ゼロの狩人   作:テアテマ

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20:慈悲

 貴族派の勝利したアルビオンに訪れた、静かな夜。

 どちらが勝とうと同じ事だ。戦が終われば、勝利の狂熱も敗北の絶望もさほど後を引かず、やがて静寂だけが訪れる。

 そんな静まり返るアルビオンの、とある安宿の一室。静寂とは裏腹に、熱にうなされる者がいた。

 原因不明の高熱によって床に伏した彼女は、その熱と悪夢にうなされ続けていた。

 口の中に飛び散った、あの甘ったるい血の味が消えない。傷口に降りかかった返り血が、身体の中で蠢いているかのようだ。

 その狂熱の中で、確かな渇きを感じていた。何に対しての渇きなのか、ほのかに気づいていてもそれを認める気にはなれない。

 薄ぼんやりと見える宿の一室が、まるで血だまりに沈んでいくかのようだ。

 これは悪夢なのだろうか? それとも熱に浮かされた自分が見ている幻覚なのか?

 考えあぐねていると、その血だまりの中で蠢くものがあった。いや……血だまりから、まるで産まれるかのようにそれは現れた。

 大きな、黒い獣のようなものだった。まるでこちらの様子を伺うかのようにゆっくりと近づいてくるそれは、まるでアルビオンを襲ったあの黒い獣のようでもある。そしてその獣は、捩くれた爪の生えたその手を、ゆっくりとこちらへ差し伸べてみせた。

 彼女は、薄っすらと確信していた。あぁ、これはきっと救いの手を差し伸べているのだ。

 この身の渇きが、熱に浮かされた渇望が、一体なんであるのかはわかっているのだ。

 きっとこの獣の手を取ればそれが手に入る。飽くなき渇きに任せて……血を貪れるのだ。

 置いてきた『あの子』の事も、護らなければいけないことも忘れて。慌てふためく貴族どもの間抜け面も忘れて。

 あぁ、それは何て甘美で、それは何て魅惑的で、そしてそれは何て……。

 

 たいそう悪い、冗談なのだろう。

 

 次の瞬間、その獣は燃え盛る炎に包まれていた。それは決して驚くべきような事ではない。彼女自身が跳ね除けたのだ。

 自分自身のため、そして何より『あの子』のため、こんなところでそんな狂熱に身を任す事など、できるはずがない。初めから論外なのだ。

 2度と自分の前にその姿を現わすな。醜い『獣』め。

 そう心の中で唱えた時、ふと思い出す顔があった。あぁ、もしかしてあの男はこんな気持ちだったのだろうか。狂熱と渇きに身をまかせる愚かで醜い何者かを、許すことができなかったのだろうか。

 パチパチと音を立てて燃え尽きていく獣を、ぼんやりと見つめる。が、ふと、視界の隅に何かが映った。白くて細い、線のようなもの。

 何だろうと目を凝らすと、それは小さな小さな、手のようなものだった。ベッドの淵から伸びたそれが、しっかりとベッドを掴むと、その手の持ち主が身体を持ち上げる。

 果たしてこの存在を、なんと形容すべきだろうか。髑髏? ミイラ? それともしなびた、人間の赤子?

 その小さく白い『何者か』がベッドの淵から登ってくる。ふと視界をずらせば、それは1体ではない。

 それどころではない。何体も、何体も、何体も何体も何体も何体も何体も何体も。

 彼女はその白いもの達に取り囲まれ、そして気が遠くなっていくのを感じた。自分は今、熱に浮かされたまま、どうなってしまうというのか。

 深く沈みゆく意識の中、その暗闇から……今度は人間大の、手のようなものが伸びた。

 

『……あぁ、狩人様を見つけられたのですね』

 

 甘やかな声。その手の主のものだろうか。暗闇から伸びた手はゆっくりと、彼女の顔の方へと伸びる。

 人間の手のように見えたそれは、人間の手ではなかった。その指の節には、何か丸い球体のような絡繰が仕込まれていて、それはまるで、人形のような。

 その手が、額に触れた。そして意識は、まるで暗い海に突き落とされたかのように、さらに深くへと沈み込んで行った。

 

『これよりこの地の月の悪夢へ。どうか狩人様を、お救いください』

 

 

 

 

 

「ッ!!」

 

