注:作者は原作を好んでいるタイプです。悪意的な理由で否定する意図はありません。
あくまで作者流のギャグと割り切れる方のみお読みください。
英雄の戸籍上では孫になるらしい養子の少年シン・ウォルフォードが、国宝級の装備を身分問わず身内だけ配るのを「王子の分もある」という賄賂によって許可された日から少し経った日の朝。
カート・リッツバーグの休学が、両親たちから学校側へと通達されることになる。
シュトローム密かにが会いにきて、仕込みの重ね掛けをした日から結構な日数が経ってからのことだった。
日に日に悪化していく精神状態を見かねた両親が、息子に自宅謹慎を言い渡したのが、その理由だった。
世間体と息子の将来とを慮って、表向きはそーいうことにしておいたのである。
現実の彼は先日の夜辺りから、縛られて自室の床に転がされたままの姿になっている、謹慎と言うより軟禁と言った方が正しそうな状態だったけど、体裁守るための取り繕いってそーいうもんだし。
余計な誰かに入れ知恵されてたせいで、望んだ状態になるのが遅れに遅れてしまったが、黒幕としてはようやく一息と言うところだろう。
『後はのんびり待つとしよう』とはよく言うものの、本当に待たされまくって放置状態が長く続いてしまった悪というのも、なかなか珍しい存在かもしれないね。
まっ、それはそれとして。
「えっ? カートが自宅謹慎になっただって!?」
「ああ。今朝、学院にリッツバーグ家から連絡があったそうだ」
それらの情報は、カートと因縁がある相手としてオーグ王子からもたらされ、賢者の戸籍上では孫であるシンは驚かされることになる。
自宅謹慎が驚くべき措置なのか、森で拾われ森で育って貴族家庭の慣習なんも知らない聞いたことすらないシンには全く分かるはずなかったけど、死ぬ前までも地球基準では「自宅謹慎」は驚くべき大事だったので多分驚くべきことだと思って驚いたのだった。
「あのさ、今更なんだけど・・・・・・カートはなんで、あんな態度をとるんだ? 身分を笠に着た振る舞いは許されていないんだろ?」
「うむ・・・・・・正直、拙者たちも戸惑っているところでござるよ」
シンの疑問に腕組みしながら、日焼けした肌と金色の短い髪をもつ「ゴザル口調」の少年『ユリウス=フォン=リッテンハイム』が、言葉通り戸惑ったような態度で応じてくれた。
また彼は王子の護衛役でもあり、護衛ですので、『リッツバーグ家から学校側に直接伝えられてきてた生徒の個人情報』を、生徒の一人である王子が知ることできてて、個人的な友人たちに無断で暴露しちまってることには、戸惑いは感じてないようです。
きっと、『身分を笠に着た振る舞い』はしなかったからなのでしょう。
『私は王子だけれど、学校では生徒でしかないから特別扱いする必要はないんだよ?
王子でも法律は守らなきゃダメだからね? だから分かるね? うん?』
とかの直接的な言い方したり、単語を使ってもいない王子様に、先生方が自主的に親切心から情報を教えてくれただけの親切を、禁止事項に抵触しないノーカン扱いするのは政府重鎮の息子として常識的なエチケット。
「そうですね。自分たちは彼と同じ中等学院でしたが、ああした振る舞いに及んだことはなかったはずなのですが・・・」
「まぁ、自信家で鼻にかけた態度は昔からではあったがな。それぐらいは貴族子弟に珍しいことでもなかったし、節度を守ってもいた。
比較的富裕な貴族家系の跡取りに生まれた息子として見るなら、至って普通の生徒と言ってよいレベルだった―――はずなのだが・・・」
もう一人の護衛で、眼鏡で色白で背が小さめの『トール=フォン=フレーゲル』も加わって過去を共有している者同士として、ユリウスとオーグと三人で今の激変ぶりに至る原因を考えるが、直接的な原因になれそうなものまでは思い至れず首をひねるしかなし。
その頃の相手とは面識ないのでシンには想像しようもなかったけれど、それでもまぁ
