桜と海と、艦娘と (万年デルタ)
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序章   世界の異変と謎の艦船娘たち
0-0 劇場版風予告編


 

———この国には自衛隊という組織がある。

 

 

大東亜戦争…所謂太平洋戦争で負けた日本は、軍事力の放棄を戦勝国によって押し付けられた。

 

「戦争はもうこりごりだ」という国民の思いと、戦勝国側の思惑が一致し、時の政府も戦後の経済対策の優先と財政負担の軽減を画策し、日本は軍備を放棄した。

 

しかし時の情勢はそれを許さなかった。

朝鮮戦争が勃発し、GHQは日本に国内保安を目的としたた警察予備隊および海上警備隊の設立を指示、これが後に自衛隊となり、現在に至る。

 

 

自衛隊は存在や装備こそ他国の軍隊と遜色ないが、目的や行動が異なる。それは“侵略はせず先制攻撃もしてはならない”という平和憲法の下での専守防衛。これは戦後70年以上破られたことがなかった。そして国民や当の自衛官は、それを平和国家である日本の誇りとしてきた。

 

しかしそれは世界情勢が作り出した単なる『綱渡りの平和』であったと後に人々は痛感する。

 

 

 

——敵は現れ、戦争が起きた。

だが敵は人間ではなかった。

 

 

“海の底から現れたらしい”との噂程度の情報とも呼べない情報しか、人類の誇る優れた情報機関は得ることができなかった。

高価で強力な武器を持っていても何の成果も上げられず海に散った者たち。その一方で、貧弱な武器しか持たずとも強い意志を持ち辛うじて生還した者たちもいた。

両者には一体どんな差があったのだろうか……。

 

 

 

だが、戦いに勝っても負けても戦局は変わらなかった。常に劣勢で後が無い人類。それは日本も同じであった。

 

“相手が人間であれば少しはマトモな戦争であったかもしれない”

ある者は晩年、自伝にそう書き遺した。

 

 

“戦争にマトモなものなど無い、それは有史から不変である。かの深海棲艦との戦いは悲惨過ぎた、よって後世に残すべきではない。だが我々は言い伝える義務がある、その責務を負ってしまったのだから…”

かつて国という枠組みを越え、“彼”と共に戦ったある退役軍人の歴史家は言う。

 

 

……

 

 

『This is Murasame!!相手は海賊やロボットなんかじゃありませんッ!!』

 

 

『相手との交渉が第一だ、まずは話し合いからだ…』

 

 

『統幕長、海幕長。それは先制攻撃になるのではないかね?』

 

 

『こっちゃあ戦争してんだッ!アンタらみたいに選挙の為に働いてる訳じゃないんだッ!!』

 

 

 

 

『提督、もしさ、もしもだよ…?この戦いが終わったらさ———』

 

 

 

 

 

 

 

 

『申し訳ないがそういう死亡フラグはNGな。あと“結婚”は一夫多妻制で頼む、もちろんお前を含めた艦娘全員とだ』

 

 

 

 

《国家とは何か、国民の為とは。

偽りの平和と正しい嘘は悪なのだろうか》

 

 

 

平和とは何なのか。戦いの中で求め、平和の中で見失う。

 

この物語は、

そんな防人(さきもり)達の苦悩と

束の間の平和を描いたものである。

 

 

 

 

 





そんなディープでラフな作品を
つつーっと書いていきますので、
どうぞのんびりご覧ください。
そのまま1話を読んでくださいませ。


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0-1 海の異変、漣の予感 【都内某所】

“自衛隊と艦これがコラボしたら面白いのでは?”という単純な発想からこの度、筆を取るに至りました。

※タイトルにある『漣』はまだ出ません!
タイトルにたまに艦娘の名前を使う予定ですが必ず登場するというわけでは無いんですハイ…。

ストーリーもプロットも無い状況なので、物語がうまく進まないという行方不明の可能性しかありませんが、皆さんに楽しんでもらえれば幸いです。

「この娘だしてー!」
「こんなストーリーが展開が見てみたい」

そんなアドバイス大歓迎です。

「へたっぴ!」
「我が『むらさめ』を汚すな」
「もげろ!」

批判も全裸正座で待っていますが、あまり強く言われると凹みます。

仕事やプライベートが忙しい時もありますが、頑張って投稿していきます!






“ある人は艦娘を悪魔と呼び、またある者は兵器と呼ぶ。だが俺はそうは思わない。何故なら、彼女らは俺の愛すべきヒトたちなのだから———”

元艦娘部隊指揮官

海将補 菊池圭人(きくちけいと)

 

—青葉新聞社刊

『世界を救った存在〜艦娘〜』—

 

 

 

 

※※※※

 

 

「———やあ!

俺は海上自衛官の菊池圭人。

同じフネで同期の村上と共に新宿二丁目にホイホイ遊びに行き、なんか筋肉ずくめのヤバイ兄ちゃん達のアブない取引現場(意味深)に遭遇する。取引に夢中になっていた俺たちは背後から抱き付いてくる酔っ払いのソッチ系の兄ちゃんに気付かなかった!

俺達は関係を聞かれ咄嗟に

 

『俺たちカップルです!

これからハッテンします!』

 

と答えて、泣きながらダッシュでその場を逃げ出し、都内に予約してあった健全なビジネスホテルに転がり込んだ!」

 

 

「…いや、だれも名探偵になりきれとは言ってないし、解説しろとも頼んで無いんだが」

 

冷めた声の突っ込みが入る。

 

「なにぃ!?俺の心を読むとは、さては貴様…エスパーだなっ!」

 

「違うぞ」

 

「そこはフツーに答えんなよ!」

 

 

アホなボケとツッコミをかまし合う俺達は海上自衛官であり所属するフネも同じ。

今日は休みで上陸(外出)であり、基地のある神奈川県の横須賀からはるばる東京に遊びに来ていた。

 

 

「まさか菊池が二丁目に行きたいなんて言うとは思なかったぞ」

 

「だって面白そうだって思ったんだもん。百聞は一見にしかずって言うだろ?」

 

「相変わらず“菊池クン”はアホだな…」

 

「教育隊の時にしてた呼び方やめーや。にしても同じ班のやつとこうして部隊でも一緒になるとは思わなかったな、村上ぃ」

 

「他の分隊でもそういう話はあるし、なにも俺たちだけ偶然というわけでも無いようだぞ」

 

「あっそうなんだ…」

 

「うむ」

 

 

冷静にツッコミしてくれているのは村上。

 

まず最初に自衛官としてのイロハを教育する(叩き込まれる)“教育隊”という所で同期———つまり同じ釜の飯を食った戦友だ。別に戦争しているワケじゃないけどね。

 

こいつは歳は一つ下だが冷静沈着、俺も何度か助けられた。もしこいつがいなかったら、教育隊を修業できなかったかもしれない。

 

 

(村上にとって俺はどんな存在かは…)

 

 

わからん、聞けるもんじゃないし。

別にいいや、恥ずかしいし…。

 

 

「まあこうして無事戦場?から帰還したわけだし、共に祝おうや!」

 

「うむ、乾杯だな」

 

 

≪カシュッ!≫

 

 

手に持った缶のプルタブを引くといい音が鳴り、美味しそうな泡が溢れる。

二人ともそんなに酒は飲まないが飲むときは飲むし、陸海空問わず自衛隊という組織においては飲み会という名の対アルコール耐久訓練がそれなりののペースであるため、弱い奴であっても強制的に鍛えられる。

まあすぐ酔ったフリして逃げたりとかトイレで吐くフリを幾度かしてるため先輩方からはあまり誘われないが…。

これがデキる男の処世術ってヤツだ。

 

 

「そもそも村上が前々から“秋葉原に行きたい!”って

言うから俺が丁寧に東京を案内してお前に楽しんでもらおうとだな…」

 

 

「ほう…?だがそれにかこつけて

“ヒャッホー!都会の新宿巡りツアー”とか“東京のオンナをガッポリナンパ作戦”とか訳わからんプラン立てたりするし、ついでに“あ、新宿二丁目でディープなスポットとかも見てぇなあ”とか言ったせいだ、大体は菊池のせいだろ?」

 

「ぐ、ぐぬぬ…」

 

流石に反論できねぇ…!

 

 

「なーにがぐぬぬだ、だから二丁目だけは止めておけと言ったんだ」

 

「ま、そんな時もアルヨネー(棒)」

 

 

村上から目をそらしつつテレビのリモコンを手に取り、電源を入れる。

 

 

「んで、お目当の『艦これ』のグッズは

秋葉原のショップにあったのかよ?」

 

「うむあったぞ、この“金剛”のフィギュアはすごいぞ、最高だ!」

 

「でたよ金剛一筋野郎め。他の艦娘に目もくれないでやんの」

 

「一人を愛せない奴が愛を語るな、とだけ言っておこう」

 

「ケッ…じゃあ言わせてもらうがな、自分を愛してくれるオンナ全員の愛に応えてあげられない奴が簡単に愛を語れるのかって話だ」

 

 

俺たちは二人とも、かの有名なブラウザゲームである『艦隊これくしょん』にはまっている。村上なんて入隊前から提督…しかもまさかの『第一サーバー』、つまり『横鎮組』だったクチだ。俺にはよくわからんが凄いらしい。

入隊当時は艦これという名前しか知らなかったが見事に村上によって布教されてしまった。

 

ちなみに村上は金剛好きな提督で、俺はオールラウンドというか色んな艦娘が好きである。あえて言うなら胸が大きい方が好きだが、最近は駆逐艦もいいなぁと思い始めた。

 

“ロリはダメだ、ロリコンにはならぬ”

と思っていたのだが駆逐艦には保護欲が湧くとでも言うのだろうか、守ってあげたくなる娘が多過ぎる。

 

(全ては可愛いのがいかんのや!)

 

例を挙げると真面目で融通が利かないけれど頑張る某ブリザードだったり、母性強い某サンダーとかドジっ子な某五月の雨な子とかその他諸々。俺を悩殺しに来てるとしか思えん!

 

 

 

(ワイおっぱい星人ちゃうかもしれんな)

 

 

 

取り敢えず言わせてもらうと俺は決してつるぺたが好きというわけではないんだ。

それは本当だ、ウン…。

 

 

 

(もしも提督になれたら俺、艦娘ハーレムを作るんだ…)

 

 

こんな叶うはずのない誓いを立てながら、今という『平和』を満喫していた。

 

 

※※※

 

 

今回、村上が秋葉原に行きたいと言ったのは目当の艦これグッズを買うためだった。まあ俺もフネで他の人に見られてもいい程度のグッズを買ったが、あいつは人目を気にしない。

 

教育隊の班長、まあ学校でいう先生な。それが分隊の学生とトークしたんだか、村上は『艦娘部隊に行きたいです!』なんて言って爆笑を買って、腹筋が攣りかけたことがあった。

ちなみに俺は『私は偉くなって、世界征服したいです』って言ったら同じく笑われガキ扱いされたな、何でだ…?

 

 

二人の話を遮るようにテレビがニュースを流している。

 

《———昨日のタンカー爆発事故の続報です。このタンカーはパナマ船籍で、中東から原油を東京に輸送しており…》

 

「昨日の事故のやつか?」

 

「ああ、爆発で船体に穴が開いたらしい。なんでも油が漏れたりとかじゃなく、外部的要因らしい」

 

 

村上が分析する。顔も見せる真面目なツラになっていく。

 

 

「つーことは昔の機雷とかテロかもしれないのか?」

 

「その可能性もあるな。どうやら市ヶ谷や海保も調査に乗り出してるみたいだし」

 

 

テレビが防衛省と海上保安庁も国土交通省の運輸安全委員会に参加するという事を伝え、少しずつ事態の重大さが明らかになってゆく。

 

 

昨日の時点ではタンカーが油を流出させてそれが引火して船体に大穴が開いたとしかニュースでやっていなかったし、テロとも思わなかったな。

確かに最近ではお隣の国がミサイルやら軍拡やらで、海自としても面倒ごとが増えてきた。仮に近隣諸国の仕業やテロだとしてもこんなに露骨に、というのはどうなんだ?いっそ怪しまれない程度に海自の護衛艦や基地に潜入したり、国民を扇動したりしてデモや政治を揺るがすあたりがあの国やその組織らしいというか…。敵対国への工作のやり方ってそんな感じだと思うんだが、あちらさんはちと血早いのかな?

 

俺はそんな感じにしか思わなかった。

 

 

「○国や北もここん所イケイケだけど、流石にこれはやり過ぎじゃないか?派手すぎるって意味な」

 

「それは俺も感じるな。こんな露骨に怪しいやり方じゃあ軍隊の仕業とも思えないしテロ組織のそれとも思えん。前者は無いとして、後者は犯行声明も出てないし、そして何より……“メリット”が無さ過ぎる」

 

(“メリット”……?)

 

 

テレビは流れ続ける。

 

《先ほどの運輸安全委員会の発表によりますと、船内から硝煙及び船体の材質と異なる()()()()()()()()()金属片が検出されており…』

 

 

 

 

 

 

「うーん爆弾魔の仕業か?下手すりゃ乗員がムシャクシャしてやった、みたいな感じだな」

 

「乗員やテロの犯行にしてもなんか引っ掛かる。わざわざ錆びた砲弾を使って隠蔽工作するにしても、不審な点が多すぎる…。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()感じじゃないか」

 

 

村上の発想は大袈裟だが、確かに不審点が多過ぎる。わざわざ錆びた砲弾を使う…?テロリストだって爆弾ぐらい手作りして仕掛けるだろうし、ましてや錆びた砲弾だ。ちゃんと爆発するかもわからないシロモノでテロをするだろうか?

そうなると昔の軍隊の残党が敵に攻撃を仕掛けました、のほうがまだ筋が通りそうではある。

 

 

「にしてもなんで民間船なんだろうな?昔の軍隊にしても、ならいっそ自衛隊の基地に攻撃を仕掛けるのが妥当な気がするが。”たまたま目の前に船がいたから”かな?」

 

俺はさっきから思っていた疑問を口に出してみた。

 

 

「昔の軍隊、か……。かつて米軍———太平洋戦争中だと戦略爆撃とか通商破壊がメインだったのは知ってるよな?」

 

「ああそりゃな。島国の日本はそこを攻められて負けたし、その反省として我が海上自衛隊は対潜水艦をメインに創設されたんだ。これでも俺は歴史は得意なんだぜ」

 

 

俺は高校では勉強や授業は嫌いだったが歴史は好きだった。授業態度は最低だったが、テストは90点以下は取ったことはないし、戦史に関しては自分で言うのもなんだがかなり知っていると思う。

 

 

「昔の米軍がタイムスリップして日本の商船を襲った…としたら無理矢理だが筋は通るかもな」

 

タイムスリップとか『ジパ◯グ』かよと思いつつも俺は続ける。

 

「犯人が誰であれ、日本に敵対する存在ってのは言えるな」

 

「昔の連合軍みたいに日本を追い詰めようとしているのかも知らないな」

 

「はぁ?犯人は日本を枯渇させようとしているって事か?」

 

「あくまで仮定の話だ。可能性が無いわけじゃ無いし、そう考えれば粗筋ではあるが話が通る」

 

「…じゃあもしかしたら、また“事故”という名の攻撃が有るかもしれないってのか?!」

 

俺が村上にやや強めに問うと、村上は深刻そうに考え込んでしまった。場の空気が重くなってしまった。

 

 

(ここは少し空気を切り替えるか…)

 

「案外、敵は『深海棲艦』だったりしてな!突然現れた深海棲艦を俺たち海自がやっつける。そして艦娘も現れそれを俺たちが『提督』となって指揮して撃滅!そしてしっぽりムフフという感じでさ…」

 

 

俺はポッと容量の少ない頭から捻り出したアホな考えを口に出してみた。流石にこれは流されると思っていたが…。

 

 

「艦娘がこの世界に現れるということは“金剛”とも仲良くなれるのか?なら頑張るしかないな。月曜日からの勤務は全力で臨むぞ」

 

「おっ、おうそうだな…」

 

まさか村上が乗ってくれるとは思わなかった俺は、こいつの意外性に驚くしかなかった。

 

 

 

———この出来事がやがて人類を揺るがすことの始まりになるとは、この時誰も予想できなかった……。

 

 

 

 

 



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0-2A 風雲(ふううん)、急を告げる 前編

第2話です。

今回からついに『むらさめ』登場です。

もちろん護衛艦ね!
艦娘の『村雨』ちゃんじゃないよ!!


…まあ村雨ももうじき出るかもしれません。



えっ、現代改修?

そりゃ『むらさめ』になるっしょ(断言)





あらすじにも書いてありますが、私は現役自衛官ではありませんので、防衛省・自衛隊の事に関しては詳しくありません。




フネの構造とか組織には詳しくありませんし、
もし知っていても委細を書く事は出来ません。



あくまで素人の予測で書いてあります。



ちなみに1回だけ縁あって乗った事があるのですが、いいフネでしたよー!!

乗員の方も優しそうでしたし、
気さくな方が多かったです。





Mさんまだご乗艦かな〜?
ソマリアでの話が面白かったです。
海自入隊希望の方、むらさめもおすすめですよー!



お待たせしました。




それでは第2話、出港用〜意!!






 

 

 

 2日後 

 

 神奈川県 海上自衛隊横須賀基地

 西逸美(にしへみ)地区

 

 某岸壁 護衛艦むらさめ DD-101

 

 

 艦内某所  1145i

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♪ホヒーホー!『課業止め、配食始め』

 

 

 

 

 

 

 

 今流れたヘンテコな音は『サイドパイプ』

という楽器?だ。

 

 

 楽しい音じゃないし、道具でいいか。

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 自衛隊では日々の号令にラッパを使うが、

海自ではさらにサイドパイプという笛を吹く。

 

 

 

 正式名称『号笛甲』なんじゃそりゃ。

 

 

 

 ちなみにスポーツで使うホイッスルは号笛乙、

わけがわからねぇ…

 

 

 

 

 話は逸れたがこれで朝から晩まで号令をマイクで入れる前にピーピー吹いて、号令の種類を

知らせる。

 

 

 

 今吹いたホヒーホーってのは、『雑令』って

種類。まあ普通の号令に使う物と考えてくれ。

 

 

 

 

 

ピーってタイプは『単符』。

 

 

 

『ナントカ5分前』といった号令の5分前に吹いたりとか、隊員個人を呼び出したりする。

 

 

 

 

 日々頑張る自衛官サマの貴重な昼休みに、ちょくちょく民間の保険屋がくるんだが、

これに昼休みをかなーり削られる。

 

 

 

 一回呼ばれたら他の保険会社の人も寄って

たかって…俺が自衛官じゃなかったらあんたら、

しめるぜ!まじで!

 

 

 

 

 この単符ってのは曲者で、たとえを出すと

『総員起こし』という朝叩き起こされる自衛隊のイベントがあるんだが、それの五分前に鳴る。

 

 

 

 

 

 

 

朝、グースカ眠ってたら

 

 

 

『ピー!、総員起こし5分前』

 

 

ってマイクがかかって、まずみんな起こされて

目ぇ擦りながら作業服に着替えるんだ。

 

 

作業服ってのは、海自で隊員が着る一般的な服で

上下青。どこの電気屋のオッチャンだよ…

 

 

 

 

 んで有名な起床ラッパが鳴る。こいつは教育隊から今まで大嫌いな音楽ワーストだぜ!自衛官ならみんなそう、きっとそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おおっと、話が逸れたな!

 

 

 

 

 

 

 俺と村上は護衛艦『むらさめ』というフネに乗り組み働いている。

 

 

 

俺は通信員として、村上は電子整備員として勤務

しているが、ここでまたムダ知識を披露しよう。

 

 

 

 

 

 

上で『通信員』とかナントカ『員』って言っているが正確には『船務要員』が正しい。

 

 

 

 

 

 

 ナントカ員ってのはその仕事の専門の教育、海自の『学校』に行ってないと一人前と見なされないし、仕事も簡単な事しかされてもらえない。

学校行って専門課程を修業すると『マーク持ち』とかって呼ばれる。

 

 

 

 

 まあ正確に違うがマーク=職種って解釈でいいはず。

 

 

 

 

 

 それまではひよこみたいなノーマーク海士。

スライムにもなれないスライム見習いといった感じかな。

 

 ※この認識と表現には個人差があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからまだ仕事も『役員』というフネの雑務とかだったり、パートのちょっとしたことしかやっていない。

 

 

 

 

パートってのは通信とか電子整備、

航海とか仕事の最小のグループな。

 

 

 

 

 

 パートがあり『科』があり『分隊』で、フネが回るわけ。

 

 

 

 

 

 俺たちは『船務科』って部署の仲間で、これは

『2分隊』って分隊の括りになる。

 

 

 

 

 2分隊ってのは、イベントでフネに乗ったら見てみて欲しいんだが、乗員の名札が黄色いラインが入ってるヤツら。

 

 

 

 

 俺の通信とか、電子整備--これはETって略すんだがまあいい。航海とか電測、大まかに言えば機関を除いた、フネの運航に携わる部署だ。

 

 

 

 

 

 

 

 分隊をざっと紹介すれば

 

 

 

 

 

 

 

 

 1分隊、赤いライン、武器関連、荒いヤツら。

 

 

 

 2分隊、黄色いライン、さっきいった船務科とか航海科。

CICや電信室とかにずっと引き篭もってっから、

陰湿な引きこもりと言われたり…

 

 

 

 3分隊、青いライン、機関関連、エンジンとか電機っていう電波使わない機器全般の保守担当。

 

1分隊の先輩曰く油虫(苦笑)

 

 

 

 4分隊、白いライン(白だとラインある意味ないじゃん)、経理や調理、衛生、事務方メインだが欠かせない縁の下のなんとやら。

 

 

サプライは大事って帰国子女の戦艦も言ってた。

 

 

 

 5分隊、緑のライン(意味不明)、とにかく飛行機関連全て。

チャラい人多し、舷門立たないし暇そう(偏見)

 

 

 

 

 

 

 

 海自の職種を分けるとこんなもん。

 

 

 他に事務官とか技官もあるけど、あれは自衛官ではなくて自衛隊員の括りだからノーカンで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あー!話がまたまた逸れた!

 

 

 

 

 

 

 俺説明とか苦手なんだよな、深く掘り下げ過ぎるクセがあっから!

 そこんところ許してな!

 

 

 

 えっと、雑令のサイドパイプの所だな!

 

 

『課業止め、配食始め』って号令が流れて、乗員は午前の仕事を終わって昼メシを食べに食堂に行くんだ。

 

 

 

 食堂って言ってもフネの食堂だぜ、護衛艦だけじゃなくて自衛艦は基本的に艦内で生活しなきゃいけないから、メシは作るし風呂やベッドもある。

 

 

 

 ミサイル艇ってフネは長期出港しない(できない?)からレトルト持ち込んでレンチンするらしいけどな。知り合い乗ってないからちょっとわからん。

 

 

 

 

 その辺詳しい人解説たのむぜ!

 

 

 

 …誰に話しているんだ俺は?

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 さーて、今日は何を隠そう金曜日である。

 

 

 海自では出港中の曜日の感覚を忘れない為に金曜日の昼はカレーと決まっている。

 陸上部隊もそうらしいがその辺の意義はどうなんだろね…エロい、じゃなかった偉い人に聞いてくれ。

 

 

 

 

 大本営とか運営、もとい!海幕とかそのへんに

レシピあるし、そっちに丸投げするぜ!

 

 

 

 

 おっと!レシピっつっても建造の方じゃないぞ、料理のレシピな。

 

 

 某一航戦の赤い人が涎垂らしそうな話だが、

海自は飯は美味いと思う。

 

 

 

 

 

 しかし、入隊前にこの横須賀の陸上にある基地業務隊ってところで飯を食べさせてもらったが

 

 

ノーコメントだな。

 

 

 

 

 

 

大量の人数分作らなきゃいけないから犠牲になるものもある、とだけ…。

 

 

 

 

 なお教育隊のメシも(ry

 

 

 

 

 呉と舞鶴教育隊は普通らしいぞ、ぞ!

 

 

 

 

 某Y教は人数が良くも悪くも多いからな。

 

 

 

 

 

 今なら補生、練習員とWAVEで最低400人はいるし、それに職員もいるから半端ないと思う。

 

 

 

 

 補生とか練習員ってのは自衛官リクルートサイトとか地本で調べてくれな!

 

 

 

 俺は”チレンジャー”じゃないし嘘は言わんが悪いところだけは全部言うタチだから。

 

 

 

 

 WAVEってのは女性海上自衛官のことな。

 

 

 とても強い意志をもった華麗な女性方が自衛隊に入ってくる、そして強靭な肉体を手に入れる。

 

 

 

 

 

 

うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …我ながら見事な賛美の言葉だと関心するがどこもおかしくないな。

 

 

 

 

 

 

 ま、フネは調理員次第だが、この『むらさめ』はいいぞ、最高だ!他のフネの飯は知らんがな!

 

 

 

 

 まあカレーのレシピと由来はネットで調べたほうがわかると思う。俺はあんまり料理しないし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あえて言わせてもらうなら

 

 

『私はその件について関与しておりませんので、

海幕HPをご覧ください』とだけ言っておこう。

 

 

 

これ自衛官の便利なセリフな、よく使うぞ!

 

 

 

 

…たぶん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 むらさめ科員食堂  1150i

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、菊池お疲れ」

 

 

 

 

「おいすー村上、あっこ座ろうや」

 

 

 

「うむ、そうしよう」

 

 

 

 

 

 

 食堂前で一緒になった俺たちはカレーをなみなみと盛り、テーブルに腰掛ける。

 

 

 

 

 

「昔からさ~、この『鉄板』でカレー食いづらいと思わなかった?」

 

 

 

 

 

 

 俺はふとした疑問を村上に問いかける。

 

 

 

 海自では食事を『テッパン』と呼ばれる鉄のプレートに盛り食べるのだが、俺はこれでカレーを

食べるのが苦手なのだ。

 

 

 

 ただ単にカレーが掬いづらいだけなのだが、意味もなくつぶやく。

 

 

 

 

 

「なら『カレー皿』で食えばいいだろう、もっとも、カレー皿があればの話だがな」

 

 

 

 

 

「それなんだよなぁ…。カレー皿はCPOクラスの海曹が早く来て持ってっちゃうし、うちのフネカレー皿の数も少ないからなかなか使えないんだよ」

 

 

 

 

 カレー皿とはフネにもよるが、テッパンと同じく金属製と、お椀と同じプラスチック製の2種類がある。

 

 

 

 CPO、シーピーオーというのは上級海曹。

 

 

 

 よく言って古手のベテラン、ぶっちゃけジーサン直前の頭のかたそーなお方々のことで、いい人から厄介な人まで濃い人が多い。

 

 

 

 

 

 メシ前にはさっさと仕事を切り上げてるし、夕方の帰宅も当然早い。

 

 

 

 

 

 定時丁度とはいえ、公務員としてどーなんだろね。

 

 

 

 

 

 

 

 え?俺はちゃんと最低定時までちゃんと仕事をさせられ…、ゴホンっ!

 

 

 

もとい、しておりますですよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食事を盛り付ける皿の文句で盛り上がっていると、食堂のテレビから乗員たちをギョッとさせるニュースが流れてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…です。中国上海で貨物船が港の外で何者かに襲撃された模様です。国営ニュースによると救助された船の乗員は爆発を見た、暗くてよく見えなかったが、船の左の海からロボットのようなものが船を攻撃してきたと証言したそうです。これについて当局の報道官は…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ざわっ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 食堂の雰囲気が変わったのがわかった。

 みんな食いついてニュースを見ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

『当局の報道官は、

 

盗賊かテロリストの犯行と見ている。しかしロボットのような大掛かりな装備を使用していることを踏まえると、何処かの国の息がかかっているのではと思わざるを得ない。平和を願う我が国に対して、無慈悲な武力を振りかざすことは世界平和への冒涜であると述べ…』

 

 

 

 

 

 

(お前らが言うなや…)

 

 

 

 

 

 

 

 きっと同じ事を考えたと思ったのは、乗員一同もだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事故の詳細を見ていると映像が急に切り替わり、テレビ局の報道フロアのアナウンサーの叫び声に近いアナウンスが流れてきた。

 

 

 

 

 

 

 

『只今入ってきたニュースです!ロシア第2の都市サンクトペテルブルクに向かっていたシリアの

貨物船が現在”何者か”による襲撃をうけているそうでしゅ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 アナウンサーが噛んだことなど誰も笑わず、気付いていないかのように皆テレビを睨み付ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ロシア軍のヘリコプターが貨物船に近付き、襲撃する”何か”を撃退しようと攻撃をしているそうです!えっ!?たった今ロシア国営放送から映像が生中継で送られてきてます!…ちょっとビデオ早く流して!』

 

 

 

 

 

 

 アナウンサーは我を忘れつつも、ビデオを見たい気持ちは強く報道人としては健在のようだ。

 

 

 

 

 もっともそれは俺たちも同じなのだが。

 

 

 

 

 

 

 

「菊池!やばいことになりそうだぞ」

 

 

 

 

「ああ、こいつは面白くなってきやがったぜ!」

 

 

 

 

 不謹慎ではあったが、正直このとき興味と好奇心が俺を支配していた。

 

 

 

 

 きっと海賊か盗賊とかだろう、ロシアのヘリに血祭りにされてくれとか、ロシアの無慈悲はお隣さんとはダンチだからなぁとか考えつつ、他人事を決め込んでいたが、これはやや軽率だったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

『映像っ、きました!へっ、ヘリが船の近くの”何か”に機関砲とロケットを撃っています!これはやり過ぎでは?』

 

 

 

 

 アナウンサーの言う通りロシアのヘリは、その”何か”にボコスカとタマを浴びせていく。

 

 

 

 

 

 ヘリの振動やカメラのブレもあり正体はわからないが、確かにロボットのように見えなくもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロボットねぇ、なんかどっかで見た事あるような…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うーん、どっかで見た事かあるような…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あー!あれ深海棲艦ぽいなぁ、ぽいぽい。

 

確か”駆逐イ級後期型!脚が生えてるしそれっぽい。

 

 

 

 

あれが深海棲艦なのかは映像からはわからないが…

 

 

 

 

 

 周りの空気とは反比例して俺の頭の中は軽率である。それが俺の最低な短所であり唯一とも言える長所なのだが、それを顔に出さないポーカーフェイスぶりは称賛されるべきか?

 

 

 

 

 

 それこそ自衛隊では陸サンが富士でやる『総火演』並みに弾幕を貼り、乗員は羨ましいというか、むしろドン引きするぐらい浴びせていく。

 

 

 

 

 

 水柱と硝煙で深海棲艦のような”何か”の周辺が見えなくなり、ヘリは射撃を止め、ホバリングして視界が回復するのを待つ。

 

 

 

 

 食堂の空気も張り詰め、食事はもとより息をしたり、ごくんと口の食事を飲み込むことも躊躇われる位の緊迫感だ。

 

 

 

 

 

 

 

 こんな事訓練でもなかったぞ…

 

 

 

 

 

 15か20秒位だったか、

実際はもっとも早かったかもしれない。

 

 

 

ヘリからの視界も徐々にクリアになり、

”何か”正体が露わになっていき…

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーピカカカッ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ”何か”が光った?と思った時にはもう遅く、ガガガガという音とともにロシア軍のヘリはバランスを崩し、海面へと錐揉みして落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ”何か”が反撃して、ヘリを撃墜したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光ったのは対空機関砲だろうか?

 

 

それがヘリに当たり、落ちた、それだけだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 光ってから10秒。テレビから錐揉みで落ちるヘリのパイロットの声が流れてきた。ロシア語でなんて言っているかわからなかったが、落ちる、助けてくれ!そう言っていたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おー、落ちた。うむヘリが落ちたか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 空を飛ぶものはみな落ちるからな。

 

 

 そりゃそうだ、不思議なことはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ん?落ちた?ナニが?

 

 

 

 

 

 

 

 ヘリが?ナンデ?ドウヤッテ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (えーっと、深海棲艦の様な”何か”が

              反撃…して…?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 (ハンゲキ、……ん、反撃ぃ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「はああぁぁぁー!?!?ヘリがおとされたぁああああ!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

科員食堂に乗員の叫び声が木霊する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …世界の歯車は確実に狂い始めていた。

 

 

 




ちょこっと解説コーナー

・サイドパイプ

海上自衛隊に入隊し、1、2分隊に配属が決まった学生が、やがでフネで吹くことになる魔の道具。

本文で書いた通り号令を掛ける際に吹くのだが、うまく吹けないとフネの1分隊の主に運用の人から内線電話がかかってきたり、直接来て跳び蹴りを食らうという、誰も吹きたがらないシロモノ。

一般公開で舷門にいる隊員を見てみよう。首からカラフルな紐をぶら下げ、前に銀色の変な物をぶら下げているぞ、それだ!

実演ではたたピーピー吹いてるだけでつまらないが、実際に吹くと難しい。私は巻き舌が出来ないため、巻き舌が必要な吹き方は吹く事ができなかった。



・1145i  1150i

 艦これ提督や自衛隊に詳しい紳士淑女諸君ならご存知の通り、自衛隊では1150時はヒトヒトゴーマルと発音する。

 海上自衛隊は世界の海を股にかけ活動する(ことになっている)ため、その地域の時間によってフネの時間を変えている。

そのため何処の地域の時間かを表すモノ。



 世界標準時のグリニッジ時間が『z』ズールー

 日本標準時が『i』インディア


 見学でフネを見回っても、発見
できないかもしれない。


 ま、無駄知識であり覚えておかなくても
いいかもしれない。
 




 解説だけであとがきが無くなりそうなので他は割愛!




 ついに出ました深海棲艦らしきもの!
海自には直接絡みはありませんが、
これからどうなっていくのか見ものです。


 次回にちょっとだけ、ご期待ください。





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0-2B 風雲(ふううん)、急を告げる 後編

さて、ロシア軍のヘリが撃墜されてしまいました。

やばいね!世界やばいよ!マジで!



物語の大きな動きはしばらく無さそうですが、
ようやくあの娘の登場!

…チョイ役ですが。


あの娘が好きな方々、お許しください。
もうすぐ!もうすぐ本番来ますので!




むらさめ科員食堂 1220i

 

 

 

 

 

 

「「「はああぁぁぁー!?!?ヘリがおとされたぁああああ!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 テレビを見ていた乗員全員のハモり声が

艦内に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

食事を食べていた乗員が、配食していた調理員が、

 

士官室で食事をしていた艦長以下幹部や役員で

士官室に詰めていた海士達の声が見事に響き、

 

こんなところでフネの団結が現れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘリが海に落ちてしばらくは映像は続き濁った

海中が映し出されていたが、水圧に負けたのか、

機器が海水にやられたのかわからないが

映像も消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 テレビ局の編集担当もこれはいかんと思った

のか、映像を報道フロアのアナウンサー

に切り替えた。

 

 

 

 

 

 

 

 そこにはバカみたいに口をあんぐり開け、

今起こったことが信じられないといった顔の

アナウンサーがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …もっともその顔は

我ら乗員とてあまり変わりないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おい村上。なんか、ヘリ、

落ちなかったか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 明らかに落ちていたのだが、俺はそのように

聞き、否定して欲しかったのかもしれない。

 

 

 

 

 

「ウム、オチタネ…」

 

 

 

 

 

「ああ、落ちたな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘリが落ちたという事実は

変わらなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 とはいえ驚こうにも慌てようにも、

何をすべきか頭が真っ白でとにかくテレビを

見続けるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後落ち着きをやや取り戻した俺たちは、

順を追って今起きたことを整理し始めた。

 

 

 

 

 

 

「うーむ、取りあえず状況を整理しようか。

ロシア行きの貨物船が”何か”の襲撃を受けた。

ロシア軍としては、国の威容を示すために

対テロ作戦で支援しているシリアの貨物船を

守る様子をテレビに放映した」

 

 

 

 

 

「軍のヘリコプターの映像をそのまま流す位

だからな、その辺の思惑があったんだろうな」

 

 

 

 

 

 

 これはニュースでヘリの映像が流れた時に

俺も思った事だ。

 

 

 

 

軍の行動をそのままテレビに映すぐらいだから、

何かしらの意図があったに違いない。

勿論軍事機密が無い程度の映像だったし、

 

攻撃の映像も機密に当たらない程度の

操縦、攻撃だったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「軍のお偉いさん方は同盟国の船を守る様子を

世界に見せてロシア軍此処に在り!って感じで、

大統領のプーさんとかはあまりロシアを

怒らせないほうがいい、みたいな感じだろう」

 

 

 

 

「申し訳ないがプーさんはNG。その発言は

消される消される…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この小説は政治的発言はしてはいけない。

 

 

 

 確かに言いたい放題言っているが、

プーさんはアカン。自衛隊とか日本政府以上に

危ない存在に俺たちが消される…。

 

 

物理的にも…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあその辺はスルーするとして、

攻撃してなお、”何か”が健在でさらには反撃して

きてヘリが被弾。そのままポチャン、あれじゃ

パイロットも助からないだろうな」

 

 

 

 

 

「そんな感じだな、恐らく次はロシア軍も

本気出してくるな。ヘリは大軍で、

きっと戦闘機や艦艇も出張って

くるんじゃ無いか?」

 

 

 

 

 

 

 俺は次にくるであろう流れをぽっと口に出した。

 

 

 

 

 

「そうなるというか、そうせざるを得ないだろう。相手がただの海賊なんかじゃ無いってのは

よくわかったし、軍の面子を潰されちゃあ大軍を

出して徹底的に潰しに掛かるだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうやって討論というか、トークしていると

テレビの方でも動きがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ロシア国営放送によりますと

我がロシアは同盟国の貨物船を

全力を尽くして守る。

テログループの完全なる滅亡は明らかだ、

諸君らの行為を愚かだと思い知らせる。

 

とロシア政府は声明を出しました。

これからロシア軍による大規模掃討作戦が

開始されるようです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーおー、ロシアさん本気だぜ」

 

 

 

 

 

 

「らしいな、 残念だが昼休みも終わりそうだぜ。

テレビを見ていたいが、時間は我に

味方してくれるとも限らん。

こんな状況といえど、俺たちのような下っ端が

ずっとテレビを見ているのはあまり良くない」

 

 

 

 

 

「おっ、それもそうだな。テレビを見て

事態が好転するわけでもないし、

とりあえずは自分がすべき事をしますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言って俺たちはとっくに食べ終わった

鉄板を持ち席を立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

今の時間は…もう1240過ぎだ、あー午後の課業

無くなんねーかなぁとダルさを隠さずに

食器置き場に歩いて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 他の乗員はテレビに夢中で、

俺たちに目もくれない。

 

 

 

それを横目に見ながら使った鉄板をブラシで擦り、ボー立ちしている食器洗いの役員に

静かにお願いしますと差し出しす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コツコツコツコツ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっ、さっきの”何か”が深海棲艦に

似てるよなって村上に言いそびれた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、やめとこう。先日の東京湾の事故と違って今回のは恐らく死者も出てる。あまりネタで

茶化すのも良くないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう考え、俺は”深海棲艦”ネタはしばらく

言わないことにした。

 

 

 

 

 

 とりあえず科員食堂を出て村上と別れ、

俺は職場である電信室に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♪ホヒーホー!『体操、課業整列なし』

 

 

 

 

 

 おや、今日は昼はのんびりできそうだ。

 

 陸や空(くう)は知らんが、海自は基本昼の

課業始め前に体操をしてから分隊毎に整列し、

ミーティングをしてから作業にかかる。

 

 

 

 

 

 体操は、海士が100名強いる乗員の前で

大声を張り上げてやるから色々と大変なのだ。

 

 

 

 

 

 

 それらが無いということは、恐らく当直士官が

さっきのテレビを見て事態の重大性を

認識してのことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事を考えながら通路を歩き、

『ラッタル』と呼ばれるほぼ垂直な階段を通り

電信室に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♪ホヒーホー!『パート長以上集合、士官室』

 

 

 

 

 

 

 あれま、これは一大事ですな。

 

 

 パート長、俺の通信の上司である電信長、

村上なら電子整備員長----ET長といった

親玉が呼ばれるということは相当らしい。

 

 

 

 

 確かに同じ海の上で海賊やらどっかの

ロボット兵器が貨物船を襲うってのは

ヤバいことだが、所詮は他国。

 

言ってしまえば他人事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本関連の貨物船が襲われたわけじゃないし、

 

 日本近海にそいつらが現れたわけでもない。

 

 

 

 

 

 そこまで慌てるような事ではない…はず。

 

 

 

 

 

 

 もしや、先日の東京湾の事故と関連が?

 

 

 もしも、さっきのロボット兵器が日本に

やって来たら…?

 

 

 もしも、あれが本当に深海棲艦だったら…?

 

 

 

 

 

 

 

 そんな物騒な方向に想像が膨らんでたら、

前方の電信室からたった今マイクで呼ばれた

電信長が出てきた。

 

 

 

 

 

 

「おっ電信長、お疲れ様です」

 

 

 

 

「菊か〜、ワシらもテレビ見とったが

面倒なことになるかもしれんなぁ」

 

 

 

 

「日本近海にあいつらが来たりして

緊急出港とかないですよね?」

 

 

 

 

 

「さすがに無いじゃろ。また戻ってきたら

示達するけぇ、必要無いとは思うが身辺整理

だけするよう田島に言っとるから」

 

 

 

 

 

「了解です」

 

 

 

 

 

 この人はむらさめの電信長の谷山曹長。

 

 

 定年間近だがバリバリの通信員。呉市出身の

呉教育隊出の根っからの呉人で、

通信員からの人望も厚い。

 

 

 

 

 

 ただ、釣りが好きすぎて色々と釣りの絡みが

面倒臭い面があり、そこを除けば

愛すべき親父なのだが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 むらさめ電信室 1257i

 

 

 

 

「お疲れ様でーす」

 

 

 

 

 外にあるテンキーに暗証番号を入力して

電信室に入った俺は、定位置の椅子に腰掛ける。

 

 

 

 

「おい菊ぅ、この後は時間があるから

電信長が戻るまで交代で身辺整理しとけ」

 

 

 

 

「はい、さっき電信長とすれ違って言われました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 んでこの人が田島海曹。

 

通信のパート長では無いがそのまとめ役

といって差し支えない2等海曹のおヒト。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに〇〇海曹ってのは、民間でいう

〇〇さんみたいな感じね。

 

なお士官(幹部ね)とパート長は基本役職で呼ぶ。

 

 

 

 

ちなみに役職を持たない曹長の人は

〇〇曹長って俺は呼んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 特に決まっているわけじゃ無いが、フネの人が

皆そう呼んでいるからそれに右習えしただけで、

根拠も理由も無し。

 

 

 

 

 

 

 1曹から3曹のパート長以外人は〇〇海曹、

海士の下の奴は呼び捨てが基本かな。

序列が上の士長の人は〇〇士長となぜか階級。

〇〇3曹とかの呼び方はあまり聞かないなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

「うーす、戻りましたー」

 

 

 

 

 身辺整理が終わった海曹の人が数人戻ってきた。

 

 

 

 

「おう、じゃあまだのやつ行ってこい」

 

 

 

 

「わかりましたー」

 

 

 

 

 俺の他に3人程がドアに向かって行く。

 

 

 

 

 

「菊池士長!出撃っすか?緊急出港っすか?」

 

 

 

 

 

「しらねーよ。恐らくは出んだろうが、

もしものもしもだろ」

 

 

 

 

 

「僕は戦うために海自に入ったんす!

かぁーっ!戦場が待ってるんすよ!」

 

 

 

 

 

「そんなに粋がってもしゃーないぞ、

今は英気を養っとけ。

じゃないと実戦で全力発揮できんぞ」

 

 

 

 

 

「了解っす!!」

 

 

 

 

 俺と同じノーマークの後輩の

1士のやつが燃えている。

こいつは悪い奴じゃ無いが熱くなりすぎる、

こういうタイプは戦場で早死するなと

初見で思った。

 

 

 

 

 

 

 血気盛んな後輩をうまいこと宥めつつ、

自分の居住区に向かい身辺整理を始める。

 

 

 

 

 

 

 戦争か、そう考えると怖くは無いが、

今の自衛官という身分について

考えてみたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いい軍人とは命令に忠実なやつを指すと

前にネットで見たことがある。

 

 

 

 

勇敢過ぎて命令を無視したり、臆病すぎて

逃亡したりと極端な結果になりかねないらしい。

 

 

 

 

 

 

 だから上が撃てと言ったら撃つ、

撃つなと言ったら撃たない。

 

 

 

 

 

それを徹底させてこそ軍規が保たれ、

軍隊が成り立つ。

 

 

 

 

 

 確かに自衛隊は軍隊じゃ無いが、

軍隊に代わるものだし当の自衛官たちで

心の中で自分達は軍人だと考えている人は

以外と多い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺たち自衛官は世間じゃ公務員と

言われてるけどな、軍人なんだ軍隊なんだ』

 

 

 

 

 

 

 そんなことを言ってた人がいたな、俺も同感だ。

 

 

 

 

 自衛隊は確かに軍隊じゃ無いが、

国を護る存在としては同じだし、

結果としてすべき事も変わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 国とは何か、国防とは?

 

 

 

 

 国とは政府なのか、国民を守る為とは

一体どういうことなのか。

 

 

 

 

 

 哲学者が人生を賭けも答えを導けないような

難題に行き当たり、思考が一時停止する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …うーん、そんな時は”アレ”だな!

 

 

 

 

 

 

 ガチャ、ゴソゴソ…

 

 

 

 

 

 

 整理が終わったばかりのロッカーを開け、

”あるもの”を周囲の確認をして取り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む〝ら〝さ〝め〝ー!俺だぁー!

やっちゃってくれぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ”あるもの”とはこれ、

『村雨』のキーホルダー♡である。

 

 

 

前述した通り俺は村上に会うまで艦これは

詳しくなかったが、こうして『むらさめ』に乗って『村雨』をもっと知りたくなった。

 

 

 

 

 

 

 知りたいを通り越して変な方向に進んで

しまった気がするが、可愛いから問題無いよね?

 

 

 

 

 

 

 

 自分の好きな艦娘ランキングで

村雨が1番!嫁!とは言わないが、

結構上の方にいると思う。

 

 

 

 

 

 ちなみに1番好きな娘はいないというか、

決められていないというのが答えかな。

 

 

 

 

 

 

 数多ある好きな娘中で1番だとか、

順位を付けるようなことは俺にはできない。

 

 

 

 

 

だって考えてみてくれよ、仮に目の前に

全艦娘がいてその中で君がナンバーワンだ!

なんて他の娘に可哀想で言えないし、

言う勇気もないだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嗚呼、俺ってなんて罪深きオ・ト・コ♡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ウオエェーっ!

 

 

 

 

自分で言ってて気持ち悪くなったわ…

 

 

 

 

 

 まあ二次元なんだけどな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがこうして少しの間でも、心の安らぎを

感じられることで自衛官としての責務を忘れ、

個人としていることは

そんなに悪い事では無いとは思う。

 

 

 

 

 

 俺たちは公務員であると同時に、

一国民としての守りたいもの、

大切なものを再認識させてくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家族、友人、場所、趣味。

 

 

 

 

 

 俺は大切な人々もそうだし、こういった文化や

そこから生まれる人の優しさを守っていきたい。

 

 

 

 

 

 艦これは戦いの中でも、失いたくない

大切なヒトが近くにいると感じさせてくれる。

 

 

 

 

 艦娘が兵器なのかどうかは公式では

詳しく言われてはいないが、俺は違うと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦娘は、きっと…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 口に出そうとして、止めた。

 

 

 所詮二次元、現実を見よう。

 

 

 切り替えもしっかりしないとな、

俺は自衛官なんだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 感傷に浸る時間はおしまい、

さて仕事に戻りますか!

 

 

『大切なものを護る』仕事に!

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺、やっちゃうからね!!」

 

 

 

 

 

 バタン!

 

 

 

 

 

 

 

 『村雨』のセリフを真似して、

ロッカーをやや強めに閉めた。

 

 

 

 

そうだ、いいとこ見せないとな!

 

 

 

 

薔薇色の未来が俺を待っているんだ!!

 

 

 

 

 

 菊池士長、出撃だぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コツコツコツコツ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やや早足で電信室に戻る俺。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな俺の後ろ姿を優しく見守る、

この場に似合わない美少女。

 

 

 

 

 

 ?「村雨、ちょっと期待しちゃうなー♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女は少し嬉しそうに、

居住区から出て行く俺の後ろ姿を見送っていた。

 

 

 

 




というわけでやっとこ登場しました
村雨ちゃんです。


「おいチョイ役じゃねえか」
「?の意味ねーだろw」


細かいコト気にする人は落ち着いてください。
ここまでに人知れない苦労が有ったのです。



一言で言うなら「この話までのデータ消えたから、
また最初から書き直した」です

頑張って拙い小説を書いたのですが、消えてしまいまた最初から設定からやり直したんですよ。



ついでに投稿日現在で、ここまでしか設定つくってませんですハイ。




ここからは無限大の可能性というか、
イバラの道というか…
他の投稿者様の様に、いきなり物語を進めたりとかテンポよくというのがどうも苦手で、私なりに着実に、時間と話数は掛かっても物語を進めていくつもりです。


「自衛隊の無駄知識多過ぎねぇ?」

そこはやはり譲れません!
どうせ書くなら自分のこだわりというか、自己満足を満たしたいものでして。
艦これメインですが、海自の内情も(素人ながら)あまり接することの無い皆さんに知ってもらいたいと思います。



このあとがきも、本文に次いで書いてて面白いというか、ワクワクしてしまいます。
そんなに多くの方に読んでいただいてなかったり、この小説や書き方を快く思っていない方も少なからずいらっしゃると思いますが、先述の自己満足のため申し訳ありませんが、投稿させていただきます。


投稿して間もないため皆様のご感想を見る事ができず、この小説をどう思っていらっしゃるのか不安でなかなか筆というか入力が進みません。


ぜひこんな筆者に愛のムチを入れていただければ幸いです。


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0-3 信念を持つということ(癇癪展開有り)

注意!

今回は見ていてかなり胸糞悪くなる、
主人公の癇癪がひたすらに述べられています。


物語の進行上どうか見ていただきたい話ですが
政治や軍部に対する批判や文句ばかりで
見ていて不快になります。


そういったテーマやムードが苦手な方は
ご了承の上、次回までお待ちいただくか
そっと物語をお読みください。


今回の話は主人公の今後の信念を持つ
重要なポイントなので、書かせていただきました。









フネのパート長以上が集められ、何やら
慌ただしくなりそうな『むらさめ』


深海悽艦のような”何か”が日本に来るのか?
静かに迫る軍靴の足音。


そして主人公の人生を決めることになる
新たなる信念。







 むらさめ電信室 1410i

 

 

 

 

 「おおっ、やっとオペ終わったわ。

ちとマズいことになるかも知れん」

 

 

 

 

電信長が戻ってきて開口一番にそう言う。

 

 

 

 

「マズいって緊急出港とかですかい?」

 

 

 

 

田島海曹が待っていた通信員を代表して

電信長に尋ねる。

 

 

 

 

「緊急では無いが、出港は確定だ。日程は未定だが

結構長期、2週間は見とくべきやな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『ハァーーー…』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電信長も含めた通信員全員のため息が

電信室に響く。

 

 

 

「群と護衛艦隊(EF)からはまだ指示は

来とらんが、隊司令から出港の準備をする様にと

1護隊(第1護衛隊)の各艦に電話で

示達が来たらしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うへぇ、出港ですか…

いやいや、意味無いでしょうに。

 

 

 

 

 

 

 

 

いくら警戒とかでも、ここは横須賀だぜ?

太平洋を目の前にした立地の軍港で、

そんなポッとさっきの深海棲艦モドキが

現れるもんかいねぇ…

 

 

 

 

 

 

 

 

むむっ、いかんな!相手は正体不明。

さっきのロシアのやつも、港近くで襲撃してたし、

レーダーや監視網を潜り抜けてきたのかも

しれんしな!

 

 

 

 

 

 

 

もし本当に『深海棲艦』ならいきなり

現れたりすることなど簡単だろう。

 

 

 

 

 

 

 

ゲームでも鎮守府正面に堂々と来てるし、

1隻とはいえ東京湾沖にそんなのが現れたら

海上の民間船はパニックになっちまう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちは『自衛隊』だからな。

日本を守らないといけないし、

面倒くさいとか言ってる場合じゃ無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦長からは各パートの人員を半分に分けて、

交代で下宿に戻って荷支度をして明日から

フネで総員待機との指示が出た。

 

まだ正式な指示や般命(一般命令)とかは

出とらんが、まあ上からそのうち似た様な

指示が出ると思うけえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…さすがにこうなるとはさっきテレビ見てた

時点では考えもしなかったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

むしろ他人事決め込んでたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

まあわかってても何も出来んだろうし、

ここは過去を振り返ってもしゃーないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はここ数日を思い返すが、無意味だと悟り

すぐに気持ちを入れ替える。

 

 

 

 

 

 

 

 

過去を悔やむより、今に即応する。

それが今すべきことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、この後のことだが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして電信長から今日一時帰宅できるメンバーが

伝えられ、そのメンバーに入っていた俺は、洗濯

物や不要品をいつも使うリュックの中に詰め

込み、通勤用の自転車で下宿へと戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

横須賀市船越町 某商店街 1540i

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから俺は明日からフネで必要になるであろう

物資を買い出しに来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

買い出しっつってもただの帰宅途中の

買い物だけどな。警戒行動とはいえ、ワッチ以外

ではする事がなくてヒマを持て余すのは確実。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漫画や本などを買い込んでおかないと…

 

 

 

 

 

 

 

 

洋上じゃあ携帯の電波は入らないからなー。

これは海上自衛官の悲しいところでもある。

 

 

 

 

 

 

 

今出た『ワッチ』ってのは仕事の交代番だな。

 

 

 

 

 

 

 

パートの仕事は、パートの人間全員が

同時に、一緒にやるわけじゃ無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練や戦闘時は当然フルの人員配置にしても、

それ以外は3、4交代で数時間ずつ回す。

 

 

 

 

 

詳しくは言えんが数人の直で電信室を

切り盛りして、数時間やったら休息がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間の集中力というのは2、3時間すると

急速に低下していく。

 

 

 

 

だから単純に

 

 

「お前8時間仕事やっとけ、それから休みな」

 

 

 

 

と言われても、無理だし無駄なワケ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

効率良く、なおかつうまく回転させるためには

適度な休息、適切な交代があってこそだ。

 

 

 

 

 

 

 

ちゃんと休んでリフレッシュ!

補給体調共に準備万端、全力発揮可能!

 

 

 

 

 

これぞ軍人の取るべき準備と言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

これは当たり前なんだが、

それをわかってない奴もいないわけじゃ

ないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧日本軍や今の自衛隊にもダメ〜な

お偉いさんは時変われども変わらずなわけで…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バカな幹部、通称バ幹部。

弱い味方は、強い敵よりも強い。

 

 

 

 

 

 

 

…ちょっと本屋で歴史コーナーのぞいてみっか。

 

 

 

 

 

 

 

「はい、らっしゃ〜い…」

 

 

 

 

 

 

たまに寄る下宿の近くにある古い本屋。

ここの店主は目がかなり遠いバーチャン。

 

 

 

 

 

 

話したことは無いし、多分顔も認識されてない。

 

 

常連さんの顔も忘れそうな感じだし、

長時間いてもたまに移動してれば

何にも言われない。

 

 

 

 

おかげで立ち読みし放題!!

 

 

 

 

 

 

 

 

それに品揃えも店構えの割には全然悪く無い。

おかげで週末の暇つぶしになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっと艦これ関連の本を読んだり、

ミリタリー本をあさったり…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特に昔の日本軍の事を調べると、

その辺がザックザックと出るわ出るわ。

 

 

 

 

 

 

陸軍だと

 

 

 

突っ込めー!突っ込めー!ばっかり!

 

 

精神論だけじゃ無いにしても、

それが重視されていたのは事実だ。

 

 

 

現場の将兵は駒の様に扱われ、食う物にも

困る有様。休みなんてほとんどなくひたすら

戦地で戦いを強いられる。

 

 

 

やっと休みがもらえるかと思ったら、

他の戦地に進出してまた連戦。

 

 

 

食い物も無ければ敵を倒す為の

武器弾薬もロクに支給されない作ってない。

 

 

 

 

 

玉無ぇ!大砲無ぇ!車無ぇ!つかメシ無ぇ!

戦え無ぇ!死ぬしか無ぇ…

 

 

 

 

 

 

…おいおい、なにがしたいんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陸軍ばかり叩かれているブラックなところが

目に付くが、海軍も他人事では無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦前からだが、まずばフネでの

指導という名のイジメ、私的制裁。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殴る、ビンタは毎日の様に有って、通称バッター

と呼ばれた海軍精神注入棒とかいう木の棒で

尻を叩くというか殴る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陸軍でも私的制裁はあったが、ここまで

ひどく無かったそうだし、海軍ではこの

バッターで死者も出たりした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特にフネは閉鎖空間ということもあり

鉄拳制裁は元より、陰湿な事も行われて

いたらしく逃げ場の無い下級の水兵らは

首を吊って自殺したりしてしまうことも

珍しく無かったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軍隊は何のために作られたのか。

 

 

 

 

それは国を守るためだ、そんなの単純だ。

 

 

 

 

 

 

 

国を守り、国民を守る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…あれ?軍人も国民だよな?

 

 

 

 

軍は国民を、現場の将兵を守ったのか?

 

 

 

 

 

 

それに一部の将兵も戦地の国民から食料を

徴収したり奪ったりしていなかったか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現場の将兵を支えるお偉いさんはどうだ…?

 

 

 

 

戦地の将兵のために食料を補給したり、

現場に必要な兵器とかを開発配備したか…?

 

 

 

 

 

 

 

あれ、してないよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うん…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…アホか、何がしたいんだ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軍隊ってのは、国ってのは国民を守るために

あるんじゃねぇのかよ?!

 

 

 

 

あ?ボケがっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国民助けずに何を守るんですかー?!

 

 

戦っている将兵見捨てて何してるんですかー?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はそんな軍に、政治家とかにキレた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何に対してキレているのかわからなかったが、

日本軍の、いや日本のそんなところがあった、

いや今でもあるのが許せなかったと思う。

 

 

 

 

 

 

偉い人だけじゃ無い、上から下まで。

特に軍人の、クソな将官からクソな兵士まで

そんなやつがいたという事に信じられないし

ひたすら「何で?」としか思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

艦これの、艦娘や戦いごとの歴史の本などを

手に取り、ぱらっと読んでも同じだった。

 

 

 

 

 

 

 

艦娘が生まれた経緯、戦歴、そして終焉…

 

 

 

 

 

 

 

 

どうして?

何でこんなことするの、したの?

こんなことなんでできるの?

 

 

 

 

 

 

何なんだあの作戦、用兵!

バカじゃねぇのか!?

いくら現実では兵器っつってもよ、

それは人が動かしてんだし、人が

戦って、死んでるんだぞ!!

 

 

 

 

 

 

 

勝った負けたって騒いでてもよぉ、

人の死は所詮数字でしかねぇのかよ?!

 

 

 

 

 

 

 

あー、こんな癇癪起こしたの久々だわ…

それもめっちゃ、胸糞悪りぃ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実も艦これも、歴史を知れば知るほど

胸糞悪くなってきやがる…!

 

 

 

 

 

 

 

 

…ちょっとさっきの国民や将兵のを

棚に上げて話すぞ。

 

 

 

 

 

 

 

艦これのゲームについてだ。

 

 

 

 

 

 

 

艦娘みたいな可愛い子が戦うだろ?

まあ、ここは百歩譲っていいとしよう。

 

 

 

 

 

中破で進撃する提督いるよな?

 

 

 

 

 

動画サイトとかでも他の提督のプレイ

を見たりするんだが、ボス直前とかで

「行ける行けるw」みたいな。

 

 

 

 

 

まあ、俺はそういう奴を見るだけで

眉が勝手に動くんだが…

 

 

 

 

 

 

 

別に沈まないようにアイテムとか持たせてて、

『轟沈』しないようにしてりゃあいいけどよ。

 

 

 

 

 

 

 

沈めて「あーあw」みたいな、全然悔しがったり

とか呆然とするわけでもなく

 

 

ただ笑ってたり何とも思ってないような奴を

見たことがあったんだがよぉ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それを何で沈められるんだ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『艦娘』はオメーの大事なモノ

なんじゃねぇのかよ?!

 

 

あ?!なんだヘラヘラしてよ?!

 

 

 

 

 

『捨て艦』とかなんとも思わねーのかよ?!

 

 

 

 

 

確かに所詮ゲーム、二次元だけどよ!

オメーは人間として何とも思わねーのかよ?!

 

 

 

 

あんな可愛い娘たちを、沈めて!

あの娘だって、前世で沈められたりして

辛かっただろうに!!

 

 

 

 

 

 

望んだ望まずはあっても

また艦艇としての生命(いのち)を与えられ

姉妹艦や、かつての仲間ともう一度一緒に

なったり、なろうと頑張ろうって誓い合ったのに…

 

 

 

 

 

 

 

 

折角、また仲間と会えた、いや、『逢えた』のに

最低な野郎のせいで…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本はどうなっちまうんだ…

 

 

 

 

 

 

こんな奴らがそこら中にいるのか。

 

 

戦争で亡くなっていった先達(せんだつ)に、

犠牲になった人たちに申し訳ねぇよ…

 

 

 

 

戦前からクソな軍人や政治家も沢山いて、

現在でも変わってないなんて。

 

 

 

 

歴史から何を学んで、何を良くしたっていうんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(俺ゃあ絶対にそんな提督にならないし、

自衛官として、軍人として守るべきモノを

守るんだ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『艦これ』でも絶対に誰も沈めないし、

仕事でも努力を欠かさないぞ。

自衛官として、誇りある自衛官として

日本を守ってみせる!

 

 

 

 

 

 

 

偉くなって、部下を大切にして、

でも本当に守るべきモノを見失わない。

 

 

 

 

 

 

 

例え僅かな平和であっても、

こんなクソみたいな国であっても、

”守りたいヒトがいる”んだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ってこのキャッチフレーズ、陸自の

じゃねーか!

 

 

俺は海自だってーの!

 

 

 

 

 

ふと腕時計を見れば、

もう1800(ヒトハチマルマル)過ぎてるじゃん。

 

 

 

ずっと癇癪起こしてたんか。

むしろ感傷に浸っていたというべきか?

 

 

 

 

 

 

我に返ってカウンターを見れば、

店のバーチャンもうたた寝をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

ギュルルル…

 

 

 

 

おうっ!?

 

腹めっちゃ減った

 

 

 

 

 

「もう帰って飯作らんとな。出港に備えて冷蔵庫の

中身を空にせんと、冷蔵庫がバイオハザードに

なっちまう。本買ってさっさと帰ろう」

 

 

 

 

 

寝ているバーちゃんを優しく起こして

会計してもらう。

 

 

 

 

 

 

…なんだか無駄に疲れた。

帰って、フネに持っていく物を準備したら

今日はもう寝よう。

 

 

 

 

夕飯は肉じゃがだな、確か

ジャガイモが余ってたし…

 

 

 

 

スーパーで安い肉売ってっかなぁ?

 

 

 

 

 

 

そんな事を考えながら自転車に跨り、

書店を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

季節は春になったとはいえ、まだ風が

吹いておりやや肌寒い。

 

 

 

 

だが風に僅かに含まれた磯の香りを

俺は鼻から深く吸い込みながら、

春の訪れを静かに実感していた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ごめんなさい、主人公の癇癪というか文句だけで
今回は終わってしまいました。


ですがこういったシーンあっての小説、登場人物
だと私は考えていまして、この物語をいい意味で
軽く、単純にしたくないと思っております。


戦闘に勝った、敵倒した、そしてケッコンみたいに
いいところだけを書くというのは、艦娘たちに
失礼でしょうし、何よりその礎となった軍人や
戦争で亡くなった人たちに申し訳が立ちません。





艦これをメインに書かせてもらうつもりですが、
登場人物の心情や、権力闘争や政治といった
方面も、拙くグダグダと書きたいと考えています。


そういった内容が苦手な方は、申し訳ありませんが
閲覧を控えていただいたほうが
よろしいかと思います。





展開についてはまだしばらくは艦娘は
(あまり)登場しない予定です。


ご安心下さい、ちゃんと出ますから!


ネタバレになりますが最初は『村雨』ちゃんです。


本来なら物語をホイホイ進めて、艦娘も
じゃんじゃん出したいところですが
それじゃあちょっと味気ないので、
やはり少しずつ進めていきます。



「それじゃあ超編になっちゃう
じゃないすか!ヤダー!」


…そこは申し訳ない。そこは前述の味気なさ対策の
内容を濃くした着実なストーリー展開をですね、
していきたいとね、思っている次第ですハイ。



「さっさと艦娘出して、どうぞ」


なかなかストーリーが進められないんです!
急展開というのは、私の勝手な考えなのですが
シラけると言いますか、無理があるのではと
思いかなーり控えています。


読者の皆様どうぞご了承くださいませ。





さて、次回予告です。

下宿に戻った主人公は、夜に不思議な夢を見ます。
なぜか出港した『むらさめ』は無人。
艦橋に上がると、いるはずのない謎の少女。


夢だと気が付いた主人公は少女に
夕方あった事を話します。

それに対して少女は…




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0-4A 夢の中で輝いて 前編

…前話については申し訳ありません。
主人公の人生の大きなターニングポイントを
書こうと思ったのですが、最初の案が
あまりに華々しかったため、あえて泥沼な
書き方、展開にさせてもらいました。



さて
新たな信念を持った主人公。
これからどんな事件に巻き込まれていくのか。


明日からフネで待機。
その前にちょっとだけ見る、
ちょっとヘンテコな夢。



今回はそんなふんわりした
ムードでお届けします。





 横須賀市内 菊池下宿 2030i

 

 

 

 

 

 

ゲブーーーゥ!!

 

 

 

 

 

 

 

汚ったねぇな…

 

 

 

いきなりすまんな、食後でつい、な?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あー、食った食った。

 

 

 

我ながら肉じゃがは得意料理だな。

スーパーでいい値段で肉が売っててよかった。

 

 

 

 

 

 

 

書店を後にした俺は、夕食の具材を買ってから

下宿で少し遅めの夕食を食べていた。

 

 

 

 

 

 

 

糸こんにゃくで腹が膨らむ。

貧乏メシ最高です。

 

 

こんにゃくは弱者の味方だな!

 

 

 

 

 

明日の準備は万端!

メシも食った!

 

 

後は風呂だけー!

 

 

 

 

 

「♪めっしめっし、ふっろふっろ後は寝るだけー!」

 

 

 

 

陸自や空自の基地で流れる『課業止め』のラッパを

変な歌詞を付けて歌いながら、

俺は風呂場に向かう。

 

 

 

 

 

 

シャワワー!

 

 

 

 

身体の汚れを落としてから湯船に浸かる。

 

 

 

ザバァーン!

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜、生き返るわぁ〜!!」

 

 

 

 

 

 

 

やっぱフロはいいなぁ〜…狭いけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

風呂は広い方がいいんだが所詮下宿だしな。

1Kで風呂トイレ別で格安だったんだから文句は

言えんな。立地も悪くないし。

 

 

 

 

 

風呂から上がった俺は、いつも飲んでいる

ブランデー入りの紅茶を作る。

 

 

 

えっ、明日からフネで待機なのにアルコールを

飲んで大丈夫かって?

 

 

 

 

明日から酒は飲めないし、いいじゃあないか。

こんなの酒を飲んだに当たらんよなぁ?

 

 

 

 

これはワインボンボンとか甘酒みたいなもんだろ。

飲酒にはならないって。

 

 

 

 

 

 

それに飲んだら自転車も乗らないし、

健全な自衛官だろう。

 

 

 

 

 

 

 

ちょくちょく飲酒した自衛官が不祥事を

起こしたというニュースもあるし、

俺はこれでも気を付けているんだせ。

 

 

 

 

 

 

 

体がほんのりと温まり、俺は歯を磨いて

さっさと布団に潜り込む。

 

 

 

 

 

 

「ふぁーーあ!朝は目覚ましを0500にセット」

 

 

 

 

スマホと目覚まし時計、予備で腕時計の、

アラームもセットする。

 

 

 

 

 

 

 

自慢じゃないが俺はどこでも、すぐ寝れるタチだ。

 

 

 

のび太くん程ではないがすぐ熟睡するし、

朝までほとんど目を覚ますことはない。

 

 

 

 

 

「明日から…フネで待機…ダルいぃ…」

 

 

 

 

あっ、もう落ちるな。

 

感覚でわかる。

 

 

 

 

 

冷蔵庫は空っぽにしたよな?

 

賞味期限近いものは無いよな?

 

 

 

 

頭の中で最終確認をしながら、俺は

夢の中へと旅立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

う〜ん…赤城ぃ、もう食べれないよぉ…

 

 

神通ぅ…良いでは無いか良いでは無いかぁ…

 

 

綾波ぃ…お前は可愛いなぁ、癒されるぜぇ…

 

 

 

 

 

 

俺は艦娘たちと戯れる夢を見ていた。

 

 

 

 

 

 

…それも幹部の制服を着て。

階級は、何故か2等海尉…

 

 

 

 

 

『提督』だから、服装も提督風にってことか?

まぁ夢だからな、俺の頭が都合良く変換して

るのか、便利な頭してんなオイ。

 

 

 

 

それならせめて海佐クラスにしてくれよ。

2尉とか微妙だろうに…

 

 

 

 

 

 

俺は提督となっているようで、みんな俺を

「提督」とか「司令官」と呼んでくれている。

 

 

 

ぐふふ、俺って幸せだなあ。

 

 

 

 

このまま行けるとこまでイッちゃおうかなぁ…

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

…んー

 

 

 

 

 

 

…ん?

 

 

…んん?!

 

 

 

 

ガバァッ!!

 

 

 

 

「ど、どういうこっちゃー!!」

 

 

 

 

 

 

あ…ありのまま今起こったことを話すぜ!

 

 

 

 

「夢の中で俺は提督になり艦娘たちとイチャついて

いたと思ったら、いつの間にか『むらさめ』の

飛行甲板に布団の中で寝ていた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…どういうこっちゃねん」

 

 

 

 

 

 

 

どうやらここは海の上、それも俺の乗っている

『むらさめ』の飛行甲板のど真ん中。

 

 

 

 

 

ご丁寧なことに布団までちゃっかり敷いてある。

 

 

 

 

 

 

「これは夢なんかな…?」

 

 

 

 

ベタではあるが、頬をギュッとしてみる。

 

 

 

 

 

 

 

……痛く無い、夢だな。

 

 

 

 

 

どうやらさっき見ていた夢の次は、職場の

夢を見てしまっているらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういやなんでむらさめの飛行甲板って

すぐにわかったんだろう?

 

 

 

 

格納庫周りを見渡せば、我がむらさめとわかるが

何故寝起き?から状況が把握できたんだ?

 

 

 

 

 

 

 

てかさっきは幹部の制服だったのに、

 

今は寝る時に着たジャージになってるし…

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ俺の夢だしな、不思議なことは無いか」

 

 

 

 

 

とりあえず布団を整え、フネに乗員がいないか

探してみることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

ペタペタペタ…

 

 

 

 

 

俺は艦内をスリッパで歩く。

 

 

 

 

 

今履いているスリッパだが、

なぜが布団の横に置いてあった。

 

 

 

 

 

「自分の夢とはいえ、都合が良過ぎるだろ…」

 

 

 

 

 

 

そう思いながらも通路をペタペタ進んでいく。

 

 

 

 

 

 

ちなみに頬をつねっても痛くはなかったが、

何故か歩くと足の感覚はある。

 

 

 

 

 

手をニギニギしても腕も感覚があるし…

 

 

 

 

 

 

夢ってこういうもんなんかねぇ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にしても、誰もいないな」

 

 

 

 

職場である電信室や居住区を回ってみたが、

人がいる気配は全くしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

士官室や艦長室も恐る恐る覗いて見たのだが、

だーんれもいねーでやんの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機関部はどうせいないし、あと行くべき場所と

いえば”あそこ”しかないなあ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カツンカツンカツン…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督入られます、気を付けっ!」

 

 

 

 

「うむ、苦しゅうないぞ」

 

 

 

「かかれっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って何やってんだよ、アホらしい…」

 

 

 

 

 

 

”あそこ”とは艦橋であった。

 

 

 

 

 

 

ちょっと提督ぶってみたけど、なんか違うし。

 

 

 

 

苦しゅうないぞとか、どっかの殿様じゃねーか。

 

さっきの神通とのイチャつきの影響が残ってる?

 

 

 

 

 

 

 

 

ともあれざっと艦橋を見渡し、ゆっくりと歩み始める。

 

ふむ、艦橋にも誰もいないようだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

艦橋なんて、通信でもあんまりこないからな。

 

 

 

 

 

 

 

艦橋交話員の配置があるときは海曹の人が

上がるが、基本通信士がいるからあまり通信員を

艦橋に上げることが無いからな。

 

 

 

 

俺たち通信員の上には通信士っていう幹部の

人がいて、通信業務を監督している。

 

 

 

訓練の時に交話機の前に陣取って、交信を

してもらったりしている。

 

 

 

ついでに海外の海軍と共同訓練する時に、

英語で電話がかかってくるんだがその時も

通信士に丸投げしてるな。

 

 

 

だって英語わかんないし…

 

 

 

 

 

通信士も

 

 

 

『私だって英語得意なわけじゃ無いんですよー!』

 

 

と、涙目になりながら英語であたふた

しゃべってたなあー。

 

 

 

むらさめの通信士は2尉の若い人だ。

 

 

 

 

歳は俺より3、4つ上だがさすが大卒、

なんとか言って仕事はちゃんとする人だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?「通信士ももう少しどっしり構えてくれれば

いいんだけどねぇ」

 

 

 

 

「そうなんだよなー。もうちっと自信を持って

欲しいよな」

 

 

 

 

 

 

 

全く、若手の幹部ってのは遠慮し過ぎるというか…

 

 

 

 

今の人が言ったようにだな、もっと……うん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今誰かの声がしなかったか?

 

 

 

 

 

 

 

 

よく見たら、右舷にある艦長の座る席に誰かいる。

 

 

 

 

 

 

 

「へっ、ど、どちら様ですか?」

 

 

 

 

 

 

俺が声を裏返しながら尋ねると、その人物は

勢い良く椅子から降りて俺の方に正対した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいはーい!白露型駆逐艦…じゃなかった

むらさめ型護衛艦『むらさめ』だよ!

菊池士長、よろしくね!」

 

 

 

 

 

「うおっ!?村雨ちゃんじゃねーか!!

てかなんで俺の名前知ってるの?」

 

 

 

 

 

「そりゃ私は『むらさめ』だもん、知ってるよ。

通信の菊池士長。巨乳好きで、

嫌いな物はセロリでしょ?」

 

 

 

「わわーわー!!わかったから、俺のこと

知ってるのはわかったって!!」

 

 

 

 

「ふっふっふー!白露型駆逐艦の力、

侮れないでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どういうこっちゃ!

 

村雨が現実にいるぞ?!艦娘の、村雨ちゃんがっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フゥ〜…落ち着け、俺。

 

これは夢だ、俺の夢だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

忘れていたが、俺が思った通りに

夢は動いてくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つまり、村雨脱げって思えば脱いでくれるハズ!

 

やるぜっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「村雨っ!!」

 

 

 

 

「えっ、なになに?私に相談かしら♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(さぁ村雨、脱ぐのだっ!君のスケベボディーを

俺にさらけ出すのだぁー!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

じぃーー!

 

 

 

 

 

「ちょっ、まっ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?こうかはいまひとつのようだ。

 

 

 

 

 

 

 

(まだ念が甘いようだな、

さぁセクシーポーズを取るのだぁ!!)

 

 

 

 

 

ジィーーー!!

 

 

 

 

 

「本当に困るんですけどぉー…、うぁあん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故だっ?!

 

 

おい、俺の夢だろ!何故脱がんっ!!

 

 

 

 

 

 

 

「そんな目で見られちゃうと村雨、

どうかなりそうー…」

 

 

 

「あーゴメンゴメン、艦娘と会えるとは思えなくて少し動揺しちゃってさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…むぅ作戦中止、エロはいかんのか?エロは?

 

 

しょうがない、健全に行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「驚かせちゃったね。こんなところで

立ち話もなんだし、士官室でも行って

お茶でもどうかな?」

 

 

 

「ほんと?おぉ〜、グッド〜!」

 

 

 

「おっし、そうと決まれば行こうか。

あと俺のことは『提督』って呼んでよ、その方が

お互いしっくりくると思うし」

 

 

 

 

「じゃあ提督って呼ばせてもらおうかしら!

よろしくね、て・い・と・く!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おおぅ、轟沈確定。

俺の心はいま轟沈したぜ。

 

 

 

 

 

 

夢の中とはいえ、お茶デート誘っちまったぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラッタル急だからね、気を付けてね」

 

 

 

「あらあら、優しい人なのね。ありがと!」

 

 

 

 

俺は夢の中と知りつつも、ウキウキしながら

村雨と士官室に向かうのであった。

 

 

 

 

 




夢の中でですが、やっと艦娘登場。


「おいゴルァ!俺の村雨に何しとんじゃ!
許可取ってんのか!」

すいません、主人公のキャラなもので
そこは許してください。




「夢かよ!」

まあまあ、そう焦らずに。
その内現実にも出てくる予定ですから。

もうちっとだけ前菜話が続くんじゃ。






次回は後編
どうせまた夢の中の話です。



主人公は書店で感じた事を村雨に相談する。


そんな主人公を優しく諭す村雨。



夢なのをいいことに、主人公はあるお願いを
村雨にするのだが…




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0-4B 夢の中で輝いて 後編

夢の中の話って便利ですよね、
都合の良い解釈出来るし、変な事も
夢で許される(はず…)。



さて、『村雨』と運命の出会いを
果たした主人公。


これはただの夢なのか、それとも…





 夢の中 むらさめ士官室 XXXXi

 

 

 

 

 

 

 

士官室に入った俺たちは一緒に

お茶の準備をしながら話をする。

 

 

 

 

 

 

2人とも紅茶で、村雨はミルクティー。

ちょっとお洒落なチョイス。

 

 

 

 

 

 

 

きっと『金剛』なら

 

「インスタントのティー

なんてナンセンスデース!!」

 

 

と怒るかもしれないけれど、

フネに本格的なセットは必要無いからいいのさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(Boo…!ワタシの次のサプライには、

本番ブリテンのティーセットを

リクエストするネー!)

 

 

 

 

 

 

 

なんか変な帰国子女の声が頭の中に

直接響いたような…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ともあれ準備を終え席に着いた俺は、

本題とも言える質問を村雨に投げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで急に現れたの?

やっぱ深海棲艦みたいなやつが現れたから?」

 

 

 

 

 

 

 

 

話を聞きながらミルクティーを飲んでいた村雨は、

コトリとカップを置くときょとんと

した様子で答えた。

 

 

 

 

 

 

 

「え?駆逐艦の時からよずっといたわよ?

 

艦娘がいつ誕生したか見解はいくつもあるけれど、

私は竣工してからかしら。

 

進水したり命名されたのはあったかなぐらいの

認識で全然覚えていないの。

 

だから竣工日が誕生日って言えると思う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…hai?

 

 

 

 

 

 

「…今なんとおっしゃいましたかねぇ?」

 

 

 

 

 

 

 

「だから駆逐艦として竣工してからずっとよ。

生まれた時からこの身体、沈むまでは

ハッキリおぼえているわ」

 

 

 

 

 

 

「マジかよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

『艦娘』としての魂は護衛艦として生まれ

変わってからもあるようで、『村雨』は

途切れ途切れだが今で2代目らしい。

 

 

 

 

 

 

気が付いたら護衛艦で廃艦、

また護衛艦で今に至るそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「他に艦娘っていないの?村雨だけが特別なの?」

 

 

 

 

「え、いるわよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなあっさり言っちゃう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人間が気付いていないだけで、実際には

港のそこら中にいるし、出歩いているのよ」

 

 

 

 

 

 

 

横須賀を始めとした軍港が、上陸した艦娘たちで

溢れている光景…たまんねぇなオイ!

 

 

 

 

 

 

 

ただし大湊、オメーはダメだ。

あそこは基地の周りに遊ぶ所が無いからな。

 

 

 

 

最低でも隣町のむつ市の田名部(たなぶ)

ってところまで行かんと何もない。

 

 

 

 

 

『むつ市』とか第3砲塔が危なさそうな

地名なんですが、それは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

にしても軍港が艦娘で溢れるとか

どこの女子校の遠足・修学旅行だっての。

 

 

 

 

俺は一向に構わんが!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全く気付かなかったな、艦娘が見える

ゴーグルとか開発してくれよ技術研究本部、

違った、今は防衛装備庁か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺みたいな下っ端にはわからんが、

日夜凄いものを開発しているらしい組織。

 

 

 

 

 

 

 

よく艦これのSSで艦娘を兵器として開発したり、

目を背けるような非人道な実験をしていたりと

マッドサイエンス共の巣窟みたいな描写で

表現されたりするが、フツーの組織だから!

 

 

 

 

 

全然怖いところじゃないから!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…でも10万円ぐらいで、飛行可能な球体偵察機

作っちゃうような、世界に誇るHENTAI組織

なのは確かだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな俺を放っておいて村雨は続ける。

 

 

 

 

 

 

「護衛艦で言えば『ゆうだち』もそうよ!

もちろん『はるさめ』や『さみだれ』も。

 

 

横須賀だったら、

 

同じ1護隊の『いかづち』ちゃん。

 

 

『いずも』だって、名前は違うけど

元軽空母の『飛鷹』さんなのよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わーお、最新式の『いずも』もか!

 

 

 

 

確かに飛鷹は客船として『出雲丸』って

命名されてたし、そう考えると

妥当といえば妥当か。

 

 

 

 

 

 

 

てことは『かが』は『加賀』さんなのは

確定的に明らかなわけで…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「護衛艦以外なら『ひびき』ちゃんとか、

『ちよだ』さんもいるよ!

 

 

潜水艦に『みちしお』ちゃんと

『そうりゅう』さんとかもいるけど、

 

 

「海中はもう嫌、鬱になりそうよ!…でち」

 

とか、

 

「長期出港で艦内がひどい臭い、

空母の頃は艦内はこんなに臭わなかった」

 

ってちょっと鬱になってたわよ」

 

 

 

 

 

艦娘すげぇ、というか海上自衛隊すげーなオイ。

『自衛艦これ』出来るやんけ。

 

 

 

 

 

 

 

にしても現潜水艦組は大変だな。

海中とか、沈んだ記憶が思い出されるだろうに。

 

 

 

 

 

 

 

 

にしても皆、考えてみてくれ!

スク水の『蒼龍』か…ふむ、アリだな!

 

 

 

 

 

俺提督になれるならマジで『自衛艦これ』

しようかな、やべーぜ!鼻血全開だぜ!?

 

 

 

 

 

俺全艦娘とケッコンとかになったら、

鼻血出して出血多量で死ぬかもしれん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…いや、死なないけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村雨は『沈没』後は数時間くらい

海の中にいたけど、船体に海水が

入ってからは記憶が無いらしい。

 

 

 

 

 

 

気が付いたら護衛艦になってて、廃艦。

 

 

 

 

そしてこの2代目の護衛艦『むらさめ』。

他の自衛艦でも同様の模様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがそれは人間には認識されていなかった。

 

 

 

 

 

 

「ぶっちゃけて聞くけど、艦娘がフネにいる

必要ないんじゃない?

戦ってるのは兵隊なわけだし。

 

そこにいるだけなら、

いなくてもいいんじゃないのか?」

 

 

 

 

 

 

 

「そんなことないわよ。

私が、艦娘がいないとフネって動かないもん。

 

確かに実際に操作するのは兵隊さんだけど、

それを頭の中で認識して、伝達したりちょっと

修正して反映させなきゃいけないの。

 

もちろん全部の艦船や船舶に魂が宿るわけ

じゃないけど、みんながやっている『艦これ』に

出てくる艦娘は実際にいたし、戦場を

駆け巡っていたのよ〜!」

 

 

 

 

 

村雨がえっへんと胸を張る。

…うん、見事な”張り”だ。

これで駆逐艦とは思えん、指輪渡そう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな不埒な考えはは置いておくとして、

俺はふと浮かんだ質問を村雨に尋ねる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分が戦っていて、そこに”存在してるのに

存在してない”のはどう思った?

やっぱり悲しいなあとか寂しいって

感じたりしたの?」

 

 

 

 

「少し寂しいって思ったこともあるけど、

私はそういう存在なんだって割り切ってるかな。

 

兵隊さんが大砲を発射するのも私がいなかったら

発射出来ないし、エンジンをまわすのだってそう。

 

意外かもしれないけれど、艦娘の存在は

かなり大きいのよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

わーお、艦娘さんマジすげぇっす。

 

 

 

軍艦って科学技術の塊だと思っていたが、

結構オカルトチックなところもあるんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一通り質問が済んだところで、

俺は書店で感じたことを村雨に聞く。

 

 

 

 

 

 

 

「戦争中にさ、上の無茶な命令や作戦で

大変な目に遭ったとおもうけど、

文句とかあるよね。

 

それは今も根本は変わってないんだけど、

あまりに酷いと俺は思うんだが」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは皆感じていると思う。でも私たちは

兵器、文句が有ってもどうしようも無いの。

命令されたことを努力して実行するのが

生き残る最良の手段、そう考えているわ」

 

 

 

 

 

 

 

「そういった命令を出すやつにはクズも

いるでしょ。そいつらについてはやっぱり

ふざけんなって感じたりする?」

 

 

 

 

 

 

「感じないわけじゃ無いけど、考えるだけ

無意味だしそれにそういったのは

艦長や提督の仕事になるんじゃ無いかと思うわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督の仕事、ねぇ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が提督になったらどうしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村雨を始めとした『艦娘』を沈めない戦いを

するのは当然だが、その他に事務仕事や

お偉いさんに話を付けたりと政治の方面にも

精を出さなきゃいけなくなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

艦娘を出撃させろと市ヶ谷や永田町に

怒鳴り込んだり、ブラック鎮守府にさせない

よう抗命しなくちゃいけなかったりと忙しそうだ。

 

 

 

 

 

戦いの指示だけならまだしも、

補給や修理、建造とかはどうするんだ?

 

 

 

 

 

タマは既存のものは使えるのか。

修理は艦娘が入るのか、

それとも船体のの修理をするのか?

 

 

 

 

 

建造できるとしても、資源はどうすんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

うむむ、質問がどんどん湧いてくるぞ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

湧いてきた質問を何から聞こうか悩んでいると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボヤァ〜…

 

 

 

 

 

 

ん?なんだ、視界が…歪んだような?

 

 

 

 

 

 

「きっと夢の世界と現実との境界が

切れそうになっているのかも。

 

単純に言えば、提督の夢が覚めてしまうってこと」

 

 

 

 

 

 

 

俺の様子を見ていた村雨が言う。

 

 

 

 

 

 

 

やべーよ!折角村雨と会えたのに、

会えなくなっちまうとか艦これやる意味ねーよ!

 

 

 

 

自衛官やる意味ねーよ!

夢よ覚めないでおくれぇ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ夢から覚めたく無いんです!

 

まだえっちな事して無いんです!

 

村雨ちゃんとイチャイチャして無いんです!!

 

このままじゃ死ねないんです!

 

 

いや、むしろ現実では死んでいいから

夢の世界にいさせてください!」

 

 

 

 

 

 

 

「…提督、さすがにそれは村雨も

色々と困るんですけど〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えっちな事についてなのか、

俺が死ぬ事に困っているのかはわからないが、

村雨を困らせてはいかんな。

 

 

 

 

 

 

だが夢が覚めてしまったら、

また会えるかも分からんしなぁ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

せめて夢の中でヤりたいことは

やっとかんとな!

 

 

 

 

 

 

 

…おしやるぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「村雨、キス、しよう!

すきだァー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スイマセン、言っちゃいました。

 

 

 

 

 

 

 

「ええぇ〜、村雨困るんですけど〜…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願い、1回だけ!

先っちょだけ!!(意味不明)」

 

 

 

 

 

 

 

「う〜ん、まあ1回だけなら、ね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おっし神様ありがとう!!

案外言ってみるもんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺、キスしたら死ぬんだ…

 

 

 

 

 

 

いや待て、現実で死んだらこの夢の世界に

ずっといられるんじゃね?!

 

 

 

 

おい、本屋で誓った事はどーした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村雨が目を閉じ、俺は唇をゆっくりと近付ける。

 

 

 

 

あードキドキしてきた、夢の中で死にそう。

ここで死んだら夢と現実、

どっちの世界にいられるんだ?

 

 

 

 

 

 

 

も、もうちょいかな?

 

 

 

 

 

 

あと2cm、あと1cm…!

 

 

 

 

 

 

 

 

ステンバーイ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おっしゃあぁぁぁ!

タッチダウン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未知との遭遇、奇跡の瞬間、

神降臨とはまさにこの事!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…おんや?

なんだか平面みたいな感触だが、

唇と唇が合わさるとこんな感じなんかな?

 

 

 

 

 

 

昔付き合っていた彼女とキスした時は

もう少し柔らかかったような気がしたが…

 

 

 

 

 

 

デ、ディープも行けるかなっ?

 

 

 

 

 

とりあえず舌を村雨の口の中に入れようと

するが、村雨は頑なに口を閉じたままだ。

 

 

 

 

 

 

口が元から空いていないかのようだ。

まるで硬い物質にキスしているかのような…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おかしいな、あまり強引な事はしたく無いが

顔に手を添えてみるか…。

 

 

 

 

 

 

 

俺は村雨の両頬に手をゆっくりと持って行き、

さらに舌を入れようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

!?

 

 

なんだこの感覚!

 

 

 

 

 

 

村雨の口が振動している!

ビクついているのか?

まるで携帯のバイブの様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ん、携帯のバイブ?

ケータイのバイブ…ケータイ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴー…ヴー…ヴー

 

 

 

ぶちゅう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちゅん、ちゅん。

 

 

カーッ!カーッ!

 

 

 

 

 

家の外から小鳥のさえずりやら、ゴミを漁りに

来たのであろうカラスの鳴き声が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

開けた目、その下方。

 

 

 

自分の口元には、振動するスマホ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えーっと、これは、つまりー…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢オチかよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうやだ、死にたい…

 

 

 

 

 

 

 

俺は艦娘との初キスの味を堪能したかと

思ったら、人生初の液晶とのキスを

朝早くからしてしまったのであった。

 

 

 

 




どうせこんなオチしか思いつませんでした…


「俺の嫁に何て事を…」


そこは許してくださいとしか言えません。
主人公はちょっぴりかなりスケベなのです。

男の子はすべからく変態、事実です。





主人公と艦娘の絡みはだいたいこんな流れです。


ストーリーと主人公のギャップをいい配合で
書きたいのですが、ストーリーが無音潜行し過ぎ!


やや軽いストーリーになっている
気がしますが、この物語を進めていくに
つれて重みが出てくると思います。


今でこそややコメディが目立ちますが、
しばらくしてヘヴィな空気と血生臭い
展開が待っております…



そういったのは苦手な人はご注意。

「血生臭いドロドロな戦いを!
一心不乱に凄惨な大戦争を!!」

というモノ好きな方、しばしお待ちを。




血生臭いとはいえ『轟沈』シーンがある可能性は
かなり低いだろうと申しておきます。








次回からは現実に戻ります。


出勤してきた仲間の村上と会い、
昨夜の事について話す主人公。


どうやら夕方から出港して、海上で
警備に当たるらしいと専らの噂。



当然『村雨』は艦内に居らず、
明らかにやや落ち込む主人公。




そして謎の組織のミーティング…

その中で飛び交う、物騒な言葉、
そして『人間』『復讐』の単語…







次回、『黄昏の出撃』



「アルファ目標発砲!アイツは”敵”ですっ!!」



「何弱気になってるんですか司令。
守りたいものの為に何としても帰るんですよ!」





この世界と『深海棲艦』が出会った時、
『艦娘』は現れる…





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0-5 黄昏の出撃 【横須賀〜東京湾】

 菊池下宿 0510i

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めてしばらくして頭もスッキリしてきたし、

そろそろ着替えてフネに行かないとな。

 

 

 

洗面などを済ませた俺は、

着替えてすぐに基地へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

にしても出港とは、気が重くなるな。

 

 

なんにも無く終わればいいが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東雲の空の、自分の心境と裏腹な美しい空に、

妙な胸騒ぎを俺は覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 横須賀基地 護衛艦むらさめ 0620i

 

 

 

 

 

 

フネに着いた俺は、同じく出勤してきた村上に

昨日の夢を話していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っつー訳なんだよ。」

 

 

 

 

 

「そんなワケがあるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい一蹴されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦これはあくまでゲームであって、

現実ではないんだ。良い大人なんだから

その辺の区別はしておくようにだな…」

 

 

 

 

 

 

 

やっぱりバカにされたか…

 

 

 

まあいい、いい夢を見られたんだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういや『金剛』もいるようだぞ。

直接会ったりしてないが、頭の中に

話しかけて?きたぞ」

 

 

 

 

「なにいぃー?!それは本当か!!」

 

 

 

 

「あ、ああ…。だからもしかしたら

会えるかもしれないぞ…」

 

 

 

「なぜ俺の夢には出てきてくれんっ!」

 

 

 

「知らねぇよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は話の主導権を取ることに成功した。

 

 

 

こいつは『金剛』が絡むと扱い

やすいからな。

 

 

 

そこだけチョロ過ぎんだろ、

他はしっかりしてるのに…

 

 

 

 

 

 

 

 

まあ、そこが俺が村上を同期として好きな

理由の一つなのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は1700出港らしい、その後は別令

あるまで海上警備につくらしいぞ」

 

 

 

 

さっき聞いた風の噂を村上に話す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うむ、俺もETの先輩からその様に聞いた。

隊司令が乗ってきて僚艦の『いかづち』と

ペアで行動するらしい」

 

 

 

 

「いかづちか…」

 

 

 

「言っておくが”いない”からな」

 

 

 

「わあーってるよ!現実との区別ぐらい

出来らぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村上と別れた後職場の電信室に行くと、

他の人も集まり始めていた。

 

 

 

どうやら皆電信長と通信士が来るのを

待っているらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして前日の当直員を除いた通信員が揃い、電信長と通信士がやや緊張した面持ちで

入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご存知の通り、本日1700頃むらさめは

出港します。前日の当直員が一時帰宅している間、

在艦員は出港準備と整備作業を整え、

磁性物品と不要物の陸揚げと、

臨時の生糧品・貯蔵品搭載を行います」

 

 

 

 

 

 

 

 

通信士が相変わらず謙虚な口調で

今日の予定を達する。

 

 

 

 

 

大体は予想していた内容だ。

 

 

 

 

 

 

今日の朝までいた前日の当直員は

今日来た乗員と入れ違いに上陸し、

夕方まで一時帰宅を許されていた。

 

 

 

 

 

さて、どーせ海士は肉体労働ですか、仕方ないね。

 

 

 

つーか磁性物品ってこのフネ自体が

磁性物品だっつーの。

 

 

 

 

海上自衛隊では海上で行動する際、

磁気機雷に被雷するのを防ぐため、

磁性物品を陸揚げする。

 

 

 

 

 

しかし大抵の艦艇は鋼鉄製なため、

気休め程度にしかならない気がする。

 

 

 

 

 

掃海部隊の艦艇は木製だったりFRP、

強化プラスチック製なので、この磁気機雷に

反応し難い長所がある。

 

 

 

 

木なので水分を含むとスピードが出せなかったり、腐りやすいと欠点も多いらしい。

 

 

 

 

なのでランニングコストの低いFRPに

移行しつつあるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういや小さい艦艇は艦娘っているんかねぇ?

 

 

 

 

そんなことを考えつつ通信士の話を聞く。

 

 

 

明日からどうなるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 むらさめ艦内 0800i

 

 

 

 

『10秒前っ!パッパッパッパラパーン!』

 

 

 

 

 

0800の課業整列も無し。

 

 

 

 

 

艦旗掲揚の際にその場に気を付け、

外にいる際は艦尾に敬礼し作業に戻る。

 

 

 

 

肉体労働で半日が過ぎたが、午後も飯食ったら

作業らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうやだ、帰りたい…orz

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼飯は豆腐を混ぜ込んだハンバーグだった。

ソースは甘めのデミグラスと、王道だ。

 

 

 

 

人によっては甘過ぎるみたいだが、俺は

やや懐かしさを感じる味だ。

 

 

 

 

 

 

後輩の調理員に味付けを聞いたら、

調理員長は市販のソースとケチャップ、

砂糖と本だししか入れてないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基地に帰ったらハンバーグ作ってみっか…

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…さて、午後まで何をしますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

昼飯を食べた俺はヒマを持て余していた。

 

 

 

気が休まるところは艦内に無いし、

どこかに腰を落ち着かせる気にもならない。

 

 

 

 

 

「気晴らしに『村雨』を探しに

艦内を巡ってみますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日の夢の事もあるし、村雨ちゃんを探して

みよう。あわよくば見つかるかもしれん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「♪村雨探して歩き出す~、いる場所も~

解らぬまま~」

 

 

 

 

 

替え歌を口ずさみながら、とりあえず

艦内の行けるところは歩いてみた。

 

 

 

 

 

まだ見てないのは艦長室と

WAVE居住区、それと艦橋だな。

 

 

 

 

 

 

 

WAVE居住区はさすがに行けないな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…あそこは魔の巣窟、一般隊員が

おいそれと行ける場所ではない。

 

 

 

 

 

WAVEの許可があれば入ることができるが、

進んで行きたい場所でもない。

 

 

 

 

 

前に俺も頼まれて荷物整理で行ったが、

他のWAVEの視線が痛かった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

こっちは頼まれて行ってるのに、ひでーぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通信機器の点検とか理由を付けて、

艦橋を回ってみようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 むらさめ艦橋 1235i

 

 

 

 

 

 

「ん、お前は確か通信のやつか。何か用か?」

 

 

 

「はい、出港前の通信機器の

点検で見回っています」

 

 

 

 

 

 

 

 

艦橋にいた航海科の人間に誰何(すいか)

されるが、それっぽい理由で切り抜ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(俺が何処を歩こうと、俺の勝手じゃねえか…)

 

 

 

 

そんな顔と声に出したら確実にコロされるため、

華麗に対応。

 

 

 

 

 

 

 

 

この辺の対応が、狭い艦内生活の

処世術ってやつだ。

 

 

 

 

 

 

 

テキトーに通信機器を見回りつつ、

村雨がいないかチェックする。

 

 

 

 

 

 

当然の如く、村雨らしき姿は見当たらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ハァー…、所詮夢は夢、か…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと近くに泊まっている『いなづま』の

艦橋に目をやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

…あれ?艦橋にセーラー服を来た小中学生?

の様な女子の2人組が見えた様な…?

 

 

 

 

 

 

「おい点検はまだ終わらんのか?」

 

 

 

 

「いえ完了しました。失礼します」

 

 

 

 

 

 

 

ちょっとボーッとしていたら航海員に

お叱りを受けてしまった…。

 

 

 

 

 

 

『いなづま』に女子2人組が見えたのは、

きっと俺の思い込みだろう。

 

 

 

 

村雨探しは止めにして、もうすぐ始まる昼の

作業の準備をしますかねぇ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いかづち』の艦橋で話し声が響く。

 

 

 

 

 

 

 

「『雷』ちゃん準備は出来てる〜?」

 

 

 

 

「バッチリよ!この雷にかなうと

思ってるのかしら!『村雨』は?」

 

 

 

 

「スタンバイオーケーよ、やっちゃうからね♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな少女たちに誰も気づかない。

 

まるでそこにいるのに、いないかの様に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 某所 時刻不明

 

 

 

 

 

「…ロシア行きの貨物船の襲撃に

当たっていた者はどうしたか?」

 

 

 

 

「人間どもの”些細な”抵抗に遭いましたが、

さしたる被害も無く、3日後に帰還予定です」

 

 

 

 

「そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部下らしきモノに満足そうに頷く

指揮官らしきモノ。

 

 

 

人間の言葉は話しているが、その容姿は

人型という点以外は異様としか言い表せない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次の襲撃地は、『日本』の東京湾沖だ」

 

 

 

 

 

気付けば指揮官らしきモノの周りに、

部下らしきモノたちが集結していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次に強襲偵察艦として赴く者には

誰を当てる予定だったか?」

 

 

 

 

 

「ハッ、駆逐イ級の『ウォード』です。

既に作戦の委細も了解し、出撃待機しております」

 

 

 

 

「よし…」

 

 

 

 

指揮官の問いに完璧な回答をする部下らしきモノ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我らをぞんざいに扱ってきた人間どもに

復讐する時は近い…」

 

 

 

 

 

「指揮官、攻勢は、攻勢はまだなのですか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血気盛んな部下らしきモノを指揮官が宥める。

 

 

 

 

 

 

「まだだ、だが近い。貴様の名は?」

 

 

 

 

「…駆逐棲姫、『フレッチャー』!!」

 

 

 

 

「よし駆逐棲姫フレッチャーよ、

貴様を駆逐隊の隊長に任命する。

駆逐艦を率いて憎き人間どもに復讐をしてやるのだ」

 

 

 

 

「ありがたき幸せ、お任せを…!」

 

 

 

 

 

(フンッ、貴様らの様な俗物の言いなりに

なっているのも今だけだ。

今に見ているがいい…!)

 

 

 

 

『フレッチャー』は、東京湾沖襲撃に向けた

会合の中で1人静かに異なる熱意を燃やしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

横須賀基地某岸壁 1715i 

 

 

 

 

 

 

キイィィーーーン…

 

 

 

 

 

むらさめも試運転を開始した。

 

 

 

僚艦の『いかづち』は一足早く試運転を終わらせ、むらさめの番が来た。

 

 

 

 

 

「…試運転終わり!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試運転が終わり、当直士官の言葉が

艦橋に響く。

 

 

 

 

 

各部から報告が上がり、異常なし。

 

出港準備は整った。

 

 

 

 

 

 

 

そんな慌ただしい中、俺はというと

手空き乗員として舷側に着き、

岸壁に来ている見送りに応える役割を

与えられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帽振れー!」

 

 

 

 

岸壁に来ているお偉いさんたちから

帽振れを受ける。

 

 

 

 

『左、帽振れ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

マイクで応答するよう入り、

こちらも帽振れで応える。

 

 

 

 

 

 

 

『帽、元へ!』

 

 

 

 

 

 

岸壁を見れば地方総監やら

1護隊群司令が来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…これってかなり危険な任務ってことなのかな?

 

 

 

 

 

 

 

出港する時になって、ヤバそうな気がしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『出港用~意!!』

 

 

マイクの後にラッパが港内に響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方ということもあってか、

ラッパが遠くまで反響している気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「任せろよ、日本の海は俺たちが守るからな」

 

 

 

 

 

 

 

他の乗員に聞こえないよう呟く。

 

 

 

 

俺のような下っ端じゃ出来ることなど

知れているが、やれることはやるつもりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あ、艦これで遠征出すの忘れた…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…もうやだ、早く帰りたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 東京湾沖 2310i

 

 

 

 

 

「ほげぇ~、早くも鬱になりそう…」

 

 

 

 

 

フネの外で海上を見ながら、

俺は愚痴を海に響かせる。

 

 

 

 

 

 

海上警備とはいうものの、

実態は漂泊待機、たまに動いては

航行船舶にやってますアピールを

しているようなモノ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…案外何も無く終わりそうだな。

 

 

 

 

早く艦これしたいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事を考えていると、

後ろから足音がしてきた。

 

 

 

 

どうせ同じように

ヒマな海曹あたりが出てきたんだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆も考えることは一緒かー。

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思い、特に気を付けをしたり

その場を離れようともせず、

そのまま海を眺め続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふむ、武者震いなのか、

ただ非番で時間を持て余しているのか、

そのどちらかだと見た」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…hai?

アナタ何様、なんですかえ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後ろから変な口調で話しかけられ、

振り返りながら当てはまる人を頭の中で探す。

 

 

 

 

(この口調、たしかどっかで…)

 

 

 

 

 

「やあ、君は…通信の菊池君だったね」

 

 

 

へっ?

 

 

このヒト、1護隊の司令じゃね…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前に一度だけ話しかけられた事がある。

 

 

大した事を話したわけでは無いが、

届いた電報をフネの幹部に回覧していたら

通信書類の訂正に関する電報の見方について

質問され、10分ほど司令や艦長、

他の幹部にレクチャーした事がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺を覚えててくれたのか?!

 

 

 

 

 

 

 

 

菊池感激ぃ〜!

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です司令!

私は怖い訳ではありませんが、

妙な胸騒ぎがしていまして…」

 

 

 

 

口が裂けても艦これ出来ないから

鬱になりかけてました、なんて言えねぇ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっと戦場の勘みたいなのありますよ

アピールして、点数稼ぎに持っていく戦法に出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、言ってみたまえ」

 

 

 

 

 

 

「はい、まずは先日の湾内での事案。

この目的と手段が不審な点。ETの村上士長と

話したのですが、テロや特定の国家の仕業に

してはメリットの無さ及び手口の隠し方。

 

 

 

 

 

 

 

基地やフネに工作をするならまだしも

民間船、それもタンカーに爆弾を仕掛けたり

攻撃したこと。テロなら犯行声明を

出すでしょうし、国家ならメリット皆無。

目的が不明過ぎます」

 

 

 

 

 

 

 

「確かに総監部で聞いた調査報告でも

同様だったな。して、手段についてはどうだね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、これについても言えるのですが

捜査の撹乱を意図して”錆びた砲弾”を

使うにしても、テロならちゃんと爆発するか

わからない方法はとらず最低でも

手製の爆発物を作る。

 

 

 

 

国家にしても意味不明で、少なくとも

爆発物を使用せずに積載していた原油を

怪しく無い程度に引火ないし

流出させるのが妥当と考えます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君やその村上君にしても、まるで

自分たちが本当のテロリストや

スパイですと言わんばかりの考察だね。

ふふふ、…今ならまだ間に合うぞ?」

 

 

 

 

 

 

「ち、違いますっ!私たちは

ただの興味本位で話していただけです!」

 

 

 

 

 

 

司令の疑惑発言に思わずビビる俺。

 

 

 

 

 

 

もちろん目は笑っており、

本気ではないのは見てわかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…して、君たちならどう結論付けた?」

 

 

 

 

 

 

やはり。

聞いてくれると思ってましたよ。

こんな俺にポッと聞いてくるぐらいだから、

結論も聞いてくると思ったぜ。

 

 

 

 

 

しかしご丁寧に”結論付けた”、と

確定の聞き方をしてきたし

ヘタには答えられんぞ…。

 

 

 

 

 

 

「…まず眉唾物の考察を述べることを

お許しください。結論から言いますと、

”敵”は第二次大戦のアメリカ軍と同じく

日本を戦略的に枯渇させる目的が

あると考えます。

 

 

 

 

 

今回タンカーを狙った訳ですが、

これは当時の通商破壊、国内への

資源・物資の流通を遮断させる為」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令は、眉唾物の俺の話に眉一つ

動かさず俺の話を聞いている。

 

 

 

 

「そして”錆びた砲弾”。

不審な点は先ほど述べましたが、

仮に”敵”がタイムスリップしてきた

アメリカ軍やその残党である、と

すれば粗筋は通ると考えます…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい、笑われる~!

ウソは言わなかったが、絶対に左遷される~!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…あれ?

何も言ってこない。

 

 

 

 

 

 

 

「実は保安庁の参加した調査団に

私の防衛大の同期がいてな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令には防衛大在学時、仲が良かった同期が

いてその人は自衛隊に進まず

海上保安庁に行った人がいるらしい。

 

 

 

 

 

 

その人が今回の調査報告を、

こっそり司令に相談していたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その報告が俺たちが考えた

『米軍タイムスリップ説』

 

 

 

 

当然相手にされる訳もなく、

メディアにはテロか工作機関の

関与の疑いとの発表だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君らがおかしいのか、

信じない上層部が当然なのか…」

 

 

 

俺はかける言葉が浮かばなかった。

 

 

 

 

 

はいそうです、私たちとその同期の方が

おかしいんです。…言えん。

 

 

 

いいえちがいます、私たちと

その同期の方が正しく、政府が

おかしいんです。…言えんわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令!こちらでしたか、

すぐにCICへお越しください!」

 

 

 

 

 

 

副官サンキュー!空気読まずに

飛び込んで来てくれて!

 

 

 

 

 

 

 

 

反応に困っていたところに、

隊勤務の1尉の人が司令を呼びに来てくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまないが、私は失礼させてもらうよ…」

 

 

 

 

「私こそ付き合っていただき

ありがとうございました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1尉の人がややハテナの表情で

こちらを見るが、司令に続いて艦内に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…結構時間が過ぎたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

まだワッチの時間ではないため、

少しではあるが仮眠を取ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

艦内に戻る前に、ちらっと海上を見る。

 

 

 

 

 

 

 

真っ暗で漆黒の海が迫ってくる気がする。

さっきまで見ていた景色とは大違いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめよやめよっ!

ずっと見てたら引きずり込まれそうだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

さっさと中に入って夜食食べて休もう。

夜中にワッチあんだからな。

 

 

 

 

 

 

「今日の夜食はなんですかねーっと」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 むらさめCIC 0003i

 

 

 

 

日付も変わってすぐの事、隊司令は

隊勤務の幹部に呼ばれ、CICに来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「して、どうした?」

 

 

 

 

 

 

「こちらのレーダー画面をご覧ください」

 

 

 

 

 

むらさめ砲雷長が司令に説明する。

 

 

 

 

「この目標、アルファ目標なのですが

13分前から移動していません。

 

 

国際VHFにも応答なし、

東京マーチス(東京湾海上交通センター)

に問い合わせましたが不明とのこと。

 

 

如何なさいますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやら不審な船舶”らしい”目標が

見つかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『いかづち』も了解しているのか?」

 

 

 

 

 

 

「はい、既に通報済みです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隊勤務の幹部が答える。

 

 

 

 

 

 

 

「ヘリの準備もしてあるか?」

 

 

 

 

「ハッ、いかづちのロクマルK、

指示通りヘルファイヤミサイルを装備して

あとはエンジンを回すのみです」

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、すぐ発艦させろ。

両艦に『合戦準備』を下令、目標にあまり

近づきすぎるな。同時に両艦停止、

自動操艦にて待機。

むらさめの左後方40度500mに

いかづちを配置させろ」

 

 

 

 

CICが、むらさめと司令部の号令や

指示で慌ただしくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何も起きなければいいが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令の呟きは、喧騒にかき消された。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

むらさめ科員食堂 0008i

 

 

 

 

 

 

ちゅるちゅる…ちゅるちゅるる~。

 

 

 

 

 

 

「なんか年越し蕎麦を食べてるみたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂で夜食の温蕎麦を1人食べる俺。

 

 

 

 

 

 

食堂に人はそこそこいるのだが、

一緒に食べる人がいないので1人だ。

 

 

 

 

 

 

ちなみに村上の野郎はワッチ中、

俺がワッチに入ると同時に非番になる。

 

 

 

 

 

 

 

あーつまんね。

 

 

 

 

テレビでは昨日、いや日付変わったし一昨日か。

 

 

ロシアの貨物船事件の特番をやっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜中なのによくやるぜ。

 

 

 

聞いた事もない大学の准教授やら

軍事ジャーナリストが

あーだこーだ持論を並べていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズズズズー…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やや食い足りないが、これで戦闘準備完了だ。

 

 

 

 

 

 

 

戦闘準備って、我ながら大げさな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺たちは”戦争をしに行く”訳じゃ

ないんだからさぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ、俺たちはない戦争をしに来たんじゃない。

 

 

 

 

ただの海上警備、『海上警備行動』でも無ければ

射撃訓練でもない。

 

 

いくらヘリのロクマルに実弾のミサイル

乗っけてたり、12.7ミリ機関銃を

日中に準備したとはいえ、それを

ぶっ放すことがあるはずがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…はず、だよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令と別れてからなんか胸騒ぎがするな。

 

 

 

 

 

 

司令に話しかけられてとっさに胸騒ぎとか

戦場の勘とかホラ吹いちまったが、

やけにソワソワしやがる…。

 

 

 

 

 

ビビってんのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ブツッ…』

 

 

 

 

スピーカーからマイクのスイッチが入る音がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(お、なんかマイクが入るのか?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『合戦準備、艦内非常閉鎖っ…!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……は?

今なんて入った?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かっせんじゅんび?

 

 

 

 

 

 

 

 

マジで?

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタッ、ダッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は慌てて食器を投げるように置き場に置き、

電信室へとひた走る。

 

 

 

 

 

 

 

途中受け持ちの閉鎖ハッチやら通風口やらを

閉じながら、大きく息を吸い込む。

 

 

 

 

 

 

 

「こいつぁあ面白いことになりそうだっ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

全然面白く感じてなど無く、

むしろやや震えていたのだが、

自分を奮い立たせようと頭にない事を口に出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やるからにはちゃんとやろう!

 

 

 

 

 

どうせすぐ脱ぐ作業帽をやや深めに被り直し、

自分の向かう場所に向かった。

 

 

 

 

 




前話のあとがきで、今回戦闘が
ある様な描写をしたな?




あれはミスだ!(すみませーん!)





戦闘回は次回に持って行きます。


予告作ってから次回を書こうとすると
失敗するのがよくわかりました。

反省します。








予告はあまり詳しく書かない様にします。



『むらさめ』と『いかづち』の
第1護衛隊の海上警備部隊。


謎の船舶”らしい”ものからの発砲。




海上自衛隊創立史上初の戦闘。

…平和は終わった。





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0-6 運命の遭遇 【東京湾】

 

 

 東京湾沖 0015i

 

 

 

 

 

 

 

「間もなくいかづちからヘリ、発艦します」

 

 

 

 

 

隊勤務の幹部が司令に報告する。

 

 

 

 

 

司令はコクンとうなづくが、

声を出そうとしたが出せなかった。

 

 

司令は目標への対処を考えていたのもそうだが、

その後の、もしも戦闘になったことを

考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(もしアルファが”敵”で、

戦闘になれば自衛隊は、日本はどうなるのか…)

 

 

 

 

 

 

CICにある司令席に腰掛けながら、

神妙な面持ちで事態の行方を考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

(”俺”が自衛隊に入隊した頃は

ソ連やら中国と戦争になるから、

覚悟はしておけと上官に言われたりしたが、

今では俺がその上官か…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当時は冷戦真っ只中で、幹部になりたてだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

上からは怒られ下からは突き上げられて、

他の部隊に行った同期と飲んで

愚痴を言い合っていたな。

 

 

 

 

 

 

ある時乗った護衛艦のクソ艦長に、

 

「相手が撃ってきても決して撃ち返すな」

と言われたことがある。

 

 

 

 

 

 

なんでも、こっちが反撃しなければ

戦争にはならないらしい。

 

 

 

 

 

 

日本人の悪習の事勿れ主義を

具現化した様な人間だった。

 

 

 

 

 

 

(俺はそうはならんぞ!)

 

 

 

 

 

そう心に誓い、今まで

幹部自衛官として生きてきた。

 

 

 

(そんな俺も今や護衛隊司令、

国の命運を握ってしまえる立場に

なってしまった…)

 

 

 

 

 

 

仮に戦争を始めても、

それを終わらせるのは極めて困難だ。

 

 

 

 

そんな事は分かってはいるし、

部下にも事あるごとに言い聞かせてきた。

 

 

 

 

 

もしアルファが攻撃してきても

俺は迷わず反撃を命ずるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

だがその後はどうすればいいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

政治は政治家に任せるにしても、

相手が交渉に応じなかったら?

 

 

 

 

 

もしテロリストなら国内の

無差別テロリストを引き起こすのでは?

 

 

 

 

 

 

 

 

…いっそ攻撃を甘受し、

それを国内世論の起爆剤にしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブンブン!

 

 

 

 

 

いかんいかん、俺もあの『クソ艦長』と

一緒になってしまうではないか。

 

 

 

 

 

邪念を振り払うように、頭を強く振る。

 

 

 

 

 

 

近くの隊員が何事かといった顔で

見てきたが、すぐに職務に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…そういえば先程の

通信の菊池士長が言っていた”敵”は

昔のアメリカ軍という話。

 

 

保安庁報告でも聞いたが、

もし相手が現代以外の人間だったら

交渉できるのだろうか?)

 

 

 

 

 

 

 

『戦争は作戦室や国会で

起きてるんじゃない、現場で起こってるんだ』

 

 

 

なんて他の部隊の幕僚になった同期は冗談で

言っていたが、真面目な話その通りだと感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

日本が無防備宣言や平和宣言をしたとて、

攻めて来る国家や組織はあるだろうし、

現場で仮に反撃せずこちらが全滅しても

戦争が始まる時は始まるのだ。

 

 

 

 

 

 

こちらの事情が

相手に通用するはずがない。

政治家のお偉いさんにはそういった

単純な事は分からないのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『治にいて乱を忘れず』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クソ艦長のフネのときの

隊司令がおっしゃっていた。

 

 

 

 

日本では戦争や緊急事態の事を

考えること自体がおかしいと思われる風潮がある。

 

 

 

 

 

この言葉を聞いてそれを

改めようとする人間がどれだけいるのか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令が状況の推移を見守りつつ考えていると、

電測員がやや困った様な、少し腑抜けた声で

電測員長に質問を発した。

 

 

 

 

 

 

「電測長〜、航空機の様なものが

アルファ目標から本艦を結んだコース上に

映りました」

 

 

 

 

 

 

「はあ?お前こんな時に民間機の

エコーはどうでもいいだろ。

彼我の位置関係だけ見ておけ」

 

 

 

 

 

 

「いや、それが今表示されたスコアだと

マッハ4出ていまして、空自の

スクランブルは来てませんよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令は電測員長が答える前に、

電測員に強く問いかけようとする。

 

 

 

 

 

「待て!おい電測、再度測的結果を…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがその問いは艦橋からのマイクで

後半は消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「CIC、(こちら)艦橋!

アルファ目標が発光信号を…!」

 

 

 

 

 

 

…ズズーン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠くで花火が上がる様な嫌な振動が

足元から、その音が少し遅れて、

後ろ、艦尾方向から伝わって来る。

 

 

 

 

 

 

 

3秒ほどCICが静まり、皆シーンとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

司令も心臓が止まったかの様な感覚を覚え、

脂汗が額を伝い落ちるのがわかった。

 

 

 

 

「CIC、艦橋!右艦尾に黒い水柱、

30(さんまる、3000m)」

 

 

 

 

 

 

 

 

艦橋から見張りの報告が淡々と上がってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ゴクンッ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かの唾を飲む音がCICに響いた気がした。

 

 

 

 

 

 

ピリピリ!!

 

 

 

 

 

 

 

「CED1(シーイーディーワン)ッ!」

 

 

 

 

 

 

艦橋の哨戒長である船務長から、

秘話がかかった隊無線が

CICの隊司令へ飛ばされる。

 

 

 

 

 

「This is Murasame!!相手は

海賊やロボットなんかじゃありません!!」

 

 

 

 

 

 

 

「アルファが砲撃してきました!

ヤツは”敵”ですっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ほっ、ほうげき?」

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かの呟きが聞こえた気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「両艦対水上戦闘用意っ!!」

 

 

 

 

司令は席から身を乗り出し、

本来の命令要領に即さない号令を咄嗟にかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「……たっ、た対水上戦闘よーい!!」」

 

 

 

 

CICにいた『むらさめ』艦長と

隊の通信を担当する隊付(たいづき)が

号令をやや躊躇しながら飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ァーン!カーン!カーン!カーン!

 

 

 

 

 

 

 

 

むらさめ艦内にアラームがやや遅れて響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…自衛隊創設史上初の戦闘は、

航空機の様な勢いで飛来した”何か”で始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

『艦橋、2番(ふたばん)、

アルファ目標から発光信号視認』

 

 

 

 

 

左舷の見張り員が、ウイングと呼ばれる

艦橋の側面にある見張り位置から、

アルファ目標がいるであろう方向からの

”発光信号”らしきものを視認し、報告する。

 

 

 

 

 

 

 

その時俺は艦橋後部の後方見張り、

3番の電話員をしていた。

 

 

本来3番(後方)見張りは1人配置で、

電話員も見張り員が兼ねるのだが、

今回の行動では交代要員も兼ねて2名配置

とされ、ヒマな俺が電話員として立たされた。

 

 

 

 

電話を聞き、受話だけしている

見張り員を尻目に左舷の発光信号を見ようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…夜の闇のみ、発光信号なんて見えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(えっ、信号続かないの?)

 

 

 

 

 

 

心の中でツッコミしつつ後方に視線を戻すと、

頭上でシューン…という音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

ちらっと上空を見ようとしたら、

艦尾方向で水柱が上がり、それにやや遅れて

ズズーンというくぐもった音が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

俺は双眼鏡を持っていないが

水柱の様なものが遠く、3000mぐらいの

所で上がったのが見えるだけだ。

 

 

 

 

 

 

「艦橋、3番。黒い水柱1(ひと)、

右170度、30(さんまる)」

 

 

 

 

 

 

見張り員が俺に伝えた事を、

艦橋にそのまま転送する。

 

 

 

 

 

 

 

 

(水柱ぁ…?黒い水柱ってなんだよ?)

 

 

 

 

 

 

なんかさっき上空でシューン…って

音が鳴ってたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒い、水柱。

 

 

 

 

 

 

黒い…水柱…。

 

 

 

 

 

 

 

 

シューン…という音、まさか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこまで考えたところで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……たっ、た対水上戦闘よーい!』

 

 

 

へっ、なんで?

 

 

 

 

…ァーン!カーン!カーン!カーン!

 

 

 

 

アラームが艦内と艦外のスピーカーから

飛び出し、付近の海に響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

『アルファが発砲した!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

艦橋の方から叫び声が聞こえた。

 

 

 

先程の水柱はアルファ目標が発砲した砲弾が

着弾して発生したようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

どーすんだ?!

反撃して沈めんのか!!

 

 

 

俺にこの後どう対処するのか見当は

つかないが、反撃体制は取るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

勝手に持ち場を離れられない為、

見張り員とあたふたしながらも

その場に留まり続ける。

 

 

 

 

 

 

肉眼で見張らなくとも、

基地で載せた赤外線監視装置を

使えばいいじゃないかと思うが、

魚雷等の監視もする為に人間の見張りは必要だ。

 

 

 

 

フネの動きを見ようと電話の

ケーブルを引っ張り、前部側を覗き込む。

 

 

 

 

 

76mm砲はアルファの方を向いてはいるが、

発砲しそうにない。

 

 

フネの針路も反転し始め、アルファは

真艦尾(まかんび)に変わり、むささめは

距離を開けようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

(司令はどうすんのかな…)

 

 

 

 

隊司令がどう対処するのか気になって

いると、艦橋から1分隊の

士長の人が早足で歩いてきた。

 

 

 

 

 

 

「おい菊池、電話員変わるぞ。

でお前はCICに行くように指示が

出てる、電信室も了解だ」

 

 

 

 

「へっ、り、了解です!」

 

 

 

交代するのはいいとして、

いきなりそんな事を言われてやや驚く俺。

 

 

 

「詳しくは知らんが、

司令部に行くようにとのことだ」

 

 

 

何なのか見当もつかないまま、

艦橋に交代すると伝え、その場を離れる。

 

 

 

 

 

 

通常CICまでハッチが閉鎖されているのだが、

艦長命令で閉鎖受け持ちの人間が

各ハッチ前に立ち、俺の通過を助けてくれた。

 

 

 

 

 

 

ハッチを潜りつつ、CICへと急ぐ俺。

 

 

 

 

 

 

 

 

何がどうなっているんだ?!

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 むらさめCIC 0026i

 

 

 

「2分隊菊池士長です!」

 

 

 

 

 

 

司令部区画に到着した俺は、隊の人間に申告する。

 

 

 

「司令、菊池士長が来ました!」

 

 

 

「うむ。菊池士長、こちらに」

 

 

 

 

えっ、司令が俺を呼んだのか?

意味不明過ぎるんですけど!

 

 

 

 

 

 

 

そう思いつつ司令の前に行く。

 

 

 

「君はこの後どうするかね?」

 

 

 

はいぃ?

いきなり何を聞いてるのこの人?!

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令、いきなり何を…」

 

 

 

「どうするかと聞いている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の質問をスルーして、やや強めに言う司令。

 

 

 

「まずは離脱し、安全距離を取るべきかと」

 

 

 

「そうだな、既にそう命令してある」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の答えに現状を教える司令。

 

 

 

 

 

 

てことはその後の事を言えってことか?

 

 

 

「まず上空のロクマルに安全距離を保ちつつ、

偵察をさせ相手の武装や艦種を把握し、

しかる後に反撃なりをすれば

よろしいかと考えます」

 

 

 

 

 

 

 

周りの隊やフネの人間の視線を感じながら、

考えを述べる。

 

 

 

 

 

 

 

「うむ、ではそのようにしよう」

 

 

 

 

 

 

司令が命令を出し、喧騒に包まれるCIC。

 

 

 

司令が命令を出し終わったところで、

俺は司令に話しかけた。

 

 

 

 

 

「司令、なぜ私をお呼びに

なったのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

いくら俺が鋭い考察をしたといっても

所詮は下っ端の海士。

 

 

 

 

 

 

作戦に口出しできるアタマも資格もない。

 

 

 

 

 

 

 

「わからんかね、”カン”だよ勘」

 

 

 

「はぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

「君は相手の動向を正確に見抜き、

この襲撃をも予測してみせた。

ならばどう対処すればいいか、

”我々に”力を貸してもらいたい」

 

 

 

 

 

司令が俺の力を必要としてくれている。

 

 

 

周りを見れば、隊勤務の人たちと乗員が

胡散くさがっているのか不安そうに

しているのかわからないが、

じっとこちらを見ている。

 

 

 

 

 

 

「私にできることであれば、

精一杯させてもらいます!」

 

 

 

 

他に言うセリフもなく、

当然微力を尽くすつもりだ。

 

 

 

 

 

 

「現在我が隊、といっても2隻だが、

アルファから安全距離を取ろうと

しているが、どれぐらい離れたらいいか。

”敵”の武装は何なのか、最大速力、

艦影といった基礎情報が欠如している」

 

 

 

 

「相手の動向を読めても、さすがに

相手方の兵力や武装までは

推測できません。これは予定通りヘリにて

対空兵器を警戒しつつ赤外線カメラ

撮影可能限界距離から偵察を行い、

敵兵力及び戦力の推察。

とりあえずはここまでかと」

 

 

 

 

 

 

司令は俺のリコメンド(推奨)に

うなずき、俺の意見を具体的な命令にして、

上空に待機させていたヘリ他各所に下令する。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 アルファ目標から20km 0100i

 

 

 

 

「司令、アルファから20km地点に

到着しました」

 

 

 

「よし、両艦2配備に落とせ。

しばし隊員に休息を取らせろ、

その他手空きには戦闘配食を作らせろ。

献立はおにぎりとたくあんで頼むぞ」

 

 

 

 

「了解しました」

 

 

 

 

 

 

 

司令が隊付に指示を出し、

むらさめの艦内も空気が

やや軽くなった気がする。

 

 

 

 

 

だが、今の俺は司令部の配員となり、

休むに休めない。

 

 

 

 

アルファから20km距離を離しましょうと

リコメンドしたのはいいが、そら対策だ

そらいいアイデアだとてんてこ舞い。

 

 

 

 

モテるのは嬉しいが野郎、

しかも戦争の話でチヤホヤされても

ありがたくねーっての。

 

 

 

 

 

…無論知恵と知識はフル活用できたし、

護衛隊の戦術や戦法も教えてもらったし

ちょっとばかし嬉しいっちゃ嬉しい。

 

 

 

 

 

 

「…とはいえー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちらとCICを見れば、

苦い顔をした幹部に海曹、

緊張感がダダ漏れの海士。

 

 

 

 

 

 

 

こんなんで戦闘できんのか?

 

 

 

 

 

 

 

こりゃやべーぞ。

早く解決策を捻り出さないと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…無論私とて、考えていない訳では無い。

だからこうしてヘリからの情報を

待っているんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

CICを見ていた俺の考えを司令も察したらしい。

 

 

 

 

 

 

 

「情報を軽視した軍隊がどうなるかは、

私も承知しています。どうも焦って

しまっているようです」

 

 

 

 

 

「焦りは禁物と言うが無理は無いさ。

逆に慢心や奢りを覚えるよりは

マシというものだ」

 

 

 

 

 

 

確かに司令の言う通りだ、

焦らずに情報を集めてからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が司令と話していると、

背後から黄色い声がした。

 

 

 

 

 

 

 

「そうそう慢心はダメッていうし!

それと私もやっちゃうんだから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えっ!いきなり誰?!

口調軽っ?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰だっ!キミは一体どうやってここに入った!」

 

 

 

 

 

 

 

ん、女の子の声?

 

 

 

 

 

 

 

なんで護衛艦の中に女の子が?

…にしてもどっかで聞いたような?

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は声がした後ろを振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいはーい!お疲れ様、『提督』!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……うそやん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前にいたのは『村雨』であった。

 

 

 

 

 

 

『夢』で提督と呼んでくれと頼んだのも

覚えているようで、あれはどうやら

唯の夢ではなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「て、提督ぅ〜??」」」

 

 

 

 

 

CICにいた全員が口を揃えて俺に頭を傾げる。

 

 

 

 

 

司令が戸惑いながら俺に聞く。

 

 

 

 

「き、菊池士長、一体どういうことかね?」

 

 

 

 

「え〜、話すと長いというか、

ちゃんちゃら可笑しな話なのですが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、村雨に現実で会えたことを

喜びつつも、司令たちに経緯を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…まず帝国海軍時代から艦船には魂があり、

女の子の姿をしていること。

 

 

 

 

 

 

 

「…信じられん」

 

 

 

 

 

 

司令、ごもっともっす…。

 

 

 

 

 

 

…そしてその姿は現代のゲーム、

『艦これ』と同じ姿であり、

よくわからないが現実に現れたこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いう具合な訳です…」

 

 

 

 

 

 

約10分間、俺はよくわからない

羞恥心と義務感と戦いながら、

ひたすら真面目に話した。

 

 

 

 

 

 

 

「そう言われても全く信じられんなぁ」

 

 

 

 

 

艦長が言うと、乗員たちもうんうんとうなづく。

 

 

 

 

 

 

 

「君、村雨ちゃんといったな。

君がフネの魂と言うのなら、

証拠は無理だろうが、何かこのフネの

秘密などを言ってもらいたいのだが」

 

 

 

 

 

 

司令が村雨に質問する。

 

 

 

 

 

 

おぅ、ソコを突いてきたか。

『夢』と同じなら、村雨は答えられるハズ

だが、そこはどうなるんだろう…?

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうですねぇ、まず艦長さん。

あなたは部屋のロッカーに大切そうに

しまっているものがありますよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビクゥッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

か、艦長…?

なんかめっちゃ動揺してねぇか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『欲しいんだろ、奥さん?

〜美熟の誘惑〜特別号』とか…」

 

 

 

 

 

 

「わー!わー!やめてくれぇ!

いや、やめてください信じますごめんなさい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

艦長への尊敬心、無くしそうです…。

他のみんなの艦長への視線が冷たくなった気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

艦長は熟女好きだったとは…

お見合いで6つ下の奥さんもらったけど、

実はそういう趣味があったのね。

 

 

 

 

 

 

 

「次に司令さん!」

 

 

 

「うむ…」

 

 

 

 

 

 

さっすが司令、自分に自信が

あるのだろう、全く動じない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネコ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビビビビクゥッ!!!

 

 

ガタタッ…

 

 

 

 

 

 

 

おい、司令が艦長以上に動揺しているぞ…。

 

 

ネコ?なんのことなんだ?

 

 

 

 

 

 

 

「ななななな、何のことにゃのかねっ?!」

 

 

 

 

 

 

 

((なにこの司令かわいい…))

 

 

 

 

 

 

 

「ふっふーん…、強情ですねぇ。

じゃあ言っちゃいます!

制服の内側のポケットの中!!」

 

 

 

 

あ、司令が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

「提督、取ってみて」

 

 

 

「お、おい、流石にそれは…」

 

 

 

「司令、他は”言わないであげます”

からいいですよね?」

 

 

 

「いや、あの、そのな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「い・い・で・す・よ・ね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ……」

 

 

 

 

 

 

あ、折れた。

何か司令の中の大切な何かが折れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令、よろしいですか…?」

 

 

 

「ああ……」

 

 

 

「…もしかしてネコ、大好きなんですか?」

 

 

 

「ああ……」

 

 

 

 

 

 

ああ、そうなのか。

実はネコカフェとか行ってんじゃねーか、司令?

 

 

 

 

 

「…もしかして、ネコカフェで

ネコちゃんとランランしたりしてます?」

 

 

 

 

「ああ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

…スンマセン司令、菊池聞いちゃいました。

 

 

 

 

 

 

人の趣味にどうこう言うつもりは無いが、

なんか人間不信に陥りそうです…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、失礼して…」

 

 

 

 

 

 

ゴソゴソ…スッ。

 

 

 

 

 

 

司令の内ポケットにはネコに囲まれた

司令らしき破顔をした男性の写真。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…あっ、下がったよ、

司令へのみんなの尊敬心、かなり。

 

 

 

 

 

 

冷たいものというより、哀れなものを見る

目をしている気がするな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…と、いう訳で信じてもらえましたか?」

 

 

 

 

 

「ああ……」

 

 

 

 

 

 

唯一返事のような呻き声をした司令以外の人は、

まだ完全に信じてはいないようだが、

目の前の白く燃え尽きたヒトたちを見れば

納得せざるを得ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

…にしても随分空気が軽くなったな。

乗員や隊勤務の人たちの顔もかなりマシに

なってきている。

 

 

 

 

 

 

村雨はわざとさっきみたいなトークに

持って行って、場を和ませようと

してくれたんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

村雨を見ればちょうど目が合い、

俺に笑みを返してくれる。

 

 

 

 

 

 

ニコッ!

 

 

 

 

 

 

よし、この戦いが終わったらケッコンしよう。

 

 

基地に帰ったら、ミーティングルームで結婚式を

あげるんだ!

 

 

 

 

 

…いやいや、フラグ立てんなや!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな俺を見ていた村雨は

村雨は顔を引き締め、

真面目な感じに切り替わった。

 

 

 

 

 

 

 

「みなさん、ある程度信じてもらえたところで、

私から作戦の提案があります…」

 

 

 

 

 

 

CICの面々の面持ちがやや強張る。

 

 

 

 

 

 

「…ふむ、言ってみたまえ」

 

 

 

 

 

 

((あ、司令立ち直り早いな))

 

 

 

 

 

 

 

なんかみんなの心の声が

聞こえる気がするんだが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

矢吹ジョーも驚く復活を遂げた司令が、

村雨の真面目なトークに食いつく。

 

 

 

 

 

(さて、どうするのやら…)

 

 

 

 

 

 

 

 

「かなりリスクはあるんですけど…」

 

 

 

 

 

…だが村雨の通常の作戦の常識を覆す提案を、

俺たちは驚きをもって聞くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっと現実に艦娘が現れました。


初期艦は『村雨』ちゃんです。
特に村雨に思い入れがある訳ではありませんが、
最近『艦これ』で村雨を重用してまして…



ストーリーはノロノロとクリープ現象で
進んでいきます。



以前書いていた小説でプロットや展開を
公開しすぎた為、この小説では公開
しない方針です。


章が終わればそのまとめとして、
書くかもしれません。



次回は本格的戦闘回。


ヘリの偵察結果を待つ主人公たち。
敵の正体は一体何なのか。


そして、村雨の提案とは…


第7話 暁の水平線に浮かぶ影



「次回の村雨に、期待してね!」







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0-7 暁の水平線に浮かぶ影 【東京湾】

本格的戦闘回なのかは人次第ですが、
私としてはこれが精一杯でした…。


その辺のクレームも受け付けております。
この小説は皆様のご意見で
進行するかもしれません。






 

 

 

 

むらさめCIC 0404i

 

 

 

 

 

「リスクが高いが、それしか無いな」

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦会議(オペ)の最中、

司令が村雨の提案を聞き終わってから、

そう呟いた。

 

 

 

「しかし司令、無謀すぎます。

もっと遠距離からでも…」

 

 

 

 

 

「その言葉、このAISを見てから言えるのか?」

 

 

 

 

 

 

反対する砲雷長に、司令があるモニターを向ける。

画面にはAIS、自動船舶識別装置が映っており、

先程海上保安庁に通報した”敵”のデータが

ゆっくりと東京湾内に進みつつあった。

 

 

 

 

「見ての通り時間がないのだ。

ヤツをここで見逃せば、

東京湾は火の海と化すだろう」

 

 

 

 

 

 

 

…ガタン。

 

 

 

砲雷長は悔しそうにしたが、言葉を返さずに

椅子に深く腰掛ける。

 

 

 

 

 

他にも船務長といったフネの幹部が揃い、

隊勤務の幹部も空いている椅子に座っている。

 

 

 

 

 

 

 

俺と村雨は司令の横にちゃっかり座り、

やや居心地悪そうに座っていた。

 

 

 

 

 

 

ちなみにETの村上はというと、

俺が司令に頼んでET室から呼んでもらった。

 

 

 

 

 

 

テーブルの隅でソワソワしている。

 

 

 

 

先程の様に経緯を説明したのだが、

こいつはまったく失礼な事に、

俺が夢と現実がわからなくなったとか、

これはドッキリなのではとか思っていたらしく、

けしからんことに村雨のほっぺたをつねったり

引っ張ったりしやがった、羨ましい…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令が村上に事実だと告げると、

渋々引き下がったが未だに半信半疑。

いや、一信九疑といった顔をしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

(…にしても村雨も結構危ない作戦を考えるなぁ)

 

 

 

 

 

 

 

俺たちは村雨の提案を聞いていた。

 

 

どんな内容かと思えば、

とんでも無いことを言い出して驚いた。

 

 

 

 

 

だが司令が言ったように、時間が無いこと。

それが確実に敵を倒せるであろう方法。

 

 

流石第四水雷戦隊の駆逐艦と心で褒めて

しまうような、だが蛮勇とも取れる作戦。

 

 

どうか、うまくいってほしいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが敵がどう出てくるかがわからんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

ーーーー話は作戦会議前に遡る…

 

 

 

 

 

 

 作戦会議(オペ)開始前 0340i

 

 

 

 

そろそろ偵察も終わる頃だが…

 

 

 

 

 

 

「いかづちのHS(『エイチエス』、

SHヘリの事)、まもなく本艦に着艦する!」

 

 

 

 

 

ヘリとの交信を担当する電測員が

声を張って教えてくれる。

 

 

 

 

 

いかづちのヘリが偵察を終え、戻ってくるようだ。

 

 

 

むらさめに着艦するのは偵察結果を司令部に

直接報告する為なのだが、この後の作戦で

いかづちがあんな目にあうとは両艦の乗員は

この時点では考えていなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…でして、この敵艦『駆逐イ級』の武装は

5インチ砲一門と思われます。

対空火器は無いと考えておりましたが、

ヘリが迎撃を受けた際の映像を見ますと

トップからの対空砲火。映像を見る限り一門、

曳光弾の飛翔速度と火線の太さから

恐らく12.7ミリ機銃程度と思われます」

 

 

 

 

 

解説者、村上士長。さすがだぜ。

 

 

 

 

 

モニターに映る深海棲艦の『駆逐イ級』。

 

 

 

いかづち所属のヘリが撮影できたのはいいが、

隊勤務や砲雷長も誰もそれを説明できない、

分析できないで困ったから

俺は『艦これ』で元帥な村上に丸投げした。

 

 

 

 

 

 

敵が深海棲艦という事がわかったのはいいが、

俺はあまり敵のデータは知らないし、

村雨にも聞いたが戦った事が無いから

分からないとの事。

 

 

 

『艦これ』では深海棲艦が相手だったが、

現実では普通の軍艦として生きてきたから、

あくまで”ゲームとしての深海棲艦を

聞いた事がある”程度だそうで、

その辺の知識が豊富な村上に頼んだわけだ。

 

 

 

 

 

 

にしてもこいつ詳しすぎるだろ、

もう深海棲艦幕僚とかでいいんじゃね?

 

 

 

 

 

まあ俺や村上が海曹士の司令部要員としての

転勤はあっても、

幹部として任命される事はあり得ないし、

ましてや『提督』として隊司令や群司令のような

艦隊司令官になれる確率はゼロだ。

 

 

 

 

 

 

 

そういえば村雨は『艦これ』知ってるって

話してたけど、なんで知ってるんだろう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

つんつん。

 

 

 

 

 

「村雨はさ、さっき深海棲艦はゲームでしか

知らないって言ってたけど、

なんで『艦これ』知ってんの?」

 

 

 

 

 

村上が解説している中、

俺は村雨の肩をつっつき話をする。

 

 

 

 

「私はやったこと無いけど、いつも提督や

村上さんが居住区とかで話してるでしょ。

よく私のこととかイベントの事とか話してるの、

横で聞いてたよ」

 

 

 

 

 

 

えっ、隣に村雨ちゃんいたんですかい?

 

 

 

 

 

「それじゃあ、あんな事や

こんな事まで聞いてた系?」

 

 

 

 

 

「た、確かに村雨も駆逐艦にしては胸はあるけど、それをモ、モミモミしたり顔を埋めたりしたいとか言われると恥ずかしいというか、

困るんですけどー…」

 

 

 

 

 

 

オゥッ!?あのトークを聞かれていただと?!

それも本人に!

 

 

 

 

 

 

なんというセクハラ海士長。

もうだめだぁ、おしまいだぁ…。

 

 

 

 

 

 

たしかあれはだな、村上と艦娘の胸のトークに

なった時に、村雨の胸って結構あるよな?

って話題になった時だ。

 

 

 

 

 

そんときモミモミやら埋めたいだの

言いたい放題言ったら、

横に本人がいたでござるの巻。

 

 

 

 

 

 

もうお婿にいけねぇ、なんも言えねぇ…。

 

 

 

 

 

 

だが俺はめげずに攻めに出るぞ!

 

 

 

 

ピンチは最大のチャンス。

ここでうまく丸め込めれば、

俺の株は保たれるばす!

 

 

 

 

 

 

「村雨はさ、もっと自信を持たなきゃ!

君は可愛いんだから、

自分の事を認めて武器にしていかないと」

 

 

 

 

 

俺のでまかせトークで論点をすり替える戦法。

 

 

 

「そっ、そうかなぁ…」

 

 

 

やや照れる村雨、なにこの娘かわいい。

 

 

 

なんかモジモジして照れる姿みてると、

もっといぢめたくなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

フッ、だがここで引くのが大人の醍醐味。

 

 

 

雰囲気を切り替えてカッコいいとこ見せましょ。

 

 

 

説明していた村上に質問が上がり、

返答に困っているところに

俺がすかさずフォローを入れる。

 

 

 

 

 

 

「その件に関してですが私から…」

 

 

 

村雨との話を一方的に打ち切り、

オペに入っていく俺。

 

 

 

 

 

 

べ、別に村雨とイチャついていただけじゃ

無いんだからね?!

 

 

 

 

 

 

 

村上の解説も2割は聞いてたんだからなっ!

いや、訂正。1割強です、すんません。

 

 

 

 

少しずつだがオペも活発になってきた。

 

 

 

 

 

 

敵の情報さえわかれば、用兵家である幹部も

考えが浮かぶようだ。

 

 

 

 

 

 

さて、この調子で作戦を煮詰めていきますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 東京湾沖 0418i

 

 

 

 

あれからアルファ、駆逐イ級は速度を3ktに下げ

ゆっくりと海を回り始めた。

 

 

 

 

 

 

少し進んでは変針、その繰り返しだ。

 

 

 

方位を変えて進んでも、他の船舶はAISで

イ級の動きを知り逃げていく。

 

 

 

どうやらイ級は襲撃する対象を探しているらしい。

 

 

 

そのまま東京湾内に進出し襲撃すると

思われていた為、これは俺たちには好都合だ。

 

 

 

 

 

 

なお彼我の距離は18kmを保っている。

これ以上はやつの5インチ砲の射程に

入る危険がある為だ。

 

 

 

 

現代の76ミリ速射砲の射程は約23km、

大戦時の127ミリ砲の射程のデータは

わからんが、これだけあれば被弾は無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

…ここらで攻勢に出るべきか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令、敵はこちらの出方待ち

といった状況かと思います」

 

 

 

 

俺は司令にそう告げた。

 

 

 

 

「うむ、わかった」

 

 

 

 

 

そういうと司令は隊無線がリモートされた

送話器を手に取り、スイッチを押す。

 

 

 

 

 

 

ピリピリと秘話がかかっている事を示す音が鳴り、ゆっくりと話し始める。

 

 

 

「All unit in CED1、this is CED1。

ガード(聴取)している通信員は『むらさめ』

『いかづち』両艦の乗員に放送してくれ」

 

 

 

 

 

 

司令の指示で両艦の通信員は

隊無線を艦内に流す操作を行う。

 

 

 

 

 

 

 

両艦から用意よしが上がったところで、

司令は話し始める。

 

 

 

「これよりアルファ目標、

すなわち敵への攻撃、撃沈を行う。

作戦は先程各艦長から達せらせた通りだ」

 

 

 

 

オペが終了してから、

その詳細は両艦長を通して乗員に伝えられていた。

 

 

 

 

 

 

 

隊無線の向こうではいかづちの乗員が強張る姿が

頭に浮かぶ。

 

 

 

 

 

むらさめでさえそうなのだから、

あちらも変わらないだろう。

 

 

 

 

 

「リスクが高いが、

今はこれがベストであると私は思う。」

 

 

 

 

 

 

 

「死中に活を求める、

諸君らの奮闘を期待している。

だから無理はせず、もし被弾したら即撤退しろ。

これは命令だ、out」

 

 

 

 

 

 

司令は無線を『over』と返信を求めずに、

『out』と一方的に打ち切った。

 

 

 

 

 

 

今司令の近くにいるのは俺と村上、

そして村雨だけだ。

 

 

 

 

他の人は指示出しや本来の配置に着いている。

 

 

 

 

 

 

 

「司令、我々は戦闘時

ここにいてもよろしいですか?」

 

 

 

 

 

俺は3人を代表して司令に尋ねる。

 

 

 

「ああ、構わんよ。むしろいてもらわなけば

私が困るというものだ」

 

 

 

 

司令の許可をもらい、

俺たちはそのまま司令席のそばに留まる。

 

 

 

 

 

 

俺や村上は本来の戦闘部署の配置に、

村雨はきっと軟禁ぐらいされているだろうが

今は非常時だ。

 

 

 

村雨は立案者だし、

この作戦の推移を間近で見る権利と義務がある。

 

 

 

 

 

 

 

もうすぐ発動だ。

村雨や村上と一時の談話を楽しみたいが、

それは深海棲艦に勝ってからに

とっておく事にしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 東京湾沖 0435i

 

 

ピリピリ!

 

 

嵐の前の静けさで満たされたCICに、

隊無線の秘話適用のベルが鳴り響く。

 

 

 

「All unit in CED1、This is CED1!」

 

 

 

司令が送話器を手に取り、

作戦を発動させようとする。

 

 

 

 

「Imidiate excute

(イミディエートエクスキュート、即時発動法)。

 

Operation(オペレーション、作戦)

 

 

Stand by(スタンバーイ、発動用意)……、

 

 

Excute(エクスキュート、発動)!」

 

 

 

 

 

 

 

司令が直に作戦を発動させる。

 

 

 

 

 

人類初の火蓋は此処に切られた。

 

 

 

 

 

 

「いかづち、敵艦に接近しますっ!!」

 

 

 

いかづちは敢えて敵に向かっていく。

 

 

 

 

それも最短CPA(Closest Point of Approach、

最接近距離シーピーエー)

 

を取り、敵のアタマを抑えるコースでだ。

 

 

 

 

なぜ敵の射程内に入ってまで近付こうとするかと

いうと、村雨の作戦によるものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

村雨の作戦、それは『いかづち』を囮にして

敵がいかづちに夢中になった所を

『むらさめ』が叩くというものだ。

 

 

 

 

この提案をするまでは対艦ミサイルで攻撃といった安全策であったが、村雨が発言した

ロシアでの襲撃時の敵の耐久性、ミサイルの有効性への疑問から、砲熕兵器による有効射程から

敵艦の指揮中枢区画と思われる頭脳付近への

精密射撃及び短魚雷での雷撃に方針が変えられた。

 

 

 

 

 

 

映像分析の結果、

敵は5インチ砲らしきものが一門、

それも艦首というか口の中に固定されていた。

 

 

 

 

 

そこで敢えていかづちを追いかけるように仕向け、攻撃を受けないむらさめが叩く事となった。

 

 

 

 

 

 

いかづちは30ktを優に越える速度

でイ級に進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

にしてもいかづち飛ばすなぁ…。

 

 

 

 

 

護衛艦の最高速度は公称30ktと言われているが、

実際にはよんじゅ…いや、止めておこう。

 

 

 

 

 

 

取り敢えず大戦時の最速駆逐艦である『島風』で40ktと言われるぐらいだから、

現代のガスタービンはかなり凄い!

とだけ言っておく。

 

 

 

マジで加速が半端ないんだな、これが。

 

 

 

 

 

「This is Ikazuchi、敵艦発砲。距離、140(14km)!」

 

 

 

近付いてきたいかづちに、イ級が砲撃を開始する。

 

 

 

 

 

とはいえ命中精度もそれほど高くなく、

発射速度も8秒に1発といった具合だ。

 

 

 

 

続けて入ってきた報告によると、

一番近くの着弾は800mの地点らしい。

 

 

 

 

 

 

 

油断は禁物であるが、

敵はそれほど練度は持ち合わせていないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

いかづちが彼我10kmを切ると、

反航を同航に変えわざと追われる体勢に入る。

 

 

 

 

 

 

「よし、本艦も敵艦に針路をとるぞ!

いかづちを砲火から早く逃すんだ!」

 

 

 

艦長が気合の入った指示を飛ばす。

 

 

 

 

むらさめはイ級の左140度方向から

追走するコースを取る。

 

 

 

 

 

「ETA(Estimated Time of Arrival、

到着予定時刻エコータンゴアルファ)

今から19分後!」

 

 

 

 

 

電測からイ級までのETAが伝えられる。

 

 

 

 

 

 

 

「機関科!最大速力だ!最大戦速じゃないぞ、

最大出力で回せっ!!」

 

 

 

 

 

 

「了解、最大出〜力!」

 

 

 

 

艦長から艦橋の機関科リモート員に

『最大出力』の命令が出され、

むらさめのガスタービンが聞いた事のない

唸り声を上げる。

 

 

 

 

 

 

護衛艦には、戦闘時に出す

『最大戦速』というものがあるのだが、

『最大出力』とはその上。

 

 

つまりレッドゾーン上限まで、

エンジンに過負荷がかかり異常をきたす可能性が

ある速度を出すということだ。

 

 

 

 

俺も初めて聞いたな、機関科の人間も

最大速力は経験がないんじゃないか。

 

 

 

 

 

すぐに足元から経験した事のない

加速の感覚が伝わってくる。

 

 

 

 

 

 

心なしか僅かに聞こえるガスタービンの音も

悲鳴の様に甲高くなる。

 

 

 

 

(深海棲艦にミサイルは効かないのか?

決して無効というわけでは無いだろうが、

致命傷を与えられないとなると

今後の作戦はかなり厳しくなるぞ…)

 

 

 

 

 

イ級にむらさめが突進する中、

俺はこれからの深海棲艦との戦いを思い浮かべた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 イ級まで8km 0458i

 

 

 

 

「敵艦まで8km!」

 

 

 

 

「右、砲戦!」

 

 

 

艦長が砲撃戦の指示を出し、

むらさめの76ミリ砲がイ級の方を向く。

 

 

 

 

ウィイーン。

 

 

 

 

昔の戦艦や重巡の砲塔が重々しく動くのとは

異なり、現代の軍艦の艦載砲は工業マシンが

動くかの様に軽快にかつ機械的に動く。

 

 

 

 

 

76ミリがイ級を捉える。

 

 

 

 

 

 

「CIC指示の目標!」

 

 

 

 

 

敵は1隻、しかも大砲が既にイ級を捉えているのに

律儀に目標の指示を出す。

 

 

 

 

 

 

しかし問題はミサイルが効かないイ級に、

76ミリの豆鉄砲が効くかだ。

 

 

 

 

 

もしもイ級が無傷だったらどうするのか。

先程の作戦会議でもそういった議論も

あったのだが、結論は出なかった。

 

 

 

 

 

 

司令は被弾覚悟で接近してゼロ距離砲雷撃を

ぶち込むしかないと発言し、その場では

反対意見こそ出なかったが皆不安を

隠し得なかった。

 

 

 

 

 

 

発言した司令が苦い顔をしていた。

既に航空集団司令部に哨戒機の要請を出し、

対艦ミサイルを搭載したP-1は離陸しているが、

前述の通り深海棲艦にミサイルは期待できない。

 

 

 

 

駆逐艦クラスとはいえ、装甲やミサイル自体の

信管が対現代艦の設定では望みが薄い。

 

 

 

 

 

まずは何発か命中させ、砲弾の効果を確認した後に再度本射撃、要あればミサイル攻撃と雷撃といった流れになる。

 

 

 

 

 

 

 

「主砲緩射3ぱーつ!打ち方始めぇ!」

 

 

 

「打ちー方始め!」

 

 

 

 

同じCICの少し離れたところにいる射撃管制員が

そう宣言し、手に握る射管グリップを握る。

 

 

 

 

76ミリ砲が火を噴き、黎明の海上に

むらさめの艦影を映し出す。

 

 

 

 

 

 

 

バァン!…バァン!…バァンー!

 

 

 

やや間を空けて放たれた砲弾は、

イ級に進んでいく。

 

 

 

 

 

 

「スタンバーイ、…マーク!」

 

 

 

 

 

 

 

ズズーン!

 

 

 

 

ズズーン!

 

 

 

 

 

イ級の周囲に1発、2発と水柱が上がる。

 

 

 

 

 

…ドゴーン!

 

 

 

最後に撃った1発がイ級の左舷に命中する。

 

 

 

 

「3発目命中!被害は確認できない!」

 

 

 

 

艦橋から砲弾命中の報告がもたらされる。

 

 

 

 

明け方だがまだ空が暗い事もあり、

イ級に与えた被害は確認できない。

 

 

 

 

 

 

 

「再度6kmまで距離が詰まったら、緩射5発だ。

次は全弾命中させろ!」

 

 

 

 

 

「艦長、さすがに近過ぎます!

もう少し距離を空けては…」

 

 

 

 

艦長の無謀とも言える命令に、

砲雷長が異を唱える。

 

 

 

 

 

いくら『いかづち』がイ級に追われている

とはいえ、敢えてこちらにも危険がくる戦法を

取らずとも良いのではないかと言いたげだ。

 

 

 

 

 

 

そんなやり取りを司令は何も言わずじっと見守る。

 

 

 

司令が何も言わないならばと、

俺や村雨たちも何も喋らずに艦長たちの口論を

傍観する。

 

 

 

 

「砲雷長、おめぇは正しいよ。いくら『いかづち』が追っかけられてるとはいえ、

俺らはフネを預かる身分。

 

 

最悪いかづちが撃沈されても、

この『むらさめ』だけは沈めちゃならねぇ」

 

 

 

 

 

艦長がチラッと村雨を見る。

 

 

 

 

 

「だがよ、俺らは自衛官である前に人間なんだ。

目の前で仲間がやられてて、

放っておけるかってんでぇ!」

 

 

 

 

艦長が啖呵を切る

 

 

 

 

 

「砲雷長、おめぇは知ってるか?

帝国海軍が負け戦の時に

沈められたフネの乗員を見捨てて帰投したのを。

 

 

 

俺の親父は駆逐艦『磯風』に乗ってた

一兵卒だったんだがよ、戦いの名前は忘れたが、

負けたあと海上を見れば沈められたフネの乗員が

おーいおーいと泳ぎながら手を振っていたそうだ」

 

 

 

 

 

艦長は続ける。

 

 

 

 

「親父が上官に助けないんですか?と聞いたんだ、そしたらそんなヒマは無い、

そんな事をしてたらアメ公に自分たちが

やられるって怒鳴られたそうだ」

 

 

 

「親父が飲んだ時はいっつもその話だったよ、

泣きながらな…。

俺だったら助けるのに、俺が沈められた乗員なら

助けて欲しいのにっつってた」

 

 

 

「艦長のお父上は駆逐艦乗りだったんですか」

 

 

 

「おうよ、生粋の江戸っ子でよ、

戦後もちっさなもんじゃ焼き屋をしながら

飲んではよくそんな話を

ガキの頃から聞かされてよ。

 

 

でも自分が幹部になってみるとよ、

その気持ちがよくわかるんだわ。

 

 

 

兵士を見捨てる国は国民を見捨てる、

俺ぁそう思うぜ。

たとえ自分の命が無くなろうとも、味方を、

仲間を見捨てる軍人にはなりたくねぇって

必死に生きてきた。

 

 

 

ウチの司令はそんな俺を可愛がってくれて、

俺が上に突っかかっても助けてくれたし、

こうやってむらさめの艦長にまでさせてくれた。

俺は仲間の為に戦いたいんだよ、砲雷長ぉ…」

 

 

 

 

最後の方は嘆くように砲雷長に語りかけた。

 

 

 

「申し訳ありませんでした、艦長。

私が間違っていました、『いかづち』の、

いや『仲間』の為に戦いましょう!」

 

 

 

 

 

砲雷長の目に光るものが見える。

 

 

 

 

「よし!距離が詰まったら緩射5発、

全弾命中させろよ!

射撃員は今のうちに即応弾を補充しておけ、

次からは全部ぶち込むぞ!!」

 

 

 

目を腕で擦ってから、砲雷長の指示が

関係各部に飛ぶ。

やや走り過ぎな指示だが、

艦長に感化されたものか。

 

 

 

 

 

 

「へぇ、艦長の親父さんが

磯風にのっていたとはな」

 

 

 

「あら、提督は『私』よりも

磯風に乗りたかったかしら?」

 

 

 

 

 

俺の呟きに村雨が茶々を入れる。

 

 

 

「何っ!菊池、おまえ村雨ちゃんという者が

居ながら!」

 

 

 

「えーん、私なんて色気が無い

無装甲の護衛艦ですよーだ…」

 

 

 

「お前らやめろ。村上も変なツッコミすんな、

村雨も棒読みな発言やめろって」

 

 

 

 

 

村上と村雨に冷静に突っ込む俺。

村雨に「色気あるから!

そんな胸の駆逐艦いないから!」とかフォローを

この場で言わなかったのは

日頃の徳が有るからだな。

↑有りません

 

 

 

 

 

 

 

そんな俺たちをにこやかに見守っていた司令に

俺は話しかける。

 

 

 

 

 

 

「司令は艦長の事、知ってらしたんですか?」

 

 

 

「うむ、当然だよ。部下の身上把握は

上官の鉄則だよ」

 

 

 

「そういえば、よく艦長と飲みに行ってましたね」

 

 

 

「艦長は防大4年の時の同じ中隊の1年で

入ってきてな、よく可愛がったもんだ」

 

 

 

 

 

 

 

ケタケタと笑う司令、こんな一面もあったんだな。

 

 

 

 

 

 

艦長もいい先輩と巡り会えたな。

 

 

 

 

 

「司令さんはどうして海自に入ったんですか?」

 

 

 

村雨が質問する。

 

 

 

「うむ、よく聞いてくれたと言いたいところだが、もうすぐ敵に接触するようだ」

 

 

 

司令が向いた方向を見れば、

もうイ級に7キロに迫っていた。

 

 

 

 

外を写すモニターにも、

水平線上に黒い点の様なものが見えている。

 

 

 

 

 

 

 

間も無く二回次の砲撃が始まる。

 

 

 

 

そう思うとただ座っていられなくなり、

司令にせめて艦橋に上がっていいかと聞くと、

私も行こうと司令の他に俺たちや

隊勤務数名が艦橋に上がることとなった。

 

 

 

 

…イ級ってどんな感じなんだろな。

焼いたら食えるんかねぇ。

 

 

 

 

磯風に魚を焼かせたらイ級の丸焼きになりそう…。

 

 

 

 

 

そんな事を考えつつCICから艦橋に移動した。

 

 

 

 

 

 

 

「敵艦から6キロの位置に着きました

艦長、砲雷長!」

 

 

 

「よし!」

 

 

 

「了解!」

 

 

 

 

報告に対し艦長と砲雷長が了解する。

 

 

 

 

「緩射5発、打ちーかた始め!」

 

 

 

「打ちぃーかた始めー!」

 

 

 

 

既に狙いを定めていた76ミリ砲から、

必殺の志がこもった砲弾が放たれる。

 

 

 

互いに動いているとはいえ、

こちらは高性能な頭脳を持った現代の護衛艦。

今度は5発全弾を命中させた。

 

 

 

 

「アルファ目標、行き足止まります!」

 

 

 

電測から報告が上がる。

 

 

 

ピリピリ!

 

 

 

「CED1、むらさめ、this is いかづち。

敵艦の行き足止まった、本艦至近弾あるも

急速探知の結果致命的な被害無し、人員異常無し!貴官らの奮戦、決断に感謝する、out!!」

 

 

 

 

いかづち艦長から司令とむらさめ宛に通信が入り、感謝の意が伝えられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令、やりましたね!」

 

 

 

「いかづちも助かりましたし、

敵艦も撃破しましたよ!」

 

 

 

 

司令の周りに幹部が集まり、労いの言葉をかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…あまりに呆気なさすぎないか?

 

 

 

 

 

 

 

俺や村雨、村上はやや疑念にかられた顔をする。

 

 

 

 

 

 

 

司令を見れば俺たちと同じ様な顔をしている。

 

 

 

 

 

「まだ終わってはおらん。

艦長、砲雷長、速射砲及びハープーン打ち方待て」

 

 

 

 

 

「り、了解。砲戦、ハープーン戦用意。

打ち方待て」

 

 

 

司令に言われるがまま砲撃戦と

ミサイル戦の用意を下令する艦長。

 

 

 

 

 

「800メートルまで警戒しつつ接近。

その後速射砲を30発、ミサイル2発打込め、

責任は”俺”が取る!

短魚雷も発射準備だけしておけ!」

 

 

 

 

 

 

 

ざわっ!

 

 

 

 

司令の命令にCICがざわめく。

 

 

 

「マジかよ!」

 

 

 

「そこまでしなくてもいいんじゃねぇか?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ふむ、どうしたものか。

 

 

 

 

 

「村上はどう思うよ?」

 

 

 

「司令の言うことは正しいと思うが、

慎重過ぎると思うな」

 

 

 

俺は村上に意見を仰ぎつつ、隣の村雨を見る。

 

 

 

 

 

 

村雨は納得はしていない様だが、

当然だと言わんばかりの顔をしていた。

 

 

 

 

 

「でもテレビで見たでしょ?

あれはイ級後期型とはいえ、

ヘリコプターの機関砲とミサイル攻撃を

ものともしてなかったわ。

 

 

いま行き足を止めたのだって、もしかしたら

私たちの油断を誘うためなのかもしれないし…」

 

 

 

 

 

 

 

やや歯切れが悪そうに村雨は言う。

 

 

 

 

 

言われてハッと俺たちは気付く。

 

 

 

 

 

 

「そういやそうだったな、ロシアでのヤツは

戦闘ヘリからの攻撃をものともしてなかったな…」

 

 

 

「ああ、『戦闘』に勝っただけで、

『戦い』にはまだ勝ったわけではないんだ」

 

 

 

 

 

俺たちの会話は声が大きかったらしく、

気付けばCICの人間がこちらを見ていた。

 

 

 

 

「そういうことだった村雨ちゃん、菊池士長。

皆、勝って兜の何とやらだ。

 

 

敵は完全に沈黙した訳ではない、

それを実際に確かめてこそなのだ」

 

 

 

 

司令が締めの言葉を言い、

CICは再び号令や指示の嵐に包まれる。

 

 

 

 

 

 

慢心してはダメって赤城も言ってたしな。

 

 

 

『帰港』するまでが戦いとは言わないが、

軍人として気を引き締めないとな…。

 

 

 

 

 

そんな一悶着もあったが、『むらさめ』は

ゆっくり確実に、イ級の残骸らしきモノに

接近していった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 イ級残骸目前 0518i

 

 

 

 

司令が指示した通り、イ級に砲弾とミサイルが

撃ち込まれ、やはり生きていた様でギェエエ!と

表現し難い断末魔を海域に響かせながら

イ級は完全に沈黙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

((危なかった……))

 

 

 

 

 

むらさめ乗員はきっと同じ事を思っただろう。

 

 

 

 

司令と村雨は流石だ、

戦場の空気を肌で感じているとしか言いようがない。

 

 

 

 

ヘタしたら回頭したイ級に

砲弾を撃ち込まれていたかもしれない。

 

 

 

 

「残骸の回収は難しそうか?」

 

 

 

「はい、見る限りこちらの攻撃の後

急速に浸水している様で、海面に漂う油の他は

浮遊物は残らないと思います」

 

 

 

 

司令の問いに艦長が答える。

 

 

 

 

 

艦橋のウイングに出てイ級を直に見ながら、

俺たちはどうしようもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前にはイ級の残骸、

至る所に命中した砲弾の穴が見受けられる。

 

 

 

 

 

煙と炎を拭き上げつつ、

浸水した海水が上部から噴出し、

ゆっくりと海に還って行くイ級。

 

 

 

 

 

 

 

 

内火艇を下ろしたものの、炎と油で近づけず、

また沈没時の渦に巻き込まれない様に距離を空け、

その様子をビデオで撮りながら

見守るしかできなかった。

 

 

 

 

イ級の大きさは100メートルほど。

ゲームやアニメで想像したような大きさでは無い、実物の艦艇と変わらない大きさだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんなのと戦わなければいけないのか…。

 

 

 

 

 

 

確かに俺は『提督』になりたいとは思っていたが、

戦争はこんなにも生々しく、

華が無いものとは思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

今回はどうにか両艦無傷で勝てたものの、

『艦これ』のように連戦や被弾したら即故障、

大破、悪ければ轟沈するだろう。

 

 

 

 

 

 

俺でさえそうなのだから司令や艦長は

どんな思いなのだろうか?

 

 

 

 

 

 

右舷の舷側に俺たちは立ち尽くす。

司令から村上が、目の前で沈みゆく

イ級を見ながら何かを考えている。

 

 

 

 

 

 

後ろに目をやれば村雨のみがいる。

 

 

 

 

 

顔色はあまり良くなさそうだ。

 

 

 

 

そんな村雨に俺は慰めの言葉をかける。

 

 

 

「村雨、よくやったな。『いかづち』も被害無し、お前も無傷。S勝利だ、横須賀に帰ったら

忙しいだろうがちゃんと”面倒を見てやるぞ”。

俺が”責任をとるからな”」

 

 

 

俺はこれから忙しくなるであろう事を

暗に伝える意味で言う。

 

 

 

「ち、ちょっと提督!

そんな事こんなところで言うセリフ?!」

 

 

 

 

…なぜ赤面して困っているんだ?

 

 

 

あん?もしかして熱でもあるのか?!

それとも最大速力を出し続けた所為で、

どこかに不具合がっ?!

 

 

 

 

 

 

俺は村雨の額に手を当て、熱が無いか確かめる。

 

 

 

 

 

 

ぴとーっ。

 

 

 

 

「ひゃんっ?!」

 

 

 

 

なんか村雨の可愛い声が聞こえたが、

今はそれどころじゃない!

 

 

 

 

 

 

「村雨大丈夫か、どこか痛むところは無いか?」

 

 

 

「う、ううん。どこも痛くは無いけど、

ちょっと困るぅ〜…」

 

 

 

 

 

困る?何が困るって言うんだ…?

 

 

 

 

うむっ、額から伝わる脈拍が少しばかり

速い気がするぞ!

 

 

 

 

 

 

 

俺は無意識に、空いていた左手を

村雨の首の後ろに回し、首の動脈も測ろうとする。

 

 

 

 

 

「あぅあぅ〜…」

 

 

 

 

 

 

いかん、目も焦点が定まっていない。

まるで目がハートになっている気がする。

すっかり顔も蕩けてしまっている。

 

 

 

 

 

 

「司令、艦長!『村雨』の様子が変なので、

医務室に連れて行きますっ!」

 

 

 

 

「あ、ああ。ぜひそうしたまえ」

 

 

 

 

イ級を見ていた司令が少し驚きながら

返事を返した。

 

 

 

マトモに返事を聞かずに俺は村雨を

胸の前に抱きかかえ、医務室に急ぐ。

 

 

 

 

 

既に艦橋から各部にテレトークという交話装置で

医務室までの閉鎖通路は開ける様に伝えてある。

…司令命令という職権乱用で。

 

 

 

 

 

 

村雨が沈むことは無いだろうが、

もしもがあったら大変だ。

 

 

 

 

お姫様抱っこというロマンチックな光景だが、

今はそんな事に構っていられん!

 

 

 

 

ふと胸元の村雨を見れば意識を失ったのか、

”なぜか”幸せそうな顔をして静かに息をしている。

 

 

 

 

 

 

 

(艦娘とはいえ、流石に初の戦闘となれば

疲労も出るだろう)

 

 

 

 

 

顔色も良くなっており、ただの神経衰弱のようだ。

それならと、医務室に向かう足を緩め、

村雨の髪をそっと撫でる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実に現れた『艦娘』と『深海棲艦』。

艦娘が現れたことは嬉しいが、深海棲艦との戦いがどうなるのかはまだわからない。

 

 

 

 

 

これから泥沼化してしまうと考えると、

日本は、世界はどうなっていくのだろうか。

 

 

 

 

 

 

この戦闘は艦これで言うと

『1-1』といったところだろうか。

 

 

 

 

 

だかそれは横須賀正面、日本の東京湾沖という

ちっぽけな海域だけの話だ。

 

 

 

 

 

 

日本各地の海で、いや世界各地で深海棲艦の襲撃があるとしたら、流通は途絶え、世界経済はたちまちマヒしてしまうだろう。

 

 

 

 

 

 

 

俺は世界を、日本を守れるのだろうか…。

 

 

 

 

 

 

「うぅ〜ん…」

 

 

 

 

 

俺が思い詰めていると村雨が目を覚ました。

 

 

 

 

 

「村雨、気分はどうだ?」

 

 

 

「ちょっと気が動転しただけ、平気よ」

 

 

 

 

 

俺の問いに村雨はにこやかに答える。

 

 

 

 

これから横須賀に帰ったら面倒事が多そうだな。

 

 

 

 

まずは司令や艦長たちと一緒に

総監部で取り調べを受けて、

あーだこーだ聞かれたら

関係各所を回って少なくとも

市ヶ谷・海幕までは行くだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

ヘタしたら村雨が研究の名目で

いかがわしい実験をされるかもしれん。

 

 

 

ぬぅう〜けしからん!

…じゃなかったゆるせねぇ!

 

 

 

 

 

 

 

「安心しろよ村雨!俺がお前を守るからな!