 強烈な衝撃にジェヴォーダンは顔を歪める。

 赤黒い少年は、攻め手を一歩も緩めずジェヴォーダンに斬りかかっていた。疾風のような斬撃が、しかし岩石よりも重たい。

 受け止め、かわし切るので必死だった。隙を見て散弾を放っても、気づけば射程の外にいる。

 強い。今まで相手してきたどんな相手とも性質の違う強さだ。技や殺しに訴えかける狩人のやり方や、ただただ暴力的な獣のやり方とも違う。

 余りにも感情的で、1つ1つは素人臭い。だがその全てに乗る、感情の重みが違う。

 怒っている。この赤黒い少年は、何か猛烈な怒りをジェヴォーダンにぶつけているのだ。

 

「くそっ……!」

 

 もちろん、何1つ思い当たる節がない。ジェヴォーダンはようやく見切れてきた動きの中、返す刃で少年を弾き飛ばした。

 わずかに生まれた隙を見逃さず、ジェヴォーダンは鋭く突きを繰り出した。仕留めるつもりで放った一撃。しかし、少年はその突きへ向け、間合いを詰めてきた。

 

「なっ!?」

 

 見切られた。突き出されたデルフリンガーの切っ先を弾き落とされ、足先で踏み落とされる。そして少年の手に握られたデルフリンガーが、ジェヴォーダンのみぞおちより上、胸骨のあたりを砕きながら身体を貫通した。

 

「ごっ……ッッ!!」

 

 強烈なまでの致命の一撃。喉奥で血が泡を立てる。冷たく激しい痛みが体内を突き抜け、しかしジェヴォーダンを冴えさせる。少年を蹴飛ばすと、突き刺さった剣ごと弾き飛んだ。

 

「げほぉっ、ごあ"ぁ"ッ!!」

 

 血は足りている。傷は塞がる。だが、溶岩のように湧き上がる怒りと、冴える狩人としての冷静さがせめぎ合いを始めるのを感じる。

 殺せ。なんとしても殺せ。だが荒ぶるな。手段はある。冷静になれ。

 だが、なお踏み出そうとするジェヴォーダンを、カチカチと鍔を鳴らしてデルフリンガーが止めた。

 

「ダメだ相棒、ムダだぜ。いくら戦ってもどうしようもない」

「黙っていろ……お前も俺も、奴の内臓をぶちまけることにだけ集中していればいいんだ」

「違う相棒、殺せはするだろうさ。問題はその後だ。あいつはまたやって来る、何度殺しても、何度でもだ」

「………」

「元を断つまでどうすることもできないんだ、相棒。あいつは相棒への怒りだけでここまで来た。相棒の持ってるものが欲しいんだ。それを奪い取れるまでこいつは何度だって侵入して来るぞ」

 

 赤黒い影は起き上がり、まだなお向かって来るつもりのようだ。赤黒いデルフリンガーを構え、そして飛びかかってきた。それを同じく、デルフリンガーで受け止める。

 体格はジェヴォーダンの方が大きくても、得物の大きさは全く同じのはずだ。にも関わらず質量からして違うかのような攻撃に、ジェヴォーダンは顔をしかめる。

 

「逃げるんだよ相棒! たとえ殺せたって無駄なんだ、本体はピンピンしてんだよ!」

「逃げられる状況と思うか!? どちらにせよやるしか無いんだ、今はそれだけに集中しろ!」

 

 いなしながらも散弾を放つ。なんとか体勢を崩せるだけでも大幅に違うというのに、まるで動きを読まれているかのようにかわされてしまう。

 恐らく埒があかない。ジェヴォーダンは銃を腰に納め、デルフリンガーを両手で構える。少年も、同じように構えてその体勢を低くした。

 そして、それ故に少年の左手から、何か光が漏れているのに気がついてしまった。

 

「………!?」

 

 そしてその一瞬の隙を、少年の方は見逃さなかった。激しい踏み込みで一気に近づかれ、真一文字の斬撃が飛んでくる。

 だが、ジェヴォーダンも一瞬の判断でそれを受け止めた。刀身を手で押さえ込むように受け止めたため、握り込んだ掌から血が滴り落ちる。

 それだけの無理をしてでも確かめたかった、少年の左手。そこにあったのはやはり、ギラギラと輝く、ガンダールヴのルーンだった。

 

「貴様、一体……!?」

 

 ここまで来れば、もはや類似では済まされない。

 自分自身と同じ武器、同じルーン。理屈はわからないが、この男も「ガンダールヴ」だ。

 それがどういう事なのか? ジェヴォーダンはそれをよく知っていた。

 

 

 

 

 

