その気になれば何でも出来るのに、何を考えているのか分からない。
それが周りからの自分に対する評価だと、No.6は知っている。
元からそうだった訳じゃない。けれど、早くにこうなった。自分はどうしようもない理由で、その内惨めに死ぬのだろうと自覚した瞬間から、頭の中の世界に逃げるようになった。
頭の中の世界はどれだけ、何をしようとも自由だったから。頭の中では檻を捻じ曲げて、強い銃弾を受けてもびくともせずに人間に復讐を果たして外に出るだとか、自分が人間を飼っていて使い捨てにしようとも自由だったから。
No.1が戦闘に生き甲斐を見出すように、No.13が肉欲に生き甲斐を見出すように、No.21が食欲に生き甲斐を見出すように、自分は頭の中の想像に生き甲斐を見出した。ただそれだけの事。
No.15のようにどうしようもなく強さに憧れを捨てられずに棒を持つようになった訳でもなく、No.27のようにどうしようもなく自由に憧れを捨てられずに必死に足掻く訳でもなく。
けれど、それは死にたい訳ではない。それだけの事。
元から出来る事が多かったから、今も何だかんだで生き延びられている。それだけの事。
No.6の事はNo.30に次いで嫌いだった。
自分と世界を事細かに知っているからこそ、諦めている。その二体の間にあるのは生まれ持った素質の差だけだ。
No.1のように、もしくはNo.27のように輝きたい。それを諦めきれない自分からしたら、そのどちらに成れてもおかしくないNo.6がどっちも目指さないのは、自分からすれば、その素質を活かしていないならば何故それを自分が持って生まれなかった?? という怒りが幾らでも湧いて出てくる事だった。
けれど、やらなければいけない時はきちんと集中して、成すべき事を成して見せる。そこは気に入らなくても信頼している。
ガラスが弾ける派手な音が立った。不快な音が響き渡った。
その後にリッカーが落ちるような音だったり、はたまた悲鳴が聞こえてきた。それを聞いたNo.6は何故か身を低くして部屋の外を見た。自分にも見ろと促し、すれば部屋のすぐ外の天井に張り付いて待ち構えているリッカーが見えた。
待ち構えている事が不安になってきているように、身を細かく動かしているそのリッカー。
その様子を見た瞬間。
意識が散っていると判断したNo.6が二足でリッカーへと迫り、跳び、落ち着きなく揺れている首を刎ね飛ばした。
落ちて、潰れた脳味噌。一瞬遅れて落ちてくる胴体。
廊下の警戒も怠らず、片方を自分が殺すように指示して、逆側へと走っていったNo.6。
……あっ、ああ。
そして飛び出し、すぐさま飛んできた舌を避けると、脇腹に掠ってしまう。
…………結局、自分はどれだけ何をしようとも、No.1にもNo.27にも成れない。それを分からされる度に、No.30やNo.6に向ける怒りとは比べ物にならない怒りが、自分に返ってきてしまうのが何よりも嫌いだった。
鬱憤を込めるように、手に持っていた棒をリッカーへと投げつけた。脳味噌を貫くと、死ななくともリッカーはおかしくなったように、声にならない声を出しながら全身をくねくねとさせ始めた。
*
リッカーに如何程の知性があるのか……いや、後天的に獲得出来るのか、それを実際に確かめようとした研究の数は、ハンターより確実に少ない。
それは少なからず、リッカーの知性はハンターには劣るという証明になるだろう。
あれだけ大きい脳をしているのにそれは何故か? やはり、脳ですら再生出来るというところから、そこには大した中身が詰まっていないのだろうか? 目が見えないという事が、外界から得られる情報量にそのまま繋がって、発達に影響を及ぼしているのだろうか? 元となった人間がリッカーへと変異した時に、人間としての本質の大半が抜け落ちてしまったのだろうか?
