IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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ま~た過去のハイライトから入ります。
終端にかけて26+α年となっています。


第109話 終風 風と空へ

暗い独房で彼女は悲鳴を上げ続けた。

四肢を拘束する枷は時を選ばず、例え夜であろうと、気紛れな獣のように嚙み砕くと言わんとばかりに締め上げてくる。

絶叫を挙げ続ける以外に何もできずにいた。

マトモに眠れる夜など無かった。

裁判を受ける時も、拘置所に移動させられる最中も、収監された後も、悪夢のような苦痛の地獄を刻まれ続けた。

恐怖の時が繰り返され、気が狂うことすら許されなかった。

 

「なん…で…」

 

千冬に背を押され、警察に身柄を預けられる形となったことまでは覚えていた。

だが、車の中で意識を失い、意識を取り戻した際にはゴムボートに乗せられた状態だった。

その時にはこの忌々しい枷を装着させられていた。

再度警察に身柄を囚われ、数日おきにあちこちの拘置所を移設させられた。

そして、あまりにも大勢の観衆の前で沙汰を下された。

 

「私が…死刑、だなんて…」

 

間違った事なんてしたしたつもりなど無かった。

裁かれるような事なんてしたつもりなんて無かった。

自分こそが正義だと信じ続けていた。

自分こそ正義の裁きを下す側だったのに。

 

ガチャン

 

独房の閂が外され、刑吏が入ってくる。

彼等全員が無表情のままだ。

 

「…ひぃ…!」

 

能面のような無表情に背筋に寒気が走る。

逃げたい、なのに逃げようとしても、枷がそれを許さない。

 

無造作に枷をつかまれ、4人がかりで台車にうつ伏せに乗せられる。

そのまま台車が押し出され、運搬が始まった。

公開裁判後、この拘置所に収監されてから3日、初めて独房の外へと連れ出された。

また、どこか別の拘置所へと移動させられるのかと思った。

だが、これまでとまるで雰囲気が違う。

 

「…そ、そんな…」

 

一室へと運び込まれた。

そこには、天井から垂らされた太いロープがその先で輪を成し…

 

「い、嫌だ…」

 

逃げようにも枷がそれを許さず、刑吏がそれを許さず、台車から降りる事さえ叶わない。

台車は冷酷にも、そのロープの下へと運ばれていく。

泣こうと、喚こうと、無慈悲にも首に輪がかけられる。

 

「い、嫌だ!助けて!死にたくない!誰でもいい!

誰か…誰か私を助けてくれぇぇぇぇぇ!」

 

だが誰も動かない、誰も助けない、冷酷な一瞥後に退室していく。

恐怖と絶望に開かれた瞳の中、台車ごと乗せられた床が開き…………………

 

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

 

 

 

 

「あーッ!つぅーかぁーれぇーたぁーッ!」

 

私はソファへと横たわった。

その際には背中から横たえるようにするのは決して忘れない。

 

IS大戦終息の際に受け取った金子と軍からの退職金を元手に、人材斡旋派遣企業『コスモス』を起業してから数年が経過した。

学ぶことは大量にあったけれど、今では何とか上手くやっていけている。

ウェイル君が『クィリヌス計画』と『アーコロジープラン』を提唱してからというもの、私の会社にも『技術者』の斡旋要望が大量に舞い込んできた。

アーコロジーの建設に、荒野や海上への人工島建設ということで、物資提供にインフラの設置など、やることが大量に発生しているらしく、人材育成も私たちのところで手を出す必要ができている。

ホワイトハウスに殴り込み同然の相談をして、これらは国家お抱えの計画になっている。

ウェイル君もかなり忙しくしているらしく、私の元にはプロイエットと、高級酒をわざわざ贈ってくれるあたり、彼は相当の『人たらし』なのだと今更ながらに学んでしまう。

今度、ヴェネツィアへお邪魔してみるのも悪くない気がする。

ウェイル君と鈴の結婚式には私も参列させてもらったんだし、昔ながらの友人と親交を交えるついでに愚痴を聞いてもらおう。

 

「まあまあ、彼のお陰で収益も一気に2桁も上昇しているんだからあまり文句は言えないよ」

 

「それは判ってるんだけどねぇ…」

 

それでもこの時期にお酒だなんて贈られても、私には栓を開くことはできない。

この身は既に、私の一人の身じゃないから。

アラン()もそれを知ってから、色々と過保護になってきている。

食事に、部屋の内装についてもいろいろ学んだらしく、私への負担が和らぐようにしてくれている。

それでも疲れるのは疲れるのよ!

