射手の青年、鳥の娘   作:はたけのなすび

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本日三話目。

ご注意下さい。

短めですが、エピローグとなります。


Act-final

 

 

 

 

 

「聞いてるの、お兄ちゃん!」

「……聞いてる。分かったよ、ごめんって」 

「もう!風邪を引いて寝込んでいたんなら、ちゃんと連絡してくれなきゃ心配するじゃない!」

 

面目次第もございません、と來野巽は自分のアパートの一室で、目の前で頬を膨らませている妹、來野環に頭を下げた。

彼女はしばらく音信不通になっていた兄を心配して、わざわざ広島から上京して来たのだ。

上京して兄のアパートを訪ねた彼女は、部屋の中で学校に連絡することも忘れてぼうっと過ごしている兄を見つけ出したのである。本人曰く、風邪をこじらせて寝込んでしまい、何となく億劫になって学校に連絡も入れていなかったという。

 

「しかも、学校に連絡も入れ忘れるなんて、信じられないわ」

 

まさか聖杯戦争に巻き込まれた上に、気まぐれな女の子に連れ回されていたから連絡ができなかった、とは巽には言えない。

怒りが収まらない妹を前に、巽は弱った。

その怒りが、自分を心配してくれていた感情の裏返しだと分かるから、尚更だ。

 

「……悪かったよ。でも、もう大丈夫だから」

「本当?無理してない?」

 

ホントだよ、と巽は両手を広げてみせた。

彼にはもう令呪はない。

優しい友人と一緒に、消え失せてしまったのだ。

環は渋々と言った風に頷く。

 

「じゃあお兄ちゃん、夕食の買い物に行って来るわ」

「待てよ、俺も行く」

 

病み上がりなんだから良いのに、という環に、そんな訳にはいかないから、と返して巽は上着を羽織る。

アパートの扉を潜ると、冬の風が襲いかかって来た。寒そうにマフラーに頬をうずめる妹の頬がすぐに林檎のように赤くなるのを、巽は見ていた。

 

「まだ寒いね。……それに、知ってる?地震があって、街外れで大きな崩落があったって」

「……ああ。怪我人とかはいなかったって聞いたけど」

 

地震は怖いよね、と呟く妹に、巽は答えにくかった。

あの戦いは表向きは地震ということで決着が付けられたのだ。

実際の所は、勿論違うと巽は知っている。

東京の地下に巣食っていたとある化け物と、七人の英霊たちとの戦いの結果、余波で山が一つ吹き飛んだのだ。

英霊たちはおらず、聖杯は砕け散った。

二度と、東京で聖杯戦争が起こることはないだろう。

 

聖杯戦争を止めたいという巽の願いは、彼自身の手では無かったにしろ、叶えられたことになる。

 

でも巽は少し寂しかった。

バーサーカー、ジキル博士ともう二度と会えないからだ。

せっかく友達になれたのにな、と小さく呟く。

 

「お兄ちゃん、ぼうっとしてどうしたの?やっぱり、まだ熱があるんじゃない?」

「いや、大丈夫!大丈夫だか―――――」

 

ぶんぶんと首を振った巽の視界に、ふと何故だが見覚えのある姿が横切った気がした。

まさか、と巽は辺りを見回した。

 

「―――――こんばんは、今日はとっても寒いわね、巽」

 

後ろから、そんな声が投げかけられて巽は固まった。

首が嫌な音を立てそうな勢いで巽は振り返る。

数本後ろの黄色い街灯の明かりの輪の中で、白いコートに翠のマフラーを巻いた沙条愛歌が手を振っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――だからね、わたしはあなたのお兄さんの知り合いなの。数日前に、わたしの家に外国からお客様が来てね。東京を案内してと頼まれたのだけど、わたしにはよく分からなかったのよ」

 

すらすらと述べる愛歌を、巽は信じられないものを見る眼で見た。

 

「それで、お兄ちゃんを?」

「ええ、案内役をお願いしたの。以前、学校の……ボランティア活動……だったかしら?それで知り合ったから、頼んでみたのよ」

「でも、お兄ちゃん風邪を引いたって……」

「それはごめんなさい。寒い中歩き回って、巽の体調が崩れてしまったの。もう国に帰ってしまったのだけれど、お客様も済まながっていたわ」

 

すべてが全て嘘ではない。

サーヴァントをお客様と考えたら、まぁ、そういう言い方もできなくはないのだ。

ただ、東京を遊び回りたがったのは愛歌の方で、あのセイバーやアサシンでは無かったのだが。

 

「だからお詫びの品を渡そうと思っていたの。そうしたら、あなたたちが歩いているのが見えたから、声をかけさせてもらったというわけ」

 

