「……お、今日も起きてる」
「ま、マルク………来て、くれ…たんだ……」
「元気でいてくれてよかったよ、こっちを思い出してくれてるのも良かった」
「ウェン、ディ……が、頑張って………くれ、たから………後、ジェラール…と、シャルル、も……」
入院している部屋に入ってくるマルク。その姿は彼一人だけであり、椅子を寄せてマホーグが寝ているベッドの近くに座り込む。しかしマホーグはそんなマルクに目を合わせない…と言うよりも、見ようとしていなかった。
「……どうした?」
「わっ……たし……何、だか…許さ、れちゃった…みたい、で………皆、に…め、迷惑…かけた、と…思う、から…」
「いや、完全に被害者だから誰も迷惑かけられたなんて感じてないし…むしろ助けるつもり満々だったぞ?」
「……けど、なんだか…悔し、くて……」
「んん……」
どうしたものか、とマルクは悩んだ。事実としてあるのは、洗脳されてマルク達と敵対したということ。マルク達は洗脳された、ということに重きを置いているのもありそこに憤りを感じて取り戻すつもりだった。
だがマホーグが気にしているのは敵対したというところ。これ自体が事実なために、本人がそこの点を『迷惑をかけてしまった』と認識してしまっているのは変わらないのだ。
「わた、しが…もっと…抵抗して、たら…」
「けど、2人がかりで念入りにされちゃったんだろ?仕方ない…とは思うけど………あれ、そういえば使ってた魔法と呪法は?」
「……使え、なく…なってた。お医者さん、と…えと…あの赤毛の…」
「アイリーン?」
「ん……あの人、が…言ってること、合わせた、ら………人格、が…違う…時に、覚えた技…だから、出来ない…かも、って……」
「あー……」
理屈としてはマルクにも理解はできる内容であった。洗脳された時のマホーグは、別人格のグラサスという人格になっていた。そしてその際に勇気の魔法と暴食の呪法を持っていたが…今は、元のマホーグへと戻っているために使用不可能となっている……というのは理屈としては理解ができる内容であった。
「じっ……じっ、さい…どんなのか、は…わかんない……から、出来ない……」
「……あぁ、記憶にあんま残ってないのか、そもそも」
「ん……ところ、どころ…だけ………明確、に…は、お、覚え…てない…から………」
仕方ない、といえば仕方ない話である。そもそも洗脳とは言っても、『そう思い込まされていた』と言うよりも別人格を埋め込まれたと言った方が正確なまでに多く詰め込まれていたのだから。
「………ごめん、ね」
「………は?え、いや…今なんで謝ったんだ?」
「………覚、え……て、たら…力、なッ…なれた、のに……」
「あ………」
事実だけを語るのであれば、確かに心強い味方にはなれただろう。しかし今はマルク含むナツ達一行は
「……今は、療養しとけ。必要な時が来たらまた声かけるかもしれないしさ」
「んぅ……うん……」
顔を上げ一瞬不服そうな顔をしたが、マホーグはすぐに納得し笑顔を浮かべた。本人もわかっているのだ、無い物ねだりをしてもしょうがない…と。しかしそれでも、頭では理解できていても……心の方はどうしようもない。
それでも、今までのマホーグとして頼ってくれているマルクを見て…その優しそうな笑みが視界に入ると、自然とその不満も解消されていた。
「……そ、それじゃあ………頼、られ…たら、いっ…ぱい、力振ッ、振るう…ね」
「おう、頼んだ……あ、これお土産の果物」
「あ、ありがと……………あ…そ、そう言え、ば…」
「ん?」
「ここ…1人、で…来て、いい…の?ウ、ウェン…ディ……ほっぽっ…ちゃ、だめ…だよ?う、浮気…だから………ね?」
「ほっぽってない!ほっぽってない!!ウェンディに任されたの!『マルク一人で行ってあげて』って!!」
一瞬吹き出しかけたマルクだったが、すぐに弁明を行う。ウェンディ自身も、マホーグの為にマルク1人に行くように伝えたのだ。この後ウェンディ自身も一人で向かうつもりではあったが、まずはマルクから…と思った結果である。
「…ふ、ふふっ……冗談、だよ…ウェン、ディ…も、マルク…も、優しい、から……」
「……な、なんだ…びっくりした…」
「浮気、なんて…考えない、よ………あると、しても…」
「……ん?」
何故か妙な不安が湧き上がるマルク。少しだけ雰囲気の変わったマホーグに一瞬で身構えていた。そして対する当のマホーグは、その口角を釣り上げていた。
「2人の、子供の…乳母になって……」
「乳母って…」
「その後、家庭教師になって……」
「ん…?おい…?」
「子供と恋人になって…」