 

「今月もウェイルさんからシーフードが届いてるよ」

 

「相っっ変わらずの釣り三昧ね、ウェイル君は…」

 

あの日、臨海学校でみた彼の釣り人の姿を今でも思い出せる。

うん、あの時には驚いたと言うか、呆れたと言うか…。

彼謹製の釣り竿は今でも持ち続けているけど、使用できる機会が少なくて、ちょっとだけ埃を被ってしまっている。

次に使う機会はいつになるやら…?

 

その前にお仕事を片付けていかないとね…、今度会ったら子供を紹介しつつ、散々に愚痴をブチ撒けてしまおう。

 

「来期には、技術者育成学校の開設も待ってる、か…」

 

いや、本当に…愚痴を言えるのはいつになるのやら……

 

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

 

爺ちゃんに暖簾分けをしてもらってからは商売は繁盛し続けていた。

和風料理だけでなく、ウェイルから贈られてくるシーフードをふんだんに使った海鮮料理も思った以上に評判が良い。

とはいえ、ちょっと多く感じるのは、俺と虚さんの食卓にも使ってほしいとのことでもあるのだろう。

 

「大将、熱燗を…」

 

「おい数馬、飲む量には気をつけろよ」

 

よもや数馬がここまでアルコールに弱いだなんて思わなかった。

 

「まあまあ~、そう言わずにさぁ~♪あ~む♡」

 

その隣では本音ちゃんが、パエリアを頬張っているのが見える。

こっちはこっちでかなりの酒豪であること知ったのもつい最近。

子供が産まれたということで、退院直後に俺の店に飛び込んできたというのだから…。

 

「はぁ…可愛い…♡」

 

二人の子供は今では虚さんが抱きしめて可愛がっている。

 

「私も子供が出来れば…」

 

そんなつぶやき声が聞こえてきたが…聞こえなかったフリをしておこう。

折角の姪っ子との遭遇にあのデレデレ具合だもんな…。

…今夜は寝かせてもらえないオールナイトになるかもしれないな…明日の経営に響かないようにしなくては。

 

「ローマに来てからというもの、随分と経ったよな」

 

「ああ、忙しさに周囲に目を向ける機会もないほどに、さ」

 

俺も数馬も、今ではすっかりローマ市民だ。

それもこれもウェイルのお陰でもある、アイツが色々な所を説得してくれていたらしく、俺達はこの国に根を下ろす事が出来ている。

市民権に永住権、そしてこうして店を構える事も出来るようになったのだと。

ついでに、あの街の連中がどうなったのかも俺達の手元に情報が流れてきていた。

 

担任の教師は全身不随で寝たきり生活になっているのは俺たちも知っている。

肝心なのはその後だった。

見て見ぬ振りを続けていた教師一同も非難が集中し、学府は尽くが閉鎖し、教育界で晒し者にされ、教員免許剝奪の上でデジタルタトゥーを刻まれた。

爺ちゃんが何度も一夏の保護を訴えながらも、決して動かなかった児童相談所も、職員も同様の扱いだった。

そして、街全体が日本中から晒し者にされていた。

老若も問わず、男女も問わず、だ。

役所の人間であろうとも、外からやってきた人間であったとしても容赦なく、だ。

誰がやったのかは正直、想像もつかない。

気づいたらこんな事になっていたんだとか。

俺たちは良いタイミングであの街から飛び出したのかもしれなかった。

 

「店主、(オレ)にも熱燗を。

それと一番高値の料理を」

 

「はいよ、少しだけお待ちを!常連さん!」

 

まあ、俺は俺でこの店と家族を守っていかないとな!

 

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

 

「やあ、暫くぶりだねラウラ」

 

「む、シャルロットか、奇遇だな」

 

クィリヌス計画に於ける現場作業員として働くようになってから数年が経過した。

クラリッサが別部署へ左遷され、シャルロットはアーコロジー建設に精を出しているとも聞いていた。

それからの久々の休暇での再会だった。

 

「ディックは?」

 

「あの優男なら、今は現場での教育に走っている。

最近の私は書類仕事を繰り返しているばかりだ、現場作業も些細なものだぞ」

 

「それだけ気遣われているんじゃないの?」

 