 重く、冷たい音が響き渡る地下墓。ジェヴォーダンは聖杯によってここに降り立ち、目の前のランタンに火を灯した。

 聖杯を拝領せよ。ゲールマンの教えに従いやってきたこの地で、ジェヴォーダンは様々なことを学んだ。

 足元をよく見て歩かなければならない。敵は1人とは限らない。いつだってどこからか銃口がこちらに向いており、そして鐘の音が聞こえれば敵はどこまででも追跡してくる。

 あまりにも悪意に満ち溢れたこの地で、狩人たちも黙ってやられているわけにはいかない。自分たちなりの対抗手段というものを見つけて、脅威と相対する。

 その1つである、小さな鐘。狩人同士が助け合うための指標でもあるそれを、ジェヴォーダンは小さく鳴らした。音が波紋となって響き渡り、地下墓にこだまする。

 程なくしてそれはやってきた。「協力者」たちだ。

 重たい音と共に現れた、自分とは違う狩人の姿。言葉を交わすこともなく、ジェヴォーダンとその狩人は一礼を交わした。

 否、言葉を交わすことはできなかった。協力者たちは鐘の音の召喚に応じてやってくる、これまた異質の存在たちだ。

 一説には、これは数多に拡散する世界の1つからやってくる、並行世界の自分なのだという。自分と同じように何かしらの理由でヤーナムヘやってきて、血の医療によって記憶を失い、狩人となったもの。単なる他の狩人とは違い、それは拡散した世界で自分と同じ時間にいる、「もう1人の自分」とも呼ぶべきものだと。

 そして、こうして協力者を募れば必ずやってくるもう1つの影。不吉な鐘の音が呼び起こす、「敵対者」たち。

 彼らもまた、並行世界の自分自身なのだろう。同じようにヤーナムヘやってきて、何が彼らを狂わせ、そんな剥き出しの悪意へと向かわせたのだろうか。

 いや、そんな事はどうでも良い。どうせそんなもの、人とは呼べない。

 ジェヴォーダンはノコギリ鉈をバチンと閉じ、協力者は仕込み杖を展開させ、重苦しい音の響く地下墓へと進んでいった。

 

 

 

 

 伝説の使い魔だという、ガンダールヴ。それが複数人いるなどと言うことが考えられるのだろうか。

 いや、現実問題この少年の左手にあるのがガンダールヴのルーンである以上、紛れもなくこの少年もガンダールヴだ。そして自分自身もガンダールヴであること、それは間違いない。

 そして、この悪夢。まるで自分のなぞってきた道を辿るかのような、それでいてどこか違和感を覚えていたこの悪夢。

 間違いない。この少年は。

 

「お前は、俺か……!」

「……わかったろ、相棒。殺しても無駄だ。そいつはお前がお前の居場所にいる限り、何度だってそれを奪いにやってくるんだ」

 

 赤黒い、影のような少年が顔を上げる。デルフリンガーは『闇霊』と呼んでいた。その顔は激しい怒りに歪んでいるが、それでも、ほんの10代程度の幼い少年であるように見えた。

 

「まだ、子供じゃあないか……!」

 

 自分が辿ってきた道を、本来歩んでいた別の少年。いや、自分と少年だけではない。数多に拡散する世界の、並行するいくつもの「自分」の、その1人。

 この悪夢も、きっとデルフリンガーを手に取った全ての「自分」たちが歩んだ道だったのだろう。皆一様にトリステインを抜け、フーケを倒し、アルビオンへ訪れ、そしてこの場所へ集約してしまうのだ。

 

「くっ!」

 

 少年が受け身を取り、再び距離が開く。自分と同じものなのであろう、デルフリンガーを低く構えて、そしてまた跳んできた。

 受け止めなければ。この怒りは彼1人のものではない、自分のものでもある。たとえ殺しても無駄だとしても、受け止めなければいけない。

 

「うぉぉ……っ!?」

 

 だが、突如として衝撃が走った。天井が崩れ、それとともに何か落ちてきた。

 疾風のようなものが真後ろに現れた。赤黒い少年の影でもない、見覚えのない暗い影。そいつは手に、切り詰めた小型のショートソードのようなものを持っていた。

 ジェヴォーダンはその影が自分に向け殺意を持って飛び込んできた事に気付いた。だが、目の前からはあの少年も迫っている。

 

 避け……切れない!

