例えば、組み分け帽子が性急じゃなくて。   作:つぶあんちゃん

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横丁にて

 

夏休み中、ハリーはグリモールド・プレイスから出ることをあまり許されなかった。

近所を彷徨くにも護衛がつくという有様で、ハリーは燻った気持ちで残りの休みを過ごしていた。

 

しかし、もうすぐ夏休みも終盤というこの日、ロンとハーマイオニーが遊びに来てくれた。

 

「元気かよ、ハリー!」

 

さらに身長を伸ばしたロンは、ハリーに会うなり全力で背中を小突いた。

ハーマイオニーもニコニコしながら、クルックシャンクスを抱えている。

 

予言のことを聞いたあとも態度を全く変えなかった2人は、久しぶりに会ってもやはりそのままでそれにハリーは救われた。

 

「O.W.L どうだった? 僕は占い学と魔法史落としたよ」

 

ロンはニヤッと笑った。

 

「全く同じさ。 おい、ハーマイオニー君の結果を言ってやれよ」

 

「『優』よ。ただひとつ、『闇の魔術に対する防衛術』だけ除いてね」

 

ハーマイオニーが心底がっかりそうに言うので、唯一その教科が『優』だったハリーは話を変えた。

 

「ビックニュース! なんと僕、クィディッチのキャプテンになりました!」

 

これ見よがしに届いたキャプテンバッジを掲げた。

 

「予想してたわよ。貴方以外にいないじゃない!」

 

ハーマイオニーはクルックシャンクスの喉をかいてやりながら笑った。

 

「これで俺たちと待遇は同じだな。 同じ特別なバスルームも使える」

 

ロンは茶目っ気たっぷりに言うと、少し羨ましそうにハリーのピカピカのキャプテンバッジを眺め回した。

 

その時、暖炉に炎が燃え上がった。中からシャルロットが現れた。

髪が伸びたようで、ポニーテールにした見事な金髪が豊かに揺れている。

 

「お、揃ったな」

 

「シリウスおじ様!? 何よ、その服は!」

 

音を聞きつけて、シリウスがリビングへと入ってくると、皆への挨拶も漫ろにシャルロットは驚いて声を上げた。

 

今日のシリウスはラフなTシャツにダメージジーンズという、マグルスタイルだ。

 

先程ロンも継ぎ接ぎされたパンツスタイルのシリウスを見てギョッとし、「アメリカで流行ってるんだよ」と笑いながら返され、さらに仰天していた。

 

シリウスは全く同じやり取りを彼女と繰り返す。

 

今日はシリウスが引率の元、4人をダイアゴン横丁へ連れていくことになっていた。

学用品の準備⋯という体ではあるが、メインイベントはフレッドとジョージが開店した『W.B.W』という悪戯専門店へ行くことだ。

 

先日、卒業した彼らはシリウスの出資を受け、満を持してダイアゴン横丁にお店をオープンさせたのだ。

 

モリーは治安悪化の今、子どもたちをダイアゴン横丁へ行かせるのをかなり躊躇った。しかしシリウスが連れ添うならと許可したのであった。

あまり気は合わないが、モリーは闇祓いの元局長としても、騎士団のメンバーとしても、彼の実力に一目を置いていたからだ。

フレッドとジョージに出資をしたこともかなり激烈な口論になったが、彼らの店が開店早々に軌道に乗ったことで今は認めているらしい。

 

「よっしゃ、行くか。 レイにも来て欲しかったんだけどなー。 あいつも女のくせにクソ爆弾を好んでよく使うやつだった。 レイの調子はどうだ?」

 

シリウスが問いかけると、シャルロットは彼女らしくない緩慢な仕草で視線を逸らした。

天井のシャンデリアの瀟洒な光を浴びながら、曖昧に頷く。

 

「⋯えぇ。 後遺症は残ってるみたいだけど、元気にしてるわよ」

 

そんなシャルロットの不自然な様子にシリウスは虚をつかれたようだ。整った形の目をぱちぱちとさせている。

しかし、シリウスが何か言う前にハリーは猫足の肘掛け椅子から思い切りよく立ち上がった。

 

