ラブライブ!サンシャイン!!夢の守り人 (自由の魔弾)
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第1話 乾いた狼

こんにちは!自由の魔弾です。何も言わないでください。ちゃんと理由があるんです。
今現在手がけている作品が一つ終わりそうなので、思いきってまた一つ始める事にしました。
相変わらずの作風ですが、ご愛読して頂けると嬉しいです。
ではでは〜!


(虚しいな・・・この感覚に陥るのはもう何度目だろうか?)

 

都内にある西洋洗濯舗『菊池』のアルバイト、乾 巧(いぬい たくみ)には日々の暮らしの中で、虚無感に襲われる事がよくある。原因は彼の生い立ちや境遇、そして彼が見つけた答えにあった。

 

「たっくん?ちょっと話があるんだけどいいかな?」

 

『菊池』の経営者である菊池 啓太郎が、カウンターで頬杖をついて呆然としている巧に話しかける。急に話しかけられた所為か、巧は内心驚きながらも憮然として答えた。

 

「ッ!何だ、啓太郎。俺がなんかミスったか?」

 

いまいち仕事に身が入らないことは自覚していたのか、啓太郎が自分の仕事のミスを追求しに来たと考える巧。しかし、話の内容は全く違うものだった。

 

「ミス?違う違う!さっき父さん達から連絡があってさ、近いうちにこっちに戻ってくるんだ!それでさ俺に『菊池』の経営規模が大きくして欲しいんだって。たっくんも一緒行こうよ!」

 

啓太郎から話されたのは、『菊池』の真の経営者である啓太郎の両親が日本に帰ってくるという事らしい。それに伴って、啓太郎に他の地域で仕事をして欲しいという。

 

「いいのかよ?第一、場所は決まってんのか?用具だって揃ってないと仕事にならねぇぞ?」

 

巧は矢継ぎ早に質問する。巧自身、ここの居心地を気に入っている事もあり、そして様々な想いがあるこの地を離れる事に、何となく抵抗がある。

 

「場所は静岡県沼津市の内浦って所だって。母さんの知り合いが経営用に部屋を貸してくれるみたい。それにさ・・・」

 

啓太郎は一旦言葉を止め、巧の方へ視線を移す。

 

「たっくんの為でもあるんだ。気づいてないかもしれないけど、あの時からボーッとする回数が増えてる。木場さんも草加さんも居なくなったあの時からさ。折角全部が終わったのに、たっくんの顔前より暗く見えるよ」

 

啓太郎の言葉を受け、一瞬考え込む巧。しかし、すぐに答えを出した。

 

「啓太郎、ごめんな。お前に心配掛けて。自分でも分かってたんだ。このままじゃ、どんどん腐っちまうって事は。でもこれで、ようやく踏ん切りがついた」

 

言い終えた巧は座っていた椅子から立ち上がり、啓太郎に告げる。

 

「行こうぜ。あいつらの夢を信じた自分に嘘は吐きたくないからな!」

 

巧の言葉を聞き、啓太郎はすぐさま旅支度を始めた。よほど嬉しかったのか、支度の途中で何度も全身をあらゆる場所にぶつけていたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、早朝から巧は荷物を入れたバックをバイクの荷台に括り付けていた。もちろん、このバイクは巧の愛車『SBー555Ⅴオートバジン』ではなく、かつての友の愛車である『SBー913V サイドバッシャー』だ。オルフェノクの王との決戦の際、オートバジンは巧にファイズブラスターを届けるのと同時に王に破壊されてしまったからだ。その後、スマートブレイン社は社長不在により経営破綻して倒産。誰も直せるものは居なくなったというわけだ。

 

「じゃあ、父さん母さん・・・行ってくるね!」

 

啓太郎が両親に別れの挨拶を交わし、荷物を持ったままサイドカーに乗り込む。巧は啓太郎の両親に軽く会釈をして、目的地である内浦に向けて発進した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(普通な私の日常に、突然訪れた・・・奇跡!それはスクールアイドル!誰もが憧れる存在なのに、それなのにぃ・・・)

 

私立浦の星女学院の2年生、高海千歌。彼女の身に何が起こったのか、それは彼女自身に答えてもらおう。

 

(部員は私だけだし、生徒会長さんから「私が生徒会長である限り、スクールアイドルは認めないからです!!」なんて言われちゃうし、もう散々だよ・・・ん?あれは・・・)

 

千歌が今日起こった災難を振り返っていると、視線の先にある桟橋から女生徒が海に身を投げようとしているのが目に入った。その様子は如何にも自殺しようとしているかのように見えた千歌は、急いで女生徒を止めに入る。

 

「待って!死ぬから!死んじゃうから!」

 

千歌が慌てて止めに入った所為か、女生徒は突然現れた千歌に対して驚きを隠せずにいた。そして、そこにもう1人。

 

「君たち危ないじゃないか!早く海から離れて!」

 

千歌の他に知らない男が現れ、さらに止めに入った。2人に完全に拘束され体の自由を失った結果・・・。

 

『あっ・・・』

 

ドボーンという音を立て、女生徒は止めに入った千歌(+a)諸共海に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千歌と女生徒が海に落ちる少し前、巧と啓太郎は半日以上掛けてようやく内浦に到着していた。とはいえまだ目的地まで少しあるので、ガソリンスタンドを探しつつ目的地へ向けバイクを走らせていると、突然啓太郎がバイクを止めろと言い出した。巧は仕方なく路肩にバイクを停車させ、啓太郎に訳を聞く事にした。

 

「おい、なんだよ?今更忘れ物とか言う気か?」

 

巧の質問に、啓太郎は海辺を指差しながら身を乗り出して言う。

 

「あそこの2人が海に落ちそうになってる。助けないと!俺行ってくる!」

 

巧の静止を振り切り、2人を助けようとする啓太郎。しかし、次の瞬間には3人とも海に落ちてしまった。

 

「おいおい、止めに入った奴まで落ちてどうすんだよ!」

 

巧は皮肉を言いながらも、放っておけない性分が働き、バイクから降りてその場へ駆けつけ手を差し伸べる。

 

「おい、あんたら大丈夫かよ!」

 

突然現れた巧に驚く女生徒2人。しかし、すぐに状況を把握して助けに来たことを理解し、その手を取り、再び体を陸へ戻した。

2人の安否を確認して、巧はもう1人の被害者を救助する。

 

「啓太郎!お前、泳げないのに助けに行ったのか・・・ったく!」

 

再び啓太郎に手を差し伸べると、啓太郎も必死にその手を掴みなんとか陸へまで戻って来れた。

 

 

「はぁはぁ・・・ありがと、たっくん。俺もう駄目かと思ったよ・・・」

 

巧は内心毒づきながらも、啓太郎のお人好しな性格を十分に知っているため「気にするなよ」とだけ言って、視線を女生徒2人へ向ける。

 

「あんた達、怪我とかはしてないか?濡れたままだと体に悪い。ちゃんと乾かしてから帰るんだな。じゃあな」

 

巧はそれだけ言うと、再びバイクへと歩き出す。当然、啓太郎がその行く手を阻む。

 

「ちょっとたっくん!この子達はどうするのさ!」

 

啓太郎の主張はもっともだが、巧は現実的な問題を見据えた上で答える。

 

「お前、まさか送ってやれなんて言う気か?お人好しなのは構わないけど、ガソリン足んなくなるだろうが!おい、あんたら!自力で帰れるか?」

 

巧にそう聞かれ、驚きながらも「はい、帰れます」と答える女生徒2人。

 

「だそうだ、俺はもう行くぞ!」

 

啓太郎が止まるよう催促するが、巧は聞き入れず、再びバイクにまたがろうとした時、突然女生徒の悲鳴が響き渡った。

 

「っ!なんだ?」

 

再び女生徒のもとへ駆けつけると、彼女達の目の前には見覚えのある灰色の怪物が、今にも襲いかかろうとしていた。

 

「あっ・・・あぁ・・・」

 

足がすくんで動けない女生徒2人に、オルフェノク特有の触手が迫る。しかし、それは巧が許さなかった。

 

「ダアァアア!」

 

それよりも先に巧のタックルがオルフェノクを弾き飛ばしていた。2人からオルフェノクを引き離すと、啓太郎がバイクの荷台に積んであったバックの中から、アタッシュケースを巧に投げ渡す。

 

「たっくん!これを!」

 

投げ渡されたケースを見事にキャッチした巧は、すかさずケースを開き、中に収納されている『ファイズギア』を装着する。

 

「2人とも!早くこっちに!」

 

啓太郎が近くの物陰に2人を誘導し、隠れる。これから何が起こるのか、何も分からない女生徒の内、高海千歌が啓太郎に質問する。

 

「あの、これって何ですか!?あの人は!?」

 

千歌の質問に対して、啓太郎は静かに頷き、巧に視線を戻す。信じろと目で訴えたのだ。

 

「お前、オルフェノクだよな。やっぱり、人間を襲うのか?」

 

巧はオルフェノクにそれだけを聞く。木場と同じように、人間を守るオルフェノクだと信じたかったからだ。

しかし、オルフェノクからは考えていた答えとは違う答えが帰ってきた。

 

「何言ってんだ?オルフェノクが人間を襲うのは、当たり前だろ?」

 

答えを聞いた巧は「そうか・・・」とつぶやき、ファイズフォンに変身コードを入力する。

 

5・5・5 Enter Standing by

 

ファイズフォンから変身待機音が鳴り響く。オルフェノクや千歌達が注目する中、巧はファイズフォンを天高く掲げ、叫んだ。

 

「変身ッ!!」

 

バックルに装填されたファイズフォンから、馴染みのある音声が聞こえる。

 

Complete

 

発せられた音声とともにバックルから赤い閃光が迸り、その光が消える頃には仮面の戦士が存在していた。

 

「その姿・・・お前は!?」

 

驚くオルフェノクに対して、変身した巧が静かに言い放つ。

 

「俺はファイズ・・・夢の守り人だ」

 

ファイズが再び誕生した瞬間だった。

 

 




Open your eyes for the next Φ’s

「海の音を聴きたいの」

「私ね、“普通”なんだ」

「お前は夢を持ってるか?」

「気にしなくていいよ!たっくんはたっくんじゃないか!」

「そんな時、出逢ったの・・・あの人達に!」

「あいつらの夢を壊そうとするのなら、俺が倒す!」

第2話 少女の夢


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第2話 少女の夢

2日連続で投稿します。
モチベが下がらない程度に更新する予定です。


突如現れたファイズの姿に、驚きを隠せずにいるオルフェノク。しかし、巧は気にもとめずにオルフェノクに殴りかかる。

 

「はぁッ!たぁッ!」

 

放たれる拳の一発ごとに、嘗ての感覚が蘇る。思えば、オルフェノクの王との決戦からの2年間、ファイズとして戦うことは無かった。そのせいもあってか、体全体がやけに重く感じていた。

 

「うらぁッ!!」

 

巧は自身のブランクを振り払うかのように、渾身のキックでオルフェノクを蹴り飛ばした。

 

「うぅ・・・こんなの、聞いてないぞ・・・!?」

 

吹き飛ばされたオルフェノクは地を這うようにファイズから逃げようとしたが、一回の跳躍によって先回りされたファイズに体を起こされ、その腹部に連続パンチをもろに食らう。

もはやその拳にブランクなどは微塵も感じられなかった。それを痛感させるかの如く、最後の一発でオルフェノクの体ごと貫いた。

 

「あっ・・・そんな・・・!?」

 

オルフェノクの悲痛な叫びは虚空に消え、次の瞬間には全身から蒼炎を上げ、灰となって崩れ落ちた。

巧はその瞬間に目を背ける事なく、ただその様を眺めていた。まるで自分の罪を確認するかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄い・・・」

 

そう呟いた千歌はたった今目の前で起こっていた出来事に、愕然としていた。隣にいる女生徒は、もはや何が起こったのかすら冷静に考えられないようで、さっきから一言も喋らないでいる。この場でただ一人、変身した男の知り合いだけが彼のもとへ駆け寄り、安否を確認していた。

やがて話が落ち着いたのか、変身を解いた男が千歌達の近づいてきた。

 

「怪我はないか?」

 

一言それだけを確認する男。千歌も女生徒も啓太郎と共に避難していたので、一切の怪我はなかった事を伝えた。男は「そうか・・・じゃあな」とだけ言うと、右手を庇うかのようにしながらバイクのある方向へ歩いて行った。

 

「あ、帰り道とか気をつけてね?あと、今日の事は誰にも話さないでくれるかな?」

 

連れの男が千歌達にそう頼む。図らずとも命を守ってもらった恩もあり、彼の頼みを快諾した。

答えを聞いた男は感謝すると、 変身した男の後を追っていってしまった。

そのすぐ後、バイクの駆動音が聞こえどこかへ走り去ってしまった。その場には千歌と女生徒だけが残された。

 

「ねぇ、あなた・・・どうして海に入ろうとしたの?」

 

千歌はかねてから疑問に思っていた事を女生徒に聞く。聞かれた女生徒はそう聞かれた事に驚愕し、改めて話題を先ほどの出来事に戻す。

 

「今そんなことはいいでしょ!?あなた、さっきの出来事を見て何とも思わないの!?」

 

やけに興奮した様子で、千歌に迫る女生徒。恐らく現実に起こったことを認めたくないのだろう。千歌はその話題を軽くあしらって、話を進めた。

 

「私だって何だか分からないし、それにあの人も喋らないでって言ってたじゃん。それよりも何で海に?教えて教えて!」

 

千歌の勢いに負けたのか、その理由を白状する女生徒。

 

「海の音を聞きたいの・・・。私、ピアノで曲を作ってるの。でも、海の曲のイメージが浮かばなくって」

 

曲を作る。彼女の言葉で自分達がその人材を求めている事を思い出す千歌。彼女の事を知るため、さらに質問をする事に。

 

「凄いねぇ!ここら辺の高校?」

 

千歌の質問に、女生徒は「東京」とだけ返す。これを聞いて、千歌はますます盛り上がった。

 

「東京!?あ、だったらさ、スクールアイドルって知ってる?ほら、東京だと有名なグループが沢山いるでしょ?」

 

千歌は期待を込めて女生徒に質問した。しかし、返ってきたのは想像と違う答えだった。

 

「え、何の話?私、ずっとピアノばっかりしてきたから、そういうの疎くて・・・」

 

女生徒の答えに若干目が点になったが、そこは作戦変更。自分の携帯で動画を見せ、興味を持ってもらう事に。

 

「えっと・・・なんか、普通だね・・・」

 

今度は季節違いの冷たい風が吹いた。千歌の様子を感じ取ったのか、女生徒は慌てて説明を始める。

 

「ち、違うの!アイドルっていうから、もっと芸能人みたいなものだと思って・・・」

 

女生徒の感想に千歌は怒る事はせず、意外にもその意見に同意した。

 

「だよね。だから、衝撃だったんだよ。私ね、普通なの」

 

そして、千歌は今までの自分の事を話し始める。

自分は如何に普通で、それでもいつか何かあるんじゃないかと思っていたら、現在に至っていたということを。

 

「でも、そんな時に出逢ったの・・・あの人達に!」

 

そして、千歌はその時の感動を言葉にする。

自分と同じでどこにでもいる高校生達が、どこかキラキラ輝いている。一生懸命練習して、心を一つにしてステージに立てば、カッコよくて、感動できて、素敵になれるんだと。

 

「そして、思ったの。私も仲間と頑張ってみたい!私も輝きたいって!」

 

千歌の心を垣間見た女生徒は、千歌に向かってエールを送った。

 

「スクールアイドル、なれるといいわね」

 

そして、彼女は自分のことを話し始める。

 

「私は、桜内梨子。・・・学校は、音ノ木坂学院高校」

 

彼女達のストーリーは、まだ始まったばかり・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして、再び目的地へとバイクを走らせていた巧と啓太郎。ふいに、巧はバイクを路肩に寄せて急停止させる。そして、すぐさま自身の右手を抑え、痛みに耐える。

その様子を見た啓太郎は、巧の手にはめているグローブを外し、その手に起こった異変を目の当たりにする。

 

「たっくん!これどういう事なのさ!?手が・・・!?」

 

啓太郎が目の当たりにしたのは、巧の右手の一部が灰となって崩れ落ちている状態だった。もちろんこれが初めてではないし、巧自身も分かっていた事だ。

思えば2年間の戦いの際、同じ症状が出ていた。手に持っていたファイズフォンが灰化した手と一緒に落ちていった事は記憶に新しい。

 

「気にするな、寝てれば治る」

 

巧は無愛想な態度で、啓太郎からグローブをひったくり再び手にはめる。しかし、啓太郎にはそれが本心ではない事は分かっていた。だからこそ、自分の頼りなさを呪った。

 

「何で・・・何でだよ、たっくん!何で全部一人で抱え込もうとするのさ・・・!?」

 

啓太郎はそう言いながら涙を流す。巧はいつもそうだ。誰かの為に自分を犠牲にする。かといって、自分にはどうする事も出来ない。自分は巧のように戦う事は出来ないし、巧の症状を治す事も出来ない。ただ、泣くばかりの自分を殴りたいと思う。

そんな啓太郎の様子を感じ取ったのか、巧は静かに心の内を話し始めた。

 

「いいんだよ、これでな。これが俺の罪だって言うんなら、背負ってやる。たとえ、体が灰になったとしてもな。ただ、死んでいった彼奴らの・・・木場や草加たちの夢を守りたいんだ。もし、誰かがあいつらの夢を壊そうとするのなら、俺が倒す!そして、オルフェノクである俺自身もな」

 

巧は今までひた隠しにしてきた本心を語った。啓太郎は涙を拭いながら、オルフェノクである巧に気遣いの言葉をかける。

 

「気にしなくていいよ!たっくんはたっくんじゃないか!オルフェノクにだって、心はある。もっと俺を頼ってよ・・・!」

 

巧は啓太郎のお人好しの性格に、改めて感謝する。そして、啓太郎にこんな言葉をかけた。

 

「だったらよ・・・早く行こうぜ。疲れちまったよ」

 

巧の裏表のない言葉を聞き、啓太郎は思わず感動していた。そしてすぐさま頷き、サイドカーに乗り込んだ。

啓太郎が乗り込んだのを確認すると、巧は先ほどよりも澄んだ気持ちでバイクを走らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま〜・・・疲れたよぉ〜」

 

その日の夜、千歌は旅館(実家)に帰宅した。そしていつもの通り自分の部屋でくつろごうとした時、姉の高海志満に呼び止められる。

 

「千歌、ちょっと話があるからおいで」

 

特に断る理由も無かったので後をついていくと、なぜか家族全員が集合していた。

 

「しま姉、これどういう事?」

 

千歌が志満に聞くが「説明するから座って」とだけ言う。千歌は渋々ながらも従った。

 

「さて、集まってくれてありがとう。実は今日から旅館の一室に住む事になった人がいるから紹介したかったんだ。入っておいで!」

 

志満の突然の報告に、千歌だけが驚いていた。何故なら、入ってきた人物というのが・・・。

 

「どうも!今日からお世話になります。菊池啓太郎です!」

 

「・・・乾 巧だ。さっきぶりだな。お前は夢を持っているか?」

 

つい先ほどの出来事の当事者たちだったからである。

 

 




Open your eyes for the next φ's

「スクールアイドルゥ?知るか、そんなもん」

「生徒会長、何でか嫌いだもんね。スクールアイドル」

「前途多難すぎるよ〜」

「変わるよ、きっと。そんな気がする」

「ちっぽけでも、くだらない夢なんか無いってな!」

第3話 儚い花


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第3話 儚い花

第3話です。執筆を始めてから早1週間、お気に入り13件という順調?なペースで進んでおります。
いいですね〜。今後はより一層、魅力をお伝え出来るよう励みたいと思います。


衝撃の告白から一夜明けた翌日。千歌の幼なじみである渡辺 曜は、普段となんら変わりない様子で千歌の自宅兼旅館に上がりこむ。いつも通りに玄関の戸を開け、千歌の家族に挨拶し、いよいよ千歌の部屋へ行くはずだった。

そう、“だった”なのだ。

 

「よっ、おはよ・・・熱ッ‼︎」

 

早朝から居間に置いてあるテーブルで、1人胡座をかいたままホットコーヒーと格闘している見知らぬ男を見るまでは。どうやらコーヒーを飲もうとしているが熱さに我慢出来ないようで、少し飲んでは息を吹きかけて冷まし、飲んでは冷ましを繰り返している。

そんな様子を見ている事に気付いたのか、巧は声をかける。

 

「フー、フー・・・んぁ?なんか用でもあんのか?」

 

持っているコーヒーを冷ましながら、目線だけを曜に合わせる巧。本人にとっては普通なのだろうが、相手にしてみればその様子は至福の時を邪魔された、或いは見てはいけないものを見てしまった為に、恐ろしい事になり得る。といった目線に感じなくもなかった。(かなりオーバーな気もするけど)

 

「な、何でもありませェェん!!」

 

曜はその目線に恐怖を抱き、一目散に千歌の部屋に逃げ込む。

そして、すぐさま千歌を叩き起こした。

 

「千歌ちゃん!起きてよ、ほら!変な人が!この家に変な人がいるの!!」

 

曜は普段の様子からは考えられないほどの興奮状態で、未だ寝ぼけ眼の千歌を体ごと激しく揺すり、目を覚まさせる。

 

「よ、曜ちゃん!お、落ち着いて!そんなに揺らすと・・・せ、説明出来ないから・・・」

 

千歌の言葉が届いたのか、揺さぶるのを止める曜。しかし、興奮状態の方はまだまだ続いていた。

 

「落ち着いてなんかいられないよ!だってあんな、あんな怖い人見たことないよ!あの人誰!?」

 

恐怖の所為か、未だ興奮冷めやらぬ状態の曜に千歌が説明しようとした時、開いたままの襖の陰から巧が顔を覗かせ、声をかける。

 

「飯、出来たみたいだぞ・・・ん、あんたは?」

 

千歌が「あ、今行くね!」と返事をしたが、曜は恐怖のあまり首だけをぎこちなく回し、巧の姿を確認する。そして言い放った。

 

「千歌ちゃん、この人不審者ァ!!」

 

「誰がだッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜、すみません!私てっきりヤバい人だと思ってましたよ〜」

 

数分後、千歌にちゃんとした説明を受けた曜は、改めて巧に誤解があったことを謝罪していた。巧は言葉にこそ言い表していないが、不服に思っていることは態度で示していた。

 

「・・・フンッ!」ツーン

 

その様子はすっかり2年前の旅の初めの頃に戻ってしまっていた。

せっかく大人になったのに。

 

「そんなに怒んないでくださいよ。私だってビックリしたんですから!」

 

すっかり巧への恐怖など無くなった曜は、先程とは打って変わって興味津々といった様子で巧に話しかける。

一方巧はというと、高海家が朝食をとっているテーブルから少し離れたところで、十分に冷めたコーヒーを飲んでいた。初めこそ曜の話を聞いていたが、次第に増えていく口数に巧は苦手意識を感じ始めていた。そして、ついに我慢の限界に達してしまった。

 

「・・・ご馳走さん。啓太郎、悪いけど少し出てくる」

 

一気にコーヒーを飲み干した巧はそれだけを言うと、すぐさまヘルメットを持って外に止めてあるサイドバッシャーへと急ぐ。

 

「・・・ったく、騒々しいにも程があるぜ。何なんだ、あの女は・・・あ?」

 

始動してエンジンの回転数を上げていると、旅館の玄関から何故か啓太郎のヘルメットを持った渡辺 曜が出てきた。そして、そのままどんどん巧の方へ近づいてくる。

 

「・・・どうした。高海と学校に行くんじゃないのか?」

 

巧は目を合わせず、ヘルメットとグローブを装着しながら曜に問いかける。そんな巧の気持ちも知らずに、曜は借りたヘルメットを被り、その旨を伝える。

 

「ヘルメットは啓太郎さんに借りてきました!私も連れてってください!」

 

そう言って、巧に笑いかける曜。巧はすぐにでも追い返そうと考えたが、高海家と関わりの深い曜を蔑ろにするのは、高海家に居座る以上良くないとも考え、渋々ながら了承した。

 

「・・・バスが来るまでだからな」

 

巧の言葉を聞いて喜ぶ曜は、すかさずサイドカーに乗り込む。その様子はアトラクションを楽しむ子どものようにも見て取れる。

巧は内心複雑な気持ちになる中、振り切るようにサイドバッシャーに跨り、発進した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ〜!これは快適ですなぁ!」

 

しばらくバイクを走らせていると、曜が周りの景色を眺めながら伸びをしている。巧は堪らなくなり、つい質問してしまう。

 

「なぁ、そんなに感動する事か?毎日通ってるんだろ?」

 

初めて巧から話しかけられた事で少し動揺した曜だが、すぐにその答えを教えた。

 

「確かにそうですね。でも、例え同じ景色でも見方によっては新しい景色に見えるじゃないですか。多分、それと同じだと思うんですよね。そういえば、知ってますか?千歌ちゃんがスクールアイドルを始めること。生徒会長が反対していて、千歌ちゃんに「生徒会長、何でか嫌いだもんね、スクールアイドル。本当にやるの?」って言ったんです。そしたら、千歌ちゃん言ったんですよ。「前途多難すぎるよ〜。でも、楽しいから諦めないよ!生徒会長も変わるよ、きっと。そんな気がする。」って。まともな活動もしてないのに、楽しいからって言う千歌ちゃん、何か素敵だと思いません?」

 

曜の質問に答えようとする巧だが、それを許さない者が立ちはだかった。

 

「・・・クッ!!」

 

巧たちの前に飛び出した男を避けるため、急ブレーキをかけると同時にハンドルを反対側にきる。何とか男を避けるのに成功したものの、バランスを崩しその身を投げ出された巧と曜。

 

「あんたがファイズ、そして・・・そっちが噂のスクールアイドルって訳ね。悪いけど・・・死んでくれない?」

 

男は倒れている巧と“制服”の曜を見ると、その姿を灰色の怪物“スティングフィッシュオルフェノク”に変身させた。その姿を見た巧は、過去に一度見たオルフェノクである事を思い出す。忘れもしない、巧が初めてファイズになった原因を作った因縁の相手だからだ。

 

「あいつは、一度倒したはずだ・・・クッ!」

 

オルフェノクは巧ではなく、先に曜に狙いを定め近づく。

しかし、曜はその場で足を抑え、動けずにいた。

 

「あいつ、まさか怪我を・・・仕方ねぇ!!」

 

巧はサイドバッシャーの荷台に積んであるケースからファイズギアを取り出し、装着しながら変身コードを入力する。

 

5・5・5 Enter Standing by

 

変身待機音がその場に鳴り響く。巧の脳裏に自分の体が灰化するイメージが過ったが、振り払いファイズフォンをバックルに装填させた。

 

「変身ッ!」

 

Complete

 

音声と同時にバックルから赤いラインが全身に伸び、ファイズへの変身が完了する。その姿を見たオルフェノクと曜は驚いているが、巧は構わずオルフェノクに飛びかかった。空中でオルフェノクを掴み、その勢いのまま投げ飛ばした。

しかし、投げ飛ばされたオルフェノクは、落ちる直前で受け身を取り、無傷でファイズへと向き直す。

 

「流石はファイズ、といったところかな。やっぱり噂は本当だったみたいだ」

 

「噂?なんの事だ?」

 

オルフェノクの影が人間に変わり、巧に話をする。

その最中に繰り出されるファイズのパンチを躱しながら尚も話を続ける。

 

「ファイズが再び現れ、ベルトは全て揃った。残り2つを奪えってさ!」

 

オルフェノクは言葉を言い放つと同時に、カウンターの蹴りを食らわす。倒れるほどではないが、巧はそれよりも気になる話があった。

 

「どういう事だ?ベルトを奪えだと?一体何の目的で!」

 

ファイズは再びオルフェノクに掴みかかる。しかし、オルフェノクがこれ以上の事を話す事はなかった。

 

「これ以上は言えないな。ただ、理由は知らないがスクールアイドルが邪魔らしいよ!ハッ!」

 

オルフェノクはファイズの拘束を解き、そのまま殴り飛ばした。

 

「まぁ、そんなくだらない夢物語が俺たちの邪魔になるとは思わないけどね。スクールアイドルぅ?知るか、そんなもんって感じ?そうだ、そこの子にも死んで貰わないとな」

 

オルフェノクはそのまま、曜の方へ近づいて退路を断つ。そして、能力で三つ叉の槍を生成し、槍先を曜の首元に向ける。

 

Ready

 

「じゃあね、スクールアイドルさん」

 

Complete

 

「・・・ッ!?」

 

曜は恐怖で目を閉じる。死を覚悟して。

 

Start up

 

「ハァッ!!」

 

オルフェノクは大きく槍を振りかぶり、槍先を曜目掛け振り下ろす。

 

「・・・ウッ!?なんだこれ・・・動けない!?」

 

しかし、曜に槍が突き刺さる事はなかった。一瞬の内に、無数の赤い円錐状の物体がオルフェノクを取り囲んで動きを拘束していたのだ。そして・・・。

 

「ヤアァァァッ!!」

 

掛け声と共に姿を現わすファイズ。次の瞬間、拘束されていたオルフェノクは蒼炎を上げ、灰となって崩れ落ちた。

 

「お前にそんな事言われる筋合いは無い。それに俺は信じてる。どんなにちっぽけでも、くだらない夢なんかないってな」

Reformation

 

音声と共に胸部のフルメタルラングが稼働し、元のファイズに戻った。オルフェノクの死を確認した巧は、変身解除の操作をして、曜の元へ駆け寄った。

 

「おい、怪我の程度はどれくらいだ?」

 

巧が患部を確認すると、曜は手で押さえていた足の部分を見せた。

 

「落ちた時に擦りむいたのか・・・家に戻って処置する。家は何処だ?」

 

巧は曜の体をお姫様抱っこでサイドカーに移動させ、家の場所を聞く。しかし、曜は家とは違う場所を要求した。

 

「だったら、学校に連れてって。浦の星女学院、あそこなら保健室もあるから・・・痛ッ!」

 

巧は迷っていられないと考え、電話をかける。

 

「啓太郎、高海に先にバスに乗っとけって言っておいてくれ。渡辺は俺が送ってくから」

 

電話を終えた巧は、曜の様子を伺いながら進路を浦の星女学院へと向け、走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Open your eyes for the next φ’s

「生徒会長、もしかしてμ'sのファン?」

「それっきり、学校に来なくなったずら」

「もしかして、また海に入ろうとしてる?」

「誰かのために、失われていい夢なんかあっちゃいけないんだ」

第4話 築き上げたもの


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第4話 築き上げたもの

気が早いですが、次回の告知をさせていただきます。
懐かしいメンバーが出ます。


私立浦の星女学院の正門前。登校時間という事もあり、ここに通う生徒達の姿が多く見られる中、1人の女生徒が門の傍らに佇んでいた。

 

「あの人たち・・・今日もやる気じゃないわよね?」

 

彼女の名は黒澤ダイヤ。浦の星女学院の生徒会長であり、知る人ぞ知るμ'sオタク・・・もといガチライバーらしい。

先日の千歌達の成立していない部の勧誘行為もあり、翌日、さらに次の日、そして今日と、監視をするために来たようだ。しかし、あの日以来特に目立った勧誘活動をしている気配は無いため、取り越し苦労という訳らしい。

 

「流石に、彼女たちも諦めましたか・・・ん?」

 

千歌達が居ない事を確認し、校舎へ引き返すダイヤ。その時、何とも言い難いものが坂の下から轟音を発しながら上がってきた事に気づく。

 

「なっ!?」

 

坂を登り切り、浦の星女学院の正門前で急停止したその物体がダイヤの前に姿を現わす。そこに居たのは、サイドカー付きのバイクに跨った男と、浦の星女学院の生徒だった。彼らの登場に周りの生徒たちがざわめく中、ダイヤはバイクの男に近づく。

 

「貴方、どういうつもりですか?生徒以外の来校は許可した覚えはありませんよ。それにあんなに騒音をたてて・・・」

 

ダイヤが男に問いかける。しかし男は問いには答えず、サイドカーに乗っていた女生徒を抱えながら、ダイヤに質問する。

 

「怪我の処置がしたい。中に入れてくれ!」

 

男はダイヤに訴えかける。ダイヤはもちろん部外者を入れられる筈もなく追い返そうと考えたが、抱えられた女生徒が先日の千歌と同伴していた曜である事に気付いた。そして、しばらく考え込み、結論を出した。

 

「・・・分かりました。生徒会長として許可します。が、手当をしたらすぐに帰ってもらいますよ」

 

ダイヤはすぐに曜を抱えた男を保健室まで連れて行く。しばらくして保健室に着いたダイヤ達だが、そこで一つ問題が発生した。

 

「あら・・・保健の先生がおりませんのね」

 

保健室にたどり着くも、そこに教員はいなかった。登校時間とはいえまだ7時20分を過ぎたばかり。教員が居なくても仕方ない筈だった。

 

「あんた、消毒とガーゼ、あと包帯の場所分かるか?」

 

男はダイヤに道具の場所を聞き出す。ダイヤは頷くとすぐにそれらを見つけ、男に手渡す。

 

「少し我慢しろよ・・・」

 

男は曜の足の傷口に消毒を染み込ませたガーゼを当てる。それによって生じる痛みに、思わず苦悶の表情を見せる曜。

 

「痛ッ!?乾さん、もっと優しく!」

 

曜の叫びに耳を傾ける事なく、十分に染み込ませると男は慣れた手つきで包帯を巻いていく。

そして最後に端を切り、解けないように結ぶ処置を施し、手当を終わらせた。

 

「これで大丈夫だろ。2、3日は痛むかもしれないが、跡にはならないだろ。じゃあな」

 

男は足早に保健室から出て行った。曜が「乾さん!カムバ〜ック!」と言っていたが、気にもとめずに。

そんな男に対し、不満を抱いたのはダイヤだ。部外者である彼を校内に招き入れただけでなく、手当ての手伝いまでした挙句、ありがとうすら無い礼儀知らずなあの男を許せなかったのだ。

 

「貴方、お待ちなさい!一体何様のつもりで・・・!」

 

ダイヤは文句を言うため保健室から廊下に出たが、そこで思わぬ光景を目の当たりにする。

つい先ほどまで手当てをしていた男が廊下に蹲っていたのだ。ダイヤが駆け寄るとさらに異様な光景が目に飛び込んできた。男の右手の一部が、灰となって崩れ落ちていたのだ。

 

「貴方・・・一体どうしたのです?何故、こんな事に・・・?」

 

酷く怯えた様子で男に問いかけるダイヤ。しかし男は「・・・何でもない」とだけ言うと、振り切るように歩き始めた。ダイヤは追いかけようとするも、足がすくんで追いかける事は出来なかった。どんどん遠のいていく男の姿だけが、脳裏に焼きつくばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グッ!?はぁ・・・はぁ・・・。やっぱこうなんのか?」

 

巧は何とかサイドバッシャーまでたどり着くも、その状態は以前よりも重症だった。一回の変身による灰化の影響が大きく出始めているのだ。最もパワー効率が安定しているファイズギアでこの状態だ。カイザギアやデルタギアではもう身体が消えていたのだと考えるだけでゾッとする。

 

「あ、巧くーん!曜ちゃんは?」

 

そんな事を考えていると、前から千歌が歩いてきた。バスが到着したんだろう。

 

「足を怪我してな、手当てはしたからもう教室にいるんじゃないか?」

 

「そっかー!じゃあ、また後でね!」

 

千歌はそれだけ言うと、まっすぐ校舎に向かっていった。その様子を見ていた巧は1人、こうつぶやいた。

 

「誰かのために、失われていい夢なんかあっちゃいけないんだ。特に、あいつの夢はな・・・」

 

巧はヘルメットを被り、グローブをはめるとサイドバッシャーに跨り、十千万に向けて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!たっくんたっくん!これ見てよ!」

 

巧が帰ってきて早々、啓太郎が一枚のチラシを見せる。巧は見せられたチラシに書いてある事を読み上げる。

 

「出張!菊池クリーニング。旅館『十千万』にて近日開店予定。あなたの全てを綺麗にクリーニングします。お前なぁ・・・」

 

啓太郎の作ったチラシに、思わず呆れたように声を出す巧。啓太郎は馬鹿にされたように感じて、巧に問いかける。

 

「何さたっくん!今チラシ見て馬鹿にしたでしょ!だったらたっくんが作ってもいいんだからね?」

 

啓太郎の言葉に、面倒ごとを押し付けられまいとする巧は、素直にチラシを賞賛する。

 

「別に馬鹿にした訳じゃねぇよ。良いチラシだと思う。完成したら、俺が配って来てやるよ」

 

巧の言葉を聞いた啓太郎は大いに喜んだ様子で、チラシの印刷に勤しんだ。

巧は内心単純な奴だと思いながら、部屋で仮眠をとる事にした。

 

「俺の身体、どうなっちまうんだ?あと何回変身出来るか・・・」

 

巧はベッドに横たわりながら、自分の右手を見つめる。しかし、巧はすぐに見るのを止め、眠りに着いた。

何故ならば、その問いに答えられる者など誰もいないと知っていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・くん。巧くん。巧くん!」

 

巧は誰かに起こされる感覚に襲われる。が、身体の怠さが勝ってしまい、再び眠りにつく。すると今度は鈍い衝撃が身体を襲う。

 

「とぉーう!」

 

「グハッ!」

 

状況を説明しよう。巧を起こした人物が俗に言うボディプレスを繰り出したのだ。一気に眠気を覚ました巧は、その人物を見て呆れた。

 

「高海・・・こどもみたいなことするな」

 

「いいのー!私まだこどもだから!」

 

起こした人物は高海千歌だった。意外にもこの2人、仲が良い。

巧は未だ身体の上に乗っている千歌をどかすと、その真意を問う。

 

「で、何でお前が?何しに来た?」

 

「お話を聞いて欲しかったんだけど」

 

千歌は今日起こった出来事を話した。

 

渡辺がメンバーに加わったこと。そして、その書類を提出しに行った時こう言った。

 

「生徒会長、もしかしてμ’sのファン?」

 

放送用のマイクの電源が入っている状況だったらしい。

次に後輩の話をする。クラスの不登校児にノートを届けに行く途中だったらしい。

 

「それっきり、学校に来なくなったずら」

 

語尾が気になったが、巧はそれ以上は聞かなかった。

最後にこの間の少女と再会したらしい。

 

「もしかして、また海に入ろうとしてる?」

 

千歌は少女のスカートを捲り上げ、水着かどうか確認したらしい。巧はそんな情報はいらないと思いながらも、静かに話を聞いていた。そして、何故か今度の日曜日に海に潜るらしい。

 

「そうか・・・」

 

巧は今日千歌に起こった出来事を聞いて、その一言だけが口から出た。不意に、千歌の方から巧に質問する。

 

「それはそうと、何で曜ちゃんがあの事知ってるの?」

 

あの事。恐らくファイズの事だとすぐにわかる。巧は何も隠さずにあった出来事を話す。

 

「また出たんだよ、オルフェノクがな。渡辺はそのせいで怪我したんだ」

 

巧は自分を責めるように言葉を続ける。

 

「俺のせいで・・・」

 

「巧くんのせいじゃないよ!」

 

しかし、その言葉に割って入ったのは千歌だった。

 

「巧くんは私たちを守ってくれたんだもん!曜ちゃんもすごい感謝してたんだから!」

 

千歌の言葉に黙り込む巧。

そして、口を開いた。

 

「そうか、ありがとな。そうだ、知ってる奴に作曲出来るのがいるんだ。要らないかもしれないけど、声かけておくな」

 

巧の言葉、そして気遣いに感激する千歌。何故なら“あの”巧がそうしたからだ。

 

「さて、飯でも食いにいこうぜ。高海、お前も来るか?」

 

「っ!うん!」

 

千歌は巧の後についていく。その様子は、生まれた時から一緒に過ごす兄妹のようだった。

 

 

 

 

 




Open your eyes for the next φ's

「守ってみせるさ、ここが俺の帰る家だからな」

「千歌ちゃん、スクールアイドルに恋してるからね」

「お前に頼んだ俺が馬鹿だった!」

「2年もほっときやがってよぉ、俺様にだって心があるんだぞぉ!」

第5話 “海”の声


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第5話 “海”の声

プチ集合〜!


