幼女ルーデル戦記   作:com211

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18:ノルデンⅣ

1924年2月23日2004

連合王国ポーツマス 王国海軍(ロイヤルネイビー)本国艦隊司令部

 

 

 

帝国海軍北洋艦隊司令部が頭を抱えていたのと同じ頃、頭を抱えていた人々は海の向こう側にも居た。

まあ、こちらの方は当然といえば当然なのだが。

 

緊急の要件でロンドンの海軍省から呼び戻された男が部屋に入ってきた。

「損害状況は分かったか」

 

「いえ、現地では未だに救助活動で手一杯のようで…

少なくともネルソン、ロドニー、ロイヤル・サブリンが既に沈んていることは確認されています」

 

「また、現地諜報員からの情報では帝国北海艦隊の主力がヴィルヘルムスハーフェンを出港しているとのことですが、どうもキール運河に入ったらしく…」

 

「何?敵はクリスティアンサンの状況を把握していないのか?」

「不可解な動きですがキール運河を通り抜けるにはあまりにも時間がかかりすぎます。

例の後方上陸作戦を実行するならば今すぐにでもクリスティアンサン付近に展開するはずです」

 

 

「となると、少なくとも敵の攻撃ではないということか…

敵の上陸作戦が無いとすれば、我々は情報の信頼性の低さに踊らされたわけか

…これ以上の損耗を避ける。現地にはそのまま救助を優先するよう伝えろ。

緊急出港準備が完了したのはどの程度だ」

 

「ロサイスからは第9巡洋戦隊と第11、14の駆逐戦隊が既に向かっています。

ポーツマスからは明朝、アドミラル級巡洋戦艦フッド、アンソンの第一巡洋戦隊が巡洋戦艦2、駆逐隊6とともに出港可能になります。

第一、第四艦隊は3日ほど必要になりそうです」

 

「よし。第一巡洋戦隊を主力に任務艦隊を臨時編成、第一、第四艦隊は出港準備態勢で待機。

今後の目的は残存艦艇の撤退、撤収援護だ。

既に出ている艦艇も残存艦艇の曳航とその護衛に徹し、人員は必要に応じて上陸させ、陸路で北方トロンヘイムに移動させろ」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

1924年2月24日0900 ヴィルヘルムスハーフェン 第601航空魔導大隊臨時本部

 

「諸君らも知っての通り、昨日連合王国が帝国に宣戦布告した。

更には敵の本国艦隊が北海に展開していることが確認されている」

 

「つまり、空挺作戦は中止…ですか?」

 

「普通ならそうなるところなのだが…これは機密だ。

口外することは帝国への、祖国への裏切りとも言えるほど重要機密だが…

敵本国艦隊が爆発事故を起こし主力の戦艦複数が爆沈、補助艦艇も軒並み損害を受け行動不能との事だ」

 

「それは、本当に事実でありましょうか」

ヴァイス中尉が疑ってくる

 

そりゃそうだ。爆発事故のタイミングが良すぎる。すべてがおかしい。

「あまりにも都合が良すぎる話だから疑うのも無理はないが、北海で敵艦隊捜索を行っていたルーデル中佐が直接目撃している」

「中佐殿が…ですか?それはもしや」

 

「言うな。言う必要はないはずだ。当然推測したことも含めて口外無用だ」

「了解しました」

少なくとも我が隊の連中は"ルーデルが見ていた"というだけでなんとなく察しただろう。

 

「ルーデル中佐は爆発事故を目撃するような"強運"だった。それだけだ」

 

ちなみに当の本人はまだ合流していない。作戦直前まで偵察飛行を実施するつもりのようだ

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

1924年2月25日4:30 北海上空 

 

「大隊諸君、今回の作戦目標、及び行程を再度確認する。

今回の作戦目標はオスロフィヨルドの最狭部の中心に位置するオスカースボルグ沿岸要塞の砲台制圧若しくは無力化だ。

なお、手前にあるホーテン海軍基地は我々がオスカースボルグ要塞に到達した後、海軍海兵魔導部隊がこれを攻撃する」

 

本来、この仕事は言うまでもなく大隊長であるハンナの仕事なのだが、

昨日は10時間連続で高高度を飛行していただけあってかなり疲れているようだ。

飛び立つ前から寝ている。

 

