闘争こそ、我が日常也て   作:鎌鼬

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もしもキリト君がキリトちゃんだったらというIF。


トランスセクシャル・イフ

 

 

「ーーーはぁ……」

 

 

目が覚めて身体がニコチンを欲しているので起き上がろうとした時に身体の左側が動きにくい事に気が付いて思わず溜息を零してしまう。布団は明らかに一人分以上の膨らみを持っていて、その上身体を抱き付かれるような感触があるので何をされているのか嫌でも分からされる。

 

 

布団を剥ぐとそこには予想していた通りに()()()()()が俺の左腕に抱き着きながら眠っていた。あどけない寝顔を見ていると微笑ましくなってくるが少女はよく眠っていて、腕を引き抜こうとしても服の袖を離そうとしないので抜けない。しょうがないので服を脱ぎ捨てる事で脱出し、彼女を起こさないように細心の注意を払いながら布団から抜け出して外に出る。

 

 

我が家は一番近くの民家まで直線距離でも数十キロ離れているとかいう山奥にある。11月に入った事で山は紅葉で染まって肌寒い。彼女の寝顔を見て良い気分になりながら寒さに耐えつつタバコを吸おうとしていると、

 

 

「おう、起きたか」

 

「最悪の目覚めになったよ」

 

 

半裸の爺さんが親指だけを使って逆立ちになりながら姿を現した。しかも足の上には漬物石を乗せた状態で。老人の半裸とかいう誰も得しないものを見せつけられて折角良い気分だったのに台無しにされてしまった。八つ当たりで近くにあった石ころを蹴飛ばすが半身になって躱される。漬物石を乗せたままで。

 

 

「ところでカズちゃん見てないか?起こそうと思ったんだが見えなくてよ」

 

「俺の布団に潜り込んでた。起こしてないからまだ寝てるはずだぞ」

 

「ほぅ?それはつまり手を出したって事か?」

 

「出してねぇよ良い加減にしろよこのクソジジイ」

 

 

顔面を蹴り飛ばそうとするが腕でカードされる、それは分かっていたので発勁を股間に叩き込む。男の急所に一撃必殺級の攻撃を受けた事で爺さんは崩れ落ちた。足に乗せていた漬物石は爺さんの顔面に落ちて動かなくなる。これで死ねば世界は平和になるだろうが死んでないだろう。

 

 

「ーーー不知火ぃ……」

 

 

背後から涙声が聞こえたので振り返れば俺の服を抱き抱えた少女が泣きそうになりながらやって来ていた。タバコの火を爺さんで消して近づくとそのまま抱き着いてくる。

 

 

「おう、ゴメンゴメン。タバコが吸いたくなってな。すぐに飯の用意するから待ってろよ」

 

「……ヤダ、離さない」

 

「危ないから離れなさい」

 

「断る」

 

 

言葉では離れないので力づくで離そうとしても全然離れる気配が見えないので諦めて、彼女を張り付けたまま飯の支度をする事にした。

 

 

「あぁ、そうだそうだーーーおはよう、和人(かずと)

 

「……おはよう」

 

 

これはあり得たかもしれない世界の話。現代社会において異質だと自覚する男と、その男を慕う1人の少女の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桐ヶ谷和人という少女を我が家では預かっている。元は母さんの友人の娘だったが交通事故で両親を亡くし、本当だったら母方の妹夫婦である桐ヶ谷家に引き取られるはずだった。しかし桐ヶ谷家への養子手続きをしたところで夫婦の勤め先で問題が発生し、金銭的な面で問題が生じてしまったのだ。そこで名乗りを上げたのが俺の母さんで、うちで預かることとなった。

 

 

そこまでは良い。母さんが引き受けたはずなのに俺が世話を押し付けられたり、10年以上経ってもう問題は解決しているはずなのに未だに我が家にいることなんかは今更な事なので何も言わない。

 

 

だけどなぁ、

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……なぁ、楽しいか?」

 

「スゴい落ち着く」

 

「あっそう」

 

 

テレビの前でゲームをしている和人だが、座っているのは畳や座布団の上ではなくて胡座をかいた俺の足の上。しかも暖房が効いているとはいえかなり薄着で俺に密着している。女の子特有の柔らかい感触や甘い匂いを感じられ、しかも無防備なのだ。例えるなら飢餓状態の狼がいる檻の中で小動物が食べて食べてと踊っているのと同じだ。ぶっちゃけた話、俺でも油断すれば手を出しかねない程に誘っている。

 

 

悩みというのは、和人が露骨なまでに俺のことを誘っている事だった。こうしている間にも身体を擦寄らせて来ているし、自然体を装ってチラリズムを作り出している辺りかなりガチだと思い知らされる。