数日経って約束の日曜日。千歌たちが海に潜っている頃、巧は十千万の隅で一人、サイドバッシャーを洗車していた。かつての草加がそうしていたように。

分かる人には分かるかもしれないが、海の近くでバイクを走らせると大抵は何処か錆び付く。

 

「ふぅ・・・とりあえずこれくらいでいいか」

 

洗剤を水で流し、あらかた終わらせた所で一息つくことに。巧は洗車用具を貸してくれた人物の所に、お礼を言いに行った。

 

「美渡、いろいろ助かったよ。道具はどうすればいいんだ?」

 

その人物とは、高海家の次女の高海美渡だった。

 

「んー?あぁ、とりあえず元の場所にでも置いといてよ。巧も早く上がりな、なんか奢ってあげるよ」

 

美渡は巧に道具を置いて来るように言う。次女という事もあってか、余裕があるように見える。現に巧たちが居候するといった時、反対せずに歓迎してくれている。

巧と歳が近い事もあってか、互いに呼び捨てでも違和感無く接してくれているのが証拠だろうか。

 

「はい、どーぞ」

 

テーブルに座った巧に美渡が差し出したのはコーヒーだ。しかも、ホットで淹れたて。巧は堪らなくなって遂にその思いを言葉にする。

 

「美渡、お前・・・俺が猫舌なの知っててこういう事すんのか?」

 

巧は美渡を問いただす。もちろん、彼女が間違えてではなく故意にそうしているのが、分かっているからだ。

 

「だってさぁ、巧がふーふーしてんの面白いんだもん。今や高海家のブームだからね!」

 

なんて悪意のあるブームだ。巧は内心毒づきながらも、ぐっと言葉を引っ込める。そして、一心不乱にコーヒーを冷ます。

 

「あ、またやってるんだ。好きだね、巧くんも」

 

すると、高海家の長女の高海志満がやって来てテーブルに座る。巧は恐る恐るカップに口をつけながら、志満に状況を説明する。

 

「志満、俺だって好きでホットコーヒーなんて飲んでないさ。美渡の嫌がらせでな」

 

巧から説明を受けた志満は、すぐに美渡に注意をする。

 

「駄目だよ、巧くんは熱いの苦手なんだから」

 

「はーい」

 

志満の注意を軽く受け流す美渡。ともかく、これでようやく静かになると思ったのも束の間。今度は2人して巧を凝視していた。

 

「・・・」

 

美渡がニヤニヤといった笑みを浮かべ、志満がぽわわんとした微笑ましい笑顔を向ける。

この2人、楽しんでやがる。巧は常々姉妹だなぁと痛感する。

 

(どうなってんだよ、高海家の姉妹は)

 

その光景は巧がコーヒーを飲みきるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっくちッ!うー・・・」

 

一方、海で潜る約束をしていた千歌がどういうわけかくしゃみをする。

 

「どうしたの、千歌ちゃん?」

 

近くにいた曜が千歌に気遣いの言葉をかける。

 

「うーん、誰かが噂してるのかも」

 

まさかね、と少し盛り上がる千歌たち。彼女たちは今日、ここで海の声を聞く事となる。それは自分たちの未来に繋がる奇跡の一歩になることも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海の声を聞くのは千歌たちだけではなかった。何故なら巧もとある人物と連絡をとっていたからだ。

 

「要するに、俺たちの持つベルトが狙われているって事かな?」

 

「あぁ、どうもそうらしい。それも、倒したはずのオルフェノクまで使ってな。そっちは大丈夫か、三原?」

 

電話の相手は三原修二。2年前、紆余曲折を経てデルタギアの持ち主となった青年。王との決戦後は、短期のアルバイトをしていた養護施設“創才児童園”で本格的に働いていたようだ。

 

「こっちは特には・・・それに今の話が本当なら、スマートブレインが関わっているかもしれない」

 

スマートブレイン、その言葉を聞き巧の脳内に記憶が蘇る。オルフェノクを操り、何度も対峙した存在。

 

「まさか・・・スマートブレインはぶっ潰したはずだろ?」

 

巧はその可能性を否定する。巧自身、認めたくないのが本心なのだ。

 

「もちろん、俺もそう信じてる。ただ、スマートブレインがこの場所を流星塾の二の舞にするつもりかもしれない。だからさ・・・」

 

三原は一旦言葉をとめ、はっきり告げた。

 

「守ってみせるさ、ここが俺の帰る家だからな」

 

巧はその気迫に圧倒される。2年前の三原とは明らかに違い、決意に満ちたその言葉に迷いはなかった。

 

「そうか・・・気をつけろよ、三原」

 

「・・・あぁ。じゃあ」

 

巧は電話を切る。三原はもう大丈夫だ。あとは、自分自身のこと。

 

「俺も、どうにかしないと・・・ん、三原?」

 

ついさっき電話の相手だった三原の名前が出ていた。伝え忘れた事でもあるのかと思った巧は、すぐに繋ぎ直す。

 

「何だ、三原。何か言い忘れたか?」

 

巧が聞くと、電話の主が話し始めた。

 

「よう、乾。まさか、俺様をお忘れでは、ないでしょうか?」

 

「お前は・・・誰だ?」

 

巧は電話の主の正体を問う。生憎、俺様なんて友人を作った覚えない。

 

「って、おい!まさか、本当に忘れちまったんじゃ、ないだろうな!?よぉし、分かった。なら思い出させてやる」

 

巧は「別にいいんだが・・・」と言ったが相手には聞こえなかったようで、1人で淡々と覚えのない思い出話を語り始めた。

 

「あれは、雪の降る寒い冬の出来事だった。出会いこそ最悪だったが、俺たちは互いに助け合い、時には対立し、しかし最後には共に手を取りあってきた。そんな時、俺たちの仲を引き裂こうする奴らが現れたんだ。そいつらの名は・・・お馬さん、お馬さん。はいどうどう、はいどうどう・・・」

 

巧は思い出した。こんなおかしな話し方をする奴が、1人だけいた事を。巧はそれとなく相手の名前を呼ぶ。

 

「お前、海堂か?」

「あ、俺のボケはスルーね。いや、まぁそれはいい」

 

話を聞くたびに、このふざけた話し方が海堂であった事を思い出す。

 

「海堂、お前今までどこにいたんだ?」

 

「あ、その前に言わせて。2年もほっときやがってよぉ、俺様にだって心があるんだぞぉ!」

 

海堂の言葉に、巧は訂正を入れる。

 

「はぁ?何勘違いしてんだ。居なくなったのはお前の方だろ?」

 

「・・・あれ、そうだっけ?」

 

巧は本気で勘違いしている海堂に頭を悩ませる。しかし、海堂が出た事を好都合と考え用件を伝える。

 

「とりあえず、お前に繋がってよかった。頼みがあるんだ」

 

「頼み?何だい何だい、藪から棒に?」

 

巧は海堂に千歌たちの作曲を依頼した。海堂がギタリストとして活動していた事を、かつて木場から聞いた事があったからだ。そして、その話を聞いた海堂から答えが返ってきた。

 

「よし、分かった。なんて言えるか。お断りだ」

 

返ってきた答えはNOだった。納得がいかない巧は理由を説明するよう海堂に迫る。

 

「どういう事だよ、ちゃんと説明しろ!」

 

「どうもこうも、んな事して俺に何の得があんのかちゅうことよ。そんな田舎の学校守るより、とっとと合併しちまえってんだ。まぁ、その娘たちとお付き合い出来るってんなら、話は別だけどな?」

 

海堂の言葉に唖然としてしまう。少なくとも自分が知ってる海堂は、悪態をつきながらもいつか何処かでやってくれる奴だと分かっていたからだ。今思えば、電話越しの声だけを聞いていたことを踏まえて物事を考えるべきだったが、それよりも先に口が動いていた。

 

「あぁ、分かったよ。お前に頼んだ俺が馬鹿だった!じゃあな!」

 

「あ、ちょ待てよ!」

 

海堂の言葉も聞かず、巧は電話を切った。もしかしたらと期待していた男が、あんな事になったいたとは思いもしなかったからだ。受けたショックは中々に大きかった。

 

「高海に何て言うかな・・・」

 

巧は千歌にどう説明するかに悩まされる。が、それは思わぬ形で解決される事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、巧くん!紹介するね。作曲をしてくれる事になった梨子ちゃんだよ!」

 

電話から翌日、丸一日考えようやく失敗した事を話そうと決心した巧だったが、学校から帰ってきた千歌の言葉によって解決された。

 

「あの、桜内梨子です。よろしくお願いしま・・・って、あなたは!?」

 

千歌の後ろから現れたのは、やはり梨子だった。千歌から兼ねてから聞いていたので、ようやく承諾してくれたのだろう。

 

「あぁ、またあったな。乾 巧だ、よろしく」

 

巧は梨子に握手を求める。自分がファイズである事を知っている彼女に、わざわざよそよそしい態度でいる事もないだろう。それにその方が“自然”だ。

 

「乾さん・・・よろしくお願いします!」

 

梨子は巧の手を取り、握手を交わした。そんな巧の様子を見て、黙っていないのが2人。

 

「乾さん、私の時と態度違くないですか〜?」

 

「そうだよ!巧くん、そろそろ私の事“高海”って言うのも直してよ!」

 

2人に迫られ、顔を引きつらせる巧。しかし、すぐに折れたのは巧の方だった。

 

「あぁ、分かったよ・・・千歌、曜。これでいいな!」

 

あくまでぶっきらぼうに言う巧に、思わず頬を染める千歌と曜。横でその様子を見ていた梨子は、一言つぶやいた。

 

「乾さん、ツンデレだ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「μ'sのスノハレみたいなの作るの!」

 

3人(+a)は作詞活動に勤しんでいた。a=巧なのだが、何故この場にいるかと言うと千歌曰く「男の人の意見も聞きたい!」らしい。よって巧はほぼ戦力外。頼みの綱の梨子に丸投げ状態に。

 

「ちょっと調べてみる!」

 

気がつけば、千歌が何やら調べ物をしていた。恋愛がどうのこうの、と言っていたが。そんな千歌を見た曜がこんな事を言った。

 

「千歌ちゃん、スクールアイドルに恋してるからね」

 

その言葉を聞いた巧が、不意に言い放った。

 

「じゃあ、もうそれでいいんじゃないか?」

 

今までの苦労が無かったかの様に、曲が出来上がったとさ。




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「何、あれ?」

「新しい理事長もそこの人らしいよ」

「ここを満員に出来たら、部として承認してあげますよ」

「俺の都合ってのも考えろよ!」

「遂に不審者まで出るとは・・・」

「変〜身」

第6話 理事長登場



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第6話 理事長登場

特に報告はありません。


作詞会議から一日が経った早朝。千歌、梨子、曜の3人は浜辺で踊りの練習をしていた。まずは出来ることからということらしい。

一連の動作を動画に撮って繰り返し確認して、悪い所を一箇所ずつ直すことの繰り返しだ。

 

「うーん・・・ここの蹴り上げがみんな弱いかな。あ、ここの動きも!」

 

曜が動画を見ながら、悪い所を指摘していく。ちなみに何故曜が指摘しているかと言うと、彼女曰く「高飛び込みやってたからフォームの確認は得意なんだー」とのこと。

 

「あー!もうやる事多すぎだよ・・・ん?」

 

まだまだ課題が多く残っている事を確認した千歌は、思わず頭を抱えてしまう。その時、空飛ぶ何かが視界に入った。

 

「何、あれ?」

 

千歌の疑問に曜が答える。

 

「小原家のヘリだね。新しい理事長もそこの人らしいよ」

 

曜の説明を受け、ヘリを見つめる千歌。ヘリはバラバラバラバラと音を立て、どんどん大きくなっていく。

 

「なんか・・・近づいてない?」

 

千歌の言葉の通り、ヘリは千歌たちの頭上をかすめるように旋回する。

 

「うわあああっ!!な、なに?」

 

ヘリによって発生した風の勢いに圧倒される3人。そのヘリの後部座席に乗っている金髪の少女が、千歌たちに挨拶をした。

 

「チャオー!」

 

私立浦の星女学院の新理事長、小原鞠莉の鮮烈な登場だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たっくん!はいこれ!」

 

千歌たちが小原鞠莉と出会った少し後巧は啓太郎からあるものを受け取っていた。それは啓太郎が兼ねてから製作していた宣伝用のチラシが約300枚ほど。

 

「何だこれ?」

 

「半分は配布用で、もう半分は掲示用ね。じゃあ、お願いね!」

 

啓太郎はそれだけ巧に伝えると、開店の準備に取り掛かる。巧は先日の自分の発言を恨む。

 

「何であんな事言っちまったか・・・仕方ねぇ、行くか」

 

巧はサイドバッシャーに跨り、まずは人通りの多い沼津へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、新理事長?」

 

場所は移って、浦の星女学院の理事長室。千歌たちは小原鞠莉にその経緯を説明されていた。

やけにテンション高めで説明していた事もあり分かった事といえば、理事長はマリーでカレー牛丼という事。

もちろんそんな説明で理解出来る訳もなく、さらにはもう一人反抗する人物も。

 

「分からないに決まってます!!」

 

その人物は生徒会長の黒澤ダイヤだ。しかし、憤る彼女の態度とは裏腹に鞠莉は彼女の胸を触り、その戯れを楽しんでいた。

どうやら、彼女たちは知り合いの間柄のようだ。

しばらく楽しんで満足したのか、鞠莉は改めて自分が理事長であるという書類を彼女の前に提示した。

 

「実はこの浦の星にスクールアイドルが誕生したという噂を聞いてね、ダイヤに邪魔されちゃ可哀想なので応援しにきたのです」

 

鞠莉がそう言い切ったその時、部屋の扉が開かれた。生徒会役員数名が1人の男を縛り上げて連行してきたのだ。

 

「失礼します!学校内を不当に彷徨く不審者を捉えました!」

 

鞠莉以外はその出来事に驚き、中でもダイヤは驚きを通り越してもはや呆れてしまっていた。

 

「遂に不審者まで出るとは・・・。あなた、どういうつもりですか?ここは浦の星女学院、その名の通り男性の入れる場所ではありませんよ?」

 

ダイヤが連行された男に質問する。すると、男は弁明し始める。

 

「俺は不審者なんかじゃねぇ!俺はただ乾に会いに来ただけで・・・ちゅーか、それよりもあいつだあいつ!」

 

男の言う事はまるで分からず、ただ自分は被害者で不審者は別にもう一人いる。それに乾なる人物に会いに来たという事だけで、ダイヤは困惑している。

そこに、千歌が男に問いかける。

 

「あの、乾ってもしかして巧くんの事ですか?」

 

それを聞いた男は、目を見開いて答える。

 

「そう!それだそれ。今すぐ乾を呼べ!じゃねぇとあいつが、オルフェノクが誰かを殺しちまう!」

 

男の言葉に衝撃を受ける一同。それと同時に校庭の方から悲鳴が聞こえてきた。

 

「っ!?何事ですか!」

 

ダイヤたちは窓から悲鳴の聞こえた場所を見る。すると、灰色の怪物が数名の女生徒を次々に灰へと変えていたのだ。

その光景を見た男は、再び千歌に催促する。

 

「早く乾を呼べ!でないと・・・クソっ!」

 

男は役員の拘束を振り解くと、すぐ様部屋を出て行ってしまった。

 

「あなた!仕方ありません・・・私たちも生徒を避難させますわ。あなた達も早く避難なさい」

 

ダイヤは役員を連れ、男の後を追う。千歌達は巧に連絡を取ると、部屋から出て行った。一人理事長室に残った鞠莉は一言だけ呟いた。

 

「さぁ、早く現れて・・・ファイズ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男とダイヤたちが現場に到着するも、既に数人の生徒と教師が犠牲となっていた。男は自分が止めていればと激しく憤り、その身を変貌させる。

 

「変身ッ!!」

 

その姿は蛇を模した灰色の怪物“スネークオルフェノク”だった。ダイヤ達が驚く中、スネークオルフェノクは象を模した怪物“エレファントオルフェノク”に殴り掛かる。

 

「お前!何でこんな事出来んだよ!同じ人間じゃねぇかよ!」

 

スネークオルフェノクは果敢に殴り掛かるも、エレファントオルフェノクのカウンターパンチを受け、体ごと吹き飛ばされた。不意に、エレファントオルフェノクの影が人間に変わり、話し始める。

 

「こんな凄い力を手に入れたんだ。自分のために使わなくてどうする?俺は俺を馬鹿にしたあいつらに復讐するために力を使うんだ!!」

 

エレファントオルフェノクは再びスネークオルフェノクに拳を乱打する。いかにオルフェノクといえど、その攻撃に打ち負かさせるのに時間はかからなかった。再び蹴り飛ばされたスネークオルフェノクは人間の姿に戻ってしまう。

 

「ぐあ・・・クッソ・・・!」

 

倒れる男の側に駆け寄るダイヤ。男に意識がある事を確認し、怪物のほうを見据える。

 

「何だ、その目は。おまえもあいつらと同じかァ!」

 

エレファントオルフェノクの拳がダイヤに向けて振り下ろされるその瞬間、突然背後から衝撃が襲って体ごと吹き飛ばした。ダイヤがその視線の先を見ると、あの男が立っていた。

 

「待たせたな・・・ったく、俺の都合ってのも考えろよ!変身ッ!」

 

巧は既に変身待機状態のファイズフォンをバックルにセットする。

 

Complete

 

巧の体が赤い閃光に包まれ、ファイズへと姿を変える。

巧に吹き飛ばされたエレファントオルフェノクは、標的をファイズへと変えて向かってくる。

 

巧は手首をスナップさせると、エレファントオルフェノク目掛けてパンチを繰り出す。が、逆にエレファントオルフェノクがその手を掴み、ファイズを投げ飛ばす。

 

「ぐッ・・・まだ・・・うっ!?」

 

再び立ち上がりオルフェノクと戦おうとしたその時、ベルトから全身にかけて途轍もない衝撃を受ける。

それは初めてカイザの戦いを見たあの時と同じであった。

 

Error

 

発せられた音声と同時に体ごと吹き飛ばされる巧。その表情は痛みや不安より驚きを隠せないでいた。

 

「な、何!?どういう事だ!?あぁ・・・」

 

巧はそのまま気を失ってしまう。ダイヤは巧に駆け寄り、その容体を確認する。やはり意識こそあるものの、その手は黒ずんだ灰のようになっていた。

 

「やはり、あなたは・・・」

 

ダイヤが巧の心配をしていると、エレファントオルフェノクは人間の姿に戻り、巧から弾かれたベルトを巻いて変身コードを入力する。

 

5・5・5 Enter Standing by

 

ファイズフォンから変身待機音が鳴り響く。そして、そのままバックルにセットした。

 

「変〜身」

 

Complete

 

今度は怪物の体が赤い閃光に包まれ、ファイズへと変身した。

 

「へぇ、いいね。じゃあ今から続きをやろうか」

 

ファイズはダイヤへと歩み寄り、その胸ぐらを掴み上げ拘束する。

 

「くぅ・・・!」

 

苦悶の表情を浮かべるダイヤに対し、ファイズは容姿なく地面に投げ飛ばす。

 

「きゃッ!!」

 

ダイヤ投げつけたファイズは思わず笑い始める。全てをねじ伏せられる力を手に入れた事により、理性が崩壊してしまっているのだ。

 

「アハハハハハッ!?弱い、弱過ぎるよ!もう誰も俺を馬鹿に出来ないんだ!アハハハッ!」

 

笑い続けるファイズに対し、ダイヤは痛みに苦しみながらも、その心に問いかける。

 

「こんな事であなたの心は晴れましたか?それでは、わがままな子供と大差ありませんよ!」

 

ダイヤの言葉を聞き、笑いを止めるファイズ。そして、ダイヤを体ごと起こし、告げた。

 

「お前、ほんっとに鬱陶しいな!その口を聞けないようにしてやる!」

 

ファイズは拳を振り上げ、ダイヤ目掛けて放つ。しかし、その時。

 

「やめろ。今はファイズのベルトを回収するのが先だろ?」

 

ファイズの手を掴み、静止するようコートを着た男が現れる。ファイズは男を見ると、居心地が悪そうにして、ダイヤを掴んでいた手を離す。そして男たちは何処かへと引き返すのだった。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

地面に倒れこむダイヤは、その光景を意識を失う寸前まで脳裏に焼き付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ・・・!?ここは・・・」

 

巧が目を覚ますと、そこは以前見た浦の星女学院の保健室だった。巧は先ほどの記憶を思い出す。

 

(俺は、あいつにやられたのか・・・ファイズのベルトも盗られた)

 

巧は自分の寝ていたベッドに拳を叩きつける。自分の不甲斐なさは恨んでも恨みきれない。

すると、その音を聞いたのか千歌、梨子、曜の3人が部屋に入ってくる。

 

「巧くん・・・その、大丈夫?」

 

千歌が気遣う言葉をかける。しかし、巧は言葉を聞かず、ただひたすらに謝り続ける。

 

「ごめんな・・・お前たちの場所を、守れなくて。それに、ファイズのベルトも失っちまって・・・もう俺にはどうする事も・・・俺はもうファイズになる資格はない」

 

巧は自分を責め、千歌たちに謝罪の言葉を言い続ける。しかし、意外にも最初に口を開いたのは梨子だった。

 

「大丈夫ですよ、乾さん。まだ終わってません!」

 

梨子の言葉に続くように曜が話す。

 

「そうですよ!今度ここの体育館でライブをするんです!その時も絶対にまたあの怪物が来ますよ!」

 

2人の言いたい事を察すると、その時にファイズのベルトを取り返せるという事らしい。そして、最後に千歌が話す。

 

「理事長さんが言ってくれたんだ。ここを満員に出来たら部として承認してあげますよって。私たち、まだ始まってないから、絶対に成功させたいんだ!協力、してくれるよね?」

 

巧は複雑な気持ちになりながらも、考える。自分にできる事は限られている。だが、彼女たちの夢はまだこれからだ。ならば答えは決まっている。

 

「分かった・・・ファイズのベルトも、お前たちの学校も、俺が絶対に取り戻してやる」

 

巧の決意は、良き終末へと続く選択だった事を知るのはまだ、先の話。

 




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「そのくらい出来なきゃこの先もダメっていう事でしょ」

「ライブ?」

「絶対満員にしたいんだ!」

「あ、あの!グ、グループ名は何て言うんですか?」

「俺もそろそろ覚悟決めなきゃいけないのかもしれない」

第7話 私たちの名前



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第7話 私たちの名前

8月ももう終わりという事実。



浦の星女学院の生徒会室。すっかり日も沈みかけたその頃、1人活動している者がいた。

 

「はぁ・・・やはり、気になりますわ」

 

その人物とは生徒会長の黒澤ダイヤだった。生徒はもちろん、役員すら出払っているにも関わらず彼女が生徒会室にいるのには理由があった。

 

(あの得体の知れない怪物はもちろん、コートを着た男性が仰った“ファイズのベルト”・・・それにあの方も)

 

ダイヤが黙って考え込んでいると、生徒会室の扉がノックされる。

 

「・・・!どうぞ!」

 

ダイヤが返事をすると、扉をノックした人物が生徒会室に入ってくる。ダイヤはその人物を見て思わずその身を硬直させた。

 

「邪魔するぞ。生徒会長に話があるんだが?」

 

入ってきたのは巧だった。ダイヤは動揺している事を隠すように話を進める。

 

「生徒会長は私です。どのようなご用件でしょうか?」

 

ダイヤの言葉を聞き、巧は本題よりも先に感謝の言葉を伝える。

 

「その前に礼を言わせてくれ。高海たちから聞いたんだ。あんたが倒れてた俺を運んでくれたんだってな」

 

巧の言葉になんとなく気恥ずかしくなるダイヤ。すぐさま話題を元に戻す。

 

「べ、別に当然の事をしたまでです!それで、要件はそれだけですの?」

 

ダイヤに促され、巧は思い出したようにチラシ(掲示用)を取り出す。

 

「今度、クリーニング屋を開くんだ。それで何枚か掲示させてほしいんだ」

 

巧からチラシを受け取って内容を確認する。特に不備などの問題は無かったため、ダイヤは巧の頼みを了承した。

 

「分かりました。では、生徒会の方で何とかしましょう」

 

ダイヤの了承を得た巧は、用も済んだため生徒会室を後にしようとした時、その直前で呼び止められた。

 

「あの、一つお聞きしても宜しいかしら?」

 

「何だ?」

 

巧が振り返ると、ダイヤは神妙な面持ちで質問する。

 

「今度、ここでスクールアイドルのライブを行う事になっています。その時に会場を満員に出来なければ、解散という約束をしておりますの」

 

「随分手荒な約束だな」

 

巧の言葉に思わずムッとするダイヤ。しかし、すぐに気をとりなおして話を進める。

 

「正直、今の彼女たちにここを満員にする事は不可能だと考えています。それに、例の怪物騒ぎもあってますます状況は絶望的と言えるでしょう。それでも、彼女たちにスクールアイドルを続けさせるべきだと思いますか?」

 

ダイヤの心からの言葉に巧は黙り込む。そして、静かに口を開いた。

 

「俺は・・・今は続けさせるべきだと思う。出来るか出来ないかってよりも、夢だからって感じか」

 

ダイヤは巧の言葉を計りかねる。

 

「夢・・・ですか?」

 

巧は困惑するダイヤに嘗ての友の話をする。

 

「俺の友達に人間を守る事を夢と考えていた奴が居た。そいつは自分が人間じゃないにも関わらず、人間であり続けようとしたんだ。裏切り者のオルフェノクとして命を狙われる事になってまでな。だが、奴の仲間がやられた時に、奴も変わっちまった。奴の仲間は人間に殺された。その事を知った奴の夢は崩れ去り、代わりに人間を滅ぼすっていう願いが出来た」

 

巧の言葉に息を呑むダイヤ。巧は静かにその先を告げた。

 

「結局は夢を信じきれなかった弱さから、招いた結果なのかもしれない。だから俺は夢を信じる。そして、その夢を邪魔するオルフェノクは絶対に許さない!!」

 

巧は気持ちを抑えきれずに扉を力任せに叩きつける。巧の突然の行動に驚くダイヤ。巧はすぐに我に返って「すまない」と言って話をまとめた。

 

「要するに信じてやってくれって事だ。俺に言えるのはそれくらいだ。チラシの件、ありがとな。今度、店に来てくれよ。ただで洗ってやるからさ」

 

巧の言葉にダイヤは柔和な笑顔を浮かべて返事をする。

 

「・・・えぇ。是非お伺いさせていただきます」

 

ダイヤの返事を聞いた巧は軽い足取りで生徒会室を出て行った。そして、残されたダイヤは静かに呟いた。

 

「夢を信じる・・・ですか。私も、まだ信じていても良いのでしょうか?」

 

彼女の呟きは夕暮れの空へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日、千歌、梨子、曜、巧、海堂の5人は沼津駅にてチラシ配りをしていた。一方はライブの勧誘のために、もう一方は開店に向けての客集めのために奮闘していた。

 

「よーし、気合い入れて配ろう!」

 

千歌の言葉を皮切りに、各自で配布活動を始める。千歌がこんな事を言うのにも理由がある。

千歌は先日の帰り途中のバスでの会話を思い出す。

 

『全校生徒を集めても満員にならないってこと?』

 

『でも、鞠莉さんの言うことも分かるかな。それくらい出来なきゃ、この先も駄目って事でしょ?』

 

鞠莉によって課された課題をクリアしなければ、学校を救う事など夢のまた夢。改めて現実の厳しさを思い知らされたのである。

なので、現在に至る。生徒が駄目なら一般の方たちから数を得なきゃいけないという結論に達したのだ。

 

「お願いします!・・・って、あれ?」

 

千歌は果敢に声をかけるも、中々思うように進まない。一方で曜の方はというと、持ち前のコミュニケーション能力の高さで次々にチラシを減らしていく。ついでに写真までとる始末。

さらにもう一方では、梨子が広告に向けてチラシを見せていた。

 

「れ、練習だから・・・!」

 

かなり苦しい言い訳であったが、次はちゃんと人に渡していた。コートにマスクにサングラスといった、かなり怪しい人物にだったが。

さらに少し離れたところで、巧と海堂がチラシを配っていた。曜ほどではないにしても、順調にその数を減らしていた。その途中、巧は突然海堂に話しかけられる。

 

「なぁ乾。お前、もしかして変身出来なくなったんじゃねぇか?」

 

「お前、なんで知ってんだよ。ストーカーかよ」

 

いきなり図星を指され、思わず軽口で返してしまった巧。海堂も真面目な態度で反応する。

 

「っておい!いやよ、真面目な話俺には分かるわけよ。お前に起きてるその症状の正体がよ」

 

「・・・どういう事だ?」

 

海堂の言葉を怪訝に思う巧。確かに巧自身もはっきりとはわからなかったこの灰化の原因を、海堂は知っているというのだ。

 

「前に木場から聞いたんだよ。お前、木場に捕まって実験されたろ?あん時にオルフェノクとしての寿命を消滅するスピードを速められたんだよ。いくらオルフェノクが短命つっても、1年やそこらって訳じゃねぇからな」

 

海堂の話を聞いて納得する巧。そして、その解決策を教えてもらう事に。

 

「それで、どうすればいい?」

 

「んにゃ、俺は知らねえよ。ただ、寿命を 減らすって事はだ、増やすってのも出来んじゃねえかなって思っただけだ。あとは俺様の知ったことじゃねぇつーか」

 

海堂はいつもの通りに悪態をつきながらチラシ配りにどこかへ行ってしまった。巧はその様子を見て、海堂はいつもの海堂と安心する。

 

「まったく、素直じゃねぇな。ま、俺も同じか・・・俺もそろそろ覚悟決めなきゃいけないのかもしれないな」

 

巧は手に持っているチラシを配り終わると、千歌たちの元へ足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライブ?」

 

「うん!絶対満員にしたいんだ!だから来てね?」

 

巧が戻ると、千歌が見知らぬ生徒と話していた。近くにいた梨子に話を聞く。

 

「梨子、あの2人って知り合いなのか?」

 

「え?あぁ、学校の後輩なんです。確か名前は・・・」

 

梨子が説明をしようとした時、女生徒の内の1人が話しかけてくる。

 

「あれ?もしかしてあなたが乾 巧さんずら・・・じゃなかった、ですか?」

 

ずいぶんと個性の強い女生徒だと言葉に出そうになったが、巧は我慢して話を続けた。

 

「あぁ、よろしく。今度店を始める事になったから、その宣伝に来てんだ。良かったら来てくれよ、えっと・・・?」

 

巧が呼ぶのに困っていると、向こうから自己紹介してくれた。

 

「私は国木田花丸です。そして、お友達の黒澤ルビィちゃんです」

 

花丸と呼ばれる少女は、自分の背後に隠れていたもう1人の少女を巧の前に押し出す。

 

「あ、ああ・・・あの、わた、私は・・・」

 

ルビィと呼ばれる少女が何やら話せないでいる事に気づいた巧。すると、巧は目線をルビィに合わせるように屈みながら話をする。

 

「無理に話さなくてもいい。あいつらをよろしく頼むな」

 

そう言って、ルビィの頭をわしゃわしゃと撫でる巧。千歌たちはあの悲鳴が聞こえてしまうと急いで耳を塞いだが、いくら待っても悲鳴は聞こえてこなかった。寧ろ懐いている様子すら見て取れる。

 

「〜♪」

 

その様子を見た花丸は、驚きの声を上げる。

 

「ずら〜!乾さん凄いずら!ルビィちゃんが懐いている所なんて滅多に見られないずらよ!・・・あ」

 

花丸は自分の言葉を言ってすぐに、語尾が戻っていた事に気づく。しかし、巧含むその場にいた全員は馬鹿にする事なく、千歌と曜に至ってはその可愛さに我慢出来ずに花丸に抱きついていた。

その様子を見かねて引き離そうとする巧だったが、裾をクイっと引っ張られる。相手はもちろんルビィだ。

 

「んあ?どうしたんだ?」

 

巧はルビィの口元に耳を近ずける。耳打ちされた内容を理解した巧は、ルビィに自分で伝えてみろと合図する。巧に言われ、ルビィは勇気を出して言葉にする。

 

「あ、あの!グ、グループ名は何て言うんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《後日の町内放送にて》

 

『浦の星女学院スクールアイドル“Aqours”です!今度の土曜14時から、浦の星女学院にてライブを行います!生徒だけでなく一般の方々の観覧も大歓迎ですので、よろしくお願いします!!』




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「私達は、スクールアイドルAqoursです!」

「今度こそ、殺させてもらうよ」

「さぁ行こう!全力で、輝こう!!」

「乾ィ!お前・・・」

「ううああああああああ!!!」

第8話 狼の正義


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第8話 狼の正義

目指せ!お気に入り登録数50件超え!


