるとあまり良くないのではないかと思ったのだが、戸部に関してはあまり気にする様子もなく、文化祭の件で俺を心底嫌っているであろう相模も、三浦と同じトップカーストのグループに属している彼女に対しては特に何をするでもなく、今のところ平穏無事に過ごせている。

 

あとは昼休み、彼女はほぼ毎日と言っていいほどベストプレイスに現れるので、一緒に昼食を食べている。

昼休みは由比ヶ浜が奉仕部の部室で雪ノ下と過ごしているという事もあってか、三浦もおまけでついてくる。いくら葉山がいるといっても、教室であのグループの中に女子一人でいるのはさすがの三浦でも気まずいらしい。

 

そして放課後、これまたほぼ毎日一緒に帰っている。

俺が奉仕部に行っている間、彼女は教室でぐ腐腐な趣味を嗜みながら待ってくれている。

 

 

 

 

 

………あれ?俺リアル充実しちゃってね?

ぼっちのスペシャリストである比企谷八幡はどこに?

 

などと部活中にも関わらずくだらない事を考えていると、雪ノ下から声をかけられる。

 

「比企谷くん、さっきからにやにやにやにやと、気持ちが悪いわ。部活中に下卑た妄想をするのはやめなさい」

 

「別に下卑た妄想なんてしてねえよ…と、すまんメールだ」

 

最近は、メールもよくするようになった。

とは言っても以前彼女が言っていたとおり、必要最低限の連絡程度ではあるが。

元々暇つぶし機能付きの目覚し時計としてしか扱っていなかったので、それだけでも充分な進歩である。

で、今きたメールの内容は…

 

 

 

from.愛しの姫菜ちゃん

 

はろはろ〜

今日は優美子と買い物に行くので先に帰ります。

一緒に帰れなくて寂しい?寂しくなったら、待受画面を見てね☆

 

 

 

毎度思うがこの登録名はやっぱなしだろ…

スマホの画面に表示された彼女の名前を見ながら、つい苦笑いをしてしまう。

 

 

「今度は携帯でいやらしいものでも見ているのかしら?部室内であなたの欲求を満たそうとするのはやめてもらえる?」

 

「ヒッキー、今の笑い方本当にきもい…」

 

「いや違うから。つーか何でメール見ただけでそこまで言われなきゃならん」

 

「姫菜からー?」

 

「あぁ、今日は三浦と一緒に買い物に行くんだとよ」

 

「あれだけ不本意と言っていたのに、まだ彼女と続いているのね」

 

「まぁ今は別に不本意じゃないからな」

 

「え!?ちょっとヒッキーそれってどういう…」

 

 

ガラッ

 

「せんぱーい!やばいですやばいですー!本当にやばいんですぅー!」

 

突然の来客に、由比ヶ浜の言葉は遮られた。

実にいいタイミングだ。正直追求されるの面倒だしな。

 

「一色さん、ノックを…」

 

ほとんど依頼人が来ることのない奉仕部のドアを開いたのは、つい先日無事に生徒会長に就任した一色いろはだった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「クリスマスイベント?」

 

「そうなんですよぉー!海浜総合高校ってとこと、合同で」

 

「その企画誰が言い出したんだ?」

 

「向こうからですよ!私から言うわけないじゃないですか!で、私もクリスマス予定ありますし、断ろうと思ったんですけど平塚先生がやれってー…」

 

どうやら生徒会は、海浜総合高校と合同のクリスマスイベントを企画しているらしい。

だが、始めてみてはいいものの進捗状況はあまりよろしいものではない。そこで奉仕部へと力を借りにきたというわけか。

 

「もう先輩達しか頼れないんですよー…」

 

「そうね、だいたいの状況はわかったけれど、どうかしら?」

 

「いーじゃんやろうよ!なんかこういう相談くるのって久し振りじゃん!」

 

「悪いが、俺はパス」

 

「は?」

 

一色さんはどこからそんな低い声を出してるんですかねぇ…

 

「だいたいこれは生徒会の問題だ。生徒会っつー組織の問題だったら、まずはその組織の中で話し合うなりするもんなんじゃねぇの?組織に属した事ないから知らんけど」

 

「ちょっと!何ですかその言い方!」

 

「どうせあれだろ?まだ副会長とか他の役員のやつらと上手くやれてないとかだろ?まずはそこからどうにかしろ。以上」

 

「えー!私、先輩が言うから生徒会長になったんですよ!何とかしてほしいです!」

 

「嫌だ無理だ。ほれ、この話は終わり」 

 

「比企谷くん、ちょっと待ちなさい」

 

「んだよ?」

 

「あなた、なぜそこまで拒否反応を示しているの?今までの依頼は、嫌々でもしっかりとこなしてきたじゃない。何か理由でもあるの?」

 

「ヒッキーがクリスマスイベントを手伝いたくない理由…クリスマス…はっ!」

 

おっと、由比ヶ浜さんそれ以上はいけない。

 

「まさかヒッキー、姫菜とクリスマスに予定があるからイベント手伝いたくないの!?」

 

「ばっ、ばか違ぇよ…」

 

嘘は言ってない。まだちゃんとした約束はしていない。

 

「そういえば今日、教室で優美子達とクリスマスの話してたときも、姫菜だけニコニコ笑ってるだけだった…」

 

「なるほど、そういう事…一色さん」

 

「はい?」

 

「この依頼、承ります。もちろん部員全員で。部長としてお約束します」

 

「ありがとうございまーす!」

 

こうして、俺の抵抗も虚しく、奉仕部はクリスマスイベントに関する依頼を受けることになった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

場所は変わって、稲毛海岸駅の駅前。

雪ノ下と由比ヶ浜は部室の鍵を返してから来るとのことで、一色と俺は一足先に学校を出て、話し合いの時に食べるお菓子やらを買いに来ている。

 

「お待たせしちゃいました?ふぅ…」

 

重いから持ってくれアピールですかそうですか。

 

「ほれ、こっちよこせ。重いんだろ?」

 

「…なんですかその頼りになる男アピール。はっ!もしかして口説こうとしてますか!?」

 

「いや俺彼女いるしそういうのもう間に合ってるんで無理ですごめんなさい」

 

「ちょ、なんで私がせんぱいなんかに振られなきゃいけないんですか!もう!重いからさっさと持ってください!」

 

「おう。先に入っちまうか」

 

買い物を済ませた俺と一色は、先にコミュニティセンターへと向かった。

 