『オイ貴様、そこを退け無礼者が! 俺はリッツバーク伯爵家の嫡男だぞ』
『貴様ーっ! 他の男と話をするとは何事だぁ!?』
『クッヒッヒ・・・いいのか? 貴様の父親は財務局の管理官で、俺の父は事務次官なんだぞぉ~? ヒャーッハッハ!!』
とかのセリフを学校内で言ってくる性格のままな中学生だったら、流石に問題あったと思うし、問題ないことになってたら学校側の方に多分問題あったとも思う。
そうじゃなかったとしたら、やはり何かしら彼を変えてしまった原因となるナニカが、中等部から高等学校に上がるまでの間にあったと考えるのが妥当なのだが・・・・・・。
「強いて変わったところと言えば・・・・・・シュトローム先生の研究室に入ってたことぐらいでしょうか・・・?」
「?? シュトローム? 誰だ、それ?」
「帝国から亡命してきた貴族という触れ込みで、中等部三年の頃に魔法の講師としても学園に赴任してきた人物だよ」
知らない人物の名前が出たことで、自分も首をひねらざるを得なくなるシンに対してオーグが説明を補足してくれる。
帝国というのは『ブルースフィア帝国』の略称で、商業重視と平民官僚の採用による資本主義を促進させているアールスハイド王国とは真逆路線を突っ走り、貴族第一主義を貫き続けて奴隷制度もある、『デススター』とか造りだしそうな悪のフォース帝国みたいな大国のことだ。
当然この2つの国は仲が超悪く、何らかの理由で帝国にいづらくなって亡命してきたものの、今までの経緯から肩身が狭い思いをする人も少なくはなく、そんな立場と待遇改善のため積極的に貢献して役立とうという人も結構いる。そんな国。
そんな帝国からの亡命貴族らしいシュトロームは、学校の先生として生徒たちの教育に成功して役立ちたいと、とある『研究会』を中等部の学校内に設立したらしい。
そのシュトローム自身と研究会というのが、少し怪しかったというのである。
「いや、成果そのものは出していたのだがな? 優秀な生徒を何人も育てるのに成功していたし。
ただまぁ・・・それなりに魔法が使える者には片っ端から『自分の研究室に来ないか?』と声をかけまくっていてな。あまりに胡散臭くて私は誘いにのる気になれなかったが」
「・・・・・・胡散臭いって言うか、新手のナンパか何かじゃないのか? それって・・・」
「それだけではありませんよ?
目が見えないのか、彼は両目を覆うように眼帯をしていながら普通に行動して、魔力を持たない無機物をも関知できる特殊な魔法を使っているのでは?と噂になっていた人物でした。今思えば些か怪しい人物ではないかと」
「いや怪しいだろ!? 怪しさの塊みたいな要素の集合体じゃねぇかソイツ!? もっと早く疑えよ! なんで疑わないんだよ! 『自分が犯人です』って言ってるような姿と行動そのまんまじゃねぇか!!」
「いやまぁ・・・あまりにも怪しすぎて、却って騙そうとしているように見えなくてな・・・つい。ハッハッハ」
「ハッハッハじゃねぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!」
話を聞かされたシン激怒! 前世の知識持ち転生者として流石に怒らざるを得ない酷すぎる対応だった!
横山サスペンスの殺人犯そのまんまな見た目と設定で亡命してきてた相手に優しすぎる国と学校には怒らずにはいられない! 犯罪犯してないからという理屈にも限度ぐらいあるぞオイ!?
あるいは、怪しすぎる同級生と出会ってなければ別の反応したかも知れない平和ボケした森育ちのシン少年だったけど、身近に怪しすぎる奴いて疑うことに慣れさせられた今のシンにはハッキリと分かる! ソイツは怪しい! ソイツが犯人だ!!
八つ墓帝国の祟りがソイツだぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!
