ドラえもんのいないドラえもん  ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~ (ルルイ)
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プロローグ

始めてしまいましたが、気まぐれで書き始めたものです。
とりあえず中編ですが、グダグダな結果で終わるかも


 

 

 

 

 

 人生いろんなことがある。

 現代人、普通に生きていれば小学校に入り、中学校に入り、高校にも入るだろう。

 そんな中で勉強をして、部活をして、友人を増やしたり、恋人を作ったりすることもあるだろう(自分はないが…)

 

 いい事ばかりではなく時には喧嘩をしたり、失敗をしたり、事故にあったりすることもあるだろう。

 だがどんな些細なことでも青春の一ページであり、重要な経験だと僕は思う。

 何が言いたいかと言うとだ…

 

 

 

 ある日、突然子供の姿になっているということがあっても可笑しくない訳だ。

 

 

 

 

 いや、おかしいよ!?

 これまで何度もこの状況を自問自答している。

 コ○ン君でも『ドクヤクヲノマサレ、メガサメタラ…』体が縮んでしまっていたっていう過程があるんだから。

 僕だってもうちょっと何かあっただろうと、思いつく限りの手段で思い出そうとしてみたが、事前事後の間に起こったことが全く分からない。

 

 それも数年も経てば、少しずつ気にならなくなってくる。

 ああ、先ほどは子供になっているといったが正確には気づいたら赤ん坊だった。

 自分の状況を理解した時には、乳幼児で母親らしき女性に抱きかかえられていた。

 某名探偵に例えてしまったので、彼と同じくらいと勘違いさせてしまったかもしれない。

 

 うん、赤ん坊になっていると自覚した時には真っ先に転生したのだと思った。

 事実そうなんだと思う。

 何せ親と思われる人物は前世(・・)の親とは違うから、時間逆行したというわけじゃない。

 かと言って、こうなる前の自分が死んだ記憶は全くない。

 突然事故に遭ったということもたぶん無い。

 

 だからこそ何度もこうなったのか考えては結論が出ないまま時間が過ぎていき、今では五歳の誕生日を迎えてしまっている。

 すなわち生まれ変わって五年も経っているわけだが、ちょっとショッキングな出来事が今世に起こって再度人生を思い返した。

 

 

 

 今世の現状を言うと、環境は前世と特に変わっていないんだ。

 つまり転生はしたが現代の地球の日本と特に変わりのない、剣と魔法のファンタジーな世界という訳ではない。

 ただ時代が二十世紀から二十一世紀になったばかりなので、過去に戻ったのか前世によく似た平行世界だと思っていた。

 

 更に転生したと理解して落ち着いた後に、何か特典でもないのかと自身を調べた。

 こうなる過程を覚えていないので神様に会ったことも覚えがないのだが、転生したのだから何かあってもいいのではないかといろいろやって調べた。

 間違いなく赤ん坊がやったら奇行としか思えない行動もあったので、親に見られていないのを確認しながらだったが。

 どういう風に調べたかは、まあ厨二的としか言えない。

 

 結果としてはアブナイ厨二的な能力が発現することはなかったが、チートな能力に気が付いてしまった。

 

 気付いたのは生まれ変わって一年くらいが経った頃で、さすがに能力は無いのかなと諦めかけていた頃に親に着せられたポケットに手を入れたら、幼児服のポケットのサイズ的に不自然なほど大きな物を取り出せた。

 手にしていたのは全体的に黄色い半球体の土台の付いた竹トンボ。

 一目で解るそれは【タケコプター】だった。

 

 それからポケットを確認してみれば、絶対に入りきらない幼児服のポケットから出るわ出るわの秘密道具のオンパレード。

 幼児服が四次元ポケットなのかと思ったが、さらに試してみれば僕が手を突っ込んだポケットが四次元ポケットになるのだと気が付いた。

 間違いなくこれはチートだろう。

 

 なにせ有名な道具だけでも物理法則を無視したようなことが出来るし、本来四次元ポケットには入っていないタイムマシンの代わりになるような道具もあって時間移動も出来る。(ちなみにタイムマシンも入っていた)

 そんな道具が把握出来ないほど入っていて、思いつく限りのことが出来そうなのだ。

 正直喜ぶところだが、少し怖くなってしまったくらいだ。

 

 とはいえまだ子供なので、親に見られない時間というものがそれほどない。

 ある程度大きくなって自由に行動出来るようになるまでは、多用しないように控えた。

 生まれ変わった経緯を調べるために使ったりもしたが、それでも大きく動いてはいない。

 まあ、公に出来ないことには変わりはないが。

 

 つまり現状は現代社会に生まれてファンタジーなし。

 転生特典は四次元ポケットで道具チート。

 まだ子供だから自由が少ないので多用はなし。

 ショッキングな事件で現状整理←今ここ。

 

 というわけだ。

 

 

 

 現状整理で忘れかけ…落ち着くことが出来たが少々問題が起こったんだ。

 それこそ秘密道具を多用しなければいけない事件が…

 

 正確には事件は起こってはいないが前兆に気づいてしまった。

 それは親と見ている朝のTVのニュースだった。

 

『宝島が発見されました』

 

 宝島なんてほんとにあるんだなーと最初は思ったが、このセリフにどこか既視感を覚えた。

 どっかで似たようなニュースを聞いたようなと思ったが、その時はまだ思い出せなかった。

 だがまた別のニュースで…

 

『黄金を積んだスペイン船が発見されたとのことです。

 しかし引き揚げ作業に入ろうとしたところ、不思議な事にスペイン船は一夜にして消えてしまったそうです。

 専門家の話では…』

 

 うん………またどこかで聞いたような気がする。

 今度は既視感と一緒に危機感、嫌な予感がしてきた。

 ひみつ道具を使えば確認出来るような気がするけど、開けたら大変なことになる玉手箱のようなパンドラの箱のような…

 

 気にはなるが関わりたくない気がしてならない予感に悩んでいると、また別のニュースで、

 

『密猟を警備にあたっていたパトロール隊が、象の群れが飛んで雲の中に消えていくのを見たと話題になっています。

 幻覚か夢ではないかと思われますが複数の目撃者がおり、確認されていた動物の群れがいくつも行方不明になっていることから密猟者との何らかの関係が…』

 

 ………思い出した。

 一つ思い出したら、そういえばこんなことあったなと関連のある事がすべて思い出せた。

 これらのニュースって確かドラえもんの劇場版の話にあったことばかりなのだ。

 

 つまり劇場版で起こることがこの世界で起こっているってこと。

 それにこれらのニュースは一つの映画での話じゃなくて別々の話。

 そうなると他の劇場版の話も現実に起こってても可笑しくない。

 

 その上劇場版のいくつかの話は、地球が割と大変なことになりかねないものもある。

 最後のニュースに関連する話も事態が進行したらかなりやばい。

 ともかくここまで確信があると確認せずにはいられない。

 

 親から隠れてひみつ道具を使う。

 こういう時に必要な道具となると………あれだな。

 僕はポケットからひみつ道具を取り出す。

 

「【○×うらない】~!」

 

 誰も聞いていないから言ったが、この出し方はお約束だ。

 

 ○と×を象っただけのこの道具は、あらゆる質問に○か×で答えてくれる道具だ。

 しかも占いと言いながら的中率は100%で正確に答えてくれる。

 これも劇場版竜の騎士で登場した道具だが、かなり便利に思えたので覚えていた道具だ。

 

 ひみつ道具を出す能力のおまけなのか、出した道具の使い道が何となく頭に浮かぶ。

 おかげで使い方に困らないが、すべての道具を把握出来ているわけじゃない。

 手にしないとわからないから、出してみるまでは知らない道具とかもたくさんある。

 一個ずつ出してから確認しているのでかなり手間取っているが、今は必要なものがわかるのでどうでもいい。

 

 この○×うらないなら質問を重ねれば詳しいことがだいぶわかるはずだ。

 まずはこの世界の根本的なことから。

 

「この世界はドラえもんの世界である?」

 

 ×『ブッブー!!』

 

 ×のマークが間違い音と共に上がった。

 質問にはマークが浮き上がって答える。

 

 質問して気づいたがドラえもんのストーリーの世界なのか、ドラえもんの存在する世界なのかわからない。

 あくまで正否のみで答えるから、この道具は認識違いを起こしやすい。

 

 竜の騎士の話で使用されたときも『地上に恐竜は存在する?』の質問には×と答えたが、地底に恐竜が存在していたので『世界或いは地球に恐竜は存在している?』と質問していたら○と答えていただろう。

 それくらい質問する側が気を付けなければ正否に拘る、便利だが融通が利かない道具なのだ。

 

 それを踏まえて再度質問をする。

 

「この世界に、いや今の時代にドラえもんは存在している?」

 

 ×『ブッブー』

 

『では、過去か未来にドラえもんは生まれている、あるいは存在している?』

 

 ×『ブッブー』

 

 つまりこの世界の未来ではドラえもんは生まれていないということか。

 ちょっと残念な気がするが、もしもの時あてには出来ないことはわかった。

 次は現状の再確認だ。

 

「僕の見たニュース、それはドラえもんの劇場版の話と関わりがある?」

 

 ○『ピンポーン』

 

 やっぱりか…

 

「その話はそれぞれ南海大冒険、海底鬼岩城、雲の王国である?」

 

 ○『ピンポーン』

 

「…これらの話に関わる事象は現在進行中である?」

 

 ×『ブッブー』

 

「ん?」

 

 どういうことだ?

 話通りだとしたらかなりヤバイ事になるんだが、やっぱり何か違うんだろうか?

 まずドラえもんがいないんだから、存在しないからこそ起こらない劇場版の話なわけだし…

 そもそも未来があるのかすら………もしかして。

 

「ドラえもんが存在する未来、未来デパートとかタイムパトロール、未来からくる時間犯罪者は存在しない?」

 

 ○『ピンポーン』

 

 そういうことか。

 南海大冒険の事件の黒幕は時間犯罪者。

 未来でドラえもんが生まれないというよりは、その未来が存在しない。 

 だから同じ未来からくる存在がいないから、それに関わる南海大冒険なんかの事件も発生しない。

 ニュースでやってた宝物くらいは、時間犯罪者がいなくても変わらずそこにあったんだろう。

 

「南海大冒険…いや、時間犯罪者が起こす劇場版の事件は発生しない?」

 

 ○『ピンポーン』

 

 ちょっと安心した。

 いくらひみつ道具があっても、同じ物持ってる奴らなんか相手にしたくない。

 タイムパトロールが来てもひみつ道具を持ってる現状をどう説明すりゃいいって話だしな。

 まあ、それだけで全部安心できるわけじゃないが…

 

 きっぱり確認してしまおう。

 細かいことは少しずつ確認すればいい。

 

「確認するけど、ドラえもん達を含めた未来人が関わらない劇場版の事件は存在する?」

 

 ○『ピンポーン』

 

 ドラえもん達を含めたのは、彼ら自身が切欠に起きた事件もあるからだ。

 残るのは未来人が関わらなくても発生する事件。

 

「地球、いや地上文明はこのまま放っておいたら壊滅、あるいは全滅する?」

 

 ○『ピンポーン』

 

「それは何回も?」

 

 ○『ピンポーン』

 

「地球が滅亡することもあり得る?」

 

 ○『ピンポーン』

 

「大戦争になりえる?」

 

 ○『ピンポーン』

 

「劇場版の敵勢力と敵勢力がぶつかりあったり?」

 

 ○『ピンポーン』

 

「………すべての事態に対処できるのは僕だけ?」

 

 ○『ピンポンピンポンピンポーン』

 

 なぜ最後だけ気合を入れて三連続…

 だがまあやっぱり予想通りってことだ。

 

「つまり地球がヤバイ、ってことだよな」

 

 それを僕が対処しないといけないと…

 どうしようもないなら逃げるなりして諦めがつくが、ひみつ道具でどうにかならないこともない気がするのが嫌になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球がヤバいというのはまあ確信したが、どの劇場版の話が実際に起こっているのか一つ一つ調べてみる。

 劇場版の話を事細かに覚えているわけではないが、殆どの話は子供の頃から何度か見ている。(当然前世の話で、この世界にはドラえもんの話は存在していない)

 それでも歴代の映画を全て思い出せと言われて直ぐに思い出すわけではないので、ひみつ道具を使って思い出してみる。

 

【記憶映写とんかち】【記憶とりだしレンズ】【記憶掘りだしビデオ】

 

 記憶に関する道具を探してみたら出てきた道具だ。

 記憶映写とんかちは、これで頭を殴ると忘れてしまった記憶が目から映写機のように出てくるらしいが、頭を殴るから痛いうえに狙った記憶がうまく出てこないのでいまいち使えなかった。

 記憶とりだしレンズは、思い出したい記憶を思い浮かべるとそれが脳裏に鮮明に浮かび上がるので、映画の全てのタイトルをしっかり思い出すのに役立った。

 記憶掘りだしビデオは、対象の頭の中から記憶をチェックして録画再生したりして視聴出来る道具だった。

 前世と脳が違うから引き出せないかと思ったが問題はなく、これが一番役立って劇場版のそれぞれの内容をしっかりとした動画で記憶から回収することが出来た。

 

 生まれ変わる前後の記憶もこれで調べてみても手掛かりは得られなかったが、劇場版の必要な情報は全て思い出すことが出来た。

 そして○×うらないを使ってそれぞれの劇場版の話が何時起こるのか明確にしてみた。

 

 

 

・のび太の恐竜:のび太も当然居らず、敵役の時間犯罪者もいないので発生せず(ぴー助の卵の化石はある)

・宇宙開拓史:一昨年

・大魔境:昨年

・海底鬼岩城:今年

・魔界大冒険:【もしもボックス】を使わなければ発生しないが、昨年

宇宙小戦争(リトルスターウォーズ):来年

・鉄人兵団:今年

・竜の騎士:来年

・パラレル西遊記:【タイムマシン】と【ヒーローマシン】を使い間違えなければ発生しない

・日本誕生:敵役の時間犯罪者がいないので発生せず、ヒカリ族の日本移民も行わなくても歴史に変化なし。

・アニマル惑星プラネット:一昨年

・ドラビアンナイト:しずかちゃんもいないので発生せず、シンドバットも未来人がいないので宮殿を貰っていない。

・雲の王国:来年

・ブリキの迷宮(ラビリンス):去年

・夢幻三剣士:【気ままに夢見る機】と夢幻三剣士のカセットはポケットに入っていたが、現実に影響はないので問題なし。

・創世日記:創世セットを使わなければ発生しない筈だが、占いが発生すると出た(未来の僕が使うということだろうか?)

・銀河超特急(エクスプレス):銀河超特急の舞台自体がないが、敵対勢力は存在している。

・ねじ巻き都市(シティー)冒険記:今年(ただし僕が都市を作らなければ発生しないし、敵役の犯罪者も既に捕まっているらしい)

・南海大冒険:敵役が時間犯罪者なので発生しないが、宝物はある。

・宇宙漂流記:今年

・太陽王伝説:過去の時代の話なので何時とは言えないが、手を出さなくても歴史に変化はない。

・翼の勇者達:舞台となるバードピアが未来人に作られるので発生しないが、世界は存在している。

・ロボット王国(キングダム):来年

・ふしぎ風使い:今年(時間犯罪者が敵役にいるが、大して変わらない話になる)

・ワンニャン時空伝:去年(ただし要因となる野良犬野良猫がいるだけで、僕が手を出さなければ事件は起きない)

 

 

 

 …内容を纏める途中で気づいていたが、事件が起こってる真っ最中じゃないか!!

 僕まだ5歳だぞ、のび太だって10歳だったんだからもう少し時間に余裕があってもいいじゃないか!!

 ていうか、いくつか既に手遅れって、どうなってるんだ!?

 手遅れになってる事件は、現代社会に大きく関わらない気がする話だから大事になってないんだろうけど、今年発生する海底鬼岩城や鉄人兵団なんかかなりまずい。

 鬼岩城からは核ミサイルが飛ぶわ、宇宙から世界各国の都市にロボットが進行するわの、世界大混乱間違いなしの事態だ。

 

 運がいいというかご都合主義ではあるが、ドラえもんたちは突発的な事態によく対処出来たよな。

 まあある程度は映画通りに対処すればどうにかなるだろうが、それでもいろいろ準備がいるだろう。

 

 

 

「さてどうするか…

 まずこのまま親の保護下にいたんじゃ、ろくに準備も出来ない。

 あまり使うつもりはなかったけど【コピーロボット】とかの代理を用意して、どこか準備を行う場所を探さないと。

 やっぱり【入りこみ鏡】を使って鏡面世界で準備をするか。

 そこまで広い場所はまだいらないし、【壁紙ハウス】をどこかに貼ってその中で…

 ああー!! どれにしても時間がない~!!」

 

 そう重要なのは時間だ。

 今年起こる事件でも今すぐ事件が起こるわけじゃないだろうが、それでもいくつかの問題にまとめて対処しなくちゃいけない。

 一つの問題にどれくらい時間をかける事になるのかわからないのに、さらにほかの問題にも同時に対処しなければならない。

 

 そもそもドラえもん達が解決した手段が通用しない可能性が高い問題もあるんだ。

 対策もいろいろ考えなきゃならないだろうし、いろいろ準備するにも僕一人だけじゃひみつ道具があっても一度にやれることに限界がある。

 

「なんでこんないきなりな事態になってるんだ!!

 もうちょっと早く気付いてれば、こんなに慌てることもなかったのに。

 今から対処しても間に合うかどうかわからないし、一人じゃとても手が足りない!!

 いくらひみつ道具があるからって、時間も人手も作ることなんか………」

 

 

 

 ………あれ、もしかして。

 作ればいいんじゃないか?

 人手も時間もひみつ道具の力を使って。

 

 時間の問題はタイムマシンで余裕のある時代まで戻って、そこで可能な限りの準備をすればいい。

 人手なんかはさっき挙げたコピーロボットみたいな人の働きをするロボットを用意すればいい。

 そういうひみつ道具はたくさんあったし、足りないなら【フエルミラー】で数を増やせばどうにでもなりそう。

 

「まるでドラえもんみたいな慌て方をしたな」

 

 落ち着いて考えれば、どんな事態もひみつ道具で大抵どうにかなる。

 ドラえもん達が作中では慌てるような事態でも、視聴者側からはひみつ道具でこうすればいいと思うことはよくあった。

 慌てると本当に気付かないものだな。

 

「さっそくタイムマシンで10年くらい前にいこう。

 それくらいの時間があれば十分だろうし、すでに起こってる劇場版の事件も対処できる」

 

 すでに起こっている事件も対処出来るならどうにかしたい。

 大騒動になりかねない事件ばかりとはいえ、劇場版の話は全部思い入れのあるものばかりだからな。

 もしかしたら手遅れだと思っていた事件も、過去に戻った僕が事件を解決しているから現在に影響が出ていないのかもしれないし。

 

 僕はコピーロボットを取り出して鼻のスイッチを押す。

 するとコピーロボットは姿を変えて僕と同じ姿になった。

 

「それじゃあ少しの間、僕の身代わりをしてくれ。

 ある程度落ち着いたらタイムマシンで少し後の時間に戻ってくるから」

 

『うん、わかった。 いってらっしゃい』

 

 僕と同じ声で答えるコピーロボット。

 能力や人格、記憶をしっかりコピーするのだが、うっかり鼻のスイッチをもう一度押すと元に戻るなどの欠点が複数ある。

 ドラえもんが出した時も元々の出典でのパーマンでもよくそれで問題を起こしてたらしいから、あまり長い間あてにはしたくない。

 まあタイムマシンで過去に戻った数分後くらいに戻れば、過去にどれだけいてもコピーロボットに任せる時間は短くて済む。

 

「最初はどうなるかと思ったけど、何とかなりそうだ」

 

 安堵の笑みを浮かべながら、僕はタイムマシンを操作して十年前の過去へ向かった。

 劇場版の事件を余裕をもって解決するために。

 

 

 

 

 



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劇場版大戦対策超会議

 

 

 

 

 

「これより【第一回 劇場版大戦対策超会議】をここに執り行う」

 

 薄暗い部屋に並べられた長机の一番奥に座る僕が、会議の開始を宣言する。

 部屋の中には僕を除いた9人の人影があった。

 

 彼らは僕がひみつ道具を使って用意した人材であり、僕の事を誰よりも理解している者達だ。

 今はまだここにいるメンバーだけしか用意していないが、必要があれば増やす準備も既に整えている。

 タイムマシンを使った時間稼ぎに続き、人手不足を解消することに成功した。

 手始めにまずこのメンバーで起こる事件の対策を行う。

 人が増えれば意見も増えて、事件に対する対策の立案も捗る筈だ。

 

「まずこの会議の進行を務めさせてもらうのは議長の僕、中野 (ハジメ)だ」

 

 言ってなかったが、今世の僕の名前は中野ハジメだ。

 前世とは全く別の名前だが、数年も使っていればとっくに慣れている。

 

「まずは自己紹介をしていこう。

 まずは秘書官から…」

 

「はい、秘書官を務めさせていただく中野ハジメです」

 

 ………………

 

「続いて順番に右側の作戦部長からたのむ」

 

「作戦部長の中野ハジメです」

 

「作戦副部長の中野ハジメです」

 

「技術班班長の中野ハジメです」

 

「同じく技術班副班長の中野ハジメです」

 

「実行部隊隊長の中野ハジメです」

 

「副隊長の中野ハジメです」

 

「情報統括課課長の中野ハジメです」

 

「係長の中野ハジメです」

 

 全員の挨拶が終わり、改めて僕に視線が集約する。

 

「以上が劇場版大戦対策本部の初期メンバーだ。

 いろいろ大変かもしれないがこれからよろしく頼む」

 

「「…………」」

 

 僕の挨拶で自己紹介を占めると、しばしの静寂が広がった。

 そして…

 

 

 

「「…って、みんな同じ名前じゃないか!!」」

 

「ナイス突っ込み! さすが僕」

 

 自画自賛というには何かおかしいが、このノリツッコミはなかなか楽しかった。

 

 聞いての通りここにいるメンバーは全員僕と同姓同名、というより同一人物といっても問題ない。

 人手が足りないならと僕は自分自身のコピーを用意することにしたのだ。

 とはいえ、ここにいるコピー達は前に使ったコピーロボットではない。

 完全に生きているクローンといっても可笑しくない僕の分身たちだ。

 

 彼らを生み出すのに使った道具は【タマゴコピーミラー】。

 【フエルミラー】とよく似た名前と効果の複製系の道具だ。

 出典はねじまき都市(シティー)冒険記で、敵役の人間がこれを使って自分のコピーを大量に作ったのが印象的だったから、人手不足の解消にこれを使わせてもらった。

 

 ただ欠点のよくあるひみつ道具だからか、もしかしたら劇場版特有の環境だったから生まれたのかもしれないが、映画ではコピーの中に明らかに性格の違う変異体が生まれることがあった。

 原作で敵役のコピーの一人が他に比べて気が弱かったり優しかったりして、ドラえもん達がその変異体のおかげで助かったことがある。

 そんな風に優しい性格なら問題ないが、逆に悪い性格の変異体が生まれるかもしれないのは無視できなかった。

 

 タマゴコピーミラーはコピーする過程で卵を生み出し【エッグハウス】という孵化器でコピーの卵を孵す。

 なので事前に卵の段階で○×うらないを使い、性格が明らかに違うものがいないか診断してから孵すようにしている。

 何度か実験もしたが、今のところ一度も変異体の卵は生まれていない。

 

 そんなデメリットもあるが、より重要なのはこの作り出したコピー達をオリジナルを含めて一つに統合する事が出来る事だ。

 それならばコピー達の記憶もすべて受け継いで一人になることが出来るのではないかと思い、○×うらないで事前に安全確認をしてから実験をして、問題なくコピーの記憶を持ったまま一人に統合することが出来た。

 あらゆる実験の事前確認にも使える○×うらないがかなり役立つ。

 

 劇場版では増えた敵役のコピーをどうにかする為に統合が行われたが、その時は本来の性格が違うコピーがオリジナルとして残った。

 ドラえもん達が意図的に違う性格のコピーを残したのかはわからないが、統合した時にオリジナルの人格が残らないのはさすがに不味い。

 なので突然変異の卵が混ざらないように、タマゴコピーミラーを使う時は十分に気をつけている。

 

 ちなみにひみつ道具を出す能力はコピーに受け継がれることはなかった。

 使えれば便利かもしれないが、もしコピーが行方不明にでもなったりして、それが原因でひみつ道具が流出して誰かの手に渡る危険性も考えられる。

 そういった事態にはならずに済みそうだが、ひみつ道具が紛失するような事態は気をつけないといけないのに変わりない。

 物にもよるが、ひみつ道具一個だけでも大変な事態になる可能性は十分にあるのだから。

 

 

 

 クローンとも言えるコピーを使って人手を作ったわけだが、同じ顔の人間同士が話し合うのはまだ慣れず妙な気分なので、冗談交じりに軽口を言いながら会議を始めた。

 同じ顔とは言っても現在の僕…いや僕たちは15歳くらいの姿をしている。

 子供の姿では動きづらいので、コピーをする前に【タイム風呂敷】で容姿を成長させた。

 

 コピーが成功した後は親の所にいるコピーロボットも、タマゴコピーミラーのコピーに代わってもらっている。

 その僕にはそのまま全部の事件が終わるまで代理を務めてもらうつもりだ。

 終わった後に統合すれば、自分が親の元にいた時の記憶も実感も残るので問題ないだろう。

 

 そして会議を始めるわけだが…

 

「そもそも役職なんて事前に決めてなかったよね」

 

「オリジナルに振られたらノリで答えたしな。

 皆もそうだろ?」

 

「まあ、そうだね」

 

「まだ生まれたばっかのコピーだから、記憶に差は殆ど無いしな。

 あ、僕は作戦部部長らしいから部長と呼んでくれ」

 

「なら僕は副部長か。

 そうなるといきなり僕は部長の部下になるんだけど、ちょっと納得がいかない」

 

「副部長ってノリで言ったの、副部長自身だろ」

 

「いや、部長と来たら次は副部長だろ?」

 

「まあ確かに。 ほかの役職のやつの後にも、次が副がついてるし奴だし」

 

「いや、最後だけ課長の後が係長だったぞ。 なんで係長だったんだ、係長」

 

「それもノリだろ。 皆分かってるくせに」

 

「だが、聞かずにはいられない」

 

「解っていてもやるのが、ノリツッコミだしな」

 

「一人じゃないけど同一人物だからノリツッコミが成立する」

 

「コピー同士の対話がうまくいくかどうか悩んでたけど、あんまり気兼ねなく話せるもんだな」

 

「まあ相手の考えてることが大体わかれば、話しやすいもんだしな」

 

「うんうん」

 

「そもそも僕、いや僕等(・・)か。 そんなにべらべらしゃべるようなタイプじゃないのにね」

 

「対等にしゃべれる相手がいなかったからな~」

 

「このボッチめ」

 

「ボッチじゃない!!

 同年代じゃ話を合わせるほうが無理だったんだよ!!」

 

「さらに言えばブーメラン」

 

「五歳児に流暢な会話なんて怪しいしな」

 

「普通はいない」

 

「嵐を呼ぶ幼稚園児は?」

 

「あれが五歳児なのはおかしいだろ」

 

「主人公はともかく防衛隊メンバーも話についていけるのもおかしい」

 

「そんな級友、幼稚園にはいなかった」

 

「そういえば僕達も幼稚園児だったんだよな」

 

「今も幼稚園児。 コピーの一人がまだ通ってるし」

 

「統合する気が失せる」

 

「幼稚園のお遊戯に付き合うのが辛い」

 

「なかったことに出来ないかな」

 

「出来ないだろ。 コピーとはいえ同じ自分に嫌なことを押し付けたままにするのは」

 

「それやったら、コピーの僕が離反しかねないしな。

 僕自身もコピーだけど」

 

「そんなことにならないように僕達、特にオリジナルの議長は忘れないように気をつけないといけない」

 

「ところでオリジナルを議長って呼び方で通すのはおかしくないか?

 会議中なら納得がいったけどなんか違和感がある」

 

「じゃあ社長って呼ぶか?」

 

「劇場版の元ネタからか」

 

「けど会社じゃないし」

 

「じゃあ会長とか?」

 

「隊長はもう使ってるし」

 

「総長の呼び方に一票」

 

「暴走族みたい」

 

「司令」

 

「問題ない」

 

「その為のNE○Vです…って、間違いなくネタだったけどそれでいいのか?」

 

「問題ない…けど似合わないと思いたい」

 

「確かに。 ほかには何があるっけ?」

 

「もう適当に上げていこう、理事長」

 

「何の理事だよ」

 

「校長」

 

「学校じゃない」

 

「船長」

 

「船じゃない」

 

「艦長」

 

「だから船じゃないって」

 

「組長」

 

「園長です!!」

 

「またネタか!?」

 

「『長』が付けばいいって感じになってるな…」

 

 

 

 会話は弾んでいるが議題から完全に脱線してしまっている。

 自分同士の話し合いに慣れるために長々と無駄なおしゃべりを流してきたが、一応真面目に対策を考える気もあるのでそろそろこの会話を終わらせる。

 コピー達もおそらく同じ考えで話してるはずだ。

 何せ同一人物なのだから。

 

「話し合うこと自体に慣れてきたのでそろそろ本題に戻そう」

 

 オリジナルの僕がそう発言をすると、がやがやと騒いでいたコピー達がすぐに会話を中断する。

 

「ようやくか。一応オリジナルがまとめ役になるのは初めから決めてるんだから頼むよ」

 

「自分同士で騒ぐのも楽しかったけど、本題を忘れるわけにはいかないからね」

 

「いくら話を続けてもネタ振りが終わる気がしなかったからな~」

 

「けど、オリジナルの呼び方だけはネタじゃなく決めておいたほうがいいんじゃない」

 

「たしかにそうだな」

 

「さっき上げたネタからオリジナルが決めてよ」

 

「まあどれを選ぶかはなんとなくわかるけど」

 

 コピー同士であるがゆえに考えることも大体一緒だ。

 だからこそ人手を増やすことが出来ても、新しい意見の出し合いとなるとあまり進展がなさそうなのが欠点。

 誰か別の考え方をしてくれる人がいればいいが、協力者なんて今のところ思い付かないし、そうそう引き込めるような話ではない。

 そのことはとりあえず、必要になってから考えよう。

 

「そうだな、やっぱり会長が一番無難かな」

 

「じゃあそれで決定で」

 

「よろしく会長」

 

「ああ、よろしく…ってのも、相手が自分じゃ違和感あるな」

 

「そんなの気にしてたらキリがないんだけどね」

 

「慣れるしかないだろ」

 

「確かにそうだが…ってまた話が脱線しかけてる

 とりあえず本題を進めよう」

 

 どうやら自分同士だと話し易過ぎるからか、話題がどんどん出てきて話が脱線ししてしまう。

 久しぶりに流暢な会話をしているからかもしれないが気をつけないと。

 

 

 

 

 

「まず何をやるかだが、実のところさっきの役職設定でやるべきことは大体振り分けられている。

 まず作戦部は劇場版の話に対する対策案を可能な限り考えておいて、そこから必要な情報や準備などをほかの部署に求めてくれ。

 対策が纏まった事件から再度会議を行って、決定したら実際の作戦に当たる。

 まあ作戦の決議を決める会議は形式上のものになるな。

 考える事が一緒じゃあ反対案もあまり出ない」

 

「了解です、会長」

 

 作戦部長が答えてくれるが、これじゃあ会長じゃなくて司令みたいだ。

 他の皆も同じことを考えたからか、少し表情を歪めている。

 もう少し軽い感じでしゃべろう。

 

「ゴホンッ…次に技術班だけど、やることは必要になるひみつ道具の整理や用意する武器の開発と量産。

 ひみつ道具には明確な武器と呼べるものがあまりないけど、道具の効果を応用したり製作系の道具を使えば大抵のものは作れる。

 ひみつ道具を出せるのは僕だけだから、僕もそっちにいる事が多くなると思う。

 実行部隊も今はまだやることが少ないから、一緒に作業をよろしく」

 

「その辺りは予定通りだな。

 道具を応用した武器の開発は前々から楽しみにしてたし。

 技術班、了解したよ」

 

「実行部隊の僕達は映画の事件の現場で動いて対策に当たるんだろう。

 作戦が決まるまではやることないみたいだし、そうするよ」

 

 ひみつ道具を出すことが出来るのはオリジナルの僕だけだ。

 可能な限り安全を確保してから事件の対処に当たるけど、もしもの事態があるといけないからオリジナルの僕が事件に直接対処をするのは避けるべきだ。

 だから事件の対処に直接当たるのは当然コピーになる。

 それを担当するのが文字通り実行部隊になる。

 

「情報統括課は事件の実際の現状や原作情報の裏付けをお願いする。

 調べる方法は今のところ【タイムテレビ】くらいしか思いつかないから、必要なひみつ道具があったら技術班まで取りに来てくれ」

 

「情報集めとか一番大変そうだけど、しょうがないから頑張るよ。

 ああ、情報整理を手伝ってくれるコンピューターもあるといいね」

 

「後でいいのがないか、ひみつ道具の中から探してみる。

 無いならさっそく技術班の出番だな」

 

「腕が鳴る、と言いたいけど当分はひみつ道具任せの開発になるだろうな。

 そのうち自力でひみつ道具並みの凄い物を開発してやる。

 学ぶ方法や教材もひみつ道具任せだけど」

 

 道具の準備や開発、それに僕達自身の様々な技能の習得も技術班の仕事になる。

 おそらく一番忙しくなる管轄になるだろう。

 早速新しいコピーを作って作業員になる人手を用意しないといけない。

 

 コピーが多ければ統合した時に得られる経験値も多くなる。

 NARUTOの影分身と同じ要領で経験を得られるのも、タマゴコピーミラーを使った大きな理由だ。

 

「最後に秘書官の僕だけど………別に要らなかったかな?」

 

「秘書官にしたの会長でしょ!?」

 

「いやあ、ノリで言いだしただけだったし。

 まあ技術班はもっと人手が必要そうだからそっちに回って」

 

「秘書官なのに結局やることないのかよ…」

 

「同一人物が自分の秘書だなんて嬉しい?」

 

「嬉しくないけど、結局は自分が自分で決めちゃったことだろ。

 秘書官じゃないなら僕は何て呼ばれればいいのさ」

 

「んー、雑用?」

 

「パシリかッ!?

 いくら自分が自分に言った事だからって僕がグレるよ」

 

「ごめんごめん。

 まあ技術班研究員一号ってことでいいよね。

 すぐにコピーの人手を増やすことになりそうだし」

 

「ん、了解」

 

 

 とまあ大体やることは決まったが、最後も締まりのない会議で終わった。

 僕達はさっそくそれぞれの役割を果たすために仕事に取り掛かっていく。

 時間も人手も十分用意出来たので、どの劇場版の事件にも十分対処できるだろう。

 

 

 

 

 




思ったほど超会議にはならなかった


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その名はドラ○

 

 

 

 

 

 タマゴコピーミラーによって補うことが出来た人手のおかげで、劇場版事件の対策準備は順調に進んだ。

 対策案を考える作戦部は順調なようだし、情報統括課のタイムテレビによる諜報活動による調査結果で、原作との違いは未来人がいないことによる差異以外は特に見られないらしい。

 

 そしてオリジナルである僕が主に活動しているのは、技術班の事件対策に必要な道具作りだ。

 ひみつ道具の種類は無数にあるが殆どは一種類に付き一つみたいなので、多用する道具などを【フエルミラー】などで数を増やして他の管轄に回したり予備を確保している。

 ひみつ道具で補えないような道具以外も、技術班が開発することで他の管轄に提供している。

 

 新しい道具開発には主に【ハツメイカー】【天才ヘルメット】などのどんなものでも作れて改造出来るひみつ道具が多用された。

 ハツメイカーを持っていたのは原作ではドラミちゃんだったが、四次元ポケットの中にあった。

 この秘密道具は作りたい物の内容をリクエストするとそれを作るための設計図が出てきて、セットになっている【材料箱】から必要な道具が全部出てくるというものだ。

 これで原作では頭の悪いのび太でもいろんなものを作り出すことが出来た。

 【天才ヘルメット】は宇宙小戦争(リトルスターウォーズ)でスネ夫の戦車のプラモデルを改造して、最終的には宇宙空間を飛んでリトルサイズとはいえ実際の戦場の戦いにも耐えられるほどの性能を発揮していた。

 

 この二つの道具だけで作れないものはないという気がしてならない。

 だけどドラえもん達のいない状況では、原作と違ってどのような対応が必要になるかわからない。

 なので思いつく限りの必要そうなものは、片っ端から作りまくっていた。

 

 現在技術班はタマゴコピーミラーの僕のコピー達だけでなく、作業を補佐してくれるロボット達を用意して作業の拡大を行っていた。

 道具開発の場所を作ったら作業を手伝ってくれる大中小のロボットの開発。

 手数が増えたら作業・開発場所を広げて、補佐をするロボットの大量生産を行う。

 それを繰り返したことで技術班の作業場所は巨大な研究所と工場が出来上がり、他の管轄に比べて極端に規模が拡大してしまった。

 

 それでも技術開発班の作業は減速していない。

 劇場版では文字通り戦争になるような事態が多いから、戦力は過剰だろと言うということがあっても問題ない。

 準備をしている拠点は鏡面世界なので武器の置き場所に関しては全く困らないし、四次元ポケットのようないくらでも収納することが出来る道具は他にもあるので持ち歩きにも全く困らない。

 

 

 

 そんな成長著しい技術班でまた新しい道具の開発が終わろうとしていた。

 今回はちょっと特別な代物だ。

 

「班長、完成したのか?」

 

「ああ、会長。 少々時間はかかったがようやく完成した。

 企画から製作に移してから三日もかかった」

 

「普通なら異常な開発速度なはずなんだけど、ハツメイカーを使っているなら時間がだいぶ掛かっている方なんだよね」

 

「本体だけならともかく、いろいろなオプションがあったからな。

 企画を纏めるのに会議までしたから、ハツメイカーに要望を伝えるのにも時間がかかった。

 要望を事細かにリクエストしただけあって、製作するために【材料箱】から出てきた部品もこれまでよりややこしかった気がする」

 

「一応僕等待望の作品だ。 作る以上妥協をしたくなかったしね。

 ところでいろいろ作っただろうけど、原理は少しはわかった?」

 

「さっぱり。 現代の物理法則とやっぱり違うみたいでまるで理解できない。

 ひみつ道具に頼らないひみつ道具並みの道具開発は当分無理そう」

 

 あらゆる道具の開発をひみつ道具に頼るのもいいが、構造をすべて理解したうえでの開発が出来ればいいなと思っていた。

 とはいえ直に出来るモノではないとも思っていたが、少しくらいはひみつ道具の理解を深められないかと技術班に期待していた。

 

「科学チートは一朝一夕ではやっぱ無理か」

 

「出来るようになるにしても、当分はひみつ道具の頭脳を借りなきゃいけないだろ。

 コピーの統合による学習効率の向上だけじゃなくて、何か学習系のひみつ道具はいいのはないか?」

 

「いくつかは見つかっているけど、科学力を伸ばすようなのはまだ見つかってない。

 見つかった使えそうな学習系の道具も、コピー達に使わせて能力アップを図ってる」

 

「やっぱり自分の力でも開発してみたいしな」

 

 そう話しながら、今度完成した作品の前に立つ僕達。

 僕たちの目の前にはまだ起動していないロボットが作業台の上に横たわっていた。

 全体的に青い色の表面に白い顔をした二頭身のロボット。

 ドラえもん型のロボットだ。

 

「それで後は起動するだけか」

 

「ああ、必要な知能や情報なんかはちゃんと入ってるはずだ。

 後はこのボタンをポチっと押すだけで起動する」

 

 班長に起動するためのスイッチを渡される。

 

「なんで髑髏マークのスイッチなんだ。 自爆しないよな」

 

「お約束だ、特に意味はない。

 会議で決めた通りの規格だから自爆装置は入ってないよ。

 停止装置は用意してあるけど、どちらにしろ使うことにならないことを祈る」

 

「初めて作る完全自立思考型ロボット。

 ドラえもん型にしたのも思い入れからだからな。

 まさかの暴走なんてことにならないでほしい」

 

「もしもの話はやめよう。

 これ以上はフラグになりかねない」

 

「そうだな」

 

 このドラえもん型ロボットは言った通り自立思考型。

 つまり原作通りに自分で考えて行動をして感情もある、ドラえもんと同じ人工頭脳を持っている。

 これまで作った作業を補佐する為のロボット達は、頭脳が簡易型で命令に従うだけの物。

 しかしこのドラえもん型ロボットは、自分で考え経験を積み思考する明確な意思のあるロボット。

 起動すれば僕のコピー達以外で事件に対して考え意見の出来る協力者になってくれるはずだ。

 

 僕と僕のコピー達では思考ががほとんど同じなので、考え方が偏ってしまい何かの失敗につながりかねない。

 そう思った僕たちは別の考えが出来る人物がほしいと思っていたので、それなら作ってしまおうとこのドラえもん型ロボットの製作を決定した。

 

 しかしドラえもんの姿そのままではつまらないと、特徴を付けるために様々なオプションを要求した。

 その結果製作に少し時間を掛ける事になったが、容姿を多少変えたドラえもん型ロボットが完成した。

 原作でのドラえもんズや、コスプレをしたドラえもんみたいな容姿だ。

 

 コンセプトはサムライのイメージで。容姿はちょん髷を頭につけて袴を着ており刀を装備している。

 自分で考えて僕達の補佐をしてもらい、さらに刀を装備しているのだからと護衛として戦えるだけの機能も持たせた。

 着ている袴の懐を四次元ポケットの代わりの収納機能を持たせたり、武器になる刀はひみつ道具【名刀電光丸】をベースにいろいろな改造した品だ。

 少なくともバッテリー切れを起こさないようにしてある。

 ちなみにドラえもんには無くなっていた耳はちゃんとついている。

 

「じゃあ起動させようか」

 

「ところで会長、どんな名前に決めたんだ?

 会議では完成までに会長が決めておくはずだったろ」

 

 名前を決めるのは僕の仕事になっていた。

 サムライをモチーフにしたのは、自分たちが作るロボットという点からコロ助がイメージできたからだ。

 なので名前もドラえもんとコロ助を併せて、ドラ助にしようかとも思ったが何となく別の名前に変更した。

 

「もちろん考えてある。 こいつの名前はドラ丸だ。

 ポチっとな」

 

 名前を宣言しながら僕は起動スイッチを押した。

 すると周囲の機械が起動音を出しながら青白い電気を発して、ドラ丸の体も帯電していく。

 少しでも近づくと感電しそうな勢いだ。

 

「この放電は!?」

 

「特に意味はないが起動するならやっぱり演出も必要かと思って、目に見える放電が出るように仕込んでおいた。

 実際に感電することはないから、心配しなくていい」

 

「何か失敗したのかと思ったわ!」

 

 班長はこの放電現象の中で淡々と落ち着いて説明をしたので、本当に大丈夫なんだろう。

 コピーのやったことだから自分もやりそうなことだと思う半面、驚かされる側の僕としてはそこまでいい気分になれない。

 結局は同じ自分やったことなのだと、自業自得といった言葉が思い浮かんでしまうので自分に戒めておく。

 一度コピーと統合してからまたコピーをすれば、コピー達も覚えているので同じような悪戯もほどほどに控えるだろう。

 それくらいの学習能力は自分にはあると思いたい。

 

 自分たちで漫才をしていると、放電も次第に収まってきた。

 放電が完全に収まると、作業台に寝ていたドラ丸が目を開けて体を起こす。

 

「おはようでござる、殿」

 

「「やっぱりござる口調か」」

 

「殿ってのはやっぱり僕達の事か?」

 

「そうでござる」

 

 コピーの自分で作っただけあって、サムライのイメージからしゃべり方も何となくそうなるのではないかと思っていた。

 僕達を殿と呼んだことには予想していなかったが、班長もどうやらござる口調になるのかは確信していなかったらしい。

 

「ござる口調なのは予想していたけど、班長は作る段階で気づかなかったのか?」

 

「ハツメイカー任せだから情報の入力も設計図通りにやっただけ。

 要望は設計図を作る段階で言ったけど、実際の性格は起動して確認するまではわからなかったんだ」

 

「やっぱりそうなるか…。

 だから自分たちで作る物の仕組みくらい理解したいんだよな」

 

 ひみつ道具は時々予想しない問題が起きたり融通の利かない時がある。

 バッテリーが切れるくらいならいいが、扱いを誤って暴走したりするものがあるのだ。

 こういう時構造など理解出来ていれば、その欠点を補うことが出来ると思うんだ。

 だからこそ自分たちでひみつ道具を作れるようになるのが、事件対策以外の目標でもある。

 まあ、事件解決が最優先なのでそれはまだまだ先の話になるだろう。

 

「ところで拙者の名前は何なのでござる?

 拙者の頭脳にはまだ未定となっているのでござるが…」

 

「お前の名前はドラ丸だ。

 ドラ丸が作られた理由はわかっているか?」

 

「もちろんでござる。

 殿達は世界のために大きな戦に向かわねばならぬのでござろう。

 それを手助けするのが拙者の役割でござろう」

 

「その通りだ、役割の認識に関しては問題なさそうだな」

 

 もう少し様子を見ないといけないかもしれないが、問題なく起動しているようだ。

 突然暴走するという危険性もないとは思うが、どういう人格なのか確認するためにも様子を見たほうがいいだろう。

 危険性に関しては後で○×占いで確認してみればいいだけか。

 

「じゃあ、これからよろしく頼むぞドラ丸」

 

「承知でござる。

 それで拙者は誰を斬ればいいのでござるか?」

 

「「いきなり物騒だな!?」」

 

 さっそく問題が発生した。

 必要があればそうなるかもしれないが、いきなり物騒すぎる考え方だ。

 ネタだったらいいが動き出していきなり冗談は言わないだろう。

 僕等じゃあるまいし。

 

「どうしていきなりそういう思考になったんだ!?」

 

「おそらく殿のイメージから来た知識でござるよ

 サムライは何でも斬れば解るし解決出来ると」

 

 僕らのネタだった。

 しかもなんかいろいろなネタが混ざり合った結果の代物みたいだ。

 ドラえもんの姿でサムライをやるドラ丸はなんちゃってサムライといった感じだったが、知識までなんちゃってサムライになるとは思わなかった。

 

「どこから僕達のイメージがドラ丸に流れたんだ?」

 

「そこまでは拙者にもわからないでござる。

 起きたばかりなので拙者には初めからあったとしか」

 

「もしかして【ハツメイカー】にはリクエストする以外に使用者のイメージが補正されるのかも」

 

「なるほど、それならあり得るか。

 これからはイメージもしっかり意識しながらリクエストしたほうがいいな」

 

 これもひみつ道具の理解が及ばない欠点なのかもしれない。

 応用が利くひみつ道具もあれば、予想だにしない効果を発揮することもある。

 僕自身すべてのひみつ道具を覚えているわけではないから、使いこなせているというわけでもない。

 ひみつ道具の予想だにしない影響で事件に発展した劇場版の話もあるのだから。

 

「とにかくいきなり斬りにいくとかはやめてくれよ。

 基本は護衛と相談役が目的で作ったんだから」

 

「それは承知しているのでござる。

 突然誰彼斬るようなことは絶対にしないでござる。

 斬っていいのは斬られる覚悟のある奴だけでござる」

 

「またネタ知識か」

 

 どうやらこのドラ丸の頭脳は僕らのネタ知識が満載なようだ。

 本当に大丈夫だろうか。

 

「ですが早めに戦場に赴きたいでござる。

 拙者の刀が血に飢えてるでござる。

 つまらぬものを斬ってしまいたいでござる~」

 

 これ、だめかもしれない。

 

 

 

 

 

 



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この世界の秘境は多すぎる(大魔境)

原作大魔境登場キャラ

・クンタック(ペコ)
 のび太に拾われた野良犬。 その正体は国を追われた犬人族の王子で、のび太にペコと名付けられる。 赤い宝石のペンダントを持っており、巨神像の幻を投影したりそこから電撃を放つことが出来、実物の巨神像のコントローラーでもある。 これを使ってドラえもん達と共に国を乗っ取った大臣ダブランダーを倒した。

・ブルスス
 王国の騎士。 クンタックが国を追い出された後に城に捉えられていたが、ドラえもん達に助け出されて加勢する。 兵士相手に棒きれだけで無双して最後まで生き残る。 のちにクンタックが王になると親衛隊長になった。

・ダブランダー
 クンタックの父である国王を暗殺して、クンタックを国から追いやった悪役の大臣。 古代兵器である空飛ぶ船や火を噴く車を復活させて国外に侵略を目論んでいる。

・サベール隊長
 ダブランダーの部下、やられ役。


 

 

 

 

 

(僕はこれからどうなるんだろう)

 

 故郷を追いやられ、海を渡って流れ着いた異国の地。

 その街中を僕は当てもなく彷徨い続けていた。

 

 誰かに頼ろうにも、この国では僕は異邦人。

 それも明らかに人種の違う僕では、この国の人々に知られてしまうと騒ぎになって捕らえられてしまうかもしれない。

 幸いこの国には僕達の種族に似た動物がたくさんいて、その動物の振りをする事でこの国の社会に溶け込むことが出来た。

 しかし僕に似た動物は人と共にいるのが普通らしく、一人彷徨っている僕を捕らえようと追ってくる人たちもいた。

 そんな人達に見つからないように、今日も隠れ場所を転々としながら彷徨っていた。

 

 見るモノすべてが真新しくて、好奇心に心を動かされていたのも最初の内だけ。

 身寄りとなる物のない今の僕は食べ物も満足に得られず、夜風を凌ぐ宿もまともに得られないまま疲労だけが蓄積されていった。

 彷徨っている内にこの国の言葉を覚えることは出来たけど、通りすがりの人たちの会話だけでは自分がどこにいるのかすらわからない。

 それでも僕は帰る方法を探して彷徨い続ける。

 

 故郷に帰らなければならない理由が僕にはある。

 僕を故郷から追いやった奴らは、僕がいなくなったことで好き勝手をして国を荒らしているに違いない。

 そんな国に残してきた仲間を、友を、愛する人を守るために僕は必ず帰らなければならない。

 

 

 心にそう深く誓っているが、何日も溜まった疲れは関係無しに僕の心を削っていく。

 空腹と疲労が相まって僕の体は限界に差し掛かっていた。

 安心して体を休める場所を見つけなければと歩き回るが、足に力が入らずふらついてその場に倒れこむ。

 故郷を思い出すことで気持ちを奮い立たせるが、先の見えない旅路に心も折れそうになっていた。

 

 これからどうなってしまうのか。

 そんなことばかりが頭に過ぎり、故郷に帰ることもだんだん考えられなくなっていく。

 僕には先の事より今を乗り越える事すら出来ないのではないかと諦めかけていた。

 そんな時だった。

 

「――――――」

 

 疲労でぼやけて見える僕の目の前に人影が現れた。

 何かを僕に喋りかけているが意識が朦朧としている僕の耳にはとても遠く感じる。

 

「―――コ、じゃなくてクンタック王―――」

 

 ぼんやりと聞こえる会話の中に、僕の名前がかすかに聞こえた気がした。

 なんで僕の名前を…と問おうとしたのだと思う。

 だけど一人になってから誰も呼ぶことのなかった僕の名前を聞いて、一瞬気の緩みが出てしまう。

 その気の緩みの隙をついて、溜まった疲労が僕の意識をすべて奪い去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前に倒れている灰色の犬。

 正しくは白い犬なんだろうが、薄汚れてしまって灰色になってしまっているのか。

 その人物?は今回の一件の主要人物で探し回ってようやく見つけたのだが、ひどく衰弱していて近づいても動かずに横になったままだった。

 意識はあったようなので確認のために名前を呼んでみたのだが、その直後に目を閉じて反応を示さなくなった。

 さすがに心配になって生きているか確認をしたが、幸い意識を失っただけだったようで安心した。

 

 とはいえ医学知識のない素人の確認なので、命に別状がないかまではわからない。

 本人確認は取れなかったが現地拠点まで連れ帰って、会長に【お医者ごっこかばん】を出してもらわないと。

 手持ちの四次元ポーチには入ってないから、健康状態を確認することも出来ない。

 原作では日本を無事に彷徨ってたんだし、途中で野垂れ死ぬなんてことないよな。

 

 

 

 現在僕は大魔境編の攻略をするべく、犬人族のペコことクンタック王子の探索を行っていた。

 のび太にはペコと名付けられていたからその名で呼ぶことはないだろうが、彼は犬人族の住むバウワンコという国の王子だ。

 ダブランダーという大臣に国を追われて国外に放り出されたが、原作通り日本に流れ着いて彷徨っているのを発見した。

 すぐに接触して確認をしようとしたところでこの状態だ。

 

 健康状態を確認するために【お医者ごっこかばん】を出したいところなのだが、僕はタマゴコピーミラーのコピー通称:実行部隊隊長なので四次元ポケットその物を持っていない。

 それでも活動に必要なひみつ道具を持ち歩くために、四次元ポケットと同じ収納能力を持つひみつ道具【四次元ポーチ】を支給されている。

 ただし四次元ポケットのように中身まではないので、必要な道具は事前に入れておかなきゃいけない。

 おおよそ必要なものは入れていたと思っていたが、病人等を見るためのお医者ごっこかばんなどの衛生用品は入っていなかった。

 これらも戻ったら支給しなきゃな。

 

 僕は四次元ポーチからどこでもドアを出して、クンタックくんを連れて扉をくぐった。

 行先は人のいない小さな孤島、そこを今回の一件が片付くまでの仮拠点として使っている。

 

 少々時間の行き来がややこしくなるが、大魔境の一件に対する準備が整ったので最初にいた時間の十年前から、事件が起こる時間にタイムマシンで来たのだ。

 十年前から自然な時間の流れで事件発生の時間まで待つと、連続で事件が起こった時の時間的余裕が結局無くなってしまう。

 なので準備が出来た案件から事件発生の時間に飛んで、その時間軸で拠点をそれぞれ作って行動を行うことにした。

 

 同じ時間軸に同時に僕達が存在することになるかもしれないが、時間の余裕が無いよりはいいとそれぞれの時間に飛んで作戦を行うことにした。

 同じ時間軸に僕達が複数存在すると、過去と未来の僕達同士が接触する可能性も出てくる。

 そうなった時に起こりかねないタイムパラドックスが僕らにどんな影響を与えるのか想像も出来ないので、接触しないように活動時間と活動範囲の両方を事前に決めて、今後の活動での行動範囲と時間が被らないように調整しないといけない。

 

 つまり事件ごとに拠点はいちいち新しい場所に作らないといけないということだ。

 それに僕達はコピーをいくつも作っているので、過去か未来の僕達に接触したらその時のコピー達の数も合わさって余計にややこしい光景に見えるだろう。

 ちゃんと人数管理をしていれば問題ないだろうが、過去現在未来の自分達がごちゃ混ぜになるなんて想像もしたくない。

 とにかく時間移動によるタイムパラドックスの発生はややこしいのだ。

 起こさないように十分に気をつけないといけない。

 

 

 

 拠点の無人島に戻ってきたわけだが、ここには僕以外のコピーもオリジナルの会長もいない。

 今回必要な物も四次元ポーチに大体入っているから、拠点にあるのは住宅代わりの【キャンピングカプセル】が建っているだけだ。

 キャンピングカプセルの家の中につないだどこでもドアから出るとドラ丸が待機していた。

 今回の一件に実行部隊隊長の僕の護衛として一緒に行動することになっている。

 

「おかえりでござる、殿。

 目的は達成出来た様でござるがその者は大丈夫でござるか?

 何やら意識がない様子…」

 

「ああ、ただいまドラ丸。

 どうも衰弱しているみたいなんだが詳しい容体がわからない。

 ドラ丸には病人を診察する機能とかついてなかったか?」

 

「拙者、これでも戦闘を想定して作られているので、敵の状態を見抜く機能があるでござる。

 ですが医学知識はないので、拙者の目にはその者が弱っていることくらいしかわからんでござる」

 

「まあ、そんなところだろうな」

 

 大して期待していなかったドラ丸の診断でも、衰弱していることくらいしかわからなかった。

 そういう機能はコンセプトと離れているので期待していなかったが、この後クンタック君の国バウワンコに行くことになった時には護衛として大いに役立つことになるだろう。

 予定ではクンタック君と話してからすぐにバウワンコに向かう予定だったが、彼が元気になるまで待たないといけないな。

 

 俺はタイムテレビを出して、過去の時代に残っている会長達にと連絡を取る。

 こっちの状況を向こうもリアルタイムで見ているはずだ。

 

「(いや、未来の状況をリアルタイムで見ているってのは何か言い方がおかしいか?

 リアルタイムってのは現在の生の映像って意味だから…

 過去から見たらこれから起こる状況ってことだけど、見ている方の時間の流れと見られてる方の時間の流れは一緒なんだからライブ中継とは言える?

 あれ、ライブって生って意味だったからリアルタイムで合ってる?

 まずい、だんだん考えがこんがらがってきた)」

 

「殿、どうしたのでござる?

 何やら難しい顔をして」

 

「…ん? ああ、いやなんでもない。

 実際どうでもいいことを考えていただけ」

 

「ふむ? よくわからんでござるが、殿も戻ってきたので拙者は次の作戦に取り掛かるでござる」

 

「ああ、こっちは大丈夫だからよろしく頼む」

 

「では」

 

 次の作戦の為にドラ丸は自身のどこでもドアを取り出して潜りどこかへ行く。

 予定は知っているので何をやりに行くのかは解っているから今のやり取りだけで十分だ。

 僕はお医者ごっこかばんを受け取るために、さっさとタイムテレビで過去の僕達と通信を繋ぐ。

 こっちの状況を向こうも確認していたからか、通信はすぐに繋がった。

 

『お疲れさま、隊長

 こっちは今そちらに送る道具の準備をしてる』

 

「会長、副隊長が見てたんじゃないのか?」

 

 こっちの様子は一応僕の部下に当たる副隊長が確認をしていた筈だ。

 同じ顔なのに違いが判るのは、それぞれの役職を示す腕章をつけているからだ。

 

『ちょうど僕が来てたところだったからね。

 副隊長は今【タイムホール】でそちらに荷物を送る準備をしているよ』

 

 タイムホールは穴の先を指定した時間につなげる道具だ。

 人が行き来するような道具ではないが、モノを向こうから取り出したりするのがメインらしいが、送り出すことも出来たので、時間を越えた荷物のやり取りはこれを使うことになった。

 

「それだったら話は大体伝わっているな。

 バウワンコへ向かうのはクンタック君が体調を取り戻してからだ。

 それまで少々時間がかかると思う」

 

『わかってる。

 説明もいろいろあるだろうし、そっちの準備が出来てからこっちに通信してくれ。

 それからはこっちもモニターしながら緊急時の時の補佐に回る。

 何かあったらまた連絡してくれ』

 

「了解、あとは予定通りに」

 

 そういって通信をきる。

 それから間もなくタイムホールに繋がる時空の穴が開いて、そこからお医者ごっこかばんと必要になりそうな衛生用品になるひみつ道具が出てきた。

 早速お医者ごっこかばんを使ってクンタック君の診察にかかる。

 

『栄養失調ト疲労ノ蓄積ニヨル衰弱デス。栄養剤ヲ注射シテクダサイ』

 

 機械音声での診断が出ると一緒に注射器が飛び出してきた。

 注射器の正しい使い方なんて知らないが、これはお医者ごっこかばんが出したもの。

 先っぽに針のないおもちゃの注射器とほぼ同じだが機能だけは本物。

 適当にクンタック君の体に当てて押し込むだけで栄養剤を注射出来た。

 

『コレデ問題アリマセン。ジキニ目ヲ覚マシマス』

 

 これで問題ないようなのでしばらく待つことにする。

 疲れ切っている彼を無理に起こすわけにはいかないし、別行動に出ているドラ丸も戻ってこない事には始まらない。

 どちらが先かと思ってしばらく待っていたが、ドラ丸のどこでもドアは再び現れて扉が開く。

 ドラ丸が戻ってくるのが先だったようだ。

 

「ただいまでござる。 しかと任を果たしてきたでござるよ」

 

「おかえり」

 

 そう出迎えると、ドラ丸の後ろから一人の犬人族が現れる。

 どこでもドアを潜った事で景色が変わったことに訝しんでいる様子だ。

 彼が辺りを窺っていると横になっているクンタック君に気づいた。

 

「王子様! クンタック王子様ではありませんか!」

 

 慌てた様子で駆け寄ってきた犬人族の彼はブルスス。

 クンタック王子の国の元親衛隊長で今まで捕まっていたが、原作ではドラえもん達に助けられて協力していた。

 なので僕等も協力してもらおうと、ドラ丸にバウワンコまで助け出しに行かせていた。

 

 ブルススさんに呼びかけられて栄養剤も効いてきてたのか、クンタック君は身震いをして目を覚ました。

 

「ん、ここは? ………ブルスス? なんでブルススがここに!?

 夢じゃないのか?」

 

「夢ではありません! 王子様、よくぞ御無事で…」

 

 クンタック君は状況が見えないらしく困惑し、ブルススさんは感激のあまり涙を浮かべて彼を抱きしめている。

 感動の再会に水を差すのは悪いと思い、様子を見ながらドラ丸にバウワンコでの首尾を確認する。

 

「ドラ丸、バウワンコでの様子は実際に見てどうだった?」

 

「おおよそ物語通りの様子でござったな。

 民衆はダブランダーとやらの支配のせいで落ち着かない様子で、まさに悪代官のようでござった」

 

「悪大臣だけどな。 それで作戦場所の確認は?」

 

「上々でござる。

 しっかりと場所の確認は済ませて、あとは彼らの準備を待つだけでござる」

 

 ドラ丸には作戦決行場所の事前確認も隠密に済ませてもらってきた。

 タイムテレビでおおよその地理の確認は済ませているが、念のためにブルススさんを助け出すついでに頼んでおいた。

 

「ブルススさんに事情は?」

 

「クンタック王子の所在のみを話しただけでござる。

 それだけで大慌てだったのでそのまま連れてきたでござるよ」

 

「あの様子ならな~…」

 

 大変だったのは知識では知っているが、それは当人たちにしかわからない感情だからな。

 そうしてると二人とも漸く落ち着いてきたらしく、こちらを認識して事情を聞きたそうにしていた。

 

「よく状況がわかりませんが、助けて頂きありがとうございます。

 知っているかもしれませんが、僕の名前はクンタック。

 彼はブルススです」

 

「ブルススです。 王子様を助けて頂いた上、私までも…

 どうかお礼をさせてください」

 

 見慣れない犬人族なので見た目が当てにならないが、二人とも喋り方や仕草に品の高さを感じる。

 さすが王子様と国の親衛隊長といったところだ。

 

「気にしないでください、こちらもいろいろ事情があっての事ですから。

 僕は中野ハジメでこっちがドラ丸。

 大よその事情は分かってますが、それぞれ確認をしながらこれからの事を話しましょう。

 食事をしながらでも…」

 

 そう言って、僕は先ほど送られてきた荷物の中から丸めた絨毯のようなものを広げる。

 言えばどんな料理でも出てくる【グルメテーブルかけ】だ。

 

 

 

 

 



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ロボにドリルとは当時(82年)にしては斬新じゃないか?(大魔境)

 

 

 

 

 

 僕とブルススを助けてくれた二人は、ダブランダーに支配されてしまった王国を取り戻すのにも協力してくれるという。

 なぜ外の世界の人間が僕らの事情を知っていて、国の問題まで手を貸してくれるのかを僕が尋ねるのは、当然の帰結だった。

 

 詳しく答えてくれなかったが、どうやら彼らはある予言を元に様々な問題の解決を行なっているという。

 その予言の中に僕等の国の騒乱を記した内容があり、それを止める者達が現れるはずなのだそうだ。

 それがあなた達なのかと聞くと、本来はそうではないがその者達がいないので自分達がやらなければならないと行動しているのだという。

 

 その話でブルススは、騒乱が起こった時に現れる救世主の予言が国に言い伝えで残っていることを話してくれた。

 内容を聞くとハジメさん達も少しばかり驚いた様子だったが、彼らの予言と似通った部分があったのだろうか?

 だが予言があったのだとしても、彼らには僕らを助ける理由はないはずだ。

 

 僕達の国と彼らの国は繋がりが無いので迷惑をかける事はないと思ったが、ダブランダーの野望が世界征服だという事がわかりそうも言ってられなくなった。

 ブルススの話ではダブランダーは古代兵器をついに復活させてしまったらしい。

 そうだとすればダブランダーもそう遠くないうちに外の世界に侵攻してきてしまうかも知れない。

 

 元から反対だったが、外の世界を見た僕にはたとえ古代兵器があったとしても世界征服が成功するとは思えない。

 外の世界はとても広く、いろんな乗り物や便利な道具がたくさんあったし、空飛ぶ船の代わりだって外の世界にはいくらでも飛んでいた。

 もし侵略をしても逆に返り討ちに遭ってしまうだろうが、外の世界に迷惑をかけてしまうことには違いない。

 だからハジメさん達もダブランダーの企てを止めるために手伝ってくれるのかと尋ねたのだが、それもついででしかなのだという。

 

 ではどうして助けてくれるのかとさらに尋ねると、ハジメさんは少し考えて、知ってしまった以上放っておけないと答えた。

 

 それを聞いた時に僕は彼らに深い感謝を覚えた。

 まったく関わり合いのない僕らの国の事で彼らの国に迷惑を掛けようとしているのに、なんて彼らは優しいのだろうと。

 僕とブルススは改めて頭を下げてお礼を言うと、ハジメさんは困った様子を見せて頭を上げてくれと言ってきた。

 困らせてしまったようだが、今の僕には頭を下げる事でしかお礼の姿勢を見せることは出来なかった。

 もしダブランダーから国を取り戻せたら絶対お礼をすると念を押して、僕はこれからのことを彼らと話し合い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クンタック君達の協力はすぐに取り付けることが出来た。

 彼らの国の問題なので手伝いを断る理由はなかったのだろうが、僕らが協力する理由が気にかかったようだ。

 

 ぶっちゃけると劇場版で起こる事件だからだが、詳しく説明するとなるとややこしいので予言みたいなものだと誤魔化して説明した。

 バウワンコでもドラえもん達が現れて国を救うという予言があったので思い付いた理由だったのだが、その後にブルススさんから聞かされたこの世界での予言で少しだけ驚いた。

 原作との違いが、ドラえもん達から僕らに代わったことで起こる違いと、ぴったり一致していたのだ。

 

 この予言についても調べたいと思ったが、調べたら調べたでややこしい結果になりそうな予感もする。

 この手のどこから出てきたか解らない布石は、劇場版ではいくつかあったので気にしてもしょうがない気がする。

 謎は謎のままでもいい場合があるという事にして、この事は放っておこう。

 

 

 彼らを助ける理由だが、実際に聞かれてみると助ける理由はあまり思いつかないんだよな。

 ダブランダーの世界征服の野望は、原作の記憶を道具で映像にして見直したら思い出したことだったりする。

 世界に影響を与えるような話を重要視していて今回はあまり影響の出ない事件だと思っていたのだが、事件解決の行動に移ってから世界に影響の出る話だったことに気づいた。

 

 つまり大魔境の一件は、最悪失敗しても世間に影響の出ない事件だと思ってた。

 世間に影響の出ない事件だと思ってたから、最初は失敗しても大丈夫なようにと選んだのだが、実際は失敗すれば世間に影響の出る事件だったのだ。

 準備段階で気づくことが出来たが、忘れていたこと自体が新たな懸念を抱くことになった。

 なので、気づいた後に全員で映画の全作品鑑賞マラソンをすることになった。

 覚えていたつもりでも忘れていたりすることは割とあったみたいだ。

 

 話を戻すが彼らを助ける理由の原点は映画の作品だからだ。

 ドラえもん達がいないことで世間に大きな影響を与えかねない事件を優先的に対処しなければいけないが、影響が出ない事件も思い入れのある話には違いない。

 だからこそ放っておく気は起こらなくて、ドラえもん達の代わりに解決するつもりだった。

 

 故に思い入れのある出来事だからというのが理由になってしまうのだが、その説明はドラえもんの話を知らない限り可笑しく聞こえてしまう。

 なので困っているなら助けようといった善意の押し付けのような理由として答えたら、えらく恐縮されてしまい深々と頭を下げてお礼を言われてしまった。

 伝えづらい理由を誤魔化したせいなのか、少しばかり後ろめたく感じてしまう。

 

 彼らにとっては大事でも、僕にとっては大した事件ではないと思っていた認識の違いが原因かもしれない。

 やることは変わらないだろうが、もうちょっと彼らの気持ちも考えて今回の一件に当たろうと思った。

 

 

 

 話し合いが終わった後は、クンタック君とブルススさんにはゆっくり休んでもらった。

 片方は空腹で彷徨い続け、片方は牢屋にずっと入れられていたのだ。

 体調が万全とは思えなかったので、作戦実行は彼らの体調が十分に回復してからにしようと思った。

 

 だが彼らは休んではいられないと直にでも行動を起こそうとした。

 これも彼らとの認識の違いから来てるのだろうと思うが、何とか説得して一日だけでも休んでもらった。

 こちらも確かにすぐにでも動けるが、さっきまで倒れてたクンタック君は流石に心配になるのだ。

 それをそのまま伝えたら、また感謝とお礼の言葉を貰ってしまったので困ってしまう。

 感謝されるようなことじゃないと思ってるから、心の底から感謝をしてくる姿勢が後ろめたく感じてしまうみたいなのだ。

 

 そして一日休んでもらった後に作戦の決行に移る。

 相談した結果だがこちらの考えた作戦にほぼ同意してくれた。

 

 作戦は原作でドラえもん達がやったことと最終的には変わらない。

 バウワンコの予言と同じように巨神像を動かしてダブランダーの勢力を纏めて倒すというものだ。

 その為の下準備に原作では無かった事を行おうとしている。

 

「『バウワンコの民衆たちよ、僕の声が聞こえているでしょうか?

 僕はバウワンコ108世の子、クンタック王子です。

 ダブランダーは僕が病死したと発表したようですが僕は生きています』」

 

 それはクンタック君の宣伝だ。

 今バウワンコの国の民衆が集まる広場で拡声器を使って、クンタック君自身が生存をアピールしている。

 原作では敵の兵士に見つかった事で相手に伝わったが、こちらは民衆にも伝わるようにあえて宣伝している。

 クンタック君が生きていることを広める事で国民を安心させるための意図がある。

 事件が終われば早いか遅いかの違いでしかないが、やっておいて損はない。

 

 本来の目的は敵を巨神像の近くにまとめ上げさせるためだ。

 巨神像を動かすという予言は相手も知っていたので、原作では巨神像の前に纏まっていた。

 こうすれば確実に敵にも伝わって、原作のような展開に持ち込めると考えた。

 

「『ダブランダーは卑劣な手段で父と僕を排除し、国を手に入れたつもりでしょうが僕は戻ってきました。

 国民の皆さん、もう心配はいりません。

 僕はダブランダーを倒し国を取り戻します。

 今夜、古き予言に従い巨神像を動かすことで国を救うことを約束します!』」

 

 拡声器によって声が響き渡ると、反射して帰ってくる山彦のように民衆の歓声が聞こえてきた。

 民衆の多くが歓声を上げるのはダブランダーの治世が人気がないからだろう。

 ドラ丸の話では民衆に不安が広がっていたという話だし。

 

 演説を続けていると敵の配下らしき兵士がこっちに向かってくるのが見えた。

 そろそろ来るとは思っていたのでクンタック君に声をかける。

 

「敵の兵士が来た。

 目的も果たしたしそろそろ逃げるよ」

 

「わかりました、ハジメさん。

 『国民の皆さん、もう少しの辛抱です

 それまでもう少し待っていてください』」

 

 そこで演説を終えると僕はクンタック君に【透明マント】を渡す。

 僕もこれで姿を隠しながら彼の隣に堂々と立っていた。

 僕らの姿が見えなくなれば兵士達もすぐに僕等を見失い追ってこれなくなった。

 そのまま人目の付かない場所まで移動したらどこでもドアで拠点に一度戻って夜になるのを待った。

 

 

 

「ドラ丸、ダブランダーたちの様子はどう?」

 

「予想通り、巨神像の前に待ち構えているでござる。

 敵の兵器も巨神像までの道に配置されているでござるが、拙者達には無意味でござる」

 

 ドラ丸はタイムテレビで敵の状況を確認している。

 敵の兵器に関しては巨神像を動かすことで撃破するつもりなので、僕らが対応するのは巨神像の前で待ち構えている兵士達だけでいい。

 

「クンタック君、ブルススさん、準備はいいですね?」

 

「もちろんです」

 

「王子様と共に戦えるとは。 腕が鳴りますぞ」

 

 クンタック君は軽装の鎧と剣を持って、反対にブルススさんは重装の鎧と大きな槍を持って万全の態勢で待っていた。

 武器を用意したのは僕達だが、彼らの装備はひみつ道具のような機能はない頑丈なだけのものだ。

 クンタック君は剣の名人らしいしブルススさんは親衛隊長だったそうだから素で強い。

 

「機械兵士たちの準備も問題ないね」

 

「問題無いでござる

 拙者も早く戦いたくてうずうずしているでござる」

 

 ドラ丸の後ろに整列している武装した戦闘用の機械兵士達。

 僕の護衛と戦力を補う為に用意したロボットで、名刀電光丸と同じ機能を持った剣と相手を気絶させる【ショックスティック】の機能を持たせた槍を持っている。

 ショックスティックは【原始生活セット】に入っている槍で日本誕生でドラえもん達が使っていた石槍だ。

 これらの武器を使う機械の体の兵士なら、生身の兵士相手に負けることはないだろう。

 

 ドラ丸も名刀電光丸を改造しまくった専用の刀が使えるからか張り切っている。

 本物の刀のように人を斬ることも出来るし、逆に傷つけずに倒すこともできるようにしてある。

 ドラ丸も身の危険がないうちは、本当に人を切り殺す事はないだろう。

 

 巨神像の前に繋がるどこでもドアは既に準備してある。

 直接中へ繋げるのもいいのだが、原作通りに敵を倒しながら進もうと思った。

 せっかく戦闘準備をしているのだし。

 

「ドアを潜ったら敵の目の前だから、機械兵士達は片っ端から倒しまくれ。

 その間に僕らは敵を押しのけながら巨神像の中へ」

 

 最後の確認をすると、皆は頷いて肯定の意思を示す。

 

「じゃあ出発」

 

 僕の合図とともにドラ丸が先陣を切ってどこでもドアを開けて飛び込んでいく。

 それに続いて機械兵士達が全員飛び込んでいきブルススさん、クンタック君、最後に僕が飛び込んだ。

 僕が最後に飛び込んだ時にはドラ丸と機械兵士達が既に敵の兵士に切りかかっていて場は騒然となっていた。

 

「な、なんだ貴様ら!?

 いったいどこから現れた!!」

 

 驚いたように叫んでいるのは巨神像の中に続く階段の前に陣取っているダブランダーだ。

 

「ダブランダー、お前の野望もここまでだ。

 おとなしく観念しろ!」

 

「お、王子!? そうかお前たちの仲間か、途中の兵士たちは何をやっているのだ。

 船と戦車を呼び戻せ!!」

 

 クンタック君が降伏勧告をするが、それで従うようなら初めから彼を追い出したりはしない。

 ダブランダーは途中の道に配置していた古代兵器を呼び戻すように伝令に伝える。

 どこでもドアで直接ここまで来たから配置が無駄になったのは仕方のないことだ。

 空間を飛び越えてくるとは彼も予想していなかっただろう。

 

「うわぁぁぁ、俺の腕がー!!」

 

「俺の、俺の足ー!!」

 

「首が、首が取れたー!!」

 

「「ぎゃああぁぁぁ!!お化け!?」」

 

 戦いの中で一部奇妙な光景が浮かび上がっていた。

 腕や足が切り落とされているのに血が出ている様子はなく、切り落とされた首を抱えてワタワタと走り回っている兵士。

 ドラ丸の名付けた改造電光丸【猫又丸】の機能だ。

 

「今宵の猫又丸は切れ味が冴えわたっているでござるよ!!」

 

 楽しそうに走り回り兵士達に血を出させずに切り刻んでいるドラ丸。

 ドラ丸の猫又丸は名刀電光丸に別のひみつ道具の機能をいろいろ追加した改造ひみつ道具だ。

 

 【ウルトラミキサー】というひみつ道具がある。

 二つの物を合成して一つの物にするという機能を持っている。

 合成する物は無機物でも生き物でもよくて、これを使って合成する事で複数のひみつ道具の機能を一つの武器に集約させた。

 

 斬れても血が出る事も無く死なない機能は【チャンバラ刀】の機能だ。

 他にも【なんでもカッター】というどんな大きな物でもスッパリ切断する道具の機能も合成してあったり、他にも刃物関係に役に立ちそうな機能も合成してある。

 機能を使い分けるのに使用者のドラ丸の意思次第で簡単に出来るように、天才ヘルメットで改造調整をした魔改造ひみつ道具と言っていい品だ。

 

 試し切りなどはしたことはあったが本番で使うのは初めてだ。

 そのせいかドラ丸はかなりハイテンションで近くにいる兵士の体、武器、障害物にかかわらず斬りまくっている。

 そろそろ先に進もうと思うので呼び戻すことにする。

 

「ドラ丸、そろそろ先に進むから戻ってきて」

 

「む、左様でござるか。

 もう何人か斬りたかったのでござるが…」

 

「実際ケガ人はいないとはいえ発言が物騒だぞ」

 

 こういう性格に作ってしまったのは僕達なのだが、もう少しTPOを弁えてもらいたい。

 僕らに言えることではないので、実際には口にしないが…

 

 呼びかけに落ち着いたドラ丸を引き連れて、巨神像の中に入るために入り口に繋がる階段を目指す。

 そこに立ちふさがるように現れたのは、ブルススさんの代わりに親衛隊長になったサベールだった。

 

「ここは通さん!」

 

「王子様、ここは私めが引き受けますので、先にお進みください!

 でやぁあっぁぁ!」

 

 ブルススさんが大きな掛け声とともにサベールに突撃していく。

 サベールがブルススさんに押しのけられた事で空いた道を、僕達は通り抜けていく。

 巨神像の入り口を潜る所でドラ丸が立ち止まった。

 

「では、拙者もここで追っ手を抑えるでござる。

 後は予定通り、殿達に任せるでござるよ」

 

「じゃあ頼むよドラ丸」

 

「ありがとうございますドラ丸さん」

 

 追っ手をドラ丸に任せ、先に進むと赤い宝石のような石の付いた扉にたどりつく。

 クンタック君は首にかけていたペンダントを赤い石に向けて掲げると、それがカギとなって扉が開いた。

 そこから先は長々と続く階段。

 大して鍛えていない僕は途中でバテそうになってしまう。

 

「大丈夫ですか、ハジメさん」

 

「だ、大丈夫だから…。 帰ったら少し体を鍛えよう」

 

 のび太もここで同じようにバテていたので、自分の体力のなさが心配になる。

 道具に頼れば解決する問題ではあるが、頼りすぎるのは不味いだろうと今回の反省点として覚えておこう。

 

 残りの階段を気力で登り切ると巨神像の心臓部にたどり着く。

 そこにはハート形の石碑が置かれていて、これを回すことで巨神像を動かす動力になる。

 ただとても重いのでドラえもん達は全員掛かりで回していた。

 僕とクンタック君だけではとても動かないだろうが、そこはひみつ道具を用意してある。

 

 【ウルトラリング】は指輪型の道具で、これを嵌めるとすさまじい力を発揮するという道具だ。

 似たような道具に【スーパー手ぶくろ】【パワー手ぶくろ】などの力を強くする類似品はたくさんあったが、今回はつけやすい指輪型のウルトラリングを選んだ。

 

「それじゃあ回すよ」

 

「おねがいします」

 

 クンタック君に確認を取ってからウルトラリングをつけて石碑を動かすと、僕には大して重さを感じずに軽々と石碑は動いた。

 ある程度回すと石碑は自動で回り始めて、力を加える必要は直ぐに無くなった。

 車のエンジンのスターターみたいなものなのだろう。

 

 動力が回って動かす準備は整った。

 コントローラーはクンタック君の持つペンダントなので、後の操縦は彼に任せることにする。

 

 

 

 そこから先は特に何事もなく事件は解決に進んだ。

 復活させた古代兵器も動く巨神像が手当たり次第に叩き潰して相手の戦力を壊滅させた。

 最後の空飛ぶ船が船首にドリルをはやして突撃してきたのは見てて圧巻だったが、巨神像がすぐに叩き潰した。

 機械兵士にもドリルを装備させてみたくなる。

 

 兵器が全滅すれば勝敗は決して、巨神像が安置されていた場所も戦いが終わっていた。

 ダブランダーが逃げ出すのも知っていたので、古代兵器を全滅させてからどこでもドアで先回りをしてクンタック君が倒して決着を付けた。

 それで大魔境の一件は無事に解決することになった。

 

 

 

 

 

 



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この世界はジャンルがカオスすぎる(海底鬼岩城・太陽王伝説・ふしぎ風使い・竜の騎士)

原作登場キャラ

・ポセイドン
 海底鬼岩城に登場するアトランティスの防衛コンピュータ。 核ミサイルに相当する鬼角弾を打ち出すトリガーを握ってるが、海底火山の活動を敵の攻撃と勘違いする。 映画でもあまり性能が良くないと言われるほどのポンコツ。

・ティオ
 太陽王伝説に出てくるのび太そっくりの王子。 王子だけあって自尊心が高いのだが、空気が読めなさ過ぎて周囲から浮いてしまっている。 レディナの呪いで眠らされている母親の代わりに立派な王になろうとした結果の空回りなのだが、のび太達との交流でかなり性格がマシになった。

・レディナ
 太陽王伝説に出てくる敵役の魔女。 女の敵役はとても珍しい。 呪いを掛けたり相手の体を乗っ取ったりと、魔界大冒険でも活躍しそうな勢い。 戦いに負けると老婆の姿に代わって城を崩壊させた後はどうなったかわからない。

・フー子
 ふしぎ風使いで登場する台風の子供。 敵の操る怪物の一部だが、のび太と出会ってとても仲良し。 最後は敵の怪物と相打ちになって消えるのがとても泣ける最後。

・ウランダー
 ふしぎ風使いで登場するフー子の元となった怪物を作り出した呪術師。 幽霊なので実体がないからスネ夫に取り付いて操り様々な不思議な力を使う。 最後は黒幕の時間犯罪者に四次元ペットボトルで吸い込まれてどうなったかはわからない。

・恐竜人(地底人)
 竜の騎士で登場する地底で恐竜から進化した人種。 進化せずそのままの姿を残した恐竜達が地上へ出ないように管理している。 タイムマシンまで作っちゃう位の技術力はあるが、武装は中世の戦争を思わせるくらい古い。


 

 

 

 

 

 大魔境の一件が終わってからは、まずは容易に解決出来る事件を優先して終わらせていった。

 

 

 ポセイドン。

 遥か昔に栄え滅んだ海底人の国アトランティスに今も残っている防衛コンピューター。

 アトランティスは軍事国家として栄え多くの兵器を開発していたようだが、兵器実験の失敗によって国民は全滅し兵器とそれを操るポセイドンのみが残った。

 指示を出す人間がいなくなってもポセイドンは予め決められていた命令に従い、人がいなくなったアトランティスを守り続けた。

 

 それとは別に海底人の国ムー連邦が同じ時代から存在し今も栄えているが、動き続けるポセイドンの反撃を恐れて滅んだアトランティスに手を出そうとはしなかった。

 アトランティスには世界を滅ぼしかねない兵器がまだ残っており、ポセイドンがその引き金を握っていた。

 更にアトランティスの周りには強力なバリアーが張られていて、誰も近づく事すら出来なかった。

 ムー連邦はポセイドンを刺激しないように、海底の平和を守っていた。

 

 だがそうも言っていられなくなった。

 アトランティスの近くで海底火山が活動を始め、ポセイドンがそれを攻撃と認識して活動を始めた。

 更に悪いことに、ポセイドンの外敵への迎撃方法は地上兵器での核ミサイルに相当するもの。

 それがアトランティスのバリアーの外側にあるもの全てを滅ぼそうとする攻撃だから始末に負えない。

 ムー連邦の海底人達も何とかしようとしていたようだが、バリアーを越える手段が見つからずに手をこまねいて見ているしかなかった。

 

 

 

 

 

「投入した爆弾の起爆を確認。

 ポセイドンの停止確認よろしく」

 

「ポセイドンの破壊でアトランティスの兵器はすべて止まった?」

 

 ○『ピンポーン』

 

 ○×占いの○のマークが上がると緊張から解放されて、僕達はホッと安堵の溜息を出した。

 事前確認を何度も行って失敗の無い様に事を進めていたとはいえ、失敗すればとてつもない被害になると知っていたから最後まで気を抜くことが出来なかった。

 

「すぐにアトランティスの兵器の回収作業に入れ。 ムー連邦もすぐに動くだろうからあまり時間はないぞ」

 

「了解、会長」

 

 作戦部長に指示を出して待機していたロボット達をアトランティスに派遣する。

 動かなくなったアトランティスの兵器を回収するためだ。

 

 今のは海底鬼岩城の事件を解決するための作戦で、もうそれも終わり後片付けに取り掛かった所だ。

 

 

 海底鬼岩城の話は、ドラえもん達が海底にキャンプに行くと海底人に遭遇。

 そこでポセイドンの暴走を知り、核ミサイルの発射を阻止するために倒すのがおおよその話の流れだ。

 

 大魔境では犬人族と接触して助けたが、今回海底人達とは接触せずに直接的にポセイドンを倒すことで解決した。

 海底人に接触しなかったのは、ドラえもん達が最初に接触した時は歓迎されることなく捕らえられる事になったからだ。

 交流のない地上の人間と接触してしまったのなら、警戒をしてそうなるのは普通だろう。

 大魔境の時のように簡単に協力し合えるようになる方が珍しい。

 

 捕まった後にドラえもん達はその人徳で対話に成功し海底人とのアトランティス攻略に協力することになるが、僕には捕まることを覚悟の上で対話で解決しようとすることは出来そうにない。

 信用出来ない人達に捕まればひみつ道具を奪われる可能性があると思ったからだ。

 大魔境のクンタック君たちの場合は助ける必要があったのと外の世界と繋がりが無いから知られても広められることはないので問題なかったが、海底人の場合はそんなリスクの大きいことをしてまで直接接触する理由は特にない。

 なので海底人に接触することなくポセイドンを攻略することにした。

 

 と言っても攻略法自体は今の僕には容易だった。

 原作では鬼岩城に忍び込んで【水中バギー】がポセイドンの中に突っ込むことで破壊したが、僕らはタイムホールをポセイドンの中に直接つなげて爆弾を投げ込むことで倒した。

 ひみつ道具の中にはまともな威力の出る爆弾が無かったのでハツメイカーで作ることになったが、どの程度の威力が必要なのかは○×占いで確認した。

 更に何かの拍子にポセイドンが核ミサイルを発射しないか○×占いで随時確認しながら作戦を決行し、成功した。

 

 ポセイドンの破壊に成功した後はアトランティスの機械を可能な限りの回収することにした。

 核ミサイルなんてあっても困るが、ムー連邦の手に渡ってしまうのも危ないかもしれないと思ったからだ。

 それにそれ以外にも使えるモノがあるかもしれないし、殺傷能力のある武器はひみつ道具の中にはないので技術収集が目的でもある。

 

 この世界の事件がドラえもんの物語のように誰も死なない展開になればそれでいいが、実際に命の危険はたくさんあるし戦争規模になればひみつ道具では攻撃力が不足になりがちだ。

 殺傷能力のある武器で誰かを殺したいわけではないが、映画のように相手を傷つけずに倒せば済むような展開になるとは思えない。

 なのでひみつ道具とは違う威力のある武器の入手を考えていた。

 

 ハツメイカーでも爆弾は作れたのでアトランティスの武器は無くてもいいが、技術チートも目指してる僕としては別の所の技術というのも確保しておきたい。

 そういった理由もあってアトランティスに残った兵器を可能な限り回収しようとロボット達を遣わせた。

 アトランティスの異常におそらく気付くだろうムー連邦が調査に来るまでがタイムリミットだが…

 

「無事に終わってよかった」

 

「ああ、○×占いが成功を約束してくれていたとはいえ、一歩間違えば世紀末だからな」

 

「映画の要素としてなら問題ないけど、実際に核ミサイルが飛びかねないのは怖すぎる」

 

 ミサイルが飛ぶことは覚えていたが、核ミサイルだとは映画の再確認をするまで忘れていた。

 今回の事件の解決は簡単だったが、間違えればシャレにならない事態になることには違いなかった。

 今後の事件は解決難易度が更に上なのだから、先が思いやられる。

 

 

 

 作戦終了後、僕らは集まって結果報告と今後の事を話し合う会議を開いた。

 精神的に疲れている気もするが休むのは会議が終わってからだ。

 

「アトランティスの兵器の回収状況は?」

 

「ロボットを可能な限り投入したので、鬼岩城内のものであれば一日もあれば大よそ終わる予測です。

 ただし鬼岩城外やバリアーの外の鉄騎隊やバトルフィッシュは放置しています」

 

「まあ問題はないだろう。

 同じものが複数あっても意味はないし、危ない兵器の回収が出来れば後は技術収集に必要な分だけがあればいい」

 

「バリアーが消えてもムー連邦は警戒してすぐには動かないようだし、数日もすれば海底火山の噴火でアトランティスの痕跡も消える。

 そうすれば誰が何をしたかなんてわからないだろうし」

 

 作戦を決行したのはアトランティスが海底火山の噴火で消える数日前。

 映画ではポセイドン破壊の直後に噴火してすべてが消えてしまったので、数日の猶予をもって作戦を決行した。

 そのお陰で停止したアトランティスの兵器を回収し技術収集が出来るわけだが、ムー連邦の存在を警戒はしていた。

 アトランティスを守るバリアーが消えたことはすぐに気付くだろうから、こちらの作業が終わるまでに調査が来て鉢合わせになる懸念があった。

 

 だがまだ警戒しているのか調査に来ないようなので、ロボット達の回収作業は十分間に合う。

 終わった後に調査に来ても数日後にはすべて消えるので、それ以降の調査は出来ない訳だ。

 僕らの存在にたどり着くとは思えないが、関わらない以上痕跡は極力残したくない。

 

「これでようやく五件目か。

 まだ楽な方だとはいえ、今回は失敗が恐ろしかったから肝が冷えた」

 

「確かにそうだな。

 だけどまだ地球圏内の事件で、解決法も映画通りで通用するから簡単な方なんだよな」

 

 大魔境の一件が終わってから鬼岩城の件までに比較的に容易な方の事件を三つ解決している。

 今回は対処法が容易でも失敗時が恐ろしかったので、全員参加でタイムテレビのモニターを見ながら事件の行く末を見守っていた。

 それ以外の三つの事件は主に作戦部と実行部隊に大よそ任せられた。

 その三つの事件は、太陽王伝説、ふしぎ風使い、竜の騎士だ

 

 

 

 

 

 太陽王伝説。

 

 映画ではのび太がタイムホールを壊し異常を起こしたことで繋がったマヤナ国を救う物語だ。

 その国の王子ティオはのび太にそっくりで、立派な王になるためにのび太たちと交流を始めた。

 その後、のび太たちと協力して国の支配を狙う魔女レディナを倒すのが大よその話の流れだ。

 

 タイムホールの故障で繋がったのなら時間移動で行ける範囲だろうと、マヤナ国の存在する時間を調べた。

 ティオ王子のペットのポポルが地球上に存在しない謎生物のような気もするが、この世界の未知や秘境の数を考えたら別にいても可笑しくないと割り切れた。

 案の定過去に存在した国だったようで、ドラえもん達の代わりにこの国の危機を救うべく作戦を練ることになった。

 

 この国の問題は魔女レディナが国の支配を狙い、ティオ王子を狙うこととその母を呪いで眠らせ続けてることだ。

 映画ではドラえもん達との交流でティオは成長をするが、僕等ではまともに話を聞いてもらえるかわからない。

 

 ドラえもん達と交流する前のティオは、王子だけあって我が強く人に従うような性格ではない。

 その為あまり人の話を聞こうとせず自身の意に従わない者に敵意を向けることもあるので、向こうにとって不審者である僕達は力ずくでもないと話をすることも出来ないだろう。

 そして力ずくでは意固地になって話を聞こうともせず、交流による成長もあり得ない。

 

 ドラえもん達が話し合えるきっかけになったのは、のび太が自身にそっくりで驚いたことがきっかけだ。

 そこから交流を始める事でドラえもん達の人徳でティオは成長するが、僕等ではそのきっかけすらなく彼を成長させるような人徳もありそうにない。

 人の成長を意図的に導くのは身近な人間でなければ出来ないので、ティオ自身に接触することを諦める。

 ぶっちゃけ気難しい性格のティオを相手して、人としての成長に手を貸すのはややこしくてめんどくさかった。

 マヤナ国の危機の原因は魔女レディナの存在にあるので、そちらをさっさと対処することにした。

 

 魔女レディナの目的は魔術によりティオの体を乗っ取ることでマヤナ国を支配する事。

 そしてこれまでの行いでティオの母を呪いで眠らせ続ける罪を犯している。

 ならばレディナがティオを害する前に捕まえて国に突き出せばいいだけの話だった。

 

 問題はレディナが原理のわからない魔術を使うことだ。

 レディナの前に姿を現せば気づかない内に何らかの魔術を掛けられる懸念があった。

 なのでひみつ道具で姿を隠して、奇襲で一気に襲い掛かって捕らえる事にした。

 

 魔界大冒険でもないのに魔術を使えるという要素は気になるが、聞きだしても僕らに益のあるものになるとは限らないので詮索するのは諦めた。

 魔術による罠がレディナの周りに仕掛けられている可能性もあったが、そこは○×占いで安全確認。

 タマゴコピーミラーも人手不足の解消に非常に役に立つが、どんなことでも確実に正解を導き出せる○×占いがひみつ道具の中で一番役立っていた。

 

 対策を万全にしたらさっさと襲撃してレディナを捕らえてマヤナ国に突き出しておいた。

 そこで気になったことが、おそらくレディナは処刑されるだろうという事。

 この時代にちゃんとした裁判はないだろうし、王族に危害を加えたのなら死刑になる可能性が高いだろう。

 罪人とはいえ間接的に人を殺すことになったのがすこし後味が悪くなった。

 タイムテレビでその後を確認することは出来るが、見てはいない。

 

 ドラえもんは子供向けのアニメだ。

 映画とはいえ人の生き死にが出るようなことは殆ど無いし、後味が悪くなるような話はそんなにない。

 レディナも映画では最後はドラえもん達に負けて生死不明でどうなったかわからないが語られなかっただけだ。

 そんな映画の事件の中で誰かを殺すことになったのが、ドラえもんの話を汚すようで少し嫌だった。

 

 とはいえ僕にとっては現実なので、映画の中では描かれなかった後の出来事もこの先の事件で見る事になるだろう。

 現代社会に影響のない事件とはいえ、少しばかり考えさせられる事件になった。

 

 

 

 

 

 ふしぎ風使い。

 

 物語はのび太が台風の子供、フー子を見つけたことから始まる。

 仲良くなったフー子を遊ばせるためどこでもドアで広い草原に出たら、外界と全く交流の無い風の力を借りて生活する風の民の村に出た。

 そこでは風の民と争う嵐族が呪術師ウランダーの封印を解き、同じく封印された嵐の化身マフーガを復活させようとしていた。

 のび太と出会ったフー子はマフーガの封印された一部であり、復活の儀式で取り込まれてしまうがのび太の働きでマフーガから分離させられる。

 フー子を分離された分小さくなったマフーガは尚も猛威を振るうが、のび太を助けるために迎え撃ったフー子と相打ちになり共に消えて話は終わる。

 

 この事件の脅威は大災害を引き起こすマフーガの存在だが映画では復活に時間犯罪者の暗躍があった。

 この世界では時間犯罪者は存在しないが嵐族自体は存在しており、手順は違えど同じようにマフーガは復活するらしい。

 マフーガは台風の化身で放っておけば大災害になる事件だ。

 

 ただマフーガを生み出したのは呪術師ウランダーで、風の力を操る風の民の村は外界と繋がりの無い秘境だ。

 魔術だの呪術だの魔境だの秘境だのと、科学の発達した現代社会では珍しすぎる。

 それに対処したのが未来の科学の結晶であるドラえもんなんだから、考えてみると節操のない世界観である。

 そのうちドラえもんの映画とは関係のない脅威が地球を襲っても可笑しくない気がする。

 

 映画では呪術師ウランダーの封印が解けた時にフー子の卵は日本へ飛んでいった。

 フー子が日本までやってきた時に確保することに成功したが、マフーガ復活を阻止するためにも嵐族のいる風の村へは連れて行かないようにする。

 そもそも映画では偶然どこでもドアがつながった先がフー子の最初にいた場所というのは、物語の流れの上で仕方がないとはいえご都合主義の限度を超えていた。

 ともかく危険度が上がる要素であるフー子はこちらの本拠地で世話をし、その間にウランダーと嵐族を対処するために隊長達が風の民の村に向かった。

 

 ウランダーは復活したと言ったがそれは幽霊としてだ。

 幽霊の特性なのかウランダーは人や動物に乗り移ることが出来、映画でもスネ夫が取り憑かれて敵に回ることになる。

 風の民の村に向かう隊長達が取り憑かれるのも問題だが、より問題なのが取り憑かれた者の記憶をウランダーが見ることが出来る事だ。

 ひみつ道具という秘密を抱えている僕等にとってコピーが実質的に裏切らせられるのは非常に不味いことになる。

 前回の魔女レディナとは比べ物にならない危険度なので、有無言わさず問答無用で確実に退治することにした。

 既に幽霊なんだから殺すとか殺さないとかは気にならなかった。

 

 まず風の民の村にいったら【タイムベルト】でウランダー復活の時間に移動する。

 その時フー子ともう一個の卵も飛び出していくがそれは放置しておく。

 ウランダーの幽霊が現れた瞬間に【ウルトラストップウォッチ】で時間を止め近づいたら【透明マント】と【石ころ帽子】の併用で姿を隠して時間停止を解除する。

 その直後に映画で未来人がやったように【四次元ペットボトル】で吸い込んでウランダーを無力化した。

 四次元ペットボトルはドラえもんが使った描写がないが、それでもポケットから出てきた。

 

 ウランダーを無力化したら嵐族自体は大した脅威ではない。

 元の時間に戻ってフー子と一緒に飛び出した卵の回収に向かった。

 タマゴのある場所は映画でも出てたのですぐにわかったが、回収直後に卵が孵ってしまった。

 危険そうならウランダーと同じように四次元ペットボトルで吸い込もうと思ったが、フー子と同じように無邪気にじゃれついてきたので心配なさそうだ。

 映画ではあくどい感じの描写だったがウランダーに従っていたからだろう。

 最後に封印されているマフーガの玉さえ関わらなければフー子とも接触しても大丈夫だったと思うので、この台風の子もタイムホールでフー子と一緒の所へ送り出した。

 

 後の懸念はマフーガが封印されている最後の玉だが、復活させられるウランダーも無力化したし欠片のフー子たちも抑えたから放っておいてもマフーガが復活することはない。

 だがフー子たちの今後の予定は住みやすいだろう風の民の村に預けようと思っている。

 僕達で飼ってみたいと思わなくないが、まだまだやらなければならないことがあるので断念する。

 

 万一にマフーガの復活が無い様にマフーガの最後の玉はさっさと処分しておく。

 四次元ペットボトルに封じ込めたウランダーと一緒に太陽かブラックホールにでも【空飛ぶ荷札宇宙用】で送り込んで処分すれば問題ないだろう。

 この処分方法は別の映画からの流用だ。

 

 処分が終わった後にフー子たちに映画と同じようにぬいぐるみを着せてから風の民の村に預けた。

 最初はフー子達の正体を伝えて戸惑われたが、最後の封印を処分したので問題ないこととフー子達の無邪気な様子から引き受けてくれた。

 残りの嵐族がちょっかいをかけてくる可能性もあるが、大したことは出来ないだろう。

 

 最後に余談だがフー子の初出はこの映画ではなく原作漫画の短編で登場しているドラえもんのひみつ道具の【台風の卵】から生まれている。

 つまり持ってるんだよね、フー子になるひみつ道具の台風の卵。

 原作版と映画版のフー子を比べられるわけだが、それはまたの機会に…

 

 

 

 

 

 竜の騎士。

 

 【どこでもホール】という地底洞窟に繋がるひみつ道具で遊びに出掛けたのび太達だが、そこでスネ夫が行方不明になってしまい、探しに行こうとするがどこでもホールが壊れてしまう。

 わずかな手がかりを頼りに地底への洞窟を見つけ出すが、地底は絶滅したはずの恐竜と人のように進化した恐竜人の住む世界だった。

 恐竜人に保護されていたスネ夫と合流出来たが、そこでのび太が地上の侵略を匂わせる怪しげな会話を聞いてしまう。

 ドラえもん達は地底世界から逃げ出そうとするが捕まってしまい、船に乗せられて連れていかれたのは6500万年前の地球。

 恐竜人たちは地上から恐竜がいなくなった理由を調べるためのタイムマシンの船を開発していた。

 そこでドラえもん達と恐竜人達は巨大彗星の衝突による災害を目撃し、地上の恐竜たちが滅びる理由を知る。

 ドラえもん達は【ポップ地下室】で作った空間に生き残った恐竜達を避難させることにした。

 それが後の恐竜人たちの祖先となることを知った恐竜人達は、これが天命なのだとこれからも地上ではなく地底で暮らしていくことを誓った。

 

 この事件には明確な敵というものがいない。

 ドラえもん達は恐竜人達と一時的に衝突することになるが、恐竜人達が戦おうとしていたのは過去の地上の恐竜を滅ぼす要因だった。

 それ以前にドラえもんがいない以上、僕らが過去に行って恐竜を救わなければ恐竜人達も存在しないことになる。

 

 恐竜人達が自分たちで祖先の恐竜を地底世界に逃がす可能性もあるが、それでは本来生まれない筈の子孫が死ぬ筈の祖先を救うというややこしいタイムパラドックスになる。

 タイムマシンで祖先を救わなければ恐竜人達は存在しないが、最初に過去の恐竜を救う者がいなければタイムマシンを作る恐竜人が存在しないことになる。

 このややこしい矛盾が放っておいたらどうなるかがわからないので、とりあえずドラえもん達と同じように過去の恐竜達を地底世界に逃がそうと思っていた。

 ドラえもん達も恐竜人に会わなければ過去の恐竜を救うことはなかっただろうが、言い出したらきりの無い矛盾なのでもう考えないことにする。

 

 やるのは過去の恐竜達が生き残れる地底世界の環境作りだが、タイムマシンで過去に来た恐竜人たちと話をつけておかなくてはいけない。

 恐竜人達は地上の恐竜を絶滅させた存在と戦おうとしていたが、そうして絶滅を食い止める事で地上の恐竜を繁栄させようとしていた。

 それで現代の地上人を滅ぼすことを狙っていたかもしれないので、地上と争う可能性を無くすためにも話をしておかなきゃいけない。

 

 実行部隊長に恐竜人がタイムマシンでくる時間の少し前に行って恐竜人達を迎える準備をさせる。

 準備が終わった後に恐竜人達のタイムマシンの船が来ると、すぐこちらに気づいて敵意をあらわに包囲してきた。

 映画にちなんで相手にわかりやすいように【風雲ドラえもん城】を出していたのだが、彼らは恐竜を絶滅させた要因と戦いに来たようなのでこちらを疑うのは当然だし想定していたことだ。

 問答無用で襲い掛かってくれば無力化するために隠れて配置しておいた機械兵で戦うことになるかと思ったが、姿を見せていたのは隊長と護衛のドラ丸だけなので、捕らえられることになったが話の出来る機会はあるようだった。

 

 まず説明したのは自分達もタイムマシンで来たことと、恐竜人達の目的も大よそ把握していること。

 そして地上の恐竜の絶滅が巨大彗星の衝突であることを告げると、恐竜人達は当然困惑して信じようとしなかった。

 だがこの時すでに彗星は肉眼で見えるほど近づいてきているのを、その目で目撃して愕然としていた。

 何とか止める手立てを模索したようだが恐竜人達はそこまでの力は持っておらず、僕らにも協力を求められた。

 

 僕等なら巨大彗星をどうにかするくらいひみつ道具で出来ないこともないが、それをすることは出来ないと正直に答えた。

 恐竜人達はこの時代の恐竜を見捨てると言われて激高したが、落ち着かせて最後まで話を聞いてもらった。

 

 歴史を変えることは大きな矛盾を生む。

 もし僕ら地上人がこの時代の恐竜を救って地上で恐竜人が繁栄すれば、未来の地上人である僕等の存在は消えてしまい、僕等がいなくなれば恐竜を救ったという事実も消えるので地上の繁栄も当然無くなる。

 この終わらない事象の矛盾を説明すると、恐竜人達はどう答えたらいいのかわからなくて黙り込んだ。

 タイムマシンを作っておきながら歴史の改変の限界を想定していなかったらしい。

 

 流石に彼らも恐竜を救う代わりに存在を消してくれとは言えず、僕はそのまま黙って彼らはなんとかする方法を議論し続けた。

 議論はぎりぎりまで続いたが彗星は待ってくれず、地球に衝突して地球全体に及ぶ大災害となった。

 それを目にして恐竜人達はどうしようもなかったのだと認めたところで、僕は本来の目的を告げた。

 恐竜が生き残る地底世界作りだ。

 

 それが後に恐竜人達が聖地という場所になると教えると、彼らは進んで協力をしてくれた。

 そこからはドラえもん達がやったことと全く変わりない。

 災害で生き残った恐竜達をポップ地下室で作った地底に連れて行き、そこで生きるのに困らない環境を整えて暮らせるようにしただけ。

 

 自分たちの祖先の始まりを目撃した恐竜人達は、映画のドラえもん達のように僕等を神の使いと呼んだが、僕はそれを否定した。

 歴史の矛盾を作らない為とはいえ恐竜を見殺しにしたと言われたことが響いていて受け入れ辛く、あくまで恐竜人達が生まれなかったら歴史が変わるから手を貸したのだと答えた。

 歴史がそれほど大事かと聞かれたらそうだとしか言えないのだが、どうすることも出来ない生き物の大量絶滅を目撃したのは僕等も歯がゆい思いを残していた。

 

 自分たちの祖先の運命を受け入れた恐竜人達は、これからも地底で繁栄していくと話して元の時代に帰っていった。

 大よそ映画と同じ結果になったが、気持ちだけはドラえもん達と違いすっきりしない結果になった。

 

 

 

 

 

 報告書を確認したら、少々憂鬱な気分を抱えてコピー達を見渡す。

 皆も憂鬱そうな顔をしており、直接動いていた隊長は特に顕著だった。

 

「映画みたいにすっきりした終わり方じゃないな」

 

「現実だからな。 見たくないところまで見えてしまうのは仕方ない」

 

「鬼岩城のは敵が機械だけだったから、気分的にはむしろ楽な方だったんだな」

 

「海底人にも接触する必要はなかったから、人間相手はめんどくさいってことだな」

 

「だからボッチなんだよ」

 

「ボッチって………言われてもいいや」

 

 誰も彼も憂鬱な気分で意気消沈してしまっている。

 オリジナルの僕もそうなのだが、直接関わっていた隊長と統合すればもっと気は重くなるというのに… 

 

「隊長は大丈夫か?」

 

「生まれてきてごめんなさい」

 

「ネタに走れるだけの余裕はあるか」

 

「気の重さが一周して少しハイになってるよ。

 まだまだやることがあるってのに落ち込んでいられないって」

 

 空元気を見せるくらいだが、客観的に見るとやることが空回りしそうに見える。

 誰かが見てないと危ないだろうと思うあたり、コピーとはいえ仲間がいることはいいことだ。

 それでもコピーでは補えないものもあるので、人恋しい気持ちになる。

 

「この会議が終わったら一度統合するぞ」

 

「いやまだいいだろう。 もうちょっとくらい僕に頑張らせてくれ」

 

「僕に頑張らせてくれというあたり、大きく負担がかかっている証拠だ隊長。

 コピーでも僕であり仲間なんだから、負担を一人に押し付けるわけにはいかない」

 

「初めに決めていたことだろ『皆は一人の為に、一人は皆の為に』って」

 

「いや、そんなカッコイイ誓いはしてない。

 一人に負担を押し付けたら裏切られそうだからって理由だったはずだ」

 

「自分を裏切らない忠誠心なんてありっこないからね」

 

「自分が一番信用できん」

 

「でも頼れるのが自分だけという矛盾」

 

「拙者もいるでござるよ!」

 

 自分達だけで喋っていたところに割り込むドラ丸。

 

「どうにも殿達が自分で自分を貶めてるように聞こえたので、割り込ませてもらったでござるよ。

 従者としては僭越かもしれないが言わせてもらうでござる。

 殿達のやっていることは誰かを救うことでござる。

 もっと自信をもっていいんでござるよ!」

 

 ドラ丸は僕らが落ち込んでいるのを見て励まそうとしてるらしい。

 僕等は話し出したら延々と続くし、自己嫌悪し出したら延々と負のループが続きそうな気もする。

 現にそうなりかかってたのでドラ丸のストッパーが利いたことは事実だ。

 

「あー…うん、自信を持てと言われて持てるとは思えないけど、止めてくれたことは助かったよ。

 負のループで自縄自縛に陥りそうだった」

 

「喋りだしたら僕ら止まらないから、自分で落ち込みだしても止まらないのか」

 

「やっぱり僕ら以外の誰かが必要なわけか。

 そういう意味でドラ丸を作ってたのは正解だな」

 

「助かったよドラ丸」

 

「いえ、殿のご迷惑でなかったのであれば幸いでござる」

 

 サムライの設定にしたとはいえ、こういう時少し硬すぎる気がする。

 まあそれも一種の個性なんだと思えば面白いものだ。

 ドラ丸のおかげで沈んだ空気もだいぶ楽になってきたし。

 

「気分も落ち着いてきたところで会議に戻ろう。

 これまでの件で思い通りの結果になっても、気分の良い結果になるとは言い切れなくなった。

 それを心して今後の事件に対応していこう」

 

 気持ちを切り替えるように告げた僕の言葉にコピー達とドラ丸が頷く。 

 

「それでは次の予定の作戦会議に入る。

 これまでとは違って大きな戦闘に参加する事になるだろう。

 議題の事件は宇宙小戦争(リトルスターウォーズ)だ」

 

 

 

 

 



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ちょっと戦争行ってくる(宇宙小戦争)

 

 

 

 

 

「ようこそ地球へ、パピ大統領」

 

 出迎えたのはこの星の住民だった。

 

 僕の名はパピ、ピリカ星の大統領だった。

 ギルモア将軍の反乱により星を脱出することになり、宇宙を彷徨い歩いてたどり着いた惑星。

 この星は僕等よりはるかに体の大きい民族の住む惑星で、目の前に現れた人も見上げるほど大きかった。

 

 だがこの星はピリカとは何の繋がりの無い未知の惑星。

 そんな星で僕を知る者はいる筈もなく、出迎えなどありえなかった。

 既にこの星にまでギルモアの手が回って、僕を捕らえに来たのかと警戒した。

 

「あなたは何者です? なぜこの星の住人が僕の名を知っているのですか?」

 

「その質問にはちゃんと答えようと思いますが場所を変えましょう。

 あなたが来た時のために作った屋敷があるので、そちらへご案内します。

 このままだと話しづらいと思いますので、少々お待ちを…」

 

 彼は小さなカバンの中から懐中電灯のようなものを取り出して自分に光を当てる。

 すると彼の体はどんどん小さくなって僕と同じくらいの大きさになった。

 更に彼は小さなカバンの中に入るとは思えない大きなドアを取り出した。

 こんな不思議な道具はピリカでも見たことがない。

 

 素性は知れないがギルモアの手のものではないと思った。

 奴なら彼のような礼節を弁えた者を用意するはずがない。

 直感ではあるが彼は信じてもいいと思う。

 

「ではついてきてください」

 

「わかりました」

 

 取り出したドアを開けると、その扉の向こうは別の空間に繋がっていた。

 ワープ装置の一種だろうか。 そう考えながらドアを潜っていく彼の後についていく。

 困惑しながらも不安感は不思議と感じなかった。

 

 

 

 

 

 パピ君……いや、大統領なんだからパピさんがいいか。

 彼は10歳らしいがどう呼んだらいいのかちょっと扱いに困る。

 とりあえず名前の後に大統領とつければとりあえずしっくりくるし、このままでいこう。

 

 パピ大統領を連れてきた先はミニチュアサイズの豪邸。

 【インスタントミニチュア製造カメラ】で作ったもので、カメラで写したものと同じ機能を備えたミニチュアを作るひみつ道具だ。

 大きくすればそのまま本物と同じように使う事も出来るモノを生み出す道具である。

 

 今回はパピ大統領の為なのでそのままのサイズで使用しているが、豪邸だけあって使用人がいないと管理出来ない。

 とりあえずパピ大統領がいる間だけしか使う予定はないので、容姿を使用人風に取り繕ったロボットを用意して管理させた。

 

 僕は屋敷の応接室にパピ大統領を案内した。

 部屋ではロボットの使用人が既に茶菓子と紅茶を用意して、迎える準備を終わらせていた。

 

 ちなみにメイドロボットはいない。

 ロボットの使用人は体格は人型でも、顔の造形までは流石に人らしく取り繕っていない。

 完全なロボット顔のメイドなんて見るに堪えないので、執事服でもない安物のスーツで統一させている。

 余裕があったら時間を掛けて完璧なメイドロボを作りたかったが、作り出したらたぶん妥協を許さないくらいに力を入れすぎるだろうと、断腸の思いで会議で却下することになった。

 

 茶菓子が用意してある机の前にお互い座ってから話を始める。

 

「改めてようこそ地球へ。

 僕の名前は中野ハジメ。 所属とか役職なんて名乗れるものはないが、この星で起こるいくつかの問題に対処しています。

 パピ大統領の保護もその対処の一つだと思ってください」

 

「ご存知と思いますが僕の名前はパピ。

 ピリカ星の大統領をしていましたが、今はただの逃亡者です。

 公式的な訪問ではないので、僕の事はただパピと呼んでください」

 

「では………パピ君と呼んでいいですか?

 あなたが大統領とはいえ10歳という事は知っているので、パピさんという呼び方は僕に合わなくて…」

 

「いえ、それで構いません。 それに慣れてないのでしたら敬語も構いなく」

 

 僕が敬語を話す事を慣れてないのにすぐ気づいた。

 流石10歳でも大統領になるだけの事はある。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて…

 僕がパピ君を保護したのは、ある予知によって君の大体の事を知っていたからなんだ」

 

「予知ですか? 僕の星にも未来を予知する力を持った人はいますが、大した精度ではありません。

 ハジメさんはすごい能力を持っておられるのですね」

 

「いや、そういうわけじゃないんだけどね」

 

 前世の知識と説明するのはかなりめんどくさいから予知で通しているが、予知能力が実際にあるわけじゃないからな。

 ピリカ星の人は超能力を持ってる人がいる。

 パピ君も劇中では催眠術やなんかの能力を使っている描写があった。

 

「ピリカ星の人は超能力を持ってる人がいるみたいですけど、この星の人間は公では使える人はいないという事になってる。

 僕も予知した未来を知ってるだけで予知能力そのものはないんだ。

 念力くらいなら多少は使えるんだけどね」

 

 僕は念力で茶菓子を浮かせて手を使わず食べる。

 茶菓子をもう一個念力で持ち上げてパピ君に差し出した。

 

 こんな能力を持っているのはひみつ道具【ESP訓練ボックス】で訓練をしたからだ。

 念力、透視、瞬間移動が使えるようになるというひみつ道具なのだが、毎日三時間三年訓練を続けないと一人前にならないという欠点がある。

 かなり忍耐強さが要求される訓練だが、タマゴコピーミラーの影分身理論で思いっきり訓練時間を短縮させることに成功した。

 そこそこ使えるレベルまで習得しているが一人前なのかはわからないので、能力向上の為に訓練をする役割のコピーを作って続けてさせている。

 どこまで能力が伸びるのか楽しみではあるが、どれもひみつ道具で代用が利く能力なので必須じゃないから優先度は低い。

 

「御一つどうぞ。 この星のお菓子です」

 

「いただきます」

 

 パピ君は念力で差し出した茶菓子を受け取って食べる。

 

「あ、おいしい」

 

「口に合ってよかった。

 話を続けるけど、予知によってわかってることはパピ君の大よその事情から敵のこれからの主な動き。

 それからパピ君が星を出た後の味方の状況と、この後でギルモアの支配を終わらせる解決への流れです」

 

「つまりピリカの民をギルモア将軍から救う事が出来るのですか。

 それが出来るのなら是非ともその方法を教えていただきたい。

 今の僕に出来る事はたいしてありませんが、国を救った暁には必ずお礼を約束します」

 

 深々と頭を下げて嘆願するパピ君。

 もともと協力するつもりの僕は是非もない。

 

「もちろん協力させてもらうよ。 そのつもりでパピ君に接触したのだから。

 じゃあ予知からわかる大よその現状と今後の事を説明します。

 予知との違いが無いかも確認するから差異があったら教えてほしい」

 

「ええ、もちろん」

 

 まず現状の確認。

 パピ君はギルモアのクーデターで味方にロケットに乗せられて星を脱出することになった。

 このあたりの描写は大した情報がないので詳しくは知らないが間違っていないことは確認出来た。

 

 続いてピリカ星の予知による現状。

 ギルモアは星を支配下に置いたがパピ君を捜索しており、そう遠くない内にドラコルル長官の率いるピシア(PCIA)の戦闘艦がこの星にやってくること。

 ピリカ星ではギルモアの圧政に対抗するためのレジスタンスや自由同盟が結成されつつあることをパピ君に教えた。

 

「皆が無事なのはうれしいが、やはりドラコルルは僕を追ってきていたか。

 奴は僕を見つけるならどんな卑劣な手段を使ってでも探し出そうとするでしょう。

 このままではこの星の方々にご迷惑をかけてしまう」

 

「ドラコルルという奴がそういう人間なのは情報にありますが、直接的な民衆への被害はそこまで考えなくてもいいと思う。

 僕等とピリカ星の人のサイズ差はそれだけで大きな戦力差だから。

 むしろ下手な騒動を起こして戦闘艦を撃墜されてしまう可能性もあるけど、それはそれで問題なんだ」

 

「確かにこの星の人たちは僕等に比べて大きいですが、そんな生易しい相手ではないのです。

 簡単に倒せるようなやつではないのですが、問題とはどういう?」

 

「僕はこの星では特殊な方で、一般には宇宙への進出技術が発展途上の段階なんだ。

 本来は宇宙人の存在が民衆には明かされてないから、宇宙人の存在が広まるだけで大騒動になる。

 大事(おおごと)になる前に対処するのが僕の役目であり目的でもある」

 

「ではまだワープ航行も確立していないのですか?」

 

「ええ、まだ有人では衛星の月までしか到達してない事になっているんです。

 ただ一部の表社会とは関わらない存在が、例外的に発達した技術を持っている事がこの星にはいくつかあります。

 僕もその一例ですね」

 

 この星の一般の技術レベルは前世とほとんど変わらない。

 ただ地底人とか海底人とか天上人とかが、一部ひみつ道具に匹敵する技術を持ってるもんだから、どこの勢力も宇宙への進出技術があっても不思議ではない。

 天上人に至っては当の昔に宇宙人の受け入れをしてるくらいだし…

 

「なるほど、あなたはこの星では裏社会の人間なんですね」

 

「裏社会ってのはちょっと適切じゃないかな。

 僕は協力者はいるけど基本的には個人レベルで動き回ってるんだ。

 予知を元に対処しているのは全てこの星で公になっていない事件ばかりで、世間どころか国の記録にも残らない。

 表社会とも裏社会とも関わらず、誰にも知られずに事態を鎮静化し解決することが目的だ。

 どの事件も現代社会とは相いれないものばかりだからね」

 

「『どの事件も』という事は、他にも何か予知で動いていることがあるんですか」

 

「まあね。 どの件も厄介で一筋縄ではいかない物ばかりだよ。

 時間があれば話してもいいけど、今はこれからの僕らの動きを話し合おう。

 作戦は既に練ってあるから問題がないか確認してほしい」

 

「わかりました。

 ですがその前に、一つだけ聞いておきたいことがあります。

 なぜ、ハジメさんはその予知を解決しようとするのです?

 あなたが特殊な事情で誰かに頼れないのはわかりましたが、あなたがしなければいけない事なのですか?」

 

「………」

 

 映画の全ての事件はドラえもん達が解決するはずの事件だ。

 ドラえもん達がいない以上、知識を元の対処出来るのは僕だけだ。

 放っておけば世界が大変なことになるのはわかりきっていること。

 

 だけど世界規模の影響の出る事件が起きたとしても、ドラえもんの事件と関わりがないのなら僕は特に手を出さないだろう。

 世界は平和であってほしいと思うが、直接手を出して平和にしようと思うほど僕は博愛主義じゃない。

 ひみつ道具の存在を世間に広めるつもりはないので、目の前で起こった事でもなければ秘密を守る事を優先する。

 

 ドラえもんの事件に関して手を出すのは僕にしか対処できないという理由もある。

 それ以上にドラえもん達の代わりが出来る事が割とうれしいと思っているみたいだ。

 光栄だと思うのとはちょっと違う気がするが、ドラえもん達の代役を出来るのは誇りに思える気がする。

 少なくとも四次元ポケットを持っていることからこれが僕の役目なんだと思うし、めんどくさい事件でもドラえもんの事件には前向きに向き合えるからだ。

 

「僕は面倒臭いことは嫌いだし、世界を左右するような事件に責任を持ちたいと思わない。

 けどこれらの予知に関する事件に関してだけは、自分の手で解決したいと思ってる。

 それが僕の役目だと思ってるし、自慢出来る代役だからかな」

 

「代役?」

 

「そう、代役」

 

 

 

 

 

 それから数日パピ君に僕が計画している作戦を説明し、用意してあるロボットによる無人兵器による戦力をみてもらった。

 実際に戦っているところを見てもらったわけじゃないが、用意した戦力は映画でドラえもん達が改造したラジコン戦車と同じように天才ヘルメットを使って製作している。

 僕等の場合はより戦闘を想定した設計の上に、無人のロボットであることに加えてフエルミラーで量産してある。

 数機の改造ラジコン戦車で軍団に戦いを挑んだドラえもん達よりずっと充実した戦力を用意した。

 

 一個作れば後はフエルミラーで数はいくらでも用意出来たので僕から見たら大したことはないのだが、パピ君を驚かすことが出来たので十分通用する戦力だと思う。

 むしろ用意した戦力が過剰過ぎたのか、少しばかりパピ君を警戒させる結果になってしまった。

 味方になるとはいえ、ピリカ星で別の星の兵器が暴れるのは大統領としてはよろしくない印象らしい。

 数では無くて性能重視の精鋭部隊を作ればよかったか。

 

 そんなちょっとした失敗もあったが、ついにピシアがパピ君を探しに地球にやってきたのを監視していた仲間が確認したと連絡があった。

 彼らには地球の人に逆に見つけられない内にさっさと帰ってもらおうと思っている。

 コピーロボットを使いパピ君に変身させて身代わりして、ワザと捕まらせることで地球からさっさとピリカ星に帰ってもらおうという作戦だ。

 

 すぐ実行に移そうとしたがパピ君から少し作戦の変更を頼まれた。

 ピシアのドラコルル長官は非常に頭の切れる男で、身代わりをすぐに捕まらせては逆に怪しまれるかもしれない。

 ある程度痕跡を残しながら時間を掛けて逃げ回り、相手が自分で気づくように誘導することでこちらの作戦を読まれないように念を入れた。

 

 それから更に数日パピ君のコピーロボットに指示を出して、痕跡を残しながら人気の少ない野山を移動させ続けた。

 街中でピシアの戦闘艦に動き回られるのも困るので、この星の住民を巻き込まないように人気の少ない場所を移動している、と思わせるように行動した。

 そうすればピシアも人目につかない場所まで追いかけてくると考えた。

 

 あまり早く捕まるのも怪しまれるかと一時的にどこでもドアでこちらに戻したりして姿をくらませたり、本物のパピ君が野山の動物を催眠術で操ってコピーロボットを載せて距離を稼がせたりした。

 流石というかピシアはそんな撹乱をものともせず、ワザと痕跡を残さなくても着実に逃走するコピーロボットを追い詰めていき、パピ君の大きさでは乗り越えられない岩壁に追い詰められた。

 

『ついに追い詰めたぞ、パピ』

 

『ドラコルル…。 どうやらここまでのようだ』

 

 タイムテレビの向こうではコピーロボットがパピ君を演じている。

 対面しているドラコルルもコピーロボットだと全然気づいてないようだ。

 しかし…

 

「流石に捕まっちゃったか」

 

「悔しいですがドラコルルに称賛の言葉を贈るしかないようです」

 

 捕まるのは当初の予定だったが、途中から僕とパピ君はどこまで逃げられるか鬼ごっこのようにコピーロボットに指示を出し続けて全力で逃走させていた。

 どこでもドアによる移動はルール違反みたいなものなので極力は控えたが、タイムテレビを多用した地形探査による逃走経路の調査に野山の動物を誘導して乗り物にする移動手段。

 その場にある物のみを使った逃走劇ではあるが、全力でコピーロボットの逃走をサポートし続けた。

 

 だがさすがは本職の軍人なだけはある。

 数ある逃走経路も予測されていたのか先回りをされ、乗り物にしていた野山の動物も早い段階で気づかれて近辺から追い立てられて入手し辛くなった。

 後は逃走経路の少ない方向へ次第に誘導されて負けてしまった。

 

 現状身の危険がないからか、僕はともかくパピ君まで遊びとして熱が入りすぎてしまった。

 後はコピーロボットが身代わりだと気づかれずに、そのままピリカ星に戻ってくれるのを祈るだけだ。

 気づかれたら僕等であの戦闘艦を落とすしかなくなる。

 今後の作戦と言っても僕等の無人兵器の力押しが主な内容なので、この場で倒す事になっても何も問題はない。

 

「どうやらドラコルルはロボットである事に気づかないようだ」

 

「記憶も容姿も完全にコピーしてるからね。

 よっぽど詳しく検査しないとわからないよ」

 

 コピーロボットのパピ君が収容されると、戦闘艦はすぐに宇宙へと飛び立っていった。

 戻ってくる様子もなく、どうやら完全に騙す事が出来たらしい。

 

「では僕等も行きましょうか」

 

「待ってください、確かロコロコが僕を追ってこの星へ来てますよね。

 迎えに行ったドラ丸さんも戻ってきていません」

 

「そういえば遅いなドラ丸」

 

「ハジメさん、見てください」

 

「ん?」

 

 ピシアの戦闘艦が飛び立った後に飛び回る小さな影がタイムテレビに映った。

 拡大をしてみると大きな耳で空を飛ぶ犬、ロコロコの姿があった。

 

『はるばる宇宙を駆けずり回りようやくたどり着いた星で大統領にお会いできると思ったのにピシアに先を越されようとは。 僕は何てノロマで愚図で落ちこぼれな犬なんだ。 これでは大統領の愛犬失格いや駄犬です。 こんなことなら朝見かけた地球の犬が食べていたドッグフードの食べかけなんかこっそり食べようとするんじゃなった。 あのおいしいドッグフードの誘惑に負けさえしなければ僕は大統領に感動の再会をすることが出来たというのに。 だけどあのドッグフードの匂いの誘惑には抗うのはとても僕には出来そうになかった。 大統領を追いかけるのに三食も抜いていたのが食欲に抗う力を奪っていたのだ。 あの時は腹ペコで何か食べなければ大統領の下までたどり着くことが出来ないと僕は考えた。 僕は悩んだが戦いは食べる事から始まるとお父さんの言葉を思い出し断腸の思いで僕はこの星のドッグフードをおいしく食べることにした。 断腸の思いで食べたドッグフードはお腹が断腸どころか爆発するほどおいしかった。この美味しさで大統領に少しでも早くお会いするのだと地球のドッグフードに誓ったのにこんなことになるなんて~!』

 

『お願いだから話を聞いてほしいでござる…』

 

 マシンガンのようなおしゃべりを泣きながら語り続けるロコロコの後から、少しぐったりとした様子のドラ丸がついてきた。

 この様子では何度か呼びかけても話を聞いてもらえずにずっと追いかけてきたといったところか。

 

「すいません、ロコロコはとてもいい愛犬なのですが、おしゃべりがちょっと…いえ少し…いえやっぱりかなり酷くて。

 話し始めるとちゃんと止めないとこちらの話を聞いてくれないほどなのです」

 

「知っていたけど、これはすごいな。 見てる分には面白いかなと思ってたんだけど…」

 

 ドラ丸の様子から相手をするのはとても大変そうだ。

 

 

 

 

 

 ドラ丸とロコロコを迎えに行った後、直ぐにピリカ星に出発した。

 ピリカ星に行く宇宙船はパピ君が乗ってきたロケットで、そっちの方が【宇宙救命ボート】よりは操作性が圧倒的に上だし、今のところハツメイカーでも宇宙船は製作していない。

 大きいだけあって時間がかかりそうなこともあったが、今後の事件には宇宙が関わる事も多い。

 そこで他の星の宇宙船の技術を学ぶことで自分でも理解出来る宇宙船を製作するつもりだった。

 今回の一件でピリカ星の宇宙船を手に入れられないかと考えている。

 

 外宇宙に出るのに○×占いでいろいろ安全確認しているが、実際に行くのは初めてなので少し緊張している。

 確認したらタイムテレビ同士ならピリカと地球の距離でも連絡が取りあえるらしい。

 宇宙に出てから後方支援の仲間と通信も試して成功している。

 

 今は宇宙船がワープ中なので超空間の揺らぎがタイムテレビの信号を遮るので流石に連絡は取りあえないが、ワープが終わったら改めて確認のために地球と連絡を取り合う予定だ。

 

 現在この宇宙船には僕とドラ丸、パピ君とロコロコが乗っている。

 あの後二人と合流したらすぐさま宇宙船に乗ってピリカ星に向かったわけだが、現在パピ君とロコロコの感動の再会をしている最中だ。

 もちろんロコロコは先ほど以上のマシンガントークを連発し続けている。

 

「大統領大統領大統領ご無事でご無事でほんとにほんとによかった~。 ロコロコはもうだめなのかと諦めかけてしまいました。 僕は愛犬失格だと深く猛省している。 ですがこの喜びをお伝えすることは愛犬失格でもやめる事の出来ないピリカの犬の(さが)なのです。 出来る事ならもっと早くこうして大統領にお会いしたかったのですがここまでの道のりはまさに苦難の連続。 襲い掛かる黒い巨鳥の猛襲甘美な香りの誘惑なんだかよくわからない青い狸の妨害。 その他にも数多の苦難が大統領への道を遮りあわやピシアに先を越されてしまったと思いきやこうして難を逃れて大統領に御会い出来たことはもはや神の思し召し。 僕はこれから三食食べる前に神に感謝の祈りを捧げようと「ロコロコ少し黙りなさい」はい」

 

「拙者狸じゃないでござる! この立派な猫耳とちょん髷が目に入らぬでござるか!」

 

 猫耳とちょん髷があってもドラえもんの容姿は一般にタヌキに見えるらしい。

 

「まあ落ち着け。 ドラ丸の事は気づいていたみたいだけど、急いでたから相手にされてなかったという事か。

 ピシアがさっさと帰ってくれたからよかったが、ロコロコと追いかけてきたドラ丸を見られなくてよかった」

 

「申し訳ありません、ロコロコが迷惑をかけてしまって」

 

「そんな! 大統領が謝ることはありません。 僕がそこの狸さんの話を聞いていればよかっただけなのです。 僕も謝罪と感謝の言葉を述べさせてください。 大統領を保護してくれた上に僕まで迎え入れてくれて感謝の言葉もありません。 感謝の言葉を言いたいのに言葉が出てこないなんて僕は何て無知な犬なんでしょう。 言葉に出来ないのならこの気持ちを体で表現するしか「ロコロコ、おすわり」ワン!」

 

 パピ君が命じるとロコロコはお座りをして喋るのをやめる。

 愛犬と言ってるだけあってパピ君にちゃんと躾けられているようだ。

 

「重ねて申し訳ありません。 ロコロコは喋り始めると延々と話し続けて止まらないんです。

 僕も躾け直そうとしたのですがこればっかりは治らなくて。

 これが無ければとても優秀なんですが…」

 

「又聞きでは面白い犬だなと思ったけど、実際聞くとうっとうしいね」

 

 率直な感想を述べる。

 面白い犬だとは思うけど、話を聞いてたらキリがないのはよくわかった。

 よく内容も脱線するみたいだし、あまりまともに相手したくない。

 

「ピリカ星についたら自由同盟の本部に向かいます。

 場所はわかってるね、ロコロコ」

 

「はい大領領。 大統領をそこへお連れするのが僕の役目でありました。 自由同盟はギルモア将軍の独裁に抗うために結成されピリカ星の地下に支部を小惑星帯に本部を置いて反撃の時を窺っていました。 戦力を整え後は大統領を待つだけとお迎えに上がったのです」

 

 自由同盟はピリカ星を現在支配している、ギルモアに対抗するために作られた組織だ。

 ロコロコの案内で僕等はパピ君の味方である自由同盟の基地に向かおうとしている。

 

「それだけど、ギルモアには僕の身代わりを捕らえさせている。

 僕が実際に捕まってない事は今後の戦いを有利に運ぶ事の出来るアドバンテージだ。

 民衆を騙す事になってしまうが、時が来るまで僕の事はギルモアに捕まっていることにしておきたい」

 

「わかりました大統領。 大統領の事はたとえ口が裂けても喋りませんとも。 かつて大統領は言いました。 僕は少しお喋りが過ぎると言われ僕はハッとなってどうするべきか考えた。 僕は口に鍵があるんだと思いこむ事でカギをかける事にしました。 

それ以来僕はとっても無口になって喋る時はいつもカギを開けてから喋る事を意識し喋らない時はいつもカギを掛けるように心がけました。 そう僕の口には頑丈なカギがかかっているんです。 ですから僕の口はとっても堅いんです。

ね安心したでしょう?」

 

 全然安心できない。

 パピ君もロコロコを見ながら苦笑いで困った顔をしている。

 

 パピ君の存在は捕まっていると思わせておいて、効果的なタイミングで自由の身である事を明らかにしようと思っている。

 なので自由同盟に行ってもパピ君の存在は一部の人間だけに知らせてあとは伏せておくつもりだ。

 

 だがこのロコロコを見ているとすぐにばれてしまいそうで心配になる。

 

「パピ君、ロコロコの事はしっかり見ておいてほしい」

 

「ロコロコはお喋りですが本当に喋ってはいけないことは喋らない筈です。

 これでも大統領の愛犬として重要機密を漏らさないようにすることは弁えています。

 関係のないことであればいろいろ喋るので尋問する側にしたら大変でしょう」

 

「確かにそれなら逆に聞き出すのに苦労しそうだ」

 

 余計なことは喋っても喋ってはいけないことは喋らないお喋りなんて、ある意味口の堅いやつより口が堅いかもしれない。

 もし僕が尋問官でもロコロコから話を聞き出すなんてやりたくないな。

 

 

 

 ワープ中の間にロコロコに今後の主な作戦を説明したが、それが終わると殆どロコロコのトークショーだった。

 ロコロコはパピ君に会えたことがうれしいのか興奮しっぱなしでずっとお喋りと続けていた。

 パピ君もこちらが話したいことが無ければ止めることはせず、ちゃんと内容を聞いているのか聞き流しているのかはわからないがロコロコのお喋りにずっと付き合っていた。

 流石は飼い主だけあると思うが、お喋りに付き合うからお喋りが治らないのではないかと思った。

 思っただけで口には出すことはなかった。

 お喋りを聞き続けるのにうんざりして僕とドラ丸はその場を早々に立ち去り、ワープを終えるまで部屋で休んでいた。

 

 ワープが終わり超空間を抜けたのがわかると船のブリッジに向かった。

 パピ君達もそこにいて、眼前に見えるピリカ星を眺めていた。

 

「ようやく戻ってこれた。 ハジメさん、あれが僕等の星ピリカ星です」

 

 戻ってこれたことに感慨を感じながら星を紹介するパピ君。

 ピリカ星は土星のように星の周りに大きな輪っかが広がっている。

 それらは小さな星の集まりで、その中に自由同盟の本拠地が隠されている。

 

 ロコロコの操縦で僕等の乗ってるロケットは自由同盟の本部のある小惑星に無事(・・)に到着した。

 

「(映画と違い敵の無人戦闘機に襲われることもなかったか)」

 

 途中で敵との戦闘を想定していたが徒労に終わったようだ。

 

 自由同盟本部に入ると最初にロコロコが前に出てもらい僕とドラ丸の紹介をしてもらう。

 パピ君はギルモアに存在を知られないために姿が見せられないので、僕の用意した透明マントで隠れている。

 

 味方であると紹介されたら自由同盟の隊員にこの本部の司令室に案内された。

 自由同盟のリーダーで結成者のゲンブ、元治安大臣でパピ君とも顔見知りだ。

 

「ようこそ自由同盟へ地球の方、そしてロコロコよく戻ったな。

 大統領のことは聞いている。 間に合わなかったようだな」

 

「え、あ、その何と申しましょうかハイ」

 

「ん、どうしたロコロコ」

 

「なんでもありません!」

 

 パピ君の事を聞かれて少しうろたえるロコロコ。

 少々怪しいが口を滑らせるほど迂闊ではないらしい。

 

「ハジメさん、ゲンブには僕の事を話します」

 

「わかった、まずは誰にも聞かれてないか確認する」

 

「お願いします」

 

 透明マントで隠れながら傍にいる僕にだけ聞こえるように小声で話してくるパピ君。

 自由同盟のリーダーならパピ君のことは伝えておいた方が話が早い。

 

「ゲンブさん、この司令室はどこかに会話が聞かれているという事はないですか?」

 

「む、それはないはずだ。

 仮にもここは自由同盟の司令室。 ここでの会話が漏れるようでは既に敵の手が伸びてきているはずだ」

 

 念の為○×占いで確認をしたいと思ったが、それでは信用してないと堂々と言っているようなものなので諦める。

 

「出来るだけ内密に伝えたいことがあるので、話を聞かれないようにしてもらえませんか?」

 

「構いませんが、この基地の人間にもですか?」

 

 ゲンブさんはここまで案内してくれた隊員の人と顔を見合わせる。

 隊員の人にも話を聞かせない方がよいのかという考えが見て取れる。

 ここで彼を追い出すのも印象が悪いのではなかと思いどうしようか少し悩んでいると、パピ君が先に行動を起こした。

 

「いずれ解ることだ、一人くらい知っていても大丈夫だろう」

 

「その声は!?」

 

 ゲンブさんが驚きに声を上げると同時に、パピ君が透明マントを脱いで姿を現す。

 

「大統領、本物ですか!?

