Fate/Grand Order【Epic of Lancelot】   作:カチカチチーズ

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 なかなか進まない筆の中、唐突に湧いてきたのでこれだけ投下していきます。




IF/序章『見送る者』『見送られる者』

 

 思考が回る、廻る、凍り付いていた思考が一呼吸、一動作を経る度に元へと戻っていくのを感じる。

 

 

「そこをどけぇっ!」

 

 

 床を蹴り、本来の直剣サイズに戻した愛剣を振るい、侵入者の胴体を文字通り叩き切って、視界の端に映った侵入者の振るう手斧を一瞬剣より手を放したことで空いた片手、振り下ろされた腕を折り砕き、手斧を奪い数メートル離れた先からボウガンで狙いをつけてきた侵入者へと投擲し、その頭蓋を砕く。

 既にここに至るまでに十三、手斧かボウガンか、その二択以外に一切違いの無い黒ずくめの侵入者たちを殺してきた。

 奴らがいったい、何者なのかは知らない。分からない。分かるのはその目的だけ。

 

 

「カルデアの敵、か……!!」

 

 

 相手が並みの人間でないことは既に最初の会合の時点で分かっている。不意打ちで、掠めた頬の傷がそれを証明している。例え、受肉していようがこの身は英霊に他ならない。

 ムジークが連れてきた傭兵程度では傷をつける事すら不可能であるが、不意打ちとはいえ、負傷とは言えない負傷だが、それでもあれらは人間でないことは理解できた。

 故に今やるべきことは一つ。

 

 

「職員の避難が先だ」

 

 

 立香やマシュも心配であるが、あちらにはレオナルドがいる。最悪、何とかなる、と信じている。確かにアレは戦闘向きのサーヴァントではない、それでも一度に二、三体は相手に出来るはずだ……。

 

 

「ああ、クソったれ、どうしてこうなった」

 

 

 誰に文句を言ったか、言ったとすれば間違いなく、抑止に対してだが……俺はそんな文句を口にしながら、この事態が起きた原因へと思考を巡らせながら、このカルデアの廊下を駆け抜けていく。

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

 2017年 12月 26日

 マスター・藤丸立香の職務は終了した。

 魔術王に巣くっていた人類悪(ビースト)、『憐憫』の獣ゲーティアによる人理焼却によって生じた特異点は全て消滅し、人類の危機はここに去った。同時に過去改竄という汎人類史を崩壊させかねないレイシフトは現時刻を以て凍結した。

 また、カルデアによって召喚されたサーヴァントはその役目を終えたことにより、契約を解除、退去した。これによりカルデア所長代行であるレオナルド・ダ・ヴィンチを除くサーヴァントはすべて、地上から消え去った。

 

 

 無論、例外は存在する。

 そもそも、カルデアによって呼ばれたサーヴァントではなく、先の聖杯戦争のおりに受肉を果たし、カルデア前所長であるマリスビリー・アニムスフィアの部下の魔術師として十年近く生きていた英霊ランスロットもといランシア・ニヴィアンは当然、カルデアが時計塔等に提出した書類においてはカルデア入りしたとき同様、魔術師兼技術者という肩書であった為、そのままカルデアに滞在していた。

 

 

「ミスタ、聞きましたか?例の査問団、もう麓まで来てるそうです」

 

「ああ、聞いた。魔術協会が選んだ新所長とその取り巻き、そして聖堂教会……難儀なモノだ」

 

 

 人理焼却が起きてからは生前の同僚らとマイルームで過ごすことが多く、滞在する時間が減っていた技術室にある自分のデスクでランシアは部下と共に珈琲を片手にこれから来るという査問団について話をしていた。

 物語というモノは得てしてこういうモノであるのをランシアは知っていた。彼は転生者でこの世界について、朧気ながらも覚えていた。もちろん、その記憶も死んだ時期の問題で途中までだった。

