短いし見直しもしていない(する気もない)ので駄文上等なものです。
それでも宜しければどうぞ。
「それではまたどこかで、モモンガさん」
「ええ、またどこかで、ヘロヘロさん」
円卓の間から一人の異形種が消え、モモンガは一人残される。
「結局一人か……」
DMMO-RPG『ユグドラシル』のサービス終了日。モモンガはギルドメンバーに最終日を共に過ごそうと声をかけたが、結局のところ最後まで残った者はいなかった。
「残念だが……しょうがないな、皆リアルが忙しいんだし」
モモンガは意気消沈としていたが、その声には少し余裕がある。まるでまだ楽しい事は残っていると言わんばかりだ。
「よし! じゃあ王座の間に行くかな」
一変して声を明るくしたモモンガはギルド武器を手に取ると、部屋を出て歩きだす。その足取りは軽く、多少の浮つきを見せながら。
モモンガは、つまらない男だった。
配偶者はおらず、趣味らしき趣味もない。仕事もあくまで生活の一部。上昇志向もなければ野望もない。
そんな彼にも一つ、迷わず好きだと言えるものがある。
――――ユグドラシルというゲームが、大好きだということ。
異形種を選んだ為に苦難の道を歩み、親しくなったギルドメンバーは様々な理由で次々引退してゆく。それでもなお、彼はユグドラシルというゲームのシステムが、世界感が大好きだった。ゲームが斜陽状態になってなお、それは変わらない。むしろライバル達が減った事で狩場が自由に使えると喜んだ程だ。
彼は未知を楽しみ、人との出会いを大切にし、いつまでもいつまでもユグドラシルを楽しんだ。
……だが、それも今日で終わる。
悲しんだ。まだ続けたい、やりたい事があると嘆いた。
しかし、それでも彼はユグドラシルを愛した。終わると知ってなお、アイテムを、情報を、力を求め続けた。それほどユグドラシルは彼にとって楽しく、他の娯楽はつまらなかったのだ。
だからこそ彼は――――最後の目標を立て、それを叶えたのだ。
玉座の扉が開く。
「……壮観だな」
美しくも重厚感を持った一室。神殿のような荘厳さを抱えたその世界に、それに負けぬ異形種の群れが立ち並んでいた。
彼はギルドメンバーに作られたNPC。全階層守護者、および領域守護者。その全てが王を迎え入れるように整列している。
「流石に部屋に入らないモノはいないがな」
自嘲気味に笑うモモンガは、ゆっくりと彼らの間をかみしめるように進む。
彼らは今日の『イベント』の為、モモンガがわざわざ一人一人配置したのだ。最終日だからこそできる不用心、我がままである。
「さて」
王座に腰かけたモモンガは、時間を確認する。予定時間より余裕がある。暇つぶしに近場に居たアルベドの設定を開き、その文量と酷さにドン引いてちょこっと修正したりした。
「……よし、始めるか」
残り10分きっかり。モモンガはギルド武器を除いた装備を全てインベントリに仕舞い、代わりの装備を目の前に広げる。
「く、くくく」
不敵な笑み、言い方を変えれば気持ち悪い笑みを浮かべるモモンガ。それも仕方のない事だろう、何故ならば目の前に広げたアイテムは全て
ユグドラシルのサービス終了告知が出てから、モモンガは以前より考えていた野望を叶える為に邁進した。それはすなわち、
一つ所有できれば大騒ぎなものを全身など、正気の沙汰ではない。だがユグドラシルはもはや終わるゲーム。アイテムの価値は暴落し、神器アイテムがときに路上に捨てられてもおかしくないのだ。
モモンガはユグドラシルを駆け廻った。9つの世界を飛び、数々のプレイヤーやギルドと交渉を行った。
だがもちろん簡単な話ではない。ゲーム内でいくら金やアイテムを積んだところで、結局サービスが終わるのだからそれらもデータのゴミにしかならない。その為、モモンガは信念に反してリアルでも活動を行った。なにしろゲームにログインしていないものがワールドアイテムを所有している事もある、多数集めるからには必要なことだったのだ。