 

 

 

「やぁ、僕は玉縄。海浜総合高校の生徒会長なんだ。よろしく。いやーよかったよ、フレッシュでルーキーな生徒会長同士企画できて。お互いリスペクトできるパートナーシップを築いて、シナジー効果を生んでいけないかなって思っててさ。で、君は生徒会の人?どうやら新しいニューフェイスみたいだけど」

 

「いや、俺は手伝いで来ただけだ。あとからもう二人来る」

 

のっけから良いパンチ打ってくんなコイツ…

 

「あれー?比企谷じゃなーい?」

 

「お、折本?」

 

「何でここにいんのー?比企谷って生徒会?」

 

「いや、俺は手伝いで来ただけで…」

 

「だよねー。比企谷が生徒会なわけないよねー。あれ?今日彼女さんはー?」

 

「いねーよ。別にいつも一緒にいるわけじゃない」

 

「ていうか比企谷に彼女って、マジウケる!」

 

「いや別にウケねーから」

 

こんな他愛もない話をしていると、ふいに袖が引かれる。

振り返ると、一色が不思議そうな顔で俺を見ている。

 

「…なんだよ?」

 

「随分親しそうにしてますけど、せんぱいお知り合いとかいたんですね」

 

あれ?あなた前に一回会ってますよね?

というか、その言い方だと知り合いなんていたんですかに聞こえるからやめようね?

 

「ただの中学の同級生だよ」

 

「あら、中学の同級生と言ったかしら?それは是非比企谷くんの黒歴史について詳しくお話を聞きたいわね」

 

「ヒッキー、いろはちゃん、お待たせー!」

 

「比企谷が女子に囲まれてるとかウケる!」

 

「いや、だから別にウケねぇっつの。おい、もうさっさと話し合い始めようぜ早く帰りたい」

 

なんで周りのやつらはこっち見てくんだよ。こっち見んな。

 

「そうだね。じゃあ前回と同じくブレインストーミングからやっていこうか。みんな席について。議題はイベントのコンセプトと内容面でのアイディア出しから」

 

ようやく周りの視線から解放され、助かったと思ったのも束の間、話し合いの内容はひどいものだった。

 

マインド的なイノベーションだとか

俺達とコミュニティ側とのウィンウィンな関係だとか

戦略的思考でコストパフォーマンスがどうだとか

チャイルドハートにリターンだとか

話し合いをしているとは思えない言葉が飛び交っていた。

 

「何言ってんのこいつら」

 

「さぁ?まぁ向こうが色々提案してくれてるんですよ」

 

「具体的な案は一つも出ていないと思うのだけれど…」

 

「難しい言葉がたくさん知ってるんだねー…」

 

 

「はぁ…みんな、もっと大切なことがあるんじゃないかな?」

 

お?さすがに生徒会長はまともな考えが出せるのか?

 

「ロジカルシンキングで論理的に考えるべきだよ。お客様目線でカスタマーサイドに立つっていうかさ」

 

こいつもダメだ…何頭痛が痛いみたいな事言ってんの? 

 

一色の言っていたとおり、たしかにこれはやばい。

何がやばいって、マジやばい。

 

「あ、あの〜、一旦休憩はさみませんか?今日初めて来た方達もいることですし…」

 

「そうだね。じゃあ一旦休憩にして、15分後に再開しようか」

 

 

 

一色のフラッシュアイディアにより、ようやくブレインストーミングから解放される。

あれ?俺影響受けちゃってね?

 

「大体どんな感じかわかってもらえました?」

 

「あぁ…これはたしかにやばいわ」

 

「ここまで壊滅的とは…予想以上だわ…」

 

「あははー…」

 

雪ノ下の言うとおり、これはさすがに予想以上のやばさだ。

この場で行われていた話し合いは、まったく意味がない

こっちの生徒会がうまく機能していないってのもあるが、さすがに相手が悪すぎる。

 

本来ブレインストーミングというものは、結論を出さない、自由な考えも歓迎する、量を重視する、アイディアを結合し発展させる、といったものだが、あんな覚えたての言葉を並べるだけのブレストごっこじゃ意味がない。

 

 

となれば俺がやる事はこれしかない。

 

まずは、この空気をぶち壊す。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

一つの案が思い浮かんだ俺は、こちら側の面々に向けて声をかける。

 

「おまえら、ちょっといいか?」

 

「せんぱい?どうしたんですかー?」

 

「まず一色、この後の話し合いはおまえが仕切れ。玉縄が仕切ってるようじゃ話がまったく進まん」

 

「え!?そんなのいきなり無理ですって!」

 

「心配すんな。おまえが仕切りさえすれば俺達はおまえの味方をしてやる。なぁ雪ノ下、おまえならあいつら論破するくらい余裕だろ?」

 

「えぇ、それはそうね。けれど、大丈夫?」

 

その大丈夫?ってのは手加減しないけど大丈夫?って意味だろうな…

 

「あぁ。由比ヶ浜、おまえは雪ノ下があまりにも言い過ぎてたらうまく宥めてくれ。相手が立ち直れなくなるまでやる必要はないし、おまえ、そういう空気読むの得意だろ?」

 

「よくわかんないけど、わかった!」

 

「あとは生徒会役員、おまえらは、その、あれだ、俺からいうような事じゃないが、一色を支えてやってくれ。こいつも不慣れなりに、このイベントを成功させようとしてんだ。一年の新米生徒会長なんてまだ信用しきれないとは思うが、頼む」

 

「……せんぱい、なんですかそれ。もしかして私の好感度上げようとしてますか?」

 

「この程度で上がる好感度なんていらねーよ。とりあえず、任せた」

 

「そこまで言われたら仕方ないですね。みなさんも、よろしくお願いします!」

 

 

 

それからの話し合いは、完全にこちら側が優位になって進められた。

俺の見込んだ通り一色はそれなりに口が達者だし、海浜総合側に言いくるめられそうになったりもしたが、副会長達や雪ノ下のフォローもあり、具体的にこのイベントでやりたい事や、その為に必要な準備期間や予算、人手等がしっかりと話し合われた。

 

え?俺?

俺は心の中でちゃんと応援してたよ?