「砲台制圧が望ましいが困難であれば破壊しても構わん。目標のうち、4基存在する35.6cm連装砲が最優先の制圧目標となる。特にこの砲は連合王国が現在主力として運用中の砲でもある。鹵獲すれば恩恵は大きい」

 

次に、行程について。

「まず、この輸送機で高度28000ftまで上昇してフィヨルド侵入前に降機、宝珠を使わず滑空降下を行う。

ラルビク上空通過後、ホーテン海軍基地の西にある山の裏側を匍匐飛行で迂回、魔導観測網を回避する。

ドラメンスフィヨルドに抜けたら12000ftまで上昇した後、オスカースボルグ要塞に侵入する…という順序になる。

匍匐飛行の行程は80km。まあ20分もあれば到達できるだろう。

また、我々が要塞攻撃を開始するのとほぼ同時に、海軍魔道士部隊はホーテン海軍基地への襲撃を開始する。増援はホーテン海軍基地がもぬけの殻でない限りは来ない。何か質問は」

 

当然、全員の頭にこの辺の情報は叩き込んである。

 

それでも確認は重要である。

 

 

その重要性を理解しているらしいヴァイス中尉が口を開いた

 

「無線封止の解除について、もう一度確認したいのですが」

 

「敵と交戦した、もしくは検知されたと判断したらすぐに連絡をよこせ」

 

「敵増援は、いかがいたしましょう」

 

「オスロから増援が来ると仮定して、まあどう早くても20分はかかる。

処理できる範囲を超えていれば泣きつけ。

尤も、その前にルーデル中佐が検知して迎撃する可能性が大だ。下手すると単独でオスロ制空戦を展開しかねんから逆に突出しないよう止める必要があるかもしれん」

 

ああ、全員が詳細に作戦を把握していると言ったが語弊があった。

但し大隊長のハンナを除く。

 

…まあこいつの場合、別にどんなルートであっても敵索敵網を回避することなど容易い。

3万ftから宝珠を使わず滑空侵入すれば今の所、どんな魔導観測にも検知されない。

実験では1.5万ft以上は想定外高度なので近距離では走査範囲外になっている上に、

長距離では信号強度が低すぎて背景ノイズ、いわゆるクラッターとみなされて排除されるようだ。

 

「無いとは思うが、セレブリャコーフ少尉。

貴様は、私かルーデル中佐のシグナルをロストした場合は直ちに海軍に通報した上で、

本部小隊のうち残存したほうと組んで遅滞戦闘に入れ」

 

「遅滞戦闘…撤退でありますか?」

 

「私は分からんが、もし中佐がやられたとなると想定外、

常識を外れた脅威が空域に存在する可能性が高い。

あらゆる予定が根本から覆される。作戦どころではない」

 

と話しているところでコクピットの開きっぱなしの扉の方から声をかけられた

「これより投下高度まで上昇しますので」

「わかった」

 

「さて、これから上昇するらしい。高高度装備を忘れるな。気絶したものは置いていくからな

あと、そこの中佐はそのまま放置しといていい。酸素ボンベを付けると外した瞬間に高山病になるらしいからな」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

同日 0430

ホーテン海軍基地

 

「哨戒挺244、261からの定時連絡がありません」

「またか…」

 

協商連合海軍は、クリスティアンサンの件とは別に…原因はそれにあるのだが…悩みを抱えていた。

ここ2日、交戦報告もなしに撃沈、又は乗組員が全員死亡、行方不明になる哨戒艇があまりにも多いことだ。

 

既存の漁船を改装した「特設哨戒艇」どころか、ただの非武装漁船が海軍旗を掲げているだけという急ごしらえにもほどがある烏合の船だらけの協商連合の哨戒艇だが、いくらなんでもおかしい。

 

クリスティアンサンでの惨事を受け、上陸作戦を危惧した海軍は哨戒体制を強化していた。

スカラケグ海峡での海上戦力において劣勢である協商連合にとって、この海域での哨戒活動は非常に危険で、文字通り命がけのものとなる。

当然だが、もし仮に帝国の戦闘艦艇に見つかってしまえば降伏するか、撃沈されるかどちらかしか道はない。

だがその通報によって防衛態勢を整えられる少しばかりの猶予が生まれる。

 

そのために、幾多の海兵や船乗りが志願して海に出ていったが、帰ってこない者があまりにも多すぎる。

 

「これで20隻か?」

 

「24隻になりました」

 

 

それでも、普通ならば未帰還や通信途絶は異常を示すが…その発生位置、時間がバラバラであり

全くもって帝国海軍の動向を掴めずにいた。

 

「一体何がどうなってるんだ?

