その後……
その中には…マホーグの姿もあった。魔法と呪法等により、いわゆる意識酩酊だった彼女の場合聞ける範囲の情報だけ聞き出すだけなのだそうだ。洗脳による犯罪行為、それにより回復させてからの行動になるので短くても1ヶ月程は自由行動は難しい立場になるそうだか…それでも、他の面々に比べればほぼ無罪の扱いですぐに解放されるとの事だ。
「━━━とまぁ、ここまでは聞いてたけど…俺にはそこまでする必要は無いんじゃないの…?」
「仕方ないよ……」
そして現在、マルクは隔離されていた。怪我がウェンディの魔法で治らなかった…という訳では無い。単なる検査入院だ。何せ体を1度乗っ取られているのだ。しかも体も異形となっており、肉体の構成や精神面の問題も見なければいけない。当然専門的…というか、本来起こりえないことではあるので見られる人物は限られていく。
「だから私が見るという話なのよ」
と言いながら、何故かナース服のアイリーンが出てくる。エルザもそうだが、存外この親子は似ているところがあるのかもしれない…とマルクは渋い顔をしていた。
「というか医者の真似事ってやっていいんだっけ」
「無免許はダメだけど、仮に肉体が悪魔化してたり呪力と魔力のバランスが崩れてたり、精神的に何か問題が起こってたら見れるのは私だけよ」
「分離エンチャントか…」
ただの医者ではマルクの異常を見逃す可能性が高い…というのは、既に彼自身に説明はされている。事実呪力や悪魔関連の知識が深い医者などという存在は、マルクたちの知り合いにもいない。ポーリュシカなら…?という考えも頭によぎったが、同時に同じくらいに『そんな訳ないだろ』という考えも頭によぎっていた。
「ま、治す訳じゃなくて分離するだけだから分離したあとの分の処理を考えないといけないのだけど……あ、そうだ。貴方の呪力、少し分けて欲しいわね」
「…なんで?」
「何が異物で何が異物じゃないかの判断するためよ…あいつの呪力の残滓ごと、あなたの呪力を抜かれたくはないでしょう?」
「……まぁ、それくらいなら」
そう言って、マルクはほんの少しだけ呪力をアイリーンに渡す。器用にもそれを浮かせながら、アイリーンは少しだけそれを観察した後に…再びマルクの中へと戻す。
「ほんと器用だな……」
「エンチャント自体、使える人は限られているから結構高等技術なのよ…まぁ才能もあるとはいえ、ほぼ慣れだけど」
そう言いながら、アイリーンはチラリとウェンディに視線を向けた後にマルクにエンチャント…をかける前の調査を始める。無言で過ぎ去っていく時間が、マルクは妙に気まずく感じていた。
何せ目の前にいるのはナース服のアイリーンなのだ、目のやり場に困るというよりも会話を振りたくないというのがあった。
「…何も突っ込まれないと、ちょっと腹が立つわ」
「自分からその格好しといて…!?」
「だって全然鼻の下伸ばさないんだもの…男ってこういう格好すると鼻の下伸ばして寄ってくるって言ってたわよ?」
「…………エルザさん?」
「あら、よくわかったわね」
「…そもそも………こいっ………恋人がいたり好きな人間がいる人がそう言うのに目を向けちゃダメだと思う」
「身持ちが堅いのね……でも多分……………いえ、やめときましょう」
「なんですか…!?今私のどこを見て何を言いかけたんですか…!?」
一部分を抑えてながら抗議するウェンディから、アイリーンは目を逸らしていた。マルクは意識を内に沈め、話を振られないようにしていた。こういう系の話題をする際、昔はすぐに顔を真っ赤にしてしまっていたマルクだったが…今はそんなことも無く…昔のように意識が飛ばなくなった分、気まずさだけが膨れ上がっていた………が、今の会話でふとマルクは思い至る。
「なんで俺しかいないのに
「……イタズラ?」
「最悪だこの最強エンチャンター!!」
マルク一人の狙い撃ちの為だけにやられた事に、ウェンディは頬を膨らませてマルクは頭を抱えていた。その2人の様子に軽く笑みを浮かべつつ…アイリーンはかざしていた手をマルクから離す。
「はい、終わりよ。特に問題がないようでよかったわ」
「なんだ、拍子抜けというかなんというか…まぁありがとうな」
「でも暫くは安静よ?」
「えぇ…」
「当たり前じゃない、疲れてるのよ体は…他のメンバーも休んでるんだから、あなたも休みなさい」
「うぐ…」
紛うことなき正論。事実、戦いの傷自体は治っている。それでも疲れきった体を癒すのには時間がかかるのだ。ウェンディの力も万能ではない、怪我や傷を直すだけならば簡単だが…体力はそうもいかないのだ。
「あぁ…それと…」
「ん…?」
「後処理は私とエレフセリアでやっとくから、貴方達は心配しなくていいわ」
「……まぁ、そう言うならいいけど…」
後処理も何も、既に逮捕されたあとだろうとマルクは思ったが…いわゆる裁判だろうか?特にマスターシンの刑は重そうである…と考えたマルク。事実実力者の2人がやってくれるのであれば、頼もしいことはないだろう。そう考えたマルクは、その日は大人しく横になって休むのであった。