変なヤツについて行くなよ、俺がいるからな!」

 

 

 

 

 

ガッ!

 

 

 

「きゃっ!」

 

 

 

村雨がイタズラされる事を想像したら

ムカムカしてきた!

 

 

 

 

つい勢い余って村雨の肩に力を入れてしまう。

 

 

 

 

 

 

「ホントに村雨を(一生)守ってくれるの?」

 

 

 

 

「あったり前だろ!俺が(横須賀に帰っても)

ずっと面倒を見てやるさ!

一緒に戦って、ちゃんと母港に帰って、

お風呂(入渠の意味で)入ってから

可愛がってあげっからな!(日常生活的な意味で)

 

 

寝かさなねぇぞ?(もちろん関係各所巡りの意味で)」

 

 

 

 

 

 

「ホントにホント?村雨を見捨てたりしない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

…なんかがっついてくるなぁ。

俺ってそんな面倒見悪く見えんのかなぁ?

 

 

 

 

 

「もちろんさぁ!」

 

 

 

ニカッ!

 

 

 

 

某ハンバーガーショップのキャラのセリフを吐き、ありったけのスマイル(0円)を提供する。

 

 

 

 

「あぅあぅ〜…」

 

 

 

 

あ”、また目を回した。

目を覚ましてすぐの会話は流石に辛かったかな。

 

 

 

 

 

 

にしても会話のキャッチボールができていなかった様な気がすっけど、大丈夫かな?

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は別に誤解を生むような会話は

してないんだが…(無自覚)

 

 

 

 

 

 

 

再び目を回してしまった村雨を

ゆっくりと医務室に連れて行き、

医務長に後を任せる。

 

 

 

 

 

 

 

『対水上戦闘用意用具収め』

 

 

 

おっ、戦闘も終わりか。

 

 

 

 

 

 

 

 

フー、と静かに息を吐く。

 

 

 

これからのことはこれから考えればいい。

 

 

 

 

今は村雨と、どう向き合っていくかだけを

考えよう。

 

 

 

 

 

俺は踵を返し、CICの司令の元へと戻り始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

海の上の暁の水平線には沈みゆくイ級の

僅かな残骸の影と、涙の様な油だけが

静かに漂っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえず1-1S勝利となった次第です!

主人公は女の子にアプローチを掛けますが
毎回失敗し、無自覚で意味深の発言をしては
勘違いをさせる様なラノベ風な展開に
いたしました。


見ていて面白いと思ってもらえれば幸いです。




今後の展開は未定!
故に長期の待機をお願いします。

ストーリーを考えねば…



アイデア募集中!
とりあえず1護隊の『いかづち』
『いずも(飛鷹)』は
この後でてきますが、その後は誰にしようか…



自衛艦隊これくしょんといっても、
結構な艦娘がいますし
全艦娘を出すとなると10年はかかりそうです。



仮に出せてもストーリー厳しいです、はい。



とりあえず、ここで序章は終了です。
世界や日本各地で襲撃を起こそうかと
思いましたが、流石に私の頭と腕では
厳しいと実感し断念。


まずは横須賀鎮守府(総監部?)から
話を作っていきます。


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0-8 戦闘報告と第1護衛隊の艦娘 【横須賀】

無事に横須賀に戻ってきた
むらさめといかづちの2隻。



これからどうなってしまうのか、
少しだけ期待しながらご覧ください。







 

 

 むらさめ某士官寝室 0630i

 

 

 

 

「ふぁ〜あぁ…、眠てぇ…」

 

 

 

 

 

イ級との戦闘の後、村雨は医務室に入室という名の

実質的軟禁を余儀なくされ、

俺と村上も空いていた士官寝室に放り込まれ、

部屋の外にはご丁寧なことに

士官室係の海士が貼り付けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

トイレに行くのも監視が付いて、

食事は部屋に持って来てくれる。

 

 

 

 

 

 

横須賀に着くまでとはいえ、ヒマなわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴重なフリータイムを睡眠に使おうと思ったが、

目が冴えてしまっており全く眠れん。

 

 

 

 

 

 

 

持ち込みが許されたペンと手帳に、

今日までの経緯を書き出すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

椅子に座り机に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数行書いたところで睡魔が襲ってきた。

 

 

 

(うぉ、せめて1ページは書かないと…)

 

 

 

 

 

 

 

そっからどうにか一行をヘビの様な文字で

書いたところで、俺は机に

ヘッドスライディングした。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 むらさめ医務室 同時刻

 

 

 

 

私は戦闘の後、提督に医務室に運び込まれた。

 

 

 

 

駆逐艦の頃はこんな一戦どうって事無かったのに、護衛艦になってから腑抜けてしまったのかしら。

 

 

 

 

 

 

 

久々の戦闘で少し気を使い過ぎたみたい。

 

 

 

 

 

 

海に浮かぶイ級をウイングから見ていたら、

提督がいきなり告白してくるから

私気が動転しちゃった!

 

 

 

 

 

 

 

面倒を見るとか責任は取るとか、

唐突すぎるって!!

 

 

 

 

 

 

 

…私が初めて提督、菊池さんと出会ったのは

彼が教育隊を出てこの『むらさめ』に着任した時。

 

 

 

 

 

 

 

 

その時私が空いていた士官寝室で

ゴロゴロしてたら、いきなり覗き込んできたの。

 

 

 

 

 

 

 

 

5秒くらいじっとこちらを見つめてて、

私が見えてるのかと思って話しかけたの、

 

 

 

 

 

 

 

 

『あの〜、私が見えてますか?』って。

 

 

 

 

 

 

 

そしたらいきなり私が横になっていた2つある内の下段の士官ベッドに転がり込んで来て、

私びっくりして飛び起きちゃったわ。

 

 

 

 

 

 

外から同期の村上さんが提督を叱って、

部屋の外に連れて行ったわ。

 

 

 

 

 

 

 

…ただ士官ベッドに興味があっただけみたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが最初の出会い。

 

 

 

 

 

 

 

私は2人を気に入ってよく彼らの居住区に

遊びに行って、2人の話を横で聞いたりしてたの。

 

 

 

 

 

 

 

私は艦娘で、2人は人間。

 

 

 

 

見た目こそ同じでも、

そこには越えられない壁があり、

それは昔から変わらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

この世に駆逐艦として生を受けてから、

艦娘以外の人には認識されず、

その艦娘の仲間たちも戦争で沈められ悲しむヒマも無く戦いに明け暮れる日々。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして私も沈められて、すごく辛かったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村雨は今までの道のりを思い返す。

 

 

 

 

 

(…でもなんでいきなり告白してきたのかしら?

提督って実は結構なプレイボーイなのかしら?

 

う、嬉しいけどなんか複雑ぅ〜…)

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

ぶぇっくしょぉーい!!

 

 

 

 

 

 

 

ガン!

 

 

 

 

「いったぁー!!」

 

 

 

 

書き物をして寝落ちした俺は、

顔を机に着けたまま派手なくしゃみを

してしまった。

 

 

 

 

 

「うぐぅ…、艦首に大激動ぉ…」

 

 

 

 

鼻がグシャってなったぞ。

骨いったんじゃね?

 

 

 

 

 

「とりあえず風邪ひかない様に、ベッドで寝るか」

 

 

 

 

 

 

鼻を摩りながら、ベッドに横になる。

 

 

 

 

どうせこれからしばらくは寝られないんだ、

今のうちに寝とかないとな。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 むらさめ某士官寝室 時刻不明

 

 

 

 

コンコンコン!

 

 

 

 

 

「んー…、もう少し寝かせろー…」

 

 

 

コンコンコン!

 

 

 

 

 

 

ちっ、うるせぇなあ…。

 

 

 

「はーい、どうぞー!」

 

 

 

人が寝てるってのに誰だよ全く…。

 

 

 

 

俺は寝るのに忙しいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが訪問者を放置するわけにはいかず、

ベッドを軽く整えドアを開けに行く。

 

 

 

 

ガチャ

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ菊池士長、少しは休めたかね?」

 

 

 

そこにはにこやかな笑顔の司令と

その愉快な仲間たちの艦長といった

幹部のミナサマ。

 

 

 

 

 

 

「はいっ!おかげさまで休めたのですっ!」

 

 

 

 

 

寝起きという事もあり、咄嗟の言葉が

おかしな口調になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「早速だが荷造りをしたまえ、まずは総監部で話がある」

 

 

 

 

 

 

やはりか、俺の予感は当たっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『まずは』ってのが

嫌な予感しかしないんだが…。

 

 

 

 

 

どうやらもう入港したようで、

艦内は少し慌ただしくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

乗員も取り調べがあるようで、

肩から負のオーラが漂っている。

 

 

 

 

上司の通信士付き添いの元、

職場の電信室にその旨を伝え、荷造りを行う。

 

 

 

 

10分程で支度も終わり、

村上も一緒になり後は村雨を待つだけとなった。

 

 

 

 

「村上、これからどうなっかな?」

 

 

 

 

「しばらくはフネに戻れないだろうな

総監部に海幕。下手したら統幕や内局まで

行くかもしれん」

 

 

 

 

 

「もうダメだぁ、艦これできねぇ…」

 

 

 

 

 

 

村上の推測に、全く筋の通らない落胆を見せる。

 

 

 

 

 

 

「諦めるしかないな…金剛ぉ」

 

 

 

 

 

 

顔には見せないが、コイツも相当な

ダメージの様だ…。

 

 

 

 

 

WAVEに付き添われた村雨も合流し、

業務隊が用意したマイクロバスで総監部に向かう。

 

 

 

 

護衛艦が停泊する岸壁を走りながら

ふと思う。

 

 

 

 

 

 

 

(そういや、

他のフネの艦娘は現れていないのかな?)

 

 

 

 

 

 

 

バスの窓から他の護衛艦を見る限り、

そういった騒動は起きてはいない様だ。

 

 

 

 

 

 

 

そうこうしているうちに総監部に到着し、

背中を押される様に庁舎に歩いて行く。

 

 

 

 

 

門の方向を見ればマスコミやら平和団体が集まり

ある種の祭り騒ぎになっていた。

 

 

 

 

「マスコミにはその少女の事は

まだリークしていない。

決定が出るまで許可されたこと以外は話すなよ」

 

 

 

 

 

 

 

いつの間にか横にいた見知らぬ幹部にそう言われ、コクンと頷くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(誰だアイツ、陰気臭そうな感じがすっぞ)

 

 

 

 

 

 

 

そいつはつかつかと先に行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

「彼は横須賀地方警務隊の隊長だ、

陰気臭そうなヤツだが正義感は強い。

見た目ほど悪いヤツではないよ」

 

 

 

 

 

 

司令がそっと耳打ちしてくれる。

 

 

 

 

 

 

「け、警務隊ですか…」

 

 

 

「おや、何かやましいことでも有るのかね?」

 

 

 

「いえ、決して!」

 

 

 

はっはっはと司令が笑いながら前を向く。

 

 

 

 

俺はケーサツとかは苦手なんだ。

好きな人もあまり居ないと思うが…。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 横須賀地方総監部作戦室 0950i

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

取り調べは作戦室で行うらしい。

 

 

 

 

 

 

 

初めて入ったが結構ハイテクな会議室

といった感想だ。

 

 

 

 

 

 

 

だがそれ以上に目の前の重鎮が気になる気になる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の所属する第1護衛隊の上、

第1護衛隊群の群司令から地方総監、

さっきの警務隊長や防衛部長やら

陸自空自に海保といった

お偉いさん方のオンパレード。

 

 

 

 

 

 

 

「ではまず、戦闘詳報から行きたいと思います。

第1護衛隊司令、お願いします」

 

 

 

 

 

司会役なのであろう、『総監部管理部長』

と机に貼られた1佐が、隊司令に説明を促す。

 

 

 

 

 

 

 

「はい、海上警備の名目で行動命令が出され

『むらさめ』『いなづま』の2隻が…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてイ級を撃沈し、残留物は油しか回収できず

帰港したと司令が言うと、

『技術補給監理官』から苦言が入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊司令、せめて船体の残骸は残そうと

努力して欲しかったね。

 

 

敵は何者なのか、今知りたいのはそれなんだ。

それに弾薬やミサイルの補給や調達

だってあるんだ、もう少し上手く

やってもらわねば…」

 

 

 

 

「申し訳ありません」

 

 

 

 

立って説明していた司令が

技術補給監理官に頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おい待て。

司令は『責任は”俺”が取る!』と言って、

フネや乗員を危険に晒さないために

慎重策を取ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

戦場に出てこない陸上の幕僚が

文句を言うんじゃない!

 

 

 

 

 

 

「総監、発言、よろしいでしょうか?」

 

 

 

 

 

拳をグーに握り、スッと手を挙げる。

 

 

 

 

「君はむらさめの菊池士長か、

構わん発言したまえ」

 

 

 

 

 

総監の許可を貰い、

監理官になるべく冷静に言いたいことを述べる。

 

 

 

 

 

「お言葉ですが技術補給監理官、

司令は我ら隊員を思ってそうしてくださいました。

 

 

 

監理官は戦場にいらっしゃらなかったため

ご存知無いでしょうが、先ほど司令から説明が

あった様に敵艦に接近した際、

まだ完全に撃破出来ていなかったのです。

 

 

もちろん司令は証拠物件を探そうと

尽力しましたが、フネや乗員と修理補給を

天秤にかけ人命を取っただけの事。

 

 

 

別にフネや乗員が失われても構わないのであれば、喜んで敵艦に接近しますが、

しかしその方が損失や補充がかさむだけかと

私は愚策しますが?」

 

 

 

 

 

 

言いたいことを薄いオブラートに包んで

顔面に投げつけてやる。

 

 

 

 

監理官の顔に苛立ちが浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

別に1佐と言えどただのおっさんに

睨まれようとどうでもいい。

 

 

 

 

 

「菊池士長、言いたい事はわかるが

少し表現を考えたまえ」

 

 

 

 

 

総監に注意され、一応非礼を詫びる。

 

 

 

 

「そこでだ、これからどうなるか、

どうしなければならないか。

諸君らの意見を聞きたい。

 

 

これは自衛隊防衛省だけの問題では無い、

日本政府を始め世界全体の問題なのだ」

 

 

 

 

 

 

「総監、それにつきましては菊池士長らが

私に提案をしてくれました。

 

 

彼らの意見をまずお聞きください」

 

 

 

 

 

 

 

おいィ!司令、何こっちに投げてくる訳?!

 

 

 

 

 

 

室内の視線が俺を中心とした村雨と村上に集まり、すごく嫌なプレッシャーを感じる。

 

 

 

「…まずは横におります少女、

『村雨』について説明します。

 

 

彼女の説明によると、駆逐艦初代『村雨』として

フネが就役した際、彼女もフネの魂として

この世に生を受けたそうです。

 

 

そして2代目の駆逐艦村雨は太平洋戦争で

連合軍と戦い撃沈、海上自衛隊が創設され

護衛艦初代『むらさめ』、そして2代目むらさめとフネの運用に携わってきました。

 

 

人間の乗員にはずっと認知されなかった

ようですが、昨夜CICに現れた次第です。

 

その原因は不明です。

彼女は自分”たち”の事を『艦娘』、

艦に娘でかんむすと呼んでいます」

 

 

 

 

 

 

一同が納得できないといった顔をする。

 

 

 

 

 

俺だってシラネーヨ、

こっちが聞きたいわ!

 

 

 

 

 

「今君は『自分”たち”』と言ったが、

それは他にも同じような少女が

いるということかね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

だから知らんがな…。

 

 

 

 

 

 

「それについては私が説明します」

 

 

 

 

 

村雨がおもむろに手を上げ説明を引き受ける。

 

 

 

「他にも艦娘はいます。

全部の自衛艦にいるわけではありませんが、

少なくとも護衛艦『かが』『いずも』『こんごう』といった大戦時の主だった軍用艦には艦娘がいて、

 

潜水艦の『そうりゅう』や音響観測艦『ひびき』、潜水艦救難母艦『ちよだ』などに多数存在します。

 

 

彼女らはまだ認知されていないようですが、

その方法は私にもわかりません」

 

 

 

 

 

 

バタッ!

 

 

 

 

 

 

横を見ればずっと黙っていた村上が鼻血を出して

気持ち悪い顔を浮かべて床に倒れている。

 

 

 

 

 

 

さては『金剛』がいると聞いて興奮しやがったな。

 

 

 

 

 

 

 

「彼は大丈夫かね?!」

 

 

 

 

 

「ただの疲労です、少し休めば元に戻るでしょう」

 

 

 

 

総監の心配に素っ気なく答え、

外に控えていた警務隊員に

医務室に運んでもらった。

 

 

 

 

 

「というわけです。

彼女ら艦娘がフネの運用に携わり、

効率良く作業や戦闘が行いやすくなっています。

艦娘を排除せず保護してもらえるよう、

配慮していただきたい」

 

 

 

 

 

 

どういうわけなのか俺にもわからないが、

取り敢えず艦娘を変に扱わないように

お願いをしておく。

 

 

 

「恐らくですが、襲撃はまた、

いえこれからずっとあるでしょう。

 

 

この襲撃で終わりません。

今回こそ敵は1隻でしたが、

次は何隻でどこに来るかもわからないのです。

 

 

私ごときが言うまでもないでしょうが、

全自衛隊に第一か第二配備を。

 

 

海自と空自は最優先で、

陸自は対艦ミサイル部隊と攻撃ヘリ部隊を優先。

 

 

それと最後に防衛大臣へ、少なくとも

『海上警備行動』、『治安出動待機命令』の検討を上申します…」

 

 

 

 

 

 

 

 

ざわっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「海士長ごときが何を言うか!」

 

 

 

「そうだ、身を弁えろ!」

 

 

 

 

 

 

俺の大胆発言に対し、

出席者から罵声が飛ぶわ飛ぶわ…。

 

 

 

 

 

防衛部長なんてハゲ頭に血管浮き出てやんの!

 

 

 

 

 

 

 

好き勝手言う人を冷めた目で見渡す。

 

 

 

 

 

 

総監と司令、群司令や

自衛・護衛艦隊司令官といった生粋の船乗りらは

目をじっと閉じ、腕を組んでいる。

 

 

 

 

 

 

反対に粋がっているのは幕僚やデスクワーク組。

 

 

 

 

俺が言わずとも、いずれそうなるだろうに…。

 

 

 

 

 

 

こっちは守るために戦わなくちゃ

いけないってのに、『参謀』ってのはいつの時代もイチャモンばっか付けやがるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

そういえば『海上警備行動』は自衛隊のみだが、

『治安出動』の命令があった場合、海保も

防衛大臣の指揮下に入れることができたな。

 

 

 

 

 

 

海保の人も出席してたけど、

本人たちはどう思ってるかな。

 

 

 

 

ちらりと海保の人たちを見る。

 

 

 

『第三管区海上保安本部 本部長』

と机に貼られた人。

 

 

たしか第三管区つーと南関東の海域管轄だったな。

 

 

 

 

視線を上げ顔を見たら、その本部長は

俺を強い眼力で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

睨んではいないようだが、何か言いたげだ。

 

 

 

 

 

 

「総監、海保第三管区本部長です。

発言よろしいでしょうか」

 

 

 

 

 

「どうぞ本部長、発言なさってください」

 

 

 

 

 

 

総監に許可をもらって、

本部長がなぜか俺の方を見る。

 

 

 

 

 

(え、何?やっぱり怒ってる?)

 

 

 

 

 

 

「菊池士長でしたね、

貴方はこれからどうしたい?」

 

 

 

 

 

 

「はい?」

 

 

 

 

予想もしてなかった質問に、

思わず目が点になる。

 

 

 

 

「私は必要とあれば海保を自衛隊の指揮下に

入れてもらって構いません。

 

 

ただ貴方はそうしてどうしていきたいのか、

それだけを伺いたい」

 

 

 

 

 

 

「えっと私は…」

 

 

 

 

 

ガチャ

 

 

 

 

 

 

取り敢えず立ち上がり、答えようとする。

 

 

 

 

 

 

ダメだ、全く思いつかん。

 

 

 

 

 

 

今までは下っ端自衛官として頑張ろう程度にしか

考えていなかったから、

これからのことなんて想像したことなかったぞ。

 

 

 

 

 

 

…下手な事は言えない。

だが完璧なコトバも思いつかず、

漠然とした考えが脳裏を行ったり来たりする。

 

 

 

 

「菊池士長、自分のコトバで、

言いたい事を言いたまえ」

 

 

 

 

 

司令が俺にフォローなのか、言葉を掛けてきた。

 

 

 

 

…なんか楽しそうな顔してねぇか、司令。

 

 

 

 

 

本部長もよく見れば、目が笑っているような…。

 

 

 

 

 

そんなことより、今は質問に答えないと!

 

 

 

 

「私は、これからどうなるか分かりませんが、

自衛官として、職務を全うしたいです。

 

 

これから日本と世界が深海棲艦、

私たちが勝手に呼んでいるのですが、

これらの襲撃を受けるでしょう。

 

 

日本も海上交通が分断され、

流通も滞り経済も大変な事になると思います。

 

 

私は戦いたいのではありません、できれば部屋で

ゴロゴロして過ごしたり、

友人と遊びに行ったりして平和を

満喫していたいです。

 

 

…でもそれじゃあダメなんです。

人が傷付くのを、安全な後方で見てるだけなんて

できません。

 

 

守りたいもののために戦って、大切なものを守れる可能性が自分で高められるのであれば、

その努力を惜しみません。

 

 

自分が傷付く以上に他人が、

仲間が傷付くのは許せません。

 

 

できることなら『幹部』になってこの戦いの

終焉をこの目で、この手で掴み取りたい。

私はそう考えています!」

 

 

 

ペターン

 

 

 

ヘナヘナと席に座る。

 

 

 

言いたいことは言い切った、

もう言い残すことはない。

 

 

 

 

大層なことは言えなかったが、

言いたいことは言ったつもりだ。

 

 

 

 

 

さて、本部長はなんて言うのか…

 

 

 

肩で息をしつつ、本部長を見つめる。

 

 

 

 

「ありがとう、貴方の言いたいことは

よく伝わったよ」

 

 

 

 

それだけを俺に返すと、

総監に向かって

 

「総監、海保は全力で自衛隊の支援に

つかせてもらいます。

本庁はどう言うか分かりませんが、

私が説得しますのでご安心ください。

 

 

第三管区としては海自に喜んで協力いたします」

 

 

 

 

 

 

 

ざわっ!

 

 

 

 

 

「海保が喜んで協力だと、

あんな海士長の言葉で?!」

 

 

 

「いや、もし治安出動や防衛出動となれば

海保の協力は必要不可欠だ、ありがたい話だ」

 

 

 

「だがこんな事は前例がない、

もっと関係各省と調整をしてだな…」

 

 

 

「『鬼の東郷』が海保に行って丸くなったか?

勝手に話を進めるな!」

 

 

 

 

 

 

 

またもや幕僚組から罵声が上がる。

 

 

 

 

 

 

 

今言ってた『鬼の東郷』ってなんだ?

海保に行った東郷、どっかで聞いたような…?

 

 

 

 

 

 

「貴様ら情けないとは思わんのか?!

こんな若い海士が守りたいものの為に

身をなげうって、戦いに赴くと言っておるのだぞ!

 

 

 

貴様ら幕僚組はどうした!

 

 

 

あ?!

 

 

情けない!

 

 

それでも防大をトップクラスで卒業した

エリートか?!

 

 

俺が4年の時はもっと貴様らには

熱意があった筈だ、それが今ではどうだ?!

 

 

自身の保身や職務の複雑化に頭を抱えやがって、

昔は自分の信ずる道をぶつかり合いながら歩んだ『仲間』ではなかったか?!」

 

 

 

 

 

 

 

にこやかな顔をしていた本部長が、

幕僚組の罵声を聞き息を荒げる。

 

 

 

 

 

「あっ、本部長。

貴方は確か先日の東京湾の襲撃の際の調査団の!」

 

 

 

 

「おおっ、知っていたかね。

そうだ、私は一等海上保安監、

防大で『山本』と一緒の釜の飯を食べた

東郷平次郎だ」

 

 

 

 

 

 

 

司令が言ってた海保に行った防大同期の人って

この人だったの?!

 

 

 

 

それも第三管区本部長という結構なお偉いさんとは…。

 

 

 

「山本司令、どういうことかね?」

 

 

 

 

話がわからなかった群司令が隊司令に質問する。

 

 

 

「はい、この東郷本部長とは防大で同期でして、

彼は任官拒否で海保に行ったのですが、

先日の東京湾の事案で海保側の調査団で

参加してまして。

 

今日来るのは知りませんでしたが、

まぁやらかしてくれましたなぁ」

 

 

 

 

「山本、東郷。まーたお前ら

やらかしておったなぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

今度は唐突に総監が話に乗り込んで来る。

 

 

 

 

 

訳が分からずオロオロする俺たちや他の幹部。

 

 

 

 

「そういう『南雲中将』も

まんざらではなさそうですな」

 

 

 

「相変わらず顔だけ厳つくて、

頭の中はトンデモなんでしょうなぁ」

 

 

 

 

 

 

司令と本部長が総監に茶々を入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どういうこった?!

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、私が防大の4年の時にこの2人が

1年で入校してきてな、初日から色々やらかすわ

ピカールコーヒーを飲まされるわで

よく絞めてやったものだ」

 

 

 

 

 

 

その後も話は続き、どうやら総監と司令、

本部長や幕僚の数人は防大で一緒だったようだ。

 

 

 

 

 

 

なるほど、司令と本部長がニヤニヤしてたのも

そういう裏があった訳か。

 

 

 

 

 

出港してから司令は本部長と連絡を取っていない

筈だし、入室して知ったと言っていたから

アイコンタクトでツーでカーだったのか。

 

 

 

 

 

 

俺もハメられたということかな。

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず今後のことは

次のオペに回すとしよう。陸自と空自、保安庁には連絡官や上に掛け合ってみる。

 

 

出撃した諸君はご苦労だった。

今日はゆっくり休むといい、

といってもこの基地からはまだ出られんがね。

 

 

明日からはまたバリバリ働いてもらう。

恐らく市ヶ谷や永田町を行ったり来たりすることになるだろうが、そこは我慢してもらいたい。

 

 

それと菊池士長、君たちの事は

悪いようにはしないと約束しよう。

 

 

そこの村雨ちゃんだったかな?

君にも非人道的な実験はさせないし、

あくまで了承を受けた上での検査や実験協力には

参加してもらうよ。それでいいかね?」

 

 

 

 

「ホントですか、よかったぁ〜…」

 

 

 

 

肩の荷が降りたかのように、

村雨はヘナヘナと肩の力を落とした。

 

 

 

ついでに髪がワンコのようにヘナ〜と動いたのは、俺の錯覚だと信じたい。

 

 

 

 

「今日は申し訳ないが安全の為に警務隊の部屋で

3人を保護させてもらう。

こればかりは保全上私にはどうしようもない。

差し当たって何か要望はあるかね?」

 

 

 

 

 

総監がリクエストを聞いてきた。

 

 

 

 

「そうですね、取り敢えずカツ丼とブランデー、

紅茶をいただければと。

 

あと携帯電話や筆記用具が持ち込めるのであれば

お願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

基地にアルコール持ち込んじゃダメだろ、

でもこれぐらいいいよね?

 

 

 

カツ丼なんて警察の取り調べみたいだって?

 

 

 

 

だって無性に食べたいんだから

しょうがないだろう。

 

 

 

 

「むぅ、アルコールか。

ブランデーぐらいならまあ私の方で

うまいことやっておこう。

 

 

ただ携帯電話となると厳しいかもしれんな。

良くても回線やネットは監視付きに

なるかもしれん…」

 

 

 

 

「全然大丈夫です、変なことはしませんので」

 

 

 

 

「私は特にありませーん!」

 

 

 

 

 

 

村雨が元気に答える。

 

 

 

 

なお後から聞いた話だが、

司令や艦長らはフネで一夜を明かしたそうだ。

 

 

 

 

 

 

俺たちは少し恵まれていたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後は警務隊の指示に従い、3人別々に

指定された部屋に向かった。

 

 

 

 

 

「トイレの際は外の者に言ってください、

それ以外は部屋から出られません」

 

 

 

 

 

 

 

 

まあ、そうなるな。

 

 

 

 

 

部屋に入れば留置所ではないが、

窓に鉄格子が付いている。

 

 

 

 

コンセントもねぇ。

許可が下りたケータイは寝るときに預けて

充電してもらうしか無さそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

部屋に入り落ち着いたのか、

腹が急激に空いてきた。

 

 

 

そう思っていたら、警務隊員が

要望していたカツ丼を持って来てくれた。

 

 

 

 

 

 

美味い!

戦いの後のメシは格別だよね。

 

 

 

 

「さっきは幹部になって戦いを見届けるなんて

言っちまったけど、流石に言いすぎたかねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

先ほどのオペを思い返す。

 

 

 

 

「にしても総監と司令、それと海保の本部長が

防大で一緒だったとはね、

世界は案外狭いのかもしれないな」

 

 

 

 

 

本部長が司令と同期というのも驚きだが、

総監もそれに関係があったとはな。

 

 

 

 

 

 

 

使用が許可されたスマホで、

3人の経歴を検索する。

 

 

 

 

 

 

南雲忠(なぐもただし)、横須賀地方総監。

防大27期。

防大での渾名は『南雲中将』

 

 

 

 

東郷平次郎(とうごうへいじろう)、

第三管区海上保安本部本部長。

防大30期、任官拒否して海保に入庁。

防大での渾名は『鬼の東郷』

 

 

 

山本五郎(やまもとごろう)、

第1護衛隊司令。

防大30期、防大での渾名は『イソロク』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんで渾名なんて出てくるんだ…?

絶対身内が書き込んだろ、コレ。

 

 

 

 

 

 

 

 

そういえば今日の戦闘とかロシアの件は

どう報道されてるのかな。

 

 

 

 

 

 

 

『ロシア、襲撃』で検索。

 

 

 

 

『ロシア軍、不審船を追撃するも行方不明!』

 

 

 

『ロシア、潜水艦にて捜索するも見失う』

 

 

 

 

どうやら『イ級後期型』は

行方をくらませたらしい。

 

 

 

 

 

空軍や軍事衛星を使って徹底捜索したが、

ロストしてしまったようだ。

 

 

 

 

 

では日本はどうなのだろうか。

 

 

 

 

検索しようとしたが、

トップページにでかでかと昨夜の襲撃の

記事が書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

開いてみれば

 

 

 

『海自、不審船を追跡の後撃沈』

 

 

『大砲を積んだ不審船を交戦の末撃沈!』

 

 

『自衛隊不審船を攻撃、平和への暴挙』

 

 

 

3つ目の記事は自衛隊を悪く言う

記事だ、ひでえ書き方してるな。

 

 

 

 

『本日未明、東京湾沖に出ていた

 

海上自衛隊横須賀基地所属の護衛艦むらさめ、

いかづちは、突如発砲してきた不審船に対し

正当防衛と緊急避難の為、

これに応戦しました。

 

 

護衛艦の被害は無いとのことですが、当時

海上を航行していた船舶の乗員によりますと、

不審船はいきなり護衛艦に向け

大砲を撃ってきたとのこと。

 

 

これに対し防衛大臣の発表によりますと…』

 

 

 

 

 

よかった、『艦娘』については

全く書かれていない。

 

 

 

 

 

警務隊長の言った通りだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

ネットの反響はどんな感じだ?

 

 

 

 

掲示板をみれば

 

 

『【速報!】深海棲艦の攻撃、

海自応戦【ヤバイ!】』

 

 

 

とか

 

 

 

『【艦これ】深海棲艦出現、

提督共どうする?【ガチ提督】』

 

 

 

といったスレッドが見受けられた。

 

 

 

 

 

 

 

結構話題になっているんだな。

 

 

 

 

今回の件の画像とかはまだ出回っては

いないようだが、ロシアの件で

『イ級後期型』では?と推測したスレッドも

あったがあまりまともな議論はされていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

記事や掲示板を見るのも飽きて、

スマホを閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

部屋の時計を見ればまだ1500を過ぎたぐらい。

 

 

 

 

 

 

今後の課題や俺たちの行方を

のんびりと考えるとするか…。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 横須賀警務隊本部 某所 1630i

 

 

 

「…んで艦娘の処遇に関しては、人間扱いで

幹部自衛官。給料も出して、生活を保障っと」

 

 

 

 

あれから俺は提案書ではないが、

こうすればいいのではないかと思う事を

支給されたノートに書き出していた。

 

 

 

 

 

 

 

まずは海自の編成、

総監部ごとに艦娘を集め、それらで艦娘艦隊を作り深海棲艦との戦いに備える。

 

 

 

所属はどうするか悩んだが、自衛艦隊直属にした。

 

 

 

護衛艦隊の隷下も考えたが、

いかんせん即応力が無さ過ぎる。

 

 

 

 

 

 

自衛艦隊の下に新たに艦隊司令部を編成し、

独自運用するのがいいと思ったからだ。

 

 

 

「名前は流石に艦娘艦隊司令部はマズイから…、『特務艦隊司令部』これだ!

なんか締まりが無いけど、こんぐらいで」

 

 

 

「自衛艦隊司令部内に設立して、

全国の作戦をここで指揮する。

各地の総監部に艦娘隊や群の司令部を置いて、

そこで前線の指揮」

 

 

 

この辺は本職の人に任せるとしよう。

 

 

 

 

「俺や村上は隊司令として艦娘の指揮、

できればフネに乗り込んだほうがいいな…」

 

 

 

 

ノートにどんどん付け足していく。

 

 

 

 

 

 

「艦隊っていっても幾つかのグループに

分かれるからな、まずは数隻の『隊』の

ネーミングを考えないと」

 

 

 

 

 

 

 

 

第1艦娘隊、違うな…。

 

 

横須賀鎮守府艦隊、だから鎮守府じゃねーよ。

 

 

第1特務護衛隊、少し違うなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

うーん、無難な名前のほうがしっくり

きそうな気がするな。

 

 

 

 

 

そうだな、通常の護衛隊は

1桁や2桁の名前をつけているから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

第101護衛隊、何の捻りも無いが意外としっくり。

 

 

 

他に駆逐隊とか戦隊とかも浮かんだが、

速攻蹴られるのでパス。

 

 

 

 

 

俺の『守りたいものがあるから戦う』信念にも

合致してるし、いい感じ。

 

 

 

 

見てろよ深海棲艦、これで勝つる!

 

 

 

 

 

「艦隊名だけで勝てるなら苦労しないってーの」

 

 

 

あんまり痛い名前や厨二な名前にすると

恥ずかしくて名乗れなくなる。

 

 

 

 

『村雨』や『電』とかが所属を聞かれて、

赤面してモジモジした光景は見てみたいが、

俺もそうなりたくは無いからな…。

 

 

 

 

 

「俺や村上は幹部自衛官として

『提督』になるっていっても、

ならせてくれるもんかね?」

 

 

 

 

 

そこは非常時の措置として、

優秀な人材を採用したりだな…。

 

 

 

 

「お、それいいな」

 

 

 

「部内から艦これに精通する者を

提督に採用したり、民間から登用も

検討すべしっと」

 

 

 

とはいえゲームで勝てても実戦で

うまくいくとは限らない。

 

 

 

 

 

 

それはアメリカ軍の実験で証明されていて、

FPSで上手い奴を採用しても、

所詮ゲームに特化したものであり、

基礎体力や戦術は全く戦いには

通用しない結果となった。

 

 

 

 

 

俺みたいな現役ならまだしも、

パソコンの前にずっといるような奴らに

教育隊が務まるとは到底思えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

てか『俺の艦娘』に手を出させてたまるかてんだ!

 

 

 

 

俺には沢山の艦娘とケッコンするという野望が

あるんだからな、

将来の嫁に指一本触れさせねぇ!!

 

 

 

 

ノートがしょうもないことで埋まっていくと、

外が何だか騒がしい…。

 

 

 

 

 

 

 

んだよ、人が薔薇色の未来予想図を

描いておいでだってのに!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『港外に昔の軍艦がいるぞ!』

 

 

 

…おい、どういうこっちゃねん。

 

 

 

『あれは帝国海軍の駆逐艦の村雨だな、

ほら、横にムラサメってカタカナで書いてある』

 

 

 

『ミリオタ知識はいいから、早く走れ!』

 

 

 

 

外の隊員たちはそのまま走って行ってしまった。

 

 

 

 

「『村雨』が『むらさめ』に現れたとおもったら、『村雨』がまた現れたってかぁー?」

 

 

 

 

 

艦娘が現れたぐらいだ、

もう何が起きても俺は驚かんぞ。

 

 

 

 

 

フネの魂たる艦娘が現れたんだ、

そりゃ船体も現れるだろうさ。

 

 

 

 

このところの驚きの連続で、

もう何でもよくなってきた驚きの感覚。

 

 

 

 

 

 

 

部屋に軟禁され、どうしようもなくなっていると

唐突にドアがノックされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコンコンコン。

 

 

 

 

 

可愛い感じのノックが4回叩かれる。

 

 

 

 

 

「もう誰だよ。なんかあったんですか?」

 

 

 

 

文句を垂れつつ、ドアを開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前、視線を下に。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃーん!雷(いかづち)よ、

かみなりじゃ無いわ!」

 

 

 

 

 

 

 

…バタン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……俺、疲れてんのかな?」

 

 

 

 

 

 

なんか部屋の外にいたんですけど…。

 

 

 

試しに頬をつねってみる。

 

 

 

痛い、現実だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再びドアを開ける。

 

 

 

 

ガチャ。

 

 

 

 

「なによもう、私に気付かなかったの?

ひどーい!」

 

 

 

 

 

「あのさ、どちらサマ?」

 

 

 

 

「だから雷って言ってるじゃない!

司令官、よろしく頼むわねっ!」

 

 

 

 

 

 

 

一歩雷に近寄り片膝をつき、

雷の視線に合わせる。

 

 

 

 

「な、なによ…」

 

 

 

 

 

 

 

ジーー

 

 

 

 

ふにふに!

 

 

 

 

「い、いっふぁ〜い!!」

 

 

 

 

雷の頬を両手で軽く引っ張る。

 

 

 

 

「…うむ、合格だ」

 

 

 

 

「にゃ、にゃんのことよ?!」

 

 

 

「いや、俺も雷に出会えて嬉しいよ。

よろしく頼むな!」

 

 

 

わしゃわしゃと手で雷の頭を撫でる。

 

 

 

「うん、雷、司令官のために出撃しちゃうねっ」

 

 

 

頬をやや赤くさせながら、

雷は俺に満遍の笑みで答えてくれる。

 

 

 

 

ぺかー!!

 

 

 

(オゥッ、ベリーキュート!)

 

 

 

 

思わず雷を抱きしめてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギュッ!!

 

 

 

「ち、ちょっと司令官!いきなりどうしたの?」

 

 

 

「いやぁ、雷が頑張ってくれるって言うから

俺嬉しくてついな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

菊池は嬉しくなるとついやっちゃうんだ!

 

 

 

「そうそう。もーっと私に頼っていいのよ」

 

 

 

 

 

 

幼女を抱きしめるという事案を華麗に流して、

胸を張っている雷。

 

 

 

 

 

 

 

 

…胸は無いけどな。

 

 

 

 

俺はおっぱい星人を自負しているが、

可愛い女の子ならいいのだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうやって雷を満喫していると…

 

 

「…なに?どんな提督かと見に来れば、

ロリコンなのかしら?」

 

 

 

 

通路から聞こえる声の方向に顔を向けると、

そこには…

 

 

 

「えっ?!まさか君はっ…!」

 

 

 




ついに他の艦娘が登場しました。
ついでに隊司令の名前も明らかになりました。
そっちはどうでもいいですか、そうですか。



最後に現れた艦娘?はいったい誰なのか!
第1護衛隊のいずもマン、一体何者なんだ…?
さて、しばらくは内政回といったところです。


少しずつ物語が進んでいきます。





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0-9 星々の煌めきと戦乙女 【横須賀基地】

本編で名前出してないのに、
モロにいずもマンと公言してしまいました。


一体何者なんでしょうね…?






 

ギュッ!!

 

 

 

「そうそう、もーっと頼っていいのよ」

 

 

 

 

 

 

そうやって雷を満喫していると…

 

 

 

 

 

「…なに?どんな提督かと見に来れば、

ロリコンなのかしら?」

 

 

 

 

通路から聞こえる声の方向に顔を向けると、

そこには…

 

 

 

 

「えっ?!まさか君はっ…!」

 

 

 

 

 

そこには白い軍服の様なブレザーに赤い長スカートという、まるで巫女の様な美女。

 

 

 

 

「まさか軽空母、いずもマン?!」

 

 

 

 

 

「誰よ、いずもマンって!!

私の名前は出雲ま、じゃなかった…

飛鷹よ!!とにかくよろしくね、提督!」

 

 

 

 

ふむ、やる価値は有るな…。

 

 

 

 

ずっと抱きしめていた雷を離してやり、

ゆっくりと飛鷹に歩み寄る。

 

 

 

 

じぃーー

 

 

 

 

「な、何か文句でも?!」

 

 

 

 

目の前には黒髪の美女。

 

 

 

そして巫女の様な服装と

見事な富士山が2つ。

 

 

 

 

行けるっ!(グッ)

 

 

 

 

 

ギュッ!!

 

 

 

 

「えっ、なになに?!何なのよ?!」

 

 

 

 

まーたやってしまった初対面のハグ。

 

 

 

 

だって目の前に可愛い女の子がいたらさ、

抱きしめてあげないといけないだろ?(?)

 

 

 

 

それも村雨以上のバインバイン!

 

 

 

 

「よーしよし、よく来たね!

これから一緒に頑張ろう」

 

 

 

 

「そりゃ頑張るけど、さすがに激し過ぎない…?」

 

 

 

 

「そんなことはないさ、ハグは愛情を示す

世界共通の挨拶だ。

豪華客船になりたいと思っている割には、

出雲丸さんあんまり知識がない?」

 

 

 

 

「そ、そんな事はないわ!

ハグくらい知ってるわよっ!」

 

 

 

 

 

 

フッ、また罪無きオナゴを抱きしめてしまった…。

 

 

 

 

「そうかそうか、よしよし…」

 

 

 

 

飛鷹を離してやり、雷にしたように

頭をそっと撫でてやる。

 

 

 

 

なでなで!

 

 

 

 

 

「あ、あんまり子供扱いしないで…。

少し、恥ずかしいし…」

 

 

 

 

おっと、飛鷹も満更ではない様子。

 

 

 

セクハラギリギリをこのまま突っ走って

行きたいものだ。

 

 

 

 

※完全にセクハラです。

紳士淑女の提督方はやめましょう。

 

 

 

 

「…で、どうしてここに?」

 

 

 

 

通路を見れば、部屋の前にいたはずの警務隊員は

いなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

「村雨と私が朝帰ってきたでしょ。

私はまだ他の人に見つかって無かったから、

そのまま普通に岸壁を歩いて、

飛鷹さんのところまで行ったの」

 

 

 

 

後ろにいた雷が説明してくれた。

 

 

 

「『いずも』にある飛鷹さんの部屋で

村雨の処遇や戦いの事を話していたら、

2人とも急に胸が苦しくなって。

 

 

気が付いて周りを見渡したら、

いつの間にか昔のフネ、私は駆逐艦で飛鷹さんは

軽空母の艦長席に座っていたの!」

 

 

 

 

 

 

 

 

雷がボディランゲージを交えつつ続ける。

 

 

 

 

「目の前に護衛艦の『私』が見えたから、

すぐに妖精さんに頼んで内火艇を

出してもらったわ」

 

 

 

飛鷹もうんうんと頷く。

 

 

 

 

「で、そこの内火艇岸壁に着いた私たちを

あの人がここに入れてくれたわけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

妖精さんもこの世界に来たんだねぇ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

相変わらず変なところに注目していると

 

 

「…と、いうわけだ菊池士長」

 

 

 

 

さっき聞いた声が聞こえ、

まさかと振り返ればその通りだ。

 

 

 

 

 

「改めて自己紹介しよう。

私は横須賀警務隊隊長の2等海佐、

黒木正義(まさよし)だ」

 

 

 

 

「…先ほどはどうも」

 

 

 

 

 

 

 

でた、警務隊長。

 

 

 

 

 

 

山本司令は悪い人間じゃないと言っていたが、

どうも好きになれなそうな人間だ。

 

 

 

 

冷徹、陰気、公安。

そんな言葉を表したようなやつだ。

 

 

 

 

「して、警務隊長。

このように『村雨』と同じ艦娘を

一応軟禁されている私に会わせてよいのですか?

 

 

もしかすれば彼女らが、先ほどいいました

『深海棲艦』と同じような襲撃をしない保障が

無いとは言い切れませんが…?」

 

 

 

 

それでも俺に2人を合わせたのは

何か狙いがあってのことだろうが、

俺はその意図が知りたい。

 

 

 

 

 

 

「まあそう鋭い目をするな菊池士長。

立ち話もなんだ、別室で茶でも飲みながら

話そうではないか」

 

 

 

 

 

ニッと、キザな笑みを浮かべ踵を返し

歩み始める警務隊長。

 

 

 

 

 

 

 

俺たちは一瞬ついて行くか悩んだが、

お互い頷き、着いて行くことにした。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 横須賀警務隊会議室 時刻不明

 

 

 

 

「メンバーが揃ったことだ、話を始めよう」

 

 

 

 

会議室には軟禁されていた俺と村上

そして村雨、ついでに今来た雷と飛鷹。

 

 

 

 

 

 

村雨が部屋に入ってきた時に聞いたのだが、

彼女は駆逐艦の『村雨』が現れた時、

胸に重みを感じたがフネに

移動はしなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

つかワープするってどうよ?

もう驚かないけどさぁ…。

 

 

 

「君たちには全て話そう。

艦娘が現れたこの現象の経緯を」

 

 

 

 

(経緯だと?こいつは何か知っているのか?)

 

 

 

 

「まず艦娘という存在だが、

今まで全く認知されていなかった。

……”全く”、な」

 

 

 

 

 

 

 

警務隊長が『全く』という単語に重点を置き話す。

 

 

 

 

 

(今までも艦娘が現れたことが

あったというのか?)

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずはこの資料を見て欲しい」

 

 

 

 

 

そう言うと部屋が暗くなり、

会議室のプロジェクターが投影される。

 

 

 

 

白黒の写真が写っている。

 

 

 

 

これは…、護衛艦の艦内だろうか?

結構古そうなタイプだな。

 

 

 

 

 

「これは廃艦となった護衛艦『はるな』の

就役して間も無い艦内だ。

 

このあたりをよく見て欲しい」

 

 

 

警務隊長がレーザーポインターで示す場所に

僅かながら少女の様なものが見える。

 

 

 

 

 

 

((これ、榛名(さん)じゃね?))

 

 

 

 

 

どう見ても、大丈夫じゃない榛名さんです。

 

はい、榛名さんはだいじょば無いです、

けっこうドジなのかな?

 

 

 

 

 

 

俺たちは同じことを思ったはずだ。

 

 

 

 

「心霊写真か何かと思ったが、乗員から

非公式の聞き取りを行った結果、

どうやら他のフネでも

『艦内で少女が歩いていた』

『艦橋で複数の少女が話している』

との証言が得られた」

 

 

 

 

 

 

…バレバレじゃねーか、艦娘たち。

 

 

 

 

ぎろりと3人を見れば、目を泳がせている。

 

 

 

こいつら、後でお尻ペンペンしてやる…!

 

 

 

 

 

「その証言者の共通点を調べると、

実家が神社だったり、人より霊力が高いらしい

ということがわかった」

 

 

 

 

(れ、霊力ぅ?なんとオカルティックな…)

 

 

 

 

「だが当時の警務隊はこの調査を

馬鹿馬鹿しいと判断したらしく、

すぐに打ち切った。

 

 

ただこういった現象は海自では昔からよくあり、

実例では旧海軍の駆逐艦『梨』を護衛艦『わかば』

として再就役させた際に、

そういった心霊現象は実際にあったんだ」

 

 

 

 

 

へぇー、知らなかった。

 

 

 

 

 

「で、どうしてこうやって諸君らにこの話を

しているか、本題に入ろう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

む、ついに本題に入るか。

 

 

 

艦娘の現象以上に重要な事なのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

固唾を飲んで警務隊長の話を待つ。

 

 

 

 

「私の父はその『わかば』に乗っていたんだ」

 

 

 

 

うん?

なんか艦長の時と同じ様なくだりじゃね?

 

 

 

 

「その父がつい先日亡くなってな、その時に

言い遺した事があるんだ。

 

 

『正義、若葉ちゃんを頼む。

 

 

あの子はあまり話さない子だが、

夜はよく1人泣いている。

 

 

レイテの夢をよく見ると言っていた、

彼女は悪夢にうなされているようだ。

 

 

フネにはな、艦娘っちゅう女の子がいるんだぞ。

 

 

 

俺はそんな子たちと現役時代から仲が良くてな、

 

 

日本にいる艦娘もいるが、

多くは戦地にまだ眠っている。

 

 

そんな子たちをこの日本に連れて来て欲しい。

この俺の最期の頼みだ、正義。

 

 

 

 

待ってくれ若葉ちゃん、天津風ちゃんそれに

雪風ちゃん。

 

なぜ離れていくんだ、いまそっちに行くからな』

 

 

そう言ってから、父は鬼籍に入った…」

 

 

 

 

 

駆逐艦若葉、結構無口だけど

実は寂しがり屋だったのか。

 

 

駆逐艦天津風、島風のプロトタイプとして

建造された。

ツンデレっぽいが、ちゃんと素直に

お礼が言えるえらい子。

 

 

駆逐艦雪風、奇跡の駆逐艦や疫病神と

言われるぐらいの幸運艦。

多くの兵士や民間人を救ったが、

同時に仲間の最期を看取ってきた。

 

 

 

 

 

 

「私は父の言葉は死ぬ間際の幻覚や妄想だと

思っていたが、今回の件で確信した。

諸君らは本当に存在するのだと。

 

 

どうかお願いだ、平和を守ると同時に

各地に眠る艦娘も救って欲しい。

頼む、この通りだ」

 

 

 

 

 

警務隊長は席から立ち上がり、

俺に深く頭を下げる。

 

 

 

 

「そんな、頭を上げてください警務隊長!

当然です、みんなを日本に連れて来ますから!」

 

 

 

「その通りよ!この村雨がみんなを

連れて来ちゃうんだから!」

 

 

 

「そうよ、村雨の言う通りよ!

この雷様に任せなさい!」

 

 

 

「私も手伝うわ!それに戦場には

私の先輩たちである民間商船だって

沢山眠っているもの…」

 

 

 

 

豪華客船として就役するはずだった飛鷹が、

戦地に散った商船の事を思う。

 

 

 

「そうですよ警務隊長。

我々にお任せください!菊池と私が

責任を持って任に当たります!」

 

 

 

 

艦娘や村上が一緒に賛同してくれる。

 

 

 

 

俺はいま猛烈に感動しているぞぉ!

 

 

 

 

 

「そうか、ありがとう。

父も浮かばれるというものだ。

 

 

ところで菊池士長、我々警務隊の情報網が

複数の情報を集めたんだが教えてあげよう。

 

 

良い情報と悪い情報、

どちらから聞きたいかね?」

 

 

 

 

 

いい笑顔を見せたと思ったら、

すぐにさっきまでの陰気なツラに戻ったぞ。

 

 

 

 

まあこれが仕事の顔ってわけか。

 

 

 

 

ベタな聞き方だが、

まずは良い方から聞くとしよう。

 

 

 

 

 

 

「…では良い情報から」

 

 

 

 

 

「そうか、君は好きなおかずは先に

食べる派か、私は後だがね」

 

 

 

 

そういう事を言ってるから陰気なキャラに

なるんじゃねーか、この人。

 

 

 

 

それに俺は後から派だし、

勝手な推測と偏見で決めつけて欲しくないな。

 

 

 

 

「ますは良い情報から。

先程から、日本各地の基地やフネから

『艦内で少女を保護した』との報告が

上がっている。

恐らく彼女たちの様な艦娘だと思う。

 

 

 

同時に各基地から

『旧海軍の艦艇が出現した』との

報告も上がってきている。

 

 

横須賀近辺も今居る3人の他にも表れている様だ。

護衛艦では『きりしま』『てるづき』

『たかなみ』

潜水艦部隊からは『ちよだ』から。

横須賀だけで計7隻、いや7人と言うべきかな?」

 

 

 

 

横須賀だけで艦娘とそのフネが7人もいるのか!

胸が熱くなるな…!

 

 

 

 

 

 

 

ん、待てよ。

 

 

 

誰かもう1人忘れているような…?

 

 

 

 

「おっと、追加の無線が飛んできたぞ。

洋上で艤装中の『かが』からも同様の報告が

たった今上がった。

 

 

これで8人だな、だが『かが』の横に

空母の『加賀』が並んでいて

現場は混乱しているようだ」

 

 

 

これは嬉しいニュースだ、

あの加賀さんがいれば深海棲艦なんて怖くないぞ!

 

 

 

「警務隊長!その艦娘をこちらに呼び寄せて

もらうことは可能ですか?!」

 

 

 

 

「そうくると思って既に横須賀警備区の

警務隊と部隊にはそう指示を出してるさ」

 

 

 

 

 

この隊長かなり使えるっ!

 

 

 

 

「そして君が艦娘に手を出したら逮捕するよう

特別命令も出しておいたぞ」

 

 

 

 

…前言撤回、やっぱこの人変だわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、悪い情報というのはなんなの?」

 

 

 

飛鷹が警務隊長に尋ねる。

 

 

 

 

「それについてだが、酷いことに味方であるはずの

他国の動向についてだ」

 

 

 

 

警務隊長は続ける。

 

 

 

 

「アメリカやフィリピンを始めとした友好国、

それにロシアや中国、韓国といった諸国が

警戒している様だ。

 

 

今回のニュースはすぐに全世界に伝わり、

未明の戦闘と合わせて日本の動きを

危険視する兆候がある。

 

 

アメリカ軍も非公式だが海幕に

調査団の派遣を打診している。

 

 

それに国内のスパイ、まあ深くは言えんが

朝から横須賀他海自の基地を嗅ぎ回っている。

 

中国やロシアの潜水艦は何隻か緊急出港を

しているし、韓国軍も海空軍を動員して

北朝鮮をそっちのけで日本海を嗅ぎ回っている。

 

 

霞ヶ関の官庁街は今ある種のスパイ天国さ、

無論泳がせているだけだがな」

 

 

 

 

「深海棲艦と戦わなきゃならないっていうのに、

人類は何をやってるんだ!!」

 

 

 

 

「そう熱くなるな、菊池士長。

まだ人類は敵の脅威を実感した訳ではない。

 

そんな中で日本に旧式とはいえ、

戦艦や空母といった軍艦が現れたとなると、

警戒するのは至極当然だろう」

 

 

 

 

納得がいかないが、これが人類の現状だ。

 

 

 

共通の敵が現れたとはいえ、

他国のパワーバランスが崩れたとなると

危機感を抱くのも無理は無いか。

 

 

 

 

「流石にこの総監部庁舎ではやや手狭に

なりそうだな。場所を変えるとするかね?」

 

 

 

 

 

かえるって言っても何処にするんだ?

 

 

 

 

聞いてきた癖に、勝手に無線機に指示を出す

警務隊長。どうなるんだよー?

 

 

 

 

「既に手配はできてる。

次は『自衛艦隊司令部』だ。

少しはのびのびできるはずだ」

 

 

 

 

 

 

 

この人なんなのマジで。

 

 

 

手筈が良過ぎるだろ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言われるがまま再びマイクロバスに乗り込む。

 

 

 

 

「おーおー、帝国海軍がいるわいるわ」

 

 

 

 

 

 

 

海側を見れば港の外に駆逐艦から空母、

それに戦艦までぎっしりと軍艦が並んでいる。

 

 

 

 

軽空母が…2隻?

もしかして『千代田』って千代田航で来た系?!

 

 

 

 

 

マジかよ!!

 

 

 

後方に見える戦艦は霧島か!

 

 

 

俺が『ゲーム』の建造で

お世話になった戦艦霧島。

 

霧島にはボス戦でお世話になったなぁ…。

 

 

 

 

そんな事を思いつつ、正門を出て

自衛艦隊司令部がある船越へと向かう。

 

 

 

 

 

「艦娘諸君は頭を下げて!

船越までは基本そのままで頼むぞ」

 

 

 

 

警務隊長の指示で村雨たちは渋々頭を下げる。

 

 

 

 

正門を出ればマスコミと変な団体が騒いでいる。

 

 

 

カメラを持った人たちと艦これグッズを手にした

ファン?たちもチラホラ見受けられた。

 

 

 

 

 

 

10分弱の移動も終わり、俺たちは無事

自衛艦隊司令部へと到着した。

 

 

 

 

 

「幕僚やスタッフが使用している

仮眠室を臨時に確保してある。

 

 

諸君らには今夜はここで待機してもらう。

 

 

明日は朝一で海幕へ赴いてもらう。

今はそこまでしか予定が煮詰まってない」

 

 

 

 

とりあえず腹減った、飯にありつきたい。

 

 

 

 

 

 

 

グゥ〜

 

 

 

 

 

「おっ、すんません…」

 

 

 

この腹は空気を読まずに鳴りやがるなぁ。

 

 

 

 

「時間的に空腹だろうから、食事も用意

させてある。警務隊員はいるが、

みんなで仲良く団欒といきたまえ」

 

 

 

 

 

それから俺たちは司令部の予備会議室で、

ひとときの平和を楽しんだ。

 

 

 

 

途中から合流した霧島、千代田、照月そして

高波も交え、簡単な自己紹介の後

俺が夕方考えた今後の課題と道筋を発表した。

 

 

 

 

 

反応は様々だったが、概ね賛成してくれた。

 

 

 

 

 

 

ふぁ〜あぁ、もう眠くなってきたな。

 

 

 

 

壁の時計を見ればもう2100だ。

 

 

 

風呂に入って寝ますかね。

 

 

 

 

「今日はこれでかいさーん!

まだまだ話し足りないけど、それはまた

明日以降話そうな。

それじゃあおやすみ!」

 

 

 

 

 

 

全然霧島たちと話せなかった…。

 

 

 

ショック!

 

 

 

まだ挨拶のハグしてないのにぃ!!←意味不明

 

 

 

「村上、風呂行って寝ようか」

 

 

 

「うむ、そうするとしよう。

朝は早いからな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

風呂に行ってすぐに仮眠室のベッドに入ると、

今日一日は人生で一番濃い日だったと実感する。

 

 

 

 

 

 

イ級との戦闘、艦娘との出会い、司令や総監、

それに警務隊長や艦娘の船体の出現。

 

 

 

 

今でも信じられないぐらいだ。

 

 

 

 

 

 

 

スゥー…

 

 

 

 

上のベッドにいる村上はもう寝てしまったようだ。

 

 

 

 

少し体が火照っている。

 

 

 

湯に長く浸かり過ぎたか?

 

 

 

 

 

少し夜風にでも当たるか…。

 

 

 

 

 

 

そう考え、静かに部屋を出て

外にいた警務隊員にその旨を伝え、

俺は非常階段の扉を開けた。

 

 

 

 

 

ギィ、バタン

 

 

 

 

 

そこには先客がいた。

 

 

 

 

 

 

「あら、提督も涼みにきたのかしら?」

 

 

 

 

村雨だ。

 

 

 

 

「よっ」

 

 

 

 

軽く挨拶を交わし、俺は非常階段の手すりに

両腕を乗せて目の前に見える

田浦の街と海を見渡す。

 

 

 

 

 

「綺麗だな…」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

外海が見えるわけでは無いが、

田浦の夜景を見て率直な意見を言う。

 

 

 

 

「そうね、平和が一番ね…」

 

 

 

 

村雨も答える。

 

 

 

 

下を見れば警務隊員だろう、厳正な立直をする

隊員が見える。

 

 

 

 

「俺はさ、ぶっちゃけると怖いよ、戦いが」

 

 

 

 

弱気な内を村雨に告げる。

 

 

 

 

「指揮官じゃないけど、上官がこんな事を

言うのはいけない事だと思う。

でもそれを隠して仲間に『恐れず戦え』なんて

言えないし、そんな上官になりたく無い」

 

 

 

 

「提督…」

 

 

 

 

「俺みたいなのより、実際に戦う村雨たちの方が

怖いって事は十分にわかるさ。

 

 

そうだろ?

相手と直に戦うのは戦闘艦たる艦娘の役目だ。

航空機とは違う、間近で敵を見て戦わなきゃ

いけないからな」

 

 

 

 

「私もね、実はすごく怖いよ。

昔沈められたのをたまに夢に見るもの。

 

 

仲間が沈めらて、最後の私に敵が攻撃してくる。

いつも同じ夢、でもなぜか見てしまうの…」

 

 

 

 

村雨は俺の腕を細い両手で弱々しく握る。

 

 

 

 

そんな村雨を俺は優しく撫でる。

 

 

 

「忘れたい事はみんなあるさ。

でも忘れちゃいけないことだって沢山ある」

 

 

 

 

「忘れちゃ、いけない事…?」

 

 

 

 

「うん、それは仲間の最期。

辛くてもその光景を目に焼き付けるんだ。

 

 

あの娘は最期まで諦めずに戦い、

決して挫けずに奮戦したって事をだ。

 

 

人やフネがいつ『死んだ』とみなされると

思う?」

 

 

 

 

「う〜ん、敵に倒された時?」

 

 

 

 

「惜しいね。

俺はその後。倒されてその記憶を人々が

忘れてしまう瞬間だと思うんだ」

 

 

 

 

例え兵士や軍艦が倒されても、ある程度

その記録というのは残る。

 

 

 

年月が経ち、その記録が消え去り人々が

忘れてしまう時その存在は『死んで』しまう。

 

 

 

 

「だから大切な人のことを絶対に

忘れてはいけないんだ。

忘れることは自分がその人を、この世から

殺してしまうのと変わらないんだ…」

 

 

 

 

「村雨忘れない!沈んでいったみんなを

絶対忘れないようにするわ!」

 

 

 

 

「よしよし、いい娘だ…」

 

 

 

少し強めに頭を撫でてやる。

 

 

 

「んふふ〜♪」

 

 

 

村雨が心地良さそうな声を上げる。

 

 

 

 

俺も大切なものができたようだ…。

 

 

 

「明日から忙しくなる。

今日以上にスケジュールも過密になるだろうし、

他の艦娘も増えてくると思う。

 

 

これだけは約束するよ。

俺は村雨を見捨てない。

 

 

一生、この命を賭けて村雨を守る。

どこにいても、すぐに駆けつける。

 

 

例え離れていても、俺たちは一緒だ。

 

 

ほら指切りしようぜ」

 

 

 

 

俺は中世の騎士の様に片膝をつき、

右手の薬指を差し出す。

 

 

 

「う、うん…!!」

 

 

 

村雨の差し出す震える小指を捕まえ、

指切りげんまんをする。

 

 

 

「指切りげんまん、嘘ついたら

酸素魚雷千発の〜ます!」

 

 

 

「えっ!酸素魚雷千発ぅ?!」

 

 

 

「ふふっ、指切った、っと!!」

 

 

 

 

うわっ、村雨、なんて恐ろしい娘!

 

 

 

 

「私提督のお嫁さんになるんだから、

ちゃんと守ってよね!」

 

 

 

えっ、まさかの逆告白?

 

 

 

だが村雨の笑顔を見てると、

やましい考えは浮かんで来ない。

 

 

 

 

「もちろんさぁ!俺がしっかり

守ってやるから、心配するなって!」

 

 

 

「提督大好きー!」

 

 

 

村雨が俺に抱きついてくる。

 

 

 

だが不思議と変な考えは浮かんでこない。

 

 

 

 

俺も普段艦娘にセクハラしてるけど、

今ばかりは素直に村雨を受け入れたい。

 

 

 

 

「さあ、もう遅いから今日は寝ようか」

 

 

 

村雨のハグは名残惜しいが、優しく

村雨から離れる。

 

 

 

「う、うん…そだね」

 

 

 

 

村雨も大人しく引いてくれる。

 

 

 

「俺は先に寝るけど、カゼひくなよー」

 

 

 

後ろ向きに手を上げ、ドアを開け中に入って行く。

 

 

 

バタン

 

 

 

 

「…やっぱり提督本気にしてないみたい、

はぁ〜…、乙女って複雑…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出会って数日の男女。

 

 

 

 

 

 

 

戦争という真っ只中で芽生える戦乙女の純愛。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな戦乙女を夜空の星々は応援するかの様に、

力強く光っていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




恋愛モード入りましたが、かなりのハイペース。
1護隊以外の横須賀の艦娘を出しましたが、
かなりの飛ばしに自分でも落胆…。


次回こそは、次回こそはもっとまったりと
各艦娘とのトークをしていきます!






物語は数日しか経っていませんが、
ついに逆告白が早くも出ました。


でも肝心な時に鈍い主人公、
あまり本気にはしていない様子。


普段は積極的セクハラをする癖に…。



なんだか村雨がヤンデレになりそうな
感じに思えたので、ここで否定しておきます。


村雨は天使、古事記にも書いてあります(嘘)。




もっと戦闘シーンを書きたいです!

皆さんの力をお貸しくださいませ。




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0-10 市ヶ谷での騒乱 【海幕】

久々の更新です。
間が空き過ぎて、読者の方に
忘れられていないかと
すごく心配です…。



投稿日は16日の夜になっていますが、
携帯の修理前に『予約投稿』して
作品をアップロードしようとし、
なぜか即投稿されてしまい
こうして校正した次第です。




さてやってきました海幕!


ここは海自のトップ。
横須賀から市ヶ谷に一旦舞台は移る。


海幕長以下の海自制服組トップと
面会を果たした主人公たち。



だが、敵は深海棲艦だけでは
無いことを実感するのであった…。






「…んむ?もう0540か…」

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日の騒動が嘘のような快適な目覚めだ。

 

 

 

 

 

艦娘たちとその船体、帝国海軍の

駆逐艦から戦艦までが日本各地の

海自の基地そして洋上の護衛艦等の

そばに出現し、大騒動になった

昨日の夕方。

 

 

 

 

 

 

 

横須賀周辺の艦娘と俺たちはこれから

東京の市ヶ谷の防衛省に

呼ばれる事になる。

 

 

 

 

 

 

 

朝食後、警務隊長から本日の行動予定が

示達され、マイクロバスで防衛省に向かい事情聴取を受ける。

 

 

 

 

 

 

 

なお『加賀』さんに関しては、

『かが』が洋上試験中だったため、

横須賀に入港次第、別便にて

市ヶ谷に向かうとの事だ。

 

 

 

 

 

 

 

…早く『加賀』さんにも会いたいな。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

市ヶ谷に向かうバス内

 

 

 

 

 

「「「朝の光眩しくて

…weighancor!!♪」」」

 

 

 

 

 

 

(で、なんでバスの中に

カラオケセットがあんだよ…)

 

 

 

 

 

バスの通路を挟んで左に一人座る

警務隊長にそっと聞いてみる。

 

 

 

 

 

「…なんでマイクロバスに

カラオケセットがあるんですか?」

 

 

 

 

 

「それはだな、私が要望して用意させた」

 

 

 

 

 

何故か自信満々の笑みを

浮かべるマサヨシさん。

 

 

 

 

 

 

「めっちゃうるさいんですけど…」

 

 

 

 

「菊池士長、彼女らが楽しく

歌っているのに水を差すつもりか?」

 

 

 

 

 

「…もういいです、ハイ」

 

 

 

 

 

バスに乗りいきなりカラオケセットが

あるものだから、艦娘がカラオケしたいと

言い出してこうなった。

 

 

 

 

 

歌はとても上手だと思うが、

音量がかなりうるさい。

 

 

 

 

 

耳に響くし、音量を下げるよう

頼むべきか?

 

 

 

 

 

 

「あ、次コレ歌おうよー!」

 

 

 

「いいね、照月もそれにする!」

 

 

 

「音量マックスでお願いしまーす!」

 

 

 

 

「了解した」

 

 

 

警務隊長がちゃっかり音量を最大にした。

 

 

 

(なんだろう、すごい嫌な予感がする…)

 

 

 

 

 

曲名は???と表示され、他の人には

わからないようになっている。

 

 

 

 

 

今演奏されていた曲が終わり、

一瞬車内が静かになる。

 

 

 

 

 

 

パッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『加賀岬』

 

 

 

 

 

 

デデン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待てぇーーい!!」

 

 

 

 

 

「何?提督も歌いたいの、はいマイク!」

 

 

 

 

「お、村雨サンキューでは俺も…

って違うわ!!

音がうるさすぎるだろ!」

 

 

 

 

「「「えー…」」」

 

 

 

 

歌おうとしていた艦娘から

ブーイングが上がる。

 

 

 

 

 

 

「えーじゃないだろ、

少しボリュームを下げなさーい!」

 

 

 

 

「ぶー、提督がそこまで言うなら

下げてあげるわ」

 

 

 

 

村雨が渋々ボリュームを下げ、

リスタートを押す。

 

 

 

 

 

…よし、これぐらいならいいだろう。

 

 

 

 

 

強烈な加賀岬は、心地の良い音になり

気分も安らかになる。

 

 

 

 

 

(そうそうこれぐらいがいいよな〜)

 

 

 

 

 

 

 

「司令、一緒にデュエットしませんか?」

 

 

 

 

前に座っていた霧島が誘ってきた。

 

 

 

 

 

「ありがたいけど

俺そんなに歌わないしなぁ…」

 

 

 

 

そこまで歌も知らないし、

あまりカラオケにも

行かないためどうしようか悩むな。

 

 

 

 

それに女子とデュエットなんて

高校以来したこと無いし。

 

 

 

 

 

 

 

「…もしかして、私と歌うのが

お嫌いですか?」

 

 

 

 

 

少し上目遣いでこちらを見つめる霧島。

 

 

 

 

 

 

(グハッ!!

その上目遣いは反則やでぇ…)

 

 

 

 

 

 

クールで委員長キャラの霧島が

そんなことしたら、惚れてまうやろー!

 

 

 

 

 

…やべぇ、鼻血で出血多量で

死に至る自信があるぞ、

死なないけど…。

 

 

 

 

「嫌いなわけ無いだろ、

ただ俺自信無いからさ。

うまく歌えるかわからなくて…」

 

 

 

 

「カラオケとは楽しく歌うもの

ですよ、司令。

どの曲にしましょうか」

 

 

 

「うーむ、そう言われてもなぁ…」

 

 

 

 

 

「フッ、それならとびっきりのを

入れてやろう」

 

 

 

 

…またアンタか、横から

しゃしゃり出て来やがってー。

 

 

 

 

 

予約リストの最後に???の曲が

入れられる、何の曲やねん。

 

 

 

 

「次は私のソロですので、

少しお待ちくださいね」

 

 

 

 

 

「もちろんさ!

霧島と一緒に歌えるなら喜んで待つさ!」

 

 

 

 

 

 

(昨日会ってからあまり時間は経って

いないけれど、私の想像以上に

心が広いお方のようね。

 

 

…少し格好良いし、この方の下で

戦いたいわね!)

 

 

 

 

 

 

待ちます、全力で待ちます。

霧島さんと歌えるなら全裸でも待ちます。

 

 

 

 

何とか言いつつ、楽しんでいる。

 

 

 

 

 

おや、霧島の曲は『提督との絆』。

 

 

たしか金剛4姉妹の提督への思いを

歌った曲のはず。

 

 

 

 

俺も艦娘に慕われたいなぁ…。

モテモテのウッハウハな提督に

なりてーぜ!!

 

 

 

 

 

 

「俺もみんなにモテたいなぁ…(ぼそ)」

 

 

 

 

「……にぶちん(ぼそっ)」

 

 

 

 

「え?照月なんか言った?」

 

 

 

 

「ううん、照月何も

言ってないよー(棒)」

 

 

 

 

「そ、そうか…?」

 

 

 

 

 

なんか隣の照月が呟いたような?

そんなキャラじゃ無いし、空耳かも。

 

 

 

 

そう言えば霧島を始めとした

金剛4姉妹の声優って誰だったかな…?

 

 

 

 

 

 

…この話題には触れないほうが

いい気がする。

 

 

 

 

 

 

次は高波の番だ。

 

 

少しおとなしいイメージの彼女だが、

歌に関しては別人の様だ。

 

 

 

 

 

(村雨が言ってたけど艦娘って

以外と歌知ってるんだな。

俺が知らない曲や艦これの曲とか。

 

 

それも恋愛絡みの曲ばっかり!

 

 

テレビでM○テとか見てるんかね?

 

 

 

これが俺への愛だったら

めっさ嬉しいんだけどねぇ〜…)

 

 

 

相変わらず肝心なところは鈍い。

 

 

 

(この人ならきっと頼りに

なるかも、です…。

 

 

優しいし一緒にいたら

楽しいかも、です)

 

 

 

 

 

 

照月の曲は『きみの音色』。

 

 

 

「きみのそばにいたい

願いを叶えて〜♩」

 

 

 

 

(照月は海軍時代は『秋月』とほとんど

一緒に居られなかったって聞くし、

秋月との姉妹愛が感じられるなぁ)

 

 

 

 

 

(秋月姉ともずっと一緒に居たいけど、

提督のそばにもいたいな、

結構イケメンだし…。

 

 

結構鈍感だけどこの提督となら有り!

…ですね、うん!)

 

 

 

 

 

 

 

みんな上手いなぁ…。

 

 

何故が恋愛の曲ばっかりな気がするが、

女子だからかねぇ?

 

 

 

 

誰か俺への愛を

歌ってくれねぇかなぁ!!

 

 

 

 

 

(会ってすぐの男に一目惚れなんて、

あるわけないか…。

 

 

でも何となく認めてもらっている

ような気がするな)

 

 

 

 

真面目な話、艦娘たちの

俺や村上といった人間を

見る目は悪くないと感じる。

 

 

まだ一緒に居る時間は短いし、

戦ったりしていないが、

彼女らの目を見ればある程度の

信頼は持ってくれているようだ。

 

 

 

 

 

だってホラ、隣の照月なんて

俺にぴったりくっついてきているし…

 

 

 

 

 

 

 

ん?ぴったり…?

 

 

 

 

 

 

もにゅっ!

 

 

 

 

 

 

…あれ?

なんか右腕に質量と弾力性のあるモノが

当たっているんですが?

 

 

 

 

「照月サン、

近過ぎやしませんかねぇ…?」

 

 

 

 

 

「そうかなぁ、提督は照月の事嫌い?」

 

 

 

 

「いやいやいや!!

大好きです堪らないです、

じゃなくってけしからん!

でもなくって違うだろ!

 

 

嫌いとかそういうのじゃなくて、

密着し過ぎだから、少しだけ

離れてくれないかな?」

 

 

 

 

 

 

「えー、照月このままがいい〜!」

 

 

 

 

(えー、俺だってこのままがいいけど

流石に理性が保てねーよ!

 

 

しかしだ、ここで我慢できれば

信頼を勝ち取ることができるのでは

ないだろうか?!←意味不明

 

 

ここは敢えて意識せずに、

この身を委ねてみるとしよう!)

 

 

 

 

 

 

「参ったな。わーった!

照月がそうしたいならいいぞ。

存分に俺を頼ってくれ給え!」

 

 

 

 

 

 

「提督やっさしぃー!!」

 

 

 

 

照月も俺を頼ってくれているみたいだし、

その心を受け入れてあげないとな。

 

 

いかんいかん、劣情ばかりで

自分が情けない。

 

 

 

 

 

…にしてもなんだ右腕に当たっている

この高度の柔軟性を維持しつつ

臨機応変に腕に当たっている

けしからんモノは?!

 

 

 

 

柔らかく、適度や弾力のあるマシュマロ

クッションという表現しか浮かばない。

 

 

 

 

村雨の時と全くの異次元の感覚、

即ちここが天界であるというのか!

 

 

 

 

こ、これが駆逐艦だというのか?!

 

 

 

 

い、いかんいかん!

照月とは「まだ」恋人でもないし、

ケッコンもしてないんだ。

い、いやらしい事を考えてはいかんぞ!

 

 

 

 

 

頭の中でミッドウェーさながらの

劣情の大海空戦を繰り広げていると、

目の前の霧島が、座席の横から

凄い目でこちらを見ていた!!

 

 

 

 

 

まるで昼ドラの姑が「この泥棒猫…!」

と言わんばかりの迫力で。

 

 

 

 

「あら照月、

貴女何をしているのかしらぁ?」

 

 

 

霧島さん、目が笑ってないです…

半目で迫力がぱねぇ…。

 

 

でもこれはこれでありかも

…いやねーよ。

 

 

 

 

 

「あらあら霧島さん、艦隊の頭脳と

自負する割には目が怖いですよ〜?

イージス艦になって頭も

『キレ』者ですねぇ…?」

 

 

 

 

 

「へぇ〜、防空駆逐艦だけあって

口だけは達者なようね、

『また』夜間に艦尾に衝突されても

知らないわよ〜?」

 

 

 

 

「そっ、それは前の護衛艦の時だもん!

あれは貨物船が突っ込んできて、

照月は悪くないもん!」

 

 

 

 

あ〜あ〜、霧島と照月の言い争いが

始まってしまった…。

 

 

 

俺にくっつく照月を霧島が窘めようとして舌戦が繰り広げられた。

 

 

 

 

(霧島が照月に嫉妬ってわけじゃ、

無いよな…?)←実は正解

 

 

 

 

「まあまあ二人ともその辺で。

霧島も照月を叱ってくれるのは

いい事だけど俺は気にしていないよ。

 

 

でも心配してくれてありがとう、

君のような気配りができる娘(こ)

がいるなら俺もやっていけそうだよ」

 

 

 

 

 

 

霧島の頭なでなで。

サラサラで気持ち良いなぁ〜。

 

 

 

 

「そ、そんな気配りなんてっ…!

それにありがとうだなんて…!!」

 

 

 

霧島も言い過ぎたと思ったのか、

恥じらいだろうか、顔をやや赤く

染めている。

 

 

 

 

「照月も霧島に言い過ぎない事。

 

 

照月には悪口は似合わないよ、

ずっと心優しい照月でいてほしい。

 

 

これからも霧島の事もそうだし、

俺の事もよろしく頼むぞ!」

 

 

 

 

右手は照月に抱きつかれたままなので、

頭同士を軽くコツンとしてやる。

 

 

 

 

「うぅ…、そんな、

よろしくだなんてぇ…!」

 

 

 

 

照月も自分の行動を恥じたのか、

頬を赤らめ俺の腕に顔を埋める。

 

 

 

 

「二人とも反省しているようだし、

これで一件落着だな」

 

 

 

 

 

 

ほっと一息つくと、警務隊長が

「…菊池士長、君は人から鈍いと

言われる事はあるかね?」

 

 

 

 

「いや言ってる意味が

わかんないんですけど」

 

 

 

「…罪深い存在だな」

 

 

 

「はぁ…?」

 

 

 

 

 

 

 

艦娘「「「…にぶちん(ぼそっ)」」」

 

 

 

 

「えっ、みんななんか言ったか?!」

 

 

 

 

ふるふるふる。

 

 

 

 

 

動きをシンクロさせて首を振る艦娘たち。

 

 

 

(鈍いってなんのこっちゃ?)

 

 

 

一人頭をひねっていると、

霧島とのデュエット曲が回ってきた。

 

 

 

 

 

 

警務隊長のニヒルな笑みが不安を生む。

 

 

 

(かな〜り嫌な予感…)

 

 

 

 

 

 

 

 

ぱっ

 

 

 

 

『3年目の浮気』

 

 

 

(浮気ってなんやねん!

俺が浮気者みてーじゃねーか!)

 

 

 

…やばい、車内の空気が、冷た過ぎる。

 

 

 

照月の腕に抱きつく力が強くなる。

抱きつくというより、

締め付けになっているんだが…?

 

 

や、やべえよやべえよ…。

 

 

 

後ろからはプレッシャー。

なんなのだこのプレッシャーは!

 

 

 

 

ニュータイプにでもなったのか、

後方からの危ない気配を察知できるぞ…。

 

 

 

 

だからと言って歌わない訳にはいかず、

俺はカチコチに歌い始める。

 

 

 

 

 

 

「…提督ぅ〜、楽しそうねぇ〜…?」

 

 

 

「司令官、春ですねぇ…?

乙女の敵発見かも!突撃します!」

 

 

 

「なに?提督、女タラシな訳?」

 

 

 

「…千代田艦載機、敵艦発見です!」

 

 

 

「提督ぅ…?

さあ、始めちゃいましょう?」

 

 

 

 

村雨、高波、飛鷹、千代田、照月の順で

罵声と怒りのオーラの籠った

開戦ボイスが飛んでくる。

 

 

 

 

…あれ、雷は?

 

 

 

だがそんな疑問はすぐに消えていった。

 

 

 

 

 

腕は照月にロックされ身動きが取れず、

通路側には艦娘たちが仁王立ちしており、引くに引けない。

 

 

 

 

…譲ってもくれなさそう、これ死ぬわ。

 

 

 

(あ艦これ、ってのは

こういう時に言うんだな…)

 

 

 

 

嗚呼、轟沈するときの艦娘の

気持ちがわかる気がする。

 

 

 

 

 

「提督の馬鹿〜!!」

 

 

 

 

バチーン!!

 

 

 

「うぎゃっ?!」

 

 

 

 

あっ、頬に誰かのビンタが…意識が…

 

 

 

 

 

 

 

薄れ行く意識の中で、

ビンタの音だけが響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霧島が残りを一人で歌い終わった頃、

俺はバスの一番後ろの座席で

燃え尽きていた。

 

 

 

 

頬を真っ赤に膨らませて

何重にもなった紅葉が激戦を物語る。

 

 

 

(俺が何をしたって言うんだよ〜…)

 

 

 

ただ『浮気がテーマの歌』を

歌っただけじゃないか…。

 

 

 

 

 

 

あっそうか、浮気とか最低な曲を歌って

気分を害してしまったのか!!

↑大ハズレ

 

 

 

なんだぁ、みんな歪んだことは

嫌いなんだ。

筋が通ってるいい娘たちだなぁ。

↑意味不明

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな俺に雷が

 

 

 

「司令官元気ないわねー、

そんなんじゃ駄目よぉ!」

 

 

 

力ある声を掛けてくれたのは、雷だった!

 

 

 

「雷は、俺を嫌いになって無い?」

 

 

 

「私が司令官を嫌いになる訳

無いじゃない!

司令官には私がいるじゃない!」

 

 

 

おお、天使や!

やっぱり雷は大天使だったんや!!

 

 

 

「あ〝り〝か〝う〝!!

い〝か〝つ〝ち〝ぃ〝ー!!」

 

 

 

雷が俺を優しく抱きしめてくれる。

 

 

 

雷は俺の母になってくれるかも

しれない女性だ!

 

 

 

 

 

 

どこかの赤い大佐が言ってた通り、

雷は母性にあふれた娘だよぉ〜!

俺めっちゃ嬉しいよぉ〜!

 

 

 

 

「そうそう。もーっと私に

頼っていいのよ!!」

 

 

 

 

雷が頭を撫でてくれる。

もうロリコンでもなんでもいいや!

 

 

 

 

 

愛は地球を救う、これが真理なのだ!

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

…だがそのとき、

俺だけは気が付かなかった。

 

 

 

 

(((雷…恐ろしい娘っ…‼︎)))

 

 

 

艦娘たちが雷の顔を凝視する。

 

 

 

雷の顔は微笑んでいるが、目は薄目。

 

 

後の村雨の話によれば一言で表すなら、『ブラックサンダー』。

 

 

 

雷のあまりの迫力に、

艦娘たちも近づけなかったという…。

 

 

 

 

雷「ちょっと、司令官!

これじゃまるで

私がヤンデレみたいじゃない?!」

 

 

 

 

 

俺「…ご安心下さい。

ヤンデレ系の重い恋愛には

発展しないのでご安心を」

 

 

 

 

雷「誰に言ってるのかしら…?」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「ふぃ〜、着いたか…」

 

 

 

 

「ああ、自衛官になってから

初めて来たな」

 

 

 

 

バスから降りた俺たちは、

目の前にある防衛省庁舎A棟を仰ぎ見る。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

ここには海上幕僚監部があり、

これから俺たちが査問を受ける場所だ。

 

 

 

 

 

 

ガキの頃は見学ツアーとかで

たまに遊びに来たが、入隊してから

こんなところに来る気にもならなかったが

運悪く(?)来てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

(しかも目的が査問とは名ばかりの

取り調べ…、鬱だぜ)

 

 

 

 

 

 

「では諸君、私はここでお別れだ」

 

 

 

警務隊長は俺たちを市ヶ谷まで

送り届けるのが任務、ここからは

東京警務隊や中央の管轄になる。

 

 

 

 

 

「警務隊長ありがとうございました。

次はいつ会えるんですか?」

 

 

 

「私にもそれはわからないな。

言えるのは、君が全部正直に話して

〝言いたい事をハッキリ言う〝ことで

物事が早く進むだろうということだ」

 

 

 

「は、はぁ〜…」

 

 

 

相変わらず何を言いたいのか

よくわからん人だ。

 

 

 

 

「警務隊長さんありがと〜!」

 

 

 

「村雨ちゃんもまた今度だ」

 

 

 

警務隊長が歯を出して笑っている。

こう見るといい親父にしか

見えないんだかなぁ…。

 

 

 

 

 

「…菊池士長、少しいいか?」

 

 

 

警務隊長が俺に耳打ちしてくる。

 

 

 

「正門に6人、それぞれ違う国の人間だ」

 

 

 

 

 

 

「新宿区に入ってから27人と車両6台、

アメリカを含めると34人と8台だ」

 

 

 

 

「えっと、スパイがってことですか?」

 

 

 

「他にどんな話題がある?

今のところは危害を加えたり、

拉致などはせんだろうが、

用心しておけよ」

 

 

 

 

 

警務隊長の顔が公安のカオになる。

 

 

 

「敵は深海棲艦とやらだけとは限らん。

日本は既にパワーバランスを

崩してしまっている、

それだけは忘れるな」

 

 

 

それだけ言うとバスに

さっさと戻っていった。

 

 

 

 

「菊池、警務隊長は何と言っていた?」

 

 

 

今日あまり話さなかった村上が

問いかける。

 

 

 

「スパイに気をつけろってさ、

この周りもウヨウヨいるみてーだ」

 

 

 

あたりの高層ビルを見渡すと、

どれも怪しく見える。

 

 

 

 

防衛省を掘りを挟んだ市谷駅前のビルからスナイパーに狙われているような

感覚になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

「提督〜、村上さ〜ん!

早く中に来いってさ〜!」

 

 

 

 

「ああ、いま行くー!」

 

 

 

俺たちを呼ぶ声に応え、

庁舎内へと足を進める。

 

 

 

 

足を進めねばらという義務感と、

行きたくない生存本能が頭を

グルグルしながら

指定された会議室へと向かう。

 

 

 

 

(さて、どうなることやら…)

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

海幕エリア 某会議室 時刻不明

 

 

 

 

「おっ、このチョコ美味いな」

 

 

 

「ペットのお茶は合わないけどねー!」

 

 

 

 

会議室に入って早々、村雨と照月が

茶菓子に食いついた。

 

 

俺は窘めたんだが、あまりに美味しそうに食べるからどんなもんかと俺も

食べたら意外と美味かった。

 

 

 

 

 

室内には係の隊員以外居らず、

しばし待つようにと指示を受けて

只今待機中(ティータイム)である。

 

 

 

 

 

 

 

にしても海幕もいい気遣いだ、

取り調べをする人間(プラス艦娘)に

菓子を出すなんて。

 

 

 

まるで…

 

 

 

 

「警察の取り調べで出てくる

カツ丼ってところか」

 

 

 

「おお、それそれ。

お前俺の考えてる事わかった?」

 

 

 

「菊池は単純だからな、大体わかる」

 

 

 

「失礼なやっちゃな、シンプルイズベストって言うだろう」

 

 

 

「そうは言うが、

厄介な査問になりそうだぞ」

 

 

 

 

 

 

 

村上が見る方向には、やや険しい顔の

佐官クラスの人たちがぞろぞろ。

 

 

 

 

(新戦力を歓迎、って訳じゃ無さそうだ)

 

 

 

 

 

 

 

左胸に知らない防衛記念章を沢山付けた

お偉いサンたちが腰掛けてすぐに

 

 

「海上幕僚長入られます!」

 

 

 

の声で全員立ち上がり、

海幕長を出迎える。

 

 

 

 

「…横須賀から朝早くからご苦労、

座ってくれ」

 

 

 

海幕長の言葉に一同椅子に腰掛ける。

 

 

 

「さて横監からの報告書は

読ませてもらった。

 

さて、艦娘諸君はこれから

日本国海上自衛隊の海上兵力として

組み込まれる事になるが、

問題ないかな?」

 

 

 

皆黙って頷く。

 

 

 

 

 

「よろしい、では護衛艦『むらさめ』の

菊池士長と村上士長。

確認になるが報告とこちらからの質問に

答えてもらいたい…」

 

 

 

 

 

 

 

ここからはトントン拍子に話が進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

海幕長や他の幕僚を前に

緊張で噛みかみではあったが、

質問に答えていった。

 

 

 

「…結論から言わせてもらうと

君たちには何の処罰も無い。

 

 

 

 

強いて言うなら山本1佐の

越権行為の確認だな。

 

 

 

護衛隊司令の山本1佐の権限で2人に

作戦に携わらせ、立案の補助。

 

 

これは一護衛艦乗員の職務の範疇を

超えているが、専門に長けた隊員を

抜擢したまでの事。

 

 

次に戦闘部署からの乗員の引き抜き。

 

 

これも緊急時の措置、

しかも君たち二人はノーマーク。

 

 

 

通信員、ET員としての役割も

知れているし、差し支えは無いだろう。

 

 

減給も訓戒も無いし、

そこは安心してもらいたい」

 

 

 

 

 

((た、助かった〜…!))

 

 

 

 

横須賀の南雲総監が入っていた通り、

悪いようにはされないようだ。

 

 

 

 

ふぃ〜、一安心ひとあんしん。

 

 

 

 

 

 

俺と村上が安堵していると、

技術担当の幕僚が突如

爆弾発言をしやがった。

 

 

 

 

「おい、そこの娘(むすめ)たちを

別室に連れて行け」

 

 

 

「了解」

 

 

 

 

脇に控えていた警務隊員か何かだろう、

各艦娘に2人ずつ寄り添って

外に連れて行こうとする。

 

 

 

 

「ちょっと待ってください!

なんで彼女たちを連れ出す必要が

あるんですか?!」

 

 

 

「当然だろう?

艦船の魂だか何か知らないが、

今現在は人間扱いしたとしても不審者だ。

 

 

仮に魂の実体化と言うのなら

詳しい調査が必要だし、軍艦を操る能力があるのであれば兵器の媒体として研究、

あるいは人型兵器の研究にも

『使える』かもしれないからな。

 

 

…まぁ人型兵器なんぞ我が自衛隊は

マトモに研究せんがな!」

 

 

 

 

軽いジョークを言ったつもりなのだろう、幕僚の言葉に笑い声が上がる。

 

 

 

 

 

……カチン

 

 

 

 

(ああ?!艦娘が兵器だぁ?!

殺されてぇかこの野郎ッ!!)

 

 

 

 

 

「……おい、取り消せ」

 

 

 

 

「ハッハッハ…ん、何か言ったか?」

 

 

 

「今言った言葉、全部。即刻取り消せ」

 

 

 

「なんだその口の利き方はッ!

おまえは上官に対する態度が

なっていないぞ!!」

 

 

 

 

 

…あー、限界だわ。

 

 

 

ちらと横に座る村上を盗みみれば、

顔には出さないものの怒りのオーラが

滲み出ている。

 

 

 

 

お互い、次に何か言われたら手が出るな。

 

 

 

 

 

 

『提督』になるって夢もここで終わりか。

 

 

 

 

…だが今の言葉だけは絶対許せない。

 

 

 

 

「彼女たち艦娘が兵器って

さっきおっしゃってたけどよ、

それを取り消せって言ってんですよ」

 

 

 

 

冷静に言葉を発しようとするが、

無理だ、口が言う事を聞きそうに無い。

 

 

 

 

 

「おまえはバカか?

軍艦を操る能力があるヤツを

人間と思う奴がどこにいる?

 

 

 

女の姿をしていてもそれは軍隊では

兵器とみなされるんだ!

 

 

姿こそ人間でも、実態は

ただのバケモノに過ぎん、

見た目に騙されるな

たかが海士長の癖にッ!」

 

 

 

 

 

「ンだとこの糞ジジィー!!」

 

 

「そんな言い方があるかぁー!」

 

 

むかつく幕僚を殴り殺そうと、

俺と村上は机を踏み越え近づこうとする。

 

 

 

 

 

「けっ、警務隊!

そいつらを取り押さえろっ!」

 

 

 

 

 

すぐさま警務隊員が走り寄り、

俺たちを取り囲み拘束しようとした。

 

 

 

 

 

「離せッ!!あんにゃろ、

そのツラぶん殴ってやる!!」

 

 

「そうだっ!あんなやつ

幕僚の風上にも置けんっ!!」

 

 

 

 

だが所詮勢いだけの若造、

ベテランの警務隊員によって

捕まってしまった。

 

 

 

「邪魔なんだよオメーら!

俺の大切な艦娘を貶されて

だまってられっか!」

 

 

 

「離せぇー!許さんぞッ!」

 

 

 

 

ぐぅ、こいつら鎮圧方に慣れていやがる。

 

 

 

 

 

 

 

「あんたたち提督たちを

離しなさいよッ!」

 

 

 

「司令に手は出させません!」

 

 

 

「司令官に乱暴するなら

許さないかも、ですっ!」

 

 

 

「司令官、いま助けるわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちを助けようと村雨たちが

警務隊員に、ぽかぽかと

ささやかな抵抗をする。

 

 

 

「なんだこいつら!

ええーい、貴様ら動くなっ!

これが見えんのかッ!!」

 

 

 

警務隊員の1人が腰から拳銃を取り出し、

艦娘に向け威嚇する。

 

 

 

「くぅっ!」

 

 

 

「お前ら止めろッ!

俺たちは大丈夫だから!」

 

 

 

あの糞幕僚をこの手でブン殴りたいが、

村雨たちに危害が及んだら本末転倒だ。

 

 

 

 

 

悔しいがここは無抵抗しかない。

 

 

 

 

会議室が緊張感のある沈黙に満たされる。

 

 

 

 

 

 

 

………。

 

 

 

 

 

 

 

ババババババ……。

 

 

 

 

 

 

 

バタバタバタと、屋上だろうか

ヘリが近づく音が響く。

 

 

 

 

「抵抗しないから艦娘に危害を加えるな、頼む!!」

 

 

 

 

「貴様ら下がれ、ゆっくりだ!」

 

 

 

 

 

悔しそうに歯を食いしばりながら、

じわじわと後ずさる村雨たち。

 

 

 

 

 

(くそっ、どうしてこうなったんだ!

全部あの糞幕僚の所為なのにっ!!)

 

 

 

 

 

事態の急な変化にやっと追い付いたのか、糞幕僚が慌てて命令を出す。

 

 

 

 

「警務隊っ、

まずはそいつらを逮捕しろっ!!」

 

 

 

 

何の権限があるのか知らねーが、

警務隊員に俺たちの逮捕を

命令する糞幕僚。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

((アイツっ!殺すっ!))

 

 

 

 

 

俺たちはキッと睨みつけ、

糞幕僚がビビるが、それまで。

 

 

 

 

 

手空きの警務隊員が俺たちに

手錠をはめようと、腰に手を伸ばす。

 

 

 

 

パチン、カチャッ。

 

 

 

 

 

手錠を出した警務隊員が

俺たちの腕に手錠を当てる。

 

 

 

 

金属独特の冷たさが手首に

ぴとっと伝わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

(最早これまでなのか…!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警務隊員が力を入れ手錠を

掛けようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バタン!

 

 

 

 

 

 

会議室の扉が唐突に開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その必要は有りません。」

 

 

 

 

 

 

 

 

物静かなトーンの女性の声が

会議室に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




またどこかで見た流れの
新キャラ登場シーン。


ヒントは台詞の喋り方(書き方)です。
「……。」と、マルを付ける様な喋り方を
する人は誰なのしょうか…?


ヒントは作中に散りばめられています。
答えは前半にあるかも…?


もう少しだけ市ヶ谷(中央)編を
書きましたら、戦闘シーンですので
気長にお待ちくださいませ。


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0-11 集合、横須賀組! 【海幕】

一ヶ月以上空けてしまいました…。
許してくださいませ。


さて絶体絶命に追い込まれた主人公たち。

そこに現れた謎の女性?
このパターンばかりな気もしますが、
そこは王道なのですよ…。



とある魔法少女風になった気がします。







 

 

 

 

バタン!

 

 

 

 

 

 

会議室の扉が唐突に開く。

 

 

 

 

 

 

「その必要は有りません。」

 

 

 

 

 

 

物静かなトーンの女性の声が

会議室に響き渡った。

 

 

 

 

 

「なっ、なんだ一体ッ?!

お前は誰だっ、

どうやってここに入った?!」

 

 

 

 

 

「人に名前を聞くときはまず自分から

名乗るのが筋では無いでしょうか?

 

 

…まあいいです。

私は艤装中の護衛艦『かが』の艦娘、

正規空母『加賀』です。

 

 

 

 

洋上試験途中ですが、後ろの黒木2佐

に緊急に来て欲しいと連絡を受け、

『かが』に運用試験で艦載中だったHS(SH60のこと)で市ヶ谷まで

直接飛んで来ました。」

 

 

 

 

ドアの向こうを見れば、さっき別れた

はずの警務隊長がニヤリと笑っていた。

 

 

 

…その後ろに誰かいる様だが、

俺はすぐに加賀に視線を戻す。

 

 

 

 

「許可は取ってありますし、

いずれ来る予定が早まっただけ。

 

 

それで、この騒ぎは何なのかしら。

どなたか説明して欲しいのだけれど?」

 

 

 

 

事態を悪化させた張本人である糞幕僚が

悪びれた様子もなく話し始める。

 

 

 

 

「そこの菊池とかいう海士長の言葉遣いがなっとらんと指摘したら逆上したのだ。

 

 

 

この私を糞幕僚と罵倒し、挙句には

殴りかかってきたのだ!

 

 

だから警務隊に

拘束させようとしていたのだ!

 

 

それに私は幕僚などではない、

装備計画部長という立派な

職名があってだな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

(((よくそんなことが

言えるよなぁ…)))

 

 

 

 

 

 

 

 

自分に都合のいいことだけを並べて、

原因を俺に押し付けようとする

装備計画部長こと、糞幕僚。

 

 

 

 

 

なんとか部長だか何だか知らないが、

お前は糞幕僚で決定だ。

 

 

 

 

 

 

その白々しさに呆れそうになるが、

俺たちが危ない場面なのは変わらない。

 

 

 

 

「アンタの肩書はどうでもいいんだよ。

 

 

とにかく俺たちを自由にさせろ。

艦娘を〝連行〝するな、

でないと彼女たちも協力しないぞ?」

 

 

 

 

後ろの村雨たちも力強く頷く。

 

 

 

 

「…今聞き捨てならない単語が

聞こえたのだけれど、

どういうことかしら?」

 

 

 

 

「そっ、それはっ!

そいつの勝手な、戯言…!」

 

 

 

 

「…待ちたまえ装備計画部長。

先程からの君の言動を黙って見ていたが、もう我慢ならん」

 

 

 

 

 

先程から事態を黙って見ていた海幕長が

ドスの効いた低い声を発する。

 

 

 

 

 

 

「彼らがどう反応するかワザと君を

遊ばせておいたが度が過ぎるぞ!

 

 

 

仮にも人間の彼女らに『バケモノ』など

言語道断だ!

 

 

 

 

 

…ああ、警務隊の諸君、

彼らを放してあげなさい。

 

 

それと銃をしまって席を

外してもらっていいぞ」

 

 

 

 

バツが悪そうに部屋から退散する

警務隊員たち。

 

 

 

 

 

あれだ、水○黄門に出てくる

悪代官の手下って感じで。

 

 

 

 

 

村雨たちに銃を向けた時は

殺意しかわかなかったけど。

 

 

 

ま、糞幕僚のせいだから恨みはしないさ。

 

 

 

 

 

警務隊員が退出したところで

海幕長が話を続ける。

 

 

 

「あえて止めなかったが、

君には警務隊に命令する権限は

無いんだぞ?

 

 

警務隊は防衛大臣直轄であると、

候校(幹部候補生学校)で

習わなかったのかね?」

 

 

 

嘲笑しながら糞幕僚に問い掛ける海幕長、いいぞもっとやれ。

 

 

 

 

「あのっ!それはっ、ええと…」

 

 

 

 

しどろもどろになる糞幕僚。

 

 

 

 

「…まだ私の質問に答えてもらって

無いのだけれど?」

 

 

 

そこに加賀さんの一声が

カミナリの如く投げかけられる。

 

 

 

「ええっと、それはですね、

少し失言してしまいまして…」

 

 

 

 

加賀の凜とした口調と態度に

怖気付いたのか、糞幕僚の口調が

丁寧になり見ていてさっきの怒りも

萎えてしまった。

 

 

 

 

 

「失言…?しかも少し…?

 

 

言っている意味がわかりかねます。

 

 

はっきり言いなさい、私たち艦娘は

兵器でありバケモノとしか見ていない、

そう言いたいのね?」

 

 

 

 

「そそそんな、バケモノなんて…!」

 

 

 

 

「はっきり言ったではないか?

嘘はいかんなぁ装備計画部長、

男なら自分の発言に責任を

持ちたまえ?」

 

 

 

海幕長の皮肉発言で糞幕僚の顔から

血の気が引き、真っ白になる。

 

 

 

 

そんな糞幕僚にゆっくりと歩み寄る加賀。

 

 

 

 

 

 

「ひぃっ…!」

 

 

 

 

コツン、コツン

 

 

 

 

 

静かに、だが加賀の周りのオーラが

見えるぐらいに黒くなっている。

 

 

 

 

 

そのまま糞幕僚に近づく。

 

 

 

 

「あわわわわわ…わわわ」

 

 

 

席から立とうとしてその場に

子鹿のようにへたり込む糞幕僚。

 

 

 

 

「…頭にきました。」

 

 

 

糞幕僚を見下ろす形で喋る加賀。

 

 

 

 

 

 

 

バタン!

 

 

 

 

 

 

 

糞幕僚が白目を剥いて倒れ込む。

 

 

 

 

(…やりました。)←心でガッツポーズ

 

 

 

 

加賀のあまりの覇気に失神したようだ。

 

 

 

「…君たちすまなかった。

日頃から目に余る装備(計画)部長を

ここらで更迭しようと策略を

立てたのだがまさかここまでとは

私も正直思わなかったんだ。

 

 

 

さっき彼が言っていた研究や連行云々は前もって中止命令を出してあるから

心配しないでほしい。

 

 

艦娘の加賀だったね、私の芝居に

付き合ってもらってすまなかった」

 

 

 

「…別に構いません、ただこの人が

もっと言うようであれば流石に

理性が保てませんでした。」

 

 

 

怒り顔でニヤリと笑う加賀に

鳥肌が立つ室内の全員。

 

 

 

 

(((加賀さんを

怒らせてはいけない…)))

 

 

 

 

 

 

不意に加賀が俺に視線を向け、

思わずビクリとしてしまう。

 

 

 

(おおお落ち着けっ!

俺は悪いことはしてないんだぞっ?!)

 

 

 

明らかにビビりながら

加賀の視線に耐える俺。

 

 

 

(表情が読めないから、怖過ぎる!)

 

 

 

 

そんな俺に歩み寄る加賀。

 

 

 

(殺されないよね?!

俺死なないよねぇ〜?!?!)

 

 

 

目の前に来てじっと俺を見る加賀に、

ささやかに対抗しようとする。

 

 

 

 

「な、何か用かなっ?!」

 

 

 

思い切り声が裏返っているのは

聞き逃してほしい。

 

 

 

 

「はじめまして、航空母艦『加賀』です。

…貴方が菊池士長?」

 

 

 

「ああ、『むらさめ』通信の菊池だ。

よろしく頼むよ」

 

 

 

「…相手が上官であっても間違った事に

対してはっきり否と言える貴方の態度、

正直感心しました。

 

 

貴方のような人が上層部に多くいたら

これからの戦いに憂いは無いわ。」

 

 

 

 

「あ、ありがとう。俺も加賀さんの様な

強力な艦娘がいれば、この戦いに

勝てる気がするよ」

 

 

 

「心配いらないわ、

みんな優秀な子たちですから。」

 

 

 

 

少し加賀の表情が緩み、

俺も肩の力を抜く。

 

 

 

 

 

「…海幕長、本日はこの辺で

よろしいでしょうか?」

 

 

 

 

加賀がくるりと海幕長に振り返り尋ねる。

 

 

 

 

 

「ああ、今日は本当に申し訳ない。

この後と明日は休養日にしよう。

 

 

 

 

菊池士長も艦娘の娘(こ)たちと

ゆっくり話でもするといい。

 

 

まだ各所と調整中だが、君たちには

近日海上公試をしてもらうつもりだ。

 

 

 

 

 

まだ出会って日も浅いだろう、

君には日本を守る使命があるから

彼女らと信頼関係を築きたまえ。」

 

 

 

 

「はっ、ありがとうございます!」

 

 

 

「さて、今日の査問はこれにて終了する、なにか他にある者はいるか?」

 

 

 

 

出席者からは手は上がらず、

査問は解散になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「…ああ〜、終わるかと思ったぁ〜…」

 

 

 

 

俺と村上が床にへたり込む。

 

 

 

「提督大丈夫?!」

 

 

 

 

村雨たちが駆け寄り、

俺たちの心配をしてくれる。

 

 

 

 

「いやこっちが心配したぞ、

みんなに銃を向けられた時なんて

心配で堪らなかったぞ!」

 

 

 

 

半分涙目になりながら答える。

 

 

 

 

「えへへ、とにかく無事で

良かったよ、うん!」

 

 

 

 

安堵からか、みんなで笑いあう。

 

 

 

 

 

そこに警務隊長と加賀、

そしてある少女が近づいてくる。

 

 

 

「…警務隊長ワープでもしたんですか?」

 

 

 

「私をなんだと思っているんだ?

そんな芸当できるはず無いだろう」

 

 

 

「いや、フツーに答えられても…」

 

 

 

実はワープしてても驚かないぐらい

ぶっ飛んでるヒトだしな。

 

 

 

「君たちを送り届けた後に

緊急連絡が入ってな、どうやら海幕長が

この展開を読んで手を回していたようだ」

 

 

 

 

警務隊長は続ける。

 

 

 

 

「洋上試験中だった『加賀』、

そして横須賀に帰投中だった『親潮』を

ヘリで拾い、私も途中の空き地で

乗せてもらい市ヶ谷まで

来たというわけだ」

 

 

 

 

あー、どっかで見た女の子だと

思ったら『親潮』か!

 

 

 

俺は16年春イベントでは収穫無し

だったから親潮は詳しく見たことは

無かったな。

 

 

 

 

無理もないか。

 

 

 

 

「陽炎型駆逐艦四番艦、親潮です。

司令、お願いいたします!」

 

 

 

 

ビシッと見事な敬礼をする親潮。

 

 

 

「まだ司令になったわけじゃ無いけど、

菊池士長だよ。

親潮、よろしく頼むよ!」

 

 

 

敬礼には敬礼で返す。

 

 

 

親潮に答礼し、挨拶をする。

 

 

 

「そして君が加賀だね」

 

 

 

横に並ぶ加賀に改めて声をかける。

 

 

 

「ええそうよ。

航空母艦、加賀です。

 

 

先程も言ったけれど、

上官を相手に立派な態度でした。

 

 

貴方が私たちの提督になるのであれば、

それなりに期待できそうです。」

 

 

 

「海士長、菊池圭人。

期待に応えられるかは別として、

最大限の努力は欠かさないつもりだ。

よろしく頼む」

 

 

 

加賀とも挨拶を交わし、これで

『横須賀組』全員揃ったわけだ。

 

 

 

「で、警務隊長。

この後の予定を示達してくださいな?」

 

 

 

このところ俺たちの引率?となっている

警務隊長に指示を仰ぐ。

 

 

 

 

 

「おいおい、私は君たちの

世話係では無いのだが…。

 

 

まあ言われずとも示達するがね。

 

 

この後は海幕長が仰っていたように、

明日までフリーだ。

 

 

今からバスで『グランドヒル市ヶ谷』に

移動し、ゆっくりしてもらう」

 

 

 

 

グランドヒル市ヶ谷って言ったら

防衛省御用達のホテルじゃん?!

 

 

 

防衛省様々だなおい!

 

 

 

「おぉ〜、グッド〜!」

 

 

 

「グランドヒル市ヶ谷っていったら、

そこそこな高級ホテルじゃない!

警務隊長もやっるぅ♪」

 

 

 

 

艦娘たちの受けも上々なようだ。

 

 

 

 

 

 

 

一時はどうなるかと思ったが、

終わりよければ何とやらだ。

 

 

 

 

あの糞幕僚に逮捕されかけたり、

艦娘に銃を向けられた時はやばいと

思ったが、まさか海幕長が

芝居をしていたとはなぁ…。

 

 

 

 

 

補給や兵站を担う装備計画部長を更迭し、

後釜にまともな人材が来てくれるなら

ほっとできるな。

 

 

 

 

…海幕長結構やるじゃん!!←失礼

 

 

 

 

 

 

ワイワイはしゃぎながら

正面玄関まで降りる俺たち一行。

 

 

 

 

とりあえずはリフレッシュと行きますか!

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

グランドヒル市ヶ谷 1500i

 

 

 

 

 

 

「うおおおぉーー!ベッドが

めっちゃ柔らけぇー!」

 

 

 

 

すごいよこのベッド!

めっちゃ柔らかい。

 

 

 

 

自衛隊に入ってから固いベッド

以外使ってないから、

ホテルのふかふかベッドなんて新鮮だぜ!

 

 

 

 

教育隊で使ってたフ◯ンスベッドとは大違いだな!

 

 

 

 

ちなみにフラ◯スベッドってのは

教育隊で使っていたベッドメーカーで

白い格子に固いマットという

『機能的』なベッドだ。

 

 

 

 

3自衛隊に納品しているメーカーなんだが、部内用のモノは何故か固すぎる。

 

 

普通の製品を採用すればいいのに、

わざわざ固くする意味がわからん。

 

 

自衛隊の仕様書を書いてるヤツは

どんな神経してるんだか。

 

 

 

「んー。このままゴロゴロしてるのも、

なんだかもったい無いな」

 

 

 

 

午後はフリーとはいえ、艦娘と

イチャイチャ…じゃなかった親交を

深めたいしな。

 

 

 

 

「そうだ、ラインで連絡しよっと…」

 

 

 

思い立ったらすぐ実行、

これぞ自衛官の鑑。

 

 

 

 

ちなみに海幕を出る前に、担当者から

艦娘全員にスマホが支給され、

連絡手段を作ってもらった。

 

 

 

 

こうやって利用しているラインも

自衛隊内の部隊や学校でもうまく活用されていて、部外にも開示可能程度な内容の

業務連絡や教務の情報を回すのに

よく使われている。

 

 

 

 

流石に部隊行動とかは書けないけど、

使い勝手がいいからな。

 

 

 

 

「面談やります、順番は立候補で

よろしく…っと」

 

 

 

 

 

先ほど作ったグループ

『横須賀組(仮)』に送信すると、

早くも全員が既読になり

数人からは返事が返ってくる。

 

 

 

 

 

はいは〜い♪村雨最初ね。

 

 

照月は2番目で!

 

 

高波は3番がいいかも、です。

 

 

 

俺はその後だ。←(村上)

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

返信もそこそこ。

 

 

 

 

さて、のんびりとお話しましょうかねぇ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

菊池の部屋 1930i

 

 

 

 

「ふぁーあ…、あとは加賀さんかぁ」

 

 

 

 

途中に夕食と入浴を挟みつつ

艦娘たちや村上と面談し、

あとは加賀一人のみとなった。

 

 

 

 

「面談っていっても、ただの

おしゃべり会になっている気が

するけどな」

 

 

 

 

 

コンコンコン!

 

 

 

「菊池士長、加賀です。

入ってもよろしいですか?」

 

 

 

 

 

「はーい!どうぞ〜!」

 

 

 

 

加賀が入ってきて、のんびりした空気が

少し張り詰める。

 

 

 

 

(うーん、なんだか緊張してきた…)

 

 

 

 

加賀本人は意識してないだろうが、

威圧感とまではいかないものの

それに近いものを感じるし、

どうも加賀とは腹を割って

話がし難い気がする。

 

 

 

 

 

 

…だが、それに負けずにお話するぜ!

加賀さんとトークしたいし、

鉄壁のガードを崩してデレた

加賀さんを見てみたいッ!!

 

 

 

 

 

俺は静かに興奮していた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

〜Side of 加賀〜

 

 

 

 

着きました。

 

 

 

 

ここが菊池士長の部屋ですか。

 

 

 

 

コンコンコン!

 

 

 

私は少し強めにノックする。

 

 

これは自分を奮い立たせるためだ。

 

 

 

 

意外かもしれないが、実は私は

臆病な性格をしている。

 

 

それを知られまいと振る舞い、

こうして日々自分を奮い立たせている。

 

 

 

 

 

 

 

「菊池士長、加賀です。

入ってもよろしいですか?」

 

 

 

 

 

「はーい!どうぞ〜!」

 

 

 

 

 

 

…もう後戻りはできない。

 

 

 

たかが部屋に入り面談するだけ、

そう思うかもしれないが、私に

とっては結構辛いのだ。

 

 

 

 

(な、何を聞かれるのかしら…?

まさか変な事を命令されたり

しないわよね?!)

 

 

 

 

 

想像と妄想の境を越え、

頭の中が大変な事になる。

 

 

 

無論それを表情に一切出さず、

すぐに頭を切り替える。

 

 

 

 

(男性とどう話したらいいのかしら?

ずっと艦娘としか話していなかったし、

困ったものだわ…)

 

 

 

 

『かが』として命名されるまで、

私はミッドウェーの海底に一人居た。

 

 

 

他の艦娘は沈んだ後、気が付いたらまた

フネ(自衛艦)になっているようだが、

私のみ70数年間魂のみ生き続けた。

 

 

 

 

久々に横須賀の海をめぐると、

かつての戦友は少ない。

 

 

 

呉の蒼龍は元気そうだった。

 

 

 

 

だが同じ一航戦の赤城さん、

それにニ航戦の飛龍とは

あの海戦以来会っていない。

 

 

 

 

フネから離れられず、ずっと一人。

 

 

 

 

他の艦娘は沈んだ後存在は

消えるらしいが、私だけは何故か

存在が消えることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

こうしてまた艦娘として復活してみると、日本は大きな変化を遂げていた。

 

 

 

 

(環境や状況が変化しても、

ここは私たちが守るべき日本。

それは変わりません…。)

 

 

 

 

 

菊池士長に促され、椅子に腰掛ける。

 

 

 

 

 

それからは予想通り、私の経歴や戦歴、『かが』になってからの出来事を

聞かれました。

 

 

 

 

意外と真面目そうな方のよう。

 

 

 

 

話し方は少し軽い感じがしますが、

場面をわきまえているし使い分けも

できているようね。

 

 

 

 

「ところでだけどさ、

俺の呼び方なんだけど…」

 

 

 

「なにかしら、菊池士長?」

 

 

 

「それ、菊池士長って名前で呼ぶやつ。

 

 

他の娘は『提督』とか『司令官』とか

呼んでくれているんだけど、

加賀はどうして名前なのかなーって

ふと思って」

 

 

 

 

ああ、そういうことでしたか…。

 

 

 

 

「それは深い意味はありません。

ただ単にあなたはまだ提督に

なられたわけではないので、

呼ばないだけです。」

 

 

 

「あっ、そうなの…」

 

 

 

 

「はい。」

 

 

 

 

そう、彼を提督と呼ばないのは単純に

まだ指揮官と決まったわけではないから。

 

 

 

別に彼が気に入らないとか

そういった訳では無い。

 

 

 

 

(そういえば、彼はどれぐらいの技量を

持っているのかしら?)

 

 

 

 

 

楽しそうに話す彼の顔を見ながら考える。

 

 

 

 

(そういえば、この前の東京湾防衛戦

の際に1護隊司令に作戦立案を

任されたと聞きます。

 

 

 

案外戦術・戦略家の素質が

あるのでしょうか…?)

 

 

 

 

人は見かけによらないと言うし、

よく見極めてからでないと彼に失礼ね。

 

 

 

 

「ところで加賀…おーい加賀さん?」

 

 

 

 

「は、はいっ?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

(やってしまいました……ors。)

 

 

 

私としたことが考えに没頭するあまり、

菊池士長の話を全く聞いて

いませんでした…。

 

 

 

 

「どうしたの?

俺の話ってやっぱつまらないかな…?」

 

 

 

 

「そ、そんなことはありませんっ!

ただ私の集中力が足りなかった

だけであって、菊池士長は悪くなど…」

 

 

 

 

自分でも何を言っているのかわからない。

 

 

 

集中力が足りないって

どんな言い訳なのかしら。

 

 

つまらないという言葉を

オブラートに包んだだけじゃない。

 

 

 

 

「お疲れのところ悪かったね。

 

 

ヘリで駆けつけてもらったのに、

その程度の気遣いも出来ないなんて、

提督になる前から失格だね…」

 

 

 

 

 

(私こそ、部下、いえ艦娘失格かも

しれないわ…。)

 

 

 

菊池士長が寂しそうな笑みを浮かべる。

 

 

 

 

「じゃあ最後に一つ聞きたいんだけど…」

 

 

 

 

無言の私に菊池士長が問いかける。

 

 

 

 

「リクエストというか、

何か『お願い』はあるかな?」

 

 

 

 

「…『お願い』、ですか?」

 

 

 

 

「そそ、お願い。

別に堅いことじゃなくていいし、

一つと言わず何個でもいいんだけど…」

 

 

 

 

「ええと、そうですね…。」

 

 

 

 

 

そういったことを聞くとは思わなかった

ものだから、すぐに返答できない。

 

 

 

 

(私の…願い…?)

 

 

 

 

 

私の目を優しくじっと見つめる菊池士長。

 

 

 

 

そんなに見つめられると、

困るのだけれど…。

 

 

 

 

 

…そうね、私の願いは…一つ。

 

 

 

 

 

 

あの人とまた逢いたい…。

 

 

 

 

 

「願いは…。」

 

 

 

 

 

「うん?」

 

 

 

 

 

「私の願いは『赤城さん』に逢いたい、

ただそれだけです。」

 

 

 

 

「やっぱりね…、言うと思ってたよ」

 

 

 

 

…予想されていたということかしら?

 

 

「私の考えは単純ということかしら?」

 

 

 

少しムスッとします…。

 

 

 

 

「いんや、そんなつもりは無かったんだ。

気を悪くしないでくれよ」

 

 

 

悪びれた素振りもなく、

答えてくれました。

 

 

 

「加賀さんは『優し過ぎる』から、

きっと思い詰めているんじゃないかと

思ってね!」

 

 

 

 

 

(私が……『優し過ぎる』?

この私が、ですか…?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分が優しいなんて

思ったこともなかった。

 

 

 

 

 

私は自分に厳しく、

人にも厳しく生きてきた。

 

 

 

 

確かにそれは相手の成長を

望んでいたからであるが、

それを優し過ぎると指摘されるとは

思ってもみなかった。

 

 

 

 

「…それは何か意味があって?」

 

 

 

 

普段通りの口調で喋っているが、

顔には困惑と僅かな驚きが

現れていると思う。

 

 

 

 

 

 

「意味も何もそのまんまだよ。

厳しい指導を好まない娘も

いるだろうけど、結果で言えばそれは

その娘を思ってのことでしょ?

 

 

 

 

それにただ押し付けるだけじゃなくて、

それを自らも実践している。

 

 

口だけじゃない。

 

 

 

 

 

一言で表すと

『仏の心で鬼の指導』

ってところだね」

 

 

 

 

未だ困惑する私に諭すかのように

語る菊池士長。

 

 

 

 

「…俺の考え過ぎかもしれないけど、

加賀は自分を責めてないか?」

 

 

 

 

(…図星、かしらね…。)

 

 

 

 

 

そう、私はあの戦い、

『ミッドウェー海戦』を

ずっと悔やみ、赤城さんを失ったのは

自分のせいだと思い続けていたのだ。

 

 

 

 

 

 

(私がもっとうまく

やれていれば、赤城さんは…。)

 

 

 

 

 

 

敵の急降下爆撃機の奇襲により、

空母四隻中三隻が被弾したあの時。

 

 

 

 

 

 

赤城さんが沈められたのだって、

私だけのせいじゃないのはわかっている。

 

 

 

 

 

 

 

わかっているはずなのに……。

 

 

 

 

 

「でも、私がもっと、

もっとしっかりしていれば…。」

 

 

 

 

「奇襲で致し方なかったとはいえ、

もっとやり様があったはず、

そう言いたいんだね」

 

 

 

 

「…そうです。」

 

 

 

 

そう、本来なら負けるはずが

ない海戦だった。

 

 

 

 

 

緒戦の勝利に浮かれていて、

緩みもあったとは思う。

 

 

 

 

だが数ではこちらが有利、

兵力はもとより技量も卓越していた。

 

 

 

 

なのに…何故っ?!

やはり私がっ…!!

 

 

 

 

 

 

「…なあ加賀、君が泣いても

赤城は戻ってこないよ?」

 

 

 

 

 

 

 

「えっ…?」

 

 

 

 

 

 

 

気が付けば涙が頬を滴っていた。

 

 

 

 

菊池士長が指で涙を受け止める。

 

 

 

 

「自分を責めるな、なんて俺には

言えないし言うつもりもないよ。

 

 

ただ、それを見た赤城はどう思うか、

それだけを考えてごらん?」

 

 

 

 

 

赤城さんならきっと…

 

 

 

 

 

「赤城さんなら…。」

 

 

 

 

「うん」

 

 

 

 

「赤城さんなら、きっと…。」

 

 

 

 

私が詰まる言葉で話すのをゆっくり

待っていてくれる菊池士長。

 

 

 

 

 

「赤城さんならきっと…、

泣くなって言ってくれると、

思います…。」

 

 

 

 

「うんうん」

 

 

 

 

「それで…、

『加賀さん、自分を責めないで』

って言って、微笑んでくれると思います。」

 

 

 

 

「そうか、赤城は優しいんだね。

 

 

 

じゃあ逆の立場だったらどうなるかな?

 

 

 

 

赤城が『あかぎ』としてまた現れて、

加賀は音沙汰なし。

 

 

 

加賀は精一杯頑張った赤城を、

自分を責めて泣いている赤城に

何て声をかける?

 

 

罵声を浴びせるかい?」

 

 

 

 

「しない……。」

 

 

 

 

「加賀を守ろうとした赤城を恨むかい?」

 

 

 

 

 

「そんなことしない……!」

 

 

 

 

 

「そんな赤城が加賀を差し置いて、

護衛艦の艦娘としてこの世に現れたら

妬むかい?」

 

 

 

 

 

「絶対にそんなこと言いませんっ…!

 

 

私のために頑張ってくれた赤城さんを、

恨んだり、妬んだりなんて…!!

 

 

 

私だって、赤城さんだってそんなこと

絶対にっ…、言ったりなんてっ!!」

 

 

 

 

感情が高まり、思わず菊池士長に

迫ってしまう。

 

 

 

 

 

菊池士長の胸に手を押し付ける

体勢になり、思わず正気に戻る。

 

 

 

 

 

 

「…っ?!し、失礼しましたっ!」

 

 

 

 

「いいさ。

 

それに、もう『答え』は出たじゃないか」

 

 

 

 

「……あっ。」

 

 

 

 

 

そう。

 

 

私も赤城さんも、お互いを理解し、

尊重しているではないか。

 

 

 

 

私が自分を責めているのは、

赤城さんを失った事を合理化しようと

しているだけではないか。

 

 

 

 

「でも、でもっ…!」

 

 

 

 

 

それでも言葉にならない悔しさが

込み上げ、手を当てていた

菊池士長の胸にそのまま頭を埋める。

 

 

 

 

「それでいいんだよ加賀。

 

 

言いたい事を全部言ってごらん。

自分を責めたいなら、

泣きたいなら思い切り泣いていいんだよ。

 

 

 

俺が、みんながついてる。

 

 

 

 

だから、俺の前では

我慢しなくていいんだよ…。

 

 

 

君は、いいんだよ。

 

 

 

いいんだよ、素直になって。

 

 

 

 

俺が全部受け止めるから」

 

 

 

 

 

胸に頭を埋めたままの私を

菊池士長が撫でてくれる。

 

 

 

「……っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

『自分を責めていい』

 

 

 

今まで自分を責めてきたことへの

後悔の心と、それを我慢しようと

していた心がその一言で一気に溢れ、

言葉にならない喚きとなる。

 

 

 

 

「赤城さんっ…!ごめんなさいっ…!!」

 

 

 

 

「いいさ、俺が許すさ…。

 

 

俺が全部受け止めるから、

君の全てを…」

 

 

 

 

 

 

 

私の感情の決壊は30分ほど続いた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……思いっきり泣いたら、

少しスッキリしました。

 

 

 

今日初めて会った菊池士長。

 

 

 

 

見たところ少し軽い人かと思いましたが、

心はとても優しい人の様ね。

 

 

 

 

心の中を全て曝け出し、安堵感と

少し恥じらいが込み上げてくる。

 

 

 

 

 

(私もそのうち赤城さんに会えると思うと流石に気分が高揚し……て?)

 

 

 

 

 

 

安堵と恥の次は高揚感…、ではない様だ。

 

 

 

気持ちが高ぶっているのは事実であるが、

その原因は赤城さんでは…無い?

 

 

 

 

「……あの。」

 

 

 

 

「ん、何かな?」

 

 

 

 

 

「…い、いえっ。

な、なんでもないわっ…。」

 

 

 

 

口を開こうとして、ついどもってしまう。

 

 

 

 

 

私は一体何に高揚しているのかしら?

 

 

 

赤城さんと会える、だからこう気持ちが

高ぶっているのでは無いの?

 

 

 

 

目の前の菊池士長のことを考えると、

何故か気分が高揚します。

 

 

 

 

赤城さんに会わせてくれると

約束してくれたから…?

 

 

 

 

…違う。

 

 

 

 

私の話を聞いてくれた優しい方だから…?

 

 

 

それもなにか違う…。

 

 

 

 

 

…菊池士長を真っ直ぐ

見ることができません。

 

 

 

 

この感情は一体何なのかしら…?

 

 

 

 

 

 

 

それに何故か彼の笑顔を見ていると

心が暖かくなります…。

 

 

 

 

す、少し動揺してしまうのだけれど…。

 

 

 

 

 

『恋』という単語を知らぬ青い戦乙女は、

しばらくの間赤城への友情と突如現れた

未知の感情と葛藤をすることになる。

 

 

 

 

 

(この心のモヤモヤは何なのかしら…。

流石に頭にきます…!)

 

 

 

 

 

後日このことを相談された

ドロップした大型正規空母は

 

 

 

『ところで加賀さん、

恋って言葉知ってるかしら?

 

 

 

加賀さんにも春が来たようね。

 

 

 

 

飛鷹や蒼龍も言っていたけど

あの人モテるそうね?

 

 

 

私も会ったばかりだけど好きよ、彼』

 

 

 

 

と答え、加賀を慌てさせたそうな。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

side of 菊池

 

 

 

 

 

「…どう、落ち着いたかな?」

 

 

 

 

 

「はい、先ほどは取り乱してしまい、

失礼致しました。」

 

 

 

 

 

加賀の大号泣も収まり、

目と頬の赤み以外元に戻りつつある。

 

 

 

 

 

(いやぁ、まさか加賀さんが

大号泣するとは思わなかったぜ…)

 

 

 

 

 

 

クールキャラな加賀さんからは

想像できない感情の大爆発だった。

 

 

 

 

でもここで泣いてくれて良かったと思う。

 

 

 

目はまだ腫れているものの見たとこ

ろスッキリした様子だし、

加賀も感情を溜め込んでしまう

タイプのようだしこんな俺でも

役に立てたようだ。

 

 

 

 

艦これでは感情をあまり表さない

キャラだけど、やはり女の子だものな。

 

 

 

泣きもするし、喚いたりもする。

 

 

 

 

 

バツが悪そうに俯いたまま

俺の胸から離れる加賀。

 

 

 

 

 

(ヤバイ、可愛いっ…!!)

 

 

 

 

 

「あの、ありがとうございました。

私…こういったことは初めてで、

つい勝手が分からず…。」

 

 

 

 

 

 

いやいやいやその言い方は誤解を招くぞ。

 

 

 

 

 

 

口に手を当て、視線を逸らしつつも

チラチラとこちらを伺う加賀に

思わずドキリとしてしまう。

 

 

 

 

 

(ほっ、惚れてまうやろ〜!!

…ってもう惚れてるけど)

 

 

 

 

いや、惚れてるってのは違うかな?

 

 

 

 

「まあ、いつにとは確約できないけど、

みんなで赤城を探そうよ。

一生懸命探していればきっと

見つかるよ!」

 

 

 

 

「…はい!」

 

 

 

 

 

加賀も吹っ切れたようで何よりだ。

 

 

 

 

 

 

それからは今後の行動について話し合い、

加賀も普段通りのポーカーフェイスへと

戻っていった。

 

 

 

 

 

口調もトゲのあるような堅い口調で、

苦笑いする場面もしばしあった。

 

 

 

 

 

 

加賀さん、さっきの可愛さは

どこに行った…。

 

 

 

 

もちろん普段の加賀も可愛いけどな。

 

 

 

 

 

 

(にしても頬赤過ぎじゃね?

なんだろう、熱でもあるのかな?)

 

 

 

 

「…菊池士長、何か?」

 

 

 

 

「いんや、何でもないよ?」

 

 

 

 

「…そうですか。」

 

 

 

 

 

おっと、無用な心配だったか。

 

 

 

 

 

 

 

横須賀組のトップとも言える加賀から

他の基地の艦娘について情報をもらい、

今日の面談は終了した。

 

 

 

 

加賀がヘリの中で警務隊長から聞いた

出現した艦娘の船体の詳細と、

その船体出現前からいる艦娘の

各基地における艦娘の主なメンバーは

次の通りらしい。

 

 

 

 

 

 

●横須賀はご存知、加賀。

 

 

なお『かが』艤装終了後は呉基地に

配置される予定だったらしいが、

艦娘が現れた今となっては未定。

 

 

 

 

そういや呉のFバースだって

『いずも』型の係留を見越して

増設工事したもんな。

 

 

 

だがこうやって大型艦が沢山現れたら

おいそれと配置できないからな。

 

 

 

 

ま、防衛省にとっても

事態の把握が優先だな。

 

 

 

 

 

●呉は伊勢。

 

 

第4護衛隊群の直轄艦の『いせ』の艦娘。

呉は伊勢はもとより蒼龍や利根といった

大型艦が多数出現しており、

呉港内は艦艇で溢れているとのこと。

 

 

 

 

今の潜水艦の『おやしお』型や

『そうりゅう』型には結構艦娘と

同名のフネがあるため、

結構な戦力になっている様だ。

 

 

 

 

そりゃアンタ主力艦だけで

蒼龍に雲龍、伊勢ですよ。

空母2杯に戦艦や重巡て、やべーよ!

 

 

 

 

まあ横須賀も劣らないが。

 

 

 

 

 

駆逐艦も多数いて、特に驚いたのが

除籍艦になったはずの『しらゆき』。

吹雪型2番艦の白雪も現れたことだ。

 

 

 

 

フネが残っていれば、魂(艦娘)も

存在するらしい。

 

 

 

都合のいい話だこと。

 

 

 

 

 

少しでも深海棲艦との戦いに備え、

戦力が欲しい俺としても大喜びだ。

 

 

 

 

昨日警務隊長が言っていた

『はるな』の様に、既に廃艦となった

フネの艦娘はいないらしい。

 

 

 

 

(寂しいけど、しょうがないか…)

 

 

 

 

ネットでも大艦隊出現と大騒ぎらしい。

 

 

 

 

 

後で携帯で調べてみよっと。

 

 

 

 

 

●佐世保は妖怪紅茶くれ…

じゃなかった、帰国子女の金剛。

 

 

 

 

 

イージス艦になってるから帰国子女なのか

デース!とか言うのかわからんが。

 

 

 

 

こちらも金剛をはじめ、足柄や

鳥海といった大型艦が佐世保港外に

連なっているらしい。

 

 

 

なお佐世保のアメちゃんが某SNSで

つぶやいてしまお、世界中に艦娘の存在がバレてしまっているらしい…。

 

 

 

しかもオチがあり、そのアメリカ兵は

艦これが大好きで腕にタトゥーを

しているらしい。

 

 

 

 

 

 

…それも曙と罵声付きの。

 

 

 

 

 

 

(ドMなのかよ…?)

 

 

 

 

いや可愛いけどさ!

ツンツンな曙を俺色に染めてやるっ!

↑恐らくセクハラ発言

 

 

 

 

やっぱアメちゃんはおかしい(褒め言葉)

 

 

 

 

これからは存在を隠さなくてもいいね。

やったね警務隊長、業務が減るよ!

 

 

 

 

…やめとこ、なんか

めんどくさくなりそう。

 

 

 

 

 

●次は舞鶴。

 

 

 

 

ここの番人?は日向師匠。

 

 

日向はご存知戦艦。

伊勢もそうだが、戦艦組は

航空戦艦では無いらしい。

 

 

 

それなのに何故千代田が『千代田航』

なのかは加賀も分からないらしい。

 

 

 

 

他にはぱんぱかぱーんな愛宕や妙高、

川内といった、ある意味キャラの

濃いメンツが集まっている。

 

 

 

 

 

もし愛宕にハグできるとしたら、

理性が保てない気がする。

 

 

 

 

 

バイーン!だぜ?!

下手したら後ろまで

手が回らんかもしれん…。

 

 

 

 

北のお国のテポド◯もアタゴンの胸で

弾き返せる気がする!

 

 

 

 

俺も愛宕にミサイルぶっ放したくなるぜ!(なお短射程かつ小型)

 

 

 

 

 

●最後は大湊。

リーダーは筑摩。

 

 

ここはあまり艦艇はいないが、

小規模ならではの和やかなムードらしい。

 

 

 

 

筑摩と大淀、そして夕立の3人。

 

 

 

大湊の港外にそんな三隻が

陣取っているらしい。

 

 

 

 

陣取っているというか、

動けないんだろうな。

 

 

 

大湊は港の内外が漁網だらけなため

航行がとても難しい。

 

 

 

 

前に『むらさめ』で入港した時なんて、

漁網に突っ込みかけてたもんな。

 

 

 

あれにはビビったぞ。

 

 

 

 

とっさの転舵で事無きを得たけど、

怖かったぜ。

 

 

 

 

 

前にも大湊の話題を出したが、

別に大湊をディスってるわけじゃない。

 

 

 

 

ただ在籍基地としては

どうなのかなって思うだけだ。

 

 

 

 

生活とか少し大変そうだし…。

 

 

 

 

 

基地の周りには飲み屋も少ないし…。

むしろ他の基地が都会過ぎるの

かもしれないな。

 

 

軍港なんて僻地の方が

保全上いいだろうし。

 

 

 

 

 

 

 

今出てきた艦娘の他にも、

名前は出ていないが多数の

艦娘がいるらしい。

 

 

 

 

みんなと会ってみたいぜ。

 

 

 

 

艦娘に囲まれた生活を想像して

ニヤニヤが止まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…ん、なんか殺気が…)

 

 

 

 

妄想をやめれば、加賀が一段と

厳しく冷たい視線を俺に向けていた。

 

 

 

 

「あの、加賀さん…?

どうしたんですかねぇ…?」

 

 

 

 

「菊池士長は私の話を聞いている間、

ずっとニヤニヤしていました。

 

 

どうせ他の艦娘とのことで、

いかがわしいことでも考えて

いたのでしょう…?

 

 

大概にしてほしいものね。」

 

 

 

露骨に不機嫌さを表し、

プイッと横を向く。

 

 

 

 

 

あらかわいい。

 

 

 

でも目の前で悲しむ(?)乙女を

放っては置けない優しい俺。

 

 

 

 

ここはハッタリ技能検定2級を持つ

俺の腕が鳴るぜ!

 

 

 

「うん、みんな揃ったらきっと

楽しいだろうなって思ってね。

 

 

今いる艦娘が全員集まったことなんてないだろうし、何かイベントでも

しようかと思ってね」

 

 

 

 

 

はい出たー!

あえて否定はしないけど、実は健全な事を考えていましたよパターン。

 

 

 

 

こっちは真面目だったんだけど、

そっちは何を考えてたの?的な

ニュアンスを漂わせ、

相手の攻撃を躱す戦法ね。

 

 

 

 

「イベント…ですか?」

 

 

 

 

 

「そそ、イベント。

せっかくこうして艦娘が人間に認識

されるようになったわけだから、

合同で何かしたいと思ってね」

 

 

 

 

 

これはでまかせではない。

本当に何かしたいと考えていたし、

むしろしなければいけないと思っている。

 

 

 

 

 

「まだアイデア程度なんだけど、

聞いてもらえるかな?」

 

 

 

 

 

「…ええ、拝聴します。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が考えていた事を話し終えると、

加賀が神妙な面持ちになり

考え込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

(確かに今までそういったことは、

全艦娘で行っていないはず…。

 

 

みんな口には出さないけど、

きっとしたがっているでしょうね。)

 

 

 

 

 

「まああくまで案だから、

軽く覚えておく程度でよろしくぅ〜!」

 

 

 

 

「わかりました。」

 

 

 

 

時計に目をやるともう2146、

2時間以上話をしていたようだ。

 

 

 

 

 

「明日はフリーだから好きなように

過ごしてもらっていいよ。

 

 

外出も護衛とかつくけど複数なら

できるし、行きたいところに

行くといいよ!」

 

 

 

 

 

という訳で村上も含めた横須賀組の

面談ごっこは終わった。

 

 

 

 

加賀が泣き出した時は少し驚いたが、

無事立ち直ってくれてよかった。

 

 

 

 

 

寝るにはちと早いな。

 

 

 

 

「寝る前に紅茶でも頼むか…」

 

 

 

 

備え付けの電話で好物のブランデーと

紅茶を頼む。

 

 

 

 

 

「くぁあ〜!

寝る前の一杯はいいよなやっぱ!」

 

 

 

 

 

出てきた茶葉も銘柄はわからないが

いいのを使っているようで、

高級な香りがブランデーと絡み合い

鼻を刺激する。

 

 

 

 

 

「そういやさっき海幕長が

海上公試があるって言ってたな…」

 

 

 

 

海上公試とは艦艇の洋上テストのことで、速力や射撃等の性能をチェックする。

 

 

 

第二次大戦時の装備とはいえ立派な

軍艦、旧式といえどもかなりの戦力に

なり得るだろう。

 

 

 

 

戦艦だって湾岸戦争で艦砲射撃で

陸上部隊の援護で活躍したし。

 

 

 

 

「でも上陸戦があるわけ無いな、

相手は艦船なワケだし」

 

 

 

 

でも先日の深海棲艦の耐久力を思うと、

火力も必要か。

 

 

 

 

「あ、でもまだ戦艦クラスがいない、

とは言い切れんな…」

 

 

 

 

そうだった。

まだ敵戦力にはイ級しか

確認されていないんだ。

 

 

 

 

これからもっと強力なクラスが出てきたら

駆逐艦や護衛艦なんかじゃ

歯が立たなくなるな…。

 

 

 

 

重装甲の重巡や戦艦クラスに

ミサイルや魚雷が効果的とは思えないし。

 

 

 

 

 

 

何より対費用効果が悪過ぎる。

 

 

 

フネ一隻沈めるために高価な対艦ミサイルを何発も使ってたら、

国家予算が足りねーって。

 

 

 

 

 

それこそ『イベント』で資材を

溶かした後の提督になっちまう。

 

 

 

 

ゲームじゃ待っていれば自然回復

するが、現実はそうはいかない。

 

 

 

 

資源を取りに商船を送らないとだし、

その航路と船団の啓開と護衛に

戦力と資材を必要とする。

 

 

 

 

 

 

 

そして何より国民生活が

成り立たなくなる。

 

 

 

そりゃ江戸時代みたいに鎖国して

クニが成り立てばそれで

いいかもしれないが、

現代日本にそんな真似ができるはず無い。

 

 

 

 

それは俺たちが一番分かっているはずだ。

 

 

 

 

 

あれやこれやと問題が湧き出て頭が

パニックになるが、酔いが回り始めた

頭では処理しきれない。

 

 

 

 

 

「あー!もう寝るっ!!」

 

 

 

 

 

悩んだ時は寝る、この手に限る。

 

 

 

 

 

ベッドに横になれば頭がシェイクされて

いるかのような感覚に陥る。

 

 

 

 

「ブランデーの割合が多過ぎたか…?」

 

 

 

 

うーん、もう何も考えられん。

 

 

 

 

 

(そういや加賀の胸、

めっちゃ柔らかかったなぁ…)

 

 

 

 

胸当ての上からだったが、抱きしめた時

凄いボリュームだったな…。

 

 

 

 

 

(あっそうだ。

明日加賀さんに胸当を取ってくれって

頼んでみようかなぁ……グヘヘッ)

 

 

 

酔いで最低な事しか考えられなくな

った俺はニヤニヤとした顔付きで

眠りに落ちていった……。

 

 

 

 

 

 




横須賀の艦娘集合です!

やっと始発点です、全員出してたら
1000話は書かないとですね。



物語が動き始めるのはもう少し先ですが、
間も無くです。


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0-12 靖国の夢の出逢い 【千代田区】

先日訳あって陸自の某病院に行きました。


駐輪場で驚くべきものを発見しました。
一航戦の赤い人がでかでかと描かれた
原動機付自転車!



艦これ、陸自でも人気なんですね…。



赤城さんも思わずにっこり。



というわけで市ヶ谷のフリー最終日。
主人公はどう過ごすのか。


とある神社で出会う少女、
彼女の言動の意味とは…。







 

 

 

 

あれから一夜、

俺は6時前に目を覚ました。

 

 

 

 

いつも6時に起こされるからか、

『総員起こし』前には目が覚める

体になっている。

 

 

 

 

 

 

歯磨きと洗面を行い、さっぱりする。

 

 

 

 

夜に飲んだブランデー割りが抜けきって

いないものの、二日酔いの類は

なさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

食事を食べに行くと、

他の宿泊客以外いない。

 

 

 

 

村雨たちは夜遅くまで起きていたのかは

わからないが、まだ起きていないようだ。

 

 

 

 

 

 

「今日もフリーなわけだが、

何をしようかな?」

 

 

 

 

 

予定を立てていなかったため、

何をするか悩むな…。

 

 

 

 

 

村上と2人で出掛けるってのも、

なんだか普段と変わらないし

ヘンな噂をされても癪だ。

 

 

 

 

とはいえ艦娘たちには

行きたいところもあろう。

 

 

 

俺の都合で彼女たちの予定を

変えてしまうのもかわいそうだ。

 

 

 

 

 

べ、別にぼっちじゃないんだからねっ?!

 

 

 

 

 

そんなことを考えながらバイキング形式の

朝食をモリモリ食べる。

 

 

 

 

もうすぐ食べ終わるという時になって、

艦娘がちらほらと食堂にやってきた。

 

 

 

 

 

「んー、1番は飛鷹かー」

 

 

 

「あらおはよう提督、昨日は加賀さんと

遅くまで長い時間一緒だったそうだけど、

ヘンなことしてないわよねぇ?」

 

 

 

 

げっ!何故それを知っている?!

 

 

 

 

「なななな、なんのことかな?!」

 

 

 

「…露骨すぎて突っ込む気も失せたわ。

たまたま夜通路を歩いていたら、

加賀さんが提督の部屋から出てくるのを

見かけただけよ。

 

 

そんなに慌てるってことは、

やっぱ何かあったわけ?」

 

 

 

 

 

「残念ながらありませんでしたー!

 

飛鷹も加賀から聞いた事あるかも

しれないけど、加賀がミッドウェー

海戦後からずっと消えてなかった点を

考察していただけだよ」

 

 

 

 

ここは少し誤魔化す。

 

 

 

俺が悪くないとはいえ、流石に

泣かしたうえに抱きしめたなんて

誰にも言えねえって。

 

 

 

 

加賀から聞いた今までのことを

話し合っていたのは事実だから、

そこだけは伝えておく。

 

 

 

 

 

「ふ~ん、なんだつまらないの。

てっきりロマンスな駆け引きでも

してるのかと思ったわ」

 

 

 

「へへっ、お生憎様で」

 

 

 

 

お互いに軽口を叩くと、

残っていたオレンジジュースを口にする。

 

 

 

「ところで今日ヒマ?」

 

 

 

 

「ブブッ!!」

 

 

 

 

「きゃっ!汚いわねっ!」

 

 

 

えっ、なに言い出すのいずもマンさん?!

 

 

 

 

これって逆ナンってやつ?

 

 

 

 

「いきなり飛鷹が誘ってくるからだろ!

危なく吹くところだった…」

 

 

 

「なによ、私が誘っちゃ悪いわけ?」

 

 

 

 

「そういうわけじゃないさ、

ただ急だったからつい…」

 

 

 

おっとこれは…俺にも春が来たかも!!

かもかもかもっ!!

 

 

 

ケッコン大作戦(只今命名)の第一歩、

艦娘とのデート!

 

 

 

しかも逆ナンというまさかの展開。

 

 

 

 

これにはたまげた。

俺って実はモテる体質だったり?!

 

 

 

 

「予定入ってないしオッケーだよ。

飛鷹は他の娘と出掛けたりはしないの?」

 

 

 

 

「他の娘たちはもう予定組んでいるのよ。

村雨は駆逐艦同士で

出掛けるって言ってたし、

 

 

千代田も加賀さんと霧島さんと

どこか行くみたいだし。

 

 

 

私は東京は初めてだけど、

服とか見に行ってみたいし、

提督の意見も聞きたいかな~って…」

 

 

 

 

少し言葉を濁しながら目を泳がせる飛鷹。

 

 

 

 

 

「つまり俺と出掛けたいと、

俺がいいと!」

 

 

 

「そ、そういうんじゃなくて!

あくまで!参考にしたいから、

誘ってるの!」

 

 

 

 

少し恥じらいながら反論する飛鷹。

おー可愛いかわいい。

 

 

 

ツンデレですなぁ~。

 

 

 

「わかったわかった。

服ねえ…、渋谷とか原宿辺りを

散策してみるかえ?」

 

 

 

「プランは任せるわ、よろしくね提督」

 

 

 

 

「ほいよ、じゃあ8時に

玄関ホールでいいかな?」

 

 

 

「オッケー!」

 

 

 

「楽しみだな。

そういや食事まだなんじゃない?

取ってきたら?」

 

 

 

 

「あっ、すっかり忘れていたわ」

 

 

 

 

「いくら俺とデートするのが

嬉しいからって、そこまで

盲目になるとは…。

 

 

 

モテる男は辛いぜ…!」

 

 

 

「だから話を盛り返さないでよ!」

 

 

 

 

 

 

朝からいちゃこらして過ごす

幸せなひととき。

 

 

 

 

それにしても服選びか…、

俺に務まればいいけど。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「飛鷹ぉ、待ってくれよ…」

 

 

 

 

「なによ、だらしないわね」

 

 

 

 

 

俺の両手には大量の荷物。

 

 

 

飛鷹が買った服やバッグやらやら。

 

 

 

 

 

女子との買い物ってこえーな、オイ!

 

 

 

 

 

ちなみにお金は防衛省から艦娘に一時金が支給されていて、それを出した。

 

 

 

食事やお茶は俺のポケットマネーだよ!

女子にメシ代は出させていないよ!

 

 

 

 

 

言ってもまだ14時過ぎだけどね。

 

 

 

 

買い物はひと段落ついたし、

喫茶店でのんびりタイムでもしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

玄関ホールに来た飛鷹は私服だった。

 

 

 

流石に艦娘の服装だと目立つため、

私服も支給されたらしい。

 

 

 

 

見た目は目立たない服装だが、

デカイ!

 

 

 

 

あえて何がとは言わないが、デカイ。

 

 

 

 

 

 

この前抱きしめたときの感覚、

あれは堪らんかった!!

 

 

 

 

今日服を買いに行ったのは、

元々豪華客船になる予定だった飛鷹が

自分に似合う好きな服を着たいという

希望があったからだ。

 

 

 

 

 

さすが豪華客船になる予定だった

だけのことはある。

 

 

 

 

そりゃねえ、着たい服ぐらいあるさね。

 

 

 

 

だって女の子だもの。

 

 

 

 

 

 

後ろに護衛の警務隊員がいなければ

もっとはっちゃけてたのに…。

 

 

 

 

世事辛い世の中だこと。

 

 

 

 

 

「あの店とかいいんじゃないか?」

 

 

 

 

「そうね、あそこにしましょう」

 

 

 

 

 

 

おしゃれな佇まいと落ち着いた雰囲気が

店内へと俺たちを誘う。

 

 

 

 

 

 

カランカラン…

 

 

 

 

「いらっしゃいませー!」

 

 

 

 

 

奥にある窓辺のテーブルに座る。

横の椅子に荷物を預けゆったりとする。

 

 

 

 

「チーズケーキと紅茶を、

ディンブラの茶葉はありますか?」

 

 

 

「はいあります」

 

 

 

「私は…彼と同じものを」

 

 

 

「かしこまりました。

…お二人ともお似合いですよ」

 

 

 

 

「「えっ?!」」

 

 

 

 

店員さんなに言ってるの?!

 

 

 

 

「ふふっ、それではごゆっくり…」

 

 

 

 

「ははは、カップルと思われた

みたいだなっ!

はたから見たら

結構お似合いなのかもな!」

 

 

 

 

 

「なっ……!」

 

 

 

 

 

……あれ?

 

 

 

 

 

俺の冗談に飛鷹が突っ込んでくるかと

思ったら、謎の沈黙タイム。

 

 

 

 

 

飛鷹を見れば頬を赤らめ、硬直している。

 

 

 

 

 

「お、おーい飛鷹さんや〜?」

 

 

 

 

「あ、案外悪くないかも……」

 

 

 

 

「え、何だって?」

 

 

 

 

「なっ、何でも無いわよっ!!

別に提督とはそんな関係じゃ

無いんだから、いい気にならないでよ!」

 

 

 

 

なんで俺が怒られてんの…?

 

 

 

 

「いやいや、意味がわからん」

 

 

 

 

「とーにーかーく!

今日の提督とはただの買い物に

来ただけなんだから、勘違いしないでね」

 

 

 

 

「おう、よくわからんがわかった」

 

 

 

 

 

オトメゴコロって複雑やのう…。

恋人って茶化されるのは嫌なのか。

 

 

 

 

俺ならむしろアピールするけどな。

 

 

 

 

そんな痴話喧嘩?を楽しみつつ、

出てきたケーキと紅茶に舌鼓をうつ。

 

 

 

 

「このチーズケーキ美味しいわね!」

 

 

 

「うん、滑らかだし風味があっていいな」

 

 

 

「このケーキと紅茶、絶対に合うぜ!」

 

 

 

 

容器に茶葉を入れ、湯を注ぐ。

 

 

 

 

「…そういえばどうして提督は

紅茶が好きなの?

 

 

いつも何かにつけては紅茶飲んでる

イメージしか無いんだけど」

 

 

 

 

「そういえば何でだったかな…」

 

 

 

 

飛鷹の疑問に自分でも答えが出てこない。

 

 

 

 

「小さい頃に誰かから

勧められた記憶があるな」

 

 

 

 

「ふ〜ん」

 

 

 

 

 

20年以上前の事だ、それに大した

ことじゃ無いし別に思い出さなくて

いいのかもしれない。

 

 

 

 

 

(だが何か忘れているような…。

その人から忘れちゃいけない

大事なことを教えてもらったような?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『圭人、今日は大事な話がある。

信じられないかもしれないが、

ワシが昔乗っていた……』

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、さっき買った服の

ことなんだけどさ!」

 

 

 

 

昔の記憶を思い出そうとしていたら、

飛鷹が荷物を勝手に開けようとし、

とっさに制止させる。

 

 

 

「あーこら!

店の中で商品を広げようとしない!

 

 

これ仕舞うの大変だったんだぞ…」

 

 

 

 

「別にいいじゃない、それぐらい。

私は今見たいの!」

 

 

 

 

 

 

うへぇ、これだから女子ってのは困る。

 

 

 

 

 

 

まだまだゆっくりできそうにない…。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

グランドヒル市ヶ谷飛鷹の部屋

1600i

 

 

 

 

「今日はありがとね提督!」

 

 

 

 

「こちらこそ楽しかったよ」

 

 

 

 

「ま、また付き合ってくれる…?」

 

 

 

 

「誰が嫌なんて言うもんかい。

いつでも付き合うぜ」

 

 

 

 

荷物持ちは大変だったが、

その分飛鷹と過ごす時間は楽しかった。

 

 

 

 

艦娘との初デート、なかなか

味わえないスリルがあった。

 

 

 

 

 

すれ違う人に飛鷹の正体がバレないか

そわそわしていたものだ。

 

 

 

 

飛鷹だけじゃないけど、艦娘みんな

美人だから通行人がみんな振り向く。

 

 

 

艦これを知ってる人もいるだろうし、

ニュースで実際に現れていると報道

されているから、わかる人には

わかってしまうだろう。

 

 

 

 

その辺は警務隊長にも話したんだが…

 

 

 

『もちろん考慮済みだ。

むしろ目立ってくれた方が

安全だと思ってくれていい』

 

 

 

『…目立っていいんですか?』

 

 

 

『だが裏路地やひと気の無いところには

行くなよ。拉致されても困る』

 

 

 

 

(あー、そういう心配ね)

 

 

 

『昨日も言ったが各国のスパイが

そこら中で待ち構えている。

拉致計画等は今のところ無いようだが、

絶対に無いとも言い切れん』

 

 

 

 

 

…という会話があり、

外出が許可されたわけだ。

 

 

 

 

 

これからの私生活の制限を考えると

肩身が狭い思いを強いられそうだ。

 

 

 

 

 

(もし飛鷹や村雨がスパイに

拉致されでもしたら、あーんなことや

こーんなことをされちまうんじゃ?!

 

 

 

…薄い本みたいにっ!!)

 

 

 

 

 

そう考えると腹が立つな…。

 

 

 

 

「ふんがー!!」

 

 

 

 

「なに変な顔して怒ってるのよ?」

 

 

 

 

飛鷹が怪訝な顔で尋ねる。

 

 

 

 

「心配すんなよ飛鷹、

俺がずっと側で守ってやるからな!」

 

 

 

 

ガシッ!!

 

 

 

「えっ、な、なにっ?!」

 

 

 

 

 

飛鷹の両肩をがっちり掴む。

 

 

 

 

バサバサと荷物が落ちるが

そんなのはどうでもいい。

 

 

 

「なにもカニもない!

飛鷹には(航空戦力として)側に

いてもらわなきゃ困るんだ!

 

 

お前を失うなんて、絶対にしないからな!

俺から離れるな、俺が(艦載機に)

守られることもあるだろうが

お前を守れるのは俺だけだ!

 

 

 

俺を信じろ、俺も(軽空母の底力を)

信じる!」

 

 

 

 

そうだ!

飛鷹はこれから必要な大事な空母なんだ。

 

 

 

それにいなくなったらまたハグが

できなくなっちまう!←意味不明

 

 

 

 

 

他の男に飛鷹のバインバインを

触らせてやるもんか!

 

 

 

 

 

「…えっと、つまりそのままの

意味で受け取っていいのね?」

 

 

 

飛鷹が頬を赤らめながら、

俺を見つめる。

 

 

 

「俺が(スケベ関係で)冗談を

言うと思うか?この手を見ろ」

 

 

 

 

右手を掲げる。

 

 

 

 

「これは愛(おっぱい)掴むためにある!

 

 

今後たくさん(俺に)揉まれる

こともあるだろう。

 

 

だが、俺は必ず全て(のおっぱい)を

掴んでみせるっ!!」

 

 

 

 

世界はおっぱいで回っている!!

 

 

 

 

…お、これは名言だな。

 

 

 

 

「…提督って少し軽い人だけど、

信じていいのかしら?」

 

 

 

 

「愛に軽いも薄いもないっ!!

 

 

愛がある、それだけの

ことじゃあないか?!」

 

 

 

 

 

おっぱいもちっぱいも関係無い!

揉めよ、揉めばわかるさ。

 

 

 

 

 

掲げていた右手をグッと握りしめ、

決めポーズ。

 

 

 

 

でも言ってることは最低だよな…。

 

 

 

 

 

「ま、まあこんな俺でも熱い想いが

あるんだよっ」

 

 

 

 

我ながら恥ずかしくなってきたな…。

 

 

 

 

セクハラトークは

これぐらいにしておこう。

 

 

 

 

「じゃ、じゃあ俺はこの辺で〜…」

 

 

 

 

部屋に荷物も運んだし退散。

 

 

 

いやぁ、流石にドン引きされたなぁ。

つい熱く語ってしまった。

 

 

 

 

 

(そういや村上の野郎、何してっかな?)

 

 

 

 

あいつの部屋に行ってみるか。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「なによ一体…。

自分だけ言いたいこと言って、

勝手にどこか行っちゃって…!」

 

 

 

 

飛鷹は喚いていた。

 

 

 

「一方的に告白しておいて逃げるなんて

酷いじゃない!!」

 

 

 

でも……

 

 

 

 

「提督とだったら…」

 

 

 

提督とまたデートに行って優しくされる

シーンを想像する。

 

 

 

ああっ、もう恥ずかしくなってきた!!

 

 

 

 

 

ちょっとだけ惚れそうになったじゃない!

ほんのちょっとだけよ?!

 

 

 

 

 

べべ別にわわ私から好きなんて

絶対に言わないんだからっ!!

 

 

 

 

 

 

 

その後飛鷹は次のデートに向けて、

衣装チェックを夜遅くまで

するのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

JR市ケ谷駅前 1712i

 

 

 

 

 

 

「おえーっぷ…」

 

 

 

 

「おい村上ぃ、本当に大丈夫か?」

 

 

 

 

「構うな…、話しかけるな…うっぷ」

 

 

 

 

「お前が何してるのかと思ったら、

まさか二日酔いだったとはね…」

 

 

 

 

 

なぜか俺と村上は市ケ谷駅を歩いていた。

 

 

 

…それも靖国神社に向かって。

 

 

 

 

 

 

 

 

こうなった経緯は飛鷹と別れてから…

 

 

 

 

 

ガンガンガン!

 

 

 

 

「おい村上、いるんだろ!

フロントで確認は取れてんだぞ!」

 

 

 

 

乱暴に村上の部屋をノックダウンする。

 

 

 

ノックじゃないのはパワーが強いから。

なぜ乱暴にノックしているかというと…

 

 

 

 

「一日中閉じ篭もってると

ニートって呼ぶぞこの野郎!」

 

 

 

 

村上の野郎が一回も

外出してねーでやんの。

 

 

 

夕食がてら軽く飲みに行こうとしたら

寝てやがるのか返事が無い。

 

 

 

 

「ただの屍のようだ」

 

 

 

キイ…

 

 

 

「人を死人扱いするな…、

生きてる…おっぷ!」

 

 

 

 

「だあああ!

なんだこの酔っ払いは?!

酒くさ!」

 

 

 

 

「昨夜ここに元海軍の戦闘機

パイロットだった縁戚のじいさんが

泊まっていてな、バーで閉店まで

付き合わされたんだ…うっ!」

 

 

 

 

「そ、そうなのか…。

すまんかったな、なんだか…」

 

 

 

 

「これから飯にでも行くんだろ?

その前にちょっと寄りたいところが

あるんだがいいか?…うぐっ」

 

 

 

 

 

 

 

…というワケ。

 

 

 

 

「ほれ水だ、味わって飲めよ」

 

 

 

「ああ、恩にきる…」

 

 

 

 

ゆっくりペットの水を飲む村上。

 

 

 

 

 

「助かった…かなり楽になった」

 

 

 

「んで?急に靖国神社に行きたいってのは

どういう風の吹き回しだ」

 

 

 

 

「昨日のじいさんの話でなんだが……」

 

 

 

 

 

村上の親戚のじいさんは『加賀』の

戦闘機パイロットだったらしい。

 

 

 

先日『加賀』が現れて、記念に元軍人会を東京で開いてたまたまホテルで

一緒になったそうだ。

 

 

 

流石に村上も『加賀さん』のことは

話さなかったが、じいさんは昔話を

永遠としたらしい。

 

 

 

中でも亡くなった戦友の話に

興味を持ったようだ。

 

 

 

 

「…それで無性に靖国に

行きたくなった、と」

 

 

 

「意味は無い、

ただ行きたくなっただけだ」

 

 

 

 

そんな話をしていると、すぐに

靖国に到着した。

 

 

 

 

デカ!マジで鳥居でかっ!!

 

 

 

「まずはお辞儀だな…」

 

 

 

 

90度のお辞儀の敬礼。

敬礼って言い方はちと違うが。

 

 

 

手水舎(てみずや)でちゃんと身を清める。

両手と口に冷たい水が気持ちいい。

 

 

 

やっと二礼二拍手一礼だ。

 

 

 

チャリン!

 

 

パンパン!

 

 

 

 

(英霊の皆さん、初めまして。

海士長、菊池圭人と申します。

 

 

かつての軍用艦とその

魂である艦娘が出現しました。

 

 

また、人類の敵になるであろう存在も

現れた次第です。

 

 

 

私には国の為というのは

よくわかりません。

 

 

 

ただ、彼女らと国民を

守っていただきたい。

 

 

私はどうなろうと構いません。

 

 

私が守りたいのは人々の笑顔です。

誰も傷付かない、泣かないなんて

理想と空想に過ぎないのはわかってます。

 

 

 

艦娘のフネに乗っていた乗員の人々も、

彼女たちを見守ってあげてください!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ふう、長く願い過ぎたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と長かったな…

どんな願い事をしたんだ?」

 

 

 

 

「そりゃ艦娘にモテまくりたいという、

高尚な願いをだな…」

 

 

 

 

 

 

 

「お前は誤魔化しがヘタだな。

お前は真面目な事をすると、

冗談を言ってごまかそうと

するクセがあるぞ」

 

 

 

 

「別にいいだろー、

つまんないことなんだしさー」

 

 

 

 

「ま、他人の願い事なんて

俺も気にはならんが」

 

 

 

 

 

そうそう、

俺に真面目は似合わないからな。

 

 

 

 

俺は軽く生きるキャラなんだし、

ヘタに真面目を出してもつまらん

だけだっての。

 

 

 

 

私利私欲で生きる塊、

ダメ自衛官で結構。

 

 

 

 

 

それに今更真面目にしようったって、

キャラの変更は難しいんだよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

参拝時間は18時まで。

もう少しだけ時間があるな…。

 

 

 

 

ベンチに腰掛け、小話でもするか。

 

 

 

 

「少し休もうぜ」

 

 

 

 

「そうだな」

 

 

 

 

 

桜の木に囲まれたベンチに座る。

 

 

 

桜には木の板で陸海軍の部隊や

同期の集いが寄付したとある。

 

 

 

 

「そういや…」

 

 

 

「うん?」

 

 

 

 

俺のつぶやきに村上が反応する。

 

 

 

 

 

 

 

「自衛官って、

戦死したらどうなるんだ?」

 

 

 

 

「どうってのはどういう意味でだ?」

 

 

 

 

「そのまんまでだよ。

戦前なら軍人や一部の公務員関係は

靖国に祀られただろ?

 

 

 

じゃあ現代の軍人の自衛官は?

 

 

 

別に祀られたいとかじゃ無いけど、

どうなるのかなって」

 

 

 

 

 

「そうだな…、国から見舞金名目で

1億円ぐらいが官房機密費から

出されて終わりじゃ無いか?」

 

 

 

 

「金だけじゃねえよ、

慰霊祭とか葬祭とかそっちは?」

 

 

 

 

「殉職隊員というのは毎年いる。

殉職隊員追悼式は聞いたことがあるだろう?

そこで不幸にも職務中に殉職した隊員を

追悼する式典はある。

 

 

だがそれはあくまで実戦以外の

職務中のことであって、

戦争で死んだらどうなるかなんて

決まってないんじゃ無いか?」

 

 

 

 

「じゃあもし俺たちが戦争で死んでも…」

 

 

 

 

「一億円が遺族に渡されて戦死通知。

よくて上官が葬儀の後に

遺族を訪問ってぐらいだと思うぞ」

 

 

 

 

 

 

…そんなもんなのか。

 

 

 

 

「…じゃあもし艦娘の誰かが

轟沈したらどうなるんだ?」

 

 

 

 

「……わからん」

 

 

 

俺にもわかんねえから聞いたのに…。

 

 

 

「俺たちが身内で

葬儀をするぐらいじゃ無いのか。

 

 

彼女たちがどういう身分で

扱われるかわからないが、

一般人ほどの自由も権利も無いだろう。

 

 

人知れず沈んだ軍艦を葬儀する、

一言で言ってしまえばそうなる」

 

 

 

 

「…寂しいな」

 

 

 

 

「ああ…」

 

 

 

 

「フネに妖精が乗ってるそうだが、

そいつらが死んでもか?」

 

 

 

 

「知らん…」

 

 

 

 

「そうか…」

 

 

 

 

 

「ああ…」

 

 

 

 

 

虚脱感だけが体を支配する。

 

 

 

 

「村雨や加賀が沈んで消えたら、

俺たち以外に悲しむ人はいないのかな?」

 

 

 

 

「たぶんな…」

 

 

 

 

「彼女たちは、

何の為に戦ってくれるのかな。

 

 

彼女たちは、自分たちが傷ついて、

沈んでも国民は何とも

思わないって知ったらどう思うかな。

 

 

 

自分たちの守るべき国が、国民が、

自分たちをどうでもいいって

思ってると知ったら、何て言うかな…」

 

 

 

 

「わからん…」

 

 

 

 

 

 

俺たち自衛官は中途半端な存在だ。

 

 

 

 

軍人じゃない、

死んでも金が払われてそれだけ。

 

 

憲法違反だの、中途半端だの、

左にも右にもら文句を言われる。

 

 

 

じゃあ艦娘は?

 

 

勝っても負けても戦いに明け暮れる日々。

 

 

沈んだらどうなる?

身内で葬儀?墓は?

 

 

人知れず死んでいくのか?

 

 

 

 

日本の為に戦って一度は沈んだり、

戦後解体されて。

 

 

 

 

また現代に呼ばれたと思ったら、

また戦えなんて…。

 

 

 

 

彼女たちは駒や道具じゃないのに、

俺たち自衛官は愛する人を

守りたいだけなのに。

 

 

 

 

守りたいものを守れても、

守りきり死んだ時にどうなるのか。

 

 

 

 

死んで祀れ、なんて主張する

わけじゃない。

 

 

 

豪勢な墓を建てろ、なんて

言っているわけじゃない。

 

 

 

 

 

 

自分たちがどう戦って、どう散ったか。

 

 

語り部はいるのだろうか。

 

 

 

彼女たちの生き様を語る者は

いるのだろうか…?

 

 

 

 

軍艦には数百名の乗員がいる。

 

 

 

艦娘の場合妖精が乗り組んでいる

らしいが、艦娘が沈んだらその妖精

たちはどうなるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

死ぬなんて、自衛官になってから

初めて考えた気がする。

 

 

 

 

ふと今までの人生を振り返る。

 

 

 

 

南西方面、俗に言うSW(サーウェスト)の中国海軍の監視活動に行った時だって、

ソマリアに派遣された時だって

自分が死ぬなんて考えもしなかった。

 

 

 

戦争になったら怖いな、

そんなことを考えたぐらいだ。

 

 

 

 

この前の戦闘でさえ自分が死ぬなんて

考えたことはなかったな。

 

 

 

 

今後は自分が指揮官となり艦娘に、

愛する人たちに戦えと、

死ねと命令しなくてはいけない

立場になるかもしれない。

 

 

 

 

(…俺は守れるのか?)

 

 

 

 

さっき飛鷹に冗談でやったように

掌を返して強く握る。

 

 

 

 

(この手で何を掴む、何を守る?)

 

 

 

 

艦娘、同期である村上、

その他上司や知り合いの隊員。

 

 

 

いやそれだけじゃない。

 

 

 

俺たちは名前こそ違えど軍人だ。

国民を守る為にいる、そのためなら…

 

 

 

 

(仲間を、艦娘を見殺しにしてでも

国民を守らないといけないのか…?)

 

 

 

 

 

一人の軍人を囮に、一人の国民を救う。

 

 

当然なことだと世界は言うだろう。

 

 

 

 

でもその助けた奴が糞幕僚のような

殺したくなるような奴でもか?

 

 

 

そいつが生きてて犯罪をするかも

しれない、大量殺人をするかもしれない。

 

 

 

 

それがわかっていても助けるのか?

いや、助けなくてはいけないのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

「もし…」

 

 

 

 

声を出したことにハッとしたが、

横の村上は酔いが抜けきって

いないのか眠っていた。

 

 

 

(もし艦娘が、村雨が敵を一人で

引きつけて何百人何千人と

助かる状況になったら、

俺は…どうする?)

 

 

 

 

それでも命令するか?

一人と駆逐艦一隻で数百人が

助かるのなら安いものではないか。

 

 

 

 

いやいや人数こそ多いが所詮他人だ、

自分の大切な人を守れずして

何が自衛官だ軍人だ。

 

 

 

 

…あくまで公の自分を取るか、

それとも本心の私の自分を取るか。

 

 

 

どちらか決断しなくては

いけない場面になったら、俺は…。

 

 

 

 

 

 

ふと手に違和感を感じ、

握っているのを忘れていた掌を開く。

 

 

 

 

 

 

 

爪が食い込んだのか血が流れていた。

 

 

 

 

 

(国民を救っても血が、

村雨を救っても結局

この手は血で汚れる、か…)

 

 

 

 

 

どちらを選ぶのが正しいとか誤りなんて

模範解答なんて無いんだろうな。

 

 

 

 

そうなる時点で戦争は

終わっているのかもしれない。

 

 

 

 

そう、かつての日本。

大東亜戦争とか太平洋戦争と

呼ばれた戦いや、その前から

日中戦争を何年も続け、挙げ句の果てに

本土決戦を考える軍部。

 

 

 

 

(戦争なんて軍人がやるもの、

なんて理屈は通じないのかな…)

 

 

 

 

軍隊は国民を守るためにある、

なのに国民を戦場に立たせるのは

おかしいな…。

 

 

 

 

『大和魂があればアメリカなんぞ

余裕である!

 

 

大和魂を持ち戦えば神風が吹き、

回天必勝が訪れるのだ!』

 

 

 

 

 

大和魂…これが具体的に何を表すのか

俺にはわからない。

 

 

 

 

桜、富士山、侘び寂びの心、露天風呂。

 

 

 

恥ずかしながら

これぐらいしか思いつかない。

 

 

 

 

愛国と売国、日本を愛することと

日本を他国に売ること。

 

 

 

前者には有って、後者には無いもの。

 

 

 

 

じゃあ俺には愛国心はあるのか?