彼らはモモンガの熱意や、ときにしつこさに辟易して交渉に応じてくれた。
そしてその活動は失敗と成功の果てに、目の前の光景を作り出したのだ。
「HPを10倍にする指輪」
モモンガは思い出を懐かしむように、一つ一つ取り上げてはアイテムをつけていく。
「MPを10倍にする指輪」
「全属性耐性を100%にするローブ」
「全状態異常耐性を100%にするズボン」
「スキルのクールタイムを1/10にするフード」
視界の中にあるステータス画面に次々と新たな項目が増えていく。
全て装備したときの快感を想像しながら、ゆっくりとアイテムを装着してゆく。
ちなみに指輪は指二本を除き課金をしなければ装備を切り替えられない為、わざわざこの最終日の為だけにリアルマネーを使っている。
「魔法威力を10倍にする、武器」
そしてギルド武器を脇に寄せ、最後に残ったワールドアイテムを手に取る。
「…………」
完成した。全身にワールドアイテムを装着した、化け物が生まれたのだ。
全身を感動が包む。ついでによくわからんエフェクトが体を包む。今までの苦労が、思い出が、全てここに統括されているかのようだ。
骸骨のアバターは涙を流さない、流せない。だが、リアルにある体は喜悦の涙であふれていた。夢がかなった、そしてそれら全てが終わるんだ、と。
― ピンポンパンポーン ―
モモンガが感動にうちふるえていると何とも間抜けな音が鳴り響く。
「……? なんだ、もうゲームも終わるのにGMの告知か……?」
それは運営がイベントや異常があった際に使われるSEだった。最終日の挨拶でも始まるのだろうか、とモモンガは静かにその続きを待つ。
≪プレイヤーの皆様、緊急告知です。ワールドエネミーが誕生しました≫
モモンガの頭が真っ白になり、「……は?」と漏れ出る様な疑問が口から掠れ出た。
≪とあるプレイヤー様がワールドアイテムを全身に装着した為、条件達成により公式ワールドエネミーと認定されました≫
その続く言葉に真っ白になっていた頭にガツンと殴られたような衝撃が加わった。俺じゃん、と。
『こんばんは。突然申し訳ございません、GMの●●です』
「へ? あ、はい、こんばんわ」
さらに突然のGMコールが直接届き、混乱していた頭に少しの冷静さが戻る。
『この度は条件達成おめでとうございます。先程告知にありました通り、モモンガ様にはワールドエネミーの称号と各特典を贈呈させて頂きます』
「はあ、ありがとうございます」
『つきましては本来特典内容のご説明から入るところなのですが、申し訳ありませんがサービス終了時間も近い為、割愛させて頂きたいと思います』
「そ、そうですか、しょうがないですね」
『重ねてお詫び致します。話は変わりまして今回の称号取得に従い、モモンガ様には全プレイヤーに対する【宣戦布告】が可能なのですが、使われますか?』
「へ?」
『全ワールド、プレイヤーに対するオープンチャットです。いかがいたしましょうか』
次々と入ってくる情報に、混乱が少しずつおさまってくる。
「……少し、待ってもらっていいですか?」
『はい。時間が許す限りお待ちしております』
モモンガは深呼吸し、自身を落ち着かせる。そして少しの思考時間を取って、決意したように顔を上げた。
「やります」
『了解いたしました、少々お待ち下さい』
≪先程告知にありましたワールドエネミーとなりましたプレイヤー様から、【宣戦布告】権限の使用が確認されました。それでは、只今より始まりますので御清聴願います≫
その告知と共に、視界の中のチャットモードが見た事もない『対象:ワールド』に切り替わる。ついでに目の前にカメラらしきものが召喚される。
(映像つきかよ!)