色々と理由は考えられるが、それが深くに追求される事はなかった。
追求したところで、それがハンターのような更なる用途を見出せる事など想像出来なかったから。
またハンターには無い、強力な再生能力、繁殖可能という強みは、既に差別化として十分だったから。
雑に扱える、閉所への襲撃、もしくは封印に適したB.O.W。リッカーは、それ以上でもそれ以下でもなかった。
それは……リッカーに全くの成長が無いという事を示す事ではないが、限界が見限られている事を残酷な程に示している。
ハンター達が建物の中へと侵入して、それぞれが被害なくリッカーを撃破したのを皮切りに、最早リッカーは一方的に狩られる側に回ったのを、誰もが理解した。
各所に隈なく、密かに設置されているカメラ越しに、ハンターを生み出し、売りつけた研究者達も。ハンターを幾度と使って結果的に成長を促した犯罪組織も。そして、それを娯楽として賭けに興じている研究者のスポンサー達も。
待ち構えて迎撃するはずだったリッカー達は、それが破られるとあからさまに動揺した。そしてその次の策は、リッカーにはなかった。生き延び、成長したからといって、それは聴力の発達と一つの成功率の高い作戦を身に付けたに過ぎなかったのか、もしくは本質的な、知性の発達とは程遠いものだったのか。
いや……単純にその生き延びた回数がハンターよりも少なかっただけかもしれない。
ハンター達は、リッカーと正面切って対面出来れば一方的に屠る事が出来る実力を備えている個体が居ようとも、より安全に殲滅出来るように適応し続けていた。
建物の内側は、確かに音を立てずに動く事はほぼ不可能だった。しかし外壁の、頑丈な柱に関しては這いまわってもほぼ音を立てない。そうして、可能な限り死角を残さないように動く。
はたまた、ガラスの小棚や黒板の破片などを持ち歩き、時にけたたましい音を立ててリッカーの聴覚を狂わせる。
せめて集まろうと耐えきれずに動いたリッカーが逆に察知されて先回りされる。
これまで幾多の戦線に投入されながら生き延びてきた、重み。自分達が生まれ持った肢体だけではなく、人に劣ろうとも学んでいく事が出来るその頭を最大限に使っていく入念さ。
そうして段々と、一つ一つの部屋を、時に天井裏までを索敵して漏れがないように確認し始めたハンター達に対し、リッカーが全滅するのは時間の問題だった。
また研究者達は、同じ生き延びたハンターという相手に、待ち受けていながら一匹すら殺せないどころか、傷すら与えられなかったという点で……更に言えば、用意されたハンター達の倍近い数が居たにも関わらず、その体たらくだったという点で、リッカー達を完全に見放した。
例え、貴重になった研究対象とは言えども、経験がハンターと比較して浅かったとしても、蹂躙どころか虐殺に等しい結果を見せられてしまえば、期待しようにも底が知れてしまった。
一つの階のリッカーが地に伏せるばかりとなり、もう一つの階に生きているリッカーも残り僅か。
色欲狂いが相対したリッカーに対し、わざと殺さないように舌を切り飛ばし、爪を砕いてから、背中に張り付いた。
荒い息を背後から浴びせかけられ、股間から生えるソレをごつごつとまさぐるように当てられるリッカーは、これから何をされるのか本能的に理解するも、舌すら千切られてしまって声を上げる事すらままならない。
本当にするんだ……と唖然としている古傷に対して、一応周りを警戒してくれないかと依頼した。
……流石に、嫌だ。
見ておけば、皆からの信頼も少しは得られると思う。
…………。
最初からこのつもりで組ませたのではないか? というような好ましくない目線を向けられるも、本当に、渋々と言った様子でリッカーの様子の異なる悲鳴を聞きながら、古傷は周りの警戒をし始めた。
それから片目が、自分を中庭の方に引っ張っていく。
仲間意識が多少なりともあったのか、どう見ても囮としてそこに居るリッカー。今でも大して動かずにそのまま居つつも、せわしなく体を動かしているリッカーは、今となれば如実に訪れてきている死の気配に怯えているようにも見えた。
アレ、やっていいよな?
