「違うよ。ジーサードが好きなのは私じゃない。サラ博士でしょ?」
そう言われた俺はHSSではあるのにも関わらず、言葉に詰まる。
なぜ知ってやがる……?
「貴方の質問に答えてあげよう。貴方が研究所・ロスアラモスから脱走した経緯が書かれた調書では発狂したとされていた。しかし、実際の貴方と触れ合ってみるに別に発狂していない。じゃあなぜ脱走したのか」
「……」
「脱走、その近くにあった過去を調べれば自ずと答えが見えてくるでしょ?ジーサード、貴方が脱走する1ヶ月前に起こった事故。その事故でサラ博士は亡くなっている。もうこっからは推理をするまでもないよね?」
助手席で人差し指を立てて生徒に教えるように自分の推理をいう銀華。
サラは俺のせいで死んでしまった。戦争の抑止力となるはずの『人間兵器』の俺のせいで。
「ジーサード、貴方はサラ博士を愛していた。それは紛れもない事実」
「ああ…悪いかよ」
「ううん、悪いどころかいいことだとは思うよ。貴方が人間である印。でも……生き返らせたいとは思わない方がいいよ?」
「なに…!」
なぜそこまで分かってやがる…!
シャーロックの娘だからか?それともロカやツクモあたりから聞いたか?
「簡単なことだよ。私もキンジっていう愛する人がいるからね。答えが出てくるのは簡単なことだよ。でも人は死んだら生き返らない。それは時間の流れに逆らうことになる」
「知るかよ、俺は神にだって逆らう覚悟だ」
「そのために私という神の力の利用したいってことでしょ。ほんとーーーに回りくどいね貴方」
そう。こいつがいう通り、俺は紅華の超々能力・時空を超える技を使ってサラを助けようとした。過去に戻り、事故を未然に防ぐ。これだけでサラが死ぬことはない。
「だから私を自分の
「それに答えて、俺に何が得があるのか?」
「じゃあ私が勝手に言う」
そう言った銀華は指を3本立てた。
「貴方が自分の心に嘘をついて、私を自分の女にしたかった理由。まず一つ目はさっき私が推理したサラ博士を蘇らせること。緋緋色金の力を覚醒させた私を使ってね。過去に戻って事故を止める。アリアでもいいけど覚醒した私の方が手っ取り早かったってことかな?」
「…」
「そして二つ目、キンジから私を引き離す」
強い目でこちらを見てくる銀華。その目はとても非難する目だ。
「ジーフォースの『
「『
「そう、父さんも言っていたけど、アリアが『緋弾のアリア』に覚醒するためには私が邪魔なんだよね。私の協力が得られない場合はサブプランとして緋弾のアリアを使おうとしてたんじゃないの?」
俺はHSSなのに何もこいつに対して言うことができねェ。なぜならそれが真実だからだ。
形勢が不利なときは黙っておくことも大事だとサラも言っていたしな。
「そして三つ目」
指を3本立ててこれで終わりだという顔をする銀華。
「ジーフォースを助けてあげたかったんじゃない?優しいね案外」
「ち、ちげえよ。理論上『双極兄妹』が可能だから」
「でも、無理ってわかってるでしょ?HSSを持つ貴方なら」
「……ッ!」
HSSは『異性にとって魅力的な自分』を演じてしまう。男の場合、女を守り、女心をくすぐるような言動ばかりするようになる。
そこから考えるに女版のHSSとは…
「そう、貴方が予想した通り私のHSS、つまり女のHSSは弱くなる。それもとんでもなくね」
男が守りたくなるような女になり、男心をくすぐるような仕草をすると想像がつく。
「貴方はお互いが性的興奮によって超人二人を生み出す『双極兄妹』が成功しないことはわかっていた。それでもジーフォースを助けたかったから、私やカナにHSSのことについて聞きたかったんでしょ?まあ、私が先に『HSSにさせてみろ』という宣戦布告をすることで防いじゃったんだけどね」
チッ、そういう意図もあったのか。