モモンガは焦りを隠し、語り始めた。
『諸君、只今紹介にあずかったプレイヤーだ、以後お見知りおきを』
サービスの終わりに以後もなにもないが、自嘲気味に話を続ける。
『我が名はモモンガ、いや、もはやこの身に似つかわしい名ではないな……ならば名を変えよう』
ここで『絶望のオーラ』を解放し、たっぷりと溜めを作る。
『我が名はアインズ・ウール・ゴウン! 世界を揺るがし、数々のニンゲン共を駆逐した異形種達の長であり、ナザリックが大墳墓の王である!』
手にした錫杖が地を震わせ、重低音が世界に広がる。
『貴殿等もこの名に覚えがあるだろう。1500人が侵入者共を一掃、殲滅したギルドの名を、そして我が居城を』
『あの時から幾年、我が城は未だ変わりなく、貴殿ら勇敢なる者たちの抵抗むなしく、かつての栄光を変わらぬ力を持って残している』
『あの日、あの時を悔いるがいい。悔恨に苦しむがいい。あの時、私を害せなかったが故に今! 私は全てを手に入れたのだ!』
【ワールドエネミー】で手に入れた力を用いて、『絶望のオーラ』の範囲を最大強化する。視覚的に映る絶望の光は、濃密さを増して炎がごとく激しく吹きあがった。
『もはや私を害せるモノなど誰もいない。天使も、悪魔も、全ての超越者は我が前に平伏し、地を舐める他ない!』
『故に、貴様等は乞うがいい。生を、死を。その全てが死の支配者たる私のモノだ』
背を向け、広がっていたオーラを納める。そのままモモンガは語りを続ける。呟くように、まるで乞うように。
『これを許せぬというのならば、くるがいい。私はいつでも貴様等を待っている。例え全ての英雄が敵対しようと、そして世界が終っても。このナザリックの奥地で……』
静寂が広まる。まるでもう世界が終ってしまったかのように、音すら死したかのように。
『―――最後に、一つ。名を改める前の、一プレイヤーとしての言葉を、君たちに送ろう』
指を一つ立て、何かを抱くように腕を広げる。優しく、そして力強い最後の言葉。
『ふざっけんなよクソ運営! 全身ワールドアイテムとかできるわけないだろ! ●ね! 氏ねじゃなく●ね!』
地団駄を踏み、まるで子供の癇癪がごとき叫びを前に、
―――――世界中から歓声が上がった。
『良く言ってくれた!』
『流石だよモモンガさん! やっぱり運営はゴミ!』
『よっ、非公式魔王! いや今日からは公式魔王だ!』
『ナザリックに栄光あれー!』
『ユグドラシル2があったら絶対来いよ! 次はギルドごとぶっこわしてやるからな!』
『魔王さま、お隣にいる白い美人を嫁にください』
『最高だぜクソッタレ!』
『愛してるぜモモちゃーん!』
「はは……ははっ」
数十、数百というメッセージがモモンガ宛てに届く。まさしく、世界中だ。
嬌声、罵声、感謝、怨恨、内容はそれぞれだが、全てがモモンガとアインズ・ウール・ゴウンへと向けられている。
『ナザリックは、ユグドラシルは永遠だ! アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!』
― 00:00 ―
そして、世界が終わり。
― アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ! ―
目の前のNPC達が涙を流しながら喝采を上げるのである。
「えっ?」
以上、前から妄想していた小ネタでございました。
さらに以下、箇条書きで妄想設定。
・ステータスは全体的にボス級にランクアップ。全ワールドチャンピオンと全ワールドディザスターかき集めて討伐できるんじゃねー?(GMハナホジー発言)的な強さ。
・この際装備したワールドアイテムは全てモモンガ様に吸収。基礎能力・スキルとして使えるので新たに別の装備も可能。
・ここまで変わっても中身はモモンガさんは鈴木さんのまま。
・ワールドエネミー認定により普通の活動が出来なくなる為、新たに別のアバターが使えるようになる(プレイヤーとしての楽しみを損ねない為)
・ギルドの強化もボーナスとして可能。ギルドポイントや強化用資金が配布。NPCのLv限界突破も可能。中ボスは必要でしょう。
【パパ皆を鍛えちゃうぞー】イベント
強くなって精神的余裕のあるモモンガさんは各階層守護者と模擬戦を定期的に行う様になる。もちろん1対多。守護者たちは少しずつプレイヤースキルとチームとしての力を増してくるが、モモンガ様もワールドエネミーとしてのムーヴを少しずつ学んでいくので何時までも力の差が埋まらない。というか多分加速度的にモモンガ様が進化する。
【もう一つのアバター】イベント
候補1: ドッペルゲンガー
候補2: 人間種
作品内でパンドランズ・アクターはモモンガさんがやりたい事を詰め込んだ的な事を言っていた気がするので多分ドッペルゲンガーの可能性が一番高い。人間種としても化けれるので一石二鳥。
「モモンガ様、少しよろしいでしょうか」
「アルベドか? 入れ」
「失礼致しま―――あの、『それ』は一体……?」
「ああ、ワールドエネミーになった事で作れるようになったもう一つの体だ。今後の活動の為にも人間型の体が望ましいと思ってな」
「と、とと、ということは、そのお体はももんがさまそのものだと……」
「まあな、リアルの私の体を参考にしている。もちろんこの世界やユグドラシルの人間種とは中身は別物だがな(クッソ弱い方に)」
「く、くふー! これがモモンガ様の体ぁ! なっ!? モモンガ様、大事なところが! 大事なところが見えません!」
「当たり前だろ!」
以上、駄文にお付き合い頂きありがとうございました。
ちなみに本設定でもう続きをかくつもりはありませんので、誰か続きが読みたいのなら書いてもいいのよ?(チラッ)いいのよ?(チラッ)