「なんと言うか・・・・・・会ったことはないが、怪しい新興宗教の勧誘みたいな御仁であるな。その教師殿とやらは」
「・・・・・・確かに」
当の怪しすぎるクラスメイト本人には全く自覚がないようだったけど、怪しすぎる奴でも他人の怪しさだけは理解できるらしく、腕組みしながら難しい顔をして的確すぎる評価を語った言葉に、シンとしても賛同する以外に選択肢が思いつかん。
完全に怪しい宗教勧誘のノリな先生の行動だった。
具体的には『テイコク真理教』とか名乗りだしそうなレベルで、半端に科学混じった高学歴幹部ばっかの怪しすぎるカルト宗教団体っぽさが凄まじくある。目も悪かったし。
今回の件でも、変な『カガク魔法ガス』でも開発して、本格使用する前の実験用としてカートに使った結果とかじゃなければいいのだが・・・・・・そんなことを本気で心配はしたものの
「まぁ、彼については後ほど専門の者に調査を命じるよう父に頼んでみるとして、そろそろ休み時間も終わる。教室に移動しよう。今日は午後から研究会の説明がある予定だからな」
「あー・・・そういえばそうだったね~。でも私たちって、もう究極対至高の魔法研究会立ち上げるって決めちゃってるからなぁー」
「ねぇー。もう入る気のない他の研究会の説明を聞かされるなんて、時間の無駄よねー」
「そう仰るな、ご令嬢方。拙者たちだけ参加しなければ反感をもたれるでゴザルよ」
「そうですよね。第一その理屈が正しいとすれば、『肉体言語魔法研究会』の説明を聞かされる普通の生徒たちは大半が可哀想ということになってしまいます」
『『あー、なるほど。たしかに』』
「どういう意味でゴザルか!? その発言は一体どーいう意味での納得でゴザルかトール殿ぉぉっ!?」
そんな平和なやり取りへと続いて、今この場でどーこーしようと思わない程度の認識しか持たなかった時点で、内心ではそれほど重視する事案とも考えてなかったということなのだろう。
たしかにカートは、この学校の生徒の中でも結構強い方ではあるし、誰に教わったのか接近戦もこなせる強敵といって差し支えない相手ではあるにはある。
だが、それだけだ。シンが本気を出さなければ勝てないほどの相手ではないし、自宅謹慎されたということはシシリーに迫っていた危機も去ったと考えてよさそうだ。
なら別に、自分が強引に関わって解決に乗り出していく案件ではないようだとシンの中では割り切った気分になっていたのだった。
婆ちゃんからも自重するよう注意されてることだし、自分が出て行かなくても解決できることなら専門家に任せてしまった方がいい。まだ自分が出ていくような事案じゃない。
カートは、100パーセントのシンを見せていい相手じゃなさそうだ・・・・・・んな悪役じみてるけど教師っぽいことまで考えてたかどうかは、ともかくとして。
『索敵魔法』で周囲への警戒はいつもしている程度のことでいいんだし、学校内でそんな気にするほどのことでもなさそうだし任せていいか―――そう考えながら研究会説明が行われる場所へと続く、外の廊下を歩いて行くと
――――ゾクリ、と。
おぞましいほどの『害意』と共に、空気が重くなる錯覚を感じたのは、その瞬間のことだった。
(なん、だ・・・この魔力量は! 俺に向かって『害意』を向けられている――一体どこから!?)
明らかに普通の人間がもつレベルとは異なる量の、禍々しさと気持ち悪さが籠もった凄まじい魔力をシンは感じさせられ、周囲に視線を走らせる!
魔物か魔獣かは分からないが、学校内に侵入してきた人外の怪物が自分たちに狙いを定めて襲おうとしていることだけは経験則から見ても確実な状況・・・・・・一体ナニが!? どうして!?
(いた! アイツが学園内まで侵入してきた魔物―――え?)
そして視線を向けた一角に、犯人らしき影を見つけるのに掛かった時間は、ほんの僅か。
だが、その姿を視認した瞬間。
シンは思わず呆気にとられて、致命的な隙を生じさせることになる。
【・・・・・・uッ、GGuu・・・aaa・・・・・・ッッ】
「なっ!? カートッ!!」
【HEAvoaaaaaaaッッ!!!】
そうなのだ。
そこに姿を現していたのは、ここにいるはずのないカート・リッツバーク少年その人だった!
彼は驚き戸惑うシンたちに対して、躊躇いなど微塵も感じていない思考で攻撃魔法のイメージを構築!