「さあ、みんな揃ったんだから行こうよ。 僕、待ちくたびれちゃった!」

 

「ああ、そうだな!」

 

 

 

 

 

ダイアゴン横丁は様変わりしていた。

 

色鮮やかに飾り付けられたショーウィンドウは消え失せて、代わりに魔法省の大きなポスターに覆われている。

見たことがある死喰い人がモノクロ写真の中でこちらにニヤッと笑いかけたので、ハリーは目を逸らした。

 

歩を進めると、空き家が多くなったのが一目瞭然だった。

窓に板を打ち付けた店もあり、フローリアン・フォーテスキューのアイスクリームパーラーが閉まっているのを見た一行の心は痛んだ。ダイアゴン横丁に来てここのアイスクリームを食べたことがない者はいないだろう。

オリバンダーの店が襲撃を受けて、店主が行方不明になっている事件も記憶に新しい。

 

マダム・マルキンの店のある通りに差し掛かったとき、ハリーは息をのみ思わず立ち止まってしまった。

 

ドラコ・マルフォイが母親と共に出てきたからだ。

ドラコもナルシッサもこちらに気付き、酷く驚いているようだった。

 

ハリーはもうナルシッサと同じくらいの背丈になっていた。少し前までは見上げていたはずの友人の母親は、こうして見ると華奢で小柄な女性だったんだと気づいた。

そして何よりも、久しぶりに見たナルシッサの顔は姉のベラトリックスに酷く似ていた。しかし、それが憎しみに繋がることはなかった。ナルシッサがひどく憔悴しているのは誰の目から見ても明らかだった。

 

「母上、行きましょう」

 

ドラコはすぐに表情を打ち消すと、足元すら覚束ないナルシッサを支えながら通り過ぎた。

 

ハリーたちも何も言えず、それをただ見ていた。

いつの間にか拳を強く握りしめていた事に、痛みを感じてから気づいた。

 

一行は暫く無言になった。

今まで皆を陽気にさせようとジョークを飛ばしてばかりいたシリウスさえ、口を真一文字に結んでいた。

 

「ねえ、シャル」

 

空気を変えようとしたのかハーマイオニーがロンに何か話を振ったので、そのタイミングでハリーは小さく口を開いた。

 

「なによ」

 

ハリーは訊くか迷って、結局訊くことにした。

 

「お母さんと上手くいってないの?」

 

シャルロットは一瞬だけ目を固く瞑ると、ため息をついた。

 

「⋯ええ」

 

「そうなんだ」

 

ハリーは軽めに返事をした。

 

「ママは⋯闇の時代が一番大変だったときに眠りについたでしょ。だからその⋯あの時の価値観のままで」

 

「うん」

 

「私がドラコと付き合っていると知って、酷く狼狽えたの。 正直、猛反対されたわ」

 

ハリーは苦笑した。

 

「そりゃタイミング最悪だったな。 数年前に⋯奴が復活するより前に、レイチェルおばさん目を覚ましてくれたら良かったのにね」

 

目を覚ましたタイミングで死喰い人の筆頭であるマルフォイの一人息子と、娘が付き合っていたら驚くのも無理ない。それも改心したわけでなく、こないだルシウスはセブルスによって捕縛されたのだ。

 

「ママが目を覚まして嬉しいの。 それは本当よ。 でも今までずっとパパとひいおばあさまと2人で暮らしていたから、その、違和感があって」

 

「距離感とか接し方がわからない?」

 

「そう。 ⋯ハリー、あなたって聞き上手よね。 シリウスおじ様に育てられた唯一のメリットね」

 

思わず2人は笑った。

ダイアゴン横丁は静かで、会話をしてる人も少ない。

ハリーは小声のまま会話を続けた。

 

「でも、僕は羨ましいよ。 僕のママはもう死んじゃって目を覚ますことはないからね」

 

「わかってるわ。 自分が恵まれてるってことくらい。 ⋯バチが当たるわよね」

 

シャルロットは物憂げにそう呟いた。

 

「まあ、時間が解決するよ。 僕たちはただでさえ、思春期という難しいお年頃だ」

 