なんかよくわからねえこと言いだす野郎だなと思ったのだが、ここまで計算尽くだったとはな。
「でもジーサード…貴方の推理は間違っている」
「どういうことだ?」
俺の疑問の声に対して、とても悪い顔でニヤッと返してくる。
その顔はガキがいたずらを思いついたような顔で……
「ねえ、見たくない?本当の『
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
あの一件から、かなめは落ち着いたといえるだろう。
そしてかなめから、ジーサードの情報や銀華が無事だという情報も聞き出すことができた。
ある程度順調にいっていたと思われた日々だったが
『遠山か?電話に出んから心配したぞ。急いで具足をつけろ』
「具足って…装備のことか?どうした」
『どうもこうもない。もう始まっておる!』
そんな日々は再び壊される。
『ジーサードが東京に戻ってきよったぞ』
聞きたくなかった言葉を玉藻が伝えてくる。
『場所は品川火力発電所の東南東じゃ。近くにおった白雪とジャンヌを向かわせておる。ジーフォース、かなめはそこにおるか?』
「いや、いない」
『まずいのう、ジーサードめ。なんと戦運のあるやつじゃ。こっちがバラバラで準備もできておらん時にきよったぞ』
「ともかく俺も出る、車を回せ」
『そういうと思っておったわい』
こうなることがわかっていたようなタイミングで俺の部屋のインターホンが鳴らされた。
スカイツリーで戦った時と同じ装備で現れたワトソンに手伝ってもらい、俺は銃、防弾制服、持てるだけの弾、そして左右の手に『オロチ』を装備して男子寮を飛び出した。
ワトソンの愛車ポルシェ911に乗り込んだのはいいものの、水路も陸路も状況が良くなく、一般道で行くしかない状況で20分はかかる。
そして俺が玉藻の電話に気づくのが遅れた理由だが、かなめに睡眠薬を飲まされてしまっていたらしい。
かなめに電話をするがもちろんでない。
行ったのか、ジーサードのところに。
どうするつもりなんだ…かなめ!
ポルシェにはカーナビを兼ねたモニターがあり、そのモニターにテレビ会議サービスで接続してきたジャンヌが、胸ポケットに携帯を上手く挿してアウトカメラ映像を送ってきた。
まだ現場につかない俺たちはその映像で状況を見守るしかない。
モニターと連動するスピーカーはさすがポルシェというべきか高級品で、そこにジャンヌがいるかのようにクリアな声が聞こえてくる。
「トオヤマ、ワトソン。大きな声を出すと向こうに聞かれる恐れがあるから注意しろ」
もうかなり接敵しているのか、ジャンヌの声には緊張感がある。
モニターにはイロカネアヤメを携えた白雪もチラチラ映る。ツーマンセルで行動してるんだな。正しい選択だ。
品川発電所の近くを移動していく間に、理子やレキ、アリアが音声のみでオンラインになっていく。
「うっ…」
俺を含め、一同がうめくような声を上げる。
ヤツがいる。
それも海の上に。
安定感からして何かの上に立っているようだが、足場が見えない。
おそらく透明な何かが足下にあるのだろう。
ジーサードは現代的デザインをした漆黒のプロテクターを体の各所に装着し金や金糸で飾られたコートを風に靡かせていた。相変わらず派手好きなヤツだぜ。
ジーサードは何かに怒ったようなムードで、陸の側の芝生を見ている。
芝生の上にはジーサードに何か喋っているかなめがいた。
プロテクターを完全武装し、腰の左右に2振り、背にもクロスさせて2振り、合わせて4振りもの先端科学兵装の刀を装備している。
「な…!?」
ジャンヌの声と共に、俺も言葉を失い、目を見張った。
言葉を失わざる得なかった。その人たちは人に息を呑ませ、人の目を惹きつける、神がかった美形だから。
コンテナヤードの片隅にあるガントリークレーンの上、そこにライトブラウンの防弾ロングコート・編み上げブーツを着た
(カ、カナ!)