獣じみた叫びを詠唱代わりに紅蓮に燃えさかる超高温の熱量の塊を、両手の平から何の躊躇もなく解き放つ!
狙う先は、自分がこだわり続けて固執してきた存在―――シシリー、ただ一人だけに向かって真っ直ぐに!!
「シシリー! オーグ! 制服に魔力を通して防御態勢をーーーっ!!!」
叫びながら二人の前に立ちはだかり、青い光を放つ魔力障壁を展開させる!!
ズボォォォォォォッ!!
そして命中させられるッ。威力が・・・高い!! 火力が・・・・・・桁違いだッ!!
「ぐぅっ!? イメージが・・・っ」
突然のことで咄嗟に体が動いたせいで、防御に適した何かを思いつくことが出来ず、具体的にイメージできないまま展開された、アヤフヤで何を形作っていいのかよく分からない魔力の塊にしかなれてないシンの魔力障壁は、十分な威力を発揮できず、予想より遙かに高い相手の攻撃力に押され気味な状態へと陥らされていく。
持って生まれた魔力量そのものが桁違いなシンだからこそ防ぎ切れている程度の出来映えでしかない障壁とはいえ、通常の魔獣程度に破られるものではまったくなかったはず・・・・・・それをここまで追い込ませるとは・・・・!!
「う、うううぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
そしてシンは根性を出す! 根性だ、それ以外ではない!
出せる限りの魔力を注ぎまくって、あやふやな形にしかなってない障壁を無理やり強化して、強引に相殺させるよう持っていかせることで拮抗状態の打破を図らせる!!
ドガァァァァァッン!!!
「ぐぅっ・・・・・・かはッ!?」
「あ! シン君、手がッ!?」
「だ、大丈夫・・・・・・もう『自動治癒』は発動してるから、すぐ治るよ・・・」
防御しきれない相手の攻撃を、爆発させるという形で相殺したが、それでも尚ダメージを完全に防ぎきるまでには至らず、大爆発を起こして周囲に飛び火を撒き散らしながら、なんとか防御には成功した。
だが、しかし・・・・・・これは、今の炎は完全に・・・・・・っ
「た~まや~♪♪
恋の炎で我が身を焼き尽くし、思い人をも焼き尽くさんと願い、求めて、憎き恋敵にまで飛び火させて燃え尽くすほどの熱量となる。
まっこと、人が人を愛する想いと叶わぬ恋への未練とは恐ろしき、ヨツヤの怪談話よな!!
まさに恋の炎はセルフ・バーニング!!!」
「気楽でいいなお前は本当に!? この緊急時でもそのままかよ! 少しは騒げよ! 慌てろよ! それやっても、いつも通りかも知れないけどさ!!」
思わず怒号と罵声でツッコみながら非難もせずにはいられないほどマイペースなマイペース反応だけ返してくれる、自分以外でもう一人の強い奴な同級生女子からの反応!
一応はクラスメイト男子が両手に大火傷を負ってるんだけれども! すぐに完治するとはいえ心配ぐらいはしてくれてもいいと思うんだけれども!
少なくとも楽しそうに花火見物気分で見てるだけの野次馬にならないでくれると有り難いのだが!? ムカつくから! 超ムカつくだけだから!!
そんな想いを言外に込めて込めまくりながら放たれたシンからの非難とツッコミだったが―――当たり前のこととして、今はそれどころではない。当たり前のことだけれども!!
「ああもうクソッ! とにかく! 今の一撃・・・・・・完全に殺す気だったな・・・」
「ああ・・・これは明らかな殺人未遂だ。この国の王族として、到底見過ごすことはできん――イヤ待て!? 様子がおかしいっ」
言われるまでもなくシンも気づいていた。
先の攻撃魔法は明らかに、カートの限界を超越しすぎたレベルの一撃だった。
たかが怒りの感情でブーストしたとか、自棄になって制御を手放し暴走させたとか、“その程度”で至れるようなパワーアップでは全くない桁違いの凄まじい魔力量が込められていた、シンにとってさえ油断できない恐るべき一撃・・・・・・。
これは・・・まさかとは思うが、ありえないことだと分かってもいるが・・・・・・だがまさか本当に、“成ってしまった”ということなのか・・・?