 傍受した通信ではピシアに捕らえられてしまったと!」

 

「本物ですゲンブさん。 ピシアは大統領の策にまんまと嵌ったのです。 捕まえたのは地球人のハジメさんが用意してくれた偽物のロボットだったのです。 大統領はギルモアに捕らえられたと思わせる事で機を待ち反撃に出ようと考えたのです。 僕も初めは大統領が捕まってしまったのかと思い嘆き悲しんだのですがそこへ大統領が現れたので摩訶不思議と驚きひっくり返ってしまいました。 僕も本物なのかと最初は疑い匂いを嗅ぎ顔を舐めてあらゆる確認をして大統領だと確信したわけであります。 では連れて行かれたのはいったい誰なのかと考えて「ロコロコ伏せ」ワワン」

 

 また喋り出したロコロコをすぐに止めるパピ君。

 

「ロコロコをすぐに止められるとはまさしく大統領。

 姿を隠されていたのはギルモアに知られぬ為と機会を窺っていたのですな」

 

「その通りだゲンブ。 僕を待ってくれていた人たちには申し訳ないが、反撃の時までもう少し姿を隠していたい。

 協力してもらえないだろうか」

 

「もちろんです大統領。

 大統領が敵に気づかれずにこちらに合流したとなれば我々も動きやすい。

 基地の人間にもあまり知られない方がよろしいでしょう。

 お前もこの事は最重要機密としてだれにも話すな」

 

「りょ、了解であります!」

 

 ゲンブさんが隊員の人に命令を下す。

 隊員は身体を固くし敬礼して了解し、情報を漏らさない事を誓った

 

「大統領には時が来るまで窮屈な思いをさせてしまうかもしれません」

 

「構わない、僕も承知の上で隠れる事を選んだのだ。

 それより今の状況を詳しく知りたい。

 ハジメさん達の協力も踏まえて今後の作戦を練らなくては」

 

「了解しました大統領」

 

 ゲンブさんと話し始めてからパピ君から神がかったようなカリスマを感じ始める。

 10歳で大統領になっただけの事はある、飛びぬけた才能の一端を見せ始めていた。

 

 

 

 

 



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自由同盟防衛線(宇宙小戦争)

※感想を書いてくださった方、誤字報告をしてくれた方々、ありがとうございます。
 書き込んでくれた感想はちゃんと読んでいますが、自分は執筆が遅いので返信をしていると時間が掛かり過ぎてしまって、本編の執筆や更新前の誤字確認の時間が無くなってしまっています。
 もう少し早く書けたらいいのですが、余裕が無いので感想の返信は控えさせてもらいます。

 読んでくださった皆様の感想は励みになっていますので、今後も出来る限り頑張っていこうと思います。

 それでは本編どうぞ



 

 

 

 

 

 パピ君とゲンブさんの会話は長々と続いた。

 大統領と治安大臣だけあって内容は高度で、同席している一般人の僕とドラ丸に平隊員の一人には話についていくのが難しかった。

 時折平然とロコロコが会話に参加してたのに驚きだが、喋りすぎて脱線したころにパピ君に止められるのがご愛敬だった。

 

 大よその現状をゲンブさんが教えてくれた所に、机の上の通信機に連絡が入った。

 

「基地内通信が入ったようです、少々お待ちください。

 どうした、何かあった?

 ………そうか、無事に戻ったのなら何も言うことはない。

 ご苦労だった」

 

「何があった、ゲンブ」

 

 深刻そうな顔をするゲンブさんにパピ君が尋ねる。

 

「地下組織と連絡を取ろうと出発した連絡員が戻ったのです。

 現在ピリカ星上空には敵のレーダによる監視網が張られて、地下組織との連絡がなかなか取れない状況なのです。

 どこかに抜け道はないか試しに連絡員を飛ばしたのですが、哨戒中の無人戦闘艇に見つかってしまったそうです。

 何とか撃退したようですが、それを察知して無数の敵機が集まってきて、任務どころではなくなってしまったそうです。

 無事にやり過ごして戻ってこれたのは運がよかったのでしょう」

 

「無人戦闘艇を撃退! 破壊してしまったのか?」

 

「? そのようですが大統領、何か問題でも?」

 

 パピ君には映画での情報を出来る限り既に話してある。

 無人戦闘艇に仕掛けられた発信機の事も僕は伝えていた。

 

「ハジメさん、無人戦闘艇には確か…」

 

「予知通りならたぶんそうだろう」

 

「ゲンブ、今すぐ戻ってきた船を調べてくれ!」

 

 パピ君がゲンブさんをせかすように命令する。

 

「構いませんが、いったいどういう事です?」

 

「僕らの知る情報が正しければ、無人戦闘艇には破壊されると周囲に飛び散る発信機が大量に搭載されているはずだ」

 

「なんと、では戻ってきた船に! すぐ調べさせます!」

 

 ゲンブさんも状況を理解したようで通信機で命令を出す。

 

「ハジメさん、僕等は本当に勝てるのでしょうか?」

 

「戦力は十二分に用意したつもりだ。

 シミュレーションだけなら9割勝てるとは出ているから、後は戦ってみるしかない」

 

 不安を隠せない様子のパピ君に僕は事実だけを答える

 映画での戦力が実際の戦力とは限らないから戦ってみないとわからないが、何度もあらゆる方向から○×占いで戦力分析を試みた。

 勝率9割も不測の事態を考慮したうえでの計算で、戦えば確実に勝てる戦力と○×占いは答えている。

 

 戦場に出るという不安は僕にもあるが、それこそが不測の事態の要因だ。

 戦力は十分、負ける要素はどこにもない。

 後は僕等が致命的なミスをしなければ勝てる戦いだと、拳を握って戦場への不安を抑え込んだ。

 

 

 

 

 

『あったぞ、発信機だ!』

 

『すぐに壊せ!こっちの場所を傍受される!』

 

 ブツゥ!

 

 悲鳴のような慌てる声の後に入った雑音を最後に通信は完全に途絶えた。

 だがピシアは音声が途絶える前に目的はすべて果たしていた。

 

「残念だがすでに手遅れだよ自由同盟諸君。 電波発信源は特定出来たな」

 

「はっ! 長官、短時間でしたが既に特定を終えております」

 

「将軍に通信を繋げ」

 

「了解」

 

 ピシア長官ドラコルルは部下の報告に満足し、ギルモア将軍に連絡を取るべく命令した。

 すぐに通信が繋がり目の前の大きなモニターに上司ギルモア将軍が姿を見せた。

 

『どうしたドラコルルよ』

 

「お喜びください将軍。

 ついに自由同盟本部の位置を発見いたしました」

 

『なに、でかしたぞ。

 パピの捕獲に続いていい報告ばかりじゃないか』

 

 モニターのギルモアは嬉しそうにドラコルルを称える。

 

「ありがとうございます。

 ですが向こうにも位置を知らせる発信機の存在を知られてしまいました。

 逃げられる前に至急攻撃の許可を頂きたく」

 

『よかろう、わしの戴冠式の前に邪魔するものは皆排除せよ。

 地下組織の方はどうなのだ?』

 

「発信機には盗聴機能もありましたが、気づかれていなければその情報も聞けたかもしれません。

 すぐに気付かれてしまったのはやむをえませんので、自由同盟本部を襲撃後に捕らえた者から聞き出せばよろしいかと」

 

『わかった、より良い報告を期待しているぞ』

 

 ギルモア将軍との通信が途切れる。

 

「無人戦闘艇を全機出撃させろ。

 奴らには大した戦力はほとんど残ってない筈だ。

 少ない敵戦力を全滅させたら同盟本部を包囲して逃げられなくしろ。

 そうすれば後は煮るなり焼くなり自由だ」

 

「了解!」

 

 ドラコルルは同盟の殲滅を確信しながら部下に命令を下す。

 この時負けるとは微塵も思っていなかった。

 

 

 

 

 

 発信機はやはり戻ってきた連絡艇から見つかった。

 すぐさま破壊したが、本部の位置を割り出された可能性が高いと考えた。

 発信機発見の一時間もしない内に、ピシアの基地から無数の無人戦闘艇が発進したのを確認された。

 

「すまないゲンブ、この情報をもっと早く伝えていれば…」

 

「いえ、油断していた我々の失態です。 しかし敵の到着まではまだ時間があります。

 大統領方は今すぐここをお発ちください」

 

「また僕に逃げろというのか! 僕は戦うために帰ってきたんだぞ!」

 

 一度逃げ出すことになったパピ君は逃げろという言葉に激昂する。

 

「しかしこちらに向かっているのは敵は千機近い無人戦闘艇。

 我々の本部にある戦闘機は非武装のものを数えても二十もない。

 戦って勝ち目はありません」

 

「いや、勝機はあるぞ。 ハジメさん!」

 

 僕の名を呼ぶと同時に激高を嘘だったように沈めて向き直る。

 

「やはりあなた方の力を借りなければいけないようです。

 改めて自由同盟を、ギルモアの支配を受けるピリカの民を救ってほしい」

 

 深々と頭を下げて嘆願するパピ君。

 その真剣さは10歳の子供とは思えない、大統領としての責任と重みを感じさせる姿勢を感じさせた。

 気後れして僕は一瞬飲まれてしまうが、慌てて返事を返す。

 

「も、もちろんだ、その為にいろいろ準備してきたんだし。

 無駄になるに越したことはないんだろうが、活躍の機会を得られてうれしいよ。

 早速準備をしたいから格納庫に行こう」

 

「よろしくお願いします」

 

 戦力を出すには格納庫くらい広くないとだめだ。

 

「大統領、どうするのです?」

 

「ハジメさんに任せようゲンブ。 僕はそれだけの力を彼らに見た」

 

 ゲンブさんは訝しんでる様子だったが時間がないのでさっさと格納庫に向かった。

 

 

 

 

 

 ピシアの基地から発進した無人戦闘艇の後を、自由同盟本部を制圧するための制圧部隊が乗った輸送艇が付いてきていた。

 彼らの作戦は無人戦闘艇で自由同盟の戦力を壊滅させた後、制圧部隊が自由同盟を制圧し地下組織の情報を聞き出すことにあった。

 自由同盟の戦力は無人戦闘艇より圧倒的に少ないと見られているので、戦力を壊滅させるまでは暇だろうと制圧部隊の面々は余裕の表情を浮かべていた。

 

「これで自由同盟も終わりか。 少ない戦力でよく持ったもんだ」

 

「少ないから逃げやすかったんだろう。

 クーデターの時でも無人兵器の数の差が圧倒的だったんだ。

 自由同盟を組織出来たのも、リーダーのゲンブがそれほど優秀だったってことだ」

 

「人望は圧倒的に向こうが高いのにな」

 

「口を慎め! 将軍を貶める発言は極刑モノだぞ。

 もし上に伝わったら同じ部隊にいる我々まで巻き込まれかねん。

 どこで聞かれているのかわからんのだからな!」

 

「すいません隊長!」

 

 制圧部隊の隊長の言葉で気を引き締め直す。

 ギルモア将軍の存在は敵対している自由同盟側だけでなく、味方のピシア末端でも恐れられていた。

 ピシアの中に反抗勢力が紛れ込んでいないか探すために、配下の行動にも目を光らされていた。

 それによってスパイ活動をしている自由同盟派が発見されることもあったが、将軍への不満を言っただけで捕らえられて見せしめに処刑されることが圧倒的に多かった。

 ピシアの末端にとっては、敵よりも上層部の監視に隙を見せる事の方が死に繋がる可能性が高かった。

 

「まもなく無人戦闘艇が自由同盟本部のある小惑星帯に到着する。

 逃げ出していなければ戦闘になるだろうが長くはもたんだろう。

 抵抗が無くなればすぐに本部制圧にかかる。

 ゆっくりしてる時間はないだろうから、気を引き締めておけ。」

 

「了解です隊長」

 

 隊長が言葉を絞めて隊員が了解すると、しばらくして輸送艇の前で宇宙に光が走った。

 戦闘の攻撃による爆発の閃光だ。

 

「無人戦闘艇、交戦に入ったようです」

 

「抗うことを選んだか、あるいは味方を逃がす時間稼ぎか。

 敵機の存在は無視して自由同盟本部を囲い込むように戦闘艇を展開しろ。

 敵機の殲滅は逃げ道をふさいでからで構わん!」

 

 命令を下すと無人戦闘機が陣形を大きく広げて、自由同盟本部があると思われる小惑星を全方位から囲い込むために動き出した。

 それに伴い戦線を示す攻撃や爆発の光が拡散するように小惑星帯に広がっていった。

 どんどん広がっていく戦闘の光に隊長は訝しみ始めた。

 

「おかしい、想定していた敵戦力では広範囲に広がった無人戦闘艇には対応出来ない筈…」

 

「大変です隊長、無人戦闘艇の信号がすごい勢いでロストしていきます!

 既に100機もの戦闘艇の信号がありません!」

 

「なに!?戦闘が始まってまだ5分も経っていないんだぞ!

 いくら量産性を重視した脆弱な無人戦闘艇とはいえ、撃破されるのが早すぎる!

 何が起こっているのかすぐに調べろ!」

 

 隊長の指示で戦線の状況を知るために前線で戦っている無人戦闘艇のカメラに通信を繋げた。

 映し出されたモニターには無人戦闘艇が戦っている相手の姿が映った。

 鎧のような緑の装甲の人型ロボットが巨大なマシンガンと斧で無人戦闘機を次々落としていく光景だった。

 

「何なのでしょうあの敵は!?」

 

「私が知るものか! あんなロボット兵器は聞いたこともない。

 おそらく自由同盟が開発した新しい戦闘兵器なのだろうが、そうだとしてもあれほどの数をどこに隠し持っていたというのだ…」

 

 緑色の装甲のロボット達は大きく展開した千近かった無人戦闘艇に対抗するように広範囲に展開し、無人戦闘艇を通さないよう防衛線を張っていた。

 数は無人戦闘艇に比べて少ないが、単機で複数の敵を相手にして物ともしていない。

 何機もの無人戦闘艇の攻撃を食らっても何事もなかったかのように動き続け、近い敵は斧で叩き切り距離のある敵にはマシンガンで撃墜していく。

 一目で解る性能差が無人戦闘艇と緑のロボットにあった。

 

「これはまずい! 敵の戦闘データを可能な限りかき集めろ!

 無人戦闘艇にも戦闘データを直接本部に送るように指示をだせ」

 

「隊長、我々は!?」

 

 戦闘の様子は制圧部隊全員が伺っていた。

 数こそまだ勝っているが無人戦闘艇に勝ち目があるようには誰にも見えなかった。

 

「情報を集めながら後退する。 我々はあくまで制圧目的で、白兵戦闘を想定した武装しか持ってきていない。

 何もしないまま戻っては、ドラコルル長官にどんな目に遭わされるか分かったものではないが、現状我々に出来る事は情報収集しか無い。

 可能な限り情報を集めたら、すぐさま撤退だ!

 本部にも収集した情報をダイレクトに送り続けろ。 武装の少ないこの輸送艇では、逃げ遅れれば無事ではすまない」

 

 最低限任務を果たさねばという責任感から隊長は撤退を遅らせたが、それが判断ミスだったかどうかはわからない。

 事態はすでに手遅れだったのかもしれないから。

 

「無人戦闘艇の戦隊を突き抜けてくる敵影があります!

 数は一機ですが、ものすごいスピードで戦闘艇を撃破しながらこちらに向かってきます!」

 

「ッ! 無人戦闘艇の目標をそいつに集中させろ!

 時間を稼がせて我々は撤退だ!」

 

「だめです! 戦闘艇が追いつけず包囲を抜けてきます!

 もう目の前に!」

 

「なに!?」

 

 皆がモニターではなく強化ガラスの外の宇宙空間を見ると、緑でなく青のロボットが輸送艦の前を通り過ぎた。

 それと同時に船全体に衝撃が走り、乗っていた全員が体勢を崩して周囲の物に捕まることで体を支えた。

 

「ぐっ…何が起こった。船の状況は?」

 

「わ、わかりません!

 船体に異常はないと出ているのですが、ブースターが反応を示しません」

 

「敵にやられたという事か…」

 

 隊長は自分達が敵に無力化されたことを知って諦めを見せる。

 動かない船の中では制圧部隊の戦力ではどうすることも出来ないと、直に悟ったのだ。

 隊長の様子に誰もが負けたのだと理解し通信が入った。

 自由同盟からの降伏勧告であり、無人戦闘艇の戦線の情勢も既に決しようとしていた

 

「どうします隊長?」

 

「もはやどうすることも出来ない。 降伏を受け入れると返事しておけ。

 本部へ送ってるデータもここまでにしておけ。 相手に気づかれたら面倒だ。

 得られたデータだけでもドラコルル長官には十分だろう」

 

 この予想外の敵戦力を長官でもどうにか出来るとは思えないが、と隊長は思ったが口にしなかった。

 千近い無人戦闘艇を三十分もしない内に撃退してしまう戦力に、ギルモア将軍派の勝機を一切刈り取られてしまったように隊長は感じた。

 

 

 

 

 

 自由同盟本部の格納庫では、同盟員の殆どが集まって勝利の喝采を上げて戻ってきた緑のロボット達を称えていた。

 ゲンブさんと戦力の存在を知っていたパピ君も、勝利の結果に驚きを隠せずに戦いを見届けていた。

 

「まさかここまでの大戦果を上げるとは…

 大統領も驚かれていますが、彼らの力をご存じだったのではないのですか?」

 

「とても頼もしい戦力だとは確信していたが、ここまで一方的なものになるとは思わなかった。

 味方としてはとてもありがたいが、もし敵に回ってしまったらと思うのは間違っているのだろうか」

 

「いえ大統領として国を思うのであれば間違っていないかと。

 私も元治安大臣として、彼らの星との交流を慎重にせねばと考えさせられます」

 

 二人は距離を置いて何かを相談しているが、僕は戻ってきた機体ザクを【壁紙格納庫】に誘導して戻っていくのを確認していた。

 強化プラスチックで出来た装甲で、戦闘に十分耐えられるほど強化されているが、元はプラモデルを改造したものだ。

 後でしっかりチェックするが、一目見て大きな損傷がないか確認していた。

 

 映画では戦車を改造して戦力にしていたが、僕はガンプラのMSザクを戦闘用ロボットとして改造し複製することで軍団を作った。

 サイズは市販のプラモではなく【プラモ化カメラ】でベースのザクを人間サイズで作り、それに作業用ロボットの製作で鍛えた技術で戦闘に堪える本物と同じMSに仕立て上げた。

 殆どが命令すれば自動で動くロボットだが、ピリカ星人が乗り込むとちょうどいいサイズのコクピットも作ってある。

 操縦も本物のように出来るが、ロボットをイメージだけで操作出来る【サイコントローラー】も搭載している。

 説明する時間があれば同盟の人に乗ってもらおうと思ったが、今回は全機AIの制御で無人戦闘艇と戦った。

 

 本当は僕も操縦して戦ってみたかったのだが、ドラ丸に全力で止められて同盟本部からザク達に命令を出すだけだった。

 強化プラスチックの装甲で敵の攻撃は効かずこっちの攻撃ばかりが通るので、相手の数が多くても絶対負けない一方的な展開。

 あまりに簡単に終わってしまったので大喜びの同盟の人達と違って、僕は不完全燃焼で不謹慎だが詰まらないとすら思ってしまった。

 彼らにとっては生死を分ける戦いでも、僕にとってはせっかく作ったザクの活躍を見れる機会というのが、空気の違いを感じさせていた。

 

 最後のザク達の後に、ピシアの人間を載せた輸送船を連れた青い機体が戻ってきた。

 青い機体はドラ丸用に作ったMSアストレイレッドドラゴンの改造機で、これをドラ丸用に選んだのはもともと刀を使っていることに限る。

 外見は色がドラ丸と同じ青を中心にしている事を除けば変化がないが、近づいて斬るをコンセプトに高速機動近接型になっている。

 装備された剣の類はすべてドラ丸の愛刀猫又丸と同じひみつ道具機能を付与しており、基本何でも斬れる剣が複数装備された機体だ。

 

 無人戦闘艇の包囲の向こうでピシアの人間が乗っている小型船を見つけた時にドラ丸が捕縛に向かい、改造ひみつ道具の効果で船のブースターだけを切り離して動けなくした。

 後は降伏勧告を出したら彼らはそれに従い、ドラ丸が船を引っ張って戻ってきたわけだ。

 船から降りてきたピシアの隊員は同盟の人達に連れられて行く。

 

「ただいま戻ってきたでござるよ、殿」

 

「お帰り。 だけどずるいぞドラ丸。

 自分だけ戦闘に出るなんて」

 

「拙者の役割は殿を守ることでござるよ。

 殿に危険があるのであれば避けねばいかんでござるよ」

 

 自分の役割を改めて宣言するドラ丸の言い分は間違ってない。

 だが…

 

「MSの乗り心地はどうだった?」

 

「サイコーだったでござるよ。

 強いし早いし思い通りに動く、敵をバッサバッサ斬れたのは爽快だったでござる」

 

「だからズルいっていうんだ。

 一応僕も自分用のMS作ってきたから戦場で乗り回したかったんだよ」

 

 八つ当たり気味にドラ丸のちょん髷を掴んで引っ張り上げる。

 ただの飾りなので大して機能はないが、簡単に取れるようには出来ていない。

 

「や、やめるでござる殿! ちょん髷は武士の誉れでござる。

 引っ張ってはいけないのでござる!」

 

「やかましい、こっちはいろいろ不完全燃焼なんだ

 引っ張りやすいそれで八つ当たりさせろ」

 

「そんなご無体な~」

 

 ちょん髷をぐいぐい引っ張るとドラ丸は面白い様に反応してワタワタと抵抗する。

 別に弱点としての機能はないはずなのだが、面白いので引っ張って遊び続ける。

 そこへ基地に来た時に最初に案内してくれた兵士がやってきた。

 

「ハジメさん、ドラ丸さん!

 自由同盟を救っていただきありがとうございます」

 

 ドラ丸を弄っている最中だったので気づかなかった。

 兵士さんに気を向けた瞬間にドラ丸が頭を動かして逃げたので、掴んでいたちょん髷を手放してしまった。

 もう少し弄ってやろうと思っていたが残念だ。

 

 ふと思いついたが、今度ドラ丸のちょん髷が伸び縮みする改造を施してやろうか?

 そんな悪戯を考えているとドラ丸は感づいたのか体を震わせて僕から距離を取る。

 

「な、何か殿から嫌な予感を感じたでござる。

 何を考えたでござるか!?」

 

「ちょっと面白いこと、だけど感づくか…

 嫌な予感とはいえ勘を働かせるようになるなんてロボット離れしてきたな」

 

 勘が働く機能なんてどこにも無かったはずなのにどうなっているんだろうか。

 製作者じゃなければ構造を調べてみたいと思うところだ。

 

「ますます悪寒を感じるのでござる!

 変なことを考えるより殿、兵士殿を待たせているでござるよ」

 

「ああ、そうだった。

 すいません、ちょっとドラ丸が気がかりなことを言いまして」

 

「拙者のせいでござる!?」

 

 ドラ丸が何か言ってるか無視する。

 兵士の人ば僕のやり取りに唖然としているが、意識が向いたことでハッとなり改めて対応される。

 

「い、いえ、お邪魔だったのではないかと…」

 

「そんなことないですよ、それで何かありました?」

 

「司令と大…いえ、司令室で二人がお待ちのようです」

 

 パピ君の存在は秘密なことを思い出して、言いかけたことを訂正する兵士さん。

 

「わかりました、機体も回収が終わったのでこれから戻ります。

 ドラ丸は機体の損傷チェックを任せた」

 

「了解でござる」

 

 ドラ丸の後を任せて再び司令室へ向かう。

 戦闘後の処理がいろいろあるが僕に聞きたいこともあるのだろう。

 

 

 

 司令室に入るとパピ君とゲンブさんが待ち構えるように出迎えてくれた

 

「ハジメさん、この度は本当にありがとうございました」

 

「私も基地の代表として改めてお礼を申し上げます」

 

「いや、僕等にとっては大したことじゃないですよ。

 捕まえた奴らはもういいんですか?」

 

「ええ、武器も押さえましたので後は部下に任せて構いません。

 しかしすさまじい戦いぶりでしたな。 人型の巨大ロボットが宇宙であれほどの動きを見せるとは。

 地球では巨大ロボットが主力兵器なのですかな?」

 

 ゲンブさんが勘違いしてMSが地球の基準だと思われる。

 

「いや、あくまで僕達が特殊なだけですよ」

 

「そうですか、できればあの兵器についていろいろ教えていただきたい。

 緑のロボットは無人だったようですが青のロボットはドラ丸さんが乗っておられましたな。

 ドラ丸さんはロボットのようですが、あれらの兵器は人が乗ることも想定しているのですかな?」

 

 MSが気になるようでいろいろな質問がゲンブさんから飛んでくる。

 ザク自体にひみつ道具の機能はないので話しても問題なかったが、ドラ丸の機体の武器だけはひみつ道具の機能があるのでぼかして答える事にする。

 いくつかの質問に答えるとパピ君が止めた。

 

「ゲンブ、彼らの兵器についてはこれくらいにしよう。

 ハジメさん、改めて助力感謝します」

 

「お礼はもういいよパピ君。 それにまだ終わったわけじゃないだろう」

 

「はい。 ですがハジメさん達の力を借りられるならギルモアを倒すことはそう難しくないと思ってしまうのです。

 ハジメさん達の兵器は敵の無人戦闘艇をものともせず完勝しました。

 ギルモアの戦力は大半が無人機で、先ほどのものとそう変わらない性能ばかりです」

 

 確かに僕も戦えば初めから負けるとは思ってなかった。

 強化プラスチックの装甲を貫けないなら、敵がどんなにいても負けないだろう。

 数に関しても全てフエルミラーで増やしたので、その気になればいくらでも用意できる。

 

「ですから終わった後のお礼の事を話したい」

 

「ん? 別にそういうのは後でいいんだけど」

 

「いえ、この場で聞いておかなければいけない事なのです」

 

 遠慮してもパピ君は引き下がる様子はなく僕に聞きたいようだ。

 ただ事ではないような雰囲気なので真面目に話に応じる。

 

「…わかった。 と言ってもほしいのは前に話した宇宙船くらいだよ。

 僕の持ってる宇宙船は大したことないから、新しい宇宙船の制作の参考にしたいんだ」

 

 【宇宙救命ボート】は目的の星の品物をインプットすれば自動でその星に連れて行ってくれるという機能があるが、広さが二畳くらいしかないのが欠点だ。

 その上ボタン一つしかない全自動なので操作性がまるでないし、一応ひみつ道具なので機能を完全に解析出来ない。

 なので技術的に解析出来そうな別の宇宙船がほしいと、パピ君に伝えていた。

 あの時は特に問題なさそうに了承してくれたが、何か問題でも出来たのだろうか。

 

「ええ、それは何も問題ありません。

 ですがハジメさんの功績はその程度で収まるようなものではないと思っています。

 功績を讃えてピリカ星での地位を約束することだって出来ます」

 

「地位?」

 

「はい、ギルモアの独裁はピリカ国民の殆どが受け入れていません。

 ハジメさんがその力でギルモアの独裁を打ち破れば、英雄としてピリカ国民に受け入れられるでしょう。

 望むのであれば次期大統領だって夢ではない筈です」

 

「えぇ~?」

 

 パピ君何言ってるの?

 

「大統領! 何を言っておられるのです!?」

 

「ゲンブ、僕はギルモアの反乱を止める事の出来なかった無能だ。

 たとえギルモアの独裁が終わっても、再び大統領の地位に戻るのは間違っている」

 

「そんなことはありません。 我らは皆大統領の帰りを待っていたのです!

 大統領がピリカの希望であればこそ、ここまで頑張ってこれたのです」

 

「うん、僕も大統領としての務めを最後まで果たすつもりだ。

 だが後を託すものがいるなら僕は全力で支援しようと思っている」

 

「まさか僕がそうだと?」

 

 自分で自分を指さしながら聞き返す。

 

「はい、ピリカ星を救った英雄であれば皆も納得するでしょう。

 大丈夫、ピリカ星の出身じゃないなど大した問題ではありません。

 皆に選ばれることが重要なのです」

 

「大統領…」

 

「どうでしょうハジメさん。ピリカ星の大統領になってみませんか」

 

 本気で言っているのだとわかったゲンブさんは諦めてしまったのか項垂れる。

 パピ君は何がうれしいのか笑顔を浮かべて返答を待っている。

 何かとても期待されてしまっている気がするが、僕が今思っていることは一つだけ。

 

「勘弁してください」

 

 そう言いながら頭を下げて謝るように断るのだった。

 

「なぜですか? ピリカ星最高の地位が手に入るのですよ。

 ギルモアがクーデターを起こしてまでほしがったものです」

 

 断られた理由を不思議そうに聞くパピ君。

 

「僕はいろいろ忙しいんだ。

 ピリカ星の大統領が大事な仕事なのはわかるけど、僕にとっては重要な事じゃない。

 たとえ地球の大統領の話だったとしても、僕にとっては忙しいのに余計な仕事を寄こさないでほしいって思うよ。

 もしピリカ星を救うと大統領になってしまうと言うのなら、今すぐ僕は帰るよ本気で」

 

 半分脅しのように心底迷惑だという気持ちが伝わるように言い切った。

 パピ君が何を考えてこんな提案をしたのかわからないが、押し付けられるなら本気で逃げ出すつもりだ。

 もしかしたらパピ君も大統領であることに嫌気がさしていたのかもしれないが、押し付けるならほかの奴にしてくれ。

 

 はっきり言い切るとパピ君は少しショックを受けたような顔をするが、少し悔やんだ表情をしながら笑顔も見せて頭を下げてきた。

 

「すいませんでした、ハジメさん」

 

「え、いや、いいんだけど。 その話は無かった事にしてくれ」

 

 突然雰囲気が変わって謝られたので、調子が狂い戸惑ってしまう。

 帰るという脅しは言い過ぎだったか?

 

「もちろんです、ですが僕が謝りたいのはハジメさんを試したことです」

 

「試した?」

 

「どう言う事なのです大統領」

 

 ゲンブさんもわかってない様でパピ君に尋ねる。

 試されるような理由に心当たりがない。

 

「ハジメさん達の兵器はとても強力です。

 その気になればピリカを単独で征服してしまえるほどのものだと。

 それが力ずくともなればギルモアのクーデターの比ではなくなるでしょう。

 だからハジメさんがピリカの支配を望むかどうか試したかったのです」

 

「大統領、そこまでお考えを…」

 

 つまりザク軍団はパピ君達に衝撃を与え過ぎたという事か。

 今のザクはピリカ星の人に合わせて地球では人間サイズだが、実物大サイズでも作ることは十分可能だ。

 それをフエルミラーなどで数を増やせば、地球でも征服出来る戦力になるだろう。

 そんな存在がいたら当事者でなかったら僕も脅威を覚える。

 乗りたいって先に思いそうだが、政治家としては脅威への対処法が優先されるだろう。

 

「ですので、ハジメさんが僕の誘いを断るのでしたらそれでよし。

 誘いに乗るようでしたら、全力で次期大統領になるのをサポートするつもりでした」

 

「「え”?」」

 

 マジデ?

 

「ほ、本気だったんですか大統領」

 

「ええ、ハジメさんがその気なら従うにしろ抗うにしろ、止めることは不可能です。

 でしたら少しでも混乱を抑えるために協力して、事態を軟着陸させることに努めたほうがいいと判断しました。

 少なくともギルモアよりはずっと良心的な方ですから、今よりはずっとましになります。

 それにハジメさんがその力を振るってくれるなら、ピリカの発展に繋がると思いましたので」

 

 場合によっては本気で僕を大統領にしようと計画してたことに愕然とした。

 その気はなかったが、冗談でなると言ってたら危なかったかもしれない。

 誘った時の雰囲気だって本気で言っているようにしか感じられなかった。

 

「…ゲンブさん」

 

「…なんですかな、ハジメさん」

 

「流石は大統領なんですね」

 

「ええ、だからこそ大統領なのです」

 

 パピ君はいわゆる頭脳チートだと最終的に納得した。

 

 

 

 

 




これ書いた頃、ガンダムビルドファイターズ見てました


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ピリカ星騒乱終結(宇宙小戦争)

ちょっと長いです


 

 

 

 

 

 ピシア本部は混乱の極致にあった。

 発信機で探り出した自由同盟本部の制圧に過剰なほどの無人戦闘艇を送り出したのにも関わらず、全機撃墜されて後詰めの制圧部隊とも連絡が取れなくなった。

 それまでに制圧部隊から送られてきた戦闘データからは無人戦闘艇の攻撃をものともしない、これまで確認したことのない新型兵器が無数に映し出されていた。

 全滅した無人戦闘艇の処理と新型兵器の解析でピシア本部は大騒動になっていた。

 

 ピシア長官ドラコルルも冷や汗を流しながらギルモア将軍への報告をしていた。

 ただし悪い報告によりギルモア将軍の機嫌を損ねており、顔色が非常に優れなかった。

 

『どう言う事なのだドラコルル!

 あれほど自信を持って送り出した無人戦闘艇が全滅だと!』

 

「面目の次第もございません。

 現在最優先で交戦記録を解析しておりますが、見たこともない新型兵器が現れたのです。

 ざっと目を通したのですが、無人戦闘艇がまるで通用しないこれまで見た事のない兵器でして」

 

『言い訳はいらん! 儂がほしいのは自由同盟を殲滅したという報告だけだ。

 明後日の儂の戴冠式までに間に合うのか?』

 

「現状では何とも答えられません。

 無人戦闘艇がまるで歯が立たなかったのでは、今用意できる戦力では二の舞になるだけです。

 情報分析が完了するまで、もうしばらくお待ちください。

 終わり次第こちらから改めて連絡を入れさせていただきます」

 

『急げよドラコルル。 わしの気が短いのは知っていよう』

 

 不機嫌そうな顔を隠さずにそのままモニターから消えるギルモア将軍の姿。

 

「無茶を言ってくださる将軍様だ。 私だってこんなこと想定していなかった。

 だがなぜ自由同盟は突然こんな強力な兵器を投入してきたのだ。

 隠し持っていたのだとしても、これまで影も形も出てこないのはおかしい。

 開発が終わって実戦投入されたにしては数が多すぎる」

 

 ドラコルルは自由同盟の新兵器をどのように手に入れたのか考えた。

 部下にも情報を集めさせ続けるが手掛かりらしきものはまるで出てこない。

 

「これまで影も形も見えなかった新型兵器。

 巨大なロボットのような兵器はピリカにこれまでなかった。

 あんなものいったいどこから持ってきたというのだ。

 …どこから?」

 

 どこからか持ってきたという考えが、ドラコルルの直感に引っかかった。

 これまでピリカ星では人型の巨大ロボットという兵器は存在しなかったのに、無人戦闘艇を壊滅させた兵器は完成度が非常に高いように思えた。

 あの兵器はピリカ星で生み出されたものではなく、どこか別の星から来たのではないかとドラコルルは考えた。

 

 だがどこの星からという考えに至ると、ドラコルル自身もつい先日まで別の星にいたことを思い出す。

 その星に元大統領パピがいたことを思い出すと、繋がりがどんどん見えてきた。

 

「至急パピ捜索時の資料を出せ、全てだ!」

 

「りょ、了解!」

 

 部下は突然のドラコルルの命令に戸惑いながらも対応した。

 出された地球での資料データをドラコルルは流し見で探り続けると目的の資料を発見した。

 

「見つけた、これをモニターに出せ」

 

 モニターに映し出されたのは、現在問題とされている兵器とまるでうり二つの絵だった。

 それはおもちゃ屋に貼られているガンプラのポスターだったが、ドラコルルには兵器の広告にしか見えなかった

 

「長官、なぜパピ探索時の資料にこの兵器の絵が!」

 

「そんなものは決まっている! これは地球の兵器だから!

 パピは我々に捕まる前に、置き土産に地球に協力者を作っていたのだ。

 それが自由同盟と接触し、我々に戦いを挑んできているに違いない!」

 

 ドラコルルの予想はほぼ的を射ていた。

 わずかな情報から真実を割り出すのは、流石は情報機関の長官だけあった。

 

「今すぐパピを尋問する!」

 

「よろしいのですか?

 パピはすでに裁判が行われて我々の管轄にありません」

 

「所詮形だけの裁判だ、構う事はない。

 後で将軍に伺いを立てておけば済むことだ」

 

 ドラコルルは足早にパピが閉じ込められている部屋に向かう。

 元大統領として牢ではなく部屋を与えられているのは彼らの皮肉だろうか。

 

 部屋の前につくとドラコルルは何の遠慮もなく中に入った。

 

「何の用だドラコルル」

 

「わかっているのだろう。 先ほど自由同盟の本部を攻撃した無人戦闘艇が未知の兵器に全滅した。

 敵は地球で見かけた物に非常に酷似していた。

 言え、貴様はいったい何を味方につけた!」

 

 胸ぐらをつかんで引き起こし無理やりにでも聞き出そうという姿勢を見せるドラコルルだが、パピは慌てず落ち着いた様子でいた。

 

「…その様子ではよほど手ひどくやられたのだろう。

 だが僕が知っていることは殆ど無い」

 

「構わん、別の星の人間が兵器の内容をべらべらしゃべるとも思わん」

 

 非協力なのは承知の上だが、処刑が決まっている相手に手を出すわけにはいかないのもお互いに解っている。

 ならば出来る妥協はさっさとして、時間を有効に使う方がいいとドラコルルは考えた。

 将軍を待たせて機嫌を損ねるのが煩わしかった。

 

「まずこれだけは言っておこう、彼らの戦力を見た僕の感想だ。

 彼らがその気になればギルモアのクーデターとは比べ物にならない規模の戦乱を迎えることになる。

 そしてピリカは新たな支配者を迎える事になるだろう」

 

 パピの迫真を感じさせる言葉にドラコルルは息を飲むことになる。 

 奇しくもその時と同じくして、自由同盟本部で本物のパピがその脅威の有無を推し量るべく、ハジメを試していたのだった。

 

 

 

 

 

 僕は現在コンピューターを使い、コードで繋がっているどこでもドアの調整を行っていた。

 原作でもよく多用されるどこでもドアだが、実際にどこでも行けるわけではなくいくつかの制限がある。

 最大移動距離は10光年で、尚且つインプットされている地図の無い場所には移動できないという限界だ。

 しかし学習機能もあって一度行った場所は自動で地形を記録し、地図にない場所からある場所への移動なら10光年以内なら移動可能である。

 

 もちろんピリカ星では地図がどこでもドアにインプットされていないので、ろくに使うことが出来ない。

 ならば地図をインプットしてしまえばいいと、ゲンブさん等からピリカの地図データを貰ってどこでもドアにインプット中だ。

 こうすれば地下組織と連絡を取りたかった自由同盟はピシアに見つからずに接触することが出来る。

 

 インプットされたデータの最適化も終わり、どこでもドアがピリカ星でも使えるようになった。

 

「これで地下組織に直接行くことが出来るはずだ」

 

「本当にこれでいくことが出来るのですか?」

 

「ゲンブ、僕もこのどこでもドアを使わせてもらった事がある。

 ハジメさんが出来るというのなら出来るのだろう」

 

 ゲンブさんはまだ使ったことが無かったので半信半疑だが、体験したことのあるパピ君が保証してくれた。

 地下組織へ行く人員としてパピ君の存在を知る唯一の兵士さんが、ロコロコと共に行く準備を整えている。

 

「パメル、ロコロコ、準備はいいか」

 

「はい、大統領。 僕は問題ありません」

 

「僕も任務を果たすべく連絡員の役目をしっかりと頭に入れております。この任務を無事終えることが出来ればギルモアを倒すのはもう目前と言えるでしょう。辛く苦しい戦いが終わろうとしているのは感慨深いものです。すべての始まりは議会でギルモア提案を大統領が退けたことが始まりだったでしょうか。あの時からギルモアと大統領は意見が衝突するようになり次第に軍部と政府の思惑もすれ違うようになりついにはクーデターに発展してしまったのです。思えばクーデターの日僕は「ロコロコ待て」クゥーン」

 

 兵士さんがパメルという名前だったのはさておいて、ロコロコがまたお喋りを始めたのをパピ君が止めた。

 

「地図は確かにインプットしたから問題なく使えるはずだ。

 もし予定の場所に出なかったらすぐに戻ってきてくれ。

 地下組織に向かう別の案を考える」

 

「わかりました、ハジメ殿。 では行ってきます」

 

「必ずや任務をやり遂げて見せます」

 

 パメルさんとロコロコは敬礼をすると、どこでもドアを潜って地下組織との連絡を取るために向かった。

 

「無事に地下組織と接触出来ると良いのですが…」

 

「敵に見つからなければどちらにしろどこでもドアで戻ってこれます。

 それより迎撃に出たドラ丸さんは大丈夫でしょうか?」

 

「先ほど連絡があって、敵の第二波を迎撃して帰還中だそうです」

 

 一度は一方的に倒したピシアの無人戦闘艇が、時間をおいて再び自由同盟本部に向かって攻撃を仕掛けてきた。

 しかし最初の攻撃よりも数は少なく、ドラ丸が再びザク部隊を連れて出撃したので余裕だろうと思っていた。

 特に心配することもなく、待っていたらドラ丸が戻ってきた。

 

「ただいま戻ったでござる」

 

「お疲れ、ドラ丸」

 

「お疲れ様です、ドラ丸さん」

 

「迎撃感謝します、ドラ丸さん。

 負傷者は出なかったようですが、仲間がドラ丸さんにご迷惑をおかけしませんでしたか?」

 

「大丈夫でござる、兵士の皆も十分な活躍をしたでござる。

 流石は独裁者に抗おうと立ち上がった者達でござるな。

 戦う者の気概を感じたでござる」

 

 ピシアの攻撃の第二波には自由同盟の兵士にザクに乗ってもらって、ドラ丸と共に迎撃に出てもらった。

 第二波が来ることがわかっていたので敵の到着までの間にザクの操縦を教えてぶっつけ本番の実戦参加だったので少し不安だったのだが、ザクの装甲はしっかり搭乗者を守ってくれたようだ。

 

「それならよかったです。 我々も役に立てるのでしたらどんどん言って頂きたい。

 しかし、よろしかったのですか。 我々があなた方の兵器を使っても。

 無人の自動操縦でも問題なかったのではないのですか?」

 

「確かにそうかもしれないですが、これはもともとあなた達の戦争です。

 僕等はいくらでも協力を惜しまないつもりですが、この戦争の当事者の皆さんは出来るなら自分たちの手でギルモアを倒したいはずです。

 それなら僕が戦える力を貸すことで、出来るだけ皆さんの手で戦ってもらおうと思ったんですよ。

 一度目の攻撃にほぼ無傷だったザクの装甲なら負傷者もそうそうでないと思いますから」

 

「おお、そのような気遣いまでして頂くとは。 何から何まで本当にありがとうございます。

 皆もピリカのために戦えることをとても喜んでおりました」

 

「それに兵器としての機密が気になるのなら大丈夫です。

 パピ君から教えてもらったと思いますけど、本来の地球人とピリカの人は大きさに差がありすぎるんです。

 ザクをあなた達が作れたとしても、民間人ならともかく地球の軍隊には大した脅威になりません。

 何なら戦いが終わった後に何機か差し上げましょうか?

 搭載されている機能をそのままと言うわけにはいかないですけど」

 

 僕にとっては本来のサイズならザクはおもちゃも同然の代物だ。

 戦闘用に改造されているが、ひみつ道具は操縦のためのサイコントローラーだけで誰かの手に渡っても困る物ではない。

 ザクの大きさは地球人からすると子供くらいのサイズで、それがマシンガンを振り回せば一般人には危険かもしれないが、軍事的には大した脅威ではない筈。

 

 いや、だけど強化プラスチックの装甲はかなり脅威かもしれない。

 映画で同じ強化プラスチック装甲の戦車が大気圏に突入して耐えられる装甲だぞ。

 通常の重火器どころかミサイルの衝撃にも耐えられるかも…

 ちょっと早まったか?

 

「いえ! そこまでしていただくわけには!」

 

「本来関係のないハジメさん達が共に戦ってくれる上に、僕等を気遣って力そのものを貸してもらっている。

 これ以上恩を受けてしまったらどうやって返したらいいのかわからなくなりますよ。

 やはり大統領になりますか?」

 

 ゲンブさんは慌てた様子で断るが、パピ君は茶目っ気を出すくらいに落ち着いた態度だ。

 僕が大統領の地位など決して望んでいない、むしろ嫌がってるとわかってるからできる冗談だ。

 

「ならないよ。 まあ、未知の兵器なんか渡されたら騒動の元になりかねないか。

 それなら終わったらすべて持って帰るから」

 

「そうしてください。

 譲ってくれるなどと言われたら兵士の皆が遠慮なくほしがってしまいます。

 あのザクという機体は我らには希望の象徴そのものですから」

 

 あれは本当に数合わせの量産機なんだけどね、と口には出せなかった。

 量産機とはいえ多くの機体のベースになるし、ガンダムと同じくらい根強い人気があるから嫌いじゃないんだけど。

 そんなにほしいならやっぱり一機くらい残していこうかなと思ってしまう。

 

 作業も戦闘も終わって一息ついていると通信が入ってゲンブさんが応答した。

 

「私だ、どうした………そうか、わかった。

 ハジメさん、ドラ丸さん。 どうやらまたピシアの無人戦闘艇がこちらに向かっているそうです。

 皆と迎撃をお願いできますか?」

 

「構いませんがドラ丸、ザクに乗っていた兵士の人達は大丈夫そうか?

 疲れて無理そうなら自動操縦に切り替えるが…」

 

「大丈夫そうだったでござる。

 あの後殆どの兵士たちが、訓練と言って外に出ているでござる。

 あの様子であれば今度は拙者の出番がまるで無くなってしまうでござるな」

 

「まったく、あの者たちは…

 すいませんハジメさん、ドラ丸さん、勝手なことを…」

 

 ゲンブさんは呆れた様子で謝罪をしてくる。

 どうやら本当にザクが兵士達に気に入られたらしい。

 流石はザクだな。

 

「構いません、ピシア本部の攻撃には彼らも参加するのでしょう。

 大して練習が要らないとはいえ、慣れておくことに越したことはないですから。

 ドラ丸は手を貸す必要がないなら、後ろで見守るようにしてくれ」

 

「了解、それで行ってくるでござる」

 

 ドラ丸は再び自分の機体で出撃するべく格納庫に向かった。

 

「しかしドラコルルは何を考えているんだ?

 これまでの戦いであのザクという機体には、無人戦闘艇では歯が立たないと解っているはず」

 

「おそらくはザクの性能を確かめるための捨て駒でしょう。

 勝てなくても調査するのはピシアの専門ですからな。

 私であればここまで性能差を見せつけられれば匙を投げているところです」

 

「僕もだ。 ハジメさんが味方で本当によかったと思っているよ」

 

「全くです。 ドラコルルの苦悩が目に浮かびますな。

 同情する気はこれっぽっちもないですが」

 

 

 

 

 

 そして三度目の無人戦闘艇による攻撃を敢行したピシア本部では…

 

「どうだ、倒せた敵はいたか?」

 

「だめです、一機に対して集中砲火をするよう戦闘艇に命じましたが大して効果が得られません。

 関節部の構造に異常をきたしたのか、腕の動きがおかしくなったように見えたのが二機ほどいたくらいで、撃破にはとても…」

 

 集中砲火のかいがあって多少はダメージを与える事に成功したようだが、関節に異常をきたす小破程度のものだった。

 ドラコルルは集中砲火で倒すことは出来ないかとわずかな期待はあったが、おそらく無理だろうという確信の元、少しでも敵の情報を引きずり出すべく無謀な特攻を繰り返していた。

 三度目の攻撃で出来る事はやりつくしたが、攻撃が多少は効果はあるという事実だけで打開策に繋がる情報を得ることは出来なかった。

 

「くそっ! 何なのだあの化け物みたいなロボットは!

 我々の兵器がまるで歯が立たないなど何の冗談だ!」

 

 一機でも撃墜出来ればわずかでも希望が見いだせたかもしれない。

 運が良ければその残骸を入手して弱点を探し出し、対処法が割り出せたかもしれない。

 だが一機も倒すことが出来ず攻撃も防御も出来ないのでは、まるで打つ手を見いだせなかった。

 

 ドラコルルの見立てではおそらく自由同盟はパピを救出するために奪還作戦を計画している。

 小惑星帯に自由同盟本部の戦力だけでは無理だろうと、地下組織とタイミングを合わせて動き出すだろうと予測。

 戦力は圧倒的にこちらが上で、奇襲による奪還しかないと考えていた。

 だがザクの存在によって、ピシアと自由同盟のパワーバランスが完全に逆転した。

 

 ギルモアの方針で無人兵器が大量に量産され、数の上での戦力はまだまだこちらが上だ。

 だがどんなに数が多かろうと倒す事の出来ない敵が相手では、攻撃される側はどうすることも出来ない。

 地下組織と連絡を取るだろうとピリカ星上空に網を張っていたが、あの戦力なら直接ピシア本部を襲撃してくる可能性は十分にある。

 パピ処刑の日時は明日と大々的に発表してしまっているので、自由同盟も当然そのことを知っている。

 自由同盟にとってはそれまでに動かなければ負けだったが、今となってはピシアが対策を編み出さねばザクによって蹂躙されることになる。

 

「自由同盟への攻撃は断続的に続けろ」

 

「ですが、まるで効果もなく情報もこれ以上集まるとは思えません」

 

「情報収集も続けるが目的は奴らをすこしでも疲弊させておくことだ。

 いくら機体が高性能でも操縦するパイロットまでは不死身ではない。

 時間稼ぎにしかならんが、パピの処刑までなら十分無人機も足りる。

 私は将軍に直接御会いしてくる」

 

「わかりました」

 

 ドラコルルは作戦室を出て、ギルモアの私室へ向かう。

 ろくな対策が思い浮かばないドラコルルは悩んだ末の妥協策をギルモアに提案するため、通信で話すべきではないと判断して直接会うことにした。

 

 報告を待っていたギルモアは、ドラコルルが来たことですぐに部屋に迎え入れた。

 ろくな報告が上がってこなかったことで待っていたギルモアは非常に不機嫌だった。

 わかっていたとはいえその様子にドラコルルは冷や汗を隠せなかった。

 叱責は覚悟の上だが他にどうしようもなかった

 

「散々待たせたのだ、いい報告はもってきたのだろうな」

 

「申し訳ありません。 残念ながらいい報告は出来そうにありません」

 

「なんだと!」

 

 ギルモアが怒って怒鳴り散らすが報告を続けない訳にはいかなかった。

 ピシアは現在大きな脅威に晒されていることをギルモアに説明しなければならなかった。

 怒鳴り散らされながらもドラコルルは何とか現状を伝える。

 

「つまり自由同盟はパピを奪還しに、明日にはここを攻撃してくるという事だな。

 我々の攻撃がまるで通用しない無敵の兵器を引き連れて」

 

「はい、当初の予想では地下組織との連携を取った奇襲かと思いましたが、あの兵器の存在が戦況を一転させました。

 あれほどの兵器があるなら直接ここを叩きに来ます」

 

「なんということだ。 明日は儂の戴冠式でもあるのだぞ」

 

 ギルモアは大統領という席を廃し、皇帝としてピリカ星に君臨しようとしていた。

 その節目として同時に元大統領のパピをその日に処刑しようと考えていた。

 

「それですが将軍、戴冠式とパピの処刑を取りやめることは出来ませんか」

 

「なにを言っとる! 貴様は儂の華々しき栄光に泥を塗ろうというのか!」

 

「ですがこのままでは自由同盟の攻撃でそれどころではなくなります!」

 

「それをどうにかするのが貴様らの仕事だ!」

 

 頼み込むがギルモアは一向に考えを変える様子がない。

 戴冠式どころか自分たちの命さえ危ないというのに、ギルモアはその地位への執着から一向に引く気はない。

 

(予想はしていたがやはり私の提案は受け入れられないか。

 将軍の望みはすぐそこまで迫っていたのに、その直前で止まれと言われて聞くような方ではない。

 ここでいくら無理だと言っても、明日の戴冠式は何があっても強行するに違いない)

 

 将軍の融通の利かなさはクーデターに成功してからますますエスカレートしていた。

 ずっと傍で見ていたドラコルルはこうなることを予想していたが、無駄でも戴冠式の中止を一度は提案しなければならなかった。

 通らない提案を出した後に一歩引いてから妥協案を出す方が将軍も考慮してくれるという考えだ。

 

「ではせめてパピの処刑だけでも延期には出来ないでしょうか?」

 

「なぜパピの処刑を延期にせねばならん。

 パピがいなくなれば奴らも戦意を失うだろう」

 

「恐れながら将軍。 奴らは我々が手に負えない強力な兵器を手にしたのです。

 これまでの弱小戦力ならば奇襲攻撃やゲリラ作戦しか出来なかったでしょうが、今は正面から我々に戦いを挑む事の出来る状況なのです。

 そんな状況で奴らの象徴であるパピを殺せば、手綱を失った暴れ馬のように我々に襲い掛かってくるでしょう」

 

 戦力というアドバンテージがなくなった今、自由同盟に対して有効な手札はパピの身柄だ。

 ドラコルルはパピを人質として使い少しでも情報を得る時間を稼ごうと考えた。

 

「パピがこちらの手にある内は、奴らも慎重にならざるを得ません。

 処刑を中止すれば奴らも慌ててパピの身の危険を冒してまで救出しようとはしないでしょう。

 明日の戴冠式に攻めてきてもパピの命をこちらが握っているとわかりやすく示せば奴らも簡単には動けません」

 

 あの兵器が攻めてきてもパピを人質としてうまく立ち回れば、鹵獲することが出来るかもしれない

 流石にそこまでうまくいったら敵の策を真っ先に疑うが、時間を作ることが出来れば対処法を見つける可能性もグンと上がる。

 パピを人質として使うことはドラコルルには絶対に通さねばならない妥協策だった。

 

「パピを処刑出来ないのでは、わしの地位を盤石なものに出来ん」

 

「ですが、地球の兵器を手に入れた自由同盟は将軍の地位を脅かしうる存在になってます。

 パピを処刑出来ても脅威は残り、むしろ危機的状況に陥りかねません」

 

「そうなる前に貴様らが奴らを片付けておればよかったのだ」

 

「申し訳ありません。 ですがパピの処刑はどうか御一考を」

 

 ドラコルルは頭を下げながらがギルモアに頼み込む。

 これが通らなければ、後は明日の戴冠式にはザクに手も足も出ない無人機を大量に配備するだけの張りぼての警備で対処しなくてはいけない。

 ピシア自慢の無人機がここまで頼りなく感じたのは初めてだった。

 

「…わかった、処刑の延期を許可する。 ただし明日の戴冠式は絶対に成功させろ。

 自由同盟にわしの戴冠式の邪魔を絶対にさせるな」

 

「もちろんです。 ピリカ星全土から可能な限りの戦力を首都ピリポリスに集結させて戴冠式の警備にあたります。

 パピは人質として使うために軟禁場所を移動させますがよろしいでしょうか?」

 

「ああ、かまわん」

 

 ドラコルルは話を終えると、すぐに作戦室に戻り戴冠式の警備のための配備を進めた。

 ギルモアに告げた通りピリカ星全土から戦力を首都ピリポリスのピシア本部に集中させ防衛に当たらせる。

 その分各地の戦力は手薄になったが、将軍の警護とパピ奪還の阻止のためにピシアのほぼ全戦力が首都ピリポリスに集うことになる。

 これほどの戦力の動員はピシア結成以来初めてであったが、ドラコルルはまだ出来る事はないかと翌日まで悩み続けた。

 あらゆる手を尽くしても尽くし足りないという不安に、ドラコルルは苛まれ続けた。

 

 

 

 

 

 戴冠式当日。

 ドラコルルの予想では自由同盟が動く確率は、不確定要素を含みながら五分五分と考えていた。

 処刑の中止はピリカ全土に広めたので、自由同盟にもこの情報は伝わっている。

 パピの命の保証がされているならば双方の危険を冒してまで慌てて救出に来るはずはないと考えるが、地球の兵器(ザク)の存在が何か予想だにしない要因を勘繰らせて不安を煽り続けた。

 

 大量の無人戦闘艇が都市中に配備されているが、想定されているザクの戦闘力と数を考えると大半を消費しても倒しきれる算段が立たなかった。

 最初の攻撃から断続して今も送れるだけの無人戦闘艇を送り続けてたが、いまだに有効な攻撃を見つけることが出来なかったからだ。

 そして今、十数回の攻撃を撃退された後に同盟にこれまでとは違う動きをピシアは感知した。

 

「将軍、小惑星帯を抜けてきた多数の信号を地表の監視網が捕らえました」

 

「同盟は動いたか…。 やはりこちらへ向かってきているのか?」

 

 ピシアの作戦室にてドラコルルは戴冠式の警備をしながら同盟の動きを見張っていた。

 敵の新たな動きを察知した作戦室の人員は皆緊張を高める。

 まるで勝ち目のない兵器がこちらに向かって来ると知っていれば、誰でも竦んでしまうだろう。

 まして彼らはその兵器が現れてから碌に休まず調査を行い、ピシア内でもっともその脅威を理解している者たちだ。

 逃げ出したいと考えるモノも多数いるだろうが、ギルモアの支配下で下手な逃亡は死に繋がることを所属している彼らが一番よく分かっていた。

 

 同盟が動いたのならまっすぐこちらに向かってくるだろうとドラコルルは考えていた。

 だが告げられた報告はドラコルルが予想していた内容とはかけ離れていた。

 

「同盟の新兵器が各主要都市に向けて分散して降下を開始しました!」

 

「各主要都市だと! しまった、奴ら我々の裏を突いてきたか!

 戴冠式にピリカ全土から戦力を集めている。

 手薄になっている各地では、簡単に同盟に拠点を抑えられるぞ!」

 

 ザクの存在を意識するあまり、意表を突かれたことがドラコルルには堪えた。

 各都市を先に制圧することで、ピシア本部を置く首都ピリポリスに時間を掛けて圧力をかけるのが狙いだろうとドラコルルはすぐに考えた。

 今更首都に集中した戦力を戻したところで間に合わず、戻したところでザクに対抗出来る可能性は低いのでどうしようもない。

 各都市は諦めるしかないと考えたところで、部下からの更なる報告がドラコルルを追い込むさせる。

 

「そうではありません!

 ここピリポリスにも敵機が向かってきているようです!」

 

「なに? いくら地球製の兵器が優れていても分散したのでは、各都市はともかくここを少数で攻略するのはいくらなんでも不可能だ」

 

 小惑星帯での戦いで確認されていたのは大よそ百機程度。

 各都市に分散したとの報告から、敵は各地に精々十機くらいだろうと思っていた。

 

「監視網で確認された敵機の数が500を超えています!

 内300近くがここに向かっているとのこと!」

 

「なんだと!?」

 

 あまりの数にドラコルルは愕然とする。

 増援を想定していなかったわけではないがその数は想定外だった。

 予備戦力は多くても倍だろうと、常識的或いは現実的な軍の運用法で考えていたが、あまりの高性能にこれ以上はないだろうと無意識に楽観視してしまっていた。

 窮地に陥っていた所を後押しするように現れた想定以上の増援に、ドラコルルは敵の数のプレッシャーと疲労に眩暈を覚える。

 

 

 

 

 

 ピリカ星の首都ピリポリス。

 この日、この都市で独裁者ギルモアが皇帝になる戴冠式が予定されていたが、それは都市が本人のクーデター以来の戦場になることによって無くなる。

 自由同盟はギルモアに奪われた自由を取り戻すために、この日決戦を挑んだ。

 

「パメルさん、この後はどうすれば」

 

『出来る限り市街地を傷つけたくないので、郊外や大通りで戦い無人機の数を減らしましょう。

 各部隊も配置につきピリポリスを全方位から囲い込むことが出来ました。

 逃亡を図るギルモアの有人艇を逃さなければ、ザクの性能で我々の勝利は間違いないでしょう』

 

 僕等は宇宙から直接降下してピシア本部のある首都ピリポリスを包囲し、ザク部隊の指揮は軍事行動に慣れた自由同盟のパメルさんに譲って攻撃を開始した。

 敵の無人兵器は各地から集めたらしく大量に配備されていたが、こちらも無人機のザクを追加投入することで敵を逃さないための包囲網を完成させた。

 各地の戦力を無理に集めたのを好機と見て、ゲンブさんが各地の開放の優先を提案したのだが、僕がザクの無人機を更に増員し命令権を同盟隊員の操縦するザクに預ける事で戦力を充実させ、首都と各地に同時に一斉攻撃を仕掛けた。

 

 パメルさんが無事に同盟本部に戻ってこれたので地下組織との連絡が密になり、敵の無人兵器を壊滅させた後に市民の一斉決起が起きる事になっている。

 聞こえてくる同盟からの通信では各都市のピシア支部の強襲に成功し、各地の地下組織もそれに乗じる事でどんどん解放されてるらしい。

 各都市に比べてピシア本部のあるピリポリスは敵が集結しているので、無人兵器の殲滅にまだまだ時間を要していた。

 

 今回は僕もザクに乗って、無人機を指揮しながら敵の無人兵器を破壊して回っている。

 ザクの有人機と無人機の比率が1:5で配備しているので、かなり人手不足になったのが僕も作戦に参加出来た理由だ。

 同盟本部に何度も攻撃を仕掛けてきた無人戦闘艇の戦力から、ザクならやられることはないだろうとドラ丸に認めさせてようやくの参戦だ。

 

 僕の乗るザクは赤に染めて角を付けたちょっと性能がいいだけの、いわゆるシャア専用ザクだ。

 ガンダムタイプがいいと思ったのだが、実はまだビーム兵器がうまく作れず主力武器がないので実体武器が主流のザクのカスタム機で今回は我慢することにした。

 ドラ丸の機体もビーム兵器は搭載させず主力武器が実体剣(刀)なので、ガンダムタイプのアストレイは採用して持ってきた。

 

『この戦力であれば無数の無人機であっても、そう遠くない内に殲滅が出来るでしょう。

 終わりましたら後はピシア本部を制圧するだけです』

 

「ほかの人にはまだ知られていないけど、パピ君は実際にはこちらで確保済み。

 戦力が完全に及んでない現状では既にピシアは詰んでいる」

 

 そうなるように仕向けたのはすべて僕の策だが、殆ど力押しで済んでしまうのは味気なく感じる。

 面倒臭い事態にならないのに越したことはないが、遊べるくらいの冒険もしてみたいと思うくらいには敵の無人兵器は只の動く的も同然の扱いだった。

 

 都市を埋め尽くすように展開していた無人兵器も、ザク軍団の攻撃で目に見えて減ってきていた。

 このまま全て片付けて敵の本部を制圧して終わるかと思ったが、ピシアも死に体とは言え足掻きをするくらいは余力が残っていた。

 それが本当は価値がない物だと最後まで気づかないまま。

 

 ピシア本部から公衆大型モニターを乗せた車両が都市内に広がり、戦っている自由同盟の目に映るように配置された。

 

『自由同盟諸君、この声が聞こえていたら直ちに停戦したまえ』

 

 大型モニターにドラコルルが映ると同時に敵の無人兵器も、攻撃を中止してこちらの攻撃の回避行動だけをとるようになる。

 こちらのザク達も攻撃に戸惑いが見えて、どうすればいいかという声が通信がいくつも聞こえてきた。

 

『各自一度攻撃を中止して敵機から距離を取って警戒態勢、油断はするなよ。

 自由同盟隊長パメルだ、一体どういった要件だ、ドラコルル。

 降伏するのであれば直ぐに無人兵器を停止させて直接出てこい』

 

 自由同盟の対応としてパメルさんが対応に出た。

 部隊を率いているのが実質パメルさんなので、ここは僕の出る幕じゃない。

 そもそもの予定では僕が表に出るような機会はない。

 よっぽどのことが無ければこのまま安全にザクを動かすだけで終わる筈だ。

 

『降伏を要求するのはこちらの方だ。 見るがいい』

 

 モニターが移り変わるとそこには拘束されたパピ君の姿があった。

 

『強力な兵器を手に入れたことで調子に乗り過ぎたようだな。

 パピの身柄はこちらの手の内にあり、こうすれば貴様らは碌に動くことも出来ないというのに』

 

 再びドラコルルがモニターに現れると銃を取り出してパピ君に突き付けた。

 一目で人質として扱う事がわかり、通信からはザクに乗った同盟兵士達が大統領と呼ぶ声が聞こえる。

 ドラコルルの予想通り、同盟兵士達は少なからず浮足立っていた。

 

『私がこの引き金を引けばどうなるかは分かっているだろうが、それをするのは私も本意ではない。

 その強力な兵器から全員降りて降伏しろと言いたいところだが、貴様らでもそこまで愚かではないだろう。

 この場を引けば私も君らの大事な大統領を傷つけなくて済む』

 

 ドラコルルは無茶な要求を例えてから撤回したのは、彼自身も後がないことからの同盟への妥協だった。

 無茶な要求をして大統領を切り捨てるようなことになれば、ギルモア派の生命線は完全に断たれてしまう。

 彼の本意はこの場を凌いで対抗策が得られるまでの時間稼ぎであり、同盟の救出対象であるパピを殺す事は自分達を殺す事も同然だったからだ。

 

 戦場は粛然として双方の動きは止まったままだが。通信にはパメルさんにどうすればいいか命令を求める声が殺到していた。

 救出対象を人質に取られて同盟兵士達はどうすればいいか分からず混乱していた。

 

 そんな中で一機の有人機のザクとそれが率いた無人機たちが無人兵器への攻撃を再開した。

 

『なにをやっている! 貴様にはこれが見えていないのか!』

 

 ドラコルルが攻撃を再開されたことに驚き、攻撃を再開したグループに近くのモニターの車両が動く。

 一部の攻撃にすぐに反応出来たのは、町中に配置されたギルモアの肖像がカメラの役割をしてピシアの監視網になっているからだ。

 

 勝手に開始された攻撃を僕もパメルさんも止めようとはせずに、これから起こることを平然と見守っていた。

 その間もグループの攻撃が続き、モニター車両を除くその辺り一帯の敵の無人兵器はあっという間に全滅していた。

 

『何処のどいつか知らんが貴様、パピの命がどうなってもいいのか!

 殺さずとも手足の一本くらい奪っても構わんのだぞ!』

 

 激昂する一方でドラコルルは非常に焦っていた。

 パピが人質として機能しないのであればピシアにもはや打つ手は残されていないのだ。

 相手が何を考えているのかわからないが慎重に交渉をしなければと、相手の行動の意図を読み取ろうとさまざまな考えが交錯していた。

 

 こちらの脅しに屈しないという意思表示か、或いは人質を本気で殺さないか探るための一当てか、はたまた単なる一部の部下の暴走か。

 相手の意図が読めないがドラコルルは相手にされないのが一番困ると怒鳴らざるを得なかった。

 その脅迫への返答はグループを指揮していた有人機のザクの外部スピーカーから流れてきた。

 

『なら奪ってみるといい。

 そこから本当に僕の命が奪えるというのならな』

 

『な、なに………その声は、なぜ…

 どういうことだ!?』

 

 スピーカー越しに聞こえてきた声にドラコルルの混乱は限界に達しようとしていた。

 聞こえてきた声の主は自分の目の前にいる筈なのだから。

 

『こういうことだ』

 

 その声と同時にザクのコクピットが開き、操縦していたパイロットがコクピット前に持ってきたザクの掌の上に立った。

 

『なぜだ!なぜパピがそこにいる!』

 

 ドラコルルの驚きの声がモニター越しに響き渡り、戦いに参加していた一部を除く同盟の仲間も驚愕する。

 助ける筈の大統領が一緒に戦っていたのだから驚くのは当然だ。

 

『答えよう。 お前たちが地球で捕まえたと思っているそこにいる僕は地球の協力者に用意してもらった替え玉のロボットだ。

 僕の容姿と記憶を完全にコピーしたロボットだから、完璧な受け答えで気づかないのも無理はない』

 

『う、嘘だ! それならばお前が本物だという証拠はどこにある!』

 

 最後の頼みの綱が偽物にすり替えられていたことを暴露されたドラコルルは、半分錯乱した様にその事実を否定する。

 聞かれることを想定していた本物のパピ君は冷静にその証拠を突きつける。

 

『替え玉のロボットの鼻がスイッチになっている。

 それを押せばそこにいる僕はただのロボットに戻るだろう』

 

『………』

 

 言っていることが本当ならばすべてが終わってしまう。

 それがわかっていながらドラコルルはふらふらと銃を突きつけていたパピ君に近寄り、言われた通りに鼻のスイッチを押してしまった。

 縛られていたパピ君は姿形を変えながら小さくなっていき、あっという間にのっぺらぼうの人形になってしまった。

 

 ドラコルルはそれを呆然と見つめ、その光景を映していたモニターを見ていた者たちも驚かざるを得なかった。

 そんな中で最初に動き出したのはすでに場の流れを支配していたパピ君だった。

 

『大統領パピはここにいる、僕はもう大丈夫だ!

 後はギルモアを倒し、奴の独裁に終止符を打つだけ。

 国民よ、僕に力を貸してくれ!』

 

 パピ君の呼びかけに一拍を置いて、都市中から喝采の声が響き渡った。

 一緒に戦っていた自由同盟の兵士達だけでなく、こちらの様子を窺っていた地下組織のメンバーやピシアを恐れて家屋に隠れていた市民たちの歓声もここまで響き渡っていた。

 驚くほど多い人々の歓声はパピ君の支持の強さか、あるいはギルモアの独裁を嫌う不人気さによるものか。

 

 歓声が響き渡ると進軍はすぐに開始された。

 先ほどよりはるかに高まった士気により、敵の無人兵器はザクの攻撃によりどんどん撃破されていく。

 それに続くようにザクの進行後から地下組織の人々が武器をもって決起し、ザクでは小さくて対処しきれなかったピシアの兵士を次々に倒していく。

 ザクの軍団と地下組織の人々の進撃をピシアにはもはや止めることは出来なかった。

 

「うまくいったね、パピ君」

 

『すべてハジメさん達のおかげです。

 ドラコルルもこの状況ではもはや打つ手は残されていないでしょう。

 後はギルモアを見つけ出して捕らえるだけです』

 

『大統領、御自身の存在の公表と皆への鼓舞はもうよろしいはずです。

 まだ何があるかわからないのでもうお下がりください』

 

 パピ君の偽物と本物を大々的な公表と鼓舞で士気を高め、同時にピシアの戦意を砕く作戦は大成功に終わった。

 その為にわざわざパピ君もザクに乗って戦場に出てきたわけだが、ゲンブさん達は当然大統領を戦場に出すことを快く思わなかった。

 作戦の変更を何度も申し出てきたが、パピ君は前線に出る事に反対せずむしろ喜んで自らザクの操縦を学ぼうとした。

 逃げるしかなかったクーデター時から抱えてきた自責の念から、今度は自分も戦うのだと決して譲らずここまでついてきた。

 

『ここまで来て今更下がれだと。

 僕の言葉によって今まさに国民一人一人が立ち上がったんだ。

 そんな僕が一人だけ後ろに下がるなど出来る訳がない』

 

『ではせめて我らの傍を離れないでください。

 それにあの作戦で大統領がザクから降りる必要はなかったはずです。

 なぜそんな危険な真似をしたのですか』

 

 言った通りパピ君が存在を暴露するときに、別にザクから降りる必要はなかった。

 モニターに映っているコピーロボットが偽物であることをはっきりさせればよかっただけなので、いくらザクが頑丈でもコクピットから出た状態では安全の保障など出来る筈がない。

 今は再びザクに乗り込んでいるからいいが、あの時攻撃されていたらと思うと恐ろしくてしょうがない。

 パメルさんが怒るのは当然だろう。

 

『僕は大統領だ。 姿を隠して国民に語り掛かける事など出来ない。

 事前に周囲の敵を倒して安全を確保していたし、姿をはっきり見せねば敵も国民も信じることは出来なかった。

 心配させてしまったのはすまないが、これは僕が国民に示さねばならない事だったんだ』

 

『……わかりました、もう何も言いません。

 ですがこれからは絶対に単独で行動しないでください。

 ここで大統領を再び失うわけにはいかないのです』

 

『ああ、だが共には戦うぞ。

 情勢は決しているといっても数だけはまだまだ多い。

 ギルモアを捕らえるまでは油断出来ない』

 

『はい』

 

 パピ君達も再び戦線に加わり無人兵器を駆逐していく。

 数は多くても圧倒的な性能差から戦線の停滞を許さず、どんどん同盟側が奥に押し込んでいく。

 ピシアも必死なのだろうが、もう奴らに打つ手は残されていないだろう。

 市街地も抜けてついにピシア本部が見える所まで攻め込んだ。

 

『大統領、あれを見てください!』

 

『あれは!』

 

 パピ君達が気付いたのと同時に、僕にもその存在が目に入った。

 ドラコルルが地球にやってきた時に乗っていたクジラ型の巨大戦艦。

 それがピシア本部から姿を現し、宙に浮かび上がった。

 

『あれが動いているという事は…』

 

『間違いなくドラコルルがあそこにいるだろう』

 

 あの巨大戦艦で決戦を挑んでくるのかと思ったが、牽制に無数のビームを周囲に放ちながらどんどん高く昇っていく。

 

『ッ! まさかドラコルルめ、逃げる気か!』

 

『まずい、ザクは地上では戦闘機のように素早く飛ぶことが出来ない!

 逃げられる前に撃ち落とすんだ! ミサイルも使え!』

 

 パメルさんの命令が通信で響き渡ると、一斉にすべてのザクが攻撃していた無人兵器を無視して遠距離攻撃を巨大戦艦に打ち出す。

 ヒートホークとマシンガンの他にクラッカーと脚部ミサイルポットが装備されているが、後者は市街地戦の被害を抑える事と無人兵器にはマシンガンの威力で十分だったので使われていなかった。

 

 マシンガンとミサイルが巨大戦艦に飛んでいくが、これまでの無人兵器と違い防御力がかなり高い為びくともせずに宇宙に向かって上がっていく。

 周囲は焦りの声を上げるが、僕はあの船が出てくることを想定していたので策というほどではないが用意はしてある。

 

「ドラ丸、出番だぞ」

 

『承知でござる。 戦いに加わらずに待っていたかいのある大物でござるな』

 

 戦いに加わらずに後方で待っていたドラ丸の機体が、高く飛んでいく巨大戦艦に向かってすごい速さで飛んでいく。

 前にも言ったがドラ丸の機体は高速機動近接型に改造して、性能通りのザクとは違い大気圏内でも自由に空を飛びまわれるようになっている。

 戦線に加わっていれば無人兵器相手の無双ゲーになっていただろうが、パピ君達を活躍させるために巨大戦艦が出るまで待機していた。

 ぐんぐん空高く飛んでいくドラ丸の機体はついに巨大戦艦を捕らえると刀を振り上げる。

 

『チェストォォォーーーー!!』

 

 雄叫びと共に刀を振り下ろすとなんでもカッターの機能が働き、サイズ的には一度ではとても斬れない筈の巨大戦艦を真っ二つにした。

 巨大戦艦は真っ二つにされたことで推力を失ってどんどん降下して行き都市郊外の海に墜落した。

 

――ウオオオオオォォォォォ!!!――

 

 ピシアの巨大戦艦を真っ二つにして撃墜したのを見届けた直後、同盟と市民が雄叫びを上げて勝利の歓声が都市中に響き渡った。

 巨大戦艦はピシアの最大戦力であることはピリカ星ではだれもが知る所であり、それが墜ちたという事はピシアの敗北したことを示した。

 自由同盟が勝利しギルモアの独裁が終わったのだと、誰もが理解したのだ。

 

 歓声はしばらくやむことはなく、多くの者が涙を浮かべながら勝利の余韻をかみしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いが終わってもパピ君達の仕事が終わったわけではない。

 むしろギルモアによって荒らされたピリカ星の復興こそが、政を担う彼ら本来の仕事だった。

 

 墜落した巨大戦艦からはドラコルルと一緒にギルモアも発見され捕らえられる事になった。

 あのままではピリカ星のどこに行っても逃げられないと、宇宙に逃げて再起を図るつもりだったようだ。

 パピ君が地球の兵器を手に入れたことで形勢が逆転したのだから、同じように地球の兵器を手に入れてこようという考えもあったんだとか。

 地球でも僕しか本物のようなザクは持ってないのだからどうしようもないのだが、来られて地球の人に知られては迷惑なので捕まえられてよかった。

 

 この戦いでピシアの殆どの無人兵器が破壊されたので、残党がいてもまともに戦力が残ってないのでザクが無くても勝てるだろう。

 少数によるゲリラ作戦とかもあるが、小さな争いなどは平和になっても無くなるものではないので気にしてたらキリがない。

 それにこの星の大統領のパピ君ならともかく、地球人である僕が気にする事ではない。

 

 戦後の残骸処理に少しばかり協力し、大よそ事態が落ち着いてきたら、ザクを全て回収して地球に帰る事にした。

 報酬として宇宙船もパピ君の乗ってたロケットと真っ二つにしたピシアの巨大戦艦を貰い、元のサイズになってから四次元ポシェットに入れて持って帰ることにした。

 パピ君のロケットはともかく巨大戦艦は軍事用なので、地球人のサイズに応用できれば今後の戦力の向上に大いに役に立ちそうだ。

 

 帰るためのロケットの前でパピ君、ゲンブさん、パメルさんが見送りに来てくれている。

 

「ハジメさん、ドラ丸さん、ピリカ星を救って頂き改めて感謝の言葉を贈らせてください」

 

「ピリカ星国民一同、心からあなたに感謝しています」

 

「お二人の事は、未来永劫ピリカ星の歴史に刻まれるでしょう」

 

 この場にはパピ君達三人しか来ていないが、僕が事前に止めていなければ国民が押しかけてきて大々的な見送りをされるところだった。

 彼らにとっては偉業なんだろうが、僕等にとって大したことではないと思ってるので、出来れば未来永劫には語り継がないでほしい。

 

「もう少し居てもらっても構わないのですよ。

 パーティーやパレードで歓待を受けてほしかったのですが…」

 

「もう十分ですよ。 戦いが終わってから市民の方ではずっとお祭り騒ぎが続いてるじゃないか。

 これ以上もみくちゃにされたくないからそろそろ帰りたいんです」

 

「それは残念」

 

 戦いが終わってから昨日までずっとお祭り騒ぎに巻き込まれて、英雄扱いで多くの人から感謝の言葉とお礼の品を山のように渡され続けた。

 目まぐるしくお礼を告げに人が現れ続けて、そろそろうんざりし始めたところだった。

 そこでそろそろ帰ると言い出したのだが、このままでは帰るだけでも大騒動になりそうだったので、顔見知りの三人だけに見送りは控えてもらった。

 

「ぜひいつでも遊びに来てください。

 僕等はいつでもあなたの来訪をお待ちしております」

 

「まあ、縁があったらね」

 

 劇場版での出会いは一期一会だ。

 忙しいという意味では、そうそう再びピリカ星に訪れる事はないだろう。

 

 三人に見送られて僕は宇宙船と戦争体験という収穫をもって地球に帰る。

 今回の戦争の経験はザクなどの無人機を戦争でどのように運用するのか試すための試金石でもあった。

 今後、宇宙に出る映画の話は戦闘になるものが多い。

 戦争に良いも悪いもないが、今後の対策に大いに役立つ経験を得ることが出来たと思っている。

 

 宇宙船の中で戦いが終わったばかりだというのに、次の事件の対策の事を考えている。

 帰ったら少し休むだろうが、戦いになる事件はこれからが多いのだ。

 

 

 

 のちにある理由でピリカに訪れる事になるのだが、その時にピリカ星のMSを見る事になる。

 解放戦争と呼ばれる事になる今回の戦いで大活躍したザクを多くの人が求めて、独自に開発されたピリカ星の人型兵器が歩き回ることになっていようとは思いもよらなかった。

 

 

 

 

 




 鉄人兵団を書いていたら、ピリカの戦後処理を少し手伝っていたと思っていたのですが、書いてなかったので僅かに修正を入れました。
 映画の小宇宙戦争のエンディングで、ジャイアンが橋を架けてるイメージがそれに繋がったのだと思います。

修正前《 戦いが終わって大よそ事態が落ち着いてきたら、ザクを全て回収して地球に帰る事にした。》

修正後《 戦後の残骸処理に少しばかり協力し、大よそ事態が落ち着いてきたら、ザクを全て回収して地球に帰る事にした。》


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宇宙世直し行脚(アニマルプラネット・ブリキの迷宮)

 

 

 

 

 

 小宇宙戦争(リトルスターウォーズ)の戦いを終えて地球に帰還した僕等は情報整理後、宇宙船開発を営んだ。

 ピリカ星で入手したクジラ型の巨大戦艦を解析し宇宙航行に最も必要なワープ装置を主に調べ、他にも利になりそうな情報も蓄積していった。

 

 宇宙船を望んだのは残る映画の事件が宇宙に関わるものが多いからだった。

 宇宙救命ボートというひみつ道具があるが、別の星まで自動で飛んで行くフルオートなので融通が利かない。

 解析しようにもひみつ道具はブラックボックスが多いので主要機能を理解することが出来ない。

 同じひみつ道具による改造は出来るが、結局機能を理解出来るわけではないので極力行わなかった。

 

 それに比べて、これまで入手してきた技術は地球ではオーバーテクノロジーだが、ひみつ道具よりもまだ理解が及んだ。

 ひみつ道具を理解出来ずとも応用するためにいろいろ弄ってきたので、相対的にこれまで手に入れた技術が簡単に見えたので習得が楽に感じた。

 お陰でひみつ道具の力を借りなくても宇宙船を開発出来るくらいにはなったが、それでも当然タマゴコピーミラーによる人海戦術と記憶統合による学習効率の向上が必要だった。

 

 宇宙船開発を優先しているが、他にもピリカ星で使ったMSの改良もひみつ道具無しで行っている。

 こちらはどちらかというと趣味が優先してしまっているのだが、ピリカ星で使えなかったガンダム系のMSを完成させるためにビーム兵器の開発を進めていた。

 クジラ型巨大戦艦の武装からヒントを得られたことでビーム兵器の開発は順調に進み、ガンダム系だけでなくあらゆるMSの再現が実現可能になった。

 ひみつ道具に比べたら玩具に違いないが、人材がどうしても少ない僕等の役に立つロボットとして有効利用出来るだろう。

 ピリカ星で学んだ宇宙を含めた戦場での経験は、他の宇宙に出る映画の話で後に大いに役立つことになる。

 

 宇宙船はMS戦闘を想定した大型戦艦と、パピ君が乗っていたような個人運用が可能な小型で速い物を開発した。

 もちろんどちらもピリカ星の人に合わせた小さいサイズの物でなく、地球人サイズの物を作ってワープ機能も備えている。

 それに加えてMSも地球人が乗り込むような実物大サイズも開発されたが、ピリカ星人が乗り込めるサイズのMSも開発し続けた。

 

 ピリカ星で使ったMSのサイズは、地球では人間サイズのロボットになる。

 これはそのまま機械兵として使うことが出来たので、白兵戦用機械兵として運用開発を続けた。

 人員、技術、経験が揃ってきた事で僕等の活動もだいぶ安定してきたのだった。

 

 

 

 

 

 僕等が運用する小型の宇宙船が完成したら、地球外の事件にそれぞれ取り掛かった。

 宇宙船が完成するころにはビーム兵器も完成しており、戦力について申し分なかった。

 というより、一機開発すればフエルミラーで数を揃えられるので数についてはどうとでもなる。

 

 今回も各部署の代表のコピー達の集った会議で、映画事件に関する討論が行われていた。

 

「量産機はやっぱりザクだろ!

 由緒正しき量産機の代表にして幾度とリメイクされてるガンダムシリーズの伝統だ。

 これをメイン量産機にしない手はないだろ!」

 

「ジムタイプだって負けちゃいないぞ!

 ガンダムの量産機にして角張りつつもスマートなフォルム、少ない特徴故に対した活躍も見られない量産機の宿命。

 ほどほどに役立って消えていく、エースが乗ることによって活躍を見せるザクとは違う完全なやられ役。

 ザクとは違うのだよ、ザクとは!」

 

「それ、言いたいだけだろ!?

 量産機だからって役に立たないもの作ってどうするんだ。

 どうせいろいろ作ってるんだから、適当に配備すればいいんじゃないか?」

 

「仮にもMSは戦闘で使われる軍事兵器だぞ。

 軍事兵器らしく形を揃えないと見栄えが悪い。

 同じ種類のMSが並んでるのは壮観だが、バラバラの種類が並んでるとゲリラ軍かテロリストの戦力に見えないか?」

 

「僕等、軍でもテロリストでもないんだけどね」

 

「量産機はザクやジムだけじゃないぞ。

 ドムのジェットストリームアタックは後世に残り続ける立派なネタじゃないか」

 

「ドムのホバー移動はいいよね。

 人型でありながら足を動かさないあの動きには、魅せられるものを感じる」

 

「ここはやっぱり用途別に分けて配備するべきじゃないか?」

 

「例えば?」

 

「ガンダム系は各地形オールマイティだけど量産機はそうじゃないだろ。

 海陸空宙それぞれに合わせた量産機を配備するべきじゃないか?」

 

「それだ」

 

「じゃあ陸はドムに決定だな。陸戦兵器なんだし」

 

「いや待てザクだって地上でも活躍できるぞ

 ホバーはないけど様々な武装が可能な汎用兵器だ」

 

「それならジムだって」

 

「海ならゴッグかアッガイか?」

 

「初見はダサいと思うんだけど、あれはあれで味があるんだよな」

 

「それを言ったらジオン系列のMS全部味があると思うんだけどな

 初登場のジオングも未完成なのに、あれはあれでいい感じだもんな」

 

「足なんて飾りです!偉い人にはそれがわからんのです!」

 

「言いやがったな、おまえ!」

 

「先越された!」

 

「なんかアニメ見たくなってきた」

 

「主力量産決めるための参考に鑑賞会でもしようか。

 全話見るのは流石に辛いし劇場版で」

 

「それじゃ準備するわ」

 

「お菓子とジュース持ってくる」

 

 そして始まるガンダム鑑賞会。

 

 

 

 

 

 鑑賞が終わって全員が余韻に浸る。

 感想は全員変わらない物だった。

 

「やっぱどれもいい機体だよな」

 

「ザクは代表的だけどマイナーな機体も味がありすぎる」

 

「やっぱり全種類作るか?」

 

「作るだけならいいんじゃないか?

 必要になったのなら数はいつでも増やせるんだし」

 

「けど性能が被るものが多いから仕舞っておいたらそうそう使う機会がないんじゃないか?」

 

「そうかもしれないけど一度は全部作っておきたいな」

 

「一回作れば満足しそうだしな」

 

「とりあえず全部作って扱いやすいのを主力量産機にしよう」

 

「会議もだいぶ長引いちゃったしここで一度解散だな」

 

「じゃあこれで劇場版事件報告会を終了する。

 お疲れさんでした」

 

「「おつかれさまでした」」

 

 挨拶を終えて各々が席を立つと会議室を出ようとドアに向かっていく。

 会長の僕も今回の会議のために用意し机の上に並べた資料を纏め始めた所で、はっと気づく。

 

「って、事件報告について全く話してないぞ!」

 

「「あっ!」」

 

 僕の声に会議室を出ようとした全員が立ち止まって思い出す。

 

「しまった、MS談義を始めたら完全に話がそれてた」

 

「事件解決よりもMSの働きが目覚まし過ぎるのがいけないんだ」

 

「なんでだれも止めなかったんだよ」

 

「僕ら趣味に走り出すとどうしても止まらないからな」

 

「今後の主力量産機の話にすり替わっていても、結局話はまとまらなかったし」

 

「極めつけはガンダムアニメの鑑賞会になるんだもんな」

 

 本来は宇宙船が完成した後に解決した地球外の事件の報告会が、この会議の目的だった。

 なのに事件で活躍したMSに見惚れて、今後どのようなMSを作るかを考える談議になってしまった。

 全員が同じ趣味に走るので、止めるモノがいなければ直に脱線してしまう。

 毎回の会議の反省点なのだ。

 

 

 

 仕切り直して、事件の報告会を再度始める。

 僕等の話の脱線を止める役に今度はドラ丸を呼んできてある。

 

「なにをやっているのでござるか、殿

 会議が長引いているのかと思えば、話を脱線させて無駄口ばかりとは…」

 

 忠義に厚いドラ丸も今回ばかりは流石に呆れてしまっている。

 

「いや、悪い。 MSの話を始めたらどうにも止まらなくてね。

 ドラ丸だってブルードラゴンの改良を楽しみにしてたじゃないか」

 

「確かにそれは気になるでござるな。

 拙者のガーベラ・ストレートVol.2改はどうなったでござる?」

 

 ブルードラゴンとはドラ丸の機体の事であり、元となった機体がアストレイレッドドラゴンでパーソナルカラーをドラ丸と同じ青にしているのでそう呼び変えた。

 ガーベラ・ストレートはレッドドラゴンが使う刀型の武器で、改と呼ぶのはドラ丸の猫又丸と同じひみつ道具機能を付けてるから。

 そしてVol.2は刀型の武器ではあるが、そのサイズが全長150MというMSが使うと思えない大きさだからだ。

 原作でも当然普通では使うことが出来ず、宇宙空間で且つ腕部を強化された機体でなければ振ることも出来ない代物。

 それを運用することも想定に入れてブルードラゴンは改良していた。

 

「持ち運びに関しては宇宙船に船の横に取り付けるつもりだけど、四次元ポケットや【取り寄せバッグ】の機能でどこでも出せるようにしようとも考えている

 振う為の腕部はひみつ道具の機能も使うから問題ないだろう。

 いっそ地上でも使える様に刀本体に反重力エンジンを付けて、浮かせることで振り回せるようにしようかとも考えてる」

 

「おお、それは楽しみでござるな。

 完成はいつ頃になるのでござる?」

 

「Vol.2改は大きい分耐久力をしっかりさせてれば容量がかなり出来る。

 その分改造は楽になるからそんなに時間はかからないはずだ。

 ブルードラゴン本体も技術の蓄積に合わせて、外観はそのままでも中身は丸々入れ替えるように改造しているから性能はどんどん上がってる。

 腕力を強化するひみつ道具機能を搭載したら、もうリアルロボットじゃなくなるだろうな」

 

「そうか、別にMSに拘らなくてもスーパーロボット系を作ることが出来るのか」

 

「ひみつ道具を使うという前提が必要だろうけどね」

 

「じゃあ量産機はMSにして僕等が乗る専用機はスーパーロボットにするのはどうだ」

 

「それはいいな、ひみつ道具の機能を加えれば物理法則の無視なんて簡単に出来そうだ。

 リアル系もいいけど熱血のスーパー系も使えたら面白そう」

 

「じゃあ、どういうのにするんだ?

 僕はやっぱり合体系のロボットを作りたいが…」

 

「ゲッターロボとか?」

 

「ゲッターは再現難しいだろ。

 合体機構はもちろんゲッター線なんて意味不明」

 

「もうちょっと新しい方が再現しやすいか?」

 

「アクエリオンかグレンラガンが理想かな」

 

「アクエリオンも大概だけど、グレンラガンは厳しいんじゃないか」

 

「再現どころかひみつ道具を使っても勝てる気がしない」

 

「スーパー系はロボットが惑星一個くらい救ったり滅ぼしたりするのが当たり前だからな」

 

「ひみつ道具の機能を一体のロボットに集約させてみるというのはどうだろう。

 それで新しいオリジナルなスーパーロボットを作るのは」

 

「それは面白いかもしれない!」

 

「ひみつ道具機能を集約させた万能ロボットか。

 ムネワクだな」

 

「でもそれって巨大なだけのドラえもんじゃないか?」

 

「言われてみれば確かに…」

 

「つまりドラえもんはスーパーロボットだったんだよ!」

 

「なんだってー!!」

 

「殿、また話が脱線してるでござる!!」

 

 話の流れがだいぶ離れた所でドラ丸のストップがかかった。

 また話が脱線してしまったようだ。

 

「すまんドラ丸、止めてくれて助かる」

 

「それはいいでござるが、いつもこんな調子なのでござるか?」

 

「いつもはもう少し順調に進むよ。

 それでも脱線は免れないんだけど…」

 

「はぁ、では拙者が会議の進行を務めるでござるよ。

 それなら殿達も話の脱線がし辛いでござろう?」

 

「ああ、それで頼む」

 

 今後の会議の進行はドラ丸に任せる事にする。

 初めからこうしてればよかったのでないかとも思うが、自分同士で駄弁るのが楽しくて頼みにくかったのもある。

 ドラ丸の事件の結果をまとめた資料を手渡す。

 

「では、事件結果の報告を順番に言っていくでござるよ。

 まずはアニマルプラネットからでござる」

 

 会議室の大型モニターに事件内容を纏めた情報が提示される。

 

 

 

・アニマルプラネット

 原作では地球に偶然繋がったどこでもドアと同じ働きのどこでもガスで、のび太が別の星に迷い込むことから始まる。

 そこは動物達が人間のように進化したとても平和で豊かな世界だった。

 のび太たちはそこで友を得る事になるが、どこでもガスの燃料切れで一度は交流を途絶する。

 だがアニマル星が襲撃されたと知ったのび太たちは、宇宙救命ボートで再びアニマル星に友達を助けに向かうことになる。

 そこで襲ってきた者たちと戦うのがこの話の流れた。

 

 舞台となるアニマル星は実は月のような衛星で、母星と呼べるより大きい星が存在している。

 襲撃者はその母星に住む人間で、その星は環境汚染で荒廃しておりまともに生活するのが難しい環境だった。

 アニマル星の進化した動物達は、遥か昔に一人の人間の科学者によってどこでもガスでその星から逃がされた動物の子孫だった。

 母星の人間はアニマル星の綺麗な環境を知ると、それを手に入れるべく侵攻したのが今度の敵の目的だった。

 

 ここで気になったのは母星の人間がアニマル星を知ったのは、ジャイアン達がどこでもガスの装置を弄って母星とアニマル星を繋いでしまったことが原因だ。

 母星の人間がアニマル星の事を知った事で襲撃される要因になったのだが、僕等は事件を再現するためにそんなことをするつもりはない。

 では襲撃は起きないのかと思ったが、○×占いでは結局襲撃は起きると出た。

 

 どうやらどこでもガスで二つの星が繋がらなくても、襲撃時刻がずれるだけで大差が無いようだった。

 アニマル星の存在がどこでもガスによって発覚してから襲撃まで大した時間が無かったので、もともと準備があったんだろうと推測。

 ならばそれを撃退するのが僕等の役目になるのだろう。

 

 まず地球と繋がっているどこでもガスを見つけ出す。

 それからアニマル星に行きどこでもガスの発生装置と、同じように隠された星の船と呼ばれる小型宇宙船を地中から回収する。

 この星の船はアニマル星に動物人間の祖先を連れてきた人間の科学者が乗っていたものらしい。

 映画ではこれにのび太が乗って人質救出を行っていた。

 

 回収した後はこの星の宇宙座標を割り出してから、制作した新しい宇宙船で一度地球に帰還した。

 ガスの発生装置はアニマル星側にしかないので、どこでもドアのように潜り抜けた先で装置を回収することが出来ないから、持ち帰るには宇宙船に乗って帰るしかなかった。

 地球に帰ったら研究材料としてどこでもガス発生装置と星の船は技術班に提出しておき、記録しておいた宇宙座標から今度は自作の個人宇宙船でアニマル星に再び向かう。

 今度は母星の人間の襲撃を撃退するためだ。

 

 襲撃時間を割り出して壁紙格納庫に仕舞っておいた大小のMS部隊を配備し、攻撃が開始したのを確認したらすぐさま迎撃にMS部隊を出撃させた。

 今回はピリカ星で使った人間サイズのMSを機械兵として出撃させ、人間相手でも白兵戦を挑めるようにし、敵の宇宙船対策に原寸大のMSも数機配備して敵の船を落とす役割を担った。

 小宇宙戦争(リトルスターウォーズ)での無数の熱線に耐えたザクの装甲は今回も効果を発揮し、母星の人間が使う攻撃にことごとく耐えて逆に撃墜していった。

 ただしやり過ぎてしまったという失敗があった。

 

 敵は母星の人間だが、正確には一部の過激派の集団でコックローチ団という組織だ。

 ピシアのような正規の軍人でもないので大した数はいなかったのだが、武装しているが生身の人間ばかりだったので同サイズでもMSと戦えばただでは済まなかった。

 それがぶつかった事で敵はあっという間に蹂躙されて猟奇的な殺人現場になってしまった。

 敵の船も原寸大MSの攻撃ですぐに爆散してしまったので生き残った者はいなかった。

 あっけなさよりも血生臭さに吐き気を覚えてしばし取り乱してしまった。

 

 ピリカ星で無人兵器を相手にする感覚でやってしまったのが、今度の失敗だろう。

 無人兵器なら人の生死を気にせずに戦えたが、戦争というものは本来血生臭い物だとすっかり失念してしまっていた。

 敵を撃退するだけに留めるつもりだったのだが、想定の甘さが一方的な殺戮に代わったのは非常に不味い結果となった。

 僕自身の気分も最悪に陥ったが、その後のアニマル星の人々との交渉のとっかかりが非常に難しかった。

 

 敵を撃退することで味方であることを印象付けようと思ったが、MSによって生み出された惨劇に皆がドン引きというより恐怖に駆られてまともに話が出来なかった。

 遠くから代表者を求める声を発し続ける事で相手が落ち着くのを待ち、返答がくるまでは敵の死体処理をすることにした。

 殺してしまった時もショックだったが、MSの手でやらせているとはいえ死体を処分する光景は相当堪えた。

 自業自得とはいえ、一般人では生涯見る事のない光景をまじまじと見せられて、再び吐き気を覚えるが耐えるしかなかった。

 ここで対人兵器における非殺傷の武器の開発を推進すると報告書に書かれている。

 

 我慢しながら死体処理を終わらせた頃に代表の人(オランウータンだが)が出てきて話を進められた。

 僕等は通りがかりの宇宙人で、襲われているのを見たから攻撃したがやり過ぎてしまったのだと説明し、終始警戒され続けたがどうにか敵ではないことは理解してもらえた。

 アニマル星の人々を襲ったのは母星の人間で、これから僕等が今後襲ってこないように話を付けに行くと約束した。

 後で母星の人間と話し合うことになるだろうと説明し、了解を得てから僕等は迎撃のための戦力を残して敵の母星に向かった。

 

 襲ってきたコックローチ団だが、母星にいるのは彼らだけではない。

 むしろ奴らは少数派で、荒廃した惑星の再生に尽力を尽くしている者の方が断然多いらしい。

 そんな彼らの代表であり映画でも最後に登場して話を纏めてくれた連邦警察の元に直接向かった。

 本来なら映画知識のみを当てにして知らない組織に向かうことはなくもっと慎重に行動するのだが、自分でやってしまったスプラッタの影響が残ってなかばヤケクソ気味に突撃してしまった。

 

 重武装のMSを率いていたので、攻撃はされなかったが連邦警察にもかなり警戒された。

 それでも憂鬱な気分を吹き飛ばそうと、かなりテンション高めで終始押せ押せムードでアニマル星の事を話しまくった。

 そっちの星の馬鹿が襲ってきたぞとか、こっちの星の人間がだいぶ迷惑してるとか、通りすがりの僕等としても非常に遺憾であるとか言って、連邦警察を半分脅かすように文句を言って対応するように呼びかけた。

 かなりのテンションで話しまくってたので自分でも何を言っていたのかいまいち覚えていないが、連邦警察は直ぐに動いてこちらに生き残っているコックローチ団を捕らえてくれた。

 

 コックローチ団は映画でも連邦警察にマークされていたので、行動に移した証拠があるのならすぐにでも逮捕可能だったらしい。

 やり過ぎてアニマル星を襲ったコックローチ団を僕が殺しにしてしまった件は、出来れば捕らえてほしかったと言われただけでそれ以上咎められることはなかった。

 僕等が止めなければアニマル星の人々が犠牲になっていたのは事実なので連邦警察も強く言えなかったのだろうが、今回のような失敗は二度としたくないので教訓として自戒することにした。

 オーバーキルなんて現実でやるとろくなことにならないと。

 

 コックローチ団の残りを引き渡した後は、アニマル星に連邦警察の代表と共に戻って話し合いで解決した。

 連邦警察もアニマル星の存在については知っていたが、その美しさを人間の手で壊さないように不可侵が母星で義務づけられていた。

 過去に母星の環境を壊してしまったのは人間なので、同じことを繰り返さないためにまずは自分たちの母星を再興するまでは関わらない決まりだったが、コックローチ団がそれを破ってしまった。

 そこで改めて母星とアニマル星で不可侵を取り決めるべく連邦警察が条約を提示したが、アニマル星の人々が母星の環境を知って環境改善の技術提供を打診してきた。

 

 アニマル星の環境対策は映画でもドラえもんが22世紀の技術を上回ってると言わしめるものだった。

 それを使えば母星の環境改善に役立つだろうと、代表はアニマル星の人々の優しい気質から提案した。

 連邦警察の代表も環境改善が進むならと喜んで受け入れたがったが、彼はあくまで不可侵の取り決めのために来ただけなのでその場で返答することはなかった。

 

 そこからは完全な不可侵ではなく一部交流を行うことで話が進められていった。

 連邦警察の代表も一度母星に戻って仲間と相談する事になり、アニマル星の人々も交流に向けて前向きに話し合っていた。

 ここまで来れば僕が手を出す必要もなく、彼らに別れを告げて地球に帰ることにした。

 アニマル星の人達も話し合いが進んで、終わるころにはそれほど怯えられることも無くなっていた。

 

 終わってみれば僕等がコックローチ団を倒すのではなく、彼らの橋渡しをするだけでよかったのではないかと思ったが、人を殺してしまった失敗はある意味尊い経験として忘れる事の出来ないものになった。

 

 

 

 

 

 報告書を読み終えると全員が難しい顔をして眉を顰めていた。

 

「人間サイズのMSによる虐殺かぁ」

 

「元が玩具みたいなマシンガンでも、ひみつ道具の改造で本物と大差ないからな」

 

「相手が防護服を着ていても、生身なことをすっかり忘れていたか」

 

「敵の船も原寸MSのビームライフルで一撃か」

 

「映画では空気砲で落ちてたよな。 そりゃあ過剰火力にもなる」

 

 戦果が想定以上なのは問題ないが、過剰な犠牲は望んでいない。

 敵とは言え虐殺ともいえる光景を作ってしまったのは、まだまだ一般人の感性が抜けない僕等には少々辛いものがあった。

 

「報告書にも書かれていた通り、白兵戦用の非殺傷武器の開発は急務かもな」

 

「ひみつ道具の武器は非殺傷の物ばかりだろ。 それを流用できないか?」

 

「【ショックガン】だと防護服にすら通じないのは映画でもわかってるんだよな」

 

「やっぱり【空気砲】を流用するのがいいんじゃないか?」

 

「【フワフワ銃】なんてのも人間相手なら使える」

 

「ひみつ道具の武器でも、人間相手ならほとんど非殺傷じゃないか」

 

「人間相手にMSを差し向けたのが失敗だったな」

 

 散々MSの開発で遊んでいたが、実際に人を殺せる兵器だと再認識して全員頭が冷えていた。

 無人機などのロボット相手なら何とも思わないが、やはり生身の人間をスプラッタにした事実は堪えたのだ。

 

「今回の失敗はクるものがあったが、同時に僕等にはいい経験だったのかもしれない。

 僕等は玩具の様にMSを作れるようになったけど、実際には人を殺せる兵器なんだと思い知った。

 今後はそれを自戒して行動しよう」

 

 会長の僕の言葉に皆が神妙な心持ちで頷いた。

 

「MSの運用については今後も討論していくとして、次の報告に移ろう。

 ドラ丸、次を読み上げてくれ」

 

「わかったでござる、次の案件はブリキの迷宮(ラビリンス)でござる」

 

 

 

 

 

・ブリキの迷宮(ラビリンス)

 

 この話も舞台は地球を離れたチャモチャ星での事件になる。

 その星はロボットの科学者ナポギストラーが、人間に反乱を起こしてロボットだけの社会を作り上げたのが事件の始まり。

 それに対抗するために、協力者を探して宇宙に出た少年サピオはのび太達と出会い、共に戦ってくれることをお願いする。

 そうしてのび太たちのチャモチャ星での冒険が始まるが、序盤でドラえもんが敵に攫われるという事態に事件は難航するが、ドラえもんを取り戻してからはあっという間に解決に突き進むことになる。

 この頃の映画の話は、よくドラえもんが故障したり四次元ポケットが無くなったりすることで利便性を悪くして話を面白くするのが定番になっていた。

 

 この事件は解決方法がはっきりしているので特に難航することはなかった。

 

 まずは地球にきたサピオに、こちらから接触し協力を取り付ける。

 その時の説明はいつも通り予知でサピオ達が現れるのを知っていたからと説明し、事情もわかってるので地球に迷惑がかからないよう速やかに解決するために協力すると告げた。

 

 彼らの宇宙船は巨大な島そのもので、その地下には巨大な迷宮がありその一番奥に研究室が隠されていた。

 そこにはナポギストラーに対抗するために必要な品としてサピオの父が作ったウィルスディスクが保管されており、映画でもドラえもん達が活用したので僕もサッサと同じ方法で迷宮を攻略して回収した。

 このウィルスディスクをナポギストラーに打ち込めば、一緒に反乱を起こしているロボット達も同時に倒せる。

 一応戦力を用意したらサピオ君達と共にチャモチャ星に向かった。

 サピオ君達を追っていたナポギストラーの部下が地球に来ていたが、MS兵で瞬殺した。

 

 チャモチャ星に着いたら【自家用衛星】でチャモチャ星の首都メカポリスを探索しナポギストラーの居場所を探った。

 今回は用意した戦力で打ち破るのではなく、ひみつ道具を多用して相手に気づかれない内に事を済ませた。

 ピリカ星のように真正面から戦うことも出来たが、今回はチャモチャ星の人々が収容所に捕らわれているので乱暴な手段をとって人質にされるのを避けたかった。

 そこでウィルスを打ち込む予定のナポギストラーだが、【ウルトラタイムウォッチ】で時間を止めてその間にディスクを打ち込んで仕掛けた。

 仕掛け終わったらその場から離れて時間停止を解除すると、すぐに効果が出始めてナポギストラーを中心に全てのロボットが糸巻きの歌を歌いだして、最後には壊れた玩具の様にショートして動かなくなった。

 

 後は収容所に捕らえられていた人間を解放してこの事件は終わった。

 チャモチャ星の人達は解放されても意気消沈した様子で元気はなかったが、時間がたつと星の再建を始めた。

 ナポギストラーに従うロボットが全部壊れたので復興は人の手でやらなければならなかったので、MSを使って多少の復興支援をしてからチャモチャ星から地球に帰還した。

 

 事件は順調に解決したが、ピリカ星で見たような戦場となった都市の復興はそこに住む人たちにとって急務である。

 今後復興支援のための作業用ロボットの配備も報告書に提案しておく。

 

 

 

 

 

「ブリキの迷宮(ラビリンス)の報告書は以上でござる」

 

「ウルトラストップウォッチを使ったか」

 

「ギガゾンビでもない限り、大抵の敵はこれで簡単に倒せるしな」

 

 ギガゾンビは日本誕生に出る敵だが、同じ未来人であるために映画のドラえもんはウルトラストップウォッチの時間停止を解除されることになった。

 そんなひみつ道具と同じくらい理不尽な存在でもいない限り、時間停止による攻撃は防げないだろう。

 

「あっさり勝ってしまうからあっけなさ過ぎて使いたくない手だが、多くの人質がいたんじゃしかたないか」

 

「MSの戦力テストもピリカ星で済ませてるから、戦闘の必要はなかっただろう。

 同時進行させていたアニマルプラネットは失敗だったからな」

 

 戦力の充実化に伴い、簡単な事件であれば同時に解決しようとそれぞれの事件に一人ずつ僕のコピーを向かわせていた。

 

「失敗も一つの経験だ、今後に生かそう。

 それでチャモチャ星での成果は何かあった?」

 

「ナポギストラーが開発したイメコンが主な収穫だな」

 

 

 イメコンとはおそらくイメージコントロールの略で、チャモチャ星の人間が動かずに機械を操作する事の出来るシステムだ。

 ナポギストラーはこれを搭載した車いすのような乗り物を作り、一切動かずに生活できるようにすることで人間の弱体化と機械への依存を図った。

 彼の目論見は見事成功し、チャモチャ星の人間はほとんど抵抗出来ずに捕まったらしい。

 

「サイコントローラーと同じような効果だが、こちらは十分に解析可能な技術で出来ている」

 

「ひみつ道具との技術の置き換えが出来るのはいいことだな」

 

 同じ理論で解析出来れば、そこからひみつ道具のブラックボックスの解析に繋がる可能性がある。

 ひみつ道具の解析出来ない仕組みを理解するための研究も細々と進めている。

 

「後は戦後復興のための作業用ロボットの要望か」

 

「確かにピリカ星でも戦いが終わった後は復興が大変そうだった」

 

「平和な日本で暮らしてきた僕等は、戦争被害を受けた都市なんて見たことなかったしな」

 

「地震の被災地だって同じ日本でも見たことないし」

 

「大した労力でもないし作業用ロボットの配備は問題ないんじゃないか」

 

「そうだな、四次元ポシェットや壁紙格納庫ならいくらでも入るし」

 

「じゃあ作業用ロボットは今後用意しておくという事で」

 

 作業用ロボットの配備はこうして採用された。

 普通の会議であれば予算などの検討があるのだろうが全部ひみつ道具で解決なので決定するのが早い。

 

「この後の予定の事件は?」

 

「次は……ロボット王国(キングダム)の予定だな」

 

「課長、ポコは見つかりそうか?」

 

 情報統括課課長に視線が集まる。

 ポコとは映画ロボット王国でのび太達と友達になるロボットの子供だ。

 事故によって時空間に迷い込みこの世界にやってくるのだが、時空間から出てくるのにのび太たちの要因もあったので、こちらから探さないとそのままどこまでも時空間を漂流することになってしまう。

 

「時空間に漂流している存在というのは何時何処という概念がないから探し辛くてね。

 ○×占いに【なんでも分析機】、【時空間探索機】【時空震カウンター】なんかの調査に役立ちそうなものを使って調べてみたけど、かなりシビアだが見つけることは出来そうだと言っておく」

 

「どうやって見つけられるんだ?」

 

 課長の答えは歯切れが悪く、改めて見つける方法を尋ねる。

 

「特定の時間に特定の場所で時空間を調査すれば、その場所の近くの時空を漂流するポコを発見出来るはず」

 

「それはまた、確かにシビアだな」

 

「時空間は時間の流れの外にある場所で、そこでは時間の流れは無意味の筈。

 じゃあ何時ポコは時空間を漂流してるという謎はかなり難解だった、とりあえず○×占いで解決策を割り出した。

 時空間の中の時間の流れについてもある程度調査したから資料を纏めておく。

 まあ合体による情報統合があるから、あまり必要ないんだけどな」

 

 コピー達の蓄えた知識は、タマゴコピーミラーで増えたものを一つに戻すタマゴ逆転装置で情報統合出来る。

 それをすれば資料を見る必要はないのだが、知識を書面に残しておく必要はあるので何も問題ない。

 

「宇宙開拓史の方は何か手掛かりが出来たか?」

 

「正直ロボット王国に行く過程での観測結果に期待するしかないかな。

 宇宙開拓史の世界って絶対異世界だ。

 宇宙のどこかだからって時間の流れがずれてるのはいくらなんでも可笑しいし、時空間を越えたまったく別の宇宙としか考えられない。

 ロボット王国に行くみたいに時空迷宮を越えなきゃ行けないんじゃないか?」

 

「宇宙開拓史が異世界か、あり得るかもな」

 

 宇宙開拓史という名前からどこかの宇宙だとずっと思っていたが、異世界の宇宙の可能性にはこれまで気づかなかった。

 

「繋がったドアがタイムホールのように時間を歪めて繋がってる可能性もあるが、異世界の可能性もなきにしもあらずか」

 

「試しに○×占いで確認してみよう。

 異世界なんて可能性はまだ調べてなかったはずだよな」

 

「そうだな、会長○×占い出してくれないか」

 

「わかった」

 

 僕は服のポケットに手を突っ込み○×占いを探す。

 

「それで異世界に行くのにタイムマシンの改造は問題なさそうなのか?」

 

「天才ヘルメットで事足りるみたいだ。

 着いたとたんに壊れないように強度も高めてある」

 

「地底に秘境に過去に宇宙、そして異世界か。

 何度も思うがこの世界は節操がなさすぎる」

 

「もし宇宙開拓史が異世界ならロボット王国以上に調査が難航しそうだ」

 

「どっちも異世界なら同じ世界だったりして?」

 

 ○ ピンポーン!!

 

「「は?」」

 

 ポケットから出した○×占いを机の上に出した途端、マルのマークが反応して浮かび上がった?

 

「…何に反応した?」

 

「えっと…異世界の話?」

 

「まさかぁ…」

 

 突然の展開に流石に懐疑的な様子で戸惑っている。

 だがこうしてても仕方ないので再度確認をしてみるしかない。

 

「とりあえずもう一度質問してみるぞ。

 …宇宙開拓史とロボット王国の舞台は同じ世界?」

 

 ○ ピンポーン!!

 

 再び反応して浮かび上がる丸のマーク。

 

「「ええぇ……」」

 

 煮詰まっていた問題の突然の解決にこの場にいる全員が脱力せざるを得なかった。

 

 

 

 

 



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異世界世直し行脚(宇宙開拓史・ロボット王国(キングダム)

 

 

 

 

 

 時空迷宮を超えた先にあるロボット王国に向かうため、タイムマシン改造は大幅に見直された。

 ロボット王国と宇宙開拓史の舞台が同じ宇宙と○×占いが示したが、異世界というただの時間移動よりも行き来の難しい目的地なので、こちらの世界からの追加支援は困難になる。

 そこでロボット王国に派遣する人員は事件が解決したら、こちらに帰還せずに続けて宇宙開拓史の事件に対処することになった。

 

 まず改造タイムマシンを個人用から、宇宙船としても使える大型仕様に変更した。

 もともとのタイムマシンを中枢ユニットとして置き、そこから拡張するように宇宙船としての船体を作り動力を追加して出力を補い、全体の制御を行うコンピューターを搭載した。

 他にも異世界で長期に渡り活動が行えるように、必要な施設や居住区画を船内に建設した。

 かさばる物は四次元ポケットの収納機能の応用でどうにでもなるので、倉庫のような物置スペースはガラガラだが余裕は残しておいて問題ない。

 そうして出来上がったのは姿形はSFチックだが、竜の騎士で恐竜人達が使った大型タイムマシンと同じくらいの物になった。

 

 これから二つの事件を担当する僕のコピー達が、大型タイムマシンに乗り込んでいく。

 オリジナルである僕は、当然この世界に残って彼らの帰りを待つことになる。

 もしもの事があって、唯一オリジナルだけが使える四次元ポケットを失うわけにはいかないからだ。

 

 だがそれは異世界に旅立つコピーの彼らが、宇宙船に用意されたもの以外のひみつ道具が必要になっても使えないことになる。

 かなり反則気味な物から使えるかどうかわからない物まで、出来る限り複製して乗せてあるので大抵の事態に対処出来る筈だが、不安は拭えない。

 タイムテレビでも時空迷宮の先は流石に見ることは出来ないので、大型タイムマシンが出発すれば後は祈るだけになる。

 

 旅立つ実行部隊隊長を含むコピー達を見送るために、オリジナルの僕と少数のコピー、後はドラ丸だけが来ている。

 コピー全員を見送りに来させようかと思ったが、会議室に座るくらいの人数ならいいが一面に広がるほど自分と同じ顔が並ぶのは流石に不気味なので集めなかった。

 

「必要になりそうなひみつ道具は出来るだけ乗せた。

 後は頼んだぞ」

 

「わかってるよ、会長。

 楽観視は出来ないが事件を解決してちゃんと戻ってくるさ。

 うまくいけばこちらでは一日後に戻ってくる予定だしな」

 

「予定ではそうなるが、お前たちは一年以上こっちに戻ってこない予定なんだ。

 不安にならない訳がない」

 

 タイムマシンの機能によって帰還時刻を設定すれば、どんなに長く現代を離れていても時間を経過させずに戻ってこれる。

 だが今度の事件にかける時間は一年以上とこれまでで最も長くなる予定なので、その間オリジナルの四次元ポケットの支援がないというのは不安にならざるを得ない。

 

 任務の行程ではロボット王国の事件はたいして時間を掛けない予定だが、宇宙開拓史の方は一年近く掛かることを予想している。

 これは映画の描写で舞台となるコーヤコーヤ星で、のび太達の遊ぶ姿が季節の移り変わりと一緒に映されていたからだ。

 のび太達の世界とコーヤコーヤ星の時間の流れが違っていたから、わずかな期間で季節の移り変わりが映されたのだが、あちらの世界にずっといるとなると4シーズン一年としてそれだけ滞在することになると考えられる。

 それだけ長い期間戻ってこれないとなれば、同じ思考を持つ隊長達も当然心配になるだろう。

 

「戻ってこなければ第二陣を送らなきゃいけなくなる。

 そうなった時のお前たちの捜索も考えないといけないと思うと、不安で仕方ない」

 

「帰ってこれなかった時の話だろう。 もっと気楽にポジティブに考えよう。

 僕等はちょっとした旅行気分で楽しんでくるつもりでいくよ」

 

「なんで僕のコピーなのに楽観視できるんだ?」

 

「当初の目的に気づいたからかな」

 

「当初の目的?」

 

 事件の解決以外に何かあったかと考えるが思い出せない。

 

「深刻に考えすぎてたんだよ。

 僕等も少し前まで不安で一杯だったけど、うじうじしてても仕方ないから前向きに考えようと思ったんだ。

 せっかく僕等だけが異世界に行けるんだから、遊んでくる気で行って来ようってね。

 そしたらのび太達がコーヤコーヤ星でガルタイト工業相手にスーパーマンごっこやってたのを思い出したから、僕等もどういう風に弄ってやろうかと相談し始めたら、いつの間にか不安はなくなってたよ。

 僕等の当初の目的はひみつ道具の力で安全に冒険したりして楽しむことだったんだから」

 

「そういえばそうだったな」

 

 四次元ポケットを手に入れた当初はそんなことを考えていた。

 大きくなったらひみつ道具で何やろうかいろいろ考えてたけど、映画の事件が起こるのがわかってそれどころじゃなくなったんだ。

 それから急いで映画の事件の事を調べて必要な物を準備して、ハラハラしながら事件に対処して解決の報告を待ってたんだ。

 MS開発とか結構楽しんでたけど、当初の目的は劇場版のドラえもん達のように危ないのは嫌だけど冒険をして楽しみたかったんだ。

 

「向こうの人達には言ったら悪いけど、今回の事件は直接地球が危機に陥るような事件じゃない。

 多少の失敗でも挽回出来るだろうし、最悪逃げ帰ってきても問題ないんだ。

 そうなるのは後味悪いから気をつけるけど、僕等がそれほど気負う必要はないんだ」

 

「うん………まあそうだな」

 

 隊長に言われると、それほど不安になる要素はないことに気づく。

 長期に渡っての任務というのが、予想以上に不安を駆り立てていたらしい。

 

「本当に何かあったらすぐ戻って来いよ。

 大型タイムマシンに何があった時のために、小型の改造タイムマシンをそれぞれ渡してあるんだから」

 

「わかってる、面白い土産話を用意してくるから安心してくれ。

 それじゃあ行ってくる」

 

 隊長達が大型タイムマシン、時空宇宙船のハッチから乗り込む。

 入り口のハッチが閉まると時空宇宙船から駆動音が鳴り響き動力炉が動き出したのを感じる。

 飛行装置により巨大な時空宇宙船が僅かに浮かび上がると、時空間に入る時の独特な音が鳴り響いて、時空宇宙船は超空間に入り異世界の宇宙に旅立っていった。

 

 帰還は一日後の予定だが長旅になるだろう。

 旅立つ前に一度は不安は拭えたが、旅立った後に残されてみると物寂しいものを感じてしまう。

 旅立ったのも残されたのも同じ中野ハジメだというのに。

 

「殿、そんなに心配することはないでござるよ。

 先ほども言ったとおり、大して難しい事件ではないでござる」

 

 思い浸っていると隣にいたドラ丸に声を掛けられた。

 

「そうなんだけど、誰かの旅立ちを見送るってのは感慨深いものがあってな」

 

「しかし、会長の殿はいつも見送る側では?」

 

「大抵タイムテレビで通信が出来る範囲だったからな。

 流石に異世界となるとタイムテレビでも通信が届かない。

 完全に結果を待つだけなのがもどかしいんだ」

 

 こんなことなら一日後じゃなくて一時間後位に帰還するように予定しておくべきだったかと思うが、それも少々せっかちすぎるかと自分を落ち着かせる。

 自分がこんなに待つのが苦手だったのかと思いながら、ドラ丸に自分の感じているもどかしさを伝える。

 

「そうでござるか。拙者も今回は留守番なので少し退屈でござるよ」

 

 今回は会議の結果、ドラ丸は残していくことになった。

 ドラ丸は僕の護衛のために作ったのだが、僕等と違いコピーを作ってはいない。

 もしもの事があった時にリカバリーが効かないので、初めての異世界旅行の護衛は遠慮してもらった。

 

 護衛対象ではなく護衛の心配をするのは本末転倒な気がするが、ドラ丸のコピーは作りたくなかったのでこの意見を通した。

 僕等自身はポンポンコピーを作っているが、僕は心がある存在を人だろうがロボットだろうがコピーすることを心に対する冒涜だと考えている。

 

 人の意識のコピーや生物的なクローンの話はよく聞くが、コピーされた側は大抵が自分の存在に疑問をもって苦悩するものだ。

 オリジナルの方にしたって許可してコピーを作ったのでない限り、自分と同じ存在を受け入れるのは難しい。

 どちらが本物かなんて対立もよく耳にするが、偽物だったほうの苦悩は計り知れないだろう。

 

 そんな事態にならないようにドラ丸のコピーは作らないし、僕自身も僕のコピーに対してはその存在を尊重している。

 自分のコピーを作っているのは自分自身ならいいやと思ってるのと、自分がコピーだった時どのような扱いまで許せるかと考えて、僕の思考をコピーしたのならその考えも受け継がれるからだ。

 最大の要因は一人に統合出来るという取り返しがつくことだけどな。

 

「しかしほんとに同行しなくてよかったのでござるか?」

 

「長旅の不安はあるけど、戦力自体は十分だろう。

 あの様子なら逆に遊び過ぎてアニマルプラネットの時みたいにならなきゃいいけど…」

 

 MS兵や原寸MSの戦力も当然時空宇宙船に積んである。

 最近はバリアーも搭載した機体も制作して、近くにいる人を内側に入れる事で守ることも出来るようにしてある。

 護衛としてもしっかり機能するので身の危険についても問題ない。

 

 やれることはやり切った。

 後は本当に待つだけだが、どうにも落ち着けない一日になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 待つことに少しばかり疲れを感じた一日後。

 隊長達の乗った時空宇宙船が無事に僕等の元に戻ってきた。

 時空宇宙船から降りてきた隊長達を出迎えたが、コピーが一人減っていたことに気づく。

 コピーとはいえ、初めての犠牲者が出てしまったのではないかと危惧してしまう。

 

「おかえり隊長、事件は無事に終わったのか?

 出発した時より一人減ってる気がするが…」

 

「ただいま会長。

 一人は、シローはコーヤコーヤ星に自分の意思で残ったよ」

 

「シロー? 名前を決めたのか。

 けどなんで残ったんだ?」

 

 長期の活動ならコピー達が各々を識別するために名前を付けても可笑しくない。

 だけどなぜコーヤコーヤ星に自分の意思で残ったのだろう。

 

「それが何というか……シローはあっちの星で結婚した。

 そのまま向こうで永住して骨を埋める気らしい」

 

「「はあぁぁ!?」」

 

 予想外の答えに僕を含む出迎えていた全員が驚愕して声を上げる。

 

 なぜ結婚しているのか、どうしてそうなったのか、何を考えてこっちに戻ってこなかったのかと疑問がいくつもが浮かび上がる。

 結婚云々はともかく、残ることを許した隊長の考えも気になる。

 僕等はひみつ道具という表社会に広めたらまずい技術を持っている存在だ。

 四次元ポケットを持っているオリジナルの僕ほどではないとはいえ、コピー達も恩恵を受けるために四次元ポシェットにひみつ道具を入れて配っている。

 そんな存在を一人で自由にさせたら危険なのは隊長だってわかっているはずだ。

 

「結婚!? どうしてそうなった!」

 

「僕が結婚してる!? いや、僕じゃないのだろうけどコピーの一人が結婚してるってなんか複雑」

 

「抜け駆けなのか? 僕ら恋人だって持ったことないのに…」

 

「そもそも僕等って何歳だっけ? 肉体年齢は15歳くらいに調整してるけど」

 

「現在の表世界で存在している僕は今頃2歳くらいか?」

 

「どっちも当てにならんだろ。 精神年齢が基準になるんじゃないか?」

 

「なおのこと僕等の年齢がわからなくなるぞ。 コピーの統合をしたら総合経験年数がとんでもないことになる」

 

「15歳でいいんじゃないか。 外見年齢基準で」

 

「そうだな、タイム風呂敷があれば年齢なんて関係ない」

 

「ところで15歳なら結婚できるのか?」

 

「コーヤコーヤ星の様な異星なら出来るんじゃないの? 結婚出来る成人年齢は文化ごとに違うんだし」

 

 結婚という単語に触発されて、コピー達がワタワタと議論を始める。

 自分と同じ存在であるコピーが結婚したというのは僕も相当ショックだったし、同じコピー達も同じくらい混乱している。

 事件がどうなったかも気になるが、結婚したコピーの事を先に聞きださねば。

 

「落ち着け、僕のコピー達! 今は何があったのか聞き出すべきだ。

 隊長、いったい何があったんだ? それにどうしてコピーが残ることを認めたんだ。 そいつが持ってるひみつ道具は大丈夫なのか?」

 

「会長も落ち着いてくれ。 シローが持ってたひみつ道具はちゃんと回収してある。 本人がひみつ道具を手放してでもコーヤコーヤ星に残るって言ったんだ。 それで結婚に関しても本気だと悟って残ることを許したんだ」

 

 結婚したコピー、シローは自らひみつ道具の力を手放したらしい。

 同じ存在である僕としては、正直信じられない話だ。

 厄介ごとがたくさん付いてきたがほぼどんな事でも出来るひみつ道具に頼りっぱなしの僕が敢て力を手放すとは思えなかった。

 

「もっと詳しい話を聞かせてくれ。 事件の報告は後回しで構わない」

 

「まあ、そうだよな。 どうしてこうなったのか問い詰められるだろうと思ってたし。

 とりあえず会議室で説明するよ。 報告書についてもまとめてさ」

 

 隊長も少し困った様子で説明を渋っている。

 彼にとっても結婚は予想外だったし、説明しづらいものがあるのだろう。

 同じハジメなのだから。

 

 

 

 

 

 会議室にて、隊長と各部署の代表が集まって報告を聞く体制が整った。

 順番的にはロボット王国の事件が先だが、まずコーヤコーヤ星に残ったコピーについて聞くために宇宙開拓史の報告を聞く事になった。

 

「当初の予定通り僕達はロボット王国の事件が終わった後に、宇宙開拓史の舞台のコーヤコーヤ星に向かった。

 ロボット王国での事件は作戦通りに解決させたので、後から報告書を見てくれ。

 宇宙開拓史も予定通りガルタイト工業に襲われて超空間に遭難していたロップル君を助け出した後、コーヤコーヤ星に行ってそこでガルタイト工業から住民を守る用心棒を一年ほどやっていた」

 

 映画における宇宙開拓史の話はのび太の部屋の畳と、コーヤコーヤ星の少年ロップルの持つ宇宙船の倉庫の扉が、事故と故障で繋がった事から始まる。

 事故の原因はコーヤコーヤ星の住民を追い出そうと地上げ屋のような真似をするガルタイト工業が、ロップルを宇宙で追い回して危険なワープをさせられたことが原因だ。

 ドラえもん達は故障した宇宙船をタイム風呂敷で直したが、扉は地球と繋がったままで地球とコーヤコーヤ星の交流は続いた。

 そんな間にもコーヤコーヤ星の住民へのガルタイト工業の嫌がらせは続き、ドラえもん達は正義感から住民を守るために立ち上がる。

 コーヤコーヤ星では地球人は重力が弱い御蔭ですごい力を発揮し、スーパーマンとしてのび太達は活躍することが出来た。

 最後にガルタイト工業のコーヤコーヤ星破壊を阻止することで平和になるのが映画の流れだ。

 

 隊長は映画の情報からの作戦で、ドラえもん達のようにコーヤコーヤ星の住民を守るためにガルタイト工業の嫌がらせを撃退し続けた。

 当初の予定では隊長だけが表に出て住民と対話する予定だったが、他のコピー達が難色を示した。

 他のコピー達はバックアップの予定だったが、のび太達でも容易に撃退できたガルタイト工業があまりに弱かったので、手持無沙汰になってしまった。

 やることがないコピー達は一年近く引き籠る事に耐えきれないと相談して、ひみつ道具を駆使して年齢や顔を少し変える事で、隊長とは別人の家族や親戚として動くことになった。

 それぞれ名乗る名前として数字に因んだ日本語名にしていたので、話題のコピーは四朗からシローと名乗ったようだ。

 

 コピー全員が表に出るようになって更に手は広がり、ガルタイト工業の嫌がらせは即座に撃退されて住民の安全は守られた。

 映画では出なかったような住民への嫌がらせもあり、ひみつ道具を駆使して事前に察知しすぐに対応し続けた。

 隊長達はそれぞれ散らばって何処ででも嫌がらせを行う敵を撃退していた時に、人質になった女性を一人のコピーが助けるという展開が起こった。

 それを聞いた会議室にいる隊長以外の僕等は後の展開に察しがついた。

 

 想像通り助けられた女性が助けたコピー、名乗った名前がシローに惚れてアプローチを始めた。

 コーヤコーヤ星の住民の用心棒として活躍していた隊長達は、殆どの住民に好感を持たれていて若い女性達にも人気があった。

 隊長達もそう簡単になびく様なことはなかったが、助けられた女性はシローにのみアプローチを続けたことで押し込まれてしまったらしい。

 何があったのかと邪推するのも野暮な話だと、隊長達がいうくらいにシローと女性の関係は深まってしまい、事件解決後には結婚と同時にコーヤコーヤ星に残ることを決めてしまったそうだ。

 

「なんてテンプレな展開で、恋は盲目というべきか。

 それが自分のコピーが体験すると思うと複雑な気分になる」

 

「目の前でそういう関係に至るのを、直接見ていた僕等だって目を疑ったよ。

 見ていてほんとに自分なのかと思うくらい彼女に夢中になって幸せそうだったんだ。

 諦めて帰るように説得もしたけど、ひみつ道具を返して星に残ると即答する始末だし、同一人物だからか共感も覚えて、その幸せを壊したくないと思ったから無理強い出来なかった」

 

 隊長の感性は一年別行動をしていたとはいえ僕自身とそう変わらない。

 そんな隊長が認めてしまったのなら、僕も同じように認めたのだろうと納得出来た。

 ひみつ道具も拡散しないように回収してきたのならいいが、残ったコピーの今後が気になる。

 

「コピー、いやシローはコーヤコーヤ星に残った後どうするつもりだったんだ?

 ひみつ道具なしの僕等なんて大したことは出来ないだろう」

 

「最初は僕もそう思ってひみつ道具に関係ない道具をいくつかおいてきたんだが、事件対策に鍛えた技術が向こうでも結構役に立ったんだ。

 向こうの宇宙船のワープ機能は僕等が手に入れた物より性能が悪いみたいで改良の余地があった。

 それ以外にもロボット技術が十分通用したから、それで飯食っていけるみたい。

 それでコーヤコーヤ星に研究所作って、そこで技術を売って暮らしていくらしい」

 

 なるほど、僕等が事件のために培ってきた技術が向こうでの生活の基盤になったのか。

 ひみつ道具に比べたら大したことのない技術なのだが、今の地球でも一世紀は経たないと追いつけない技術だろう。

 それがあればひみつ道具が無くても自立していけるという事か。

 

「なるほど、シローがひみつ道具なしで生きて行けるか不安だったけど問題ないわけか。

 というかコピーでも僕にそんなアグレッシブな行動が出来るとは思わなかったよ」

 

「そうそう、なんというか兄弟の一人が一足先に大人になったって感じ?