そしてその横には青みがかった銀髪を持ち、絶対的な美貌を振り撒く
(銀華…!)
の二人が揃って腰掛けていたからだ。
ジーサードに監禁されていた銀華だが、様子を見るに拘束などはされていないようだ。
そしてあの距離感から察するに、二人はあの場ではかなめ側じゃなくて、ジーサード側にいるみたいだぞ…!
「こ、ここからは、映像を広角化・固定する。武運を祈っていてくれ」
携帯そのものを樹木の枝に置いて固定し、何か魚眼レンズのようなものをつけて映像をパノラマ化することによって━━
かなめ、ジーサード、カナと銀華、そして白雪・ジャンヌの様子が把握できるようになった。
「サード、殺す必要はないよ。バスカービル、師団は敵じゃない」
かなめの声が聞こえてくる
説得するような感じでジーサードに話している。
ジャンヌと白雪が接近してる事には気づいており、どう対応すべきか話しあっているらしい
「フォース。これは命令だ」
命令するように言ったジーサードに対して、白雪が姿を見せた。こちらはかなめに味方するように。
「ジーサード。六尾の妖狐を送って玉藻様と交渉したこと、さっき私も聞きました。玉藻様の回答には星伽も同意です。あなたには色金も、その術も一切渡す事はできないよ」
ガントリークレーンの上に座る銀華をチラチラ見ながら白雪はそう答える。
まずいぞ、白雪!その男は危険なんだ。
銀華は仲が良い白雪を攻撃する事はないだろうが、白雪の横には仲の良くないジャンヌがいる。
ジーサード側に立っているのを見るに銀華が何をしてくるか想像がつかん…!
ここは銀華に対してカウンターのカードである俺が到着するまで一時撤退が最適だ。
「ジャンヌ!白雪とかなめを連れてそこから逃げろ!」
「お兄ちゃん!?」
ジャンヌの携帯から出た声にかなめは驚いている。おそらく睡眠剤を盛ったのに、予想外に早く動かれたからだろう。
調べが足りなかったな。俺は比較的薬が効きにくいんだ。
「あたしは…バスカービルは敵じゃない、サードは…」
「フォースっ!俺の命令を聞かんかァ!」
「かなめ!そこから逃げろ!」
ジーサードと俺の叫びが同時に放たれた。
2人の声にびくっと身を伸ばした、かなめは
ず、ずず。
回れ右をした。
つまりジーサード側についたのだ。
その表情には明確なおびえがある。
「あたしは…自分より強い人には逆らわない…それは非合理的だから…!あたしには恩義もある。ロスアラモスから出してくれたのはサードだ…」
自分に言い聞かせるように呟くかなめからは、もう闘気が放たれている。
その姿勢は低くなり脚部に力がこもっていく。
「かなめ降参して。あなたは私たちに勝てない。それはこの間分かったはずだよ」
木こりの決闘でかなめに勝った結果を持ち出す白雪だったが
「
左右にある、蛍光色に光る刀を握る。
「お兄ちゃん達が攻略したのは、13種類ある先端科学刀の数種類に過ぎないんだよ」
かなめの足元から芝生と土が勢い飛散する。
プロテクターのアシストがあるのか、人間とは思えない跳躍で間合いをつめたかなめは、空中で抜刀
「
刀とは言えない何かを抜いた。それはガンダムで出てくるビームサーベルのような武器であり、白雪とジャンヌは散開してその光の刃を避ける。
からぶった刃は地面を溶かし、白い煙が一気に広がっていく。
くらったらひとたまりもない。触れたところが斬れる。いや蒸発してしまうだろう。
「ジャンヌ…」
「分かっている」
白雪とジャンヌの二人は斬り合う事は無理だと判断し、白雪は印を結ぶような手つきをし、ジャンヌの周りにはダイヤモンドダストが舞い始めている。