爺ちゃんから聞かされていただけの“アレ”に、カートは絶望と憎しみによって・・・・・・本当に―――
「G・・・ッ、A・・・aa・・・っッ!!
キ、様・・・・・・!! 貴様貴様キサマキサマキサマKISAMAKISAMAKISAMAぁぁぁぁAaaaァァァァッッッAAAAAAAAッ!!!!???】
王国の歴史上たった1度しか誕生したことのない、大魔術師が魔法の実験に失敗したことで魔力を制御できなくなったことで生まれた最悪の化身。
生まれてしまったソレを倒した功績によって、爺ちゃんと婆ちゃんが国一番の英雄と呼ばれるほどの存在になれたほどの―――強大すぎる、【敵】
それが今の、カート。
カートが成ってしまった、モノの名前。
「ま、マジかよ・・・ッ。
本当に―――【魔人化】、しやがったのか・・・っ!?」
【Guuu・・・、uaaaa―――ッッ】
真っ赤に染まり尽くした深紅の両眼。
言語機能を損失するほどに理性を奪われ尽くした人格。
そして―――人間の限界を遙かに超越した強大すぎる魔力量。
どれもこれもが、魔人がもつ特徴を現しているモノばかり。
カートは今、伝説の英雄が倒して伝説となった魔物と―――同じ存在になったのだ。
「オーグ・・・みんなを連れて逃げろ。ここは俺が、なんとか食い止めてみる」
「シン!? まさかお前・・・バカな! お前も一緒に逃げろ!!」
「魔人を王都に放つわけにはいかないだろ・・・? なら俺がやるしかないさ」
「ならば私も残る! 王家に連なる者として、その義務は本来、私が果たすべきもののはず! ならば―――」
「お前、今まで一度も魔物を狩ったこともないんだろ・・・? そんな奴が何言ってんだよ」
「うっ!? それは・・・・・・」
痛いところを突かれてオーグは呻く。
たしかに王家の嫡男として簡単には死ねぬ身の彼とはいえ、兄弟姉妹が他に一人もいないというわけではない以上、王家の名誉や誇り、そして時には王族とは務めと責任を果たすために命をも捨てる存在だと示すことで、王家と王国そのものとを守るため使い捨てることすら由とする―――そういう選択を選べるのがオーグという王子の得がたい美点ではあったが・・・・・・時と場合による。
命を捨てることで、その死が何らかの意味なり効果なりをもたらせるなら、それなりに価値もあるかもしれなかったが・・・・・・ただ無意味に無駄死にするだけなら・・・それは、無駄だ。
「私が残るのは・・・・・・“私たち”は―――邪魔か・・・?」
「ああ。――――邪魔だな」
「ふむ。―――私が残るのも邪魔かね?」
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ものすごく判断と返答に困らせられる質問が、この場にいるメンツの中では一番弱そうで小っこい見た目の、平時はスッゴく邪魔で有事のときにも役立つのかよく分からん同級生女子から放たれる。
休み時間中に昼食を食べながら語り合った話によれば、この国では貴族であっても去年まで中等部だった学生が魔物を倒すなんてしたことないのが普通らしい。
ハイドとて曲がりなりにもアールスハイド王国の貴族令嬢であることには違いない。一応は、一応はだが、それが事実。
・・・・・・ただまぁ、それはそれとして『普通は』という部分が当てはまる奴かは微妙なのも事実な訳でもあり。
「ハイド・・・さっきは聞きそびれたけど、お前も魔物を狩った経験はあるか・・・?」
「残念ながら・・・・・・ない。貴族として武の家に生まれた一員として、いずれは果たさねばならぬ日が来ると承知してはいることだが・・・・・・しかし、殺生だけは私には・・・・・・」
「そうか・・・・・・やっぱ優しい奴だな、お前って。だが、それなら今回はオーグたちと一緒に逃げてくれ。
俺以外でシシリーたちを守れるのはお前しかいな」
「ただ、拳で語り合った経験でよいのであれば数百合ほど程度なら。
初等部への入学が決まった記念にと、父が魔物の巣として知られる崖から私を落とし、アイ・キャン・フライと叫んで友情を深め合いに赴いた思い出は、今なお消えることなく我が胸に」
「じゃいいよ!? 残っていいよ! 殺したことないだけで倒した事ありまくる奴が人道家みたいなこと言うなよ!! 本当に優しくて殺せない人達に謝れッ!!」
一瞬にして手の平返しで、後方への搬送から最前線送りへと立場逆転の左遷っぷりが凄まじいハイドの扱いだったけど、コイツの場合は妥当としか思えないのが不思議ですね。
と言うわけで、魔人化カートVS英雄の孫シン&自称英雄ハイド連合の死闘が、今はじまりを迎える!!