そうは言うが、ディック・ジェムという男は、私に幾度も食事に誘おうとしたりと不思議な人物でもある。

周囲の女性が体調不良と言う事で、念のためにと私も精密検査を受けることになった事もある。

そこで知ったのは、私の肉体には『生殖機能』がそもそも存在しないという現実だった。

調べてみれば、黒兎隊のメンバーは全員が共通していた。

考えてしまえば、我々は戦闘兵器として作り出された存在であり、母体としては考慮されていなかったのだろうとは思う。

ディックはそれをも飲み込み、私に接してくるというのだから、物好きな男だと思わされる。

 

「ふ、そうだと良いな…」

 

まあ、この体質とは一生付き合っていくのは既に理解し、飲み込んだつもりだ。

精々ディックを振り回してやるとするさ。

 

「あ、葡萄酒を持ってきたんだ、一緒に飲もうよ」

 

「ああ、なら私の部屋に案内しよう」

 

支給された部屋は一般家庭のものをデザインされているらしく、生活するうえでも何の不都合もない。

私もディックも存分に使いまわしている。

セキュリティにしても、個人に至急されているカードキーを使うのだが…

 

「…またか…」

 

リビングの机の脚元、見おぼえがありすぎるトランクが威圧するかのように存在感を放っている。

どうせクラリッサの仕業だとは思うが、アメリカ支部へ左遷されても繰り返すとはな…。

 

「うわ、フリフリのドレスじゃん」

 

「気に入ったのなら持って帰ってくれても構わんぞ、どうせそんなものは着ないからな」

 

「それはちょっと難しいかな…胸元とかキツそうだし」

 

シバくぞ貴様…!

 

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

 

胃がキリキリと痛む。

そんな日々が流れるようになってからどれだけ経っただろう。

その職場からようやく解放されたのがつい先日だった。

 

「お姉ちゃん、待って待って待って」

 

それでも書類仕事だけは私のところに回ってくる。

ヘキサ中佐は本当に人使いが荒すぎる…!

千冬さんでももうちょっと緩かったのに、このバチカンに来てからはブラック労働でもしているような気分だった。

いえ、8時間労働で早出も残業もそんなに無いのに、給与もボーナスもしっかりしてくれてるのに、この体たらくだった。

 

「離して簪ちゃん、私は!私はもう限界なのよ!」

 

「だからって見過ごせないよ!

イタリアに来て以降、どれだけの数の薬品をストックしてると思ってるの!?

空き部屋だった場所は市販薬の箱で埋まり切ってるんだよ!?」

 

「飲まなきゃやってらんないのよ!」

 

「お酒じゃないんだから!」

 

あの人使いの荒い上司めぇ…。

簪ちゃんはすでにゴールインしてるのに、私は多忙で押しつぶされるだなんてぇ…

 

「ヘキサさんの鬼!悪魔!オバハンっ!!行き遅れぇっ!!!!」

 

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

彼もまた、独房に鎖されていた。

ガリガリに痩せ衰えた手足を懸命に動かし、記憶の中に残っていたあの場所へたどり着いたのに、懐かしき我が家はそこにはなく、既に他人が敷地を買い取り、新たな家を建てて暮らしていた。

医療刑務所で手当てを受けた後に取り調べを受ける事になった。

あれから、16年も経過していたという現実を知った。

そして、冷酷な真実を知った。

 

幼馴染の箒は死刑が16年前に執行された。

その翌年には、たった一人の身内である千冬もまた死刑が執行されたのだと。

自分には、帰る場所も、迎え入れてくれる身内も残っていないのだと。

あまつさえ、死刑執行も認可されているという最果ての絶望が待ち受けている事を。

そして

 

「ウェイル・ハース?

ああ、ハース大博士か。

彼なら欧州で今でも活躍されているさ。

世界中で彼の名前を知らない人は居ないくらいだ、今を生きる偉人だよ。

結婚もして、娘さんも居ると聞いたな。

世界中から必要とされるかけがえの無い人物さ、お前と違って(・・・・・・)な」

 

反面、自身の名は世界最大の愚者として知られていたのだと…

 

「…くそぅ…!」

 

生き延びていたことは勘付いていた。

あの時、刃を突き立てながらも、多くの人に輸血を受けたことまでは知っていたのだから。

なのに、今の彼の扱いが予想を遥かに上回りすぎていた。

自身が警察に逮捕された際に、数人の警官が空から舞い降りた瞬間を見た。

その際に使用していた靴を模したシステムを作り上げたのもウェイルである事も教えられた。

 

彼は世界中の光に照らされ、世界中を照らす存在に至っていた。

なのに今では自分だけが影に追いやられていた。

天と地以上の差がそこにあった。

見下ろされるなど我慢ならない、見下されるなど以ての外だ。

だが、今はそれを遥かに越えていた。

 

