私の付き人はストーカー   作:眠たい兎

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忘れた頃にちょろっと投げる


十五皿目 チリコンカン

 遠月に来てから、俺は勝ち組だった。

 才能によって居場所を手に入れた俺は、常に己が才能の価値を証明し続ける必要があったのだ。才能を磨き、【神の舌】に迫る才能を手に入れた。

 

 秋の選抜も【神の舌】が不参加ならば負ける事は無いと半ば確信して参加、実際予選Aブロックを首位通過している。

 

「焦るな。俺は負けない」

 

 言い聞かせるように呟く。

 先日知り合った編入生、幸平創真は僅かな時間で俺に食らいついてみせた。遠月では常にトップ層を維持してきた俺を相手に、奴は脅威となる。

 しかし俺を焦らせるのは幸平ではなく『美作昴』とその飼い主である『犬神美咲』だ。

 

 俺の得意分野スパイスの土俵で『武器模倣』を使わず俺と並んでみせた男と、その男を歯牙にもかけず屈服させたよく知るクソ女。

 俺は()()()()()()。だから負けない。

 

「俺の居場所を奪わせはしない」

 

 鍋蓋を上げると同時に、1つの香りが会場を支配した。

 考えうる限り最高の酸味と甘味、それを香りで纏めあげるトマトスープ。食材を扱う観点から低めの室温に設定された会場内ではより映える、この日のために組み立てた最高の一皿スペシャリテである。

 

「なんだと⋯⋯!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 玉葱やピーマン、大蒜を細かく切り刻み、肉を挽き数個のトマトを蒸す。

 作るのは『チリコンカン』と言うアメリカ南部の料理だ。スペイン語で『肉入りの唐辛子』を意味するのだとか。

 

「前にもあった気がする、このよく分からないうちに食戟をさせられる展開⋯⋯」

 

 汐見教授がいるから酷いことにはならないだろうが、それでも食戟の二文字は胃に優しくない。

 熱した挽肉と蒸しトマトを中華鍋に入れて焦がさぬように火を通し、刻んだ野菜とナツメグ、オレガノ、唐辛子などを加え強火にして焼き上げる。

 

「美作よりは闘い易いが、何故私は食戟をする話になっているんだ⋯⋯? 美作の時といい理由が見つからないんだが」

 

 

 ・・・1週間前・・・

 

 

 秋の選抜本戦、最初の課題は『トマト』に決まった。

 カレーよりは遥かに勝ち筋が分かりやすく、それでも幅はかなり広い。世界各地にトマトを使った料理があり、肉は勿論魚、米や小麦と食卓の主役になれる組み合わせも多い。

 

「該当項目が多過ぎる。ある程度対戦相手である彼と協議するべきだろうか⋯⋯」

 

 そんな考えに至った私は歩いて既に馴染みの研究所である汐見ゼミへと向かう。

 汐見教授との縁は中等部二年の頃からで、遠月教授最年少の肩書きに興味を持った私が野次馬根性を発揮したのが始まりだ。散乱する瓶置きトラップや散布された香辛料催涙弾、突拍子のない行動を取る汐見潤本人による攻撃を受け止めつつも良好な関係を築けたのは奇跡では無いだろうか。

 

 それはそうと汐見教授の元に通う過程で対戦相手葉山アキラとも知り合っているが、どうも好意的には捉えられていない気がする。害意は無いのだが、非常に警戒されているのだ。

 まぁ部外者が苦手なのだろう。番犬か⋯⋯?

 

「失礼します」

 

 呼び鈴を鳴らして反応がないという事は彼は外出しているのだろう。他の教授なら引き返す所だが、汐見教授なので扉を開ける。

 汐見教授はすぐに見つかった。

 床に倒れ伏した彼女に外傷がないのを確認する限り、研究に疲れてその場で寝てしまったのだろう。病気や事件ではないと思われる。

 

「しかし、風邪を引かないとも限らない。勝手だが運ばせてもらおう」

 

「うぅ⋯⋯先輩、それは、それだけは」

 

 一体なんの夢を見ているのか、まぁこの苦悶の表情を見る限り悪夢なのだろう。

 起こすか否か迷うが、安置しておけばすやすやと深い眠りに落ちる気もする。

 

「汐見教授、失礼します」

 

 彼女の小柄な身体を抱き上げ、勝手知ったる汐見研究所ゼミにあるベッドルームへと運ぶ。何故ベッドルームがあるのに床で寝るのか⋯⋯?

