ふと思いついたので勢いのまま書いてしまいました。アキヒカともヒカアキとも言えないなんともグダグダな小説ですが、よかったら読んでください。お願いします。
今日は塔矢と付き合って2年目の記念日だ。
オレの誕生日やオレの手合の日付やその対戦相手までしっかり記憶している塔矢のことだから忘れた、なんて言ったら本気で別れ話を切り出される。いや、マジで。だって、忙しさのあまり何曜日なのか季節は何なのかもわかんないくらいバタバタ走り回っていた去年の今日。家に帰ったら塔矢が5時間も説教かましてきて、終いには「別れよう」とまで言ってきたもんだから、たまったもんじゃない。だから今年は絶対にそんなことがないようにってカレンダーにもスマホの待ち受けにも書いてたのに……。それなのに、手合のスポンサーの後藤さんから少し飲もう、と誘われて断るにも断れず、そのままずるずると居酒屋まで行ってしまった。碁打ちの中でなぜかオレだけ気に入られていて、こうやって手合の後には誘われるのが恒例になっていた。だから適当に呑んでさっさと帰ろうと思っている。が、
「進藤くんはコッチの話は聞かないけど、どうなの?やっぱいるの?」
瞬時に察したオレは、酒の勢いもあってか、
「ええ、ショートカットでそれがもうすっごく可愛いんですよ」
「ほほお、写真あるかい?」
やばい、そこまで首を突っ込まれたら困る。
「いやぁ、彼女写真撮られるの嫌いで」
「今のうちに沢山撮っておきなさい。思い出が増えれば増えるぶんだけ、ワシみたいな老人になって見返すことが楽しみになるんだよ」
「そうっスね」
コーラで割られたハイボールを1口、甘さと苦さが混じりあって弾ける。きっと今頃塔矢は眉間に皺を寄せてオレの帰りを待っているんだろう。
「その子と結婚とかも考えてるの?」
「いやぁ、そんなの全然ないです。まだ会って今日で2年目ですから」
「2年目ねぇ。だいたい距離に慣れてくる時期じゃないかい?」
「まあそんな感じですね」
塔矢とオレが付き合い始めたのは、オレが塔矢の住むマンションに転がったときだった。そのときオレはただ純粋に塔矢をライバルとして見ていたが、オレが同居したいと言って塔矢は何を勘違いしたのか、オレに恋心を抱くようになったらしい。それから少しして告白され、今に至るというわけだ。だがオレは塔矢を恋の対象としては見れなくて、まだ手を繋ぐことくらいしかしたことがない。囲碁に対しては積極的な塔矢は意外にも恋愛では奥手で、向こうから一切アプローチしない。手を繋いだのもデートのときだけだし……。
後藤さんは店主に「日本酒熱燗で」と手を上げて唐揚げをつまむ。後藤さんこそ、彼女はいないのだろうか。だがそれを聞いたらますます帰る時間が遅くなってしまう。
無言でいると、
「進藤くん、いつも悪いねぇ。こんな年寄りの話に付き合ってもらって。これが唯一の楽しみなんだよ」
後藤さんは泣きそうな顔をして笑った。そんな表情をされたら、つい心が動かされてしまう。
「いやいや、そんなのいいっスよ。オレでよければいつでも相手になりますから」
なんて、塔矢のことなんて放って言ってしまった。これじゃあ、ますます帰りが遅くなる。
「ありがとう、進藤くんは優しいなぁ」
後藤さんは指を目頭に当てて泣くフリをした。でも目が潤んでいることに気がついた。みんな寂しいのだ。後藤さんも、塔矢も。そしてどっちに行けないオレも。優先すべきは塔矢なのに、こうやって流されてしまう。きっと帰ったら怒られて、別れ話を切り出されるだろう。そうしたらどうしようか。なんて言おうか。
「今日はあんまり盛りあがらないからお開きにしようか」
後藤さんはいつの間にか運ばれていた熱燗を一息に飲み干した。
「また誘ってもいいかな」
オレは微笑んで頷いた。
家路に向かう途中の自動販売機で視線を感じたので見ると、塔矢だった。
「仕事お疲れ様」
何を考えているのか、無表情の面の下に隠れた感情を読むことが出来ない。
「本当にごめんなさい!」
平謝りすると、
「ふふっ」
塔矢のこらえきれなくて出てきてしまった笑い声が聞こえた。怒りでとうとう笑いがこみ上げたのかと恐る恐る顔を上げると、塔矢は満面の笑みを浮かべていた。
「去年みたいに怒られると思った?」
オレは小さく頷く。
「後藤さんと飲み会だったんだろう。スポンサーだから仕方ないさ」
「断りきれなくてごめん!」
「いいよ、もう」
塔矢は優しい瞳でオレを見ていた。これが2年目の懐の広さか。あんなに怒鳴って号泣していた去年とはまるで別人だ。
「悪いと思ってるなら、今ここでキスして」
「えっ?」
さっきまでの仏のような塔矢はどこにやら、今は般若のような恐ろしい顔でオレを睨んでいる。
こりゃあ、そうとう怒ってるな。
「下手かもしれないけど、いいの」
「いいよ」
塔矢は目を閉じた。長い睫毛が切れ長の瞳に覆いかぶさった。
「じゃあ、いきます……」
周囲に誰もいないことを確認して、塔矢に1歩踏み出し、その唇に重ねる。ほんの一瞬だったけどオレにはとても長く感じられた。
「これでいい?」
「駄目だ。何の酒を呑んでいたかわかるくらい」
「それってディープキスじゃん!やり方わかんねぇよ」
「じゃあ、さっきのをもう1回やって?そのあとはボクに任せていいから」
オレは目を固くつぶって口付けした。その瞬間、待っていましたとばかりに塔矢の口が開いて熱い舌が口の中に入ってくる。
「んっ……んん」
塔矢の舌はオレの口の中を堪能するように動き回る。その初めての感触に思わず気持ちよさを感じてしまった。恥ずかしさのあまり、慌てて塔矢と距離を取る。
「もっ、もういいだろ!」
「キミはどうやらハイボールを呑んだみたいだね。それも何かと割って。完全に何を呑んだのか当てるから、ほら、もう1回」
「も、もうここじゃなくて家でやろうぜ!いい加減体が冷えたんだよ!」
「冷えたという割には顔が真っ赤だけど?」
オレは頬に手を当てた。確かに熱い。ほとんど無意識だった。
「るっせぇ!とにかく帰るぞ!」
オレは塔矢の手を引いた。冷たい氷のような手だったけど、熱いオレの手にはひんやりして気持ちが良い。
「それは家に帰ったら続きをゆっくりしようって意味だな?」
「ちっ、ちげぇよ!」
ディープキスの続きって言ったら、もうアレしかない。
「あくまでもディープキスまでだからな!絶対だぞ!」
「あれ、記念日なのに遅く帰ってきた人が何か言ってる」
そう言われたら何も言い返せない。来年こそは絶対、絶対塔矢の言いなりにならないように早く帰ろう。どんなに仕事が忙しくても、どんなに後藤さんが誘ってきても!