 下総しかり、セイレムしかり、分からず知らずであっても立香たちと共に乗り越えてきた。だが、そんな主人公たちの活躍もここで終わり、物語で語られる栄光も、語られない部分になればこうして組織によって貪られていくだけだ。

 例え、乗っ取られるとしても。

 

 

「カルデアが閉館するよりはマシさ。マリーも納得するだろう」

 

 

 そう目を閉じながら呟けばランシアと話していた部下は「そうですね」と一言呟いてしばし、部屋に換気扇の音と珈琲を啜る音、そして電子音ばかりが木霊していたが、そんな静寂を誤魔化す様に部下が口を開いた。

 

 

「ミスタは、どうなされるんですか?」

 

「……ああ、そうだな。元々魔術師としての俺はマリスビリーの子飼いだったからな、一応時計塔に声をかけられていてな、一先ずは時計塔にいってから適当な派閥に紛れるか……ああ、一つ行きたい場所がある。ブリテン、イギリスにある霊園なんだが、まあそれは行けたらでいいか……お前は確か」

 

「ええ、私も時計塔に。実家に戻って来い、と言われまして」

 

 

 お互い大変だな、そう二人して笑いながら二人はお茶菓子を口にしていく。

 そうして、思い出作りと称し部下が出ていったのを見届け、ランシア一人となった技術室でランシアは椅子の背もたれを倒し、足をだらけさせていく。

 およそ、生前も今も部下にも上司にも同僚にも、どこぞの花の魔術師や同じ苦労屋である二人の友人を除いて誰にも見せられないような格好でランシアは自分の前髪をかき乱して天井を見上げた。

 

 

「終わる、か」

 

 

 ランスロットとして転生したのか、憑依したのかは結局分からなかったが、ランスロットとして人生を走り抜けていき、サーヴァントとして聖杯戦争に参加、受肉を果たしカルデアのメンバーとしてここまで生きてきた。

 ランシアとしての人生は生前に比べても遜色ない濃さであった。これからの生き方、そんなモノはランシアにはどこにもなかった。

 だから、これからどうするか。

 ランシアは悩む、一応は記憶に薄らとある、イギリスの霊園のある村にいる少女に会う事がしばしの目標と言えるだろうか。では、その後は?

 そんな誰にする事も出来ぬ悩みを抱きながら、ランシアはしばし一人でこの技術室で過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

 12月 27日

 

 その日、昨夜まで続いていた吹雪も落ち着き、夜明けとともに雲一つない晴天が広がっていた。そんな晴天を横切る黒いヘリコプターがこのカルデアの今までに幕を引く来訪者たちを乗せてやってきた。

 

 査問団。彼らを迎えるために現在カルデアにいるスタッフ全員が管制室に集合して、彼らを待っていた。その中には当然、ランシアの姿もある。

 そうして、入館を認めるカルデアの館内アナウンスを聞きながら待っていれば、立香たちの小声での会話がランシアの耳に入るが、ランシアがいるのは部下の技術者たちが固まっている場所で会話するほどの場所にいない為、ランシアは沈黙を保っていたが、管制室へ入るなり早々に大きな声をあげた来訪者に思わず眉を動かした。

 

 

「ほーう!ほほーう!いい!いいではないか!!」

 

 

 現れたのは正しく貴族といった風貌の男だ。

 ダ・ヴィンチと話している内容からして、ランシアにはこの新所長であるという魔術師の男、ゴルドルフ・ムジークはいささか尊大でどこか小心者であるというのが窺えたが、ランシアの興味は既に新所長から外れていた。

 移動した視線の先、新所長の斜め後ろに佇む女。言っては悪いが、カルデアのある南極に来るには薄着であるピンク色の髪の女で、話を拾うにどう考えてもこのピンクの女の方が問題であるように思え、だからこそ

 

 

「早速だが、キミたちを拘束させてもらおうか。私としても、まことに遺憾なのだがね」

 

 

