俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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キャラ崩壊と二次創作独自の設定や解釈があるのでご注意ください。


スーパーザンクティンゼル人の軌跡 Ⅳ
風のうわさにご用心


 ■

 

 一 騒ぐ奴らは何者だ

 

 ■

 

 ある平和な島がある。かつては小さいながら鉱山があり栄えた島だったが、いつしか鉱物も取りつくされ、穴ぼこになった山と小さな村が残った。

 しかしかつての様に栄えておらずとも、村人達は細々と平和に暮らしていた。鉱山を掘るピッケルを畑を耕す鍬に持ち替えた先人達から続く畑は、村人達の胃袋を満たすのに十分な量の野菜を実らせる。

 鉱山が閉山されてからは、山からのゴミが減ったのだろうか水源から流れる川の輝きは増してゆき魚の姿が増えた。鉱物も無くなり何年も放置された鉱山には、何時しか穴ぼこを埋めるかのように逞しく草木も生えその木々に実る木の実とそれを求める鳥も増えるようになった。

 こうして鉱山で栄えた島は、年月を経ていたって平和などこにでもあるような島へとなったのだ。

 

「──酒はまだかおいっ!!」

 

 だがそんな島にあるのどかな村の、これまたのどかなで趣のある食堂から似つかわしく無い粗暴な声が響いた。

 

「へえ、ただいま……」

 

 その声に答えたのは、弱り切った店主の声だった。店主と店員が慌てた様子でお盆にのせれるだけの酒やつまみをのせて声の主の下へと運んだ。

 

「へへへ、遅いじゃねえか」

「ちょいとアタシにもよこしなっ!!」

「こっちにももってこい!!」

 

 粗暴な声の主は、黒い鎧を着こんだ2mを超えるドラフの大男だった。男は店主が持ってきた大瓶の酒を奪うようにして掴み、そのまま口に流し込み始める。

 男以外にも乱暴な口振りの男女が何人も席を占領している。今この店には、この男達以外の客はいなかった。

 

「す、すいません……なにぶん人手が無いもんで」

「んなこた聞いてネェっ!!」

「ひえっ!?」

 

 男の仲間の一人が謝罪する店主に向け手近にあったショットグラスを投げつけた。酔って手元が狂ったのか、元々狙っていないのか、投げられたグラスは店主の顔を逸れて壁に向かって飛んでいきガラスが砕ける音と共に床へと飛び散った。

 

「手前らァ~? 誰がお前らの村守ってやってると思ってんだァ!?」

「そ、それは勿論皆様です……」

「だなぁ~? ならその俺達に礼をするのァ当然じゃァねえか!! それをてんめえごたごたと」

 

 酔った勢いもあるだろうがネチネチとした言い方をするエルーンの男。店主はただ弱々しく頭を下げるしかなく、周りの店員も助けることが出来ず申し訳なさそうにいそいそと酒と料理を運んだ。

 

「ちょいと止めときな!! くだらないことネチネチ言ってんじゃないよ!!」

 

 エルーンの男の小言を遮ったのは、ヒューマンの女だった。派手な化粧品とこれも派手な衣服を着た女だが、その口振りは男達に負けず荒々しい。

 

「店主さん悪いねえぇ……こいつ酔うと延々小言いっちまうんだよ」

「へ、へえ……」

「けどね店主さん? こいつの言う事ももっともだよ……アタイ達はあんたらから“依頼”を受けてんだ。その時前払いも了承したネェ?」

「はい、た、確かにそうですが……」

「そうだねぇ? 今日もアタイらの仲間が必死に村を護ってる……そうだよねえ?」

「はい、はいそれはもう……わかっております。わかっておりますが、そのぉ……」

「その? その……なんだい?」

 

 僅かに穏やかに喋っていた女が、店主が何か言いたげにすると目を見開きズイッと顔を近づけ、細い指で店主の顎を持ち上げ視線を合わせた。顔立ちは整っている方なのかもしれないが、まるで人を食う山姥の如き威圧感を受け、更に酒と化粧品が混ざった酷い臭いと恐怖で店主は顔を歪める。