 

 

 

…愛国心ってなんだ?

 

 

 

 

 

日本軍の軍人はみな

愛国心が強かったと聞く。

 

 

 

もちろん天皇陛下万歳とかだけではなく、自分の大切な存在を思うことも

愛国心に含めるとだが。

 

 

 

 

郷土、家族、大切な人。

 

 

 

 

 

(あれ、いまとあんまり変わらない?)

 

 

 

 

よくテレビで聞く天皇陛下万歳と

叫ぶ心の内には、

何か別のモノがあったのではないか?

 

 

 

 

 

母親、子供、恋人。

本当は大声で言いたかったのではないか?

 

 

 

 

 

 

他の人にこんな事を言ったら

罵倒されてしまうかもしれない。

 

 

 

 

でも俺が当時兵士だったら…。

例えば軍艦に乗り組んでいたりして、

大切な人がいたのなら…きっと。

 

 

 

 

 

「…いたら、どうしますか?」

 

 

 

 

「……えっ?」

 

 

 

 

突然背後から掛けられた声に振り向く。

 

 

 

 

「好きな人の名前を、

最後まで呼びますか?」

 

 

 

 

そこには初めて会う艦娘がいた。

 

 

大和撫子を体現したような振る舞いと

美貌、そんな言葉が似合うのは

ただ一人の艦娘だけ。

 

 

 

 

 

「君は…『大和』だね?」

 

 

 

 

「はい、お久しぶりです『菊池兵曹』」

 

 

 

「久しぶり…?兵曹…?えっ?」

 

 

 

「いえ、何でもありません」

 

 

 

 

「…?」

 

 

 

 

(あれ、大和って今回出現してたか?

あれは旧海軍の戦艦だよな…)

 

 

 

 

横の村上を起こそうと

突っつくが起きない。

 

 

 

 

「こうして菊池さんと『また』

巡り会えたのも、何かの縁でしょう…」

 

 

 

 

「は、はあ…」

 

 

 

 

だめだ、まったく大和の

ペースについて行けない。

 

 

 

 

だいたいさっきから変だぞ、

まるで『昔から知っている仲』みたいな

会話じゃないか…。

 

 

 

「あのさ、大和、

俺たちって今日が初対面…」

 

 

 

 

「もうお別れみたいですね…」

 

 

 

「は?何が?」

 

 

 

大和がそう呟くと、大和の後ろの景色が

歪んで行き、それが周囲に広がる。

 

 

 

「いやいやいや!

ヤバイって!逃げようぜっ!」

 

 

 

村上をどつきながら、

大和へ必死に叫ぶ。

 

 

 

 

「せっかく20年ぶりに会えたのに、

次はいつでしょうか…?」

 

 

 

「シラネーヨ!呑気に突っ立ってないで

一緒に逃げろって!!」

 

 

 

 

起きない村上を諦め、せめて

大和だけでもと手首を掴もうとする。

 

 

 

 

 

スカッ!

 

 

 

スカスカッ…

 

 

 

 

あるぇ?!

 

 

 

 

なんでだ!

そう叫ぼうと大和の顔を

見た俺は固まった。

 

 

 

 

 

なんと大和が透けていた。

 

 

 

「ええーーぇ!!」

 

 

 

 

あまりの出来事に言葉が出ない。

 

 

 

 

「『菊池兵曹』また会えてよかった。

もう会えないって思っていましたから。

…しばしのお別れです」

 

 

 

大和は一方的に話し続ける。

 

 

 

 

「艦娘とその船体が出現したのは

偶然でも奇跡でもありません。

…必然なんです」

 

 

 

 

そこに風が吹く。

 

 

 

ヒュオオー…

 

 

 

決して強くはない只の風、

だが思わず目を閉じてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「ぉ~ぃ…」

 

 

 

 

「おーい」

 

 

 

 

 

 

なんか耳元で声が聞こえるな…

 

 

 

 

人の耳元で叫ぶとはどんな奴だ、

親の顔が見てみたいな。

 

 

 

 

 

「おーい!!起きろよっ!」

 

 

 

 

パッコーン!

 

 

 

痛くは無いが、

叩いた時の音が頭と耳に響く。

 

 

 

 

「誰でえ、人の頭を叩くヤツァあ?!」

 

 

 

 

「おっ、起きたか居眠り野郎」

 

 

 

「はれ、はれれ?大和は…?」

 

 

 

「寝ボケるな、呂律も回ってないぞ」

 

 

 

「いやさっきまで、大和がいた、

…じゃん?」

 

 

 

 

村上に尋ねる口調が思わず弱気になる。

 

 

「まだ言うか…」

 

 

 

 

村上が腕時計を顔の前に持ってくる。

 

 

 

「1740。俺がうたた寝してから、

4分しか経っていないぞ?」

 

 

 

 

たしか村上がコックリ眠り始めたのが

1736だった、俺も時計を見たから

覚えている。

 

 

 

 

「お前が寝ぼけて『もし…』なんて

寝言を言うから目が覚めた。

 

 

 

人の肩に頭は乗せるし、

揺すっても起きん。

最後に空のペットボトルで頭を叩いて

強制起床、というわけだ」

 

 

 

 

(あれ、大和が出てきたのは…夢?)

 

 

 

 

「どうしたそんな狐に

化かされたような顔をして?」

 

 

 

 

「…さあな。

ちょっと疲れてるだけだと思う…」

 

 

 

 

「?」

 

 

 

 

 

靖国神社という特殊な場所もあるのか、

不思議な夢を見た。

 

 

 

 

 

でも大和が言ってた『兵曹』とか

『久しぶり』とか、どういうこと

なんだろう…。

 

 

 

 

何か忘れている気がするな。

 

 

 

 

 

そう、昔の思い出。

 

 

 

 

ガキの頃に何か聞いたような?

 

 

 

 

 

「もうすぐ参拝時間も終わるし、

軽く飲みに行かないか?」

 

 

 

 

「いいねぇ!

市ヶ谷のリーマンに混じって

一杯やりますか!」

 

 

 

 

 

気持ちを切り替え、靖国を後にする。

もちろん出る時も、拝礼は欠かさない。

 

 

 

(大和がドロップして、

超弩級おっぱいが揉めますようにっ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

「…また会えて嬉しいです。

でも、いつかちゃんと『現れる』までは

会えそうに無いですね」

 

 

 

 

二人の後ろ姿を見守る

ポニーテールの少女。

 

 

 

 

「戦艦大和、それが私」

 

 

 

大和は一人、誰に対してでもなく呟く。

 

 

 

「私はもう、

貴方の前で沈んだりしません!

 

だから、

もう少しだけ待っていてくださいね…」

 

 

 

 

 

大和の言葉の意味とは。

 

 

呟いた言葉と同じように、

大和も静かに消えていった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





大和が不思議ちゃんにしか思えない
描写になってしまいました!



もっとこう、上手いこと
書きたかったのですがここが
今の私の限界のようです…。



国語の勉強をまともに
してなかった所為です。


菊池兵曹って誰だ?
それは今後出てきますから
じっくりお待ちを。



靖国とか愛国心といった色々と
難しいことを書かせてもらいました。


自衛隊と国防を語る上で避けられない
大きなキーワードと
いってもいいでしょう。


今の日本があるのは
亡くなった英霊の方々があってのことを
少しでも覚えておいてもらいたいです。




私の親戚が戦艦大和に乗り組み出撃、
還らぬ人となりました。



不謹慎とは思いますが、敢えて
これをこの小説に使わせて頂きました。






●今後の展開


今度こそ序章が終わりです。
次からはやや飛ばしつつも、
戦闘がちらほらと入ってきます。



修理に補給。
損害は軽微でも、心身ともに疲れた一行。


主人公は保養を兼ねた休暇を上申します。



あとはご想像通り、セクハララッシュです(苦笑)


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0-13 紅茶の様な甘いキスを君に 【横須賀基地】

ようやく存在する全艦娘が見参!


ただし一部のみ!




所属も海幕に変わった主人公たち。




艦娘も全員が揃う親睦会を前に、
ちょっとした騒動が……。







あれから一週間後

 

 

 

横須賀基地某岸壁0720i

 

 

 

ホーーーーー…

 

 

 

 

ヒーーーーー…

 

 

 

スッ…

 

 

ホォーーーーーォ…

 

 

 

 

霧島の舷門の妖精が

『送迎』のサイドパイプを吹く。

 

送迎とは所属する護衛隊等の司令、

及び一佐以上の幹部が乗艦する際に

前に言ったサイドパイプを吹いて

出迎えることだ。

この音を2回繰り返す。

 

ホーとヒーとホー、

それぞれ6秒ずつの計18秒

吹き続けなくてはいけないのだが

実際には4秒ずつだったり、

ヒーの後に息継ぎをするのが

慣習となってしまっている。

 

本来は正規分の正規でやらなくては

ならないが、あまり細かく言われる

ことも無いのが現状だ。

 

ちなみに「正規分の正規」とは

海自の用語の一つであり、

文字の通り全部規則通りに

則ってやりなさいよということ。

 

…若年隊員にとっては、

使いどころがわからない

未知の単語の一つである。

 

 

……

 

 

市ヶ谷の査問から一週間。

休養日の次の日からは海上公試へ

向けた打ち合わせと根回しが始まった。

 

ついでに言えば、俺と村上は

『むらさめ』の乗員では無くなった。

 

今の所属は一応海上幕僚監部。

配置は『臨時特殊艦船運用企画作戦

準備室』という東京特許許可局も

霞むような意味不明な怪しい所。

 

そこの室長代理兼運用係長が

今の肩書きというか役職。

 

代理だの運用係長ってなってるけど、

俺士長!下っ端の士長だから!!

 

何すればいいの?!

って初日は思ってたけど、

やってみると案外面白かったりする。

 

関係各所を回ったりで大変だけどね。

 

海幕から言われたのは、

『海上公試を行うにあたり、

特殊艦船室(略した)は必要な物資の

リストアップ、艦娘とその船体の諸元や

操作法の簡単なマニュアル作製、

それから……あーだこーだ』

 

一言で言うと必要な全部の情報を

集めてくれや、モノやヒトは

こっちで準備すっからよ!

 

…という丸投げな命令が海幕長直々に

出ているのであります。

 

休みなんてねーよ!

月月火水木金金で海幕に

詰め込まれて働きっぱなし。

 

 

夜はホテルに泊まれたが、

遅寝早起きだから全然

寝た気がしねーっての。

 

 

 

 

もちろん村上や他の艦娘も一緒だ。

 

 

 

とはいえ業務の合間に話をする程度で、

恒例のセクハラやデートは全く

できなかったのが悔やまれる←するな!

 

 

 

 

 

 

 

とはいえ…

 

 

 

 

目の前に停泊するフネ、

『霧島』のマストを仰ぎ見る。

 

 

 

 

美しい、その一言に尽きる。

 

 

 

 

 

軍艦は兵器、戦うためのものだ。

しかしその兵器から滲み出る美しさ、

無骨な兵器だからこそかもしれないが

機能美や匠の職人技というものに

引き込まれる。

 

 

 

 

スポーツ選手の汗が美しいように、

黒光りする砲身、艦橋。

戦うためだけの存在なのに、

無駄に凝った造り、曲線美。

 

 

砲塔や艦橋の曲線美を一言で

表すとしたら、それはまさしくエロス。

 

 

 

 

 

艦娘が美しいように、船体もまた美しく

惚れ惚れする造形美だ。

 

 

 

 

「…おい何ヨダレ垂らして

ニヤついているんだ?」

 

 

 

声に反応して後ろを見ると村上が

気持ち悪そうな顔で立っていた。

 

 

 

「ん~?

いいよなぁこういった兵器の美しさって、

造形美っていうかエロスっていうか…」

 

 

 

 

「さっさと俺たちも乗艦するぞ。

本来なら俺たちは先に乗って『総監』を

もてなさないといけないんだぞ」

 

 

 

 

「へいへい、わぁってるよ。

…はぁ、惚れ惚れするなぁ~」

 

 

 

 

「…ダメだこいつ」

 

 

 

 

今日は出港はしない、『初度巡視』。

 

 

初度巡視といって本来は地方総監や

護衛隊群司令が年度が変わったり、

人事交代した時に隷下の艦艇や

部隊を見て回るイベントだが、

今回はこの騒動の中心となった横須賀で

例の地方総監南雲さんと海幕長の

代理の偉い人が横須賀組のフネを

見て回るだけだ。

 

 

 

公試は明日から、

今日は昼過ぎには終わる予定だ。

 

 

 

ラッタルを一段一段登りながら

ブレイク(上陸)になってからの予定を

勝手に考え始める。

 

 

 

 

(まずは下宿に帰って、艦これやって…)

 

 

 

「…って日常と変わらんじゃ無いか」

 

 

 

 

「は、何が?」

 

 

 

 

「いや、独り言だ」

 

 

 

 

「あっそう」

 

 

 

 

 

ラッタルを登り切ると、

すでに金ピカの階級章やら制帽やらを

身に付けた幹部の人がたむろしていた。

 

 

 

 

この後俺たちは総監を始めとした

VIPの案内役になっているのだが…

 

 

 

「総監は一体何処に?」

 

 

 

「…あ、そこで妖精と話してるの、

ナグさんじゃね?」

 

 

 

 

「おいっ!総監をナグさんとは

なんだ菊池!もし聞かれたら

どうするんだよ?!」

 

 

 

 

「優しそうだし、

大丈夫なんじゃねーかな?」

 

 

 

 

「…胃薬持って来ればよかった」

 

 

 

村上がため息をつく中、俺たちは

総監に近寄る。

 

 

 

 

「総監、いかがですか。

戦艦に乗ったご感想をお願いします」

 

 

 

「やあ菊池士長に村上士長。

私はどちらかといえば航空主兵主義だが

実際に乗ると、子供の頃に作った

プラモデルを思い出すよ」

 

 

 

 

総監の瞳は子供のように輝いている。

 

 

 

 

「おう提督、ちゃんと働いてるか?」

 

 

 

総監と話していた妖精が話しかけて来る。

 

 

 

彼は霧島の機関長妖精。

総監が主機(もとき、エンジンのこと)の質問をしていたようだ。

 

 

 

「まあまあかな、ここんとこ

寝られなかったけどね」

 

 

 

 

「そいつはお疲れさんだな。

この期間が終わったら一杯どうだい?」

 

 

 

 

「おっ、やっるぅ!

俺に一杯奢らせてくれよ」

 

 

 

 

相手は機関長、人間でいえば幹部クラス。

 

 

初対面の時は身長1mぐらいの

妖精全員に敬語で話しかけて

いたが、彼らから

タメ語でいいと言われてから

フランクに話しかけている。

 

 

 

 

「随分と馴染んでるじゃないか」

 

 

 

 

「はは、おかげさまで」

 

 

 

 

巡視といっても研修のようなものだ。

 

 

 

艦内各部を周り、各部の妖精が

俺たちにレクチャーをしてくれる。

 

 

 

 

霧島の〆は主砲の旋回と対空射撃を

模したデモンストレーション。

 

 

 

俺たちは艦首で見学する。

 

 

 

 

砲塔旋回を知らせるベルが鳴り響き、

金剛型の35.6センチ45口径連装砲を

水圧ポンプが破裂するかのような駆動音を響かせながらゆっくりと海側を向く。

 

 

 

 

「「「おおーっ!!」」」

 

 

 

見学者から歓声が上がる。

 

 

 

 

だが俯角は未だ水平のまま。

 

 

 

 

ウイィーンと前部の砲身4門が

最大仰角33度を目指して突き上がる。

 

 

 

 

ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 

 

 

『教練、左対空戦闘ー!

敵艦載機群、30(さんまる)!

一斉打方……ッテェー!』

 

 

 

 

 

もちろん号令だけであり、砲身から

火を吹くことは無いが見学者には

黒煙と火山の噴火のような発砲の

光景が目に浮かんだ。

 

 

 

 

「…霧島は以上です。

次は駆逐艦村雨にご案内します」

 

 

 

 

 

駆逐艦5隻と飛鷹、そして千代田航を

ざっと周り最後は加賀だ。

 

 

 

 

「『かが』と同じ全長だときいていたが、

実際にはこうも広いものか…」

 

 

 

 

見学者からぽつりと言葉がでる。

 

 

 

 

「全長だけでいえばほぼ同じなのですが、

飛行甲板の面積でいえば空母加賀は

約7000平方メートルあり、護衛艦かがより面積はやや狭いのですが、他の母艦の

搭乗員からはとても広いと

言われていました」

 

 

 

村上が話を引き継ぐ。

 

 

 

 

「ミッドウェイ海戦で沈むまで

加賀の飛行甲板面積は国内空母一だった

そうで、他の母艦から来たパイロットが

驚いたという記録が残っています」

 

 

 

 

見学者がペタペタと

飛行甲板を触り始める。

 

 

 

後ろに控える加賀が目を鋭くする。

 

 

 

「飛行甲板はデリケートなので、

あまり触らないようにお願い致します。

見ての通り表面は木材で、ラテックス等を滑り止めとして塗っています。

 

 

着艦時の衝撃にも耐えられるように

厚さも考慮されています」

 

 

 

 

 

こちらの説明に

興味を持ってくれたようで、

見学していたお偉いさんたちが

話に耳を傾けてくれる。

 

 

 

 

 

(よかったー、加賀も

矛を収めてくれたみたいだ)

 

 

 

加賀の飛行甲板って言ったら、

デリケートだから触るなが枕詞だから

うまく誘導してお偉いさんの注意を

逸らすスタイルで場を切り抜ける。

 

 

 

 

「次は艦橋をご案内します。

艦橋といっても一つではなく…」

 

 

 

 

 

目ぼしい区画を周り、今度は格納庫。

加賀さんの大事な場所…!

 

 

 

内部には航空機がズラリと並べられ、

整備作業も不測の事態に備えて

継続されている。

 

 

 

 

整備の邪魔にならないエレベーター付近の一画で、整備妖精や飛行長妖精らが

搭載機の概要を説明する。

 

 

 

 

その間俺たちは専門外なため、

しばし休息の時間。

 

 

 

「ここが加賀さんの大事なトコロねぇ…」

 

 

 

 

意味深な発言で加賀を惑わせる。

 

 

 

「き、菊池士長。

そういった発言は、

ご、語弊を生みます…。」

 

 

 

 

加賀が珍しく動揺しながら

俺に指摘してくる。

 

 

 

(あれ?てっきり大概にしてほしい

とか言われるかと思ったけど、

手応えがねーなぁ…)

 

 

 

 

「はは、ごめんごめん。

でもこう見ると圧巻だな、

帝国海軍が誇った第一航空戦隊の

空母加賀の加賀航空隊。

 

 

翼を休めていても、そこから感じられる

気迫。まるで息を殺して獲物を狙う

ライオンのようだ」

 

 

 

 

零戦21型に99艦爆と97艦攻。

 

 

 

終戦時の機体と比べると旧式なのは

否めないが、ミッドウェイ海戦時は

これらが搭載され飛び立ち、

遠くの空を舞っていたのだ。

 

 

 

「加賀、

コックピットに入ってもいいかな?」

 

 

 

興味が湧き、ダメ元で頼み込む。

 

 

 

「操縦桿やラダーぐらいでしたら動かしてもらっても構いませんが、

スロットルや計器類には

お手を触れないでください。」

 

 

 

 

「ほいほい~」

 

 

 

 

 

キャノピーをスライドさせ、

操縦席に潜り込む。

 

 

 

 

狭いなぁー、現代人の体格だと

ちとキツイなあ。

 

 

 

特に横幅がね。

 

 

 

頭上のキャノピーに

頭が当たりそうな狭さだ。

 

 

 

 

試しに足元のペダルを踏み、

機体後部のラダーをバタバタと動かす。

 

 

 

 

 

小中学生の頃に親に連れて行ってもらった

静岡県の空自の広報館を思い出す。

 

 

 

そこには退役したT-2という高等練習機が

展示してあり、コックピットに入ることも可能で乗り込んで操縦桿やペダルを

一心不乱に動かしては自分の操縦で

機体が動くのが面白くて仕方なかった。

 

 

 

 

現代の航空機はフライバイワイヤ

といって、操縦動作にコンピュータ制御の油圧ワイヤーを介す仕組みが主流だ。

 

 

 

電源が入っていない駐機中は

翼はヘナっと下を向く。

 

 

 

 

「いかがですか菊池士長?」

 

 

 

 

「……快感!」

 

 

 

 

「…しょうがない人です。」

 

 

 

 

子供のようにはしゃぎ、その動作を

履行する機体後部を輝いた目で見る。

 

 

 

 

だが流石に成人した自衛官。

見学者の説明が終わったと気付くと

気持ちを入れ替え、仕事モードに戻る。

 

 

 

 

「次はお待ちかねの発艦です。

皆さまエレベーターお乗りください」

 

 

 

 

 

 

エレベーターといってももちろん

普段使う方ではない。

 

 

 

 

航空機を飛行甲板に

移動する際に使われる方だ。

 

 

 

 

ウイィーン…

 

 

 

ゆっくりと、しかし力強く上昇していく。

 

 

 

ガタンとやや粗い揺れがあり、

エレベーターは停止する。

 

 

 

 

今いるのは艦橋付近の前部エレベーター。

 

 

 

 

「航空機はあちらから出てきます…」

 

 

 

 

俺が言い終わると同時に、

後部のエレベーターから機体が現れる。

 

 

 

 

「これから航空機が2機、発艦致します。

 

 

まずは99艦爆、そして零戦。

もちろん関係各所には飛行許可は

もちろん、通知も出しておりますので

些かパフォーマンスが過ぎるかも

しれませんがご容赦ください」

 

 

 

 

俺が手を挙げ、99艦爆の側にいる

整備妖精がイナーシャを回し

エンジンの始動を助ける。

 

 

 

 

100m以上離れているにもかかわらず、

不安になるぐらいの爆音が

鼓膜を痛めつける。

 

 

 

 

このまま爆発するのではないか。

そんな幼稚な考えが脳裏をよぎる。

 

 

 

数分後機体横に控えていた妖精が

白旗を掲げた。

『発艦用意よし』だ。

 

 

 

 

同時に揚旗線に括り付けられていた

旗流信号が半揚にされる。

 

 

艦橋に視線をやるとさっき説明を

していた飛行長妖精がコクンと頷き、

手元に持ったマイクを口に近づける。

 

 

 

『間も無く発艦致します。

艦橋側、右舷のキャットウォークへと

退避願います!』

 

 

 

だだっ広い飛行甲板ではどっちが右か左か

一瞬悩んでしまう。

 

 

 

あえて艦橋側と注意を入れたのは

慣れない見学者のためか。

 

 

 

全員退避したのを確認し、

俺は飛行長へ手を挙げ、空中で丸を描く。

 

 

『退避よし、かかれ』

 

 

 

 

 

飛行長の手旗が白から赤へと替わる。

『用意よし』

 

 

機体のタイヤを固定していたチョークが整備妖精によって外される

 

 

 

テレビでよく見る巨大扇風機が

回っているかのような音。

 

 

 

 

 

飛行長が赤旗を左右に大きく揺らす。

 

 

 

『間も無く』

 

 

 

半揚の旗流信号も大きく上下に揺らされ、

パイロットに間も無くを伝える。

 

 

 

 

 

米粒ほどに見えるパイロット妖精が

ゴーグルを掛け直したように見えた。

 

 

 

 

 

旗流が一杯まで上げられる。

 

 

 

同時に99艦爆の爆音も最高潮に達する。

 

 

 

 

 

フルスロットルだ。

 

 

 

 

ヴァアアーー…!!

 

 

 

 

 

今にでも走り出しそうな99艦爆を

固唾を飲んで見守る。

 

 

 

 

 

 

 

赤旗が一気におろされる。

 

 

 

 

『発艦』

 

 

 

 

全揚の旗流が一気に降ろされ、

完全に降ろされる前に飛ばんとする勢いで

99艦爆が滑走を始める。

 

 

 

 

 

 

 

空港に行ったことはあるだろうか。

プロペラ機が滑走を始め、

やや遅れてエンジン音が聞こえる

あの場面を見たことはあるだろうか。

 

 

 

 

それが目の前200m以内で起きている。

 

 

 

 

遠距離故の音のラグも殆どなく、

ダイレクトに発進する航空機。

 

 

 

 

キャノピーを開けたままただ

前方だけを見つめ、己の経験と感覚だけを頼りに発艦するパイロット。

 

 

 

 

プロペラ機特有の回転トルクが

機体を回転方向へと誘うが、

パイロットは前を見たまま感覚のみを

頼りに真っ直ぐ滑走させる。

 

 

 

 

目の前を銀翼の馬が走り抜ける。

 

 

 

 

排気口からでる排気と、

滑走する機体から生まれる対流が

見学者を笑うかのように撫でる。

 

 

 

 

 

思わず被る制帽に手を当てる。

 

 

 

 

艦首のエンドまであと僅か。

 

 

 

 

 

飛べるのか?

落ちてしまうのではないか?

 

 

 

 

そんな心配を大空に放り投げるかのように99艦爆は軽々と浮き上がる。

 

 

 

 

よく考えれば今の状態は空荷。

白黒フィルムの記録映画で見るような

爆装はしていない。

 

 

 

 

これもデモンストレーションだったのだ。

 

 

 

 

「…やっるう~♪!」

 

 

 

 

何処かの軽空母の口癖が移ったのか、

無意識に呟く。

 

 

 

 

99艦爆は仕事は終わったと言わんばかりに、東京湾上空へと向かって行く。

 

 

 

 

 

「さて、99艦爆の発艦はいかがでしたか?

次は三菱飛行機が製作した傑作機。

零式艦上戦闘機21型です!」

 

 

 

 

そう言って手を後部に向ければ、

既に暖機運転を終えた零戦が

今か今かと待ちわびていた。

 

 

 

 

 

「諸元や性能は言うまでもないでしょう。どうぞごゆっくり…」

 

 

 

 

零戦に食い入る見学者を見て、

言葉は要らぬと悟った俺は

ゆっくりと裏方へと下がる。

 

 

 

 

「あー!かっこよかったなぁー!」

 

 

 

飛行甲板の隅で控えている加賀に

心の声を吐く。

 

 

 

 

「勿論です、みんな

優秀な子たちですから。」

 

 

加賀も自分の妖精たちが

誇らしいのだろう、優しく微笑む。

 

 

 

 

「着艦はどうするんだっけ?

見学してもらう?」

 

 

 

 

発艦に感動したのはいいが、

この後の予定まで

頭から飛んでしまったようだ。

 

 

 

 

「いえ、そこはまた

別の機会に見てもらう手筈です。」

 

 

 

 

「そうだったっけ」

 

 

 

 

「はい、この後は総監部にて会食、

海上公試の打ち合わせ、他地区の

艦娘との合同親睦会を予定しています。」

 

 

 

 

 

ワーオ。

さすが一航戦、秘書艦業務も抜かりねぇ!

 

 

 

 

ちなみに自衛隊では司令官クラスになると副官という秘書官のような

部下が付けられ、業務を補佐する。

 

 

 

補佐って言ってもスケジュール管理とか

雑用だったり、関係各所との擦り合わせ

だったりと直接業務には

触れたりしないが…。

 

 

 

 

また、副官とは別に一部の部隊には

副長といった司令(官)の業務を代行するちゃんとした存在がある。

 

 

 

 

その辺の違いは何となくしか

ペーペーにはわかんない。

 

 

 

 

会食か…俺テーブルマナーとか

全然わかんないんだけど。

 

 

 

お上品な家庭で無いため会食が

憂鬱でしょうがない。

 

 

 

 

打ち合わせかぁ~…。

ここ一週間嫌という程やったんだよなぁ。

 

 

 

海幕内は勿論のこと、陸空幕にひょっこり行ったり、統幕や内局に顔見知りが

両手じゃ足りないくらいできたっての。

 

 

 

ま、コネを作れたと言えば

悪くは無かったが、いつ使うかは知らん。

 

 

 

 

 

「皆さま、研修は以上となります。

この後は総監部にて昼食になります。

舷門までご案内致しますので、

私の後に続いてください」

 

 

 

 

夜は他の艦娘と親睦会!

それまでは耐えるのだ、菊池!

 

 

 

人生山あり谷あり!

…っていい事ねーじゃんソレ?!

 

 

 

だが今を乗り切れば

薔薇色のドリームが俺を待っている!

 

 

 

 

 

……はず。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

横須賀基地業務隊食堂1730i

 

 

 

 

「もうダメ、死ぬる…」

 

 

 

やっとこさ会食を乗り切ったら

お次は海上公試の打ち合わせ。

こいつの方が厄介だった。

 

 

 

 

燃料やら生糧品見積もりは当たり前、

海域の設定やら通報先への対応

マニュアル、マスコミも呼ぶとかで

広報対応マニュアルやら保全マニュアルの作製の方針と具体案を話し合った。

 

 

 

勿論数時間で進展しないのはわかって

いるから、今回のは概要と方針の決定。

 

 

 

つまりプロジェクトは

始まってもいないって事。

 

 

 

 

鬱だ…自衛隊辞めよ。

 

 

 

俺、無理だよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どよ~ん……。

 

 

 

「何落ち込んでるのよ司令官!」

 

 

 

元気な声が掛けられる。

だが今の俺には振り向く気すらしない。

 

 

 

 

「俺には提督なんてダメなんだ~。

下っ端だからとかじゃなくて、

根本から無理なんだよ~…」

 

 

 

 

肩からキノコが生えてきそうな声を

机に突っ伏したまま発する。

 

 

 

 

 

ひそひそ…

 

 

 

(これは重症ね…)雷

 

(こんな提督初めて…)村雨

 

(何だか別人みたいね…)飛鷹

 

(メンタルダウンかも…です)高波

 

(何だかかわいそう…)千代田

 

(司令をお助けしなきゃ…)親潮

 

(照月にも何かできないかな…)照月

 

(私の頭脳でも流石に…)霧島

 

 

 

「「……」」村上と加賀

↑打ち合わせにいたから苦労がわかる。

 

 

 

 

「提督~、

他の娘がもうすぐ来ちゃうよー?」

 

 

 

村雨が急かすが、無理な物はむり。

 

 

 

 

(…とはいえ、折角来てくれるんだし

せめて今ぐらいはシャキッとしなきゃな)

 

 

 

ふらりと座っていた席から立ち、

気分転換にジュースで

も飲みに行こうとする。

 

 

 

「18時に呼びに行くんだろ?

それまで少し新鮮な空気を吸ってくる。

ちゃんと戻るから心配しないでくれー…」

 

 

 

 

(((……心配だ)))全員

 

 

 

 

 

 

自販機でストレートティーを買い、

近くの非常階段でちびちびと飲む。

 

 

 

 

「提督って…キッツ」

 

 

 

それが正直な感想。

 

 

 

ネット小説や動画で見るような

戦術バリバリ、用兵のプロみたいな

提督を想像していたんだが、

実際は違うようだ…。

 

 

 

むしろたまにある戦略家や内政が

得意な提督の業務が主になっている。

 

 

 

「仮に業務が同じでも、俺には

内政術や交渉術なんて無いんだが…」

 

 

 

 

そう、俺にはスキルが無い。

 

 

 

あるのはフネで鍛えた雑用ぐらいだ。

あ、反故紙シュレッダーなら

誰にも負けない自信あるぜ!

 

 

 

 

 

「いやいや、

何に使えるんだそのスキルは…?」

 

 

 

 

あ〝ー、折角テンション回復しかけたのにまたドン底だよ。

 

 

 

 

菊池から菊沼に改姓しよっかないっそ。

 

 

 

 

 

 

 

 

カツーンカツーン…

 

 

 

 

「ん?ハイヒールみたいな音だな。

WAVE(女性隊員)か?」

 

 

 

 

非常階段をハイヒールのようなものを

履き、上がってくる音がする。

 

 

 

まあ誰でもいいか…。

 

 

 

 

 

「あー、こんな時は紅茶が飲みてーなぁ!

 

こんなペットの安いやつじゃなくって

爽やかなな茶葉で…、それでいて

香りはフルーティなやつ」

 

 

 

 

何だったかな、そんなリクエストに

ピッタリな茶葉は…

 

 

 

「たしか…」

 

 

 

 

「…それは『レディグレイ』ネー!」

 

 

 

「そそ!それ!

落ち込んだ時に飲んだら

ほっとするんだよねぇ~。

 

 

こんなペットの紅茶じゃなくて、

ちゃんと茶葉から

入れたのが飲みたいねぇー!」

 

 

 

 

さっすがぁ!

この人紅茶に詳しいじゃん!

 

 

 

「今度『霧島』と3人で

ティータイムをするデース!!」

 

 

 

 

 

 

 

……。

 

 

 

 

 

 

 

…ん?

 

 

 

 

 

 

この声、この口調。

 

 

 

 

なんだか、聞き覚えが、あるような…?

 

 

 

 

 

ギギギと音が鳴りそうな動きで

後ろに首を回す。

 

 

 

 

 

「貴方が菊池サンですネー!

噂は霧島から沢山聞いてマース!

 

 

紅茶を愛する素敵な提督と聞いて

いましたが、実際に会ってみたら

もっと素敵デース!!」

 

 

 

 

 

「…えーっと、コンゴウ、さん?」

 

 

 

 

「見ての通り金剛デース!!

よろしくお願いシマース!!」

 

 

 

 

 

これは驚きぃっ!

 

 

 

非常階段を上って来たのは

金剛型一番艦、帰国子女キャラ全開で

メッチャ可愛い金剛ジャマイカ?!

 

 

 

 

(…いや、ジャマイカは違う)

 

 

 

 

セルフノリツッコミしてしまった。

 

 

 

 

ジャンゴウは葉っぱは葉っぱはでも、

『ハッパ』の方のイメージが…。

それにあれ男だし…。

 

 

 

とりあえずこういう時は…

 

 

 

(愛の告白だよねっ!)←?

 

 

 

 

 

「ワーオ、ベリーキュートガール!

 

初めまして金剛、俺は紅茶を愛し、

君のような美しい姫君に仕える為に

生まれたしがない騎士さ!

 

 

さあプリンセス!

手の甲を出しておくれ。

永遠の愛をここに誓おう」

 

 

 

 

突然の金剛ドロップ(違います)に

気分とキャラがブレにブレまくり、

謎の騎士もどきを演じてしまう俺。

 

 

 

 

金剛の前に片膝を着き、金剛が恐る恐る

差し出した手にキスをする。

 

 

 

 

 

チュッ…

 

 

 

 

「やあ金剛。

俺は菊池だよ、よろしくね」

 

 

 

キザなスマイルでイチコロ!

 

 

自己紹介だけ普段のキャラで話す。

 

 

 

「アウアウアウ……アウ」

 

 

 

はれれ?

金剛が顔を真っ赤にして

目を回している?!

 

 

 

 

一体何があったんだ?!

 

 

 

 

ガチャ

 

 

 

「しれ~い!

もう他の艦娘が来てますよ、

早くお戻り…く、だ……?」

 

 

 

 

「提督、早くしないとみんな

まちくたび…れ、て……?」

 

 

 

 

「提督ぅー、女の子を待たすのは

感心しないわよー、もしも

私とのデー…ト、で……?」

 

 

 

 

扉を開けて出てきたのは

霧島と村雨、飛鷹。

 

 

 

 

 

で、今の状況はと言うと…

 

 

金剛、真っ赤に目を回してる。

 

 

俺、片膝を着き騎士スタイル。

 

 

 

 

 

キスは見られてないよ?!

終わって見上げた瞬間だから、

セーフ!危機一髪!

 

 

 

 

 

「…スされたデス…」

 

 

 

 

「え、金剛お姉様…?」

 

 

 

金剛の呟きを疑問に思った霧島が

首を傾げる。

 

 

 

 

「提督にキスしてもらったデーーッス!

 

 

ヒャッホーー!

もう我慢出来ないデース!!」

 

 

 

 

 

びきっ。

 

 

 

 

いまなにか聞こえた。

聞こえちゃいけないおと、

この世から別れを告げるおと。

 

 

 

 

金剛に向いている俺の視線から

明らかに見える、横の波動。

 

 

 

 

みちゃだめだみちゃだめだみちゃ……。

 

 

 

 

「…金剛お姉様ぁ?

司令は何をしたんですかぁ…?

 

 

ぐっ、具体的にっ…

教えてもらえませんかぁ…?」

 

 

 

 

霧島の超ヘビーな声が

俺の耳を突き抜ける。

 

 

 

 

逃げようにも、金剛が俺の両手を

ギュッと握っている為逃げられない。

 

 

 

ついでに俺の体は恐怖のあまり

硬直しているようだ。

 

 

 

 

「だーかーらー!

提督にキスをしてもらったデース!

 

 

ワタシのバーニングラブにさらに

ラブを注入してもらったネー!」

 

 

 

 

…終わった。

 

 

 

 

 

 

ors

 

 

 

 

 

物理的に人生終わった…。

 

 

 

 

「あ、あのなみんな。

キスはしたけども、キスっていっても

手の甲にだな…」

 

 

 

 

言い訳を言いながら、霧島たちの方を

向こうとしたら…向いてしまった。

 

 

 

 

目の前には、

顔は背筋が凍るほど美しい3人。

 

 

 

 

 

だが背後から明らかに見えるドス黒い

オーラが危険だと表している。

 

 

 

 

「いや、これはだな。

ちょっと冗談でだな、

騎士の挨拶を真似しようとだな…」

 

 

 

 

「あ~ら司令ぃ?

司令は冗談でそういったことを

なさるんですかぁ~?!」

 

 

 

「…ていとくぅ~?

私をお嫁さんにしてくれるんじゃ

なかったのぉ~?!」

 

 

 

「…この前のデートから帰ってきて、

私にプロポーズしたのも

冗談ってわけぇ~?!」

 

 

 

 

 

 

 

「「「…えっ?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

3人の声がハモる。

 

 

 

 

「冗談で…?」

 

 

 

 

「いやいやいや…」

 

 

 

「お嫁さん~…?」

 

 

 

「いやいやいや、それはだから…」

 

 

 

「プロポーズゥ~…?」

 

 

 

 

「いやいやいや、あのね

それは愛の別な意味があって…」

 

 

 

 

3人に精一杯の釈明を述べようとする。

 

 

 

 

 

 

 

「……でもさっき提督が

『永遠の愛を誓う』って

言ってくれたデース!」

 

 

 

 

「あ…」

 

 

 

 

金剛がポツリとこぼした言葉で

場の気温が氷点下に落ちた。

 

 

 

 

「「「……」」」

 

 

 

 

つかつかつか…

 

 

 

 

「ひ、ひぃい…?!」

 

 

 

 

「司令の…バカー!」

 

 

 

バッチーン!!

 

 

 

「ヴィッカースッ!?!?」

 

 

 

 

「…提督の、浮気者ォ!!」

 

 

 

パッチコーン!!

 

 

 

「浮気は文化っ!?!?」

 

 

 

 

「よくも私を誑かしたわねっ!」

 

 

 

ベッチーン!!

 

 

 

「実はチョロインッ!?!?」

 

 

 

 

その後も3人のビンタは続き、

俺の顔が赤く膨れ上がるまで

叩かれ続けた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメだよ提督ゥ~!!

そんなに甘えたら困りマース!!」

 

 

 

金剛は横で危険な妄想モードに突入

していたのであった…。

 

 

 

 

 

(金剛お姉様だけ

キスしてもらうだなんてっ…!)

 

 

 

 

(提督のお嫁さんは

私って言ったのにっ…!)

 

 

 

 

(次のデートで私から告白して、

キスをしようと計画してたのにっ…!)

 

 

 

 

 

 

 

(((羨ましいっ…!!!)))

 

 

 

 

 

 

 

3人からの交代ビンタで頬の感覚が

無くなってきた頃、俺はふと思った。

 

 

 

 

(こうやってみんなで騒いで、

楽しんで、一緒にいて。

 

 

 

…たまにビンタされて。

 

 

 

こんな生活も悪くはないかも、な…。

 

 

 

 

 

一緒にいるために、頑張らなきゃ。

 

 

 

仕事の悩みも1人で抱え込まないで、

怒りが冷めたら、

みんなに相談してみよう。

 

 

 

 

みんなで協力して、体制を作って、

誰も沈まない作戦を、するんだ。

 

 

 

 

誰も沈まずに、

深海棲艦を倒して、

そしたら…)

 

 

 

 

 

 

キスの先取りをされた怒りを

にぶつけるしかない3人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(私の司令への…)

 

 

 

 

(提督への気持ちに…)

 

 

 

 

(気付いてリードしなさいよっ…!)

 

 

 

 

 

言いたい本音をビンタという

乱暴な方法でしか伝えられない、

恋の戦いは不器用な戦乙女たち。

 

 

 

 

 

 

そんな彼女たちの気持ちを主人公が

汲み取れる日は来るのだろうか。

 

 

 

 

ビンタはもう嫌だと思いつつも、

艦娘と共にいる日常に

充実と楽しみを感じ始めている

主人公であった…

 

 

 

 

 




私事ですが横須賀の
三笠公園に行ってまいりました。



三笠艦内に感想を書くノートが
置いてあるのですが、毎回
行くと提督がちらほら…!



特に加古ちゃん大人気の模様。
※16年8月2日1600i現在。


三笠は幼少からよく遊びに
行っていますが、いつ来ても
ぐっとくるものがあります。



舷門へ登るとサイドパイプの
『送迎』が鳴り、つい癖で
立ち止まってしまうのは
特定の職業の人間だけでしょう(苦笑)



訪問されていない方は、是非
行ってみてはいかかでしょうか。


日露戦争の海戦の解説や、
当時の世界情勢がびっしり
展示されています。




模型や展示物だけでも見る価値は
ありますので、お気軽に!




欲を言えば、三笠の生い立ちや
日露戦争へ至った経緯。
そして三笠が戦後どう扱われ、
どの様に現在に至ったのか。


その辺も気にしてもらえれば
喜ぶ人もいるのではないでしょうか。




ちょっとだけ難しいことを
考える機会になるかもしれません。




ラムネと東郷ビールは買いましょう!
ケースで買いましょう!




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第一章  小笠原諸島防衛戦
1-1 そして崩壊は突然に 【横須賀基地】


またまた間が空きましたが無事
投稿することができました。


先日までかなり執筆済みの話が
あったのですがとある方の小説を
読んで閃きまして、がっつり方向性を
転換して新たに書き直すことに致しました。



前回のあらすじ。

金剛の手にキス、バレる、ビンタ大量。



親睦を深め深海棲艦との戦いに
備える主人公だが、世界情勢は
急速に悪化を辿るのであった。



横須賀基地業務隊食堂

 

 

 

 

(頬が痛ぇ…)

 

 

 

 

他の基地から来てくれた艦娘を

歓迎するため俺は食堂に足を進める。

 

 

 

 

 

自分の顔が腫れているのは恥ずかしいが、

歓迎をしないのは失礼だ。

 

 

 

 

事情を知らない艦娘たちがぎょっとした

表情で俺を見ているのがわかる。

 

 

 

 

 

「やぁ、ようこそ横須賀へ。

知ってると思うけど、俺は『むらさめ』…じゃなかった、海幕『特殊艦船室』の菊池だよ。

 

 

ざっと経緯を説明すると突如人類を無差別に攻撃する敵、俺たちは『深海棲艦』と呼んでいる。

現状では表立った攻勢には出てきていないが、今後必ずやってくるはずだ。

 

 

敵の武装は第二次大戦時のものを流用しているようで、証拠に錆びた砲弾や機銃弾も発見されている。

今のところは敵艦種は駆逐艦クラスのみだが、いずれ巡洋艦や戦艦、

空母といった大型艦も出現すると

見込んでいる。

 

 

 

そこでみんなの力を貸してもらいたい。

10日前に君たちは運命のいたずらなのか神が起こした奇跡なのか、

フネの魂たる艦娘がいる各自衛艦のそばにかつての乗っていた帝国海軍艦船が現れた。

そればかりかこうして艦娘が『本当にいる』とわかり、俺も嬉しい。

 

 

だが世間は、特に世界中の偉い人は事態を全くわかっていない。

日本に旧式とはいえ大艦隊が現れた、その程度の認識だ。

この襲撃だってテロ組織のもの程度の考えしかない国もある。

 

 

どうか、日本のため、時代は違えど

この国を一緒に守ってほしい!」

 

 

 

 

 

スッ…

 

 

 

「一つ質問いいかしらぁ?」

 

 

 

そう言って手を挙げたのは

舞鶴から来た愛宕だ。

 

 

 

手を挙げるだけであんなに胸が

揺れるなんて、どんな胸なんだ…?

 

 

 

 

「うん、愛宕だね。なにかな?」

 

 

 

 

 

「その顔、来る前に何かあったんですか?」

 

 

 

 

「べ、別に…?

ほ、他に仕事の質問なら受け付けるよ?」

 

 

 

 

(アタゴン何聞いてきてんの?!

そこはあえて触れないのがまなーでしょう?!)

 

 

 

 

「だってぇ、来る前に見た写真は

カッコ良くって、頬が膨れてなかったじゃない…」

 

 

 

 

「そこは大人の事情が有ってだね…」

 

 

 

 

「ねぇねぇ、さっきまで逢い引きしてたって聞いたけど本当なの?!」

 

 

 

佐世保の足柄が興味津々に話してくる。

それ質問じゃないよね?

ただのトークだよね、仕事関係ないよね?!

 

 

 

 

その言葉が艦娘たちに油を注いだようで、

キャーキャーと女子トークが各所で始まってしまう。

 

 

 

 

「こ、こら!そういったデマを

言うんじゃないっ!」

 

 

 

 

ヤベェ!!

これはまずいぞ、俺のハーレム計画が

頓挫してしまう!

 

 

 

どうにか誤魔化さないと…。

 

 

 

「決してデマなんかじゃ無いデース!!」

 

 

 

 

 

げぇ金剛お姉様?!

やめろ、アンタは何も喋るな!

 

 

 

 

「金剛、君は静かにしていなさい…?」

 

 

 

 

黙りなさい、そんな思いを怒りのオーラを出しながら伝えようとする。

 

 

 

「oh、まっかせるネー!」

 

 

 

謎の自信満々で答える金剛。

…不安しか無いんだけど。

 

 

 

 

「提督は私に、永遠のLOVEを

誓ってくれたデース…!」

 

 

 

 

 

(この妖怪紅茶くれ…、やりやがった)

 

 

 

 

艦娘たちのテンションも最高潮に達し、

食堂全体が黄色い声で満たされる。

 

 

 

 

「飛鷹さんとか村雨にも告白したって

聞いたんですけど?!」

 

 

 

「私は横須賀の艦娘にはキスしたと…」

 

 

 

「えー、私は横須賀の全員は

ホテルに詰め込まれて、1週間

休みなしで提督に遊ばれたって

聞いたわよ?!」

 

 

 

 

「あのー、みなさん?

落ち着いて、ね?」

 

 

 

 

こうなったら収まるところを知らない

女子トーク。

 

 

 

 

各グループを回って少しずつ誤解を

解くしかなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、どうしてこうなった…」

 

 

 

 

……

 

 

 

横須賀組の場合

 

 

 

 

「…頭にきました。」

 

「でね、提督ったらその後…」

 

「えー?!ぷ、プロポーズ!!」

 

「それも私だけじゃなくて村雨にもしてるみたいだし」

 

「プレイボーイ過ぎる、かも…」

 

「金剛お姉様にキスまでして…、

私には何もしてくれないのに司令ったら!」

 

「司令ってそんなに遊び人なのですか?」

 

 

 

話を見守っていた親潮が質問する。

 

 

 

 

「提督は遊び人ってわけじゃ無いけど、

口説き文句を息をするように吐く人よ!

 

 

それを自覚していないのが悪いところだし、

何よりあんな優しい顔で、

く、口説かれたらもちろん、

す、好きになるに決まってるじゃない…」

 

 

 

 

村雨が後半は赤くなりながら答える。

 

 

 

「ホントよねー!

軽い、遊び人って感じのくせに、

目を真っ直ぐ見つめて言ってくるんだもの!

提督は卑怯者よ!

わ、私もキスしてもらいたかったり…」

 

 

飛鷹が最後の方は俯きながら本音を言う。

 

 

「て、照月だって提督のこと、

ちょっと好きだったり…」

 

「…千代田も何か言いたそうね?」

 

 

 

 

飛鷹がずっと輪に入ってこなかった

千代田に話を振る。

 

 

 

「えっ、私?!

私は別に、好意があるってわけじゃ…」

 

「へぇ~、そうなんだ~?」

 

「私はあんなナンパ男のこと、

ちっとも…」

 

「…その割にはさっきから菊池士長の

ことをずっと見ているようだけど?」

 

 

 

 

加賀がぴしゃりと指摘する。

 

 

 

 

「そ、それは、提督が他の娘に

手を出さないか見張ろうと…」

 

 

 

 

千代田が慌てて反論する。

 

 

 

 

「でも千代田さん昨日提督が

千代田さんのフネから降りるとき寂しそうだったよ」

 

「村雨なんで知ってるのっ?!」

 

 

 

 

その反応に村雨がニヤリと悪い笑みを浮かべる。

 

 

 

 

(もしかしてカマ掛けられた?!)

 

 

 

 

千代田はしまったと思ったが後の祭り。

 

 

 

「村雨さんをはじめ各艦娘は巡視の際それぞれのフネにいました。

村上さんは総監たちの先導を、司令はその最後尾にいたはずです。

 

 

ということは村雨さんは、千代田さんにカマを掛けたということですか」

 

 

 

 

親潮が律儀に推測を話す。

 

 

 

 

いたたまれなくなった千代田は

赤くなりながら自白を始める。

 

 

 

 

「だって今まで私たち艦娘は男性と

話す機会がなかったし、

提督の人柄も良いし、イケメンだし、優しいし…」

 

 

 

 

(千代田さんも結局好きなんだ…)

 

 

 

 

村雨が人に聞こえない程度にため息を吐く。

 

 

 

 

(私が一番最初から提督といるのに…)

 

 

 

 

東京湾での戦いを思い返す。

 

 

(戦闘が終わって、提督が告白してきて、気がついたら好きになってて…)

↑告白はしてません。

 

 

 

遠くのグループと話をする提督は、

少し困ったように噂の弁解しているようだが、それが余計誤解を生んでいる気がする。

 

 

 

 

本人に自覚が無いのが一番悪いと思う。

 

 

 

(私もいつかキスしてもらうんだから!!)

 

 

 

「…ところで雷は提督のことを

どう思っているの?」

 

 

 

 

村雨がふと雷に話を振る。

 

 

 

今まで話を聞きながら、これといった

感情を表さなかった雷に疑問が湧いたからだ。

 

 

 

 

「え?そんなの決まってるじゃない!

司令官が誰とどうしようと、私は

司令官のことが大好きよ。

なに当たり前のこと聞いてるのよ!」

 

 

 

 

聞いている側が恥ずかしくなる台詞を

ためらいもなく堂々と言う雷。

 

 

 

 

そんな雷を一同は畏敬の念を覚える。

 

 

 

 

 

『雷には敵わないなぁ…』

 

 

 

 

堂々と好きと宣言する雷に、

勝てないと思う一同。

 

 

 

 

 

(『好き』とはどんな感情なのかしら?

…気になります。)

 

 

 

 

約1名の正規空母を除いて。

 

 

 

(菊池士長にはほどほどにしてもらわなければ。

…だって私の心が何故だか、見ていて痛むもの。)

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

大湊組の場合

 

 

 

 

「夕立ちゃんはあの提督のこと、

どう思う?」

 

 

 

 

大湊組の長を務める筑摩が夕立に尋ねる。

 

 

 

 

「すごく面白そうな人!

顔が腫れてて面白いし、真面目な話はよくわからなかったけど、きっと

楽しくなるっぽい!」

 

 

 

夕立が率直に答える。

 

 

 

 

「でも筑摩さん、彼はところ構わず

艦娘に話しかけたり、プロポーズともとれる発言をしているとの情報が…」

 

 

 

 

大淀が事前に調べた情報を提供する。

 

 

 

 

「あら、大淀さん。

ヒトというのは情報だけではわからないものよ?

 

 

実際に会って話してみないと、

本心はわからないもの、

そうでしょう?」

 

 

 

 

筑摩の言葉に大淀も詰まる。

 

 

 

「それはそうですが…」

 

 

 

 

「事前の偵察は重要、でも実際に会ってみないことにはわからないこともたくさんあります。

…ほら、提督がこちらに来ますよ」

 

 

 

 

人数が少ないところから釈明しようと思ったのか、提督がこちらに近づいてくる。

 

 

 

「顔の腫れは結構引いてるっぽい!」

 

 

 

 

「本当ですね、意外と人間じゃなかったり…?」

 

 

 

 

「そんなわけないじゃないですか筑摩さん。

…結構整った顔ですね。」

 

 

 

大淀がぽつりと漏らす。

 

 

 

 

 

こちらに気がついたようで、提督が

にこやかに手を振って返す。

 

 

 

 

筑摩がちらと2人を見れば、

夕立は楽しそうに、大淀は赤くなりながらぽーっと見ている。

 

 

 

 

「大淀さん、もしかしてほの字?」

 

 

 

 

「ちちち、違います!

だだ、誰が一目惚れなんて?!」

 

 

 

 

慌てて反論する大淀。

 

 

 

「カッコいいっぽいし、しょうがないよ」

 

 

 

夕立がきっぱり言う。

 

 

 

「私も気になります。

提督を巡って争いが起こりそうですね」

 

 

 

 

筑摩の言葉は的中するのだろうか。

未来は誰にもわからない。

 

 

 

……

 

 

 

 

舞鶴組の場合

 

 

 

 

「士長の提督か…」

 

「あら日向ちゃん、不満?」

 

 

 

日向の呟きに愛宕が反応する。

 

 

 

 

「そうではなくて、彼にどんな

才能があるのか気になったんだ」

 

「確かに異例の人事ですね。

深海棲艦とかいう敵の襲撃もあった

とはいえ…」

 

 

 

 

日向の考えに妙高も同意する。

『深海棲艦』についても、艦娘が出現

してから海幕(資料は菊池と村上作成)が説明を実施し、大まかな艦種やスペックは伝えてある。

 

 

 

「…それだけあの提督は腕が立つって

ことでいいんじゃないかな」

 

 

 

 

話を聞いていた川内が結論を出す。

 

 

 

 

「なんでもあの提督は夜戦で完全勝利したみたいだし、私も久々に夜戦がしたいなぁ~!」

 

「でも深海棲艦ってすごい気持ち悪そうじゃない。

私はこんな敵と戦うのはイヤよ?」

 

「「…確かに」」

 

 

 

 

愛宕の意見に日向と妙高が同意する。

 

 

 

 

「せめて敵が普通のフネの姿だったら

喜んで肉迫するんだけどねぇ…」

 

 

 

 

無理な注文をする川内。

 

 

 

とはいえ久々の戦いに血が騒いでいるのは皆同じ様であった。

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

佐世保組の場合

 

 

 

 

「…そして提督がワタシの手にキスを

してくれたのデース!」

 

 

 

 

金剛が佐世保の艦娘に先ほどあった

出来事をオーバーに伝える。

 

 

 

 

「えーっ!手の甲とはいえ、

キスしてもらうなんて羨ましい!!」

 

 

 

足柄が金剛に輝きの視線を送る。

 

 

 

「霧島から提督のレポートはもらっていまシタが、実際に会ったら惚れ惚れするそのフェース!にこやかなスマイル!

 

 

片膝をついてナイトの様な作法の

キス!そしてワタシにエターナルラヴを…!」

 

「金剛、まさか貴女この私を差し置いて

あの提督とくっ付こうって考えてるんじゃ無いわよね?!」

 

 

 

 

金剛と足柄は所属が同じ佐世保ということもあり仲が良い。

ついでに艦これの提督ラブ勢のキャラも受け継いでいるのか、白馬の王子様を日々待ちわびている。

 

 

 

「そんなの私の勝手デース。

足柄も努力すればいいだけデース」

 

 

 

『勝ち組』に転じた金剛が足柄を冷たくあしらう。

 

 

 

 

「お二人とも仲良くしましょう、ね、ね?」

 

 

 

 

佐世保の苦労人、鳥海がそんな2人を

抑えようとする。

 

 

 

「そういえば照月が『提督は浮気者』って愚痴を零していました」

 

 

 

秋月の言葉に、幸せ全開だった金剛が

凍りつき、一方足柄はニヤリと悪い笑みを浮かべる。

 

 

 

「テートクゥ…、san of a ×××××…」

 

「ふふ金剛、私にもツキが回ってきたようね!

この勝負、私がいただくわ!」

 

「…別に勝負してなかったし、

バッカみたい」

 

「曙ちゃん、聞こえちゃいます…」

 

 

 

 

無駄に熱くなる2人を曙が冷めた口調で

馬鹿にするが、それを神通が止める。

 

 

 

「だってそんな浮気者のクソ提督のどこがいいのよ」

 

「それは…」

 

 

 

 

神通もどもる。

 

 

 

 

 

「愛デース!」「将来の為よ!」

 

 

 

目の前で騒いでいた2人の叫びは華麗に

無視される。

 

 

 

 

「秋月はあの提督どう思う?」

 

 

 

 

島風が秋月に尋ねる。

 

 

 

「うーん、優しそう、というぐらいですか?」

 

「それだけ?

私は面白い提督だと思うよ!

だってアレ見てみて!」

 

 

 

 

島風が指さす方を見れば、提督が

舞鶴組と楽しそうに話している。

 

 

 

 

「あの日向さんと妙高さんが楽しそうに笑ってる…」

 

 

 

 

提督はオーバーな動きと変な顔をしており、話の内容は聞こえないが面白そうだ。

 

 

 

「「あ、川内さんすごい喜んでる…」」

 

 

 

 

((どうせ夜戦の話なんだろうなぁ…))

 

 

 

 

2人のその予想は的中し、川内が夜戦の機会はあるか質問したところ、

 

 

 

「あるよ!敵の装備は大戦当時のままのようだが、こちらは最新の技術と戦術で戦える。

 

 

例えば赤外線装置で真っ暗闇でも敵を

一網打尽にできる。

君たち艦娘の装備の近代化改装の計画はまだ出てないが、なるべく早く俺から上申するぞ!」

 

 

 

 

…と返答され川内は舞い上がったそうな。

 

 

 

 

 

 

「…ただ頭のいいエリートタイプかと思ったら違うみたいだね」

 

「そうですね、表情も豊かで人柄も良さそうな方ですね」

 

「さっき村雨が言ってたのですが戦争になる事を前提に話を進めているそうですよ」

 

 

 

春雨がひょこっと顔を出す。

 

 

 

「敵ってシンカイなんとかって気持ち悪いやつでしょ?」

 

「深海棲艦です、はい。

確かに気持ち悪い姿ですね。

中国の方でも見つかってるので

私たちの出番もあるのではないでしょうか」

 

「そしたら私が活躍しちゃうんだから!」

 

 

 

島風がはしゃぐのを曙が戒める。

 

 

 

 

「活躍って言っても今の私たちの乗っているフネは第二次大戦時の旧式なのよ、そんなに活躍する場面なんてないわよ」

 

「え〜?でも提督がさっき最新の装備にしてくれるみたいな事を言ってたみたいだよ」

 

「『はつゆき型』まではいかなくともミサイルや射管装置、ソーナーがあれば深海棲艦とやらにはこの秋月、やらせません!」

 

「そーそー!それにあの提督と一緒なら楽しそう!」

 

「島風たちもあのクソ提督のことが

気に入ったの?」

 

「だって面白そうだし~…」

 

「そんな悪い方には見えませんよ?」

 

「そりゃ初対面では誰だって猫の皮を被るわよ。

そのうち化の皮が剥がれるわよ!」

 

 

 

 

曙が厳しい意見を述べる。

 

 

 

「曙どんだけ男の人を嫌ってるの」

 

 

 

島風が質問する。

 

 

 

「オトコが嫌いとかじゃなくて、

ああいう軽い男が嫌いなの!」

 

「まだ直接話したわけじゃ無いのに…」

 

 

 

秋月がやや不満そうに呟く。

 

 

 

 

「それにしても、やけに金剛さんたち

が静かね…」

 

 

 

 

さっきまでの喧騒が無くなり、

不審に思った曙がちらと金剛たちを見る。

 

 

 

 

気付けば提督がこちらに来て鳥海と神通と話をしていた。

 

 

 

 

鳥海と神通は顔を赤くしており、

金剛と足柄はボーッと提督を見つめている。

 

 

 

 

ひそひそ…

 

 

(…アリね)←足柄

 

 

 

(だからさっきから言ってるデース!

提督は素晴らしい方デース。

話せばわかると思いマスが、

とても優しい方デース!

でも譲りまセーン!)←金剛

 

(恋愛と戦争ではどんな手段も

許されるって、昔から言うわ!

私がモノにするんだから!)

 

(絶対に提督は渡しまセーン!)

 

 

 

 

 

 

 

「金剛さんだけが惚れていると思ったら、以外の人も惚れてない…?」

 

「…何なのよ一体。

そんなにあのクソ提督がいいわけ?」

 

「…ヘーイ、アケボーノ!

提督の良さを知るために、話に加わるといいデース!」

 

 

 

どんっ!

 

 

 

「えっ、ちょっ、金剛さん?!」

 

 

 

 

金剛に背中を押される曙。

 

 

 

 

 

 

ぽすっ

 

 

 

 

見事提督に当たってしまい、

気付かれてしまう。

 

 

 

 

 

 

(どど、どうしよう?!

気付かれちゃったじゃない!

 

 

どうにか切り抜けないと…!)

 

 

 

 

 

提督が話しかけてきたら罵声を浴びせようと意気込んでいた曙は、

金剛の作戦により不意打ちを受けてしまう。

 

 

 

 

 

その後、顔を赤らめながら可愛く罵声を浴びせる曙と、それを楽しみながら

曙をいじる提督の微笑ましい光景が見られたそうな。

 

 

 

 

曙が赤くなっているのは

ただ恥ずかしいだけなのか、

それとも……?

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

呉組の場合

 

 

 

 

「なんだか曙も満更じゃないみたいねぇ〜!」

 

 

 

 

蒼龍が楽しそうに佐世保組の様子を見る。

 

 

 

 

「蒼龍さんもそう思う?

私もあんなに元気な曙を見るのは

初めてかもしれないわ……」

 

 

 

 

そんな蒼龍に同調する雲龍。

 

 

 

 

「いや、ただ罵声を浴びせてるだけにしか見えねえぞ」

 

 

 

蒼龍と雲龍ののんびりした会話に

天龍がすかさず突っ込む。

 

 

 

「天龍もわかってないわね、

それがいいのよ~」

 

 

 

 

「そうよ、天龍もまだまだ甘いわね。」

 

 

 

 

「やだ!結構男前じゃない、あの提督!」

 

 

 

 

「伊勢、顔が良くても男は根性が大事なのじゃぞ。

なんだか軽そうな男のように見えるが、

彼奴の何処がみな気に入ったのかわからんのう…」

 

 

 

 

「ふふっ、利根さん知らないんですか?

提督は軽そうに見えて、実は凄い

熱意のある方らしいですよ!」

 

 

 

 

「ほう、鹿島それは何処からの情報じゃ?」

 

 

 

 

「さっき横須賀の艦娘たちから聞いたんですけど、既に部隊運用や造修・補給方面の構想を練っているとか…」

 

「何とっ!今の自衛隊にも未来を見据えている者がいるとは…」

 

「深海棲艦という敵が現れたことに

危機感を持っているのは提督を始め、

ほんの一握りの制服組だけみたいですし、政府に至っては私たち艦娘が

現れたことに嫌悪感を持つ人もいるという風にも聞きました。他にも…」

 

 

 

 

鹿島が独自に収集した情報を打ち明ける。

 

 

 

 

「『艦娘は脅威』ねぇ…、深海棲艦の

脅威は何とも思ってねえのかよ。

つくづくお役人ってのには嫌になるぜ」

 

「被害を受けてからでないと事の重要性が解らないのはいつの時代も変わらないみたいね。

他の国では非常事態宣言や戒厳令を出してる国も有るというのに…」

 

 

 

 

襲撃を受けているのは日本だけではない。

 

 

 

ロシアと中国は元より、世界の主要な国は何らかの不審な襲撃を受けている。

 

 

 

中には死者まで出ている国もあり、

日本は恵まれているとの見方もある。

 

 

 

 

「ま、駆逐艦の奴らが苦労しなけりゃそれでいいか」

 

 

 

 

天龍が優しい視線を駆逐艦たちに

向ける。

 

 

 

 

 

そんな想いを知ってか知らずか、

和気藹々とお喋りを楽しむ電たち。

 

 

 

 

「はわわわぁ〜、格好いい司令官さんなのです…」

 

「電、あんたさっきからそればっかりね…」

 

 

 

電のぼやきはこれで4度目で、

横で聞いている満潮もうんざりしている。

 

 

「あんな男捨てるほどいるわよ。

別に気にかけることも無いわ」

 

「で、でも曙さんや神通さんたちと

仲良さそうに喋っているのです。

すごく楽しそうなのです!」

 

「満潮はその口の悪さを直さないと。

私たちの司令官になるお方なんだから、もっと敬意を持って…」

 

「ホント朝潮は真面目よね、誰が

司令官になっても一緒よ。

どうせ戦うのは私たちなんだから、

上は上の仕事さえちゃんとやっていればいいのよ」

 

 

 

姉である朝潮の小言も、煙たがるように

聞き流す満潮。

 

 

 

 

(司令官が良くても悪くても、

艦娘がちゃんとしないとダメなのよ!

 

 

補給をしてくれたって、味方を沈めるような司令官は無能。

戦いがうまくたって、後方がダメな司令官は無能。

 

 

私がしっかりして二度と艦隊全滅なんて

ことはさせないんだから…!)

 

 

 

ゲームで提督に対して毒ばかり吐き、

前線に出たがる満潮だが、

それは自分が修理中に姉たちが沈没

してしまった過去があるからだ。

 

 

 

『自分の力不足が原因だった』

 

 

これが彼女を戦いへ赴かせる所以であった。

 

 

 

 

そんな満潮を優しく見つめるのは漣。

 

 

 

(ミッチーは自分に厳しいからねぇ〜。

今でもアサッシーが沈んだのは自分のせいだって、心の奥で責め続けてるね)

 

 

 

漣は普段から口調やテンションが

他の艦娘と比べて高いことで知られているが、実は計算された行動であることは知られてはいない。

 

 

 

漣自身は自分はムードメーカーでありたいと願っている。

いつからかはわからないが、少しでも艦娘たちが楽しく過ごせるかを考えるようになった。

 

 

 

そして彼女は人の心の変化に敏感で、

それらを考慮した上で突拍子も無い言動を取っている。

 

 

 

今も白雪と五月雨とワイワイ騒ぎつつも、

気付かれないように仲間の様子を見守るのは本当の漣の姿なのかもしれない。

 

 

 

「提督はどんな料理が好きかなぁ…?」

 

「おいやめろ。

ダレーは料理苦手なんだから、

テキトーに『私を食べて…?』とか

言っておけば喜んでくれるって!」

 

「漣はイジワルばっかりで嫌い〜…」

 

 

 

ダレーと呼ばれた五月雨は

漣の返事に口を尖らせる。

 

 

「だってぇ、その方が漣は楽しいしぃ〜!」

 

「やっぱり意地悪ぅ?!」

 

 

 

ガビーンという擬音が似合う驚き顔で

五月雨は悪態を付く。

 

 

「シラーはカレーが得意なんだっけ?」

 

「漣ちゃん、昨日はシラユーって呼ばなかった?」

 

「し、シラネーヨ…」

 

 

振った先の白雪に突っ込まれ、仏頂面で

目をそらす漣。

 

 

 

曙をボノーと呼んだり、五月雨をダレーと呼んでみたりとめちゃくちゃである。

 

 

 

 

噂では漣は全艦娘に最低3つのあだ名を

付けていると言われている。

 

 

 

 

後に提督にもあだ名をウィークリーで付けていくことになるのだが、大体スケベ関係になるのは妥当か。

 

 

 

「確かにカレーは得意です。

練習艦の時のレシピはインターネットでも公開されていますし、作った人からも美味しいと好評だったようです」

 

「カレーウマー!

ってなワケでダレーもカレーを得意料理にしてご主人様をメロメロにしちゃいなよ、ユー!」

 

「う〜ん、料理はちょっと…」

 

 

 

五月雨は努力家だ、日々時間を設けて

料理の練習をしてはいる。

 

 

…してはいる。

 

 

 

やはり料理はセンスなのだろうか、

五月雨はなかなか上達しない。

 

 

 

フネの調理員のレシピを参考に

してみるが、全く見た目も味も違う

『何か』が完成してしまう。

 

 

 

食べられないことは無いが、

進んで食べたいとも思えない。

 

 

 

味は……ノーコメント。

 

 

 

だが諦めずに挑戦し続ける五月雨は

誰よりも輝いているはずだ。

 

 

(いつか提督に私の料理を食べてもらいたいな!)

 

 

 

後日、料理は見た目じゃないと言って、

提督が五月雨の料理を食べたのだが

一口目で手が止まってしまったとかなんとか…。

吐き出さずに嚥下したのは賞賛に値する、と他の全艦娘が提督の評価を見直したことが業務日誌に綴られた程だ。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

「ふぃ〜、ざっとだけどみんなと話ができたな…」

 

 

 

 

 

懇親会開始から1時間半。

横須賀組以外の全艦娘と軽く顔を合わせ終わり、とりあえず村雨たちのところに戻ることにする。

 

 

 

 

行く先々では俺がセクハラしてるとか、

ホテルに監禁してあんな事やこんな事を

したとか噂の真偽を聞かれたがどっからそんなガセが流れとんじゃい。

↑実は親潮が何気なく詳細をぼかし、

他の艦娘に伝えたら尾びれが付いた模様。

真面目過ぎるのも考えものである。

 

 

 

 

 

セクハラはまぁ…ね、否定できないけど

誰があんな可愛い艦娘を監禁して

いかがわしいことなんてするかってんだ!

 

 

 

…羨ましいっ!!

…じゃねーや、けしからん!

 

 

 

 

顔の腫れも落ち着いたようだし、

みんなのところに戻ろう。

 

 

 

 

「ああ〜ん…?」

 

 

 

見れば村上がなぜーか泣いている。

 

 

 

ぽつーんと食堂の隅の椅子に座り、

俺を睨んでいるような…?

 

 

 

 

「どうしたんだ村上、何があったんだ?」

 

「……の野郎」

 

「え?」

 

「この野郎、俺が金剛を好きなのを

知っていながらキスをしたなぁ!!」

 

「……あ」

 

「お前がそんな奴だとは思わなかったっ!!」

 

 

 

そういえばコイツは金剛が好きだったな、

さっきはつい勢いで金剛の手にキスしちまったけど、あれはあれでしょうがないよね?

↑何がだ

 

 

 

「あれは挨拶の一種であって

恋愛感情とは無関係。

お前がそんなに金剛を想うのであれば、

どんどんアタックすればいいと推察する。

 

よって俺は無罪であり、お前の行動力次第で今後彼女との関係を構築できると考える、以上」

 

「思いっきり堅苦しい棒読みだな。

お前が他の艦娘と話している間に

金剛のところに行ったんだが、

まるっきり『テイトクテイトク』しか

言わないし、俺のことはあまり相手に

してもらえなかったんだぞ…」

 

 

 

あら可哀想。

だが俺のハーレム計画の為には、

例え同期の仲間でも見捨てないといけないのだ!

 

 

金剛が俺に好意を持ってくれているのかはわからないが、俺の『嫁』にさせてもらいたいものだ。

 

 

 

 

(すまねぇ村上!)

 

 

 

心の中で村上に謝る。

 

 

「泣いてる所悪いが、ちと真面目な話だ。

 

 

明日からについてなんだが、

艦娘の海上公試に向けた準備が入ってる。

又、近代化改装案を検討していてお前の力を借りたいんだ」

 

「…近代化改装?

お前が見せてくれたレーダーを取り付けたり、兵装を換装したりとかそのあたりの案か」

 

「そそ、さすがに主砲や魚雷をすぐに換えるのは無理だろうから、

まずは全艦艇に簡易的でいいから

レーダーと指揮通信機器は積みたいと考えてる、ついでにソーナーも。

 

電波機器とかはお前の方が詳しいだろうから、詳細は任せる。

 

 

欲を言えば射撃管制装置も載っけたいよな〜、たしかミサイル艇にも採用されてるからそこまでのサイズにはならないはずだ」

 

 

 

一通り改装案を出し、村上の意見を請う。

 

 

 

 

射撃管制装置とはレーダーと連動した

弾道計算を可能にし、着弾精度を飛躍的に高めることが可能となる。

 

 

 

「レーダーは最悪民生品を導入しても

構わないと思う。

対空レーダーは遠距離の敵機を索敵するために妥協はできんが、対水上だけならそこまでの距離は必要とされないからな」

 

 

 

 

ここのところ影が薄かったり金剛に相手にされなかったりと踏んだり蹴ったりな村上だったが、こいつの頭脳と知識には感心させられる。

 

 

 

提督としての素質が有るのかどうかはわからないが、

こいつには後方の技術関係が向いているのではないだろうか。

 

 

 

俺は技術方面はからっきしだがそれを

村上がカバーすれば、俺は前線の指揮に集中できる。

 

 

 

 

村上を適当に慰めつつ、艦娘たちの

改修や作戦計画を煮詰める。

 

 

 

 

作戦といってもまだ敵は現れて

いないじゃないかと思うかもしれないが、先ほどSF(自衛艦隊司令部)から連絡官が来て南シナ海で深海棲艦らしきものが目撃されたと耳打ちされた。

 

 

 

自衛隊としては日本に関係する船舶が襲撃を受けたわけではないため、

今のところは出撃は行わないとのことだった。

 

 

 

 

(シーレーンは日本の生命線なのに、

どうして行動を起こせないんだ。

攻撃を受けてからじゃ遅いのは明らかじゃないか…!)

 

 

 

無論海幕や統幕はこの事態に危機感を抱いているが、問題はそのトップである総理大臣が待ったをかけたらしい。

 

 

 

『まだ攻撃を受けたわけではないから、慎重に状況を見よう』

 

 

 

連絡官も呆れながら伝えてくれた。

 

 

 

 

(アホくせぇ!

専守防衛っていっても護衛艦ぐらいつけさせろよ。

丸腰の輸送船が何十隻も沈められてからじゃおせーんだよ!!)

 

 

 

 

これだからことなかれ主義の政治家は

好きになれん。

 

 

 

現在ソマリアに海賊対処部隊を派遣しているが、そこから沖縄近海までは

ノーガードであり一隻でも敵がいれば

好き勝手し放題だ。

 

 

 

途中他国の海軍がいたとしても、自国の領海や船舶を守るので精一杯だろうし洋上まで出張ってくれるのはゼロに等しい。

 

 

 

 

(非公式に海幕とSFに艦娘と護衛艦の

派遣準備を打診してみるか…)

 

 

 

 

頭で派遣に適する艦娘をリストアップしつつ、どんな装備が必要か考える。

 

 

すぐには装備の準備製造は出来ないだろうから、護衛艦を対潜メインにして

艦娘には対水上戦闘を頑張ってもらうしかない。

 

 

 

 

今日が歓迎会なのを忘れつつ、

メモ帳に上申する内容と改善案を

書き出し始める。

 

 

 

 

周りの艦娘が俺を見ながらひそひそと

話すのがなんとなく見える。

 

 

 

(どうせ空気読めないとか真面目キャラきもーいとか思われてるんだろなぁ…)

 

 

 

例えメンタルを削ってでも、

俺が今できることに集中するだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

(南シナ海に深海棲艦が現れたそうやで!!)

 

(なにっ、本当か?!)

 

(でも自衛隊は出撃しないってさ)

 

(司令官さんは作戦を練っている

ようなのです)

 

(提督は私たちの現代化改修を考えてるのかぁ)

 

 

 

 

南シナ海の件は見事にバレていた。

 

 

 

後ろからモロ聞こえだったようで、

ついでにメモまで艦娘に見られていた。

 

 

 

そんなことはいざ知らずいそいそと

メモに必死な提督。

 

 

 

艦娘たちは少なくとも良い人という

認識はあるようだが、それ以上の感情を持っているかどうかは誰にもわからない。

 

 

 

 

(提督ったらなんで懇親会で仕事してるのかしら!

さっきの話は終わってないのよ?!)

↑村雨

 

 

(いつか提督とまたデートに行きたいわねぇ…)

↑のろけ飛鷹

 

 

(金剛姉様に先を越されたけれど、

いつか私も…!)

↑霧島

 

 

 

……約3名は周りの空気を読めずに

妄想を続けていたとか。

 

 

 

 

(提督のために頑張らないとデース!

そして次はワタシのリップに…!)

 

 

 

…訂正、約4名だった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

楽しい時間は長くは続かなかった。

 

 

 

親睦会の翌日。

パナマ運河を太平洋側に抜けたばかりの

原油タンカーが襲撃され、

乗員全員が爆発に巻き込まれ死亡した。

 

 

深海棲艦撲滅に米軍が乗り出すも

敵の反撃を食らい駆逐艦1隻が沈められ、

哨戒機も2機撃墜され敗走した。

 

 

 

 

 

ほぼ同時刻にアフリカのマダガスカル島沖で

多数の深海棲艦が発見され、

近隣国の海軍が合同で掃討作戦を

実施するも被害甚大、戦果はゼロ。

 

敗因は各国の利己的な思惑が

多国籍艦隊の運用を阻害したためであった。

 

 

島の沿岸都市は艦砲射撃を受け

壊滅状態に陥りったものの、

駆けつけた英国海軍の支援を受け

どうにか撃退した。

 

だが結果としては

戦術・戦略的敗北であった。

 

アフリカ地域の海軍兵力は衰退し、

その後はジリ貧となっていくことになる。

 

 

 

 

深海棲艦という存在は瞬く間に全世界へと知れ渡り、各国の情報・軍事機関は躍起になってこれの正体や戦力を把握に努めたがフイに終わる。

 

 

 

 

 

『ゴジラの様にかつての沈んだ船舶の怒りの化身』

だとか

『深い海の底から現れた』

といったガセに尾びれがついた様な

情報しか収集できず、未知の敵と手探りで戦うことを余儀無くされた。

 

 

 

 

 

戦闘を経験した各国海軍将兵の間に、対艦ミサイルの信管を敏感にすれば有効とか第二次大戦時に使われていた旧式装備が効果的のような迷言が広まるが、所詮はそうであってほしいという希望が生んだ偶像だった。

 

 

 

ミサイルも決して効かないわけでは無かったのだが、信管等の調整ミスや着弾角度によっては思ったほどの効果は挙げられなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

日本は東京湾防衛戦(海幕呼称:東京湾不審船正当防衛撃沈事案)以後平和であったが、戦乱の足音は確実に迫ってきていた。

 

 

 

 

 

こめ

 

 

 

 

某所

大広間

 

 

 

 

「…ふむどうしたものか」

 

 

 

深海棲艦の指揮官が呟く。

 

 

 

「指揮官何か不満がおありですか?」

 

「襲撃は全世界に実施中だがどうも

我々の戦力、特に打撃力や速力が人間どもに劣っているようだ」

 

 

 

 

指揮官が提出された襲撃報告書をトントンと叩きながら指摘する。

 

 

 

深海棲艦の大勝利となった初の大攻勢であるが、

人間どもの艦艇はミサイルをこちらの射程外から発射するし機動性も

『第二次大戦頃の艦船の魂が多い』

深海棲艦側よりも高く、砲弾を躱されてしまう場面が見受けられた。

 

 

 

 

「我らは事故で沈んだり沈められた者の集まり、烏合の衆に過ぎん…」

 

 

 

大広間に集う幹部を見てもそれがよくわかる。

 

 

 

下は駆逐棲姫フレッチャーから上は

戦艦・空母クラスと艦種も様々。

 

 

例えば下級棲艦である駆逐イ級を始めとした生物タイプは出撃時には、100mを超える船体へと姿を変え

憎き人間どもを襲撃に向かう。

 

 

 

これもここ最近確立してきた戦法であり幹部棲艦が基地から指揮しているが、いかんせん幹部が直接前線へと向かえないのは歯痒い。

 

 

 

指揮官も出来るなら直接人間どもに

『復讐』してやりたいと思うが、

幹部には船体へと姿を変える手段はまだ無く、ただただ下級棲艦を育成して

送り出したら祈るしかできないのだ。

 

 

 

「誰か妙案は無いものか…?」

 

 

 

指揮官が幹部に尋ねるが皆悩んだ表情で首を捻るだけだ。

 

 

 

ちらと戦艦ル級や空母ヲ級に目をやるがフルフルと首を振り、案は無いとアピールしてくる。

 

 

 

 

(戦艦どもも思いつかぬか。

そういえば元気のいい奴がおったな…)

 

 

 

駆逐棲姫フレッチャーだ。

 

 

 

 

指揮官が目をやれば待っていたかの様に視線を合わせてくる。

まるで他の幹部など微塵にも思っていないような出で立ちを思わせるがそれは彼女の覇気が思わせる錯覚だろう。

 

 

 

「指揮官、私に提案があります!」

 

「フレッチャーだったな。

駆逐隊を率いたそなたの提案を聞かせてもらおう」

 

「はっ!現在我ら駆逐隊は戦力の要でありますがいかんせん『姿を変えられる』人数が限られるため、質より量、つまり駆逐艦クラスしか戦力になっまていないのが実情です」

 

「技術部も重巡や雷巡クラスの変換試験を実施しているが、まだ成功には至っていない。

軽巡を1隻変換する間に駆逐艦が10隻は変換される。

ならばそれを以って飽和攻撃を仕掛け人間の艦隊を壊滅させていけば良いのでは無いか?」

 

 

 

2人の後に技術部の深海棲艦が口を挟む。

 

 

 

「…私もそれを考えました。

ですがそれでは非効率すぎるっ!!

 

 

変換するのには馬鹿にならない資源が費やされているのは技術部もご存知のはず。

 

そこで私としましては、あえて大型艦の……」

 

 

 

 

 

………

 

 

 

 

 

「クソッ!!」

 

 

 

 

自室に戻ったフレッチャーは部屋に入るなり悪態を付く。

 

 

 

 

 

「所詮駆逐艦だから高度な戦略はわかるまい、だと?!」

 

 

 

先の集会で彼女が提示した案は採用されたものの、他の幹部からは散々な評価だった様だ。

 

 

 

 

 

人間に復讐するという共通の目的に集う深海棲艦であるが、内部の派閥争いというものはどこの世界も同じだった。

 

 

 

 

事あるごとに文句を付けてくる戦艦隊、

常に上から目線で駆逐艦を馬鹿にする空母隊。

 

 

 

彼女が率いる先日編成されたばかりの駆逐隊はというと、そんな他の艦種に無駄に敵対心を向ける。

 

 

フレッチャー自身はそこまで気にしてはいないが先ほどの様に文句を言われたり、見下されるとならばこちらもと腹が立ってしまう。

 

 

 

 

(いつもそうだ、駆逐艦駆逐艦と馬鹿にされ戦闘で扱き使われ消耗品の如く捨てられて…。

 

 

『あの戦い』もそうだ!

 

 

私や妹の……妹?

私に妹などいたか?

 

 

まあいい…。

 

 

避雷針よろしく艦隊の先鋒で突入させられ集中砲火を浴びたり、私が沈んだ後に救助に来た妹の……、妹の……。

 

 

 

 

なんだか頭が痛い…。

 

 

 

 

『あの戦い』とはなんだのだ…?

名前も知らないし憶えていないのに、

なにかあったのは憶えている。

 

 

 

妹とは一体…?

妹など私にはいない、はずだ)

 

 

 

 

 

 

謎の記憶と頭痛を振り払うように

フレッチャーは寝床につく。

 

 

 

 

「それよりも次の作戦を練らなくては、次は日本の…」

 

 

 

 

 

フレッチャーはすぐに頭を切り替え

今すべきことに集中する。

 

 

 

指揮官を始め大型の深海棲艦は駆逐艦を見下したりして癪に触るが、

人間どもに復讐するにはお互いに手を組むしかない。

 

 

 

(次は私も出るし指揮に関しては、

今まで以上にスムーズに行くはず。

後は提案した通り大型艦の……)

 

 

 

 

 

フレッチャーはやっと自ら出撃出来ると思うと夜も眠れなかった……

 

 

 

 

 




自衛艦娘を一気に出し切って
ネタを使い果たした感がありますが、
ここからが戦争モノの始まりです。


さて駆逐棲姫フレッチャーちゃん
また登場おひさ。
どうも小者臭がする書き方しか
できませんでしたが本当は
もっと格好良く書きたいッ!



深海棲艦は『変換』と呼ばれる作業により
大型の船体(いわゆる艤装?)に
なるようです。
もしかしたら通常サイズのイ級とかは
可愛いかったりして?!


復讐、第二次大戦頃の艦船…
一体どういうことなのか?


フレッチャーの欠けた記憶。
『あの戦い』『妹たち』
これが意味するものとは?



あまり解説が過ぎるとストーリーが
終わってしまいますので、皆様の
ご想像とご妄想(?)にお任せします。





●最後に

謝罪すべきことがあります!
それは潜水艦『おやしお(親潮)』の
所在についてです。


彼女は練習潜水艦に艦種変更を行い
所在も横須賀から呉になりました。

私はずっと横須賀のままだと勘違いを
していて、横須賀組の一員として
執筆してしまいました。

まぁ呉は艦娘多いしいいよね?
(おやしお乗員の方々すみません…)

元同期の潜水艦乗りに指摘され、
気が付いた次第であります。



次に無線の交話に関してです。
同じく元同期の奴に見てもらったところ
『ダメ、ヤバイ』
と指摘を受けたので、次からは
かなりアバウトかつ分かりやすく
表記していくつもりです。





さて次からは皆大好きな
とある南方の島々が登場!


ビーチ、水着、海、それと敵襲!!


もちろん遊びに来たわけではありません。






「だる~ん…、からのまろ~ん…」

「うっさい、クソ提督!!」

「なっ…軽空母だとっ?!」

「ちっ、硫黄島にスクランブル要請だ!」

「菊池3佐、マーカスを保持せよ。
これは総理大臣からの命令だ!」

「提督、南鳥島を見捨てるのですか?!」

「おい菊池。
目の前に深海棲艦ってヤツがいるぜ、
キモイな…こいつら、ははっ…」



次編、『南の島に散る桜』


「仲間を見捨ててでも、
国民を守るのが軍人だ…。
それが同期の仲間であっても、だ…」

「なっ…駆逐棲姫だとっ?!」







「俺は…、同期を…仲間を救えなかった…」







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ニコニコ動画にこの小説のPVもどきを
テスト投稿しました。
まだ製作途中ですがよろしければどうぞ。


http://www.nicovideo.jp/watch/sm29475806


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1-2 南風(みなみ)はボニンより吹く 【父島】

舞台は小笠原諸島。

父島に入港した彼らは
つかの間のバカンスを楽しむ。



戦跡が至る所に残る父島で
艦娘は何を思うのか…。





小笠原諸島、父島沖

 

 

 

 

 

「あ″~やっと着いたー」

 

 

 

 

久々の陸地に気分が高まったのか、

変な声が漏れる。

 

 

 

 

俺たちは『海上哨戒任務』で

父島に進出することになった。

 

 

 

 

「あれが父島か…。

インターネットでしか見たことなかったが、まぁ、悪くない」

 

 

 

「俺も初めて来たけどすごくいいところだな、まず海が綺麗!」

 

 

 

 

乗艦している『日向』の艦橋で

ワイワイ騒ぐ。

 

 

 

もちろんこれは観光ではなく

任務で来ているのはわかっている。

 

 

 

 

「…にしても回航中だけで駆逐イ3隻と軽巡ホ級2隻とはな、深海棲艦の脅威が日本の近海にまで迫ってきている」

 

 

 

日向が深刻そうに考え込む。

 

 

「海幕の読みは当たったってことだな」

 

 

 

 

 

 

 

今父島にいる経緯を簡単に話そう。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

艦娘の海上公試期間中

 

 

 

防衛省海上幕僚監部

 

 

 

先日出現した旧海軍艦艇とその艦娘についての記者会見が開かれていた。

 

 

 

 

「海上幕僚長!

旧海軍の軍艦が現れた件について、

ご説明を!!」

 

「あれは自衛隊が極秘に建造したものじゃないのか?!」

 

「米海軍軍人がツイッターで『旧日本海軍の軍艦とフリートガールが現れた!』と呟いたそうですがこの真意は?!」

 

「パナマ運河沖で米軍が正体不明の艦船に負けたとの情報が…!」

 

「マダガスカル島に所属不明の軍艦が現れ沿岸都市が攻撃された件についてコメントを!」

 

 

 

 

海幕長が演台に登壇する前から罵声と質問が会見場を賑わせる。

 

 

 

 

「ご静粛に願います。

これより現在わかっている情報を

皆様にお知らせします…」

 

 

 

 

 

 

会見は2時間強に及んだため

詳細は割愛するが、要点だけ言おう。

 

 

 

 

 

まず艦艇と艦娘。

 

 

 

 

帝国海軍の艦艇が出現したのは

全くの偶然、奇跡であり、

防衛省自衛隊はもとより民間企業や

特定の団体個人の建造等では無いこと。

 

 

 

 

それに艦娘については艦艇の魂が実体化したものであり、インターネットゲームの『艦これ』のコスプレでもないし、本当に偶然同じ容姿の魂がいたと説明された。

 

 

 

 

 

中継を見ていた艦これプレイヤーは

歓喜でこの事態を受け入れ、

艦これを知らない国民の多くは

唖然としながら放送を見守った。

 

 

 

 

続けて深海棲艦という脅威が現れた

という重要な案件に移る。

 

 

 

 

 

 

会場の記者が静かにーーーただ単純に唖然としながらーーー海幕長の発表を聞いていると、会場に白い制服を着た幹部が慌てた様子で入ってくる。

 

 

 

そのまま海幕長に耳打ちすると、

海幕長が驚いた様子になり記者たちが

何事かとブン屋魂が刺激される。

 

 

 

海幕長は苦い顔をしながら耳打ちされた内容の公表を決意する。

 

 

 

 

『伊豆諸島と小笠原諸島の中間で深海棲艦らしきものを発見した』

 

 

 

 

深海棲艦ーーー先日の東京湾襲撃事件、そして世界各地で起きた襲撃に

関わっていると思われる謎の兵器又は生物。

 

 

 

 

 

『それが現れた』

 

 

 

 

会場はパニックに陥りかけたが、

海幕長の機転で戦況の説明を行い

記者を取材モードへと切り替えさせる。

 

 

 

 

 

発見したのは厚木航空基地から

対潜哨戒任務に出ていたP-1哨戒機であった。

 

 

 

 

哨戒機は通常、対潜哨戒を主任務としており対艦ミサイルは装備していない。

 

 

 

深海棲艦を発見した機長は敵兵力と針路速力を関係各所に発信し、監視に徹することにした。

 

 

 

実は前日から深海棲艦は発見されていた。

 

 

 

正確に言えば襲撃を受けていた。

 

 

 

 

 

海上自衛隊は東京湾事案のこともあり

洋上へ警戒部隊を既に配備していて、

八丈島沖に第11護衛隊所属

『やまぎり』『ゆうぎり』が

警戒の任に当たっていた。

 

 

 

 

伊豆諸島の最南端、孀婦岩南西10kmに駆逐イ級がいるとの情報が父島の漁船からの通報で入った。

 

 

 

 

 

一応国際VHFで呼びかけたが、

攻撃を受けたため菊池らが対処した

ように対艦ミサイルを遠距離から発射し、どうにか撃沈した。

 

 

 

 

しかしその帰還途中にさらなる敵の

襲撃を受け、やまぎりは被弾。

 

 

 

沈没は免れ死者は出なかったものの

やまぎりは中破、負傷者多数で防衛省はもとより日本政府は衝撃を受けた。

 

 

 

 

それ以降横須賀警備区には厳戒態勢が

敷かれ、応急措置ーーー緊急ではないのは事情があったーーーとして自衛隊法82条を根拠とした海上警備行動を実施することとなった。

 

 

 

 

本来なら『防衛出動』を発令する事態なのだがこれには複雑なある事情があり、見送られた。

 

 

 

 

そして会見中の発見報告。

ここに至り政府も重い腰を上げ深海棲艦討伐を目的とした任務部隊編成を指示、直ぐに俺を中心とした専門スタッフと艦娘が艦隊編成と作戦案を決定上申し出港。

 

 

ここまでが父島まで出張って来た経緯だ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

前回は護衛艦からミサイル発射が主な対処だったが、ミサイルの使用頻度の高さとコストパフォーマンスを考慮してこの出撃からは帝国海軍の艦艇も活用することになった。

 

 

 

 

もちろん通常の護衛艦も同行しているが、あくまで対潜メインのサブ戦力としている。

 

 

 

 

 

ちなみに艦娘の弾薬に関しては『ある程度』は問題ない。

 

 

 

現代日本で生産はかなり難しいが、

資源さえあれば各艦から引き抜かれた

生産妖精が時間は掛かるが弾薬を

生産することになっている。

 

 

 

ある程度と言ったが、生産できるといっても妖精が成功する確率がかなり低いということだ。

 

 

 

艦これで例えるならーーー実際そうなのだがーーー戦闘で使用する弾薬は開発でしか生産できないということだ。

 

 

 

これまでの生産結果は

12.7センチ砲弾200発。

14センチ砲弾93発。

20センチ砲弾44発。

36センチ砲弾17発。

 

 

 

 

言うまでもないがこれでは補給が成り立たない。

 

 

 

 

俺は艦娘たちのフネの現代化改装を

提案し、待機中のフネから生産出来次第改装する予定だ。

 

 

 

 

14センチ砲から36センチ砲を扱う

軽巡以上のフネに関してはおいそれと

換装出来ないため、細々と生産していかなくてはらないこととなった。

 

 

 

 

 

とはいえある程度の統廃合を今後

行っていくつもりではあるが…。

 

 

 

 

 

気が付けば近くなった父島を見る。

 

 

 

 

 

きな臭い近海のことは知らぬかのように、平和な島だ。

 

 

 

 

 

「提督、そろそろ降りる支度を頼む」

 

 

 

「ほいよ~」

 

 

 

 

日向に軽く答え、自室に割り当てられた司令室に向かう。

 

 

 

 

父島の二見港は大型艦は入れないため、沖に投錨して搭載の内火艇で上陸することになった。

 

 

 

 

駆逐艦や護衛艦は一部が入港し、

岸壁に横付け又は港内に投錨する。

 

 

 

 

これから俺たちは父島基地分遣隊長に

挨拶した後、借り上げた民宿にて関係部隊とこの作戦の打ち合わせだ。

 

 

 

作戦準備期間として2日間ほどの上陸、

要はバカンスも貰えた。

 

 

 

ヒャッハー、酒が飲めるぞぉ!!

世紀末空母よろしく、南国での一杯に

ワクワクする。

 

 

 

 

日向の内火艇で港内に向かいながら、

この作戦の参加戦力を再度確認する。

 

 

 

●戦艦…日向

 

●空母…蒼龍(57機+ヘリ2機)

 

●重巡…利根、鳥海、妙高

 

●軽巡…阿武隈、神通

 

●駆逐艦…黒潮、曙、電、春雨、

秋月、響

 

 

 

●自衛隊

補給艦1、護衛艦2、哨戒機10機、

空自戦闘機4機、早期警戒機1機。

 

 

 

硫黄島には航空基地があり、

そこに海空の航空機が進出した。

 

 

 

 

蒼龍の艦載機数はいいとして自衛隊の航空機は少ないと感じるだろうが、それはあくまでサポートであるし、クオリティも第二次大戦時のそれよりも段違いだ。

 

 

 

それに通常の任務をこなしつつ、

貴重な戦力を拠出してくれた空自と

厚木の航空隊には感謝しなくちゃな。

 

 

 

 

自己紹介は既にしたとは言え、

彼女らとは初の作戦行動だ。

 

 

 

 

 

だがここで頑張らなければ俺の

ハーレム大作戦が成功しない。

しっかり指揮して、惚れさせてやるぜ!

 

 

 

 

 

 

 

グッ!

 

 

 

 

思わず拳を握り締めガッツポーズを取る。

 

 

 

 

 

(提督はこの戦にかなり意気込んでいるな…。

ま、私も頑張るとしよう…!)

 

 

 

 

後ろから日向に見られてたっぽい。

その場は誤魔化したが恥ずかしっ!

 

 

 

 

父基分隊長への挨拶もさっと済ませ借り上げた民宿へと向かう。

 

 

荷物を置き、半袖の制服から濃紺色の幹部作業服に着替えるとすぐに作戦室になっている部屋へと足を進める。

 

 

 

 

「101護衛隊の司令を拝命しました、菊池士長…いえ3佐です」

 

 

 

既に待っていた他部隊の担当者に

軽く挨拶をする。

 

 

 

 

言い忘れたが俺や村上は『3佐』の階級が与えられ、俺は正式に新設された『第101護衛隊』司令が、村上には

隊付着任が下令された。

 

 

 

 

とはいえ村上は本土に残る艦娘の改修計画の監督が指示され、今回の出港には乗ってこなかったが。

 

 

 

 

艦娘たちも人間として戸籍も新たに作られ、自衛官としての身分も与えられた。

 

 

問題になったことと言えば、

保護者と氏名、年齢ぐらい。

 

 

 

保護者は艦娘全員の希望で俺に。

氏名は『菊池』姓を名乗る案があったが、俺は大反対した。

 

 

 

だって…ケッコン出来ないじゃない?!

↑?

 

 

 

 

もし俺の戸籍に入ってみろ。

ほぼ確実にみんな妹になるじゃねーか。

良くても同居人という形になるにしても、数十人の義理の妹やら同居人が

いるってのは気がひける。

 

 

 

 

苗字については防衛省からの提案で

『艦娘』という捻りもしっくりも捨てたネーミングとなった。

 

 

村雨『3等海尉、艦娘村雨でーす!』

 

 

 

…うわぁ、コメントできねぇ。

 

あと艦娘は神主みたいなイントネーションね。普段は名前で呼ぶし、あくまで公的書類上だけのモノということで決定された。

 

 

 

 

 

 

そして年齢。

これは俺の大プッシュと国会の先生方や総務省といった関係各所を回りに回って周到な根回しをした結果、

『艦娘は18歳以上』ということで

臨時国会で可決された。

 

 

 

 

表向きは児童の権利条約等で18歳未満は軍隊の構成員に出来ないからということにしたが、実際には下心しかない!

 

 

 

だって18歳未満だとスケベことが

できないじゃない?!

↑おい

 

 

 

 

そりゃ胸は大きい方が好きだけどさ、

女の子は胸だけじゃないんだよ!

 

 

 

加賀とか霧島は余裕で18歳以上だと思うけど、駆逐艦の娘たちは良くても

中学生ぐらいだからオトナの階段が昇れない訳で…。

 

 

 

 

最低15歳としても、手を出せるのは3年後だなんて血の涙を流すことになりかねないっ!

↑勝手に流してろ

 

 

 

 

 

 

 

 

「……という具合です」

 

 

 

 

作戦室に詰める他部隊の担当者たちと念密な打ち合わせと、細部の調整を行う。

 

 

 

 

 

頭の中では最低最悪なことを考えつつ、

口からは真面目な言葉を出すこの

スキルは俺の自慢できる唯一のスキルだろう。

 

 

 

 

 

 

 

空自には敵に航空戦力が確認された場合には制空権を取ってもらうし、

艦隊防空の際も助けてもらう。

 

 

 

この行動中は普段硫黄島の防空を行い、

俺たちがピンチな時には助けてもらう

という具合だ。

 

 

 

 

 

哨戒機は硫黄島を拠点として小笠原諸島を警戒する。

対艦ミサイルと対潜爆弾(爆雷)も

たっぷり集積、航空戦力も十分だ。

 

 

 

 

 

ちなみに蒼龍の艦載機は、

初期装備の零戦21型12機、

99艦爆27機、97艦攻18機の

57機に海自が誇るSH60Kヘリ2機の

合計59機だ。

 

 

 

 

 

ガチな航空戦をする予定ではないから

これで十分だという結論になり、

他の空母は改装に回し、蒼龍をこの

作戦に組み込んだわけ。

 

 

 

ただ敵に航空戦力が無いと確定しているわけでは無いから慢心はしてはいけない。

 

 

 

 

午前中で打ち合わせも終わり、

非常時に対応する当直艦娘になってしまった日向を残し、俺たちは父島観光…じゃなかった拠点の現状偵察に繰り出す。

 

 

 

 

 

 

今日1日だけとはいえ、当直になった日向が少しふて腐れる。

 

 

 

 

「おいおい、そんな顔するなよ日向」

 

 

 

 

「提督は羨ましいな、二日間のんびり出来て…」

 

 

 

普段は飄々とする日向が恨めしそうに呟く。

 

 

 

ふむ、こりゃ重症だな。

 

 

 

 

「よし、明日は俺(たち)と海に行こう!

俺が下見していいスポットを見つけとくから、今日は当直をよろしく頼むよ」

 

 

 

 

「まぁ…それは楽しみだと言えないことも…ない…が」

 

 

 

 

「だから拗ねるなって。

帰ってから紅茶でも飲みながら、

部屋でお話ししようぜ」

 

 

 

 

「まあ、それならしょうがないな…」

 

 

 

 

紅茶が飲めると聞いて目を輝かせる

日向。

…そんなに紅茶が飲みたかったのかな?

 

 

 

 

 

「提督ぅ!早く行こうよー!」

 

 

 

「提督、早くするのじゃ」

 

 

 

「司令は~ん!みんな待っとるでぇ!」

 

 

 

 

 

外で待つ艦娘から早く来いと催促され、

外に飛び出す。

 

 

 

 

 

そこには日向を除いた参加艦娘が

俺を待ってくれていた。

 

 

 

 

 

(ヲイヲイ?!ここは天国か?!

艦娘の水着姿を生で見れるなんてっ!)

 

 

 

目の前には当然の如く水着を着込み、

その上にパーカーやシャツを羽織る天使たち…!

 

 

 

 

「え、なんでミナサン水着なの?」

 

「忘れたか?お主が父島に上陸したら一番に海に行くと言ったではないか」

 

「提督ぅ!着替えて着替えて〜!」

 

「司令官さんが水着と言ったから

皆準備万端なのです…」

 

 

 

 

 

「あ、ああ。

すぐ着替えてくるぞよー…ははっ」

 

 

 

 

 

すごく…理性がヤバいです…。

 

 

 

 

特になんや蒼龍の胸は?!

 

 

水着は潜水艦譲りのスク水ではないにしても、ボリュームにボリュームが重なった超大ボリュームやん?!?!

 

 

緑のビキニから飛び出さんばかりの

その胸部装甲、いつか揉んでやる…!

 

 

 

 

鳥海ももともとムチムチなすけべボディーだけど、水着姿はさらにヤベェ!

 

 

 

他の娘も同じぐらい美しい!

 

 

 

 

俺艦娘の前で色んな意味で醜態を晒しそうだけど我慢できるか?!

 

 

 

 

(落ち着け、俺。

いつもエロいことばっか考えてても言葉と身体の一部は平常だったじゃないか。

 

今日だって心頭分離して頭の中だけで興奮していれば大丈夫なはずだ!

ここを乗り切らねば夢のハーレム提督への道が…)

 

 

 

 

「おまたせ。それじゃあ行こうぜ!!」

 

 

 

頭の中に煩悩を押さえ込んで健全に楽しむことにした。

 

 

 

 

 

 

「アレ?

海に向かうんじゃないの?」

 

「甘いな阿武隈。

確かに目の前に海があるが、

どうせならプライベートビーチでゆったり過ごさないか?」

 

「何よプライベートビーチって。

勿体ぶらないで早く言いなさいよ、

クソ提督」

 

「曙も慌てるなって、まずは予約しておいたレンタカーに乗って移動だぁ!」

 

 

 

 

 

 

〜艦隊移動中〜

 

 

 

 

 

「じゃぁ〜ん、どうだぁ!」

 

 

 

民宿のあった二見港から車で10分ほどで目的地のコペペ海岸に到着。

 

 

 

「すご〜い!ホントにプライベートビーチみたい!!」

 

「な、良かったろ?」

 

 

 

昼はバーベキューするし言うことなし!

 

 

 

青い空白い雲、艦娘の水着とバーベキュー!

 

 

最高のバカンスだと思わんかね?!

 

 

 

「く、クソ提督にしてはいいチョイスなんじゃない?」

 

「曙ちゃん凄く嬉しそうな顔してるよ?」

 

「は、春雨さんはその帽子は脱がないのですか…?」

 

「秋月ちゃん、春雨ちゃんの帽子に、ついては触れちゃダメよ」

 

「秋月はんと神通はんも話とらんと泳がんと!」

 

「さて…、泳ぎますか。」

 

 

 

 

皆思い思いに楽しみ始める。

 

 

 

俺はというとビーチにパラソルを挿して

妙高と一緒にはしゃぐ艦娘を眺めていた。

 

 

 

「ありがとうございます提督、

このような素敵な場所に誘って頂いて」

 

「どういたしましてー。

南の島は初めて来たけど身も心も軽くなるって本当なんだな」

 

「うふふっ、案外少年みたいなお方なんですね」

 

「馬鹿にするなよ、言うなら感性豊かとかセンチメンタルとか言い方があるだろうに」

 

「これは失礼致しました、うふふっ♪」

 

 

 

 

妙高に笑われてばかりの俺様だが、

気分はむしろうなぎ昇りだ。

 

 

 

 

鳥海、神通、阿武隈と秋月は

ビーチバレーをしている。

 

 

 

「アブッ?!?!」

 

 

 

あ〝、阿武隈の顔面に秋月のアタック

が直撃した…。

 

 

 

「う、嘘でしょ〜…なんでアタシばっかりぃ〜…」

 

 

 

どうやら何度も(偶然?)当てられて

いるようだ、アブゥ南無三…!

 

 

 

 

 

「ちょっと黒潮待ちなさいよー!」

 

「待てと言われてだーれが待つかいなー!ほな、お先にぃー!」

 

「2人とも待ってぇー!」

 

 

 

バシャバシャと泳いでいるのは

曙、黒潮、春雨のようだ。

競争でもしているのかかなり

ペースが速い。

 

 

 

春雨の帽子は、濡れても大丈夫なのか…?

 

 

 

…現代科学の謎である。

 

 

 

 

「さて、殺りますか。」

 

「響ちゃん、利根さんが可哀想なのですー!」

 

「お主ら!吾輩を埋める気かぁー?!響っ、吾輩に何か恨みでもあるのかぁーー?!」

 

 

 

響と巻き込まれた電が利根を埋めようとしています…。

 

 

 

「私たちが作った城を壊したじゃないか。」

 

「だからそれは事故だと言っておる!」

 

「…電を泣かせた罪は重い。」

 

「ぬわー!!誰かー!」

 

 

 

利根は自業自得…。

響の気迫に押され従う電。

 

 

 

 

あっという間に利根の顔以外が砂に埋まる。

 

 

 

「ち、筑摩ぁ!ちくまぁー!!」

 

「筑摩はいない。」

 

 

 

利根が顔だけをジタバタさせるが意味も無く、響に至っては利根の上に新たな砂城を作り始める。

 

 

 

 

「響って怒ると怖いんだな…」

 

「響ちゃんは根は優しい娘なのですが、

怒るといささか手がつけられないんです」

 

 

 

 

10分ほどで見事な城が完成し、

響は興味を無くしたかのようにビーチバレー組に入っていく。

 

 

 

電は利根を放っては置けず横で慰めるが、

助けようとしないのは響に頭が上がらないからか。

 

 

 

 

「ちょっくら俺も遊んでくるね」

 

「どうぞ行ってらっしゃいませ」

 

 

 

 

流石に利根と電が泣き出しそうなので

助けてやるか。

 

 

 

 

「おおっ、提督ぅ〜…。

助けて欲しいのじゃぁ〜…」

 

「助けてやるから泣かんでくれや。

とりあえずジュースでも飲んでリラックスしな」

 

 

 

ストローの刺さったトロピカルジュースを口元に置いてやる。

間接になるが砂まみれの利根の顔を見ても興奮しないし別にいいや。

 

 

 

 

響サンが創作した見事な城を丁寧に崩していく。

 

 

 

響の方を見れば俺の視線に気付いたようで、ニッコリとウインクを飛ばしてくる。

 

 

 

『もう許してあげるさ。』

 

 

『程々になー』

 

 

『了解。』

 

 

 

アイコンタクトで響と会話しつつ

利根を掘り出す。

 

 

 

 

「た、助かったのじゃ…。

こ、ここで吾輩は死ぬのかと思ったぞ…」

 

「電たちが作った城を踏んだからだぞ。

わざとじゃ無いにしても注意力が足りなさ過ぎないか?」

 

 

 

フツー踏まないでしょ…。

 

 

 

「それが、ちょっとはしゃぎ過ぎてな…面目ない…」

 

 

 

 

どうやら大人げ無く走り回って足元にあった城に気付かずに蹂躙、見事敵要塞を撃破してしまったという。

 

 

 

「しょうがないなぁ〜、あとで2人に

ジュースでも奢ってやりなよ?」

 

「反省するのじゃ…」

 

 

 

こうして利根の生き埋め放置事件も無事?未遂に終わり、反省の色も見えたことだし解決ということで。

 

 

 

 

 

昼にバーベキューをした俺たちだが、

駆逐艦が眠くなってきたということで

近くの山の中にある喫茶店で昼寝をすることにした。

 

 

 

この喫茶店、敷地の森にハンモックを模したネット状のロープが張ってあり

そこでゆっくりとできた。

 

 

 

 

木々の日陰となった場所で少しひんやりしており、昼寝にはうってつけのスポットだ。

 

 

 

 

「ここにいると戦いに来ていることを忘れそうだなぁ〜」

 

「そうですね、ここは静かですね」

 

「とはいえこの平和を守るために俺たちが居て、今ここにいるんだ。

それは自覚しなきゃだな…」

 

 

 

神通がリラックスした表情で返してくれる。

 

 

 

「司令官さんはここに来る途中にあった沈没船は見ましたか?」

 

「もちろん見たよ、確か濱江丸でしょ。

太平洋戦争末期に座礁してその後空襲で損傷して放棄されたんだっけ?」

 

「その通りです。

戦争中とはいえ民間船が攻撃され、

フネとしての生命を絶たれてしまう。

こんな悲しいことは繰り返したくありません…」

 

 

 

鳥海が悲しそうに話す。

 

 

 

「鳥海が思い詰めること無いさ。

そうならないために俺たちはここに来た、

そしてこれからも守るために戦う。

 

 

決して私利私欲の為ではなく、

日本という国の為に」

 

 

 

起きている2人はじっと俺の話を聞いてくれる。

 

 

 

「知っていると思うけどこの平和な父島だってかつては要塞化され、激しい空襲にあっていた。

 

 

敵のパイロットを殺してその人肉を食べるという残虐な事件もあった…」

 

 

 

「「……」」

 

 

 

「だが戦争は終わった。

アメリカに統治されていた期間もあるが、

今では知っての通り沖縄に並ぶ南の楽園になっている。

 

 

欧米系島民とも仲良くやっているし、

海外からの旅行客も多い。

過去を忘れたわけじゃ無いが何事もなかったかのように平和な島に戻ったんだ、ここは」

 

 

 

 

 

気付けば傾き始めた太陽にそっと手を伸ばす。

 

 

 

「だが俺たちは違う。

敵は深海棲艦というフネの化け物であって人間じゃない。

 

俺たちが守るのは国民。

戦争のために戦争をするんじゃない、

守りたいもののために戦うんだ。

 

それだけ覚えておいたらいいんじゃないかな?」

 

 

 

 

夕日の沈む海を眺めながら一人語る。

 

 

 

 

 

その後寝ている艦娘を優しく起こし、

美しい日没を皆で一緒に鑑賞する。

 

 

 

本土で見る夕日と変わらないはずだが、

南の楽園で見るそれは別物と思うほど素晴らしく神秘的であり、無性に涙が溢れるほどであった。

 

 

 

 

 

〜艦隊が民宿に帰還しました〜

 

 

 

 

「たっだいまー、当直ありがとー!」

 

「提督か、おかえり」

 

 

 

日向にお土産を渡す。

 

 

 

「これは…サンゴじゃないか?!

無許可で取ったら犯罪なんじゃ?」

 

「もちろん許可はあるから心配するな!

ほれ、許可状ももらってある」

 

 

 

多くの砂浜がサンゴでできている父島では、無許可でサンゴを取ることは出来ない。

 

 

出港前にこれを知った俺は防衛省に頼んで都知事と小笠原支庁に許可をもらい、全艦娘に1つずつという条件でお土産にすることができた。

 

 

 

「ありがとう、これは宝物になる」

 

「どういたしまして。

留守中なにかあった?」

 

「ああ、急ではないのだが伊豆諸島の警備艦隊から敵の動向報告があって

敵艦は南西に向かったらしい」

 

「あそこから南西というと、西之島方面か?」

 

「詳細は不明だがそちらに向かった可能性は高いな」

 

 

 

護衛艦が敵をロストした後人工衛星による追跡を続けたが、西之島に向かう針路上で突然探知不可能になったらしい。

 

 

 

 

陽動かもしれないし、本当に西之島に向かったのかもしれないが俺たちには確かめる術はない。

 

 

 

 

「予定通り八丈島までの警戒ルートを航行するか…」

 

 

 

 

一応その場にいた連絡官や海幕にも連絡を取ったが警備計画は変更無しでいくとのことだった。

 

 

 

日向に紅茶を淹れて持っていく。

 

 

 

「おまちどさん、ブランデー入っとるよ〜」

 

「君は…いや、提督は紅茶を好むのか。まるで金剛のようだね」

 

「なんかね、物心ついた時には飲んでいたってやつ?」

 

「前世は英国人だったりしてね」

 

「俺はずっと日本人の人生だと思うぜ。大和魂が何かはわからないが花見と夏祭りと焼き芋とこたつは大好きだ

 

 

そう答え紅茶を口に運ぶ。

 

 

「大和魂か、確か複数の女性を同時に愛して幸福にしたり、関係を良好に保つことも意味の一つに入っていたはずだ」

 

「ブブッ?!」

 

 

 

嘘やん?!

大和魂ってそんな意味も有ったの?!

やっぱ日本人ってエロ民族だわ!!

 

 

 

「ゲホッゲホッ…」

 

「おいおい大丈夫か?

日本人なのにそんな意味も知らないとは

君もまだまだだな…」

 

「まあ、しょうがないな」

 

「む、それは私のセリフなのだが…」

 

 

 

 

日向と面白おかしい会話を楽しみつつ

夜はゆっくり更けていく。

 

 

 

民宿の庭から近くにある飲み屋街の雰囲気が感じられる。

 

 

 

テレビの情報で不安に感じる住民がいるかと思ったが、見る限りではそれほど悲観的なムードは流れてはいないようだ。

 

 

 

「彼らは朝から元気にしていたよ、

残ってる観光客は不安そうだったが

島民はそれを元気付けるようにしていた場面もあった」

 

「もともと小さな島だし外界との

窓口も『おが丸』ぐらいしかない、

幸せっていうのは金じゃ無いのがよく分かるよ」

 

 

 

父島までの一般的な交通手段は『おがさわら丸』という貨客船のみであり、

空港も無いため約1日かけて船に揺られるしかない。

 

 

 

また料金もバカにならないため意外と高級な南国バカンスとなっている。

 

 

それを補って余るほど島民は優しく気さくで、島も素晴らしいところだ。

 

 

 

 

そのおがさわら丸であるが、ここ数日の情勢に鑑み東京に足止めとなっている。

 

 

生活物資が入ってこないのは言うまでもなく、経済基盤の観光業が成り立たなくなってしまう。

 

 

 

 

 

(早く敵を撃退しないとな!)

 

 

 

 

 

 

次の日は約束通り、

日向と俺(たち)で海に行った。

 

 

「君と2人では無いのか」

 

「えっ、俺としては複数で行くつもりだったんだけど?」

 

「霧島や飛鷹が提督の言葉には気をつけろと言っていた意味が分かった気がするな」

 

「??」

 

 

 

少し残念そうにちゅーちゅーとマンゴージュースをのむ日向。

 

 

 

(なんで残念がるんだ?

…あっ、実は泳げないとか?!)

↑大ハズレ

 

 

 

 

勘違いはあったものの概ね喜んでもらえたようでなにより。

 

 

 

 

夜は酒が飲める大人組ーーだが艦娘はみな18歳でありどう見てもはんz…ーーと一緒に一杯だけと約束して飲みに行ったのだが、『海亀の刺身』は珍味だったな。

 

 

臭いは少しあったが面白い味と食感だった。

妙高は一口目で食べるのを止めたがそこは個人差があるようだ。

 

 

 

ほろ酔い気分で宿に到着し、各自思い思いに風呂に入ったりして就寝前の時間を過ごす。

 

 

 

 

う〜ん、今日は酔いが早いな…。

 

 

 

 

麦茶をコップに入れ夜風に吹かれ体を冷やそうと外のベンチに腰掛ける。

 

 

 

「わーお、すごい夜空…」

 

 

 

本土ではほぼ見られないであろう満天の星空が頭上には広がっており、

言葉に出すのも忘れるぐらいの光景だ。

 

 

 

「クソ提督の割には感性はマトモなのね…」

 

「ん、その声は曙か?」

 

「何よ、わたしがいちゃダメなの?」

 

「ダメとは言っとらんがな。

それとクソはいらんて、クソは」

 

 

 

現実でも曙はクソ提督と呼んでくる。

まあ呼び方がクソ提督じゃなかったら偽物じゃないかと疑うが…。

 

 

 

「だってエロエロ星人でクソなんだなら

クソ提督じゃない」

 

「ぐぬぬ、悔しいけど言い返せん…」

 

「ノってんじゃ無いわよ!」

 

 

 

暴言を吐きつつも横のベンチに腰掛けるあたりが彼女の優しさを表している。

 

 

 

「今日行った海岸にさ…」

 

「うん」

 

「戦時中に空襲を受けた濱江丸だっけ、とかトーチカとかあったじゃない?」

 

「ああ。ここが要塞だったことを実感させられたな…」

 

 

 

昨日途中で見た海岸ーーー境浦海岸に今日は行ってきた。

シュノーケリングポイントにもなっていて、とても楽しめた。

 

 

浜を歩けば岩場にトーチカが残されていた。

米軍が上陸してきたらここから機銃を撃つことになっていたのだろう、銃眼が四角に開けられていた。

 

 

 

「この楽園がヘタしたら戦争によって地獄になっていたと考えると、なんか嫌なものよねやっぱり…」

 

「そうだな。戦争はやっぱりいけないよな、何も生み出さずただ喪失と悲しみしか残さない最低な行為だ」

 

「仮にも軍人の『提督』がそんなこと言っていいの?」

 

「嫌なものはイヤとハッキリ言うのが俺の質でね」

 

 

 

ナイーブになっているのか『クソ』を付け忘れてる曙に突っ込もうかと思ったが、今の空気はそんなんじゃないと悟る。

 

 

「俺たち軍人は何のためにいるかわかるか?」

 

「えっと、戦争に備える為?」

 

「半分正解。

実は戦争をしない為に軍人ってのは本来いるんだよ。

あべこべな話だけどな。

 

敵がいるからその対抗策として、あくまで防衛戦力として軍隊ってのはあるのであってそれを侵略目的、つまり自分たちの利益の為に使うのはよろしくないんだがな。

 

 

 

よく『戦争は他の手段を交えた政治的交渉』って言われていて要は外交の延長に過ぎないんだ。

政治目的を達成する為に行使せざるを得なくなって、仮に行使しても目的を達成したら講和なり交渉なりでちゃんと折り合いをつけるのが賢い戦争かな。

 

 

利益の為に戦争している時点で賢いもクソもないけどね。

…だが時には立ち上がらなくちゃいけないときもある、今のようにね」

 

 

 

 

自分でも驚くぐらい語ってしまったが

曙はどう思うだろうか?

 

 

 

「ま、人の数だけ正義と目的はあるし逆に悪でもあるというこっちゃ。

 

俺の持論だって勝手な推測だし、純粋な一般論からしたら矛盾だらけだと思う。

 

曙はどうかな?」

 

 

 

静かに聞いてくれていた曙に感想を聞いてみる。

 

 

 

「……んー」

 

「ど、どうだ?」

 

「ん……んー」

 

 

 

およよ?

 

 

 

「お〜いあけぼのちゃ〜ん?」

 

「ん…ぐぅ〜…」

 

 

 

寝落ちですか、そうですか。

今日もたくさん泳いだし仕方ないね。

 

 

 

「曙、ちょっと触るけど許してな…」

 

 

 

ベンチに座る曙を優しく抱き上げ、

部屋へと運ぶ。

 

 

 

まだ何人か起きていたので、アイコンタクトで状況を伝え部屋のドアを開けてもらう。

 

 

 

「おやすみ曙…」

 

「ん…」

 

 

 

こいつ、絶対に起きてるだろ…。

器用に返事するし、狸寝入りかぁ?!

 

 

 

とはいえ『あの』曙が俺のお姫様抱っこを

よしとするわけもなく。

 

 

 

(無意識に返事をしてるんだろうな)

 

 

 

 

流石に眠くなってきた俺はまだ起きていた蒼龍と妙高に寝ると伝え、割り当てられた自室に入る。

 

 

 

(ふぁあぁ〜…。

ガラにもなく難しい話をしちまったかな)

 

 

 

曙が俺の話を聞いてくれたのは

意外だったな。最後は寝落ちしてたとはいえ、途中までちゃんと聞いてくれていたし。

 

 

 

 

(やっぱり根は優しく娘なんだなぁ…)

 

 

 

 

そこまで考えると意識がフッと堕ちる感覚がした。

 

 

 

 

南国特有のジメっとした湿気も部屋のエアコンによって快適になりすんなり眠れた。

 

 

 

 

…だが次の日に蒼龍が、俺が曙を抱っこしたことを色々ワザと間違えて広めて、通常通りの性格に戻って落胆したのは秘密だ。

 

 

 

「このあたしに触るなんて、やっぱり変態!エロエロ星人!クソ提督っ!!」

 

 

ベッチーン!!

 

 

「…蒼龍のバッキャローッ!

いつかモミモミしてやるーッ!!」

 

 

 

提督をビンタする曙だったが、

もう少し起きておけばよかったと思ったとか思わなかったとか……。

 




父島はいいところですよ!

数年前に旅行で行ったのですが、
素晴らしい気候と地理、そして海っ!

原付借りて島をひとっ走り、夜遅くまで
飲み歩いて海に飛び込み
通報を受けた警官に注意される…。
そんな南の楽園です(苦笑)!!




次からは戦闘が入ってきますので、
一気に地獄になっていきます。


※ここから物語が
多少重くなるかもしれません。

閲覧注意とは言いませんが、
『R-15』タグをご理解の上
お読みくださいませ。



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1-3 敵軽空母を鹵獲せよ! 【西之島沖】


“———今も尚、海底火山と
深海棲艦出現地の関連性は不明だが、
彼らが何らかの基地として
西之島海底を使用していたのは
紛れも無い事実である。

西之島沖海戦では菊池3佐(当時)の
判断で西方へ転進し戦力の集中を図った。
もし東方に敵の別働隊がいたら
重巡妙高以下の分艦隊は壊滅の恐れが
あったと指摘されるが、それでも提督は
民間人保護を優先したのである。

民間人を優先する菊池3佐と、
マーカス(注:南鳥島)を死守
しようとした海幕が対立したが、
結果としては提督の判断が
正しかったわけでと言える。

唯一残念なところは自衛隊の
太平洋における貴重な航空基地が
一つ無くなってしまった点であるが、
仮に命令通り東方に向かっていた場合
後方の敵西方艦隊に追撃を受け、
我が艦隊は全滅したに違いない。

~中略~

彼を『クソ提督』と呼んでいた当時の
自分を恥かしく感じる。
きっと彼は“雪風”と同じく幸運を
引き寄せる体質なのかもしれない。
あの時横に彼が乗っていなければ、
私はきっと沈んでいたのだから…”


青葉新聞社『~回想~艦娘の戦い』
とある艦娘の回想より抜粋




小笠原諸島聟島(むこじま)列島沖

 

 

 

「だる~ん…」

 

 

 

見渡す限りの海と、

申し訳程度の島らしきもの。

いずれも無人島だ。

 

まだ父島を出港してすぐ。

 

その北にある聟島列島を掠めるように

艦隊はのんびりと航行中だ。

 

 

「だる~ん…、からのまろ~ん…」

 

「ちょっと何ダラけてるのよ!!

しゃきっとしなさいよこのクソ提督!」

 

 

だってぇ、だるいんだもん。

 

 

曙が横で厳しい声を上げるが、

ダルいものはダルい。

 

 

「…ったく、なんでアンタと一緒に

居なくちゃいけないのよ?!」

 

「まぁまぁ、曙が可愛いのはわかったから、

そう文句ばっかり言うなって。

可愛い顔が台無しだぞー?」

 

「なっ…!

うっさいクソ提督!!」

 

 

……

 

 

今回の出港で俺は

曙へと乗艦することになった。

 

 

作戦前に誰を旗艦とするか

という話題になった途端、

皆の目の色が変わり曙以外が

是非自分を旗艦にと立候補してきた。

 

俺的には蒼龍か伊勢と考えていたのだが、

2人以外の艦娘が“何故か”譲らない。

 

いっそ護衛艦に行こうかと冗談で言ったら、

『ダメ』の一蹴を喰らいました…。

 

 

じゃあ公平にあみだくじで決めよう

ということになり、結果は

唯一希望していなかった曙に

決まっちゃったというワケ。

 

本来なら艦隊への通信指揮を考えると、

最低でも重巡クラスだと思うんだが

そこは目を瞑っておこう…。

 

 

(うわぁ、作戦頑張ろう…)

 

 

……

 

 

この作戦前に、参加艦娘に対し

突貫で可能な限りの改造と増設を行った。

 

 

 

 

砲熕兵器こそそのままだが、

現代艦艇は指揮通信が命。

 

そんなわけで無線機関係は

可能な限り現代の機器を搭載している。

 

アンテナといった目に見えるところから、

艦内の電信室や機器室には暗号関係の

無線機器やら俺もよくわからない

ヘンテコな機器を満載している。

 

お陰で艦隊無線はもちろん、

自衛艦隊司令部や海幕、統幕とも

ホットラインを通した通信が可能となった。

 

中でも衛星通信が可能になったことによる

『作戦支援端末』の導入が戦況を

有利に運ぶ可能性を格段に高めることが

できたと考えると胸が熱い。

 

詳しいことは言えないが、

パソコン上で簡単に戦況分析と彼我の

戦力比較、航跡追跡システムといった、

戦いの全てを手に取るようにわかる

ようになったといっておく。

 

 

 

 

命令は流石に無線ないし電報・メールといった方法であるが、指揮官が

全体の動きを目で『読める』のは

俺としてもかなりありがたい。

 

 

 

 

レーダーに縋り付いて頭の中で各部隊の動きをトレースさせるような、昔の

戦争とは比較にならない現代戦。

 

 

 

 

技術力で負けたら戦争も負ける、

そんな言葉が脳裏をよぎる。

 

 

 

 

 

この後は伊豆諸島の南端にある

孀婦岩という岩オブザ・岩までのんびり

航行し、半日洋上警戒(という名の釣り)をして、八丈島までの予定だ。

 

 

そして逆ルート、これを最低3回繰り返す。

 

 

 

 

 

そりゃあダルいってーの!

 

 

 

 

 

「…ねぇ『提督』」

 

「…どうした?」

 

 

 

曙が神妙な面持ちで声を掛けてくる。

これは何かあると思い、こちらも

仕事モードに切り替える。

 

 

 

「深海棲艦ってさ、レーダーに反応

するのよね…?」

 

 

 

「おう、バッチリ映るしその為に

艦隊も索敵用に距離を開けてあるぞ」

 

 

 

 

ちなみ俺たちの位置は進行方向の先頭、

索敵地獄の一丁目といった所。

 

 

 

 

「電測妖精が不審な反応を見つけたみたいなんだけど…」

 

 

 

 

「この辺は父島近海とはいえ、よく

中国のサンゴ密漁船とか出没するらしいし、そのあたりじゃないか?」

 

 

 

 

レーダーを睨む電測妖精の後ろから、

画面を覗き込む。

 

 

 

「それが、大きさが…」

 

 

 

 

そこまで曙が話した所で俺は固まった。

 

 

 

 

(馬鹿な、反応が大きすぎる…)

 

 

 

 

 

真北に進む俺たちの左、つまり西の

方角に反応が1、距離は40km。

 

 

しかも大きさは後方を続航する

電や護衛艦と同じ大きさ、これは…。

 

 

 

 

「全艦クラッチ脱!同時に左90度回頭!周囲を警戒しろ、まだ他にもいるかもしれん!」

 

「ち、ちょっと!まだ敵と決まったわけじゃないし、

索敵機を飛ばしてから陣形を変えても…」

 

「味方以外は全て敵と思えっ!

利根は索敵機を出せ、妙高は阿武隈と黒潮、春雨を率いて後方の索敵に当たれ!」

 

 

 

あたふたする曙を尻目に矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

 

「いいか曙、確実は大事だがそれと同時にスピードも必要なんだ。

 

確実を求めるが故に、即応をよしとする、その按配が難しいけどなっ!」

 

 

 

やや落ち込んでいた曙に軽く声をかける。

 

 

 

ポン!

 

 

 

「曙は確実を求めようとして、陣形形成を躊躇った、そうだよな?」

 

「うん…」

 

「んで俺はスピードを重視したが次に確実を求めようと索敵を指示した、ついでに陣形を作り不測の事態に備えた。

大小はあれど曙は間違っていないさ、

ただ先を見据える点では俺に分があったかなー」

 

 

「……」

 

「もし敵が戦艦や空母だったら砲弾は飛んでくるわ、艦載機はすぐ来るわで先を取られて終わる。

あの反応の大きさなら軽巡以下だが、

油断はできないしな」

 

 

 

 

悔しそうに床を向く曙の頭を撫でてやる。

 

 

 

むしろ俺の指示の方が過剰だったかもしれないが、場所が場所だけに敏感にならざるをえない。

 

 

 

 

目と鼻の先に父島や母島があり、

そこには民間人がいる。

 

 

 

まして所属不明船舶は少なくとも駆逐艦並みの大きさときたら、すぐに反応するしなない。

 

 

 

 

「…利根索敵機より通信!

『駆逐イ級1隻、父島方向に向かう。速力30kt』!!」

 

 

 

 

「蒼龍、艦爆だけでいい。

6機あれば十分だろ?」

 

 

 

 

「まっかせといて~!

『全機投下』じゃなくてもいい?」

 

「そこはお前に委任する。

沈めりゃいいぞ、いっそ1機ずつでも。

 

でも対空砲火だけは

確認してからだからな?」

 

「おっけ~!」

 

 

 

 

すでにスタンバイしていた艦爆がレーダーに映り、イ級へと向かう。

 

 

 

 

10分程して蒼龍から2機目で撃沈した

との通報が入る。

 

 

 

 

これも父島回航中にやったことで、

敵が単艦かつ低火力の場合のみ

艦爆によるピンポイント爆撃により

ぽちぽち沈めるという戦法を使った。

 

 

弾薬にも限りがあるし、

ボコスカ砲雷撃戦するくらいなら

少数の艦爆で沈めた方が低コストじゃね?という結論に至った。

 

 

 

残弾に余裕のある駆逐艦の砲撃を打ち込む方がいい気もするが危険があり過ぎる。

 

 

 

艦載機の練度を上げたいという俺と蒼龍の希望と、砲弾が無いという悲しい懐事情が皮肉にも解決されたわけだ。

 

 

 

艦載機の爆弾なら国内の既存設備でも

製造可能だし、むしろ火薬も高性能だから俺は推奨した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「利根索敵機からさらに通信!

『新たな敵艦隊らしきもの!

重巡リ級2、軽空母ヌ級1、軽巡

ホ級1隻!

なおホ級以外は実艦なり!!』」

 

 

 

「なんだと?!」

 

 

 

 

驚きの報告に思わず大声を上げる。

 

 

 

これまでに出てきた深海棲艦は全て

イ級やホ級といったいわゆる雑魚キャラがそのまま大きくなっただけのパターンだった。

 

 

 

それゆえに速力もあまり出ず武装も

貧弱でありそれ故に蒼龍が少数の

艦爆で対応していたが、敵が実艦となると武装も大きく変わってくる。

 

 

 

 

「蒼龍は艦爆隊を帰還させろ、同時に

制空隊を出して敵機の来襲を防げ!

利根と鳥海は徹甲弾を装填、全艦隊水上戦闘用ー意!」

 

「提督、攻撃隊はどうするの?」

 

「対艦装備をさせつつ格納庫へ!

敵の戦力がわからんことにはヘタに発艦させられない、まずは零戦隊に様子を見させるんだ」

 

「提督、水雷戦隊はどうするのじゃ?」

 

 

 

うーん、魚雷の威力は捨て難いが被弾率を

考慮すると控えたいな…。

 

 

 

「水雷戦隊は対空戦の準備しつつ対艦・潜に備えろ。

航空攻撃に乗じて潜水艦が現れるかもしれん!」

 

 

 

まだ潜水艦は確認されていないが、

重巡や軽空母もいるなら現れても不思議じゃない。

 

 

 

 

「水雷戦隊は前に出過ぎるなよ、

戦果よりも命を優先しろ!」

 

 

 

1発の被弾が致命傷になりかねない

軽巡以下のフネは後方に下げる。

 

 

 

「提督、戦闘機隊準備できました!」

 

「ようし!直衛機を残して直ちに発艦だ!」

 

「了解っ!制空隊、発艦はじめっ!!」

 

 

 

蒼龍から制空隊が飛び立ち目と鼻の先の

敵艦隊へと向かう。

 

 

 

 

ほぼ同時に敵艦隊からの艦載機発艦を

察知し、艦隊内が緊張感に包まれる。

 

 

 

制空隊と言っても9機に過ぎない。

直衛に1小隊3機を残しているためだ。

 

 

 

 

敵が軽空母といえどもどれ程の兵力、

戦力を持っているのかはわからない。

だが戦わねばならない。

 

 

 

 

「制空隊、敵編隊と接敵しました!」

 

 

 

相手の編成を確かめさせる。

 

 

 

「敵編隊の編成が判明!

いずれも米海軍の旧型機です。

戦闘機、F4Fワイルドキャット。爆撃機SBDドーントレス、雷撃機TBDデヴァステイター!

各9機の計27機の模様!

なお識別マークなし、塗装は黒!」

 

「制空隊に伝えろ。艦爆を先に狙え、雷撃機は後でもいい。敵戦闘機には1小隊を当てろとな!」

 

「了解!」

 

 

 

電信妖精に指示を出しドーントレスを先に狙わせる。

特に意図は無いが敵の練度が低いと仮定すれば、魚雷も楽に躱せるはずだ。

 

 

 

「えへへ、やっぱり提督には私がドーントレス苦手ってわかる?」

 

「当たり前田のなんとやら。

ミッドウェー組ならドーントレスは苦手だろうて、きっと加賀も苦手なんじゃね?」

 

 

 

空襲を前に軽口を言い合う。

もちろん敢えてやっており、蒼龍の

気持ちを和らげるのが目的だ。

 

 

 

程なくして艦爆は撃墜したと通信が入り、

敵戦闘機と雷撃機撃墜を下令する。

 

 

 

何機か突破してきた敵機に対し、

鳥海を筆頭とした対空射撃を開始する。

 

 

 

「各艦っ!よーく狙ってー…撃てーっ!!」

 

 

鳥海の号令で対空射撃が開始され、

敵機付近に対空砲が炸裂する。

 

 

「修正っ!遠1、左2、撃て!」

 

 

 

上空の制空隊と直衛機はというと、

敵戦闘機との巴戦、ドッグファイトに

突入していた。

 

 

 

艦隊防空では通常直衛機は誤射を避けるため艦隊上空から距離を取る。

 

 

 

そのための艦爆撃墜であり、雷撃機の

対処も艦隊側に割り振りだ。

 

 

 

 

敵戦闘機は未だ何機かいるようだが、

雷撃機は残りわずかだ。

 

 

 

鳥海と利根が激しい対空砲火を浴びせ、

それでも肉薄する敵機にはハリネズミの機銃が待ち構えている。

 

 

 

10分ほどで敵戦数機を除いて敵編隊は壊滅、戦闘機隊が残った敵を追いかけ回すのを見物する余裕があった。

 

 

 

「こら、見物してる暇があったら次だ!

重巡は敵艦隊が射程内に入ったら

令無く発砲しろ。

水雷戦隊はサポートに当たり、対潜警戒を厳となせ!」

 

 

 

自分に言い聞かせるように命令を下す。

 

 

 

「敵の編成に変化が出てきたな…」

 

「本格的な侵攻を始めたってことね」

 

「そのようだな。

どうだ、ソーナーに感はあるか?」

 

「潜水艦の反応は無いみたいよ、

他も同じみたい」

 

 

 

 

どうやらこの海域には潜水艦はまだ

出没していないようだ。

 

 

 

潜水艦が現れたらシャレにならん。

海上自衛隊は対潜メインとはいえ、

そればかりが任務では無い。

 

 

 

もしも輸送ルートを狙われたら国内の流通は一瞬で麻痺してしまうだろう。

 

 

 

 

「利根索敵機より通信!

敵軽空母上に艦載機無し、空襲の恐れは極めて低い!」

 

 

 

「日向、レーダー射撃をお見舞いしてやれ!」

 

「了解、伊勢の分まで殲滅しても構わんのだろう?」

 

「そういう事言ってないでさっさと撃ちなさい」

 

「君もノリが悪いな…」

 

 

 

日向がぶつぶつ言いながらも主砲を放ち、

敵艦付近に水柱を上げる。

 

 

 

 

戦記物にあるような斉射ではなく

ポツポツと小出しであるが、

それ故に精度は高い。

 

 

 

射管装置のお陰で4発目には敵リ級に

命中弾を叩き込めた。

 

 

 

「重巡リ級1番に着弾、前甲板!

前部の主砲付近から黒煙と火災を確認!」

 

「確実に仕留めるぞ!

日向は敵2番艦へ目標変更、利根と鳥海は1番艦に砲火を集中しろ!」

 

「「「了解!!」」」

 

 

 

 

戦況はこちらに有利だが敵も甘くは無い。

 

 

 

最前線にいた日向と鳥海に敵の砲火が集中し、至近弾が2隻に海水のシャワーを浴びせる。

 

 

 

「っ!やるじゃないか…!」

 

「きゃっ?!至近弾がっ!」

 

「2人とも大丈夫か?!」

 

 

 

至近弾は時として直撃よりも被害を被る場合がある。

 

 

 

「私は大丈夫だ。破片と海水で機銃座が3基やられただけだ」

 

「こちらは異常無しです!

破片が水線下を叩きましたが浸水等ありません!」

 

「よかった!2人とも少し後退しろ、

無理に立ち向かうなよ!」

 

 

 

よかった、被害は少ないみたいだ。

 

 

 

 

戦艦と重巡が規定の砲弾を撃ったところで

水雷戦隊が接近し雷撃を試みる。

 

 

 

 

砲弾を叩き込んだところで敵をボロボロにできても撃沈までには至らない。

 

 

フネとはある程度の浮力があり、それを魚雷で撃ち破る必要がある。

 

 

 

 

「敵の砲火に注意して近接しろよ!

無理にぶっ放そうとしたらお仕置きするからな!」

 

「わかってます!」

 

「ただセクハラしたいだけじゃないの?」

 

「こら曙、心を読むんじゃない!

神通が真面目に返事してくれてるんだから、茶々を入れるなって…」

 

 

 

曙が俺の言葉に反応して毒を吐く。

神通を筆頭とした水雷戦隊は散発的な

敵の攻撃を避けつつ肉薄する。

 

 

 

「撃ちます、よーい…てぇっ!!」

 

 

 

神通の合図で水雷戦隊から魚雷が発射される。

 

 

 

彼我の距離はあってないようなもので、

軽巡ホ級から砲撃がひっきりなしにくる。

 

 

 

 

やはり神通は狙われやすいのか

遂にホ級からの砲撃が命中してしまう。

 

 

 

「きゃっ、痛いですっ!」

 

「神通っ?!」

 

「被害は軽微です!

でも…なんだか身体が火照ってきてしまいました…」

 

 

 

 

神通の動きが一瞬止まるがそこからは

鬼神に迫る攻撃であっという間に

ホ級に魚雷と砲撃を命中させる。

 

 

 

(うわぁ…神通こえぇ…)

 

 

 

神通の火照ってきた発言にちょっと興奮してしまった俺だが、その後の猛撃を目の当たりにして『殺る気スイッチ』が入った彼女はヤバイと実感させられた。

 

 

 

(せ、セクハラは控えめにしておこーっと…)

 

 

 

 

「重巡リ、軽巡ホ級撃沈しました!」

 

「よし!軽空母も沈めるぞ!

秋月は対空警戒をしつつ随伴、

神通は後退して日向の横で待機。

他は曙を中心に続け!」

 

 

 

俺と曙が先頭となり秋月、響、電が

ダイアモンドフォーメーションで

残ったヌ級に向かう。

 

 

 

「艦載機で沈めなくていいの?」

 

「いや、駆逐艦だけでいい。

索敵機からの報告だと飛行甲板には

穴が空いて発艦は不可能だし兵装も使えないみたいだ。

 

 

それに機関部に被弾したのか行き足も止まっているから、『計画通り』このまま調査に向かおうと思う」

 

 

 

艦載機の収容を終え攻撃隊の準備を

していた蒼龍から航空攻撃をしないのかと具申されたが今回は却下する。

 

 

 

なぜなら……

 

 

(沈黙した敵とはいえ『立入検査』するのはビビっちまうな…)

 

 

 

この作戦は伊豆・小笠原諸島近海に現れた敵の撃退が第一目的で、第二目的は隙あらば敵の調査又は鹵獲とされた。

 

 

 

 

 

海幕『敵っていっても何者かわからん、

鹵獲したり残骸とか持ってこいや』

 

俺『いやヤバイです…』

 

海幕『東京湾の時お前らが撃ち過ぎたから敵情がわかんねーんだろ?』

 

俺『すんませんでした、今度拾ってきます…』

 

 

 

 

……端折るとこんなことを言われたわけ。

 

 

 

 

そんな訳で軽空母ヌ級にゆっくりと

接近を試みる。

 

 

 

「見張妖精、敵に動きはあるか?」

 

「敵甲板上、兵装付近に敵影無し!

近接差し支えないと思われます!」

 

「よし、200mの位置で全艦停止。

各艦立入検査隊を編成し、内火艇にて向かうぞ!」

 

 

 

そう下令すると俺もいそいそと準備を始める。

 

 

 

「え、どうしてクソ提督も行くの?!」

 

「そりゃ俺が行かないと意味が無いだろう。

クソなりに指揮官だし、現場に立ち会わないと指示出すやつがいないしな。

 

 

艦隊の指揮は日向と蒼龍に委任する、

もし検査中敵が動き出したら、2人とも

わかってるな?」

 

 

 

敵に乗り込んでいて急に動き出す、

それは目の前の駆逐艦に攻撃をすることを意味する。

ならば最小限の犠牲で済ませる、

俺たち立入検査隊を見捨ててでも

駆逐艦だけは守ってほしい。

 

 

 

「もし俺からの定時報告が切れたら迷わず撃て、

これは命令だ…」

 

「……わかった」

 

 

 

無線機の向こうから苦い顔をしているであろう日向の返事が届く。

 

 

 

「危なかったらすぐに帰ってきてくださいね!」

 

「余裕よゆー。

俺こう見えて逃げ足は速いから!」

 

 

 

暗い雰囲気を打ち消さんと明るく振る舞う。

 

 

 

(俺だって怖く無いわけ無い…)

 

 

 

ヘタしたら艦内で敵が待ち構えてるかもしれん、そう考えると遺書でも書こうかと思ってしまう。

 

 

 

自衛隊戦死者第一号にはなりたくないなぁ…。

 

 

 

視線を感じ振り返ると曙が心配そうな顔で何か言いたそうにしていた。

 

 

 

「ん、どした?俺に告白でもしてくれるんかぇ?」

 

「…どうして?」

 

「……え?」

 

 

 

何が?

 

 

 

「どうしてそんな平気でいられるの?!

『提督』が死んじゃうかもしれないのよ?!」

 

「なんだなんだ俺のことが心配なのかぁ?」

 

 

 

曙が俺のことを心配してくれているのか

決死の立検に赴く俺を止める。

 

 

 

「いつもそうだった…。

沈んだ艦娘は出撃前明るく振舞って、

そして還って来なかった…」

 

「俺はな、今すっごく怖いぞ?

ビビビビびびってる、実を言うとな」

 

 

 

正直言うと行きたくない、だが…

 

 

 

「でもここでヤツらの情報が掴めれば

みんなが傷付く可能性もグッと下げることができると思うし、有効な対策や作戦が浮かぶと信じてる」

 

 

 

これが一番の本心だ。

うまいこと深海棲艦のデータが取れれば艦娘が取る戦術も変わるだろうし、

愛する人が傷付かなくなるのは

何よりの願いだ。

 

 

 

「でももし敵が…」

 

「デモもクーデターもありません。

曙はここにいて緊急時に即応すること!

 

ちょっと社会科見学に行ってお土産を拾ってくる簡単な仕事だっての!

もし俺が行かなかったら立検の陸戦妖精が迷子になるかもしれないだろ?

 

…って泣くなよ?!

 

 

だあぁ〜!ちゃんと帰ってくるから、

ほら指切りするぞ!」

 

 

 

何時ぞやの村雨の時のように指切りを

してその場を後にする。

 

 

 

「あっ…」

 

 

 

曙の呟きが聴こえるが、ここで振り向いたら俺も我慢できなくなる。

 

 

 

「今夜はヌ級の鍋にするって調理妖精によろしく〜」

 

 

 

後ろに手を挙げ内火艇へと足を進める。

今日が俺の命日にならないことを祈るとしよう。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「…日向、提督だ。

ヌ級の後部に着いた、これより乗り込む」

 

「了解、気をつけて」

 

 

 

 

乗り込んだら罠でしたということもなく、

無人の艦内を警戒しつつ進む。

 

 

 

艦内は暗く不気味な色で構成されているが、人間が使用するのを考慮されているかのように造りがされていた。

 

 

 

「こりゃ第二次大戦時の米軍の軍艦のような造りですぜ提督!」

 

「やっぱりそう思うか。

こちらが旧海軍の艦艇なら、深海棲艦は米軍の旧式艦艇をベースにしているのかな?」

 

 

 

何処となく護衛艦の造りに似てると思ったらそういうことか。

 

映画の『沈黙の戦艦』に出てくるミズーリの艦内に酷似し、あたかも沈没した艦艇を海底からサルベージしたかのような敵のフネ。

 

 

 

機械室と艦橋を周ってみたものの、

敵も人気も無い。

 

 

 

「索敵機が発見した時には艦橋に

ヌ級の姿が見えたんだよな?」

 

「はい、利根索敵機が撮った偵察写真にも確実にヌ級の姿が写っていました」

 

 

 

激しい対空砲火の中索敵機は偵察撮影を敢行、見事ヌ級の艦橋ウイングにいるヌ級と思われる異形のモノを撮影した。

 

 

 

「もし深海棲艦が妖精を使わず、単体で

操艦・戦闘をこなしているとする。

艦長である敵は何をしているのか…」

 

 

 

うーん。

陸戦妖精と一緒に頭を捻る。

 

 

 

「もしかしてですが…」

 

「おう、言ってみ言ってみ!」

 

 

 

1人の妖精が遠慮がちに意見を言おうとする。

 

「もしかして敵の艦長、つまりヌ級の本体は艦長室にでもいるんじゃないでしょうか?」

 

 

「あ〜、艦長室は探してないな」

 

 

 

 

世界中の海軍は昔から、沈没する直前に艦長クラスは最期までフネと運命を共にしようとしていたことを思い出す。

 

 

 

(案外いるかもしれないな…)

 

 

 

艦長室を探すように指示を出し、

俺も9ミリ拳銃で警戒しつつ捜索する。

 

 

拳銃を扱うのは初めてだが狭い艦内で小銃を振り回すよりかはマシだ。

 

 

操作は出港前に教わり一通り覚えているが、いざ扱ってみると不安である。

 

 

 

しばらく捜索を続けると別の場所にいた陸戦妖精の班から発見したとの報告を受け、立入検査隊全員が集合する。

 

 

 

「中はまだ見てないか?」

 

「はい、まだ見ていません」

 

「待ち伏せもあるかもしれないから、

みんなは横に避けておけ」

 

「提督自ら行くのですか?!」

 

「そりゃそーでしょ。

敵のアタマがいる訳だし、そこは

指揮官たる俺の役目だからな」

 

 

 

コンコンコン

 

 

 

ノックをしてサッとドアから逃げる。

もしかしたら中から機銃で蜂の巣にされるかもしれない。

 

 

 

「…めっちゃビビってますな」

 

「び、ビビってねーし…警戒してるだけだし…」

 

 

 

お約束のコントをしつつ中からの返事を待つ

 

 

 

……

 

 

 

「いないのかな?」

 

「どうでしょう。

もう一度ノックしてみますか?」

 

「そうだな」

 

 

 

コンコンコン

 

 

 

「ちわー、宅配便でーす」

 

 

 

……

 

 

 

「入りますよー?」

 

「返事ないっすね」

 

「それじゃ、入るぞ。

3人俺に続け、他は警戒しろ!」

 

 

 

中に入るとヌ級であろう、深海棲艦が

頭?あたりから黒い油を流して床に横たわっていた。

 

 

 

「自決したのか…」

 

「敵に乗り込まれると知り、責任を

取ったのでしょう」

 

 

 

異形のモノとはいえ見事な軍人魂だ。

思わず敬礼し他の妖精も続く。

 

 

 

死体の写真を撮り、油も回収する。

室内を物色すると怪しげな地図のようなものを見つけた。

 

 

 

「おーいちょっと来てくれ!

これは敵の作戦計画じゃないか?」

 

「どれどれ、あーそのようですな。

ほらこれが西之島ですね、赤くマークされています。

 

こっちは父島と母島のようですな、

形が一致します」

 

 

 

思わぬ収穫に舞い上がってしまう。

 

 

 

「ん、こいつはなんだ?」

 

 

地図の右の赤い二重丸に疑問が浮かぶ。

 

 

「そうですね、たしかこの位置だと南鳥島ーーー通称マーカスがあるはずです」

 

「あの日本最東端の南鳥島?」

 

「そうです」

 

 

 

他にも読めない文字で色々書かれているが目を引くのはその二つだ。

 

 

 

いまいる西之島近海に赤丸、南鳥島に

赤の二重丸か…。

 

 

 

嫌な予感がするな…。

 

 

 

「よし早めに撤収するぞ!

鹵獲班は回収できそうな金属等を持って撤収、俺と警戒班はこの部屋をもう少し捜索したのち撤収!」

 

「「了解!」」

 

 

 

撤収と決まれば報告を入れねばな。

 

 

 

「全艦、こちら提督。

立入検査終わり、異常なし。

 

もう少しだけ捜索したのち撤収する。

それと重大な報告だ、敵の作戦計画を入手したんだが西之島と南鳥島にそれぞれ赤丸と二重の赤丸がしてあった。

 

 

これが何を意味するかは俺にはわからんが恐らく敵の目標とみて間違いない。

日向はこれを護衛艦と父島基地分遣隊に連絡、そして硫黄島と海幕に中継を依頼してくれ!」

 

「むっ…了解」

 

 

 

鹵獲班が内火艇に乗り込んだとの連絡があり、俺たちも捜索を切り上げヌ級

から離れようとする。

 

 

 

すると無線機から大声が流れた。

 

 

 

「司令早く逃げてください!

雷跡がヌ級にたくさん向かって…!」

 

 

 

秋月の叫び声にキョトンとした次の瞬間、

部屋の壁が動いたかのように迫り背中を強打してしまった。

 

 

 

「がっ…!なっ、なに…」

 

 

 

背中を強打し息がうまくできない。

ヘルメットと救命胴衣を着用していたためクッション代わりとなったが、

それでも息を止める程の衝撃はあった。

 

 

 

(な、何があったんだ?)

 

 

 

「司令っ、秋月です!

敵の潜水艦がヌ級に雷撃をした模様です!

ご無事ですか?!」

 

 

 

どうやら敵の潜水艦がいたようで、

そいつがヌ級の雷撃処分を図ったみたいだ。

 

 

 

「み、みんな無事だ、怪我人なし…」

 

 

 

ざっと捜索班の妖精を見れば、俺のように倒れている者もいるが無傷のようだ。

 

 

 

「とにかく俺たちは脱出するから、

それまで秋月が対潜戦闘の指揮を取れ!」

 

「はっ、了解致しました!

防空駆逐艦といえども対潜戦闘だってできます、司令をやらせはしません!」

 

 

 

そこまで話すと交話を終わらせ、

持ち出す物件を防水加工された袋にしまい走り出す。

 

 

 

軽空母といえども雷撃を受けるとダメージが大きいようで、只でさえ暗かった艦内は暗黒と化し至る所がひしゃげたり崩れかかっている。

 

 

 

しかも浸水の所為か段々傾斜が酷くなるのがわかる。

 

 

 

「みんな絶対に生きて脱出するぞ!」

 

「「了解ッ!!」」

 

 

 

…戦いはまだ序章を終えたばかりだ。




先日変な事抜きでとある女の子をずっと
見ていたんです。

何故かというとその子がどう見ても『飛龍』
そっくりだったんですね。
髪型も完全に一致、服の色合いもオレンジの服で
前世が飛龍か親が提督かのどちらかなのは
間違いないですね!



敵が実艦で現れました。
今まではイ級やホ級がそのまま大きく
なっただけという設定でしたが、
敵もパワーアップしてきた模様です。




敵の作戦計画にある『西之島』と
『南鳥島』に何が起こるのか?

敵の潜水艦は単純に鹵獲を妨害しようと
しただけなのか、それとも別の目的が…?



物語と設定がポンポン変わりますが、
わからないところや疑問点は聞いて
いただければまだ公開できない点以外は
お答えしようと思います。


わかりやすく、イメージし易い文章が
書けず申し訳ありません。
書き方やシーンの切り替えについて
助言をもらえればと思います。




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1-4 海に吸い込まれし生命(いのち)

前話は走り過ぎたかと反省しております。
細かい描写を省こうとした結果、
順序を飛ばしてしまったと考えます。


適切な順序を経て物語を進めるには
濃く、長ったらしい文章になると思い
端を折らせていただきました。
むずかしいっ!!(結論)


文字数も少なめに更新していきます。
物語の内容はそのままに、進み具合を
高めたいと思います!





西之島沖

 

 

 

「各艦は秋月に続いてくださいっ!」

 

 

 

秋月を始めとした駆逐隊が海を疾る。

眼下にいるであろう敵の潜水艦を求めて

ソーナーが探知した海面へと向かう。

 

 

 

「このあたりでしょうか?」

 

「秋月、面制圧を掛けよう!」

 

「ここはひとまず爆雷を落として敵の動きを見るのです」

 

 

 

立入検査隊収容のために残った曙以外の秋月、響そして電が敵を討たんとする。

 

 

 

「そうですね、まずは爆雷攻撃を行いましょう!!」

 

 

 

よく映画であるようなソーナーで探知してすぐ攻撃のような駆逐艦最強ストーリーは所詮ご都合主義に過ぎない。

 

 

 

水上艦は走っている間潜水艦をほとんど探知できないし、何より潜水艦というものは隠れることに長けた海の忍者とも言える存在だ。

 

 

 

いくら敵が第二次大戦時の艦艇をベースにしているといっても、簡易的なソーナーを積んだだけの旧式駆逐艦では

探知するのは安易なことではない。

 

 

 

「単横陣を取り炙り出しましょう、

よーい…テェッ!!」

 

 

 

秋月の合図で爆雷が投下される。

 

 

 

ズズーン!

 

 

少し間が空き水柱が後方から上がる。

 

 

 

「見張妖精、海面を調べろ!」

 

 

 

秋月が妖精に戦果の確認をさせるも

手応えなし。

 

 

 

「敵は上手く逃げたようだね…。」

 

「響ちゃん、感心している場合ではないのです!

早く倒さないと司令官さんと曙ちゃんが危ないのです!!」

 

 

 

電が焦るのも無理はない。

ヌ級に乗り込んだままの提督を待つ曙は

クラッチを切っているだけとはいえ、

その場に静止。

つまりは止まっているいい的だ。

 

 

 

もし別の潜水艦がいればひとたまりもないだろう。

いくら警戒に当たっていた妙高たちが急行しているとはいえ、その僅かなチャンスを敵が見逃さないはずもない。

 

 

 

(早く倒さないと…)

 

 

 

秋月たちは焦っていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ヌ級軽空母艦内

 

 

 

 

「もう少しで飛行甲板に出るはずだ、

頑張れ!!」

 

 

 

俺たちは傾斜し暗黒世界と化した艦内をライトを片手にひた走っていた。

 

 

 

雷撃を受け真っ暗な艦内。

おまけにそこらかしこから煙やら浸水やらで回り道しながらの脱出になってしまった。

 

 

 

「目印に付けたビニールテープも無くなっちまってるし、こりゃ迷路だなぁ」

 

「冗談言ってる場合じゃないですよ提督、

急がないとこのフネごと海の底です!」

 

 

 

律儀にツッコミしてくれるのは有難いが

弱音を吐いていないと精神がおかしくなりそうだ。

 

 

 

ただでさえ知らないフネの構造、

加えて傾斜と暗黒ときたもんだ。

ヘタしたら生きて太陽は拝めない可能性だってある。

 

 

 

「提督!別れ道ですッ!!」

 

 

 

 

前を進んでいた妖精の言葉に前方を見ると、

上下の甲板へ向かうラッタルがあった。

 

 

 

飛行甲板に出るであろう上のラッタルは煙も無くいかにもこっちに来いと言わんばかりの出で立ち。

下のデッキに向かうラッタルは煙をコンコンと上げており絶対に行っては行けないと思う。

 

 

 

ちらと同じデッキの通路を見れば火災が発生していて物理的に通過は不可能だ。

 

 

 

(上か下か、どっちに行くかで運命が決まるな…)

 

 

 

「提督上に行きましょう!

煙も無いですし何より飛行甲板に行くには上に向かうのがベストです!」

 

 

 

大多数の妖精が頷く。

 

 

 

「上に行くのになんで止めるんだ!

オマエは死にたいのか?!」

 

 

 

別れ道だと言って足を止めた先頭の妖精を

ベテランの妖精が強く責める。

 

 

 

「で、でもイヤな予感がしまして…」

 

 

 

(昔テレビで見たことがある…。

こんなピンチな時選ぶべきは…)

 

 

 

「待てみんな、俺を信じるか…?」

 

 

通常なら迷わず上に行くだろう。

だが頭の中で何かが『上に行ってはダメ』

と言う声が聞こえた気がする。

 

 

 

これが第六感というものなのか?

 

 

 

「よし、こっちに行くぞ…」

 

 

 

俺は俺の信じる方を進むことにした。

 

 

 

(俺は、誰も…

死なせはしないっ!!)

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「敵潜水艦、撃沈を確認っ!!」

 

 

 

秋月がほっとするが、すぐに表情を硬くして他の敵を探す。

 

 

 

(敵は一隻だけと決まったわけではありません…!)

 

 

 

現に響と電は撃沈など気にしていないかのように他の潜水艦を探している。

 

 

 

(これが防空駆逐艦と特型駆逐艦の差でしょうか?)

 

 

 

引き続き捜索に戻る秋月は思う。

 

 

 

(…響さんと電さんは私と違って対潜を

メインにしていたからやはり場馴れしているのですね)

 

 

 

『秋月』というフネは一貫して対空艦であった。

初代は駆逐艦秋月、知っての通り対空駆逐艦として多くの仲間を護り生涯を終えた。

 

 

 

二代目は海上自衛隊の護衛艦。

初代『あきづき』型護衛艦として生を受け

図らずしも再び戦後日本の海上防空を担い

前世を大幅に越える30年余りの生涯を終える。

 

 

 

三代目のあきづき、そして再び駆逐艦として生を受け防空艦として日本の海を護る使命と責務を背負うこととなる。

 

 

 

(護りたい人がいるというのは

不思議と力が湧いてくるようです…)

 

 

 

だが今は目の前の蒼い海にいる潜水艦を殲滅することが使命、秋月は刹那の回想を止め眼下の敵に集中した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「上を見ずに突っ走れ!」

 

 

 

謎の声改め第六感は当たっていた。

 

 

 

事実デッキは火災が発生しているようで天井からは熱気と燃える落下物が

上に行かなかったことを正しいと証明していた。

 

 

 

下のデッキに降りてみると煙は大した量ではなかった。

下層デッキからの排煙がラッタルを通じて上に上がっていただけのようで、

今いるデッキは軽い損害の他火災や

損傷は見当たらなかった。

 

 

 

もし上に行っていたらと考えると鳥肌が

立つが、この危機的状況で恐怖に浸る余裕は無かった。

 

 

 

ただひたすらに外を求め青い空を見る、

そのことだけを頭に暗い艦内を疾走していた。

 

 

 

「提督、目印のテープです!

もうすぐ飛行甲板に出ますっ!!」

 

「もうすぐ外だ、気を抜かずに走り抜けぇっ!!」

 

 

 

俺は、俺たちはこんなところで死ぬわけにはいかないんだ。

妖精たちも俺も、生きてフネに戻りたい一心で煙たい空気を吸い咳き込みながら足を動かし続ける。

 

 

 

?(私ももう少しだけ、無茶をしてみましょうか…)

 

 

 

走りっぱなしに加え排煙による酸欠状態の影響か聞こえるはずない女性の声が聞こえる。

 

 

 

(お迎えはっ…まだっ、まだはえーんだよっ…!)

 

 

 

謎の声は優しいトーンだ。

死神の声は優しい囁きだと聞いたことがある、できれば今は優しさより厳しい檄をもらいたいものだ…!

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

2隻目を沈めた秋月たちに

妙高らが合流し、本格的掃討に移る。

 

 

 

幸いヌ級と曙の周辺にはいないようで、

残りは近くにいるであろう2、3隻のみだ。

 

 

 

「索敵機は潜望鏡を見つけ次第報告してください!

何としても提督が戻るまで持ち堪えて!」

 

 

 

遠くのヌ級にまだ沈まぬよう願う妙高。

 

 

 

「潜望鏡発見!

妙高から見て左30度、20!

あっ、雷跡!魚雷ですっ!」

 

 

 

(いざとなったらこの身を挺してでも!)

 

 

 

「みんな、覚悟を決めてください!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「クソ提督は?まだ出てこないの?!」

 

「無線機も故障したのか通信は入ってきてないよ!

どうしよう、もしかしたら…」

 

 

 

艦橋のウイングで焦る曙。

隣の妖精が悲観的な返事をする。

 

 

 

「まだ、謝ってないのにっ……」

 

 

 

(クソ提督なんて初対面から言わなければよかった…。

護衛艦の時見た男なんてみんな蛮カラな人ばっかりで、世の中の男もみんなそうだと思ってた。

 

 

でも『提督』はそんなじゃなかった。

言動はセクハラばっかりだったけど

本当は優しくて艦娘のことを考えてくれてて、ちょっとだけ凛々しくて…)

 

 

 

この僅かな期間で曙は提督の真の姿を

知った。

 

 

口ではスケベなことしか言わなくても、

ちゃんとフォローもするし

決して不快ではない会話。

 

 

行動は変態にしか見えなくても、

艦娘のことを考えてくれて結果的に

丸く収めてくれる。

 

 

 

(そんな人を敵艦に乗り込ませるなんて、

ふざけてる!!)

 

 

 

「飛行甲板上に人影!

提督です、提督たちですっ!!」

 

 

 

双眼鏡を覗いていた見張妖精の言葉に

顔を上げるとニッコリと提督がススだらけの顔でこちらに手を振っている。

 

 

 

「捜索班の妖精、海に飛び込み始めました!」

 

 

 

ドボンという音の後、やや間を空けて

妖精が海面に浮かぶ。

 

 

提督は高所の飛行甲板から飛び込むことに怯える陸戦妖精を励ましている。

 

 

 

(まさか最後まで見送るつもりなの?!)

 

 

 

曙の予測は当たっていた。

提督は最後まで陸戦妖精が飛び込むのを見届けてから自らも続くつもりだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「提督も飛び込んでください!」

 

「俺はいいから早く飛び込め!

俺もそのうち行くから!」

 

 

 

妖精が一瞬戸惑うが意を決して飛び込む。

 

 

 

飛行甲板というものは思いのほか高い。

 

 

 

現代米軍の空母でもswim callと呼ばれる甲板から海に飛び込む訓練が行われているが、それは空母のエレベーターを下げ喫水に近づけた上で行われるものであって、飛行甲板から飛び込むものではない。

 

 

言うまでもなく飛行甲板から飛び込めば身体を打つし、顔面から落ちれば少なくとも鼻血が出るからだ。

 

 

 

「痛い怪我と苦しんで死ぬのとどっちがいい?!」

 

 

 

俺もこの時ばかりは情け無しに

強引に飛び込ませる。

 

 

 

最後の妖精が飛び込み終えるのを見届け、

海面に異常が無いのを確認して飛び込もうとする。

 

 

 

ブワッ!!

 

 

 

「えっ…?」

 

 

 

突如後ろから熱い風が吹き荒れ、

まるで塵のように宙に舞う。

 

 

 

刹那爆炎を上げるヌ級の飛行甲板が見え

天地がひっくり返ったと悟る。

 

 

 

逆さに見える飛行甲板よく見ると爆炎の中に『誰か』によく似た女性の姿を見つけた。

 

 

 

「大丈夫ね…」

 

 

 

ニコ

 

 

 

 

逆さまとはいえその姿を見間違えるはずもない。

 

 

 

「ほ、ほうs……!」

 

 

 

『彼女』の名前を叫ぼうとしたが、

海に落ちた衝撃と海水を飲んだせいで

それどころでは無くなってしまう。

 

 

 

(グガッ…!)

 

 

 

痛い、苦しいと思う間もなく

背中に受けた衝撃が意識を強制的に

シャットダウンする。

 

 

 

死ぬんだ俺、それだけが頭に浮かんだ。

 

 

 

「『提督ーー!』」

 

 

 

海上に曙の叫びが響いた…。

 

 

 

 




軽空母ヌ級から投げ出された主人公。
救命胴衣を着用しているとはいえ、
ビルの屋上ほどの高さから海に落ちたら
普通ヤバイです、はい。
結構痛いのではないかと、下手しなくても
死ぬのではないのでしょうか。


投げ出される直前に見た『彼女』とは?
艦娘のセリフを把握しているプロなら
わかってしまうかも…っぽい。



え?「ほうs」見ただけで推測余裕でした?
誰でしょうね。


一体何軽空母なんだ…?
(軽空母キャラの時にこのネタ使い過ぎな
気がしますが、後書きぐらい明るく
書かせてくださいな!!)



…これから血生臭い展開になるし(ぼそっ)


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1-5 英雄は奈落より飛翔す

かなり非現実な話となっております。
「なんじゃこりゃあぁ?!」
と思われた方は申し訳ありません。


今回2視点から物語を進行させて
おりまして、やや読み辛い場合がございます。


「こう描いて欲しい!」
「構わん、やれ…」

というアドバイスをお待ちしております。






 

side of seabed

 

 

 

 

…ここは、海の中か?

 

 

 

水面下から見る海面はユラユラと

穏やかで太陽の反射が見事な光景を醸し出していた。

 

 

 

(救命胴衣を着てるのに浮かねぇのかよ…)

 

 

 

海中にいるのに不思議と苦しくない。

呼吸さえしなくてもいいみたいだ。

 

 

 

(確か爆発でヌ級から吹き飛ばされて、

海に叩きつけられたところまでは覚えてるな…)

 

 

 

ゆっくりと海底に沈みながら冷静に経緯を辿る。

 

 

 

(これってもしかしてもしかしなくても、

死んじゃったんじゃ?)

 

 

 

身体に力を入れようとしても入らないし、

おまけに海の中で呼吸も不要ときたもんだ。

 

 

 

哀れ菊池のハーレム提督人生もここで

おしまいか…。

 

 

 

せめて来年の春に桜の咲く公園で艦娘と花見がしたかったなぁ…。

 

 

 

飲兵衛な艦娘に絡まれたり昔話を聞いたり、加賀が歌ってくれる加賀岬を聞きながらうつつを抜かしてのんびりと

している光景を浮かべる。

 

 

 

千鳥足の電がそのへんでぶつかったり、

泣き上戸な足柄が俺にベッタリで金剛や照月を始めとした付き人ーーー物理的な意味でーーーが引き剥がそうとしている、そんな光景…。

 

 

 

美味しい料理に舌鼓をうち、作ってくれた鳳翔にお礼を…、言っている……うん?

 

 

 

 

 

(おいおい鳳翔なんていつドロップしたよ?)

 

 

 

まだドロップ艦さえいないのにいつの間に現れたんですかねぇ…?

 

 

 

 

 

鳳翔……ほうしょう……

 

 

 

あっ、さっき見たじゃないか?!

そうだった!ヌ級から真っ逆さまに落ちる瞬間、確かに俺は『鳳翔』が甲板にいるのをこの目で見た!

 

 

 

(じゃああのヌ級は…鳳翔?)

 

 

 

どすんという、鈍いが痛くない音に辺りを見渡すと海底に辿り着いていた。

 

 

 

それと同時に身体の感覚が少しだけ戻り、

泳いで浮上を試みるがまるでここが地上であると言わんばかりに浮かない。

 

 

 

(ダメじゃん…)

 

 

 

取り敢えずあぐらを組んで事態の解決を図ることにする。

 

 

 

(何も出来ないしすることもないな…

 

 

 

 

もしこのまま海底から逃げられないとして、どうすればいいだろう…

 

 

『深海征服!海底人と化した提督2』

 

 

どうだ、生きて帰ったらこんなタイトルの映画でも作って儲けるか?!

 

 

……あほくさ、B級映画にもなれない映画同好会の作った素人ムービーの方がもっとマシなタイトルを考えるっつーの…)

 

 

 

アイデアが浮かばすただ寝転ぶ。

『火砲』は寝て待てって旧陸軍の参謀

も言ってた。

それは流石に冗談だが何も出来ないからしゃーない。

 

 

 

近くの岩に石をコンコン叩きつけて

場所を上にいる艦娘に知らせようとも考えたが、身体がうまく動かない。

 

 

立ち上がろうとしても足が何故かいうことを聞かないし、特に左肩は動かそうとすると鈍い痛みがする。

 

 

マジ訳わからん、やっぱ死んでんじゃないかな?

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

side of surface

 

 

 

「敵ヌ級爆発!続いて曙から通信、

提督以外の陸戦妖精は脱出したが提督は爆発で吹き飛ばされ行方不明!!」

 

「そんなっ…?!」

 

 

 

妙高が妖精の報告に愕然とする。

 

 

 

動揺は阿武隈他駆逐艦にも広がり、

まだ敵潜水艦がいるにもかかわらず

スピードを落とす艦娘が現れる。

 

 

 

「提督はきっとご無事です!