 新所長の言葉で前に出てきた武装集団にも眉一つ動かすことはなかった。

 仮に強硬手段にあちらが出たとしても最低限に抑えると理解していた。何やら、ダ・ヴィンチの発言で予想外の反応だったのか焦りを見せる新所長にランシアはため息の一つも出そうであったが、すぐに新所長にアドバイスと言えば良いのか、何やら助言をしていく女に目を細める。新所長は十二分に付け入る隙の多い男であると、理解しその上で警戒するべきは秘書であろう女一人。

 そう、ランシアは確信して、同時に管制室に響いた男の声で、その確信が間違いである事を理解した。

 

 

「貴方と彼らは『進む者』と『去る者』相互理解は不要だ。懐かれては困るというもの」

 

「おお、そうですな。()()()()

 

 

 声を聴いた瞬間、ランシアは否定しようとした。しかし、その否定も新所長の言葉で容易くかき消されてしまった。

 新所長の連れてきた武装者たちの奥より、姿を現した男にランシアは目を見開いた。

 

 

「お初にお目にかかる。私は言峰綺礼」

 

 

 黒いカソックに蒼い布を羽織った神父に、ランシアはまだ終わりではないことを悟ってしまった。

 

 

 

 

 

 新所長が言った通りに、ランシアたちカルデアスタッフは四人一組で独房じみた部屋に割り振られた。完全退去までの間、ここで過ごして尋問の際にのみ、部屋の外。

 その尋問もおよそ6時間近く質問責め。特に滞らずに質問に答えていけばもう少し尋問も短縮されるが、概ね尋問というモノは効く側の都合によっていくらでも変わる事。ランシアのようにそういう事にも慣れているならともかく、ただの技術者やそこまで慣れていない魔術師では部屋に帰ってきても疲労ですぐに固いベッドに沈んでしまう。

 そうして、ランシアは一人ベッドで寝ずに壁に寄りかかりながら、解凍される予定の知己。カルデア当初の予定ではメインで特異点を攻略していくはずだったマスター達、所謂Aチームの彼らについて想起する。

 真っ先に思い返したのは、Aチームの中では一番の付き合いである男。キリシュタリア・ヴォーダイム、Aチームのリーダーであり、マリスビリーの一番弟子であった彼とは、すぐにマリスビリーによって顔を合わせた。 

 

 

「……身なり、立ち振る舞い、雰囲気、どれをとっても貴族然とした魔術師だったが、存外気安い男だった」

 

 

 言ってしまえば、プライド高い名家出身の魔術師という印象しかなかったが、実際に話して見れば気安く、友人として言葉を交わせる男であった、とランシアは思い返し何よりも、ロマニ、マリスビリーの二人を除いて唯一自分の正体を知っている男であった。

 次に思い返すのはペペロンチーノ・スカンジナビアという男。明らかに偽名とわかる名前で距離を掴み難い男であったが、実際に話せばランシアとしても話しやすく、実に気が利くような男であったのを覚えていた。

 そして、オフェリア・ファムルソローネ。降霊科出身という事でランシア自身、システム・フェイトに関する知見を聞くために何度か話をした記憶があった。何か、しこりの様なモノを感じつつもマシュと友好関係を結ぼうと努力していた少女、そんな印象がランシアにはあった。他に四人、その中で特筆するべきと言えば、ベリル・ガットだろう。

 と言っても、ランシアがどうこうというわけではない。どういう理由かは今となっては分からないが、ロマニによってランシアは知らぬ間にベリル・ガットに接触及び情報の閲覧を禁じられていた。

 そして、デイビット・ゼム・ヴォイド。彼に関してはキリシュタリアを介して関わる事が多く、二人だけで話すことはあまりなかった。

 そんな彼らを思い返して、ランシアは自分がこのカルデアにいる内に再開できる事を祈りつつ、脳裏に居座っては消える事の無い、言峰綺礼に思考を回して、眠ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 2017年 12月 31日

