青峰くんが警察官で、黄瀬くんが囚人です。


青黄ちゃんです。
苦手な人は回れ右でお願いします。

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最後まで読んで下さったら幸いです。


囚人ごっこ

青峰大輝は頭を下げ、そして言った。

「俺の不手際でこのような事態を招いてしまって、申し訳ありませんでした」

青峰のつむじを眺め、赤司征十郎はため息をつく。机の上で肘を付き、手を組んだ。

「どう責任を取るつもりだ?青峰」

その声は重く、広い所長室の空気を濁らせる。

青峰は顔を上げ、自分の上司である赤司の目を見据えた。

 

 

「俺がこの手で、あいつを捕まえる」

 

 

青峰の堅い決意が、この言葉に込められていた。

赤司と青峰が睨み合い、僅かな沈黙が生まれる。しかしそれを破ったのは、意外にも赤司の方だった。

「ふっ……。大輝が敬語を使うなんてね。珍しいことがあるもんだ」

その一言で、張り詰めていた雰囲気が一気に緩和された。

「何がおかしいんだよ」

青峰は決まりが悪いようにガシガシと頭を掻いた。

「でも、峰ちん新鮮でかっこよかったよ〜」

傍でずっと2人のやり取りを見ていた紫原敦は、口の中で飴玉を弄びながら気の抜けた声を出した。

「敦の言う通りだ。どうやら、本気で責任を感じているみたいだね」

赤司が立ち上がり、

「いいだろう。緑間の補佐として現場の指揮を出せ。……青峰大輝、お前に出動命令を出そう」

そう宣言した。

「サンキュ赤司。借りは返すぜ」

その軽い台詞とは裏腹に、青峰の表情は険しいままだった。

そして、すぐに部屋を出ようとする。

「待ってよ峰ちん」

紫原がそれを引き止めた。

青峰は半分ドアを開けた状態で立ち止まる。

「なんだよ」

 

その時紫原の口内で、がりっと飴玉が砕けた。

 

そして、やはり気の抜けた調子で言うのだった。

「ばいばい」

 

 

 

 

 

 

「赤ち〜ん」

「なんだい?敦」

「脱走したのって、あの売春紛いのことやってた……」

「囚人No.10189だ。なかなか美形なところだと、高い値がついていたんだろう。何を血迷ったのか、次々自分のお客様を殺して回った結果、ここに収容されたらしい」

「ふ〜ん……黄瀬涼太ねぇ……」

「そんなにニヤニヤして、どうしたんだい?」

「いや〜別に〜。峰ちん、敵多いからなぁ」

紫原が意味深に呟いた。

「帰って来れればいいけどね〜」

 

 

 

 

 

「お前が俺の補佐か。何の嫌がらせなのだよ」

緑間真太郎が防弾チョッキを纏いながら呟いた。

「さぁ?赤司に聞けよ」

青峰はいつもよりつっけんどんに言う。

「青峰。お前、現場に出るのはいつ振りだ?もう長く出ていないだろう」

「あー忘れたわ。こっちに来るのも久しぶりだぜ」

「死刑囚収容所の番など……」

「ああ、死ぬ程つまんねーぜ。結構な無法地帯でよ、他の警官の奴らは囚人痛ぶったり、性欲処理に使ったり……きめーんだよ」

青峰は自分の拳銃に弾を装填した。手慣れたリズムが鳴る。

「今回の脱走の首謀者と、お前が親密な関係だったと聞いたが」

かちゃ。

緑間の右肩に、青峰の拳銃の先端が当てられた。

「……なんの真似なのだよ」

「お前うっせーよ。俺のことはどーでもいいだろ」

「図星か」

青峰は押し黙った。

「だから隙をつかれて脱走を許すのだよ。……まさか、現場へ行ってうまく逃がすため赤司に詰め寄った訳ではないだろうな?」

緑間は青峰の拳銃を没収した。青峰は抵抗の素振りさえ見せない。

「そんなことしねーよ……あいつをこの手で、殺すためだ」

流石の緑間も、その答えには驚きを隠せなかった。

「……囚人No.10189か」

青峰は無言の肯定をして、防弾チョッキをロッカーにしまった。

「着ないのか?」

「身体が重くなるだけだ。ようは撃たれる前に前進すればいい」

緑間は深いため息を吐いた。

「勝手にしろ。アホ峰が。……だが、気を付けろ」

「なんだよ。今日の運勢が悪かったとか言うんじゃねーぞ」

「そうではない」

緑間は神妙な顔つきで、青峰に拳銃を手渡した。

 