分かってくれたかしら、と愛歌は小さく首を傾ける。中身はともかく、彼女は見た目は華奢で愛らしい女の子なのだ。

環も納得してしまったらしく、頷いていた。

愛歌が手に下げていた紙袋も受け取ってしまっている。お土産が入っているらしいが、一体何を入れたのか得体が知れない。

おまけに、愛歌はそのまま二人の買い物にまで付いてきた。

その短い間に環と親しげに会話をし始めるものだから、後ろで聞いている巽は気が気ではない。

 

「沙条、ちょっといいか?」

 

環が野菜を選びに離れたすきに、巽は話しかける。

賑やかな食料品店内の蛍光灯の下、ひよこ豆の袋を二つ見比べていた愛歌は、振り返った。

 

「ねぇ巽。ひよこ豆のお料理って、わたしの妹みたいな小さな子も好きになるのかしら。それに、どんなお料理にすれば良いのかしら?」

 

楽しそうに語る彼女は、相変わらず、全く話の脈絡が無かった。

 

「そんなの、調べれば少しは分かるだろ。……でも、なんてひよこ豆なんだよ」

「アフタルとアーラシュの故郷の料理なのよ。結局忙しくて、アフタルは食べられなかったんだけれど」

 

もう聖杯戦争はないからか、愛歌は彼らを名前で自然に呼んだ。

アフタルはセイバー、アーラシュはアーチャーのことだろう。確か彼らは、血の繋がっていない兄妹だったそうだ。

気さくな風のセイバーのことは、もちろん巽も覚えている。

 

「バーサーカーは、消えたわ。もちろんセイバーもね。二人ともあなたによろしくって言っていたわ」

 

豆の袋を片方籠に入れて、愛歌は何でもないように言った。

戦いの最後、どうなったか巽は知らない。

ただあの夜、戦いに赴くというバーサーカーに、頑張れ、と言って令呪を使った。

多分、あれが最初で最後の胸を張ってマスターらしい行為だったと思っている。

結果としてバーサーカーは戻らず、けれど東京も無事である。

アーチャーのマスターだったというエルザや、他の魔術師たちからもあれから何も無い。

聖杯戦争の主催者側から何か接触があるかと思ったが、それも無かった。

巽は極自然に、元の日常に戻ることができていたのだ。

 

「教会や協会には、あなたはなぁんにも知らなかった、ただの巻き込まれた被害者だって説明しておいたわ。あと、わたしが暗示をかけて操っていた事にした。その方が、都合が良いもの」

 

確かに魔術のことを知らないのは今も変わりない。

でも本当は、巽は自分の意志で参加していたのだ。そう言うと、愛歌は首を振った。今度は、珍しい香辛料の棚の方へと移動しながら。

 

「面倒なのは嫌なの。渋る教会にあちこちを直させるの大変だったんだからね。玲瓏館のおじ様も父さんも、聖杯戦争が不発だったことを、まだ少し引きずっていたし」

 

お陰で美沙夜ちゃんと知り合えたのは良かったのだけれど、と愛歌はまた分からない名前を呟いた。

とにかく、巽が何事も無かったかのように日常へと戻れているのは、この少女のお陰、ということだった。

 

「ありがとう……。でもそれ、お前には良くないんじゃないか?嘘がばれたら―――――」

「ううん。選ばれなかった魔術師たちからしてみたら、一般人が自らの意志でサーヴァントと共に聖杯戦争で生き残ったって言う方が、よっぽど認められない現実だもの。だから、疑われやしないわ」

 

そうなのだろうか。魔術の世界とは、そういうものなのだろうか。

頭を悩ませる巽の前で、愛歌は色鮮やかな香辛料の瓶を幾つも手に取って見ては戻していた。

最後の戦いの夜、少し焦った様子で空間転移でバーサーカーを連れて行った少女。

散々巽を怖がらせ、振り回してきた少女だったが彼はあまり嫌いにはなれなかった。

この少女も、自分と同じようにサーヴァントを大切に思っていたとそう感じているからだ。

 

「エルザは無事に帰ったし、セイワードはまたどこへか行ってしまったわ。セイバーが宝具を上げちゃった伊勢三の所の男の子のことはまた考えなくちゃならないし。……尤もこれからわたし、エルザの所へ行くのだけれど」

 

愛歌には巽に話の内容を言って聞かせるつもりはないのか、単に口に出して心を整理しているだけのようだった。

この少女らしいといえば、実にらしい。

 

「ちなみに、どこへ?」

「ドイツよ。少し遠くて、行ってみたことのない場所だけど、でもセイバーからの伝言があるから仕方ないわよね」

 

にこにこと愛歌は言う。

言葉とは裏腹に、彼女は恐らく楽しんでいた。

次にこの少女に襲来されるだろうアーチャーのマスターに、巽は心の中で手を合わせた。

香辛料を選び終わったのか、愛歌は両手で籠を抱えると、くるりと巽の方を向いた。

 

「お疲れ様、巽。バーサーカーはあなたがマスターだったことを喜んでいたわ。でも、もう魔術に関わっては駄目よ。お兄ちゃんは、妹を泣かせたらいけないから」

「……分かってるさ」

 