ライブ当日までの数日間、千歌たちはダンスの練習やライブの手伝いをしてくれる人を探したり、とにかくその一瞬一瞬をより良いライブにするために奔走した。

そして遂にライブ当日の朝がやってきた。

 

「ふぁ・・・ん〜!いよいよ今日か・・・ん?巧くん!」

 

いつもより早く起きた千歌は、目を覚ますために外の空気を吸いに出る。しかし、先客がいる事に気づく。

 

「・・・千歌か。よく眠れたか?」

 

「うん・・・あとはもうやるしかない!って感じだよね」

 

千歌が胸の前でぐっと手に力を込める。巧は彼女の中で様々な思いが巡っている事に気づく。

期待、不安、失敗。そんな思いに負ける事のないように巧はフォローを入れた。

 

「俺は俺の場所で、千歌は千歌の場所で出来るだけの無理をすればいい。そしたら、それを見ていつか誰か何かしてくれるんじゃないか?」

 

巧の言葉を聞き、思わず笑ってしまう千歌。もちろん内容について笑った訳ではない。

 

「ごめんごめん。巧くんらしくない台詞だなって思ったら可笑しくて・・・」

 

「お前なぁ・・・まぁ確かにそうだな」

 

つい言い返そうとするも、考えてみれば確かに自分のイメージと合わない台詞だと認める巧。千歌が一頻り笑った所で、最後のフォローを入れる。

 

「ライブ、頑張れよ」

 

「・・・うん!」

 

この時の千歌の笑顔は、まさしくアイドルのようにキラキラと輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間が経過し、ライブ開始の30分前の現在に至る。ライブ会場である浦の星女学院の体育館には巧の姿はなかった。その代わりにあの男がいた。

 

「ったく・・・何で俺がこんな所で餓鬼のお守りをしてやんなきゃならんのよ」

 

海堂は1人悪態をつきながら、出入り口の二階部分にあたる場所で開始時間が過ぎるのを待っていた。

海堂は自分が何故ここに居るのかを思い出す。

そう、それはお昼前の出来事だった。

 

『海堂、頼みがある』

 

『嫌だ。俺様は忙しいんだ。啓太郎にでも頼めばいいだろ?』

 

『・・・俺はファイズギアを取り戻さなきゃいけない。だが、もしオルフェノクがあいつらを襲うかと思うとな。力を、貸してくれないか?』

 

『・・・ま、任せとけー!』

 

海堂は回想を止め、最終的に自分が判断して決めたことを思い出す。改めて視線をライブ会場に戻す。

 

「にしても、ずいぶんガラガラじゃねぇの?大丈夫かよ」

 

海堂のつぶやきに答えるように言葉が返ってくる。

 

「確かにその様ですわね」

 

突然現れた女生徒に驚きの声を上げる海堂。

 

「のわあっ!な、何だお前は!びっくりしたなぁ、もう」

 

「そこまで驚かなくても・・・まぁ、それは別によろしいですわ。それより、あの人は居ないのですか?」

 

女生徒は海堂とは別の人物を探しているようだが、海堂にはその人物が誰かは思いつかなかった。

 

「は?あの人ってどいつ・・・。ん、待て!血の匂いと、乾?こいつはヤベェぞ!!」

 

突然感じ取った匂いに危機感を覚えた海堂は、手すりを飛び越え一階で受け身を取って走り出した。

 

「お待ちなさい!乾ってまさか!?」

 

女生徒は海堂の後を追うように階段を駆け下りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浦の星女学院の校門前。止むことなく降り続いている雨の中、傘もささずに立ち尽くす男がいた。

 

「さてと・・・今度こそ、殺させてもらうよ」

 

男が校内へと足を進めようとした時、後方からバイクの駆動音が響き渡り、目の前で急停止した。

 

「ッ!?へぇ、まだやる気なんだ。そんな手負いの状態で勝てるのかな?」

 

サイドバッシャーから降りた巧は、男がベルトを持っていない事に気付く。

 

「お前、ファイズギアはどうした?」

 

巧の質問に憮然とした様子で答える男。

 

「さぁね。それにあれが無くても、今の君になら勝てるんじゃないかな?フンッ!」

 

言葉を言い終えるのと同時に、エレファントオルフェノクに姿を変える。それを見た巧は、天を仰いで力強く叫んだ。

 

「ううああああああああ!!!」

 

巧の叫びに呼応するように、降り続いていた雨が一瞬空中に留まったような錯覚に陥る。そして、巧の姿が狼を模したウルフオルフェノクに変化すると、再び雨が地面に落ち始めた。

 

「なるほど・・・それがファイズの正体って訳か。結局お前も化け物じゃないか!」

 

エレファントオルフェノクがウルフオルフェノク目掛けて走り出す。その豪腕から繰り出すパンチをウルフオルフェノクは自慢の脚力を駆使して躱し、両腕のメリケンサックで攻撃を加える。

 

「グゥ・・・!?こんなはずじゃ」

 

苦言を呈するエレファントオルフェノクに尚も追撃を食らわす。そして、飛び蹴りで体ごと吹き飛ばしたその時、チャンスが訪れた。

 

「仕方ない・・・今は逃げるしか」

 

エレファントオルフェノクが体制を立て直すために、巧に背を向けたのだ。ライブ開始の時刻が迫る中でこれ以上この場に居られない事を知っていた巧は、再びサイドバッシャーに跨ってその姿を変形させた。

 

Battle mode

 

発せられた音声と同時に前輪が右腕、後輪が左腕に変形し、さらには側車部・ニーラーシャトルは二足歩行が可能になる脚に変形合体し、サイドバッシャー・バトルモードが完成した。

ウルフオルフェノクはそのまま右腕のクローでエレファントオルフェノクを拘束すると、地上をローラーダッシュしてこの時間は人がいない浜辺へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体育館ではいよいよライブ開始の時刻が迫っていた。ステージ裏で待機している千歌、梨子、曜の3人は最後に気合いを入れていた。

 

「さぁ行こう!全力で、輝こう!!」

 

千歌の言葉が3人の力になるように感じる。そして、遂に開始の時刻となり仕切っていたカーテンが上がっていき、衝撃の光景を目にする。

 

「えっ・・・?」

 

そこにあった光景は会場が満員になるほど埋め尽くされたものではなく、真ん中に10人程度人がいるだけの光景だった。

千歌たちは歯がゆい思いを隠し、始めの挨拶をする。

 

「私達は、スクールアイドルAqoursです!目標は、スクールアイドルμ’sです!!

…聴いて下さい!」

 

千歌の言葉を皮切りに、用意していた曲が流れ始める。

彼女たちの初めての、そして運命のライブが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「乾ィ!お前・・・」

 

巧がオルフェノクごとこの場を離れる少し前、匂いを頼りに駆けつけた海堂とその後を追ってきたダイヤはその光景を目の当たりにする。

 

「あれが、あの人なのですか・・・」

 

ダイヤはついこの前襲ってきたオルフェノクと新たに現れたオルフェノクが戦っている光景を見ていた。先に着いた男の人が乾と呼んでいること、さらには見覚えのあるバイクに乗っていることから新たなオルフェノクは巧である事は察しがついた。

しばらくしてバイクが変形し、オルフェノクを掴んだまま何処かへ走り去ってしまった。

残された2人だったが、先に動いたのは海堂の方だった。

 

「待ってください!あなたはあの人が心配ではないのですか!?」

 

ダイヤが海堂に問いかける。海堂はきっぱりと言い切る。

 

「あぁ、心配なんかしてねえ。乾には乾の、俺には俺のやるべき事があんの。乾の代わりにライブを守るのが今の俺のやるべき事なわけ。そういう約束だからな」

 

海堂は足早に体育館へと引き返す。ダイヤはついこの前の巧の言葉を思い出す。

 

「夢を信じる。だからあなたは戦っているのですね。だったら私も・・・夢のために戦いますわ!」

 

ダイヤはその決意を胸に走り出す。皆それぞれの場所で戦うしかない。ようやく運命の歯車が回り始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、エレファントオルフェノクを浜辺まで運んでいた巧の戦いもようやく終わりを告げようとしていた。

 

「ウラッ!!」

 

クローで拘束していたエレファントオルフェノクを地面に叩きつけ、ニーラーシャトルで空中に向けて蹴り上げた。

 

「フンッ!」

 

ウルフオルフェノクは左腕の6連装ミサイル砲・エクザップバスターを起動し、発射する。連続で発射される6発のミサイルは命中する手前で分かれ、無数の小型ミサイルとなってエレファントオルフェノクを襲う。

 

「ウグッ!?がアアああ!?」

 

エレファントオルフェノクの体はミサイルが当たるたびに上昇し、最後のミサイルで爆発四散した。

 

「ハア・・・ハア・・・うッ!」

 

同時にオルフェノクの姿から巧に戻ってしまう。役目を終えたサイドバッシャーも自動でビークルモードに戻ってしまった。

 

Vehicle mode

 

どんどん意識が遠のいていく感覚に襲われ、地面に倒れてしまう巧。そして、意識を失う直前に幻聴のようなものを聞いた。

 

「カッコ悪いねぇ・・・ま、今の君じゃその程度か」

 

巧の手に何かが持たされる。

 

「別に君を助ける訳じゃない。そのベルトは、今は君が持っていた方が都合がいいんだ」

 

言葉が聞こえる方向を力を振り絞って目を開ける巧。彼が最後に見たものは緑のコートを着た男の姿だった。

 

「ま、せいぜい頑張りなよ。虫ケラの様に生きる君を見ているのも悪くないからさ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Open your eyes for the next φ’s

「まさか本当に承認されるなんて」

「ん!?何か書いてある・・・」

「本当はね、ルビィも嫌いにならなきゃいけないんだけど・・・」

「らっしゃい・・・って本当に来たのか」

「ルビィちゃんを・・・助けてあげてほしいずら」

第9話 赫い少女


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第9話 赫い少女

お久しぶりです!まず最初におことわりをさせていただきます。

この更新から大体2、3週間ほど更新することが出来ないと思われます。
今月は就職の試験があるため、そちらに集中させていただきます。
ご了承ください。では、どうぞ!


浦の星女学院にて行われたライブから数日後、その会場となった体育館に新たな部室が誕生した。

 

「まさか本当に承認されるなんて」

 

創設された部の名前は“スクールアイドル部”。メンバーは千歌、曜、梨子の3人である事は言うまでもない。

ここで、改めてここに至るまでを振り返ってみるとしよう。

当初は観客が10数人程度でライブがスタートした訳だが、その原因として千歌がライブの開始時間を間違えて知らせてしまったとの事。結果、約束の通り会場を埋め尽くすほどの観客を動員させ、無事にスクールアイドル部の創部へとこじつけたのだ。

 

「うぅッ・・・片づけて使えって言ってたけど・・・」

 

ようやく与えられた自分たちの部室の有様を見て、梨子がつい本音を漏らす。そして、千歌から悲鳴にも聞こえる叫びが部屋の中に響き渡る。

 

「これ全部ゥー!?」

 

2人が愚痴を漏らすのは無理もなく、与えられたスクールアイドル部の部室の中は、物が散乱し部屋中埃まみれで、中には何かを書いて消した様なホワイトボードや返していない図書室の本などなど。綺麗に掃除をすれば使えるものの、その有様はゴミ屋敷そのものだ。

 

「ん?何か書いてある・・・」

 

千歌はホワイトボードに注目する。書いてある事といえば、何かの歌詞にも見てとれる言葉やスクールアイドルに関連するような事だった。気にはなったものの、肝心の内容の部分が消されていたため、3人はひとまず部屋の中に置いてある物を片づける作業に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、巧は今日から始まったクリーニング業務に追われていた。内浦に来てからの数日間、ろくに仕事をしていなかった事もあり、少し手間をかけながらも何とか一つ一つ丁寧に作業をこなしていった。そして、配達に行った啓太郎の代わりに留守番をしている巧は、中身がないアタッシュケースを見つめる。

 

「ファイズギアは奴らに奪われたまま・・・でも、何でこれが?」

 

巧は視線を空のアタッシュケースから少し大きめのアタッシュケースに移す。ケースを開くと、ケース上部にΧを模したツールが収納されており、ケース下部にはベルト、携帯、カメラ、双眼鏡を模したツールが収納されていた。それに巧には気になった事がもう一つある。

 

「それにあの言葉・・・草加、やっぱりお前は・・・」

 

巧の脳裏に焼きついていたのは意識を失う直前に聞いた幻聴だった。草加雅人は死んだ、この事実が覆される事は無い。しかし、だったらどうして消えたカイザギアが今手元にある事が説明出来るか?自分は何処かで期待していたのではないだろうか?倒したはずのオルフェノクが現れたのだから、きっと木場や草加も・・・。

 

「たくっ・・・らしくねぇな。俺はもう迷わないって決めたろ」

 

巧は自分の頭の中に渦巻いていた疑問を振り払う様に思考を停止する。

例え死者が蘇る事があっても、目の前に立ちはだかる敵がいるなら命を懸けて戦うしかない。まだ始まったばかりの夢を、そしてこれから始まる夢を守る為なら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校の放課後、国木田花丸は1人悩んでいた。その内容とは親友の黒澤ルビィの事だった。念願だったスクールアイドルに誘われたにも関わらず、何処か悩んでいて一歩を踏み出せないでいる。帰り道で何で誘いを断っているのかを聞くと、その答えが返ってきた。

以前からスクールアイドルが好きだったルビィ、そして姉のダイヤは2人で好きなスクールアイドルの真似をしたり、話をしたりしていたという。しかし、姉のダイヤが高校に入ってしばらく経った頃、突然スクールアイドルに関するもの全てを拒否する様になった。その理由は分からないが、ダイヤが嫌いになったものをルビィが好きでいてはいけないと思ったらしく、その事があってイマイチ良い返事が出来ないでいるということだ。

 

「本当はね、ルビィも嫌いにならなきゃいけないんだけど・・・」

 

そう言ったルビィの悲しげな顔が、花丸の頭の中から離れないでいた。同時にいくら家族の為だとはいえ、好きなものを好きだと言えないなんておかしいと思った。しかし、自分にはどうする事も出来ないことは分かっていた。ましてや自分がスクールアイドルになる事なんて考えてもなかった。どうにかできないかと考えている時、ある事を思い出す。

 

「そうだ・・・乾さん!乾さんならルビィちゃんのこと何とかしてくれるかも!」

 

花丸はすぐにチラシを取り出し、地図で書かれている場所へと走って向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

花丸が十千万に向かっている時、そちらでも既に一悶着起きていた。

客足も落ち着き相変わらずボケーっと頬杖をつきながら座っている巧の前に、客が現れる。

 

「すみません、こちらでクリーニングをお願い出来ますでしょうか?」

 

現れた客を見て、巧は少し驚いた表情を見せる。

 

「らっしゃい・・・って本当に来たのか」

 

現れたのは浦の星女学院生徒会長の黒澤ダイヤだった。以前巧が学校に行った際に良かったら来てくれとは頼んだものの、まさか開店当日に来るとは思わなかった。しかも、量もそれなりにある。

 

「あー、じゃあそれの中身確認するから、紙に名前と住所書いといてくれるか?」

 

巧は配達用の紙を渡し、ダイヤが持ってきた洗濯物を受け取り中身を確認する。特に変な物は無いようで量こそあるものの、何とか今日中にでも終わりそうだ。

そんなことを考えていると、突然ダイヤが巧に話しかける。

 

「あの、お怪我の具合はもうよろしいのですか?」

 

一瞬、何のことを言われているのか分からなかったが、すぐにこの前の学校での事だと思い出す。

 

「あぁ、あん時の事か。別に大した事はない、しょっちゅう怪我してるからな」

 

はぐらかされた形で話が着地してしまい、ダイヤは「その話ではありませんのに・・・」と1人小声で嘆いていた。確かにあまり大きな声で話せる内容でもない事は、その光景を目の当たりにした自分が一番分かっている訳で、渋々諦めた様子で必要事項を記入した紙を差し出す。

 

「・・・よし。他にも何軒か回るからそっちに着くのは2時間後くらいだが、その時間で大丈夫か?」

 

巧に言われて時間を確認するダイヤ。現在は午後4時近いので、2時間後の午後6時付近には家に居る。なのでオッケー。

 

「問題ありませんわ。では、その時間にお願いします・・・あ、一つ言い忘れていました。スクールアイドルの件はもうお気になさらず。私は私のやり方で夢を追いかけます。それでは」

 

ダイヤはそう言って、その場を立ち去った。正直巧には何の事なのかは分からなかったが、夢を追いかけるという言葉に少し良い印象を受けたのは言うまでもない。

 

「さてと、ちゃっちゃと終わらせるか」

 

巧は軽い足取りで、洗濯物を運ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで、終わりか。あとは配達だけか?」

 

全ての作業を終え、残るは配達のみとなった。時間にして現在は午後5時20分過ぎなので、順調にいけばほぼ予定通りの時間になる。

巧は洗濯物が入ったケースをサイドカーに載せると、エンジンをかける。調子を確認していると、誰かがこちらに 走ってくる事に気がついた。

 

「あ!乾さ〜ん!間に合って良かったずら・・・」

 

巧はその人物をみて、以前チラシ配りの時に紹介された国木田花丸である事を思い出す。息を切らすほど走ってきた様子からどうやら何かあった様子を察する。

 

「一体どうしたんだ!えぇ?」

 

「ルビィちゃんを・・・助けてあげてほしいずら」

 

巧が花丸に聞くと、花丸はルビィがスクールアイドルの誘いを受けていない事を巧に伝える。姉のために自分の気持ちを抑えて、一歩を踏み出せないルビィに巧からどうにかできないかと。

 

「・・・とりあえず、話はしてみる。もう遅いからお前は帰った方がいい」

 

巧に帰るよう促されるが、快く承諾する事は出来ない様子の花丸。しかし、すぐに「よろしくお願いしますずら」と言って、来た道を戻っていった。

 

「訳ありか・・・行くか」

 

巧は既に準備を終えたサイドバッシャーに跨り、その場所へと向かうのだった。

 

 

 




Open your eyes for the next φ’s

「えぇ?スクールアイドルに!?」

「でも、練習どこでやるの?」

「巧さんには、分からないんだよ!」

「俺だって怖いさ。でもな、いつかは自分で決めるしかないんだよ・・・好きな事なら、尚更な」

第10話 決断する3人





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第10話 決断する3人

「ハーメルンよ!私は帰ってきた!」
お久しぶりです。えぇ、本当に帰ってきましたよ。
一応ですが就職試験の方が結果待ちなので、こっちの続きを書きたいと思います。


日も落ちてきて外も薄暗くなってきた頃、黒澤宅のインターホンが鳴らされた。

 

「ルビィー!悪いけど出てくれますかー?」

 

ダイヤの頼みを聞いた妹のルビィは、不思議に思いながらも返事をして玄関へと向かう。

 

「はーい!いつもはお姉ちゃんが行くのに・・・どうしたんだろ?」

 

ルビィはいつもとは違うダイヤの行動を疑問に思いながらも、パタパタと走り玄関の戸を開ける。

 

「は、はーい!どちら様で・・・!?」

 

ルビィは言葉の途中で思わず絶句してしまう。訪ねてきた人物とは言わずもがな。

 

「お前・・・何でここに居るんだ?」

 

その人物とはもちろん乾 巧だ。面識があるとはいえ、未だに巧の人柄が掴めていないルビィはただひたすらテンぱっていた。

 

「あ、あの・・・ここ私の家なので。い、乾さんはどうして?」

 

ルビィの質問に、巧は手に持っていた洗濯物を見せながら答える。

 

「あぁ、これを届けにな。だけど、ここって黒澤ダイヤの家じゃないのか?」

 

巧の疑問にルビィはちゃんと説明をする。

 

「あ、ルビィはダイヤお姉ちゃんの妹なんです。とりあえず、その洗濯物は貰いますね?」

 

ルビィは巧から洗濯物を受け取ると、一旦家の中へ戻り洗濯物を置いてから再び巧の前に姿を見せる。

なんとなく気恥ずかしいのか、ルビィは胸の前で両手を弄りながら巧からの言葉を待つ。

そして、遂に巧が口を開く。

 

「・・・お前、スクールアイドルをやりたいんだろ?俺から言えることじゃねぇけど、もっと自分に素直になった方がいいんじゃないか?」

 

巧の言葉を受けて、ルビィは今向き合わなければならない問題を抱えていることに気づかされる。

 

「・・・知ってたんですか?ルビィがスクールアイドルになりたいって・・・」

 

ルビィの質問に巧は静かに頷く。

 

「だったら、分かりますよね。お姉ちゃんの事も大事だし、ルビィもスクールアイドルを捨てられずにいるんです」

 

ルビィが俯きがちに言葉を続けるも、巧が鼓舞するように声をかける。

 

「それがお前の夢なんだろ?とにかく迷惑なんか考えないでやってみればいいんじゃねぇか?」

 

巧の言葉がルビィの核心に触れる。そして、反射的に本音が見えてしまった。

 

「ルビィがどれだけ悩んでるか知らないで・・・今度こそ嫌われるかもしれないのに・・・乾さんには、分からないんだよ!」

 

ルビィは苦悩に対する本音を巧に吐露する。その想いを真正面から受け止めた巧は「そうか・・・」とだけ言い、バイクを停めている場所まで移動し、乗り込んだ。

ルビィは少し経ってから、自分の失言に気づく。いくら触れられたくない部分に踏み込まれたからと言って仮にも歳上の、そして本来なら関係のない巧を責めるなどそれこそお門違いというもの。

すぐに追いかけ謝罪の言葉を伝えようとすると、不意に巧が振り返って言葉を伝えた。

 

「なぁ、一つだけ言ってもいいか?」

 

ルビィは内心ドキッとしながらも頷いた。

 

「誰だって嫌われるのはもちろん怖い。俺だって怖いさ。でもな、いつかは自分で決めるしかないんだよ・・・好きな事なら、尚更な」

 

巧の言葉にハッとするルビィ。自分の中でどこか言い訳をしていたのではないだろうか。ダイヤを言い訳に逃げていたのではないだろうか。そんな考えがふと頭をよぎる。

 

「じゃあな・・・」

 

巧はサイドバッシャーを走らせ黒澤宅を離れた。その場に立ち尽くしているルビィも、どこか寂しげな様子。

しかし、すぐに家の中へ引き返し部屋に戻る。

 

「・・・よし!」

 

そして、ルビィは何らかの準備を始めた。その目にはもはや先ほどまでの弱々しい自分など存在せず、闘志とやる気に満ち溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日の朝、ルビィは自分がスクールアイドルになりたいという事を花丸に打ち明けた。そして、花丸からも意外な答えが帰ってきた。

 

「えぇ?スクールアイドルに!?」

 

ルビィの驚きをよそに、花丸は説明を続ける。

 

「ルビィちゃんと見てるうちに、良いなって思って。でも、ビックリしたなぁ。まさかルビィちゃんからスクールアイドルやりたいって言うなんて。流石は乾さんずら」

 

花丸の言葉に気になる名前が出て、つい聞き返してしまうルビィ。

 

「え、乾さん?」

 

花丸はやっちまったとばかりに表情を引きつらせ、強引に違う話題を持ち出す。

 

「そ、そうだ!もしよかったら・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当!?」

 

「はい!よろしくお願いします」

 

放課後、スクールアイドル部の部室にはルビィ、花丸の姿があった。リーダーの千歌が1人舞い上がっているが、梨子が冷静に説明をする。

 

「喜びすぎだよ千歌ちゃん。まだ仮入部、お試しってこと」

 

説明を聞いていた曜はふと気づいた事を口走る。

 

「もしかして、生徒会長のこと?」

 

その問いかけに花丸が答える。

 

「はい・・・だからルビィちゃんとここに来たことは内密に・・・」

 

事情を理解した3人はルビィ・花丸を交えて活動をする事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、すぐに問題発生。それは練習スケジュールを確認している時だった。

 

「でも、練習ってどこでやるの?」

 

曜の問いかけに答えられる者は居なかったため、急遽練習場所の確保に。結局、いくつか回って最終的には屋上でやろうという事に決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・なんだかなぁ」

 

巧はベッドに寝転んで天井を見上げていた。昨日ルビィに放った言葉が自分に跳ね返って、頭の中でずっとリフレインしているのだ。

 

「すみませーん!」

 

すると、受付から誰かの呼ぶ声が聞こえてきた。啓太郎は配達に、高海家の住人も出払っているので必然的に巧が応対する。

 

「はいはい・・・って、またあんたか。ずいぶん暇なんだな」

 

そこにいたのはつい先日も来た黒澤ダイヤだった。しかし、手に洗濯物を持っている様子はない。

 

「なんだ、冷やかしかよ。まさかあんたも頼みごとってわけじゃないだろうな?ここは何でも屋じゃねぇんだ」

 

ルビィの一件以来、なんとなく頼みごとに抵抗ができてしまった巧。特に人間関係はとても手に負えるものではないと痛感させられた。

 

「まず先に謝らせていただきます。昨日のルビィとの会話を聞かせてもらいました」

 

巧は一瞬表情を硬直させる。しかし、すぐに「そうか」と言い言葉を続けた。

 

「正直なところ、話を聞くまでルビィの苦悩に気づいてあげられませんでした。私に悟られまいとひた隠しにしてきたのでしょう。元々、私だって初めからスクールアイドルを毛嫌いしていた訳ではありませんので」

 

ダイヤの言葉に静聴する巧。その事はなんとなく気がついていた。というのも、本当に嫌いなら部を設立なんてさせるはずがない。

過去に何かがあり、前に踏み出せないでいる。そんな様子だ。

 

「あの子のスクールアイドルに対する気持ちは本物です。だからこそ、あの子には輝いてもらいたいんです!・・・私たちの分まで」

 

私たちの分まで?この言い方からするにやはり過去に何らかのトラウマがあるようだが、詮索はしない。

 

「あぁ、俺もそう思う。よくは分からないけど、あいつには輝いてもらいたいって心から思えるよ」

 

含みのある言い方になったが、それが本音だ。優しすぎる奴が夢を見れないなんておかしいからな。

 

「では、失礼しますね。今から花丸さんと会う約束がありますので」

 

ダイヤが踵を返し歩き始める。不意に巧が呼び止め、ヘルメットを投げ渡す。

突然投げ渡されたヘルメットに困惑していると、サイドバッシャーの荷台にケースを括りながらその意図を伝える。

 

「送っていく。俺も用があるんでな」

 

ダイヤは呆然としながらも、巧に促されるままにサイドカーに乗り込む。それを確認した巧はバイクを走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着きましたわ。待ち合わせ場所の神社です」

 

たいして距離があるわけではないので、数分で着いた。階段があるので、途中までバイクで残りは徒歩で行く事に。

階段を少し上った先に、既に到着していた花丸が立っていた。

ダイヤがきた事を確認した花丸は、早速要件を伝える。

巧はここに来るまでに、異様な気配を感じていた。あの特有の違和感、同類の気配を。

巧は持っていたケースからカイザギアを装着し、周りを警戒する。

 

そして、その時は訪れた。

 

「ッ!危ないッ!!」

 

オルフェノク特有の触手がダイヤと花丸を狙い、接近する。咄嗟に巧がダイヤと花丸を庇うように触手から逃がす。その触手の元を辿ると、静かにその主が歩み出る。

カマキリを模した怪物“マンティスオルフェノク”だ。

 

「スクールアイドル・・・殺す」

 

マンティスオルフェノクの言葉に狂気を感じた巧は即座にカイザフォンに変身コードを入力する。

 

9・1・3 Enter Standing by

 

カイザフォンから変身待機音が鳴り響く。脳裏に体が灰化するイメージが蘇る。かつての流星塾生のように自分も・・・と。

戸惑いながらも巧は決心し、バックルにカイザフォンを装填する。

 

「・・・変身ッ!」

 

Complete

 

ベルトから二本の黄色いラインが出力され、全身へと伸びていく。黄色い閃光が放たれ、そこにΧを模した戦士が誕生する。

 

「草加・・・力、借りるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Open your eyes for the next φ’s

「よかったね。やっと希望が叶って」

「ルビィ、スクールアイドルがやりたい!花丸ちゃんと!」

「1番大切なのは出来るかどうかじゃない。やりたいかどうかだよ」

“Exceed charge”

「やあああああッ!!」

第11話 巧Χ少女たち


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第11話 巧Χ少女たち

もう9月も終わりますね〜!そういえば、一次発送のファイズギアは届いたそうです!まぁ、私は二次発送なので関係ありませんが。チクショー!!


花丸とダイヤは今自分たちの目の前で起こっている事を、しっかりと認識する事が出来なかった。正体不明の怪物が襲ってきたり、巧が謎のベルトを使って変身したりと。

 

「・・・ハッ!!花丸さん、今はとにかく隠れますわよ!」

 

驚いていられたのも束の間、巧がオルフェノクに殴りかかったのを機に、呆然としていたダイヤが花丸を連れて近くの物陰に身を隠す。

 

「い、一体どういう事ずら!?マルには何が何だか・・・」

 

困惑する花丸の言葉に対して、ダイヤが手短に説明する。

 

「貴女もご存知でしょう?例の怪物騒ぎを。どういう訳かは知りませんが、あのような怪物が人間を襲っていますの!さぁ、理解して頂けたのなら避難を!」

 

巧がオルフェノクを抑えている間に花丸をこの場から避難させようとするダイヤ。しかし、花丸は頑なにその要望を承らなかった。

 

「駄目ずら!上には“Aqours”の人たちとルビィちゃんが!」

 

花丸の言葉に驚くダイヤ。数秒考えた後、答えを出した。

 

「花丸さん、貴女は先に避難して下さい!“Aqours”の方々とルビィは私が避難させます。さぁ!早く!」

 

ダイヤの真剣な表情と強い言葉に突き動かされるように、花丸は素早くこの場を去っていった。それを見たダイヤは尚もオルフェノクと格闘している巧に、声をかける。

 

「私はこの周辺に残っている人たちの避難を徹底させます!」

 

ダイヤの言葉に、巧はオルフェノクの攻撃を防ぎながら答えた。

 

「フッ・・・あぁ、頼む!」

 

巧は手短にそれだけを言うと、オルフェノクを蹴り飛ばしてそのまま自分ごとこの場から場所を移した。

オルフェノクが離れた今のうちに、ダイヤは“Aqours”と最愛の妹のもとへと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!・・・ラァ!」

 

巧はカイザのパワーを発揮して、オルフェノクにダメージを与える。元々、ファイズよりもパワー数値が上回っているため、手負いの巧でも満足に戦えていた。

その時、巧は不思議な感触を覚える。

 

「何だ?こいつ、まるで痛みを感じてねぇみたいだ・・・」

 

「・・・」

 

「マジで死んでる・・・のか?」

 

このオルフェノクは反撃こそしてくるものの、攻撃を防ぐことも無くただ受けているように見えた。まるで自分の意思など存在しないかのように。

巧にはその事が不気味に思えた。以前のオルフェノクとは全く違う、新たな何かがあるような気がしてならないのだ。

 

「今は気にしてる場合じゃねぇか・・・もう終わりにしようぜ」

 

巧はオルフェノクに拳による乱打を食らわせ、その体ごと吹き飛ばす。地面に倒れこんだオルフェノクを確認し、ベルトの左側に携帯されているカメラ型のツール“カイザショット”を取り出して、カイザフォンのミッションメモリーを抜き取り、カイザショットにセットする。

 

Ready

 

発せられた音声とともに、パンチングユニットへと変形したカイザショットを右手に装着する。そして、オルフェノクが両腕にある鋭い鎌で切り倒そうと向かってくるのと同時に、カイザフォンをスライドさせてEnterのボタンを押した。

 

Exceed charge

 

ベルトから右手のカイザショットへとエネルギーが伝わっていく。そして、全てのエネルギーが行き届いた瞬間、カイザショットからチャージ音が鳴り始める。

巧は静かに必殺技の構えをとる。そして、尚も向かってくるオルフェノクに向かって走り出した。

 

「・・・」

 

「はあぁ・・・やあああッ!!」

 

両者が対峙した瞬間、先に仕掛けたのはオルフェノクだった。右腕の鎌による渾身の一撃は、確実に頭部に決まると思われた。しかし、巧はそれを分かっていたかのように自身の左手で斬撃を防いだ。発生した痛みに苦悶の声を漏らしながらも、巧はガラ空きとなったオルフェノクの腹部目掛けて必殺技“グランインパクト”を炸裂させた。

 

「・・・ッ!?」

 

必殺技を受けたマンティスオルフェノクはΧの文字が浮かび上がった瞬間、蒼炎をあげながら灰となってその場に崩れ落ちた。

巧はその瞬間を最後まで見届け、変身を解除する。

 

「はぁ・・・はぁ・・・。キッツイなぁ、カイザのベルトは」

 

直後、変身による反動によりその場に膝をつく巧。ファイズギアよりも確実に体へのダメージが大きくなっている事を改めて実感する。

 

「でも、戦えないよりはマシか・・・」

 

巧はゆっくりと体を起こし、当初の目的であった花丸たちのところへ急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巧が着いた時には、その場にいた全員が集合していた。ダイヤによる避難誘導のおかげで、誰一人怪我をする事なく無事でいられたようだ。

少しして、千歌が巧の存在に気づいて声をかけた。

 

「あ!巧くーん!大丈夫だった?」

 

千歌が巧に聞くと、巧はぶっきらぼうに答えた。

 

「当たり前だろ。それより、あいつらは何話してんだ?」

 

巧が花丸とダイヤ、そしてルビィの方を指差して確認する。すると、千歌は中々言い出す事が出来ずにいるようで、代わりに曜が答えた。

 

「ルビィちゃんの事でちょっと・・・。千歌ちゃん、この手の話苦手だもんね」

 

曜の言葉を聞き、巧は思い出す。千歌はルビィと同じ姉を持つ立場として育った。その境遇から妹のルビィの気持ち、姉であるダイヤの苦悩が何となくでも分かっているのだ。

 

「本当はもっと言いたい事言えれば良いんだけど・・・。言葉に出来ないのが家族ってことなのかな?」

 

千歌の言葉に黙り込む巧。すると、不意にダイヤの声が聞こえてきた。

 

「私はルビィの気持ちを知りませんでした。だから、ルビィに私の気持ちを押しつけて悩ませてしまった。本当に申し訳ありません」

 

ダイヤがルビィに対して、深々と頭を下げ謝罪をした。その行動には周囲にいた巧たちはもちろん、ルビィでさえも驚いていた。

 

「お、お姉ちゃん・・・あ、謝らないで。悩んでたのは、ルビィが駄目な子だから・・・」

 

ルビィはダイヤにそう声をかける。しかし、それでもダイヤは喰い下がらなかった。

 

「いえ、花丸さんや乾さんに言われてやっと気づきました!私はただルビィに八つ当たりをしていたに過ぎないという事を。私の嫌いをルビィに押しつけていたという事を。でも、これからはもうそんな事は致しません。ルビィ、今のあなたの正直な気持ちを教えて頂けませんか?」

 

ダイヤに促され、困惑するルビィ。その時、近くで佇んでいた巧と視線があった。

巧は静かに頷いた。そして、過去に言われた言葉を思い出した。

 

(そうだ・・・ルビィの好きな気持ち。いつか自分で言わないといけないんだ。そして、今がその時・・・!)

 

ルビィは深呼吸した後、その気持ちを吐露した。

 

「ルビィ、スクールアイドルがやりたい!花丸ちゃんと!あと、お姉ちゃんにもまたスクールアイドルを好きになってもらいたい!」

 

ルビィの本当の気持ちが、心の叫びがダイヤに伝わる。それを受けたダイヤは、ルビィにだけ聞こえるように耳打ちをすると、静かにその場を離れていった。

 

「お姉ちゃん・・・ありがとう」

 

ルビィのつぶやきと同時にAqoursのメンバーと花丸が歩み寄る。そして、次の話へ。

 

「花丸ちゃん・・・ルビィと一緒にスクールアイドル、やってくれない?」

 

ルビィの言葉に黙り込む花丸。元々ルビィをAqoursに参加させるために自分も参加した。しかし、今は自分もスクールアイドルを好きになっている事も事実。花丸自身も自分の気持ちが分からなくなっているのだ。

 

「おらには無理ずら・・・体力ないし、向いてないよ」

 

気がつけばそんな言葉が自然と口から出てしまっていた。半分本気で半分は嘘。故に誰かに背中を押してもらわなければ進めないのだ。そして、千歌がその背中を押す。

 

「1番大切なのは出来るかどうかじゃない。やりたいかどうかだよ」

 

花丸が振り向くと、千歌をはじめ曜、梨子が笑いかける。そして、ルビィもまた目に涙を浮かべながら花丸の答えを待つ。

そして遂にその答えは出た。

 

 

 

 

 

「よ、よろしくお願いします・・・ずら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで、良かったんですよね・・・」

 

ダイヤは1人、物思いにふける。ルビィの言葉の通りにスクールアイドルの存在を自分の中で認める事は、ダイヤ自身の問題と向き合うという事を意味していたからだ。

そして、その問題の当事者が目の前に現れる。

 

「Hello!ダイヤ。よかったね。やっと希望が叶って」

 

「鞠莉さん・・・何故あなたがここに?」

 

ダイヤの前に現れたのは、浦の星女学院理事長の小原鞠莉だった。

 

「んー、それは置いておいて・・・ところでダイヤ、“ファイズ”を見かけなかった?」

 

「なっ・・・!?」

 

ダイヤは驚愕の表情を浮かべ立ち尽くす。何故鞠莉がファイズの存在を知っているのか?何か関係があるのか?そんな疑問が頭の中を渦巻いていた。

 

「・・・いえ、見ていませんわ」

 

ダイヤは咄嗟にそう答えていた。全てが嘘というわけではない。今日見たのは別の戦士であって、巧自身を指している訳でもないからだ。

 

「そっか・・・残念だなぁ。早くしないと、ファイズが死んじゃうからさ。ま、見つけたら私に教えてよね?じゃ、good-by♪」

 

鞠莉はそれだけを言うと、すぐにその場から走り去ってしまった。残されたダイヤはさらに困惑せざるを得なかった。

 

(ファイズが・・・乾さんが、死ぬ?一体どういうこと・・・?)

 

ダイヤの謎は深まるばかり、未だ解決の見通しは立たないままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Open your eyes for the next φ’s

「全てのリトルデーモンに授ける。堕天の力を」

「あー・・・今日も上がってない」

「何だお前。変な奴だな」

「ファイズのベルトを使って、一体何をしようと言うのかなぁ?」

第12話 すれ違う堕天使


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第12話 すれ違う堕天使

報告は特にありません。
早くファイズギア欲しいなぁー。


静岡県某所。とあるマンションの一室にてその物語は始まる。

 

「感じます・・・精霊結界の損壊により、魔力構造が変化していくのが・・・世界の趨勢が天界議決により決していくのが・・・」

 

 

暗闇に閉ざされた空間の中、黒翼を授かった?少女が真実を伝える。

 

「果の約束の地に降臨した堕天使ヨハネの魔眼が、その全てを見通すのです!」

 

そして、少女は最後に言い放った。

 

「全てのリトルデーモンに授ける。堕天の力を!」

 

少女はそう言って、静かに録画を停止する。そして、少しだけ悦に入った自分の余韻を楽しんだ後、窓を開けて叫んだ。

 

「・・・やってしまったぁぁぁ!!」

 

堕天使ヨハネ。今日も元気に不登校or堕天使ライフを満喫している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう高校生でしょ!津島善子!いいかげん卒業するの!!」

 

訳もなく、すぐさま自分の行いを反省する始末。もちろん本気で堕天使な訳もなく、せいぜい憧れている“キャラ”とでもいえばいいだろう。

 

「この世界はもっとリアル。リアルこそが正義!リア充に、私はなる!」

 

彼女のバラ色リア充ライフを全力で邪魔しているのが、時折見せる堕天使ヨハネ。これのせいで登校初日の自己紹介で爆死したのは言うまでもない。

 

「その為にも学校行かなきゃだし・・・かといってクラスのみんなにどんな顔すれば良いの?はぁ・・・あなただったらどうするのかな・・・?」

 

堕天使ヨハネもとい津島善子は、机の傍に立て掛けてある写真にその疑問をぶつける。何処からか隠し撮りした写真のようだが、そこに写っていたのは灰色の怪物と戦う仮面の戦士だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー・・・今日も上がってない」

 

パソコンの画面を見ながら曜ががっくりと肩を落とす。ルビィと花丸が加わり5人になったことで、正式に部としての活動を認められたAqours。しかし、目標である学校の統廃合を阻止するべく活動をするものの、中々成果として日の目に当たることはなく、今日もまたパソコンの画面に映し出される自分たちの順位とにらめっこ。

そんなこんなで、花丸がパソコンの画面をブラックアウトさせたり、人魚が3人から5人に増えたりしたが、ようやく練習を始めることに。

 

「ん?あれは・・・」

 

花丸は見覚えのある堕天使がこちらを覗き見している事に気付き、許可を取って追いかける。そして、教室に隠れた堕天使を表にさらけ出す。

 

「学校きたずらか」

 

隠れていたのはもちろん善子。本人曰く「来たっていうか・・・たまたま近くを通りかかったから、寄ってみたっていうか・・・」との事らしい。

それよりも善子は、クラスメートの自分への反応を確認しに来たとか。尚、自己評価では「私のこと!変な子だねーとか、ヨハネって何?とか!リトルデーモンだってwぷぷwとか!」と思われているらしい。

なので、安心させる事に。

 

「・・・誰も気にしてないよ?それより、皆、どうして来ないんだろうとか、悪いことしちゃったかなって心配してて」

 

それを聞いた瞬間、善子の様子が一変する。

 

「よし!!まだいける!まだやり直せる!今から普通の生徒でいければ・・・」

 

善子のリア充復活作戦はまだまだ続く!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とか思っていた時期もありました。現在はAqoursの部室で待機中。結果から言うと、大失敗!より悪化したかも!といった感じだろうか。

そこら辺は回想で振り返っていただくとしよう。

 

善子:花丸に自分がヨハネっぽい事したら止めるよう頼む。

花丸:善子の頼み通りに監視を開始

クラスメート:そんな事とは知らず久しぶりに登校してきた善子を取り囲む

花丸:ルビィと共に善子の監視を強化

ヨハネ:趣味の占いの話から暴走&ヨハネっぷりを披露

クラスメート&花丸:善子の暴走にドン引きor知らないふり

 

回想終了!