 

 一瞬の判断だった。少年の斬撃を右手のデルフリンガーで受け止め、背後からの一撃には体を捻り、その剣が繰り出した突きを左腕で受け止めた。前腕を剣が貫通し、血が噴き出す。

 そうして両方の攻撃を無理くり受け止め、全員の動きが止まった。ジェヴォーダンのコートが、残った衝撃でたなびく。

 ジェヴォーダンは言葉を失った。痛みのせいでも、怒りによってでもない。ただ驚きのあまりに、目を見開いていた。

 背後から襲いきた刺客。目深に被ったフードからゆっくりと顔をのぞかせ、"彼女"はニヤリと微笑んだ。

 

「また会ったねぇ、使い魔さん」

「土、くれ……!?」

 

 全く予想外の事態だった。この悪夢にあったのは、少なくとも数多くの「自分」の記憶であり、自分はそこに対する闖入者の立場だったはずだ。

 だが目の前にいる彼女は、『土くれ』のフーケは、自分を知っている。つまり自分の知る、自分の世界のフーケだ。それが何故、こんな悪夢の中にいるのか。

 

「どこだかもわかりもしないとこに放り出されて、何か音がするから来てみれば……まさかこんな所で顔を合わせようだなんてね」

「貴様、何故この悪夢にいる!」

「悪夢だって? アンタがそのペンキ被りに襲われてるもんだから助太刀してやろうと思っただけさ! アンタにはたっぷり礼があるんだ、これが悪夢なもんかい!」

 

 ジェヴォーダンの腕から剣を引き抜き、左手に杖を持ち、短くルーンを唱える。地面から盛り上がった土が、徐々に人型を形成する。

 が、その変体は歪な形のまま終わった。不定形の泥人形のような物が形成されただけで、それはフラフラとジェヴォーダンへ向かってくる。

 

「な、なんだ?」

 

 敵意があるのは間違いないのだろう。しかし、そのゴーレムなのかどうかもわからない不定形の泥人形は、少年の剣を止めるジェヴォーダンにたどり着くこともなく崩れ落ちてしまった。

 

「チッ……どうせこれが夢なんだったら、魔法くらい自由に使わせて欲しいもんだね。なんだって錬金以外は上手くいかないんだい」

 

 そして今度は、杖を手に持ったショートソードへ向ける。やや歪なその剣が、金属とは思えないような複雑な変形をしたかと思うと、今度はレイピア状の刺剣のようなものに変化した。

 

「精神力はとめどなく出てくるんだけどねぇ。まぁいいや、なんだか身体が軽くて、こっちの方が手っ取り早いからねぇ!」

 

 フーケが刺剣を突き出してくる。だが少年の方も待っていない。迫り来る斬撃をいなしながら、返す刃でフーケの刺剣を弾こうとし、しかしその速度の方が勝り、肩のあたりを貫かれる。

 

「ぐっ!?」

 

 予想を上回る、速さと力強さ。刺し傷であるため出血は少ないものの、これまでのフーケを思えば考えられない一撃。その身のこなしも、あのゴーレムの上で戦った時には考えられなかったものだ。

 だがそれよりも……その動きは、ジェヴォーダンにとってどうしても既視感のあるものだった。

 まさか。だがそれしか考えられない。

 迫り来る2つの斬撃をなんとかかわしながらも、ジェヴォーダンはフーケへと問いを投げた。

 

「土くれ! 貴公、アルビオンで何か獣と戦ったか!」

「は、はぁ!?」

 

 少年を弾き飛ばし、フーケの攻撃を受け止める。身長差があるため、フーケがジェヴォーダンの懐に潜り込むような形で、剣戟を受け止められてしまう。

 

「それが、なんだってんだい!」

「その獣の、『血液』を、身体に取り込んだか!?」

「……っ!?」

 

 飛び込んできた少年の攻撃を、2人ともはね飛ぶようにかわす。少年はフーケも邪魔だと判断したのだろうか、今度はフーケへ向けて飛び込むような斬撃を加えるが、フーケはそれをひらりとかわす。

 

「お前、なんでアルビオンにあんな獣が現れたって知ってるんだい?」

「入れたんだな、身体に血を」

「……返り血を浴びた時に、そりゃあ傷口に触れたりもしたかもしれないけど。それが?」

 

 少年とフーケが、ジェヴォーダンを挟むように立つ。フーケは注意深くジェヴォーダンの言葉を聞き、少年も気配を伺って立ち止まる。一瞬の静寂が訪れた。

 

「……クックッ……ハハ、アーッハッハッハッハッハッ!!」

 

 その静寂を破ったのは、ジェヴォーダンの……高らかな、笑い声だった。

 