そして今の一撃を見たジーサードは不機嫌そうに鼻を鳴らし、
「フォース、俺の目はごまかせんぞ、今の一撃は、殺す意志が半分、逃す意志が半分のものだった。お前は故障し、
「違う違う違う」
かなめは頭を抱え、頭の中にいる他の自分を追い出そうとするかのように爪をたてる。
「フォース!お前がなんなのか思い出せェ!お前は兵器、これは戦争だ。やれ!」
ジーサードは修理している。
かなめをジーフォースへと。
ヤツはかなめに白雪やジャンヌへ攻撃することを強要することで、修理、人格を元に戻そうとしているのだ。
「どうして…?どうして、戦争になっちゃったの」
かなめの背から抜かれた、変わった形のした双剣から銃弾のような速さの光の弾が飛び出す。
その弾は白雪・ジャンヌに迫り、ジャンヌはその光弾を払うような動きをしたが、弾けるものではなかったらしい。
剣に着弾した瞬間、弾のサイズからは信じられない規模の大爆発を引き起こした。
「…ッ!」
2人は電車にでも撥ねられたかのように左右に吹っ飛ばされる。
画面を食い入るように見ると、生きてはいるようだが、重傷だ。戦闘継続はできない。すぐ助けないと…!
かなめはジーサードに振り向き、もういいよね?という目で見ている。
しかし
「なんで手を止める。なんなら俺がやるか?」
殺せという命令を出す。
やめろ…もうやめろという俺の想いが伝わったのか
「白雪はやめて、ジャンヌはいいけど」
銀華は仲の良い白雪の助命を要求する。
それを聞いたジーサードはチッと舌打ちをし、
「ジャンヌを殺せ」
そうかなめに命令する。
命令を受け哀れな泣き顔を上げたかなめは、脚部に備えていたナイフ状の科学剣の一つを抜いて
「兵器は戦わなきゃいけない。やりたくなくてもやらなきゃいけない…!」
ざっざっ、焦げた土を踏み越えて、ジャンヌに迫る。
それを黙って睨むジーサードに、クスッと笑いながら、
「ジーサード。人のことばかりでなくて、自分のことを心配したら?」
カナがクレーンの上から声をかける。
そして車載スピーカーから雷が落ちたかのような爆音が上がる。
音声接続してる誰かが発砲したのだろう。
その数秒後に、
バチッ!
ジーサードの側頭部付近でオレンジ色の火花が弾け、続けて芝生の一部から土砂が巻き上がる。
「弾丸を防がれました。原因は不明です」
抑揚のない声でレキがそう報告してくる。
今のは対物スナイパーライフルのバレットM82による狙撃。
対物ライフルはデカ過ぎて持ち運びに不向きなので学園島から品川に直接狙撃したのだろう。
土塊が上がったのはそのせいだ。
しかし、なぜ当たらなかったんだ?
レキが外すとは思えない。
ジーサードの側で弾けた火花を見るになんらかの防御をしたに違いない。
そしてお次は…ジーサードのはるか頭上のクレーンから
(理子!)
いつのまにか忍び寄っていたらしい、理子がジーサードめがけてダイブしている。
手にはタクティカルナイフを持ち、やつが唯一プロテクターをつけていない頭部を狙っている。
ここまで様子を見ていたレキと理子はジーサード、大将首を取ろうとしたのだ。
そうすればかなめは行動できなくなると考えて。
しかし…
「心配することがこれかよ」
というジーサードの言葉に続き、ボンっ!
ジーサードに接触する寸前で理子はボールのように跳ね飛ばされた。
そして鮮血を散らし声もなく、海に落ちてしまう。
ジーサードは理子の方を見ることもなく片手で弾いたのだ。
(強すぎる。ジーサードは)
俺は現着まであと5分
しかしジャンヌの近くまでかなめはすでに歩み寄っている。
どうすればいいんだ…!