今は目の前の敵に集中して、ここで

被雷でもしたら後で提督に叱られますよっ!」

 

 

 

咄嗟に妙高がジョーク交じりの檄を飛ばして士気の維持に努める。

 

 

 

「せやせや!司令はんならヒョコッと

現れて『ただいまー』とか言うに決まっとるて!」

 

「そ、そうですね!

司令官さんは何をされてもタフな方なのです!」

 

「電、それは褒め言葉じゃない…。」

 

「司令官はああ見えて私たちのことを

考えてくれていますから…。

きっと戦闘後に現れてまたイタズラをしてきますよ、はい!」

 

「無事だとは思うけど、あたし的には髪を触るのは止めて欲しいな…」

 

 

 

表面上の士気は保てたものの、

皆心の中では不安だ。

 

 

 

敵の魚雷を回避しつつ早く提督が見つかって欲しいと願う妙高。

 

 

 

敵は倒しても倒しても湧いてくる、

まるで『基地が近くにある』かのように…。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

side of seabed

 

 

?「……しもし」

 

 

 

グオーー!

 

スピイィィー…

 

 

?「…もし、起きてらっしゃいますか?」

 

「起きてるぅ…あと5分だけぇ…」

 

?「それは起きてるといいませんよ?」

 

「むにゃ…よゆー…。

俺、二度寝はしても寝坊はしたこと無いしぃ…」

 

?「ふふ、しょうがない方ですね」

 

 

 

海底で頭を休めて休息(普通に寝ていた)俺は誰かの声で渋々起きる。

 

 

 

「ほぇ…?」

 

「初めまして、軽空母鳳翔です」

 

「ああどうもご丁寧に、自衛官と提督やってます菊池です。いつも1-5とかでお世話になったりドロップしたりとお世話になって……、って鳳翔ォ?!」

 

「はい。不束者ですが、よろしくお願い致します」

 

 

 

さっき見た鳳翔が目の前にいる。

 

ついでに今の体勢は俺が寝ていて鳳翔が枕元(枕ないけど)に立っていて、

スカートから何かが見えちまう見えちまう?!

 

 

 

見たい欲より見てはいけないという良心が働き、ガバッと身体を起こす。

 

 

 

「あ、危ねぇ…。

理性が無かったら死んでいた…」

 

「?どうされました?」

 

「いや、寝ぼけていただけかも。

きっと頭を強く打っただけっぽい」

 

「それはいけません、そのまま横になってください」

 

 

 

え、これってもしかして膝枕してくれるパターンですか?!

 

 

 

「ダメっす!元気っす!治ったっす!頭良くなりましたっす!

いつものバカな俺に戻ったっす!」

 

 

 

膝枕なんてされたら、逆に理性がぶっ飛んで海底で狼が暴れ回ることになる。

丁重にお断りしておく。

 

 

 

「そ、そうですか?」

 

「うん、すこし動転しただけだよ」

 

 

 

頭もすっかり醒め、通常モードになった。

 

 

 

「提督をなさっているのですね。

私も提督、とお呼びしてもいいでしょうか?」

 

「うん、俺もそうしてくれると嬉しい。

『他の娘も』そう呼んでくれているしね」

 

 

 

鳳翔にも提督と呼んでもらうことにした。

 

 

 

「今『他の娘』と仰いましたが、

もしかして艦娘のことでしょうか?」

 

「そうだよ、海上自衛隊の自衛艦で帝国海軍の頃と同じ名前の艦娘は元気にしているよ」

 

「あの提督、さっき仰っていた『1-5』というものや海上自衛隊とは何なのでしょうか。日本の新しい海軍のようなものですか?」

 

 

 

oh…これは。

オカンは1947年に解体されてから現代の日本を知らないのか。

 

 

 

「えっとね、ざっくり話すと…」

 

 

 

〜大まかに説明中〜

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

side of surface

 

 

 

 

「ま、まだいるのぉ〜?!」

 

 

 

阿武隈が耐え切れず弱音を吐く。

無理もない、確認されただけでも8隻撃沈、目の前の健在な敵も含めると10隻目を相手にしているからだ。

 

 

 

一気に現れて攻撃してこないのが救いか。

2、3隻ずつ現れて1隻を沈めるといつの間にか新たに1隻現れての繰り返しを何度も繰り返していた。

 

 

 

遠くにいた護衛艦2隻が加わり掃討するが、

さすがに全力で走りながらではソーナーも発振出来ない。

 

 

 

蒼龍に積んである対潜ヘリを発艦させ、

ちびちびと探すしか方法は無かった。

 

 

 

硫黄島から哨戒機が急行しているものの、

その前に艦隊が崩壊する危険が高かった。

 

 

 

未だ浮かんでいる軽空母ヌ級の

側には曙と、少し間隔を空けて日向、蒼龍、鳥海、利根そして神通が必死の捜索を行っていた。

 

 

 

「提督はまだ見つからないのか!」

 

「いま探しておる!

焦ったところで何も始まらんぞ!」

 

 

 

利根の言葉に日向は少し冷静になる。

 

 

 

(そうだ、私が狼狽したところで事態が良くなるわけではない…)

 

 

 

キィイイーン……

 

 

 

上空を見上げれば硫黄島から駆けつけたF-15戦闘機4機がスピードを落としながら旋回していた。

 

 

 

戦闘機から間も無くP-1哨戒機が到着するとの通信が入り、艦隊全体が僅かに活気付く。

 

 

 

提督が転落してから3時間は経過していた。

救命胴衣があるにもかかわらず浮かんでいないのはやはり…。

 

 

 

日向は蒼龍へと通信を入れる。

 

 

 

「蒼龍、日向だ。

あと2時間粘る、これを過ぎたら撤退するぞ」

 

「ちょっと待ってよ日向!

提督を見捨てるの?!」

 

「このまま探していても敵の的になるだけだ、目の前のヌ級はまだ沈みそうにないがやがて火災が広がり浸水も激しくなって沈むだろう。

 

 

潜水艦からの壁の役割を果たしているアレが無くなれば私たちにも攻撃は向かってくる。

ただでさえ横と後ろは無防備なのだぞ?!」

 

「そ、それは…そうだけど」

 

 

 

壁と言ってもハリボテに等しい存在の敵の軽空母。横と後ろに至っては快晴の青空、むしろ今まで攻撃されていなかったことが奇跡に等しいだろう。

 

 

 

(提督がいなくなったら…私、

どうしたらいいの?!)

 

 

 

艦橋でむせび泣く蒼龍に声をかける

者はいない…。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

side of seabed

 

 

 

「…んで、俺が提督になったわけさ」

 

「へぇ、艦娘を題材にした『げえむ』というものがあるのですね」

 

 

 

説明終了、鳳翔も概ねわかってくれたみたいだ。

 

 

 

いやぁ、テレビを知らない人にモニターやらインターネットやらを教えるのは骨が折れるぜ…!

 

 

 

「じゃあさ、今度は俺が聞きたいんだけど」

 

「はいなんなりと、私でよければ」

 

 

 

私でって、こかには貴女しかいないでしょうに…。

まあそこは日本語の難しいところだよね。

 

 

 

「ここ、何処?」

 

「あの世の入り口です」

 

 

 

hai?

 

 

 

「あの世って、天国とか地獄とかのアレ?」

 

「ええそうです」

 

 

 

にこにこと答える鳳翔さん、マジ恐いです…。

 

 

 

「つうてーことは、俺は死んだの?」

 

「死にかけている、みたいですね」

 

「みたいってなによ、みたいって…」

 

「すみません、私も同じ様な状況みたいでしてよくわからないんです」

 

「えーっと、それはヌ級が沈むから鳳翔さんも死ぬってこと?」

 

 

 

え、俺もしかして鳳翔を殺してしまった系…?

 

 

ウソ、責任取って死のう…。

あ、もうすぐ死ぬのか…。

 

 

 

「いいえ、ヌ級が自決した時点に

私は目を覚ましました。

 

 

気が付いたら艦長席に座っていたんです。

少しぼーっとしていたら提督が飛行甲板に上がってこられて、声をお掛けしようとしたら…」

 

「ちゅどーんなワケね」

 

「その通りです」

 

 

 

にしても鳳翔はもうすぐ死ぬかもしれないってのにえらく落ち着いてるな…。

 

 

 

いくら『お艦』とはいえ余りにも落ち着きすぎでしょう…?

 

 

 

「助かる方法は無いのか?

このままだと死ぬのを待つしか無いじゃないか!」

 

「『人事尽くして天命を待つ』…。

この諺を知っていますか?」

 

「…なんだよ突然」

 

「そうかっかなさらず。

提督はやれることをやった、なら後はあの娘たちを信じましょう…」

 

「それだけ?」

 

「それだけです。

運命を受け入れるという言葉はあまり肯定的に思われませんが、私は好きなんです。

 

 

護りたいもののために精一杯戦い、

時には失うこともあります。

 

そんな時は自分に問いかけます、

『努力に憾み勿かりしか』、

そして『不精に亘る勿かりしか』と」

 

「五省だね、海上自衛隊でも教わるよ」

 

「きっとみんな上で提督の事を思い、

戦っているでしょう。

例えなにも出来ずとも私たちには信じることができます」

 

「信じるさ、自慢の仲間だ。

俺なんかよりも強く、繊細で、護りたい存在。

ここで死んだら男が泣くってもんだ!」

 

「ふふっ!やはり面白いお方です」

 

「…なんか最近よく笑われてる気がして

嫌なんだけどなあ」

 

「あら、これでも尊敬しているのですよ?」

 

 

 

ケタケタと笑うを鳳翔を見て思わず

こちらもつられて笑ってしまう。

 

 

 

(OK、受け入れてやろうじゃないか。

運命とやらを!)

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

side of surface

 

 

 

「哨戒機から通信!

敵の潜水艦はあと2隻、付近に反応なし!」

 

「やっと打ち止め?!

爆雷が残り5発だけだからダメかと思ったよ〜!」

 

 

 

春雨が安堵する。

 

 

 

「まだ敵がおるで!

気ぃ抜くんはまだやで!」

 

「残弾全て命中させちゃいます!」

 

「やるさ。」

 

「モロ見えなんですけどっ!」

 

 

 

阿武隈たちの渾身の爆雷攻撃と

哨戒機による精密攻撃により、

敵の潜水艦は壊滅した。

 

 

 

曙たちの周囲も探索した結果、敵の

反応は無く戦闘は終了した。

 

 

 

対潜警戒を哨戒機に任せ、妙高らも

提督の捜索へと加わる。

 

 

 

「日向さん、提督はまだ見つかっていないのですか?!」

 

「ああ…。浮遊物さえ見つかっていない。

既に4時間は経過している、最悪のケースも考慮しなければ…」

 

「そんなっ…!」

 

 

 

日向の言う通り、陽も傾き捜索可能時間を過ぎようとしている。

救命胴衣を着けていながら長時間見つからないということは最悪鮫のエサ、

良くても何らかの弾みで救命胴衣が脱げて水死だろう。

 

 

 

内火艇の準備をしつつ落下時の様子を見ていた曙から話を聞くと、提督は吸い込まれるように海中に沈んだという。

 

 

 

「きっと軽空母に空いた破口に海水ごと吸い込まれたんだわ…!!」

 

 

 

話を終えた曙は保っていた糸が切れたように泣き崩れる。

それはやがて他の艦娘にも伝染し、

捜索どころでは無くなってしまう。

 

 

 

(最早これまで、か…)

 

 

 

絶望が艦隊を支配し、捜索する内火艇の妖精の喧騒のみが辺りに響く。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

side of seabed

 

 

 

「でね、村雨がさあ…」

 

 

 

海底で待つ俺たち2人はひたすらに

トークしていた。

 

信じるっていっても祈ったところで何も変わらないし、折角なら鳳翔とお話ししたいしね。

 

 

 

「ダメですよ、女の子をからかっては」

 

「いやさぁ、俺としては普通に『騒動の責任』を取る意味で言ってるわけで変な意味はこれっぽっちも無いわけさ」

 

「それを端折り話す提督の意図とそれを受け取るあの娘たちでは解釈が違うのでは無いでしょうか?」

 

「えっ、マジ?」

 

 

 

ちなみに今は、俺が何回かした『お前を守ってやる』発言を聞いた艦娘が何故か顔を赤くしてしまったことの相談だ。

 

 

 

(ふむ、女の子とは難儀な生き物だぜ…)

 

 

 

上で俺の生存が絶望視されていることなどつゆ知らず、まったりムードが場を支配する。

 

 

 

「その発言を聞いた娘たちは恐らく…」

 

 

 

そこまで鳳翔が話したところで、

異変が現れた。

 

 

鳳翔が半透明になり、段々消え始めたのだ。

 

 

 

「ちょちょちょ、

鳳翔さん消えかかってる?!」

 

「きっとあの軽空母が沈み始めたのね…」

 

 

 

鳳翔は悟ったようにゆっくりと瞼を閉じる。

 

 

 

「まさか、鳳翔は死ぬのか?」

 

「どうでしょうね。

それは神様のみが知ります…」

 

 

 

寂しく笑う鳳翔に、思わず心が揺らぐ。

 

 

 

「折角会えたのにっ!

またこの世に生まれて、鳳翔が新たな人生が歩めると思ったのにっ!!」

 

「泣かないでください、提督。

いくら敵のフネといえども、沈没すれば艦娘も同じように消えるのです」

 

 

 

奇妙な出会いから体感で4時間余り。

短いながらも打ち解け、これから他の艦娘との交流も楽しみにしていたじゃないか。

 

加賀を始めとした空母勢、他の艦娘にも久しぶりに会いたいってはなしてたじゃないか!

 

 

 

(なのに…サヨナラなんて…!)

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

side of surface

 

 

 

「敵軽空母、沈み始めましたッ!!」

 

「何だと?!

捜索隊は即刻退避っ!艦から遠ざかれっ!」

 

 

 

誰も中止とも言い出せず、日没後も捜索をしていた日向たちだったが、

ここにきてずっと炎上していたヌ級が沈み始めた。

 

 

 

今までよく沈まなかったと思えるほどに燃え盛る船体の各所から浸水した海水が吹き出し、急速に傾き始める。

 

 

 

「全艦クラッチ入れ!

後進一杯で遠ざかるんだ!」

 

 

 

ゆっくりと離れ始めた艦隊を追い立てるように、ヌ級は艦尾からスーッと沈んでいく。

 

 

 

フネが沈む際には伴流と呼ばれる沈む船に引っ張られる流れや、渦が発生したりして付近の浮遊物を海中に引きずり込もうとする。

 

 

 

浮力の高いはずの無傷の船であっても巻き込まれる可能性があり、何が何でも遠ざからなくてはならない。

 

 

 

ましてや沈んでいくのは軽空母だ。

駆逐艦など池のボートに等しく、内火艇は言うまでもない。

 

 

 

悲しみに浸る余裕も消えてなくなり、

全艦後進を掛けつつゆっくりと下り始めた。

 

 

 

「もっと、もっと速くさがるんだ!」

 

 

 

駆逐艦や軽巡は比較的早く速度が出始めるが、大型艦は速度が効くのが遅い。

 

 

 

ようやくスピードが乗ると、それを待っていたかのようにヌ級は沈むペースを上げる。

 

 

 

タイタニック号が沈むかのように、

ヌ級も艦首を天に向けながら海の底へと向かっていく。

 

 

 

まるで沈むのを拒否する『何か』が存在するかのように、まだ生きたいと言わんばかりに往生する。

 

 

 

潮を吹き上げ、艦内の空気と辺りを照らしていた炎がフッと見えたと思うと

ヌ級は一気に沈んでいった。

 

 

 

「そんな…、どうして…」

 

「…ウソでしょ」

 

「司令官さんは…」

 

「もう…ダメ、なのかしら…」

 

 

 

ヌ級が海中に消えてから、

艦娘が思い出したかのように悲しみ始める。

 

 

 

「捜索隊は……?

そうか、無事か…。せめてもの救い、か…」

 

 

 

精神に鞭を入れ妖精の無事を確認する日向だが、失ったものは大きい。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

side of seabed

 

 

 

「俺が悪いのかな?

俺が、ヌ級を…鳳翔を攻撃したから…」

 

 

 

泣き噦る俺に鳳翔が微笑みかける。

 

 

 

「そんなことないですよ。

提督のお陰でこうしてまた現れることが出来たのですから、感謝していますよ」

 

 

ひんやしした鳳翔の指が俺の涙を拭う。

 

 

 

「また、会える…よな?」

 

「きっと、また」

 

 

 

一番怖いはずの鳳翔がニッコリしながら

小指を出し約束しようと言ってくる。

 

縋るかのように今にも消えそうなその小指に自分の小指を絡め、心から約束を契る。

 

 

 

「約束だぞっ!俺頑張るからっ!

みんな幸せにするからっ!

 

だから、またっ…!!」

 

「ふふっ、折角のお顔が台無しですよ?」

 

 

 

笑っているはずの鳳翔の目から溢れる涙が彼女の心境を物語る。

 

 

 

「敵のフネとは…いえ…私も、

沈むのです…ね……」

 

 

 

半透明の鳳翔の身体からキラキラと

飛散する彼女が彼女であった証。

 

 

小指は元から何も無かったかのように

消えて行きそのまま上半身、下半身がフェードアウトしていく。

 

 

 

「あっ…ああっ……!」

 

「もし生きて…いられる…のであれば…小さな店を、開きたかっ…たで……す…」

 

 

 

寂しそうな笑顔のまま鳳翔は消えていった。

 

 

 

それと同時に俺の身体に激痛が走り、

苦しくなり始めた。

 

 

「ガッ…!ぐぅっ…!」

 

 

 

まるで骨折したみたいに左肩が鈍い音を立て変な方向を向く。

 

 

 

いままで海中にいても呼吸が必要無かったのに、突然口の中に海水が入ってきて苦しくなる。

 

 

「ガボッ…!」

 

 

 

海の中にいるのを思い出したかのように

身体が海面を目指して浮き始める。

 

 

 

 

とはいえ息を我慢できるはずもなく、

俺は悲しみに浸る暇もなく意識を手放すことを余儀無くされた……。

 

 

 




リアリティゼロな展開…。
だが書きたかったッ!
それだけです。


鳳翔さんがドロップかと思いきや
即刻リタイアというまさかの展開。
お艦好きな皆様に怒られる…。


タイトルの
『英雄』、『飛翔』
でピンと来た方がいたらうれしいです。

鳳翔
『鳳=英雄』、『翔=飛翔』


…どーでもいいですか、そうですか。



●ゲームの方は『飛龍』ちゃんが
出なくて泣きそうです。
私としましては彼女は
隣の家に住む幼馴染キャラ
というイメージです。

異論は認めます。


大破進撃が怖くて攻略が
全く進みません…。
みんな平均的に育ててるのも
ありますが…。

特定艦のみ集中のような攻略は
好きになれなくて、生憎。


でも潜水艦だけはレベルトップに
陣取っているんですがねぇ…(ブラ鎮)


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1-6 冥土の土産にディープキスを

勢いで書いてしまったら
すごいことになりました。

一体いつからーーーー
鳳翔が初ドロップ艦になると
錯覚していた?


主人公が色々と人間じゃなくなって
ますが、そこはグッと堪えて
いただければと思います。


ついでに曙ちゃんと、曙提督の方
本当にすいません!





 

西之島沖海上

 

 

 

ヌ級の沈没後、提督は見つからなかった。

 

 

 

ヌ級から流出したと思われる浮遊物が

見つかるたびに艦娘が血眼になって

提督の姿を求めるが、それに反比例する

ように視界にあるのは残骸のみだった。

 

 

 

 

ここにきて日向と蒼龍は捜索中止、

提督はMIA---戦闘中行方不明であると

判断せざるを得なかった。

 

 

 

他の艦娘から反対意見が出るも、

ここに至っては覆すことの出来ない

紛れもない事実であった。

 

 

 

海幕に報告すると正式に『MIA』と

決定され、父島に戻り補給艦から燃料等をもらった後横須賀に帰投せよと

指示を出された。

 

 

 

海幕のあっさりした提督行方不明の反応に怒りさえ湧いてしまう。

 

 

 

 

この海域は横須賀からくる増援の

護衛艦部隊と硫黄島にきている航空部隊に任せて、101護衛隊と護衛艦、補給艦は

一時撤退することに決まった。

 

 

 

 

 

 

 

捜索にあたっていた搭載艇の

揚収作業もほぼ終わり、残すは曙の

内火艇のみとなった。

 

 

 

最後まで粘って探していた妖精たち

だったがここに至り中止となる。

 

 

 

中部甲板で曙が目を赤く腫らして

内火艇の帰還を見守っていた。

 

 

 

 

(……嘘つき)

 

 

 

出発前にちゃんと帰ってくると

約束したのに。

 

 

 

(『また』大切な人がいなくなった…)

 

 

 

太平洋戦争でも艦娘の損失は多かった。

みな笑いながら明るく振舞って

出撃していった。

 

 

 

(そして…みんな還って来なかった)

 

 

 

 

 

戦争において奇跡とか

偶然というものは起きない。

 

 

 

キスカ撤退作戦のような奇跡は

特例中の特例だが、通常は淡々と

戦備を行い演習で技能を磨き

本番で最大限の努力を行うことが

生き残る唯一の手段である。

 

 

 

(じゃあ『提督』が行方不明になったのは何が悪かったの?

 

海幕が提督に行くよう指示を出したから?

 

提督自ら乗り込むと言いだした時から?

 

敵の軽空母を先に沈めずに

残してしまったから?

 

提督が私に乗り込むことになったから?)

 

 

 

頭の中に後悔の念が溢れる。

 

 

 

「きっと私のせい、なんだわ…」

 

 

 

曙の呟きに何も言えない妖精たち。

誰もがそれは違うと思っていても、

今の彼女に掛ける言葉は見つからない。

 

 

 

 

もうすぐ最後の内火艇が到着するという

ところで、見張妖精のある報告が

落ち込む曙の耳に届いた。

 

 

 

「右30度300メートルに浮遊物!

あっ、発光しています!

救命胴衣灯らしきものが点滅中、

提督ですっ!

間違いありません!!」

 

 

 

妖精の報告を聞き言われた方向を見ると

確かに真っ暗な海の上に

白灯が点滅している。

 

 

 

提督かどうかは視認できないが、

確かに人の様なシルエットは確認できる。

 

 

 

「衛生妖精は私について来て!」

 

 

 

それだけ言うと曙は目の前の

到着したばかりの内火艇に乗り込む。

 

 

 

準備を終えた衛生妖精も乗り込み

提督がいる場所まで内火艇で急行する。

 

 

 

(お願い…無事でいて!!)

 

 

 

 

 

-------------------------------------------------------

 

 

 

 

これは夢だろうか。

冷たい水の底に引き込まれる

夢のような感覚。

 

 

 

 

見えない何かが俺を引っ張る様に

ゆっくりと沈んでいく。

 

 

 

引っ張るのは深海棲艦か

はてまたまだ見ぬ艦娘か。

 

 

だが不思議と死の恐怖は無かった。

 

 

 

ただ生きている間にできなかったこと、

艦娘を幸せにできなかったことが

ひたすら悔やまれる。

 

 

 

村雨、加賀、曙そして他の艦娘の

悲しそうな顔が浮かんでは消えてゆく。

 

 

 

(ゴメンな、みんな…)

 

 

 

届かないと知りつつも謝罪の

言葉を言わずにはいられない。

 

 

 

セクハラやいたずらをしては

艦娘を困らせていたが、それは

俺なりの愛があったからだ。

 

 

 

(みんな顔を赤くして

嫌がっていたっけなぁ…)

 

 

 

やはり俺は彼女たちにとって

『提督』以上の存在には

なれなかったのだろう。

 

 

俺のセクハラを拒絶するでもなく

顔を真っ赤にして受け入れていたのは、

上官の俺を気遣って抵抗しなかった

だけのことだったに違いない。

 

 

 

(嬉しがってこんな変態のセクハラを

受け入れてくれる艦娘が

いるわけもない、よな…)

 

 

 

村雨や飛鷹、加賀…今思えば

みんなびっくりして体が

硬直していただけなのだろう。

 

 

 

(やっぱ俺ってクズだわ…)

 

 

 

そこまで考えたところで

意識が朦朧としてきた。

 

 

 

(でも最期に、

キスぐらいはしたかったな…)

 

 

 

乗り込む前に最後に見た

曙の顔がふと思い出された。

 

 

彼女とのキスを

冥土の土産にするとしようか。

 

 

 

実際なら曙が俺とキスをすることなど

絶対に無いだろうが、せめて死ぬ前

ぐらいはと相手に選ばせてもらった。

 

 

 

目を閉じた曙の唇がゆっくりと迫り

俺の唇と静かに合わさる。

 

 

 

不思議と唇だけは感覚があった。

 

 

 

(どうせ死ぬんだ…。

ならディープぐらいしてもバチは

当たらんだろう…)

 

 

 

重い右手に渾身のエネルギーをこめ、

彼女の頭の後ろへ持っていく。

 

 

 

レロレロと曙の口の中を蹂躙し、

彼女が驚愕の表情をする。

 

 

 

十分堪能したところで手を放し

顔を離して一言。

 

 

 

「愛してるぞ、曙…」

 

 

 

何故か言葉がはっきり出た。

 

 

 

だがそれももう終わりの様だ。

 

 

 

まるで『夢が覚める』ような感覚が

訪れ、俺はあの世とやらへ旅立つ。

 

 

 

 

(我が生涯にッ…、

悔いはあるけど悪くはなかったぜ!!)

 

-------------------------------------------------------

 

 

 

「ダメです、意識無し!

心肺停止状態です!」

 

「なら人口呼吸をするわっ!」

 

 

 

提督はいた。

 

 

 

それだけで艦隊全体が湧き上がったが

いざ救助してみると提督は息をしておらず、心臓は役目を終えたと言わん

ばかりに止まっていた。

 

 

 

堪らず曙は人工呼吸を開始する。

 

 

 

唇は青い。

 

彼が演技をしているのでは

無いことは明白だ。

 

 

 

吹き込む息に願いを込めて、

ひたすら心臓マッサージと

人工呼吸を繰り返す。

 

 

 

(お願いだからっ!還って、来てっ!)

 

 

 

その思いが通じたのか提督の

右手がピクンと動いた。

 

 

 

「右手が動きました!」

 

 

 

妖精の言葉に思わず嬉し涙を流す曙だが、

人工呼吸は続けたままだ。

 

 

 

(この調子でっ、続ければっ!)

 

 

 

 

 

 

「「あっ…」」

 

 

 

 

突如妖精が抜けた声を発したと思ったら

後頭部に何かが押し付けられ、そのまま

提督の顔へと押し付けられる。

 

 

 

(んんっ、何?!)

 

 

 

 

 

左側に僅かに見える提督の右手。

そして動くその右肩。

 

 

 

 

つまり…これは…

 

 

 

 

一つの結論に至ったところで

曙の口の中に何かが入ってくる。

 

 

 

「んーっ?!んぐー!!」

 

 

 

提督の舌が曙の口の中で暴れ回る。

 

 

 

突然のことでリアクションできない曙。

 

 

 

口が塞がっているため、

鼻から息をするしか無い曙。

 

 

ずっと人工呼吸をしていたため

息が上がっており、必然と

鼻息も荒くなる。

 

 

 

そのせいか提督の

ディープキスに興奮していまう。

 

 

 

提督が意識を取り戻したことと、

息が上がっていたこと、そして

ディープキスをされたことが重なり

自らもひたすら提督の舌を求める。

 

 

 

端から見る妖精が耳を

真っ赤にして事態を見守る。

 

 

正確には目を離そうにもあまりに

衝撃が強すぎて目を離すのを

忘れているだけなのだが。

 

 

 

何分過ぎただろう。

引き寄せていた右手が放され

曙は解放された。

 

 

 

蕩けた顔で目も虚ろな

言うなればオンナの顔の曙。

 

 

 

そして目を開けた提督に妖精が湧き立つも曙は依然心ここに在らず。

 

 

 

 

 

 

 

「愛してるぞ、曙…」

 

 

 

そう言って再び意識を手放そうとした

提督を横にいた妖精が必死に起こす。

 

 

 

「…んぇ?もう死んだんじゃ無いの?

 

 

てかさっきのディープキスも最期の

妄想みたいなものなんじゃ…?」

 

 

 

まるで寝ぼけているかのような提督に

妖精が現実だと告げる。

 

「いえ、その…マジです」

 

「え、てぇことはもしかして

まじで俺は曙とディープしちゃった…?」

 

 

 

コクコク

 

 

頷く妖精

 

 

 

 

(ヤベエ、曙に殺されるゥ?!)

 

 

 

 

目の前でトロけた顔の曙が正気に戻ったら間違いなくあの世に強制送還になる!

 

 

 

死にかけて復活してよかったと思ったら、

速攻逆落としであの世とか嫌だ!

 

 

 

(あ、でも曙の唇柔らかかったなぁ

……グヘヘ)

 

 

 

 

 

 

 

「……バカ」

 

「すまん曙、悪気は無かったんだぁ!

 

もう最期だと思うと死にきれなくて、

せめて最期に曙とディープキスをしたいと思って…嫌だったら本当に謝る…」

 

 

 

なんで死にかけてたのに謝ってるんだと

心で思いつつも、横になったまま

謝罪の言葉を正直に言う。

 

 

 

「…バカ」

 

「セクハラばっかりの俺が嫌いなのは

わかるちゃいるけど、死にかけで

意識朦朧だったからまさか現実だと

思わなかったんだ!

 

 

そう、これは事故!

決して曙にイタズラしようだとか

そういった悪意はなくてだな……」

 

 

 

「…何で私とディープキスを

したいって思ったの?」

 

 

 

俯きながら話す曙は怖かった。

ヘタに言い訳したら何されるか

わかったもんじゃあない。

 

 

正直に、赤裸々に

曙が可愛いからだと答えた。

 

乗り込む前に最後に見た艦娘だったから

というのもあるかもしれないが、

死ぬ前に曙と仲良くなりたかったんだと

はっきり答え、曙の判決を待つ。

 

 

 

近くへと寄ってきた他の艦娘の内火艇と、それに乗り込む全艦娘が俺を見て

嬉し泣きながら近寄ってくるが曙の様子と場の雰囲気の違和感を感じ取る。

 

 

 

妙高「提督ご無事ですかっ!!

……あら、何かあったのですか?」

 

電「司令官さんと曙ちゃん、

なんだか近い気がするのです…」

 

黒潮「なんやこの雰囲気?

なんだかちぃとエッチぃんとちゃう?」

 

秋月「司令ご無事ですか?!

…な、なんでしょう、この空気は?」

 

神通「何でしょう。嫌な予感がします…」

 

春雨「司令官が無事ならよかったです、はい!」

 

響「司令官は不死鳥だね、

無事そうで何よりだ。

 

…でもこの空気は

ただ事じゃなさそうだ。」

 

阿武隈「あたし的には、

なんだか不穏…?」

 

蒼龍「提督っ!

死んだかと思ったじゃないですかッ!!」

 

日向「海幕から撤収の指示が出た時は

流石に君が生きてるとは思わなかった…」

 

鳥海「司令官さんがご無事で何よりです!

…ところで曙ちゃんは

どうされたのですか?」

 

 

 

近寄ってきた艦娘に軽く答えるが、

相変わらず曙が黙ったままで動かない。

 

 

 

「この……クソ提督!」

 

 

 

げ、アケボノ様のお怒りだ!

てか久しぶりにクソ提督って

言ってくれて嬉しいぞ、実は。

 

 

 

「すいません許してください曙様

ちゃんと反省しますから!!

 

確かに曙が可愛いからと調子に

乗ってしまいましたが決して

……んんっ?!」

 

 

 

チュッ……

 

 

 

周りの艦娘が仰天する。

あの曙が、『あの』曙が突然提督に

キスをしたのだ。

 

 

 

「「ええーーっ?!?!」」

 

 

 

俺も含めその場全員が目が点になる。

 

 

 

すぐに唇を離していつもの凜とした

状態に戻る曙。

 

 

「し、死にかけてたからって

ムードが台無しじゃない!!

 

こ、こうなった責任!

ちゃんと、取りなさいよね

このクソ提督!!」

 

 

 

ど、どうしてこうなったんだ?

 

 

 

「すまん、はなしがわからん」

 

「恥ずかしいんだから

何回も言わせないでよ!

 

私『も』好きになっちゃったのよっ!!」

 

 

 

一同ポポポポカーン…。

 

 

大胆な告白は女の子の特権とは

聞いたことあるが、これは…。

 

 

 

「む、ムード?」

 

「台無し?」

 

「私『も』好きになった?」

 

 

 

再起動した艦娘たちから疑問が湧き出る。

 

 

 

「…司令官、説明してもらおうか。」

 

 

 

響が目の前に来て、こうなった

経緯の説明を催促する。

 

 

 

「いや、そのネ、ちょっとした

勘違いがあって…

うん、別に…」

 

「そうか、話したくない

ならしょうがない。

 

 

 

 

……さて、殺りますか。」

 

 

 

チャキ…

 

 

 

内火艇に寝たままの俺に

9mm拳銃を突きつける響。

 

 

「ちょっ?!どっから持ってきた?!

てか撃つなよ、絶対に撃つなよ?!?!」

 

「司令官がいきさつを話すのであれば、

考えてあげないこともない。」

 

「それ後で撃っちゃうパターン!!

てか俺さっきまで死にかけてたし、

身体中ボロボロなんすけどー?!」

 

 

 

俺さっきまで死にかけてたんだよな?!

 

いつの間にか仲間に殺されることに

なりかけてるんですがいったい

どうなってんだよ?!

 

 

 

他の艦娘からも早く説明しろとの

黒いオーラが凄くて渋々話し始める。

 

 

 

 

 

~事情説明中~

 

 

 

 

「…まぁそれが死ぬ間際にせめてディープ

キスぐらいしたかったなぁと思ってな、

朦朧とした意識の中浮かんだ

曙に致してしまったわけだ…」

 

 

 

曙に説明したように正直に話す。

 

 

 

「…つまり自分は艦娘にあまり

好かれていないから絶対に

キスなんてできないと

思っていた、と?」

 

「だって俺がなんか言うとみんな顔を

赤くして黙っちゃうし、触ったりすると

拒絶反応なのかたまにクラッと

倒れる娘もいるし…」

 

 

 

「「はぁ~~……」」

 

 

 

え、なんでみんなため息つくの?

 

 

 

死から舞い戻ったと思ったらいきなり曙にキスされたり、俺がモテないと言ったら

ため息つかれたりと訳がわからん…。

 

 

 

「司令官さんはかっこいいのです!」

 

「おっ流石電、フォローが上手いな!

なでなでしてやろう…」

 

「はわわっ……」

 

 

 

なでなで

 

 

 

「提督よ、お主のそういったその態度が『誤解』を招いていると自覚してないのが一番悪いのではないのか?」

 

「???」

 

「本当に君は鈍いな…」

 

 

 

日向が大げさにため息をつくが、

本当に何がなんだか理解不能。

 

 

 

「提督にお世辞で格好いいとか

みんな言わないと思いますよ。

 

提督はもう少し褒め言葉をストレートに

受け取った方がいいんじゃないですか?」

 

 

蒼龍の解説でなんとなく

言いたいことが理解出来てきた。

 

 

 

(それは、つまり…)

 

 

 

「俺って…実はモテてる?」

 

 

 

コクン

 

 

 

やや控えめに頷く曙以外の艦娘。

 

 

 

「じ、じゃあひょっとして俺のことを

好きな艦娘も…実はいちゃう系?」

 

「それについては私から

言いたいことがありますっ!」

 

 

 

手を挙げて話そうとするのは春雨、

何やら真面目そうな顔をしている。

 

 

 

「司令官は村雨に今までに何を言ったか

覚えてますか?」

 

じっと見つめる春雨に

思わずドキッとしてしまう。

 

 

(春雨ちゃん、近すぎっす…)

 

 

 

「え?えっとー、横須賀に帰ったらずっと

面倒を見るとか、命を賭けて一生

村雨を守るとか言ったっけな…」

 

「それ、それです!

 

司令官は深い意味は無しに言っているようですが、それを言われる艦娘としては

どう聞いてもプロポーズにしか

聞こえないんですよ!」

 

ビシィッ!!

 

 

 

裁判ドラマの弁護士の様に

人差し指で強調させる春雨、かわいい。

 

 

(プロポーズ??

何処にそんな要素が…?)

↑モロ有ります

 

 

 

「一生守るということは婚約と

同義だと女性は受け取ると思う。」

 

「響の言う通りだ。

君はどう責任を取るつもりなんだ?」

 

 

 

えっと、これはつまり

モテ期が到来しているということか?

 

 

 

「で、できればこの戦いが終わったら

俺を慕ってくれる娘とケッコンしたいし、ゆくゆくは家庭を持って子供も作って

のんびり暮らしたいと考えてます…」

 

 

この際ヤケだ、俺のハーレム人生の

全貌をぶちまけてやる。

 

 

「そうは言っても結婚は日本では

1人を選ばないといけませんよ。

 

司令官さん、

その辺りはどうお考えですか?」

 

 

 

「そりゃわかっているさ。

でも俺は1人だけを選ぶなんてできない。

 

 

 

仮に複数俺のことを思っている娘が

いるのであればその全員の気持ちに

応えたいと思ってる。

 

 

ハーレム野郎やら

最低野郎と思われてもいい。

 

 

だが俺を思ってくれている娘を

見捨てるなんてできないし、したくない。

 

 

それに好きに順番なんてつけられないし、

俺はみんなが好きだ。

 

 

たとえ、ある艦娘が俺を嫌いだとしても

俺はその娘を愛すだろうし、俺を

慕う娘だって等しく愛すと断言できる。

 

 

 

ま、普段クソ提督言ってくる曙が

俺のことを少なからず思ってくれて

いたとは思わなかったがな…」

 

 

 

隅で赤くなっていた曙に軽く

ウインクすると、再び真っ赤になり

目をそらす仕草が可愛いのなんの。

 

 

 

「ま、ぶっちゃけ言わせてもらうけど

俺のセクハラは愛情表現なワケ。

 

 

例えで言えばクラスの好きな女子に

イタズラする男子みたいな感じの。

 

 

される方の気持ちは考えていなかったな。

 

俺のしたいことを一方的に

しているだけだけどね」

 

 

 

「わ、私にしてきたセ…セクハラもっ、

私のことがす、す、好きだから!

…でしょうかっ?!」

 

 

神通の告白とも取れる発言に

笑いながら答える。

 

 

「あったり前よ。

だって神通可愛いし、ちょっと内股キャラで弄りたくなるし…。

 

自覚ないかもしれないけど、

神通、めっちゃ可愛いぜ?」

 

 

もう知らん。

ムードもクソもない、

全部言いたいこと言ってやる。

 

 

 

謎告白のバーゲンセールやぁ〜!

 

 

「そ、そんな…か、可愛いだなんて…」

 

「そんな謙遜するなって。

他の娘もそうだけどみんな美人だから

好きにならないはずがないだろう?」

 

 

当たり前だが艦娘はみんな美人だ。

 

 

「「っ!!」」

 

「ここで突然だが俺のみんなへの

イメージを教えてやろう。

 

 

電は大人しいキャラだから

弄りたくなるし、可愛いから

なでなでしたくなるしこれからもなでる。

 

 

妹の様な存在だしそれ以上の関係に

なりたいと思う。

雷と間違えたりなんてしないし、

電は自信を持つんだ。

 

 

 

響はクールで言葉遣いも

大人びてるところがまた容姿との

ギャップを感じさせていてgood。

 

 

だからこそデレさせたいしデレさせる。

もっと甘えてくれていい、

むしろ甘えなさい。

 

 

黒潮は大阪出身で中学の

クラスメートのイメージ。

 

司令はんと京都弁を喋るところが

またミステリアスな感じを醸し出してて

高評価。たこ焼きパーティの後に

酔いつぶれたところをいただきたい。

 

 

 

春雨はほっぺた突っついた後に

いろんな意味で食べたくなる。

 

時雨や白露たちがドロップしたら

白露型全員で海に行きたい。

 

 

てか帽子の中が気になる。

いつか見せてくれ。

 

 

秋月はしっかり者の後輩。

凛々しくて可愛いというナイス

ポイント。

 

照月が俺にくっ付いてるのを

実は羨ましがってそう。

甘えてくれると俺も嬉しいな。

 

忠実なしもべ的存在。

かわいいなコンチクショウ。

 

 

阿武隈はドジっ子なイメージだけど

そこがまたポイント高い。

 

髪いじると嫌がるけどそれがまた

可愛いからついやっちゃう。

もっと自信持って欲しいし、

あとこれからも弄る。

 

 

妙高は真面目な長女、

でも2人っきりならデレるし可愛い。

世間じゃ中破ネタでいじられてるけど

そんなんシラネ。

いいお嫁さんになるだろうし、

手料理も食べたい、うん食べたい。

 

とにかく食べたい。

 

 

 

利根はなんか残念なお姉さんだけど、

放っては置けない保護欲とか

可愛がりたくなるキャラだな。

 

お姉さんぶって背伸びしてるけど、

2人きりのときに正直になって

なでなでしたい。

 

 

 

日向は大人びたキャラな1コ上の先輩。

俺を君とか呼んじゃう時点で

先輩っぽさ出してるけど、

プライベートではかなり乙女。

 

 

難しいことを話すけどそんなの俺には

関係ない、意外と甘えん坊かもしれん。

 

 

んで蒼龍は胸の大きさのことで弄られる

高校のクラスメートだな。

 

飛龍がドロップしたら3人でデートしたいし

それ以上のことも色々したい。

 

両手に華と言うがそれ以上。

もっと抱きついて来て欲しい、

抱きつかせたい。

 

 

 

…ふぅ、どうだ。

これが俺のお前たちに対するイメージだ!

 

 

…流石にドン引きしたか?」

 

 

 

辺りに漂うコメントし難い空気。

 

 

 

勢いで講評を述べてしまったが、

言いたいことは言った。

ここで平手打ちされようとも

海に放り投げ出されようとも

言い遺すことはない、さぁ来い!

↑ヤケ

 

 

 

横になったまま静かに

彼女らの反応を待ったが、

意外にもドン引きされるとか

怒られるといったことはなかった。

 

 

 

電「し、司令官さんになでられるのは

恥ずかしいですが、嬉しいのです…。

 

もっとなでてもらいたいのです…」

 

響「で、デレるなんて柄じゃ無い。

 

でも司令官がそれで喜んでくれるなら、

喜んでするさ…。」

 

春雨「ほ、ほっぺたを突っつきたい

なんて…司令官は意地悪です!

 

でも、私は2人っきりで

海に行ってみたいな…」

 

黒潮「み、ミステリアスなんて

初めて言われたでぇ…

 

し、司令はんがウチのこと食べたいって

言うんやったら、別に…」

 

曙「く、クソ提督の馬鹿!

この場の全員を口説いてんじゃ

無いわよっ!

 

 

私のこともコメントしてよ…(ぼそっ)」

 

 

 

あ、曙が混ざってきた。

真っ赤になって暴言吐くのも

可愛いなコンチクショウ!!

 

 

 

神通「……モジモジ」真っ赤

 

阿武隈「髪を弄るのは…その…、

あんまりしないでね…?」

 

日向「せ、先輩?

ま、まあ、悪くは…ないな…」

 

蒼龍「な、何ですか胸のことで弄られる

クラスメートって?!

 

でも提督と一緒のクラスなら

喜んで行きたいです…」

 

 

 

なぁにこの可愛い娘たち?

みんなモジモジしててお持ち帰り

したいんですけど。

 

 

 

よし、さっさと横須賀に帰って

イチャイチャせねば…な……?

 

 

 

 

 

……ん?

 

 

……………

 

 

 

 

アレ、今俺たち一つの内火艇に

集まってるよな…?

 

 

 

 

艦娘は全部フネを離れている。

恐らく全艦クラッチを切っていて

止まっている状態。

 

 

 

「なぁ蒼龍…?」

 

「え?何ですか提督、もしかして

もうデートのお誘いですかっ?!」

 

 

 

両頬に手を当て惚気る蒼龍をスルーして

真面目に尋ねる。

 

 

「今全艦止まってるよな…?」

 

「えっ、はいそうですけど…?」

 

「警戒は、大丈夫か?」

 

「上空には哨戒機がいるので対潜警戒は

バッチリです!」

 

 

 

キーンと上空をゆっくり

P-1が航過していく。

 

 

 

「いや、今めっちゃ明るいじゃん?」

 

「…そうですけど?」

 

艦娘がキョロキョロと見渡せば

全艦が探照灯を点けており、海上に集まる各艦がはっきり映っているのがわかる。

 

 

 

「「…だから?」」

 

 

全員がハテナマークを浮かべ

首を傾げている。

 

 

 

「これ、警戒しているとはいえ

敵からしたらただの的なんじゃ…」

 

 

 

「提督っ!

大変です!!

 

 

哨戒機から通信!

 

父島方向から敵艦隊、敵戦力は不明なれど中型艦と思われる反応1、小型艦5!

 

 

単縦陣を取っている模様!!

 

 

30ktでこちらに向かって

きているそうですッ!!

 

 

間も無く距離30kmを切りますっ!!」

 

 

 

「「……へ??」」

 

 

ポカーンとする艦娘に流石の俺も

堪忍袋の緒が切れる。

 

 

「このすっとこどっこいがぁ!!

 

 

俺のことが心配なのはわかるが

ここが戦場なのを忘れてんじゃねーよ!!

 

敵はいつ現れるかわかんねぇんだそ?!

 

てか全員クラッチ切って迎えに来るとか

何考えとんじゃいマジで!!

 

とにかく全員すぐに自分のフネに戻れ!

最悪内火艇は揚収出来なくてもいいから、

戦闘できる態勢を作れ!

 

 

俺は阿武隈に移乗する、

荷物は曙が持っとけ!

 

衛生妖精は俺を阿武隈の

内火艇に移載、すぐに!

 

日向と神通は損害がまだ

あるようだから参加は無し!

 

 

日向は至近距離まで敵が突破して

きたら発砲を許可!

 

蒼龍は2人にくっ付いて待機!

夜間発艦とか無茶やらかしたら

マジ許さんからな!

 

 

阿武隈と他の駆逐艦は敵に

肉薄すっから覚悟しとけよ!

 

鳥海と妙高、利根はまだ弾薬が

有るならすぐに迎撃!

 

 

 

あーーもうっ!!

詳しい作戦指揮は迎撃しながらやる!

とっとと自分のフネに戻りやがれっ!!」

 

 

 

「「り、了解っ!!」」

 

 

 

蜘蛛の子を散らすように阿武隈以外の

艦娘が自艦に戻っていく。

 

 

「おいアブゥ、早く連れてけ!

治療は戦闘が終わってからでいいから

まずは艦橋に行かせろ!」

 

「ひぇ、やだ私っ?!?!

妙高さんや鳥海さんたちの方が…」

 

「夜戦で単縦陣の中1小5っつったら

水雷戦隊の編成だ!

 

 

こっちも水雷戦隊で当たるしか

打つ手がねえっ!

 

マトモに夜戦指揮を取るなら

お前に乗るっきゃない!

 

鳥海たちには漸減をさせる!」

 

 

 

さっきの本音のラブトークは

なんだったんだろな。

 

俺も死に掛けてたとはいえ

まさか全員止まっているなんて

思わねえっての!

 

 

 

 

 

…案の定、全艦が内火艇の揚収を諦め

海上に放棄される搭載内火艇。

 

 

 

「提督、哨戒機からです!

全機対艦ミサイルは装備しておらず

対潜爆弾のみの為、一時帰投し

装備換装後、再度航空支援を行う!」

 

「了解した!

ついでに敵艦隊の兵力を

探るように言えっ!」

 

 

通信を伝えてくれる妖精に

哨戒機への連絡をさせつつ

作戦を練り始める。

 

 

対潜爆弾(爆雷)を敵の上から

落とせばいいんじゃないかと思ったが、

当たったとしても効果は薄いし命中精度もゼロに等しい、そして対空砲火も

シャレにならんだろう。

 

撤退する哨戒機は仕方ないにしても、

せめて敵の情報は掴んでもらいたい。

 

 

 

「哨戒機より通信!

敵艦隊は軽巡1、駆逐艦5!

 

駆逐艦を先頭に最後尾に軽巡!

 

 

なお全艦に金色のオーラの

ような物が見えるそうですっ!」

 

 

 

げっ、しかも全部フラッグシップかよ?!

てかなんで父島方向から

湧いてきてんだよ!

 

あいつらなんなのマジで?!

 

 

いきなり湧いてきやがって…!

 

 

湧いてくるとか『温泉システム』か?!

 

そんでもってランダム襲撃とか

糞ゲーすぎんだろ…。

 

 

 

『事実は小説より奇なり』って言うけど

現実でやられるとムカつくなオイ。

 

 

 

 

 

 

 

死の淵から還ってきてよかったと思ったら曙にディープかますし、嫌われるかと

思ったらまさかのみんな好意を

寄せてたという急展開。

 

全艦止まってるわ、そこを敵の

フラッグシップ艦隊に狙われるわの

どんでん返しもいいとこだ!

 

 

 

喜んだり困るヒマもねぇ…。

 

 

 

担ぎ込まれた阿武隈の艦橋で

混乱する頭を戦闘モードに

切り替えながら、どうやってこの危機を

乗り切るか策を練り始める…。

 

まずは濡れた作業服と救命胴衣を脱ぎ、

予備で置いてあったサイズの合う海曹士用の青い作業服を手空きの妖精(男子)に手伝ってもらいながら着替える。

 

「おっ、やっぱこっちの色の方が

馴染んでるなぁ…やっぱ。

 

てかパンツも濡れてっから

替えんといかんなぁ、

今はノーパンで我慢だな」

 

「ちょっと提督っ!

なにこんなところで脱いでるのっ?!」

 

「うっせー!

濡れたまんまだと風邪ひいちゃうだろ?!

 

別に見られて恥ずかしい身体してねーし

俺は問題ないぞ、見るか?」

 

「あたし的には問題

大アリなんですけどっ?!」

 

 

 

阿武隈が顔を真っ赤にしてキャーキャー

騒いでいるが、それどころじゃないって。

 

 

着替えが終わり一息つくと、

思わず頭を抱えたくなり

『左手』を額に持っていく。

 

 

 

 

グキッ…

 

 

あ……。

 

 

 

「え、何…今の音?」

 

 

阿武隈がキョトンと呟く。

 

 

 

………

 

 

 

あ、そういや俺、左肩骨折して…

 

 

 

 

 

「痛〝ぁ〝あ〝あ〝あ〝

あ〝あ〝?!?!」

 

「なにっ?!提督どうしたの?!」

 

「すっかり左肩骨折してんの

忘れったああああああ!!!!」

 

 

 

ただでさえ変な方向に曲がっていた

左肩が更にヤバイ方向に…。

 

 

 

 

これを言い表すならば

『提督、中破ッ…!』

 

 

 

「…ってンなこと

考えてる場合じゃねぇ!!

 

 

衛生妖精、痛み止め持ってこぉーい!

 

泣いちゃうううう!

 

肩が、骨がおかしな動きしてて精神が

どうにかなっちゃうのぉおおお!

 

なんかプランプランしてて、

それ以上いけないを超えてもっと

いけそうな状況になってるう

ううううううぅ?!?!」

 

 

 

 

人生初の男泣きをしつつも

艦隊は戦闘へと突入していく。

 

 

 

(もうやだ、提督辞めたい…

 

てか鳳翔どうなったんだよ…?

まさか結局この世から

いなくなっちまったのか?!)

 

 

「衛生妖精ぇーっ!

提督の左腕と肩に包帯を巻いてぇ!

こっちまでおかしくなりそぅ〜!!」

 

 

 

……

 

 

 

 

グダグダしつつこれから始まる夜戦が

父島を救うことになろうとは、

誰も知るよしもなかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





曙にディープかます、
挙句にハーレムがしたいです発言の
セクハラ大魔王、菊池提督。


恋愛ストーリーのカケラも無い
展開ですがこれからもっと
艦娘からのアプローチが増えますので、
こういった描写が無理な方は
見限ったほうが賢明と考えます。


提督は見つかりましたが
敵の水雷戦隊が接近中との情報が。

駆逐艦が前で軽巡が殿という
並びに何の意味があるのか…?

次回は敵サイドもほんの少しだけ
描いていきますので是非!




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1-7 夜戦突入前 正義と悪 【父島沖】

ディープキスして告白宣言?したと
思ったらナイスタイミングで敵襲です。

今回は夜戦直前の双方の想いが
メインとなります。

フラグシップ軽巡へ級、一体
何者なんでしょう…?

鳳翔さんのドロップは
しばらくお休みです。

もうちょっとだけ待ってくださいな!




西之島近くの深海棲艦基地

戦闘開始前

 

 

 

「…フレッチャーちゃん、

この作戦どう思う?」

 

「私も舐められたものだ。

軽空母と重巡は技術部の努力で変換できるようになったものの量産化には時間が掛かる。

 

今回の前段作戦では囮艦隊として日本の海軍部隊を引きつける役割を押し付けられる形となってしまった。

軽空母ヌ級や重巡リ級たちには申し訳ないことをしてしまった。

 

それに父島襲撃を押し付ける形となったことは詫びる。

お前には決死、下手すれば必死の任務をしてもらわなくてはならない…

全て私の弱さ故だ。

 

まさかここまで作戦に言い掛かりをつけてくるとは…

『作戦指揮は駆逐艦風情には難しいだろう』などと戦艦の奴らに言われてしまったよ」

 

 

 

フラグシップの軽巡ヘ級が駆逐棲姫フレッチャーに話しかける。

 

 

 

「私も軽巡だからって軽く見られてるけど、これでも深海棲艦の水雷戦隊の旗艦なんだからっ!」

 

「お前の活躍には期待している。

普段はっちゃけているが戦闘になれば鬼神と化すその腕を評価して、この作戦にお前を引き抜いたのだ」

 

 

フラヘ級は深海棲艦としては

破天荒過ぎる性格と予測不明な行動をするため、戦闘力は高いのだがあまり

前線へと出されることは少なかった。

 

 

フレッチャーはその技量を眠らせておくには惜しいと上に掛け合い、この

『小笠原諸島攻略作戦』に彼女を抜擢した。

 

 

「ねぇみんな~!!

出撃の前に一曲聞いてかなーい?!」

 

フラへ級が基地の中へ意味不明なことを叫ぶ。

 

 

いつもこんな調子で仲間内でもやや煙たがれるフラヘ級だったが、その存在は人類との戦いに明け暮れる深海棲艦たちにとって唯一とも言える娯楽になっていた。

 

 

「お前は深海棲艦ではなくて人間どもが呼ぶ『あいどる』とやらに向いているのではないか?」

 

 

呆れながらフレッチャーが呟く。

 

 

「う~ん…よくわかんないんだけど、

私が頑張ってみんなを元気にできればいいかなって思ってるの」

 

「前世は補給艦か何かだったのか?」

 

「全然覚えてないんだけどぉ…

『地方巡業』ばっかりさせられてた記憶はあるかなぁ~?」

 

 

『チホウジュンギョウ』?

初めて聞く言葉だが特務艦か何かだったのだろうか?

 

 

 

※※※※

 

 

 

フレッチャーがフラヘ級と出会ったのは、深海棲艦として覚醒してまだ

日も浅い頃だった。

 

まだ人員も少なく『指揮官』を始め

30名ほどの深海棲艦しかいない秘密基地とは名ばかりの海底洞窟。

 

その中に一際目立つ存在がフラヘ級だった。

煙たがれてもめげずに明るく歌ったり

踊る彼女は憎しみと怒りが蟠を巻く深海の基地内に癒しを与えてくれた。

 

幹部が増え人員も大幅に増員された基地は本拠地と名を変え、世界各地に新拠点を作り人類反攻への足掛かりを構築していった。

 

 

それに伴い本拠地で浮いた存在となってしまったフラヘ級は左遷を喰らい、戦略的に価値の無い辺境の基地を転々としていた。

 

 

そこに今回の本格的反攻作戦が始動するにあたり、フレッチャーが彼女を拾い上げたという経緯がある。

 

 

 

「フレッチャーちゃんはさ~、

人類のこと憎んでる?」

 

「それはそうだろう。

彼奴らの暴虐のせいで我らは深海棲艦になったのだ!

乱雑に扱われ挙句には標的艦にされたりして無念の内に沈んだ者もいる!

 

私とて不明瞭ではあるが荒い使われ方をされ使い捨てにされたのだけは覚えている…。

 

 

偶に夢を見るのだ…。

今は家族も姉妹もいないが前世の夢では妹たちがみんな沈んでいく。

 

私が沈んだ後も多くの妹が喪われ、

泣きながら冷たい水に消えてゆくのだ…」

 

「フレッチャーちゃん…」

 

「だが夢は所詮夢だ。

今、私はここに存在している!

ただ人類に復讐する為に!」

 

「おおーっ!輝いてるよっ!

いよっ!さっすがフレッチャーちゃんだね!」

 

 

合いの手に思わずずっこけるフレッチャー。

 

 

「そ、そこは共に盛り上がるところでは無いのか…?」

 

「えぇ~、だって私は別に人類に

恨みとか憎しみとか感じてないしぃ~…」

 

 

フラヘ級は不思議な深海棲艦だ。

通常深海棲艦とは人類に何らかの恨みとか憎しみを持つかつての艦船がそれを果たさんとする為になるのだが、

彼女は特殊らしい。

 

 

「そういえばフレッチャーちゃんには

私の野望を言ってなかったね。

私の野望はね……」

 

 

 

フラヘ級が野望を語ろうとしたところで

 

「…間も無く作戦開始の時間となる!

軽空母基幹の陽動艦隊、漸減担当の潜水艦隊、『父島襲撃』担当の水雷戦隊は集合せよ!!」

 

号令が掛かり、フラヘ級は名残惜しそうに集合場所へと走り出す。

 

 

「ゴメン、フレッチャーちゃんっ!

私もう行くねっ!!」

 

「ああ、『父島襲撃』はよろしく頼むぞ!」

 

「このヘ級ちゃん、一番の見せ場です!

作戦が終わったら新曲聴いてもらうからねーーっ……!!」

 

 

 

相変わらずよくわからないことを口走りながら集合場所へと駆けるフラヘ級と二度と会えないような気がするフレッチャー。

 

 

(いや、あいつが負けるはずない…。

だがもしあいつがいなくなったら私は

一体どうしたらいいのだ…?)

 

 

小さくなるヘ級の背中を不安になりながら見送る。

せめて一緒に出撃できればよかったのだがと思うフレッチャー。

 

 

 

だがこれも深海棲艦の宿命。

今の自分にできることをなす、それが

一番の貢献。

 

 

 

フレッチャーは『南鳥島占領作戦』の指揮官として、フラヘ級の挺身に報いるため作戦立案の見直しにかかった。

 

 

 

####

 

 

 

 

 

『重巡の変換が成功した』

 

その報告に喜んだのはフレッチャーだけではなかった。

 

 

上層部は大いに喜び、フレッチャーが立案した『南鳥島占領』を目的とした作戦の大幅な変更を命令した。

変更点は次の通りだ。

 

 

1.最近完成した西之島基地周辺に

日本海軍(海自)を誘引し、可能であれば漸減すること。

 

2.軽巡と駆逐艦が保有戦力の大多数に鑑み、

有力水雷戦隊による父島への艦砲射撃の敢行を実施し、敵戦力を誘引し可能であれば父島を壊滅させること。

 

3.父島砲撃から時期を開け、フレッチャー率いる主力艦隊は南鳥島の砲撃・占領を行う。

この艦隊はフレッチャー他軽巡14隻、

駆逐艦70隻そして潜水艦30隻の兵力を投入する。

上陸部隊については『輸送ワ級』の変換試験が終了次第投入する。

 

 

 

 

フレッチャーは苛立ちを隠せない。

 

(確かに南鳥島占領を目的としたのは

私だが、提出した案では囮艦隊などこれっぽっちも書いていない!

なのに戦艦隊や重巡隊の分からず屋が

勝手に盛り込みおって!

 

囮を使うなど人間がかつて使った作戦と変わらないではないかっ!!)

 

 

バンッ!!

 

 

拳を通路の壁に打ち付ける。

 

 

「ダメだよー?

女の子がそんな乱暴なことしちゃー…」

 

 

そんなフレッチャーに優しく声を掛けたのはフラへ級だ。

そして先ほどの会話へと繋がる。

 

 

(フレッチャーちゃんを宥めるのも

私の務め!

あっ、ついでに新曲聞いてもらおっかな~?)

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

父島近海 第101護衛隊

臨時旗艦 阿武隈

 

 

 

「利根、妙高、鳥海聞いてるな!

敵は6隻とはいえフラグシップだ、

恐らく今までの敵とは段違いに強い!

 

お前たちは先行して敵をうまく分散させてくれ。

利根と鳥海は単縦陣で右から、

妙高は単艦で申し訳ないが左から

砲撃しつつ近接。

敵が食いついてきたら、両方とも離隔しながら後方に回り込む。

敵が食いつけばラッキー、ダメならこっちも正攻法で対抗する!」

 

 

 

大まかな作戦はこうだ。

単縦陣で向かってくる敵水雷戦隊に

重巡3隻が反航戦を挑む。

 

 

タテイチの敵を挟み込むように左右から

重巡が砲撃を加えつつ後方に回り込む。

敵の動きとしてはハートの形を取るようになる。

 

うまいこと食いついて敵が分散し、追撃してきたら阿武隈を基幹とした水雷戦隊が後ろから攻撃を仕掛ける。

 

 

重巡が如何に敵に追いつかれない程度の距離を保てるか、そして敵が食いついてくるかがポイントとなる。

 

 

敵がうまく予想通りに動いてくれるか

などという、希望と憶測で成り立つ作戦なんて作戦と呼べないが今の俺たちにはこれがベターと言わざるを得ない。

 

 

 

「もし敵が食いついてこないようなら

探照灯を使って苛立たせても構わん!

うまく敵を誘って水雷戦隊に有利な位置まで引きつけてくれ!」

 

「「了解!!」」

 

 

重巡3人の返事が無線機から届く。

 

 

 

「提督、あたし達はどうするの?!」

 

 

横の阿武隈が指示を急かす。

 

 

「2つのパターンで行く。

1つは普通にこちらも単縦陣で戦う。

 

もう1つは敵が利根たちに食いつかなかった場合。

真っ直ぐ向かってくるなら複縦陣にする。ただし複縦といっても並走はしない」

 

並走はしない、一体どういうことだろうか?

 

 

「敢えてこちらの水雷戦隊を2つに分ける。

左前と右後とずらした陣形にし、

左の部隊は阿武隈、秋月そして黒潮の3人が。

右の部隊は春雨、電、曙そして響の順。

 

真っ直ぐ突っ込んでくる敵に真ん中を通すようにして砲雷撃を加える。

そしたらそのまま両隊とも直進してやり過ごす。

 

反転した重巡が砲撃を加えて敵の陣形を乱したら水雷戦隊も反転してトドメを刺す!」

 

 

我ながらよくパッと思い浮かんだもんだ。

本職の幹部や戦術に詳しい人が見たら

笑ってしまうような用兵・運用だが、

今の俺に求められているのは即応。

 

如何に素早く状況に対応し、適した行動と対処をするかということ。

善し悪しはあれど決断を渋ったらそれは壊滅、父島の陥落を意味する。

 

それを踏まえた上で敵の殲滅を図るとなると並大抵の精神力じゃできないな。

 

 

 

(これが、上に立つものの『重さ』

というやつか…)

 

 

 

横の阿武隈が陣形を作りつつ

指揮官たる俺を不安げに見つめる。

 

後ろを見れば艦橋に詰める妖精たちも

同じように俺を見ていた。

 

 

(ここは…指揮官として、

なにかひとつ激励でもしておこう)

 

 

前に本か何かで見たことがある。

将兵は不安な時に指揮官の顔を見るらしい。

 

指揮官は決して焦りや狼狽、緊張感を

見せてはならない。

それを見た将兵は

余計不安になってしまうそうだ。

 

 

(この中で俺が一番不安なんだけどなぁ…)

 

 

左肩の痛みは注射で多少和らいだが、

顔と背中からは脂汗が出ているし

これから戦闘に突入するのに平常心で

いられるほうがどうかしてる。

 

1ヶ月前にのほほんと平和な国の海軍の下っ端水兵だった俺を、情勢という無慈悲な存在は提督という雲の上の立場にしてしまった。

 

給料上がるし艦娘とイチャイチャできてラッキーと思ったのも束の間、

今こうして艦隊を指揮して戦争をしている。

 

 

 

改めて阿武隈たちを見る。

妖精たちはまだ熟練ではない。

フネや装備の運用ができるだけのヒヨッコと言ってもいい。

 

艦娘たちはどうか。

かつての戦船の記憶はあれどやはり月日が経っているため経験は薄れ、

いわばレベル0に等しい。

護衛艦の経験はあるとはいえ、実戦経験は無い。

 

 

 

艦隊ーー本土にいる他の艦娘を含めーー全部が実戦経験ゼロといっても過言では無いのが現状だ。

 

 

送話器を手に取り自分にも言い聞かすつもりで話し始める

 

「全艦…いや、艦隊総員に達する。

諸君は今…怖いか?」

 

 

阿武隈を見れば何を言ってるのかという顔をしたが、すぐにゆっくりと頷く。

 

妖精たちもぽつぽつと頷いたり、怖いと返答する。

 

 

「フフ…怖いか、実は俺もめっちゃ怖い!!」

 

 

この一言に艦隊の空気が凍りつくのが容易に把握できた。

 

 

「前に村雨にも話したけど戦場って

めちゃこえーんだな、俺もそれがよくわかった。

昼間は曙に乗艦していてビビっていたし、ヌ級に乗り込んで行く時なんか

足はガクガクしたし海に落ちた瞬間なんて頭が真っ白になってマジハンパねぇって思った」

 

 

「…敵艦隊まで20kmです」

 

 

小声で報告する妖精に手を挙げ了解する。

 

 

「今わかったことがある。

それは戦闘中よりも戦闘前のこの瞬間が一番怖いということだ。

『待つのが怖い、敵は強いのだろうか?自分は死ぬのでは無いか?』

そんなことばかり考えてしまう。

 

今諸君がわかったことがある。

それはこの俺、

提督は艦隊一臆病ということだ。

立場と階級だけは立派なヘナチョコな

イケメン、そんな小さい男だ」

 

 

「ちょ、フツー自分でイケメンとか言う…?」

 

「こら阿武隈、勝手に割り込むな!

後で髪をワシャワシャしてやっからなぁ〜!」

 

「ひぇえ〜?!」

 

 

阿武隈の艦橋内が笑い声で満たされる。

他のフネもきっと同じ空気だろう。

 

 

「あー、コホン。

 

俺はここで死なない。

基地に帰ってセクハラするし、デートもしたいし美味いものをたらふく食べたい。

だから作戦遂行に全力で取り組むし、

自分のすべきことをする。

それが生き残るための方法だ。

 

諸君はここで死なない。

基地に帰ってのんびり過ごすし、

旅行もしたいし美味いものをたらふく食べたい。

だから戦闘において全力を尽くし、

各自がすべきことをしてもらいたい。

それが生き残るための方法だ。

 

 

現時刻は2330i、

もうすぐ日が変わる。

あと数分で戦闘は始まる。

 

諸君は今日が命日か?

それとも30分だけ伸びて明日が命日か?

 

違うッ!

命日は自分が決めろ!!

死にたくない奴ぁ、血ぃ流して汗まみれになって涙流して硝煙まみれになってでも戦えッ!!

 

俺ァ死にたくねぇから血でも汗でも涙でも好きなだけ流してでもこのちっせぇアタマ使ってやる!

 

 

 

血を惜しむな、命を惜しめッ!

ケガしても何としても生きろ!

 

汗を惜しむな、戦果を惜しめッ!

敵を何としても撃滅しろ!

 

涙を惜しむな、海色を惜しめッ!

嬉し涙を戦闘後に流させてやる!

 

 

総員で暁の水平線に勝利を刻め!!

 

 

第101護衛隊、戦闘開始ッ!!」

 

 

「「了解ッ!!!」」

 

 

鼓膜に無線機からの返事と阿武隈艦内の返事が飛び込みビリビリと震える。

 

 

演説なんてガラじゃないことをしたが、

効果はあったようで皆活気を取り戻し

目にチカラが籠っているのがよくわかる。

 

俺自身もそんな彼らに励まされ、さっきまで続いていた肩の痛みもなくなってしまった。

興奮による一時的なものだとは思うが、

目の前のことに集中できるのはありがたい。

 

 

「よしっ!重巡隊、撃ち方始めェ!」

 

 

 

※※※※

 

 

「…なぁフラへちゃん、本当に砲撃は取りやめていいのか?」

 

「あんなの囮でも陽動でもないよ、

ただの捨て駒だよ!」

 

 

 

問いかけるフラグシップ駆逐ハ級に

フラへ級が強く答える。

 

 

「だいたい戦争は軍隊同士がやるものであって〜、民間人を巻き込んだらダメなんだよ〜?」

 

 

フラへ級は事あるごとに、人間へ無差別攻撃を叫ぶ上層部にこう言ってきた。

 

それが仇となったのかこうして挺身とは名ばかりの捨て駒艦隊として片道切符を渡されたのだろう。

 

 

「そんなことするよりは敵艦隊に

殴り込みした方がいいでしょ!!」

 

「ま、フラへちゃんが言うんなら

俺も付き合うぜ!」

 

「なんたって俺たち、『フラへちゃんファンクラブ』は地獄の果てまでお供するぜ!」

 

「みんなありがとー!!」

 

 

フラへ以外のフラ駆逐ハ級は全員

フラへの歌が好きなファンで、

上で述べたように無差別攻撃に反対の立場であり、フラへと同じく捨てられてしまった。

 

 

「敵艦隊まで25km!

フラへちゃん、やっちまおうぜ!」

 

「この日の為に火のような錬磨をしてきたんだ!

フラへちゃんにいいとこ見せてやる!!」

 

「敵は連戦で消耗してるみたいだし、

空母はいるが夜は使い物にならん。

重巡が数隻いるのは厄介だな…」

 

「重巡は無視でいいよ!

狙うは軽巡と駆逐艦、水雷戦隊のみ!

 

目には目を、主力艦は無理でも

補助艦さえいなくなればあとはフレッチャーちゃんが仕留めてくれるよ!」

 

「てぇことはあれかい?

刺し違えてでも水雷戦隊は潰す方針

でいくのかい?」

 

「そういう事〜」

 

 

フラへの言う通り、たとえ『大和』のような大型艦であっても補助艦がいなくては多勢に無勢。

艦隊運用とは主力艦と補助艦があって

はじめて機能するのだ。

そこを狙うのは今後の深海棲艦の戦況を有利に持っていく為だ。

 

 

(たとえここで沈んでも…、

フレッチャーちゃんがきっと…

敵を仕留めてくれるッ!)

 

 

「さてさて、私は人間に恨みはないけれど『仲間』の為に攻撃させてもらうよ〜!」

 

「敵艦隊まで20km!」

 

「陣形は私が一番後ろの単縦陣、

みんなが砲雷撃して傷付いたところに

一気にどっかぁ〜ん!!」

 

「俺たちはそのアシストってわけた!」

 

「フラへちゃんまさかのトリ!

『最期』の見せ場ですっ!!」

 

 

 

これから沈むかもしれないというのに

夜戦へと向かう彼女らは悲壮感を

感じさせないトークを最後までしていた。

 

 

(やっぱり地方巡業より華のある夜戦の方が『あいどる』らしいよねー!)

 

 

フレッチャーちゃんには悪いけど、

先に逝かせてもらうね。

出撃前に言えなかったけど、私の野望は歌で人間も深海棲艦も平和にする架け橋になることだよ!

 

この戦いに勝てたら…

フレッチャーちゃんに伝えるんだから!

 

 

 

 

 

 

 




フラへちゃん、前世は軽巡ですね。
…どうせ那珂ちゃんです、ハイ。

深海棲艦の考察については
機会を見つけてさらっと解説したいと
考えております。

『時機を逃したらダメだ』

とある護衛艦で先輩がよく
口癖で言っておりました。

すぐにでも解説せぇや!という方は
是非おっしゃってくださいませ。



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1-7A 夜戦前編 命中、だが敵も…

今回は戦闘のみ。
量も少なめでサクッと読み終わります。


現時点戦力・被害比較
◯第101護衛隊
・戦闘参加艦
鳥海ー小破
その他ー被害軽微

・不参加艦
蒼龍ー被害無し(夜戦は不可能)
日向ー小破(残弾僅か)
神通ー中破(何故か火照ってる)

◯敵水雷戦隊
フラ軽巡へ級1(旗艦らしい?)
フラ駆逐ハ級5
内1隻は小破




 

「よしっ!重巡隊、撃ち方始めェ!」

 

 

俺の号令により利根たちが敵を左右から

挟み込むように砲雷撃を加える。

 

 

重巡は20.3センチ砲、敵は軽巡と駆逐艦のみのため最大15.2センチ。

実質重巡の砲撃のみの一方的な鉄の雨を浴びせる。

 

 

艦首に砲塔が集中している利根が

右から惜しげも無く砲弾を放ち、

その後ろの鳥海が左正横を変わった

敵艦隊に後部砲塔から牽制弾で追い打ちをかける。

 

その敵の反対側、左からは妙高が

利根らに劣らぬ高密度射撃を放ち、

敵の陣形を乱しつつ散開を妨害する。

 

 

逃げ場の無い敵はその場を切り抜けようと砲撃を放ち魚雷を遠くの重巡へ撃とうとするがお互い距離があるのと、

反航故の双方の速力と変針が狙いを狂わせフラグシップの腕をしても雷撃を成功させるには至らなかった。

 

 

 

「こちら利根、敵2番艦に命中!

艦首付近のようで被害は軽微のようじゃが速力が落ちた!

反転してあやつを狙うっ!」

 

「こちら妙高!

至近弾はかなりありましたが

命中弾なし!敵もなかなか巧みに

回避したようです、申し訳ありません!!」

 

「謝ることじゃ無いさ。

それに3人が被弾や被雷もしてなくて

よかったよ…!」

 

 

妙高が申し訳なさそうに無線越しに

謝罪するが何をそんなに悔やむ必要がある。

 

「妙高は真面目すぎるぜ、まぁ

そこが可愛いところの1つなんだがな」

 

「そんな…可愛いだなんてっ!!」

 

「…提督ぅ〜、戦闘中にイチャイチャしないでくださいませんかぁ〜?」

 

 

俺と妙高がいい感じになっていると

夜戦に参加せず待機していた神通が

静かに、だが声は鳥肌が立つぐらいの恐ろしさを持っていた。

 

 

「すいませんマジ調子乗ってました」

 

「夜戦の後に覚えておいてくださいねぇ〜?」

 

 

おお怖い怖い…。

戦闘に参加していないとはいえ

夜戦モードの神通は人が変わるんだな。

 

 

ん、じゃあ神通と『夜戦』する時には

すごく激しかったり…?

 

 

「いますごくヘンなこと想像していませんでしたかぁ〜?」

 

 

ドキッ!!

 

 

「いいやしていないです、ハイ」

 

「嘘をついていたら、わかってますよね〜?」

 

「おっと戦況が動きそうだから

ここらで無線を切るぞー(棒読)」

 

 

一方的に打ち切る提督。

 

 

(全く…提督ったら!)

 

神通は怒った口調(むしろ雰囲気か?)で話していたが、こんな夜戦も

悪くないと思い始めていた。

 

(でも『昔』のように機械のように

無機質に戦うより、仲間との繋がりを常に感じながら戦うのも悪くないのかもしれませんね…。

提督もそこまで見越してあえて

緩すぎるぐらいの交話を行なっているのでしょうか…?)

 

 

神通の予測は果たしてハズレなのだが、

こんなのんびりムードの無線とは反比例するように戦闘は更に激しさを増していく。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「こちら鳥海っ!

敵艦隊は重巡には目もくれずそちらに直進していきますっ!!」

 

慌てた声の鳥海が敵が誘導に引っかからなかったことを報告する。

 

 

「焦るな鳥海。その為の腹案だ、

戦いとは常に相手の先を取らないといけない。

さっき伝えた通りこちらもそれに対応するだけだ。

 

重巡隊は手筈通りハートを描くように反転して敵を後方から追い立ててくれ!

 

水雷戦隊、みんな準備はいいか?!」

 

 

ちらと右舷にいる阿武隈を見る。

俺の意図を解したようで、すぐに送話器を手に取る。

 

「あたしはオッケーです!」

 

「秋月、魚雷の残弾は少ないですがやれますっ!!」

 

「黒潮、いつでも魚雷発射可能や〜!」

 

 

左部隊は用意よし!

 

 

「春雨、いつでも大丈夫ですはい!」

 

「電です、すごく怖いのです…。

でもそれ以上に頑張りたいと思うのです!

魚雷は装填完了ですっ!」

 

「曙、いつでも撃てるわ!

…か、活躍したらご褒美、ほしいかも…」

 

「響、緊張していない訳じゃないが

司令官がいれば大丈夫さ。」

 

右部隊も準備万端のようだ。

 

 

「いいか無理はするなよ!

敵を倒すことに集中し過ぎると

自分が被弾するからな。

 

一撃で仕留めるなんて、重く考えなくていい。

肉薄も禁止だ、隊列を維持しつつ

敵の攻撃を流すように攻撃するんだ。

こっちは連戦続きで弾も少ないし

疲労もあるしな。

 

神経を無駄に使わないように。

気張り過ぎるとロクなことにならん。

敵を撹乱させる程度でいこう!」

 

 

 

いよいよ水雷戦隊の出番なのだが、

俺は不思議なくらい冷静だった。

 

人間には緊急事態になると2つの状態になるらしい。

 

1つは混乱して正常な判断ができなくなる状態。

もう1つは逆に頭が冴えて普段ではあり得ない才能を開花させたりと非凡な能力を発揮する状態。

 

 

俺はどうやら後者の状態のようで、

ヌ級脱出時の別れ道だったり今のように敵との交戦においても第五感のような閃きが頭にパッと浮かんだりする。

 

 

別に大した考えは浮かばないのだが

混乱して指示を出せないよりかは

かなりマシだ。

 

 

 

「阿武隈と秋月は砲撃で敵艦隊に

ありったけの弾幕を張れ!」

 

 

下令するとすぐに阿武隈と続航する秋月から砲身が焼き付くのではないかと不安になるぐらいの砲撃が開始される。

 

 

一航しただけで全弾撃ち尽くすのではないかという数の砲弾が夜の空を舞う。

 

 

敵がいかに手練れであろうと現代の

技術を応用したレーダー射撃を始めとした精確さには敵わない。

 

 

攻撃を集中させた先頭の1番艦が被弾炎上し、

それを避けようとした後続が転舵したことにより僅かだが陣形が乱れる。

 

 

「よしっ陣形が乱れた!

黒潮、ぶっ放せ!」

 

「ウチにまっかせといてぇな!」

 

 

最後尾の3番艦の黒潮が意気揚々と

魚雷を敵の予測進路上へと放ち、

右部隊の攻撃は一旦終了する。

 

 

 

この時点で敵は1番艦中破停止し

炎上しており、2番艦は重巡の

砲撃により小破。

 

 

こちらは至近弾はあれど被害軽微、

だが敵の雷撃は向かってきている。

これをいかに見つけて避けるか。

 

 

幸い敵の使用する魚雷は空気魚雷であることがこれまでの戦闘からわかっているため、見落とさず適切に回避すれば被雷せずにやり過ごすことが可能であろう。

 

 

阿武隈と秋月に雷撃をさせなかったのは

この一航過だけで魚雷を使い果たさないためだ。

 

 

 

3番艦の黒潮のみが雷撃を実施し、

左部隊にバトンを渡す。

 

 

黒潮から酸素魚雷8本が放たれ、

反航しながら砲撃を続ける敵水雷戦隊

へと向かう。

 

 

 

酸素魚雷の射程は20キロ程度。

通常の空気魚雷のそれは良くても6、7キロというのを比べても3倍近くの航続距離があり、コストを無視すれば

ほぼ無傷で敵に大打撃を与えられる

兵器である。

 

 

命中率は極めて低いが駆逐艦のような

小さなフネから大口径砲に匹敵又はそれ以上の破壊力をアウトレンジから

一方的に撃てるのは旧式の軍艦といえど魚雷を積んだ艦艇の強みであろう。

 

 

 

反航する敵艦隊とも距離を空けてあるし、

砲撃も5インチ6インチの小口径砲では

ギリギリ届くだけの頼りない存在。

 

その中で艦娘が操るかつての戦船は

例え敵が優秀であろうとも、

遠距離から必殺攻撃を仕掛けることが

可能となった。

 

 

 

「流石に魚雷に射管装置は載せられなかったけど、こちらにはレーダーを始めとした現代の科学技術がある!」

 

 

レーダーで的針的速、つまり敵の針路と速度を割り出しそのコースをある程度予測し、その未来位置へと魚雷を

放てば高確率の命中が期待できるというわけだ。

 

 

敵が第二次大戦時の軍艦を催しているのならレーダーは『まだ』つんでいない筈だし、それを証明するように逆探装置にも反応はない。

 

 

今後増強されていく可能性はあるだろうがそれは今考える時ではない。

 

 

「当たってぇなー!!」

 

8本のウナギは長距離を泳いで

敵艦隊に殺到する。

 

先述の通り命中率は極めて低いのだが、

偶然か必然か炎上停止していた敵1番艦を見事仕留めることができた。

 

これは航行する敵艦隊を狙った魚雷が外れただけなのだが、命中しないよりかはマシだ。

 

 

 

しかし雷撃をしたのは

こちらだけではない。

 

 

 

やや遅れて発射された敵の魚雷が

間も無く殺到する頃だ。

 

 

空気魚雷が発する雷跡は

月明かりに照らされることなく

目前に迫る……。

 

 

 

 

 

 




現在の彼我の参加部隊被害

◯第101護衛隊
・重巡隊ー鳥海小破、他被害軽微

・水雷戦隊ー被害軽微

◯敵水雷戦隊

フラ軽巡へ級ー健在
フラ駆逐ハ級4隻ー健在

フラ駆逐ハ級1隻ー撃沈


〜〜〜〜

戦闘描写は難しいですね…。
場面をイメージしていただけるか
とても不安です。

オススメの描写がある小説等
教えていただければと思います。



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1-7B 夜戦中編 包囲殲滅の危機

投稿が遅くて誠に申し訳ないです!

本作を楽しみにしている方には
感謝と謝罪を。
たまたまご覧になった方には
是非1話から読んでいただきたいと思います。


あらすじ(荒過ぎ)
・敵はエリート水雷戦隊
・こちらは駆逐艦部隊の出番
・味方はまだ来ない


言うなれば
プランD、所謂ピンチですね。




「もう直ぐ敵の魚雷が来る頃だぞ!」

 

 

艦隊に敵魚雷への注意を促す。

 

酸素魚雷と違って空気魚雷は射程も短いし雷跡も出る。

全ての点において劣っているのだが、

それでも脅威であることに変わりはない。

 

 

雷跡が見えるといっても天候は晴れとはいえ月は敵艦隊と真逆、つまり敵からはこちらが月光に照らされて見えている。

 

逆光で雷跡を見つけ出すのは容易ではない。

 

 

「提督っ、何にも見えませーん!」

 

「泣き言言ってないで探せ!

当たったら大破確実なんだぞ?!

駆逐艦なんて轟沈待った無し、見張りは何か見えたらすぐ報告しろっ!」

 

 

阿武隈が弱音を吐くのも無理はない。

だって何も見えねぇのに探せってのも

無茶な注文だ。

 

 

だがそこは見つけてもらわないと困る。

 

 

 

「秋月と黒潮もよく見張っとけよ!

お前たちは当たったらシャレにならないぞ?!」

 

 

「はいわかってますっ!」

 

「装甲が無いのに魚雷もろうたら

ホンマにあかんでぇ…」

 

 

敵への砲撃もそこそこに魚雷を見つけようと必死になる。

 

 

「なあ秋月、『月』型なんだから

なんか月のパワーで見つけたり月の位置を動かしたり出来ないか?」

 

「提督は私のこと何だと思ってるんですかっ?!?!」

 

「いやぁまあ…藁にも縋るってやつ?」

 

「フツーに無理でしょ…」

 

「突っ込む気にもなれんて…」

 

 

漫画やアニメなら特殊能力発動みたいな

シーンだが当然これは現実であって、

そんなことが起こるはずもない。

 

半分ネタだったが見事スルーされ

打つ手なし。

 

 

「とりあえず魚雷が向かって来る方角に舵を取りませんか?」

 

「え、自分から向かって行くのか?!」

 

 

阿武隈の提案に思わず驚いてしまう。

 

 

「危なく思うかもしれませんが

その方が被雷する面積を減らせますし、少しの転舵で回避できますっ!」

 

 

ナイスだ阿武隈。

やはり一水戦旗艦は格が違った!

 

 

「よしっ!

左側の敵に注意しつつ取舵だ!」

 

 

操舵妖精が舵を取りやや間を空けて

フネが左に動き始める。

 

航続する秋月と黒潮も同じように

転舵して魚雷に備える。

 

 

敵は左後方の春雨たちにシフトしたようで、砲撃も止みとりあえず魚雷回避に集中できそうだ。

 

 

「あっ!アレ、雷跡みたいなものが!!」

 

 

阿武隈が指差す方を見れば1~2キロ先の海面に薄っすらと白い線のようなものがあった。

 

 

「魚雷だっ!!」

 

 

だが見つけたのは1本のみ。

灯火管制下で探照灯も使えない状況で

どうすればいいのだろうか…。

 

 

「主砲でも機銃でも何でもいい!

魚雷らしきものが見えたらぶっ放せ!

敵が各艦10発と仮定して計60発、

全部が当たるわけじゃないだろうが1発もらうだけでヤバい!」

 

 

艦首から向かって来ているであろう魚雷群へ主砲と機銃のデタラメな射撃が開始される。

 

ガァン!ガァン!

ダダダダダ…!

 

 

「とにかく真艦首をクリアにするんだ!

そうすりゃ被雷は無くなる!

真横を魚雷が通り過ぎたところで

当たらなければどうということはないっ!!」

 

 

少しだけ嘘をついた。

敵は魚雷を放射線状に撃っているはずだから絶対に魚雷が真っ直ぐ来る訳ではない。

敵が触発信管なのか、はたまた磁気信管といった高性能な魚雷なのかはわからない。

 

例え当たらずに横をすり抜けたとしても、

ジグザグに走るように設定できる魚雷だったら避けても追いかけるように命中するだろうし磁気や自爆の衝撃で

少なからず被害は出るかもしれない。

 

 

(無力な俺ですまん…)

 

 

阿武隈の後方に秋月と黒潮が続航し

単縦陣を取りつつ、前方の魚雷を排除しながら突き進む。

 

 

ズズーン!

 

 

「おっ、命中か?!」

 

 

適当に撃っていた砲弾の弾着の衝撃に反応したのか一際大きい水柱が上がり、俺や阿武隈とその妖精たちは歓喜の声をあげる。

 

 

「でもまだ残っているはずです!」

 

「そうだな。

阿武隈の言う通り1発誘爆させたに過ぎない。注意しろよっ!!」

 

 

それからしばらくして大量の雷跡が見え始めた。

把握できるだけでも30ほど、やはり敵はほぼ全力で雷撃をしたようだ。

 

以前川内と話していた『赤外線暗視装置』のような夜戦装備は確かに海上自衛隊にあるにはあるが、ただでさえ自衛隊は慢性的な予算不足なのにそこに突如現れた旧式艦艇である艦娘たちには装備の目処は立っていない。

 

川内が夜戦をしたらぶーぶーと文句を言う光景が目に浮かんだが今はそんな時ではない。

 

 

間も無く先頭の魚雷群が阿武隈の艦首

の両側に差し掛かる。

 

 

「躱しきれぇーっ!!」

 

 

大声で魚雷へ向け叫ぶ。

叫んだところで意味はないのだが

居ても立っても居られない。

 

 

左右を魚雷がすり抜けていく様子はまるで家庭ゲームやスマホゲームのようだ。

 

向かってくる敵や攻撃を

横に避けたりこちらも砲弾を撃ったりして撃ち落とすゲームみたいだと

ふと思ったが、実戦でしかも実弾というのはかなり心臓に悪い。

心臓どころかほぼ死ぬだろう。

 

 

魚雷を避けきるまでしばらくかかりそうだ。

俺や阿武隈たちが四苦八苦している間に後方へと抜けた敵艦隊は、春雨たち左部隊と交戦を開始する。

 

 