それなら良いのよ、と愛歌は巽の横をすり抜けて、気配も遠くなる。

多分彼女は一人でお金を払って、家へ帰るのだろう。

愛歌がレジでどんな顔をして会計するのか、見てみたい気もしたがやめておくことにする。

戻ろうかと踵を返しかけた巽の前に、買い物袋を持った環の方がやって来た。

兄しかいない場所を見渡し、首を傾げる。

 

「あれ、お兄ちゃん。愛歌ちゃんは?」

「ああ、家に用事があるから帰るってさ」

「えぇ!?残念だなぁ。ご飯、一緒に食べてみたかったのに」

 

この短い時間で、どうやってそんなにうちの妹と打ち解けた、と巽は心の中で愛歌に言いたくなった。

 

「……あいつにも妹はいるから、その子のところに帰ったと思うぞ」

「そうなの?……愛歌ちゃんに詳しいのね、お兄ちゃん。ひよっとして―――――」

「やめろって、違うから。ホントにそういうのじゃないからな!沙条はあれですごく変わった奴だぞ!」

 

ちょっとどころではなく、本気で何を考えているか掴めない奴なんだとと力説する巽を見て、環はきょとんと眼を見開いた。

 

「ほんと?とっても可愛い、いい子じゃない」

 

そこは完全に否定できないんだよなぁ、と巽は今度こそ頭を抱える。

 

「……帰ろうか、環」

 

うん、と大きく頷く妹の買い物袋を取って、巽は店の外へ出た。

冷たい夜気に身震いする。雪でも降ってくるかもしれない。それでも他愛ないことを話しながら、巽は進んだ。

 

妹と話しながら、頭の何処かで巽は思う。

何故だろうか。眼に見えるすべてが、愛しかった。

またこうやって、家族と歩けるのだから。

 

その後ろ姿を、愛歌は見ていた。

二人の影が角を曲がって消えるのを見てから、愛歌も彼らに背を向け、別の方向へ歩き出す。

星明かりと街灯に照らされる道を辿って、彼女もその場からいなくなる。

 

夜空には星が瞬いていて、家路につく兄妹と小さな少女の姿を、静かに照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 





完結しました。
三話連続投稿なんてもう二度と致しません。
週末に書いた長い話を、色々と弄って分割した結果です。
ともあれ、これにて、物語はお終いです。
やはり反省点を多々思い出してしまいます。
登場人物の動かし方など、思い付けばキリがありません。

ともあれ、しかし。

ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました!

以下はただの後書きです。








改めまして、読んでくださった方々、ありがとうございました。
完結作品二つ目を書き上げられ、ほっとしています。
蒼銀ドラマCD発売日当日に完結させるなんて、何やってんだという気もしますが、これで心置きなく聞くことができます。

さて、はたけのなすびが完結できたものは、これで二つ目になります。
前のと違う主人公を書いてみたいと思ったのですが、どうなのでしょうか。
改めて考えると、主人公は二人共本来生きるはずだった共同体から、排除されたタイプの人間です。それも、自分ではどうしようもなかった理由によって。
要は、生まれながらのはぐれ者です。尚、ここの主人公は渡り鳥イメージで書いていました。
共通点はそのくらいのつもりだったのですが……。

いえ、長々語るのは止しておきましょう。
場にそぐいません故。

以下はオマケです。









《オマケ》
FGO編は書かないのですが、話だけは考えてしまったために語ります。
お目汚しならば飛ばしてください。

舞台にするなら第六特異点。
前話のマテリアルに書いた、ライダークラスで現れます。山の民の側に立ち、戦っているサーヴァントたちの一騎です。
カルデア一行により円卓の騎士の下から助けられてからは、相方になっている静謐とカルデア一行の手助けに参加。聖鳥と共に戦う元気な少女です。
アーラシュ&呪腕と、アフタル&静謐の二組となります。
ステラするアーラシュを見送って彼の遺志を受け、聖都での戦いにて静謐と共にトリスタンと相討ちになります。
と、このようにざっくり考えましたが、蛇足なので却下。

尚、中身に変わりはないものの見た目が幼くなるライダークラスで現界したために、静謐が少しお姉さん風を吹かせるでしょう。

プロトアーサーとは、カルデアで出会った場合、お互いの過去のマスターに関する意見が違いすぎてどうも噛み合いません。
ただアフタルも愛歌が外道になったと判断すれば斬っていた自覚はあるので、アーサーを嫌うこともありません。
別の世界の事とは言え、あの子が妹を殺さなくて良かったと彼にお礼を言います。
アーサーへの感情は、敢えて談笑したりはしないが、背中を預けて戦うことに異存はない、というものです。
逆にアーサーからは、その人柄に興味を持たれることでしょう。



では、これを持ちましてこの話はお終いです。
また何処かで、お会いできることを祈ります。
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