山の翁の暗殺譚(アサシネイド)ーリメイク版ー   作:ザイグ

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第四話 東堂刀華

 

 

 七星剣武祭。日本に七校ある『騎士学校』から選び抜かれた学生騎士が戦う大会であり、学生が参加できるものでは最大規模の大会であり、この大会で優勝した者は学生騎士の頂点である《七星剣王》の称号を与えられる。

 伐刀者を目指す学生なら誰もが一度は憧れる称号だろう。

 

 だが、憧れるからといって七星剣武祭に参加したいと思うかは別だ。

 伐刀者は国に重要視される存在なので十五歳で成人扱いとなり、飲酒や結婚が認められている。

 そして未成年扱いだった十四歳以下が出場できる大会が《幻想形態》だったのに対して、七星剣武祭では《実像形態》の真剣勝負が行われる。

 

 《幻想形態》は人間に対して物理的ダメージを与えない代わりに体力を削る安全な形態。

 逆に《実像形態》は与えた物理的ダメージがそのまま相手に伝わる形態。

 黒鉄一輝の《陰鉄》に斬られれば手足など簡単に切断されるだろう。

 ステラ・ヴァーミリオンの伐刀絶技《妃竜の息吹(ドラゴン・ブレス)》に焼かれれば人間などあっという間に消し炭にされるだろう。

 

 《実像形態》で戦う七星剣武祭では、負傷は当たり前。最悪、死人が出る事もある。

 そんなリスクを背負ってまで強くなりたいと思う者はキチガイな奴らだけだ。

 大半の生徒は魔導騎士の資格を得て高給な安定した仕事に就きたいと思っている。

 

 僕、山野翁も平穏に過ごしたいと思う生徒である。

 そして今年から理事長先生が『全校生徒参加の実戦選抜』という、いかにもキチガイ共が好みそうな方法を採用していた。

 でも、強制じゃないから七星剣武祭に参加したくない人は辞退が認められている。

 無論、七星剣武祭に興味ない僕は不参加のメールを『実行委員会』に送るつもりだ。

 

 騎士道精神などという古臭い考えを持つキチガイと違い、現代人の僕は平和を愛するのだよ。

 キチガイ共はキチガイ同士、勝手に殺し合ってろ。という訳で不参加メールを送信。ポチッ「やっぱり、おきくんだったんだ」とな?

 

 ——おきくん? え、翁だから、おきくん? 何その幼なじみにするような呼び方。僕をそんな呼び方する人いないはずだよ。

 

 誰だと思い、顔を上げると——

 

「……雷の姫か」

「ふふ、相変わらず変な他称。大きくなってもそこは変わらないね」

 

 同じ孤児院で育った子供の一人、東堂刀華がそこにいた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 私は隣に佇む少年を見る。

 会うのは十年振りだけど、おきくんは何も変わっていなかった。独特な他称も、無口なとこも、無表情なとこも、そして……何も映さない虚無な瞳も。

 おきくんは本当に何も変わらない。変われなかったんだね(・・・・・・・・・・)

 それを理解すると罪悪感が湧いてくる。彼が変われないのは私のせい。私が彼をこのままにしてしまった。

 

 

 『若葉の家』。特殊な事情がある子ばかり集められたその中で、この少年は特に異彩を放っていた。

 施設の子たちは、敵意、殺意、恐怖、憎悪、憤怒……他者を拒絶する為に様々な感情を放っていた。でも、彼は違う。敵意を向けられようと、恐怖されようと無関心で無感動。この世の全てに興味がない虚無のような少年だった。

 