 

「お前を狙ってる輩がいる」

 

 

青峰の眉間に皺が寄る。

「実力のあるお前があんなところに左遷された裏には、絶対何かある。お前をはめた輩が必ずいるはずだ。今回の事で、何もないとは言い切れんぞ」

青峰は乱暴に拳銃を取った。

「どうせ俺は同僚殺しだ。それくらい分かってる」

そしてそのまま部屋を後にする。

「……全く、警告はしたからな」

緑間は今日何度目になるか分からないため息をついた。

 

 

 

 

 

それから程なくして、脱走犯グループが1つの高校に立て籠もったという情報が入った。その知らせを聞き、緑間率いる特別部隊が出動した。

「何故お前はスーツなのだよ‼防弾チョッキ云々の問題じゃないのだよ‼」

青峰は、完全防備の緑間らとは真逆すぎて浮いていた。

「あん?この方がしっくりくるんだよ‼」

現場に到着し、指揮官と副指揮官の怒鳴り声が響いた。

「それに、俺は俺で動く」

「なっ……」

「邪魔すんなよ」

緑間が止めようとする声を無視し、青峰はどこかへ消えていった。

 

 

 

 

 

 

(動くっつってもなー……人質いるし、下手に刺激すんのも……ん?)

青峰の目に入ってきたのは、解放された体育館だった。

吸い込まれるようにそこに足を運ぶ。

校舎に立て籠もっている脱走犯グループと警察、お互いにまだ動きはない。

校舎への侵入を高い所から見張っているはずだが、校舎とは距離があり、刺客からの威嚇射撃は受けなかった。恐らくここは死角なのだろう。

 

 

 

体育館の中に入ると、音が聞こえる。

バスケットボールが弾む音が。

 

 

 

青峰は息を呑んだ。

ボールは綺麗な弧を描き、ゴールへ収まった。ボールとネットの乾いた摩擦音が反響する。

 

 

「黄瀬……」

 

 

ボールを操っていたのは、囚人No.10189黄瀬涼太だった。見慣れた囚人服は纏っておらず、ジーンズに白いシャツを着こなしている。

青峰の声に、黄瀬が反応する。振り向いた黄瀬は目を見開いた。

「青峰っち」

そして、嬉しそうに笑った。

「来ると思ってたッス‼」

青峰は予想外の反応に戸惑った。手にある拳銃を握りしめる。

(笑うなよ……なんで、笑えるんだ。俺はお前を……)

殺さなければならないのに。

「撃たないんスか?それで」

青峰の心情など分かるはずもなく、黄瀬はいつも通りの軽い調子だ。自分が脱走犯だという自覚はないのだろうか。

「……撃ってほしいのかよ」

「じょーだんやめてよ」

苦笑するとまた、黄瀬はバスケをやり始める。

 

金髪がなびく様は、綺麗なという形容詞が見あっていた。

軽やかで、それでいて迫力がある。

黄瀬がボールを放ち、それがゴールを決める度に、青峰は見惚れていった。

 