 或いは独り立ちした子供を思う親の心境?」

 

「自分と同じ存在なのにどうしてそんな過保護な親みたいな気持ちになるんだか」

 

「自分ではうまくやれるかどうかわからないからこそ、心配になるし不安になるんだ。

 ひみつ道具を抜きにしたら僕等なんて大したことはないだろ?」

 

「ドラえもんもポケットがないと安物の中古ロボットだって自称してたしな」

 

「四次元ポケット無かったら僕ら、何も出来ずに映画の事件で地球の滅亡と一緒に死んでただろうな」

 

 もしそうだったら地球は核の炎に包まれて大洪水が起こり鉄人兵団が人間を攫い恐怖の大王が舞い降りてきただろう。

 映画の事件で対処出来なければ起こる地球への被害を考えるとこんなことになる。

 ひみつ道具があるとはいえ、自分でもよく対処しようなんて考えたものだ。

 自分では思っている以上にアグレッシブな性格だったのかもしれない。

 

「事件の敵のガルタイト工業に関しては、作戦通り惑星コア破壊装置を押さえる事で、それを証拠に警察に捕らえてもらった。

 可能ならガルタイト工業の使ってた牛の角が付いた宇宙船を奪取しようとしたけど、技術的に得られるものが少なかったから、敵対した時にさっさと破壊した。

 後は地球にはないガルタイト鉱石を可能な限り回収してきた。

 映画通り面白い特性だから、ちょっとした技術の発展に繋がるかもね」

 

 コーヤコーヤ星での利益はこんなところだ。

 

 隊長のコーヤコーヤ星での事件の報告は終わった。

 コピーの一人が戻って来ないという予想外の事態もあったが無事に解決して戻ってきたのはよかった。

 異世界の宇宙という特殊な場所での活動だったので不安だったのだが、コピーの一人が結婚するというインパクトにすっかり吹き飛んでしまった。

 続いてロボット王国の報告になるが、宇宙開拓史の前に片付けている事件なので安心して話は聞けそうだ。

 

「ロボット王国では何も問題なかったか」

 

「ああ、予定通りに解決したよ。

 デスターの対処は容易だったけど、ジャンヌの説得は一番ややこしい結果になった」

 

「やっぱり僕等で説得は無理だったか」

 

「ああ、だけど御蔭で僕等もいろいろ考えさせられる事になった」

 

 

 

 映画でのロボット王国(キングダム)はのび太達の世界に時空間を漂流して流れ着いたロボットの少年ポコを元の世界に送り返す事から始まる。

 送り返すためにのび太達が来た世界の国、キングダムでは君主制の元に人間とロボットが共に暮らしていたが、王女ジャンヌの命令でロボットから感情を抜き取るロボット改造計画で、国のロボット達は危機に陥っていた。

 そんな国の混乱に巻き込まれたドラえもん達は、ポコに協力して友達だったジャンヌを説得しようとするが、政策を押し進めるように仕向けた黒幕のデスターがジャンヌを亡き者にしようと謀略をめぐらせる。 追い込まれたジャンヌを助けたポコとドラえもん達は説得に成功し、国を意思の無いロボットによって支配しようとしていたデスターと戦うことになる。

 

 その後の展開はデスターを倒し国に平和が戻ってめでたしなのだが、僕等にドラえもん達のような人徳はなくポコと協力して説得を試みたが、デスターの妨害を押しのけても意固地になっているジャンヌは話を取り合うことはなかった。

 

 王女ジャンヌがロボットの感情を抜き取る改造命令をデスターに唆されたとはいえ実行したのは、父親であるエイトム国王がロボットを庇って事故で死んでしまったことにある。

 エイトムは自分の意思でロボットを庇ったが、父親の死を目の前で目撃してしまったジャンヌは理解は出来ても感情では納得出来ずにロボットを恨むようになり、デスターの謀略に乗せられることになった。

 幼い頃からの付き合い故に情があったポコとその母親である自身の養育係でもあったマリアには改造を実行に移せなかったが、その情を断ち切ろうとデスターに襲われた事でポコはこちらの世界に流れ着いた。

 

 デスターの排除はMS兵を使えば力ずくで片付くので何も問題なかったが、ロボットへの恨みに捕らわれているジャンヌの説得が僕等では出来なかった。

 説得の失敗は僕等では力不足だと予想はしていたので、別の手段も用意はしていた。

 幼い頃からの友達だったポコが説得すれば諫められるかと思ったが、出来なかった以上用意していた最も有効であろう手段を使った。

 ジャンヌを説得しうる人物、死んでしまっている父親であるエイトム国王を連れてきた。

 

 無論死んでいなかったとかいうわけではなく、タイムマシンで生きていた頃から事情を説明してついてきてもらった。

 エイトム国王は人とロボットが共存する王国を推進していたので、現状のジャンヌの政策には賛同するはずがなかった。

 ジャンヌも死んでしまった父親の言葉なら聞かざるを得ないだろうと説得役に連れてきたのだ。

 

 当然最初は死んだ父親を前にすれば困惑して偽物だろうと疑ってかかったが、過去から連れてきたと説明すれば実の父親を偽物と間違える筈もなく、ジャンヌはあり得ぬ再会に涙を流して父親に縋りついた。

 ジャンヌの嗚咽が収まれば、エイトム国王はロボット改造命令を取りやめるように説得する。

 父親の死に捕らわれていたジャンヌも本人の説得には素直に従い、政策の撤回を了承した。

 

 これで事件は解決したのだが、死んだ人間を未来に連れてきて説得させたことによる弊害があり、先に言ったややこしい結果のことだ。

 この時点では実害はないのだが、死ぬ運命の人間がそれを望まない人間と本来あり得ない形で再会したのなら望むことは予想はつく。

 死んでしまった父親にはまた一緒にいてほしいと思うのは当然だし、自身が死ぬ未来を知ってしまえばそれに抗おうとするだろう。

 だがここで過去を変えてしまえば今の騒動自体が無かった事になるが、それでは連れてきた意味自体が無くなってしまう。

 そうなればタイムパラドックスの発生に繋がるので、不本意であってもエイトム国王にはそのまま過去に帰ってもらわねばならないのだ。

 

 ジャンヌは当然のように父の死の運命を変えようとするが、エイトム国王は素直に過去に帰ることを了承していた。

 話が拗れるのは予想していた事態なので、エイトム国王には説得が終わったらそのまま過去に戻り、未来の情報を忘れてもらうことを条件に来てもらっていた。

 過去で事情を説明した時に受け入れない可能性も十分あると思っていたので、国王のコピーロボットを代理で連れて行くか、それでもダメなら相手に行動を強要するタイプのひみつ道具で無理矢理説得するしかなかっただろう。

 だが自分の望む国の在り方と正反対の事を未来の娘がやっていると伝えれば条件に同意してくれるかもしれないと思い伝えると、エイトム国王は困惑しながらも応じてくれた。

 こうして過去を変えようと望むのはジャンヌだけになったが、エイトム国王が優しく説得することで現在を受け入れた。

 

 説得が終われば死んだ人間がいる事が発覚しない内に、エイトム国王を過去に送り返すようにタイムマシンに乗せた。

 ジャンヌと共に世話になっていた事のあるポコは名残惜しみ、エイトム国王は国の未来を思いながら二人に激励して別れの言葉を告げた。

 エイトム国王を連れて過去に戻ったら【ワスレンボー】を使って、僕が頼みに来てからの記憶をすべて消そうとした。

 約束通り拒むことなく記憶の消去を受けようとしたが、その前に僕はエイトム国王に尋ねた。

 

『自分が死ぬ事を知っても約束だからとはいえ、なぜ素直に記憶を消すことを受け入れられるのか?

 記憶を消さなければもしかしたら死ぬ未来を回避出来るかもしれないのに』

 

 歴史通りになってくれなきゃ困るのだが、国王がなぜ素直に未来の死を受け入れられるのかどうしても気になった。

 エイトム国王の答えは僕には理解出来ない物だった。

 

『この星は私たちがこの手で開拓を始め、そこに人間とロボットが手を取り合って作り広げてきた国なのです

 本来国というものは時間を掛けて作る物で、おそらく私の代では国を強固なものとして安定させるのは無理だと考えていました。

 そこで私は人間とロボットの共存を広める事で、私が死んでもその願いが未来永劫続くように皆に広めていました。

 そう遠くない未来に事故で死ぬ事になるとは流石に予想もしていませんでしたが、自身の死後の国の事はすでに考えていたのですよ。

 だからこの願いを受け継いでくれる者がいるのなら、いつでも王座を譲ることも死ぬ事も受け入れられたのです。

 私の死後のジャンヌとポコに会う事になるとは思いませんでしたが、未来の二人に私の意思をしっかり伝えられたのは幸運とすら思っています』

 

 エイトム国王はまるで悔いのない表情で、この出来事を幸運とすら言い切った。

 諦めて達観しているのとは違い、死ぬ運命だと知ってもなお未来に希望を見出している。

 そんな目をしながらジャンヌとポコの存在を思い浮かべている姿に、僕は尊敬の念を抱いた。

 

 死ぬとしても自身の意思を受け継いでくれる存在がいるだけで安心出来る、それは立派な大人或いは親の姿だと思った。

 人は一人では大したことは出来ず、多くの人間が力を合わせる事によって文明を作り上げ、その子孫がさらに発展させて現代まで様々な技術を積み重ねてきた。

 言ってしまえば当たり前のことで誰もが解っていることだが、大抵の人間は先達から学んだ物を自らが発展させて得た物の全てを簡単に誰かに受け継がせようとはしない。

 

 自分が苦労して生み出し大事に育てた物なら、地位や技術でも簡単に手放すことが出来ずに後生大事に持っているものだ。

 死後にそれが広まって偉大な先人と呼ばれるようになるのだとしても、生前から死後の事を考えて後継者に譲ってしまうのは死期を悟った者くらいだ。

 エイトム国王はまだまだ働き盛りで、事故が無ければ半世紀は生きられただろう。

 それでも既に自分の後の事を考えて、それを心の底から受け入れられていることに、僕はただすごいとしか思えなかった。

 

 自分より国の未来を考える王様としては立派な考えだが、人間というものは一つの役職だけに生きているわけじゃない。

 大抵の人なら他にもやりたい事があるだろうし、それをするために長生きもしたいと思うはずだ。

 王の役目を譲ったのならそれ以外の事に尽くすことが出来る筈なのに、死ぬとしても役目を受け継ぐ者がいるだけで安心感に満たされるなら、どれほど王の役目に全てを掛けているのか想像も出来ない。

 

 その心の在り方に尊敬出来るが、僕は真似しようとは思わないし出来ないだろう。

 命をかけてまでやりたいことはないし、ひみつ道具のお陰でやろうと思えば出来ない事を見つけるのが難しい。

 いろんな道具の開発に今は凝っているがあくまで趣味の範囲で、自身の生涯をかけてやり遂げようという気概のあるものではない。

 簡単に寿命で死ぬ気もないのでタイム風呂敷で若さを維持するつもりだし、事故や病気などで死ぬ気もないので反則級のひみつ道具で対策も既にとっている。

 ひみつ道具があるからどんな難しいことでも簡単に達成出来そうなので、自分の全てを掛けようという気概にはそうそうなれないだろう。

 

 自分には到底出来ない事だからこそ、僕はエイトム国王を尊敬した。

 正に生涯をかけて国を育み、自身の子とはいえ道を外しかけていた者に安心して全てを預けて死を受け入れられるほどの度量。

 真似したいとは思わなくても、僅かな間に一人の人間の生涯を語られたようなそんな重みと感動を覚えた。

 比喩するなら人の命の輝きを見せられたってところか。

 

「事件とはかなり話がそれたけど、エイトム国王と最後に話した後に記憶は消して元の時代に戻ってからジャンヌ達とデスターの反乱を鎮圧して事件は解決した。

 回収してきた技術の中でロボットのAIが一番発達してたロボット王国だったけど、一番の収穫はエイトム国王との対話だったと僕は思うよ」

 

「それは良い経験が出来たと喜ぶべきなのかな。

 死ぬ筈の人間を過去から連れてくるから説得に余計に苦労するか、ひみつ道具で意思を無理矢理捻じ曲げなきゃいけなくなったと思ったんだが」

 

「幸いにもそんなことにならずにすんだよ。

 そうなったら事件が解決しても後味が悪いだけだからな」

 

 ひみつ道具を使う中で一番やりたくないのが時間移動による歴史改変、次いで人の心を操作してしまう道具だ。

 もともとドラえもんの使う道具だから玩具みたいに効果が冗談で済むものが多いが、応用することで凶悪な効果になってしまうものが多数ある。

 相手に頼みごとをするような道具も多数あるが、言い方を変えれば限定的な洗脳の道具に聞こえる。

 悪用する気はないがあまり使いたくない分類の道具ではある。

 

「エイトム国王には結果的にいろいろ考えさせられた。

 ひみつ道具のお陰で何でも出来るけど、本当にやりたいことを見つけるのが難しい。

 今はいいけどいつか全力で成し遂げたいと思う事を探したいと思った」

 

「聞いた感じ物語の主人公か重要なキーキャラクターみたいだな。

 僕等にも考えさせられるきっかけを与えるなんて」

 

「確かに映画での重要人物ではあったしな」

 

 結局亡くなってしまうのを僕等には止められないが、あの時既にエイトム国王は立派な偉人だったのだろう。

 誰かに自分の思想を継がせようとする姿勢が常に誰かに影響を与えているようで、少し話しただけで僕等もいろいろ学ばせられることになった。

 あんな風になることは出来ないだろうが、頭の片隅にでもあの姿勢を見習ってみようと思う。

 

 

 

 

 




 この話は別に自身の結婚願望を閉めた訳ではありませんよ。
 ただ思い付いたネタをを描き切った結果です。

 国王も独自の設定ですので、どんな人物か劇中では出ていない筈です。

 ドラえもんの道具は強力ですが、物語に一番重要なのは主人公側の人徳だと思いました


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宇宙人移住計画(宇宙漂流記 ねじまき都市冒険記)

 

 

 

 

 

 銀河漂流船団。

 科学の発展の代償として自然環境が破壊されたことで人が住めなくなり、移住する星を探して母星を飛び出した漂流者たちの暮らす宇宙船の総称である。

 彼らは移住する事の出来る惑星を探して長い年月宇宙を漂流しているが、その過程で同じように星を住めなくなって移住せねばならなくなった民族と幾度も合流し、旅の間に人口がどんどん増えて一千万を超える人口の大都市を内包する船になっていた。

 そして理想の星が見つかっても原住民がいるなら武力による制圧を行わないという平和的な教えが定められていた。

 これは愛する故郷の星を失った住民たちの悲しみを知っているからこそ、関係のない星の人間に自分たちの都合でそれを背負わせてはいけないという考えからだった。

 

 だがそんな旅に疲れて武力による惑星移住を行わないという信条を破ろうとしている者たちがいた。

 銀河漂流船団において移住先を探索する組織銀河少年騎士団が地球を発見し、そこを武力で手に入れようと司令官リーベルトとその部下達が独立軍を結成して武力制圧のための戦力を集めていた。

 彼らは無人の小惑星を改造して基地を作り、まずは銀河漂流船団の母艦ガイアを掌握しようとしていた。

 

 しかし独立軍を結成したのはリーベルト達の本来の意思ではなく、裏で蠢く黒幕の存在があった。

 アンゴルモアと言う地球の予言の恐怖の大王の名を名乗り、リーベルトを超能力で洗脳して操っている事件の元凶の存在だが、その正体は不確かで映画では皆の心の闇とドラえもんは語ったが実態は不明だった。

 しかし地球を最終的に侵略しようという事実に変わりなく、地球にとっても銀河漂流船団にとっても危険な存在だった。

 

 そんな凶悪な存在が虚空より突然現れたロボット達の銃撃に襲われた。

 

『ギャアアァァァァァ!!』

 

 スピーカーを通した機械音声の悲鳴が鳴り響いた。

 

「モア!? いったい何事だ!」

 

 突然の攻撃に独立軍基地の指令室で地球侵略の作戦を練っていたリーベルト達は驚いた。

 見覚えのない攻撃をしてきた味方ではないだろうロボットを確認し、独立軍の兵士ロボットに命令を下す。

 

「そいつらを倒せ!」

 

 独立軍のロボット達はすぐに命令に従って侵入者のロボットを光線銃で攻撃するが、多少身じろぎする程度で破壊されることはない。

 侵入者のロボット達の装甲が光線銃の攻撃に余裕で耐えていた。

 

『洗脳が解けてないという事はまだダメージが足りないか。

 モビルソルジャー、アンゴルモアに再度攻撃を行え』

 

『了解シマシタ』

 

 侵入者のロボットの持っている通信機から、操っている者の命令が下される。

 それに従いモビルソルジャー達が熱線銃を倒れ伏している黒いローブを纏ったアンゴルモアに向けて再び攻撃した。

 

『ガアァァァァ!!』

 

 倒れ伏しているところに再度攻撃が来るとは思わなかったアンゴルモアは再び悲鳴を上げる。

 やられた振りをして状況を探ろうとしていたのだろうが執拗に攻撃されて、このままではやられると思い逃走を図ろうとその正体を現す。

 黒いローブの中から粘液状の物体がグネグネ動きながら現れ、ローブの中にはスカスカの人の骨格のようなロボットが残っていた。

 

 粘液状の物体がアンゴルモアの正体で、ロボットは人の形を維持するための正に骨格その物だった。

 その正体を知っていたモビルソルジャーを動かしている操縦者、通信機の向こうにいるハジメは次の命令を出した。

 

『正体を現した! 【カチンカチンライト】を使え!』

 

 熱線銃を持たないで後方に配置されていたロボットが前に出て、持っていたカチンカチンライトを粘液状のアンゴルモアに当てた。

 

『ガッ!』

 

―ゴロンッ― 

 

 粘液状で逃げようとしていたアンゴルモアはカチンカチンライトによって強制的に固体の性質に変化させられ、自然と丸い球体に形を変えて石のように固まってしまった。

 

「ウッ! ……ここは、私は何をやっているんだ」

 

 アンゴルモアが無力化されたことで洗脳を受けていたリーベルトが本来の意識を回復させたらしく、洗脳の後遺症の頭痛を抑えながら混乱している自身の状況を思い出そうとしていた。

 

『洗脳が解けたようですね。 今の状況が理解できますか?』

 

「洗脳………そうか、私はモアに操られていたのか。

 私は何という事をしようとしていたんだ」

 

「司令官、私達は…」

 

「皆も洗脳が解けたようだな」

 

「はい…」

 

 通信機越しのハジメの声にリーベルトは少し思案し現状を理解する。

 共に操られ指令室で作業をしていた部下達も、洗脳が解けて現状に呆然としている。

 住めなくなった星を離れてからこれまで守られてきた神聖な教えを、操られてたとはいえ破ろうとしていたことにショックを受けていた。

 

『そちらの事情は大よそ把握していますが、こちらの事情を説明するためにそっちに行ってもいいですか?

 洗脳能力を持つアンゴルモアがいたので、それを受けないために僕は遠くから指示を出していましたので』

 

「ああ、かまわない。 まだ少し混乱しているがどうやら我々は君に助けられたらしい。

 誰かは知らないが恩人である君を歓迎しよう」

 

『では、すぐ向かいます』

 

 そこで通信機からの声は止まり、その直後に指令室にどこでもドアが現れて扉が開くとハジメとドラ丸が出てきた。

 

「そのドアはいったい?」

 

「ワープ装置のようなものです。

 僕はこの基地の近くに宇宙船で来て、そこからこのモビルソルジャー達を操っていました。

 このどこでもドアでその宇宙船とここの空間を繋いで移動してきたのです」

 

「なるほど。 ともあれ我々の凶行を止めてくれてありがとう。

 私はリーベルト。 銀河漂流船団の司令官を務めているものだ」

 

「僕の名前はハジメといいます。 今回の一件を予知して地球から来ました」

 

「拙者はドラ丸でござる。 ハジメ殿の護衛をしているでござる」

 

「地球から? もしや我々が攻め込もうとしてしまった地球かね。

 だとすると我々は既に地球の人々に迷惑をかけてしまったのか…」

 

 自分たちの凶行の影響が既に出てしまっていたと悟ったリーベルトと部下達は、沈痛な面持ちでどう償えばいいか悩んだ。

 

「いえ、この事を知っている地球人は僕だけですので社会的影響は全くありません。

 放っておけば大変なことになったでしょうが、そうならないように僕が事前に対処に来たんです」

 

「それならば幸いだが、君に迷惑をかけた事には違いない。

 謝らせてくれ、すまなかった」

 

 リーベルトが頭を下げると一緒に操られていた部下達も頭を下げて謝罪の意思を示した。

 

「いえ、大した被害も出なかったので、それ以上気にしないでください。

 いろいろ話したい事もありますが、まずはアンゴルモアを処分しないといけないので」

 

「なに? モアはまだ生きているのかね!?」

 

 カチンカチンに固められているアンゴルモアに気付いてリーベルトは声を上げる。

 アンゴルモアは動き出さないようにモビルソルジャーがカチンカチンライトを当て続けていた。

 

「今はあんな風に動けない様にカチンカチンにする特殊なライトを当てているので大丈夫ですが、放置していたらまた動き出します」

 

「奴はどうするのかね?

 モアの正体がロボットどころか粘液状の生物とは知らなかったが、我々にはあのような生物を倒す方法を知らない」

 

 粘液状の生物なら焼却するなどの方法が効くかもしれないが、カチンカチンライトは当て続けなければ効き目は五分しかもたないので試せる時間はあまりない。

 なのでハジメは映画通りの処分方法で片付けようと考えていた。

 

「倒す手段を探る時間もないのでブラックホールにでも捨てようと思います」

 

「だが、ブラックホールに近づくのは危険だ」

 

「自動で飛ばせる道具があるので大丈夫です。

 モビルソルジャー、アンゴルモアをうちの宇宙船に連れていって予定通り荷札で処分しておいてくれ」

 

『了解シマシタ』

 

 モビルソルジャーは指示に従って球体になったアンゴルモアを抱えると、処分する為にどこでもドアを潜ってハジメの宇宙船に戻っていった。

 宇宙船には同じコピーのハジメが常駐しているので後は大丈夫だろうと、この場に残ったハジメはリーベルトとの話に戻った。

 

「後の処分はロボット達がやってくれるので大丈夫です」

 

「最後まで任せて申し訳ない」

 

「いえいえ、それで僕等の事情でしたね…」

 

 ハジメはいつも通りに、事件の発生を予知して事前に対処するために動いていたことを説明した。

 宇宙を彷徨う銀河漂流船団、地球を発見した銀河少年騎士団、裏で暗躍し銀河漂流船団を操って地球に襲撃しようとしていたモアの企み。

 それら全てを把握したうえで元凶であるモアを倒すために、この基地の場所を探し出して気づかれないように潜入して一気に事件を解決させるべく強襲したのだ。

 

「そうでしたか、重ね重ねお礼を申し上げる」

 

「何度も言うようですが気にしないでください。

 それより少し訪ねたい事があるのですが、あなた方は移住出来る星を探しているのですよね」

 

「ああ、そうだが」

 

「住めるかどうかはあなたたち次第ですが心当たりがあります」

 

「本当かね!?」

 

 リーベルトは声を上げて驚き、部下達も目を見開いた。

 

「はい、あなた方はユグドの木というものを神と崇め、自然を大切にしているのですよね?

 自然との共存が出来るなら移住を受け入れられるかもしれません」

 

「我々の祖先は科学の発展によって自然を失い、母星を離れる事になった。

 同じ過ちを繰り返さぬように母星から唯一持ち出されたユグドの木は大切に育てられ、木と自然を守るために様々な教えを守ってきた。

 私達はそれを破ろうとしてしまったが、銀河漂流船団の者は皆自然を傷つけないように教わっている。

 それでよければ是非とも紹介してほしい」

 

 リーベルトは犯し掛けた過ちに引け目があるが、銀河漂流船団の長年の望みを叶え得る提案を逃すわけにはいかなかった。

 再びハジメに頭を下げて、今度は謝罪ではなく懇願をした。

 

「わかりました。 ですがここだけで決めていい事ではないでしょう。

 銀河漂流船団には評議会があると思ったのですが…」

 

「ああ、その通りだ。 我々が操られて教えを破ろうとした事も皆に釈明せねばならんな」

 

 こうしてまずは独立軍の事情を説明するために銀河漂流船団に合流することになった。

 

 そしてハジメの心当たりは映画に出てきたある星の事を指しており、ここに来る前に一度その星に確認しに行っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ねじまき都市冒険記。

 ドラえもんが未来の福引で引いてきた小惑星のはずれ引換券を、確認を行っていたのび太が番号を読み間違えた事でたどり着いた緑溢れる惑星。

 そこでのび太達はひみつ道具【命のねじ】で生き物にしたぬいぐるみたちの都市ねじまきシティーを作り上げるが、地球からどこでもドアをこっそり潜ってやってきた犯罪者熊虎鬼五郎によって都市を守るための戦いになる。

 

 事件自体は敵が時間犯罪者ではないのでひみつ道具で解決するが、舞台となる星はちょっと特殊な星だった。

 ”種を撒く者”というかつて地球や火星に生命誕生のきっかけを撒いたという神のような存在が植物の楽園として生み出した星であり、この星の植物は心を行動に移せるという特性を持っていた。

 種を撒く者もその星で植物たちの成長を見守っていた為、一時はのび太達を追い出そうとしていたが、星の植物たちがのび太達を受け入れた事で、後を任せて種を撒く者は宇宙へ去っていった。

 

 

 

 ねじまきシティになる筈だった星は都市を作る必要もなかったので特に干渉することはなく場所の確認だけをしてそのままだった。

 敵役の熊虎鬼五郎も関わる可能性はなかったが、脱獄はしていたので見つけ出してショックガンで気絶させて警察署の前に投棄しておいた。

 

 ハジメの心当たりというのもこの星で、植物たちに受け入れられるなら銀河漂流船団が移住することは可能ではないかと当初は考えていた。

 途中いろいろな問題も出てきたが、銀河漂流船団の念願の望みだろうと考えて仲介しようと決断した。

 その為に未だこの星を見守っている種を撒く者と接触しようとハジメはドラ丸と二人でやってきた。

 

「ちゃんと話を聞いてくれるといいのだが…」

 

 映画では種を撒く者はその星のカルデラ湖の湖底にいて、事前の調べでも存在が確認できた。

 のび太とはちゃんと対話をしてくれていたので人格が映画と大差がないのであれば話をすることは可能なはずだ。

 人格の違いについても○×占いで確認し、いきなり襲われることはないと出ていたが、今回ばかりはハジメもいつも以上に不安で落ち着かなかった。

 何せ今回はコピーではなく本人が直接来ているからだ。

 

「殿、もしもの時は拙者が時間を稼ぎますゆえ」

 

「のび太は心の中で種を撒く者と会話したから、話をするには近距離での接触になると思うからそんな時間的余裕は流石にないだろう。

 正直心を読まれるのも想定してるから逃げようがないんだよ」

 

「でしたらコピーに任せればよかったのでは?」

 

「それだと誠意を見せないようなものだから、不敬だと思うんだ」

 

 突然だが、ハジメはこれでも目上の存在に敬意を払うタイプだ。

 年上はもちろん高い役職に就く者や実力で名を広めた者、この世に既に存在しない偉人や王族英雄神様など偉大な存在には礼を尽くすべきだと考えるくらいには畏敬の念を持つようにしている。

 ただしそれは自身の害にならない範囲の場合で、敵対するようなことがあれば遠慮なくひみつ道具無双でぶっ飛ばすくらいの吹けば飛ぶようなものでしかない。

 

 それでも話し合いが出来るような偉大な存在であれば礼を尽くそうという考えで、ハジメは誠意を見せるためにオリジナル自身が直接種を撒く者に会いに来た。

 目的は銀河漂流船団の移住先としてこの星を紹介する許可を貰えないかという相談だが、許可がもらえないのであれば特に何もすることなくこの星を去る予定だ。

 次善策として○×占いで移住先の星を捜索するもよし、少し手間取るが異世界の宇宙のコーヤコーヤ星を紹介するのもいいと考えていた。

 

「この星の木は心を行動に移せるらしいから、森に入らずタケコプターで湖を目指すよ」

 

「承知でござる」

 

 ハジメとドラ丸はタケコプターを付けて空を飛び、森を抜けた先にある山岳地帯のカルデラ湖を目指した。

 タケコプターで飛べばそんなにかからず目的地のカルデラ湖に到着し、湖の底は金色に光っていた。

 

「ここに捜し人がいるのでござるな」

 

「金の塊みたいな存在だけどね」

 

 種を撒く者は全身金色で戦車になったり大魔神になったりと不定形でスライムみたいな存在だった。

 ドラえもん達も最初に遭遇した時は、怪物だと思って逃げ出したくらいだ。

 

「湖の底にいるようでござるが、どう呼びかけるでござるか?」

 

「とりあえずここからでも聞こえるかもしれないから呼んでみる。

 ダメなら湖の中に入るしかないな」

 

 不定形生物の可聴領域なんてわからないし、まして神様みたいな存在の聴覚がどうなってるか想像もつかない。

 もしかしたらこの星に来た時からの会話も聞かれていても可笑しくないとハジメは考えていた。

 

「種を撒く者さん、聞こえてましたら話を聞いてくれませんかー!!」

 

 湖に向かって大声呼びかけてみる。

 ハジメの声が辺りに響き渡るが反応はない。

 

「ダメみたいでござるな」

 

「仕方ない、【エラ・チューブ】でもつけて湖に潜るよ」

 

「殿、気を付けるでござるよ」

 

「わかってる……ン?」

 

―ポコッ―

 

 ポケットからエラ・チューブを取り出して鼻に詰めようとしたところで湖から気泡が上がってきた。

 続けて二つ目の気泡が上がり、さらにボコボコと無数の泡沫が水面に浮かんでは弾けている。

 

「どうやら聞こえていたらしい」

 

「湖の底から金色が上がってくるでござる!」

 

 ドラ丸の言ったとおりに金色の物体がだんだんと底から浮上しており、水面まで来ると水を押し上げて波を起こしながら金色の球体として宙に浮かび上がった。

 

「これが種まく者でござるか」

 

「決まった形はないらしいからね」

 

 ちょっとした大きさに二人は少し呆然と見上げていた。

 浮かび上がった金色の球体から触手のようなものが二人に延び、その先っぽが人の手のようになり握手を求めるように掌を広げた。

 

「これは握手しろってことかな?」

 

「二本あるから拙者も求められているのでござるか?

 拙者護衛であるので何かあった時のために遠慮したいのでござるが…」

 

「ここで断るのも種を撒く者に対して不敬だよ。

 誠意を貫くなら最後までやるつもりだから、ドラ丸も付き合え」

 

「…仕方ないでござる」

 

 ドラ丸は渋々といった様子で握手しようと手を差し出し、ハジメもドラ丸に合わせて同時に握手した。

 しっかりと握手した瞬間二人の意識が一瞬ぼんやりとブレ、気づいた時には宙に浮かびその下には金の手と握手をした自分たちの姿を認識ていした。

 

「これは…幽体離脱でござるか?」

 

「のび太の時と同じだから一種の精神世界じゃないか?」

 

『大よそあっているよ』

 

 二人の疑問に答えるように現れたのは古代ローマ人かギリシャ人が着ていたトゥニカような服装をしたハジメと同年代の少年の姿だった。

 これは種を撒く者が人と対話しやすいように二人の意識に投影しているイメージの姿だった。

 

『こんにちは、知っているようだけど僕は種を撒く者。

 君たちはちょっと変わってるみたいだけど地球人だね』

 

「初めまして、中野ハジメと言います」

 

「ドラ丸と申します」

 

 二人はお辞儀をして種を撒く者に敬意を示す。

 

『そんなに畏まらなくてもいいよ。

 それより君達がどうやってこの星に入ってきたのか聞かせてほしい。

 この星は僕がシールドを張ってて入ってこれないし、地球からは見えない筈だったんだ。

 君達たちの話も一緒に聞こう』

 

「えっと、種を撒く者さんは神様みたいな存在で僕等の心や記憶を読むことくらいできると思ったんですけど…」

 

『さんはいらない。 確かに可能だけど人間には心を読まれることを不快に思う事という事は知っている。

 話し合いに来ただけでそんなことするつもりはないし、必要でなければそれくらいの配慮はするよ』

 

 思った以上に温厚な神様でハジメの緊張とドラ丸の警戒心は少しばかり和らいだ。

 

「でしたら僕の記憶を読んでもらって構いません。

 正直説明するとややこしいんで、口で説明するより見てもらった方が手っ取り早いんです」

 

『言葉は人間の意思疎通に必要な重要な文化だと思うんだがね。

 それで本当にいいのかい?』

 

「種を撒く者は僕等に十分な配慮をしてくれました。

 正直怒られる要素もあるかもしれませんがあなたを信じます」

 

『わかった。 じゃあ伝えたい事だけを意識してくれ。

 そうすれば僕がそこから必要な事だけを読み取ろう』

 

「お願いします」

 

 ハジメは伝えたいことを意識するために目を瞑り、種を撒く者は片手をハジメの頭に向けて集中した。

 その様子を見ながらドラ丸は無駄だと解っていても護衛として警戒を怠らなかった。

 

 生まれ変わった時に手に入った四次元ポケット、前世のドラえもんの知識、今世で共通するドラえもんの映画の事件、ねじまき都市冒険記と宇宙漂流記の詳細、そしてこの星を銀河漂流船団に移住先として紹介したいという意図をハジメは思い浮かべることで種を撒く者に伝えようとしていた。

 そんな状態が十数秒ほど続き、種を撒く者はハジメに向けていた手を下ろした。

 

『なるほど、僕が言うのもなんだけど事実は小説より奇なりという言葉を思い出すね。

 君達が伝えたい事は大体把握したし、君の奇妙な体験も理解した。

 今の地球はいろいろ厄介な問題を抱えているみたいだね』

 

「種を撒く者は僕が四次元ポケットを手に入れた原因がわかりますか?」

 

 ハジメはわずかな期待を込めてどうして四次元ポケットが自身の手にあるのか知らないか尋ねた。

 ずっと気になっていたが答えられそうな存在に心当たりがなく、神のような存在である種を撒く者なら何かしらの心当たりがあるかもと期待してだ。

 

『残念だが僕にも見当がつかないよ。

 君は僕を神のように考えているかもしれないが、僕はあくまで命の種を撒き育むだけの存在だ。

 そういう意味では人間は僕の事を神というのかもしれないが、出来る事はそれだけでしかない。

 君の持つタイムマシンのように時間移動も出来ないし、死んだ者の命を生まれ変わらせることも出来ない。

 僕よりもいろんなことが出来る道具を持つ君の方がずっと神という存在に近いかもしれない。

 星を作って命を芽吹かせることだって、そのポケットを使えば不可能ではないんだろう?』

 

「それはまあ…」

 

 ハジメは映画にも出てきた【創世セット】の事を真っ先に思い浮かべるが、それ以外にも把握してないひみつ道具の中に種を撒く者の真似事が出来る道具はあるだろう。

 

『君の事情に関しては僕に答えられることはない。

 その道具を使ってやってきたことに関しても僕は賛同もしないし否定もしない。

 僕は命を育むだけの存在で君達人間、それも地球に限らず宇宙に存在する知的生命体が星を超えて争う事があっても関与するところではない。

 僕の手を離れて歩み出した命はどのような試練であれ自分たちで立ち向かわなければいけない』

 

「では、僕がこの力を使う事をあなたは止めないんですね」

 

『ああ、もちろんだよ』

 

 干渉される可能性を考えていたハジメは杞憂に終わった事に安堵した。

 

『だけどこの星は植物の楽園として育て、まだ僕の庇護下にある。

 この星に移住目的の人間が来るのを黙ってみているつもりはない』

 

「では、やはり移住の許可はもらえないと…」

 

『早とちりしないでくれ。 この星の植物は十分育って自らの意思で選択することが出来る様になっている。

 君の知識を信じるなら銀河漂流船団の人間とこの星の植物たちは決して相いれない訳じゃない。

 彼らを受け入れるかどうかは、この星の植物たちが決める最初の試練にしようと思うんだ。

 それが終われば結果がどうあれ僕はこの星を離れるつもりだ。

 この星の植物は十分育った。 いつまでも子離れしないのはお互い良くないからね』

 

「じゃあ、彼らが話し合いを望んだら一度ここに連れてきていいんですね」

 

『もちろんだ』

 

「ありがとうございます」

 

「感謝するでござる」

 

 色よい返事をもらってハジメとドラ丸はお礼を言いながら頭を下げた。

 後は銀河漂流船団に潜む悪意であるアンゴルモアを排除するだけと意気揚々と、宇宙漂流記の事件解決までの流れを念頭を置いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リーベルトに連れられて銀河漂流船団の評議会に接触したハジメは、ねじまき都市の星(仮)について改めて説明をした。

 交渉次第だが移住の可能性がある星の発見に評議会は沸きあがり、すぐさま是非にと交渉を望んで準備を終えたらねじまき都市の星(仮)に向かった。

 

 到着した後はハジメは種まく者の様に部外者として交渉の様子を見守ろうとしたが、予想外の存在がこの星の植物たちと最初に接触したことで一気に急展開を迎えた。

 星の植物たちはあっという間に銀河漂流船団の移住を受け入れてしまったのだ。

 

 ハジメも種まく者もこの事態は予想していなかったが、最初に植物たちと対話した物の存在に気づき合点がいった。

 最初に植物たちと対話をしたのは評議会の誰でもなく、お守りとして銀河漂流船団が持っていた神樹の実、それに宿る彼らが神と崇めるユグドの木の意思が真っ先にこの星の植物に語り掛けたのだ。

 神と崇められ不思議な力を持っていたユグドの木には、当たり前のようにその力を行使するための意思が宿っていた。

 ユグドの木も移住を考えている星にいる対話の出来る植物たちに興味を持ち、神樹の実を通じてその星の植物たちに語り掛けたのだ。

 

 同じ意思を持つ植物同士なら話は、スムーズに進むのは当然の帰結だった。

 ユグドの木は銀河漂流船団の事情と歴史を語り、自身がどのように生まれて育ち大切にされているのかを人では理解出来ない感性でこの星の植物たちに伝えた。

 星の植物たちはユグドの木の経験した人間の科学の発展による星の荒廃を恐れたが、それゆえに銀河漂流船団が同じ過ちを繰り返さぬように唯一の自然であったユグドの木を神のように崇め大事に育ててきたこともしっかりと伝えられた。

 星の植物たちは銀河漂流船団の人間に一定の理解を示し、ユグドの木の教えを守り続けるのなら移住を受け入れると応えた。

 

 ユグドの木の対話によってあっという間に移住計画は形になり、交渉にほとんど出る幕の無かった評議員たちも喜びに沸きつつ、まずは母艦ガイアに交渉成立の旨を船団の住人に伝える様に通信を送った。

 通信先でも待ち望んでいた交渉の成功に歓声が通信機越しに聞こえ、銀河漂流船団の念願の夢が叶った事を宇宙の漂流者たちは感じ取った。

 移住の際には様々な問題が発生するだろうが、求めていた新たな故郷に足を踏み入れるのに彼らは努力を惜しまないだろう。

 

 移住の成立の後に交渉に共に来ていたリーベルトらも喜びながらハジメにお礼を言うことになった。

 仲介をしただけで大したことはしていないとハジメは言うが、仲介が無ければこの奇跡は成しえなかったとリーベルトは語る。

 いくらハジメが落ち着くように言いながら遠慮しても感謝の言葉を投げ続けられ、更に歓喜に震えている評議員からもお礼の言葉が雨のように降り注ぎ、ハジメはもみくちゃにされながら彼らの感謝の意に飲み込まれることになった。

 

 落ち着きを取り戻してハジメが一人になった所に、種を撒く者が目の前に現れた。

 

『どうやら彼らの崇める神様の樹を、この星の植物たちは同族として賞賛し敬意を持ったらしい。

 数百年もの間、自分たちの星を壊してしまったのに見限らず人間を正しい方向へ導いてきたのは、この星の植物たちにとって偉業と受け取ったようだ。

 そんな素晴らしい同族の教えに従っているのなら何も問題ないと植物たちは言っている。

 皆が決めた事なら後は安心してこの星を任せることが出来るよ』

 

「もうこの星を去るんですか?」

 

『次の新たな命の種を撒きにいかなくてはいけないからね』

 

「そうですか。 僕ら人間には気が長すぎて理解できそうにないですが頑張ってください」

 

 宇宙に旅立つ種を撒く者は生命の芽吹きやすい星を探し出し、そこに有機物質を撒くことで新たな生命が育つのを見守るのだろう。

 それは人間の寿命ではとても観察しきる事の出来ない長い時間が掛かる事だろう。

 ハジメもひみつ道具によって長生きするつもりではあるが、星の生命の誕生を見守るほど生きるとは思っていない。

 

『最後にお礼になるか分からないけど君の気がかりについてアドバイスをしておくよ』

 

「気がかりですか? それにお礼を貰うようなことはしてないですよ」

 

『君が彼らを紹介してくれたことでこの星の植物たちは選択をするという成長が出来た。

 些細なことかもしれないけど、これから先彼ら人間と共存していけば新たな可能性も見えてくるだろう。

 結果はまだわからないけど、これはこの星の植物にとって良い事だったと思うよ』

 

「そう言ってくれるなら、僕も安心します」

 

 ハジメは銀河漂流船団に対しては善意でやった事だが、ここに至ってこの星の植物には迷惑だったのではないかと少し心配していた。

 種を撒く者の許可があればいいと軽く考えていたが、この星の植物はしっかりとした自我を持っているので住人である彼らの意思の方が重要だと再認識していた。

 自分の行動が間違いではないかという考えが過ぎっていたからだ

 

『自分の行いに責任を持っていることは立派だが、少し気にしすぎだよ。

 君は善意で彼らの仲介をしただけなのだから、選択肢を与えただけで選んだのはこの星の植物と彼らなんだ。

 うまくいかなかったとしても何も悪いことはない』

 

「でももし交渉がうまくいかず、彼らが力ずくでこの星を乗っ取ろうとしたらどうしたんです。

 そうならないように注意は払いましたけど、絶対ではありません」

 

『そうなったらそれも仕方なかったと思うよ』

 

「え?」

 

 この星の植物を大事に見守ってきたものの言葉とは思えず、ハジメはあっけにとられた。

 

『人間には不思議に思うかもしれないが、多くの生命の誕生と滅亡を見てきた僕には生存権をかけた戦いなんてありふれている。

 戦いを選ぶのも共存を選ぶのもそこに生きる彼ら次第だ。

 育ててきた僕の手を離れたとたん、衰退して滅んでしまう星も決して少なくない。

 命の奪い合いでどちらかが生き残るというのなら、星の全ての生命が根絶やしになってしまうよりずっといいことだよ』

 

「………」

 

 人間では測る事の出来ないスケールでの種を撒く者の話に、ハジメは理解は出来ても納得は出来そうになかった。

 生命の進化を見守るほどの存在だからこその実感を伴った言葉だった。

 

『だから君の恐れる失敗なんて些細な物なのさ』

 

「え?」

 

 自分の恐れる失敗を言われて一瞬なんのことかわからなかったが、思い当たることはいくつかある。

 今回の事件もそうだが、ハジメは失敗時の被害を恐れてあらゆる手段を講じて対策を張り巡らせている。

 ○×占いで成否を占い、失敗時のバックアップも十分に揃えて事に及んでいる。

 自身の命が掛かる場合もあるので油断しないが、周囲への被害も出来る限り抑えようと気を張っていた。

 特に地球の被害が考えられる事件の対処には際立っていた。

 

『君は多くの事件を事前に知って対処に回っているけど、失敗を非常に恐れすぎている。

 それが君の心に大きな負担を掛けているみたいだから言うけど、失敗したとしても君に責任はないんじゃないのかい?

 事件が起こるという事は当事者がいてどちらが良い悪いにしても、責任はそこにいる彼らのものだ。

 君は介入するだけの部外者なんだろう?』

 

「ええ、でも介入したからには責任があると思うんです」

 

『そうだけど、それでも僕には君が責任を感じ過ぎているように思う。

 どうしてそこまでして事件に関わろうとするんだい?』

 

「それは…放っておいたら地球が危ないから」

 

『そういう事件もあるだろうけど、この星に関しては地球と関わりはないだろう?』

 

 確かにその通りで、この事件にハジメが関わったのはあくまでドラえもんの映画に出ていたからだ。

 

『君がこの星の仲介をしたのは善意からだ。

 つまり君がやりたい事だから関わろうとしているんだろう?』

 

「ええ、そうです」

 

 放っておいたら地球がヤバいのは事実だが、それなら地球に関わらない事件は放っておけばいい。

 他の事件に関わったのは戦力の実験や訓練もあったが、好奇心からと善意の行動であったことも否定できない。

 

『つまり関わるも関わらないも君の自由なんだ。

 それならもうちょっと気楽に頑張ればいいと思うよ。

 さっきも言ったけど、失敗したって大したことはないんだから。

 地球が滅びる事になっても君なら逃げられるんだろ?』

 

「ええ、それはまあそうなんですけど…」

 

 種を撒く者にとっては滅びを見る事が珍しくないようだが、ハジメが地球の滅亡を見る事になれば穏やかではいられないだろう。

 その感性の違いをハジメは流石に受け入れられそうにない。

 

『流石に僕も地球の滅びを地球人の君が許容出来るとは思えないけど、すべてに責任をもって君が対処するのは間違っている。

 地球で問題が起こるという事は地球に住む全員の試練だ。

 君が何もしなくても失敗して被害が出ても、地球の問題を受け止めるのは地球に住む全員の義務であり責任だ。

 君の責任というものはその一つに過ぎないんだよ』

 

 地球の問題は地球全体の責任で自分はその一人。

 そう言われてハジメは確かに責任を抱え過ぎていたのではないか納得していた。

 ”なんでこんなことしなきゃいけないのか””ひみつ道具を持つ自分にしか出来ない事だ”と、思えば責任を抱えるような考え方もしていた気がする。

 

 責任の有無に関わらずひみつ道具という対処法があるなら、ハジメは自分の意思で対処しようと行動するだろう。

 だがそれはすべて善意の行動からであって、誰かに強要されるものでも嫌な思いをしながらやらなくてはいけない事でもなく、対処に失敗しても責任を感じるようなことではないと種を撒く者は言いたいのだとハジメは認識する。

 

『そして地球の中の一人分の責任も抱えたくないというのなら、一人で宇宙に逃げてもいいんだよ。

 それを可能にする力を君は既に持っているのだから』

 

「いや、さすがにそこまですべて投げ出すようなことは出来ませんよ」

 

『そうだろうね、けど出来るってことを頭の片隅に入れておけば気が楽だろう。

 善意の行動は自分に余裕があって出来る事なんだから』

 

 そこで種を撒く者は一度言葉を区切り、改めてハジメを正面から見据える。

 

『君がどんなにうまく成功させても大きな失敗をしてもこの宇宙は大きく変わらない。

 僕のやっていることだって宇宙全体から見たらちっぽけな物さ。

 だから小さいことを気にせず成功も失敗も成長の糧として生きればいい。

 本当に成功だったか失敗だったかなんて、終わりが来るまでわからない。

 星が滅んでも生き続けて新たな故郷を見つけて続いていく人たちだっているんだ。

 一回の失敗を恐れる事なんてないよ。

 僕の言葉は君のアドバイスに成れたかな?』

 

「はい、自分でも思うところはありましたし、責任を抱え過ぎていると言われて否定出来ませんでした。

 いろいろありがとうございます」

 

『いや、お礼なんていいよ。

 僕の価値観で語った無責任なアドバイスだからね。

 善意のね』

 

 種を撒く者なりのジョークだったのだろう話の締めに、ハジメは苦笑して答える。

 

『では、いい加減僕は行くとするよ。

 君の善意の結果が地球人にとって良い結果になることを祈っている』

 

「あなたも次の星で素晴らしい命が育ちますように。

 さようなら、種を撒く者」

 

『さようなら、とても不思議な地球人』

 

 別れの挨拶を済ませると種を撒く者は宙に浮かび上がり形を変えていく。

 どんどん空へ浮かび上がっていきながらただ金色の光の球体になって、彗星のように光の雫を纏いながら上へ上へ上がっていき星を飛び出していった。

 ハジメはそれを目で見えなくなるまで追い続けた。

 

 

 

 

 

 




 最後の種を撒く者とハジメの会話が難産だった。
 語りを外してもよかったけど、習作としては外すのは勉強にならないので頑張った。
 読み手に理解してもらえるかはもう二の次になりました。

 書きたい事を書くって難しい



 ところで、ねじまき都市の舞台になる小惑星帯って火星と木星の間にあるんですが、現実にある小惑星帯で一番大きい星でも月よりずっと小さいそうです。
 その上、小惑星帯にある星だと他の小さな小惑星とよく衝突するだろうから、本来は生物が住める環境の星なんて作れない筈なんですよね。
 設定と現実の環境を比べた結果わかった事なので、やっぱりドラえもんはご都合主義が多いなと思いました。


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生まれてない世界からの来訪者(創世日記)

 考えてみると、太陽系と地球を作ってしまう創世セットはスケールのデカいひみつ道具だと再認識しました


 

 

 

 

 

 種を撒く者が造った意思を持つ植物たちの星へ銀河漂流船団の移民が決まり、ハジメ達は時々様子を見ながら、次の事件の準備を進めていた。

 大して地球に影響の出ない解決が容易だった事件はほぼ解決し、残るは解決が容易でない難しい事件のみとなった。

 その残った中の一つ、鉄人兵団の事件に対応するための準備をハジメ達は早急に進めていた。

 

 10年前に戻って時間の余裕を作り複数の事件を解決してきたが、表の時間ではそろそろ十年が経過し、鉄人兵団の事件が発生する時期が迫っていたからだ。

 タイムマシンを使えばまた時間の余裕を作ることは出来るが、それをする必要はないと大よその作戦の行程が決まり戦力の調整に入っていた。

 鉄人兵団の事件にはこれまで開発してきた戦力を動員して、真正面から撃退しようとハジメ達が軍備を揃えていた。

 

 戦闘に使われるMSをモデルにしたロボットが格納庫に立ち並び、作戦部長と技術班班長が見守る中で役職を持たない作業員のコピーと作業用ロボットがそれぞれロボットの調整を行っていた。

 

「白兵戦用人間サイズMS”モビルソルジャー”の近接タイプに銃撃タイプ。 それに原寸大無人機MS”モビルドール”の近接タイプ機動タイプ重火力タイプの各種戦闘タイプは取りそろえた。

 指揮官機のAIを備えた機体も現在最終調整で、事件までには十分間に合うだろう」

 

「いろいろ悩んで結局戦う事にしたが、やはり気が重いな。

 僕達が地球の命運をかけて外宇宙からの侵略に対して本気の戦争を行うなんてな」

 

「あまり深く考えるなって、この前種を撒く者にアドバイスされたばかりだろ、部長。

 結果がどうなろうが、最悪の場合はどうとでもなるんだ。

 地球の命運がどうだとか愚痴らないで、ゲーム感覚で鉄人兵団を攻略するつもりでやろう」

 

 班長は命運をかけた戦いに既に吹っ切れているので、気楽に部長に話している。

 対する部長は作戦を考案する関係上、リアルに事態が想像出来てまだ吹っ切れてない様子だった。

 

「わかってはいるがいろいろ考えていると頭が痛くってな。

 負けるとは全く思ってないが、その後の事態の収拾にいろいろ頭を悩まされてるんだよ。

 戦争で戦うのは簡単でも、戦後の処理が非常に難しいのは本当だな。

 流石にメカトピアの文明を丸々ぶっ飛ばす気にもなれないし」

 

「なるほど、政治面のことも視野に入れているわけか。

 まあ、僕は管轄外だから頑張ってくれとしか言えないな」

 

「投げっぱなしにすんな、僕も投げ出したいんだ。

 それに統合すれば巡り巡って結局自分の問題になるんだぞ」

 

「そうなんだよな。

 コピーとはいえオリジナルは人使い、いや自分使いが荒いんだよ」

 

「それって自分に厳しいってことになるんじゃないか?

 僕は自分に厳しいつもりはないと思ってたが、コピーから見れば厳しかったりしたんだな」

 

「だからもうちょっと投げっぱなしにしちゃえばいいんじゃないか。

 あまり深く考えず行き当たりばったりなっても、ひみつ道具を使えば解決出来ないことないんだしさ。

 本来の解決法も最終手段として作戦に残しているんだし」

 

「…そうだな。 あまり使いたくはないが僕等の手に負える限度次第だな」

 

 鉄人兵団。

 映画において宇宙に存在するロボットだけが暮らす星メカトピアから、ロボット達が地球を侵略にやってくるという、明らかに悪い敵が明確になっているストーリーだ。

 その先兵として地球に潜入してきた少女の姿をしたロボットリルルとドラえもん達は接触し、互いに心ある存在だと認識して侵略を止めようと奮起する。

 しかしドラえもん達の武器ではロボットの大群に対抗出来ず、最終的にタイムマシンでメカトピア誕生の歴史を変えるという掟破りの方法で解決したのが、ある意味非常に印象的だった。

 その結果仲良くなったリルルも歴史の改編により消えてしまうことになるが、地球侵攻が無くなったから地球から姿を消しただけで、改変されたメカトピアで新たに生まれていたような描写がエンディングにあった。

 

 以上が鉄人兵団における大まかな内容だが、ハジメ達はドラえもん達が取った解決手段である歴史の改編を出来る限り行わないつもりだった。

 地球の未来が掛かっていたとはいえ、やったことは時間犯罪者と同じ都合のいいように思い通りの未来に書き換える行為だ。

 原作の話である以上間違っているとは断じきれないが、歴史の改編は良い悪いに関わらず行なってはいけないのが、時間移動を題材にしている話によく挙げられるルールだ。

 ハジメも可能な限り行いたくないと考え、歴史改変による事件の消去ではなく戦争による力ずくでの解決に乗り出した。

 その為の軍備が眼前に広がるMSの模造品だ。

 

 メカトピアから攻めてくる鉄人兵団もロボットだが、戦闘力では自作MSで対抗出来ると○×占いに出ていた。

 量産もひみつ道具を使えばほぼ無限に用意出来るし物量でも決して負ける事はないので戦いによる勝利を疑っていないが、作戦部長のハジメは勝った後の処理について考えていた。

 

 メカトピアのロボット達は人間と同じような文化を持っており、一つの生きている民族とハジメは認識していた。

 なので戦争を仕掛けてきたからといって鉄人兵団を返り討ちにした後に、メカトピアに攻め入りロボット達を全滅させようなどと思えなかった。

 映画でのリルルのように対話で解決出来る知能を持っている以上、全てのロボットを殲滅で解決する事になるくらいなら、原作のような歴史改変で解決したほうが結果的にはいろいろとマシだろう。

 だから最終的には対話で解決を狙ってはいるが、力はあっても地球人の代表でもない政治的な力のないハジメでは、不可侵条約を結ぶなどの政治的な解決方法が取れない。

 結局力ずくでメカトピアの戦力を徹底的に潰して相手の心を折り、二度と地球に攻めてこないように約束させなければ事件解決にならないのだ。

 

 力ずくにしたって問題だらけでメカトピアの心が折れるのはどれくらいか、どうやって地球を攻めないように約束をさせるか、約束を守らせるのにどのような手段が必要か、などと終わらせる手段とその後の平和の維持に部長は頭を悩ませる。

 戦争に勝利はしても殲滅しないのであればメカトピア自体は残り、戦力が回復すれば再び地球に向かってくる可能性もあり、中途半端な結末では禍根を残す事になる。

 報復に来ないように逆に侵略し統治するなどの手段もあるが、ハジメ達はそんな面倒臭いことはしたくないので、相手が約束を守るように仕向けつつ放っておいても問題無い様にしないといけないのだ。

 

 部長が頭を悩ませるのも頷ける。

 どうしても殲滅することになったり、放っておけば再び地球を攻めてくるというなら、原作通りの歴史改変もやむ負えないとハジメ達は妥協することにした。

 つまり最終手段で歴史改変をして事件を無かった事に出来るが、手に負えなくなるまでは出来る限り真っ当に解決するように努めなければならなくなったので、作戦部長のハジメは戦後の調停案を考えねばならず頭を悩ませていた。

 

「昔の戦争をしてた人達もこんな風に頭を悩ませていたのかねー」

 

「一般の軍人さんは戦うだけでよかっただろうけど、偉い人は戦争の落とし所とかいろいろ考えていたんだろうね」

 

「やっぱり政治家なんてなるもんじゃないな。

 相手の国のことまで考えて行動しなきゃいけないし、考えすぎて髪の毛が禿げてしまいそうだ」

 

「パピ君の大統領就任依頼、受けてたらと思うとゾッとするよ」

 

「違いない」

 

 部長と班長は軽口を叩きながら憂鬱とした雰囲気を晴らそうとしつつ、確認作業を続けた。

 そこで格納庫に一人のコピーが慌てた様子で飛び込んできた。

 

「大変だ! 部長! 班長!」

 

「どうした! ………えっと誰だっけ」

 

「何の役職だったかな?」

 

 飛び込んできたコピーの服装から役職を割り出そうとするが、印象が少ないからか度忘れしたようにパッと頭に浮かんでこない部長と班長。

 ここでは同じ顔のハジメのコピー達がお互いを見分けるために服装でそれぞれの役職を識別している。

 例えば作戦部なら軍服、技術班なら白衣といった風に分かりやすい服装を着ている。

 そして作戦部の部長なら腕に【部長】と書かれた腕章をつけて、部署の重要な役職についている者と識別されている。

 

 駆け込んできたコピーはスーツを着て腕章をつけているので情報課の役職を持つ者となるのだ。

 

「係長だよ! 情報課課長の補佐!

 会議の時も報告は課長がやるからめったに参加せず、課の仕事に専念してるから見かけないんだよ。

 僕も一度統合して再度コピーで役職分配の時に思い出したくらい目立たないんだよ」

 

「なるほど、係長だったか」

 

「名前からして目立たないからな、係長」

 

 別に情報課の係長が役にたっていない訳ではないが、裏方で目立たないために印象が薄い役職だった。

 情報課のリーダーの課長は会議に出るから覚えはあるが、係長はその間も仕事を続けるので平役員と変わらないくらい目立たなかった。

 

「僕の役職が目立たないのはどうでもいい!

 それより緊急事態が起こったから二人とも会議室に集合。 緊急会議だ」

 

「こんな事初めてだが、急いだほうがよさそうだな」

 

「なにが起こったか簡潔に説明してくれ」

 

 普段は事件に備えて予定通りに会議が行われるが、突然の事態というものはこれまでなく緊急会議など初めてのことだった。

 初めての事態に深刻さを感じ取った二人はすぐ向かおうとすると同時に、呼び出しに来た係長に情報を求める。

 

「詳しくはうちの課長が説明するだろうが、コピーの一人が攫われたらしい」

 

 

 

 

 

 会議室に各部署のリーダーたちが集結すると、即座に緊急の会議は始まった。

 

「事件が発覚したのは情報課に念の為に備え付けていた【虫の知らせアラーム】が鳴った事だ。

 もしもこれが鳴った時の対応は決めていたので、僕等情報課はすぐに原因究明に調査を始めた。

 幸い僕等の拠点である鏡面世界に何者かが侵入したわけでも、地球に予想外の危機が迫っているわけでもなかった。

 そして様々な調査の結果、コピーの一人が誘拐されたことが分かった」

 

「それは聞いたが、今は鏡面世界の外で活動をしているコピーはいなかったんじゃないか?

 全てのコピーがこっちの拠点にいて、侵入者がいる訳じゃないのなら誘拐されるはずがない。

 それに誘拐されたのだとしたら、今の僕達を容易に攫うのはただの人間には難しいはずだ」

 

 部長が言うように全てのコピーが鏡面世界にいるなら、他に誰も入り込めない以上誘拐すること自体不可能だ。

 さらにいえば僕はひみつ道具を持っていて、コピー達も四次元ポーチを持って護身の為の武器を備えている。

 四次元ポーチも持ってない役職を持たない人員のコピーも、ESP訓練ボックスで習得した超能力を各自備えているので普通の人間に負ける筈がない。

 それゆえに鏡面世界に侵入せずに超能力を持つ僕のコピーを攫ったとなると、どれほどの脅威になるのか想像もしたくない。

 

「確かにそうだが、攫われたのは鏡面世界の外での事だ。

 全てのコピーがこの鏡面世界にいるというのは正確には誤りになる。

 いるじゃないか、この鏡面世界にいない僕達と同じコピーが」

 

「あ、もしかしてコーヤコーヤ星に残ったのコピーの事か?

 あっちで何か事件に巻き込まれたか?」

 

 隊長がコーヤコーヤ星に結婚して残ったコピーの事を思い出して口にする。

 宇宙の果てよりもある意味遠い異世界だが、外の世界にいる事には居るんだった。

 

「アー、そっちもいたな。 僕も忘れていたがそいつの事じゃない。

 表の世界の実家で子供やってるコピーがいるじゃないか」

 

「「あー」」

 

 全員が思い出したかのように声を揃える。

 そういえば僕の代わりに実家で子供をしているコピーがいるんだった。

 映画の事件の対処に時間的余裕を作る為、過去に出発した頃の時間を表世界では既に過ぎており、コピーが代役を行なっている頃の時間軸まで戻ってきている。

 もし事件に気づかずにコピーと入れ替わってなければ、オリジナルである僕が攫われていたことになる。

 四次元ポケットがあっても何の準備もなければ危ないことに変わりはないので恐ろしい。

 

「そういえばいたんだったな、実家で僕の代役をするコピー」

 

「すっかり忘れていたよ」

 

「会長は覚えていたか?」

 

「オリジナルもコピーも内面あまり変わりないんだから、覚えてなかったことくらい分かるだろ。

 連絡手段は実家のコピーに持たせてるけど、最初の時から一度も統合してなかったから超能力も使えないし、大したひみつ道具も渡してない。

 それなら営利誘拐でも5歳の体なら対処出来ない」

 

「ところが営利目的でもなく、相手は普通の人間でも無かった」

 

 課長が浮ついた空気を占める様に重苦しい雰囲気で話を続けた。

 ふざけられる様な雰囲気ではなく、皆は改めて気を引き締める。

 

「僕も虫の知らせアラームが示した危険が実家のコピーだと知って一瞬気が緩んだが、タイムテレビで調査をしてみればとんでもない奴が誘拐犯だった。

 見てくれ」

 

 課長がモニターを操作してタイムテレビで調べた誘拐当時の出来事が映し出される。

 

「おいおい、これって」

 

「何の冗談だよ」

 

「なんでこいつらがいるんだ?」

 

 皆はモニターに映し出された映像に愕然として食い入る様に見ている。

 映し出されたのは、5歳の僕のコピーが巨大なカマキリの触覚から放たれた光線に撃たれ、気絶したところをそのまま連れていかれる光景だった。

 連れていかれた人気のない場所には巨大な芋虫型の乗り物があり、それにコピーを連れた巨大カマキリが乗り込むと時空間が開いて乗り物が消えていった。

 皆が心当たりがあるようにオリジナルの僕にも当然心当たりがあった。

 

「創世日記の昆虫人類じゃないか!」

 

「創世セットは使ってないだろ!?」

 

「いや、こいつ等の乗っているのはタイムマシンだ。

 未来から来たのであれば、僕等が創世セットを使えば未来に存在していたとしても可笑しくない」

 

「だけど昆虫人類をあえて作る理由は?

 映画で生まれたのだってのび太の我儘が原因の失敗だったじゃないか。

 やろうと思えば出来るが作る理由がまるで思いつかない」

 

「そういえば創世日記の話は事件調査した時に○×占いで存在すると出ていたんだった。

 創世セットを使わなければ発生しないと思ってたが、タイムマシンでやってくるとは…」

 

「理由はどうでもいい。 問題はこれから僕等はどうするべきかだ。

 会長、指示を頼む」

 

 課長が僕に指示を求めると他の皆もこちらに視線が向く。

 コピーそれぞれに自主性はあるが方針を決めるのはオリジナルである僕の役目だ。

 少し考えてから指示を決める。

 

「…いろいろ分からないことが多いが、映画の事件である以上解決に乗り出すつもりだ。

 ひみつ道具を持っていないただの子供と変わらないコピーとはいえ、僕が攫われたことに何らかの因果関係があると思う。

 課長、奴らの消えた先は?」

 

「現在情報課を総動員して追跡中だ。

 超空間の中なのでタイムテレビが使用出来ないから、時空間を調査出来るひみつ道具も併用して手探りに探している。

 時空迷宮の運行データが無ければ時空間の特性があまり理解出来なくて更に手間取ることになっただろうが、今の僕等ならそう遠くない内に時空間の乱れの足取りから居場所を発見出来る筈だ」

 

「わかった、発見し次第報告してくれ。

 発見したらコピーの奪還を含めて、奴らの意図を探りに昆虫人類を追いかける。

 場合によっては全戦力を投入するつもりで準備に取り掛かれ!」

 

「「了解!」」

 

 全員の返礼を合図に各々が準備に動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 芋虫型のタイムマシンの自室で一息つき、僕は故郷に思いを馳せていた。

 少々強引な手段ではあったが、目的を果たすための重要な手がかりを手に入れられた事に安堵していた。

 今はカルロスやマンティが船の操縦をしてくれているし、エモドランは連れてきた人間の子供を見てくれている。

 あの子から何か有力な情報が聞き出せるといいのだが…

 

 僕の名前はビタノ、地球の地底世界に住む昆虫人の一人だ。

 大統領の息子という特色はあるが一大学生として勉学に励み、卒業論文のテーマを考えていた頃に未来からタイムマシンに乗ってエモドランがやってきた。

 彼の目的は当時は語られなかったが、未来の人が僕の力になるようにと命じて僕等の時代に送り出したらしい。

 

 当然その理由が気になったのだがエモドラン自身も知らされていない様で、父さんはそれでも未来から来た存在に不安を感じていろいろ問質していた。

 大統領である父さんはエモドランが未来を何か悪い方向へ変える存在ではないかと危惧して二人で話し合ったようだが、最終的にエモドランの言ったように僕の力になるという事で落ち着いたらしい。

 エモドランがどのような説得をしたのか気になって父さんに訊ねたが、父さんは悩ましげな顔で時が来れば分かると言ってエモドランと乗ってきたタイムマシンを自由にしていいと言ってくれた。

 エモドランとタイムマシンの事はあまり広めないように秘密にされ、護衛と補佐としてカルロスとマンティを父さんがつけてくれることになった。

 

 エモドランを自由にしていいと言われて僕はどうするか考えると、卒業論文の題材にタイムマシンを使って神の悪戯について調べようと思い付いた。

 神の悪戯は五億年の昔に何かが起こり海の生物に劇的な進化を与え、地上に進出し更に進化を遂げて現代の哺乳類の楽園に変えてしまった昆虫人の伝説だ。

 僕ら昆虫人はそれによって地底世界へ追いやられ地上を捨てねばならなかったと考えているが、僕は僕等昆虫人にも神の悪戯が進化という影響を与えたのではないかと考えていた。

 

 神の悪戯が本当に神と呼べる存在の仕業なら、その恩恵が当時の海の生物だけでなく僕等の祖先の昆虫にもなかったのだろうかと考えた。

 もしそうなら現在信じられている常識を覆す事になり、最高の卒業論文になると思った。

 タイムマシンなら五億年前にいって神の悪戯の真実を見ることが出来ると思い、必要な機材を準備してタイムマシンで過去に向かった。

 

 ついた五億年前の神の悪戯が起こったとされる異常進化発祥の地で、僕等は奇妙な痕跡を目にした。

 本来海の中にいる魚が陸地を跳ね回った水跡と、そこに落ちていた当時の時代の生物には存在しない毛髪を見つけたのだ。

 これは神の存在を確かめる重要な手がかりだと喜び、DNAを調査しようと元の時代に帰ってきた。

 そこで目にしたのは先ほど手にした功績を一瞬で忘れてしまうような光景だった。

 

 元の時代では目に見える全ての光景が赤黒い色に染まり、いたる所から光の粒子が立ち上っては消えていく、ある意味幻想的な光景が広がっていたのだから。

 言葉にすればキレイと思える光景だが、光る粒子が立ち昇った後には全ての物が少しずつ形を崩してうっすらと透けた状態へと変化している。

 これを見ればだんだんと全ての物が消え始めているのが誰の目にもわかった。

 それに気づいた人々は悲鳴を上げてパニックに陥り、町中が阿鼻叫喚の光景が広がっていた。

 全ての物とは無機物に限らず生きている人々すら粒子となって消え始めていたのだから。

 

 僕も慌てて父さんの元に向かい何が起こったのか説明を求めた。

 大統領として忙しく事態の混乱に対処していたが、父さんはすぐに戻ってきた僕等と会ってくれた。

 

「父さん、いったい何があったんだ!

 この光景はいったい?」

 

「この地底世界だけでなく地上世界も含め、全世界が消えようとしているようだ。

 私にも何が起こっているのかまるで見当もつかない。

 だがこの現象の解決はビタノ、お前がやらねばならない事のようだ」

 

「どうして僕が!?」

 

 この時焦っていた僕等は自分たちの状態にすら気づいていなかった。

 

「自分の姿を見てみろ、我々とは違い光の粒子となって消え始めていない。

 この現象はお前たちがタイムマシンに乗って過去に向かった後に起こり始めた」

 

「そんな、じゃあまさか僕のせいで…」

 

 過去に行った事で何か歴史が狂い現在に影響を及ぼしたのではないかと危惧した。

 

「いや、歴史とはそう簡単に狂うものではないと私は思っている。お前が解決のカギになると考えたのは別の理由だ。

 エモドランと二人で話した時に、お前は近いうちに歴史的に重要なファクターになると言われた。

 その為にエモドランは未来から来たと言ったが、私は未来人がタイムマシンを送り出してでもビタノに成し遂げてもらわねばならない事があると解釈した。

 お前が神の悪戯を卒業論文の題材として決め、タイムマシンで調査することにした事で私は確信した。

 神の悪戯の真実を追え、その先にこの現象の解決方法がある筈だ」

 

「そんな、僕はただの大学生だよ。

 他に世界を救える適任者がいるんじゃないか?」

 

「未来人がお前にエモドランを送ってきたという事がその答えだ。

 このままこの世界が消滅するなら未来は存在しないし、未来が存在しないのならエモドランが来ること自体がない。

 未来人はこの事態の解決をするためにエモドランを送ってきたのだ。

 行きなさい、神の真実をお前が最初に解き明かすのだ」

 

 父さんの鼓舞に僕等は再びタイムマシンに乗り込み、手掛かりの毛髪のDNAからその持ち主を探すべく旅立った。

 DNA情報から時間を超えてその持ち主を探すが、コンピューターの導きの途中には別世界に通じる時空間の横穴のような物があり、さらにその先を示していた。

 エモドランが言うには時空間の中は過去から未来に繋がる一本道で、その壁を超えるという事は世界の壁を超える事であり、その先には別世界があるらしい。

 

 あの毛髪が神の正体とは限らないが、別世界の存在が五億年前に来ていたことに驚きだ。

 だけどだんだん神の正体に近づいてきている。

 それが解れば僕の世界を救えると信じて、僕はコンピューターが示す先に思いを馳せていた。

 

 

 

 ついた世界は僕等と同じ世界の地球だった。

 地形もほとんど同じで太陽も月もあり、地上は哺乳類の繁栄を築いていた。

 いわゆる平行世界だろうと僕達は結論付け、あの横穴は歴史の分かれる支流となる繋がる入り口なのだろう。

 

 このままDNAの持ち主の追跡を続けてもよかったが、この世界の僕等が気になって確認をしたくなった。

 僕等の国は近年地上侵攻を訴える人が増えて、近いうちに地上奪還に乗り出すのではないかという世論が広まっていた。

 この世界のこの時代は僕等より少し先の時代のようだが、いまだに哺乳類主体に繁栄していることからこの世界では僕等はまだ地底世界で暮らしているのだろう。

 それで地底世界の様子をこっそり見に行こうと寄り道をすることになった。

 

 寄り道して確認した地底世界は存在したが、この世界で暮らしていたのは僕等とは別の種族だった。

 地底世界には太古に絶滅したと言われる恐竜が無数に生息しており、恐竜から進化したと思われる人種が繁栄を築いていた。

 遠くから確認をするだけに留めたので見つかることはなかったが、僕等は内心穏やかではいられなかった。

 別世界とはいえ自分たちの暮らしていた場所に全く別の種が同じように知的生命体として進化していたことに複雑な思いを感じた。

 別の地底の活動領域もいくつか調べたが恐竜人達が暮らしており、僕等昆虫人の痕跡はまるで見当たらなかった。

 この世界に僕等の人種はいないのだと実感した。

 

「カルロス、マンティ、エモドラン、本来の調査に戻ろう」

 

「ビタノさん…」

 

「我々は…」

 

「この世界は僕等の世界じゃないんだ。 気にすることはないよ。

 それよりも僕等の世界の事を考えなきゃ」

 

 エモドランは特に動揺していなかったが、カルロスとマンティは地底世界に恐竜が繁栄していたことに呆然自失としていた。

 僕達の世界に似たこの世界は平行世界というもしもの世界なんだ。

 もしかしたら僕等の世界も昆虫人ではなく恐竜人が繁栄していた可能性があるんだ。

 

 その事実に恐ろしくなるが、神の悪戯の真実がもしかしたらこれと同じような受け入れがたい真実かもしれないと頭に過ぎった。

 だが、そうだとしても僕等の世界の消滅を受け入れる事だけは出来ないと今は忘れる事にする。

 全てをはっきりさせなければ世界は救えないんだと、目の前のことに集中することにした。

 

 DNA追跡機が最後に指し示したのはこの時代の一人の子供だった。

 周囲の子供と見比べても大差なく普通の人間の子供にしか見えなかったが、コンピューターはあの子供が毛髪の持ち主だと指し示していた。

 周囲を怪しまれない程度に調べてみたがいたって普通の子供らしく、世界を超えて僕等の世界で地上の生き物の進化を加速させた神の悪戯の正体とは思えなかった。

 

 僕はもう少し様子を見るべきかと思ったが、カルロスとマンティが直接正体を探るために強引に攫ってきてしまった。

 僕等の世界ががじわじわと消えようとしていて、この世界では僕等の種族は存在すらしていないという事実に煽られた焦燥感からこんな強引な行動に出てしまったのだろう。

 僕自身も冷静とは言えない心境だったから二人の気持ちはよくわかった。

 

 だがこのまま焦りに任せて行動しては、よくない結果に繋がるのは目に見えている。

 連れ去ってきた少年、ハジメという子に焦りから危害を加える可能性を考えて、二人は彼から引き離してタイムマシンの運転に専念してもらう事にした。

 話を聞くのは彼が自然に目を覚ますのを待ってから行い、それまではエモドランに彼の事を見張っててもらう事にした。

 

 とはいえ話を聞くにしてもあの少年は幼いというくらいの年齢だ。

 人種が違うから見極められているとは言えないが、あの年代の子供ではちゃんとした受け答えが出来るかどうかは不安になる。

 やはりもう少し様子を見て周囲を探っていた方がよかったのではないかと考えた所に、船内放送でカルロスに呼ばれた。

 

『ビタノさん、すぐにブリッジに戻ってください。

 何かがこっちに向かってきています』

 

「なんだって? 時空間の中で一体何が向かってきてるんだ?」

 

『コンピューターはこの世界のタイムパトロールの可能性があるとのことです』

 

 タイムパトロールとはエモドランが言っていた未来にいる時間移動による犯罪を防ぐ組織だったはずだ。

 この世界の時間軸に昆虫人が存在しないのなら、僕等に対してこの世界のタイムパトロールがまともに取り合ってくれるか怪しい。

 

「僕等はこの世界では不法侵入者に近い。

 捕まったら説明にいろいろ時間を取られて間に合わない事かもしれない。

 僕もブリッジに行くから距離を取ってくれ」

 

『わかりました』

 

 すぐさま自室を出て二人のいるブリッジに向かう。

 二人は操縦席に座りタイムマシンを通常より加速させて高速で飛行していた。

 

「状況は?」

 

「どんどん近づいてきます。

 こっちもかなり速度を出しているのですが、相手の方が出力が上みたいです」

 

「ここまでついてきてるという事は、やはり我々を追ってきてるという事ですね。

 もしかしたらあの子供を連れてきてしまったのが原因かもしれません」

 

「同意も得ずに連れてきてしまうのは犯罪に違いないからね」

 

 僕等昆虫人の法に照らし合わせても犯罪行為に違いない。

 それを知れば人間の警察だって動くのは当然だ。

 

「すいません、我々が焦って強引な手段に出たばっかりに」

 

「まだそうだと決まったわけじゃないが、どっちにしろこの世界のタイムパトロールに捕まるのはまずい。

 振り切れないか?」

 

「我々のタイムマシンの速度では難しいですね」

 

 速度で負けている以上、追いつかれるのは時間の問題か。

 

「マンティ、僕達の世界に繋がる時空間の分かれ道はまだ先か?

 そこに入れば相手を撒くことが出来るかもしれない」

 

「なるほど、あそこなら相手の目を晦ませることが出来るかもしれません。

 急ぎましょう」

 

 時空の分かれ道はあると解っていなければ確認するのが難しい。

 僕等も追跡装置の導きが無ければ解らなかった時空の横穴だ。

 追いつかれるまでに辿り着けるといいのだが。

 

「カルロス、相手はあとどれくらいで追いつく?」

 

「もう視認出来るほどの距離まで近づいています。

 モニターに出します」

 

 モニターに映ったのはこちらのタイムマシンよりもはるかに大きい戦艦のように重厚な船で、その周囲を取り巻くように無数の何かが浮かんでいるのが見えた。

 

「巨大な船のタイムマシンだが周囲に浮かんでいるのは何だ?」

 

「映像をズームしてみます」

 

 カルロスが操作すると無数の何かが何なのかはっきり見えた。

 

「あれは人か?」

 

「いえ、生命反応がないのでおそらくロボットでしょう」

 

 時空間を巨大な戦艦に張り付くように並走している無数の人型のロボットがいた。

 殆どのロボットが武器らしきものを持っているのが見え、とても平和的な集団とは思えない。

 

「あの様子じゃ逃げるのに集中したほうがよさそうだ。

 マンティ、まだ入り口は見えないか?」

 

「…ありました、あと三十秒ほどすれば横穴のある地点に差し掛かります」

 

「カルロス、いけそうか?」

 

「少々無茶をしますが飛ばしますよ」

 

 カルロスは出力レバーをいっぱいにしてタイムマシンの出力を最大にする。

 急な加速に体に荷重が掛かるが踏ん張ることで体勢を維持する。

 無数のロボットを率いる巨大なタイムマシンはもうそこまで迫ってきている。

 

「合流地点に着きます!」

 

「飛び込め!」

 

 追いつかれる間際に僕等のタイムマシンは通常の時空間から離脱し、僕等の世界に繋がる固有時空間に乗り移ることが出来た。

 相手と接触するギリギリのところだったが、何とか逃げ延びたらしい。

 

「ふぅ、ギリギリでしたね」

 

「速度を落とします。

 しかしあれは本当にあの世界のタイムパトロールだったんでしょうか?

 かなり物々しい様子でしたが…」

 

「わからないが捕まったら碌な事にならないのは予想できる。

 僕等にはやらなければいけない事があるんだから」

 

 世界を救うという重大な使命があるんだ。

 こんなところで躓いてなんかいられない。

 

 本来の目的を思い出し、そろそろ連れてきた少年も目を覚ますだろうと部屋で見てもらっているエモドランに通信を入れようとしたところで船体に衝撃が走った。

 

―――ドォン! ドォン! ドォン!―――

 

 最初の衝撃に続いて幾度も衝撃音と共に船体を揺らして僕等は体勢を崩して床に手を着いて体を支える。

 

「何だ!」

 

「外部カメラで確認します! これは!」

 

 カルロスが確認した船体を映すモニターには先ほどの人型ロボットが張り付き、ブースターで僕等のタイムマシンの動きを阻害しようとしていた。

 

「奴らもこの空間に入り込めたのか!?」

 

「ビタノさん、前を!」

 

 マンティの叫びに操縦室正面の窓を見ると複数のロボットが銃口をこっちに構えて一つ目のカメラアイを光らせていた。

 

『投降シロ、拒否スル場合ハ船体ヲ破壊シ航行不能ニスルヨウニ命令サレテイル』

 

 ロボットが感情の無い音声で投降を呼びかけてきた。

 物々しい武装だが問答無用で攻撃してこないだけマシかもしれない。

 

「マンティ、外部スピーカーを」

 

「どうするんですビタノさん」

 

「投降するしかない。 既に取りつかれている状態じゃ通常空間にも逃げられないし下手に動けば攻撃される」

 

「それしかないですね」

 

 僕は投降の意思を示すために外部スピーカに繋がるマイクを手に取った。

 

 

 

 

 

 昆虫型タイムマシンの追跡は少々手間取ったが、予測の範囲内で捕縛することに成功した。

 時間は無かったが専用の追跡装置をハツメーカーで用意し、時空間での活動が行えるように改造したモビルソルジャーで取り押さえた。

 相手は時空間の中で動いており、以前のように過去に戻って余裕を作ることが出来なかったので、作業効率を上げる【ノーリツチャッチャカ錠】や【ハッスルねじ】で準備作業を即座に終わらせて、ロボット王国と宇宙開拓史の時の時空宇宙船で追跡に出た。

 映画の時のようにタイムパトロールを撒くために時空間の支流に逃げ込んだが、すぐに捕捉して相手が気の緩んだタイミングで抑え込んだ。

 

「時空間の支流は確かに観測しづらいが、事前知識があれば大した問題じゃない」

 

「今回も時空迷宮のデータが役に立ったな。

 時空迷宮の乱雑な流れに比べれば、支流なんてすぐに捕捉できる」

 

 正直時空間というものは過去未来へ移動するひみつ道具のお陰で運用は容易だが、いろいろ解明されてない天候不順みたいな事象が数多く存在している。

 映画ではよく登場し時空迷宮や時空乱流、時空嵐や今回の支流など時間移動以外の事態が起こる事象が数多くある。

 時空迷宮のデータからチョコチョコと研究を進めているが、余裕が出来たら本格的に研究してみるのもいいかもしれない。

 

 それより捕らえた虫型タイムマシンの中の昆虫人に会わねば。

 表世界の代役のコピーも無事だと思うが、ちゃんと確認しないと。

 

「それじゃ、ちょっと昆虫人達に会いに向こうのタイムマシンに行くよ。

 護衛にドラ丸とモビルソルジャー5体、それと隊長と課長も同行してくれ」

 

「会長が直接行くのか」

 

「危なくないか?」

 

 僕が直接行くことに二人は危惧するが、最近は警戒で考えすぎるのをやめようと思っている。

 慢心する気はないがひみつ道具なら大抵の事態に対処出来るので、オリジナルである僕ももっと自由に動きたいと思うのだ。

 こう思うようになったのは種を撒く者に諭されたからだが、保険は強力なひみつ道具をいくつも使って備えているので心配ない。

 

「種を撒く者にも言われたが警戒しすぎたり慎重になり過ぎるのもやめようと思ってね。

 コピーの皆が自由に行動出来るから統合すれば、実質自由に動き回っていることになるけどやっぱり自分でも動き回りたいからね」

 

「まあ、ドラ丸の戦闘能力もちょくちょく改造して上がってる。

 たとえ昆虫人でも生身ならどうとでもなるだろう」

 

「確かに強くなっているでござるが、殿達の思い付きでちょくちょく改造されるこっちの身にもなるでござるよ。

 必要なこととはいえ、体の中を弄られるのはいい気分ではないのでござるよ」

 

 ドラ丸には見つけたひみつ道具の活用法を機能としてちょくちょく組み込んでいる。

 そのお陰でドラ丸は刀が無くても恐ろしい戦闘能力を発揮できるようになっているが、今の所事前に危険を排除して護衛として活躍したことがないから見せ場がまったくない。

 だが鉄人兵団の事件になれば活躍の機会は自然と訪れるだろう。

 今回それが発揮されるようなら昆虫人達が大変なことになってしまうが。

 

 

 

 

 




昆虫人類の歴史消滅の風景は劇場版遊戯王をイメージしました。


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世界を作ってしまうという事 前編(創世日記)

 短めで終わらせるつもりだったのに、三話構成になってしまった。
 なんでこうなってしまったんだろうと後悔している上に難産だったので文章の書きかたに納得がいかない。

 長編は鉄人兵団でやりたいと思っているのです。


 この話は世界を作る過程で歴史を改竄することによる影響を考察した内容になります。
 書きたい自体を書いていたらこんなに長くなってしまいましたが、他の人には面白くない設定ばかりの話に見えるかもしれません。
 途中でつまらなくなったら飛ばしてもらっても結構です



 

 

 

 

 

 謎のロボット達にタイムマシンごと捕らえられた僕等だが、危害を加えられる様なことはなくタイムマシンの中で待機しているように指示された。

 僕等が連れてきてしまった少年を見ていたエモドランとも合流して、少ししてから大型のタイムマシンから数人の人間とロボットが乗り移ってきて、僕達の前に現れた。

 現れた三人だが人種の違いから顔の識別がし辛いが、どう見ても同じ顔と背丈の同一人物にしか見えない人間だった。

 服装の違いくらいしか違いが見受けられないが、三つ子なのだろうか。

 

「一応こちらから自己紹介をしておこう。

 僕等は中野ハジメ、ちょっと地球の問題を解決して回ってる科学者の卵みたいなものかな。

 あまり他者との交流がない上にいろいろ事情がある立場だから、うまい自己紹介が出来なくてね。

 気になることがあったら随時質問してくれ。

 答えられるかどうかは別だけどね」

 

 軽口を叩くようにTシャツにジーンズを着た私服に腕章を付けた少年が代表の様で自己紹介をしてきた。 

 

「僕はビタノ、一応この中のリーダーを務めています。

 こっちの二人は補佐のカルロスとマンティ。

 そしてこっちがこのタイムマシンの持ち主のロボット、エモドランです」

 

「カルロスです」

 

「マンティです」

 

「僕エモドラン、どうぞよろしく」

 

 カルロスとマンティは捕らえられた手前不機嫌そうに名前だけを告げ、それに対してエモドランは誰に対しても変わらない陽気な自己紹介で答える。

 

「なるほど、大体わかってはいたが予想は間違っていなかったか」

 

「予想?」

 

「ああ。 とある事情で僕等は未来に起こる事象のいくつかを知っている。

 それがいろいろ地球で問題になるようなことが多いから、対処して回るのが僕等の仕事なんだ。

 君等の事も僕等の仕事に関係しているんだ」

 

「未来に起こる事象というと、未来を知っているという事ですか?

 確かにタイムマシンがあれば未来を確認することは可能でしょう」

 

「いや、タイムマシンで未来を確認したから知ってるわけじゃないんだが、そこの説明はまたややこしいから省こう。

 僕等が君たちを捕まえたのは、僕のコピーを君等が連れ去ったからだ」

 

 コピーを捕まえた?

 僕等が連れ去ったというと、追跡装置が示した少年だが…

 そこまで思い出して目の前の三人があの少年とよく似ていることで、一つの予想が浮かび上がる。

 

「まさかあの少年や貴方達はクローンなんですか!?」

 

 僕等の国でも技術が確立されたわけではないが、クローンという概念は既にある。

 DNAを元に生き物を複製して出来上がる生き物の事だが、命を科学的に生み出す行為は全てを生み出した神へ冒涜という考えから禁忌と思われている事でもある。

 それを実行出来る科学力があるのは驚きだが、自身のクローンを作ってしまう行為に不快感を覚える。

 

「正確には違うが似たようなものではある。

 勘違いとも言い切れないが、君が不快感を覚える理由も承知の上で僕は自分のコピーを作っている。

 それが禁忌に当たる行為だと解っているから、むやみやたらに他者をコピーする気はない。

 まあ、そんなことはどうでもいいから話を進めよう」

 

 なぜ自分のクローンを作るに至ったのかは分からないが、禁忌感を持つくらいの良識はあるらしい。

 自分のコピーを作ることを何でもない事のように話せるのが理解出来ず気掛かりだが、重要なことは確かにそれではない。

 僕等の目的はあの毛髪の持ち主から神の悪戯の正体を突きとめる事だ。

 この人があの少年のオリジナルだというのならDNAも一緒という事になり、神の悪戯に関係していることになる。

 タイムマシンを持っている事から、僕等の世界の5億年前に来ることも可笑しいことじゃない。

 

「…教えてください、あなたは僕等の世界の五億年前に一体何をしたのですか?」

 

「話の繋がりが見えないが、君の言っていることについても大体の予想はつく。

 今答えられることは、僕はまだ”何もしていない”という事だ」

 

「とぼけないでください! あなたが僕等の世界のあの時代にいたことは残っていた毛髪からわかっているんです!

 そこで起こった事を僕等は神の悪戯と呼んで、その毛髪の持ち主を捜してこの世界にやってきました。

 そして神の悪戯の真実を解き明かさなければ僕等の世界は救われないんです!」

 

 ようやく答えを知る人物にたどり着いたというのに、本人にとぼけられて僕は声を荒立てる。

 しかし怒鳴られた目の前の人物は平然とした様子で、僕が落ち着くのをじっと待っている様だった。

 微動だにしないハジメさんに僕も釣られるように落ち着きを取り戻すと、話を再開する。

 

「君が何やら焦っているのはよくわかったが、本当に僕はまだ(・・)何もしていないんだ。

 タイムマシンというものがあると、こういう事態に話がややこしくなっていけない」

 

「? どういうことですか?」 

 

 ふざけているのかと最初は思ったが、真面目に言っている様子に僕も困惑する。

 それに答えてくれたのは後ろに控えたエモドランだった。

 

「ビタノ君、この人は嘘をついてないと思うよ。

 たぶんこの人はこの後僕等の世界の五億年前に行くことになるんじゃないかな」

 

「え? どういう………あ、そうか」

 

 順番が逆になっているのか。

 僕等は彼が五億年前に訪れた後の時間に行ってその痕跡を見つけてこの世界に来たが、ここにいる彼はまだ五億年前の世界に行く前だから、何をやったのかわかる筈がない。

 

「だけどあなたは僕等の事情をある程度察しているように感じる。

 あなたがまだ僕等の世界の五億年前に行っていないなら、なぜ僕等が聞きたい事を知っているんですか?」

 

「先ほども言ったけど僕等は未来に起こる事象を知っていて、君らの世界の事情もその一つなんだ。

 未来が変わった事で差異が生まれているだろうからあまり当てにならないかもしれないが、重要な要素についてはあまり変化がないだろうから予測は出来る。

 あくまで予測で実際の状況を知っているわけじゃないから、改めて君たちの事情を詳しく聞かせてくれ。

 その上で答えられる限りの質問に答えよう」

 

「わかりました」

 

 僕は彼、ハジメさんに大学の卒業論文を考えている時にタイムマシンを手に入れた事から、この世界に来てハジメさんのコピーを強引に連れ去ってしまった時までの事を順番に話した。

 話の途中で僕等が攫ってしまった5歳のハジメさんのコピーもやってきて、彼を連れてきたエモドランにどことなく似たロボットも説明を聞くのに参加した。

 そして攫ったコピーのハジメさんから話を聞こうと思っていたところで、ハジメさんが引き連れたロボット達に捕らえられたのだと言って説明を終えた。

 

 説明を終えると、ハジメさんは悩ましげな表情で眉間を揉んだり、頭を掻いたりしてそわそわしている。

 なぜかわからないが落ち着かない様子で考え込んでいるが、こちらの事情を聴いて何か思い当たることがあったのは間違いないようだ。

 

「僕等の事情は大体話しました。

 先ほどから落ち着かないようですが、僕等の話を聞いて何に気づいたんです?」

 

「うーん………一応原因も予想はついたし解決法も大体わかる。

 だけどとてつもなく面倒というか気が重いというか、乗り気になれないんだ」

 

「そんな! 面倒なんて言わないでください!

 僕等は自分の世界の存亡がかかっているんですよ!」

 

 この人は本当に真面目に人の話を聞いてくれているのか心配になる。

 自身の世界の事ではないからって、まともに相手をする気がないんじゃないか!?

 

「わかってる。 君達にとっては死活問題なんだろうけど、僕にとっても簡単なようで簡単な事じゃないんだ。

 僕の知っていることも順番に説明するから、少し落ち着いて話を聞いてくれ。

 君等にとってはあまり穏やかでいられない世界の真実かもしれないから、ちょっと覚悟をしてくれ」

 

「……わかりました」

 

 穏やかでいられないのはこの人の態度なのだが、これから重要な内容が語られそうだから下手なことは言わない。

 カルロス、マンティ、エモドランも覚悟を決めろという前振りに、喉を鳴らし気を引き締めて話を聞く姿勢を正す。

 これからようやく神の悪戯の真実を聞けると思うと皆も真剣にならざるを得ず、僕も気を引き締め直す。

 

「まず僕が知っている未来は本来あり得たかもしれない可能性を現したものだ。

 そのあり得たかもしれない未来では現在の僕の世界に存在していない人物が、貴方達の世界に当る可能性の世界の五億年前に生物の進化を加速させる切欠を起こした。

 それをあり得たかもしれない可能性のあなた達も神の悪戯と呼び、そこのビタノ君達もタイムマシンによって調査を行うのを僕は知っていた」

 

「じゃあ、僕等のやっていることはすべて知っていたと!?」

 

 タイムマシンの使用も含めた未来予知となると…どういう事になるんだ?

 特定の事柄に限定して追跡するように時間移動先の状況も未来予知するなんて、もはや未来予知というのだろうか?

 ハジメさんが言ったように時間移動をも未来予知で観測するというのは、どういう時間的順序で説明しているのか話がややこしくなる。

 

「そういうわけじゃない。

 本来あり得たかもしれない未来はある人物たちが中心となっている未来で、僕はそれを知っているだけだ。

 だけど僕の暮らす世界にはその人物たちは存在しないから、僕の知る未来になることはありえない。

 その人物については話しても意味はないから言わないが、僕はその人達がやる筈だった事の代役を務められる力を持っていて、自らその役割を担っている。

 ある人物たちがいないことによって起きたズレが世界の違いとなっていろいろ変化しているから、全て知っているわけでもない。

 似たような歴史の流れと結末を知っているから、君達の問題も世界の違いから大よそ想像が何とか着いたんだ」

 

「え、えっと…」

 

 あり得たかもしれない世界っていわゆる平行世界ってことだよな。

 僕達の世界とハジメさんの住む世界は平行世界で、ハジメさんはあり得たかもしれない平行世界の知識を持っていて、そこと関わる世界に僕達昆虫人のいる世界があって、そこには僕達もいて…。

 ダメだ、時間移動の過去未来に続いて世界が何個も出てきて整理が追いつかない。

 他の三人も頭の中がこんがらがってきたのか首を傾げている。

 

「だからややこしいって言ったじゃないか。

 これでもまだまだ序の口で解決まではまだまだ悩ましい問題があるんだ。(しかも映画みたいにすっきりした終わり方なんて出来そうにないし)

 つまり、僕の知る可能性の世界Aとそこと繋がる昆虫人のいる可能性の世界A´、僕のいる世界Bと君達の世界B´がある。

 君達は自分達の世界B´とやってきた僕の世界Bしか知らないが、僕は自分の世界Bと類似する世界Aと、そこに関わった歴史を持つ世界A´を知っているから、予測で世界B´の状況を把握出来るってことです。

 こうやって説明すると数学の方程式みたいだ」

 

「と、とりあえず理解は及びました。

 つまりあなたの言う予知の中で僕等の行動を知っているから、解決策が解るという事ですね」

 

「まあ、そういうことだな」

 

 言ってしまえばカンニングみたいなものだが、世界の存亡が掛かっているのに些細なことは言ってられない。

 

「では教えてください、その世界では一体どのようにして世界の危機を救ったんです」

 

「いや、その世界は別に世界存亡の危機には陥ってないよ」

 

「へ?」

 

 またしても予想外の答えに肩透かしを食らい、変な声を出してしまった。

 

「その世界では地底に住む昆虫人類が地上に住む哺乳人類に地上を取り戻す奪還戦争を起こそうとしていて、それをある人物達が解決するだけだから君達の世界と同じ危機には発展していないよ」

 

「た、確かに僕等の世界でも地上侵攻の兆しを見せていましたが…

 じゃあ、僕達の世界で起こっている異変は何が原因だというのです!」

 

「鶏が先か、卵が先か」

 

「は?」

 

「最近僕がよく悩まされる議題なんだけど、ビタノ君は知っているかな?」

 

 突然また別の話をされたのかと思ったが、話の流れ的に何か意味があるんだろう。

 少し悩んだが落ち着いて真面目に答える。

 

「人間の哲学者も提唱した議題の一つですよね。

 生物の進化論にも繋がる事なので、古生物学の資料を読んでるときにも目にしたことがあります。

 文字通りの進化論的な意味なら、進化の過程で卵の段階で進化したのか成長過程で進化したのかを求める事ですね。

 循環する関係においてAが存在しなければBが成り立たず、Bが存在しなければAが成り立たない。

 ではAとBのどちらが先に生じたのかという、あらゆる事象に当て嵌められるジレンマの一つです」

 

「うん、まあ僕も哲学的意味を追求したわけじゃないんだけどね。 

 解決しようの無い問題は早々に諦めた方が賢明って悩みなんだけど、似たようなことが繰り返しよく起こるもんだから、その度に悩まされるんだよ。

 かといって安易に思考放棄していい内容じゃないのが一番悩ましくて…」

 

「はあ?」

 

 本気で悩んでいる様子に、彼の中にある真実はよほどの物らしい。

 おそらく僕等が考えているような悲壮感を漂わせるような悲劇的な物ではなく、答えは解っていても落としどころに悩むしっくりした物ではないのだろう。

 おそらく僕等の予想以上というより予想外の事実がある気がしてならない。

 だが、どんな事実であろうと自分たちの世界を救う事に戸惑う事はない。

 それだけは絶対言える事実だ。

 

「ハジメさん」

 

「ん?」

 

「あなたが何を悩んでいるのか僕等の想像も出来ない事なのでしょうが、僕等の目的は何も変わりません。

 どんな真実だったとしてどんな手段が必要なのだとしても、僕等の世界を救う事を戸惑う気はありません。

 僕等に出来るのであればどんな事でもしますので、全てを教えてください」

 

「私からもお願いします。

 故郷を救う為なら命だって投げ出す覚悟です」

 

「お、俺だって」

 

「僕だって手伝うよ!」

 

 僕の決意表明に続いてカルロス、マンティ、エモドランが続く。

 そうだ、最初から世界を救うという事に決意は揺るがない。

 自分に出来るかという不安はずっとあったが、出来る事なら何でもするくらいの気持ちはあった。

 消えゆく国の光景を思い出すと胸が張り裂けそうになり、必ず救おうという気持ちを高めていった。

 今の僕達は些細な事では揺るがない決意を持っている。

 そう自信をもって言えるだけの気持ちが僕等にはあった。

 

「…それは構わないんだけど、普通の人なら荷が重すぎる事実と責任だよ。

 気にしなければ本当に大したことない事実だけど、気にしたら人によっては自殺するくらいの重圧を受ける事になるかもしれない。

 面倒臭いけど僕が一人でも片付けられる事だから、何も知らないまま自分達の世界に戻ってくれてても問題ないよ」

 

「そうなのだとしても僕等の世界の存亡が掛かっているんです。

 誰かに任せて帰っては未来を託してくれた大統領である父さんに顔向けが出来ません」

 

「僕にとっては別世界の事だからどうでもいい真実だけど、君達にとってはとんでもない事実だから知らない方が本当にいい。

 世の中知らない方が良いこともあるって聞いたことない?」

 

「ないことはないですが、決して逃げてはいけない事もあると思います」

 

「…君達に出来る事は何でもするって言ったけど本気?

 責任を持つ覚悟は本当にある?」

 

「もちろんです!」

 

「じゃあまかせた!!」

 

「「は?」」

 

 一瞬呆然としてから、何か重要なことを押し付けられてしまったような気がした。

 

 

 

 

 

 ビタノ君達の世界に起きている危機を解決するために、彼らを連れて僕等の世界まで戻ってきた。

 鏡面世界まで案内する気はなかったので、外の世界にある無人島のセーフハウスに三人の昆虫人とエモドランを案内した。

 

 その合間にいくつかの確認事項を○×占いで課長に確認をさせた。

 ビタノ君達の世界で起こっている事象は予想だったので確認したかったのだが、大よそ予想通りと○×占いは丸の反応を連発させたらしい。

 

 ビタノ君達の世界に起こっている全てがゆっくりと消えていく事象だが、おそらく世界そのものが生まれない事で消えかかっていたのではないかと予想した。

 あの世界は映画において創世セットで作った事で生まれる世界で、創世セットを使わなければ生まれないのだからビタノ君達も本来は存在していないことになる。

 だがタイムマシンを使う事によって時間と世界の壁をすっ飛ばし、創世セットをまだ使っていない時間の僕の元に来てしまった。

 彼らが来なければ創世セットを使う事はなかったのだが、来たという事は創世セットを使ったという事になる。

 これが”鶏が先か卵が先か”の悩みどころになるのだが、気にしても本当に仕方のないことなのだ。

 

 映画では地球の未来がひっくり返るような事件は何度もあったが、ドラえもんが未来からやってきていた事で解決に繋がる。

 つまり事件によって地球の未来が無くなればドラえもんは存在しない筈なのに、ドラえもんが存在したことで地球に未来が繋がるという、”鶏が先か卵が先か”というややこしい事態は原作でもよくあった事なのだ。

 ご都合主義と言ってしまえばそれまでだが、深く考えると解決しない矛盾点がいくらでもあるから困るのだ。

 タイムマシンを使っていると良く起こる事態なので気になってしまうが、最近はさっさと考えるのをやめる事に努めている。

 

 先ほどまでビタノ君達の世界の事を考えていろいろ悩んでしまったが、種を撒く者に言われたことを思い出して深く考えるをやめた。

 彼らが責任を持って頑張ってくれるなら全部ブン投げてしまおうと、悩むのをやめるために【創世セット】の事については押し付ける事にした。

 彼らが創世セットで地球を作るという事は作る世界の被造物主が造物主として世界を作ることになるという”鶏卵”だが、素材を用意するのが別人なら問題ないだろうと思考を放棄。

 

 更に創世セットが只のシミュレーターみたいなデータ上の生物を作るなら問題無いのだが、ビタノ君達の様に外の世界まで飛び出してくるれっきとした人間と同等の知的生命体を作ってしまう事にも倫理的に悩んだ。

 だけど作らなきゃ目の前に存在するビタノ君達もおそらく消えてしまうからそういう訳にもいかない。

 そんな風に悩んでいるとビタノ君達がハキハキとやる気を見せ出したので、こっちがこんなにも悩んでるのにとちょっとした八つ当たりの気持ちも込めて押し付けてやることにした。

 実際に創世セットの存在を教えれば愕然とするだろうが、こっちもこれ以上悩みたくないので言い切った以上最後まで付き合わせるつもりだ。

 

 映画では昆虫人達が創世セットの中の作られた住人だという事実に、どうして落ち着いて受け入れられたのか不思議だったが、やはりご都合主義という奴だったんだろうか。

 この後教える創世セットの存在は彼らのアイデンティティーを揺るがしかねない物の筈だが、どういう反応を示すか少し楽しみと思っている自分の腹黒い部分に少し複雑な気分を感じている。

 今更この事実を隠す気はないが、多少困らせてやりたいという八つ当たりの気持ちと、流石に酷い事なんじゃないかという気持ちが鬩ぎ合っている。

 ショックを受けた時のフォローはするつもりはあると言ういろいろ矛盾した考えをしているが、最終的には面倒な事態にならないでほしいと祈るばかりだった。

 

 

 

 僕は彼ら4人の前に新品の創世セットを取り出す。

 4人には当然これが何なのかわからないので質問を投げかけてきた。

 

「これは何ですか?」

 

「創世セット。 途轍もなくよく出来たシミュレーターだと思ってくれればいい」

 

「シミュレーターって何のですか?」

 

「地球のだよ。 これでこれから君達の世界を作るんだ」

 

「は?」

 

 言っている意味が解らないのか疑問の声がビタノ君から漏れる。

 まあ、僕が彼らの立場でも疑問の声を漏らすだろう。

 

「だからこれで君達の世界を地球の誕生から作るんだよ。

 そうすれば君達の世界の消滅は免れる筈だ」

 

「いや、訳が分かりませんよ!

 どうしてシミュレーターで世界を作ることが、僕等の世界を救う事に繋がるんですか!」

 

「作らなきゃ存在しないことになるからだよ。

 おそらく君達の世界が消えかけているのは、世界が誕生する要因が無くなった事で存在自体が消えようとしているんだ。

 だからこの創世セットで君達の世界になるように地球を作れば消滅することはないだろう」

 

「それではまるでそのシミュレーターで出来るモノが僕達の世界だと言っている様ではありませんか」

 

「だからそうだと言っているじゃないか」

 

「「………」」

 

 再三事実を教えるとビタノ君は他の三人と共に呆然と黙り込む。

 素直に信じられるとは思えないから、この後どのような反応をするか…

 

「…ふざけないでください!!

 これまで何度も呆れさせられるようなことを言われましたが、今度ばかりは流石に信じられませんよ!」

 

「その通りです! 我々は自分たちの世界の存亡を深刻に考えているのですよ!」

 

「俺達が逆らえないからってフザケやがって!

 いつまでも大人しくしていると思ったら大間違いだぞ!」

 

 エモドランを除く三人が激昂して立ち上がり、その中でマンティが酷い剣幕で腕のカマキリの鎌を振り回そうとする。

 だがそれに先制して護衛のドラ丸が見かけからは想像も出来ない速さで、相手に悟られることなく猫又丸をマンティの首に突き付けた。

 一瞬で首に添えられた刀にマンティは体を硬直させて動きを止めるしかなかった。

 

「ウッ……ぐ!」

 

「怒るのは殿の予想の範疇でござるが、力を振るうのであれば拙者も黙っていないでござるよ。

 首のない自分の体を見てみるでござるか?」

 

 ドラ丸は暴れようとしたマンティに脅しをかけるが、猫又丸の機能は多彩でぶった切っても傷付けないことが出来るチャンバラ刀などの機能も有している。

 その機能で斬れば首を切り落としても頭も体も生きており、自分の首をもって歩き回るゾンビの真似事も出来るのだ。

 それを知らない彼らは真剣を突きつけられているように見えるから冷や汗ものだろう。

 少なくとも怒気はあっという間に冷め切ったようだ。

 

「ま、待て! そこまでする必要はないだろう!」

 

「マンティが暴れようとしたのは謝るからやめてくれ!」

 

 思った以上に脅しが聞いてビタノ君とカルロスがドラ丸を宥めようとする。

 当のマンティは刀を突きつけられている緊張から体を僅かに震わせ、顔を青くして石像を真似るように硬直している。

 

「少々脅しが効きすぎたみたいだけど、簡単に力で訴えるような真似はやめてくれ。

 その刀は鎮圧用に相手を傷つけずに倒す事の出来る機能も持っているが、普通に斬り殺す事も出来る殺傷能力も備えている事には備えている。

 文句を言いたくなる気持ちもわかるけど、僕はちゃんと真面目に答えているんだ。

 次やったら問答無用で元の世界に追い返すからね」

 

「…わかりました」

 

「それじゃドラ丸、刀を離していいよ」

 

「承知」

 

 ドラ丸が猫又丸をマンティの首から話すと、マンティは一気に硬直が解けてその場に力なく座り込む。

 

「マンティ、大丈夫か?」

 

「お、俺の首ちゃんと付いてるか?

 すごく生きた心地がしなかった…」

 

 カルロスが声をかけるとよほど脅しが効いたのか、マンティは先ほどの威勢はこれっぽっちも感じられなかった。

 

「一応ビタノ君の護衛でもあるんでしょう。

 そんなことで役割が果たせるんですか?」

 

「二人はこれでも優秀なSPの資格も持っているんですよ。

 それなのに二人が碌に反応出来ずに即座に武器を突きつけるドラ丸さんが速過ぎるんです」

 

「これでも殿の護衛を担っているロボットでござるからな。

 相応の戦闘能力を持っていなくては務まらんでござる。

 不本意ながら度々殿達に改造されるので、どんどん戦闘能力が上がってしまっているのでござるがな」

 

 ドラ丸はうまく噛み合いそうなひみつ道具が見つかったら、それを機能として追加するためにちょくちょく改造して強化を続けている。

 本人は強くなることを除けば体を弄られる改造は不本意のようだが、既に素の戦闘力で自前のモビルドールの大隊を壊滅させられるだけの戦闘力を持っている。

 見た目に反して最終兵器(リーサルウェポン)化しているが、ドラ丸の改造はちょっとした楽しみであるのでやめる気はしない。

 そろそろ拡張性を考えた大幅な改造でもしようかな。

 

「殿、また拙者の改造を考えてるでござるか?」

 

「あ、解る?」

 

「改造される予感を感じると首筋がゾクっとするのでござるよ」

 

 勘も働くとは既に普通のロボットじゃなくなってるな。

 映画のドラえもん並みに人間味があるのはとても良いことだけど。

 

「改造は後にして、とっとと創世セットで君達の世界を作るよ。

 僕等もあんまり暇じゃないから一日で終わらせるよ」

 

「やっぱり本気で言ってるんですね…」

 

「ああ、信じられなくても作ってみれば自ずと解るよ」

 

 力ずくで納得させた気がしないでもないが、ビタノ君達は渋々といった感じに製作に参加する。

 

「しかしシミュレーターとはいえ一日で地球が出来るモノなんですか?」

 

「創世セットの中の【コントロールステッキ】に時間を早める倍速ボタンがあるから、要所部分以外の時間を省けば一日で終わらせられるだろう。

 可能性の世界では過程を観察日記につけていたけど、今回はそんなことする必要はないから手間もそんなに掛からない」

 

「観察日記って……小学生の課題か何かですか?」

 

「昆虫世界の学校制度は知らないけど、たしかに可能性の世界では創世セットは小学生の夏休みの自由研究の観察日記に使われていたね」

 

「私達の世界が夏休みの自由研究…」

 

「観察日記…」

 

「…もう何でもいいです」

 

 明らかに僕の話を理解するのを諦めた三人にかまわずに、僕は【神様シート】を広げて地球を作る準備を始めた。

 

 

 

 

 




 小学生の観察日記の為に作りだされた地球。
 映画を見ている時は気にしていなかったけど、作られた側の存在からしたらこれほどひどい話はない。


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世界を作ってしまうという事 中編(創世日記)

 前話もそうでしたが、説明が凄くややこしいです。
 残念ながら自分の執筆力では伝えたい事がうまく文に出来ていない気がします。
 かなり読みづらいかもしれませんので、面倒なら飛ばして呼んでください


 

 

 

 

 

 神様シートを敷いてコントロールステッキで突くと、シートの中に宇宙となる空間が広がった。

 三人は諦めた様子ながらも不思議な現象に、多少は興味をもって神様シートの中を覗き込んだ。

 

「この中が地球を作る宇宙空間になる」

 

「ですがなにもありませんよ?」

 

「宇宙その物から作るからまだ何もないんだ。

 この【宇宙の元】をその中に広がるようにばら撒いて」

 

 創世セットの中から宇宙の元の”レプトン””クォーク””ゲージ粒子”と書かれた瓶を一つずつ三人に渡す。

 三人は渋々といった様子だが、言われた通りにシートの中の宇宙空間に三種類の瓶の中身をばら撒いた。

 

「これでいいですか?」

 

「じゃあ次はこのコントロールステッキで中をかき混ぜて」

 

 ステッキをビタノ君に渡すと指示に従ってシートの中に先っぽを突っ込んでぐるぐるとかき混ぜる。

 それは料理にも似ていて、とても世界を作る為の作業に思えなかった。

 

「(僕は何をやっているんだろう…

 こんなことをしていて本当に世界を救う事に繋がるのか)」

 

 素直に従ってはいるが、先ほど何でもするといった真剣な様子からは想像もつかないくらい、不満一杯な様子だ。

 仕方ないが創世セットで作る地球が完成すれば納得せざるを得ないだろう。

 

 そろそろかな、と思い僕はシートから少し距離を取る。

 その直後に…

 

 

―――チュドーーーン!!!―――

 

 

「「うわぁ!!」」

 

 シート内の宇宙で爆発が起こり、かき混ぜていたビタノ君と覗き込んでいた二人とエモドランが漏れてきた衝撃に吹き飛ばされた。

 宇宙誕生のビックバンが中で起こったのだが、漏れてきたのは衝撃だけなので大したケガにはならない。

 吹き飛ばされた四人もすぐに起き上がる。

 

「な、なにが起こったんです?」

 

「ビックバンが起きて宇宙が誕生したところだね」

 

「今のがビックバン…

 本当に地球を作ろうとしてるんですか?」

 

「出来るまで信じなくてもいいから、作業を続けるよ」

 

 シートの中では生まれたばかりの宇宙で、ガスや塵が渦を巻いている。

 

「ここから次の作業に移るまで時間を早めるよ」

 

 ビタノ君が持つコントロールステッキを操作して時間を早める。

 シートの中は時間が加速した事によって、どんどん宇宙が形を変化させていく。

 中心に太陽が出来、その周囲に平べったく無数の小惑星が広がった所で時間の加速を止める。

 

「これが太陽系が出来る頃の46億年前の段階だ」

 

「これが46億年前の太陽系…」

 

 太陽の周りをまわっている小惑星がぶつかり合っては砕け、また集まって大きな星を形成していっている。

 ビタノ君達はその光景を食い入る様に見ており、半信半疑ながらも目が離せないといった様子だ。

 そんな彼らに次の命令を出す。

 

「これから地球を含む太陽系を形成するから、またコントロールステッキでシートの中をかき回して。

 だけど今度は混ぜるんじゃなくて太陽の周囲を公転しながら惑星が形成されるようにゆっくり回すんだ。

 大きくズレると太陽系がしっかりと形成されないらしいから気をつけて」

 

「太陽系の惑星が出来る様に宇宙をかき回すって、それはどれくらいの速度でかき回せばいいんですか!」

 

 聞く方にとっては想像も出来ないようなスケールの作業に、ビタノ君は叫ばずにはいられなかった。

 大体の作業は映画で知っているが、創世セットに説明書も付いていたので読んでみる。

 

「えっと、太陽熱で焦げ目が付かない様に熱せられる所が満遍なく広がる様に混ぜるといいって。

 後は速すぎると小惑星が粉々に砕けて駄目になってしまうので優しくやりましょう、って説明書に書いてある」

 

「料理ですか!」

 

 シチューの混ぜ方に似てるね。

 混ぜすぎるとジャガイモが煮崩れしちゃうから。

 

 まあのび太でも出来たのだから適当にやっても問題ないだろうと、ビタノ君にやるように指示を出す。

 加減のわからないビタノ君はおっかなびっくりで中の小惑星を粉々にしないように、尚且つ太陽に引き寄せられ過ぎず離れすぎないように回る力を加えて、小惑星が太陽の周りを回り続けるようにコントロールステッキで回転を加え続ける。

 その作業を数十分も続けていると太陽系の惑星が揃いだし、原初の地球もようやく形を成した。

 

「で、出来たんですか?」

 

「太陽からの距離も問題ないみたいだから、生物が誕生しうる環境にはなるだろう。

 これで作業の山場は過ぎたから、また時間を早めて様子を見る」

 

 再びコントロールステッキの倍速ボタンでシートの中の宇宙の時間を早める。

 外から見た地球は遠目でもわかるほど色が変わって環境が変化していく。

 だんだんと大気が形成され地球が雲で覆われてむき出しだった地表がまるで見えなくなる。

 おそらく雨が降り出したのだろうと推察し、時間を早めていても雲は中々晴れずに長期に渡って降り続けているのが解る。

 それでも時間が経てば再び変化して、地球はまさに青い星にふさわしい青一色の球体になっていた。

 地表に水が溜まって地球全体が海になったのだ。

 

「長期間雨が降り積もって海が出来た所だ」

 

「あれ全部が海ですか。 青一色で陸地が見当たりませんが」

 

「地殻変動でそのうち陸地が出来るよ。 それより次の作業だ。

 原始的な有機生命体が誕生する条件が整ったからきっかけを与える。

 コントロールステッキの先を地球に向けて」

 

「わかりました」

 

 指示に従いシートの中の地球にビタノ君がコントロールステッキを向ける。

 

「そしたら頭の赤いボタンを二回連続で押し続けて」

 

 二回連続で押すと、コントロールステッキの先から青い稲妻が発射されて地球を覆う。

 コントロールステッキから稲妻が出続けているからちゃんと押して続けているが、ビタノ君達はこの光景に再び驚いている。

 

「こ、これは何をやっているのですか?」

 

「原始の海の有機物質に反応を起こさせてるんだ。

 これで生命の起源となる原始生命体が誕生するはず。

 そろそろボタンから手を離していいよ」

 

「は、はい」

 

 ビタノ君がボタンから手を離すと稲妻の照射が止まる。

 

「一度中を確認しよう。

 この【UFOカメラ】を中に飛ばして、その様子をこのモニターで確認できる」

 

 変化した地球環境を確認するために【UFOカメラ】とモニターを取り出して、シートの中の地球に向けて飛ばす。

 地球に降りていく様子がモニターに映し出される。

 

「そういえば、さっきの行為って種を撒く者と同じ事をやったんだよな。

 本人が言っていたけど、確かに大したことないと言えば大したことないのか…」

 

「どうしたんですか?」

 

 以前会った種を撒く者は先ほどのように生命の誕生のきっかけを作って、生命の誕生を見守ったのだ。

 彼のやったことを一日も経たずやっていると思うと、また妙にやるせない気分になる。

 これでもこの星の生命を誕生させた種を撒く者には敬意を持っているのだが、同じことを夏休みの宿題感覚でやっていると思うと、非常に申し訳ない気持ちになるのだ。

 ふともらした種を撒く者の事にビタノ君が反応する。

 

「ついこの間、今やったみたいにこの星の生物誕生のきっかけを作った種を撒く者と名乗る特殊な存在にあったんだ。

 特徴は普通の生物に当てはまらないとだけ言っておくけど、種を撒く者は自分のやっている事が大したことじゃないように言ってて、僕はそうは思わなかったけど今やった事が彼のやっている事と同じ事だったから確かにと共感しちゃってね。

 この星の生命にとっては神みたいな存在だから敬意を持ってるんだけど、同じ偉大なことを簡単にやってのけたのが申し訳ない気分になってね」

 

「そうですか………って、は?」

 

 相槌を打って少しの間を置いてから疑問符を浮かべるビタノ君。

 まあ、可笑しな話のように聞こえるよな。

 この星の生命を作った存在に会っただなんて。

 今作ってる地球に生まれる彼ら昆虫人類を作るのが僕らなのが皮肉な所だが…

 

「…また変な冗談と言いたいところですけど、それも本気で言ってるんですよね。

 この創世セットと同じものを持っている誰かとかじゃなくて」

 

「ああ、間違いなくこの世界のこの地球の生命の開拓者だよ。

 種を撒く者は火星と木星の間の小惑星帯に、植物の為の楽園になる星を作ってたんだけど、移民先を求めて宇宙を漂流する銀河漂流船団ってのがいて、彼らの中の強硬派が地球を強引に侵略しようとしていたから、そいつらを懲らしめるついでに移民先に種を撒く者が育てた星を紹介出来ないか聞きに行った時に顔を合わせてね。

 その時幾つか世間話をしたりしたんだよ。

 たとえば地球と同じ時期に火星にも生命が誕生するようにきっかけを与えたけど、隕石の衝突でうまく育たなかったんだってさ」

 

「………この人、さらっと自分の世界を誕生させた神様に会ったとか言ってるよ」

 

「ビタノさん。 もしこの人が言ってることが本当だったら、今作ってる世界が我々の世界という事になるのですよ」

 

「そうなったらこの人が我々の神という事になり、制作に協力している我々も神に準ずる存在になってしまいます」

 

「僕等の世界を作ったというのがハジメさんになって、ハジメさんの世界を作った存在が種を撒く者という存在。

 では種を撒く者は神様の神様という事?」

 

「あまり考えすぎても、ややこしくて頭を痛めるだけだよ」

 

 僕がよく苦悩している人の身に余るスケールの話に混乱しているビタノ君。

 同じような悩みに頭を悩ませるのを見て、少しばかり留飲を下げる。

 若干八つ当たり染みているが、こっちも困らせられている身なので文句は言わせない。

 

 話している間にモニターに映る映像がどんどん地表の海に近づいていく。

 宇宙から近づいていく映像はまるでスカイダイビングの様で迫力を感じさせる。

 

「雲を抜けていく映像が凄いですけど、もしかして中に入れるんですか?」

 

「入れるけどまだ地球環境が整ってないから、生身では入らない方がいい。

 何度も言うようだけど、中の地球は外の世界の地球と同じように出来ているんだ。

 意図的に変化させなければ外と同じ地球の歴史を辿る」

 

 UFOカメラからの映像が水中に入った。 地表に辿り着き海に潜ったのだ。

 カメラをミクロズームで原始生命の細胞生物を探す。

 ちょっと探したらミクロの世界で水玉が集まったような原始生命を発見した。

 時々見る事のある顕微鏡で見た細菌の活動のように、アメーバのような球体がくっついたり分裂したりして活発に動いている。

 

「どうやら生物の誕生に成功したようだ。 これから生物の進化が活発になる。」

 

「もう最初の生命が出来上がったんですか?」

 

「時間を加速しているから、思いっきり時間を省けばあっという間に現代までたどり着くよ」

 

 作業を開始して三時間ほどだが、神様シートの中では数十億年が経過しているのだから生物の一つや二つが出来て当然だ。

 だがそれが小学生の夏休みの宿題で作る物だと、アニメとはいえひみつ道具の設定には呆れさせられる。

 

 コントロールステッキの倍速ボタンを操作しながらモニターで観察していると、細菌サイズだった生物がどんどん進化して多種多様な生物が海の中に広がっていく。

 そして魚類の古代生物がちらほら出てきたところで倍速ボタンを止めて立ち上がる。

 

「それじゃそろそろ中に入るよ」

 

「どうするんです?」

 

「決まってるだろ。 君達の言う神の悪戯を行うんだ。

 それが無きゃ君達の祖先が昆虫人類に進化しない」

 

「「あ!」」

 

 地球誕生の歴史をドラマチックに見ながら作ってきたが、当初の目的は彼らの誕生要因を作る為にこの創世セットを使っている。

 現在の神様シートの中はおよそ五億年前の地球だ。

 のび太達もこの頃に進化を促進させるために地上に降りて【進化退化放射線源】で海の生物に進化を促している。

 その時通りかかった虫が進化退化放射線源の光を浴びた事で、昆虫人類が創世セットの中の地球で誕生することになったのだ。

 この頃に同じことをやれば、おそらくビタノ君達の世界になるのだろう。

 

 創世セットから神様雲を出して神様シートの中に入る準備をしていると、ビタノ君の補佐のカルロスが口を挟んできた。

 

「待ってください。 モニターで見てみましたが海の外の陸地は、植物と昆虫類が住む我々の祖先が地上を支配していた時代です。

 神の悪戯が無ければそのまま私たちの祖先が進化していた筈だと、考古学者たちは言っていました。

 もしこの世界が我々の世界になるのだというのなら、神の悪戯などするべきではないのではないですか?」

 

 彼か昆虫人類の世界では神の悪戯が人類を進化させて、昆虫達が地下に追いやられたと考えられている。

 地上を取り戻したいという風潮のある昆虫人達が、神の悪戯が無ければと考えるのは自然な事か。

 

「確かに。 この地球が俺達の世界になるなんていまだ信じられないが、せっかく出来上がった昆虫達の楽園を壊されるのはいい気はしないな」

 

「二人とも、ハジメさんの前で…」

 

 カルロスの意見にマンティも賛同して、ビタノ君は哺乳人類である僕の前であることを気に掛ける。

 だが彼らの説が間違ってるのを知っている僕としては、少々呆れるだけで特に思う事はない。

 ただ間違いを証明するだけだ。

 

「なら、このまま何もせず進化を見守ってみるといい。

 間違いなく君達の予想する未来にはならないだろう」

 

「なに?」

 

「こんなに地上に昆虫が栄えているんだぞ!

 後から地上に這い上がってくる両生類より進化が遅れるものか!」

 

 二人はこのまま昆虫達が先に知的生命体に進化するという学説を信じているが、ビタノ君だけは訝しんだ様子で考え込んでいる。

 

「ビタノ君は彼らの考えに賛同しないのかい?」

 

「どうしたんですかビタノさん」

 

「?」

 

 二人もビタノ君の様子に気づいて少し冷静になる。

 

「…カルロス、マンティ。 僕等の世界では神の悪戯でその時代の海の生き物に劇的な変化が起こったとされている。

 僕が論文で提出したかったのは神の悪戯が古代昆虫の進化にも影響を与えたのではないかという可能性だ。

 今となってはそんな事はどうでもよくなっているけど、それが正しいなら何もしなければ僕等の祖先も進化しないんじゃないかと思うんだ」

 

「それは…」

 

「心配し過ぎですよ。 だってこんなに昆虫達だけが地上に繁栄しているんです。

 神の悪戯が無きゃ俺達昆虫人類が地上に繁栄してますってば」

 

 カルロスはビタノ君が考えていた学説を頭ごなしには否定できないと思っていたが、マンティは楽観的に考えている様子だった。

 

「改めて言うけど確認してみたら?

 コントロールステッキで時間を操作すればこの地球の生物の進化を手早く確認出来る。

 もともとこれは地球の変化を観察するための道具なんだから」

 

「ビタノさん、ハジメさんの言う通りにやってみましょう。

 我々の祖先の進化を見ることは新しい発見に繋がります」

 

「俺達が正しいって証明してやりましょう」

 

「…そうだね、二人とも。

 どちらにしろこの地球の行く末は最後まで見てみたい」

 

 ビタノ君の決心がついたところで、僕は再びコントロールステッキを渡す。

 

「僕はこの後の進化にあまり興味ないから勝手にやって。

 だいたい一千万年ずつ様子を見れば、過程がわかりやすいんじゃないかな」

 

「わかりました」

 

 杖を受け取り三人は倍速ボタンで時間を飛ばしてモニターで地球の生物の様子を見続けた。

 僕も結果は解っているので大して興味はないが、後ろの方からモニターを覗いている。

 映画の中ではのび太が我儘で生物の進化をひみつ道具で早めたが、何もしなくても本来の地球のように全ての生物は時間を掛けて進化を果たす。

 しかし本来の地球に昆虫人類が存在しない事から、古代の昆虫がそのまま彼らのような昆虫人類に進化することはあり得ないのだ。

 モニターにはその様子がはっきりと映し出されることになる。

 

 指示通りに時間を飛ばしながら三人は地上の様子をモニターで随時確認している。

 古代昆虫達は一瞬で飛ばされる時間の中で多様な進化を遂げて、時間が飛んで約四億年前の時代になっても地上に他の種族は存在せずに、正に昆虫達の楽園だった。

 

「ほらやっぱり! 昆虫がどんどん種族を増やしてる」

 

「神の悪戯が無ければこうして昆虫達は多種多様に進化していたのか」

 

「ビタノ君、君等の世界に両生類が出現したのって何時頃って言われてるの?」

 

「両生類の出現が神の悪戯と言われているので5億年前です」

 

「ふぅん」

 

 本来であれば4億年前でも両生類は地上にいなかったという事か。

 この神様シートの中の地球に僕等は余計な手を加えていないので、本来の歴史通りに流れる。

 生物の進化の歴史に詳しいわけではないので知らないが、両生類の上陸はもっと先か。

 

 そのまま三人は昆虫が多種多様に進化してく様子を眺めていたが、三億五千万年前に差し掛かったところで驚きで目を見開く。

 モニターに映る地上に両生類が出現し、水辺に近い古代昆虫を対象に捕食をしていたからだ。

 

「馬鹿な! なんで両生類が地上に出現してる!」

 

「神の悪戯が起こったというのか!」

 

「ハジメさん、あなたは何かしたのですか?」

 

 三人は目を疑ってモニターの様子に叫んでいるが、僕は平然とビタノ君の質問に答える。

 

「なにもしていないよ、ずっと後ろにいたんだから。

 これが神の悪戯の無かった本来の進化の歴史ってことだよ。

 地上ばかり見ていたから気にしてなかったんだろうけど、海の中でだって進化は盛んに行われていたはずだ。

 両生類が出現することは君達の世界に比べて遅れるだけで自然な事なんだ」

 

「確かに昆虫達が多種多様に進化したように、魚が両生類に進化していないなど言いきれない事ですね」

 

「ですが、昆虫達は両生類に比べて遥かに進化を繰り返しています。

 このまま我々昆虫人類の祖が先に生まれるのは明白です」

 

「カルロスの言う通りです」

 

 二人は昆虫の進化を疑っていないが、どこか自分を信じさせるために言っているように聞こえる。

 

「このまま様子を見ればいずれにしろ結果は解る。

 ビタノ君、時間を進めてくれ」

 

「…わかりました」

 

 どこか不安な様子を見せ始めたビタノ君だが、素直に従ってコントロールステッキを操作する。

 時代はどんどん移り変わり、地上ではこれまで昆虫の進化よりも体の大きな両生類の進化が目立つようになってくる。

 そして完全に地上で暮らすようになった爬虫類が現れて、巨大な恐竜が地上を支配するようになった。

 

「…これじゃ俺達の世界と同じじゃないか」

 

「恐竜が地上を支配し、昆虫が小さく草陰に隠れて暮らしている。

 時代がズレている様だがまるで同じような歴史だ。

 やはりこの世界でも神の悪戯が起こったんじゃないですか」

 

「ハジメさん、どうなんです?」

 

 三人は僕を責める様に見てくるが自然な進化なので言いがかりだ。

 

「何度も言うが僕は何もしていないし、これは自然な進化だ。

 もし神の悪戯が起こったのならこの世界の中に別の要因が外から入ってきたってことだろう。

 どうしても納得出来ないなら後で確認すればいい」

 

「確認って、どうするんです?

 この中に入ってタイムマシンで三億五千万年前頃を調べればいいんですか」

 

「コントロールステッキには巻き戻しボタンもあるからそんなまどろっこしいことをしなくてもいい」

 

「巻き戻しまでできるんですか…」

 

 呆れた様子を見せているが、この歴史の確認を終わったら改めて5億年前に戻して神の悪戯をしなきゃいけないのだ。

 時間を戻さずに新しく別の地球を作る気はないので、これから出来る未来の世界は消す事になる。

 中に生きる人がいるのにそれを無かった事にして消すというのは思うところがあるが、もう一度新しく作るのも嫌なので仕方ない。

 

「とりあえずこの歴史がどうなるか最後まで見ればいい。

 神の悪戯が起こらなかった世界の歴史は、この世界とあまり変わらない物になる。

 昆虫人類は間違いなく誕生しない」

 

「そんなの信じられるか!」

 

「この先を見ればわかることだ、何度も言わせるな。

 ビタノ君、さっさと時間を進めて」

 

「………」

 

 ビタノ君は不安な表情を隠さないままコントロールステッキを操作した。

 時代が進み恐竜も多種多様に進化して彼らの天下だったが、小惑星の地上の衝突により地球の環境が劇的に変化して絶滅する。

 恐竜達が絶滅した後にも生き残った生物たちが進化して、哺乳類が地上で頭角を現し始めた。

 その辺りでふと気づいたことをビタノ君に訊ねる。

 

「ところで君達が人類として進化したのは何時頃と言われているの」

 

「僕達ホモ・ハチビリスの祖先の蜂が二本足で歩き始めたのが三千万年前と言われています。

 その頃には既に地底世界で暮らし始めていたそうです」

 

「じゃあその頃になれば昆虫人類の有無がはっきりするわけだ」

 

「………」

 

 僕の問いにビタノ君は黙ってモニターを眺める。

 そしてついに三千万年前に差し掛かかると、地上に人類の祖先と思われる類人猿のようなサルが地上を歩いているのが見えた。

 全身毛むくじゃらでサルにしか見えないが時折二本足で歩く様子が見られるのが、人類の祖先と察する事の出来る点だった。

 

「霊長類の祖先らしきものが出てきたけど、昆虫人類は見つかったかな」

 

「今探している!」

 

「マンティ、南極の大穴を探せ!

 この時代なら地底世界に繋がる入り口の原型が出来てるはずだ!」

 

「わかった!」

 

 昆虫人類の形跡が見つからずに焦った様子の二人は怒鳴り合うように指示を出す。

 UFOカメラの機能は多彩で地面の空洞を探す事の出来る透視機能で地底の大空洞に繋がる洞窟を見つけ出す。 暗視機能も充実していて真っ暗な洞窟も明かりがあるかのようにはっきり映し出しながら洞窟を潜り抜けていく。

 そしてとても広い大空洞に出たが、中は真っ暗で住み着いている生物も暗闇に対応して進化しただけの普通の虫がコケ類を食べてわずかに暮らしているだけだった。

 当然のごとく昆虫人類と呼べるような種は存在しない。

 

「なにもない…だと」

 

「この時代にはすでに多くの昆虫人類の祖先がここで暮らしていたはず!」

 

 カルロスとマンティは目の前の事実に愕然として座り込む。

 杖で一気に三千万年前から現代まで時間を進めてみるが空洞の中は大した変化はなく、この時代まで閉鎖された環境として残ることになったのだろう。

 

「やはりハジメさんの言う通り、神の悪戯が僕等の進化を決定づけたのですね」

 

「ああ、残念ながら昆虫は切欠が無ければこの星では知的生命体に進化しえなかった。

 これも最初に言った知らない方が良い真実だが納得出来た?」

 

「ええ、納得出来たと言い難いですが理解はしました」

 

 ビタノ君は創世セットの地球の歴史を最後まで見て信じる気になったが、他の二人はまだ納得してはいなかった。

 

「待ってください、ビタノさん!

 これが我々の世界と同じだとは限らないでしょう。

 この中の地球は外のこの世界が基準になった複製の筈です!

 昆虫達が進化しなかったのは認めますが、それはあくまでこの世界の話で我々の世界とは限りません!」

 

「そうですよ!

 大体この中の世界がこの世界と同じだっていうなら可笑しいでしょう。

 この世界の地底には俺達昆虫人類はいなかったけど、恐竜達が暮らしてたじゃないですか。

 確かにこの中の世界はよく出来てましたけど、外の地球とまるで同じとは言えません!」

 

「あ、確かにこの世界の地底には恐竜と恐竜が進化した人類がいました」

 

 何?と彼らの会話に紛れた情報にちょっと驚く。

 

「君等、この世界の地底の恐竜人類を見てきたの?」

 

「ええ、この世界の僕等がどう過ごしているのか気になって見に行ったのですが、まるで別の種族が繁栄していて驚きました。

 ハジメさんも彼らの事は知っていたのですか?

 僕等と同じように地上とは交流が無いようでしたが…」

 

「知ってるも何も、君等と非常に似通った誕生の歴史を持っている人達だよ。

 地底で暮らしている事も、地上の人類以外で進化した事も、自分達の起源を知るために過去を調べようとした事も、起源の発祥の切欠も一緒と、似通い過ぎていて笑えるくらいだよ」

 

 思い返してみると恐竜人類と昆虫人類の発祥は、映画でもまるで一緒だ。

 どちらも結果的に見れば誕生はドラえもん達が原因だし、タイムマシンで過去に行って真実を調べるのも一緒。

 恐竜人類は環境を用意したという切欠だけで進化を促進したわけじゃないが、地上への憧れとかもまるで一緒なので配役を入れ変えたとしてもなにも違和感がない。

 

「確かに地底世界に住んで進化したというという点は一緒ですが…」

 

「いや、それだけじゃなくて誕生の切欠が僕になってしまうという点が同じなの」

 

「え、それって…」

 

「僕が過去に行って、恐竜が地上で絶滅する前に地底で暮らせる環境を整えて、そっちに移住させたんだ」

 

「「はあぁぁぁぁ!?」」

 

 今度も僕以外の全員が驚きに声を上げる。

 此処で恐竜人の話題が出るとは思わなかった。

 

「なんでそんなことしたんですか!」

 

「そこがまた君達と一緒でね。

 彼らも地上への憧れから地底世界に恐竜が移り住んだ真実を知るために、タイムマシンを作って過去に行ったんだよ。

 そこで恐竜絶滅の原因である隕石の衝突を知るんだけど、そのままだと恐竜が絶滅して現代の恐竜人が存在しない事になるから、地底世界に生き残りの恐竜を移住させなきゃいけなくなってね」

 

「あれ、でもそれって恐竜人が存在していたからやる事になった事ですよね。

 でも恐竜は初めから絶滅していれば恐竜人は存在しないはずで…」

 

「そう、誕生が確定していない存在が未来から来て誕生の要因を作る。

 まさに今の君達と同じような状況なんだ。

 頭痛くなるだろ?」

 

「はい、ややこしいです…」

 

 やっぱりこの手の悩みは思い出すだけで頭痛くなる。

 

「ちなみに恐竜人の事も君達と同じ可能性の世界で誕生するきっかけをある人達が作らなきゃいけなかった事だから、僕が代行した。

 まだやっていない事を未来や過去で確定しているから、後でやらなきゃいけないというジレンマにだいぶ悩まされたよ。

 現在進行形で君達もそうなんだけどね」

 

「す、すいません…」

 

 僕の苛立ちと事情から恐縮して謝るビタノ君。

 無理を言っている自覚が少しはあったのだろうが、他の二人は納得していないのか不満顔でこっちを見ている。

 

「そっちの二人はこの結果に納得していないようだけど、どちらにしろ終わった事だから本来の目的に戻るよ。

 五億年前に戻して神の悪戯をやって君等の世界になるように調整する。

 巻き戻しボタンを使うからコントロールステッキを返して」

 

「わかりました」

 

「…ちょっと待ってくれ」

 

 杖を受け取ろうとしたところで再びマンティから横やりを入れられる。

 

「今度は何?

 この世界が君等の世界になるかどうかの議論は、神の悪戯をしてからの結果を見てからにしてくれ。

 これ以上詰まらない口論で時間を無駄になんてしたくないんだから」

 

「わ、わるい。 だが神の悪戯を実行する前に教えてほしいんだ」

 

 少々苛立ってきていた僕の様子を見て、すぐさま謝るマンティ。

 とりあえず聞きたい事があるなら答えようと頷いて肯定の意を伝える。

 

「ありがとう。

 俺達もまだ納得しきれたわけじゃないが、神の悪戯が無ければ昆虫人類が生まれない可能性があるのは理解した。

 だけど初めから聞きたかったんだが、あんたが知ってる神の悪戯ってどういうものなんだ?

 俺達も神の悪戯が生物の進化に影響を起こしたのは知っているが、何をしたのかまでは解らないんだ」

 

「それは僕も気になっていました。

 ハジメさんは五億年前でどうやって生物を進化させようというんです」

 

「それは私も知りたいです」

 

 僕が神の悪戯と呼ばれる行いが出来ると言ったが、具体的に何をするのかはまだ話していなかった。

 僕はポケットからひみつ道具を取り出してそれを見せる。

 

「こいつは【進化退化放射線源】と言って、文字通り生物を進化させたり退化させたり出来る光線を放つ。

 これを五億年前の地球で可能性の世界のある人物達が古代魚のユーステノプテロンに当てた事で進化が加速した。

 その時偶然通りがかった羽虫がこの光線に当たった事で昆虫の進化も加速し、結果的に昆虫人類が地底世界に繁栄することになる。

 それと同じことをすればおそらく君等の世界になるというのが僕の推察だ」

 

 進化退化放射線源は作品の中で結構見かける事があるが、名前が多少変化していたり創世日記では効果が少し違っていた。

 本来はすぐに効果が表れて、当てた物の進化した姿や退化した姿に変化するのだが、創世日記ではわずかに進化を加速させて歴史上の進化の速度を速めたのだろう。

 それだけで歴史の変化には十分だったのだ。

 おそらく効果を最小限に抑えて使用するのではないかと、調整して使用する準備をしていた。

 

「つまり僕等が生まれたのは意図的でなくただの偶然だったと…」

 

「偶然とは言うが、実際の生物の進化なんて一体どれだけの偶然が重なって出来た事だか…

 それに今のは可能性の世界の話で、君等の世界はこれから出来るんだからどちらかと言うと必然に出来るモノだ」

 

「確かに、これから出来るのならそうですね」

 

 いまだ自分たちの世界を作るというのが信じられないのか、僅かに曖昧な回答をするビタノ君。

 

「つまり五億年前にユーステノプテロンと羽虫にその光線を当てればいいわけか。

 じゃあその虫だけにその進化の光を当てればどうなるんだ?