 

それで現在に至る。せっかくのブレーキ役の花丸も呆れ顔をしている。善子の堕天使っぷりには効く薬がないのかと。しかし、そこに千歌が注目した。

 

「これだ!これだよ!津島善子ちゃん!スクールアイドルやりませんか!?」

 

千歌の言葉に、善子を始めAqours全員が驚いたことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とあるバーに1人の男が来店する。男はバーテンダーの顔を見ると、不思議そうな顔をしたまま言葉を発した。

 

「へぇ・・・こんなところにバーがある事から変だと思ってたが、まさかオルフェノクの店だとはな」

 

男はバーテンダーに向かって、挑戦的な態度をとる。しかし、バーテンダーは相手になるつもりはなかった。

 

「あなたを呼んだのは戦うためじゃないわ。それに、今は敵同士という訳でもないし・・・」

 

「フッ・・・確かに。それで?今更俺に何の用かな?“ラッキークローバー”の一員にでもしてくれるのかなぁ?欠員を補充する為に」

 

男はバーテンダーに自分を呼びつけた理由を問いかける。

 

「あなたが持つファイズのベルト、それをこちらに渡してもらいたいのよ」

 

男はその意図を探る事に。

 

「ファイズのベルトを使って、一体何をしようと言うのかなぁ?」

 

「それはあなたの知るべき事じゃないわ。それで、どうするつもり?」

 

「断る・・・と言ったら?」

 

バーテンダーは男の問いかけを冷酷に切り捨てた。

 

「その時は・・・また死んでもらうわ。あなたも、彼も」

 

バーテンダーの言葉に黙り込む男。しかし、すぐに口を開く。

 

「ま、考えておくよ。次に会う時はそんな立体映像なんかじゃなくて、本当の姿として会えるといいな」

 

男はそのまま店を後にする。

すると、バーテンダーの姿は消え、暗がりからエビを模したオルフェノク“ロブスターオルフェノク”が姿を現した。

 

「とっくに気づいてた・・・という訳ね。村上君を欺いただけの事はあるわね。でも、私まで欺けるとは思わない事ね・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだかんだあって、今は千歌の部屋。Aqoursに加えて善子と共に堕天使アイドルとして、自分たちを売り込む計画を立てていた。

 

「ステージ上で堕天使の魅力を思いっきり振りまくの!!」

 

千歌がそんな事を言っているが、善子が全力で阻止する。普段自分がひどい目に遭っている事が、教訓にでもなっているのだろう。

すると、突然千歌の部屋の障子が開かれる。

 

「おい、何だ?俺に用って?えぇ?」

 

招かれたのはもちろん巧だ。男性からの意見を取り入れるため、千歌が呼んだのだという。

すると、巧の姿を見たルビィが素早く巧に駆け寄る。

 

「巧お兄ちゃん!」

 

その発せられた言葉によって、本人と巧以外の人間が一瞬で凍りついた。この前の一件を境に、なぜかこんな呼び方をするようになった。

巧も嘆息まじりに訂正を求める。

 

「お前なぁ・・・勝手な呼び方すんな!誰が“お兄ちゃん”だって?だいたい俺がそんな柄かよ、えぇ?」

 

巧の言葉を聞いたルビィは、目に涙を浮かべて訴える。ウルウル。

 

「泣いたって駄目なもんは駄目だ!」

 

ウルウル。

 

「いや、だから・・・」

 

ウルウル。

 

「・・・あぁ!もう分かった!勝手にしろよ!」

 

その言葉を聞き、パアァと輝かせるルビィ。こうなってはいかに巧といえども、逆らう事は出来ないのだろう。

 

「この衣装、どうかなぁ?」

 

ルビィに感想を求められ、巧はもはや機械のように答える。

 

「ハイハイ、可愛い可愛い。で、そこのお前は誰なんだ?」

 

一悶着あったが、ようやく本題に入る。すると、巧が善子を見て説明を求める。

 

「フン・・・私の事を知らない?ならば教えて差し上げましょう!天界からのドロップアウター、堕天使ヨハネ!堕天降臨!!」

 

またもや、部屋の中の人間が凍りついた。自分の過ちに気づいたのか、慌てて取り繕うとする善子だったが、それよりも先に巧の言葉が放たれてしまった。

 

「何だお前。変な奴だな」

 

善子、ノックアウト。部屋の隅で体育座りをして、ブツブツと何かをつぶやいてしまっている。

その様子を見たAqoursメンバーは巧に謝るように急かす。

 

(巧くん!早く謝って!)

 

(はぁ?何で俺がそんな事を・・・)

 

(乾さん!全力謝罪、ヨーソロー!!)

 

(とにかく、謝っておいたほうが良いと思いますけど)

 

(乾さん、ファイトずら!)

 

(巧お兄ちゃん、がんばルビィ!)

 

見事に味方は居なくなった。巧は諦めて謝罪することに。

 

「あー、さっきは無神経なこと言って悪かったな。だから、立ち直ってくれよ」

 

善子はそれを聞くと、一つだけお願いを言う。

 

「じゃあ・・・私のリ、リトルデーモンになってよ!」

 

正直この時、巧には何の事だかさっぱり分からなかったが、また失言をするかもしれないので、仕方なくリトルデーモンなるものになる事を承諾する。

 

「・・・分かった分かった。なってやるよ、そのリトルなんちゃらに。お前、名前は?」

 

何やら勝手に騒いでいる横で、花丸が教えてくれた。

 

「津島善子ちゃんずら」

 

花丸の言葉に「ヨハネよ!」と突っ込みを入れる善子。面倒臭くなったのか、巧も気にせずに挨拶する。

 

「俺は乾 巧だ。よろしくな、善子」

 

「だから、ヨハネよ〜!!」

 

彼女の苦悩は簡単には解決しないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Open your eyes for the next φ’s

「それぞれ特徴があって、魅力的で、だから大丈夫じゃないかなって」

「こういうものは破廉恥と言うのですわ!!」

「この写真って、まさか!?」

「ようやくオルフェノクの謎に迫れるかもしれないってことだよな」

第13話 堕天と昇天


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第13話 堕天と昇天

現在自動車教習所にて奮闘中の自由の魔弾です。
大変長らくお待たせしました。本当に申し訳ありませんでした。
話は変わりまして、来月にはいよいよCSMファイズギアが届きます!
来月にはたっくんばりのコートを着込んで、ファイズギアを腰に巻いている姿が容易に想像できますな!
それでは、どうぞ!


例の如く一悶着あった巧たちだったが、夕刻の空が広がっているのことに気がつき、メンバーはそれぞれ帰路につくことになった。

中でも沼津に住んでいるヨハネこと津島善子を送るため、巧はサイドバッシャーを駆っていた。

当の本人はというと・・・。

 

「さぁ、行きなさい!堕天使ヨハネに仕えしリトルデーモン!漆黒の馬を駆り、我を安息の地へと誘いなさい!!」

 

「はいはい」

 

もはや巧には手に負えない状態となっていた。乗り始めて少し経ってから、何故かずっとこの調子なのだ。口を開けばリトルデーモンだの堕天使ヨハネだの・・・正直、ウザい。

そんな善子の絶好調な口を閉じさせるため、巧は大きくスロットルを開いて沼津への道を駆け抜けたのだった。

 

「ち、ちょっと!?スピード出し過ぎだから〜!!!」

 

その道中で、堕天使の悲鳴は鳴り止まなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、ここが私の家よ。送ってくれてありがとね」

 

数分後、巧は無事に善子を家に送り届けた。善子を降りたのを確認してすぐに帰ろうとした巧だったが、それを善子が呼び止めた。

 

「ちょっと待ってよ!・・・せっかくだし、家上がってく?」

 

巧は悩んでいた。今日は特に疲れた、今すぐにでも帰って寝たい。しかし、この善子が素直に返してくれるであろうか。たとえこの質問を断ったとして、「そんな事言わないで・・・」のやり取りが際限なく繰り返される気がしてならないのだ。よって答えは既に決まっていた。

 

「じゃあ・・・少しだけな」

 

巧はサイドバッシャーを駐車し、善子の後に従うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと散らかってるけど、どうぞ。あ、お茶で良いわよね?」

 

「ん、ああ・・・頼む」

 

鞄を置いた善子はキッチンへと向かった。残された巧は、何となく周りを見渡してみる。本人は散らかってると言っていたが、決してそんな事はなくむしろ綺麗に整っていた。そこで、ふと扉の開いたままの部屋に注目する。不思議に思った巧は悪いと思いながらも、隙間から部屋の中を覗いた。

 

「特に何もないか・・・ん?この写真って、まさか!?」

 

巧はそれを見て、思わず驚きの声をあげる。そして、タイミング悪く善子が帰ってきた。

 

「何、やってるの?」

 

善子が巧に問いかける。しかし、巧は動揺を隠しきれずに善子に詰め寄る。

 

「お、おい・・・あれって!?」

 

巧は部屋の中の写真を指差して、善子に問いかける。善子は少しだけ微笑みを浮かべながら、写真を持ってきて答えた。

 

「あ〜、コレの事ね。どう?カッコイイでしょ!人知れず謎の怪物と戦う仮面の戦士!まぁ、私も最近知ったんだけどね」

 

善子はまるで自分の事のように誇っているが、巧にはそれを気にしている程の余裕が無かった。何故なら写真に写っていたのは、オルフェノクと戦うファイズの姿・・・そして、それらを遠くから見ているもう一体のオルフェノクの姿があったからだ。

 

「・・・善子。用事を思い出したから、悪いけど帰る」

 

巧は淹れたてのお茶を一気に飲み干すと、善子の制止の声も気に留めずにその場を立ち去った。足早にマンションを出た巧はすぐさまサイドバッシャーに乗り込み、再び内浦に向けて進路をとった。

 

「ようやくオルフェノクの謎に迫れるって事だよな・・・。

木場・・・やっぱり、お前も・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、Aqoursは早速堕天使の要素を取り入れた動画を撮影し、投稿した。今思えば、一言でもいいから止めておくべきだったと思う。

巧はそう思いながら、浦の星女学院の生徒会室で佇んでいた。

 

「こういうものは破廉恥と言うのですわ!!」

 

生徒会室にダイヤの怒号が響く。Aqoursのメンバーはもちろんだが、なぜ巧までここに居るのか?

 

「節度を持ってあーだこーだ。こんな格好をあーだこーだ」

 

ダイヤがさらにヒートアップする。いたたまれなくなったのか、ルビィが小さく謝罪をする。

 

「ご、ごめんなさいお姉ちゃん」

 

ルビィの視線に一瞬黙り込むも、その熱はすぐさま燃え上がる。

 

「キャラがたってないとか、個性がないと人気が出ないとか、そういう狙いでこんなことするのは頂けませんわ」

 

堕天使の要素を押し出した動画は、確かに順位が上がるがそれは一時的なものだとAqoursに言い渡す。

その言葉の通り、曜がパソコンでAqoursの順位を確認すると、確かに自分たちの順位が下がっていた。

 

「本気で目指すのならどうすればいいか、もう一度考えることですね。さあ、もうお戻りになりなさい。あなたはまだ駄目です」

 

ダイヤは巧以外のメンバーに戻るよう伝える。そして、その言葉の通りに室内にはダイヤ、巧、小原鞠莉が残された。

 

「さて、あなたには色々とお聞きしたいと思っていましたの。彼女たちはどうして今回のような奇行に走ったのか?」

 

ダイヤはAqoursの突発的な行動の真意を巧に問う。巧は直前に聞いた出来事を思い出しながら、その質問に答えた。

 

『でも、少しづつ皆のこと知って、全然地味じゃないってわかったの!それぞれ特徴があって、魅力的で、だから大丈夫じゃないかなって』

 

昨日の千歌と梨子の会話の中で話された内容らしい。千歌はリーダーとしてどこか責任を感じている、何とか結果を出そうと急いでいるといった様子だ。おそらく、それが今回の出来事の原因だと言えるだろう。

 

「・・・なるほど。そういう事でしたの」

 

巧が気づいた時には、ダイヤは静かに納得していた。鞠莉も「うんうん、分かるな〜!」と一人舞い上がっていた。

その様子を見て、巧は自分が考えていることを口に出していた事に気がついた。幸いにも聞かれて困るようなことは言ってなかったため、注意して言葉を選ぶ。

 

「まあ、あいつらなりに考えてやった事なんだ。良い考えってわけでもないが、前に進もうとしてる姿勢っつーか、熱意みたいのは分かってやってくれないか?」

 

巧の言葉にダイヤと鞠莉は“理解できないでもない”といった様子で聞いている。が、すぐにその姿勢を崩した。

巧の強い意志の篭った言葉にダイヤは遂に折れた。一方で鞠莉はというと、何かを考え込んでいるようで巧の言葉はあまり届いていなかった。

 

「・・・まぁ、全く理解できないとは言いませんが。あまり度が過ぎた事は彼女たちにとっても、プラスにはなりませんという事は理解して頂かないと困ります。あなたにも、ですわよ?」

 

ダイヤに釘をさされ、押し黙る巧。流石に自分でも責任を感じているので、思わず目線を逸らしてしまう。その時、ふと鞠莉と目があった。

 

「ん?マリーに何か言いたいのかな〜?」

 

鞠莉がからかうように言葉を投げかける。しかしその時、巧は鞠莉の背後から迫る触手に気がつき、直撃する直前に鞠莉の体ごと引き寄せる事で、何とか回避する事ができた。

 

「おい、大丈夫かよ!?」

 

巧は鞠莉に気遣いの言葉をかける。突然の出来事に驚いているのか、あまり上手く声が出せないでいる様子の鞠莉。

 

「黒澤!悪いがこいつを頼む!俺はあいつを・・・」

 

巧の言葉を受け取ったダイヤは、鞠莉の体を起こしながら、巧に跡を追うように強く頷く。

それを見た巧は、部屋の片隅に置いておいたカイザギアケースを持ち出して、生徒会室を飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巧は触手の正体を追い求め、校舎内から飛び出した。すると、そこで信じられないものを目の当たりにした。

 

「ウゥゥゥウウッ・・・!!」

 

そこに居たのは、馬を模した灰色の怪物“ホースオルフェノク”。決してその存在を忘れる事など出来る訳もなく、もう一度だけ逢えるならと切に願っていた友。

 

「お前・・・木場か?」

 

巧がそう問いかける。しかし、ホースオルフェノクは巧の言葉に気にもとめず、生成した剣を振りかざしながら、巧に急迫する。

 

「・・・ッ!?お、おい!乾 巧だッ!!分からないのか!?」

 

一瞬の差で何とか斬撃を回避すると、急いでカイザフォンに変身コードを入力する。

“9・1・3 Enter Standing by”

 

「仕方ねぇ・・・変身ッ!!」

 

呼び掛けても応える様子はなく、止むを得ずカイザへと変身する巧。

 

“Complete”

 

バックルから二本の黄色いラインが発現し、全身を包み込むように伸びていく。やがて、光が消えると同時にカイザへと変身が完了する。

同時にカイザフォンのミッションメモリーをカイザブレイガンに装填し、ブレードモードへ変形させる。

ホースオルフェノクとカイザ。両者の視線が交錯し、そして同時に走り出した。

 

「ウアアァァァァッ!!?」

 

「ヤアァァァァッ!!」

 

 

巧にとっても望まれない死闘が始まった。

 




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「少しの間だけど、堕天使に付き合ってくれてありがとね」

「どうして、堕天使だったんだろ・・・?」

「自分が一番好きな姿を…輝いてる姿を見せることなんだよ!!」

「君と話せて良かった・・・俺が、俺でなくなる前に」

第14話 死者の叫び


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第14話 死者の叫び

未だに5話しか進んでいない自由の魔弾です。
もしかして、ペース遅れてるのかな?
それはそうと、今回の話は恐らく色々な意味で原点となるかと思います。
詳しくは本編を見てご確認下さい。では、よろしくお願いします!


「鞠莉さん、少し痛みますわよ。我慢してくださいね?」

 

生徒会室に残ったダイヤは、倒れた際に怪我をしてしまった鞠莉の傷の手当てをしていた。腕を少し擦りむいてしまったようで、傷口に消毒を染み込ませたガーゼを当てる。

 

「痛ったァーーー!!」

 

案の定、生徒会室に鞠莉の悲鳴が響き渡った。ダイヤはその声に我慢しながら、急いで包帯を巻いて手当てを終わらせた。

 

「まったく・・・一体どこからそんな元気が出て来るのでしょう?あんな事があったというのに」

 

姿こそ見ていないものの怪物に命を狙われたというのに、鞠莉は驚くどころか普段と変わりない様子だった。

ダイヤにはそれが不思議でならないのだ。

 

「別にィ?全然驚いてない訳じゃないわ。ただ、信じてるから」

 

鞠莉の言葉に違和感を感じるダイヤ。この口振りはもしや、鞠莉は既に巧の正体を知っているのではないか?と。

 

「一目見た瞬間からビビッと感じたの。彼ならあの子たちも・・・私たちも照らしてくれるってね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウアアァァァァッ!!?」

 

一方で、カイザとホースオルフェノクの戦いは激しさを増していた。ホースオルフェノクが渾身の力で振り下ろした剣を、辛うじてカイザブレイガンで防ぐカイザ。

その攻撃に迷いは無く、必然的にカイザは防戦一方となっていた。

 

「ぐっ・・・。木場ァ!やっぱり駄目なのか!?」

 

巧の悲痛な叫びもホースオルフェノクには通じることはない。剣を防ぐ事でガラ空きになったカイザの腹部を躊躇無く蹴り飛ばす。

 

「グゥアアッ!!」

 

その勢いを殺すことは出来ず、転がりながら地面に倒れこむカイザ。衝撃によってカイザブレイガンも手元から離れてしまう。

 

「ウゥウウウウウッ・・・!!」

 

ゆっくりとカイザに歩み寄るホースオルフェノク。その手に剣を持ち、その剣先をカイザに向けながら。

 

「おい木場ァ!・・・お前は、オルフェノクの力に飲み込まれちまう様な奴だったのか!?人間を守るんじゃなかったのか!?お前の理想は、オルフェノクの力に負けちまうくらいのものだったのかよ!?」

 

「・・・!?ッグゥゥ・・・」

 

巧の言葉に一瞬、ホースオルフェノクの動きが鈍る。それを見て巧はまだ木場の心が、オルフェノクの中で生きていると確信に変わった。

 

「負けんじゃねぇ!!お前は、人間を守るために自分を犠牲に出来るくらいの強い奴だろ!!だから・・・オルフェノクなんかに負けんじゃねぇ、木場ァァァッ!!」

 

尚も巧の言葉を受け、どこか苦しんでいる様子のホースオルフェノク。やがて、自分に纏わりつく何かを振り切るように、剣を振り上げ、巧めがけて全力で振り下ろした。

 

「・・・ッ!!ウアアァァァァッ!!?」

 

「木場ァァァッ!!!」

 

巧は覚悟を決め目を閉じる。振り下ろされた剣が巧の体を切り裂く・・・ことはなかった。カイザの頭上数センチのところで止まっていたのだ。

やがて、目を開けた巧はいつまで経っても痛みが体を襲ってこないことを確認して、一言呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、遅ぇんだよ。おかえり・・・木場」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて、巧と木場は変身を解いた。空白の二年間、はたから見たらそれ程長い時間とは言えないが、2人にとっては悠久ともいえる。

一度は死んだ身、もう二度と会うことはないと思っていた。そんな彼らが再び出会ったのだ。

その場には変な空気が流れる。

 

「とにかく、礼を言わせてほしいな。俺を取り戻す事が出来たのは、君のおかげだと思うし」

 

「良いって、そんなの・・・柄じゃないんだ」

 

巧は気恥ずかしいのか顔を背ける。そんな巧を見て、木場は思わず笑ってしまう。

 

「なんだか懐かしいね。君とは色々あったけど、結局は互いに引き寄せられてるのかもしれない」

 

木場の言葉の真意を理解した巧は、静かに頷く。

 

「あぁ、俺もそう思う。前に俺がオルフェノクとしてあんたと戦った時、あんたは俺を倒すことはしなかった。だから俺は今も生きている」

 

巧は一旦言葉を止め、一息ついてから言葉を続けた。

 

「だから、今度は俺があんたを助ける。たとえオルフェノクの力に飲まれようが、今みたいに絶対なんとかしてみせる。それが俺の背負った罪だ」

 

木場は巧の強さを改めて感じる。力だけじゃなく心の強さを。

 

「分かってる。君とは同じ理想を持つ仲間だから。君と話せて良かった・・・俺が、俺でなくなる前に」

 

木場はそう言って、巧に微笑んで見せた。巧はその笑顔を懐かしく思いながらも、絶対に守ると心に決めた。

 

「乾さん!」

 

声のする方へ視線を移すと、ダイヤと鞠莉の姿があった。戦いが終わったのを見計らって、降りてきたのだろう。

 

「あぁ、あんたたちか。もう心配する事はない、怪物はもういなくなった。とりあえずは大丈夫だろう」

 

巧はあえて木場の存在を伏せて、この場が安全である事を知らせる。

 

「そうですか、それは何よりで・・・あの、その方は?」

 

安全が保証された事で安心して胸を撫で下ろすダイヤ。そして、巧の横にいる木場の存在に気づいた。

 

「あ、俺は木場勇治です。乾くんの古い友達で、今日会う約束をしていたんですよ。ね、乾くん?」

 

木場に話を振られ、すかさず話に乗っかる。

 

「ん、あぁ・・・そうなんだ。あんたたちも木場に自己紹介してやってくれないか?」

 

巧に促され、ダイヤたちも自己紹介をする。

 

「そうですわね・・・生徒会長の黒澤ダイヤです。よろしくお願い致しますわ」

 

「Hello!理事長の小原鞠莉よ!シャイニー☆」

 

巧はやけにテンションの高い奴だと思ったが、木場はどうやら違う事を考えたようだ。

 

「小原・・・鞠莉?そうか、君が・・・」

 

木場の意味深な言葉に、巧は疑問に思った。それを察したのか、木場は巧にある場所に向かえと言った。

 

「乾くん、なるべく早く東京に行くんだ。君の体はもうすぐ限界を迎えてしまう。手遅れになるその前に」

 

木場はやはり分かっていたのだ。巧がオルフェノクとして先が無いことが。

どういう訳か理解できないダイヤが、巧に変わって詳細を尋ねる。

 

「一体どういう事ですの?乾さんの体が限界?私、もう何がなんだか・・・」

 

そう言い終えたところで、ダイヤはある事を思い出した。

 

《早くしないとファイズが死ぬ》

 

過去に鞠莉から言われた言葉だ。そして全てを理解する。

 

「なるほど・・・乾さん!至急、東京へ向かう準備をしましょう!私もお手伝い致しますわ!」

 

ダイヤは巧の手を引っ張り、サイドバッシャーへ乗り込む。戸惑っていた巧だが、諦めたのかダイヤに従ってサイドバッシャーに乗り込み、十千万に向けて走り出した。

 

「ダイヤったら大胆ね♪よっぽどファイズがお気に入りなのかしら?」

 

鞠莉の言葉に苦笑する木場。自分が言えたことではないが、巧はそういった事には鈍いのかもしれない。

 

「じゃあ、俺はもう行きますね。乾くんによろしく言っておいて下さい。あと、あなたのシェフにも」

 

「オッケー!勇治くん、good-by♪」

 

木場はそう言って、その場を立ち去った。

一人残された鞠莉は、ある人物へ連絡を取った。

 

「あ、もしもし〜?あなたに頼まれたファイズ、見つかったわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ダイヤに手厳しい言葉を受けたAqoursは、改めて現実の厳しさを痛感する。確かに一見珍しいもので人気を集め、順位は上がったがすぐに下がってしまう。

特に今回の事で責任を感じているのが、津島善子だった。

自分の堕天使キャラに乗っかったせいで、彼女らに辛い思いをさせてしまったと。

 

「少しの間だけど、堕天使に付き合ってくれてありがとね」

 

善子はそれだけを言って、その場を立ち去った。残された彼女達の中に、ふとこんな疑問が浮かんできた。

 

「どうして、堕天使だったんだろ・・・?」

 

その言葉に反応したのは花丸だった。そして、花丸は過去に善子がどんな子どもであったか、普通とは何なのか?を話し始めた。

人間にはいつか必ず今の自分が、本当の自分ではないのではないかと考えてしまうものだという。

本当はもっと輝けるのではないかと。

 

それを聞いた千歌は、ある事を思いつき実行する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、善子は自分の堕天使キャラを卒業するため、それらに関する全てのものを段ボールにしまっていた。今回の事で踏ん切りがついて、ある意味良かったのかもしれないと自分を納得させるために。

そんな彼女の前に、立ちはだかる者たちが現れた。

 

「堕天使ヨハネちゃん!スクールアイドルに入りませんか?」

 

現れたのはもちろんAqoursだった。困惑する善子に対して千歌が言い放った。

 

「良いんだよ、堕天使で!!自分が好きならそれで良いんだよ!」

 

「駄目よッ!!」

 

耐えきれなくなったのかその場から走り出す善子。しかし、今度はAqoursがしっかりと追いかける。

生徒会長に怒られた、堕天使は受け入れられないなど理屈をこねるが、千歌がそれらを一蹴する。悪いのは自分たちで、善子はそのままでいいと。

やがて、走り疲れたところで千歌は憧れであるμ’sが何で輝く事が出来たのかを善子に語る。

 

「自分が一番好きな姿を・・・輝いてる姿を見せることなんだよ!!」

 

千歌の言葉を受け、善子は自分の堕天使が迷惑を掛ける、儀式もする、リトルデーモンになれと言うかもしれない、それでもいいのかと尋ねる。

千歌たちは気にしないし、嫌だったら嫌と言う。そこまではっきりと受け入れてくれた彼女たちに、もはや逃げる事は考えられなかった。

 

「よ、よろしくお願いします・・・」

 

堕天使ヨハネ・・・もとい、津島善子は堕天使を卒業する事なく、晴れてAqoursに加入した。

しかし、彼女たちはまだ知らなかった。浦の星女学院に新たな問題が起ころうとは。

 




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「沼津の高校と統合して、浦の星女学院は廃校になる」

『統廃合!?』

「だからスクールアイドルが必要なの」

「木場が言ってたのって、あんただったのか・・・」

第15話 廃れる体


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第15話 廃れる体

どうも自由の魔弾です。
いよいよCSMファイズギアの発送日メールが届きました。今月の25日発送となっているので、26、27日くらいには届くのでしょうかね?
さてさて話は変わりまして、突然ですがこの話で新キャラが出ます。
どういう奴かは見てのお楽しみということで、ではどうぞ!


ヨハネこと津島善子が正式にAqoursに加入し、微々たる変化ながらも前に進み続ける千歌たち。そんな彼女たちとは他所に、新たな問題が起きていた。

 

「どういうことですの!?」

 

浦の星女学院の理事長室にダイヤの声が響く。彼女が噛みついている相手、理事長の小原鞠莉は淡々とその事実を告げる。

 

「沼津の高校と統合して、浦の星女学院は廃校になる」

 

改めて現実を突きつけられ、思わず黙り込むダイヤ。そんな彼女の様子を見た鞠莉は「でもね・・・」と言葉を続けた。

 

「まだ決定ではないの。まだ待って欲しいと私が強く言ってるからね」

 

鞠莉は座っていた理事長席からおもむろに立ち上がり、ダイヤに歩み寄りながら言葉を紡ぐ。

 

「この学校は無くさない。私にとって、どこよりも大事な場所なの」

 

鞠莉はそう言いながら、過去を振り返る。自分が言う大事な場所にはダイヤと果南、そして自分がいた。

そんな事とも知らず、鞠莉の強気な発言に対してダイヤはその方法について聞いた。

 

「方法はあるんですの?入学者はこの2年どんどん減っているんですのよ?それに例の怪物騒ぎもありますし。乾さんは既に東京へ向かわれて居ないんですよ」

 

ダイヤが懸念している事に対して、鞠莉は一言だけ返した。

 

「だからスクールアイドルが必要なの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浦の星女学院の統廃合の噂はその日のうちに既に広まっていた。もちろん、その噂は部室にいる千歌たちにも。

 

『統廃合!?』

 

驚くメンバーに、いち早く噂を聞きつけたルビィが詳しい説明をする。

 

「沼津の学校と合併して、浦の星女学院はなくなるかもって・・・。一応、来年の入学希望者の数を見て、どうするか決めるらしいんですけど」

 

その話を聞いたAqoursメンバーは何とも言えない空気に包まれる。しかし、それを打ち破ったのは意外にも千歌だった。

 

「・・・キタ!ついにキタ!!廃校・・・!?学校のピンチってことだよね!?」

 

千歌はそう言って、校内を「廃校だよー!」とか「音ノ木坂と一緒だよ!?」などと叫びながら走り回る。

やがて部室に戻ってきて言い放った。

 

「これで舞台が整ったよ!私達が学校を救うんだよ!?そして輝くの!!あの、μ’sのように!!」

 

全員がここで理解する。千歌はこの状況を望んでいたのだ。そして、喜んでいる人物はもう二人。

 

「合併ということは、沼津の高校になるずらね!?あの街に通えるずらよね!?」

 

「そりゃ統合した方が良いに決まってるわ!私みたいな流行に敏感な生徒も集まってるだろうし」

 

そう言ったのは花丸と善子。案外、統廃合に賛成している生徒もいるのかもしれない。

 

「とにかく・・・Aqoursは学校を救うため、行動します!!」

 

千歌がAqoursメンバーに向けて、宣言する。もちろん本当に統廃合してほしい訳ではなく、かつてのμ’sのように学校を救うことが出来るのが嬉しいのだろう。

そんな千歌にふと、梨子が質問する。

 

「でも、行動って何するつもりなの?」

 

「えっ・・・?」

 

そこらへんはノープランだったのか、思わず固まってしまう千歌。とりあえず、自分たちで実践しながら模索していくことになった。

 

「μ’sがやったのは、スクールアイドルとしてランキングに登録して、ラブライブに出て有名になって、生徒を集める・・・。あとは・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・そもそも受験人数が減っているんですのね・・・」

 

ダイヤはパソコンのモニターを見ながら、歯がゆい想いを募らせる。そこに映し出されているのは浦の星女学院の入学志願者の人数だった。その数は年を重ねるごとにどんどん減る一方だ。

その時、生徒会室の扉が開く。そこに居たのはルビィだった。

 

「お姉ちゃん。今日もちょっと遅くなるかもって・・・千歌ちゃんが入学希望者を増やすためにPV作るんだって言ってて」

 

関係は良好とは言えないが、少しずつ良い方向に向かっている。確執があるのは確かだが、それでも姉として慕ってくれる健気な妹に、ダイヤは感謝していた。

 

「分かりましたわ。お父様とお母様に言っておきますわ」

 

ダイヤの了承を得たルビィは、元気よく返事をしてその場を離れようとする。しかし、それはダイヤによって阻止された。

 

「どう?スクールアイドルは」

 

突然の問いかけに一瞬ルビィはどう答えて良いものか困ったが、素直に自分の気持ちを言い表すことにした。

 

「大変だけど、楽しいよ。だから、この気持ちに気づかせてくれた、巧お兄ちゃんには感謝してもしきれないよ・・・お姉ちゃんも、そうじゃないかな?」

 

ルビィの言葉に、ダイヤは驚いた。極度の人見知りで、今まで男性との付き合いがなかったあのルビィが、乾 巧を慕っていることに。それがただ恩人としてなのか、恋心としてか。

 

(“お姉ちゃんも”って・・・その言い方では、まるで私が乾さんをす、好きだと言っているみたいではありませんか!?ま、まぁ?乾さんのことは嫌いではありませんし、ルビィも懐いているようですので悪い人ではないと思いますが・・・)

 

「お姉ちゃん、顔赤いけど大丈夫?」

 

考え事に耽っていると、ずっと黙り込んでいるダイヤを心配に思ったのか、顔を覗き込むルビィ。ダイヤは何故顔が紅潮しているかを悟られないため、ルビィを威嚇する。

 

「ルビィ・・・早く立ち去らないと、末代まで恨みますわよ」

 

突然の犯行予告に驚くルビィ。

 

「ピ、ピギィィィッ!?な、なんでぇ?」

 

ダイヤの剣幕に驚いたルビィは、足早にその場を立ち去った。一人残されたダイヤは、ポツリと一言だけつぶやいた。

 

「まったく・・・こんな顔、誰にも見せられませんわ。この気持ちは何なのでしょう・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ハックシッ!!あぁ、風邪ひいたか?」

 

木場の言葉の通りに、一足先に東京に来ていた。もちろん東京に遊びに来た訳ではなく、木場からもらった情報を頼りに足を運ぶことに。

やがて、情報通りの場所へたどり着いた巧。そこで驚愕の事実をを確認する。

 

「おい・・・ここって、マジかよ」

 

その場所を見た巧は目を見開いた。

 

「“スマートブレイン社病院”・・・」

 

巧は苦い思い出を思い出してしまう。忘れもしない二年前、木場に捕まった巧は実験材料としてオルフェノクの滅びの仕組みを調べる実験をさせられた。そのせいでオルフェノクの力が消耗し、今もなお苦しんでいる状況なのだ。

 

「木場のやつ、ここに来れば助かるとか言ってたよな?仕方ねぇ、行くか」

 

巧は重い足取りで施設の中に入った。巧はスマートパッドに記された情報の通りに、見慣れない施設の中を進んでいく。

 

「えっと、通路を挟んで向かい側のエレベーターで3階に・・・これか?」

 

情報の通りにエレベーターを見つけた巧は乗り込んで3階のボタンを押し、閉ボタンで扉を閉める。ゆっくりと上がっていくエレベーターの中で、巧は様々なことを考える。再び現れたオルフェノクの事、草加の事、Aqoursの事など。

そんな事を考えていると、エレベーターが到着した事を示すように扉が開く。巧は警戒しながら目的の部屋の前に立った。

 

「いよいよか・・・よし」

 

巧は意を決して扉を開けた。部屋の中は薄暗く、物は散乱していて二年前から手付かずなのはすぐに分かった。ゆっくりと進んで行くと、目の前に人が佇んでいた。

 

「おい、あんた何者だ?」

 

巧は目の前で佇んでいる人物に問いかける。誰か人がいるなど木場からは聞いていないし、そもそも暗いせいで男か女かすらわからない。

巧の問いかけに答えるように、目の前の人物が巧の前に歩み寄る。

巧は思わず目を見張った。何故ならその人物とは確かに見覚えのある人物だったからだ。巧はその名を口にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「木村・・・沙耶なのか?」

 

巧は動揺していた。目の前の少女が 、二年前に巧にデルタギアを渡そうとしてオルフェノクに殺られた木村沙耶と瓜二つの容姿をしていたからだ。しかし、その存在は彼女によって否定されてしまった。

 

「木村、沙耶さんですか?いいえ・・・私は梅原沙希(うめはら さき)と申します。あなたのサポートを引き受けました。奥へどうぞ」

 

梅原沙希に促され、部屋の奥へと進んでいく巧。そこにあったのは人一人が入れるだけの大きさのケースが二つ。沙希のほうを見ると、ケースについて説明を始めた。

 

「このケースは、対象となる人物にもう一人のオルフェノクの記号を移植するものです。以前、警察関係者の中にオルフェノクと人間を分離させる装置を使っていたと聞いています。しかし、所詮は人間の作るもの。未知のものであるオルフェノクには十分な効果は期待できなかったと聞いています」

 

巧はその説明を間に受けて良いものかを考えてしまう。前に研究所で実験材料にされそうになった長田結花のことがあるからだ。巧は一つだけ質問した。

 

「その相手ってのは、死なずに済むのか?」

 

沙希はその質問に微笑を浮かべながら答えた。

 

「えぇ、完全に人間に戻ります。命も保証しますから安心して下さい」

 

沙希の答えに「分かった」とだけ答える巧。

すると、少し遅れて扉が開かれた。巧は相手が到着したのを確認して自然と言葉が出ていた。

 

「木場が言ってたのって、あんただったのか・・・」

 

巧の言葉に便乗するかのように、沙希が相手についてを説明した。

 

「お待ちしていました。今回乾さんの相手をする青木茂久さんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Open your eyes for the next φ’s

「まずこの街の良い所を伝えなきゃって!」

「暫くは体に違和感を感じると思いますが、少なくとも変身は控えてください」

「その牙・・・!そんなので噛まれたら・・・死」

「デルタ・・・三原か!いや、違う?」

第16話 復活する記号



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第16話 復活する記号

大変長らくお待たせいたしました!
全ては教習所とCSMファイズギアのせいなんです!
堪忍です〜!
ところで、昨日平成ジェネレーションズを観に行きました。久しぶりに良作だったのではないでしょうか?ゴースト本編とエグゼイドを上手く繋げて尚、平成レジェンドライダー(オリキャス)の出演はグッとくるものがありました。
それでは長くなりましたが、こちらのファイズもお楽しみ下さいませ〜!