 

「ひいぃ……!? その、御礼はもちろん致します。致しますがその……大変心苦しいのですが、これ以上お店の品を“御礼”にしてしまいますと、私共も生活が……そ、それに彼女達にもこれ以上お世話は……」

 

 店主はチラリと店内で給仕として働いている若い娘達をみた。彼女達は、この店の店員ではない。人手が足りず駆り出された村の女達だ。だがやらされているのは、料理を運ぶような仕事ではなく、男共の傍で酒を注いだりと召使いのような事をやらされていた。何よりもその表情は、男達に怯えた様子で嫌々仕事をしているように見えるのは誰が見ても明らかだろう。

 

「へぇ……?」

 

 店主の訴えに女は蛇のような怪しい笑みを浮かべた。店主は汗がどっと出て蛇に睨まれた蛙の如く動けなくなる。

 

「ちょいと“団長”? この人はアタイらに御礼はしたくないって言ってるよ!!」

 

 女は店の一番大きなソファー席で足を組んで座りながら酒を飲むヒューマンの男に向けて叫んだ。男は優男といった風貌ながら、威圧感ある睨みを店主にむけた。手に持ったワイングラスの中身を一気に飲み干すと立ち上がる。酔って身体が火照ったのか、シャツのボタンを外して開けていた男の胸元には睨んだ顔をする蜥蜴の刺青が見える。男の周りにも給仕をやらされていた若い村の女達がおり、立ち上がった男と怪しい刺青の蜥蜴を見て小さく悲鳴を上げた。

 

「……店主さん。あなたまるで私達が無理やり御礼を出させてるように言いますね?」

「あ、あの……そのような事は」

「私達はあなた達村の人間を守ってる。“依頼”の通りにね。それであなた達は“依頼料”として快く礼をくれている。違うかな?」

「いや、それは……」

「違うか……な?」

「あ、あぁ……その」

「……まあいい。今日までの依頼料はもらったし、あなた達に辛い思いさせてまで礼なんて要らないからね。私達は直ぐにでもここを出ていこう」

 

 優男は「まあもっとも……」と言葉を続ける。

 

「私達が居なくなったら、あの盗賊共は大挙して押し寄せるだろうね」

「それはっ!! そればかりはお待ちくださいませっ!!」

 

 店主は男の言葉を聞くと血相を変え、慌てて男の下へと駆け出してわっと腕をつかんで縋り付いた。

 

「待て? だがこれ以上私達がいるのは迷惑なんだろう?」

「そ、そのような事は……」

「ああ、そうか──まだ店主の娘さん、それに他も何人かが残ってたんだっけねえ」

「はい、はい……その通りです。お願いでございます!! それに私共だけではとても村を護るなど……お、御礼はなんとか用意いたしますので……どうか、どうかまだ村に!!」

 

 店主の言葉を聞きながら、男は冷徹視線を腕に縋り付く店主に向けている。あのドラフの男や女達と言えば、ニヤニヤと笑いながらそれを見ていた。

 

「せめて娘達を助けるまでは何卒……っ!!」

「……いいだろう」

 

 男は店主の言葉を聞くと腕を払いのけ、再び席へと座った。

 

「まあ安心しなさい。私達がいる限り村は安全だからね……ふふふ」

「そうそう!! 流石俺達の団長だなあ!! どうだ安心したかぁ? うれしいよなぁ!!」

「はい……はい……」

「素直でけっこーだねえ!! オォ~ッホッホ!!」

「んふふ……まあ盗賊の事は全部任せておきなさい。娘さんだって助けてあげますよ。この私達──【星晶戦隊】がね」

 

 ──ギャハハハハ!! 