 

~~~~~~

 

 

「左部隊、突入させていただきますっ!」

 

 

阿武隈たち右部隊が敵から見て左から襲撃し、続けて春雨たちが同じく右側から夜戦を仕掛ける。

 

敵は魚雷を装填する時間もなく連戦と

ならざるを得ず、必然的に砲撃が主な対抗手段となった。

 

敵艦隊は面舵を取ったようで春雨たちの

頭を抑えるコースを取っていた。

 

「敵はこちらを包囲するかもしれません!

取舵を取り『丁字』に持ち込み

敵を右に見ながら砲雷撃を加えましょう!」

 

「で、でもそれじゃあ最後尾の響ちゃんに敵の砲撃が集中してしまうのです…」

 

「大丈夫だよ電、『不死鳥』の名は伊達じゃない…!」

 

「そうよ、フラグシップだかなんだか知らないけど蹴散らしてやるわ!」

 

 

春雨の案に電が異論を唱えるが、

響と曙が大丈夫だと胸を張る。

 

 

「みんな悪いけど重巡と俺たちが向かうまで耐えてくれよ?」

 

 

阿武隈の艦橋にいる俺は作戦支援端末を操作しながら春雨たちにエールを送る。

パソコン上で戦況がわかると言っても

彼我の編成や位置関係がわかるだけであり、戦闘の指揮まで出来るわけではない。

 

 

それ故に俺が方針を示し現場指揮官たる春雨が分艦隊の運用を行う。

 

反転を終えた利根たち重巡隊と、俺が乗る阿武隈率いる右部隊が回避と装填を終え敵艦隊に近接するまで、春雨たち左部隊は集中攻撃を受ける可能性がある。

 

無論重巡も最大戦速で向かっているが

敵は軽巡をはじめとした水雷戦隊、

敵のスピードが数ノット上回っている為、なかなか20.3センチ砲の射程が届かない。

 

 

「回せ回せ~!

最悪主機が壊れても構わんっ!

春雨たちを助けるのじゃ!!」

 

「利根さんそんなに機関を回転させると

負荷が掛かり過ぎて壊れてしまいます!!」

 

 

焦る利根を妙高が窘めるが利根は聞かない。

 

 

「そんなことはわかっておる!

じゃが『今』急がねば大切な仲間を

失いかねん!

機関が無事でも仲間を失っては意味はないのじゃ!!」

 

「利根さん…」

 

「利根、言いたいことはよくわかるし

気持ちも理解できる。

だけど…いや、だからこそ『仲間』を

信じてやれ。

 

春雨たちも生きるために戦ってる。

利根の妖精たちを見ろ、命令を守ってなおかつ期待以上応えてくれているはずだ。

 

言っただろ、俺は誰も沈めないって。

だから無理はするな、お前のエンジンが壊れたらお前が沈められるかもしれない。

そうしたら他の仲間が悲しむ、お前のその気持ちが逆に悪影響を与えてしまうかもしれないんだ。

 

仲間をそして自分を信じるんだ!」

 

「むっ…す、すまぬ。

焦ってしまったのじゃ…」

 

 

ハッと気付いた利根が反省し、

甲高く唸っていた機関を故障する可能性が高い最大出力から、ギリギリ持続運転可能な最大戦速へと落とし始める。

 

 

(しかしどうするか…。

春雨たちが上手く敵の先手を取れればいいが簡単じゃない…。

敵もフラグシップ、馬鹿の一つ覚えみたいに突っ込んで来るはずがない…)

 

 

ふと敵の目的を考えてみる。

 

 

敵は水雷戦隊、夜戦を仕掛けてきた。

重巡には目もくれないのは阿武隈以下の水雷戦隊が目標か?

 

だが旗艦たる阿武隈には大した攻撃はしてこなかった、そして最後尾の部隊である春雨たちに今から攻撃を仕掛けようとしている。

 

 

(敵は反転して再攻撃でも仕掛けるつもりか?

いやいや敵は追い詰められたネズミみたいなもんだ、ダメージも入ってるしこちらが態勢を整えて臨めば負けはしない。

 

何か引っかかる、単純な『何か』を見落としているような…?)

 

 

悩むがどうもモヤモヤが晴れない。

敵の立場に立って考えてみるか。

状況としては劣勢、練度は高いが

人類の方が手駒は多い。

ここからどう巻き返すか。

 

 

(これがゲームならリセットだな、

戦力の劣勢は練度ではカバーし切れない。

俺なら最後に一矢報いるけ、ど……?)

 

 

『一矢報いる』だと…?

 

 

(まさか敵はっ…?!)

 

 

 

「司令官大変ですッ!!」

 

最悪のケースが浮かぶと同時に

春雨から緊急通信が飛び込む。

 

 

「単縦陣で向かってきていた敵艦隊が

分離、私たちの進路を塞ぐ形で展開し始めましたっ!」

 

「まさか…敵は春雨たちを沈めるつもりなのか?!」

 

 

俺の采配は失敗だったんだ。

最後尾には重巡か阿武隈の右部隊に

しておくべきだったんだ…。

 

 

『窮鼠猫を噛む』

 

残った敵をじわじわと倒すという

俺の策は、敵を追い込みすぎて

捨て身の、いや至極当然な方向へと

持って行ってしまった。

 

 

敵からしたらマトモにやり合ったら

敵わない、なら最後尾にいる駆逐艦だけでも沈めるという流れになるのは

落ち着いて考えれば思いついたはずだ。

 

 

(なのに俺は、戦闘が自分の思い通りに行くと思い込んで…)

 

 

俺が自己嫌悪に陥ろうとも最悪な戦闘は始まる。

 

 

「敵軽巡発砲!春雨、避けてッ!」

 

「きゃぁっ?!」

 

「春雨さんっ?!」

 

 

ガァンッ!

 

春雨の艦橋に直撃弾が命中し、

応戦していた砲塔が射撃を停止する。

 

 

「こちら3番艦曙!

先頭の春雨被弾、無線機故障の様子につき私が指揮を執るわッ!」

 

被弾した春雨は無線機が故障したらしい。

連絡も無しに回避行動を行うのを見て

曙が咄嗟に指揮権を行使する。

 

本来なら2番艦である電が指揮権を継承することになっていたのだが彼女も

混乱と応戦で精一杯であり、これは不味いと思った曙が返事も聞かずに判断したのだ。

 

 

しばらくして春雨から発光信号があり

『被害軽微なるも通信機器および兵装使用不要。

応急処置実施中、その間曙が指揮を取れ』

と後続の電たちへと送信される。

 

 

春雨の無事がわかりホッとするが

事態の解決にはなっていない。

 

(まずい、何かいい策は無いのか…?)

 

蒼龍は夜間の発着艦は不可能だから

『艦載機』は出せない。

 

日向も残弾を気にせず進出させようかと思ったが、乱戦になったこの状況では持ち味の火力も生かせそうに無い…。

 

神通は中破だからとても参加させられない。

 

 

万事休す、か…。

 

 

「提督、蒼龍です!

搭載中の哨戒ヘリの乗員から出撃許可要請が…」

 

「……あ!」

 

 

くそっ!そういえば蒼龍にヘリが2機

搭載されていたじゃないか!!

 

「すぐに発艦させてヘルファイアを

ぶっ放すように伝えろッ!!」

 

 

そうか!

蒼龍に載っけて行こうと言ったのは俺じゃないかっ?!

保有戦力は旧式の航空機だと思い込んでいたのは失態の一言では済まされない…。

 

 

(とはいえ発艦するまで時間がかかる、

それまでに出来ることはないか?)

 

 

発艦でもう一つ思い出したが

硫黄島に帰還した哨戒機隊が対艦ミサイルを搭載して戻ってくるはずだ。

まだ連絡は無くレーダーの反応もないが、

あと30分もすれば形勢は逆転するのは間違いない。

 

 

30分という無限とも思える地獄の時間を

この状況からどう作り出すか、

その1ピースが今の俺にはわからないでいる。

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

神通は覚悟を決めた。

 

目と鼻の先では春雨たちが苦戦を強いられ包囲殲滅の危機に瀕している。

自分や伊勢、蒼龍は損傷や夜戦不可能

という状態を鑑み待機命令が出ている。

 

しかしそれでは水雷戦隊

旗艦の名が折れる。

ましてや自分は中破、敵を撃破出来ずとも包囲を妨害するくらいは出来るはずだ。

 

 

たとえこの身がどうなろうとも、

後輩たちは守らなくてはならない。

 

 

(なら、『逝く』しかありません…!)

 

 

神通は静かに目を閉じる。

川内や他の艦娘、そして提督の顔が浮かびこの世との決別をするかのように

心の中で謝罪する。

 

 

(せめて『那珂ちゃん』が現れてから

がよかったのですが、それも叶わないかもしれないわね…)

 

 

自分たち川内姉妹が艦娘として現代にいるのも『あぶくま型』護衛艦として命名されたからである。

だが那珂だけは戦後自衛艦として命名されることなく現れていない。

 

深海棲艦が現れ『艦娘』が世間に認知されるようになって、神通はいつか那珂に会えるのではないかと期待していた。

 

響たち暁型が出港前に提督に「暁を探して欲しい」と話していたのを見て、

かつての仲間を探さなくてはと思った。

 

だがその響たちが苦戦を強いられ、殲滅の危機に瀕しているとなれば自分の身など幾らでも投げ出そう。

 

 

(提督なら必ず那珂を…いえ、まだいない艦娘も探し出してくれるはずです)

 

 

中破で水雷戦隊に挑むのは気が引けるが、それ以上に久々の夜戦に胸が高鳴るのを神通は感じていた。

 

 

「神通、行きますッ!!」

 

 

 

 

 




いかがでしたか。
戦闘描写を皆さまにどう想像しやすく
するか悩み、スランプになってしまいました。

物語のプロットは出来ているのですが、
無駄に細かい所を追求してしまい
なかなか投稿が出来なくて…。



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1-7C 夜戦後編 無能な指揮官

描写や表現に工夫をしようと努力しております。
人によって分かりづらい、日本語が変と思われるかもしれません。
『無理に難しい言葉を使うなって』
『細かいこたぁいーんだよ!』
『デルタさん、セクハラはまだかえ?』
コメントをこれからもよろしくお願い致します。

深海棲艦については場面によってカタカナで話すこともあります。これは艦娘(人間側)との区別を目的としていて、読み辛いかもしれませんがご了承ください。



「こっちに来ないでぇ〜!!」

 

春雨は被弾し一時的に電路がショート、通信機器と兵装が使用不能になっていたが応急処置により回復。

 

艦橋に被弾したものの適切な消火活動と復旧作業により戦闘に復帰した。

 

「なんでこっちばかり狙うのぉ〜?!」

 

「ふむ…どうやら敵はこちらを包囲殲滅するつもりのようだ。」

 

「響ちゃん冷静に分析している場合じゃないのですッ!!」

 

「そう言う電は少し落ち着きなさいよ。

耳にあんたの叫び声が響いて集中できないじゃない!」

 

 

会話だけを聞けば賑やかで楽しそうだが戦況は悪化の一途を辿っていた。

 

春雨が戦線に復帰し砲撃と雷撃で応戦するものの、敵の包囲運動を阻害するには至らない。

 

 

「せめて前方に回り込もうとしてる駆逐艦だけでも叩ければいいんだけど、あいつらもそれをわかってるみたいね…本ッ当冗談じゃないわ!!」

 

曙は春雨を庇うようにして先頭に出て分艦隊の指揮を取っていた。

春雨が復旧してからもそのまま指揮を取り続ける。

 

敵に文句を言いつつ12.7センチ連装砲を放つが敵から近いとは言えない位置に着弾し、戦況打開の糸口をつかめない。

 

「…ヘタだね。」

 

「うっさいのよ!!

ていうかあんたは冷静すぎるのよ?!」

 

「熱くなったところで良い案が出るとは限らない。」

 

「何気にお前らかなり余裕あるな…」

 

 

4人は隊列こそ組んでいるが会話の通りバラバラな動きを取っている。

ある者は砲撃したりまたある者は蛇行したりと敵にとっては不気味な駆逐艦部隊に見えることだろう。

 

俺が思わず突っ込んでしまったが彼女らの不規則な行動は、思わぬ効果を生み出していた。

 

〜〜〜〜

 

 

深海サイド

 

 

「ナァ『フラへ』チャン、アイツラ

動キガ変ダゼ?!」

 

「ナニカ策ガ有ルノカモ…」

 

 

深海棲艦たちは困惑していた。

 

図らずも敵が分散してくれたため最後尾の駆逐艦部隊を狙ったところまではいいが、敵の動きが混乱とは違った意味で滅茶苦茶な為ワナではないかと思ってしまうほどだ。

 

実際には混乱以上に混乱していて各艦が勝手に行動してしまっているだけなのだが、それがかえって深海棲艦の攻勢を限定的なものにさせていた。

 

「サッキノ軽巡部隊ニ撃ッタ魚雷モ躱サラタミタイダシ、敵ノ反撃ガスグニ来ルハズ…」

 

「ソンナノ関係ネエッ!

増援ガ来ル前ニ倒シチマエバ残リモ同ジ様ニ粉砕スルダケダ!」

 

「チ、チョット勝手ニ…!!」

 

 

フラへの制止を振り切り単艦で春雨たちに向かって行くエリハ級。

包囲されているとは言え4対1で向かって来る駆逐艦など結果は明らかだ。

 

 

〜〜〜〜

 

 

艦娘サイド

 

 

「敵の駆逐艦が突出してきたぞ!

四人とも落ち着いて奴を沈めろっ!」

 

阿武隈たちに向かっていた魚雷はほぼ全部躱し切ることができた。

『ほぼ』と言ったのは1発だけ阿武隈の艦首に命中したからだ。

 

逸れるコースを走っていた1発が急に逸れて阿武隈の艦首に命中、しかし幸運にも不発だった為損害は敵の砲撃による軽微なものに留まった。

 

反転を終えた阿武隈たちを利根たち重巡隊と合流させ、俺は春雨たちへと急がせる。

 

 

「言われなくてもやってやるわよッ、クソ提督!」

 

「私もまだ砲撃できるんだから〜!」

 

「包囲されても絶対負けないのです〜!!」

 

「勝った気になって調子に乗ってると痛い目にあう…!」

 

 

包囲されつつも敵の砲撃を躱しつつ、

敵の駆逐艦へと砲撃と雷撃を敢行する。

さっきまでの混乱が嘘の様に我が方は連携の取れた動きを取り戻しす。

砲撃は精密に、雷撃は正確に突出した敵駆逐艦を捉えて大破へともっていく。

 

「…どうだ、やったかッ?!?!」

 

「ちょっ…提督それ禁句ッ!!」

 

阿武隈が突っ込むが手遅れ。

 

敵エリハ級は満身創痍だが艦上の火災や損害を気にすることなく真っ直ぐに突っ込んでいく。

 

「アイツ電に突っ込むつもりよッ!」

 

レーダー画面上でもエリハ級が電目掛けて直進するコースなのが理解できた。

 

ヤケ糞になって特攻をかけたのかそれとも舵が故障して直進しかできないのかはわからないが、優先して沈めなければならない目標だ。

 

 

しかし深海棲艦も当然攻撃が緩んだ隙を見逃さない。

 

 

はぐれエリハ級に集中する春雨たちに『余所見をするな』と言わんばかりの砲撃が浴びせられる。

 

「きゃあっ?!右弦に砲弾がぁ〜?!」

 

「電被弾してしまったのです!!

前部砲塔使用不能ぉ〜!」

 

「曙全魚雷発射管破損、後部砲塔火災発生!

全然平気よ、たかが武装をやられただけなんだからッ!」

 

「くっ…響機関部をやられた。

出力低下、使用可能速力27ノット。」

 

 

 

(そんなッ……)

 

 

俺は頭が真っ白になった。

無機質なヘッドセットから流れる艦娘の悲痛な声は無線機で変換された機械的な音声とノイズも相まって現実感が無かった。

 

 

『艦娘が沈む』

 

 

その言葉が頭を支配する。

手の届かないが目の前で起きている戦争から自分だけが取り残されている様な感覚。

自分の声しか使えない、その声さえも戦況を変えられない無力さ。

 

曙が、春雨が、電が、響が傷付き悲鳴を上げる光景が嫌なぐらいにイメージされ、そんな彼女たちを救えない自分が悔しい。

 

「し、司令官さんッ!指示をっ!」

 

「司令官、何か策は無いのかい?!」

 

「不味いわ『提督』、早くしないと私たち…」

 

「こ、これ以上は…。

司令官、助けてくださいッ!」

 

 

どうする…!

俺の乗る阿武隈や駆逐艦である秋月と黒潮でも射程に入るまであと10分はかかる。

重巡による砲撃も考えたが、日向と同じく混戦状態では同士討ちの危険がある。

 

落ち着けッ!

俺がしっかりしないでどうするッ?!

 

 

「みんなこちら蒼龍!

哨戒ヘリが向かっているから

もう少し頑張って!!」

 

(そ、そうだっ!

ロクマルがもう直ぐ来るッ!!)

 

 

「HSッ、こちらCED101!

あと何分でヘルファイアが撃てるッ!?」

 

「こちらミッドナイト1、あと5分でインサイト!

これでも最高速度ですっ!!」

 

 

指呼された哨戒ヘリの1番機の機長がニックネームで答える。

ヘリの速力をしてもミサイルの射程までは届いていない。

 

 

 

クソッ!

あと5分、あと5分いや3分早く俺がヘリの存在に気が付いて命令していればこんな事には…。

 

 

「最早、これまで…なのか?」

 

「…諦めるのはまだです提督ッ!」

 

「その声は…神通か?!」

 

 

突如耳に飛び込む彼女の声に意識を現実へとシフトする。

 

「おい神通、お前まさか?!」

 

「何か、問題でも?」

 

凛とした神通の声に思わずレーダー画面を確認する。

誰も気付かなかったのかはたまた咎めなかったのか、彼女は単艦で包囲された春雨たちへと出し得る最大の速力で近接していた。

 

「問題しかねぇよ!!中破してるのに突撃するなんて、沈みに行くようなもんだ!

てか日向と蒼龍は何故神通を行かせたんだ?!あいつのダメージを見ただろ?中破なんだぞ?!」

 

「では、この状況で春雨たちを見捨てろ、と?」

 

この状況を作り出したのはだれでも無い俺だ、神通の言葉になにも言えなくなる。

 

「大丈夫です提督、『春雨たちは』沈ませないですから!」

 

明らかに自分が沈む覚悟を決めている彼女に何とも言えぬ涙が込み上げるが、それを止めるコトバや命令も出せない。

 

 

「さあ貴方達の相手は私ですっ!」

 

「ナンダコイツ、駆逐艦トモドモ沈メテヤル!」

 

 

彼我の距離が近くなったためか深海棲艦の声が無線に混じる。

敵が無線を使用しているという事実は驚くべきことだがそんな事、今はどうでもいい。

 

 

「元水雷戦隊旗艦を舐めないでくださいッ!!」

 

 

<ガァン!ガァン!>

 

 

「ガァアアアアァァ…!」

 

「よしっ次ッ!」

 

 

電に突っ込もうと白波を立て邁進していたエリハ級をいとも容易く撃沈する神通。

返す刀で包囲を突破しつつ他のエリハ級やフラへ級にも砲雷撃を加え、その戦意を低下させる。

 

 

「四人とも大丈夫?!」

 

包囲を食い破り救援に駆けつけた神通は春雨たちには女神に映ったことだろう。

 

だがほっとした所為か非情にも神通のに敵の攻撃が命中、砲塔は大破し艦首がごっそりと抉られてしまう。

 

 

「神通さんッ?!」

 

「そんなっ…もう少しのところでっ…」

 

フネのダメージは艦娘にも伝わる。

苦痛で歪む神通の顏は絶望へと変わっていく。

 

「は、早く逃げないと…!」

 

「もう私は無理みたいです電…。

艦首が潰されて前進は不可能です。

後進なら出来そうですが、これでは皆さんを逃すマトにもなりそうにありません…」

 

 

無双の如く敵艦を屠った神通という美しい戦乙女の蝋燭の灯火が消えかける。

風前の灯火という言葉とは正にこの状況だろう。

 

 

だが蝋燭は消える前にこそ光を増すという。

 

『灯滅せんとして光を増す』

 

そんな消えかかる蝋燭を励ますように、四本の蝋燭は眩い光と轟音を放ちながら絶望の海を音の速さで矢の如く飛来した。

 

「…来たかッ!!」

 

神通が文字通り身を削って稼いだ5分は、哨戒ヘリが対戦車ミサイルヘルファイアⅡの射程距離まで近付けるには十分だった。

 

「グアアァァ!!」

 

「グゥッ…ナ、ナンダイッタイ?!」

 

対戦車ミサイルという名の通り致命傷を与えるには至らなかったが、それでも春雨たちが全速後進する神通を援護しつつ包囲網を突破、申し分ない破壊力を見せつけてくれた。

 

 

「よくやってくれたヘリ部隊、春雨たちはそのまま煙幕を張りながら後退しろっ!」

 

今まで事態を見守る事しかできなかった俺は咄嗟に久しぶりの命令を出す。

 

このまま逃げ切れるのではないかと希望が湧くが、敵はすぐに立ち直り追撃してくる。

煙幕によって照準が定まっていないが、確実に追い付かれるだろう。

 

ましてや神通は後進で逃げているのだ、損傷はあれど前進する水雷戦隊のスピードに後進で逃げ切ろうなど不可能に等しい。

 

「フザケタ攻撃ナド効カヌワ!

我等ト同ジ『戦船の生まれ変わり』ダロウト、敵デアルナラ恨ミハ無イガ沈ンデモラウゾッ!!」

 

神通を囲むように援護する四人の周りに水柱が上がり、炎上箇所が海水により消火されるが嬉しく思う艦娘はいない。

 

 

「しまった、海水が機関部に…!」

 

 

それは先ほど機関部に被弾して速力が落ちていた響だった。

 

彼女の周りに着弾した砲弾の生み出した海水は破口から浸水、水蒸気爆発は起きなかったものの缶室と呼ばれるボイラー室の一部が使用不可能となった。

 

速力がさらに落ち後進する神通よりも遅くなってしまい、落伍し始めたのだ。

 

「サテ、『フレッチャーちゃん』ノ作戦ヲ成功サセル為ニモ、沈メテアゲルッ!!」

 

エリハ級の声とは違う人間に近い言葉が聞こえる。

恐らくは敵の旗艦のエリへ級なのだろう。

可愛く聞こえるセリフだがその不気味な音色と内容がより残虐性を引き立てる。

 

「こんのぉ〜っ、こっちくんな!

一体アンタたち何者なのよ?!」

 

「フフフ…我等ハ『深海棲艦』、俺タチ『フラへちゃんファンクラブ』ハ人類ニ恨ミハイガ、深海棲艦全体トシテハ『憎キ人間ニ復讐』スルノガ目的ダ!」

 

曙の暴言に律儀に返答してくれた深海棲艦。

(『ファンクラブ』って何?)

という疑問が浮かんだがすぐに消し去る。

 

(哨戒機部隊が来るまで時間を稼がないと!)

 

敵が攻撃を緩めてくれるはずも無いが、今の俺にできる『口撃』という攻撃で無理矢理時間を引き延ばす。

 

「『フラへちゃんファンクラブ』ってのは何だ?!フラへちゃんってのは可愛いのか?!」

 

「ちょっと提督正気ッ?!

状況わかってんの?!?!」

 

「シッ!いいからアブゥ黙っとけ!」

 

 

時間を稼ぐ為だ、不謹慎でもキチガイでも言われてもいい。

使える手は何でも使ってやる。

 

「コノ『フラグシップへ級』チャンハ貴様達人間ガ『アイドル』トカ呼ンデイル存在ダ、彼女ノ歌ハ素晴ラシイ」

 

「オレファン1号ナンダゾ!」

 

「オイテメッ、抜ケ駆ケスルナ!」

 

「チ、チョット今戦闘シテルンダヨ?!」

 

 

僅かだが砲撃の手が緩んだ、このままいってみる!

 

 

「そんで、『フレッチャーちゃん』ってのは誰なんだ?」

 

「エット私ノ友達デ『駆逐棲姫』ッテイウたいぷノ娘ガイテ…」

 

 

急に語り始める奴らの話を聞きつつちらとレーダー画面を見た俺はニヤリとした。

 

 

敵は頭脳は良くても『頭』は悪いのか、

こちらが一つ質問をすれば聞いていないことを二つ三つオマケして返してくる『アホ』なやつらだった。

 

 

「…ッテ、コレ時間稼ギ?!」

 

「悪いが気付くのが遅かったな」

 

 

それと同時に亜音速で飛来し、深海棲艦の直上から急降下する対艦ミサイル。これは艦隊の外縁で対潜警戒をしていた護衛艦二隻から放たれたものだ。

 

 

深海棲艦との会話だけに集中していたわけでは無い。

 

 

作戦支援端末も駆使しつつどう戦況を打開するか悩んでいたところ二隻から

 

 

『敵潜による雷撃により被雷、機関部等故障するも一部復旧。

状況は把握した。

直ちに対艦ミサイルを発射する』

 

とのメッセージが来たため、これまた護衛艦の存在を思い出し攻撃を依頼した。

 

 

彼らと距離がそこまで離れているわけでは無いし、無誘導の砲撃と違いSIFのお陰で同士討ちをする危険も無く確実安全に深海棲艦を沈められる

 

 

 

 

 

 

…ハズだった。

 

 

 

 

「マ、別ニイイケドサァ…

ソレ、キカナイヨ?」

 

「えっ…」

 

 

フラへ級のさっきまでとは異なる低いトーンに思わず鳥肌が立った。

 

確かに対艦ミサイルは飛んで来た。

だがお見通しだったのかのように、対艦ミサイル群は敵の猛烈な対空砲火により全弾撃墜されてしまった。

 

機銃や対空砲の発炎と曳光弾が明るい月夜を更に明るくする。

 

 

対艦ミサイルは確かに深海棲艦には有効だがそれは迎撃されずに命中すればという前提があってのことだ。

現代艦はCIWSと呼ばれる高性能機関砲から砲弾をばら撒き、ミサイルを迎撃する。

 

 

この深海棲艦らは旧式艦であるにもかかわらず銃砲弾をして対艦ミサイルを迎撃せしめた。

多数の両用砲を搭載する彼女らにとっては亜音速とはいえ、『カミカゼ』程の数ではないミサイルなど対空射撃の標的程度に過ぎなかったのだ。

 

 

「そ、そんな…どうして…」

 

「私タチガ『みさいる』ヲ知ラナイトデモ思ッタ?

現代ノ装備ハ積ンデイナイケド対策グライ練ッテアルシ、現代ノ知識ハアルンダヨ」

 

「コレデ切札ハオワリカ、茶番ニツキアッテ損シタゼ…」

 

「恨ミハナイト言ッタガ、オマエミタイナ『無能な指揮官』ヲ見テタラいらいらシテキタゼ」

 

「所詮オマエラ人間ハ『ふね』ヲ沈メルンダ。憎マレ苦シミ、ソシテ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…シネ」

 

 

 

 

深海棲艦が話し終えると猛烈な攻撃が神通たちを襲った。

小破や中破だった艦娘は一気に大破し、大破していた神通たちは言葉も発せないほどのダメージを受ける。

 

 

「…司れいか…た、助け…」

 

 

ただでさえ連戦の被害があった彼女らは

目を背けたくなるほどに一方的な攻撃を受け、浮かんでいるのが不思議なぐらいに構造物や砲塔を破壊され尽くされる。

 

 

「や、やめてくれ…」

 

「…ヤダネ」

 

「やめてくれえェーーッ!!」

 

 

 

ーーー俺の情けない叫び声は深海棲艦の砲撃音にかき消された。

 

 

 




現代兵器は効果的でないのかも?
ヘリが撃った『ヘルファイアⅡ』は対戦車ミサイルであり、水上艦にはあまり効かなかったようです。
護衛艦から放たれたハープーン等の対艦ミサイルは有効なのですが速度がやや遅く(それでも亜音速)、斉射(サルボーといいます)出来ても二隻では多勢に無勢といったところでしょう。

大戦時のアメちゃんの艦艇は基本的にチートですよ!
お前軽巡じゃないだろって位大砲積んでて防空巡洋艦と言って過言ではないですし、駆逐艦も『秋月』が見劣りしそうなレベルですし…。

●今話について
深海棲艦と会話できるのね…汗
無線使って話しかけて(?)来るし世界観もリアルもあったものではありませんね、すいませぬ。

世界観についてどこかである程度説明致しますので、今しばらくお待ちください。

『嫁がボコスカやられてるんだが…怒』
ヘイトといった意図はありません、もし軍艦対軍艦の戦いがあればこうなるだろうと愚策しましたら、軽巡であっても勝てないこともあるのではないかと思い至りました。

好きなキャラが傷付くのが嫌だ、こういった描写が苦手な方は『残虐な表現』を再認識願います。
悲しいけどこれ、戦争なのよね…。

●次回以降について
もうダメですね、撃沈待った無し。
ひょっこり現れた陰が薄い切札の護衛艦(私も普通に忘れていました…)のミサイルも迎撃され、タコ殴りのパターンに入っています。

哨戒ヘリ、護衛艦と続いた現代兵器。
打ち出の小槌の様には行かないのが戦争。
あと一歩、いやあと一手あれば彼女たちは
助かるのかもしれませんが…。

ミサイルは有効だが少数では迎撃される。
では、それが飽和攻撃なら……?


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1-8 初ドロップ 戦闘終了

タイトルの通り遂にドロップ艦ッ!
海自に存在する自衛艦以外で初の艦娘(とその船体)に全世界が興奮…するかも?

ついでに最後、阿武隈に主人公がやらかします。


ーーー俺の情けない叫び声は

深海棲艦の砲撃音にかき消された。

 

 

…かき消された原因は敵の砲撃音だったと思った。

だが違うようだ。

 

 

神通たちを沈めんとしていた深海棲艦は未だ地獄への業火を放つでもなく、ただ『空』を見ていた。

 

 

「ナ、ナンダ?!」

 

「マズイッ…?!」

 

 

空が割れるかのような聞き慣れぬ轟音が戦場を支配する。

 

 

「あれは…死兆星、いや流れ星…かい?」

 

「バッカじゃ…ないの、よく見なさ…いよ」

 

 

響と曙が精一杯の声を出す。

 

 

南の空から向かってくる流星、

それは紛れもなく味方の放った

サジタリウスの矢であった。

 

 

「ミサイルの飽和攻撃を

喰らいやがれェッー!!」

 

哨戒機部隊指揮官の声とともにミサイル群はその全貌を表す。

 

大破して停止する神通を掠めるように

通過した後、ポップアップして深海棲艦に殺到した。

 

当然深海棲艦側も突如現れた対艦ミサイルに反撃をする。

 

フラヘ級やフラハ級からどこにそんなに隠していたのかと思う程の対空砲火が直上へと放たれる。

 

弾薬と燃料を搭載し硫黄島の基地を飛び立った哨戒機から1機当たり4発、

合計40発もの対艦ミサイルが発射された。

 

先ほどのように対空砲火で撃破されるもの、うまくロックオンが出来なかったのか照準が外れて海に落ちるものも少なからずでた。

 

それでも23発が生き残り、深海棲艦の上部構造物に突入した。

 

フラヘ級は大破炎上、他の駆逐艦も沈み始めており沈むのも時間の問題だろう。

 

 

「助かった、のか…?」

 

ほっとできた訳じゃない。

ただ敵の攻撃が終わった、その程度

しか認識できなかった。

 

「どうにか…皆さんを守れました、ね…」

 

辛そうに話す神通の声を聞き安堵したのも束の間、俺はすぐに怒鳴り散らす。

 

 

「神通オマエ何考えてんだっ!!

お前は自分の事をもっと大切にしろ!

さっきの作戦は俺のミスでどうしようもなかった、確かに神通が来てくれなかったら危なかった…。

でもそれでお前が沈んだらどうするんだよ!

もし他の娘も沈められてたらと思うと俺は死んでも死に切れない…!」

 

 

神通に怒鳴り散らすといってもこの結果になったのは俺の安易な考えが原因であり、あくまで彼女が危険な行為をした事に対して怒った。

 

「申し訳ありません…」

 

神通が辛そうに謝る。

そんな声を聞いたら俺が一番辛い。

 

「すまん、つい怒鳴っちまった…。

本当に謝らなくちゃいけないのは俺だよ、

提督になっていい気になってた。

 

この夜戦に入る前だって『俺は実戦に向いてる』なんて思い込んで皮算用な作戦を立ててみんなを危険な目に合わせたんだ…。

 

神通が駆けつけてくれなきゃ春雨や曙に電そして響の誰かが、いや4人とも沈んでいたかもしれない。

 

哨戒機がもし間に合わなかったら神通が沈んでいたかもしれない。

 

ブラック鎮守府とかそんなもんじゃない、

俺は提督、いや自衛官失格だよ…」

 

「「提督…」」

 

黒煙を上げる深海棲艦を見つめながら

生温い溜息を吐く。

 

 

「101護隊司令、こちら哨戒機隊指揮官のケンタウロス1!!

敵艦は完全に沈黙しました。

海幕から艦隊を再編成後父島に向かうようにとの事!」

 

「…こちら菊池3佐了解です。

ご支援ありがとうございました、

父島入港まで上空援護をお願いします…」

 

深海棲艦にとどめを刺した哨戒機部隊にお礼を言い、淡々と再編成を行う。

 

 

阿武隈の近くに集まった他の艦を見て目頭と胸に来るものがあった。

 

無傷な艦は蒼龍のみで、他はダメージを負っているのは素人が見ても明らかだった。

 

神通や春雨たちは大破と言って過言ではないし神通に至っては沈んでいないのがが不思議なぐらいの損傷だ。

 

 

艦これなら敵を殲滅し勝利と判定されるだろうが、現実ではこんな勝利は嬉しくなんてない。

 

「さっきはダメかと思ったんだから~ 、

ねー提督?」

 

横の阿武隈がずっと黙っている俺を気遣ってか話しかけてくれるが、

その優しさがむしろ心を痛ませる。

 

「提督っ、修理ってどれぐらいかかるのかなぁ?」

 

「それについては民間の造船所や町工場から技術者を集めて優先してくれるみたいです。

さすがに『ゲーム』のように数時間では無理でしょうが、可能な限り早くしてくれると聞きました」

 

阿武隈の疑問に秋月が答え、他の艦娘の質問もわかる者が答えてしまい俺の出る幕は無い。

 

 

「……提督」

 

 

これが、戦争か。

負けたら生きた心地はしないし勝っても損害が多ければ嬉しくなんて無い。

一歩間違えたら誰か沈んでいた。

 

『艦これ』は所詮ゲームだ。

損害が出ても入居すれば元通りだし中破したらエッチな絵が見れる。

 

 

だが現実はゲームではない。

被害を受けると服が破けるのは変わらないみたいだがそれを見て嬉しいとか劣情はちっとも湧かない。

湧くのは悔しさと申し訳なさ。

 

 

「ねぇ提督?」

 

 

出港まであんなに整備した艦隊は

誰が見ても惨敗したと思うほどの被害とダメージ。

こんな戦いをずっと見ると思うと提督なんて辞めたくなる。

 

「俺が…不甲斐ないばかりに…」

 

「ねー提督ってばっ!!」

 

「うおっ?!どうした阿武隈?」

 

 

気が付けば横に阿武隈がおり頬をぷくっと膨らませおり怒っているようだ。

 

「それはこっちのセリフ!

さっきからボーッとして心配させないでね!!」

 

「おぅ、すまん…」

 

 

戦闘指揮はからっきしで戦闘後も

迷惑掛けっぱなしな指揮官とか更迭もいいところだな。

 

「『提督』失格だな、これは…」

 

「「…え?」」

 

俺の一言に艦隊の空気が凍りつく。

 

「司令はん、いきなり何言っとるん?!」

 

「だってこの有様だぜ?

『こうなるはずだ』って作戦でお前たちを傷付けてしまったし、挙句には沈没させかけた。

初戦からこれじゃあみんなだって嫌だろ。

 

調子に乗ってケッコンだとか愛してるだなんて言って悪かったな…。

謝って済むことじゃないのは百も承知だ、だが本当に申し訳ない…」

 

<パチーン!>

 

「ぐっ…!!」

 

「…ふざけないでっ!!」

 

突如阿武隈に頬を叩かれる。

 

「そうだよな、謝っても意味は無いよな…」

 

「そんなことはどうでもいいの!

アタシは提督が憎いなんてこれっぽっちも、みんな思ってない。

たった一度失敗したぐらいで思い詰めないで。

誰もそんな言葉を期待してないわ!

 

『よくやった』『大丈夫か』『痛くないか』そういった事を言って欲しいの!

アタシたちは仮にも軍艦、被害を受けるのはわかってるし、失敗だってするもの。

それに…提督が思い詰めている姿、見てるこっちが辛いんだからっ!!」

 

「えっ…?」

 

罵声を受けると覚悟していた俺は

思わずキョトンとしてしまう。

 

「全くです!

司令は重く考え過ぎです。

 

実は照月に出港前が、『提督はネガティブなところがあるから支えてあげて欲しい』と言っていたんです。

 

普段はおちゃらけているけど深く考え込んでしまうところがあってそのギャップがキュンと来るとも聞いています!

私も司令が考えに耽る姿が見てみたいですっ!!」

 

おい秋月、キャラが崩壊しているぞ。

 

「…oh」

 

こんな俺でも慕ってくれるみんな優しいな。

 

「君は父島で言っていたな。

『大和魂』、複数の女性を愛しつつ幸せにすると」

 

いや言ってねーし?!?!

てか意味知らなかったって言ったやん?!

日向師匠は爆弾を投下しないで!!

 

「やっぱりクソ提督じゃない!!」

 

「いや待て!誤解だ!

確かに俺はみんなが好きだがそんな

貞操の無い男じゃないぞ!!」

 

「えー夜戦前のセリフは嘘だったのー?

えーんえーん(棒)」

 

「蒼龍は嘘泣きを止めんかい。

まあ俺も結婚はしたいけど幸せには個人差があるし…」

 

「ちなみにですが横須賀に帰ったら村雨を始めとした皆さんが待ち構えていますので司令官は頑張ってくださいね。

父島で撮った水着の集合写真を艦娘ラインに載せたらかなりカンカンなようですよ~?」

 

「おい春雨、なに勝手に送ってんだYO?!

俺が殺されてもいいのか?!」

 

「司令官はどうせ不死身だから大丈夫さ、問題無い。」

 

「響ィ…何気にお前が一番酷いし、

それは死亡フラグだ…」

 

「「あはははは!!」」

 

 

艦隊の士気は以外にも悪くない。

被害は甚大なもののみんなよくやってくれたし、俺のことも嫌いになってなかった。

 

だが俺は猛勉強をしなくてはならないな!

無傷で完全勝利は難しいだろうが、艦娘を傷付けない戦いをする為に。

こんなに俺を慕ってくれる彼女たちの悲しい顔を見ない為に。

やはり提督として頑張ってみたい。

 

 

「あ~、みんなにお願いなんだが

帰っても『ケッコン』とか『愛してる』ってのはバラさないで欲しい。

時機が来て俺の心の整理がついたらちゃんと話すから、あんまり広めないでな?」

 

「「え~なんで~?!」」

 

「ホラ、軽く言うと本当なのかわからないだろ?

こういうのはムードとか場面とかあるし、有り難みも無くなっちゃうしさ」

 

艦娘は渋々了解し、夜の大告白劇はしばらく御蔵入りとなった。

 

だが日向が酒の席でポロリと話してしまい『大和魂』伝説が生まれるのは

そう遠くない未来。

 

 

 

「深海棲艦も倒せたようだな…」

 

炎上していたエリハ級が波間に消え、エリへ級も沈みそうなのを見てやっと安堵の表情になる。

 

 

「数は少なくとも流石はフラグシップってところか。

被害もそうだが、連戦じゃあ疲労も溜まっているな…」

 

「ゴフッ…ケッコウ、ヤルンダネ…」

 

「おいィ?!まだ生きとったんかワレェ?!?!」

 

 

倒したと思っていたフラへ級がいきなり話しかけてきたため動転した。

だが声のトーンに先ほどの様な不気味さは無く、むしろ安らぎを覚えるほどの優しい声だった。

 

「安心シテイイヨ、モウ攻撃出来ナイシスルツモリモナイカラ…」

 

フラへはそう言うと沈み始めた。

それと同時に骨折してずっと痛んでいた肩から痛みが無くなった…気がする。

敵が完全に居なくなり安堵したのだろうか?

 

 

「…司令官さん、誰と話しているのですか?」

 

 

阿武隈や他の艦娘たちはフラへ級の声は聞こえていなかったようで、戦闘から解放され疲れが出たのだろうと勝手に推測した。

 

 

 

……

 

 

護衛艦が艦隊に合流し父島へと向かっていると、突如海上の視界が急激に悪くなってきた。

 

霧が出てきて航行しようにも、衝突の恐れがあるためスピードが出せない。

 

艦隊は人が早歩きする位の速力で進む。

視界ゼロ、見張りも単調となれば戦闘の疲れも出て来るわけで…

 

 

「疲れも出てきたし、小休止しようか。

被害の酷い艦娘から1時間ずつ、

警戒担当艦隊は厳となせ!」

 

「「了解!!」」

 

 

艦隊の疲労はピークに達していた。

休んだところで父島まで2時間もかからないのだが、軽く仮眠でも取らせてあげたい。

 

休息を取る艦娘のフネは妖精が交代で運航し、ゆっくりと航行させているから非常時の即応は問題無い。

 

 

「ふあぁぁ…悪ぃ、俺もちっと休ませてもらう…」

 

「うん!いってらっしゃい提督!」

 

「取り敢えず俺の固縛を解いてくれ。

動きたくても動けん、肩も痛みは無いから1人で部屋まで行けるよ」

 

阿武隈が嫌な顔もせず笑顔で答えてくれる。

ええ娘や、ケッコンしよう。

いやほんとに阿武隈ええ娘や…。

 

 

司令椅子に簀巻きされていた俺は解放され、身も心も軽くなって司令官室へと向かう。

 

「ちょっと横になるか…」

 

司令官室のベッドに倒れこんだ俺は

すぐに夢の世界に飛び立つ。

 

 

……

 

 

村雨との出会いから先ほどの戦闘までが走馬灯のように夢に出てくる。

 

友人に聞いた話だが夢を見るというのは睡眠が浅いかららしい。

 

『もし生きて…いられる…のであれば…小さな店を、開きたかっ…たで……す…』

 

鳳翔の寂しそうな笑顔が思い出される。

涙を浮かべ消えていった彼女はどうなってしまったのだろう。

 

また、会えるかな…?

 

 

<ビーッ!ビーッ!ビーッ!>

 

 

「うおっ?!新手か?!」

 

 

非常事態を告げるアラームで飛び起き、時計を見れば小休止から1時間50分過ぎていた。

 

「アブゥどうしたっ!!」

 

「敵味方不明だけど昔のタイプの軽空母と軽巡が各1隻、真艦首500メートルにいきなり表れたのっ!!」

 

「敵の射程内ってレベルじゃねーぞ?!」

 

正面には少し霧がかかっているが、

確かに軽空母と軽巡らしい艦影が見える。

 

 

「発砲してこないのか?」

 

「うんなんだか様子が変だし、霧で確信は持てないけど軽巡は日本の型に似てて…」

 

俺も艦型に詳しく無いがさっきの深海棲艦とも違う、何処と無く見たことあるような形だ。

その片方軽巡の煙突は4本。

同じ4本煙突を持つ米軍のオマハ級軽巡とは異なる艦橋、日本の川内型に似ているような…?

 

 

「…ところで提督、肩の怪我大丈夫なの?」

 

「あ、そういや骨折してたな…」

 

 

痛みどころか肩も普通に動くし、

俺人間辞めてたりするんじゃね?

 

「そういえばアタシ的にも霧が出たぐらいから疲れが取れた気がする」

 

「霧を抜けるとそこはフネの墓場か天国だった…とか?」

 

「縁起でも無いこと言わないでよ?!」

 

 

阿武隈とコントをやっていると

軽空母らしいフネから発光信号が送られてくる。

 

 

『我軽空母鳳翔、貴艦らの指揮官にお会いしたい』

 

 

「えっ、なんで鳳翔さんが?!」

 

「深海棲艦のワナなんじゃ?!」

 

騒めく艦隊に俺が一言。

 

「あ、そーいや鳳翔と会ったって言ってなかったっけ?」

 

「聞いてないわよ?!

なんでそういう大事なこと言わないの?!」

 

「アレだ、死にかけてる時に会ったんだけど助かってから色々慌ただしかったから言い忘れてた…すっかり」

 

「で提督、君はどうしたいんだい?」

 

「そうだな、阿武隈の内火艇を出そう。

艦娘は全員乗合で向かう、妖精にフネの運航と一応砲雷撃戦の用意をさせておこう。

上空は哨戒機に援護してもらう」

 

 

とはいえ本当にあれが深海棲艦じゃないとは確信が持てない。

鳳翔が俺を覚えているか確認も兼ねて

返答を探照灯で送る。

 

『こちら日本国海上自衛隊、指揮官の菊池3佐。差し支え無ければ内火艇を出す。

もし俺を覚えていれば返答お願いする』

 

 

『覚えていますよ。

今度はちゃんと私自身のフネですから

安心してお越しください。

もう沈みませんよ』

 

 

「はは、嬉しいけど複雑だな」

 

鳳翔の返答に苦笑いしながら内火艇に

乗り込む準備をする。

 

「今度はどこにも行かないでね!!」

 

「もう大丈夫だって、ついでに肩の調子も良いし」

 

 

これは『ドロップ』というやつなのか。

霧が出てきたのはその前兆か?

 

艦娘の疲労が和らいだり、肩がほぼ治った様子なのもその副作用なのかもしれない。

 

『リアル艦これ』の闇は深い…。

 

これ現実なんだけどな、う~ん…。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

鳳翔飛行甲板

 

 

「よっ、また会えたね」

 

「またお会いできて嬉しいです、提督」

 

?「ヤッホー!艦隊のアイドル…」

 

妖精に飛行甲板へ案内されるとそこには鳳翔ともう一人艦娘がいた。

 

「あら、制服でお越し頂くなんて嬉しいですね」

 

第1種夏服を持ってきてもらい内火艇で艦娘にキャーキャー言われながら着替えたのは決して鳳翔に格好良く思われたいなんて下心は無い、ない。

 

「え、さらに格好良くなったって?

いやぁ嬉しいなぁ~!!」

 

「いや、そこまで鳳翔さん言ってないし…」

 

「なんやこの夫婦漫才…」

 

2人の話に他の艦娘が入ってくるが

気にしないきにしない。

 

「おかえり、日本に『還ろう』鳳翔」

 

「はい是非」

 

「そして横須賀で小さな店を開こう」

 

「はい是非」

 

「「…ん?」」

 

「子供は多い方がいいよな~」

 

「はい是非」

 

「「おいちょっとまて」」

 

「こんなうるさい娘が沢山いるけどいいかな?」

 

「みんな可愛い娘みたいなものですから」

 

「「さっきから雰囲気おかしくない?!?!」」

 

「「別に?」」

 

「なんだか息ぴったりですね?!」

 

「どうした阿武隈、褒めても髪ワシャワシャするだけだぞ?」

 

「だからやめてよ?!

ていうか褒めて無いしっ!!」

 

?「か、艦隊のア…」

 

「鳳翔さーん!!」

 

鳳翔の胸に蒼龍が飛び込む。

 

「あら蒼龍ちゃん、元気そうでなにより。

ミッドウェーの出撃以来ね、みんな元気にしてる?」

 

「はい!空母で言えば加賀さんも元気ですし雲龍や飛鷹さん、千代田もです!

まあ千代田は私がミッドウェーで沈んだから軽空母になっただけですけど。

あと、他にも他にも…!」

 

 

日本空母のお艦とも言える鳳翔に会えて艦娘も嬉しそうでなによりだ。

 

 

?「あの~…」

 

「久しぶりだね鳳翔。」

 

「響ちゃんも元気そうね、お洋服が破れちゃってるけど怪我は無い?」

 

?「ねぇちょっと〜…?」

 

 

終戦組である響と鳳翔の会話は何気ない親子のそれに見えるが、戦争を生き延び賠償艦と解体という別れを知っている者にとっては感動無しには居られまい。

この感動の場面に水を差す者がいるとすれば、そいつはお尻ペンペンだな。

 

現代艦娘と鳳翔+1人の軽巡は再会を果たした。

恐らくこれが『ドロップ』というものなのだろう。

 

艦娘の記憶は沈没・解体時のままだが

彼女たちをこの世に復活させるという大義も無事果たせそうだ。

 

姉妹艦に会いたい艦娘も多い。

気が遠くなるほどの年月と苦労が掛かろうとも、まだ見ぬ全員と邂逅したい。

 

 

?「ちょっと~、聞いてるぅ~?」

 

 

そういえば敵の地図では南鳥島にマークがしてあった。

ということは今後あちらも戦場になるのか?もしかしたら今回以上の激戦になるかもしれんな…。

 

 

?「ねえったら~!!」

 

「…ん、誰だ?」

 

おっと気が付けば横で俺を呼ぶ声が。

 

「ん~…どちら様?」

 

「おっはようございま~す!!

水雷戦隊の指揮と地本巡業ならお任せ!

ハブられてもセンターは譲らないっ!

那珂ちゃんだよ~、よっろしくぅ~!

!」

 

「……」

 

「あれぇ~、那珂ちゃんの可愛さに

言葉も出ないのかな~?!」

 

 

近くにいた神通と顔を見合わせる。

 

 

 

「「…解体だな(ですね)」」

 

「え"…」

 

「なんだかすみません、根は良い子なんです…」

 

「ちょっと待って?!

なんで感動の再会をして早々に解体されることになるの?!」

 

「だってめんどくさそうだし…」

 

「酷っ?!?!」

 

「こんな妹いたかしら…?」

 

「もっと酷っ?!?!?!」

 

 

初っ端からいじられ仰天する那珂に

我慢しきれずみな吹き出す。

 

「…クスッ、冗談よ。

それにしてもまた会えてよかったわ那珂ちゃん…!」

 

「神通ちゃん…寂しかったよぉ~!!」

 

言うなれば姉妹愛という言葉がぴったり2人が抱き合う光景に、思わずうるりと来る。

 

「ところで川内ちゃんは?!」

 

「姉さんも元気よ。那珂ちゃんに会いたがっていたわ。

相変わらず夜戦のことばっかりで

昔と変わっていないわよ」

 

「そうなんだ~!

…って神通ちゃんすごい格好だよ!

ほとんど裸になってる?!」

 

そう、敢えてさっきから言わなかったが

損傷を受けた艦娘はその服装もエライことになっている。

 

損傷の原因が俺じゃなかったら間違いなく興奮して襲っていたところだ。

 

ポロリが無いのが残念、だが恥じらう艦娘の姿もなかなか悪くない。

↑待ちなさい

 

「…ところで、さっき夜戦で敵の軽巡に手酷くやられたの。

もしかして、さっきの軽巡って…」

 

「知らないよ?!?!

那珂ちゃんはさっき目が覚めて記憶は沈んだ時から変わってないし!」

 

目を細め戦闘モードになった神通に

那珂の本能が危険だと判断したのか、

必死に全力否定する那珂。

 

「そっ、ならいいわ…」

 

「「(…危なかった~)」」

 

せっかくの感動の再会が残忍な復讐劇になるところだったぞ。

 

「ところで神通ちゃん、この人は?

見たところ帝国海軍の人みたいだけど

服装が違うよね?」

 

「おう、自己紹介がまだだったな。

俺は菊池、帝国海軍の後継組織の海上自衛隊という組織で提督をしている。

那珂ちゃんのことは(ゲームとかで)日本のみんなが知ってるよ。

本土に帰ってカルチャーギャップはあると思うが心配はいらないよ」

 

(ねぇ神通ちゃん…)ヒソヒソ

(なあに?)

(この提督、結構イケてるね)

(艦娘はみんな好きよ…)

(えっ?!そうなの?)

(ええ、それに…)

 

「お~い、何か問題でもあったか?」

 

「「いいえまったく!!」」

 

なんでぇ2人して内緒話しちゃって…。

あ、カルチャーギャップって言葉がわからなかったのかな?

↑違うそうじゃない

 

 

「とりあえずみんな自分のフネに戻って父島に帰投しよう。

鳳翔と那珂ちゃんは事態が読み込めてないかもしれないけど、詳しいことは後で話すから艦隊に合流してくれ。

よしっ、全員解散っ!」

 

「「了解っ!!」」

 

 

 

※※※※

阿武隈艦内

 

 

「…みんなよくやってくれたよ。

阿武隈もさっきはありがとな、

お前に叱られて目が覚めたよ。

俺は現実から目を背けようとしていた、艦娘を傷付けたという事実から逃げたかっただけなんだ。

 

本当に見つめるのはそこからどう活路を求めどう実践するかということ。

戦争ってのは必ず犠牲が出る。

それをどう最低限に留めどう最良の結果にするという単純なことを失念していたよ」

 

「ううんアタシこそ叩いたりしてごめんなさい。痛かったよね…」

 

阿武隈に戻って俺はまず彼女に感謝した。

思うに心が優し過ぎたのかもしれない。

彼女たちが傷付くのを目の当たりにして気が動転し、彼女たちを余計危険な目に合わせてしまった。

 

決して艦娘に対して非情にすべきだとか言うわけではないが、もっと広い視点から物事を考えなくてはいけない。

 

「正直心が痛かった。

失敗の一言で済まされないのは分かってるけど、この作戦は失敗だった。

航空支援を待つ、艦隊を分けるべきじゃなかった、反省点は多々あるけど

まずは俺の覚悟不足かな」

 

「また自分を責めて…!」

 

「いや、もう言わないさ。

ここで言うことじゃないし、言ったところで終わりは無いだろうしな。

でもありがとう阿武隈。

さっきのお前は輝いてたぞ」

 

彼女の頭を強めに、だが髪を乱さないよう優しく撫でる。

 

「えへへ~」

 

「まだ俺自身何が出来て何が最善なのかよくわからないけど、お前たちを幸せにしてみせる。

例え世界が滅びてもお前たちだけは絶対に誰も沈ませない、これだけは約束する」

 

我ながら矛盾したことを言ったがこれが個人としての最大の約束だ。

日本を、世界を守る使命があるのはわかってる。

だが彼女たちを沈める事だけはしないしさせるものか。

 

こんなに慕ってくれる可愛い艦娘を沈めるくらいならこの身に代えてでも守ってみせる。

 

「嬉しいけど流石に世界が滅びたらダメじゃない…?」

 

阿武隈の苦笑いにつられ2人して微妙な笑いをする。

 

「まぁな…。あくまで個人的な意見であって日本政府や防衛省の見解ではありませーん、戦闘時の注意事項をよく読み戦法戦術を正しくお守りくださーい」

 

「テキトーに誤魔化してもダメだって!」

 

(でも嬉しい。

こんなにアタシたちの事を想ってくれているなんて。

提督ならきっとこれからも大丈夫かな…)

 

「ついでと言っちゃなんだが、

これはお礼のキスだ」

 

<チュッ…>

 

「えっ…」

 

(アタシ提督からキスされちゃった?)

 

「あ"ーっ!

私へのご褒美はまだなのに〜!

こンのクソ提督ッ!!」

 

「げっ、無線切り忘れてた?!」

 

「無線切って『ナニ』しようとしてたのよー?!?!」

 

満身創痍にも関わらず最大戦速で近接する曙。

 

「『ナニ』しようと俺の勝手だろ?

てかお前機関部壊れんぞ?!」

 

「うっさい死ね!」

 

「阿武隈逃げるぞッ!!

アイツマジで突っ込んで来やがる!」

 

「なんでアタシこんな役ばっかりなの〜っ?!」

 

 

…………

 

 

普段のテンションでドタバタを繰り広げる長閑な光景に笑い声が南の海に木霊する。

 

初戦は辛勝。

艦隊は大損害を負い、提督は自らを責め自信を失いかけるが本当に艦娘の為になる事を見出し強くなる決意をする。

 

ドロップという艦娘に会える方法も見つかり、深海棲艦との戦いに意義が生まれたかにみえた。

 

しかし放たれた戦火はまだ導火線に点火したばかりだ。

 

 

 

 

ここは小笠原諸島、その中の一つ南鳥島に訪れる運命をまだ人類は誰も知る由も無い…。

 




阿武隈にもキスしてしまった…orz
でも男なら普通あそこでしますよね?
↑しません

艦娘を傷付けメンタルダウンしかける主人公でしたが、阿武隈の喝もあり気合を入れ直しました。
本当は初戦はもう少し緩めの戦闘にしようと思っていたのですが、戦争は甘くないことを認識させるため艦娘が傷付く描写にしました。

次からは本格的に『南鳥島』をめぐって人間と深海棲艦との激戦が繰り広げられる予定です。
ここからはストックもなくプロットも作りながらな為、亀さん投稿になるやもしれません。

自分で『小笠原諸島防衛戦』と名付けていながら流れはかなり微妙になりそうな気がして来ました…。
筋を通しつつ書きたい物を仕上げていく所存です。
ここで第1章の前半が終わったことを宣言します。
後半は6隻編成の制限をこれまで通り無視しつつ、大艦隊を運用し深海棲艦から『南鳥島』で戦っていきます。
守り切るとは言わないのがミソなのです…。


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1-9 日本のトップと 【首相官邸】

本土へと帰還した主人公たち。
損傷艦の修理や戦闘詳報と忙しくあまり艦娘と話す時間も取れない。
そんな中閣僚会議という日本のトップが集う会議に出席する事になる。

その夜村雨が部屋を訪れるが…。



横須賀基地某所

第101護衛隊司令部事務所

 

「…にしてもあの『クソ幕僚』が裏にいたとはなぁ」

 

「私もツテで探りを入れたが単純に君に恨みがあったようだね」

 

 

ここのところ影が薄かった警務隊長が相変わらず変な笑みを浮かべる。

 

基地内に臨時に作った豪華なプレハブ小屋が俺たちの『鎮守府』だ。

 

司令室とは名ばかりのむさ苦しい小屋に陰気なおっさんと俺から出る熱気が篭る。

クーラーは支援攻撃を上空から行なっているものの、夏の熱気には敵わず苦戦している様だ。

 

「暑っつ〜…アッツ島並みに暑ぃ」

 

「アッツ島は北方だろう。

因みにアッツ島は占領後熱田島という名称に…」

 

あー、無視しとこ。

 

 

……

 

 

父島で補給した後、

艦隊は横須賀に帰投した。

 

本土に帰ると残っていた艦娘にどやされたり自衛隊病院やら防衛省に調査を受けたりと散々な目に遭ったが、それ以上に世界情勢は悪化の一途をたどっていた。

 

数日出港している内に嫌なニュースが起こりテレビや新聞で報道されていた。

 

 

まず俺が深海棲艦に立入検査と称して乗り込んだこと。

 

なんと以前更迭された海幕の『装備計画部長』が腹心の手下に俺を消させようと企んでいたことが判明した。

 

なんでも俺の様なペーペーの若造3佐に人生を滅茶苦茶にされたのが理由らしい。

 

「コイツ死刑になんないんですかね?」

 

「主な容疑は職権乱用だから無理だよ」

 

「これ間接的とはいえ誅殺と同じだろ…」

 

「いやそれは結果論になるね」

 

結果的に防衛省・自衛隊内に巣食っていた一味は綺麗に掃除され、まともな人事へと刷新された。

俺は死にかけたけどな!なっ!!

 

とにかくコイツとその愉快な仲間たちが消えたおかげで装備と艤装の要望や予算の要求がスムーズになるのはありがたかった。

 

艦娘の船体を含めた護衛艦等は優先的に改装や現代化改装を受けられる事に決まった。

 

 

「…んで、パナマ運河は破壊されてしまったと」

 

 

ここからが世界情勢。

まずアメリカ大陸の生命線であるパナマ運河が深海棲艦の大艦隊により破壊されてしまったのだ。

何処の仮想戦記かと思ったが本当らしい。

 

米軍はもとより中米諸国の海軍は有事態勢を取っていたがそれを上回る兵力で押し寄せた深海棲艦は、多国籍警備艦隊や航空部隊を蹴散らした勢いでパナマ運河破壊へと突き進んだ。

 

太平洋側から黒い津波が押し寄せたのだ。

 

軽空母や重巡が砲爆撃を閘門に加える。

その目標となった太平洋側の『ミラフローレス閘門』はその黒い津波に耐えられなかった。

 

閘門は跡形もなく破壊されて濁流に飲み込まれた。

航行していたタンカーは模型の様に波にのまれ積載していた原油が濁流に抗うかの様にその存在を海面に主張する。

これから運河を通ろうとしていた貨物船は艦載機からの爆雷撃により、その大きい図体に似合わない呆気ない最期を迎える。

 

帰りがけのオマケと言わんばかりに運河の太平洋側に架かる橋、『アメリカ橋』が落とされ住民は世界の終わりだと嘆くしか無かった。

 

 

「これマズイですよねかなり」

 

「君の頭でもそう認識出来るくらいだ、

日本の終わりと言っても過言ではないな」

 

このニュースは国内のテレビ局が全て特番で繰り返し報道しており、バカな俺でも危機感ぐらいは抱く。

 

俺はチャンネルをピコピコと替え、あるキャスターの『物価が凄い上昇しそうですね』という平和ボケな言葉を聞き電源を切る。

 

 

「どうした?見たい番組が無かったのかね?」

 

「いちいち茶化すの止めてもらえません?

てか『南鳥島』はどうなってんですす、どうせ知ってるんですよね」

 

「……それは俺から言わせてもらうぞ」

 

 

唐突に司令室にガラガラと引き戸を開け入ってきたのは村上だった。

 

「あれお前誰だっけ?」

 

「さっきも一緒に朝飯を食っただろうが、下らんボケは止めろ。

…南鳥島については防衛強化を図り、護衛艦部隊による警戒は元より航空部隊の増強や陸空自の対空・対艦ミサイル部隊の配備といった流れになる」

 

「あぁ〜、そういやさっきテレビでそんなこと言ってたな!」

 

「…昨日自衛艦隊司令部でオペレーション(作戦会議)があって一緒に聞いただろ!」

 

「あぁ〜、そういや昨日なんかそんなこと言ってたな!」

 

「お前にはもうついて行けそうにない…」

 

「君たちは本当に仲がいいな、見てて飽きないよ」

 

「あ〜、やっぱわかります?」

 

「警務隊長、全然わかってないです…」

 

 

ボケて上機嫌な俺と、対照的に突っ込んでテンションダウンしている村上だったが、この関係は入隊から変わらない。

 

「提督、そろそろ昼食のお時間です。」

 

「おっ、加賀ナイスタイミング!

『秘書艦』の座を加賀にあげよう」

 

「自衛隊にそのような役職はありません。

今日は鳳翔さんが作る初の料理、早く行かないと失礼に当たります。」

 

「おっそうだったな!

じゃお二人ともまた後ほど」

 

 

司令室に音も無く入ってきたのは加賀。

そういや今日は鳳翔の初調理の日!

 

鳳翔は現代に慣れる事も兼ねて調理をしたいと言っていた。

 

 

『調理場はいつの時代も変わりません。

ここで色んな事を料理の他に学べますし、

この時代の料理も作ってみたいですから』

 

店を開くのはまだまだかかりそうだし

彼女の船体現代化改装も早くても一ヶ月はかかる。

 

彼女の夢である『店』とは部内に設けられる隊内クラブという基地内の居酒屋みたいなものだ。

 

 

「メニューは何だ?」

 

「カレーです。」

 

「おっしゃ!帰ってきてから初カレー!」

 

「提督は子供なのですか…。」

 

食堂に入るとカレーの香りが鼻腔を刺激する、同時に唾液が分泌される。

 

鳳翔カレーは本当に美味しかった。

 

和風テイストで出汁や醤油の風味が鼻に入ってきて、味はやや甘めの食べやすく懐かしい味。

 

小さめに切られた野菜は駆逐艦にも食べやすく、食べる方の事を思って作ったのがよくわかる。

 

 

「おーい!鳳翔も一緒に食べようぜ、これめっちゃ美味しい!」

 

「うふふ、ありがとうございます」

 

「流石です鳳翔さん。」

 

「褒めても何も出ないわよ加賀?」

 

嬉しそうにする鳳翔、笑顔が眩しい。

 

「提督はこれから作戦会議にご出席ですか?」

 

「そ、村上に何故かまだ居る警務隊長でしょ、艦娘は村雨や加賀、金剛といった各艦種の代表艦娘も参集範囲。

作戦会議っつーか戦略会議だな。

 

今日は内閣府で閣僚会議があってそのついでにお呼ばれしてな。

 

シーレーンも危ないし国民の不安も無視出来ない、艦隊の運営も『ドロップ』によって大きく変わるだろうし深海棲艦のことも話題になるらしい」

 

 

横須賀帰投後、俺や艦娘は長い聞き取り調査を受けた。

深海棲艦が電波を使っているとか人間に恨みがあるといった情報は上層部に寝耳に水だった。

 

敵と会話したと言った途端『コイツおかしいんじゃね?』みたいな目で見られたが、通信ログを提出したため精神科送りは回避された。

 

これらの情報は政府から世界中に伝えられ、深海棲艦に苦戦する各国政府にとっては多くの犠牲と予算を費やして得られなかったのに日本だけ何故というある種の嫉妬を生んだ。

 

とはいえ艦娘は傷付き、護衛艦等も損害を受け民間のドックに入渠している。

 

艦娘に傷らしい傷が無いのは幸いだった。

服が破けるのはゲームと変わらなかったが、痛みは感じるものの流血や身体の欠損は無いらしい。

 

もし被弾して腕がもげたりとか艦首を切断して艦娘の首が…みたいな日には迷わず拳銃で自殺する。

 

「ふぅ〜ご馳走様、コクがあって味わい深いな」

 

「特別な隠し味があるんですよ」

 

「へぇ今度教えてよ、じゃあ行ってくるわ」

 

 

鳳翔との会話もそこそこに席を立つ俺と加賀。

 

カレー皿をバケツに入ったブラシで洗い、

ベルトコンベアー式の洗浄機に置く。

 

 

「バス移動は嫌いじゃ無いけどあんまりなぁ…」

 

「提督はバスが苦手なのですか?」

 

「乗ればわかるさ乗れば」

 

「???」

 

 

だって今回もどーせ警務隊長がカラオケを用意して道中賑やかになるのは目に見えてる。

 

バスに行くと警務隊長と村上、艦娘は千代田、金剛、足柄、大淀、村雨、高波、秋月が俺と加賀を待っていた。

 

「菊池遅いぞ」

 

「悪ぃカレーが旨くてついな…」

 

「結構結構。腹が空いては戦は出来ぬと先人も言う、ただカレーには睡眠効果のあるスパイスが入っていて…」

 

「あ、そういう無駄知識はいいっす」

 

警務隊長の薀蓄をやんわりと拒否しバスを出発させる。

 

案の定カラオケセットが準備された車内は盛り上がった。

前回ほど騒がしく無く艦これ以外の曲が多く、艦娘が女の子らしくしているのはとても嬉しかった。

 

「えっ、加賀さんカラオケ行ったことないの?!」

 

「無いわ。」

 

「それはいけません、人生を損しています!」

 

「そ、そうかしら…?」

 

 

千代田の言葉に無いと言い切る加賀。

秋月の発言に動揺を見せる加賀。

 

秋月のは流石に言い過ぎだろうけど趣味や楽しみが多いに越したことはない。

 

「加賀が歌う『加賀岬』聞いてみたいなぁ」

 

「…何ですかそれ?」

 

「ゲームの中で加賀の持ち曲になってる歌だよ。

赤城を想った曲で、デデン!とインパクトがあって心へ静かに入ってくる俺も好きな曲さ」

 

「うるさいのか静かなのか把握しかねますが気になります。」

 

「今イヤホン持ってるからちょい待ち

…ほいよ左耳で聞いてみな」

 

「「ちょ提督何してるの?!」」

 

「はいはい外野は静かにしてようね〜。

ん、俺のイヤホン使うの嫌かな?」

 

「私が聞いていいのですか?

それにそれだと私が横に…」

 

あ、2人で座ると座席が狭くなるって遠慮してるのか。

↑違います

 

「構わんぜよ、横に座り給へ」

 

「で、ではお言葉に甘えて…。」

 

 

その時前方に一人座る村雨が寂しそうだと感じたが、気のせいかと思い気には留めなかった。

 

村雨(…提督のバカ)

 

 

…………

加賀サイド

 

 

加賀に後方の艦娘から嫉妬や名状しがたい怨念が向けられるが、彼女は提督の横に座るということに緊張していて全く気が付かない。

 

(嗚呼緊張する緊張する緊張する…。)

 

その感情を顔には出さないのは流石一航戦と言ったところか。

 

イヤホンからは『加賀岬』が繰り返し流れているが耳には全く入ってこない。

 

ふと気付けば横の提督はすやすやと寝息を立てており、後ろの艦娘たちはカラオケに一心不乱に熱中していた。

↑嫉妬からくるヤケ糞

 

 

彼の寝顔を見るのは初めてだ、恐らく艦娘の中でも。

 

思わず見惚れてぽーっとした顔になる。

 

 

阿武隈から聞いた話だが提督は戦闘後に酷く落ち込み提督失格だと言ったらしい。

自分の作戦のミスで艦娘が傷付き、沈める寸前に追いやった責任からだ。

その後は奮起して普段通りの姿を取り戻したが、私にはそれだけで嬉しかった。

 

艦娘に対するセクハラは相変わらずだが、

これまで以上に愛情を持って接しているのが鈍い私でもわかった。

 

 

普段はおちゃらけている提督だが、偶に見せる冷静さと勇敢さそして子供っぽさ。

 

どれが本当の彼なのか出会ってすぐには分からなかったが、全て提督の本当の姿なのだろう。

 

赤城さんを見つけるまで一緒に頑張ると言ってくれた提督。

村上3佐と噛み合わない会話をして困らせつつも2人して楽しんでいる提督。

艦娘の為に階級が上の人間に食ってかかる提督。

 

出会ってまだ長くはないが大戦中とは違った意味で濃く、かつ新鮮なものだったと思う。

 

 

「すぅ…すぅ…うぉっ?!」

 

「どっどどどどうしましたか提督?!?!」

 

「え、どうしたの?

まさか、加賀さんが提督に変な事を…?!」

 

「だっ誰が!私はしません。」

 

「ん〜、女湯で色んな意味で溺れる夢みてた」

 

「「最っ低(です。)〜!!」」

 

「んじゃもう一眠り…」

 

「丁度到着しました。」

 

「早ッ?!」

 

「提督が寝過ぎなだけです。」

 

 

こ、こんな一面もまあ有るわよね…

何だか頭痛がしてきたわ…。

 

 

※※※※

村上サイド

 

総理大臣官邸 1530i

 

「…以上のことから第101護衛隊の『群』への昇格を上申します!」

 

「防衛大臣から聞いてる、人員の拡大と組織運営上必要だ。

今年度臨時予算はもちろん来年度予算でも可決されるよう財務省としてもバックアップする」

 

財務大臣が気難しい顔はそのままに頷く。

 

「…海保については武装も強力ではありません、少なくとも大型巡視船に40ミリ機関砲搭載を進めてもらえればと」

 

「西海岸行きのシーレーンは変更せざるを得ないかと。

今は無理でしょうが小笠原諸島を通り南下、オーストラリアを経由し…」

 

 

(菊池は普段からこうやって真面目にしていればいいんだかな…)

 

ヤツは昔から変わっていない。

抜群とまではいかないが何事もセンスがあった。

軽々としている癖に的を得たコメント、

いつも意味不明なコントに巻き込まれるが気が付いたら悩み事が消えたり。

決して万人に好かれるタイプでは無いが最良の結果を出し、それを鼻にかけることなく飄々とする態度。

 

出会ってすぐはよく衝突や喧嘩もしたがいつしか掛け替えのない同期の仲間になっていた。

 

俺はそんなヤツに付いて行ってみたいと思うようになった。

こいつといたら退屈しなくてよさそうだ、艦娘とも会えたし『金剛』にはフラれはしたが会話も出来ている。

 

 

「次に外務大臣に要望なのですが…」

 

 

こうして良くも悪くも幹部として日本を動かす場面に立ち会えるとはな。

 

 

「ところでインフラ整備なのですが…」

 

「最後に…」

 

 

※※※※

 

 

「んん〜、やっぱお偉いさんとの話は

疲れるなぁ」

 

頭の上で手を組み伸ばすとポキポキと

身体から音が鳴る。

 

「なんで偉そうにする人といると緊張するのかしら?」

 

「いや実際偉いんだけどね?

村雨そういうこと言っちゃいけないぞー」

 

「それにしても総理大臣は頼りない人でしたネー。リーダーとはやはり提督のようにドッシリ構えていないとダメデース!」

 

「…確かにそうだな、総理は大臣を束ねるだけではいかん。

ましてや今は有事、もっと危機感を持つべきだ」

 

「金剛も村上もそう言うなって。

あの人は調整のプロだ、大臣や省庁が動いてくれればそれでいいんだ」

 

「むぅ…」

 

村上が納得いかなそうに押し黙る。

 

「取り敢えずメシにしよーぜ!

腹が減ったらセクハラは出来ぬって言うじゃん?」

 

「言いません。」

 

「流石一航戦、手強いな…」

 

「菊池も馬鹿やってないで早く行くぞ」

 

「ほいほーい」

 

 

気難しい話はおしまい。

夜の東京へと艦隊は繰り出す。

 

警務隊長は知り合いに会うとかで途中で別れ、予約してあったイタリア料理屋へと向かう。

 

「いらっしゃいませ、御注文は?」

 

「全員この『ホルムズの運ぶ海の恵み』のコースと赤ワインを」

 

「畏まりました」

 

「…なんだか高そうだけど大丈夫なの?」

 

「給料はたんまり貰ってるから今日ぐらい余裕だっての」

 

今日は艦娘と村上に奢る約束だ。

心配を掛けた代わりと思えば3等海佐様の給料からすれば安いものだ。

 

「ただし村上は半分だけな」

 

「俺も同額もらっているからな、感謝はしてやる」

 

「おぉ素直じゃないな〜」

 

「提督はケチなの?」

 

「いいのいいの、これぐらいが俺たちの丁度いい関係なんだからさ」

 

「うむ、ヘタに奢られても裏がありそうで気味が悪い」

 

「お前そこまで言うなよ…」

 

「「あはははは!!」」

 

 

楽しく食事をしているとテレビが緊急ニュースを流し始めた。

 

『…詳細は入ってきていませんがホルムズ海峡を出てペルシャ湾を航行していた〇〇商事が所有するタンカーが何者かの攻撃を受け爆発炎上、乗員は……』

 

 

「深海棲艦ってのは何処にでも現れやがるな…」

 

「護衛艦が出張っているがこれじゃあ効果は無いようだな」

 

平時なら驚くニュースだろうが最近では

世界各地で深海棲艦が跋扈する今日ではどの海域がホットスポットなのかという目安の一つに過ぎなくなっている。

 

とはいえ虚しさと無力さを感じざるを得ないのは皆同じだ。

 

「食べたら出るか…」

 

居た堪れず食べ終わると店を後にした。

 

一応防衛省に顔を出し緊急出港や出撃が無いのを確認し、宿泊先であるグランドヒル市ヶ谷にチェックインする。

 

これといったこともなく解散し、

あてがわれた部屋に入り風呂を済ませベッドに潜り込む。

 

ワイン一杯では酔いは回らず、

寝付きに困ってしまった。

 

(電話で何か頼もうかな?)

 

明日も朝から早いから軽めに一杯だけ飲むことにしよう。

 

ベッドを抜け出し受話器を手に取ろうとした。

 

 

<コンコンコン>

 

 

「おっこんな時間に誰だ…?」

 

酔っ払いが部屋を間違えたかなんかか?

 

覗き穴の外には村雨がいた。

なんかあったのかな。

 

「よう何か用か?」

 

ドアを開けると村雨はいつもの明るさを失っており、このまま消えてしまうのでは無いかと心配する。

 

「…部屋に入れって、言ってくれないの?」

 

こりゃ何かあったか?

 

「すまん、まあ入ってくれよ」

 

「……」

 

無言でとことこ歩く姿に原因を考察するが心当たりが無い。

 

「立ち話もなんだ、ベッドに座って話してみなよ」

 

先に腰掛けて村雨を誘導する。

彼女が座り準備が整ったところで俺から問いかける。

 

「何があったんだい?

俺でよければ話してごらん」

 

「何があったですって、冗談じゃないわ!

提督が死に掛けて心配でしょうがなかったのよ?!

帰ってきたら帰ってきたですぐ調査で出張しちゃうしマトモに話さえ出来なかった私の気持ちも考えてよっ!!」

 

急に怒鳴り散らしたかと思ったら泣き出す村雨。

びっくりしたが彼女がそう言うのも無理はない。

 

両目から溢れる涙が何を意味するかは、阿武隈から艦娘の気持ちを聞いた俺には容易に理解できた。

 

「ゴメンな村雨、自分では吹っ切れててもお前の気持ちに気付いてあげれていなかったよ…」

 

それだけ言うと俺は村雨を優しく抱きしめ、ゆっくりとベッドに倒れ込む。

 

「ちょっ、な、何して…?!」

 

「…お前が何を想像しているのかは知らないが、少なくとも清純な行為だけだから安心しろ」

 

「…いけず」

 

 

彼女を抱きしめたのは悲しい顔を直視出来なかったからだ。

そんな顔をされると父島沖の戦いで思った事を全部吐きだしてしまいそうで、こっちも泣いてしまいそうだった。

 

「提督が死んだって聞いた時、

立っていられなかったの。

椅子に座って床を呆然と見つめていることしか出来なかった、他にしたくなかった…」

 

「村雨…」

 

「提督が無事横須賀に帰ってくるまでの夜は眠れなかった、寝たくなかった。

だって寝たら何処か遠くにいって一生会えなくなる気がしたもの…」

 

「俺がそう簡単にくたばるかよ。

骨折したり海底に沈んだりと散々な目に遭ったが、俺は不死身だぜ?

己の欲望のままに生きるしその為なら

地獄の淵から這い上がってやる」

 

「提督…」

 

「お前は自分の事を大切にしておけばいいんだ、俺は俺で自分の事を考えているしかつお前の事だって考えてるぞ。

現代化改装はもとよりテロや暴漢対策、水着や下着の色だって…」

 

「最後は言わない方が思うわ…」

 

「わぁーってるよ、オチぐらいつけさせろや…」

 

 

胸に抱いたまま村雨を見る。

いつも笑顔の村雨も可愛いが、涙を流しつつも笑顔を見せるその姿は健気であり無意識に抱き締めたくなる。

既に抱き締めてはいるがもっと強く村雨と近くにいたいと腕に力を入れる。

 

「そういえば髪型、ツインテールじゃないんだな」

 

「来る前にお風呂に入ったから髪はセットしてないの」

 

「ほう…ストレートの村雨もアリだな」

 

「ホント?嬉しい〜!!」

 

 

髪型がストレートでも笑った姿は犬のようで愛苦しくなる。

ぱっと見だと『夕立』の様に見えるが、夕立とは違った大人びた雰囲気が村雨をさらに女性の魅惑を引き立てている。

 

「…風呂に入ってこの部屋に来たってことは、ソッチの覚悟は出来てるな!!」

 

「さっき清純な行為しかしないって言ってなかったかしら?!?!」

 

「俺のログには何もないな…」

 

「私はしっかり聞いたわよ?!」

 

「チッ、覚えていたか…」

 

「……ぷっ」

 

 

村雨が笑い俺もつられる。

こいつには笑顔が一番似合う、いつまでも笑っていてもらいたい。

そのためなら悪にでもになってやる。

 

「ところで聞きたいんだけど?」

 

「おうどうした、言ってみ言ってみ」

 

村雨のサラサラの髪を触り変態のように若干息を荒くしながら先を促す。

 

「曙とキス、したんですってね?」

 

「ああうんそうだな……って、え?」

 

 

……

 

 

………………

 

 

「春雨からぜーんぶ聞いたわよ!」

 

「……oh」

 

不味いぞまずい。

伸び切った〇ヤング焼きそば並みにマズい。

 

「外国ではキスぐらい挨拶でするぜ?」

 

「へぇ〜ら挨拶でディープキスはしないんじゃあないかしら…?」

 

全部バレてました。

 

「…反省してますです」

 

「まぁ理由は聞いたから気持ちは分からなくもないわ。

でも私はスッキリしないのよ」

 

「と、言いますと?」

 

村雨の言葉の意図が分からずハテナ状態。

 

「こういう時だけは鈍いのよね提督ったら!

こ、こういう事よ…」

 

目を閉じ唇を近付ける村雨。

これの意味は俺でもさすがにわかる、同じく目を閉じ唇でその行為に応える。

 

熱をもった村雨の唇は蕩けるような甘さだった。

バードキスであったものの渡り縄のように伸びる一本の糸が2人の感情を昂らせ、更なる愛を求める。

 

 

「「んんっ……んっ」」

 

 

愛撫は曙の時以上の長さであった。

絡み合う舌は厭らしいというよりも単純にお互いの温もりを求めるものであった。

 

 

「ぷはっ…ちょ、提督上手過ぎ」

 

「ふぅ…いやぁ適当にやってたら上手く出来た、みたいな感じ?」

 

「やっぱりプレイボーイなのかしら…」

 

「人聞きの悪い、俺は清純かつ清楚だ」

 

「クスッ、まぁそういう事にしといてあげるわ」

 

「やっぱりってなんだよ。

俺は艦娘の中でどんなキャラに仕立て上げられてるんだ一体…」

 

「それは乙女だけのトップシークレットよ」

 

「へいへい、所謂女子バナってやつだな」

 

ベッドに横たわる状態でディープキス、その後の展開はというと雰囲気的に無さそうなご様子。

 

いっそ全裸になってからルパンダイブで飛び込もうとも考えたがお互いの気持ち的にそれは不味い。

 

今を一言で言うと『賢者タイム』。

一時は高まった気持ちは冷静さを取り戻し狼が牙剥く事なくなりを潜めた。

 

告白?されたがまったりムードなのだから『夜戦』は無いと判断した。

 

(いやいやそこは上手くあの手この手でそういうムードに持っていくべきかもしれんが俺には出来んなぁ…)

 

セクハラは日常茶飯事な俺だがオトナの階段を昇る行為に関してはサッパリだ。

 

 

健全にイチャイチャして愛を確かめ合った。

 

「ところで村雨…」

 

「ん、すぅ…」

 

「寝ちゃったか」

 

 

安心したのか彼女は寝てしまっていた。

部屋に来るなり泣いていた村雨も寝顔は幸せそうになっていて、艦娘が俺を慕ってくれているのだと実感する。

 

「可愛いのぅ、ほれツンツーンっと」

 

村雨の頬を指先で突っつく。

 

「んっ…」

 

「おーええのぅ…っていかんいかん!

寝ている女の子に欲情しそうになってきた、これ以上は理性が持たねえ!!」

 

静かに眠る村雨に劣情を抱き始めたところで理性が働き始める。

 

「こんな顔されたら何も出来ねえっつーの」

 

村雨を寝かせつけてやったのはいいが、

俺が寝るスペースが無くなってしまった。

 

流石に横に一緒というのは無理だ。

しょうがなく村上の部屋に行き野郎二人でベッドに寝る事にした。

 

村上にはなんで来たのかしつこく聞かれたが隣の部屋の客が煩いとか理由を付けて寝かせてもらった。

 

…決してそっちの気がある訳じゃない。

 

 

 

…………

 

翌日0500i

 

「おい起きろ〜」

 

「うにゃぁ〜、あと5分…」

 

「ダメなのdeath、起きるのdeath!」

 

問答無用で村雨が羽織るシーツを引っぺがす。

 

「お前も俺の部屋から出て来るところを見られたら色々と不味いだろ」

 

「え〜、そうかしら?」

 

「いいからはよ出て行きなさい!」

 

「わかったわよ、あと提督…」

 

「ああん今度はなn…」

 

<チュッ…>

 

「おはよ!また後でね!!」

 

<タタタタッ…>

 

「オオゥ……」

↑呆然

 

まさか村雨におはようのキスをされるとは思わなんだ。

 

「村雨って意外と積極的なんだな…」

 

再起動した俺は一人呟く。

 

「あらおはようございます提督、廊下でどうされたのですか?」

 

「おおっ?!おおおおっおう、おはよう加賀がが!!」

 

「?」

 

廊下で呆然としていると突如加賀さん登場。

もしやさっきの場面をみられたかもしれぬ!!

 

「…もしかして見てた?」

 

「『見てた』というのは何を意味するのですか?」

 

どうやら加賀は本当にさっきの場面は見ていないようだ。

 

「いや何でもない、朝特有のおまじないだ」

 

「???」

 

 

清々しい夏の早朝。

 

 

しかしその清々しさはこの後の防衛省での作戦会議で打ち消される事になるとは、この時の俺は思いもしなかった…

 

 

 

 

 




二人は幸せなキスをしてハッピーエンド。
になるといいですがまだ物語は終わりません。

自衛官が閣僚会議に参加するなどあり得ませんのでそこはフィクションですのであしからず。
次は防衛省で戦略・作戦会議になります。
決して無能では無いですが融通が利かない自衛隊上層部、票と支持率の為に領土の死守を命令する大臣。

さてどうなってしまうのか?


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1-10 支持率優先の政治 【防衛省】

内閣の閣僚会議にひょっこり参加して各省庁に現場の意見を伝えた提督一行。
翌日は防衛省で『南鳥島』防衛の作戦会議に参加する。
しかし防衛大臣がやや問題がある人物のようで…


防衛省某所 0830i

 

 

 

「…それでは会議を始めたいと思います」

 

司会役の2佐の開始の合図と共に内局・自衛隊トップが集う会議は始まった。

 

 

昨日の会議が他社の社長との意見交換や現場の意見を言う場だとすれば、これは会社の不平不満やアイデア、リコメンド(提言)を会社の上層部に聞いてもらう貴重な場だ。

 

総理や他省庁の大臣にズバズバと物申す俺も、流石に直属の上司上官にはある程度の礼儀を持って接する。

 

「先日の『西之島沖海戦』及び『父島沖海戦』で私は護衛艦二隻、艦娘が運航する戦艦や他の艦船を無用に損傷させ、沈没させる一歩手前でした。

この件については全て私一人の責任です」

 

まず口にしたのは謝罪の言葉。

 

「入港して直ぐに開いたテレビ会議でも言ったがそれはもう良い。菊池3佐に求めているのは謝罪ではなく行動だ、これからどうすればいいのかじっくり話す場ということを認識してもらいたい」

 

海幕長がフォローしてくれて、謝罪はいいから早く本題に移れと催促してくれる。

 

「ありがとうございます。

では小笠原諸島を巡る方針とその手段・対処について調整と細部を煮詰めたいと思います」

 

 

俺自身も小笠原諸島をどう守るか詳しく聞かされていないのでさっさと本題に移りたいのだ。

先日の戦闘の反省とレポートは既に参加部隊同士で完成させ提出済みだ。

 

 

陸海空の防衛部長が中心となり敵が狙ってくると思われる『南鳥島』に部隊を送り防衛を強化するという説明をする。

 

「島にいる関係省庁職員ですがどうする?」

 

そうなのだ、島には自衛隊以外にも他省庁の職員が在駐して施設の保守にあたっている。

 

「増強部隊の揚陸と同時に引き揚げるしかないでしょう。

戦闘が始まれば通常業務は出来ませんし、いたところで無駄な死傷者を出すだけです」

 

俺がきっぱりと言うとそれは即決された。

いやいや俺ごときが言わなくても普通通達出すだろ、仕事遅すぎ。

いままで何をやってたんだこいつらは。

 

いちいち俺が細部まで言わないと作戦も練れないとか勘弁してほしい。

てかこれ作戦以前の問題だって…。

 

 

…………

 

作戦を煮詰まってきたところで肝心な事を聞いていなかった。

 

 

「次に我が方が劣勢となった場合、島はどうするのかお聞きしたい」

 

「私が答えよう」

 

いままで担当者が対応してきた質問に防衛大臣自ら答える。

 

「劣勢にならないようにするのが君たち自衛官の役目だろう?

あの島は我が国固有の領土なのだからしっかり守ってもらわねば困るよ」

 

「失礼ですが大臣、我々自衛官は身を以て責務の完遂に勤める所存ですが物事に絶対はありません。

我々は旧軍とは違うのです、撤退したりその後の奪回作戦についても可能性を考え腹案を持つべきです!」

 

いやいや大臣閣下それはねーですよ。

 

敵は深海棲艦であってかつてのような人間では無いしどんな物量・戦術で攻めて来るのかも分からない。

それなのに何時ぞやの軍部や政府の様に言われてしまうと自然と声も大きくなる。

 

「菊池3佐といったね、君は何か勘違いをしてないか?」

 

「と申しますと?」

 

およ?意外と物分かりのいい人なのか?

 

「たかが3佐やら酸素だか知らんが自分の立場を理解していない様だな。

役職や階級に差はあれど私も君も『公務員』なのだ、総理の命令は国民の命令でもある。総理はこの作戦に関して『国土の固持』を望まれているのだ」

 

……は?

 

室内の幕僚長や他の幕僚らを見渡すが『分かってくれ』のような苦い顔をする。

 

横に座るどこかの陸1佐のおっちゃんが『大臣は総理の腰巾着なんだ、支持率が云々常に言ってんだ』と耳打ちしてくれた。

 

「…大臣それはつまり『政権維持』を目的としたパフォーマンスであると認識で宜しいですか?」

 

「何を言うかッ?!

国や自衛隊が領土を守るのは当然の事だろう?!それなのに当の自衛官が『守れません』ではいかんと言っておるのだ!!」

 

 

大臣の意見は表ヅラは正しく聞こえるが

その目的は『人気』の為だと言うことがよく分かった。

だがここで以前の様にキレる俺じゃない。

 

 

「失礼致しました『大臣閣下』!!

仰る通り領土を守るのは当然の事、そして国民たる自衛官や駐在職員を守るのも我々の責務であります。

しかしながら有力な敵が来て見殺しにする訳は無いでしょう…?

 

その辺りも対策を練らねば国民の期待を踏みにじると言うもの。

それは国民に選ばれた国会議員による国会から指名された『総理大臣閣下』の意向にも背くものでは無いでしょうか…?

まあ私如きに言われずともそうお考えでしょうがね…」

 

 

キレて物事が進むなら困らない。

だがオトナになれば世の中そうはいかない事は嫌という程思い知らされる。

そこで大臣を立てつつも理論詰めでこちらの意見を通せるように話を持っていく。

 

「ぐぅ、この若造めがっ…」

 

「ささ、大臣閣下続けましょうか」

 

そこでそそくさと入って来た事務官が大臣に耳打ちする。

 

「すまないが私は関係省庁との調整会議に出席せねばならん。

決済については戻り次第査収する、では急ぐのでな…」

 

場の空気から逃れたかったのかこれ幸いと荷物をまとめて出て行ってしまった。

 

場の空気が軽くなり司会役が休憩にすると宣言し、胸糞悪い作戦会議は一旦終わることになった。

 

「菊池お前は全く、ハラハラさせやがって」

 

「司令官の凛とした対応に秋月、感激致しました!」

 

末席に座っていた村上や艦娘が声を掛けてくれる。

秋月のキャラが相変わらずブレッブレなんですがそれはいいんですかねぇ?

 

 

そんなこんなでリフレッシュしていると

「おうオメェなかなかやるじゃねぇか!!」

 

<バンッ!!>

 

「う、うぇっ?

な、なんすか一体?!」

 

いきなり横にいた陸1佐に肩を叩かれビビりまくる。

 

「オメェが俺たちが言いたかったことを全部言ってくれたおかげでここにいる奴らもスッキリしてンだよ!」

 

ガハハハという擬音がぴったりな笑顔で笑うこの陸1佐…誰?

 

「おおっと自己紹介がまだだったな、俺ァ陸自の『第2地対艦ミサイル連隊』の連隊長、峯木ってんだ!

見ての通り『市ヶ谷』の奴らもあのクソ大臣にゃあ頭が上がんなくてよ、そこにオメェが一泡吹かせてくれたって訳よ!!」

 

再び肩をバンバンと叩くこのおっちゃん、

室内には統幕長や各幕長もいるのに肝っ玉座り過ぎだろオイ。

だが他のお偉いさんはそれを咎めるでもなく概ね連隊長の言葉を肯定しているようだった。

 

「ミサイル連隊って言えば南鳥島に増援で行く部隊じゃないですか!」

 

「おうよ!オメェがあそこで言ってなかったら俺がブチギレてたぜ!!」

 

連隊長の言う事ももっともだ。

部下をむざむざ死地に赴かせるなんて誰がするかってんだ。

 

「この後も頼むぜ!」

 

 

…………

 

その後はトントン拍子で会議は進んだ。

 

南鳥島への増援は勿論、その撤退やその支援を行う輸送部隊の調整も行う。

手配と言っても俺は部隊をどう動かすかアドバイスや依頼を主にやって、本職の海幕や陸空幕僚や関係部隊長が細かい調整をした。

 

「じゃ俺ァこの後東京にいる同期と飲み行っから作戦頑張ろうぜ!」

 

連隊長はガハハと笑いながら退出していった。きっとオヤジとか呼ばれてるんだろう。

 

「ふぃ〜お堅い人と話すのは慣れねぇ」

 

「司令官格好良かったかも、です!」

 

「サンキュー高波、お前も可愛いぞ〜!」

 

「提督が大臣に反抗しかけた時はどうなるかと肝を冷やしました」

 

「ありゃ誰かが言わないとまずい所だったしこの場の全員が思ったことだろ。大淀にも普段から心配かけてばっかりだからな、苦労をかけるけどよろしく頼むな!」

 

「そ、そんな可愛いだなんて〜…

嬉しいかも、です」

 

「私はただやるべき事をこなしているだけです、苦労をかけるだなんて…」

 

声を掛けてくれた高波と大淀に感謝を述べる。ついでにナデナデしてあげると感謝の言葉が嬉しいのか幸せそうな表情を見せる二人。

疲れているのか顔が赤くなっている。

↑たぶん違います

 

 

離れた場所では村雨や千代田、金剛と足柄プラス野郎二人が何やら話していた。

 

村雨(ね、スゴいでしょ?)

 

足柄(あれは…グッと来るわね!)

 

金剛(んもうダーリンったらぁ〜ん!

提督クール過ぎマース!!)

 

千代田(わ、私も撫ででもらいたくなってきちゃった…)

 

加賀(何故か見ているとイライラしてきました。)

 

村上(なんで俺も巻き込まれているんだ…)

 

警務隊長(そう腐るな村上3佐、彼が艦娘に変な真似をしないか調査もしなくてはならん。こうして艦娘の話を聞くのも貴重な情報源なのだよ?)

 

村上(何故あいつばかりモテるんだァー?!)

 

 

何やら不穏な雰囲気を漂わせているので関わらないでおこう…。

 

 

※※※※

 

ホテルグランドヒル市ヶ谷内

とあるバー

 

 

「…それで言ってやったのよ、私を舐めないでってね!!」

 

「マジで?足柄気ぃ強すぎだろ?!」

 

「提督ゥ、私の話も聞いてほしいデース!」

 

「ちょっと金剛、私が話してるんだから順番待ちなさいよ!」

 

 

ホテルに着いてシャワーを浴びた後館内にあるバーで金剛、足柄の二人と飲んでいた。

 

「あー楽しいなぁ。二人とも酒強いなぁ」

 

「足柄はまだ序の口で酔っ払うと泣き始めるのデス、これがまた面倒なんデース」

 

「ちょっと金剛ぉバラさないでよ?!」

 

「可愛くていいんじゃないか?

そこまでは飲まないし飲ませないから

安心してくれぇ〜い!」

 

「さっすが提督イッケメ〜ン!」

 

「 言われなくても知ってるよー!

そういう足柄もセクシーで食べちゃいたいぐらいだぜ!」

 

「キャー嬉しいー!!」

 

金剛(oh…逆効果デース…)

 

「金剛もさぁ〜、普段から可愛いけど

ほんのり赤くなってる今もいいなぁ。

ほっぺた突っつきたくなるぜぇ〜」

 

「ahhn…!提督の指なんだかいやらしいデース!」

 

「アンタなんとか言って嬉しそうじゃないのぉ?!」

 

「提督に触ってもらえるなら時と場所なんて関係ナッシンデース!!」

 

「ムッキー!!」

 

よく言えば楽しく、悪く言えば酔っ払っていた。

 

「足柄も妬むなってぇー、ほ〜れ」

 

「ああん、ほっぺた突っつかないでぇ〜」

 

「足柄も何とか言って嬉しがってるデース!!」

 

「「ギャハハハハ!!」」

 

きっかけはホテルに着いてすぐ二人にこれから飲もうと誘われたからだ。

 

夜は予定もなかったから了承し、ウキウキ気分でシャワーで身を清め髪もセットした。

 

特に話題らしい話題もないが楽しく夜は更けていく。

 

 

…………

 

「そろそろお開きにするか」

 

「そうですネー、程々が一番デース!」

 

「名残惜しいけどそうねぇ〜!」

 

「ん〜マスターお勘定ぉ!!」

 

 

ややふらつく二人を両手で支えながら、

ハタから見れば俺が支えられているだろうが部屋まで送っていく。

 

 

「ほれ金剛着いたぞ〜」

 

「ベッドまでお姫様だっこ〜!」

 

「はいはい、抱っこはしないけど部屋の中まで運びますよー」

 

「テートクのケチ、意気地無し〜!」

 

「『デース』が無いとキャラ崩壊するからダメだ!」

 

「理由が意味不明デース?!」

 

それでもベッドに寝かせつけてやり次は足柄の番だ。

 

「足柄の部屋まで行くぞー」

 

「よろしくぅ〜」

 

 

……

 

 

と言ったものの

「ほらぁ星が綺麗ねぇ!」

 

「部屋に帰らないんかい!」

 

「酔いを醒ます為に外の空気を吸いたいのよぉ、そこにビーチチェアがあるから座りましょ!」

 

 

あーだこーだ理由を付けられて気が付けば屋上に来ていた。

利用客用なのだろう、置いてあるビーチチェアに深く座る。

 

(フフン!他の艦娘には負けないわ!

提督と結ばれるのはこの私!)

 

「酒が強かったのかなぁ?」

 

「ねえ提督空見て、すごい綺麗よ!」

 

足柄に言われて空を見上げれば小笠原でみた夜空には劣るものの綺麗な星空が広がっていた。

 

「まぁまぁだな」

 

「何よまぁまぁって?!」

 

「夜空よりも足柄の方が綺麗さ…」

 

「そんなベタな台詞でこの私が喜ぶと思っているの?!」

 

「ヒック、えー本当の事言っただけなんだけどな」

 

「ま、まあ嫌じゃないわよ?」

 

「素直でよろしい!

でも足柄は本当に美人だよなー」

 

「どうしたの急に、提督酔ってるの?」

 

「…ほんの少しな」

 

(私も少しだけ酔ってるけど提督は大丈夫かしら?

私から誘ったけどいざ面と向かって言われると困るわね…)

 

「この前の夜戦の話をしてもいいかな?」

 

「うん、いいわよ」

 

「星も綺麗で月が美しい夜だった、俺は提督として自惚れていた。

そして艦娘を傷付け沈めかけた、最低な指揮官だよ」

 

提督は続ける。

 

「誰も沈まなかったのは幸いだった。

そんな俺を足柄も含め艦娘は慕ってくれている…。

俺は強くない、でも強くなる。

だから今だけは、弱音を吐かせてくれよ…」

 

弱気な提督は初めてだった。

軽々しい提督や凛々しい提督は見たことはあったが、こうして弱音を吐く姿を見せたのはこれが初めてだ。

 

そんな彼にどきりと胸がときめいた。

普段見せぬ姿を私に見せたのは心を許している証拠なのだろう、それが嬉しい。

 

「いいんじゃないかしら、人間誰しも完璧じゃないわよ。

私は提督のそんな所も『好き』よ…って?!」

 

しまった!!何自然に告白してるのよ私?!

 

「はは、ありがとな。

足柄のその優しい母性があるところ、俺も好きだぜ」

 

「?!?!」

 

「巷じゃ行き遅れたOLとかネタにされてるけど誰が言ってるんだか、どーせ足柄の人気を妬むやつの仕業に違いない。

実はさ、こんな場面で言うことじゃないと思うんだけど昨日の夜村雨に告白されてな。

嬉しい反面こんな俺でいいのかなって、俺としても艦娘全員と付き合いたいけど最低すぎるよな。

でもこうして想ってくれている艦娘がいるのであれば応えてあげたい、こんな俺でもいいかな?」

 

困ったように笑顔で問いかける提督は言葉に出来ないぐらい格好良かった。

ときめき、一言で言えばそうなる。

 

「その、ごめんなさい!!」

 

「え”、もしかして拒否られた?!」

 

涙を流して謝る足柄に嫌われたと思い流石にショックを受ける。

涙を流してそれを拭く姿に喪失感が込み上げる。

 

「ち、違うの!今まで私が提督の地位とかそういった目でしか見てなかったからその謝罪よ?!

別に提督が貞操無しとかプレイボーイだから嫌とかそういう意味じゃないのよ?!?!」

 

「おっ、そうか安心したぜ…」

 

「でもどうして私に弱気な姿を見せてくれたの?」

 

「うん、なんていうかなぁ〜。

足柄なら受け入れてくれる、慰めてくれるって思えたんだ」

 

「提督…」

 

俺は椅子から立ち上がり彼女に覆い被さる。

 

「こんな俺で良ければ…」

 

「こんな私で良かったら…」

 

目を閉じて唇を近付けそのまま…

 

 

<ギィ、バターン!!>

 

「提督、足柄こちらですか…ってどうされましたか?」

 

いい場面で屋上に来たのは加賀だった。

とにかくこの場を誤魔化すしかない!

 

「おっ、おう!!

見ての通り足柄は泣き上戸みたいでなぁっ!風に当たって酔いを覚ましてたんだよ、なっ?!」

 

「えっ?え、ええそうなのよ!!

も、もう酔いも覚めたからこれから部屋に帰ろうとしていたところなの!

提督が私を引っ張って立たせてくれようとしていたのよ!!」

 

…おい足柄、細かく説明しすぎるとバレる。

 

「…そう、なら早く部屋に戻りましょう。

夜も遅いし男女二人が一緒というのも

風紀的によろしくないでしょうし。」

 

「そ、それもそうだよなっ!」

 

「そうね、じゃあ私は先に帰るわねっ!」

 

 

そう言うと足柄は退散していった。

 

「提督…。」

 

「はい何でしょうか?!」

 

「変な事していませんでしたか?」

 

「え、別にしてないけど?

あ、もしかして緊急事態でも起きた?」

 

「いえ起きていませんが。」

 

「よし平和ならいいんだ、さあ寝るぞ!」

 

「絶対何かありましたね。」

 

「無いない、やましい事はしてない」

 

「まあいいでしょう。」

 

ほっ、助かった…!

 

不審な目で見る加賀だったが納得したのか帰ってくれた。

何でも俺に話があったようで部屋に来たらいなくて探していたらしい。

 

加賀には少し悪い事をしたな。

 

部屋に戻ってから足柄と加賀にお詫びのLINEを送って風呂に入って寝た。

 

胸の高まりが収まりそうには無いが、

いい夢が見られそうだ。

 

 

…………

 

翌朝なかなか起きてこない金剛を加賀が心配して見に行くと、二日酔いで頭を抱える姿金剛の姿があったそうな。

 

足柄はというと何故かリフレッシュした顔付きで余裕を見せ、金剛に対して勝ち組のように振舞っていたそうな。

 

 

村雨「なんか足柄さん嬉しそうね、何かあったのかしら?」

 

「さぁ」

 

高波「あ、金剛さんに誇らしげに何か自慢しているかも、です」

 

「へぇ」

 

加賀「やはり何か昨夜あったのですか?」

 

「知らない」

 

大淀「何故提督はそんなに棒読みなのですか?」

 

「ソンナコトナイヨ」

 

千代田「絶対何か隠してるんでしょ?!」

 

「さぁ?」

 

秋月「何事にも動じない司令官のお姿、この秋月感服しました!」

 

艦娘「「お前はちょっと待て」」

 

「へっ、モテる男は辛いぜ!!」

 

 

捨て台詞を吐いて場を締める。

 

 

村雨「いや全然締まってないから?!」

 

 

そんな訳で俺の人生は騒がしいのであったとさ。

 

 

ちなみに警務隊長と村上はというと…

 

「警務隊長まずいです…吐きそうです…オップ!」

 

「ふふ、私も調子に乗り過ぎた…うっぷ!」

 

なんかヤケ飲みしたらしくこちらも二日酔いになったそうな。

 

(モテない男は見てて辛いよなぁ…)

↑こいつのせい

 

 

 

 




秋月を真面目な後輩キャラにしようとしたらなんだかポンコツな娘になっているような?
目を輝かせて司令官(提督)を慕う姿が彼女には似合いそうですね。

足柄ともコイビトカッコカリをしてしまいました。
主人公も酒が入っていたのもありますが、単純に足柄が可愛いからです。
何故彼女は『熟れた狼』なんて一部から言われるのか…?
私なら足柄の様な女性は大歓迎なんですがねぇ。

作戦会議回でしたが防衛大臣が支持率を優先していて現場の事をまるで考えていない!
これは作戦遂行に支障をきたすのでは無いでしょうか。



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1-11 出港前夜 【プレハブ鎮守府】

防衛省から帰ってきた提督一行。
出撃の準備をするが重油の確保に難儀する。

出撃前日の夜中までかかったがどうにか出港準備が整い、寝ようとする提督。
ふと南鳥島へと電話を掛けたくなった彼は受話器を手に取るのであった。

※艦娘は全く出てきませんのであしからず。



朝 バス車内

 

「…んで、これから帰る?」

 

「このままのんびりしたいところだが、情勢が情勢だからな。すぐにでも戻って出撃の準備をせねばならんからな。」

 

「そりゃそーだ警務隊長と村上、そして金剛が二日酔いじゃあ遊びにも行けないしな」

 

「そういうことではなくてだな…」

 

「はいはい酔っ払いは静かに寝て起きましょうね~」

 

「お前いつか覚えていろよ…」

 

 

二日酔いの3人を2人席三つに座らせ寝かせる。金剛もそうだが警務隊長が二日酔いするのは意外だ。

ストレスも溜まるだろうし飲みたい時もあるんだろう。

 

 

…………

 

 

「…にしても『山下』が幹部になってマーカスにいるとは思わなかったなぁ」

 

「昨日作戦会議で言ってた提督の教育隊で一緒だった人?」

 

「ああ俺と村上が横須賀でそいつは呉に行ったんだ。大卒で入隊して来て頭が良かったのを覚えてる」

 

「幹部になってマーカスに勤務しているのですね。」

 

「そそ。これから激戦地になるかもしれないって場所に同期がいると思うと負けられねぇっての」

 

 

昨日の会議で分かったことだが南鳥島、通称マーカスに同期の奴が勤務しているらしい。

 

同姓同名の別人の幹部かと思ったがどうやら本人らしい。

 

 

「司令官とそのお仲間の方達は優秀だったのですね」

 

「褒めても何も出ないぞ秋月。

俺は班長や教官に突っかかってばかりだったから評価は低いと思うぞ?

まあ一応優等賞もらったけど」

 

 

別に同期がいたところで避難させたりする訳でも無いんだがな。

 

横須賀基地に着くと使い物にならない3匹を適当に休ませてから、提督らしい仕事である艦隊運営に取り掛かる。

 

 

「まずは重油の手配だな…」

 

 

そう、これが一番の悩みだった。

現代の自衛艦は基本的にガスタービンやディーゼル機関、つまり軽油を主な燃料としている。

しかし艦娘は重油、使っているのは自衛隊でも陸上施設のボイラーだったり商船規格の機関の船ぐらいであるため確保するのは容易では無い。

 

民間の石油会社に片っ端から連絡して融通してもらったり給油するタンカーの手配をしたりと大忙しだ。

 

なんで提督たる俺がそんなことをしているのかというと担当部隊が『自衛艦』の面倒だけで手一杯だからだ。

こんなやり取りがあった。

 

 

俺『出撃するから艦娘用の重油とタンカー手配して』

 

担『ダメ忙しい。自衛艦総出なんだから艦娘の艦船は手が回らない』

 

俺『えぇ…じゃあどうすんの?』

 

担『予算とかは出すからそっちで頼む。給油方法も知らないし、あと領収書は防衛省で頼むよ。陸自や空自との調整もあんだよ、じゃっ!』

 

俺『えー…』

 

 

丸投げですやん。

渋々船体がドックに入っている艦娘や出撃準備が終わっている艦娘も巻き込んで、年度末の石油商事の大決算会場と化したプレハブ鎮守府。

 

ついでに近くにある基地業務隊や総監部といった他部隊も巻き込んで電話と電卓を武器に戦うことになった。

 

深海棲艦のせいで石油価格が急上昇して売り上げに悩んでいた会社側も自衛隊が大量に買ってくれると大喜びだったそうだ。

 

いっそ東京にずっといれば良かったかと思ったが、遅かれ早かれやっていただろうし急がなくては深海棲艦がマーカスに攻め込んでくるやもしれない。

 

優雅に空を飛ぶ鳥を電卓で叩き落とす勢いで事務仕事に没頭する。

 

 

「提督重油50トン確保できました、明日の1300iに油船が着くそうです!」

 

「遅いっ!1000iにしてもらうように言っとけ、その分の手当も出すとか言っとけ!その時間は別の便が入ってる!」

 

 

このときばかりは船体の現代化改装中で調理を手伝う鳳翔や那珂も電話対応や計算に追われる。

 

 

「那珂ちゃんはこういうマネージャーみたいな仕事苦手なんだけどなぁ…」

 

「那珂ちゃん、口を動かす隙があったら手を動かしなさい!」

 

「神通ちゃんだって口を…ってすごい早っ?!」

 

「二水戦の名は伊達じゃないわ!」

 

「神通、それは私の台詞だよ。」

 

「ってそういう響ちゃんも早っ?!」

 

 

3時間程の仮眠を交代で取って手当たり次第に電話、そして給油の調整を行う。

 

しかし出撃用の燃料があっても片道分では帰ることができない。

 

つまり……

 

 

「何度もお願いしていますが小笠原諸島までタンカーを出してもらえませんか、護衛はちゃんと付けますしもしもの保障や保険もこちらが多く出しますから!!」

 

『悪いけどウチの者を危ない所には送り出せないですよ』

 

「ですからそれは!…って切りやがった」

 

 

あーまた駄目だ。

これで何社に断られたんだろう。

 

出港時に満タンにしても戦闘などで消費することを考えると予備は必須。

 

本土近海とはいえ行動期間も不明だからかなり多めに確保してかつタンカーを徴用して同行させるのは目にみえていた。

 

このための『護衛隊群』昇格の上申でありゆくゆくは専用の基地やら設備、ゲームでいう鎮守府を実現させたいのだが今はまだ時代が追いついていなかった。

 

「予算を使っていいと言ってももそんなに使いまくれる訳じゃないし困ったぞ…」

 

「いっそ独自採算制にして艦娘の写真とかCDでも売ってボロ儲けしようぜ!村上にも利益山分けしてやっから」

 

「くだらないこと言っていないで電話をかけて下さい提督。」

 

「ちょっ加賀そんな怖い顔しないで?!

ジョーダンだよ冗談!!」

 

 

…その後どうにか輸送タンカーや重油は確保出来たものの、防衛省内局や海幕からは『予算使いすぎんな』と文句を言われたがこっちだって文句の百や千位言いたいもんだ。

 

 

※※※※

 

数日後 2130i

 

ようやく艦隊と他部隊の出港準備が整い、明朝の出港を待つのみとなった。

 

艦娘はほぼ全員泥のように寝ており、起きている艦娘も死にそうな顔をしている。

 

いつの間にかこの101護隊の一員になっていた警務隊長は出撃しないものの、よく手伝ってくれて彼のツテにお世話になった。

 

村上もこの部隊の『隊付』という任務を果たしてくれたし今回はこいつも同行し、戦闘や艦隊運用の指揮の補佐をすることになっている。

 

 

「ふぁあ〜眠っ」

 

そういえばここ数日まともに寝てなかったな。もうすることもないし寝ようかな。

 

「あ、景気付けにマーカスに電話かけてみるか…」

 

疲れからくる謎テンションで無性に激戦地になるであろう南鳥島の職員にエールを送りたくなり、『部内限り』と書かれた電話帳を手に取る。

 

南鳥島は電波が一切入らない。

島の外との通信手段は無線機を除けば衛星電話しか無く、色々と部隊間の調整に支障をきたしていた。

 

「山下は電話に出るかな〜っと」

 

備え付けの隊内電話を外線に切り替えピポパとダイヤルする。

 

『…はい海上自衛隊南鳥島派遣隊、山下3尉です』

 

おっヤマピーじゃねぇか、ビンゴ!

 

「…俺だ!」

 

偉くなったら一度言ってみたかったんだよねぇこのセリフ。

 

『その声…どうせ菊池だろ?』

 

「おっひさ〜、なんでわかったんだ?」

 

『増援が来るってのは知ってるし、お前が新設された護衛隊の司令として小笠原諸島とマーカスに来るのも知ってる。

てか俺がその調整の窓口なんだ、さっきまで電話が鳴りっぱなしだったんだ』

 

「マジで?こっちもついさっき終わったんだよー」

 

同期と世間話をする。

こいつも結構苦労してるんだな。

 

『BS放送で本土に帝国海軍の軍艦が現れてお前がそれを束ねる護衛隊の司令に就任するって放送した日には何かのドッキリかと思ったぞ』

 

「俺もだっての。てかお前怖くないの、ヘタしたら深海棲艦の攻撃でマーカスやられちまうんだぜ?」

 

『そりゃ怖いさ、だがそれが任務とあれば逃げる訳にもいかん。

というか逃げられないだろ…』

 

「ははっ、そりゃそーだわな!」

 

『笑えるかバ〜カ!』

 

「ま、俺がなんとかすっから釣りでもしながら待っとけって」

 

『期待はしてるぞ』

 

「今回は味方の潜水艦もいるし、ヤバくなったら沖まで泳いで乗っけて貰えばいいんじゃねーの?」

 

『島から少し離れると流れも速くて1000m位の深さがあるんだ、無理だって』

 

「そうならないようにすっからのんびり常夏を楽しんでろよ!」

 

一通り言いたい事を言ったところでヤマピーこと山下が真面目そうな声で問いかけてきた。

 

『…なあ菊池、最後に聞きたいことがあるんだがいいか?』

 

先ほどとは違う声のトーンにこちらも思わず構えてしまう。

 

「…なんだ、言ってみろ?」

 

ゴクリと思わず固唾を呑み、その音が受話器からはっきりと聞こえた。

 

『その…』

 

なんだ、そんな大事なことなのか?

 

『…今、内線電話から掛けているのか?』

 

「……えっ、そうだけど何?」

 

『馬鹿!!いくら内線でタダだからって私用で電話して来るな!』

 

「は、はぁ?!なんだよお前こっちが気ぃ遣って掛けてやったのにそんな細かいことでキレやがって?!」

 

『煩い、眠いんだから早く寝かせろ!

今度会ったら艦娘の1人ぐらい紹介しろよ、覚えとけッ!!』

 

<プツッ>

 

「な、なんだアイツは…」

 

真面目に遺言でも言うかと思ったら公用電話の私的利用云々とか抜かしやがる。

今度会ったら肩パンしてやる!

 

「『今度会ったら』ねぇ…」

 

アイツなりの覚悟と度胸の見せ方ってところか。励ますつもりがこっちが励まされたかもしれないな。

 

「深海棲艦どもめ、ブチのめしてやるから待っていやがれ!」

 

今度はこの前の様にはいかない。

艦娘や護衛艦がやられたら南鳥島が奪われ、本土近海に奴らの牙城を構築させる事になる。

商船は攻撃され日本の流通はストップしてしまう。

 

この戦いは敵に完勝とまではいかなくとも、南鳥島攻略という目的は何としても阻止しなくてはならない。

 

「げっもう2300じゃねぇか、朝は早いし

もう寝ないと…」

 

 

 

……

 

 

日本の戦後初とも言える大艦隊の出撃、それの過半数をしめる帝国海軍の軍用艦群。

 

この『連合艦隊』は果たして深海棲艦の野望を見事打ち砕けるのか?

深海棲艦の狙いとは一体…。

 

 

 




人類側の準備は整いました!
次に深海棲艦側のパートを少し書いたら小笠原諸島を巡る海戦が始まります。

帝国海軍の艦艇は重油を燃料としていましたが海上自衛隊では軽油を使っていてその辺の苦労もちょこっと書いてみました。こういった細かいところが気になってしまう私は世間一般で嫌われるでしょうね…orz
だが反省はしないッ!!

※ゲームについて
飛龍ちゃんや舞風ちゃんがドロップしてウキウキしています。この調子で提督業も進めていきたいです。



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1-12 深海棲艦の狙い 【敵海底基地】

かつてエリート軽巡へ級。
今では艦娘の『那珂』としてドロップし、時に歌い
時に艦隊運用の為に電卓を叩き事務仕事をこなす(させられている)日々。

そんな彼女は出撃前夜に深海棲艦だった時の記憶らしい夢を見るが…?


太平洋 某地域

深海棲艦海底基地

 

 

「…作戦の主目的は海底資源の回収になっただと?」

 

「その通りだ」

 

南鳥島攻略を前に深海棲艦は作戦会議を行っていた。フレッチャーは司会の戦艦ル級の説明に食いついた。

 

「日本の南鳥島沖には『レアアース』と呼ばれる希土類が多く発見されている。これを回収し我ら深海棲艦の戦力増強を図る」

 

フレッチャーが不満そうな顔をするがル級は気にせずに続ける。

 

「我らが西之島近海に設営した『西之島基地』は日本海軍による継続的な監視下にあり増強を送るのは不可能という結論に達した。

そこで彼らには作戦発動と同時に出撃して敵を陽動あわよくば監視を突破させる」

 

(そんな皮算用で上手くいくはずがないだろう。人間どもとて半端な部隊な訳がない)

 

「戦力の準備がやや遅れたが『戦艦』クラスも変換可能となり戦闘の憂いもなくなった。この作戦には1隻のみだが融通してもらった!」

 

「「おおーっ!!」」

 

これにはフレッチャーも驚いた。

この作戦までには困難と思われていた戦艦の実艦化実験が成功するとは思っていなかったからだ。

 

「続けて参加戦力と役割についてだが…」

 

 

……

 

 

…………

 

 

「フラヘに対する贖罪にもなるだろうか?」

 

会議の後自室でフレッチャーは思いに更けていた。

 

「あいつは敵に壊滅的打撃を与えた後沈んだと聞いた。その奮闘に肖り私も多くの敵を道連れにそっちに行く、待っていろよ…」

 

父島砲撃を行う前憎き人間の海軍部隊に遭遇したフラヘ以下6隻の水雷戦隊は劣勢なるもこれを刺し違え見事壊滅的打撃を与え沈められた、深海棲艦上層部からはこう発表された。

 

無論民間人を攻撃するのを嫌ったとか不都合な事実は上層部によって揉み消された。

かなりの地位にいるフレッチャーでさえその情報は伝えられなかった。

 

「それにしても戦艦をこの攻略作戦に引っ張るというのはいささか大袈裟ではないのか?」

 

南鳥島は飛行場があるだけの小さな島だ。守備隊も潜水カ級やヨ級の偵察によると御粗末の一言、要塞やトーチカも無く庁舎がいくつか建つのみらしい。

だからこそ艦砲射撃は小型艦のみで十分という判断を下したのに上層部は一体何を企んでいるのだ?

 

我ら深海棲艦は確かに資源不足に陥っている。日常生活にも必要だし『変換』して100mクラスの駆逐艦や200mを超える戦艦の実艦へと姿を替えるのにも莫大な資源を消費する。

 

人間と戦いを繰り広げつつ各地の資源を回収してはいるものの慢性的な資源不足を改善するには至っていない。

たまたま目標としていた南鳥島周辺にレアアースがあっただけで、今回は単純に人類殲滅の第一歩として占領しようとしたのだ。

 

開始直前になって『資源も回収出来る、増援も出す』という上層部は何か企んでいるに違いない。

 

「この私を利用しようとする浅はかさ、だが今は私が出来得る贖罪は南鳥島占領。フラヘよ、私はどうしたら良いのだろうな…」

 

 

※※※※

 

 

同時刻

横須賀基地某所 川内姉妹の部屋

 

 

 

「…へくちっ!!」

 

「…んんっ、あら那珂ちゃん風邪?」

 

「ゴメン神通ちゃん起こしちゃった?」

 

「…ちなみに私は起きてたよ!」

 

「姉さん(川内ちゃん)は早く寝て?!」

 

 

艦娘たちは横須賀基地に設けられた艦娘用の生活スペースで出撃前の睡眠を取っていた。

 

 

「川内ちゃん朝早いんでしょ、寝なくていいの?お肌にも悪いよ?」

 

「そうですよ姉さん、特に姉さんは出撃するんですから早く寝ないと!」

 

「そう言われてもねぇ…なんだか興奮して寝付けなくって」

 

「川内ちゃんはいつもの事だけどね」

 

「私と那珂ちゃんは修理と現代化改装で一緒に行けませんが無理をしないでくださいね」

 

「当然ッ!ま、二人の分も夜戦してくるから私の武勇伝を楽しみにしててね!」

 

「夜戦の機会が有ればの話ですけどね」

 

「川内ちゃん、寝ると夜戦が出来るって提督がさっき言ってたよ!!」

 

「こら那珂ちゃん、そんな嘘を姉さんが本気にするはずが…」

 

「zzzz…」

 

((思いの外純粋だったー?!))

 

「「お、おやすみ(なさい)…」」

 

 

騒がしい川内が寝たところで神通と那珂も再び寝ることにした。

 

 

……

 

 

その後那珂は不思議な夢を見た。

深海棲艦として生活し他の深海棲艦と仲良く会話する夢だ。

 

名前は分からないが『駆逐棲姫』というカテゴリーの深海棲艦と話したりしていた。

 

那珂はそんな深海棲艦に何故か見覚えがあった。

 

(たしか『F』から始まる名前だったかなぁ?)

 

(ファ…フィ…フ、フ…ふ…)

 

駆逐棲姫の名は『フ』から始まるようだ。

 

(『春雨ちゃん』みたいな姿してるけど春雨ちゃんは『は』だから違うしぃ…)

 

もう少しで出そうなのだがどうもあと一歩閃きが足りないようだ。

 

(フラ…フランス、フリ…フリー、フル…フルハウス、フレ…ふれ…ふれ…フレグランス、なんか違うなぁ…)

 

色々と惜しいところを間違える那珂。

 

(ふは…不発?、ふひ…不評?ふふ…フフ怖?いやそれ天龍ちゃんだしぃ~。ふぶ…なんかこれ近いなぁ。ふぶ…ふぶ…ふぶ?ふぶ…ふぶ…天下布武?ふぶお…フブオって誰?ふぶか…不部化もおかしいしもう誰なのぉ?!)

 

結構答えの出なかった那珂は駆逐棲姫の名前を考えるのをやめ、素直に眠ることにした。

 

(そういえば…妹がたくさんいそうな…感じ、だっかな?)

 

(例えば『睦月ちゃん』や『陽炎ちゃん』…みたいなネームシップの深海棲艦…かもしれ…な…い)

 

そこまで考えて那珂は眠りに落ちた。

 

 

翌朝出撃前に次女に叩き起こされる長女と三女の騒がしい声が基地に響いた。

 

「姉さん、那珂ちゃん早く起きて!!」

 

「あと五分だけ寝かせて…zzz」

 

「あの後寝付けなかったのぉ…zzz」

 

「…いい加減に、起きてださーい!!」

 

その後某軽巡二名は頭にたんこぶができたそうな。

 

 

 




今回は別に物語において重要な話ではないです。
『フレッチャー』とは何者なのか…それだけです。

駆逐棲姫フレッチャー
かつての米駆逐艦『フレッチャー』を船体とする
敵の駆逐艦のボス的存在?
調べていただくとびっくりの大姉妹の長女。
でも元は米軍では無いらしい?

日本でいうとどんなタイプの艦種(艦娘)なのか。
日本側が大量建造したクラスの艦艇といえば、そうあの娘!(誰?)

那珂ちゃんが名前を思い浮かべるも失敗。
ふぶお、ふぶか…誰?
そこまで考えたらわかると思うんですがねぇ…。


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1-13 平成の連合艦隊、南へ 【横須賀出港】

『横須賀から大艦隊が出港していく様子はかつての“連合艦隊“のようにも思えた。護衛艦と軍艦が肩を並べて海を行く奇跡の光景に思わず涙した。

しかしそれと同時にこの艦隊がいなくなった横須賀は寂しく思えた。私は艦隊がこのまま帰ってこないのではないかという不安も感じた』

ー地元新聞 読者投稿
『元海軍兵の感想』よりー



横須賀基地某所 仮眠室

0427i

 

ふと目が醒めると起床時刻の前だった。

 

洗顔を済ませ第1種夏服に袖を通し制帽を被り姿見で皺や糸屑がないかチェックする…よし、異状なし!

 

荷物も入れ忘れは無し、もしもの時の遺言状もチャック付きの防水袋に入れた。

 

部屋を後にし指定された集合場所へと向かう。

 

 

……

 

夏の未明は明るい。

空気を吸えば清々しさが肺に入ってくるが、それ以上に緊張感が勝る。

 

歩きつつ深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。運動会の朝の小学生のようだと自分と照らし合わせて苦笑いする。

 

 

集合場所には出撃する艦娘や見送りが全員揃っていた。

 

「みんなおっは~」

 

「…気を付けェッ!おはようございますッ!」

 

「「…おはようございますッ!!」」

 

「うおっ?!どうした急に…」

 

俺と同じ3佐の制服を着た村上の号令で艦娘が気をつけをして、挙手の敬礼と朝の挨拶をする。

想定していなかったため何事かと驚いてしまった。

 

「こういう場面ぐらい締めた方が決まるだろう?」

 

「お、おう…言われてみればそうだよな」

 

いつもは規律をあまり気にしていないであろう艦娘もこの時ばかりは凛とした顔で整列している。

 

「あれ、なんか川内と那珂の頭にタンコブできてない?」

 

そんな艦娘を見ていたら内二人の頭にタンコブを発見した。

 

「…気のせいでしょう」

 

「え、なんで神通が答えるんだ?」

 

「…キノセイデスヨネ?」

 

「あっはい、寝ぼけてましたです」

 

神通のプレッシャーに負けたがなんとなく何があったか把握できた。

 

「俺はこれから作戦の最終確認に行ってくる、総員出港準備を終わらせておくように」

 

「「了解ッ!!」」

 

だからもうええっちゅうねん…。

 

 

※※※※

護衛艦『いずも』士官食堂

 

 

「うへぇ、お偉いさんめっちゃいるし…」

 

指揮官参集に行くと既に多くの各部隊の指揮官がおり、先日の閣僚会議や防衛省会議とは違った武人の雰囲気が充満していた。

 

「それでは指揮官参集を始めたいと思います」

 

 

……

 

 

「…以上で指揮官参集を終わります」

 

ずっとビシッと座っていたため肩が凝りそうだ。

 

「おぅ『圭人』じゃねぇか、ガハハ!」

 

「うぇっ?!あ、あー陸自の連隊長じゃないですか!」

 

なんか勝手に下の名前で呼ばれてるし…。

 

「俺たちゃ輸送艦に乗っけてもらうんだけどよ、オメェの部隊の艦娘っつったか?あっちのフネの方がデカいし乗せてもらえねぇか?」

 

「いやいや!フネがデカくてもあれは戦艦や空母というタイプでして輸送スペースはありませんから!」

 

「ンだよ!輸送艦だか何だか知らねぇがすぐやられそうで嫌なんだよ!」

 

周りは海自の海将や海将補クラスばっかりなのだがこの1等陸佐殿は気に留める事なく大声で話す。

 

 

「護衛部隊がちゃんと守りますし私の部隊も頑張りますから安心して乗っていてください!」

 

「おっそうか!じゃあ俺は『黄金の鉄の泥船』に乗ったつもりでいるぜ!!」

 

「そ、そうですね…」

 

 

((黄金と鉄どっち?というか泥船じゃなくて大船だろ、沈むぞアンタ…)

 

 

他の海自の幹部が俺と同じ顔で連隊長を見つめるがそれに気付かず笑い続ける。

 

「では私は出港準備がありますので…」

 

「おうっ!よろしく頼むぜ!!」

 

そうか、この人色々と頭が残念なヒトなんだ!

↑今更かつ無礼

 

そんな失礼な事を考えつつ艦娘の元へと戻る。

 

 

※※※※

 

集合場所に戻ると再び気をつけをして待つ我が『第101護衛隊』の面子。

 

「やっぱまたなんかやるのね…」

 

「総~員~集合ッ!!」

 

 

テメーはよこっちに来んかい、という村上の視線が痛い。これは何か演説でもしろという事なのかねぇ?

 

「司令、こちらにドウゾ?」

 

「…わあったよ、やりゃいいんだろやりゃぁ!」

 

開き直って艦娘たちの前に立つ。

村上や警務隊長、それに艦娘の視線を受け皆の緊張が手に取るようにわかる。

 

「…緊張している者もいると思う」

 

見るからに緊張しているであろう五月雨や高波を見つつそう言う。

 

「だが『五月雨をあつめて早し最上川』という古の俳句もあるように各員の奮戦が我が艦隊を護り、しいては他艦隊の士気向上に繋がり小笠原と南鳥島の防衛を成功させる違いない」

 

『えっ私?』と近くの艦娘と騒ぐ五月雨を見つつ続ける。

 

「興奮している者もいると思う」

 

霧島や天龍、川内が不敵な笑みを浮かべているのを見つつ言う。

 

「血気盛んはいい事だ、しかし度が過ぎれば視野が狭くなり大事なモノを失うかもしれない」

 

3人が自分の事かと引きつった笑みに変わる。

 

「この戦いで全てが決まるわけではない、これは海戦の一つに過ぎず無駄に気張る必要も無い。しかし、負ければ日本近海の制海権を失い伊豆・小笠原諸島は敵の勢力下に落ちる。それだけは何としても防がねばならない!」

 

艦娘の熱の篭った視線を感じつつ最後の締めに移る。

 

「無茶はしても無理はするな!仲間を守りつつ自分も守れ!

 

被弾するなよ、被弾したら冷たい缶詰を寂しく食べる事になるぞ!

 

被雷するなよ、被雷したら南の海でサメと海水浴する事になるぞ!

基地に帰るまでが作戦だ、勝ってもMVPとか浮かれないこと!

 

おやつは500円だとかつまらん事は言わん、おやつどころか豪華な深海料理のフルコースが待ってるぞ!

食い放題だ!残さず深海の珍味を堪能してこい!お返しに砲弾と魚雷のプレゼントを忘れるなよ?」

 

俺の冗談に雰囲気がやや軽くなる。

 

「小破したら即戦線を離脱して再起を図る事、反骨精神は買うが沈んだら元も子もないからな。また本作戦は輸送部隊と補給部隊が同行している。これの海上護衛を主目標とし、敵撃滅は副目標とする。それをよく踏まえて作戦に望む事!

それでは第101護衛隊、出撃せよッ!」

 

「「了解ッ!!」」

 

「以上、出撃にかかれッ!」

 

「「かかりますッ!!」」

 

 

駆け足で散って行く艦娘たち。

沖に投錨している者は内火艇や交通船へと向かい、岸壁に係留している者は自分のフネを目指して走る。

 

「やっぱ演説は慣れねぇわ…」

 

毎回その場の雰囲気に合わせて即興で言うが好きにはなれそうにない。

だが俺の恥で士気が上がるのであれば喜んでやる。

 

「見事なご演説でした。」

 

「やめてくれよ加賀、これ凄い恥ずかしいんだからさぁ」

 

「謙遜はいいから早く乗艦するぞ、他部隊を待たせてしまうからな」

 

「村上3佐の言う通りです、行きましょう。」

 

 

言われるがまま加賀と村上に続いて停泊しているとある航空母艦へと向かう。

 

言うまでもなくそれは『加賀』、本作戦旗艦である第101護衛隊の航空母艦。

 

マストには指揮官旗である『隊司令旗(甲)』を揚げ、その上には十六条の旭日が意匠されたかつての軍艦旗と同じ規格の自衛艦旗が戦闘旗として掲揚されていた。

 

サイドパイプの『送迎』が吹かれ、隊司令である俺を迎える。

 

その足で艦橋へと向かい加賀に出港準備を下令する。

 

「加賀、出港準備」

 

「了解、出港準備にかかります。」

 

 

司令艦である加賀のマストに『出港準備をなせ』を意味する旗流信号が掲げられ、準備を終えた他の艦にも同じ信号旗が掲げられる。

 

「提督、各艦出港準備よし。」

 

加賀から報告を黙って頷く。

 

「司令、準備出来次第全艦を出港させます」

 

「よし…」

 

先ほどの旗流が下され、『準備出来次第出港せよ』を意味する信号が掲げられる。

 

加賀の船体がタグボートにより岸壁から離れ始め、それまで船体を係留していた舫索も一本となり水空き(岸壁との距離)も十分となる。

 

「提督、出港します。」

 

「よしっ、出港しろ!」

 

敬礼しつつ申告する加賀に俺は答礼して出港を了承する。

 

「出港用意!」

 

信号妖精の吹く『出港』らっぱが早朝の横須賀基地に鳴り響く。

 

先ほどの旗流信号が降下し、出入港作業中を意味する旗流が全揚となる。

 

「提督お気をつけて!」

 

「司令官さん、ご武運をお祈りするのです~!」

 

「またどっか行ったら承知しないわよ、このクソ提督ッ!!」

 

岸壁に居残り組の日向、鳳翔、鳥海、神通、那珂、春雨、曙、電そして響が手を振って見送る。

彼女たちは損傷の修理と現代化改装のため船体が使用できないからだ。

 

「菊池3佐、今度は『戦死』認定されるなよ?」

 

警務隊長が相変わらず皮肉を言ってるが目は笑っていない。

無論言われるまでもない。

 

「左帽振れ!」

 

見送りに精一杯応える。

 

それと時を同じくして霧島や雲龍といった戦艦や空母、他部隊の『いずも』や『おおすみ』といった護衛艦や輸送艦が出港し、横須賀港内はフネの大渋滞となる。

 

 

……

 

 

そんな混乱もあったが無事全艦出港し港外に向かう。

 

基地の外には出港する護衛艦や軍艦を一目見ようと早朝から大勢の市民や報道陣が集まっていた。

 

 

「お~い!頑張れよぉ!!」

 

市民の中から声が上がりそれに感化されたかのように各々が声援を送り始める。

 

「頼むぞ自衛隊!!」

 

「お父さーん、気をつけてね!!」

 

「深海棲艦だかなんだか知らねぇがやっちまえー!!」

 

中には元軍人会の集団もいるようで頻りに軍艦旗や帽子を振ったりしている。

 

「右帽振れ!!」

 

俺が命令するまでもなく各艦は岸壁の見送りに応える。

手を振る人に笑顔で応え緊張もややほぐれる。

 

「ご覧ください、あれは戦艦『霧島』の甲板上の様子です。手や帽子を振っているのは妖精と呼ばれる乗員です、彼らがどういう生態なのかは未だ不明ですが可愛らしいですねぇ」

 

報道陣もテレビやラジオ、ネットニュースでもこの光景をこぞって報道する。

 

もちろんこの光景を善しとしない人々も少なからずいた。

 

「ご覧くださいこれが今の日本です。護衛艦や軍艦が横須賀基地から出てきます、戦争をしないという平和の誓いはどこにいってしまったのか!

嗚呼、平和を愛する日本人はいなくなってしまったのか?!」

 

又一部の市民団体は『戦争反対!』とか『砲弾ではなく愛を送ろう!』という横断幕を掲げたが大半の市民が白い目で見たり深海棲艦直接の被害者ともいえる漁業・港湾関係者に激しく罵声を浴びせられ、早々に撤収していった。

 

 

※※※※

 

 

「全艦、浦賀水道を出るまでは前進微速を厳守、前後の距離に注意!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

俺は艦娘たちに指示を飛ばす。

水道が狭いのもあるがそれ以上に…

 

『頼むぞ自衛隊!じゃねぇと魚がとれねぇから商売あがったりになっちまう!』

 

「提督、漁船が多いです。」

 

「これじゃあ艦隊集合が遅くなるぞ…」

 

「加賀も村上も諦めろ。

漁師のおっちゃんたちも自衛隊に期待してくれてるんだからさ」

 

『加賀』を始めとする艦隊の周りを漁船やプレジャーボートが追いかけ声援を送る。

それらを巡視船や巡視艇が近付き過ぎないように警戒監視を行う。

 

「おい菊池、左の巡視船のブリッジに誰かいるぞ」

 

「えっ?」

 

左のウイングへ出ると巡視船が加賀の左側を距離を開け並走していた。

 

マストには他の巡視船とは異なる指揮官旗(?)が掲げられており、詳しくは覚えていないが確か『管区本部長旗』だったと思う。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「誰だ…あ、前に会った(海上)保安庁の第三管区本部長の『東郷』さんだ!」

 

双眼鏡を覗けば見覚えある顔が確認できた。

 

「え、知り合いなのか?」

 

「そんときお前は鼻血出して退出してたから覚えてるわけないよな」

 

「そんなことあったか?」

 

※(注:0-8参照)

 

 

取り敢えず本部長に敬礼し村上と加賀もそれに倣う。

 

あちらは答礼し終わると増速した。

艦隊の前方に出て先導してくれるみたいだ。

 

「こちら特務自衛艦『加賀』です、ご先導ありがとうございます」

 

「…こちら巡視船『しきしま』です。

我々が出来るのはこれぐらいです、後はよろしくお願いします」

 

俺が国際無線で感謝を言うと巡視船が応答した、声は年配であり誰が出たのかは想像に難くない。

 

(東郷さんは自ら見送りに来てくれたのか!)

 

東京湾事案の後に会った海保の本部長が約束してくれた支援協力がこの場で果たされるとは思わなんだ。

 

 

……

 

 

そのまま観音崎手前辺りまで航行するとカッター(短艇)が近付いてきた。

後続に速力を落とすよう指示して衝突防止と引き波の発生を抑えることにした。

 

「ありゃ防衛大学校の学生だな」

 

あるカッターは手や制帽を振ったりしている。

 

「朝早くから見送りありがとなー!

勉強頑張れよ、単位落とすんじゃねぇぞー!」

 

俺が手を振ると年齢相応な笑みと態度で返してくれた。

まあ俺より一、二つ年下なだけだが。

 

「おい菊池あのカッター『櫂立て』しているぞ?!」

 

「え、『櫂立て』って天皇陛下か国旗にするもんじゃなかったか?」

 

「いいから答礼しろよ」

 

櫂立てとはオールを立てる敬礼の一種だ。

 

「防衛大学校学生に答礼する、右気を付け!」

 

気を付けのラッパが吹かれ、かかれの号令と同ラッパが鳴り響く。

 

「おーい、空母ってでっかいですねぇ!」

 

「俺『艦これ』にはまってて海自の幹部目指してるんすよ!」

 

「加賀さーん、手ェ振ってくださ~い!」

 

こちらはややマニアックな学生がいるようだ。

 

「加賀手を振ってあげたらどうだ?」

 

「…わかりました。」

 

恥じらいからか頬を僅かに赤くしつつ手を振る加賀も内心は嬉しそうだ。

 

<ドッボーン!!>

 

不吉な音がした後方を見れば『加賀』から発生した引き波のせいで学生が海に落ちたようだ。

 

思わず内火艇を降そうかと思ったが転落した学生は笑って平気そうに、器用にも浮かびながら手を振っていた。

その後無事カッターに乗り込んだのを見て艦橋は安堵の空気に包まれる。

 

 

しばらく進むと右に浦賀の町が見えてきた。浦賀の手前には『駆逐艦 村雨の碑』があり、『加賀』の一つ後ろの『村雨』がそちらを気にしているのが容易に想像できた。

 

「おい村雨、帰ってきたらデートしようぜ?」

 

<ビキッ…>

 

艦隊の空気が凍った気がしたがきっと気のせいだろう。

 

「ホント?!それって二人きりでってこと?」

 

「そりゃデートは2人でするもんだぜ?

あの村雨の碑もいい記念になるし。

ただ他の娘の妨害が心配なんだよなぁ…」

 

「提督、不純異性交遊は慎んでください。それに今は作戦行動中です、電波の私的利用は禁止です。」

 

「加賀もお堅いなぁ、ちょっとぐらいいいジャマイカ。

あ、それじゃあ加賀も帰ってきたらデートに…」

 

「行きません。」

 

「なんでぇ素直じゃないなぁ…だがそれがいいッ!!」

 

「「この女たらしッ!!」」

 

「…なぁ加賀、こいつ海に捨てていいか?」

 

「そうね、作戦が終わったら海中投棄しましょう。」

 

「うげぇ…村上と加賀って何気に酷いよな」

 

さらっと悪ノリする加賀さん怖いや。

でも嫌と言わないあたり脈はあると見た!

 

「あれは浦賀の街だな…」

 

浦賀ドックの通称で知られる『浦賀船渠』は見えないものの、戦場に向かう俺たちは感傷的な気分になる。

 

このドックからは多くの帝国海軍・海上自衛隊艦艇が建造され、艦娘もその例外ではない。

 

この101護隊の艦娘だけでも帝国海軍時代で言えば軽巡は阿武隈、駆逐艦は雷、五月雨そして高波が建造されている。

 

海上自衛隊時代では初代護衛艦『はるさめ』、せんだい、とね、2代目『ゆうだち』、てんりゅうそして3代目『たかなみ』が建造された。

 

「たしか高波は駆逐艦と2代目護衛艦の二回浦賀で生まれているんだよな」

 

「はいそうなんです。高波にとっては思い入れのある場所かも!です。

よく目に焼き付けておかないと…」

 

思い入れがあるのかそうじゃないのかはっきりしないが、少なくとも大切な場所なのだろう。

 

駆逐艦『高波』は艦これ実装艦の中で就役日数が最短の92日だったと記憶している。

そんな彼女が出撃に当たって生まれ故郷へどんな想いを寄せるのか。

 

「最期の見納めみたいな事言うなよ高波。

これからも横須賀に帰還すれば何度でも見れるし俺がお前を沈めたりしないさ…」

 

「司令官、高波一生懸命頑張ります…かも、です。はい!」

 

「よし良い子だ、帰ったらデートに行こうな」

 

「まーた提督がナンパしてるデース…」

 

「ホント息をするようにナンパするわよね、こっちの身にもなってほしいわ」

 

「ねえ提督ぅ!照月ともデートしよっ?」

 

「おっ、そんな素直な照月にはデートで素敵なご褒美あげちゃうぞ!」

 

「「ちょっ何するのっ?!」」

 

「そりゃ秘密だ」

 

出港前の厳正な雰囲気は何処へやら。

 

「「ああ、艦隊の規律が…」」

 

真面目な村上や加賀、妙高といったメンツからため息が漏れるが無視ムシ。

 

こんな雰囲気と規律の緩さも第101護衛隊の良いところの一つか、まあ規律が緩い主な原因は俺なんだけどな。

 

 

※※※※

 

 

無事水道を出た全艦艇はそのまま南下し、艦隊の集合場所である千葉県の館山沖へと向かう。

 

周辺海域は哨戒機や対潜ヘリの継続的な監視と留守を預かる護衛艦部隊のおかげで制海権は握っている。

 

「タンカー5隻、『小笠原丸』とその護衛艦が近付きます。」

 

「予定通り艦隊の最後尾に着くよう連絡してくれ」

 

タンカーや弾薬運搬船のような危険物搭載船舶を船団や艦隊に入れるときには基本的に最後尾と決まっている。

 

何故なら火災が発生したら大爆発を起こし後続の船舶にも危険が及ぶからだ。

タンカーの真後ろをクリアにしてその後ろ左右に護衛艦が付きエスコートする。

 

 

『護衛艦いずもを中心に陣形を形成せよ、陣形は護送船団陣形』

 

今回の艦隊の総旗艦である『いずも』から命令が下り、各艦船は事前に定められた位置へと向かう。

 

「悪いけど先に制服脱いで(着替えて)くる」

 

「どうぞ。」

 

提督の服といえばよく二次創作物の動画やイラストで見る白や黒色の詰襟長袖の制服。

あれは主に式典用の服装であり、戦闘時などは濃い紺色の作業服と呼ばれる服を着用する。

 

ロマン溢れる大海戦の時代は当の昔に終わっていて現代の海戦は効率と能率を追求している。

 

艦長や提督(司令長官)がフネと最期を共にする事も古き良き悪習の一言で片付いてしまう。

 

ただ艦娘のフネは沈んだら艦娘も消えるらしいので、護衛艦もそうだが彼女たちにも自分のフネをしっかり守ってもらいたいものだ。

 

艦隊の動きを目で追いつつ俺は司令室に向かうのであった。




艦これ・艦娘要素皆無ッ…!

ほぼ内輪ネタで満載です。
大艦隊で出港(出撃)するならこういった展開になるのではないかと思い、詰め込みすぎた結果が今回です。
次回からは少し艦これ要素が増える…といいですね!

「おい艦これしろよ」
連合艦隊編成ならこれは譲れなかった。
艦娘部隊or護衛艦部隊だけなら行ってらっしゃいで終わりですが、参加可能艦艇を総動員しているこの一大事をさらっと書くわけにはいきません。

※次回について
大艦隊は最初は南鳥島の増援輸送に行くはずでした。しかし同行する民間商船から文句があり…。


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1-14 増援はいつ届くのか 【館山沖〜硫黄島】

2017年、
今年もよろしくお願いいたします。

冬休み、休暇はいかがでしたでしょうか。
私も年末は実家で
のんびり執筆の毎日でした。
艦これをプレイしたり
艦これ動画を見ながらアイデアを
思いついては消しての繰り返し…。

もっと戦闘パートを入れなければ!
セクハラはしばしのお休みです。




千葉県館山沖

 

「すっごい大艦隊…」

 

漣がぽつりと呟く。

 

「そりゃそうだ、艦娘と

護衛対象の民間船を含めれば

総勢81隻の名実ともに連合艦隊だからな」

 

 

東京湾の入り口である館山沖を

艦隊は威風堂々と南下する。

 

 

☆☆☆☆

●艦隊編成

DDH3、『いずも』『ひゅうが』

DD等17

 

輸送・補給艦8

掃海母艦2

掃海艦1

海洋観測艦3

音響観測艦2

敷設艦1

潜水救難艦1

多目的支援艦1

 

潜水艦4

※艦隊と別行動、行き先の詳細不明

 

◯民間船

タンカー5

※4隻は艦娘(101護隊)重油運搬船

※もう1隻は自衛隊徴用の航空燃料運搬船

○艦娘32

空母5

加賀、蒼龍、雲龍、飛鷹、千代田

戦艦3

金剛、霧島、伊勢

重巡5

妙高、足柄、愛宕、利根、筑摩

軽巡5

天龍、阿武隈、川内、大淀、鹿島

駆逐14

白雪、漣、雷、

村雨、夕立、五月雨、

朝潮、満潮、黒潮、親潮、

高波、秋月、照月、島風

 

☆☆☆☆

 

 

艦隊編成を終えた『第1護衛任務部隊』は

速力8kt(時速15km)という、

人がジョギングする程度の

ゆっくりしたスピードで南下していた。

 

観音崎沖で海戦が起きたり、

どっかの『霧の艦隊』が出現したり…

ということもなく一路南鳥島への

最短コースを取っている。

 

 

「数は多い癖にスピードは

鈍亀ってダサくない、ご主人様?」

 

((おどりゃ『ザザナミ』、

提督をご主人様と呼ぶとは

良い度胸してるじゃねぇか…?!))

 

他の艦娘の多くが羨ましがる(妬みか?)

が気にせず会話し続ける二人。

因みに『ザザナミ』とは

提督がいつも騒がしい漣につけた蔑称、

本人は割りとどーでもいいらしい。

 

「タンカーとか民間船もいるし、

自衛艦にも遅いのがいるから仕方ねえだろ」

 

「でもでも折角の出撃なんだから

もっとこう、

『駆逐艦漣、最大戦速ッ!』

でピューンって感じで航行するみたいな?」

 

「燃料が無くなっても知らねえぞ」

 

「そこはタンカーに

給油してもらうし行けるっしょ!」

 

「お前だけ燃料切れで

置いてっても良いんだぜ?」

 

「マジサーセンでした

反省してますご主人様ぁ…。

てか部隊名ダサ過ぎでしょ。

もっとこう…イケてるネーミングが

あると思うんだけどなぁ?」

 

「まあな…例えば?」

 

「『提督と愉快な

手下たち〜深海棲艦は皆殺し❤︎〜』

『美少女戦隊リターンズ

〜海に代わってお仕置きよ!〜』とか…」

 

「却下!論外!センスゼロ!」

 

「じゃあ…

『菊池ハーレム〜淫欲の宴〜』は?」

 

「……マトモなネーミングは無いのか」

 

退屈な航海であるものの

艦娘たち話しながらなら辛くはない。

無論索敵はしつつである。

 

 

「なあ大淀。

燃料や弾薬の保有状況はどうだ?」

 

「現在の重油量でなら単純計算ですが

巡航速度で艦隊が地球一周出来ます。

しかし戦闘を考慮しますと

やや心細いですね、今回の作戦は

期間も未定ですし予備も

十分とは言い切れないかと」

 

「地球一周と聞くとスゲーって思うけど

直線距離かつ巡航速度で

走った場合だからなあ参考程度だし。

最大戦速出したら

低燃費って何?状態だし、

無駄な戦闘や深追いはしない方がいいな」

 

「また弾薬も全く

生産ラインが出来上がっていません、

全国各地で妖精や

民間企業による『手作り』状態。

今回搭載した量では

全力戦闘は3回が限度かと思います」

 

大淀が艦隊の厳しい懐事情を答える。

 

燃料もそうだが弾薬が無ければ

軍用艦の役割を果たせずに

ただのハリボテになってしまう。

艦娘が現れてからすぐに

弾薬の製造を開始したのだが

先述の通り手作業で

ガリガリと砲弾を作ったところで

完成するのはほんの僅か。

 

普段から自衛隊の銃砲弾を

製造している民間企業に

『帝国海軍』規格の砲弾を

発注しているものの、

製造ラインがなかなか完成しない。

 

ぶっちゃけると海上自衛隊と

帝国海軍は同じ日本の

海軍であっても実際は別の軍隊なのだ。

12.7センチ砲弾のサイズは

同じでも規格は違うし装填もできない。

 

つまりーー

 

「ドンパチを控えつつ、

被害を最低限に留めるしか

策は無いということですね、司令」

 

俺の言いたい事を代言した親潮。

真面目な娘は可愛いな。

朝潮や妙高もそうだが

もっと愛でたくなる。

 

「そういうこっちゃ。

親潮は賢いなぁ、入港したら

ナデナデしてやるからな!」

 

「あ、ありがとうございます!

これでも状況分析は日頃から

欠かさず行なっていますから!」

 

素直に喜ぶ親潮の笑顔が目に浮かぶ。

彼女や朝潮が学校に通っていたら

間違いなく委員長だろう、

俺が推薦演説してやろう。

 

「でもどうやって弾の消費を

抑えながら敵を倒すのデスカ?」

 

「んー基本は他の護衛艦や

哨戒機に任せつつ、敵の主力艦や

大規模艦隊が現れたらそこそこ

攻勢に出るってこと、OK?」

 

「はいは~い♪

つまり弱い敵は護衛艦にお願いして、

強敵が出てきたら私たちが臨機応変に

対応ってことかしら〜!」

 

「村雨、なんだかそれじゃあ

行き当たりばったりっぽい〜?」

 

「『ぽい』じゃなくて

事実なんだよなこれが…」

 

哀しいかな村雨と夕立の

ボケツッコミは的を得ていた。

事実この部隊は数だけは多いが

戦闘は数回しかこなせないため

貧弱と言わざるを得ない。

もっとも護衛艦も同じ様なものだが。

 

補給艦や輸送艦には

予備弾薬も載せてはいるが、

補給している間があるとも限らない。

敵を倒しつつも弾を節約せねばならない。

 

 

※※※※

 

数時間後

 

「各部隊指揮官宛、南鳥島周辺で敵潜水艦を発見。哨戒機による掃討を開始した」

 

「CED101了解した」

 

突如入ってきた連絡に返事をしつつ、かんがえごとをする。

 

う~ん参ったな。

最初の目的地であるマーカス周辺に敵潜がいるとなると、輸送任務の遂行が困難になるぞ。

 

そう悩んでいると同行する民間タンカーや小笠原丸がゴネ始めた。

 

「ちょっと自衛隊さん、いくら守ってくれるといっても流石に嫌ですよ」

 

「こちら小笠原丸です、ウチだって民間人乗せてるんです。

大体南鳥島まで一緒に来いというのが変な話でしょう。先に父島に向かってくださいよ!」

 

「タンカーも父島沖で待機するんですから無理して危ない場所に行く義理はないです。

契約では了承しましたが状況が変わったなら話は変わります!」

 

敵がいるとわかると民間商船組が父島へ行けと言い始めた。

分からなくもない。

『おが丸』が遠回りするのは船団護衛してもらう為、わざわざ行く必要の無い危ないところになど誰が好んでいくだろうか。

 

自衛隊側も説得を試みたがまるで聞く耳を持たず、部隊司令部も上と一悶着あった様だが民間の主張を優先した。

 

 

「こちら部隊指揮官です。

わかりました、南鳥島への回航を延期し先に父島へ向かいます」

 

 

南東へ向かっていた艦隊は南西に舵を取り時刻は1700を迎えた。

 

 

…………

 

「提督、夕食の準備が整いました。」

 

「サンキュー、一緒に士官食堂まで行こうぜ」

 

「はい是非。」

 

士官食堂で夕食を食べつつちょっとした会議を行う。

 

「村上はどう思うよ?」

 

「民間に譲歩したとはいえ本来の目的である『南鳥島への増援輸送』が疎かになるのはなんとも言えんな」

 

「そりゃそうだけど自衛隊の都合で商船を危険に晒したら昔と変わんないだろ。

タンカーや客船を沈めたらそれこそ国民から叩かれるどこじゃ済まないぜ?」

 

「ですが私としては南鳥島を先に増強すべきだと考えます。」

 

もう過ぎた話ですが、と加賀が付け足す。

 

「そりゃ増援を送るに越したことはないけどそれはあくまで自衛隊単体の部隊だったらの話だ。

徴用しているとはいえ民間のタンカー、道中が危険だから守りますって名目の護衛対象の客船を連れ回すのはちょっと筋が通らないっていう事だよ」

 

「国家の一大事なんだ、悠長な事を言ってられないだろう」

 

「おいおい勘違いしてないか?

南鳥島はただの領土だ、現地に職員がいるとはいえ商船の乗員乗客を同行させるのはやり過ぎだと言ってるんだ。

そう考えると純粋な戦闘艦だけで輸送艦を伴って行くほうが理に適っていると思うけどな」

 

「だがマーカスの職員や隊員にもしもの事があったら…!」

 

「あそこに何人駐留しているか知ってるか?約30名だそうだ。

タンカー5隻で乗員60名として客船は2、300の客と乗員が乗っている。

どちらを優先すべきかは…わかるな?」

 

「なっ…?!

それじゃあマーカスは、『山下』は見捨ててもいいって言うのか?」

 

俺の言葉に村上がやや声を荒げるが事実に変わりはない。

 

「そうは言ってないだろ。

ただ関係無い民間人を連れて行っても邪魔だし足手纏いになる、だから父島で分離した方が憂い無く輸送任務に集中できると言いたいんだって」

 

「むっ…そうか」

 

渋々黙る村上。

 

「士官室から艦橋。

加賀、飛行長だが整備の事で話があるんだけど艦橋までいいか?」

 

艦橋の妖精から呼ばれた加賀は食事も終えていたためすぐさま席を外す。

 

「提督、村上3佐お先に失礼します。」

 

「うん行っておいで」

 

加賀が出て行き二人になった俺たちは先ほどの話を続ける。

 

「…俺とていざという時の覚悟はできている。だがその時に納得できるかと問われれば納得はできないだろうな」

 

「それが人間ってもんだろ。

その『いざ』という時が来ないのを深海棲艦に祈るしかねぇわな」

 

 

※※※※

 

硫黄島近海

 

 

「菊池、もう直ぐ硫黄島に着くぞ」

 

「ああ」

 

 

父島で非戦闘艦と民間商船そして護衛艦と艦娘の一部を分離し、艦隊は硫黄島まで進出した。

ここで航空燃料や補給物品、陸空自の防空・対艦ミサイル部隊の一部を揚陸し、再び父島に戻る事になっている。

 

 

「あの時は俺も熱くなったが公人としてはお前が正しいと思う、私人としては納得できんが」

 

「俺だって山下やマーカスを見捨てたくねえよ。でも立場が立場だ、助けたいのは山々だけどおいそれと簡単に行けるもんじゃない」

 

「菊池…」

 

「さ、揚陸を済ませてちゃっちゃとマーカスに増援送りに行こうぜ!」

 

暗い雰囲気を吹き飛ばそうと村上に明るく振る舞う。

 

「カラ元気でも出さないとやっていられないしな。お前の言う通りだ、さっさと終わらせてしまおう」

 

揚陸に直接関わらない俺たちは硫黄島の周りで対潜哨戒をしつつ待機していた。

 

「それにしても静か過ぎる、道中も敵は襲って来ないときた。嵐の前の静けさってやつなのか奴らが何を考えているのか不気味でしょうがないな…」

 

揚陸作業を眺めつつ呟く。

 

「なあ提督おかしいと思わねぇか?

奴らが増援の輸送を見逃すってのも変だし、輸送任務だと知らないにしてもこの大艦隊を見つけたらすぐに攻撃してくるはずだろ。

オレが深海棲艦だったら迷わず襲撃してるぜ?」

 

天龍が反応する。

 

「天龍もそう思うか。

どうも敵の手の上で転がされている気がしてソワソワするんだよな」

 

雲龍が俺の呟きに反応した。

 

「ふーん…もし敵がわざと見逃しているとしたら、何を狙っているのかしらね?」

 

「こればかりは戦況分析もできませんね、情報がなさ過ぎます。

偵察衛星や潜水艦からの情報は入っていないのですか?」

 

雲龍の問いに霧島がお手上げだと助けを求めて来た。

 

 

偵察衛星は常時付近海域を捜索するが海の他には画像に写らず、敵の勢力や位置は全く掴めていなかった。

 

南鳥島近海に進出した味方の潜水艦からもその艦種の特性上頻繁に情報が送られてくるわけもなく、一日に1、2回連絡があればマシ程度の頻度であった。

 

『戦場の霧』によって統幕や海幕といった上級司令部が判断に困っているということは、必然的に前線部隊はそれ以下の情報しか降りて来ないのは明白だ。

戦場の霧とはプロイセンの軍人で軍事学者クラウゼヴィッツが定義したもので、作戦遂行に必要な情報や情勢が不完全又は鮮度が低い等の理由で判断に充分な材料となり得ないことを指す。

 

敵がいないということはわかっているのだが、それでさえ数時間おきだったりやや古い情報であるため最新・確実であるとは言い切れない。

 

艦隊も護衛艦や空母、重巡からも哨戒ヘリを出し目の前の硫黄島から索敵機を発進させているが未だ敵を一隻も見つけられていない。

 

 

「残念だが敵の動向は何も掴めていない。

厚木や硫黄島の哨戒部隊や空自の戦闘機も随時索敵しているが何も発見できていないそうだ」

 

敵がマーカスを狙うというのはガセなのではないかという疑惑も無いわけではなかった。

しかし現に西之島に出現している以上小笠原やマーカスを放置する訳にはいかず、増援輸送と敵撲滅も兼ねてこの大艦隊が組まれたのだ。

 

これで敵は現れず海上自衛隊は油を使っただけでしたなんて事になったら政府や自衛隊の上層部の首が両手では数えられないくらいに飛ぶだろう。

 

「小笠原まで油を捨てに行ったとか言われちゃっても困るよね~」

 

島風の一言はこの艦隊皆が思っている事を代言していた。もしこれが深海棲艦の偽報であれば正しく戦わずして勝つ戦略であり、人類側は戦力と貴重な油を疲労・浪費しただけでなく優秀な人材を更迭される事になるだろう。

 

「とはいえ今は俺たちがすべき事をなすだけだ。揚陸が終われば父島に向かい艦隊の補給をする、それまで極力休息を取るようにしておくんだ」

 

「「了解」」

 

 

……

 

 

南国特有の透明度の高い海はそんな人間たちの心は知らぬと言わんばかりに太陽を反射し自らの職務を全うしていた。

海中には時折サメが姿を見せ獲物が現れないか探っている。

 

そんな南の楽園にあって俺たちは何をしているのだろうか?

 

深海棲艦など最初からおらず、俺や他の人間たちの妄想や幻覚だったのでは無いかとふと思ってしまう。

だが今乗っている加賀や周りの艦娘のフネや護衛艦群がそんな訳無いだろうと現実に引き戻す。

 

硫黄島と艦隊の間を輸送艦のホバークラフトがひっきりなしに往復し、機材や車両といった重装備を運搬している。

 

『大発』を使った蟻輸送のようだと思ったがあながち間違えでは無いかもしれない。

岸壁が無い硫黄島ではホバークラフトを使った揚陸がメインだそうで、よくある光景だそうだ。

 

民間タンカーから長いケーブルを通して陸上タンクへ航空燃料が送られる。

今この場を狙われたら大惨事は免れないだろう、しかし敵はこの機会を見逃してくれたようで揚陸終了まで現れなかった。

 

 

……

 

揚陸の進捗状況が80パーセントを越えた頃、島である異変がおこった。

 

「ち、ちょっとぉ~アレ凄くない~?!」

 

愛宕ののんびりした声に島を見れば、

黒い煙と炎が島の平野の一部から噴き上がっているのが確認できた。

 

「え?ってええぇーー?!?!

アレやべーんじゃねぇの?島が噴火してんじゃんか?!」

 

「なんじゃそんな慌てて。

提督は驚き過ぎなn……ってうおおぉーー?!?!

ちくまぁー、筑摩ァー!島が怒り狂って火を噴いておるぞ?!」

 

「…姉さん落ち着いてください。

あれは硫黄島ではよくある光景なんです、あれは『ミリオンダラーホール』という旧噴火口あたりですね」

 

「へ、そうなのか…?」

 

何故筑摩が硫黄島の事を知っているのかは定かではないが、硫黄島ではちょくちょく火山がそこらかしこから噴き出るらしい。

ミリオンなんとかという地名の由来はかつて米軍がそこに兵器を放棄し、その額が100万ドル相当だかららしい。

 

そんな島の噴火も気にせずにホバークラフトはせっせと働きアリのように揚陸を続ける。

 

噴火も収まったのと時を同じくして揚陸も終了し、艦隊は移動の準備をせっせと行う。

 

「そんじゃあ父島へ向かうぞ~!」

 

「「おー!!」」

 

「…なんでこんな緩いムードになってるんだ」

 

後ろからツッコミが飛んできたので、振り向くとやはり村上だった。

 

「やっぱ気分の持ちようは大事だと思うんだよなぁ」

 

「いやそこは引き締めて行くべきじゃ無いのか?」

 

「気張り過ぎてもダメですよ村上さん」

 

「白雪の言う通りだ、ただでさえ常に緊張状態なんだから時に緩ませることも必要だ。

イケメン3佐曰く『輪ゴムを常に伸ばしてると使えなくなる』だぜ?」

 

「それお前が考えた迷言だろ…。

自称イケメンは痛すぎると思うが」

 

「自分に自信を持てない奴は恋も戦争も勝てない、ここテストに出るぞ〜」

 

「「は〜い♪」」

 

なんか何人か本気にしているが

そこは触れないでおこう…。

 

 

……

 

「揚陸終了、各部隊は陣形を形成せよ」

 

どうやら終わったらしい。

 

「総員聞け、父島で一旦補給したのち目的地である南鳥島…マーカスに向かう。

今のところ敵は現れていないがマーカス周辺には潜水艦や軽巡クラスが出没しているとの情報が入ってきている。

その障害を排除し彼の地に増援の揚陸を行う。

 

今いる『父島沖海戦』参加メンバーから聞いたと思うが敵は数も多い、こちらは弾薬にあまり余裕も無い。

俺を含めた各員が最善の方法と努力をしつつ無事作戦を成功に繋げられる事を期待する、返事ッ!」

 

「「了解ッ!!」」

 

「うっし、第101護衛隊出港用意!」

 

(待ってろよ山下、もう少しでマーカスに行くからな)

 

明るく振る舞いつつも心の中では焦る俺がいた…。




※現在父島には補給部隊と護衛艦隊が残留。

●父島守備艦隊
護衛艦5 旗艦 護衛艦『てるづき』
戦艦 伊勢
空母 千代田
重巡 妙高
軽巡 大淀
駆逐艦 秋月、朝潮、満潮、黒潮、親潮
●補給・輸送部隊
輸送艦 2マーカス増援部隊搭載中
補給艦3
掃海母艦2
掃海艦1
海洋観測艦3
音響観測艦2
敷設艦1
潜水救難艦1
多目的支援艦1

民間タンカー4 艦娘用重油運搬船
小笠原丸 旅客船

※次回の流れ
ピンチ!…以上です。



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1-15 楽園に放たれる劫火(ごうか)【硫黄島・父島】

◯あらすじ
硫黄島に輸送完了
父島行くよー!

父島へ回航を始めた護衛任務部隊。
そこに突如父島艦隊からの無線が…



硫黄島への揚陸が終わり任務部隊が父島へ回航を始めた時だった。

 

 

『こちら父島守備艦隊、護衛艦きりしま!父島東方からの敵航空機集団と思われる反応を確認、当艦隊は迎撃態勢に入る!』

 

 

突如飛び込んできた無線は父島へ敵の大編隊が来襲しつつあることを告げた。

 

「部隊指揮官了解した、何機編隊がわかれば知らせ!」

 

『およそ120機、距離350km。

軽空母千代田から零戦21機が発艦予定!』

 

守備艦隊としてイージス艦や艦娘の一部を残しておいたのが幸いか、多勢に無勢ながらも1対6の割合で艦載機が迎撃にあたるようだ。

 

「群司令、艦隊を最大戦速で父島へ向かわせましょう!」

 

「うむ、そうしよう!」

 

俺はこの任務部隊の指揮官たる第1護衛隊群司令にリコメンドし、艦娘にも指示を飛ばす。

 

「空母は戦闘機隊の発艦準備を行え!

加賀を除いた各艦は出来次第発艦、父島まで150キロほどだ。

ぶっ飛ばして敵の艦載機より先に到着し、味方と父島を守るんだ!」

 

「「了解ッ!!」」

 

「お、おい菊池3佐そんな勝手に…!」

 

俺の采配に思うところがあるのか群司令が口を挟む

 

「私の部隊ですから当然の事をしているだけです、この艦隊防空用に『加賀』の戦闘機隊は残してありますのでご安心を」

 

「勝手に物事を進めないでほしい。指示はこちらから出すからあまり走り過ぎないでもらいたい!」

 

「しかし群司令、敵は待ってくれません。

先手を取られたのです、それを挽回すべく努力しなくては!」

 

どうせ発艦させるんだ、手順だけの命令なんて待ってられるか。

 

「迎撃機隊発艦しました!」

 

「よし!撃ち漏らしはするなよ、言わずともわかっているだろうがな」

 

150キロという距離を零戦はあっという間に翔ける。

20分程で父島上空に到着、敵の空襲前に滑り込みで迎撃態勢を取ることができた。

 

「父島の艦娘の指揮は千代田か伊勢に任せる、可能なら護衛艦の航空管制支援も受けろッ!秋月と大淀はその対空砲火をもって敵艦載機を殲滅しろ!!」

 

『『了解ッ!!』』

 

父島にいる艦娘に大まかな指示を出し、細かい部分は向こうに一任する。

遠くの人間にとやかく言われるよりも現場の艦娘に任せた方が都合がいいだろう。

 

レーダー画面と作戦支援端末を睨みながら彼女たちの迎撃成功を祈る。

 

(頼むぞみんな…!)

 

 

※※※※

 

父島沖

父島守備艦隊

 

「『きりしま』こちら戦艦伊勢。

対空砲火はばら撒けますが艦載機の邀撃管制支援や対空ミサイルとかはお任せします!」

 

伊勢の丸投げなお願いは護衛艦側でも受信された。

 

「ラジャー、なお敵は大まかに3つの編隊を組んでいる。手前から1つ目は中高度の戦闘機、2つ目は低高度の雷撃機、3つ目は高高度の急降下爆撃機と思われる。

どうだ、いけそうか?」

 

「それさえわかればこっちのものです!千代田、大淀、秋月も準備はいい?!」

 

「「バッチリです!!」」

 

分艦隊の防空を担うのは皆優秀な艦娘である。

 

この守備艦隊には艦娘も分艦隊として残してあり

 

伊勢、千代田、妙高、大淀、秋月、朝潮、満潮、黒潮、親潮

 

先日の『父島艦隊』の無事なメンバーを揃え、軽空母ながらも優秀な千代田や航空機キラー秋月・大淀も随伴。

 

妙高や大淀といった巡洋艦による対空砲火も期待できる。

 

秋月以外の朝潮・陽炎クラスは対空火力がやや見劣りするものの、この日の為に現代戦の座学と演練をこなした彼女たちはゲームで言えばLV.1の秋月と同等以上のポテンシャルを秘めていた。

 

「にしても…」

 

伊勢は防衛対象の一つである補給艦やタンカーを見た。

 

補給艦にはこの時の為に突貫で設置したCIWSが空を睨み、12.7mm機関銃には隊員が張り付いていた。

輸送艦の上甲板には輸送していた陸・空自の対空ミサイルが展開し、何もせずやられるくらいなら足掻いてやるぞという熱意が感じ取れた。

 

「補給艦にもCIWSが付いて、輸送艦は便乗していた対空ミサイル車両が守ってくれてきっと心強いでしょうね」

 

同じく見ていた朝潮がやや嬉しそうに言う。

 

「アンタ身内のフネ以外の心配しなさいよ、民間のタンカーなんて丸腰な上に油積んでるんだから。

客船は油積んでないから多少気分はマシでしょうけど同じく丸腰よ?」

 

「満潮の言う通りね。

もしこれが入港してたり投錨して動けない状態だったら確実に沈められるわね」

 

満潮の指摘に伊勢が同意する。

 

幸い守備艦隊は島の西にある港の反対側、つまり敵編隊から見て島の手前側におり島への被害は最小限にできる位置だ。

 

だがそれは艦隊に敵の攻撃が集中する事を意味する。

 

 

「伊勢こちら『きりしま』、迎撃機が会敵する前に対空ミサイルを使う、戦闘機隊に伝えてくれ!」

 

「了解しました…退避完了、

グリーンレンジ!」

 

伊勢から戦闘機隊の退避完了が伝えられ、

イージス艦『きりしま』や『ふゆづき』から対空ミサイルが斉射される。

 

「うっひょ〜!護衛艦の時に沢山撃ちたかったのよね。

やっぱVLSとか増設したいわねぇ〜!」

 

「あの伊勢さん、それは『日向』さんが改になった時の台詞のパクr…」

 

「大淀さん来ましたッ!

敵機左90度、200(20km)!」

 

伊勢の発言へ突っ込もうとした大淀に秋月が敵機視認の報告をする。

 

「150(15km)になったら主砲の三式弾、及び高角砲を撃ちます!

護衛艦も同じく開始、そちらは主に低空の雷撃機を。我々は急降下爆撃機に弾幕を張ります!」

 

「了解した、高高度には主にミサイルを使用する。間違えて的にならないように戦闘機隊に伝えておいてくれ!」

 

対空戦闘のプロである秋月が他の艦娘に指示を飛ばし、護衛艦側と最後の調整を行う。

 

「対空戦闘ならこの秋月に

お任せくださいッ!」

 

……

 

 

駆逐艦の秋月が戦艦の伊勢や重巡の妙高を差し置いて指揮をするのはどうなのかという意見も硫黄島回航前にあったが、提督の後押しもあってすんなり収まった。

 

『秋月型は対空戦闘のプロだ。

単純な対空火力では大淀や妙高に劣るかもしれない。だけど餅は餅屋と言うように特化した技術と才能は他の艦娘には真似できないはずだ。

もし敵機が現れても秋月なら護衛艦とも協同して対処できると信じている。

 

照月も残してやれないのは可哀想だが、そこは長女たる秋月の見せ場だ。

 

今度こそ、守りきってあげるんだぞ』

 

 

秋月は瞳を静かに閉じ意識を集中させる。

瞳の裏に浮かぶ大切なもの…。

 

姉妹、仲間…。

 

そして最期の戦い。

 

 

『エンガノ岬沖海戦』

 

小沢治三郎中将率いる第一機動部隊は米軍の空襲に晒され、主力艦は壊滅。

 

瑞鶴、瑞鳳、千歳、千代田、伊勢、日向、多摩、五十鈴、大淀、初月、秋月他4隻の艦隊は奮戦虚しく敗北。

秋月は最初に撃沈され防空駆逐艦としての役目を果たせず散ってしまった。

 

だが『今度』は守りきるのだ。

千代田、伊勢、大淀…そして朝潮、満潮、黒潮、親潮。

 

敵機が狙うはタンカーや非戦闘艦、父島の施設や民間人。

 

(こうして再び駆逐艦としての人生を迎えたのには意味があります!)

 

「皆さん、上空の急降下爆撃機を狙います!今度はこの秋月、沈みません!」

 

「了解致しました!

この大淀、元連合艦隊旗艦の実力をお見せします!」

 

二人のやり取りに艦娘と護衛艦の雰囲気が緩む。その間に戦闘機隊が敵編隊に攻撃を仕掛け、青い空には機銃の火線と墜落する敵機が生み出す黒い飛行機雲が発生する。

 

ヘッドオンーー敵機の正面から仕掛けた蒼龍戦闘機隊は鷹の如く敵機を喰う。

既に実戦経験を積んだ蒼龍艦載機は無謀とも言える機動で敵機を翻弄する。

 

「オイオイ蒼龍姉さんとこの奴ら無茶過ぎるだろ…」

 

千代田や雲龍の艦載機妖精がぼやくがその動きも似たようなものだった。

艦娘が船体の現代化改装を行なっている間妖精も空自のアグレッサー部隊や仲間同士で空戦技能を磨き、来たる深海棲艦の機動部隊同士の戦いに備えていた。

 

これについては割愛するが、活動拠点となった神奈川県海自厚木基地や茨城県空自百里基地といった航空基地周辺の住民から苦情が毎日寄せられたらしい。

ちなみに見物に来た撮影家やマニアが地元にお金を落としたことにより反発はやや下火となったらしい。

 

 

その甲斐もあって艦載機の熟練度は高く、決して深海棲艦に劣るものではなかった。

とはいえ大戦当時と比べるといささか低いことは否めない。

五航戦よりやや低い程度といえばわかるだろうか。

 

対空ミサイルによって混乱状態の敵機。我が方はその半数に満たない戦闘機隊であったが四方八方から襲い掛かり、一つの編隊が航過するたびに5、6機ずつ撃墜していった。

 

残り60機程になったころ高角砲の射程になり、戦闘機隊は退避し秋月や大淀、護衛艦や他の艦娘による対空射撃が開始される。

 

「さぁ、始めましょう。

撃ち方、始めェッ!」

 

秋月の号令と共に各艦の砲門から発砲炎と硝煙、そして砲弾が放たれる。

 

秋月を筆頭とした急降下爆撃機を狙う艦艇は砲身を直上に向け、弾幕を張り狙いを妨害する。

 

一方護衛艦の速射砲は弾幕を張るのではなく『当てる』。

かつてのVT信管のように近接信管を使用する砲弾もあるが、コストパフォーマンス的にあまり使われていない。

 

水平に射撃する艦娘は雷撃機を狙う護衛艦より命中率は低いが、レーダー射撃による見越しは圧倒的だ。

 

「秋月姉頑張ってー!」

 

父島へ急行する照月が姉である秋月を励ます。本人は忙しく返答できないがその言葉を聞き更に集中する。

 

(防空駆逐艦の本領…発揮しますッ!)

 

機銃や護衛艦のCIWSの射程となり機銃弾が霰のように敵機へと向かう。

 

砲弾と銃弾の雨を突破した敵機は艦隊の直上と正横から爆雷撃を敢行する。

 

 

「急降下爆撃機、降下開始ッ!」

 

各艦の見張り員や見張り妖精が報告し、

対空砲火は砲身が赤くなるぐらい行われ最大戦速に伴い煙突からは黒煙が噴き上げる。

 

勇敢に弾幕を突破してきた敵機の内20機ほどは秋月や大淀、護衛艦といった対空火力が強力な艦艇に狙いを定めたらしい。

 

「取舵一杯ッ!急げッ!」

 

秋月が咄嗟に叫び航海妖精が復唱しながら操舵を左に取る。

 

「取〜舵一杯急げぇ〜!」

 

やや間延びした復唱とは対照に舵輪は素早く回され、それに僅かに遅れて舵が効き始める。

 

(爆弾は…『丸い』!)

 

丸いとは急降下爆撃機の投下した爆弾が真っ直ぐ自分に向かってきているということを意味する。

つまりこのままでは命中してしまうのだ。

 

(また…歴史は繰り返すというの?!)

 

秋月の脳裏に昔の走馬灯が浮かぶ。

急降下爆撃機により艦中央に被弾、やがて酸素魚雷に誘爆し撃沈される記憶。

 

投下された爆弾のコースは…艦中央付近。

 

(ごめんなさい照月、提督…!

ごめんなさい皆さんッ…!)

 

思わず目を閉じ来るであろう衝撃を待った。

 

 

……

 

 

…………

 

 

ズガーン!!

 

 

……

 

 

(あれ、着弾…しなかった?)

 

やや上方で爆発音と衝撃があったが、彼女の船体には損傷らしい損傷はなかった。

 

爆弾が落ちてきていたを見れば黒煙と破片が飛び散っているのみで、まるで敵機が散華したようだと彼女は思った。

 

「…秋月ちゃん諦めちゃいかんぜ?!

型は違えど同じ『つき』クラスの姉妹艦の長女をやらせるかってんだ!」

 

秋月の横を並走していた護衛艦『てるづき』であった。

 

てるづきは秋月に必中と思われた爆弾にCIWSの弾丸を叩き込み、見事破壊に成功したのだ。

 

「『てるづき』艦長ありがとうございます!なんとお礼を言ったらいいか…!」

 

「お礼なんていらんよ。

まだ敵機が残っている、『掃除』の後ゆっくり聞かせてもらうよ」

 

(そうだ、まだ敵機は残っていました!)

 

「雷跡2、右40度ッ!!」

 

秋月に雷撃せんと肉薄していた雷撃機から投下された航空魚雷は1000m程の距離、このままでは被雷してしまう。

かといって避けても左舷の『てるづき』に命中する恐れがある。

 

「機銃、右の魚雷を撃て!!」

 

迷わず秋月は海中を走る魚雷の破壊を命じた。

 

『父島沖海戦』で阿武隈がしたように命中確実の魚雷を到達前に爆発させようというのだ。

 

(破壊できないのであれば、私が『てるづき』の身代わりになるしか…)

 

残り500mを切るが未だ2発とも健在。

 

(機銃の俯角もこれ以上下がらないッ…)

 

「諦めるな秋月ッ!

フネが駄目なら空から撃てばいいんだ!」

 

「ッ?!提督…!」

 

突如提督が無線機越しに叫んだと思ったら、それに応ずるかのように2機の零戦が海面に向け急降下した。

 

「秋月はやらせないんだから!」

 

千代田の声と同時に2機の零戦は直上から銃撃を加える。それぞれの火線が魚雷を捉えた瞬間海で爆発が起こり、秋月の右200mの位置で水柱が上がる。

 

その数二本、千代田の艦載機が見事破壊したのだ。

 

「私の艦載機の練度はどう?

千歳お姉にも見てもらいたかったなぁ…」

 

「ナイスだ千代田!

戦闘後お礼に膝枕させてやるからな!」

 

「提督ぅ…それどんな罰ゲームなのよ〜?」

 

文句を言っているが千代田の声は嬉しそうだ。

 

「ふふっ…ありがとうございます千代田さん!」

 

秋月は微笑みすぐに他の敵機に目をやる。

すると父島へ3機の急降下爆撃機が向かっているのを発見した。どうやら艦隊を航過していったらしい。

 

「父島方面に急降下3!」

 

そう叫ぶと真っ先に高角砲を放つ。

初弾で見事一機撃墜したが残り2機健在。

 

「戦闘機隊は父島上空の敵機を迎撃してくださいッ!!」

 

秋月がそう叫ぶが既に味方の戦闘機隊は父島上空に待機していた。

 

対空射撃前に退避した戦闘機隊は守備艦隊の後方、非戦闘艦やタンカーそして父島上空にいたのだ。

 

「言われずともっ…任せろ!」

 

そう答えたのは飛鷹の戦闘機隊であった。

 

「改装空母だからって艦載機の技量を甘く見たら…大間違いよっ!」

 

彼女の戦闘機隊は96艦戦であったが小回りが利き、その特性を活かし敵艦戦を翻弄し撃墜していた。

 

4機の96艦戦が敵艦爆へと攻撃を仕掛けるも敵もかなりの熟練度らしく、機体を横に滑らせ機銃弾を躱す。

 

「クソッ!ちょこまかと避けやがる!」

 

96式艦戦の妖精が愚痴を言うがすぐさま射線を修正し、敵機へと向ける。

 

「7.7.ミリの豆鉄砲じゃビクともしねぇ!

ドーントレスの名は伊達じゃねえってことかぁ?!」

 

やっと敵の左翼に機銃が命中したものの致命傷を与えるには至らず、空に破片を巻いただけに終わる。

 

「何としても撃墜するのよ!」

 

そんな飛鷹の願いが通じたのか一機撃墜し、コントロールを失った機体は海に落ちて行く。

 

「おっしゃあ、どうだ?!」

 

「まだ一機残ってるぞ、2番機。

喜ぶのはまだ早い!」

 

撃墜した妖精が1番機の妖精に窘められる。

やがて敵機がエアブレーキを開き、失速させて急降下に入ってしまう。

 

「敵機急降下開始ッ!」

 

艦艇からも高角砲や速射砲、ミサイルを撃とうとしたが、味方機が近すぎる為何もできない。

 

戦闘機4機が続けて降下に移る。

 

「高度3000mッ!」

 

(いざとなったら体当たりしてでも落とさねば…)

 

1番機は覚悟した、それしかないと。

機銃弾も残り僅か。

 

 

敵が狙うは…『村立小笠原小学校』。

ここは行政によって空襲時の避難場所に指定されていた。

 

避難と言っても防空壕のように耐爆性があるわけではなく、単純に住民が一箇所に集まっただけだ。

そんな場所に爆弾が落ちればどうなるかは明白だ。

 

 

急降下に伴うマイナスGを感じつつ、敵機を落とすことだけに集中する。

 

「高度1000mッ!」

 

僚機からの報告は1番機の耳に届いているのだろうか。

 

(チャンスは…一度きりだ)

 

急降下中の操縦ミスは命取りだ。

僅かなズレが照準を狂わせるばかりか墜落を招く。

 

慎重に機体を安定させかつ敵機の後方へと向ける。文面では簡単そうだが実際に行うのは並大抵なことでは無い。

 

(ぐぅ…操縦桿が固いッ)

 

力を緩めると機体の制御が出来ず、かといって力み過ぎれば同じくあらぬ方向に機体が飛んでいく。

 

 

零戦もそうだがこの96艦戦は急降下という動作をすると機体に少なからずダメージが入る。

目に見えないところが歪み、急降下中に空中分解を起こすこともある。

 

一方SBDといった急降下を前提に設計された機体は操縦は効きにくいが、ある程度の強度はあり無茶な動きで戦闘機を振り切ることもできた。

 

 

<ダダダダッ!>

 

1番機の機銃弾が敵機の右翼を捉える。

漏れた燃料に引火し、爆発が起こる。

 

翼や機体は吹き飛ばなかったが爆発の衝撃でキャノピーは割れ、そこから深海棲艦のパイロットらしきモノの重油のような体液(血液か?)が飛び散るのが視認できた。

 

「隊長やりましたね!」

 

列機が声を掛けるが1番機は否定する。

 

「ダメだ。パイロットはくたばったようだが、機体は残っている。

しかしこのままだと…」

 

敵機が爆弾を落とさなくなったのは事実だが、その母体である機体はそのまま飛行していた。

 

それはつまり…

「あの機体ごと地上に突っ込んで大惨事になるぞ!」

 

そう言い放つと1番機は急降下中にもかかわらず速力を上げ、止めようの無い隕石へと肉薄する。

 

「隊長、無茶です!

隊長が突っ込んだところで意味はありませんよ?!」

 

「…静かにしていろ」

 

喚く2番機を無視しつつ敵機の尾翼まで30cmの距離へと迫った。

 

「止めなさい1番機!

もう間に合わないわッ!!」

 

「安心してくれよ飛鷹姉さん、

死ぬ気は無いしコイツを諦める気もない」

 

「高度500mッ!

隊長すいません、自分もう…引きます!」

 

2番機が操縦桿を引き機体を起こす。

これ以上は地面に激突するからだ。

 

無線を傍受する誰もが地上で起こるであろう大惨事と1番機の墜落を覚悟した。

 

「海鷲を舐めるなよ!」

 

96艦戦がSBDに重なる…。

 

 

 

 

 




父島守備艦隊と戦闘機隊メインです。
秋月と大淀のコンビ、有りだと思います。

護衛艦(現代艦)がミサイルを
持っているとはいえ、艦娘も
有力なんだと訴える気持ちで書きました。
戦闘自体の描写は薄いかもしれませんが、
その中のドラマを見ていただければ幸いです。

1番機さん頑張れ!
最後は飛鷹の96艦戦の1番機がメイン。
旧式といえども使い様によっては活躍
出来ると思います。
彼は地面に激突してしまうのか?!
敵SBDは体育館の住民を虐殺してしまうのか?!


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1-16 小笠原戦線異状有り 【父島沖】


今回は戦闘後の話です。
被害の程は如何に……




 

 

父島上空

 

 

「高度500mッ!

隊長すいません、自分もう…引きます!」

 

2番機が操縦桿を引き機体を起こす。

これ以上は地面に激突するからだ。

 

無線を傍受する誰もが地上で起こるであろう大惨事と1番機の墜落を覚悟した。

 

「海鷲を舐めるなよ!」

 

SBDの尾翼に96艦戦のエンジン部が乗っかり、プロペラが敵機を叩く。

 

高度は200mを指していた。

ここからでは96艦戦が機体を引き起こすのも、SBDが生きていたとしても引き起こすのは困難だ。

 

 

…そう、【引き起こす】のは。

 

 

1番機はそのまま操縦桿を倒し、

敵の尾翼に機体を押し込む。

 

プロペラが尾翼をそのまま切断するかと思われたが、プロペラの強度が弱かった為そうは至らなかった。

 

96艦戦がSBDを後ろから押し上げる形となり、コースの変更に成功した。

 

体育館に墜落確実と思われていたのが、

近くの海へ機首を向けることができた。

 

 

「こちら飛鷹2番機、1番機の体当たりにより敵急降下爆撃機のコース変更に成功!

敵機は湾内に墜落、市街地に被害無し!」

 

 

この知らせに艦隊は喜んだが素直に喜べない者たちもいた。

 

 

「おい2番機、1番機はどうなった…?」

 

「ねえ1番機はどうなったの?!」

 

提督と飛鷹であった。

 

「その…1番機は僅かに機首を起こしたものの同じく湾内に墜落、生存は絶望的です…」

 

「そんな…」

 

「わかった。2番機は海面付近を旋回して1番機の生存を確認しろ」

 

「了解、です…」

 

提督は目を瞑りながら抑揚のない喋りで

2番機へと指示を出した。

 

「飛鷹まだ戦闘は終わってないんだ。

これ以上犠牲を出さない為にも、そして1番機の挺身に報いる為にも今は悲しみを堪えるんだ」

 

「わかってるわよ、わかってるけどッ!」

 

無線機越しの飛鷹の声は誰が聞いても泣いていた。

 

対空戦闘を継続する戦闘機妖精や艦娘、艦艇の乗員の胸が締め付けられる。

 

「被害をゼロにするのは不可能に等しい、

だがゼロにしようと努力しなければ命が余計失われる。仮に1番機が直前で撃墜出来たとしても破片や爆弾が体育館に降り注ぎ島民を殺傷していただろう。

 

何故こうなったのかというのは今は

重要じゃない、次もこうならないよう全身全霊を掛けるのが今すべき事なんだ…。

飛鷹の戦闘機隊の指揮は加賀に代行させる。飛鷹の妖精は彼女のケアを頼む」

 

提督は乗艦する『加賀』に並走する『飛鷹』を一瞥し、込み上げる同情と悲しみを封印する。

 

「まだ敵機は残ってるぞ、被害を極限しつつ敵を殲滅しろ!」

 

 

……

 

…………

 

 

敵の空襲は失敗に終わった。

 

120機余りの大編隊は守備艦隊や父島地上施設に損害を与える事なく敗走。

対空ミサイルの追撃を幸運にも振り切った数機のみ東方へと去って行った。

 

これらも戦闘機隊にて追撃を行おうとしたが任務部隊司令部からは見逃すよう指示が下った。

 

敢えて泳がせて母艦の位置を特定する狙いらしい。現在人工衛星や哨戒機による敵艦隊の位置の特定が急がれている。

 

そして任務部隊は父島沖に到着。

守備艦隊や地上の各所と連絡を取り被害を纏めている。

 

☆☆☆

我が方の被害

●守備艦隊

護衛艦2に至近弾、漏水のみ。処置済み。戦死者5名

 

輸送艦1に機銃掃射、搭載していた

空自の対空ミサイルに誘爆、1基破損。

戦死11名、傷者24名

 

補給艦・タンカー各1に機銃掃射、

引火等無いが油流出有り。処置済み。

 

秋月に至近弾、戦闘に支障無し。

 

大淀に不発の魚雷2、船体に軽微な損傷。

全速航行は漏水等の危険有り。

 

伊勢に爆弾1、対地爆弾だったため被害軽微。第2砲塔使用不可能。

妖精19名負傷。

 

●地上施設や島民

機銃掃射は有るも施設への影響無し。

避難時、転倒や事故による負傷5。

いずれも軽傷、現在治療中。

 

●航空機

千代田ー零戦5機被弾、内2機廃棄処分。

雲龍ー零戦4機被弾、内1機部品取り用途処分。

蒼龍ー零戦1機被弾、応急処置により使用可能。

 

最後に

 

飛鷹ー96艦戦3機損耗、

2機撃墜されるも脱出し無事。

 

 

残る1機については……

 

 

 

【着水時の衝撃で頭を強く打ち意識不明】

 

 

 

※※※※

 

父島沖 護衛艦『いずも』医務室

 

 

「彼の容体は安定しましたが油断は出来ない状態が続きます。

外部の傷は切り傷程度ですが、脳振盪を起こしています。

最悪植物状態になることも有り得ます…」

 

「どうにかなりませんか医務長?

手術だったり、本土に緊急搬送するとか」

 

俺は衛生幹部に問う。

 

「艦上でしようにも脳は専門外なのでヘタに触るといけません。

緊急搬送しようにも制空権が確保されていない現状では困難と判断されています、こればかりはどうしようもないかと」

 

「あの子はどうすれば良くなるんですか?!」

 

飛鷹の必死な声に衛生幹部は静かに首を振る。

 

「今できることは絶対安静にさせること

のみです。飛行艇を呼ぼうにも敵航空機の襲撃に遭う可能性が高いのです。

後は点滴をして事態の沈静化を待つ他ないでしょう」

 

 

……

 

 

空襲が終わってからしばらくして任務部隊は父島に到着した。

現代の技術と戦術をもってしても無傷な勝利とはならなかった。

 

これが勝利と呼べるのかも疑問である。

自衛隊として初の『戦死者』が出てしまったのだ、ただの負け戦では済まされないだろう。

 

非戦闘艦船の被害を局限できたのは幸いだったのかもしれない。

 

護衛艦や艦娘の乗員・妖精の奮戦と挺身が【僅かな被害】に食い止められたのだから。

これを僅かと呼ぶか否かは人による。

 

 

父島に到着して被害の多さと戦傷者に胸を痛ませつつ、艦隊はすぐ補給と再編成に入った。

 

艦娘に補給を指示しつつ、『加賀』を離れ『飛鷹』へと内火艇で向かった。

理由は彼女の戦闘機隊の1番機の件だ。

 

1番機は敵SBDを体当たりで撃墜した後海に墜落した。速力の上がった96艦戦は着水の衝撃で大破、乗っていた妖精も頭部を打ち意識不明。

空襲後父島駐在の海保の巡視船が救助するも島内の医療機関では治療不可能と判断され、設備の整った護衛艦へと移送されることになった。

 

 

妖精も血を流す。

アニメや二次小説では死なない設定だったりする彼らも『現実』にあっては血を流すし死ぬ。

無敵ではないし人間以上の特殊能力も持っているわけではないのだ。

 

飛鷹に乗る妖精から連絡を受けたのだが、

1番機の人事不省により彼女の精神は不安定となっているらしい。

 

艦娘の補給の監督を加賀と村上に任せ、

俺は飛鷹のメンタルケアに当たることにした。

 

もっとも戦死者を出した護衛艦の方も同様にメンタルケアを必要としているらしい。

士気がダダ下がりとなるが無理はない。

俺とて動揺しているのだ、他の艦娘や艦船の乗員だって動揺しているに違いない。

 

 

1番機の容体の説明を受け、ひとまず『飛鷹』に乗艦して時間が許す限りケアに当たることにする。

 

 

※※※※

 

軽空母飛鷹 艦長室(飛鷹自室)

 

 

「立ったままじゃ足が疲れるぞ、

椅子に座ったらどうだ?」

 

「ええ…」

 

空返事をするだけで一向に座ろうとしない飛鷹、これで5回目だ。

彼女が立っていたところで1番機の容体が良くなるわけもない為、まずは飛鷹をリラックスさせることから始める。

 

「空返事はいいからホラホラ〜」

 

有無を言わさず彼女を後ろから押し、

ベッドへと強制的に座らせる。

 

俺も対面になる形で椅子に座る。

飛鷹を見れば俯きながら床を遠い目で見ており、心此処に在らずといった感じだ。

 

「1番機もじきに良くなるからそんな卑屈になり過ぎるなよ、アイツ口数は少ないけど腕は確かな奴だろ?

お前がそれを一番知っているんだから、

奴を信じてあげないとだぜ?」

 

「そうね…」

 

(当然だけどこりゃ重症だな…)

 

俺としても飛鷹をゆっくり時間を掛けてケアしてやりたいが、情勢はそれを待ってくれるとは限らない。

 

こうしている間にもマーカスに攻勢をかけてくるかもしれないし、艦隊にまた空襲をしてくるかもしれない。

 

荒治療だが…、メンタルケアのセオリーに反した方法を取るしかなさそうだ。

 

 

「なぁ飛鷹、いま…【元気】かぁ〜?」

 

虚ろだった飛鷹の瞳に怒りを読み取った。

 

「元気なワケないじゃない!!

大切な妖精が意識不明なのよ?!

なのに突然能天気に【元気か】って何よ、馬鹿にしてるの?!」

 

彼女を怒らせてしまったが、これはこれでいい。まずは感情を爆発させて言いたいことを言わせる為だ。

 

「馬鹿にはしていないさ、

じゃあ今どんな気分なんだ?」

 

「不安で不安でしょうがないわよ!

自分は何も出来ないし敵がいつ仕掛けてくるかもわからないし、どうかなりそうよ!!」

 

「そうか、それは大変だ。

もし今敵が来たらどうする?」

 

激情する彼女とは対照的に冷めたトーンで質問をする。

それが余計に彼女を怒らせる。

 

「自分でも戦えるかわからないわよ!

また誰か落とされてしまわないかと思うと出撃できるかもわかんないわ!!」

 

言いたいことを言い切り肩で息をする飛鷹に優しく問いかける。

 

「言いたいことは終わりかな?」

 

「もう…なんなのよ、そっとしておいてよぉ…」

 

激情から醒めたと思ったら泣きながら喋り始める。