 

まぁ俺の考えた案はこうだ。

海浜総合高校から合同イベントの誘いがあったからか、最初からあちら側がこの合同イベントを取り仕切るような空気になっていた。

それで進捗が悪いようであれば、その空気をぶち壊し、こちら側が仕切ってしまえばいい。あちら側からするといい気分にはならないかもしれんが、そこは一色のあざとさで、男共をうまくころがしてもらえばいい。

 

なんにせよ、話が進んだようでよかった。

 

 

 

 

「今日は本当に助かりました!ありがとうございます!」

 

「ええ。お役に立てたようでよかったわ」

 

「いろはちゃん、次はいつやるのー?」

 

「えーとですね…」

 

「おい、ちょっと待て。別に俺達は毎回来なくてもいいだろ」

 

「ちょっとせんぱい!本当にひどくないですか!?なんでそんな事言うんですかー!」

 

「なぁ雪ノ下、奉仕部の活動方針はなんだ?」

 

「飢えた人に魚をとって与えるのではなく、とりかたを教える、ね」

 

「だろ?俺達が毎回手伝いにきてるようじゃ、魚を一緒にとってやってるようなもんじゃねぇか。もうとりかたは教えたんだし、またどうしようもなくなったら手伝いに来るくらいでいいんじゃねぇの?」 

 

「あなたにしては驚くほどまともな事を言うのね…」

 

「だいたいここで俺達が入り浸ったら、一色と生徒会のやつらのためにもならん。こいつらでどうにか上手くやれるようになってもらわないと、今後も面倒見る事になるぞ?」

 

「ヒッキー、なんか変わったね。それって、どうして?」

 

「心境の変化ってやつだな」

 

 

もし、今の俺が変わったように見えるなら、それはきっと彼女のおかげなんだろう。

人を信じる事を怖れていた俺を、人を好きになるという事を忘れていた俺を、変えてくれたのは、紛れも無い彼女だ。

そんな彼女に思ってもらえている自分を、犠牲にするようなやり方は、もうしない。

 

 

 

「わかりました…けど、もし私達だけじゃどうしようもなくなったら、またお願いしてもいいですか?」

 

「まぁ、それは構わん」

 

「じゃあせんぱい、何かあった時のために連絡先聞いてもいいですか?色々相談とかもしたいですし」

 

「あぁ、勝手にやってくれ。ほらよ」

 

「ありがとうございます!って…………」

 

一色は、俺のスマホの画面を見て固まった。

 

「あ?どうした?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時、俺は大きな失敗をした。

すっかり忘れてしまっていたのだ、今の俺の待受は…

 

 

 

「せんぱーい…いくらなんでもいきなりこんなの後輩に見せるってどうなんですかね…」

 

その発言を聞き、雪ノ下と由比ヶ浜も不思議そうにスマホの画面を覗く。

 

 

その画面に表示されているのは、

 

 

俺のほっぺにキスする彼女と、素っ頓狂な顔をした俺が写ったプリクラである。

 

 

この後俺がどうなったかは、ご想像にお任せしよう。




最後までお読み頂き、ありがとうございます。

まず、姫菜成分が足りない!甘さが足りない!と思われた方には本当に申し訳ありません。
クリスマス編をどのように進めるかすごく悩んだのですが、姫菜と付き合う事で八幡にどんな変化があったのかを書きたいと思いこのような形になりました。


今回はこのような形になってしまいましたが、ご安心ください。

次回は、ディスティニーランド編です!
甘々な二人をお約束します。

次回は姫菜視点になります。


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彼女と彼と夢の国《前編》

このssを読んで頂けたり、感想を書いてくださったりと、いつも本当にありがとうございます。
皆様のおかげでUA40000、お気に入りも1000を突破いたしました。
これからも満足いただけるようなものが書けるように頑張ります。

ディスティニーランド編は初の前編・後編になっております。
前編はキリのいいところで終える為、少し短めです。

今回は姫菜視点になります。


最近、八幡くんと一緒にいられる時間が減ってしまった。

なんでも生徒会からの依頼で、海浜総合高校と合同で行われるクリスマスイベントのお手伝いに、毎日行っているらしい。

 

奉仕部への依頼だからしょうがないっていうのはわかってる。

わかってるけれど、やっぱり寂しい。

 

私ってこんなに乙女的な思考だったっけ…

それに、一緒にいられる時間が減ったっていっても、昼休みなんかは一緒にいるのに…

 

 

最近はあれだけ好きだった趣味の時間でさえ物足りなく感じてしまう。

いや、BLは尊いとは思う。嫌いになったわけでも興味が無くなったわけでもない。

 

けれど、どこか物足りない。

 

趣味に没頭しているはずの時間でさえ、ふとした時に彼の事を考えてしまう。

 

彼に会いたい、話していたい、触れていたい。

 

そんな事を、考えてしまう。

 

 

そんな考えで頭がいっぱいになってしまっているとき、大切な友達、優美子から一通のメール。

内容は、ディスティニーランドへのお誘い。

正直なところ、有明以外の人混みは苦手だけど、いい気晴らしになるかな。

そう思って、私はすぐに了承の返信をした。

 

 

「はぁ…八幡くんに会いたいなぁ…」

 

 

つい、口からそんな言葉が漏れてしまう。

 

できることなら彼と行きたかったけど、今回はしょうがない。

せっかくだし、楽しまなきゃ損だよね。

 

そう考えながら、私は眠りについた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

優美子達とのディスティニーランド当日、待ち合わせ場所は舞浜駅。

そういえば誰が来るのか聞かなかったけど、私が駅に着いた時にいたのはいつものグループの面々。あと…え?一色さんはまだわかるけど、雪ノ下さん?なんで?

 

「あれー?ヒキオいんの?」

 

そんな優美子の言葉を聞き、すぐに目線をそちらに向ける。

そこには、あれだけ会いたいと思っていた彼の姿。

 

「おい、何であいつらもいるんだ?」

 

「だって、いろはちゃんの味方だけするってわけにもいかないじゃん!私も板ばさみで大変なんだよー…」

 

ちょっと待って。私、何も聞いてない。

なんで八幡くんがいるの?

もし私が来なかったら、結衣達とディスティニーランドに来てたってことだよね。

 

私だけ八幡くんのことばかり考えてたの?