「…なんでだ…なんでこうなったんだ…」

 

そして、独房の閂が開かれ、最期の瞬間が、過去が、彼の心臓へとたどり着いた。

 

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

 

彼女は、空を見上げていた。

 

あの日、病院から脱走して以来、彼女はこの場所で暮らしていた。

あれからというもの、容易に日々を過ごしていたわけではなかった。

病院で過ごして一週間が経過した日、気付かぬ内に届いていた便箋に記されていた場所に向かい、地面を掘り返した。

地獄の独房の壁面を掘るのに比べれば、土を掘り返すことなど造作もなかった。

それでも、自分の手だけで、1.5メートルもの穴を掘るのには夜明けまで要し、誰かの視線が向かってこないかと気を使い続けていた。

堀当てたその場所に埋まっていたのは、一つのトランク。

ダイアル式のコードを入力して開けば、そこには…。

 

 

 

 

 

「……時間ですね……」

 

彼女の小さな私室には鏡は置かれていなかった。

病院で過ごしている間、彼女の素顔は15歳の頃のままだった。

それでも、奇跡は有限だった。

魔法の時間は終わりだと告げるように、彼女の素顔は実年齢相応のものへと変化していった。

それを自覚し、彼女は素顔を隠す道を選んだ。

『ディーネ・プレギアーレ』として過ごそうとしても『セシリア・オルコット』の素顔を知る者が見れば、その後のことも複雑なことになってしまうだろう。

そうなってしまえば、成すべき事を成せなくなってしまうと判断し、彼女は常時、仮面で素顔を隠した。

そのまま流れ着いた場所は、辺鄙な場所にある廃教会跡地。

 

「皆さん、朝ですよ、起きなさい」

 

彼女の居場所はその教会にあった。

慣れぬ手でボロボロになっていたその場所を修復し、今は孤児院として開かれていた。

旧イギリス領、旧フランス領は欧州国家間によるパイの切り分けで多くの難民が出ていたことを知った。

多くの救済計画は世界規模で行われ、多くの人は救われてもいたが、それでも救われない人も多く出ていた。

たとえ、技術者を多く輩出するクィリヌス計画が施行されたとしても、だ。

それと同じだけ、行く宛てもなく、帰る場所も持たぬ人が居たのだった。

彼女は、それを見過ごせなかった。

自身の過ちによって発生した人達を救うことは、贖罪でもあったかもしれない。

いや、そうでもなかったとしても構わなかった。

 

「シスタ~、新聞もらってきたよ~」

 

いつの間にか『蒼空の家』と名付けられた教会と孤児院。

そこで多くの子供達の育ての親代わりとして。

下は幼年、上は成人前の者達まで、性別は男女を問わず、この孤児院に居た。

 

「ご苦労様、さあ、顔を洗ってから朝食にしましょうね」

 

「は~い!」

 

この孤児院に集っている子供たちはすでに70人近くになっていた。

教会の付近でも野菜を育て、時には川で魚を釣るなどして自給自足をしながら暮らしていた。

そして自身も教鞭を振るい、教育もしていた。

行く宛ても、帰る場所も無い子供達に、安心して眠れる場所を、清潔な衣服を、知識を与え、行く行くは飛び立つまで、その居場所を営むことを彼女は生き甲斐にしていた。

 

ペラリ

 

クィリヌス計画による天翼の塔の紹介が載っており、クスリと笑みをこぼす。

それが、彼の提唱した世紀を超える計画だと知ったのは、つい先月のこと。

その計画によって、世界では日々多くの技術者たちが排出され、斡旋、派遣されていた。

多くの人が、それによって安泰の生活を手にした人もいるが、ここにいる子供たちはそこからあぶれてしまった僅かな者たち。

彼は万民を救い、自分はそこから零れてしまった者達を救う、きっとそういう事なのだろう。

それでもいい、きっとこれが自分なりの恩返しになるだろうと信じる。

 

再び新聞のページを手繰り、その片隅の記事に視線が向かう

 

「『無貌の聖母』?また奇妙な呼び方が…誰が言い始めたのやら……迷惑な話…」

 

仮面の下で不愉快そうな表情をしている事を知る人は誰も居ない。

新聞を閉じ、孤児院の厨房へ向かう。

彼等の朝食作りを手伝うためにも、彼女は歩き始める。

 