まずは第一段階成功、といったところか。

 

「放っておけるわけないだろ、

お前は大切な存在なんだからな」

 

<<ギュッ…>>

 

「あっ…」

 

「手荒な方法ですまない。

だが今の俺にはこれしか出来なかったんだ…、塞ぎ込む飛鷹の感情を解放するには。

1番機の容体は飛鷹にも、俺にもどうしようもない。これはアイツ自身の強さに期待するしかないんだ」

 

俺の胸で静かに泣く飛鷹に優しく語り掛ける。

 

「辛くても今は厳しい状況なんだ。

艦隊がどう動くかもわからないし、

敵の動静も不明だ。

でも今しか休む時間は無い、ここで気を休めないと飛鷹が沈むかもしれない。

1番機が元気になって帰るフネがありませ〜ん、なんてなったらアイツが困るだろ?」

 

冗談混じりに問い掛ける。

 

「私は【もう】沈まないわよ…。

折角また艦娘として生まれてこれたもの、

それに『隼鷹』ともまだ再会できてないし沈む気はこれっぽっちも無いわよ?」

 

彼女の髪を手で梳かしながら安心する。よかった、少し元気になってくれたみたいだ。

 

「TF司令部が意向を示すまで6時間ぐらいある。休息をとっておこう、泣いた後は温まるものでも飲むと良いぞよ。

…ほら、温かいミルクに蜂蜜を入れた俺特製の『若くありたい貴女に、スッポンとマカが入った魅惑の栄養ホットミルク』だ。

今なら送料無料の一杯1000円ぽっきり、

オマケでいいものが付いてくるぞぉ!」

 

「そんな怪しいドリンクみたいなの飲みたく無いわよ…。

普通のホットミルクでお願いするわ」

 

「へいへい、今作るから待ってくれな」

 

笑ってくれる飛鷹に喜びつつ、

準備しておいたホットミルクに蜂蜜を入れてかき混ぜる。

 

泣いた後には温かい飲み物がいいのだ。

 

 

……

 

 

「程いい甘さね」

 

「この辺のセンスの良さが人気の秘訣ッ!」

 

「自分で言わない方がいいと思うわよ…?」

 

「何事もオチが必要なのだよ飛鷹クン」

 

本調子とはいかないものの、明るさを取り戻したようで何よりだ。

 

「ふあぁぁ…」

 

「…眠たくなってきたか?」

 

「ええ、怒ったり泣いたり笑ったりしたら眠たくなっちゃったわ」

 

「睡眠薬入れといたからなぁ〜、

寝たらすんごいことしちゃうぞ〜?」

 

「本当に入れてたら言わないでしょ。

そんな事しないってわかってるんだから!」

 

なんでぇ、心を見透かされると

負けた気がする…。

 

「まっ、それはそうとありがとね。

あと提督…」

 

「ん、まだ何かあr…」

 

 

<<チュッ…>>

 

 

「…えっ?」

 

「これはお礼よ…。

1番機は強い子なの、

私がそれを信じてあげないとね!

少し休ませてもらうわね?」

 

「お、おおおう?!しっかり少し確実に休んどけぇ?!?!」

 

やや照れながら和かに飛鷹はそう言うとベッドに横になり、すぐに寝息が聞こえ始める。

 

マジかよ…(賢者モード発動中)

 

飛鷹とキスしてもうた…。

これは『好き』ということなのか?

いや、お礼としての儀礼上のものなのか?

 

以前飛鷹とハグは挨拶云々言ったのは俺だが、まさかこんなことになるとは思はなんだ…。

マジで。

 

横になる飛鷹を見れば幸せそうに寝ており、とてもじゃないが襲いたいなどという不埒な考えを出来るはずもない。

 

 

でも、まぁ…

 

「元気になってくれてよかったよ」

 

これは本心からだ。

戦闘に参加出来るかどうかは別にして、

彼女自身が無事でよかった。

 

「また後で来るよ、俺の女神サマ…」

 

眠る飛鷹のおでこに軽くキスをして部屋を後にする。

 

この時飛鷹の頬が僅かに赤くなったり緩んだりしたような気がしたが、俺の見間違えだろう。

俺自身も疲れているからな…。

 

飛鷹が休んだのを見届けて、艦橋へと上がる。

 

「疲れていてもこればかりは

寝ていられないからな…」

 

幸せの時間はすぐに終わり、これから

提督としての職務の現実へと引き戻されに行くのだ。

 

 

……

 

 

…………

 

 

「改めて深海棲艦の脅威を実感したよ」

 

「提督はベストを尽くしたんだから

卑屈になる必要は無いデース」

 

「ありがとな金剛、お前は優しいな」

 

 

ヘッドセットから聞こえる彼女の声が俺の心を癒す。

金剛も大変だろうに、艦娘に気を遣わせるとは俺もまだ提督として甘ちゃんか。

 

この会話だけ見ればガムシロップを大量投入したブラックコーヒーの様だが、目の前の端末が映し出す文章と飛び交う無線通信がそうでは無いことを教えてくれる。

 

 

『任務部隊戦死者16名、負傷者多数』

 

『沈没艦船は無いものの被害甚大』

 

『作戦の継続は可能なのか?』

 

『自衛隊初の戦死者を出したことで

国会から追及される』

 

『誰が責任を問われるのか?』

 

 

俺を含めた各指揮官クラスのチャット会議は荒れに荒れていた。

 

俺の古巣である護衛艦『むらさめ』でも死者が出ており、知っている人間が亡くなっていた。

村雨や村上も落ち込んでいる様で無線越しの声は覇気が感じられなかった。

 

もっともそれは任務部隊全体に言えることであった。

 

統幕や海幕から待機命令が出ているため帰投や進撃も出来ずエンドレスな不毛な会議となりつつあったが、部隊指揮官の一声で応急修理と部下のメンタルケアに専念することになった。

 

 

『今の我々に出来ることは損傷の修理と乗員の気持ちの整理をさせることだ。

行く行かないは上が判断する。

どちらに転んでもいいように即応態勢を取れるように心掛けるように』

 

 

艦娘が所属するこの『第101護衛隊』においては艦娘が各艦の艦長であり部隊指揮官の言う乗員にあたる。

艦娘はその配下にある乗員…妖精のケアに努めるが、思いの外妖精たちの士気は低下していなかった。

 

「提督どうですか。

上からは何も言ってこんのですか?」

 

やや甘めの紅茶が入った水筒を

差し出しつつ妖精が言う。

 

「おうよ、司令部も陸のお偉いさんからの指示待ちだ。どうも統幕や内局が国会に戦闘詳報を持って行って行動の裁可を貰うまでは動けないんだとよ」

 

受け取った水筒のコップに紅茶を入れつつ文句を垂れる。

 

「ははぁ〜…粗方この後の責任を

センセイ方に押し付けるつもりなんでしょうな」

 

「何の為の『幕僚監部』なんだか。

他の国ならまだしも日本の政治家に

軍事のイロハがわかるわけねぇよ」

 

一部の軍事に精通する者を除けば

殆どの政治家は軍事に疎い。

かつて『私は軍事の素人だから、

これがシビリアンコントロールだ』

とか言い放つ大臣が居たような気がしたが名前を覚える気にもならん。

 

「お前から見て妖精たちの士気はどうだ?」

 

艦娘の妖精は現在員だけで1万名を超えており、流石に俺も総員の役職や顔を覚えられていないが主要幹部の顔は覚えた。

 

今話しているのは飛鷹の副長だ。

見た目は可愛らしいが怒らせると怖いらしい、俺も気を付けよう。

 

「この『飛鷹』だけで言えばやや航空兵の士気が低下しとるかもしれません。

戦闘機隊の頭が意識不明となれば無理は無いでしょう、ワシも顔には出しとりませんが心配ですな」

 

こいつは本音をざっくりと言う。

下手に【良い】嘘をつかれるよりかは

【悪い】本当を言ってくれるほうが指揮官としてはありがたい事もあるのだ。

 

副長は続ける。

 

「しかし皆燃えているのも事実。

他の空母の航空無線でも敵討ちとか敵機動部隊に猛攻をしようという意見が挙がっとりました」

 

1番機は死んどりませんがね、と苦笑い

しつつ答えた。

 

「艦娘も損傷はあったが大多数は元気だ。

村雨はやはり動揺してたが、やはり

しょうがないと思う」

 

「護衛艦時代の乗員が戦死すれば

誰しも動揺するでしょう。

また艦隊を分割するなら

村雨は残すべきかと」

 

「確かにそうだな…」

 

ずずず、と音を立て行儀悪く

紅茶を啜って飲む。

南国でホットティーを飲むはずも無く

中身はアイスティーなのだが、

無意識に啜ってしまう。

 

そんな俺を注意するでも無く

副長は更に考察を述べる。

 

「船体やミサイルといった装備もそうですが一番心配なのは…」

 

「「それを扱う『人間』だな(ですな)」」

 

人間、つまり隊員はこの戦闘でかなり参っていた。

体力がでは無い、【精神】がである。

 

護衛艦の乗員を始め輸送艦に便乗していた陸・空の隊員も戦死しており、

欠員云々以前にそんな精神状態で戦闘を行えるかわからない。

 

俺とて覚悟していたとはいえ知り合いが亡くなったのだ、親しい仲では無かったがやはり悲しい。

 

目の前で血や死体を見た隊員などは

ヘタしたらPTSDを発症しているかもしれない。

 

それらの隊員を統率し命令する立場の幹部は気の毒だ。自らも参っているのに鞭打って、部下に戦えと命令しなければならないのだから。

 

「それでもやるしかない、じゃないと

次は自分の番になるかもしれないんだ」

 

「それをわかっているから部隊指揮官は

必死に態勢を立て直そうとする。

101護隊の艦娘は提督がせんとどうしようもないでしょう」

 

「わかってるさそんぐらい。

その為に飛鷹のケアに駆け付けたんだからな」

 

そう返しつつ今度は艦娘とチャット会議を行う。ブラインドタッチでキーを叩きつつ、画面に表示される各艦の状態から最適な部隊編成と予想される敵艦隊への攻撃方法を考える。

 

補給を行い弾薬は満載だが、損傷や機器の状態に問題があったりとこのままでは頭痛薬と胃薬が必須なのは間違いない。

 

この任務部隊の4割を占める艦娘の戦力は旧式なれど高い。

ミサイルは無くとも大口径の艦砲や固定翼機による大火力の投射能力は現代の護衛艦にはほぼ不可能だろう。

 

米軍空母1隻の艦載機70機で小国の空軍に匹敵すると聞いた事があるが、戦艦の持つ火力に勝るのは核兵器でも使わないと無理だろう。

 

流石に戦艦1隻にその70機が襲いかかってきたらなす術も無いが。

 

 

(頼みの米軍はどっか行っちまったし…)

 

 

先日のパナマ運河空襲以降、米軍は

太平洋艦隊を近海警備に充てたらしく

横須賀や佐世保の艦隊は夜逃げするかのように大多数が出港していった。

 

横須賀と佐世保には今や1隻ずつ駆逐艦がいるのみ。軍人の家族も軍用機で本土へと引き上げていった。

 

これに喜んだのは一部の市民団体だけであり、与党や野党を始め国民からも反対意見が出たがアメリカは黙殺した。

 

(自分の国は自分で守れ、ってこったな)

 

今までがおかしかったのかもしれない。

他国に国防を任せて何が国家だ。

しかしいざ直面すると心細い。

 

ここまでが前回の父島の時。

日本政府は艦娘の全面的運用を決定、

戦艦や空母といった攻撃性が高い艦船を海上自衛隊の自衛艦として編入した。

国外や国内からも反発はあったが

『旧式だし他国に脅威とはなり得ないから平気だよ、兵器だけに…(笑)』

という人気お笑い芸人の発言に賛同する若者も少なからずいた。

 

これには俺も閉口したが、意外にも若者はこの事態を緊急事態と認識しているようで国会前で自衛隊の戦力増強のデモまで行われた。

 

(真意はわからないが今の自衛隊に

とっては救いかもな)

 

国民からの脅しを受ける形となった国会議員と、国民様の後ろ盾を受けた内閣と各省庁はドヤ顔で臨時予算案と当面の方針案を提出。

防衛省を始めとした各省庁の予算案は賛成多数で可決、海自と空自そして陸自の優先順位で増強が行われている。

 

 

(だが被害を受け戦死者も

出してしまった…)

 

 

国民はこれまでの冷え切った経済や国際情勢にうんざりしていた。

 

そこに深海棲艦による通商破壊により物価の上昇、一言で言えばツイていない状況であった。

 

政府も国民もいいニュースを欲していた。

 

この状況下で増税を行えば、ただでさえ低い支持率はゼロになると考えた政府は自衛隊の活躍を前面に出し免罪符を得ようとした。

 

テレビのニュースでは悪化する情勢の報道が多くを占めていたが、偶に出る自衛隊や艦娘の勇姿に希望を見出す国民もいた。

 

良くも悪くも負託に応える事になった俺たちだったが、ここに至ってどうすべきか。

 

このまま父島で待機するのか、本土へ撤退か?いや撤退はあり得ないだろう、そんな事をすれば小笠原諸島を放棄し島民や隊員を見捨てる事になる。

目的地であるマーカスの道中には戦力ら不明なれどかなりの深海棲艦がいると見積もられる。

そんなところに考えも備えも無しに突っ込むのは不味い。

 

一人で悩んでも無駄だと悟った俺は

副長に飛鷹のケアを頼み、ひとまず『加賀』へと帰艦する事にした。

 

 

 





遂に出てしまった自衛隊初の戦死者。
期待して送り出した政府と国民は
これにどう反応するのでしょうか。

父島で迎撃に当たった秋月や大淀たちも
少なからず落ち込んでいます。
次回はマクロな視点で艦娘を描き、
展開を進めていきます。


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1-17 マーカスに忍び寄る危機


今回もちょっとしたイチャラブがあります。
後半には新展開が始まりそうな予感が…


 

※※※

父島沖

『加賀』艦橋

 

 

『加賀』に戻ると出迎えは村上のみだった、加賀は艦載機整備の指揮に行っているらしい。

 

「村上、情勢はどうだ?」

 

「補給については80%完了している、残りについても逐次実施させている」

 

端末には各部隊ごとの進捗状況が表示されており、ご丁寧に『補給完了』『未補給』と各種自衛艦や艦娘が分類されている。

 

「ぼちぼちといったところか…。

あと2、3時間すれば国会で決議やらが

出る予定だったか?」

 

「うむ簡潔に言えば『進撃』か『撤退』の二択だな」

 

「どっちになっても嫌な予感しかしねぇんだけど?」

 

「それには同感だな」

 

 

……

 

 

その時本土の国会は荒れに荒れていた。

ドヤ顔で作戦案(部外向けに公開可能な大まかな概要だが)を提出した防衛省・自衛隊は野党に弾糾された。

 

 

「イエスかノーかでお答えください!

作戦の立案と総理以下閣僚の指揮監督が悪かったんじゃないんですか?!」

 

「結局無駄金を海に

バラ蒔いただけじゃないか!」

 

「護衛艦や軍艦で軍隊ごっこさせているわけじゃないんだぞ?!」

 

「〇〇政権は日本を軍国化させ国民を戦地に送ろうとしているのではありませんか?!」

 

「小笠原はどうなる?!

南鳥島は深海棲艦に包囲されているらしいじゃないか!!」

 

「戦死者が出た責任をどう取るつもりだ?!遺族への謝罪や見舞金だって必要となるのだぞ!!」

 

野次が飛び交う中、防衛大臣は脂汗が止まらなかった。

 

今まで総理の腹心として真面目に働いてきたのに、その苦労がここで泡となっては不味い。

 

必死に批判をかわし続け、議会は一旦休憩時間に入った。

 

 

……

 

 

「加賀も揃ったから3人で手分けして

艦娘のメンタルケアをするぞ」

 

「了解しました(した)。」

 

 

整備の指揮が終わった加賀も加わったところで引き続き艦娘のメンタルケアに努める。

決して艦娘が打たれ弱いという訳ではないが、空襲で被害を出してしまった事に落ち込んでいる艦娘がいるのは事実であった。

 

流石に艦娘全員に直接会いに行くわけにもいかず、端末に装備されたビデオカメラを使ったテレビ会議を行う。

 

テレビ会議と言っても大抵は雑談の域を越えない程度の体調確認だ。

加賀と村上に元気そうな艦娘を割り当て、

俺自身は落ち込みが激しいと思われる村雨、父島守備艦隊にいた大淀や秋月のケアを実施する。

 

 

……

 

 

…………

 

 

「…またテレビ電話してきてよね!」

 

「『電話』じゃなくて『会議』な。

なんだよもうちっと落ち込んでるかと思ったら女子高生のテンションで話されるから困ったぜ。

でもマジで辛かったら言ってくれよな、

戦闘になったら次はいつ無線以外で話せるかわかんないからな。千代田が無理に笑う顔なんて、皆喜ばないし俺だって嬉しくないぞ?」

 

「全然平気とはいかないけど私は大丈夫よ、それより村雨や大淀、秋月の事よろしく頼むわね」

 

「おう任せとけ、んじゃまたな」

 

テレビ会議と言う名の個別井戸端会議も殆ど終わり、千代田が終わって残りは村雨と大淀、秋月のみとなった。

 

 

……

 

 

…………

 

 

村雨と大淀についてはやはり一筋縄ではいかなかった。

 

村雨は「私が守備艦隊に居れば」とひたすら悔いた。大淀に至っては自嘲するように「私の連合艦隊旗艦なんて所詮御飾りですよ」と笑った。

 

村雨はその場にいなかったとはいえ、護衛艦時代の乗員を助けられなかった。

大淀は奮戦虚しく

戦死者を出してしまった。

 

実戦ではいとも簡単に人が死ぬ。

かつての大戦もそうだったように、

深海棲艦との戦いに於いても全世界では桁違いに死者は増えていた。

 

俺としては飛鷹の時の様に直接会いに行ってあげたかったが、上からテレビ会議機能が有るのだから無闇に離れるなと命令されているため不可能なのだ。

 

それぞれ一時間ずつのテレビ会議であったが、ある程度までメンタルが回復した事から良しとした。

 

 

(あーだこーだ言葉を並べるよりも

ただ抱きしめてあげた方がよっぽど効果があると思うんだがな…)

 

セクハラとか抜きに、抱きしめるという行為はメンタルケアに効果的というのがよくある話だ。

 

また落ち込んでいる人に「頑張れ」と言うのはタブーであるから、どう励まそうか試行錯誤の繰り返しであった。

 

艦娘それぞれに適した言葉と方法があり、

俺は文字通り『実戦で』やるしかなかった。とはいえテレビ通信が切れたら隠していた感情が出る可能性も否定出来ない。

 

 

俺は戦闘指揮よりも艦娘の身上把握ならぬ心情把握に必死だった。

 

 

※※※※

 

 

「最後は秋月か…」

 

あと一人だから頑張ろうというやる気と

最後に『難関』が来てしまったという諦観のような、我ながら名状し難い感情の混沌が心に渦巻く。

 

何故『難関』なのかと言うと…

 

 

「お~い秋月ぃ『無線』に反応しろよぉ~」

 

 

そう、秋月が無線やテレビ会議に応答しないのだ。村雨や大淀とは違う、面会謝絶ともいえる状態か。

 

「不味い、これはとても不味いぞ…」

 

俺用の端末を始め各種無線機器が置かれている司令官室で一人呟く。

 

もう放っておいてくれ、こう言いたいのだろう。秋月は真面目だから過剰に落ち込んでいると推測がつく。

とはいえそのままにしておけるはずもなく、あの手この手でコンタクトを取ろうとする。

 

「秋月お疲れ様!

今加賀が『善哉』作ってるから内火艇で来いよ、いい匂いしてるぞ?」

 

…ダメっぽい。

 

「秋月姉大丈夫、相談乗るよ?」

 

「どうしたの秋月?

この雷様に話してごらんなさい!」

 

心配に思った他の艦娘も無線に混ざるが、

秋月はそれでも応じない。

 

その後も色々やってみたが案の定だめだった。秋月は頑なに拒み続ける。

 

打つ手が無いと諦めかけたが、俺は最後の賭けに出ることにした。

 

 

「おっし無線機が壊れてるんだな、

そんなんだな?!

待ってろ今から泳いでお前のフネまで行ってやっからな!」

 

身につけているものを全て外し始める。

ヘッドセットのマイクを床に置き、

鉄帽、救命胴衣、安全靴、作業服、シャツや靴下をわざと音を立てながら脱ぎ始める。

 

部屋の外には加賀や村上がいるようで

ドアがノックされ始める。

 

静かにドアを開け

「心配すんな、演技だよ演技」

と答える。

 

加賀は俺の顔を見た後視線を下にずらす。

途端に真っ赤になり叫びながら走り去ってしまった。

 

(やべ、パンツ一丁じゃん…)

 

まあいいかと考え床に置いたヘッドセットを手に取る。

 

「真夏とはいえパンツ一丁で海は心細いなぁ…、うおっサメもいるなぁ、でも秋月と話せないなら行くしか無いなぁ…んじゃ『秋月』までちょっくら泳いでくるわ、提督代行は村上よろしこ~」

 

「……ま、ま、待ってください司令ッ!」

 

 

<<ニヤリ>>

 

「おおっとぉ?無線機が直ったのかぁ?」

 

「ぐっ…音声だけでよろしければ応答しますので、海に飛び込むのだけはご遠慮ください…」

 

「そうだよな、もし飛び込んだら『また』戦死判定食らっちまうかもしれないからな、その辺は前回経験した秋月もよくわかっていることだしな」

 

白々しいセリフであるが、秋月を土俵に立たせることができた。

後は俺の手腕にかかっている。

 

脱いだ作業服を着て端末のテレビ会議ソフトを立ち上げる。

秋月はやや遅れて反応したが、やはりあちらの映像は無かった。

カメラにカバーか何かしたのであろう、

だが進展したのは事実。

 

「やあ思い詰めているようだね。

無理に話さなくてもいい、ただ俺の独り言を聞き流すだけでいいさ」

 

そう前置きをして何を話そうか考え込む。二人だけのテレビ会議に沈黙が訪れる。秋月も沈黙に耐えられないようで溜息や息遣いがスピーカーから流れる。

 

(ええーい、ままよッ!!)

 

正攻法が思いつかなかった俺は言いたいことを言うことにした。

 

 

「前回の父島の時に曙や秋月に言ったよな、みんなが好きだって。

それはもちろん恋愛感情としてだ、

出来るなら全員と結婚して幸せな家庭を設けたい、可能であれば平和に暮らしたい。

今は無理でもきっと平和が訪れる時が来る、そうしたら秋月とも結婚していつか元気な子供も産んでもらいたい」

 

「な、な…け、けっこ…?!

こ、こどっ…こどもッ?!」

 

突然の結婚発言に言葉も出ない秋月、

そりゃそうだろうな。

 

「秋月は真面目だし、いつも俺の事をキラキラして目で見てくれている。

『この秋月、関心致しました!』みたいな真面目で天然キャラも可愛いし、なかなか俺としても高評価」

 

「そ、それは…その…」

 

「防空駆逐艦『秋月』、自衛艦隊旗艦も経験した初代護衛艦『あきづき』、二代目『あきづき』と三代に渡って防空艦として生を受け、四代目と呼べるかわからないが再び防空駆逐艦『秋月』として、艦娘として生を受けた」

 

「ですが私は…先の空襲で守りきれませんでした…」

 

「そうだな、それは紛れも無い事実だ」

 

一転して厳しい現実を告げる。

 

「だが被害を抑えようと死力を尽くした事は当時いた護衛艦からも報告が上がっている。

『てるづき』艦長からメッセージをもらったよ。

『同じ名前の妹を守ってくれてありがとう』ってね。

 

『てるづき』に命中確実の魚雷を身を挺した件、本当に秋月はよくやったよ。

俺は何もしてないけど自慢の艦娘だよ全く、直接頭を撫でてあげたいぐらいにね。

 

戦死者を出し、艦隊を守りきれなかったのはどうしようもない。

秋月や大淀、護衛艦もいて艦載機もいたにもかかわらず被害が出てしまったんだ、単純に不可抗力だよ。

むしろ『この程度で済ませることが出来た』と思った方がいい」

 

「この程度…ですか?」

 

戦死者を出しておいてこの程度と発言したことが海幕や国会に知られたら糾弾されるのは間違いないだろう。

しかしこれは事実である、戦場にいる身だからこそ実感できるものもある。

 

「伊勢は守りきれなかったとはいえ、伊勢も秋月には感謝しているはずだ憎まれることなんか有るはずがない」

 

亡くなった隊員には申し訳ないが、任務部隊としても最善を尽くしたのだ。

現代兵器と艦娘の奮戦を以ってしても完全に被害を抑えることは叶わなかった。

 

「司令…」

 

「諺に『いつも月夜に米の飯』というのがある。苦労の無い気楽な生活であってほしいが、現実は上手くいかないという意味だ。

防空駆逐艦の秋月がどれだけ頑張ってもパーフェクトスコアで勝てるわけじゃ無い、ましてやイージス艦がいても被害が出たんだ。

秋月は全力を尽くした、次こそは被害無しに出来るように邁進すればいい。

 

それに自分を責めたところで何も生まれない、この前の俺のようにね」

 

秋月は前回の父島沖海戦で提督が落ち込んでいたのを思い出す。

 

敵水雷戦隊との海戦前に自分たちを好きだと言ってくれた提督が自身を責めた時は胸が張り裂けそうな思いだった。

 

「あの夜は満月だったね、秋月には無茶を言ったけど俺は『月』という存在が好きなんだ。

地球の衛星として周る月、防空艦としての月。どちらも側で守ってくれている気がしてね、オマケなんかじゃなくむしろ月が居てくれるからこそ自分が輝ける、必要不可欠な引き立て役なんだと俺は思う。秋月が居てくれるからこそみんな安心できる、俺だってそうさ。

ここで一つ歌を詠んでみようか。

 

『秋月が 居てくれるからこそ 頑張れる 真面目な後輩 キャラとねんごろ』

どうだ、見事な短歌だろ?」

 

「クスッ…司令の欲望が見事に短歌になっていますね!」

 

「こう見えて中学校の頃俳句や短歌に興味があってな、多少知識があるのさ」

 

秋月の皮肉に普通に返答する。

 

「出港時も昔の俳句を詠んでいらっしゃいましたね」

 

「五月雨がガチガチに固まってたからね、

多少解してあげようと考えたらそれが浮かんだ…ってところかな」

 

「流石です、この秋月感服致しましたッ!」

 

「その言葉を待っていたよ。

秋月には、いやみんなには元気でいてもらいたい。例え辛い未来が待っているとしても…。

目を輝かせ俺の後ろをオプションの様にくっ付いて歩く秋月の可愛い姿を見せてもらいたい」

 

「可愛いだなんて、そんなぁ…」

 

「いいや可愛い。

そんな秋月と次は一緒に歩きたい。

後ろではなく横にいて欲しい」

 

 

秋月(こ、これってもしかしてプ、プロポ…)

 

 

既にプロポーズ的発言はしているのだが、

やはり期待してしまう秋月。

 

 

「…だから帰ったらデートに行こうな!」

 

<<ズコー!>>

 

「今すごい音したけど大丈夫か?」

 

「…大丈夫です、この秋月打たれ強くできていますから」

 

プロポーズかと思ったらデートの誘いというオチにずっこける秋月。

既に先ほど『結婚したい』と言われたことはすっかり忘れている彼女である。

 

「んで、そろそろカメラのカバーを外してもらいたいんだけど?」

 

「だ、駄目です!まだ私の顔をお見せできませんッ!!」

 

秋月の目は赤く腫れ、とても提督に見せられるものでは無い。

彼女は単純に恥ずかしいのだ。

 

「泣いてる秋月も見たいなぁ~?」

 

「今回ばかりは勘弁を…」

 

「しゃあねぇな、わあったよ」

 

秋月はホッと息を吐く。

 

「長10cm砲ちゃん、やっておしまい!」

 

「……(わかったぜ、兄貴)」

 

秋月の側で控えていた長10cm砲ちゃんがヒョコヒョコと秋月の自室の机へと近づき、端末に掛けられていたカバーを砲身で器用に外す。

 

「あっ、長10cm砲ちゃん何をッ?!」

 

俺の命令に従順に従い、目論見通り

彼?はカメラのカバーを外してくれた。

 

画面には目を赤くして驚き硬直する

秋月が露わになる。

 

「チェックメイト、だな」

 

「いや…見ないでぇ…!」

 

思わず顔を手で覆う秋月だったが、

時既に遅い。残念ながら長10cm砲ちゃんや島風の連装砲くんは俺の支配下にあるのだよ。

 

「目の下にクマができてるぞ、

時間が許す限り休むといい。

休むことも戦いの内だぞ?」

 

「は、はいそうします…」

 

特に顔を見たからといって気の利いた事を言うつもりはない。

ただ声だけでは把握できない部分もあるため、顔が見たかったのだ。

 

「秋月の顔が見れて良かったよ、

これで俺は死んでも後悔は無いな」

 

「……え?」

 

「もしこのまま秋月の顔が見れずに

戦闘で死んでみろ、後悔が後悔だけに死んでからも化けて出るぜ?」

 

俺は続ける。

 

「通話が始まって『好きだ』って一方的に言っておいて秋月の顔も拝めないんじゃ俺だけ貧乏くじじゃないか。

明るい顔とか泣いてる顔なんて関係無い、お前にテレビ会議でも良いから会いたかったんだ。

 

戦争では愛する人と会うことも出来ずに死んでしまう、だから俺は幸せ者だよ。戦闘になればこうしてバカを言う余裕も無くなる。

この『加賀』だって秋月が頑張っても絶対の安全は確保できない。それはお前が一番分かっているはずだ」

 

空襲にあってはどれだけ対空火器が揃っていようとも被害をゼロにするのは不可能に等しい、例え現代の護衛艦が居てもだ。

秋月自身先ほどの空襲で嫌という程実感しているのも事実だった。

 

「『次』は無いかもしれない。

この任務部隊だって兵力こそ凄いが深海棲艦の実力も高いし数も桁違いだ。

世界中で攻勢を掛けつつこうして小笠原に侵攻してきている。

不謹慎だが今のところ沈没艦が居ないのが不思議なぐらいにね。

 

ま、こうして艦娘を口説く余裕がある俺も大概不思議だろうけどな!」

 

「秋…は……きます」

 

「ん、なんだって?」

 

「秋月は…守り抜きます!

全部は守れなくても、私の大切なモノだけは絶対にッ!!」

 

秋月の目には決意が見られた。

 

「守れないものを見捨てるのではありません、精一杯守るよう努力をします!

そして大切なモノは必ず、

守り抜きます!!」

 

「そっか…強くなれよ秋月。

今は無理でもいつか全て守れる強さを身に付けるんだ」

 

「了解しました!!」

 

「さて長い話で悪かったな、

少しで良いから体を休めるといい。

寝られなくてもベッドに横になるだけでも違う、いざという時に疲れが残っていたら取り返しのつかない事になるからな」

 

「はっ、休ませていただきます!」

 

画面の向こうで律儀に立ち上がって敬礼する秋月、そんな彼女にちょっとしたイタズラをすることにした。

 

「通話を切る前に一つ命令にしておこう。

俺だけ『好きだ』と一方的に言っていたから、代わりに秋月はベッドに横になって『司令愛しています』と100回唱えてから休むこと!

実行しなかったら長10cm砲ちゃんが俺に密告する事になっている、そんじゃお疲れ~!」

 

<<プツンッ>>

 

「ち、ちょっと待ってください司令!

ってもう切れてる?!」

 

画面に表示された

『通話は終了しました』

という無機質なメッセージが

溜息を生み出させる。

 

「ど、どうしよう長10cm砲ちゃん…」

 

「……(諦めろ秋月、俺は甘く無いぜ?)」

 

「やはり言うしかないのでしょうか…」

 

 

その後渋々実行した秋月は数時間という短い時間であったがとても幸せな夢を見た。

提督が自分を優しく可愛がってくれたり、

リードしてあんな事やこんな事をしてくれた夢であった。

 

「うへへ~、司令そこはぁ…ダメですぅ~。恥ずかしいですぅ~!」

 

一体どんな夢を見たのかは本人のみぞ知る。近くで休む長10cm砲ちゃんにも内容まではわからない。

 

「……(兄貴もなかなかどうして面白い人間だぜ)」

 

 

彼?も満更ではなかった。

主人たる秋月が、変顔で変な事を呟いている他は提督に感謝していた。

 

彼?は人間や艦娘と話すことは出来ないが、それなりの意思疎通はできる為こうして提督と艦娘の橋渡し役として活躍していた。

因みに連装砲くんは島風の側から離れないためフットワークの軽い彼?が提督に抜擢されたという経緯があるとか。

 

 

「……(さて俺も休むとしようか)」

 

秋月と長10cm砲ちゃんは束の間の休息に落ちていった。

 

 

※※※

数時間後

海幕 指揮通信情報部

 

 

内閣情報調査室の部署の一つである内閣衛星情報センターから逐次提供される衛星画像には驚くべきものが映し出されていた。

 

「な、なんだこの大艦隊は…!」

 

一人の分析官がその場にいる全員の心情を代弁していた。

 

南鳥島の西方100kmの地点を深海棲艦の大艦隊が東へ向け航行していた。

 

「これは…戦艦じゃないか?!」

 

「重巡クラスも多数居るぞ!」

 

「それよりもこれを見ろ、輸送艦だ。

奴らはマーカスを占領する気だ!!」

 

その場に詰める陸海空幹部の情報分析官担当者はすぐに関係各所に報告する。

 

10分後には国会にいた総理大臣や閣僚を始め、各省庁に情報がもたらされた。

 

国会で行われていた小笠原空襲の査問会は中断され、国家安全保障会議の一つである『緊急事態大臣会合』が招集された。これは総理の許可を得たうえで統合幕僚長等の関係者を出席させることができるものだ。

 

 

……

 

 

首相官邸

 

 

「統幕長それに海幕長、作戦を教えて欲しい」

 

開口一番、総理が二人に問うた。

 

「まだ作戦らしい作戦は立てておりません…」

 

「海幕としましても情報が少なく、

分析に時間を掛けられていないのが現状です」

 

二人は揃って時間を欲しいと答えた。

 

「とは言うがこのままでは南鳥島が占領されるのは明らかだ。

もし占領されてみろ、政府に対する批判は更に増す。野党の奴らのみならず国民からも不満の声が上がる、これでは政権の支持率は大幅に下がってしまう…」

 

その言葉に多くの人間が怒りを覚えた。

遥か南の海で戦っている者もいるというのに、最高指揮官が政治の心配をしているのだ。

 

「南鳥島とは連絡は付かないのかね?」

 

「現地の電離層が乱れているようで

こちらからの呼び出しに応答しません」

 

つい数時間前まで快晴だったマーカス周辺は急激な天候の悪化に見舞われた。

 

気象庁や自衛隊の気象予報官も首を傾げるほどの気象の変化に『深海棲艦がやったのでは』という声も挙がるほどであった。

 

「とにかく任務部隊と連絡を繋げるんだ、

回線をここに持ってきたまえ。

私が直接指示を出す」

 

幕僚長らは露骨に嫌そうな顔をしたが命令には逆らえない。

 

詰めている関係官僚や幹部自衛官が急いで準備を整える。

 

 

(ここで島を占領されでもしたら

私の…今までの栄光と苦労が無駄になってしまう。それだけは、何としても阻止しなければ…)

 

 

……妙な気合の入った総理大臣による

命令が下されようとしていた。

 

 

 





秋月が可愛い。
ゲームや他小説では健気な彼女ですが実際
落ち込んだら塞ぎ込みそうなイメージ。
前回あたりからくどいようですが、
本作ではこういったシーンを入れています。

未だマーカスに増援を送れていない現状で
ついにやって来た深海棲艦の侵攻部隊。
打つ手…なし。


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1-18a 加賀への苛立ちと彼女の想い   前編 【作戦前夜】

本土では、焦りに焦る総理が
顔から脂汗を流しながら作戦指揮を
行おうとしていた。

そして告げられる敵情に主人公は…



※※※

総理が通信を繋げる前

 

護衛艦『いずも』 任務部隊司令部

1118i

 

「何だろう…これは台風か?」

 

司令部の端末を使っていた気象幕僚が

一人零す。天候や海洋状況を調査し作戦に

活用する役目の彼は、更新された作戦区域の衛星気象解析図を見て例えようのない

不安を感じていた。

 

 

時期は6月末。

 

日本は台風シーズンであり、南の島である父島や南鳥島にも台風が来ることもある。

先程までマーカス周辺は快晴だった

のだが、ほんの数時間で台風のような

気圧配置へと変貌を遂げていた。

 

(まるでここに来るなと

言わんばかりだ…)

 

嫌な予感がした気象幕僚はひとまず

任務部隊の指揮官に報告する事にした。

 

 

……

 

 

「どうせ低気圧が

突然台風になったんじゃないか?」

 

「数時間で変わるはずはないんです。

それにそれまでは

気圧も安定していました」

 

「ふむ、私も気象は詳しくないが確かに不自然だ。だがこの天候ではこれまでの様にマーカスへ航空偵察を出せない…」

 

今いる父島周辺は至って普通であった。

天気は嫌になるぐらい快晴、あとは自衛艦や艦娘の乗る軍用艦が居なければ沖縄にも劣らぬパラダイスであろう。

 

「哨戒機やヘリはもとより空自の戦闘機や偵察機も出せないな…」

 

「マーカスに気象の通報を行おうと

しましたが衛星電話が繋がりません。

マーカス上空の電離層が

乱れているようです」

 

「通信幕僚、本土との通信状況はどうか」

 

「衛星回線を使った定時連絡等の交信は通常通り使えています。気象幕僚の言う通りマーカス周辺のみ電波・電離層が乱れているだけかと考えます」

 

「通信幕僚はこの事実を硫黄島やSF、

海幕へ。航空幕僚を呼んでくれ。

それと各部隊指揮官とテレビ会議を……」

 

 

部隊指揮官がそこまで話したところで、

総理大臣からの通信が飛び込んできた。

 

 

※※※※

 

15分後

『加賀』艦橋 

端末テレビ会議

 

 

「…総理、第1護衛任務部隊各部隊指揮官が揃いました」

 

部隊指揮官が申告した。

 

 

加賀と士官室で今後の作戦について話していると、艦橋の妖精から呼び出された。

 

敵襲では無さそうだがやや慌てた様子だったためロクでもない事があったのだろうと思いつつ艦橋に上がれば正しくその通りだった。

 

端末には以前見たモヤシの様なナヨナヨの総理ではなく、熱意があるというよりも

何かに焦った様な総理が映っていた。

 

しばらくして全指揮官が揃い、

総理が単刀直入に切り出す。

 

 

「深海棲艦の大部隊が南鳥島に迫っている、諸君にはこれを撃退し我が国の領土を見事防衛してもらいたい」

 

「大部隊とは…詳細をお願いします」

 

細かい説明は総理の後ろに

控えていた海幕長が行う。

 

「敵の兵力であるが…戦艦1、重巡多数、

軽巡や駆逐艦少なくとも50隻以上、

それと……輸送艦らしい艦種も

多数確認されている」

 

画面の向こうでカチカチと海幕長がマウスを操作すると衛星画像なのだろう、海上を埋め尽くさんばかりの大艦隊が表示される。

 

「…諸君にはこれを叩いてもらう」

 

再び総理が話し始める。

 

「…いつです?」

 

俺と同じくテレビ会議に参加していた

第1護衛隊司令の山本司令が発言する。

 

「可能な限り速やかにだ」

 

「その敵艦隊の位置を。

この画像が撮影された時刻時点のです」

 

「撮影時刻は一時間前、場所は…

南鳥島の西方100キロの地点だ」

 

 

((無理だ、間に合わない…))

 

 

画面に映る各部隊指揮官は俺と

同じ事を考えたようで、目を

瞑る者も少なからずいた。

 

「すぐに出発したまえ、

現地の職員や隊員を救うのだ」

 

さあさあと急かす総理に現実を

告げる者はいないのだろうか。

 

その後ろで小さく映る統幕長と海幕長は

首を振る。無駄だと説得したが

聞かなかった、そう言いたげであった。

 

指揮官らは沈黙を続けた。

部隊指揮官を始め、山本司令でさえ

腕組みをしたまま何も語ろうとしない。

 

「何故黙っているのだ?

大切な国民の生命が掛かっているのだ、

それを守るのが自衛隊の使命だろう?」

 

総理の言うことは正論だ。

しかし正論を並べているだけであり、

現実を認めようとしていないのは

最高指揮官として失格だ。

 

「チッ…ええと菊池3佐だったね?

君の艦娘も活躍の場が与えられてさぞ名誉だろう、祖国に危機が迫っているのだぞ。

私だって君の要望通り臨時予算案や法案を通してやったんだ、今度は君が報いる番

なのではないのかね?」

 

ここで俺かよ。

てか今舌打ちしやがった…。

 

俺の後ろに控える加賀や村上が心配そうに見つめる視線が感じられる。

 

「菊池3佐、マーカスを保持せよ。

これは総理大臣からの命令だ!」

 

「ええと、私もそうしたいと考えます。

 

南鳥島には私の知り合いも

おりますので助けねばと思います。

 

しかしながら……」

 

 

俺は皆が言いたいであろう結論を

感情を抑えて言うことにした。

 

 

「…間に合わないですな、無理です」

 

 

その一言に煽てるような喋り方だった

総理の態度が急変した。

 

「なっ…ま、間に合わないとはなんだ?!この一大事に自衛隊は

責務を放棄すると言うのか?!

私は総理大臣であり貴様らの最高指揮官だ、私の命令が聞けぬというのかッ?!」

 

「…まあ、そうなりますなぁ」

 

やや馬鹿にした言い方が気に食わなかったのか、赤く脂ぎった顔の総理は汗か脂なのかわからない液体を分泌しながらさらに赤くなりながら声を荒げる。

 

「いいかこれは総理命令だ!

マーカスを助けに今すぐ向かうんだ!!」

 

こちらの心情を理解出来ない

【大層崇高なお頭脳】を

お持ちなのだろう、冷静を装って

俺は淡々と答える。

 

「繰り返し結論を言って差し上げます。

間に合いません、彼我のマーカスへの

距離が違いすぎます。

 

敵は一時間前の時点で距離100キロ。

仮に敵艦隊が輸送艦に速力を合わせたと

して6ノット、つまり時速11キロでしたら

現在残り89キロ。マーカス到着は

この通り…19時頃になる計算ですね」

 

カタカタと電卓で計算し、画面の向こうの総理へと突きつける。

 

「そんな事をしているヒマがあっt「続けますね。それに対し我が艦隊は直線距離で1200キロほど、高速の戦闘艦のみで航行し30ノット、つまり時速55キロで到着は

…この通り21時間後。

…お分りいただけましたか?」

ぐ、ぐぅ…この若造がァ…」

 

「航空機を飛ばそうにも現地の天候が悪化しており、全天候型の航空機であっても

台風の中を飛行できません。

墜落して役に立たないでしょう」

 

天気予報番組のキャスターみたいだ、と

悲しみと怒りが渦巻く頭でちらと考えたが

すぐに消し去る。

 

「私は総理大臣だ!!

貴様らを罷免する権限だってあるんだ!

横に座る防衛大臣だって指揮監督権を有している、貴様らのような命令も聞けない

無能自衛官など必要ではないわッ!!」

 

「…黙れこのアブラモヤシがッ!

うっせーんだよさっきから綺麗事ばっか

並べやがって、無理なもんは無理なん

だっつってんだろーがッ!!

大体この作戦もテメーの票の為にテメーが勝手に押し付けてるだけじゃねーか!」

 

俺の暴発に怯んだのか総理が黙り込む。

 

「戦争のプロが無理っつってんだから無理なんだよボケが!俺だって教育隊の同期がマーカスに居んだよ!

見殺しだよ、見殺し!助けに行きたく

たって行けねぇんだよ、あぁん?!

 

他の指揮官の顔をその濁った目で

見てみろよ、悔しさや悲しさ、

やり切れなさが見てとれんだろ?!

それに敵情もよくわからねぇ所に

突っ込んだらいらねぇ被害被るだろ?!

テメーら政治家もちったぁ軍事の勉強

してから物を言えよ、だから外国から

舐められんだよこのアンポンタン!

 

俺を罷免やら懲戒免職にするってぇなら

勝手にすりゃあいいよ…。

だが俺はこの『第101護衛隊』を勝手に

指揮してでもマーカスを奪還してやる!

 

奪還できなかったら賠償だろうが

死刑だろうが受け入れてやる、だが

テメーが総理の座に居る間はゴメンだ!

 

自衛隊が政治の道具だと思ったら

大間違いだ、俺たちは駒なんか

じゃなく人間だって覚えとけ

このアブラモヤシがッ!!」

 

言いたい事を言った挙句

俺は通信を一方的に切った。

 

ふざけやがって…。

 

制止する加賀、黙り込む村上を無視して

俺は自室へと向かった。

 

 

……

 

 

…………

 

 

 

結果から言えば俺は許されたらしい。

 

あの後統幕長や海幕長が改めて現実を

突きつけ、総理も占領阻止は

不可能だと渋々悟ったらしい。

俺の無礼についても部隊指揮官が

言葉は丁寧に、しかし俺の言った

ことと対して変わらない事を

淡々と述べた上で謝罪(なのか?)

してくれたそうだ。

 

山本司令がテレビ会議にて1対1で

連絡をくれ、それを教えてくれたのだ。

 

 

「『俺』ももう20歳若かったら

菊池3佐のように言い散らかして

いたかもしれないね」

 

「すみませんでした、私の我慢と

若気の至りで大変な事を

言ってしまいました…」

 

「怒ってなどおらんよ、皆同じ

思いだったのだ。しかしマーカスは

救えぬか。覚悟はしていたが

流石に心が痛むな…」

 

 

そうなのだ。

無理な物は無理とわかってはいるが、

仲間を、同期を見捨てるという罪悪感が

俺の心の中で暴れている。

 

 

「天候が回復したら航空機を送って

救出するという手もありますが、

恐らく無理なんでしょうね…」

 

「硫黄島航空基地隊の気象予報官からも

この天候ではマーカスに航空支援を

出すことは不可能だと連絡が

入っている。予報では明後日までに

台風は消えるらしい、不思議な事にな」

 

 

突然現れた台風はこれまた突然消える

らしい。深海棲艦は気象をも操って

いるのではないかと勘ぐってしまう。

 

 

「やはり民間船の意見を無視して

マーカスへ直行すべきだったんでしょうか?」

 

「それこそ敵の思う壺になるのではないかな。マーカスから父島間の空域は概ね晴れている、哨戒機からは敵潜水艦撃沈の報告が少なからず上がっている。

もし直行していたのならこの任務部隊は

全滅とはいかなくとも壊滅的打撃を被る。

 

国会や国民から戦死者を出したと現状以上に批判され、総理以下膨大な人員が

更迭されていただろうさ…」

 

「何というか…遣る瀬無いです」

 

「…君の同期の山下3尉か。

私も実戦経験は君とほぼ変わらないから

大層な事は言えない。

 

年がふた回り違う親父から

あえて言うとすれば、

『世の中には勝てないものもある』

と言う事だ。金でも権力でもない、

…君はなんだと思う?」

 

「…わかりません」

 

「私は『時間』だと考えているよ。

十分な備えと態勢を整えていても時機を

逃せば意味はない。もし事前に敵を

察知して艦隊や航空部隊を配備して

いればこの状況も無かったはずだ。

 

よしんば占領を阻止出来なかったと

しても航空機を送って人員だけは

救えたのかもしれない」

 

所詮後知恵だがね、と山本司令は寂しそうに笑った。

 

「敵はかなり頭がいいと見た。

奴らがどんな生態系なのか、指揮系統や

行動性も不明だが確実に【戦略】を

持っていてそれを実行する能力はあるだろう。

 

前回の『戦闘詳報 ー父島沖海戦ー』で、君が敵と話したというページを見た。

奴らは現代の知識がある、自身は旧式でもそれを無効化する知恵を生み出し、我々のこの状況も想定しているのかもしれん。

 

私と君に出来る事はそれを踏まえた上で

敵部隊の西行と北上を阻止し、父島や

硫黄島、そして本土への襲来を防ぐ事だ。

弔い合戦などとヤケになったらいけない、

『むらさめ』の亡くなった乗員のことは

私も悲しい、しかし時に冷徹であらねば

本当に守りたいものを

守れなくなってしまうぞ」

 

悲しみを含んだ真剣な目で俺を見つめる。

 

「父島の東海上にいると

思われる敵機動部隊、それと

西之島周辺で哨戒機が見つけた艦艇群。

まずどちらかを撲滅せねば

マーカスへの道は取れない。

 

現在任務部隊司令部とSF、海幕が

脅威度の算出・評価及び調整を実施中だ。

今は心の整理をして備えておきたまえ、

それが今できる最善の対策だよ」

 

 

……

 

 

テレビ会議が終わり虚脱感に

浸っていると、加賀が控えめな

ノックをして部屋に入ってきた。

 

腕時計を見れば1400を過ぎていた。

 

(そういや腹減ったな…)

 

「提督。色々と思うこともあると

思いますがまずは食事を食べてください。

食べなくては何事も始まりません。」

 

「そうだね、メニューは何かな?」

 

「カレーです。

遅い時間ですが士官室に用意して

あります、参りましょう。」

 

淡々と答える加賀のいつも通りな姿に

どことなくほっとする自分がいた。

 

だがあのテレビ会議を加賀は後ろで

直に見ていたはず、ヘタに心配したり

しないところが彼女なりの

優しさなのかもしれない。

 

 

だが同時に違和感を覚えた。

普段無表情に見えてもその裏には思い遣りや感情が有るのだが、今の彼女には

それらが全く感じられない気がするのだ。

 

 

(勘違いか…?)

 

 

俺の感情が鈍っているだけだろう。

そう考えると椅子から立ち上がり

士官室へと足を進める。

 

 

…そういえばマーカスにいる山下も

最期になるかもしれない昼飯は

カレーだったのだろうか。

せめて一言ぐらい連絡したいと思う。

 

 

……

 

士官室

 

 

「ずっと食べずに待っててくれたの?」

 

「…先程まで食欲が無かっただけです。」

 

 

いつもなら返しに軽口を叩く俺も

この時ばかりは食い付かずに黙々と

食べ始める。

 

この時加賀が時折こちらの様子を伺って

いることには気が付かなかった。

 

(ゆで卵に塩を掛けないと

こんな味なんだな…)

 

普段なら塩を付けて食べるゆで卵だが

ぼーっとしていたらそのまま

噛り付いていた。

 

「……塩は付けないのですか?」

 

「付け忘れただけだ。でも今は

これでいいのさ、そんな気分なんだ…」

 

普段なら食べるのに10分とかからない

カレーも今日は20分以上掛けてしまった。

 

既に食べ終えた加賀も表情を崩さずに

じっとこちらを見ている。

 

「ご馳走様でした……」

 

そういえば村上の姿が見えない。

 

「村上はどうしてるのかな?」

 

「村上3佐は艦橋です。

提督と私がいない間は業務は

任せてくれとの事です。」

 

「…あいつも休ませてあげないとだな。

俺は艦橋に上がる、加賀も

ゆっくり休むといい」

 

加賀が小さく頷く。

 

無感情な彼女から逃げるように

席を立ち士官室を出る。

 

 

……

 

 

(何故付いてくるんだ…?)

 

 

やや距離を置き、付き添いのように

ピタリと加賀が付いてくる。

 

「…別に付いて来なくてもいいぞ?」

 

「…別に。

私も艦橋に用がありますので。」

 

いつも表情を表に出さない加賀だが、

それは彼女をよく見れていないからで

本当は色んな表情をしている。

 

しかし今日の加賀は無表情だ。

テレビ会議において仲間を見捨てると

言い放った俺への軽蔑か?

その怒りを出すまいと隠しているのか?

 

さっき感じた違和感はやはり

当たりであったのか?

 

「…ぃよう、村上ぃ。

任せっきりで悪かったな、代わろう」

 

「…やっと部屋から出てきたか。

異状なし、上層部の決断待ちだ」

 

こいつも心中は俺と同じらしい。

 

加賀の居ない時にマーカスを

見捨てる云々の話をしたが、

その時にして良かったと思う。

でないと司令(提督)と隊付が業務を

こなせず部隊運営が成り立たないからだ。

 

それを引き合いに出さずともツーカーで

今すべき事をお互いに分かっているから

こうして必要最低限の言葉のみを交わす。

 

後ろの加賀を一瞥した後俺と交代し、

村上はそれ以上語らず

静かに自室へ降りて行った。

 

俺が左舷の司令席に座れば

加賀も右舷の艦長席に座る。

 

 

加賀の考えていることがわからん。

 

 

俺に対して言いたい事が有るなら

直接言えばいいのに…。

 

俺自身現状では何もする事が無いので、

ただ海を見つめ気を紛らわそうとした。

 

加賀はというと此処でも時折俺の方を

見たりして何か考えているようだった。

 

いつもなら無駄に艦娘たちの私語が

飛び交う無線も入って来ず不気味だ。

 

かといって無意味にこちらから何か言う

必要もない為、艦橋内は当直妖精の

必要最低限の声しかしない。

 

それから夕飯までの二時間余、

マーカスを見捨てるという罪悪感と

加賀の煮え切らない態度への苛立ちを

ひたすら感じ続けねばならなかった。

 

 

 

 




マーカスにいる職員と隊員は見殺し…。
それに気付かない現地。

守ってやると言い放った主人公は
かなりのダメージを負っています。

そんな提督を見かねた加賀は…。


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1-18b 加賀への苛立ちと彼女の想い   後編

シリアスな流れからいきなり
色々と変な事になります。

強引過ぎるかもしれませんが、
提督を想う艦娘の行動をご覧ください。

※登場する艦娘は平常です。


士官室 1730i

 

 

「…夜間は幹部妖精で哨戒直を回します。

提督たちは極力お休みください、

もし何かあったら起こしますから」

 

加賀の副長妖精が夕飯の席で発言した。

 

「それは流石に悪いよ、

今まで通りで構わない」

 

「明日以降は作戦発動だと思われます、

どうぞここはご自愛ください…」

 

むぅ…ここまで言われると

甘えさせてもらうしかない。

 

 

今までは艦橋に俺、加賀そして村上の

3人の誰かがなるべく残るようにしていた。

 

だが副長の計らいで

今夜は休めることになった。

 

 

(俺と村上に敵のマーカス襲来を

聞かせない為の心遣いかもな…)

 

 

敵占領部隊がマーカスに着くのは19時頃、

そこから天候によるだろうが

艦砲射撃が開始され現地の天候が

回復次第上陸されて島は

敵の手に堕ちてしまうだろう。

 

現地の状況が入って来ないとはいえ、

その時間艦橋にいれば少なからず

思うこともあるから休めということか…。

 

……

 

夕食の鮭の塩焼きはやや塩辛く、

米と味噌汁が良く合う和食だった。

 

それが余計マーカスへの思いを強くさせ、

自分たちがこんな豪華な食事を

食べていいのかと考えてしまう。

 

 

(たかが一食位食べなかったところで

一体何が変わるものか)

 

 

そう考え直し、

出された物は全部食べた。

いつもなら食べなどしない

魚の骨までコリコリと食べ尽くす。

 

それがせめてもの贖罪であると信じて…。

 

斜め前に座る村上もそれを見て

残していた骨をひたすら食べた。

他の幹部妖精や加賀が

引いているのが分かったが、

今の俺たちに出来るのは

小さいがこれぐらいなのだ。

 

士官室が妙な雰囲気になり、

その原因である俺は

「ご馳走様でした」と

手を合わせてその場を後にする。

 

側から見れば自己満足に過ぎない。

 

 

(俺は、無力だ…)

 

 

それは一種の自己嫌悪であった。

 

 

※※※※

 

司令官室(自室)

2030i

 

 

「……もう敵は着いてるかな?」

 

ベッドに横になりつつ呟いた。

 

風呂に入り横になったからといって

眠れるはずもなく、ただひたすら

赤色に染まった天井を眺める。

 

 

頭の中では深海棲艦が南鳥島に

艦砲射撃を行なっている様子が

繰り返しイメージされる。

 

 

戦艦を含む敵の大艦隊から放たれる

激しい砲火が島の滑走路や施設を破壊し、

駐在する職員や隊員を殺傷する様子。

 

 

常夜灯が部屋を赤くしているその色が

マーカスにいる人々の血液と思えて、

自然と目に涙が浮かぶ。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

スピーカーからは時々入る無線が

流れているが、マーカスについては

不思議な位一切触れられていない。

 

 

未だ現地とは交信が不通なのだろう。

だが流れたら流れたでマトモな

精神状態は保てないだろうな…。

 

 

……

 

 

<<コンコンコン>>

 

 

「提督、加賀です。」

 

「———ん、鍵はかかってない。

暗いから気を付けて入ってきなよ」

 

 

失礼します、と控えめな声で

入ってきた加賀は、消灯前から早くも

暗い部屋に驚くことなく話し始める。

 

 

「お休みのところ失礼します。

お話が有ります、私の部屋まで

来ていただけませんか?」

 

「…別に構わないよ」

 

 

(遂に言う気になったか…)

 

 

先ほどまで加賀の態度に対して

言いたいことがあった俺は

彼女の言葉に肯定を返した。

 

 

部屋から出ると通路の明かりで

一瞬眩しさを感じ、明順応の為に

俺はやや目を細めた。

 

 

加賀を見れば俺と同じく風呂を

済ませたのだろう、寝間着を

きちんと羽織っている。

 

 

アニメ版と同じような寝間着を

着ている加賀は似合うと感心したが、

すぐにどうでもいいかと心を切り替える。

 

 

そのまますぐ近くの

彼女の自室へと共に向かう。

 

 

「散らかっていますがどうぞ。」

 

【艦長室】と銘打たれた部屋、

即ち加賀の部屋は綺麗に整頓され、

彼女の性格を見事に表していた。

 

 

「お邪魔するよ…」

 

 

ドアを開けた彼女の横を通り、

俺はそのまま部屋の奥へと足を運んだ。

 

 

……

 

 

「…提督、紅茶にブランデーを

お入れしてもよろしいでしょうか?」

 

「…たっぷり入れてくれ」

 

 

勧められた通り加賀のベッドに

腰掛けると彼女が紅茶を入れてくれた。

 

本来海上自衛隊では、

艦内における飲酒は厳禁だ。

厳格な重罰が科せられる。

 

だがそれを咎める者はいない、

艦長たる艦娘の加賀が

良いと言うならいいのだろう。

 

 

いつもの俺であればシチュエーション

飲み物共に満点な展開であるが、

特段喜びもせず近くのテーブルに

置かれた紅茶に口を付ける。

 

 

その後部屋の白色灯を消し、

室内はデスクライトから出る

オレンジがかった色のみとなり、

時相応の夜の雰囲気を醸し始める。

 

 

(そんじゃ言わせてもらうか…)

 

 

加賀が話す前に俺から切り出す。

 

 

「呼ばれておいてなんだが、

俺からも言いたいことがある」

 

「…何でしょうか。」

 

そら来たと言わんばかりに

目を細める加賀、しかしそれは

不機嫌な感じでは無さそうに思えた。

 

何か覚悟を決めた、そんな顔だ。

 

 

「今日の加賀の態度についてだ。

言いたいことがあるなら

俺ちはっきり言って欲しい。

それになんでこんなに

露骨に無表情を装うんだ?

 

明らかに俺に何か言いたげじゃないか、

俺がマーカスを見捨てたからか?

軽蔑してるのかそして怒っているのか?

 

それならそうとはっきり言って

もらった方が俺としてもすっきりする」

 

 

ここにきて俺は加賀に対して、

いや艦娘たちに対しての、

やや苛立ちを込めた感情をぶつける。

 

“文句があるならはっきり言え”

 

つい強い口調になった。

 

「では言わせていただきます…。」

 

 

加賀はそう言うと静かに立ち上がる。

開けられた舷窓から入ってくる

月光が加賀を幻想的に照らし出す。

 

 

「———提督、

マーカスを見捨てるのですかっ?!」

 

 

普段の加賀らしくない声を張り上げる。

やや演技がかった言葉に思えた。

 

 

「…ああそうだ、見捨てる」

 

「…理由をお聞かせ願います。」

 

 

今更何故、と思いつつも俺は

“私心”(本音)ではなく“公心”(建前)の思いを話す。

 

 

「テレビ会議でも言ったが

とてもじゃないが間に合わない。

 

航空機はマーカス付近の台風で

飛行不能、艦載機に至っては

航続距離が短くて論外だ。

味方の潜水艦も進出しているが

このままじゃ多勢に無勢、

一部の輸送艦は沈められるだろうが、

止められないだろうし敵の編成は

知っての通り戦艦以下の大艦隊。

島への艦砲射撃は避けられない…」

 

 

そうだ、間に合わないのだ。

 

 

「…だから見捨てるのですね。」

 

抑揚の無い彼女の言葉に対し

遂に我慢の限界が訪れた。

 

 

「クッ…そうだ、そうだよッ!

俺は見捨てる、俺が“見捨てる”って

あのテレビ会議で言い放った!

各部隊指揮官の中で一番に言ったんだ!

 

俺は仲間を…同期を、見捨てたんだ…ッ!

 

軽蔑したか、軽蔑したろ?!

こんな提督に着いて

行きたくなくなったろ?!

 

人殺しとでも何とでも言えよ?!

ほら…言えよっ、言ってくれよぉ…」

 

「……。」

 

 

何も言わない加賀の目前で

俺は子供のように泣き噦る。

ずっと我慢していた感情が

ここにきて一気に溢れ出した。

 

 

「———いいえ。」

 

 

ずっと立ったまま言葉を聞いていた

加賀は俺に静かに近づき…

 

 

<<ギュッ…>>

 

 

「———うぁ、ぇ…?」

 

「提督は、お強いですね…。」

 

 

加賀は優しく俺を抱きしめる。

 

俺の顔が丁度加賀の胸に

ぎゅっと押し付けられる形となる。

 

彼女は寝間着ということもあり、

顔から感じられる彼女の“存在”を

必要以上に意識してしまう。

 

 

「ちょっ…あ、あの…加賀ッ?!」

 

「このままで構いません。

提督の仰ることは“公心”(建前)でしょう?

どうぞ提督の本音を

私にお聞かせください…。」

 

 

俺が暴れれば簡単に

加賀の手から抜け出せるだろう。

しかし不思議と抜け出せなかった、

別に加賀は力一杯抱きしめて

いる訳では無いというのに。

 

俺は決してこの状況を

喜んでいる訳では無いのに。

まるで俺の抵抗する為の

力と思考が、加賀に吸われて

しまったかのようだった。

 

 

俺は争うのを諦めて、

渋々と愚痴を語り始めた。

 

 

「———俺は…無力だ。

こんなに大艦隊を率いていても

2、30人そこらも救えないんだ。

マーカスの人間…山下だってきっと

俺を恨むに決まってる。

 

でもこのまま突っ込んだところで

敵情が分からないんじゃ駄目なんだ…。

ちゃんと情報を集めてからでないと

加賀や他の娘を無意味に傷付けるだけだ、

それは絶対にしないしさせたくない。

 

それに東にいると思われる機動部隊、

それを排除してからでないと

有効な身動きが取れない…。

そして西之島周辺の敵部隊を

やっつけてからでないと

マーカスに進めないんだ…」

 

 

加賀に謝るように

淡々と考えていることを話す。

 

 

「提督は無力ではありませんよ、

私———たちが付いていますから。」

 

思わず『私が』と言いかけた加賀だが、

咄嗟に複数形に言い換えた。

 

 

「私も後ろで聞いていて

きっと無理だと判断しました。

『見落とし』『天候不良』と

原因は沢山あるでしょう、

しかし結論は変わりません。

時間を巻き戻そうとしても

無理なものは無理なのです。」

 

山本司令と同じ事を言うんだなと思った。

 

 

「提督は優しいお方です。

全てご自分で背負おうとしてしまう、

それが良いところであり

同時に悪いところでもあります。」

 

「…なんか俺が前に言った事と

内容が似てる気がする」

 

「クスッ…そうですね。

そんなこともありました。」

 

あれは市ヶ谷のグランドヒルに

泊まった時の話だったな…。

 

つい最近の事なのに

加賀は懐かしそうに笑った。

 

そのまま手で俺の頭を優しく撫でる。

 

(まさかの子供扱い?!

…おいおい、俺は『暁』じゃないぜ?)

 

 

「本日の無礼、深くお詫びします。

提督はああでもしないと弱音を

吐いてくれないと考えました。」

 

俺が落ち込んだ艦娘に使う手と同じだ。

 

(こりゃ一本取られたな。

『策士策に溺れる』といったところかな?)

 

———別に策士を気取ってはいないが。

 

 

「まぁ確かにきっかけが

ない限りは弱音吐きたくないしな、

一応こんなんでも提督だからね…」

 

「『こんな』なんてご冗談を。

立派です、他の人間が何と言おうとも

貴方は私たちの提督です。」

 

「そりゃどーも…」

 

「ふふっ、耳が赤くなっていますよ?」

 

「ぶ、ブランデーが強すぎたのッ!

別に照れてる訳じゃねーし?!

久々の酒が回ってるだけだってのッ?!」

 

そりゃお耳さんだって赤くなるっての。

加賀のビッグなバインバインに

顔埋めてるんだから、それでなんとも

思わない男は男じゃないだろう。

 

「はいはい、取り敢えずは

そういうことにしておきましょうか。」

 

「…心配してくれてありがとな」

 

「お礼なら村上3佐に仰ってください。

『菊池はかなり落ち込んでいる筈だ、

奴を宜しく頼む』と頼まれたんです。」

 

まさか村上が?

あいつ自身も辛いだろうに…。

 

 

「村上3佐から聞きました。

なんでも…マーカスにいる山下3尉とは

教育隊の時に衝突が絶えなかったとか。」

 

 

村上の野郎…加賀にしょーもない

俺の過去を教えやがってぇ…。

朝起きたら腹パンしてやるか?

 

 

「よかったらお聞かせください。」

 

「わかったよ。つまらない話だよ、

あれはたしか奴が娯楽室に———」

 

 

……

 

 

…………

 

 

「…んで奴をこう呼ぶことにした。

『筋肉ダルマ』ってね!」

 

「そうだったのですか、

面白い方だったんですね。」

 

「まぁ面白い奴だけど

山下は正真正銘のロリコンでさ、

見た目もそうだが気持ち悪い奴だぜ?

教育隊のロッカーに洋物のロリータ本を

持ち込んで班長に怒られたんだ。

分隊全員が一時間『前支え』、

つまり腕立ての姿勢を取らされてさ。

マジでぶん殴ろうかと思ったんだぜ?!

奴は筋肉あるからさ、余裕な顔してて

同期の俺たちは余計腹が立ったんだ」

 

「まぁ、そうなんですか。」

 

 

しばらくの間俺の昔話で盛り上がった。

 

村上との悪巧みや山下との絡み。

生産性は無い内容であったが

それを加賀は静かに聞いてくれた。

 

 

「———ところで加賀さん?」

 

「はいなんでしょう。」

 

「そろそろ…『コレ』、止めない?」

 

「……嫌、ですか?」

 

コレ、即ち加賀はずっと

俺をホールドしておりそろそろ

恥ずかしさの限界が訪れていたのだ。

…いや、むしろ我慢の限界?

 

 

「いやいやいや!!

決して嫌とかじゃなくてさ?!

単純に加賀が体勢的にも体力的にも

大変なんじゃないかと思ってだな…」

 

「心配いりません、大丈夫です。」

 

「俺は『色々』と

大丈夫じゃないんだけど?」

 

「『色々』とは何ですか?」

 

え?!

それ聞く普通?!

 

俺だって男ですよ?!

決して我慢強いのが男ではなくってよ?!

男はすべからく狼ですわよ?!

俺が女に飢えた狼になるぜよ?!

 

 

「え、その…た、体勢もキツイし?」

 

「ああ、そういうことですか…。」

 

 

うむ何となく察してくれたようだ。

 

 

「では…『こう』すれば如何ですか?」

 

 

<<ぽすっ、ムニュン…>>

 

 

「……」

 

「ほら、これで『楽』になりました。」

 

「———なぁ、加賀さん?」

 

「なんでしょうか提督。」

 

 

なんでしょうか、じゃない。

俺から言わせてもらうと、

『なんでこうなったんでしょうか?』

としか言えない事になったぞ。

 

 

「…何故、ベッドに横たわった?」

 

「提督が楽になったかと。」

 

「いや、楽にはなったけどさぁ…」

 

 

うむ……。

全く察していなかった!!

 

加賀は俺を胸に抱いたままベッドに

倒れこんだ!俺を胸に抱いたまま

ベッドに倒れこんだ(ここ重要)

 

下敷きになっていないから

そこまで苦しくは無いが、

これはこれで色々と『苦しい』。

…我慢的な意味でね?

 

 

「…俺は子供か?!」

 

「子供っぽい面もお持ちですし、

そこは否定はしかねます。」

 

 

暁もきっと文句を言う程の扱いだ。

 

 

「…ちなみに拘束される期限は?」

 

「今日は私が満足するまで離しません。」

 

「俺はもう、とても、かなり、

非常に満足したから寝たいんだが…」

 

 

いや、部屋に帰っても寝れないよ?!

加賀の胸を満喫した後じゃ寝れないよ?!

 

 

「提督への、日頃の感謝です。」

 

やや照れつつ話す加賀。

いや、キャラおかしいよ貴女?!

 

「…加賀さんブランデー飲んだ?」

 

「いいえ、私は紅茶だけですが。」

 

「あっ、そう…」

 

 

酔っているわけでは無さそうだ。

加賀も意外と積極的なのか?

いやいや、それはあり得ない。

俺の勘違いもいい所だろう。

 

 

しかしながら今日は本当に

加賀には世話になったなぁ。

 

提督の俺をサポートしてくれたり、

こうして文字通り親身になって

ケアしてくれたり…。

 

 

(慰めてもらってばっかりじゃないか…)

 

 

加賀の胸からは心臓が

激しく脈打つ音が聞こえる。

彼女も俺の為にきっと

相当な覚悟でしてくれているのだろう。

優しい顔から想像出来ない程の脈拍数だ。

 

そう考えると彼女の

想いを無駄にしたくない。

 

それに…。

 

 

「これは———石鹸の匂い、かな?」

 

「ッ!!…そ、そうです。」

 

 

一瞬言葉に詰まりつつ加賀が答えた。

 

(あ、脈拍数上がった)

 

敢えてそこは突っ込まず、

素直に思ったことを語る。

 

 

「———懐かしい香りがするよ。

小さい頃に母さんが使っていたかな?

名前はわからないけど

好きだった銘柄の石鹸だよ」

 

その言葉に加賀は顔を赤らめる。

 

「すごくいい匂いだ…」

 

寝間着越しとはいえ彼女の

胸に密着しているということもあり、

必然と加賀自身の香りも感じられる。

 

変な意味抜きで幸せだ、

とても心地の良い香り。

 

「もう少し、このままでいいかな?」

 

「わ、私から離しませんと

言ってしまったからには、

ぜぜん全然だだ大丈ぶ夫です!」

 

 

いや、かなり大丈夫じゃ

なさそうなんですがそれは…。

榛名みたいな事を言ってる加賀も

新鮮かつレアでかわいいなぁ。

 

「ふあぁ…おっとごめん。

ブランデーも久しぶりだからかな、

酔いが回るのが早いや。

もう眠たくなってきたよ…」

 

出港してからアルコールは

控えていたためであろうか、

思いの外酔いが回っている。

 

「流石に悪いよ、そろそろ

俺は部屋に帰らないと…」

 

「……。」

 

胸から見上げると加賀は

やや寂しそうな顔をしていた。

小さく溜息、悲しげなら目をした。

 

「…私ではダメなのですか?」

 

「ダメって何がだよ?

加賀のお陰で俺もかなり癒された。

もう無理に体を張ってもらう必要は

ないんだからゆっくり休みなよ」

 

「私は———にまだ———しいです…。」

 

「え、何だって?」

 

「私はまだ…提督にこのままで、

いて欲しい…です。」

 

目をうるうるとさせながら語る

加賀に不謹慎ながら興奮してしまう。

 

(うおぉー?!待て待て俺、

加賀は俺を慰めようと

してくれているだけであって、

決してそういうつもりで

言っているわけじゃないんだ!!

それなのに何興奮してんだ、

落ち着け、落ち着けぇ…!)

 

「か、加賀にも迷惑かけたからな。

ま、まあそうだよな。

こ、今度は俺が慰めて

あげる番だからな、うん。

健全に慰めてあげないとだな、

ちゃんとしっかり、ねぇ?」

↑錯乱意味不明

 

 

…結局そのまま寝ることになった。

 

 

……

 

…………

 

 

〜それから二時間経過〜

 

加賀自室

 

 

(俺は無機質な存在…。

俺はただの抱き枕、抱き枕が

興奮したり襲ったりしてはいけない…。

いいか、加賀が眠るまで耐えるんだ。

そうしたらこっそり部屋に帰る、

それまでの我慢我慢…)

 

 

俺はベッドの上そして加賀の胸の上で

寝たふりをしつつもどうにか

眠りに就こうと努力していた。

 

 

…ここまでの流れを整理しよう。

 

 

①加賀が俺を慰めるため抱きしめた。

②加賀は今夜離すつもりはない、

恐らく眠るまで逃げられない。

③加賀は石鹸のいい匂い。

それを言ったら彼女の心拍数が

上がり動揺した、それは俺もだけど…。

④加賀にこのままでいてくれと言われた。

 

 

『提督にこのままで、いて欲しい…』

 

 

この言葉って捉え方によっては

色々とまずいんじゃないか…?

俺だって男なんだぜ?!

 

任務部隊や本土、マーカスが

各々真面目にこれから起こる

戦いに向け準備をしている中、

俺(たち)だけ色々と

違った意味の緊張感と戦っていた。

 

顔と頭に感じる心地良い

柔らかさに邪念を抱かないよう

無心となること修行僧の如し。

加賀の胸枕(爆誕)の柔らかさと

手を伸ばしたくなる欲望との戦いは

かれこれ二時間に及んでいた。

 

ひたすらじっとしてては

不審に思われると考えた。

たまに寝返りをうつのだが、

その際にかなり神経を使った。

 

たまに顔に感じる

【謎のコリコリ感】は

気のせいだと脳内で叫びながら、

俺は関係の無い事をひたすら

思い浮かべるのに必死だったのだ。

 

その時に加賀から漏れる

「んっ…。」という

ハスキーボイスはきっと

寝苦しいからなのだろうと思い込む。

 

それは正に馬耳東風を強いられた、

という表し方しかできない。

 

(そ、そりゃ加賀だって

寝てる時に寝言だって言うだろうぜ?!

寝苦しいだけに違いない!

 

べ、別に俺のせいじゃない!

なんか顔にコリッとしたものが

当たったのは寝間着の裁縫の山、

絶対に気のせいだってーの!!)

 

 

加賀は既に寝たようなのだが、

“何故か”腕の力は抜けておらず

俺は逃げるに逃げられない状況だ。

 

 

(もしかして加賀って

眠る時も気を抜かないのか?!

これじゃあ俺が部屋から

逃げられねえじゃねーか?!)

 

 

…………

 

 

(む、無理、眠れない…!)

 

 

加賀は寝たふりをしながら

一人心の中で悶絶していた。

 

勇気を出して提督を慰めようと

抱きしめたまではよかったものの、

胸元で自分の匂いについて

言われてからはもう気が気でなかった。

 

提督は久しぶりにブランデー入りの

紅茶を飲んだこともあり

すぐに酔ってしまい“寝た”ようなのだが、

たまに寝返りをする際に寝間着が

体に擦れてその度に変な声が漏れる。

 

 

(い、いやらしい女とか…

提督に思われていないかしら?!)

 

 

提督が眠りに就いてから静かに

離れようかと思ったが自分から

話さないといった手前、

責任感の強い加賀は

どうしようもできないでいた。

 

 

今も提督を抱きしめているのは

たまに寝返りを打つ際、頭が

衣服に擦れるのを防ぐためであり、

離せば激しい摩擦で更に変な声を

上げてしまうかもしれないからだ。

 

なお、彼女の為に付け足すが

声が上がるのは単純に、衣服に擦れる

行為に対して驚いているだけであり、

それ以外の理由は存在しない

……はずだ。

 

 

(もしかして提督は意外と

寝相が悪いのかしら…?)

 

 

この二時間余り、提督が数十分おきに

頭を動かすため、いつ動くのか

気になってしまい眠る気にならない。

もし自分が眠れたとしても、

突然動かれたら今度はどんな声を

出してしまうか不安で仕方ないのだ。

 

 

((嗚呼、早くどうにかして…!!))

 

 

……

 

 

それから一時間余りたった頃。

 

 

「———か、加賀起きてる…?」

 

「———は、はははいっ、

私はちゃんと起きています…!

……あ。いえ、なんでもありません

私はちゃんと寝ていました!!」

 

「…やっぱ起きてたんだ」

 

モロに挙動不審である。

そんな加賀もなかなか珍しい。

 

「そ、その…申し訳ありません

実はずっと起きていました…。」

 

 

俺は小さな声で加賀に聞いてみた。

寝ていれば気付かない筈の呟きに

彼女は即応、やはり起きていた。

 

 

「ははっ、もう離していいよ。

あ、下手に気を使わせたくないから

部屋には帰らないことにする。

このまま静かに寝させてもらうよ」

 

 

加賀のホールドが解けた隙を見逃さず

俺はコロコロと加賀の上から横へと

器用に転がって配置転換を行う。

 

 

その時に加賀が漏らした

「あっ…んっ…!」

という声はきっと俺が重かったから

に違いない、違いない!(重要)

 

「なんだか“色々と”気を

遣わせてしまったようだね。

ここはお互い様ということで

何も無かったことにしようか」

 

「そ、そうですね…。

私も“色々と”困らせてしまった

ようですが、ここは一つ手を打って

水に流すことしましょうか…。」

 

 

「「———プッ…!」」

 

 

お互いの言葉に思わず笑いが漏れる。

 

 

ああなんだ、この数時間

同じことを考えていたのか。

なんだ、それならもっと

早く言えばよかったじゃないか。

 

単純な答えが浮かび、

これまで頭にあったモヤモヤと

したものが何処かに行ってしまった。

 

そして、ずっと

自分自身を責めていた

“山下を見捨てた”という事実を

一時的であるが割り切ることができた。

 

 

緊張感も解け自然体となった

俺たちに眠気がどっと押し寄せる。

 

 

「もう…1時か。

早いような遅いような時間だね。

今度こそはゆっくり眠れそうだ…」

 

「ええ。静か、ですね…。」

 

 

眠気で意識が朦朧としてきた、

そして普段の俺ならしない行為。

スッと加賀の首元に腕を入れた。

 

いやらしい意図は無いが、

今は彼女を近くで感じていたい。

 

「…お邪魔します。」

 

そういうと静かに頭を乗せる加賀。

そのまま加賀が俺の方を向けば

胸が当たるであろうが、

さすがにそれはまずいだろう。

 

 

顔を合わせることもなく

ぼんやりと天井を見つめ合う。

 

 

「…そういえば提督。

何故紅茶にブランデーを

入れるのですか?

何かきっかけがお有りなのでは?」

 

加賀は思い切って普段から

気になっていたことを質問する。

 

「うん。前にも聞かれたんだけど

俺自身よく覚えていないんだ…。

昔誰かがやってるのを見て真似した

記憶があるけど、それが誰なのか…。

全然覚えていないんだ」

 

「こ、今度ご一緒させてもらっても

よろしいでしょうかっ?!」

 

「もちろん、この戦いが終わったら…

いや、この言い方はまずいな。

横須賀に帰港したら飲もうよ。

いつになるかはまだわからないけどね」

 

そこまで話すと眠気が

決壊したように押し寄せる。

…我慢の限界みたいだ。

 

「もう部屋に帰る気力もないや…。

すまないけど寝させてもらう…よ」

 

「はい。

私も今度は眠れそうで…って

もう寝てしまわれましたか。」

 

加賀の返事を聞く前に心地良い眠りに

まっしぐら。これには加賀も苦笑いする。

 

そんな俺の寝顔に吊られたか、

加賀も眠りに就く。

 

 

ベッドに川の字という光景であるが、

さっきまでの緊迫感に

比べれば可愛いものだろう。

 

知らない人が見たら二人は

夫婦であろう、と思うかもしれない。

 

 

……

 

 

南の海の眠れない夜は

悲しい出来事を一時的ではあるが

優しく忘れさせてくれた。

 

朝からは重い決断を下したり

言葉では表せないような、

それは重い責任を負わねば

ならなくなるだろう。

 

 

しかしこの時ばかりは

天は二人を邪魔することなく

見守ってくれたようだ。

 

 

それが偶然なのか、

それとも仲間を見捨てねば

ならない彼らへの慰めの

報酬なのかは神のみぞ知る。

 

 

ひとときの安らぎと

お互いの温もりを感じつつ、

少しだけ寝苦しい真夏の夜は

ゆっくりと過ぎるのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




…加賀さんが慰めてくれました。

主人公はマーカスにいる山下君を
見捨てた(予定)ことをかなり根に
持っているため、加賀はそれを汲んで
提督のケアを決行しました。
…ただイチャイチャしただけ、かも?


さて次回からはマーカスに敵艦隊が来襲。
偶然繋がった衛星電話、
そこで同期の山下が…。


さらば、山下君…


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第ニ章 奪還、そして…
2-1 そして悪魔はやって来た 【南鳥島】


新章突入します!
でもストーリーはまだ
小笠原が舞台なのです…。




加賀自室

翌朝未明

 

 

「……朝か」

 

 

1時過ぎに寝たにもかかわらず、

俺は5時前に目を覚ました。

横では加賀がすうすうと寝ている。

彼女は幸せそうに俺の腕を枕に

している。

 

(そういやマーカスはどうなったんだ)

 

昨夜は加賀のお陰で抑えられていた

感情が少なからず込み上げてくる。

 

自室でシャワーを浴びた後

艦橋に上がり状況を確認する。

 

 

……

 

 

「おはよ、マーカスはどうなんだ?」

 

「低気圧…台風はまだ消えていない

みたいで現状は確認できません。

電波状況も不良らしく、海幕や

司令部による定期通信もダメなようです」

 

哨戒長の当直を務めている

幹部妖精が首を振りつつ答える。

 

敵艦隊がマーカスに到着しているのは

確実と思われるが、その後どうなっているのかはわからない。

 

「…そうか。

んで、任務部隊としての

行動計画の意向は出たか?」

 

「まだ本決定では無いのですが…」

 

 

この艦隊、『第1護衛任務部隊』の

作戦案は要約すると次の通りらしい。

 

①マーカスに輸送予定であった

陸・空自の対空対艦ミサイル部隊を

父島に揚陸し、島の防衛を固める。

 

②東方海上の敵機動部隊に空襲を掛け、

可能であれば壊滅させる。

 

③制空権確保後、西之島周辺にて

確認された敵艦隊を排除。

 

④小笠原周辺の制海権を確保し、

補給艦等の後方艦隊を残した上で

マーカスへ向かい、島を奪還する。

 

 

…まあ妥当な作戦だろう。

 

「さっさと始めればいいじゃないか

って思うんだが」

 

「敵機動部隊の位置が特定出来ない

らしく、海自の哨戒機や空自の

偵察機を発進させていますが

捕捉には至っていません。

輸送艦や掃海母艦に搭載している

陸上部隊の準備は0700から開始される

ことになっています」

 

腕時計を見れば0549i。

朝食後に部隊は動き出すようだ。

 

そうこうしていると村上が起きてきた。

 

「…おはっす村上、

色々と気遣いありがとな」

 

こいつが加賀に頼んでくれたおかげで

俺はこうしていられるのだ。

あのままだったら俺は使い物に

ならなくなっていたかもしれない。

 

「おはよう、少しは寝れたようだな。

俺も辛いが菊池の方が山下への

思い入れが強いだろうからな」

 

0555i、『総員起こし5分前』の

号令が艦内に響き渡る。

 

「提督、食事用意よろしい!」

 

幹部妖精が申告する。

食事という単語に、俺の腹は頭の

思考と反比例した反応音を発する。

 

「加賀が起きて来ないけど、

先に朝飯を頂くとしようか」

 

そりゃ夜1時過ぎまであんな状況で

眠れなかったし仕方ないか。

俺の様に目が覚めたのが異常だろう。

 

 

……

 

0610i

 

「っ…おはようございます。

遅くなりすみませんでした…。」

 

やや慌てた様子で士官室に入ってきた

加賀はそのまま自分の席に座る。

 

「おはよー、昨日は助かったよ。

また何かあったら是非『相談』に

乗って欲しい」

 

村上の手前という事もあり、

昨夜の詳細はぼかして礼を言う。

 

「…俺は先に艦橋に上がる。

菊池と加賀は作戦案を吟味してから

0700までに上に来てくれ」

 

「あいわかった、んじゃ後で」

 

シュッと右手を上げて、

出て行く村上に応える。

 

「やあ、おはようさん。

加賀はお寝坊さんだね」

 

「…目覚ましに気付きませんでした。」

 

「いいって、しゃーないさ」

 

加賀からすれば失態であっても、

俺にとっては咎める程でもない。

敢えて指摘する点といえば…

 

「寝癖、てっぺんのあたり」

 

「……あ。」

 

ぴょこんと加賀らしくないアホ毛が

妖怪レーダーの如く天を向いている。

 

サイドテールの彼女にもう一つ

トレードマークが付いてしまっている。

 

必死に手櫛で直そうとする加賀を

横目に、俺は真剣モードとなって

作戦案を見続ける。

 

朝食後に飲むコーヒーが喉を通り

胃袋に静かに落ちる。

カフェインが胃から吸収され

眠気は消え頭が冴え始める。

 

夏であっても朝は熱いコーヒーだ。

普段は紅茶の香りを楽しむものの、

こういう場面では豆の香りもよい。

 

 

そんな俺に吊られてか加賀も普段通りの

凛とした顔構えとなり、俺も

一段と臨戦態勢を整える。

 

「…この隊からも索敵機を出すぞ、

それと戦闘機も交代で常時上げる」

 

偵察衛星や哨戒機がダメであっても

この艦娘部隊であれば必ず敵を

見つけ出せる。

不思議とそんな確信が湧いてきた。

 

そう、例えようのない『確信』が。

 

 

※※※※

 

0900i

 

 

「…なあ『両用戦』って何だっけ?」

 

無線で飛び交う用語の意味を問うた。

 

「水陸両用の両用だ」

 

少し前に輸送艦が配備されている

『第1輸送隊』は、護衛艦隊から

掃海隊群という部隊に編成替えとなった。

 

「掃海母艦って荷物積めんの?」

 

「輸送艦ほどではないが可能らしい。

敵地に上陸するには海岸や沿岸部の

機雷を除去しなければならないから

掃海部隊の協力が必要となる。

限定的だが艦尾には輸送艦に似た

門扉があって、そこから人員程度

なら簡単に揚陸できるそうだ」

 

 

米軍は強襲揚陸艦を所有しているが、

自衛隊のそれは規模も小さく搭載量も

大幅に下がり完全武装の隊員は5分の1

程度しか積めないそうだ。

そこで搭載スペースにやや余裕がある

掃海母艦に違法建築の某戦艦よろしく

コンテナやら装備を載っけることに

したらしい。

 

 

(輸送艦や補給艦が足りない…。

こういった支援艦こそ大量に建造して

戦局を維持しないといけないんだ)

 

 

遠くから揚陸作業を見ながらそう考える。

 

『ゲーム』や現実の自衛隊でも戦闘艦、

つまり前線の戦いが前面に出されて

いるがそれをサポートする後方こそが

最重要であり、それが無ければ

戦艦や空母などはデカイだけの

鉄屑となってしまうのだ。

 

 

これまでの近海警備のみであれば

基地を拠点にして行って帰るだけの

戦闘だったから補給艦は必要なかった。

 

だが遠洋まで出張って長期行動。

しかも輸送作戦も兼ねるとなると、

算数が苦手な俺でもびびる程の

カネやヒトそしてモノが必要となる。

 

マーカスはどうなっているのか気になりつつも、提督としての業務はそれを

許してはくれない。

 

端末や無線機、ペンや書類そして

海幕と他部隊…。

 

これらはどれも俺にとっては等しく

非情に五感へと攻撃を仕掛けてくる。

俺としてはパンク寸前どころか

ショートしているのだが、それが

感傷に浸ることを妨げてくれた。

 

 

ここでも輸送艦と父島をホバークラフト

が往復し装備や隊員を揚陸した。

また、ヘリコプターも輸送していたが

これは濡れてはいけない機材が

運ばれていたのかもしれない。

 

 

………

 

 

「揚陸作業、80%終了しました」

 

「ほい、了解~」

 

 

艦橋の右ウイングで意味もなく

成り行きを見ながら空返事をする。

 

揚陸用意で素早く荷捌き(と言うのか?)を出来るようにしたため、

揚陸は思いの外順調に進んだ。

 

しかし被弾した輸送艦『しもきた』は

残骸撤去に手間取っており、

それが完了するまでは同乗する

陸上部隊の隊員もフネから

離れられずにいた。

 

 

「陸自と空自が海自のフネで死ぬ、か。

亡くなった隊員はどう思うかな…」

 

冗談で言っているのではなく、その

戦力を発揮できずに散った事実に

対して少なからず思うことがあった。

 

「俺たち海自はフネが住処だし

この海こそが戦場だ。

だが彼らは違う、それを守ることが

俺たちの責務だ。きっと敵への

恨みよりも悔しさの思いが

強いだろうな…」

 

 

秋月が落ち込んだのも無理はない。

そんな呟きを咎めるかのように

横から声が飛んでくる。

 

 

???「…オメェはクヨクヨしてねぇで

さっさと沖ノ島だか猿ヶ島にでも

行ってこいってんだ!!」

 

「うぇっ?!」

 

突如後ろから図太い声が掛かり

一人だけだと思っていた俺は驚いた。

 

「よう、圭人ォ!」

 

「…連隊長なんでいるんですか?」

 

「オメェが落ち込んでんじゃねぇかと

思ってよ、遥々来てやったってワケだ!」

 

…彼なりの気遣いで俺を見にきたらしい。

どうやら『しもきた』の撤去の目処が立ち、ついででホバークラフトに『加賀』へと寄ってもらったらしい。

 

(職権濫用ってレベルじゃねーぞ…)

 

てか『沖ノ島』はちげーし。

 

そんな連隊長が急に表情を変え、

海を眺めながら語り始めた。

 

「…俺の苗字、覚えてっか?」

 

「え、えっと…」

 

初対面の時に言ってた気が

するけど全く覚えていないぞ…。

 

「峯木だ、み・ね・き。

軽く自己紹介するが、

俺の親戚は陸軍の将校だった…」

 

 

前に見た連隊長からは想像できない

程の感傷的な雰囲気を醸し出す。

 

なんでも親戚が陸軍の将軍だったらしく、

かのキスカ撤退時に陸軍側司令官

を務めていたらしい。

 

俗に言う『奇跡の作戦キスカ』において

救出された陸軍軍人の一人であろう。

 

彼はキスカ撤退後、あの南樺太に赴任

してソ連侵攻時の指揮を取ったとのこと。

 

「今の俺も似たようなもんだ。

本来守る筈だった場所を守れず、

後方で待つことしかしできない。

情けないがこれが現状だ、

俺は後方を守る、前線はオメェに

任せる。後ろは任せろ、父島は俺が

どうにかする!」

 

 

そう言い放つ連隊長の顔には

悔しさと悲しさが隠れていた。

 

彼は言わなかったのだが実は

亡くなった隊員には彼の部下の

陸自隊員も数名おり、それを悟らせ

まいと強く胸を張っていた。

 

 

(俺は…負託に応えないと)

 

 

部下が戦死しているにもかかわらず

その気持ちを吐き出さずに俺に

想いを託す姿は感動すら覚えた。

 

辛いのは俺や村上だけじゃない。

 

この連隊長や艦娘、他の隊員だって

少なくないショックを受けている。

それにもかかわらずこうして立ち

向かっている、自分なりの方法で

『戦って』いるのだ。

 

戦争とは勝つか負けるかのゼロサム

ゲームではなく、如何に我が方の

損害を抑えつつ敵を倒せるかである。

現代装備のイージス艦や哨戒機が

あろうともやはりパーフェクトゲーム

という訳にはいかないのだ。

 

「私は…」

 

『マーカス付近の……』

 

 

…………

 

 

返事をしようとそこまで言ったところで

待ちに待った無線が飛び込み

俺は会話を中断した。

 

『マーカス付近の天候がやや回復。

偵察衛星の画像については現在

内閣衛星情報センターが対応中!』

 

「電話は…?

もしかしてマーカスに

衛星電話が通じるんじゃ?!」

 

「おう、やってみろ!

オレはほっといていいから

同期に電話してやれよ」

 

連隊長の気遣いに感謝しつつ

艦橋の衛星電話に飛び付き、

部内の電話帳の『南鳥島』と

書かれたページを開く。

素早くダイヤルしてコール音を待つ。

 

しかし一向に繋がらない。

未だ電波状況が悪いのか、それか

他の部隊や本土の海幕や統幕も掛けて

いるのかもしれない。

 

俺と同じようにマーカスへ電話して

状況を引き出そうとしているのだろう。

本来なら俺のような現場部隊の

隊司令の末席が介入してはならない

はずだが、そんなん知ったこっちゃない。

せめて、最期の一言だけでも。

 

『助けられなくてすまん』

 

伝えられれば、それで…。

 

 

※※※※

 

ー山下サイドー

 

 

同時刻

 

南鳥島 海上自衛隊庁舎前

 

 

「…あれが深海棲艦か」

 

 

天候は朝まで台風の様な荒れ模様だった。

ついさっき暴風雨も止んだのだ。

 

本土との通信が途絶え、偶に飛来して

いた哨戒機も悪天候で飛んでこなくなった。

 

天変地異が起きてこのマーカス以外が

壊滅してしまったのでは無いかと

考えてしまったりしたが、

どうやらそうではないようだ。

 

「台風が収まったと思ったら

島が包囲されているとはな」

 

目の前の海にはどす黒い色の

軍艦がうじゃうじゃいる。

 

やばいとかもうダメだといった感情は

不思議と湧かず、諦めるしかないんだ

という思いが心を支配していた。

 

 

「山下3尉、外は危ないですよ!」

 

部下の2曹が声を掛けた。

階級が下の部下といっても年は20歳

近く離れていて敬語は欠かせない。

 

「他の隊員や職員はどこですか?」

 

「皆部屋に隠れています、

気持ちは外よりかはマシです!」

 

部下に誘導され室内へと引き返す。

 

 

(『菊池』はなんとかすると言って

くれたが、間に合わなかったか…)

 

 

奴と電話した夜を思い出す。

いっそ備品のゴムボートで逃げてみるか?

いや無理だ、航続距離も短いし敵の

駆逐艦に追いつかれるだろうし

それ以前に砲撃を浴びて木っ端微塵だ。

 

この島にはシェルターなんてものは

存在せず、あるのは数えるほどの庁舎。

南の果ての孤島、それがマーカス。

 

衛星電話や無線も故障なのか、

それとも電離層の障害かわからないが

不通となってしまっている。

 

天候が回復したから通信も

可能かもしれない、そう考えた時だった。

 

 

<<ピピピピ…!>>

 

 

「おう、通信も回復したようだ」

 

先日まで煩かった衛星電話が

庁舎内に鳴り響く。

 

「なに感心してんですか!

早く出ないと切れるかもですよ?!」

 

俺以外は慌てていたり動揺しており、

この状況にあっては当然の反応だ。

俺自身落ち着き過ぎていて気味が悪い。

 

死を悟る、というやつだろうか…?

 

掛かってきた衛星電話に出ると、

相手はやはり『奴』だった。

 

 

…………

 

 

『…マーカスか?!

よしっ繋がってよかった!

俺は101護隊司令の菊池3佐、

山下3尉を出してくれ!』

 

「やっぱり菊池か、煩いぞ」

 

『山下かっ?!

落ち着いて聞けよ、マーカスに…』

 

「…敵の大艦隊が攻めてきて

島を占領するかもしれない、だろ?」

 

『そ、そうだ!』

 

「目の前にいるぜ。

昨日まで台風だったんだが

先ほど回復して外に出たらこれだ」

 

『ど、どうしてそんな落ち着いて

いられるんだよ?!

敵だぞ、お前死ぬんだぞ?!』

 

 

敢えて奴の言葉を無視して話す。

 

 

「おい菊池。

目の前に深海棲艦ってヤツがいるぜ、

キモイな…こいつら、ははっ…」

 

軍艦の形をしているが色がキモい。

型は古いが実用性がありそうだ、

あの大型艦は…戦艦クラスか?

 

「他の隊員や職員はビビってるさ。

なんか俺はメーターをふりきってるのか

わからないが怖くないみたいだ。

あいつらがそのうち砲弾を撃ち込んでくるんだろ?」

 

『すまん!俺がもっと早く

マーカスに行けばよかったのに…』

 

電話の向こうで菊池が謝る。

 

「お前如きの能力で部隊の速度まで

変えられるわけねーだろ。

仕方ないさ、別に恨みはしねぇって」

 

『すまん、本当に…』

 

「こら、泣くなガキが全く…。

お前は教育隊の時から変わらねえな。

 

歳は俺より3つ下のクセに突っかかって

来るし無駄に突っ張ってるしよ。

んでこうして勝手に自分の所為にして

謝って済ませようとする、自己満足

もいいところだ。

ついでに初対面で『ハゲ』とか言うし」

 

『は、話が逸れてねぇか?』

 

「人の趣向にケチ付けて

ロリコン死ねとか言うし…」

 

『今かなり真面目な話なんだけど…』

 

おっと、口が滑り過ぎた。

周りの隊員も呆れ掛けている。

 

「『最期』になるがお前は

なんとか言って面白い奴だったよ。

高卒の癖に、と舐めていたが

なかなか骨もあるし筋も通っていた。

俺は幹部になって国防を担おうと

考えてこの道に進んだが、まさか

お前や村上に抜かれるとは思わなんだ。

 

こうして南の孤島で散るのも

何かの運命なのかもしれん。

もし来世があるならまたお前や村上と

出会って共に肩を並べて戦いたかった。

いざとなると何か

気の利く言葉は浮かばないな。

あ、心残りといえば艦娘を紹介して

貰いたかったな」

 

『ああ、紹介するよっ…!

皆めっちゃ可愛いんだ、

お前には勿体無いぐらいにっ…!』

 

「それも、叶いそうにないか…」

 

『すまん…すまんっ!』

 

「野郎の泣き声なんて聞きたくないぞ」

 

菊池の申し訳ないという想いが

ひしひしと伝わって来る。

そんな風に謝られるとこちらも

なんだか居た堪れないだろうが。

 

どうせ最期なんだ。

そう考え胸ポケットからタバコを

取り出し庁舎内で吸い始める。

 

「フーッ…。

死ぬ前の煙草は格別だなオイ。

この一本を吸い終わったら…」

 

「敵艦の砲身がこちらを狙ってます!」

 

敵は空気を読んでくれないようだ。

 

「…聞こえたか?

もうそろそろのようだ、世話になった

ってのはちと違うが…達者でな」

 

『おい山下、隠れろ!』

 

「隠れようがないって言ってんだろ。

…ったく嫌味は止めろって」

 

 

<<…ガァン!ガァン!>>

 

 

「おっと、敵さん撃ち始めたぜ。

ここらで御開きと……」

 

 

そこまで言ったところで俺の意識は

途切れ、身体が宙に舞った感覚がした。

 

 

※※※※

 

 

『おっと、敵さん撃ち始めたぜ。

ここらで御開きと……』

 

呑気に山下が言った瞬間だった。

受話器から耳をつん裂く轟音がし、

思わず耳から遠ざける。

 

「おいっ!

山下っ、大丈夫か?!」

 

返事は返ってこない。

 

「山下ッ!…山下ァー!!」

 

微かに

『山下3尉』『吹っ飛ばされた』

『流血』『意識が』

という近くの隊員の声らしきものが

聞こえたが、直ぐに電話は切れた。

 

 

「クソッ…」

 

「辛いだろうが最期に

話が出来てよかった、そう考える

べきだ。奴もそう思っただろうさ」

 

男泣きする俺に連隊長が声を掛ける。

 

「ヤツは…こんなんで死んでいい

ような男じゃないんです。

こんなところで、死ぬような…」

 

「人間ってのはよ、意外と

しぶてぇようで案外弱い。

…大砲にゃかなわねぇ。

 

オメェの同期、残念だったな…。

だがオメェは泣いていられねぇぜ、

敵は島を橋頭堡に本土に攻め込むかも

しれねぇんだわかってっか?

 

此処が頑張りどころでぇ!

…そうだろ?『おめぇら』も

コイツになんか言ってやれ!」

 

 

え、『おめぇら』って誰に言って…?

 

 

「提督、行くしか…ありません!」

 

「菊池3佐、涙を堪えよ。辛いだろうが

今は泣くよりもすべき事がある!」

 

「『貴様と俺とは 同期の桜

同じ教育隊の 庭に咲く

あれほど誓った その日も待たず

なぜに死んだか 散ったのか』

 

…島が占領されるのは時間の問題。

その大艦隊が動き出す前に行動を

開始せねば、山下3尉の遺志を無駄に

することになるぞ!」

 

「司令、今動かなくては…!

時機を逃せば我が方に

不利になってしまいます!!」

 

 

連隊長が電話を無線機に流して

いたようで、聞いていた艦娘や

他部隊の指揮官から激励の言葉を貰う。

 

(そうだよな、泣くのは終わって

からすればいい、よな…)

 

 

『揚陸作業、終了!!』

 

 

激励を貰い終わると同時に無線が入り、

ようやく作戦開始を迎えた。

 

 

「オレは父島に行っとく。

海の事は…頼んだぜ?」

 

「…任せてください。

マーカスを奪還し、必ず!」

 

「『失って気付く事もある』。

オメェの同期は本当に残念だ、

だがこれを絶対無駄にするな。

感情を無くせとは言わん、

だが今は切り離せ。

でないと…次はオメェの番だ」

 

俺を見据えて話す連隊長は

軍人の目をしていた。

彼の言う事はきっと正しい。

 

「……了解しました!」

 

「オレはもう降りる。

ホバークラフトも待たせてるしな、

どうやら下のやつが最後の便みてぇだ」

 

踵を返し舷梯へと向かう連隊長。

そんな彼の背中に敬礼をする。

 

「…よし、反攻作戦だ」

 

背後に感じる2人に言うかのように

呟けば、やはり返事が返ってくる。

 

「菊池、やるぞ」

 

「提督…艦隊、準備完了しています。」

 

村上と加賀の声を聞き、

振り返り再び言い放つ。

 

「…索敵機は?」

 

「もうすぐ敵予測地点に差し掛ります。」

 

「…艦隊の状況はどうか?」

 

「進撃する部隊は指示待ちだ。

あとは…お前待ちだ」

 

俺待ちか…。

何をするべきか悩んでいると…

 

『菊池3佐、部隊指揮官の1護群司令だ。

すまないが君から一言貰いたいのだが

引き受けてはくれないだろうか?』

 

タイミングを待っていたかのように

部隊指揮官から無線が入る。

 

成る程、

この場で言いたいことを

言って憂いを無くせということか。

 

 

「…わかりました。

私でよければお引き受けします」

 

 

俺は自分に言い聞かせるように

拙い言葉を発し始めた。

 




遂にマーカスが攻撃された。

現地隊員の生死は不明であるが、
恐らく生きて還っては来られない。

最期の電話の後
攻撃準備を始めた提督に
部隊指揮官から『言葉』を
艦隊全体に言うよう頼まれた。

親しかった同期を失い、
悲しむことも許されず
戦うことを強いられる。

マーカスは堕ち、付近には
敵の艦隊が遊弋しているようだ。
決死の反攻作戦が
もうすぐ始まろうとしていた…。


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2-2 攻撃隊、発艦! 【反攻作戦開始】

今回は反攻作戦の出撃のみです。
本格的な戦闘については次回から
沢山ありますのでお楽しみに!

部隊指揮官から一言頼まれた提督。
彼は何を想い、何を語るのか。
そして聴いた者は何をするのか。





俺は自分に言い聞かせるように

拙い言葉を発し始めた。

 

 

「それでは未熟者ながら

この3等海佐、菊池圭人、

上から物を言わせていただきます…」

 

 

前置きをして俺は目を閉じ

今までの出来事を思い出し語る。

 

 

「これまでの戦いで我が自衛隊は

創設初の戦死者を出してしまった…」

 

 

「奮戦虚しく、敵艦載機の攻撃により

艦隊は損害を受け

多くの隊員の命を失い、

民間人にも被害を出してしまった…」

 

 

秋月が静かに俯く。

 

 

「そして、たった今。

此処より遥か離れた孤島が襲撃され、

隊員がまた亡くなった。

いや、殺されたのだ、敵に…。

そして我らの未熟さとつまらない

『見栄』の所為もあるだろう…」

 

 

村上が悔しそうに唇を噛む。

 

 

「敵は深海棲艦だけではない。

政治(まつりごと)に殺されたのかもしれない」

 

 

総理大臣をじっと睨みつける

幹部自衛官たち。

 

その視線に脂汗を流す総理大臣。

 

自分にもその視線が向けられるのでは

無いかと冷や汗を流す防衛大臣。

 

 

「自分の手を見ろ。

その手は汚れているか?

奮戦して頑張り切った汚れか?

守るべきものを守り切れず、

仲間の血で汚れ切った血か?」

 

 

護衛艦の機関員が静かに

己の油に塗れた手を見る。

 

 

「我らは誇り高き自衛官である。

胸を張れなくとも胸を張れ、

最善を尽くせたのだから」

 

 

「血は…今も流れている」

 

 

手術台でメスを握る医官の

額から玉のような汗が落ちる。

 

護衛艦や輸送艦の医務室には

負傷した隊員が治療を受けている。

 

「次は私かもしれない。

いや、諸君の誰かかもしれない…」

 

 

「生命とは儚く、そして尊いものだ。

しかしそれを大切にし過ぎてはいけない。

何故か、それは自己を犠牲に

大切なものを守れないからだ。

 

『事に臨んでは危険を顧みず』

 

服務の宣誓で皆誓った筈だ」

 

 

「だが流血を厭わずに戦ってもなお、

守り切れないものもある」

 

 

ある海士は自らの、赤い糸で意匠された

『海士長』の階級章を見つめる。

 

帝国海軍から変わらないこの色は

『流血を厭わない』という意味が

あると聞いたのを思い出した。

 

 

「悔しいだろう…。

やり切れないだろう…。

泣き喚きたくなるだろう…。

だがそれでも、

手を汚して…足掻いてみせろ」

 

 

「遥か南の空で戦った者がいた…」

 

 

飛鷹の格納庫内のコックピット内で

静かに腕を組み出撃を待つ妖精。

 

 

「遥か南のフネの上で散華した

陸上と航空の者がいた…」

 

 

父島で陣地設営に勤しむ空自隊員。

 

ホバークラフトで島に向かいつつ

無線を聞き目を閉じる1等陸佐。

 

 

「そして此処より遥か遠くの孤島で

人知れず絶え果てた者がいた…」

 

 

俺は山下の顔を想い描いた。

 

 

「彼ら彼女らは

何を想い、何を成せたのか?

未練、後悔…。

きっとそれだけではない…。

挙げれば負の面が多いと思う」

 

 

「では我らはこれから何をすべきか?」

 

 

「仇討ちではない、

国民を守るために血を流すのだ!

死にに行くのではない、

大切なものを守るために行くのだ!

今動かなくては明日(きぼう)は無い!

明日(きぼう)が無ければ未来(あす)は無いッ!!」

 

 

「つまらない理屈はいらない、

ただ己の正しさを信じろ。

己の持つ全ての力を発揮し、

仲間を守り切るんだ。

己の力だけでは無理でも、

仲間の力を合わせれば勝てる」

 

 

「何を以って勝ちとするかは

各々違うだろうし敢えて揃えない。

…だが勝っても失ったモノは決して

帰って来ない、それだけは忘れるな」

 

 

「それでもなお、私と共に戦うと

いうのであれば付いて来てもらいたい。

諸君…それでもいいかッ?!」

 

 

「「……応ッ!!!」」

 

 

付近の妖精、そして周囲の艦艇から

逞しい雄叫び声が聞こえた。

 

 

「私も死にたくはない、

ましてや傷付きたくない。

だが、それ以上に

他人が、仲間が、大切な人が傷付き

死んでいくのは耐えられない。

 

だから戦う!

だから頑張る!

だから血を流す!

 

今必要なのはモノでもなく

カネでもなく、目に見えぬ諸君の

無垢な強い気持ちのみである!

 

自分では見ることが出来ぬ

その気持ちこそが我らにとって

最大の武器となるであろう…」

 

 

丁度言い終わったところで

索敵機から入電が舞い込んだ。

 

 

『敵機動部隊発見。

空母2軽空母4、護衛艦艇多数』

 

 

「…たった今敵機動部隊を

発見したとの入電が索敵機からあった。

知っての通り艦娘の装備は

旧式であるが、この通り有効だ。

現代の人工衛星や哨戒機ですら

見つけられなかったのに、こうして

強い想いが通じ発見に至ったと

私は考える、いや確信している。

 

精神論ではない、しかし強い想いが

なくては出来ることもできない。

それを踏まえて戦いに臨んで

もらえれば幸いである、以上ッ!」

 

 

※※※※

 

 

俺がそう言い放つと

それを待っていたかのように

艦隊全体が慌ただしく動き始める。

 

敵がいる地点へと攻撃を仕掛ける為に

艦娘空母群は発艦準備に取り掛かる。

 

既に格納庫でスタンバイしていた

艦載機は飛行甲板へと並べられる。

 

「暖機運転開始!」

 

増槽や爆弾、魚雷を懸架した各機は

定位置に着き次第エンジンを回す。

 

その間整備妖精が機体の最終チェック

を行い、搭乗員は敵艦隊の詳細について

飛行長妖精から説明を受ける。

 

 

……

 

 

同じような光景は硫黄島でも見られた。

哨戒機と戦闘機は対艦ミサイルを搭載し、

敵艦隊へ同時攻撃を仕掛ける空母側と

段取りの最後の調整を行う。

 

艦隊側の加賀が中心となり、判明した

敵の目標の振り分けを実施する。

 

「飛鷹は戦闘機隊を残して。

蒼龍、貴女は全艦載機発艦させなさい。

そして雲龍は…。」

 

「哨戒機部隊はこの敵空母アルファと

軽空母チャーリー、デルタを

叩いてください。

私たちは空母ブラボーと…。」

 

 

……

 

 

加賀を始めとした空母組が

陸上の航空部隊と調整をする中、

俺は他の艦娘に編成を示達していた。

 

「我が方の戦艦は2隻のみ。

金剛と霧島、お前たちが頼みだ。

伊勢は小破とはいえ無理はさせない、

父島に留まって防衛に徹してもらう」

 

「まっかせてクダサーイ!

ワタシの活躍、お見せしマース!」

 

「司令のご期待に応えてみせます!」

 

「悔しいけど提督が言うなら

私は引っ込むしかないわね…」

 

戦艦組の士気は十分。

頼もしい限り、自慢の戦艦艦娘だ。

 

 

……

 

 

「重巡組は索敵、対空そして

対水上と幅広く活躍してもらう。

戦艦の数が少ない現状では

ほぼメインを張ることになる!」

 

「ふふんっ、この足柄にかかれば

数だけ多い深海棲艦なんて…!」

 

「あ…悪いが足柄は留守番だ」

 

「ってなんでよ?!」

 

胸を張って宣言しようとした足柄の

言葉を否定し、案の定文句が出る。

 

「うん、色々考えたんだが

利根と筑摩は索敵に必要だし、

妙高も前回戦ってて慣れている。

愛宕はまだ未知数だからちょっと

後方を任せるわけにはいかない」

 

「あら、私…実は結構スゴいわよ?」

 

愛宕が意味深に反論する。

 

「まあ言われてみればそうだけど…」

 

足柄は俺の言いたいことを

汲んだのか矛を収めた。

 

「足柄の意気込みを買って

敢えて後方を任せるんだ、

その意図をわかってもらいたい」

 

「…わかったわ、

任せてちょうだい!」

 

 

……

 

 

「軽巡組は大淀以外に活躍してもらう。

大淀が活躍しないとかじゃなくて

全力航行が不可能だし、防空に関しても

後方を任せられるお前が欲しい。

 

他は前進部隊に入ってもらう。

鹿島は対潜警戒をメインに頼む、

他はドンパチしまくって敵を

撹乱してやっつけてくれ」

 

「っしゃあ!

オレの出番が遂に来たぜ!

天龍様の出陣だぜ!」

 

「待ちに待った夜戦もあるの?!」

 

「う〜ん…無いとは言い切れん、かな」

 

約2名無駄に気合が入っているが

気張り過ぎずうまくやってもらいたい。

 

 

……

 

 

「駆逐組は地味だけど

かなり重要な配置なんだ。

対潜や対空がメインだが

敵艦隊に肉薄したら雷撃も

してもらうし、全てにおいて

一番槍を務めるのはお前たちだ」

 

「「……」」

 

責務の重さを感じているのか

これまでの艦娘とは異なり静かだ。

 

「まず後方だが秋月、漣、

雷、夕立そして五月雨。

対空と対潜警戒がメインになるだろう。

秋月が対空戦で指揮が取れない場合

には…漣がこの駆逐隊の指揮を取れ。

 

前進部隊は照月、白雪、

村雨、朝潮、満潮、

黒潮、親潮、高波そして島風。

同じく照月が対空戦で

手が回らないようなら

指揮は…白雪、お前だ」

 

「「了解(しました)!」」

 

駆逐艦にだけ指揮権序列を伝えたのは

対空戦で防空駆逐艦が忙しい場合に

備えたのと、消耗した場合を考慮してだ。

 

軽巡以上の艦娘はそれなりに

序列だったり指揮権の

委譲をスムーズに行えるが、

駆逐艦はまだ精神が幼く

ある程度の指示を必要とする。

 

こうして指揮官さえ明らかに

しておけば、あとは艦娘に一任。

戦闘は任せられるということ。

 

「…どうして漣なんですか『提督』?」

 

「…私でいいのですか?

黒潮さんや朝潮さんの方が

適任ではないかと考えます」

 

漣と白雪が質問する。

ここで漣が『ご主人様』と呼ばないのは

場の空気を読んでのことだろう。

 

「漣は普段はっちゃけてはいるが、

全体を見てフォローができている。

司令艦に求められるのは戦闘力

や性能だけじゃない。いかに

効率良く指揮を取り、どれだけ

全体を見ることができるかだ。

 

そして白雪も同じ理由からだ。

部隊唯一の特Ⅰ型ではあるが、

何事も冷静に対応できる処理能力。

それだけなら朝潮や親潮も似てはいるが

融通も利くし柔軟な考え方が出来て

かつ優先順位の付け方も優れている」

 

日頃の彼女たちの勤務態度や行動を

思い出しつつ、考えを述べた。

 

「選ばれなかった艦娘が決して

優れていないとかいう訳じゃない。

島風には雷撃をメインにやってもらうし

朝潮と親潮も戦闘に特化した能力を

発揮できるように俺なりに考慮した

結果が漣たちになっただけだ」

 

「…でだ。

村雨は本当なら前進部隊ではなく

後方に残しておこうかと思っていた。

厳しい話、現状ではお前が艦娘の中で

今精神的に危ういと考えたからだ。

だが後方に下げたところで

良くなるわけでもないのは目に見えてる。

 

俺は近くにいた方がいいと判断した。

無理に戦闘へ参加はさせはしない。

作戦後を考えると敵に一矢報いたと

思えた方が多少気が楽になるんじゃ

ないかって思う。

あくまで俺の思い込みだし、

それを村雨に強いる俺は最低な指揮官

だとは自覚しているさ。

…でも村雨、お前を置いてはいけないよ」

 

「ありがと、まだ気持ちの整理は

ついてないけど私も提督の近くに

いられるなら大丈夫だと思うわ…」

 

他にもいくつか指示を出す。

特に文句が出ることもなく、

駆逐艦への説明も終わった。

 

 

……

 

 

「これは航空戦になるかそれとも

艦隊決戦となるか、どう流れるか…」

 

作戦をするにしても

弾薬や燃料は無限ではない。

補給艦やタンカーはいるものの、

前線部隊には随伴せず父島に残置し

戦闘艦のみで戦い抜かねばならない。

 

途中補給をしてマーカスに

向かう予定ではあるが、そこで

敵の大軍が待ち構えているならば

途中で砲弾を浪費できないし

ましてや航空爆弾・魚雷も同様だ。

 

せめて敵の空母を壊滅させることが

できれば戦艦や重巡による砲撃で

対水上戦を行えるのだが…。

 

「そこは始まらないとわからん。

まず東方の機動部隊を叩くにしても

西之島付近の敵が突撃してこないわけ

じゃないから、少なからず

警戒も行うべきではあると思う」

 

「空母で指揮を取るのが必ずしも

ベストじゃないのかもしれないな」

 

「…どうする、

今更だが旗艦を変えるべきか?」

 

村上が提案する。

 

「今だと艦隊が混乱を招く。

…だがそれも一つの手でもあるな。

ま、するにしてもまずは東方の

機動部隊を黙らせてからがよさそうだ」

 

俺はそう答えると

発艦準備をする飛行甲板を見ながら

誰が旗艦に相応しいか考え始めた。

 

 

※※※※

 

 

「提督、発艦準備宜しい!」

 

加賀が俺に申告する。

 

『加賀』、『蒼龍』、『雲龍』

『千代田』そして『飛鷹』の飛行甲板に

艦載機が並び、エンジン音が

轟々と辺りの海に鳴り響いている。

 

「よし!

攻撃隊発艦せよ、目標は敵機動部隊!

各艦毎に割り当てられた目標を仕留めろ、

硫黄島からも哨戒機や戦闘機が

同時攻撃を仕掛けるからそれの

邪魔にならないようにしろ。

早過ぎても遅過ぎてもダメだ、

難しいとは思うがタイミングを

合わせて敵が飽和攻撃に

対処できなくさせるんだ!」

 

『「了解(しました)ッ!!」』

 

目の前の加賀を始め

他の空母艦娘も強く了解を返す。

 

俺や空母艦娘が叫ぶ様に言葉を

発しているのは単純に

空母の艦橋がうるさいからだ。

 

目の前に爆音の音源が50以上あるのだ。

他の空母艦娘もそれは同じだ。

叫ばねば言いたいことも伝わらない。

 

「飛鷹戦闘機以外、

全機発艦はじめェッ!!」

 

俺の号令が言い終わる前に

空母艦娘から各艦の艦載機へ命令が下る。

俺(提督)から各艦娘(艦長)。

各艦長から飛行長、そして艦載機へと

ややディレイを挟みつつ伝えられる。

 

飛行長の指示で信号妖精が

全揚になっていた信号旗、

『プリップ(準備)』を降下させ、

それと入れ替わり『発艦はじめ』を

意味する旗が全揚となる。

 

 

「…手空き帽振れぇ!!」

 

艦橋に詰める要員、高角砲や

機銃座に付く妖精が作業帽や

ヘルメットを手に持ち振った。

 

機動部隊相手に空襲を掛けるのは初だ。

発艦する搭乗員たちも

心なしか顔が硬いように見える。

 

いつもなら自信満々で飛び立つ彼らも

今回はやや緊張が強いように思えた。

 

これはいかんと思い

俺は一芝居打つ事にした。

 

「あぁん…?!おいゴルァ!

なぁ〜に腐ったツラしてやがる!

ビビる余裕があんなら、

このまま艦隊の直衛もさせるぞ?!!」

 

 

見かねた俺は暴言を吐く。

 

 

『うへぇ…そりゃカンベンっす!』

 

『提督、流石に無理っしょ?!』

 

『うわっ、妖精殺し菊池だ…』

 

 

たまらず艦載機の妖精が

俺の『計算通り』文句を言った。

 

 

「誰が妖精殺しだバーロー!

せめて『女泣かせ菊池』とか

『セクハラ菊池』ってマシな渾名に…

ってセクハラは嫌だなオイ?!」

 

 

わざとらしいノリツッコミに

攻撃隊の緊張も少しだけ緩む。

 

その後に発艦する妖精を見れば

艦橋の俺を見据え、歯を出し笑っては

いたが目は獲物を狩らんとする獅子。

 

俺はヘタクソな敬礼をして

送り出すように『飛ばした』。

額から腕を下ろす際にチィースと

砕けた敬礼、厳しい人物なら咎める

であろうがこの場にはいない。

 

もちろんその敬礼には意味がある。

 

 

『しっかりやって還ってこいよ』

 

 

俺の想いが伝わったのか

飛び立つ妖精も同じように敬礼する。

 

 

『モチロンです、任せてくださいよ』

 

 

ニッコリ笑ったあの妖精は

無事還って来れるのだろうか…?

 

脳裏によぎった不安を振り払うように

思い切りヘルメットを振る。

 

「もし還って来んかったら

承知しねぇからな、てめぇら!」

 

『『了解ッ!!』』

 

海鷲たちの覇気の篭る

頼もしい声が艦隊を勇気付けた。

 

 




演説あっての戦争小説、
それも全戦全勝ではなく
泥臭くむせるような展開。

軽く読める艦これ小説では
無いのかもしれませんが悪しからず。

演説はマ○ラヴオルタネイティブという
R18のPCゲームから引用しました。
単純に使いたかっただけです、ハイ。

……

反攻作戦の開始なのです!
攻撃隊は硫黄島の航空部隊と共に
同時攻撃を仕掛け、敵機動部隊に襲いかかる。

これが成功すれば、
いや成功させなければ東と北から
敵の包囲攻撃を受け艦隊は負ける。

しばらくはセクハラも抜きです。
ガチな戦闘シーンが続きます、
それに伴い登場人物のトークも
堅いものになりますがお付き合いください。



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2-3 空襲成功と旗艦変更 【『加賀』→『??』】

今回はやや物語が
走り過ぎているかもしれません。

敵機動部隊に空襲を掛けます。
妖精と空自パイロットとの
やり取りもあったりします。




『敵艦隊まで215マイル!』

 

 

司令部の幕僚から

敵艦隊までの情報が入った。

 

ふむ、1マイル(海里)は

たしか1852mだから…

 

 

「…約400キロメートル。

偶然でしょうがこの距離、

あの『真珠湾攻撃』の時と同じです。」

 

「そっか…」

 

 

帝国海軍が米海軍太平洋艦隊へ

初撃を与えたあの大作戦。

 

「深海棲艦の艦載機も

同じ距離を飛んできた。

敵も再び来襲するかもしれん」

 

村上が考察する。

 

「来ようが来まいが

こちらの攻撃隊はもう飛んだんだ。

防御と攻撃は別に考えようぜ…」

 

俺の言いたいことをわかってくれたのか

村上と加賀は座っていた椅子に深く座り

話を聞く体勢を取った。

 

「まずこの攻撃隊に求められるのは

敵機動部隊の撃滅じゃない」

 

えっ、と意外そうな顔をする二人。

 

「第一目標は敵の航空戦力を

無力化することにある、戦果はオマケだ」

 

 

※※※※

 

東方海上

攻撃隊指揮官機

 

 

『…隊長、今の話マジですか?』

 

「出撃前に提督から言われたんだ、

マジの真面目なガチ話だ」

 

編隊無線で他の妖精と話しつつ

航空図に航行した経路を記入する。

 

コンパスの様な道具、

デバイダーで今までの飛行距離を測る。

 

「この攻撃が終わったら

次は西之島に行かにゃならん。

こんなとこで消耗したら

倒せる敵も倒せなくなっちまう」

 

現在約320キロメートル地点。

巡航速度で飛んで1時間と少し経過、

もうすぐ敵の防空圏内に侵入する。

 

「各機こちら隊長機、

敵まで残り80キロを切る。

見張りを厳となせ、

指示した飛行速度を厳守、

変更あるまで維持せよ!」

 

敵の戦闘機を警戒しつつ

攻撃隊はゆっくりと進む。

ゆっくりといっても新幹線や

F1に勝るスピードである、

あくまで最高速度に比べて

遅く感じるという意味だ。

 

そのまま飛行すると打ち合わせ通り

海自の哨戒機と空自の戦闘機と

合流し、最後の打ち合わせを行う。

 

『この後の流れをおさらいする。

空自501Sqの偵察機が

強行偵察を図る、その後同じく

空自302Sqと貴隊の戦闘機隊が

敵の迎撃隊を蹴散らし制空権を確保。

それから海自の哨戒機、空自戦闘機

による対艦ミサイル発射、貴隊の

爆雷撃による飽和攻撃…』

 

海自哨戒機に搭乗する指揮官が

戦闘の流れを示達する。

 

『もちろん全てが順調に

いくとも限らんだろう。

これはあくまで理想論に過ぎん…』

 

 

空自のジェット戦闘機が敵の戦闘機を

蹴散らせばいいじゃないかと思うかも

しれないが、現状では不可能であった。

 

護衛艦の殆どがこの作戦に参加して

いる為、本土防衛は空自の戦闘機が

担っている。

 

かつて『支援戦闘機』と呼称された

F-4EJ改、F-2戦闘機は日本近海に

出没する深海棲艦への対処を余儀なく

され、こうして一個飛行隊が参加

できただけでもマシなのである。

 

それも提督が空自の上層部に

直訴して融通してもらった事実は

村上3佐や攻撃隊指揮官の妖精といった

僅かな者しか知らない。

 

艦娘でさえ知らないのは、

提督が要らぬ気遣いをさせまいと

隠蔽したからに他ならない。

 

 

(今は作戦に集中せねば…)

 

指揮官妖精は提督に感謝しつつ、

考えを目の前のことに切り替えた。

 

「しかし偵察機は大丈夫だろうか?」

 

『おいおい妖精サンよ、

ファントムIIを舐めないでくれよ…?』

 

空自の偵察機を駆るパイロットであろう、

突如通信に割り込む若い声は主張する。

 

『コイツはもうジーサンだし

性能もF-2に比べりゃ低いのは否めない。

…だが見りゃわかる通り

【海洋迷彩】に塗装替えをしてるし

敵からも視認し辛いはずだ。

まさに【幻影】、老いぼれの

ジーサンの最後の見せ場だぜ!

 

それに俺は腕に自信がある、

逃げるのは戦闘機部隊にいた頃から

慣れてんだ、対空砲を避けるのは

ドッグファイトに比べりゃ

飛行訓練みたいなもんだっての』

 

「アンタ…」

 

『装甲だって零戦に比べりゃ

ダンチで厚いし心配すんな。

俺はむしろ【紙装甲】で

突っ込む妖精サンが心配だ、

そんなわけでちょっくら

偵察に行ってくるぜ〜!』

 

 

編隊から1機の偵察機が抜き出る。

アフターバーナーを吹かし、

加速して音速を軽く突破した偵察機は

そのまま敵機動部隊上空を乱舞する。

 

米粒の様な攻撃隊から音速で

近付いてきた偵察機に敵は動揺した。

 

迎撃機は、自分たちを追い抜いたソレを

反転して追い縋るが速度が違い過ぎる。

 

空母や護衛艦艇からは

対空砲火が応戦するがそれらを

嘲笑うかの様に偵察機は飛ぶ。

 

パイロットが操縦する間に

偵察員が撮影を行い、深海棲艦の

装備や性能を見逃さまいと記録する。

 

味方の対空砲火を躱しつつ

迎撃機は偵察機へと肉薄する。

 

「そんな豆鉄砲で落とされるかよッ!」

 

機体を捻り敵機の銃撃を

ローリングで避ける偵察機。

 

攻撃隊へと向かう筈の迎撃機は

たった1機の偵察機に翻弄される。

 

10分程の偵察と威嚇飛行は

敵の迎撃態勢をかなり乱した。

 

「あばよ深海ナントカども!」

 

敵が聞いているか知らないが

捨て台詞を吐き、翼を翻す。

 

ここまで馬鹿にされて

みすみす帰すわけにはいかぬと

敵迎撃機は更に追い縋る。

 

その光景は例えるなら…

 

 

※※※※

 

「蚊に翻弄される烏合の衆だな…」

 

制空隊の指揮官はポツリと呟いた。

 

それと同時に空自の戦闘機から

対空ミサイルが発射され、

後ろがガラ空きな敵迎撃機は

いとも容易く撃墜される。

 

5、60機いた敵機は

初撃で10機は飛び散った。

 

攻撃隊の存在を思い出したかのように

追跡を中止し、反転しようとする。

 

「へっ、遅ぇってんだ!」

 

その時既に零戦が背後を取っていた。

7.7mm機銃弾は敵の『F4F』戦闘機の

コックピットに殺到する。

 

いかに深海棲艦といえども

パイロットを殺せば唯の案山子。

迎撃機はあっという間に蹴散らされ、

敵機動部隊の上空は『掃除』された。

 

「おっしぁ、全機突撃せよ!」

 

攻撃隊指揮官はすかさず

『ト連送』を打電した。

 

何故なら編隊無線は届く距離も限られ

艦隊に届かないから使用しない。

 

また、戦闘中に言葉を発しても

味方が聞き取れない場合もあるため、

単純なモールス信号により

攻撃隊各機へと命令が確達できる

という利点もあるからだ。

 

ローテクというのは

信頼性が高いのが強みだ。

 

艦爆隊と艦攻隊は上と下から

同時に攻撃を仕掛ける。

 

哨戒機と空自戦闘機から

対艦ミサイルが発射され、

輪形陣の外側の軽巡や駆逐艦は

対空砲弾に誘爆したのか大爆発を

起こして沈黙するものが少なくない。

 

破った敵の輪形陣の穴から

艦攻隊が敵空母へと殺到する。

 

「狙うは敵空母群!

撃沈できなくても構わん、

奴らが発艦出来なくすればいいッ!」

 

対空砲火が炸裂する中

艦爆と艦攻は肉薄を行う。

 

 

※※※※

 

『加賀』艦橋

 

 

『攻撃隊の空襲および

哨戒機、空自戦闘機による

ミサイル攻撃開始!』

 

 

攻撃隊指揮官機のト連送は

艦隊各艦や本土の海幕でも受信された。

 

攻撃の様子は

画像情報収集機『OP-3C』や

電子戦機『EP-3』によって

実況報告が行われ、

その通信を俺たちは

固唾を飲んで聞いていた。

 

 

「できることなら全艦沈めたいが

タマが足りなくなったら進撃できん。

味気ないが敵空母群を無力化

したら次の作戦に移行するぞ」

 

「…やはり旗艦を変えるか?」

 

「それがよさそうだしなぁ…」

 

加賀には悪いが攻撃隊が

帰還したら司令艦を変えさせてもらおう。

 

案の定加賀は不満そうな顔をする。

 

「私では力不足なのですか?」

 

「そう悲しそうな顔をしないでくれよ、

加賀の能力は空母艦娘の中でも

トップだと思うけどこの後の戦闘を

考えると、ちとやり辛いのは

否めない。厳しいことだけどな…」

 

下手に誤魔化してもしょうがない。

加賀に隠し事をする方が余計に

彼女を傷付けてしまうだろう、

事実を述べたほうが彼女の為だ。

 

「はい……。」

 

「この次は西之島に進撃する。

ここから西に180キロ、敵兵力は

不明だが最後に入ってきた情報では

軽巡や駆逐艦、潜水艦もいるようだ」

 

艦橋に貼られた海図を示し

ざっくりとした説明を行う。

 

「攻撃隊が帰ってきても

整備や補給で時間がかかってしまい

即攻撃というわけにはいかんだろ?」

 

「…仰る通りです。」

 

「だが敵をトントン拍子で

攻撃しないと本土が危うい。

というわけだ、つまり水上艦による

砲雷撃を仕掛けてドンパチするのが

第二作戦の概要ってこっちゃ」

 

「…お前『ドンパチ』って言葉

好きだよな、マイブームなのか?」

 

ずっと黙っていた村上が呟く。

 

「どうだっていいだろ、

言語学者じゃあるまいし…」

 

別にいいじゃないか、

だって使いやすいしわかりやすいし。

 

「『誰』に旗艦を任せますか?」

 

「もう決めたんだろう?」

 

当然決めてある。

 

普通に変更するのもアリだが、

変更したらしたで関係部隊に電報で

知らせなければならない。

ならいっそ無線で高らかに宣言

してしまおう。

そう考え、ヘッドセットに向けて話す。

 

「全般宛、こちらCED101。

本職は次の艦艇に乗艦する、

乗艦する艦名は………」

 

 

※※※※

 

??艦 『??』

 

 

「テートクゥ!!

ようこそ高速戦艦『金剛』へ!!」

 

「ういっす、よろしく頼むぜ」

 

 

いつもならタックルで抱き付いてくる

金剛も、さすがに時間と場所は弁える。

 

ハイテンションで出迎えるが

その後は真面目な顔付きである。

 

 

攻撃隊帰還後、俺は『金剛』に移った。

『加賀』に村上を残した、

航空戦の指揮代理も任せた。

もしも俺に何かあったら

奴が提督代理を務めることになっている。

 

(『金剛』や『加賀』を沈める真似は

絶対にさせないが、万が一があるしな)

 

歓迎の挨拶が済んだところで

金剛は思っていたことを尋ねる。

 

「…ところデ、

どうしてワタシなのデスカ?」

 

「それはだな…」

 

 

今後は対水上戦が主になること。

艦載機はあくまで露払い程度の

戦闘のみに徹し、弾薬の兼ね合いで

砲雷撃戦をするにあたり戦艦を

旗艦にした方がいいことを伝えた。

 

 

「霧島じゃなくてワタシなのは

何かトクベツな理由デスカ?」

 

「別に深い理由じゃないさ。

単純に金剛で指揮が取ってみたくなった。

要は閃き、インスピレーションってやつ」

 

確かに霧島の方が金剛よりも

付き合いは10日ほど長いし

業務でも世話になることが多い。

だが、だからこそ金剛との

コミュニケーションも計らねばと

思い至っただけの話だ。

 

「そうデスカ…」

 

やや満足そうに納得する金剛。

てっきり喜びのあまり抱き付いて

くるかと身構えていたが、

その心配は無用だったようだ。

 

「まずこの後の作戦の概要だけど、

前進部隊に空母群で飛鷹と

千代田を随伴させる、他の空母は

後方部隊に一旦残置させる」

 

「正規空母は連れて行かないのデスカ?」

 

疑問に思ったことを口にする金剛。

 

「ちゃんと理由があるんだ、

まず西方の敵戦力に

空母は確認されていない。

だがもし一隻でも敵に空母がいたら

水上観測機は堕とされるだろうし

制空権は確保できない…」

 

空母艦娘の艦載機は帰還してから

整備補給を行なっている。

 

奇跡的に撃墜された機体は無かったが

被弾を受けた機体は少なくなかった。

空自の偵察機が敵の迎撃態勢を

掻き乱してもやはり侮れない。

 

そして空母艦娘から機体状況の

報告があり、その整備状況と空母の

弾薬消費や燃費の対費用効果を考慮して『軽空母』の2人を選んだわけだ。

 

「そして艦載機で全部叩こうとしたら

マーカス奪還までに航空爆弾が

無くなってしまうから、ワタシや

霧島の艦砲で倒すというわけデスネ!」

 

「ご名答、

賢い金剛には叶わないよ。

お前を旗艦に選んでよかった」

 

控えめに金剛の頭を撫でる。

サラサラな髪が心地よい。

 

「ワタシだって金剛型の

イッチバンカ〜ン!霧島には

負けマスガ伊達にお姉ちゃんは

していまセ〜ン!!」

 

ドヤ顔で強く鼻息を吐く金剛、

なんだか『白露』みたいなセリフを

言っているが一番艦の艦娘は

みんなそんな感じなのか…?

 

(いや、朝潮や川内は違うし

金剛だけなのかもしれんな)

 

ふと浮かんだ雑念を振り払い

出すべき命令を考える。

 

とはいえ出す命令は、

『いついつ』に進撃せよという

単純明快なシンプルなものだ。

まあそのタイミングこそ

何より難しいのだが…。

 

 

…………

 

「飛鷹と千代田は整備終わったか?」

 

「軽空母飛鷹、準備万端よ!」

 

「航空母艦千代田、艦載機の

整備も完了してるわッ!」

 

「…よし、流石だな。

艦載機を収容して忙しいのに

更に急がせてすまんな」

 

 

まだ攻撃隊を収容してからそんなに

時間も経っていないにもかかわらず

2人は整備を終わらせていた。

 

『金剛』に移る前『加賀』で

見た光景が思い出される。

 

軽空母が艦載機の数が少ないと

言っても、キツイのは変わらない。

発艦は無いとはいえ、

戦争に【絶対】という言葉は無い。

最悪の事態を想定しておかねば

艦娘の誰かが沈むかもしれない。

 

 

「戦闘機隊は出撃してないとはいえ

整備もラクじゃないわねぇ…」

 

「飛鷹もそう思う?!

私も参っちゃうわ!直接整備を

する訳じゃないけど緊張するし

肩も凝っちゃうしぃ〜…」

 

そりゃ2人揃って

そんな『胸部装甲』付けてたら

肩も凝りますわな…。

 

「横須賀に帰ったらディナーに

連れてってやるから任せとけ」

 

「「やったぁ!!」」

 

2人の声がハモったところで

通信回線を切り替え飛鷹にだけ

無線を繋げた。

 

 

「…実は『いずも』の医務長から

連絡があって『一番機』の容態が

落ち着いて小康状態になったそうだ」

 

「それホントっ?!

嬉しい!あの子は強いもの、

やっぱり大丈夫なのね!」

 

 

これはウソではなく本当だ。

時たまチェックする業務メールに

一番機の看護を担当する衛生幹部から

メッセージが入っていたのだ。

 

 

(失われる命と助かった命…、か)

 

 

そう感傷的になったところで

亡くなった隊員が生き返るはずもない。

 

そう気持ちを入れ替えると

喜ぶ飛鷹に更に指示を飛ばす。

 

「だから言っただろ、信じてやれってさ」

 

「うん、私が動揺しちゃダメね」

 

だが本当に良かった、

それは心の底から感じた。

 

 

……

 

 

「よし、総員に達する。

先の敵機動部隊への空襲における

戦果、及び次の作戦についてだ…」

 

「……」

 

横に座る金剛の顔が僅かに強張る。

この艦隊の艦娘は皆同じ気持ちだろう。

 

「敵大型空母2隻、軽空母4隻の内

大型空母1中破、1隻小破だが傾斜が

著しく発艦不可能!

敵軽空母1隻撃沈、

1隻撃破、2隻大破!

 

艦載機の被害については

被撃墜はあったが妖精は

不時着水し、全員無事だ。

近くの味方潜水艦に収容されて

明日以降合流し戻ってくる予定だ。

 

帰還した内1割の機体には何らかの

損傷や被弾があったが飛行不可能と

判断された機体も少なく、

次回発艦についても全力発揮は

ほぼ可能と思われる!

 

結論は言うまでもなく

敵東方機動部隊は発艦不可能、

次は西方へと進撃する!」

 

『『やったー!!』』

 

 

可愛らしい艦娘の声がスピーカーから

『金剛』の艦橋内に木霊する。

 

金剛以外の艦娘を直接

見ることはできないが、恐らく

ガッツポーズをしていることだろう。

 

 

「続いて次の作戦の詳細だ。

航空機による攻撃はしないが

戦闘機による制空権確保、

その後観測機を使った遠距離砲撃で

敵水上艦を攻撃し、規定の弾数を

撃ったら警戒しつつ突入。

残敵の掃討を計る!」

 

『あのさ提督…』

 

「どうした阿武隈?」

 

『なんだか…シンプル過ぎると

思うんですけど?』

 

ふむ、それはごもっともだが

複雑過ぎる命令よりかはマシだ。

 

「まあいいじゃないか、

戦艦はああして軽巡はこうしてみたいに

細かすぎたら困るだろ?」

 

『う〜ん確かにそうかも…』

 

「『提督』は戦闘の作戦、

戦いを作るのが仕事だから

細かいことまでは縛らないのさ」

 

(うー、言われてみればそうかも…)

 

「じゃあアブゥには単艦で

先陣を切って吶喊してもらおう!」

 

『それ全くOKじゃないですよね?!』

 

「ん〜俺的にはOKなんだけど?」

 

『何処がですか、ど・こ・がっ!!』

 

「ははっ、冗談だって。」

 

『むー!』

 

『プッ、阿武隈さんおもしろすぎ!!』

 

『ほれ阿武隈よ、提督の命令には

絶対服従せねばならんぞぉ?』

 

 

照月と利根が阿武隈を弄る。

 

 

このやりとりのおかげか

作戦開始から張り詰めていた空気が

ほぐれ、普段の艦隊らしくなった。

 

 

悲しいことがあろうとも

それを乗り越え戦わねば

更に悲しみを背負うだけだ。

 

 

それを艦娘たちも悟っているのだろう。

ややわざとらしさが感じられるやりとり

ではあったがこれも戦いの内か。

 

 

少しでもより良い結果を

手繰り寄せるため、俺は

最善の方法で戦えるようにしよう。




空襲は意外にもあっさり目です。
ジェット偵察機のおかげで
攻撃隊の被害も抑えられ、妖精も
戦死することなく戦果を叩き出せました。

次回は銃後…留守を預かる艦娘や
なんか影が薄い警務隊長が出演。
前線が悪戦苦闘していた時、
本土では何が起こっていたのか?

様々な視点から日本を取り巻く情勢、
艦娘が感じた物事をさらっと書きます!


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2-Ex1 提督不在の鎮守府 【警務隊長サイド】

前回の後書きで言った通り
今回は本土の警務隊長視点です。
戦闘に直接関係はないので、
飛ばしていただいても大丈夫です。

……

提督や艦娘が遥か南方で戦っている間、
本土に残った艦娘と警務隊長たちも
色々と戦っていたのだ。

チョイ役な警務隊長にスポットを当てて
留守組を覗いてみるとしよう。



「———神通ちゃん、

この書類は却下だ。

警備計画がダメだよ、これじゃ

戦力が少な過ぎると思うよ」

 

「それと日向ちゃん、

この『航空戦艦改造案』なんて

提案書、いつ紛れ込ませたんだ。

君を改造する予定はないよ、

菊池3佐だって戦艦のままで頼むと

言っていたじゃなかったかね?

それと…『ズイウン』ってなんだい?」

 

「それと鳳翔ちゃん、

『鎮守府』についてだが

目処が着きそうだ。引き上げた

米軍の横須賀基地の土地を…」

 

 

……

 

 

「すみません、警務隊長さん。

こんな事までお願いしてしまって…」

 

「私は全然構わんよ。

デスクワークは慣れているからな」

 

鳳翔ちゃんが麦茶を淹れてくれる。

私が業務代行をしていることに対して

申し訳なさそうに言うがこれしきのこと。

 

 

———菊池3佐が出撃してからというもの、

第101護衛隊に臨時勤務扱いの私は艦隊内の

最先任者であるため、限定的に職権を超え、

かつ、艦娘の面倒を見ることとなった。

 

こうして書類のチェック、

ドロップした『鳳翔ちゃん』や

『那珂ちゃん』の戸籍の作成、

このプレハブ鎮守府の運営を

代行しながら過ごす毎日も

なかなかどうして面白い。

 

 

「あ、あの…警務隊長さんは

原隊に帰らなくて大丈夫なのですか?」

 

「いい質問だね電ちゃん。

答えはイエスだ、私の部下は優秀

だから業務は任せてある。

そしてこの部隊にずっといるのは

君たちを守るためなんだよ」

 

「…クソ提督のセクハラから?」

 

こらこら曙ちゃん、

そこは庇ってあげようよ。

 

「正解、と言いたいところだが

残念ながら違う。敵は深海棲艦と

人間だ、国内と国外のね」

 

「他国のスパイや、テレビで

放送している『防衛省内』や『総理大臣』

…その辺りでしょうか?」

 

「鋭いね鳥海ちゃん。

詳しくは言えないが海幕長から

直々に依頼を受けていてね、

こうして艦娘である君たちに

囲まれながら働いているのだよ」

 

 

やはり鳥海ちゃんは賢いね。

眼鏡を掛けた人間は頭が

冴えているのかもしれない。

 

ただしそれは偏見であって、

実際には掛けていない人間の方が

裸眼で“物事を見ようと”努力するため

推察力が優れているという研究結果も…。

 

おっと話が逸れてしまった。

 

 

……

 

 

『小笠原空襲』の後、

マスメディアは此処ぞとばかりに

与党政権と防衛省・自衛隊を叩いた。

 

【戦死者を出した責任は何処か?】

 

様々な主張や表現があったが

言いたいことはこれに集約される。

 

 

「司令官は大丈夫でしょうか…」

 

「心配いらないよ、春雨ちゃん。

少なからず落ち込むだろうが

彼とて指揮官、目的の為に為すべき

ことは心得ているだろう」

 

「ふむ、敵の狙いが読めてきた。

南鳥島を占領するのはオマケで

我が国を疲弊させる、延いては太平洋の

制海権を握ろうとしているのだろう」

 

「的を射た、と言いたいがそれは

大まか過ぎるね日向ちゃん」

 

「むぅ…」

 

「日向が子供扱いされている…。

さすがだね、警務隊長。」

 

響ちゃんも私からしたら

ただの大人びた子供なのだがね。

 

 

※※※※

 

 

「警務隊長さん、横須賀警務隊から

お客さんがいらしていますよ」

 

「ああ、ありがとう鳳翔ちゃん」

 

「鳳翔さんまで『ちゃん付け』なんて

やっぱり警務隊長さん凄いねー!」

 

いやいや那珂ちゃんは誰に対しても

そのハイテンションを崩さないし、

私は君の方が凄いと思うよ。

 

そういえば『ハイテンション』で

思い出した、どこかのアイドル

グループが歌っていたのだが、

約一年半ぶりにセンターポジションを

務めたアイドルはその後卒業し…。

 

「早く会ってあげてはどうですか?」

 

む、また考え事をしてしまったか。

 

 

……

 

 

「隊長、満更でもなさそうですね」

 

「少なくとも退屈はしてないよ。

ちなみに『満更』の語源は不明で、

使い方も否定的な意味合いを

やわらげたりむしろ逆に

肯定したりする気持ちを…」

 

「それより新しい情報を持ってきました」

 

むぅ…。

人の話の腰を折るのはいただけないな。

 

「———聞こう」

 

私は今まで醸していた

飄々とした雰囲気から

冷徹なそれへと意識を変える。

 

「そのムードの切り替えも

相変わらずなようですね」

 

「“貴様”の御託はいい、本題に入れ」

 

「承知しました、よ…っと」

 

 

部下は私の発する雰囲気が

『仕事』モードに変わったことを

確認してからアタッシュケースから

幾つかの書類を出した。

 

 

「まず国内の報告です。

更迭された例の『クソ幕僚』ですが

動きは無く、脅威度は無し。

次に総理大臣についてですが、

何やら企んでいる様子です。

背後に外国の諜報機関は確認されて

いないのでしばらくは様子見です。

自衛隊内についても…」

 

部下に調べさせているのは

この部隊(第101護衛隊)の安全を脅かす存在だ。

 

日本の未来の為にこの部隊は

必要不可欠、それに害を為すなら

こちらから先手を打つのみ。

 

「次に国外についてです。

ロシアは相変わらず様子見です、

北方領土や沿岸部へ兵力増強を

指示していますが、内心では

日本の戦果を期待しているようです。

 

中国首脳部は焦っているようです。

国営通信は相変わらずあーだこーだと

日本の軍備が…と喚いていますが、

実際には海軍の被害や経済損失に

頭を抱えています。人民が反乱を

起こさないか心配なようです。

今後は海軍と空軍力の増強に

努めて、沿岸部だけでも守りたい

と考えています」

 

ここまでは今までと変わりはない。

 

「『新しい』アメリカ大統領はどうか?」

 

問題は、『まだ』同盟である米国だ。

 

「あまり良い報告ではありません。

パナマ運河襲撃後の選挙で選ばれた

大統領はご存知の通り、

【アメリカの安全が第一】(アメリカン・セーフティ・ファースト)ですから

どんどん引きこもり政策を

推し進めています」

 

 

この出撃前にも、米第7艦隊は

大統領によってハワイや西海岸の

基地へと移動していた。

 

国防総省からも反発があったのだが

国民はこの大統領を支持した。

 

戦死者の遺族やマスコミは

こぞってこの英断を絶賛。

 

 

世界中の新聞は一面で

 

【新モンロー主義の台頭】

 

【NATO加盟国は切り捨てか?】

 

【深海棲艦が選挙に介入…?

ヤツらは人類に化けている!】

 

…と連日取上げた。

最後のはゴシップ記事だが

それほど騒がれたということだ。

 

 

「米国内も深海棲艦の所為で

経済や治安も悪化している。

国民には彼が救世主に思えたの

かもしれない、短絡的にそう決めつけ

精神的な安定を求めたのだろう」

 

「駐在武官や第七艦隊は

海幕や自艦隊へ非公式に使者を出して

『国防総省の本意ではない』との

メッセージを伝えてきています」

 

「軍人は理想主義である、

しかし同時に現実主義でもある。

とはいえ米国の援軍も期待出来ない

となると、海上自衛隊が前面に出て

敵の討伐とまではいかなくとも、

露払いをせねばならんな…」

 

「そこですね…」

 

 

2人して溜息をついた。

ここから先は政治の出番、

自衛隊がやる気充分でもそれを

指揮・監督する存在がアレでは

先が思いやられるというもの。

 

いっそ総理や防衛大臣の

裏事情を調べ上げて失脚を…。

 

「隊長…悪い顔してますよ」

 

「おっと、いかんな…。

思考が危険な方向に逸れてしまった。

そういえばこの危機を

国民はどう思っているのだろう?」

 

「絶対良からぬことを考えていましたね。

…我々は内調(内閣情報調査室)では

無いので流石に国民感情までは

対象外ですから精度は落ちます。

それとこの資料の出処は私の…」

 

「それは言わなくていい。

いつもの事だ、貴様が危ない橋を

渡っているのはわかっている」

 

この部下には毎回無茶をさせて

しまっている、他省庁のツテから

手に入れたのだろう。

私も若い頃よくやった手だ。

バレたら懲戒では済まない。

良くても免職、渡した相手も同様。

 

「第101護衛隊…艦娘については

『艦隊これくしょん-艦これ-』の影響もあり、

概ね国民にも受け入れられています。

帝国海軍の軍艦、戦艦や空母が

自衛隊に組み込まれたことについても

一部の市民団体を除けば拍手で

迎えられています」

 

ほう、ゲーム様サマだな。

 

「菊池3佐については…

うーん何と言えばよいのか」

 

「どうした、言ってみろ」

 

彼はテレビにも取上げられている。

艦娘の指揮官という小さなニュース

であるが、認知度はある。

まさか政治家に噛み付いた事が

裏目に出てしまったか…?

 

「…取り敢えずこの資料をご覧ください」

 

ちょこんという擬音がぴったりな

控えめな動作で部下が手渡す。

 

「どれどれ…」

 

う〜ん細かい字だな、

思えば私も歳を取ったものだ。

 

そういえば『老眼』というのは

40代頃からといわれているが、

その原因は意外にも…

 

 

……

 

 

「…………は?」

 

「まぁ、そうなりますよね〜…」

 

私は人生で初めて、言葉を失う

という単語を身を以て体験した。

 

 

【菊池提督カッコ良過ぎィ!】

 

【艦これマジ?ハーレムとか裏山】

 

【議員や大臣に食って掛かる!

自衛隊が誇る弱冠23歳のイケメン提督!】

 

【菊池ってあのセクハラ野郎だろ、

ったく、もげりゃあいいのに…】

 

【↑提督を付けろよデコスケ野郎。

お前みたいな奴とは違うんだよ色々と】

 

【加賀さん俺だァー!

俺を見下してくれー!!】

 

【まず俺の彼を初めて

見た感想を聞いてほしい。

『……ウホッ!』】

 

【↑菊池さん『アッー!』】

 

 

「な、なんだこれは…」

 

「ネット上の菊池3佐の

評判を抜粋してみました。

そして次の欄は女性のコメントです」

 

 

【この菊池って人カッコいい!

なんだかプレイボーイっぽいけど、

この人なら一晩だけの付き合いも(アリ)!】

 

【でもさぁこの人、ネットの噂だと

部下の『艦娘』って子たちに

セクハラしてるみたいよ?】

 

【ニュースで政治家に文句言ってる

シーンが結構あったでしょ?

私、あのシーン繰り返し見ながら

お茶飲んでるよ!ちな38歳喪女】

 

【この人だけ頑張っててさ、

国会とかテキトーに騒いでるだけじゃん?

もうね、アホかと。馬鹿かと。

国会議員は全員辞めてしまえ!】

 

【きっと艦娘の子達たちは

この人によって食い尽くされている!

私が基地に行って早く助けださないと…!

(私も食べてくれないかなぁ…)】

 

 

「流石にたまげてしまうな…」

 

菊池3佐が国民から少なからず

慕われているとは聞いていたが、

まさかここまでとは…。

 

「情報源が匿名掲示板なので

断片的かつ偏ってしまいますが、

かなり人気なようですね。

7割の男性から慕われ、残り3割は

『もげろ』とか『代われ』といった

ある種の妬みを持たれています」

 

「未来の総理大臣とか防衛大臣に!

といったコメントも見受けられるな」

 

 

心配して損した気分だ。

菊池3佐については心配無さそうだが

一部の男性からは狙われているようだ。

これについては彼に伏せておこう…。

 

有名税とは思いの外高いのだよ。

 

 

※※※※

 

 

「警務隊長さ〜ん!

どんなお話してたの?!

もしかして私のアイドルデビューの

話を持ってきてくれたとか…?!」

 

「ダメよ那珂ちゃん、

警務隊長さんにだって話せない

大切な業務が沢山あるのよ?」

 

「いやいや、大したことではないよ。

ただ一言で言えば、菊池3佐が

“特殊な男性”に好かれている…それだけだ」

 

「へぇ〜提督も人気なんだね〜!」

 

「ふぇっ?!そ、それは大変ですッ!

早く手を打たないと提督が、

私たちの提督が汚されてしまいます!」

 

よくわかっていない那珂ちゃんと、

状況を理解した神通ちゃんの対照的な

態度に思わず笑いを堪え切れない。

 

「ハッハッハ、冗談だよ。

いやぁ君たちはいつ見ても飽きないね」

↑上半分くらいは冗談ではありません

 

「「笑い事じゃありませんッ!!」」

 

「え、なんでみんな怒ってるの?」

 

「…どういうことなのです?」

 

「電は知らないほうがいいよ。」

 

おや、響ちゃんも隅に置けないな。

那珂ちゃんと電ちゃんに優しく

ダメと伝えるところがまたニクい。

 

なお、話を理解できたのは

鳥海ちゃん、神通ちゃん、春雨ちゃん

そして響ちゃんのみ。

 

逆にわかっていないのは

日向ちゃん、鳳翔ちゃん、那珂ちゃん、

曙ちゃん、そして電ちゃんだ。

 

春雨ちゃんと響ちゃんは“おませ”なのか、

大人の趣味は君たちにはまだ早過ぎるよ。

まあ、遅くてもいいことはないな。

最後には“腐って”しまうよ?

 

 

(しかしながら…)

 

 

菊池3佐の知名度と人気度は

私の予想を遥かに上回っている。

ここまで高いとなると恐らく、

敵対勢力も無闇に手は出せんだろう。

 

それと同時に政治の道具に

されてしまう恐れも出てきた。

今後どう転ぶかは、君次第だ。

南の海で今も戦っているのだろう。

 

 

(帰ってきてからが、地獄だぞ…)

 

 

※※※※

 

 

さて、戦局は芳しくないようだ。

 

菊池3佐の同期の隊員が亡くなったらしい。

その後彼は演説を行なって部隊を激励し、

決死の反攻作戦を行うようだ。

 

警務隊の部下からメールにて

報告があったが、私からその事実を

伝えたところで良い影響がある訳もない。

業務に悪い影響が出るのであれば

敢えて教える必要もなかろう。

 

長いこと『公安畑』にいた私は

そんな計算ずくめになっている。

別に矯正するつもりもないのだが。

 

プレハブ鎮守府には作戦の状況は

伝わってきてはいないようだが、

艦娘たちはそれとなく、悪い事が

起きたようだと察しているようだ。

 

 

「この電卓っていう道具便利だよねー!

コレ考えた人、儲かってるよね絶対!」

 

ここでの通常業務と化した

重油の原価計算をしながら

那珂ちゃんが感心そうに話す。

 

「確かにボロ儲けだろうね。

ちなみに電卓とは電子式卓上計算機の

略であり1979年にJIS B0117で電卓

という呼称が標準化され…」

 

「あ、難しいのはいらないよー!

私横文字よくわかんないしぃー!」

 

むぅ…那珂ちゃんにまで

煙たがられてしまったではないか。

 

「警務隊長さん、『小町製作所』と

『広島化薬』、『ダイキチ工業』から

艦娘用の砲弾の製造状況が届いています」

 

菊池3佐の代行として、

装備を始めとした部隊運営に必要な

モノやカネの確認や認可、決裁を

私が全て行なっている。

 

『菊池』と彫られた印鑑を

書類を精査してからカシャカシャと

押す仕事は、以外と大変だ。

 

「『印鑑ホルダー』が無かったら

億劫になりそうだよ全く…」

 

ホルダーを書類へと押し付け

軽く力を入れるだけで押捺され、

印鑑は内部へと引っ込み自動的に

インクが付けられ、スタンバイする。

 

「無駄に印鑑を使う自衛官の味方だよ」

 

「別に自衛官だけでは無いと思うけど。」

 

人の揚げ足を取るとは、なかなか

やるじゃないか響ちゃん。

 

 

……

 

 

「…艦隊は西之島周辺の敵艦隊に

攻撃を仕掛けるみたいですっ!」

 

「鳥海さん、それ最新の情報?!」

 

曙ちゃんが鳥海ちゃんに尋ねる、

他の艦娘もその言葉に手が止まる。

 

 

白い幹部夏服が眩しい鳥海ちゃんだ。

顔に浮かぶ汗を気にすることなく

室内に大声で状況を報せ続ける。

 

 

「業務で総監部に行っていたのですが、

最新の情報です、間違いありません!」

 

「では東方にいた機動部隊は

既に『無力化した』、ということですね」

 

「鳳翔さん、どうして無力化なのです?

撃破とか攻撃みたいに敵を倒した、

という可能性もあると思います」

 

こらこら電ちゃん、

君のような子がそんな物騒な

単語を使っちゃダメだよ。

だが確かに私も気になる…。

 

「如何に深海棲艦が脅威とはいえ

私たち艦娘の弾薬の備蓄が少ないのは

みんなも知っての通りね」

 

コクコクと艦娘は頷く。

 

「提督はそれを痛感していらしたから、

あくまで今回は無力化に徹して

撃滅は後回しになさると思ったの」

 

ふむふむ、流石鳳翔ちゃんだ。

私は戦闘についてはからっきしだから

前線に立つ者の視点・思考は

非常に参考になるな…。

 

「そういうことだったか…。

だから提督は出港前になって

突然『弾薬を渡してくれ』と

言ってきたのだろうね…」

 

「弾薬を陸揚げしていて

急に言われたのよねぇ…。あの時は

本っ当にクッソケチって思ったわ」

 

だから曙ちゃん、

女の子がクソとか言ったらダメだよ。

 

「今頃司令官や他の艦娘は

水上戦をしているのでしょうか…」

 

春雨ちゃんの言葉に

皆が遠くを見据えるように考え込む。

 

「さあ、私たちには私たちの

戦いがあるのだ。帰ってきた彼らに

仕事を押し付けるわけにもいかんぞ。

 

鳳翔ちゃんと鳥海ちゃんは給与計算。

神通ちゃんと響ちゃん、曙ちゃんは

修理・改装中の船体について

引き続き関係各部との調整を頼む。

日向ちゃん、那珂ちゃん、

電ちゃんそして春雨ちゃんは補給

関連の調達をやってくれたまえ」

 

「「はーい!(なのです)」」

 

 

※※※※

 

1940i

 

艦娘は既に業務を終え、

各々の時間を過ごしている。

 

小笠原の情勢については、

菊池3佐は予定していた夜戦を取り止め

明朝に掃討戦をすることにしたようだ。

 

部下からの報告メールを見つつ、

私は金庫からとある書類を取り出した。

 

 

「ますます謎が深まったな…」

 

 

赤色の書類、その右上と左下に

『特定秘密』と赤く印字されたそれは、

言うまでもなく先の小笠原海戦の

全てが記録された戦闘詳報である。

 

 

『戦闘詳報 ー 父島沖海戦ー』

 

 

戦闘詳報とあるが、戦闘について

のみならず深海棲艦の行動や生態、

敵との会話から推測される目的や

狙いが事細かに書かれている。

 

私は事あるごとにこれを読み返し、

ある時は敵の視点、またある時は

政治家の視点からどうにかこの不毛な

戦争の解決策を見出そうとしていた。

 

 

「深海棲艦とは何者なのか、

どこからどう現れたのか。

形は旧式の軍艦であったり初期は

『艦これ』に出てくる敵キャラそのまま

であったりと、これまた謎深い」

 

正体は置いておくにしても、

何故旧式軍艦なのだろうか?

某怪獣映画のように人々の怨念が

実体化したのだろうか。

はたまた海底に沈む軍艦を鹵獲し、

使えるようにしているのか。

 

それに初期にあった駆逐イ級等の

『艦これ』に登場する敵キャラクターを

大きくしたかのようなパターン。

今ら日本が戦っている敵の大多数は

実艦であるが、この化物型もかなり

世界各地で報告されている。

 

「実艦と化物型とでは武装や

速力といった基本性能が違いすぎる。

実艦が大多数報告されているのは

この小笠原海域と先のパナマ運河の

時のみだ、この共通点といえば…」

 

あまり深く考えずに

思ったことを口にしてみる。

 

「どちらも『大規模作戦』だな」

 

当たり前のことではあるが、

世の中は意外と単純なのだ。

こうして淡々とありのままの事実を

見つめ直すことで、新たに見つかる

ことも少なくないのだ。

 

私が普段から変人みたいな

言動をするのも物事の本質を見抜く為だ。

新しい発見をすることは

脳にとってもいい事だからな。

 

(敵はもしかしたらそこまで

戦力が足りていないのかもしれぬ…)

 

実艦と化物型、

どちらも脅威であることに変わりは

ないものの、恐らく一長一短で

使い分けているのかもしれない。

 

性能や装備については未だ

情報が少ないものの、どうやら

実艦の方が単純な戦闘力は高いようだ。

 

 

……

 

 

「『人間が憎い』、か…。」

 

これについては興味深い。

 

目的や狙いについては推測になるが

そのままの意味で捉えていいだろう。

それを達成するためにフネの化物へと

姿を変え、人類を攻撃したとすれば

突っ込むところは多いが

まあ納得できないこともない。

 

敵が小笠原に襲来したのも

橋頭堡を得る等の戦略目的があるに

しても戦いの目的や意義が必ず

存在するだろうから、それは

追々考えるとしよう。

 

 

「そういえば『ゲーム』では

建造には大量の資材が必要だったな…」

 

無論実際の艦艇もそうなのだが、

敵も実艦を繰り出す以上建造…

海底からサルベージしているのか

新規建造なのかは不明であるものの

何かしら必要になるはず。

 

南鳥島周辺ではここ近年

レアアースが発見され、埋蔵量も

膨大なものだったと記憶している。

 

 

「もしかしたら敵はこのレアアースを…」

 

<<コンコンコン>>

 

「警務隊長さんまだいらしたのですね」

 

「ああ鳳翔ちゃんか、

なぁに少し調べごとをしていただけだ…」

 

「提督がお書きになった報告書ですね」

 

艦娘は皆、この書類を

閲覧する権限を有している。

内容も政府が海外に

公開したものに比べ、

事細かに敵の種類や性能、行動等を

わかる限り記載されている。

 

起草者は菊池3佐だが、添削や

助言、手直しといった作業を行った

人間も加えると500名以上が

作製に加わっている。

無論艦娘も言うまでもない。

 

「うむ、見落としたり再発見する

こともなきにしもあらず。

時間を空けて見直せば

見えてくることもあるのだよ」

 

時計を見ればもう2120を過ぎ、

そろそろ風呂に入らねば浴室も

閉まってしまうではないか。

 

「頑張りすぎるとお体に悪いですよ」

 

「君の言う通りだ、

休むことも仕事の内だからな」

 

海上自衛官たる者、

仕事の取り組みは素早く

切り上げは更に素早くなくては。

 

書類を金庫に戻し、机上に

広げていたファイル類も定位置に戻す。

 

一分もしないうちに帰り支度を

完了し、鳳翔ちゃんと共に外に出る。

 

 

……

 

帰り道、歩きつつ考える。

 

 

菊池3佐は若い。

先日まで護衛艦の一乗員だったのが、

今や艦娘たちを束ねる部隊の長だ。

戦闘の指揮や彼女らへの気配り、

部隊運営に必要な業務等…。

彼にはかなりの負担であるのは

想像に難しくない。

 

(彼の様な若い人間に

重責を負わせるのは心が痛むな…)

 

菊池3佐自身と彼女らとしては

『提督』は彼以外ありえないと

考えているだろう。

私も適任だと考えるし、他の者では

艦娘をまとめる事は厳しいだろう。

 

しかし業務はさることながら

時に非情な決断を下さねばならない

指揮官という職務が、彼に押し付けて

しまって良いものかとも感じる。

 

普段飄々としている私とて

その責務の重さに悩む事は

何度も経験している。

 

彼の様な、純粋で溌剌とした青年を

『殺してしまう』真似をさせたくない。

しかし情勢はそれを許してはくれぬ。

 

敵は深海棲艦だけではない。

国外は言うまでもない、国内は

政治家や一部の団体、果ては身内

であるはずの自衛隊内…。

いまのところは国内世論は鳴りを

潜めているが、今後小さなきっかけが

日本の運命を左右する選択肢を彼に

押し付けるかもしれない。

 

そこで彼が何を守り、何を捨てるのか。

辛い選択、決断をせねばならぬ時が

必ず来るだろう、それも何度もだ。

 

(挫けるなよ菊池3佐。

この老いぼれが精一杯支えてやる、

思いっきりやってみたまえ。

君のその諦めぬ心こそが

若い者だけに備わる最大の武器だ…)

 

おおっと、もう2200を過ぎたか。

早く帰らねば明日の業務に

支障をきたしかねないからな。

 

 

ふと夜空を見上げる、星々が輝いている。

あの一番明るく大きい星は

菊池3佐のようだ。

周りの星々は艦娘の子たちか。

 

彼らもこの夜空を見ているのだろうか。

世界中で深海棲艦が暴れ回って

いることが嘘のような美しさだ。

 

言いたい事はまだまだ沢山あるが、

この辺りでやめておくとしよう。

 

 

「頼んだぞ、『菊池提督』」

 

 

艦娘たちが呼ぶように

菊池3佐へと声を投げる。

 

私は私なりに為すべきことを

なすとしよう、それが私にできる

彼へのサポートなのだから……。

 

 

 

 

 

 

 





本日は戦艦大和が沈んだ日。
これに間にあわせるべく
ちょこちょこと頑張りました。

世界は大変なことになっていますが
それにめげずに執筆したいです!


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2-4a 敵西方艦隊を叩け!前編 【西之島近海】

さっぱりな戦闘パート。
敵主力との戦いまでは
少し飛ばしていきます!

勝ちすぎても負けすぎても
物語がつまらなくなってしまうので
その良い具合がわからないですね。
しばらくは完勝で行けそうですが、
敵主力については苦戦するかもです。



「「戦闘機隊、全機発艦ッ!!」」

 

 

飛鷹と千代田から

制空隊のみが飛び立つ。

 

それとやや遅れて

金剛をはじめとした主力艦からも

観測機がカタパルトから射出される。

 

 

「敵西方艦隊まで50キロある。

戦闘機隊は制空権を確保し続けろ!

観測機と硫黄島の哨戒機の

援護を怠るな、今回はちと退屈かも

しれないがその役割は重要だぞ!」

 

 

戦闘機に搭乗する妖精に対し、

改めて戦闘の目的を示達する。

 

くどく思われようとも

こうした指揮官の意向の共有が

戦果の如何に関わるのだ。

 

『了解ですよ提督!

その辺は他の妖精にも伝えて

あるんで心配ご無用ですっ!』

 

制空隊指揮官である千代田の

戦闘機隊所属の妖精が元気に返答する。

ちなみにこの妖精、千代田戦闘機隊

一番機は女子である。

 

他の空母艦娘の艦載機指揮官クラスは

ほとんどが男子であるから、

彼女の勇敢さと頑張りはよく目についた。

 

「大変結構!

帰ってきたら全員に美味しい

冷えたジュースを奢ってやろう」

 

『嬉しいですがその言い方だと

すごく不安になりますねぇ…』

 

「じゃあ帰って来なかったら

夜のすき焼きはナシだな、南無三」

 

千代田の夕食はすき焼きだと耳にし、

それをエサに妖精を煽る俺。

 

『絶対帰って来ますから!

千代田姉さん、

残しておいてくださいね!』

 

『え~…どうしよっかなぁ~?』

 

悪ノリする千代田もよく分かっている。

もちろん食事はちゃんと温かくして

妖精の帰りを待っている千代田だ。

 

 

……

 

 

口ではふざけているようだが、

作戦については皆優秀である。

 

『提督、敵西方艦隊の上空に着きました!

敵機はいません、制空権確保ですっ!』

 

「おっしゃ、でかしたぞ!

敵の対空砲火の密度はどうだ?!」

 

制空隊は上空に飛んで行っただけであり、

特に大したことはしていないのだが

それでも褒めてあげるのを忘れない。

 

『午前中の機動部隊ほどでは

ないですがやはり脅威的です!

観測機も余り近付け過ぎると

撃墜される危険があります!』

 

むぅ、やはり一筋縄ではいかないか。

 

「了解した。

それで…肝心な『陽の傾き』はどうだ?」

 

 

俺が制空権確保の次に重要視したのは

【時間】と【陽の傾き】だった。

 

現時刻は1542i。

 

いくら赤道に近いとはいえ、

夕刻を過ぎれば観測射撃は不可能。

中途半端に攻撃を中止してしまうと

敵が態勢を立て直す猶予を

与えてしまうだろうし、何より

敵潜水艦による夜間の奇襲を

招く恐れがあった。

 

陽が明るい内に可能な限り敵を叩き、

タイムリミットまでには潔く

退却して再戦の機会を整えて、

明朝の日出後可及的速やかに

残敵を撃滅せねばならない。

 

もう少し時間が早ければ

撃滅できただろうがこればかりは

どうしようもない、割り切ろう。

 

『天候も晴天、敵の編成に

大型艦は含まれておりません!』

 

(敵に重巡クラスはいない?

東方の機動部隊にはいたのに…。

こっちの艦隊は重要視されて

いないということなのか…?)

 

むむむ…。

マーカスに近い東方艦隊に主力艦を

配備するのは必然にしても、

それでも西之島周辺の西方艦隊にも

有力な戦力を配備するのが戦略的に

考えて妥当じゃないだろうか。

 

(もしかして敵は自由自在に

深海棲艦を出現させられる訳じゃ

無いのかもしれないな…)

 

前回の『小笠原』では

無限のように敵の潜水艦が現れて

それこそ深海棲艦の恐ろしさを

実感したが、制空隊の報告から

判断するともしや海底に敵の基地でも…。

 

「…わかった、制空隊については

交代で上空援護を実施すること。

非番の戦闘機については

各母艦に帰還してよろしい!」

 

 

色々と敵の生態や行動等

わかりそうな気がしたが

今すべきことは【敵の殲滅】であり、

【敵の分析】ではないのだ。

そう思い直し、頭を切り替えると

艦隊に進撃の指示を出した。

 

 

※※※※

 

 

「テートク、敵艦隊まで

25kmを切りマシター!」

 

「うん!

戦艦組と重巡組は用意出来てるか?!」

 

 

『霧島ですっ、準備できています!』

 

横にいる金剛は報告せずとも

完了しているのはわかっている。

 

もう一隻の戦艦である霧島から

待ってましたと言わんばかりに

ウキウキ声が返ってくる。

 

「撃ち過ぎて弾切れとか

勘弁してくれよな?なっ?」

 

『この霧島…そんなヘマを

一体何故しましょうかッ?!』

 

うん、凄くやらかしそう…。

なんか話し方が色々おかしいし…。

気合いが入り過ぎて空回りしそう。

 

『我輩は当っ然!準備出来ておるぞ!』

 

『筑摩も同じく用意できています』

 

とねちく姉妹もいいようだ。

利根が無駄にハキハキしてるが

大丈夫なんだろうか…?

筑摩は普段通りで安心した。

彼女がとねーさんを監督してくれるハズ。

 

『こちら妙高!

砲弾装填良し、いつでも撃てます!』

 

『愛宕も準備万全でぇ~っす!』

 

言いたいことは変わらなくても

なんか対照的な妙高と愛宕。

こういった戦闘前でもアタゴンは

やんわりとしてるんだな…。

これはこれである意味安心…か?

 

 

……

 

「妙に不安も感じるが、

腕は確かなのは俺も知っている。

この砲撃で敵をアウトレンジから

叩いて滅茶苦茶にする!」

 

自分でもガキみたいなセリフだと

感じたがまぁいいだろう。

 

「まずは試射を行なって

観測機からの弾着報告を受ける、

そして修正射と本射に移る。

ほら、簡単だろ…?」

 

とはいっても戦闘中に

ホイホイと観測機と通信したり

弾道の再計算をするのは並大抵じゃない。

 

大艦隊でこうして艦砲射撃することも、

複数の観測機が各自のフネの着弾を

観測しそれを母艦に伝えるのも初。

各観測機から母艦に無線やモールスで

報告する周波数の調整やらやら…。

 

全てが初めてのことだらけなのだ。

 

それ故に戦闘もかなり余裕を持って

臨んでいるのも事実であった。

 

 

(でも弾薬の余裕はないけどな)

 

 

心の中で毒を吐きつつ

次なる命令を下す。

 

「それでは戦艦、重巡組、

主砲、撃ちィ方始めェッ!」

 

「Aye,aye,my admiral.

Test firing…shoot!!」

 

横の金剛が流暢なイギリス英語で

試射の号令を発した。

 

『ファイヤ』と言わずに

英海軍らしく『シュート』と

言うのも、なかなか興味深い。

 

<<ガァン!!ガァン!!>>

 

6隻が奏でる砲撃音が

見事な奏鳴曲(ソナタ)を奏でる。

 

ソナタとはクラシック音楽における

室内楽曲の一つであるのだが

このソナタは屋外の、しかも

戦場においてである。

 

強いて近いものを挙げるとすれば

チャイコフスキーが作曲した

【序曲『1812年』】だろう。

 

6隻が順番に発射する光景と、

それに伴う爆音はまるで

陸上自衛隊が榴弾砲を用いて

野外演奏を行なっているかの様だった。

 

<<ガァン!ガァン!>>

 

 

しかし、しかしである…。

 

 

※※※※

 

 

射撃が試射から本射に移り

海戦らしい雰囲気になってきたが

戦闘開始早々、言いたいことがある。

 

「さっきからずっと

言いたかったんだけどさ…!」

 

<<…ガァン!>>

 

「まじでうるせぇな、コレ?!」

 

「え、なんデスカー?!」

 

<<ガァン!>>

 

 

そう、艦砲射撃が煩いのである。

耳がおかしくなんじゃねぇか、マジで。

 

戦艦の艦橋の内部といえども、

戦闘艦橋…通称昼戦艦橋の

ウイングに出るドアは開放されており

外の音がダイレクトに入ってくる。

 

耳栓をしようにも指揮官である以上、

大切な耳をふさぐわけにもいかない。

 

つーわけで…

 

「艦砲射撃がうるせぇっつってるの!」

 

「良く聞こえまセ~ン?!

ah~…もっと撃てばいいんデスネ?!」

 

おいこら待ちたまへ金剛クン。

 

この『ヴィッカーズの跳ねっ返り娘』は

俺の声を見事に聞き間違えやがった。

 

更に砲撃の間隔は短くなり、

段々五感もおかしくなってきた…。

 

 

……

 

 

俺が艦橋でくたばっている間にも、

艦砲射撃は継続していた。

 

もちろん弾着は高精度、

敵艦隊に対してもダメージを与えている。

ダメージといっても大口径の砲弾が

軽巡程度のフネに当たれば確実に

致命傷になるため、敵の兵力は

ガリガリと削られていった。

 

観測機からの報告では

アウトレンジ射撃によって、

少なくとも敵の二割…約40隻中

8隻を撃破したようだ。

単純な命中数でいえば

20隻近くに命中弾を与えていた。

 

敵の増援も、何時ぞやにやられた

『温泉システム』のように湧き出る

こともなく増えていないようだ。

 

しかし夕陽はあと20分もすれば

確実に沈み、砲撃の精度は一気に落ちる。

ヤケになった敵が突っ込んでくる

かもしれないし、とりわけ

潜水艦の襲撃が一番怖い。

 

護衛艦や哨戒機が、この砲撃中も

黙々と対潜警戒を行なっているが、

それでも見落とす可能性だってある。

 

「もう頃合いだな…。

打ち方待て、観測機は全機帰還せよ!

上がっている制空隊も観測機が

着水したら帰還せよ、陽が沈んで

からだとサメを抱き枕に水中で

オネンネするはめになるぞ!」

 

『サメを抱き枕とか、

なにそれ、バッカじゃないの…?』

 

『ダメよ満潮、司令官に対して

そんな暴言を吐いては…』

 

満潮の罵倒は相変わらずだ。

そしてそれを咎めるお姉ちゃんの朝潮。

よしよし、今度撫ででやろう。

 

『サメを抱き枕とか寝られる気が

これっぽっちも起きそうにないよね!』

 

『意外と可愛らしくて

いいんじゃないでしょうか。

ふふっ、デフォルメされたものなら

私も欲しくなるかもしれません』

 

蒼龍と鹿島がサメの抱き枕を

想像したのか、各々が思ったことを

ストレートに述べる。

 

てか蒼龍は父島に残置したのに

何故か無線に混ざってるし…。

別にボケに乗ってくれてるし

嬉しいんだけどね、無問題。

 

「は~い、みんな静かにー!

艦載機が着艦したら

一旦この海域を離れるぞ。

 

夜戦には突入しない!

 

父島の西方100キロ地点に後退して

軽巡や駆逐艦は夜間対潜警戒を

してもらうからそのつもりでいろ。

再攻撃は明朝に行う」

 

 

このまま夜戦に突入しようか悩んだが

リスクとリターンを考えると

効率的ではないと判断した。

マーカスや敵西方残存艦隊も

黙っていないだろうし、

無駄な深追いは禁物だ。

 

『え~…夜戦したかったのに~!』

 

こら、だまらっしゃい夜戦馬鹿。

 

『そうよ、ここで見逃したら

奴らが分散してゲリラ攻撃を

仕掛けてくるかもしれないのよ?!』

 

『満潮の言う通りだよー!

ノロノロしてたら西から

敵が攻めてくるかもしれないよ!

私が五連装酸素魚雷で

やっつけてやるんだから!』

 

満潮に島風が同調し、

勝手に突撃しそうな雰囲気だ。

 

『せ、せやかて夜は

潜水艦もおるし危険やで…!』

 

『黒潮さんの言う通りです。

ここは司令がおっしゃるように

艦隊を再編成させた方がよいかと』

 

 

夜戦と潜水艦の恐ろしさを知る

黒潮が宥めようとする。

それを冷静にサポートする親潮。

このコンビもこの海戦が初めてだな、

まぁ今はどうでもいいが。

 

 

「確かにここで夜戦に突入すれば

あの敵艦隊を壊滅させられるだろう」

 

『でしょ?!ならっ夜戦…!』

 

「ちょっと黙ろうか夜戦馬鹿」

 

『馬鹿ってなによ馬鹿とは?!』

 

約1名うるさいが無視して続ける。

 

 

「とりあえず元気があってよろしい。

だがそれは軽巡洋艦と駆逐艦に

限ってのことだってわかってるか…?」

 

『『…え?』』

 

 

俺の言葉にキョトンとする艦娘たち。

 

 

「あー今日は疲れたな~、

空母は2回も艦載機飛ばしたし

戦艦と重巡は大砲ぶっ放したもんな、

さすがに休まないとだよなぁ〜…」

 

『『……あ』』

 

「別にお前たちが何も

してなかったなんて言うつもりは無い。

だがな、艦隊全体をよく見渡してみろ。

 

夜戦に突入するにしても

空母は退避させないといけない。

戦艦と重巡は砲撃が終わったばっかりで

艦内は空薬莢が転がってて

足の踏み場も無いはずだ。

急いで今から海中投棄するにしても

バテバテの妖精が可哀想だろ?

 

それに気分が高揚してるから

わからないかもしれないけどさ、

『お前ら』は疲れてるんだぞ…?」

 

『『うっ……』』

 

 

俺はスラスラと考えを述べ、

そして最後にとどめを刺した。

 

「連戦して艦隊は疲労してる。

艦娘に限ったことじゃないぞ、

護衛艦だって同行しながら

対空、対水上そして対潜警戒を

行っていて、決して遊んでいる

訳じゃないんだからな」

 

艦載機を飛ばしたり艦砲射撃を

したりと艦娘が前面に出ているが、

それは縁の下の力持ちである護衛艦が

いるから出来ることであり、先の

空襲実施に際しては空自や海自の

航空部隊が居たからこそ被撃墜を

最小限に食い止められたのだ。

 

そこのところを忘れないでほしい。

 

「ここで無理に戦っても

疲労が溜まる一方だし、被弾したり

してもつまんねぇだろ?

俺自身焦ってしまうけども、

そこは敢えて戦わないのも大事だ…」

 

『で、でも早く敵を倒さないと

本土も危なくなるのよ?!

 

太平洋側の港湾にいる商船だって

運行を停止してるし、このままだと

国内の流通が大変な事になるわ!』

 

 

満潮が最後の抵抗をする。

 

確かにこの作戦を可及的速やかに

終わらせねば日本経済はストップ

したままになってしまう。

 

数日前政府は、

太平洋側にいる船舶に対し

無期限の運行停止勧告を出した。

伊豆諸島近海にまで深海棲艦が

出没したため致し方ないだろう。

 

突然の出来事に、産業界からの

反発もあったが背に腹はかえられぬ。

犠牲を出すよりかはと皆従った。

 

 

「急ぐと焦るは違うぞ満潮。

急いで奪還すべきではあるが

それは万全を期さねば意味は無い。

 

焦って進撃すれば必ずミスがある。

心身に余裕が無くなり、被害も受けて

しまうし、最後には作戦の目的を

果たせずに取り返しのつかない事になる。

ここで敵が分散してしまっても、

所詮は『はぐれ艦隊』程度の脅威。

後々でゲリラ襲撃をしてくるとしても

対処のやりようはあるし、

そいつらが一気に本土に向かうのは

あり得ないと考えるぜ?」

 

『どうしてそう言い切れるのよ?!』

 

甘いぜ満潮、俺だって

伊達に提督はしてないぜ。

 

「敵西方艦隊の情勢は前々から

哨戒機や偵察衛星から報告が

逐次入って来ていた。

そしてコッチの敵は西之島から

離れようとせず、ぷかぷかと島の

近くに留まっていた。

 

これらから判断すると

①敵はロストする事なく索敵に

引っ掛けて再補足可能。

②敵は西之島から離れられない

理由がある、または単に航続距離が

もたないから攻勢に出られない。

 

…という可能性が浮かんでくる」

 

あくまで俺の見解だ。

海幕や他の指揮官は違う考えかも

しれないが、あり得ないことはない。

 

「もしどうしても攻勢に

出たいと言うのであれば…」

 

『な、なによ…?』

 

「…3等海佐 菊池圭人。

特務護衛艦『満潮』に乗艦し、

夜戦の指揮を取る。

他の艦娘は引き続き、先程伝えた

作戦に従って行動せよ!

……ってなるけどそれでいいか?」

 

 

満潮が本気で行くと言うのであれば

俺も覚悟を決めてやろうじゃないか。

 

 

『ほ、本気なの?!

司令官が乗ったところで

別に勝てる訳じゃないのよ?!』

 

「じゃあ諦めろって。

川内と島風も、もういいだろ?」

 

行く行くうるさかった2人に振る。

 

『夜戦したいけど、仕方ないかな…』

 

『よくわかんないけどなんだか

後で大変そうだからやめときまーす!』

 

「…だってさ」

 

さすがに満潮も冷静になったのか

突っかかるのをやめた。

明日の戦闘が終わったら

文句ぐらい聞いてやるからな…。

 

 

…………

 

 

1920i

 

満潮も渋々引き下がり、

艦隊は対潜警戒を厳にしつつ

休養待機に入った。

 

外側を守る護衛艦部隊も

盛んにソーナーを打ちながら

忍び寄る潜水艦を捜索している。

艦隊上空を哨戒機が往来して

憎き潜水艦を見張っている。

 

 

「あー、夜戦しなくてよかったぜ」

 

 

灯火管制を敷く艦隊を眺めながら

率直な感想をぽつりと吐く。

 

戦えば簡単に勝っているだろう。

しかし弾薬の消耗、艦隊の被害は

避けられず後で苦労するのは明らか。

 

ここで艦娘のみが戦っても、

マーカスは護衛艦部隊のみで

戦い抜くのは不可能。

逆も然り、要はバランス。

 

勝てばいいというわけじゃない。

程々に戦うことも必要なのだ。

 

「テートク、紅茶を飲もうヨ!」

 

「おう、いただくとしようか」

 

気付けば横に金剛がいた。

艦橋を妖精に任せて

俺たちは士官室へと向かう。

 

「レモン・ミルク有り砂糖2コ、

ゴールデンドリップマシマシで頼む」

 

「ワタシはラーメン屋じゃないデース!」

 

俺の注文に思うところでもあったのか

金剛がぶーぶーと愚痴る。

 

それでも、慣れた手つきでテキパキと

紅茶を淹れ、俺はそれを受け取る。

 

「そう言えばテートクに

明日の作戦について提案が

あるんだけどサー…」

 

「お、なんじゃい?

言ってみ言ってみ!」

 

 

……

 

 

カップに口を付ける前に金剛が話す。

興味を惹かれた俺は耳を傾ける。

 

結果的に紅茶は冷めてしまったが、

金剛の提案はそれを無視できるほど

有意義で、かつ単純なことだった。

 

 

「…ふーむ、開始直後から命中すれば

うまく戦局も流れるとは思うなぁ」

 

「やっぱりナイスアイディアデース!

これなら他の艦娘の為にもなりマース!」

 

 

明日の残存敵艦隊掃討戦は

少し変わった戦闘になりそうだな…。

 




艦娘と敵が入り乱れる大乱戦も
良いと思ったのですが、
被害を受けてしまう可能性も
あるのでそれを避ける形に。

実際に深海棲艦と戦争になれば
艦娘もドンパチするのでしょうかね?
ミサイルを撃ちまくれば完勝すると
思いますが、弾が無くなりそうですね。


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2-4b 敵西方艦隊を叩け!中編A 【砲撃開始】

17春のイベントにハマってしまいました!
10人の新規艦娘と出会うことができ、
生活リズムも見事反転…。

物語も納得のいく内容が
なかなか書けずスランプでしょうか…。
気晴らしに書いた日常話だけが
溜まっていくのも悲しいです。
さっさと物語を進めたいのです!



『金剛』艦橋

 

 

「さて、金剛も早く寝ろよ?

朝は日出から戦闘をおっぱじめるからな」

 

「テートクが折角

ワタシに乗艦してくれたのにぃ~…」

 

 

現在2030過ぎ。

士官室にて金剛の提案を聞いた後、

俺は紅茶を飲みつつ艦橋でのんびりと

明日の作戦を思い描いていた。

 

護衛艦や軽巡、駆逐艦に

交代で対潜警戒を実施させながら、

艦隊はノンストップでぐるぐると

同じ海面を回っていた。

 

夜ぐらい漂泊していたいが、

敵潜水艦の襲撃を回避できるよう

船足は止めずにいる。

 

 

「提督とステキな夜を

ゆっくり過ごしたいデース!」

 

「時と場所は弁えないのか…」

 

「戦闘はちゃんとするから

問題ナッスィーン!…デス」

 

「なんか歯切れが悪いけどまあいいか…」

 

 

((またイチャイチャしてるよ…))

 

妖精たちが一斉にため息を吐く。

真面目に働く彼らには悪いが、

少しだけ艦橋に居させてもらおう。

 

 

……

 

 

「テイトクは火遊びが多過ぎデース!」

 

「いや、別に『火遊び』までは

やってないし単純にセクハラだけを

しているのだよ、金剛クン」

 

「セクハラはいいんデスカ…」

 

「いいんdeath」

 

だってみんなかわいいんだもん。

 

でもお触りは控えてるよ?!

頭をナデナデしたりたまーに

抱き締めするけど、露骨に揉んだり

権威を振りかざして無理矢理…とかは

してないからね、本当だよ!!

 

「テイトクは格好いいデスけど

プレイボーイみたいでなんだか

チャラ男と思っている艦娘も

いるって知っていマシタカ?」

 

「ウッソ、マジで?!」

 

妖精((そりゃそーでしょ…))

 

「せめて誰か一人に

すればいいのデス、つまり

ワタシだけにテイトクのラブを…」

 

「金剛も可愛くていいんだけどさ、

それだと他の娘が可哀想じゃん?

全員を等しく愛するのは厳しい

かもしれないけど、俺はセクハラを

死ぬまでし続けてやるぜ」

 

「なんだか良い事を

言ってる気がシマスが

内容はすごく最低デース…」

 

我ながら酷い事を言ってるな。

でも本当なんだからそこは譲らん。

 

「金剛の事も好きだし

霧島も同じぐらい好きだよ。

本当に嫌なら、その娘には

セクハラをしないようにする」

 

「そういうんじゃなくて~、