なんだかそれって、ばかみたい。

 

八幡くんは気まずそうにこっちを見てるし…なんだかなぁ。

せっかく気晴らしになると思ってたのに、今日はもううまく笑えないよ。

 

「全員揃ったみたいだし、そろそろ行こうか」

 

隼人くんの一言で、みんながランドへ向けて動き出す。

 

私の足取りは、とても重い。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

ランド内に入ると、みんながそれぞれ記念撮影。

私は写真に写る気になれなくて、撮る側に撤していた。

 

「姫菜ー、ちょっと一枚お願いしてもいいかな?うまく捕まえるから!」

 

結衣は私にカメラを預け、彼と雪ノ下さんの元へ。

 

雪ノ下さんの肩と彼のマフラーを掴み、強引に自分へ近づける。

私はタイミングを見計らってシャッターを切る。

 

「結衣〜、撮れたよ」

 

「ありがとー!」

 

私は何をしてるんだろうなぁ…

まだ八幡くんとは一言も話せてないし、こんな時どうしたらいいかわからない。

 

 

 

もやもやとそんな事を考えているうちに、本日一つ目のアトラクションに着いていた。

ゲートから一番近い絶叫系アトラクションで、宇宙をテーマにしたジェットコースターである。

そのアトラクションの列に並んでいる最中、私の前では優美子と一色さんが隼人くんの隣を取り合い、戸部っちがその間に入って睨まれている。

 

「…戸部っち大変そう」

 

そんな言葉がポロッと出てしまう。

 

「だな。助けてやれば?」

 

この時、この日初めて彼から声をかけられる。

ようやく聞けた彼の声。それなのに、全然嬉しくない。

 

私は何も言い返すことができず、ただただ下を向いている。

 

 

 

 

 

グイッ

 

 

そんな時、ふいに私の手が引かれた。

 

「あー、おまえらすまん。俺こういうのマジ苦手なんだわ。ここまで並んどいてあれだが、先に外出てるわ。じゃっ」

 

そう言うと、彼は私の手を引き途中退出口へと向かう。

 

「ちょ、ちょっとヒッキー!?」

 

結衣から声がかけられるが、彼は振り向きもしない。

私は突然の事に驚き、ただ彼の手に引かれるまま外へと向かう。

外へ出ると、先程まで真っ暗な建物の中にいたからか日差しがとても眩しい。

 

「ねぇ、いきなりどうしたの?」

 

「すまん」

 

「なにが?」

 

「今日の事だよ。ここに来ること、ちゃんと伝えてなくて、すまん」

 

「……別に。逆にごめんね、せっかく結衣や雪ノ下さん達と来たのに私がいて」

 

つい、本音をぶつけてしまう。

 

「いや、別にあいつらと来たかったわけじゃ…」

 

「私に内緒にしてたんだからそういう事でしょ?もういいよ、私帰るから。優美子達には私から後で謝るから何も言わなくていいよ」

 

そんな言葉を投げつけて、私は彼に背を向ける。

それでも彼は、私の手を離さない。

 

「違ぇんだよ。いや、こんな事言っても言い訳にしか聞こえないだろうが聞いてくれ。俺は今日、おまえがここに来るのを知ってた」

 

「どういう事?」

 

「今クリスマスイベントの件で奉仕部に依頼がきてるのは話しただろ?それの参考のためにっつー事で平塚先生にチケットもらってここに来ることになったんだが、チケットが一枚余ってな。それで一色が葉山を誘うような事言ってたから、もしかしたらと思って三浦に来るのか聞いたんだ」

 

そういえば優美子とも連絡先交換してたっけ。

でも…

 

「なんでそこで優美子なの?」

 

「三浦におまえを誘うよう頼むためだ」

 

「直接誘えばいいじゃない」

 

「…………………理由、言わなきゃダメか?」

 

「言うか手を離すかどっちかにして」

 

「はぁ……マジか。……………んだよ」ボソッ

 

「聞こえない。手離して」

 

「恥ずかしかったんだよ!だいたい、こんなリア充の巣窟みたいなとこに彼女誘うとか、ぼっちの俺にはハードル高すぎたろ!ぼっち舐めんな!」

 

え?でも…

 

「でも、だって、駅で…」

 

「あ?あー、あれは演技っつーか、おまえが来るのを知らなかったふりしといたほうがネタばらしした時にサプライズっぽいって三浦がだな…完全に逆効果だったみたいだが。ちなみに今日俺がここに来る事を当日まで黙ってろってのも三浦の指示だ」

 

「何それ…」

 

「ちなみに、ここで途中退出すんのも予定通りだ。途中退出してネタばらし、で、ここから俺とおまえの二人はあいつらとは別行動。想定外だったのはおまえの機嫌が明らかに悪くなってたとこだな」

 

「私、顔に出てた?」

 

「まぁな。というか三浦もおまえの事、気にしまくってたぞ?気づいてなかったのか?」

 

「それどころじゃなかったもん。じゃあ列に並んでた時、戸部っちのこと助けてやれって言ったのは?」

 

「あれは八幡ジョークだ。少しでも機嫌を直してもらおうと思ってな」

 

「完全に逆効果だったね。今ならいいトベ×ハチが書けそうだよ」

 

「本当に勘弁してくれ…まぁ俺からの言い訳は以上だ。文句があるならいくらでも言ってくれ。俺もちゃんと謝りたい」

 

「なら言わせてもらうね。まず、そんなふうに考えていたとしても、今日の事教えてくれなかったのはやっぱり嫌だった」

 

「すまん」

 

「それに、さっき結衣達と写真を撮った時、近かったし赤くなってた」

 

「うぐ…それは不可抗力で…いや、すまん」

 

「あと、おまえって誰?」

 

「すまん、姫菜。これでいいか?」

 

「………最近、一緒にいられる時間が減って、寂しかった。依頼のお手伝いの時は結衣や雪ノ下さん達と一緒にいるって思うと、不安だった」

 

「………すまん」

 

「そんな不安な時に、私の目の前で結衣や雪ノ下さん達と仲良くしてるところなんて見せられたら…私……」

 

これ以上、言葉が出なかった。

こんな事を言ったら彼が困ってしまうのもわかっていた。

何より、こんなに弱い自分が嫌になりそうで。

あーあ。いつから私はこんなに変わっちゃったんだろ。

私は腐女子なのに。男同士に萌えるはずなのに。

恋って、人をこんなにも変えちゃうんだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

ギュッ

 

 

 

言葉を途中で止め、俯いてしまっていた私を、ふいに彼が抱きしめる。

 

 

 

「本当にすまん。またやらかしちまったな。姫菜は俺の事をそんなに考えてくれてたっつーのに、俺は恥ずかしいなんてくだらない理由で余計な心配かけてたんだな」

 

 

人一倍人目を気にするはずの彼の突然の行動に、私は驚いていた。

 

 

「前にも言ってくれてたのにな。他の女といるところを見るだけで嫉妬してくれるような姫菜が、今日みたいな事をされて、いい気分になるわけなかったわ。また軽率な行動とっちまった。本当に俺、どうしようもねぇな」

 

「ち、違っ、八幡くんは別に…」

 

「いや、俺が悪いだろ。けどよ、その、なに、そこまで不安にならなくてもいいんじゃね?」

 

なるよ。不安になる。

八幡くんが思っている以上に、周りの人達は八幡くんを意識してる。

そんなんじゃ…

 

 

 

「俺が好きなのはおまえだぞ、姫菜」

 

 

 

へ?