 

 2017年最後のこの日、数日晴れていた空は、再び重い雲に覆われていた。

 そして、外も見れぬランシアは突如として館内に響いたアナウンスに、室内の誰よりも早く反応した。

 

 

《警告 警告》

《現時刻での観測結果に ■■ 発生》

《観測結果 過去に該当なし》

《統計による 対応、予報、予測が 困難です》

《観測値に 異常が検知されません》

《電磁波が 一切 検知 されません》

《地球に飛来する 宇宙線が 検知されません》

《人工衛星からの映像 途絶 しました》

《マウナケア天文台からの通信 ロスト》

《現在───地球上において

 観測できる他天体は ありません》

《疑似天球カルデアスに負荷がかかっています》

《観測レンズ シバ を停止 します》

 

《正門ゲート他、館内すべての

 ゲート機能が停止しました》

《館内から外部への移動は できません

 機能回復まで しばらくお待ちください》

 

 突如として響いた緊急事態を知らせる警告と、一体どういうわけかゲートが機能しない旨のアナウンスにランシアと同室の部下たちが互いに顔を見合わせ、最後にはランシアを見た。彼らの視線を受けながら、ランシアは極めて冷静に思考を回していく。

 

 

「(新所長、ではない。恐らく、あのコヤンスカヤという女か、もしくは言峰綺礼が何かしたのか……いや、それよりもまず何が起きたのかが重要だ。外部襲撃か?それとも内部?どちらだ、いやどちらにせよ……)」

 

 

 ランシアは一度部下たちを一瞥し、部屋の扉へ視線を向ける。

 耳を澄ませば戦闘音らしき音が聴こえてくる。片方は銃撃音、恐らくは新所長の私兵だろう。もう片方が襲撃者であるとランシアは思考を回して────

 

 

「ひっ!?」

 

 

 勢いよく扉が殴りつけられた。部下の一人が思わず悲鳴を上げ、それが聴こえたのかどうかは分からないが、更に何度も扉は叩きつけられて、

 

 

「しぃッ!!」

 

 

 扉が吹き飛ぶよりも先にランシアが一閃した。それにより何かが確実に切れた感覚がした後、扉が両断され向こう側の何かを巻き添えに崩れ落ちたのを確認して、ランシアはこの状況における最善手を選択した。

 

 

「ゲートは無理だ。地下格納庫へ向かう、そこにシェルター代わりに使えるコンテナがある。ここにいれば、死ぬ。分かったな」

 

 

 ランシアの指示に部下三人は無言で頷き返して、ランシアを先頭に四人は廊下へと出た。

 

 

「なに、これ……」

 

「カルデアが……」

 

 

 目の前に広がるのは新所長の私兵と侵入者の戦闘によって血や傷まみれのカルデアの廊下。見知っていたモノがまったく別の場所であるかのように彼らの視界を襲っていた。ランシアはそれに舌打ちつつ、固まった彼らに声をかけて思考をこちら側へと戻し、目的地である地下へ向けて先導していく。

 そうして、四人は西館へと向かって走っていれば、ランシアは視界の先に動く人影を視認した。

 

 

「(スタッフ?私兵?違うなッ!)敵か!」

 

 

 あちら側がランシアを視認したのと同タイミングで既にランシアは足元に転がっていた死体から即座に拾い上げたハンドガンで侵入者の顔面を撃ち抜いた。

 普通のモノならいざ知らず、剣を抜いていない今のランシアが持つ武器は宝具のソレだ。容易く敵を仕留め、崩れていく敵をランシアは見た。

 

 

「(黒づくめ、鳥の面か?身なりからして恐らく、雪国から来た?いや、ここは南極だ。それだけでは断定できない。いったい、どこの連中だ)」

 

 

 即座にそこまで思考を回したが、すぐに現時点の情報ではどうしようもないと判断したランシアは相手についての思考を破棄して、走り廊下の角へと至ろうとした瞬間、角の先から来る足音に反応した。