巧は対峙する人物に驚きを隠せないでいた。その人物とは2年前、裏切り者のオルフェノクとして命を狙われていた青木茂久こと“ドルフィンオルフェノク”だった。

その正体を明かしてからも巧に倒されること無く、その生を人知れず歩んでいたはずだったのだ。

 

「久しぶりだな。お前に見逃してもらって以来だよな?」

 

青木は過去を懐かしむように巧に話しかける。ファイズとしてオルフェノクとの戦いが激化していった事で、すっかり関わりが薄れてしまっていたのだ。

 

「あ、あぁ・・・正直、驚いたよ。どうしてここに?」

 

「あの後、店も少しだけ有名になってな。今は静岡にあるリゾートホテルの専属シェフになったんだ」

 

静岡のホテルという単語を聞き、思わず聞き返してしまう巧。

 

「静岡のリゾートホテル?もしかして、小原っていう・・・」

 

「何だ、お前知ってんのか?そっちはどうなんだ?なんか変わったか?」

 

「まぁ、いろいろあってな。今はまたファイズだよ」

 

お互いの近況報告に花を咲かせていると、流石に我慢出来なくなったのか、梅原沙希が小さく咳払いをして存在を強調する。

 

「あの!そろそろ良いですかね?」

 

沙希は頬を膨らませ不満気な様子だ。一通り説明を受けた青木と巧は早速ケースに入る。

手元のコンソールを操作する沙希の様子を尻目に、巧は青木のケースにあるものを投げ入れる。

 

「システム、active!」

 

そして、沙希がシステムを起動させる。

 

 

 

 

 

 

 

「今だ!」

 

その瞬間、巧はケースから飛び出し青木をケースから追い出して、再び自分一人でケースに残った。

 

「乾さん!?どういうつもりですか!?」

 

巧の突然の行動に、沙希は思わず身を乗り出した。青木がケースからいなくなった事で、システム自体が作動しないと分かっていたからだ。しかし、今回は状況が違ったようだ。

 

「グッ・・・グァアアアアアッ!!?」

 

巧は体内に異物が入った事により、苦悶の表情を浮かべもがき苦しむ。その様子をおかしいと感じた沙希は、空のケースに視線を移した。

 

「あっ、あれは!」

 

ケースの真ん中に小さなカプセルがポツンと置いてある事に気づいた。そしてその中身がどんどん消えていき、巧の体内に吸収されていく。

 

「そ、そんな事って・・・!?」

 

沙希が呆然としていると、次第にシステムは停止し始めてやがて機能しなくなった。

 

「はぁ・・・はぁ・・・。やっぱりな、お前を信じた俺が馬鹿だったぜ・・・ウラァ!!」

 

巧はケースの外に出るなり、沙希目掛けて拳を振るう。が、その拳は沙希に届く事はなく、巧はそのまま地面に倒れこんだ。

 

「クソッ・・・体が動かねぇ・・・」

 

青木が巧に駆け寄って、体を引き起こす。意識は失っていないようだが、言葉の通り上手く体を動かすことができないようだった。

 

「どういう訳かはわかりませんが、その症状がでているという事は成功したみたいですね。暫くは体に違和感を感じると思いますが、少なくとも変身は控えてください。

あの、どうして青木さんを逃したのですか?」

 

沙希の質問に、巧は青木に支えられて立ち上がりながら答えた。

 

「・・・別に。俺がそうしたいって思ったからだ。もういいだろ?記号は元に戻ったんだからな」

 

巧は逃げるようにその場から立ち去った。その様子を心配したのか青木も巧の後を追って出て行ってしまった。

その場に残された沙希は、何とも言えない感情に支配されつつあった。

 

「分からない・・・私は、どうすればいいの・・・?」

 

沙希は手元のバッグから取り出したケースを見つめる。小型のケースの真ん中には因縁深いあの文字が記されていた。

 

 

 

『Smart Brain』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして、場所は内浦へと戻る。正式にAqoursの活動が始まろうとしていた。その活動内容というのが・・・。

 

「まずこの街の良い所を伝えなきゃって!」

 

という訳で始まったのが、PV撮影だ。ところが撮影が始まった途端、碌に出演者は居ないは、明らかに公言している時間と見合わない距離を移動してるは、終いには「街には特に何もありません!」などと言いだす始末。

当然ながら良いPVが生まれるはずもなく、一応の完成を目指して喫茶店に集まっていた。

 

そもそも何故喫茶店に集まっているのか?理由を挙げるならば、梨子がしいたけを避けるためという説が有力だろう。が、喫茶店には何故か子犬の姿があった。

 

「その牙・・・!そんなので噛まれたら・・・死」

 

それを見た瞬間、既に梨子はパニックになっていた。もちろんそんな凶暴な犬な訳はないのだが、そんな事もあって結局ほぼ急ピッチで進めたものを見てもらう事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「乾!ちょっと待てって!」

 

足を引きずりながら歩く巧を追いかけてきた青木が引き止める。

 

「危なかったな・・・上手くいってよかったよ」

 

突然の巧の言葉に、青木は理解が追いつかなかった。一体何が上手くいったのか?確かに巧の合図の通りにケースの外に出たが・・・。

 

「あんたに渡したカプセルには、木場から返してもらった俺の記号が入ってたんだ。上手くいけば記号だけが俺に戻るって木場の奴がな」

 

そこまでの危険を犯してまで、なぜ行為に及んだのか。気づけば青木は巧にそう聞いていた。

 

「前にあれと同じような実験をされた奴がいてな・・・救えなかったんだ。だから、せめてあんただけでも同じ目に遭って欲しくなかった」

 

巧の言葉を受けた青木は「そうか・・・」と言って、言葉を続けた。

 

「もう戻るんだろ?俺もホテルに戻るから途中まで一緒に帰らないか?」

 

青木の誘いを巧は快諾して、帰路につくことに。

少し時間が経ったことで自力で動くことができるようになったが、なにぶん自由が奪われているのが辛い。変身できないということが。

すると、巧たちの前に1人の男が立ちはだかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フゥウウウウ・・・うあアアアアッ!!?」

 

男は咆哮を上げ、次第にその姿を変えていく。鰐を模した怪物“クロコダイルオルフェノク”だ。

 

「あいつは!前の奴とは違うのかよ!?」

 

巧は対峙するも、手元にカイザギアがない事を思い出す。内浦を離れる際に、木場に預けていたのだ。

 

「裏切り者・・・殺す!!」

 

クロコダイルオルフェノクは勢いよく走り出し、青木と巧をほぼ同時に殴り飛ばした。勢いよく飛ばされた青木と巧の体は、建物の壁や地面に叩きつけられてしまう。

 

「くッ・・・何でベルト置いて来ちまったんだよ!!ハアアアアアッ!!」

 

巧はウルフオルフェノクに姿を変え、クロコダイルオルフェノクに立ち向かう。持ち前の速さを武器に、クロコダイルオルフェノクに蹴り技を喰らわす。しかし、強靭な肉体を誇るクロコダイルオルフェノクには思うようなダメージは与えられず、巧はカウンターパンチを喰らい元の姿に戻ってしまった。

 

「ウウアアアアッ!!!」

 

起き上がれない巧に尚も追撃を仕掛けるクロコダイルオルフェノク。万事休すかと思われたその瞬間、巧は思いがけないものを目にする。

 

“burst mode”

 

突然、クロコダイルオルフェノクの背後からフォトンブラッド光弾が襲いかかった。

 

「グウウアアッ!?」

 

思わぬ攻撃を受けたクロコダイルオルフェノクは地面に倒れ伏す。巧はその方向に視線を移す。そこには決して忘れることなどできないものが、戦いを挑んでいた。

 

「デルタ・・・三原か!いや、違う?」

 

デルタギア。ファイズ・カイザ以前に研究・開発された戦闘用特殊強化スーツだ。その特徴は何と言っても、装着者の脳波にさえ介入する闘争システム「デモンズスレート」。圧倒的な攻撃力を発揮できる反面、装着者を凶暴化させる危険性を秘めている。

それ故使いこなせる者は限られている。巧が違うと言ったのは、巧の知る三原修二はデルタの力に溺れない強い心の持ち主だと知っているからだ。

 

「ガアァァアアアッ!!!」

 

雄叫びを上げたクロコダイルオルフェノクはデルタに狙いを定め、なりふり構わず向かっていく。一方デルタはクロコダイルオルフェノクの拳を直前で躱し、その背中に蹴りと拳による乱打を炸裂させる。巧でも苦戦していた相手をいとも簡単に攻略する戦いのセンス、一瞬の隙も無い軽やかな動き、倒すことに迷いの無い心。非の打ち所がない正しく「究極の戦士」を体現するデルタは完全に力に支配されていると巧は感じた。

 

そして、いよいよその戦いも決着の時が訪れようとしていた。

 

「グゥァアアアアッ!!?」

 

クロコダイルオルフェノクに渾身の蹴りを喰らわせ、その体ごと蹴り飛ばすデルタ。地面に倒れ伏すクロコダイルオルフェノクを尻目に、デルタギアの右横に携帯されているデルタムーバーにミッションメモリーをセットする。

 

“Ready”

 

すると、銃身が延びポインターモードに移行する。続けて「Check」と音声入力して、銃口をクロコダイルオルフェノクに定める。

 

“Exceed charge”

 

発せられた音声と共にベルトから白い閃光がラインを伝ってデルタムーバーに充填され、その瞬間、発射されたマーカー光がクロコダイルオルフェノクに直撃すると同時に、三角錐型に展開し動きを拘束する。

 

「・・・ハァアアッ!!」

 

天高く跳んだデルタはクロコダイルオルフェノク目掛けて急降下キックを炸裂させる。同時に三角錐型のポインティングマーカーもドリルのように回転し猛毒として体内に侵入する。

次の瞬間、姿を現したデルタの背後には紅い炎を上げ、その場で灰になったクロコダイルオルフェノクの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Open your eyes for the next φ’s

「大切なのはこのタウンやスクールの魅力を、ちゃんと理解しているかでーす!」

「残念ですけど・・・ただ、あなた達のその気持ちは嬉しく思いますわ」

「すみません・・・私が乾さんのサポートをする立場なのに」

「やっと本調子になれたぜ。今度はこっちの番だ!」

「やあ・・・久しぶり。薄汚いオルフェノク君」

第17話 舞い戻る戦士達


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CSM『NEW電王ベルト』発売記念① 新たなる出逢い

自由の魔弾でございます。
話を間違えたと思われた方はご安心ください。あっていますよ。
予告通りに話を構成する予定だったのですが、急遽CSM版NEW電王ベルトの発売が決定いたしましたために、コラボ話の作成を決定しました。しかも、今回では終わりません。何話に渡って展開するか見当もつかないのが正直なところです。
楽しみにして下さった皆様、本当に申し訳ありません!
少しばかり、私の戯れにお付き合いいただけると幸いでございます!


『新たなる邂逅』

 

とある日の出来事である。それは何の前触れもなく彼女たちの前に姿を現した。

 

「うわー、すっごぉおおい!!」

 

突然聞こえた千歌の歓喜の声に、居間で寝ていた巧は否が応でも現実に引き戻された。

それは隣に住んでいる梨子にも聞こえたようで、巧が外に出た時には既に千歌と合流していた。

 

「千歌、一体何だってんだ?」

 

巧が何事かと問いかけると、やや興奮気味の千歌が見た時の様子を言葉にする。

 

「梨子ちゃん!巧くん!電車だよ!空飛ぶ電車!いきなりバァーって出てきて、向こうの砂浜の方に行っちゃったんだよ!」

 

千歌の話を聞いても尚、話の意図が理解出来ない巧と梨子。そんな二人の様子とは対照的に、未だ興奮冷めやらない千歌は話を続けた。

 

「んもー!何でそんなに普通でいられるの!?空飛ぶ電車だよ!普通じゃないんだよ!梨子ちゃんだって気になるよね?」

 

千歌に促され、思わず勢いで賛同してしまった梨子。

 

「え?あー、うん。確かに私も気になるかも・・・。乾さん、お願いしてもいいですか?」

 

梨子が巧にその電車の場所まで連れてってくれるように頼む。

内心胡散臭いと思いながらも気になるのは巧とて同じこと。故に答えは決まっている。

 

「仕方ねぇな・・・啓太郎に言ってくるから、それまでに準備しておけよ」

 

こうして巧たちは謎の電車の場所へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくバイクを走らせ、目的の砂浜にたどり着いた。千歌が見たという空飛ぶ電車を探していると、物陰によく見知った人物がいることに気がついた。

 

「木場!何やってんだ、こんな所で?」

 

そこに居たのは巧の友である木場だった。しかし、木場は巧たちを見ると同時に小声で注意を促した。

 

「みんな、静かに・・・茂みの奥に誰かいる」

 

木場の言葉で空気が一変する。巧は警戒してカイザギアを装着しながら様子を伺う。

千歌と梨子も木場の背後に隠れる。

しばらく様子を見ていると、遂にその人物が姿を現した。

 

「痛てて・・・少し無茶しすぎたか。でも、早く行かないと・・・ぐっ!」

 

現れたのは巧たちと同年代と思われる青年だった。見ると体の至る所に何者かによってつけられた傷があった。

痛みに耐え切れずに膝をついた青年に、木場と梨子がすかさず手を差し伸べる。

 

「大丈夫ですか!傷だらけじゃないですか・・・桜内さん、俺の車の中に救急箱があるから取ってきてもらえるかな?」

 

「は、はい!」

 

木場に頼まれて急いで車へと向かう梨子。しかし、梨子に静止の声をかける青年。

 

「だ、駄目だ!近くに、まだ奴らが・・・」

 

青年の言葉に思わずハッ!?となる木場と巧だったが、既に梨子が複数の怪人に囚われてしまっていた。

その中で幹部と思われる怪人が青年に話をする。

 

「無様だなぁ、“ライダー”!ここが貴様の死に場所となるのだ!おっと、抵抗はするな。この女の命が惜しいならなぁ!」

 

幹部怪人の言葉と同時に、怪人たちが拘束している梨子に武器を向け脅迫をする。それを見た梨子は堪らず助けを求める。

 

「キャッ!た、助けて・・・」

 

梨子の助けを求める声を聞いた青年は、体を動かそうとするもいうことをきいてくれずに倒れてしまう。そんな青年を見て黙っていない男がいた。

 

「おい、あんた!どういう訳か知らないが、あいつらは倒してもいいんだよな?」

 

巧は青年に目線を向けながら、カイザフォンに変身コードを入力する。

 

“9・1・3 Enter Standing by”

 

「・・・あぁ、頼む」

 

巧の言葉にどこか諦めたように答える青年。同時に巧は木場に目線を向け、青年と千歌を物陰に移動するように伝えると、再び怪人に目線を戻す。

 

「変身ッ!!」

 

巧はカイザフォンを天高く掲げ、流れるようにバックルに装填する。

 

“Complete”

 

発せられた音声とともに、ベルトから黄色いラインが全身に延びていき、カイザに変身する。

 

「・・・フッ!」

 

巧は僅かに右の手首をスナップさせ、梨子を囲む怪人たちに殴りかかった。

 

「梨子!伏せろ!」

 

「は、はい!」

 

巧に言われた通りにその場にしゃがみこむ梨子。その隙にカイザが梨子を取り囲む怪人だけを倒し、難なく梨子を助け出した。しかし、攻撃を受けた怪人たちはいつも通りに灰になる事はなく、その場で爆散してしまった。

 

「梨子、怪我してないか?」

 

梨子を庇うように前に出て幹部怪人と対峙しながら、気遣いの言葉をかけるカイザ。

 

「な、何とか・・・。一体何なんですか!?いつもの感じと違いますよね!?」

 

梨子の言葉を聞いて、内心で賛同する巧。確かに今対峙している怪人たちは、普段のオルフェノクとは明らかに違うことは見て分かっていた。黒い衣装に覆面の怪人など、スマートブレイン社の刺客とは思えない。

そんなことを考えていると、一人残った幹部と思われる怪人が苦悶の表情を浮かべる。

 

「ぬぅ・・・“ライダー”めェ!!漸く追い詰めたというのにィィィ!!このままでは我々の計画が・・・」

 

幹部怪人から聞きなれない単語が巧たちの耳に入るが気に留めず、カイザは幹部怪人にカイザブレイガンによるフォトンブラッド光弾を放つ。

 

「計画?お前らが何を考えてるかは知らねえけどなぁ・・・ハアッ!」

 

カイザは素早くカイザブレイガンにミッションメモリーをセットして、ブレードモードに切り替えて幹部怪人を何度も斬りつける。

 

「グゥッ!!?」

 

「お前らみたいなのが居ると、あいつらが輝けないんだよッ!!」

 

カイザの剣撃が幹部怪人を襲う。相手が理解するより速く、強く、的確に動きを封じるように。

 

「こ、こんなはずは・・・“ショッカー”の一員であるこの俺がァアアア!!」

 

“Exceed charge”

 

カイザフォンをスライドさせて、Enterボタンを押す。すると、ベルトから黄色い閃光が体に帯びているラインを伝ってカイザブレイガンに充填される。

 

「・・・ハッ!」

 

カイザブレイガンの銃口から発せられたポインティングマーカー光弾が怪人に直撃した瞬間、動きを拘束するように展開する。

 

「な、動けない・・・だと!?」

 

怪人がどうにか拘束を振り払おうとするも、それより先にカイザが怪人の間合いに入る。

 

「ハァ!・・・タァ!!」

 

怪人を横から一閃、続けざまに上から振り下ろすカイザ。

 

「ば、馬鹿な!?この俺が・・・だが、このままでは終わらん!この場所もいずれショッカーの手に落ちるだろう。ショッカーに、栄光あれェエエエエ!!!」

 

その言葉を最後に、怪人は爆散した。またもや灰にならずに爆発した怪人の死を見届けた巧は、変身を解いて再び青年のもとに赴く。

 

「助かったよ。あんたもライダーだったんだ」

 

「あんた、一体何者なんだ?あんな奴ら、見たことねぇぜ。なぁ、木場?」

 

木場に同意を求める巧だったが、どうやら木場の意見は違ったようだ。

 

「“ショッカー”か・・・もしかしたら!」

 

木場は何かを思い出したかのようにスマートパッドを取り出して、カードを挿入した。

 

「やっぱりそうだ。みんな、これを見て。スマートブレインのデータベースに残ってたんだ。“ショッカー”は世界征服を企む悪の秘密結社だったみたいです。でも、随分前に“仮面ライダー”によって倒されているはずですけど・・・」

 

木場の説明を受けて巧と梨子は概ね理解したようだが、千歌の頭上にははっきりと?マークが浮かんでいた。不思議と千歌のアホ毛が?に見えなくもなかった。

呆れた青年が改めて説明を補足する。

 

「要するに、悪者ってわけ。で、その倒されたはずのショッカーがどういう訳か復活してて、また世界征服を狙ってるらしいから、俺が止めに来たんだ。この“NEWデンライナー”でね」

 

青年が服を叩きながら指を鳴らすと、千歌たちの頭上から列車がどこからともなく現れた。

 

「これ!私が見たのってこの電車だよ!」

 

「千歌ちゃんが言ってたのって、本当だったんだ・・・」

 

その列車を見て興奮する千歌に対して、実際に見るまで千歌の言葉を疑っていた梨子。木場と巧に至っては、もはや何が起こっているのかすら理解できないようで、次の言葉が出なかった。

青年の前で列車が完全に停車すると、中から乗客と思われる人物が降りてきた。

 

「幸太郎!無事だったのだな!?」

 

「当然だろ・・・って言いたいけど、ちょっと不味かったかも。この時代にもライダーがいてくれて助かったよ。変身してたあんたのおかげで助かったよ」

 

出てきた人物の姿は、一言で表すならば鬼。

やけに低姿勢で礼儀正しい蒼い鬼だ。

 

(梨子ちゃん・・・あれ、着ぐるみかな?)

 

(千歌ちゃんもそう思う?よく出来てるよね・・・)

 

千歌と梨子が当人に隠れて話しているが、木場と巧は気にしなかった。それよりも怪人が残していった計画、仮面ライダーという言葉について考察をしていた。

しかし、それについては目の前の青年が何かを知っていると思われるため、まずは青年の素性を明らかにするため千歌、梨子、木場、巧の順番で自己紹介をする。

 

「一応、Aqoursのリーダーやってます!高海千歌です!」

 

「同じくAqoursの桜内梨子です。よろしくお願いします」

 

「俺は木場勇治です。よろしく」

 

「名前くらいは言っておくか・・・俺は乾 巧だ。色々あって、今はこのカイザギアの持ち主ってことになってる」

 

全員が名乗り終わったところで、青年と鬼へと順番が移る。

 

「俺は野上 幸太郎。乾、あんたと同じ仮面ライダーだ。んで、こいつが相棒のテディだ」

 

「幸太郎共々、よろしく頼む」

 

自己紹介が終わったところで、幸太郎たちの目的を木場が聞くことに。

 

「それで、どうしてここに来たのかな?何が追われる理由があったとか?」

 

幸太郎は少し黙り込んだ。何かを言うべきかを決めかねているのだろうか。

 

「幸太郎、巻き込んでしまった以上には、きちんと話すべきだと私は思う」

 

意外にもその言葉を紡いだのはテディだった。幸太郎の気持ちを汲み取ってなのか、彼を後押しするよう言葉を投げかける。そして、吹っ切れたのか幸太郎はここに来た真実を話し始めた。

 

「まぁ、あんたたちになら話してもいいかな・・・ショッカーが仮面ライダーの歴史を消そうとしてる。俺はそんな計画を阻止するために、時を超えて未来から来たんだ」

 

これが、交わるはずのなかった3つの物語が初めて交差した瞬間だった。

 

 

 

 



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CSM『NEW電王ベルト』発売記念② 立ち上がる戦士たち

『未来からの使者』

 

「み、未来ずら〜!!」

 

開口一番で何を言っているのかと思われるが、決して気が狂ったわけではないと言わせてほしい。

所変わって、今は十千万で青年 野上幸太郎の治療をしている。あの後、残りのAqoursメンバーにも連絡をとって合流してもらったのだ。

因みにさっきの言葉は、NEWデンライナーとテディに向けて発せられたものである。

 

「さっきの話、詳しく教えてもらってもいいかな?」

 

幸太郎の腕に包帯を巻き終えた木場は、治療道具を片ずけながら事の詳細を質問する。幸太郎は腕の感覚を確かめながら答えた。

 

「悪の秘密結社“ショッカー”が何かを企んでるらしく、俺とテディはそれを追ってるってわけ。正確に言うと、“イマジン”っていう怪物が絡んだ事件だからってこともあるんだけどね」

 

幸太郎の口から先ほどとは違う名前が飛び出し、思わず巧たちの頭上に?マークが浮かぶ。

その様子を見た幸太郎は、思い出したかのように説明を補足する。

 

「あぁ、そうか・・・あんたたちはイマジン見たことないんだっけ。イマジンっていうのは、人間の願いを聞いて、(自分なりに解釈した結果)その願いを叶えることで契約をして完全に実体化、その人間の記憶の中にある「現在のその人間像を作った最も強い時間」にタイムスリップする。そこで過去を都合の良いように現在や未来を変えて好き勝手してる奴らのこと」

 

幸太郎はイマジンについて解説する。テディを指差しながら「こいつもイマジンだけどね」と付け加える。

が、それよりも早くテディは一年生組(+千歌)に遊ばれていた。

 

「こ、この姿は正しく魔界からの使い!?天界から堕天した私を取り込むつもりなのね!この、このッ!」

 

「な、何をする!?い、痛ッ!普通に痛いからやめろ!」

 

「善子ちゃん、そんなに強く叩いちゃ駄目だって!壊したら怒られちゃうよ〜」

 

「ピギィ!?怖い・・・た、巧お兄ちゃん」

 

「この着ぐるみ!未来ずら〜!」

 

もう訳がわからない。残った常識人’s(巧、木場、梨子)は思わず頭を抱えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、巧は一人露天風呂に浸かりながら幸太郎とのやりとりを思い出していた。

 

(あんた、これからどうするつもりなんだ?)

 

(さぁね?とりあえずデンライナー直して、他の時代に行かないと。珍しく運が良かったみたいで、明日には出発できそうだし)

 

(他の時代?どういう事だ?)

 

(さっきも言った通り、俺は未来から来たんだ。当然、他の時代にだって奴らの手先がいるはずだ。だから俺が行かないと)

 

(あんた、何でそんなに頑張れるんだよ?自分の事で手一杯じゃないのか?)

 

(どうしてかな?ただ、俺にしか出来ない事なんだって思ったら、無理してでも守りたいって体が動いてた。俺は誰かが築いてきた過去と未来、その記憶を守りたい。あんたにもそういう大事なものってあるんじゃないの?)

 

(俺は・・・)

 

巧は一旦回想を止め、湯で顔を洗う。巧は幸太郎の質問に答えられなかったのだ。夢を守るとは言うものの、未だにオルフェノクと人間が共存できる環境は出来てはいない。こっちに来てからは千歌たちの活動を支える事が主になってはいるが、それもいつまでも続けられる訳ではない。

 

(俺は、どうすればいいんだ?俺の大事なものって・・・)

 

巧がそんな事を考えていると、何者かによって浴室のドアが開けられた。

 

「あれ?あ、ごめん!美渡姉がお風呂空いたよ〜っていうから来たんだけど・・・」

 

「千歌か・・・いや、すぐに出るから入っていいぞ」

 

意図的ではないといえ風呂場のドアを開けてしまった千歌。自分の行為に年相応の恥ずかしさを感じる千歌に対して、湯に浸かっている巧(大事なところはタオルで隠してある)は特に恥ずかしがる事もなく、むしろ気を遣ってなのか進んで出て行こうとする。

しかし、それは千歌が許さなかった。

 

「だ、駄目だよ!今日だって私たちを守るために戦ってくれて、傷ついているのに・・・そうだ!巧くん、私がお背中流しましょうか?」

 

ドアから顔だけを出して、何を思ったのか巧の背中を流すと言い出した千歌。その発言に言葉を失ってしまい挙げ句の果てに「頭大丈夫か?」という言葉が出かかった巧だったが、本気で自分を心配する千歌の視線に気づき、ボソッと一言だけつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「少し後ろ向いてろ・・・今、用意するから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その場になんとも言えない空気が流れる。千歌と巧、二人の間に会話は無い。

 

(うぅ〜・・・何であんな事言っちゃったんだろ?)

 

千歌は一人羞恥心と戦っていた。自分の発言に戸惑いを覚えながら、目の前にある自分とは少し違う背中を一心に。

 

「なぁ、千歌。少し聞いてもいいか?」

 

その時、不意に巧の方から話しかけてきた。お互いにタオルを巻いて体を隠しているとはいえ、年相応の恥ずかしさというものには逆らえない。

千歌は赤みがかった頰を自覚しつつも、巧に返事をした。

 

「な、何?」

 

「お前から見て、今の俺はなんかヤバそうに見えるのか?」

 

巧は自分自身では決して分からない自分の様子について質問した。千歌の想いのこもった視線に何かを感じとったのだろうか。

千歌は泡のついたタオルで巧の背中を洗いながら、その胸中を明かした。

 

「確かに巧くんはいっつも無愛想だし、何に対しても興味なさそうだし・・・」

 

千歌の言葉に「・・・悪かったな」と小さく反論する巧。その反応が可笑しかったのか、思わず千歌は頰を緩めてしまった。

 

「でもね、口ではそう言っても私たちを助けてくれるし、その・・・大事に思ってくれてるって知ってるよ」

 

千歌の言葉でその場が凍った。が、すぐに自分の発言の意味に気付いたのか、組んであったお湯で巧の背中を流すと足早にその場から立ち去ってしまった。

残された当人はというと・・・

 

「千歌の奴・・・しゃあねぇ、もう一回入るか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ〜!?千歌ちゃん、乾さんにそんなこと言っちゃったの!?」

 

「うん・・・どーしよう曜ちゃん?」

 

自分の部屋に帰った千歌は、曜に連絡をとっていた。先ほどの発言の意味を問いかけていたのだ。

 

「私、何であんな事言ったんだろ?」

 

悩む千歌とは対照的に、曜の方はというとどうやら既に答えらしきものが出ているようで、それとなく伝えた。

 

「千歌ちゃん、もしかしたら・・・乾さんに“恋”してるんじゃないかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エェェェェェェェェッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、巧はデンライナーの修理をしている幸太郎たちのもとへ向かった。彼らの言葉の通りなら、今日中には旅立ってしまうはずだ。巧には何とかその前に聞きたいことがあった。

 

「野上!」

 

巧は昨日と同じ場所で幸太郎を見つけると、すぐさま詰め寄った。

 

「な、いきなり何だよ?」

 

「昨日、言い忘れたんだけどな・・・お前、俺の未来のことも分かるか?」

 

巧がそう問うと、幸太郎は作業していた手を止めて答えた。

 

「すぐにって訳じゃないけど、その時代に行けばある程度は分かるよ。もちろん、そこから手を加えることは禁止だし、許さないけど。けど、それがどうしたってわけ?」

 

幸太郎の言葉を聞いて、巧は自分の問いの真意を伝えた。

 

「もし、俺の未来に行くことがあったら見てきてほしい。オルフェノクの未来と、あいつらの未来を」

 

巧の願いを聞いた幸太郎だったが、直後に意外なことを言った。

 

「それはあまり意味がないんじゃないか?」

 

幸太郎の言葉の意味を図りかねた巧は思わず聞き返した。

 

「どういうことだ?」

 

「俺が時間を移動できるのは、俺が時間の影響を受けない“特異点”だからだ。普通、過去や未来を変えることで現在に何かしらの影響が出るんだ。もしかしたらこの時間で起こった事だってなかった事になるかもしれない。だから俺があんたの未来を見たとしても、必ずしもその未来が訪れるとは限らないんだよ」

 

幸太郎の説明を受け、巧はようやく言葉の意味を理解する。

 

「・・・過去や未来を嘆くよりも、今を大事に生きろってことか?」

 

巧の問いに幸太郎は不敵な笑みを返した。

 

「そーいうこと。よし、これで大丈夫かな?おいテディ!動かしてくれ!」

 

すると近くで作業をしていたテディにシステムの起動を頼んだ。しばらくすると、静寂を保っていたデンライナーから駆動音が聞こえ始めた。

 

「どうなったんだ・・・?」

 

巧は初めて見るその光景に理解が追いつかなかった。その様子はまるで弱っていたデンライナーが息を吹き返したようだった。

 

「おーい!乾さーん!」

 

デンライナーの起動に呼応するかのように、Aqoursメンバーが合流した。そこには当然、千歌もいるわけで・・・。

 

「ほら、千歌ちゃん。隠れてちゃダメだよ?」

 

曜の背に隠れていた千歌だったが、抵抗むなしく曜と梨子によって巧の前に押し出された。

 

「うわわッ・・・!あ、巧くん」

 

普段通りの巧とは対照的に、どこか煮え切らない様子で恥じらいを隠せないでいる千歌。そこはやはり乙女なのだろうかと。

しかし、そんな瞬間を邪魔する者たちが現れてしまった。

 

『イーッ!!』

 

突如現れた黒尽くめの覆面集団が巧や幸太郎たちに襲いかかる。不運にもカイザギアをサイドバッシャーに置いてきてしまったが巧と幸太郎は難なく立ち回っている。しかし、その間に隠れていた別働隊が千歌たちを取り囲んでしまっていた。

 

「ちょっと!何なのよ、あんたたち!?」

「ま、またこれなの・・・!?」

「ピギィィ!?ルビィは美味しくないですぅ!?」

 

巧と幸太郎は悲鳴を聞いて彼女たちのもとへ向かおうとするも、キリなく現れる戦闘員が行く手を阻み近づく事が出来ずにいた。

が、そこに現れたのは敵だけではなかった。

 

『イッ!?』

 

千歌たちを取り囲んでいた戦闘員が次々と引き剥がされ、倒されていくではないか。巧たちは自分を取り囲む戦闘員を突き放して、ショッカー戦闘員を次々に倒すその人物に思わず目を奪われた。

 

「良くないなぁ・・・こういうの」

 

「草加!?」

 

その人物とは今まで消息不明だったかつての戦友、草加雅人だった。雅人は巧に返事もせず、代わりに手に持っていたケースを巧に投げ渡した。

 

「これは・・・カイザギア!?」

 

驚く巧を他所に、雅人は持っていたファイズギアを装着しながら言い放つ。

 

「今だけは手を貸してやる。さっさと変身しろ!」

 

雅人に促され、巧は雅人の隣に立ちカイザギアを装着して戦闘員と対峙する。そのすぐあとにベルトを巻いた幸太郎が合流した。

 

「野上、あいつらは?」

 

「大丈夫、ちゃんと安全な場所に隠れてる。あ、千歌があんたに伝えたい事があるってさ。それに、もう少しでデンライナーも動かせると思うし」

 

幸太郎の言葉を受け、胸を撫で下ろす巧。

 

「俺たちがデンライナーで他の時代に移動すれば、奴らも吊られて追いかけてくるはずだ。だから・・・」

 

「分かってる。それまでは、俺たちが守ってみせるさ。だろ、草加?」

 

巧が促すと、雅人は憮然として答えた。

 

「フッ・・・ま、せいぜい俺の足を引っ張らないでくれよなぁ?」

 

草加の皮肉を再び聞く日が来るとは。巧は内心堪らなかった。

 

「野上、草加・・・いくぜ」

 

「あぁ!」

 

「フン・・・」

 

掛け声と同時に巧と雅人は変身コードを入力し、幸太郎はベルトのフォームスイッチを押す。

 

《9・1・3 》&《5・5・5》Enter Standing by

 

すると、超特急を彷彿させる待機音が流れ始める。

 

『変身ッ!!』

 

巧と雅人はベルトに装填し、幸太郎はライダーパスをベルトにセタッチする事で変身シークエンスを開始させる。

 

“Complete”

“Strike Form”

 

巧には黄色いラインが、雅人には紅いラインが、そして幸太郎には藍色のスーツ、鋭角的な電仮面・全身を走るデンレール・胸のターンテーブルが出現する。

ここにファイズ、カイザ、NEW電王の三人の戦士が誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 




恐らく次回で最終回だと思います。
そのあとは引き続き、本編をお楽しみいただけると思われます。


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CSM『NEW電王ベルト』発売記念③ 繋がる時間

このコラボ話はフィクションです。パラレルワールドです。なので、タグ無視も許されます。


余談ですが、ライダー&戦隊45周年アニバーサリー感謝祭、見に行きました。語ると長いので一言。三浦大地スゲー!松岡くんかっこいい!リッキー!貴利矢!ISSA!草加ー!