 

 

「は、八幡くん、ちょっと今のよく聞こえなかった」

 

「ばっか、んなわけねーだろ。言っとくが二度は言わん」

 

そう言うと、八幡くんは持っていた鞄からメガネを取り出し、かける。

そのメガネは、あの時私が選んだメガネ。持ってきてくれてたんだね。

 

「ほれ、さっさと行かねーとあいつら出てきちまうぞ?それとも帰るか?」

 

「帰るわけないじゃない…八幡くん、罰として今日は一日、言うこと聞いてもらうからね」

 

「またそれか…ロクなことにならないんだよな…」

 

「知らない。いいから、行こ?」 

 

そう言って、今度は私が彼の手を引き歩き出す。

 

 

 

 

 

私は単純だ。

さっきまで、負の感情でいっぱいだったのに。

今すぐにでも、この場から立ち去りたいと思っていたのに。

彼から言われたあの一言だけで、全部どうでもよくなっちゃった。

ようやくはっきりと聞くことができた、彼の気持ち。

 

今はちょっと、ちゃんと彼の顔が見れない。

私に好きだと言ってくれた彼の顔以上に、今の私の顔は真っ赤だから。

 

今日はうまく笑えないと思ってたけど、今の私は、多分きっと、ちゃんと笑えている。

 

 




最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
今回は文字数が少なくて申し訳ありません。

その分後編をガッツリと書いているのですが、前編よりも色々と動きが…
詳しくは次回のお話で!

ちなみになんですが、皆様はアニメ見られましたか?
アニメを見た方ならわかると思いますが、スペースマウンテンに並んでる時の八幡と姫菜のやりとり、あのなんとも言えないやりとりが個人的にすごく好きです。

次回はディスティニーランド編の後編。
後編も引き続き姫菜視点になります。


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彼女と彼と夢の国《中編》

今回は前回よりも短めです。申し訳ありません。
ちょっと後編の最後の部分で悩んでおりまして…

期間が空きすぎるのも申し訳ないので中編として一部を更新させて頂きました。

今回は姫菜視点になります。


「八幡くん、このカチューシャ付けて。あ、ポップコーンも買うから買ったら首から下げてね。キャラクターの手袋は繋がない方の手に片方ずつ付けよっか」

 

「いや、さすがに…」

 

「あーあ、八幡くんは彼女に隠し事なんてしない人だと思ってたのになぁ…」

 

「おいこっち見てみろよこの手袋とか超いい感じだぞ」

 

「そうだねぇ。あ、パーカーどうしよっか?色までお揃い?」

 

「あの、そろそろ俺の財布がだな…」

 

「大丈夫、パーカーくらいは自分で買うよ」

 

彼と無事に仲直りをした私は、先程から無茶振りばかりしている。

私の事を考えての行動だったとしても、少しは懲らしめなきゃね。

メガネを持ってきてくれていたのは嬉しかったけどさ。

 

「おい、これじゃまるでアホ丸出しのバカップルみたいだぞ…」

 

「いいじゃない、ここは夢の国なんだし。それにこれくらいしたほうが結衣達にも見つかりにくいだろうし」

 

「いや、これじゃ俺のアイデンティティが…」

 

「八幡くん、お願い」

 

「へいへい…」

 

一通りのグッズを購入し終えた私達の今の服装は、それぞれがキャラクター物のパーカーを着て、某ネズミキャラのカチューシャを付け、片手ずつキャラクターの手の形をした手袋を付けている。ここからさらにポップコーンの入れ物が増える予定だ。

 

……うん、バカップルだねこれ。自覚はあります。

でも、今日だけはいいんだ。せっかくの彼との夢の国だしね。

 

「そういやそれ、付けてくれてんだな」

 

そう言って、彼は私の首元に目を向ける。

 

「当たり前だよー。見えてないかもしれないけど、学校でも付けてるよー。私の宝物だからね」

 

「お、おう、そうか」

 

彼は照れくさそうに頭をガシガシと掻く。今となっては見慣れた仕草。

 

「さて、さっきはあんな事があってまだ何も乗れてないし、どこか行こっか。八幡くんは乗りたいものとかある?」

 

「特にはないが、パンさんのバンブーファイトはダメだな。雪ノ下の事だから何回かループしそうだし」

 

「さっきのアトラクションから順番に周るとなると、みんなそっちの方にいそうだねぇ。じゃあ私達は逆から周ろっか。トロッコのコースターのところとか」

 

「おお、あれな。んじゃそうしますかね。ほれ」

 

彼から私に手が差し伸べられ、自然に繋ぐ。こんな事をいちいち嬉しく思ってしまう。

以前の私じゃ考えられないこの感情。

そんな感情も、今は心地良い。

 

私と彼との夢の国デートは、まだ始まったばかり。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

カップルでディスティニーランドに行くと別れる。

そんなジンクスをご存知だろうか。

 

これは、アトラクションの待ち時間に会話が続かなくなって気まずくなったり、相手の思いやりが見えなかったり、他の人に目移りしたり…等、理由はたくさんあるようだけど、千葉県民であれば一度は聞いたことのあるジンクスだ。

 

正直、私はそれが不安だった。

そんなの真に受ける必要ないと思うかもしれないけど、それでも不安だった。

 

 

 

 

けど、そこは流石というかなんというか…

 

八幡くん、意外とエスコート上手。

不安だった私がばかみたい。

 

歩くペースを合わせてくれるし、人とぶつかりそうになったら肩を引いてくれるし、私が少しでも疲れを見せたらその度休憩させてくれるし、アトラクションに並んでる時も、私と会ってなかった時に何をしていたとか、小町ちゃんがいかに可愛いかとか、それ以外にも色々と話してくれるし、他の人を見てもバカップル爆発しろとしか言わないし…