 崩れ落ちた敵からすれ違いざまに奪っていった手斧を宝具化しつつ、ランシアは万が一の為に何時でもすぐに止められるように意識しながら、互いに姿が見える合流ポイントへ踏み込むと共に手斧を振るい────

 

 

「「ッッ!!」」

 

 

 互いの得物が寸前で止まった。

 

 

「そちらは無事でしたか」

 

「ホームズ……」

 

 

 相手はこのカルデアが隠していたもう一人の戦力、ルーラーのシャーロック・ホームズであった。すぐに手斧を下げたランシアはホームズに部下たちを任せた。

 

 

「貴方は」

 

「他のスタッフを探す」

 

 

 互いに口数は少ない。やることを互いに理解しているからこそ、たったそれだけで意思疎通を行い、二人はつい先ほどまで向かっていた場所より反転した。

 

 

 

 

 

 

 そうして、ランシアは今に至った。

 見知ったカルデアの廊下を駆ける。

 道中に見つけたスタッフに指示を出し、道中に接敵した侵入者へと抜刀した剣を振るっていく。

 そうして廊下を進めば、当然見てしまうものだってある。

 

 

『実家に帰るんですよ』

「死ね」

 

『ミスタ!食堂からサンドイッチ、持ってきました!』

「死ね」

 

『いや、寝てください!本当に!』

「死ね」

 

 

 もはや取り戻せない日常を踏みにじる彼らを前にランシアはカルデアの制服を脱いだ。

 

 

「生かしては帰さん」

 

 

 脱ぎ捨てられた制服を余所に衣服は金属製のモノへと変化していき、蒼の布を巻いた騎士がそこに姿を現した。

 カルデアのセイバー

 ランスロット・デュ・ラックが床を踏み砕きながら目の前の敵へと駆けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 場所を移り変わり、館内放送で助けを求めていた新所長ゴルドルフ・ムジークを助けに来た立香、マシュ、そしてダ・ヴィンチはゴルドルフを回収して後はシェルターへと戻るだけというタイミングで足止めを食らっていた。

 彼女らにとっても見知っていたカルデアの廊下はどういうわけか、凍りついていた。そんな廊下の真ん中でこの襲撃の主犯であろう者らと彼女らは対面している。

 侵入者である黒づくめを大量に付き従えているのはゴルドルフの秘書として入館していたピンクの髪の女、コヤンスカヤ。そして、その女と共にいる美しい銀髪の少女。その出で立ちは彼女が貴族ないし王族、そういった家系である事が窺えるが、しかし纏っている雰囲気はあまりに危険だ。

 

 

「無駄よ。汎人類史のサーヴァントが異聞帯(ロストベルト)のサーヴァントに敵うものですか。生き延びた年月も、生存してきた環境も違うのよ。人生ハードモードを舐めないで」

 

 

 既にデミ・サーヴァントの力を振るうマシュとダ・ヴィンチとの戦闘は終わっているのか、サーヴァントであるらしい銀髪の少女との差を嘲笑うコヤンスカヤ。

 彼女の言葉にダ・ヴィンチは即座にその慢心を指摘し、瞬間何かをコヤンスカヤへ目掛けて投擲する。しかし、コヤンスカヤよりも先に近くにいた黒衣の侵入者がそれを弾き落とし、他の黒衣の侵入者がボウガンでそれを撃ち落として見せた。

 その反応にダ・ヴィンチは舌打ち、何とかして立香たちを逃がそうと自分を犠牲にする事を考えて────瞬間、不敵な笑みを浮かべた。

 目敏く反応したコヤンスカヤがまだ何か手があるのか?と思考し、しかしてやはり慢心ゆえかやってみせろと言いたげな表情を浮かべて、虚空に生じた歪みに目を見張った。

 小さな歪みはすぐに人一人通れるようなモノへと置換されていき、その内より一人の騎士が姿を現した。無論、カルデアを護る騎士だ。

 現れるとは思ってもいなかった、立香たちもまた目を見開く中、廊下に着地したランスロットは即座に床を踏み砕きながら、まるで狼のように俊敏な動きでコヤンスカヤではなく、未知のサーヴァントである銀髪の少女へと迫る。