……もし、中庭に残り全てのリッカーが集まってきたとしても、5匹も居ないだろう。
それに、残りの見回っていない場所も少なく、方向も限られる。片目なら十分に対応出来る。
お好きにどうぞ。
そう返すと、次の瞬間には中庭へと飛び出していた。
敢えてか、派手な音を立てて中庭へと着地した片目は、加えて大きく息を吸うと。
「ギララララッ!!」
暴れたいとかよりも……同じB.O.Wとして好き勝手に扱われるだけの境遇として、同情もしていたのかもしれない。片目には意外とそういうところがある。
その結果が、淡々と蹂躙されるより、最後に戦って散った方が良いだろう? となるのも、如何にも片目らしい。
そう思った時には、その中庭に佇んでいたリッカーは片目へと飛びかかっていて。
片目はその下へと潜り込み、爪を心臓から背中へと貫かせていた。
残り僅かとなったリッカー達……合わせて4匹のリッカーが中庭へと飛び降りたのに対し、片目は自分達に邪魔をするなというように、爪を引き抜いた腕を大きく振って再び吼えた。
そして身を低くし、爪を開いて待ち構える片目。
それに対し、まずは四方へ散って片目を囲もうとしたリッカー達。
しかし、弾かれるように跳び出した片目は囲まれる前に強く離れた一匹へと詰め寄り、何もさせる事もなく首を刎ねた。
速いというよりは、どこまでも無駄のない動き。狙われていると分かっても、何も出来ないような。
次に片目は中庭を跳び回り始めた。窓に足を駆けて強く跳び、枯れ木に爪を引っ掛けて急転換。位置を追うのにやっとなリッカー達の一匹に、片目はいつの間にか手に持っていたガラス瓶を眼前へと叩きつけた。
思わず反応してしまったそのリッカーは次の瞬間、片目に着地されて、胸を潰されて事切れる。
場所を掴んだ残りの二体が、同時に襲い掛かるも、片目は冷静に、最低限だけ足を引く。するとリッカーが振るった爪は宙を切るばかりで、それぞれがぶつかってよろけた瞬間。片目の両腕の爪はリッカーの顎から脳天を等しく貫き、そしてそのまま腕を捻る。
首の骨が折れる音が二つ、同時に響いた。
爪を引き抜いて、それでも生き返るかもしれない事を鑑みて、その二匹の胸を潰した片目は、特に勝ち誇る訳でもなく一息吐くばかり。
……やっぱり、何というのか、綺麗だな……。
羨ましいでもなく、恐れ慄くのでもなく、そう思う。
片目がタイラントの首を掻っ切った時の事も良く夢で見るくらいには。
そう成ろうと思う事すら憚られるような、そこまで凄いものを見させられるとそうなるんだろうか。
後ろから歩いてくる音が聞こえて振り返ると、古傷と色欲狂いが歩いてきていた。
もう? と思ったものの、色欲狂いにとってはどうにも大して気持ち良くなかったらしく、余り満足したような顔まではしていなかった。
古傷はそのまま窓から飛び降りると、リッカー達が片目にどのように殺されたのかを、片目がどのように戦ったのかを理解しようとするかのように確認し始めていた。
他の皆も、少しずつ集まっていき。
……まあ、取り敢えず。
今回も、危ないところがあったと言えど、生き延びた。
夕暮れになって、嫌になる程眩しい太陽も落ち着いてきて、心地良い風が体を撫でる。
少しは、このまま外でのんびりしていたいな、と思っていたら首輪が振動した。
戻るまで止まる事のない振動。いつでも自分達を殺す事の出来るこの首輪。
……………………やっぱり、本当に嫌だな。
*
*
*
かちゃ、かちゃ。
かちゃ……。
「……?」
かちゃ、かちゃ。
「…………」
褒美として何が良いかを、何も考えないでいた事を思い出し。
人間の一人が見せた、ルービックキューブなるものを見ていたら、それが一瞬で色が揃うのを見せられて、思わずそれにした。
貴重な運動の時間すらも放ってしまいそうになるくらい夢中になっている。
爪で壊さないように丁寧に動かすところから始めて、一面だけは揃えられるようになったけれど、その先が全く分からないまま。
簡単に合わせる仕組みがあるというのは、分かるのだけれど、それは自分でも辿り着けるものなんだろうか?