(一言じゃねぇ)


『消える時間』

 

【皆さん、こちらに隠れていて下さい!】

 

テディの誘導によって、怪人から解放されたAqoursメンバーが近くの建物の陰に隠れ、そこから様子を探る。そして、彼女たちの目の前には三人の戦士が降臨していた。

 

「あれが、幸太郎さんの変身・・・」

 

不意に梨子がそう呟く。昨日、自分を助けようとした幸太郎の本来の姿を見て、感嘆の声をあげる。

今度は善子がもう一人の見知らぬ男の姿に声をあげた。

 

「あ、あの姿は・・・!?」

 

「・・・善子ちゃん?どうしたずら?」

 

善子の異変に気づいたのか、花丸がその様子を伺う。が、善子によってそれは遮られてしまった。

 

「・・・いや、やっぱ何でもない」

 

意味深な態度を見せる善子が気になった花丸だったが、今は巧たちの身を案じることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眼前には無数の怪人が押せ寄せていた。しかし、カイザを纏った巧には既に自身の消滅の事など頭の中から消えていた。仮に自分が居なくなっても、今は草加がいる。代わりにAqoursをオルフェノクから守って戦ってくれると知っているからだ。

 

「ちょっと待って。まだ仕上げが済んでないからさ、テディ!」

 

NEW電王はそう言って、二回ほど指を鳴らす。すると、Aqoursの側に付き添っていたテディが呼応するかのように、その身を変形させてNEW電王のもとに召喚された。

ライダーに憑依して戦う事の無いテディがNEW電王の能力によって巨大な刀に変身した姿、その名も“マチェーテディ”だ。

 

「へぇ、面白い武器だね・・・」

 

意外にも食いついたのは雅人だった。もちろん本心で言っているわけではなく、巧には皮肉を含んでいることは容易に想像できた。

 

「知らなかった?イマジンは普通、誰かに憑依するんだけどこいつは特別でね。さぁ、これで準備ができた!」

 

すると、幸太郎の掛け声に呼応するかのように、武器となったテディが話しかける。

 

【幸太郎、デンライナーを動かすまでの五分間は怪人を近寄らせてはならない!】

 

テディの警告を受けた幸太郎は、余裕の笑みを浮かべて返した。

 

「こいつら倒すのに五分もいらないな・・・三分でケリをつける」

 

強気の発言に背中を押されるかのように、自然と巧にも力が入る。

 

【・・・分かった】

 

テディの了承も得て、いよいよ始まりの瞬間が訪れた。

 

「よし、行くぞ!」

 

巧の掛け声と同時に、眼前の怪人に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈φ〉

 

「やれやれ・・・この程度の戦力で勝てると思ってるのかなぁ?」

 

最初に切り込んでいったファイズは、向かってくる怪人の攻撃を完璧に避け、同時にカウンターを仕掛ける。使い慣れていないファイズギアを装着しても尚、怪人を寄せ付けないその圧倒的な戦いのセンスは失われていなかった。

しかし、いくら倒してもその数に変化は少なかった。

 

「数だけは一人前か・・・ならば」

 

雅人はベルト左側に携帯されたファイズショットを取り出し、ミッションメモリーをセットする。

 

“Ready”

 

続けて左手に装着されているファイズアクセルから、アクセルメモリーを抜き取ってファイズフォンにセットした。

 

“Complete”

 

音声と同時に胸部アーマー・フルメタルラングが展開して肩の定位置に収まり、複眼の色は赤、エネルギー流動経路である赤色のフォトンストリームから銀色のシルバーストリームに変化する。

 

雅人はファイズアクセルのスタータースイッチを押して、アクセルモードを発動する。

 

“Start up”

 

音声とともにカウントダウンが始まる。が、雅人はそれよりも先に動き出し、通常の千倍の速さで目の前の怪人たちに必殺技“アクセルグランインパクト”を連続で叩き込んでいく。

 

『・・・イッ!?』

 

怪人たちが攻撃をかわすどころか視認するより速く、ほぼ同時に決め込まれたパンチに怪人たちは痛みも感じる事が出来なかった。

あらかたかたずけたところで、機能終了を知らせるカウントダウンが再び始まる。

 

“3・・・2・・・1・・・Time out”

 

その瞬間、攻撃を受けた怪人たちからφのマークが浮き上がり、その場で全ての怪人が爆散した。

雅人はその様子を見届けると、ファイズフォンからアクセルメモリーを抜き取った。

 

“Reformation”

 

次の瞬間、展開していたフルメタルラングがもとのように収納されて通常の状態に戻ってしまった。

雅人は辺りを見渡して敵が居なくなった事を確認すると、ファイズフォンを抜き取り変身を解除してしまった。

 

「まぁ、今日はこのくらいか・・・どう足掻いたところで、この時間は消えてしまう運命にある・・・か」

 

雅人はファイズギアをアタッシュケースに収めると、それを持ったまま再び何処かへ消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈NEW電王〉

 

「ハッ!ダァ!なんだよ、あいつもカウントダウンするの?」

 

幸太郎は群がる怪人をマチェーテディで薙ぎ払いながら、ファイズの戦闘を見て素直な言葉が出る。

 

【幸太郎、こちらも負けていられないぞ!カウントは?】

 

テディに促され、幸太郎は敵の数を数える。数にして20人程、自分の力量を考慮してその結果を伝えた。

 

「20・・・いや、15でいける!」

 

幸太郎はそう告げて怪人の中へ飛び込んでいく。

 

15・・・14・・・13・・・12・・・11・・・。

 

テディによるカウントダウンが始まる中、NEW電王はマチェーテディによる銃撃で怪人を一か所にまとめるよう牽制する。怪人たちは攻撃をかわすためやむなく身動きが取れなくなる方へ誘導されていく。

 

10・・・9・・・8・・・7・・・6・・・。

 

カウントダウンが進む中でも、NEW電王の攻撃は止まらない。マチェーテディによる銃撃をやめ、空中に放り投げる。突然の行動に怪人たちが空を舞うマチェーテディに気を引かれる隙に、ベルト横に携帯されたデンガッシャーをソードモードに組み立て、すかさず空中のマチェーテディも回収する。流れるような無駄のない動作に怪人たちが動けない隙に、ライダーパスを取り出しベルトにセタッチする。

 

“Full charge”

 

5・・・4・・・3・・・。

 

音声とともにベルトからマチェーテディとデンガッシャーに力が伝わる。残りのカウントに間に合うように、一ヶ所に固まった怪人たちに向けて必殺の斬撃を炸裂させた。

 

「ハアァァッ!!」

 

2・・・1・・・0。

 

テディによるカウントダウンが終了した瞬間、同時に必殺技をうけた全ての怪人たちが爆散した。自身の定めたカウントの通りに。

 

【流石だな、幸太郎。さぁ、デンライナーに急ごう!】

 

「あぁ!」

 

幸太郎とテディはデンライナーに向けて、走り出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈Χ〉

 

「ハッ!ダァァァ!くそ、何だってんだよ!この数は!?」

 

カイザはなおも戦い続けていた。怪人とだけではなく、自分の時間とも。

蹴りやパンチだけでは拉致があかないと踏んだカイザはサイドバッシャーを呼びつけて、乗り込むとその姿を変形させる。

 

“Battle mode”

 

ビークルモードから二足歩行型重戦車形態に変形したサイドバッシャー。その巨体に怯んでいる怪人に対して、カイザはサイドバッシャーを操作して右腕の前輪部分に装備されている4門の光子バルカン砲で攻撃する。

 

『イッ、イッー!?』

 

カイザの攻撃に逃げ惑う怪人だったが、それだけでは終わらない。今度は左腕の後輪部分に装備されているマフラーから、6門ミサイル砲で攻撃する。ミサイルは次第に分裂していき、最終的には無数の小型ミサイルとなって怪人たちに降り注そぐ。

 

『イ、イィィ・・・』

 

エグザップバスターで全ての怪人を倒したかに思えたが、一体だけ残ってしまったようですぐさま背を向け逃げ出そうとする。しかし、カイザがそれを許すはずがなかった。

 

“Exceed charge”

 

カイザは跳躍して空中で一回転して足先を怪人に向ける。すると、既に右脚のホルスターにセットしていたカイザポインターから黄色い二重の四角錐状の光が放たれて、目標をポイントし急降下キックを叩き込んだ。

 

「ヤアァァァァッ!!」

 

怪人をすり抜けるように着地するカイザ。次の瞬間、怪人はΧのマークを浮かべ爆散した。全ての怪人が倒されたのを確認した巧は変身を解除した。

同じタイミングで、巧の頭上をデンライナーが旋回するように上昇していた。

 

「乾!援護、助かった!あとは俺たちがなんとかする!だから“気をつけろ!”」

 

意味深や幸太郎の言葉だったが、巧は気にせず短く返した。

 

「あぁ!あとの時間を、頼んだぞ・・・!」

 

巧の言葉を聞いて、デンライナーは今度こそ出現したゲートに消えていった。

 

「全部、終わったのか・・・」

 

巧の中でとてつもない虚無感が襲う。全てが終わったという実感がないまま事態は収束してしまった、中途半端という感じだ。

任せるとは言ったものの、結局は幸太郎に押し付けているのではないかという考えが渦巻いてならないのだ。

 

「巧くん・・・」

 

全てが終わったのを確認したAqoursメンバーが、巧のもとに駆け寄る。やはりと言ってはなんだが、千歌の様子はあまり変わっていなかった。

 

「お前ら・・・悪い。帰ってもいいか?」

 

何かを思いつめたように話を切り出した巧を止められるはずはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、巧は目を覚ます。時計は深夜の2時を過ぎたところだった。十千万に戻って既に11時間ほど経っただろうか。

そんな事を考えていると、突然部屋の扉が開かれた。

 

「あ、ごめん・・・起こしちゃった?」

 

扉を開けたのはもちろん千歌だ。何故こんな時間に・・・と思った巧だったが、幸太郎に言われた事を思い出して一人で合点していた。

 

「お前、もしかしてずっと待ってたのか?」

 

巧がそう聞くと、千歌は苦笑しながら答えた。

 

「ずっとってわけじゃないんだけど・・・それより、実は話したい事があってさ」

 

改めて千歌が真剣な表情で話す。千歌はなんとかして自分を奮い立たせて言葉を紡ごうと、強く唇を噛みしめる。

 

「(ちゃんと伝えなきゃ・・・“好き”って言わなきゃ!)た、巧くん!」

 

千歌はいよいよ決心して、その想いを伝える。

 

「あの、私ね・・・本当は巧くんが・・・!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、伝えるはずだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グゥ・・・!!?な、なんだよ!?」

 

突然、激しい頭痛が巧を襲う。まるで何か大きな力が、この世界全体を捻じ曲げているような強い意志を持って作用しているかのように。

そして、それは巧だけに起こっているものではなかった。

 

「く、クゥ・・・!?あ、頭が痛い・・・!?」

 

巧と同様に千歌にも症状が出ているようで、やはりこの異常は世界全体をも呑み込もうする“何か”が働きかけていた。

 

「た、巧くん・・・」

 

許容範囲を超えた痛みを受けた千歌は、その場に倒れてしまった。

 

「ち、千歌・・・」

 

気力で踏ん張っていた巧だったが、遂に耐えきれず意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわー、すっごぉおおい!!」

 

突然聞こえた千歌の歓喜の声に、居間で寝ていた巧は否が応でも現実に引き戻された。

それは隣に住んでいる梨子にも聞こえたようで、巧が外に出た時には既に千歌と合流していた。

 

「千歌、一体何だってんだ?」

 

巧が何事かと問いかけると、やや興奮気味の千歌が見た時の様子を言葉にする。

 

「梨子ちゃん!巧くん!えっとね・・・!あれ?なんだっけ?」

 

千歌の言葉を受けて、巧と梨子は思わずずっこけてしまう。あれだけ騒ぎ立てておいて、忘れたの一言で済ますつもりらしい。

梨子は何もなくて良かったと安堵しているが、巧は収まりがつかなかった。

 

「ふざけんな!お前のせいでせっかくの安眠が台無しだ!」

 

巧は怒ってズカズカと十千万の中に帰っていった。

 

「あら?どうしたの巧くん、そんなに怒って?ホットコーヒー、飲む?」

 

「それ飲んで少しは落ち着きなって。何ならフーフーしてあげよっか?」

 

「お前ら、いつか覚えてろよ・・・!」

 

「ワン!!」

 

「あ、あああ・・・。い、嫌ぁああああああッ!!!」

 

高海千歌の日常。普通だと思っていた彼女の周りにはこんなにも騒がしくて、こんなにも愛おしいもので溢れている。

そんな大事な宝物を彼女は今日も大切に育んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【幸太郎、よかったのか?】

 

「まぁ、仕方ないんじゃないの?一応、警告はしたし。それにしてもAqoursか・・・結構スゴイ人気じゃん。乾は何を心配してたんだ?」

 

【幸太郎、戻って伝えに行かなくていいのか?】

 

「・・・いや、止めておく。自分の力で辿り着かなきゃ意味ないだろうし。それよりもまだやる事があるだろ?」

 

【分かってる。次の時間へ急ごう】

 

 

 

時の列車、デンライナー。次の駅は過去か、未来か・・・。

 

 

 

 




今回でコラボ話はおしまいです。次回からフツーの話に戻ります。時間軸戻りますんで、そこらへんはお気をつけください。


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第17話 舞い戻る戦士達

本編復活〜!はい、自由の魔弾です。
今回からまた本編を動かしていきたいと思いますわ!
そして、忘れちゃいけないCSMファイズアクセルです!
そろそろ手元に届くはずですね。ギアボックスは準備できてるよ!


巧は目の前に立っているデルタを見据える。少なくとも自分の知る人物とは言い切れないからだ。

不意に巧は静かに問いかけた。

 

「お前・・・誰だ?」

 

巧の問いかけに対し、なんの返答もせずにただ立ちすくんでいるデルタ。数秒ほど経っただろうか、巧の問いかけに対する返答が思わぬ形で返ってくることになった。

 

“Error”

 

「・・・グッ!?ウグゥ・・・ガアアアアッ!!!」

 

突如、ベルトから発せられた音声と同時にデルタの身体を電撃が襲ったのだ。その場にはデルタの苦悶の声、悲痛な叫びが響き渡る。

 

「な、何なんだよ・・・一体」

 

巧の隣で見ていた青木が疑問をこぼした。デルタのもがき苦しむ様の原因を知っていた巧は、青木の問いに答えた。

 

「不適合者だったんだ・・・。ベルトに適合できなかった奴は、ああやって苦しんで・・・最後に死が待っているんだ」

 

「・・・!?」

 

次の瞬間、苦しんでいたデルタは一瞬で灰と化してしまった。青木は思わず青ざめた表情を浮かべ、デルタだったものから目をそらす。当然、それは見ていて気持ちのいいものではなかった。

しかし、巧にはもう一つ別の疑問が渦巻いていた。

 

(デルタギアは誰でも変身出来たはずだ。なのに、何であんな風に・・・ベルトごと消えちまうなんて)

 

巧の疑問に答えてくれる者はいない。正真正銘、灰となってその場から消えてしまったからだ。

 

「・・・乾さん!無事でしたか」

 

その場で立ちすくんでいた巧たちのもとに沙希が遅れてやってきた。巧たちの安否を確認した沙希は、安堵の表情を浮かべほっと胸を撫で下ろした。

 

「すみません・・・私が乾さんのサポートをする立場なのに」

 

沙希は自分の失態を詫びた。記号を取り戻したとはいえ、未だ本調子ではない事くらい分かっていたからだ。実際に隙を狙ってオルフェノクが巧たちを襲ったのは事実だ。

 

「別に・・・。それよりも気になることが出来た。悪いが先に帰っててくれ」

 

青木にそれだけを伝えると、巧は覚束ない足取りで歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《以上!がんばるびー!こと、黒澤ルビィがお伝えしました!》

 

動画を編集した翌日、Aqoursは早速動画を鞠莉に提出していた。お世辞にも魅力的とは言えない動画だが、それでも自分たちなりに考えて作り上げたものだ。自然とその表情が強張るのも無理はないだろう。

 

「・・・どうでしょうか?」

 

動画が終わりいざ鞠莉の答えを待つ。沈黙を守っている鞠莉の様子から、思わず息を呑んでしまう。OKなのか、はたまたダメなのか。返ってきた答えは意外なものだった。

 

「・・・ハッ!!」

 

こいつ、寝てやがった。

あまりの真剣味のない鞠莉の行動に、反発の声を上げる。

 

「もう!本気なのに・・・ちゃんと見て下さい!」

 

千歌の“本気”という言葉に思わず反応する鞠莉。

 

「本気?それでこのテイタラークでーすか?」

 

流石の鞠莉の言葉に耐えきれなくなったのか、曜と梨子からも反発の声が上がる。

 

「それは、さすがに酷いんじゃ・・・」

 

「そうです!これだけ作るのがどれだけ大変だったと・・・」

 

要するにAqoursの言い分はこうだ。自分たちは努力したんだから、頑張ったから乏しい結果でも認めてくれ。

その言い分だけは絶対に鞠莉が許さなかった。

 

「努力の量と結果は比例しません!!大切なのは、このタウンやスクールの魅力を、ちゃんと理解しているかでーす!」

 

鞠莉の一喝によってその場が支配される。迷いのないくらいの正論だということは、Aqoursにもすぐに理解できた。同時に、鞠莉には自分たちには見えていない本当の町の魅力が分かっていることが十分すぎるほど痛感させられたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか・・・」

 

青木と沙希から離れた巧は、とある場所に来ていた。最も因縁深く、最も重要な人のいる場所に。

巧は一息入れてから、その店の扉を開ける。

 

「いらっしゃいませ」

 

巧が店内に入ると、ベテランの風格を感じさせる女性店員が接客に応じる。

 

「本日ご予約のお客様ですか?」

 

店員の質問に対して、巧は別件で来たことを伝える。

 

「ここで働いている園田っていう店員に会いたいんだが・・・」

 

それを聞いた店員は「少々お待ちください」と言って、店の奥に下がっていった。そして、しばらくするとその人物が巧の前に現れた。

 

「やっぱり、巧だったんだ!」

 

「あぁ、久しぶり・・・真理」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、コーヒー」

 

近くの公園に場所を変え、ベンチに腰掛ける巧と真理。途中、自動販売機で買った飲み物を手渡される。

 

「あぁ・・・って、これホットじゃねぇか!嫌がらせかよ!?」

 

巧の変わらない反応に思わず吹き出してしまう真理。せっかく女性らしくなったと思ったのも束の間、中身の方は変わりないようだ。流石にそれは冗談として、もう一本の冷たいお茶と交換する事でその場を収拾させる。

 

「もう二年になるんだ・・・巧は今何やってるの?」

 

巧はどう答えていいものかを考える。またファイズになったなどと言おうものなら、真理の性格を知っている巧にはどうなるかぐらいは分かっていた。

真理は夢を実現させている。ようやく掴み取った夢を自分たちの事情で手放して欲しくはないのが実情だ。

それ故、巧の答えは決まっていた。

 

「今は、静岡でクリーニング事業の展開を啓太郎とってところだな。それより・・・お前、三原と連絡取れないか?」

 

巧は本題である三原の所在を確認する。先ほどのデルタが三原でないことは分かっていたが、現に今も連絡が取れないのだ。

 

「三原くん?最近はあんまり連絡取ってないから分からないけど・・・あとで里奈に聞いてみようか?」

 

「あぁ、頼む。なんか分かったら連絡してくれ・・・じゃあ、行くな」

 

巧はそれだけを頼み、腰掛けていたベンチから立ち上がる。時間が経ったおかげで普通に歩けるようになり、つい先ほどまで覚束ない足取りだったことなんか微塵も感じさせなくなっていた。

 

「巧!」

 

急に真理に呼び止められる。巧は振り返って真理を見据える。

 

「頑張って!私も、頑張るから」

 

思ってもいなかった真理の激励の言葉を受けた巧だったが、自然と笑みがこぼれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の朝、千歌たちは地域で恒例の海開きのため近くの砂浜に集まっていた。早朝にもかかわらず、浦の星女学院の生徒だけでなく近隣住民から全てが集合していた。

 

「・・・これなんじゃないかな?この街や、学校の良いところって」

 

初めてその様子を見た梨子がポツリとそう呟いた。それを聞いた千歌が何かを思い出したように、近くの高台に登って宣言した。

 

「あのー!みなさん!私達、浦の星女学院でスクールアイドルをやっているApoursです!!学校を残すために・・・生徒を沢山集めるために・・・皆さんに協力をしてほしいことがあります!」

 

千歌の宣言を聞いていた内浦の住民たちの視線が一点に集中する。そんな中でも千歌には昨日のダイヤの言葉がずっと頭の中で渦巻いていた。

 

(残念ですけど・・・ただ、あなた達のその気持ちは嬉しく思いますわ)

 

ダイヤのあのもの哀しそうな目を見た時からずっと考えていた。自分たちだけではどうしても限界がある。しかし、梨子の言葉でようやく気がついた。この町はこんなにもたくさんの人の温かさで溢れていることに。直接でなくてもいい、みんなで少しずつ力を合わせて作り上げたものだからこそ価値があることを。

 

「みんなの気持ちを形にするために!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クッ・・・アハハハハハ!!よくもまぁくだらない事言ってんなぁ!」

 

突如としてその場に不穏な空気が流れる。明らかに浮いている男たちの発言を取り消すように求める。

 

「な、何ですか!?くだらなくなんかありません!取り消して下さい!」

 

千歌が抗議の言葉を上げたが、それに対する男たちの返答は意外なものだった。

 

「取り消すわけないでしょ・・・だって君達は死ぬんだから」

 

そう言って、男たちはその身をオルフェノクに変化させた。

サボテンの特質を備えた“カクタスオルフェノク”とフクロウの特質を備えた“オウルオルフェノク”だ。

 

「さぁて、何人死ぬかな?」

 

オルフェノクの姿を見た途端、浜辺に集まっていた人々が逃げ惑う。うごめく人の波に押され、Aqoursはもちろん集まった人々すらまともに逃げられない状況だった。

状況は絶望的と思われた最中、オルフェノクに抵抗するものが現れた。

 

「ハアアッ!!」

 

突然、背後からオルフェノクを蹴り飛ばす男が現れたのだ。千歌がその人物の顔を確認した瞬間、その名を叫んだ。

 

「巧くん!!」

 

オルフェノクを退けた人物はやはり巧だった。Aqoursの存在に気づいた巧は、安否を確認する。

 

「お前ら・・・何やってんだ!?早く逃げろ!」

 

巧の問いかけに対して、梨子が答える。

 

「駄目なんです!私たち、やる事があるんです!それには町のみなさんの力が必要なんです!」

 

よく見ると、千歌たちよりも奥に逃げ惑う人々がいる事に気づいた。巧はこの状況を打開するにはオルフェノクを倒すほかないことを痛感させられる。

 

「んなこと言ったって・・・ベルトだベルト!!」

 

尚も向かってくるオルフェノクに素手で立ち向かう巧。しかし、二体のオルフェノクによる攻撃に耐えきれず、体ごと地面に強く叩きつけられる。

 

「誰だか知らないけど、お前から殺してやるよ」

 

「恨まないでよね」

 

カクタスオルフェノクとオウルオルフェノクが巧ににじり寄る。

しかし、ここでようやく待っていたものが巧の手に。

 

「乾くん!」

 

背後からかけられた木場の声に振り向くと、少し遅れてカイザギアが投げ渡された。

 

「待ってたぜ・・・木場!」

 

巧はそれを掴み取り、装着してすぐさまカイザフォンに変身コードを入力する。

 

“9・1・3 Enter Standing By"

 

カイザフォンを閉じて天高く掲げ、流れる動作でバックルに装填した。

 

「変身ッ!!」

 

“Complete”

 

音声と同時に黄色いラインが全身に伸びていき、黄色い閃光が薄暗い浜辺を強く照らす。

光が止んだのと同時に、カイザへの変身が完了する。

巧は攻撃を受けた箇所に手を当てながら、憮然とした様子で自分を鼓舞する。

 

「いってぇな・・・だが、やっと本調子になれたぜ。今度はこっちの番だ!」

 

カイザは軽く手首をスナップさせると、オルフェノクに向かって走り出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダァアア!遅刻だ遅刻!なんで木場の奴起こしてくれねぇんだよ・・・んあ?」

 

その頃、海堂は砂浜から少し離れた道を走っていた。あの後巧の計らいで二人は再会し、過去のことは水に流すことで和解して、今もまた同じ屋根の下で住んでいるのだ。

人間を守るという信念は変わらずに。

 

「やぁ・・・久しぶり。薄汚いオルフェノク君」

 

この男が現れたことで事態は一変することとなる。

 

 




Open your eyes for the next φ’s

「なんかさ・・・このままいったら、ラブライブ優勝できちゃうかも」

「Aqoursの皆さん・・・東京スクールアイドルワールド運営委員会・・・って書いてあります」

「私達の乗り越えられなかった壁を、乗り越えてくれることを」

「彼女たちを守れるのは、君だけじゃないんだよ・・・変身ッ!!」

第18話 暗躍する狂気


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第18話 暗躍する狂気

どうも、自由の魔弾です。
CSMホッパーゼクターが来ましたが、私はスルーさせていただきます。
それよか、映画に注目ですね。北岡弁護士の復活が個人的にツボです!
ゴライダーにて劇中で死んだライダー復活も気になりますが、見られないのが悲しいです。
今月は楽しみと悲しみがWで襲って来て、鬱になりそうです・・・。


「皆さん!!落ち着いて下さい!私たちはさっきも言ったとおり、Aqoursとして精一杯頑張ります!」

 

「ですが、その為にはどうしても皆さんの協力が必要なんです!」

 

「私たちの学校を、この町を守る為に!」

 

巧がオルフェノク達と交戦している隙に、千歌たちは不安と恐怖に怯えている町の人々に協力を仰ぐよう声を上げる。しかし、容易には承諾してもらえないのが現実だった。

 

『あんな怪物がいるなんて聞いてねぇよ!!』

 

『噂じゃ怪物の狙いはあんたらだそうじゃないか!』

 

『私たちに身代わりにでもなれって言うの!?』

 

『あんたらに関わってたら、命がいくつあっても足りねぇよ!』

 

町の人々が口々に千歌たちを責め立てるように言葉を続けた。もちろん本心で言っているのだろう。オルフェノクへの恐怖心から今まで塞ぎ込んでいた不安と恐怖をぶつけているのだ。Aqoursが悪くないことは分かっているものの、人間とはいつの時代も誰かに責任を押し付けずにはいられない生物なのかもしれない。愚かとは分かっていても、そうすることでしか自らの恐怖心を抑えられなかった。

 

「そ、そんなこと・・・」

 

尚も続く町の人々の訴えに、何も言い返す事が出来ないAqours。次第にその追及は激しくなり、千歌たちを精神的に追い込んでいく。一瞬でも繋がったと思った絆なだけに、この状況は千歌たちに相当なダメージを与えていた。

 

(みんなの気持ちが分かる・・・。ものすごく不安で、ものすごく怖いって。でも、諦めないって決めたから!最後までやるって決めたから・・・だから!!)

 

千歌は深く息を吸い込み、一気に想いと共に言葉を吐きだした。

 

「それでも、やるって決めたんだからァアアアアアッ!!!」

 

千歌の叫びが早朝の砂浜に木霊した。突然の行動に町の人々は何事かと思い、その矛先である千歌に注目する。

 

「私たちは絶対に諦めません!どんなに険しい道だって進んでいきます!それが・・・私たちが歩く道だから」

 

大勢の人々の前で物怖じせずにそう宣言した千歌。その姿を見たAqoursのメンバーは強き意志に突き動かされたように、静かに千歌の隣に並び立った。お互いにその手を繋ぎながら。

 

「みんな・・・?」

 

驚いた様子で目を丸くしている千歌に、梨子が代表してその想いを伝える。

 

「千歌ちゃんが諦めないって言ったから。だから、みんなで・・・でしょ?」

 

横並びに繋がれた手が想いの強さを物語っていた。梨子の言葉に、Aqoursの絆に思わず涙ぐむ千歌だったが、堪えて再びAqoursとしてその想いを町の人々に伝えた。

 

「私たち、輝きたいんです!!皆さんの笑顔を取り戻せるように私たちに協力して下さい!」

 

千歌はそこで一旦言葉を止めて梨子たちと顔を見合わせた後、深々と頭を下げた。

 

『お願いします!!』

 

間に合わせの姿勢なんかじゃない。そこには確かに誠意があったのだ。こんな状況ですら気持ちのこもった彼女たちの姿勢に町の人々が黙るのは時間の問題だった。しかし、完璧に納得させるにはあともう一押し、決定的な後押しさえあれば。

千歌たちがそう考えていた時、思わぬところから援護が入った。

 

「bravo!いい気迫じゃないの!これがまさに“ヤマトダマシー”ってわけね?」

 

千歌たちに向けて拍手を送っていたのは鞠莉だった。人目も気にせずに尚も賞賛の声を上げる鞠莉を取り押さえるようにダイヤが口を封じる。

 

「ち、ちょっと鞠莉さん!?こんな状況で何言ってますの!?」

 

「んー!んん!」

 

ダイヤに羽交い締めにされても尚、ジタバタジタバタと釣り上げられた魚のように激しく動き回る鞠莉。ルビィが鞠莉が何かを伝えたい事に気がついたらしく、ダイヤに拘束を解くよう説得する。

 

「お、お姉ちゃん・・・何か言いたいみたいだよ?自由にしてあげたいなぁ・・・?」

 

「えぇ?まぁ、ルビィがそう言うなら仕方ありませんわね!」

 

流石のダイヤも最愛の妹の頼みとあれば断ることなど出来るわけもなく、鞠莉を即刻解放した。

 

「ダイヤったら心配し過ぎ。私は千歌っちたちを応援するって言ったでしょ?」

 

「鞠莉さん・・・」

 

鞠莉の言葉にAqoursを含む町の人々は黙って聞いている。Aqoursを激しく責めていた町の人々の声が無くなるほどに。

 

「本当は千歌っちたちだって怖いに決まってる。けれど、負けないって頑張ろうとしてるんだもん。私たち大人が応援してあげないでどうするの!」

 

鞠莉が町の人々に向けて訴えかける。その心はオルフェノクに負けないという決意が籠っていた。

 

「鞠莉さん・・・ありがとうございます!皆さんもどうか、よろしくお願いします!!」

 

再び深々と礼をするAqours。同じ言葉、行動でも鞠莉の説得もあって先ほどとは全く重みが違った。

確固たる意志が籠ったその姿に、町の人々の心が動かされるのに時間はかからなかった。

 

『そうだよ、俺たち大人が逃げててどうする!』

 

『怖いのはこの子たちも一緒のはずよね』

 

『こんなに若い子たちばかりに背負わせるわけには行かねぇな!』

 

町の人々から口々に声援が湧き上がる。先ほどまでの不安と恐怖は完全に消え去り、今度こそ確実にAqoursと町の人々は繋がったのだ。

Aqoursは町の人々に感謝すると同時に、鞠莉の心の強さを改めて痛感させられる。自分たちではまとめられなかった町の人々の心を、いとも簡単に同調させ結束させたのだ。この町の魅力を知っている鞠莉だからこそ出来たことかもしれない。

 

「鞠莉さん、あなたどういうつもりですの?」

 

町の人々がやる気に満ち溢れているのとは他所に、ダイヤが鞠莉の行動の真意を問う。鞠莉がこうまでしてAqoursを助ける理由が知りたいのだ。

 

「ダイヤも信じているんでしょ?私達の乗り越えられなかった壁を、乗り越えてくれることを」

 

鞠莉に心中を言い当てられ、思わずたじろぐダイヤ。

 

「避けるわけにはいかないの。本気でスクールアイドルとして学校を救おうと考えているなら。ならせめて私たちと同じ場所まではいかないと、ね?」

 

鞠莉はそれだけを言い残して、町の人々と共に千歌たちの手伝いに向かってしまった。やはりと言ってはなんだが、鞠莉もまだ諦めていないということなんだろう。以前、巧ならAqoursを輝かせることが出来ると言っていた。巧の存在を見出したから、鞠莉にも希望が残っているというのか。

 

「まぁ、考えていても仕方ありませんわね。私も今は出来ることを・・・」

 

ダイヤは考えることをやめ、鞠莉の後を追うのだった。その途中でもう一人の幼馴染を見かけたが、あまりいい顔をしていなかったように見えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Aqoursと町の人々が結束したのと同じ頃、カイザは尚も二体のオルフェノクと交戦していた。しかし、オルフェノクに対して優勢なのはカイザの方だった。

 

「うぐッ!何故だ!?お前の身体は既に限界を迎えているはず・・・」

 

二体の内の一体、オウルオルフェノクが驚いた様子でそう呟く。カイザはカクタスオルフェノクを殴り飛ばして、ベルト右側に携帯されているカイザブレイガンを取り出す。

 

「そんな事、俺が知るか!!」

 

カイザはミッションメモリーをセットし、遠くのオウルオルフェノクに容赦なく斬りかかる。迷いのないその太刀筋は以前のようなどこか弱々しいものとは違った。その威力は一太刀ごとに強くなり、やがてオウルオルフェノクを斬り飛ばした。

 

「ウアァアアッ!!?」

 

斬撃の威力に耐えきれず地面にひれ伏すオウルオルフェノクに、トドメの一撃を喰らわせる。

 

“Exceed charge”

 

ベルトからカイザブレイガンにフォトンブラッドが供給される。その全てが供給されると同時にコッキングレバーを引き、オルフェノク目掛けて放った。銃口から放たれたフォトンブラッド光弾がオウルオルフェノクに直撃し、動きを拘束するように展開した。

 

「ハアッ!!ダァ!」

 

カイザはオウルオルフェノクの懐まで接近して上から一閃、更に横からもう一閃を喰らわせた。

 

「ウゥ!?うぅああ・・・」

 

その攻撃を受けた瞬間、オウルオルフェノクはΧのマークを浮かべ蒼炎をあげた後、その場で灰となって崩れ去った。

カイザは続けて残っているカクタスオルフェノクに視線を移す。

 

「ひ、ヒィ!?ま、待ってくれ!!分かった、もう人間を襲ったりしない!だから、殺さないでくれ!!」

 

すると、カクタスオルフェノクはカイザに命乞いを始めた。味方のオルフェノクが死んだ以上、自分に勝ち目がないと見限ったのだろうか。

 

「乾くん・・・」

 

近くでその様子を見ていた木場も、その光景に困り果てていた。経験上、自分たちに良かった試しがなかったからだ。しかし、巧がどんな決断を下すかなど共に戦いあった木場には既に分かりきっていた。

 

「・・・分かった。行けよ」

 

巧の決断は“許す”だった。オルフェノクと人間の共存を掲げる者としては当然だと言える。

 

「乾くん、良かった・・・」

 

木場がそう呟いた時、近くから別の声が聞こえてきた。

 

「やはり、奴は甘いな・・・そうやってオルフェノクに肩入れするから、利用されるんだよ・・・」

 

木場は声の主を見て、思わず息を飲んだ。

 

「き、君は・・・!?」

 

木場が驚くのを他所に、声の主は手に持っていたケースからベルトを取り出し装着する。

 

「ま、それでもいいけどね。君はずっとそうして中途半端をしているといい」

 

声の主はそう言いながら変身コードを入力する。

 

“5・5・5 Enter Standing by”

 

「ただ・・・彼女たちを守れるのは、君だけじゃないんだよ・・・変身ッ!!」

 

変身待機音が鳴り響く中で、バックルに持っていた携帯を斜めに装填した。

 

“Complete”

 

声の主はその姿を変え、カイザとオルフェノクのもとへ跳躍する。

 

「ハアッ!」

 

無事に降り立つと、いきなりオルフェノクに蹴りを入れ攻撃を始めた。

 

「ガァッ!?」

 

蹴り飛ばされたオルフェノクに尚も追撃をしようと近づくファイズ。突然の登場に驚きながらも、カイザはオルフェノクを助けるためファイズに掴みかかった。

 

「おい、やめろ!そいつに戦う意思はない!!」

 

ファイズの動きを拘束しようと後ろから掴みかかったカイザ。しかし、それ以上にファイズの力は凄まじかった。

 

「邪魔をするなッ!!」

 

ファイズは拘束を解くと、振り向きざまにカイザを殴り飛ばした。

 

「ガァッ!?お、お前は・・・」

 

拘束が解けたファイズは再びカクタスオルフェノクに攻撃を始めた。抵抗出来ないオルフェノクに容赦なく殴り、蹴りを入れていく。その姿は正しく悪魔そのものだった。

 

「これで、終わりだ」

 

ファイズはベルトからファイズフォンを取り出して、新たにコードを入力する。

 

“1・0・6 Enter Burst mode”

 

二つ折り型のファイズフォンを小型の光弾銃変形させた。そして、カクタスオルフェノク目掛けてその銃弾を浴びせた。

 

「ウグッ・・・アアアアッ!!?」

 

一度に三発ものフォトンブラッド光弾を連続で受けたカクタスオルフェノクは、無残にもその場で灰となってしまった。尚もトリガーを引いているファイズだったが、ファイズフォンからこれ以上弾が出ることはなかった。

 

「チッ・・・弾切れか」

 

ファイズは諦めたようにまた新たにコードを入力する。

 

“5・8・2・1 Enter Auto Vajin Come closer”

 

再びファイズフォンをセットすると、不意にカイザと視線が交差する。お互いに特に何かを言うわけでもなく、ファイズは呼び出された専用ビークル“SB-555 V オートバジン”に飛び乗って何処かへ走り去ってしまった。

 

「あいつは・・・」

 

巧はカイザへの変身を解いて、ファイズが走り去った方向を見つめていた。今まで行方不明だったファイズ、オートバジン、オルフェノクの謎はますます深まるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?この前のPVが5万再生!?」

 

数日後、Aqoursは自分たちの作ったPVが話題になっていることを知った。

 

「ランキングも・・・99位!?上昇率では1位!!」

 

予想外の出来事に驚くAqours。それもそのはずだろう。つい先日までほぼ無名に等しいアイドルグループが、全国の5000以上いるスクールアイドルの中で100位以内に入ったのだから。

 

「町の人たちにも協力してもらったし、乾さんにも花火打ちあげて貰えたし、順調だね!」

 

「なんかさ・・・このままいったら、ラブライブ優勝できちゃうかも」

 

(ミサイルなんか打ち上げても、良かったのかな?)

 

曜と千歌が嬉しそうにそう言っている横で、梨子が内心心配していた。その場の流れで決まったものの、やはりその後のことが気になって仕方がないのが常識人の性だ。

 

「あれ?なんかメールを受信しましたよ?」

 

パソコンを操作していたルビィのもとにメールが送信された。

 

「Aqoursの皆さん・・・東京スクールアイドルワールド運営委員会・・・って書いてあります」

 

一瞬、Aqoursの中に沈黙が襲う。そして、次の瞬間にはその沈黙は爆発していた。

 

『・・・東京だぁー!!』

 

 




Open your eyes for the next φ’s

「だったら、誰がどう思おうが関係ありません・・・でしょ?」

「俺も行く。お前らとな」

「これが、μ'sがいつも練習していたって階段・・・」

「あなた達が乾さんを・・・許しません!!」

第19話 約束の地・東京


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第19話 約束の地・東京

自由の魔弾です。最近、ラブライブと仮面ライダーのクロス小説が増えて来ましたね。
嬉しい反面、負けてられませんと気持ちを強く持ちたいと思います。
というわけで、ご感想をこれでもかというくらいお待ちしております!
フリじゃないですよ!


「東京?」

 

Aqoursが東京スクールアイドルワールド運営委員会に招待されたその日の夜、黒澤宅でもその吉報は届いていた。ルビィが東京行きの了承を得るために姉のダイヤに話したのだ。

 

「イベントで、一緒に歌いませんかって・・・やっぱり、駄目?」

 

ルビィは尚も黙っているダイヤの返答を待つ。長期戦が予想されたが、意外にもその沈黙も数瞬で破られた。

 

「ルビィが自分で決めた事です。だったら、誰がどう思おうが関係ありません・・・でしょ?ただし、行く以上は気を抜かず!ですわよ?」

 

ダイヤの言葉を聞いた途端、パアァ!というように笑みを浮かべたルビィ。こうも簡単に許可を得られるとは、一体誰が予想できたのか?