 

 

紛れもなく母さんのせいだろう。ギルティ。

 

 

「そういえば今日からだっけか?SAOの正式サービス開始は」

 

「うん、今日の1時から」

 

 

SAO、それは茅場晶彦という天才が作り出したゲームのタイトルである。ジャンルそのものはよくあるRPGなのだが、ナーヴギアを使用したVRMMOでという事で注目を集めているのだ。これまで平面でしかなかったゲームが仮想現実でリアルにプレイする事が出来るとなれば嫌でも注意されるだろう。

 

 

俺はそんなにゲームに関心は持っていなかったが和人はSAOのβ版のテストプレイヤーとして当選していて、和人経由でSAOのことを教えられて興味を持っていたのだ。問題があるとすればSAOの初回生産数はたったの一万本という事か。和人はβ版のテストプレイヤーということで優先されるが、一般である俺は運に頼るしかなかった……それが普通の考えだ。

 

 

俺はSAOをプレイ出来ないかもしれないと伝えると和人は目に見えて落ち込み、軽く鬱っぽくなったので爺さんのツテを頼ってSAOとナーヴギアを確保したのだ。その事を伝えた時の和人は軽く狂喜乱舞していたのを忘れない。

 

 

「俺はVRMMOは初心者だからな、レクチャー頼むぞ?」

 

「不知火だったら必要無いと思うけど」

 

「ゲームだからな。現実(ここ)と同じ様な物理法則で急所とかも同じだったら無双できる自信はある」

 

「そう、分かった。全身全霊で教えるから」

 

「宜しくな」

 

「任せて」

 

 

無い胸を張りながら、自信満々にそう言う和人を見て微笑ましく思ってしまった俺は悪く無い。

 

 

偶々その光景を見た爺さんが俺の事をロリコン呼ばわりしたので軽く半殺しにしたが俺は悪く無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー着いッ、たぁぁぁぁぁ!!」

 

「疲れた……」

 

 

夕日が落ちて夜になり、俺と和人ーーーいや、キリトはSAOの舞台であるアインクラッド第一層の村である〝ホルンカ〟に辿り着いた。夜になったからなのか昼間よりも多く沸くモンスターの群れを切り抜けながらの強行軍だったので肉体的な疲れは無いが精神的に疲れている。

 

 

SAOは茅場晶彦の手によりデスゲームとなった。ゲームマスターを名乗る茅場晶彦からゲーム内での死と連動してナーヴギアのマイクロウェーブが俺たちの脳を破壊すると説明があったのだ。それが本当かと機械に詳しい和人に聞けば返事は肯定、原理的には可能であると帰って来た。

 

 

そうであるなら茅場晶彦の言っていることは本当だろう。そう判断して俺はプレイヤーネームでキリトを名乗る和人と、ゲーム内で知り合ったクラインを強引に連れ出して広場から離れた。あのままあそこにいれば暴動に巻き込まれる事は目に見えていたから。

 

 

そうして裏路地まで移動し、これからどうするのかを話し合った。茅場晶彦が言っていた事が全て真実だとするのなら、俺たちがSAOから脱出するためにはSAOをクリアするしかない。和人はその為に早く次の村へと移動しようと提案した。俺はそれに肯定し、クラインは断った。クラインの友人たちがSAOをプレイしていて、彼らを放っておく事は出来ないと言っていた。

 

 

だから俺たちはクラインをおいて次の村へと向かうことにした。冗談交じりの軽口を叩きあって、悲しい別れにならない様にしながら。

 

 

だけど年齢=彼女いない歴の非モテ野郎は言い過ぎたかもしれない。だってロリコン野郎とか言われたんだもの。

 

 

「早く宿屋見つけて寝よう。このままだとそこら辺で寝てしまいそうだ」

 

「しゃんしぇえ……」

 

 

俺はまだ気力で持ち堪えているが和人は限界を迎えつつある様で語彙力が完全に蕩けきっていた。なので和人を背負い、出てくる〝ハラスメントコード〟の警告ウインドウを叩き割りながら宿屋に向かい、部屋を一つとって和人をベットに寝かせ、俺はソファーで横になった。

 

 

「……絶対にリアルに帰してやるからな」

 

 

キチガイの家系に生まれ育ち、社会不適合者である俺とは違い和人は普通の女の子だ。まだ若く、幼い彼女をこんなところで死なせるわけにはいかない。

 

 

それに俺も死ぬつもりは無い。出会ったばかりの頃に、両親を亡くして泣いている和人と約束したのだ。俺は絶対にいなくならない、いつもそばに居てやると。

 