「ちょ、ちょっと落ち着けって…」
「そのまま結婚して、マルク達の家にみんなで住むの…」
「饒舌になってきてるなぁ………」
「……………………こ、これ、も…冗ッ……談……」
「の割には勢いが凄すぎるが…?」
冗談と言った言葉が、あまりにも珍しく饒舌に話しすぎていた。それが妙に冗談のように聞こえず、尚且つ薄ら寒さを覚えるほどにやる子を感じてしまっていた。
「……け、けど…いつ、までも…一緒にいたい……のは、ほんと」
「……」
「だっ、て……そ、の……えっ、と………」
「……ゆっくりでいいぞ?」
「んむ……んぅ……すぅ……はぁ……」
口をもごもごさせながら、言い淀んでしまうマホーグ。マルクからのフォローで少し落ち着き、深呼吸を行ってから…ゆっくりとその口を動かし始める。
「…好き、だから………マルクの、事も…ウェンディの…事も」
「……ん」
「2人に、対する『好き』は…違う……けど、今、は…そ…それ以上、にッ……2人、応援してたい、から…」
「ん、んんん……そう、か…ありがと……なんか気恥しいな…」
ちゃっかりマホーグが告白をしたような気がするが、それを理解してしまったがために若干顔を赤くするマルク。別段『そういう意味』で心が揺れた訳では無いが、好きと言われて…わざわざ違う好きとまで表現されてもなお友人関係の好きと思えるほどに彼は馬鹿では無い。
「…ふふっ」
「え、何……」
「照れ、てるマルク…初めて、見た……ずっと、見てた、のに」
「……ずっと、って言っても出会ってからだいたい3年から4年くらいだろ?もっとあった気もするけど…むしろ顔合わせてなかった方が長いんじゃないか?一時期後ろつけてたけど……」
「……その、一時期の期間は………………………あ、なんでもない…」
ハッとした顔で目を伏せるマホーグ。その表情と仕草は大袈裟で、まるで年相応に冗談を言い合う少女のような顔。しかし言ってることは、マルクからすれば洒落にならない言葉でもあった。
「もしかして俺の思ってる一時期の期間って『ない』ほうが少ないレベルで長かったりするのか………?」
「…そ、それ、より……そろ、そろ…戻らなくて……いいの?」
「話露骨に逸らしたな………まぁ、確かにそろそろ時間だな」
「ん…じゃあ、また…ね?」
「ああ、また…なんかあったら呼んでくれよ?ウェンディ共々、駆けつけるからさ」
「ん…あり、がとう…マルク」
そう言って微笑むマホーグ。そしてふとマルクは気がついた。今まで冗談だと言っていたこと…それは、空回りしている元気の証だったのではないか…と。
,
「…はぁ」
病室で1人、溜息を吐く。恐らく空元気は見破られていることだろう。マホーグは一人気恥しさを覚えながらも、最後の言葉や自分を励まそうとするマルクの言葉…更に会話した内容1文、1単語に至るまで反芻する。
それらは自分を鼓舞する材料になる。罪悪感は凄まじくあり、きっとこれからも悩みの種となるであろう今回の事件。けれど同時に、強く強く願う。『マルクの為に』と『ウェンディの為に』だ。
「……わた、し…もっと……もっと……強くなる、から…」
言葉は欲望となり、欲望は渇望となり、そしてそれは強欲に幸せな未来を求める力となる。きっとこれからもマルクとウェンディは様々な冒険を続けるだろう。その横に、マホーグは並んでいたいのだ。
「……なんて、傲慢、かな……」
強いて言うのであれば、マルクの1番近くにいたい。いたいが、その席はウェンディだけのものだ。少しばかり嫉妬してしまうが、それは頭では確定していることである。ならば求めるは3番手。恐らく2番手にシャルルが入ってきているであろうことは分かるので、3番手を求める。妥協しているようで怠惰に感じてしまうが…マルクの1番になるのは、違うのだ。2番も、違うのだ。
「えへ、えへへ……マルク、ウェンディ……待って、て…ね……絶対……え、へへ…!」
顔を赤くし、色を知った女の顔。それを向ける相手には他の好きな相手がいて、その相手も彼女自身は好きである。嫉妬し、怒りを向ける対象ではない。なれば向ける対象は2人の邪魔をするものである。
「2人ははの幸せは…私がちゃんと…阻まれないようにしてあげる、から…!」
マホーグ・オロシ。魔眼を持ち魔法を壊す武器を持った魔導士。彼女が好きになったのは暴食の悪魔であり、滅竜魔導士である。彼女の好きな友人も、滅竜魔導士である。
その2人の力になるためにも、彼女はもっと力をつけようと目標を定める。
その三日後……彼女はその覚悟とジェラールと共に、フィオーレへと帰っていくのであった。
消えぬ
次回から原作の流れに戻ります