「おい黄瀬」

青峰は意を決して声をあげた。シュートするフォームのまま、黄瀬は静止する。

「……どうして逃げた」

「そりゃ、囚人なんてやってらんないッスから……」

「そうじゃない」

黄瀬の言葉を遮って、青峰は絞り出すように言った。

「なんで、俺から逃げたんだ」

青峰の表情は、怒りと疑問と、そして確かに愛する相手への恋慕の感情が浮かんでいた。

青峰は静かに右手を上げる。銃の狙いを黄瀬の頭に定めて、左手を添えた。

「答えろ」

重く低い青峰の声は、確かに黄瀬に届いたはずだ。

しかし、黄瀬はいきなり笑い出した。

ボールを抱え、楽しそうに声をあげながら。

「この、何がおかしいんだよ⁉」

青峰が怒りを露わにする。

「だって、青峰っち……そんなことわざわざ聞きたくてここまで来たんスか?腹痛いッス」

黄瀬は落ち着いたかと思うと、その場でボールをつき始めた。

「あ、まさか。本気にした?俺が青峰っちのこと好きって言ったこと」

右手左手交互にバウンド繰り返すその音は、一層青峰をイライラさせる。

「青峰っちって、結構俺のこと好きなんスね。嬉しいッス」

「誰がお前なんか‼」

「ほんとに、アンタって馬鹿な男ッスね」

急に黄瀬の声のトーンが変わった。いつもの能天気な囚人の面影は皆無で、無表情を極めた男がそこにいた。

「俺のことなんか好きになっちゃってさ。ばっかみたい‼」

ばんっ‼

黄瀬によってボールが床に打ちつけられる。それは垂直に跳ね上がり軽々と黄瀬の身長を超えた。やがて重力に従い、黄瀬の掌へと落下する。

「なーんか、俺がこの脱走劇の首謀者みたいになってるみたいだけど、俺は皆をけしかけただけで、今立て籠もってる奴らみたいに自由になりたい訳じゃない」

無言の青峰を一瞥し、そして嘲笑う。

「あんな所で死にたくなかった。どうせなら綺麗に死にたい。死ぬシチュエーションもかっこよくしたい。そう思ったから逃げた」

青峰っちも、自分の最期くらいキメたいでしょ?と、黄瀬はくすくすと笑みをこぼした。

「それで俺を利用したのか」

「利用?それは結果論ッスよ。俺はただ媚び売っただけ」

「……売ったのは体だろ。この娼婦」

「確かに。でも買ったのはアンタだ。どうだった?俺のカラダ。悦かったでしょ?」

不敵に笑う黄瀬に対して、青峰は忌々しそうに舌打ちした。

すると、黄瀬は目を細めた。

 

 

「俺、アンタのそーゆー顔好き」

 

 

カッと青峰の体温が上昇する。

「言い残すことはそれだけか」

それを隠すように早口でそう言った。

(馬鹿か俺は……。今更こんな下衆の言葉に反応しちまうなんて)

それでも、『好き』という一言に心臓が呼応したのは紛れもない事実だった。

青峰は軽く息を吐き、金髪の囚人へと言った。

「お前の言う通り、俺は馬鹿だ。まんまと嵌められて、挙句まだお前のことが好きだ」

黄瀬が目を見開く。金色の瞳が、自分を殺そうとしている男を捉えて離さなかった。

 

 

「だからこそ、お前だけは俺の手で殺してやる」

 

 

かちん。青峰は銃のハンマーをおろした。狙いはそのまま目の先の囚人だ。距離にして30メートルくらいだ。外すはずがない。

しかし、その囚人は

 

 

「……っは、ははは……青峰っち……アンタってほんと……」

と渇いた声を出した。その表情は形容し難い。目は怪しく開き、口角を上げただけの笑い方だった。

「あーもー……調子狂うなぁ」

片手にバスケットボール、もう片手で頭を掻きむしる。するとくるっと黄瀬は青峰に背を向けた。

「青峰っち。俺の遺言聞いて」

その肩は震えていた。

「遺言なんて大層なものじゃないけど……。青峰っちは、転生とか信じる?……な訳ないか。俺もあんまり信じてないけど、もし。もしも生まれ変われるなら、俺はまた黄瀬涼太になりたい」

震えた声を聞く度、青峰は息が詰まった。

「黄瀬涼太になって、また青峰っちに会いたい。同じ学校通って、一緒にご飯食べたり、同じ部活なんかしちゃったり……なんて、夢のまた夢ッスね」

だん。バスケットボールが跳ねる。

 

 

「こんな風に、バスケなんかしちゃったり……してさ」

 

 

そう消えゆくような声で呟くと、振り返る。黄瀬の頬には涙の筋が見えた。

ギャラリーから漏れる太陽光に照らされた金髪は、黄瀬が動く度にサラサラと靡く。

長い睫毛の上の水滴や白い肌に流れる涙は、その存在感を増していた。

整った顔は薄く儚い笑みを浮かべ、どこか安心したように頬を染めている。

なんて綺麗に泣くのだと、青峰は息を呑んだ。

「青峰っち‼」

涙を拭いもせず、黄瀬は大声を上げた。

「ロクでもない人生だって思ってたけど、アンタに会えてよかった。アンタに殺されて終わる人生なら、悪いもんじゃないって思うッス‼」

そして、静かに目を閉じた。

 

