転生しても戦争だった ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~ 作:ガンスリンガー中年
あと懐かしい名前も出てきます。
1943年5月中旬、駐モロッコ自由フランス軍が、ララシュに攻め込み返り討ちに合う頃。
スターリンの呼びかけに応じて世界中からソ連の国土に集結しようとしていた”共産主義革命に命を賭す覚悟を決めた義勇兵”は、様々な国から集結し300万人を超えようとしていた。恐るべきことに、人数だけなら日本皇国総軍に匹敵する。
史上空前規模の”
彼らは米国勢力圏の満州からシベリア鉄道に繋がるアメリカンな満鉄を通じて、この土地へピストン輸送されていた。
中には渤海ルートのレンドリース船団に便乗した者もいたが、その多くは東アジアからの集結であった。
ソ連の武器不足は知れていたので、古い小銃など武装持参の者もいた。
だが、それが多数派では無かったので、米国はモスポール保管状態だった兵器庫を一部開放することをレンドリースの一環として決定した。
しかし、最新鋭の”M1ガーランド小銃”の供与は「陸国全体にさえも行き渡っていない」ことを理由に、米陸軍上層部実務組に断固拒否された。
ルーズベルト大統領もスティムソン陸軍長官もマーシャル参謀総長も粘ったが、
”大統領、陸軍長官、参謀総長の三悪人からの陸軍への脅迫”
のヘッドラインが独立系メディアを中心に飾ったのだ。
そして、共和党議員を中心とする米政治家、アンドリュー・ヴァーデンバーグ”と”ロジャー・タフト”、”トーマス・SL・デューイ”、”ハルバートン・フィッシャー三世”、”ヨーゼフ・ウィリアム・マーティン・ジュニア”、”ブルーノーツ・バートン”ら反共・反ルーズベルトの有力議員らが一斉に動き出したのだ。
つまり、彼らは非赤化の陸軍中枢の実務組や上層部、
そして、これらの目的はともかく思惑が異なる様々な組織連携を裏で情報学的に支援していた者達がいた。
表舞台に現れるのはまだ未来の生まれたばかりの公的機関だが、歴史書に記されぬ「最初の成果」がまさにこのムーブメントだった。
このおかげで、米陸軍は
・現在、レンドリースが行われてる兵器以外の「新規・現用陸軍正規装備のレンドリースを拒否する」
権利を得ることに成功した。
つまり、もう提供されていM4中戦車やM3軽戦車はともかく、その後に続くM26パーシングはレンドリース禁止ということになる。
現在、レンドリース供与されていない”M1ガーランド”小銃は当然供与対象にならない。
また、未だ対日戦が勃発していないこの世界線では、陸軍航空隊の統合で米陸軍航空軍(空軍の前身)が生まれることはなく米陸軍航空隊、つまりは陸軍の1セクションのままで、史実では陸軍から独立した米空軍の初代司令官のアーノルドすら、43年現在はまだ中将で陸軍航空隊司令官(つまり中将で責任者ができる規模という認識)だった。
そう、実はモロッコ方面軍(米”義勇”兵団)の一司令官に過ぎないアイゼンハワーより階級が低いのだ。
軍において階級は秩序であり絶対の指標だ。そして陸軍航空隊はまだ陸軍の1セクションに過ぎない。
アーノルドはどちらかと言えばルーズベルト寄りだが、故にレンドリース対象になってないP-47やP-51、夜戦P-61などの最新鋭戦闘機、各戦略爆撃機なども供与不可能となった。
ここで改めて綻びが生じたのだ。
まあ、彼らの不人気故にこのような事態になっていたのだが。
ルーズベルトは大統領令を出して押し通そうとしたが……
『強行するのであれば、陸軍は今後いかなる”義勇兵”徴募にも応じない』
そう内々に陸軍上層部・幹部連盟で返答が来たのだ。
これはルーズベルトの予想外だったようだ。一人や二人なら解任で済むが、これが米陸軍中核の連名となれば話が変わっていく。
名を連ねた者達是認を解任して、代わり「ルーズベルトの赤い友人」を入れれば良かったかもしれないが、「巨大な米国陸軍を運用できる人材」を赤色組から用意できるわけもなかった。
ただでさえ、現実を見ないナチ嫌いのスティムソンやルーズベルトと同じく中国共産党大好きマーシャルの件で、陸軍の保守派からの反発は強いのだ。
加えてちょっとイメージして欲しいのだが、米国軍人が「自分たちに回ってこない最新兵器を、コミュニストなんて得体の知れない連中に流す」と聞いて、何人が納得できるだろうか?
下手をすれば内戦に落ちる事を考え、ルーズベルトは振り上げた拳を引っ込めるしかなかった。
では海軍長官のキングはと言うと……
「我関せず」の態度を貫いていた。
元々、米海軍は『(主に赤軍大粛清の影響で)まともな海軍の無い”陸式海軍”のロシア人に専門性の高い海軍装備は荷が重すぎる』というスタンスをとっており、この世界線では英国へのレンドリースが立ち消えになった以上、海軍装備を渡す相手がいないため、基本的にレンドリース対象の武器・装備がほとんどなかった。
故に、
『海軍は同じ合衆国国防を担う身として、陸軍と歩調を合わせる準備がある』
と発言していた。
前海軍長官のノックスを合法的に追い出して今の椅子を手に入れたこの生粋の機会主義者、全くどの口で言うのなら。
面の皮は、史実のヤークトティーガーの正面装甲を超えるんじゃないだろうか?