ルビィの笑みを見たダイヤは静かにその場から離れようとする。

 

「ありがとう!お姉ちゃん!あぁ・・・みんなでお泊まりかぁ。どんな格好するのかな・・・巧お兄ちゃん」

 

ピクッという音を立て、その場で硬直するダイヤ。次の瞬間には何も言わずにルビィの顔から数センチの所まで歩み寄っていた。

 

「ルビィ。“巧お兄ちゃん”とはどういう意味か説明してもらいましょうか?」

 

その表情は至って真剣、舐めたら危険。隙を見せたら明日は無いぜ!と言ったところか。

 

「えぇ!?い、いや・・・巧お兄ちゃんにも来てもらう!って千歌ちゃんが。何か不味かったかな?」

 

どうやら本気で分かっていない様子のルビィに、思わず頭を抱えるダイヤ。やがて、その全貌を説明し始めた。

 

「ルビィ・・・年頃の男女が一つ屋根の下で過ごすというのは、どういう事か分かっていますか?」

 

「えっと、Aqoursのみんなや巧お兄ちゃんと一緒で・・・楽しい?」

 

ルビィはふと思った気持ちを吐露する。確かな答えがあるわけでは無く、何となくのイメージで語る。

 

「はぁ・・・まぁ他の男性ならともかく、乾さんでしたら問題ないはず・・・今の話は忘れて結構ですわ」

 

ダイヤは何か諦めたようにそれ以上語る事なく、その場を立ち去っていった。

 

「お姉ちゃん・・・結局、何が言いたかったんだろ?」

 

ルビィの問いかけに答えるものはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は経ち、東京行き当日の朝。駅に集まりいざ東京へ出発するAqoursのメンバー。しかし、そこに巧の姿はなかった。途中、東京行きの電車内でその話題が持ち上がることは当然だった。

 

「そういえば千歌ちゃん、今更なんだけど乾さんは?」

 

曜に聞かれた千歌はどういうわけが難しい顔をしながら答えた。

 

「うーん、何か用事ができたから先に東京行ったみたいだよね・・・。遅くても夜には合流するから、それまで好きにしてろーって言ってたよ」

 

その話題に乗っかったのは曜だけではなく、一年生組も興味津々といった様子だ。

 

「東京に着いたら、まず何をしようか?」

 

曜が何気なくそう聞いた。最初に食いついたのは善子だった。

 

「そりゃあもちろん、最新の堕天使グッズを買いまくる!!情報の最先端を行く東京ならではのグッズが・・・エヘヘッ」

 

どうやら東京で見つけた堕天使グッズを身につけた姿を妄想しているようで、一人で恍惚な笑みを浮かべる善子。そんな善子を他所に話はどんどん進んで行く。

 

「私は東京の美味しい食べ物をいっぱい食べたいずら!それまではこののっぽパンで我慢するずら!」

 

そう言いながら花丸に吸い込まれていくのっぽパン。妄想から抜け出した善子が残りののっぽパンの数に気がついて、花丸を止める。

 

「ちょっとずら丸!一人で食べ過ぎよ!」

 

「のっぽパンは静岡県民のソウルフードずら!いくら善子ちゃんでも、これだけは譲れないずら!」

 

「私も静岡県民だから!堕天使だけどね!いいからもう食べるのやめなさいよ!」

 

「ずらずらずらずらずら!」

 

車内で必死の攻防が繰り広げられる。のっぽパンが入った最後の袋を互いに引っ張り合って。

流石に他の乗客の迷惑になりかねないので、曜が止めに入る。

その横で千歌とルビィが話を続ける。

 

「ルビィは、スクールアイドルのグッズがあるお店を周りたいです!」

 

「あ、それいいね〜!μ'sのグッズ、たくさんあるんだろうなぁ〜」

 

二人の脳内がμ'sで満たされるのに時間はかからなかった。自然と満足気な笑みがこぼれる。

 

「エヘヘッ♪」

 

「ウフフッ♪」

 

そんな中、千歌は一人ずっと窓の外を眺めている梨子に気がついた。どこか思い詰めた表情をしている梨子を心配して声をかけた。

 

「梨子ちゃん、どうしたの?」

 

「千歌ちゃん・・・いやほら、今回は町の人たちや乾さんとかスカイランタンもないでしょ?それで少し緊張してるだけ」

 

「そっか・・・でも、大丈夫だよ!私たちがちゃんと気持ちを伝えれば!」

 

「・・・そうだね。ごめん、ちょっと弱気になってたかも」

 

それを聞いた千歌は満足そうに自分の席に戻っていった。この時はまだ梨子の心の蟠りに気づくことはできなかった千歌たちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Aqoursが東京に到着したのと同じ頃、一足先に東京に赴いた巧は、とあるカフェに来ていた。以前から約束をしていた人物と会うためである。

しばらく待っていると、漸く目的の人物が現れた。

 

「乾さん、お久しぶりです」

 

「あぁ、悪いな。いきなり押しかけるみたいな真似して」

 

その人物とはかつて巧たちと共にオルフェノクと戦った仲間の阿部里奈だった。巧は里奈にここへ来た目的を話す。

 

「あんたに来てもらったのは他でもない。すぐにでも三原の居場所が知りたい」

 

巧の言葉を受けても里奈は黙っている。その様子を変に思った巧だったが、先に里奈が口を開いた。

 

「実は・・・三原くんが消えてしまったんです!」

 

切実に切り出されたその言葉は、今までの疑問を裏付けるのには十分すぎるものだった。

 

「ちょうど今から三週間ほど前のことです。突然、創才児童園のアルバイトのシフトを変わってくれと連絡があったんです。その時は用事があるからって言われたんですけど・・・まさか居なくなってしまうなんて」

 

そう言って俯く里奈。今の話から、三原と連絡を取った人物は巧という事になることを意味していた。

 

「それともう一つ、見てもらいたいものがあるんです」

 

そう言って里奈はバッグから数枚の写真を巧に見せる。そこに写っているものを見た巧は、驚愕の事実を知る事となった。

 

「これは・・・デルタ!?おい、どういう事だ?」

 

写っていたのはオルフェノクと戦うデルタの姿だった。しかし、それ以上に危惧するべきことがあった。

 

「乾さん、気がつきませんか?この写真が撮られた場所はそれぞれなのに、ほぼ同じ時間に撮られたものなんです」

 

そう、これら全ての写真に収められたデルタが撮られた時間。それら全てがせいぜい二分程度の差で、さらにその時間では往復が不可能な距離で撮影されたのだ。この事実から、巧は一つの結論に辿り着く。

 

「つまり、デルタが何人もいるってことか?」

 

巧の問いかけに里奈は静かに頷いた。

 

「以前、照夫くんを護衛していたスマートブレインの兵士を覚えていますか?恐らく、それと同じなんだと思います」

 

里奈の言葉を受けて、巧は改めて事態の深刻さを理解した。

 

「デルタが量産されてるって事かよ・・・マジか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが、μ'sがいつも練習していたって階段・・・」

 

だいぶ日も落ちてきた頃、Aqoursは神田明神を訪れていた。自分たちの偉大な先輩であるμ'sが、かつてそこにいたのだ。彼女たちを目指す者ならば、一度は訪れる謂わば聖地だ。

Aqoursが名物の階段を登りきったその時、透き通るような歌声が聞こえてきた。先客がいたようだ。

 

「あら、あなた達、もしかしてAqoursの皆さん?PV、とても素晴らしかったです」

 

歌っていた少女の内の一人がAqoursの存在に気づいて、話しかけてきた。

 

「もしかして、明日のイベントでいらしたんですか?」

 

「え、はい・・・」

 

それを聞いた少女は一瞬黙り込んだが、すぐに何事もなく話し始めた。

 

「そうですか。楽しみにしてます」

 

少女たちが千歌たちの横を通り過ぎる。しかし、そこに現れたのは彼女たちだけではなかった。

 

「ウェアアアッ!!」

 

「・・・ッ!?」

 

突然、何処からかオルフェノクが現れ、少女たちに襲いかかった。少女たちは寸での所で何とか回避して、オルフェノクと対峙する。

 

「オルフェノク!?乾さんを呼ばないと・・・でも、私たちじゃない?」

 

梨子が冷静に分析していたが、少女たちを見捨てることはできず、急いで巧を呼び出す。

 

「乾さん!すぐに来てください!オルフェノクが!」

 

何とか巧を呼び出したが、オルフェノクはAqoursに向かってくることはなく、少女たちを執拗に狙っていた。

 

「またあなたですか!」

 

「ちょっと、ヤバイかも・・・」

 

少女たちがオルフェノクの攻撃を何とか回避していたが、一人がオルフェノクに捕まってしまう。

首を掴まれ、体ごと掴み上げられる。

 

「クッ・・・!!」

 

「理亞ッ!」

 

オルフェノクに捕まった少女を助けようと挑んだが、少女と同様に掴み上げられて拘束されてしまった。

 

「グゥ・・・!」

 

締め上げられる痛みに苦悶の表情を見せる少女たち。絶体絶命のピンチと思われたその時、何者かがオルフェノクに飛び蹴りを喰らわせた。

 

「ハッ!」

 

「グゥアアッ!!」

 

完全にガラ空きだったオルフェノクを背中から蹴り飛ばしたの謎の人物。Aqoursはその姿を見た途端、衝撃を受けた。

 

「巧くん・・・じゃない?」

 

そこに居たのは、巧が変身する姿と非常によく似た戦士だった。カイザとは違って全身が白いラインに包まれていて、ベルトの横に銃が携帯されていることくらいしか差異はないだろうか。

 

「あなた達、早くその子たちを避難させて」

 

謎の戦士がAqoursに少女たちの避難を指示する。声からして女性のようだ。その凜とした声に一瞬心を奪われかけたが、指示の通りに少女たちを移動させた。

 

「何だお前は?奴らは俺の獲物だ!」

 

オルフェノクは戦士目掛けて走り出す。戦士に掴みかかったが、軽くいなされて逆に投げ飛ばされた。

戦士はベルト横の銃を取り出して、ドライバーにセットされているミッションメモリーを差し込んだ。

 

“Ready”

 

音声と共に銃身が伸び、必殺技の体勢に入る。阻止しようとオルフェノクが向かってくるが、容赦なく殴り飛ばしてオルフェノクを吹き飛ばす。

 

「・・・Check!」

 

“Exceed charge”

 

戦士が音声入力をすると、ベルトからフォトンブラッドが出力されて、持っていた銃に伝わる。そして、次の瞬間には銃から発射されたポインティングマーカー光がオルフェノクを捉えて、三角錐状に展開して動きを拘束する。

 

「ハァッ!!」

 

天高く跳んだ戦士はオルフェノク目掛けて急降下キックを炸裂させる。同時に三角錐型のポインティングマーカーもドリルのように回転し猛毒として体内に侵入する。

次の瞬間、姿を現した戦士の背後には紅い炎を上げ、その場で灰になったオルフェノクの姿があった。

 

「お前ら!オルフェノクはどうした!?」

 

少し遅れてカイザが階段を登って辿り着いた。Aqoursの無事を確認して安心したのも束の間、すぐに視線をもう一人の戦士に移した。

 

「デルタ・・・スマートブレインの手先か?」

 

デルタと呼ばれた戦士はその質問に答えることはなく、どこかへ飛び去ってしまった。周りに危険がないことを確認した上で、巧はカイザの変身を解いた。

 

「巧くん!」

 

千歌たちが巧に歩み寄る。今回ばかりは不安しかなかったことは巧だけが知っている。皮肉にもデルタに助けられた形になっているからだ。

 

「乾さん、もしかしてさっきの知ってるんですか?」

 

曜は巧が何かを知ってると勘付いて、質問する。隠すような事でもないが、今はそれよりも先にやる事があった。

 

「まぁな。それより・・・おい、あんたら!怪我はしてないか?」

 

巧は少女たちの側に歩み寄る。軽く見たところ、どこかに酷い怪我はしていないようだ。

 

「お気遣い感謝します。見ての通り、私たちは大丈夫ですので・・・理亞?」

 

怪我の容態を確認していると、理亞と呼ばれた少女が何かを見つめている事に気づいた。その視線の先にあるものとは?

 

「お、おい・・・何なんだよ」

 

どうやら理亞という少女は巧を見つめているらしい。どういう訳か分からず困惑する巧に対して、もう一人の少女は何かに気づいたようだ。

 

「・・・フフッ、どうやら理亞はあなたの事が気にいったみたいですね。私は鹿角聖良、こっちは妹の理亞です。あなたとはもしかしたら長い付き合いになるかもしれませんね」

 

「はぁ?だから、どういう意味だ・・・?」

 

聖良の言葉にさらに困惑する巧だったが、それより先に鹿角姉妹は別れの挨拶をして立ち去ってしまった。

 

「一体何だってんだ・・・まぁ、いいか。おい!お前らはこれからどうするんだ?」

 

巧は再び千歌たちのもとに集まり、今後の予定を聞き出す。早朝から出ていた為にAqoursの予定を何一つ知らないのだ。

 

「とりあえず、このまま旅館に行こうと思いますけど。乾さんもそれでいいですか?」

 

予定を管理していた曜に聞かれ、快諾する巧。

 

「あぁ、俺も行く。お前らとな」

 

こうして巧たちは予定の通りに旅館へと向かうのだった。

背後からその姿を狙われているとも知らずに。

 

「Aqours、覚えましたよ。あなた達が乾さんを・・・許しません!!」

 

 

 




Open your eyes for the next φ’s

「まるのバックトゥザぴよこ万十~!!」

「期待されるって、どういう気持なんだろうね・・・」

「俺はここで見てる。行ってこい」

「今、全力で輝こう!」

第20話 夢、儚く散るとき


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第20話 夢、儚く散るとき

ご無沙汰しています、自由の魔弾です。
前回の更新から時間が空いてしまい申し訳ございません!先月の下旬からいよいよ仕事が始まりまして、中々更新が出来ずにいました。今後もこのようなことが多々あると思いますが、何卒よろしくお願いします!
さて、ここからは雑談を。
まずはエグゼイド関連です。変態社長念願の仮面ライダークロニクルが完成し、いよいよエグゼイドも折り返しかなぁと思う私ですが、ゴライダー然り仮面ライダーレーザー然りまだまだ盛り上がりを見せてくれると期待しています!
もう一つはアマゾンズ関連です。いよいよシーズン2が始まり、嬉しい悲鳴をあげ続けている日々でございます。ベルトもまさかのCSM仕様となっており、比較的良心的なバンダイさん。前回もそうしてくれよ〜と思うのは私だけではないはずです。
まぁまぁ近況報告はこんな感じですかね。もう少しで初給料がもらえるので、迷わずに溶かしてやろうと思います。引き続き、ご意見ご感想お待ちしております!ではでは〜!


「それで、旅館って何処なんだ?」

 

Aqoursと合流して行動を共にしている巧が改めてその詳細を問いかける。その質問に唯一の常識人である梨子が答えた。

 

「はい、えっと鳳明館っていう旅館みたいです。多分、もうそろそろのはずですけど・・・あ!」

 

説明をしていた梨子が、視線の先に目的地の旅館が見えて来た事に気がついた。千歌と一年生組が我先にと走り出し、その後を巧たちが追いかける。

 

「えぇー!?ちょっとどういう事ですか!」

 

少し遅れて到着した巧たちの前で、千歌たちが何やら旅館の女将と言い争っていた。状況がイマイチ掴めていない巧たちが、詳しく聞く事に。

 

「おい、いったい何だってんだ?」

 

「今予約を確認してもらったんだけど、巧くんだけ予約人数に入ってないって!」

 

巧は状況を理解すると、あまりの事の小ささに安堵する。若さ故なのか、物事を事実以上に表現してしまうきらいがあるようだ。

 

「んだよ、良いじゃねぇか別に。元々男が同室ってのも、落ち着かないだろうしな。お前らは先に休んでろよ。ほら」

 

巧は無理矢理にでも千歌たちを押し出し、部屋に行くよう促す。大きな舞台を明日に控えている彼女たちを、自分の都合に巻き込みたくなかったのだ。

その様子を見ていた女将が、微笑ましそうな笑みを浮かべて巧に話しかけた。

 

「お優しいのですね。もしかして彼女さんですか?」

 

唐突の言葉に思わずたじろぐ巧。この女将、高海姉妹と同じ匂いを感じる。

 

「そんなんじゃねぇよ。それより、俺の部屋はどうすればいい?」

 

「その事なんですけど、実は先ほどの方々には言い忘れてしまいまして、お客様のご予約は別の方が先になさっていまして、既に部屋は確保してあるのです。部屋までご案内いたします」

 

女将の言葉に困惑する巧。わけもわからないまま、女将に部屋まで案内される。千歌たちとは反対の方向にひたすら進んで行く女将の後を静かについて行く巧。

やがて、女将と巧はVIPと記された部屋の前で足を止めた。

 

「乾様の部屋はこちらになります。乾様のご予約をとられた方と同室になりますので、“何卒ご用心下さいませ”。それでは」

 

女将はそれだけを伝えると、深々と礼をしてその場を離れた。巧は女将のご用心下さいませという言葉に違和感を覚えたが、迷いを振り切るように勢いよく扉を開けた。

 

「おい!これは一体どういうこ・・・と・・・ッ!!」

 

「・・・へ?」

 

勢いよく啖呵をきった巧だったが、部屋の中の光景を見て思わず絶句してしまった。そして、先ほどの女将の言葉の真意をようやく理解するが、遅かった。

 

「お前は・・・!」

 

「い、い、い・・・!?」

 

巧がその人物の名前を呼ぼうとしたが、それよりも先に羞恥の悲鳴が旅館に木霊した。

 

「いやああああああー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー?何か聞こえたような?」

 

「どうしたの、千歌ちゃん?」

 

「いや、多分私の勘違いかな。それよりほら!大っきな露天風呂だよ!」

 

「おおー!これは中々・・・よーし!渡辺曜、いっきまーす!!」ドボーン!

 

「曜ちゃん!?それじゃあ私も!とぉーう!」ドボーン!

 

「クックック・・・!我、治癒の清泉に・・・堕天降臨!!」ドボーン!

 

※他の入浴者の迷惑になりかねますので実際に飛び込んではいけません。

 

「ルビィちゃん、花丸ちゃん、私たちはちゃんと掛け湯をしてから静かに入ろうねー」

 

「はーい!それにしても、花丸ちゃんはスタイル良くていいなぁ」

 

「ルビィちゃんだって肌が綺麗で羨ましいずら・・・えいッ!」

 

「ピギィ!!花丸ちゃん、くすぐったいよ〜。梨子さんも笑ってないで助けてくださいー!」

 

「ウフフッ!本当に二人は仲がいいんだね。ちょっと羨ましいかも・・・」

 

「梨子さん・・・?」

 

「ううん、何でもない。じゃあ、私たちも入ろっか!」

 

『はい(ずら)!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、もう落ち着いたか?」

 

「うぅ・・・もうお嫁に行けないです」

 

巧は何とかして少女を宥める事で、事なきを得た。始めから何もかも知っていた女将を内心呪いながらも、何とか話を進めることにした。

 

「それで、何でお前がここにいるんだ?梅原」

 

そう。巧をAqoursから離した人物とは、以前東京に訪れた際に出逢った梅原沙希だった。ついでに先ほどの状況を詳しく話すと、沙希が浴衣に着替えている最中に運悪く巧が入ってしまったという事だ。

事故とはいえ年頃の少女の柔肌を間近で見てしまった巧には、少なからず罪悪感があることは言うまでもなかった。

 

「はい・・・実は以前から乾さんが気にかけていた三原修二さんの居場所が分かったので、少々強引な手を使わせていただきましたがそのご報告に。その点は年頃の乙女の裸を見てしまった事で“おあいこ”にと手を打ちましょう」

 

沙希は巧の罪悪感を煽るかのように、嫌味を含んだ物言いをする。巧は怒りのままに拳を振るいかけるも、何とか自制心で落ち着かせ、話を進めることに。

 

「・・・それで、三原は今何処にいるんだ?」

 

「三原さんはスマートブレイン本社に監禁されていると思われます。恐らくもう・・・」

 

沙希の言葉に巧は驚きを隠せなかった。自分が東京から離れている間に、三原が何かの事件に巻き込まれていたなんて。それも、因縁深いスマートブレインが関係しているとなると、結局自分は何もできなかったのかと自身を責めてしまっていた。

 

「だったら、今すぐ行って三原を助け出す!スマートブレインってことはオルフェノクが関わっているんだろ?カイザのベルトがあれば、俺一人でも三原を救えるはずだ!」

 

巧はそう言うと、側に置いてあったカイザギアを持って出て行こうとする。しかし、その行く手に沙希が立ち塞がる。

 

「待って下さい!例え乾さんと言えど、一人で行くなんて無茶ですよ!今は仲間を増やして、それからでも救出は「それじゃあ遅いんだ!!」ッ!?」

 

沙希の言葉を遮るように巧の叫びが部屋に反響する。

巧の悲痛な叫びが沙希の胸に刺さる。

 

「救えなかったら、何にもならないだろ。俺はこの手の中で死んでいった奴を何人も見てきた。生きたいと願いながら死んでいった奴らが大勢いたさ。確かに俺だけの力じゃ救えないかもしれない。でもな、それで迷っているうちに人が死ぬなら、俺は戦う。ただ・・・それだけだ」

 

巧は沙希を押しのけて部屋を飛び出した。途中、沙希の制止の声を背中に受けながら。

 

「まるのバックトゥザぴよこ万十~!!」

 

またある時は、よく知る人物たちのどうでもいい悲鳴すらも聞こえないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね・・・なんか、空気悪くしちゃって」

 

その日の夜、一人窓に腰掛けて外の景色を眺めていた梨子が、同じく眠れずにいた千歌に気づいて話しかける。内に秘めた気持ちを語り始めたのだった。

 

「音ノ木坂って、伝統的に音楽で有名な高校なの。私、中学の頃ピアノの全国大会行ったせいか、高校では期待されてて・・・でも結局、大会では上手くいかなくてね。期待って感じ過ぎるとプレッシャーになるって言うのも、ちょっと分かるなぁ・・・」

 

梨子が今まで秘めていた自分の過去を語った。東京から内浦へ来た梨子が初めて心の内を曝け出した様に見えた。もちろん家の事情ということもあったが、一番は彼女自身を変えたいという思いだろうか。スクールアイドルは手段の一つに過ぎなかったのだ。

 

「期待されるって、どういう気持なんだろうね・・・」

 

ふと、そんな言葉が千歌の口から溢れた。思い返せば、自分の人生の中で特別に誰かから期待された事なんかなかったのだ。東京に招待された事で、浦女の生徒たちや町の人々からの期待が高まっていくのが容易に見て取れた。絶対に失敗できない、期待に応えないといけないと。自分たちが望んだ結果であるに違いないのに、何処か人ごとであったらいいと思ってしまう自分がいた。

 

「・・・寝よ。明日のために」

 

千歌の心情を感じ取ったのか、梨子が話を切り上げるよう催促する。千歌は不安で仕方がなかったが、その心を紛らす術を知らない。故に梨子の提案に頷くほかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千歌と梨子が眠りに着くと同じ頃、巧はサイドバッシャーを駆ってスマートブレイン本社跡地に赴いていた。因縁の相手とこうしてまた相見えようというのか。

 

「待ってろよ、三原・・・変身ッ!」

 

巧は待機状態のカイザフォンをバックルに装填し、カイザへ変身する。

 

“Complete”

 

全身に帯びている黄色のフォトンストリームの光が、闇夜を照らす。そして、ゆっくりとした足取りで歩き始めたその時、耳鳴りと同時に何者かの声が響き渡る。

 

《そこには立ち入らない方がいい。どうやら君の探し求めている人物は既に別の場所に移されたようだ》

 

「っ!?・・・誰だ!」

 

突然の言葉に巧は周りを見渡した。姿こそ見えないが確実に近くにいる不気味な存在に気を配るも、返答はなかった。これ以上は無駄と踏んだ巧は気にせずにスマートブレイン本社跡地へ走り出した。しかし、次に返ってきた答えは確実にカイザへ向けて放たれたオルフェノクの使徒再生能力によって生成された衝撃波だった。

 

《これは警告だ。それよりも、今は彼女たちの身を案じた方がいい》

 

巧はその言葉に目を見開いた。何故この人物がAqoursの存在を知っているのかと。それに身を案じろとはどういう意味なのか。

 

「お前・・・あいつらに手を出してみろ!塵一つ残さずに消滅させてやるッ!!」

 

巧の叫びは闇に消え、それ以上の謎の人物の言葉が返ってくることはなかった。Aqoursか三原か、巧が出した答えは・・・。

 

「・・・ああ!!クソッ!」

 

巧はカイザの変身を解いてサイドバッシャーに跨った。そして、すぐさま元来た道を引き返すのだった。気づけば既に夜は明け、朝陽が昇り始めていた。当然、巧の中には不安と焦りが生じていた。

 

(頼む・・・間に合ってくれ!)

 

巧の思いに呼応するように、サイドバッシャーのスピードも速くなっていく。そして完全に巧の姿が見えなくなった時、スマートブレイン本社跡地の影から一人の男が現れた。

 

「それでいい。戦え・・・戦い続けるんだ。そうすれば自ずと答えは見えてくるだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?あいつらは何処だ!?」

 

巧は旅館に辿り着いたと同時に、千歌たちを探す。どの部屋に泊まっているかなど聞いていなかったため、片っ端から部屋を一つずつ確認していく。

 

「何このイケメンッ!嫌いじゃないわ!嫌いじゃないわ!」

 

「サバじゃねぇ!」

 

「記憶喪失でも免許は取れるんです」

 

「ザヨゴオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 

 

 

 

「んだよ!何処にも居ねぇじゃねぇか、あいつら・・・ん?」

 

焦りを隠せないでいる巧だったが、ふと旅館の玄関に目を奪われる。これだけ旅館の中を探しても見当たらないということは、まさか外に出ているのではという考えが過った。

そう思った瞬間、巧は周りを気にせずに走り出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今、全力で輝こう!」

 

しばらく探し回っていると、電光掲示板の前で手を重ね合わせている六人の姿が見えた。とりあえず何か被害があるようではなかったので、ひとまず安心した巧。

 

「あぁー!今まで何処に行ってたの!?」

 

巧の存在に気づいた千歌がいち早く巧のもとに駆け寄り、少し遅れて他のメンバーも集まった。

流石の巧でも一言も告げずに出て来てしまったことに、多少なりとも罪悪感を感じざるを得なかった。

 

「んまぁ、いろいろあってな。それより、朝から集まってどうしたんだよ?」

 

「今年のラブライブ!が発表になったんです!!」

 

巧の問いにやや興奮気味のルビィが答えた。しかし、次の瞬間には巧に詰め寄ったことが恥ずかしく思ったのか「ご、ごめんなさい・・・」と尻込みしてしまう。

不可抗力とはいえ自分に非がある思われる状況に困惑する巧に、善子と花丸がルビィを慰めて!とジェスチャーをする。

 

「あぁー・・・まぁ、気にすんなよ」

 

巧はルビィの頭に手を乗せると、軽く撫でてみせた。不器用だが何処か優しい手つきで、ルビィといえども撫でられている間は恥ずかしくもどこか嬉しそうにはにかんでいた。

 

「ほら、もういいだろ?」

 

「あっ・・・あの、ありがとう」

 

巧が撫でていた手を止めてルビィの頭から手を離すと、ルビィは何処か名残惜しそうにしていたが、すぐに気持ちを落ち着かせて感謝の言葉を紡いだ。

 

「・・・お姉ちゃんの言葉の意味、少し分かった気がする」

 

ルビィは誰にも聞こえない程の声量で、そう呟いた。彼女が自分の中で確実に何かが変わり始めていると気がついた瞬間だった。

 

「それで、そのラブライブってのに出るんだな?あんま俺が言えたような事じゃねぇけど、お前らはお前らが思っている以上に、その・・・いい女だよ。だから、自信持ってやり切ってこいよな」

 

あくまでぶっきらぼうに言う巧。明らかに普段から言い慣れていないセリフ回しに、思わず吹き出してしまうAqoursメンバーたち(ルビィ以外)。

その反応は当然、巧の反感を買う結果に。

 

「お前ら・・・人の気も知らねえくせに。とにかく、俺はここで見てる。行ってこい」

 

巧はまたもや無愛想に吐き捨てるが、もはやそれが本気で悪態ついている訳ではないことはAqoursには分かりきっていた。共に過ごす中で巧の人となりが理解できてきた証拠だろう。

Aqoursはそんな巧を軽く流して、早速当初の目的だった東京スクールアイドルワールド運営委員会主催のイベント会場へ向かうのだった。

謎の人物の警告に不安を隠せないでいる巧の様子に気づかないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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「私ね、今日のライブ、今まで歌ってきた中で出来は一番良かったって思った!」

「お疲れ様でした。素敵な歌で、とても良いパフォーマンスだったと思います」

「バカにしないで。ラブライブは・・・遊びじゃない!」

「このリストに載っている人物は、既に亡くなっている可能性があります。もしくは、九死に一生を得た人物とも言えるでしょう」

第21話 悔しさと建前


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第21話 悔しさと建前

「私は、不滅だァアアアアア!!!」
というわけでぬるっと復活。皆様、大変長らくお待たせいたしました。ライダーガシャットの再販ラッシュに歓喜している自由の魔弾です。
はい!約二ヶ月の充電期間を経て戻ってきました。新卒1年目はキツイです、本当に。 早くお金貯めて遊んで暮らしたいですね。
それでは、どうぞ!
「コンティニューしてでも、この物語を終わらせる!」


『もしもしたっくん?どうだった?千歌ちゃんたちのライブは?』

 

Aqoursと合流してから数時間後、巧は状況が気になって仕方なかった啓太郎から電話を受けていた。一人内浦に残ってくれた啓太郎のために、イベント終了時刻を巧があらかじめ教えておいたのだ。

 

「あぁ、こっちは無事に終わったぜ。今から帰るからよ、詳しい話はそっちについてからな。じゃあな」

 

『え!?ちょ、ちょっとたっく』

 

もっと詳しい内容を聞きたかったのか途中で言葉が切れた啓太郎。巧は啓太郎に悪いと思いながらも、電話では伝えなかったこちら側の状況をどうにかしなくてはならなかった。

 

「おい、何ボーっとしてんだ?そんなとこで」

 

巧は他のAqoursメンバーから少し離れた柱の陰で、買ってきたアイスを持ったまま立っている千歌に声をかける。何かを考え込んでいたようで、少し遅れて巧に気づいた。

 

「・・・ッ!巧くん。ううん、何でもないよ。みんな待ってるから行かなきゃね」

 

千歌はそう言って、Aqoursメンバーのもとへ走って行く。早速持っていたアイスを配っているようだが、その様子はどこか無理して明るく振舞っているように見てとれた。少なくとも長い付き合いの曜は千歌の心の変化を察したようだ。

そして、千歌は不意にこんな事を言い出した。

 

「私ね、今日のライブ、今まで歌ってきた中で出来は一番良かったって思った!入賞はできなかったけど、それでもちゃんとライブできて良かったと思うんだ」

 

『千歌ちゃん・・・』

 

千歌が気丈に振る舞う様子を見て、思わず梨子と曜の声が被る。当然、巧は口を出すことはなかった。事前にダイヤからこうなることに釘を打たれていたからだ。

 

「それよりさ、折角の東京だし楽しもうよ!」

 

明らかに無理をして作られた千歌の笑顔は、本来の輝きを失った見るに耐えないものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさいね、呼び戻しちゃって。これ、渡し忘れてたって思って」

 

千歌の言葉通りに東京の街に繰り出そうとしていたAqoursだったが、大会の運営スタッフに呼び戻された。その要件は大会の投票結果を渡すためだった。

 

「今回、お客さんの投票で入賞グループ決めたでしょ?その集計結果なんだけど・・・正直、どうしようかなぁってちょっと迷ったんだけど、一応決まりだから。それじゃ!」

 

スタッフはそれだけを渡すと走り去ってしまった。早速その中身を確認してみるAqoursだったが、その内容は衝撃的なものだった。

 

 

30.Aqours ・・・・・・・・・0

 

 

その結果を受けて梨子が思わず現実を突きつける。

 

「私たちに票入れた人、一人もいなかったってこと・・・?」

 

より一層雰囲気が暗くなるAqours。不意に善子が巧に突っかかる。

 

「ちょっと!0票ってどういう事よ!あなた私たちに入れてくれたんじゃなかった訳!?」

 

巧は何も言い返さない。ただ無言で善子からの追及の言葉を聞いている。その様子を見て自然と巧に視線が集まっていく。そんな彼らのもとに思わぬ人物が現れた。

 

「お疲れ様でした。素敵な歌で、とても良いパフォーマンスだったと思います。ただ、もしμ’sのように、ラブライブを目指しているのだとしたら・・・諦めた方がいいかもしれません」

 

現れたのはSaint Snowだった。Aqoursよりも完璧で、圧倒的なパフォーマンスを披露した彼女たちだったが、そんな彼女たちですら入賞はできなかった。一体何をしに来たというのか?そんな疑問も次の言葉で払拭された。

 

「・・・バカにしないで。ラブライブは・・・遊びじゃない!」

 

その一言で全てを悟った。Aqoursのパフォーマンスは本気でラブライブを目指す他のスクールアイドルを侮辱している。彼女たちはそう言いたいのだろう。当然、Aqoursが不真面目にライブをしていた訳でなく、今まで以上にパフォーマンスが出来たという千歌の言葉は本心だろう。ただ、彼女たちの全てを取り巻く環境が違いすぎたのだ。

 

「それに、その方を責めるのは筋違いかと。投票とは私たちの歌、ダンス、パフォーマンス全てに公平に判断された結果。知り合いだからといって情けで票を入れてもらったとしても、それは実力ではありません。それだけは理解していただけると助かります。それでは」

 

Saint Snowはそれだけを伝えて、その場を離れていった。残された巧とAqoursの間に大きな溝が出来てしまったように思えて仕方がない。

 

「とにかく、帰ろうか」

 

不意に梨子が話を切り出した。そして、誰からともなく歩き始めた。誰も巧のことはこれ以上追及しなかったが、Aqoursの後を少し遅れて歩く巧だったが、心のすれ違いは確実に広まっていく一方だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後、帰りの電車に乗るため駅に着いたAqoursと巧。無事に切符を買ったのを確認すると、Aqoursを送り出すことに。

 

「じゃあ、俺は一人で帰るからよ。お前ら、気をつけて帰れよ」

 

巧がそう言うも、目覚ましい反応は返ってこなかった。仕方なく巧は踵を返して駅を出ていく。お互い理解するのには時間がかかるのかもしれない。

巧は駅の近くに留めていたサイドバッシャーに乗り込む。そして、発進する寸前にミラー越しに誰かが立っていることに気づいた。

 

「お前は・・・何だよ、まだ何かあんのか?」

 

「どうも、昨日ぶりですね。一つ忘れていた事がありまして、これを渡し忘れていました。どうぞ」

 

巧のもとに現れたのは梅原沙希だった。沙希は巧にとあるリストを譲り渡した。リストを開いて中身を確認すると、一見意味を理解しかねるものだった。

 

「野口昌弘、田中慧、皆本麗子、山口英梨、天王和晃・・・何だこれ?」

 

巧はますます意味が分からず、沙希に真意を問う。もちろんただの文字の羅列じゃないことは確かなはずだが・・・。

 

「このリストに載っている人物は、既に亡くなっている可能性があります。もしくは、九死に一生を得た人物とも言えるでしょう。王を探す実験の所為で」

 

沙希の言葉で巧はあることを思い出す。かつて真理や草加、そして澤田が犠牲になった流星塾のことを。彼らだって元々は九死に一生を得た人生を送ってきた子供たちの集まりだということを。

 

「王?でもあれは確かにあの時・・・」

 

巧はオルフェノクの王と戦った記憶を思い出す。木場や三原とともに戦った記憶を。確かにあの時、ブラスターフォームの強化型クリムゾンスマッシュで吹き飛んだはずだと。

 

「乾さん、王はまだ生きています。その証拠にまたオルフェノクが人間を襲い始めました。それに・・・乾さんもまだ生きています」

 

かつて木場が言っていたことを思い出す。オルフェノクの王をなくして、オルフェノクが生き残ることは出来ない。人間を捨てないと死ぬと。

 

「それで、このリストの人物が何だってんだ。まさか、全員オルフェノクだって言うのか?」

 

「それはまだなんとも。ただもしオルフェノクだった場合、スクールアイドルが危険なことは確かです。特に、急に名前が売れた彼女たちは」

 

沙希の言葉に黙り込む巧。意図した訳ではないが、現在の状況はあまりいいものではない。出来ることなら近くで彼女たちを守りたいが、それは難しいだろう。

 

「どうか彼女たちを守ってあげてください。それが出来るのは乾さんだけなんですから」

 

沙希はそう言って、足早に去っていった。一人残された巧は思わず考え込む。例え忌み嫌われようとも彼女たちを守るという想いとともに、サイドバッシャーを走らせる巧だった。いつか必ず理解し合えると信じて。

 




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「千歌ちゃんは・・・悔しくないの?」

「ダイヤから聞いた。千歌達のこと」

「私たち、もうダメかもしれないね」

「いいんだよ。俺が受け止めれば済む話だ」

第22話 亀裂 〜Χの苦悩〜


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第22話 亀裂 〜Χの苦悩〜

いつの間にか草加にジェラシー感じてた時のたっくんに戻ってる気がします。Aqoursのお兄さん的ポジションだったはずなのに・・・何故だ?(お前が書いてるんだろうが)
P.S.今更ですが、クウガTシャツ(黒、白)を買いました。次はアークルだ!(10万)


巧と別れたAqoursは帰りの電車内で自分たちのライブ、投票数0について各々が話していた。そしてその中には当然、巧の謎めいた行動について話題が上がらない訳がなかった。

 

「ラブライブを馬鹿にしないで・・・か。でも、そう見えたのかも」

 

曜の呟きに便乗し、善子が募らせた怒りを爆発させる。その怒りの矛先は当然、乾 巧だ。

 

「東京まで来て投票数0だし、あんな嫌味言われるし、それもこれもあの人のせいじゃない!普通だったら私たちに投票するはずでしょ!?あんな事・・・言ってたけど、本当は私たちのこと応援する気なんてないんじゃないの!?」

 

「善子ちゃん、少し落ち着くずら」

 

「乾さんに限って、そんなことないと思うけど」

 

それに対して即刻否定する花丸と梨子の気迫に圧倒され押し黙る善子。あまりの速さに恐怖すら感じてしまう善子だった。

Aqours内に異様な雰囲気を感じた千歌が、話題を切り替える。

 