一度だけ、青空を見上げる。

視線を前に戻せば、青天の下で多くの子供達が食卓を用意しながら手を振っているのが目に入る

手を振り返し、仮面の下で柔らかく微笑む。

 

「ええ、今行きますからね」

 

この場所が、今の彼女(ディーネ)の居場所だった。

 

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

 

「行ってきま~す!」

 

母さんが作ってくれた朝食を食べて終わり、グラス一杯の牛乳を飲み干す。

それから私は家を飛び出した。

 

「ニャァンッ!」

 

「おいで!シャーリィ!エレナ!」

 

一階の窓から塀へと飛び移ってきたシャーリィが、そのまま私の胸元に飛び込んでくる。

それを受け止め、シャーリィを左肩に乗せた。

それと同時に父さん謹製の小鳥型ロボットが窓から飛び立ち、私の頭の上で翼を休める。

学校は服装が自由で結構気まま、どこかのメーカーにオーダーメイドで制服を作ってもらってまで通学してくる同級生も居る。

私はといえば、母さんの手作りの服。

でも胸元がちょっとキツイ、母さんにそれを言ったら何故か判らないけど視線の温度が下がった気がした。

父さんは現在単身赴任中、「いい子にして母さんを困らせるなよ」と言って私の頭を撫でてくれた暖かな大きな手を忘れていない。

 

「あのオジさん達、今日も居る」

 

母さん曰く、あの場所はヴェネツィアでも一番の釣り場らしくて、父さんもあの場所で魚を釣り上げていたらしい。

それでも時にはクルーザーで一緒に海に出ては大物を釣り上げてくることもある。

祖母と祖父が、父さんが釣り上げた魚の売値を別管理していたらしく、数千億ユーロもの蓄えがあったとか。

老後も安泰なのはまず間違いないと思う。

 

「父さん、いつ帰ってくるだろうなぁ…」

 

海沿いを歩きながら海に視線を向けてみる。

水平線の向こう側、微かに鋼で作られた建造物が見える。

クィリヌス計画によって建造されている『天翼の塔』いつの日かは宇宙をも超える巨大なそれは今も建造途中。

私が生まれて間もない頃から建造されているそれは、父さんも関わっている。

私もいつの日かはあそこで働きたいと思っている。

母さんはあんまりいい顔はしてなかったけど。

 

「おはよ~イザーク」

 

「ああ、おはよう姉さん…今日も寝癖がついてるよ」

 

「え!?嘘!?本当に!?」

 

急いでコンパクトを開いて髪を確認してみる。

…言われたとおりに、左側頭部の髪が一筋、重力に反抗していた。

…学校に着いたら直しておかないと…。

 

「姉さんよりも背丈が高くなったからかな、そういうのには気付きやすくなったかもしれないな」

 

「1cmくらいで何を言ってるのよ!」

 

中学に入ってからというもの、イザークは背丈が私よりも高くなった。

それでもたった1cmの差、こんなもの誤差よ誤差!

 

「やっちゃいなさいシャーリィ!」

 

「フニャァッ!」

 

「痛い!痛い!噛みつかないでくれシャーリィ!ひっかくのはもっとダメだろ!

ほら、煮干し!煮干しあげるからそこまでにしてくれ!」

 

我が家のシャーリィはとってもお利口、煮干しで買収されちゃうのはいただけないけど。

そこは流石はイザーク、シャーリィの好みをわきまえてる。

どういうわけか、ウチの家系の人は例外なくネコ派。

ヴェネツィアもそのうちに猫の街なんて言われるんじゃないだろうかとも思ったこともある。

あの釣り場のオジサマ達も猫を連れてきてるくらいだものね…。

 

「それで、デルフィーノの進捗具合はどうなの?」

 

「そっちは万全だよ」

 

デルフィーノ、それは父さんがFIAT内で開発したもので、海の上を疾走するブーツ状の商品だった。

開発が進められる中でもブーツ型だけでなく、ボード型も発売されていた。

波がなくとも、海の上をスケートの様に疾走できるその商品は爆発的に全世界で売れた。

ここヴェネツィアでもクルージングやヨットを使う人よりもデルフィーノを使う人は多くなってきている。

更にはオリンピック競技としても新規登録され、『地上のプロイエット』『海上のデルフィーノ』『宇宙の天翼』と呼ばれ、多くの若者の視線はその3方向に向いている。

その全てに携わっているのが私の父さんであるウェイル・ハースその人だった。

だからかな、いい年して今も全世界を飛び回っているのは。

 

「イザークはオリンピック選手を目指してるんだよね…」

 