とはいえ、キングは特段アカという訳ではなく、要するに
「落ち目の大統領に付き合ってられるか」
という立ち位置なのだろう。
少なくとも現状、フランス人は俄作りの輸送船ばかりを執拗に狙い、海軍艦艇のダメージはほぼ皆無だ。
日英、そして独との直接対決でもしない限り、航空機や海兵隊以外に被害が出ることは無いとキングは踏んでいた。
(要するに寝た子を起こさなければいいのさ)
最新鋭正規空母の”
「力とは、”いつでも使える状態”に維持しておく事が最も効果的なのだ」
まさに”パワーポリティクス(Power Politics)”の権化のような発言だ。
この男、もしやシカゴ学派の人間ではないだろうか?
いずれにせよ、キングにとり現在の大統領と陸軍保守派との対立構造は、距離を置くべき”
付け加えるなら海を越えて運ばれる”赤い戦闘用奴隷”搬入作業の片棒を担がされたのが、キングは正直気にくわなかったというのもある。
はっきり言えば、現場海軍軍人からの階級を問わないクレームが酷かったのだ。
まあ、”積み荷”が何かを考えれば、何が起きたか凡その察しはつく。
レンドリース品ならまあ、まだ我慢もできる。何しろ、無駄口も叩かないし、手足生やして阿呆な行動もしない。
キングはもし次回があってまた手伝わせる羽目になるなら大統領に
”良識ある合衆国海軍軍人による積み荷の自発的洋上投棄”
もあり得ると強く進言せねばならないと固く心に誓った。
☆☆☆
以上のような米国内の混乱と対立により、結果として開かれたのは古い武器庫の扉。
供与される小銃は、”スプリングフィールドM1903”小銃、40年前の日露戦争の頃に制式化された第一次世界大戦の生き残りだ。
それがソ連が言う
”
の半制式小銃となった。アメリカ合衆国陸軍の制式小銃がだ。
意外と物持ちの良いアメリカらしい話だが、スプリングフィールド造兵廠とロックアイランド造兵廠で製造された100万丁超のM1903小銃の内、その三割以上がモスポール保管されており、同じく”保管されていた弾薬ごと”一斉放出されたのだ。
小銃供与としては、現時点では史上最大ではないだろうか?
無論、他にもM1919機関銃などの他の銃火器の供与もあった。
しかし、普通に考えて300万人もの人間に渡す銃器の製造など、完全戦時体制の米国でもなければ不可能だ。
いや、その米国でも長くて3ヶ月の猶予なら不可能だろう。
そしてソ連は、死蔵に近い状態だったロシア革命以前の武器までかき集めて持ち出すことになるが、それでも足りずに……
『倒れた同志の銃を、その革命の意思と共に受け継げ』
という、まあ割といつもの展開になった訳だ。
しかし、合衆国書記……大統領は気づかず、陸軍幹部は気づいていることがあった。
小銃という「歩兵の主力兵器」の予備分が完全に払拭されてしまったのだ。
なので現場知らず現実見ずのスティムソン長官が、徴兵だ何だと騒ぎだしたとしても米陸軍は、
『徴兵しても小銃がありません。大統領が全部くれてやりましたから。武器を持たせずに戦場へ赤い血が流れるアメリカの若者を行かせる気ですか? せめて徴兵人数分の”M1ガーランド”が出来上がるまで待ってはいかがです?』
と返せる。
ちなみにガーランド小銃の配備ペースは遅くはないが早くもなく、米陸軍や海兵隊などの必要とされる全兵士に行き渡るのは、1944年に入ってからだと見込まれている。
米陸軍は、ガーランド小銃の製造計画を早めたり前倒しする予定はなかった。
当然である。そんな予算は何処からも出ていないのだから。
つまり、先ずは『戦時下でもないのに軍事費・国防費のこれ以上の増額を議会で通す』所からやってほしいという事だった。
無論、できるものならやってみろという意味も込めて。
防衛産業は喜んでるし、もしかした”軍需産業複合体(Military-Industrial Complex:MIC)”めいたものができてるかもしれないが……実は史実において軍産複合体がきちんと成立したのは戦後、本格的な冷戦構造に入ってからだと言われており、しかもその存在を指摘し、その影響力に警鐘を鳴らしたのは”アイゼンハワー大統領”だった。
どうやら親愛なるアイクは、大統領になっても苦労に愛される
まあ、この世界線でもそうなるかは今のところ不明ではあるが。
そろそろ米陸式さん、我慢の限界のようです(挨拶
税金使って自分たちに回されるべき武器をポンポンソ連に送ればそりゃそうだよとw
米国内アカがいくら騒ごうと、米国一般市民の本音は「自国が攻められたわけでもないのに、流石にドイツと直接戦争したいわけじゃないし……」って感じです。
モロッコの一件すら、「ケベックのフランス人が調子に乗ってイギリス人怒らせたのね」とどこか他人事に見てるフシがありますね~。
だって、「米軍は攻撃されてない」から。
仏領アルジェリアにちょっかいかけて防空網に返り討ちされてますが、これも作中に出てきた反ルーズベルト派を中心に「仕掛けたのは米国。そもそもこれ他人の戦争。中立法を守れ」と言い出され、国民は中々乗ってくれませんw
そりゃあ、この時代の米国市民は、「中立法=米国が戦争と距離を置くための都合の良い孤立主義」だと思ってますから。
そして、少しずつ動き始めるベノナの影……
次回はソ連サイド、国際旅団とやらも空前の規模で集まったことだし、そろそろ具体的なプランを考えていそうな?
次回もどうかよろしくお願いいたします。