 だが、異彩という意味では東堂刀華も同じだった

 刀華は死んだ両親からたくさん貰った笑顔と愛情を他の子供たちにも与えたいと思える優しい子だった。

 だから、みんなを笑顔にしようと彼女は努力した。小さな子の世話をして、ご飯を作って、心が壊れていた御祓泡沫も立ち直らせてみせた。

 でも、頑張っても刀華にはどうしようもない事もあった。

 施設の中の年長組に不遇な怒りを年少組に暴力を振るう者たちがいた。

 当時、非力な少女でしかなかった刀華には打破する力はなく、年下の子供たちを庇って殴れるしかなかった。

 それを翁は止めさせた。——“暴力”を超えた“暴威”によって。

 あの時の光景を刀華はよく覚えている。四歳の少年が十歳前後の少年を十数人も蹂躙する異様な光景を。

 でも、それ以上に刀華の記憶に残ったのが彼の瞳だった。年長組に圧倒的な暴威を振るいながらも彼の瞳には虚無しかなかった。あのままでは年長組を殺してしまう。何も思わずに無意味な殺戮をしてしまうと刀華は直感した。

 

 

 ……あの時は私が彼らを庇ったから、おきくんは引いてくれて事なきを得た。

 

 

 暴威を振るったのは正しいとは思えないけど、その後は年長組も刀華の言うことを聞いてくれるようにはなった。それが結果的に良かったのかはわからない。

 年長組は全員が重傷を負い、怪我を負わせた翁は周囲から孤立してしまった。

 

 あの時ほど刀華は自分の無力さを悔やんだことはない。力があれば、小さい子たちを守ってあげられた。年長組たちに怪我をさせずに説得できた。翁に汚れ役を押し付けることもなかった。だから、力が欲しかった。

 幸いというべきか、刀華には伐刀者の素質があった。他ならぬ翁がそれを見抜き、霊装や魔力の使い方を教えてくれた。

 

 

 ——おきくんは最初から私を『雷の姫』と呼んでいたけど、その時から私が伐刀者であるだけでなく雷を操る『自然干渉系』なのを見抜いていたのには驚いたなぁ。

 

 

 あの日々は刀華にとって掛け替えのない思い出だ。翁に稽古してもらっては手も足も出ずにボコボコにされて。でも、強くなってる実感があった。

 

「……本当、あの頃は楽しかったなぁ」

 

 でも、それも長くは続かなかった。

 それは唐突に始まった。施設の男の子たちと翁が対立したのだ。

 翁一人に対して多勢に無勢だったが、伐刀者……それも現在の刀華よりも強かった彼に子供たちが敵うはずもなく、日に日に怪我人が増えていった。

 刀華が理由を聞いても誰もが口を閉ざし、翁には「汝が知る必要なし」とバッサリ切り捨てられた。

 それでも刀華は彼らを説得しようとしたが、彼女に止めることはできずに事態は悪化していく。

 そして決定的な出来事が起きてしまった。

 

 

 

 ——うたくんが死にかけた。おきくんによってあと少しで手遅れになるほど瀕死の重傷を負わされたのだ。

 

 

 

 御祓泡沫は山野翁を特に嫌い、我慢の限界だったのか二人は激突した。いや、あれは泡沫が一方的に掴みかかり、翁が軽くあしらってるだけだった。泡沫が何度倒れようとも必死に喰らいつくが翁は歯牙にもかない。けれど泡沫は決して敗北を認めず、結果として瀕死になるまで戦いは続いてしまった。

 死者まで出そうなっては院長先生も流石に庇いきれずに彼を追い出そうとする空気が『若葉の家』に蔓延し、それでも刀華は彼を擁護したが誰も耳を傾けてなかった。そして不満が爆発しそうになった時——翁は施設から消えた。

 何も言わず、忽然と彼は刀華の前からいなくなってしまった。

 

「……いま思えば、私のせいだったんだよね」

 

 あの施設に集められた子たちは人を拒絶してしまう事情を持っていた。なのに私が無理矢理一緒にしようとしたから、反発し合い、あれほどの惨事になったのではないか?

 私が勝手におきくんとうたくんに仲良くなって欲しいなんて思ったから殺し合いになったのではないか?

 皆を笑顔にしたいなんて思った私のエゴがなければあんなことにならなかったのではないか?

 おきくんを望んでもいない皆の輪に入れようとしたから、彼より心を閉ざし、いまも孤独なのではないか?