「――ん!? いや待てシン! カートの口が何やら動いているように見える・・・・・・まさか、言葉を発しているのか!?」
「なんだって!? 魔人化した人間は理性を失って言葉を話せなくなってるはず・・・なら、もしかしたら!」
慌ててシンは戦闘態勢を説くことなく、空を操りカートの口元から漏れ出している小さな声のようなものを拾い集める集音のための魔法を発動させる!!
疑問は最初からあったのだ。詳しく知っているわけではないとはいえ、爺ちゃんから聞かされた話では、魔人は人間が簡単になれるような存在ではなかったはず。
前回の祖父が討伐して英雄になったときにも、魔人となった相手は高位の魔術師だったと聞かされている。
たかが高等魔法学院に入学したばかりのカートが、魔人化できたのには何か理由があるはずだった。
もしその理由が、何らかの条件によって発動するものだとしたら、今のカートは完全には条件を満たしていない、まだ魔人には変わりきっていない状態で留まっているという事かも知れない。
可能性は高くないだろう。むしろ0に近いほど低いはず。
だが、少しでも可能性があるのなら・・・カートが自分のせいで人間を辞めて魔人化してしまったのを治してやることが出来るのなら!
どんな小さな希望にだって―――俺は喜んで手を伸ばしてやるさ!!
(だから―――聞かせてくれ、カート! お前の想いを!
人間として、お前に残されている心を聞けば、俺にも何か・・・・・・まだ何か手が残っているかも知れない! だからッ!!)
そう思い、そう願って、カートが高速で口元を動かしながら、何事かを語っているようにも見える、その言葉をシンは集め、耳を傾け、そして―――
「・・・絶望の闇が俺の心を包み込み、誰にも理解されることなき俺の孤独なる魂の叫びが、永久凍土の地獄の果てへと響き渡り、煉獄よ、冥府よ、失意の嘆きがバラバラに砕け散った俺の気持ちを甘美なる暴力の世界へと誘っていき、そして――――」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!???」
「(ビクゥッ!)ど、どうしたんだシン!? 何があった!?」
「どうしたもこーしたもあるか!?」
シン激怒! 今日何度目か分からないけど、とにかく激怒!!
厨二じゃねぇか!? 魔人じゃなくて厨二病患者の少年になっただけじゃねぇか!? 正真正銘本物の厨二だよアレは本当に!!
暗黒とか絶望とかダークネスとか好きになったタイプの典型だよ!! 超典型だよ間違いなく絶対に!!
「むぅ!? この魂の底から響くような慟哭の叫びッ! ・・・間違いない・・・我が一族に先祖代々伝えられてきた伝説が、まさか真実であったとは・・・・・・なんという事だッ!!」
「なんだと!? あれについて何か知っているのか! ハイド!」
「うむ、王子殿。実は我が一族には『魔人』なる存在について、真偽定かならぬ言い伝えが口伝のみによって伝えられておりましてな・・・・・・その口伝によれば魔人とは」
【魔人―――それは、恐ろしき存在。
人の悪意から発した憎悪により、憎しみにより、殺意により、悪感情の全てが限界へと達せし時。
純粋なる憎悪と殺意によって目覚めし伝説の超モンスター戦士。
彼のものの名こそ―――魔人成り】
「という口伝を・・・・・・そして我が一族の先祖は、この伝説にこう名付けました。
【魔人とはチューニ伝説】とッ!!!」
「やめろぉぉぉぉぉぉっ!? 俺の爺ちゃんが倒した敵が、なんかスッゲぇしょぼかったみたいに感じるネーミング付けてんじゃねぇーッ!!」
【シ・・・ん・・・・・・うぉるフォー、DO・・・・・・SIN、うぉLフォード・・・・・・ウォルフォードッ!!!】
「お前もやめい!? 言ってる内容がなんか思い出すんだよなんか! 本当の伝説の悪の戦士っぽいナニかをものスッゴく!!」
【Kiee、SaaaッMAAaaaaaaッッ!!! オレは魔人というナノ悪魔ダァァァァァァッッ!!!】
「やめろっつってんだろうがぁぁぁぁぁぁぁッッ!!??」
周囲が自覚なく知識なくボケまくる奴ばっかなせいで、ツッコみまくって叫びまくりながら戦う羽目になる英雄の孫シン・ウォルフォード!!