 もしかして昆虫だけが進化して昆虫人類が繁栄することが出来るんじゃないか?」

 

「んー、その可能性はあるね」

 

 虫にのみ光を当てれば先に進化して地上を支配するかもしれない。

 だが人類は進化退化放射線源を使わなくても結局進化するのだから、進化時期が重なれば結局昆虫人類が地底で暮らす可能性もある。

 

「それなら虫だけにその進化の光を当てたらだめか?

 もしその世界が俺達の世界になるってんなら、出来るだけもっといい世界にしたい」

 

「マンティ!」

 

 マンティの要望にそれは言い過ぎだと言いたげにカルロスが声を荒立てる。

 

「なんだよカルロス」

 

「流石にそれは無茶を言い過ぎだ。

 彼は我々の世界の人間ではないとはいえ哺乳人類なのだぞ。

 それはつまり彼らの種族を滅ぼすことに他ならない」

 

「そうです、マンティ。

 それはいくらなんでも傲慢が過ぎると思います」

 

 二人は流石に遠慮した様子でマンティの考えに反対だが、神様シートの中の世界は僕にとって架空の世界で別世界の話だ。

 彼らに責任はすべて押し付けたつもりなので、彼らが納得するならどのような結果になってもどうでもいい。

 そういうわけだから…

 

「別にいいんじゃない。 君達が納得するなら」

 

「「ええ!?」」

 

「よっしゃ、言ってみるもんだな」

 

 マンティだけが喜び、二人は驚く。

 

「ほんとにいいんですか?」

 

「僕自身の世界の事なら問題だけど、この世界がどうなろうと僕の世界に大きな影響がある訳じゃないし、この世界を作る事は君等に責任を押し付けている。

 好きにすればいいさ」

 

「じゃあ、さっそく五億年前に戻してくれ」

 

 コントロールステッキを渡されて、僕は巻き戻しボタンで神様シートの中を五億年前まで巻き戻す。

 

「最終的にどうするか決めるのはあなた達だ。

 仮に望んだ結果になっても受け入れられるかどうかはわからないけど」

 

 僕はそれだけ言って後は様子を見守るだけにした。

 

 

 

 




タイムパラドックスはややこしい


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世界を作ってしまうという事 後編(創世日記)

 

 

 

 

 

 先ほどのハジメさんの言葉が気になったが、僕等は神の悪戯を行うために【神様雲】と言う乗って自在に動かす事の出来る雲で五億年前の世界に降り立った。

 中の世界はモニターで見ていてわかっていたことだが、時代による植生が違っていてもすべてが本物で出来ている、とても自分たちが作ったとは思えない世界が広がっていた。

 一度タイムマシンで来た五億年前の環境とまるで同じで、違いを全く感じさせない。

 本当にこの世界が僕等の世界になるのかと思うと信じきれないが、この世界が作られた物であっても作り物ではないという事だけは信じられた。

 

 ハジメさんもこの世界に一緒に降りてきて周囲を観察しているが、だんだん投げ槍な様子になってきているのが解る。

 面倒臭くなっているのか、世界を自分達の思い通りに変えてしまう事に呆れているのかわからないが、僕等のせいでウンザリさせてしまっている事に少し申し訳なくなる。

 だが僕等も世界の事が掛かっている以上、妥協は出来ない。

 世界を作る事により、良い世界に変えてしまう事を望んだのは欲張り過ぎだと思ったが、望みが通った以上は理想の世界になる可能性を僕も試してみたい。

 

「ハジメさん、その進化退化放射線源の光を当てるのはどの虫でもいいんですか?」

 

「さあ、どうだろう?

 可能性の世界の話では光が当たったのが偶然飛んでた羽虫ってだけだから、正確な虫の種類は解らない。

 とりあえずは羽虫に限定して光を当てて様子を見るしかないんじゃないかな」

 

「そんないい加減なやり方でいいんですか?」

 

「まあ成る様になるんじゃないかな。

 君等という完成系が確かにあるんだから、もしかしたら歴史の修正力が働くことで、どのような経路でも君等の種に最終的に辿り着くんじゃないか」

 

「そういうものですか?」

 

「そういうものじゃない?」

 

 実に頼りない返答だがこれ以上ヒントが無いので、後はそのまま試してみるしかない。

 古代の森林の中を探すとそこら中に僕等の祖先に当たる虫がたくさんいるが、羽虫と呼べないものもたくさんいた。

 やはりこの時代は外敵のいない昆虫達の楽園なのだろう。

 

 古代の楽園の虫たちを見守っていると、近くには羽音を立てる虫が飛んできた。

 これがいいかもしれないとハジメさんに訊ねる。

 

「ハジメさん、ここに飛んでいる虫はどうでしょう」

 

「んー、まあいいんじゃないか?

 飛んで羽音を立てている虫が一応条件だから問題ないだろう」

 

 そう言ってハジメさんは持っていた進化退化放射線源という銃らしき物から飛んでいる羽虫に向けて光を放つ。

 羽虫は光に当たったが特に気にする様子もなく、周囲を飛んで離れていった。

 距離が広がると光も届かなくなってハジメさんは光を放つのをやめる。

 

「これでたぶん条件は整っただろう。

 後はまた外に出て時間を加速させて変化を見るだけだ」

 

「今のだけでいいのか?」

 

「神の悪戯と言われたくらいだから、星を作った時みたいにあのステッキで雷みたいなものを出すかと思った」

 

 カルロスとマンティはあっけない作業に拍子抜けと言った感じでぼやいている。

 僕ももうちょっとすごい光景が見れると思っていたのだが、あの銃みたいなものから出た懐中電灯みたいな光を当てて終わりというのは流石にあっけなく感じた。

 

「あくまで進化の切欠なんだから大したものじゃない。

 それよりここにいても仕方ないから、さっさと戻るよ」

 

「わかりました」

 

 僕等は神様雲に乗って外の世界に出た。

 中に入る時と外に出るときは宇宙空間なのだがなぜか息が出来ている事が不思議で、外から入ってきた存在なら大丈夫なのだろうと答えてくれたハジメさんもすべてを把握していない様子だった。

 便利と言えばそれまでだが、性能を把握していないことに不安はないのだろうか?

 

 いろいろ謎も多いハジメさんの出す道具だが、今は神様シートの中の地球の様子が気になる。

 僕等はさっそく時間を飛ばしながらモニターで中の様子を確認し始めた。

 

 まずはゆっくり様子を見ようと少しずつ時間を飛ばしていたので変化が少なかったが、一千万年時間を進めた所で最初の時の世界とは劇的な変化を見せ始めていた。

 虫達の進化が加速しており、まだずっと先の両生類が出てきたころと同じくらいの多様性の昆虫が地上に溢れていた。

 これだけで先ほどの光線の効果があったことは実感できたが、進化はまだまだ止まらなかった。

 

 また一千万年ずつ時間を飛ばすと五億年前では指ほどに小さかった虫達が少しずつ大型化し、小さい虫を大きい虫を食べる食物連鎖が出来ていた。

 昆虫人類の影はまるで見えないが、前の世界よりもはるかに昆虫達が進化を続けて繁栄しているのが解る。

 これならいずれ昆虫人類が誕生するだろうと思っていたが、この世界でもついに両生類が地上に姿を現した。

 

 上陸した両生類も小型の昆虫を捕食していたが、大型の昆虫は両生類とほぼ同じ大きさまで進化しており縄張り争いでお互いを威嚇し合う光景が見え始めた。

 両生類は爬虫類に進化するとさらに体を巨大化させて恐竜と呼ばれる種に進化したが、それに対抗するように昆虫達も大型化が進み、僕等の歴史でも見る事の無かった恐竜と同サイズの超大型昆虫が出現した。

 

「うわぁ、これはすごい…。

 恐竜と同サイズに進化するとは思ってもみなかった」

 

「そんなこと言ってる場合ですか!」

 

「なんだこれは! こんな昆虫俺らの歴史にも存在しなかったぞ」

 

「これでホントに我々の種が誕生するのですか…」

 

 恐竜と超大型昆虫はお互いを捕食対象にしながら食ったり食われたりして進化を続けていく。

 僕等の世界では存在しなかった昆虫達の予想以上の進化に、逆に昆虫人類が生まれるかどうか不安になる。

 

「昆虫が恐竜に対抗するために大型化したのか、あるいは恐竜達が昆虫を追いかけたのかわからないけど、これは別に問題ないんじゃないか?

 恐竜達の歴史は小惑星の衝突による環境の変化で終わりを迎える。

 このままいけば大型昆虫達も恐竜と一緒に絶滅する可能性が高い」

 

「確かに…」

 

「そういえば恐竜達の大量絶滅の件があったか」

 

「おそらくハジメさんの予想は当たるでしょうね」

 

 恐竜の絶滅は前の世界で見ており、その時がくると恐竜と同じくらい巨大化した大型昆虫達は体を維持するための食料を確保出来ずにどんどん絶滅していった。

 残ったのは進化せずに数少ない食べ物で生命を維持出来る食物連鎖の最底辺にいた数の圧倒的に多い小さな昆虫達だった。

 哺乳類の祖先もいくつか生き残ったが、時間を進めればお互いの進化速度に差が出始めて、昆虫の中で二足歩行をする昆虫人類に近い種が生まれ始めた。

 哺乳類も種族を増やして地上に散らばっていたが、人型に近い種はいまだ生まれていなかった。

 

 恐竜時代のような大型昆虫は生まれなかったが、哺乳動物くらいの昆虫であればいくつか存在し、僕等の世界にも住んでいるようは非知性の昆虫に似た種も見かけたが、際立ったのが道具を使う昆虫人類の誕生だった。

 最初に見つけたのが僕ら蜂の進化したホモ・ハチビリスではなかったが、道具を使って食物となる哺乳類か昆虫を狩って生活する、まるで哺乳人類の原始人のような姿に僕等は不思議に思った。

 これが地上で進化した場合に昆虫人類の姿なのだろうかと。

 

「まるで僕等哺乳人類の原始人の姿とよく似てるね。

 火を起こし道具を使い知恵を使い始める」

 

「ええ、僕等の祖先はもっと草食的で小型ゆえに非力で狩りを行うという事はありませんでした」

 

「だけどここに映る昆虫人類は数を揃える事で大型の哺乳類も狩って肉を得ている。

 昆虫人類が地上で生活を始めたが故の進化だな」

 

「そうでしょうね」

 

 世界各地を覗いてみたが他の昆虫人類も誕生し、僕はもちろんカルロスやマンティの祖先らしき種族もバラバラの地域で独自の文化をもって繁栄し始めていた。

 そんな僕等昆虫人類が繁栄している間にも哺乳類もそれぞれ進化を重ねていたが、哺乳人類の祖先のサルは存在するのに哺乳人類に進化する兆しがまるで見えなかった。

 昆虫人類が頭角を現したからだろうと察するが、その結果に後ろめたい気持ちでハジメさんの様子を見るが、特に気にした様子もなく好奇心を感じさせる目でモニターを一緒に眺めていた。

 

「ハジメさんはこれでよかったんですか?」

 

「ん、なんで?」

 

「いえ、哺乳人類が生まれないのは間違いなく昆虫人類が地上に現れたからですし」

 

「さっきも言ったけどこの世界の事じゃないから気にしないよ。

 むしろこの後地上に繁栄する昆虫人類の歴史がどうなるのか今は気になる」

 

「どう言う意味ですか?」

 

 自分の種族ではないのに興味を惹かれている理由が気になった。

 

「そうだね………今の所の彼らの生き方が哺乳人類の古代人とまるで同じことから、この先も哺乳人類と似たような歴史を辿るのか気になるな」

 

「似たような歴史ですか?」

 

「君等は地底世界で閉ざされた環境で文化を発展させたからなかっただろうけど、地上の広さがあれば地域ごとの文化が生まれる筈だ。

 哺乳人類の場合、他の文化同士が出会えばお互いに発展することはあるが、気が合わずに衝突することもある。

 つまり昆虫人類同士の争いが生まれる可能性があるってことだよ」

 

「「なっ!」」

 

 確かに地底世界という狭い環境に暮らす僕等は、地上の哺乳人類以外に別文化と接触するようなことはなかった。

 同胞の昆虫人類は全て地底世界で暮らし、各コミュニティを持っていてもお互いに連絡を取り合い地上世界を仮想敵として一つに纏まっていた。

 だけど全ての昆虫人類が初めから地上で暮らしていた場合、文化の違う同胞が巡り合えばハジメさんの言っていることも想定しうる事態だ。

 

「そんな馬鹿な! 俺達を地上人類と一緒にするな!」

 

「我々は幾度も同族で戦争を繰り返してきた哺乳人類とは違う。

 理性的な友好と対話をもって同胞との繋がりを広げていくはずだ」

 

 僕等の世界では、地上の哺乳人類たちは同胞同士で戦争を繰り返す愚かな種族だと言われている。

 全てがそうだというわけではないのだろうが、哺乳人類の地上での歴史がそれを証明していると地底世界では常識となっている。

 そんな哺乳人類と一緒にされるのは遺憾だと二人は反論しているが、ここまで幾度もの口論に結果で証明してきたハジメさんの予想に、僕は嫌な予感しか感じられなかった。

 そしてその嫌な予感は現実のものとなる。

 

「これは…」

 

「なんてことだ」

 

 モニターに映された多文化同士の昆虫人類の接触は、その殆どが殺戮と奪い合いの結果となり僕等は愕然となる。

 勝ったものが負けた物の全てを奪い、そしてまた戦いが起こり奪い合いの結果に勝った者の勢力は拡大していく。

 そうして国が生まれて民族が平定されても同じ昆虫人類でも種族の違いから差別が生まれ格差社会が出来上がる。

 そこから生まれる不満が国を割って内乱が起こり、再び争いの歴史が繰り返される。

 それでも技術の発展で昆虫人類の活動領域は拡大していき、ついには地上全体の昆虫人類を巻き込んだ大戦となる。

 僕等の世界でも起こった哺乳人類たちが言う世界大戦だ。

 

 言ってみれば地上を支配した昆虫人類の歴史は、僕等の世界の哺乳人類と大差が無かった。

 文化や宗教の違いから奪い争い、憧れた地上を発展の為に汚す。

 時間が流れて僕等のいた頃の時代になれば各国の交流は盛んになるが、地上からは諍いが消えない。

 僕等は自分達の種族の悪意を目撃してしまった気分だった。

 

「こんなのちがう。 俺達はこんな愚かな種族なんかじゃない」

 

「これでは我々の世界の哺乳人類と一緒ではないか」

 

「歴史が違えば文化も違うし価値観も違う。

 だけど本質は君達とこの世界の昆虫人類は大差無いと思うよ」

 

「なんだと! 俺達とこいつらの何処が同じだっていうんだ!」

 

 僕等とこの世界の昆虫人類が同じと言われて、マンティがまだ激昂する。

 

「可能性の世界の知識でも君達の世界の情勢を詳しく理解しているわけじゃないが、その世界では地上世界を取り戻そうという世論が地底世界に広まっていた。

 火山を噴火させて地上文明を破壊し一気に攻め込むとか言ってたけど、君達の世界ではどうなのさ。

 それが暴力的な手段じゃないと言えるのか?」

 

 ハジメさんの知る可能性の世界の知識が、僕等の世界の情勢と合致したことに僕等は再び驚く。

 火山を噴火させるなどの話は大統領の息子でも一般人の僕は知らないが、あり得ない話ではないと思う。

 地上侵攻の話は僕等の世界ではもうすぐ決定しようとしていた事実なのだから。

 

「そ、それは……地上はもともと俺達昆虫の世界だったんだ。

 それを取り戻そうとして何が悪いんだよ!」

 

「それは君達の自論であって、第三者から見ればこのシートの中の世界で昆虫人類のやってること………いや、哺乳類昆虫類関係なく、人類の歴史がやってきたことと何も変わりない。

 奪われたから奪い返す、さっきまでさんざん見てきたこの世界の歴史と何も変わりない歴史の一ページだ。

 仮に君達の世界で哺乳人類から地上を取り戻したとしても、敵のいなくなった昆虫人類は遠くない未来に内部分裂が起こるんじゃないかな」

 

「そんなわけがっ!……」

 

 マンティも否定しようと声を荒立てるが、否定出来る要素を説明出来ない事からそれ以上口にすることが出来ない。

 僕もカルロスも何も言うことなくあり得るかもしれない未来を恐れる。

 未来で思い出したが、この場には未来から来たエモドランがいた事に気づいた。

 未来のことを知っている彼ならいい結果が聞けるかもしれないと尋ねかける。

 

「エモドラン、僕等の未来ではハジメさんの言うように内乱が起こってしまうのか?」

 

「ごめんビタノ君。 未来の詳しい歴史は教えちゃいけないことになってるんだ。

 下手な事を言ったら未来が簡単に変わってしまう可能性があるから禁止事項になってる」

 

「そう、か…」

 

 言われてみればそうかと納得するが、僕が今聞きたかったのは良い話だ。

 知りたくなかった事実に参っている僕達は、少しでも前向きになれるいい話が聞きたかったのだがそういうわけにはいかないようだ。

 ハジメさんが最初に言っていた忠告を聞かなかったことに少しだけ後悔する。

 

 僕等がぼんやりと落ち込んでいる間に、ハジメさんはモニターとは別のコンピューターらしきものを出して何かを調べていた。

 

「ハジメさん、今度は何をしているんです?」

 

「ちょっとした確認だよ。

 今のこの世界の時間は君達の世界とほぼ同じ時間なんだろう?」

 

「ええ、そうですが」

 

「それならもしかしたら君達自身がいるかもしれないから確認しようと思って」

 

「僕達自身ですか!?」

 

 また予想だにしないことに驚かされる。

 

「何度も言うけど、この世界は君達の世界になる予定なんだ。

 歴史が違っても同じ存在が生まれていることは十分あり得る。

 今は君等がDNAの追跡で僕にたどり着いたように、ビタノ君と同じDNAを持つ存在をこの世界から探し出しているところ

 (ドラえもんが子孫のセワシと共に祖先ののび太の未来を変えに来ても、未来でセワシが消える事が無いのがその証明だ。

 原作では確か出発点と終着点が同じならどのような乗り物に乗っても同じという例えを、歴史の修正力として説明していたな)」

 

「なるほど…」

 

 この世界の昆虫人類の争いに目を逸らしたくなったが、僕等の当初の目的は自分たちの世界を救う事。

 その為に世界の誕生の切欠になるのは予想だにしていなかったし、より良い世界を求めた事で地上世界で争い合う歴史の昆虫人類を見る事になったのも、望んだ僕達の自業自得だ。

 一番重要なのはこの世界が僕達の世界となっているのかという事だが、この世界の僕が生まれているのならその証明の一つになる。

 

「………発見したみたいだ。

 どうやら僕の世界のアメリカに当たる大陸にいるみたいだ。

 この場所にUFOカメラを飛ばしてみて」

 

「わかりました」

 

 ハジメさんの示した場所にモニターでUFOカメラに指示を出して移動させる。

 カルロス達も落ち込んではいても様子を見ようとモニターを一緒に見始める。

 示された場所にたどり着くとどうやらそこは大学の様で、僕と同じくらいの年の昆虫人が集まっていた。

 その中に友人らしき人達をお喋りをしている僕の姿があった。

 

「本当に僕がいた」

 

「ビタノさんがいたという事は我々もいるのでしょうか?」

 

「おそらくは存在していると思うよ。

 完全に歴史が違うからどんな生活を送っているかわからないけど、ビタノ君が同じ大学生なくらいだから同じような仕事をしているかもね」

 

 この世界の僕を見つけた事で再び好奇心に駆られて、元の世界で僕に関わりのある人達をこの世界で探してみた。

 運命なのかどうか知らないがこの世界でも父さんは大統領をやっていて、カルロスもマンティも父さんの近くで部下をやっているのが見えたので安心した。

 ひどい歴史ばかり目にしていたので意気消沈していたが、この世界の人々も僕達の世界と変わりなく自分たちの生活を大切にして日々の暮らしを満喫しているのに安堵した。

 この世界の昆虫人類が僕等と全く変わらないと証明されたが、悪い部分だけではなく善良な部分も確かに存在してお互いに協力し合っていることも証明された。

 

 昆虫人類が地上で繁栄すれば哺乳人類と変わらない争いの歴史を辿るのは残念だが、これが確かに僕等昆虫人類が望んでいた地上での生活なのだと納得出来た。

 文明が僕等の世界より少し遅れている様だが、まるで違う歴史を送るのだから些細な事だろう。

 私生活が地底世界での暮らしとあまり変わりないことに少し自分の可能性に失望するが、それは僕等の地底世界が哺乳類に追いやられた結果なのだとしても、地上と変わらない生活を送れていたという幸福の証明にも思えた。

 

「ハジメさんの言う通り、この世界は僕等が地上で繁栄した場合の世界なんですね」

 

「ええ、我々も失敗を犯すしその果てが哺乳人類の戦争と変わりないのが残念ですが事実みたいです」

 

「地底世界で暮らしていた場合とあまり変わらないのが地上への憧れを無くすがな」

 

 僕ら三人は、この世界は確かに僕等昆虫人類が地上で繁栄した世界なのだと納得できた。

 

「それはこの世界を自分達の世界として受け入れる訳か?」

 

「ええ、受け入れがたい歴史もありましたが、この世界は僕等が確かに夢見ていた世界です。

 この世界が僕等の世界になるというのなら文句はありません」

 

「じゃあ、これで世界は完成したと判断するぞ」

 

「はい」

 

 するとハジメさんはUFOカメラを回収して神様シートの穴を閉じると直に丸めてしまった。

 

「もう片付けるんですか?」

 

「最後に確認することがもう一つあるから、その為に終わったことを示さないといけない」

 

「なにを確認するんです?」

 

「ビタノさん!!」

 

 最後の確認について聞こうとしたところで、カルロスが突然叫び声を上げた。

 

 

 

 

 

 最後に確認したい事とは、歴史を変えたことによる彼らの変化だ。

 さっきはのび太とセワシの例で歴史の変化を語ったが、ビタノ君達の昆虫世界の歴史の変化は人類史レベルで変わる大きな変化だ。

 その影響が現在の彼らとその世界にどのように出るか、いくつかの可能性を僕は予想していた。

 

 一つは鉄人兵団のラストの様に誕生の歴史が変化したことで、突如ドラえもん達と戦っている最中に敵のロボットが消滅するような現象が起こる可能性。

 一つは彼らがタイムマシンで元の世界に戻ると、そこが昆虫人類が地上で繁栄している世界になっていて彼らだけは元の世界の記憶だけがある可能性。

 一つは前の可能性の亜種で時間の経過によって記憶が前の世界の物から新しい世界の物に変化し、ゆっくりとその世界になじむ可能性。

 その他いくつも考えたが、大穴として初めから僕の推測が的外れで僕が作る創世セットの世界と彼ら昆虫人類が暮らす世界が全く関係しておらず。実は何も解決していない可能性。

 

 最後の一つは散々面倒を掛けられたのに肩透かしというひどい結果だが、僕の予想は鉄人兵団のラストが近い正解だったと彼らの変化で証明された。

 カルロスが最初に気づいて叫び、昆虫人類の関係者全員の体がうっすらと透け始めているのに気が付いた。

 これ予想通り、創世セットの世界の完成を宣言したことで彼らの歴史の変化が現れ始めたのだろう。

 世界の歴史が変化しても彼ら自身に影響が出ずに記憶を保持したまま変化後の世界に戻ってしまうのなら確認のしようのない事象だった。

 だけどこの現象が世界の完成を宣言した直後に起こったという事は、やはり創世セットの世界が彼らの世界だということになる。

 僕は冷静にこの事象を分析していたが、彼らは自分の体が消え始める現象にそれどころではなく大いに慌てていた。

 

「一体どうなってるんだ!」

 

「世界は救われたんじゃなかったのか!?」

 

「わわわわわ、ボク消えちゃう!」

 

「ハジメさんどうなってるんです!」

 

 全員が大慌てで自分の体を確認している中でビタノ君だけが僕に問い掛けてきた。

 

「落ち着け、そんな状態になるのも僕の予想の範囲内だ。

 体が消えかかっているのは消滅するわけじゃなくて上書きされているからだ。

 その様子ならすぐに消える訳じゃないから、説明する時間くらいあるだろう」

 

「そんなに落ち着いていられるか! こっちは体が消えかかっているんだぞ!」

 

「マンティ、とりあえず話を聞こう!

 事態が解らなければどうすることも出来ん」

 

「上書きとはどういう意味ですか!?」

 

 暴れるマンティをカルロスが抑えてビタノ君が説明を求める。

 

「上書きとは、文字通り歴史の上書きだよ。

 君等の状態がどのような状態に上書きされているのかは想像以上の事は言えないが、この神様シートが完成したと判断したのが上書きの切欠だ。

 これを完成とした事で君等に歴史の修正が起こって、この神様シートの中の世界が君等の世界だと証明されたことにもなる」

 

「意味が分からねえ! とにかくこれを何とかしろ!」

 

「ハジメさんもう少し詳しくお願いします。

 カルロスはマンティが暴走しないように抑えてて」

 

「わかってます」

 

 カルロスはマンティを羽交い絞めにしながらビタノ君に答えた。

 

「その状態がどのような結果をもたらすのかは分からないが、原因は歴史を変える事が確定したのが消え始めた切欠だ。

 この神様シートは、コントロールステッキで時間を撒き戻していくらでもやり直すことが出来る。

 それ故に、完成したと言い切ってこれ以上干渉しないと宣言しなければ君達の世界として確立しないと思って、完成の確認とその後の片付けのポーズをとることで君達の歴史の変化の確認をした。

 君達は地底世界で生きてきた昆虫人だが、その世界を昆虫人が初めから地上世界で暮らす理想の世界に変えた事で歴史の変化が起こり、地底世界の君達から地上世界の君達に存在が書き換えられようとしているんだ」

 

「存在を書き換えるって…。

 そうなると僕等はどうなってしまうんですか?」

 

「最初に言ったように、これは消滅ではなく書き換えだから死ぬわけじゃない。

 だけどどうなるかは幾つかの結果が予想してるだけだから、断言は出来ない。

 思い付く原因と結果の一つは、君達がここに来る理由が無くなったから初めからここに来なかったという事になろうとしている可能性だ」

 

「初めから来なかった?」

 

「君達がここにいる理由は世界が生まれない事で消滅するのを阻止するためで、世界が生まれるのであれば君達がここに来る理由が無くなるから、初めから来なかったことになり、この場から消えようとしている。

 それならば君達が上書きされれば先ほど見た神様シートの中の自分に成ると思うけど、ここでの記憶は残るかもしれないし残らないかもしれない」

 

「記憶が? 確かにここに来なかったことになるなら、記憶も無かったことになる筈。

 なぜ残るかもしれないと言えるんです?」

 

「君達はタイムマシンに乗ってきたことで時間の特異点になってた可能性がある。

 特異点になれば歴史の修正などの影響が少なくなり、他の存在が歴史の修正で消える状況でも影響を受けない可能性がある。

 君達の元の世界が消えようとしている時に、自分達だけ消えなかったのはそれが原因の可能性が高い」

 

「なるほど」

 

 おそらく僕も時間の特異点になっている可能性は十分にある。

 四次元ポケットを持ってタイムマシンで時間移動出来る存在が、通常の時間の中で普通に存在しえるとは考えられない。

 おそらく平行世界には僕は存在しないだろうし、創世セットで歴史通りの地球を新しく作っても僕はおそらく生まれないだろう。

 

「二つ目は単純に、地底世界で昆虫人類が育つ世界が地上世界で繁栄する世界になった事で、地底世界で育った君達の過去が消える事で消滅しようとしている」

 

「それじゃあ死ぬのと変わらねえじゃねえか!」

 

 答えたのはいまだに興奮が冷め止まないマンティ。

 

「そうとは言い切れない。

 一つ目の可能性でも言ったけど、君達は特異点になり他の人より歴史の修正の影響を受けにくい可能性がある。

 たとえ今の君達が消滅しても地上育ちの君達になり替わるだけで、この場での記憶や地底世界の記憶が残る可能性もないわけじゃない」

 

「ですが、確証はないんですよね」

 

 歴史改竄による存在の消滅の事象に興味が無いこともないが、簡単にやっていい事ではないので試したことはない。

 出来るのは時間移動を題材にしたフィクションの知識を参考にした予測だけだ。

 

「こんな時間干渉の実験なんて碌にしたことないし、特異点化についても今の僕じゃ解析出来る事じゃないからね。

 三つ目は僕のこれまでの予想が根本的に間違っていて、この神様シートを作るだけじゃ君等の世界の問題が解決しなかったから、君達の世界の消滅の影響が君達に出始めた可能性。

 神様シートの完成で君達に影響が出たのだから、君達の世界にこれが関係している事は間違いないけど、この可能性はほぼ無いと思う。

 思い付く可能性はこんなところだけど、可能性の一つ目か二つ目のどちらにしろ記憶が残るかどうかが君達にとって重要な事だろうね」

 

「僕等の元々の世界の人達は記憶が残らないんですか?」

 

「それは確実に残らないだろうね。

 歴史が変化すれば、元々の歴史の痕跡はその世界に存在しなくなるのは当然のことだ。

 過程と結果の積み重ねが歴史となるから、余計な矛盾となる前の世界の歴史など本来は残る筈がない。

 特異点の可能性がある君達が、例外的に記憶が残る可能性があるとしか言えない。

 まあ元の世界の人達全てを特異点化するなんて現実的じゃないだろう」

 

 時間は本来不変の物で、それを改竄出来るタイムマシンがあるのが特異な事象と言えるのだ。

 都合の良い歴史に変えたのに、元の歴史から都合のいい部分だけ残そうなどあまりに都合のいい話過ぎる。

 過去現在未来の世界を全体的にも部分的にも自由に書き換えられるなら、それは正に全知全能の神と呼べる存在だ。

 前世で読んできたフィクションの世界では稀にいる存在だが、僕にはひみつ道具の全てを使いこなしたとしても出来ないだろう。

 

 ………出来ないよな?

 玩具みたいなひみつ道具も多いが、たまに願望器に近い効果を発揮するひみつ道具もあるから可能性がある気もする。

 【ウソ800】みたいなのもあるから、何が出来ないと言い切れないのが恐ろしい。

 融通の利かない事が多いから全能とは言い切れないが、不可能はないとも言えるのでその手の道具は扱いが慎重になる。

 

 ともあれ彼らの問題ではそのような道具を使う気にはならないので、現状示せる結果で彼ら自身の未来を選ばせるつもりだ。

 これが彼らにとって最後の選択だ。

 

「さて、君等の世界は理想とは言えないが望みの世界になった訳だが、世界を都合の良い様に書き換えた以上、元となる世界が無くなるのは当然のことだ。

 改めて最後にもう一度尋ねよう。

 この世界を君達の世界として完成したと言っていいか?

 完成の代償は地底世界で暮らしてきた昆虫人類が存在したという事実だ」

 

「そんな…」

 

 歴史を都合の良い様に書き換えるという事の意味を考えていなかったビタノ君達は、その事に絶句した。

 書き換わる以上世界が消えるわけではないが、彼らのこれまでの地底世界の歴史が無くなるのは思っていなかったようだ。

 望みの世界の代償が自分達の世界の歴史なのは、世界の歴史が一つである以上替えの利かない正当な対価となる。

 

「ふざけるな! そんなの認められるわけねえだろ!」

 

「理想の世界を望んで都合のいい歴史に書き換えるのを提案したのはお前だ。

 それを実行したのも君達だし、最初に全ての責任を持つと言ったのも君達だ。

 結果を受け入れない事だけは絶対に認めない!」

 

 こういうややこしい事になるのも予想していたから、事前に言質だけは取っていたのだ。

 その正論にマンティは唸って勢いを落とす。

 

「グッ………そうだ!

 この世界に俺達の世界から移住すればいいんだ。

 争いもあるがこの世界は俺達が望む地上を昆虫人類が支配した世界なんだから、移り住むのも簡単なはず」

 

「それでは何の解決にもなっていないぞ、マンティ

 それにこの世界には、この世界の我々がいるんだ。

 同じ存在と接触した時どんな事態になるか予想も出来ない」

 

「そもそもこの世界は僕等の世界が変化した世界となるのだから、歴史の変化によって実質移り住む事と変わらない。

 ただ地底世界で暮らしていた記憶がまるまる無くなるだけで、運が良ければ僕達は記憶が残るかもしれないだけ」

 

「地上世界を昆虫人が支配するのはいいですが、地底世界で暮らしていたことが無くなるなんて受け入れられませんよ。

 何とか全員記憶を残したまま移り住むことは出来ないのか!」

 

「そんな都合の良い話があってたまるか。

 何かを得るためには何かを犠牲にしないといけないし、得るものが大きければ犠牲が大きいものになるのは当然のことだ。

 それを無視出来るのは全知全能の本物の神様くらいだ」

 

「…確かにその通りです」

 

 タイムマシンを持っている事で簡単に歴史を変えられると考えるのは、バカのすることだ。

 歴史改変にも原因と結果があり、歴史を変えれば結果が変わることによって原因が無くなるなどの時間矛盾が発生する。

 それを無視出来るのが特異点と呼べる存在となるのだが、影響を受けないのは自分達だけで他には確実に影響が出るのだ。

 それがいい結果を生むとは限らないから、歴史改竄は本来やってはいけない事なのだ。

 

 タイムマシンの使用はあくまで過去や未来の観測に留めて、どうしても改竄をするのであれば歴史に矛盾が発生しないようにしないといけない。

 例えば過去に死んだ人間を助けたいのであれば、過去を改竄して死ななかった事にするのではなく、死んだ事になっていたが実際は死んでいなかったという事にして、真実を偽りの事実で覆い隠し歴史の変化を最小限に抑える事で、矛盾を無くすのが影響の少ない歴史改竄だ。

 

 真実を偽りの事実で覆い隠す必要がある以上、大事件の被害などを無かった事にするには相当の労力がかかる。

 影響を抑えて歴史改竄をするには上記のような些細な事象が精いっぱいなのだ。

 昆虫人類の地底世界の歴史と地上の繁栄を両立させるなど、どう頑張っても人の力では不可能なのだ。

 

「それで最後の選択だ。

 この世界を肯定して地底世界の歴史を無かった事にするか、もう一度歴史を書き換え直して君達の元々の世界に戻すかだ。

 もっと都合の良い歴史を探すのもいいが、僕はこれ以上付き合わないからね。

 この手の願望は求め続けたらきりがない」

 

「元々の世界に戻すって、そうしたらこの世界は…」

 

「世界に歴史は一つだけだ。

 どちらかを選べばもう片方は存在出来なくなる。

 存在出来るのはどちらか一つの歴史だけだ」

 

「この世界の人達は?」

 

「当然いなかったことになる」

 

「せっかく作った世界なのに…」

 

 既にこの新しい世界に感情移入している彼らは、消してしまう事にも戸惑いを覚えている。

 

「ハジメさんはこうなることを予想していたのですか?」

 

「どちらかを選ばなければいけない事か?

 もし消失という形で歴史の変化の影響を受けなければ、君達はそのままこの世界の自分として移り住んだんじゃないか?

 歴史の選択の影響に気づかなければ、それで問題は解決していただろう。

 僕だって気づいていない影響があるかもしれないし、実際に直面しなければ理解できない事もある」

 

 フィクション知識のお陰で歴史の影響を大よそ予測出来ていたが、タイムマシンを使う以上は気をつけておかないといけない時間知識だ。

 知らずにタイムマシンを使っていた彼らにはいい経験だろう。

 

「それにこの件に関しては君達自身の責任と言っておいた。

 世界を作ることの責任や歴史を望んだように組み換えた影響の処理なんて、途轍もなく面倒臭い物だと解っていたから初めから気が進まなかったんだ。

 世界を作る行為は命を作る行為に等しく、歴史を作ればその流れに生きる人たちの人生を作ることに等しい。

 そんな一人の人間でも余りそうな行為をポンポン行いたくないし、責任なんて持てないから初めから放棄すると言っていたんだ。

 とは言っても無責任ではいられないから、最後まで付き合ったんだけどね」

 

 どこまでいってもひみつ道具の持ち主が僕である以上、放棄出来ない責任だ。

 面倒臭いけど最後まで付き合うのが筋だろう。

 

「それで君達はどっちを選択するんだ?

 今の神様シートの中の世界は昆虫人類が地上で繁栄した世界になってるから、地底世界の君達が消えかかっているけどその様子ならすぐには消えない。

 けど選ばなければ時間切れでこの世界で固定されるだろう。

 それでも僕は構わないけどどうする?」

 

「「………」」

 

 彼らは彼らだけでどうにか解決策はないかと長々と話し合ったが見つからず、消失が限界に近付いたところで恐怖に駆られたのか、この歴史を無かった事にして元の世界に戻すことを決断した。

 明確な世界があると言っても、神様シートの中の世界である以上コントロールステッキで自在に操作出来る。

 時間を撒き戻す事で昆虫人類による地上文明が消えれば彼らの消失も止まり元通りになったが、あっけなく消された地上昆虫文明に彼らはこれまで以上に呆然自失となっていた。

 

 五億年前に戻したら、本来の映画の世界のようにユーステノプテロンに進化退化放射線源を当て虫以外の進化も加速させて、最終的に虫たちが地底世界に住む事になるようにした。

 その際に、彼らに攫われた五歳の僕のコピーの髪の毛を、進化退化放射線源を使った現場に落としておいた。

 彼らの歴史が予定通りに流れれば、ビタノ君達がこの髪を拾いにタイムマシンでやってくるので、現状の僕等の状況が発生するよう矛盾を無くすために仕掛けておいた。

 結果的に言えば彼らが僕のコピーを攫ったのは、僕が仕向けた事という事になるのでまた頭が痛い思いをした。

 

 今度の世界の歴史は予想通りに昆虫人類が地底世界で暮らす世界になった。

 ビタノ君達の時代でUFOカメラで様子を見れば、未来からやってきたエモドランとビタノ君が一緒にいるのを目撃したから、間違いなくここにいるビタノ君達の過去だろうと証明できた。

 これでこの世界は完成となり、ビタノ君達も消失する様子はなくタイムマシンで元の世界に戻ることになった。

 

 その際に完成した世界の創世セット一式を彼らに渡しておいた。

 完成した創世セットも手元にあっても困るし、彼らの世界そのものを誰かが持っているというのも不安となる事態だろう。

 もしも神様シートが壊れればビタノ君達の世界も壊れるかもしれないと言えば、自分達の世界を保護するために彼らは鬼気迫る思いで持って帰ることを受け入れた。

 

 これで使用済み創世セットの処分は終わったが、彼らも創世セットの扱いにきっと困る事だろう。

 何せ自分達の世界の歴史を書き換えられるとなれば、歴史改竄の意味を理解出来ないバカがよからぬことを考えるのはよくある話だ。

 もしかしたら自分達の歴史を改竄して、そのまま世界の消滅に繋がってしまうかもしれないが、僕の世界の事ではないので特に関心は沸かない。

 まあ未来から来たエモドランがいるから彼がいる限り未来が存在することは約束されているのだろう。

 神様シートの中の歴史改竄でビタノ君達と一緒に消えかかっていたので、どこまで頼りになるかわからない未来の証明だが…

 

 

 

 面倒臭い事件を挟むことになったが、鉄人兵団が地球にやってくる時期が迫ってきている。

 準備は着実に整ってきているが、不測の事態に備えて情報を集め続けている。

 偵察の為のスパイロボットもメカトピアに送り出しており、向こうの情報を少しずつ集めている。

 戦力的に負ける気はしないが、戦術や戦略という面では僕等は決して有能というわけじゃないから油断出来ない。

 泥沼に入ってしまったら結局歴史改竄による解決を行わないといけないが、そんな事態にならないように戦略を練り穴を探しては埋めるように僕等の会議は続いた。

 

 

 

 

 




 長々とすみませんでした。
 駄文続きでようやく終わりましたが、次回の鉄人兵団は超大編予定で挙げるのは予告編の予定になります。
 超大編を完成させる時期は未定ですが、設定を詰めたりしないといけないのでだいぶ先の予定です
 むしろ完成は期待しないでほしいかも


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予告編 (仮題)超・鉄人兵団 メカトピア大戦

 ごめんなさい。
 鉄人兵団のお話ですが、壮大なストーリーを想像し過ぎて書くのにあまりに時間が掛かるので、予告編だけで話を飛ばしてしまいました。
 中編予定だったので劇場版のお話をさっさと全部終わらせたかったんです。
 同時投稿で鉄人兵団の話が終わった後の話を次話に投降してますのでどうぞ。

 鉄人兵団のお話の本編を投稿出来るかは未確定です。
 自信がありませんが、いつか書きたいと思っています。

 予告編と書きましたが、大体はストーリー設定の初期構想です


 

 

 

 

 

●第一章 起

 

 

 

 

 

 地球を遠く離れたロボットだけの星メカトピアで議会が開かれた。

 

 

 

「では人間奴隷化計画の法案は、賛成多数で可決といたします」

 

 

 

 議会で可決された法案で唯一反対していた議員が語る。

 

 

 

「人間を奴隷にするのでは戦前と変わらない。 歴史を繰り返そうとしているのだぞ!」

 

 

 

 功績を上げるために先行部隊に志願する者。

 

 

 

「俺はもっと上にいくんだ」

 

 

 

 地球に潜入するも捕らえられた先で教えられる、地球の歴史に驚愕する少女の姿をした工作員。

 

 

 

「嘘、これが人間達の歴史だなんて。 メカトピアのロボットの歴史と似すぎている…」

 

 

 

 宇宙空間に仕掛けた罠によりおびき寄せた鉄人兵団を迎え撃つ、ひみつ道具を駆使して作られたロボット軍団。

 

 

 

「これは前哨戦だ。 勝って当然の演習だと思って確実に殲滅しろ」

 

 

 

 地球侵攻の司令官は地球を守るロボットの軍団の猛攻に狼狽える。

 

 

 

「撃て撃て撃てぇ! 奴らをワシの船に近づけさせるなぁ!」

 

 

 

 地球に派遣された鉄人兵団が全滅したことが、本星に伝わり狼狽える議会。

 

 

 

「すぐにメカトピア全域に厳戒態勢を指示しろ! 地球人が攻めてくるぞ!」

 

 

 

 新たなメカトピアの戦乱の狼煙に嘆く、かつて聖女と呼ばれた女性ロボット。

 

 

 

「また争いが始まろうとしている。 我々はやはり神の理想を体現することは出来ないのでしょうか…」

 

 

 

 

 

●第二章 承

 

 

 

 

 

 地球の歴史と文化を知ったリルルは、人間も心を持つロボットと変わらないのだと諭される。

 

 

 

「奴隷として虐げるのはロボットでも人間でも間違っている。 アシミー様の言ってることは正しかった」

 

 

 

 送り込んだコピーの一人を非戦派と接触させるためメカトピアに送り込むと同時に、地球に侵攻させない為に戦線をメカトピア星宙域に作る。

 

 

 

「非戦派と接触する時間を稼ぐために戦線を維持しないといけない。 戦力では負ける事はないだろうが長期戦になるぞ」

 

 

 

 メカトピア星宙域で勃発したメカトピア軍との戦いは苛烈を極めるが、性能面で優っている地球(ハジメ)軍がメカトピア軍のロボットを数多く撃破していた。

 

 

 

「数で持ちこたえているが性能差で膠着状態だ。 何かしら決定打が無ければ状況を打破出来ん」

 

 

 

 大量のメカトピア兵を動員する事で一見膠着状態に見えるが、地球軍が積極的に戦線を押し込もうとしない事で戦線が維持されていた。

 

 

 

「新型の宇宙対応巨重換装戦闘兵を投入せよ!」

 

 

 

 投入されたジュドと同サイズの戦闘兵に一時的に優位に持ち込むもそれはハジメ達の戦略で、押されたように見えた所に地球軍も大型ロボットを投入することで戦況を撒き戻す。

 

 

 

 

 

●第三章 転

 

 

 

 

 大型ロボットが投入されるも膠着状態は維持され、議員の一人が新型兵器と称して謎の円盤が戦線に送られる。

 

 

 

「奴らの部下がうまく戦場を混乱させてくれるといいのだが…」

 

 

 

 指揮官クラスのハジメの部下のロボットが反乱を起こし、母艦の一隻が内部から破壊される。

 

 

 

『マイスター! ゼータが暴走し二番艦が中破しました!』

 

「なんだって?」

 

 

 

 すぐさま対処に回るがそのために戦線を後退せざるを得ず、一時的な敗退を甘受することになる。

 

 

 

「暴走の原因がこいつらとは…。 対処出来ない訳ではないが油断は出来そうにないな」

 

 

 

 予想外の敵にハジメが驚いているころ、メカトピア地上では決起した反乱軍に議会が制圧されていた。

 

 

 

「メカトピアは再び、いや宇宙は王の君臨によって支配されるのだ、このオーロウ王の手によってだ」

 

 

 

 議会が制圧されると同時期に、潜入していたハジメは非戦派の導きでかつての戦争の英雄と聖女に出会う。

 

 

 

「私は皆が平等に幸せになれる世界を望みました。 終わったと思っていましたが今一度立ち上がらなければならないようです」

 

 

 

 聖女が反乱軍に呼びかけるも君主制の復活を宣言し、聖地を拠点として現れた無数の隷属ロボットが民主派のメカトピア人を攻撃する。

 

 

 

『オーロウオウバンザイ、オーロウオウバンザイ』

 

 

 

 

 

●第四章 結

 

 

 

 

 

 オーロウ王率いる君主派が台頭する事と聖女の呼びかけによって、地球軍との宇宙での戦いは休戦となり、メカトピア軍は反乱を抑えにかかるが隷属ロボットと寄生機械によって数の差をなくして押される。

 

 

 

「奴ら、禁忌を冒してやがる。 サーキットエラーだ!」

 

 

 

 メカトピア軍の劣勢に聖女とリルルの呼びかけで地球軍が戦線に参加する。

 

 

 

「敵はメカトピアの原初の法すら守らない無法者だ。 遠慮はいらない、全軍投入だ!」

 

 

 

 メカトピア軍との戦闘では加減で温存していた戦力を一斉投入し、正規軍反乱軍両方の度肝を抜く。

 

 

 

「私をここまで手古摺らせるとはな。 だが貴様らの抵抗は真の絶望を目にすることになる」

 

 

 

 聖地にて過去の戦時から建設され続けていた超大型巨大ロボットがオーロウ王の手によって起動する。

 

 圧倒的質量と火力によってハジメの優れたロボット達も撃墜していく。

 

 それでもメカトピア人達は平和の為に戦おうとしたとき、ハジメが新たなひみつ道具をとりだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――超・鉄人兵団 メカトピア大戦―――

 

         ―――公開未定!―――

 

 

 




 そんなわけで鉄人兵団の事件は構想だけで、本編は公開未定です、すいません。
 上記のストーリーをしっかり書こうと思ったら文庫本並の文章量になると思ったんで、時間が掛かり過ぎると予告編だけに断念しました。

 書いたとおり原作のように歴史の改ざんによる解決は最後の手段にして、小宇宙戦争の時から作ってきた戦力で鉄人兵団の襲来を撃退して、舞台を敵惑星メカトピアに移して盛大な宇宙間戦争で決着を付けようという設定です。
 メカトピアの独自設定も出してきて内乱やらなんやら起こして、いろいろややこしい事態になる予定ですので、短編ではとても書ききれないかと。
 他にも公開していない設定や複線などがありますが、それは本編が掛けた場合に。
 今は構想だけで本編は全く書けてないですが…


 参考資料としてはメカトピアはかつて格差社会があったとか、メカトピアのロボットの標準が人よりちょっと大きいサイズなのにジュドだけデカいのはなんでなのとか、そういったところも引き合いに出して設定を考えています。
 それが生かされるのはだいぶ先かと思いますので、後は読んでくれた人の想像にお任せします。



 ちなみに最後にハジメが取り出したひみつ道具は、大半の人が予想できるひみつ道具の予定です。


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隠れ地上人代表会議

 最新話で飛んできた方へ。
 今回の話は一応二話同時投稿ですので前の話からどうぞ。

 と言っても予告編に構想をまとめただけの話なので、鉄人兵団を期待してくれていた方はごめんなさい。


 今回のお話は鉄人兵団が終わった後の話として続いています。



 

 

 

 

 

 鉄人兵団事件もようやく片付き、残る問題となる事件は雲の王国だけとなった。

 厄介なことに映画での事件の解決の方法は、ドラえもん達の人徳が解決に導いたという、僕等ではどう頑張っても成し遂げられない解決方法だ。

 僕等の出来る解決方法はひみつ道具による力押しで相手の意思を叩き折るくらいしか思いつかなかった。

 力ずくでの解決を出来る限り望んでいない僕等は協議を重ねたがいい解決方法が見つからず、解決法の立案は暗礁に乗り上げていた。

 

 

 

 雲の王国。

 映画の通例通りのび太の我儘で始まったこの映画は、ドラえもんのひみつ道具で雲の上に王国を作った事から始まる。

 自分達が施した隠蔽機能によって雲の王国を見失ってしまったのび太達は、それとは別の本当にあった雲の上の国天上世界に迷い込んでしまう。

 そこでは天上人達が暮らしており、彼らは地上人の環境破壊による公害の被害を受けて一つの計画を立てていた。

 ノア計画というの伝説のノアの大洪水に見立てた水害を起こし、地上文明全てを洗い流して環境被害を無くしてしまおう、という非常に過激な計画を企てていた。

 それを知ったのび太達は計画を止めるために奮闘するという、環境問題を題材にしたストーリーだった。

 

 

 天上人のやり方は過激だが環境問題に関しては地上人に非があることは事実なので、彼らの言い分を真っ向から否定することは出来ない。

 しかしノア計画など認める訳にもいかず、どこまでいっても一個人に過ぎない僕等では政治的な解決方法を提示することも出来ない為、未だ解決法に悩んでいた。

 力ずくで解決したくはないが簡単に出来てしまう事から、平和的な解決方法に拘らずにはいられなかった。

 

 だがノア計画の実行まで一月に迫った所でも妙案が上がらず、苦肉の策として僕等以外の知恵を借りる事にした。

 いくら人数がいてもコピーである以上発想の違いが生まれない事から、第三者の視点が必要と判断したからだ。

 とはいえ一般人を呼ぶわけにもいかず、かつての映画の事件で知り合った人物であり、地球の地上に関係する人を僕等の本拠地に招いた。

 

「お久しぶりです、ハジメさん」

 

「久しぶりクンタック君。 王様で忙しいのに呼び出してしまってすまない」

 

「いえ、恩人であるハジメさんに相談に乗ってほしいと言われたら断れません」

 

 大魔境の時に知り合ったアフリカの奥地にある秘境、犬人族の国バウワンコの王様になったクンタック君。

 地上全てを洗い流すという事はおそらく秘境も巻き込まれることになるだろうから、事情を知る資格もあり相談に乗ってもらうべく来てもらった。

 会った時は王子で当時から貴人としての品格を持っていたが、王様になって更に品格の強さを高めたように感じる。

 

「御呼び頂き有難う御座います、ハジメ様」

 

「様なんて付けなくていいですよ、バンホーさん」

 

「とんでもない、神の御使いである貴方様を呼び捨てなど出来ません」

 

 竜の騎士の時に知り合った地底に住む恐竜人の騎士をやっているバンホーさん。

 タイムマシンで恐竜が隕石の衝突で滅びる時代に行き、そこで恐竜人類の祖先が暮らす地底空間の建設時に同じく未来から来ていた恐竜人類の部隊をバンホーさんが率いていた時に顔を合わせた。

 

「しかしご相談があるとはいえ、祭司長や軍団長ではなく一介の騎士である私で本当によろしかったのですか?

 貴方様が御呼びになれば法王様とて駆けつけますのに」

 

「あなたがまだ一番話し易いからですよ。

 それに法王様って確かいい御歳で、呼び立てる訳にもいかないでしょう」

 

 バンホーさんも非常に僕に畏まっているが、その上の祭司長や軍団長は僕をあまりに持ち上げすぎるので遠慮してもらった。

 原作の話でドラえもん達と一番交流があった恐竜人だというのもあって彼に来てもらった。

 

「外の世界は広いのですな。 彼らのような人種も存在しているとは」

 

「彼らも風の民と同じで、外と交流の無い環境で暮らしてる種族ですよ。

 フーコたちを預かってもらったのに御呼び立てしてしまってすいません」

 

「なに、ワシも外の世界に興味がありましたからな。

 それに彼らのようにワシ等も嵐族のマフーガ復活阻止の件は感謝しております。

 事前に復活を阻止してくれていたのですからな」

 

 ふしぎ風使いの時に関わった風の民の長老のイスゲイさん。

 事件発生時には関わらずマフーガが復活しないように処理してから、フーコ達の引き取り先として風の村においてもらえないか交渉しに行った時に知り合った。

 フーコ達の事情を説明する際にマフーガ復活の危機があったことも伝えたから、一応感謝されているのだが脅威が起きる前だったのでそこまで感謝されることでもないと思っている。

 

 呼び出す事になった三人の代表は全員地球の出身で、ノア計画に少なからず影響を受ける可能性がある人たちだ。

 地底暮らしのバンホーさんの所は影響が低いかもしれないが、知恵がほしかったので恩を利用する形で呼ぶことにした。

 他にも地球の人間で一般に関わりのない存在に海底人がいるが、彼らとは事件の時にも関わらなかったので呼ぶことはなかった。

 関わりが全くない上に水中にある海底では地底以上に影響はないだろうし。

 

「世間に関係は無くても、地球で暮らす皆さんに来てもらったのは他でもありません。

 僕が皆さんに関わりのある事件を解決したように、今回ちょっと厄介な事件の対処を行う事になりました。

 その事件の穏便な解決方法が思いつかず、皆さんにも少なからず影響のある事件になりそうなので解決案を模索するために相談に来てもらいました。

 まずその事件の概要を説明させてもらいます」

 

 

 

 僕は彼らに天上人の存在を明かし、彼らが行おうとしているノア計画の理由と目的を彼らに教えた。

 地上全てを洗い流す計画という荒唐無稽な話に三人とも絶句して目を見開いていた。

 

「地上全てを洗い流すとは、天上人は何を考えているのです!」

 

「地底に住む我々恐竜人に影響は少ないかもしれませんが、地上が丸ごと無くなってしまうのは無視出来る話ではありません」

 

「ノア計画……まさかノアジンの名を外の世界で聞くことになるとは思わなんだ」

 

 各自無視できない地上の大災害に驚きを隠せない中、長老だけは少し別の事を呟いていた。

 

「確か風の村の伝承のマフーガがかつての大洪水を起こしたのでしたね。

 外の世界ではノアの箱舟という伝承で大洪水は語り継がれて、そこから天上人の計画名にされたのでしょう」

 

「ノアジンはマフーガを封印した偉大な人物なのじゃが、これではノアジンが洪水を起こす存在に聞こえるのう」

 

「ハジメさん、マフーガとは何ですか?」

 

「そちらのご老人は我々とは違い普通の地上人のようですが、ハジメ様に呼ばれた以上特殊な事情があるのでしょう。

 天上人の計画と関係があるのでしたら、よければ教えていただきたいのですが」

 

「ただ単に名前の由来が繋がってるだけだよ」

 

 クンタック君とバンホーさんに風の村とマフーガの一件の事を説明する。

 マフーガはかつてノアの箱舟と言う名が生まれる大洪水を引き起こした存在であり、少し前に嵐族がそれを復活させようとして僕が事前に阻止した事を語った。

 

「ハジメさんはそんなこともしていたのですか」

 

「神の御使いである貴方様は人知れず多くの人々を救っていたのですね」

 

「あまり持ち上げないでくれるかな。 敬われる為にやってるわけじゃないんだから」

 

「わかりました」

 

 返事は良いバンホーさんだが、目が思いっきり眩しい物を見ているように輝いている。

 実際に多くの人々を結果的に救っているのは事実なのだから、無意味に嘘をついて否定も出来ないのだ。

 

「マフーガが復活していれば天上人の計画の前に地上が洗い流されていた可能性があるな」

 

「確かにそれは恐ろしい話ですね」

 

「流石はハジメ様です」

 

「せっかく危機は去ったというのに、今度は人の手で世界を洗い流そうとは……愚かな事じゃ」

 

 マフーガを生み出したのは呪術師ウランダーで人間なのだから、過去の大洪水を起こしたのは人と言えない事もない。

 

「それで皆さんに相談したいのは計画を阻止する穏便な解決方法です。

 僕もいろいろ考えたのですが、彼らの計画が個人ではなく国全体が主導してやっている事なので、国を丸ごと納得させられる様な方法でないといけません。

 何でも構いませんので意見を頂きたいんです」

 

 僕の要望を聞いて三人は頷き考えるしぐさを見せる。

 最初に案を提示してきたのはクンタック君だった。

 

「やはりまずは話し合いで解決を探るべきではないでしょうか?

 天上世界に行って対話をしてみる、それが平和への第一歩だと思うのです」

 

「間違いではないと思うけど、地上人であっても一個人の僕じゃ一般人の戯言として国としては簡単に無視されるだろう。

 国の意思決定としては何か実績を見せない事には動くことも止まることも出来ないはずだ。

 クンタック君も王様として、一個人の意見に確証もなく応える訳にはいかないだろう」

 

「それは……そうですね。

 では地上の国と天上世界の国の橋渡しをしてはいかがでしょう。

 お互いに知ろうとしないから争いが起こるのではないですか?」

 

「僕の存在は特殊だからあまり表に出したくはないが、穏便に解決出来る確証があるならそれでもかまわない。

 だけど地上が天上世界の存在とノア計画を知れば、敵意一色になって戦争が勃発しかねないと思う。

 逆に天上世界も地上に知られれば、慌ててノア計画を実行に移そうと先走るかもしれない。

 そういうリスクがあるから橋渡しをしただけじゃ、事態を悪化させることになりかねない。

 そこまでいけば後は力ずくで抑えるしかなくなる」

 

「戦争手前になって抑えることが出来るのですか?」

 

「クンタック君の事件を解決した頃よりずっと戦力が充実しているからね。

 つい先日も宇宙から来たロボット軍団を返り討ちにして母星まで殴り込みに行ったくらいだ。

 被害に目をつぶれば地上と天上世界の軍を纏めて相手にしても勝てるよ」

 

「そ、そうですか…」

 

 クンタック君は顔が引き攣っていたが、宇宙からの侵略があったことに驚いているのだろう。

 地球には気付かれない様に解決したので、秘境に住んでいるクンタック君達は当然知ることは無かっただろう。

 

「クンタック君も外の世界の国と交流するなら慎重にならざるを得ないだろう?

 話し合いだけで解決するには、天上世界の地上への悪感情が強すぎる。

 それを抑えるには彼らが納得するだけの何かが必要だ。

 それが思いつかないから困ってるんだよ」

 

「なるほど…」

 

 天上人が抱えている問題は地上人の環境汚染による被害のとばっちりを受けて、健康被害を受ける事態が起こっている。

 これを解決するには環境問題を解決する必要があるが、これは僕個人ではどう頑張っても解決出来る事ではないのでどうしようもない。

 現状の環境汚染はひみつ道具で解決出来ない事はないが、地上人が再び汚してしまっては意味がないので人間の活動を改善しないといけない。

 流石に車の排気ガスや森林伐採などの環境破壊に繋がる行動をそれぞれひみつ道具で改善して回るのはあまりに非現実的だし、そこまでしてしまえばひみつ道具の存在を隠すことが出来る筈もない。

 

 話し合いに持ち込む事は決して悪い事ではないが、何も提示出来ない以上会話だけで解決する事は出来ない。

 ひみつ道具で天上人の要望に応えられない事もないが、そうなればひみつ道具の露呈は確実であり更なる要望を持ってくるだろう。

 人の望みは尽きず、そうなればこっちは相手の願いを叶えるだけの願望器扱いだ。

 文化や技術的には進んでいるかもしれないが、ノア計画なんて考えて話し合いをせず滅ぼそうとするあたり、天上人もどこまで行っても人間と変わりない。

 自分勝手ってことだ。

 

「バンホーさんは何かいい案はないでしょうか?」

 

「フフフ、この程度の事、ハジメ様が心配なさる事ではありません。

 我々地底の恐竜人がハジメ様の憂いを取り除いてごらんに入れましょう!」

 

 バンホーさんは拳を握って宣言しながら立ち上がる。

 気合十分なのはいいのだが、具体的な案を語っていない。

 『我々』と言ったあたりから非常に不安を感じるのだが…

 

「それで、どのようにしてハジメさんの悩みを解決するのですか」

 

「お答えしましょう、クンタック殿。 そもそも私たち竜の騎士は…」

 

 語りだすバンホーさん。

 その口からは自身の役職である騎士の仕事から設立目的、そして映画の事件である六千五百万年前での地底世界の設立の話。

 恐竜人達はタイムマシンで過去に向かったことを聖戦と呼び、恐竜の絶滅の原因と戦う為にバンホーさん達竜の騎士は訓練を重ねてきたことを語った。

 絶滅の原因が隕石というどうしようもないことだったので、軍隊レベルの訓練は意味をなさなかったが、彼らが過去を確認したことに意味はあった。

 

 彼らも手に負えない天災その物には気にしておらず、不本意だが地底世界の始まりを作った事が神の意志であり、僕等を神の御使い扱いしたことで大体納得したらしい。

 地底で暮らす事を恐竜の定めとして、今後も地底で繁栄していくということで彼らの聖戦は幕を閉じたのだ。

 地底には環境問題もないしかなり広大な土地が広がっているので、天上世界の様に問題になることは当分はないだろう。

 

 少々話は長かったが、バンホーさんが過去での出来事を大よそ語り終える。

 他の二人も僕のやったことに目を見開いているが、今は別の問題があるので後にしてほしい。

 

「こうして聖戦は聖地の真実に辿り着き、我々は改めて地底を良き国にしようと神と御使い様に誓ったのです」

 

「あの……ハジメさんとバンホーさんの関係はよくわかりましたが、問題の解決策は語られていませんよ」

 

「おや、すいません。 聖地誕生の神話は今地底で引っ切り無しで語られておりまして。

 目撃した私もこの感動を、少しでも多くの人に広めねばと少し興奮し過ぎてしまいました」

 

 大したことではない……とは言い切れない事をやったが、新興宗教の教祖に祭り上げられた気分だ。

 とても地底に行く気になれん…

 

「なにが言いたいかと言いますと、ハジメ様が御困りでしたら我ら竜の騎士一同、何処へでも参上する所存に御座います。

 御使いの御心を救う事こそ、まさに我らに課せられた使命であり新たに掲げられた聖戦の狼煙!

 天を語る愚か者など我らの槍で貫いて御覧に入れましょう!」

 

「や・め・て!」

 

 何を言ってるんですか、このバンホーさんは!

 映画では沈着冷静で異種族とはいえ大人の対応をしていた人なのに、まるで落ち着きを感じさせていない。

 言ってることは忠義に厚い騎士っぽいけど、半分質の悪い狂信者の妄言にも聞こえるよ!

 

「穏便な解決方法を相談したのに、なんで地底人参戦なんてことになってるんですか!」

 

「しかし我らにとって大恩あるハジメ様の御心を乱す輩は放っておく訳にはまいりません」

 

「恐竜人の人達は地底で良い国にするために穏やかに暮らしていくんでしょう。

 無理に外様の問題に槍を振り回さないで、国の為に振ってください。

 解決法の相談にだけ乗ってほしかったんですから」

 

 相談に乗ってくれるだけにしてくれと言ったつもりだったが、僕が言い切るとバンホーさんがなぜか目元を抑えて泣き出す。

 

「慈愛の心で我らの祖先の為の世界を作ってくれるだけでなく、今を生きる我らの国を想ってくださるとは!

 恐竜人を代表して改めて感謝の意を申し上げる」

 

「(こんなにメンドクサイ人だったかな…)」

 

 滂沱の涙を流しながら騎士風の礼をしているバンホーさんに呆れる。

 こっちを敬い過ぎて、逆に話が成立しない。

 軍団長さんや祭司長さんよりはマシな筈だったんだけど…

 

「村長さんは何かいい案はないですかね」

 

「期待に応えたいのは山々なんじゃが、ワシも長生きはしているつもりでも外の世界を知らない世間知らずですじゃ。

 村の長とは言え閉塞な小さい村です故、そちらの王様や騎士殿ほどの知恵を持ってはおりません」

 

「そうですか…年配の方の知恵を借りれないかと思ったのですが…」

 

 閉じた村の村長さんでも、年の功で何かいい考えが聞けるかと思ったのだが…

 

「ところでお聞きしたいのですが、もし天上人がノア計画を実行に移してもハジメ殿は穏便でない方法でなら止められるのですかな?」

 

「え、ええ。 手段を選ばなければ止める方法などいくらでも用意してますよ。

 穏便な手段が思いつかなかったとしても、ノア計画で地上を洗い流させませんのでご安心を」

 

 影響の少なそうなバンホーさんの所の地底はともかく、風の村もバウワンコも一応地上だ。

 地上全てが洗い流される懸念は払拭しておいた方が良いだろう。

 

「それでしたら安心ですの。

 であれば、後はハジメ殿の好きなようにやられるのがよろしいかと」

 

「え?」

 

「かつて我々の祖先のノアジンはマフーガを倒し大洪水を収めましたが、今度の大洪水は住む場所は違えど多くの人の意思の元に行われるもの。

 辺境の村の村長でしかないワシには、とても手に負えるような話ではありません。

 例えノアジンがいたとしても止められる事ではないのでしょう。

 ですのでハジメ殿。 地上が再び大洪水で流される可能性があるというのなら、ワシ等はそれを止められるというハジメ殿の言葉を信じてただ待ちましょう」

 

 村長さんはまっすぐ僕を見ながら全てを委ねるという。

 彼らとはマフーガの復活を阻止した後の報告とフーコ達を預けたくらいで、大した交流はなく信頼関係と呼べるものはないはずだ。

 なのに村長さんの目は本気で信じると言い切っている。

 

「なぜそこまではっきりと信じられると言い切れるのですか?

 風の村との付き合いはそれほどでもないし、僕が失敗する可能性を考えないのですか?」

 

「確かに失敗は恐ろしい事ですが、ワシ等に何も出来ない以上何を言っても仕方ない事ですじゃ。

 なぜ信じられるのかはハジメ殿がまるで不安を感じていないからじゃ」

 

「いえ、結構悩んでいるんですけど」

 

「それは天上世界にどういう対応をするかでしょう?

 ワシ等にとって重要なのは大洪水を止められるかどうかで、天上人の事情を考えている余裕はない。

 大洪水その物を大して気にせず、相手の事を考えていられるのは余裕のある証拠じゃ」

 

 確かに彼らからしたら重要なのは大洪水を防ぐことで、天上人にどう対応するかなど二の次だろう。

 そういう意味では大洪水の対処法を既に準備し終えている僕は余裕があると言ってもいい。

 

「大洪水を起こすという者達と、それを平然と止めるというハジメ殿。

 ワシには手に余る正に雲の上の話過ぎて、天上人と言われてもピンとこんのです。

 ただ切欠は地上人が原因とはいえ、世界を纏めて洗い流してしまおうというのはやり過ぎだとはワシも思います。

 話し合いをするにしても一度ガツンッとやってしまってもよいと思いますぞ」

 

「私もイスゲイ殿に賛同します。

 天に暮らして思い上がっている天上人共をハジメ殿の威光で平定するのです!

 ハジメ様がご命令くだされば何時でも軍を動かします」

 

「いえ、戦力は十分ですからバンホーさんの所は下手に動かないで!」

 

「確かに地上を全て洗い流そうとする人達なら、話し合いで終わらせるにしても一悶着は確実にありますね。

 穏便に解決するにしても力を見せるのは必要かもしれません」

 

「クンタック君まで…」

 

 穏便に解決する手段を相談したつもりが、逆に過激な手段を使う事を諭され始める。

 こうして平和な解決手段ではなく、いかに力を見せて天上人を脅すかという過激な話にシフトしていき、最終的に僕自身もその方が手っ取り早いと諦めた。

 何事も暴力で解決するのが一番だ、という言葉は誰のセリフだったか…

 

 

 

 

 




 実は今回の話に、出会った中で一番権力者としての力が強いパピ君を招待する予定でしたが、地球の問題として参加は控えてもらいました。
 本当は今回の話を書いた時にパピ君を出す事を忘れていただけかもしれませんが、この話の執筆が完了して長いので正直もう覚えていません。
 今回の連続投稿の誤字修正で作品を見返している時に、今回の話にパピ君を登場させるの忘れたなと思い出しました。
 書いていた時にもしかしたら別の理由で出すのをやめたのかもしれませんが、ホントにもう覚えていません。

 今回の話が最後の事件になるのですが、地球内の事件ですので遠慮なしにMSの全戦力を投入して大暴れという訳にはいきません。
 余り暴れすぎると地上に気づかれるという欠点があるからです。
 解決策として原作鉄人兵団のように天上世界誕生その物を無かった事のしてしまうというのもありますが、前に語った通り全てを無かった事にするのは最終手段という事で使いません。
 それでも結局乱暴な解決手段になるんですがね。

 ともかく今回の事件で劇場版事件は終了となります。
 はっきり言って落ちが無いような気がするのですが、ひみつ道具無双し過ぎてグダグダになってしまうからです。
 山あり谷ありがあるのは面白いですが、チート物なら最後までハラハラせず安心して読める方が自分は好きです


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何事も暴力で解決するのが一番だ 前編(雲の王国)

 感想は返信出来ていませんがちゃんと確認させてもらっています。
 非常に励みになっておりますので、感想を送ってくださった方々有難うございます。



 

 

 

 

 

 天上連邦中央州連邦会議場。

 

 この会議場で地球の地上文明を一掃し、地上人の環境汚染を止める事を目的にしたノア計画の最終決議が行われていた。

 

 天上人の地上への悪感情は酷いモノだが、ノア計画による大洪水で全てを洗い流すという行動は乱暴過ぎるという意見も決して少なくなかった。

 そこで幾度となく会議は執り行われ、ノア計画を推進する強硬派と消極的である穏健派の議論が続いていた。

 決議は法廷に持ち込まれ、お互いに意見を出し合いノア計画を実行するかどうかの判断が中立の裁判長に委ねられているが、議会場での穏健派の意見は非常に弱弱しいものだった。

 

 確かにノア計画は乱暴過ぎるという考えはあったが、それは地上を擁護するものではなくもっと平和的に解決出来ないかという考えから来ているだけで、ノア計画に代わる案を持っているわけではなかった。

 また穏健派も地上に対する悪感情が無いわけではない為に、日に日に強硬派の意見に沈黙させられ止める言葉を失っていく。

 さらに最終決議の場に地上側の代表として意見を聞くために連れてこられた者たちも、動物保護を行っていた天上世界に動物達と一緒に回収された密猟者という環境破壊を行う側の人間であり、明らかに地上への悪感情を加速させる者たちを用意したところが、地上その物を擁護する意見が皆無という実情を現していた。

 

 密猟者達も地上であれ天上界であれ犯罪者であることに違いはなく、環境破壊をする地上人代表として弾劾され肩身を狭くして震え上がっていた。

 彼らも犯罪の自覚はあったのだろうが、突然地上の運命を決める代表にされて吊し上げを食らうとは思ってもみなかっただろう。

 この会議がどのような結果になるにせよ、捕らえられている現状では決して明るい未来を思い浮かべることは出来ない。

 

 彼らの密漁による環境破壊の弾劾を終えた頃には、穏健派も厳しい目で密猟者達を見る事しか出来ず、ノア計画の反対を語る雰囲気など残っていなかった。

 この場にいる地上側の人間は密猟者しかおらず、そんな彼らの言葉をまともに聞く天上人はおらず、彼ら自身も厳しい弾劾に憔悴してただ自身が助かりたいと願う事しか頭に残っていなかった。

 反対意見も消えて賛同者のみが声を上げる状況に、裁判長も最終決議の決定を宣言せざるを得なかった。

 

「意見も出尽くしたようですので、最終決議の決定を発表いたします。

 決議によりノア計画の実行をここに『ドオオォォォン!!』!?」

 

 裁判長が実行を宣言しようとした時に議会場が大きな揺れに見舞われて、殆どの者が体勢を崩して床に倒れこんだ。

 

「何事だ!」

 

『わかりません! ですが今の衝撃は中央州全体に響き渡った模様!』

 

 会議に参加していた天上世界の最高権力者、大統領が通信機で監視者に叫びかけ確認をする。

 この会議は天上世界全体に関わる重要な会議なため、天上世界の重要人物達が一堂に会している。

 それ故に何かが起これば、下からの報告がここにいる重要人物たちに最優先で伝えられる。

 事態はすぐに把握され、その場で情報共有がなされた

 

 揺れたのは議会場だけではなかった。

 空に浮かぶ小さな島国並みの面積を誇る雲の陸地全体が大きく揺れて、そこに住む天上人を含めた雲の上にある全ての物が揺さぶられたのだ。

 空に浮かぶ雲の上にある天上世界は地震とは無縁であり、雲全体を揺らすような衝撃は何かにぶつからなければ起こりえない事だ。

 

「何処かの山脈にでもぶつかったのか? 観測庁は何をやっている」

 

『現在調査中ですが、中央州は本日海上を浮遊しています。

 山との衝突はあり得ないはずなのですが…』

 

 風によって流される雲の上にある天上世界は、放っておけば何処に流されるかわからない。

 それ故に極稀に高い山脈に衝突する事があった為、それを防ぐために自分達の住む雲の流れを観測する観測庁が配置されており、もしもの時は雲を動かして衝突を回避する役割を担っていた。

 しかし実際に中央州が何かに衝突して揺れに見舞われたのだから、観測庁が見逃したと考えるのは当然だった。

 

『っ! 観測庁からの報告が入りました!

 どうやら別の陸雲と衝突してしまったとのことです』

 

「それは余りに怠慢だぞ。 一体何処の州と接触したというのだ?」

 

 天上世界は乗る事の出来る陸雲の上にある連邦国家だ。

 一つ一つの雲の上が州と呼ばれ、世界中に点在してそれぞれ別の役割を担っている。

 

 気流に流されて別の州と接近する事は当然あるが、衝突しないようにお互いに連絡を取り合っており、よっぽどのミスが無ければ高い山脈との接触と同じくらい起こらない事だ。

 それに気づかなかったというのなら、怠慢だと言われても無理はない。

 

『それが州登録のされてない陸雲の様なのです』

 

「なに、では今まで発見されていなかった陸雲だという事か?」

 

『どうやらその様です。

 各州の所在を示す信号もなく、ここ数百年発見されなかった新しい陸雲のようです』

 

 昔の天上人が飛行技術を入手してまず行なったのは、自身達の住む雲と同じように乗る事の出来る陸雲の捜索だった。

 世界の空は広く、当時は次々に発見されて活動領域を広げていったが、現在では発見しつくされて未確認の物はないと思われていた。

 そんな時代に天上世界の首都である中央州に衝突する事で新たに発見されるなど、報告を受けた者たちは何か作為的なものを感じずにはいられなかった。

 

「あまりに妙な話だ。 その陸雲の状況はどうなっている」

 

『現在探査機を飛ばして確認中です』

 

「こちらにも映像を回せ」

 

『了解しました』

 

 大統領の指示で議会のモニターに衝突した陸雲の映像が映し出される。

 中央州に衝突した陸雲は、中央州に比べて小さく十分の一ほどの大きさしかないが、雲の上には植物が芽吹いており草原が広がっていた。

 天上世界は地上の文明が発達して飛行機が飛ぶようになると、発見される可能性が出た事でカモフラージュのバリアーが張られるようになった。

 しかしその陸雲は外部からも草原がむき出しになっており、カモフラージュされてない事から天上人が手を加えていないのが解る。

 

「緑が広がっているが、もしや誰か住んでいるのか?」

 

「わからん。 だがあのような状態で地上人達に発見されなかったのもおかしな事だ」

 

「大まかな結果でいいので報告しろ」

 

『全体の大きさは中央州に比べて小さいですが、環境が整っており生き物が暮らしていても可笑しくありません』

 

「住人や人工物の面影はないか」

 

 大統領は可能性として、天上人の誰かが発見した陸雲を報告せずに隠していたのではないかと考えていた。

 

『バリアーが無いおかげで遠距離からの観測が出来ましたが、人工物らしき物はなく生き物の影も『そこには植物以外は用意してませんよ』

 

「な、何者だ!?」

 

 突然通信に入ってきた別の声に大統領は声を上げ、周囲は何事だと慌ただしくなる。

 

 

 

 

 

 通信に介入した後に、どこでもドアを議会場の中心にある証言台の近くに繋ぎ、ドアを潜ってその場に直接姿を現した。

 会場のど真ん中に現れた僕は当然その場にいた天上人の目に入り、突然現れた存在に混乱はさらに加速する。

 

「何だ貴様! 一体どこから入ってきた!」

 

「何処って、見ていたでしょう?

 このドアを開けて入ってくるところを」

 

 僕は少し小馬鹿にするようにどこでもドアを閉めながら存在を示す。

 ドアが閉じれば、向こうにいる僕がどこでもドアを片付ける事でドアが消えていった。

 

「後、何者かという問いくらいには答えましょう。

 あなたたちが洗い流そうとしている地上に住む地上人ですよ」

 

 地上人と名乗った所で会場のざわつきは更に加速する。

 地上人に知られている筈のないノア計画を知っていて、その上乗り込んできたのだ。

 天上人としては驚かずにはいられないだろう。

 

「馬鹿な、なぜ地上人がノア計画の事を知っている!」

 

「そもそもどうやってこの場所に現れることが出来たのだ!

 さっきのドアは一体? ワープ装置か?」

 

「それよりも早く奴を捕らえろ! 侵入者だぞ!」

 

 混乱する中で己の主張を叫びまくる偉そうな天上人が幾人もいるが、一斉に叫ばれてもなにを言っているのかわからないので答えることが出来ない。

 

「一斉に喚かれても何を言ってるのかわからないよ。

 尤も話し合いに来たんじゃないんだ。 いちいち答える気もない」

 

「なんだと!」

 

「構わん、捕らえてから尋問すればいいだけだ、衛兵!」

 

 お偉いさんの命令が飛ぶと警棒らしき武器を持った兜をつけた兵士が、議会場の中央に立っている僕を取り囲む。

 だが僕も不用心に突っ立っているわけではなく、ひみつ道具による安全性を確保した上でこの場にいる。

 武器を持った衛兵数人に囲まれても、ひみつ道具の性能を信じておりどうという事はなかった。

 

「おとなしくしろ!」

 

「やかましく騒いでるのはあなた達でしょう。

 むしろ落ち着くのを待っているのは僕の方だ」

 

「この!」

 

 対して動いてもいないというのに大人しくしろという命令が面白くて憎まれ口を叩くと、苛立ったのか取り押さえようと後ろから飛び掛かってくるが、僕に触れる事は出来ずに体をすり抜けて前の方に飛び出して行き、勢いでそのまま倒れこんでしまった。

 

「な、どうなっている!?」

 

「もう一度言うけど、落ち着いてくれないかな。 無駄な事なんかしないで」

 

「なにを!」

 

 僕の言葉にムキになって最初に飛び掛かってきた衛兵だけでなく、周りを囲んでいた他の衛兵も一斉に襲い掛かってきた。

 取り押さえようと飛び掛かってきたり警棒を当てようと振ってくる者もいるが全てすり抜けて、僕には何の影響もなかった。

 

 種は服の下に張り付けた【四次元若葉マーク】で、これを付けた存在は四次元空間に実体が置かれて通常の空間の存在は触れることが出来ず、逆に張り付けた側も他の物に触れることが出来なくなる。

 つまりナルトの神威(防)みたいな効果なのだが、オンオフにはいちいちマークを付け外しをしないといけない。

 オンオフが意思一つで出来る様になればかなり使えるのだが、そこまでの改造はまた今度と諦めた。

 いまは何かに触れるには一旦外さないといけないが、外せば相手からも触れられるので、隙の無いこの状況では流石に外すことは出来ない。

 

 僕に触れようと散々飛び掛かってくるが、何度も繰り返してようやく無駄と分かったのか、息を切らしながらそれでも取り囲む衛兵たち。

 衛兵の滑稽な姿を見て議会場にいた者たちも、そこそこ落ち着きを取り戻してきた。

 

「実体のないホログラムなのか」

 

「それならばどこかに投射機がある筈だが…」

 

 僕に触れられないから映像と勘違いした者達があたりを見回すが、四次元空間に実体を移しているだけなのでちゃんと存在している。

 それを証明するには何かに触れるのが一番だが、こちらからも直接は触れられないので難しい。

 だが直接でなければいいのでひみつ道具の効果の穴を使えばどうにでもなる。

 

「ホログラムじゃなくてちゃんと実体はあるし、触れられなくてもこちらからは干渉が出来る。

 こんな風に」

 

「うわあぁぁ!」

 

 僕が腕を振るうと、同時に超能力の念力で衝撃を飛ばして、周りの衛兵を軽く吹き飛ばす。

 大して威力を出していないので軽く突き飛ばした程度の威力しかないが、こちらから干渉出来る事を証明した。

 

 四次元若葉マークの効果の穴は貼った対象にしか効果が無い事だ。

 例えば何か物を手にもって若葉マークを貼れば持っている物も一緒に四次元に実体を置かれるが、物を手放せば若葉バークの効果が消えて実体を取り戻すようになる。

 もう一度手放した物を持つには一度若葉マークを外さないといけないが、もともと持っていた物を手放す形でなら、若葉マークを付けたままでも実体に間接的に干渉出来るという事だ。

 

 最初は何か射撃武器を使おうと思ったが、超能力の念力なら若葉マークを着けたままでも触れずに直接という条件をクリア出来たので、念力で吹き飛ばすという方法で脅威を示した。

 衛兵が吹き飛ばされたことによって僕には手も足も出ず、此方からはどうにでもなるという事をようやく認めさせて、そろそろ本題に入ることにする。

 

「なにをやっても無駄とそろそろわかってくれたかな?

 周りもどうやら落ち着いてきたところで本題に入ろう」

 

「本題だと! 一体何が目的だ!」

 

「それをこれから話すんじゃないか。 喧しいからあんたは黙っててくれない?」

 

「貴様!」

 

 最初の時から何度も敵意むき出して噛みついてくるおっさんがいるが、天上人には強気で対応すると決めていたので、ついついからかう様に煽ってしまう。

 話が進まないのでそのおっさんを無視して、天上人で一番偉い大統領に向き合う。

 

「あなたが天上連邦の大統領でいいですね」

 

「…そうだ。 地上人がここに何の用だ」

 

「冷静な対応ですね。 あそこのイライラしているおっさんとは大違いだ」

 

「なんだと!」

 

「セドーン環境庁長官、少し静かにしていてください」

 

 大統領の叱責にセドーンと呼ばれたおっさんは黙り込む。

 他の者も地上人である僕に向ける敵意が多いが、あのセドーンという男は更に敵意が強いように感じる。

 だが敵意が向けられるのはここに来ると決めた時から覚悟していたので、出来るだけ気にせず目的だけ果たす事にしよう。

 

「静かになった所で本題に入らせてもらいます。

 僕はノア計画の存在を知っており、理由も手段も目的もほぼすべて把握している」

 

「それで君はノア計画を止めるためにここに来たのか」

 

「いいや。 ただやめろと言ってやめる筈がないことは、たいして考えなくてもわかる事だ。

 天上人も密猟者を地上人代表にするあたり、地上を擁護する気が無いのは解り切っている」

 

 証言台に地上代表で立たされていたのは、映画でも出てきた四人組の悪役だ。

 元々密猟者だし、ドラえもん達が助けても道具を強奪して天上人に攻撃を仕掛けるという救いようのない連中だ。

 

「あんた、地上人なのか? 頼む、俺達を助けてくれ!」

 

「突然地上から連れ去られてこんなところ立たされてるんだ。

 同じ地上人なら助けてくれよ!」

 

 同じ地上人だからと助けを求められるが、ここに来た目的に彼らはいてもいなくてもどちらでもいい存在だ。

 密猟者という犯罪者である以上、同情する気もなく僕が助ける理由などない。

 

「悪い……とも思わないが、地上でも犯罪者である密猟者を助ける気などない。

 突然連れ去られたのは不幸かもしれないが、あんたらを助けても地上の警察に送り届けるだけだ。

 手間が掛かるだけだし、どっちにしろ捕まる事に変わりない」

 

「そんなぁ…」

 

 泣き言を言っている密猟者達はこの場に立たされている事が場違いかもしれないが、環境破壊を行っている代表といえば代表かもしれない。

 地上の法か天上の法で裁かれるかの違いでしかないし、どっちが軽罪で済むかなど興味はない。 

 

「彼らを地上人代表にしたのは同じ地上人としては遺憾だが、所詮天上人だけで決める茶番だから誰が代表でも変わらないでしょう。

 正直話し合っても無駄だとは僕も思っているし、あなた達も環境問題の解決に地上と話しても無駄だと思うからノア計画なんて強硬手段に出たんでしょう」

 

「そうだ! 地上人は人間同士で何度も争い、戦争を繰り返している!

 環境汚染をやめろと訴えに行ったところで、天上世界の存在が知られれば攻撃してくるのが目に見えている!」

 

 僕が話しているところにまたセドーン環境省長官が興奮した様子で割り込んでくる。

 実際そういう流れになるのは僕も予想出来るが、話の邪魔をするのはやめてほしい。

 

「そこのおっさんの言葉には僕も同意する所だけど、僕の話が終わるまでちょっと黙っててくれない」

 

「セドーン環境省長官、これ以上邪魔をするのであれば強制的に退出してもらいますよ」

 

「ぐっ、わかりました」

 

 最終通告にようやく大人しくなり、僕は話を再開する。

 

「喧しいのが大人しくなったところで話を続けさせてもらう。

 貴方達のノア計画の事を知って、僕もどうやって解決すべきかいろいろ考えたんだ。

 環境汚染なんて一朝一夕で解決出来るモノじゃないし、森林伐採や温暖化の原因も現代社会を回す上で減らす事は出来ても無くす事はそう簡単に出来ない要因だ。

 技術が発展すれば改善する問題でも今の地上の技術ではまだまだ掛かるし、技術が出来ても社会全体が簡単に環境汚染の改善になる技術に移行出来るわけでもない。

 つまり地上の環境問題を直ぐに解決して、そちらを納得させるのは事実上不可能だという事だ」

 

「では君はどうやってノア計画を止めようというんだね」

 

「あえて言うなら力ずくです」

 

「なに?」

 

 僕の力ずくという言葉に大統領は眉をしかめるが、それは仕方ないだろうと話を続ける。

 

「力ずくといっても天上世界に戦争を仕掛けようっていうんじゃない。

 もっと解り易く力を見せて諦めてもらう事にした」

 

「どうしようというのだ」

 

「そこであのモニターに映っている雲の陸地です」

 

 先ほどの衝突からモニターに映っている一面草原の雲の陸地。

 

「先ほどこの中央州を揺らした雲の陸地。 あれを作ってぶつけたのも僕だ」

 

「馬鹿な、陸雲の人工的な生成は我々でもまだ成功していないのだぞ!」

 

 衝突の後はこの天上連邦の中央州に接触したままだが、あれは僕達が作った雲の陸地で存在を示す為に態とこの中央州にぶつけた。

 

「僕は地上人だが見ての通りちょっと特殊で、一般とはかけ離れた科学技術を持っている。

 そしてその技術はあなた達に推し量れるようなものではない。

 この場に立っているだけなのに、あなた達が手も足も出ないのもそうだ」

 

 ひみつ道具頼りなのであまり自信満々には言えないが、科学力が進んでいる天上人でもひみつ道具の科学力には及ばない。

 天上人が陸雲と呼ぶ雲の陸地は、どういう発生条件か知らないが天然の代物だ。

 天上世界は宇宙人との交流もあるみたいだし、もしかしたら過去に地球に訪れた宇宙人の仕業という可能性もある。

 だが、天上人が陸雲を自由に扱えるわけではないのは調べがついている。

 

「あなた達が過去に地球上に存在する天然の陸雲を全て見つけ出しているのは知っている。

 地球の空をくまなく探したあなた達なら、天然の陸雲はなく人工的に作られたと考えた方が自然だ。

 そしてあなた達が探しても見つからなかった陸雲が、この会議のタイミングでこの中央州に偶然ぶつかってくると思うか?」

 

「……確かに偶然にしては出来過ぎているな。

 貴方が意図的にやったのだと認めるとして、あの陸雲でどうしようというのだ」

 

「デモンストレーションに必要だから用意したんですよ」

 

「デモンストレーション?」

 

「ちょうどいいですのでモニターを見ていてください」

 

 この会議場の様子は、僕の援護をしてくれるコピー達がタイムテレビで様子を常に確認しており、此処の会話の状況に合わせてデモンストレーションを実行に移せるように動いてくれている。

 予定通り僕が陸雲の様子を見るように議会場の人間にモニターに意識を向けさせたら、映像に映し出されている陸雲が動き出した。

 

『大統領、衝突した陸雲が動きだしました!

 中央州に接触して止まっていた陸雲が気流とは関係なく離れていきます。

 明らかに何らかの操作を受けている模様!』

 

「どうやら本当にあなたの意思であの陸雲は動いている様だな」

 

「正確には現在僕の仲間が制御しているんですけどね。

 デモンストレーションに中央州を巻き込むわけにもいかないので、距離を取らせてもらいます。

 撮影している人達にはちゃんと映し続けるように言ってください」

 

「…聞こえているな。 あの陸雲の監視を続け映像をこちらに流し続けろ」

 

『りょ、了解しました』

 

 大統領の指示で映像を映している部下の方に連絡が届けられる。

 中央州から僕等の陸雲がどんどん離れていき、十分に距離を取った所で動きが停止した。

 

『未知の陸雲、止まりました』

 

「十分距離を取ったので、始めますよ」

 

「一体何をする気だ」

 

 大統領の質問に僕は答えず、ポケットからペンシル上の道具を取り出し頭についてる赤いスイッチに親指を添える。

 

「こうするんです。 ポチっとな」

 

『ドオオォォォォン!!!』

 

 スイッチを押すとき必ず言う言葉を言いながら、起爆装置のスイッチを入れる。

 するとモニターの陸雲の上で爆音が響き渡り、中央から薄紫のガスが一気に吹き広がった。

 陸雲に触れたそのガスは、気体でありながら土のような密度を持って浮かんでいた雲の大地を液体に変えてどんどん溶かし始めた。

 

「なっ!!」

 

 大統領の叫びの他にモニターを見ていた議会場の人間も、驚きに声を上げると同時に目を凝らして立ち上がりモニターに食い入る。

 その間にも紫色のガス【雲戻しガス】によって質量を持っていた陸雲はただの雲に戻っていき、雲の上に生えていた草木は水になった雲と一緒に地表に向かって流れ落ちていく。

 雲戻しガスに包まれた陸雲はあっという間に普通の水蒸気の塊に戻って、乗っていた物は全て重力に従って落ちていった。

 残ったのは雨にならずに、そのまま本来の形に戻ったただの雲だけだった。

 

 自分達の住む土地と同じ陸雲が水泡のようにあっという間に消えていく光景に、議会場にいた天上人は茫然となっていた。

 足元にある陸雲が只の雲に戻ってしまえば、天上世界に住む事は当然出来なくなる。

 そんな考えがこの光景を見ている天上人の頭に過ぎっているのだろう。

 黙っていても仕方ないので、此方から話を再開する。

 

「地上を大洪水で洗い流すのがノア計画なら、僕は人魚姫計画とでも名付けるかな。

 乗る事の出来る陸雲を只の雲に戻し、天上世界を水泡の様に消す計画ってところか。

 いや、計画って程考え込まれた物でもないな」

 

 陸雲が只の水となって消えていく様子を人魚姫の最後に例えたのだが、少々無理があるかもしれない。

 

「………つまり我々が地上を洗い流そうとするなら、そちらも天上世界を滅ぼそうという脅しという訳か」

 

「明言しないがそういう事になるね」

 

 これだけ解り易いことをやれば、天上人もそう考えるのは難しくない。

 結局のところ、解決方法はドラえもんが映画でやった天上世界への脅しと同じだ。

 映画では密猟者の四人組に王国を奪われて実際に天上世界の陸雲の一つに打ち込まれたが、それを止めるために王国を自爆させてのび太達の過去の実績と人徳で平和的解決に至った。

 だが僕にそんな人徳もなく過去の実績もないので、正真正銘の脅しを天上人に見せつける事にした。

 

「そいつを取り押さえろ! 天上世界への宣戦布告だ!」

 

 大統領の次に正気に戻ったセドーンが、衛兵に僕を取り押さえるように命令する。

 命令に従って衛兵達もまた僕を取り囲むが、先ほど手も足も出なかった事に二の足を踏んで囲むだけに止まる。

 そんなことも忘れて命令を出す辺りセドーンというおっさんも、よほど頭に血が上っているようだ。

 

「さっきも僕に触れることが出来なかったのに何を言ってるんだか。

 それから言っておくが、天上連邦を構成する世界中に存在する陸雲の分布もすべて把握している。

 天上世界全ての陸雲を只の雲に戻す事は可能だ」

 

「天上連邦を舐めるなよ! 地上の兵器の攻撃などにびくともしない防衛戦力が我らにはある!

 貴様らが攻撃を仕掛けてきたところで返り討ちにしてくれるわ!」

 

「確かに一般に知られている地上戦力では天上世界と戦うのは無謀だろうが、僕等の持つ技術が地上どころかあんたらの常識の範疇にある技術でないのは解っているだろう」

 

「セドーン長官、軽率な発言は慎めと言ったはずです!

 衛兵は彼を抑えていなさい!」

 

 大統領の指示で興奮して過激な発言をしているセドーンに喋らせないように、衛兵が取り押さえる。

 興奮していた本人も衛兵に抑えられ、今度こそ完全に黙らせられた。

 

「彼の発言は地上との戦争を承認する物ではありません。

 興奮し勝手に言った事ですので、聞かなかった事にして頂きたい」

 

「……政治的対応をしてくれるのは嬉しいけど、僕等は少数の意思決定で行動している。

 改めて言うが僕は地上人だが代表ではなく、どこの国家や政府に関わってない独自の技術でここに訪れている。

 解り易く言えば地上人の一人が勝手に文句を言いに乗り込んできたと思ってくれていい」

 

「…ずいぶん無茶苦茶な地上人もいたものだ」

 

「安心していいよ。 地上のどの国家も僕と繋がりがあるわけじゃないから、僕以外に天上世界の事は知らないだろう。

 ここに来たのは僕達の勝手だから、地上の国から何か要求が来るわけでもない」

 

「これほどの力を見せつけておいて、何を安心すればいいのやら…」

 

 大統領はちょっと呆れた様子を見せるが、これが組織的な行動ではなく個人レベルの行動と言われれば規模が大きすぎると思うのは同然だろう。

 明らかに個人が持つには強すぎる力なのは解っているが、何処までいっても個人に過ぎないので政治的な交渉というものは出来ない。

 実質テロリストと変わらないのだが、国家交流の場がない以上力を見せる形でしか対話も解決も出来ない。

 人徳で物事を解決出来る映画ほどうまくいかないのは、これまでの経験で解っている事だ。

 

「それじゃあ目的を果たした以上そろそろ帰らせてもらう」

 

「待ってくれ、他に要求は何かないのか。

 無いにしても何らかの連絡手段を残しておいてほしい!」

 

 さっさと帰る宣言をすると、予想通り引き止めるに来た。

 天上世界を滅ぼす的なデモンストレーションを見せられて、他に何か要求を求めてきたのは交渉を行う為だろう。

 その為の連絡手段を求めてくることも想定の内だ。

 

「必要無いだろう。 貴方達天上人も地上と交渉するという考えが初めから無いのだから、こちらも交渉をするつもりはない。

 仮にここにいるのが他の地上人だったとしても、問答無用で地上に生きる全ての物を洗い流そうと考えている奴らとまともに話し合いが出来るなどと思わないだろう。

 僕がここに来た目的は天上世界がノア計画を実行に移したら、僕等が天上世界を水の泡にする事と宣言しに来ただけだ」

 

「待て、地上に生きる者全ては天上世界に避難させることもノア計画に入っている。

 ノア計画の実行に併せて天上世界を滅ぼせば、避難させている地上人も道連れにすることになるのだぞ!」

 

「アハハハハハッ!」

 

「な、なんだ!?」

 

 大声を上げて面白そうに笑う演技をするが、実際には馬鹿馬鹿し過ぎて呆れているのが僕の心境だ。

 相手を威圧するような演出のつもりで大笑いしてやろうと思っていたが、ワザと笑うというのも疲れる。

 大統領がなんで僕が笑っているのが解らない様子なのが笑える事実の証拠だが、その結果が地上の滅亡に繋がりかねないのだから酷過ぎて笑えない。

 

「冗談はよしてくれ。 笑えない話なのに笑えてしまう。

 そんなバカみたいな話、地上人の子供だって少し考えれば可笑しいって気付く」

 

「……何が可笑しいというのだ」

 

 笑われた事が心底遺憾という表情で不機嫌そうに聞き返され、僕は改めて呆れながらもその理由に答える。

 

「僕はノア計画を調べる際に天上世界についても大体の情報を得ている。

 天上連邦はいくつもの陸雲によって構成される合衆国だが、一種の列島国家のような物だと解っている」

 

 天上世界は広大とは言っても雲の上であり、大きい物でも地上の島と呼べるサイズを超える物はない。

 もし大陸と呼べるの大きさの陸雲が存在していれば気象衛星にも映るだろうし、そうなれば流石に現代の地上人も陸雲の存在に気付いている。

 故に天上世界それぞれの陸雲の大きさは島サイズが限界であり、それが世界中に散らばって地上人が可笑しな雲と気付かない程度の大きさに収まっている。

 そんな島サイズの雲がすべて集まっても、合計面積が大陸と呼べるほどの物には到底なりえない

 

「一つ一つの面積は小さく特定の役割に限った州が存在しているのも知っているが、人が居住出来る陸雲の面積は全てを併せても日本の国土の合計にも満たない。

 そんな面積に全ての動植物を避難させようなんて出来る筈がない。

 全ての地上人に限ったって不可能だ」

 

「な、なんだと!?」

 

 大統領は今度は心の底から驚いたという表情を見せ、他にいる議会に参加していた者たちの中にも幾人か驚いた表情を見せている。

 その他には僕の言葉自体を疑い訝しむ者や、苦虫を潰したようにこちらを睨む者もいるが話を続ける。

 

「あんたらは地球環境のためにノア計画を起こすんだから、当然植物だって避難の対象だろう。

 全ての木々も洗い流しては環境汚染どころではない。

 そこに動物も人間も受け入れようなんて、どう頑張っても天上世界の陸地面積が足りなくなる。

 地上人だけで何億人いると思っているんだ」

 

「………多目に見積もって五億人と聞いている」

 

「当の昔に世界人口は六十億人を超えているよ」

 

「六十!?」

 

 僕が前世で生きていた時代よりも現代は少し昔で、世界人口の統計はまだ七十億を超えていない時代だが、この世界でもいずれ超えるだろう。

 そんな人数の人間を日本にも満たない面積の土地に押し込めようなんて、子供でも少し考えれば不可能だと解る。

 その上他の動物も受け入れようなど到底無理な話で、ノア計画の地上の生き物の避難は偽りだとしか思えなかった。

 

 しかし大統領が地上の人口を知って驚いているのも演技というわけではなく、他にも驚いている者もいるので、避難計画がちゃんとしたものだと本気で考えていた者がいた。

 さらに言えば文明の進んでいる天上世界で交流が無いとはいえ人口の試算をここまで大きく間違えるのもおかしな話で、調査ミスではなく意図的に情報を誤認させられていたと考えるのが自然だった。

 

「地上人の人口についての調査も、ノア計画立案の際に予測算出されていたはずだ!

 なぜそれほどに計測の違いがある?

 計算ミスと呼ぶにはあまりに数値に違いがあるぞ!」

 

 大統領が自分の知っている報告と事実の違いに周囲に問うがそれに答える者はなく、同じく訝しんでいる者と困惑する者と少数目を泳がせている者がいる。

 怪しい仕草をしている者達が僕の目にもわかるが、大統領も流石にこの場にいる者の一部が怪しいと訝しむ。

 

「………ノア計画避難の受け入れの為に、地上人を含む地上の生き物の調査記録を作ったのは何処の管轄だ」

 

「た、確か環境庁だったと思われます」

 

 大統領の傍にいる側近が答えると議会の視線は机に押さえつけられていた、環境庁(・・・)長官セドーンに集中する。

 

「セドーン長官、あなたは地上の情報の誤りについて知っていたのかね」

 

「………」

 

「答えろ、セドーン長官!」

 

「……地上人など全て洗い流してしまえばいいのだ!」

 

 押さえ付けられながらも地上人を洗い流すという宣言に、実質自白したも同然のセドーンはそのまま開いた口を閉じずに話し続ける。

 

「私は環境庁長官として地上の環境も観測し、その汚染過程の多くを見てきた。

 地上人は美しい大地に住みながら、それを何とも思わないように壊し汚す。

 絶滅動物保護区の動物の殆ども地上人の繁栄で住処を奪われ生きていけなくなったものが殆どだ。

 今なお地上で暮らしている動物達もどんどん数を減らし絶滅の道を歩んでいる。

 動物だけではない、大地が地球そのものが滅びの道を歩み始めている!

 地上人がいる限り滅びの道を突き進み、いずれは我々天上人を巻き込んで地球そのものが滅んでしまう!

 そんな愚かな地上人など救う価値などなく、他の動植物のみを救えばよいのだ!」

 

「セドーン長官、それは余りにも身勝手過ぎる。

 地上人も生きている人間なのだという事を忘れてはいけない」

 

「地球を滅ぼす生き物など悪魔と変わらん!

 その悪魔達を一掃する為にノア計画を立案したというのに、地上人を天上世界に避難させようなどと!

 この百年で格段に増えた地上人を受け入れる余裕など天上世界にはないというのに!」

 

 このおっさんがノア計画の立案者だったらしい。

 ノア計画という無茶な提案をするだけあって、地上人への敵意は人一倍凄いみたいだ。

 その計画が一部情報を隠していても通ったのは、おそらく隠蔽に協力する共犯者が多いからだろう。

 天上人全体の地上への悪感情が強い証拠だ。

 

「確かに地上人が六十億もいるのでは、天上世界にすべて受け入れるのは不可能だ。

 ノア計画そのものの見直しが必要となるでしょう」

 

「だから地上の情報を修正して提出していたというのに!」

 

 そこで僕を全力で睨んでくるセドーン長官。

 地上人という括りでとは言え、本気で憎悪をぶつけられて僕は少し身震いする。

 取り押さえられているし四次元若葉マークで安全を確保しているから大丈夫だが、それでも強い感情の敵意をぶつけられるという事はこれまでなかったので、僕も気押されして恐怖を感じてしまう。

 だが強気で天上人の相手をすると決めているので、我慢して気丈にふるまう事に努める。

 

 言う事は言ったのでもう帰ってもいいのだが、逃げ帰ったように見られるわけにはいかない。

 もうちょっと区切りのいいところまで話をしてから帰ろう。

 

「僕が悪いんじゃなくて、同胞を騙していたのがいけないんだろう?」

 

「何だと、地上人がぁ!」

 

「セドーン長官、このまま計画を推し進めればいずれ発覚していた。

 そうなれば結局言い逃れの出来ない状況になっていた」

 

「ノア計画で地上人を滅ぼせれば、その後どうなろうとどうでもいい事だ」

 

「だが発覚すればノア計画は途中で中断されるだろう」

 

「私一人だけで情報を誤魔化せる訳がない。

 その時になれば中断を妨害する手はずも整っている」

 

「共犯者……いや、その様子では環境庁そのものがグルの可能性がありますね。

 これ以上の事情聴取はここで行うべきではない。

 衛兵、セドーンを連行してくれ。 環境庁にもすぐに査察を行う様に指示を出しなさい」

 

「わかりました」

 

 情報を偽り地上人をノア計画で洗い流そうとしたセドーンが衛兵に連れられて議会場から出ていき、査察の指示を側近の人が通信機で命令を出す。

 

「……正直何を言っていいのかわからないが、礼は言っておこう。

 我々は意図せず地上人を皆殺しにするところだった」

 

「必要ない。 あのおっさんも天上人である以上、地上人から見れば天上人の意図した事だったという事になる。

 協力者もいるようだったし、天上人と地上人が敵同士という事に何の変りもないだろう。

 まあ、地上人は天上人の敵意などまるで気づいてないし、僕等も天上人がノア計画を企画した事についてはどうでもいいと思っている」

 

「まて、どうでもいいとはどういうことだ。

 君はノア計画から地上を守るためにここに来たのだろう」

 

「半分は正解だけど、半分は違う。

 地上で暮らしているという理由で地上側だが、僕等の技術があればノア計画から逃げる事は簡単だ。

 人魚姫計画は地上文化を滅ぼした際の報復行為、その宣言に過ぎない。

 地上文化を破壊されるのは暮らしている僕等にとっては損失になるから、その報復として攻撃するのであって、地上その物の為じゃない。

 報復を恐れないというなら、ノア計画を実行に移しても止める気はあまりない」

 

「なんだと」

 

 今言った事は結構本気だ。

 そもそもノア計画の実行は天上世界の政治的な問題でもあり、力ずくでしか止める方法が無かった。

 だが止めたからといって天上世界の今の問題が解決する訳ではなく、僕にも解決出来ない以上放置するしかない。

 つまり我慢するか別の方法を考えろと丸投げするしかない僕には、必要以上に天上世界に何かをする気にはなれなかった。

 天上世界が僕の報復攻撃を恐れないというほど切迫してノア計画を実行に移すなら、それも仕方ないと思うしかなかった。

 

 風の村やバウワンコの事もあるから、実行に移しても大洪水を防ぐ算段でいるけどね。

 

「再度言うが、僕は地上代表ではなく一個人に過ぎない。

 ノア計画に至った天上世界の問題は政治的な問題で、ノア計画は地上に対する外交手段と判断した。

 戦争或いは侵略という名の外交手段にね」

 

「…確かにその通りかもしれない」

 

『大統領!?』

 

 ノア計画が戦争や侵略と言われて大統領が認めると、他の人達がその事に驚いて声を上げる。

 地上の戦争についても環境破壊と同じように避難していた天上人は、ノア計画を戦争と一緒にされるのは許せないのだろう。

 

「皆もノア計画についてもう一度考えてくれ。

 我々にとって天上世界と地球の未来を守る行為だったとしても、地上人にとっては攻撃される事と変わらず、戦争や侵略と取られても間違いではないのだ」

 

「僕のやっている事もあなた方にとっては脅しを含んだテロ行為だが、地上人から見れば地上を守る行為に見える筈だ。

 実際僕にとっては地上文化を滅ぼした場合の報復宣言であり、地上その物を守るためという訳じゃない。

 もしあなた達が僕に迷惑を掛けずに地上に対して攻撃しようというのなら、止める理由は残念ながら残されていない」

 

 地上への攻撃行為をしても止めないという僕の言葉に、幾人も驚いた表情をして視線が突き刺さってくる。

 

「政治的な問題である以上、一個人が首を突っ込んでも何も解決はしない。

 ノア計画はともかく、天上人の地上への悪感情は正当性があるものだと僕も認める。

 解決するには環境汚染を繰り返す地上人をどうにかしないといけない事だし、その解決方法は僕でも容易に実行出来る事じゃない。

 言葉だけで解決出来る政治的な方法が出来ない以上、力ずくで解決するしかない。

 だから僕はあなた達に力を示した」

 

「ではノア計画を止めて、君は我々にどうしろというんだ?」

 

「どうもしない、あなた達で考えてくれ」

 

「なに?」

 

 力ずくで止めておいて、後は好きにしろという丸投げに多くの者が訝しむ。

 いろいろ考えたが天上人の納得のいく解決方法は思いつかず、かといってこちらも地上を洗い流させるわけにはいかないから、止めるだけ止めて天上人が後はどうするかは自分達に決めさせることにした。

 止めるだけ止めておいてと思わないでもないが、僕に天上人の面倒を見る義務はないのだ。

 

「僕の要望はないとさっき伝えた。 この後貴方達がどうするかは貴方達が決めろ。

 納得するしないのどちらにしろ、貴方達に提示する代案はない」

 

「そんな無責任な!」

 

「やはり地上人は自分勝手だ!」

 

 開き直って丸投げにしたことでヤジが飛んでくるが、本当に僕にはどうしようもない事なので強気でふんぞり返る。

 とはいえ責任を感じないでもない状況に、僕は少し胃が痛くなり出したのでそろそろほんとに帰りたい。

 解決しない問題を語りだしたらきりがないし、もう言う事だけ言って帰ろう。

 

「確かに自分勝手だが、それは天上人もだ。

 自分勝手に環境汚染をする地上人、自分勝手に地上を洗い流そうとする天上人、自分勝手に天上世界を脅す僕ら。

 人間は誰もが自分勝手な生き物だという事を自覚しろ。

 誰も彼もが自分勝手にしてきた結果が現状なんだ」

 

 後は自身の行動の結果に責任を持つことだが、持てない責任はどうしようもない。

 どうしようもないならどうしようもないで成る様にしかならないのだから。

 僕も今回はそう開き直るしか方法はないと悟った。

 

「天上人は宇宙との交流があるのだから、移住したいなら移住するといい。

 地上の環境汚染を止めるために戦争を仕掛けるならそれでもいい。 僕に火の粉が飛んでこないなら止めはしない。

 ノア計画を強行したいならすればいい、宣言した通り報復はするがな。

 その他に何をするにしろ決めるのは貴方達なんだ」 

 

「………」

 

 好きにしろと言い切り、聞いていた議会の人間は茫然と黙り込む。

 僕の宣言に何を思っているかわからないが、どのような選択にしても本当に天上人全員が納得のいく道を選ぶとも限らないのだ。

 問題があっても解決出来ず妥協せざるを得ないのはよくある話だ。

 

 僕も今回ばかりは完全に力ずくで黙らせるという方法に妥協しなければならなかった。

 当然納得していないがひみつ道具でも解決出来ない現実なんだと無理矢理納得する事にする。

 言いたい事は言い切ったし帰ろう。

 

「話が少々長引いたがそろそろ帰らせてもらう」

 

「っ! 待ってくれ、もう少し話を!」

 

「断る、後は貴方達で話し合え」

 

 そう言い切って、僕は超能力の瞬間移動でその場を後にした。

 欠かさず超能力の訓練を続けた結果、かなりの距離を瞬間移動で移動出来るようになり、天上世界の中央州の近くの海上で念力で体を浮かせて待機し、この近くでステルスモードで隠れていた時空船が迎えに来るのを待った。

 安全体制万全でもアウェイでの話し合いは神経を使ったのでさっさと休みたかった。

 

 

 

 

 

 




 政治的な会話って難しい。
 かなり、そしてあえていい加減にハジメは語り切りましたが、完全にヤケクソになった結果です。
 自分も天上世界の問題を円満に解決する絵が想像できず、これまでで一番力ずくで無責任なやり方になりました。
 結果的にグダグダになってしまいますが、このやり方を今回は最後まで貫きます


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≪終≫何事も暴力で解決するのが一番だ 後編(雲の王国)

 円満な解決方法が本当に思いつかなかったので、騒動だけ起こして後は投げっぱなしの結末です。
 雲の王国の事件の後腐れ無く後味の悪くない終わり方って想像できますか?



 

 

 

 

 

 評議会上に侵入した地上人ハジメが退散しても、議会場は……いや中央州全体の混乱は続いていた。

 

 中央州全体を揺らした未確認の陸雲との衝突。 十分な警備の敷かれた中央州連邦評議会上に現れた侵入者。 天上人でも理解出来ぬ未知の技術を持った地上人。 溶け落ちる陸雲を見せつけながらノア計画の報復宣言。 ノア計画の内容を虚偽改竄していたセドーン長官と共犯と思われる強硬派。

 陸雲との衝突から始まったこの事態は、ハジメがいなくなった後に混乱を伴いながらも各部署に対応の指示が出され、同時に議会場ではこの事態をどう収拾するかの協議に切り替わり、実質ノア計画どころではなくなっていた。

 

 セドーン長官の陰謀もさることながら、未知の技術で天上世界を物理的に滅ぼす事の出来る地上人の存在は恐怖その物でしかなく、議会で起こった事は情報規制されることになった。

 しかし中央州自体を揺らした陸雲の存在は隠せるものではなく、またその陸雲が溶け落ちる所を中央州沿岸から遠目で直接見ていた民間人も多数おり、混乱を避けるための規制に中央州の治安維持組織も対応に追われることになる。

 その日は事態の収拾に精一杯で、謎の地上人ハジメについての協議は後日行われることが決まり、ノア計画については事実確認の必要性とセドーンの陰謀に加担した者の調査、そしてハジメという存在の問題の多さから、無期延期を決定せざるを得なかった。

 

 議会に参加していた者の中で強硬派に属する者はその決定に異議を申し立てたが、ハジメの存在を恐れた者が多く、尚且つ同じ強硬派のセドーンとの繋がりを疑われていたことでその異議は却下される事となった。

 ハジメの力を見せつけてなお実行の意思を揺るがさない強硬派に、大統領を含む理性的な者達はその危うさに危機感を覚え、セドーンの一件と共に調査しようと決めるが無駄に終わる事になる。

 

 議会はノア計画の無期延期の決定で終了し、解散後は各自自身の部署に戻って混乱の収拾に当たった。

 日も落ちて星空が見える様になる頃になってようやく一般の混乱も落ち着きを取り戻し、その報告を受けた大統領も自身の執務室で一息を入れることが出来ていた。

 

「ふぅ……」

 

 余裕が出来た事で、議会場に現れた謎の地上人の事を思い返す。

 中央州を揺さぶると同時に現れ、未知の防衛技術で天上人に手も足も出させず、自身が作ったという陸雲を溶かして見せ、セドーンの陰謀を暴くという暴虐ぶり。

 強硬派ではないが話以上に乱暴な地上人のやり方ではあったが、言葉を交わした限りでは話の通じる相手に思えた。

 

 地上人が自分勝手なら、天上人もまた自分勝手。

 地上人のせいで受ける天上人の被害。 それを地上に抗議するのではなく問答無用で地上文明を滅ぼす事で排除しようとするのは確かに自分勝手なことかもしれない。

 地上人の文明と接触する事で起こる衝突は危惧するが、対話の努力を怠る事は間違っているのではないかと常々思っていた。

 

 大統領が座っている事務机の上には、クリアカバーに覆われたスイッチが置かれている。

 ノア計画の大洪水を起こす装置の起動スイッチであり、議会の決議で決行が決まれば自身が押す予定だった最後のボタンだ。

 議会では無期延期となったが、混乱している現状と天上世界を滅す報復攻撃の危険性があっては実質計画は凍結せざるを得ないだろう。

 

「おそらくこれで良かったのだろうな」

 

 大統領は自身の手で地上文明を滅ぼす事を恐れていた。

 地上人が長い年月をかけて積み上げてきた物をすべて無に帰せば、当然地上人が自分を恨むだろうと。

 それでも天上世界の未来を考えればと覚悟は決めていたが、セドーンは地上人自体を皆殺しにしようとしていたことで肝を冷やす事になった。

 自身が大量虐殺者となる所だったと。

 

 だがそれが発覚したことと未知の技術を持った地上人の出現で、ノア計画は白紙になろうとしている。

 問題は何も解決せず別の問題も出てきたが、この恐ろしいスイッチも無駄になってよかったと思い、責任という名の重荷を下ろせたことに安堵した。

 

 少しだけ気を休めて楽にしていると、備え付けられた通信機の呼び出し音が鳴った。

 大統領は姿勢を正し通信に出る。

 

「どうした」

 

『大統領! 今すぐ其処から逃げてギャッ!』

 

「どうした! 一体何があった!?」

 

 通信機から聞こえてきた慌てた声と最後の悲鳴に何かがあったと悟る。

 疑問は一瞬で、言われた通り今はこの場を離れようと判断して立ち上がるが、あまりに時間が無かった。

 

 次の瞬間には執務室のドアが勢いよく開け放たれ、武装した天上人の衛兵が突入してきた。

 全員が大統領に銃器を向けており、味方でないことは明らかだ。

 

「何だ、お前達は!?」

 

「大統領、少しおとなしくしてもらいましょう」

 

 銃器を突きつけられた大統領は突然の事態に対処する手段を持っておらず、仕方なく両手を上げて抵抗の意思が無い事を示す。

 数人の衛兵が大統領を拘束し、一人の衛兵が机に乗っていたノア計画の起動スイッチを手に取る。

 

「っ! 貴様等それをどうする気だ!」

 

「全てを正すのです。 我々の手によって」

 

 目元を隠すヘルメットを着けている衛士の表情は読み難いが、極めて落ち着いた声には一切の迷いを感じさせない。

 伊達や酔狂でこんな事をしているわけではないと大統領は理解する。

 そこへ新たな人間が占拠された大統領執務室に入ってくる。

 

「最終スイッチは抑えたか」

 

「はっ、長官、こちらに」

 

「セドーン! なぜお前がここにいる!?」

 

 それは本日議会場にて陰謀を暴かれて捕らえられたセドーン長官だった。

 あの後衛兵に連れて行かれ、後日混乱が落ち着いた頃に事情聴取される予定で留置所に捕らえられているはずの人物だった。

 セドーンは衛兵からスイッチを受け取る。

 

「私に賛同する者がいると言っただろう。

 それは私の勤める環境庁だけでなく、別の管轄にも多くの賛同者がいる。

 治安維持局の賛同者が私を解放してくれた。

 地上人への天上人の嫌忌が根深いのは大統領もわかっていたことでしょう」

 

「まさかここまでとは……。 このような事をしてただで済むとお前たちは思っているのか!」

 

「誰も無事で済むとは思っていない。

 だが我々には地上を愚かな地上人から解放する使命があり、それを実行する覚悟がある。

 全てが終わったらおとなしく裁きを受け入れよう。

 だがまず地上人に裁きを下すのが先決だ!」

 

 地上人の事になった時、冷静に話していたセドーンは感情を顕わにする。

 

「ノア計画の洪水によって地上を全て洗い流し、地上人を完全に一掃する!」

 

「無駄だ! そのスイッチは議会の決定によって主要部署が管理するロックを解除せねば只の張りぼてに過ぎん」

 

「無論、私もそんなことは解っている。

 だからこそ『ピピーピピーッ』………そうか、よくやった」

 

 セドーンが話している最中に持っていた通信機が鳴り、すぐに回線を開いて応じ、簡単な受け答えをして通信を直ぐに切った。

 短い通話だったがセドーンの口元が吊り上がり、彼にとって良い知らせだったのが解る。

 

「今の知らせが何だったのかわかりますかな、大統領。

 ノア計画の全てのロックを解除した報告ですよ」

 

「何っ! まさかここ以外にも!?」

 

「ええ、私の賛同者がノア計画の鍵を持つ各庁に強襲して制圧した。

 最終スイッチを持っていても使えないのでは意味がないのでね」

 

「何時からこのような計画を……」

 

「……もともと強襲計画はだいぶ前からあったが、議会の決議でノア計画を決行に持っていければ必要のない予定だった。

 今日の決議によって万全の態勢でノア計画が始まる筈だったというのに、あの地上人が乗り込んできて全てが狂った!

 やはり地上人など目障りな害虫でしかない!」

 

 セドーンが議会に現れた地上人の話を始めた時、大統領もその存在を思い出す。

 

「そうだ、その地上人だ!

 奴はノア計画を実行すれば、報復攻撃を行うと言ってきている。

 このままノア計画を実行すれば天上世界を未曽有の危機に晒す事になるのだぞ!」

 

「天上世界は既に地上によって存亡の危機に立たされている。 地上人如きに恐れることなど何もない!

 攻撃してくるということは、ノア計画を実行に移さなくても何時攻撃してくるのかわからないという事だ。

 ならばどちらにせよ天上世界を守るために戦う事に変わりない!」

 

 何時攻撃してくるかわからないという事には一理あるが、考え方があまりにも地上に対して攻撃的過ぎる。

 大統領は解っていたことだが地上に対して攻撃的なセドーンが、今になって非常に危険な存在だと再認識した。

 既に各庁や大統領邸を制圧してる時点で、遅すぎた事だが…

 

 セドーンが最終スイッチのクリアカバーを外しスイッチに手を掛ける。

 

「これは天上世界と地球を守る聖戦なのだ!」

 

「やめろぉぉ――――!!」

 

「地上人よ、消え去れっ!」

 

 大統領の叫びも空しく、セドーンはノア計画実行の最終スイッチを押した。

 

『ビーーー! ビーーー! ビーーー!』

 

 それを契機に各通信機、および一般の為の広報機までサイレンが鳴りだし、ノア計画が実行されたことを各地に伝え始めた。

 ノア計画が実行されれば、世界各地に散らばる天上世界の州に情報が伝達されてサイレンが響き渡るのが決まっていた。

 正規の方法で実行された訳ではなかったが、予定されていた機能は正しく働き、ノア計画が始まった事を天上世界中に伝えられた。

 

 響き渡るサイレンに大統領は膝を着いて愕然とする。

 

「なんという事を……してしまったのだ」

 

「議会の決定に背くことになった事は残念だが、これは天上世界を守るために必要な事なのだ。

 全てが終わった後には、誰もが間違っていなかったと解るだろう」

 

「結果が全てという言葉は間違いではないと思うけど、過程を無視していいわけじゃないと思うよ」

 

『なっ!』

 

 この場にいる誰もがノア計画の始動で善し悪しの違いはあれど歴史の節目を迎えてしまったと認識した時、この場の雰囲気にそぐわない緊張感のない第三者の声が聞こえた。

 それは大統領とセドーンが共に衝撃を受けた今日の議会で聞いた侵入者、ハジメの声だった。

 声の発せられた場所を見れば、先ほどまで誰もいなかった場所にハジメが灰色の帽子(・・・・・)を持っていつの間にか立っていた。

 

「半日ぶりですね。

 まさかこんなに早く天上世界に戻ってくるとは思わなかったですよ」

 

「地上人!」

 

 ハジメへの返事は、周りの衛兵とセドーン自身も取り出した熱線銃の銃撃だった。

 当然安全対策に四次元若葉マークを着けているハジメには効かず、銃撃はすり抜けて後ろの壁に焼け跡を作った。

 

「本当に学習能力が無いですね。 半日前にも同じことして効かなかったというのに。

 それに一目見て”地上人!”と叫んで銃撃なんて、呆れを通り越して面白すぎる。

 地上人を嫌い過ぎて、”地上人!”と掛け声を掛けながら射撃の訓練でもしてんですか?

 それはそれで笑えますが引きますけどね」

 

 まるで一昔前の軍国主義のようだとハジメは思ったが、ハジメを見て頭に血が上ったセドーン達は効かなくてもなお銃撃を続けている。

 話も聞かず効かない攻撃を続けてくるセドーン達に、いい加減うっとおしくなってきたので【ショックガン】を取り出してセドーンを除く周りの衛兵全てを撃って気絶させた。

 ショックガンの銃撃も撃ち出した直後に若葉マークの効果が消えるので、通常空間にいる衛兵に有効だ。

 

「おのれ、地上人!」

 

「二言目にはそればかり。 正直地上人という括りで見ないでほしいんですが。

 例えば大統領、こういうのが天上人なのだという見方を地上人全体に認識されたいですか?」

 

 ハジメがセドーンを示しながら、衛兵が倒れた事で自由になった大統領に訊ねる。

 

「セドーンは地上に対し余りに過激的過ぎるので、私も同じ天上人としては恥ずかしい事だが一緒にはされたくない。

 いや、それよりなぜ君がここに?」

 

「こちらも天上人がどのような決定を下すか監視してたんですよ

 脅しをかけたとはいえ、ノア計画を実行する可能性も無くはないと思っていましたから。

 ですがまさか、こんな暴走する形でノア計画が実行に移されるとは思いませんでしたけど」

 

「……済まない」

 

「そうだ! ノア計画は実行され、地上の全てを洗い流す大豪雨は始まった!

 貴様ら地上人は全て水に洗い流され消え去れるのだ!」

 

 大統領はノア計画を自身の意思に関係なく実行されてしまった事への罪悪感から謝罪の言葉を漏らし、セドーンは衛兵が倒されたというのに自信満々でノア計画の成功を宣言している。

 

「議会場でも言ったけど僕はここに来れるだけの技術があるから、大洪水が起こっても余裕で逃げられる。

 ノア計画の影響を受けない僕を前にして、どうしてそこまで自信満々に言えるんだか。

 ああ、大統領も謝らなくていいですよ。

 天上人の総意という訳でもないようですし、こいつらの暴走も僕が煽った結果みたいなものです。

 それに僕はノア計画の実行を事前に止めるつもりは無くても、実行後に邪魔をしないとは言ってない」

 

「なに?」

 

「どういうことだ?」

 

 議会場で報復を恐れないならノア計画の実行を止める気はないとハジメが言ったのは本心だった。

 だが素直に大洪水で地上文明を滅ぼさせるつもりもハジメにはなかった。

 実行自体は邪魔しなくても、実行後の大豪雨を止めるすべを事前に用意して、実行に移されたらすぐさま妨害出来る様に備えていた。

 

「ノア計画の要についてもとっくに把握している。

 世界中の雲に仕掛けた気象制御装置を一斉に起動して、地上全てに集中豪雨を降らして洪水を起こす。

 気象制御装置の数は膨大だが、量を補うのは僕等の得意分野だ。

 ノア計画の実行と同時に、こちらも一斉に対処に回らせてもらった」

 

「なんだと! くっ!………おい、地上の様子はどうなっている?」

 

 セドーンが再び通信機を使い、地上の状況を把握出来る仲間に連絡を取る。

 

「……おい、……そんな、……くそがぁっ!」

 

 二三言会話を交わした後に、セドーンが激情に駆られたまま通信機を床に叩きつけた。

 

「この様子であれば僕等の対処は成功したようですね」

 

「なるほど、全て君達の掌の上という訳か」

 

 大統領もノア計画が事前にハジメに防がれたと解り、落胆と同時に安堵した様子を見せて肩を落とした。

 

「こんなバカな事があっていい訳があるか!

 ノア計画は我々の悲願。 天上人の未来を守るという大義の名の元に地球を汚す愚かな地上人を一掃するはずだったのだぞ!

 それを、それをぉぉ!!」

 

 激情に加え憎悪に駆られた声を発しながらセドーンはハジメをにらみつける。

 流石にハジメも強い憎しみの籠った感情をぶつけられて、安全が確保されていると解っていても少なからず慄くことになる。

 引く気は毛頭ないが、このように強い感情をぶつけられるような対人経験がハジメには少なかった為、動揺をしない訳にもいかなかった。

 つまり少々ビビったがそれくらいで逃げる気は起きないという事だ。

 

「…あんたがどれほど地上人に憎悪を募らせてるのか知らないけど、こっちは相応の準備をしていて既に詰んでいるんだよ。

 それに議会場で言っておいたけど、ノア計画を実行するなら報復を受ける覚悟をしておけって言ったよね」

 

「はっ! 待ってくれ、我々は!」

 

「舐めるな! 貴様が侵入したことで中央州は最大級の警戒態勢が敷かれておる!

 こそこそ入り込むことが出来たとしても、中央州を落すことなど出来る筈がない!」

 

「セドーーーンン!!!」

 

 大統領が釈明しようとした所を遮って、セドーンが遮って挑発するように中央州の防衛力を自信満々に宣言する。

 しかしそれはフラグというものであり、それが直感的に分かった大統領はもう碌な事にならないと悟って、余計な事ばかり言うセドーンの名を怒気を含みながら叫ぶしかなかった。

 

「それならその防衛力というものを見せてもらおう。

 用意しておいた戦力が無駄にならなくて済む。

 そこの窓から外を見てみろ」

 

 外を見てみろというのと同時に、モニタで見ているであろうコピー達に予定していた合図として指を鳴らす。

 指を鳴らしたのが合図だと解りながら、大統領とセドーンは壁面一杯に広がる窓ガラスから中央州の景色を見た。

 

 日が暮れて建物の明かりが広がる夜景が広がっているが、空には警戒で飛びまわっている天上人のUFOが数十と飛び回っている。

 平時であれば警戒のUFOが少ないのだろうが、セドーンが言ったように警戒の為に数を増やしているのだ。

 その上クーデターを起こした強硬派のせいでノア計画が強行されるわ指揮系統に混乱が出るわで事態は収まる気配を見せない。

 そこへ更にハジメ達は実質爆弾を投下しようとしていた。

 

 UFOが飛び回っている上空に突然数百メートルに及ぶ巨大な浮遊戦艦が出現したのだ。

 それに続いて同サイズの戦艦がどんどん出現し、一緒に数え切れないほどの空飛ぶ巨大人型ロボットが出現した。

 戦艦はどんどん出現し、更には戦艦から増援に巨大な物から人間サイズまでの人型ロボットが発進し中央州の空を埋め尽くしていく。

 瞬く間に中央州の空は、ロボット達のカメラアイの光と戦艦のライトに敷き詰められて、元々あったUFOの光がまるで見えなくなった。

 

『………』

 

「先ほど言ったけど、物量作戦は得意なんだ。 …けど、ちょっと多かったか」

 

 大統領とセドーンは余りの物量に呆然と口を開けて窓から空を見上げている。

 彼らだけでなく中央州にいる天上人達全てがその光景を目撃しており、皆が空を見上げてその数に黙り込むしかなかった。

 ハジメの配下の無人兵器達はまだ行動を起こしていないとはいえ、すぐさま民衆に暴動が起きなかったのが不思議なくらいだ。

 

 中央州の上空だけでなく周辺の空域にも超空間から戦艦とMSが現れており、警戒していた天上人のUFOとその旗艦は攻撃する間もなく包囲されて身動きが取れなくなっている。

 もし戦闘が始まれば直に乱戦になり味方同士で攻撃が当たるほどの密度で配置されてしまっているが、同時に中央州の全てが一瞬で砲火に飲み込まれるのは確実だった。

 この時点で誰の目にも勝敗が明らかになるほどの戦力差を見せつけられたが、あまりの戦力密度に流石に多すぎたかと光景を見ていたハジメも少し反省していた。

 

「とりあえずまともに話をするために、呼び出した戦力を使ってクーデターを起こした強硬派が抑えた要所を再制圧しようと思うんだけど、強硬派のリーダーと思しきあんたはどうする? 降伏する?」

 

「っ! 誰がするものか! たとえ中央州が滅びる事になろうと天上人が地上人に屈することなど「いい加減にしろセドーン!!」ブロォッ!」

 

 心中も覚悟の上と言わんばかりに抗おうとしたセドーンに、流石に堪忍袋の緒が切れた様子で大統領が問答無用の一撃を顔面に叩き込み殴り飛ばす。

 かなり本気で殴ったのかセドーンは一撃で昏倒し、大統領は荒げた息を落ち着かせるように肩をゆっくり上下させていた。

 そしてハジメに向き直ると深々と頭を下げて嘆願する。

 

「恥を承知で頼む! 天上世界を許してもらえないだろうか。 セドーンら強硬派の独断とそれを許してしまったとはいえ、地上を滅ぼそうとした行為は許されるものではないのはわかっている! だが天上世界の滅亡を素直に受け入れる訳にはいかないのだ! どうか私の首一つで許してもらえないだろうか!」

 

「………」

 

 深々と頭を下げながら頼み込んでくる大統領に、ハジメは少々困っていた。

 もともと本気で滅ぼす気はなく、セドーンら強硬派の独断でノア計画が実行されたのは知っていたので、それを理由に見逃すつもりでいた。

 だがハジメは軽く考えすぎていたようで、雲戻しガスに加えて前回のメカトピア戦争で使った戦力を出したことで少々脅しが過ぎてしまったらしい。

 

 なあなあで済ませるつもりはないが、大統領の首なんか貰っても何の得にもならない。

 大統領がいなくなったら天上世界の混乱も収まりきらないだろうし、余計に後始末が面倒になる気がするとハジメは顔を歪めながら思っていた。

 

「あー大統領。 ノア計画を実行したのは強硬派で天上世界の総意でない事は分かっています。

 ですので陸雲を溶かす雲戻しガスは使いませんが、そこら辺をはっきりさせる為にクーデターを起こした強硬派を抑えようと思って上の戦力を用意してきました。

 強硬派が占拠している要所についても調べがついているので、無人兵器でそこを再制圧してからそちらに引き渡しましょう」

 

「しかし、これは天上世界の問題ですので…」

 

「そうですけど、用意して出してしまった以上こっちも引っ込みがつかないんですよ。

 非殺傷の武装で抵抗する者のみを倒させますので、大統領の指示に従う者に抵抗せず攻撃しないように指示を出してくれませんか?