10年以上前にこの世界では戦争が起きた。

インフィニット・ストラトスと呼ばれる機械を使った戦争が1年間にも渡り続いていた。

元々は宇宙進出のために開発されたらしいそれは、一時は競技に分類されながらも、後に戦争のための兵器となり果てた。

アリーシャ伯母様もそれに参加していたとか。

その戦争があって、ISはオリンピック競技から削除。

開発、所持、研究は全世界で禁忌とされた。

それと同時に始まったのがクィリヌス計画というのが私たちが学んでいる近代の史実だった。

 

「私は父さんを追って宇宙を目指して…将来の私たちって夢を叶えられてるのかな…?」

 

「それは僕等の努力次第じゃないかな」

 

「夢が無いなぁ、イザークは。

それはともかくとして、テアナちゃんとの進展はどうなってるの?」

 

「どういう話題の替え方だよ…。

まだ声をかけても引っ込まれる始末で…」

 

従姉妹のテアナちゃんは根っからの文系なのか、よく読書をしている姿が見受けられる。

庭だったり、ベランダだったりと日の当たる場所が好みらしいけど、少しばかり人見知り。

 

「シャーリィやエレナには心を開いているのにね」

 

「ふにゃぁ…」

 

けど、あの子はまだ小学生、まだまだ可能性はあるだろうとは思う。

私としてもいつ父さんが帰ってきてもいいように母さんから色々と料理を教わってるわけだし。

 

「伯父さんのような技術者にはまだ遠いよなぁ。

いろいろとキットを使って練習はしているんだけど…デルフィーノの作りも複雑だし」

 

「ふふん、自慢の父さんよ!」

 

その父さんは何故かは知らないけど人脈…というか、知り合いが多い。

ローマやバチカンに友人が居るくらい。

サラシキさんとかゴタンダさんとかミタライさんとかノホトケさんとか。

どう考えてもイタリア人らしくもない姓名の人が居る。

それでも気心の知れた仲の人らしくて、偶に私達の家に来ては父さんと一緒に飲み交わしている事がある。

きっと古い知り合いとか友人とかなんだろう。

その人達はローマで大衆食堂を開いていたり、サラリーマンだったりとかする。

そんな中、父さんが一番凄い場所に立っているらしい。

今頃はどこかの星空の下で色々と頑張っているんだろうなと思う。

いつの日か、私もその場所にたどり着いて見せる!

 

いつか、やがていつかはと…掲げた理想を現実に…!

 

「父さん、早く帰って来ないかなぁ…」

 

ウェイル・ハース。

私の実の…そして自慢の父さんの背中は…ずっとずっと近くて遠いなぁ…。

でも、いつかは届いて見せる。

でも今は学生の私たちにできることといえば、勉学なのよねぇ…。

 

「シャーリィ、カバンの中に入って」

 

「ニャァ」

 

鞄を開けばシャーリィは進んで中に入ってくれる。

そして顔だけ出してくるのを見て

 

「「起動」」

 

その言葉をトリガーとして、私達の足が地上から離れ、空へと飛び立つ。

頭上で休んでいたエレナも再び翼を広げ、自由の空へと羽搏いた。

父さんが開発した『チェーロ・ブルー』は今日も調子が良い。

 

「さあ、行こう!」

 

前傾姿勢になれば前方へと飛び立つ。

うんうん、今日も好調!

コレがあれば私達はどこまでも行ける。

きっと、父さんにとっても届かない場所へも!




これにて今作は筆をおくこととなりました。
オリジナルキャラクターを思い描き、原作キャラクターを絡ませることの難しさと言ったらなかなかに苦労しました。
今回は読者様から『アンチには救済なしで』という要望もあり、それを終始考えながらの執筆もありました。
また、作者自身が幼い頃に経験した体験談、後にそれを俯瞰的な場所から見た際の自論も作中には刻んでみました。
どこにでも起こりうる、そしてそれに対しての対処の難しさ、そういったものが皆さんに伝わっていれば幸いです。

それでは重ね重ね、皆さんのご愛読ありがとうございます。

以下、執筆中に於ける参考書籍・資料
『モンテ・クリスト伯 華麗なる復讐』
『緋弾のアリア』
『楯の勇者の成り上がり』
『デスマーチから始まる異世界狂想曲』
『転生したらスライムだった件』
『学戦都市アスタリスク』
『機動戦士ガンダムSEED』
『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』
『機動戦士ガンダムSEED FRREDOM』
『BLEACH』
『Fate/Grand Order』
『ローマ神話』
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