そんなことやってる場合じゃないのは分かっているんだけれども!! それでも!
前世知識があるとツッコまずにはいられない、転生者の悲しき宿命がここにある!!
ズバンズバンズバウゥゥッン!!!
ズドバババァァァァッン!!!
「むぅっ! なんという力・・・なんと言う魔力! これが・・・これが先祖の残せし【闇の王道】によって得た力というものなのか!!」
「【闇の王道】・・・! これほどの力を発揮できるようになれるものが、闇の・・・王道だというのかっ!」
「いや、厨二だよ!? ただの厨二だよソレは! 厨二を言い方変えただけだろ絶対にソレッてぇ!?!?」
【UGGGGOOOOO!!! SIiiin・・・、うぉル・・・、フォー・・・・・・DOOOOOOッッ!!!
喰RAE!! 《琰魔焦熱地獄(エグ・ゾーダス)》!!!】
「だから止めろってんだろうがぁぁぁッ!?
なんか今、ルビ見えたような気がしたんだけど!? 字と名前が何の関係ない名前っぽい字が見えた気がしたんだけどオイぃぃぃぃっ!!!」
闇に落ちて絶望に染まった暗黒っぽい名前と力を振るいまくりながら、英雄の孫へと急速接近を果たそうとしてくる魔人版カート(不完全)!!
力づくの決着を求めようとする相手に、シンも遂に希望を捨てて鬼に成り、相手を救うためにはもう――――この手段しかない!!
そう思い決めて右手の平に―――鋼鉄製の塊を、瞬時にして産み出し、そして―――振るった。
「今だ! 背後がガラ空きであるぞッ!!!」
ガゴゴゴゴンッッ!!!
【BEVUSIッ!?!?】
ブォン!!
ただし。
シンが振るったときには、既にハイドが相手の背後に一瞬にして回り込んで、力任せにぶん殴り、地面に超スピードで突っ込まされた後だったので、スカッと空振りするだけで終わっただけだったけれども。
そして後ろから馬鹿力でブン殴られたカートはと言えば。
ズッブボボボボボボッン!!!
・・・・・・頭だけ地面に埋まりまくって、頭から舌の胴体全てが地上から生えたまんまになった姿で、なんかピクピクした状態で動きが止まってしまった後になっていた。
普通の人間だったら確実に死んでるギャグ漫画みたいなポーズだったけど・・・・・・魔人だし。
たぶん大丈夫なんだろう、ピクピクしてるから―――そういう風に割り切るしかない。
そんな・・・・・・王国の歴史上、二度目に起こった最悪の災厄の終結仕方。
それが―――コレ↓
【・・・ピク・・・ぴく・・・・・・PI・・・Ku・・・・・・】
「戦いは終わった・・・・・・だが、これで全ての魔人の脅威が去ったとは思えぬ。必ずや第二、第三の魔人が、闇の王道の魔力に魅せられて現れることだろう。
人の欲望が、闇の王道に魅力に抗えぬ限り何度でも・・・・・・」
「お前・・・・・・今思ったけどソレ、厨二じゃなくて『お約束』って意味だったんだな・・・・・・もういいけどさ、今更どうだって・・・」
【ピク・・・ぴく・・・PI・・・Ku・・・・・・ぐふっ(ガクリ)】
つづく