 

 

「ヴィイ!」

 

 

 少女が叫び、ランスロットの刃が彼女の首目掛けて放たれたのと彼女を護るようにして床より氷の壁が突き出したのはほぼ同時であった。刃が氷を突き砕きはしたが、少女の首を捉えるにはならず、僅かな隙に少女は数歩下がって距離をとっていた。

 それにランスロットは兜の中で軽く舌打ちながら、声を荒らげる。

 

 

「行け!」

 

「ああ!ランシア!頼む!」

 

 

 ランスロットの言葉に即座に首肯したダ・ヴィンチは茫然としていた三人を無理矢理引き連れてこの場から離れていく。

 そうして後に残ったのは、ランスロットと襲撃者たちだけ。

 既に冷静さを取り戻したコヤンスカヤはランスロットを睥睨し、ランスロットもコヤンスカヤを睨みつける。

 

 

「まさか、カルデアにまだサーヴァントがいたなんて。それも受肉したサーヴァントなんて気づきませんでしたわ」

 

「ほざけ。貴様こそなんだ、サーヴァント?違うな、この感覚…………」

 

 

 互いに互いを暴き立てるように口を開くが、それも一度きり。

 ランスロットはコヤンスカヤから銀髪の少女へと視線を移す。既に先程の一当てでおおよそではあるが、ランスロットは彼女のクラスを理解していた。まず間違いなく三騎士ではない、無論氷を飛ばすからアーチャーなどと言われればお終いだが、だとしてもある程度のステータスはある。

 その上で考えれば、バーサーカー以外だろうと当たりを付けながら、アサシンないしキャスターと仮定していく。

 あの周囲の黒いのがもしも彼女の召喚系宝具由来ならばアサシン、実は関係無くて氷の魔術を使うキャスター。そういささか穴の空いた考えながらも、そう思考するランスロットは彼女を仕留める為に駆ける。

 

 

「悪いがここで仕留める」

 

「いいえ、それは無理な相談よ」

 

 

 少女の言葉に反応して黒衣の侵入者たち、殺戮猟兵(オプリチニキ)がランスロットへと殺到する。それだけならば、ランスロットからすれば即座に対応出来るが、それだけでは終わらない。殺戮猟兵たちの背後から、彼ら諸共殺すという殺意が剥き出しの超重量の氷がなだれ込んでいく。

 大盾を出して凌ごうにも今度は殺戮猟兵たちが邪魔であると判断したランスロットは即座に身体を捻り、向かってくる殺戮猟兵の内一体を踏みつけ、その勢いを利用し後方へと一度飛び退き、聖剣に魔力を灯して雪崩込む氷を縦一文字に切り開く。横側は殺戮猟兵たちを氷が押し潰した事で対処するべきは正面のみ、向かってくる殺戮猟兵を斬り、時には壁にし、時には剣に突き刺した状態で鈍器代わりにしながらその場を切り抜けていく。

 そうして、十四か五は斬り殺しただろうところで漸く殺戮猟兵たちの流入は止まり、鎧を血で濡らしながらランスロットはコヤンスカヤと少女を睨めつける。見れば、背後にはまだまだ大量の殺戮猟兵たちが待機している。

 

 

「……確か、人生ハードモードだか、イージーモードだとか言っていたな」

 

「ええ、言いましたとも。世界から要らないと切り捨てられず、しっかりと人類史を築いてきた貴方方にはお似合いでは?」

 

「……知るか。大概ブリテンもハードモードだと思うが、な」

 

 