 あれだけの惨事を自分が引き起こしてしまったと思うと、私は胸が罪悪感で押し潰されそうになった。

 

「——おかしな事を言う」

「え……」

「……傷心を負った子は他者を拒絶するのが常……それを小さき少女が解きほぐしてしまうとはな。

誇るがいい。いたらぬ光なれど、我ら孤児の中でただひとり、閃光の如く輝いていたのだ」

「——」

 

 その言葉に刀華の目から雫が垂れた。自ら否定しそうになった刀華の想いを彼は正しいと言ってくれた。

 素直に嬉しいと思った。彼を追い出してしまった刀華たちを恨みもせず、それどころか刀華たちを彼は肯定さえしてくれたのだから。

 刀華は光となり、闇に沈んでいた子供たちを救い出したから、後悔することも、罪に感じることもないと。

 だから、自分のことも何も後ろめたく思う必要はないと。

 

「……ありがとう、おきくん」

 

 溢れる涙を拭いながら、刀華は翁にお礼を言った。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「……本当、あの頃は楽しかったなぁ」

 

 女神こと刀華ちゃんが懐かしむように呟いた。それにしても刀華ちゃんは本当に綺麗になったねぇ。

 最後にあったのが七歳の時だから、見違えちゃったよ。

 で、あの頃は楽しかったって言うのは十年前の『若葉の家』のことかな? 流石に僕がいる前で僕がいなかった時のこと懐かしんでたら泣くぞ。

 

 それにしても『若葉の家』かぁ……。あの頃は色々なことがあったな〜。

 来たばかりの頃は親殺しなんてしてしまった絶望で現実逃避する日々を送っていたり。

 刀華ちゃん達を虐める悪ガキどもが居て、助けたら悪ガキどもに重傷を負わせてしまったり。

 やり過ぎとか言わないでね? あの頃はケンカもしたことなかったから、自分の身体能力をわかってなかったんだ。いや本当にサーヴァントの身体能力を舐めてた。軽く叩いただけで骨を折っちゃうんだもん。

 筋力:Eのジル・ド・レェが素手で子供の頭を握り潰せるんだから筋力:Bのキングハサンなら人なんてデコピンで殺せると理解しておけば良かった。

 

 そのせいで助けたはずの刀華ちゃんが年長組を庇うという展開になり、僕が悪役みたいになっていた。

 あれだけやらかした以上は孤立しちゃうかなと思ったが、やっぱり優しい刀華ちゃんは僕に声をかけてくれたよ。彼女の優しさに僕は心打たれたね。

 で、お礼に刀華ちゃんが伐刀者になるのを知ってた僕は色々教えてあげた。生前の意識をそのまま持っていた僕は体が動かない乳児の時はやれることないから、霊装を展開させてみたり、魔力制御をして暇潰ししていたのが役に立ったよ。

 これで名誉挽回なるかと思ったら、そうでもなかった。

 

 ……施設の男の子たちに目の敵にされるようになりました。最初は心当たりなくて困惑しましたが、彼らの刀華ちゃんを見つめる眼差しを見て理解してしまったよ。

 

 

 ——あいつ等、刀華ちゃんのこと好きになってたみたいなんだよね。

 

 

 まぁ、惚れるのも分かるよ? まだ七歳だった当時でも可愛いかったし、あの他人に尽くす性格だ。心が傷付いた少年たちが優しくされてコロッといくのもわかる。

 そして僕が刀華ちゃんを稽古という名目で独占し、その上、《幻想形態》とはいえ毎日、大剣で斬りつけているのが、少年たちには虐待してるように見えたようだ。毎日毎日、飽きもせず特攻を仕掛けてくる奴が多発した。

 

 え? キングハサンなら子供の特攻なんて軽くあしらえるって?