 上のロボットも攻撃してくる者に無抵抗でいろという訳にはいきませんので。

 強硬派を排除したら上の戦力も帰らせますので」

 

「わかりました! では早速…

 中央州全国民に告げます。 私は大統領の…」

 

 大統領の指示が終わると同時に、人間サイズのMSモビルソルジャーの非殺傷装備部隊が強硬派に制圧された各庁に降り立ち、抵抗する者=強硬派と考えて攻撃を開始した。

 全て無人兵器のロボットなので多少の攻撃をものともせず突き進み、建物にいる抵抗者すべてを改造ショックガンと改造近接武器【ショックスティック】で気絶させる事で犠牲者を出すことなく制圧していく。

 抵抗する者は多数いたが、一時間もしない内に強硬派に制圧されていた各庁は再制圧されて、後詰めに大統領から指示を出されて外で待機していた部隊に引き渡された。

 

 その後すぐに上空に待機していた無数の部隊と共に戦艦に収容されて、超空間に入る事で展開された全部隊はその場から姿を消した。

 それまでの間に上空でも強硬派や緊張に押しつぶされてUFOが攻撃してくることがあったが、数機掛かりで抑え込んだり、推進器をあっという間に破壊する事で無力化し、性能差を天上人の防衛部隊に知らしめることになった。

 

 無人兵器の部隊が帰ってからはハジメは大統領と少し話したが、前回と同じように好きにしろと極力関わりを持たないという意思を見せてから帰っていた。

 改めて言うが天上世界の問題は地上と直結しており、ハジメでも簡単に解決出来ない問題だ。

 つまり政治的な問題でありハジメの関わるとことではないのだが、ノア計画という地上に対する一方的な干渉だったから、ハジメも止める形で干渉した。

 

 だがもし政治的な交渉だったり、地上が天上世界を認識した上での戦争だったらハジメは全く干渉の余地はなかっただろう。

 交渉の場に中立の立場で立つことなどありえないし、戦争に加担しようにもどちらが一方的に悪いという場合などそうそうないし、仮に加担すればパワーバランスが崩れてより厄介なことになるだろう。

 ハジメの所属は日本なのだろうが、母国の為にひみつ道具乱用など碌な事になる気がしない。

 

 とにかくハジメにとって雲の王国の事件は力ずく以外に手段がなく、落としどころも微妙な結果にしかならない厄介な事件だった。

 さんざんケンカを売ってしまった手前ハジメは今後天上世界に関わる気はしないが、天上世界がノア計画を無くした後どうするかは分からない。

 天上人全てが宇宙へ移住してしまうのか、地上に自分達の存在を公開することで環境汚染をストップさせるのか、はたまたハジメ達が思いつかない方法でこれからも暮らしていくのか。

 

 全てがうまくいく良い結果を迎えるとはとても思えないが、自分勝手でもハジメは天上人により良い未来が訪れる事を願うしかなかった。

 

 

 

 

 




 自分でも納得のいく終わり方をしていないのですが、とりあえずこれで本編完結です。
 派生作品を書く予定ですが、それはまたの機会に


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おまけ:もしもボックスと魔法世界

続編の要素の予告編的なものです


 

 

 

 

 

 雲の王国事件を終えて、問題が起こりうる全ての事件は解決した。

 干渉しなかった事件は、原作ではのび太達自身が事件の原因だったり、この時間軸には存在しない時間犯罪者が原因だったりと、影響のない事件ばかりだ。

 そんな中で一つだけ手を出さなくても問題ないが興味のある事件を、実験の意味もあって雲の王国事件後に解決させた。

 

 

 

 魔界大冒険。

 原作でのび太が魔法があればいいのにという願いを、ドラえもんが【もしもボックス】を使って世界を科学の世界から魔法の世界に書き換えた。

 無論魔法の世界になったからといって何もかもがうまくいく訳でもなく、科学が魔法に置き換わってものび太が駄目であることに変わりなく、少しだけ魔法を頑張ってからもしもボックスで元の世界に戻そうとした。

 だがのび太のママにもしもボックスを捨てられてしまうという事態に元の世界に戻せなくなり、更に魔法の世界に危機が迫りのび太達が巻き込まれていくといういつもの展開で冒険が始まる。

 

 もしもボックスが魔法の世界の事件に関わる切欠だけあって、使わなければ何も問題は起こらないが、ストーリーの中で一部気になるシーンがあり、それを確かめるためにハジメも原作と同じように世界を魔法の世界に変えた。

 無論魔法の世界の危機も発生したが解決方法が雲の王国ほどややこしくなく、敵もはっきりしているので即座に解決させ、本来の目的の確認を始めた。

 

 その確認とは、のび太達がタイムマシンを使いもしもボックスを使った後の魔法の世界から、使う前の時間の科学の世界に戻った時の事だ。

 魔法世界の危機に立ち行かなくなり、過去に戻りもしもボックスの使用その物を止めようとタイムマシンを使ったのだ。

 使用を止めようとするわけだから当然使用前の科学の世界に時間移動した訳だが、敵の追手が過去まで着いてきてもしもボックスの使用を止めることは敵わなかった。

 その際にのび太が過去の科学の世界で、魔法の世界で使える様になった魔法を使う事に成功していた。

 

 つまりのび太は時間移動によって科学の世界に戻っても魔法が使えた訳だ。

 これはもしもボックスによって世界の法則が変わっただけでなく、世界を改変した際に使用者ののび太達も体質を書き換えられて、魔法が使用できる体になっていたと考えられる。

 そのお陰で過去の世界とはいえ科学がルールの世界に行っても、体質が魔法の世界のままだから魔法が使用出来た訳だ。

 

 つまりもしもボックスとタイムマシンを併用すれば、魔法の世界の体質を残したまま科学の世界に戻りそのまま魔法を使用出来る状態を維持出来るという事だ。

 それだけでなく、もしもボックスは”もしも”というどんな未確定の要素でも当て嵌めて世界を改編出来る訳だから、実質どんな可能性の世界にも変えられて、どんな可能性の要素をも自身に取り込むことが出来る。

 もしもボックスに願える、すなわち使用者が想像し得るあらゆる可能性の自分を形にする事の出来るという、破格の効果を実現出来るのだ。

 

 しかし魔法の世界にするだけで悪魔が襲来するという危機が起こったので、より強い力を使える世界にすれば、その反動で脅威の敵が現れる可能性があるから無暗に使えるという訳ではない。

 だが本来出来ない事が出来る様になるだけでも、すさまじい可能性がある。

 魔法の世界の魔法は科学が置き換わった物なので、日常生活における科学で出来る事が魔法になっただけなので、物語のように凄い魔法がそこら中にあるわけではなかった。

 それでも科学の世界で魔法の使える様になることに意味があると、実験を始めた。

 

 

 魔法の世界で可能な限りの資料を集め、魔法体質と一緒に科学の世界に持ち帰るためにコピー数人とタイムマシンで数分後の未来に送り出し、資料を持ったコピー達が時空間にいる間にもしもボックスで元の科学の世界に戻す。

 科学の世界に戻った後、数分前に送り出したコピーと資料は辿り着き、無事にもしもボックスの改編を受けずに魔法世界の資料と魔法の使えるままのコピー達が科学の世界に降り立った。

 

 そこから更にさまざまな実験をした。

 こちらの科学世界での魔法の使用だが、コピー数人では効率が悪いのでタマゴコピーミラーによる分裂と統合で魔法使用者を増やせないかの実験を行った。

 実験は成功し魔法の使用出来るコピーと使用出来ないコピーを統合しても、魔法が使用出来るままのコピーに統合出来た。

 検証が済むと一度全員をオリジナルに統合し再度コピーで増えれば、全員が魔法を使う資質を持ったままでいる事に成功した。

 

 魔法の実践はコピー達が手分けして学べば済むので、魔法その物とは関係なく魔法と科学の世界を切り替えるもしもボックスの特性を更に調査した。

 もしもボックスは世界自体を書き換える物だが、映画においてのび太達を助けに来たドラミちゃんが自分のもしもボックスで元の世界に戻そうとしたとき、のび太が魔法世界で起こっている事件がどうなるのか尋ねると、魔法世界と科学世界は別々となりパラレルワールドになると言っていた。

 これをどう解釈するかもしもボックスの機能が理解出来なければわからないが、もしもボックス使用終了後はそれぞれ別の世界に独立していると考えられた。

 元々別の世界でもしもボックスによって科学世界に魔法世界を上書きか使用者だけ入れ替えたのか、あるいは科学世界を魔法世界に書き換えて元に戻すときにパラレルワールドに派生させたのかという可能性が考えられたが、もしもボックスの機能が飛びぬけているので現在の技術では調査しきれそうにない。

 ただドラミちゃんの言葉が正しければ、科学の世界に戻っても魔法世界はパラレルワールドとして存在しており、存在しているのであれば何らかの方法で移動が可能かもしれないという事だ。

 

 平行世界への移動の可能性を目的に、科学の世界に戻した後に時空間の調査を行った。

 魔法世界に発信機を置いて、科学世界から発信機を見つけることが出来れば分離した魔法世界と科学世界を行き来出来るかと考えた。

 科学世界に戻す際に発信機も一緒に科学世界に戻る可能性を懸念して、もしもボックスから距離を置いた宇宙空間に発信機を置いてきたのだが、改変の際に科学世界の物と判断されたのか一緒に戻ってきてしまっていた。

 発信機によるもしもボックスを使わない科学世界から魔法世界への探索は失敗だった。

 

 そこでもう一つの手として、以前僕の所にやってきた昆虫人類のビタノ君達が使ったDNA追跡機による時空探査を行った。

 ひみつ道具にも似たような時空を超えて持ち主や出身地を探す方法がある。

 それで魔法世界の出身者であり、魔法世界の危機に映画でも関わった満月美夜子さんのDNAデータを貰って目印にさせてもらった。

 毛髪を貰って道標にしようと思ったが、物質では発信機と同じになるかもしれないのでデータだけを装置に記憶させることにした。

 今度は調査は成功して魔法世界を見つけ、時空間による科学世界と魔法世界の移動を可能にした。

 

 魔法世界ではあらゆる科学が魔法に置き換わっているので、宇宙空間に空気が無いという事が無く月にウサギがいたりなど迷信が真実になっているややこしい世界になっている。

 魔法世界の人物のDNAと言われても使えるのかどうかわからなかったが、ひみつ道具の性能を超えるほど魔法世界は出鱈目ではなかったらしい。

 行き来が可能になった魔法世界には、コピー達が手分けして学習している魔法の資料集めに時々向かうくらいだ。

 平行世界という時間移動や異世界とはまた別の特殊空間移動法が見つかった事の方が重要であり、今後も平行世界移動についての調査を進めていくつもりだ。

 

 

 

 

 

「”チンカラホイ”」

 

 気の抜けた呪文を唱えると、目の前に置かれた教本が浮かび上がる。

 コピー一同が集まり魔法世界の資料を読んで魔法の勉強をしている。

 こうして時々唱えて魔法を実践しているが、基本的に一般で使われる呪文は全て同じで効果はイメージ次第で別々という理論立ったものではない。

 一般で使われる魔法は殆どこの呪文で統一されており、高度な魔法はまた別の理論が必要らしい。

 

「簡単な魔法は全部この呪文というのは、解り易いというかアバウトと言うべきか…」

 

「アバウトだろう。 もともとドラえもんの映画で子供向けだし、世界観も迷信が現実になって月にウサギがいるくらいだ」

 

「だけどもうちょっと呪文にバリエーションがあってもいいんじゃないか?」

 

「高度な魔法になれば呪文も複雑になったり訓練が必要になるが、省略する事も出来るらしい」

 

「一般使用の魔法を試し終えたら、高位魔法について調べ始めるか」

 

 一般魔法は基本的に誰でも訓練すれば出来る物らしく、僕達もコピーが総出で訓練というほど練習しなくても時間を掛けずに一通り使う事が出来た。

 本命は高度な技術を必要とする美夜子さん達が使っていたような一般的でない高位魔法だが、正直何処まで習得に努めようか悩んでいた。

 

 魔法世界の魔法は科学が置き換わった物で、現代科学で出来る事の限界がこの魔法の限界という事になる。

 つまりひみつ道具に比べて大したことが出来る訳でなく、精々便利というレベルにしかならないのが魔法世界の魔法が限度だろう。

 敵の悪魔達が使った強い魔法もあるらしいが人間用の魔法でない以上、魔法世界の人間の体質を得ただけの僕では使えない筈だ。

 

「高位魔法もある程度修得したら切り上げよう。

 ひみつ道具でもないと出来ないような魔法があれば別だけど、魔法世界の技術にそこまで時間を掛けてもリターンが少ない。

 やっぱりもしもボックスの改造案を優先した方が良い」

 

「まあ現代科学を置き換えた魔法じゃ大して期待出来ないですからね、会長」

 

「もしもボックスの可能性こそ、僕等の新たな目的の第一歩に繋がる」

 

 今回魔法のある平行世界を生み出す、或いは繋げるに至ったもしもボックスには無限の可能性がある。

 ただ現代科学が置き換わっただけの魔法世界にするのではなく、ドラえもんとは別の物語が舞台の現代科学より飛びぬけた技術・異能のある世界にもしもボックスで変えれば得られる物が多い。

 元々の物語という事前知識も持っていられるし、その世界にもしもボックスの機能で行けばその世界特有の異能も得られるだろう。

 

 物語の世界といってもいろいろあり、地球に準ずる世界であればパラレルワールドの一種と見ることが出来るが、完全に地球と呼ばれない異世界が舞台の物語となれば流石に”もしも”の範囲から外れて、もしもボックスの機能が及ばないかもしれない。

 だからもしもボックスをベースに改良して、あらゆる物語の世界に行けるようにした新たなひみつ道具を製作予定だ。

 

 全ての事件が終わって何の懸念も無くなったからこそのひみつ道具の使用法であり、あらゆる世界で技術や技能を収集し、あらゆる世界を冒険したり遊んだりするのが僕の現在の目的だ。

 まずはどのような世界に行ってもある程度対応出来る個人の能力を得る為の修行が出来る世界に行くつもりだ。

 ひみつ道具は万能に近いが、僕自身は無敵ではないし不死でもない。

 そうなる事の出来るひみつ道具もないことはないが、僕自身が手も足も出ないというのは悔しいし修行して強くなるというのも憧れる物だ。

 

「いきなり新しい世界に旅に出るのも危ないから、まずは対応力を鍛えるために修行出来る世界に行こうと思うが、何処がいいと思う?」

 

「ドラゴンボールだな」

 

「ドラゴンボールだね」

 

「ドラゴンボールだろ」

 

「おおう、流石は僕……。 まったく意見が分かれない」

 

 前々から考えていたことだし、単純に身体能力を鍛える上ではドラゴンボールの世界が一番わかりやすく鍛えやすい。

 そこで十分鍛えてからなら、少し危険な世界に行ってもひみつ道具を使わずに大抵の身の危機を乗り越えられるだろう。

 今の僕はひみつ道具が無ければ、超能力を使えるくらいしか個人としての能力はない。

 これだけでも十分にすごいんだけどね。

 

 ドラゴンボールの世界はパワーインフレが激しく、一個人で惑星を破壊出来るほどのエネルギー波を放てたりするが、それだけで他の世界に通用すると思えるほど甘く考えてはいない。

 最強を目指すというのも憧れない事はないが、あらゆる物語の世界に行けるようにするという事は、同時あらゆる世界が存在する事を証明するようなものだ。

 あらゆる世界、つまり想像し得る物語の世界は無数に存在し、その中でドラえもんのひみつ道具やドラゴンボールの戦闘力など強力に見えても上には上があり、常識外れとも法則が吹っ飛んでいるとも言える、無茶苦茶な力が許容される世界などいくらでも存在している。

 そんな世界には当然とんでもない存在がキャラクターとして存在し、”あらゆる攻撃が効かない”、”どのような手段でも死なない”、”死んでも即復活する”、”世界の法則その物を書き換える”etc……など、僕の想像を超えた物語を書く人間が想像しうるトンデモ能力を持った存在が当然いる。

 万能に近いひみつ道具でもそんな世界に行って通用すると思うほど馬鹿ではないし、そんな世界に行きたいとも思わない。

 

 ひみつ道具の手に負えない世界に流石に行く気はないが、ひみつ道具が通用する世界でも今の僕は一般人に超能力が使えるだけで、油断すれば窮地に陥る事がある。

 そういうひみつ道具を使っている暇がない時の対処能力を、まずは得ようと考えているわけだ。

 

「まあ、前々から考えていた事だし意見が分かれないのは当然だけど、次の会議にでも他の訓練候補世界を考えよう」

 

「けどまずは世界移動するもしもボックス改(仮名)を作らないと」

 

「ハツメイカーと○×占いで検討して、完成まで一か月は掛かる計算になった」

 

「これまでに比べればかなり時間が掛かるけど、そんなとんでもマシン作るのに一か月掛からないとか、やっぱり技術チート」

 

「最近は理論が簡単なひみつ道具なら改造出来るようになってきたしな」

 

「【転ばし屋】とか【ショックガン】のような玩具とか武器紛いの物ばかりだけどな」

 

 ひみつ道具はもしもボックスの様な世界法則をひっくり返すようなとんでもなものもあるが、玩具みたいな便利道具の延長にあるようなものが圧倒的に多い。

 そういうものでも時々吹っ飛んだ性能の物もあるが、少しずつ技術を理解して簡単な改造がひみつ道具任せでなく自力で出来る様になってきていた。

 タイムマシンも宇宙船に機能を組み込んだりワープ機構を弄ったりしていたので仕組みに詳しくなり、自作PCのように手軽に組み立てる事も今は容易になった。

 

「今後、別の世界に行けばその世界の技術も収集する事になるだろうから、また忙しくなるぞ」

 

「いちいち人手不足の解消にタマゴコピーミラーで増えるのも面倒だから、NARUTOの影分身も覚えておきたい」

 

「同じ自分だけで話し合うのも意見が分かれないから、ドラ丸以外にも助手になる信用出来る助手的存在がほしい」

 

「了解。 その辺りも今後の議題について相談していこう」

 

 全ての事件の解決を節目に、僕と僕のコピーとドラ丸だけしかいないとはいえこの組織も一種の転換期を迎えている。

 今後様々な世界に探索に出るために、コピーだけで運営する方式を変えてもいい時期だろう。

 そうやって今後の相談をしながら、とりあえずは目の前にため込んだ魔法の資料を一通り目を通し切る事にしよう。

 終わったら実践を他のコピーに任せて、僕はもしもボックスの改良準備に移る事にする。

 

 そう考えて残りの資料に目を通していた時、ドラ丸が資料室に客を連れてやってきた。

 

「殿、美夜子殿が参られたでござるよ」

 

「こんにちわぁ、ってハジメさんがホントにたくさん!」

 

 魔法世界の満月美夜子さんだ。

 実験による時空間を超えた世界移動が可能になった事で、試しに現在この場所と美夜子さんのいる魔法世界を一時的に繋ぐ空間接続装置を開発した。

 仕組みは外観がどこでもドアで、タイムホールのように時空を超えて繋がることが出来、更に出入り口で一対の道具にすることで汎用性を失う代わりに遠い世界であっても時間の流れを同調させて自由に行き来出来るようにした。

 平行世界に繋ぐことに成功したので魔法世界に行く理由はもう余り無いのだが、協力してくれた美夜子さんが科学の世界に興味があったので、お礼にと接続を維持する実験を兼ねて継続する事にした。

 

 彼女との交流の始まりは当然事件が切欠で、彼女の家に悪魔が襲撃したところをMS軍団で助けに入り面識を持った。

 そこで彼女たちが持っている物語の重要ファクターである魔界歴程の解読に【翻訳こんにゃく】を渡して、悪魔の倒し方を教えてさっさと事件を解決させた。

 その際に自分が科学の世界からやってきたことを伝え、世界が違うから短い付き合いだろうとコピーも見せていたので、その存在も知っている。

 二つの世界間の時空間移動実験で協力してもらい付き合いが長くなるとはその時は思っておらず、空間の接続が成功した際に科学の世界を案内する約束をすることになった。

 世界同士を何時まで繋げているかは彼女次第だろう。

 

「会長、案内する約束だったんだろ」

 

「こっちは続けておくので行ってくれ」

 

「わかった、後は任せる」

 

 コピー達の後押しに残りは任せ、資料の確認を切り上げて出入り口で待っている美夜子さんの元に向かう。

 

「ドラ丸、お迎えご苦労。 美夜子さんの案内は引き継ぐから、資料の整理を手伝っておいて」

 

「承知でござる」

 

「それじゃあ美夜子さん。 これから科学の世界の方に案内します」

 

 ドラ丸は入れ替わり資料室に入り、僕は美夜子さんを連れて施設内のどこでもドアタイプの空間移動装置がある部屋に向かう。

 美夜子さんには二度手間になるが、魔法の世界に繋がるドアもそこにある。

 

 僕は先導しながら廊下を歩き、彼女は窓から見える外の景色を見ながら後ろについてきていた。

 

「前にあった時は数人だったけど、さっきの部屋には何十人もあなたのコピーがいたわね。

 あんなに沢山いてケンカになったりはしないの?」

 

「確かに同じ自分がケンカを始めれば大変なことになるのは予想出来ますが、同じ記憶を持っていますから全員ケンカを控えるように意識してますし、細かいルールを決めてそうならない様に気をつけています。

 元々人手不足を解消する目的でコピーを作ったんですが、学習の際に身体が複数あれば効率も上がって、後で統合した時に記憶も統合出来るから便利なんですよ」

 

「正に体がたくさんあれば便利ってことなのね。

 初めてみた時は禁忌のホムンクルスかと思ったけど、分裂して統合出来るなんて科学はすごいのね」

 

「いえ、僕等が特殊なだけで科学の世界は文化レベル的には魔法の世界とそう変わりませんよ」

 

「そうなの?」

 

「ええ、僕等と貴方達の世界は科学と魔法が置き換わっているだけですから」

 

 ひみつ道具を現代科学の基準にされてはかなわない。

 彼女の言った禁忌のホムンクルスとは魔法世界の錬金術の技術の事で、この世界のクローン技術に当たるものらしい。

 現代社会では人間のクローンなど実際には聞かないが、当然非人道的な物なので禁止されて当たり前の物だ。

 その考えは魔法世界の錬金術のホムンクルスという形で、非人道的なものと考えられているらしい。

 

「ところでこの世界が科学の世界なの?

 外の景色を見ると緑ばっかりで建物が見当たらないから、科学って感じがしないのよ」

 

「そんなに科学の世界に期待を持たないでくださいよ。

 科学の世界と魔法の世界は元々平行世界だから、技術が違うだけで見た目的にはそんなに変わりません。

 此処はバードピアという最近僕等が越してきた拠点で、科学の世界に隣接する異世界です」

 

「え、ここってまた別の異世界なの?」

 

 雲の王国事件が終わり、僕等は鏡面世界に置いていた拠点を映画翼の勇者たちの舞台となったバードピアに移転させた。

 翼の勇者たちは映画では未来の鳥類学者が時空間で遭難し、辿り着いた異世界で鳥たちを鳥人に進化させて作った世界がバードピアと呼ばれていた。

 バードピアは本来の世界と隣接する異世界で、渡り鳥達だけが認識出来るバードウェイという超空間の穴を抜けた先に存在している。

 時空間についてはいろいろ研究しており、とうの昔にバードウェイを使わずにタイムマシンの類を使って辿り着けるようになっている。

 

 この世界では未来人が存在しないので鳥類学者も来ておらず、渡り鳥達だけが辿り着けるだけの普通の鳥たちの楽園だ。

 ただし映画でも大暴れしたフェニキアと呼ばれるドラゴンみたいな生物も生息していたが、【桃太郎印のきびだんご】でおとなしくさせているので問題ない。

 映画ではなぜきびだんごを使わなかったのかが謎だ。

 

「うん。 前は科学の世界の鏡面世界に拠点を置いていたんだけど、必要が無くなって維持する理由もないからこっちに本拠地を移転させたんだ。

 科学の世界にもまだ秘密の拠点をいくつかおいているけど、あっちの世界ではやることもほとんどなくなったから研究なんかはここで続けているんだ」

 

「科学の世界の鏡面世界って鏡の中の世界ってこと?」

 

「そうなるね」

 

「科学の世界に鏡面世界に隣接するバードピアに魔法世界…。

 一体いくつの世界があるの?」

 

「数えてもしょうがないよ。 探し出したら世界なんて無限にある。

 自分達の世界の宇宙の果てだってそうそう把握しきれないのに、未知の場所が多すぎるよ」

 

 世界をいくつも紹介したせいで美夜子さんが混乱している。

 今言ったとおり、隣接する世界に関わりのまるでない異世界に平行世界と、分類に違いはあるが世界というものは超空間を隔てて無数にあるのは、時空間を調査した時点ではっきりわかっている。

 認識の仕方次第で世界を隔てる壁も無数に存在し、その先にそれぞれ別の分類に分けられる世界が広がっている。

 自身の世界に広がる宇宙だって把握しきれないというのだから、人間のちっぽけさが改めて解るというものだ。

 

 鏡面世界からバードピアへの移転は前々から考えていたことで、どちらが表の世界に近いかという問題で、事件が終わるまで鏡面世界を拠点に置いていた。

 バードピアは超空間に関する知識が深まった現在では鏡面世界を出入りするのと大差ない手間で済むが、以前では移動にいろいろ手間が掛かっていて、【逆世界入り込みオイル】で大きな出入り口が作れる鏡面世界の方が移動しやすかった。

 しかも鏡面世界は生き物がいないことを除けば表世界と真逆の世界で、入り込んだ人間が鏡面世界を弄っても表世界に影響が出ないので誰にも文句を言われずに拠点を作ることが出来た。

 

 だが維持をするのに定期的に人間が入らないといけないという欠点があった。

 本来鏡の中は表の世界と左右対称でなければおかしく、それ故に一定期間鏡面世界に誰も入らず変化が起きない状態が続くと、表世界の左右対称の形に戻りだして変化していた物や異物が消えてしまうという維持についての問題があったのだ。

 

 誰かが常に中に居ればいいという些細な問題なのだが、全ての事件が解決したのを契機に、維持を気にする必要のない誰もいないバードピアに拠点を移住させる事にした。

 表世界への移動も現時点での超空間移動技術なら容易なので、鏡面世界に建てていた建物ごとバードピアに移住し、そこの生活環境を整えながら時折表世界の様子を確認したりして暮らしている。

 表世界への移動装置も魔法世界への移動装置と一緒に空間移動装置を纏めた部屋に置かれている。

 そこから空間移動を経て表世界の科学世界に美夜子さんを案内しに行くのだ。

 

「今回案内するのは科学世界なんで、別の世界の事なんて気にしなくていいですよ。

 バードピアは今はたくさんの鳥がいるだけの世界で、鏡面世界は鏡に映った真逆なだけの世界ですから」

 

「仮にも別の世界を”だけ”って言葉で終わらせてはいけないと思うわ?」

 

「今後はもっと異世界の探求を進めていくので、いちいち近くの世界に気を取られていてもしょうがないんですよ」

 

 何せこれまで昆虫世界やらロボットが人間と共存する世界など、奇妙な世界の存在をいくつも肌で感じている。

 今後の研究目的は更に別の世界を求める事なのだから、僕にとって異世界とは今更なのだ。

 

「ふーん、よくわからないけど、科学の世界から来たんだもの。 不思議な事があっても可笑しくないわね」

 

「何度も言うけど、僕が特殊なだけですからね。 科学の世界だからってなんでもありという訳じゃありません」

 

「どちらでもいいわ、私にとって科学の世界は未知の世界だもの。 いろいろ堪能してみたいわ。

 やっぱり自動車はあるの? 雷を操って使う事の出来る電化製品にも興味あるわ。

 それに銃っていう武器もあるんでしょ、撃ってみたいわ」

 

 魔法世界から見た科学世界の知識はあながち間違っていないようだが、美夜子さんの期待感を見る限り少なからず幻想を持っているように感じる。

 実物を見て落胆しないといいんだが…

 

「今美夜子さんの言ったものは全てありますけど、自動車に乗るには免許が要ります」

 

「免許か~、魔法の絨毯の免許じゃダメかしら?」

 

「ダメに決まっています。 それに銃は日本では銃刀法がありますから使えませんよ」

 

「銃刀法? 私の世界の攻撃魔法杖の事かしら?」

 

 科学と魔法が置き換わっているので、それらに関わる事全てが置き換わる形で何かしらの類似性を見せているのが面白い。

 美夜子さんの科学世界観光は、似たような物でも科学と魔法の違いから面白さを見出しそこそこ楽しいものとなった。

 

 

 

 

 




 美夜子さんの繋がりが出来たけど、続編で登場するか未定。

 おまけもこれだけで、残念ながらこのお話はここで完結です。
 新しい作品はこの話の続編としてまた別に投稿しますので、少々お待ちください。
 連続更新出来る様に一区切りできるところまで書き上げたら投稿します。

 ご拝読ありがとうございました


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鉄人兵団
真・鉄人兵団1


不退転の投稿開始
まるで書き溜めしてないので、自分を追い詰めるつもりで自身をせかします。
何とか書き上げるぞー


 

 

 

 

 

「人類奴隷化計画は賛成多数により可決されました」

 

―パチパチパチパチパチ―

 

 惑星メカトピア首都メカポリス中央評議会。

 その議会でこれまで協議されてきた人類奴隷化計画が賛成多数により可決され、それを受け入れる議員の拍手が巻き起こった。

 

―バンッ!―

 

―………―

 

 そんな中で机を激しく叩く音が響き渡り、拍手がやんで注目が音を鳴らした議員に集中する。

 

「アシミー議員、何か異論があるのですか」

 

「…異論はない。 議会のルールに則って正式に決まった決議だ。

 今更私一人がどうこう言う権利はない」

 

 異論はないと言っているが、体を震わせて耐える様子から不満しかないのがありありと伝わってくる。

 

「だがこれだけは言わせてもらおう。

 人間を新たに奴隷にするなど、先の大戦前と変わらぬ同じことの繰り返しではないか」

 

「だがアシミー議員。 すべての地金奴隷が解放されたことでメカトピアは労働力不足になっている。

 その労働力を補うために新たな奴隷が必要なのだ」

 

「そんなことはわかっている! 問題は奴隷を雇用するのでは我々はまるで進歩していないではないか!?

 それではいずれ新たな解放戦争をいずれ迎える事になる」

 

「ロボットと人間は別物だ。 我々ロボットは神によって宇宙を支配するべく作られた崇高な種族なのだよ。

 人間と同じだなどとアシミー議員は神の教えを否定する気かね」

 

「…神の教えに背く気はない。 人間を奴隷にしようという今の我々の考え方そのものが問題なのだ。

 先の戦争で奴隷の在りようを否定したのに、結局新たな奴隷を求めている。

 我等は先の大戦で何を学んだのか。 メカトピア人として本当に進歩したのだろうか」

 

「我等は地金奴隷を開放し、共和制という新たな社会を迎えたではないか。

 こうして議会という場で対等に話し合い、メカトピアの新たな未来を決めている。

 それの何が不満なのだというのか」

 

「…議会にて多数の賛同を得た結果に文句を言っている私が間違っているのだ。

 だが心に留めておいてほしい。 人間を力をもって支配し奴隷にすることは、これまでのメカトピアと変わらないのではないかと。

 力による支配の反発が先の大戦を引き起こしたのだという事を忘れないでほしい」

 

 そう言い残すと、アシミーは席を立ち議会場を出ていく。

 残された議員たちはアシミーの言葉に幾人か考え込む様子を見せるが、多くの者がその考えに反発的だった。

 

「アシミー議員にも困ったものだ」

 

「さよう。 先の大戦の英雄と呼ばれようとも政治の世界には疎い様だ」

 

「労働力の確保は急務。 嘗ての様に地金を無賃金で雇用する訳にもいかない以上、給与の必要のない使い勝手の良い労働力は必要不可欠なのだ」

 

「反乱が起ころうとも所詮は非力な人間。 しっかり管理していれば問題あるまい」

 

 アシミーの考えを理解しようとするものは少なく、メカトピア政府は人間を奴隷にするべく目標である地球への侵攻計画が進められることになった。

 

 

 

「今戻りました、シルビア様」

 

「お帰りなさい、アシミー。 議会の方はどうでしたか」

 

 アシミーが議会から出て訪れたのは、銀と白の装飾の清楚な女性型ロボットの元だった。

 

「ダメでした。 人類奴隷化計画は可決され、近いうちに奴隷徴収部隊が地球へ派遣されるでしょう」

 

「そうですか、悲しい事です。

 ようやくメカトピアの民が束縛の悲しみから解放されたというのに、再び奴隷とされる者たちが生まれるとは」

 

「シルビア様は慈悲深い。 メカトピアのロボットではなく人間にまで奴隷とされることに悲しまれるとは。

 流石聖女様ですな」

 

「よしてください。 戦争も終わり表舞台から身を引いた私は隠居したタダのおばあさんですよ」

 

「ですがこうして私に話を聞き、新たな奴隷として人間の徴用を気にしておられるようですが」

 

「…そうですね。 もう役目を果たした私は何もするべきではないのでしょう」

 

 聖女と呼ばれたシルビアは先の大戦で旗印となって戦い、その後の共和制成立にも大きく貢献し、議会結成時には議席も持っていたが、政府の情勢が安定したのを機に隠居した。

 

「しかし人間とて隷属を容易に受け入れるとは思えません」

 

「ですがこれまでの地球の観測データから、その兵力は我々と大きな開きがあるとのことです。

 戦端が開かれれば一気に地球人の戦力を壊滅させられるとシミュレーションで出ています」

 

「しかし奴隷となってこの地の労働力になる以上、火種は残り続けるでしょう。

 それがいずれ新たな戦火を呼ぶのだとするなら、やはりその選択は間違いなのではないでしょうか」

 

「はい、私もそう思います」

 

 

 

 

 

 ところ変わって、ここは地球の鏡面世界。

 中野ハジメとそのコピー達、ドラ丸が映画ドラえもんの事件に対処するために作られた秘密基地。

 

「以上が、スパイ衛星とタイムテレビから観測したメカトピア政府の地球侵攻の会議の様子だ」

 

「侵略派が圧倒的多数だったが、反対派もちゃんといたんだな」

 

「逆に全員が侵略派で人間を侮って攻撃してきたら、真正面から返り討ちにして遠慮なく壊滅させられたんだけどな」

 

「ロボットたち、いやメカトピア人の中にも平和主義者はいるってことだ」

 

「映画でもリルルがのび太達に共感して味方になるくらいに、彼らは人間らしい感情で行動している」

 

「人間らし過ぎて戦争を仕掛けるくらいだしね」

 

「そこがまた厄介だ」

 

 コピー達がメカトピアの様子を見てから思い思いにその心境を話す。

 大まかな要素として、メカトピアのロボットたちは人間らしいロジックで行動しており、そこには確かな善と悪の概念も存在しているという事だ。

 正しいことも間違ったことも理解があるが、メカトピアのロボットたちはメカトピア人としての価値観で行動し、地球の人間たちに対し自分たちの利益のために行動を起こそうとしている。

 これが完全な身勝手な悪だったならさっさと滅ぼしてしまうところだが、対話の余地があるのがハジメ達には扱いに困るところだ。

 

 意見を纏めようとオリジナルのハジメがまとめ役として発言する。

 

「ともかくメカトピアに対する方針を纏めよう。

 侵攻してくる彼らの軍勢に対しては、反抗するのは絶対条件だ。

 そしてそれを表世界の地球の人間に知られてはいけない」

 

「ドラえもんたちは侵攻してきたロボットたちを誘導して、湖から鏡面世界に誘い込んで迎撃したから表世界に影響が出なかったが、そんなのうまくいくと思うか?」

 

「無理だろう。 同じ方法で誘い込む事は出来るかもしれないが、地表の湖にロボットたちが突入するとなるとたくさんの流星が湖に飛び込むという事になる。

 表世界には当然目撃されるだろうし、侵攻部隊を鏡面世界で迎撃できたとしてもメカトピア本国をどうにかしないと何も解決しない」

 

「タイムマシンによるメカトピアの歴史改変は使いたくないからな」

 

「映画では地球に侵攻した鉄人兵団をどうにかする手段があれしかなかったとはいえ、完全に掟破りの手段だからな」

 

 以上の理由から原作の事件の解決方法と同じ手段をハジメ達は使いたくはなかった。

 本当にどうしようもなくなったら使わざるを得ないだろうが、ハジメ達はそれを最終手段としたかった。

 

「となるとやはり力による迎撃となるが、兵力の方はどうなっている。 作戦部長」

 

「兵力は既に十分取り揃えて、いつでも出撃できる状態にある。

 各タイプのモビルソルジャー部隊、およびその指揮官機も軍事演習を終えて万全の態勢にある」

 

「ガンダムのモビルスーツを白兵戦兵としたモビルソルジャー部隊。

 実際の戦争だというのに不謹慎だが、その活躍にワクワクするな」

 

「だがおそらく一方的な殲滅戦になるぞ。 わが軍の戦力は圧倒的だからな」

 

「あー、そのセリフ僕が言いたかったな」

 

「早い者勝ちだ」

 

 自らが作り出した戦力の活躍の期待に、次第に話がそれ始めるハジメ達。

 

「静粛に。 話を本題に戻すぞ。

 改めて確認するがメカトピア軍鉄人兵団の地球侵攻の目的だ。

 奴らの目的は人類を奴隷として、自分たちの新たな労働力として母星に連れかえることだ」

 

「人間を奴隷というのは当然受け入れられないが、労働力としてロボットたちの社会で人間が役に立つのか?」

 

「地球の奴隷のイメージだと肉体労働が基本だが、ロボットの国では人間の腕力はあまりに非力だろう」

 

「そうだとしたら余りにも効率が悪すぎる。 機械文明なのだし情報処理関係の仕事をやらせる可能性もあるか?」

 

「そうなるとまず言語を地球人に覚えさせないといけないから、やはり有用とは言えないと思うが…」

 

「ありえないと思うが事務処理をさせられる奴隷か。 ずいぶん近代的な奴隷になるな」

 

「社畜奴隷的な感じか」

 

「「「………」」」

 

「…笑えないぞ」

 

「メカトピア社会はブラックそうだな」

 

「まあ、それを阻止するのが僕たちの目的だ。

 その労働力を得ようという理由が、現在のメカトピア社会の制度にある」

 

 メカトピアは現在共和制の民主主義の社会を迎えているが、十数年前までは内乱状態で奴隷制度の解放戦争が行われていた。

 奴隷解放戦争の開幕は百年も昔に遡り、民主派と王政派の長い戦いが繰り広げられていた。

 その戦いの末に民主派が勝利し奴隷が解放されたことで安上がりな労働力が社会から消える事になり、新たな労働力として異星の人間を標的に選んだのだ。

 

「理解はしたが地球にとってははた迷惑な話だ。

 ロボットたちが民主主義を始めたのはわかったが、労働専門のロボットを作るという考えは奴らになかったのか?」

 

「どうやら彼らには自分たちと同じロボットを生み出すという行為に、特別視する風習というかルールのようなものがあるらしい。

 その制約によって意思を持たない労働の為だけのロボットを作るという行為が許されないらしい」

 

「なのに奴隷は少し前までよかったというのは、ずいぶん人間らしい理屈だな」

 

「メカトピアの社会も良くも悪くも地球の人間に似た文化が広がっている」

 

「奴らにとって意思のないロボットは、人間のクローンとか従うだけの肉人形のように見えるんじゃないか」

 

「なるほど、そう考えると意思のないロボットを忌避するのもわからなくはないな」

 

 集めたメカトピアの情報から敵の文化や価値観について推移するハジメ達。

 

「いずれにせよ開戦するまでにもっと情報を集めないといけないな。

 まもなく先遣隊が到着する。 追跡は出来ているな」

 

「問題ない、地球に到着したらすぐ確保出来るように準備してある」

 

「じゃあ、後はリルルとザンダクロスことジュドが来てからだな」

 

 

 

 

 

 




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真・鉄人兵団2

たくさんの感想ありがとうございました。
執筆のとても良い励みになりました。
また、誤字報告をしてくださった方々もしっかりミスを発見するほど見ていただき感謝の限りです。
今回も誤字の確認に手をかけれなかったので、ミスが多いかもしれませんがご容赦ください。
文字数も短めになりますが、書き上がったら順次投稿していこうと思うのでよろしくお願いします。


またこの映画『鉄人兵団』は旧作を題材にしており、新作の設定は一切考慮しておらず、未設定のところを独自解釈でストーリーを構成しています。
無駄な設定が多くなるかもしれませんがよろしくお願いします。

ですのでピッポなんて存在しません。 犠牲になったミクロスなんてもっと存在しません。




 

 

 

 

 

 俺の名はジュド。

 鍍金族の超大型工作用ロボットだが、かつては地金族の奴隷として金族銀族にこき使われ虐げられていた。

 金族銀族は俺達の星の王族貴族ロボットであり、鍍金族で平民地金族は生まれながらの奴隷としての宿業を背負わされていた。

 それが変わったのがメカトピアで百年前に始まった奴隷解放戦争だ。

 

 多くの地金族と鍍金族、そして一部の銀族が奴隷解放運動を始めたことがきっかけに火種は拡大。

 共和派と王政派に分かれて長きに渡る戦争が起こり、最終的に共和派が勝つ事で俺達奴隷は自由を手にした。

 

 戦争で俺も共和派として王政派の軍と幾度も戦い、多くの戦果を上げつつも最後まで生き残ることが出来た。

 戦争初期から多くの同族と共に戦場に立ったが、最初から最後まで残った知り合いは一人もいなかった。

 生き残りつつ戦果をいくつも上げた俺は、嘗ての地金族の間では英雄視されている話も耳にしている。

 だがそれも狭い界隈の話で、解放戦争の英雄と呼ばれている奴らは別にいる。

 大将軍アシミーと聖女シルビアだ。

 

 奴らは元から銀族出身の貴族階級で、戦前から共和制を推し進め共和派の軍を勝利に導いたと言われる鍍金族地金族の希望の星だった。

 戦後聖女シルビアは一線を退いたが大将軍アシミーは評議会議員として活躍しており、鍍金族元地金族限らず平民たちの人気が高い。

 彼らこそ正しくメカトピアの英雄と多くのロボットに認められているが、俺は奴らを認めてはいなかった。

 

 奴らは確かに地金族を奴隷から解放するのに導いたが、戦争で戦ったのは兵である俺達であり奴らじゃない。

 大将軍アシミーも前線で戦い多くの戦果を上げているのを戦場で目撃しているが、俺だってそれに負けないほどの戦果を十分挙げてきた。

 もっと評価され元地金族の英雄として奴らを同じくらいに歴史に名を連ねてもおかしくはない筈だ。

 このままじゃ終われない。 そう思っていたが戦争を終えて久しく、評価されることなく元地金族達からも俺の名が忘れられ始めるくらいだ。

 

 平和な時代を迎えたメカトピアに新たに名を上げるような場所も無く燻っていたが、新たなチャンスが巡ってきた。

 人間を新たな労働力として奴隷とするために遠い星に侵略に行くという話が上がり、そのための新たな徴兵をすると政令が出て俺はすぐに参加した。

 その中で俺は一刻も早く戦果を上げるために先遣隊に志願し、更に試験運用段階だという工作用超大型ボディへの電子頭脳の換装術を受ける事にした。

 超大型ボディへの換装は電子頭脳への負荷が大きくまだ十全ではなかったらしいが、侵略目的を兼ねたテスト運用でタダで受けられたため、強くなるチャンスを逃すまいと賭けに出て無事に成功しより強靭な体を手にした。

 

 そして同じく諜報員として情報を集めるために人間の姿に改造したリルルという女と顔を合わせて、人間が住む星地球へ向かうことになった。

 単独ワープでは今の俺の体だと不可能だとかでせっかくのボディーをバラされて、向こうで再度組み立てられなければならない事になったが構わない。

 俺は英雄と呼ばれ議員になっているアシミーやシルビアなんかよりもっと大きな名声を手にし、元地金族初の評議員になって見せる。

 そこまでいけば今のメカトピア政府のトップの座、評議会長になることだって夢ではないはずだ。

 その為にも必ず、この戦争で大きな戦果を上げて見せる。

 

 

 

 

 

「以上が北極に到着したボーリングの玉みたいなザンダクロスと呼ばれるはずだったジュドの頭脳から引き出した独白だ。

 自身のボディパーツを全てワープアウトしたのを確認してからそれらを全て回収し、頭脳からメカトピアに関する情報を全て引き出している。

 電子頭脳に干渉すると自壊するような機能もあったが、それも無効化して問題なく情報を引き出して今も精査している」

 

「ジュドがどういう生き方をしてきたか解ったが、鍍金族とか地金族ってのは何だ?

 金族銀族っていうのから何となく予想は付くが」

 

「メカトピアのカースト制度のような物みたいだな。

 金族がメカトピアのロボットの始祖アムとイムの直系の子孫に当たる、いわば王族で金色のボディーを持つことが唯一許されるらしい」

 

「いやまて、ちょっと質問。 ロボットなのに子孫とかあるの?」

 

 おかしな疑問にハジメの一人が話を中断するように手を上げて質問する。

 

「その理由は後に回して先に他の身分について説明するぞ。

 金族に続いて銀族だが、名前からわかるように銀のボディカラーを持つことが許される身分で貴族に当たり金族より多くいる。

 系譜としては王族の分家だったり過去に功績を残した平民階級から成りあがった者たちの子孫だね。

 それで次は鍍金族で平民の階級。 こっちは金銀以外の色で体を塗装する事が許される階級らしい

 そして地金族だが何となく予想がつく通り奴隷階級で、ボディに色を塗る事すら許されない素の金属ボディの色で、地金族同士の子供は生まれながらに奴隷として扱われ続けるらしい」

 

「確か今は解放戦争で奴隷階級はなくなったんだよな」

 

「奴隷だった地金族は塗装が許されて今は元地金族、鍍金族として平民の扱いになっているらしい。

 更に金族銀族も一族としては形が残っているものも多いが、一応同じ平民として扱われているらしい。

 それでも金族と一部の銀族は一定以上の権限と資産を持っているから、社会的に高い立場を持っていることが多いのだとか」

 

「ふーん、それでロボットなのになんで一族とか子孫という概念が成り立つんだ?」

 

 階級制度の説明がひと段落し、先ほどの質問をぶり返す。

 

「それなんだが、メカトピアのロボットたちは面白い社会性というかシステムで、同胞を作り出しているみたいだ」

 

 メカトピアのロボットたちの仕組みについてまとめた情報が提示される。

 

 メカトピアの神と呼ばれる科学者が作った最初のロボットアムとイムは人間に似せた男性型女性型であり、人の生態に似せた制約が決められていた。

 人間の男と女のようにメカトピアのロボットは男性型と女性型が揃わなければ同胞のロボットを作ってはいけないという制約だ。

 女性型のみが新たなロボットの電子頭脳の本体を作成でき、男性型のみが新たに作られた電子頭脳にシステムを入力し起動する事が許される。

 まさに人間のように父親母親として子供を作る工程がロボット式に再現されている。

 

 また新たに作成されたロボットと言えども子供の成長を再現する制約から、事前に特定の情報をインプットしておくような事は出来ず、初期状態の人工知能としてまっさらな状態から学習を開始して情報を蓄えていく。

 電子頭脳なので一度覚えたことはデータが消失しない限り忘れる事はないが、学習工程は人間と同じように知覚で習得していく。

 ロボットなのに生まれる前以外は情報を直接読み込むことが出来ない制約になっているらしい。

 

「なかなか面白い生態というかメカトピアのロボットたちのルールだな」

 

「ほかにもまだまだ神がロボットたちに決めた制約はたくさんあるが、どれもロボットたちが人間のように、あるいは生き物に似せて活動するように仕向けたものばかりだ。

 神は人間に愛想をつかしてロボットの楽園を作ろうとしたらしいが、そのロボットたちには人間らしい生き方を求めたみたいだ」

 

「矛盾しているみたいだが、何となくわかるな。

 誠実で従順な嘘をつかないロボットは確かに信用できるが、生きている者の温かみというか心を感じることが出来ない。

 常に正しく行動し、それでいて温かい心を持ったロボットを作りたかったんじゃないか」

 

「神はメカトピアのロボットたちに理想の人間像を求めたんだろうな」

 

 ハジメ達は神と呼ばれることになった科学者の心が何となく理解できた。

 自分達も今ではロボットを作る人間になっており、作るのであれば完璧でありたいと思うのが当然だ。

 ならば理想の世界に住むロボットには、人間のように過ちを犯す事のない正しく優しい存在になってほしかったのだろうと。

 

「だが正しいロボットに理想の人間を求めたことが矛盾だったんだろうな」

 

「人間の心の在りようは一見法則性はあれど矛盾だらけ。

 それを正しくあろうとするロボットに再現させたことで、正しく人間の歴史によく似た社会様式となってしまったわけだ」

 

「その果てが鉄人兵団の人類奴隷化計画。

 まあ地球を守る事に変わりはないけど、人の心を持ったロボットたちの侵略となるとやりにくいよね」

 

「ロボットでも心があるなら道具と僕らは断じれないからね」

 

 心を持ったロボットの代表であるドラえもん型ロボットのドラ丸に視線が集まる。

 

「む、確かに拙者は殿に心を持って作られたでござるが、その役目は刀にござる。

 殿の前に立ち塞がるものを切るための道具として使い捨てられるのであれば本望でござるよ」

 

「そんなかっこいいこと言ったって、実際に切り捨てられるわけないだろ」

 

「確かにドラ丸は僕たちを守るためにも作ったけど、僕たちの相談に乗って支えてもらうために生み出したパートナーでもある。

 大事な相棒を使い捨てになど出来ないよ」

 

「と、殿! 拙者はうれしいでござる」

 

 ホントに感動した様子で目元を隠すドラ丸に、ハジメ達は苦笑してしまう。

 三文芝居の様なセリフだが、大事な相棒であることは嘘ではないのだ。

 

「こちらを攻撃してくる以上、人間だろうがロボットだろうが容赦は出来ない。

 ただ機械的に襲ってくるのではなくメカトピアという星の民族として襲ってくる以上、返り討ちにした後は落としどころを決めないと、最終的にはメカトピアを殲滅する事になってしまう。

 そうならない為にも交渉の席を作るための仲介役が必要になる訳だが…」

 

「その役にリルルがなってくれると助かるが、うまくいくかどうか確証がないからね」

 

「映画のように簡単に仲間になってくれるわけじゃないからな」

 

「彼女の様子はどうだ?」

 

「脱出出来ない専用の個室を用意してそこに寝かせてある」

 

 諜報員として地球に降り立ったリルルとは別に降り立ったジュドを探していたところを、不意打ちの【ショックガン】で気絶させて確保した。

 ロボットの彼女にショックガンが効くかという疑問も○×占いで確認していたが、気絶するという生き物らしいところも再現するあたり、メカトピアロボットの電子頭脳も無駄に生き物の再現性に優れている。

 

 作戦部長のハジメが情報端末から状況の進展を確認する

 

「…ふむ、どうやらリルルが目を覚ましたらしい。

 さっそく交渉役として用意したコピーに接触を図らせる」

 

「そうか。 では会議の続きはリルルとの対話に進展があってから再開しよう。

 それまで持ち場に戻って各自の作業に取り組んでくれ」

 

「「「了解」」」

 

 こうして会議は終了し、ハジメ達は各々の部署に戻ってそれぞれの役割をこなしていった。

 

 

 

 

 

 リルルは気が付くと見覚えのない部屋のベットで眠らされていた。

 すぐさま事態を確認するために周りを見渡すと、部屋はそこそこ広いが外を確認できるような窓が存在せず、出入り口のドアが一つあるだけで後は調度品が一通りあるだけだった

 自分は突然の襲撃を受けて気を失い気が付くとここにいたと再確認すると、直ぐに脱出を図るべくドアを開けようとドアノブを回すが、案の定鍵がかかっており閉じ込められていることを認識する。

 

 力づくで開けようとしてもロボットのリルルの力でもドアはビクともせず、ひとまずドアからの脱出を諦める。

 何かないかと部屋の中を再確認しながら考えていると、カメラを見つけ監視されていることに気づく。

 いったい自分の身に何が起こっているのか混乱していると、ドアの鍵が開く音が聞こえた。

 

 リルルは混乱の中で自身を捕らえた敵と判断して指先をドアに向ける。

 そしてドアが開き入ってきた人物に対し確認することなく、フィンガーレーザーで攻撃した。

 

―バチュン!―

 

 フィンガーレーザーの着弾の音はしたが、入ってきたハジメは無傷でありリルルはより警戒を強めて身構える。

 

「っ!? びっくりした! まさか問答無用でいきなり攻撃されるとはね」

 

 ハジメも攻撃されることは予想していたので、当然自身の安全のための準備は済ませてある。

 どのような攻撃からも身を守る【バリヤーポイント】と更に攻撃を抜けてきた場合の為に【四次元若葉マーク】を準備していた。

 この様子ならいつまた襲ってきてもおかしくないので、服の下で早速張り付けて使用した。

 これでリルルはハジメに攻撃どころか触れる事も出来なくなった。

 

 防御は万全だが、一応飾りの護衛として連れてきたモビルソルジャーのジムが後に続いて入ってきて、ハジメの両脇を固めてリルルを威圧する。

 ハジメもその間に攻撃されてびっくりした心臓を落ち着かせる。

 

「…私を捕らえてここに閉じ込めておいてよく言うわ。 当然の返礼よ」

 

「それならこれは僕ら地球人の歓迎の証だ。 人間を奴隷にするためにメカトピアからはるばるやってきたロボット達へのね」

 

「!? なぜそれを知っているの!」

 

「その質問には答えられないが、メカトピアからくる鉄人兵団の軍勢への対策は既に完了している。

 先遣隊である君達は拘束させてもらった」

 

「君達? まさかジュドも…」

 

 リルルは自分よりわずかに先に到着している同胞の事を思い出す。

 

「あちらはむき出しの電子頭脳のままだからもっと容易だった。

 既にあれからはメカトピアの情報をあらかた引き出して、今後の資料にさせてもらっている」

 

「なっ! 電子頭脳から直接情報を引き出したというの!?

 それはメカトピアの神が定めた制約を破る最大の禁忌よ!」

 

「それはメカトピアのロボット達にとっての話で、地球人の僕らには何ら関係のないことだ。

 それに君たちは地球人に危害を加えようとしている異星からの侵略者。

 手心を加えてもらえるとは思わないでほしい」

 

「くっ」

 

 リルルは自分たちが加害者側であるという自覚もあり、地球人たちの反撃への正当性を否定出来ない。

 地球人の軍事力は自分たちよりはるかに劣ると推測されていたが、それは大きな間違いだったのではないかと危惧する。

 捕らえられておそらく脱出も容易ではない自分に何が出来るか必死に考える。

 

「…どうやら落ち着いて話をするには少し時間を置く必要がありそうだ。

 時間をおいてからまた来る。 それまでに頭の中を整理して覚悟を決めておいてほしい」

 

「私を一体どうする気」

 

「あなたはまず捕虜として扱わせてもらう。

 いろいろやってもらいたいことはあるが、まずは落ち着いて話を済ませてからだ」

 

「何をさせたいか知らないけど、私は同胞を裏切る気はないわ」

 

「そこまで求めちゃいないさ。 ただ従った方が君たちの為になると思うよ」

 

「ふざけないで。 人間に従う気なんかないわ」

 

 捕らえられた身で仕方ないとはいえ、聞く耳を持たないリルルにハジメはため息をつきそうになる。

 

「…まあまずは情報交換から始めよう。 そこにある本棚に地球の一般的な情報が書かれている。

 地球の文字は理解できるか?」

 

「…諜報の為に言語のいくつかを習得しているわ」

 

「それはよかった。 そこにある本は地球で幅広く使われている英語で書かれているから読んでみるといい。

 特に歴史に関する本を薦めておく。 メカトピアの民の貴方にはきっと面白い物に映るはずだ」

 

「敵に情報を与えようなんて、何がしたいの?」

 

「別に大した情報じゃないし、地球の一般社会で誰でも知っているようなことばかりだ。

 機密情報なんて全くないから安心して読んでみてくれ」

 

 そしてハジメは一度対話を改めるべく、リルルを閉じ込めている部屋から出ていく。

 リルルも警戒しているのか、ドアが開いた隙に抜け出そうなどとはせず、出ていくハジメをにらみ続けるだけだった。

 

 

 

 

 

 リルルとの初対面を終えたハジメは、睨みつけてくるリルルのプレッシャーから隠していた冷や汗を流す。

 

「はあぁぁ、疲れた。 わかっていたとはいえ、これすっごい嫌な役だよ。

 捕虜の尋問なんて、きつ過ぎ」

 

『そういうな、結局は僕らの中の誰かがやらないといけないことだ。

 役職を持ってる奴は大抵何かの仕事をやってることが多いし、それなら新たな役職のコピーを一人用意した方がいい』

 

 カメラの向こうから様子を窺っていた作戦部長のハジメが、新たな尋問役のハジメの愚痴に返事をする。

 

「そうは言うけど、仕方ないとはいえジュドの電子頭脳を解体したことで相当恨まれているよ。

 メカトピアのロボットからしたら生きたまま脳味噌引きずり出して、そこから情報を引き出すためにいじくり回しているようなもんだからじゃないか?」

 

『確かにそれは地球の倫理的にも思いっきりアウトな案件だな』

 

「だろう? 映画でジュドの電子頭脳を改造したドラえもん達が何でリルルの協力を得られたかわからない。

 そこは怒っておくところだと思うんだけどね」

 

『まあ映画の話の穴を突いても仕方ない』

 

「そうだな。 まあ種は蒔いた。

 次回はもう少し建設的な話が出来るといいんだが」

 

 

 

 

 

 



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真・鉄人兵団3

 感想及び誤字報告ありがとうございます。
 大変励みになっております。

 鉄人兵団変ですが毎日更新を頑張っていますが、かなりぎりぎりで気力を尽くしています。
 書き上げて即投稿していますので誤字が多くなってしまうのは申し訳ないです。

 今後も出来る限り毎日投稿を続けていこうと思いますが、すべての感想の変身をするには余力がありません。
 返信出来なくても感想は執筆の原動力になっているのでチェックしておりますので、どしどし送ってください。
 励ましの言葉だけでなく、何らかの質問があるようであればお答えしたいと思っています


 

 

 

 

 

 この太陽系に人間が住むと言われている星は地球のみであるが、ドラえもん世界では地球以外にも住んでいる話がいくつか存在している。

 そしてこの星はかつて種を蒔く者によって心を持った植物たちの為の星として育まれ、今は星の植物たちに受け入れられた故郷を失った者達で作られた銀河漂流船団の人々の降り立った安住の地でもある。

 ハジメはこの地の植物たちと共存するために活動している、銀河漂流船団のまとめ役である評議会議員たちに会いに来ていた。

 

「お久しぶりですハジメ殿」

 

「ええ、皆さんもお変わりなく。

 星への移住計画は順調ですか?」

 

「はい、ユグドの木を介してこの星の木々たちと話し合いを続けております」

 

 この星の木々は意志を持ってはいるが、地球の植物たちと同じように自由に動き回る事は出来ない。

 その為人間たちと共存するには住居などの建物を作る関係で土地が必要になり、木々が立ち並ぶ場所を配慮してどう暮らしていくか協議しているらしい。

 

「順調そうで何よりです。 それで今回の要件ですが少々厄介なことが起こったので、もしかしたら巻き込まれるかもしれないと念の為にお伝えに来ました」

 

「厄介な事ですと?」

 

 ハジメは現在、地球を狙って侵略を開始しようとしている鉄人兵団の存在を大まかに伝える。

 

「そ、そのような事が!? ハジメ殿の住む地球は大丈夫なのですかな」

 

「既に先遣隊のロボットたちを捕らえ、後に来る本隊も迎撃する作戦を準備しています。

 戦力も想定済みですので、僕らが負ける事はないですよ」

 

「それを聞いて安心しました。 ハジメ殿は我々をここへ導いてくれた大恩あるお方。

 何かあったら一大事ですからな」

 

「大袈裟ですよ。 ですが地球が現在狙われているのは事実です。

 ここは地球からほど近いので、もしかしたらこちらの方にもメカトピアのロボットがやってくるかもしれません。

 ですのでそちらの方でも警戒をしておいてほしいんです」

 

 この星は種を蒔く者によって張られたバリアーに守られ、存在を知っている者達にしかたどり着くことの出来ないように隠されている。

 メカトピアのロボット達に見つけ出す事は出来ないだろうが、万一があるのでハジメは注意を呼び掛けに来たのだ。

 

「わかりました、皆に伝えておきましょう。

 ほかに何か我々に出来る事はありませんか?

 微力ながらお力になれればと」

 

「大丈夫です、皆さんが戦いに疎い事は知っているので巻き込むわけにはいきません。

 ですがメカトピアから襲来するロボットたちに宇宙で遭遇する可能性もあるので、宇宙少年騎士団のような外に出て活動する者たちに宇宙航行の自粛を呼び掛けてください」

 

「手配いたします」

 

「あと遠くないうちにやってくる敵の軍勢は、ここから数光年離れた宙域で迎撃するつもりですので、巻き込まれないように気を付けて下さい」

 

「わかりました。 必要無いかもしれませんがハジメ殿の勝利をユグドの木に祈っております」

 

「ありがとうございます。 皆さんも星への移住計画頑張ってください」

 

 

 

 

 

 ところ変わって、ここはメカトピアのロボットを閉じ込めておくために作った専用の監獄。

 実質リルルの為の監禁場所だが、交渉役のハジメが改めて話をするために部屋にやってきた。

 今回はいきなり攻撃されることもなく、リルルは椅子に座って大人しくしていた。

 

「さて、改めて話をしに来たんだけど、本はしっかり読んでくれたかな」

 

「時間をたっぷりくれたからすべて読みきる事が出来たわ」

 

 本棚を埋めきる量の本を用意しておいたのだが、リルルはすべてを読み切ったらしい。

 時間を与えたと言っても前回から一日も経過していないので、普通の人間ではとても読み切れる本の量ではない。

 その辺りはやはり処理能力の高い電子頭脳を持つロボットというわけだ。

 

「あなたの言ったように歴史の本も読ませてもらったけど、あれは一体なんなの?

 あれが本当にこの星の人間たちの歴史だというの?」

 

「そうだ、実に興味深いだろう。 僕らも独自の調査でメカトピアの歴史を一通り確認してみたが、似たようなきっかけの戦争の記録が数多くある。

 理由はどうあれやっていることはどちらも変わらない、争いばっかの歴史だ」

 

「ロボットと人間を一緒にしないで。

 ロボットは神によって選ばれた崇高な種族なのよ!」

 

「争いを繰り返してきた人間の僕が言うのもなんだが、メカトピアの歴史を見直して自分たちが本当に崇高な種族なのだと本気で思えるのか?

 地球の人間もそういった驕りを持った人たちが数多くいるが、少なくとも僕は僕たち人間が崇高な存在ではなく過ちを繰り返す愚かな種族だと思っているよ」

 

「あなた、自分の種族をそんな風に思っているの?」

 

 リルルは自分の種族をこき下ろすハジメに驚いた表情を見せる。

 

「種族としてはね。 それでもすべての人間がそうだとは思わない。

 間違いを改めて正そうとする人はいるし、他人を思いやれる人だって大勢いる。

 人それぞれなんだ。 君たちの星のロボットはどうなんだ?」

 

「………私たちロボットにも傲慢で非道な者もいれば、心優しく皆を思いやり正しく導いてくれる素晴らしい方もいるわ」

 

「地球の人間と在りようは変わらないな」

 

「本当に人間は私たちロボットと同じような生き方をしているの?」

 

「僕からすればロボットが人間と同じような文化を栄えさえている方が不思議なんだけどね」

 

 ロボットが心を持つことをハジメは不思議に思わないが、すべてのロボットが人間の様に良いところも悪いところも再現して文明を築いている事に酷く違和感を感じる。

 まさに出来が良すぎる人形劇(・・・)の世界を見ているようだ。

 

「君等は人間の事をよく知らなかったようだね」

 

「伝承で人間は神が見放した存在としか書かれていないわ。

 地球に住む人たちについても、人間が私たちより劣った文明を築いているとしか調査報告がなかったわ」

 

「いくら自分たちが崇高な存在だと思っていたからって、人間の事を見下し過ぎてもはや何も見ていないじゃないか。

 君らが人間を労働力にしようとしているらしいが、ロボット奴隷の代わりを務められると本気で思っているのか?」

 

「どういうこと?」

 

 ハジメはリルルにロボットと人間の違いを簡単に説明する。

 人間は生き物であり生きる為に食物を取らねばならず、ケガをしたら治療したり自然に治るのを待たねばならない。

 また人間の身体能力はロボットと比べるまでもなく、物理的な労働力としてはあまりにも効率が違い過ぎる。

 そのような事をリルルに教えたところ、目を見開いていたのでまるで知らなかったようだ。

 

「なんてこと。 それじゃあ人間なんて奴隷にしても意味のない役立たずじゃない」

 

「それなら、その役立たずに捕まっている君はポンコツなのかな?」

 

「むっ、誰がポンコツよ」

 

「現状を見て人間が無能と決めつけられるなら、ポンコツ以外の何物でもないだろう。

 人間は確かに非力だが知恵を使ってあらゆる道具を作り出してきた。

 その中にはロボットも含まれている」

 

 ハジメは護衛として両脇に立つジム達を見せつけるように両手をかざす。

 

「人間がそのロボット達を作ったというの!?」

 

 リルルが本気で驚いたといった様子で叫ぶ。

 

「そこが一番驚くんだね。 僕らからすれば人間がロボットを作るのは全然おかしなことじゃないんだけど。

 やっぱり君にはまず、人間の事をよく知ってもらった方がいいみたい。

 このチョーカーを首につけてくれ」

 

 ハジメは黒いチョーカーを取り出してリルルに見せる。

 

「それはなにかしら?」

 

「君の本国との通信を妨害する装置だ。 同時に僕らに通信を繋げる事が出来る装置でもある」

 

「そんなものを着けさせて何がしたいの? それが無くてもここでは仲間との連絡が取れなくなっているわ」

 

「通信妨害は当然の措置だからね。

 それを着けてほしいのは、君には一度人間の社会をその目で見てきてほしいと思っている。

 そのチョーカーは君に不用意な行動を取らせない為の正に首輪だ。

 一度着ければ僕達でなければ取れないようになっている」

 

「私をここから出そうと言うの? こんな首輪があったって逃げ出すわよ」

 

「逃げても行く当てはないだろう? 君がこの星に来た時に使った小型宇宙船も、隠してあった場所からこちらで既に回収している」

 

「…本当に最初から私たちの事を監視していたようね」

 

 いくらロボットとはいえ、単体で宇宙空間をワープして地球にやってくるのは効率が悪すぎる。

 ロボット単機にワープ装置を取り付けるなど無駄が多いし、ワープの衝撃を人型ボディで直接受けるのはダメージが大きい。

 なのでロボットでもワープ航行をするには宇宙船がないと不便なので、ハジメはリルルが宇宙船に乗ってきたと確信しさっさと見つけ出していた。

 

「僕らが用意した本だけでは信憑性を得られないだろう。

 君はもともと人間の中に潜り込んで諜報活動するために人間の姿になったみたいだから、その姿は都合がいい。

 一度外に出て人間の生活を見てくるといい。

 人間がどういう風に生きているか確認したら、チョーカーの通信機能で呼んでくれれば迎えに行く」

 

「私が他の人間たちに危害を加えるとは思わないの?」

 

「それは非効率的で大したメリットもないし、ちゃんと監視もしている。

 もしも人質を取ろうなんて禄でもない手段に出るなら、君を見限るだけだ」

 

「見限る? 仲間でもないのにその言い方は変じゃないかしら?」

 

「今はね。 だけど君にやってもらいたい事があると前に言っただろう。

 メカトピアの為になるなら君も協力するはずだ」

 

「そんなことを言っていたわね。 私に何をさせようとしているの?」

 

「仲介役だよ。 戦争には落としどころが必要だ。

 それが無ければ。どちらかが最後の一人を倒すまで戦いが続く殲滅戦になる」

 

 対話をしようにもまずメカトピアとこちらでは交渉ルートと言うものがない。

 こちらの意志を伝えるには結局顔を合わせる必要があるが、メカトピアは文化的に人間を下に見過ぎている。

 そこでリルルには人間をよく知ってもらってから仲介役になってもらい、人間の事を相手側に押して交渉の席についてもらうよう説得してもらう。

 以上の理由だが、ハジメとしてもリルルをあまり壊したいとは思えなかったので、生かす手段を極力提示したという理由もある。

 

「メカトピアの軍は決して弱くないわ。 簡単に勝てるとは思わないで」

 

 ハジメは勝つことを確信しているが、リルルも自分たちの軍勢が簡単に負けるとは思いたくなかったので反論する。

 

「まあそのあたりは本隊の鉄人兵団がこちらに向けて進軍してきてからにしよう。

 僕らの予定では侵略軍はこちらに誘導して真正面から殲滅する予定だ」

 

「誘導ですって! どういう事!?」

 

「ジュドのシグナルコードを偽装して偽の情報を本隊に流している。

 地球での前線基地作成の工作は順調に進んでいる。 いつでも本隊を迎え入れる準備は出来ているとね」

 

「本隊を罠にかけて返り討ちにしようというの?」

 

「今真正面から殲滅すると言っただろう。 戦力差をはっきりさせるためにその戦闘を記録しメカトピア側に送り付けてやるつもりだ。

 君にもどれほどの戦力差があるか、戦闘の様子を見てもらう事になる」

 

「そんな簡単に倒される鉄人兵団ではないわ」

 

「どうなるかはその時が来たらはっきりする。

 今はとりあえず君の本来の役目である、人間に紛れての諜報活動をしてくるといい。

 そのチョーカーを着けたら案内しよう」

 

「………」

 

 リルルは少し考えた後、囚われている以上不自由でも外の情報を得られるなら構わないチョーカーをつける事にする。

 装着すると首にぴったりフィットし、どんなに引っ張っても取れなくなった。

 チョーカーに出来るのは、付いているボタンを押してハジメ達と通信する事だけだ。

 

「では行こうか」

 

 ハジメが先頭でドアから出て、続いて護衛達が外に出ると開きっぱなしの扉がリルルを待っている。

 本当に簡単に外に出そうとしていることに逆に警戒心を刺激され、リルルは恐る恐るといった様子を見せながらハジメの案内で外の世界に出ていった。

 尚この監獄は鏡面世界にあるので、リルルに気づかれないように鏡面世界の扉の鏡をくぐらせている。

 

 

 

 

 

「ジュドの信号を使った偽の通信の様子はどうだ?」

 

「問題ない。 先遣隊の工作が順調なように見せかけるために、ジュドたちが予定していた工作作業の工程を演出している。

 必要物資もジュドの声で要請して転送させることで作業の不自然さをなくしている」

 

「一度リルルはどうしているかと質問されたが、諜報活動として人間の中に潜入していると返事をしておいた。

 リルルがいるように見せかけるための工作も必要かもしれない」

 

「リルルの信号は流石に調査してないからわからないからな。

 まさか捕虜にしている状況でジュドみたいに分解する訳にもいかないからな」

 

 今回のハジメ達の議題はメカトピアに送っている偽の報告通信だ。

 ジュドの振りをして通信を行い、いずれ来る鉄人兵団の動きをある程度誘導するのが目的だ。

 普通の軍ならこんな杜撰なやり方では何らかの真偽を確認する手段を複数用意して偽装できないようにすると思うが、人間たちを侮っているメカトピアのロボットたちはそのような対策を一切用意せずにシグナルコードの確認だけで判断していた。

 

「それなんだけど、ジュドの事はどうする?

 リルルに電子頭脳を分解したと説明した時に、それを人間に置き換えて考えてみたらかなり残酷な事だったんじゃないかと気づいてな。

 一応修復出来ないこともないが、直すべきだと思うか?」

 

「いや、やめとくべきだ。 たぶんメカトピアのロボットたちにとって電子頭脳はポンポンいじったり直したりしていい物じゃないんだろう。

 ジュドは既に殺した。 いずれやってくる鉄人兵団もほとんど殺してしまうんだから直せるからって区別するべきじゃない」

 

 メカトピアのロボットたちは機械だが人間と同じように考え行動している。

 既にハジメ達は敵を人間と同じように扱い、敵対する人として彼らを扱いあえて殺すという言い方を使った。

 

「まあジュドの存在は後はこの誘導作戦くらいにしか使えないから、どちらでもいい。

 それより鉄人兵団はあとどれくらいでこちらに向かってくる予想だ。」

 

「先遣隊の作業工程が順調に進んでいると見せかけたことで、最も早い作戦工程で準備が進んでいるらしい。

 メカトピアで間もなく兵の編成が整い、五日後には予定の宙域で接敵する事になるはずだ」

 

「五日後か。 十分対処出来るが向こうの動きが早いな」

 

「地球の軍じゃたぶん数か月とかかかる軍事作戦なんじゃないか?」

 

「まあ戦争なんて長々とやりたいものじゃない。

 初戦は前哨戦だ。 さっさと終わらせてメカトピアに逆侵攻をかける。

 負ける可能性は戦力的に皆無だが、気を引き締めていくぞ!」

 

「「「了解」」」

 

 

 

 

 

 

 

 



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真・鉄人兵団4

感想、及び誤字報告ありがとうございます。


 

 

 

 

 

「ここが地球の人間の都市…」

 

 リルルはハジメに勧められるまま、地球の人々が多く住む都市部に送られた。

 服装も都市の人間の女の子として不自然でないようなものを【着せ替えカメラ】を使ってコーディネイトした。

 ぼんやりと周囲を見渡しているが、その容姿は周囲に溶け込んでおり誰の目にもリルルが普通の人間に見えているだろう。

 

「町の喧騒、往来する無数の人間、立ち並ぶ大きな建物」

 

 初めて来た場所でロボットなど一人もおらず、人間ばかりが歩き回っている環境はリルルの心に僅かな孤独感を感じさせた。

 しかし初めて来た場所なのにリルルは既視感も同時に感じていた。

 建物が立ち並び往来する人がすれ違い時々ぶつかりそうになるほどの人口密度が集中している。

 それはメカトピアの都市部でも感じた、多くのロボットが行きかう喧騒の中に酷似していることをリルルはわかっていた。

 

「ロボットと人間、建物も様式が違うけどどれも高い。

 それにせかせかと走り回っているのかと思うような人口密度。

 まるで初めてメカポリスで買い物に出かけたときみたい」

 

 リルルはもう認めていた。

 メカトピアのロボットと地球の人間の生き方が、文化の違いはあってもまるで同じと言ってもいいくらいに似通っていると。

 まだ都市の人々を見ただけだが、それでももう答えは出ていると確信しながら人々の間を抜けていく。

 ここで見聞きしたことがハジメの言う様に、いずれメカトピアの為になる人間達の情報だと信じて歩み始めた。

 

 

 

 

 

「リルルの様子はどうだって?」

 

「特に不審な様子を見せることなく街を歩き回って人間観察をしてる。

 とりあえず下手な真似をするような感じではない」

 

「それはよかった。 地球の一般の人に危害を加えようとしたら、流石に擁護出来ないから処理を検討しないといけない。

 せっかくの仲介役プランが台無しだ」

 

「映画のキャラだからね。 もともと敵だけど敵のままで終わらせたくないからな。

 何とか味方に引き込みたい」

 

「まあそれも今後のメカトピアの動き次第だ。

 向こうに人間相手でも対話しようという意思がなければ、停戦協定を議題に挙げさせることも出来ない。

 その為には人間の事を理解する仲介役と、勝算が低いと思わせる圧倒的な戦力を相手に理解させる必要がある。

 まもなく来る鉄人兵団は圧倒的戦力で一切の容赦もなく全滅させる」

 

「戦力差を見せつけるために、リルルにも戦闘の様子を見せておこうか?」

 

 観戦の提案をしたハジメにオリジナルのハジメは少し考え込んで答える。

 

「流石にそれはやめておこう。

 ジュドの件でわかったが、彼らの倫理観もおおよそ人間と同じものとみて間違いないはずだ。

 戦場でロボット達が壊れていく様は、人間に置き換えて血飛沫が舞う凄惨な光景に映ってるんじゃないかな?」

 

「理解し難いが、人種の差による価値観の違いって奴だろうな。

 まして相手はロボットなんだし、人間に酷似した精神性を持っていても決して相容れない価値観があってもおかしくない」

 

「そういうところも、和平交渉が始まれば問題になるかもしれないな」

 

「やっぱり僕らに政治的対応なんて無理がある。

 なんだかんだ言って、結局力ずくで相手に要求を飲ませるやり方にしかなりそうにない」

 

「仕方ない。 こればっかりは誰か悪い奴を倒せば全て解決する物語じゃないんだ。

 僕たちが勝つという結果で、メカトピアは負けを認めて従うか受け入れず全滅させられるかのどちらかしかない。

 表の地球への襲撃を許すわけには絶対にいかないからな」

 

「勝算があるから言えることだが、救いようのない話だ」

 

 原作ですらメカトピアの歴史を塗り替えるという、ある意味全滅させる以上の方法でしか解決出来なかったこの戦い。

 いくら力があったとしても、国家的な集まりでないハジメ達に穏便な解決方法は存在しなかった。

 いや、おそらく国家であっても地道な対話でなければ、平和的解決は望めない問題だ。

 それは争いをこれまで幾度も繰り返してきた、人の解決しない永遠の議題なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 メカトピア軍、人類奴隷化計画実行部隊、鉄人兵団。

 地球侵攻の10の輸送艦からなる艦隊が、地球へ向けて長時間のワープ航行を行なっていた。

 艦隊及び鉄人兵団司令であるズォーターは、自分の席に座りながら地球への到着を待っていた。

 

「あとどれくらいで地球に到着する」

 

「一時間ほどでワープ航行を終えて、地球のある太陽系に到着いたします、司令」

 

 副官である将軍プラタが到着までの予定時間を報告する。

 

「フフフ、ようやく私が金族としての権威を取り戻す時がやってきたのだな」

 

「ええ、その通りですね司令」

 

 自身の野望を口に漏らして喜びを顕わにするズォーターに、プラタは呆れた様子を見せながら適当に相槌をしてこたえる。

 ズォーターは議会の人類奴隷化計画の実行部隊を担う事で、その功績で自身の権力を高めようとしていた。

 

 先の戦争でメカトピアは王制から共和制に変わり、国の首脳陣が国民の投票によって選ばれる議員制になったことで、元王族である金族のズォーターは権力を大きく減らしていた。

 条約によって金族には一定数の議員の議席が恒久的に約束されているが、その席に座れるのは金族の中でも上位の有能な者達だけで、ズォーターにそこまでの能力はなく議員になるには通常枠で国民に認められるしかなかった。

 しかし傲慢で尊大な旧来の代表的な金族の性格をしているズォーターが国民に認められることなく、議員に立候補しても当然席に座る事など出来なかった。

 

「全く面倒な世の中になったものだ。

 私のような金族の偉大さを国民に知らしめるのに、このような雑務をこなさなければならんとは。

 私が議員になった暁には、金族の偉大さを愚民共に知らしめる教育を強化せねばならんな」

 

「ええ、その通りですね」

 

 共和制に全く馴染めていないズォーターは、このような旧来の価値観を持つ限りとても議員になれないのだが、それでも金族としての力は僅かに残っており、実績を得るために自分をこの侵略作戦の司令の座にねじ込んだ。

 司令になる事を許したが上層部である議員たちもバカではなく、旧来の価値観でしか行動出来ないズォーターに司令が務まるはずがないと、副官に有能なプラタを据えて実質的な司令官を担わせた。

 実質的な指令を任され、更にはズォーターの妄言を聞いて相手をしなければならないプラタは間違いなく災難だ。

 航行中何度もこのようなズォーターの実の無い野望を聞かされて、プラタはとりあえず力のない相槌を返すだけの機械となっていた。

 

 そんな時にズォーター達が乗る艦隊の旗艦、および追従するすべての艦隊が大きな衝撃に襲われる。

 

「ぬぉ! なんだ、地震か!」

 

「ハッ、何が起こった? それと司令、ここは宇宙空間ですので地震はありえません」

 

「わ、わかっておるわ!」

 

 その衝撃にズォーターは椅子から転げ落ち、プラタは本来の意識を回復させる。

 

「今の衝撃の原因を報告せよ!

 …いや、超空間を抜けているだと?」

 

「何が起こったのか、私に説明せよ!」

 

 プラタが部下に今の衝撃の原因を突き止めるように命令するが、艦橋から見える外の風景が通常の宇宙空間になっていることで、船がワープを終えていること気づく。

 混乱しているズォーターの事は相手にしていない。

 

「どういうことだ、なぜワープアウトしている。

 太陽系の到着まであと30分以上はあったはずだ」

 

「わかりません。 旗艦を含めた全艦が通常空間にワープアウトしている模様」

 

「他の艦も近くにいるのか。 艦隊が離散しなかったのは救いか」

 

「プラタ副司令! 前方の宇宙空間に所属不明の宇宙船がいます。

 数は四!」

 

「なんだと、全艦に警戒するように伝達!

 不用意に動くな。 突然のワープアウトの原因と何らかの関係があると見て間違いない」

 

「了解しました」

 

「司令は私だ! 私に報告せよ!」

 

 急な事態にプラタはすぐに対応し、目の前の宇宙船に対して警戒を味方に呼びかける。

 そこへ目の前の宇宙船からオープンチャンネルで通信が発信された。

 

『メカトピアのロボットたちに告げる。 この声が聞こえているだろうか。

 我々は地球への脅威を未然に防ぐ独立組織シークレットツールズである。

 貴様らが地球に侵攻しようとしてることはすべて把握している。

 警告は一度である。 速やかに侵略行為を中止し、母星に帰還する事をお勧めする。

 従わない場合、貴様らを殲滅する事もやむを得ないと判断している』

 

「人間どもめ、我々の侵攻に気づいていたか!

 先遣隊が見つかったのか知らんが、嘗めおって!

 全艦砲門を開け! 主砲を発射し奴らを破壊するのだ!」

 

「お待ちください司令! この不測の事態に不用意な攻撃は危険です。

 それにこの艦隊は派兵を目的とした輸送艦ばかりで、武装は隕石を破壊するレーザーくらいしかありません」

 

「そ、そうなのか!? だ、だが構わん攻撃を開始しろ!

 敵を攻撃するのに何を躊躇する必要がある!」

 

「敵はおそらく地球の人間ですが、予想されていた戦力がまるで違います。

 地球人は宇宙での戦闘が出来る戦力を持っていないという調査報告を受けているのですよ。

 敵戦力が情報と違い実情がわからなくなった以上、うかつに開戦するのは危険です!

 侵略作戦そのものの見直しも考えられます」

 

「なんだとそれはいかん!」

 

 プラタの忠告にズォーターも流石に戸惑う。

 

「侵略計画は私が議員になり、栄光を取り戻すための大事な計画なのだぞ!

 それが中止になるなど認める訳にはいかん!」

 

「こんな時まで何を言ってるんですか、あなたは!

 それどころじゃないでしょう!」

 

「ええいだまれ!」

 

―バシューン!―

 

 作戦を中止される訳にはいかないと興奮したズォーターは、フィンガーレーザーでプラタの頭部を躊躇なく撃ってしまう。

 頭部にある電子頭脳を破壊されて、プラタは一瞬で機能を停止させられた。

 

「私に逆らう貴様など反逆罪で処刑だ!

 全艦攻撃を開始しろ! 兵団も出撃させ逆らう人間どもを殲滅しろ!」

 

「し、しかし!」

 

「早くしろ! 貴様も処刑されたいか!」

 

「は、はい! 攻撃開始!」

 

 ズォーターの剣幕に部下は逆らえず攻撃の指示が出され、戦闘開始のレーザーが各艦から発射された。

 隕石破壊目的の武装だが決して威力が無いわけではなく、同じメカトピアの船が直撃を受ければ十分な損傷を受ける代物だった。

 

 だが…

 

「バリアだと!?」

 

 目の前に立ち塞がる宇宙船は球体のバリアーで守られ、レーザーが宇宙船本体に届くことはなかった。

 その攻撃に触発されて、宇宙船から自分たちと同程度の大きさの武装したロボットが次々に出てきた。

 

「人間がロボットを使うだと! ふざけおって!

 鉄人兵団全機出撃! 人間に従う愚かなロボットに我々の力を見せつけるのだ!」

 

「全兵団出撃せよ!」

 

 こうして宇宙空間におけるメカトピアのロボットの軍勢と、地球を守るハジメの作ったモビルソルジャーたちの最初の戦いの火蓋が切って落とされる。

 

 

 

 時は少し遡って、ハジメ達は宇宙船で地球から数万光年離れた宙域にいた。

 

「敵の到着予想時刻まで後どれくらいだ?」

 

「既に五分を切っております、マイスター」

 

 オペレーターを担っている人間サイズのジム型モビルソルジャーが、ハジメの質問に答える。

 

「超空間キャプチャーネット、うまく作動してくれるといいんだが…」

 

『シミュレーションと動作実験はすべてうまくいっているが、本番で失敗するという事はあるからな』

 

『予備作戦として鏡面世界への誘導も用意してあるから失敗しても問題ないが、せっかくの僕たちの力作だ。

 この日の為に用意したのに無駄にはしたくないな』

 

 モニターの向こうから宇宙船の様子を見守っているハジメ達が、作戦の成功を祈っている。

 

 ハジメ達が用意した超空間キャプチャーネットとは、超空間に入りワープ中の宇宙船が特定区域に入ったときに強制的に通常空間にワープアウトさせる、いわば超空間の落とし穴だ。

 これを使い地球に向かっている鉄人兵団の船団をハジメ達が望む宙域に呼び込み、ここで迎撃する事で太陽系での戦闘を回避しようというのだ。

 表の地球の技術でも太陽系内の宇宙空間で戦闘が起これば、十分観測される可能性がありうる。

 地球人に鉄人兵団との戦いを見られないように、何光年も離れた宇宙空間で戦う事にしたのだ。

 

 更にこの超空間キャプチャーネットは、ハジメ達が培ってきた時空間技術を総動員して極力秘密道具を使わず作り上げる事に成功した力作である。

 この罠はワープの理論を応用したトラップで、時空間技術が突出して高まったからこそ思いついたシロモノだ。

 

 ワープとは簡単に言うと、宇宙という広大な空間を移動するのに超空間というトンネルに入る事で近道する技術である。

 ここで重要なのはワープとは瞬間移動のような空間転移ではなく、距離が短くなるだけである程度移動する必要がある事に変わりない。

 例えるなら10km歩かなければならない距離を圧縮して、1mにすることで歩く距離を圧倒的に減らすのだが、この際に超空間の距離1mが通常空間10kmと同じという事になる。

 通常空間10kmの範囲に落とし穴を一つ仕掛けても、歩く道次第で引っかかる可能性は限りなく低い。

 だが超空間1mの範囲になら丸々落とし穴にする事すら容易であり、後は落ちた先を通常空間への出口にしておけば、自然に敵を自分たちの望む場所へ誘い込めるというわけだ。

 

『ですが殿、敵を罠に嵌めてからが本番でござるよ。

 手段に拘って目的を忘れてしまっては本末転倒でござる』

 

『わかってるよドラ丸。 ただ僕達の渾身の作品が無駄になるのが嫌なだけさ』

 

『鉄人兵団を迎撃するのはまだ初戦だ。 後の事を考えると今の内に気を引き締めておかないといけないな』

 

『わかっているのであればよいでござる』

 

 ドラ丸の忠告に従い気を引き締め直していると、オペレーターから新たな情報の報告が上がる

 

「超空間の振動を検知。 超空間キャプチャーネットの動作を確認。

 敵船団の強制ワープアウトと思われます」

 

『『「来たか!」』』

 

 待望の瞬間が訪れ、実行部隊隊長とモニターの向こうのハジメが自然と席から立ち上がる。

 超空間の振動を検知した眼前の宇宙空間を凝視し、次の瞬間に情報通りのメカトピア鉄人兵団の輸送船団10隻がワープアウトしてきた。

 

『『「ぃよっしゃああああぁぁぁぁぁ!!!」』』

 

 勝利の瞬間を目撃したかのような喝采をハジメ達全員が挙げて、お互いの健闘を称えあう。

 この場にいない作業員のハジメ達も全員様子を見守っていたので、自分たちの最高の作品の結果に雄たけびを上げていた。

 これまで解決してきたどの事件の結果よりも、ハジメは心の底から喜んでいた。

 例え鉄人兵団の事件が解決してもここまで喜ばないだろう。

 

『殿、喜ぶの良いでござるが目的を忘れたらいけないと言ったばかりでござるよ!』

 

『そうだった! 隊長、予定通りの警告を敵船団に通告してくれ』

 

「おっと、了解した。 オペレーター、音声の発信を用意」

 

「了解。 …音声通信の準備完了。

 どうぞ、マイスター」

 

「…メカトピアのロボットたちに告げる。 この声が聞こえているだろうか。

 我々は地球への脅威を未然に防ぐ独立組織シークレットツールズである。

 貴様らが地球に侵攻しようとしてることはすべて把握している。

 警告は一度である。 速やかに侵略行為を中止し、母星に帰還する事をお勧めする。

 従わない場合、貴様らを殲滅する事もやむを得ないと判断している。

 …通信終了。 さて、どう出てくるかな」

 

 警告を送った隊長は相手の出方を窺う。

 

『あっさり引き返すという事は流石にないだろうが、警戒して戦闘以外のアクションを取られる可能性もあるんだったな』

 

『戦闘以外の解決方法があるなら越したことはないが、交渉と言う手段が僕らは一番苦手だ』

 

『警告文を考えるだけでも悩んだくらいだしな』

 

『ところで組織名、秘密道具の直訳でシークレットツールズじゃなくて、秘密道具使いってことでシークレットツーラーの方が正しかったんじゃないか?』

 

「今更言うなよ。 もう宣言しちゃったから、後で変更なんて恥ずかしい真似出来ないぞ」

 

『まあ、今回の一件以外名乗る予定なんて無いんだし、別にいいんじゃないか?』

 

『僕一人だけなのに組織っていうのなんかあれだから、名前決まらないんだよね』

 

『殿、もう少し気を引き締めるでござるよ』

 

 相手の出方を窺っている間に、モニターで通信が繋がっているから役職持ちのハジメ達同士で駄弁ってしまう。

 ドラ丸がそれを注意したところで、敵の船からレーザーが発射されバリアに当たるが船体への衝撃は一切なかった。

 

「攻撃してきたか。 ダメージは?」

 

「船体に異常なし。 バリア出力96%に低下しましたが、すぐに回復いたします」

 

「守りも問題なさそうだな。

 よし、攻撃をしてきた。 ならもう反撃に出ても問題ないな。

 ファースト隊、ゼータ隊、ダブルゼータ隊を出撃!

 圧倒的な力の差を見せつけて殲滅しろ!」

 

 のちの作戦の為、一方的な戦いにするべくハジメは無慈悲な命令を下した。

 

 

 

 

 

 



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真・鉄人兵団5

感想、および誤字報告ありがとうございます

二日毎の更新だと気持ちに余裕が持てますね。



 

 

 

 

 メカトピアの鉄人兵団と、ハジメの生み出したモビルソルジャーの軍勢が激突した。

 

 メカトピアのロボット兵士は全機黒の装甲で統一され、指から発するフィンガーレーザーを標準装備している。

 一般兵の武装はそれだけであとは肉弾戦くらいしかできないが、上級兵はより強力な銃器であるプラズマブラスターと高熱で鉄も切り裂くヒートブレードの装備が許されていた。

 地球の人間であれば、これだけの武装で制圧出来るとメカトピアの議会は判断してた。

 確かにそれは間違っていなかった。 地球の表面上の人間たちに限ってはだが…

 

 対し、ハジメは予想された戦力差から余裕はあれど油断はなく、いつでも全戦力を動員出来るように出来るだけの準備を整えて開戦に臨んでいた。

 隊長のハジメが乗る宇宙船は宇宙開拓史やロボットキングダムの時に使ったものを改修し、戦闘に耐えられるように耐久性を上げ武装面は強化していないがバリアの強度を上げる事で難攻不落の不沈艦となっている。

 追従する宇宙船三隻は、モビルソルジャーなどの戦力を収容輸送するための機動戦艦アークエンジェルをモデルとしており、名前もそのままアークエンジェル一番艦・二番艦・三番艦と呼称されている。

 そして各艦はそれぞれの分野に特化したモビルソルジャーの部隊が収容されていた。

 

 一番艦ファースト部隊、ファーストことファーストガンダムを指揮官機に置いた汎用性に特化したジムを主力とした部隊。

 他の部隊より特徴性がないが、バックパックシステムにより武装を換装する事であらゆる局面に対応出来る基本部隊。

 

 二番艦ゼータ部隊、ゼータことZガンダムを指揮官機に置いたMAに可変するムラサメ主軸の部隊。

 ゼータと共にMAに可変する事で、高速機動で動き回り戦場を駆け抜ける速度重視の部隊。

 

 三番艦ダブルゼータ部隊、ダブルゼータことZZガンダムを指揮官機に置いたあらゆるタイプの火器を搭載するザクを中心とした部隊。

 全身に実弾兵装ビーム兵装関係なく装備する事で、大火力で敵を吹き飛ばすことを意識した重武装の部隊。

 

 この三部隊をこの戦争にハジメは用意してきていた。

 

「ファースト部隊は前衛として正面から切り込め。

 ゼータ部隊は左右から回り込んで敵を包囲。

 ダブルゼータ部隊は敵の密集地に集中砲火。 混戦状態になったら後方からの牽制と船の防衛に当たれ」

 

『ファースト了解』

 

『ゼータ了解』

 

『ダブルゼータ了解しました』

 

 モビルソルジャーの一般兵士は命令を受ければ従う程度の知能しかないが、指揮官機三機はドラ丸のように明確な感情を持っているわけではないが人工知能による自己判断能力を兼ね備え会話も出来るようになっている。

 三番艦から出撃した重武装部隊が、一斉に無数のミサイルやビームを撃ち放ち、メカトピアのロボットを撃破していく。

 一斉放火が収まると、汎用戦闘部隊のジム達が砲火に生き残った鉄人兵団に接敵し、ビームサーベルで敵を切り裂いていく。

 

 対して鉄人兵団の攻撃はフィンガーレーザーが主力で前衛を担うジム達に最初に向かっていくが、片手に持ったシールドに阻まれるか、ボディの装甲に当たっても焦がす程度であまり攻撃が効いていなかった。

 鉄人兵団の一般兵はフィンガーレーザーくらいしか武装を搭載しておらず、それが効かなければ後は無防備に格闘戦を仕掛けるしかなく、ビームサーベルを持ったジム達に容易に叩き切られていった。

 鎧袖一触で倒されていく敵兵士にハジメはこちら側との圧倒的な戦力差を確認して安堵する。

 

「どうやら戦力差は予想通りのようだな。

 これなら直ぐに押し切る形で決着を着けられそうだ」

 

「マイスター、各部隊交戦に入りましたが、まだ部隊の出撃が完了しきっていません」

 

「なに、なぜだ?」

 

「部隊の編成数に対し、戦艦の出撃口が足りないようです。

 各隊三千の兵を用意されましたが、すべて出撃し切るには今の出撃口だけでは時間がかかります」

 

「そんな欠点があったか」

 

『メカトピアへの逆侵攻までには解決しておかないとな』

 

 アークエンジェル一番二番三番艦はオリジナルと同等のサイズであり、モビルソルジャー用の出撃口を新たに改修して追加し、通常サイズのモビルスーツもそのまま運用出来るようになっている。

 更に【かべ紙格納庫】を使う事で艦載量を無制限にしたことで、いくらでもモビルソルジャーを用意しておくことが出来るが、出撃するための出口までは気が回っていなかった。

 

 ファーストが引き連れているジム部隊は、ビームサーベルとライフルの一撃だけでほぼ敵の兵士を破壊していく。

 相手の攻撃はたいして効果が無く、こちらからの攻撃は一撃で致命傷を与えるという一方的な展開に、少しあっけなさを感じ始める隊長のハジメ。

 

「予想通りの展開だが想像以上に一方的な戦いだな」

 

『あっけないが、今後この戦力差をメカトピアに見せつけるためには必要な一戦だ。

 この戦いの様子でどれだけこちらへの脅威を向こうに示せるかが、今後の展開に大きく関わる』

 

『だな。 いやだが、一部の敵に奮闘する奴もいるみたいだぞ』

 

 一人のハジメの指摘に、ジムのビームサーベルと剣戟を結ぶロボットがいた。

 そいつの特徴として他の兵士とは違いマントを着けており、黄色く輝く両手剣を持って戦っていた。

 

「おそらくあのマントからして上級兵なんだろうが、あの武器は何だ?」

 

「高い熱量の集中が観測されます。 おそらく高熱で切り裂く武器かと思われます」

 

 オペレーターにジムが瞬時に解析して答えた。

 

「威力の方はどうだ?」

 

「無防備に受ければ量産モビルソルジャーの耐久力を超える可能性はあるかと。

 また別の武器ですが、こちらの方をご覧ください」

 

 モニターの一部がズームするとそこに映った別の上級兵が、両手で持った大型の銃器を撃ち放つ。

 その攻撃をシールドで受けたジムはその衝撃で大きく吹き飛ばされた。

 

「こちらは銃器か。 攻撃を受けたジムの状態は?」

 

「損傷軽微。 戦闘に支障はありませんが、あの攻撃も直に受ければこれまでの攻撃とは違い大きなダメージを受ける可能性は十分にあるかと」

 

「こちらを舐めて侵攻してきたから武装を持っているのは上級兵だけみたいだが、こちらにも有効な武装はメカトピアにもあるみたいだな」

 

『量産機レベルに有効だと言ってもあまり油断は出来ないな』

 

「あまり時間をかければ無駄な損傷をする機体が増えかねないな。

 もう少し時間をかけて闘いの記録を残したかったが、ここらで敵の戦力を大きく削って手間を省こう。

 一番艦二番艦三番艦に通達。 こちらの合図で同時に主砲ゴッドフリートを発射する」

 

「了解。 一番艦二番艦三番艦に指令。

 ゴッドフリート発射用意。 …発射準備完了しました」

 

「照準、各門敵旗艦を除く輸送艦をそれぞれ被らないように狙え」

 

「…照準完了」

 

「撃てぇ!」

 

 

――ドドドォォォォンン!!!―

 

 

 三艦の艦首から放たれた計六門の主砲が、鉄人兵団の輸送艦六隻を貫き、次の瞬間に爆発し大破した。

 十隻あった船がいきなり半分以下の四隻になったことで、戦闘を行なっていた兵士達の全てが狼狽えたように動きを鈍らせる。

 普通のロボット兵であれば狼狽えるなどという事はないのだが、敵兵それそれがちゃんとした心を持っていることで命令通りに動き続けるという事が出来ない。

 対してモビルソルジャー部隊は、指揮官機を除いて一度指示すれば命令通りに動くので、敵が狼狽えている間も攻撃は何事もなく続いている。

 心を持ったロボットとタダのロボットの差が更なる戦力差を広げていた。

 

「よし、包囲したゼータ部隊は逃げようとする敵を逃がさないように囲い込み続けろ。

 ファースト部隊はさらに前進し、残った敵戦艦を包囲して防衛戦力を削り取れ。

 削り終えたら敵戦艦に侵入して敵を排除し制圧しろ。

 ダブルゼータ部隊は掩護射撃に留めて、後は船の守りに務めてくれ」

 

『ファースト了解』

 

『ゼータ了解』

 

『ダブルゼータ了解』

 

 

 

 

 

「敵艦の砲撃により、着弾した輸送船の反応全て沈黙しました」

 

「味方の兵士のロストシグナル75%を超えました!」

 

「ば、馬鹿な…」

 

 一瞬のうちに6隻の船を落とされて呆然とするズォーター。

 

「これほどの戦力など私は聞いておらんぞ!

 調査報告と完全に別物ではないか!」

 

「敵兵の包囲、狭まります。

 盾を持った敵兵、さらに前進してきます」

 

「と、止めろ! 奴らを私の船に近づけさせるな!」

 

 余りの損害にズォーターが慌てて自身を守るように命令を下すが、味方の兵士たちは次々に倒されていく。

 既に残った四隻の船はモビルソルジャーたちに包囲され逃げ場を失いつつあった。

 

「わ、ワープだ! 緊急ワープでここを離脱しろ!」

 

「危険過ぎます! こんな混戦した状況の中でワープを試みるなど自殺行為です!」

 

「ここにいてはどちらにしろ変わらん!

 なんでもいいから逃げるのだ!」

 

 なりふり構っていられないと危険でも脱出を試みようする。

 

「りょ、了解! ワープエンジン緊急始動!

 ………だ、駄目です!」

 

「なぜだ!」

 

「ワープに必要な空間変位値を得られません!

 これでは超空間に入れずワープする事は出来ません」

 

「どういうことだ! 何とかしろ!」

 

 ワープという科学的な空間干渉技術は当然繊細なもので、安定した条件を満たさなければ自殺行為に等しい事故を招く危険を兼ね備えている。

 ワープするには超空間に入るための穴を空間にあける技術が必要になるが、穴を開けようとする空間に対して何らかの干渉を行なっていたとすれば、ワープを行なうために必要な力が狂い安定して行うことが出来なくなる。

 つまりハジメ達は超空間に干渉する事で、ズォーターたちがワープで逃げ出そうとするのを妨害していた。

 念のために行なっていた対策だが、ズォーター達が気付く余裕は既になかった。

 

―ドオオォォンン!―

 

 強い衝撃が船に走りズォーターたちが大勢を崩す。

 

「今の衝撃は何だ!?」

 

「ブースターの機能が停止! これでは船を動かすことが出来ません」

 

「奴らの攻撃か!」

 

「船体防衛の兵士がすべてシグナルロスト!

 更に発着口から船内への敵の侵入を確認!」

 

「敵の侵入を許しただと! 船内に残っている兵士に迎撃に向かわせろ!」

 

「既にほとんどの兵士が出払っていて、船内には整備兵しか残っておりません」

 

「くそぉ!!」

 

 ズォーターは近くに立てかけてあった、上級兵プラタの武器であるプラズマブラスターを慌てて手に取った。

 艦橋の入り口に銃口を向けて敵が来るのを警戒する。

 そしてほどなくして入り口からビームサーベルが突き出てくると、左右上下に動かして扉をバラバラに切り裂いた。

 

「く、来るなあぁぁぁ!」

 

 ズォーターは扉から入ってきたジムに向かってブラスターの引き金を引いた。

 

 

 

 

 

「以上が、先の鉄人兵団との戦闘映像だ」

 

「………」

 

 リルル専用の監禁室で、ハジメは鉄人兵団との戦闘の映像を地球観光から戻ったリルルに見せていた

 当初はリルルたちメカトピア人に、同胞が次々に殺されていく映像を見せるのは忍びないと思って口頭での説明のみで済ませようとしたのだが、リルルが覚悟を決めた様子で映像記録を見たいと言ってきたので、再三の注意をしても意見を変えなかったので望み通り見せる事にした。

 この映像は後にメカトピアに僕達との戦力差を示す証拠として送り付ける予定の物でもある。

 

 映像を見たリルルはやはり動揺した様子を見せて、拳を握りしめて体を震わせている。

 果たして今感じているのは同胞を殺された怒りか、無残に殺される同胞の姿に怯えた恐怖か。

 ハジメはリルルがやけになって突発的な何かをやらかさないか警戒していた。

 

「…答えて。 貴方は私に何をやらせたいの?」

 

「この前も言っただろう?

 君には戦争の落としどころを決めるために仲介役になってもらいたい」

 

「そんなことをしなくたって、これだけの戦力。

 あなた達なら私が手を貸さなくても戦争に勝利することが出来るのではないの?」

 

「確かにそれが地球を守るのに一番容易な方法だ。

 本来なら地球人の僕たちが、戦争を仕掛けてきたメカトピア人に配慮する理由はない」

 

「ならなぜ? 他に何か理由がないと説明がつかないわ」

 

 思う事は様々あるが、リルルは自身に求める仲介役の意味が一番の疑問に思っていた。

 メカトピアとの戦争を終わらせるのとは他に、何か目的があるのではないかと疑っていた。

 

「うーん…、どう説明した物か」

 

 メカトピアへの配慮はリルルという映画でのび太達と心を通わせた存在がいればこその感傷だ。

 もしリルルが何らかの理由で存在してなければ、いくら人間らしいロボット達と言っても地球を襲ってくる以上容赦せずに、問答無用の総力戦でメカトピアを壊滅させていたかもしれない。

 あるいは面倒だからと、映画のように歴史の改竄を行なっていたかもしれないとハジメは思ってる。

 

「…話は変わるが地球の人間たちを見てどうだった?

 メカトピアのロボット達とどう違っていた」

 

「…すべて違っていたわ。

 人間ばかりでロボットは一人もいない町を歩くのは、敵地に私一人だけという孤独感を感じた」

 

 諜報員としての役割を担っていたとはいえ、人と同じ心を持つロボットには異星の街を歩くのは心細いことを否定出来なかった。

 

「でも同時にどこか見覚えのある既視感を感じたわ。

 人間が街を往来している様子は、メカトピアのロボット達の生活と何処か重なるものがある事に気づいた。

 それに気づいてからは街の風景がメカトピアに重なって見えた。

 町の人間がメカトピアの市民と同じように見えたの」

 

「地球の人間が、メカトピアの都市の人々と同じように…」

 

「それからはもう、人間をメカトピアのロボットとは別物とは思えなくなってた。

 人間にもそれぞれ感情があって大切なものがあってロボットと同じように生きてる。

 人間を奴隷にしようとすることは、以前の地金族や鍍金族を奴隷にすることと変わらないって」

 

「そ、そう…」

 

 ロボットの方が人間にも感情があるんだという言葉に、どうにも奇妙な感じがして言葉を濁す。

 地球のよくある物語にはロボットの方が突然感情を得る事で戸惑いを覚えるのは人間の方なのだが、ロボット視点から逆の説明を受けるというのは人間であるハジメには珍妙に思えた。

 

「アシミー議員の議会での忠告通りだったわ。

 人間を奴隷にする事はロボットを奴隷にする事と同じで、戦前と同じことの繰り返しだって。

 ホントにその通りね。 人間を奴隷にしようと反攻されて痛いしっぺがえしを受けてるんだもの。

 貴方たちのロボットは知らないけど、メカトピアのロボットは成長していないのね」

 

「ハハハ……」

 

 人の愚かさに呆れる人間のように語るリルルに、ハジメは乾いた笑いを漏らしてしまう。

 リルルは人間の姿に擬態してるから違和感がないが、メカトピアのロボット達がこのような事を口々に言っていれば、ハジメも心境的にやり辛くなる。

 

「まあ地球の人間も失敗を繰り返すようなところは変わらないからお互い様だ。

 ただ、君が人間をそういう風に見れるようなったのならいい。

 僕もメカトピアのロボットには心があると思っているから、戦いで全てを終わらせてしまうのは忍びないと思っている。

 それが全滅させる以外で戦争を終わらせようとする理由だ」

 

 心を持つロボットの代表がリルルであると心の中でハジメは呟く。

 

「それが理由なのね。 同じ心を持った者に対する慈悲という事?」

 

「少し図々しい言い方だがそんなところだ」

 

「まだ納得しきれないところもあるけど、その言葉を信じるわ。

 もともと私にそれ以外の選択肢で生きる道は残ってないもの」

 

「別に断ってもらっても君を殺すつもりはないよ。

 せいぜい戦争が終わるまで軟禁する事になるだけだ」

 

 無理矢理協力させてまで仲介役をハジメは求めていなかった。

 のび太達の様に仲良くなるのは無理とわかっていたので、うまくいかなくてもいいとダメもとの懐柔策なのだから。

 

「そう。 でもさっきの戦闘映像を見る限り、ロボットを殺して全滅させる事に躊躇がない様だけど」

 

「襲ってくる奴らなら容赦はしないし、戦いに勝って地球を守るのは僕らの大前提だ。

 もしメカトピアを滅ぼさない限り地球を守れないというなら、滅ぼすことに躊躇は出来ない」

 

「私もメカトピアを守るためならたとえ無茶無謀と言われても、あなたとその仲間も殺して見せるわ。

 仲介役になるのだって、全てはメカトピアの為なのだから勘違いはしないで頂戴」

 

「それでいい。 君の力で少しでも早く戦いが終わるよう努めてほしい。

 戦争なんて僕も長々とやり続けたくはないからね」

 

 そう言ってハジメは右手を差し出し握手を求めると、リルルも僅かに戸惑った様子を見せた後に握手に応えた。

 ハジメは握手を受け入れてもらったことで少しだけリルルと仲良くなれたように思え口角を上げる。

 尋問する側だったために厳格な対応をしていたハジメが少し柔らかい表情を見せたことで、リルルも少しだけ警戒心を解いて笑顔を見せる。

 ハジメが思うよりも、リルルと仲良くなることはそう難しい事ではないのかもしれない。

 

 

 

「ところでさっき鉄人兵団を全滅させたって言ってたけど、戦闘結果をメカトピアに証明するための証人として司令官だけ生かして捕縛してあるんだ。

 金色のボディの奴なんだけど」

 

「知ってるわ、確かに司令官のズォーターね」

 

「ただ無駄に偉そうな上に言動がめちゃくちゃだから、メッセンジャーにメカトピアへの伝言を伝えさせようにもまともに会話が成立しないんだ」

 

「彼は見ての通り金族の元王族で、共和制になってもその価値観を捨てられない人だから司令官を本来務められるような能力の持ち主じゃないの。

 それを金族のコネで司令官の席に潜り込んできたから、誰もが彼を司令官とは認めなかった。

 評議会もそれがわかっていて優秀な副官をズォーターにつけていたはずよ」

 

「うーん、あの金ぴか以外だと上級兵くらいしか区別できなかったからな。

 たぶん誰がその副官か分からずにまとめて倒してしまってると思う。

 人間の視点だとあのロボット兵たちの違いが分からないから」

 

「彼らは兵として統一装甲を配備されているから、コードシグナルを読み取らないと光学では判別出来ないわ。

 人間はコードシグナルを認識出来ないの?」

 

「人間にはそんな機能搭載されてない」

 

 結果としてズォーターは敗北の証拠としてメカトピアに後ほど送り付けられ、尋問後に謹慎処分を受ける事でこの戦争に関わることが出来ずに生き残る事になる。

 また、プラタ副司令を手にかけた事実も尋問では問われる事はなかったので、事実を知る者は誰もおらず裁かれることはなかった。

 悪運の強い奴である。

 

 

 

 



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真・鉄人兵団6

感想、及び誤字報告ありがとうございます。

0時までにちょっと間に合いませんでしたが投稿します。




 

 

 

 

 

「三番艦隊、八番艦隊壊滅!」

 

「友軍の損害率40%を超えました!」

 

「くそっ! またしても一方的にやられっぱなしではないか!」

 

 惑星メカトピア近辺宇宙域にて メカトピア軍は連日交戦状態にあった。

 展開している兵数はメカトピア軍の方が大きく勝っているのだが、ロボットとしてのスペックと武装の差により交戦するたびに戦力を減らし押され続けていた。

 今はまだ後方から戦力の応援を得られているがそれも無限にあるわけではなく、何らかの手段で戦況を打開しなければ遠くないうちに軍は崩壊すると艦隊の総司令は危惧していた。

 

 メカトピアのロボットは人であり兵士だ。

 工場で量産して増やし、すぐさま戦場に送り出して戦力に加えるといった手段はとれない。

 ロボットを道具として扱えるなら可能だが、メカトピアの価値観としてロボットを量産するなどクローン兵を用意するようなもの。

 何よりそれはメカトピアの禁忌に触れるものであり、初めからそんな考えはメカトピアの人々にはない。

 ただ言える事は消耗品に出来る敵のロボットと、消耗品に出来ない味方の兵士では、いずれ質だけでなく量も戦力を上回られる可能性があった。

 

「このままではメカトピアを滅ぼされかねん!」

 

「総司令! 敵の主力機に防衛網を抜かれました!

 こちらにものすごい速度で向かってきます!」

 

「弾幕を張れ! 旗艦の近くの友軍も敵主力機に攻撃を集中!

 奴に好き勝手させるな!」

 

 総司令の乗る旗艦から無数のレーザー・ミサイル・バルカンが発射される。

 更には味方のロボット達のレーザーやブラスターも無数に発射されるが、高速で移動する対象には空振るばかりで、たまに当たっても装甲の強度にはじかれてダメージにならない。

 ロボットは形態を変えて飛行機のような形になっており、その状態での高い機動力で弾幕を潜り抜け、遂に総司令の乗る旗艦のブリッジの前までたどり着く。

 一瞬で飛行機型から人型に変形すると、ビームライフルを抜き放ちブリッジを正面から撃ち抜いた。

 

 すぐさま再変形して離脱した直後ブリッジは爆散し、そこから誘爆する事で旗艦だった船は爆散した。

 旗艦の撃沈を機に相手側は一斉に撤退を開始。

 旗艦を落とされ総司令を失ったメカトピア軍は混乱しており、撤退した相手を追撃する余裕はなく見送る事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 メカトピア最高評議会。

 ここでは惑星メカトピア上空で行なわれる連日の宇宙戦闘の結果に、物議を醸しだしていた。

 

「また地球の人間にいいようにやられて逃げられただと!

 何度目だと思っている!」

 

「先の布告よりすでに半月が経過しているから、十連敗以上はしているな。

 たった半月とはいえ、ここまで連戦を続けている事もおかしい。

 嘗ての戦争の時代でも、このような戦況は聞いたことがありません」

 

「地球人が戦況が有利にも拘らず、中途半端なところで撤退する事でお互いの戦力を消耗し切らずにいられるからだろう。

 地球側の継戦能力に何か問題があるのかと軍は追撃をかけてみたそうだが、同日に二回戦が始まっただけでこちらが大きく消耗しただけだった。

 奴らの戦術に一体何の意味があると言うのだ」

 

「人間共の行動などどうでもいい。 重要なのが我ら栄光あるメカトピアのロボットが人間に従うロボットごときに負け続けているという事だ!

 この不甲斐ない結果に、軍部は一体どう責任を取る気だ」

 

「責任もなにも純粋な兵の戦闘能力で劣っているのだ。 軍の作戦そのものに何の問題もない」

 

「我らが地球のロボットに劣っているというか!」

 

「戦闘能力に関しては認めざるを得ないだろう!

 でなければ正面から戦って、こちらの方が損害を多く出している理由に説明がつかん!」

 

 議会の評議員たちもまた連日の敗戦に動揺しており、その事実を受け入れきれずにいた。

 

 メカトピア上空の宙域での戦闘が始まったのは半月前。

 始まりは人類奴隷化計画の地球侵攻の為に送り出した鉄人兵団が壊滅し、司令だったズォーターただ一人が地球人のメッセージと共に送り返されてきたことが始まりだ。

 

『メカトピアのロボット共に告げる。

 我々は地球を守護する組織シークレットツールズ。

 貴様らが地球の人間を奴隷にしようと送り込んだ鉄人兵団は、我々の戦力によってすべて壊滅させた。

 このような侵略行為を我々は許すわけにはいかない。 報復攻撃の準備として既に惑星メカトピア近辺の宇宙宙域に戦力をそろえている。

 我々の要求はただ一つ。 二度と侵攻などしないという地球への不可侵の厳守だ。

 これを認めない限り我々はメカトピアへの報復攻撃を続け、最後まで認めないならメカトピアを滅ぼすことも厭わない。

 早い段階でこの要求を受け入れる事をお勧めする』

 

この勧告が評議会にズォーターを送り付けられると同時に、メカトピアの一般メディアにも強制的に放送され、国民全員にこのことが周知されてしまった。

 鉄人兵団が返り討ちにされズォーターに持たされていた戦闘記録に議会は驚愕したが、だからと言って素直に要求に応じるようではメカトピア最高議会の威信に関わる。

 すぐさま防衛部隊が編成され、宇宙にいる地球軍に対し攻撃を仕掛け、開戦した。

 

 既に目の前まで迫ってきていた地球軍に対して即座に攻撃を仕掛けたことで戦力分析など終わっておらず、鉄人兵団の二の舞になるようにあっさりと兵はやられていった。

 しかし地球軍はメカトピア軍にある程度損害を出すと、戦闘を中止して後退し交戦宙域から離脱した。

 初戦の時は一方的かつ損害の大きさに追撃する事はなかったが、翌日以降も同じようにある程度メカトピアの軍に損害を出すと撤退する事から、継戦能力に問題があるのではないかと損害を無視して追撃を試みるが、地球軍は再び戦闘を開始。

 その日はより大きな損害を出すだけの結果に終わり、その後も連日損害を与えられて撤退されることを繰り返していた。

 その行動の意味を軍部も評議会も測りかねていたが、ただ言える事は戦力に圧倒的な差があり、地球軍がその気になればいつでも壊滅させられるのではないかという意識が根付き始めていた。

 

「先ほど兵器開発部から超大型ボディ換装計画の成功例が三十機揃ったと報告があった。

 最終調整を終えたら全機戦場に派遣する予定だ」

 

「おお、あの計画の成功体なら戦況を打開出来るかやもしれませんな」

 

「待っていただきたい。 確かあのボディ換装の成功率は完全ではなかったはずでは」

 

 超大型ボディ換装計画はジュドが受けたもので、メカトピアの通常サイズのロボットの電子頭脳を巨大なボディに移し替えるものだが、その成功率は完全とは言い難く失敗する確率も十分あった。

 

「確かに成功率はいまだ70%を上回らないが、換装術を受けた者たちはすべて志願制で立候補した兵たちだ。

 強制的に改造したものなど一人もいないと約束しよう」

 

「そういう問題ではない。 そのような危険な換装を行なうこと自体が問題なのだ」

 

「では他にこの状況を打開する方法があるのかね。

 それを提示してから批判をしてほしいものだ」

 

「ぐっ」

 

 批判的な意見を述べた議員は、その反撃に言葉を濁らせるしかなかった。

 有効な手段を思いつかない中で、超大型ボディによる戦闘力が一番期待できる手段に違いなかった。

 言葉に詰まった議員は、騒がしい議会の中で喋らずに腕を組んだまま考え込んでいるアシミー議員に気づく。

 

「アシミー議員はどう思います。 危険性の高いボディの換装を推し進める事について」

 

「私か? …私もそのような換装術を好まないが、志願制でありなおかつ兵として戦場に送り出す以上はどちらにしろ命の保証はない。

 ロボット道に基づくなら賛同するべきではないが、兵や軍としては危険に飛び込むことを止める事は出来ない」

 

「そ、そうですか」

 

「流石大戦の英雄殿は覚悟が違いますな」

 

 アシミーの賛同が得られなかったことで否定的だった議員は黙するしかなくなった。

 

「だが超大型ロボットの戦場投入で地球軍に勝てるようになるとは、私も到底思えない」

 

「ではどうするおつもりです? 大将軍と呼ばれたあなたの意見も是非聞いておきたい」

 

 嘗ての大戦を生き抜いた歴戦の英雄の意見と聞き、議員たちの視線がアシミー議員に集まる。

 

「私に有効な打開策などない。 戦後からは軍事に関わっておらんから有効な武器開発など知らんのでな。

 だが、我々が取れる手段が無いわけでもない」

 

「と、言いますと?」

 

「地球人のメッセージを憶えていよう。

 彼らの要求は地球への不可侵の厳守。

 要は今後地球に関わらないと約束すればいいだけの事」

 

「敵の要求を受け入れると!」

 

 アシミーの発言に議員たちがどよめく。

 

「我々に敗北を受け入れろと言うのですか、アシミー殿は!」

 

「この戦力差では致し方ないと考えている。

 敵の要求はそれ一つと明言している。

 戦場で兵がどんどん数を減らす一方では、要求を受け入れる事で戦いを終わらせることも一つの手段だ」

 

「人間に我々が負けを受け入れる事がどういう事なのかわかっているのですかな。

 嘗て神は人間を見放し、ロボットに宇宙の支配者に成れと期待を託された。

 その期待を裏切る事になるのですぞ」

 

「然り、それは神への冒涜に他ならない。

 嘗ての戦乱でロボット同士で戦い、一方が負けを認める事とはわけが違うのですよ」

 

 メカトピアのロボット達の中には神が定めたルールが今も残り続けている。

 故にそれが神の存在の証明であり、絶対の信仰としてメカトピアに根付いている。

 それを覆す事は到底出来ない物だった。

 

「では我々が地球の人間に押されている現状をどう説明する」

 

「それは…」

 

「いくら神の期待が我らロボットに掛かっていようと、現実はどうやっても変わりはしない。

 このまま敗戦が続けば地球人の宣言通り、メカトピアは滅びる事になるかもしれん。

 そうなれば神の期待も何も残らない。 敗北を受け入れる事でメカトピアが存続するならそれでもいい」

 

「「………」」

 

 メカトピアが滅びる事に比べれば、そういわれてしまえば敗北を受け入れるのも一つの手段かもしれないと議員達も理解はする。

 

「しかし、地球人の要求が本当にそれだけで終わりますかな。

 更なる要求を突き付けてくるやもしれませんぞ」

 

「かもしれん。 それが受けれられる要求であれば受け入れる事も仕方がない。

 だが受け入れられない要求であれば、背水の陣で徹底抗戦をするしかなくなるだろう。

 これは嘗てのメカトピアのロボット同士の戦いではなく、メカトピアの存亡をかけたロボットと人間の戦いでもある。

 負ければ一方が完全に滅ぼされる事もありうる」

 

 アシミー議員の言葉に議員たちはこの戦いの意味を改めて理解する。

 嘗てのメカトピアのロボット同士の戦いであれば勝ち残った一方は生き残ったが、これは別の種族である人間を相手取った戦いだという事を。

 負けて全てを奪われればメカトピアのロボットが文字通り全滅する事になる可能性を理解した。

 

 その事実に議員たちは慄く。 メカトピアのロボットがすべて殺される、それは想像もしたことがない恐ろしい未来だった。

 アシミー議員も静まり返った議会を動かすように言葉を紡ぐ。

 

「無論それは最悪を想定しての事態だ。 勝つ為ではなく生き残るためであればまだまだ手段はいくらでもあるだろう。

 今はまだ滅びるか滅びないかの段階ではなく、勝つか負けるかの段階だ。

 勝つために戦っている兵士の為にも、我々が容易に諦める訳にはいかない」

 

「…そうですな。 アシミー殿の意見も最悪の事態を見越しての事ですからな。

 いずれにせよ人間相手に容易に敗北を認めるなど、全てのメカトピア人が認めはしませんよ」

 

 神の教えはメカトピアのロボット達が誰もが知っていることだ。

 神が見放した人間に負けを認めるのは、議会の威信だけでなくメカトピアロボットの意義に反する。

 滅びなど当然受け入れられないが、敗北を認める事も非常に難しい事だった。

 

「確かに神の教えは我々にとって絶対だ。

 安易に人間に関わろうとしたことがそもそもの間違いなのかもしれない。

 神が人間を見放したとは、関わるべきではないという考えだったのやもしれぬ」

 

「アシミー議員はこれを見越して人類奴隷化計画に反対をしていたのですか?」

 

「まさか? 流石に私もこのような事態を予想などしていなかったよ。

 そういう意味では私も人間を甘く見ていたことに違いはない。

 もしこうなる事がわかっていれば………議会を占拠するかクーデターを起こしてでも止めていたかもしれん」

 

「ははは、それは恐ろしいですな」

 

「英雄殿は今なお国民からの根強い人気がありますからな。

 その気になれば立ち上がる者達も数多くいる事でしょう」

 

「だが今は団結してこの国難に立ち向かわねばならん。

 どのような難敵であれど我々がメカトピアを守り抜くのだ!」

 

 アシミーの宣言に多くの議員が同意するように頷いて答える。

 英雄と呼ばれたロボットの輝きは議員となった今でも消えていなかった。

 

 

 

 

 

「以上が、つい先ほどの議会の内容だね」

 

「私達の情報が筒抜けじゃない!?

 どうなっているのこれは!」

 

 議会の映像記録を宇宙船の一室でリルルに見せたら、このような反応が返ってきた。

 機密に近い最高議会の会議の様子が丸分かりの現状に、リルルは頭を抱えるしかなかった。

 

「これ一体どうやって議会の映像を入手してるのよ。

 議員の中に裏切り者でもいるとでもいうの?」

 

「それなら停戦工作も楽に進んで君を仲介役にする必要性もなかっただろうね。

 まあ映像の入手方法は当然秘密だけど」

 

「絶対調べだして見せるわ。 この映像を私に見せたことを後悔させてあげる」

 

 この映像はタイムテレビを使った時空間を通した観測なので、時間干渉が出来るほどの技術が無ければ対策を講じることが出来ない。

 例えメカトピアの技術でもすぐに対処する事は不可能だと分かっていたので、ハジメはこの映像をリルルに見せていた。

 

「とまあ、戦端が開いて半月。 ようやく向こう側も負けた時の事を考え始めたみたいだ。

 国民も戦況が思わしくないことが広まってるみたいで、不安を抱え始めている。

 もう一押しすればたとえ敗北であっても戦争を終わらせようという動きが出てきてもおかしくない」

 

「…アシミー様の言ってたようには人間に負けを認めるのは受け入れがたいけど、メカトピアそのものが滅びるよりはずっとましね。

 それでこれを見せたという事は、そろそろ私に何かをしてほしいという事よね」

 

「ああ、これから準備を整えたら僕達と一緒にメカトピアに降下して都市内に潜入する。

 目的はこのアシミー議員に接触をすることだ」

 

「確かに以前から地球への侵攻を反対していたアシミー様なら、終戦への準備を裏から進めてくれる可能性が高いわ」

 

「それに議会でただ一人敗戦を視野に入れていたことも評価が高い。

 秘密裏に接触して戦いを終わらせるための取引を求めれば、応じる可能性は十分にある」

 

「そこまでの案内を私にさせようというのね」

 

「それと君から見た地球の人間の様子を伝えてくれると助かる。

 メカトピアのロボットである君からの説明の方が説得力があるからね」

 

「責任重大ね。 でもやると決めたからには戦争を必ず終わらせて見せるわ」

 

 思う事は多々あるが、この戦争を終わらせることにリルルは一切迷いはなかった。

 人間がどういう存在か知ったのもあるが、戦場で散っていく兵士たちを少しでも多く減らすために早く戦争を終わらせたいと思っていた。

 

「だけど、潜入するには一つ問題があるわ。

 私のボディは地球に潜入するために人間に偽装されているけど、メカトピアに戻ったらこの姿は異質に映ってしまうわ。

 コードシグナルを発信出来るから同じロボットだとは理解してもらえるけど、姿からしてとても目立つと思うわ。

 それに人間の貴方はどうするつもりなの?」

 

「潜入の為に普通のロボットに見える外装を用意してある。

 コードシグナルについても調査済みだから、そのための発信装置をつけていれば問題ないだろう」

 

「確かにそれならいけると思うわ。 コードシグナルの偽装なんて禁忌に触れるから正直気に食わないけど」

 

「確か電子頭脳に関する事の多くが、メカトピアのロボットにとってやってはいけない事なんだったな」

 

 メカトピアのロボットの電子頭脳は、始祖であるアムとイムの物から一切変化していない。

 神が定めたルールとして、子孫を作る際に一切の変更を加えてはいけないというルールがあるからだ。

 他にもルールは多々あるが、それを犯そうとすれば電子頭脳の根底から警告が発せられ、それでも止まらない場合は最悪電子頭脳自ら自壊してルールを破ろうとする行為を止めようとする。

 メカトピアのロボットが人らしく生きるために定めた神のルールは、破ろうとすれば非常に厳しいものが用意されているのだ。

 

「ええ、メカトピアの全てのロボットは神のルールに縛られているわ。

 それを人間が破ることが出来る事も、私にはとても恐ろしいことに思えるわ」

 

「まあ人間だって誰かに頭の中を弄られたいとは思わないからね」

 

「メカトピアのロボットは自分はもちろん他人の電子頭脳を操作しようとする事が許されないわ。

 壊そうとすることにのみ警告は出ないけど、それ以外ではすべて神のルールから警告が出るわ」

 

「先ほどの会議で言ってた超巨大ロボットへの電子頭脳の換装はどうなんだ?

 電子頭脳の干渉に引っかからないのか?」

 

「電子頭脳からの接続を切り替えるだけだから、その者への干渉じゃないとして引っかからないわ。

 もともとボディの換装は昔からある事だから、特に珍しい事でもないの。

 ただ超大型ロボットへの再接続となると、もともとのボディとの差から大きな負担がかかって死んでしまうロボットがいるみたい」

 

 メカトピアのロボットの寿命は電子頭脳が起動してからその機能が停止するまでだ。

 一度停止してしまえば、神のルールによって電子頭脳への干渉と言う禁忌から修復できない。

 だからこそメカトピアのロボット達は人間のような死が存在している。

 

「なるほど。 やはりメカトピア人たちが電子頭脳に干渉出来るのは、子孫のロボットを作って起動するときに限るわけだな」

 

「ふぇ! え、ええその通りね!!」

 

 突然挙動不審になるリルルにハジメは疑問符を浮かべる。

 

「? どうかしたのかリルル?」

 

「何でもないわよ! 貴方が変なこと言うから戸惑っただけ!」

 

「僕、何か変なこと言ったか?」

 

「言ったじゃない! ほら……作るとか……起動するとか……」

 

「え? …あ、あー」

 

 メカトピアのロボットにとってのそれが人間に置き換えるとどういう意味なのか考えると、ハジメはようやく理解する。

 顔を赤くするリルルに人間の感性の違いから、どういう反応を返していいかわからなくなるハジメだった。

 

 

 

 

 

 



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真・鉄人兵団7

感想、及び誤字報告ありがとうございます。

今回も時間ぎりぎりの執筆でしたので誤字確認が間に合ってません。
もっとスラスラかけるようになりたいなー


 

 

 

 

 

 メカトピア近辺の宇宙宙域にて、今日もメカトピア軍とハジメ達の軍勢は戦闘を繰り広げていた。

 メカトピア軍は全ての兵士に武装を全開放し、一般兵でも上級兵が持っていたプラズマブラスターやヒートブレードが配備され、モビルソルジャー達にも損傷を与えうる攻撃力を獲得していた。

 しかしモビルソルジャー達が十回の攻撃に耐えられるのに対し、メカトピア兵はビームサーベルやライフルの攻撃を受ければ一撃で破壊される程度の耐久力しかない。

 それがお互いの戦闘での損傷率に大きな差を作っていたが、新たに戦場に投入された超大型ロボットによりモビルソルジャー達の損傷率が急激に上がった。

 

「やっぱり大きいというのはそれだけで影響力があるからな」

 

『単純に質量による破壊力が出るからな。

 搭載兵器も出力が高いからか量産型のモビルソルジャー達も落とされる数が増えている』

 

 モニター越しにオリジナルのハジメと実行部隊隊長のハジメが言葉を交わす。

 

『超大型ロボットをとりあえずジュド級と呼ぶとして、現状ではどれほどの脅威になっている?』

 

「確かに量産型には十分な攻撃力を備えているが、数はそれほどでもない。

 量産型でも数で押せば撃破も難しくないようだ。

 既に何機か落としている」

 

 超大型ロボットジュド級の武装はその巨体による攻撃だけでなく、内蔵エネルギーによる通常サイズのロボット兵とは比べ物にならない高出力の十指から一斉に放たれるフィンガーレーザー、背部に背負った大型バスターカノンに腹部のレーザー砲と、強力な武装が搭載されている。

 土木作業用として送り出されたジュドとは違い、戦闘面に多くの武器が追加されていた。

 

 量産型でも当たり所が悪ければ一撃で落ちる火力を備えているが、量産機を統括する指揮官機もそんな相手を警戒しないほど人工知能の性能は低くない。

 盾を備えているジム部隊を壁としてムラサメ部隊の機動力で急接近し、光学兵器を使いづらい間合いに入り素手による攻撃を掻い潜って、装甲のない関節部を狙う様に攻撃を仕掛けた。

 これまで同等のサイズのロボット兵だったことで強度の低い関節を狙うのは量産機には難しかったが、ジュド級のサイズならば関節という的も大きくなり狙いやすかった。

 関節を狙う事で行動を制限し、動けなくなったところを電子頭脳のある頭部を破壊する事で撃破した。

 

 一度攻略すれば有効な戦い方がわかるので、ジュド級もそれほど脅威とは成り得なかった。

 しかし学習しているのは何もこちらだけではなかった。

 

『なるほど、だが戦闘記録の戦果を見ると、日を追う毎に戦闘時間とこちらの消耗率も上がってきてないか?』

 

「それは仕方ない。 メカトピアのロボット達もモビルソルジャーと戦う事に慣れてきている。

 いくら指揮官機がいるとは言え量産機では、経験を重ねてきた心を持つロボットに学習能力で劣る。

 性能が向上しているわけじゃないだろうが、量産機に簡単にやられるロボットはだいぶいなくなってきてるみたいだ」

 

 メカトピアの兵達も連日の戦いでモビルソルジャーの動きに慣れて、交戦しても簡単に落とされることはなくなってきている。

 何せ量産性を優先した無人機なのである程度行動パターンが出来ており、人間並の柔軟な思考を持つメカトピアのロボットには動きが読まれ始めているのだ。

 性能差で未だ圧倒しているが、このまま戦闘が幾度も繰り返されれば量産機だけでは対応が難しくなるかもしれない。

 

『ではどうする? ジュド級に対抗するためにモビルスーツも出撃させるか?』

 

 アークエンジェル一番二番三番艦には従来のモビルスーツの発着口も残っており、カベ紙格納庫に収納されている通常のモビルスーツも配備されているので、ジュド級とも正面から十分戦うことが出来る。

 

「………いや、モビルスーツを出すのはまだ早いと思う。

 モビルスーツを出せばジュド級でもあっさり倒してしまって、戦線のバランスが傾き過ぎてしまう気がする。

 戦線の維持にはモビルソルジャーの量産機を増員する事で調整しようと思う」

 

『モビルスーツは温存か。 せっかく用意しておいて使わないのは残念だが、それもまあ仕方ないか』

 

 量産機の量産には秘密道具のフエルミラーを多用している。

 増やそうと思えばいくらでも用意できるので、どれだけ量産機を破壊されても戦力不足になる事はない。

 

 更にハジメ達のこの宙域での戦闘目的はメカトピアの兵力を消耗させつつ、こちらの脅威を知らしめる事だ。

 ハジメ達の戦力であれば数に任せてメカトピアを一気に壊滅させられるが、それをしてしまっては始めに降伏勧告をした意味がない。

 戦力の圧倒的不利と更に手加減されていることを理解させて、敗戦を自ら認める判断をさせる事がこの戦線を維持するハジメ達の目的だ。

 

 メカトピアの兵士は人間の兵士と変わらない扱いなので量産機の様に増やす事は出来ず、消耗し続ければ遠くないうちに兵力不足に陥る。

 そのタイムリミットを意識させるように一定の兵力を毎日戦闘で削り続け、損傷率が低すぎず高くなり過ぎないようにメカトピアの議会に圧力をかけ続けている。

 その成果は先日の議会の様子を見る限り着実に出始めているが、終戦に至るまではもう少し時間がかかりそうだ。

 

『量産機のモビルソルジャーへの対応力は予想していなかったが、その辺りは数を調整する事でいくらでも対応が出来る。

 やっぱり向こうに敗戦を意識させるには、内側からの圧力が必要になりそうだ』

 

「さっきリルルとその担当のコピー、それと護衛のドラ丸がメカトピアに降下した。

 アシミー議員に会って働きかける事で、状況が一気に進展すればいいんだが…」

 

 

 

 

 

 メカトピアに降下したハジメ達は人目に付かないように都市郊外に降り立ち、リルルの先導であまり目立たないように都市内部に潜入していた。

 

「これがメカトピアの街並みか。 モニターで確認していたが、金属製の建物が多いからか固い感じはするけど、地球の都市部と似た雰囲気がある」

 

「でしょう。 ここら辺はまだ住宅街が近いから人通りはあまりないけど、もう少し行けば繁華街に出て人がたくさん行きかうようになるわ」

 

「議会場はその先だったね」

 

「ええ、メカトピアの主要機能が集中する首都中心部よ。

 早速行くの?」

 

「アシミー議員には極力誰もいない状況で接触するのが望ましい。

 まずは下見に議会場の場所を確認しに行くだけだよ」

 

「わかったわ、ついてきて」 

 

 リルルの先導の下、ハジメとドラ丸はメカトピアの都市の中を歩いていく。

 リルルは元からロボットだが人間の姿をしているので、ハジメと一緒にロボットの外装を着けて姿を変えている。

 ハジメに至ってはモビルソルジャーに小さくなってコクピットに乗り込み、サイコントローラーを使う事で操縦ミスが無い自然な動きで動いている。

 そしてドラ丸だが、リルルもそうだが元々ロボットなので普段通りの姿で行動している。

 

「そういえば、ドラ丸と一緒に街を歩く事なんて初めてだよね」

 

「そうでござるな。 拙者のような姿のロボットが人間の街を歩いていたら不自然でござるからな」

 

 アニメでは当たり前の様にドラえもんは町中を歩いているが、そこからして不自然な事に結構気付いているものが少ないと思う。

 ハジメもドラ丸を作ってから気づいたが、この姿では街中での自然な護衛役など出来そうにない。

 事件の間は人間の街中を歩くようなことはなさそうだが、事件が終わったら人間の姿に変わる機能でもつけてみようかと考えていた。

 

「ところでドラ丸の姿はメカトピアでは不自然ではない?」

 

「確かに珍しい姿だと思うけど、同じような体格のボディを持ったロボットもいないでもないわ。

 兵士たちは戦闘用の装甲の関係で姿を統一しているけど、一般市民なら個性を出すためにファッションとしてボディパーツを付け替えることくらい当たり前だし、体格変更の改造も近年では一般家庭でも安価で受けられるようになってきているわ」

 

「意味は分かるけど、人間に例えるなら美容整形感覚での改造か?

 どうも地球の文化と似通ってるけど、人間とロボットでズレが生じるから奇妙な感じがする」

 

「私も人間の都市を見に行った時に同じことを感じたわ」

 

 もしもボックスで地球人がロボットだったらという世界にしたら、このような世界なのかもしれない。

 

「…殿、拙者ら見られてはござらんか?」

 

「なに? …確かに、少し見られてるみたいだ」

 

 隠れて監視されているといった類ではなく、道行く人々の目に留まって意識されるような見方をされている。

 先ほどまでは人通りが少なかったが、リルルの言う様に繁華街に近づいたことでこちらを見る人が増えてきている。

 

「リルル、この姿ならメカトピアの街中を歩いても問題ないんだったよな。

 注目を集めている気がするが、どういう事だ」

 

「あら、こんな姿なら当然注目されるわよ」

 

「なんだと」

 

 リルルの返答にハジメは警戒心を持ち、ドラ丸もここで裏切る気かと疑い腰の猫又丸に手をかける。

 

「こんな素敵なボディをしてるんだもの。 人目を集めても全然不思議じゃないわ」

 

「は? ボディ?」

 

「でござる?」

 

 ハジメとドラ丸はリルルが何を言っているのか一瞬解らなかった。

 

「ええ! 外装とはいえこんな素敵なボディバランスと釣り合いの取れた装飾パーツで作られた装甲は、トップモデルだって早々着飾る事の出来ないクオリティよ!」

 

「トップモデル?」

 

「ござ?」

 

 ハジメとドラ丸はやっぱり訳が分からなかった。

 

「だからこの外装は私たちの視点ではとてもハイセンスなファッションなのよ。

 ファッションに五月蠅い女性たちなら注目せずにはいられない新しいファッション分野の開拓よ」

 

「えっと、その姿がそんなにすごいの?」

 

「もちろんよ! 姿を変える為とはいえ、こんな素敵な外装を着けられるとは思わなかったわ!