ガチャ。
外から、扉が開いた音がした。
飯の時間でも、運動の時間でもないけれど、もう次のミッションだろうか?
そうだったら嫌だな……。
けれど歩いてきた、そのいつもの男は、片目と古傷が入っている檻に近付くと。
「おい、No.1、No.97。その、まさかだが……要望が叶ったぞ」
……片目が望んだのは、タイラントとの再戦だった。
檻の中で、この位の背丈で、片腕だけ大きくて、そして何故か持ち帰っていたリッカーの心臓を肩の方に当てて、と必死に説明していた片目。
察した研究者が流石にそれは無理だと言って、結局No.97共々筋肉を鍛えるような道具を貰う事になって、かなり意気消沈したようにトラックの中でも不貞寝する程だったのだが。
喜びの余り変な声を上げる片目と、武者震いをするような古傷。古傷は片目よりは戦闘狂といった雰囲気ではないように見えていたけれど、表からは見えにくいだけで、本質はそんな変わらないのかもしれない。
「それから……No.15? なんだ。一緒に行きたいのか?」
その男が辺りを見回して、檻に齧り付くようにしていた長物使いに目を止めた。
長物使いは思わず何度も頷く。
「今回、客が見たがっているのは、No.1とNo.97だけだ。見るだけになるだろうが、良いか?」
それでも、と長物使いはやはり何度も頷いた。
……………………。
自分は、すぐ隣の檻に居る幸運を見た。人間の目が先に幸運に止まろうとしていたのを、幸運は理解していた。
それがどういう事を意味するのかも含めて。
他にも、あのタイラントとの戦いを経た仲間の中でも、賢い仲間達は不穏な雰囲気を感じている。
あのタイラントには、自分達よりもよっぽど高価なB.O.Wである事は分かりきった事だ。
そんなのと戦わせてくれるとしたら、確実に裏がある。
けれど、察している皆も、何も動かなかった。自分も含めて。
そうしたら、自分が連れて行かれるから。
「じゃあ、先に行っておけ」
男がそれぞれの檻を開けてその3体を連れていく。長物使いも、いつもの棒は手放さず。
そして片目も古傷も薄々勘付いているようで、男に付いていく最中、自分の方をちらりと見てきた。
自分は……いや、自分も……目を伏せるしか出来なかった。
そんな視線も、不穏な気配も、露程にも気付かないまま戦いを見られる事にワクワクして付いていく長物使いは、そのまま片目と古傷と共に、扉の外へと姿を消していった。
長物使いを見たのは、それが最後だった。
No.15
長物使い
知性6、戦闘力9、脚力4
ハンターα
♂
鉄棒を肌身離さず持っている。(某獅子神さんみたいに)ピカピカに恋焦がれている。それの過程で鉄棒を持って戦うようになったけれど、No.1に匹敵するどころか、No.6にも匹敵出来ない事を理解していて苦悶している。
危機意識が若干欠けていて、タイラントとNo.1, No.97との戦いを見にいくだけのはずが、前座として扱われて死亡。
あ、No.1とNo.97は普通にタイラントを殺しました。
次でなんだかんだ50話だし、どっかのタイミングで書くかねぇ?
リッカーよりハンターの方がB.O.Wとしてすげえだろうが!! っていうところから番外編書くに至ったけど、
リッカーは繁殖出来て再生能力も高い事が強みなら、まあハンターより上回る点もあるというか、雑に使い捨てるならリッカーの方が良いよね。そんな使い捨てる値段してないけど。
で、リッカーにせよハンターにせよ、雑に使い捨てる以外のB.O.Wの使い道って殆ど無いと思うんですけど……、あれ? ハンターって中途半端??
あれれー……。
生き延びたハンター達のその後の構想は一応あるんだけど(そろそろ150件になる活動報告のどっかに書いてあるので探したい人は探してね)、BSAAが絡んでくるのと、更にそのBSAAが不穏な気配を漂わせているので、そんな状態では書きたくなくなってきていたりする。
バイオ10でコネクションも含めて一区切りしてくれますかね??