女の子というのは自分1人を

選んで欲しいんデスよ!」

 

「えぇ~…それだと

他の娘が可哀想じゃん、じゃん?」

 

「Hmm…

た、確かにそうデスけど~」

 

妖精((知らんがな…))

 

 

……

 

 

どうでもいい日常会話であったが

寝る前の有意義な時間を過ごせた。

 

横でイライラしながら聞いていた

妖精たちにも申し訳なかったな…。

 

金剛が自室に戻ってから、

彼らにはアイスを奢ってあげた。

 

海上自衛隊では、アイスとジュースは

先輩からのお願い(強制)依頼(命令)の報酬である。

アイスやジュース一つでとんでもない

仕事をやらされたりする。

 

明らかに労力と見合わないのだが、

もらったら喜んでしまうのも

人間の哀しい性でもある。

 

だいたいは先輩からの強制だったり

絶対断れない業務だから、

実質アイスなんかじゃ足りないけどな。

 

「「提督あざーっす!!」」

 

俺自ら妖精たちに

アイスを配って回る。

ビニール袋からアイスを出す姿は

コンビニから帰ったパシリ君そのもの。

 

彼らは仕事中であり

持ち場を離れることは許されない。

 

人数分の個数はもちろん、

人気の銘柄を多くして

選択の幅も広げてあげる。

 

『ゴリゴリくん』を始め

『ワーゲンキャッツ』もあり、

各々が食べたいものを選ぶ。

 

当直(ワッチ)中すまんかったな、

かなり安いけどアイスでも食べて

明日の作戦に向けて休んでちょー」

 

それでも有ると無いとでは

モチベーションが全然違う。

こうしたちょっとした気遣いは

下積みを経験した俺の教訓だ。

 

「それじゃ俺は休ませてもらうね。

悪いけど朝は0500に早起こしで頼んます」

 

「了解しました!」

 

哨戒長に早起しを頼み、

そそくさと自室に戻る。

 

そういや風呂入ってねーや。

サッと入って寝るとするか…。

 

 

※※※※

 

0530i

 

 

「…改めて示達しておくぞ!」

 

 

間も無く日出(にっしゅつ)

海上自衛隊では『ひので』ではなく

『にっしゅつ』と読むのだ。

陸さんと空さんは『ひので』と読む。

なんで違うのかは知らん。

 

艦娘に対して掃討戦の詳細を

うるさく言い聞かせる。

 

 

「偵察衛星と哨戒機の報告では

敵の兵力は30隻に減っている。

減った10隻についてだが

夜のうちに沈んだと思われる。

 

懸念していた潜水艦であるが

哨戒機の奮闘により

壊滅することに成功した!

まだ残っている可能性は

否定出来ないものの、

戦闘中も継続して

哨戒してくれるそうだ。

 

敵の編成は軽巡クラス6、

駆逐艦24が確認されている。

最新情報では敵の陣形は

一言で言えば密集陣形、

簡単に言えばごちゃごちゃ、

ぶっちゃけテキトーだ」

 

『提督が適当じゃねぇか…』

 

『もう少し引き締めてもらわないと…』

 

天龍と妙高が文句を言う。

 

「だまらっしゃ。

でだ、こちらの陣形は『単縦陣』で行く」

 

『へぇ…』

 

『単縦陣、ですか…』

 

満潮と高波が言葉を発した。

意外、とでも思ったのだろうか。

 

「金剛を先頭に針路270度で近接、

なお砲撃は最小限実施に留める。

敵前10キロで針路180度、

つまり南に変針して航過。

そこからは…」

 

『『…ッ!!』』

 

「もうわかっただろ?

丁字戦法からの雷撃だ、

つまり軽巡や駆逐艦の出番だ」

 

 

主力艦による砲撃や、護衛艦・哨戒機

のミサイル攻撃は今回殆どしない。

弾薬の残りが少ないからだ。

 

威嚇射撃程度に撃ちつつ、

回頭した水雷戦隊が攻撃のメイン

となって打撃を与えるのだ。

これまでのような脇役ではない、

主役として敵を屠るのだ。

 

 

「この提案は金剛からなんだが…」

 

 

昨夜彼女はある提案をした。

簡単に言うなれば

【レベリング】と【ガス抜き】、

軽巡以下の艦娘は血気盛んだが

その装備を持て余しているから、

それを上手いこと使わねば

彼女らの為にもならないとのこと。

 

先程述べた通り戦艦等の弾薬も

あまり使いまくることはできない。

対空と対潜ばかりで、砲雷撃戦を

待ち望む彼女らに活躍の場を

提供してやろうという趣旨だ。

 

危険を冒すことにはなるが、

その露払いとして文字通り体を張って

弾除けに戦艦と重巡を使ってやろう

じゃないか、金剛は語った。

 

 

「…という訳だ。

金剛や利根たちも装甲はあるとはいえ

無傷とはいかんかもしれん、

敵の反撃が激しければ中止も考えて

いるが問題なければ続行する。

 

なお敵艦隊の両側面には

護衛艦が展開して対潜警戒を行う。

無論、安全な距離を取るとは思うが

絶対という言葉は存在しない。

各艦はそれの救援に向かう場合も

考慮して戦闘に臨むこと。

 

だが側面警戒をしてくれるということは

護衛艦による反撃の即応性は

低くなるということだ。

要は遠くで警戒するから

戦闘にはすぐに参加できないという

ことだからそこは覚えておくこと!

 

ここまでで質問はあるか…?」

 

……無し。

 

「軽巡と駆逐艦は回頭後

順次砲撃と雷撃を敢行する。

FCSによって精度が向上して

いるからといって無駄弾はあまり

ばら撒くなよ、初弾から当てる

つもりでよく狙っていこうぜ。

 

雷撃については…俺よりも

水雷戦隊を率いていた天龍、

川内それと阿武隈が得意だろう。

細かい戦法とか戦術はお前たちに

任せる、てか俺わかんないし」

 

丸投げ…いや、一任する。

 

『しょうがねぇなぁ…、

この天龍様が水雷戦ってのを

ヤツらに教えてやるよ!』

 

『ふぁ~あ、ねむねむ…。

まっ、朝イチから砲雷撃戦ってのも

ありっちゃありだけどね~』

 

『2人とも対照的だよね…。

まっ、アタシは多少自信があるから

それなりにやれるんだけどねっ!』

 

天龍は燃えている、

流石姉貴肌といったところか。

 

川内は眠そうに答えた。

あいつ寝てないんじゃないか…?

↑正解

 

阿武隈は率直な感想を述べた。

既に実戦を経験しているからか

元気に答える様子は可愛らしい、

既に実戦を経験して自信も

ついてきたのか声にも張りがある。

前に俺がしたキスのお陰か?

↑だいたいあってる。

 

「駆逐艦については軽巡に続航して

命令に従って行動してもらう。

臨時に3つのグループに分ける。

 

黒潮、親潮、高波!

これは阿武隈に続け。

 

照月、白雪、村雨!

これは川内に続け。

 

朝潮、満潮、島風!

これは天龍に続け。

 

んーで、鹿島は魚雷発射管を

持っていないんだよな?」

 

『そうなんです!

私としても雷撃に

参加したいとは思うのですが…』

 

彼女の装備は1945年当時のもの、

初期にあった魚雷発射管はなく

対空、対潜装備のみで雷撃は無理だ。

 

「主砲だけで突っ込ませても

あまり効果は期待できないしなぁ。

そうだな…鹿島は参加してもらうけど

敵を砲撃で注意を引いて水雷戦隊への

攻撃を減らしてもらおうか」

 

『はいっ!

鹿島にお任せくださいっ、

純戦闘艦でありませんが

そのサポートはバッチリ

私がこなしちゃいますっ!!』

 

鹿島が俺の指示に

元気良く返答する。

 

鹿島を突入部隊から外そうかとも

考えたのだが、それでは彼女自身の

プライドを傷付けてしまう。

 

事前の打ち合わせ通り対潜警戒を、

というのもぶっちゃけ効果は少ない。

ソーナーの精度なら外辺を

担う護衛艦のそれの方が高い、

ならもっと適した役割があるはず。

 

『遊兵』にしてしまうくらいなら、

何らかの役割を作り出して与えた方が

戦況に少なからず活きる。

 

「よしよし、偉いぞ。

適当に仕事を押し付けたとか

思われるかもしれないけど、

その役割は凄く大事だぞ!

 

水雷戦隊の被弾率を下げて

被害を軽減できるけど、自分にも

敵弾が飛んでくるからそれを

回避しなきゃいけないからな。

その辺をよく理解しておかないと

作戦がなりたたないからな」

 

鹿島をどこに配置するか悩みつつも、

攻撃前の打ち合わせは終了した。

 

……

 

 

「敵、我が艦隊の射程圏内!」

 

電測妖精が報告する。

射程圏内というのは、言うまでもなく

戦艦や重巡の主砲の射程である。

護衛艦の対艦ミサイルのそれはとっくだ。

 

「まだだ、まだ撃つなよ…」

 

大型艦による攻撃は消極的に行う。

あくまで敵の射程ギリギリあたりで

撃ち始めて、乱戦へと持ち込んでから

水雷戦隊による肉薄戦である。

 

『司令、本当に発射する砲弾は

【コレ】でよろしいのですか…?』

 

「バッチリだ、派手にやってくれ!」

 

「そうだヨ霧島ー!

テイトクは奇抜なアイディアを

いとも簡単に考えるヘンタイデース!」

 

「いや、それ俺をけなしてないか?」

 

「え〝っ、褒メテマス…ヨ~?」

 

『金剛お姉さま、

話し方が片言になっています。

それとヘンタイではなくて、

そこは天才の間違いです…』

 

 

トンチンカンなやり取りをしつつ、

戦艦や重巡の艦娘に【とある砲弾】を

発射してもらうことにする。

 

(深海棲艦どもにはキツめな

『朝の日出』を拝ませてやる。

戦死した隊員が見られなかった分も

たっぷりと目に焼き付けてやるっ!)

 

俺は、顔には出さなかったが

心の中では敵討ちができると喜んだ。

自分ではそんなのは無意味だと

言ったにもかかわらず、だ。

 

戦争というものは全てを壊す、

ヒトのココロもだ。

 

 

※※※※

深海棲艦サイド

 

深夜

西之島海底基地

 

 

「ホっしゃん、このままじゃ

全滅しちゃうかもしれないよ!!

マジハンパナイことになるって!!」

 

「あら~、それは大変ね~。

どうしましょうか~…」

 

深海軽巡の1人が、この海底基地に残る

深海棲艦のリーダーを務めている

ホ級フラグシップに向かって嘆く。

 

そのリーダーは、焦る彼女とは逆に

のんびりした様子で同意を示す。

 

駆C「ホっしゃん危機感ゼロ過ぎ…。

これじゃあ私が描いてる

『敵を知る~人間の文化~』

のイラスト集がおじゃんだよ、

まだ未完成が多いのにー…」

 

駆A「お前こそ危機感ゼロじゃないか!

私と同じ駆逐艦とは思えないな、

お前の様な奴がいるから駆逐艦が

侮られることをわかっているのか?」

 

近くでは駆逐艦たちが

これまた変な悩みを吐き出しながら

愚痴を言い合っていた。

 

駆B「あはっ!これはまずいねぇ…

実にまずいよ、僕たち深海棲艦も

捨て駒にされてしまったねぇ!」

 

駆A「お前もお前だ。

口では嘆いているが顔と態度は

まるで喜んでいるようじゃないか!」

 

駆B「おおっと、これは失敬。

強いお客さんと戦えると思ったら

つい顔が緩んでしまったよ、

ふふ…あはっ!」

 

真面目そうに話していた駆逐艦は

溜息を吐きながら頭を抱えた。

 

駆B「どうしたんだい、額に手をあてて…。

あまり触るとデコが広くなるぜ?」

 

駆A「お前らのせいだろうがっ!」

 

火に油を注ぐ僕っ娘の深海駆逐艦B。

 

「はいは~い、

みんなそこまでにしましょうね~」

 

 

 

リーダーの言葉に全員が静まり

その続きを聞く姿勢を取る。

 

「みんな知っての通り、

私たちに与えられた使命は

【敵の足止め】、可能なら

【この海底基地の防衛】だけれど…

後者は無理そうよね~」

 

リーダーは困った顔をしながら

他人事のように語る。

 

「残存兵力は30隻、被害の無い

フネの方が珍しいくらいの状態。

私としては撤退したいけど、

燃料も残り僅か…無理なのよね~」

 

彼女自身、昨日敵の砲撃を受け

中破を食らっており、まともな

航行さえできるか不安があった。

 

(まぁ…どうせ散るなら

敵も道連れにするのだけれど~)

 

 

……

 

深海棲艦は人間側の砲撃戦後、

翌日に予想される敵の

殲滅作戦に備えて海底の

基地へと一旦戻ることにした。

 

リーダーは海上に

各々が乗り操るフネを放置して

人型である本体(キャラ)のみ

基地に引き上げることを提案した。

 

当然ほとんどの者が反対した。

人間側の潜水艦の襲撃や

水上艦が反転してくるかもしれない、

皆がそう声を荒げたがリーダーには

ちゃんとした考えがあった。

 

「敵がどうして夜戦をしなかったか

わかる~?それは私たちの潜水艦が

怖かったからなの。

つまり敵は無理な戦闘は望んでいない、

ということは夜戦・夜襲を行う

可能性も極めて低いってこと~」

 

言われてみればその通りか、

他の者は納得した顔をする。

海上自衛隊の艦娘は攻撃してきたが

現代艦(護衛艦)はしてこなかった。

 

ここから導き出される

人間側の思惑は…

 

「現代兵器は射程もあるけど

数は多く無いから控えたい、

艦娘の攻撃もあまり激しく

行うと何かしら支障がある。

彼らはそう考えているようね~。

…というわけで基地に戻るわよ~」

 

 

……

 

 

駆A「敵は昨日と同じく

艦娘主体で攻めてくる。

これにどう対応するか、

そこがこの対策会議の目的だ」

 

真面目な深海駆逐艦Aが

重要テーマを切り出す。

 

駆A「敵には戦艦や重巡もいる。

これにどう対処するか、軽巡以下の

敵艦にも打撃を与えねば…」

 

駆D「うぅーん、無理ィ…

どうしようもないって。

昨日みたいに遠距離砲撃で

やられるのが関の山、

つーかマジ上層部適当っしょ?」

 

駆A「お前はどうして他の

駆逐艦と同じでやる気がないんだ?!

いつもダルそうにして、

それで駆逐艦としての役目が

務まるとでも思っているのか?」

 

 

わーわーと喚く駆逐艦Aであったが、

この『西之島海底基地』に配属された

深海棲艦は何かしら問題があった。

 

まずリーダーのホ級は

腕は確かだが常にふわふわしており

深海棲艦としての自覚が足りない。

他の軽巡・駆逐艦については

言動が不真面目、熱の入れどころが

おかしい等の理由である。

そして駆逐艦A自身、真面目ではあるが

それ故仲間と衝突を繰り返していた。

 

この左遷ともいえる配属には

深海上層部のある思惑もあった。

 

【彼女らはどうやら『以前』の、

つまり『人間側のフネ』だった頃の

記憶が少し戻っているようだ】

 

このままでは人間側に味方して

攻撃をしてくるかもしれぬと

危惧した上層部は、いっそ

この海底基地に押し込めて敵の

侵攻を足止めさせようと考えたのだ。

 

仮に記憶が戻ったとしても

人間が撃ってきたら応戦せざるを得ない。

口封じに沈んでも痛くないしが、

それならあわよくば損害を与えてもらう。

その程度の思惑であった。

 

 

駆D「Aはいっつも真面目でウザい。

もっと気楽になろうよ、

そんなんじゃ長生きできないってぇ…」

 

駆A「敵が攻めてきているんだぞ、

いま動かないとやられてしまう!」

 

…駆逐艦たちはエンドレスな

言い争いを続けている。

それを優しく見守る深海軽巡たち。

 

「人間たちと戦うのは避けられない

でしょう、せめてあの娘たちだけでも

どうにか救えたらよいのですが…」

 

その中の一人、

雷巡チ級エリートが呟く。

 

チ級は『前世の』記憶を思い出す。

おぼろげながらも、新人を教育して

それを送り出しそして自身は

敵の潜水艦によって沈められた。

何処の国に所属していたかはわからない。

 

そんな彼女だからこそ

思うところが有るのだろう。

 

軽ホ「あら~、チーちゃんにも

優しいところがあるのね、

私、見直しちゃった~!」

 

雷チ「茶化さないでください。

それよりもうすぐ時間です、

『上』に戻りましょう」

 

ホ「はいはい、貴女も上手ね。

…みんな~、そろそろ時間よ~!」

 

その言葉に騒いでいた深海一同は

気持ちを切り替え、雰囲気も変わる。

 

人間を倒してやる、とか

やられる前に暴れてやるみたいな

血気盛んな雰囲気ではなく、

今の自分たちがすべき事を把握し

諦観しきったという様子。

 

 

軽ホ(せめて『あの娘』に…。

名前は思い出せないけれど、

私のお姉ちゃんだったあの娘に。

沈む前に会いたかったなぁ〜…)

 

彼女の姉、やや男勝りで

自信満々にアピールする姿に

憧れていたのかもしれない。

天を昇る龍の様な勇ましさ。

 

それも、今となってはもう無理だ。

 

 

 

 

…………

 

 

軽ホ「もう敵の射程距離内よ〜」

 

雷チ「こちらの射程ギリギリまで

弾を温存しようってこと?

…チッ、舐めてるわ。

ってやだぁ!

私別に怒ってなんかないですよ、

あらやだー!」

 

チ級が舌打ちを誤魔化すが

他の者は無反応、単純にスルーした。

 

「チーちゃんが猫被りなのは

みんな知ってるからいいとして…」

 

そろそろ撃ってくるはずだ。

それからやや間があって、

敵艦隊方向で発光が視認できた。

 

駆A「敵が撃ってきたぞ!

こちらももうすぐ射程距離だ、

よく狙って撃つんだ!!」

 

そう駆逐艦Aが言わずとも

全員が凝視して敵を狙っている。

朝日が昇っていない以上、

東雲の明かりを頼りに照準を

定めて攻撃するしかない。

 

それと同時に飛来するであろう

砲弾にも気を付けねばならない。

 

 

……

 

 

軽ホ(あら〜?

砲弾が落ちてくるのが遅いわね〜…)

 

ふと不思議に思った深海棲艦たちが

空を見上げた時だった。

 

<<ピカッ!!>>

 

「「キャアアア!!」」

 

間も無く日出にもかかわらず

空中にいきなり【太陽】が現れた。

それは見た者の目を一時的に奪い、

それに伴って戦闘力も喪失する。

 

 

※※※※

 

『金剛』艦橋

 

 

「おっしゃ、敵の陣形が崩れた!

突撃だ!みんな、【照明弾】は

絶対に直視するなよ?!」

 

「暗視装置越しでも眩しそうデース!」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

射撃前に金剛たちには

照明弾を装填させた。

深海棲艦に『めくらまし』が

効くかどうか不安だったが、

その心配はいらなかったようだ。

 

裸眼で見たら失明するぞアレ。

だが艦隊には見ないように示達済み、

興味本位で見るヤツはいない…

 

『ぬわぁ〜!!

効果があるか確かめようとしたら

吾輩の目が見えなくなって

しまったのじゃ〜!

筑摩ぁ、助けて欲しいのじゃ〜!』

 

いました…。

嫌な予感はしてたけど、

やらかすお馬鹿が約一名。

 

『姉さん…(諦め)』

 

流石の筑摩も匙を投げるか。

艦長たる利根が使い物に

ならなくなってしまったが、

妖精がサポート…というか代役で

どうにかやってくれるみたいだ。

 

基地に帰ったら利根の評価は

不良(デルタ)】にしておこう。

この調子だと万年不良(デルタ)になりそうだ。

海自部内のみで使われる

人事評価のランクのことだ。

 

「何やってんだ利根は…」

 

そんな利根に好きだと言ったのも

この西之島近海、あの時の

セリフを返して欲しいくらいだ。

 

『わ、吾輩なら大丈夫じゃ!

しばらく経てば目も治る!』

 

いや、初っ端が肝心なんだけど…?

 

「金剛と霧島は通常弾に切り替え!

利根と筑摩は交代で照明弾を撃ち

敵が照準を付けるのを妨害しろッ!」

 

 

※※※※

深海棲艦サイド

 

「クッ…、やってくれるじゃない〜!」

 

ホ級は未だ見えぬ目を、

敵艦隊がいるだろう正面へと向けた。

 

敵は絶え間無く照明弾を

深海艦隊の前方上空へと放つ。

狙いを定めようにも

人工太陽がある為不可能だ。

 

もっとも、視界が回復しても

それは変わらないだろう。

 

じわりじわりと敵は迫ってくる。

深海艦隊は燃料も少なく、

積極的な艦隊運動も取れず

歯痒い思いを強いられる。

 

眩しさを我慢して遠くを見れば

ぼんやりと敵影が確認できる。

 

敵は戦艦を先頭に単縦陣。

その後方からは重巡2隻、

そして更に後方から水雷戦隊。

こちらの反撃が弱いから

本腰を入れ、魚雷で仕留める魂胆か。

 

(戦艦や重巡による砲撃は

激しくしてこないみたいね〜…。

最初を耐え抜けば『勝機』が

あるかもしれないわ…)

 

ホ級の考える『勝機』とは

敵を壊滅させることではない。

敵の痛い所を突き、

今後の作戦遂行をさせなくすること。

 

こちらの戦力は軽巡と駆逐艦。

陣形こそバラバラではあるが、

立派な水雷戦隊である。

 

目には目を、雷撃には雷撃を。

 

つまり…

 

「今はとにかく凌ぐのよ〜。

そうしたら敵の水雷戦隊が

こちらに雷撃しようとするはず、

つまり敵はありがたいことに

柔らかい下腹部をさらけ出すわけ〜。

 

私たちが狙うは『水雷戦隊』。

主力艦を沈めたいところだけど

質より量、特に軽巡と駆逐艦を

減らすことができたら残りは

本隊が撃滅してくれるわ〜」

 

深海棲艦たちは覚悟を決める。

 

 




1ヶ月掛けてネタトークしか
浮かばず情けない限り…。

この小笠原戦役後の日常話は
ホイホイと執筆できるのですがねぇ。

間違いの指摘を頂きました。
もっと精進していきます!


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2-4c 敵西方艦隊を叩け!中編B 【敵魚雷、殺到】

戦闘シーンがうまく思いつきません!
もっと勉強いたします。

今回は天龍視点。
敵の魚雷群が襲いかかります。



「第1梯団、回頭開始ッ!」

 

「おっしゃあ、始まったぜ。

阿武隈のヤツが一番かよ、

オレの獲物もとっとけよな!」

 

天龍は久々の海戦に興奮した。

自衛艦時代には味わえなかった

高揚とスリルが心臓を加速させる。

 

ウイングから入ってくる風は

硝煙の匂いを艦橋内へともたらす。

 

金剛を始めとした主力艦のものか、

それとも突入を開始した阿武隈たちの

ものが風に流されたのかはわからない。

 

「硝煙の匂いが最高だなぁオイ!」

 

「天龍姉さん燃えてますね…」

 

「ッたりめーだろ?!

あぁ~出番が待ちきれないぜ!」

 

妖精が天龍に問う。

 

天龍は水雷戦隊の順番では最後。

つまり阿武隈、川内たちの次。

出番が来る前に獲物が

いなくなってしまう可能性もある。

 

 

なお艦隊についてだが

艦娘の編成は以下の通りである。

 

☆☆☆☆

 

陣形 『単縦陣』

 

金剛   先頭主力艦部隊

利根  (砲撃は消極的に実施)

愛宕   

 

阿武隈  第1梯団

黒潮

親潮

高波

 

鹿島   砲撃専門

     (撹拌を担当)

川内   第2梯団

照月

白雪

村雨

 

天龍※ 【第3梯団】

朝潮

満潮

島風

 

霧島   後方主力艦部隊

筑摩   (警戒・予備戦力)

妙高

 

 

なお、空母の飛鷹と千代田は

護衛艦と合流、退避済み。

 

☆☆☆☆

 

「…現状はどんなだ?」

 

「まだ情報は入ってきてないようです」

 

通信妖精の返事を半分聞いたところで

艦橋に置かれた端末に飛び付く。

 

軍事シュミレーションのように

敵艦へと魚雷が突き進む。

画面上の魚雷を表す印が

敵艦に重なると同時に前方に目を向ける。

 

西之島をバックにした敵艦に

その艦橋の何倍もの水柱が上がる。

 

『提督っ、命中しましたー!』

 

『よくやったぞアブゥ!』

 

魚雷命中第一号は阿武隈らしい。

 

「チッ、『突撃一番』は取られたか…」

 

「天龍姉さん、

その発言はヤバいっすよ…」

 

「あん、なんでだ?」

 

天龍の発言に真っ当な苦言を

言った妖精だったが、その理由が

よくわかっていない天龍。

 

「提督に『突撃一番』を

プレゼントしてやりたかったのによぉ」

 

「「…ブッ!!」」

 

「…なんで吹き出してんだお前ら?」

 

『高波、魚雷不発かも、ですぅ~!』

 

そんな『天龍』の艦橋に

高波の悲痛な報告が飛び込んだ。

 

彼女の魚雷は命中したものの

残念ながら不発だったようで

最後の方は泣き声と化している。

 

『こ"め"ん"な"さ"い"ぃ~!!』

 

『わあったから泣くな高波ッ!

せめて送話のスイッチを切ろうな?!』

 

そのまま数十秒ほど

スピーカーから『高波』の

艦橋内の喧騒が流され続けた。

 

「「……うわぁ」」

 

((どこも大変だなぁ…))

 

聞いている方も

なんともいえない気持ちになる。

 

高波の妖精がそれに気付いて

すぐに送話モードを断としたが、

その数十秒で艦隊の状況は

一変してしまっていた。

 

……

 

『こちら川内ッ!

魚雷の信管の調整をミスって

航走(はし)ってすぐに早爆させちゃいました!

提督ゴメン、全部お釈迦ァ…』

 

『司令官、白雪です!

魚雷発射管に故障、

すみません、発射できません!』

 

第2梯団の川内と白雪の

悲痛な叫び声が入ってくる。

 

提督は咄嗟に指示を出す。

 

『…了解した!

川内は砲撃をしつつ

白雪の側面に回ってカバーしろ!

敵の魚雷を見つけたら機銃を

ぶっ放して破壊するんだ!

壁になれと言ってるようなもんだが

あくまでカバーだ、それで川内が

被弾したら意味は無いぞッ!

 

白雪は魚雷の暴発を防ぎつつ

砲撃と煙幕でやり過ごせ!

反撃を喰らったらエラいことになる、

全速で離脱して処置に取り掛かれ!』

 

『『了解ッ!!』』

 

功を焦り過ぎた川内と、

魚雷発射ができなかった白雪。

提督の声は激しいものの、

怒りの感情は篭っておらず

彼女らを心配しているのがわかる。

 

「…おい、オメーらは

あいつらみたいなヘマすんなよ?」

 

配下の駆逐艦に

同じ轍は踏ませまいと

天龍は厳しく指示する。

 

『こちら朝潮ですッ!

信管調整と発射管の最終チェックは

良好です、お任せくださいッ!』

 

『川内さんたちの分も

お見舞いしてあげるわッ!』

 

『発射管もばっちりー!

酸素魚雷、スタンバイしてるよー!』

 

朝潮、満潮、島風は

僅かな時間で発射管の再チェックを

実施し、不備が無いことを届ける。

 

 

####

 

前を進む川内たち第2梯団の

砲雷撃が終了し、天龍たち

第3梯団も間も無く回頭する予定だ。

 

魚雷を発射するという時であるが

思い出して欲しいことがある。

 

第3梯団、いわば最後。

前にいた梯団の発射した魚雷は

敵に間も無く命中する。

 

…ということは、

 

【敵の魚雷も】此方に向かっている。

 

戦闘で熱くなるのは仕方ない。

しかし、この時ばかりは

提督を始め艦娘たちは冷静さに

欠けていたと言わざるを得なかった…。

 

####

 

 

「天龍、回頭するぜッ!」

 

回頭点である敵前10kmに差し掛かり

取舵を取ろうとした時だった。

 

「天龍姉さん、魚雷ですッ!!」

 

見張妖精の報告が響く。

 

「雷跡…2!!

右艦首、いや、左艦首もだッ!

凡そ5ーッ!間も無く直撃するッ!!」

 

「クソッ…深海ナントカ共がッ、

舐めたマネしてくれるじゃねぇか…!

宜候、このまま突っ切る。

主砲と機銃は前方からの魚雷を

迎撃しろ、とにかく撃ちまくれ!」

 

回頭したら被雷すると考えた天龍。

咄嗟に直進することを選択し、

それを後続にも伝える。

 

「駆逐共はオレのケツに

ピッタリ付いて来いよ!

そうすりゃ魚雷は当たらねぇッ!

 

それにオレたちの後ろには

霧島の姉御や妙高たちもいる。

この向かってくる魚雷群を

やり過ごしたら、テキトーに

回頭して雷撃して退散すっぞ!!」

 

『天龍、俺だ!

魚雷は避けられそうか?

無茶すんなよ?!』

 

提督が心配して聞いてくる。

 

「丁度敵さんが振舞った

遅めなウェルカムドリンクが

オレたちに届き始めたところだ!

心配すんな、様子を見て

雷撃したら離脱すっからさ!」

 

これは事実だ。

天龍とて無駄に肉薄してまで

危険を冒すつもりは微塵も無い。

それに後続の艦娘をも

危険に晒すことなど以ての外。

 

(しっかしビリになって

とんだ目に会っちまったな…)

 

 

意外かもしれないが、

海戦のみならず、陸戦や空戦において

斬り込みをする【先頭】こそが

一番安全だと言われている。

 

空挺部隊も同じで、1番機から

敵の迎撃態勢が整う前に降下できる。

空戦においても、敵爆撃機の砲火は

激しいが、すぐに自分の後方を

続行する味方機を狙うため

初撃さえ躱せばどうということはない。

海戦、特にこのような砲雷撃戦では

その傾向は顕著になる。

 

丁字戦法かつ隊列の後方となると、

その悪い所がまとまって表れる。

 

具体的には、

前方にいた味方を狙った魚雷が、

今自分がいる地点目指して

向かってくるということ。

 

これが【丁字戦法】の欠点。

一言で言えば…

 

 

※※※※

深海棲艦サイド

 

 

雷チ「これで敵は『袋の鼠』ですね、

あとは此方に直進してきたら

必中の魚雷を叩き込む…。

ここからは私の出番よッ!」

 

チ級が意気込む。

 

軽ホ「あら、チーちゃん

意外とお茶目な所もあるのね~♪」

 

雷チ「…だからそこで

茶々を入れないでください」

 

軽ホ「更に言えば私たちの方が

『窮鼠猫を噛む』なのよね~」

 

深海棲艦はこの時を待っていた。

艦娘の砲撃、雷撃に耐え

必殺の魚雷斉射機会をだ。

 

 

………

 

 

深海棲艦の考えた戦法は

次の通りらしい。

 

①最後尾の敵水雷戦隊(天龍たち)の

左舷方向に囮の魚雷を撃つ。

 

②敵に取舵(左に)回頭をさせず、

此方へ誘引して敵の砲撃を妨害する。

 

③あわよくば乱戦に持ち込み

この水雷戦隊を壊滅させ、

補助艦を減らし、人間側の

継戦能力を少しでも削る。

 

 

人間側が艦娘のみで

攻勢を仕掛けてきたため、

深海棲艦としては好都合であった。

 

梯団の後方にいる敵戦艦と

重巡(霧島、筑摩、妙高)にも

魚雷を命中させることができれば、

撃破は不可能であっても

敵の目的であるマーカス奪還を

断念させることも期待できる。

 

 

自衛隊の弾薬(特にミサイル)の

備蓄状況は、艦娘をして敵に

肉薄せしめるほどであった。

 

金剛が提督に提案した『ガス抜き』も

艦娘を前面に出す作戦の

オマケに過ぎず、悲しいかな

戦争を想定していない

日本という国が自らの首を絞める

戦術を採用する理由の一つになった。

 

………

 

「霧島の姉御ッ、

そっちに魚雷が向かうから

当たんねぇようにしてくれよ?!」

 

「了解よっ!

…だからその『姉御』はやめてね?」

 

天龍が霧島を姉御と呼ぶのは

特に意味も由来も無いらしい。

試しに呼んでみたらしっくりきて、

以来そう呼ぶようにしたらしい。

 

天龍たちは速力を落とし、

砲撃を行いつつ直進する。

 

見兼ねた提督が付近の護衛艦や

哨戒機に支援を要請するも、

彼我の距離が近過ぎたり

空対艦ミサイルの未搭載などの

要因が重なっていずれも不可。

 

ここに至り後方主力である

霧島以下3隻に全力射撃を許可する。

 

『後方主力部隊は

天龍たちの援護に当たれ!

 

外側の護衛艦による支援は

誤射の可能性があって出来ん。

既に回頭を終えた艦娘で

再突入を図るぞッ!』

 

しかし、おいそれとフネは曲がらない。

駆逐艦はまだしも、戦艦クラスは

舵が効き始めるまで数十秒掛かる。

 

転舵出来る艦娘から逐次…、

などとしてしまっては

かつての旧日本軍が犯した

『逐次投入の愚』を繰り返す。

それを痛感している提督は

苛立ちながらも艦隊陣形の

再編成を行い、急がせる。

 

「クソッ、また魚雷だっ!」

 

既に敵との距離は7千を切っていた。

敵の砲撃は未だ命中しないものの、

付近に着弾し水柱を上げている。

 

後ろにいる霧島たちの援護射撃だが、

敵との間に天龍たちがいるため

観測機による間接照準を強いられ

思った程の効果は無い。

 

「あいつらは

オレたちをこのまま近付けて

至近距離で仕留めるつもりだな…」

 

天龍は敵の狙いを

一番早くから見抜いていた。

だが、逃げようが無かった。

 

いっそのこと後進で

下がろうかとも考えたが、

その瞬間敵は捨て身で

突っ込んで来るであろうと悟った。

 

現在の速力は舵の効きが

鈍くならないギリギリの低速だ。

ゆっくり進みつつ砲撃を行なって、

事態が変わるのを待っている。

 

敵の魚雷が脇をすり抜ける瞬間、

精神力を奪っている感覚に陥る。

それは後続の艦娘も同じだ。

 

魚雷が途切れた僅かなタイミングで

転舵しようとしたものの、

それを見抜いたかのように

回頭方向に砲撃が集中する。

 

(チッ…!)

 

「戻ぉーせぇ!」

 

すぐに回頭を止め、

元のコース上へとフネをのせる。

 

 

このまま敵艦隊の目の前に

向かっていくしか無いのだろうか?

 

 

敵の艦影が水平線に浮かぶ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




仕事にゆとりができ
時間が確保できたとしても、
即ち執筆の構想を膨らませる
…とはいかないようです。

忙しい時の方がアイデアが
浮かんでいた気がします。
人生とはなかなか大変ですねぇ…。


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2-4d 敵西方艦隊を叩け!中編C 【もう一人のホ級】

南鳥島 庁舎内

「………俺はどうなったんだ?」

…確か菊池と衛星電話で会話中に
身体が宙に舞った筈だ。

肩辺りが焼けるように熱い。
折角鍛えた筋肉が削れるじゃないか…。

「山下3尉、動いちゃだめですよ!」

近くの隊員に咎められ
首を下に向けると包帯が巻かれてた。

「沖の深海ナントカの砲撃が
この庁舎の近くに着弾して、
爆風で吹き飛ばされたんですよ」

どうやら死に掛けたらしい。
鍛えた筋肉が無かったら
あの世に逝っていたかもしれん…。

(別に筋肉があったところで
死ぬ時は死ぬんだろうけどな…)

「他の省庁の職員は、無事ですか…?」

頭と口がうまく働かない。
恐らく鎮痛剤か
麻酔を投与されたのだろう。

「艦砲射撃で負傷者は出ましたが
幸い死者は出ていません。
ま、それもすぐに無意味になるかと…」

えっ、と思い意味を尋ねた。

「沖の艦隊の周りに小型舟艇が
ウロチョロし始めたんです。
きっとこの島を占領する気ですよ…」

別の隊員が壁に空いた穴から
手に持った双眼鏡で偵察をする。

「距離があってよく見えませんが
輸送艦…それもオンボロでどす黒い
気味の悪いフネから化物どもが
乗り移ってますよ」

(こんなところで死ぬのか…)

菊池には弱音は吐かなかったが
やはり『死』の恐怖はあった。

島の北側に布陣した敵は
1時間もすれば上陸するだろう。
奴らがどんな攻撃をしてくるかは
全くわからないが、もし人間を
喰ったりするようなら
迷わず拳銃で自決してやろう。

(それも、腕が動けばの話だがな…)

「み、南側に敵の潜水艦ッ!」

「クソッ、こっちが反撃してこない
から調子に乗りやがって!!
浮上して砲撃するつもりか!」

派遣隊長が怒鳴るが
風前の灯火である俺たちには
負け犬の遠吠えにも聞こえた。

「潜水艦のセイルから
『ちっこい』奴らが出て来たぞ?!」

(至近距離から、
俺たちを仕留める…のか、な?)

そこまで考えたところで
再び思考が出来なくなった。

まあいいだろう、化物に喰われたり
痛い思いをするよりかマシだ。

身体が動くのなら、
倉庫に無傷で残っているゴムボートで
奴らのフネを奪って島から
脱出してやりたかったが、
神様はここで死ねと仰るらしい。

神なんて存在しないとわかった。

「艦上の敵……ピンクの髪…」

隊員の言葉が聞こえ辛くなってきた。

(深海棲艦って…
ピンクの髪なのか?)

「…急げ……ボートを」

(だから、もう…
逃げられ…ないんだぞ?)

元気な他の隊員は
最後の最後まで諦めないらしい。

「山しt…起き……」

ユサユサと強く身体を揺さぶられる。
だが眠気が勝り、そのまま
反応も出来ず意識が遠のく。

「総員……急げ…ボートを…」

派遣隊長の言葉も殆ど聞き取れずに
俺は死ぬ前の猶予期間に堕ちていった。

…………




「何を企んでいやがる…」

 

天龍の額から汗が滴る。

 

ただの汗では無い。

じっとりと纏わりついてくる、

所謂脂汗の類だ。

 

深海棲艦は全力で攻撃してこず

被害を気にも留めず横腹を

此方に曝け出すという状況に、

彼女の第六感は警笛を鳴らす。

 

天龍ほど勘が鋭くなくとも

嫌な予感はしているはずだ。

 

散発的な砲雷撃をしつつ

魚雷で此方の変針を妨害し、

目の前まで近接させる行為には

敵の只ならぬ思惑が…。

 

(いっそのこと後進一杯で

距離を取るべきなのか…?)

 

いやそれこそ駄目だ。

『前進』と『後進』は速力が

同じだとしても舵の効きが異なる。

 

車で例を出すと、前輪操舵と

後輪操舵では回転の円弧の始まりが

異なる場所から始まる。

それがフネにおいても起きるのだ。

 

それに最近の艦船は前進から後進の

切り替えをスムーズに行えるが、

昔のタイプは後進をする場合

『後進用意』を下令してから

推進軸を逆回転させる必要がある。

 

 

天龍や朝潮たちは前方の敵艦に

砲撃を浴びせつつ打開策を練る。

 

 

………

 

 

敵は未だ10隻以上残っていた。

戦闘開始時は24隻であり

砲雷撃により半分まで減らしたものの、

それでもなお反復攻撃を仕掛けねば

マーカス奪還の障害となるであろう。

 

敵西方艦隊を避けては通れない。

菊池提督は可能であれば

この敵を他部隊、護衛艦や

陸上航空部隊に任せたかったが、

どちらも対艦ミサイルの保有率が

低下しており断念せざるを得なかった。

 

「あの目障りな駆逐艦を黙らせろ!」

 

5inch砲が焼き付くのではないかと

思ってしまうほどの砲撃をしてくる

敵駆逐艦を睨みつつ下令する。

 

敵に近付き、必然と視界も開け

後続の朝潮たちも狙いをつけ易くなり

此方の攻撃も密度を増す。

 

『ウザいのよッ!!』

 

満潮の連装砲が火を吹き

敵艦を夾叉し、その後命中弾を出し

見事1隻を撃破する。

 

『…やったわっ!』

 

「いいぞ、もっと撃ち込めッ!

何かされる前に倒しちまえば

こっちのもんだぜ!!」

 

 

そう天龍が言い放った時だった…

 

 

……

 

 

「魚雷多数ッ!!

艦首…いや、前方から

放射状に向かって来ていますっ!

こっ、このままでは

後方にいる『朝潮』や

『霧島』にも命中しますッ!!」

 

「ンなッ…?!」

 

天龍は一瞬で悟った。

 

敵は艦娘を近づけさせて

多数の魚雷を至近距離から

集中させるつもりなのだと。

 

それならば先程までの

散発的な攻撃も頷ける。

 

「…ッ、少し待ってろ!」

 

焦る気持ちと激昂する思いを抑え、

今取るべき行動を考える。

 

(敵は目の前に並んでいる、

オレから見ると放射状だ…)

 

『扇子』の形をイメージしてほしい。

敵艦隊は上部に点在しており、

天龍自身の位置は軸となる『要』へと

差しかかろうとしている。

敵がある一点を狙っている場合、

向かってくる魚雷は角度を伴う。

 

発射時の角度にもよるものの

その集中点を避けることができれば、

敵の魚雷は此方から見て逆V字となり、

左右至近を交差し躱すことができる。

 

天龍は肉眼と双眼鏡を以って

迫り来る魚雷のコースを予測する。

命中予想時刻と現速力を考慮しつつ

持てる頭脳を回転させる。

 

(集中点は……もうすぐだッ!)

 

フネは進んでいる。

 

 

マズい…。

 

 

天龍は無意識に舌打ちした。

自身は回避できるだろう、

しかし後ろは厳しいかもしれない。

 

魚雷を視認し、そのコースを

予測し得たのも先頭にいたからだ。

だがその配置は後続艦にとっては、

先頭の天龍がいるため必然的に

視認を困難としてしまった。

 

 

「よし、総員聞いてくれ……」

 

 

天龍は『とある』指示を出した。

艦内の妖精たちは戸惑ったものの

天龍を信頼して、指示どおり動いた。

 

そして………。

 

 

※※※※

 

満潮 艦橋

 

 

『みんな止まってくれ!

朝潮はオレを避けろ、

これから行き足を止めるっ!』

 

 

天龍の突然の言葉に

後続の艦娘は狼狽した。

 

「ちょっと天龍さん

何をするつもりなの?!」

 

満潮はすぐさま問い質した。

 

ここで停止するなど何を考えているのか。

そんなことをすれば向かって

きている魚雷に自分から

当たりに行くようなものだ。

 

もしや天龍は…

 

『天龍まさか貴女……

身を挺して私たちを?!』

 

霧島が天龍の意図を悟ったのか

後半の言葉を荒げた。

 

『…るせぇ!!

先頭のオレが判断したんだ、

見えてねぇヤツは黙ってろ!』

 

(間違いない…、天龍さんは

私たちを守る為に『壁』に

なるつもりなんだわ!)

 

何か打つ手は無いのか?

いや、他に無いからこそ

天龍はそれを選んだのだろう。

 

『くっ…、こちら朝潮!

速力停止とします、

各艦は前方との距離に

注意してくださいッ!』

 

天龍の意思を無駄にすまいと

言われた通り停止する。

 

「待って朝潮!

このままじゃ天龍さんが…!」

 

満潮が言い切らぬ間に

『天龍』が右にそれ始めた。

すぐに取舵を取り、後続の

朝潮と直角となった。

 

ここに至り満潮も

速力を停止とせざるを得なかった。

 

『てんりゅー…』

 

満潮の後ろにいた島風が

悔しそうに呟く。

 

『どうした島風そんな声出してよぉ?

このオレがくたばるわけねぇだろ。

一旦この雷撃をやり過ごしたら

お前の5連装酸素魚雷を敵に……』

 

その時天龍に敵の魚雷が命中した。

 

水柱が高々と上がる。

一本では無い。2本いや、3本以上が

彼女の艦首から艦尾にかけて

爆炎と黒煙を生み出した。

 

その光景はまるで

『天を昇る龍』の終焉であった。

 

 

……

 

 

※※※※

 

天龍 艦橋

 

 

島風を宥めている時に魚雷が命中した。

 

「がっ…!」

 

自身の頭と脇腹を中心に

激しい激痛が走る。

あまりの痛さに呼吸が出来ず

酸欠になるのではないかと感じた。

 

「天龍姉さん大丈夫ですか?!」

 

副長が心配して声を掛けた。

その言葉さえ今の彼女には

届いていないかもしれない。

 

脇腹の痛みが一番堪える。

 

道端でナイフで刺されたり、

拳銃で撃たれた人間の気持ちだ。

咄嗟に服の裂け目に手を入れ

確かめたが、出血も無く『穴』も

空いてはいないようだ。

 

 

「よ、妖精たちぁあ…無事、か…?」

 

どうにか紡ぎ出した声は

死に掛けのようであった。

 

「現在、急速探知実施中!

浸水箇所多数、応答の無い所も有り

人員把握は困難ですっ!」

 

応急長が叫ぶように返し、

天龍は苦い顔をして頷いた。

 

「…機関は生きてるか?」

 

「どうにか…。

しかし圧が低下していて、

ヘタしたら『死ぬ』かもしれないです」

 

艦橋内は喧騒に包まれてた。

艦内電源は生きており各部の状況は

現代化改装した各種監視装置で

把握してはいるが、

復旧作業については混乱していて

各部の妖精による奮闘も

空回りしていると言わざるを得ない。

 

「後方の朝潮たちは…?」

 

「現在停止しています。

被雷も無いようで、

その場で砲撃を実施中!」

 

天龍は少し安堵の表情を浮かべた。

 

「砲塔は使えるのか?」

 

「電圧が不安定で通常時より

射撃間隔は開くでしょうが、

まだ使えるはずです!

射管装置も無事ですので

やり返すことは可能ですぜ!」

 

砲術長は天龍の考えていることを

瞬時に理解し、適切な回答をした。

 

『天龍』は敵に横腹を向け

格好の目標となっている。

 

だが砲撃を受けつつも、

敵が第二波の魚雷を撃つまでは

反撃をする猶予ができた。

 

「魚雷発射管も同じく!

次弾装填の時間はなさそうだが

一射なら問題ねぇだろっ!」

 

水雷長が伝声管を使って報告する。

 

「お前ら…」

 

妖精の高い士気を見た天龍は

心の中で彼らに感謝した。

 

「…よっしゃあ!

右、砲雷撃戦用意ッ!

やられる前に少しでも倒すぜ、

目標は…中破している敵軽巡!!」

 

狙うは右正横にいる軽巡ホ級だ。

 

艦娘の中でも、こんなに至近距離で

敵と向かい合ったのは天龍が初だろう。

そんな敵艦を睨みつつ、

ふと思うことがあった。

 

敵艦の色も形も『彼女』とは

似ていないのに…。

 

(なんで『アイツ』に見えるんだ…?)

 

 

※※※※

 

深海棲艦サイド

 

 

『あの軽巡、自分を盾にしただと?!』

 

扇形の陣形を活かした雷撃は

先頭の敵軽巡により妨害された。

軽巡は被雷し、その場に停止したが

砲身は此方を向きつつあった。

 

「あらら〜、

作戦が失敗しちゃったわね〜…」

 

ホ級はやはりのんびりした口調で

残念がったが、内心は異なっていた。

 

(もしかしてあの軽巡…)

 

彼女も天龍と同じ事を考えていた。

かつての記憶は未だ曖昧で

姉の名前も顔もはっきりしないのに…。

 

前方の敵がそう思えて仕方ない。

 

これまで一心不乱に倒そうと

していたにもかかわらず、

撃ち続けていた砲身が急に止まった。

 

『あの娘を…撃たないで…』

 

ホ級の頭の中でそんな声が聞こえた。

 

(この声は…私?)

 

至近に天龍の発射した砲弾が

着弾するのも気付かずに

ホ級は『自身』に問い掛ける。

 

『そうよ〜、私は貴女。

そして貴女が撃とうとしているのは

【私たち】のお姉ちゃんなのよ〜』

 

(私の、お姉ちゃん…?)

 

『ホ級何故撃たない?!

聞いているのか、おいッ!!』

 

仲間の深海棲艦の声も

今のホ級には届かない。

 

『被雷して満身創痍、

にもかかわらず奮戦する姿。

正しく天を昇る龍みたいよね〜』

 

(天を昇る龍…)

 

『【からくれなゐに 水くくるとは】。

あの娘を詠んだ歌ではないけれど

そんな表現がぴったりね…』

 

ホ級は自身を狙い撃つ天龍を

まるで他人事のように見呆けた。

 

大破しつつ砲撃を行う天龍の

背後の朝日が後光の如く輝く。

 

フネから血液が流れ出ているのではと

錯覚してしまうほどの紅い光景。

 

 

海をあんなにも紅色に染めてしまうとは。

 

不思議と浮かぶそんな感想。

 

(すごい、綺麗…)

 

ホ級は見惚れていた、

敵である天龍の武人の姿に。

 

(『いつも』格好良いって、

『昔から』憧れていたなぁ…)

 

 

……

 

 

ホ級は自分の名前を思い出した。

自分が『以前』何者だったのかも…。

 

そして自身に迫り来る魚雷を見つけた。

目の前だ、回避は不可能だと悟る。

 

でもよかった、そう感じた。

何故なら……

 

「天龍ちゃんの

戦う姿が見える……。

よかったぁ…!」

 

最期に愛する姉の姿が見れたのだから。

 

魚雷がホ級に命中し、

中破していた船体は容易く散華する。

 

爆炎の後水柱が高く上がり、

それが消え去った時には

ホ級の姿は無く最初から

そこにいなかったかのようであった。

 

千早(ちはや)ぶる神代(かみよ)もきかず、

海面に残るは残骸のみとは…。

 

 

…………

 

 

 

 

 

 

 

 




『千早ぶる 神代もきかず ◯◯川
   からくれなゐに 水くくるとは』

…ある川を詠った短歌です。
軽巡ホ級の正体は明らかですが
そんな彼女の歌もこれまた愉悦。


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2-5 激戦の果てに… 【天龍大破後】

深海棲艦は追い詰められた。
ここから自衛隊の本格的な
反攻がはじまろうとしていた。

同期の死の哀しみを胸に封印し、
目的達成まで泣く事さえ許されぬ。

喪った命と新たな仲間。
隊員や艦娘、そして提督も
立ち止まってはいられないのだ。
それこそが鬼籍に入った者への
せめてもの手向けだと信じて———





天龍は身を挺して後続艦を守った。

 

そして砲身と魚雷発射管を

右に向け、瀕死ながらも弾幕を張る。

 

「お返しだ…オラァ!」

 

ガァン!ガァン!

 

ホ級フラグシップに天龍が放った砲弾、

そして魚雷が突き刺さった。

中破していた船体は千切れ飛んだ。

 

「マストに旗ァ上げろォッ!!」

 

「「応よッ!!」」

 

天龍の罵声の様な指示で

“2種類”の旗流信号が掲げられる。

 

「よ、よくもホッしゃんをォッ!!」

 

リーダーを討たれた深海棲艦は

怒り狂ったかのように砲撃を始める。

 

「…て、天龍を撃たせてはダメよ!

朝潮たちは適宜砲雷撃を実施、

筑摩と妙高は観測機射撃で

残敵を掃討しなさいッ!!」

 

天龍が激しい砲撃に晒され、

ようやく後方主力艦の指揮を執る霧島が

再起動したかのように命令する。

 

それに伴って聴覚が復活し

周りの喧騒が飛び込み始める。

 

『…おい、聞こえてるのかっ!

天龍の状況はどんなだッ?!』

 

どうやら提督はずっと

無線で呼び掛けていたらしい。

 

『すみません司令!

しばし放心状態になっていました。

天龍は敵の魚雷を多数受け大破、

ですが砲身と魚雷発射管は

可動していて攻撃を実施中、

なお通信機器が破損している模様!』

 

霧島は砲撃を浴びせつつ答えた。

前方の天龍のマストには

国際信号書から抜粋したのだろう、

『本艦、通信不能』を意味する

 Y U(ヤンキー・ユニフォーム) 】と

『本艦、援助不要』を意味する

  C  K(チャーリー・キロ) 】、

2つの旗流信号が掲げられていた。

 

(あの娘ったら…馬鹿ッ!)

 

『援助不要』を提督に伝えなかったのは

どうせ助けに行くからだ。

天龍のせめてもの強がりであろう。

 

 

残る敵は7隻、

霧島たちは天龍を庇うように

敵の前に移動し、第二波の魚雷を

放たれる前に倒さなければならない。

 

『霧島たちの砲撃制限を解く、

被害が増える前に殲滅しろ!』

 

提督が言うまでもなく

霧島たちは砲撃を開始していた。

 

今までの戦闘は遊びだと言わんばかりの

精度と弾数が発射される。

 

…ガァン!ガァン!

 

『撃ちます!

天龍さんはやらせませんっ!』

 

筑摩の気合の入った声が

放つ砲弾に込められる。

 

『致し方ありません、

全力射撃を始めますっ!』

 

妙高による砲撃も加わり

着実に敵を削っていく。

 

……

 

一方、砲雷撃をする天龍も

艦内は無事ではなかった。

 

破口からは海水が雪崩れ込み、

格納機材や書類が流される。

電源がショートし、

電灯が消える部屋が相次いだ。

 

妖精については負傷者多数で

未だ所在不明な者もいたが

概ね無事と言えた。

 

 

『これからオレは“盾”になる。

全妖精は水線上に上がれ、

機関科や応急班も例外無くだ。

最悪電源が死んでも構わねぇから

自分たちの命を優先しろ!』

 

 

天龍は被雷前に

艦内にそう令達していた。

 

当然反論はあったが

艦長たる天龍を信じた。

結果奇跡的に死者を出すことなく

総員で対処に当たることが出来た。

 

「テメェら!!

砲塔と魚雷発射管への

電路だけは絶対に守れよ!

天龍姉さんの意を汲んで

為すべきことを果たすんだ!」

 

電機妖精の指示が

暗い艦内に響き渡る。

 

ただでさえ狭い通路を

数十人規模の妖精が詰めていた。

ある者は応急修理を行い、その横で

伝令が罵声を飛ばし衛生妖精が

負傷者の手当てを行う。

 

この緊急事態にあっては

職種の違いなど関係無かった。

 

攻撃、修理、治療の3つの動作のみが

そこには存在し、それ以外は

優先度が低いと見なされた。

負傷程度の低い妖精は

自ら職務に復帰した。

 

その献身と高潔さは

絶賛されるべきものであった。

その甲斐もあって

大破という状態を受けながらも

重要区画は持ち堪えることが出来た。

 

 

……

 

 

…………

 

 

掃討は呆気なく終了した。

 

戦艦や重巡の大口径砲による

観測機とFCS(射撃管制装置)を使った

高精度射撃は10分もかけずに

残っていた敵西方艦隊を屠った。

 

大破停止していた天龍には

敵の攻撃は命中しなかったのだ。

妖精による必死の対応のお陰か、

はたまた霧島たちの攻撃が

敵の勢いを凌駕したか。

 

【最初からこうしていれば…】

 

金剛や満潮を始めとした

艦娘の誰もが心の中で感じていた。

 

提督も顔には出さなかったが

後悔と懺悔の念で一杯であった。

 

戦果としては完勝と言っても

過言ではないのかもしれない。

 

しかしそれは天龍の挺身が

あって成せたことであり、

もし彼女の咄嗟の決断が無ければ

朝潮から後方の艦娘は被雷して

被害が拡大していたことだろう。

 

(備蓄弾薬の少なさ、停止している

敵に対する単縦陣からの砲雷撃戦、

敵の狙いを見抜けなかったこと。

挙げればキリがないが

すぐにでも改善しなければ

いけない事項が山ほどある…な)

 

『金剛』艦橋で端末を操作しつつ

俺は被害状況の把握と改善点を

リストアップしていた。

 

 

『…わりぃ提督、ドジ踏んじまった』

 

「何言ってんだお前。

謝らなきゃいけないのは俺だっての」

 

全ての敵を敵を倒した後

案の定『天龍』の機関は壊れた。

 

後方の父島に待機していた

多目的支援艦が護衛艦を伴って

西之島まで進出。

それに船体を曳航してもらいつつ、

天龍は支援艦に移乗し、

借用した端末から通信を入れる。

 

大破してそこら中から

黒煙を上げる姿を見たときは

沈没するのではないかと危惧した。

天龍の指示で艦内の妖精は

喫水上の区画へと退避したため

人的被害は軽微に抑えられ、

被雷後の懸命な処置によって

どうにか沈没や転覆は免れた。

 

俺とて天龍に謝りたい。

しかしそれでは以前の

父島沖海戦となんら変わらない。

 

彼女らが求めているのは

提督による労いや心配の言葉だ。

例え本心では懺悔したくても

言ってはいけないのだ。

 

「ったく心配かけんなって、

妖精だってビビっちまうだろうに」

 

『ちゃんとオレが命令して

喫水線上に退避させたし戦死者は

いねーから安心しろよ!』

 

「当たりどころが悪かったら轟沈して

全員そろって戦死するだろ…。

んで、そしたら俺はこう言ってやるぜ

“さようなら天さん……”ってな!」

 

『天さんって誰だオイッ?!

…ってかそれ立場逆じゃねェか?!』

 

だからこうして馬鹿な会話をする。

この通信も全艦娘が聞いていて

天龍や俺も健在であると

アピールする為敢えて明るく振る舞う。

 

 

ブラックジョークもいいところだが

それに安心する艦娘も少なくない。

 

「天龍ごめんなさいデース…」

 

後ろで聞いていた金剛が

少しバツが悪そうに言った。

 

『そんなこと言うなよ、

こうして全員沈まずにいられたんだ。

オレも久々の海戦だったから

腕がなまっちまっただけさ!

 

…にしても魚雷が不発だったり

早発だったりと不具合が

多いんじゃねぇのか?

もしマーカスの敵といざ本番だったら

きっとヤベェことになってただろうな。

 

結果的には改善点がわかったし

ま、良かったんじゃねーの?』

 

天龍の発言は的を得ていた。

戦果は完全撃破、艦隊の被害は

大破1と艦娘のみの水上戦力の

戦闘を考慮しても

対費用効果は高いと言える。

 

ほぼ全艦娘が太平洋戦争から

実戦を経験していないこともあって

戦闘の進め方に難点があったが、

これはいずれ馴れることだろう。

記憶はあっても戦い方は忘れてしまった、

ゲームでいう『Lv.1』といった具合か。

 

緊張もあってか、不具合を発したり

した事例も幾つかありこれも

やはり場馴れするしかない。

 

「被害は受けたものの

敵の西方艦隊撃破を達成した。

付近に敵影も無いため、

この海域を離れ父島沖で

待機している部隊と合流する!」

 

俺が高らかに宣言すると

待っていたかのように無線が鳴る。

任務部隊指揮官から全般宛てに

艦隊を再編成し父島に向かう旨が

下令され、陣形を組み東行する。

 

曳航される『天龍』や

軽空母、DDHが中心に陣取る。

たかが約130kmの移動の為に

陣形形成に1時間も浪費したりと

いちいち面倒臭いかもしれないが、

その努力を惜しんだがために

沈んだかつての艦船は少なくない。

 

 

真方位270度(後方)へと位置を変えた西之島を睨む。

早朝から始まった海戦の“勝利(被害)”を

祝うかのように火山活動を再開していた。

 

祝福の噴火かそれとも

ざまあないと嘲笑っているのか。

だが、考えたところで無駄だと悟り

真方位90度(前方)へと視線を変える。

 

こんなところで感傷に

浸っている時間はないのだから…。

 

 

※※※※

 

『満潮』 艦長室

 

 

提督は艦娘たちに父島回航までの間、

交代で休息を取らせることにした。

 

満潮も休息中の一人だった。

彼女自身は休みなど要らないと

主張したが他の艦娘が強制させた。

 

不要だと主張した理由は

言うまでもなく『天龍』についてだ。

 

 

満潮だけではないが

昨夜の夜戦進言そしての先ほどの

砲雷撃戦における天龍の大破。

 

(もしあのまま夜戦をしていたら…)

 

大破1隻のみで収まっていた被害は

恐らく戦力・士気共に許容出来ない

ところまでいっていたことだろう。

 

(私は何もできなかった…!)

 

満潮はベッドでひたすら悔いた、

謝罪の言葉さえ掛けられないほど。

 

<<ピピピッ!>>

 

艦長室の卓上に備え付けられた

端末から無機質な着信音が響く。

 

「…何よ、放っておいてよ」

 

そのまま無視し続けたが

発信者は諦めないらしい。

 

取り敢えず出るだけ出てやり過ごそう、

そう考え仏頂面で応答した。

 

「はい満潮です……って

きゃあああああ?!?!」

 

画面には目玉らしき不気味な物体。

此方を覗き込むようにソレは

ギョロギョロと動いている。

 

『やっほーミッチー、俺だぁ!』

 

言うまでも無い、提督であった。

 

彼とわかった瞬間殺意が湧いたが

すぐにそんな気も無くなった。

 

「なによ揶揄(からか)うだけなら

切るわよじゃあね…」

 

『ちょい待ちちょいまち!

ちゃんと用件があるから

チャンネルはそのままそのまま…』

 

今一番掛けてきてほしくない人、

いや、掛けられると困る人だった。

 

『顔に変な模様ができてっぞ?

さてはベッドにうつ伏せに

なって悩み事を抱えているな〜?!』

 

「べっ、別にいいでしょ?!」

 

『ま、冗談はこれぐらいにしておいて

少し真面目な話でもしようか…』

 

そう言うと提督は神妙な顔つきになった。

通話を切るタイミングを逃した、

そう感じた満潮であったが

切ったところでまた掛かってくる

であろうと考え直した。

 

(一体なにを言うつもりかしら…?)

 

……

 

『——満潮は偉いよ。

昨日の夜戦進言について

俺は却下したけど、お前が戦況を

打開して作戦を成功させようと

努力しているのはわかってるぜ。

 

さっきだって敵の駆逐艦を見事

撃破して被害を食い止めようとした。

そのお陰で天龍は沈まずに済んだし

敵艦隊も撃滅することができた』

 

「違うって言ってるじゃない。

私の焦りと力不足が天龍さんと

艦隊を危険な目に遭わせてしまったの!」

 

『そんなことはないぞ?

結果だけを見ればそうかもしれないが

満潮の果たした役割は賞賛すべきだ』

 

提督は満潮を褒めた。

対照的に彼女は自分が悪いと言った。

 

満潮は思った、

提督は自分を褒めて気分を

良くさせようとしているのでは?と。

過剰と感じるぐらいに褒めるからだ。

 

(見え透いたことしないで欲しいわ…)

 

口には出さぬが顔と態度には

恐らく出てしまっているだろう。

提督はそれに気付かないのか

同じ言葉を繰り返す。

 

『お前はやれる事をした、

それでいいじゃないか。

過ぎた事を悔やんだところで

被害が復旧するわけもないし、

今は胸を張って次の戦闘では

もっと頑張ればいいだろ?』

 

——胸を張れ。

提督のその一言で満潮はカチンときた。

 

「…私の気持ちも分からないくせに

適当なこと言って慰めないでッ!

私は危うく味方を沈めてしまう

ところだったのよ?!

 

夜戦を仕掛けようって言ったら

黒潮や親潮に『潜水艦がいる』って

窘められた…自分だってこの前まで

『みちしお』(潜水艦)として生きていたのに

このザマよ、惨めにも程があるわッ!」

 

提督は黙って聞いていた。

満潮からは溜め込んでいた感情が

止め処なく溢れ続ける。

 

自分の未熟さ、考えの甘さ…。

いわば彼女の愚痴であった。

 

涙ながらに、時にどもりながらも

満潮は言いたい事を吐き出した。

 

……

 

『…まだ言いたいことはあるか満潮?』

 

ブンブン

 

黙って首を振る満潮。

顔から涙が飛び散るのも

気にせずにゆっくりと。

 

『——一つ小話をしよう、

どっかのとある幸せな男の話だ。

そいつは社会的地位もそこそこ高く

職場では美少女に囲まれている。

カネ、オンナ、ケンリョクの

三拍子揃った羨ましい野郎だ…』

 

一体なんだ?と思ったが

静かに提督の話を聞くことにした。

 

『その男と美少女たちは軍人でな。

日々戦いに明け暮れていて

いつ戦死するかもわからない。

男はセクハラばかりしているが

内心ではそんな美少女を尊敬し、

掛け替えのない存在だと思っている。

 

男は意外と臆病でな、

普段の態度はそれをバレまいと

虚勢を張っているだけなんだ。

…でも彼女たちを愛する気持ちは

本物でそれだけは誰にも負けない』

 

(それってもしかして…)

 

『そいつは彼女たちが傷付く姿を

見たくはない、出来ることなら

軍人なんて辞めて平和な日々を

謳歌してほしい、そう思っている。

 

…だが情勢はそれを許してくれない。

だからせめて少しでも傷付かない

ように味方の水上部隊や基地航空隊に

“土下座して”一隻・一機でも多くの

兵力を拠出してもらったそうだ。

 

そうしても敵は有力だった…。

味方に戦死者を出してしまうし

政治家と国民は当事者意識が無いのか

現実に向き合わずに見当違いな

【おはなし会】で貴重な時間を浪費、

これじゃあ遣る瀬無いよな…』

 

…間違いない。

提督自身の事を言っているのだ。

 

(…土下座まで?!

確かに護衛艦はほぼ総出の

大艦隊とは思っていたけど

まさかそこまで…!)

 

『その努力は【お前にも】伝わって

いたみたいで嬉しいよ。

普段からツンツンしてて

俺の言う事全てにダメ出ししてたのは

お前なりに【最善の結果】を

導き出そうとしてくれてたんだな…』

 

提督は画面の向こうで寂しく笑った。

 

「そ、そんなつもりじゃ…」

 

『俺の事はどう思ってくれても

いいからもう休むといい。

ただ、その男が目の前の

美少女に今してほしい事、

それは…』

 

「それは……?」

 

満潮は提督に問う。

 

『——元気な声でいつもみたいに

罵声を艦隊に響かせること。

ムードメーカー、とは違うが

尻を叩くしっかり者の嫁みたいに

セクハラ弱虫な旦那を支えてくれたら

その男は喜ぶんじゃないかな!』

 

吹っ切れた様に笑う提督に

思わず釣られて笑ってしまう。

 

「なにバカなことを言ってる訳!

【無駄な電波を使うな】って

先輩の通信員から教わらなかったの?

…っていうか誰が嫁よ?!」

 

『うへぇ…いつもの

満潮に戻ってやんの!

もうちっと名前のとおり

(しお)らしい”感じで…』

 

「…はぁ?!何バカ言ってんの?!

バカとセクハラは死ななきゃ

治らないようなら、今から

わからせてあげるわよ?!」

 

『おっと電波状況が悪いな…。

じゃ、父島沖に到着したら

また連絡するからよろしこ〜』

 

「フンッ!

二度と掛けて来なくていいわよッ!」

 

口は悪いが顔は正反対だ。

此方から通信を切る。

 

……

 

「——ふふっ、司令官のば〜かっ♪」

 

満潮は一人微笑む。

 

悩み困っているのは

自分だけではなかった、

提督も知らぬところで人知れず

手を回してくれていたのだ。

 

愚痴とも取れるような事を、

嫌な顔一つせず提督は

しっかりと聞いてくれた。

そればかりか彼の悩み、弱音まで

ぼかしながらであったが

自分に話してくれた。

 

——頼ってくれたのだ。

 

(劣等感や悩みを持ってるのは

なにも私だけじゃない…。

正直あんなに言いたい事だけ言って

司令官に怒られると思ってた。

でも彼は私を受け入れるだけでなく

自らの弱さや悩みを打ち明けて

『俺だって悩んでる』って

私を頼ってくれた…)

 

嬉しかった。

提督にも悩みがあるとか

シンパシーを感じた訳ではなく、

単純に自分を頼ってくれたことがだ。

 

トクン…

 

日頃は飄々としているが

実は私たちのことを思ってくれている。

直接ではなかったものの

『愛している』と言ってくれた。

 

先ほどの提督の言葉が

胸の鼓動を高鳴らせる。

 

「少しだけだけど、

司令官のこと———見直した、かも…」

 

彼女の心境にどんな変化が

あったのかはわからない。

だがその後は吹っ切れたように

他の艦娘と無線でやり取りしており、

自分の中で心の整理がついたのだろう。

 

提督に対する想いも

少なからず変わったのかもしれない…。

 

 

……

 

「———なに言ってんの?

真面目に仕事しなさいよ!

ホントに撃つわよ?!」

 

『フフフ…この俺に脅しが

効くと思っているのかぁ?!』

 

ギャーギャー騒ぐ2人を

姉妹艦である朝潮が叱る。

 

『司令官、満潮うるさ過ぎます。

無駄な電波の輻射は控えてください』

 

「だからうっさいって

言ってるじゃないのよ!!」

 

『…お前が一番煩いんじゃね?』

 

「なんで急に冷静になるのよぉ?!」

 

 

普段と変わらぬやり取りは

艦隊の雰囲気を和ませた。

 

それは朝潮も感じており

口では注意しつつも内心では

妹の心情の回復に喜んでいた。

霧島や飛鷹、満潮と同じく

落ち込んでいた金剛も

静かに提督に感謝した。

 

上空を警戒する艦載機や

哨戒機でも通信は聴取されていた。

 

海上とレーダー画面を睨みつつも

緩む頬は全機共通であった。

 

士気は概ね良好、

艦隊は父島沖へと東行する。

大破した『天龍』は後方艦隊と共に

戦闘終結まで残置となるだろうが

差し当たり問題は無いだろう。

 

 

(天龍さんは大破してしまったけど

この借りは倍返し…いいえ、

10倍返しにしてあげるんだからッ!

勿論、被害を抑えた上で…ねっ)

 

父島の東にいるであろう

深海棲艦を撃滅してやるぞ、

満潮は彼女なりの戦い方を見つけたようだ。

 

 

※※※※

 

金剛 艦橋

 

 

「——急速に視界が悪くなって来た、

現視界200メートル!!」

 

司令席でうたた寝していた俺は

哨戒長である航海長の声で起きる。

 

「うげっ…またこのパターンかよ?!

『ドロップ』かもしれないが

全艦最微速、警戒態勢を取れ。

レーダーと見張りは

小さな目標でもすぐ報告しろ!」

 

さて、どうなるかな…。

 

「Hmm…これが日向が言っていた

『ドロップ』というものデスネェ…」

 

「関心してないで警戒しとけよ?

もし深海棲艦が出現したら

天龍が沈むかもしれん」

 

護衛艦も含めた全艦隊は

対水上・対潜見張りを厳となす。

 

——10分ほど経過した時だった。

 

「真艦首3.0(さんてんまる)(300m)

に艦影らしきもの2(ふた)ッ!

…数増えるッ!!」

 

「90度300に反応多数!」

 

見張り妖精にやや遅れて

電測妖精から報告が上がる。

 

「対水上戦闘用〜意ッ!」

 

新たな艦娘かもしれないが

敵である可能性は否定できない。

 

「正確な数知らせ。

可能であれば艦種を特定しろ!」

 

……

 

数は7。

艦種については霧のため不明瞭だが

軽巡クラス3、駆逐艦クラス4とのこと。

 

『前回』は軽空母である鳳翔であり

識別は容易であったが、今回は

何となく見えるかな程度の視界である。

深海棲艦による騙し討ちかもしれない。

 

とはいえいきなり撃つわけにもいかない。

当たり障りない手段として

発光信号を使用することにした。

 

 

『こちら日本国海上自衛隊、

特務自衛艦の金剛である。

貴艦らの所属を問う』

 

 

やや間があって

後方に控えていた軽巡クラスから

同じく探照灯で返信があった。

 

 

『こちら“元”自衛艦の軽巡洋艦大井。

全艦、敵ではありません。

本艦の内火艇にて貴艦へ

向かいたい旨、許可願う』

 

 

「…マジ?“大井っち”かよ?!」

 

張り詰めていた空気は

俺の一言で容易く崩壊した。

 

「そこは凛々しく謙虚に

対応して欲しかったデース…」

 

「嬉し過ぎてはしゃいでしまった。

はんせいはしている」

 

「もうスルーするデース…。

ではワタシは舷梯の準備を

見に行ってくるデース!」

 

スルーされた、意外とつらい。

 

「うん、よろしく頼む」

 

……

 

「ミナサ〜ン、お久しぶりデース!」

 

金剛の士官室に集まった新メンバー。

 

ちなみに目の前にいるのは

次の7人の艦娘だ。

 

◯軽巡洋艦

龍田、大井、鬼怒、

 

◯駆逐艦

松風、長月、望月、秋雲

 

 

「こいつぁあ大収穫だな!」

 

「まるで漁みたいに

言わないで欲しいデース!」

 

金剛の文句をスルーしつつ

彼女たちに今の情勢を伝える。

 

「まずは俺から自己紹介をしよう——」

 

ドロップした艦娘たちを前に

簡単な挨拶で好感度を上げる作戦。

 

(ここは手堅く真面目に…)

 

「俺はイケメンで比較的高収入、

海軍少佐と同等の3等海佐。

夢は全艦娘とのハーレム、

んでついでに深海棲艦の撃滅…」

 

——完全に色々と失敗した。

後ろに控える金剛のため息が地味に痛い。

 

(やべっ?!

口を滑らせて本音を言っちまった!)

↑何故そうなるのか…。

 

ちなみにこの光景は

端末に付属するカメラを通して

艦娘だけでなく『加賀』や

遠く市ヶ谷の海幕に中継されている。

 

本土側の音声は入ってこない(強制排除)ので

お叱りは無いが、それはそれで逆に怖い。

まぁここは俺のフネだからな、

好き勝手に言いたい事言ったもん勝ちだな。

 

「どうした金剛ため息なんか吐いて。

…もしかして、

名乗るのを忘れたからかな?」

 

「…違いマス」

 

面倒臭いと言わんばかりに

露骨に目を逸らす金剛。

 

金剛の中の提督LOVE度が

99から98まで一気に(少しだけ)下がってしまう。

 

「なにこの人…」

 

堪らず大井がぽつりと漏らす。

大井は先述の通り元自衛艦。

俺の記憶では長月、望月そして秋雲も

かつて護衛艦であったはず。

 

「初めましてだなみんな、

第101護衛隊司令の菊池3佐だ。

——斯々然々で深海棲艦から

日本を守る為に提督である俺に

君たちの力を貸してほしい」

 

大まかに現代の世界情勢を伝えた。

 

「いいですよ〜。

ところで艦娘として天龍ちゃんも

この時代にいると秋雲ちゃんから

聞いたのだけれど〜?」

 

流石元自衛艦『あきぐも』、

こういう時に戦後組がいると助かるな。

 

『あきぐも』は俺が入隊した時には

もう廃艦だったが、艦これの影響で

色々と調べるうち先輩から聞いた

“ある話”で弄ることにした。

 

「——『あきぐも』ってアレだろ。

練習艦時代に実習幹部が自殺して

3戦速で港に向かって航行中に

火災が起きて沈みかけたフネだろ?」

 

「べっ、別にあれは乗員が

やったことで秋雲は悪くないしぃ…」

 

オータムクラウド先生も

苦い過去を掘り返されてタジタジ。

ドヤ顔ばかりなイメージの秋雲だが

こんな一面が見られるとはな…。

 

そんな秋雲を見かねた龍田は

助け舟を出すことにしたようだ。

 

「あら〜秋雲ちゃんは

色々やらかしちゃってるみたいね〜」

 

…助け舟、のハズだよな?

 

「龍田さんまでヒドいよぉ〜」

 

「ま、まあ龍田もそのぐらいにしようぜ?」

 

結局俺がフォローに回る羽目に。

 

「そうですね〜。

提督がそう言うのなら

弄るのはやめましょうか〜」

 

これでおしまいよ〜、みたいな

満足そうな笑顔がニクい。

 

余裕そうな龍田に意地悪でも

しようと考えたか、天龍が

 

『——おぅ龍田、久しぶりだな!』

 

「あらぁ〜?!?!

天龍ちゃんがこんなに薄っぺらに〜!」

 

支援艦の端末でやりとりを見ていた

天龍がビデオモードで割り込んできた。

 

龍田ののんびりした口調からは

伝わりにくいが驚いているようだ。

薄い箱の中に自分の

姉がいたらそりゃビビる…。

 

 

——ポカーン…

 

何人かの艦娘が、天龍の写る

端末を交互に見比べながら

目を点にしている。

 

(そっか、現代を知らない艦娘は

パソコンどころかテレビも

見たことないからわからないか…)

 

鳳翔と那珂の時を思い出した。

松風や鬼怒の目が点になっている。

 

大まかにパソコンの説明をした後は

姉妹同士の仲睦まじい会話が始まる。

 

「そうなのね〜天龍ちゃん。

元気そうでなにより〜!」

 

『提督は見ての通りこんなんだけど

意外と頼りになっから心配すんな』

 

「…オゥ、天さん色々ひどいっすね」

 

褒められてないようだが

天龍としてはプラスの意味らしい。

 

よかったな天龍よ、

その“おっぱい”が無かったら

セクハラ100回の刑だったぞ?

まぁ無くてもするけど…。

 

『お、オレは別に興味はねぇけど

提督を慕ってるヤツは

艦娘にも意外といる、ぜ…?』

 

(…相変わらず分かり易いわねぇ〜)

 

この時龍田は天龍の

僅かな表情の変化を見逃さなかった。

 

「へぇ〜…天龍ちゃんが

“好き”そうな殿方ね〜」

 

『ンなっ…?!』

 

画面上の天龍が見るからに真っ赤に

なり言葉も詰まってしまう。

 

「そそ、モテて困っちまう。

俺って罪な男だよな〜。悪いな天龍、

お前の気持ちに気付いてあげられなくて」

 

いやぁ参っちまうぜ、と

頭を掻きながら満更でもない顔をした。

 

『…こ、コラッ!!

勝手に話を大きくするなっ!』

 

「天龍ちゃんったら可愛い〜」

 

「俺は自他共に認めるセクハラ王。

龍田にだって時期を見て敢行するから

ゆっくりと待っているがいい」

↑なんだコイツ

 

「あ、あら〜、どうしましょう〜…」

 

龍田の機微に触れるかと思ったが

俺のボケに乗ってくれたようだ。

 

仮に龍田に男の“アレ”を斬られても

今の俺ならまた生えてくるだろう。

ドロップによる嬉しさのあまり

謎の自信が湧いてくる。

 

でも流石に龍田が引くかもしれないので

冗談はもうやめることにした。

 

なんか怖い目つきで笑ってるし…。

僅かに頬が紅潮しているのは

内心怒っているかもしれん。

 

(あ、あら〜?

わ、私としたことが〜…。

どうして顔が熱くなるのかしら〜?)

↑意外と照れてる?

 

マジで斬られちゃ堪らんからな。

てか他の艦娘の視線が痛い。

 

「海上自衛隊も落ちぶれたわね…」

 

大井の一言が痛い。

ダイレクトに俺をダウンさせる。

すんません大井っち。

 

「あはっ!キミ面白いね!」

 

「なんか側から見てるだけなら

退屈しなさそうじゃん?」

 

「こんなのが司令官とは…」

 

松風と望月にはウケたが

長月は俺に対して不満のようだ。

これから指導(調教)してあげるとしよう、

のびのび生きないと人生楽しめないぞ。

長月は真面目そうだしなー。

 

『——鬼怒元気にしてたー?!

ずっと会いたかったんだからね!』

 

天龍の次は阿武隈。

画面がポンポン変わるが

一体誰がそれを咎めよう。

 

「お〜阿武隈じゃん、久しぶり!

可愛い妹を見れて鬼怒も嬉しいよー!」

 

大井たちは龍田や鬼怒のように

姉妹艦がまだいないため寂しそうだが、

かつての仲間と交流する様子は

見ていて心が温まる。

 

(北上や睦月だっていつか

必ずドロップさせてやるから

それまで待っててくれよ…!)

 

 

新たな仲間と亡くなった仲間。

艦娘に対しては嬉しさを見せるが

内心では戦死者に対しての

言い様のない気持ちが渦巻く。

 

…だが、それを吐き出すのは

この作戦を成功させてからだ。

艦娘の中でも村雨や大淀、秋月は

戦死者が出たことで暗然としている。

 

それに弱音を吐いたところで

得られるものなど一つもない。

 

今の第1護衛任務部隊(俺たち)に出来るのは

敵を撃滅し、海上貿易を再開させること。

それが亡くなった者への

最大の供養であるのは明らか。

 

無意識の内に厳しい顔になる。

 

すぐに気付き、辺りを見たが

俺に勘付いた艦娘はいないようだ。

 

(今は喜ぶべき場面だ…)

 

心を入れ替え、無理矢理

顔をいつものように笑わせる。

ややぎこちないが、まあいい。

 

30分程艦隊は止まったままであったが

敵の襲撃は幸い無かった。

どうやら小笠原諸島西方の

制海権を握れたようだ。

 

 

我が艦隊の被害は———“軽微”である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———“軽微”、である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




天龍は大破してしましたが
新たに天龍型の怖い方とコロンビアさん、
その他の艦娘がドロップしました!

補給が終わったら東進します。
でも大艦隊な為時間が掛かります…。


天龍が盾になった件ですが、
私としてはもっと上手くやれたと考えます。
…しかし提督が『陣形』にこだわった為
結果的に天龍が大破してしまったかと。

私自身が書いている小説ですので
提督を「俺最強!」にすることも
可能ですがそれではダメですよね。
水雷屋である帝国海軍の南雲中将や
どこかの銀河の英雄的な伝説の
『魔術師』や『常勝』提督なら
無傷でこの戦いは勝てたでしょう。

…しかし、新米で艦隊運用のイロハを
知らぬ彼には厳しいのではないか。
そんな提督のこれからの成長も
見所にしていきたいと思います。
駄文失礼致しました。


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2-6A 艦娘の心情 【大淀の場合】


父島の後方艦隊と合流し、
補給と修理を行うこととなった艦隊。

補給を待つ間、
時間に余裕ができた提督は
艦娘の心情把握に努める。






 

一通り挨拶が終わったところで

この後の行動を示達した。

 

なお、龍田たちドロップ艦娘には

それぞれのフネに戻ってもらった。

 

意思疎通に欠かせない無線については

臨時措置として、民間にも割り当て

られている電波型式・周波数を

活用することとなった。

 

彼女らの通信機は帝国海軍時代の

物であるが、電波型式と

周波数さえ合わせれば交話できる。

 

自衛隊の艦隊内に於いては

『秘話装置』と呼ばれるものが

噛ませてあるため同期できない。

周波数を合わせても、持っていない側は

宇宙人のような音が聞こえるだけだ。

 

そこで電波があまり遠くまで

飛ばずに近くの船舶とやり取りできる

程度の周波数を選ぶことにした。

空中線電力にもよるが、

概ね本土には影響はないはず。

 

(本土に帰ったら内局とか

海幕にドヤされるかもな…)

 

だがこの戦時にそんな悠長な事を

言ってはいられないのも事実。

事後連絡になるが部隊指揮官から

海幕の指揮通信情報部に連絡し、

そこから関係省庁へと報告された。

 

国が無くなるくらいならと

電波を管理する総務省も

超法規的措置として黙認してくれた。

日本もまだ捨てた国じゃない。

 

余談になるが、自衛隊には

総務省から無線で使う周波数を

割り当てられているのだが、

範囲が狭いとか稀に海外からの

混線があったりと、軍隊として

少々やり辛いこともあったりする。

 

(ま、基地に帰ったら上申すっか…)

 

閑話休題。

 

……

 

「——父島沖の後方艦隊と合流し、

燃料・弾薬を可能な限り搭載する。

その間手空きは休息し、

同時に被害箇所の修理を行う」

 

目の前にある作戦支援端末には

参加全艦艇のステータスが表示され、

戦力外認定されたフネには

赤いマーカーが引かれている。

 

大破した天龍を始め

護衛艦や輸送艦の一部が

リストアップされていた。

 

マウスでクリックすると

そのフネのするべき行動・作業が

事細かに書かれている。

 

「天龍、お前は到着したら

すぐに外板と水線下の修理だ。

他から手空きの応急工作員を

派出してもらえることになったぞ」

 

任務部隊司令部も優秀だ。

残置する自衛艦や艦娘の

応急員・妖精を応援要員として、

被害を受けたフネに

派遣して戦力の復帰を図る。

 

天龍は流石に直しきれないが

沈没しかけているため優先度は高い。

 

それと同時に彼女に積まれている

砲弾や魚雷、火薬類も下ろす。

引火を防ぐためでもあり、他の艦娘へ

譲渡して継戦能力を高めるためだ。

 

『なんとかなりそうだな。

折角龍田もドロップしたしな、

まだ死んでられねぇっての』

 

相変わらず口だけは達者だ。

 

「死ぬまで戦わせろ、なんて

流石に言いはしないか〜」

 

『死んだら戦えねぇだろうが。

それに、それは只のバカだっての』

 

ご尤もだ、それを聞いて安心したぜ。

 

……

 

「先ほど指示された順番を守れよ?

補給待ち・終わった艦娘は

交代で警戒の任に付くこと!

護衛艦ばかりに任せちゃ大変だからな」

 

『『了解しました!』』

 

艦娘の返事を聞いた後、

俺は集結した艦隊を見渡す。

 

(…やはり無傷とはいかない、か)

 

天龍の他にも、大穴が開き

そこから黒煙を上げる自衛艦がいた。

 

現代の軍艦…護衛艦というものは

装甲らしい装甲は無いに等しい。

 

主兵装がミサイルということもあり

それを迎撃するのが優先に設計される、

つまり可能な限り軽装甲なわけだ。

 

“被弾しなければどうということはない”

“別に、全部迎撃してしまえば

装甲など無くても構わんのだろう?

 

…という設計思想と捉えて構わない。

 

(輸送艦も中破、俺の古巣である

『むらさめ』も損害を受け、

戦死者も出てしまっている…)

 

艦内は恐らく、地獄だ。

 

聞いた話だと『むらさめ』は

至近弾による船底の破損を受け、

被害箇所にいた乗員は“潰された”らしい。

発見されたとき、潰れた室内から

溢れる海水は赤黒かったそうだ。

それが何なのかは言うまでもない。

 

輸送艦『しもきた』については

誘爆した対空ミサイルによって

後部の上甲板は捲れて使用不可能、

隊員・乗員“だったモノ”が

そこら中に散らばったそうだ。

 

上甲板を片付けてからも、

直下の艦内からは肉片が見つかり

現在でも悲鳴が絶えないらしい。

 

(……やりきれん、な)

 

想像しただけで吐き気がする。

この『金剛』もそうなるのかと

考えただけで寒気が走った。

 

(いかん…今は感傷に浸って

いる場合じゃないんだぞ!

これ以上増やさないための

方法を考えないとなんだぞッ?!)

 

金剛に気付かれないように、

音をなるべく立てぬよう

自分の頬を強めに叩く。

 

「…どうぞ提督、ブラックコーヒーです」

 

「ん、さんきゅ」

 

俺の心情を察してくれたのか、

士官室係の妖精がマグボトルを差し出す。

 

(…って熱っ?!)

 

真夏にホットコーヒーは予想外だった。

まさかホットで出されるとは…。

 

(…喉が焼けるかと思った)

 

味は正直わからなかった。

敢えて熱いコーヒーを選んだのは

彼なりの気遣いかもしれない。

 

お陰で頭が少しすっきりする。

 

(この後の作戦を立てないとな…)

 

死傷者の処置や応急修理については

司令部にいる担当者がやってくれる。

ここで俺が適当に出ていったところで

逆に足手まといになるし、

俺には俺のやるべきことがある。

 

「テイトクどうかしましたカー?」

 

金剛には見られなかったようだ。

提督は腰を据えてナンボ、

弱みを見せるのは今じゃない。

 

首を傾げる彼女は可愛い、

だからこそ護らねばならぬ。

 

「まあね、ちと作戦を練ってたのさ」

 

とは言ったものの

カタチらしい形も出来上がっていない。

 

「…正直に言います。

ワタシと霧島だけでは厳しいデス、

小破した伊勢も加えたとしてもやはり

Ammo(弾薬)の少なさが心配になりマス」

 

深刻そうに金剛は考えを述べた。

その顔は普段の彼女らしからぬ

『高速戦艦 金剛』としての顔だった。

 

「やはりそこに行き着くか…。

進撃にあたっては航空戦をメインに

戦いを進める他ないかもな」

 

『———また旗艦変更か?』

 

村上の声だ。

 

「何度も悪いな、そうなりそうだ。

お前と艦娘にも迷惑を掛けるな…」

 

『心配ご無用です。

皆迷惑など思っていませんから。』

 

「流石加賀、ナイスフォローだ。

それでだ、再び空母を旗艦に

して臨もうと思うわけだが———」

 

ここにきてやや勿体ぶるように語る。

金剛も恐らく俺は『加賀』にすると

言うと思っていたのだろう、

“あれ?”といった表情を浮かべる。

 

「一体誰なんデスカ?」

 

「それは———『雲龍』だ」

 

『ふーん…。私、なのね…?』

 

指名された雲龍の声は

俺の考えを図りかねているのか

やや慎重そうに感じた。

 

「理由はただの縁担ぎだ。

雲龍とは、雲に乗って天を昇る龍。

航空戦に必須である偵察を成功させ

この危機に際し、雲蒸“龍”変(うんじょうりゅうへん)の如く

勝利を導いて欲しいから、かな。

 

それに…雲龍のチカラを

見せつけてもらいたいんだ。

空母雲龍、初の実戦で撃沈され

航空機を飛ばす事も叶わなかった。

 

だが今度は違う。

大戦初期の機体といえど

零戦21型を始めとした艦載機を持ち、

改飛龍型の雲龍型ネームシップとして

堂々たる正真正銘の正規空母。

そんな彼女に俺はその名に恥じぬ

活躍と栄光を期待する…」

 

ゲームでは雲龍の初期装備は

対空兵装のみだが、現実では

加賀や蒼龍と同じ零戦21型や

99艦爆などを搭載している。

どうせなら大戦後期の52型の方が

よかったが、それでも十分な戦力だ。

 

別に旗艦など誰でも同じ、

出撃前はそう考えていた。

 

だが、戦い方やモチベーションへの

影響というものは計り知れない。

 

加賀や金剛、空母と戦艦という

艦種の違いのみならず、

提督と旗艦艦娘のやり取りによって

艦隊の意気込みや動きも変わる。

 

『私が旗艦?そう…腕が鳴るわね』

 

「無理に意気込む必要は無い。

昨日したように発艦する艦載機へ

“ちゃんと…還って来て”って

声を掛ければいいさ」

 

『あら、知っていたのね…?』

 

「おたくの艦載機妖精が無線で

自慢していたのを聞いたんだ」

 

敵東方機動部隊による空襲時に

流れてきた航空無線で偶々聞いたのだ。

雲龍の優しさが感じられる一言だ。

 

「…まぁ言ってしまうと

別に航空戦だからって旗艦を

正規空母にしなきゃいけないわけじゃ

ないんだけど、そこは単に

俺個人の気分の問題だな」

 

実際のところ、旗艦をほいほいと

変える行為は好ましくない。

指揮系統の一時的混乱・停止は

戦争にあっては敗北に繋がるからだ。

 

だがこうして余裕があるうちは、

艦娘にとっては気分転換の1つであり

行っても差し支えはない。

旗艦に指定される艦娘は栄光に

思うことはあれど不満などない。

 

 

(これは輸送任務ではないわ、

正真正銘の航空殲滅戦よ…!)

 

提督の言葉に静かに興奮する雲龍。

彼女は胸に勝利を誓った。

 

 

………

 

 

「世話になったね金剛。

紅茶美味しかったよ、次は俺が

淹れるから楽しみにしててくれよな」

 

そう告げてから、舷梯を使い

内火艇へと降りていく。

『送迎』のサイドパイプの後に

金剛の声が響き、なんだか後ろ髪を

引かれる思いになる。

 

(だが俺には行かねばならない

場所があるんだ、許してくれよ…)

 

補給を実施する間、

僅かではあるが時間に余裕ができた。

 

俺はこの貴重な時間を有効活用し、

“彼女たち”に会いに行くことにした。

 

 

※※※

 

—大淀サイド—

 

『大淀』艦長室

 

(“連合艦隊旗艦"、か…)

 

私、大淀は自室で塞ぎ込んでいた。

父島空襲後、提督にビデオ通信で

励まされ多少持ち直したものの

その後は何も手がつかず、

対空警戒等も妖精が代行していた。

 

空襲の際も秋月さんと協力して

敵編隊を迎撃したものの、

力及ばず味方に被害を出してしまった。

 

情けない、そればかり考えてしまう。

 

『——!何故こちらに———?!』

 

『おい、————?』

 

部屋の外が騒がしい。

内容までは聞き取れないが

何かあったのだろうか?

 

妖精には緊急時は呼ぶように

伝えてあるから私は即応できる。

それが無いということは

大したことでは無いのかもしれない。

 

(提督に、会いたいな…)

 

無性に提督に会いたくなる。

彼は今お忙しいのだ、

私などに構っている暇は無い。

 

でも心の奥では彼の声と温もりを

無意識に求めている自分がいる。

 

 

提督は艦娘に好かれている。

 

艦娘に対してセクハラをするという

ことを鹹味しても、彼は立派だ。

時たま無線で流れる通信において

艦娘の心情把握に努め、艦隊の

士気を維持向上を心掛けている。

 

“落ち着いたら顔を出す”

 

空襲後の通信ではそう仰っていたが

現状では恐らく不可能だろう。

 

<<コンコン…>>

 

唐突に扉がノックされる。

幹部妖精であろうか?

 

申告が無かったため不審に思い、

座っていた椅子から立ち上がり

ドアノブを回し部屋の外を伺う。

 

「…やっほ」

 

———え?

 

「妖精と思った?残念、俺だ」

 

目の前には、心の中で会いたいと

願っていた提督が立っていた。

 

「あ、あの?!えっ…ほ、本物ですか!」

 

気が動転し、失礼な事を言ってしまった。

 

「断りもなく来ちゃって悪い、

いま入っても問題無いかな?」

 

「ど、どうぞどうぞ!!」

 

提督が私の対応に苦笑いする。

私の冷静さは何処に行ったのか?

 

カクカクした動きで室内に案内する。

お茶でも出した方がいいかしら、と

一瞬悩んだ時だった——。

 

「…可愛いな大淀は」

 

<<ギュッ…>>

 

提督はそう言うと、背を向けていた

私をそっと抱き締めた。

驚きに驚きが重なり声が出ない。

 

「て、提督!一体何を…?!」

 

「好きな女の子に会いに来た、

ってのは理由になるかな…?」

 

そうではなくて私を

抱き締めた理由の方です…。

 

「ビデオ通信の大淀が自嘲気味に

笑っている顔は見ていて辛かった。

“連合艦隊旗艦なんて所詮飾り”、

そんな事を言う大淀が

画面越しとはいえ目の前にいるのに

俺は抱き締めてあげられなかった…。

 

でも今はこうして直接大淀を

抱き締められて俺は嬉しい。

例え“セクハラ野郎”と罵られても

お前を感じられる方がいい。

…大淀はそんな俺を嫌うかい?」

 

提督の優しい声が心に響く。

耳元で囁かれる行為というものは

よくこそばゆいとか言われているが、

提督のそれは逆であった。

 

普段は自らセクハラ云々言っているが、

彼がしている行為は世間的に見ても

至って可愛いものである。

 

(ど、どうしようかしら…?!)

 

身体は硬直してしまっているが

心はリラックスしたと思う。

しかし、気になる異性から

好きだと言われ抱き締められては

どう反応したらいいか困ってしまう。

 

「こんな俺が嫌なら、

好きに離れるといい…。

いきなり来て女の子を抱き締めるとか

犯罪レベルだからな、逮捕されても

文句は言えないかなぁ〜」

 

戯けたように話す提督が

何処となく可笑しくて頬が緩む。

 

「…でも一つ言えるのは

お前を心配する気持ちは本物だ。

知識も指揮能力も無い俺だけど、

そこそこ気遣いは

しているつもりだよ?」

 

私を抱き締める力は

強過ぎず弱過ぎずであり、

かつ体重を掛けていないため

非力な私でも簡単に振り解ける程。

 

(提督は、卑怯です…)

 

何故なら、提督は優しいから。

 

この出撃の準備段階から、

提督は艦娘の事を気遣ってくれた。

 

私は知っている。

彼が防衛省に赴き、各幕僚監部に

掛け合いって可能な限りの

戦力を出して貰えるように

頼み込んでいたことを。

 

 

“——なんか今回の出撃は

陸・海・空自衛隊総出の

大規模作戦になるらしいぜ?

これなら艦娘も少しは安心して

戦闘に臨めるな、立案したのは

何処の誰だか知らないが

取り敢えず感謝しとかないとだなぁ”

 

 

“——護衛艦も各警備区のほぼ全艦が

この横須賀基地に集結らしいぞ。

艦娘と同じ名前の護衛艦だらけだと

無線がこんがらがってヤバそうだが、

文句言って護衛艦が半減されたら

それはマズいよな、大淀もうまいこと

俺をサポートしてくれよ?

じゃないと指揮が混乱して

俺の給料が減らされちゃうからなぁ。

もしミスったらセクハラな!”

 

 

そんなことをみんなの前で言って

誤魔化していましたが、

この私にはバレてますよ…?

 

「…あの、大淀サン?」

 

 

自衛艦の艦娘が揃ってからも

提督は裏で努力なさっていました。

弾薬の確保はもとより、整備に訓練…。

艦娘と戯れる合間に、密かに海幕へ

艦隊運用について掛け合ってましたね。

 

「ヘーイ“OH!淀”、もしもーし!

…もしかして、怒ってます?」

 

ギリギリまで重油の確保、

出撃前夜は遅くまで起きて

いらっしゃったのではありませんか?

意外と経理も得意そうですし、

恥ずかしながら嫉妬してしまいました。

 

「…無視か、ワザと無視なんだな?!

アポも無しで来たから

対応しませんよって言いたいんだろ!

俺にも考えがあるぞ、

耐えられるものなら耐えてみろォ…!」

 

熱意だけで職務を全うする貴方は

私たち艦娘の誇りです。

そして、私個人にとっても“特別”な…

 

≪フ〜ッ…!≫

 

「…って提督何してるんですかッ?!」

 

 

 

※※※

 

—提督サイド—

 

大淀を抱き締めて告白したのはいいが、

彼女は黙り込んでしまった…。

 

照れている?いや、違うな。

大淀は真面目キャラだからな、

きっとアポを取らずに来たから

無視を決め込んでいるに違いない。

↑なぜそうなる?

 

落ち込んでいると俺が感じたのは

きっと彼女の皮肉な態度による

対応だったのかもしれない。

 

(でもここまで来て“帰れ”と言われて

帰る奴はいないんだよね〜…)

 

おっし、決めた。

目の前にある大淀の『うなじ』に

吐息を吹きかけることにすっぞ!

↑だからなぜそうなる?

 

抱き締めたままの後ろ姿、

綺麗な長い黒髪と美しい首元。

その無防備な大淀はまるで、

イタズラしてくださいと言わんばかりだ。

 

……

 

案の定大淀は我慢しきれず

やや怒り気味に言葉を発した。

 

「…って提督何してるんですかッ?!」

 

「…え?セクハラ」

 

「『当然だろ?』みたいな

口調で言わないでください!

もうっ、せっかく提督について

良い人だなと思っていたのにぃ〜…」

 

やっと再起動したと思ったら、

突如怒ったり落胆したりと

見ていて実に面白いったら面白い。

 

「最初に言っただろ?

“好きな女の子に会いに来た”って」

 

「結局そういうオチなんですね…」

 

「そそ、お後がよろしいようで」

 

「全然よろしくないと思います…」

 

大淀のツッコミが炸裂する。

 

「「……クスッ」」

 

俺たちは同時に笑った。

 

「普段からそういったことを

口ずさまなければ素敵なんです!」

 

「それは俺のキャラじゃないじゃん?

所謂アレだ、『ギャップ』だよ」

 

「自分から言うんですね…」

 

更に大淀が落胆してしまった。

 

「大淀の顔が見れて嬉しいよ。

普段凛々しいお前が自嘲する姿、

ビデオ通話中辛かったんだからな」

 

俺は大淀の首筋に

顔を擦り付けるように語る。

 

「そ、その…心配は嬉しいのですが、

あまりスキンシップが過ぎるかと…」

 

おぅおぅ、可愛いじゃないか。

顔を赤くして照れる大淀も堪らない。

 

「え〜〜?

なんで、俺たち『恋人』だろぉ?」

 

「ちっ、ちち違いますッ!!」

 

「だって抱き締められてて

抵抗しようともしないじゃん」

 

ここからが正念場、

大淀がどう答えてくれるかだ。

 

「…もしかして、俺が嫌い?」

 

はい出ました、YES or NO。

さあ大淀よ!これに答えてみよ!

 

「えっ…と…わ、私は…」

 

「私はぁ〜…?」

 

「て、提督の事が、す…す…」

 

「俺の事がなんだってぇ〜?」

 

自分でも変な事をしていると感じる。

だがここで大淀がハッキリと

答えない限り俺は帰るつもりもない。

 

告白への返答を求めているのではなく、

大淀が自らの意思で“決断を出す”という

大きな課題を課しているのだ。

 

(嗚呼、どうしよう?!

後ろから抱き締められた状態で

好きか嫌いかなんて私には

答えられませんよ〜!)

 

思いっきり答えは出ているが

それに気付いていない大淀。

それを抱き締めながら楽しむ提督。

 

「…なんてな!

大淀が俺の事はよくわかったぜ。

———真面目な話になるけど

大淀は頑張った、お前だけじゃなく

秋月や伊勢もみんなだ。

 

そして戦ったのは

お前たちだけじゃない、

護衛艦も——防空は完璧な筈の

イージス艦もいて『てるづき』もいた。

だが敵はそれを掻い潜り

艦隊を攻撃し、父島上空に来た。

 

…“仕方ない”とは言わん、

ただどうしようもなかったんだ。

むしろ最小限の被害にできたと

考えるべきじゃないかな?」

 

「はい…」

 

大淀は静かに頷く。

 

「世の中“絶対”という言葉は無い。

あらゆる事態に備えていても

必ずといっていいほど“不測事態”は

起こってしまうし、ましてや

戦争にあっては無傷なんて尚更だ」

 

大淀を抱き締める腕に

自然と力がこもってしまう。

 

「時代と技術が進んでも

“完全”という言葉はありえないんだ。

気にするなというのは酷だけど

無駄に悔いてしまうのもいけない、

感情を時には押し殺してでも

割り切らないと次は自分が死ぬぞ?」

 

「提督…」

 

もはや大淀に言っているのではなく

俺自身に言い聞かせていた。

 

「大丈夫ですよ提督…」

 

俺の腕に、大淀が手を添える。

 

「私も他の艦娘の方も

誰も沈みません、なぜなら

貴方が“好き”ですから…」

 

振り返った彼女は美しかった。

微笑む顔に思わず、どきりとする。

 

「私の事を大事に思ってくれる、

ちょっとエッチですごく優しい…」

 

意地悪そうに言う大淀からは

先ほどまでの暗さは消えていた。

 

「今ならハッキリ言えますよ、

私は提督が大好きですよ…」

 

「……大淀って大胆だな」

 

 

気持ちの切り替えが上手いと言うべきか

立ち直りが早いと言うべきか…。

告白への大淀の返答は

予想以上に堂々としていた。

 

(告白したと思ったらいつの間にか

告白されて俺が照れてしまっていた…)

 

動揺のあまり、内心文語になる。

 

「秋月さんに対しても

こうやって励ましたのですね」

 

「あ…ああ、所謂ショック療法って

やつを俺の気持ちを乗せてやったら

上手い事行き過ぎて、今回は俺自身が

心を掻き乱されてしまった訳death…」

 

自分でも何を言っているのか不明だ。

 

「あら、それは大変です。

私がなんとかしますね…♪」

 

そう言うと大淀は突如

振り返ったままの顔を近付けた。

 

≪チュッ…≫

 

「ほへ…?」

 

「…今日は特別です」

 

気が付けば唇に大淀が“いた”。

 

「…ふふっ、提督可愛いですね!」

 

「ほ、ほげぇ……」

↑放心状態

 

嬉しいとか照れるという感情ではなく、

どうしてこの状況が生まれたのか

全く理解できなかった。

 

「提督は私に元気をくださいました、

なので私も勇気を出してみました…」

 

そう言い終えると大淀は頬を

紅潮させて目を泳がせた。

 

此処に至り俺は再起動した。

 

「ありがとう大淀…。

お前の気持ちは伝わったよ。

まさか俺にキスをしてくるとは

思ってなかったから驚いた、マジで」

 

次の言葉に迷っていると

それを待っていたかのように

通信が入って来た。

 

??『———そろそろいいかしら…?

大淀さんの事が心配なのはわかるけど

私の事も忘れないでね?』

 

「げえっ、村雨ェッ?!」

 

ヤベ!村雨にも“後で行く”って伝えて、

すっかり大淀とくっつき過ぎた!

 

『どうしてそんなに驚くのよ?!』

 

ビックリしたぁ〜…!

そりゃチュッチュしてるときに、

無線上とはいえ話しかけられたら

誰だって驚くだろうよ。

思わず敵の将軍が現れたかと

思ってしまったじゃないか。

 

(いや、敵って何やねん…)

 

それどこの三国志?

村雨は敵の将軍なのかよ…。

↑自問困惑

 

「ん、待たせて悪いな。

丁度大淀も元気になったところだ」

 

名残惜しいが時間は有限だ。

大淀を元気にさせる事ができたし、

『村雨』にも行くとしよう。

 

催促の通信が終わり、

大淀に一言別れを告げた。

 

「よし、次は『B』までしよう!」

 

「…先ほどの言葉を撤回します、

さっさと降りてください」

 

冷めた目で俺を見る大淀。

 

「すんません冗談です許してください」

 

「冗談です、私はもう大丈夫ですよ!

早く村雨さんのところに

行ってあげてください」

 

元気な大淀に戻ってくれたようだ。

 

……

 

いつもの大淀になったところで

気持ちを入れ替え、退艦する。

厳正な送迎を貰い舷梯を降りる。

 

迎えの『村雨』からの内火艇に乗り、

大淀へと手を振る。

見送りの妖精に混じって大淀も

万遍の笑みで振り返してくれる。

 

少し強引過ぎた気もしたが、

結果的に大淀が復活してくれて

よかったと考えるべきか。

 

俺にできる事は唯一つ、

艦娘と直接触れ合うということ。

 

気の利いた言葉よりも

面と向かって話をする、

貫禄もアタマも無い俺の武器。

 

(“それしか”出来ないと見るか

それとも、“それこそ”が強みと見るか…)

 

先ほど語ったように、世の中には

“絶対”という言葉は無いし、

“完璧”な答えも誰として分からない。

 

内火艇に揺られながら一人考える。

村雨も言葉では元気そうだったが、

内心では落ちこんでいるのだ。

今行かねば、きっと後悔する。

 

「提督またセクハラっすか?」

 

内火艇を運用する妖精が茶化す。

 

「あたぼうよ、それが俺だ」

 

「ここまでくると尊敬しますぜ…」

 

「お褒めの言葉と受け取っとくぜ…」

 

本心では無いのだろう、

事実、発言した妖精も目は笑っていない。

空元気なのかもしれない。

 

(村雨はそんなに、

ショックを受けてるのか…?)

 

無論、村雨だけではない。

艦娘もそうだが隊員たちの心情も

『戦争』により荒れている。

 

だが俺は第101護衛隊の司令(艦娘たちの提督)

他所の部隊のことは他所に任せ、

自分の部隊をに士気を保つのが使命。

 

それが今の俺にできる

たったひとつ(最良)の手段なのだから…。

 

 

 

 

 

 





秋月の時もでしたが、
大淀も落ち込みそうな娘かと。
言動は軽い提督ですが
その内心は至って真剣です。



17夏のイベントでは『旗風』と
『天霧』が登場いたしました。
彼女たちは現役護衛艦なのですが、
物語には未登場・後日ドロップとして
いきたいと考えています。




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2-6B 弱さと夢【村雨、白雪の場合】


“司令官は物事の本質を見抜いていた。
世間では『成り上がり』とか
『調子に乗っている』と言われるが、
彼は誰よりも心優しく、
かつ冷徹に戦かっていた。

艦娘の村雨や大淀も彼によって
励まされ、精神的に持ち直したのだ。
そのお陰もあり、私は『彼女』と
再会することができたのだ”


———自衛隊機関紙 朝雲新聞
『小笠原戦役の活躍者〜駆逐艦白雪〜』
より抜粋


 

 

※※※

『村雨』艦長室

 

「…落ち込んでないか村雨?」

 

部屋に入ってすぐ、

俺は村雨を抱き締めた。

 

 

「大丈夫———とは言えないけど

少しだけ落ち着いた、かな…?」

 

応えるように村雨も俺を抱き締めた。

2人にそれ以上言葉は必要なかった。

 

(村雨の悲しい顔なんて

もう俺は見たくないよ…)

 

「私がいたところで敵を全て

倒せなかったのはわかってるわ、

でもどうしても後悔してしまうの…」

 

「いいさ、俺もそうだ。

だが艦隊を分割せずに西之島へ

向かっていたら父島の島民は

助からなかった、南にある母島にも

被害が出ていたかもしれない。

プラスに捉えていいと思う…」

 

諭すようにやんわりと語る。

 

「この戦いでわかったことは

人は簡単に死んでしまうということだ。

それが大切な人であっても、な…」

 

亡くなった『むらさめ』の乗員は

日頃からトレーニングを欠かさない

健康的な人だった。

同期の山下も筋トレが趣味と

公言する程のムキムキ野郎だった。

 

…だが死んだ。

 

「山下さんも残念だったわ…。

たしか部隊研修で来た人よね?」

 

俺の教育隊時代、『むらさめ』に

部隊研修で乗艦した際、村上と

山下も一緒に艦内を周ったのだ。

 

「うん。見てたのか、

あいつなら砲弾も筋肉で弾き返したり

出来るんじゃないかって思うが

流石に厳しかったかなぁ…。

神様なんていないのかもな…」

 

村雨を励ましにきた筈なのに

思わず俺が弱音を吐いてしまう。

 

「提督…」

 

「悪ぃな、情け無いとこ見せて。

さっきまでは毅然とした態度で

村雨を励ましてやろうって

意気込んでたんだけどなぁ、

いざお前を見たら弱音が出ちまった…」

 

「ううん、しょうがないわ。

提督だって人間だもの、弱さを

見せることも必要よ?」

 

明るく話す村雨は眩しかった。

 

「弱さを見せる?」

 

「そう、弱さを見せる。

誰しも悩みを抱えることはあっても

それを普段は隠すでしょ。

…でもそれは一時的に自分自身を

誤魔化しているだけなの」

 

まるで小学校の先生のように

身振り手振りを駆使して説明し、

俺はその光景を見守る。

 

「私もそうだし大淀さんもよ?

普段明るく振舞っていると

落ち込んだ時に困ってしまうの。

誰に相談すればいいんだろう、

相談していいのかな、って」

 

そういえば大淀もだ。

俺がいきなり行ったから解決したが、

あのまま心に悩みを抱えたまま

戦闘をすると思うとぞっとする。

 

「取り返しが付かなくなる前に

相談に乗ってもらったりとか

全部言うことは強いことよ。

自分から出来ない時は——」

 

「——俺みたいな他人が直接

乗り込んで無理矢理解決するしか

方法はない、か?」

 

「そういうこと〜♪

でも提督は無理矢理しないでしょ。

ゴリ押しかもしれないけど

その裏には優しさを感じるし、

押しが強いところもス・テ・キ♪」

 

「ほ、ほっとけ!」

 

珍しく押しが強い村雨。

正直照れるじゃないか…。

 

「普段はセクハラさせろとか

言ってるのに、弄られると

照れるところも可愛いわよ…♪」

 

俺真面目な話をしに来たんだけど。

 

「あ、あのな!

俺はそういう話をしに来たんじゃ

なくてお前が心配でだな…!」

 

「わかってるわよ、提督がこうして

会いに来てくれなきゃ私も

こうして元気になれかったもの…」

 

物憂げに語った村雨を見て

発言を少し後悔した。

 

「私もそうだけど、艦娘のみんなは

提督のことを頼っているのよ?

横に居てくれるだけで安心できるし、

悩みも吹き飛んでいっちゃう位に

心がリフレッシュするわよ。

これも提督の“愛の力”かしら〜?」

 

冗談めいて言う村雨は普段の彼女だ。

それ故に落ち込んだ時の落差が

激しく感じられてしまう。

 

そんな彼女が尊くて儚く思え

自分の弱さを悔いてしまう。

 

「俺には誇れる物がない…。

頭脳も無ければ言葉で士気を

高めたり出来る訳でもない…。

だが俺は俺なりのやり方で

お前たちを支え、共に歩もうと思う。

 

これからも戦いは続く、

深海棲艦を滅ぼすまではな。

 

それがいつになるか分からないし、

それまでに世界が滅びるかもしれない。

だがそれまでに、

艦娘は全員ドロップさせて

誰も沈ませないと約束するよ。

夕立も、五月雨も、春雨も。

当然お前も…」

 

何時に無く真剣な提督の顔に

村雨は気が引き締まる。

 

「俺自身も“提督”という肩書に

押し潰されそうになる。

重責…その一言で済まされないような

場面や決断をこれから嫌という程

味わっていかなければならない。

だが俺は一人じゃない、

村雨を始めとした艦娘がいてくれて

提督でいられるし生きていける。

 

“提督”、艦娘を統率する者であって

艦娘にとって最良の人物でなければ

ならないと考えている。

俺はそんな提督になりたい…」

 

「——無理よ」

 

「……え?」

 

村雨の言葉に呆然とした。

俺は“提督”失格ということだろうか?

 

「そんな世界は無理よ、

到底受け入れられないわ。

 

艦娘だけ生き残っても世界が

滅びちゃったら、提督と街へ

ショッピングは行けないし

デートもつまらないじゃない!

そんな重く考えないで

もっと気楽にいきましょ♪

 

それに提督は“提督”なんだから!

提督は誰が何と言おうと“提督”よ?

例え世界が滅びようと…ねっ?」

 

村雨の言葉に思わず心が揺さぶられる。

そんなに澄んだ瞳で見られたら

嬉し過ぎて泣いてしまうじゃないか…。

 

「あ"〜心臓が止まるかと思った!

俺が提督失格って言いたいのかと

勘違いしちまったじゃねーか!

ちょっくら責任取って

おっぱい貸せやゴラァ!!」

 

了承も得ずに俺は

村雨の胸に顔を埋めた。

理由は嬉し涙を隠すためだ。

 

「あら、おっぱいが好きな子ですこと。

よしよし、いい子…」

 

村雨が子どもにするかの様に

俺の頭を撫でる。

 

 

「嬉し"い"、嬉し"い"よ"ぉ"…」

 

村雨への感謝とそれに甘えてしまう

自身の不甲斐なさから来る

負の感情が合わさり涙が溢れる。

 

「はいは〜い、お姉さんも

とっても嬉しいわよ〜♪」

 

これが女性の持つ母性というものか。

 

母性といえば雷もそうであるが、

村雨はお姉さん的性格である。

少し大人びた雰囲気の彼女は

“母親”とはまた異なる“姉”のような

抱擁力も持ち合わせているようだ。

 

「弱くてごめん…。

でも俺、もっと強くなるから。

こんな泣き虫な提督じゃなくて

堂々と胸を張れる提督になるよ…!

今だけは、甘えさせてくれ…」

 

「無理に強くなる必要は

ないんじゃないかしら。

私は今のままの提督が好きだし

成長してもヒトの根本は

変えられないと思うわよ?」

 

村雨の手が優しく俺の髪を梳かす。

 

「提督は無理しすぎ、

なんでも一人で抱え込もうとして…。

もっと甘えたっていいんだからね!

…でもそんな不器用なところも

私は大好きよ、提督らしくて。

甘えられ過ぎても困ってしまうけれど、

たまに弱さを見せてくれても良いわよ?」

 

本当に感謝したい時というのは

言葉に表すことができないものだ。

ありきたりな言葉などでは

伝えることが不可能なのだと思った。

 

村雨もそれを知ってか、

俺の答えを待ってはいなかった。

 

(お前だって辛いのに、村雨…。

ありがとう、本当にありがとう…)

 

その一言を代弁するかのように

俺は村雨を強く抱き締めた。

 

「提督ったら甘えん坊さんね…♪」

 

そんな冗談も今の俺には心地良かった。

 

 

☆☆☆

 

 

———艦娘の上に立つ提督、

その提督を支えるのもまた、艦娘。

 

例えでいうと

『国家と国民』の関係だ。

国家は提督、国民は言うまでもなく

艦娘であり、どちらが偉いとか

先かなどという論議はナンセンスだ。

 

艦娘がいて指揮を取れるのであって、

提督がいるから可能な訳ではない。

無論、艦娘だけいても高度な統制や

指揮は不可能なため、提督が必要となる。

 

だが第101護衛隊にあっては、

相互に信頼と愛情があるため

弱音を見せたり支えたりする。

 

これは決して“弱さ”ではない。

強さなのだと提督は日頃語る。

そんな提督もこうして弱さを見せ、

彼を艦娘がフォローする。

 

加賀や日向といった一見弱さなど

微塵も感じさせぬ艦娘でさえ、

提督には悩みを打ち明ける。

受け止める側の提督も

それ以上に悩みを抱えている。

 

『戦闘や業務を日々こなす』

 

単調に思えるその一言には

語り尽くせぬ問題が有る。

彼等彼女等を快く思わぬ者も

日本、世界には数多存在する。

 

その障害を乗り越え、

こんにち戦闘を出来ているという事実。

 

———例えそれが足枷をはめられた

“戦争ごっこ”だったとしても、

戦わねばならない…。

 

(俺たちが戦わなきゃ

日本が平和でいられないんだっ…!)

 

 

☆☆☆

 

 

「ありがとう、もう平気だ」

 

俺は一方的に村雨に告げ、

彼女からゆっくりと離れた。

 

「お陰で気合が入ったよ。

村雨を元気にしてやろうと意気込んで

来たのはいいが、逆に俺が元気を

もらうとは不覚だったぜ…」

 

わざとらしく悔しがる姿に

村雨も微笑んでくれる。

 

「私も提督には元気をもらったわ、

それに可愛い一面も見れたし…♪」

 

ペロッと舌を出して笑う彼女に

俺は思わず照れる。

 

「ぜ、絶対バラすなよ?!

他の娘に知られたら、

恥ずかし過ぎてマジヤバいし…」

 

「はいはい、お姉さんとの二人だけの

秘密にしておきますよ〜」

 

お姉さんキャラがツボに入ったのか

村雨も満更ではない様子。

 

「———あ…」

 

肝心な事を忘れていた。

 

「どうしたの?」

 

「村雨のバストサイズを

測る絶好のチャンスだった!」

 

「……」

↑絶対零度の視線

 

「すんません冗談です」

 

結局しょーもないオチで終わる。

 

……

 

その後村雨のメンタルチェックを

一通り行い、概ね良好だったため

用事が済んだ俺は帰ることにした。

 

「こうして直接話せると

本人の状態も確認できるが、

他の護衛艦とかだと艦長任せで

各艦毎の処置に一任するしかない。

 

1護隊の山本司令も“いずも”、

“はたかぜ”、“むらさめ”、“いかづち”の

乗員たちのメンタルケアが捗らないって

部隊チャットで愚痴をこぼしてた。

 

妖精たちは元気そうだったけど、

全員がそうというわけじゃないはずだ。

俺じゃあ手が届かない所は

村雨たち艦娘にお願いするよ」

 

村雨は力強く頷く。

 

「———敵本隊は戦艦1を含む

輸送艦多数の強襲揚陸部隊だ。

知っての通りこちらは砲弾や

魚雷の保有率が低下している、

航空戦で可能な限り叩いた上で

残りを砲雷撃戦で倒そうと思ってる…」

 

乾坤一擲の水上戦…などと

華々しい戦いをする筈もなく、

無難な作戦を語る。

 

今必要なのは勝利であるものの、

それを得る為には少なからぬ

労力と弾薬、そして犠牲が伴う。

 

最小限の犠牲と消費で戦い、

最大限の戦果を得るとはこのこと。

 

(そんなつまらないことを

村雨に話してもしょうがないか…)

 

つい深刻な話をしてしまい、

彼女もやや緊張気味になる。

 

「…そろそろ“雲龍”に行くよ。

何かあったら遠慮なく言ってくれ」

 

「わざわざ私の為にありがと、

元気をもらえたし大丈夫よ!」

 

暫しの別れを惜しむかのように

口付けを交わし部屋を出る。

 

「すまんがもう少し耐えてくれ。

マーカスを奪い取れば戦況は落ち着く、

そうしたら横須賀でのんびりと

過ごす時間ができるからな!」

 

「ええ、約束よ?」

 

※※※

 

『雲龍』艦橋

 

 

「…無理に頼んじゃって悪い、

また『加賀』ってのもなんだか

雲龍たちを軽視してるみたいだし

一応俺なりに気を使ったんだぜ?」

 

「ふふっ…提督らしいわね。

そんなこと私や蒼龍も思っていないわ。

ところで、無力化した『機動部隊』は

どうするのかしら?」

 

雲龍に乗艦してからすぐに

航空戦の準備を下令した。

 

そう、マーカスの手前には

発艦不能にしたとはいえ、

敵艦隊が居座っている。

 

これを無視することもできるが、

後々のことを考えると倒すしかない。

勿論腹案はある。

 

「決戦前に消耗したらマーカスでの

戦力投射が少し心細いわ…」

 

「鋭い指摘だ、でも安心してくれ。

こちらの兵力はなにも、艦娘や

護衛艦だけじゃないぞ…?」

 

ニヤニヤしながら雲龍に答える。

 

「俺たちは“海上”自衛隊。

でも持っているフネは別に

水上艦だけって訳じゃないぜ?」

 

「…潜水艦が襲撃をするってこと?」

 

「ご名答、お前が嫌いな潜水艦だ。

横須賀の第2潜水隊群所属の

潜水艦4隻が当該海域に進出し、

敵機動部隊への攻撃を行う。

既に『うずしお』が接敵していて

襲撃機会を伺っているようだ」

 

各方面で索敵を行なっていた各艦が

西方の機動部隊へと集まっている。

 

「知っての通り残敵には軽巡以下の

護衛艦艇が多数いるらしい。

だからこちらの潜水艦の存在を

悟らせないために、俺たちの

移動からの水上戦と見せかけて

同時襲撃をすることになる」

 

この艦隊はある意味囮だ。

餌に吊られた敵は対潜警戒を

疎かにし、そこを潜水艦が襲撃する。

 

「これを成功させるには、偵察と

味方との連絡を密に行った上での

正確な行動が不可欠だ」

 

補給を終えたら艦隊を進撃部隊と

後方部隊に分離することとなっている。

 

つまり父島や硫黄島の防衛は

後方部隊に一任するということになり、

もし奇襲攻撃を受けたとしても

味方に任せて、感情を殺して

進撃をしなければならないのだ。

 

「まずは補給が終わるのを待つか…」

 

……

 

駆逐艦や軽巡、護衛艦あたりは

補給に掛かる時間も知れたものだ。

燃料タンクや保有弾薬もそこまで

多く積むことができないからだ。

 

『司令、まだかかりそうです…』

 

『補給は嬉しいけど、時間が

かかり過ぎるのはさすがにちょっと…』

 

霧島と伊勢の苦言が流れる。

 

戦艦クラスとなると時間が掛かる。

千代田と飛鷹以外の空母は

既に補給を終えている。

 

休みなしでも丸一日掛かる、

いや、現在進行形で掛かっていた。

 

「文句言ったところで

早く終わるわけじゃないだから

気長に待つしかねぇよなー」

 

麦茶を飲みつつ補給の様子を

見ながらぽつりと呟く。

 

『提督、残りは戦艦及び

駆逐艦のみとなりました。』

 

「りょーかい」

 

加賀から報告が上がる。

今は旗艦じゃないのに律儀に

秘書艦らしく振る舞う彼女も

艦上では整備に忙しい筈だ。

 

「加賀さんも忙しいのに

取りまとめ役をしてくれてる…」

 

「雲龍も無理するなよ、

整備が終わってからも休息を

ちゃんととっておかないと。

休める時に休むのも仕事だぜ?」

 

陸戦と違い海戦というものは

メリハリがはっきりしている。

対潜警戒は常時あるものの、

戦闘がない時間の方が多い。

 

わかったわ、雲龍はそう答えると

格納庫へと向かっていった。

 

 

……

 

 

(…他の艦娘はどんなかな?)

 

補給が終わった艦娘の中から

声掛けをすべき者を選抜する。

 

「川内はどんな感じだ?」

 

『うん、もうバッチリだよ!

…魚雷を早爆させたときは

ちょっと功を焦りずぎたかも』

 

「ははっ、しょうがない奴だ。

次は無いように頼むぜ、

もしそれが激戦中だったら

お前のミスで誰かが沈むからなぁ」

 

『ごめんなさい…。もう信管を

勝手にイジったりしないから!』

 

川内もちゃんと反省している。

 

「怒ってるわけじゃないさ。

ただ、功を焦り過ぎると

いけないってことは覚えておこうな」

 

……

 

「白雪は緊張してたのかな、

魚雷発射管の不調だなんて

お前らしくないじゃないか?」

 

『すみません、戦闘前から

少し考え事をしていました…』

 

バツが悪そうに謝る白雪の声は

申し訳無さの他にも、何か

裏がありそうな感じだ。

 

「もしよかったら、その内容を

教えてもらえないか?」

 

普段の白雪からは想像できない。

その彼女が戦闘中に考え事を

してしまうということは、かなり

重要なことなのではないか。

 

『そのですね———』

 

……

 

「夢で誰かが泣いていた?」

 

『恥ずかしながら気になって…』

 

白雪曰く、砲雷撃戦の前日に

とある夢を見たらしい。

 

白雪と顔が見えない少女が

互いに戦っている夢だ。

 

艦これのように艤装を身に付け、

連装砲を向け合い無益な争いを

ひたすら繰り返す…。

 

『その女の子は強かったんです。

でもずっと泣いている気がしました、

私もそんな彼女を撃ちたくなかったです』

 

「その戦いの決着は付いたのか?」

 

『どうにか私が勝てました。

そして“もうやめましょう”と

声を掛けたんです。

そうしたらその子は言ったんです、

“私を撃って。もう白雪ちゃんを

撃ちたくないから”って…』

 

どうやらヘビーな内容だったようだ。

 

「白雪はその子をどうしたんだ?」

 

『結局撃てませんでした…。

連装砲を向けることも

やめてしまいました…。

 

誰なのかわからないのに、

その子が他人には思えませんでした。

私を“ちゃん付け”で呼んできた

ということは少なくとも知り合い

だと判断したからです…』

 

 

“たかが夢のことではないか!”

 

 

そんな心無い言葉で貶したりしない。

白雪が悩んでいるというのに

提督である俺がどうしてサポート

せずしていられるだろうか。

 

「夢ってのは何かしらの意味がある。

科学が発達した現代においても

未だ解明できていない部分が多いが、

役割としては日中の記憶の整理。

それとこれは俺の考えだけど、

その子が白雪にメッセージを

送りたくて夢に出てきた…。

俺は後者なんじゃないかと思うぞ?」

 

『メッセージ、ですか?』

 

「そうメッセージ。

艦娘は過去の記憶からくる夢を

たまに見るらしいじゃないか。

それとこうして戦っている現実が

合わさって、深海棲艦になっている

元艦娘の誰かがお前に

伝えたいことがあるのさ…」

 

俺は考えを述べた。

 

「俺たちは戦争をしている。

敵が人間ではないにしろ

命のやりとりをしているのは違わない。

敵も言葉を話すのは知ってるな?

憎しみ、後悔…何を思っているかは

わからないが、少なくとも前世で

相当苦労したんだろうな。

 

そんな深海棲艦の一人が

“近い存在だった”白雪の夢に

化けて現れたのかもしれない。

その子は心優しくて、

人類を…戦争をするのが嫌なんだろう」

 

『私は一体…

どうすればよろしいでしょうか?』

 

答えを出せない白雪に

俺は一言だけ答えた。

 

「撃て」

 

『———え?』

 

「躊躇わずに撃て。

その子、いやソイツを撃て。

ソイツはもう艦娘じゃない」

 

『そう、ですね…』

 

「その子は撃ってと言った、

その願いを果たすだけだ。

ココロが生きていたとしても、

カラダは深海棲艦になっていて

自由が利かないだけかもしれない。

 

そうだとしても撃て、

じゃないと誰かが死ぬ。

それでお前が死んでしまったら、

それこそこの子が悲しむ。

俺だって悲しむ、艦娘のみんなも。

 

誰も悲しまない戦争なんて

決して存在しない。

味方が死ぬか、敵が死ぬかだ。

俺は優しい白雪が好きだ、

平和な日常を一緒に過ごしたいし

これからもずっと優しくあって貰いたい。

——だが優しさだけでは

守れないものもある。

お前自身や大切な仲間だ。

だからもう一度言う、撃て」

 

『司令官……』

 

「俺もその時になってみないと

実際に撃てるかわかんねぇけどなぁ。

でも躊躇して大切な誰かが

傷付いたら本末転倒だろ?

取り敢えず撃っとけ、

どうせドロップするんだしさぁ〜!」

 

今までを誤魔化すように

おちゃらけた口調で話す。

 

『クスッ…!

司令官の仰る通りかもしれませんね。

悩むのは後でもできますしね』

 

「悩んでたなら相談してくれよ〜。

ホウレンソウは基本だぜ?

俺だって艦娘全員の心情を把握

できるわけじゃないからさ。

 

白雪としても戦闘前だから俺に

相談しにくかったってのもあるけど、

そんなに気を使わなくていいさね」

 

『司令官と話していると

なんだかほっとします。

みなさんが司令官を好きになるのも

無理はありませんね』

 

「あったりまえだろ?

俺は天下のイケメン提督だぜ、

相談はいつでも乗るしサポートも

可能な限りしてあげたいしな。

白雪も悩み事があれば

逐次言ってくれるといいな!」

 

白雪の悩み。

ただの夢だからと甘く見たら駄目だ。

日頃のストレスなどが積み重なり

身体の警告かもしれないからだ。

先述の通り、深海棲艦になってしまった

元艦娘の悲痛な叫びが

彼女に届いたのかもしれない。

 

(もし元艦娘だとして、

それは誰なのだろう…?)

 

通信を終えた後、

俺は暫し考えに更けた。

 

 

 

 

 



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2-7 反攻作戦と足枷 【作戦直前、潜水艦部隊視点有り】

父島沖 臨時泊地


遂に艦隊は補給を終え、
決戦の地であるマーカスへと向かう。


本来ならマーカスへ増援部隊を
輸送・護衛するだけの任務だったのが、
気付けば艦船の被害も無視出来ず
更には戦死者を出すという有様だ。

平和国家日本は戦争に突入していた。


(“遂に”マーカス、というよりも
“やっと”というべきかもな…)


独り心で毒を吐くが
今は気持ちを入れ替えねば。


『全艦、陣形を形成せよ。
陣形は対潜警戒陣形である』


任務部隊指揮官から無線で命令が下る。

既に主機の暖機運転を済ませ
艦隊の各艦が待ちに待った時が来た。


「よし、先に指示した通り行動せよ!
対潜警戒を厳としつつも、
経済速力で一路マーカスへ向かうッ!!」


『『了解ッ!』』


☆☆☆☆


●マーカス奪還部隊

○護衛艦部隊
(護衛任務部隊旗艦:ひゅうが)
※非戦闘艦である補給艦等は分離済。


・DDH1
『ひゅうが』

・護衛艦 多数
イージス護衛艦3を含み、
専ら対空・対潜任務に従事。



○艦娘(101ED旗艦:雲龍)22隻

・空母4

『加賀』『蒼龍』
『雲龍』『千代田』

・戦艦3

『金剛』『霧島』『伊勢(小破)』

・重巡3

『足柄』『愛宕』『筑摩』

・軽巡3

『阿武隈』『川内』『鹿島』

・駆逐艦9

『白雪』『漣』『雷』
『村雨』『夕立』『五月雨』
『高波』『島風』『照月』


●小笠原守備艦隊(残置・警備)

※対潜警戒の為DDHを2隻配備。

防空用にイージス艦2隻、
艦娘の『大淀(被害軽微)』
及び『秋月』を配備。


○護衛艦等(旗艦:いずも)

・DDH2

『いずも』『かが』

・DD等

『きりしま』等のイージス護衛艦2、
対空護衛艦及び汎用護衛艦多数。

・補給艦等の非戦闘艦 全艦

・徴用民間タンカー5隻
及び『新おがさわら丸』

○艦娘(旗艦:妙高)17隻
※暫定的措置としてドロップ艦娘も
この部隊の統制下に入れる。
『★』は新ドロップ艦娘を意味する。

・軽空母1

『飛鷹』

・重巡2

『妙高』『利根』

・軽巡5

『天龍(大破)』『大淀(被害軽微)』
『龍田★』『鬼怒★』『大井★』

・駆逐艦9

『松風★』『長月★』『望月★』
『朝潮』『満潮』『黒潮』
『親潮』『秋雲★』『秋月』


●潜水艦部隊(旗艦:ずいりゅう)

・潜水艦4

第2潜水隊所属
『うずしお』『なるしお』
※上記2隻は2SD所属だが、
本作戦では4SDが統制を取っている。

第4潜水隊所属
『ずいりゅう』『やえしお』





 

 

こうしている間にも敵は

既にこちらを迎え撃つための

準備をしているかもしれない。

 

時間というものは有限、

しかし最新の敵情勢は不明だ。

 

 

「またかよ…

急に人工衛星が失探するとかマジねぇよ。

とにかくこれはヤバいぞ…」

 

 

逐次継続していた人工衛星からの

地表解析や偵察が途絶えたのだ。

 

———それも“何故か”作戦海域に限って…。

 

 

解析を担当する防衛省情報本部は

原因を調査したが、衛星の動作状況は

至って良好であった。

 

 

これが意味するのは単純。

 

 

『深海棲艦は謎である』

……ということであった。

 

 

父島付近の海域は映せるが、

敵強襲揚陸艦隊がいるはずの

南鳥島周辺の衛星画像は

解析不能となってしまった。

 

 

(これが“戦場の霧”ってやつか…)

 

 

他国の商用衛星や軍事偵察衛星も

当該エリアを見ることができなかった。

 

相変わらず肝心な時に使えない

現代科学技術の結晶。

天候が良いのか悪いのか、

そんな単純なことさえ掴めない。

 

まるでゲーム画面の様に

当該地域だけ“(もや)”が掛かっていた。

 

 

(最後は肉眼と近接してからの

レーダーによる直接探知が武器になる…)

 

 

部隊指揮官は硫黄島の海自哨戒機

並びに空母・重巡の偵察機へと

偵察飛行をさせることに決めた。

 

時機はまだであるが、いずれ

命令が下ることになるだろう。

 

 

俺はそれに従い指示を出した。

 

 

「偵察機搭載の艦娘に告ぐ、

知っての通り人工衛星の不具合により

最新の敵情が掴めていない。

 

我が艦隊が欲するは敵艦隊の編成だ。

 

天道様(てんとさま)は深海棲艦に味方している

ようだがそんなのどうでもいい。

 

先日も敵機動部隊を発見した。

偶然、それとも気合か…?

本当に偶々だったのかもしれない」

 

 

横の雲龍を見れば目を閉じている。

 

寝ているのか?と思ったが、

彼女は精神を集中させていたのだった。

 

やや満足感を覚え、再び語り始める。

 

 

「なぁに、難しいことは

これっぽっちも考えなくていい。

 

ズバリ“必見必逃”だッ!

それを胸に刻んで飛べばいい!

 

敵の位置はわかってるんだ、

見つけたら“あっかんべー”して

尻まくって逃げりゃあいい!」

 

 

『そんな簡単にいったら

苦労はしないんだけどねぇ…』

 

 

『それ言ったらダメでしょ〜。

千代田はもっと肩の力を抜いて

リラックスしないと!』

 

 

愚痴を零す千代田へ

蒼龍のやや意味深なアドバイス。

 

 

(これって暗に千代田の“おムネ”の

ことを指してるんじゃないか…?)

↑うん、当たり

 

 

『ま、まぁそうかもね…』

 

 

『そうかも、です!

司令官の言う通り、力み過ぎは

ヘタしたら戦果にも関わってきます。

でも司令官の言うことは

決して間違ってないかも、です…?』

 

 

おいこら高波、

珍しく自ら意見を言ったと思ったら

“かもかも神拳疑問流派”になってるぞ。

 

“秋津洲”がドロップしたら

正統伝承者の座を奪われる、かも…?

 

 

「ま、高波の言う通りさ。

確かに俺たちは急ぐ必要がある、

敵が態勢を整えて攻勢に出てくる

可能性は低いわけじゃないしな。

 

…だが“焦り”と“力み”は

此方を危険に晒すかもしれない。

求めるは“確実な殲滅”であって

“可及的速やかな殲滅”じゃない。

 

そこんとこだけ覚えておいてくれな?」

 

 

ハタから聞けばのほほんと、

しかし内容はやや厳しめな指示を

さらっと艦娘に伝える。

 

 

(そう、焦りは要らないんだ。

だって急いで助けるべき人は

マーカスに“もう”いないしな…)

 

脳裏に浮かぶは死んだ隊員たち。

せめて彼らが安らかに眠れるように

俺は静かに祈ったのだった…。

 

 

……

 

 

———その時、雲龍は確かに見た。

 

 

苦虫を噛み潰したように顔を歪ませ

己の良心の呵責を感じる提督を。

 

 

(きっと提督が一番苦しんでいるわ…。

 

彼に声を掛けられない私は弱い。

でも今の私に出来ることは

確実にこなし彼を支えること…)

 

 

先日まで旗艦であった加賀や

金剛と比較すると、雲龍は提督と

必要最低限の話だけ行っていた。

 

関係がギスギスしている訳ではなく

単に艦隊運営の業務が忙しいためだ。

 

雲龍が提督に気を遣って普段より

静かにしているのもあった。

 

 

(それに———)

 

 

提督は時折、何処か遠くを見ている。

彼が見ているのは一体何か。

 

それは生きる者たちの未来(希望)か?

 

それとも———

死んだ者たちの過去(絶望)か。

 

 

その答を知る者は居ない…。

 

 

………

 

 

———数時間後

 

 

雲龍は悔しさを感じたものの、

すぐさまそれを熱意に昇華させた。

 

普段の見た目からは想像もつかない

彼女の凛とした熱意と信念は、

決して表に現れることはなかったが

艦載機妖精たちへと伝播していった。

 

 

「オラァ!偵察機発艦するぞ、

とっとと機体から離れやがれッ!!」

 

 

「お前だけにいいとこ取りはさせねぇ!

次は俺が偵察だ、

それまで精々何にもない

ベタ凪の海でも眺めてやがれッ!!」

 

 

偵察機の妖精たちが

敵艦隊発見の手柄を争う。

口は悪いものの、だがどこか

優しさを感じるのは気のせいか。

 

発艦した機体を見送った妖精は

小さくなる機影に祈りつづける。

 

 

(頼むぜ、兄弟…!)

 

 

護衛艦を含む艦隊全体が

空母から飛び立つ偵察機へと

熱い視線と期待を送っていた。

 

 

世界各地で頻発する各国海空軍による、

深海棲艦との攻防で生まれた迷信。

 

 

“旧式艦の化け物共、深海棲艦に

対しては同じ旧式の装備が有効である”

 

 

これは自衛隊内でも広まっていた。

ある種の神頼みとも思えなくないが、

それは艦娘の奮戦への評価とも言えた。

 

 

☆☆☆

 

 

護衛艦と艦娘が全力で小笠原諸島に

進出しているのと同時期の本土。

 

日本本土周辺では深海棲艦が発見され、

航空自衛隊のF-2及びF-4戦闘機による

対艦攻撃が行われていた。

 

テレビのニュースではそれが淡々と

流れており国民の大多数は

 

『へぇ〜、なんか怖いなぁ』

 

という他人事のような心情であった。

 

 

———東京湾事案の直後から、

毎日の様に深海棲艦を発見したとか

それを自衛隊が攻撃したというニュースを

テレビ各局は特番を組んで流した。

 

だが国民は、それを日常又は

何処か遠くのことと思ったのか、

しばらくして慣れてしまった。

 

無論、海運業や漁業関係者は

他人事ではないため、ニュースが

流れるたびに一喜一憂した。

 

 

『自衛隊さん、どうにかしてくれ』

 

 

そんな声が各基地や周辺の飲み屋から

聞こえてくるとの隊員からの報告もある。

 

 

———その一方で他の国民は

とある不満を持っていた。

 

 

『政治家はアテにならん。

自衛隊や海保が身体を張って

海の上で頑張ってるのに、

あいつらは国会で何してやがる』

 

 

これはインターネット上の掲示板から

抜粋した書き込みであるが、

殆どの国民の心中を

この書き込みが代弁していた。

 

国民の政治家への反感が今後

どのように提督や艦娘へ影響するか、

この時点では誰もわからない……。

 

 

☆☆☆

 

 

艦上・水上偵察機が、

やや時間を開けてながら

発進し敵艦隊の編成を探る。

 

護衛を伴った第一波偵察部隊が、

間も無く敵機動部隊に接敵する頃だ。

 

 

「敵艦隊がいる地点まで150km。

対空・対潜警戒はこのまま厳で

航行するけど、あんまり力むなよ?

 

話した通り、俺たちはあくまで“囮”。

味方潜水艦が襲撃しやすいように

敵を陽動するのが目的だからな」

 

 

『敵が私たちが来ているのを

察知してる、っていう前提で

作戦を進めるのはどうなのかなぁ?』

 

 

伊勢の疑問は鋭い。

 

 

「確かにそうだな。

場合によっては敵は反転して

本隊と合流したり、分離散開して

ゲリラ襲撃を仕掛けてくるかもしれない。

 

まぁ後者は無いかもしれんな、

敵は現代の装備を知っているから

必然とこちらがレーダーを使用して

いるのは知っているだろうしな。

あわよくば時間稼ぎ程度にしか

ならないだろうし、その時点で

決着はついた様なものか…。

 

敵空母群は無力化し沈黙している。

…ならば、そこから予想される

敵の動きは次の3つに絞られる。

 

 

1、空母を見捨ててマーカスに合流。

 

 

2、その場に居座り水上戦。

 

 

3、こちらを捕捉次第突入、

そのまま乱戦に持ち込んでくる。

 

 

もし敵が非情な策として

無力化した空母を盾に使った場合、

被弾の確率も下がるしこちらを

混乱とはいかなくとも撹拌させる

ことができるだろう。

 

俺なら3番を選ぶかなぁ…」

 

仮に乱戦になったとしても

俺は艦娘を盾にはしねぇけどな、

と一言付け加えた。

 

 

「潜水艦が接敵しているとはいえ

あくまでソーナーによる“耳”での

観測だから、衛星が使えない今は

偵察機からの報告を待たないとだな。

 

報告が入ってくるまでは

別命がない限り待機しておこう。

適度な緊張を持ちつつも、

のびのびするのがよろしいにゃしい…。

 

俺はちと部屋で休むから

そんな気張らずに行こ〜ぜ、なっ?」

 

 

『折角いい締まりだったのに最後で

気が抜ける声を出すな、馬鹿野郎』

 

 

“加賀”にいる村上だ。

 

 

「だって疲れたしぃ〜…。

休む時は休まないと

いざという時に頑張れないぜ?

大丈夫、俺は目覚めいいから

呼ばれたらのっそり起きるって!」

 

 

『そこはすぐ起きるんじゃないんですね…』

 

 

霧島が苦言を言う。

 

 

「だって俺朝に弱いしぃ〜…」

 

 

『『弱いんかい…(ですか…)』』

 

 

「そりゃ朝はギリギリまで

布団に包まっていたいだろ?

でも遅刻はしたことないから

そこは安心してくれたまえ諸君ッ!」

 

 

『『なんだか不安だ(です)…』』

 

 

決戦へと船足を進める艦隊は

心の緊張を互いに解す。

 

艦娘も妖精もそれに笑い、

護衛艦の乗員らもやや明るさを取り戻す。

 

———そんな水上部隊を待ちわびている

とある“海中の忍び”が遠くにいた。

 

 

※※※

 

敵機動部隊近辺 

深度不明

 

 

「——どうやら、我々には

気付いていないようだな…」

 

 

潜水艦『うずしお』の艦長は

静かに息を吐き出した。

 

 

ソーナーマンからの報告で、

「駆逐艦、此方に近付いてくる」

が上がるたび、死の恐怖を感じた。

 

これで何度目だろうか。

 

出港前のブリーフィングでは

深海棲艦が装備していると思われる

聴音機の性能はWW2当時と同等、

もしくはそれより低いとのことだった。

 

だが敵は人間ではない。

思いもよらぬ方法で此方を

探知・攻撃してくるかもしれない。

 

事実、他の海軍においては

何隻か潜水艦が沈められているらしい。

 

それらが原子力潜水艦ではなく

通常動力型潜水艦であることは

地球と人類にとって、せめてもの幸いか。

 

 

「捜索パターンは一定ですし、

警戒しているだけのようです」

 

ソーナーマンである水測員が

聴音から得た結論を述べる。

 

「よし、艦内哨戒第3配備に落とせ」

 

 

艦長の命令で艦内は静かに動き出す。

食事や交代といった行動が許され

乗員の顔色も明るくなる。

 

 

「水上部隊がこの海域へ

進出するまで凡そ20時間。

ふむ、ちと長いな…」

 

 

「浮上したくても上には

敵艦が遊弋してますからね。

予定表通りならこの時間、

他の『ずいりゅう』とかでは

敵の聴音・探知捜索域外で浮上して

適宜給換気及び喫煙してますし…」

 

 

ヘビースモーカーの船務長が

喫煙のジェスチャーをしつつ、

幸せそうな顔をする。

 

タバコが吸いたいです、と顔に

書いてあるかのような口調だ。

 

 

「もうすぐ4SD(第4潜水隊)の『せとしお』が

交代で来るはずだろう。

それまで我慢するしかないさ、

俺はとうの昔に禁煙してしまったが

浮上した時の一本は格別だろ?」

 

 

「そうですね、もう少しだけ

静かに我慢しておくことにします」

 

 

「海自潜水艦初の実戦とはいえ、

いつもの様に訓練通りやればいい。

水上部隊に気付いた敵を仕留めれば

後はなるようになるさ。

 

潜水艦には潜水艦の戦い方がある、

対艦ミサイルにも劣らぬ威力の

長魚雷を敵の船底にぶち込む。

コイツ(うずしお)にもハープーンは

積んでいるが、なにしろミサイルは

弾数とコストがなぁ…」

 

 

艦長は自嘲気味に笑う。

潜水艦部隊も、自衛隊特有の

予算・保有弾薬の問題を抱えていた。

 

 

「これまでマトモに撃ったことは

ありませんでしたし、今回ぐらい

景気良く撃ちましょうや艦長!」

 

 

魚雷や操舵を統括する水雷長が

元気に笑いかける。

 

 

「そういや艦娘部隊指揮官の…、

たしか菊池3佐でしたっけ?、

その人と出撃前に基地の居酒屋で

偶然一緒になりましてね…。

 

“もしかしたら潜水艦の方々にも

戦闘に加わってもらうかもしれません。

いざとなったら、補給とか

国会云々の面倒臭いことは

私がどうにかするんで

景気良く思いっきり頼みます!”

 

って言ってましてね。

ハタチそこらの幹部にしちゃ

度胸と覚悟があるって思いましたよ。

テレビで映ってた時とは違う

本気の熱意が伝わってきましたね。

 

なんと言いますか…

“カリスマ”っていうんでしょうか

見た感じは別に普通なんですが、

誰よりも“仲間”と日本のことを

考えて動いてるって感じました」

 

 

水雷長の熱の篭った話は

艦橋周辺の乗員にも聞こえていた。

 

 

「あ…その菊池3佐なんですけど

私の教育隊時代の同期になります。

そこまで親しかったわけではないですが

彼の評判は有名でしたよ。

 

“大口を叩くが、必ずやり遂げる”

とか

“上官に噛み付くが、

仲間想いのなかなか骨のあるヤツ”

 

と班長たちも言ってました。

 

私も何度も話したことがありますが

大雑把そうに見えて裏では

念密な調整と計画を立てていて

凄い奴なんだと感じました」

 

 

「そういや俺もそんな話を

聞いたことがあるぞ、

たしか———」

 

 

……

 

 

どうやら横須賀では、彼が

“提督”になる前から有名だったらしく

逸話がいくつも発掘された。

 

そんな『うずしお』は2時間後、

『やえしお』と警戒を交代。

安全距離まで進出して浮上、

乗員は戦闘前のひと時を過ごした。

 

 

 

 

“菊池3佐とかいう護衛隊司令が

俺たちに期待してくれている”

 

“基地に帰ったら

奢ってくれるらしいぞ”

 

“1隻沈めるごとに

艦娘を紹介してくれるらしい”

 

 

海自内でもちょっとした

有名人となった提督は

知らぬところで慕われていた。

 

話に尾ひれが付き、

雪だるまの様に大きくなる。

 

 

裏を返せば、潜水艦部隊は

精鋭かつ士気旺盛であると言えた。

今回の海戦に於いては

主役を任せられたのだから。

 

最後のとどめは空母の艦載機

ということになっているが、

初撃は潜水艦による『襲撃戦』だ。

 

 

“———もし潜水艦の艦娘が

現れたら俺たちの部隊に

配備されるんじゃないか?”

 

 

“———性能が違い過ぎるだろ。

仮に同じ部隊だとしても、

隣のフネだから会えねぇだろ?!”

 

 

“———そりゃ違ぇねえや!”

 

 

““———ギャハハハ!!””

 

 

そんな“ジョーク”が聞こえたが

すぐに海上の風に流された。

 

 

 

 

 

———後日、その“ジョーク”は

いい意味で裏切られることとなる…。

 

 

 

 

※※※

 

『雲龍』司令室

 

 

「———へぶしっ!」

 

 

人が真面目に戦術を練ってるのに

誰か俺の噂でもしてんのかよ。

 

ま、いいけどな。

これも有名税ってやつだろう。

 

 

「んで潜水艦と水上部隊との

攻撃のタイミングが重要だな…」

 

 

数時間前にも連絡を行なったが、

戦争を時間通りに行うことは無理。

あくまで目安程度にしかならない。

 

となると、それを考慮した上での

作戦と戦術を練らなくてはいけない。

 

 

(主力艦に砲撃させ、敵に水上戦を

行うように強いるべきか…。

それともさっさと艦載機に

爆撃させて沈めるべきか…。

う〜ん、悩むなぁ…)

 

 

無線で宣言したように自室で

休みつつも、真面目に戦術を練る。

 

そりゃヘタしたら被害が出るからな、

減らせる危険は減らしたい。

 

 

理想的な流れは

 

①水上戦すっぞゴルァ!…と

敵に思い込ませる。

 

②艦載機は命令があれば

発艦できるようにしておく

 

③潜水艦は雷撃できる位置に待機

 

④敵艦隊に雷撃、

間を空けず速やかに爆撃

 

⑤敵は大混乱、まともな反撃も

行うことなく海の藻屑となる

 

 

「…ってなれば理想だけどな〜」

 

 

理想ではダメだ、

そうなるように努力しなくては。

提督の使命なのだから

絶対に妥協してはいけない。

 

 

作戦をいかに緻密に練ろうとも、

実際にその通りになるかというと

そうならないのが戦争だ。

 

これまでも神通たちが大破した

あの『父島沖海戦』もそうだし、

先日の『西之島沖海戦』では

天龍に魚雷が集中している。

 

俺自身、敵が旧式艦タイプだったから

舐めてかかったのは否めないが、

やはり戦争とは予測不能である

ということを痛感させられた。

 

 

「こんなボロ勝ちな状況でも

他国からすれば完勝と思われてるって

のも色々とおかしいけど…」

 

端末を操作しながらボヤく。

新着メールが数件あった。

 

 

……

 

 

海幕からの連絡で、米軍側の戦況及び

米軍の俺たちに対する評価について

しょーもないパワーポイントが

送られてきたのだが、

 

 

要約すると…

 

 

“米海軍はパナマ運河防衛失敗後、

防衛体制の再構築及び沿岸警備を

行なっているものの、

戦況の打開には至っていない。

パールハーバーに『転進』した

第7艦隊についてはハワイ方面の

防衛に当たっている為、

日本側を支援するのは不可能である”

 

 

“海上自衛隊は護衛艦及び

旧式艦(注:艦娘のこと)で

如何なる戦術を取っているのか?

可能であれば此方に旧式艦を貸与、

若しくは検査・試験の為に

借用してもよいだろうか?”

 

…とのこと。

つまり———

 

 

“こっちも手一杯でお前らを

助ける余裕は無いんだよねー。

 

てかお前らなんか強ぇじゃん。

艦娘貸してくんねぇかな?

あと調べてみたいから

ちょっと借りていい、いいでしょ?”

 

 

「———ってことか。

“世界の警察”も落ちぶれたもんだ」

 

 

しかし、資料の解説欄には

防衛省や外務省の専門家による

注意書きが書いてあり、

 

“新大統領による

自国保護政策の一環と思われ、

必ずしも国防総省の見解を

示したものではない模様だ”

 

…と締められていた。

 

 

日本の総理もクソであるが、

アメリカも迷走しているようだ。

 

ほとんどの政治家はクソである、

というのは各国共通らしい。

 

真面目に頑張っている

政治家の人に謝れって話だ。

 

 

「本土のモヤシ総理については

今のところ大人しくしているか…」

 

 

警務隊長からの報告では

本土に残っている艦娘たちは

しっかり働いてくれているようだ。

 

ついでに総理が良からぬことを

企んでいないか危惧していたのだが、

意外にも俺にボロカス言われた後は

サポートに徹しているらしい。

 

 

(単に改心して真面目になったのか、

それとも鳴りを潜めているのかは

警務隊長にじっくり見極めてもらう

必要があるかもしれんな…)

 

返信文に書き足そうと思ったが、

彼なら既に手を打っていると考え

感謝の言葉のみを送信する。

 

 

「海の上では国防だけを考えて

戦っているってのに、陸上の

ボンクラどもは何やってんだか…」

 

優秀な頭脳をお持ちの方々は

どうも悪知恵が働くようだ。

 

ボンクラとは頭の回転が鈍いという

意味であり、もし彼らが本当に

優秀ならばそんな“幼稚な”ことを

考えることなく只々世界の為に

その身を粉にしている筈だ。

 

つまりはその程度の存在ってこっちゃ。

そんな皮肉を吐きつつ考える。

 

(俺自身普段はゲスだが

仕事は真面目に取り組むぞ…。

国会で“税金泥棒”云々言ってる奴が

よっぽど泥棒じゃないか…)

 

 

つい思考が逸れてしまい、

余計なことばかりが頭を占める。

 

 

「———んなことは置いといて、

目の前のことに集中集中っと…」

 

目の前に居ない奴の文句を

言ったところで究極に無駄。

 

文句は本人に直接言ってやるのが

俺の流儀だからな、止めとこ。

次に会ったらぶん殴ってやろうかな?

 

 

☆☆☆

 

 

提督の愚痴も無理もない。

各国の軍人は、彼と同様の不満を

政府首脳に対して抱いていた。

 

国毎に主義・主張は異なるものの、

軍人はリアリストであるため

国防にはそれらが足枷であるとの

共通認識を持っていた。

 

…だがこの時点では

それが表に出ることはなく、

軍人たちは一応命令を守っていた。

 

裏を返せば、

各国は我儘をする余裕が

あるということであった。

 

 

“化け物から地球を守る為に、

人類は一丸となり戦うべきである”

 

 

小笠原で提督たちが

戦っているのと前後する時刻、

某国の元首は国連で演説したが

各国の反応は冷ややかであった。

 

国営放送はそれを

テレビ放送したものの、

自国民はそれを鼻で笑い

軍人たちも同様の反応をした。

 

何故ならその国は独裁国家、

日頃から自国優先の政治であり

この演説もその一環であるのは

小学生にもわかることであった。

 

 

日本の近くに位置するこの国家が、

領土拡大政策を強行した所為で

艦娘たちが苦労することになるとは

この時、誰にも予想できなかった……。

 

 

 

 

 




更新が遅れ気味ですが、
次回は謂わば中ボス戦になります。

プライベートが多忙で
執筆が進まない、と言い訳を…。
ぼちぼち進めていきます!


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2-8a マーカス前哨戦 前編【潜水艦、発射〜潜航。艦爆隊、発艦】


“———海上自衛隊の潜水艦が
艦船に向け実弾を発射したのは1974年の
『第十雄洋丸事件』以来であった。

発射するまでは興奮していたが、
潜航を始めるとやはり恐怖を感じた。

〜中略〜

だがこの海戦以降、
海自潜水艦の存在意義は
更に高まることなった。

深海棲艦を襲撃したり
近隣諸国との“交流"実施と、
実力の再認識及び防衛戦術・
戦略の幅が広がったからである。

海戦が終わり、我が『うずしお』が
楠ヶ浦(くすがうら)(注:横須賀潜水艦基地)に
帰港すると、一足先に
帰ってきていた101EDの
菊池3佐(当時)が駆け付けて
我々を出迎えてくれた。

彼が作業服で略帽を盛りに降り
まるで自分の部隊が還ってきた
かのように無邪気に喜ぶ姿は、
疲労困憊の4隻の乗員にとって
なんとも言えぬ達成感を与えた。

彼無くして、当時の自衛隊は
成り立たなかったであろう。
かくいう私も、今の役職どころか
海の藻屑だったに違いない。”

潜水艦隊司令官、木梨鷹二
当時『うずしお』水雷長


———自衛隊機関紙 朝雲新聞
『我が半生と“彼”の存在』より抜粋




『雲龍』艦橋

0654i

 

 

「ふぁああ〜…よく寝た」

 

 

開口一番、艦隊無線に

俺の“元気な”声が流れる。

 

それを聞きニコニコする者、

ため息を吐く者の二種類がいた。

 

 

『い、一応休めましたが

朝イチから気が抜けそうです…』

 

 

霧島はそんな普通な答えを

言うようではまだまだ甘いな。

 

 

『昨日はちゃんと寝たから

もう魚雷は早爆させないよ!

夜戦出来ない分を日中にすれば

結構いい戦果を出せるよねっ?!』

 

 

川内も気分を入れ替えたようだ。

てか夜戦に拘りすぎだろ、

フツーに昼戦から本気出せば

流石三水戦って褒めてやるのに…。

まぁ気合十分ということか。

 

 

『提督、私頑張っちゃいます!

昨夜も艦隊運動とかの

手順を確認して、水上戦の

シュミレーションもしました!

 

ちゃんと睡眠も取りました、

もうドジっ子なんて

誰にも言わせませんから!』

 

 

五月雨も気合が入ってるな。

無駄に意気込んでる気がするが

空回りしないことを祈る。

 

 

「朝はやっぱ清々しいな。

頭と身体はスッキリしたか?

そんじゃあ陽動作戦のおさらいだ。

まず———」

 

 

……

 

 

…………

 

 

「———という流れだ。

戦艦と重巡は訓練弾及び

演習弾のみ発砲する。

直接当てての破壊力を目的とせずに

敢えて敵付近に着弾を心掛けること。

 

だが各艦砲塔1基は

実弾を装填、令あらば即応。

 

軽巡と駆逐艦については

敵が射程に入ったら発砲を開始。

この時、全艦は回避運動を優先し

潜水艦の雷撃に要する時間を

稼ぐように心掛けてくれ。

んで伊勢や愛宕たちは

暫く撃った後は“撃ち方待て”だ。

 

どうしてこんなことをするか、

それは敵に威圧感を与えつつ

水上戦に集中させることにより、

味方潜水艦の襲撃を容易に

ならしめる目的があるんだ」

 

 

陽動部隊らしい戦闘行動

そしてその目的を示逹する。

 

とはいえ実際に行うとなると

イレギュラーもあるのは否めない。

それも考慮して細部も伝える。

 

 

『艦載機は直前まで待機とは…。

提督も大胆なことを考えますね。

 

爆撃のタイミングを合わせるのが

難しいと思いますが、妖精たちは

必ずやってくれるでしょう。』

 

加賀が率直な意見を述べる。

 

最初に提案した時は無理だと

断言されてしまったものの、

リスクも比較的低くむしろ

メリットが多いことを提示すると

考えを変えてくれた。

 

「雷撃をすると潜水艦の位置が

暴露してしまう恐れがあるけど、

発射深度は数百メートル。

敵の爆雷も届かない深さだ、

消極的攻勢を取っても大丈夫だ」

 

 

“潜水艦ってのは見つけ辛いんだ”

 

 

俺が『むらさめ』に乗っていた時に

水測員の奴がそうボヤいていた。

現代の護衛艦でさえそうなのだ、

深海棲艦といえどそう簡単に

探知できるとは思えない。

 

ただ、他国海軍で潜水艦が沈められる

事案も起きていることから、

魚雷発射深度は可能深度ギリギリと

することで打ち合わせ済みだ。

 

 

(“言うは易く行うは難し”だな。

ペーパープランは幾らでも作れる、

だけど実行するとなると想定外は

ぽんぽんと湧いてくるしなぁ…)

 

やや悩んだが、ソワソワし過ぎるのも

あまり良くないと考えて直す。

 

ふと視線を感じて横を見ると、

雲龍が此方をじっと見ていた。

 

 

「お、どうした雲龍。

そんなに見つめられると

照れるからやめてくれよな〜」

 

おどけてみせると

彼女は少しだけ笑った。

 

「提督は不思議な人ね…。

緊張しているかと思えば

意外とへっちゃらにしていて、

ジョークを言ったかと思えば

急に真面目になったり悩んだり。

 

見ていて面白いわ…と、言いたい

ところだけど私自身の力不足を

感じたわ。でも私に出来ることを

精一杯して支えなきゃって

それなりに準備をしてきたつもり…」

 

それだけを語ると

彼女は突如、可愛げに

力こぶを作る動作をした。

 

 

(やっぱり見られてたか…)

 

どうやら俺は感情を隠すのが

苦手な人間であるらしい。

そのせいで気を遣わせてしまったか。

 

 

「…ありがとな、ポーカー

フェイスってのは結構難しいな。

雲龍も整備状況の確認やら

フネの運用で大変だろうに…。

 

オマケに旗艦になったせいで

情報や通信が飛び込んでくるから

休む暇もなかっただろうに」

 

 

“加賀”から村上を呼ぼうとしたが、

奴はこのままで行こうと提案した。

 

毎度お馴染みの“万が一”に備えて、と

空母を2隻ずつに分けて運用する為の

試験運用をするらしい。

 

戦闘時に何やらすんじゃと思ったが

同時に今後を見据えると、確かに

艦隊運用の試行及びノウハウ蓄積の

絶好のチャンスだと感じた。

 

艦娘や護衛艦も多数、

航空戦や水上戦を行なっている。

こんな大海戦は滅多に…いや、

機会は当分無いに等しい。

 

敵が本土に大侵攻するとかなら

あり得るが、当分不可能だろう。

それはそれで“詰み”だが。

 

 

(まぁ、この作戦中にメモを取る

ような余裕が有ればの話だがな…)

 

 

捕らぬ狸のなんとやら、

“今”に全力を尽くし“後”のことは

落ち着いてから取り組めばいい。

 

それにメモなどを取らずとも

各艦には艦橋監視装置が付いており、

常時艦橋内は録画・録音され

HDDにデータが保存されている。

 

(意外と余裕あるじゃん…)

 

そう心で呟くと不思議と

気持ちに余裕が湧いてきた。

…やってやろうじゃねぇか。

 

 

……

 

 

「全員聞いてくれ。

何度も言うが、手柄を取ろうとして

あまり敵に近づき過ぎるなよ?

潜水艦、艦爆がメインなんだから

サブが出すぎたらシナリオが狂うぜ。

 

最後にもう一度説明しておくぞ。

具体的に例えると深海棲艦と

ちょっとした“ドッジボール”をする。

やや遠距離から互いに近づきつつ

遠投をして倒そうとしている。

 

そうしたら敵の足元から

『土の中からこんにちはー!

モグラだよー!』と潜水艦が雷撃、

間を置かずに空から鳩の糞こと艦爆。

 

海中と上空からタコ殴りされた敵は

哀れにも海の“海蘊(もずく)”になるワケだ」

 

 

提督の話を聞いた艦娘たちは、

可愛い“イ級”がモグラに囲まれ

鳩から糞爆弾を喰らうという

コミカルな光景を思い浮かべた。

 

イ級が“もずく”になるのか…、

という突っ込みはなかった。

提督のジョークをスルーしたのか

それとも肯定したかはわからない。

 

 

「ざっくり過ぎかもしれないが

戦闘の流れはこんな感じだ。

砲身と砲弾のチェックをしておけよ、

一応魚雷も使えるように準備な!

敵が捨て身で突っ込んで来たら

こっちも対応しなきゃならんしな」

 

 

『『了解ッ!』』

 

 

「なぁに、緊張し過ぎるこたぁない!

ちょっと砲弾ぶっ放したら

後は見学してれば戦闘終了だ。

 

タイミングを合わせることだけ

意識すれば大丈夫だ、かといって

ぼーっとしてたらお仕置きするから

覚悟して戦うようにな!」

 

 

『は〜い!!』

 

 

先ほどの了解とは一転して

緩めの返事になったがいいだろう。

やや含み笑いをする艦娘がいたものの

緊張もほぐれたようでなによりだ。

 

 

「おっし、全艦合戦準備をなせ!

マーカスに行く前に練習試合だ、

もし被弾したらそいつは

冬のボーナスカットだからな!

 

わかったら元気に返事ッ!」

 

 

『はい、わかりましたッ!!』

 

 

真面目に了解を返すが

声はやはり明るく、彼女らの

士気とやる気は旺盛であった。

 

 

※※※

 

 

潜水艦『ずいりゅう』

 

 

「———艦長来ました。

 

『水上部隊、予定通り航行中。

作戦開始Pt(ポイント)のETA1300で変更無し。

雷撃は各艦ごと、適宜実施せよ』

…101ED司令の菊池3佐からです」

 

ソーナーマンが報告する。

 

「わかった。

しかし“イルカの鳴き声”を使って

水中にいながら連絡するとは…。

 

やはり彼は只の幹部ではない。

未来の海幕長…いや、

統幕長もあながち夢ではないかもな」

 

艦長は感心そうに頷いた。

 

 

……

 

 

提督は作戦を決めた際、

潜水艦が潜行してしまうと互いに

電波のやり取りが出来なくなることを

非常に危惧していた。

 

浅深度ならば特殊な電波と

周波数を使えば可能であるが、

敵直下の潜水艦から行ってしまうと

電波を探知されてしまい

たちまち対潜警戒が強化される。

 

水中電話という機器があるが

届く範囲も限られることと、

上記の理由と同じく話し声が

敵に傍受・被探知の恐れがある。

 

 

各指揮官は頭を悩ませた。

だが“彼”は頭が単純(柔軟)であり、

すぐにアイデアを思いついた。

 

 

 

“そうだ、イルカの鳴き声を使って

モールスみたいにすればいいじゃん!

 

てかモールス信号にしなくても、

簡単なパターン符号を決めておけば

連絡を取り合えるんじゃね…?”

 

 

 

そう思いついた提督は早かった。

 

任務部隊司令部や潜水部隊に提案。

 

快諾され本土の海幕から関係各艦に

数種類のイルカの鳴き声音声データ及び

それを使った符号表が送付された。

 

どうにか作戦に間に合い現在に至る…。

 

 

「よし、指定された

本艦の了解符号を流せ」

 

アクティブソーナーの機能を応用して

『ずいりゅう了解』という文を、

同じくイルカの鳴き声で送る。

 

遥か数百メートル上の海上にいる

深海棲艦には、直下にいるイルカの

群れが遠方の別の群れと交信している

かのように捉えられた。

 

 

やや間を空けて、他の3艦からも

同様に了解符号が発せられた。

 

そして水上部隊側から、

『水上部隊指揮官了解。

貴艦らの無事を祈る』

の符号が返る。

 

キューキューとかキュッといった

イルカの可愛らしい鳴き声は

聴取していた潜水艦部隊を

静かに歓喜せしめたのである。

 

 

「襲撃戦用意…!

魚雷のみ、ハープーンは使わない。

 

被探知されても敵の対潜攻撃は

此方に届かないとはいえ、

爆雷等は少なからず来るはずだ。

総員衝撃に備えておけ。

 

海上自衛隊潜水艦初の艦隊戦だ、

その初陣で沈まないようにしろよ!」

 

艦長の言葉に乗員たちは

ハハハと苦笑いする。

 

(あとは開始のタイミングだな。

頼むぞ艦娘、そして菊池3佐…!)

 

 

※※※

 

 

『こちら伊勢、レーダー画面上に

敵艦隊らしき反応を捉えたわよ!

敵までの距離50kmっ!

 

敵の陣形は複縦陣…かな?

その後方に大型艦が多数あって

これは無力化した空母群みたい!』

 

 

先頭に布陣する一艦、伊勢から

敵艦隊捕捉の報告が上がる。

 

レーダーというものは

設置する高さによって探知距離が

大きく変化し、高ければ高いほど

探知距離は伸びるものである。

 

 

一般的なレーダー見通し距離Dは

自艦のレーダー設置位置をH1とし

目標(敵)の高さをH2とすると、

公式は次のようになる。

 

 

D(海里)≒2.2(√H1+√H2)

 

 

無論レーダーの性能や気象条件に

左右されるが、伊勢に装備された

レーダーの位置を40mとして、

敵後方にいる空母の全高を

凡そ30mと仮定する。

これを代入すると…。

 

 

D≒2.2(6.3+5.9)

≒2.2×12.2

≒26.84(海里)

 

 

海里は等しく1852mであるから

敵艦隊までの距離(km)は…。

 

 

26.84×1.852

≒ 約49.7km

 

 

…となるワケだ。

提督になってから

多少は勉強してるからな、

嫌でも理数系も覚えさせられた。

別に必須じゃないけど…ね。

 

 

———閑話休題。

 

 

「了解だ、指示した通り

“艦上偵察機”は着艦させたな?」

 

横にいる雲龍に問うた。

 

「ええ完了しているわ。

敵に此方が航空戦をする意図を

隠すのが目的なのでしょう?」

 

「そういう事〜。

水上偵察機を敵上空に滞空させて

あくまで水上戦を行うと思い込ませる。

それに一機でも多くの艦上機を

必要とするならなおさらだ」

 

スラスラと指示の意図を

語る提督に雲龍は納得した。

 

「提督は先を読んでいるのね…」

 

「そりゃそうだ。

モチロン、俺が艦娘に高評価されて

ウハウハのハーレムまでは想定済みだ」

 

最後は言わなくてもいいかも、と

雲龍は可笑しそうに苦笑いした。

 

「…と、冗談はこれぐらいにして

艦載機の準備は抜かりないな?」

 

提督が聞くまでもなく

“雲龍”、“加賀”、“蒼龍”

そして“千代田”の飛行甲板上では

艦爆隊が発艦の号令を待っていた。

 

エンジンの爆音とその回転が

生み出す強風が、早く飛ばせろと

急かすかのようだ。

 

『こちら加賀です。

準備万端、いつでもいけます。』

 

『提督ぅ!艦爆妖精たちが

早く飛ばせって唸ってるわよ〜?

私も待ちきれないなぁ!』

 

『千代田艦載機、準備よし!

こっちも待ちくたびれてるわ』

 

 

加賀はいつも通りの口調。

だが声はやや抑揚があり

内心興奮しているように感じた。

 

蒼龍のトコロの艦爆妖精、

前世絶対“江草さん”入ってるだろ…。

爆撃の練度はピカイチだしな。

 

千代田のところも勇猛果敢のようだ。

 

 

「私も見ての通り完了しているわ」

 

下に見える飛行甲板には

雲龍所属の艦上爆撃機全機が

アイドリング状態で待機している。

 

空母4隻は被弾を避ける為に

陣形の後方に位置している。

 

俺は静かに彼女にウインクした。

 

「そう焦んなって、

第一撃は潜水艦に譲ろうぜ。

発艦の号令は俺がするまで

勝手に出すんじゃねぇぞ?」

 

『…あ、一番機が発艦しちゃった!』

 

「っておいィイイイイイ?!?!

蒼龍テメ、なにしとんじゃあ!!」

 

『ふふっ♪冗談冗談っ!』

 

「や、やめてくれよぉ〜…。

海戦が終わったら覚えとけよ!」

 

『「———あ"」』

 

加賀、蒼龍、雲龍たちの

何故か腑抜けた声がハモる。

それが意味することは…?

 

 

そんな、戦闘開始までの

和やかな時間はすぐに過ぎた……。

 

 

※※※

 

深海棲艦サイド

 

 

人類側は艦隊決戦を挑んできた。

 

此方は、先の空襲により無力化され

鉄屑と化した空母群を抱えていた。

発着艦も航行も出来なくなったといえ、

はいそうですか、と見捨てる訳にいかず

護衛部隊は警戒を続けていた。

 

此処に至り軽巡を筆頭とした

水雷戦を敢行しようと決意。

 

 

一応対潜警戒を行なっていたが

海中には“イルカの群れ”がいるのみで、

数時間前に遠方の群れと交信して

いたという報告が有るのみ。

 

部隊指揮官は、人類側の

潜水艦による襲撃は無いと判断。

陣形を複縦陣に変更し、

来たる水上戦に備えさせた。

 

 

彼我の距離が25kmに迫ったところで

敵の艦娘である戦艦・重巡から

艦砲射撃が開始された。

 

深海側も応戦を始め、

軽巡と駆逐艦から大量の砲弾が

人類側に向け発射される。

 

それと同時に艦娘の砲弾が

深海棲艦の周辺に着弾する。

 

“やや”大きな水柱が上がり

数隻の駆逐艦が海水を浴びる。

しかし至近弾による被害は無いようで

すぐに砲火を再開する。

 

 

超20センチ砲弾の至近弾で、

被害を全く受けていない。

 

 

☆☆☆

 

———この時、深海棲艦たちは

戦闘による興奮で気が付かなかった。

 

大口径の砲撃による至近弾を喰らい

無傷であるなどあり得ないことを。

 

水柱が“やや”大きいだけなのは

艦娘たちが演習弾を使用していること。

 

そして———

自分たちは人間側の陽動作戦に

引っかかってしまったのだ、と…。

 

 

☆☆☆

 

 

「…喰らい付いてきたな。

よし、攻撃隊全機発艦だ!

味方潜水艦の雷撃開始に合わせて

上昇して爆弾投下を行え。

 

それまでは海面スレスレを飛行して

奴らに防空体制を取らせるなッ!」

 

『了解っ!!』

 

俺はすかさず下令した。

 

空母艦娘の了解の声と同時に

発艦を始める99式艦爆隊群。

 

固定脚に波飛沫が付くほどに

低空を這うように飛行する。

 

 

「急降下、と呼べるかわからんが

急上昇して高度を稼ぐからな、

上空からの爆撃にゃ代わりはねぇか…」

 

「またそうやって茶々を挟んで…。

提督はいつも一言余計なのよ」

 

堪らず雲龍が突っ込む。

彼女も旗艦の役割をわかってきたようだ。

 

「まま、そう怒らないでくれよ。

…ん?その“一言”が無ければ俺は

立派でイケメンな提督ってことか?!」

 

「——爆撃をしなくちゃいけないのは

このうるさい“おクチ”みたいね。

全機戻っていらっしゃい、

目標を提督に変更するわよ…」

 

ジト目で普段通りのトーンで話す

彼女は怒りのオーラを帯びている。

 

「わーっ!冗談に決まってるだろ?!

てか戦闘始まってんだから

あんまりガチでキレんなって!!」

 

 

勿論これも定番となった茶番だ、

雲龍もやれやれという表情を

浮かべつつも、満更ではなさそうだ。

 

これに便乗するように

他の艦娘も話に加わってくる。

 

『提督も雲龍も、冗談は

程々にしておきなさいな。

この私の活躍を見逃したら

一生後悔することになるわよ!!』

 

『ちょっと司令官!

私が必死に砲撃してるのに

おしゃべりに夢中なんてひっどーい!』

 

『照月が守ってあげるから

提督、安心してねっ!』

 

上から足柄、雷そして照月。

雷以外はどこかズレてる気がする…。

 

 

「…結構余裕あるんだな」

 

『『ないよわよっ!!』』

 

いや、思いっきり余裕ですやん…。

 

「もうすぐ雷撃が始まる。

そうしたら一旦砲撃を止め、

第3戦速で敵に近接する。

その覚悟だけはしておいてくれ」

 

『『了解(よ)ッ!!』』

 

艦娘たちの切り替えのうまさに

不謹慎にも、思わず笑ってしまう。

 

やはり彼女たちは最高だ。

だからこそどうにか

マーカスまでは無傷で進みたい、

俺はそう強く願った。

 

 

※※※

 

潜水艦『やえしお』

 

 

「———“上”で砲撃戦始まりました」

 

「…諸君、間もなくだ。

魚雷発射管は用意できているな?」

 

艦長の問いに対し、

水雷長は静かに肯定を返した。

 

 

架空小説やアニメでよく描写される、

発射直前に発射管に注水…というのは

現実に於いてはあり得ないことだ。

 

実際は予め注水しておき、

後は発射の命令を待つだけだ。

敵の近くで注水するなど

自殺行為以外の何物でもない。

 

 

「後は水上部隊と敵艦隊の距離が

20kmになったら発射するだけだ。

水測員、各艦隊間の距離は

ちゃんと把握できているな?」

 

聞かれたソーナーマンは器用に

片手でレシーバーを押さえつつ、

もう一方の手を軽く挙げた。

 

“距離の把握、よし”

 

ややぶっきらぼうなソーナーマンの

仕草に対し、艦長は満足そうに頷く。

それだけ集中しているということだ。

 

 

水上部隊と敵艦隊の

距離が20kmとなった瞬間に、

4隻の潜水艦から必殺の魚雷が

各艦6本、計24本が放たれる手筈だ。

 

現代の潜水艦の魚雷は誘導式である。

特に“おやしお型”からは、

情報処理装置の性能向上により

6本の魚雷の同時誘導が可能となった。

 

これが意味するところは言うまでもない。

 

 

「間も無く20km地点に差し掛かる。

よーい………いまっ、発射地点っ」

 

「1番から6番まで撃つ、

よーい…てぇっ」

 

 

船体前部から計6回の

 

<<プシュ。ガタガタガタ、シューッ…>>

 

という重い音と共に

魚雷群のスクリュー音が遠ざかる。

 

 

それらの発射と同時に

艦内の気圧が上昇する。

 

鼓膜から“ぷつっ”という音がして

乗員らは僅かな痛みを覚える。

 

日頃の訓練で慣れているとはいえ

それを6回、しかも実戦で行うのは

肉体及び精神的にくるものがあった。

 

しかし今はそんな文句を

言っている場合ではないのだ。

 

発射に伴い海中には

空気が放出され、発見の恐れがある。

艦長はすぐに潜航を命じた。

 

 

「深さ○○○、急げっ」

 

「深さ○○○、いそ〜げ〜」

 

 

WW2時の潜水艦と比較して

格段に性能は上がっているとはいえ、

やはり『ドン亀』なのは否めない。

 

現深度はかなりの深度であるが

敵が落とす爆雷が到達しないという

絶対の保障など存在しない。

 

モグラ改めドン亀は

ひたすら深深度を目指し潜る。

 

乗員はフネが早く潜ることを

じっと祈るしかなかった……。

 

 

※※※

 

 

(そろそろ、か…)

 

潜水艦部隊の雷撃開始地点

である彼我距離20kmを切り、

予定通り艦爆隊へと命令を飛ばす。

 

 

「全機上昇、上昇せよ!

各隊所定で投下を行え、

もし外したら夕飯抜きだかんな!」

 

それを聞いた各母艦の隊長機から

悲痛な叫びが飛び込んでくる。

 

加賀隊『えぇ…?

提督マジ鬼っすね。

加賀さん、せめて乾パンぐらいは…』

 

雲龍隊『雲龍が俺たちにメシを

食わせない筈がねぇっての。

さっさと終わらせて宴会しようぜ?

ロッカーに秘蔵の芋があってだな…』

 

千代田隊『ヤッベ…発艦前から

緊張してて昼メシ食ってねぇよ、

今回は航空食貰って無いから

夕飯食えなかったら餓死するかも…』

 

蒼龍隊『要は当てればいい話ですよね?

ウチの奴らは他所よりも少しだけ

腕に自信がありましてね。

まぁもし外した奴がいたら

私が“指導”するだけですが…』

 

 

なんか蒼龍の艦爆隊長だけ

色々と浮いてるんですけど…?

“指導”って絶対ヤバいやつだろ…。

蒼龍艦爆隊の部下たちに合掌。

 

そういや蒼龍艦爆隊一番機の尾翼の

カラーリングって派手だったな、

思いっきり江草隊長の生まれ変わり

とかなんじゃねえの?!?!

 

 

心の中でツッコミつつも

彼らの声を聞き頼もしく感じる。

慢心ではなく確たる余裕と自信だ。

 

(頼むぜ艦爆妖精たち…!)

 

爆弾を抱えながら上昇を開始した

艦爆隊群に熱い視線を送る。

 

後は魚雷命中を待つだけだ……。

 

 

 

……。

 

 




レーダーやら潜水艦について
私が見聞したことを混ぜてみました。

これが本当、というものではなく
あくまで『こんな感じ』程度に
捉えてもらえればと思います。

因みに海自潜水艦の最大潜航深度は
『A(アルファ)』と呼ぶそうです。

これと直接の関係はありませんが、
旧ソ連のアルファ型原潜の
最大潜航深度はヤバいとの事。

同期の潜水艦乗りがボソッと
私に教えてくれました。
…サブマリナーは偉大ですね。

特に潜水艦は秘の塊ですから
一般に公開されている範囲で
表現するのに苦労しました。

もし違っていましたら、
“公開出来る範囲で”ご指摘願います!

……

次話は魚雷命中からの爆撃。
果たして完勝となるか…。




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2-8b マーカス前哨戦 後半 【戦果、父島部隊】

 
後編となりますが、実際は結果報告。
サラッとした戦闘終結の流れです。



 

砲撃を行う艦娘たちの後方には

空母4隻が護衛艦を伴って待機。

 

戦艦や駆逐艦が前方で砲撃する中、

敵の射程外で戦闘を見守っていた。

 

 

 

「そろそろ、かしらね…」

 

艦橋の壁に掛けられた時計を

じっと見つめながら雲龍が呟く。

 

「潜水艦からは距離があるから

ここからは発射音は確認できないが、

予定通りなら間も無く直撃だ」

 

 

艦橋の両ウイングでは

見張り妖精が敵艦隊を注視する。

飛行甲板上には妖精がちらほら、

雷撃の様子を見にきた野次馬であろう。

 

程なくして、砲撃を実施していた

多数の敵艦に水柱が上がる。

 

前方で艦砲射撃をしていた

艦娘たちは予定通り射撃を中止した。

 

 

「…おっしゃあ!

艦爆隊、爆撃開始ッ!!

敵に潜水艦を攻撃させるな!

対空砲火が生きている敵艦から

優先して攻撃しろッ!」

 

俺がそう命令を出さずとも

既に彼らは急降下を開始していた。

 

 

……

 

 

「相変わらず“蒼龍”の艦爆隊は

無茶な機動で突っ込んでいきやがる。

んで“雲龍”と“加賀”の奴らは

教範通り横一列からの正攻法か…、

対空砲火は殆ど無いみたいだな」

 

千代田艦爆隊の隊長は呟く。

 

千代田艦爆隊は提督の発艦命令が

下るのを待ってから発艦したのだが、

他3艦、加賀・蒼龍・雲龍の艦爆隊は

ちゃっかりフライングしていた。

 

 

“提督ッ、待ちきれないんで出ますぜ!”

 

“おいおい、まだ発艦命令だしてねぇぞ。

血気盛んなのはいいことだけどさぁ…”

 

 

これには提督も苦笑いしたが

規律的にはグレーゾーンである。

 

彼を乗せている雲龍は一応謝罪、

加賀たちがそれを黙っているのは

提督に叱られたくないからか。

 

 

やや他の3隊に出遅れてしまったため

後ろから後続する形で飛行していた。

 

艦爆隊群は敵艦隊の手前で上昇、

上空3000mに達し次第急降下。

 

此処に至り敵はやっと艦爆隊に

気付いたのか、対空砲を撃ち始める。

 

…だが先程の魚雷命中により

弾火薬や燃料等に引火したのか、

爆発を起こす敵艦が少なくない。

 

 

「でもこの密度ならこちら側の

被害も最少限で済みそうだな」

 

隊長はニッと笑みを浮かべた、

それは慢心ではなく確信であった。

 

「この前攻撃した時は敵空母の

対空砲火もありましたからねぇ。

被撃墜はありましたが妖精が

誰一人戦死しなかったのは奇跡です。

でも油断したらやられます、

気を引き締めていきましょう!」

 

後部の機銃手を務める妖精が

伝声管を使って話しかける。

 

「ほう…お前も随分と

口の利き方が偉くなったもんだ。

この俺に説法するたぁ、いい度胸だ」

 

「い、いえそんなつもりはっ!」

 

しかし隊長は全く怒っておらず

むしろそれを喜んでいるようであった。

 

 

千代田艦爆隊は敵艦隊上空に達し、

隊長は列機へと告げる。

 

「…っと、そろそろだ。

対空砲火は下火になっているが

まだ沈黙したわけじゃない。

油断せず訓練通りやればいい」

 

そう言うと機体を反転させ

操縦桿を引いて急降下を始める。

 

艦爆隊はダイブブレーキを開き

急降下に伴う速度超過を防ぐ。

速度が速過ぎると、投弾の狙いが

狂うだけでなく機体の引き起こしが

できなくなりそのまま墜落の恐れがある。

 

速力を絞りつつ、これを開いて

爆撃手を兼ねた操縦手は狙いを定める。

後座の射撃手は高度を読み上げ、

投弾タイミングのサポートをする。

 

 

千代田隊が狙ったのは、

前3隊が撃ち漏らした敵艦。

既に被弾した敵艦については

脅威度が低いと判断しての選択だ。

 

広く万遍なく被害を加えて

その後は艦娘が始末する流れだ。

 

 

……

 

 

突如潜水艦による雷撃を受け

混乱していた深海棲艦部隊は、

まともな対空砲火も撃てぬまま

次々と爆撃を受けて戦力を削られる。

 

時たま艦爆に対空機銃が命中するが

どれも撃墜には至らず、むしろ

お返しとばかりに爆弾が命中し撃沈。

 

戦闘前は20数隻はいた敵艦隊も、

爆撃が終われば5隻程度まで減っていた。

水上に浮かぶ敵はいずれも

爆撃又は艦砲射撃により被弾し、

その抵抗は無駄あがきであった。

 

 

「水雷戦隊、突入ッ!!

残敵にトドメを刺してやれ!

金剛たちはそれに同行して

警戒にあたれ、抵抗するようなら

主砲をぶっ放しても構わん!」

 

後方で戦闘の推移を見守っていた俺は

すかさず突撃命令を下した。

 

 

……

 

 

———陸海空ならぬ水中及び空中

そして水上の戦術を駆使した統合運用の

立体的海戦は、理想的な結果に終わった。

 

 

 

戦果、敵艦隊潰滅。

 

 

護衛として張り付いていた軽巡らは

先述の通りなす術なく沈んだ。

 

その後、残っていた敵空母群を

戦艦・重巡による喫水付近への

演習弾及び照明弾射撃による

ボディーブローにて“処分”した。

 

処分、と表現したのは敵を

沈める様子が戦闘と呼ぶには

あまりに乏しかったからだ。

 

的当て、という言葉が当てはまるし、

死体撃ちとも呼べるかもしれない。

艦娘たちからもやや不満が上がる。

 

 

『ど〜してまた演習弾なんデ〜ス?』

 

『そうよ!こんな華々しくない海戦、

演習みたいなものじゃないのッ?!』

 

 

といった文句も出たのだが、

実弾を残しておきたいという

悲しい艦隊の懐事情があった。

 

「まぁ金剛も足柄もそう腐るなって。

マーカスでは砲身が焼け付く位に

その自慢の主砲を撃ってもらう、

今回はウォーミングアップってことで」

 

 

海幕は、“鳳翔の時”のように

敵の調査を実施させたかったが、

緊迫する戦局を考慮し撃沈を指示した。

 

俺も内心では、

(二度と立入調査はゴメンだぜ…)

とホッと胸を撫で下ろした。

 

その件についてだが、鳳翔の前身?

であったヌ級についての

調査結果は既に解析済みだ。

材質はもとより、艦内にあった

敵の書類やヌ級本体の肉片(破片か?)

 

それが正規空母に代わるだけのこと。

装甲といった諸元よりむしろ、

深海棲艦という敵自体の

仕組みを探究すべきである。

 

…というわけで、俺が

マーカス前の前哨戦と位置付けた、

小笠原東方海域における敵の

残存機動部隊はあっけなく全滅。

 

 

此方の被害も無しと言っていい。

雷撃を行なった潜水部隊は

案の定敵の爆雷攻撃を受けたものの、

深々度に潜航したため無傷。

 

ただ深く潜り過ぎてしまい、

バルブから漏水したのが2隻あった。

それは乗員による適切な対処により

すぐに復旧し、戦闘態勢は維持された。

 

一体深度何mまで潜航したのか…。

答えはサブマリナーのみぞ知る。

 

……

 

艦爆隊は4隊共に優秀であった。

 

攻撃のみならず、急降下中の

回避運動といった“防御”により、

10機程被弾はあったが無事生還。

着艦時の操縦ミスにより墜落した

蒼龍の損失1機を除けば全機着艦。

 

「落ちた奴らが無事でよかったぜ」

 

所属する蒼龍を掠めるように墜落、

至近にいた護衛艦により救助され

全機着艦後に内火艇にて移送。

 

搭乗していた妖精2人については

切り傷はあったものの無事だった。

 

「———ったく…。

爆撃に集中し過ぎて着艦の

方法を忘れたんじゃねぇかな?」

 

『あはは、そうかもね…。

私からも言っておくよ〜』

 

やや苦笑いで蒼龍が応える。

 

「へへっ…冗談さ、空母の4人は

妖精たちを労ってあげてくれよ。

今回のヒーローは艦爆隊の妖精さ」

 

そんな軽いジョークで

一時的に凍りついた雰囲気を変える。

 

「———前方に進出した各艦は