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その日、その夜。星の光すら届かない暗闇の中の森の奥。脱獄していたマスター・シンはふらつく体を木に預けながら、ゆっくりと進んでいた。
「く、くくっ…魔封石をつけるだけで…安堵している、とはな…」
彼の持ち前の2つ呪法…それはマルクとの戦いの最中で、使われなかったもの。使わなかったわけではない、使えなかったのだ。2つの魔法、2つの呪法…計4つの術はシンが他の幹部からの呪力や魔力を受け取り、それらで魔法と呪法を形成した結果失われた……と思っていたのだ。何せ、計14の術なのだ。シン自身も持ちうる4つを犠牲にしたつもりでいたのだ。
だが今…その4つは復活していた。正確には魔封石を取り付けられているので2つだけだが。
「このまま…雲隠れと、行こうか…なぁに…時間はたっぷりある…傷を癒し、魔封石を外して…別の大陸に行くのもいいか…くくくっ…」
ほくそ笑んでいるシンは、ゆっくりとその歩みを進める。進んで進んで……進んだ先で、ふと足を止める。未だ日も登らぬ真夜中…なのにも関わらず、彼の目線の先には何やら薄い明かりが見えていた。
「なん、だ…?」
森の中、魔導士が通らないということはないが…不自然な灯り。無論日の出でも無く、明かりの大きさにしてはやけに暗い。薄い…と言うよりも暗い紫の明かり。
シンは警戒心を高める。彼の本能が告げていた、これ以上進むのはダメだ…早く逃げろ、と。しかし彼の体が言うことを聞かない。捕まってしまい、満身創痍の体は彼の指示に上手く従えないのだ。
「━━━久しぶり、と言うべきかしら?」
「貴様…!アイリーン・ベルセリオン…!!」
そうして現れたのは……緋色の女であった。生きているであろうことは察していた、察していたが…ここまで明確に姿を表すとはシンもあまり予想していなかったのだ。
「貴様が…姿を見せるとはな…!」
「それはそうでしょう?子供に執着するストーカーを対峙するのは…大人の役目なのだから」
「貴様…!」
「貴方は不死…だから、1つ手を加えないとって思ったのよね」
「貴様何を……うぎゅあッッッッッ!!!?」
そう喋るアイリーンは…シンに杖を向ける。その瞬間、シンは身体中に激しい痛みが襲いかかっていた。アイリーンの魔法のタネは分かっているが、何をどうされたのか…それがまるで判断できない。
「ぎッッッじゃ、貴゛様ァッッッッ!!」
「━━━━ふっ、『何をしたんだ』…とでも言いたげだな?…十把一絡げの人間を犠牲にした…根っからの悪魔が」
その時…雰囲気が変わった。アイリーンの纏う雰囲気が、まるでかつての
「まぁ…いい、冥土の土産に教えておくとしよう…貴様の体液に、『暴食の効果』だけを付与した。マルクの暴食…その力は、身をもって知っているだろう?」
「た゛ぃ゛え゛、ぎぃ……!!?」
唾液、血液、涙、鼻水、消化液………体には様々な体液が存在している。それら全てに、マルクの暴食を付与……つまりは触れたもの全てを喰らい尽くす物が、体液となっているのだ。
「その内…貴様の体は貴様自身の体液で喰らい尽くされる。まるで溶けるかのように喰らわれ消えていく。再生能力は異常な様だが、それよりも早く貴様の体は消えていく。再生能力があるだけ苦痛だろうな?痛みは…そのままなんだから」
体がまるで細かくちぎれていくような痛み。それが全身に広がりじっくりと染み渡るように進んでいく。痛みで涙を流す…などといった無様なことはしないが、体液が喰らい尽くしていくこの現状で…ほんの少しでも出血しようものなら、その出血は外から身を喰らい尽くしていく。
「不死であっても…それは寿命に限ってのこと。完全に消滅するまで喰らわれたら…死ぬしかないだろう?」
「ぐ、ぎ…あ゛ぁ゛…!」
「この大陸でコソコソとやっていれば良かったものを……『彼』を怒らせるからこうなるんだ…私は彼の味方をすると…そう決めたからな」
「ぐ、ぐぐっ……」
「━━━ま、看守とかの記憶の処理とかはエレフセリアがやってくれるって事だし…私も私の仕事をした事だし…今生の別れね」
そして、アイリーンの雰囲気が戻る。段々と喰らわれていくその様子を見て、まるでもう興味が無いと言わんばかりにその態度は女性的なものへと戻っていた。
「ごれ゛、ぐら゛ぁ゛…!」
「……あぁ、もう私の気が済んだのよね。だからもう終わらせるわ…『このくらいで死ぬと思うなよ』とか言いたいのだろうけど…個人的な鬱憤晴らしも済んだし、二度と手が出せないようにしといてあげるから」
「な゛━━━━」
そう言い放ち…アイリーンは『骨』『臓器』『筋肉』『皮膚』の順で同じように暴食を付与していく。当然それらは食い合い、身を削っていく。筋肉に付与された時点で喉や声帯は喰らいあってしまい、消えてしまっていた。
「それじゃ…もう二度と合わなくて嬉しいわ」
そう言って離れるアイリーン。未だその時点では辛うじて姿が残っていたシンだったが……程なくして、そこにはなんの痕跡も残らなかったのであった。