 そんな軽口を叩きながら、ランスロットは思考を回す。

 時間稼ぎの役目としてはそろそろ充分だ。しかし、ここでせめて片方は落としたい、そう考えていた。この後の為にも、まだ足掻かねばならない彼女らの為にもせめて、少しでも旅路を楽にする為にも、そう考えてランスロットはここで一人は仕留めると決めた。

 聖剣に魔力が収束していく。

 

 

「(宝具を切る、だが使うのは近接。解放では、カルデアを破壊しかねん)」

 

 

 宝具を使い、確実に仕留める。

 そう判断したランスロットはその為にも斬らねば話にならない。だが、相手は肉壁が文字通り腐るほどいるのだ。連発するのは問題無いがやり過ぎれば、先に仕留められるのは此方になる。

 故にランスロットは賭けに出た。

 ランスロットが得意とする置換魔術による空間置換、相手は恐らくキャスタークラス。下手をすれば失敗するが、嵌れば一騎落とせる。

 

 

 

───刹那、ランスロットが走り出す。それに反応して銀髪の少女が無数の氷柱を床より生やし、更には殺戮猟兵たちがその間を通ってランスロットへと迫る。

 しかし、既にランスロットは先んじた。

 殺戮猟兵たちの目の前から、ランスロットが消えた。

 しかし、その事実を殺戮猟兵という肉壁たちのせいで視認出来ないコヤンスカヤと銀髪の少女は分からない。故に、銀髪の少女のすぐ近くに生じた歪みを少女が気づくのに時間差が生じてしまった。全身はまだ出ていない。

 しかし、ランスロットからすれば上半身さえ出ていれば何も問題無いのだ。

 

 

「『縛鎖全断(アロンダイト)過重(オーバー)───ッ!?」

 

 

 湖光が収束した聖剣による一撃。魔力光を放つのではなく収束し、敵内部で炸裂させる必殺の刃が少女へと振るわれた瞬間、ランスロットは自分の腕が切り飛ばされた事を知覚した。

 既にその時点でランスロットの視線は少女から外れ、自分の腕を切り飛ばした誰かへと向けられていた。それは黒衣であるが、しかし殺戮猟兵とは異なる存在、正真正銘のサーヴァント。

 

 

「二体目、だと……!?」

 

「死ね」

 

 

 鉄仮面に灯る赤い眼、振るわれた紅の刃とそれに付与されたモノが己を殺すものだと理解しランスロットは、即座に身体を捻り両腕を捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 複数回に及ぶ空間置換による逃走は、あまりにもランスロットに致命的であった。両腕を失った、だけならばまだ良い。

 だが、問題なのはランスロットの傷口を通して刻まれたモノ。

 ランスロットの養母は、湖の乙女だ。妖精たる彼女より魔術を修得したランスロットは自分の身を侵しているモノが何なのかを朧気になっていく思考の中で理解し、同時にもはや無理であるとも分かっていた。

 これがサーヴァントの身であるのならば、何とかしていたが既に受肉している以上明確に殺せるのだ。

 故にランスロットは何とかカルデアの外縁部へと移動し、吹雪に晒されながらもカルデアから離れていく黒いシェルターらしきモノを見送っていく。

 

 

「…………立香、マシュ……ああ、まったく……所詮俺は端役か。いや、違うな……死人は死人……新たな戦いは彼女たちが成す…………駄目だ、また背負わせるのか?………………すまない、どうか生きて、くれ……」

 

 

 自分の身体が急速に死んでいくのを感じながら、ランスロットは重くなった瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!おい!なんか、変な騎士がいきなり現れたぞ!?◼️◼️◼️◼️」

 

「もう、◼️◼️◼️◼️◼️、落ち着いてください。……すいません、大丈夫ですか?」

 

「………………ああ、大丈夫だ。状況は理解しているとも、それでは言わせてもらおう。────湖の寄る辺に従い、参上した。問おう、貴公が我がマスターか?」

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