 

「さよなら。青峰っち」

 

 

 

死を覚悟した囚人は、バスケットボールを抱き締めながら肩の力を抜いた。

「…………」

青峰は銃を構え直す。片目を閉じ、寸分の狂いもなく黄瀬の眉間に狙いを決める。

手には汗がじっとりと張り付いていた。緊張が青峰を侵食し始める。

(黄瀬……)

青峰は、自分が泣いていることに気が付いた。

(黄瀬……っ)

 

 

『青峰大輝……。じゃ、青峰っちね』

『んー?殺した理由?……なんとなくッス‼』

『青峰っちー。トランプしたいッスー』

『抱いてみる?俺のこと』

『好きッスよ。青峰っち』

 

 

 

「……き、せ」

泉のように湧き出て止まらない思い出が、青峰の視界を歪ませる。

看守と囚人。愛も恋もへったくれもないはずだった。

それでも、青峰は黄瀬に心を奪われてしまった。

思わず、足が動いた。黄瀬へと向かって。

 

(殺すなんて、言い訳だ。俺はただこいつに会いたかっただけじゃねーか)

 

もう1歩、歩みを進めて着実に黄瀬に近づいて行く。

 

 

 

その時。発砲音が鳴り響いた。

青峰が崩れる。気が付くとうつ伏せに倒れていた。

「は?」

状況を理解出来ていなかった。右足に力が入らない。目をやると、右足の太腿に穴が空いており、そこから赤黒い液体が流れている。

撃たれた。そう認識して始めて痛みが青峰を襲う。額や背中から汗が噴き出た。

痛みを我慢しつつ上半身を起こし、弾が飛んで来た方向へと銃を向けた。

「誰だ‼」

右は壇上だ。その脇の舞台袖のカーテンが揺れる。青峰を撃った張本人は逃げも隠れもせず現れた。

 

 

「久しぶりですね、青峰君」

 

 

青峰の銃よりも小さい銃を片手に、そして青峰や黄瀬よりも遥かに小柄な男が壇上から下りた。

黒いパーカーに黒いジーンズ姿の男は、水色の髪に無機質な瞳を持っている。

「テツ……か?お前」

「それ以外の誰に見えるって言うんですか?次は脇腹にブチ込みますよ」

黒子テツヤは抑揚のない声で淡々と言葉を並べる。

「青峰っち‼」

「君は何処へでも行って下さい。はっきり言って邪魔です」

どんどん青峰を追い詰めるように黒子は歩いてくる。その間黄瀬のことなど見向きもせずあしらった。

黄瀬は無視して青峰に近寄ろうとする。

ぱん‼また発砲音がこだまする。

黒子は黄瀬の足元目掛けて引き金を引いた。自ずと黄瀬は立ち止まる。

「君のために割く時間も無ければ弾も無い。大人しくしてるか逃げるか、どちらかにして下さい」

やっと黄瀬の方に向けられた目は、人を見る目ではなかった。まるで虫けらを見るような冷酷なそれだった。小柄な相手にも関わらず黄瀬が怯む。

「黄瀬に……手ぇ出すな」

青峰は銃口を黒子に向ける。お互いの距離は僅か10メートルもなかった。

「前言撤回します。次は右肩です」

言い終わらないうちに黒子の銃口が火を吹いた。言葉通り、青峰の右肩に穴が空く。

「っ…………‼」

声にならない声を搾り出す。青峰は仰向けに倒れた。苦しそうな呻き声が黄瀬の耳に届く。

「あ、青峰っち……」

それでものろのろと上体を起こした。しかし、銃を持っていた右手はぶらんと力なく垂れている。

「いい気味ですね、青峰君。この拳銃、レディースなんですよ。複雑ですが僕にはぴったりなんですけど、弾が小さいんですかね。まだ余裕があるように見えます」

「はっ……こんなの屁でもないぜ?テツ」

「そんな脂汗ダラダラでよく言いますよ。昔から変わってないですね」

青峰の周りには血溜まりと汗が散らばっている。

(くそ……。ぼーっとしてきた)