元の位置に復帰して陣形に加われ。

 

空母の4人については艦載機を

収容したら速やかに整備と休養を。

みんなよくやってくれた、

これで艦隊はマーカスへ進出できる。

 

今後については陣形の外周警戒を

護衛艦に一旦委任して、整備作業。

兵装の整備と補給が完了したら

随時交代して警戒に当たってくれ。

細かいことは落ち着いてから

また伝える、今は休息に努めてくれ」

 

『『了解!』』

 

 

艦娘たちの元気な声を聞いた後、

俺は彼女たちの健闘を讃えた。

 

 

 

※※※

 

 

———海戦の翌日

 

南鳥島まで500km地点

 

 

 

 

「現在地は父島から1300キロか…、

12ktで一日航行して500キロ進んだ。

単純計算でもう一日掛かるか、

進めど進めど海しかねぇじゃん…。

敵も出てこないしヒマだぁ〜!」

 

もう海はうんざりとばかりに呟く。

 

更に島の手前300km辺りから

対空警戒に入るため更に遅くなる。

 

島を囲むように敵強襲揚陸艦隊も

いるだろう、対水上戦闘も控えている。

 

「そうやって呑気にして

いられるのもあと数百キロまでよ?

まぁ提督自身がそれを一番

わかっているでしょうけど…」

 

「俺は気を張る時と休む時の

メリハリに厳しい人間でね。

 

上官が下手に警戒を命令しても

それが適時でなければ意味は無い。

ま、逆に上官が常に昼行灯だと

部下は不安になっちまうしなぁ。

 

ある時は堂々と休み、

またある堂々と命令する。

これぞイケメン提督の秘訣だせ?」

 

「艦橋の司令席に居座ることは

休んでいると言えるのかしら…?」

 

雲龍とのトークを楽しみつつも、

艦橋にて艦隊の進出を見守る。

 

「ん〜…半休半働、ってやつ?」

 

「無理がある四字熟語ね、

あながち間違ってないけど…」

 

それなりに提督としての

役割を果たしてるつもりだ。

 

“百聞は一見に如かず”と言うように、

戦場というものは直接見てこそ

その空気を感じ取ることができる。

 

現代戦は暗いCICで作戦指揮を

取るのが一般的ではあるが、

素人指揮官な俺にとっては

そんな常識は非常識である。

 

「“見ることもまた闘いだ”…って

どこかの強い医者が言ってた」

 

「時は正に“世紀末”…?」

 

「大体あってるから困るよなソレ」

 

世界は深海棲艦の猛威に包まれている。

こうして日本が戦っていること瞬間も

世界の各地では敵の攻撃が行われている。

 

 

……

 

 

予定ではあと2時間後に

艦隊から各種偵察機が発艦する。

戦艦や重巡に搭載された水偵も

その役割を余すとこなく使う。

 

それと同時に硫黄島からも哨戒機等が

偵察攻撃を行う手筈になっている。

 

 

“偵察攻撃”、即ち———

 

 

敵性対潜・対水上目標を発見次第、

通常の手続きを省いた無警告攻撃の実施。

 

 

———自衛隊が軍隊としての

第一歩を踏み出した瞬間であった。

 

 

近隣諸国に対してもこの旨を通達、

反発もあったが政府は当然無視した。

 

日本『え、なんで反対すんのさ。

あ、今もしかして領海侵犯してるの?』

 

近隣諸国『し、してねーし!

か、勝手にすればいいじゃんっ!』

 

日本『うん、じゃあそうするね。

深海棲艦は悪い奴らだからね、

領土と領海を専守防衛するよー。

人類側が領海に入るわけないから

不審な軍艦はすぐ攻撃するよー(棒)』

 

近隣諸国『(……チッ)』

 

 

反発した国は敢えて明かさないでおく…。

 

海幕からは、某国の原子力潜水艦が

慌てて領海付近から退去したとの報告。

どうやら海自が小笠原に進出中に、

良からぬことをしていたようだ。

 

 

(火事場泥棒ってやつか?

あの国だって沿岸部では深海棲艦の

襲撃を受けている筈なのに…。

どうしてそんなことができるんだ?)

 

端末を操作しつつ怒りを覚える。

 

(自国民よりも政党や国策を優先、

そんな国が日本の隣にいるとはなぁ。

今後のシーレーン防衛では

一悶着が起きるかもしれんな…)

 

こうして戦っているだけでも

頭を抱えたいというのに、

味方である筈の人間がこうして

私利私欲を画策する現実。

 

味方である米海軍が日本から

撤退同然に引き上げたのが要因だろう。

そして佐世保基地を母港とする

護衛艦もその殆どが護衛任務部隊へと

派出してしまったこともある。

 

つまりは西方領海は無法地帯。

無論、最低限の護衛艦等はいるが

必然と警戒にも“抜け”があるワケで…。

 

 

SW(サーウエスト)———東シナ海には

アブない方々がいるようだ…。

 

(ケッ、政治的判断は本土の海幕に

任せて俺は目の前に集中しよう…)

 

 

世の中どーにもならんものもあるし

考えるだけ無駄、ムダの極み。

 

(索敵を行い敵情を探る、

少なくとも敵の編成を調べないと…)

 

俺の隷下である艦娘、そして

部隊指揮官を通して硫黄島の哨戒機へ

求める情報のオーダーを送る…。

 

 

※※※

 

父島沖 駆逐艦『秋雲』

 

 

「———ねぇ、あの提督って

普段からあんな感じなの?」

 

秋雲は唐突に問いかける。

 

『そうじゃな、確かに提督は普段から

艦娘にセクハラをしておるぞ!』

 

利根が自信満々に答える。

何故胸を張ってそう言えるのか…。

 

それに便乗するように妙高。

 

『否定はできませんね…。

ですが提督はみんなにとても

優しくしてくださいます。

ちょっとだけ子供らしい一面も

お持ちで可愛らしいですよ』

 

「えぇ…まさか妙高さんまで

“恋する乙女”になっちゃってる…?」

 

 

流石に秋雲は驚いた。

真面目艦娘の一角を占める妙高でさえ

あの提督を少なからず慕っているとは。

 

(まぁアタシ的にも好きになれそう

だし全然いいんだけどね〜)

 

これは恋愛的な意味ではなく、

ヒトとして好きという意味である。

 

一目惚れとか運命の出会いというのは

現実ではそうそうあるものではない。

 

 

『あの人って人気者なんだね!

阿武隈から聞いたんだけど

提督とキスもしちゃってて、

一部ではプロポーズもしたんだって!』

 

鬼怒の言葉に長月がため息を吐く。

 

『司令官はそんなに色男なのか…。

だがこうして多くの艦娘に慕われて

いるということは、少なくとも

指揮官としての器はあるのだろうな』

 

『…別に私は誰が指揮官だろうと

関係ありませんので気にしてません。

ただ“北上さん”に早く会わせて

もらえればそれでいいです』

 

素っ気なく大井が言い放つ。

北上を慕う想いを隠そうとしない

姿勢はメンタルが強いと言うべきか。

 

その言葉に異を唱える者、

それはとても意外な人物だった。

 

『そんなことないわよ、大井さん。

私も司令官と詳しく話すまでは

同じように思ってました。

 

でも、司令官は司令官なりに

私たちを思ってくれている。

そして艦娘に対しては言えない

悩みや弱さも抱えていても

最善の努力をしている…』

 

 

満潮の珍しく好意的な意見に

艦娘たちは、朧げに事情が理解できた。

 

((やっぱり惚れてるんだ…))

 

もしや提督は、艦娘を惹きつけるオーラ

でもあるのかと不思議に思いつつも、

秋雲たちは静かに話を聞き続けた。

 

 

……

 

 

提督についてのトークは、

容姿や中身についてのことから

業務に関する硬派な話題へと移る。

 

 

「———提督って23歳なんでしょ?

それで階級も3佐、超エリートじゃん」

 

秋雲の言葉を飛鷹が否定した。

 

『う〜ん…どちらかといえば違うかな?

提督は高卒だし、階級も隊司令に

なったことによるオマケみたいな

ものだって本人も笑ってたし…。

でも給料が倍になったって喜んだり、

たまに艦娘に料理を奢ってくれるわよ?

 

別にセクハラしか考えていない

変態って訳じゃ無いし、艦隊の

運用に関しては隊付の村上3佐

よりも数段上手(うわて)なんじゃない?

この作戦に際しての準備でも

重油や弾火薬の調達を出港前日の

深夜までこなしていたのよ。

 

そ、それにちょっと優しいし…』

 

((いやそこは聞いてない))

 

その最後の一言は蛇足…。

提督も罪な男である。

 

『そういえば燃料も必要よねぇ〜。

この時代の艦艇では軽油を燃料に

しているみたいだし、艦娘用の

重油の調達もしておかないと

フネが動かなくなってしまうし〜…』

 

『そこだよなぁ、深海棲艦が

シーレーンを脅かしてっから原油の

価格が急騰してるってテレビでも

言ってたな。オレたちの分は政府が

国庫金で買う形だけど、国民は

値上がりして困ってんじゃねぇかな…』

 

龍田と天龍だ。

 

龍田はこの数日間で現代の

日本について艦娘たちから多くの

ことを教えてもらっていた。

 

その情報源は主に姉妹艦である

天龍からであるが、大雑把そうに

みえて的を得た結論は龍田にとって

現代日本を分析する貴重な機会であった。

 

 

……

 

 

そんな2人のやり取りを聞いていた

松風がやや達観したように話す。

 

『時代は変われど海軍の役割は

ずっと変わらないのだろうね。

海上護衛、その言葉には

この海洋国家である日本にとって

とても大切なことが詰まっている。

 

僕も船団護衛中に沈んだ、

場所は知っての通り司令官たちが

敵機動部隊を倒したまさにその地点。

…まぁそれは偶然だろうけど。

 

海上自衛隊ってのは海上護衛と

対潜戦に特化しているそうじゃないか。

なら心配はいらないね、

僕も全力を尽くすだけさ。

みんなもついてきてくれるかい…?』

 

 

そんな松風の決意を他所に、長月が

水を差すかのようにコメントした。

 

『…お前は睦月型(私と望月)よりも旧型だろう、

まずは近代化改装をしてもらって

戦うのはそれからにしておくべきだ』

 

『長月ぃ、それめっさブーメラン。

睦月型もかなり改装が必要、

それと松風が良いこと言ってたのに

余計な指摘は酷いっしょ…?』

 

望月の指摘は長月を“大破”させた。

 

『うっ、うぅ…確かにすまなかった』

 

長月は松風に素直に謝罪した。

 

『僕は気にしていないさ。

それに、君の指摘は間違っちゃいない。

 

“正義なきチカラは無能なり、

チカラなき正義も無能なり”

 

天龍さんが昨日言ってたね、

たしか有名な格闘家の格言だったかい?

 

司令官や艦娘のみんなは

かつてと同じように、日本を護る為に

強い信念を持って戦っている。

装備は古くとも改装されていて

この時代の艦艇にも劣らぬ性能、

二つの要素が揃っているじゃないか。

 

敵はバケモノ、人類を脅かす存在…。

戦いを嫌うから平和に

なるのではなくて、平和の為に

戦うからこそ平和を掴み取れるんだ。

 

旧式や無力なんて関係ない…

折角またこの世に生を受けたんだ、

この身を捧げるのみ。

君たち、よろしく頼むぜッ!』

 

 

松風は一方的に語り、言葉を切った。

聞いていた艦娘たちは

各々の想いを新たにする。

 

父島の守備艦隊は警戒を続ける。

いつ現れるかもわからぬ敵に備えて…。

 

 

☆☆☆

 

守備艦隊主戦力は艦娘たちである。

 

護衛艦も少なからずいるものの、

総合的に見ると艦娘に劣る。

護衛艦というものは有効な

打撃力を持っていないからだ。

 

空母から繰り出される艦載機、

戦艦や重巡から放たれる大口径砲弾…。

はぐれ深海棲艦程度ならば

演習をするかの如く決着は着くだろう。

ヘタすると、1発の砲弾・爆弾で

終わってしまうかもしれない。

 

もちろん護衛艦も戦う手筈だ。

故に陸、海、空自の関係部隊は

臨戦態勢を敷き、警戒を緩めない。

 

 

“付近に敵を認めていないというのに

これは過剰戦力かつ無駄な警戒である”

 

“父島の防衛は硫黄島にいる

航空部隊に任せて、守備艦隊から

戦闘艦を分離・前進させるべきだ”

 

 

本土の幕僚(分からず屋)からそんな言葉が上がる。

 

しかし敵の動勢は未だ不明、

それに今から進出したところで

追いつく頃には奪還部隊は

戦闘を既に開始しているだろう。

 

燃料もあまり余裕が無いため、

海幕は警戒継続を指示した。

 

 

 

 

———皮肉なことに

その“無駄な警戒”が役に立つとは、

艦娘や隊員たちはまだ知らない……。

 

 

※※※

 

小笠原諸島 父島某所

陸自対艦ミサイル陣地

 

 

「———やっと書き終わったぜ…」

 

 

陸自対艦ミサイル連隊連隊長である

峰木1佐は本部テントの中で、

戦死した部下隊員遺族への

謝罪文書をようやく作成し終えた。

 

既に陸幕へ戦死した隊員全員

についての報告は終わり、そこから

遺族への戦死通知は発送されていたが、

彼は自ら部下の遺族へと直筆で

手紙を書くことにしたのだった。

 

 

「こんなものを書いても

所詮俺の自己満足に過ぎん、

受け取った御遺族も怒るかもしれ

ないが何もせずにはいられねぇ…」

 

そう零すと静かにペンを置いた。

書き終えた文書を庶務担当に渡し、

連隊長は喫煙所に向かった。

 

 

……

 

 

「「お疲れ様ですっ!」」

 

「おう」

 

先客の隊員たちに答礼し、

何事もなかったかのように

迷彩服から取り出した煙草を吸う。

手には缶コーヒーを持っている。

 

「どうだお前ェら、キツいだろ?」

 

「はい…覚悟はしていましたが、

さっきまで話していた人が

死んだという事実は信じられません」

 

輸送艦に便乗していて突如空襲。

艦内にいて爆発、隣の隊員が戦死。

それが戦争というものなのだ。

 

「俺もだ、だが悲しくても

敵はそれを待っちゃくれねぇ。

海自は海の上でドンパチしてる。

陸自と空自は硫黄島、そして

この父島を守らなきゃなんねぇ、

それが死んだ奴らへの葬いだ」

 

肺にある煙を、天に向かって吐く。

彼なりの供養なのかもしれない。

 

「空自の奴らも一緒の筈だ、

悔しいのはお互い様なんだぜ。

ここが踏ん張りドコロってやつだ」

 

少し離れた空自の対空陣地を

顎で指しながら眺める。

 

輸送艦上では対空ミサイル1基に

敵機の銃弾が命中し破壊された。

その戦力損失を補うように

毎日遅くまで猛訓練を行い

練度を高める空自対空部隊。

 

「硫黄島の哨戒機が空から

警戒してくれてっからしばらくは

俺たちの出番も無いだろう。

だが深海ナントカってやつらは

必ずこの島に来る筈だ…。

 

俺が敵の立場なら、周辺にいた

水上部隊が()()()()()()()この機会を

見逃さずに後方基地である硫黄島と

父島を叩くチャンスと考えるぜ?」

 

隊員は困惑した。

 

「少なくなっている、ですか…?

でも護衛艦とか空母も近くで

警戒してるじゃないですか、

むしろビビって寄ってこないんじゃ…」

 

「敵の目的は島を叩くことじゃねぇ。

それを引き金にして、南鳥島に

向かった艦隊を動揺させて反攻を

妨害させようって魂胆なんだよ。

あわよくば反転させるための、な…。

 

いくら硫黄島に海自と空自の

ヒコーキがいるっつっても、

数は限られてるしミサイルも有限だ。

 

敵がもし数でゴリ押ししてくる

飽和攻撃をしてきたら、どうだ?

父島にいる俺たちが加勢しても

倒せるかどうかわからねぇ…」

 

そう言い放つと連隊長は

持っていた缶コーヒーを飲み干した。

 

「硫黄島と父島の2つの拠点。

硫黄島には今言ったように

ヒコーキ部隊がいっから攻めるのは

そう簡単にゃできねぇ、でもココは

対艦・対空ミサイルのみ。

 

それにココを押さえることが

できれば硫黄島は孤立する。

そうしたら小笠原諸島は完全に

敵の手中に収まるってわけでェ…」

 

素っ気なく語る連隊長。

 

「じ、じゃあもっと増援を…!」

 

「バ〜カ、俺たちがその増援だろうが。

お前ェなんかに言われねぇでも

ちゃぁ〜んと進言してあんだよ。

 

沖にいる艦娘の姉ちゃんたちや

護衛艦からもヘリを飛ばして

常時警戒してもらってっからよォ!」

 

ガハハハと大らかに笑い、

隊員たちの肩を連隊長は強く叩いた。

 

「そういうことだから

お前ェらも腹ァ括っとけよ。

———っと、もうすぐメシだ。

食える時に掻き込んどけよォ?

“腹だけにメシ”…ってかァ?!」

 

 

敬礼する隊員たちへ連隊長は

戯けた答礼を行いその場を後にする。

隊員たちも表情がやや緩んだ。

 

 

———だが、ゆっくり歩く連隊長の

顔は微塵も笑ってなどいなかった。

 

 

先ほどの言葉が現実と

なるかは誰にもわからない。

 

 

(任せろ“圭人”。

それが俺たちの出来ること(戦い)だ…)

 

 

———少なくとも、人類には

深海棲艦の考えることを理解したり

予測することなど不可能なのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
2017年10月12日、
とある新造艦が進水しました。
護衛艦『しらぬい』
名前の由来は言うまでもありません。

あさひ型でしらぬいは予想外でした、
次の護衛艦は『かげろう』かもです。
かつて海自にいた時に
部内で候補が上がっていまして、
陽炎や不知火がありました。
…なお暁は『垢付き』ということで
却下されてしまったようです。


そろそろ展開が動きます。
後方を守る父島の部隊、
迫り寄る深海棲艦群…!!


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2-9a 陽動の目的 【提督、守備部隊】


———雲龍は困惑していた。


『———なぁ菊池3佐。
今なら間に合うかもしれぬ、
父島に引き返して戦うべきだ!
後方の憂いを取り除いてから
マーカスに向かえばよかろう…?』

『航空戦力を投入しましょう!
貴隊の空母艦載機を飛ばし、
父島にいる軽空母へと
着艦させればいいのでは?!』


———無線機から流れる
喧騒に対して、ではない。


「いいえ、私は反対です。

まず、引き返す件についてですが
この艦隊は進み過ぎました。
最早、後の祭り以下の野次馬です。

それに仮に引き返したとしても、
現地の補給艦の搭載燃料では
当艦隊の全艦に補給は不可能です。
弾薬を浪費する上、マーカスに
投入すべき戦力が少なくなります。

次に艦載機を向かわせる件ですが、
着艦できるのは10機かそこらかと。
編隊の到着も、時速300kmで
急行したとしても5時間後。
———間に合いません。
それに、当艦隊の航空戦力を
ドブに捨てる形になりますから、
結論としては父島は“見捨てます”。

守備部隊には守備部隊の、
我々には我々にしかできないことが
あるはず、それを行うだけです」


———その原因は提督。


「———全艦、針路速力このまま。
行動予定に変更は無い、
父島は妙高や飛鷹、そして陸自や
空自の部隊に任せておく」

素っ気なく話す提督。
だがその目は強く閉じられている。

(やっぱり辛い、のよね…)

そんな提督に対して、
雲龍はどんな声を掛けるのか…。









…その数時間前。

 

『加賀』士官室

 

 

 

「———別の敵が父島に対して

襲撃をかけるかもしれない、と…?」

 

加賀は村上に問うた。

 

「ああ、菊池はそう踏んでいる。

確かに俺たちは西之島の敵艦隊を

壊滅させ、西方の制海権を取った。

…だが敵は深海棲艦、いきなり

大艦隊が現れても不思議じゃない。

 

少し違うかもしれんが、

例えると将棋の『持ち駒』だ。

 

敵は何の前触れも無く、

艦隊を出現させたりしている。

未だその条件等はわからないが

ある程度コントロールできるようだ。

その証拠に、以前の父島沖海戦や

西之島沖海戦では大量の敵潜水艦が

神通や曙たちに襲いかかっている…。

 

それに引き換え俺たちは

後方と前線が離れ過ぎている。

つまりお互いを援護できない…」

 

端末のキーボードを叩きながら

隊付である村上は重々しく語る。

加賀はため息を静かに吐き、

険しい顔で腕を組んだ。

 

(もし父島にいる『妙高』や『飛鷹』が

襲撃されてしまったら小笠原は…。)

 

加賀は最悪の場合を思い浮かべたが、

それと同時に冷静な判断もしていた。

 

 

「…間に合わない、ですね。

艦隊が反転するのは論外。

艦載機を飛ばしても片道ですし、

それに何より、この艦隊の

存在意義が無くなります。」

 

加賀は言葉を繋げた。

 

「そうだ。

硫黄島には航空部隊及び

対艦・対空ミサイル部隊がいる、

直接攻撃するのは厳しい。

だがその北にある父島なら———」

 

「———敵はまず地上の部隊を攻撃し、

慌てて飛んできた航空部隊を迎撃。

日本本土と硫黄島の中間である父島は

あっけなく陥落、そして深海棲艦は

小笠原諸島を手中に収める、と…。」

 

加賀が言葉を引き継ぎ

村上はコクンと頷いた。

 

「当然それを想定してはいるが

さて敵がやってきたぞ、となったなら

硫黄島の航空部隊が対処せねば

これを撃退できないだろう…。

かといって全力を出し尽くせば

硫黄島自体が攻められかねん…」

 

 

2人は苦い顔をした嘆く、

進むも退くも地獄であると。

 

だが加賀はすぐに頭を切り替える。

 

 

「…それで、これを提督は

どのようにお考えなのでしょうか?」

 

「いま加賀が言った通りだ。

数日前と同じく見捨て———

いや、見捨てるってのは少し違うか。

 

確かにこの艦隊はマーカスへ直行し、

仮に父島に襲撃があっても反転しない。

だがそれは菊池にとっても

それは苦肉の策だろうさ」

 

村上はそう答えると、

何かを思いついたように語り始めた。

 

 

「あれは教育隊の時、陸上警備の

教務担当教官の発した言葉で

ちょっとした口論があってな…。

 

 

“仲間を見捨てて逃げるなんて

私は真っ平御免なんですよねェ。

———まァ、どうしてもというなら

教官を説得して差し上げますが…?”

 

 

奴が教官に喧嘩腰で言い放ったんだ。

 

 

“———状況、撤退戦。

分隊の仲間の中から有志、

又は推薦にて足止め部隊を編成する。

つまり、囮隊員が奮戦して

本隊の撤退をサポートするんだ。

…ん、どうした菊池学生?”

 

教官がそう言った後、奴は言ったんだ。

 

その教官としては悪気はなく、

“もしも”の場合を想定するという

至って通常の訓練だった…」

 

村上は卓上の麦茶を口に含んだ。

 

「俺や他の同期たちが

その問題に答えかねていたら

菊池が手を挙げ、そう答えたんだ。

奴が教官に歩み寄った時は

全員が止めに掛かったな、

てっきり殴り掛かると思ってな。

結果的に殴りはしなかったんだが。

 

チョークが教官の近くにしかなくて

それを借りに近付いただけだった。

そして書かれた戦況図に書き込み、

各班の役割や目標を説明して

全員が生還する戦術を提示した」

 

村上はそこまで語ると

残っていた麦茶を飲み干した。

 

「———っと失礼。

菊池としては、小笠原だけで

やれると打算しているそうだ。

腹案には程遠いがな…」

 

 

(提督らしいエピソードね…。)

 

 

仮にといえど仲間を犠牲にする

作戦に対して異を唱えるその高潔さ、

そして純情さを持った提督。

 

 

『さすが提督だ。』

 

『この人が提督でよかった。』

 

 

この話を平時に聞いていれば

感じることももまた違っていただろう。

…だが今は違う。

 

(敵が来ないことを祈る。

それしかないのかしら、ね…。)

 

加賀は胸中でそう願った。

 

 

※※※

 

 

———時間は戻る。

 

 

雲龍はどう話し掛けたらよいか

言葉を選びかねていた。

 

(鳳翔さんや加賀さんなら

気の利いた言葉を言えるのかも…)

 

 

『父島西方に敵大規模艦隊。

空母数隻、敵戦闘機の発艦を確認。

本機は退避に移る』

 

 

硫黄島を離陸した哨戒機が

父島西方に敵艦隊を視認。

 

 

通信が終わった後の沈黙、

哨戒機の安否を暗示するかのようだ。

 

提督や連隊長が睨んだ通り

やはり別働隊がいたようだ。

 

程なくして当該機から

無事振り切ったと報告があり、

安堵したのも束の間。

この敵艦隊にどう対処すべきか

指揮官クラスによる検討が始まる。

 

 

“奪還部隊を戻すにしても

時間がかかりすぎるぞ”

 

“では父島を見捨てるというのか?

何らかの支援は出すべきだ”

 

 

支援不要派は3割、

何かしらの形で要支援派7割。

 

そして提督、

菊池3佐は不要だと言い切った、

———激情を押し殺した言葉で。

 

目を閉じ眉間に皺を寄せている。

司令席の肘置きを力の限り掴み、

心の内を声に出すまいと。

 

 

……

 

 

やがて傍でたじろぐ雲龍に気付き、

あ~参ったまいった、と苦笑いした。

 

「敵もなかなかやるよな、

コッチの奪還作戦を妨害しようと

必死になってるのがよくわかる。

 

ああ、心配しなくていいぞ。

別に諦めたり達観してないし、

ちょっと不安になってただけさ」

 

やや陰が残る提督の顔であるが、

それでも雲龍は少し安堵した。

 

「ここからでは父島の部隊に

支援は送れない、ものね…」

 

「それが揺るがない事実だから

悔しさを堪えて受け止めるしかない」

 

提督は続ける。

 

「仲間を見捨ててでも、

国民を守るのが軍人だ…。

それが同期の仲間であっても、だ…」

 

自嘲気味に語る提督を

見つめることしかできなかった。

 

彼の見つめる先の空に写るは

亡くなった隊員たちだろうか。

 

「でも約束したんだ、

“俺がなんとかする”って…。

アイツに艦娘を紹介するのは

無理になっちまったけどね…。

 

それに父島にいる妙高たち、

かなり心配はしてる。でも彼女たちを

信頼して残ってもらったんだ、

それを疑うのは提督失格だろ?

敵に空母が居るようだが、

飛鷹と空自の戦闘機がいる。

島には陸・空自のミサイル部隊もいる。

 

それに……」

 

「それに…?」

 

雲龍が問う。

 

「陸自の連隊長が言ってくれたんだ、

 

“俺は後方守る、

前線はオメェに任せる。

後ろは任せろ、

父島は俺がどうにかする!”…って。

だから、俺は…頑張らないと。

 

おれたちはマーカスにいく。

みんなを、しんじてるから…

きっと、みょうこうたちも

それをねがっているから…」

 

 

(……提督?)

 

 

そして雲龍は見た。

 

 

前方の空を見上げたままの提督、

その頬からポタポタと滴る光。

 

その正体に気が付かぬ雲龍ではない。

彼女は提督を優しく抱き締めた。

 

(これが“男泣き”なのかしら…)

 

雲龍の胸の中で静かに泣く提督。

 

(そうね、不粋な言葉を掛けるより、

抱き締めた方がいい時もある…)

 

「私、ずっと隣にいますから。

……だから、大丈夫です」

 

それだけを言うと雲龍は

子どもをあやすかのように

提督の頭を撫でる。

 

まるで母親が子供に対して

静かに愛情を注ぐかのように。

 

 

☆☆☆

 

 

提督は泣き虫ではない。

———いや、泣き虫ではなかった。

 

だが提督になってからは激務、

特に“命”のやり取りをするという

倫理から逸脱した戦争をしており、

精神的疲労が著しい。

 

日常では「セクハラするぞ!」と

艦娘にちょっかいを出しつつも、

戦闘中においては皆無である。

 

戦闘が落ち着けば別であるが、

それでも抱き締めたりする程度。

 

本人は自覚は無いが一種の

精神的支柱を欲していたのだ。

 

詰まる所、彼は安らぎを求めていた。

 

 

彼はいい歳の大人といえども

精神は成熟したと言い切れず、

それを支える存在が必要であった。

 

この場合では雲龍。

そして村雨然り、加賀然り…。

 

 

———提督は純情だ、

余りに純情過ぎるのだ。

汚さを知ってしまったために

反抗するかの如く、真っ直ぐ生きる。

 

『俺は絶対にクソ野郎にはならねぇ!』

 

時たま出会う“腐った”上官や政治家…。

そんな者たちに媚びへつらう必要は無い、

彼にとっては反面教師程の存在だ。

 

 

自衛官とは軍人と同等の存在。

本来なら軍人とは非情を必要と

されるのであって、純情など不要…。

 

 

ある意味提督は軍人失格かもしれない。

だが艦娘にとってそれは

心地の良いものであった…。

 

普段の彼を見ればわかる。

セクハラ云々を堂々と隠さず言う、

思ったことはすぐ口に出す。

 

文面上は明らかに変態であるものの、

裏を返せば隠し事をできないタイプ。

つまり嘘は言えないが

喜怒哀楽がはっきりしており、

だからこうして我慢の限界がくれば

感情を爆発させてしまうのだ。

 

そんな提督を見た艦娘は思うのだ、

私が支えなければいけない、と。

相互補完とでもいうのだろうか。

 

だが彼の持つ素直な性格も相まって

艦娘からは慕われているのは事実。

 

彼自身もそれを克服して

もっと強くなりたいと考えるが、

そんなことは無いと言う艦娘もいる。

 

 

自称・提督のお嫁さんである

某白露型3番艦の艦娘は言う、

『無理に強くなる必要は

ないんじゃないかしら』と。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

10分ほど経った頃。

 

 

「…ぐすっ、すまんかった」

 

提督は視線を逸らしながら

恥ずかしそうに呟いた。

 

(あら、意外とウブなのね…)

 

雲龍はそう思ったが

顔には出さなかった、

少し提督を可愛いと思ったが

それも心の底に仕舞うことにした。

 

「今更だけどこの作戦、

最初の目的から逸脱してるな。

南鳥島への増援輸送だったのが

硫黄島と父島に振替えられたり、

西へ行ったり東に向かったり…。

 

そしてやっとマーカスと思ったら

まーた父島に敵がやってきた、と。

 

…これはあくまで俺の推測だけど

この場面で父島に襲来するのは

やはりこの艦隊を足止めさせ、

奴らの目的を達成させる為だ。

 

非情ではあるが、艦隊はこのまま

東進するのが正しいだろう。

きっと軍人としては正しいが

ヒトとしては失格なのかもしれない…。

 

小笠原の住民と本土の国民、

2つを天秤に掛けるのであれば

本土の国民に傾くだろう。

 

だが、小笠原には仲間がいる。

連隊長や妙高たち、そして硫黄島の

航空部隊を俺は信じている…」

 

「誰が提督を責めるというの、

そんなこと誰もしないわよ…?

他の艦娘だって自身の無力さを

嘆いたとしても、提督の采配に

文句がある訳ではないわ。

 

私たちには私たちの戦いがある、

それを伝えるだけでいいと思うわ…」

 

微笑みながら語る雲龍、

そして提督は気持ちを入れ替える。

 

「そうだな、サンキュー雲龍。

改めて、よろしく頼むぜ…」

 

 

<<グゥ~…>>

 

 

提督の腹時計、

それは2人を現実に引き戻す。

 

「……クスッ」

 

提督は普段の明るさを取り戻しつつ

やや照れながら腕時計を見る。

 

「Oh…すんまへん腹減りました。

って、もうこんな時間か」

 

 

タイミング良く妖精が現れ

2人に配食可能を告げた。

 

「クヨクヨしてもしょうがない。

まずはメシ、悩んだところで

何もできないのは明らかだしな!」

 

「それでいいと思うわ。

その方が提督らしいし、堂々と

してくれた方が艦娘としても嬉しい。

それに———」

 

「…それに?」

 

 

“私も提督の笑顔が好きだから…”

 

 

「な、何でもないわ。

さっ、食事が冷める前に食べましょ?」

 

「お…おう、そうだな!」

 

 

奪還部隊は進む、

後方の守りを仲間に任せて。

 

奪還部隊は邁進する、

迷いと憂いを拭い捨てて。

 

提督は後ろを振り向かない、

仲間を信じているから。

 

 

———そして提督は信じる、

艦娘そして戦友の奮戦と勝利を。

 

 

(頼むぞ、みんな…。

陸自と空自、そして航空隊や

護衛艦も艦娘を頼む!

マーカスは俺が必ず奪還する…!

———それでいいよな、山下…?)

 

 

提督は空に目を向けて

鬼籍に入ったであろう同期に問うた。

 

憎いほど綺麗な空からは

彼への答えは返ってこない…。

 

 

空は拒否するかのように…。

 

はたまた、元からそこには

戦死者の魂は無いと言わんばかりに…。

 

 

 

 

※※※

 

同時刻

硫黄島航空基地

 

 

硫黄島にある航空基地では

慌ただしく出撃準備が行われていた。

 

 

「空自の戦闘機を先に飛ばすんだ、

武器整備班についてはP-1への

ミサイルと対潜爆弾を急がせろッ!」

 

海自の航空隊司令が指示を飛ばす。

隊員たちは急ぎつつも確実に

哨戒機の発進準備を整える。

 

一方、戦闘機は既にミサイル等の

対空兵装を装備して待機していた。

 

かつて『支援戦闘機』と呼ばれた

F-4EJ改は対艦ミサイルも積めるが、

今討つべき敵は敵航空機。

 

 

敵に空母が居る、

となれば此方も戦闘機が必要…。

 

 

空自のF-4戦闘機の発進を優先させ、

海自哨戒機部隊は弾薬を積めるだけ

搭載し、敵艦隊へと向かう手筈だ。

 

硫黄島自体が襲撃される可能性も

ゼロではないため全力出撃では

ないものの、可能な限り飛ばす。

 

 

F-4戦闘機が持つ二つのエンジン、

国産ターボジェットJ79-IHIが

轟音を轟かせ、聴く者を勇気付ける。

 

F-2やF-15に搭載されている

ターボファンエンジンとは異なる、

爆音ともいえる雄叫び。

 

燃費よりも速力重視の性能、

それは戦うモノに許された特権。

 

 

『———March01, Iwoto tower.

 

≪302SQ 1番機、こちら硫黄島管制塔。≫

 

Order vector 160,Climb and maintain

angle 32,Squawk XXXX.

 

≪目標方位は160度、離陸したのち

高度32,000フィートを維持、

トランスポンダはXXXX。≫

 

離陸後はExcel(早期警戒機)lによる管制を受けよ。

海自のSea Eagle(第3航空隊)については

貴隊が発進してから、

準備出来次第離陸の予定』

 

『———01, Wilco.

敵艦載機は俺らに任せてくれ』

 

『頼もしいな、期待している。

 

———Taxi to holding

point E1, using Runway 07.

≪停止位置E1まで滑走せよ、

離陸滑走路は07である。≫』

 

 

滑走路の手前でF-4は一時停止する。

滑走路上の安全が確認され、

管制塔から進入許可が下りる。

 

F-4は間髪入れずに離陸位置へ移動、

パイロットは固唾を飲んで待機する。

 

 

『———Wind 100 degrees

at 3 knots, Runway 07.

≪滑走路07における風向風速、

100度から3ノットである≫

 

———Cleared for take off.

≪離陸を許可する。≫

 

———Good luck, Murch!!』

 

 

1番機に続いて各機は

大地を蹴って大空へと羽ばたく。

 

指示された巡行高度に向かい、

敵編隊の予想進路に向首する。

 

(今回はミサイルを温存して

機関砲で仕留めていくしかない。

迎撃任務ではなく爆撃だったら

いっそ無誘導爆弾を使いたかったが、

準備できなかったのは痛いな…)

 

飛行隊長は後悔したが今は

迎撃に専念すべきと頭を振った。

 

やがて早期警戒機から

敵編隊のデータが送られてくる。

 

前回の敵機動部隊空襲、

そしてこの迎撃作戦と

引っ張りだこの、空自F-4戦闘機。

 

(コイツもしばらく引退できんな…)

 

戦う機会を与えられて

機体も喜んでいるに違いない、

そんな考えがちらと浮かんだ。

 

「狙うは敵爆撃・雷撃機編隊、

戦闘機は余ったガンで落とせ。

プロペラ機とドッグファイトして

落とされました〜、なんて

マヌケな奴は居ないよなぁ?!」

 

『流石に居ないっすよ!』

 

『そう言ってるお前が

いつもやらかしてるだろうに』

 

『違いねぇや!』

 

 

編隊を組みつつ

やや軽い言葉を交わす。

 

……

 

その電波は父島沖にいる

艦隊でも受信されていた。

頼り甲斐があるというか、

慢心しているのではないかと

やや心配する者もいたが、

その腕を疑う者は居なかった。

 

先日の攻勢において発揮されたチカラ。

 

ファントムⅡ(幻影)は未だ健在なり、と

戦闘結果で示した第302飛行隊。

 

深海棲艦が現れる前のこと、

何事も起きなければこの部隊は

米国開発のF-35へと機種変換する

計画であったが、空幕は情勢に鑑み

その戦闘機保有定数を増やすことを

決定し、本飛行隊は現状維持のため

その更新計画は先送りになった。

 

しかし数世代前の戦闘機であっても

そこはやはりジェット戦闘機、

プロペラ機に負けるはずもなく…。

 

老体に鞭を打ち、亡霊は飛ぶ。

 

 

 

そんな通信を聞きつつ、

艦隊は対空戦闘に備える。

 

 

※※※

 

 

父島沖

守備艦隊

 

 

「砲弾を弾薬庫から搬出して

すぐに装填できるように、急いで!」

 

 

全ての高角砲には妖精が配置され、

空襲前の打ち合わせが行われていた。

 

大淀と秋月が装備している

長10cm連装高角砲では、

砲弾の運搬作業が行われている。

 

即応弾は可能な限り装填されているが

それが切れてしまえば…沈むしかない。

もし即応弾を使い果たせば、

人力で装填を行わなければならない。

 

そこで戦闘前に、砲架下へと

主砲弾を集積することにしたのだ。

 

 

しかし砲弾というものは

存在自体が危険であり、

それを装甲に覆われた弾薬庫から

大量に出しておくことは厳禁だ。

 

艦娘たちからも反対意見が出たが

秋月と大淀はそれらを押さえ込んだ。

 

“戦艦や重巡ならまだしも私たち

軽巡や駆逐艦は装甲は皆無です。

1発でも被弾すれば致命傷になります、

それならとにかく撃つしかないんです!”

 

要は、やられる前にやるしかない。

 

 

『迎撃にあたり、最終確認をします!』

 

大淀は高らかに通達する。

 

『我々は防空の最後の砦です。

まずは空自戦闘機が側面から奇襲、

攻撃機を優先に狙ってもらいます。

 

島の空自部隊と護衛艦から

対空ミサイルを発射、それを抜けた

敵機を艦娘が高角砲や機銃で迎撃…』

 

大淀に代わって、秋月が引き継いだ。

 

「情報によりますと、敵編隊は

戦闘機が少数で攻撃機多数とのこと。

50機ほどの編隊が3、4つで飛来中、

先日の空襲以上の激戦が予想されます」

 

秋月の脳裏に浮かぶは記憶、

つい先日の空襲での被害。

 

「護衛艦による援護も前回より

多いですが、敵は深海棲艦です。

無傷とはいかないでしょう…」

 

だが、やらなければならない。

 

「敵が15km以内に入りましたら

主砲、副砲や機銃…ありったけの

砲熕兵器を投射してください!

提督や任務部隊指揮官からは

既に許可はいただいています!」

 

つまりここが踏ん張り所、

後のことは考えず戦っていい。

タマの無い軍艦は只の的だ、

それを考慮しての許可だ。

 

「この秋月、力不足かもしれません…。

ですが司令と約束しました、

“大切なモノは必ず守り抜く”と…。

自惚れや慢心などありません、

只全力を尽くすのみッ!!」

 

秋月に迷いは無かった。

 

持っている力を出す、

それだけを愚直に守る。

単純かつ最善の方法。

 

『迎撃機はどうするの?』

 

艦隊唯一の空母、飛鷹だ。

 

「航空戦力は欲しいですね!

ですが96式艦戦では敵のF4Fと

やり合って厳しいのでは?」

 

『私もそう言ったんだけど

妖精たちが飛ばせって五月蝿いのよ…』

 

無線から聞こえる飛鷹の声には、

搭乗妖精であろう複数の掛け声。

 

やられたら脱出すりゃいいだろ、

というツワモノもいるようだ。

 

「では性能差があると思いますが

是非戦闘機隊を出してください。

無理に撃墜しなくとも、敵の編隊を

崩すだけで十分な活躍になります!」

 

それと味方の対空砲火にはご注意を、

秋月は一言だけ付け足した。

 

 

(今度こそ、というのはダメですね。

司令…お任せください、

この秋月が艦隊と島を守ります!

全て私の大切なモノですからっ…!!)

 

 

優しいだけではだめなのだ、

時には冷徹にならねばならぬ。

過去は変えられないのだから…。

 

 

先日のように、艦長室で

カコを悔やむ秋月はいなかった。

 

「秋月、推参しますッ!!」

 

そこにはイマだけを見ている

防空駆逐艦『秋月』がいた。

 

 

……

 

 

 

 

 




奪還艦隊が南鳥島手前に来たら
敵が父島に襲撃を掛けてきました。

なお、本文中の航空無線については
適当なので突っ込みどころ満載です。
硫黄島の滑走路番号については
Goo●leマップにて検索し、
停止位置は勘ですのでご容赦を…。

17秋イベで涼月が登場しましたね!
護衛艦『すずつき』も居ますので
落ち着いたらドロップさせたいな、と。


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2-9b 烈火の護り 前編


奪還部隊が南鳥島手前まで進出、
それを見越したかのように父島再空襲。

敵の規模は前回以上の200機超、
だが人類側にも戦力はあるのだ。

島には陸・空自の対空部隊。
現代のジェット戦闘機や
複数のイージス艦や護衛艦…。

そして鋼鉄の意志を持った艦娘たち。

提督は手助けできない状況であるが、
辛さよりも信じる想いは誰より強く。


戦いは一箇所で行われるのではない、
誰もが自分自身と戦っていた。
“自分”という、弱く強い敵と…。


———そして父島を覆う戦火、
後に“第二次父島空襲”と呼ばれる
深海棲艦の空襲が始まる。



『———空自戦闘機隊、

敵艦載機まであと15分!』

 

 

艦隊中に流れる無線が

乗員や妖精たちを緊張させる。

 

ある者は空を睨み、

またある者はレーダー画面を…。

 

 

「やっぱ電探があると

心の準備をする余裕があるよね〜。

時代は対空防御ッ!

“いーじす艦”っていうのは

イマイチよくわからないけど、

高性能電探マジパナイ!!」

 

 

明らかに場違いな関心した声、

鬼怒はうんうんと満足げだ。

 

 

『随分お気楽そうじゃの。

———まぁお主のことじゃから

あえて大口を叩いていると思うが…』

 

鬼怒の艦上にある主砲や

高角砲から対空機銃まで、

銃砲と呼ばれるものは全て

敵編隊の方向を向いている。

 

他の艦娘も同様だ。

 

 

「そりゃ私も頑張りたいし!」

 

 

気合い十分に言い放つ鬼怒。

それはこの場にいる艦娘全艦の

心の代弁であり、必然であった。

 

 

何かが始まる前の緊張は

始まった後のそれより強い。

いざ始まれば、興奮や激情で

緊張などすぐに忘れられるが、

この待つ時間は特に長く感じる。

 

 

(大淀さんや秋月ちゃんも

気合いが入ってるねぇ〜!

私も負けてられないよッ!!)

 

 

せっかく“戻った”のだ、

阿武隈や他の艦娘との話もしたい。

 

それに提督も面白い人そうだし

落ち着いたら交流を深めたい、

対空戦闘の手順を確認しつつも

鬼怒は作戦終了後を考える。

 

 

「———さぁ!この鬼怒が

ドーンといっちょやったりますよッ!」

 

 

※※※

 

 

この迎撃作戦は大まかに

3つのフェイズに別けられる。

 

 

1つ目、陸上から発進した航空部隊が

敵艦載機に奇襲を加える、そのまま

返す刀で機動部隊を襲撃。

敵空母を優先し攻撃する。

 

2つ目、父島に停泊中の艦隊は

飛来する敵艦載機残党を迎撃。

島に駐屯する陸・空自部隊と協同し、

可能な限り艦隊及び島への被害を防ぐ。

 

そして3つ目、

上記1で襲撃した機動部隊に対し

“徹底的な”攻撃を仕掛け、

一隻も残さず撃滅すること…。

 

 

迎撃作戦と呼んでいるものの

実際にはカウンターアタック、

つまり逆襲を目的としている。

 

例え空母を撃破できたとしても

まだ水上艦は健在、そのまま砲撃戦を

仕掛けてくる危険があるからだ。

 

 

『この利根がいる艦隊を狙うとは

敵もなかなかいい度胸じゃ!』

 

敵を褒めるかのように

利根が声を張り上げる。

 

『結構な気合いですね利根さん、

しかし敵は数百の艦載機です。

先日の空襲の際にこの妙高は

100機ほどの敵機に対し無力でした、

大淀さんや秋月さんたちが

死力を尽くしても被害は出ました…。

 

遠慮は無用です。この戦い、

保有弾薬を使い果たす勢いで

全身全霊で参りましょう!!』

 

注意する、という感じではなく

むしろもっと気合いを入れよと

言うかのように妙高。

 

『ふむ…妙高をしても、か。

護衛艦やお主らが奮戦しても敵の

勢いは抑えきれなかったということか。

敵は前回の倍、こちらも戦力を

増強したとはいえ苦戦は免れぬ。

 

じゃが今回は空自の援護もある。

戦闘機隊は数航過した後に

機動部隊に向かうそうじゃが

少なくも50機程度は落とせるはずじゃ。

陸海空の対空ミサイル、そして

待ち構えた高角砲や陸上の機関砲で

弾幕による十字砲火…』

 

 

ほれ、これなら心配はないぞ。

そう言って笑う利根に思わず

釣られて笑みが零れる。

 

 

『それに———』

 

 

利根はこれまでの口調を改め

やや畏まったように語り始めた。

 

 

『———初出撃でこの父島に

来た時、山の中にある喫茶店で

たしか提督が話しておったのう…

 

“知っていると思うけどこの平和な

父島だってかつては要塞化され、

激しい空襲にあっていた”

 

“戦争のために戦争をするんじゃない、

守りたいもののために戦うんだ”

…と。

 

あの時の提督は悲しそうじゃった、

それも無理もないかもしれぬ』

 

『あら、もしかしてあの時

利根さんは起きてらしたのですか?』

 

 

妙高の問いに答える。

 

 

『うむ。ふと目が覚めてな。

起き上がるのは気が引けたから

寝たふりをしておったのじゃ…』

 

 

他の艦娘たちは、利根と妙高の

通話を聞きながら考える。

戦いの意味と守るべきものを。

 

 

『———その時吾輩は思った、

“何故戦う、夕陽と海が美しいなら

それでいいのではないか?”、と。

 

本土では見れぬ美しさに

心が洗われるようじゃった、

陽が水平線に沈む光景は

今でも目に焼き付いておる。

暫し、争うことの愚かさを感じた…。

 

 

———じゃが、だからこそ…。

だからこそ戦わねばならぬ。

 

“何故戦うか、それは

夕陽と海が美しいから、

ただそれを守りたいから”なのだと。

 

島、人…それは正しく宝であって

吾輩たちは守護者、ならば戦うことに

明確な“何故”や“理由”は必要無いのじゃ。

 

 

長10センチ高角砲で守り切れぬなら

重巡の持つ20センチ砲を使えばいい、

無理なら空自の戦闘機を頼るのじゃ、

だめならありったけの対空ミサイルを

撃ち込んでやるのじゃ!

 

吾輩たち艦娘の対空機銃

そして護衛艦や陸上の対空機関砲、

それが落とすは銀翼の悪魔。

 

悪魔が災いを運んできている、

ならここで守り抜くしかないッ!

総員、刀折れ矢尽きるまで奮戦せい!

 

提督が吾輩たちを、守備艦隊として

この島に残したその決断の意味、

そして守備艦隊の存在意義…。

それを敵に見せつけてやろうぞッ!』

 

 

利根の凜とした声が響き渡る。

 

 

(それに……、提督とのキスは

吾輩が最初にしたのだぞ?)

 

 

ただの間接キスじゃがな!と

独り静かに笑う利根であった。

 

 

そして笑みはそのままに

心は臨戦モードに切り替える。

 

 

(提督よ、お主も頑張っておるな。

吾輩がこの守備艦隊に加わる以上、

後方のことは心配せずともよい!

思う存分暴れてこいッ!)

 

 

腕を組み不敵な笑みを浮かべ、

利根は青空を見据えた。

 

 

彼女の声は艦娘部隊のみならず、

護衛艦部隊や陸上部隊にも届いた。

 

 

※※※

 

 

 

 

“もう誰も死なせたくない”

 

 

 

 

各々の願いは同じであった。

所属や職種、役割といった縦割りは

この場には関係なかった。

 

 

「———各機、

無茶な機動はするなよッ! ...formation break ready...」

 

 

空自のジェット戦闘機部隊…。

 

緊迫感のある無線の内容からして

敵編隊に突っ込む直前だろうか。

 

敵が気付く前に撃った対空ミサイルが

まもなく全弾命中するだろう。

敵制空隊もここにきて事態を把握、

なけなしの抵抗を試みる。

 

 

「———now!! …敵戦闘機には構うな、

爆撃機と雷撃機を集中攻撃!

この迎撃戦における目的と

目標を忘れるんじゃないぞッ!」

 

 

……

 

 

「———空自が迎撃後これと合流。

機動部隊への攻撃はそれからだ、

各機、エアスピード注意。時間調整を密に行え!」

 

 

海自の哨戒機部隊…。

 

対艦ミサイル装備は当然であるが

あろうことか対潜爆弾(爆雷)をも

搭載して敵を倒そうとしている。

 

【挿絵表示】

 

対空砲火に晒されたとしても

その根源たる敵艦隊を屠る気か。

 

だが搭載命令を出した航空隊司令は、

投下は敵砲火が弱まってから、という

条件付きでの攻撃を指示している。

哨戒機が一機でも欠けたら

航空作戦は成り立たないからだ。

 

それを使う機会はないかもしれない。

だが投下できるのであれば投下する、

全搭乗員の決意は揺るがない。

 

【挿絵表示】

 

ほんの10数機、だがその機体には

小規模艦隊程度であれば簡単に

沈められる程の武器が備わっていた。

 

 

……

 

 

「陸も空も関係ねぇぞ、

全員が強いチームワークを

忘れずに一致団結するんだ!

 

備蓄弾薬の心配なんぞ不要、

とにかく撃って落としまくれ!

弾幕を張れば敵も逃げ出す!」

 

 

陸・空自の防空部隊…。

 

統合運用指揮官の2等空佐が叫ぶ。

対空ミサイルや各種対空機関砲が

空を睨み、対空レーダーが島に迫る

敵艦載機を待ち構える。

 

陸自が持ち込んだ、とある兵器。

全国の駐屯地から集められた

87式自走高射機関砲が島内に分散。

 

【挿絵表示】

 

その射程6000mに入った者は逃さぬ、

部内愛称のガンタンクは伊達ではない。

 

島内の山らしい山全てに対空陣地が

設けられ、土嚢や掩蔽には

機関銃が載せられている。

 

 

空自もそれに劣らず布陣をしていた。

大処分よろしく、全国から掻き集めた

航空基地防空用の機関砲“VADS”、

これらを路上駐車をするかのように設置。

 

その内“VADS2”は自動追尾機能が

付いていないものの、数は揃えており

統制と射手の技量次第でどうにかなる。

 

【挿絵表示】

 

 

「手ェ空いてる奴らは携SAMを

受け取り島内に分散しろ!

撃ち終わったランチャーは

投げ捨てても構わん、自分の

身を守ることを優先しろッ!!

 

だが捨てた場所は忘れるなよ、

紛失したら弁償させっからな!」

 

 

最後の一言に隊員たちが苦笑いする。

 

“死なずに還ってこい”

 

そう言いたいのだろう、

士気はあがったようだ。

 

 

手空きの隊員は携行SAMを担ぎ

道路脇に伏せて息を潜める。

 

 

……

 

 

「———敵艦隊はまだ射程外だ。

だが俺たちの役割は重要、

この空襲では被弾できねぇぞ!

 

爆撃をやり過ごしてからが本番、

対艦ミサイルを敵の土手っ腹に

ぶち込むことだけを考えろ!

 

それまでは大人しく掩蔽壕に隠れて

ジャガイモの皮でも剥いとこうぜ?

今日は金曜日、海自じゃ金曜の昼は

カレーを食うらしいからな。

 

艦娘のネーチャンたちの

奮戦を祈って縁担ぎでェ…。

腹が減ったらミサイルは撃てんってな、

辛ェ(つらい)辛ェ(からい)をまとめて食っちまえ!」

 

 

陸自の地対艦ミサイル部隊…。

敵が射程内に入るまで、彼らは

ひたすら隠れるしかできない。

 

【挿絵表示】

 

だからこそ明るく振る舞う、

戦闘終了後の昼食を準備し

防空部隊の隊員に振る舞うようだ。

 

 

(島民の避難は完了している。

建物が被害を受けたとしても

そこに人が居なけりゃいいだけ…。

島民と装備に被害を出さなけりゃ

俺たち人間様の勝利ということだ)

 

 

前回の空襲時の避難場所は

小学校であったが、今回はそれを

港近くにあるトンネルに改めた。

 

島の中心地とそれに隣接する地区を

結ぶこのトンネルは戦前に造られ、

戦時中は防空壕としても利用されていた。

 

【挿絵表示】

 

70年以上経って再び防空壕として

利用されるというのも、やや悲しい

気もするが今は島民の安全が優先だ。

 

 

「———空襲後からが本番だぞ!

俺たちがやられちまったら

奪還部隊が困っちまうからな、

それを弁えてジッとしておけよ?!」

 

 

指揮官である連隊長は

隷下の隊員たちに言い聞かせる。

そして自分自身に対しても…。

 

 

(ちと臆病になっちまうが

戦術的には最善だろうな。

 

護衛艦や空母の弾薬も無限ではない、

陸自の存在意義は防衛だけじゃねぇんだ。

 

島には対艦ミサイルがある、

これを活用しない手はねぇ。

空襲が終わったら護衛艦にいる

ウミのお偉いさんに相談してみっか…)

 

 

そう、空襲だけで終わりではない。

その次の反撃こそが重要なのだ。

 

 

連隊長に策有り、

その内容とは一体……?

 

 

 

※※※

 

雲龍 艦橋

 

 

「———空自戦闘機隊、迎撃終了。

敵編隊200機の内63機を撃墜、

これは爆撃機と雷撃機の4割との事!」

 

空自戦闘機による迎撃が終わり、

通信妖精が傍受した無線を報告する。

 

「流石F-4戦闘機だ、期待以上の

活躍をしてくれるじゃないか」

 

俺は素直に感想を述べた。

 

「父島方面の報告は逐次頼む。

メシ時でもいつでも言ってきてくれ」

 

わかりました、と妖精は応えた。

 

 

「ひとまずは安心、かな」

 

敵艦載機編隊は200機。

63機で4割ということは

敵攻撃機は150機いたということ、

そして残りは90機ぐらいはいる。

 

(全部で残り140機ってところか、

奴らは物量でゴリ押ししてきやがる…)

 

一安心つけるか?と思ったが

背中を嫌な汗が再び流れ始める。

 

 

増強した水上部隊、イージスも複数いる、

島には防空部隊も待ち構えている。

 

しかし俺はその場には居ない。

遠くの海上で祈るしかできない。

 

「いっそ空母にジェット機積もうぜ?

旧式でもいいからたんまりと」

 

「無茶を言わないで提督、

仮に載せられて発艦できたとしても

着艦は簡単じゃないのよ…?」

 

 

声に振り向くと雲龍。

先ほど飛行長に呼ばれ

艦橋を離れていたのだが、

丁度格納庫から戻ってきたらしい。

 

 

「それくらいわかってるって。

木製甲板は絶対焼けるし

アレスティング・ワイヤーの強度も

絶対持たないだろうからなぁ…。

 

でも追々は艦載機の改良を含め

空母運用を変えていきたいと思う。

航空管制の近代化もそうだし

アングルドデッキとかもいいんじゃね?

 

艦載機はホイホイ作れないけど、

民間業者と協力すれば防御力や

整備性が格段にアップするだろうさ。

機体の設計図もそのへんの図書館で

簡単に手に入るわけだしな。

 

現状では無課金装備みたいに

零戦21型とかを使っているけど

その気になれば52型や烈風!

艦爆や艦攻だって更新できるし

しばらく辛抱してくれよな」

 

 

心配は尽きないものの、

今の俺には正直何もできぬ。

薄情であるが割り切るしかない。

 

俺の言葉に雲龍が食い付いた。

 

 

「ふーん…優秀な艦載機、ねぇ。

それを満載にして天城や葛城と

肩を並べて出撃したいわね」

 

「できるさ、そう遠くない。

二人にもきっと出会えるさ、

気持ちが結果を生み出すんだ。

 

アングルド・デッキは流石に

無理があるかもしれないが、

艦載機なら製造ライン構築を

考慮して2,3年以内ってとこか」

 

 

雲龍と話している間にも

島には敵機が忍び寄っている。

 

入ってくる情報を分析しつつ

奪還部隊は東へ邁進する。

 

 

(頼むぜ父島のみんな…)

 

 

悩みや心配は尽きない。

それらを一言にまとめた、

簡潔明瞭な祈りのコトバ。

 

 

俺の願いは遠く離れた

父島部隊へと届くだろうか…?

 





今回はやや少なめの文章です。

描写は省きましたが空自の
F-4EJ改戦闘機による迎撃終了。
トントン拍子に進みます。

写真を多めに挿入してみました。


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2-9c 烈火の護り 中編 【艦隊、防空部隊】


やや遅くなりましたが
2018年第1号になります。

深海棲艦が再び父島を空襲しますが、
どうも敵機の様子がおかしいようです。


 

 

“自らの安全を自らの力によって

守る意思を自ら持たない場合、

いかなる国家といえども、自ら独立と

平和を期待することはできない”

 

——ニッコロ・マキャヴェッリ

(フィレンツェ共和国外交官)

 

 

 

南鳥島沖

 

深海棲艦 駆逐棲姫フレッチャー

 

 

「———何故勝手なことをするッ?!

私の案を承認したのではないのかッ!」

 

 

フレッチャーは激怒した。

 

 

「敵も味方も腐っているとはな…!」

 

マーカスを占領した所まではいい。

 

…だが、攻勢に出る為の戦力として

上層部から提供してもらう筈だった

増援の機動部隊が彼女に相談もなく、

いつの間にか小笠原の西方海域へと

転用されていたのである。

 

 

先日撃破された父島東方の部隊が、

足止め・攻撃を目的としていたのは

彼女も了承していた。

 

だが同時に、もう一つ機動部隊を

提供される手筈となっていたのだが、

()()()その部隊は父島沖にいた…。

そして傍受した無線によると

既に戦闘を開始しているという。

 

 

先に借りる予約をしていたのに

勝手に別の者へ貸し出され自分が

キャンセルされては誰でも怒る。

 

しかしそれを貸し出した側———

つまり深海上層部へと連絡を

取ろうにも返信が無いのだ。

 

 

「———クソッ!!

ヘ級flagを捨て駒にしておいて、

挙句には占領部隊をも見捨てるか…!」

 

 

フレッチャーもこの時ばかりは

人間に対してより、味方であるはずの

深海棲艦上層部への憎悪が勝る。

 

 

“ヘ級flag”———即ち“那珂”のこと。

那珂は人類側で元気にしているのだが

彼女がそれを知る由も無い…。

 

 

そんな彼女に対し、

仲間から声が掛けられる。

 

 

?「———カリカリしても

現状は変わりませんよ。

ここは気持ちを落ち着かせて、

最善の方法を考えましょう!」

 

「…貴様の声を聞くと落ち着くと

いうよりも、なんだか力が抜ける。

怒る自分が馬鹿らしく感じるな」

 

 

やや棘のある言葉を返すフレッチャー。

しかし相手は気にも留めない。

 

 

「だが貴様は怖くは無いのか?

このままでは敵の奪還部隊が来襲し、

空襲や砲撃も仕掛けてくるのだ。

上層部の考えは読めぬが私たちは

捨てられたと捉えていいだろう、

現に機動部隊(増援)が来ていないのだから。

 

必然的に私のみならず戦艦である貴様も

攻撃される可能性が高いと思うが…」

 

「お心遣い、ありがとうございます!

でも“ヒラヌマ”は大丈夫です!!」

 

 

ヒラヌマ、という名の戦艦は続ける。

自分は仲間を守る為に戦うから

権力抗争などどうでもよい、と。

 

 

「貴様は心優しいのだな…」

 

 

フレッチャーは嫌味など含まない

心の底からの本音を言った。

 

 

「それはフレッチャーさんもですよ。

口調はちょっと怖い感じですけど

仲間のことを考えていて、これまで

上層部の方々に対して提案を

何度もなさってましたし…」

 

 

お互いを慰め合う二人。

これは埒が開かないな、と

フレッチャーは苦笑いした。

 

 

……

 

 

———彼女たちが占領した島、

南鳥島は見るも無惨な光景であった。

 

 

小さな島からは黒煙が上がっており

艦砲射撃が行われたことを意味していた。

 

【挿絵表示】

 

全長1372mの滑走路上は

砲弾によって大穴が開けられ、

その役目を果たすことなく破壊された。

 

 

 

【挿絵表示】

 

南鳥島派遣航空隊を始めとした

諸官庁の庁舎は崩壊しており、

鉄筋コンクリート製であっても

砲撃には無力であったことを物語る。

 

 

【挿絵表示】

 

燃料タンクはその中身を垂れ流し

炎は収まるところを知らない。

 

 

「…敵ながら哀れだな」

 

 

自らが作戦立案しておきながら、

と思ったがそんな言葉がふと漏れる。

 

 

“憎き人間を殺してやったぞ!”

 

 

…艦砲射撃直後、フレッチャーは

一種の達成感を感じていた。

だが暫くして落ち着きを取り戻すと

無性に儚さが心を満たしていった。

 

 

“憎い人間どもとはいえ、

相手は無抵抗のままだった。

自分たちはそれを虐殺したのだ”

 

 

“これが私の復讐なのか…?

復讐という目的達成の為に

こんな孤島を襲い、近海にある

海底資源を採掘している…?

 

やっていることは泥棒以下だ。

仲間たちに胸を張って、人間どもに

復讐してやったなどと言えるものかッ!”

 

 

———そして同じ占領部隊に

配属されていた戦艦ヒラヌマが

彼女の相談に乗ったという経緯。

 

攻略前の出撃時から1週間程度の

僅かな期間であったものの、

二人には信頼関係が芽生えた。

 

 

「———そうですね。

私も艦砲射撃をしている間、

遣る瀬無さを感じてしまいました…。

 

前世でも島への艦砲射撃は

何度か経験したことがあります。

あまり詳しくは思い出せませんが

確か敵飛行場に対しての艦砲射撃も

行ったと思います」

 

「…ほう、偶然だな。

私も曖昧ではあるが、敵飛行場がある

島に対して何回か砲撃をした気がする」

 

未だ完全ではないものの

嘗ての記憶が不思議と思い出され、

二人は共通の話題で盛り上がった。

 

 

「そうなんですね!

前世も駆逐艦だったとしたら

凄い武勲艦だったのでは?!」

 

「さぁそれはわからんな…。

にしても、貴様はなんとなくだが

“ヘ級flag”と似ているな」

 

 

フレッチャーは率直に

思ったことをヒラヌマに問うた。

 

 

「あの“フラへちゃん”さんですか?

確かに他の方にも言われたことは

ありますけど話し方だけみたいです。

…あ、そういえば彼女と前に

少しだけお話しした時に———

 

“ヒラヌマちゃんってさー、

もしかしたら前世で同じ国だった

かもしれないんだよねぇ〜…”

 

…と言われたことがありますね」

 

 

その言葉を聞いたフレッチャーは

静かにその眼を閉じる、浮かぶは

フラへがまだ健在だった過去…。

 

そんなフレッチャーを見て

ヒラヌマは笑みを浮かべて言った。

 

 

「“冷徹ブリザード”って

巷では呼ばれていますけど

本当は心優しいお方ですね…」

 

「…その名で呼ぶなヒラヌマ、

呼ばれると恥ずかしくなる」

 

 

———“冷徹ブリザード”、

駆逐棲姫フレッチャーの異名。

 

他愛ない会話が続いた後、

突如ヒラヌマは真顔で呟いた。

 

 

「もしかしたら———」

 

 

そこまで言うと口を閉じた。

気になったフレッチャーが

「いいから話してみろ」と催促すると

ヒラヌマは困ったように笑いながら、

渋々言葉を紡ぎ始めた。

 

 

「確信は持てませんが

ヒラヌマとフレッチャーさんは

もしかしたら同じ国のフネだった…。

何故か、そんな気がしまして———」

 

 

何かを懐かしむように、

ヒラヌマは静かに語った。

 

 

※※※

 

 

父島沖上空

 

 

迫り来る敵艦載機に対して正義の矢、

数多の対空ミサイルが突き刺さる。

 

 

既に射程内であったのだが、

陸海空自衛隊間での目標割り振りに

少なからず手間取ってしまったようだ。

 

敵機は140機程いるため、

この割り振りによるタイムロスも

致し方ないと言えた。

 

後日、3自衛隊間における統合運用も

改善されていくのだがそれは別の話…。

 

 

むろん深海側とて馬鹿では無い。

 

防空態勢を整えている人間側に

策もなく突っ込んでくる訳もなく…。

 

 

「———撃墜25機ッ!!残りは健在!

敵編隊、真っ直ぐ突っ込んでくる!」

 

「たったそれだけかッ…?!」

 

 

電測員の叫びがCICに木霊する。

 

60発ほど放たれたミサイルを

敵編隊は巧妙に躱し、島に迫る。

 

 

「クソがッ!!化け物共め…!」

 

 

 

…深海棲艦の用いた策は単純だ。

 

 

①戦闘機隊を先行させてこれを囮とし、

ミサイル直撃直前に急激な機動を取ったこと。

 

高速なジェット機には真似できぬ

低速機———とはいえ機種によるが

時速500kmを超える———の機動は、

対空ミサイルの先端にあるシーカーを

少なからず欺くことができた。

 

早爆したミサイルの破片が

機体を痛めつけ10機ほど撃墜

されたものの、飛行可能な戦闘機は

そのまま防壁の務めを果たした。

 

 

②対空ミサイルの仕組みを見事、

逆手に取ったということ。

 

シーカー、つまり探索部分を騙し、

ミサイルに敵機が違う場所にいるから

そこに向かえと錯覚させたのだ。

 

具体的には———

 

 

「当該空域に多数の反応ッ!

チャフらしきものを撒いた模様ッ!!」

 

 

同様の報告が部隊内から上がる。

そして某艦の砲雷長は呟いた。

 

 

「———先程の“フレア”に引き続き

お次は“チャフ”を使ってきたか…。

敵も現代兵器への対策を取ってきた、

こいつはマズいかもな…」

 

 

彼の冷静な声とは裏腹に、額からは

一筋の汗がゆっくりと滴っていた、

自分でも気付かない程にゆっくりと。

 

 

……

 

 

それは対空戦闘に入る直前のことだった。

 

先刻の空自戦闘機による迎撃後、

彼らからとある報告が入ってきた。

 

 

“対空ミサイルを使用したところ

敵艦載機群は『照明弾』を投下、

フレア代わりに使用したようで

発射したミサイルの半数近くが暴発した”

 

 

対空ミサイルの全てが外れた訳では

無かったが、この事実は部隊内に

大きな衝撃を与えたのだ。

 

この空襲でわかった事実は後日、

各国政府や軍部に通知された。

 

そして各国軍内部においては、

戦場となった小笠原()()の別名である

ボニン()()のボニンを付けて

“ボニン・ショック”、と呼ばれた。

 

※ちなみに、小笠原諸島と同群島は別物で

諸島には硫黄島や南鳥島が含まれる。

世間でよく知られている小笠原は、

父島列島などの民間人がいる群島を指す。

例を挙げるとすれば、都区部である

東京23区と東京都の関係である。

 

◎小笠原諸島

 ●小笠原群島

  聟島列島 - 聟島、嫁島、

       媒島、北ノ島等《/b》

  父島列島 - 父島、兄島、弟島等《/b》

  母島列島 - 母島、姉島、妹島等《/b》

 ●西之島

 ●火山列島(硫黄列島)

   - 北硫黄島、硫黄島、南硫黄島

 ●孤立した島々 - 南鳥島、沖ノ鳥島

 

 

【挿絵表示】

 

 

人類の現代兵器への深海棲艦の適応、

新戦術がデビューした瞬間であった…。

 

 

戦闘配置についている隊員たちに

その動揺が広がりつつあった。

 

 

「皆さん落ち着いてください。

例えミサイルが決定打とならなくとも

私たちには砲熕兵器があります、

高角砲や機銃で落とせばいいんです!

 

現代の大砲なら命中率も期待でき

ますし、性能も艦娘のものよりも

格段に高性能のはずです。

要は“どんぱち”すればいいだけのこと、

臆せず撃ちまくりましょう!!

今保有している弾薬を撃ち尽くす

勢いで頑張って戦いましょう!」

 

 

部隊内の動揺を感じ取った秋月が

3隊合同無線にて熱弁を振るう。

 

言わんとすることはこれまでと

それほど変わらないが言い方は

戦場慣れしたのかやや砕けており、

雰囲気を汲んだものになっている。

 

 

(こんな時司令ならきっと、

そう言うのでしょうか…?)

 

 

提督の言葉をマネをして

参加部隊を激励する秋月。

 

「ふぅ…」とひと息ついた後、

この場にはいない提督を想う。

 

彼から指示らしい指示は来ていない、

戦闘前に邪魔してはいけないと

秋月たちを思い遣ってのことだ。

 

 

だが一言だけ艦娘たちに

メッセージを送っていた。

 

 

“残弾は気にするな、

とにかく撃ちまくるんだ。

攻撃は最大の防御だ、

後のことは考えずにやっちまえ!”

 

 

提督のメッセージは悲壮感に

包まれていた艦娘たちを勇気付けた。

 

鬼怒ら新規艦娘らからは

淡白過ぎると文句も出たが、

提督をよく知る秋月たちには

彼の言いたい事がすぐにわかった。

 

 

(“お前たちを信じてるぞ”、

そういう事なのですね司令…)

 

 

先日誓った通り精一杯の努力をする、

それだけを考えることにした。

 

 

※※※

 

 

水平線から湧き出る多数の黒い粒が

艦載砲の射程に入り砲撃が開始される、

言うまでもなくその正体は敵機。

 

 

避難した島民がトンネル内で怯える。

 

沖にいる艦隊、そして島内の

防空部隊の射撃音が内部に反響。

 

味方側の反撃によるものといえ、

それに怯えない者はいない。

 

 

「島民の皆さん、この銃撃音は自衛隊に

よるものですのでご安心ください!

深海棲艦の航空機が飛来してきています、

トンネルの外に出ないでください!」

 

 

父島基地分遣隊の隊員らは

避難民に声を掛け勇気付ける。

 

そしてやがて聞こえて来たのは

航空機群の不気味な輪唱…。

その音は隊員の顔をも蒼白にする。

 

こころなしか味方の銃撃音が

弱まったように感じる人々…。

 

 

「艦娘のおねーさん、がんばって…」

 

 

小学生だろう子どもの儚いコトバ。

 

だがその声はその場にいた

全ての者にはっきりと聞こえた…。

 

 

 

———沖では対空戦闘が始まっていた。

 

 

「…やらせないッ!」

 

朝潮が最大戦速で蛇行しつつ

主砲と機銃による弾幕を張る。

 

「この海域から出ていけっ!」

 

低空の雷撃機や戦闘機は、

艦隊の対空砲火に竦んでいるのか

組織的攻撃をできないでいる。

 

艦娘や自衛艦による艦載砲を始め

特設の12.7mm機銃やCIWS、

対空ミサイルが文字通り烈火の如く

自分たちへと向かってくるからだ。

 

【挿絵表示】

 

 

単純に敵機の練度が低いのか、

はたまた艦隊のそれが高いからか…?

 

 

護衛艦『はたかぜ』に乗艦する

第1護衛隊司令である山本1佐は

各艦に指示を出しつつCICで考察する。

 

 

(…ふむ、此方の迎撃もそうだが

敵艦載機の練度は前回よりも幾らか

低いようだ。敵はそれを数でカバー

しようと大編隊を寄越した、か?)

 

 

……

 

 

『はたかぜ』の甲板上には5インチの

単装砲が二問備え付けられている。

 

【挿絵表示】

 

性能は次世代より劣るものの、

その2門が生み出す投射力は高い。

 

艦長の指揮の元、急速転舵により

30ktを保ったまま船体が傾き、

乗員たちは近くの手摺に縋り付く。

 

“旗風”の名前を体現するかの如く

風がマストの戦闘旗等を靡かせる。

 

【挿絵表示】

 

艦内にいる乗員たちからは

「手荒な操艦しやがって…」と

艦長への不満が飛び出たが、

当の艦長はCICで指揮を取っている。

 

(これは俺の操艦ではないんだが…。

確かに手荒かもしれぬ、だが仕方ない)

 

艦長も同じ事を思っていたが

それを言わないのは知っているからだ。

 

何故乱暴とも言える操艦をしたのか、

何故艦外から爆音と激しい振動が

伝わってきたのかを…。

 

 

(至近弾か、艦橋の航海長が

上手く避けてくれたみたいだな…)

 

 

艦橋内は喧騒に包まれていた。

 

主に見張り員から伝えられるのは

敵機発見の報告であったり、

それらが投下する爆弾等の報告である。

 

右・左舷からの雷撃機であったり

急降下爆撃機又は戦闘機の動きを

見極めた上で、適切な回避と

防空をせねばならない。

 

 

このような光景は艦娘や現代艦問わず

守備艦隊内の至る所で起きていた。

 

無論それは陸でも変わらない———。

 

 

……

 

 

父島 防空陣地上空

 

 

艦隊をやり過ごした一部の敵機は

“どうにか”島の上空に到達した。

 

どうにか、と表現したのは

深海棲艦側の残機数とその動きが

攻撃をしようとするソレではないからだ。

 

 

———その数30機

 

島まで到達できた敵機の総数だ。

まあ上等だと言ってやりたいが

その編成は無情であった。

 

 

———急降下爆撃機8機

 

島を爆撃しようというのに

辿り着けたのは僅か、残りの22機は

機銃しか装備していない戦闘機。

 

 

火力不足という言葉では済まぬ。

沖の艦隊を攻撃する爆撃機編隊から

戦力を引抜こうにも既に投下している。

 

 

“何処ヲ爆撃スレバイイノダ…?”

 

 

爆撃隊の指揮官は悩んだ。

なにしろ発艦前に()()()ロクな

指示も受けずに飛来したため、

島のどこに人間共の基地や兵器が

あるのか全く把握できていないのだ。

 

編隊は掩蔽された陣地群を

発見出来ず、周回するしかなかった。

 

彼らは狙うべき目標を速やかに

発見したかった———が、それを

見逃す防空部隊ではない。

 

 

「———なんだアイツら…。

どうして一思いに攻撃してこないんだ」

 

 

地上の隊員が呟いた。

そうしている間も機関砲が火を吹き

10機近くを撃墜していた。

 

彼らからすれば対空射撃訓練で使う

訓練標的以下の只の的だ。

 

 

「まるで()()()()()()()()

()()()()()みたいな飛び方だな…」

 

隣の隊員は呟いた。

 

「なんか迷ってるようにも見えたな」

 

敵機は対空砲火を積極的に避ける

仕草も見せず空で爆散していった。

さながら防空部隊は残弾処理を

するかの如く一通り撃ったのみで、

陸の戦闘は呆気なく終わった。

 

 

……

 

 

島への攻撃が敵の不可解な行動により

失敗に終わる一方、父島沖では

敵艦載機による守備艦隊への攻撃が

熾烈を極めていた———。

 

 

第2護衛隊の護衛艦『あまぎり』は

敵の雷撃機に襲われていた。

上空からは少数の急降下爆撃機が

五月雨式に襲来し、転舵を

阻害するかのように爆撃を仕掛ける。

 

 

(南無三ッ…!)

 

艦長だけでなく乗員の誰もが

もうダメだと咄嗟に目を瞑った。

 

 

「…と、投下弾は全て至近弾っ!」

 

 

全て至近弾に終わったものの

水柱が生み出す大量の海水が

『あまぎり』を覆うように降り注ぐ。

 

その艦名を体現するかの様に

空から水飛沫が降雪の如く降る。

 

天霧(あまぎ)らひ 降りくる雪の ()なめども 

君に逢はむと ながらへわたる”…か?

いや、本来の意味とはやや違うな。

 

しかしだ、消えかかったものの

この『あまぎり』は水を被っただけ、

どうにか生きている…!

 

乗員を無事家族の元へ返す、

俺もまだ死んでいられないんだっ!)

 

 

「被害状況知らせッ!」

 

敵の狙いが悪かったのか、

爆弾は見当外れの所に着弾し

被害・負傷者無しの報告。

 

「両舷から雷撃機、来ますッ!」

 

 

そこに雷撃機が突進していく。

 

左右から挟み撃ちされつつも、

両舷に備えられたCIWS及び艦首の

76ミリ速射砲が敵機を狙い撃つ。

 

航空魚雷を投下する遥か手前で

砲弾を撃ち込まれた雷撃機が

強制的に海面に叩き付けられ

衝撃で魚雷が爆発する。

 

それに伴って水柱と爆炎が上がるが

物ともせず肉薄する別の敵機。

 

片舷の敵に集中していると

もう片方が疎かになってしまう。

CIWSが迎撃するも飽和状態を越えて、

左舷後部からの接近を許してしまう。

 

 

「左150度30から雷撃機3ッ!!」

 

 

見張りの報告は絶叫であった。

操艦指揮官である航海長は咄嗟に

「取舵、急げッ!」を下令する。

 

やや時間を空け船体が動き始めるが、

敵機の距離は目と鼻の先である。

 

後方は対空火器の死角となってしまうが

敵機からは非常に狙い辛い位置となる。

 

仮に投下できたとしても、3本の

魚雷がフネを並行に追走する形となり

避けられる確率が高まる。

 

しかしながら———

 

 

「———もし回避できたとしても

並走すればその後の回避運動に

支障をきたし、この『あまぎり』が

只走るだけの的になるぞ…」

 

 

第二次大戦のサマール島沖海戦。

 

その際、敵駆逐艦から放たれた

複数の魚雷が戦艦大和及び長門に

向かってきたため、どうにか回避した

ものの両側を挟まれる形となり、

魚雷の燃料が切れるまで両艦は

走り続けなければならなかった。

 

 

速射砲も死角であり使用不能、

先述のCIWSは別の編隊に対応中。

 

せめてCIWSの装備位置が

『あぶくま』や『あめ・なみ』型の

ように船体前後にあったならば、

後部が迎撃できたであろう。

ここで設計を恨んでも事態は変わらぬ。

{IMG37143

 

「———捉えたわ、ウザいのよっ!

主砲、『あまぎり』に群がってる

敵機を蹴散らしなさいッ!!」

 

 

近くにいた満潮であった。

 

彼女から敵雷撃機は左正横、

主砲3基6門を斉射可能な位置だ。

 

片方ずつ連装砲を交互に発射、

1機は直撃を喰らい爆散し残る2機も

炸裂した砲弾の破片を受け操縦不能に

なったのか海面に突入した。

 

その際機体から魚雷が落下したものの、

不良を起こしたのかそのまま沈下。

海面を走ることはなかった。

 

どうやら危機は乗り越えたようだ。

 

 

『助かったよ満潮、感謝する!』

 

「…どういたしましてっ!」

 

 

やや弾んだ声で『あまぎり』に応え

次なる目標を探すため転舵する。

 

(やった…!でも敵はいる、

もっと頑張るんだから…!!)

 

喜びもそこそこに指示を飛ばす。

 

「よし次はあの艦爆をやるわよっ!」

 

 

『あまぎり』でも喜びの声が挙がる。

対空戦闘と回避運動を続けつつだが

修羅場をくぐり抜けたことは大きい。

 

 

「お前海水メッチャ被ってるな…」

 

航海長が見張り員を見て一言。

 

「“水も滴る何とやら”、っすよ!」

 

戦闘に伴う高揚からか口調が軽いが

今それを咎める者がいるだろうか。

 

「そりゃ良かったな!

一丁前に男らしくなってるぜ?

戦闘が終わったら入浴許可してやる、

それまで風邪引くんじゃねぇぞ!」

 

「…ういッス!」

 

 

……

 

 

守備艦隊はそれなりの規模である。

 

艦隊戦力としては大井たちドロップ艦娘を

含めても40隻強いるが、その中には

対空兵装を装備していなかったり

対空戦闘を行えない艦船もいる。

 

戦闘艦ではない補助艦艇を始めとした

非戦闘艦艇や中破した輸送艦や

大破した天龍、そして徴用タンカー等だ。

 

となれば艦隊防空、即ち他の艦船を

守るための護衛艦が不可欠である。

 

イージス艦や『あきづき』型護衛艦が

この空襲でその役割を担うこととされ、

現に対空戦闘を行っている…。

 

 

———第8護衛隊『すずつき』は

護衛対象である民間船を護衛していた。

 

 

「敵の攻撃が妙だな…」

 

 

CICで艦長が呟く。

 

レーダー画面上には未だ敵機が

多数いるものの、空襲前とでは

明らかに異なる点があった。

 

 

(空襲が艦隊に集中している…?

確かに島を攻撃する上で邪魔に

なるから狙うのは当然だが、

島を攻撃しようとする様子が無い…)

 

 

島の防空部隊からの報告では

数十機が飛来したのみで、空襲らしい

空襲は受けずに全機撃墜したという。

 

島民にも被害は無いと聞き喜ぶが、

となると尚更敵の狙いがわからない。

 

 

「急降下爆撃機、1機撃墜ッ!」

 

「了解した。

継続して警戒を行え」

 

 

思いを巡らせていたとはいえ

やはりそこは艦長らしく適確に下令、

着実に敵機を撃墜していく。

 

そして次なる敵を狙うよう指示。

 

 

(一端の艦長である私が考えるのだ、

他の先輩方もきっと気付いている…)

 

 

———護衛対象を護る『すずつき』。

だが乗員たちは、真艦首方向から来る

1機の敵雷撃機を見落としていた……。

 

 

 

 

 

 

 





“天霧らひ 降りくる雪の 消なめども 
君に逢はむと ながらへわたる”


- 万葉集 第十巻 冬の相聞歌より

“空が曇って降ってくる雪のように、
今にも消えてしまいそうな私ですが、
あなたに逢いたいと思って、
まだ生きています”……という意味です。

●今回『あまぎり』、『はたかぜ』
そして『すずつき』と護衛艦が登場。
ドウシテナノデショウネ…?

●村雨及び龍田に改二実装。
イベントと並行して改二まで
頑張って上げたいですね!
ゲームと小説でもケッコンせねば…。

●島への空襲は失敗…?
それとも敵側に不手際があったのか。
急遽引っ張ってきた機動部隊での
空襲には、敵の裏事情があるようです。
そして『すずつき』にピンチが…!


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2-9d 烈火の護り 後編 【乙型駆逐艦の戦い】


艦隊防空を行う数多の護衛艦、
その一隻である『すずつき』。

“あきづき”型全4隻の中でも
彼女の奮闘は抜きん出ていた。
……深海棲艦が脅威と捉える程に。


それ故狙われる。
死神は静かに忍び寄っていた…。



「———あれは…!!」

 

 

“すずつき”に迫る雷撃機に

気が付いたのは秋月であった。

 

 

周囲を警戒するレーダーや見張りの報告が

あった訳ではないが、彼女は例えるならば

第六感のようなもので悟ったのだ。

 

アレを生かしておいては不味い。

“すずつき”は必ず撃沈される、と。

 

 

半ば叫びつつその危機を知らせる。

 

 

「“すずつき”、こちら秋月っ!

艦首方向から雷撃機が来ています、

すぐに撃ち落としてくださいッ!!」

 

 

呼ばれた“すずつき”であるが、

別の敵機への対応に追われていた。

 

上からは急降下爆撃機し、

左右からは別の雷撃機が襲来していた。

 

前部に備え付けられた艦載砲と

CIWSを慌てて向けようとするが、

旋回途中で突如停止してしまった。

 

 

『こ、こちら“すずつき”!!

5インチ砲、21番砲(前部CIWS)

及びVLSに作動不良発生!!

このままでは迎撃できませんッ!!』

 

 

通信員が絶叫。

同時に艦内マイクが同じ内容を伝え、

それを聞いた乗員は事の重大さを

悟ったのか焦りを浮かべる。

 

秋月は咄嗟に自艦の前部の砲身を

“すずつき”前方の敵機に向けさせた。

 

 

彼女にできることを全て行うのみッ…!

 

(艦型違はえど…!

“今はまだ”居なくとも…っ!

“すずつき”(涼月)は私の大切な妹なんですッ!)

 

 

“秋月”及び“照月”は居る、

しかし何故か“涼月”は現れていない。

 

その時の悔しさや怒りを昇華する如く

秋月は遥か遠くの敵機へと撃つ。

また、同時に援護を得ようとした。

 

「“すずつき”近辺にいる艦艇の皆さん、

どうかッ!速やかに援護射撃を…!」

 

 

……

 

 

反応する他艦(仲間たち)は少なかった。

決して無視したりだとか諦めている訳では

なくて単純に構っていられないのだ。

 

全ての稼働艦艇が退避運動を取り、

自らに降り注ぐ火の粉を避けることに

必死なのだから無理もない。

次の瞬間には被弾していても不思議な

ことではなく、むしろ必然かもしれない。

 

 

 

その現状を客観的に表すとすれば

次の一言に集約されていた。

 

“秋月だけが援護できる状態”

 

 

もっとも、彼女自身がそれを

一番わかっている事実は皮肉か…。

 

 

(落ち着け、“防空駆逐艦 秋月”…。

私は艦隊防空をするためにここに居る、

それなのに味方を…大切な“妹”をッ!

目の前にして守れないなんて

そんなの…絶対に、嫌ですッ…!!)

 

 

既に砲口からは対空弾は放たれ

敵機の周りに炸裂しつつある。

だがいずれも損傷を与えるまでには

至っていないのか、敵機は怯むことなく

“すずつき”に突っ込んでくる。

 

機銃に張り付いている妖精たちも

自艦上空を警戒しつつこれを狙う。

届く届かぬという理屈は無い、

撃って撃って撃って撃つのみ!

 

 

「射程が遠くとも見越して撃つぞ、

25ミリであの機体を粉砕してやる!」

 

三連機銃が盛んに狙い撃つも

敵機は横滑りで躱しきった。

 

「「糞がァ…ッ!!」」

 

秋月の甲板上には砲熕の銃爆音

そして妖精たちの罵声が響き渡る。

 

 

……

 

 

…………

 

 

目の前の出来事が遅く感じる、

発射される25ミリ弾が見える程だ。

海や空の色も灰色になっている。

 

違う光景…いや、影像が流れる。

色彩はそのままである、走馬灯か?

 

 

秋月の脳裏に嘗ての記憶がよぎる。

 

 

(———“また”、なの…?

また…私は誰も、守れないの…?)

 

 

———エンガノ岬沖海戦…。

守るべき僚艦を守るどころか

自分自身が最初に被弾し、沈没。

 

 

(何が“防空駆逐艦”かッ…?!)

 

 

———先の第一次父島空襲…。

奮戦虚しく戦艦の伊勢は小破し、

輸送艦への攻撃を許してしまった。

 

伊勢の妖精たちは負傷し、

輸送艦にいた陸海空の隊員に戦死者。

 

 

(何が“大切なモノは必ず、

守り抜きます!!”だッ…?!)

 

 

自分は防空駆逐艦失格…いや、

もしかしたら艦娘としての存在意義さえ

持っていないのではないか。

 

眼の前で行われている砲撃音さえ

どこか遠くの出来事の様に聞こえ、

自分は違う世界にいるのでは…?

 

 

これは力不足か…?

それとも敵機が優秀だから…?

 

自然と無念の涙が溢れる。

行き場の無い悲しみと

自分への怒りが込み上げる。

 

 

『◯◯ッ――――――!』

 

 

遠くで誰かの声がする。

 

秋月にその声は届いていないのか

彼女は殻の中に閉じ籠ったまま。

 

 

このまま“妹”が沈められるのを

見ていることしかできないのか…?

 

自分が立っていることさえ罪に感じる。

もし“彼女(涼月)”が沈んだら自分も…。

 

 

 

 

いっそ、その前に自ら命を絶っ———

 

 

……

 

『———しっかりしなさいな!

何を迷っているの秋月ッ!!』

 

 

無音だった世界に怒声が響き渡る。

そう、私はこの声の主を知っている。

 

 

「———あ、足柄さんっ?!

ですが、私はどうすれば……」

 

 

その声の主である足柄は秋月に

問われるまでもなく手段を述べる。

 

『貴女に装備された後部砲塔は飾り?

そんなもの、捨ててしまいなさいな!

最大戦速でも間に合わないなら

思い切って転舵、全砲門を放ちなさい!

 

提督の言葉を忘れたの?!

“ドンパチ”あるのみ、そうよ!

貴女の自慢の弾幕を張りなさいな!

撃ちなさい秋月、撃てェーッ!!』

 

 

(そ、そうか!後部砲塔をッ…!)

 

 

秋月は咄嗟に停止と転舵を命じた。

“すずつき”との距離を詰められないかも

しれないのではと一瞬躊躇したものの、

「弾幕を張れ」という言葉を信じた。

 

 

———これは賭けだ、危険な賭けだ。

敵を撃墜するため弾幕の密度を上げる為、

その場に停止してマトになるのだ。

 

 

しかも撃墜できる確率は———僅かだ。

だが、今はコレしか…無いッ!!

 

 

“妹”の為なら…自分の命など要らぬ。

愛する者を守れるのであれば結構!

この秋月、何ぞ身命(しんみょう)を惜しまん!

 

 

「後部砲塔、捕捉出来次第撃て!」

 

 

上空に他の敵機がまだいるにもかかわらず

その場に停止するのはかなり危険だ。

だが秋月は自分が被弾する危険より、

“妹”に迫る敵機撃墜を優先した。

 

彼女までの距離を縮めるよりも

少しでも多くの対空砲弾で弾幕を。

 

 

(いまここでやらなかったら…

きっと私は、一生後悔するッ!!)

 

 

ガァン!ガァン!

 

 

行き足を止め、前後部の砲塔からは

絶え間無く対空砲弾が放たれる。

硝煙が砲塔付近を曇らせるが狙いは

逸れることなく敵機に向かう。

 

 

「弾幕なら負けません!

これが“どんぱち”ですッ!!」

 

 

秋月の予想外の行動に敵機も動揺したか、

僅かにスピードが緩んだように見えた。

その好機を見逃すはずもなく、

必殺の対空砲弾を浴びせ掛ける。

 

敵雷撃機の周囲には炸裂に伴って

ポップコーン状の黒煙群が発生。

そして飛散した破片や炸薬は敵機に

機体を引き裂きダメージを与え続ける。

 

 

たった1機を大量の黒煙が

取り囲み死の世界へと誘なう。

 

それを放った彼女———秋月型駆逐艦、

1番艦である秋月は固唾を呑み見つめる。

 

「各砲、撃ち方待て!」

 

 

秋月の命令を受け、

各砲は射撃を一旦止める。

 

 

(撃墜、できたのでしょうか…?!)

 

 

目視は不可能であり、レーダーも

砲弾の破片のエコーのため判別不能。

 

 

 

縋る思いで見張り妖精の報告を待つ…。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

……秋月を始め、全艦娘が現代化改修を

行われているのは周知の通りだが、

使用する砲弾についても同様であった。

 

彼女が放った対空砲弾についても

現在使われている技術を流用し、

炸薬や信管も大戦当時のそれらを

軽く凌駕する性能を持っていた。

 

10センチという小口径ではあるが

海上自衛隊内では中間の口径、

それほど威力に差異は無く射程も

十分であるため不足は無い。

信管も同様だ、撃墜する確率は

かつての物と比べ物にならぬ。

 

先日までの戦闘で秋月が撃墜した

敵機は決して少なくなく、伊勢や

輸送艦への攻撃を許してしまったのは

対応のキャパシティを超えてしまった

ためであり、僅か1機の敵機ならば

対空射撃で撃墜できる筈である。

 

 

☆☆☆

 

 

(嫌な予感、がします……!)

 

 

秋月は“何か”を感じ取った。

 

対空用の射管レーダー画面上には

破片のエコーが多数写っており、

撃墜の判定を下せていない。

各砲は秋月の『撃ち方待て』に従い

いつでも撃てる態勢を維持している。

 

10センチ砲弾の製造過程で

ミスでもあったのであろうか。

目標のかなり手前で炸裂したり、

炸薬が多過ぎためか大量の黒煙が

発生しており目視確認が困難だ。

 

 

無射撃の時間、空白の時間。

 

そのほんの10秒足らずの時間、

彼女は時間が過ぎるのが遅く感じた。

 

 

やや晴れた黒煙から目標が出てきた。

飛行不能に陥り墜落するのか…?

 

 

———違う。

 

 

「うそ……。

なんで?まだ飛んでる…!」

 

 

尾翼の大部分を失い、主翼をもぎ取られ

ながらも飛行するソレは異形だった。

 

エンジンは潰れ、プロペラはひしゃげて

いるのにもかかわらず、運命に引き寄せ

られるかのように飛んでいる敵機。

 

ゾワッ…。

 

 

“悪魔だ、アレはひこうきじゃない。

ひこうきじゃなくて悪魔なんだ”

 

 

秋月の脳内で何かが呟いた。

刹那遅れて射撃命令を下す。

 

だが数回射撃し終わったところで

彼女は慌てて撃つのを止めさせた。

 

 

「う、撃ち方止め!撃ち方やめェッ!」

 

“すずつき”が射線に重なり掛ける。

つまり、もうおしまいなのだ。

 

 

 

 

 

 

———そして秋月は悟った。

 

 

 

(間に合わなかった……)

 

 

 

 

※※※※

 

 

最後の数発が炸裂したのは見えた、

そして敵機が“すずつき”の艦首へと

突入しその付近で爆発らしきもの。

 

 

そこまで秋月の脳は認識した。

———いや、認識できたのだった。

 

 

(ごめん、なさい……“涼月”)

 

 

彼女のココロは“ソコ”に居なかった。

 

 

(もう———私に生きる資格なんて…)

 

 

 

それとほぼ同時、目の前にあるはずの

“どこか遠くの世界”から叫び声。

 

 

「敵機直上、急降下ァ!!」の叫び声。

 

 

(お姉ちゃん、何もできませんでした…)

 

 

 

もうすぐ自分にも“迎え”が来る。

急降下する爆弾が直撃するだろう。

 

 

 

 

突如、身体の力が抜け落ちた。

前方に倒れる体勢となるが秋月は

それを他人事の様に見ていた。

 

 

そして目を静かに閉じる。

これから自らに訪れるであろう運命を

拒否するどころか受け入れるかの如く。

 

 

 

(司令官…照月…ごめんなさい。

秋月は、もう……)

 

 

 

視界が暗黒に堕ちていく…。

 

 

 

(ごめん、なさい…す…ずt…)

 

 

 

死ぬとはこういうことなのだろう。

地獄に堕ちるとはこれを指すのだろう。

 

 

さらば、愛しき人たちよ…。

 

 

 

 

 

秋月は崩れ落ち、意識を手放した……。

 

 

 

 

 






投稿が遅くなり申し訳ありません。
納得のいく表現・描写が出来ず、
何ヶ月も試行錯誤をしておりました。

プライベートも仕事もぼちぼちです。
なお、他県への転勤等もあったため、
新しい職場での業務に必死でした!
勝手が異なるので効率が落ちますね。
もっと精進していきます。


●展開について
護衛艦すずつきは沈むのか。
そして防空駆逐艦秋月の運命は…?

かつての大戦時と同じく、
急降下爆撃による被弾は確実…。
どうなるのかは次話にて。

戦闘自体もそうですが、
秋月の精神が病まれていく描写を
考えている時か辛かったですね。

「重い」という言葉でごまかせない。
彼女にも失礼に当たるとともに、
命というものの価値について
私なりに再認識する機会となりました。
後日談でフォローもあります。


●新型DDGについて
’18年7月30日、日本で7隻目となる
DDG-179「まや」が進水しました。
…イージスとしても納得の艦名ですね。
2番艦は「たかお」ですかね?



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2-9e 安堵と懸念 【秋月、守備部隊】

猛暑日は続いていますが、
秋の訪れを感じ始めています。

ですが物語は夏(投稿から2年間も)
それでは陸海空による烈火の護り、
その後の話をご覧ください。


 

(———ここは一体……。

やはり地獄、なのでしょうか?)

 

 

身体の感覚は無く、言葉も出ない。

そこが明るいのか暗いのかもわからない。

まるで夢の中にいるようだった。

———いや、断じて違う。

悪夢だ、地獄という名の悪夢だ。

地獄は恐ろしいバケモノが現れるとか、

閻魔や鬼によって苦痛を味わされる、

…などというものは所詮想像に過ぎない。

 

 

混沌とした無機質な世界、

これが地獄というものなのか…?

辛うじて目を開けられたものの

案の定、そこは暗黒に支配されていた。

 

 

(———あれ?

光の様なものが、見える……)

 

 

その時、目の前に一筋の光が見えた。

身体の感覚が無いにもかかわらず、

秋月はそれに縋ろうとする。

 

次第にそれは大きくなっていき、

彼女に世界の温かさが満ちていく…。

 

 

(すごく…温かい、です…)

 

 

“——づき、だい——うぶか?

あきづき、どうかめをさましてくれ。

なぁ、あきづき…秋月…”

 

 

遠くで何かが聞こえる。

 

 

“あき——ず…き”

 

 

“秋月…!”

 

 

秋月とは、誰か。

それを間違えるはずも無い。

 

 

秋月…紛れも無い自分の名だ。

 

 

そして彼女、秋月は目を“醒ます”。

 

 

(私は———生きている…!)

 

 

……

 

 

「——————う、ん……」

 

天井は見知った場所、

“秋月”艦内の医務室だ。

 

 

頭はまだ覚醒していないのか

ぼんやりとした思考が支配する。

 

 

無意識に辺りに目を凝らせば

ベッドの側の舷窓から外の様子が見える。

 

斜陽の橙色が彼女に落ち着きを与える。

…どうやら今は日没の少しらしい。

 

壁に掛けられた艦内時計を見る。

 

時刻は19:04を指していた。

 

眉間の上あたり、額に痛みを覚える。

ずきん、という鈍い痛みだ。

手を当てれば何やら貼ってある。

どうやら額に怪我をしたらしい。

 

 

だが、その痛みが彼女に生きている

ことを実感させるとともに、

これまでの出来事を思い出させる。

 

 

「———“涼月”はッ…?!

いえ、“すずつき”はどうなったの?!」

 

 

掛けられていた毛布ごと跳ね起きる。

 

「気が付かれましたか?

戦闘は終了しました、

本艦はこの通り無事ですよ」

 

「あっ、看護長…!

戦闘はどうなったんですか?!

“すずつき”は無事なんですか?!」

 

側で看病してくれていたのだろう

看護長である衛生妖精に尋ねる。

 

 

看護長は特に慌てるでもなく、

ちらり、と秋月の横あたりを見た。

ニヤリと笑うと事務的な口調で答えた。

 

 

「…それについては私からではなく

我らが“ボス”からお聞きください」

 

 

それと額に怪我がありますので

あまり興奮しないように願います、と

一言だけ残し、妖精は退室していく。

 

 

ぽつんと1人残された秋月は

言われた意味がわからず頭を傾げる。

 

 

「ぼ、ボスとは一体誰のことなの…」

 

 

『———そりゃ俺だろ』

 

 

「………へっ?」

 

 

聞き慣れた声のした方向、

ベッドの横にある棚の上あたり。

使い慣れた艦長用のPC端末があった。

 

 

『よっ…。無事そうで何よりだ』

 

 

端末の画面上には見慣れた人物。

 

 

「し、司令…!!

申し訳ありませんでした…。

 

秋月は…秋月は妹を……、

“すずつき”を守れませんでした…!

なのに、こうしておめおめと……!」

 

 

優しく微笑む提督を見た瞬間

秋月は謝罪の言葉を口にした。

同時に悔しさからか涙を流す。

 

 

それを咎めるでもなく

微笑みながら提督は話し始めた。

 

 

『起きたようでよかった。

さっきから話しかけていたんだけど

パソコンの音量はうるさくなかったか?

看護長は俺が話しかけたほうが

起きるかもしれない、って言って

音量を最大に上げようとするし

自分で秋月を起こさなかったんだ。

あいつは面倒くさがりだからな…。

妖精にも色んな奴がいるもんだ。

 

…戦闘の詳細については守備艦隊の

司令部からデータをもらっている。

他人事みたいな言い方しかできんが

なかなかの激戦だったみたいだな』

 

 

どうやら提督は全て把握しているようだ。

彼は少し話した後、本題に移った。

 

 

『…ま、雑談はこれぐらいにして

戦闘の結果から伝えようか。

お前が奮闘した甲斐もあって

護衛艦“すずつき”は健在だ』

 

 

(そんな…!確かに爆発したはず?!)

 

意外な結果に驚きを隠せない秋月。

 

 

「し、しかし私は確かに敵機が

“すずつき”の艦首に突入してから

爆発するのを見ました!

それに、私に対しての急降下爆撃が

あったと認識しています……」

 

 

秋月は失神する直前を思い出した。

確かに『敵機直上』の声を聞いた、

看護長の様子からすると軽微か。

 

だが確実に“すずつき”は被害を

被っている筈だ、最低でも中破…。

あれだけの爆発があったのなら

乗員に戦死者が出ていてもおかしくない。

それなのに無事だとは思い難い。

 

 

『うん、被害は受けたのは事実だ。

確かに“すずつき”は無傷とは

いかなかったものの沈没は免れた。

……本当にどうにかだが、な。

 

———ところで秋月は敵機が

魚雷を投下するところを見たか?』

 

 

提督は問うた。

 

 

「いえ、見ていません…」

 

 

『結局、魚雷は投下されなかったんだ。

秋月が最後の砲撃を加えただろ?

それで敵機は操縦不能に陥った。

 

多分そのまま突っ込む気だったんだと

思うんだけど、実は奇跡が起きたんだ。

 

艦首へ突入する直前、敵機は燃料又は

搭載していた魚雷に引火して爆散。

お前が見た爆発は敵機のものだ。

火だるまの残骸となった敵機は

右艦首付近に降り注ぎ、“すずつき”の

右舷を抉って大浸水を起こしたんだ。

 

つまり秋月からは陰になっていたから

あたかも“すずつき”に突入し爆発を

起こしたように見えただけなんだ』

 

 

「そうだったのですか…。

乗員たちは無事なのですか?!」

 

 

秋月が食い付くが無理はない。

自分の被害よりも、型違いとはいえ

“妹”の被害を気に掛けない姉はいない。

 

 

『そう慌てなさんなって…。

少なからず傷者は出てしまったが

皆軽傷だし、重傷や四肢の切断とか

危険な状態の人はいないよ。

負傷者を艦載ヘリで“いずも”に

搬送して治療を行っている。

 

ただ船体には結構なダメージを与えて

しまっていて油断はできない状況だ。

右艦首付近はパックリ引き裂かれて

隣接区画である5インチ砲の弾薬庫、

艦首の錨鎖庫は浸水で満水状態。

そして現在も応急処置を実施している。

 

海水がなだれ込んで船体が前傾になるし、

漏水が止まらずにそのまま

船体中部にも広がってもう大惨事。

 

乗員たちの必死の努力でどうにか

沈没だけは免れたものの、

防水作業があと1分遅れていたら

沈没も有り得たって報告だ。

 

“本艦は潜水艦になる、と覚悟した”

っていう報告資料に書いてあった

同艦長のブラックジョークには

俺も顔が引きつったなぁ。

真面目な文面にいきなりそんな

コトを書かれたらヤバすぎる。

 

奇跡的に機関部に影響は無かったが、

やはり傾斜と強度上の関係から

前進航行は不可能になってしまった。

今は特設泊地である島の沖にいる。

先日被雷した天龍と同じように

他艦から支援人員を送ってるよ。

 

戦闘については警戒しつつだが

対空戦闘用具納めは既にかかった、

守備艦隊は落ち着きを取り戻したぞ』

 

 

「そうですか、よかった…!

本当に、よかったです…!!」

 

 

秋月は胸を撫で下ろした。

嬉し涙で毛布を濡らすが些細なこと。

提督は画面越しに優しく見守る。

 

 

……

 

 

だが、同時に“あること”に気付く。

 

 

「被害箇所は艦首からの浸水。

そして乗員の努力、ですか…」

 

 

提督の言葉に引っかかるものがあった。

 

 

“すずつき”の前世、防空駆逐艦“涼月”。

 

詳しくは省くが、

坊ノ岬沖海戦後に佐世保に帰るまで

想像もできぬほどの苦労をしている。

 

その前世にも劣らぬ苦労、

“すずつき”も経験したということ。

そして被害と状況も酷似している…。

 

やはり同じ名前のフネということか。

 

 

(あの娘らしい、のかな…?)

 

 

不謹慎とは思いつつも秋月は

提督に気付かれぬ程度に笑った。

かつての妹が連想されたからだ。

 

 

(いつか必ず“逢いたい”、ですね…)

 

 

『艦長はもうダメだと判断して

一時は総員離艦を下したんだが、

乗員は誰も応じなかったんだ。

“沈んだら誰が陸自と空自、ましてや

島の住民を守るんだ!”って…』

 

 

「……」

 

 

『その甲斐もあって沈没は防げた。

コトバでは淡々としてるけど

現場は相当大変だったに違いない。

お前も“あきづき”だったなら

防水作業が眼に浮かぶだろう…?

 

陸上施設でやるような防水訓練なんて

比にならない程の水量、恐怖…。

ましてや戦闘の真っ最中だった…。

 

やる気や努力なんかじゃ解決できない

であろう程に圧倒的な海の暴力。

もしお前が敵機を撃破できていなかった

ならば、彼らはこれでは済まずに

最悪溺死していたかもしれない。

それだけはよく覚えて置いてくれ』

 

 

提督は秋月の奮戦を讃えつつも

敢えて厳しい言葉を口にした。

彼なりの叱責だろうか、

或いは自分自身へのものか…。

 

 

「はい司令……!」

 

 

自分が艦娘として“現れる”前、

護衛艦である“あきづき”だった頃の

艦内に浸水が発生する様子が浮かぶ。

 

想像するだけで鳥肌が立つ光景だ、

戦死者が出ていないのは幸いだった。

 

(やはり諦めてはダメ、ですね司令…)

 

 

……

 

提督はそのまま話を続けた。

 

 

———どうにか後進で父島沖に到着、

その場で応急処置を実施していたら

ひょっこりの一隻の漁船が近寄ってきた。

 

 

「その艦は防水作業をしています!

危険ですので近寄らないでください!」

 

 

近傍の護衛艦の警告を無視しつつ、

そのまま横付けする勢いで停止。

 

一体何をするのかと思ったら

その漁船は突如横断幕を掲げた。

 

『自衛隊さんありがとう!

自衛隊さんは私たちが守ります!』

 

島の住民が有志を募って駆け付けたのだ。

彼らの息子や娘たちであろうか、

小学生やそれに混じり幼児が無邪気に

手を振って“すずつき”を励ます。

 

 

汗と海水まみれの乗員たち。

彼らがそれを邪険に扱うはずもなく、

交代で手を振ってそれに応えつつ

再び防水作業へと戻っていく。

 

浸水し、沈没しかけたという恐怖を

吹き飛ばしてしまう小さな姿は

いかなる役人の言葉よりも心に響く。

 

 

 

“俺たちは護りきったのだ…!”

 

 

潮まみれの姿まま艦内に戻り

海水の排水作業を行う乗員。

 

その目には海水とは異なる光るモノ、

それは悔しさではなく嬉しさから…。

 

 

それを知ってか知らずか

漁船から幼い声が飛んでくる。

 

 

「さっきね、めーさい服のおじさんが

美味しいカレーを作ってくれてね、

すっごく美味しかったんだー!」

 

「おフネ大丈夫?沈まないでね?

しんかいせーかんのひこーきが

また飛んでくるかもしれないよー?」

 

「くうしゅうの間お絵描きしてたの!

これ見せてあげるからがんばって!」

 

 

女の子が掲げたスケッチブック、

それはこのフネのニックネームである、

とある美少女戦士の絵であった。

 

 

「このまえね、おーさかの遊園地に

お母さんと遊びにいったの!

だからね私も困ってる自衛隊さんを

しっかり守ってあげるからね!

“月に代わっておしおき”するのー!」

 

 

可愛らしい幼女の声が

海風に乗って乗員の耳に届く。

 

それに対して乗員の女性自衛官。

 

 

「お嬢ちゃんありがとね!

心配しなくても大丈夫だよ、

すぐに“メイク・アップ”しちゃうし、

他の護衛艦が守るから!!」

 

 

…という微笑ましい出来事もあった。

なお、その漁船には丁重に感謝を述べ

お引き取りいただいたそうな。

 

 

……

 

 

「そんなことがあったなんて…」

 

 

秋月がホロリとしつつ呟く。

 

 

『流石セーラー◯ーンの異名は

伊達じゃないということだな。

流石“つき型”だ、と言うべきだし、

ついでに言うとお前もだぞ秋月?』

 

 

「———え?」

 

 

『お前が妹である“すずつき”の沈没を

防いだことは今言った通りだ。

 

それじゃあその後の話をしよう。

秋月の直上から敵の急降下が来たな?

そして敵機は爆弾を全弾投下した。

爆撃コースは正確、命中確実だった、

見張り妖精が死を覚悟する程にな。

 

 

———“撃墜”したんだよ、

別の“お前たち”が、な…。

 

お前が“すずつき”援護に入る前、

近傍艦に支援を要請しただろ?

 

天龍や“むらさめ”といった

非戦闘艦の護衛に当たっていた

“てるづき”がそれに応えて駆けつけて

くれていたんだ、CIWSで敵機が投下した

計3発の爆弾に対し弾幕を張り

なんと空中で撃墜したんだ。

 

30ktを超えるスピードを出しながら

当てちまうのは機器の性能なのか、

それとも信念が強かったのか…。

偶然なのか当然なのか、

それはわからないが助けられたな。

 

今回も“てるづき”艦長から伝言、

“姉を助けるのは当然のこと”だってさ。

いい姉妹を持ってるなお前は…』

 

 

言葉が出ない秋月。

 

 

 

『———そして最後の極めつけ、

かつてのお前である“あきづき”。

爆弾を投下して離脱する敵機を

逃すまいと5インチ砲をぶち込んだ。

無論砲弾は命中、敵は爆散。

仇を取る…ってのは違うが

秋月に代わってお仕置きしたワケ。

 

お前は“妹”を守っただけでなく、

“妹”や“自分”にも護られたのさ…』

 

 

「……!!」

 

 

感慨無量で言葉が出ない秋月。

 

 

『だから自暴自棄になるな秋月。

迷わず、諦めず最後まで突き進め、

そうすれば自ずと未来は開ける。

 

お前は決して一人じゃない。

こうして俺とお前が離れていても

そこには仲間が…大切な“妹”が、

そして“お前自身”もいる』

 

 

「は…い……は゛い゛ッ!!」

 

 

言葉にならぬ返事なれど秋月の返答に

提督は万遍の笑みを浮かべる。

そして真顔になり話始める。

 

 

『申し訳ないが俺は気の利いた言葉が

うまく出せない、端的に言いたいことを

そこの光景に代弁してもらうとしよう。

 

舷窓から“すずつき”が見えるか?

満身創痍の船体にもかかわらず

夕日で照らされ輝くその姿を。

数時間前に救ったのは他でもない秋月だ。

その事実、その胸に誇れ…』

 

 

「はい…!この防空駆逐艦秋月、

これからも精進し続けます!!

そして艦隊を…日本を護ります!!」

 

 

『頼もしいな、お疲れ様秋月。

艦内の後処理は副長が代行してくれて

いるからもうゆっくり休むといい。

俺からも指示は出してあるから

今夜はそのまま寝ること、コレ命令な。

 

最後に、言わない方がいいとは

思うんだが…思うんだけどな、うん。

———その、なんというかだな…』

 

 

提督が急に視線を秋月の頭上に向ける。

彼女には何のことかわからない…。

 

 

『早く“治る”といいなソレ、お大事に〜』

 

 

「…??は、はいありがとうございます」

 

 

それを最後にビデオ通信を切る提督。

 

 

(最後の言葉の意味は一体…?

司令なりの労いなのでしょうか…?)

 

 

そう考えつつゆっくりとベッドから

立ち上がり舷窓の外を見る秋月。

 

 

斜陽が照らす護衛艦、

それは正しく“すずつき”だ。

 

船体が傾き、喫水が低いものの

秋月はそれを悔やむことはしない。

自分は守り切った、護ったのだ。

 

提督が以前そうだったように、

過度に悔やめばそれは勇敢に戦った

者たちに失礼になるからだ。

 

これは壁だ、今後の戦いにおいても

突き当たるであろう戦場の壁だ。

一度は死を覚悟した身、

ならば突き進むのみである。

 

 

沈む夕日に輝く姿は美しくそして

掛け替えのないものだと感じる。

橙はやがて紅に変わっていく。

 

 

 

(くれない)”———即ち、“()れない”。

 

 

 

護衛艦“すずつき”の痛々しい姿。

修復が終わってからもきっと

数多の戦場で傷付くかもしれない。

それがこの国の軍艦たる宿命だ。

 

だからこそ、これからも守りたい。

大切なモノを、大切な存在を…。

 

 

(私はお姉ちゃん、ですからね…。

これからも“妹”を守ってあげなくては!)

 

 

目に映る光景に誓いを立てていると

“すずつき”の艦影が僅かにぼやけた。

 

ぼんやり見えるそれは

人の顔の様なものに見える…。

 

髪は…銀色であろうか?

風が撫ぜれば靡く、美しい髪…。

 

 

 

 

 

 

(———こ、これはッ!!)

 

 

 

 

 

そして秋月は気付いた。

ソレを見間違う筈もない…。

 

 

 

 

 

「ひ、額に絆創膏が貼ってある?!

わ、私はビデオ通信とはいえ司令に

こんな姿をお見せしていたなんてー?!」

 

 

舷窓に映るモノ、何故かはわからないが

額に可愛らしい絆創膏を貼ってある、

何とも気が抜ける自分の姿。

 

先ほどのやり取りで出てきた“美少女戦士”が

プリントされた少女向けの絆創膏だ。

何処から持ってきたんじゃい、と

看護長を問い詰めたくなった秋月。

だがそれよりも羞恥心の方が優った。

 

 

(———いや、そっちじゃないだろ…)

 

 

傍らに控えていた長10センチ砲ちゃんが

いかにも退屈そうにあくびをする。

 

 

「あわわわ…!

もう司令のお嫁さんになれません…。

きっと笑われてしまってますぅ〜…」

 

 

そのままベッドにへたり込む秋月。

 

先ほどまでの雰囲気から一転、

キノコ菌も逃げそうなブルーな空気で

泣く姿はある意味秋月らしいともいえる。

 

 

(秋月が元気そうでなによりだ、

提督もなかなかやりやがるぜ…)

 

 

数分後には秋月は眠っていた。

戦闘を行なったり、泣いたりと

忙しかったからであろう。

 

 

彼?は静かに毛布を被せてやり、

器用に部屋の照明を消した。

 

 

「涼月ィ…おねえちゃんは…

おねえちゃんは…がんばりましたぁ…」

 

 

そんな秋月を照らすのは月光。

 

 

さわやかに澄み切った月は

ずっと彼女を見守っていた…。

 

 

※※※

 

 

「父島への空襲は辛うじて防げたか…」

 

 

島と守備艦隊の被害は軽微。

 

 

最懸念事項であった民間人も、

今回は前もって島民に避難を促せた

こともあり負傷者はゼロ。

 

 

艦隊は数隻が至近弾等の影響で

浸水を起こしたものの、戦闘に

支障は無く戦闘継続は可能。

 

“すずつき”については排水作業及び

砲熕武器の不良箇所の修理を継続、

恐らく戦闘参加は不可能だ。

だが沈まなかったのは奇跡といえた。

 

負傷者はいずれも軽傷のみであり

全員が洋上の“いずも”に搬送。

島の陸・空自部隊は射耗した弾薬の他、

人員武器に深刻な影響等も無く、

迎撃も何ら問題無く行えるとの報告。

陸自の対艦ミサイル部隊が健在と知り

小笠原方面はひとまずは安心か。

 

 

「———妙高もありがとう。

明日の朝にある指揮官会議には

悪いけど艦娘代表として行ってくれ。

俺の代理なんだから気兼ねなく

提案や質問していいからな?

 

いざとなったら躊躇せず、

これは艦娘や俺の意向だ!…って

ハッタリをかましても構わんさ」

 

 

『ありがとうございます提督。

そのご厚意を無駄にしないよう、

この妙高、微力を尽くします!』

 

 

(そんなに気張らなくても…)

 

 

妙高を始めとした艦娘も被害は無し。

秋月の健康状態は知っての通り良好、

大淀や飛鷹も確認したがメンタル面も

先日に比べて安定していた。

 

龍田たち新規メンバーも同じ。

鬼怒は現代対空戦の技術を

目の当たりにし感激したようだ。

 

 

んで松風はというと、彼女らしい

意味深なコメントを放った。

 

 

『技術の進歩ってのは70年という

時代の経過を実感させてくれるね。

“ミサイル”とかいう誘導弾が飛び、

“しうす”って機関砲が弾丸をばら撒く。

僕は浦島太郎になったんじゃないかと

錯覚してしまう程に先進的じゃないか…。

 

———でもそれが答えじゃあない。

ミサイルで狙われたとしても敵は

あの手この手で逃げることができるし

値段は高価だし数も限られる。

だけど、そんな敵だから…。

そんな奴らに対抗してくれ!…って

人間には計り知れぬ何かが“艦娘”(僕たち)

この世に呼んだのかもしれないね』

 

 

「結構深いところを突くなぁ。

ホントに神様とか創造主が

いるんじゃないかと思うぜ…。

松風は何気無いつもりでも

かなり奥が深いことを言う、

歌人とか詩人みたいだな」

 

 

『僕が詩人だって?まさか。

それはキミの考え過ぎさ!』

 

 

松風の言うことも興味深いが

それ以上に“今していること”が

気になって気になってしょうがない。

 

 

「そうか、それは失敬。

———で、何食ってるんだ?

ていうか“何処”にいるんだ?」

 

 

なんか食ってんだけど…?

見事な刺身の新鮮度である。

 

いや、食いっぷりは見事だけど

状況が理解できないっす…。

 

 

『……え、メカジキだけど、

よかったらキミも食べるかい?

今は大淀さんの所に遊びに来てる。

 

その訳を聞いて驚くんじゃないぞ、

甲板にメカジキが飛び乗ったんだぜ、

験担ぎには丁度いいじゃないか!

これは戦闘の収穫ともいえるぜ』

 

 

大淀への回線を開けば

松風がカメラを占拠しており、

大淀は横で困り笑顔であった。

 

 

「そ、そうだな…」

 

 

(松風って変わってるよな…)

 

スルーしつつ隣の大淀に話を振る。

 

 

『提督、父島方面はお任せください。

私の損傷についても心配不要です、

秋月さんや足柄さんも必死に戦って

敵の空襲を凌ぐことができました』

 

 

「大淀も無理はするなよ?

もし無理がたたって“すずつき”みたいに

艦首から浸水してもしたら……」

 

 

『んもぅ、心配し過ぎですっ!!

…でも、お気持ちは嬉しいですよ。

此方は夕焼けと海が綺麗です。

この光景を提督と一緒に見たい、

そう考えると沈んでなどいられません』

 

 

顔をやや赤らめながら好意を寄せる姿、

それはとても可愛いものである。

愛という絆はいいものだ。

 

 

「大淀もデレを隠さなくなったな、

やっぱり俺としてもその方が嬉しいぞ。

今日はお疲れ様、疲れただろう?

明日以降の戦いに備えてくれ。

あと松風は好きにさせてやってくれ、

勝利で嬉しいんだろうさ…」

 

 

『提督もお優しいですね』

 

 

デレ分が増した艦娘もちらほらと。

一方、戦意が昂っている艦娘もいた。

 

 

『この私がいるんだもの!

味方艦隊や島に蚊トンボを寄せ付け

させるわけないじゃない!!』

 

 

足柄は6機を撃墜する活躍を見せた。

 

高角砲や機銃を撃つのはいいとして

全主砲5基10門から火を噴いたという。

はて、戦術的に如何なものか…。

 

火を噴くかのような姿に敵が動揺、

そこに対空砲火を集中させたのだ。

 

やはりというか、味方側からも

“足柄に爆弾が命中したかと誤解”され

かけるという珍事もあったという。

 

結果的に敵を撃退できたのだから

彼女の奮戦と機転は称賛すべきだ。

 

 

「初動全力とは言うけどなぁ…。

なにも主砲全門から撃たなくても

よかったんじゃないかと思うけど」

 

 

『何を呑気な事を言っているのよ。

敵は待ってはくれないんだから、

恋と戦争は早い者勝ちなんだから!』

 

 

それを言われたら許すしかない。

 

 

「おう嬉しいこと言うじゃんか、

ま、焦らなくても俺は逃げないぜ…?

 

冗談はこれぐらいにしておいて、

秋月を励ましてくれてありがとな、

自分も戦闘で余裕がないだろうに。

やっぱり足柄を守備艦隊に残して

おいてよかったと思ったよ」

 

 

『そ、そういうことだったのね…。

提督はそこまで私のことを考えて

この艦隊に残していたのね。

それなら安心しなさいな、この私が

先陣を切って敵の残存艦隊に斬り込み

をしかけてやるんだから!!』

 

 

疲労の色が顔に見えていたものの

目の輝きはそれと反比例していた。

 

 

「斬り込みは勘弁してくれ…。

確かに殲滅してしまいたいけど

他の部隊との調整も不可欠だし、

なによりもまずは補給が必要だ」

 

 

それは足柄もわかっているようで

苦笑いをして冗談よ、と釈明した。

 

 

「———本当にみんなお疲れ様」

 

 

父島方面の防衛戦自体はまだ始まった

ばかり、この空襲は2回目に過ぎぬ。

遊弋しているであろう機動部隊及び

その護衛を完全に叩かない限り、

俺たちの———いや、人類側の

制海権確保には辿り着けない…。

 

 

つまり決定打に欠けているのだ。

 

 

「とはいえ島から離れて攻勢に

出ようにも、戦略的にも物理的にも

出来そうにないだろうし…」

 

 

弾薬や燃料も無限ではない、

適時かつ適所に投入しなければ

艦隊はそのチカラを発揮出来ない。

 

現地部隊は当然それを痛感している。

 

 

「なにかいい案はないのかな…」

 

 

2台の端末を器用に操作しつつ、

頭は妥当な戦術を探っている。

 

片方は俺のいる奪還部隊、もう一方は

父島方面部隊のグループチャットだ。

各指揮官がアイデアを出し合うが、

どれも空振りで有効打はゼロ。

 

机上の空論ばかりだ。

本土から増援の航空部隊を呼ぶとか

守備艦隊による大攻勢を、などなど…。

 

ハイリスク・ハイリターン…?

いいや、それこそ敵の思う壺だろう。

 

将棋で例えるなら、

王将を守る金や銀を自陣から離し

敵陣に指すようなものだ。

 

“金なし将棋に受け手なし”

 

…という将棋の格言もある、

しかし、逆の使い方もある。

 

“金なし将棋に攻め手なし”

 

…攻めるには金が必要という意味だ。

 

 

「“金”、つまり守備艦隊を父島から

動かすのは上策じゃない、か…」

 

 

島から艦隊が離れるとどうなるか、

深く考えずともわかることだ。

仮に艦隊を分けたとしても、

攻守共に中途半端になってしまい

それこそ本末転倒になるだろう。

 

“飛車”である航空部隊については

適切に運用しないと確実に“詰む”。

 

 

(敵は艦隊を島から引き剥がそうと

しているのは間違いない。

だがその敵を倒すには艦隊を

どう活用するのか正しい選択を

しなくちゃいけない…)

 

 

俺を含めた奪還部隊の指揮官は

誰一人として解決策を見出せない。

 

 

後ろ髪を引かれる思いをしつつ、

艦隊は着実にマーカスに向かう。

 

 

「んで、敵の機動部隊は

どうなったんだろうな…」

 

 

硫黄島のフォルダにアクセスし、

昨日味方が行なった航空攻撃の

戦果報告資料を閲覧する。

 

 

「……なるほどな。小笠原方面の

主導権はこちらのものってワケだ」

 

 

俺は僅かにほくそ笑んだ。

 

 

※※※

 

 

父島沖

護衛艦“いずも” 司令部会議室

 

 

空襲後、守備部隊の各指揮官が招集され

今後取るべき最善策が話し合われていた。

海自の群や隊司令クラスはもとより、

陸・空自の各部隊隊長も席を連ねている。

艦娘も妙高がアドバイザーとして参加、

誰もが浮かばぬ顔をしている。

 

 

…まずは状況報告。

昨日受けた空襲並びに硫黄島の

航空部隊が実施した戦果について。

これはぼちぼち、といったところだ。

 

 

次に敵の空襲についての分析だ。

パワーポイントを使い、時系列で

空襲の推移の概要が説明される。

 

 

「陸海空による“烈火の護り”により、

“すずつき”を始め損傷等はありましたが

奇跡的に戦死者は出さずに済みました」

 

 

担当者の言葉に場の空気が軽くなる。

 

 

攻撃、防御と来れば次は攻撃。

即ち攻撃方法の検討だ。

 

海・空自の航空攻撃は成功し、

2隻の敵空母を撃破することができた。

外周にいた重巡数隻にミサイルが命中、

敵の水上打撃力を削ることもできた。

 

だが、やはり例のミサイル対策によって

半数近くが命中しなかったと判明。

再び場の空気が重くなる。

 

 

「やはり、決定打に欠けるか…」

 

 

これからどうするべきか話そう、

最先任である海将補が切り出す。

 

こうして討論が始まったのだが、

開始早々、陸自の連隊長は言い放った。

 

 

「———“火砲は寝て待て”…だ」

 

 

「「—————は??」」

 

 

「聞こえなかったのか?

火砲は寝て待てっつったんだ。

敵が自腹でコッチに出向いてくれて

しかもマトになってくれるんだぜ?

 

海自サンは燃料と弾薬の保有量が

心許ないらしいじゃねぇか…。

ならのんびり待ち構えてればいい。

別に焦るこたぁねぇだろ…?」

 

 

ややドスの聞いた声で、そして顔に

薄ら笑いを浮かべつつ連隊長は言った。

 

 

「な、何を突然仰るんですか?!

今は冗談を言ってる時ではないんです、

それは考えが有っての発言ですか!?」

 

 

出席していた某護衛隊司令が反応する。

しかし出席していた者の中には

彼とは違う反応をする者もいた。

 

 

「…艦娘の妙高と申します。

連隊長さんには何か妙案がおありの

ようですが、是非お聞かせ願いませんか?」

 

 

「おう当然でぃ!

あと俺は堅っ苦しいのは苦手だから

ちっとばかりきたねぇ話し方をさせて貰うぜ」

 

 

「う、うむ……」

 

 

連隊長が一言断った相手、

その場の最先任者である海将補は

戸惑いながらも頷いて先を促した。

 

了承を得る前から既に砕けた物言いを

しているのは連隊長の成せる技か。

 

 

……

 

 

「———なるほど。

我々は積極的に動かずともいい、と。

この守備艦隊が島から離れない限りは

敵も迂闊に攻めて来れませんし…」

 

 

妙高が関心そうに頷いた。

 

 

「そういうことだ、流石艦娘の

ネーチャンは話のわかりがいいな」

 

 

 

連隊長の考えをまとめるとこうだ。

 

 

“此方から攻勢には出ずに深海棲艦が

痺れを切らせて攻めて来たところを討つ”

 

“偵察を密にしつつ、敵艦隊を父島に

誘引させることにより一気に掃討可能”

 

“攻撃は島内に配備された陸自の

対艦ミサイルを備蓄全弾を活用する”

 

 

「———文句を言われる前に言っておく。

奴らがこの島を狙うワケは、本土と

硫黄島の中間点を攻撃すれば後は簡単に

硫黄島を攻略することができるし、

なにより根拠地を築けるからだ。

 

次に敢えて待ち構える理由、

それは水上部隊の継戦能力低下だ。

弾も燃料も無ぇんだろ?

そんな状態でノコノコと出撃したところで

いくら手負いの旧式の軍艦が相手でも

苦戦するのは目に見えてる、それに

この近海から離れれば別働隊が現れて

待ってましたと占領しようとするだ

ろうな、そうしたらいくら陸自の

俺たちが足掻いたところで撃退できず

にやられちまうのは明白だ…。

 

つまり海自サンには極力燃料の消費を

控えて待機してもらう必要がある」

 

 

言葉は汚いものの軍事学的に正論、

しかし極論であるのも事実である。

 

当然反対意見が出る。

 

 

“だがこのまま何もせず待っていたら

敵が硫黄島や本土に向かうかもしれない”

 

“ここは先手を取り敵を撃滅した方が

戦略上いいのではないか?”

 

“敵も馬鹿ではない。此方にミサイルが

ある事は承知しているはずだ。

その範囲内に飛び込む真似はすまい”

 

 

反対意見を静かに聞いた連隊長、

そして彼なりの推理を述べる。

 

 

「…空襲で敵が狙ったのは艦隊だ、

島には数機が飛んで来たのみだった。

防空部隊の隊員の報告では、その数機

でさえもフラフラと飛んでいて明確な

攻撃目標を定められていなかったらしい。

———これが何を意味しているのか、

艦娘のネーチャンは解るかい…?」

 

 

突如話を振られた妙高は戸惑ったが

やや考えたのち口を開いた。

 

 

「“島内に配備されている陸自の

対艦ミサイルについて敵は把握できて

いなかった”…ということでしょうか?」

 

 

彼はそうだ、と頷きを返した。

 

 

「俺も確信は無ぇけどな…。

だが敵は水上部隊の攻撃を優先して

島内の設備や部隊を積極的に攻撃しよ

うとせず、むしろ“見逃してしまって”

いたように感じるんだよ」

 

 

「ですがそれは、敵の策略であって

こちらの判断を狂わす為なのでは…?」

 

 

「…まぁそう言われちまうとそうかも

しれねぇんだがよ、島の中で隠れてた

身としてはそう感じたんだよ。

 

それに数機だけが島に飛んでくるなんて

辻褄が合わねぇと思わねぇか?

攻撃目標を艦隊又は島に絞りきれて

いないし、偵察目的にしちゃあ飛び方

が専門外の俺から見てもおかしい。

ありゃ素人の飛び方だぜ…?」

 

 

連隊長は空襲の最中、あろうことか

掩体壕を抜け出して敵機を見上げていた。

部下が戻るように懇願しても無視。

恐怖よりも敵の姿を見たいという好奇心

が勝ったこと、そして空襲の目的と

目標は何なのか見極める為だ。

 

 

「艦隊には敵機がわんさかと

群がっていたのはわかってる。

だからこそ引っかかるンだよ…。

 

奴らが島を占領するのが目的ならば、

艦隊を波状攻撃又は繰り返し叩き

疲憊かつ弾薬をカラにさせるはずだ、

空襲は五月雨式に行うのがセオリー。

 

つまり今回みたいに艦載機を全部

飛ばしてくるってのはおかしい…」

 

 

「確かに貴官の言うことはわかる。

だが遊弋する敵艦隊がこの島に

一直線に向かってくるという確証も

ないのだから、敢えて敵に猶予を

与えるような消極的行動は慎むべき

ではないかと考える」

 

 

群司令である海将補が苦言を漏らす。

彼は硫黄島と父島の守備部隊のトップ

として決断せねばならない、

そして不確定要素を基にした行動、

即ち———作戦失敗に繋がるからだ。

 

だが積極的攻勢に出られないのも事実。

 

 

要は決断に至るあと一押しが欲しいのだ。

 

 

……

 

 

(これでは埒が開きませんね。

申しわけありませんがここは提督の

お言葉に甘えさせていただきますね…)

 

 

妙高は連隊長を援護する。

 

 

「艦娘部隊としましては、戦意は非常に

旺盛ですが砲弾薬の在庫率低下を

鑑みますと、攻勢に出るのは不可能。

この地に留まり敵が痺れを切らせて

向かってくるのを待つのが上策かと。

 

そして敵艦隊の動向につきましても

硫黄島の哨戒機又は軽空母“飛鷹”の

艦載機による偵察を密に実施し、

我の即応態勢を維持に努めます。

なおこれは我が101護隊司令である

菊池3佐の意向でもあります」

 

 

やや早口で棘のある言い方だったかと

妙高は内心冷や汗をかいていたが、

“菊池3佐”の単語が効いたのか参加者にも

同調しようとする空気が生まれる。

 

冷静に考えればこの状況で攻勢に

出るのは土台無理な策である。

 

 

「…言われてみればその通りだ。

すまない私も焦っていたようだ」

 

 

「…いえ、滅相もありません」

 

 

……

 

 

…こうして小笠原の守備部隊は

敵艦隊が襲来するのを待つという

積極的防勢を取ることを決定。

 

その事実を示達された護衛艦の乗員や

父島の守備隊員らは一息ついた。

 

島側としても艦隊にいて貰いたい、

海側としても島の近辺を守れる。

 

現状の戦力を活用するには

これがベストな策であった。

 

 

 

妙高は提督に状況報告と感謝をしようと

連絡を取ろうとしたのだが…。

 

 

「繋がらない…どうして?」

 

 

衛星回線を使っているのだから

繋がらないはずは無いのに…。

 

と、いうことは…である。

 

 

「其方も遂に決戦、なのですね…」

 

 

恐らくは敵拠点と化したマーカスへ

奪還艦隊が近付いたからなのだろう。

 

先日から発生している衛星不調の

原因は未だ不明であるものの、

敵制海圏自体が何らかの妨害電波を

出している可能性もある。

 

 

提督と深海棲艦、

どちらかが倒れるまでは

通信が取れないということだ。

 

 

(どうか、ご無事で…)

 

 

妙高は提督そして奪還部隊の無事を

祈ることしかできなかった…。

 

 

 

 





やっとマーカスへ駒を進められました。
次回は提督サイドで進行します。

守備部隊の方針は『待ち構える』
あまり華々しい戦いではないですが
これが現実的な戦術になるでしょう。
なお、味方航空部隊による攻撃は
成功したのですが、その描写をもっと
加えるのを忘れていました。
これもちゃんと後話で補完致します。


●松風のシーンについて
松風は大淀に押し掛け、
偶然甲板に打ち上げられた
『メカジキ』を刺身にして食べる。

松風が験担ぎとして食べている
この魚にはちょっとした因縁が。


●秋月の最後あたりのシーン
疲れた秋月が寝言を言います。
それを月光がテラスシーンですが、
ここにもちょっと小細工が…。

“さわやかに澄み切った月は
ずっと彼女を見守っていた…”

ここに答えが乗っているかも、です。


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2-10a 烈火の反撃 【敵機迎撃〜攻撃隊発艦】


本土 
横須賀基地


「———なに、菊池3佐たちとの
通信が一切取れなくなった…?」


鎮守府の留守を預かる警務隊長の声が室内に響く。それは驚きや心配の類ではなく、彼が滅多に出すことのない鋭い声。
それを報告した艦娘、鳥海は彼の険しい声と目力にやや怯えつつも自分がすべきことを果たそうとする。


「は、はい…。市ヶ谷のシステム通信隊群からの報告では先日から発生している衛星の不調若しくは当該海域上空の電離層の……」


「———違う、そんな科学的見地ありきの推測は深海棲艦という異質な存在に人間の考えや理屈は通用しない。
事実、彼らは我々の秘匿化された無線に乱入しているし、限定的かつ原始的方法だがミサイルをも無効化している。

これは即ち敵は、我々人類には計り知り得ぬ『妖術』ともいえる空間への干渉のようなものを行なっているのだ…」


“いきなり何を言っているんだ…?”

艦娘たちの考えは同じであった。

たかが通信ができぬぐらいで警務隊長は心配のしすぎなのだ、どうせ一時的なブラインド———通信不能地帯に入ったためではないか?

無論、彼も根拠も無しにそんな“戯言”を口にするはずもない。


「このデータを見たまえ。各種衛星が使えていた当該海域の二週間のもの。そして、辛うじて観測できた昨日の電離層分析や気象解析、そして地磁気測定のグラフだ…」


彼が見せた資料を見ると、明らかに占領される前と後では、天候を始めとした各種数値や自然環境が異なっていた。
天候や海面状況を始めとした環境条件がまるで別の国になってしまったかのように変化し、かつ、地球のいかなる地域とも異なっている。

艦娘たちは夏にも関わらず鳥肌が立った。敵は…深海棲艦とは一体どれ程底知れぬ存在なのだろう、そう思うだけでこれからどうしていけばいいのかという不安にも襲われる。
提督たちは、奪還に向かう艦娘たちが誰一人欠けることなく生還できるのだろうか…?


「———私は怖いよ。
深海棲艦という敵が何を目的に行動し、どんな能力を持っていてどんな攻撃を仕掛けてくるのか…。
知っての通り、私はしがない警務官だから戦闘指揮は出来ないし、あくまで菊池3佐———諸君の提督を業務面でサポートすることしか出来ない。言ってしまえば、書類にハンコを押すことが私に君たちに出来る最大の貢献であるかも知れぬ…」


警務隊長はどこか寂しそうに、だがはっきりと鳳翔たちを見据えながら語った。


「後方で祈ることしか出来ないしのはここにいる鳳翔ちゃんたちも一緒だ。こうしている瞬間にも奪還艦隊に敵が襲いかかっているかもしれない…。
———だがちょっとだけ考えて欲しい。菊池3佐だったらそんなときどうするか?彼は嘆くかい?それとも絶望で言葉も出せなくなっているかい…?」

警務隊長の問いに曙が答える。

「そんな訳ないでしょ。
あンのクソ提督がビビるなんてありえないわ、どうせいつもみたいに無駄にクソみたいな演説かましてホラでも吹いてるに違いないわ!
だってそれがクソ提督だもの!———あ…」


曙は普段通りの口調で言い放ち、自らの発した言葉に思わず口に手を当てた。
それに釣られたのか艦娘たちも苦笑いしながら苦い顔を明るくする。


「艦隊の無事を祈るということは彼を信じてあげる、そういうことではないのかな…?」


そう言い放つと警務隊長は何事も無かったのように机に座り、普段行なっている書類への印鑑押しを再開する。


「“提督”が今の君たちを見たらきっと『サボってるならセクハラするぞ?!』と怒鳴っているだろうね」

「…ふふふ、それは困りますね。
それじゃあみんな、お仕事に戻りましょうか」


鳳翔が手をパンパンと叩き、その声と音で動き始める鎮守府の艦娘たち。文句を言いながらも真面目に働く響や曙たち。


「司令官が帰ってきたら、温泉の慰安旅行でもプレゼントしてもらわないと割りに合わないね。」

「そんなんじゃ済まないわよ!
高級スイーツに連れて行かせて財布を空になるまで食べ歩いてやるんだから!!」


やや乱暴に聞こえる曙の言葉であるが、“連れて行く”というワードが自然と出てしまうあたり、彼女の提督に寄せる想いが滲み出ている。


「そ、そんなに食べたらお腹に贅肉がついてしちゃうじゃない。そうしたら提督の前に出られなくなってしまうわ…」


鳥海が制服から見える腹を撫りながら年頃の少女らしい感想を言う。


「鳥海さんは食べてもきっとお胸の方に脂肪が向かうのです!い、電もないすばでぃになる秘密を教えてもらいたいのです!!」


電の言葉で大爆笑が起こる。


(君は幸せ者だな、菊池3佐…。
無事に戻ってたらこの光景をゆっくり見るといい、君を慕ってくれている彼女たちの為にも絶対だぞ…!)


警務隊長は一人、そう願った……。




「戦闘機隊、突入開始!」

 

 

電測妖精の報告が艦橋内に木霊し、高まっていたその場の雰囲気が更に高まる。

 

「20ミリ機銃で敵機に穴を開けたらそのまま離脱させろ!一航過だけで十分だ、なぁに撃墜できなくても構わん!奴らは今頃ビビってマトモな編隊を維持できない、残りは護衛艦に“料理”させてやれ!」

 

 

提督は空母艦娘を介し戦闘機隊に指示すると、護衛艦部隊へと残敵の処理を依頼した。ミサイルは極力使わず、主砲を活用し動きの鈍い爆撃機を撃墜させる。

敵が誘導弾対策を講じてくるのであれば、無誘導の砲熕である主砲の必中の距離まで引きつけ撃てばいい。

 

 

そんな単純な策が通じるのかといえば、果たしてその通り。

爆弾を抱えた鈍重なプロペラ爆撃機がいくら回避運動を取ろうとも、高度な射撃統制システムによって狙われたら最期。逃れられるのは神の御加護があるのを願うしかないだろう。もっとも、深海棲艦たちに“神”という存在や概念があれば、の話であるが…。

 

 

先述の通り、艦隊にいる護衛艦は敵爆撃機を撃墜せんと主砲の狙いを定める。砲口からは冷却水が滝の様に流れ落ち、まるで獰猛な猛獣が獲物を前に涎を垂らしているかのようだ。

全艦艇を統制するHF・UHF帯及び衛星を介した“LINK-16”といった戦術情報処理装置は不完全なれど、それを補う護衛艦———“こんごう”等のいわゆるイージス艦や“ふゆづき”が各艦への目標割り振りに奮闘。父島空襲であったような対応不足の失態を再び起こさぬよう、哨戒配備中も共同訓練を実施していたのだ。

 

部隊指揮官や各艦艦長らは「実戦前に疲労困憊になってはダメだ」と考え、乗員たちに過度な訓練をさせるつもりは無かったのだが、当の乗員たちが希望して直前まで猛特訓を実施した。

一時的な疲れなどよりも、死の恐怖の克服や仲間を守れる強さと自信を持ちたいという熱い想いがあったに違いない。

 

空襲の直前まで戦闘服装のままに各々の持ち場で寝ていた彼らの顔に不安とか恐怖といった負の感情は見られなかった。“やれることはやり切った”と言わんばかりに満足げに死んだように眠る彼らの顔からはある種の戦士のような悟りを感じ取れたという艦長も少なくない。そしてその努力はこの瞬間、実ることになる…。

 

 

……

 

 

陸上における榴弾砲等の砲撃と海上における艦砲射撃とでは、口径の違いもそうだが根本的に異なるものがある。

 

 

「ジャイロチェック終わり、異状なし!」

 

 

海の動揺やうねりがある水上において確実に砲弾を命中させるためには、それらを計算し自動的に各種諸元を修正するために“ジャイロ”が必要となる。

自艦の傾きや方位を把握し、砲身を適切な仰角に向けさせる重要な装置である。

 

対空射撃を任された護衛艦らは射撃前のチェックを入念に行う。幸い、敵は音速対艦ミサイルとか超音速爆撃機ではないから敵機を捕捉してから時間は充分にあるのだ。

無論、主砲が撃ち漏らしてしまった時に備えてCIWSや対空ミサイルはもとより、艦娘たちもいつでも撃てる態勢を取る。

戦闘機隊はといえば、味方の対空射撃に巻き込まれないように敵編隊を左右から挟み込みつつ距離を保っている。万が一敵機が射線から逃げようとしたら有無を言わさずに撃墜する腹積もりなのだろう。

 

 

「我々が使うのはミサイルだけではないということを奴らに思い知らせてやるッ!」

 

 

どこかの艦長の言葉と共に、76ミリ及び127ミリの砲弾は各艦から放たれ短い旅へと出かけていく。

深海棲艦側としても何が起こったのかわからなかっただろう。なにせ突然隣を飛んでいた僚機もしくは自機が爆発したり空中分解したのだから。付近の空の炸裂煙を見てやっと対空射撃を受けているのだと気が付いた。

 

加速度的に増えていく損害に、編隊の指揮官は爆撃中止を決断した。

 

 

“攻撃は不可能だ、引き返そう”

 

 

この時、彼の決断は極めて正しかったのだ———そう、タイミングがもっと早ければ。

 

周りを見渡せば飛んでいる物体は存在していなかった。

 

 

“自分たちしか残っていない…?!”

 

 

そこまで指揮官が考えついたところで、彼は確かに見た。前方から丸く見える“何か”が向かってきている…。

それは護衛艦“おおよど”が放った76ミリ砲弾であった。そして、それを認識するのと指揮官が“蒸発”したのはほぼ同時であった…。

 

 

……

 

 

「全機撃墜できた、か…」

 

 

上空には味方の戦闘機隊しかいないことを確認し、『対空戦闘用具収め』が掛かる。

安堵するのも束の間、各艦は被害確認及び射耗弾薬等の点検並びに砲熕武器類の確認を行わなければならない。

陣形を輪形陣から対潜警戒陣形へと移行しつつ、空母へと戦闘機を着艦させる。雲龍も忙しそうに指示を飛ばしており、艦長としての艦娘の立ち位置というのも大変なものだなと思った。

米海軍の空母では“エアボス”と呼ばれる空母航空団(≒艦娘でいう母艦航空隊)の長が艦載機の指揮を取る。艦長はその艦の業務を統括しているに過ぎず、機についてはゼロではないものの艦載ほぼ無干渉と聞く。どうにかそのシステムの良い所を導入できないものか。

 

横須賀を出港し幾度の戦闘を経験したが、この半月余りの期間は自衛隊取り分け海上自衛隊にとっては貴重なデータを採取する機会となった。

作戦、戦術、戦法並びに艦隊運用そして艦内編成といった、マクロからミクロの流れに沿って問題点や改善すべき点が消えては現れるのが実戦というものなのだろう。

戦死者が出ているとはいえ、こうして勝ち戦である内は文句を言う余裕があるということだ。

 

 

「みんなよくやったな!

空母の戦闘機隊を除けば、俺たち艦娘部隊は1発も撃たずに空襲を乗り切ることができた。これは護衛艦部隊にとっては良い効果になると思う…」

 

『??えっと、艦娘側の弾薬が節約できたとかの話じゃなくて、“護衛艦にとって”っていうのはどんな意味があるのかしら…?』

 

提督の言葉に雷が疑問を投げかける。

彼がそれに答える前に漣が語る。

 

『漣としてはですねぇ、ご主人様が戦闘前に“護衛艦に対空射撃を一任する”って言った時はメッチャヤバいと思ったのですよ。だってホラ“自分たちは戦わずに逃げてばっかりとかマジありえんっしょ?!戦闘終わったらシバいたるッ!”…みたいな感情を持たれたんじゃないかって』

 

漣のトークは、表現がややオーバーであるものの、艦娘たちの思っていることを代弁していた。

 

『でもこうして戦闘を見守る側の立場になってみると色々と感じたこともありましてね、護衛艦側は“俺たちも頑張れば戦えるじゃないか”“艦娘ばかりに戦わせずとも守れるんだ”と考えたんじゃないかと。もうね、彼らは立派な海軍軍人としての自覚と自信を持てたんじゃないかとハイ。

———確かに漣を含めた艦娘も戦えば護衛艦側の負担も軽減できるけどそれじゃあ根本的な“両者の溝”は埋まらないんじゃないかなって…思いますネ』

 

 

普段と変わらぬペースでのらりくらりと語った漣であるが、その話し方を除けば提督の意図を完全に汲み取っていた。

提督は、先日までの戦闘によって護衛艦部隊内に蔓延っていた不安や煮え切らぬ想いを解決させようと決めていた。その方法が上記の戦闘法であり、護衛艦部隊の存在意義並びに“戦える”という事実を再認識させる結果を求めていたということ…。

 

元護衛艦“むらさめ”乗員であった提督らしい発想ではあるが、一歩間違えれば艦娘と護衛艦との間は修復不可能な確執が生まれる危険もあった。

提督は役職を———第101護衛隊司令という単なる護衛隊司令としての職責や権限をも逸脱、それこそ更迭や懲戒免職の可能性も無くはない。無論これも基地に無事帰れれば、であるが…。

 

 

それらを提督が考慮しない筈もなく、彼なりに考えついた結果なのだろうと艦娘たちは結論付けた。

現に提督は艦娘たちの交信には入らずただ聞いているだけであり、その行為自体が漣の語った考えを肯定していた。

 

「無いとは思うが敵の第二波を警戒しろ。明日は潜水艦部隊と会合しなきゃならん、それまでは適度な緊張感にしておけよ。会合、分離後は休む暇なんて無いぞ」

 

『あのご主人様?ソレって会合してからの方が緊張感アゲアゲってことなんですかねぇ…?』

 

「そりゃそうだろ。なにせ空母4隻を停止させて作業しなきゃいけねぇんだから」

 

 

☆☆☆

 

 

提督が依頼した件について反対意見や反発は当然あった。だがそれを宥め、昇華させるようとする者たちもいた。

両部隊を統制する奪還部隊指揮官並びに護衛隊司令と各艦長は反対意見を受け止めつつただ一言だけ返した。

 

“諸君は戦えないのか…?”と。

 

艦娘がいなくては護衛艦は攻勢に出れないのか、乗員たちはそう捉えた。

 

“衛星機器が使えなくとも、打撃力に劣る現代艦であろうとも旧式爆撃機ぐらいは127ミリや76ミリ主砲で撃墜可能であると証明してやろう!”

 

“父島空襲では大淀が攻撃されたからな。“おおよど”(コッチ)は元から対空ミサイルなんて積んでいないが76ミリ砲で復讐してやろう”

 

彼らの士気が高かった要因の一つであったのは艦娘や僚艦の受けた被害。それに報いようと無我夢中で戦っていたこともあってか、戦闘前に出ていた反発もどこかに消えてしまったようだ。

提督は各指揮官に無線で礼を述べつつも心の中は頭が上がらぬ気持ちで一杯だった。

 

 

☆☆☆

 

迎撃の翌日

2035i 

 

小笠原東方海域

南鳥島まで200km地点

 

 

「———先ほど部隊指揮官からあった通り、明朝の進撃開始は0500iとされた。それまで艦隊は速力を強速以上に保ちつつ之字運動を実施せよ。

対潜警戒は厳としつつも非番直員は休息せよ。…なお各艦は本職権限でシャワーを許す、時刻は2400iまで。この間適宜交代し英気を養え、以上」

 

『やっとシャワーが浴びれるっぽい!』

 

『昨日から艦橋にずっといたものね、流石に女の子には辛いものがあるわよね〜』

 

夕立と雷が無線上ではしゃぐ。だがそれは俺も同じだもん、俺だって年頃の男の子だもん!

↑※23歳の大人です。

 

「俺だってさっさとサッパリしたいさ。20代前半なのに加齢臭撒き散らしてたら隣にいる雲龍や妖精たちに嫌われちまうからな」

 

『やだ提督、なんか臭い…』

 

「おいやめろ村雨。冗談とはいえ女子に言われるとマジで死にたくなる…。あ、それと夜食は程々にしておくんだぞ。油物は肌にも良くない、今はなんともなくても30代からそのツケがまわってくるぞ」

 

『ご主人様は修学旅行の先生ですな』

 

『言ってることが警務隊長さんっぽい。実はもうおじさんになっちゃってる…?』

 

「誰がおじさんじゃい?!」

 

 

俺は艦娘たちに指示を出しつつ、少し細か過ぎるか?と反省した。それに周囲の護衛艦はシャワーも浴びることなどできない。

いくら警戒しているとはいえ、敵地目前でシャワーを許可する指揮官なんて歴史上で俺だけかもしれない。島までは200km、航空機からすればすぐ飛んでこれる散歩程度の距離なのだ。

だが、だからこそ…だからこそ彼ら彼女らには少しでも安息の一つはとってもらいたい。

 

 

(妖精たちも頑張ってくれている。だがこれが“最後”にならないようにしてくれよ…)

 

 

……

 

 

この日の午前中は味方の潜水艦群と合流した。先日の敵東方機動部隊への襲撃の際に撃墜された妖精パイロットを所属艦に収容するためだ。昨日の空襲では爆撃機を全機撃墜できたが、それよりも更に近い地点、敵の目前で決行しなければならない。

 

事前の打ち合わせ通りのポイントに差し掛かった途端、近傍に4隻の潜水艦が浮上したのだが、雲龍を始めとした一部艦娘が悲鳴を上げるという笑えない珍事も起きたりした。

 

 

「今から浮上するってわかってただろ…」

 

「し、しょうがないでしょ…。」

 

「元潜水艦“うんりゅう”のクセに」

 

「……(恥ずかしいわ…。)」

 

 

加賀以下4隻は行き足を止め漂泊、内火艇を降ろし救助された妖精を迎えに行かせた。幸い大きな怪我をしている者も無く、各空母の医務室に収容された。無論、タダで妖精を引き取るはずもない。

 

「よかったら皆さんで食べてください!」

 

内火艇の妖精から差し入れ。各潜水艦には空母艦娘の給養妖精が作った甘味をふんだんに使った菓子が贈られ、長期の緊張状態を強いられている潜水艦乗員らにとっては何よりも嬉しかったであろう。渡された飯缶にはアイスクリームやプリンが詰められており、冷凍庫に入れたとしてもおそらく夜までには無くなってしまうだろう。

また、それと並行して真水や生糧・貯糧品そして燃料が補給され、潜水艦乗員らが忙しそうに作業に当たる。新鮮な空気と久々の日光を堪能したい気持ちを抑える。一秒でも早く終わらせなければ自分たち潜水艦のみならず、周囲の水上部隊も敵を受ける可能性があるからだ。

護衛艦群は対水上・対潜警戒を厳となしており、付近上空にいる哨戒ヘリも同様だ。

 

作業が終わった潜水艦のセール上では潜航を始めているにもかかわらず、乗員が水没するギリギリまでしきりに手を振って感謝と互いの武運を祈る。

助けてもらった妖精や母艦の妖精、そして提督はこれに応え見送った。

彼らは水上部隊に先行してマーカス近海へと挺身していくからだ。これが最後の浮上であるかもしれないと思うと涙腺が緩むのを禁じ得なかった。

 

 

……

 

 

さて、奪還艦隊は決戦前夜を迎えた。

数時間毎に2直制の交代であるから夜間は熟睡は出来ないものの、良い意味で緊張の糸を切ることが出来るとあって妖精たちは我先にと雑魚寝を始める。

俺は“雲龍”艦内を巡りその様子を優しく見届け、医務室へと足を運ぶ。

理由はもちろん救助された妖精たちの見舞いの為。案の定、衛生妖精以外はベッドで安らかに眠っており久々の母艦を懐かしく思っていることだろう。

 

 

「さっきまでみんな起きとったんですよ。修学旅行よろしく騒いでたのに急に静かになり心配して駆け寄ったらこの通りです。救助された潜水艦で良くしてもらったらしく、傷病者用の昼食にケチ付けやがる野郎もいましたよ…」

 

「ははは!そりゃあ結構結構。流石に明日の攻撃隊の搭乗員には組み込めないだろうけど、今後の母艦航空隊のエースとしてしぶとく頑張ってもらうとしよう」

 

 

俺は医務長である妖精と軽口を叩きつつ、空母艦娘の活躍の足場———即ち母艦航空隊の練成と支援方法を考えていた。

搭乗員の妖精のみならず、どこの国でもパイロットというものは貴重であり育成するのにも莫大な費用とかなりの時間がかかる。機体や兵装はカネを積めば作れるがパイロットはそうはいかない。

練成の詳細は専門家である鳳翔たち空母艦娘に任せるとして、撃墜された妖精の救助体制の構築であったり他艦搭乗員との人事交流というのも実施していくことになるだろう。

 

やることが多過ぎて困っていると、医務室に雲龍が入ってきた。

眠る妖精たちを起こしたら可哀想だなとその場を退散、雲龍と歩きながら話し始めた。

 

 

「仕事熱心なのはいいけれどあまり考え過ぎてもダメよ、いま提督がすべき事をちゃんと自覚して。」

 

横を歩く雲龍から厳しいお言葉。

 

「“あれもこれも…”と広げ過ぎたら最終的に混乱してしまうわよ?中途半端になるとかじゃなくて、提督には少しでいいから休んでもらいたいの。」

 

「そう言われてしまうと俺も反論できないなぁ。俺としては艦娘(みんな)のことを想ってしてたんだけど、逆に心配をかけてしまってたとはな…」

 

縋るように語る雲龍の心の内が痛いほど理解できる。俺が艦娘や妖精を心配に思ってした事は、かえって彼女たちにとっては少なからず心配の種になってしまっているらしい。

 

 

(わかってはいる、わかってはいるさ…)

 

 

そんな俺の気持ちも彼女にはお見通しのようで「忠告はしたわよ。」と普段通りの雰囲気で歩き始める雲龍。どちらが言い出したわけでもないの飛行甲板へと向かい、まるで野原にいるかのように横たわった。

 

 

満天の夜空は綺麗だ。

 

“このまま朝にならなければ戦わなくてするのだろうか…?”

 

そんな感情も湧いては消えていく。

 

 

「———0500に発艦準備作業にかかるとして、その後は風上に向かいマーカスに攻撃隊を飛ばす。当然敵側の爆撃も予想されるから直衛機も残さないとな」

 

「爆撃機が飛んできたということは、敵には航空戦力を何らかの方法で作り出せるようね。こうしている間にも何十、何百という数に膨れ上がっていると思うと不安に感じるわ…。」

 

 

雲龍にしては珍しく弱音を言うじゃないかと思うと、胸の辺りに重みを感じる。見れば彼女が頭を寄せ、いつもらしからぬ顔をみせていた。そんな雲龍を俺はただ優しく撫でる。

 

 

「明日の空襲は奇襲じゃなくて強襲だ。敵も俺たちがここにいることはわかっているだろうし、今日だって爆撃機が飛んで来なかったのは何らかの思惑があるのかも知れない…」

 

虚勢や嘘では無く、俺は本音を言う。

 

「それは明朝に分かることだ。

敵機が100機来ようが1000機来ようがそうなってみないと誰にもわからんさ。状況次第ではこちらの攻撃隊発艦も中止、又は変更して策を練り直す」

 

「…そんな大事なことを提督の判断でしてしまってもいいの?それに奪還が遅れたら島の防御体制が強化されて手遅れになってしまう。それこそ私たちの…いえ、日本の危機よ?」

 

どんどん縮こまる雲龍。

 

「———敵には敵の好機がある。なら俺たちにも俺たちなりの好機が有るはずだ」

 

「……え?」

 

「そう、例えば敵の艦隊が無限大に増えていくとしたら海にイ級がぎゅうぎゅう詰めになるだろ?そしたら艦隊運動に制限が掛かって、こちらの戦艦や重巡にとって絶好の的になっちまう!

んーで、敵機が陸上でわんさか増えているなら飛行場も同じようにぎゅうぎゅう詰め、離陸は出来ないしプロペラを回そうにも僚機をガリガリ削ってハイ終了ッ!」

 

雲龍は始めは何を言っているのかわからないという顔をしていたが、俺が言い終わる頃には笑いを堪えられず腹を抱えていた。

 

「あ、もちろんハッタリなんかじゃなくて一応の根拠はあるんだぜ?深海棲艦の実艦タイプは“海から湧き出ることは無いから必然的に場所を取る”っていうこれまでの理論。航空機もそれに準じるだろうし、どっかの“四次元ポケット”を持ったタヌキ型深海棲艦が物理法則を無視してどら焼き型艦載機を飛ばすってのも考えたけど不採用だ———どうした雲龍?」

 

 

饒舌に集中するあまり、雲龍が俺に向ける視線に気付くのが遅れる。その眼からは慈しみの感情が、その顔からは子どもに向けるかのような深い優しさを感じ取れた。

村雨とは異なる雲龍のオトナな母性に、俺は思わず不埒な感情が湧くが、どうにかそれを強制的に海中投機する。ましてや彼女との距離は密着しておりゼロに近い、俺の理性は夜空の星に仲間入りするに違いない。

 

それを知ってか知らずか、雲龍は俺に静かに抱き着きそのまま話し始める。

理性が飛ぶどころか思考が追いつかず混乱し、襲いかかることもなく硬直してしまう。

 

(あ、そういや数日前にも雲龍の胸に顔を埋めて泣いてたな…)

 

ここに至り賢者思考が生まれ、天の川の牽牛星になりかけていた理性を地球に連れ戻した。

 

 

「やっぱり提督は不思議な人。現実的なことを言ったかと思ったら、急に可笑しなことを言って笑わせたり…。

でもそんな提督の声を聞いていると元気が出てくるわ。話している内容がくだらな過ぎて、こうして悩んでいる自分が馬鹿らしく思えたり、ね。」

 

「それ喧嘩売ってんのか…?」

 

 

さあどうかしらね、と惚けて答える雲龍だったが、その顔からは先ほどまでの陰りが無くなっていた。

 

 

「ねえ今ここで私が———提督のことが好き、って言ったらどうするの?」

 

「決まってるだろ。お前が好きか嫌いかは知ったこっちゃない。俺は元からお前が好きだから特に変わりは無いぞ」

 

「“お前たち”でしょ。無理に気を遣ってもらわなくても提督が艦娘全員のことを好きなのはわかっているわよ。」

 

「そうかいそうかい、なら話は早い。———ま、お互い意地を張っても朝は来る。実は眠気が来ないんだ、このまま話に付き合ってもらっていいかな?」

 

「…私も同じ。」

 

 

その後2人は寝そべったまま夜空を見上げ、日付が変わるまで雑談を続けた…。

 

 

※※※

 

翌日 0500i

 

 

陽は10分ほど前に水平線から顔を出し、暁光はその姿を変え始めている。天候は朝日に照らされる各空母の飛行甲板上には攻撃隊が待機しており、発艦の刻をいまかいまかと急かしているかのようだ。

 

「……よし、全艦艦首を風上に立てろ」

 

「雲龍了解。320度宜候。」

 

「320度宜候〜」

 

提督は静かに指示を出した。

了解を返した雲龍が操舵妖精へと下令。航空母艦『雲龍』はゆっくりと変針、それと同期するかのように艦隊は一斉に変針する。

とりわけ空母群とそれを護衛する駆逐艦は陣形を組んだまま艦首を風上へと向け、速力を着実に上げていく。

発艦に必要な合成風を作り出しつつあり、後は艦載機へ発艦指示を出すのみだ。

 

 

「…第101護衛隊マーカス攻撃隊、全機発艦用意」

 

 

先頭の零戦はエンジン出力を上げる。

ブレーキを掛けなければ動き出してしまう程のトルクを前輪で食い止めつつ、攻撃隊は機上にてチェックを行う。異状なしが届けられ、間髪を入れずに次の指示が下る。

 

 

「FOD調べ終わり、飛行甲板上クリア。空母各艦は全機最終チェックを実施させよ」

 

 

提督は抑揚の無い言葉で下令した。

抑揚の無い言葉というのは、聴く側に様々な心境を生み出す。冷たい人間だと感じる者もいれば、何か裏があるのではと考える者もいる。

 

 

「どうしたというの?いつもの提督らしくないじゃない。無理して無感情ぶって命令———もしかして私の真似でもしているの…?」

 

「んん〜正解。

実際にやってみると難しいな、自分の感情を表に出さずに淡々と出撃の命令を出すってのは苦手だ。雲龍の神経は結構図太いんじゃね…?———なんて思ったわけじゃないけど、自分がしっかりすれば妖精たちが無事に帰ってきてくれる……そういう心境なんじゃないかなって思った」

 

 

(あら…読まれてた。)

 

静かに笑う提督を見て雲龍は降参だと言わんばかりに両手を挙げた。同時に、何か思ったところがあったのだろう、彼女は考えを述べる。

 

 

「…いつも通りでいいわ。」

 

「うん?」

 

「いつも通りの提督でいいと思う。私もそうだけど、無理に仮面を被ろうとしたとしても、それは所詮自分に嘘をついているだけ。提督(貴方)提督(貴方)らしく、ありのままの感情で普段通り振舞ってくれた方が嬉しい…」

 

雲龍は自らの手を提督の手に重ねた。

やや冷たく、震えていた彼の手は温もりによって満たされる。

震えていたことを悟られ恥ずかしかしかったのか、彼は僅かに頬を高揚させ、“こりゃ参った参った”と照れ笑いを見せる。

 

「———ん、了解。

そんじゃあ俺の菊池節ってやつをやりましょうかね」

 

 

提督は雲龍の意を酌み、彼女が望む行動を取る。それは彼にとって至って普段通りのことであったが、艦娘や妖精たちにとっては心強く感じられた。

 

 

「———おはようパイロットの諸君、遂にこの時がやって来た。今回は艦隊攻撃じゃない、初の敵地攻撃だ」

 

 

(もうあの島は敵地、なんだよな…)

 

提督は自らの口から自然にでた単語に驚きつつも、事実であると認めるしかなかった。

 

 

「これは奇襲ではなく強襲だ。敵は待ち構えているだろうが、無理に力む必要はこれっぽっちも無い。

参加する攻撃隊は200機余り。偵察機が先行するとはいえ敵情は現在のところわかっていない。そんな杜撰な作戦にしてしまったのは他でも無い俺だ。———でもその怒りは敵にぶつけてやってくれ、そんでもって俺は悪くないから許してちょ…」

 

 

聞いていた妖精たちが機内で爆笑した。艦娘たちも例外ではなく、あの加賀でさえクスクスと笑っているほどだ。

 

 

「もし敵が強固な防御体制を敷いていたなら———攻撃は中止して逃げて来い。無理に突撃したらダメだ、これは俺からの命令だ…」

 

 

提督の言葉に引き締まる妖精たち。

現に昨日今日と航空機が襲来していない事実が彼の言葉に重みを持たせていた。そして大きく息を吸い込み発するはただ一つ。

 

 

「暁の水平線に諸君の健闘と勝利を刻めッ!———攻撃隊全機、発艦始めェッ!!」

 

 

奪還作戦開始の時は来た。

 

 

 




久々の投稿です。自分でも納得のいく内容にするにはどうすればいいのでしょうね。
あれこれと悩んだり修正していたら月日は過ぎてしまいます。

○今後の仕事について
今週末から、国内を転々と出張します。
出張期間は1ヶ月を予定しております。海外出張とは異なり電波を使えますが、プライベート時間はほぼ無いので執筆や返信は厳しいかもしれません。
九州から東北にかけて、万年デルタ出没注意報が発令されます。見かけた方はスルーしてあげてください。
…私の顔を知らない?ごもっともなご意見です。


○次回以降について
マーカス島に飛び立つ攻撃隊。
かつての南の楽園はその姿を変え、艦隊は改めてそこが敵地であると痛感させられる。
天候が悪化したため航空攻撃は一度きりしか行われず、提督は艦砲射撃を敢行するしかないと決断。

何故敵は島を占領したのか。
何故敵は人間を攻撃するのか。
その答えは…?

「“雲龍”に向かう雷跡多数ッ!!」

「ヨク来タナ———沈メッ!!」

「おいどうした白雪?!」

「オ願イダ、私ヲ…私を撃って…白雪ちゃん…!」

…提督は静かに葬いの涙を流す。



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2-10b 烈火の反撃 中編1

お待たせしております。
現在、海外出張しているのですが、とあるアクシデントが発生。出国前にスマホのSIMロック解除を失念しており2ヶ月ほどスマホでインターネットが使えない状態でした…。現地wifiも何故か利用できず浦島太郎クンでしたが先ほど接続できましたので投稿いたします。
国内は台風の被害が激しかったというニュースを知り、何もできない自分に不甲斐なさを感じてしまいました。ですが今の私にできること、己の仕事を全うすることが日本の国益になると信じ帰国の日まで頑張ります!


南鳥島沖 深海棲艦部隊

 

 

「やはりそう簡単には倒せぬか」

 

 

一昨日、人間共の奪還部隊に差し向けた爆撃隊が全滅したのは周知の事実である。その時の戦闘データを分析していたフレッチャーはさも当然だと言わんばかりに呟いた。

 

 

「島をあと半日早く占領できていれば、基地航空隊ももっと製造できていたでしょうね。でも流石にあの日の荒れた海模様では上陸は不可能でした…」

 

 

ヒラヌマは自らに非がないにもかかわらず申し訳無さそうに言った。

深海棲艦が南鳥島を占領したのは当初の予定より1日遅れてのことだった。その前日の天候は快晴であったものの、何故か海上模様は大時化。決行は明朝に延期されていたのだ。ヒラヌマを始めとした水上艦による艦砲射撃により、南鳥島航空分遣隊の庁舎や滑走路は破壊され原型を留めるものは無かった。

砲撃中に波浪が深海艦隊を襲ったため一旦海域を離脱するという事象もあったが、人間側が島から逃げたとしても逃げ切れるはずもない。もし仮にゴムボート等で逃げたとしても燃料が切れて餓死するだろう。事実、島に近接したところ転覆したゴムボートが発見され、付近に人影はなく恐らく逃げようとした人間は海に放り出され溺死したのだろうと判断された。

 

また、数多の砲弾によって破壊された庁舎内を調査したところ、大量の血痕や包帯などが発見された。島内にいた人間が負傷し、治療を行っていた形跡であろう。その後、島内を隈なく捜索したが人影は無く、死体や肉片も見つからなかった。

指揮官であるフレッチャーは全員跡形も無く四散したのだろうと判断し、当初の予定通り島に航空基地を設営することにしたのである。

 

 

「やはり40機程度の小部隊では多勢に無勢であったか。出撃した者たちには失礼だがこれでは戦果も期待出来ない、か…」

 

「私たちは戦争をしているんですフレッチャーさん。感傷に浸るよりも、今後の損害を抑えて如何に戦うかを考えるべきです。そうですね……ひとまずは完成した爆撃機を送り出せただけでも良しとしましょう。こちらに爆撃機という航空戦力が有ると知ったからには、敵も空襲を恐れ、無闇に艦隊を近づけることは避けるはず。

貴女が仰ったようにこちらは爆撃機が無くなってしまいましたが、捉えようによっては戦力で劣っている我々として好都合です。人間側は補給や休息の限界を考慮して戦わねばなりませんが、こちらは時間が経てば経つほど航空戦力を増やしていけます。。つまるところ、敵は“強いが短期戦型”で我々は“そこそこだが不退転型”の我慢大会といったところでしょうか。

それに飛行場面積も広いとは言えません、敵空母群の空襲を凌ぐには到底足りません。当初の予定通り“彼女”には戦闘機を製造することに専念させ、我々は攻勢に出るよりも防勢に重きを置き防空体制の強化を図るべきかと」

 

「“マーシャ”には更に頑張ってもらわねば…」

 

 

フレッチャーとヒラヌマは島の中心辺りにいる“彼女”に目をやる。

人間の様な体格であるが肌の色も身体の作りも異なる深海棲艦だ。そんな彼女、離島棲鬼である“マーシャ”は錬金術師のように、集積された各種資源をどす黒い航空機のようなモノへと“変換”させていく。どうやら爆撃機よりも戦闘機を作る方が容易らしく、駐機場には航空戦力が着実に増えつつあった。

 

 

さて、奪還艦隊に飛来した40機の爆撃隊は如何にして飛行場に湧き出たのか?答えは単純、海底から採取された有り余る資源を以って、深海棲艦の幹部である彼女が“製造”したのだ。ゲームでいうところの“開発”と考えてもらっていい。

 

占領からまだ数日程度しか経っていないため、爆撃機40機という深海棲艦にしてはスローペース製造になってしまったが、これは予定通りであった。敵に被害を与えられずに全滅してしまったのは無念だが。

戦闘機については現在、少しずつではあるが製造している。単純な航空戦力ではやや劣勢なのは否めないが、島内の防御陣地は飛行場以外の陸地に鉄壁といえるほどの規模を構築しつつある。

 

 

「我が方の爆撃隊は全滅といえど、人間共も少なからず消耗している。例え目立った被害を与えられなくとも弾薬を使わせたとなれば、奪還時の戦闘では敵による此方への火力の全力投射がし辛いのではないか?」

 

「はい、ヒラヌマもそう思います。

それに島内の要塞化も着実に進んでいますし、もし敵航空戦力がこの海域に襲来したとしても損害を与えられるのは明らかです。フレッチャーさんが考えた案は有効ですし、敵も動揺を隠せないでしょうね」

 

「———戦争というものは、目的を達成することが最優先される。卑怯とか狡いなどと仲間からも非難を受けようとも、敵に打撃を与えることだけを考える。それが私なりの覚悟と戦いだ」

 

 

美しかった島はその面影を残しておらず、陸地の表面は黒く不気味なモノに覆われていた。妖気なのかそれとも黒煙なのか定かではないが、島全体とその周辺には只ならぬ雰囲気が漂う。

よく見てみると離島棲鬼が作り出している戦闘機は、これまで現れているF4F戦闘機の他にもあるようだ。陸上戦闘機型もあれば、なんと零式艦上戦闘機らしき黒い色をした機体もある。

 

「小笠原ヤ島ノ近海カラ見ツケタ機体ヲ再構築シテ、飛ベルヨウニシタワヨ。元々 ハ 錆ビテイタケド新品同然。沈ンダ艦船ト同ジヨウニ、残骸ニ遺ッテイル怨念ガ強イ。キット戦力的ニモ役ニ立ツハズヨ」

 

島にいたマーシャには2人の声が筒抜けだったようで、製造状況を報告してきた。

 

「なるほど、概ね順調というわけか。だがこの前も言ったように私に与えられていた機動部隊は上層部の勝手な判断によって壊滅してしまっている。この島周辺の制空・制海権確保は厳しいかもしれぬ、私の詰めが甘かったとしか言い訳できん…」

 

「ソンナニ 悔ヤムコト ハ ナイワ、貴女ハ最善ヲ 尽クシタモノ。深海棲艦 ト 人類、ドチラカ ガ 倒レルマデ 戦争ハ終ワラナイデショウ…。

所詮、私タチ ハ“駒”ダカラ…イツカ ハ 沈ム。

デモネ、ソレヲ使ウ者 ガ 命ヲ預ケルニ 足リル存在ナラ、私 ハ 喜ンデ 戦ウワ…?」

 

そう言うとマーシャは戦闘機の製造作業を再開した。彼女なりの覚悟を決めたということだろう。

そのマーシャの言葉に、フレッチャーは心を痛める。

 

(戦略目的は海底資源の確保及び南鳥島の確保であった筈だ、しかし結果はどうだ…?

ニホンの軍隊もどきであるジエイタイは予想を裏切り武力行使に踏み切っている。そして上層部の『ニホンの政治家も事なかれ主義を貫くだろう』などという安易な分析を信じてしまった。確かに私も功を焦るあまり、作戦立案に粗があったのかもしれぬ…。

そしてなにより———その立案に掛かる前、私の提案に賛同した集団が居た。今になって思えば恐らく彼奴らは私の失脚を狙っていたのだろう。人間と争う以前の問題だ、地球上の軍隊と戦わねばならぬというのに内部抗争に精を出すなどッ…!)

 

 

「———退却しますか?今なら間に合います。ここで“無駄死に”するくらいなら臆病者のレッテルを貼られた方がマシです。

…ただ、言わせてもらいます。

ヒラヌマは戦うのが怖いのではありません、戦うべき時に戦えない又は守るべきものを守れない、そんな運命を受け入れなければならない。そんな自分の弱さが怖いのです」

 

「ヒラヌマ……ッ!」

 

 

フレッチャーは何か言おうとしたが、ヒラヌマの言葉の裏に秘められた静かなる決意に発言を躊躇われた。

 

(コイツは———いや、ヒラヌマは普段の言動に似合わぬ強い意志を持っている。私が撤退すると言えばそれを全力で支援してくれるだろうし、逆も然り。もしも、ここで撤退して海底の基地に戻ったとして私はともかく、ヒラヌマがどんな扱いを受けることか…!)

 

 

フレッチャーは悩んだ。

確かに撤退すれば次の作戦を練ればいいだろう。だがそれは、私が今と同じ程度の権力を保持できていればの話だ。敗軍の将、いや、ボロ雑巾のような扱いすらも生温い、言葉に表せぬほどの畜生扱いが待っている。

良くて、次の戦いにおける捨て駒あたりであろうか…?

 

 

(私たちは一体どうすればよいのだろうか……)

 

 

「———“伊香保(いかほ)ろの 沿()ひの榛原(はりはら) ()もころに (おく)をなかねそ まさかしよかば

ですよ、フレッチャーさん」

 

「……は??」

 

 

ヒラヌマの突如発した言葉に頭を傾げるフレッチャー。

 

(イカホロ?ハリハラ?ヒラヌマのかつての姉妹艦か何かだろうか…?)

 

 

「何処かの国の山を詠んだ歌らしいですよ。意味はたしか……“これから先の事なんか気にせず、今が良ければいいのではないか?”みたいな感じらしいです。

深海棲艦も含め、軍艦というモノは戦っている時が一番輝いていると思います、例えそれが自分が…沈む負け戦であっても。ここで撤退すれば、確かに次の戦いに備えることができるでしょう。

ですがヒラヌマには違う結末が待っていると思うんです———出撃すべき時機を失し、侵攻してきた敵に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()です…。

何故そうなるのか、何故海底にある味方の基地に敵が攻め込んでいるのかはわかりません。もしかしたら“過去”の記憶が蘇りつつあるのかもしれませんし、只の考え過ぎなのかもしれません。仲間が斃れ、姉妹艦が皆沈んでいき、そして最後に残った自分も……。ヒラヌマは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

聞いていたフレッチャーも、また、言った本人のヒラヌマ自身も最後の言葉には気が付かなかった。やはり無意識の内にかつての記憶が戻りつつあるのだろう。

 

 

「ありがとうヒラヌマ。

実を言うとだな———私は戦艦という存在に憧れているのだ…。大きな大砲、大きな船体そして高くそびえる艦橋。もし戦えばきっと私のような駆逐艦程度では生き残る確率はかなり低いだろう。

だから貴様が艦隊に居てくれてとても心強い。心配せずとも貴様を無駄死にさせる指揮は取らぬ。敵が幾万有りとても最善を尽くすさ。これでも伊達に“駆逐棲姫”をやっている訳ではないからな、それなりに采配は任せておけッ!」

 

「改めてよろしくお願いします、駆逐棲姫“ブリザード”フレッチャーさんっ♪」

 

「……だからその呼び方はやめろと言っているッ!!」

 

 

フレッチャーは自信満々そうに声を張る。それは慢心とかヒラヌマを安堵させるための誇張ではなく、自らのチカラを心の底から信じていることの表れであった。

 

“無駄死にさせない”

 

死ぬことを前提としつつも生きている間は思いっきり暴れてやろうじゃないか。フレッチャーのコトバには、彼女たちがかつて所属していた国家の精神性が現れているのかもしれない。

 

 

☆☆☆

 

———深海棲艦とは何処から現れ、何故人類に敵対するのか…?

 

その理由は人類も、当の深海棲艦たち自身にもわからない。ただ一つ言えることは、生まれた時から人類という存在を憎み、地球上から消し去ってしまいたいという願望を持っているということ。

 

先述のようにフレッチャーたちが一方的虐殺ともいえる南鳥島占領を果たした際に感じたの虚しささえ、きっと人間を目の前にしたら一転して狂気の殺意へと豹変するだろう。まるでそれが使命なのだとプログラムされた殺人マシンのように、敵である人類を地球上から滅亡させるまで止まらないかもしれない。

 

 

…だがもう一つの事実もある。

 

 

彼女たち深海棲艦は、かつては人間が生み出した艦船だったということ。それは深海棲艦たちも無意識に共有している不文律の事実なのだ。

 

☆☆☆

 

 

雲龍ら空母4隻から攻撃隊が発艦する数時間前。即ち、日付が変わって間も無く、硫黄島からは先行偵察機として画像情報収集機であるOP-3Cが既に飛び立っていた。本機はその航続性能を活かした長距離偵察を実施して、艦隊及びその攻撃隊の作戦をサポートしていた。なお、空自の戦闘機については戦闘半径外のため、硫黄島や父島周辺の防空に専念させている。

 

母体であるP-3譲りのターボプロップが生み出す高速性と旧式プロペラ機には不可能な高高度性能を駆使すれば、敵の戦闘機や対空砲火に撃墜される可能性は低いという判断だ。偵察衛星を使った偵察ができないなら人間が直接見に行くしか選択肢は無い。当然その任務は危険が伴うため、航空隊司令部は正規のクルーをそのまま乗せずに一般哨戒機クルーからも志願を募ることにした。

正規クルーからは反対の声が挙がったが、同時に心の底では安堵する者も少なくなかった。結果、半数の一般クルーが志願した。そして志願しなかったもう半分の搭乗員には、ある想いがあった。

 

“偵察任務で出撃したら敵艦隊を攻撃できないじゃないか”

 

志願した者たちも「言われてみればそのとおりだ」と笑った。それを隠れて見ていたのだろう。ボスである特設航空隊司令が現れ、偵察も立派な任務だぞと言うと隊員たちを激励した。

そして最終的に選抜クルーによって、同機はマーカスへ向け飛行中である。

 

 

「レーダーに反応なし。付近に敵影なし」

 

「ラジャ。予定通り偵察を実施する。各種機器の最終チェックを行え」

 

「ラジャ。……SLAR(側方画像監視レーダー)作動良好、引き続きLOROP(長距離監視センサー)のチェックを行う」

 

「ラジャ」

 

淡々とした声が飛び交う。機内は敵地に向かうとは思えない静かさである。戦争映画にあるような絶叫シーンなどは実際においては稀なケースである。

以前、海自哨戒機が他国艦艇から射撃レーダーを照射された事件があった。その際の動画でも公開されているように、搭乗員同士の意思疎通や命令の確逹の為だったり、指揮官である機長が部下の士気を下げない為に敢えて落ち着いた口調で会話している。

 

 

リコメンド(意見具申)Heading 249,(機首方位249度、)

Climbing Flight level 250.(高度25,000ft(約7,500m)に上昇されたい。)

 

「ツーフォアーナイナーのツーファイフズィロね、ラジャ」

 

島の北東方向から侵入するコースだ。

風向風速は弱くはないものの、偵察に支障が出るほどではない。

 

「さて、撮るもの撮って艦隊の支援をしてやろうじゃないか。深海棲艦サンたちへのお土産は無いが…奴さんは大歓迎してくるぞ、対空砲がこの高度まで飛んで来ないことを祈るしかないな」

 

「第二次大戦時の対空砲ってFC(射管レーダー)を照射されるよりかはマシなんすかね?」

 

「FCが狙撃銃のレーザーポインターとするなら、対空砲はお前の近くで手榴弾が爆発するようなもんだ」

 

「うへぇ、どっちも無理ゲーっすね…」

 

「怖かったらここでベイルアウトしてもいいぞ」

 

「それこそ絶対嫌っす…」

 

軽口を叩き合う選抜された搭乗員たち。

彼らが目の当たりにするのは、一体何なのだろうか…?

 

 

※※※

 

0518i 

南鳥島西方200km地点

 

 

発艦作業はスムーズに終わった。

攻撃隊は大編隊を組まず、敢えて中規模の複数編隊にて飛行する。先鋒の戦闘機隊に斥候として敵状を掴ませるためだ。そしてもしも敵が此方を上回る強固な防空体制で待ち構えていたならば…。

 

「よし、全機反転して即収容。作戦を水上打撃に切り替えてゴリ押しだっ!」

 

「不吉な事を言わないで。不測の事態を想定するにしても声に出したら妖精たちの士気が下がるでしょ?」

 

雲龍が冷静にツッコミを入れる。

 

「ごめんにゃしぃ…」

 

叱られてしゅんとした提督の言葉が終わると同時に、最後に発艦していった97艦攻の機影が遠くの空に消える。

攻撃隊総指揮官や各中隊長との交信チェックは既に終了し、やや雑音が混ざっていたが許容範囲内だ。僅か200kmといえど深海棲艦による電波妨害もあり得る。音声通信やモールスによる無線電信が使えなくなることも考慮しなくてはならない。

 

「硫黄島が飛ばした偵察機からはまだ連絡は無いのか?」

 

「はい。最後の通信で『間も無く突入する』と言ったきりでそれからは…」

 

提督は手近にいた妖精に確認するも状況を得ず。

 

(予定では0530までには艦隊上空に飛来だったはずだ。レーダーにも反応が無いとなると、撃墜されたと考えるべきか…?)

 

額を一筋の汗が滴り落ちる。

 

(偵察機はOP-3Cなんだぞ?戦闘機である零戦よりも高速なのに、それが撃墜されたとなると…島はどうなってやがる?!)

 

静かに脳内で愚痴るが現実は変わらない。

 

「攻撃隊から何か報告は無いのか?無いなら問い合わせてみろ」

 

「了解しました!」

 

提督は通信士にそう伝え、電信妖精にコンタクトを取らせようとした。だが、それと同時に一通の電信が飛び込んで来た。

 

「先程発艦した第三集団、蒼龍所属の97艦攻から入電ッ!

“スミレ” ハ 天保山 ニ サク。枯レル 時期 ハ 皐月 ナリ、ですッ!!」

 

 

スミレ、即ちOP-3Cを指したものである。これが意味するのは———

 

「前方にいる駆逐艦に通達ッ!OP-3Cが損傷を受けている。これを海面に不時着させ、乗員と偵察データを回収しろ!!」

 

『『了解ッ!』』

 

事前に決められていた通信符号を聞くや否や、提督は艦隊前衛にいる白雪ら特型駆逐艦の3隻に命令する。

反攻作戦に先立って符号を用いた電信(モールス)の実施が決められ、各艦隊や硫黄島、航空部隊間の連絡に用いられることになっていた。

同機は硫黄島まで帰投不可能であるから奪還部隊にて収容してもらいたい旨を意味する電信が攻撃隊から入電する。

 

提督の乗艦する雲龍を始め、艦隊内側にいる駆逐艦や護衛艦らは味方機不時着後の救助作業の準備を開始した。

 

「“天保山”、たしか意味は…機体は損傷により帰投不可能 。南鳥島で敵の反撃に遭ったのかしら?」

 

「恐らくな。だがそれは予想されていた。問題は損傷した原因は敵の地上の対空陣地なのかそれとも戦闘機によるものなのかという点だ。可能なら攻撃隊に敵の詳細を伝えないといけない…」

 

レーダーにも同機の反応が映り始める。

 

「上空の直衛機に命令、Violet(OP-3C)02に近接して不時着誘導をするよう伝えろ!」

 

矢継ぎ早に指示をした提督、だが攻撃はまだ始まっていないのだ。この事態は、後の作戦の結果を暗に示していたのかもしれない。

 

 

……

 

15分後

 

 

「バイオレット02、着水。漣と雷の作業艇が近接します!」

 

「よし、搭乗員を収容したら雲龍に横付けるように伝えろ」

 

同機のクルーは全員救助できた。現場からの情報では負傷者はいるのの、重傷者はいないらしい。クルーらは可能な限り機体から偵察データを運び出そうとしたが、沈み行く機体から記憶媒体等を搬出することは叶わなかった。

 

「漣、雷の作業艇が着く、後部!」

 

「雲龍、艦橋は任せる。俺は後部に行く!」

 

「ええ任せておいて。」

 

雲龍の返事を聞く前に提督は走り出していた。

後部に着くと、既に医務長を始めとする衛生妖精らが救助された搭乗員へ手当をしていた。

 

「101護隊の菊池3佐です、マーカスの状況はどんなでしたかッ!?」

 

「そ、それが…」

 

クルーが語った言葉に提督たちは絶句した。

 

 

※※※

 

マーカス付近上空

 

 

「さっきの偵察機穴だらけで煙が出てたけど大丈夫かな?」

 

「さぁな。艦隊宛の救援要請を傍受してから無線はなにも流れてねえし…」

 

とある99艦爆の搭乗員妖精らが話す。

 

「やっぱりマーカスは敵が防空体制を整えて待ち構えてると見るべきだな」

 

「せめて敵に戦闘機がいるかどうか程度の情報が欲しいが…もうそれも入ってきそうにねぇし。後は我らが攻撃隊総隊長を信じて突っ込むだけのことよ」

 

「予想していたとはいえやっぱビビるな。島に近付いたら通信機が使えなくなるなんて…」

 

「他の機体も同様ってことはやっぱ電波の使用自体が不可能なんだろう。お前は無線機の心配なんかしてないで前方や上方を警戒しとけ」

 

「わかってるさッ!」

 

案の定、というべきか。

南鳥島に近付くにつれて無線機の雑音が酷くなり、音声通信はもとよりモールス通信も使えなくなってしまった。機体同士の連絡手段はジェスチャーか手旗、信号弾に限られてしまい、素早く正確な意思疎通が図り辛くなってしまった。

攻撃隊総隊長である雲龍所属97艦攻の妖精は、当初の予定通り攻撃実施を指示している。それが今行うべきことであり、何としても敢行させねばならないことだからだ。

 

高度5000mには制空隊の零戦がおり、一部の先行隊は島の上空に差し掛かろうとしている。彼らが敵戦闘機を見つけていないということは、警戒すべきは対空砲火のみということか。

その先行隊が信号弾を放つ。意味は…上空に敵戦闘機無し。

総隊長は「全機突入」の信号弾を放ち、速力を最大まで上げた……。

 

 

……

 

 

 




如何でしたでしょうか。以上が投稿していいか悩んでいた話です。修正すべき点をご指摘いたたければ幸いです。



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