敵の撹乱行動なのは分かるが、どうやって攻撃してるんだ」

 

「魔女の仕業…ですかね」

 

「航空魔導師だとしてもスカラケグ海峡を延々気づかれずに荒らし回れるとしたら、そりゃ航空魔導師じゃない、本物の"魔女"だ」

 

 

更には周囲の艦艇が爆発や炎上、轟音を聞いてから向かっても、昼間だというのに一度も敵艦艇を発見できていない。どころか、近接している二隻がほぼ同時に撃沈されたと思わしきものまである。

 

このような状況で考えられる可能性の一つが、

航空機による哨戒ラインそのものの撹乱を目的とした攻撃だ。

だが、航空機の対艦攻撃は必ずしも効果的とは言えないし、普通に考えれば交戦報告くらいなら出来る。

騒音が大きく、高度がある分周囲の艦艇からも発見できるため、全く報告もなしに撃沈されるというのはあまりにも不可解。

 

もう一つは、潜水艦から魚雷による攻撃を受けた場合。

こちらならば確かに一瞬で通信ができなくなり、極寒の北海に投げ出された乗員はごく短時間で死亡する。

だが漁船に対して魚雷を当てるのは極めて費用対効果が悪く、そもそも当てること自体が難しい。

 

"浮上して即時砲撃できる砲撃潜水艦にやられた"とか"航空魔導師を乗せた潜水艦による攻撃”などいう推測もあったが、あまりにも荒唐無稽な話で無視された。

 

前者は言うまでもないし、後者は航空魔導師を運用する環境としてスカラケグ海峡はあまりにも劣悪が過ぎる。

確かに航空魔導師であれば攻撃までは察知されずに哨戒艇に接近できるだろう。

だが如何に航空魔導師といえど、相手が漁船に毛が生えた程度といえど、魚雷のような破壊力もなければ砲撃一発で無力化されるほどの小型艦艇ばかりではない。

損失した艦艇には連合王国から購入した武装トローラーまで含まれている。

 

「とりあえず、哨戒中の各艦艇に通知しておけ。あと要塞にも

王立海軍(ロイヤルネイビー)の見立てでは上陸作戦の可能性はさほど高くないそうだが、一応な」

 

この艦艇の損失情報は2日前から既に10回以上報告されているため、

要塞も、海軍基地も、防衛態勢の構築タイミングを測りかねていた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

同日 0500 オスカースボルグ要塞上空12000ft

 

ドラメンスフィヨルドの中程にある砂州を見下ろしながら急上昇し、

そこから東へ目線を移した所に要塞はあった。

 

「全隊、無線封止を解除。各中隊、所定の目標に突入せよ」

視界は良好、雲量がそこそこあるが、飛行高度よりも高く

遠くにはオスロの市街地も目視できる。

 

「上昇中に魔導観測網に察知されたとは思うが、まだ迎撃してこないな。"トラ・トラ・トラ"でも発信するか?」

若干先行して要塞直上25000ftに侵入していた"斥候"からも通信が入った。

 

「中佐、受信側にその電文を受け取っても意味がわかるやつが居ない」

 

「それもそうか。さて、では14インチ砲の制圧から始めるとしよう」

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 




…おひさしぶりでふ
実のところこの話は2020年中には書き上がってまして、
これと次話までは一応形にはなってるんですよ。

この数年何してたかといえばまあ色々ありまして、
端的に言えば創作力を他所に投入しながら過ごしていただけです。
しかもそっちはお金になるので、
こっちはいわゆるアンダーマイニング効果の対象になっちゃったわけです。

あと2021年辺りから歴史興味の軸が近現代史から中世に移っちゃいまして、
この先の方向性を考えながら話を前後しつつ書き直していたら数年経過していた感じです。

まあ出来がどうであろうとこれだけ年数経ってりゃ見る人も少なく気負う必要もないかなあとも思いまして、とりあえずあるもんぶん投げてしまいます。

もう一話は流石に年内に出します。もうできてますし。
その後は…気が向いたら…ですかねぇ…
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