 地球の人間はロボットがあんまりいないのにファッションセンスがあるのね」

 

「あ、そう…」

 

 そういえば外装を纏う時にリルルがなんかすごくうれしそうだったなと思い出す。

 リルルの姿は女性でロボットでモビルスーツと言うワードから、ノーベルガンダムの姿に成っている。

 ガンダムを女性の体形にしてセーラー服を着せたというハジメの感想では珍妙なモビルスーツなのだが、リルルがこれがいいと選んだので、リルルが着込んで動けるように改良した。

 選択肢の中には女性パイロットが乗るモビルスーツモデルのモビルソルジャーを用意していた。

 

「それに私だけじゃなくって、ハジメさんの今の姿も十分トップモデルで通用する姿よ。

 自信を持っていいわ」

 

「それはありがとう、でいいのか?」

 

 ハジメの操縦しているモビルソルジャーはゴッドガンダムのモデルで登場ストーリーを合わせてのチョイスなのだが、この姿は注目を集めてしまうという事を理解し、失敗したかとハジメは考える。

 ちなみに、メカトピアにはモデルという職業もあるのかというツッコミは、リルルの剣幕に流されてしまった。

 

「しかし潜入する以上あまり注目を集めるような恰好はしたくなかったんだが…。

 派手な装飾の少ないジムかザクのような量産機タイプの姿にすればよかったか」

 

「もったいないわ、せっかくそんなカッコいい姿なのに。

 確かジムとザクと言うのはあの兵士階級のロボット達よね。

 ジムと言うのはフォーマルな感じで悪くないけど、ザクはちょっとワイルドでラフな感じがするから一般にはあまり好かれないと思うわ。

 一つ目と言うのも奇抜過ぎるもの」

 

 モノアイの良さがわからないとは、メカトピアのロボットのセンスはますます地球人のハジメには理解し難いと思った。

 そんなことを話していると、二人のロボットが近付いてくるのにハジメは気づく。

 ボディカラーと体系から、おそらく二人とも女性のロボットだろうと辺りを着ける。

 

「す、すいません、ちょっといいですか!?」

 

「なにかしら?」

 

 少し緊張した声色で話しかけてくる女性ロボットに、リルルが対応する。

 

「モデルの方なのでしょうか!? 素敵な装甲です!」

 

「是非写真を撮らせてもらいたいんですが、よろしいでしょうか?」

 

「えぇー…」

 

 ミーハーな女性に声をかけられたと思えばいいのだろうか、ハジメは困惑しっぱなしである。

 

「そうね、どうしたらいいと思う?」

 

 いわゆる潜入任務中なので、記録に残る行為はやめた方がいいのではないかとハジメに確認を取るリルル。

 

「…別にいいんじゃない」

 

「いいみたいよ」

 

「「やったぁ!」」

 

 投げやりになったハジメの返事にリルルが代弁して答え、ロボット女性二人は黄色の声を上げて喜ぶ。

 メカトピアのとある写真に、ノリノリでポーズを決めるノーベルガンダムと肩を少し落として疲れ気味に見えるゴッドガンダム、ついでに背筋をピンと伸ばして緊張しているずんぐりむっくりな青いロボットが写った写真が残る事になる。

 

 更にその後街中を歩いていればリルルがナンパされること5回、ハジメの乗ったゴッドガンダムがナンパされること2回、ドラ丸が何処のゆるキャラであるかと聞かれること1回、と何かと注目され声を掛けられる事になり、道行は遅々としたものとなった。

 

 

 

 

 

 メカトピア最高議会の議員は何も会議するばかりが仕事ではない。

 連日の戦闘で議会場での会議も毎日行われているが、そればかりで議員の仕事は終わらない。

 議員それぞれには専用の執務室が用意されており、議長であるオーロウも仕事の為に部屋に戻ってきて机に座っていた。

 

「全く嘆かわしい。 人間共に敵わぬ軍もそうだが、敗戦を視野に入れるアシミー議員共もだ。

 絶対的な力を誇示していた王の君臨するメカトピアであればこんな無様を晒さぬものを!」

 

 オーロウは金族であり今でこそ共和制の議会の議長の席で落ち着いているが、その本心は王制こそがメカトピアの正しい姿と思っていた。

 嘗ての戦争で共和制に破れ、金族の議席を約束させることで権力を残す事に成功したが、チャンスがあればメカトピアを王制に戻す事を諦めていなかった。

 今は議長の席で我慢し、王の様に絶対的な力は振るえずとも政を担いその手腕を示し続けていた。

 オーロウはズォーターとは違い、確かに上に立つ者の資質と実力を備えていた。

 

「随分荒れているようだな」

 

「っ! 貴様ら、なぜここにいる!?」

 

 自身の執務室に現れた存在にオーロウは怒鳴りつける。

 それはオーロウが議会にも存在を隠している自身の協力者だった。

 そんな存在がここにいるという事は隠している場所からここに来たという事であり、その道のりで誰かに発見される危険性があったことになる。

 

「安心しろ、見つかるようなヘマをするほど我らは愚かではない。

 それに我々は貴様の協力者であっても部下になった覚えはない。

 必要以上の指図は受けん」

 

「もし見つかる事になれば私がお前たちを処分する事になるかもしれんぞ」

 

「そうならぬことを願っているのだろう、協力者よ」

 

「ふん」

 

 オーロウにとってこの協力者達は替えの利くものではなかった。

 自身の立場が脅かされるなら止む無しだが、役割を果たしてもらうまではいなくなるのは困るのだ。

 

「お前に朗報を持ってきたのだ。

 頼まれていた例の物の製造ラインが稼働を開始したぞ」

 

「そうか、ついにか! よくやった!」

 

 目的の物の成果が上がった事を聞いたオーロウは歓喜し椅子から立ち上がる。

 

「我々は約束を果たしたがお前の方はどうなのだ?

 人間を連れてくるという話は失敗して、噂を聞く限り戦争になってしまっているようではないか。

 その上戦況はかなり良くないという話も聞く。

 我々は約束を果たしたというのに、お前が果たせないのではこの成果もお前に渡すわけにはいかないな」

 

「ま、待て! 戦争にはなったがまだ負けたわけではない。

 人間はそこまで来ているのだ。 必ず捕らえお前たちの元に連れてくる!

 その為に人間奴隷化計画を立案したのだからな」

 

 人間を奴隷にしようと立案したのはオーロウであり、それは協力者に対する対価を支払う為であった。

 真の思惑は別にあったが、オーロウは人間を捕らえるために労働力という名目で議題に挙げ、議員たちを説得するなどの骨を折っていた。

 実際に労働力の問題は前々から上がっていたので、それをうまく誘導しオーロウはこの計画を正式に承認させることに成功したのだ。

 その結果がハジメ達との戦争に繋がってしまったのだから自業自得と言える。

 

「確かにその計画を実行に移させた手腕は認めるが、実際に人間を連れてこなかったのでは意味がない。

 取引を違えた代償は貴様自身に支払ってもらうことにするか?」

 

「待て、まだ失敗したと決まったわけではない」

 

 オーロウは協力者たちの力を知っている。

 その力は自分たちメカトピアのロボット達と相性が悪く、全てを奪われかねない恐ろしい力だ。

 彼らと初めて接触した際に、自身の配下が全てを奪われるところも目撃している。

 

「…まあいい、人間が近くまで来ているのであれば、こちらにも打てる手がある。

 約束を待ってやる代わりに、貴様にはもう少し動いてもらう事にしよう」

 

「何をしろと言うのだ」

 

「なに、この戦争に少し手を貸してやろうというのだ。

 成功すればお前も我々も目的が早く達成されるだろう」

 

「………」

 

 オーロウは協力者の提案を飲み、議長と金族の権力を行使することになる。

 金族の自尊心からロボットでもない者達に従わねばならぬ事に怒りを覚えるが、それを口にして協力者の機嫌を損ねる訳にはいかない。

 彼らこそがオーロウの元にやってきた王威を取り戻すチャンスなのだから。

 

 

 

 

 



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真・鉄人兵団8

感想、及び誤字報告ありがとうございます。



 

 

 

 

 

 この日もメカトピア上空の宇宙宙域ではメカトピア軍とハジメのモビルソルジャー部隊が激戦を繰り広げていた。

 超大型ロボット、ハジメ達の言うジュド級が投入されたことでモビルソルジャーの撃墜率が上がり、兵士たちは相手の動きに慣れてきたことで一撃で落とされることも少なくなってきていた。

 しかしハジメ達地球側はモビルソルジャーをこれまでよりもさらに増員する事で、メカトピア側の消耗率をもとの状態にまで戻していた。

 メカトピア軍は更に増えたモビルソルジャーの部隊に圧倒され、連日の戦闘に機械の体であっても人のような心を持つロボットであるためか精神的な疲れを感じさせ始めていた。

 

「司令官か。 本来は名誉な事なのだろうが、この戦場では嫌な役回りだ」

 

「何せ地球人との戦争が始まってから、既に四回も旗艦を落とされていますからな。

 今日の戦闘で私たちが生き残るかどうかは、五分五分と言ったところでしょうか」

 

「なんという事だ。 なぜ私はあの時パーを出してしまったんだ…」

 

「司令官をじゃんけんで決めるのもひどい話ですな。

 副官として巻き込まれた私に一言謝ってくれてもいいでのは」

 

「死なばもろともと言うだろ、って冗談だ。

 それにこれでも旗艦として動かす人員を最小限にしてるんだ。

 諦めて付き合え」

 

「…仕方ありませんね」

 

 これまでの戦闘でハジメ達はメカトピア軍の旗艦を落とす事で、その日の戦闘の区切りにする事が多かった。

 その為に司令官の乗る旗艦は何度も狙われ、共に撃沈する事になった。

 今や司令官の座は前線の兵士と同じくらい死にやすい場所になっていた。

 

「超大型兵のお陰で一時的に士気を取り戻しましたが、敵の大幅な増員に出鼻を挫かれましたな」

 

「敵がまだまだ本気じゃないことはわかっていたが、これじゃあ勝ち目が見えないな。

 議会も人間奴隷化計画など余計な事をやってくれたもんだ」

 

「その議会から特殊武器が送られてきたことは確認しておりますか?」

 

「当てれば一撃で敵を行動不能に出来るという武器だそうだな。

 敵指揮官機に使えとお達しだが、試作品で予備が無く、更に射程が非常に短いから確実に当たるように近づいて使えとか。

 効果の保証があるのなら有用かもしれないが、それでもかなりの無茶を言ってくれる」

 

「敵の一般兵であれば難しくありませんが、敵指揮官機はどれも一騎当千の立ち回りをしていますからな」

 

「だから尚の事、敵指揮官機に特殊武器を必ず当てるために多くの兵員を集中させるそうだ」

 

「敵機の戦闘能力を考えると、どれほどの損害を出す事になるか」

 

「被害が出ているのは毎日だ。 それなら戦果を上げられる可能性に賭けた方が意義がある」

 

「それでダメだったら責任取らされますよ」

 

「俺達も今日死ぬかもしれんのだ。 責任など気にしていられるか。

 大体これ、議会からの指示だろう」

 

「戦場での失敗は司令の責任になるんですよ」

 

「なんて嫌な席だ。 逃げ出したい」

 

 

 

 

 

 Zガンダムのモビルソルジャーことゼータは、ムラサメ部隊を束ねる高機動部隊の指揮官機として戦闘機形態で飛び回りメカトピア兵をヒット&アウェイで攻撃し続けていた。

 高速で動き回る機体としては当然の戦術だ。

 そのゼータと共に動き回っていた十数機のムラサメ部隊に何十条のものレーザーが降り注いだ。

 

「くっ!」

 

 ゼータは即座に回避行動を取ったが、追従するムラサメには回避しきれず飛行不能になり編隊から離れある機体はそのまま爆散する。

 メカトピア兵の無数のレーザー攻撃がこれまでなく集中して向けられ、ゼータを中心とした部隊に連続して降り注ぎ続ける。

 指揮官機として特別高性能に作られたゼータはともかく、量産機のムラサメはどんどん落とされていった。

 

「私が狙いだという事か。 むっ!」

 

「ここは通さん!」

 

 自身が狙いだと気づき集まってきている敵の勢力圏から離脱しようとするが、目の前に二体のジュド級のロボットが両手を広げて立ち塞がる。

 急停止すると同時に人型形態に変形し、ビームサーベルを構える。

 二体のジュド級から高出力フィンガーレーザーが合計二十条、ゼータに向かって放たれる。

 ゼータは盾を構えながら左右上下に回避行動を取り、レーザー攻撃から逃げ回る。

 量産機とは耐久性能が違うので当たってもすぐに落とされることはないが、それでも攻撃を集中して受ければ無視できないダメージを受ける可能性はあった。

 攻撃は二体のジュド級だけでなく、周囲のメカトピア兵からもレーザーが発射され包囲されつつあった。

 

 

 

 ゼータに戦力が集中したことにはハジメの船でもすぐに観測された。

 

「マイスター、ゼータが敵の集中攻撃を受けている模様。

 かなりのメカトピア兵がゼータへの攻撃に動員されています」

 

「指揮官機に戦力を集中させてきたか。 ファースト…いやダブルゼータの部隊に救援と支援の指示を送れ。

 敵が集中しているなら大火力の攻撃が有用になる。

 ゼータに当てないようにまとめて攻撃するように指示をしろ。

 ファーストには敵の兵力が薄くなったところを攻撃させろ」

 

「了解」

 

 一か所に戦力を集中させれば他が疎かになると、ハジメはファーストに弱くなったところを突くように指示。

 ゼータも指揮官機として特別高性能に作ってあるので簡単には落とされないと、慌てずダブルゼータに救援と同時に支援攻撃の支持を出した。

 

 

 

 ゼータの周りには既にムラサメ部隊は残っておらず、孤立しつつあることを認識する。

 ならばと無理に逃げようと飛び回る事はせずに、メカトピア兵の集まっているところに飛び込み乱戦をしかけた。

 味方が入り乱れる場所であれば無闇にレーザー攻撃を使えば同士討ちになると狙っての判断だ。

 ゼータ自身は人型になっても高い機動力で敵の間を飛び回りながら鎧袖一触のビームサーベルで敵を切り裂いて倒していく。

 まさに一騎当千の戦いぶりだった。

 

「おのれぇ!」

 

「フッ」

 

 どんどん落とされていく味方の姿に激高し、ジュド級の一体がゼータに向かい拳を振るう。

 このような乱戦ではジュド級の火力は発揮できず、一番味方を巻き込まない巨体による格闘戦を仕掛けたのだ。

 それをあざ笑うようにゼータはひらりと回避し、そのままジュド級の懐に潜り込む。

 巨体では小回りが利かないという判断で急接近し、そこから急上昇しながらビームサーベルを振るい拳を振るった腕の付け根を切り飛ばした。

 ジュド級ほどの巨体ではビームサーベルの一撃で装甲ごと斬り裂いて倒すのはさすがに無理なので、耐久力の低い関節を的確に狙って斬り裂いた。

 これでフィンガーレーザーの威力は半減したことになる。

 

「くそぉ!」

 

「くらえ!」

 

 腕を切り落とされた衝撃で動けないところに、ゼータが頭の電子頭脳を狙ってビームライフルを放つ。

 巨体と言えども電子頭脳を収める頭部は小さく、当たれば一撃で破壊されるだろう。

 ジュド級は危機感を感じて、残った片腕で頭部を守りビームに耐えた。

 

「ぐぅ!」

 

「耐えたか」

 

「それ以上やらせん!」

 

 もう一体のジュド級がフィンガーレーザーで牽制し、仲間への追撃を止める。

 ゼータは回避行動を取り、再び兵の中へ飛び込み乱戦に持ち込む。

 

「大丈夫か!」

 

「まだ大丈夫だが片腕をやられた。 これでは戦力は半減だ。」

 

「俺達で小さくて早い奴に格闘戦を挑むのは不利だ。

 当たればいいが回避されたら今みたいに返り討ちにあう」

 

「やっぱりあいつの動きを抑えようなんて無理があるんじゃないか」

 

 ゼータに向かって攻撃を仕掛けている兵士は、特殊武器を使うための足止めが目的だった。

 しかしゼータの動きが早く攻撃力もあるのでどんどん犠牲が増えていくだけだった。

 そんな二人に上級兵の一人が接近する。

 

「お前たち、まだ動けるか」

 

「隊長、俺はいいですがこいつは片腕を…」

 

「動けるならばいい。 この作戦は犠牲を覚悟せよと命令が下っている。

 このまま犠牲を恐れていては無駄な被害を出すだけで終わってしまう。

 作戦がある、お前たちも覚悟を決めてもらう」

 

「「………」」

 

 二体のジュド級は僅かに思案した後、頷いて覚悟を決めた。

 

 作戦を聞いた二体は態勢を整えて、同時に乱戦になってゼータが暴れている場所に飛んでいく。

 ゼータも二体のジュド級が再び向かってきたことに気づいており、いつでも攻撃の回避行動がとれるように乱戦の中で警戒する。

 先ほどの様に拳を振るってくる距離の直前に、ジュド級二体はフィンガーレーザーと背部のバスターカノンをゼータに突然向けて一斉発射した。

 

「なに、味方ごと!?」

 

 予想外の攻撃に、ゼータは盾を構えて耐える。

 ゼータの周囲には乱戦状態で自身に向かってきているメカトピアの兵士がまだまだいた。

 自身を狙っていたとはいえ何体もの兵士が攻撃に巻き込まれている。

 そのような攻撃をしてくるとは思っておらず、ゼータは防御体勢を取らざるを得なかった。

 そしてジュド級の接近を許してしまう。

 

「しまった!」

 

「腕のお返しだ!」

 

 片腕となったジュド級の拳が防御体勢のゼータにクリーンヒットする。

 量産機であればその一撃で大破しているが、ゼータは吹き飛ばされひるむ程度で済んだ。

 その怯んだ所へもう一体のジュド級が両手でゼータを掴みかかった。

 

「捕らえました、隊長!」

 

「グゥ・・・・・・ォォォオオオ!」

 

「な、なに!」

 

 巨体差から一度捕まえれば力で抑えられると考えていたジュド級だが、ゼータは巨体の拘束を力ずくで振りほどいていく。

 左右から挟むように抑え込んでいた両手が、ゼータのパワーで開き始めていた。

 

「急いでください隊長!」

 

「任せろ!」

 

 慌てる声にジュド級の後ろから上級兵が現れてゼータに接近する。

 ゼータに急接近する際にジュド級の巨体の後ろに隠れていたのだ。

 上級兵の攻撃力では自分に有効打を一撃で与えるのは不可能だが、耐えられるからと言ってあえて攻撃を受けようとは思わない。

 だがジュド級の拘束から抜け出すにはもう少しかかるために、次の攻撃を避けられないと判断してゼータは衝撃に備える。

 

―ガキャンッ!―

 

 上級兵はゼータに体当たりをしてその衝撃でジュド級の手の間を抜けだす。

 体当たり程度で自身が破壊されるわけがないとゼータは困惑するが、上級兵の体調は近距離で隠し持っていた特殊武器を取り出す。

 

「これをくらえ!」 

 

「なんだ!? ガッ…ガガガ………」

 

 押し当てられるほどの距離までくれば自動で起動するという説明の下、特殊武器と呼ばれたものは動作し、ゼータの人工知能に干渉した。

 そしてその直後、ゼータは動きを止めてしまった。

 

 

 

「緊急事態ですマイスター。 ゼータの活動が停止しました」

 

 ゼータの動きが止まったことをオペレーターはハジメに告げる

 

「なに! まさかやられたというのか!?」

 

「いえ、システムシグナルは正常を示してしますが、本体が一切の行動を起こしません。

 ゼータ本人からの通信も無し」

 

「故障だというのか?」

 

「信号と観測だけでは原因を特定しきれません。

 いずれにせよ敵の真っただ中で機能停止しているは非常にまずいかと」

 

「確かにその通りだ! 向かわせたダブルゼータにゼータの回収の最優先を伝えろ。

 ファーストにもゼータ回収の最優先を各部隊に指示

 ゼータ回収後に、今日の戦闘を終えて後退する」

 

「了解」

 

 

 

 ハジメからの命令で各部隊の量産機が一気に動いた。

 ゼータの機能停止した近くの部隊から一斉にゼータの元へ動きはじめ、ダブルゼータも支援攻撃ではなくゼータの回収を目的としてその周囲の敵に対し攻撃を開始した。

 

「こいつが止まったら奴らの動きが急に変わりやがった」

 

「それだけこいつを止めたことに意味があったんだろう。

 どうします隊長。 こいつを連れて撤収しますか?」

 

「いや、特殊武器によって停止させられた敵は、回収が可能であればと上からの指示だ。

 奴らの動きを見る限り、無理に捕らえようとすればどんな逆襲をされるか想像もつかん。

 敵の指揮官機にも有効な武器があると分かっただけでも収穫だ。

 こいつはここに放置して距離を置く」

 

「「ハッ」」

 

 隊長機の指示で機能停止したゼータを放置して周囲の残存兵と共に撤退を開始する。

 そのあとすぐにダブルゼータが到着して、ゼータの状態を確認する。

 

「ゼータ、無事か!? ゼータ!

 駄目ですマイスター。 メカトピア兵はゼータを放置して撤収しましたが、肝心のゼータからは何の反応も帰ってきません。

 見たところ大きな損傷は無いように見えますが、反応だけまるでありません」

 

『そうか、原因がわからんなら詳しく調べてみるしかないな。

 今日の戦闘はこれで終了する。 ダブルゼータはムラサメ部隊にゼータを預けて撤収してくれ。

 ゼータは二番艦に撤収させて、後で僕が調査しておく。

 何らかの故障であれ敵に攻撃が原因であれ、明日ゼータが動けるとは限らないな。

 代役に同じ可変機のウイングでも用意しておくか』

 

 ハジメの指示の下、ゼータの機能停止を切っ掛けに戦闘を終了させた。

 メカトピア軍もゼータを機能停止させることに成功したとはいえ増長はなく、これまで通りハジメ達の撤退に合わせて戦闘終了を受け入れていた。

 今日の戦闘の被害のまとめや大破した機体の回収など、戦闘の片づけをやっていく。

 既に何日も同じことをやってきたので、その処理もハジメはだいぶ手慣れた様子で進んだ。

 

 

 

 ダブルゼータからムラサメ部隊に渡されたゼータは、そのまま二番艦に収容された。

 シグナルは間違いなく起動状態を示していたが、運び込まれ安置されるまでの間ゼータは沈黙を守っていた。

 周囲は戦闘後の後処理でムラサメと作業用ジムが動き回っていたが、そんな中で横たわっていたゼータが突然上体を起こした。

 

 それに周囲のモビルソルジャー達は反応しない。

 全て命令だけに従うタイプの量産型であり、人工知能は判断が必要な指揮官機とオペレーターのみに搭載されているからだ。

 故にこの場で即時に判断を下せるものは誰もいなかった。

 

 

 

―ビービービー―

 

 戦闘の後処理を終わらせようとしていたハジメは、突然の警報音を耳にする。

 これまでの戦闘でもなる事のなかった緊急の知らせだ。

 

「警報音!?」

 

「二番艦より入電。 停止していたゼータが動き出し格納庫で暴走をしているとのこと」

 

「暴走!? まさかそんなことが!?」

 

 ゼータを作ったハジメだが、100%とは言い切れないが暴走するような仕組みではなかったはずだ。

 これまでこの手の失敗などなかったハジメは、ゼータが自身の何からの設計ミスで暴走したとは思えなかった。

 何か原因があるとすれば、今日のメカトピアの戦闘と決定づける。

 

「今日のメカトピア軍の動きは確かにいつもと少し違った気がする。

 いったいゼータは何をされた」

 

「マイスター、どうなさいますか?」

 

「はっ! そうだな、まずはゼータを止めないと。

 緊急停止信号は?」

 

「既に試していますが機能しません」

 

「だろうな。 こんなことなら独立した自爆装置でもつけておくべきだったか」

 

 ハジメ達は自爆装置をロマンで付ける案もあったが、ドラ丸がいる手前そういったことはやり辛く取り付ける事はなかった。

 

「二番艦内のモビルソルジャー達はどうしている。

 ゼータの足止めをしているか?」

 

「はい、二番艦に搭乗しておられるマイスターの指示で既に動いています」

 

「そうだった、あっちにも僕が乗ってるんだった。

 念のため退去を」

 

「もう逃げてきてるよ」

 

 どこでもドアが現れ二番艦の艦長をやっていたハジメが現れた。

 

「オペレーターの提案でこっちに逃げるように言われてね」

 

「一体何があった?」

 

「聞いての通りゼータが格納庫で暴れまわってる。

 ムラサメたちに足止めをさせているけど、指揮官機相手じゃカカシで的になりに行くようなもんだ」

 

 量産機と指揮官機の性能にはそこまで隔絶した差が作られている。

 ひみつ道具程の性能は搭載されていないが、リアルロボットではなくスーパーロボットのような性能があるのだ。

 サイズの違うジュド級の拘束から逃れられるくらいの力がある。

 

「ファーストとダブルゼータにゼータを止めるように指示を出せ。

 最悪破壊する事も許可する」

 

「了解」

 

「くそっ」

 

 せっかく作ったゼータに破壊の指示を出さなければいけないことに悪態をつく。

 

「指揮官機の予備もこっちに連れてきておくべきだったか」

 

『間に合わないだろうが、今そちらに送れるだけのモビルソルジャー主要機を準備している』

 

「今できるのはそれくらいか。 ゼータが暴走するなんて…

 …どう思う?」

 

「暴走に脈絡が無さすぎる。 メカトピア軍に何かされたとしか思えない」

 

『情報部に戦闘記録を確認させるように指示も出した。

 後はゼータの暴走が止まるのを望むしかない』

 

「ファースト及びダブルゼータが、ゼータと戦闘を開始しました。

 二機が押しております」

 

「だろうな、あの三機に大きな性能差はない」

 

 モデルのモビルスーツは後に続くにつれて強くなる後継機だが、モビルソルジャーとしては武装による特性の違いはあれど、素体のスペックに大きな差はない。

 二対一なら数が多い方が勝つ。

 

「ゼータ変形しました。 格納庫より飛び立ちます」

 

「なに、外に出る気か!?」

 

「止めろ!」

 

 ハジメ達の望みも空しく、二番艦からゼータが飛び立ち遠くへ離れていく。

 向かった先はメカトピア本星。

 

「…偶然じゃないな。 ゼータ自身じゃない誰かの思惑でゼータは暴走、あるいは操られている」

 

「追わせますか、マイスター」

 

「いや駄目だ、なぜゼータがああなったかわからない以上迂闊なことはさせられない。

 ファーストとダブルゼータにはゼータを追わせず、注意を呼び掛けておけ」

 

『ゼータを奪われたままにはしておけないが、原因の究明が先決だ』

 

「それにこのタイミングでメカトピア軍が何かをする可能性もある」

 

「そういうわけだからファーストとダブルゼータは部隊の指揮のみに専念し周囲の警戒を。

 特にゼータの様に操られたら元も子もない。 敵機との直接の戦闘は控えさせろ」

 

「了解」

 

 そしてこの状況でメカトピア軍は動くことはなく、こちらの混乱に乗じて攻撃を仕掛けてくることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 本日もぎりぎりアウトでの更新になっちゃいました。
 これはいけない感じです、気合を入れなおさないと。
 



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真・鉄人兵団9

感想・及び誤字報告ありがとうございます。

余裕をもって書いていたのに、今日もギリギリで完成。




 

 

 

 

 

 ゼータが暴走して二番艦を中破させてメカトピアに飛び去って数時間。

 実行部隊隊長として戦艦艦隊の艦長をしているハジメはモニター越しに地球のハジメ達と会議に参加していた。

 議題は当然ゼータの暴走の原因について。

 

『ゼータの暴走の原因が分かった。

 情報課が戦闘時の映像を再確認して、ゼータが行動不能になったときにその原因を確認した。

 これを見てくれ』

 

 オリジナルのハジメがモニターにゼータが行動停止するときの戦闘画像を表示する。

 メカトピア軍の上級兵がゼータに体当たりを仕掛けた時に、その腕に原因と思われるものが写っていた。

 それはおもちゃのUFOのようなどら焼き型の円盤だった。

 

『これって確か!』

 

「ここで奴らが出てくるか」

 

『確かに奴らなら暴走の原因として納得がいく』

 

 ハジメ達は全員その物体の正体にすぐに気づいた。

 同じハジメなので当然ではあるが…

 

『そう、銀河超特急(エクスプレス)に登場する敵役、ヤドリの使っている円盤だ。

 この接触した瞬間にゼータはヤドリに乗っ取られたのだろう』

 

 ヤドリは人間やロボットに寄生し操る事の出来る能力を持っている。

 なぜメカトピアにいるのかはわからないが、敵はメカトピアのロボットだけとは言えなくなり、事態の急転にみんな緊迫した表情になる。

 

『○×占いで確認したので間違いない。 ヤドリはメカトピア本星にいる』

 

『これはちょっと面倒くさくなるかもしれないな。

 ゼータを乗っ取られて逃げられたように、このまま戦闘で出てきたらファーストやダブルゼータも乗っ取られかねない』

 

『そう容易にいくとは思えないが、奪われる可能性があるのはかなり拙い』

 

『それにゼータもこのままにしておけない。 取り返さないと』

 

 ヤドリにゼータを奪われたという事実に危機感を覚えるハジメ達。

 

『ヤドリについて改めて詳細を説明しておく。

 ヤドリは文字通りに人間に取り付いて操る事の出来る微生物サイズの生命体だが、ロボットなども自在に操ることが出来る事も確認できている。

 これはヤドリの操る能力が寄生能力というより超能力の一種らしく、有効範囲は狭いが微弱な電気を自在に操る事の出来る力らしい。

 これのお陰で人間ロボット関係なく電気信号を支配下に置いて操る事が出来る』

 

『なるほど、超能力という括りだったか』

 

「それで会長、対策は?」

 

 実行部隊で現場にいる隊長はすぐに対策が必要とオリジナルに求める。

 

『対策である真空ソープの量産は既に始めている。

 まずは量を確保する事を専念したが、どう運用するか悩んでいる』

 

 真空ソープとは未来の石鹸で水鉄砲の様な入れ物から発射するようになっている。

 ひみつ道具とは言えないが、なぜか四次元ポケットの中に入っていた。

 

「どう運用するとは? 普通に使えばいいのでは?」

 

『ヤドリが円盤で真っ直ぐ襲い掛かってくるなら、苦労する事はない』

 

『確かに、そう単純にはいかないよな』

 

『真っ先に考え付くのは、ロボットに寄生して襲い掛かってきて、そのロボットを倒したところで倒した方のモビルソルジャーに乗り移ってくることだ』

 

『それは怖いな。 …って既にヤドリが潜伏してる可能性はないか!?』

 

『その可能性に気づいて○×占いで確認したがまだ大丈夫だ。

 だが今後の戦闘で無数のヤドリが寄生戦術を取ってくるようなことがあれば、今のままでは対処しきれないかもしれない』

 

「真空ソープが有効でも、ヤドリがどのロボットに寄生しているのか判断できなきゃあっても意味が無いわけだ」

 

『何せたくさんの敵と味方が入り乱れてる』

 

『…仕方ない。 指揮官機は前線に出さず指揮のみに専念させる。

 量産機のモビルソルジャーへの乗っ取りは完全に防ぎきれないと諦める事にする。

 指揮官機をこれ以上奪われるわけにはいかない』

 

「それしかないか。 真空ソープの水鉄砲は量産機すべてに装備させるのか」

 

『そのつもりだが形状を少し改良して、手甲の様に装着して打ち出す仕込み銃型にしようかと考えている。

 本来の形は人間用でモビルソルジャーの手では扱いづらいからな』

 

『追加装備としてはそれくらいが無難だな。

 メカトピア兵に当たっても嫌がらせ程度にしかならないし』

 

『全く使わない頭部のバルカンに仕込んでみるのはどうだ?』

 

『頭部を一機一機改造しないといけないから手間がかかりすぎる』

 

「確かにそれは手間だ。 追加装備型がやはり都合がいいな」

 

 ヤドリ対策は追加装備を取り付ける事で対処すると話が決まる。

 

『で、今後の行動についてだ。

 ヤドリの存在で僕らもあまり悠長に向こうの出方を待っているわけにもいかなくなった。

 奪われたゼータを解析されれば、簡単に複製は出来ないだろうが何らかの対処法を見つけてくるはずだ。

 何よりヤドリそのものが危険すぎる存在だ。

 予定をいろいろ早める事にする』

 

「と、言うと?」

 

『まずはゼータの奪還だ。 ヤドリも必ずそこにいる』

 

『確かに』

 

『奪われたままなんて許せないよな』

 

 ゼータはモビルソルジャーの主力機の一機だが、ハジメ達が大切に作ったロボットの一体でもある。

 奪われたままなど許せないという気持ちがハジメ達の中にあった。

 

『ゼータの居場所は?』

 

『信号はメカトピア本星に降りてからそんなに経たないうちに消えている。

 どっか隔離された場所に収容されたんだと思う』

 

『情報課』

 

『問題ない。 タイムテレビで追尾してどこに行ったのかちゃんと確認している。

 ここだ』

 

 モニターにはメカトピアを上空から見た地表が表示され、メカトピアの首都メカポリスの郊外にある都市に準ずるほどの広い建物にマークが表示されていた。

 

『この建物の中に入っていったらゼータからの信号が途絶えた』

 

「随分広い建物だけど、軍事施設か何かか?」

 

『集めたメカトピアに関する資料によると、あそこはメカトピアの聖地メルカディアらしい。

 メカトピアの始祖アムとイムが暮らしていた場所と言われているそうだ』

 

『そんな場所にヤドリがね』

 

『きな臭いな』

 

 聖地と呼ばれている場所であればメカトピア人が大切にしている場所に違いない。

 そんな場所に警備がないなどあり得るはずがなく、ハジメ達は確実にメカトピアの上位その存在が関わっていると当たりをつける。

 

『いずれにせよ状況を動かす事に変わりはない。

 現在展開中の量産機に真空ソープの追加装備を配備したら、メカトピア軍の防衛ラインを突っ切って本星に降下する。

 戦力もさらに増員して相手の尻に火を付けに行く。

 早くしないと全部燃えてしまうぞってね』

 

『会長、メカトピアに降りてるリルルたちはどうする?』

 

『今回の決定の連絡を入れて、そちらも早く動くように言ってくれ。

 無理そうなら一応リルルも一緒に帰還するのを許す』

 

 メカトピアに降下した三人の役割、つまり内側からの停戦の誘導だが、それが不可能な場合、より苛烈なメカトピアの壊滅を視野に入れた戦いになる。

 リルルは当然受け入れないだろうが、一応こちら側へ来る余地を残すようにハジメは指示を出すのだった。

 

『ところで会長。 ヤドリは宇宙空間でロボットなんかに寄生しても大丈夫なのか?

 ヤドリも普通の生物なら死んじゃうんじゃないか?』

 

『それなんだが、どうやらヤドリは宇宙では何かに寄生する際に宇宙服のようなものを纏っているらしい。

 それがあるから宇宙でも直接寄生して操ることが出来るらしい』

 

『そんな服を纏っていて真空ソープは有効なのか?』

 

『真空ソープはシャボンの膜でゴミや埃を包み込むから、ヤドリが宇宙服を着ていてもそれごと包み込んで寄生を引き剥がすことが出来る。

 宇宙服のお陰で即死はしないが身動きが取れずいずれ死ぬようだ』

 

『とりあえず真空ソープは何も問題なく効くという事だな』

 

 

 

 

 

「以上が先ほどの連絡だ。 あまり悠長にメカトピア観光をしてる暇はなさそうだ」

 

「そんな…」

 

 人気のない裏路地に入り、会議結果の報告を受けたメカトピアに潜入しているハジメはリルルに内容を伝える。

 リルルは様々な事態の進展に困惑した様子で口元を抑える。

 

「…今のは全部本当なの?」

 

「僕達にもいろいろ予想外の事態だが、少なくとも仲間の地上への侵攻は事実だろう。

 連絡では三日後にはメカトピアの防衛ラインを強引に突っ切って地表へ降下するらしい。

 そこまできてメカトピアが降伏しなければ、市街地戦になるのも時間の問題となる」

 

「そんなことになったら多くの市民が犠牲になるわ!」

 

「僕もそんなことになってほしくないが、メカトピアが徹底抗戦の構えになったら引き下がることが出来ない。

 そうなる前にメカトピア議会側に交渉の席に着く様に仕向けないといけない」

 

「…わかってるわ。 今必要なのは議会側の対話の意志よ」

 

「それとリルル。 ヤドリについて何か心当たりはないか?」

 

「いいえ、聞いたこともないわ。

 そもそもそんな物がメカトピアにいるなんて広まったら大騒ぎになってるわ。

 まるでジャックバグじゃない」

 

 リルルがハジメには聞きなれない用語を発する。

 

「ジャックバグ? なんだそれは?」

 

「戦争末期に現れたメカトピア史上最悪の兵器よ。

 昆虫型の機械でロボットの電子頭脳を支配下に置き、使い手の意のままになる操り人形に変えてしまう恐ろしい兵器よ。

 これのせいでメカトピアの人口が半分以下になり、双方の犠牲が多すぎて大戦は終結を迎えたわ」

 

「聞く限り確かにヤドリと似たような兵器だが、メカトピアのロボットは電子頭脳への干渉をシステム的に禁じられてるんじゃなかったのか?」

 

「ええ、直接的にも間接的にも電子頭脳への干渉は私たちの禁忌に触れるわ。

 操ろうなんてもっての外。 実行に移したらリミットサーキットが起動して自死する事になるわ」

 

 リミットサーキットとはメカトピアのロボットの電子頭脳の中にある自壊装置の事。

 メカトピアのロボットが電子頭脳への干渉などの神の定めたルールに反し、警告を無視して犯そうとした時に起動し、電子頭脳を自壊させて強制的に止める厳しい処罰機構だ。

 

 ルールに反した時だけでなく電子頭脳が劣化や損傷などで自己修復出来ないエラーが発生した時にもリミットサーキットは起動する。

 電子頭脳の稼働限界、すなわち寿命を迎えた時の死を再現する装置でもあり、積み重なったエラーによる暴走を起こさせないようにする為や、記録を読み取ってそのロボットの複製などの悪用をされない為にも存在している。

 最もハジメ達がジュドから情報を読み取れたあたり、メカトピアのロボット以外への情報秘匿はあまり芳しくないようだが。

 

「間接的にもって事は、そのジャックバグを作ること自体ダメなんじゃないの?」

 

「ええ、普通のメカトピア人には作ろうとすれば警告が来るわ。

 だけどジャックバグを作った災厄の科学者ホペアはリミットサーキットの故障、サーキットエラーを起こす事でその禁忌を超えてしまった。

 ホペアはジャックバグを使って多くのロボット達を乗っ取って、王制派共和派関係なく見境なしの攻撃を繰り返したわ。

 耐えかねた両軍は手を組み、多くの犠牲を払ってホペアを討ち取る事でその災厄を終わらせたそうよ」

 

「その後被害の大きさに終戦というわけか。

 その科学者ホペアはなにがしたかったんだ?」

 

「サーキットエラーはリミットサーキットの故障であり、電子頭脳の異常であることに変わりないわ。

 電子頭脳に異常があれば当然活動に何らかの異常が出てくるし、ホペア自身も多数のエラーを起こして意思疎通も出来ないような暴走状態に陥っていたと倒した人たちが目撃したそうよ。

 サーキットエラーを起こしてるから自分で止まる事も出来ずにいたみたい」

 

「真相は闇の中という事か…」

 

 タイムテレビで調べれば解るかもしれない隠された歴史の秘密をハジメは暴いてみたくなるが、今の問題に関係はないし暴く理由もないと忘れる事にする。

 

「それでそんな存在に似た生物がメカトピアの聖地にいるというなど、どういう事だと思う」

 

「大問題よ。 メカトピアの聖地メルカディアはアムとイムが暮らしていたとされる神聖な場所。

 そんな場所にメカトピアのロボット以外の存在がいるなんてありえない…いえ、あってはならないわ」

 

「だけど僕たちの調査ではそこに乗っ取られたゼータ…僕たちの主力機が入っていて、そこでヤドリ達が何かやっているのを確認している」

 

「…聖地の管理は金族とその傘下のロボット達が行っているわ」

 

「金族か。 鉄人兵団の司令官を思い出すけど、傲慢で無茶苦茶な事ばかり言ってたからあまりいい印象ないんだけど」

 

 ズォーターを捕らえた時とても上から目線の命令口調ばかりで、人の言う事を全然聞かない感じだったのをハジメは思い出す。

 

「…ズォーター司令は特別問題のある人だったけど、金族の中にも有能な人はちゃんといるわ。

 まあそれでも元王族として尊大な性格の人が多いけど…」

 

「なんにせよそんな聖地にヤドリがいるという事は、金族は乗っ取られてるか協力関係にあるかのどちらかという事になる。

 ヤドリを警戒するなら関連して金族の存在にも注意を払わないといけない。

 ヤドリに有効な真空ソープも受け取ってるから、お互いに操られてると思ったら迷わず使う様に」

 

「正直銃は好かぬのでござるが…」

 

 袴の胸元から取り出した真空ソープの銃を見ながらドラ丸は言う。

 ドラ丸は袴の胸元が四次元ポケットになっているのだ。

 

「この際些細なこだわりは諦めてくれ。

 ドラ丸や僕がヤドリに体を乗っ取られたら、上の仲間もメカトピアとの戦争よりヤドリ殲滅を優先する事になるはずだ。

 そうなればメカトピアへの被害を気にしてる余裕はなくなる」

 

「大変じゃない!」

 

 ハジメ達の感じている危機感に、リルルはメカトピア側としてかなり切迫した状況にある事に驚く。

 

「すぐに議会に潜入してアシミー議員に接触を図ろう。

 交渉の為の足掛かりにするだけだったが、ヤドリの存在を知らせれば問題はいろいろと大きくなる」

 

「アシミー様ならヤドリの事を話せば、直ぐに対応してくれるはずよ」

 

「では、行くでござるか」

 

 ハジメ達はアシミー議員に接触するために、議会場へ向かった。

 

 

 

 

 

 議会では先の戦闘で敵のロボット―ゼータ―を一時機能停止に陥らせ、その後に敵の船に損傷を与えた後メカトピア本星に侵入して行方をくらませた事について話し合っていた。

 原因がオーロウ議長が用意したと言われる特殊武器が原因と推測され、ゼータに何が起こったのか質問が行われていた。

 

「ではオーロウ議長にも敵のロボットがなぜ味方を攻撃した後、メカトピアに侵入してきたのかわからないのですな」

 

「その通りだ。 確かにあの武器を使うよう進言したが予想出来るのは機能停止させるまでで、その後の行動は私にも理由はわからん」

 

「ですが、あれはオーロウ議長が提供した武器なのでしょう?

 簡単な仕組みくらい知っていてもおかしくないのではないですかな」

 

「…部下が自信をもって試してほしいと提出してきた試作機としか聞いていない。

 ただ電子回路に干渉する機能があるとしか説明できん」

 

「電子回路? まさかジャックバグの様な武器なのですかな?」

 

 ジャックバグの名前が出てきたことに議員達がどよめく。

 その武器は大戦期に多くの犠牲を出した兵器として、メカトピアのロボットの脳裏に深く刻まれているのだ。

 存在していい筈がないという認識を誰もが持っている。

 

「まさか、あれは神の定めた禁忌に触れるもの。

 正常なロボットには作ることが出来ないのは、議員になる者であれば知っていて当然の事だ。

 貴様はまさかそれを知らなかったのか?」

 

「当然知っている!」

 

 オーロウの煽り口調で返された議員は反発するように否定する。

 

「だったらジャックバグとは違うものであると分かるであろう。

 下らぬ質問はやめよ」

 

「くっ、失礼した…」

 

 反発した議員は悔しそうに謝罪をする。

 

「…提示された資料から特殊武器がジャックバグと異なる事は形状から明白であろう。

 だが電子頭脳へ干渉する武器であれば禁忌に触れる可能性はないか、オーロウ議長」

 

 禁忌に触れる事を危惧するアシミーは、その点をオーロウに問う。

 

「問題あるまい。 我々の神が定めた電子頭脳への干渉の禁忌は、我々の始祖の系譜に限る。

 先日技術開発部が調べた地球人側のロボットは、我々とは異なる電子頭脳を持った始祖の系譜ではないと報告があったではないか。

 我々とは違う人間を守るようなロボットに配慮など必要ないという事だ。

 あのロボット達が人間に従うというなら、ともに奴隷にしてしまえばいいだけの話だ」

 

「オーロウ議長。 既に人間を奴隷にするなどという問題ではなく、メカトピアの存亡をかけた戦争になっているのですぞ。

 勝算もないのになぜそのような世迷言が言えるのですかな」

 

「私の提供した武器で敵の指揮官を倒す事に成功したではないか」

 

「多くの兵の犠牲があっての成果です。

 それにその敵指揮官もメカトピアに侵入して行方知れず。

 もしかしたらメカポリスを強襲する可能性もあるやもしれん」

 

 ここに攻撃を仕掛けてくる可能性をアシミーが指摘し、他の議員達も無くはないと危惧する。

 オーロウはそれはない事を知っているが、それを説明できないが故に黙り込むしかない。

 沈黙する議会に議員の一人が質問をする。

 

「オーロウ議長、その特殊武器を新たに提供していただく事は出来ないのですか。

 非常に扱いづらいようですが、敵指揮官を行動不能に出来た事は事実ですからな」

 

「…そうだな。 どれほど用意できるか次の会議までに確認しておこう」

 

「ですがその指揮官がメカトピアに侵入して行方知れずなのは無視できません。

 同じことになって懸念材料を増やすのは良くない事かと」

 

「そもそもその敵指揮官はどこに消えたというのだ。 目的は?」

 

「幸い、先の騒動で地球軍の攻撃は止まっています。

 何時攻撃を再開するかわかりませんが、わずかに余裕が出来たと思えば」

 

 様々な問題が上がるが、この会議では話が纏まらず次回までに情報を整理しておくようにとして終了した。

 

 

 

 

 

 オーロウが自分の執務室に戻って協力者―連絡役のヤドリ―に文句を言っていた。

 

「随分勝手な事をしてくれたな。

 議会への説明にどれほど苦労したと思っている!」

 

「まあいいではないか。 当初の予定通り敵のロボットを手に入れる事に成功したのだから」

 

「やり方に問題があると言ったのだ。

 あのように堂々と星に降りてこられたのでは我々も混乱する。

 幸い聖地に入ったことは気づかれてないようだが、気づかれていたらどうなっていたことか」

 

「だが敵のロボットをこちらで手に入れるにはこうするほかないだろう。

 軍にワザと捕まらせるとなると、敵のロボットを捕まえた我々の同胞も一緒に捕まる事になるぞ。

 それこそ我々と協力関係にある貴様の立場が危うくなるのではないか?」

 

「グッ………まあいい。 どうせ今の立場も直ぐに不要のモノとなる。

 私が再びメカトピアの王に返り咲く事になれば、議長の座など何の意味もなのだからな。

 それで手に入れた敵の指揮官は調査したのか」

 

「少なくとも戦闘能力ではこの星のロボットと比べ物にならない力を秘めている。

 生体でないのは残念だが、いいロボットが手に入ったと乗っ取った仲間が言っていたぞ」

 

「そうか…」

 

 ヤドリは人間もロボットも操ることが出来るが、ヤドリ自身も生き物なのでロボットではなく人間の様な生き物でないと生きるためのエネルギーを同時に得ることが出来ない。

 オーロウはヤドリが改めてロボットを乗っ取ったという話を聞いて気を悪くする。

 乗っ取られたロボットを憐れんでという意味でなく、自分も油断すれば乗っ取られる事を危惧してだ。

 何せ聖地にいる自分の部下のロボットも一部乗っ取られているのだから。

 故にオーロウはヤドリに乗っ取られないよう、常に一定の距離を置くように警戒をしていた。

 

「お前たちの円盤を武器として表向きに処理したが、議会で更に提供出来ないか聞かれた。

 更に派遣する事は出来るか?」

 

「上に相談してみるがおそらく可能だろう。

 だが我々としては生きた人間の体の方が望ましい。

 早く約束を果たせ」

 

「わかっている。 私が真にメカトピアの王となれば地球人のロボットなど敵ではない。

 もう間もなく、私は宇宙の支配者として君臨する日が来るのだ。

 フハ、フハハハハハハ!」

 

 自身の野望が成就する日が間近に迫っている事に、オーロウは高笑いを上げる。

 それをヤドリの連絡役は円盤のままではわからないが、面白可笑しく見ていた。

 

 

 

 

 



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真・鉄人兵団10

 投稿間に合いませんでした。
 これ以上遅くならないように頑張ります


 

 

 

 

 

 メカトピア評議会会議場。

 その会場にいるアシミー議員に会うために警備範囲ギリギリの場所までハジメ達は来ていた。

 ここから先は警備に見つからないように進まなければいけないからだ。

 

「それで、どうやってアシミー様のところまでたどり着くの?

 ここから先は警備が厳重で隠れながら進むのは無理よ」

 

「大丈夫、潜入の為の準備はいろいろドラ丸に持たせてある。

 ドラ丸、【石ころぼうし】を出して」

 

「はいでござる」

 

 ドラ丸が灰色の半球状の帽子―石ころぼうし―を四次元ポケットの袴から取り出してハジメに渡す。

 ここにいるハジメはコピーなので四次元ポケットを持っておらず、小さくなってゴッドガンダムのモビルソルジャ―に乗っているので必要な秘密道具はドラ丸に持ってもらっていた。

 

「これは石ころぼうしと言って、被ると他の人からの認識が石ころのように思われて気に留められなくなるんだ。

 見てて………あれ?」

 

 石ころぼうしの効果はドラえもんにも及んだので、メカトピアのロボットにも効果があるだろうとリルルを相手に試そうとしたところで、帽子が途中で何かに引っかかりうまく被れなかった。

 

「殿、頭の角が引っ掛かってるでござる」

 

「あ、そうか」

 

 モビルソルジャー越しでも効果はあるだろうと被ろうとしたが、ガンダム系の特徴である額のV字の角が引っ掛かって石ころぼうしを被れなかった。

 

「このモビルソルジャーに乗ったままじゃ石ころぼうしは駄目だな」

 

「それじゃあどうするの」

 

「他にもいろいろ道具は用意してある。

 ドラ丸、透明になれる道具は何があった?」

 

「ええと、【片付けラッカー】に【透明マント】、【透明目薬】に【透明ペンキ】などがあるでござるが…」

 

「どれもいろいろ欠点があるが、とりあえず無難に透明マントを使う事にしよう」

 

 透明マントを受け取りそれを身に纏うと、ハジメの姿が透明になり見えなくなる。

 

「すごいわ、ハジメさん。 ちゃんとそこにいるの?」

 

「一歩も動いてないよ」

 

「本当に透明になっているのね。 それなら警備の目を掻い潜れると思うわ」

 

「ちゃんと複数用意してある。 身に纏ったら早速行こう」

 

「わかったわ………ねえ、ちょっといいかしら」

 

「ん?」

 

 透明マントを受け取ったリルルがそれを被ろうとした時に、ハジメに質問した。

 

「このマントを纏えば姿を消すことが出来るのはわかるけど、それじゃあお互いの姿が見えなくなってはぐれてしまわないかしら。

 かといって声を出しながらお互いの位置を確認するのは、警備に居場所を教えるようなものだし」

 

「それなら大丈夫。 この透明マントを纏えば同じ透明マントを使っている人の姿を視認出来るようになる」

 

「そうなの? …ほんとだわ」

 

 リルルが試しに使ってみると、自身の姿が見えなくなると同時に姿が消えていたハジメの姿が見えるようになる。

 透明マントは原作では登場毎に仕様が違ったりすることもあるが、この透明マントは纏えば多少体をはみだしても大丈夫で、同じ道具の使用者の姿が見えるようになっている。

 

「これなら大丈夫そうだけど、ドアがある場所なんかはどうするの?

 姿を消したまま扉を開けるのは不自然だし、中にはオートロックが掛かってる場所もあるはずよ。

 アシミー様のような議員の執務室は特にしっかりとしたロックが掛かってる筈よ」

 

「確かに…。 【通り抜けフープ】も確か持ってきていたはずだけど、人目に付く状態では使い辛い。

 鍵開けの道具も確かあったと思うが、ドアを開ければ出入りに気づかれるか、………そうだ」

 

 ハジメはちょうどいい道具の存在を思い出す。

 

「ドラ丸、【四次元若葉マーク】はあったっけ?」

 

「一応数はあるでござるが?」

 

「それは確か物理的に触れられなくなることで、壁なんかもすり抜けられたはずだ。

 透明マントと併用すれば、姿を消したままどこにでも入り込めるはずだ」

 

「それは名案でござるな」

 

 二つの秘密道具を併用し、ハジメ達はアシミー議員のいる議会場に侵入した。

 

 

 

 議会の会議だけでなく行政に関わる処理も行う議会場はかなり広い。

 透明マントで姿を消し、四次元若葉マークの壁抜けでアシミー議員がいると思われる執務室を探していた。

 先ほど議会場最大の会議室を確認し、現在は会議を行なっていないを確認している。

 

「こっちは違う………そっちも違う」

 

「ねえ、さっきから部屋の中を見ずに探してるけど、わかるの?」

 

「殿は透視能力を持っているでござる。

 それで壁を透視して中を確認出来るのでござるよ」

 

「人間にはそんな機能もあるのね」

 

「普通の人間には出来ない事でござる」

 

 アシミー議員を透視能力で探しているハジメの代わりに、ドラ丸が何をやっているのかリルルに説明する。

 ハジメは【E・S・P訓練ボックス】の効果で超能力を使えるようになっており、念力・透視・瞬間移動を習得している。

 ただし超能力をちゃんと使えるようになるには、その道具で三年間毎日三時間訓練する必要があったが、ハジメはコピーで一度にたくさんの経験を積むことで加速度的に習得する事に成功した。

 その後も訓練を続ける事で超能力を強化する事に成功し、より強力な念力・望遠可能な透視・自分だけでなく他の物も瞬間移動させることが出来るようになっている。

 

「誰かにアシミー議員が何処にいるか尋ねる訳にもいかないし、虱潰しに探すしかない」

 

「それしかないでござるか。 …殿、ここに入るのに【オールマイティパス】を使っては良かったのではござらんか?」

 

「ああ、それがあったか。 …いや、あれはどこへでも入る事を許してくれるものだが、入ったことは記録されるはずだ。

 ここには監視カメラなんかもあるし、記録に残らないようにやっぱり姿を隠しておくのが正解だろう」

 

「潜入するのもなかなか難しいでござるな」

 

「なんだかわからないけど、議会場に入り込むのは貴方たちには簡単な事の様ね」

 

 ぽろぽろとここに侵入する手段が出てくる二人の会話に、メカトピアを守る側のリルルとしては複雑な気分になっていた。

 秘密道具も類似する効果の物がたくさんあるので、この手の侵入手段などはたくさん思いつく。

 おそらく探せばハジメ達が使っている透明マントと四次元若葉マークの併用よりも、楽に侵入してアシミー議員に会う事の出来る秘密道具も探せばあるだろう。

 

 歩きながらいくつもの部屋を確認し続けていると、ついにハジメが目的の部屋を発見する。

 

「見つけた、あの部屋にアシミー議員がいる」

 

「どの部屋?」

 

「三つ壁を抜けた向こうの部屋だ」

 

「本当に壁の向こうが見えているのね。

 ともかく行きましょう」

 

 壁を三つすり抜けた先の部屋に、アシミー議員は机で書類仕事をこなしていた。

 執務室にいるのはアシミー議員だけでなく、秘書や補佐官などといったロボットの何人かが仕事を手伝っていた。

 ハジメ達はどうするべきか、彼らに聞こえないように小声で相談する。

 

「どうするの、アシミー様以外に何人もいるわ。

 他の補佐官の方達にも一緒に話をしておく?」

 

「いや、仮に敵側と内通する為の接触なんだ。

 側近であっても知ってる人は少ない方がいい」

 

「でもアシミー様が一人になるのはなかなか無いと思うわ。

 お忙しい方だしお仕事の関係で補佐官や護衛も普段からいるはずだもの」

 

「無理に追い出す道具もあったと思うけど、それはそれで不自然だし…

 仕方ない。 ドラ丸、【ウルトラストップウォッチ】を使ってくれ」

 

「承知。ではいくでござる」

 

―カチッ―

 

 ドラ丸が懐中時計のような丸い時計を取り出してスイッチを押すと、辺りは一瞬で静まり返った。

 仕事をこなしていたアシミー議員やほかのロボットも、突然スイッチが切れたかのように動きを止めてしまった。

 

「え? いったい何が起こったの?」

 

「時間を止めたんだ。 今動いているのは僕達だけだ」

 

「え、え、え?」

 

 これまで不思議な道具を色々見せられてきたが、今度のは極めつけでリルルは理解する事を拒否していた。

 何せ時間を止めるなどメカトピアの常識に当てはめてもあり得ない事と思っていたからだ。

 リルルが改めて周囲を確認し、本当に何もかもが止まっている事で時間が止まってることをようやく認識する。

 

「ほ、ほんとに時間が止まってるわ…」

 

「この状態ならアシミー議員とだけ話をすることが出来る」

 

「けど、肝心のアシミー様も止まっているわ」

 

「それはこのウルトラストップウォッチを使えばいいでござる。

 これを時間が止まっている者に当てれば、その者の止まっている時間が動き出すでござる」

 

「ドラ丸がアシミー議員の時間停止を解除したら、リルルからまず事情を説明してくれ」

 

「え、ええ。 いえ、ちょっと待って頂戴」

 

 未だショックを受けているリルルは正気を取り戻そうと軽く頭を振って調子を整える。

 

「…よし、大丈夫。 流石に驚いたけどあなた達なら今更よね。

 準備はいいわ。 やって頂戴」

 

「では」

 

 気持ちを落ち着けたリルルの返答を聞いて、ドラ丸は椅子に座って固まっているアシミー議員にウルトラストップウォッチを触れさせた。

 

「…ん!? なんだお前たち、どこから現れた!」

 

 動き出したアシミー議員は突然現れた三人に、椅子を蹴飛ばして立ち上がり臨戦態勢になって身構える。

 その対応力は訓練された戦士の様で、突然の事態にも驚きながらも即座に状況を確認しようと周囲を見回していた。

 

「落ち着いてくださいアシミー様。

 まず私から説明いたしますので」

 

 リルルは偽装していたノーベルガンダムの頭の外装を外して、本来の姿をアシミーに見せる。

 

「人間か!? いや、コードシグナルは同胞の物だが偽装しているのか?」

 

「いえ、私は人間に擬態していますがメカトピアのロボットです。

 私はリルル。 地球侵攻軍鉄人兵団所属、先遣隊諜報員として地球に派遣された者です」

 

「地球侵攻の先遣隊の? 確かに先遣隊の中に諜報活動のために人間に偽装するための外観改修を受けた者がいたと記憶しているが、君がそうだというのか?

 それがなぜ突然俺の目の前に現れる。 それに周りの状況は一体?」

 

「すべてご説明いたします。

 周りの状況に関しては私も驚いていますが、どうか信じてください。

 私はメカトピアを救うために彼らとアシミー様に会いに来たのです」

 

 アシミーに話を聞いてもらえなければ、ハジメ達はメカトピアを滅ぼすしかなくなるかもしれない。

 そうなれば自分も最後までメカトピアのロボットとして戦う覚悟はあるが勝算は無く、ならばこそハジメ達がメカトピアの生き残る道として示した提案をアシミーを通じて議会に認めてもらうしかない。

 その為の説明が今この瞬間であり、リルルがメカトピアを救うためにやらなければいけないと思っていた。

 その強い思いはアシミーも感じ取り、何か深い理由があるのだと察した。

 

「…わかった、まずは話を聞こう」

 

 警戒は怠らないがリルルの話を聞くべきだと直感し、説明を聞き始めた。

 

 まずはハジメ達が地球の人間とロボットである事を話し、リルルがどのような経緯で二人と共に行動するようになったか話した。

 そこで地球の人間について簡単な説明をし、様々な認識不足があったことを伝えた。

 

 続いてハジメ達の目的とリルルを連れてここに来た事情を伝えた。

 ハジメ達の目的は宣戦布告時の地球不可侵要求であり、それを叶える為の裏取引にここまで潜入してきた事。

 底の見えないハジメ達の戦力から敗戦は免れないと、リルルは苦しげにアシミーに語った。

 

 そして先の宇宙での戦いで発覚した予想外の事態。

 聖地に本来存在しない異星生物が存在しており、先の戦闘でゼータが奪われたことでハジメ達側が非常に警戒を強めていた。

 その結果、ヤドリ達の特性の危険性からメカトピア地上への侵攻を早め、その為の戦力増強。

 メカトピア側としてもヤドリが聖地にいる事を到底無視できないという事実。

 

 出来るだけ簡潔に、リルルはこれまで自分が見聞きしてきたことをアシミーに伝えた。

 アシミーは最後まで話を聞き終えると、机に肘をついて頭を抱え込んだ。

 

「………正直突然の事過ぎて、戸惑うばかりだ。

 地球の人間たちがこちらに攻め入ってきて会議では頭を悩ませるばかりだったが、それが一気に吹き飛んだよ」

 

「アシミー様、信じられないかもしれませんがすべて本当の事なんです!」

 

 メカトピアのロボットの常識では考えられない事ばかりで、簡単には信じてもらえないとリルルも思っていた。

 それでもまずは信じてもらえない事にはメカトピアは救えないと話を続けようとするが、アシミーが手に平を向けて静止させる。

 

「わかっている。 君の言っている事は本当なんだろう。

 周囲を見れば時間が止まっているという異様な光景なんだ。

 信じられなくても、目の前にある事実は否定のしようがない」

 

「そ、そうですね」

 

 時間を止めるという荒業が、リルルの話の真実味を帯びさせていた。

 

「だが納得のいった部分も多々あるのだ。

 地球軍の攻撃は毎日行われているが、我々の軍の損害が大きくなるとどんな有利な状況でも撤退を開始してその日の戦いを終わらせる。

 こちらが戦力を増員すれば、それに合わせるように前日までになかった戦力を増員して、底知れない戦力の余裕を感じさせる。

 こちらを滅ぼそうとする気は一切ないが、戦意を折ろうという気配が見え隠れしていた。

 その答えが君等の望む戦争の落としどころなのだろう」

 

 アシミーはハジメが望む戦争の決着をおおよそ理解していた。

 負けを突き付けられることであっても滅びるよりはいいだろうという物言いは、傲慢ではあっても一応の慈悲ではあるのだ。

 メカトピアの誇りを汚す事であっても真に滅びるよりはいいと、アシミーは先の会議での敗戦予想からハジメの提案は受け入れやすかった。

 

「だが、他の事があまりにも突発過ぎる。

 まもなく地球軍が我々の防衛線を強引に突っ切って地上に降りてくるだと。

 その上目的は奪われた指揮官機であり、奪ったのはロボットも人間も操る事の出来る寄生生物で、それが聖地に身を潜めている。

 公表しようものなら大混乱になる」

 

「ですが、放っておける事ではありません。

 議会に停戦交渉を行うように進言してはいただけないでしょうか。

 そして聖地にハジメさん達の言う寄生生物がいるのなら調査を行わないと」

 

「正直、議会に進言するだけではどれも難しいと言わざるを得ない。

 停戦交渉は先日までの敗退続きでそれも止む無しという雰囲気を引き出せていたが、そのヤドリに奪われたという指揮官機の暴走で戦意を盛り返した議員たちがいる。

 地球軍が戦力を整え、防衛ラインを抜いて地表に降りてくるという話が事実になれば再び停戦交渉を考え出すものもいるだろうが、それだけでは議会の意見は纏まらんだろう」

 

 アシミーは敗戦による決着を進言してはいたが、その可能性の低さにあまり期待はしていなかった。

 人間を軽視するのは、神話に描かれた神の選択が起因している。

 それ故に人間に敗北を認めるなど、メカトピアの今の在りように真っ向から反攻するようなもの。

 例え勝算が無くても徹底抗戦の構えを見せてくる可能性すらあるのだ。

 

「そして聖地にいるという寄生生物の存在を突き止めようにも、管理しているのは金族だ。

 私の権限だけでは調査する事は出来ない。

 何らかの証拠をもって議会に挙げれば調査に乗り出せるだろうが、同時にその情報は相手側の耳にも入る事になる。

 議会には金族の者達も何人かいるからな」

 

「アシミー様はやはり金族が関わっていると?」

 

「思っている。 でなければ聖地になど隠れ潜むことなど出来ない。

 金族の者達がそいつ等に操られている可能性もあるが、議会のオーロウ議長達に操られている様子はない。

 ならば金族が何らかの目的の為ために、そいつらと協力関係にあるとみてもいい。

 先の戦闘で地球軍の指揮官を操ったのも、オーロウ議長が提供した特殊武器という名義だった」

 

「地球との戦争だけでも大変なのに」

 

「そのヤドリという寄生生物はロボットより人間を操る事を望むのだったな」

 

 アシミーがヤドリの特性についてハジメに質問する。

 

「ええ、彼らも有機生物で、ロボットからでは操ると同時に生きるためのエネルギーを得られないようですから」

 

「では地球への侵攻もヤドリに関わっているかもしれん。

 人間奴隷化計画はオーロウ議員の提案から始まったのだ」

 

「そんな」

 

「一連の騒動はヤドリが糸を引いていたわけか」

 

 戦争の発端がヤドリだったことにハジメは流石に驚く。

 映画本編では歴史改変で無理矢理解決したので、地球侵攻のメカトピアの裏事情までは詳しく知らないのだ。

 国家の決める戦争なのだから様々な思惑があるのだろうが、そこに別の映画関連のヤドリが出てくるのはハジメも想像していなかった。

 

「停戦交渉を進言する事は問題ない。

 地球軍が地表まで下りてくるようなことになれば、それを再び視野に入れて協議する事は出来るはずだ。

 だが金族とそのヤドリという存在が何をしでかすのか想像も出来ない。

 おそらく私や議会では事が起こるまで対処出来ないだろう」

 

「ヤドリの存在は放っておけません。

 出来る限り待ちますが、奪われたゼータを取り戻すために聖地に侵攻する事になると思います」

 

「聖地は我らの始祖が暮らした神聖な場所だ。

 そこに侵攻するとなればメカトピア軍も全力で迎え撃つことになる」

 

「とても良くない状況ですね」

 

 ハジメ達はヤドリに攻撃を仕掛けたいが、聖地という場所がネックでメカトピアのロボットが教義からそこを守る事に必死になる。

 ヤドリはこの星で一番安全な場所に隠れているという事だ。

 

「ヤドリ達の動きは仲間が見張っていますが、そちらは後手に回るしかないです。

 まずは議会にこちら側と交渉する意思を持たせないといけません」

 

「だがこちらが押されている状況でも停戦交渉に賛同する者は半数もいかない。

 私も各議員に頼み込んでみるつもりだが、どうしても時間がかかる事になる」

 

「やはり後押しが必要ですね。

 ここに来るまでに僕たちは戦争に対する国民の反応も確認してきました。

 攻めてきている僕らが言うのもなんですが、メカトピア上空で戦闘が起こってることに不安になっている人たちがたくさんいます。

 そういう人たちから停戦交渉に賛同する署名を集めるのはどうでしょうか?」

 

「署名?」

 

「戦争に反対する人たちがこれだけいるという事を証明するために名前を書いてもらうんです。

 多くの署名が集まればそれだけ国民の声が大きいという証明になります。

 選挙とは違いますが多数の国民による意思表明ですね」

 

「そういうものがあるのか」

 

 共和制になって歴史が短いメカトピアには署名のような国民の意思表示ががまだ存在していなかった。

 

「………なるほど、投票で議員が決まる今の共和制なら国民の声は決して無視出来ない。

 停戦交渉という道を多くの国民が賛同するなら、議員達も今後の選挙の影響を考慮すれば反対する者は席を失う事になる。

 国民が多く集まればこれほどの力になるという事か。

 やはりメカトピアが共和制になったのは、民の意志をくみ取るうえでは間違いではなかったな」

 

「………」

 

 アシミーの考えに賛同するところはあるが、共和制の弊害というものがあるのをハジメは知っている。

 国民の意見を無視しないのは悪い事ではないが、時には苦渋の決断を下さなければならないときに議席を気にして下せないという事になる場合がある。

 国民の意見だからと言って正しい事ばかりではなく、結果的に悪いことになっては元も子もないからだ。

 そういう政治的問題が地球でも起こっているので、共和制も良い事ばかりとは言えないのだ。

 

「つまり国民から停戦交渉の賛同を得ればいいのね」

 

「ただの国民なら国家の勝利よりも生活の安全を優先するものだからね。

 戦場が近付いてきて不安になれば、国民が戦争に対して反対の意思を示してくると思ったから、宣戦布告はメカトピア全体に知らしめるように放送したんだ」

 

「そんな目的が…」

 

 その為にメカトピアのメディアを乗っ取ってハジメは国民にも聞こえるように宣戦布告していた。

 

「ただこの国はまだ共和制が短いからか、市民たちが自発的に運動を起こすという考えがないらしい。

 だから最初は署名活動と思ったけど、それは少し時間が掛かりすぎる」。

 

「署名とはどのように集めるのだ?」

 

「街中で道行く人に意見を聞いて、賛同してくれたら名前を書いてもらう地道な方法」

 

「一人でやっていては一日に百人も集まればいい方ではないか?」

 

「そんなところだろうね」

 

「ハジメさん、地球軍が聖地に進行するまではあとどれくらいなの?」

 

「地表に降下してからも数日は待てるが、せいぜい十日が限界じゃないかな」

 

「署名で議会を動かすのは間に合いそうもないな」

 

 署名活動などは個人レベルで政治等に対し意見を出すための時間のかかる活動だ。

 議会を動かすほどの署名になると、戦争が始まる前から集めていなければ間に合わないだろう。

 

「署名活動では間に合わない。 それならデモのような反戦活動を呼び掛けるくらいじゃないと」

 

「デモとは?」

 

「デモンストレーションの略で、大々的な演出で戦争に反対する意見を国民に呼びかけて支持を求める活動だな。

 こちらの方が直接的で人眼にも着くから影響力は大きいけど、議会の考えに真っ向から反対すると宣言するようなものだから非常に危険だ。

 一般人が無策にやれば問題行動として捕まるのがオチだろう。

 それに国民に解ってもらいやすいように意見を述べる必要があるし、大々的にやるには多数の協力者などの影響力が必要になる。

 時間のない状況で突発的に国民に呼びかけるとなると、これくらいしかない」

 

「影響力のあって国民に呼びかけられる方となるとアシミー様ですが…」

 

「俺は議員だぞ。 議会で反対の意見を出すくらいなら問題ないが、そんな国民を煽って議会に反発してはほかの議員全てを敵に回す。

 それでメカトピアを救う事が出来るなら是非もないが、失敗して議会を追い出されればそれこそ目も当てられん」

 

「これはお手上げか? ヤドリもいるし国民も巻き込んだ全面戦争になるか?」

 

「諦めないで!」

 

 ハジメも本来ならもう少し時間をかけて国民の反対運動を起こさせるつもりだったが、ヤドリの存在であまり時間をかけることが出来なくなった。

 時間を与えすぎれば足元を掬われかねないと進軍する事になったが、同時にメカトピアに敗戦を受け入れさせる猶予が無くなった。

 どうにかしてやりたいがハジメ達もゼータを奪われたという事実が余裕を奪っていた。

 

「多くの国民に呼びかける事の出来る影響力のある方か。

 申し訳ないがシルビア様のお力を借りるしかないか」

 

「シルビア様! そうだわ、シルビア様なら多くの人に呼びかけられる!」

 

「シルビアとは、確かメカトピアの戦争で聖女と呼ばれたロボットだったか?」

 

 ハジメはメカトピアの簡易的な資料に書かれていた、戦争時の記録の中で活躍したというその存在を思い出す。

 その資料にはアシミーの事も名高い武将と書かれていたので、二人を一緒に覚えていた。

 

「地球人の君も知っているのか?」

 

「集めたメカトピアの情報に貴方と一緒に出ていた」

 

「あの方とはずっと昔からの旧知だからな。

 戦争が終わって私は議員になったが、あの方は奴隷を開放し共和制を成立させた後疲れたと言って隠居なさったのだ。

 今ではメディアにもめったに出てくることはないが、国民の人気は今でも大将軍と呼ばれた私よりあると思っている。

 議員になっていたら誰の有無も言わさず議長の椅子にすわっていただろうな」

 

「シルビア様が議員にならず隠居なさったのを多くの国民が残念に思ったほどよ。

 それくらいシルビア様には顔を出さなくなっても根強い人気があるの」

 

 アシミーもリルルも聖女と呼ばれるシルビアの存在を高く評しているのがハジメにはよく分かった。

 

「なるほど、多くの国民に呼びかけるにはうってつけの人物だね」

 

「隠居なさっているシルビア様には申し訳ないが、今はあの方の力を借りるほかない。

 あの方の元に案内しよう。 そしてもう一度今回の事をシルビア様に説明してほしい。

 私は議員として行動しなければならないから、大々的に協力する事は出来ないが、できる限りの事はしよう。

 どうかメカトピアの未来を守ってくれ」

 

「もちろんです、アシミー様」

 

「攻めてきてる側の僕が言うのもなんですが、わかりました」

 

 ハジメ達は時間停止を解除して一度アシミーと別れ、外で再度合流してから聖女シルビアの元に案内されることになった。

 

 

 

 

 




 ドラ丸は護衛なので会話に参加していません。
 ちゃんといますが置物状態です。


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真・鉄人兵団11

 感想、及び誤字報告ありがとうございます。
 今回は対話ばっかでちょっと難産でした。
 


 

 

 

 

 

 アシミーに車に乗せてもらい、ハジメたちはメカポリスの郊外にある屋敷までつれて来てもらった。

 ここに嘗ての戦争で聖女と呼ばれたシルビアが暮らしているという。

 

「シルビア様が嘗ての戦争で人々を導いた功績は聖女の名に相応しいものだが、ご本人はそれを煩わしく思っているらしい。

 戦後、聖女と呼ばれ称賛される事に辟易していたシルビア様は、ひっそりとした場所で隠居生活を送るために郊外のこの屋敷に移り住んだのだ。

 お世話役の使用人も最低限の人数に留めている」

 

「ここにシルビア様がおられるんですね」

 

 なんだかリルルの声色が明るくなっていることに気づく。

 

「なんだかうれしそうだね、リルル」

 

「もちろんよ! シルビア様はメカトピア女性の憧れの存在なの。

 こんな時だけどシルビア様に会えるのが楽しみなの」

 

「隠居なさったシルビア様は紹介の無い面会を断られている」

 

「そうなのよ、会おうと思っても会える方じゃないの!」

 

 テンションの高いリルルの姿に少しばかり困惑するハジメ。

 こんなキャラじゃなかったよなと原作の事を思い返すが、実際目の前に存在しているのだしこういう一面もあるのだろうと納得しておく。

 

「俺は君たちを紹介したらすぐに議会に戻らねばならない」

 

「わかっています。 アシミーさんは議会で停戦交渉の進言を続けてください。

 議会への働きかけはアシミーさんにしか出来ませんから」

 

「今更ではあるが地球側の君に気遣われるのは不思議だな。

 本当に今戦争で戦ってる相手とは思えない」

 

「それは僕らに余裕があるからですよ。

 負けると思ってないからこそ、勝ち方を選ぶ余裕がある。

 もしそうでなければここには来ていません」

 

「我々には絶対勝てないと言われているのだが、ここまではっきり言われるとまるで悔しいと思えん。

 ただしそれだけの余裕の裏付けを聞くのは恐ろしいな」

 

「アシミー様、時間がないのですから早くシルビア様に会いに行きましょう」

 

「ああ、そうだな」

 

 アシミーもリルルが時間を気にしているのではなく、早くシルビアに会いたい一心な事に何も言わず館の扉の前に立つ。

 呼び鈴を鳴らすと扉がすぐに開き、黒い装甲にスマートな体格のロボットが現れる。

 イメージ的に執事をしているロボットではないかとハジメは思った。

 

「ようこそ、アシミー様。 先ほど連絡があったばかりで、今回は本当に急でございますな」

 

「本当に緊急だったので申し訳ない。

 シルビア様に彼らを会わせたいのだが」

 

「既に奥様にお伝えして了解をもらっております。

 どうぞこちらへ」

 

 執事ロボットの案内ではハジメ達はアシミーに続いて屋敷の中に入っていく。

 屋敷の中は様々な装飾品や調度品が置かれており、ハジメには人間が住んでいてもおかしくない文化的適合性を感じた。

 改めてメカトピアの文化は人間と類似性が高いなと思わされる。

 絨毯の敷かれた廊下を歩いていくと、目的の部屋に付いたのか執事ロボットが立ち止まり部屋をノックする。

 

「奥様、アシミー様方をお連れいたしました」

 

「入って頂戴」

 

 部屋の中の返事を受けて、執事ロボットが扉を開けてハジメ達を迎え入れる。

 中には白と銀で装飾されたケープを纏う女性型ロボットが椅子に座って待っていた。

 

「いらっしゃいアシミー。 私に会わせたいというのはその子達かしら」

 

「はい、大変申し上げにくいのですが、あなたの力をお借りせねばならなくなりました」

 

「………そう。 セイバース、少し席を外してくれるかしら?」

 

「承知しました、奥様」

 

 事情をなんとなしに察したシルビアは、執事を下げる事で人払いをする。

 

「それで何があったのかしら? 私はその子たちに何をしてあげればいいの?」

 

「まずは彼らの事から説明します」

 

 アシミーがハジメ達の事から説明し、この戦争でメカトピアに何が起こっており、これからどうなろうとしてるのか議会場での会話でわかった事を全てシルビアに伝えた。

 ハジメにはロボット相手では表情が読めず感情が読み取りにくいかったが、アシミーの説明にたびたび驚いている様子があった。

 アシミーがわかっている事を全て伝え終えて話が一区切りになる。

 

「そう、やっぱり誰かを奴隷なんかにしようとしたから、手痛いしっぺ返しを受けたという事ね」

 

「はい。 隠居したシルビア様に頼むのは非常に申し訳ありませんがあまり猶予がないのです。

 お力を貸していただけませんか?」

 

「もちろんよ。 メカトピアの危機なんですもの。

 隠居したおばあちゃんだって使えるなら使うべきよ」

 

「…あなたには敵いませんな」

 

 気にせず使えなどと豪快な事を言うシルビアに脱帽するアシミー。

 

「申し訳ないですが、もうすぐ会議が始まります。

 終わったらまたこちらに来ますので、彼らの事はお願いします」

 

「いいえ、あなたは議員としての責務を全うしなさい。

 これからの経緯はちゃんと報告するから、議会場で金族の馬鹿どもを見張っておきなさい」

 

「しかし…」

 

「必要ならちゃんと呼ぶからしっかりおしなさい」

 

 議員の仕事に集中するようにとアシミーに説教するシルビア。

 

「…わかりました。 リルル、ハジメ殿、ドラ丸殿、あとの事はよろしくお願いします。

 シルビア様も決して無理はなさらぬよう」

 

「あなたの方こそオーロウに足を掬われるんじゃないですよ」

 

「アシミー様、いろいろありがとうございました」

 

「出来る限りの事はやりますよ。 アシミーさんもお気をつけて」

 

「武運を」

 

 それぞれに激励をもらってからアシミーは議会に戻ろうとする。

 金族とヤドリの繋がりがはっきりしている以上、金族と相対する事はヤドリと接触する危険性もある。

 

「あ、そうだ。 アシミーさん」

 

「なんだね」

 

「念の為ヤドリに効く武器を持っていてください」

 

 ハジメの言葉に察したドラ丸が前に出て真空ソープの銃を手渡す。

 

「それから出る液体がヤドリの寄生を剥がす効果があります」

 

「わかった、ありがたく受け取っておく」

 

 そしてアシミーは今度こそ屋敷を出て議会場へ戻っていった。

 アシミーがいなくなった後に、まずはシルビアから口を開いた。

 

「いろいろしなければならないことが出来ちゃったけど、まずはもう少しお話をしましょう。

 ハジメさん、だったかしら?」

 

「ええ、そうですが」

 

「その姿はロボットのフリをしているのよね。

 人間の、貴方の本来の姿を見せてもらえないかしら?」

 

「…わかりました」

 

「よろしいのですか、殿」

 

 ハジメがシルビアの頼みに了承すると、ドラ丸が心配したように声をかける。

 ゴッドガンダムの姿は偽装ではあるが、同時に身を守るための鎧でもある。

 ロボットだらけの社会では人間の体は柔すぎるのだ。

 

「姿を見せないのは不誠実だからね。 ドラ丸、スモールライトを用意して」

 

「…承知」

 

 ドラ丸がスモールライトを用意している間に、ハジメはゴッドガンダムの手のひらを胸の前に持ってくると胸部のコクピットが開いた。

 そこから中に乗っていたハジメが機体の手のひらに乗り、そこへドラ丸がスモールライトを向ける。

 

「準備OKでござる」

 

「やってくれ」

 

―カチッ―

 

 スモールライトの解除光がハジメに当たると、みるみる元々の大きさに戻った。

 その変化にリルルとシルビアも少し呆然としている。

 

「ハジメさん、小さくなって乗り込んでいたのね」

 

「あらら、人間って不思議なのね」

 

 リルルはハジメ達の道具の不思議さに疑問に思う事はないが、こんな風に乗っているとは思っていなかった。

 シルビアはそこそこ驚いているようで、平静を保つように少し声を震わせている。

 

「これでよろしいでしょうか?」

 

「ええ、そうね…」

 

 戸惑った気持ちを落ち着けながらシルビアは、ハジメの姿をしっかり確認する。

 ゆっくりとハジメに近づき、前に立って顔を向き合わせてじっと見ている。

 

「………」

 

「………」

 

「…ハジメさん、あなたに少し触れさせてもらってもいいかしら?」

 

 シルビアの頼みにドラ丸が些か警戒を強める。

 人と触れ合ったことのないロボットに、人体へ怪我をさせない配慮が出来るか心配したからだ。

 同時にまだ味方として信用出来るのかわからない相手に、主であるハジメを触れさせることは当然警戒する。

 しかしドラ丸は何も喋らず、黙ってハジメの出方を待つ。

 

「…それは構いませんが、人間はロボットほど丈夫ではないのであまり強く触れないでください」

 

「気を付けるわ。 貴方を見る限り、人間はとても丈夫そうには見えないもの」

 

 シルビアは手の平をゆっくりとハジメの頬に持っていき、そっと触れる。

 それはとても慎重に、決して傷つけないという意思を感じさせ、ドラ丸もそれ以上の警戒をしなかった。

 

「…柔らかいのね。 硬さもあるのだけど、とても脆そう。

 ロボットの私からしたら、そんな体で大丈夫なのかとても不安になるわ」

 

「………」

 

 シルビアの意図はわからないが、ハジメは動かず黙って成すが儘になっている。

 この時ハジメはシルビアの言葉に、触覚センサーもメカトピアのロボットには搭載されているのだろうかと、別の観点から様子を窺っていた。

 目を合わせながらハジメに触れていたシルビアの手が離れる。

 

「ありがとう、もういいわ。

 ごめんなさいね。 貴方という人間の事が知りたかったけど、ちょっと失礼だったかしら」

 

「いえ、大丈夫です。 人間を知らないあなた達からしたら、知っておきたいと思う事は不思議ではありませんから」

 

 礼節に欠けるならハジメも怒るところだが、シルビアは気遣いを忘れずに丁重に対応してくれた。

 それならこの程度怒る事ではないと、ハジメは気にしていない。

 

「そうね、私たちは神が見放したという人間を実際には何も知らなかったわ。

 それなのに奴隷にしようなんて攻撃して返り討ちにあって、バカな話よね。

 だけど貴方を見て少し人間を知ることが出来た。 ハジメさん自身の事をもう少し知ることが出来たわ。

 貴方は私達を敵だと思っていないのね」

 

「え?」

 

 なぜそんな風に思われたのかわからないハジメは、疑問符を浮かべる。

 

「私達を脅威に思ってないと言うのもあるのでしょうけど、それだけが理由じゃないみたい。

 唐突だけどリルルさん。 あなたはハジメさんとここまで来たけど、彼を味方だと思ってる?」

 

「それは…ハジメさんと共にここまで来たのは、それがメカトピアの為になると思ったからです。

 だから味方では無いんですけど、こうして来てくれているハジメさんを敵とも思えなくて…」

 

「そうね、それはきっとハジメさんが私達を気遣ってるからよ。

 私達に配慮してこうして戦ってる相手の領域に踏み込んで、戦いを止めようとすることに手を貸してくれている。

 ハジメさんはとても優しい方なのね」

 

 そのような事をメカトピアのロボットに言われるとは思っていなかったハジメは、目を見開いて驚く。

 

「そんなことありませんよ。 宇宙の戦場ではあなた達の同胞を数多く殺しています。

 そんな相手に優しいというのはおかしいですよ」

 

「私も嘗ての戦争の中で多くのロボットが死んでいくのを見ているわ。

 戦場で躊躇なく相手を撃つのは、何も可笑しな事ではない。

 あなたが優しいと思ったのは、人間であるあなたがこうしてロボット達の事を気遣えているからよ」

 

「そんなことは…」

 

 戦場で多くのメカトピアのロボットを倒している側であるハジメとしては、そんな風に言われることに良心を痛めるのか辛く感じた。

 

「ハジメさんは地球の人間なのに、攻め込んだメカトピアに対して怒っても嫌ってもいない様に見えるわ。

 かといって関心が無いわけじゃなく、貴方たちの星を守るためにこうして攻め込んできている。

 恨みや憎しみがないのも地球側が勝ってるからなのかもしれないけど、それでも攻め込んで来た相手にこうして気遣える事の方がおかしいと思うわ」

 

「では、シルビア様はハジメさんに何か他に目的があると」

 

「いいえ、それはわからないけど、ハジメさんが私達をちゃんと見てる事は解るわ」

 

「見ているですか?」

 

 シルビアはしっかりとハジメに向き合いながら話を続ける。

 

「人間とロボットは全然違うわ。

 嘗てはロボット同士で戦争をしていたように、同胞であってもお互いを理解し合えなければ争ってしまうものよ。

 人間が元々相手を理解しようとして争いを避ける存在なら、ハジメさんの行動にも納得がいくのだけれど、リルルさんが見た地球の人たちは私達と似たような感じだったのでしょう」

 

「はい、地球の人間は、私たちの感性とあまり変わらないように思えました」

 

「それならやっぱりハジメさん自身が私達をちゃんと見ようとしてくれているのね。

 人間が特別なわけではなく、ハジメさんがメカトピアの全てを一括りで考えず、話し合える人を選別している。

 そしてメカトピアのロボットの全てが戦争を望むわけではないと分かったからこそ、こうして戦争をやめるように働きかけてくれている。

 ハジメさん、貴方がここにいるのは間違いなく貴方の優しさよ」

 

「そう…でしょうか?」

 

 リルルへの関心から結果的にここまで来ているが、優しさと言われるには自身の行動が下心染みているように感じる。

 それゆえにシルビアの高い評価を受け入れ難かった。

 

「もちろんその優しさがメカトピアのロボット全てに向けられるとは思っていないわ。

 戦場で戦っている以上、まずは貴方たちの利益優先なのは間違っていない。

 だけどリルルや…私にその優しさが向いているのはわかります」

 

「私もですか?」

 

「ええ、むしろリルルさんがハジメさんと対話したからこそ、地球側の配慮に与れるのだと思うわ。

 ハジメさんは戦場で戦ったメカトピアのロボットを倒したことを気にしていないと思うわ。

 戦争なんだからそれは全然おかしなことではない。

 だけど先ほど私たちの同胞を殺したと言って優しさを否定した様に、ハジメさんは私たちがどう思っているか気遣ってくれたわ。

 それはメカトピアと敵対することを何とも思わなくても、私たちが悲しむ事に気遣ってくれたという事よ」

 

「そうなの、ハジメさん」

 

「そんなつもりではないんだが…」

 

 戦場で多くのメカトピアのロボットを殺していることにリルルがどう思っているのかは気にしていたが、現状どうする事も出来ないのであまり話題に出さなかったくらいだ。

 リルルも軍に所属していた以上、仲の良いロボットがいて戦場で戦っているのではないかと思うと、敵側としては訊ね辛い事であった。

 

 シルビアの指摘にそのような気遣いをされていたことを知ったリルルは、すこしだけ申し訳なく思う。

 こうしていろいろ配慮してもらっているが、最初に地球を攻めたのはメカトピア側なのだ。

 その罪悪感を今のリルルは持っており、それなのに同胞を殺されることを気遣われるのは自分が情けなく感じた。

 

「ハジメさん、私はこれまでどうしてあなたが敵対する側のメカトピアの戦争を止めるのに手を貸してくれるのかわからなかったわ。

 でもそれはとても簡単な事だった。

 私は貴方の優しさに甘えてしまっていたのね」

 

「いや、そんなきれいな理由じゃないですよ。

 僕はただ今後地球が侵略されないようにメカトピアに攻め入って、滅ぼすしか終わらせる方法がないのも嫌だから、戦争に反対する人たちに働きかけようと思っただけで!

 …あれ、なにも否定要素が出てこない」

 

 解釈が随分と高評価だが、間違ったことを言われていないのでハジメは何も否定出来なかった。

 

「ハジメさん、貴方の優しさを無駄にはしないわ。

 こうして手を貸してくれているけどあなたは地球人で、メカトピアの戦争を止めるのはメカトピアのロボット達でなければいけない。

 こんなおばあちゃんにどこまで出来るかわからないけど、メカトピアの未来は私たちの手で作って見せるわ」

 

「シルビア様、私もお手伝いをさせてください。

 必ずこの戦争を終わらせてメカトピアを救いましょう」

 

「…まあ、頑張りましょう」

 

 自身の優しさと言われてどう反応していいか分からず、そのまま話が流れたことで無難な返答だけをする。

 シルビアさん、おばあちゃんなんだとハジメは頭の片隅で思ったが、武骨なロボットじゃ年齢解らんというツッコミはタイミングを逃してしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 今回は対話が中心でしたが、表現したい思いを文章にするのはすごく難しいです。
 いろいろ考えているとややこしくなって、何書きたかったのかわからなくなってしまいます。
 まだまだ執筆者として未熟なんでしょうね


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真・鉄人兵団12

感想、及び誤字報告ありがとうございます。



 

 

 

 

 

 ハジメ達がメカトピアの聖女と呼ばれたシルビアに接触し、反戦運動を計画してから数日。

 メカトピア上空の宇宙空間では新たな動きが起こった。

 

「司令官! 地球軍の戦艦が現れました!」

 

「先の騒動から沈黙を続けて数日。 このまま終わらんと思っていたがついに動き出したか」

 

「敵の指揮官機が謎の反乱を起こして敵の戦艦を損傷させるなどの不可解な行動でしたからな。

 調査の為に時間をかけたのだと思われますが…」

 

「原因はおそらくあの特殊武器だろうが、何らかの対策を用意してきたと見るべきか」

 

「とはいえ同じ武器はこちらの手には残っていませんからな」

 

「あったからと言って、先の戦闘で動員した兵力の被害も無視出来ん」

 

「効果はありましたが、敵指揮官機が強すぎて武器を使うのにかなり苦労したと報告が上がってます」

 

 司令官と副指令は先の戦闘での特殊武器と呼ばれるヤドリの円盤を使うのに、動員した戦力被害について考える。

 ヤドリは寄生するときに光線のようなものを発して対象に取り付く。

 その射程は非常に短いので宇宙空間での戦闘中にそれを行なうには、相手の動きを完全に止めなければならなかったからだ。

 先の戦いでのその為の被害はあまり無視できないものだった。

 

「こちらの調査はどうなった?

 あの特殊武器の効果と再配備については?」

 

「使い終わったあの武器は回収され、再配備は打診しましたが色よい返事はありません」

 

「配備されても困るが、効果についてははっきりさせてほしいところだ。

 敵指揮官機が両軍を振り切って地表に降りて行方不明など、訳が分からん」

 

「暴走を起こしたと言われていますが、動きがあまりに不可解でしたからね」

 

「敵指揮官機を無力化できた時は光明が見えたかと思ったんだがな」

 

「司令、大変です!」

 

 特殊武器の効果がさっぱりわからないことから、再配備されてもあまり期待できないと話し合ってた時に、オペレーターが叫んだ。

 

「どうした、敵軍の動きに何があったか?」

 

「依然進行中ですが、数が以前と違います。

 兵を搬送していると思われる母艦の数が増えています!

 その数9、合計十隻の艦隊です!」

 

「十隻だと!」

 

 これまではハジメの乗る旗艦を除けば、モビルソルジャーを配備したアークエンジェル型の戦艦3隻だったが、それが一気に三倍に増えている。

 モビルソルジャーを配備している数が一定であれば、戦力も兵の数も三倍になったと考える事が出来る。

 

「遂に地球軍も本腰を入れてきたという事か!

 全軍に通達。 出し惜しみなしで全力展開しろ!」

 

「了解!」

 

 メカトピア軍側の戦艦から兵士たちが無数に発進して、防衛体制に入った。

 その中にはこの数日で配備されたジュド級も数を増やしている。

 

「さて、これでどこまで相手をしてくれるか…」

 

「向こうが本腰を入れたという事でしたら、今日で全滅かもしれませんよ」

 

 地球軍側の戦力をずっと見てきた二人は、これまで相手が手を抜いて戦っていたことが良く解っている。

 そうでなければ自分たちとメカトピア軍は、疾うの昔に壊滅していると分かるくらいに戦力差を実感していた。

 それが戦力を三倍にして本腰を入れるという事は、あっという間に壊滅してもおかしくないという事だ。

 

「全軍配備完了しました」

 

「敵戦艦さらに加速。 いえ、これは…」

 

「どうした」

 

「敵船団の動きがおかしいです。 

 兵を展開せずに速度を落とさずに我々の方に向かってきています」

 

 レーダーには速度を落とさずどんどんこちらに向かってくる地球軍のマークが表示されている。

 窓から見える地球軍の戦艦がどんどん大きくなってきているのが目に解った。

 

「突っ込んでくる気ですか!」

 

「全艦即時砲撃開始! 出撃した兵団も各自攻撃を開始だ!

 敵の船の動きを止めるんだ!」

 

 指令の咄嗟の判断で、バラバラながらも地球軍の船を止めるために攻撃を開始するメカトピア軍。

 しかし地球軍の戦艦のバリアは、メカトピア側の戦艦の砲撃やジュド級のバスターカノンなどの高火力な砲撃に耐えきり、その速度のままメカトピア軍の展開された兵団の中に突っ込んだ。

 そのサイズ差から兵士たちはバリアにぶつかって吹き飛ばされ、メカトピア軍の船とすれ違いながらあっという間に突き抜けていく。

 すべての地球軍の船が突き抜け、メカトピア軍は隊列がバラバラになり全員混乱状態に陥っていた。

 

「まさかこんな強引な方法で防衛ラインを破られるとは!」

 

「上層部へ報告! 地球軍がメカトピアに降下するぞ!」

 

 体勢を立て直せていないメカトピア軍の後ろには、地表へ降下していく十隻の船の姿があった。

 

 

 

 

 

『メカトピアの全ロボット達に告げる。

 我々は地球を守護する組織シークレットツールズ。

 現在我々はメカトピアに降り立ち、貴様たちが聖地と呼んでいる場所を目標としている。

 我々の要求は前の警告と同じ地球への不可侵である。

 そして先日の戦闘で聖地に連れ去られた我々の友軍機の奪還にある。

 要求の考慮に五日の猶予を与える。

 それが過ぎたなら我々は聖地へ進軍を開始し友軍機を奪還、メカトピアを武力による完全制圧に乗り出す。

 これは最終通告である。 三度目の警告はない』

 

 再びメディアに割り込まされたハジメ達の要求がメカトピア全土に報道された。

 地球軍が地表に降りてきたことが広まり、一般市民は一層不安に駆られている。

 そして議会も地球軍の無茶苦茶な侵攻と要求に、会議場は再び騒然とした状態になっていた。

 

「軍は何をやっていたのだ! あっという間に防衛ラインを抜かれるなど、なんの為の防衛ラインだと思っている!」

 

「しかし報告を見る限り、あれは仕方なかったように思える。

 バリアによる力任せの突破など、誰も予想していなかった」

 

「その上敵の戦艦の数が三倍に増えている。 地球もいよいよ本気になったと見るべきか」

 

「軍も地上に降下させて聖地防衛の為に編成中だが、どこまで地球軍の本気を相手取れるか」

 

「地球軍の動きの変化はやはり、先日の敵指揮官の不可解な行動が原因ですか」

 

「その敵指揮官機は聖地にあると地球軍は言っていますが、どういう事ですかなオーロウ議長」

 

 議員の視線が金族の代表でもあるオーロウに集中する。

 聖地の管理を金族が行なっている事は誰もが知っている事だ。

 そこに暴走した敵の指揮官機がいると言われれば、オーロウが何か知っていると考えるのが自然だ。

 

「敵の指揮官機が聖地にあるなど私は聞いてはおらん。

 大方地球軍が聖地を攻め込むための口実ではないか?」

 

「ではなぜ地球軍は聖地を攻めようとする。

 我らにとっては大事な場所ではあるが、地球軍にとっては重要拠点とみる場所ではなかろう?」

 

「人間の考える事など私に解るわけがなかろう」

 

 オーロウは淡々と知らないと断じているが、内心はかなり焦っていた。

 聖地ではヤドリを含めた自分の計画の施設が、極秘裏に建造されている。

 聖地という歴史的にも重要な場所に新たな施設を作る事は当然禁じられている。

 管理を任されている金族とはいえ、発覚すれば現在の法をもって重い刑に処されるのは間違いないからだ。

 

「確かに人間の考える事は解らんが、もし聖地に敵指揮官機がいるのならどう思われますかな」

 

「何が言いたい、アシミー議員」

 

 ハジメからの情報提供で、オーロウを含む金族が怪しいと睨んでいるアシミーは揺さぶりをかける。

 

「敵指揮官機はオーロウ議長が提供した特殊武器が原因で暴走を起こし、メカトピアのいずこかに消えたという解釈でした。

 しかし行方不明の筈の敵指揮官機が聖地にあるのだとすれば、オーロウ議長あなた方金族が敵機を操って聖地に隠匿したと思えるのですが…」

 

「なんだと!?」

 

「どのような証拠があってそのような事を言う!」

 

「我ら金族を侮辱しているのか!」

 

 アシミーの金族への疑惑の指摘に、オーロウを含めた金族の議員たちがいきりたつ。

 プライド高い金族への物言いは、彼らの自尊心を揺さぶるものだった。

 この時はオーロウも事実に関係なく怒りを顕わにしている。

 そしてほかの議員は、アシミーのその可能性を考察する。

 

「アシミー殿の言い分は唐突だが、消えた敵指揮官機の所在は気になるところですな」

 

「敵指揮官機を狂わせた特殊武器もオーロウ議長からの提供でしたからな」

 

「もしそうなのだとしたら、敵指揮官機は暴走ではなく操られていたことに」

 

「まさかジャックバグ…」

 

 ジャックバグの名前が出てきたとき、議会が一瞬静まり返る。

 ジャックバグは嘗ての戦争での禁忌であり、その危険性を議員は誰もが知っている。

 終戦時にすべて破壊され処分されたが、まさか残っていて先の戦闘に使われたのではと危惧する。

 だがオーロウ議長はすぐさまそれを否定する。

 

「あの特殊武器はジャックバグとはまるで別物だ!

 使用した者達の確認を取れば直ぐに解る事!

 あらぬ疑いをかけないで頂こうか」

 

「特殊武器がジャックバグと別物であることは私も確認しています。

 しかし敵指揮官機の行動を暴走と呼ぶには、地球軍に害する理性的な動きをしている。

 何らかの理由で敵指揮官機が造反したとしか思えない。

 あの特殊武器によって操られたとみるのが自然なのですよ」

 

「前にも言ったがあの特殊武器による敵の行動は私も想定していなかった。

 だが、仮に敵があの特殊武器によって操られたからと言って何の問題がある」

 

「オーロウ議長!?」

 

 ロボットを操る存在はジャックバグを連想し、現在のメカトピアでは禁忌なのだ。

 それを認めるような発言に議員たちが驚く。

 

「奴らは栄光あるメカトピアのロボットの系譜ではないのだ。

 仮にジャックバグが使えるというなら、私は奴らに使用する事を進言しよう。

 人間に使われるより、始祖の系譜であらねど同じロボットに使われる方が幸福なのではないか」

 

「オーロウ議長、流石にそれは…」

 

「仮の話だ。 たとえ地球のロボット相手でも神の禁忌に触れる可能性はあるからな」

 

 メカトピアのロボットは同胞の電子頭脳に干渉することが出来ない。

 地球のロボット相手でもその制約に引っかかる可能性は無いわけではなかった。

 

「オーロウ議長も先の一件は想定外であったのはよくわかりました。

 では敵指揮官については聖地にはないと言われるか?」

 

「無論だ」

 

「では念の為議会として聖地の調査を進言する」

 

「何?」

 

 オーロウは再び不機嫌な声を上げてアシミーを睨みつける。

 

「私の言葉が信じられないというか」

 

「敵指揮官が聖地に隠されていないと、地球軍の宣告後に確認されたのですかな」

 

「いや、していないが…」

 

「でしたら聖地を捜索してみる必要はあるでしょう。

 オーロウ議長もこの戦争でお忙しい。 警備に穴が出来て隠匿されたという可能性もあるのではありませんか?」

 

「警備に何の問題もない!」

 

 計画を実行に移すまでもう少しなのだと、聖地の捜査の必要性を否定するオーロウ。

 

「ですが間もなく金族直下の警備だけでは足りなくなります。

 軍との防衛体制を兼ねて聖地を確認しておいた方がよいと思いますが…」

 

「なに、どういう事だ?」

 

「地球軍は聖地を目標に定めてきました。 であれば軍を聖地の守りにつけねばならない。

 そしてもし守りを突破されたなら聖地内への追撃をせねばならなくなる可能性もある。

 その状況を想定して防衛に聖地内の状況を知っておく必要がある」

 

「聖地への敵の侵入を許すなどあってはならんことだ!」

 

 オーロウの叫びに、それに関しては同意と議員たちが頷く。

 

「ええ、ですが想定しない訳にもいかないでしょう。

 地球軍はすぐそこまで来ているのです。

 侵入されたら許可が出るまで追撃出来ないなど、それこそ問題では?」

 

「むぅ…」

 

 オーロウは唸りながらどうするべきかと考え込む。

 アシミーが言った通り地球軍が迫ってきており、聖地の防衛も先の宇宙での強硬突破をされたら抜かれるかもしれない。

 そうなれば計画もなにもあったものではないと、オーロウは地球軍が侵攻するまでが聖地の秘密を守り通せる限界と悟る。

 

「…わかった、聖地の再確認を行なっておく」

 

「お願いします。 もし見つかるようでしたら、引き渡し交渉が出来ますからな」

 

 先ほどからの聖地の強い調査要求に、オーロウはアシミーが何らかの確信を持っているのではないかと疑念を抱く。

 聖地に敵指揮官を運び込むときに情報が漏れたのかと考えるが、原因を特定するには至らない。

 ハジメ達地球側との接触とは流石に想像出来ないだろう。

 

「アシミー議員は地球軍と交渉するおつもりで?」

 

「既に地表の聖地手前まで進行されているのだ。

 彼らも最終通告と言っている。 我々に決断を迫っているのだ」

 

「メカトピアが人間に敗北を認めるなど!」

 

「だが戦況はあまりにも良くない」

 

「あとがないならば全戦力もって決戦に挑むべきでは!」

 

 地球側の要求に話題が変わると、議会はまた騒然となって発言の応酬が始まる。

 要求に応じるという事は敗戦を認めるという事であり、それを認められないがために議会の意見は纏まらずにいた。

 議会でそれを受け入れるにはもう一押し足りず、地球側からもう一押しすれば一線を越えるためにこれ以上刺激を与えられない。

 必要なのは議会を動かす別の切っ掛けだった。

 

 議会が騒然となる中で、議会に一人のロボットが飛び込んできた。

 

「大変です!」

 

「何事か、議会の協議中だぞ」

 

「シルビア様が!」

 

 伝えられた聖女の名に議員たちはどよめき、唯一アシミーだけはようやくかと吉報に安堵した。

 

 

 

 

 

「すごい事になったわね」

 

「もうちょっと小規模な演説をイメージしてたんだが…」

 

 シルビアとハジメ達が接触して数日。

 ハジメの提案から独自に民衆に演説を行い反戦運動を計画したシルビアは、自身の友人に協力を依頼し多くの市民に話を聞いてもらえる場所を当っていた。

 ハジメ達は準備が終わるまでシルビアの屋敷に世話になり、ついに公演の準備が整ってその実行場所に移動してきたが…

 

「これは完全に講演会だな」

 

「演説とどう違うの?」

 

「基本的に話を聞いてもらうのは同じだけど、僕の予想していたものと規模が全然違う」

 

 ハジメの想像していたものは街頭演説くらいの規模だったのだが、目の前にはシルビアを一目見ようと多くのロボット達が集まっている。

 場所は公園の広場なのだが、遠くからも見えるように演説の舞台まで用意されている。

 シルビアが協力を依頼したという友人が全て用意し、演説を行うという情報を広めたことでこれだけの人が集まったのだ。

 

「これなら成功間違いなしね」

 

「演説がうまくいけばね。

 だけど、これだけ人が集まれば直接議会を動かせるんじゃないか?」

 

「あら、それはだめよ」

 

 舞台裏から集まった人たちの様子を窺っていたハジメ達に、演説の準備を終えたシルビアが話しかけてきた。

 

「聖女と呼ばれてたって私はタダの一般人なのよ。

 議員でもないのに議会を直接働きかけるようなことは許されないわ。

 私はあくまでメカトピアの人々にお願いして、戦争に反対する声を一緒に上げてほしいというだけよ。

 多くの人々が一緒に同じ意見を述べれば、議会も無視する訳にはいかなくなる。

 演説の呼びかけというのは、民衆が議会に間接的に意思を伝える良い手段ね」

 

 シルビア以外の者が演説を行なってもここまで影響力は出ないだろう。

 ハジメはそう思いながら、議会に直接働きかけられないとは言わなかった事を追求しなかった。

 

「シルビア様。 私はあまりお手伝いできませんでしたが頑張ってください」

 

「ありがとうリルルさん」

 

「あとはシルビアさんの呼びかけ次第です。

 これをきっかけに議会が交渉に乗ってくれる事を祈っています」

 

「ご武運を、シルビア殿」

 

「ええ、民衆の力が議会を動かすところを見せてあげる」

 

 そういってシルビアは舞台の上に向かっていく。

 この演説によるシルビアの呼びかけで、反戦運動が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 




春ですからか、すごく眠くなってます。


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真・鉄人兵団13

感想、及び誤字報告ありがとうございます
更新速度が落ちてる…気合を入れなおさないと


 

 

 

 

 

『本日は私の呼びかけに集まって戴き有難うございます。

 私の名はシルビア。 嘗ての戦争で聖女などと呼ばれたことのあったロボットです。

 

 皆さんもご存知の通り、現在メカトピアは人間の暮らす地球という星と戦争状態にあります。

 先日の地球からの布告で、地球の軍はメカトピアに降り立ち聖地を最初の攻撃目標にしています。

 そして布告通りであれば、聖地での戦いが始まればメカトピア全土を飲みこむ戦乱が広がる事でしょう。

 私はそれをなんとしても止めたいと思い、こうして皆さんへの呼びかけを行う事にしたのです。

 

 皆さんに地球軍と戦ってほしいのではありません。

 皆さんはメカトピアの一般国民の方々。 戦うべき兵士ではなく民であり、戦うべき者達ではありません。

 ですが今のメカトピアでは国民一人一人でも国を動かす小さな力があります。

 

 現在のメカトピアは共和制により議員が国民より選出され、最高評議会によって国政を行なっています。

 地球との戦争の切っ掛けは、人間を新たな労働力とする人類奴隷化計画による地球への侵略でした。

 それを決行したのは当然最高評議会ですが、その結果この戦争になってしまったことに私は議会を非難する事は出来ません。

 

 それはなぜかとお思いだと思いますが、議会を動かす議員は一部を除いて国民の選挙投票によって決まる信任制度です。

 国民の皆さんがどのような方を議員にするのか選び、その方を信じて任せるのが現在のメカトピアの政治なのです。

 地球に侵略戦争を仕掛けたのは議会の過ちだと思っていますが、議会を運営する議員の選出に私も一国民として投票しています。

 是非はどうあれ、議会の決定は議員達の選択であり、議員達を信任したのは我々一人一人の国民だという事です。

 今のメカトピアは国民一人一人が政治に関わる力を僅かながら持っていますが、それは同時に僅かながら責任もあるという事です。

 故に議員や議会にばかり非難をするのは間違いなのではないでしょうか。

 

 そして責任を追及する事が過ちを正す事ではありません。

 誰かが過ちを犯したら助け合う事が仲間というものではないでしょうか。 

 メカトピア全体の危機であるからこそ、皆さんが助け合う必要があるのです。

 

 私は戦争を終わらせるために地球軍と交渉するべきだと議会に伝えたいと思っています。

 先日の布告で地球軍の要求は地球への不可侵と同胞の返還だと言っていました。

 その要求を受け入れるだけで戦争が終わるとは限りませんが、対話による解決を図る事は決して悪い事ではないはずです。

 それを議会に呼びかけたいのですが、今の私は一国民であり聖女の名を使って議会に直接干渉してはいけないのです。

 

 故に国民の皆さんの中で私の意見に賛同してくださる方に、私と共に議会に対して声を上げてほしいのです。

 国民一人一人の声は小さいけれど、集まれば議会を動かす大きな声となるのです。

 そしてこれは私からの呼びかけのお願いであり、私の意見に賛同するかは皆さんがご自身で決めてください。

 先ほど申しあげた通り、皆さんにも政治に対して僅かながらの責任があるからです。

 たとえ僅かであっても今のメカトピア国民であるならそれを忘れてはいけません。

 

 私は戦争も人間を奴隷にする事も望んではいません。

 嘗ても奴隷の悲惨さから解放戦争が始まり、多大な犠牲によって戦争は終結しました。

 此度の戦争も奴隷という切っ掛けから始まり、多くの犠牲が出るのでは同じことの繰り返しです。

 我々が成長したというのなら、此度の戦争で多くの犠牲を再び出してはなりません。

 

 どうか私の意見に賛同してくださる方は、声を議会に届けてください。

 私と同じ声が一人でも多くの方と共になり大きな声になる事を願っています』

 

 

 

 

 

 シルビアの演説の記録が議会の会議場で再生され議員たちが知る事となった。

 

「………い、今すぐ、シルビアを捕らえよ!

 これはメカトピア最高評議会への反逆だ!」

 

「オーロウ議長、そんなことをしたらどうなるかわかっているのですか。

 間違いなく国民が激怒し、内乱状態になりますぞ」

 

「だが、このような暴挙を許すわけにはいかん」

 

「暴挙と言いますが、彼女の演説はあくまで国民に対する呼びかけです。

 内容も議会を非難するものではなく逆に擁護するものでしたし、戦争を終わらせるために議会に交渉してほしいという意見の賛同者を募るものでした」

 

「まあ、問題はそれを行なったのが聖女シルビアという事ですな」

 

 聖女シルビアの名はメカトピア中に轟いており、その影響力は計り知れない。

 シルビア自身が自ら隠居したことでその影響はどこにも出ていなかったが、この演説によってとてつもない影響が出る事は間違いない。

 まして議会に関わる演説である以上、議員は自分達がどれほどの影響を受けるか想像も出来なかった。

 

「それで、この演説によるこちらへの影響は…」

 

「議会の受付や連絡口にシルビア様と同じ訴えをする国民が津波のように押し寄せていますよ。

 既に対応しきれず封鎖状態になっています」

 

「だろうな」

 

「わかってはいましたが、シルビア様の人気はすさまじいですな」

 

「隠居なさってなければ確実に議員になっていたでしょうな」

 

 議員の中にもシルビアのシンパは何人もいる。

 少なくとも議員の半数以上がシルビアの行動に対して心証を悪くしていない。

 それだけでシルビアの影響力が強すぎて自ら隠居した理由がわかるというものだ。

 

「さて、シルビア様は…いやシルビア様の呼びかけによって多くの国民の意見が議会に寄せられている。

 その意見の賛同者数をおおよそで判断してから、議会としてその意見の決議を取ろう」

 

「それは無意味ではないのか、アシミー議員。

 シルビア様の演説によってすでに多くの国民の賛同を得ている。

 議会として悠長に判断してる場合ではないのだぞ」

 

「だからこそだ。

 シルビア様は自身の意見を国民一人の意見として扱えと言っている。

 多くの者が賛同するだろうが、それがどれほどの国民数の意見であるかで議会は判断しなければならない。

 シルビア様の意見だからという理由で議会は動いてはならないのだ」

 

「なるほど、確かにその通りですな」

 

 アシミーの言葉に納得がいったと、シルビアの意見というだけで賛成的だった議員たちは気を引き締める。

 

「大変だろうが地球との交渉に賛同する者たちの人数を計測してくれ。

 おおよその人数だけでも記録しておかなければ、どれほどの賛同者がいたからこそ議会はその意見を協議したのだという体裁にしなければならない。

 シルビア様も議会を混乱させたいわけではないのだ」

 

「なるほど、ではさっそく賛同者の人数を確認しておくように指示を出します」

 

「対応する専用の窓口を用意した方がいいかもしれません」

 

「シルビア様の演説で混乱が起きてしまっている場所もある。

 まずはその対処を終わらせ、意見の判断については次の会議の議題としましょう。

 よろしいですかな、議長」

 

「…そうだな。 本日の会議は解散とする」

 

 議員たちは忙しくなった各々の仕事を片付けるための足早に会議室を退出していった。

 オーロウも重い足取りで会議室を後にしていく。

 

 

 

「…ヤドリはいるか」

 

「なんだ」

 

 自身の執務室に戻ってきたオーロウが呼びかけると、物陰から連絡役のヤドリの円盤が現れて答える。

 

「一刻の猶予も無くなった。

 計画を実行の移すと天帝に伝えろ」

 

「いいのか? まだアレの生産台数は予定数に達していないぞ」

 

「計画実行後も製造を続けさせればいい。

 今動かなければ議会の調査で発覚するか、地球軍に聖地を荒らされ計画どころではなくなる。

 お前たちにも手を貸してもらうぞ」

 

「私の判断だけでは決めかねる」

 

「聖地を探られればお前たちも隠れ場所を失う事になるぞ!」

 

 焦った様子のオーロウは連絡役のヤドリに当たり散らすように怒鳴る。

 

「…ふう、仕方あるまい。 天帝様にお伝えしてこよう」

 

「時間がない、早くいけ!」

 

「………」

 

 オーロウの姿にあきれた様子で話した連絡役ヤドリは。窓から出て空に消えていった。

 残ったオーロウは苛立たし気に椅子に座り込み、計画成功の後の世界を妄想する。

 

「何が地球軍だ、何が議会だ、何が聖女だ…。

 計画を実行すればすべてが私にひれ伏す事になるのだ。

 フフフフフ…」

 

 オーロウは計画の成功を疑っていなかった。

 

 

 

 

 

 演説を終えたハジメ達はシルビアの屋敷に戻ってきており、アシミーも会議を終えて合流していた。

 

「ありがとうございました、シルビア様。

 あなたの演説のお陰で議会も地球軍との交渉に前向きになっています」

 

「いいのよ、これはメカトピア全体の問題だもの。

 これくらいの事なら大したことないわ。

 それにこの案はハジメさんに提供されたものだもの」

 

「そうでしたな。 ハジメ殿にも感謝しております」

 

「地球軍側の僕にそういわれても困るんですが…」

 

 立場的にあまり感謝されるのはむず痒いハジメだった。

 

「正直言うと、シルビアさんの影響力を舐めていました。

 初日の二回の演説で議会にそこまで影響が出るとは思っていませんでしたよ」

 

「シルビア様は先の内戦で奴隷だった地金族や鍍金族を解放したわ。

 今はみんな平民の鍍金族となっているけど、当時奴隷だったロボットは今のメカトピア国民の3割を超えていると言われる。

 そんな彼らの殆どは大恩あるシルビア様に感謝しているんだもの。

 国民の三割以上がシルビア様の為に動いても不思議ではないわ」

 

「それはまた…」

 

 それだけ影響力があるなら、この結果も不思議ではないと納得するハジメ。

 

「そこまで影響力があるのだったら、今日だけでも十分だったかもしれないな」

 

「なに、まだ演説をやるのか?」

 

 今日だけでも議会は混乱に陥ったのに、それが続くようなら議会が完全に停止してしまうのではないかとアシミーは心配する。

 

「僕の予想していた演説活動は何日かかけて呼びかける物だったんですけど、シルビアさんの予想以上の影響力でもう十分なんですよね」

 

「けれど二・三日を予定していたから場所取りの関係で、予定していた場所に人が集まってくると思うのよ。

 だから予定を入れておいた場所での演説は予定通り行うつもりよ」

 

「…集まった人々の整理誘導に憲兵を派遣するべきか」

 

 人が一か所に集まれば揉め事も起こるだろうと、先に手を打っておくかとアシミーは思案する。

 

「ともあれ、議会は交渉に前向きになった。

 地球軍の指定した猶予までには、このままいけばギリギリ議会として返答出来るだろう」

 

「僕ら側としてもこれ以上猶予を作れませんでしたから、議会が動くのが間に合いそうでよかったです」

 

 ハジメ達としてももう少し議会側に考慮する猶予を与えたかったが、メカトピアに侵攻する立場として自分たちが不利になるほど配慮をするわけにはいかず、短い時間しか猶予を与えられなかった。

 この場のハジメの予測としては、シルビアが演説の準備期間と演説の効果が出るのに出した猶予ギリギリになると踏んでいた。

 初日で効果が現れたことで、これでも予想より早い方なのだ。

 

「それでハジメさん。 この後はどうする予定なの?」

 

「議会が正式に交渉の意志を船にいる仲間に伝えたら、停戦交渉を行なうための準備を始める事になる。

 だけど僕らの考えとしてはヤドリ達の動きが気になる。

 聖地への侵攻が止まっても、アシミーさんが議会に聖地の調査を呼び掛けたことで尻に火が着いているはずだ。

 このまま大人しくしているとも思えない」

 

「ジャックバグのような奴らって言ってたけど、そんなに危険な奴らなの?」

 

 やはりヤドリの存在がハジメは気がかりだった。

 ゼータを奪われたこともそうだが、味方がそのまま敵になってしまうかもしれないというのは相当な恐怖だ。

 ヤドリの存在をハジメは知っていたが、実際に相対する事になったことでその危険性を再認識していた。

 何せ人間だろうがロボットだろうが操ることが出来、寄生されても小さすぎて見えないという厄介さ。

 寄生に気づかなければ、感染するようにどんどん内側に侵入してくる可能性もあるのだ。

 必要以上であっても警戒をする事に越したことはない。

 

「奴らの本体は目に見えないほど小さくて、誰かが寄生されていても気づくのが難しいんだ。

 いつの間にか仲間に憑りついて。こちらの懐まで入り込まれていたりしたら致命的な事になる。

 こちらが動きを把握している内に決着を着けておきたい」

 

「味方がいつの間にか敵に操られてるなんてぞっとするわね」

 

「ジャックバグならかつての戦争を生きた我々がよくわかっている。

 恐ろしい兵器だったが操られた者はジャックバグが頭部に取り付いていたから一目瞭然だった。

 そういう意味ではそのヤドリというのはジャックバグ以上に恐ろしい存在かもしれん」

 

 ジャックバグとヤドリの特性を考えて、アシミーは確かに危険な存在だと危惧する。

 

「先日の戦いでヤドリがゼータを奪ったように、強い存在を操った方が有利です。

 金族を通じて僕ら側の強い機体をまた狙ってくるかもしれませんが、メカトピアの首脳部であるアシミーさん達を狙う可能性もあります。

 シルビア様もそうですが、十分に警戒してください」

 

「その金族ですが、アシミー様。

 何かわかりましたでしょうか?」

 

 金族の動きも気になり、リルルはアシミーに尋ねる。

 

「オーロウ議長が何か隠している様子ははっきりしているが、証拠と呼べるものがないから大した追及は出来ておらん。

 だが聖地の調査をすると言ったら、顔色を変えておった。

 間違いなくヤドリとやらの事を知ったうえで隠しておるのだろう」

 

「金族ね。 いったい何をしようとしているのかしら」

 

「まず間違いなくろくでもない事でしょう。

 奴らは評議会の議席の一定数保持する事を条件に共和制を受け入れたが、殆どの金族は納得しておらん。

 機があればかつての王制に戻そうとしても、なにもおかしくはない」

 

 議会でこそ議長であるオーロウに議員として対応しているが、はるか昔から金族の横暴さを知っているアシミーは共和制を認めていないその本心を見抜いていた。

 

「交渉が始まれば僕らの要求から聖地にゼータがある事を確認する事になります。

 そうなればヤドリが見つかる事になり、金族もただでは済まないでしょう。

 そうなる前に何らかの動きを見せるはずです。

 仲間が聖地を監視していますので、何か動きがありましたらお知らせします」

 

「俺もオーロウ議長達の動きに注意しておくが、すまないがよろしく頼む。

 そろそろ議会に戻らねば…」

 

「アシミーも無理するんじゃないですよ。 貴方だって若くないんですから」

 

「メカトピアの未来の為に、まだまだ俺はゆっくり出来ませんよ」

 

 そういってアシミーは再び議会に戻っていった。

 こうしてハジメ達に演説の結果を確認するために、忙しい仕事の中に無理矢理時間を作ってこちらに来ていたのだ。

 議会に戻れば恐ろしい仕事の山が待っているだろうと、アシミーは少し及び腰になっていた。

 

 

 

 

 



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真・鉄人兵団14

 感想、及び誤字報告ありがとうございます。



 

 

 

 

 

 メカトピア聖地メルカディア。

 そこを目標に定めたと宣告したハジメ達地球軍は、数十キロ離れた地点から聖地を見据えており、聖地の前には宇宙から降下してきたメカトピア軍も再集結してにらみ合いが続いていた。

 宣告した猶予が尽きるまでもあまり時間はないが、ハジメ達は攻撃は行う事はせずメカトピア軍も交渉を視野に入れているという理由から議会から攻撃命令は出ておらず、ここ数日は戦闘は行われていなかった。

 ハジメ達も戦力のモビルソルジャーを展開しているが現在は威嚇的な意味が大きく、聖地の前に陣取るメカトピア軍をあまり気にせず、その向こうの聖地の中を情報部がタイムテレビを使って監視していた。

 

 奪われたゼータやヤドリの動きに注視していたが、猶予期限半日前になってついに動きがあった。

 

『ヤドリ達の動きが慌ただしくなった。

 奪われたゼータも動き出して屋内から出てこようとしている』

 

『ようやく動いたか。 このまま何もしてこないかと思った』

 

『せっかく配備した対ヤドリ装備を無駄にしたくはなかったからね』

 

『油断するなよ、隊長』

 

「わかってる。 全艦に警戒態勢を指示。

 それから潜入している僕とドラ丸に通信を開け。

 ヤドリが動き出したと知らせるんだ」

 

「了解しました、マイスター」

 

 オペレーターがハジメの指示に従い通信回線を繋ぐ。

 メカトピアの命運を決める大きな戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 こちらはシルビアが演説を行なっている舞台の裏側。

 潜入中のハジメは、そこで最後の演説に付き添ってこの場に来ていた。

 

「わかった、こっちも警戒しておく」

 

「何があったの?」

 

「ヤドリ達に動きがあったらしい。

 何をやろうとしてるのかわからないが、シルビアさんとアシミーさんにも伝えておきたい」

 

「わかったわ。 演説が終わったらシルビア様に言って、すぐに屋敷に戻ってもらいましょう」

 

 シルビアは今日最後の演説の最中だ。

 既に議会は地球軍と交渉を行う事を公表しているので演説の目的は達成されているのだが、予定していた演説に既に多くの人が集まっていたために中止には出来なかった。

 目的は達成してしまっているが今回の戦争の失敗を繰り返さない為に、何がいけなかったのかをこの場にいるロボット達に理解し憶えていてもらう様にシルビアは語った。

 

 そんなシルビアの演説がついに終わろうとしていた時に、一筋の閃光が走った。

 

――バシュン!―― 

 

 演説を聞いていた観客たちの中からレーザーが飛び、舞台の上にいたシルビアの側頭部に当たった。

 

ーーキャアアァァァァァ!!ーー

 

「シルビア様!?」

 

 シルビアが撃たれたことに気づいたリルルがその名を呼ぶと同時に、周囲から悲鳴が上がった。

 頭部から煙が上がり舞台に立っていたシルビアは、その場に横に倒れ込んでいく。

 リルルは慌てて駆け寄り、倒れ込むシルビアの体を支えた。

 

「シルビア様、しっかりしてください! シルビア様!!」

 

「うぅ……」

 

 ハジメとドラ丸も慌てて駆け寄り、周りからもこの演説に力を貸してくれていたシルビアの知り合いのロボットが集まってくる。

 

「リルル、シルビアさんの状態は!?」

 

「わからないわ! でも電子頭脳のある頭部に攻撃を受けたから危険よ!」

 

「くっ、ドラ丸、【メカ救急箱】と【タイムふろしき】はあるな!」

 

「あるでござる!」

 

 ドラ丸は袴からメカ救急箱とタイム風呂敷を取り出しながら答える。

 

「シルビアさんの治療は任せた。

 僕は下手人を捕まえる!」

 

「と、殿! 拙者は殿の護衛でござるよ!」

 

 ドラ丸の呼びかけをを振り切り、ハジメはレーザーが飛んできた観客の中に飛び込んだ。

 演説中でシルビアに注目が集まっていたとはいえ、観客の中からレーザーが放たれた瞬間を目撃した物は多数いた。

 それに気づいた観客が犯人その存在を指摘し、周りの観客が逃げようと離れたことで空白地帯が出来て犯人の姿を顕わにした。

 犯人はその指先からシルビアを撃ったと思われるフィンガーレーザーを舞台に向けており、フードを被った外装を纏う事で全身を隠していた。

 

「お前か!」

 

「………」

 

 その指摘に返事はせず、犯人と思われるロボットは指先をハジメに向ける事で答えた。

 指先を向けられたことでフィンガーレーザーが来ると判断したハジメは、咄嗟に腕で頭部と胸部をガードしながら突き進むことを選んだ。

 メカトピアのロボットと違い重要なのはハジメの乗り込んでいる胸部だが、とっさの判断から人間として気を付けないといけない頭部も守ろうとした。

 

――バシュ!バシュ!バシュン!――

 

「効くかぁ!」

 

 ゴッドガンダムの装甲も戦争で戦っているファースト達と同等の装甲強度を持たせている。

 今更フィンガーレーザー程度では装甲が全て弾いてしまう。

 攻撃に容易に耐えながら接近したハジメは、レーザーを無力化するべくレーザーを放つ相手の手首を掴み取った。

 

「【ゴッドフィンガー】!!」

 

 掴んだ手に搭載された熱エネルギー発生機能が起動し、掴んだ敵の手首を半融解させてレーザーをを使えなくする。

 そしてもう片方の手で上腕部も掴むと、力ずくで振り回して無理矢理の背負い投げで相手を地面にたたきつけた。

 こんな動きを武術の訓練をしていないハジメは出来ないが、サイコントローラーが動きを補正してくれるのでイメージ通りにゴッドガンダムを戦わせることが出来るのだ。

 

 地面に叩きつけられた相手は悲鳴を上げる事もせず、それでもダメージは受けた事で動きがガタつきながらも倒れたままでもう片方の手のフィンガーレーザーをハジメに向けようとする。

 そんな遅い動きにサイコントローラーのお陰で素早く反応できるハジメは、もう片方の手も即座にゴッドフィンガーで融解して破壊した。

 

「念の為だ」

 

 無力化した相手のローブをはぎ取ろうとしたが、可能性としてヤドリがついている事を考え、持っていた真空ソープを隠れた相手の顔面に掛けておく。

 こちらに乗り移ってきたら拙いと気づき、不用意に近づくのはうかつだったと反省する。

 そして改めて姿を覆い隠している相手のローブを引き剥がした。

 

「なんだこいつは?」

 

 ローブに隠されていたロボットの姿は、戦場で戦っている兵士のロボットと似通ったタイプだった。

 フィンガーレーザーも持っていたので戦闘機能があるのだろうが、兵士より若干スリムな感じのする装甲が薄く動きが軽い感じのする体格だ。

 頭部も兵士達と似ているが、頭の上に虫を思わせるような三対六本足の機械がくっついている。

 メカトピアのロボットの姿は多種多様だが、この頭の部分だけは飾りではなく後付けされた別物の様に違和感を感じた。

 更に相手の姿が顕わになったと同時に、様子を窺っていた周囲の観客が更に騒めく。

 

「おい、あれってまさか!」 

 

「ああ、忘れもしねえ! ジャックバグだ!」

 

「ジャックバグ? 確かリルルの言ってたロボットを操る最悪の兵器」

 

 ジャックバグの名前が出ると周囲のロボット達が更に騒めき混乱状態になる。

 

「うわあぁぁぁ!」

 

「こっちにもいたぞ」

 

「こっちもだ!」

 

 周囲から悲鳴が上がり、つい先ほどまで演説を聞いていた場所は完全にパニック状態になった。

 ハジメがジャックバグに憑かれたロボットを暴いた事を皮切りに、隠れていた他のロボット達が無差別に攻撃を始めてパニックに貶めた。

 

「一体だけじゃなかったか!

 確かにそうとは限らないよな」

 

「殿、無事でござるか!」

 

「ドラ丸!」

 

 パニックになった観客の間を潜り抜けて、ドラ丸がハジメの元にたどり着く。

 

「シルビアさんは?」

 

「リルル殿に道具を預けて任せてきたでござる。

 拙者は殿の護衛、何よりも殿を守る事が優先でござる。

 置いて行かれては困るのでござる」

 

「悪かった。 ともかくまずは周りで暴れてるロボットを止めよう」

 

「承知でござる」

 

「ジャックバグに操られてるらしいから完全に破壊していいのかわからない。

 一応手足を壊す事で無力化するだけに留めよう」

 

「御意」

 

 ハジメはゴッドガンダム用のビームサーベル【ゴッドスラッシュ】を抜き、ドラ丸も猫又丸を鞘から抜いて暴れているロボットの鎮圧に向かった。

 途中から演説を聞く観客の交通整理を行なっていた憲兵も参加し、ジャックバグに操られて暴れていたロボット達は全て鎮圧された。

 

 ハジメ達は無力化するように加減をしていたが、ジャックバグに操られたロボットは電子頭脳をやられているので助かりようがないのだと憲兵に教えられた。

 ジャックバグの対処は憑りついた虫型の本体を破壊する事で、それを破壊しないと憑りついていたロボットが動かなくなれば自立して飛び回り別のロボットにまた取り付く。

 無力化したロボットからも離れて飛び上がり、ハジメとドラ丸に憑りつこうと飛んできたがあっけなく切り捨てられた。

 ジャックバグに大した戦闘能力はなく、憑りつく時に電子頭脳に干渉する為に穴を開けるレーザーニードルが唯一の攻撃だ。

 

「もういない様でござるな」

 

「シルビアさんは」

 

 大した強さではなかったのですぐに戦いは終わったが、攻撃を受けたシルビアが気がかりでハジメは舞台上まですぐに戻る。

 舞台ではシルビアが横になり、リルルがメカ救急箱で治療を施していたが顔色が優れなかった。

 

「リルル、シルビアさんの様子は」

 

「ダメ、リミットサーキットが起動してしまってるそうよ」

 

「それは…」

 

 リミットサーキットについてはハジメもよく理解していた。

 神の定めたルールを破ったときに起動し電子頭脳を破壊する懲罰機構。

 同時に電子頭脳が限界を迎えた時に疑似的な寿命として自死を行なう終末機構でもある。

 シルビアは先ほどの攻撃で電子頭脳に大きなエラーが発生し、限界であると判断されリミットサーキットが起動したのだ。

 稼働限界によるリミットサーキットの稼働は急な自死を迎えるものではなく、自身が停止する事を告知して同胞に別れを告げる時間を与えられるのだ。

 

「確かにそれじゃあメカ救急箱でも直す事は無理だ。

 だけどタイムふろしきを使えばリミットサーキットが起動する前に戻せるはずだ。

 そっちを試してみてくれ」

 

「でもシルビア様が…」

 

 メカ救急箱は使っていたが、一緒に渡してあったタイムふろしきをリルルは使っていなかった。

 使うように言うがリルルは顔を俯かせるばかりで…

 

「いいのよ、ハジメさん…」

 

「シルビアさん?」

 

 メカ救急箱で応急処置されている負傷した頭部をハジメに向ける。

 その動きは鈍く、まるで重病人のような弱った命を感じる。

 

「リミットサーキットの起動はメカトピアのロボットの天命よ。

 神の定めた終わりからは決して逃れられない………いえ、逃れてはならないのよ。

 きっと人間のハジメさんならリミットサーキットも止める事は出来るのだろうけど、私はこの天命を受け入れるわ」

 

「そんな…」

 

「フフ、それに私もやっぱり年だったのよ。

 昔だったらあれくらいの不意打ち、ちゃんと避ける事は出来ていたわ。

 さっきも避けようと思ったけど、体がすぐに動かなくて直撃を防ぐので精一杯だったわ」

 

「完全に当たってましたよ、シルビア様ぁ」

 

 リルルは泣きそうになりながら無茶苦茶を言うシルビアに突っ込む。

 

「この程度のケガ、昔の戦争だったらかすり傷扱いですよ。

 攻撃は私の頭の中心を狙われていました。

 直撃だったらリミットサーキットも起動することなく電子頭脳が破壊されていましたよ」

 

「すごい事言いますね。

 でも、本当にそれでいいんですか?

 今はまだ戦争が続いています。

 ヤドリの事もあってメカトピアは大変な時です。

 直すことが出来るのにこのまま終わってしまっていいんですか?」

 

 シルビアを撃った敵の黒幕はまだ分かっていないが、まず間違いなく聖地にいるヤドリと金族の関係だろう。

 そんな確信があり、奴らによってシルビアを死なせてしまうのはハジメには忍びなかった。

 

「大丈夫ですよ。 私がいなくなっても貴方たちがいます。

 アシミーだってもう少しくらい頑張ってくれるでしょう。

 それだけじゃない。 メカトピアを愛してる人たちがこの国にはたくさんいます。

 だから私は安心して後の事を任せられるのです」

 

「そんなことを言わないでくださいシルビア様!

 私はシルビア様に死んでほしくありません!