ハリーは悪戯っぽく笑って、話を締めた。

 

シャルロットは話して少しスッキリしたようだ。

このご時世、ハリーもシャルロットも悩みは尽きない。

 

しかし『ウィーズリー・ブラック・ウィーズ』に着くとその気持ちはやや吹っ飛んだ。

 

「ウワー!!!」

 

ロンは道の真ん中で立ち止まり、大声を上げた。

 

フレッドとジョージの悪戯専門店は、花火大会のように目を奪う有様だった。

ウインドウは目の眩むような商品がカラフルに光り、回って、跳ねて、大声を上げている。

大きな巨大ポスターは派手な紫色の地の上に、黄色の文字が鮮やかに点滅していた。

 

『「例のあの人」なんか気にしてる場合か? うーんと気になる新商品 「ウンのない人」』

 

おそらく便秘薬の宣伝であろうその売り文句に、ハリーは大爆笑した。

声を上げて笑ったのは久しぶりのことだった。

 

「うーむ、やっぱあいつらのセンスは俺と似てやがるな」

 

シリウスは顎に手を置いて、真面目くさった顔で呟いた。

 

お店はお客で満員だった。

たまたま通りががった人もこの店の異常な風体に愕然として、引き寄せられるように入店している。

 

「ずる休みスナックボックス」、「鼻血ヌルヌルヌガー」、「だまし杖」、多くの製品が天井にまで山積みされていた。そしてそれはあっという間に人々の手に渡り床が見えてくると、魔法でまた瞬時に天井まで積み上げられている。

 

 

「これはこれは、我がスポンサーのお出ましだ」「ブラック財務大臣閣下。ご機嫌麗しゅう。息子君もよくぞ参られた」

 

 

フレッドとジョージはニヤリと笑うと、人混みをかき分けてこちらへ歩いてきた。

赤紫色のローブが燃えるような赤毛と見事に反発している。

 

「上手くやってるみたいじゃないか。 さすが俺の見込んだ2人だ」

 

双子はシリウスと握手をする。

そして、こちらを見てニッコリ笑った。

 

「ハリー、ハーマイオニー、元気か?」

「シャルは会うの久しぶりだな」

 

双子の1人--恐らくジョージがロンの赤毛をこねくり回した。

 

「せっかく来てくれたんだ。 案内するぜ」

 

双子は、悪戯グッズ一覧から変わったマグル用品、それにレディース向けの惚れ薬の売り棚を見せて回った。

 

「ふーん。 これって効くの?」

 

『意中の人を釘付け!最高級惚れ薬!』と書かれた商品を大真面目な顔で手に取ったハーマイオニーに、赤毛の3人は奇妙なものを見た顔をする。ハーマイオニーは頬を赤らめると、慌てて咳払いをして商品を戻した。

 

次の棚にはキーキー甲高い声を出しながら籠の底を転がっている、ふわふわしたピンクや紫の毛玉の群れがいた。

 

「これは人気商品のひとつ、ピグミーパフだ! こないだジニーがお袋や親父と来た時に買っていった」

 

「ミニチュアのパフスケインね! 可愛い!」

 

シャルロットは目を細めて、そのふわふわに触れた。

 

「さて、ハリー。君はスポンサーの息子だ。 特別割引で提供してやろう。 ゆっくり見て行ってくれ」

 

「その割引、みんなにもしてくれる?」

 

ハリーがちゃっかり言うと、双子は仕方ないと苦笑いした。

 

「恋に目覚めたハーマイオニー嬢には惚れ薬をさらに割り引いてやる」

 

フレッドがウインクすると、ハーマイオニーは「失礼ね!」と憤慨した。

 

4人はショッピングを楽しんだ。

ロンは「僕、弟なのにお金払うなんておかしい」とブツブツ呟きながら長蛇のレジへ並んでいた。赤紫色のユニフォームを身にまとった従業員が3名ほどいるようだが、それでも人手は足りてないようだ。

 

「例の新しい商品の方はどうなんだ?」

 

「闇の魔術への防衛商品だろ? 『インスタント煙幕』、『おとり爆弾』は結構売れてる」

 