 

 

 ——恋に盲目な奴ら舐めるな。ただ一人の女神を信奉する狂信者は何も恐れず、どんな苦難も進む死兵と化すのだ。

 

 

 宗教戦争ってなんで信じるものの違いであんな争いになったのか不思議に思ってたけど、いまなら理解できてしまう。

 自身が唯一絶対と信じるものを傷付けられれば、彼らは命をさえ投げ出し元凶を排除する神の戦士になる。

 刀華ちゃんに恋し、彼女のためなら死兵と化す『女神親衛隊』(命名は僕)は本当にしつこかった。

 女神(とうか)を傷つける悪魔(おきな)を許すなとばかりに、倒しても倒しても倒しても起き上がってくる様は一種のホラーだ。わざわざ《幻想形態》で体力だけ削るようにしたのに限界超えても起き上がろうとして、転げて怪我する、壁にぶつかって怪我する、と僕の傷付けないようにした心配りがまるで意味がないように傷を増やしていった。その上、その怪我は僕がやったことになるから、ふざけるなと言いたい。

 

 特にしつこかったのが女神親衛隊筆頭の御祓泡沫だ。あのチビは刀華ちゃんに救われた恩義から特に熱狂的な信者で、最後の最後まで僕に突っかかってきた。

 タチが悪いのは刀華に全てを捧げる精神とチビの能力の相性が抜群だったことだ。

 

 御祓泡沫は数種類に分類される能力の中で最強とされる『因果干渉系』の伐刀者だ。

 他の系統に関しては話せば長くなるので省くとして、この『因果干渉系』は“因果”に対して効果を発揮するので、同じ『因果干渉系』ではなければ対抗不能というチートみたいな能力だ。

 で、あのチビもそんなチート能力を持っており伐刀絶技《絶対的不確定(ブラックボックス)》は運命を改変することで望んだ結果を作ることができるという能力だ。

 例えば、勝率1%の敵と戦ったとしても、そこに勝てる可能性が僅かでもあれば勝率100%にして百回に一回しか勝てない相手に百回戦って全勝することができる。

 最も簡単に言えばジャ◯ボ宝くじで一等が出る確率が一千万分の一なのだが当たる可能性があるのなら、必ず一等を買えてしまう能力だ。実に羨ましい。

 

 だがこの能力。ここまで聞けば万能なチート能力にも聞こえるがそうでもない。

 まず大前提として泡沫に成功率1%でもなければこの能力は意味がない。勝率0%の相手に対していくら運命を改変してもには0は0にしかならないので圧倒的格上には役立たずになってしまう。

 加えて泡沫自身の実力は高くない——てか、正直にいうと弱い。純粋な実力は学園でも下から数えた方が早い。

 だから、伐刀者ランクCもあれば倒すのは難しくない。

 

 ……が、僕が相手の場合はこの限りでなかったりする。

 

 あのチビにはとんでもない方法で僕と同じ土俵に立ってみせた。

 《幻想形態》の攻撃がチビには効かなかったのだ。

 《幻想形態》は肉体的ダメージではなく、精神的ダメージで体力を削るものだ。つまり精神干渉をシャットアウトすれば《幻想形態》の攻撃は無効化される。

 チビは刀華ちゃんへの信仰心を《絶対的不確定》で極限まで高め、一種のトランス状態になることで、全ての攻撃を無効化してみせた。

 更に火事場の馬鹿力っていえばいいのかな? トランス状態によって肉体のリミッターまで解除したチビは、《絶対的不確定》のバックアップを受けることで限界を超えた戦闘能力を見せ付けた。

 当時、四歳という未熟な身体なのでキングハサンの力を万分の一も発揮できなかったとはいえ僕の全力に追い縋るとは思わなかった。

 まぁ、そんな限界を超えた力を発揮して無事でいられるはずもなく、チビの身体は自壊してしまい、勝手に戦闘不能になった。勝手に挑んできて勝手に死にかけたんだから、僕は悪くないよね?

 

 そう思ってもいつの世も加害者と被害者で悪いのは加害者だ。施設の子供を殺しかけたとなれば流石にヤバイと思った僕は『若葉の家』を飛び出したんだよなぁ。

 結局、『若葉の家』に居たのは一年程度だか、濃い一年間だったな、うん。

 

 

 ————欠片も楽しかった要素がねぇッ⁉︎

 

 

 いや、刀華ちゃんの料理が美味しかったとか、稽古中に転んだ刀華ちゃんのスカートがめくれてラッキーとか良いこともあったけど、それを差し引いてもロクなことが起きてない!