 

最後のはブーメランかもしれないけど、一緒にいて不快に思う所が一つもない。

おかげさまで私と彼とのデートはとても順調に進んでいる。

 

「ねぇ八幡くん、それ、他の女の子達にもやってるの?」

 

「は?それってなんだよ」

 

「なんか色々とやさしいのだよー。他の女の子にもやってるの?」

 

「あー、まぁ俺は小町に色々と調教されてるからな。オートスキルみたいなもんだ」

 

「否定しないって事は思い当たることがあるんだね」

 

「いや、あれは一色があざとく荷物重いアピールしてきたから………あ」

 

「八幡くんの女たらし」

 

「安心しろ。普通の男がやると好感度が上がるのかもしれんが、俺がやってもキモがられるだけだ」

 

「一色さんはどう思ってるんだろうねー」

 

「いや、あいつ葉山が好きなんだろ」

 

「結衣や雪ノ下さんにはどうなんだろうねー」

 

「つーか、もしかして足痛いか?結構歩いたし、そろそろ一休みするか?」

 

「もう!そういうのだよ!八幡くんやさしい!ありがとう!」

 

「怒りながら感謝されるってのもなんかあれだな…」

 

そう、八幡くんはやさしい。

私の事を大事に扱ってくれる度、私の頬は緩んでしまう。

けれど同時に、少し不安にもなる。

 

「八幡くんのそのやさしさを知ってる人もいるんだよね…」

 

私はボソっとつぶやく。

そう、きっと奉仕部の二人や、最近だと一色さんも、少なからずこのやさしさを知っているのだろう。

 

「おい、あそこのベンチ空いてるぞ」

 

 

 

 

 

だから、私は一つの決心をした。

 

 

 

 

 

始まりは、八幡くんのちいさな嘘。

 

それから私と彼は、ささやかだけど、かけがえのない時間を重ねて、ちいさな嘘を本当にした。

 

自分達の気持ちを、『本物』にした。

 

その私達の本物の気持ちを、彼女達はまだ知らない。

 

だから…

 

 

「ねぇ八幡くん」

 

「あ?なに?座らねーの?」

 

「私、雪ノ下さんや結衣に話したい事があるんだ。この後、合流してもいい?」

 

 

あの時は嫌いじゃないだなんて曖昧な伝え方しかできなかったけれど、ちゃんと伝えよう。

 

彼女達に、今の私の気持ちを。

 

ちゃんと私達の関係を認めてもらうために。

 

私達の間に付け入る隙なんてないって、わかってもらうために。

 

独占欲強すぎかな?

八幡くんはこういうの嫌かな?

 

でも、私はそうしたい。彼の事が誰よりも好きだから。

 

 

「………服着替えていいか?」

 

「だーめっ」

 




最後までお読み頂きありがとうございました。

次回はいよいよ、姫菜と奉仕部の二人との決戦です。

今回は物足りなさもあったとは思いますが、考えがまとまれば明日にでも後編を更新できると思いますので、もう少しお待ちいただけると嬉しいです。

感想を書いてくださる方、大変申し訳ありませんが後編を書き終わり次第お返事させて頂きます。

ディスティニーランド編クライマックスも姫菜視点になります。


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彼女と彼と夢の国《後編》

待っていていただけた方、大変お待たせいたしました。
ディスティニーランド編は今回で完結です。

今回は本当に悩む部分が多かったですが、途中から書いていて楽しくなってしまいました。

今回も姫菜視点になります。


『パレード開始30分前にお城の前で』

 

それが待ち合わせのために結衣から指定された場所と時間だ。

優美子のほうにも、合流するのは結衣と雪ノ下さんだけにしてと連絡しておいた。

優美子の事だから、気になってしかたないだろう。面倒見がいいし、きっと私を心配してくれているはず。

だけど、今回ばかりは私一人であの二人と話をしないと意味がないのだ。

 

彼にとって、大切な場所である奉仕部。

 

その奉仕部で、彼と共に長い時間を過ごしてきたあの二人。

 

きっと彼の優しさに触れてきただろう。

 

きっと彼の捻くれた考えに呆れてきただろう。

 

けれど、きっと彼の事を信用しているだろう。

 

だからこそ、奉仕部への依頼のために嘘の告白をした彼をよく思っていないのだろう。

そして、嘘の告白とわかっていながら受け入れた私のこともきっとよく思っていない。

 

思えば私と彼の関係は、スタートが普通ではなかった。

彼の告白は本心でないとわかっていながらもそれを受け入れた私。交際を始めてからも、私は彼を嫌いじゃないとしか言えず、彼も私と付き合う事は不本意だと言っていた。

そんな偽物のようなスタートをしてしまった。

 

だけどきっと、私と彼とでは普通のスタートはできなかったはずだ。

偽りの仮面を被り続けていた私と、人を信用する事を拒んでいた彼では。

 

だから、私はこれでよかったと思っている。

スタートがどんな形であれ、今の私達の気持ちは付き合い始めた頃とは違う。

時間をかけて、お互いの気持ちを『本物』にすることができた。

 

そんな今の私達の気持ちを、あの二人に認めてもらいたい。

彼の本質を知っているであろう二人に。

 

 

 

 

 

 

 

そして、私と彼との間に付け入る隙はないとわかってもらいたい。

私と付き合って、彼はこんなにも変わったんだと見せつけたい。

 

我ながら酷い考えをしていると思う。

けれど、これもやっぱり私の本音なのだ。

 

結衣はきっと彼の事を好きだと思う。明確に言葉にしていた事はないが、普段の態度を見ていればさすがにわかる。

 

雪ノ下さんはどうだろう。好意ではないのかもしれないけれど、他の人を見る目と彼を見る目が違っているのはなんとなくわかる。

 

そんな二人には、きっちりとわかってもらいたい。

彼の隣にいるのは、私だって。

 

私のこんな一面を知ったら、彼は私に失望するかな。

重いって思われちゃうかな。きっと思うよね。

彼は前に、ヤキモチは一種の愛情表現だと言ってくれたことがある。

けれどこれはヤキモチなんてものじゃない。

腐った私の、酷い独占欲。

 

 

私がこんなふうになってしまうほどに、私は彼が好きなのだ。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「姫菜、お待たせ」

 

「……随分と楽しんでいたようね。というかあなた、メガネなんてかけていたかしら?」

 

待ち合わせ時間の5分前、彼女達はやってきた。

 