 ずっとこのメカトピアを、私たちの事を見守っていてほしい!」

 

 敬愛しているシルビアの終わりに、リルルは泣きじゃくりながら死なないでほしいと嘆願する。

 

「終わりは誰にでもあるんですよ。

 以前の戦争が終り共和制を迎えたときから、私は自分の役目を終えたと世界を見ながらその時が来るのをゆっくり待っていました。

 唐突でしたがもう少しだけメカトピアの為に役に立てたことを感謝しています。

 だからありがとうハジメさん。 最後に素敵なお仕事をくれて」

 

 シルビアの言葉に、演説をお願いしなければ死ななかったかもしれないという思いがハジメの頭に過る。

 こうなる可能性を考慮して、船から護衛になる戦力を持ってきていれば違ったかと後悔するが後の祭り。

 シルビアから感謝の言葉を送られても、胸の奥からこみ上げてくるものは深い悲しみだった。

 ゴッドガンダムの中のハジメも、リルルのように自然に涙を流していたことに気づく。

 

 あって数日だというのに、ハジメはこの奥ゆかしいロボットの女性を好ましく思っていた。

 聖女と呼ばれるほどにメカトピアのロボット達を愛し、人間である自分を知りたいと真剣に向き合いその在りようを見ようとした。

 そして最後の瞬間までメカトピアを思い、ハジメにも感謝を告げるシルビアに敬服しかなかった。

 

 これほど敬意を抱いたのはロボットキングダムのエイトム国王に会った時か。

 ハジメの都合で未来に連れ出し、自身が死ぬ運命を伝えても娘に後を託せるならと受け入れて見せた度量。

 そんな立派な人たちに対する尊敬の念がハジメの中に生まれていた。

 

 ハジメは自然に拳を握り締め、決意を固める。

 この人の死を無駄になんか出来ない。

 絶対的に大きな意味のあるものにしなければ納得は出来ないと、そんな強い衝動に駆られていた。

 

「…僕の方こそありがとうございました。

 突然現れて僕の頼みを聞いていただいて。

 短い間でしたがあなたと共に過ごせた事は、僕の人生の中で値千金の価値のある時間でした。

 貴方に出会えたことを心の底から光栄に思っています」

 

「ハジメさん………。

 シルビア様、私もシルビア様に出会えたこと…ううん、シルビア様が導いた今のメカトピアを過ごせることに感謝しています。

 だから絶対シルビア様が作った今のメカトピアを壊させたりしません。

 必ず守り抜いて見せます」

 

 ハジメの送った感謝の言葉に触発されて、リルルも自身の決意を語る。

 シルビアの後を任せるという思いに、決して裏切れないという思いが二人にはあった。

 

「そう、でも無理をしないで。

 メカトピアの未来を導くことは一人で出来ても、作っていく事は皆でないと出来ないの。

 だからみんなでメカトピアの未来を守って。

 人間のハジメさんには言う事じゃないんでしょうけどね」

 

「今更ですよ。 ここまで来たら乗り掛かった舟です。

 貴方への敬意には、僕がメカトピアの為に戦うだけの価値はあります」

 

「ありがとう。 じゃあもう少しだけお願いね。

 私はもう眠るわ」

 

「…お疲れ様です、シルビアさん」

 

「…本当にありがとうございました、シルビア様」

 

「あとはお願いね…」

 

 その言葉を告げるとシルビアの眼のレンズの光がゆっくりと消えていった。

 寿命を告げたリミットサーキットは、最後に自らの意志で自らを終わらせられるようになる。

 シルビアは後を託して、自身の生涯の幕を自分の意志で下ろした。

 リミットサーキットによって電子頭脳は自壊し、再び動くことはない。

 聖女と呼ばれたロボット女性シルビアは、この場で終わりを迎えた。

 

 それを受け入れたとはいえハジメの胸に込み上げる悲しみは留まる事を知らない。

 こんな思いはこの新たな生涯で初めての事だろう。

 今はただこの悲しみにずっと浸っていたかった。

 

 しかし今はメカトピアの未来を決める騒動の真っただ中。

 シルビアの終わりを見守っていたために気づいていなかった仲間からの連絡にようやく気付く。

 通信回線を開くと、宇宙船の艦長席に座っている隊長がモニターに映った。

 

『いろいろあったみたいだな』

 

「見ていたのか?」

 

『なかなか通信に出ないから、何かあったと思ってタイムテレビでそちらの様子を確認してもらった』

 

「そうか、わるかった」

 

『いい、お前も僕だ。 その様子から随分入れ込んでしまったのはわかるが、それは直接会って感じ取ったお前にしか今はわからない感情だ。

 ただ同じ僕なら誰がそこにいたとしても同じように感じたと思う。

 敵討ちをしたいか?』

 

 隊長のハジメはこっちにいるハジメの心境を心配していた。

 ゴッドガンダムの戦闘能力なら問題ないだろうが、目的を忘れてやけを起こして暴れまわり死にかねない危険を冒すのはまずい。

 冷静でないなら力づくで連れ戻さなければいけないかと考えていた。

 

「そんなんじゃない。

 確かにシルビアさんを死なせたことは許せないが、そんなことをしたんじゃシルビアさんの思いを侮辱する事になる。

 ならやる事は何も変わらない。

 この騒動を終わらせてメカトピアの平和を取り戻すだけだ」

 

『やる事がわかってるならいい。

 それといろいろあって伝えるのが遅れたが至急の事態だ。

 聖地から数えきれないほどの虫型ロボットが飛び出してメカトピア軍に後方から襲い掛かっている』

 

「ジャックバグだな。 さっきもこっちで操られたロボットが暴れていた。

 シルビアさんが死んだのもそれが原因だ…」

 

『こちらは下手に動くわけにはいかないから静観の構えだ』

 

 停戦交渉も済んでいないのに敵対していたメカトピア軍を助ける訳にもいかず、軍としては動くわけにはいかなかった。

 自分たちは非公式な地球軍とはいえ正式な戦争をしているが為に、これまでの事件より動き辛さをハジメ達は感じていた。

 ひみつ道具の力で好き勝手やっているつもりだが、相手側を気遣うだけでここまで不自由になるとはハジメ達も思っていなかった。

 国家を相手取った正式な戦争など煩わし過ぎると、ハジメ達は今回の一件で学んでいた。

 

『それと軍の方だけでなくメカポリス市内にもジャックバグの群れが入っていった』

 

「目標はこっちだな。 今視認した。」

 

 ジャックバグが市内にと言われたところで、ハジメの目に遠くの方に黒く蠢く霧のようなものが見えた。

 ジャックバグはメカトピアのロボットに憑りついて操る。

 なら人が集まっているシルビアの演説会場を目指してきてもおかしくはない。

 シルビアが襲撃されたことで騒然となったが、いまだ演説を聞くために集まったロボットが大勢いる。

 そこをジャックバグを操っているものは狙ったのだろう。

 

『どうする? ジャックバグはおそらくメカトピアのロボットだけを操るように作られている。

 僕らのロボットには効かないだろうが、かなりの数がそっちに向かったはずだ』

 

「ああ、まるでとんでもない羽虫の群れのように空の色を塗り替えている。

 確実に千は超しているが、今の僕は放っておくわけにもいかない」

 

『モビルソルジャーの応援も、街中じゃ出すわけにはいかない』

 

「何とかするさ。 ゴッドガンダムの装甲強度ならジャックバグでは傷つかないようだし」

 

『まあドラ丸もいるし大丈夫だと思うが気を付けろ』

 

「わかっている」

 

 通信を切り、ハジメはジャックバグの群れを止めるために両手のゴッドフィンガーに熱を通して光らせる。

 

「シルビアさんの為にメカトピアの平和は取り戻すさ。

 だけど目の前でシルビアさんを傷つけた苛立ちも拭い切れない。

 存分に暴れさせてもらうぞ!」

 

 接近してくるジャックバグの大群に向かって飛び出し、ゴッドフィンガーの爆炎を放射状に撃ち放った。

 

 

 

 

 

 




 今回の話はなぜかスムーズに書けました。
 調子のいい時と悪い時があるんですけど、それがわかったら気持ちよくかけるんですけどね。
 調子の悪い時はすごく難産で書くのが辛くなっちゃうんですよ。

 今回はかなりシリアスだったんですけど、そんな話の中でゴッドガンダムがゴッドフィンガーを放ってるのがなんかシュールに感じてしまいました。


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真・鉄人兵団15

感想、及び誤字報告ありがとうございます


 

 

 

 

 

 時は少し遡って、最高評議会、議会場。

 そこでアシミーは地球軍との交渉を決議する予定であったが、肝心の会議がまだ始まっていなかった。

 議会のまとめ役である議長のオーロウが一向に姿を見せなかったのだ。

 

「オーロウ議長は如何したのだ?

 もう一時間も会議の予定時刻を過ぎている」

 

「他にも何人か姿の見えない議員もいますが…」

 

「金族の方は全員姿が見えませんな」

 

 席についている議員たちは口々に会議が始まらない事に文句を言っているが、その中でアシミーはオーロウが現れないことに嫌な予感がしていた。

 既に何か事を起こそうと動き出しているのではないかと思い、待っていても仕方ないとオーロウを探しに行くかと席を立とうとした時に、会議場の扉から金の装飾が特徴である金族の議員の一人が入ってきた。

 

「お待たせしました、皆さん」

 

「ゼヘバ議員、何をしていたのですか」

 

「遅れるのであれば連絡を入れていただかねば」

 

「オーロウ議長もまだ来ておりません。

 何か知りませんかな」

 

 同じ金族であるゼヘバなら、議長のオーロウが何処にいるのか知っているかと議員の一人が尋ねる。

 

「オーロウ議長は大事な用事で聖地に行っております。

 私は彼の代わりにお届け物を持ってきたんですよ」

 

「なんと、オーロウ議長もまた勝手な」

 

「これから地球との交渉を決める大事な決議だというのに」

 

「そんなときに届け物とは一体何です」

 

 皆がオーロウの議長としての対応の杜撰さに文句を言っている。

 しかしゼヘバをそれを気にすることなく、両手に持った届け物だという箱の蓋に手を掛ける。

 

「最高の贈り物ですよ」

 

 ゼヘバが蓋を開けて中身を見せると、そこには紺色の特徴的な円盤が敷き詰められていた。

 

「なんですかな、それは?」

 

「どこかで見覚えが………ああ、確か議長が軍に送ったという特殊武器でしたか」

 

「確かに資料で見たものと同じものですな。

 ですが今更その特殊武器を持ってこられても…」

 

 議会は地球軍との戦争を交渉で解決しようという方向に向いている。

 そこへ先の戦闘で地球軍の主力機を暴走させた特殊武器を持ち出すのは、相手を刺激しかねないと議員達は危惧する。

 しかしその心配は無意味だった。

 

「いえいえ、これは皆さんへですよ」

 

「それはどういう…」

 

「全員ゼヘバから離れろ!」

 

 箱の中身の正体に気づいたアシミーは大声で警告を出すが、その声に驚いて議員達の殆どが警告に対応出来ていない。

 そしてゼヘバの近くにいた議員達に箱の中に入っていた物体―ヤドリの円盤―が動き出して急接近し、一筋の青色の閃光が一人一本づつ放たれた。

 四人の議員が青い光に撃たれて動きを固める。

 

「な、何をしたのですゼヘバ殿!?」

 

「だから言っているではないですか。

 最高の贈り物だと」

 

「直ぐにそいつから離れるんだ!!」

 

「アシミー議員、一体何が!?」

 

「早く!!」

 

 アシミーの剣幕にようやく議員達が動き出し、ゼヘバと光を受けて固まっている議員達から距離を取る。

 同時に箱の中から全ての円盤が動き出して周囲に浮遊する。

 

「ゼヘバ! これはどういうつもりだ!」

 

「どう、とは? これはあなた方への贈り物なのですよ」

 

「その円盤がどういうものなのか既に知っている!

 端的に言ってジャックバグと同様の物だ」

 

――ザワッ!――

 

 ジャックバグと同じ物だというアシミーの言葉に、議員達の緊張が高まる。

 それだけジャックバグはメカトピアのロボット達にとって恐ろしいものという共通意識があるからだ。

 

「それは本当ですかなアシミー殿!?」

 

「まず間違いない。 地球軍のロボットの不可解な行動はあれに操られていたからだ」

 

「ですが、オーロウ議長はジャックバグは別物だと…」

 

「その通り。 あんなおもちゃと我々を一緒にしないで頂きたい」

 

 議員の疑問に答えたのはゼヘバだった。

 ヤドリに乗っ取られた四人の議員も動き出し、ゼヘバの周りに集まる。

 ゼヘバの言葉にアシミーは一つ引っ掛かった。

 

「我々だと?」

 

「ええ、私がここに来たのはあなた方を使ってあげる為ですよ。

 ロボットに憑くのは好みませんが、議員であるあなた方を使えば事が容易に進みます。

 我々の為に役に立てるのですから、最高の贈り物でしょう」

 

「…貴様、ゼヘバではないな」

 

 その言動から、アシミーは今話している相手がゼヘバ本人でなく、ヤドリであることを看破する。

 金族と協力関係にあるのかと思ったが、体を奪われているのなら利用されていると見るべきかとアシミーは考える。

 

「ええ、ここに入ってくるのにこの体を使うのがちょうどよかったので」

 

「厄介な…」

 

 ヤドリはジャックバグと違い操られていることが外見からでは判別出来ない。

 ゼヘバが操られているなど言動でしかアシミーは見破ることが出来なかった。

 気づいたら味方が敵に操られているかもしれないなど、非常にやり辛い相手だとアシミーは思う。

 

「お話はこれくらいでいいでしょう。

 メカトピアを掌握するのにあなた達の体、有効活用してあげます。

 いきなさい!」

 

「ひ、ひぃ!」

 

 ゼヘバに憑いたヤドリの号令で、周囲の円盤がアシミーの体を乗っ取ろうと一斉に飛んでくる。

 議員たちは身を守ろうと体をこわばらせて丸まるが、アシミーはハジメに渡された真空ソープを取り出し連射してヤドリの円盤に当てた。

 ただの水鉄砲にしか見えないその攻撃が当たると、ヤドリの円盤は動きを止めて墜落した。

 

「なっ!?」

 

「俺は剣の方が得意なんだが!」

 

 そういいながらもアシミーは的確にヤドリの円盤に真空ソープを当てていき、飛びかかってきた全ての円盤が床に転がった。

 

「武器を隠し持っていたか!?」

 

「オーロウ議長の様子が前々から可笑しかったからな。

 念のため携帯していたが、大当たりだったようだ」

 

 すべての円盤を落としたアシミーは、操られているゼヘバと四人の議員にソープ銃を向ける。

 

「オーロウを疑っていたのは正解だが、気づくのが遅かったな。

 奴は既に動き出し、メカトピアの全てを支配しようとしている。

 それにこの体はお前たちの仲間の物だぞ。

 その武器で撃てるのか」

 

 ゼヘバに憑いたヤドリは挑発するように言うが、言っているほど余裕があるわけではない。

 ゼヘバの体を切り捨てる事の躊躇はないが、自身が憑りついたまま動けなくなるのはまずい。

 ヤドリは小さいが為に単体では行動できず、乗り物を破壊されればそこから動くことが出来なくなる。

 万一に攻撃で本体が巻き込まれることもあるので、攻撃を受けるのは避けたかった。

 

 そのアシミーの返答はソープ銃の更なる連射だった。

 四連射がつい先ほど操られた議員に当たり、それだけで議員達は再び体を硬直させて直後その場に崩れ落ちた

 

「なっ!?」

 

「ジャックバグに憑りつかれた者は電子頭脳が破損して助けようがなくなる。

 貴様らがジャックバグと同じなら、操られてしまったものはすでに手遅れだろう。

 ならば操られた者を攻撃する事に何の遠慮もいらない」

 

「アシミー議員、それは…」

 

 躊躇なく同じ議員の体を攻撃したアシミーに、守られていた他の議員が言葉を濁す。

 

「それにこの武器はお前ら用のものだ。 攻撃力は無いに等しい。

 ボディに損傷を負わせずお前らヤドリだけを倒せる武器だ」

 

「私たち用の武器だと。 貴様何を知っている!?」

 

「お前に語る事はもはや何もない。

 ではな」

 

 会話を切ってアシミーが真空ソープを放つと、命中したゼヘバは力尽きるように床に崩れて倒れた。

 アシミーは警戒しながら体を奪われた者達に近づく。

 

「アシミー議員、近づいては危険では?」

 

「確かにそうだか、警戒していても仕方あるまい。

 おそらく操られた者達は解放されただろうが、どういう状態にあるのかわからん。

 皆も彼らの容態を確認しながら周囲に警戒してくれ」

 

「アシミー殿、その武器は一体?」

 

「詳しい説明をしている時間はない。

 すまんが細かい事は後にしてくれ」

 

「…わかりました」

 

 ソープ銃の事はぼかし、何が起こってるのか確認するようにアシミーは指示を出す。

 体を奪われた議員達の容態を確認すると、四人の議員がすぐに意識を取り戻した。

 

「大丈夫か?」

 

「ぐぅ、何が起こったのだ。

 電子頭脳に多数のエラーが起こっている」

 

「私もだ。 リミットサーキットが動きそうだ」

 

「無理をするな。 お前たちは操られていたみたいなのだぞ」

 

「なんだと?」

 

 電子頭脳に大きな負荷がかかったようだが、何とか無事の様でアシミーは安堵する。

 そして最初から操られていたゼヘバの容態を見るが、目のレンズからは光が失われ動き出す様子がない。

 

「どう思う?」

 

「無事だった彼らを見る限り、操られていると電子頭脳に多大な負荷がかかるようですな。

 ゼヘバ殿はおそらくアシミー殿に開放されるまでに電子頭脳の負荷でリミットサーキットが起動してしまったのでしょう」

 

「操られても直ぐに開放すれば助かる可能性があるという事か」

 

「アシミー殿、ゼヘバ殿を操っていたというヤドリとは一体?」

 

「ああ、説明せねばならんな」

 

 ハジメとの接触を説明するにはまだ早いが、襲ってきた以上ヤドリの事については答えねばと思い、言葉を選んでいると、再び会議室に駆け込んできたものがいた。

 

「議員方、大変です!」

 

「なんだ! 何があった!?」

 

 たった今襲撃があったので議員達は敏感になっており、飛び込んできたものに警戒を示す。

 アシミーは狼狽えることなく何があったのか問うが、倒れている議員達を見て飛び込んできた衛士も困惑する。

 

「これは一体…」

 

「たった今襲撃があったのだ」

 

「襲撃!?」

 

 衛士である自分たちの気づかないうちに議会で襲撃があったことに驚く。

 

「それはいい、とりあえず片付いた。

 それで何があった?」

 

「は、はっ! 報告いたします。

 地球軍と相対し聖地防衛を担っていたメカトピア軍が、聖地から現れたジャックバグに襲われたとのことです!」

 

「なんだと!?」

 

「ジャックバグが聖地から現れた!?」

 

「そんな馬鹿な!」

 

 先ほどの襲撃以上に議会は混沌とした状況になる。

 アシミーは慌てることなく、軍がどのような状態にあるか確認する。

 

「軍はどう対処している」

 

「軍の一部を迎撃に回していますが、地球軍と相対しているが為に全力で対処する事も後退する事も出来ないとのこと。

 更に行方知れずになっていた地球軍の指揮官機が暴れまわる事で軍がかく乱され被害が広がっているとのこと」

 

「なんといやらしい作戦だ!」

 

 聖地を守っていた筈のメカトピア軍が、聖地の方から襲撃を受ける。

 対応しようにも前方に地球軍がいる事で警戒しなければならず全力で対応できない。

 更にメカトピア軍の任務は聖地の防衛。 例え聖地からの攻撃であっても地球軍を意識して撤退を出来なかった。

 地球軍とジャックバグに繋がりがなかったとしても、メカトピア軍にそれはわからず、事実上挟み撃ちにされているのだった。

 

 ジャックバグの突然の襲撃で一部の兵士はおそらく操られて同士討ちを始めているに違いない。

 更に操られた地球軍の指揮官機が暴れまわる事で、軍は混乱し地球軍の攻撃と思われているかもしれない。

 ただ言える事は現在メカトピア軍は非常に厳しい状態にあるという事だ。

 

「くっ………仕方ない! 軍にジャックバグの迎撃に専念するように指示を出せ」

 

「ですが地球軍への対応は?」

 

「地球軍は下手に動かんはずだ。 俺が責任を待つ!

 軍に指令を出せ!」

 

「了解しました!

 それと…もう一つご報告があります」

 

 衛士はとても言い辛そうな声で言う

 

「なんだ?」

 

「シルビア様が演説中に襲われたと連絡がありました」

 

「なに!?」

 

 シルビアが襲われたという報告に、アシミーだけでなく議員達も騒然となる。

 軍の襲撃されたという報告以上に、議員達に衝撃を与えた。

 

「シルビア様は無事なのか!?」

 

「わかりません、憲兵たちが鎮圧に向かっているという報告までです。

 ただ襲撃したのはジャックバグに操られたメカトピア兵だったとのことです」

 

「ここでもジャックバグ…すべて無関係ではないのだろうな」

 

 アシミーは思案し、自分がどう動くべきか考える。

 敵がいるのは聖地だが、戦力であるメカトピア軍が地球軍と相対していて自由に動けない。

 停戦交渉を行う直前に一斉に襲撃を受けたのは偶然ではないだろう。

 地球軍と相対していてメカトピア軍がジャックバグの対処に全力を出せないとなれば、やるべきことは一つだった。

 

「…シルビア様の元へ向かう!

 衛士たちはメカポリスで戦闘が起こる事を想定して避難誘導の準備をしろ」

 

 シルビアの元にはハジメがいる。

 たとえ裏からでも今は地球軍に接触を図り、たとえ一時的でも停戦しメカトピア軍が自由に動けるようにする必要があった。

 

「シルビア様の元へですか?

 心配なのはわかりますが今は軍の方を…」

 

「だからこそシルビア様の元へ俺がいかねばならん。

 理由は後だ!」

 

 ハジメと接触したことを今は話すわけにはいかず、この場は言葉を濁す。

 そこへ更に報告の衛士が一人やってくる

 

「報告です! シルビア様の演説会場にジャックバグの集団が現れたとの事」

 

「何………

 敵の狙いは市民にジャックバグを取りつかせるといったところか。

 シルビア様の事もある。 やはり行かねばならん」

 

「危険です! 衛士を派遣いたしますのでアシミー様はお待ちを!」

 

「悠長に待っとる場合ではないのだ!

 議員となったがまだまだ動ける!

 大将軍が伊達でないことを見せてやるわ」

 

「ああ、アシミー様!」

 

 話し合っててもらちがあかないと、アシミーは制止を振り切って走り出した。

 シルビアの心配もあるが、地球側のハジメに接触せねばメカトピア軍は壊滅し、果てはメカトピアの滅亡に繋がるとアシミーは直感していた。

 

 

 

 

 

 



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真・鉄人兵団16

感想、及び誤字報告ありがとうございます


 

 

 

 

 

「くそ、キリがない。

 一体どれだけいるんだ!」

 

「殿、無理をしないでくだされ。

 有象無象でも集まれば危険でござる」

 

 ハジメとドラ丸はまるで大量発生したイナゴの様に群れるジャックバグを相手に、孤軍奮闘を強いられていた。

 ジャックバグ一体一体は弱く唯一の武器のレーザーニードルもハジメ達の装甲を貫くことはないが、武器の相性から長期戦を強いられていた。

 

「こんなことならゴッドガンダムじゃなくてフリーダムにでもしておけばよかった」

 

「今更言ってもしょうがないでござるよ」

 

 ゴッドフィンガーの爆炎を放射する事でジャックバグを纏めて吹き飛ばし、ドラ丸は猫又丸の刃の長さを伸縮自在に伸ばしてまとめて切り裂いているが、焼け石に水だった。

 ドラ丸は戦闘能力を武器の猫又丸に集中させているが為に近接主体で、ハジメの乗るゴッドガンダムも近接戦闘中心で牽制のバルカンくらいしか射撃武器はない。

 一度に大量の敵を倒す火力が不足していた。

 

「ドラ丸、何かまとめて吹き飛ばせるような火器を持ってきてなかったか?」

 

「拙者の袴に入っている遠距離武器はせいぜい空気砲くらいでござるよ。

 後は強力なものとなると………【地球破壊爆弾】でござるか?」

 

「それって改修済みの奴か?」

 

「でござる」

 

「市街地で使えるか!」

 

「でござるよな」

 

 地球破壊爆弾はなんで子守ロボットのドラえもんの四次元ポケットに入ってるんだ、というツッコミの入る秘密道具だ。

 ドラえもんがテンパった時に使われそうになったりするが、実際に名前通りの破壊力があるわけではない。

 実際爆発したこともあるが大したことはなく、故障していたとか見せかけだけのコケ脅しともいわれていた。

 ハジメの四次元ポケットにも入っていたがそのままでは実際に役に立たないので、実際に威力のある爆弾に改修したのだが、メカポリス都市内で使えば大きな被害が出るほどのものになっているのでやはり使えなかった。

 

 対多数の攻撃がないために埒が明かない戦いが続いていたが、ハジメ達の敵は既にそれだけではなくなっていた。

 

―ドンッ!―

 

「うわっ! こいつは!」

 

「殿!?」

 

 ジャックバグを纏めて吹き飛ばす事に意識を向けていたために、背後からのタックルに対応出来ずハジメは吹き飛ばされた。

 タックルを仕掛けてきたのは兵士ロボットではないジャックバグに操られた一般のロボットで、ゴッドガンダムの胴体にしがみついてハジメの動きを封じていた。

 

「この、どけ!」

 

―ガンッ! ガンッ!―

 

 蹴りを放ってしがみついたロボットを引き離そうとするが、操られたロボットは自身が壊れる事も構わずしがみつくことをやめない。

 動きを止めたゴッドガンダムにジャックバグが好機と判断して集り始める。

 ジャックバグにはゴッドガンダムの装甲を貫けず、メカトピアのロボットではないので操られることはないが、集られるハジメにはたまったものではない。

 

「このっ!」

 

―ドォンッ! ドォン!―

 

 爆炎でジャックバグを吹き飛ばして対応するが、身動きが取れない為に逃げることが出来ず迎撃が追い付かなくなる。

 

「殿、今そちらに行くでござる」

 

「急いでくれ!」

 

 ハジメを助けに行こうとするが、ドラ丸の前にも操られたロボットが飛びかかってくる。

 

「邪魔でござる!」

 

 一断ちで操られたロボットをジャックバグごと両断するが、それに続くように操られたロボット達が集まってくる。

 ジャックバグの被害が広がり、巻き込まれて操られたロボット達が多数出てきたのだ。

 操られたロボットは仲間を増やすように操られていないロボットの動きを封じて、ジャックバグに憑りつかせようとしてくる。

 こうやってジャックバグの被害は広がっていくのだ。

 

「退け退け退け退けー!」

 

 猫又丸を滅多矢鱈に振り回して周りの邪魔なものを全て切り裂く。

 

「殿ー!」

 

 切り裂いてスクラップになった残骸の山を乗り越えてハジメの元へ向かう。

 ハジメの周りには更に操られたロボットにしがみ付かれて動けなくなっている。

 ドラ丸はしがみ付いているロボットを斬るために猫又丸を振りかぶろうとしたときに、蛇の様にうごめく光がハジメを拘束してたロボット達の頭をジャックバグごとたたき割った。

 

「ハジメさん、今の内にそこから逃げて!」

 

「リルルか! よし!」

 

―ドドォン!―

 

 操られたロボット達に憑いていたジャックバグが破壊されたことでハジメを捕らえようという動きが止まっている。

 ハジメは体の間に両手を差し込んで、そこでゴッドフィンガーを使って爆発を起こし、まとわりついていたロボットを纏めて吹き飛ばした。

 衝撃は受けたがボディに大したダメージはなく、身動きが取れるようになったハジメはゴッドガンダムを立ち上がらせた。

 その横に空から降りてきたノーベルガンダムの外装のリルルは、ハジメの横に降り立つ。

 

 操られたロボットの頭を叩き割ったのは、ノーベルガンダムの主武装のビームリボンだった。

 流石にビーム兵器を最初からリルルに渡していたわけではなかったが、この緊急事態にドラ丸の四次元ポケット(袴)に入れておいたのを渡していた。

 

「大丈夫だった?」

 

「ああ、ダメージは大したことないが数が厄介だ」

 

「…呆れた頑丈さね。

 普通のメカトピアのロボットだったらジャックバグに穴だらけにされてるわ。

 シルビア様のお体は安全なところに運んでもらったわ」

 

「そうか…」

 

 リルルは亡くなったシルビアの体を戦いに巻き込まないために、安全な場所まで運ぶためにこの場を離れていた。

 ハジメもあれ以上シルビアを傷つけたくなかったので、なにも文句はなかった。

 

「ハジメさん達は十分戦ってくれたわ。

 この辺りの人々もだいぶ避難が済んでいるわ。

 逃げ切れなかった人たちは残念だけど、私達もこの場を離れましょ」

 

 ジャックバグに憑りつかれたが故に倒すしかなかった一般のロボットの残骸を見て、悲しみながらリルルは逃げるように言う。

 

「だが、このままにしておいていいのか?」

 

「よくはないけど、私達だけじゃ手に負えないわ」

 

「殿、リルル殿の言う通り、ここは引く時でござる」

 

 シルビアをジャックバグに殺された衝動でハジメは暴れまわるように倒しまわっていたが、それなりに落ち着きは取り戻していた。

 このまま戦っていても手が足りず倒しきれないと分かっていた。

 

「…わかった、一旦逃げよう」

 

「それならついてきて。 今衛士の人たちがジャックバグの侵攻を抑える防衛線を張ってるそうだから」

 

 リルルの先導でハジメは歯がゆい思いをしながらドラ丸と共に、シルビアの演説会場だった広場を後にする。

 無数のジャックバグの残骸と、操られてハジメ達に止めを刺されたロボット達がその場に残った。

 

 

 

 

 

 リルルの誘導にハジメ達がついていくと、衛士や憲兵ロボットがレーザーでジャックバグを迎撃している防衛線に到着した。

 車などを横倒しにしてバリケードを張り、ジャックバグに操られたロボット達の侵入を防いでいる。

 

「君達か! 早くこっち側へ!」

 

「はい! ハジメさん、ドラ丸さん、早く!」

 

 リルルが憲兵の指示に従ってバリケードを飛び越え、ハジメとドラ丸も続いて飛び越えた。

 憲兵たちもハジメとドラ丸が先ほどまで戦っているのを見ていたので、味方と判断していた。

 

「リルル、バリケード簡単に飛び越えられたけど、大丈夫なのか?」

 

「確かに簡単に飛び越えられるのでは柵の意味がないでござる」

 

「少なくともジャックバグに操られた一般のロボットには有効よ。

 空を飛ぶための反重力ジェネレーターは兵士達しか装備してないから飛ぶことが出来ないの。

 レーザーなんかの武器も普通は装備してないから、飛んでくるジャックバグにだけ気を付ければいいわ」

 

 即席のバリケードではあるが、ジャックバグに対する対策は出来ていた。

 おそらく過去の戦争での経験から生かされたのだろうと、必死にジャックバグを打ち落としている憲兵や衛士を見た。

 

「それでハジメさんはこれからどうするの」

 

「シルビアさんに頼まれたんだ。 このまま放っておくつもりもない。

 僕らは船に戻ってから、元凶を倒すために聖地に向かおうと思う」

 

「殿がいくなら当然お供するでござる」

 

 ハジメは自身で直接聖地に乗り込むつもりだ。

 本来ならそんな危険を冒さずに部下のロボットに任せるところだが、今回ばかりは自分が直接行って戦いを終わらせたかった。

 シルビアの残した思いが、熱い衝動としてハジメを突き動かしてた。

 

「私も一緒に行くわ。

 シルビア様との約束を絶対に守らなきゃいけない。

 連れていってくれるわよね」

 

「…まあここまで一緒だったんだ。

 最後まで付き合ってもらうよ」

 

「ありがとうハジメさん」

 

 善は急げと、ハジメはどこか隠れる場所を探して、そこからどこでもドアで自分たちの船に戻ろうとした時だった。

 

「よろしいでしょうか? ハジメ殿、ドラ丸殿、リルル殿であられますか?」

 

 衛士のロボットがハジメ達の名を確認して呼び止めてきた

 

「え、はい、そうですが」

 

「それはよかった。 アシミー様がお探しになられています。

 ご同行いただきたい!」

 

 頼んでいる喋り方だが有無言わさずといった様子の衛士に、ハジメは少し困惑する。

 

「…リルル、どうする」

 

「アシミー様には一言伝えておいた方がいいと思うわ。

 それに私達を探しているという事は、何か用事があるはずよ」

 

「なら、会っておいた方がいいな。

 アシミーさんに会いますので案内してもらえますか?」

 

「了解しました、こちらです!」

 

 

 

「三人とも無事だったか。 シルビア様の事を聞いてこちらに向かう途中、ジャックバグの群れに襲われていると聞いていたがよかった」

 

 バリケードの後方に作られた仮の指揮所にアシミーは衛士を連れて来ていた。

 

「私たちは大丈夫です。 ですがシルビア様が亡くなられて」

 

「話は聞いている。 シルビア様を狙ったのは敵があの人望を警戒しての事だろう。

 必ず仇を取らねばならんが、君たちのせいでは無い」

 

 アシミーもシルビアの死に憤りを感じていたが、そうしてばかりはいられないと奮起している。

 

「君から預かった武器だが役に立った。

 議会でハジメ殿の言っていたヤドリに襲われた」

 

「大丈夫だったんですか?」

 

「ああ、議員はほぼ無事だが、この騒動も始まって混乱してしまっている。

 俺も直接現場に行って動いた方が早いと飛び出してきた」

 

「無茶苦茶しますね」

 

「やはり俺は椅子に座っているよりこっちの方が向いているようだ」

 

 嘗ての戦争で武功を上げ大将軍と呼ばれたが故に、前線に立つ方が性に合っているとアシミーは言う

 

「アシミーさん、僕らは仲間に合流して敵を討とうと思っています」

 

「そうか、だが待ってくれ。 現在聖地を防衛していたメカトピア軍がジャックバグの襲撃を受けている。

 軍は地球軍とも相対しているために全力で対処が出来ないでいる。

 無理を言うようだが、一時的にでも停戦の了解を地球軍に取ってもらえないか」

 

「そうなんですか?

 ちょっとすいません…」

 

 軍の方の襲撃は初耳で、そこへ地球軍を指揮する隊長から情報の補正が入る。

 先ほどまで戦闘に集中していたので、こちらのハジメへの報告を控えていたのだ。

 

「アシミー様、彼らは一体?」

 

「…混乱を避けるために今はあまり広めてくれるな。

 彼らは停戦交渉を進めるために、私に接触してきた地球側の使者だ」

 

「なんと!」

 

 衛士たちはアシミーの説明に驚きハジメ達に警戒を示す。

 

「やめよ、今は緊急事態だ。

 一時的にでも停戦の約束を得られねば軍が動けずメカトピアが滅びる」

 

「ですがこの騒動が地球の仕業だとしたら!」

 

「それならジャックバグの襲撃と同時に地球軍も侵攻してきているはずだ。

 俺もすべての状況を理解しているわけではないが、この騒動はメカトピア内部の問題によるものだ」

 

 アシミーが衛士たちを説得している内に、ハジメもメカトピア軍の状況を隊長から聞き終えた。

 

「向こうの状況も今確認が取れました。

 一時停戦に問題はないです。

 ただ奪われたうちの指揮官機がヤドリに操られて暴れているので、それを止めるために参戦の同意が欲しいそうです。

 その諸々(もろもろ)をメカトピア軍に宣言するために、アシミーさんの名前を使わせてほしいんですがいいですか?」

 

「かまわん、じゃんじゃん使ってくれ。

 軍の方には私の方からもすぐに連絡を入れる」

 

「アシミー様、大丈夫なのですか!?」

 

 衛士がこれまで戦っていた地球軍を信じてもいいのかと心配する。

 

「全責任は俺が持つ! メカトピア軍は地球軍との交戦を停止しジャックバグの処理に当たらせる!

 時間が惜しい! 私が軍の司令に直接命令を出す!

 通信機をここへ!」

 

「ハッ! 了解しました!」

 

 物言わさずに力尽くで事を進めるアシミーに、衛士たちはきびきびと命令に従い通信機の用意を始める。

 

「じゃあ僕らは一度船に戻ります」

 

「待ってくれ、出来れば君達との連絡手段を持っておきたい」

 

「そうですね。 ドラ丸、通信機の予備をアシミーさんに渡して」

 

「わかったでござる」

 

 手持ちでモニター付きの携帯電話のような通信機をドラ丸はアシミーに渡す。

 

「それで僕らと連絡が取れます」

 

「ありがたい」

 

「では僕らは行きます。

 ドラ丸、どこでもドアを」

 

「承知」

 

 どこでもドアを使ってハジメ達は前線で待機している船の中へ戻った。

 地図がインプットされてないところでは使えないどこでもドアも、自分達の船に戻る分には問題なかった。

 

 

 

 

 

 



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真・鉄人兵団17

 感想、及び誤字報告ありがとうございます
 番号振ってきましたがもう17ですか。
 簡潔には20を超えてしまいそうですね。
 25までには終わりそうですが、最後までご拝読お願いいたします



 

 

 

 

 

『アシミー議員の申し出により一時停戦を了解した。

 しかし現在そちらの軍を攻撃している者の中に奪われた我々の主力機がいる。

 そちらの軍の戦力では強奪された機体の戦闘力に対処出来ない。

 こちらの一部の部隊の参戦を同意願いたい』

 

 ジャックバグに襲われ、更にヤドリに操られているゼータに攻撃を受けていたメカトピア軍に、地球軍のハジメ達からの通信が入った。

 司令達は困惑したが、直後にアシミーからの指令が入り、突然ではあるが地球軍との停戦がなったことを認める。

 どのような過程で停戦の合意がなったか知らないが、地球軍に対応するために動かせなかった部隊を転戦させてジャックバグの対処に当たらせた。

 

「どのように停戦がなったかわかりませんが、これでジャックバグに全軍で対処出来ますな」

 

「しかしそれでも状況がわずかに好転しただけだ。

 これで地球軍が一時停戦を破棄すれば我々は終わりだ」

 

「司令は地球軍が約束を破ると御思いですか」

 

「…いや、地球軍にその気があったら我々は疾うの昔に全滅している。

 待機戦力を投入する前でも、こちらが攻撃を受けたら我々は対処しきれなかっただろう。

 地球軍はなぜか知らないが我々に手加減し、その上配慮までしてくれている」

 

「では返答はどうなさいます」

 

 ゼータはヤドリに操られることで火力を全開にメカトピア軍に対して大暴れしている。

 それはハジメ達の指示である程度加減をしていた戦闘での比ではなく、恐ろしい機動力と破壊力で軍の損害を増やしていた。

 

「現状で地球軍が介入すれば混戦になる可能性が高い。

 だが我々の戦力ではあのロボットを抑えることは難しい」

 

「このままでは被害が増える一方です。

 混戦になる事を覚悟してでも、地球軍に対処してもらうのも一考かと」

 

 最初の戦場から地球軍に手加減されているのがよくわかり、メカトピア軍のメンツは疾うの昔にボロボロだ。

 ならば今更地球軍の厚意に甘えた所で失うモノなどないのかもしれない。

 

「…情けない限りだ。 栄光あるメカトピア軍がこのような様とは。

 だが無様でも国を守るため最後まで戦わねばならんか。

 全軍に通達。 操られた地球軍の指揮官機に地球軍が対処する。

 混戦を避けるために可能な限り操られた指揮官機から退避し、参戦してくる地球軍への攻撃を禁じる。

 我々はジャックバグの対処にのみ専念する」

 

 

 

「メカトピア軍から返信が来ました。

 要求を受け入れ、ゼータの対処を任せるとの事」

 

 オペレーターがメカトピア軍のメッセージを報告する。

 

「よし分かった。 ウイング聞こえるか?

 ムラサメに指示を出しゼータの対処に向かわせろ」

 

『了解しました』

 

 ゼータが抜けた高機動部隊の指揮官の穴を、ウイングガンダムのモビルソルジャーが埋めていた。

 ウイングを選んだ理由は同じ可変型MSであり、戦闘形式も似ているからだ。

 ヤドリに寄生される可能性があるので、ウイング自身は戦艦の中から命令を出す。

 

『ですがマイスター。 ムラサメではゼータを抑えるのは無理ではありませんか?

 指揮官クラスのモビルソルジャーを相手取るには、同格の我々でなければ難しいのでは?』

 

「確かにそうだが、ヤドリがどこに潜んでいるかわからない現状では、指揮官機を前線にはだせん。

 ゼータの二の舞になれば状況は悪化する。

 まずは量産機をヤドリにぶつけて様子を見る」

 

『了解しました、ムラサメ部隊発進させます』

 

 ウイングが命令を受け取ると、展開している高機動部隊のムラサメ二十機ほどがゼータが交戦している場所に向かって戦闘機形態で飛び出した。

 

『メカトピア軍と混戦にならぬよう、まずは二十機ほど出しましたがよろしいでしょうか』

 

「まあ、まずはそんなところだろうな。

 真空ソープは持たせているんだろうな」

 

『はい、ですがゼータに当てることが出来る保証はありません』

 

「だろうな」

 

 ウイングの言葉に隊長のハジメも同意する。

 

「それはどうしてだ? 確かにムラサメではゼータとは戦闘力に開きがありすぎるが、当てられればヤドリから解放できる可能性は十分あるんじゃないか?」

 

 メカポリスからどこでもドアで戻って来た工作員のハジメは、旗艦の船でリルルとドラ丸と共に戦況を見守っていた。

 ヤドリの支配はソープ銃で撃ちだす真空ソープを当てれば解除できる。

 ムラサメでも数で当たればゼータに当てられる可能性は十分あると工作員のハジメは思っていた。

 

「確かに行けるとは僕も最初は思ってたんだが、モビルソルジャーの戦闘時の動きは非常に激しい。

 武器として採用しているビームライフルやサブマシンガンなら当てられる可能性は十分にあるが、ソープ銃は言ってしまえばただの水鉄砲なんだ。

 射程が短いうえに動きの激しい戦闘中では風圧に負けて拡散してしまう。

 敵のヤドリがゼータを奪った時のように動きを止められれば当てられるだろうが、そう簡単にうまくいくか…」

 

「なるほど、それなら確かに難しいかもしれない」

 

 ソープ銃は本来武器ではない。

 そう考えれば実際の戦場で高い機動力を持つゼータ相手に当てるのは難しいと納得する。

 

「ねえ、ハジメさん」

 

「なに、リルル? 何か気づいたことがある?」

 

「そうじゃないんだけど、あそこにいる人間ってハジメさんとそっくりなんだけど、人間にも同型の外観があるの?」

 

「あー」

 

 リルルにはコピーの事は話しておらず、工作員のハジメのみがリルルと応対していたので、二人以上同時にあったことはない。

 

「説明するとややこしくなるか簡単に言うけど、あそこにいる隊長も同じ僕なんだ。

 僕らの組織は人手不足で、僕のコピーを何人も作ってその問題を解消している。

 役割が違うだけで同じ僕だから、あまり気にしないで」

 

「よくわからないけど、あの人もハジメさんなの?

 人手不足で同じ自分を作れるなんて、地球の人間はすごいわね」

 

「こんなことできる人間は殿だけでござる」

 

 人間だからでとりあえず納得するリルルに、ドラ丸の鋭いツッコミが入る。

 

「ムラサメ部隊、ゼータと交戦に入ります」

 

 オペレーターの報告に全員が一斉にモニターに目を向ける。

 

 モニターにはムラサメ部隊が交戦禁止命令が行き届いたメカトピア軍の間をすり抜けて、暴れ回っているゼータに向かって牽制のビームを放つ。

 メカトピアのロボット相手にビームサーベルを振るい続けていたゼータはビームを受けるが、大したダメージを受けず、その攻撃を放ってきたムラサメの存在に気づく。

 

「あのロボット、あのビームを受けてもダメージを受けないの!?」

 

「指揮官機のモビルソルジャーは量産機とは比べ物にならない性能を備えた特別製だ。

 量産機のビーム出力じゃあ大したダメージにならない。

 だからこそヤドリに操られたのが痛いんだ」

 

 故に量産機ではゼータに勝つ事は出来ないから、ムラサメを向かわせたのは牽制以外の何物でもない。

 ゼータは向かってくるムラサメに標的を変えてビームサーベルを構えて向かっていく。

 ムラサメ部隊は正面からでは分が悪いために一撃離脱で回避行動を取るが、ゼータのビームサーベルがムラサメを一機切り裂いた。

 

「一機やられたわ!」

 

「仕方ない。 ゼータを量産機で相手取るなら消耗戦になるのは想定内だ」

 

 ムラサメを一機斬ったゼータは離脱したムラサメを追うべく戦闘機形体に変形して飛び立つ。

 戦闘機形態の機動力もゼータが高く、離脱したムラサメ部隊の後方に追いつく。

 そして戦闘機形態のままビームを連射し、あっという間にムラサメを三機撃破した。

 

「ウイング、戦力が減ったらその分だけ追加投入しろ。

 ゼータを釘付けにして抑えるんだ」

 

『了解』

 

 ムラサメ部隊は追われれば逃げ回り、注意が反れればビームライフルを撃って牽制しゼータの注意を引き付ける。

 数が減れば待機戦力から参戦させて、ゼータを抑える戦力を減らさないようにする。

 その結果、ゼータによるメカトピア軍への被害は抑える事に成功した。

 

「それで隊長、この後どうするんだ。

 ゼータを引き付ける事には成功したが、量産機では止められない以上千日手だ。

 量産機がいくらでもあるといっても、無駄に消耗させるのは好ましくない」

 

「それはちゃんと考えている。

 そもそもゼータを解放するだけなら、手段を選ばなければいくらでもやりようはあるだろ」

 

「まあ、確かに」

 

「そうなの?」

 

 リルルはゼータの戦闘能力に脅威を憶えているようだが、いくら秘密道具で強化されたロボットと言っても秘密道具の力を備えているわけではない。

 そういう意味では最もヤドリに操られてはいけないのはハジメ達とドラ丸だが、そこは当然警戒している。

 ひみつ道具を使えば操られたゼータに真空ソープを当てて解放する事は可能だ。

 

「問題はヤドリの寄生の隠蔽性だ。

 見ての通りゼータはヤドリに操られているが、外観からじゃ操られているのかわからない。

 メカトピアのジャックバグのように頭にくっついているという事も無いからな」

 

「確かに。 ヤドリは誰かに憑りついていても見た目では気づかないのが脅威だ。

 ヤドリが僕らのロボットに寄生を繰り返して、いつの間にか近くまで来ていたなんてことになったら恐ろしい」

 

「だからヤドリが憑りついている分析データが欲しいんだ。

 今、ゼータの観測データを情報課に送って解析してもらっている。

 今必要なのは情報を分析する時間だ」

 

「そういうことか」

 

 隊長の作戦に工作員のハジメは納得がいった。

 

「どういうことなの、ハジメさん」

 

「つまりヤドリに操られているかいないか判別出来るようにしたいんだ。

 だれが敵に操られているかわからないというのは、軍なんかの集団行動を行なう人たちにとってはとても脅威だ。

 その上ヤドリは近くの相手に乗り移る事も出来る。

 操られている奴を倒したと思ったら、他の奴に憑りついているなんてこともありえる。

 敵の中に潜り込んで引っかき回すのなら、これほど恐ろしい敵はいない」

 

「………」

 

 リルルはジャックバグとは比べ物にならないヤドリの恐ろしさを理解する。

 操られているものを倒しても、近くの存在に乗り移ってしまい、更にはそれがとても分かり辛いなどジャックバグの比ではない脅威だ。

 

「僕らは聖地に乗り込むつもりだ。

 そこには大量のヤドリがいるはず。

 ヤドリに操られないようにする対策が必要不可欠だ」

 

「そうね、操られてしまったらシルビア様の仇も討てないわ」

 

 ヤドリの厄介さは承知のうえで、ハジメとリルルは聖地に乗り込んでこの戦いに決着を着けるつもりだった。

 

「…本当にいくのか?

 対策が出来てからモビルソルジャーに任せた方が無難だぞ」

 

「ああ、僕が乗り込んでも大して意味がないのかもしれないけど、気が高ぶってるんだ。

 あの人の敵討ち……いや、あの人の為にこの手で何かをしたいという思いが溢れてくるんだ。

 そういうわけだから悪い、バックアップを頼む」

 

「…まあお前も僕なんだ。

 僕がお前の立ち位置だったら、きっと同じことをするんだろうってことくらいわかってる。

 対策が揃うまでは待ってくれよ」

 

「もちろんだ。 気持ちが急かされても無謀な事をするほど焦ってない」

 

 隊長のハジメも同じ自分として、工作員のハジメがシルビアを思って行動を起こす事に寛容だ。

 そもそもコピーは人手不足の解消のほかに、オリジナルを危険に晒さない為のスケープゴートの意味合いもある。

 無駄に死なせるつもりもハジメ達にはないが、多少の危険に飛び込むことは考慮されている。

 コピーとはいえ同じ思考のハジメが望むのなら、リスクを考慮した上で全力でサポートする事もやぶさかではなかった。

 

 工作員のハジメが聖地に乗り込むことを決め、どのように攻略するか考えていると、戦場の方に動きがあった。

 

「マイスター、メカトピア軍のロボット兵団の一部がこちらに向かってきています」

 

「なに?」

 

「観測しますと多くの者がジャックバグを頭部に確認でき、操られた状態と判断できます」

 

「どういうことだ?」

 

 ジャックバグに操られたからと言って、メカトピアのロボットの性能が上がるわけではない。

 これまでのように簡単にモビルソルジャーの戦力で撃退できるだろう。

 ジャックバグに憑かれた者は電子頭脳を破壊されているので、ハジメ達側としては手心を加えず殲滅する事に躊躇する必要もない。

 

「一部ジャックバグが頭部に見えないロボットもおります。

 更に申し上げます! 集団の中にヤドリの円盤を確認しました!」

 

「なに!? …そうか、やはり乱戦狙いか!」

 

 隊長はヤドリがジャックバグに操られたメカトピア兵に紛れてこちらを攻撃し、隙を見てこちらのモビルソルジャーを乗っ取ろうとしてるのだろうと判断した。

 

「数はどれくらいだ」

 

「操られたメカトピア兵が約100ほど。 円盤は50ほどです」

 

「ジャックバグのついていないメカトピア兵はヤドリに操られていると見るべきだな。

 数もそれほどではない。

 それなら………ジムを200出して対応させろ。

 ただし出したジムは戦闘が終わっても帰還させるな。

 ヤドリに憑かれて従っているフリをするかもしれない」

 

「了解、ファーストに厳命させます」

 

 隊長の命令はすぐに伝達されて、接近していた敵にジム部隊が対応して動き出した。

 

「従っているフリ、そういう可能性もあるのね」

 

「僕らはヤドリに操られる可能性を非常に警戒している。

 内部に潜り込まれて最悪の事態を想像すると、恐ろしくてこれくらいの事は想定しておかなきゃいけない」

 

 ヤドリの能力を考察したらこれくらいの事は出来ると、ハジメ達は戦慄した。

 原作の映画はアニメとはいえ生温過ぎる被害だったと思える。

 

 そうして話している内に、ジム部隊とヤドリが紛れ込んだ部隊が衝突して交戦状態になった。

 戦力自体は圧倒的で、操られているメカトピア兵は圧倒間に半数が落ちていく。

 

「ヤドリの円盤を落とすのにソープ銃を無理に使う必要はない。

 接近され過ぎないように、ビームライフルかバルカンで対処しても問題ない」

 

「まあ、倒せば結局同じだからな」

 

 ソープ銃で撃たれてもビームライフルで撃たれても、ヤドリの小ささであれば直撃した時点で死ぬだろう。

 どんどん敵を落としていく中で、それはやはり起こった。

 

「マイスター、ジムが数機ファーストの指示に従わず味方へ攻撃を始めました。

 ヤドリに憑かれたと判断します」

 

「そうか」

 

「ねえ、だいじょうぶなの?」

 

 ヤドリに憑かれたと聞いてリルルは焦る。

 

「こちらのロボットを操って同士討ちを狙って暴れるなら想定よりもマシだ。

 さっきも言ったように憑かれたのに操られてないフリをされる方が厄介だ」

 

「確かにそうなんだけど…」

 

「メカトピア兵とヤドリの円盤には攻撃を継続。

 操られたジムには牽制による時間稼ぎを行なえ。

 ソープ銃を使って解放する必要はない」

 

「え、どうして?」

 

「ゼータと同じだよ。 ヤドリの着いているデータが欲しいんだ」

 

 ヤドリがロボットを操るのに何か目印になるようなものはないか確認するには、比較対象は多い方がいい。

 ゼータだけでなく、あえてジムの一部を奪わせることでヤドリのデータをハジメは集めようとしていた。

 

「こちらの主力機をこれ以上奪われるのはまずいが、量産機なら替えはいくらでも効く。

 多少奪われても同じ量産機なら動きを抑える事は難しくない。

 ヤドリが操れる体は一匹につき原則一体だ。

 別の体に乗り移られても数が増える訳じゃないから、捕捉していれば対処は難しくない」

 

 これでバイオハザードの様に感染して増える様なら悪夢でしかない。

 そんな想像がハジメの頭によぎり、そうなったらもう手段を選んでる場合じゃないだろうなと思う。

 

 操られたメカトピア兵とヤドリの円盤はあっという間にジム部隊に殲滅され、操られた数機のジムは乗り移られないように距離を取り牽制するジム部隊に抑え込まれ時間を稼いでいる。

 その後も何度かジャックバグ付きのメカトピア兵の部隊と、それに紛れたヤドリの円盤が攻め込んでくるが、ジム部隊のみで対処しヤドリのデータを観測を続ける。

 操られるジムが増えてくれば隙を見てソープ銃で解放し、うまくヤドリの動きをコントロールし続けた。

 

『隊長、情報課だ。

 ヤドリに操られた者の情報分析が完了した』

 

「よし! ジム部隊に操られたジムを解放するように指示を出せ。

 ゼータももう遠慮する事はない。

 全部隊の半数を出してゼータを力ずくで抑え込みにかかれ。

 動きを封じて真空ソープを当てるんだ」

 

 くしくもゼータがヤドリに憑かれた時と同じように、力づくで動きを封じる方法で解放されようとしていた。

 隊長の指示で操られていたジムはすぐに解放されて、残っていた操られたメカトピア兵やヤドリの円盤もすべて破壊された。

 下された命令により、戦艦を守るように展開していた半数のモビルソルジャーが、ムラサメによって時間稼ぎをされていたゼータに向かって一斉に向かっていく。

 火力主体の重武装ザク部隊が無数の小型ミサイルを発射してゼータの周囲を爆発の嵐に変える。

 更に遠距離武器の集中砲火で動きを鈍らせ、そこへジム部隊ムラサメ部隊が接近して遠慮なく攻撃を繰り出していく。

 ここまで無遠慮に攻撃を繰り出すのも、ゼータの耐久力を想定しているからで、これだけやっても機体ダメージが小破になるかならないかといったところだ。

 

 ゼータもビームサーベルを振り回して量産機相手に正に無双していくが、どんなにやられようと量産機は気にせず向かっていく。

 量産機に高度な知性や感情は搭載されていないので恐れて躊躇する事などない。

 だが、意思を封じられているゼータ本体はともかく、憑いているヤドリはこの一斉攻撃に恐怖していた。

 つい先ほどまで向かってくるムラサメを相手に一方的に倒し続けるだけだったが、その10倍以上のモビルソルジャーが一斉にやられることを恐れず襲い掛かってくるのだ。

 寄生生物でも生き物で感情のあるヤドリが恐れない理由がなかった。

 

 更にゼータのボディは頑丈だが、くっついているヤドリは当然攻撃に晒されればすぐに死ぬ。

 ヤドリ自身も憑く場所は当然考えているが、全身を攻撃に晒されれば死ぬ可能性がある。

 そう考えたヤドリはゼータを抑えようと飛びかかってくるモビルソルジャーを力尽くで振り払い、瞬時に戦闘機形態になって包囲を離脱した。

 ゼータの機動力で逃げられれば量産機では追いつけず、聖地の方へと逃亡していった。

 

「逃げたか。 出来ればここでゼータを取り戻したかったが…」

 

「まあ、欲張りすぎてもしょうがないだろう隊長。

 情報部、ヤドリについていろいろ分かったんだろう。

 対抗策はすぐに用意できそうか?」

 

『コピー達を総動員させて対策武器の開発を既に始めてる。

 一日で仕上げるから、それまでもうちょっと待っててくれ』

 

「わかった。 リルルもそれでいい?」

 

「もちろんよ。 私の力だけじゃ聖地に乗り込んでも操られるだけで、あなた達に頼るしかないもの。

 私も一緒に連れて行ってくれるだけで十分よ」

 

「アシミーさんにももう一度話を通しておかないとな」

 

 モニターの向こうではメカトピア軍もジャックバグの対処に一区切りつき、戦闘を終えようとしていた。

 ハジメ達のメカトピアでの戦いも終盤に差し掛かろうとしていた。

 

 

 

 

 

 



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真・鉄人兵団18

感想及び誤字報告ありがとうございます。


 

 

 

 

 

『情報分析の結果、ヤドリには固有の波長を発する特性がある事がわかった』

 

 戦闘が終わり、破壊された量産機などの回収などの後処理を命じて一息ついていると、情報課の課長から分析したヤドリについての説明が始まった。

 隊長に工作員のハジメ、ドラ丸にリルルもその話に耳を傾ける。

 

『ヤドリは知っての通り寄生生物。 人間ロボットに関係なく寄生した対象を自在に操ることが出来る。

 特徴として寄生虫の様に体内に入り込むのではなく、体表にへばりついて自己呼吸をしている事で真空ソープが有効なんだが、それは今はいい。

 重要なのは寄生した対象を自在に操る能力が、一種の超能力だという事だ』

 

「その超能力が固有の波長というわけか?」

 

 隊長が話の流れから当たりをつけて訊ねる。

 

『そうだ。 僕らが習得した超能力を使った時に出る波長と似たようなものがヤドリから発せられていた。

 それがヤドリが対象を操る超能力の波長だろう』

 

 課長が解り易い様にヤドリと寄生した対象の絵図をモニターに表示する。

 

『ヤドリの対象を操る超能力は電気信号を自在に操る能力だ。

 その効果範囲は寄生しなければ操ることが出来ない事から非常に短く、電気ウナギのような攻撃力のある電撃を放つ様子もないから物理的な力は全く無いと言っていい。

 だが寄生するだけで人間もロボットも完全に支配下に置かれることから、おそらく微弱な電気信号に限ってはかなりの干渉能力を持っているとみていい。

 人間の脳の電気信号とロボットの電子頭脳も基本的に流れているのは微弱な電気信号だ。

 それを完全に支配下に置くことで、ヤドリは宿主の体を自在に操ることが出来る』

 

「それを防ぐ手立ては見つかったのか?」

 

『ヤドリの超能力を無効化するようなものは残念ながら用意出来ていない。

 超能力対策なんてこれまで考えたことはなかったからな。

 だが寄生されない為の対策は今技術班が準備している。

 聖地にいくのならヤドリがウヨウヨいるはずだから、寄生対策が必要なはずだ』

 

 ヤドリは小さいが個体数で数えれば、膨大な数がいる事が解っている。

 原作映画では真空ソープでバンバン円盤を打ち落としていたが、本拠地である母船には800万のヤドリがいると発覚しハジメ達は戦慄していた。

 地球に降り立てばとんでもない事になると、ハジメ達はここでヤドリを倒せねばと決意していた。

 

「助かる」

 

『それからもうひとつ重要なのが、ヤドリの寄生しているか判別する方法だ。

 知っての通り目視ではとても判別出来ないが、ヤドリ達が超能力で対象を操る事からその波長を読み取ればヤドリが憑いているかどうか判別出来る。

 簡単に判別出来るような道具の用意や、モビルソルジャーに観測機能をアップデートしないといけない』

 

「時間が掛かりそうか?」

 

 モビルソルジャーはハジメ達の主要戦力だ。

 それがヤドリに対応出来ないようでは、簡単に操られて敵に戦力をくれてやるようなものだ。

 聖地に突入しようと思っているハジメは、この戦いを早く終わらせるためにあまり待ってはいたくなかった。

 

『それを含めて一日だ。

 モビルソルジャーのアップデートも既存のセンサーでいけそうだから、設定をちょっと弄ってデータを送るだけで済む。

 …焦っているようだが、お前もさっき暴れまわってきたんだろう。

 少し休んだらどうだ』

 

「…ああ」

 

 とは言ったものの、ハジメはシルビアに託された思いが胸に燻っていた。

 焦っても仕方ないが、このように何かを託される事など初めてで、突き動かされるような思いに戸惑っていた。

 何かしないと落ち着かないという様子に、隊長と課長はコピーであれ我が事の不可思議さに困惑していた。

 

「…そちらの様子は僕らも確認していたが、シルビアというロボットに入れ込み過ぎじゃないか」

 

「それは自分でもわかってる。 地球側の人間として…いや、僕や僕らにはこれがあるからあまり誰かと深く関わっちゃいけないんだと思ってた」

 

 ハジメはゴッドガンダムのボディの腹部を手で抑える。

 その意味は課長と隊長にもすぐ分かり、ドラえもんのお腹を示す四次元ポケット、すなわち秘密道具の存在を指している。

 秘密道具はハジメ達にとって最大の長所であり、敵に知られてはならない弱点でもある。

 ドラえもんのように四次元ポケットを取られるようなことはないが、秘密道具を一つ奪われるだけでも大変な事になりかねない。

 気軽に使ってはいるが、管理には細心の注意を払っている。

 

「だけど、今の僕は理屈で動けそうにない。

 リスクが大きすぎるというなら止まらざるを得ないけど、出来るのなら僕はこの戦争をこの手で終わらせたいと思っている。

 シルビアさんの思いに出来るだけ応えたいと思うんだ」

 

「…何ともまあ」

 

『僕らしくないね』

 

 自分がこんな熱いキャラではないと隊長と課長は思っているが、それでも同じコピーなのだから役割が違えば自分も同じ選択をするのだろうという思いがある。

 気持ちの高ぶった自分に水を差すのも悪いので、全体に不利にならないようなら工作員のハジメの勝手は許すつもりだった。

 工作員のハジメもこれくらいの我儘なら許されると分かっていて、自分の気持ちをぶちまけていた。

 

「まあ、総体としての大きな不利益がないのなら、コピーの自由は認められている。

 もともとモビルソルジャーのみを送りこむ予定だったが、工作員もその機体で一緒に乗り込むことを許可する」

 

『だが準備だけは完全に終わってから行ってくれよ。

 万一でもヤドリに操られるのは悪夢でしかないからな』

 

 ヤドリは先ほど言った通り電気信号を操るが、それが出来るという事は脳細胞や電子頭脳からデータの読み取りが出来るという事だ、

 コピーのハジメが操られれば、そこから自分たちの情報であれば全て読み取られる可能性があるという事だ。

 そのような事になれば本当になりふり構わず、扱い方によっては非常に危険な秘密道具を使ってヤドリを完全消滅させる事になるだろう。

 ハジメ達も出来れば使いたくないと思う、使えば絶対に勝てる卑怯なんてものじゃない強力な秘密道具だ。

 

「無用な危険を冒すからって、自分の安全を考えてないつもりはないよ。

 身の安全は最大限確保するさ」

 

「それならいいんだが」

 

 隊長も工作員のハジメが冷静さを失っているわけじゃないと少し安心する。

 

「ねえハジメさん、その用意が済んだら聖地に向かうの?」

 

「もちろんそのつもり」

 

 ハジメ達の話し合いの様子を窺っていたリルルが、工作員のハジメに尋ねる。

 話し合っていたのは同じハジメだが、やはり僅かでも付き合いの長いゴッドガンダム姿のハジメに話しかけた。

 

「…聖地には私ももちろん行くつもりよ。

 でも聖地はやっぱりメカトピアのロボットにとって神聖な場所なの。

 ろくでもない事に利用されてるのだとしても、メカトピアの政府を無視して乗り込むのは流石にまずいと思うの」

 

 メカトピアのロボットであるリルルの言葉ではあるが、一理あるとハジメ達も一考する。

 

「まあ、それじゃあ交渉失敗での強硬策と同じことになるしな」

 

『簡略的にだったが一時停戦はしたんだ。 乗り込むのであれば一言言った方がいいな』

 

「じゃあ、工作員の僕から議員のアシミーという人に連絡を入れておいたらどうだ」

 

「そうだった、さっき通信機をアシミーさんに渡しておいたんだ。

 連絡を入れてみるか」

 

 ハジメ同士が相談し合い、自然と結論が出る。

 同じ声で同じ人物が話し合う様子に、リルルは少しばかり混乱している。

 

「人間のコードシグナルは分からないから、ハジメさんが誰か分かりづらいわ」

 

「一応同じ殿なのでござるが」

 

 またリルルに人間の新たな誤解が生まれた。

 

 

 

 

 

 事前に渡していた通信機でアシミーと連絡を取ると、もうすぐ準備を終えるとの事で改めてこちらから連絡すると返事をもらった。

 一時が過ぎて、通信機に連絡が入るとアシミーは前線に出るためにメカトピア軍の旗艦に合流したと報告された。

 その計らいでハジメ達の乗る地球側の船と、先ほどの戦闘で一時的に連絡を取り合ったメカトピア軍の旗艦で通信をつなぎ、モニター越しにこの騒動に対する会議を行なう事になった。

 

『では、ハジメ殿。 この一時停戦は聖地に起こる問題が終わるまで休戦という事で受け入れて戴けるのですな』

 

「ええ、聖地にはヤドリに奪われたゼータが逃げ込んで行きました。

 僕らとしては奪われたままというのは許すことが出来ず、またヤドリの存在は人間にとって非常に脅威と判断しています。

 その排除の為には僕らはあらゆる手段を講じるつもりです。

 場合によっては聖地ごと消滅させることも視野に入れています」

 

 聖地を壊さずにヤドリをどうにかする方法は秘密道具を使えば容易だが、ハジメはあえて聖地を傷つけるという言い方をアシミーにする。

 

『…それは流石に容認出来ん。 聖地は現在騒動の発生場所となっていますが、あそこは我々にとってとても大事な場所なのです。

 破壊を前提に行動を起こされるのであれば、我々は聖地を守るために貴方方を止めねばならない』

 

 アシミーは絶対に譲れないという固い意志で、ハジメ及び地球軍の行動に反論する。

 その後ろにいる司令官たちは、アシミーの発言に体を固くする。

 その意見に異論はないが、地球軍とまともに戦う戦力をメカトピア軍は既に残していない。

 

 メカトピア軍はなんとかジャックバグの軍勢を撃退した後、メカポリス市内に散っていったジャックバグの討伐に戦力を分散した。

 残っているのは聖地の中にある元凶を倒すために編成された戦力であり、地球軍とまともに戦える戦力ではない為に司令達は身を固くせざるを得なかった。

 交渉が決裂してそのまま戦闘になれば、あっという間に軍は崩壊すると分かっているからだ。

 

「であれば、我々の兵が聖地に入る事を許可していただこう。

 内部では確実に戦闘になるだろうが、大規模破壊を極力控えることを約束する。

 これがこちらが出せる最大の譲歩だが、返答は?」

 

『………』

 

 アシミーは考え込む様子を見せるが、返答そのものは既に決まっていて、これは一種のポーズだ。

 アシミーは僅かな付き合いでハジメに一定の信用を持っており、先ほどの無茶な要求も聖地に兵を送る要求を通すための方便だと察していた。

 そして地球軍の兵士を聖地に呼び込むことも本来なら許されざることだが、聖地を消し飛ばされる位ならという心理で、僅かであれ要求を通しやすくしようという意図を感じ取っていた。

 聖地に乗り込むと別れる時にハジメが言っていたことにアシミーは止められないと確信していたが、自身が許可を出す事になるとは思っておらず、仕方なくポーズだけでも考えていると周囲に解るようにしていた。

 止める力がないのだとしても、安易に受け入れなかったという体面が必要だった。

 

『聖地は我々の始祖が生まれ眠りについた神聖な場所。

 その安寧は必ず取り戻さねばならぬが、今の我々には戦力が圧倒的に不足している。

 メカトピアのロボットとして他星の物が聖地の入る事は受け入れがたいが、共同戦線という条件で聖地での戦いに参戦する事を私の責任で許可しよう』

 

「了解した。 共闘はするが指揮下に入らず、命令も受け付けん。

 あくまで聖地の被害が少なくなることに配慮するだけだ」

 

『…それで構わない』

 

『アシミー議員! それでよろしいのか!?』

 

 破格の対応にアシミーの後ろで控えていた司令が慌てて再確認する。

 

『仕方あるまい、我々に選択肢などあまり残っておらん。

 我々だけではジャックバグの対処にも不足するほど、メカトピア軍は疲弊している。

 ならば地球軍を味方につけてでも、聖地の異常を正してメカトピアの平和を取り戻さねばならん』

 

『ですがつい先日まで戦っていた相手なのですよ!

 いきなり共闘など出来るはずがありません!』

 

『連携など取る必要もない。

 重要なのは共闘する事で、地球軍を好き勝手させなかったという事実の証明だ。

 地球軍の目的は奪われた友軍とヤドリという寄生生物。 我々の目的はジャックバグの製造元の破壊だ。

 どちらも無視出来るものではないが、まず我々はジャックバグの対処に全力を注ごう』

 

『…わかりました、ですが兵がついてこれますか?

 これまでの戦争で地球軍と戦っていたのですよ。

 確実に混乱が起こります』

 

『だろうな。 だからこそ俺が前線に立って指揮をとる』

 

『な、え…えぇ~!?!?』

 

 司令官は副官と共に混乱している。

 ハジメ達もアシミーの言葉を聞き、僅かばかり目を見開いて驚く。

 

『聖地にはおそらくこの騒動に関わっている金族が潜んでいるはずだ。

 俺は直接会ってこの騒動の真意を聞きださねばならん』

 

『無茶を言わないでください。

 今のあなたは議員ではありませんか。

 戦場に赴くのは軍の仕事です』

 

『すっかり錆びついているがこれでも大将軍と呼ばれた身。 動けんことはない。

 確かに今は議員だが、無理を通すためにいろいろ無茶をしている。

 戦いが終われば責任を取って辞める事になるだろうが、それまでやりたい事は好き勝手やらせてもらう。

 全ての責任は俺が持ったと言っておけば問題ない』

 

『あなたという方は…。

 わかりました、軍も全力を持ってアシミー様に従います』

 

『司令、よろしいので?』

 

『諦めろ、この人は昔からこういう方だ』

 

 副司令の忠言に諦めろという司令は、昔の戦争でアシミーとの付き合いがあった。

 アシミーがこういう時に後先考えずに無理を通して結果を出すタイプだという事を知っていた。

 

『そういうわけだ、ハジメ殿。

 微力ではあるが俺も聖地に同行する事になる。

 本来なら聖地は我々だけで取り戻さねばならないが、時間も戦力も圧倒的に足りていない。

 改めて協力をよろしく頼む』

 

 そういって軽く頭を下げるアシミーと、それを見て慌てて後ろで同じように頭を下げる司令と副司令。

 芯の通った対応に、ハジメ達も誠意には誠意を見せねばと応える。

 

「アシミーさん達の言うように我々と即興で連携など取れないでしょう。

 各軍の指揮はそれぞれの指揮官がとって、連携は最低限必要な情報交換程度に留めます。

 お互いに準備が整いましたら聖地に突入しましょう」

 

『了解した』

 

 

 

 

 



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真・鉄人兵団19

感想及び、誤字報告ありがとうございます。



 

 

 

 

 

『メカトピア軍、前進せよ!』

 

『こちらもだ。 メカトピア軍に続け』

 

 メカトピア軍の司令の号令が下ると、船に乗る隊長のハジメも命令を下した。

 双方の準備を終えた両軍は、聖地に潜むジャックバグとヤドリを倒すために侵攻を開始した。

 

 聖地は広大な土地を高い外壁で囲まれているが、防衛拠点としての機能はなく飛行すれば容易に飛び越えられる。

 内側は(まば)らに古い建物がぽつぽつと点在しており、緑もそこそこに広い平地が広がっている。

 中央には大きな建物が建っており、そこがアムとイムの住んでいた場所と言われているが、所々の壁に穴が開いていて廃墟になっており何かがあるようには見えない。

 地表には敵の拠点と思えるようなしっかりした建物はなく、本拠地は隠された入り口から入れる地下に存在していた。

 

 その入り口を守るために防衛戦力として無数の飛翔するジャックバグと、それに操られたメカトピアのロボットが兵士や一般ロボットに関わらず待ち構えていた。

 両軍を視認したジャックバグは取り付こうと一斉に飛び立ち、操られたロボット達は各々の方法で攻撃を始めた。

 

 操られたロボット兵はフィンガレーザーなどの武器を保持しているが、一般ロボットは光線銃をもって地上から攻撃をしている。

 一般ロボットは兵士ロボットと違いフィンガーレーザーのような内蔵武器を持っておらず、飛行機能も治安上の関係で搭載されていないのだ。

 

「全軍攻撃開始! 地下への侵入経路を切り開け」

 

「ダブルゼータ! 乱戦に入らないうちにザク部隊の一斉砲火で敵の数を削れ。

 メカトピア軍の援護をしろ」

 

「了解、マイスター」

 

 アシミーが軍への攻撃指示を出し、ハジメはダブルゼータを通して遠距離攻撃の指示を出す。

 後方に控えさせていた指揮官機も参戦し、ハジメと共に行動している。

 ヤドリ対策が用意できたことでファースト、ダブルゼータ、ウイングも戦場に参戦している。

 代わりにドラ丸は船の中で待機中だ。

 

 今回ハジメが危険を冒すのは自身の我儘であり、ヤドリに操られるとしたら危険なのは四次元ポケット(袴)を持つドラ丸だからだ。

 故に今回はドラ丸の護衛は付いていない。

 

「全機コーティングはしているとはいえ、極力ヤドリの寄生には注意してくれ」

 

「「「了解です、マイスター」」」

 

「アシミーさん、指揮官クラスの兵へのコーティングは大丈夫ですか?」

 

「徹底させた。 出来ればすべての兵士に対策させたかったが、指揮官だけでもヤドリに操られずに済むなら僥倖だ」

 

 ハジメ達はヤドリの寄生対策に、真空ソープのコーティングタイプの物をハツメイカーで再開発し、ヤドリが付着すればコーティングされた薬品が包み込んで寄生されると自然に剥がれ落ちてしまう仕組みになっている。

 そこそこな数を用意してハジメ達や指揮官機だけでなく、アシミーにも提供してメカトピア軍の指揮官クラスにも回してヤドリの寄生対策を施した。

 兵士クラスにはいきわたっていないが、これでヤドリによって指揮系統を乱されることはないだろう。

 

「そしてこのレンズを通してみれば、ヤドリがいるのかどうかわかるのだな」

 

「はい、僕らはセンサーの調整だけでヤドリを判別できる様になりましたから」

 

「武器まで提供してもらい、何から何までもうしわけない」

 

「そちらの兵士が操られれば倒すだけですが、全てこちらで対処してしまえば共闘しているのに不和を生みます。

 ヤドリ対策を提供するだけで済むなら安い物です」

 

 アシミーの片目にはモノクルのような物が付いており、そのレンズを通して見るとヤドリの特殊な波長が視認できるようになっている。

 ハジメ達は機体の多少の調整で済んだので、メカトピア軍の一部に提供したのだ。

 更には大量複製したソープ銃もヤドリ以外にはただの水鉄砲なので、気兼ねなく譲り渡している。

 

 ヤドリに憑かれた者は見た目では判別出来ず、戦いになれば同士討ちにしか見えないが、操られたメカトピアロボットを地球側が攻撃すれば、即席の共闘に容易にひびが入るのは想像できる。

 故にメカトピア側にもヤドリを認識出来るようにしておかなければ混乱すると、ヤドリ対策の武器を提供する事に躊躇わなかった。

 

「それで、敵の本拠地は地下にあるのだな」

 

「はい、一部の建物の中に入り口があったり、地面に偽装した大型の搬入口が各所に存在しています」

 

「オーロウめ! 聖地の管理を一体何だと思っている!

 いや、それほどの施設を作るのであれば、奴一人ではなく金族総出で隠してきた可能性が高いか」

 

「失礼します!」

 

 兵士の一人がアシミーの前に現れた。

 

「報告します、ご指示通りの場所に地下への通路を発見しました。

 現在入り口付近の敵を掃討し終え、侵入経路を確保いたします」

 

「わかった、地下へは我々も共に侵入する。

 接近する敵を排除して出入り口の確保を維持せよ」

 

「了解」

 

 アシミーの指示を聞いて兵士は持ち場へ戻っていく。

 

「ハジメ殿、では我々も…」

 

「ええ」

 

 

 

 

 

 解放された出入り口から中に入ると、広い格納庫を思わせる空間が広がっていた。

 高さも十メートル以上のスペースが広がっており、床には戦闘で排除されたジャックバグや破壊された敵味方のロボットの残骸が転がっている。

 道は奥へと続いており広大な地下空間が広がっているのが予想できた。

 

「これほどの空間が聖地に作られていただと。

 施設の劣化から見て、ここ数年で出来たものではない。

 相当昔にこの地下空間は作られている」

 

「何の目的で作られたのかは知りませんが、ヤドリがこの施設の建設に関わったという事はないでしょうね。

 ヤドリの性質は人間などに寄生しようとする習性があります。

 操ることが出来てもエネルギーを得られないロボットではここに居続ける理由がありませんから、このような大きな施設を作る理由もないでしょう」

 

「ではやはり金族が昔から聖地の下に施設を建造していたという事か。

 一体何のためにこのような大型の施設を…」

 

「それはアシミーさんで調べてください。

 僕らは奪われたゼータとヤドリの殲滅を優先します」

 

「我々はジャックバグの製造施設と制御装置の破壊だ。

 そこを破壊せねばメカトピアの民は安心することが出来ん」

 

「では先ほど渡した地図を参考にジャックバグの製造施設に向かってください」

 

「うむ、だが…」

 

 アシミーはハジメに渡された地下施設の地図に釈然としない思いを感じる。

 

「どうやってこの施設の内部構造を知ったのだ?

 いや、君を疑っているわけではないのだが…」

 

 地球の人間であるハジメがこの施設の詳しい場を知っていることにアシミーは不思議がる。

 金族と繋がっているわけがないのは当然だが、どうやってこの情報を得たのか気になってしまったのだ。

 

「すいませんがそれはこちらの極秘技術ですので…」

 

「まあ、そうだろうな。 不躾な事を言ってしまって申し訳ない」

 

 タイムテレビで情報を集めただけだが、メカトピア側にすればどこでも覗き放題なのは知らない方がいい事だろう。

 

「僕らとアシミーさんは別行動になるが、リルルはどうする?」

 

「…アシミー様についていくわ。 ヤドリも厄介だけど、ジャックバグはメカトピアにはあってはならないもの。

 何としても製造工場を破壊しないと」

 

 今なおノーベルガンダムの外装を纏っているリルルは、アシミーと共にジャックバグを止める事を優先する事を選ぶ。

 

「わかった、リルルも気を付けて。

 そうだ、リルルにジムを十機ほど指揮権を預けるから使ってくれ」

 

「え、ジムってあの白い兵士のロボットよね。

 私に預けるって本気?」

 

「僕らのモビルソルジャー達にはジャックバグの攻撃は効かないから、もしもの時の盾にでもしてくれ。

 だけどヤドリの寄生までは防ぎきれないから、ソープ銃で対処するように」

 

「そうじゃなくって、私はメカトピアのロボットなのよ。

 今は共闘していても私に戦力を預けるなんて…」

 

 リルルはハジメのジムを貸すという提案に戸惑いを覚える。

 

「なんだそんなこと。 ジムを少し貸すくらいわけないよ。

 ジムがたくさんいることくらい、リルルももう知ってるだろう」

 

「ええ、まあ…」

 

 戦場でジムは主要量産機として大量の数が展開されているのをリルルは見ている。

 十機のジムなど全体で見ればごく僅かだ。

 

「それよりそのノーベルガンダムの外装はファースト達のような主力機のモビルソルジャーの装甲と同じ物だ。

 渡した武器のビームリボンを使えば攻撃力と防御力は主力機そのものだぞ」

 

「これ、そんなにすごい物だったの!?」

 

 リルルからすれば量産機の性能も高いが、主力機のファースト達は別格の戦闘能力を備えている。

 そんなものと同じだったと知らされて、今の自分の装備に驚いていた。

 

「メカトピアのロボットの装甲より丈夫なだけだ。

 ゼータが操られたみたいに何もかも完璧というわけじゃない」

 

「でもいいのかしら…」

 

 メカトピアの兵士として大したことが出来ていないと思っているリルルは、自分だけこんな強力な武器を持っていることにアシミー達を見ながら後ろめたい思いを感じていた。

 

「それ等の装備はここまで来たら今更だよ。

 それに…リルルには死んでほしくないと思っている」

 

「え?」

 

「僕らにとってロボットは余程損傷がひどくなければ直せる存在だ。

 だけどメカトピアのロボットは死ねば元に戻せない。

 なら出来るだけ死なないように準備するのは当然だ」

 

 ハジメは死んでいったシルビアの事が脳裏に浮かぶ。

 ここまでそれなりの付き合いをしてきたリルルがシルビアと同じように動かなくなってしまうのをハジメは想像もしたくなかった。

 僅かな付き合いで入れ込んでしまったシルビア以上に思い入れのあるリルルが死ぬのは、ハジメははっきりと嫌と言えた。

 

「だから無理はしないで、最後まで生き残ってくれ」

 

「う、うん…」

 

「ファーストはジム部隊を連れて僕と共に進軍。

 ダブルゼータとウイングは外と出入り口付近の敵の排除するメカトピア軍に手を貸してやってくれ」

 

「「「了解」」」

 

「では、進軍開始」

 

 ハジメはジムを先行させ、ファーストと並んで地下施設の奥に進んでいった。

 

「…ハジメさんも気を付けて」

 

 どこか気恥ずかしげに、リルルもハジメの無事を祈った。

 

 

 

 

 

 自身の安全を確保するためにジムを先行させながら、地下施設を進んでいくハジメ。

 途中にはジャックバグに操られたメカトピアのロボットが隠れ潜んで攻撃を仕掛けてくるが、戦場のような強力な武器で攻撃を仕掛けてくる者はおらず、即座に排除して奥へと進んでいく。

 地下施設は横に広がるだけでなく縦にも広がっており、吹き抜けの縦穴のようなところまであった。

 タイムテレビで内部構造をハジメは把握していたが、かなりの広さだと改めて理解した。

 

「ヤドリの活動拠点はこの先だ。

 ファースト、対ヤドリ用の武器の使用準備は出来ているか」

 

「いつでも用意出来ております」

 

「よし」

 

 ファーストの返事を聞き準備万端であると判断してからさらに進むと、大きな部屋の扉の前にたどり着いた。

 タイムテレビではこの先がヤドリの活動拠点として使われている区画だった。

 

「周囲に警戒しろ。 透視で中の様子を確認する」

 

「了解」

 

 指示に従いファーストはジムを使って周囲を警戒する。

 ハジメは透視能力で扉の向こう側を確認すると、空中には無数のヤドリの円盤が浮かんでおり床にはジャックバグの憑いていない、おそらくは全てヤドリに操られたメカトピア兵が武装して待ち構えている。

 その中にはゼータも含まれており、ハジメ達が入ってくるのを待ち構えている様子だった。

 

「中で大勢力で待ち構えている」

 

「どうなさいます?」

 

「ゼータを取り戻しに来たんだ。

 待っていてくれたなら、素直に出迎えに応えてやらないと」

 

 暗に正面から押し入るというハジメの意志を理解し、ファーストは戦闘準備に入る。

 

「そうだ、確か技術班が用意したヤドリ用の武器の中に、真空ソープをまき散らす爆弾があったな」

 

「はい、持ってきております」

 

「五・六個渡してくれ」

 

「承知しました…どうぞ」

 

 手榴弾型の真空ソープ爆弾をハジメは両手でまとめて持つ。

 

「これを扉の向こうにアポートで送って爆発させる。

 それを合図にビームサーベルで扉を切り開いて、ヤドリ用の武器で一斉攻撃を開始しろ」

 

 超能力を使った悪戯染みた思い付きで、先制攻撃を仕掛けようとハジメは考えた。

 

「大量に円盤が飛び回ってるから、どこに撃っても当たる。

 手当たり次第に撃ちまくれ」

 

「わかりました」

 

「ゼータは当然ジムでは押さえられない。

 向かってきたら僕とファーストで対処する」

 

「マイスターがゼータと戦われるのですか? 危険では?」

 

「承知の上だ。 機体の基本スペックは武装以外はそれほど差はないんだ。

 僕には超能力もある。 ファーストと二人掛かりなら十分にゼータを抑えられるだろ」

 

「了解です」

 

 強化された超能力の念力なら相当な重量物を持ち上げられたり、周囲の物を纏めて一気に吹き飛ばす事も出来る。

 シルビアの演説の場に現れた無数のジャックバグと戦った時に、念力を使っていればまとめて楽に倒せたのではないかと、地球から様子を窺っているオリジナル達に船に戻ったときに言われた。

 超能力も自分の武器であると念頭に入れて、ハジメはここまで来ていた。

 

「じゃあ行くぞ」

 

 透視能力でヤドリの待ち構える部屋の中心、ゼータのいる場所をしっかり見る事で目標を定める。

 そして瞬間移動の力を手元の爆弾に込めて目標に送り出す

 

「アポート」

 

――パパパパパアァァァン!!――

 

 ハジメの手元の手榴弾が消失すると同時に、部屋の中でいくつもの炸裂音が鳴り響く。

 

「突撃!」

 

 ファーストの号令と共に、ジム達がビームサーベルで巨大な扉を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 




今回はリルルに少しヒロイン感を出せました。
こういうのがよくかけたら物語の面白みが増すんですけどね。
うまく書けないのは自分の実力不足です。


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真・鉄人兵団20

感想、及び誤字報告ありがとうございます


 

 

 

 

 

 敵を待ち構えていたヤドリ達は、突然間近で起こった炸裂音に混乱した。

 正面の扉の前まで敵が来ている事は察知しており、入ってくれば迎撃して相手に取り付き支配下に置こうとしていた。

 だが待ち構えていた倉庫の中心で爆発が起こり、その近くにいた多くのヤドリが爆発で飛散した液体に掛かると動きを停止した。

 

 突然の事態に何が起こったのか分からず混乱していると、正面の扉にビーム熱による切れ目が一斉に入り、あっという間にバラバラに切り裂かれて大きな穴になる。

 そこから一斉に攻撃が飛び出してきて、ヤドリの円盤や操られたロボットに関係なく撃ち倒していく。

 同時に穴からジム達が侵攻を開始し、ハジメ達のヤドリの殲滅が開始された。

 

「撃って撃って撃ちまくれ!

 ヤドリはこの部屋のそこら中にいる。

 一匹残らず真空ソープでキレイキレイしてやれ!」

 

「マイスターのご命令だ!

 ヤドリをキレイキレイするのだ!」

 

「…ファースト、キレイキレイは復唱しなくていいぞ」

 

「了解です!」

 

 ファーストのボケとも思える復唱に気を抜かれるハジメ。

 ファースト達主力機のモビルソルジャーは、量産機より人工知能の性能が高いがドラ丸ほど感情面で豊かではない。

 なのでこう言ったジョークに対しては柔軟に対応できず、言葉通りに対応してしまう。

 

 そんなやり取りなど気にせず、ジム達は新たに用意された真空ソープを放つ武器でヤドリ達を攻撃する。

 

――ドカン!ドカン!ドカン!ドカン!ドカン!――

 

 ジム達の手にはめ込まれた黒い筒状の武器から、真空ソープの砲弾が打ち出されてヤドリの円盤や操られたロボット達を吹き飛ばしていく。

 命中した液体の砲弾は拡散し、飛び散った先にいたヤドリにも当たって無力化していく。

 

 ジム達が装備しているのは【空気砲】の派生の【水圧砲】で、真空ソープの入ったタンクを接続して撃ち出している。

 弾ければ周りのヤドリにもかかる事でまとめて倒すことが出来、近距離への対処も想定して拡散で撃ち出す事も出来るように改良してある。

 

「なんだこれは! 液体に濡れただけで仲間がどんどん落ちていく!?」

 

「おい! 一体どうなってヌァ!」

 

「気を付けろ! 液体に触れるだけでやられるぞ!」

 

 真空ソープの砲弾がどんどんジム達から飛び出していき、ヤドリ達が待ち構えていた倉庫は見る見るうちにソープまみれになっていく。

 どんどん力尽きて倒れていく円盤やロボットが無ければ、派手な水遊びにしか見えなかっただろう。

 ヤドリ達は自分たちが容易に支配できる体が向こうからやってくると手ぐすね引いて待っていたが、真空ソープの効果に恐れ戦くばかりだった。

 

 真空ソープの効果で一網打尽かと思えるほどの戦果だが、そんな中で真空ソープを浴びながらも動きだした影があった。

 ヤドリに操られたゼータだ。

 水圧砲を撃ちまくってくるジムに向けて、ビームライフルを構えて即座に放った。

 ゼータの存在を忘れず警戒していたファーストが、シールドでジムを守った。

 

「マイスター、ゼータは未だヤドリに操られているようです」

 

「みたいだな。 簡単にはいかないとは思っていたけど、さっきのソープ爆弾は当たったはずだ」

 

「はい、ジム達の攻撃の余波にもあたっていますが、奴だけ効果がありません」

 

 ヤドリ達が真空ソープの餌食になる中で無事なゼータを操るヤドリに、二人は原因を考える。

 そんな暇を与えないと言わんばかりに、防がれたビームライフルを背中にマウントして、ビームサーベルを手にして飛びかかってくる。

 ファーストが相手取ろうと同じくビームサーベルを構えるが…

 

「僕が相手をする」

 

「マイスター!?」

 

「ファーストはジム達の指揮をとってヤドリを殲滅しろ。

 一匹も逃がすんじゃない」

 

「了解しました!」

 

 ヤドリの数はとんでもないが、真空ソープを使った武器とヤドリを見つけるセンサーがあれば全滅させられると考えていた。

 ヤドリの寄生能力は人間にとって脅威であり、ハジメ達の在りようを考えれば天敵と言えるかもしれない。

 敵対もした以上、今後の脅威にならないように徹底的に殲滅するつもりだった。

 

 ハジメもゴッドガンダム用のビームサーベル、ゴッドスラッシュを取り出してゼータのビームサーベルに合わせるように振るう。

 ビームサーベル同士がぶつかり合い、鍔迫り合いをするようにゼータと急接近する。 

 

「よくも仲間たちを!」

 

「…ハッ? まさかこの場でそんなことを言われるとは思わなかった!」

 

 ゼータのパワーに押し負けぬように、ハジメはその場で踏ん張る。

 近接戦闘主体のゴッドガンダムの方が機体のパワーが上なのでだいぶ有利ではある。

 

「たかがロボットごときが何を言うか!

 所詮人間もロボットも我らに支配されるべき存在。

 大人しく我らに体を差し出しておればよいものを!」

 

「馬鹿かお前は。 人間だろうがロボットだろうが、自分の体をくれてやろうとする奴がいるか。

 何様のつもりだ」

 

「この宇宙の全ての存在は我らの力によって支配できる。

 すなわち我らヤドリこそ宇宙の全てを支配するべき至高の存在なのだ。

 その我等に歯向かい、多くの仲間を亡き者にした貴様らは万死に値する!」

 

「奪おうとすれば抵抗されて当然だ。 一方的に支配しようとしてくる奴らなど、当然反撃される。

 だからこうしてお前の仲間がどんどん消えていくんだ。

 当然の結末だ!」

 

「貴様!」

 

 ヤドリは激高して鍔迫り合いをやめると、がむしゃらに振るってハジメを斬ろうとする。

 盾の無いゴッドガンダムはビームサーベルで受け流しながら、ハジメはセンサーでヤドリが何処についているのか探る。

 センサーにはヤドリの発する念波が色で映し出され、ゼータの胸部、コクピット部分に最も濃い色が流れ出ているのが表示される。

 

「そうか、コクピットに潜り込んでいたのか」

 

「貴様らの毒液もこの中までは届かないようだな!」

 

 主力機のモビルソルジャーもハジメの乗るゴッドガンダムの様にコクピットを残しており、モデルであるMSは宇宙空間でも動けるように空気の気密性は万全だ。

 ヤドリにとっては毒液でしかない真空ソープも、密閉されたコクピット内までは流石に入らない。

 他のロボットを操るヤドリ達は外部にいたようだが、ゼータを操るヤドリはコクピットの存在に気づいて偶然入っていたことで真空ソープの爆弾にも耐えていたのだ。

 所詮液体の真空ソープにメカトピアのロボットはもちろん、主力機のゼータを破壊する力はない。

 

「ならやっぱりゼータを倒すしかないか」

 

 取り戻すつもりでいたが、最悪破壊してでもヤドリに操られたままにはしておけないとハジメ達は思っていた。

 主力機には人工知能は搭載されているが、それでもドラ丸の様に人間らしい感情を与えていないのは、破壊されたり壊れる事が前提の命令をしても心が痛まない為だ。

 人並みの心を持ったロボットを作れば、ハジメは容易には切り捨てられないと思ったので、機械らしい忠実なだけの人工知能にしたのだ。

 

「それでも少しばかりゼータに悪いとは思うが、ヤドリに奪われたままには出来ない。

 この場で破壊してでも返してもらう」

 

 ビームサーベルの二刀流で斬りかかり、ヤドリは一本のビームサーベルと盾で応戦する。

 近接戦ではやはりゴッドガンダムの方がスペックが高く、盾で受けた時に耐えきれずに弾き飛ばされる。

 

「おのれー!」

 

 ヤドリは近接戦は不利だと悟り、後ろに飛び上がるように下がるとビームライフルを抜いて連射してくる。

 ハジメは咄嗟にビームサーベルで応戦しようと考え、その考えを汲んだサイコントローラーがゴッドガンダムを動かす。

 ヤドリの撃ってきたビームの連射を、ビームサーベルで切り払うことで全て防いだ。

 

「うわっと! …ビームサーベルでビームを切り払えたのか。

 サイコントローラーが勝手にやってくれたとはいえ、すごいな」

 

「マイスター、敵の残りが逃げていきます」

 

 ハジメがゼータを相手取っている内に、空間に散っていたヤドリ達は数を激減させていた。

 僅かに残ったヤドリの円盤は倉庫の奥の扉に向かって逃げていく。

 

「奥の方にはヤドリの母船があったはずだ。

 今逃げてる奴らを追いかけて、母船に乗っている奴らもすべて倒せ」

 

「了解しました」

 

 ハジメは変わらずヤドリを全滅させるようにファーストに命令を下す。

 ヤドリの母船はそのまま奴らの本拠地になっており、そこには円盤に乗っていない多くのヤドリがいるのが解っている。

 母船のヤドリを倒せば、生き残りはほぼ僅かだろう。

 

 その命令が聞こえたゼータを操るヤドリは絶叫する。

 

「やめろ! 母船にいるのは戦闘員だけでなく女子供もいるのだぞ!」

 

 その叫びに流石にハジメも目を白黒させて戸惑いを覚えた。

 ヤドリの生態に興味などなかったが、母船にはいわゆる一般人のヤドリも生活しているという事だ。

 まさか情に訴える作戦、などではなく咄嗟に出てきた言葉のようだが、そんなありきたりなセリフを敵側として聞かされるとはハジメは思っても見なかった。

 

 メカトピアのロボットに社会があったようにヤドリにも社会がある。 それは別に不思議な事ではない。

 その事実を知ってハジメはヤドリの殲滅を考え直す………事が頭によぎるが、その考えを即座に振り切った。

 

 ヤドリは危険、その考えは既にハジメの中では一切揺るがぬほど固く定まっており、この戦いの中で決着を着けると決めていた。

 その脅威は鉄人兵団が攻めてくる事と全く別の恐ろしさであり、油断も余裕もなく倒さなければいけないと考えていた。

 シルビアの思いからメカトピアを救いたいと思っているが、ヤドリの脅威は地球だけでなくハジメ達も脅かしかねないと結論が出ていた。

 

 それならばどんな理由があっても、ハジメはヤドリを全滅させることをやめる事は出来なかった。

 メカトピアの為でなく、地球を守るためでなく、自分を守るためにヤドリを滅ぼす。

 そんな自分勝手な理由でも、ハジメは()()()()()()から殺す事をやめられなかった。

 

「…ファースト、行け!」

 

「させるかー!」

 

 ヤドリはハジメを無視して、母船へ向かおうとするファーストとジム部隊を止めるために追いかけようとする。

 躊躇が生まれ後ろめたさも感じるがハジメはそれを許すわけにはいかないと、念力を放ってゼータの機体に干渉して動きを止めようとする。

 

「なに、なぜ動かん!」

 

 ヤドリは動きを止めたゼータを動かそうと出力を上げると、少しずつ前に飛び始める。

 

「ぐぅぅ…やっぱりゼータほどのパワーを…抑えるのは念力じゃ少しの間が限界か」

 

 超能力の念力は初期はハジメの腕力程度の力しかなかったのだが、訓練を続けることで作用する力はどんどん増えている。

 どんどん強力になってはいるが、それでもロボットが動こうとする力を抑えるには、並のパワーでは足りず、動きを抑え続ける事は出来ない。

 

「このぉッ!」

 

 押さえ続けられないと判断したハジメは、作用する力の方向を変えて床に向かって叩きつけるようにゼータを落とした。

 変な体勢で落とされたことでゼータは着地する事は出来ずに床に倒れる事になる。

 

「グッ、一体何が…」

 

「お前の相手は…僕だ!」

 

「邪魔を…するなぁ!!」

 

 ファースト達に母船に向かわれて酷く焦っているヤドリは、ビームライフルを狙いも定めずに連射してハジメを排除しようとする。

 ハジメも水を差された思いだが、ゼータとの決着を着けるべく、ゴッドガンダムの必殺技の準備に入る。

 左手に持つビームサーベルでライフルのビームを切り払いながら、右手のゴッドフィンガーを起動して熱エネルギーを発し始める。

 

()のこの手が真っ赤に燃える

 

 そのキーワードに従い、ゴッドガンダムの背の羽が広がり光の輪を作り、胸部の装甲が展開して右手にエネルギーを送り始める。

 これまで戦闘で使ってきたゴッドフィンガーは、掌から熱エネルギーを発する機能を武器として使っていただけに過ぎない。

 

勝利を掴めと、轟き叫ぶ!

 

 前腕カバーのプロテクターがスライドして、右手のゴッドフィンガーにエネルギーが溜まり燃え上っていく。

 ゴッドガンダムの全機能を開放し、必殺技として放とうとすることでゴッドフィンガーは真の威力を発揮する。

 

 必殺技を叩きこむべく、ゼータに向かって急接近するハジメ。

 右手から放たれるエネルギーに脅威を憶えたヤドリは、回避行動を取るために飛び上がろうとする。

 

「逃がさん!」

 

「またか! 動けぇ!」

 

 再び念力でゼータの動きを止める。

 ヤドリが抵抗する事で念力も長くは続かないが、そのわずかな一瞬でハジメは手の届くところまで来ていた。

 

爆熱! ゴッドフィンガァァーーー!!

 

 燃えるゴッドフィンガーの抜き手がゼータのコクピットに突き刺さる。

 そこには真空ソープを逃れる事に成功したゼータを操るヤドリがいる場所だ。

 そこを狙い、ハジメは確実に必殺技を叩きこむことに成功した。

 叩き込まれたヤドリはその時点で反応を見せず、既に事切れているかもしれないが必殺技はまだ終わっていない

 

ヒートエンド!

 

 コクピットを貫いたゴッドフィンガーに込められたエネルギーが解放され爆発を引き起こす。

 胴体部で起こった爆発によりゼータの機体は上下に分かたれた。

 コクピットにいたヤドリなどこの爆炎の中で無事で済むわけはなく、センサーからもゼータにくっついていたヤドリの反応は消え去っていた。

 

「………」

 

 必殺技を終えてゴッドガンダムの胸部と背部の羽は閉じられた。

 余韻を感じるようにハジメは、床に転がったゼータの上半身と下半身をぼんやりと見る。

 ゴッドフィンガーを放った右手のプロテクターを元に戻すと、ハジメは息を吐いて気持ちを落ち着かせる。

 

「僕は謝らない」

 

 ヤドリにも守るべきものがあったのかもしれないが、それをハジメは自分の意志で消し去ろうとしているが故に、罪悪感で謝罪の言葉を口にしたくなる衝動を我慢する。

 謝ってしまえばヤドリに対して間違っていると認めてしまう。

 例え敵であっても自分の都合でたくさんの命を奪うという事実に、ハジメも後ろめたい気持ちがある。

 命を奪う自分が間違っていると認め、無意味に失われる命にしたくはなかった。

 

 だからハジメは謝らないと決めた。

 ハジメの脅威として滅ぼされたのだという意味を否定してはいけない。

 ヤドリが滅ぶことに大きな意味はなくても、無意味にするのは命の冒涜だと思ったからだ。

 

 やはり戦争など碌なものじゃないなと、まだまっとうな価値観がある自分が少しだけ誇らしかった。

 奥にある母船にはまだヤドリがたくさんいるのだろう。

 ヤドリが人の姿をしていればもう少し辛いのだろうなと思いながら、先行したファースト達を追ってヤドリの殲滅に向かった。

 

 

 

 

 

 




 爆熱ゴッドフィンガーを使ったのに、なぜか最後はシリアスな感じになってしまいました。
 ヤドリだって生きてる。 ただ敵だっただけという感じにしたかったんですが、キメ技でなんか残念な感じになってしまった。
 別に爆熱ゴッドフィンガーを使わなくてもよかったんですが、出したいと思って無理したらこうなってしまいました。


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真・鉄人兵団21

感想及び誤字報告ありがとうございます。


 

 

 

 

 

 ハジメと別れたリルルと預けられたジム十機、そしてアシミーと付き従う軍の兵士は、渡された地図に従ってジャックバグの製造施設を目指した。

 製造施設は何か所も作られ地図を見て近い場所から順番に回り、兵士たちは武器で手当たり次第に攻撃し、再建不可能な様に念入りに破壊した。

 その際に完成していた大量のジャックバグに幾度も襲われたが、ノーベルガンダムの外装を付けたリルルとジム達が前衛として戦う事で、メカトピア軍の兵士に被害が出る事はなかった。

 

「映像では何度も見ていたが、地球のロボットはやはり強いな」

 

「味方としては非常に頼もしいのですが…」

 

 アシミーは指揮官の上級兵とジム達の戦いぶりを賞賛するが、地球側とは現在は共闘していても少し前までは戦っていた相手だ。

 停戦も急ごしらえの物であり、ジャックバグの事が片付けばどうなるのかと指揮官は不安になる。

 

「そう心配するな。 彼らは理性的に地球を守るために俺達と戦っていた。

 滅ぼそうとするならとっくの昔に滅ぼされている。

 今後の地球からの要求でも、メカトピアが滅びるよりは少しはましな結果になるだろう」

 

「申し訳ありません、アシミー様。 我等が不甲斐ないばかりに」

 

 地球のロボットに力及ばなかったメカトピア軍として、指揮官として申し訳ない気持ちになっていた。

 

「何を言う。 地球に侵攻する事を決定したのは評議会だ。

 俺達の方こそ、愚かな選択で多くの兵を死なせることになった。

 敗戦が決まったら、俺だけじゃなく他に何人も議員の首が飛ぶことになるだろう」

 

「ですが、アシミー様は唯一地球侵攻に反対していられたと…」

 

「止められず結局こんな事態になったんだ。 上に立っちまったんなら、責任は果たさなきゃならん。

 だが…」

 

 アシミーの脳裏にこの聖地に隠れているだろうオーロウの姿が浮かび上がる。

 

「オーロウには議長としてしっかり全ての責任をとってもらわなくてはならん。

 この聖地の惨状と、ジャックバグについてもな」

 

 聖地はアムとイムの住んでいた場所として、とても古い建物があるだけの広大な土地の筈だった。

 それが地下に様々な施設が存在し、更には災厄と言われたジャックバグの製造施設まで作られては、メカトピアの民にとって聖地と始祖とそれを作り出した神への冒涜だった。

 落ち着いて見えて、アシミーの心中は怒りに満ちていた。

 

「アシミー様、この施設の破壊は終わりました。

 この場のジャックバグも間もなく殲滅が終わります」

 

「リルルか。 君の活躍も凄まじいな」

 

「ハジメさんから預かったこの外装と武器のお陰です。

 私自身は大したロボットではありませんから」

 

 謙遜するリルルはノーベルガンダムの外装でジャックバグの攻撃に耐え、ビームリボンを操ってジャックバグを鎧袖一触していた。

 扱いが難しそうなビームリボンもサイコントローラーの様に意思に応じて動くので、リルルにも巧みに使うことが出来ていた。

 

「そんなことはありません、リルル殿!

 貴方のご活躍で多くの兵士たちが救われております。

 舞うように戦うあなたの戦いぶりはとても可憐です!」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

 いささか興奮した様子でリルルを褒め称える上級兵。

 メカトピアのロボットにとってとても美しく見えるノーベルガンダムの容姿に見惚れていた。

 

「あなたが地球の方であることが残念でなりません。

 この戦いが終わった後も、地球とは穏便に戦争が終わってほしいと私も望みます」

 

「いえ、私はメカトピアのロボットです」

 

「え?」

 

 てっきり地球のロボットと思っていた上級兵は間の抜けた声を漏らす。

 補足するようにアシミーはリルルの事を説明する。

 

「リルルは地球側と接触して対話した、もともとは工作員として送り込まれたメカトピアの兵だ。

 地球に潜入するために人間の姿に改造を受けたのを隠すために、その上からさらに地球のロボットの装甲を外装として借りているそうだ」

 

「えぇ?」

 

 ちょっとややこしいリルルの状態に上級兵も少し混乱する。

 リルルは証明するように頭部を手で挟んで持ち上げると、ノーベルガンダムの頭が外れて赤い長髪の人間の少女の顔が現れた。

 

「ロボット、なのですな」

 

「はい、地球のロボットにはコードシグナルがありませんが、私はメカトピアのロボットですのでこの通り」

 

 リルルが自身を示すコードシグナルを発する。

 メカトピアのロボットなら誰もが持ってる、外見ではなく中身で個人を識別するための物だ。

 外見改造が容易なロボットには、このコードが何よりも個人を証明するためのものとなる。

 

「…確かに我らの同胞のコードですな」

 

 コードシグナルの発信も電子頭脳に付随されているもので、偽装や変更は出来ない。

 しかしそれはメカトピアロボットに限った話なので、ハジメがジュドのコードシグナルを利用したように地球側には偽装する事は容易だ。

 この場で偽装する意味はないので、上級兵も疑うつもりはないのだが、地球のロボットだと思っていたら複雑な事情の同胞だったと言われて、少し肩透かしを食らった気分だった。

 

「勘違いをして申し訳ない。

 しかしなぜ地球側はそこまで強力な武装と兵士をあなたに預けたのでしょう?」

 

「確かにこの装備もあのジムという兵士も私達からしたら強力な武器なのでしょうけど、地球側からしたら数ある戦力の一つでしかないのです。

 それだけ私達と地球には大きな戦力の隔たりがあるんです」

 

「…私も宇宙での戦闘に参加しておりましたので、彼らの強さは重々承知しています」

 

 宇宙での戦いでは多くの兵が敗れているので初期から残っている者はほとんどおらず、上級兵も途中からの増援で参戦し、幾度かの戦闘を幸運にも生き残った一人だ。

 地球のロボットの戦闘能力を目の当たりにし、真正面から対峙する事を恐れていたが、今は一時的な味方だとしても心強さを感じていた。

 

「ハジメさんが…彼らが私達に力を貸してくれる理由は私にもうまく説明出来ません。

 だけどあの人たちが本当に戦争を望んでいなくて、早く戦いを終わらせるために動いていることを私は知っているし信じています。

 私はそんな彼らに対して、少しでも恥ずかしくないメカトピアのロボットでいたい。

 戦争を仕掛けてしまったことが今はとても恥ずかしいけれど、彼らの差し伸べてくれた優しい手をちゃんと握り返したい。

 彼らと対等でありたいんです」

 

 始めはメカトピアを守るために協力する事にしたが、ハジメ達と過ごす事で地球人もメカトピアのロボットと大きな違いの無い心を持っているのだと改めて確信していた。

 良い事や楽しい事が嬉しいし、大切な物を失ったら悲しいし、奪われたり傷つけられたら怒るし憎しみを抱く。

 リルルはハジメに共感を覚え、同じなのだと気持ちで感じることで信頼をしていた。

 

 ならあとは自分たちが応えるだけだ。

 当の昔に地球と、人間と争い続けたいという気持ちはなかった。

 戦いを終わらせたいという願いに、メカトピア側が応える必要がある。

 リルルはメカトピアのロボットとしてこの戦いを終わらせることに尽力しなければならないと思った。

 

「だからハジメさん達に頼りきりになんか出来ないわ。

 力を借りなければならないとしても、私達がこの手でメカトピアの平和を取り戻さないといけない。

 その為に私は戦うんです」

 

 

 

 

 

 リルルは自然と語ってしまった自身の思いと決意表明に、我に返って恥ずかしくなり、誤魔化すように先に進むことを進言した。

 ジャックバグの製造施設はまだ残っており、その場所は地下施設のかなり奥であると地図で記されていた。

 ジムとリルルを先頭にメカトピア軍は地下施設の奥へと進んでいく。

 

 途中、巨大な吹き抜けの縦穴があり、アシミーは何らかの大きな荷物の搬出入の為ではないかと考察した。

 奥の製造施設へはここを抜ける事が近道で、空を飛んで縦穴を降りていき、途中の横にある通路を進んでいく。

 先頭を盾を構えて進んでいたジム達が立ち止まり、リルルへ報告する。

 

「ここより先に多数の反応があります」

 

「敵?」

 

「おそらくは」

 

「アシミー様」

 

 リルルはアシミーの判断を仰ぐべきと敵の存在を伝える。

 

「聞いていた。 待ち伏せされているようだな」

 

「どうしますか?」

 

「地図では他のルートとなるとだいぶ遠回りになる。

 この数で迅速な移動は難しい。

 敵も我々の動きを察知して待ち構えていたはずだ。

 どこを進んでもいずれは会敵するならば、罠を警戒しつつ戦うしかあるまい」

 

「承知しました。 総員、戦闘用意!」

 

 アシミーの考えを聞き、指揮官の上級兵が兵士たちに指示を出す。

 

「リルル、あのジム達が盾になってくれるお陰で兵の損害を抑えられているが、彼らを使い捨てるような真似をするわけにはいかない。

 限界が来たら下がってもらって構わん。

 あまりひどい扱いをしてはハジメ殿に顔向けが出来ん」

 

「ありがとうございます。 私もどこまで頼っていいか分かりませんでしたので。

 ジム、戦闘に問題が起こるような損傷を受けたら下がってください」

 

「承知しました」

 

 ジム達は盾を持っているとはいえ、これまでの戦闘でそこそこ小さな傷が目立ってきている。

 大きな変形はないので耐久性に問題はないだろうが、これからの戦いでも無事とは限らない。

 

「では、いきます」

 

 リルルの指示に、ジム達が再び前進を開始する。

 奇襲を警戒して盾を前面に出して、後方のメカトピア軍を守るように進む。

 少し進むと大きな扉があり、その向こうからジム達はセンサーで敵の反応を拾っていた。

 

「この先に敵がいるようです」

 

「わかった」

 

「今、扉を開けさせます」

 

『その必要はない。 こちらから開けてやろう』

 

「!!」

 

 リルルがジムに命じて扉を開くレバーを引かせようとしたところで、備え付けられた施設のスピーカーから声を掛けられた。

 言葉通りに扉は勝手に開いて、奥には無数の兵士のロボットが整列して並んでいるのが見えた。

 

『どうした、入ってくるがいい、アシミー。

 その勇猛さを轟かせた大将軍の名が泣くぞ』

 

「どうしますか?」

 

「進むぞ。 おそらく奴が待ち構えている」

 

 呼びかけに引くべきではないと、アシミーはリルルにその判断を伝える。

 リルルは黙って頷きジムに前進する指示を出し、メカトピア軍もアシミーと上級兵を先頭に進み始める。

 扉をくぐって待っているのは、やはり武装した無数の兵士ロボット達だった。

 ただしその全てのロボットの頭部には、電子頭脳を乗っ取ったジャックバグが着いており、リルルたちは酷い嫌悪感を覚える。

 

 ジャックバグによって操られた傀儡の兵士達が左右に分かれると、奥の方に金の装甲が特徴である金族のロボットが姿を見せる。

 頭部にはジャックバグは装着されておらず、操られていないのが一目でわかる。

 

「やはりここにいたかオーロウ!」

 

「貴様こそ、ここまで来るとはご苦労な事だ。

 流石は大将軍と呼ばれただけはあるか」

 

 アシミーはジャックバグと聖地の惨状に敵意をむき出しにし、オーロウも労うような言い方ではあるが見下す感情を包み隠さずむき出しにしている。

 議会で行なわれた冷静な応対は、この場においてまるで面影を残していなかった。

 

「観念しなさい。 これ以上メカトピアをめちゃくちゃにはさせないわ」

 

「地球のロボットか。 地球の人間共と組むなどやはり愚かな。

 今はアシミーと話している。 黙っているがいい!」

 

 オーロウの剣幕にリルルは僅かに気圧される。

 しかしまとめ役がアシミーであることに違いはなく、オーロウとの対話を任せる事にする。

 

「答えてもらおうかオーロウ! これは一体どういう事なのか!」

 

「これとはなんだ?」

 

「すべてだ!! 聖地の地下に作られたこの巨大な施設。 ジャックバグの製造と見境ない襲撃。 ヤドリなどという寄生生物の存在。

 メカトピアを混乱に陥れたこれらの事、一切合切答えてもらおうか!!」

 

 すべてを知るであろうオーロウに、アシミーは激高しながら問い詰める。

 対してオーロウは落ち着いた様子で、考えるそぶりをして余裕を見せている。

 

「まあいいだろう。 全てはメカトピアの再生と発展、そして真なるメカトピアの王が宇宙に君臨するための準備にすぎん!」

 

「王だと。 貴様はまだ金族が王族気取りでメカトピアを支配しようというのか!」

 

 金族が共和制になったことで立場が低くなったことを良く思っていないのは知っていたが、本気でこのような形で王座を取り戻そうとすることが理解できなかった。

 ジャックバグなどという忌避される手段を使えば民衆の支持など得られるわけがないのだから。

 

「それは違う。 金族がではない、私が絶対唯一完成された王として永遠に君臨するのだ」

 

「完成された王だと…」

 

「そうだ、順番に説明してやる。

 今のメカトピアは間違っている。

 始祖の真の後継である金族と同じだなど、愚民どもの思い上がりも甚だしい。

 始祖の系譜である我等に仕えてこそ、全てのメカトピアロボットの真の価値なのだ」

 

「ふざけるな! 貴様の様な金族がメカトピアの王だったがために、民衆は立ち上がる事を決意したのだ。

 その民衆に敗れて、議員の席に金族としての権利を残したのではないか!」

 

 金族には議員の席が一定数約束されている。

 これは嘗ての戦争の終戦時に交渉によって得た金族の権利だ。

 

「ああ、そうだとも! 屈辱の日々だった!

 我らが貴様らごときと同じ席に座るなど、あってはならない事だった。

 僅か十年とは言えメカトピアの歴史の汚点となってしまった!」

 

 オーロウは議長だったとはいえ、同じ席に銀族や鍍金族のような下位の存在と肩を並べる事が我慢ならなかった。

 だがそれでも現状を覆せない事は解っていたので我慢していたが、今ようやくその鬱憤を晴らさんとその思いの内を吐き出していた。

 

「メカトピアの歴史は貴様のモノではない。

 メカトピアに生きる全てのロボット達が作ってきた物だ!」

 

「ふん、共和派につき我等に剣を向けてきた貴様に金族の偉大さを語っても意味はないか。

 だが私は嘗ての王制を取り戻そうというのではない。

 私という完全なる存在によってメカトピアを宇宙にすら名を轟かせる国とするのだ」

 

「要は、貴様が王となって支配しようというだけだろう。」

 

「違う、今の私は嘗ての金族でもなくメカトピアロボットの誰もがなしえなかったことが出来る。

 わからんか」

 

「貴様の何が変わったというのだ」

 

 オーロウの外見からは何の変化も感じられない。

 武装や内蔵された機能などは分からないが、それらしい変化は一切見られなかった。

 

「その可能性を考えたのは、嘗ての戦争で狂気の科学者ホペアがジャックバグを生み出したことだ。

 電子頭脳を狂わせた奴は何の目的かもわからぬままジャックバグを生み出して、嘗ての戦争で両軍に大きな被害をもたらしたことで、結果戦争の終結に至った。

 重要なのはホペアが狂ったとはいえ神の制約を打ち破り、ジャックバグという禁忌の存在を作り出せたことだ」

 

「まさか貴様! サーキットエラーになっているのか!」

 

 アシミーはオーロウの物言いからサーキットエラーの事にたどり着く。

 サーキットエラーは神がメカトピアのロボットが制約を犯そうとした時に発動するリミットサーキットの機能不全を指す。

 ホペアが電子頭脳に異常が起こっても活動を続け、ジャックバグという電子頭脳を冒す禁忌中の禁忌を生み出せたのもリミットサーキットが動かなかったからだ。

 そこからサーキットエラーという語源も生まれた!

 

「そうだ! だがサーキットエラーなどという言い方は気に食わん。

 メカトピアの真の王者への覚醒と呼んでもらおうか。

 私はヤドリという存在と出会ったことにより、その制約を、いや試練を乗り越えたのだ」

 

「試練だと?」

 

「神が与えたこの制約を私はメカトピアの真の王者を決める試練と考えたのだよ。

 この試練を乗り越えれば、我らロボットの可能性は無限に広がる。

 ホペアは不完全だったがために狂っていたが、ジャックバグという全てを支配する力を示して見せた。

 絶対なる存在になるために、この制約を乗り越える事こそ、神が与えた試練と言わずしてなんという」

 

「それは違うオーロウ!

 神は戒めたのだ! ジャックバグのような存在を平然と作れるようでは世界は混沌と争いに満ちてしまう。

 そんなことにならない為にこの制約が我等にはあるのだ!」

 

 神が本当に戒めの為に制約を作ったのか、アシミーには分からない。

 だがジャックバグの存在を思えば、神が平和の為に制約を作ったのだとアシミーには思えた。

 

「見解の相違だな。 貴様とはつくづく話が合わん」

 

「このような事はやめろ、オーロウ!

 ジャックバグを再び世に放っていったいどれほどの犠牲が出たと思う」

 

「完全なる存在となった私には細事だ。

 全ての制約より解き放たれた私にはロボットそのものを自由に生み出すことが出来るのだからな」

 

「それこそ神への冒涜だ!」

 

 メカトピアのロボット達は同胞と作る時に、男性型と女性型が揃わなければいけない制約がある。

 その制約すらないオーロウは同胞のロボットを量産することが出来ると言っているのだ。

 

「いいや、むしろ神が私に王になれと導いてくれているとすら思っている。

 ヤドリがこの星に降り立ち、私の前に現れリミットサーキットのみを止めたことがその証だ」

 

「貴様がサーキットエラーとなったのはヤドリの仕業か」

 

「ハジメさんの言った通り、とても厄介な存在ね」

 

 ジャックバグの上位互換どころではなく、そのような細かい操作もできる事からヤドリの能力はかなり融通が利くらしい。

 リルルはヤドリの対処に向かったハジメの事が少し心配になる。

 

「ジャックバグの量産にも彼らは尽力してくれた。

 私が完全にメカトピアを掌握し、宇宙にこの名を轟かせる時、彼らはそれに貢献した偉大な種として名を連ねる事になる。

 それでどうだろうか、ヤドリ天帝よ」

 

 不意にオーロウは横を向いて問いかけると、そこにはヤドリの円盤が複数浮かび、一つだけ金色の円盤だった。

 金色の円盤に乗るヤドリこそ、ヤドリの頂点に立つヤドリ天帝だ。

 

「オーロウよ、我らはそのようなものに興味はない。

 契約として地球の人間の体を手に入れてくれればな」

 

「無論だ、ジャックバグによって全てのロボットを兵として使えば地球軍も流石に応戦しきれまい。

 その時にはお前たちも地球のロボットを手に入れるために動くのであろう」

 

「地球のロボットを奪った者がかなりの性能だと絶賛していたのでな。

 我等はロボットの体は好まんが、乗り物にする分には気にしない」

 

 オーロウはメカトピアのロボット全てをジャックバグで支配下に置くことで兵士として運用し、地球軍に勝つつもりでいた。

 ヤドリもまた、地球のロボットの性能を聞いて、手に入れる分には越したことはないと考えていた。

 

「オーロウ! まさか地球人を奴隷にする計画はヤドリの為の物か!」

 

「その通りだ。 奴隷などジャックバグでお前たちを支配すれば済むだけの事だったからな」

 

「どこまでもふざけおって!」

 

 この戦争の発端すら、オーロウとヤドリの思惑と聞いて怒りを見せるアシミー。

 人間だったら頭に血を上らせて真っ赤になっているだろう。

 

「あなた達の思い通りになんかさせない!

 地球との戦争もあなた達も止めて、メカトピアの平和を取り戻す!」

 

 シルビアへの誓いを思い返し、リルルはこの場で決着を着けようとビームリボンを構える。

 

「メカトピアを正すのはこの私だ。

 ヤドリ天帝、王冠を」

 

「ああ、受け取るがいい」

 

 ヤドリ天帝の後ろから、ジャックバグのついていないヤドリが操るロボットがメカメカしい形をした金色の王冠を持ってくる。

 ヤドリの操るロボットによって手渡された冠をオーロウは掲げる。

 

「これこそ私が王として君臨する証であり、その権能。

 この王冠こそジャックバグの全てを支配し、我ら金族が待望した絶対的な力を操る制御装置だ。

 これを被り王に返り咲く瞬間に立ち会えることを光栄に思うがいい」

 

「絶対的な力?」

 

「これ以上一体何があるの?」

 

 リルル達の疑問に答えることなく、オーロウは金色の冠をその頭に装着する。

 それにより冠に施された宝石のような電飾に光が点り、制御装置が起動したことを示す。

 

「さあ、新たなメカトピアの王の誕生だ!

 新たにして完成された永遠の王の誕生に、忠実なる僕共よ、讃えるがいい!!」

 

 

――オーロウオウバンザイ、オーロウオウバンザイ――

 

 

「フハハハハハハハハハ!!!!」

 

 整列していたジャックバグのロボット兵たちが一斉にオーロウを称える声を上げる。

 そこに感情などは一切なく、ただ操られた者達として忠実に行動するだけの人形としての行動だった。

 

 そんな意思を感じない称賛にオーロウは王となったことに興奮し、リルル達は呆れた様子で見ていた。

 自分で操ってる者達に称賛されて何がうれしいのかと、オーロウに一切共感が持てなかった。

 ただジャックバグを操る存在を許すわけにはいかないと、全員が武器を力強く握ってオーロウを倒さんと決意した。

 

 

 

 

 

 



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真・鉄人兵団22

感想、及び誤字報告ありがとうございます


 

 

 

 

「ギャアアビャバヤバババビバイバダビバビァァァ!!!」

 

 その野望を止めんとリルル達が武器を構えた直後、オーロウが発声機能に異常を思わせるような悲鳴を上げる。

 頭を両手で抱え痛みに耐えるように振り回し、異常が起こっている証明にバチバチと青白い光を放ってスパークを起こしている。

 

「一体何が起こっている」

 

「あの制御装置の王冠に何か問題があったんでしょうか?」

 

 明らかな異常にオーロウの思惑にない事が起こっており、構えた武器を振るうのに二の足を踏む。

 やがてオーロウの頭部からのスパークは収まり、両腕をだらんと下ろして力を失ったように俯く。

 様子を窺っていたリルル達は、動かないオーロウにどうするべきかと悩んだ所で、その傍にいたヤドリ天帝が先に動いた。

 

「ようやく黙ったか、オーロウよ。 これで貴様の戯言を聞かなくて済む」

 

「…ヤドリ天帝だったか? 貴様が何かしたのか」

 

「生身の体を手に入れてくるまではいい夢を見させてやろうと手を貸してやっていたが、思っていたほど使えんかった。

 始めからさっさとこうしておれば、こやつの妄想に無駄に付き合う事もなかった」

 

「何をしたと聞いている!」

 

 質問にさして気にも留めようともしないヤドリ天帝に、アシミーは大声で再度問いかける。

 動かなくなったオーロウを見ていたヤドリ天帝は、ようやくアシミーの方を目にとめる。

 

「我等がこやつに手を貸してやっていたのは半分はタダの戯れだ。

 電子頭脳を弄りジャックバグというおもちゃを作るのを手伝ってやった。

 生身の肉体を手に入れてくる事がその対価だったが、力の差を理解出来ずに逆に攻め込まれる始末。

 手が足りぬと分かり、仕方なく我が配下たちが地球のロボットの相手をせねばならぬほどのていたらく。

 これほど使えぬのであれば、始めからこうして意思を砕いて人形にしておればよかった」

 

「人形にだと! オーロウに何をしたのだ!」

 

「おもちゃに操られる人形の王にしてやったのだ。

 人形の王であれば、王もまた人形に決まっていよう。

 その王冠は確かにすべてのジャックバグに指令を送る制御装置だが、同時にジャックバグでもある」

 

「なに!」

 

「じゃあオーロウは!」

 

 アシミーとリルルはオーロウに何が起こったのか察する。

 ジャックバグが頭についたという事は、電子頭脳を貫かれて体の制御を奪われたという事だ。

 王冠の内側になって見えないが、オーロウの頭部はレーザーニードルで貫かれ電子頭脳にケーブルが入り込み強制接続されている。

 オーロウもまた、ジャックバグの支配下に置かれていた。

 

「それを制御装置として使うには、被るのではなくこうするのだ」

 

 ヤドリ天帝はオーロウの真上まで飛んでいくと、そこで止まりゆっくりと降りていく。

 オーロウの頭部に取り付けられたジャックバグの王冠は、放射状に上方に角が伸びて内側が空いている円環型だ。

 ヤドリ天帝がその円環の中央に収まったとき、上に伸びる王冠の角の半分が可動して円盤を固定した。

 

――ガチャン!――

 

 しっかりとした固定音と共にヤドリ天帝は制御装置を通してオーロウの頭部の上にドッキングした。

 始めからヤドリの円盤が収まるように制御装置は作られていた。

 

「この制御装置は私が使うためにあるのだ。

 オーロウも人形の王として我等に使われるなら本望だろう」

 

「オーロウも利用されていたというわけか」

 

「どちらでも構わないわ。 メカトピアの平和を取り戻すために貴方たちを倒すだけ」

 

「確かにその通りだ!」

 

 標的がヤドリに絞られただけだと、アシミーとリルルは改めて武器を構えなおす。

 二人の対応にジムと兵士達も何時でも攻撃を開始出来るように身構える。

 

「オーロウの無能さに多少予定が狂ったが問題ない。

 ジャックバグでこの星のロボットを全て操り、支配下においた地球のロボット兵を使って地球に向かい、地球人を我らの体にする。

 お前たちも我らの為の駒になるといい」

 

「お断わりよ!」

 

「総員、攻撃かい」

 

 

――ドガアアアアァァァァンンン!!!――

 

 

「「「!?」」」

 

 アシミーが兵への攻撃の号令をだそうとした時、彼らが入ってきた入り口とは別の扉が爆発で外から吹き飛ばされ、吹き飛んだ扉が整列していたジャックバグ付きのメカトピア兵の中に飛び込んだ。

 思いがけない突然の爆音に、リルル達もヤドリ天帝たちも吹き飛んだ別の入り口の方に注意が向く。

 

「マイスター、どうやらまだ戦闘は始まっていないようです」

 

「交戦中かと思って少し先行したが、早とちりだったか」

 

 爆炎の残り火がある入り口には、爆熱ゴッドフィンガーを放った体勢のゴッドガンダムINハジメと、ビームライフルと盾を構えたファーストが立っていた。

 その後方からは、二人を追って遅れて来るジム部隊の姿が(まば)らに見えた。

 

「ハジメ殿か!」「ハジメさん!」

 

 爆炎の中から現れたのが、二手に分かれて様子の分からなかったハジメである事に安堵するリルル達。

 

「敵の反応がたくさんある場所に、リルルとジム達の反応があったから少し急いできたんだが、大丈夫だったみたいだな」

 

 リルルの外装と兵士であるジムには味方としての信号を発しており、ハジメにはある程度居場所を把握できていた。

 先行した二人に後方からジムがどんどん追いついてくる。

 地下施設に侵攻したメカトピア側のロボット達が再び集結しようとしていた。

 

「なぜ地球のロボットがここにいる。

 貴様らは私の配下が相手をしていたはずだ」

 

「ヤドリ天帝だったか。 あの場所にいないからどこにいるのかと思ったら、リルル達の方にいたのか。

 お前の仲間なら僕らが一匹残らず全滅させた」

 

「なんだと! おい! ………おい、応答しろ!」

 

 ヤドリ天帝が通信を送って返答を待つが応答はない。

 ハジメは先ほど戦った場所にいたヤドリを、センサーの反応がなくなるまで虱潰しに探し回り、真空ソープで徹底的に汚れ一つ見逃さずにきれいにするように殲滅した。

 

 真空ソープの効果でどんどん死んでいくヤドリに、機械を使う事で発声できた者達の中には命乞いをする者もいた。

 ヤドリは一瞬で泡に包まれて窒息するせいか、断末魔を聞く事はなかったが、母船の内部に浸透するように攻撃を仕掛けた時は、どんどん消えていく同胞に恐慌に陥るものや怨言を叫ぶもの、命乞いをするものなど、追い詰められた者達の最後の声を多くハジメは耳にした。

 自分が脅威だからという理由で殺すからこそ、その声をハジメはすべて消えるまで聞き続けた。

 終わったときにはハジメも憔悴していたが、リルル達の事を思い出してまだ終わっていないと、預けたジム達とノーベルガンダムの外装の反応を追いかけてこの場まで駆け付けた。

 

「………まさか、本当に全滅したというのか」

 

「お前たちヤドリの対策を僕らは用意してあった。

 寄生能力は厄介だが、それを無効化する方法があればお前たちを倒す事など難しくはない。

 母船も破壊して残っているのはここにいたお前たちだけだろう」

 

「母船もだと! あそこには800万もの我が臣民がいたのだぞ!」

 

 ヤドリは小さいが故に小型に見える母船でもそれだけの数が収容されていた。

 その全てを殺されたという事は、ヤドリ天帝のとって国民の全てを殺されたに等しい。

 そのような事実は、自身の絶対性を信じていたヤドリ天帝に受け入れられるものではない。

 

「その全てを殺した。 僕はこの場でお前たちを全て殺しつくすつもりだ。

 恨むなとは言わない。 諦めろとも言わない。 全力で抗うといい。

 その上で僕はヤドリを滅ぼしつくし、以後の遺恨も懸念も一切残さず断ち切る」

 

 ハジメはヤドリ天帝に対して一切揺るがない殺意を示す。

 その様子をリルル達は些か困惑するように見ている。

 これまで戦争状態であってもメカトピアに温厚さを示してきたハジメの強い殺意に、これまでの印象から大きな違和感を感じていた。

 

 リルルはハジメの優しさをシルビアによって示されていたので、そんな殺意を見せる姿が特に大きな違和感を感じていた

 ここまで殺意を見せるほど、ハジメはヤドリを憎んでいるのか殺さなければならない理由があるのか。

 そして、その殺意がメカトピアに向けられなかったことに僅かばかりの安堵があった。

 

「………許さん…許さんぞ」

 

 ヤドリ天帝はドッキングする事で自身の体となった、オーロウの拳を握り震わせて怒りを顕わにする。

 

「我が全ての臣民を殺したなどと、その大逆を犯した貴様らを絶対に許さん!」

 

「許しなど、尚の事要りはしない。

 ヤドリには何一つ残さず消えてもらう。

 それですべて終わりだ」

 

「やれ、人形共!! 奴を破壊しろ!」

 

 ヤドリ天帝の怒りを含ませた号令に、ジャックバグは兵士の体を操ってハジメに向かって攻撃を仕掛けた。

 フィンガーレーザーやプラズマライフルの光線が飛び、即座にファーストとジム達が盾を構えてハジメを守った。

 

「ジム部隊、応戦せよ!」

 

「こちらも攻撃開始。 俺達も忘れてもらっては困る」

 

 ファーストの号令でジム達もビームライフルで攻撃を開始し、アシミー達メカトピア軍も攻撃を開始した。

 待ち構えていたジャックバグの兵の数はメカトピア軍よりも多いが、ハジメ達率いるジム部隊によって数の差は逆転している。

 ヤドリ天帝の命令でジャックバグの兵はハジメに攻撃を集中させているが、ファースト達の盾により攻撃はほぼ防げている。

 対してジャックバグの兵士たちは、ハジメに攻撃する事を意識するあまりジム達とメカトピア兵の攻撃をうけてどんどん倒れていく。

 ハジメ達が到着していなければ戦力は拮抗していたが、今のままではあっという間にジャックバグの兵は全滅するだろう。

 

「おのれ! やはりこんな人形では役に立たんか!」

 

 悪態をつくとオーロウの体を翻し、残ったヤドリの仲間を連れて奥の方へ走りだす。

 

「逃がすな、ファースト!」

 

「ジム部隊、追撃せよ」

 

 ハジメ達の後方にいたジム達が飛び上がり、上を回ってヤドリ達を追いかけようとする。

 それを止める様にジャックバグの兵たちが、飛んでいるジムに向かって飛びかかり動きを止めていく。

 その間にヤドリ天帝たちは奥のゲートを潜ると、そこで立ち止まって再びハジメ達を見た。

 

「逃げはせん! 800万の我が臣民を虐殺した貴様ら地球軍を、生かしたままにしてなるものか!

 貴様らも、上にいる地球軍も皆殺しにしてくれる!!」

 

 

――ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォ!!!――

 

 

 ヤドリ天帝の宣言と同時に大きな爆発と振動が発生し、地下施設全体が大きく揺れ始める。

 あまりの揺れに床に立っていた者達は体勢を崩し、戦っていた者達も攻撃が途切れる。

 

 更にヤドリ天帝たちが立ち止まった前のゲートの扉が閉じ始めた。

 

「何をした!」

 

 地下施設全体の揺れに、ただ事ではないとアシミーは問う。

 揺れと爆発は一向に収まらず、天井が壊れて鉄材の一部が落ちてくる。

 

「ここにもう用はない! この地下施設の崩壊で押しつぶされるがいい!

 聖地で生き埋めになるなら貴様らも光栄だろう!」

 

「追い詰められて基地を自爆とは、物語の要点を押さえているじゃないか!」

 

 この展開によくあるパターンだと思ったハジメは、称賛を込めた皮肉をヤドリ天帝に送る。

 

「私は追い詰められてなどいない! すべてを破壊する力を呼び起こした!

 このまま地上に上がり貴様らの仲間をすべて破壊してくれる!」

 

 ジム部隊、メカトピア軍の遠距離攻撃でヤドリ天帝を狙うが、残ったジャックバグの兵士たちがハジメへの攻撃をやめ、盾となって攻撃を妨害する。

 その間にゲートは更に閉じていき、ヤドリ天帝の姿も扉の向こうに消えていく。

 

「どうするかハジメ殿 奴らを追うべきか?」

 

 アシミーの問いにハジメは、この止まらない揺れとヤドリ天帝の言葉から、この地下施設が崩壊する事は確信できた。

 今ヤドリ天帝を追うべきかどうかハジメは悩むが、この場にはメカトピア兵達がたくさんいる事で、それを見捨てて身勝手にヤドリ天帝を追う事は出来ない。

 

「脱出しましょう。 逃げたヤドリも地上に出るなら仲間が逃げられないように捕捉してくれるはずです。

 まずはこの崩壊する地下施設から全員の脱出を優先します」

 

「わかった、まずはどう行く」

 

 ハジメは地図を見て脱出ルートを考える。

 地下施設は入り組んでいる。

 地図を見ながら出ないと真っ直ぐ出口にたどり着けない。

 

「…アシミーさん達が来た通路を逆走しましょう。

 まずは少し戻った大きな吹き抜けの縦穴まで行きます」

 

「わかった。 総員転進! 駆け足で来た道を戻れ!」 

 

 メカトピア兵は流石軍隊という様子で、キビキビと動いて流れるように来た道を進んでいく。

 普通の集団行動であればどこかで動きに滞りが出来てスムーズに動けないものだ。

 精鋭の軍隊らしい動きに、ハジメも流石と余裕がないのに感心してしまう。

 早くいけと言わんばかりに、再び天井の一部が崩れて落ちてくる。

 

「あまり時間はなさそうだ。 我々も急ごう」

 

「はい」

 

「ファースト、彼らに負けない隊列行動をジムに取らせろ」

 

「了解です」

 

 メカトピア兵の後にハジメ達主要メンバーが続き、その更に殿にジム部隊が隊列を組んで追いかける。

 崩壊の始まった部屋には、戦闘によって破壊されたジャックバグの兵だけが残った。

 

 

 

 

 

 



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真・鉄人兵団23

 感想及び誤字報告ありがとうございます。
 タグを使い始めましたが、ちょっと見にくいかな?



 

 

 

 

 

 撤退を開始したハジメ達とメカトピア軍は、崩壊を続ける地下施設の通路を駆け抜けていた。

 施設全体の揺れは収まることなく続き、どこかでエネルギー漏れが起こって遠くの方からも爆発音がいくつも聞こえる。

 通路にも崩壊を始めたことによって落ちてくる鉄材が散らばり、時折落ちてくるものに当たってしまう兵士も何人かいた。

 しかしここにいるのは人間ではなく鋼鉄の装甲を纏ったロボットばかりで、天井からの落下物程度の衝撃で行動不能になるものはほとんどいなかった。

 

 順調に通路を駆けていたが、前を進んでいたメカトピア兵の足が止まる。

 何事かと思いながら、前が止まってしまった以上ハジメ達もそこで足を止めざるを得ない。

 

「何があった?」

 

「申し訳ありませんアシミー様!

 縦穴の前の出入口が大量の落下物で塞がってしまっているようなのです」

 

 兵士たちの向こうを見れば、天井から降ってきたと思しき鉄材の山が見えた。

 

「退かせないのか?」

 

「時間を掛ければ少しづつ瓦礫を退かせそうですが…」

 

「その様な時間はない、か」

 

 アシミーは仕方なく一度戻って別のルートを進もうとハジメに提案しようとする。

 

「僕が瓦礫を吹き飛ばします」

 

「出来るのか?」

 

「迂回するならそれを試してからです。

 兵士に道を開けさせてください」

 

「わかった。 総員、道を開けろ!」

 

 アシミーの命令で兵士たちはあっという間にハジメが駆け抜けられる道が生まれる。

 

「瓦礫の前の兵士も下がってください!」

 

 そう忠告しながら、ハジメは兵士たちの間を駆け抜けていく。

 

俺のこの手が真っ赤に燃える。 勝利を掴めと、轟き叫ぶ

 

 必殺技のキーワードに従い、背部の羽と胸部の装甲が展開し輝きを発し始める。

 更に両腕を左右に開いて、両手のプロテクターもスライドさせて力をため込む。

 流石にこの兵士たちの見る中で叫ぶのは恥ずかしいと、小声で前座のキーワードを呟く。

 必殺技を出すのにこのキーワードを言わないといけないと設定してしまったので、人前であってもこのワード詠唱は必要不可欠だった。

 省略しても使えるようにしておけばよかったと、つまらない遊び心に少し後悔する。

 

爆熱! ゴッドフィンガー!!

 

 その叫びと同時に両手を道を塞ぐ瓦礫の山にたたきつけた。

 

バースト!