「あの、私は良かったと思うけどな。努力して頑張って東京に呼ばれたんだよ?それだけで凄いことだと思う」

 

千歌は悟られないように視線を逸らして呟いた。

 

「胸張って良いと思う。今の私達の精一杯が出来たんだから!」

 

そんな千歌の言葉に違和感を感じたのか、曜が揺さぶりをかける。

 

「千歌ちゃんは・・・悔しくないの?」

 

「えっ・・・?」

 

曜の言葉に一瞬の静寂がAqoursを包み込む。千歌も一瞬返答に困ったが、すぐに明るく振舞ってみせた。

 

「それは・・・ちょっとはね。でも満足だよ!皆であそこに立てて、私は嬉しかったから」

 

曜の中で違和感は確信に変わった。

 

「・・・そっか」

 

しかし、あくまで気持ちを隠し通している千歌に対して、これ以上の追及は出来なかった。曜は千歌との間に初めて確執が生まれたように思えてしまった仕方がなかった。幼馴染で親友であるはずなのに、思いの丈一つですら打ち明けてくれないなんて・・・私は必要じゃないの?と。

一体いつから心のすれ違いが生まれてしまったのだろうか。そんな曜の心は、沼津に続く電車と共に揺れ動くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お〜い!おかえりー!』

 

沼津に帰って来たAqoursを出迎えたのは、浦の星の生徒たちだった。Aqoursの姿を見るや否や、早速取り囲んで歌詞は間違えなかったか、緊張しなかったかと言ったこたを矢継ぎ早に質問する。

その質問に一瞬でも緊張したAqoursの空気を察したのか、千歌が慌てて取り繕う。

 

「あ、あのね、今までで一番のパフォーマンスだったねって、皆で話してたとこだったんだー」

 

千歌のその言葉を受けて、さらに盛り上がる生徒たち。

 

「もしかして本気でラブライブ狙えちゃう!?」

「わざわざ東京に呼ばれるくらいだもんね!」

 

生徒たちは口々にAqoursへの期待の言葉を口にする。そんな言葉を受けたAqoursの空気は次第に重くなっていくばかりだった。東京まで行って投票数0だったなんて、Aqoursを応援して送り出してくれた人たちに申し訳がなくて、一体どんな顔をすればいいのか。もちろん、その中には巧も入っていた。今思えば、Aqoursに一番期待していたのは、ずっと近くで見てきた巧だったのかもしれないと。

千歌たちはAqoursへの期待の重圧と自分たちの無力さを感じずにはいられなかった。

そんな時、彼女たちの前に意外な人物が現れる。

 

「おかえりなさい」

 

現れたのは浦女の生徒会長である黒澤ダイヤだった。スクールアイドルの活動をよく思っていないはずのダイヤがなぜここにいるのか。気になる千歌たちだったが、姉であるダイヤの姿を見たルビィは堪らず抱きついてその悲しみをぶつけた。

 

「・・・お姉ちゃんッ!!」

 

堪えきれず涙を流すルビィ。期待して送り出してくれた人たちに恥じる結果で帰ってきてしまったことが、よほどこたえたようだった。特にスクールアイドルが好きなルビィには、この結果が何を意味するのかが、痛いほどわかっているのだ。ルビィを抱きとめたダイヤは特に責める事もなく、ただ一言「よく頑張ったわね」と労いの言葉をかけた。その言葉一つですら、ルビィにはもちろんAqours全員にとっても言葉に出来ないほど胸にしみるものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ただいま〜」

 

同じ頃、巧は一足早く十千万に帰ってきていた。が、その顔に覇気はなく何処か問題を引きずっているといった様子だ。

巧の声に反応したのか、奥からパタパタと小走りで出迎える人物がいた。

 

「おかえりなさい〜って、あれぇ?巧くんだけかな?てっきり千歌も一緒だと思ったんだけど・・・あれ、巧くん・・・なんか老けたかな?」

 

「小学生みたいな見た目のあんたに言われると、嫌味でしかねぇな。久しぶり、小母さん」

 

その人物とは高海家の母にして、千歌以上に小柄な上に千歌の妹と疑われてもおかしくないほどの童顔の持ち主でありながら三人もの娘を身籠っているトンデモママ。 通称「千歌ママ」である。

 

「小母さんがここに居るなんて珍しいな。何かあったのか?」

 

巧は荷物を居間に置くと座り込んで千歌ママにこの場にいる理由を聞く。そう、この千歌ママは普段は十千万に住んでいない。確かに月に何度かは帰ってくることはあったが、少なくとも連絡はあった。しかし、今回は完全にお忍びだ。

 

「んーっとね、うちの娘たちと巧くんがちゃんと仲良くしてるかな〜って思って・・・心配で見に来ちゃった♪」

 

「まぁ今日中に戻るんだけどね」と言って、巧に可愛らしくウインクする千歌ママ。見た目は子供でもその仕草と感性は何処か昭和チックで、背伸びをした平成っ子にしか見えなくて面白い。

 

「そうか。まぁ、千歌たちとは問題・・・なくやってるよ」

 

巧は言葉の途中で今日のことを思い出し、一瞬言葉に詰まりかける。そんな巧の異変を千歌ママは見逃さなかった。

千歌ママは何も言わずに、巧の頭に手を伸ばす。

 

「えいっ・・・くっ!と、届かない・・・」

 

が、巧と千歌ママの身長差からその手が巧の頭に届くことはなく、ギリギリ肩に届く程度だった。別段今回が初めてじゃないので、巧は黙って千歌ママの手が問題なく届く高さまでしゃがみこむ。

 

「よいしょ・・・っと。えへへー、しゃがんでくれてありがとー。でも、どうしたの?」

 

千歌ママは巧の頭をなでながら、巧の隣に座って何があったのか話を聞く。普段はおっとりしているせいか、時折見せる真剣な表情に魅せられる巧。気づけば今日のことを話していた。

千歌たちに訳あって投票しなかったこと。スクールアイドルである千歌たちが命を狙われているにも関わらず、喧嘩別れのようになってしまったこと。かと言って、自分だけに非があるわけでもないので変に意固地になっていることなどなど。

その全てを聞いた千歌ママは、巧を優しく抱きしめてふと呟いた。

 

「不器用なんだね、巧くんは。辛くないの?」

 

千歌ママの腕の中にすっぽりと巧の頭だけが埋まる。巧はこれ以上の甘えは自身を滅ぼすと考え、名残惜しいと思うもゆっくりと千歌ママの腕を離しながら答えた。

 

「いいんだよ。俺が受け止めれば済む話だ」

 

「んぇ?な、何かな?」

 

逆に千歌ママの頭を少し乱雑に撫でる巧。普段の巧を知っている千歌ママでさえ、今の巧の行動は予想外で驚くべきことだったが、巧の出生について以前に聞いたことがあることを思い出し、すぐに納得した。

巧は幼き頃、事故で命を失いかけた。その後も一人で生き抜くために職を転々とし紆余曲折を経て啓太郎と出会い、今に至るということを。

それ故に巧は幼き頃受けるはずだった、母親からの愛に飢えていると。

 

「何かあったらいつでも頼っていいんだからね?こう見えても、三人の娘をもつお母さんなんだから!」

 

えっへんといった様子で胸を張る千歌ママ。容姿に似合わず一部が強調されていたが、巧にはちゃんとその意思は伝わったようだ。

 

「調子狂うな・・・ありがとな、小母さん。少し楽になった」

 

ここで初めて巧の笑みを見た千歌ママは満足したのか、おもむろに立ち上がって奥の部屋に入っていく。しばらくして戻ってきた千歌ママだったが、その手には何やらこの家の雰囲気に似合わないものが握られていた。

 

「そういえばさっき、男の人がこれを届けに来たんだけど・・・巧くん、これ何か分かるかな?私、機械ってあんまり得意じゃなくて・・・って、巧くん?お〜い」

 

千歌ママの持って来たものを見て、思わず硬直してしまう巧。巧がそうなるのも無理はなかった。千歌ママの手に握られていたものは、ファイズやカイザと同系列の青いラインのベルト“サイガドライバー”だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろかしら、あの子たち。ちゃんと歌えたかしら?私たちみたいにならなければいいんだけれど・・・あなたはどう思う?ユージ」

 

夜の内浦の風を受けているのは小原鞠莉と木場勇治だ。もともと親交があった二人は時々時間を合わせてあったりしている。今日はとある人物と待ち合わせをしていたのだ。

 

「どうですかね?でも、例え上手くいかなくても大丈夫ですよ」

 

「どうして、そう言い切れるの?」

 

そう明言する木場にその根拠を問いかける鞠莉。

木場は確信を持って答えた。

 

「生きるって失敗や後悔の連続だと思うんです。上手くいかないことや心のすれ違いだって多くあると思います。でも、それって結局は意志の持ちようですよ。だから、自分を強く持っていれば大丈夫です」

 

自分の経験上、人間を信じきれず誤った選択をしてしまったことが、今でも脳裏に焼き付いている。もし、あの時の自分を止められるならば、迷わずに自分を殴るだろう。

木場の言葉を受け鞠莉は思わず言葉を呑む。

その時、待ち合わせをしていた人物が二人の前に現れた。

 

「ダイヤから聞いた。千歌達のこと。スクールアイドルを復活させるなんて・・・あの時言ったはずだよ。もう私たち、もうダメかもしれないねって。この意味、分かってるはずでしょ?」

 

鞠莉と木場の前に現れたのは、かつての同胞で共に同じ未来を夢見た親友の松浦果南だった。

 

 

 

 

 

 

 

 




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「7236・・・なんの数字か分かりますか?」

「何が悪かったの?街の人も学校の人も、スクールアイドルだと応援してくれたじゃない」

「このベルトは・・・一体何だってんだよ!?」

「12年ぶり・・・俺の故郷」

第23話 正体不明の希望


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第23話 正体不明の希望

どうも!自由の魔弾です。パラドォ・・・!!がやられてしまいましたね。死んだ死んだ言われてますけど、ポーズ中にやられた訳じゃないので復活できると信じています。
そして、いつの間にかアマゾンズS2も終わっていた事実。テレビで放送してほしいですが、また規制かかって色々カット(パニッシュ)されるんだろうなぁ。
それはそうと、皆様にお願いがあります。不定期更新の分際で生意気言わせていただきますと、ご感想のほどをよろしくお願いいたします。やっぱり反応が返ってくると面白いですし、励みになるので!
それでは、どうぞ!


「鞠莉・・・本気で千歌たちにスクールアイドルをさせるつもりなの?あの時のこと、まさか忘れたなんて言わないよね」

 

鞠莉と勇治の前に現れた松浦果南は、早速千歌たちの活動について言及する。

しかし、鞠莉は特に悪びれる様子もなく答えた。

 

「もちろん忘れてなんかないし、それに何が悪かったの?街の人も学校の人も、スクールアイドルだと応援してくれたじゃない」

 

鞠莉の言葉に思わず言葉を飲む果南。二人の異様な空気を感じ取ったのか、勇治が強引に話に加わる。

 

「えっと、自己紹介が遅れました。僕は木場勇治です。最近、こちらに越して来たばかりでろくにご挨拶もせず申し訳ありません。あの・・・松浦さんですよね?」

 

木場の物腰柔らかい対応に、怒りを露わにしていた果南も次第に落ち着きを取り戻した。

それでも、鞠莉に対する不満と憤りが無くなったわけではなかった。

 

「・・・はい、松浦果南です。失礼ですけど、鞠莉とはどういう関係で?」

 

明らかにその心情は勇治にこの話から遠ざかってもらいたいと言わんばかりのものだった。関係のない人間は口を出すなと。

勇治の立場を危惧した果南に対して、慌てて鞠莉がフォローを入れる。

 

「ユージは、パパが経営してるホテルの関係者のお友達で、次のプロジェクトの関係でここの魅力を調査しに来てもらったの!さぁ、ユージ!明日も早いから家に帰らなきゃ!ほら、早く!」

 

「えっ、ちょっと小原さん!?」

 

鞠莉によって強引に背中を押し出される勇治。鞠莉の突然の行動に困惑する勇治だったが、振り返り際に一瞬だけ見えた鞠莉の悲しみに溢れた瞳によって、それ以上の言葉は出てこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「得票、0ですか・・・やっぱりそういうことになってしまったのですね」

 

駅から少し離れた場所でAqoursと合流したダイヤが東京での結果の報告を受けていた。しかし、その様子は何処か変であたかも最初から分かっていたというような口ぶりだった。

 

「先に言っておきますけど、あなた達は決してダメだったわけではないのです」

 

ダイヤはそう言って泣き疲れて寝てしまったルビィの頭を撫でながら、その敗因について話し始めた。

彼女の見解では、Aqoursはスクールアイドルとして十分練習を積み、見てくれる人を楽しませるに足りるだけのパフォーマンスもしている。それにも関わらず、彼女たちにはある重大な部分が欠けているという。

そんな中、不意にダイヤはある事を問いかけた。

 

「7236・・・なんの数字か分かります?」

 

身に覚えのない数字に困惑するAqours。善子が自分のリトルデーモンの数だと言いかけるも、すぐさま花丸に却下されて結局のところ、その答えにたどり着くことはできなかったため、ダイヤがその答えを教えた。

 

「去年エントリーした、スクールアイドルの数ですわ。第一回大会の10倍以上」

 

彼女の言い分をまとめるとこうだ。

ラブライブの大会の開催によって、スクールアイドルの存在は爆発的に浸透していき、特にA-RISEとμ’sによって、その人気は揺るぎないものになりアキバドームで決勝が行われるまでになった。全国的に注目を集め少女たちの夢ともいうべきものになっていき、その副産物として多くのライバルを生み、結果としてレベルの向上を生んだのだという。

 

「あなた達が“実力で”誰にも支持されなかったのも、私達が歌えなかったのも、仕方ないことなのです。2年前・・・既に浦の星には統合になるかも、という噂がありましてね・・・あれは!?」

 

ダイヤが過去の存在である浦の星のスクールアイドルについて語ろうとしたその時、ふと目線の先に苦しそうにうずくまる男に気づき急いで駆け寄る。少し遅れてAqoursも駆け寄ってその容態を確認すると、彼女たちにとって見覚えのある症状だった。

 

「あなた、この手は・・・だ、大丈夫ですか!?あなた達は下がっていなさい!」

 

ダイヤがうずくまる男の両腕が黒ずんだ灰色に染まっている事に気がついて、Aqoursの視界に入らないように制止の声をあげる。幸いにも一年生組はルビィの介抱に集中していたため視界に入らなかったようだが、事情を知っている二年生組は既に巧に連絡をしていた。

その時、男が苦しみながら必死に声をあげる。

 

「頼、む・・・ベルトを外して・・・グゥウアアッ!!」

 

ダイヤは男の言葉に反応し、腹部に巻かれている銀色のベルトの存在に気がつく。過去の記憶を遡るも、巧が持っていた二本のベルトとも形状が似つかないもの(携帯電話をセットする部分がない、ベルトの片側が帯状に変わっているなど)と判断した。

その言葉の通りベルトを外そうと試みるダイヤ達だったが、彼女たちの力ではベルトが外れることはなかった。そんな最中痛みにもがき苦しむ男に、遂に終わりの時が訪れる。

 

「そんな・・・頼む、助け・・・ッ!?」

 

男の声が聞こえなくなると同時に、その体は灰となって崩れ落ちてしまった。その様子にAqoursのメンバーは悲鳴をあげてしまうが、ただ一人ダイヤだけは最後まで目を離さなかった。全てが消えてしまった瞬間、遅れて巧も合流する。

 

「どうした!オルフェノクか!?」

 

Aqoursのもとに駆けつけた巧は一瞬だけ自分に向けられる冷たい目線が気になるも、消えた何かを見つめるダイヤに声をかける。

 

「黒澤!あんたも来てたのか・・・」

 

巧に声をかけられたことで、ベルトに意識を向けていたダイヤが我にかえる。

 

「乾さん。あなたはこのベルトのこと、何かご存知なのでは?」

 

ダイヤはそう言って、持っていたベルトを巧に手渡す。巧はそのベルトを見て、自分がよく知るものだと気づき驚いた。

 

「このベルトは・・・一体何だってんだよ!?」

 

昂ぶる感情を抑えきれず、地面にベルトを叩きつける巧。突然の行動に困惑するAqoursだったが、ダイヤだけはその様子に疑問を持たなかった。彼女の中で疑惑が確信に変わったのだ。

 

「教えていただけますね?そのベルトについて」

 

ダイヤの問いかけに対して黙り込む巧。が、次の瞬間巧たちに向かって何者かの衝撃弾が襲いかかった。

 

「・・・ッ!?危ない!!」

 

咄嗟に庇うように前に出て、衝撃弾から彼女たちを守る巧。一瞬の差で間に合ったものの、ベルトは巧から離れ、体の至る所から出血が止まらないほど攻撃をモロを受けてしまい、地面に膝をついてしまった。

 

「乾さん!私たちを庇って、こんな・・・」

 

梨子が巧の容態を確認して、急いで傷の手当てをする。しかし、巧はそれを拒んでAqoursとダイヤをこの場から逃すため突き放した。

衝撃弾を放った存在を知っているからだ。

 

「そんな事は後でいい!それより早く逃げろ!」

 

巧の鬼気迫る表情が事態の深刻さを物語っていた。そう感じ取ったダイヤはAqoursを連れてこの場から離れるよう誘導する。

 

「皆さん!今は乾さんの指示に従いましょう。私たちがいたところで足手まといになるだけです。さぁ早く立ち上がって!」

 

ダイヤの誘導もあって、動揺していたAqoursも何とか落ち着きを取り戻して、その場から離れることができた。しかし、問題はこれから起こると巧には分かっていた。

 

「隠れてないで出てこい!いるのは分かってんだ」

 

巧がそう叫ぶと、物陰からスーツに身を包んだ男性が静かに近づいて来た。この場にあまりにも不釣り合いな格好をしていたが、その言動によって理由が証明される。

 

「今回は3回目でアウトでしたか・・・やはり、人間というものは脆く弱い。そうは思いませんか?乾 巧さん。いや、ファイズというべきですか」

 

男はデータに記録しながら、地面に落ちているベルトを回収して巧に問いかける。初対面にも関わらず巧がファイズであったことを知っている時点で、この男がスマートブレインの差し金・・・しかも、相当実力のあるオルフェノクであると本能的に感じとっていた。

 

「お前、何者だ?何でデルタのベルトなんか持ってやがる」

 

そう、灰となって消えた男性が装着していたのはデルタギアによく似たベルトだったのだ。デルタフォンとデルタムーバが既に一体になっていることやミッションメモリーの色が白から黒ずんだ色に変更されているなど見た目だけで変化が分かるほどだ。

 

「あなたが気にする事はありません。今日はご挨拶に伺ったまでです。それにあなたという人物に興味があったので。お手合わせはまた今度にしましょうか。それでは」

 

男は巧に向かって再び衝撃弾を放った。しかし、先ほどとは違いあくまで目くらましの意味を込めたもので、巧に直撃する事はなかった。

 

「あいつ・・・デルタのベルトで何するつもりなんだ」

 

巧の問いかけに答えが返ってくることはなかった。ここへ来て事態が明らかに進み始めている事に気づき焦る巧。2年前の戦いに決着をつける必要があると自分を奮い立たせ、ある決心をするほどだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、同じ頃この内浦にもう一つの新たな風が吹き込もうとしていた。

 

「12年ぶり・・・俺の故郷」

 

その人物を僕たちはまだ知らない。




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「私は・・・諦めない!必ず取り戻すの!あの時を!」

「うん。少し考えてみるね」

「このベルトはお前に持っていてほしいんだ」

「千歌・・・君のために帰って来たんだ」

第24話 0からRe:Start


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第24話 0からRe:Start

祝!CSMカイザギア発売!おめでと〜!
はい、自由の魔弾です。約二か月の間、音信不通で申し訳ありませんでした!休日に出勤したりだとか、会社の飲み会だとかに付き合わさせた関係でいまいちやる気が起きずにいましたが、もう心配ありません。
カイザギアやラブライブ関係で言うとPDPの発表、さらには翌月のアマゾンズドライバーに背中を後押しされて今日はかつてないほどやる気に満ちております。
さぁ、前置きはこれくらいにして早速本編に入りましょう!


巧たちが謎のベルトを持つ男と対峙しているのと同時刻、小原鞠莉はかつての同志だった松浦果南の説得を続けていた。今、この内浦にかつてないほどの流れが変わってきている。浦女のスクールアイドルが認知され始め、少しずつ関心を集めている事実を受け止めて、自分たちの過去の因縁に決着をつけるべきだと。

そんな鞠莉の言葉一つ一つに対して、頑なに同意を拒む果南だったが、その攻防も終わりを告げることになる。

 

「ラブライブに優勝して学校を救うとか、そんなのは絶対に無理なんだよ」

 

今までの鞠莉の説得を受けた上で果南はスクールアイドルに未来はない、諦めるべきだと口にした。ここまで頑なにスクールアイドルを拒否する果南に対して、鞠莉は切り札ともいえる最後の手段に出た。

 

「・・・果南」

 

鞠莉は果南を受け止めるべく両腕を広げた。かつて果南から何度も受けた“ハグ”の体勢だ。自分がスクールアイドルに誘われた時、このハグがなければ興味のないスクールアイドルになどなる事はなかったかもしれない。ハグによって果南やダイヤと繋がれたと言っても過言ではないだろう。だから、果南も・・・と鞠莉は待っているのだ。果南が自分の腕の中に来ることを信じて。しかし、それは叶わぬ夢とかしてしまった。

 

「えっ・・・」

 

不意に果南は、両腕を広げて待つ鞠莉に向かって歩きだし、その横を通り過ぎた。

鞠莉は驚愕の表情を浮かべ硬直するも、すぐに自分の想いを果南に告げた。

 

「私は・・・諦めない!必ず取り戻すの!あの時を!果南とダイヤとうしなったあの時を!」

 

鞠莉は振り返る事なくどんどん離れていく果南の後ろ姿からひと時も目を離す事なくその想いを告げた。

 

「私にとって、宝物だったあの時を・・・」

 

鞠莉は糸の切れた人形のようにその場に泣き崩れて座り込んでしまった。ここまでして果南が自分たちとスクールアイドルを拒む理由がついに分からなくなってしまったからだ。言葉ではあぁは言ったものの正直のところ打つ手はないのが現状だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小原さん・・・」

 

そんな彼女たちの会話を聞いていた木場はかつての自分たちのことを思い出していた。オルフェノクでありながら人間を守りたいと願う一方で、オルフェノクであるがために怪物と恐れられ理解されずに苦しんだことを。自分の想いが誰かに伝わらないことがどれだけ苦しいかを知っているからだ。

 

「俺にも、何かできる事はないのかな・・・ん?乾くんから?もしもし」

 

不意に巧から電話がかかって来る。タイミングからして何か重要なことだと感じていた。

 

『木場、スマートブレインが動き出した。それで新しいベルトを手に入れたんだが、このベルトはお前に持っていてほしいんだ。渡したいからこっちに来れるか?』

 

「分かった、今から十千万に。じゃあ、また後で」

 

巧との通話を終えた木場は鞠莉のことが気になるも、かける言葉が見つからず仕方なくその場を離れて近くに停めてあった車に乗り込もうとした時、不意に誰かに話しかけられる。

 

「あ、そこのお兄さん。突然で申し訳ありませんが、近くの旅館まで乗せていだいてもよろしいでしょうか?」

 

話しかけてきたのはおそらく高校生くらいの少年だった。半袖半ズボンにショルダーバッグ一つという軽装だったことから、この町の人間ではないことは予想がついた木場は、少年の頼みを快諾した。

 

「俺で良ければ構いませんよ。それで、どちらまで?」

 

木場の承諾を得た少年は促されて助手席に乗り込む。何処か不思議な雰囲気を醸し出す少年のことが気になるも、少年の口から行き先が出たことによってその思考は遮られてしまった。

 

「十千万って旅館があると思うのでそこに向かってもらえますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「乾さん、少し痛みますよ」

 

謎の男との対峙から少し時間が経ち、現在は十千万で梨子に怪我の手当てをしてもらっていた。幸いにもすぐに出血は止まったため見た目ほど怪我の具合は悪くなかった。

 

「あの、一つ聞いてもいいですか?」

 

包帯を巻き終えた梨子が不意に巧に問いかける。

 

「んぁ?何だってんだ、いきなり?」

 

梨子が何か思いつめたような表情を見せた後、静かに口を開いた。

 

「今回のアンケート、乾さんがAqoursに投票しなかった理由って何ですか?」

 

梨子の問いに思わず黙る巧。もちろん答えたくないというわけではなく、どう答えていいものか迷っているというべきだろうか。

返答に困っていると、梨子がため息をつきながら呆れたように口を開いた。

 

「乾さん、もういい加減に本当の事を教えてくれてもいいんじゃないんですか?」

 

梨子の言葉に驚きを隠せない巧。何故梨子が本当の事を知っているのか?その情報の出所はと考えたところで自ずと答えが見えてきた。

 

「何であんたがそれを・・・黒澤か?」

 

巧の問いにコクコクと頷く梨子。その姿を見て珍しく困り果てたように頭をかく巧。

 

「まったく・・・自分で黙っておけって言ったくせに。だったら分かるだろ、俺が票を入れたところでどうなるものでもない。逆に自信をなくしてしまうからあえて票は入れるなってよ」

 

巧の話を聞いた梨子はつい思った事を口にしてしまった。

 

「乾さん、やっぱりツンデレですッ!女の子の気持ちが全然分かってません!」

 

梨子が身を乗り出して巧に迫る。あまりの迫力に思わずたじろぐ巧。

 

「お、おい梨子!分かったから落ち着けって」

 

巧の制止の声に我に返ったのか、自分の大胆な行動に恥じらいを覚え、すぐに巧から離れる梨子。

 

「えっ・・・あ!ご、ごめんなさい!私ったら何してんだろう・・・」

 

「何かあったのか?その、梨子がこんな事するなんて意外だったから・・・」

 

すっかり尻すぼみしてしまった梨子に、行動の真意を問う巧。

不意に梨子がその真意を話し始めた。

 

「実は、さっき帰ってきた時に千歌ちゃんに聞いたんです。大丈夫?って。千歌ちゃん、本当はすごく辛そうなのにみんなに隠して明るく振舞ってるみたいで・・・」

 

梨子はその時の千歌との会話を巧に話した。

 

 

《千歌ちゃん、大丈夫?》

 

《うん。少し考えてみるね。私がちゃんとしないと、みんな困っちゃうもんね。でも0票っていう結果は仕方ないけど、巧くんにも響かなかったんだって思うと・・・少し辛いかな》

 

《千歌ちゃん・・・》

 

《ごめんね。梨子ちゃんに言っても仕方ないのに。じゃあ、この話はもうおしまい。巧くんの傷の手当て、お願いね。あ、今のは巧くんに言っちゃダメだよ?》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつがそんな事を?」

 

「えぇ、だから千歌ちゃんにちゃんと言ってあげて下さい。誰だって一番理解してもらいたい人に理解されないと辛いですから」

 

梨子はそう言って、部屋から出ていってしまった。一人部屋に残された巧は、梨子の言葉について考えていた。梨子のいうことが本当ならば、既に千歌にも無投票の事実が知られている事になる。今更謝ったところでどうにもならないが、それよりも先に体が動いていた。

 

「千歌!お前に話がある」

 

いきなり扉を開けられ驚いて振り返る千歌。その頰にはうっすらと涙の跡があった。

 

「え、あぁ、ごめん。ちょっと考え事してたら寝ちゃって、それで怖い夢見ちゃったから・・・。何か用かな?」

 

嘘だ。千歌は寝ていたなんていうはずがない。そもそも寝たいてそんなに跡になるまで泣けるはずがない。巧は自分が密かに拒絶されていることに感づきながらも、自分の行動を謝罪した。

 

「悪かった、千歌。俺はお前らを傷つけたくないばっかりにあんなことして。お前らの心が折れるくらいなら、俺が悪者になっているほうが」

 

巧がそう言いかけたところで、不意に千歌が近づき巧の口に指を当てて塞ぐ。

 

「分かってる。巧くん、優しいからさ。ただ、今は時間をちょうだい。このモヤモヤを全部吐き捨てられたら、Aqoursとしてまた巧くんと付き合っていけるとおもうから、ね?」

 

千歌の視線によって、巧はそれ以上のことは言えなかった。本人がそう言っている以上、こちらとしては待つ他にないだろう。

そんな時、玄関のチャイムが鳴らされ、二人の意識はそちらに向かう。

 

「誰だろう、こんな時間に」

 

千歌が先に向かう後ろで巧ま後を追う。確かに木場が来ることは知っているが、それならわざわざチャイム何て鳴らさずに電話すればいいだけのこと。とすれば、ほかの誰かということになるが検討もつかなかった。

 

「はーい、どちら様で・・・」

 

千歌が扉を開けた瞬間、チャイムを鳴らした人間が千歌に抱きついた。千歌と同じくらいの年頃で千歌よりも少し背が高い軽装の少年だ。

困惑する千歌に一言、こう呟いた。

 

「ただいま。千歌・・・君のために帰って来たんだ」

 

 

 

 

 




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「でもね、だから思った。続けなきゃって」

「千歌なら出来るさ!俺はちゃんと見てるし、知ってるよ」

「あの子は、何処か彼に似ているところがあるみたいだ」

「今は俺よりも、あいつらの夢を叶えてやりたいんだ」

第25話 敗北からの帰還


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第25話 敗北からの帰還

巧は眼前に広がる光景に驚きを通り越して困惑してしまった。深夜の旅館へいきなり押しかけて来て、あまつさえ千歌に抱きついたこの男は一体何者なのか?そんな疑惑が脳内を過ぎる最中、その少年の後ろに立っている木場が裏口に来るよう合図していることに気がついた。

 

「美渡、悪い。少し出て来る」

 

「んえ?あぁ、うん。コッチは任せてよ」

 

巧は近くに立っていた美渡に小声で伝え、千歌たちに気づかれないように裏口から外へ出て木場と合流した。

 

「悪いな、木場。にしても、あいつは知り合いか?お前と一緒だったんだろ?」

 

「いや、俺もさっき会ったばかりなんだ。でも、彼はこの旅館のことをよく知っているみたいだったけど・・・それよりスマートブレインが動き出したのは本当かい?」

 

木場の問いかけに黙って首を縦に振る巧。恐れていた事態が遂に起ころうとしている現実に言葉を失う木場だったが、そんな木場に巧は黙ったままベルトを差し出した。

 

「これが電話で言ってたベルトだ。誰がどういうつもりでベルトを送って来たのかは知らんが、オルフェノクが現れた以上、一人でもあいつらを守れる奴が必要なんだ。だから、受け取ってくれ・・・頼む」

 

ベルトを木場に差し出す巧。オルフェノクからAqoursを守りたいという思いは木場とて同じだ。しかし、今の巧の言葉は聞き逃すことは出来なかった。

 

「小原さんから事情は聞いている。でも彼女たちのことを思っての行動だったんだろう?そこまで自分を責める必要があるかな?」

 

黙り込む巧に問いかける。木場は不安で仕方なかったのだ。先ほどの口ぶり、まるで自分は消えてしまうかのようで。

 

「俺たちがまた繋がるには時間が必要なんだ。それに、今は俺よりもあいつらの夢を叶えてやりたいんだ。だからそれまでの間・・・あいつらを頼む」

 

巧は再びベルトを木場に差し出した。その言葉は確かな信念のもとに発せられていると感じた木場は静かに差し出されたベルトを受け取った。

 

「・・・分かった。俺に出来ることなら。じゃあ、俺はもう行くけど・・・そうだ。乾くん、彼には気をつけた方がいいかもしれない」

 

立ち去ろうとした木場の突然の警告に巧は驚きを隠せなかった。あの木場がここまで明確な敵意を露わにしていることに。

 

「・・・何だよそれ。あいつの事、なんか知ってんのか?」

 

木場の言葉を怪訝に思った巧だったが、木場はどこか確信したように呟いた。

 

「あの子は、何処か彼に似ているところがあるみたいだ」

 

「彼?何のことだよ?」

 

「草加雅人のことさ。それに、どうやら彼は高海さんに気があるようだし。とにかく、彼女たちのことは任せてよ」

 

「・・・あぁ、しばらくは頼む。あいつらを守ってやってくれ」

 

巧と木場はお互いの意思を確認するかのように見つめあい、そしてどちらからともなく歩き出した。背中合わせに歩きだすその姿は固く強い友情で結ばれていることを物語っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、あの人が仮面の戦士なのか。でも、これはちょうどいいか・・・フッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、遅いよー。トイレに何分かかってるのさ」

 

千歌にそう言われた少年はケロッとした様子で軽く謝罪する。

 

「悪かったって。この旅館が広くて迷ったんだよ。それより、当分の間はここで世話になる話だけど、本当に千歌と同じ部屋でいいのかな?」

 

少年の言葉を受けて、千歌はしばらく考えたあとに答えを出した。

 

「“和くん”さえ良ければいいと思う!それにしても、本当に久しぶりだよね〜。まさか宿泊費を一年分で払うとは思わなかったなぁ。幼馴染みなんだからお金なんて払わなくても良かったのに」

 

千歌の発言に苦笑しながら少年は懐かしむように言葉を投げかける?

 

「アハハ・・・それじゃ志満さんが黙ってないよ。にしても“和くん”かぁ・・・なんか昔を思い出すなぁ。あの時の千歌ったら、俺の後ろをくっついて離れなかったんもんなぁ。流石にトイレや風呂までついてきたのは驚いたけど」

 

「うわー!そんな事まで言わなくていいよぉ!でも、十二年ぶりかぁ・・・小学校に上がる前に引っ越しちゃったんだよね?」

 

千歌の言葉に一瞬だけ返答に詰まったが、すぐに何事もなかったかのように答えた。

 

「あ、あぁ・・・あの時はいきなり居なくなってゴメン。家の都合とか色々あったとはいえ、何も言えずに居なくなったのは本当になんて言えばいいか・・・許してもらえるとは思っていないが、せめて・・・!」

 

少年は千歌の手を取り、訴えかけるように話す。

 

「これからは俺が、千歌を守るから。絶対に・・・どんなことがあっても!」

 

どこまでもまっすぐな瞳で訴えかける少年に対して、千歌は改まって成長した幼馴染みに友情とは別の感情が芽生え始めるのに気がついて慌てて取り繕った。

 

「わ、私なんかのためにそこまでしなくても・・・私、普通な女の子なのに。今日だってみんなの足引っ張っちゃって・・・みんなの期待に応えられなくて、悔しくて!」

 

気がつけば少年に自分の心の蟠りを吐露していた。少年に気を許したのか、信頼していた人の代わりに慰めの言葉を投げかけて欲しかっただけなのかそれは分からなかった。

 

「千歌なら出来るさ!俺はちゃんと見てるし、知ってるよ」

 

少年は千歌に絶対の信頼を寄せているかのようにそう口にした。再会したばかりの彼に千歌の何が分かるんだと思うのが普通だが、今の千歌にはそんな考えすら思いつかず、自然と笑みを浮かべていた。

 

「・・・うん!ありがとう、私また頑張るからね!」

 

千歌の笑顔を見た少年は安心したのか、自ら淹れたお茶を飲んで一息ついて、一言。

 

「んで、何を頑張ってるんだ?」

 

この後、千歌がずっこけたことは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の早朝、巧は木場に言ったとおりにカイザギアを持って十千万を発とうとしていた。昨日の一件からしばらくAqoursから離れて単独でオルフェノクと戦うことを決めた巧は、志満と美渡、そして千歌ママにそれを伝え(カイザである事は伏せて)その準備をしていたのだ。

カイザギアを荷台にくくりつけ出発しようとした巧だったが、その眼前にあの少年が立っていることに気づいた。

 

「こんな早朝からドライブですか?」

 

「お前は昨日の・・・何の用だ?」

 

軽く凄んでみるも、少年は恐れるどころかあっけらかんとした様子で話を進めた。

 

「自己紹介がまだだったので、まぁ必要ないとは思いますけど・・・俺は、鈴木和晃といいます。あなたが噂の仮面の戦士なんですよね?」

 

鈴木と名乗る少年は巧の正体に気がついているようで、その様子は興味津々といったところだ。一瞬言葉に詰まった巧だったが、特に気にせずに言葉を放った。

 

「だったら何だ?お前には関係ないだろ」

 

そう言って走りさろうとした時、鈴木が巧の腕を掴んで強引に引いていく。

困惑する巧を他所に鈴木は近くの砂浜まで連れていく。

 

「よく見てください。あれがあなたが守ろうとして、壊そうとしてしまったものです。絶対に目を背けてはいけないんです」

 

そこに居たのは海に半身浸かっていた千歌と梨子だった。なにやら昨日のライブの結果について千歌がその思いの丈を伝えていた。

 

「でもね、だから思った。続けなきゃって。0票なのは悔しいけど、だからこそ0を1にしたいと思えた!」

 

千歌のその想いに応えるように、いつの間にかAqoursメンバーが彼女の周りに集まっていた。彼女たちの絆がより一層強くなったように見えた。

 

それを見ていた巧は改めて自分が壊しかけたものの大切さに気付かされる。過ちを犯してしまった自分が彼女たちの側には居られないと思えるほどに。

 

「千歌の側には俺が居ます。あなたは人類を救うことを第一に考えてください。俺からの願いはそれだけです」

 

鈴木はそれだけを伝えて十千万に戻っていった。残された巧はAqoursの絆の姿、笑顔を見てこれ以上絶対に悲しませないと誓い、サイドバッシャーを走らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで邪魔なものは居なくなった。千歌、君は必ず俺が守る」

 

 

 




Open your eyes for the next φ’s

「沼津の花火大会っていったら、ここら辺じゃ一番のイベントだよ?」

「乾 巧の正体を知っているかな?」

「千歌ちゃんと男の人が一緒に!?」

「相手が誰であろうと構わない。邪魔なものは壊したっていいんだ」

第26話 未熟な願いは叶わない


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