「戦争はなんでもありなの…そしてあたしは、戦争のために作られた…」
「じゃああたしも『なんでもあり』でやらせてもらうわ」
アニメ声が車載スピーカーから聞こえてきた。
「!?」
白雪を守るような角度で、かなめの手元に2発飛来した。
爆発したそれらはかなめをオレンジの炎で包む。
(
武偵弾の一種で超小型のナパーム弾。それで空襲されたのだ。
炎と煙から逃れたかなめは空を見上げている。
俺たちの目にもすでにその光が捕捉できている。
「あ、アリアじゃねえか!」
防弾制服のスカートの外側にもう一重のスカートのように広がる鎧の草摺りみたいな白い機械を装備したアリアだ!
可変翼が7枚あるかのように分かれた機械の下端がそれぞれ噴射光で光っている。
「な、何飛んでるんだよ、アリア!いつそんなもん用意したんだよ!」
「これはホバースカート!納品はついさっきで、ぶっつけ本番で使ってるのよ!あんたも早くきなさい!」
などと言いながらかなめに対して焼夷弾、炸裂弾、飛散弾などあめあられと降り注がせている。
爆音が、もう生でも聞こえてきたぞ。
本当に戦争みたいじゃねえか、これじゃあ!
おそらく和製・先端科学兵装を作ることができる平賀さんにあのスカートを注文していたのだろう。
目には目を、歯には歯を、科学には科学を。
アリアはいかにもアリアっていう発想でジーサードとの直接対決に備えていたってわけか。
そしてアリアが惜しげもなく武偵弾を使い人間攻撃ヘリと化し戦況がアリア優勢な間に、白雪とジャンヌ、理子をヒルダに救出してもらった。
アリアは空飛ぶ布盾、磁気推進繊盾を空中でツインテールを翼のように使ってかわし、粘着弾で絡まらせる。
その動きはまるで航空機が減速するような動きで、風に靡いた動きじゃない。
「あーやっぱりか…」
「ハハッ」
何かを察したような銀華と愉快そうな声を上げるジーサード。
「『緋弾のアリア』の端緒が直に見れたな。カナ、お前の条理予知も大したもんだぜ」
「私のは不完全よ。推理の域を出てないわ」
「半分ぐらいはできてる気がするけどね〜」
『緋弾のアリア』、『条理予知』、イ・ウーでシャーロックが用いていた言葉を交えて銀華、ジーサード、カナが語っている。
なんの話をしているんだ、3人は。
「武偵弾が切れたわ、燃料もあと30秒。キンジ、そっちは後どのくらい?」
「もうついた、あと少し持ち堪えてくれ」
「オッケー、あたしがかなめを逮捕するわ。あんたじゃきっとあの子に本気出せないでしょ。かっっっわいい妹さんだもんね」
そう嫌味ったらしくいうアリアの声を最後に車をおり、俺とワトソンは戦場になっている発電所の南側へ走る…!
発電所の敷地では理子、白雪、ジャンヌが煙突の陰の中に集められており、立ち上がれない状態だ。医師免許を持ち衛生科のワトソンが手当してくれるとのことなので、俺は急いでアリアの加勢に向かう。
そこでは
「アリア…!」
かなめとの戦いで負傷したアリアが、がくっと片膝をつくとこだった。
俺の到着に慌てるような素振りを見せたかなめは腰から磁気推進繊盾を出している。
それも左右に2枚ずつ、計4枚。
まるで4本の尻尾があるような光景だ。
「アリア、大丈夫か?」
ベレッタで威嚇しつつ、アリアを守るような位置に立つと、
「まだやれるわ。気をつけなさい。あのプロテクターや布はかなめの格闘戦をアシストしている。一撃一撃が重かったわ」
アリアがばしゅ、と水蒸気のような煙を上げて、ホバースカートを外した。
もう燃料がないのだろう。そうなればただの重りだ。
なおもアリアは格闘技の構えを取ろうとするが…ダメだ。ダメージが重い。
さっきのアリアの戦闘機かと思うような機動力と火力が長時間持続できるものなら勝てたかもしれない。だが、もうガス切れだ。負傷の度合いも重いし退かせるしかない。
かなめお前は大したやつだ、一度だけじゃなく2度もここまで追い詰めたわけだからな。
そのかなめに加えて、向こうにはジーサードも残っている。
しかし、まだ勝機はある!