 ベッドへとゆっくりと降ろすが、彼女の目が薄らと開いた。

 

「すみません。起こすつもりは無かったのですが」

 

「駄目⋯⋯お願い⋯⋯許して⋯⋯それだけは」

 

 寝ぼけ眼の彼女はまだ半ば夢の中なのか、私ではない誰かを相手に弱々しく抵抗している。

 

「安心して下さい。ここには私しかいません」

 

 そこまで言ったところで半開きの扉が勢い良く開かれた。

 

「犬神美咲ィ! 食戟だ! 負けた方が勝った方の言い分に従う、そんで今すぐ出ていけェ!」

 

 驚いているうちに私は追い出せれてしまった。

 本当に何だったんだ⋯⋯

 

 

 ・・・現在・・・

 

 

 食欲を掻き立てるスパイスの香りが漂う中、先に料理が完成したのは私の方だった。

 単純に私が焼く料理で、彼が煮る料理なのだろうが、当然ながら先手が有利だ。空腹こそが最高のスパイスであり、満腹は味覚を鈍らせる。

 

「ふむ⋯⋯そろそろ待ても限界だったぞ。それでは諸君、実食といこうか」

 

 堂島先輩を筆頭に水原先輩、乾先輩と他2名が審査員をするらしい。四宮先輩がいないのはありがたいが、それでも緊張する相手には違いない。色々とお世話にはなっているけども。

 

 先輩方は楽しげにスプーンを口に運ぶ。

 

「「「「「______!?」」」」」

 

 戦車の砲撃に吹き飛ばされる彼等を見た気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝敗は決した。

 審査員満場一致で、犬神美咲の勝利だ。

 

「彼の料理も素晴らしかった。自身の武器を活かした、彼だけの必殺料理スペシャリテだった」

「間違いなく十傑に食い込める実力はありますが、相手が悪かったですね。鷹では戦闘機には勝てません」

 

 審査員の眼には失望の色は無く、俺の料理に欠陥など無かった。

 

「ただ犬神美咲が化物変態過ぎた」

 

 複数品種のトマトにそれぞれの処置を施し、崩れかけのジェンガの如く積み上げる。味、香り、舌触り全てにおいて完璧な調理。

 瞳を濡らし嫌がる潤をベッドに連れ込もうとする外道であろうとも、負けは負けだ。だがたとえ奴隷のように扱われようと潤だけは守り抜く。そしていつの日かリベンジしてのける。

 

「葉山君、お疲れ様。いやぁ、やっぱり彼女凄いよねぇ」

「潤! なんで来たんだ!?」

「え、葉山君の試合なんだから応援に来るのは当たり前だよね!?」

 

 自分を襲おうとした相手の試合に来るとは思わなかった。

 

「すまない。負けた」

「あ、でもでも、堂島先輩もすっごい褒めてたよ」

 

 いつも通りの潤に安心しつつ犬神美咲の方を向く。

 目が合い、下される命令に身構える。

 

「お疲れ様、ゆっくり休むといい」

 

 それだけ告げると去っていく。

 

「おい」

 

 そう呼び止めようとして、その背中の遠さに伸ばした手を下ろす。

 これは⋯⋯

 

「相手にすらされていなかった、か」

 

 食戟を断らなかったのは自分が負けると微塵も考えなかったから。

 

「クソっ!」

 

 恐らく彼女は食戟をしたとすら考えていない。

 

「犬神美咲」

 

 絶対に泣かす!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宿泊研修以降もその実力を伸ばしていた。

 遠月リゾートの総料理長なんかをしているせいで出遅れているが、連中OBがせっせと課題を出しているらしい。

 

「まさに食の探求者だな。普通の人間ならばとうの昔に心が折れると思うが⋯⋯」

「いやぁ、美咲ちゃんって教えた事を残らず身に付けてくれるからついつい教えちゃうんですよね」

 

 極めて不親切でスパルタな教え方なのは間違いないが、それでも身に付けば十二分に役立つ技術だろう。何せ世界有数の達人が編み出した技術なのだから。

 スタジエールは争奪戦になりそうだな。

 

「次代の十傑、1人はもう決まったようなもの」

 

 当然だろう。

 彼女以上の実力者がそうそういたら立つ瀬がない。

 

「はっはっは、来年には今の十傑が彼女の信者で埋まってたりしてな!」

 

 案外本当になってしまうかもしれない、そんな気がした。




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