シリウスは双子と仕事の話をしている。

 

「驚いたのがさ、魔法省が『盾の帽子』を五百個も注文したんだぜ」

 

「あー、それは君たちの周りの大人が優秀すぎるんだ。 騎士団員ばかりだからな。 嘆かわしいことに、世の中には『盾の呪文』ひとつできないやつが多くいる」

 

「『闇の魔術に対する防衛術』全般は金の成る木だな。 この真面目路線の開発を早急に進めよう」

 

双子は熱心に話を続けている。

ついこないだまで同じ学生だった彼らが急に大人びて見えた。誰よりも子供っぽい悪戯をしてたくせに、だ。

 

先に支払いを済ませ、他の皆のレジを待ちながらそんな考え事をしていたハリーは、窓の外で急いで歩くドラコの姿を見つけた。

 

 

双子とシリウスはまだ商談を続けている。

 

事情をすぐさま伝えたロン、ハーマイオニー、シャルロットはハリーの透明マントに入り込んだ。

⋯しかし、成長した4人はマントに入りきれなかった。

 

「4人は無理ね。 私は後からついて行くわ。 3人で入って」

 

シャルロットは諦めてマントから出る。

1年生の頃、4人でマントにすっぽり隠れて『賢者の石』を守りに行った頃が懐かしくて⋯少し寂しい気持ちにもなった。

 

透明マントは3人でもたまに足首が見えそうになっていた。

あと少し皆が成長したら、透明マントの定員は1人になってしまうだろう。

 

彼はダイアゴン横丁を通り抜けて、ノクターン横丁へと進んだ。

 

ドラコに気取られないように後をつける。

やがて彼は足を止めた。ドラコの目的地は『ボージンアンドバークス店』であった。

 

「ドラコ、こんな店に何の用事があるんだろう」

 

ハリーは呆然と言った。

 

魔法省からも目をつけられている限りなく黒に近いグレーの店だ。

 

「あーあ、『伸び耳』を買っておくんだった」

 

ロンが心底悔しそうに言う。

 

ハリーも『伸び耳』は買わなかった。

騎士団の情報は自分に必要なことは最低限聞いていたので、盗み聞きをしようと考えたことはなかった。それに組織の中では情報の共有は慎重になるべきなのだと、シリウスやセブルスが口を酸っぱくして言っていたから、それに納得していた。

 

残念なことに外から店内の様子は全く窺えなかった。

 

「⋯こうなったら正攻法しかないわね」

 

シャルロットがそう呟いた。

そして、立て付けの悪そうな扉を開く。ドアの鈴が錆び付いた空虚な音を立てたので、店内で話し込んだ店主とドラコが振り返った。

 

「ちょっと!? シャル!?」

 

ハーマイオニーが声を上げたが遅かった。

彼女は入ってしまった。

 

ドアが閉まる直前、ドラコの呆気にとられた顔が見えた。

 

ハリーは慌てて透明マントを脱ぎ捨てて、彼女の後を追おうとした。しかし、ハーマイオニーに手を掴まれて止められてしまった。

 

「シャルに任すべきだと思うの。 貴方が入ってもマルフォイは口を閉ざすと思うけど、シャルなら何か話すかもしれないわ」

 

3人は透明マントに隠れたまま、そこに留まることになった。

やがてそんな長い時間もかからず、シャルロットは出てきた。ドラコは一緒ではない。彼はまだ店内に残っているらしかった。

 

シャルロットは険しい顔のまま、目に見えない3人の前を通り過ぎたので慌ててハリーたちは追いかけた。

 

「おい! ドラコは何を買おうとしてたんだ? 何か聞けたのか?」

 

ハリーは急いだ口調で訊いた。

 

暗く湿っぽいノクターン横丁を通り抜けて、ようやくダイアゴン横丁に差し掛かるとシャルロットは立ち止まった。

 

「シャル?」

 

ハリーが不安そうな声をあげる。

すると幼なじみは覚悟の決まった顔で向き直った。

 

「ハリー、ごめんなさい。 私から言えることは何もないわ。⋯貴方のことは大切よ。でも彼を放っておけないの」

 

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