霞みつつある視界の端に、顔面蒼白の黄瀬の姿が見えた。

「黄瀬……逃げろ」

黄瀬首を横に振る。涙がぽろぽろと零れた。先程までの作り物のような泣き顔の面影はどこにもなく、子どものように泣いていた。

「嫌、嫌ッス‼青峰っち、俺のこと殺すって言ったじゃないッスか‼自分が死にかけてどうすんだよ‼」

今にも駆け出そうとする黄瀬は、

「五月蠅いですよ?」

黒子の銃によって阻止される。

ひっ……と自分に向けられた銃口に声を漏らす。

「やめろ……っ、テツ‼」

「君も喧しいです」

黒子が距離を一気に縮め、青峰は胸を蹴られまた仰向けにさせられる。すぐさま、黒子は青峰の血で染まった右肩を踏み、体重を掛けた。

「っ……あ……‼テ、ツ……」

その間も、銃口は黄瀬を捕らえている。

「痛いですか?そうですよね。でも当然ですよ。ね?……この」

 

 

ーー同僚殺しが。

 

 

 

 

低く重くその言葉が青峰にのしかかった。

相変わらず、青峰を痛みつけ見下ろしている男は無表情だった。

「もう辞めろ‼誰だよあんた‼青峰っちから、は、離れろ‼」

恐怖を噛み殺したような顔で黄瀬は叫んだ。黄瀬の微かに震えている肩が、バスケットボールに落ちた涙が、朦朧とした青峰の意識を刺激する。

「どうして囚人の君が青峰君を庇うのかわく分かりませんが、君が思っているような男ではありませんよ」

黒子が足に圧力をかけた。灼熱の痛みが青峰を襲う。

「テツ……っ‼」

「青峰君。僕は今、ある会社で雑誌の記事を書いているんです。昔から情報収集とか管理とか得意だったんで、現状は充実してます。昔は警察のために、班員の君たちのために駆け回っていたのに……」

黒子は青峰の肩を踏み潰しながら、嘲笑した。

「今は、君たち警察の隠蔽や不正を追いかけて記事にして食ってますよ。笑っちゃいますよね。メディアも面白いですよ。有る事無い事、面白ければ真実なんて重要じゃない。……一度、君のことも書きましたよ。『同僚殺し』って見出しで」

青峰の苦悶の表情が驚愕に移り変わる。

「警察もメディアを気にしすぎてますよね。それだけで君を現場から外して左遷させるんですから」

「お前が……俺を嵌めたのか」

「はい。上手くいきすぎて逆に拍子抜けしましまよ。君が左遷してから、機会をずうっと伺ってきました。そしたら、この脱走劇」

黒子は頬を緩ませた。

「この脱走劇に便乗して収容所に乗り込んで君を殺そうと思ったんですけど、ノコノコまた現場に出てきてしまったんですね。赤司君は何を考えているんですか?……まぁ結果オーライです」

青峰を見下し、長々と語っていた黒い男は目を瞑った。

 

 

「やっと、君を殺せる」

 

 

 

黄瀬から見たその横顔は、安堵と達成感で満たされていた。

「これでやっと、火神君に顔向け出来ます」

銃口は黄瀬から青峰へと狙いを変える。

「……お前、まだ火神のことを……」

「はい。火神君を忘れたことなんて、1度もありません」

銃を向けられながらも、青峰は冷静だ。しかし声を出す事さえ億劫そうに黒子へと語る。

「俺は、殺してない……。お前だって、見たはずだ。……火神は流れ弾で、死んだんだ」

「はい。それくらい分かってます」

それに対し、黒子は飄々としている。

「……分かってるんですよ、本当は。でも、もしもあの時、君があんな無茶な前進をしなければ、あんな単独行動をしなければ、火神君は死ななかった。……そう」

飄々と、そして無表情としているその顔に一筋の涙が走り、粒となって落下した。

「君がいなければ、火神君は死ななかった」

落下先は床を染めている青峰の赤黒い血液だ。そして2つは混ざり合い同化した。

「返して下さい、火神君を」

「俺が、死んだって……火神は生き返らない」

「じゃあ死んで彼に詫びて下さい」

「人は死んだら、何も出来やしねーよ」

「ふふ。青峰君らしい台詞ですね」

黒子が微かに笑ったのを見て、青峰もつられて目を細めた。

「さようなら、青峰君」

 