「銀華、カナ!なんでそこにいるんだ!降りてきて一緒に戦ってくれ!」
俺はクレーンの上に腰掛けている銀華とカナに叫ぶ。
両方、それかどちらかがこっちにつけば逆転できるかもしれない。
それが俺の切り札だったのだが…
「キンジ、私は極東戦役の戦いの一つを見にきただけよ。それに私は無所属、誰とも戦う義理はないわ」
沈みつつある夕陽の中、カナは動かない。
「それに銀華はキンジに言いたいことがあるそうよ?」
宝石のような瞳で瞬きしたカナの横を見ると、銀華が夕陽のような真っ赤な瞳でこちらを見ていた。
「ねえ、キンジ?私がいない間にジーフォースやアリアとなんか
そんなことを言うと、ふわっ、クレーンから飛び降りてきて、遠山家の先祖が作ったイカれ技『駉陸』・馬から落馬するように飛び降り超速度で敵陣に切り込む超人技で地面のアスファルトをガリガリ流しながら、およそ30mぐらいの高さを無傷で着地する。
こんなことができるということは、やはり銀華はベルセになっているのだろう。
しかもかなめやアリアとキスをしてしまったこともバレてる…!
「いや、その…」
「嘘つきな口は良くないな」
狙いは顔と見せかけた胸への蹴りがクリーンヒットし、ドダァン!
吹っ飛ばされた俺の頭がコンテナに激突し、跳ね返って、体が倒れた。
う、嘘だろ?
かなめもジーサードも倒さないといけないのに銀華まで倒さないといけないなんて…!
「銀華、落ち着け!いやあれはその仕方がないことで!」
「私はジーサードに捕らえられている時にもキンジのことを忘れたことはなかったのに、キンジは私がいないとすぐそういうことするんだ…!」
ゆらゆらと揺れながら近づいてくる銀華!怖い、怖すぎる!ヤクザとかより全然怖い!
「いや…そ、その…」
「節操のない人にはお仕置きが必要だよね」
この状態の銀華はキスすることで無力化することができるが…無力化したところでかなめとジーサード二人を俺一人で相手にすることはできん!
どうにかしてこの状態の敵の認識をジーサード達に向けないと…!
「散れ」
銀華がそう言って放ってくるのは亜音速の桜花の蹴り・おそらく秋水も合わせているだろう。
ヒステリアモードならまだしも、普通の俺はこの攻撃をかわせない…!
万事休すか…と思ったその時、俺と銀華の間に黒い影が割り込んでくる。
ガギイイイイイイイインッッ!