「な、なんだい……?」

「クハハハハハハ!! そうか! "そう来る"か! こいつは愉快だ、実に愉快じゃあないか! まるで笑劇(ファルス)だ! 獣と蔑んでいた貴公が狩人などと!」

 

 全て合点がいった。そんな風な笑い方だった。高らかではあるが馬鹿にしたようではなく、どちらかといえばジェヴォーダン自身が自虐し、気の抜けてしまったかのようなそんな笑い声。

 フーケも拍子抜けするそんな高笑いの後、ジェヴォーダンは少年に向き直った。フーケに、背を向けるようにして。

 

「え……?」

「土くれ、この少年を倒す。話はそれからだ、手を貸せ」

「は、はぁ!?」

 

 今まさに飛びかからんと構えていた少年だったが、今度の先手はジェヴォーダンが優った。予備動作の無い動きから一気に踏み込んだため、少年も反応が遅れる。

 

「な、なんで私がお前に!」

「お前はその血で人を超えたのだ! もはやお前は獣ではない、狩人だ! ならば仇なす獣を狩る、それだけだ!」

 

 それでもフーケは、刺剣をジェヴォーダンへと突き出す。よろけていた少年を弾き飛ばしてフーケの刺突を受け止め、今度はフーケの方へ向き直った。

 

「誰がお前なんかに手を貸すものかよ、人をコケにしてくれやがって!」

「……錬金はできるんだったな」

「人の話を……は、何? 錬金?」

 

 ジェヴォーダンの背後から少年が斬りかかる。それをいなしながら、ジェヴォーダンは懐から取り出した注射器を自らの太腿のあたりに突き刺した。

 フーケも攻めの手を緩めないが、ジェヴォーダンは2人を同時に捌いてみせる。そしてさらにフーケへと叫んだ。

 

「俺の言う通りの物を錬金しろ、その方がお前の手にも馴染むはずだ!」

「だ、誰がお前の指図なんか!」

「お前が錬金するのは、引き寄せあう星の『隕鉄』だ!」

「……!?」

 

 この男、とんでもないことを言い出す。そんなもの、スクウェアクラスの土のメイジだって錬金できるかわからない。

 

「バカ言ってんじゃないよ! 私は……」

「いいや、今のお前にはできる」

「う……!」

「いいか、錬金するのはふた振りの短刀だ。だが引き寄せあい、重ね合わせる事で1つの刃になる、捩くれた剣だ」

 

 フーケは、ドクンと自分の内面に何か予感のような物が渦巻くのを感じた。

 何故だろう。この男の言っている物が、簡単にイメージできる。際限なく湧き上がる精神力のおかげで、なぜかどんな困難な魔法も、唱えられてしまう気がしてくる。

 

「いいか、お前が狩人たるならば、その『仕掛け武器』を生み出し、使いこなしてみせろ!」

「―――っ!!」

 

 ジェヴォーダンが少年の斬撃に押され、わずかに体勢を崩す。それと同時にフーケは、杖を引き抜き自らが持つ刺剣へと向けていた。

 きっとそのふた振りの剣は、こんな風に無骨で、左右で不釣合いで、捩くれていて、でも鋭く、そして慈悲を孕んだ殺意に満ちていて……。

 

「ぐっ……!」

 

 姿勢の崩れたジェヴォーダンがよろけ、少年が赤黒いデルフリンガーを構える。また身体を貫くほどの突きを繰り出すつもりだろう。今度こそは、血も足りるかわからない。

 だが、ジェヴォーダンは覚悟などしなかった。もっともっと強い、予感のままに呟いた。

 

「やれ、"フーケ"」

 

 次の瞬間、少年の横を鋭い影が、きりもみを描くように通り抜けた。

 それがフーケが編み出した、ふた振りの捩くれた刃によるものだと、ジェヴォーダンはすぐに理解できた。

 何度にもわたって切り裂かれる少年。膝をついたその背後で、フーケが2つの剣を近づける。

 

 そして、引き寄せあうそれを振り抜き、火花を散らして重ね合わせる。

 そこには一振りの、重苦しく捩くれた刃があった。

 

「気安く呼ぶんじゃないよ」

 

 次の瞬間、赤黒い少年の体に、フーケがその右手を突き込んでいた。

 

 

 




慈悲の刃

狩人狩りに代々受け継がれる、特別な「仕掛け武器」
しかしこれはマチルダが編み出した、彼女のもの

仕掛けにより2枚に分かれるその歪んだ刃には
慈悲にも似た、冷たい殺意が込められている
狩人たるもの、本来そういうものだろう
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