「これは伊達メガネだ。つーか姫菜、こいつらの前だしメガネは外しててもいいか?」

 

「ひ、姫菜!?ヒッキー姫菜の事名前で呼んでたっけ!?」

 

「うん、いいよ」

 

「ヒッキー無視!?」

 

「やかましいやつだなおまえは…別に名前で呼んだっていいだろ彼女だし」

 

ちょっと八幡くん、なにその不意打ちずるいよ。

結衣達の前でそんな彼女扱いされたら嬉しくなっちゃうじゃない。

 

「それで、わざわざ私と由比ヶ浜さんを呼び出した理由は何?そんな格好までしているのだから、そのまま楽しんでいればよかったじゃない惚気谷くん」

 

「雪ノ下さん、呼び出したのは私だよ」

 

「そう。で、何か用かしら?」

 

「まず聞くけど、クリスマスイベントの手伝いに毎日行っているのはなんで?」

 

「生徒会からの依頼だからよ。そこの彼から聞いていないの?」

 

「聞いてるよ。詳しく聞いたのは今日だけど」

 

「だったら…」

 

「うん、私の聞き方が悪かったね。じゃあ、毎回手伝いに行くようじゃ生徒会の人達のためにならないから、どうしようもなくなったらまた手伝おうって話になったはずなのに、八幡くんの待受を見た途端毎日行くようにしたのはなんで?」

 

「……あなた、そこまで話したの?」

 

「口止めされてたわけでもないしな」

 

「雪ノ下さん、今あなたに質問しているのは私だよ」

 

「そうね。毎日行くようにしたのは、今の生徒会はまだ新たに結成されたばかりだし、ある程度落ち着くまでは力を貸す必要性があると思ったからよ」

 

「でも、それじゃ生徒会の人達のためにならないんだよね?」

 

「それは…」

 

「それに私が聞いているのは、八幡くんの待受を見た途端意見を変えた理由だよ。そんなに八幡くんと私が毎日一緒に帰っていたのが嫌だった?」

 

私がまず彼女達に聞きたかったのはこれだった。

この話を彼から聞いたのは、先程アトラクションに並んでいた時。

私はてっきり最初から毎日手伝いに行くことになっていたのかと思っていたけれど、実際は違ってたみたい。

 

「姫菜、ちょっと落ち着いて…」

 

「私は落ち着いてるよ。じゃあ、結衣はどうだった?八幡くんと私が毎日一緒に帰っていたのは嫌だった?」

 

「私は…」

 

「海老名さん、ちょっといいかしら?」

 

「何かな?雪ノ下さん」

 

「由比ヶ浜さんはどう思っていたのかわからないけれど、正直に言うと、私はあなた達の交際に納得していなかったわ。だってそうでしょう?あなたは嫌いじゃないだなんて曖昧な感情で、比企谷くんも不本意で、それなのに交際をするなんて意味がないじゃない」

 

「私もゆきのんと同じような感じかな。お互いが好きなわけじゃないのに付き合うって、なんか違うと思う。ヒッキーも最初は別れるって言ってたし…」

 

「由比ヶ浜さん…ええ、そうね。それなのにいつまでも意味のない交際を続けているようだから、私達は奉仕部での勝負に勝って、別れる事をお願いしようと考えていたんだものね」

 

八幡くんは雪ノ下さんの言葉を聞いて、どこか納得をしたような表情をしている。

 

「ねぇ八幡くん、勝負って?」

 

「誰が一番人に奉仕できるか、人の悩みを解決できるかって勝負だ。勝ったらなんでも言うことを聞いてもらえるってやつだな」

 

そんな勝負があったんだね…

 

「ところで八幡くん、もしそのお願いされてたらどうしてた?」

 

「さぁ、どうだろうな」

 

「おい八幡」

 

「怖っ。怖ぇよ。あー、まぁあれだな、以前の俺だったらどうしたかはわからんが、今の俺ならありえないだろ。あ?つーか今呼び捨てだった?」

 

「それならよかった」

 

彼からその言葉を聞けただけで充分だ。

私は彼女達に、ちゃんと伝えよう。

 

「今の、聞いてくれた?最初はそうじゃなかったかもしれないけど、今の私達はお互いにちゃんと納得して付き合ってるんだよ。だから、もう私達を別れさせようなんて考えやめてもらえないかな?」

 

「姫菜はさ、その、ヒッキーのこと、今はどう思ってるの?」

 

「好きだよ。私は八幡くんが、八幡くんのことが本当に好き」

 

「どういった心境の変化かしら?」

 

「変化っていうわけじゃないよ。前にも言ったかもしれないけど、私は人を好きになるっていうことがどういうことかわかってなかった。けど、彼と一緒の時間を過ごしているうちにそれがわかったってだけ」

 

「そっか…姫菜は、本気なんだね…」

 

「それでも、その男と付き合うのは理解に苦しむわね。海老名さんにはメリットがないでしょう。特別容姿がいいわけでも、頭がいいというわけでもない。ましてや専業主夫になりたいなんて言っているような男なのよ?」

 

「おい雪ノ下、容姿はこの際どうでもいいが俺は国語に関しては学年3位だ」

 

「では理系は?」

 

「ぐぬぬ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あーあ。

 

 

 

 

 

さすがに、イラッときた☆

 

 

「雪ノ下さん、言いたい事はそれで終わり?」

 

「ええ。悪いことは言わないわ、ストーカーになられる前に早めに手を引きなさい」

 

「お、おい俺は…」

 

「ふざけないで」

 

「…へ?」

 

「自分へのメリット?容姿?学力?専業主夫?そんなのどうでもいいよ。雪ノ下さん、あなたが今私に対して言ったこと、そんなのはただの理屈でしかないじゃない。あなた、人を好きになったことあるの?」

 

「ひ、姫菜…?」

 

「あるわけないよね?人を好きだとか、嫌いだとか、そういうのは全部感情だよ。あなたはどんな人でも頭さえ良ければ好きになれる?あなたはどんなに性格が最低なクズでも容姿さえ良ければ好きになれる?将来の夢さえしっかりとしている人ならそれだけで好きになれる?なれないでしょ?」

 

「お、おい、そろそろ…」

 

「わかってないみたいだからもう一回言うね。私は八幡くんが好きなの。目が腐ってても、捻くれた考え方をしてても、それでも好き。人を好きになるのって、自分のメリットのためなんかじゃないよ。たとえデメリットしかなくても、そんな理屈とか関係なく私は八幡くんのことが大好き」