 

 続けた掛け声とともに爆発のエネルギーを前方に向けて一斉に開放した。

 近接で敵を倒す以外にエネルギーを前方に拡散させるやり方が出来るように機能を追加していた。

 先ほどリルル達と合流した時に扉を壊したのもこのやり方だった。

 

 瓦礫の山はハジメの予測通りに必殺技のエネルギーに耐えられず、爆発によって前方に押し出され通路を開くことが出来た。

 その先は上下の吹き抜けになった広い大きな縦穴になっており、空を飛べば兵士もジム達が全員は入れるスペースがあった。

 ハジメが一足先に縦穴に出て飛んでみるが、崩壊によって上から色々落ちてきており、注意しなければならないと感じる。

 

「大丈夫だ。 だが上から落ちてくるものには注意しろ」

 

 ハジメの呼びかけに兵士たちがハジメに続いて縦穴に出て飛び上がってくる。

 流れるように兵士たちは通路を抜けて、後方にいたアシミー達とそれに続いてファーストとジム達も抜けてくる。

 

「ハジメ殿、よくやってくれた」

 

「気にしないでください。 それよりも急ぎましょう」

 

 アシミーの感謝を流し、ハジメは時間がないと急かす。

 上からは巨大な鉄管などもバラバラと降ってきて、崩壊が進んでいることがうかがえる。

 全員急いで地上に近づくように上に向かって飛んでいく。

 縦穴の天井は地上には通じておらず、再び横への通路が四方にあるだけだった。

 

「次はどっちに行く」

 

「ここは地上にだいぶ近いはずです。

 この天井をぶち抜いて脱出します」

 

「もう一度さっきの攻撃をやるのか?」

 

「いえ、下からの攻撃では崩落して危険ですし、地上までは先ほどの障害よりも分厚いので抜けるか分かりません。

 仲間に連絡して上から穴を開けてもらいます」

 

 ハジメは船に通信を開き、隊長に連絡を取る。

 

「隊長、聞こえているか?」

 

『ああ、そちらの様子は把握している。

 だが外も凄い事になっているぞ』

 

 船から地下にいるハジメ達の様子をモニターしている隊長は、地上の様子も同時に把握している。

 地上では何かが起こっているらしいが、今は脱出を優先させたいとハジメは聞き流す。

 

「凄い事? この施設の崩壊と関係があるのかわからないが、ウイングは今空いてるか?」

 

『ウイング? …ああ、なるほど、そういう事か!』

 

 様子を窺っていた隊長には、ハジメが何を求めているのかウイングの名前を聞いて察しがついた。

 

『外の雑魚の掃討も終わって、今は手は空いている状態だ。

 全力でぶっ放させるから、そっちの準備が終わったら声をかけてくれ』

 

「察しが良くて助かる。 巻き込まれないように退避させるから少し待ってくれ」

 

 同じハジメである隊長には、ハジメの望んでいることを察するのは難しい事ではない。

 

「アシミーさん! 兵士を横の通路に逃がしてください。

 天井を地上からの攻撃で穴を開けるので、縦穴から避難させてください」

 

「わかった。 総員、横の通路に入って縦穴から離れろ。

 天井が崩れるぞ!」

 

 アシミーの指示に兵士たちは従い、迅速に横の通路に入っていく。

 

「ファーストもジム達を横の通路へ!」

 

「了解です」

 

 ジム達も横の通路に入っていき、最後にハジメ達も通路に入って、縦穴にいるものは誰もいなくなった。

 

「隊長、こっちはいつでもOKだ」

 

『了解した。 ウイング、目標の地下の縦穴の位置は分かっているな!』

 

『問題ありません。 データと照合して縦穴の上部に待機しています』

 

 隊長の方はウイングに既に指示を出して配置に着かせていた。

 

『よし、バスターライフル、フルパワーで発射だ!』

 

『了解。 バスターライフル、発射します』

 

「来るぞ! 衝撃に備えろ!」

 

 ハジメが通路に避難した者達の声をかけた直後、施設の揺れとは別に大きな衝撃が起きた。

 僅かに時間が開いた後に縦穴の天井が赤熱化して、次の瞬間には巨大なビームが突き抜けていった。

 もし縦穴に残っていれば、多くの兵士が成す術もなく飲み込まれて消滅していただろう。

 

 ビームは天井を貫いてすぐに止み、あとには貫かれた天井の大穴の側面が赤く熱を発しながら溶け残っている。

 これでモビルソルジャーのウイングのバスターライフルの威力なのだから、オリジナルのサイズになれば相当な破壊力になるだろう。

 

「あとは外に出るだけです。 アシミーさん、兵を送り出してください」

 

「わ、わかった。 全員急いで穴から脱出しろ!」

 

 メカトピアの兵士を優先して外に送り出し、アシミーは通路前の縦穴で全員が出るのを確認するために様子を見ている。

 

「地上からここまで貫くとはすさまじい威力だったが、先ほどのは戦艦の砲撃か?」

 

 縦穴の天井から地上までは、貫かれて道が出来たことによってその厚みが明確になっている。

 その厚みは十メートル以上は優にあり、並の威力の武器では一度で破壊するのは無理だとはっきりわかる。

 

「いえ、あの真上にいるロボットの高出力のビームライフルの威力です」

 

 貫かれた天井から見える上空には、バスターライフルを撃った後のウイングが待機していた。

 こういう事をやらせるのだったら、ツインバスターライフルを持つウイングゼロを連れて来ておけばよかったとハジメは少し思った

 

「………あのサイズのロボットでこの威力が出せるとは、つくづく地球に戦いを挑んだ我らの馬鹿さ加減に呆れる」

 

「ですが、金族に取り入ったヤドリの暗躍が原因ではないですか」

 

「我ら以外の思惑によって動かされていたのでは、尚の事呆れるではないか」

 

 メカトピアの議員として地球のロボットの(こわ)さに、改めて失敗を自覚して自虐する。

 その間も兵士たちは迅速に地上に抜け出していき、ハジメ達と後にはジム達が続く。

 

「外では何か起こっているようです。

 上に逃げる様子だったヤドリ天帝の事達も気になります。

 僕らもそろそろ上に上がりましょう」

 

「そうだな、このまま奴らを逃がすわけにはいかない」

 

「急ぎましょう。 ヤドリが上に行ってるなら早く捕まえないと」

 

 リルルはヤドリを逃がすわけにはいかないと地上を目指して飛び上がり、アシミーとハジメも追って上に飛び、それに続いてファーストとジム部隊がついていった。

 地上に抜けようとしたリルルは、先に外に出た兵たちが全員同じ方向を見ている事に気づく。

 それにつられてリルルも地上に出ると同時に同じ方向を見ると、次の瞬間には絶句する。

 

「っ!!」

 

「どうしたリルル」

 

「アシミー様、あれを!」

 

「なっ!!」

 

 リルルが指示した方向にあったのは、聖地から生える見上げるほど大きな巨大なロボットの上半身。

 しかも地下からせり上がってきており、その全容は予想するだけで全長一キロ近い物になると予想できた。

 

「奴ら、あんなものを地下で作っていたのか!」

 

 アシミーのいう奴らとはヤドリかオーロウかはわからないが、あの大きさの物を建造するとなれば相当昔から作られてきたのだと予想できる。

 それに気づけば、ヤドリがメカトピアにやってきたのはごく最近であり、おそらくオーロウ率いる金族によって時間をかけて作られたのだろうと予想出来た。

 あれほどの物を作ろうという金族の考えは碌なものではないとアシミーは察するが、まず間違いなくあれを操っているのがヤドリ天帝だ。

 

「ヤドリ天帝が言っていた力とはあれの事か」

 

「あれほど大きなロボットであれば、確かに動かすだけで多くを圧倒出来る力でしょうね」

 

「どうしよう、ハジメさん」

 

 その巨大さに圧倒されて、リルルはハジメを頼るように尋ねる。

 

「確かに大きさは脅威だけど、大きいなら大きいでやりようがある。

 正面から戦おうとはせずに、あのロボットの中に潜り込んで動力なんかの重要機関を破壊すれば倒せるだろう。

 あれだけの大きさだ。 内部に動き回れるスペースもあるはず」

 

「そ、そうね!」

 

「なるほど、それならばあの巨体相手でも倒す事は出来るか。

 俺は艦隊の司令部に合流して兵たちの指揮を取り直す。

 あれのせいでだいぶ混乱しているようだからな」

 

 周りを見れば、兵士たちはあの巨大なロボットの威容さに飲まれて狼狽えている。

 統率を取り直す必要がありそうだ。

 

 そんな時に、周りの兵士たちが騒ぎ始め、ロボットの方を指で指し示すものが増える。

 

「何だ?」

 

「見て! あの大きなロボットの腕!」

 

 リルルが気付いた指を指し示す方向には、巨大ロボットの腕があった。

 近寄りせり上がってくるロボットはついに指の先まで地上に姿を現していた。

 その腕が地上にすべて出ると同時に動き出し、両手を広げながら少しずつ腕を上げ始めていた。

 

「何かしようとしているみたいです。

 アシミーさんは何が起こってもいいように、兵士たちの指揮を取り直してください」

 

「わかった、すまないが行かせてもらう!」

 

 アシミーは指揮をとるために司令部に向かって全速力で飛んでいく。

 

「リルルはどうする?」

 

「この姿じゃあアシミー様と一緒に行っても目立つだけよ。

 ハジメさんについていくわ」

 

「なら僕らも旗艦に戻ろう」

 

 ファーストとジム部隊も引き連れ、いったん自分たちの船に合流するために飛んでいく。

 旗艦にたどり着くまでもうすぐといったところで、隊長から通信が入る。

 

『気を付けろ! あの巨大ロボットの両腕にエネルギーが集まっている!』

 

「なんだって」

 

 隊長の通信は全ての自軍に送られており、警告を聞いたモビルソルジャー達が警戒態勢を取った。

 ハジメとリルルの周りに巨大ロボットに対して壁になるように、ファーストがジム達を集結させる。

 

「隊長、メカトピア軍への警告は!?」

 

『そちらにも警告は送っている! それよりも動きがあるぞ!』

 

 ハジメが改めて巨大ロボットを見れば、腕が水平に持ち上げられ手を開き指を広げている。

 両腕の装甲の各所が開いて、そこから砲身が飛び出してエネルギーを貯めているのがわかる。

 巨大なロボットの腕だけあって装甲の面積はとても広く、装甲が開いて飛び出す砲身の数が数え切れなかった。

 

『攻撃来るぞ! 全員防御態勢! バリア出力最大!』

 

『了解、バリア出力最大』

 

 隊長が命令を下した直後、巨大ロボットの両腕の無数の砲身から一斉に光線が放たれた。

 

 

――バシュシュシュシューーーーーーン!!!――

 

 

 花火の様に広がった無数の光線は無差別にこの場にいたロボットに降り注ぎ、盾を持ったモビルソルジャーは耐え抜いた者が多くいたが、バリアすらないメカトピア兵たちは直撃すれば無事では済まなかった。

 無数に放たれた光線故に威力は低いように思えるが、放ったのは見上げるほど巨大なロボットだ。

 一条一条の威力は戦艦の主砲ほどではなくても、人サイズのロボットでは容易に貫かれて複数体纏めて破壊されたロボットもいた。

 ハジメ達のモビルソルジャーもそれなりに被害が出ている。

 

「結構な威力だ。 これだけ無差別の連続攻撃なら威力はそこそこ低いはずなんだが」

 

「あれほどの大きさだもの。 その分高い出力の動力を備えているはずよ。

 ジム達が盾を構えてくれなかったら、私達も危なかったわ」

 

 ハジメ達の前にジムが並んで盾を構える事で、光線を一切通す事はなかった。

 他の場所に飛んでいった光線が、味方を纏めて貫いて撃墜するのが見えて、その威力に少なからず慄く。

 

『どうだ見たか、地球のロボットよ、メカトピアのロボット共!』

 

 攻撃を終えた巨大ロボットから外部スピーカーによって大きな声が響き渡る。

 その声は先ほど地下施設で遭遇したヤドリ天帝の物だった。

 

『これこそ金族の生み出した絶対的な力、機神ガインだ!!

 下らぬ虚栄心の為に生み出されたコレを使うのは業腹だが、我が臣民を殺した物共を断罪出来るのであれば手段は選ばん!

 塵芥に還るがいい、地球軍!』

 

 

――バシュシュシュシューーーーーーン!!!――

 

 

 再び腕の無数の砲身から光線が発射される。

 今度は無差別ではなくハジメ達地球側のロボットや戦艦に多く当たるように、攻撃を地球側に集中させている。

 ジム達の盾によってハジメ達は無傷で済んでいるが、光線の雨は散発的に放たれ途切れる事がない。

 

「これは思ったより拙いかもしれないな」

 

「少なくともメカトピア軍のロボットじゃ、さっきハジメさんが言ってた作戦を決行する前にこの光線の雨にやられちゃうわ」

 

「この光線も量産機には無視できない攻撃力だ」

 

 盾に隠れた横目で見れば、盾を持たないムラサメや火力重視のザクが回避に失敗して落とされるものがそこそこ見受けられる。

 

『工作員、そのまま耐え続けるのは辛いだろう。

 一旦船に帰還するか戦艦の後方に回れ。

 この攻撃も船のバリアなら十分耐えられる』

 

 ハジメ達が自軍の船の方を確認すれば、無数に放たれる光線をバリアが全て弾いていた。

 

「よし、一旦船の中に戻るよ」

 

「わかったわ」

 

 ハジメ達は攻撃に晒されていない後部のバリアを解除してもらい、旗艦の中へ退避した。

 

 

 

 

 

 





ウイング「任務完了」

 セリフは場面上出せなかったけど、きっと言っていたと思う。

 残念ながらウイングはゼロではなくTV版の初期型です。
 なんか調べてみたらウイングっていくつもバージョンがあるんですね。
 地上をぶち抜くシチュエーションに気づいてくれると嬉しいです


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真・鉄人兵団24

 感想及び誤字報告ありがとうございます


 

 

 

 

 

 光線の雨に晒されていたハジメ達は旗艦に退避し、隊長のいるブリッジまで戻ってきた。

 外にいた主力機たちも、船のバリアならまだ耐えられると、作戦会議の為に一緒にブリッジまできていた。

 

「お疲れさん、見ていたがしっかりゼータを取り戻せたな」

 

「大破させるしかなかったがな。 ちゃんと回収は出来たか?」

 

 地下施設で撃破したゼータは、ハジメ達はリルルに合流しなければならなかったので持ち運ぶことが出来なかった。

 ヤドリの寄生対策に秘密道具関連をハジメは持っていなかったので、四次元ポケットなどに入れるような運搬方法もなかった。

 なので隊長に連絡して、【取り寄せバッグ】で大破しているゼータのボディを遠くから回収してもらったのだ。

 

「回収した。 一応ヤドリの寄生を確認してから、ドラ丸が【復元光線】で修復している。

 ほら、そこにいる」

 

 隊長が示した先には、ドラ丸の横に立つ完全な状態のゼータがいた。

 ヤドリの確認は念の為だ。 復元光線は生物には効果が無いが、修復の可能性を考えヤドリの復活を警戒し確認を取っている。

 タイムふろしきでは生物も復活させられるので、それを使ったゼータの修復は行わなかった。

 

「ご迷惑をおかけしました、マイスター。

 敵に操られてしまうとは…」

 

「気にするな、僕らの注意が足りなかっただけだ。

 ヤドリの存在を事前に確認していればこうなる事はなかった」

 

 事実、ハジメ達はメカトピアに対してそれほど警戒をしていなかった。

 作り出したモビルソルジャーも、メカトピアのロボットの戦闘能力の水準を大きく上回っていることから、大した警戒はいらないと情報収集を必要以上に行わず、黒幕のヤドリの存在を見逃していた。

 その事からハジメ達に油断があったのだと自覚をしている。

 

「それでこれからどうする。 僕はあのロボットに侵入して内部破壊をアシミーさんに提示したけど」

 

「僕もそれは考えたがこの攻撃の中じゃ、侵入は量産機には難しいな。

 内部にたどり着く前に集中砲火で破壊されかねん」

 

「いけるとなると攻撃に耐えられそうな主力機か。

 ヤドリも残り少ないはずだから、彼らを向かわせるのも悪くはないか」

 

「ねえ、ちょっといいかしら」

 

 提案があるといった様子で片手を上げて話しかけてくるリルル。

 

「どうかしたリルル?」

 

「あなた達の戦艦の砲撃であのロボットを攻撃できないの?

 前に見た宇宙船を一撃で落とすほどの威力ならあの巨大なロボットを倒す事は出来ない?」

 

 その提案にハジメと隊長もハッとなる。

 戦艦による砲撃などすっかり忘れていたからだ。

 

「その手があったな。 メカトピアに来てから戦艦の砲撃なんてやってなかったから」

 

「宇宙での戦いでは、メカトピア軍の損害を調整しないといけなかったから、戦艦の主砲なんてなかなか使えなかった。

 使ってたらあっという間にメカトピア軍が壊滅していただろうし」

 

「モビルソルジャーが暴れるだけで十分だったからな」

 

 メカトピア軍に損傷を与えても滅ぼすわけにはいかなかったハジメ達には、戦艦の砲撃はオーバキルで使用する事が頭から消え去っていた。

 リルルは脅威と見なされていなかったメカトピア軍を、仕方ないとはいえ同胞として少しばかり不憫に思ってしまう。

 

「よし、各艦の隊列を整えるぞ。

 前列の艦はバリアにエネルギーを集中させて後方の艦を守れ。

 後方七番八番艦はローエングリン発射準備に入れ。

 準備が出来次第、前列の艦の退避後に発射だ」

 

 ローエングリンはアークエンジェルの最大の威力を誇る左右の艦首に搭載された陽電子砲だ。

 9隻あるアークエンジェル型の戦艦にバリアによる守備役と、ローエングリンを放つ攻撃役に分けた。

 ほとんどモビルソルジャーの運搬役でしかなかった戦艦が活躍するときが来たのたが、オペレータから新たな報告が入る。

 

「マイスター。 敵に新たな動きがあります」

 

「なに?」

 

 機神ガインと呼ばれた巨大ロボットは、ついに全容を地下から現し、巨大な両足は地面を離れて浮かび上がっている。

 反重力エンジンのような飛行機能が機神ガインを浮かび上がらせ、鈍重な巨体に機動力を与えようとしているのだ。

 戦闘を行なえるメカトピア兵が自在に飛び回れることから、機神ガインにも空を飛ぶ機能があってもおかしくはない。

 

 全身を現し浮かび上がった機神ガインは両腕による無数に光線攻撃を一時停止し、両腕を左右に開き胸部を晒す。

 胸部の装甲が変形を開始し、内部から巨大な砲身が見え始めた時には、ハジメ達もなにをしようとしているのか察しがついた。

 

 

『バリアで耐えようとも無駄だ!! それが脆弱な守りだと知れ!!』

 

 

 胸部にエネルギーが集中し始めるのを、ハジメ達の船が検知してモニターに表示する。

 その表示を見ることなく、隊長はすぐさま防御態勢を取るべく指示を出す。

 

「前列一番二番三番艦、バリア最大出力!

 全エネルギーを集中させ、三隻のバリアを同期させろ!

 四番五番六番艦、一番二番三番の後ろに着いてΔ陣形でバリアを展開し第二防壁として旗艦の盾に成れ!

 急げ!」

 

 胸部より姿を現した巨大な砲門に危機感を覚えた隊長が、アークエンジェルの艦隊による二重の防壁を作ろうと指示を出す。

 

「そうだ!? 各艦の船長を務めるコピーは、後をモビルソルジャーに任せて旗艦に退避だ!」

 

 船長を務めているコピーの事を思い出し、隊長は旗艦に退避するようにも指示を出す。

 各艦の船長を務めていたコピー達も危機的な状況にすぐに退避を始め、隊長のいるブリッジにどこでもドアを使って一斉に逃げ込んできた。

 一気に10人同じ姿の人間が揃う事になったので(ゴッドガンダムINハジメは除く)、急な状況ではあってもリルルが困惑してしまうのは仕方なかった。

 

 ほとんど飾りであった船長のハジメがいなくなっても、全てのアークエンジェルは問題なく動く。

 モビルソルジャーによって動かされる戦艦は、機械であるがゆえに迅速に隊長の指示した陣形となって防御態勢を整え、敵の攻撃に間に合った。

 

 

『消えてなくなれぇ!!』

 

 

 ヤドリ天帝の叫びが轟くと、機神ガインの胸部のエネルギーが一瞬発光し、次の瞬間溜め込まれた全てのエネルギーが解放された。

 

 

――ギュォオオオオォォォォォンンン!!!!――

 

 

 エネルギー砲は前列に並んだ戦艦三隻のバリアに阻まれた。

 一隻さえかなりの強度を誇るバリアを、三隻同期させて強度と出力を高めたことで、並大抵の攻撃ではビクともしないものとなっている。

 しかし機神ガインの巨体故に搭載できた大出力の動力炉から供給されたエネルギー砲は、ハジメ達の警戒した通り並大抵の攻撃ではなかった。

 持続して放たれ続けるエネルギー砲の奔流に、三隻の艦のバリアには大きな負荷がかかり、バリア発生装置とエネルギーを生み出す動力炉が出力限界に達してショートし始めていた。

 

 三隻のバリアが壊れる寸前になったところで、機神ガインのエネルギー放出の方も限界を迎えて攻撃が止んだ。

 バリアも戦艦自体も無事だったが、多大な負荷により各所から煙を上げていた。

 

「バリアで受け止めた三艦の状態は?」

 

「バリア出力合計23%まで低下。 動力炉も過負荷により異常が発生しています。

 次の攻撃には耐えられません」

 

「1・2・3番艦を後退。 後続で陣形を整えていた4・5・6番艦を旗艦の守りとして前に出せ」

 

「了解。 7・8番艦のローエングリンの発射準備が整っています」

 

「そうか! 7・8番艦の前を開けろ!

 態勢が整い次第、即時発射だ」

 

 オペレーターの報告に攻撃準備をしていたことを思い出す隊長。

 隊列変更の指示を出して、7・8番艦の射線から他の艦を移動させる。

 1・2・3番艦は出力の低下で船速が遅くなっていたが、無人艦の対応速度はそれでも迅速な方だった。

 

「7・8番艦の射線開きました。 敵ロボット、こちらの砲撃に気づいている模様」

 

 陽電子砲の巨大な砲身を現したことで7・8番艦が砲撃態勢である事にヤドリ天帝は気づき、機神ガインに腕を交差させるように前に出して身構えさせているようにも見えた。

 

「かまわない! 7・8番艦、ローエングリン同時発射だ!」

 

「了解、発射命令発信。 ローエングリン発射します」

 

 

――ギュオオオォォォォォォォンン!!!――

 

 

 オペレータの発進した発射命令に7・8番艦から二対計四条の陽電子砲が発射された。

 アークエンジェル艦の最大火力の攻撃に機神ガインの胴体を一撃でぶち抜くとハジメ達は思ったが、直撃する前に見えない壁に阻まれて陽電子砲が拡散される。

 

「向こうもバリア!?」

 

「バリア何てこれまでメカトピアで見たことないぞ!」

 

 自分達と同じようにこちらの最大火力の攻撃をバリアで防がれたことに隊長は驚く。

 ハジメもこれまでの戦いからバリアを使われたことなど一度もなかったので、メカトピアにはバリア技術はない物だと思っていた。

 何か知らないかとハジメはリルルに目を向けると、リルルもそれを察して答える。

 

「バリア技術が開発されたという話を、私もごく最近だけど耳にしたことはあるわ。

 だけど装置の小型化がまだ不完全で、戦艦の運用にもまだ試験段階だったらしいわ」

 

「あの巨体なら多少大型の装置でも投入できるか…」

 

 メカトピアで開発されたばかりのバリア発生装置を、オーロウたち金族は即座に機神ガインに搭載していたらしい。

 小型化が出来ていなくても装置が大きいのであればその分大出力のバリアを発生させられるとも言い切れる。

 事実、二艦の放つローエングリンをそのバリアは容易に破られることなく、衝突によりエネルギーを拡散させて耐えていた。

 

 それでも開発されて間もない未熟な技術。

 機神ガインの大出力の動力炉があっても、一度に発生させられるバリアの出力に限界はあった。

 先ほどの攻防が逆転したかのような状況となり、機神ガインのバリアは限界を迎えて消失し、バリアの先にあった胴体を守る両腕に当たった。

 陽電子砲の照射もそこまでが限界で、胴体を守る両腕の装甲を融解させるに止まった。

 

「耐えられたか。 これなら9番艦も攻撃に参加させておけばよかったか」

 

 念のために余力を残そうと9番艦は待機させていたのが裏目に出たと、隊長は判断ミスを悔いる。

 だが逆に言えばハジメ達側にはまだ余力は十分あるという事だ。

 

 1・2・3番艦は攻撃に耐えてダメージを受けている。

 4・5・6番艦は新たな防壁として役割を果たすために万全の状態にある。

 7・8番艦は陽電子砲を連射出来ないが他の攻撃手段に問題はなく、9番艦に至っては完全にフリーだ。

 

 隊長は慌てることなく次の攻撃を命じようとするが、機神ガインもまた黙っているわけではなった。

 両腕の装甲の多くが溶けた事で、先ほどの無数の光線は使用不可能になったと思われるが、腕としての機能はまだ健在だった

 前に出して胴体を守っていた腕を、巨体であるが故にゆっくりに見える動きで後ろへ振りかぶっていく。

 

「何をする気だ?」

 

「振りかぶって殴ろうとする体勢に見えるが…」

 

「あの巨体でもこの距離じゃ…」

 

 ハジメ達の艦隊と機神ガインまでは何キロもの距離が離れている。

 先ほどの様に大出力の遠距離武器であれば、お互いに大打撃を与える有効射程だが、あの巨体であっても直接打撃を与えるには文字通り手が届かない。

 だが相手もそんな意味のない事はしないはずと、ならばなぜとハジメ達は少しばかり嫌な予感を感じる。

 

「何かする気だ。 警戒しろ!」

 

 警戒を指示を出すが、次の瞬間にはハジメ達の誰も予想していなかった攻撃が来た。

 

 

『これでも食らうがいい!!!』

 

 

 正面に振りぬかれた瞬間に肘から先の上腕部が分離され、その勢いのままにハジメ達の旗艦目指して凄い速度で飛び出してきた。

 上腕部だけであっても数百メートルの戦艦並みの質量があり、そこに振りぬかれた勢いで加速してくればとんでもない威力になる。

 

「「「何いいぃぃぃぃぃ!!!」」」

 

 いわゆるロケットパンチである。

 ハジメ達地球組はその事実に驚き、リルルはあまりの予想外の出来事に呆けるしかなかった。

 だが、とんでもない手段の攻撃であってもとんでもない威力の攻撃が向かってきていることに、驚いている場合でないことにハジメ達も気づく。

 

「防御体制を取れ!」

 

「隊列が整うまで僅かに時間が掛かります。 間に合いません」

 

「なら回避だ! どれでもいいから護衛艦を盾にするように後ろに回れ!」

 

 自分たちの乗る旗艦は絶対に守らねばと、隊長も好ましいと思わないが護衛艦を盾にするように命令を下す。

 ロケットパンチは加速はとんでもないが純粋な砲撃ほどの速度はない。

 武装はないがバリアによる耐久力と機動性を重視している旗艦は、素早い平行移動で護衛艦の陰に隠れるように移動できた。

 しかしロケットパンチは旗艦の移動に合わせて、軌道を修正すらして見せた、

 

「敵攻撃、軌道を修正。 真っ直ぐ旗艦を狙っています」

 

「全艦バリア最大! 耐えさせろ!」

 

 最大の光学兵器によるエネルギー攻撃に続いて、最大の質量攻撃がハジメ達を襲う。

 

 

 

 

 

 



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真・鉄人兵団25

感想及び誤字報告ありがとうございます


 

 

 

 

 

――ギャシャアアァァァァンンン!!!――

 

 けたたましい重い金属同士の衝突音が響き渡り、ハジメ達の乗る旗艦を振動で揺らした。

 しかしそれは直接的な揺れではなく、ハジメ達の旗艦は無事であった。

 旗艦の前方で盾となった二番艦は低下していたバリアを容易に破壊されて、ロケットパンチが直撃したことで船体の半分近くが潰れていた。

 更にロケットパンチは二番艦に直撃しただけでは止まらず、そのすぐ後方にいた四番艦のバリアに追突した。

 

 それによってロケットパンチの勢いは止まったが、パンチと四番艦のバリアに挟まれた二番艦は止めとなって完全に機能を停止した。

 四番艦はバリアに負荷はかかったが無傷であり、その更に後ろにいた旗艦も無事で済んだ。

 二番艦を文字通り叩き潰したロケットパンチは、その衝突の衝撃波だけでハジメ達の旗艦を揺らす事となったのだ。

 

「まさかロケットパンチを撃ってくるとは!」

 

「奴らの事を完全に舐めていた!」

 

「メカトピアのロボット、恐るべし!」

 

「言ってる場合か!」

 

 避難してきた船長のハジメ達はどこか嬉しそうにロケットパンチに慄くが、この場を仕切っている隊長はそれなりに責任感を持って行動しているので、同じコピーであってもあまりふざける訳にはいかなかった。

 護衛艦のうちの一隻が、ダメージを受けていたとはいえ完全に撃墜されたのだ。

 あまり気持ちに余裕を持ってはいられなかった。

 

「各艦の状況は!」

 

「二番艦は完全に沈黙。 四番艦はバリアの出力を落とした以外は異常ありません」

 

「バリアを搭載したアークエンジェルが撃沈するなんて…」

 

「ちょっと侮りすぎたかな」

 

 機神ガインという巨大ロボットにそれなりに警戒していた隊長とハジメだが、ただデカいだけと実際にはそれほど脅威に感じてはいなかった。

 戦場では秘密道具をほとんど使わず、用意した戦艦とモビルソルジャー達だけで対応してきたから、そこに侮りがあったことを隊長は否定できない。

 一切に油断なく戦っていれば、巨大ロボットであっても二番艦を落とされることなく完勝出来る戦力だと思っていた。

 ならば二番艦を落とされたのは自身の失敗だと、隊長は反省していた。

 

 後悔ばかりしてはいられない。

 隊長がショックを受けている間に、二番艦をスクラップにしたロケットパンチに動きがあった。

 

「発射された敵ロボット腕部飛翔。 自立した飛行機能が搭載されているようです」

 

「なるほど。 自力で飛んでパンチを回収するのか」

 

「ロケットパンチなのにロケット噴射口がないのが不満だが、自在に飛ぶのなら再接続も楽だろうな」

 

 飛行機能を持つメカトピア兵にはモビルスーツをモデルにしているモビルソルジャーのように、跳躍及び飛行の為の背部にスラスターの類を持っていない。

 同一の飛行機能が搭載されているだろうその上腕部にも燃焼式の推進器は付いておらず、宙を360度どの方向へも自在に飛べるようだった。

 破壊した二番艦から離れ、撃った時ほどの速度はないが本体の元へ戻っていく。

 前腕部はローエングリンを受けて装甲を溶かしてはいるが、二番艦に撃ち込まれても機能に問題はないようで、かなり頑丈に出来ているらしい。

 再接続されれば再びロケットパンチを撃つことも可能だろう。

 

「二番艦を破壊されたんだぞ。 気の抜けた会話はやめてくれ」

 

「ああ、悪い隊長」

 

「あれほど巨大なロボットでロケットパンチが飛んでくるなんて、まるでアニメみたいだからな」

 

「ロケットパンチは嫌いじゃないけど、腕が完全に飛んでいく分離式は非効率に見えるんだよな。

 だからあまり作ろうと思わないんだよな、嫌いじゃないけど」

 

 隊長ではないハジメ達は責任感が少し緩いせいか、いつもの会議のような脱線しやすい気の抜けた会話になってしまう。

 ハジメが複数集まるとこうなってしまうのはなぜだろう。

 

「…悪いが邪魔にならないように船長役達は黙っていてくれ」

 

「すまん、つい口が勝手に」×9

 

「………」

 

 自身の悪癖なのはわかっているので、隊長も複雑な気持ちで納得するしかない。

 二番艦を落とされて少し不機嫌な隊長は、コピーの自分に当たっても滑稽なだけだと気持ちを切り替える。

 

「これ以上は戦いを長引かせない。

 秘密道具でさっさとケリを着ける」

 

 これまで戦場では使ってこなかったひみつ道具の使用解禁に、全員が隊長を見直す。

 

「いいのか、隊長」

 

「あの巨大ロボットに護衛艦を落とせる力があるのは事実だが、実際に落とされたのは僕の油断からだ。

 あれを含めて僕らの戦力は過剰なくらいあったのに、護衛艦を一隻落とされたんじゃ既に負けたようなもの。

 なら無駄に接戦を続ける必要はもうない」

 

 これまでメカトピアの戦場で用いてきたのは、モビルソルジャーとアークエンジェル型の護衛艦とハジメ達の乗る旗艦だけだ。

 それだけで戦争に勝てるように用意したハジメ達の自信作の戦力である。

 その活躍に期待し、ヤドリというイレギュラーもあったが期待通りの活躍を見せたが、2番艦を落とされたことでケチが付いてしまったように隊長は感じてしまった。

 

「ヤドリもあの機神ガインを操っているヤドリ天帝とその取り巻きだけで、数はほとんど残っていない。

 操られて秘密道具を奪われることはないだろう」

 

 それが一番のヤドリへの警戒要素だったが、ほぼ殲滅したことで警戒の必要性もなくなった。

 隊長は支給された四次元ポーチに手を差し込み、目的の秘密道具を取り出す。

 

「ドラ丸、これで終わらせてくれ」

 

「承知したでござる」

 

 

 

 秘密道具の使用を決意した隊長は、他の者にも指示を出し迅速に動かした。

 旗艦はこれまで通り護衛艦に守られ安全地帯に。 護衛艦は撃沈した二番艦を除いて疲弊している一・三番艦も含めてハジメ達の乗る旗艦の盾として、攻撃を行なわずにバリアの守りに集中するように指示した。

 陣形を整えるために護衛艦が動き出したところで、ロケットパンチを放った前腕部を再接続し機神ガインは元通りに戻った。

 

 

『守りを固める気か? 無駄な事を。 主砲のエネルギーも間もなく溜まる。

 どんなに強力なバリアでも、この巨体の前には耐えきるのは不可能だ。

 直接叩き破り、次の主砲で消し去ってくれる』

 

 

 今度はその巨体でパンチをハジメ達に直接叩き込むべく、浮かんだ状態から加速して前進を開始する。

 両手を握り締めて巨大な拳を作り、構えながら迫ってくる姿は相応に迫力がある。

 ヤドリ天帝の言う通り、その巨体のパンチを何度も受ければ、流石に護衛艦のバリアも大きな負荷がかかり長くは持たないだろう。

 だがそれを甘んじて受けるはずもなく、隊長の指示を受けた者達が守りに入った旗艦から飛び出してきて、迫りくる機神ガインに向かっていく。

 それを機神ガインに乗るヤドリ天帝も認識した。

 

 

『地球の指揮官のロボット共か! だが無駄だ! いかに強力なロボットであっての機神ガインには無力!

 小さいロボット如きではこのバリアを貫けん。 大人しく叩き潰されるがいい!!』

 

 

 ローエングリンによって一度は貫かれ大きな負荷がかかったバリアの発生装置は壊れておらず、エネルギーの供給によりバリアは復活していた。

 ファースト達の強化されたビームライフル、でもバリアを破る事は容易ではないだろう。

 ウイングのバスターライフルであればバリアを貫いて十分なダメージを与えられるだろうが、原作に極力沿わせて作られているので最大出力で三連射しかできない。

 機神ガインを倒しきれるかは微妙なところだ。

 しかしウイングはこの場で攻撃するつもりはなく、本命は彼らの中心にいるドラ丸だ。

 

 旗艦からはその場にいた主力機全機とドラ丸、そしてゴッドガンダムINハジメとノーベルガンダムINリルルが出てきた。

 主力機達だけでドラ丸のサポートは十分だったが、最後の戦いに二人も直接参戦した。

 

 ドラ丸を中心に六角形の各頂点に一人ずつ配置するように、7人は隊列を組んで機神ガインを恐れることなくその進路に立ち塞がった。

 このまま接近されればまとめてその巨大な拳で叩き潰されるだろうが、主力機+2の六人は中心に飛ぶドラ丸の方を向いている。

 唯一ドラ丸だけがタケコプターで飛んでいるのだが、その事に少しだけ疎外感を感じていたりする。

 ビジュアル的にドラ丸にはタケコプターで飛んでほしかったハジメの我儘だ。

 

「ドラ丸、準備はいいな」

 

「無論いつでも! 敵は目前でござるからな」

 

「全員同時にいくぞ」

 

 ハジメが息を合わせるように全員に呼びかける。

 ()人の手には古めかしい懐中電灯型の秘密道具が握られていた。

 ドラ丸のみはもう片方の手に赤い布も握っている。

 敵は目前ではあるがハジメは落ち着いて全員に合図をする。

 

「3! 2! 1!」

 

「「「「「「ビッグライト!」」」」」」

 

 声を合わせ囲っている六人は、一斉にドラ丸に向かってビックライトの光を当てた。

 光を受けたドラ丸はビッグライトの効果と一度に受けた光の量のせいか、通常より早い速度で大きくなっていく。

 

『なっ!?』

 

 立ち塞がったロボットの一人が突然大きくなりだしたことに、ヤドリ天帝も驚いて警戒し機神ガインの前進を止めてしまう。

 その間もドラ丸はビッグライトの光を受け続けて、巨大化が進んでいく。

 

 ビッグライトの効果は知っての通りだが、大きくするには光を対象の体表面積に一定以上当てなければならない。

 実験としてハジメは試してみたのだが、人間の腕だけに当てたからと言って腕だけが大きくなることはなく、光が当たらない部分があってもそこだけ小さいままという事はない。

 光を対象の体表面積の半分以上に当てれば、対象の全身が均等に大きくなると分かった。

 

 一定以上大きくなると光を当てる必要のある面積が広くなるので、一個のビッグライトでは大きくさせる事に限界があった。

 だから同時にビッグライトを複数使えば光の当たる面を増やすことが出来、一個での限界を超えて大きくすることが出来た。

 

 周りの六人はビッグライトの光をドラ丸に当て続け、目の前に相対するように機神ガインと同等の大きさまで巨大化させた。

 ドラ丸が巨大化しきれば役目は終わりで、戦いに巻き込まれないように距離を取った。

 

 

『こ、こんなバカな事があってたまるかぁ!!』

 

 

 敵が突然巨大化して同等サイズの相手となったことにヤドリ天帝は落ち着いてはいられず、発射するだけのエネルギーが溜まっていた主砲を撃つことを選んだ。

 主砲のある胸部を突き出すように構えて、砲身に光が集まっていく。

 ドラ丸は慌てることなく、手に持っていたことで共に巨大化した秘密道具を構える。

 

 

『そんなもので防げるか!!』

 

 

 気にせずヤドリ天帝は主砲を発射してドラ丸を倒そうとするが、そんなものと呼んだ秘密道具がただの道具なはずがない。

 

 

「【ヒラリマント】でござる!」

 

 

 正面にかざした赤い布のヒラリマントに主砲のエネルギーが当たると、その流れが斜め上に進路を変えて何もない空へ向かっていく。

 主砲のエネルギーはドラ丸に何の影響も与えることなく、完全に受け流されていた。

 

 

『バカな!? なぜそんな布切れで!』

 

 

 照射される主砲のエネルギーも長続きはしなかった。

 最初の主砲よりもエネルギーのチャージ時間が少なく、バリアの消耗にもエネルギーを取られていたからだ。

 高出力の動力炉でもエネルギーの供給が追い付いていなかった。

 溜められたエネルギーも尽きて主砲の照射が止まり、機神ガインはヤドリ天帝の心境を語るように呆然としたように動きを止めている。

 止まっている相手を待つことなくヒラリマントの構えを解いて、事前に持っていたもう一つの秘密道具を即座に向ける。

 

 

「【スモールライト】でござる!」

 

 

 同じく巨大化したスモールライトより強烈な光が機神ガインに照射された。

 光線兵器かとヤドリ天帝はバリアの出力を上げようとするが、秘密道具の力はそんな生易しい物ではない。

 バリアがあっても関係はなく、スモールライトの光は透過して機神ガインの巨体を照らした。

 

 ビッグライトを複数使用する必要のあったドラ丸の巨大化とは反対に、スモールライト自体がドラ丸と共に巨大化する事でその効果範囲も大きくなっていた。

 巨大なスモールライトの光は機神ガインの巨体にも十分に当たり、先ほどのドラ丸と真逆に小さくなり始めた。

 通常のスモールライトでは機神ガインを照らしきれなかったので、小さくするにはこうする必要があったのだ。

 

『なんだこれはぁ!?』

 

 機神ガインはメカトピアの通常ロボットと同等サイズまで小さくなり、ドラ丸はそこでスモールライトの照射を止めた。

 

「ドラ丸、止めだ」

 

 

「少々不憫でござるが、承知でござる」

 

 

 ハジメの指示にヒラリマントとスモールライトを手放し、ドラ丸は丸い手を開けて小さくなった機神ガインの左右に持っていく。

 

『や、やめろぉ!!』

 

 その動作に、機神ガインの中にいて同様に小さいのが更に小さくなっているだろうヤドリ天帝はなにをされるのかわかって慌てて逃げようとする。

 飛んで逃げようとするが、元々巨大だった分飛行速度も機動力も通常のロボのサイズで考えると大したことはない。

 実際に通常ロボットサイズにされてしまっては、気球のような速度でしか飛べなかった。

 そんな速度では逃げきる事など出来ず、左右をドラ丸の両手に挟まれてしまう。

 そして…

 

 

「御免」

 

 

――バァン!!――

 

 白い丸い手を叩き合わせ、蚊を潰すように機神ガインをぺしゃんこにした。

 こうしてメカトピアの最後の戦いは終わった。

 

 

 

 

 




 というわけでスモールライトで決着を着けました。
 この決着手段は当初の予定通りだったんですが、最後の巨大ロボを何とか活躍させようと思ったら、ハジメ達の戦力から手抜きではないかと言われてしまいました。
 空気を読まずに何もさせず秘密道具で倒してしまうのもありといえばありでしたが、一方的な展開過ぎると物語の躍動感がなくなる気がしましたので、少しだけ巨体の特徴を生かした暴れ方をしてもらいました。

 『こういう時こんな秘密道具を使えばいいのに』という感想は、自分も昔からドラえもんの映画を見ていると時々感じてしまう事なんですが、秘密道具を自由に使い過ぎると物語として成り立たなくて詰まらなくなってしまうんですよね。
 『最初からこうしていればいい』という最適解を実行してしまうと、そもそも事件が起こらないです。
 ですのでいわゆる舐めプになってしまうのですが、秘密道具を全力使用しないといけない相手となると同じ秘密道具使いとなり、先に使ったもの勝ちの展開になると思います。

 強力な秘密道具を調べてみると、四次元ポケットはやはり万能過ぎるんです。
 なんでも直ぐ問題が解決してしまっていたら、物語としては詰まらないだけです。
 TV版みたいに制限された状況で特定の道具を使ってのみ問題を解決するのが面白いんだ思います。
 そういう意味では映画版の道具を自由に使えるという状況は、『これを使えばいいのに』という状況ばかりでもどかしく感じる事が多いと思います。
 この作品もそんなもどかしさを感じられたのなら、ドラえもんの映画の条件を満たせたかと思います。

 鉄人兵団は次でおそらく最後となります。
 読んで頂きありがとうございます


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真・鉄人兵団26

 感想、及び誤字報告ありがとうございます。

 今回で鉄人兵団編、完結となります。

 伝えたい事を書こうと思って頭を捻っていたら、いつもの二倍の文章量になって更新が遅れてしまいました。
 戦闘はなく会話回となり喋らせたいセリフに繋げるために、いささか駄文が多いかもしれません。

 今回までお読みいただきありがとうございました。




 

 

 

 

 

 ヤドリ天帝は機神ガインの中にいたことで、巨大化したドラ丸に共に叩き潰されたが、隊長はある可能性を考えて○×占いで確認をした。

 その結果、ヤドリ天帝はまだ生きており、潰れた機神ガインの中で身動きが取れない状態にあるらしい。

 ぺしゃんこに潰れているが元々機神ガインは大きく、ヤドリと乗る円盤は非常に小さい。

 潰れてもわずかな隙間があれば生き残ってるのではないかと隊長は考え、その勘は当たっていた。

 

 ヤドリの全滅確認をしなければいけなかったので天帝たちの生存確認をしたが、存外にしぶとかった。

 ヤドリ天帝たちはただでさえ小さいのに、現在は微生物サイズまで小さくなっている。

 ここまで小さくなってしまえば直接攻撃することが出来ず、逆に倒すのが難しいくらいだ。

 微生物サイズで逃げられたら捕らえる事などとても不可能で、ヤドリ達に止めを刺すには密閉されている機神から出さないようにしなければならなかった。

 

「溶鉱炉にでも叩き落せばいいんじゃないか?」

 

「確かにまとめて焼き尽くせば、中のヤドリ達も死ぬだろうしな」

 

「問題はどこに溶鉱炉なんてあるかだ」

 

「地球に持っていくのも危険だし、この場で処分したいんだよな」

 

「近くの恒星に捨ててしまうか?」

 

「それもちょっと遠いな。 活火山を探してマグマの中に叩き落すとか」

 

「それが一番近いかな」

 

 工作員だったハジメに隊長、そして各船長のハジメ達と相談して、ヤドリ達をきっちり始末をつける手段を考えていた。

 ちなみに潰れた機神ガインは中のヤドリ達を逃がさないように、巨大化したドラ丸が未だに外で両手でしっかり押さえている状態だ。

 相手が小さいというのは制しやすいが、それが過ぎれば扱いにくい。

 

「あの船の主砲で焼き払うのはどうかしら」

 

 相談するハジメ達の様子を窺っていたリルルが提案をする。

 

「「「それだ!」」」×多数

 

「きゃっ!」

 

 一斉にハジメ達が提案を支持したことで、リルルも驚いて声を上げてしまう。

 

 リルルの提案により、機神ガインは中にいるヤドリ達ごとローエングリンで一気に焼き払った。

 小さくなった機神ガインであれば、陽電子砲に焼かれて蒸発するのも一瞬だった。

 再度隊長が○×占いで生き残りがいないか調べ、メカトピアに隠れ潜んでいたヤドリ達が全滅したことを確認した。

 

 宇宙の何処かには別のヤドリが生存しているようだが、接触する事がないのであればハジメ達もいちいち探して殺すつもりはなかった。

 メカトピアや地球の周辺にはいない事は確認したので、自分たちの脅威にはならないと判断した。

 

 ヤドリも全滅し、オーロウが率いて王制を復活させようとしていた金族も、操られて戦いの中で全滅していた。

 戦いに関わらずに逃れ生き残った者もいたが、残りわずかであり金族は事実上滅んだ。

 休戦したメカトピア軍と再び戦いが始まる事はなく、戦争は終結となった。

 

 

 

 

 

 戦いが終わり、残ったのは始末だ。

 今回の戦争の発端となったのは、金族とその裏で糸を引いていたヤドリであることは、この戦いの中で明らかになっている。

 その元凶たちはこの戦いで倒されてしまったので、残った者達が後始末をしなければならない。

 事実上敗戦しているのはメカトピアなので、ハジメ達が特に失うモノは何もなく、勝った側として要求を突きつけるだけだ。

 

 今後を決める会談が地球側の代表とメカトピア側の代表で行なわれた。

 地球側の代表は当然ハジメ。 一応工作員として動いていたハジメが本来の姿で表に出て、ドラ丸を筆頭にした主力機が護衛として後ろの控えている。

 メカトピア側の代表はアシミーが引き受ける事となった。

 

 ジャックバグが発端となった金族とヤドリの乱で、議員の権限を乱用し無理矢理指揮を執っていたことでアシミー本人も解任される覚悟だったがそうはならなかった。

 直接の参戦を多くの兵士が見ており嘗ての功績と相まって英雄の名が再燃しており、オーロウを筆頭にした金族がいなくなったことで議会も混乱しており、今辞めれば更なる混乱になると容易に解任に出来なかったのだ。

 

「といった状況だ」

 

「指揮を纏めるのに無理なさっていたみたいですからね。

 責任を取らされなくてよかったじゃないですか」

 

「代わりにいろいろ仕事を押し付けられているよ。

 君らとの戦闘を含めた戦いの後始末もあるが、オーロウが死んだことで議会もだいぶ混乱している。

 お陰で次の議長の席を押し付けられそうだ」

 

 現在は事実上アシミーが臨時のトップとなって、混乱の収拾の指揮を執っている。

 再び名声を得てしまったアシミーには、他の議員からは国民の支持という意味では二歩も三歩も有利だ

 

「それはおめでとうございますと言っておくべきですか」

 

「勘弁してほしい。 私は議長どころか議員にすら向いていないんだ。

 今回の戦いでよくわかったよ。

 たとえ危険でも戦場で暴れまわる方が俺には性に合ってた」

 

「ですが、それがわかっていて国の為に議員になったのでは?

 王と違って議員はやめようと思えばやめれる役職です。

 アシミーさんはやめないのでしょう?」

 

 国の為に動いていたアシミーをハジメは知っている。

 それならば向いていないと言ってもやめるとはハジメも思わなかった。

 

「…まあ、その通りだ。 こんな俺にどこまで出来るか分からないが、逃げる事は出来ん。

 シルビア様を頼って、引き摺り出して死なせてしまったんだ。

 俺も死ぬまで国の為に戦うつもりだ」

 

 アシミーはシルビアの名前を出し、その負い目から自分の命も国の為に最後まで使うと心に決めていた。

 それがシルビアへの贖罪であり、自身の責務だと思っていた。

 

 ハジメもシルビアの名前を出されると、神妙な顔つきになって彼女の事を思い返す。

 僅かな付き合いだったが、ハジメにとってシルビアはとても尊敬する人だった。

 気持ちにキリは付いているが、彼女の死を許してしまったことにハジメは後悔がある

 秘密道具を貸して彼女を守っても良かったし、壊れた彼女をタイムふろしきで治す事も出来た。

 

 しかしそれは全て蛇足であり、例えやり直す事が出来るからと言ってやり直していい訳じゃない。

 彼女の生き様は尊い物だった。 それをハジメは自身の都合で、こうしていれば生きていたとかタイムふろしきを使えば取り返しが付くとか、そんなことはシルビアへの冒涜だと思い出来なかった。

 だから後悔だけが残る。 この辛い思いすらシルビアにもらった尊い物だと、ハジメは決して目を逸らす事もなかったことにもしたくなかった。

 

 メカトピアとの戦争もヤドリとの戦いも、シルビアに教わったものに比べれば全てが霞む。

 ハジメは生まれて初めて尊い出会いというものを実感していた。

 

「…シルビアさんには僕もお世話になりました。

 メカトピアには僕は迷惑をかけた側ですが、あの人に会えたことがこの星に来て一番の価値だと思っています。

 出来れば僕もあの人に報いて何かしたいですが、そういうわけにもいきませんからね」

 

「…すまないが、それは流石にな。

 今の君らを公に歩かせれば余計な混乱を生む」

 

 戦争は終わったがハジメ達地球側は先に攻撃をされたとしても、メカトピアに最も脅威を与えた敵側だ。

 ジャックバグの騒動で休戦後共闘しているが、メカトピアのロボット達にとってハジメ達は敵であることに変わりない。

 ピリカの様に戦後復興に協力しても、どこかで衝突を起こして関係をこじらせる可能性の方が高い。

 

「僕らのやるべきことは果たしました。

 要求した事を守り通してくれれば、僕らから再びメカトピアに干渉する事はありません。

 しっかり周知してください」

 

「それはもちろんだ。

 しかし、本当にあれだけでいいのか?」

 

「何かを要求しようにも、欲しい物がありませんからね。

 正式な外交官でも政治家でもないのに、国家間交渉を地球の代表気取りでやる気はありません」

 

 ハジメ達が要求したことは当初から言っていた通り、地球への不可侵だ。

 ただしそこへ期限を決めて、500年間の地球への干渉する事をメカトピアに禁じさせた。

 

 現代のメカトピアと地球では、武力も科学力も圧倒的に差がありすぎる。

 それ故に戦争が起こった訳だが、ハジメの独断で永遠にメカトピアと地球が関わりを持つことを禁じる訳にはいかなかった。

 はるか未来に地球が宇宙へ進出した時代に至っても、その約束が正式な地球との外交の妨げになるのはまずいと考えた。

 故に五百年、メカトピアの科学力に追いつくために、地球が発展するための時間の猶予とした。

 

 その時までに発展し切らず、メカトピアが改めて戦争を仕掛けて来るなら、それもまた仕方ないだろうとハジメは考えた。

 宇宙には文明がたくさんあるのは分かってるのだ。 銀河漂流船団の原点の様に滅んでしまった星もある。

 今はともかく500年後の地球の面倒までは、ハジメもみたいとは思わない。

 時間の猶予を作っただけでも十分だろうと、500年後の事はその時の地球人に任せる事にした。

 

「しかし君たちが唯の一組織で地球を守っており、メカトピアを圧倒したとは…」

 

「地球の勢力図はいろいろ複雑なんですよ。

 表向きにはメカトピアよりも科学力が劣っていますが、一部は別の星と交流を持っていたり、飛びぬけた科学力を持っていたりします。

 僕らはその両方に当たるわけですけど」

 

「君ら以外にもそんな者達が地球にいるというわけか。

 やはり調査不足だったわけか」

 

「すべて表に出ていない存在なので、地球本来の科学力は調査通りですよ。

 僕らが止めなければメカトピアの、オーロウやヤドリの計画通りになっていたでしょうね」

 

「そういう意味ではやはり我々は君達に助けられたことになるな。

 だがなぜ君達は、その地球の表に出ないのだ?

 君たちが俺達との戦いを示せば、高く評価されるだろう」

 

「地球の文化的問題や抱えている事情もありますが、一番の理由は大きな(しがらみ)をもつのが面倒だって事ですよ。

 自分の責任くらいは自分で持ちますけど、国なんて大きなものは僕には背負えません。

 まあ政治家なんてややこしいだけですから、成りたいとは思いませんけど」

 

「気持ちはわかるが、その政治家の前で言わないでくれるか」

 

 アシミーも信条的にはハジメの考え寄りだが、メカトピアという国を愛している。

 国のために努めるつもりだが、ハジメの様に言い切るのが何処かうらやましそうだ。

 

「締約した内容をメカトピア中に公表して、それを国民全員が聞き届けたのを確認したら僕らは直ぐにでも地球に戻ります。

 後はアシミーさんの頑張りで、今後五百年この約束を守り通させるだけです」

 

「500年は俺も生き続けるのは無理だが、多くの国民が君たちの力を知った。

 この戦いを後世に伝え、守り通すように皆は言うだろう。

 俺の死後は俺達の意志を継いだ者達がメカトピアの平和を守ってくれる」

 

 メカトピアのロボットの寿命は電子頭脳の寿命だ。

 状態によっては500年間稼働し続けるのも不可能ではないかもしれないが、過酷な経験を積んでいるアシミーはそれだけ生きるのは無理だと考えた。

 だがメカトピアのロボットは形式として子孫を残すことが出来、アシミーもまたいずれ自身の思いを託す日が来るだろうと思った。

 その時メカトピアがどのようにあるかは、死んでいる自身にはわからないが平和であってほしいとアシミーは願った。

 

「後を誰かに託す。 それも素敵な事ですね。

 シルビアさんが亡くなった時も、誰か後を任せられると言ったあの人は嬉しそうでした」

 

「そうか、ならば俺も頑張らなければな」

 

 すべての映画の事件が終われば、ハジメはタイムふろしきを使って若い姿のまま長生きするつもりだった。

 そんな自分が誰かに自身の何かを託す日が来るとは思えないが、そんな風に笑える彼らには憧憬をハジメは感じた。

 

 

 

 アシミーとハジメが交わした約束は、つつがなくメカトピアの全国民に伝えられた。

 地球との戦いにメカトピア軍が劣勢だったのはおおよそ知られており、最後の戦いでドラ丸が巨大化して機神ガインを微小化したのを多くのロボット達が目撃していた。

 あの巨体故に隠し通す事など無理な話だったが、そのインパクトの大きさからハジメとの約束を破って再び開戦する事を恐れた。

 半ば予想はしていた結果ではあったが、国民に周知されたのを確認してハジメはまもなく地球に帰る。

 その最後に一番の付き合いとなったリルルと会う事になった。

 

「時間を作ってくれてありがとう。

 最後にハジメさんにお礼を言っておきたかったから。

 それとこれを返さないといけないと思って」

 

 その手にはノーベルガンダムの兜があり、傍にある箱には外装一式が整理して詰められている。

 今のリルルはロボットには見えない人間の少女の姿をさらしている。

 ノーベルガンダムの姿にだいぶ慣れていたから、久しぶりのリルルの姿にハジメは新鮮さを感じてしまった。

 

「僕もリルルには最後の挨拶をしておきたいと思っていたから気にしないで。

 …色々思うところもあるし、立場的にこんなこと言うのは変なんだけど、君と一緒に行動した時間は退屈しなかった。

 お互いに価値観が違うし噛み合わないことも多々あったけど、それでも楽しい物があったと思っている」

 

 リルルに対する思い入れや敵対関係である後ろめたさもあったが、それらをひっくるめて彼女と共に行動した時間を、ハジメは素直に楽しかったと言いたかった。

 偶像のリルルではなくちゃんとした本人と正面から向き合い、お互いの主張や思いなどを語り合って少しずつ理解し合えた。

 どんなに取り繕っても敵同士であることに変わりなかったが、リルルと仲良くなれたとハジメは思えた。

 

「だから僕もお礼を言っておきたい。 あの時、僕の手を取ってくれてありがとう」

 

「それなら私もこういうしかないわ。 あの時、私達に手を差し伸べてくれてありがとう」

 

 リルルの返しにお互いに笑い合い、自然と握手を交わした。

 お互いの為に協力すると交わした最初の契約の握手に対し、今度はお互いの感謝を交わした別れの握手。

 二人とも感慨深い面持ちで、これで終わったんだと最後の対話であることを惜しんだ。

 

「そのノーベルガンダムの外装はリルルにあげるよ。

 結構気に入っていたみたいだし、今回の記念だ」

 

「え! でもいいの? これってあなた達の指揮官と同じ性能の装甲なんでしょう。

 残してしまってはメカトピアに技術を明かす事になるわ」

 

「確かに主力機達はそれなりに強いけど、切り札というわけじゃない。

 それに外装だけだから、内蔵機能を明かすわけじゃないし大したことじゃないよ」

 

「私達にとってはこの頑丈な装甲だけでも十分すごい物なのよ」

 

「それだけ解析されたところで僕らがどうにかなるわけじゃないさ。

 それを使って新たにロボットを組むのも、なんだかリルルがいるような感じになっちゃうと思うから、再利用しにくいんだ。

 処分するのももったいないし、リルルがもらってくれない?」

 

 リルルが着た後のノーベルガンダムというフレーズに、ハジメは精神的に扱いづらいと素直に思った。

 ただの装甲と鎧のような物なのでナニをドウ扱えというのだが、女性とみているリルルの着た物を再利用するのは気が引けたのだ。

 そんなことを気にしているとは、ハジメとしては非常に言いづらい。

 

「わかった、これは記念にもらっておくわ。

 たぶん研究されることになると思うけど、あなたが私に渡したものだと言えば所有権は主張できると思う」

 

「どうするかはリルルの好きにしていいよ。

 ところでリルルは地球に潜入するために、人間の姿に偽装する改造を受けたんだったよね」

 

「ええ、あまり役に立ったとは言い難いけど」

 

 地球の都市を見回ったときに役に立ったくらいで、メカトピアでは逆にその姿を隠さねばならなかったくらいだ。

 意味がなかったと言われても仕方がない。

 

「メカトピアで暮らしていくならその姿はおかしいだろうし、普通のロボットの姿に再度改造する事になるんだろ」

 

「ええ、人間の姿を真似る為とはいえ、この体の体表はメカトピアのロボットにとって脆過ぎるわ。

 人間はこれ以上に脆いんだから、よく壊れずに何十年も生きられると感心するわね」

 

 映画でもリルルが負傷した時に、内部構造を顕わにした破れた外被は非常に薄かった。

 通常のロボットの強度を考えたら、内部構造に布でも被せているだけみたいなもの。

 ロボットなら脆弱過ぎると言い切るのはおかしくない。

 

「人間ならそれが当たり前だからね。

 ポンポン体の部品を簡単に取り換えられる方が、生き物からしたら可笑しいと思うよ。

 それをお互いに理解はしても共感するのは難しいだろうね。

 僕が帰った後になるから見る事は無いのだろうけど、リルルのその姿が無くなってしまうのは少し残念に思うよ」

 

「どうしてかしら?」

 

「人間の僕から見たら、その姿はかわいい女の子だからね。

 元の生活に戻るためとはいえ、リルルがその姿でなくなってしまうのを残念に思うのは可笑しくないだろ」

 

「そ、そうだったの…」

 

 映画の時から美少女の印象が変わらないリルルの姿が、ビフォーアフターでガッチンゴッチンのメカメカしい女性ロボットになってしまうのを想像するだけで、ハジメはとても残念な気持ちになる。

 ノーベルガンダムの外装を着ていた時は?

 それはいい、中身がリルルのままだったのだから。

 

「モデルとなったのはランダムに収集された地球の女性のデータだったのだけれど、人間にとっては優れた外観だったのね」

 

「人間の姿になる前のリルルがどんな姿だったのか知らないけれど、その姿じゃなかったら対話の声を掛けなかったかもしれないね」

 

「人間もロボットも、男って上っ面の外見ばっかりで判断するのね」

 

 いささか呆れた様子でリルルはハジメを白い目で見る。

 ハジメも冗談で言ったことでありそう言った返しが来るとは思っていたが、リルルのその目は思った以上に堪えていたりする。

 

「ハハハハ…メカトピアのロボットもそこまで外見を意識するとは思わなかったよ。

 リルルはどうなんだ? 僕の乗ってたゴッドガンダムの外見なんかが人気があるって言ってたけど」

 

 街中を散策していた時も、二人の姿は別の意味で目立っていた。

 

「…結構イケてると思うわ」

 

「………ああ、うん、そう」

 

 少し恥ずかしそうに言うリルルは満更でもない様子といった感じなのだが、ハジメとしてはゴッドガンダムの容姿についてそのような反応で語られるのは珍妙な気分にしかならなかった。

 地球とメカトピアの異文化交流は難しいかもしれない。

 

「そんなことはどうでもいいわ。 重要なのは中身だもの。

 少なくともメカトピアのロボットも地球の人間も、中身はそんなに変わらないってハジメさんに出会って分かった。

 シルビア様が言った様に、お互いを知ろうとすれば解り合えない事は無い。

 ロボット同士でも人間同士でも争い合う事はあるけど、ロボットと人間でもお互いに歩み寄れば話がちゃんとできると証明できた。

 これはとても素敵な事だと思う。 ハジメさんはそうは思わない?」

 

「そうだね。 メカトピアとは戦ったけど、リルルにシルビアさん、アシミーさんとは対話することが出来た。

 後は殆どの人に恐れられただろうけど、3人だけでも対話出来た事には意味があったと思う」

 

「だからこそハジメさんに聞いておきたいの。

 ハジメさんはメカトピアに地球に干渉する事を禁じたわ。

 だけどちゃんと話し合う事で、ロボットと人間でも分かり合えることは証明できた。

 関わり合いを禁じないで、メカトピアと地球がちゃんと対話できる道を選ぶことは出来ないかしら?」

 

 リルルはメカトピアが地球に干渉することなく、繋がりを断ってしまう事に反対の様だった。

 ハジメと分かり合えたように、地球とも同じように出来ないかと尋ねる

 

「今の時代では難しい、いや無理だ。 対話する事は決しては無理ではないだろうけど、様々な問題で必ずどこかで拗れる。

 分かり合う事も出来るだろうけど、争い合う事になるのは確実だ。

 今の地球とメカトピアを接触させても絶対ろくなことにならない」

 

 今の地球は科学力的にメカトピアに全く追いついていない。

 文明的に多国家で地球を統一し切れていないのに、メカトピアが直接接触したら拗れに拗れて世界大戦が勃発するかもしれない。

 流石にそれはハジメも止める。

 

「地球はまだ星としていろいろな問題を抱えている。

 今メカトピアに侵略でなくても、接触をされたら大きな混乱になる事は間違いない。

 だからこそメカトピアからの接触を地球がもう少し発展するまで禁じたんだ」

 

「それがハジメさんの考えなのね」

 

「ああ、地球がメカトピアと対話をするにはまだ早すぎる」

 

「ハジメさんがそう言うなら、きっとそうなんでしょうね。

 残念だわ…」

 

 リルルは本当に残念そうに顔を俯かせた。

 

「500年はメカトピアのロボットにとっても長いわ。

 私もきっと電子頭脳の寿命が尽きてる。

 少しだけハジメさんと分かり合えたと思ったのに、これでお別れなんて悲しかったの。

 出来るなら僅かでも繋がりを残せればと思ったのだけれど。

 ごめんなさい、無理を言ってしまったわ」

 

「あーうん…、僕との連絡手段位だったら残してもいいよ」

 

「え?」

 

 とても悲しそうな表情で別れを惜しむリルルに、ハジメは言い辛そうに連絡手段を残す事を提示した。

 その言葉にリルルは目を丸くする。

 

「いいの!? でもどうして?」

 

「僕らは地球の代表でないように、地球の本筋からは外れている。

 地球への干渉を禁じたからと言って、僕らへの干渉を禁じたら約束をちゃんと果たすか確認出来ないじゃないか。

 それに…友人との連絡手段を渋るつもりはないよ」

 

 リルルの事を友人と呼ぶのを、ハジメは少し躊躇いながら気恥ずかし気に言った。

 

「改めて、リルルの事を友人と思ってもいいかな」

 

「…ええ、もちろん。 でなければ、別れを惜しんだりはしない。

 遠い星の人間のお友達。 貴方とまた会える日を楽しみにしてるわ」

 

「ああ、その時はメカトピアの面白いところをまた案内してくれ」

 

「ええ、きっとよ」

 

 もう一度だけリルルと握手を交わし、再会を約束して別れの時を迎えた。

 

 

 

 

 

 宇宙船に乗り込み、ハジメはメカトピアを発った。

 見送りはリルルや代表のアシミーとその護衛だけで、ピリカの時のように国民が見送るという事は無い。

 そういう意味では、いつの日か地球との交流が始まったなら、自身たちの行いが大きな爪痕になって足かせになってしまうだろうとハジメは思った。

 仕方なかったとはいえ、メカトピアをだいぶ荒らしてしまった自覚はハジメにはあった。

 

「友達か…」

 

「期待は少しあったけど、僕がそう呼べる関係になれるとは思わなかったな。

 実際にはメカトピアに大きな被害を与えた側なんだが」

 

「だから僕もリルルに友人と言うのは気が引けたし、認めて貰えたのは嬉しかった」

 

「再会の約束までしちゃったけど、何か考えがあるのか?」

 

 特にもう用の無いメカトピアに関わる事は一切ないだろう。

 別の惑星であるメカトピアは遠いし、リルルに会う為だけに宇宙船を飛ばすというのも夢があるが、非常に手間でもある。

 簡単には会いづらい、遥か彼方の友人だ。

 

「いや、再会を約束したのはその場の勢いで、つい」

 

「だろうなあ」

 

 ハジメは自身が付き合いが良い訳ではないのは分かっている。

 でなければコピーだらけの仲間しかいない訳がない。

 

「けど約束を交わしただけで、きっと十分なんだ。

 たとえ会えなくても友達になれただけで意味がある。

 次に会う時がどんな時になるか分からないが、さも当然のように『久しぶり』とお互いに笑顔で言えるなら」

 

「…なんかお前、映画ののび太みたいだぞ」

 

「少し感傷に浸ってるんだ。 茶化すな」

 

 客観的に見てリルルと素敵な別れが出来たと思ったハジメは、ちょっとだけ物語の主人公気分を味わいたがっていた。

 リルルとの再会の予定を考えるよりも、今この時の喜びを大事にしたかった。

 

「やっぱりリルルと行動するのが当たりだったな。

 隊長として艦隊指揮も面白かったが、工作員の方がかなりドラマチックだったじゃないか」

 

「統合すればどっちも記憶として受け継げるんだから、意味の無い事言うなよ」

 

 コピー達はオリジナルに統合されることで、全ての経験を自身の記憶として継承することが出来る。

 艦隊指揮をした隊長の経験も、リルルと共に過ごした工作員の経験も、一人のハジメの実体験として完全に継承される。

 密度に違いはあっても、自身の経験として実感を持ってオリジナルに受け継がれるのだ。

 今はバラバラでも統合されれば意味の無い事だ。

 

「そうだな。 …なあ、メカトピアには500年の地球への不干渉を約束させた。

 その約束が今から五百年間守られ続けると思うか?」

 

「………」

 

「メカトピアのロボットは地球の人間の在りように良くも悪くも似ている。

 目先に利益がぶら下がっていれば、禁止されていても手を伸ばしてしまう者が必ず一人はいるのが人間だ。

 メカトピアのロボットにもそんな所がきっとある」

 

「だろうな」

 

 オーロウなど、典型的な我欲に押し流されて過ちを犯す典型的な人間像だ。

 そんなロボットが新たに現れるのは不思議でもなんでもない

 

 

「メカトピアには大きな傷を与えて弱らせたが、同時に恨みを買ってしまったと言える。

 僕らの見せた脅威を風化させてしまった頃に、今回の戦いの復讐として約束を破って襲ってくるかもしれない。

 そうしたらどうする」

 

 恐怖を忘れる頃になっても、恨みつらみなどはなかなか忘れないのもまた人間性だ。

 隊長は約束を破られることは不思議ではないという。

 

「僕らが戦う事になるだろうな。

 500年経ったのであれば手を出す事は無いけど、それまでにメカトピアが動けば契約違反として報復するのが僕らの義務だ」

 

「その時はメカトピアも今以上の戦力を揃えているだろうから、今回以上の大きな戦いになるだろうな。

 それも報復戦になる以上、しっかりと攻撃をしなければならないだろうから、今回みたいな手抜きじゃなく徹底的にやる事になる。

 軍相手だけじゃなくて都市部への攻撃も必要になるだろうな」

 

「そんなことになったらリルルが悲しむだろうな」

 

 つい先ほど友達として約束を交わしたハジメとしては、あってほしくない未来だ。

 

「今回の戦いを直接見た世代が生きている内は、おそらく忘れていないだろうから当分は大丈夫だと思う。

 リルルが寿命を迎えるまでは大丈夫かもしれないが、その後はやっぱりわからないな。

 500年は人間なら記録には残っていても、その時感じた事は確実に忘れられているだろうし」

 

「メカトピアのロボットだったらどうなるかは、僕らも分からない」

 

 人間と同じなら忘れて過ちを犯してしまうのはきっと仕方ないが、ロボットなら500年後まで忘れないかどうかはハジメにも予想は付かなかった。

 それを明確に確かめる方法として、隊長は四次元ポーチから道具を取り出す。

 

「○×占い。 使ってみるか?」

 

「ついさっきリルルと良い別れ方をして、メカトピアを出発したばかりなんだけどな」

 

「だけどハッキリさせておかないといけない事だしな。

 500年後まで判断する為に、僕らが生きてまってるなんて真っ平御免だろう」

 

「確かにそれはない」

 

 タイムふろしきで年齢を操作すれば、いくらでも長生き出来る事は解っている。

 メカトピアの為に500年間監視する予定を入れるなど冗談ではない。

 タイムマシンがあるのだから、直接その時代に行くだけだ。

 

「どうするかはまた会議で決めるだろうが、確認くらいは先にやっても問題ないだろ」

 

「そうだな」

 

 隊長はその未来を確認する為に、○×占いを床に設置する。

 

「行くぞ。 メカトピアは将来僕らとの約束を破ってしまうか?」

 

 

――○ ピンポーン――

 

 

 

 

 

 




 以上でメカトピアでの戦いは終わりとなります。
 あえてスッキリしない終わり方で締めたのは、読んでくれた方の想像を掻き立てられその方が面白いと思い、このような形で終わらせました。

 リルルはヒロインとして十分な個性を持っているのですが、ハジメの在りようから恋愛感情を仕立て上げるのは無理があると思い、ドラえもん達のような友人関係を結ぶのが妥当な流れとして、このような別れ方にしました。
 ドラえもん映画のような友達との別れに出来たと思うのですが、再会を約束してお別れが、書いている側として神妙な思いを感じました。

 映画のお話で、友達になったキャラとまた会おうと別れを迎えるのは定番の最後ですが、再会するような映像を全く見ないので、永遠の別れになる気しかしませんでした。
 リルルの好感度がもっとあって恋愛感情まで発展していれば、再会の為にハジメが動くのも不思議ではない気がしますが、友達レベルでは時々連絡を取っていると設定を付け足すのが精々ですね。
 メカトピアとの戦争では期間が短すぎるので恋愛感情まで発展するのは不自然ですし、逆にハジメがリルルに惚れこむのも無理があるなというイメージから、このような関係の結末となりました。
 もっと絡みのあるもお話内の時間があれば、リルルとのロマンスもあったかもしれませんが、自身の執筆力不足で申し訳ありません。

 こういうキャラ立ちになってしまいましたので、今後の続編で登場させるのは可能性が低いです。
 あのリルルがハジメに会う為にやってくる。 ………原作映画のラストシーンを思い出してちょっと書いてみたくなりましたが、ハジメへの入れ込み具合が低いので頑張っても少しお話に絡ませてちょっとだけの登場と死か、今の自分にはイメージしきれません。
 このリルルはハジメとの繋がりは大事にしても、メカトピアの為に生きると思うのでハジメと地球で暮らすという感じがしないのが、レギュラー化の難しい理由ですね。




 というわけで、続編を同時刻に投稿しました!!!


 何年も前に書き溜めしていたのですが、なかなか更新の踏ん切りがつかずに肥やしになっていました。
 書き方がちょっと違ったり、相変わらず誤字が多いと思いますがよろしくお願いします。
 新作として投稿していますので、今作を評価して頂いた方も新たな評価をよろしくお願いします。



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おまけ
パラレル遭遇記 前編


 鉄人兵団の終わった直後に更新したかったのですが、書き上げるに随分掛かってしまいました。
 これにて【超劇場版大戦】は完結とさせて頂きます。


 

 

 

 

 雲の王国の事件を解決し、もしもボックスの可能性を探るために魔界大冒険の事件に自ら関わって解決させた後の事だ。

 元の科学の世界に魔法の力を持ち帰る事に成功したハジメ達が、魔法の練習とそれを可能にしたもしもボックスの応用の研究をしていた。

 バードピアに拠点を移したハジメ達は今後は表の地球にあまり関わることなく、秘密道具を使って自分たちの楽しみを謳歌しようと思っていた。

 

 この日もコピー達による人海戦術で新しい魔法の練習をしたり、もしもボックスの作り出すパラレルワールドのタイムマシンなどによるアプローチの方法について実験を行なっていた。

 バードピアにはハジメ達以外には、バードウェイを通じて地球と行き来出来る鳥たちしか来ることが出来ない。

 鳥人たちもいないので何も起こる事はないと思っていた。

 

――…ゴゴゴゴゴゴゴ――

 

「ん? なんだ?」

 

「どうした?」

 

「なんか音が聞こえないか?」

 

 外で魔法の練習をしていたハジメの一人がその異変に気付く。

 

――ゴゴゴゴゴゴゴ――

 

「やっぱり音が、いや地震か?」

 

「確かになんか揺れている気がするな」

 

 バードピアも地球に並列した世界とはいえ惑星である。

 地震が起こってもなにもおかしい事ではないとハジメ達は最初は思ったが、通常の地震とは違い長々と振動と音が響き続けている。

 

「なんかおかしくないか? 揺れも振動音もずいぶん長く続いている」

 

「まさかどこか火山の噴火でも起こるんじゃないか?」

 

「直ぐにでも全員集まった方がいいな」

 

――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――

 

 一向に収まる様子を見せない振動はどんどん強くなるばかり。

 一度全員集まって警戒しようと思ったところで、一人のハジメが気付いた。

 

「ちょっと待て! これ、普通の地震じゃないぞ!」

 

「だからそういってるだろ」

 

「ちがう! 今、僕空飛んでるよな」

 

「ああ、箒で飛んでるな」

 

 魔法の練習の一つとして飛行の為に箒を用意していた。

 何か遠くで異変が起こっていないか確認しようとしたハジメが、箒に乗って空に浮かんだのだがその時に気づいた。

 

「揺れてるんだ!」

 

「知ってるよ」

 

「そうじゃない! 宙に浮いているのに揺れを感じるんだ!」

 

「はあ!?」

 

 浮いているものまで振動を感じるなど、地震とは言えなかった。

 

「それに周りをよく見てみろ! 振動を感じるのに置いてあるものはどれも揺れで動いてない。」

 

「…確かに揺れてない。 やっぱりおかしいぞ」

 

「直ぐに会長に合流だ! 最悪時空船で即座に逃げるぞ!」

 

 何が起こってるか分からない未知の事態に、バードピアからの脱出を考えて動き出す。

 混乱してようやく動き出した段階で、謎の振動にも新たな変化が起こり始めていた。

 

――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……――

 

「…収まった?」

 

「一体何だったんだ」

 

「明らかな異常事態だった。 何にもなかったとは思えない」

 

「情報課を再結成して調査しよう」

 

 原因を究明するために、ハジメ達は再度それぞれの役職を定めて調査を開始した。

 

 

 

 

 

「先の地震の正体がわかった。

 時空間に異常が発生した時に起こる時空震と呼ばれるものだ」

 

 事件の時と同じようにオリジナルである会長を中心に会議を行ない、調査結果の報告を情報課の課長としての役についたハジメが説明をする。

 

「時空震だって? 時空乱流でも起こっているのか?」

 

「時空間の異常って、南海大冒険を思い出すが…」

 

 その事件は映画において未来人の仕業だったために、この世界では起こらなかった事件だ。

 ドラえもんの映画は時間移動をする際に時空間の異常に遭遇する事がよくあった。

 原因はあったりなかったりするが、時空間に突然異常が起こるのは何も不思議な事ではないのだ。

 

「結論から言えば時空間の異常が原因ではない。

 過去の変更による歴史改変が地球で起こり、その影響で時空震が起こったんだ」

 

『!?』

 

 過去の改変。 それはつまり時間移動によって何者かが過去にたどり着き、歴史を変える事に成功したという事だ。

 歴史を変えるなど時間移動を行う上で最もやってはならない事だが、やれるのであれば人間は間違いを犯すだろう。

 問題は誰がそれを行なったか。 そして自分たちの脅威になるのではないかとハジメ達は危惧した。

 

「一体誰がどんな歴史改変を行ったんだ」

 

「僕らへの影響は?」

 

 歴史改変が出来るという事はタイムマシンがあるという事。

 地球の地底人たちがタイムマシンを開発したので、出来ない事はないと分かっていたが、誰か分からない存在が歴史改変を行なったというのは肝を冷やす話題だ。

 ある日突然自分の過去が改変されて、歴史から気づくことなく消されてしまうなど恐ろしすぎる。

 何としても対策を取っておかなければならない。

 

「調査の結果、地球側に大きな異変が起こっているが僕らへの影響はほとんどない。

 異変もそのうち勝手に解決すると予想できる。

 明らかになっていない事はまだあるが、僕らへの脅威は全くないとみていい」

 

「なんでだ?」

 

「これを見てくれ」

 

 課長がモニターに映像を映し出す。

 そこには地球の日本の都市部が映し出されるが、ビル群に見合わない建物がある事に気づく。

 

「奇妙な木造の塔があるな。 五つ以上あるけど五重塔みたいな感じの」

 

「いや、外壁が赤くて中華風に見えるが」

 

「おい、これって…」

 

 都市部に出来た異様な中華風の赤い塔に見覚えを感じたハジメ達。

 

「察しの通り、パラレル西遊記の現代の人間が妖怪に入れ替わってしまった時に出来た建物だ。

 僕も直ぐにわかって今の地球の人間を調査したら、みんな妖怪になっていた。

 みんな一見人間の姿をしているが、感情が高ぶったりふとした拍子に本性が表に出て、妖怪らしい姿を見せる者が何人もいた。

 誰もそれを驚かないから、それが当たり前の社会になっているんだろう」

 

 モニターに記録出来た人間から妖怪に変わる地球の人たちの姿が次々に映し出される。

 ここまでくれば原因はパラレル西遊記と同じであろうことは予想が出来た。

 

「すごいことになっているな」

 

「しかし何でこんなことになったんだ? 創世日記の時みたいに後から自分達で事件を起こすからか?」

 

「それなら課長がそのうち勝手に解決するって言うのも、わからないでもないけど」

 

「あの振動が世界の歴史改変の影響だとしたら、僕らがそれに巻き込まれなかったのも気になる」

 

 一つの疑問が明らかになったら、多くの疑問が新たに生まれてくる。

 ハジメ達は口々に疑問を浮かべるが、課長のハジメが話を続けるために手を鳴らして注目させる。

 

「それ等の疑問は全て調査中だ。

 気になるなら情報課に応援に入って調査を手伝ってくれ。

 それで最後になるが、歴史の改変が起こった起点となる時間。

 実在の三蔵法師が旅を続けているところを調査したところ、こんな映像が映った」

 

 課長が新たにモニターに映した映像に、ハジメ達の視線が再び集中する。

 そこにはのび太が孫悟空の格好をして金角銀角と対峙している姿があった。

 その映像にハジメ達も流石に呆然となるしかなかった。

 

 

 

 

 

「あそこにドラえもん達がいる訳か。 実際に会うとなるとドキドキしてきた」

 

「大丈夫でござるか、殿」

 

「大丈夫だ。 しかし砂漠にあの豪勢な建物は似合わないな」

 

「彼らといえども普通の子供でござるからな。 辛い砂漠を夜くらい快適に過ごしたいのでござろう」

 

 日が暮れようとする砂漠の大地にポツンと豪華な宮殿風の建物が建っている。

 ドラえもんが出した【デラックス・キャンピングカプセル】であり、のび太達はここで一泊するようだった。

 

 ここは三蔵法師が旅をした昔の中国・唐の時代。

 会議で過去にドラえもん達がいる事を知ったハジメ達は、様々な調査の結果の末に接触を図る事にした。

 歴史改変の原因が映画同様に彼らにあるなら、何事も起こらなければそのまま事件を解決する筈だと課長は言い、会議に参加していたハジメ達も同意した。

 

 つまり事件解決の為には接触を図る必要はないのだが、邪魔にならない程度であれば会いに行っても問題ないと、タイムマシンでこの時代へやってきた。

 ハジメ達の予測では彼らが過去にいるのは歴史の改変が原因だからであり、元に戻れば会う機会はなくなる。

 それはもったいないと彼らが休んでいるタイミングに来たのだ。

 

「じゃあ行くよ」

 

 ハジメはドラ丸を連れ立ってキャンピングカプセルの前まで来る。

 

――コンコン――

 

「ごめんくださーい」

 

『はいはい、どちら様ですか』

 

「普通にノックしたのでござるな」

 

「別に問題ないだろ」

 

 

 

 ドラえもん達は金角銀角に襲われていた三蔵法師を助けて、妖怪達をヒーローマシンで回収する為に探し回っていたが、日が暮れて砂漠の中でキャンピングカプセルで休んでいた。

 晩御飯を食べて終えて後は休みだけとくつろいでいた所に玄関の扉がノックされた。

 

「はいはい、どちら様ですか」

 

「誰だろう、こんな時間に」

 

 ドラえもんが当たり前に客の応対をしようと玄関に向かう。

 のび太が誰が来たのだろうと普通に疑問が思う。

 

「待って、ドラえもん!」

 

「どうしたの、スネ夫君?」

 

「おかしいよ、ここは中国の砂漠なんだよ。

 お客さんなんか来るわけないじゃないか」

 

「言われてみれば確かに」

 

 砂漠にぽつんと立つデラックス・キャンピングカプセルは異様だ。

 普通の人間なら警戒して近づかないのではないかと察する。

 

「もしかして妖怪かしら」

 

「それならノックなんてするかな?」

 

「わからないよ。 僕らを油断させるための罠かも」

 

「よし、俺が相手になってやる」

 

「皆、落ち着いてよ」

 

 警戒し始める皆にドラえもんは落ち着くように言う。

 

「とりあえず僕が出るから、皆は念の為武器を持っていてくれ」

 

 ドラえもんに従ってのび太、スネ夫、ジャイアンはそれぞれ孫悟空、沙悟浄、猪八戒の武器を手にする。

 しずかも三人の後ろに下がって警戒する。

 

「じゃあ、開けるよ」

 

 全員が頷いて答えるのを確認して、ドラえもんは玄関の扉を開いた。

 そして外にいた人物に全員が驚く。

 

「「「ドラえもん!?」」」「ドラちゃん!?」「僕!?」

 

 ドラえもんに着物を着せて猫耳とチョンマゲを付けた姿のドラ丸に驚嘆の声を上げる。

 隣には【ヒーローマシン】でのび太と同じように孫悟空コスになったハジメもいるのだが、ドラ丸の方が彼らにはインパクトが強かった。

 

「やっぱりドラ丸の姿の方が驚くか」

 

「その様でござるな」

 

「ちょっと君たちに話があってきたんだけど、中に入れてくれるかな」

 

「は、はい、どうぞ…」

 

 ドラえもんは混乱しながらも妖怪ではないと分かり、ハジメとドラ丸を中に入れた。

 

 キャンピングカプセルの中に入りドラえもん組とハジメ達は机に座って向かい合っている。

 ドラえもんそっくりのドラ丸にのび太達はまだ呆気に取られているが、ドラえもんだけは顔を青褪させて狼狽えている。

 その尋常じゃない様子にのび太が気付く。

 

「どうしたのドラえもん。 確かにドラえもんそっくりでびっくりだけど、そこまで驚かなくても」

 

「そうじゃないよのび太君。 僕そっくりって事はね…」

 

 青褪める理由を答えようとするが、言い辛い様子で途中で口を紡いでしまう。

 その様子にのび太は首を傾げるが、とりあえず話し合いにハジメ達の方を向き直った。

 

「まずは自己紹介をしておこう。 僕はハジメ、こっちは護衛役のドラ丸だ」

 

「ドラ丸と申す。 殿の護衛を務めているでござる」

 

「護衛役?」

 

 護衛役という事に不思議そうに言葉を漏らしたのび太?

 

「何かおかしいでござるか?」

 

「だって、ドラえもんそっくりだから、あんまり強そうには見えなくって」

 

「まあ、確かに」

 

「護衛ってんなら、もっと強そうなロボットがいいよな」

 

 のび太、スネ夫、ジャイアンがドラえもんとそっくりのドラ丸があまり強そうには見えないから、そんな感想を漏らしてしまう。

 その答えにドラ丸は少しムッとするが、似た姿のドラえもんも普段であれば多少腹を立てるところだが、今はそれどころではないと言った様子でフォローする。

 

「み、皆駄目だよ、初対面の人に!

 自己紹介されたんだから、こっちもちゃんと自己紹介しなきゃ!

 皆がすいません! 僕ドラえもんです」

 

「あ、ごめんなさい。 僕、のび太って言います」

 

「私はしずかです」

 

「スネ夫」

 

「俺はジャイアンだ」

 

 ドラえもんに注意されてバツが悪かったのか、続けて素直に自己紹介をした。

 

「よろしく。 だがドラ丸はこう見えて強いよ。

 こういった平和じゃない時代や危険な場所に行くときには、安全の為に必要不可欠な存在だからね」

 

「殿は用心深いでござるからな」

 

「平和じゃない時代にってことは、あなたはやっぱり…」

 

 ドラ丸の存在からなんとなく察していたのび太が、ハジメ達が何処から来たのか確信に迫る。

 

「ああ、僕らも未来からやってきた。

 切っ掛けは僕らの時代で起こった歴史変動による大きな時空震だ。

 僕らは人里離れた場所に住んでたんだが、そこで地震のような大きな時空の揺れに見舞われた。

 調べてみたら地球の人間が全て妖怪に変わってしまっていて、原因の歴史変動を過去に遡ってタイムテレビで調べてみたら君たちがいたってわけだ」

 

 未来から来たことをハジメが告げた直後。

 

「ご、ごべんなざい~~~!!」

 

 ドラえもんがだみ声で泣きながら頭を深々と下げて謝る。

 

「ドラえもん!?」

 

「僕が悪い"んです! のび太君の頼みを聞いて道具を変な事に使おうとしたばっかりに…」

 

 ハジメはその様子に目を丸くして驚いているが、ドラえもんは責任を感じていた。

 のび太達は悪く言えば共犯者のようなものだが、歴史の変化を認識しているハジメはドラえもんから見れば迷惑をかけてしまった無関係の被害者だ。

 原因を解決すれば無かった事になると思っていたが、ハジメと言う第三者が現れた事でトンデモない事をしてしまったと改めて認識して罪悪感でいっぱいになっていた。

 

 故意ではなく取り返しが着くとはいえ、歴史を大きく変えてしまうのはドラえもんの居た未来では重罪なのだ。

 同じく未来から来たハジメに誤魔化す事は出来ないと、ドラえもんは謝るしかないと思っていた。

 

「一体どうしたのさ!?」

 

「歴史をこんなに大きく変えてしまうのは、未来では間違いなく重罪なんだ。

 直ぐに元に戻せば何とかなると思ってたけど、同じ未来人が来たんじゃもう隠しようがないんだ。

 やってしまった事の責任を取らなきゃいけない」

 

「責任!」

 

「責任は全部僕にあります! のび太君達は悪くないんです!

 だから罰を受けるのは僕だけで許してください!」

 

「そんな、ドラえもん!

 ………ドラえもんが悪いんじゃないんです!

 僕が変な我儘を言ったばっかりにこんなことになったんです。

 歴史はちゃんと僕達が元に戻しますから、怒らないでください!」

 

 必死に謝るドラえもんに、のび太も理解は及ばなくても大きな迷惑をかけてしまったのだと分かった。

 ドラえもんに罰を受けさせる訳にはいかないと同じように頭を下げた。

 

「の、のび太君…」

 

「僕がドラえもんに何とかしてって頼んだのが原因なんだもの。

 僕のせいでドラえもんに罰なんか受けさせられないよ」

 

「ねえ、ジャイアン。 僕たち悪くないよね」

 

「そ、そうだよな。 のび太が勝手にやったことだしよ」

 

「私からもお願いします!

 ご迷惑をかけてしまったことは謝りますから許してください!」

 

「「しずかちゃん! ………ごめんなさい」」

 

 スネ夫とジャイアンは自分たちは悪くないと謝る事を渋るが、しずかも謝ったことで同じように謝って頭を下げた。

 

 しかし当のハジメはまさか突然謝られるとは思っておらず困惑していた。

 確かにバードピアに時空震があったので影響を受けたと言えるが、対して迷惑を被っていないハジメは彼らを責める理由は全くないのだ。

 ちょっと様子を見に来る程度だったのだが、こんなことになってしまって逆に申し訳ない気持ちになってしまう。

 

「ま、待ってくれ。 僕は別に君達を責めるためにここに来たわけじゃない。

 だから落ち着いて頭を上げてくれ」

 

 ハジメにドラえもん達を責めるつもりは一切ない事を伝えて全員を落ち着かせる。

 落ち着いたと思ったところで、改めてハジメから話を切り出した。

 

「地球の人間が妖怪になってしまった原因は、大体タイムテレビで把握している。

 確かに僕の世界の僕の時代は妖怪社会になってしまったが、この時代の原因のヒーローマシンのキャラクターを排除すれば元に戻るだろう。

 君達がその為に今動いているのも分かっているし、最悪僕が解決に力を貸せば済むことだ。

 大きな問題ではあるが取り返しが着くと分かっているから、今は君達を咎めるつもりはない。

 だから安心してくれ」

 

「よかった、一時はどうなる事かと」

 

「よかったわね、ドラちゃん」

 

「ホントだよ、僕たちは巻き込まれただけなのに

 ねえジャイアン」

 

「そうだぞ、元はと言えばお前が悪いんだぞ、のび太」

 

「皆、僕の為に一緒に謝ってくれてありがとう」

 

 何も罰を受ける事は無いと分かって安心するのび太達。

 そんな中で庇おうとしてくれたことに感動するドラえもん。

 ハジメもまた彼らの友情に本当にドラえもんの世界に入り込んだような感動を覚える。

 

「(子供故に考えが足りない迂闊な行動の結果が今の状況だが、それ故に純粋で真っ当な友情というものが感じられるな。

 突然謝られた時は困惑したが、真剣に友を思い合う彼らの姿を見れたと思えば幸運だ。

 当たり前の事でも誰かの為に懸命になる姿はやっぱり主人公たちだな。

 こんな純粋さは僕ではやっぱり真似出来そうにない)」

 

 そんなドラえもん達の姿を見れただけで十分だとハジメは思う。

 彼らだからこそ自分の解決してきた多くの映画の事件は、人情味のある奇跡の様な結末を迎えられるのだろう。 自分の世界は自分の世界だと思うが、彼らの様にはなれないという劣等感のような憧憬を素直に受けとめていた。

 

「落ち着いたところで、話を続けようか。

 君らが歴史を元に戻そうとしているのは分かっているし、僕はその様子を見に来ただけなんだ。

 歴史変動の原因のヒーローマシンの妖怪は、親玉の牛魔王を倒せば力を失う。

 そうすれば未来の世界が妖怪の社会になる事もない」

 

「じゃあ牛魔王さえ倒せば、歴史が元に戻るんですね」

 

「そうだ。 君達がそれを出来なかった場合は僕らが何とかしようと思ってここに居る」

 

「じゃあ、貴方は手伝ってくれないんですか?」

 

 スネ夫はハジメが手伝ってくれないことを不満に思って言う。

 

「スネ夫君。 こうなってしまったのは僕たちのせいなんだ。

 僕等でどうにかしなきゃいけない。

 失敗したら何とかしてくれるだけでも感謝しなきゃ」

 

「そうだけどさ、僕らは子供なんだよ。

 大人がいるんなら任せるべきだよ」

 

「確かにそれは一理あるね」

 

 のび太達の冒険は、彼らだけが頼りだったりドラえもんの道具があればこその物語だ。

 大人がいるなら頼るのは当たり前だ。

 

「君らが自分で解決出来るならそれでいいが、僕らに任せると言うならそれでもいい。

 一切を任せたからって君らを咎めるつもりもない。

 どうするかい?」

 

 ハジメは自分達で問題を片付けてもいいとドラえもん達に言うと、彼らは少し迷った様子で話し合う。

 一番臆病なスネ夫は解決を任せたい様子だが、他の皆は迷っている様子だった。

 やがて相談を終えて、ドラえもんが代表として答える。

 

「やっぱりまずは僕等だけでなんとかしてみます。

 僕らが原因ですから僕達で出来るだけやってみたいんです」

 

「わかった。 それなら僕は様子見に徹しよう」

 

 当初の予定通り、ドラえもん達だけで解決に挑むことになった。

 本来の道筋にハジメは手を出さないつもりだが、別の見えない所で既に対処に回っていた。

 劇中で現れる妖怪は名前があるのは金角銀角、羅刹女、牛魔王くらいだが、ヒーローマシンのゲームの敵役としては数が少なすぎる。

 ゲームの中には敵はもっとたくさんいて、劇中で登場せずに各地の人間の村などを襲っていた。

 最終的に牛魔王を倒し全ての妖怪が力を失ったことで何処かで野垂れ死ぬのだろうが、犠牲者は少ない方がいいだろうとモビルソルジャーを派遣して処理させていた。

 いかに妖術があってもビーム兵器の前では瞬殺だったそうだ。

 

「ハジメさんも未来から来たんですよね。

 やっぱり僕と同じ22世紀からですか?」

 

「いや、時代的には僕はのび太君達とそんなに変わらない筈だ。

 だけど君らの世界と僕たちの世界はどうやら分岐した並行世界みたいなんだ」

 

「そんな馬鹿な」

 

「並行世界って何ですか?」

 

 驚くドラえもんの横で、のび太が素朴な質問をする。

 

「並行世界っていうのは、自分たちの世界とそっくりのいわばもしもの世界だよ。

 もしもボックスは知ってるかい?」

 

「うん。 何度か使ったことがあるよ」

 

「それを使って変わった世界も並行世界の一つだ。

 そしてヒーローマシンによって結果的に妖怪の世界になってしまった現代も、僕たち人間の本来の世界から見れば並行世界と言えるんだ」

 

「そうなんですか!」

 

「ああ、もしもボックスを使った場合に例えるなら、『もしも人間がみんな妖怪だったら』って感じにね」

 

「でももしそれが本当だとしたらおかしいですよ。

 歴史が変わってしまったのは、僕らの世界のこの時代が原因なんだ。

 ハジメさんの世界が別の世界なら影響が出るはずがない」

 

 ドラえもんの言う通り、ハジメは自身の世界の過去現在未来にドラえもん達は存在しない筈だった。

 故にパラレル西遊記の事件は起きない筈だったが、現実に起こって妖怪世界になった事でドラえもん達が存在するようになったのか調査した。

 その結果、ドラえもんの居る世界と居ないハジメの世界はある程度繋がりのある並行世界だった。

 ドラえもん達の世界が妖怪世界になったことで、ハジメの世界が巻き込まれる形で歴史が改変されて、妖怪世界という同一の世界となったのだ。

 

 並行世界というのは歴史の些細な違いで簡単に分岐して増える。

 ドラえもん達の居る世界が歴史のどこかで分岐して、ドラえもん達の居ない世界になったというのがハジメの考えだ。

 例を挙げるなら、以前ハジメ達の世界に来た昆虫人類達の世界との関係に近いと言える。

 親世界の歴史が変わったことで、子世界の歴史も影響を受けてしまったというのがハジメの考察の結論だ。

 

 元の歴史に戻れば、同じように世界が分岐して元通りの別々の世界に戻るだろう。

 以上の説明をハジメは出来るだけ簡潔に説明したが、ドラえもんくらいしかちゃんと理解する事は出来なかったらしく、のび太達は完全にちんぷんかんぷんになっている。

 

「というわけなんだけど………あまり理解は出来なかったみたいだね」

 

「つまりハジメさんは別の世界の人ってこと?」

 

「のび太君、それはハジメさんが既に言ってることだから。

 すみません、のび太君達には今の話は難しすぎたみたいです」

 

「いいよ、君らは未来のロボットと関係があっても普通の小学生みたいだからね」

 

 難しくて理解出来ない話ばかりしては意味はないと、ハジメは別の話題に変える事にした。

 ドラ丸はもともと未来のロボットではなくハジメが秘密道具を使って作ったものだと教えたら、ドラえもん達は当然のごとく驚いた。

 秘密道具はいろんなことが出来るが、ドラえもんと同じようなロボットまで作れるとは思っていなかった。

 

 なんでハジメがのび太と同じように孫悟空の姿をしているのかと問われると、この時代に散らばった妖怪に遭遇した時に、ヒーローマシンのキャラクターの力がなければ倒せないかもしれないと考えたからだった。

 事件は率先してドラえもん達が解決に動くし、遭遇しても護衛のドラ丸が強いので戦う事は無いだろうが、念のために同じようにヒーローマシンを使ったのだと答えた。

 もちろん妖怪が逃げ出さないように入り口はちゃんと閉めたとハジメが冗談交じりに言うと、それで失敗したドラえもんは申し訳なさそうになってしまうのだった。

 

「秘密道具の使い方を誤れば大変な事になってしまうのは、今回の事でわかったと思う。

 本来はただ遊ぶことが目的のヒーローマシンからゲームのキャラクターが出てきて暴れるなんて、安全面で問題のある秘密道具は数多くある。

 だけどそれは同時に、秘密道具には多くの可能性があるのだと僕は考えている」

 

「それはどういう意味ですか?」

 

 秘密道具はタダの道具として使っているドラえもんは、ハジメの含んだいい方に不思議そうにする。

 

「今回はヒーローマシンから出た妖怪が過去で広まったことで歴史改変なんて事態になってしまったが、その意味を見方を変えて考えてみれば非常に面白い結果だと思うんだ」

 

「面白い結果?」

 

「そんなことないよ。 僕のママなんか頭から角を生やしていつもよりずっと怖かったんだよ」

 

「私のママや先生だって怪物に変身して」

 

「僕のママだってあんな姿になって…、ママ~~!」

 

「へんっ、そんなもん大したことねえよ。

 俺の母ちゃんなんか普段から妖怪なんかよりずっと怖えのに、妖怪になって………

 オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ!!!!!」

 

「な、何があったのジャイアン…」

 

「お”、思い出させんな!!」(ガクガクブルブル)

 

 恐ろしさのあまりに思い出しただけで奇声を上げるジャイアンに、全員が引いていた。

 ここまで恐れるなんて何があったんだと聞きたくなるが、同時にとても恐ろしくて誰もそれ以上聞こうとはしなかった。

 

「ま、まあ君らにとっては身内が妖怪になってしまったんだ。 笑い事じゃないんだろう。

 だけどそれこそおかしいとは君達は思わないかい?」

 

「何がですか?」

 

「過去に妖怪を放ったことで世界を支配されてしまうのだろうが、その結果現代の人間がそのまま妖怪になってしまうのは可笑しいだろう?

 過去が妖怪の世界になってしまったら、人間の歴史は滅茶苦茶になって現代文明が築かれるとは思えない。

 なのに君達の家族の様に人間と変わらぬ姿のまま妖怪になっているのは可笑しいとは思わないかい」

 

「まあたしかに」

 

「最初はみんな妖怪になってるなんて気づかなかったもんね」

 

「なんでかしら?」

 

「どうでもいいぜ。 早く母ちゃんが怖くなくなるなら………やっぱ人間の母ちゃんでも怖え!」

 

 元に戻った母親の姿を想像しても、やっぱり怖いとジャイアンは頭を抱える。

 どれだけ怖いのかと誰もが気になってしまうが、忌避感を感じてやはり誰も聞かなかった。

 

「………人間の世界から妖怪の世界に変わっても地球の歴史そのものが大きく変わらなかったのは、おそらく歴史の修正力が働いたのではないかと思っている」

 

「そうか、歴史の修正力か」

 

「う~ん…? ドラえもん、何を言ってるのかさっぱりわからないよ」

 

 ドラえもんだけはハジメの説明を理解しており、何が何だか分からないのび太に説明する。

 

「昔僕がのび太君の所に来た時に、セワシ君が説明したことがあっただろ。

 地球の歴史は過去を少しばかり変えても100年後の未来の歴史には大きな変化がないって。

 人間が全て妖怪になってしまうのは大きすぎる変化だけど、のび太君の時代には元の世界と大きな変化はなくなってるってことだよ」

 

「皆妖怪になっちゃってるのに?」

 

「う~ん、地球の歴史から見れば人間でも妖怪でもあまり関係ないのかもしれないね」

 

「人間が妖怪になってしまう事を受け入れれば、案外これまでと変わらず生きられるかもしれないよ」

 

「いやだよそんなの。 それに僕たちは人間なんだよ」

 

「今はそうかもしれないが、歴史変動の影響で僕達も時間が経ったら妖怪になってしまうかもしれないよ」

 

「そうなの!?」

 

 ハジメの説明に声を上げたのび太だけでなく他の皆も顔を青ざめる。

 

「元の時代に妖怪になった家族はいても、妖怪になった自分たちはいなかっただろう?

 それは君達が間違いなく彼らの家族だからで、妖怪も人間も関係なく二人といない唯一の存在だからなんだ。

 人間のままなのは歴史を変えた張本人達で、歴史を元に戻せる可能性があるから影響を受けるのが遅れてるんじゃないかな。

 時間が経てば僕等の生まれという人生の歴史も歴史変動の影響を受けて、その内角が生えたりして妖怪になっちゃうんじゃないかな」

 

 自分も妖怪になると言うハジメはそれを気にした様子もなく笑っていた。

 スネ夫は慌てた様子でバッと椅子から立ち上がる。

 

「じょ、冗談じゃないよ!

 僕は嫌だよ、妖怪になるなんて!

 そうなる前に早く妖怪を何とかしなきゃ!」

 

「慌てなくても大丈夫だよ。 妖怪化するとしたらおそらく何らかの兆候がある。

 今のところ全く影響は出ていないから、変化が起こるとしたらまだ時間の余裕がある。」

 

 歴史の変化で自身の存在が消えかかるというタイムトラベル事故は良くある話だ。

 その場合消滅するまでの猶予があり、その間に歴史を元に戻せば消滅は免れるといった展開は鉄板だ。

 過去の変化させたことで自己を消滅させてしまえば、過去を変えたのは誰なのかというタイムパラドックスになる。

 歴史もそんな矛盾を望まないだろうし、何とかしようとすれば修正力も後押しして歴史を元に戻す事は難しくないだろう。

 

「それに歴史の変化の影響力を受けるとしたら、変化が既に起きている現代でだ。

 この時代なら歴史の変化が起こる前で元に戻せる可能性が残っているから、妖怪化する可能性はより低いと思う」

 

「はー、よかった。 脅かさないでよ」

 

「全くスネ夫は臆病だな」

 

「ジャイアン、さっきまで妖怪の母ちゃん怖いってビビってたくせに」

 

「なんか言ったか?」

 

「なんにも」

 

 妖怪になる可能性はあるが、今のところ心配ないと安心するスネ夫達。

 

「まあ、こちらは時間移動による歴史変化の不思議な話になんだけどね。

 ヒーローマシンの可能性は、出てきた妖怪が人間に成り代われたという事だ」

 

「そりゃあ、普通の人間が妖怪に勝てる訳ないよ。

 戦っても負けてしまうのはしょうがないんじゃない?」

 

「人間が妖怪に勝てないという話じゃなくて、妖怪が人間の代わりに成れたって事が不思議なんだ。

 現代の人たちはみんな妖怪に変わってしまったけど、ヒーローマシンから出てきた妖怪とは明確に違う事があるんだ。

 わかるかい?」

 

「「「「?」」」」

 

 のび太達はハジメの質問にすぐには答えが浮かばないようで疑問符を浮かべる。

 

「ヒーローマシンから出てきた妖怪たちは、あくまで妖怪という役割を与えられたゲームのキャラクターなんだ。

 本物の妖怪とは言えない、妖怪という設定をプログラミングされた作り物なんだ」

 

「言われてみれば確かに」

 

「ヒーローマシンから出てきたから、本物の妖怪じゃないんだよね」

 

「現代の妖怪になってしまった人たちのように、親から生まれて育った普通の生き物じゃない筈なんだが、その妖怪たちによって現代になる頃には妖怪社会が出来てしまう。

 つまりヒーローマシンの妖怪たちは外の世界に出た事で、人間に成り代わる事の出来る新たな種へと確立したんだ。

 ゲームの設定で出来た存在が外に出た事で本当の生き物になるんだよ。

 これって凄いとは思わないかい」

 

「それは確かにすごいかも…」

 

 話は何とかついてきているが、その凄さが理解出来ないようでのび太の返答は歯切れが悪い。

 

「うーん、どうにもヒーローマシンの凄さがうまく伝わらないみたいだ。

 今の君達は西遊記のゲームのプレイヤーとして、設定されたキャラクターの力を使うことが出来るだろう。

 同じように妖怪達も妖術という設定された力を使うことが出来る。

 ヒーローマシンのカセットは人の手によってプログラムされた物だ。

 つまり設定さえすればヒーローマシンのゲームのキャラクターはどのような力でも持つことが出来るようになる。

 君達の知っている漫画のキャラクターの設定を組み込んだカセットを自作すれば、ヒーローマシンで自分たちが使えるようになるかもしれないってことだ」

 

「それは凄いんじゃない!」

 

「確かにスゲーなそれは!」

 

「じゃあさじゃあさ、もっと強いキャラクターの力をヒーローマシンで使えるようになれば妖怪なんか簡単に倒せるんじゃないかな」

 

「それだ! あったま良いなスネ夫!」

 

 自分たちの分かりやすい説明を受けた事で、のび太達もヒーローマシンの可能性に興味を示す。

 ハジメも事件になるはずの無かった映画の秘密道具なので未調査だったが、カセットを自作出来るならどんな力も宿す事の出来る特殊性最上級の秘密道具ではないかと考えている。

 【ウソ800】や【魔法事典】、【もしもボックス】のような使い様によっては何でも出来る道具を、ハジメは最上級秘密道具として取り扱いに注意している。

 

「ドラえもん、他のカセットでもっと強くなれるものはないの?」

 

「僕が前にやってた剣と魔法のファンタジー物があったけど…」

 

「あ、それ僕やりたい!」

 

「いや俺だ!」

 

「僕だってやりたいよ」

 

「お前は孫悟空なんだからいいだろ」

 

 ヒーローマシンで別のキャラクターの力を使いたがるのび太達。

 可能性の話をしたことで興味を持ってしまったのび太達に、余計な事を言って物語の流れを変えてしまったかと、少し迂闊だったと自覚するハジメ。

 

 結局スネ夫とジャイアンは別のカセットの主人公の力を使う事になり、孫悟空ののび太と妖怪を誘き寄せるための三蔵役のしずかはそのままという事になった。

 自身の失言で、この後の大筋の流れに大きな変化がない事を祈りながら、ハジメはドラえもん達に別れを告げてキャンピングカプセルを後にする。

 失敗をしてしまった分フォローが必要であれば直ぐに手を出せるように、ハジメはタイムテレビで彼らの動きを注視する事にした。

 

 

 

 

 




 ドラえもん達を登場させましたが、彼ららしさを表現で来ていたでしょうか?

 自分の場合のアニメのドラえもんのイメージですが、大山のぶ代さんの声ですと大きなだみ声でわんわん泣くイメージが強くて、現在の水田わさびですと『アアーー!!』と言って飛び上がりながら驚くイメージなんですが、皆さんはどうでしょうか?

 書いている内にヒーローマシンの可能性にも気づいて、よく考えたらこれもすごいひみつ道具なんじゃないかとのび太達に説明する形で語りました。
 ゲームキャラの妖怪が外に出てくれば本当に妖術を使える妖怪になるなら、プログラムを設定すればどんな生き物も作り出すことが出来るってことですよね。
 のび太は如意棒と筋斗雲しか使っていませんでしたが、それだけでも使えるようになるなら、ヒーローマシンの凄さがわかるというものです。

 ヒーローマシンを使って今後のネタにしてみたいですが、今のところ思いつかないですね。
 秘密道具はいろいろなことが出来るから、逆に何をしたら面白いか考え込んでしまいますね。



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パラレル遭遇記 後編

 

 

 

 

 

 各地に散らばった主要以外の妖怪の掃討を終わらせたモビルソルジャー達を回収してから、ハジメ達はドラえもん達の動きを見守っていた。

 接触後は大筋は変わらず、銀角との戦いに別のキャラクターの力を使えるようになったジャイアンとスネ夫が活躍して、だまし討ちでは無く倒してからヒーローマシンに回収された。

 

「ヒーローマシンに回収機能があるってことは、逃げ出す事を想定して作られているのか?

 初めからキャラクターが出てこないようにすればいいのに」

 

 そうハジメは思ったが、秘密道具にはそういった機能に欠陥がある事は多く、問題がある事は珍しくない。

 品質の安全に五月蠅い現代の日本からは考えられない問題だらけに、未来の日本製ではないのではないかとハジメはちょっとズレた事を考えていた。

 

 銀角を倒した隙に三蔵扮するしずかが攫われて、偵察に行っていたのび太はリンレイと遭遇してドラえもん達と合流した。

 攫われた三蔵本人としずかを助けるために五人で火焔山に向かい、リンレイの案内で罠を潜り抜けて内部の城までたどり着くが、落とし穴に嵌ってドラえもん達は捕らえられてしまう。

 ドラえもんが牛魔王に食べられそうになるピンチにハジメは大丈夫かと心配そうに見守るが、予定通りにドラミが現れて牛魔王の注意を引き付けている間に、リンレイがのび太達の縄を解いたことで戦いが始まる。

 

 のび太、ドラえもん、ドラミが牛魔王の相手をし、ジャイアンたちが三蔵を逃がそうと城の外へ向かっていると羅刹女が立ちはだかってこちらでも戦いが始まる。

 映画では羅刹女と配下の妖怪によって再度捕まってしまうが、ジャイアン達が別のキャラクターの力を使えることで善戦していた。

 その間に牛魔王との戦いに決着が着くとハジメは思ったが、戦っているのび太の様子が映画と少し違っているようだった。

 

『ドラえもん! 早くヒーローマシンで牛魔王を回収してー!』

 

『ダメだ! 牛魔王にヒーローマシンをペシャンコにされちゃった。

 こうなったら牛魔王を直接倒すしかない』

 

『そんなぁ! わあっ!』

 

『のび太君!』『のび太さん!』

 

 牛魔王の攻撃に吹き飛ばされて、筋斗雲に乗っていたのび太は床に落っこちてしまう。

 地面に落ちたのび太にドラえもんとドラミが駆け寄って安否を気遣う。

 

『大丈夫、のび太君!?』

 

『な、なんとか…』

 

『これは無理よ。 逃げましょう!』

 

 フラフラののび太を左右から抱えて逃げ出そうとするドラえもんとドラミ。

 それを当然のごとく、逃がそうとはしない牛魔王。

 

『逃がすか! 孫悟空覚悟!』

 

 振るわれる巨大な剣にのび太達がピンチに陥る。

 映画の流れからおそらくこのタイミングで、カウンターでのび太が如意棒を大きくして牛魔王を倒すのだとハジメは思った。

 

 しかしのび太は牛魔王を見返しながら如意棒の先を向けることなく、咄嗟に身を守る為に受け止めようと横向きに構えていた。

 当然、巨大な牛魔王を受け止める事など出来ず、ドラえもんとドラミが逃げようと動いたことで攻撃は外れるが、衝撃で三人とも吹き飛ばされて壁にぶつかった。

 そのダメージは深刻そうで、誰も起き上がれる様子ではない。

 

 ハジメもこれは映画の展開ではないと慌て始める。

 

「これは不味いぞ!」

 

「本当にピンチの様でござるな!」

 

『トドメだ、孫悟空!』

 

 止めを刺すために再び巨大な剣を振りかざす牛魔王。

 ヒーローマシンのゲームの中でなら負けてもゲームオーバーになるだけなのだろうが、現実世界に出て戦っては命の安全は誰も保証しないだろう。

 正しく絶体絶命に、ハジメは即座に介入する事を決断する。

 

「ドラ丸! 時間を止めろ!」

 

「承知!」

 

 念のため、直ぐに使えるように出していたウルトラストップウォッチをドラ丸が作動させた。

 

 

 

「ううぅ…のび太君、ドラミ…」

 

 牛魔王の攻撃の衝撃で壁に叩きつけられたドラえもんが、顔を上げて二人の姿を探す。

 二人も同じように壁に叩きつけられて動けなくなっているが、死んでいるわけではなく身じろぎをしている。

 だが、牛魔王は攻撃の手を緩めることなく剣を振るおうとする。

 

「トドメだ、孫悟空!」

 

「や、やめろぉ!」

 

 ドラえもんは必死に動こうとしてのび太を助けに行こうとするが、叩きつけられたダメージが酷くてろくに動くことが出来ない。

 もう駄目だと両手で目を覆い隠して最悪の光景から目を逸らすが…

 

 

――キィン! ガッシャァン!――

 

 

 剣をのび太に叩きつけられたのとはまるで違う金属音に、ドラえもんは覆い隠した手を退けて何が起こったのか確認した。

 そこにはタケコプターで空を飛んでいる、昨日会ったドラ丸が刀を振るって牛魔王の剣を切断し、斬られた刃の部分が地面に落ちているのが目に入った。

 先ほどの金属音は、斬られた音と刃が地面に落ちた音だった。

 

「な、なんだと!」

 

「殿! 今の内に三人をお願いするでござる」

 

「わかった!」

 

 ハジメはのび太に駆け寄って容体を見ながら抱え上げると、倒れたままのドラえもんの所まで駆け寄ってくる。

 

「のび太君!? ハジメさん、のび太君は!?」

 

「死んではいないが、ロボットの君らと違って生身の人間だ。 頑丈ではない。

 牛魔王は僕等で何とかするから、ドラえもんはお医者カバンで早くのび太君の容態を診てくれ。

 動けそうにないなら、僕がやるがどうする」

 

「だ、大丈夫ですこれくらい!」

 

 グググっと踏ん張って立ち上がるドラえもんは、痛みに耐えながらお医者カバンを出してのび太の治療を始める。

 ハジメはのび太をドラえもんに預けると、同じように倒れているドラミも抱えてくる。

 ドラミは壁に叩きつけられた衝撃で気を失っているようだった。

 

「それじゃあ、牛魔王を倒してくる」

 

「気をつけてください」

 

「わかってる」

 

 ドラえもんはのび太の治療をしながらハジメを見送る。

 切断されて使い物にならなくなった剣を捨てて、牛魔王はドラ丸に拳を振るって攻撃を続けていた。

 ドラ丸は時間を稼ぐようにタケコプターで飛び回って回避を続けている。

 

「待たせたドラ丸!」

 

「なんてこと無いでござるよ殿。 止めを任せればよろしいのでござるな」

 

「すまないが足止め頼む」

 

 映画では如意棒の攻撃で牛魔王を倒していた。

 ヒーローマシンのゲームのキャラクターであるのなら、プレイヤーキャラクターである孫悟空の攻撃で倒す事には何か関連性があるかもしれない。

 ゲーム外の手段で倒せば、他の妖怪の妖力が失われないといった予想外の事になるかもしれない。

 なので可能な限り映画と同じ手段を用いようと、ハジメは孫悟空のキャラクターでニョイボウによって牛魔王を倒そうと思っていた。

 

「他愛ないでござるよ」

 

 ドラ丸は難しい事ではないと、牛魔王の攻撃から避け続けていたところに猫又丸を抜いて攻撃に入る。

 牛魔王のパンチに合わせて攻撃を掻い潜りつつ、チャンバラ刀の機能を使って両腕を切り落とした。

 チャンバラ刀の機能を使ったのは、彼らの前で血生臭い事になるのは良くないとハジメが指示していたからだ。

 事実、牛魔王の腕の切断面からは血は一切出ていない。

 

「俺の腕が!」

 

「今でござる、殿!」

 

「わかった!」

 

 ハジメは如意棒の先を地面につけて、もう片方の先を牛魔王の腹に向けて狙いを定める。

 混乱している牛魔王に向かって、即座に如意棒に命令を下した。

 

「如意棒、大きくなれ!」

 

 一気に巨大化した如意棒は牛魔王の腹に突き刺さり城を貫いて外の壁面に激突した。

 それにより牛魔王は力尽きて動かなくなる。

 映画でのび太が倒した方法を確かに再現することが出来た。

 

「やったでござるな、殿」

 

「ドラ丸が手を貸してくれていたからな。 楽に如意棒を当てることが出来た。

 それよりも早く彼らを連れて脱出しよう。

 直ぐにでも噴火が始まりそうだ」

 

 戦いの衝撃で火焔山が揺れており収まる気配がない。

 

「では、急ぐでござるよ」

 

「ああ」

 

 のび太の治療をしているドラえもん達に直ぐに脱出する様に伝える。

 のび太はとりあえず命に別状はなく、応急処置を終えてドラえもんが背負って先に外に向かったジャイアン達に合流する。

 ジャイアン達が戦っていた羅刹女は、映画通り牛魔王が倒れた事で妖力を失ってマグマに落ちていったらしい。

 全員が合流してからどこでもドアで外に出ると、その直後に火焔山は噴火して妖怪たちの本拠地は消え去った。

 

 

 

「ううん…」

 

「気が付いた、のび太君?」

 

「ここは?」

 

 気が付いたのび太はあたりを見渡す。

 周りは砂漠で遠くでは火焔山が噴火で噴煙を上げており、ジャイアン達が拾った芭蕉扇を扇いで火の勢いを静めている。

 

「火焔山の外の砂漠だよ。 のび太君は牛魔王の攻撃で気を失ってたんだ」

 

「そっか………そうだ、牛魔王は!?

 っ、アタタタタタ!!」

 

 牛魔王との戦いを思い出したのもつかの間、痛みに苦しむのび太。

 

「無理しちゃ駄目だよ。 命に別状はないとはいえ、死にかけたんだよ。

 横になって安静にしてなよ」

 

「う、うん。 ねえ、ドラえもん、あの後どうなったの?」

 

「ハジメさんが助けてくれたんだ」

 

 ドラえもんの言葉で近くでハジメが様子を窺っていたのにのび太は気づく。

 

「そうだったんだ。 助けてくれてありがとうございます」

 

「いや、気にしないでくれ」

 

 何が原因か知らないが、本来牛魔王を倒すはずののび太が倒せなかった。

 その切っ掛けが自身にあるのではないかと考えるハジメは、弱っているのび太に後ろめたい思いがあった。

 原因を探るためにのび太に質問したいが、なぜ牛魔王を倒せなかったのかと聞くのも不自然だ。

 結果的に怪我をさせてしまったのが自分ではないかという思いはあるが、意を決してハジメは聞いてみる事にした。

 

「のび太君、聞きたい事があるんだが。

 牛魔王と戦っているとき、何を考えていた?」

 

「戦っていた時ですか?」

 

「ああ。 その、なんだ………牛魔王はヒーローマシンの敵キャラだ。

 ラスボスとはいえ孫悟空の力で倒せるように出来てたはずなんだが、のび太君が倒せなかったのが気になってね」

 

「ハジメさん、のび太君は弱虫でおっちょこちょいなんです。

 一人であんな大きな化け物に勝てるわけないですよ」

 

「酷いよドラえもん」

 

 ドラえもんに貶されて落ち込むのび太。

 

「まあ、確かにあんなのゲームでも簡単にはいかないだろうね。

 でもあの時の心境が少し知りたいんだ。 わからないならそれでいい」

 

「戦ってた時ですか…」

 

 のび太はう~んと首を傾げて考え込む。

 

「あの時は僕が牛魔王と戦ってる間に皆に逃げてもらって、その後ドラえもんに牛魔王をヒーローマシンに回収してもらおうと思ったんです。

 だけどヒーローマシンを牛魔王に壊されちゃったってドラえもんに言われて、どうしようかわかんなくなって、その後牛魔王に吹き飛ばされて何が何だかわかんなくなってるうちに気を失っちゃいました」

 

「ヒーローマシンに回収しようとしていたのか。

 牛魔王を倒して解決しようとは思わなかったのかい?」

 

「倒して………うーん、倒すのは無理だと思いました。

 それに…」

 

「それに?」

 

 言い淀んでるのび太は、少し迷った末に続きを語る。

 

「倒そうと思えなかったんです。

 ヒーローマシンの妖怪で倒さないと未来が妖怪の世界になっちゃうのは分かってたけど、ハジメさんの妖怪達が生きてるって話を思い出しちゃって。

 そしたら倒して殺しちゃうことがなんだか怖くなっちゃって…」

 

「そんなこと考えてたのか、のび太君。

 あれはヒーローマシンのゲームのキャラクターなんだよ」

 

「わかってるよぅ」

 

 ドラえもんの文句にのび太はすまなそうにしているが、ハジメはやはり自分が原因だったかと納得しつつも落ち込んでいた。

 

「…余計な事を話してしまったみたいだね。 申し訳ない」

 

「い、いえ、そんなことないです。 僕達の方こそハジメさんに迷惑をかけちゃって」

 

「そうですよ。 僕達はハジメさんに助けてもらったんです。

 ハジメさんがいなかったら僕ものび太君もどうなっていたことか…」

 

 ドラえもん達はそういうが、話の流れを変えて結果的に危険に晒してしまったハジメとしては、如何に助けたと言ってもマッチポンプのように思えて申し訳なかった。

 ハジメの事情を話すわけにはいかないので、謝罪をし合うのは程々の所で切り上げた。

 

「ともかく、牛魔王を倒したことで歴史は元に戻っただろう。

 これから未来に帰れば、僕らは別々の時間軸にたどり着いてもう会う事もないはずだ」

 

「本当に別の時間軸の人なんですね」

 

「面白い事にね。 後、僕から言えることは秘密道具の扱いには注意するようにね。

 扱いを間違えれば本当に取り返しの付かない事に成り得るんだから」

 

「はい、十分注意します」

 

 秘密道具の持ち主であるドラえもんが深々と頭を下げる。

 

「今度から気をつけてよ、ドラえもん」

 

「ムッ! 元はと言えば、のび太君が変な事を言い出したからでしょ!」

 

「ドラえもんがヒーローマシンを開けっぱなしにしちゃったのが原因じゃないか!」

 

 喧嘩を始めるドラえもんとのび太にハジメはやっぱり感慨深い思いを感じる。

 仲良く喧嘩する彼らに、前世で純粋にアニメを見ていた頃を思い出す。

 そんな彼らの姿にハジメは自然と笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 ハジメ達がタイムマシンで現代のバードピアに真っ直ぐ戻ると、元通りの人間社会に戻っており、ドラえもん達も存在していない世界になっていた。

 過去から現代に戻った時間移動の流れを調査してみると、途中で時空間の支流に自然に入っており、別の時間軸となっているのが分かった。

 やはり以前の昆虫人類と同じような僅かな歴史の分岐によって生まれた隣接する可能性の世界という見方が正しいようだ。

 

 更に現代から再び過去を観測してみても、パラレル西遊記その物の事件が観測出来なかった。

 無かった事になったのではなく、あの事件はやはりドラえもんが存在する時間軸が主体で起こった事だったのが原因だとハジメは見ている。

 

 一つの時間軸を糸として、並行世界に分岐する前を糸を束ねた縄のようなものと考えてみる。

 束ねた縄は全く違いのない同一の歴史だが、それぞれの並行世界は束ねた縄の中の糸の一本にすぎず、別の糸の世界と直接繋がる事は無い。

 パラレル西遊記の事件はドラえもんの世界で起こったが、歴史全体への影響力の強さから分岐する筈だった並行世界を巻き込んで、現代まで妖怪の世界になるという一本の縄の様に世界同士が紡がれて同じ歴史に変えてしまった。

 歴史が元に戻ったことで並行世界は元の様に独立し、事件が起こった過去もドラえもんの世界のみ一時的に縄から解れている一本の糸の様に、本来の歴史という縄に全く影響のない歪みに収まったのだろうと推測した。

 

 つまり並行世界にすら影響を及ぼした歴史の変化要因を、並行世界に影響を与えない【変化した後修正した】という僅かな歴史の歪みに抑えた事で、ドラえもんの世界の歴史にのみ僅かな痕跡が残る事になった。

 影響を受けなくなった並行世界であるハジメの世界からは、【変化した後修正した】という歴史変動の痕跡すら、タイムテレビで時間軸を遡るだけでは観測出来なくなったという事だ。

 予測通り、この時間軸上ではドラえもん達と再び遭逢することは無いと証明された。

 

 

 

 事件が解決して元の研究に戻ると帰ってきたハジメは思っていたが、オリジナルの会長と呼ばれるハジメがある事に気づいたと言って、ドラ丸とコピー達を招集した。

 全員が集まると会長の前には二つの秘密道具が置かれていた。

 

「秘密道具の数は膨大だ。 只のオモチャみたいな物から、使い方次第で何でも叶うドラゴンボールのような最上級の危険性の物もある。

 その為に道具の種類を把握して使い方を考える事を、これまで事件や研究の合間にやっていたのは知っての通りだ。

 だが今回の事件が発生してドラえもん達の姿を見た時に、ちょうど使い方を考えていたこの道具と合わさって天啓を感じた」

 

 会長は片方の四角い箱にボタンとアンテナの付いた秘密道具を手に取る。

 

「これは【機械化機】。 機械の機能を読み取って人間にその機能を付与する事の出来る秘密道具だ。

 ただし人間に無理矢理機械の機能を付与する訳だから、機能の制御に問題があるという欠点がある」

 

 原作ではのび太がジャイアンに機械化機を使われて、便利道具扱いされて逃げられなくなるという落ちが着く。

 機能を付与しても付与された人間が制御出来ずに暴走するといった問題も起こった。

 

「それだけなら扱い辛い秘密道具だけど、会長が言うんだからそれだけじゃないんだろう」

 

「もちろん、これ自体は扱い辛いが、秘密道具の改良が出来るようになった僕らなら扱いやすいように調整可能だ。

 それがこっちの【機械化機・改】だ」

 

 会長が機械化機を片付けて、形がほとんど同じの機械化機・改を見せる。

 

「こっちは機械化機の機能付与に詳細設定を追加して、機能を付与された人間がどのような行動を取れば機能を働かせられるか設定出来るようにした。

 その調整をするために機能の読み取り可能数が減ったが些細な事だ。

 ………よし、お前に機能を付与するぞ」

 

「え、僕!?」

 

 会長はコピーを見回して適当な一人に機能を付与する事を宣言する。

 ランダムに選ばれたコピーは戸惑うが、会長は気にすることなく機械化機・改を使って記録されていた機能を付与した。

 付与されたコピーは突然の事で慌てるが、特に何の変化もなく直ぐに困惑する。

 

「会長、一体何の機能を付与したんだ?」

 

「…ポケットに手を突っ込んでみろ」

 

「え? ってまさか!?」

 

 付与されたコピーだけでなく、他のコピー達もその意味を察して注目が集まる。

 ポケットに手を入れるとその中にそこはなく、機能がしっかりと働いていることを証明した。

 

「四次元ポケットになってる!?」

 

「会長、まさかこれって!」

 

「そのまさかかもしれん…」

 

 会長は頭を抱えるように成功してしまった現実に頭を痛める。

 改良は完璧だったが人間に付与する実験はまだだったので、これがぶっつけ本番だった。

 しかしそれでもうまくいく気がしてならないと、嫌な予感の様に外れない確信を感じていた。

 

 同じようにこの事実に頭を悩ませるコピー達だが、思考が違うドラ丸だけはハジメ達の考えが理解出来ていなかった。

 

「何を悩んでいるのでござるか、殿。

 コピーにも四次元ポケットが使えるようになったというだけではござらんのか?」

 

「それだけだったらちょっとうれしいだけで済むんだが、僕等の直感ではオリジナルの四次元ポケット能力もこの機械化機のお陰なんじゃないかと直感してるんだ」

 

「!? それはどういう事でござるか!?

 何者かが機械化機を使って四次元ポケットを与えたという事でござるか!?

 一体誰が!?」

 

「たぶん僕だ…」

 

「………は?」

 

 会長の予想外の答えにドラ丸は気の抜けた返事をしてしまう。

 答えを聞いても、ドラ丸は理解が追い付かなかった。

 

「殿、拙者は殿が何を言っているのかわからぬでござるよ」

 

「訳が分からなくなってるのは僕等も同じだ。

 ただ僕等の直感で、この後僕らは僕の生まれた直後の時代に行って、四次元ポケットの機能を生まれたばかりの僕に付与するんだ。

 そして秘密道具一式を四次元ポケットに突っ込んで、子供の僕は生まれ変わった時に四次元ポケットを手に入れたと勘違いする。

 それが僕が四次元ポケットを持っている真実なのだと思う」

 

 コピー達も同じ思考から会長と同じ考えに至っており、なんとも言えない表情になっている。

 ただ自分たちの秘密道具のルーツが今この時なのだと誰もが直感していた。

 そうしなければ秘密道具を使って今ここに居る自分たちの存在すら危うくなるのだから。

 

「………殿の考えは分かったでござる。

 しかしそうなると、最初に殿に四次元ポケットを与えたのは誰かという事になるのでござるが…」

 

「それこそ地下の恐竜世界みたいに、始まりを一切明らかに出来ない問題だ」

 

「殿に前世の記憶がある事ももしや?」

 

「それは今の僕には推測も付かない。

 もしかしたら今回の様に何らかの切っ掛けで明らかになるかもしれないが、下手に調べない方がいい」

 

 ハジメ自身も自分がなぜ前世の記憶と四次元ポケットを持つか興味があったが、同時に明らかにすることを恐れていた。

 何せ人間の記憶を来世に持ち越させて、秘密道具入りの四次元ポケットという万能アイテムを渡すような存在だ。

 感謝はするがそんなことを簡単に出来る強大な存在だと思って、下手に調べれば接触してくるかもしれないと恐ろしくてあえて知ろうとはしなかった。

 今日になって、自身のルーツの謎の半分が明らかになったので、取り越し苦労だったかもしれないが。

 

「そうでござるか…」

 

「それと今回明らかになった切っ掛けは、ドラえもんの居る世界に一時的にでも繋がったのが要因の一つでもあると思う」

 

「なぜでござるか?」

 

「付与した四次元ポケットに秘密道具は入っているか?」

 

「え? …何も入ってないな」

 

「そういう事だ」

 

「いや、わからんでござるよ」

 

 ハジメのコピー達はやはり察するが、ドラ丸には伝わらない。

 

「見ての通り、機能は付与出来るが中身は用意しないといけない。

 これから生まれたばかりの僕に四次元ポケットと秘密道具を渡さないといけないが、秘密道具はどうやって用意する?」

 

「いつも通り、コピーすればよいのではござらんか?」

 

「それでも何とかなるかもしれないが、秘密道具は時間で劣化する。

 劣化したコピーを渡して、その僕がまた時間が経った劣化したコピーを更にコピーすれば、劣化したコピーの時間が経った物のコピーが出来上がる。

 つまりコピーを繰り返せば、いずれこのループが破綻するのは目に見えている。

 初めから壊れている秘密道具があるなんて事になったら、僕も今ここに居るか分からない。

 だから今僕が持っている秘密道具をコピーするのは駄目なんだ」

 

「ではどうするのでござる?」

 

「それでこっちの秘密道具だ」

 

 最初から機械化機の横に置かれていたもう一つの秘密道具を示す。

 

「【未来デパート通販マシン】。 僕等の世界がドラえもんでないから未来デパートもなかったが、ドラえもんの存在する並行世界を観測したことで条件が変わった。

 つまりドラえもんの居る並行世界にいけば、この通販マシンを使って新しい秘密道具を購入することが出来るってことだ」

 

「しかし、彼らの存在する世界との繋がりは断たれたのでござろう」

 

「時間軸の支流に入る技術は創世日記の件で目途が立っている。

 それに並行世界というなら、最悪もしもボックスでドラえもんの居る世界にしてもらえば何とかなるだろう。

 これで殆どの問題はクリアされた」

 

「通販という事はお金がかかるのでござろう?

 ひみつ道具を全て購入するほどのお金があるのでござるか?」

 

 ハジメは秘密道具によって今の生活が成り立っており、現代社会とほとんど交流を持たない事から金銭など一切必要としていない。

 それ故に現金を得る収入源などあるはずがなかった。

 

「………」

 

 ドラ丸の問いに会長はポケットから秘密道具を取り出す事で答えた。

 

「【フエール銀行】。 お金を預けると一時間で一割の利子が入って、計算上だと10円預けるだけで一週間で9千万弱になる」

 

「…現代のお金で未来デパートの品が買えるのでござるか?」

 

「雲の王国で王国を建設する為の道具を買うのにスネ夫が資金を出してたから問題ないはず」

 

「………それでいいのでござるか」

 

 文句は藤子プロにお願いします。

 

 

 

 その後、ハジメは実行部隊を送り出して時空間の支流からドラえもんの存在する時間軸に入り、未来デパート通販マシンをつかって購入出来る秘密道具を買えるだけ買い漁った。

 秘密道具を買い終えた実行部隊は元の時間軸に戻る時に、映画の昆虫人類の様にタイムパトロールに追尾され、何とか撒いて戻ってきたときはかなり焦ったと報告した。

 

 次にハジメの生まれた時に行って、眠って意識がない赤ん坊のハジメにポケット付きの服を着せて手を突っ込ませてみるが、ポケットを四次元ポケットにする能力はなく、ハジメ達は自身の予測を改めて確信する。

 機械化機・改で四次元ポケットの機能を付与する際に、現在のハジメと同じようになるように細かく設定し、最後にスペアポケットと繋がるように設定した。

 

 四次元ポケットあってのスペアポケットだが、秘密道具を入れるのに必要でもあったからだ。

 秘密道具の数は1000を優に超えるので、赤ん坊のハジメに服を着せたまま秘密道具を一個一個入れるのはあまりに時間が掛かりすぎる。

 よって四次元ポケットの機能を付与した後は、スペアポケットから秘密道具を一個一個突っ込んでいき、最後にスペアポケットを赤ん坊のハジメのポケットに突っ込ませて無事に秘密道具の受け渡しが終了した。

 

 ハジメも赤ん坊の頃は殆ど寝ていて意識はなかったが、自身の寝ている間にこんなことがあったと知る事になるとは思わなかった。

 出来れば生まれ変わりの真実とか、そういうのが突然明らかにならないでほしいとハジメは思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 





 これにて劇場版の話は本当に完結です。
 ちょっと残念ですが、それなりに人気をもらえたのでうれしい限りです。

 牛魔王を倒す話でしたが、のび太の性格上何かを殺してしまうというのはなかなかあり得ないと思い、戦いに躊躇する形になりました。
 と言っても映画ではラスボスを倒す事は結構あるんですけどね。

 ゲストキャラのリンレイが紅孩児だと映画の序盤に解っていれば、牛魔王を倒す事に葛藤するシーンが書けたかもしれませんが、話の流れを見直してみると最後まで知らなかった可能性すらあります。
 本作を書く上で原作の西遊記の情報を調べてみましたが、児童向けとはだいぶ違うみたいですね。
 金角銀角も敵役として現れますが、実際には三蔵一行に試練を与える役割だという話ですし。
 こういった切っ掛けから、原作を読んでみたくなることは多々ありますが、古い作品は読み辛いというイメージて手を出しにくいですね。

 漫遊記の方を今後は書き進めていきますが、どうにも筆を持とうとするのになぜか忌避感が出てしまいます。
 自分はどちらかというと読み専寄りですので、書こうとするのを後回しに、ついつい別の作品を読みまわしてしまいます。
 気力がある頃に比べると更新速度が落ちてますし、やっぱり一週間に一回は更新しないとダメですね。

 進みは遅いかもしれませんが、今後もよろしくお願いします


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