 

和人とともに現実へ生きて帰ると誓いながら、俺はやって来た睡魔に身を任せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 

 

射し込んできた朝日の眩しさに目を覚ます。あれは悪い夢で、起きれば現実の私の部屋だと思いたかったが悲しい事にそこは見知らぬ部屋のベッドの上だった。SAOのデスゲーム化という悪夢の様な現実のままだった。

 

 

だけど、私は他の人たちの様に悲嘆していなかった。だって、私のそばには彼がいるから。

 

 

「不知火……」

 

 

部屋を見渡せばソファーの上で横になっている不知火ーーープレイヤーネーム〝ウェーブ〟を名乗る彼を見つけた。いつもだったら私よりも早くに起きているのだが精神的な疲労からなのか、自分の腕を枕にして眠っている。

 

 

なので彼が寝ている私の為にかけてくれたであろう毛布に包まりながら、私はソファーの空いているスペースに身体を滑り込ませた。彼の胸に顔を埋めて、仮想現実で感じる事の無いはずの彼の熱と匂いを感じる。それだけで、私の中にあった不安は消し飛んだ。

 

 

「不知火……」

 

 

ウェーブというネームではなく、リアルでの彼の名前を呼びながら抱き着く。それに反応してくれたのか、寝ながらだが彼も私の身体を抱き締めてくれた。

 

 

漣不知火は私にとって大切な人だ。桐ヶ谷家に行くはずだったが金銭的な問題で漣家に来た私を守ってくれた人。彼との出会いは今でも鮮明に思い出せる。

 

 

両親が死んで、悲しくて悲しくて泣いているだけしか出来なかった私を見つけ、面倒臭そうに眉間に皺を寄せながら、彼は絶対にいなくならないから、ずっと一緒に居るから泣き止んでくれと言ってくれた。本当だったら働きに出るはずなのに、その約束を守る為に彼はずっと一緒に居てくれた。その事でお爺さんに揶揄われて不愉快になって殺し合いをしながらも、彼は私のそばに居てくれた。

 

 

始めは兄の様な、父の様な存在だったかもしれない。だけど思春期を迎えた辺りから、私は彼のことを1人の異性として見るようになっていた。彼を愛している、だから愛して欲しいと思うようになっていた。

 

 

その事を偶々帰っていた蓮葉さんに相談したら、房中術というものを教えてくれた。これで彼を魅了してメロメロにしてやれとの事。彼に愛されたいと思っていた私は蓮葉さんの言葉に従い房中術を習った。でも彼は私に手を出そうとはしない。やはり胸が無いのがダメなのか。

 

 

「不知火ぃ……」

 

 

彼に抱き締められて、身体が熱くなる。無意識だと分かっているけど彼にこうして抱き締められていることが嬉しくて堪らないのだ。

 

 

発情して熱くなる身体を自分の手で慰める。仮想現実であるSAOで出来るのか少し不安だったが、現実と同じように慰める事が出来た。これが出来なかったら我慢するしかなく、きっとどこかでパンクしていたに違いない。

 

 

不知火が私に手を出さない理由は分かっている。私がまだ彼の中では〝子供〟だからだ。お爺さんに協力してもらい、然りげ無く好みを聞いた時に彼は最低でも16歳からと言っていたから。

 

 

私が彼に抱いている気持ちの事を知りながら、彼はそう言った。

 

 

断言されて悲しくはあったが、そんな事で私は諦めない。それに悪い事だけじゃない。16歳になれば、彼が私を1人の女性として見てくれるから。彼と一緒に居られるような素敵な女性になる準備期間だと思えば苦ではない。

 

 

「不知火……大好きだよ」

 

 

聞こえていないのは分かっているけど、私は彼に向かって愛を告げて無防備な唇に自分の唇を触れ合う程度に重ねた。

 

 

今はこうした不意打ちの様な事しか出来ないけど、いつか彼からしてくれる事を祈りながら。

 

 

 






紺野と朝田との繋がりが無いのでユウキチとシノノンはヒロイン降板な世界線。つまりキリトちゃんの独り勝ち。

SAO制作にキチガイが関わっていないので原作通りのSAOで話が進むプレイヤーに優しい世界。


活動報告に挙げていた通りに、〝闘争こそ、我が日常也て〟はここで完結扱いとさせていただきます。今後の予定はプロットを見直しながらキチガイinザGGOを執筆、GGOが完結してから〝闘争こそ、我が日常也て〟の続編を投稿する予定です。

訓練された読者たちよ、その日が来るまでに良く訓練された読者となるのだ。その日が来る事を、作者は切に願っている。

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