 騎士学校に入学してしまったことといい、なんで僕の人生はこんなハードモードなの⁉︎

 

「……いま思えば、私のせいだったんだよね」

 

 内心で頭を抱えていると刀華ちゃんが唐突に呟いた。

 え、私のせいって……まさか僕とチビが刀華ちゃんを巡って争っていたのを知ってしまったのか⁉︎

 皆と対立してしまったのが自分のせいだと思ってる? 違うよ、刀華ちゃんは全然悪くない! 悪いのは勝手に争ってた僕らだから! ……いや、あれって僕悪くないよね。降り掛かる火の粉払ってただけだし。

 ああ、そんな悲痛な顔はやめて! 刀華ちゃんのそんな顔は見たくないよ!

 えっと、なんか慰める言葉を、彼女が悪くないってことを教えないと!

 

「——おかしな事を言う」

「え……」

「……傷心を負った子は他者を拒絶するのが常……それを小さき少女が解きほぐしてしまうとはな。

誇るがいい。いたらぬ光なれど、我ら孤児の中でただひとり、閃光の如く輝いていたのだ」

「——」

 

 キングハサンの言い回しって難解だよね。自分でも言ってる意味がわからん。

 彼女がいたから皆が仲良くなれたたんだよ。対立したのはあのバカ共が悪いから、君が気にする必要はないと言いたいだけなんだけど……。

 て、ああああ、今度は泣き出した! 何か傷付くこと言ってしまったの⁉︎ ごめん。やっぱり、言ってること意味不明だった⁉︎

 

「……ありがとう、おきくん」

 

 謝ろうとしたら、笑顔でお礼を言われた。それはもう見惚れてしまうほど笑みだった。

 えっと……とりあえず元気出したみたいでよかったね。

 

「うん。そうだよね。こんなところでくよくよなんてしてられない! 私は皆の期待を背負ってるんですから! だから、おきくん! 一緒に頑張りましょう!」

 

 うん。頑張ってね、刀華ちゃん。応援してるから……ん? 一緒に(・・・・)? ……あれ、いまおかしな事が聞こえたような。

 

「破軍学園に入学したってことは七星剣武祭に出場するつもりなんだよね? おきくんくらいに強い人が居てくれるなら心強いよ!」

 

いや、あの、僕は選抜戦に出る気はないんですけど……いまも不参加のメールを送信しようと……。

 

「私たち二人とも七星剣武祭に出られればいいけど、選抜戦で当たるかもしれない。そうなったら仕方ないけど、全力で戦いましょう! 十年でわたしがどれだけ成長したかおきくんに見せてあげる!」

「請け負った。その時は汝の首を断ち切ってやろう」

 

 のおおおおっ⁉︎ また返事をしてしまった。美人の頼みは断れない! てか、首を断つって冗談だからね、言葉の綾です! こんなこと言ったら刀華ちゃんもドン引き——

 

「ありがとっ! 私もがんばるたい! 絶対に負けなかとよ!」

 

 ——凄く嬉しそうな顔をしていた。そういえばこの子、バトルマニアな一面があったな。てか、興奮して素で出てるよ? 可愛いからいいけど。

 嬉しそうに走り去っていく彼女を黙って見送るしか僕にできなかった。——あ、転けた。今日は白のようだ。何がとは言わないが。

 その光景をシッカリと脳内メモリーに保存した僕は手にある生徒手帳に目を落とす。

 

『メールを送信しますか?』

 

このメールを送れば僕は選抜戦から弾かれて参加しなくてよくなる。……が、あんな笑顔を見せられて、このメールを送る度胸は僕にはなかった。

 僕は苦渋の思いで削除ボタンを押して、不参加メールを消した。

 

 

 

……さて、キングハサン。目立つのをあんたは好まないかもしれないけど。初恋の子の望みくらい叶えてもいいよね?

 

 

 

 

 


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