 

 

 

 

黒子が引き金を引いた、その刹那。

黄瀬がバスケットボールを投げた。

それは見事に命中し、黒子は体制を崩した。てんで方向違いに銃弾が放たれる。その隙に黄瀬は間を詰めて黒子を蹴り飛ばした。小柄な黒子は簡単に吹き飛び、その手からは拳銃が零れ落ちた。黄瀬は見逃さずそれを回収する。

「青峰っち‼逃げよう‼」

黄瀬は青峰を無理やり起こして 左肩を持った。体は重く黄瀬にのし掛かり、額に汗が浮かぶ。白いシャツを青峰の血で赤く染めていったが、気にしている時間もない。

「アンタは死んじゃいけない。生きなきゃいけないッス‼」

青峰はそんな必死になっている囚人の顔を呆然と眺め、微笑を浮かべた。

「お前……ほんと掴めねー奴だな」

「あ?聞こえないッス‼それより早く……」

青峰は深く息を吸い、吐き出した。

「お前のそーゆーとこ、好きだ」

 

ぱん。

 

 

 

その音の直後、一瞬にして青峰の体に力が無くなる。黄瀬は支えきれなくなり、青峰が自分に覆いかぶさるように倒れてしまった。192センチの大男の下敷きでは体の向きを変えるのさえ困難だ。何とか抜け出して青峰の様子を確認する。

「あ、青峰っち……?」

呼んでも勿論反応はなく、荒かった呼吸までもが聞こえなくなっていた。

「そん、な」

青峰大輝は絶命していた。

背中には新たな風穴が空いている。今も止めどなく血が溢れ出ている。

「残念でしたね。君は青峰君の銃も回収するべきでした」

黒子は青峰の拳銃を構えており、その先端からは薄い煙と火薬の匂いが漂っていた。

「青峰っち」

黄瀬は死体となった青峰の体を仰向けにした。

「変な顔しやがって……。アホ峰が」

険しい顔を見せる頻度が高かった彼にしては、穏やかな死に顔だと思った。

泣きながら、黄瀬は笑った。

『お前のそーゆーとこ、好きだ』

遺言となってしまった青峰の告白が反芻する。

 

 

「青峰っちのばか」

 

 

生きているのなら、到底青峰にしか聞こえない声で黄瀬は愚痴を零した。

そして、その額にキスをする。

 

 

「さて、君はどうするんですか?僕は逃げますよ。それとも君も青峰君の元に送りますか?」

近付いてくる黒子の提案に、黄瀬は応えない。ただ、虚ろな目で黒子を見返した。

思わず黒子が身構える。

しかし、黄瀬はニヤッと悪戯っぽく微笑んで、

「自分の最期は、自分で決めるッス」

そして黄瀬は黒子の銃で、自らの頭を撃った。銃弾は容赦無く脳を貫き、その金髪を赤に染め上げる。

 

即死したその囚人は、青峰の上に倒れた。

 

まるで、愛しい人に寄り添うように。

 

 

 

 

 

「全く、何をしているのだよ。お前は」

緑間は体育館の血の海の中心にいる、元同僚を見下ろした。

今まであまり見たことのない、安らかな表情だ。

「この囚人のおかげか……。皮肉なのだよ」

同じく血塗れで青峰に覆い被さっている囚人も、苦痛そうな色は見られない。

「あちゃー。こりゃ自殺じゃない?真ちゃん。銃痕の周り火傷してるし」

「その呼び方は止めるのだよ高尾。鑑識は鑑識の仕事をしろ」

「へーい。……でも、ま。なんかこう言っちゃうのもアレだけどさ」

高尾和成は立ち上がり、緑間と並んだ。

 

 

「綺麗だね。2人とも」

 

 

 

……ふん、と緑間は肯定も否定もせずその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

その後、その警察官と囚人の死体は、鑑識によって回収された。

 

 

 

 

 




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