 

「あの、雪ノ下は目のことは言ってなかったよね?というか俺と付き合うのってデメリットしかないの?」

 

「八幡くんうるさい。ねぇ、雪ノ下さん、私はこれだけ本気で八幡くんのことが好きなの。私の、この感情を、馬鹿にしないで!」

 

 

言った。言い切った。

そして今、猛烈に恥ずかしい…

こんなの全然私のキャラじゃないよ…

 

だけど、許せなかったんだ。

私にとって大切な彼を、あんな言い方されたらさ。

 

 

 

「そう…ごめんなさい。さっきまでの言葉は全て撤回するわ。私はてっきり曖昧な気持ちのまま付き合っているものだとばかり思っていたから…」

 

「私もごめんね…教室とかじゃいつも一緒にいたのに、姫菜の気持ちをちゃんとわかってなくて…ていうか、姫菜の気持ちはわかったけどヒッキーは?」

 

「は?」

 

「ヒッキーは姫菜のことどう思ってるの?」

 

「あ、八幡くんちょっと待って」

 

「アッ、ハイ」

 

「結衣、この際だからはっきりさせちゃおうよ。結衣も八幡くんのこと好きでしょ?」

 

「ぶっふぇ!?ちょ、ちょっと姫菜いきなり何言ってんの!?」

 

「私もここまで言ったんだしさ、せっかくだし本音で語ろうよ」

 

「うー………わ、私もヒッキーのことす、す、好き、だよ。ずっと前から。だから姫菜と付き合うってなって、その、い、嫌だった…けど、だからってあんなヒッキーと姫菜を会わせないようにするなんてやり方間違ってたよね…本当にごめん…」

 

「わかった。もう謝らなくていいんだよ。ちゃんと言ってくれてありがとう。じゃあ雪ノ下さんは?」

 

「海老名さん、それは本気で聞いているの?」

 

「うん。少なからず、私と八幡くんが一緒にいることを、好きとか嫌いとか、ちゃんとお互い好きじゃないとか、そういうの関係なく嫌だったでしょ?」

 

「そ、それは…ええ、そうかもしれないわね。あなたの言葉を借りると、私も人をちゃんと好きになったことがないからよくわからないけれど、彼と一緒に過ごす時間は嫌いではなかったわ」

 

「そのわりにひどいことばっかり言ってたけどね。雪ノ下さんはツンデレさんなんだね」

 

「その言い方は納得いかないのだけれど…けど、そうね。海老名さん、もう一度ちゃんと謝らせて。人を好きになったことがない私が、私の勝手な考えだけで、あなたの気持ちを決めつけてしまっていて本当にごめんなさい」

 

「もういいよ、私は大丈夫だから。大切な人が離れていくのって、辛いもんね。私も今ならわかるよ」

 

「ありがとう、海老名さん…」

 

 

 

 

 

「さて、八幡くん」

 

「はい」

 

「ここにあなたへ好意を向けているステキな女の子が三人います」

 

「……………はい」

 

「あなたは、誰を選びますか?」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

無事、奉仕部の二人に関係を認めてもらえた私達は、優美子達とも合流をしてパレードを見ている。

というか優美子達、近くで私達のやりとりを見ていたらしい。

ここ最近の私を知っている優美子に見られるのは別によかったけど、隼人くんや戸部っちにまで私のあんなところを見られるなんて……

 

「それにしても、その格好には驚いたな。似合ってるよ比企谷」

 

「いやー、ヒキタニくんそれはさすがにないでしょー…もう吹っ切れたっていってもさすがにやばいわー…ちょ、そのパーカー貸してくんね?」

 

「うるせぇおまえらこっちくんな散れ」

 

あぁ…ここが楽園…

脳内でトベ×ハチとハヤ×ハチが…」

 

「あんさー、さすがに彼氏でそういう妄想すんのはどうなん?」

 

「私今声に出てた?」

 

「出てたし。ま、海老名とヒキオがうまくいってんなら別にいーけど。にしても結衣はともかく雪ノ下さんとも仲良くなるとはねー」

 

「まぁね。元々はあんな始め方をしちゃった私のせいでもあったし、ちゃんとわかってもらえてよかったよ」

 

「それにしても海老名先輩、私、さっきの言葉に心打たれました!もう男子を自分の装飾品みたいに扱うのやめます!私もちゃんと人を好きになりたいですし!」 

 

「一色さん、恥ずかしいからやめて…あ、でも八幡くんはだめだよ」

 

こんな感じで話をしながら私達はパレードを見ている。

そのパレードも、もうすぐ終わる。夢の国にいられる時間は、あと少し。

 

「そーいや海老名、今日ヒキオと写真撮ってないっしょ?せっかくだし撮れば?あーしが撮ったげるよ。ちょ、ヒキオこっち来い。写真撮るよ」

 

「んだよ…あ?写真?無理無理おまえらに見られながら撮られるとか恥ずかしいし」

 

「いーから早くしろし。閉園時間ももうすぐなんだから」

 

「優美子、せっかくだし、みんなと撮りたいな」

 

「そ?ま、いーけど。あ、すいませーん、写真いーですか?」

 

こうして私は、今日ここへ来てから初めて写真を撮った。

思い返してみると、朝から不安になったり、嬉しくなったり、怒ったり、忙しい一日だったな。

けど、最終的には楽しかったと思えてる。

私は今日、ここにきて来てよかった。

 

 

 

 

 

 

『ここにあなたへ好意を向けているステキな女の子が三人います』

 

『……………はい』

 

『あなたは、誰を選びますか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺の感情も馬鹿にすんなよ?俺が好きなのはおまえだけだ、姫菜』

 

 

 

 

 

彼からあんなふうに言ってもらえて、本当によかった。




最後までお読み頂き、ありがとうございます。
いかがだったでしょうか?

今回のお話で奉仕部の二人とのわだかまりもなくなり、これからはゆきのんと由比ヶ浜も八姫に協力的になっていきます。協力的になっていきますが、自分のssの中での由比ヶ浜とゆきのんの二人は八幡を好きなので、隙あらば…というような態度も見せていくつもりです。
これまでなかなか話に絡ませられなかった奉仕部の二人の今後にも期待して頂ければなぁと思います。

最後に、前編・後編と宣言しておきながら中編を入れてしまったことをお詫びいたします。申し訳ありませんでした。

これからもこのssを読んでいただけると嬉しいです。


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