銀華の蹴りを黒い影が受け止めた。
その影の正体は……
「かなめ…!」
俺がやられそうになったのを助けてくれたのだ。
しかし…どういうことだ。
かなめの存在感が、先ほど目にしたかなめより遥かに大きい。
攻撃を受け止められて、少し驚いているベルセの銀華より大きいぞ。
「サードには恩義がある……でも、あたしには…あたしを人間として必要としてくれたお兄ちゃんも大事なんだ!」
プロテクターで銀華の蹴りを受け止めていたかなめは腕を払いそのまま銀華を吹き飛ばす。
かなめのこの変化は、おそらくヒステリアモードの派生系だろう。今のかなめの様子から女でも男と同様の神経系の強化ができる技と思われる。
女でも心の持ち方一つでヒステリアモードによる強化が可能なことは、銀華が身をもって証明している。
義のため、ヒステリアモードを頼りに何百年も悪との戦いに明け暮れてきた遠山家には、当然女にも戦うヒステリアモードがあったんだ。
「サード…強い人に逆らうのは非合理的……でも、妹は━━絶対にお兄ちゃんを助ける!」
そんな変化したかなめを見たカナはこの変化について知らなかったようで
「HSSにそんな可能性があったとはね」
興味深く、かなめを観察している。
そして、ジーサードは
「フォース、それがお前の答えか」
とだけ言って銀華の横に並んだ。
そして、銀華は…
「やっぱり、やっぱりそうだよね!」
なぜかとても興奮したように喜んでいる。
それは、どこか狂気を感じるような声だぞ。
「ジーフォースがなったそれは『
ヒステリアモードは本来遺伝子を残すための力。
自分と近い遺伝子を持つもの、すなわち兄弟姉妹の遺伝子を守ることは、自分の遺伝子を残すためにも有益だ。兄弟姉妹は自分やその配偶者、そして子孫を守ってくれる可能性が極めて高い人々だからだ。
「ねえ、キンジ。簡単な推理だよ。姐對を発動したジーフォースがキンジの妹と仮定した場合、私にとってジーサードは何になると思う?」
かなめを俺の妹と仮定した場合、ジーサードは何かだって?
ジーフォースが本当の妹と仮定した場合は、名前がGの三番目となっているサードはかなめの兄である可能性が高い。認めたくないことではあるが、ジーサードも俺の兄か弟になるだろう。ということは、俺の婚約者の銀華にとっては…
「そう…もうわかったよね。私にとってのジーサードは義理の兄弟に当たるわけだ」
そう言った銀華のオーラがもう一段階上がる。
目も青に戻り、ベルセの攻撃的なオーラも消えた。しかし超人的な圧力は今までと比べ物にならないほどだ。
「ありがとうジーフォース…いやかなめ。貴方のおかげで私もなれたよ。姐對に」
遠山家は異なる義のためや同じ異性を取り合うことで、兄弟姉妹は敵対することがよくある。
ヒステリアモードと戦うためにはヒステリアモードが必須だ。なのでおそらくヒステリアモードを持つものは誰かがヒステリアモードになると本能的にヒステリアモードになりやすいのだろう。
かなめが姐對したことによって、銀華の姐對も共鳴した。俺たちのリゾナと同じように。
ということは現在
俺+かなめvsジーサード+銀華
ということになってしまった。
銀華がジーサードに
銀華が盗られた。
(銀華!)
その時、俺の体の中心・中央に何か異様な血が流れているのがよくわかる。
銀華がジーサード側についたことの怒り。
その怒りは銀華ではなくジーサードに向けられている。
これはベルセにもリゾナ似ているがどちらも違う。
あらゆるものに襲いかかる
「おい銀華、お前の推理は一個だけ間違っている」
「え?」
「お前を攫った理由は3つじゃなくて4つだ。俺はこのキンジを待っていたんだぜ」
挑発するように銀華と肩を組むジーサード。
俺の血流を上げるためにわざとやってやがるな。
「こいよ、キンジ」
銀華から手を離しながらコートを翻し、海の方に歩いていくジーサード。
「いいのか、ジーサード。こうなると俺は優しくないぞ」
アリアがいる手前、詳しいことは説明できないが、今の俺はベルセやリゾナより明らかに強力な状態にある。そして敵は男だ。
「かなめ決着をつけよう」
「どっちがお兄ちゃんに相応しいかに」
「サード」
「ああ銀華をかけて勝負だ」
姐對・40巻初出
なるのにはコツがいるらしいが、銀華がいることで早めの覚醒
40巻読んだ人全員、双極兄妹あるやんと思ったはず