【星晶戦隊】を名乗った荒くれ達の笑い声に包まれ、店主はガックリと膝をついて項垂れながらも頷いていた。己の無力を呪い、こんな者達の力を借りるしかないこの村の限界を嘆いた。

「どうしてこんなことになってしまったのだろうか……」──そんな店主の嘆きは心の内にしまわれた。

 

 ■

 

 二 奴らが噂の騎空団……? 

 

 ■

 

 それは、一週間ほど前の事だった──。

 平穏な生活を送っていた村で突如今まで誰も聞いた事もない絹を裂くような悲鳴が起きた。

 

「騒ぐんじゃねえ手前ら!!」

 

 村の家々から住民が飛び出して見たものは、如何にも荒々しい盗賊団の襲撃だった。盗賊達は、恐怖し戸惑う村人達に銃を向け、更には数人の村娘達をとらえその柔肌へナイフを添わせている。

 

「手前ら、この娘共は預かった!! わかるだろう、人質だよ!! いいか、手短に話すぜ!! 要求は単純だよぅく聞きな!!」

 

 盗賊達は直ぐに略奪を行わず、怯える娘達を盾にして村人達へ幾つかの要求をした。盗賊が言ったように要求は単純、「食料をよこせ」の一つ。

 事件らしい事件などなにも起きない島での凶事に村人達は狼狽えるばかりだった。助けを呼ぼうにもここは小さな島の小さな村、この異変に気付く村などは近くになく、まして平和に暮らしていた村人達に戦う力はなかった。

 このままでは自分達の食料が根こそぎ取られてしまう。だが人質は自分達の家族、家族同然の村の仲間。それも若い娘達だ。村の大人達は、恐怖よりも悔しさをにじませ素直に食料を差し出そうとした。

 だがそんな時また新たな一団が現れた。

 

「──お前達何をしてる!!」

 

 はっと村人と盗賊達は、声の方を見た。そこに武器を手に持った屈強な騎空士の集団がいた。

 

「盗賊か、悪事とあれば見過ごせん!!」

 

 颯爽と現れた騎空士達は、すぐさま状況を理解したのか次々盗賊達を打ち負かしていく。人質となった娘達も何人か助けられ、天の助けかと村人達は喜び歓声をあげた。

 盗賊達も突然の騎空団の乱入に慌てた様子で引き返していった。

 

「安心しなさいみなさん!! 盗賊は我々──騎空団【星晶戦隊】が追い払いましたよ!!」

 

 逃げてゆく盗賊を深追いせず、山の方へと消えていったのを見て騎空団の団長である優男は、高らかに叫んだ。

 騎空団【星晶戦隊】──その名前を聞いた村人の何人かは、驚き声をあげる。その騎空団の噂は、この村にも住民にも届いていた。たまに訪れる行商人から、妙な噂が多いがとにかくとんでもなく強い騎空団として聞いた事があったのだ。

 退散した盗賊、頼もしい騎空団。助かったと安堵する者もいたが、しかしまだ悲鳴を上げる者もいた。「うちの娘がいない……!!」「うちのもだ!!」──盗賊はどさくさ紛れ人質を数人連れ去っていたのだ。

 狼狽える村人に団長は優しく声をかけた。

 

「落ち着いて皆さん、我々が何とかしましょう!! 娘さん達も助けてみせます」

 

 その言葉がどれほど頼もしく感じただろうか、娘を連れてかれた者の中には涙さえ流し感謝する者もいた。

 娘達を盗賊から助ける事、そしてその盗賊達から村を護る事を自分達に“依頼”してくれと騎空団の団長は、村の村長や大人達へ頼んだ。村側にすれば断る理由はない。騎空団であるなら依頼を受けて仕事をするもの、まして盗賊相手に命懸けで戦いながら人質も救出するならば相応の“依頼料”が必要なのは当然であった。村で出せる品であればなんでも払おう、多くの村人がそう思っていた。

 そこで更に団長の優男は、“依頼料”として前払いを要求した。それは盗賊から娘達を救助する間、村での寝食する場を提供してほしいと言う“前払い”だった。

「どうか家の店を使っていただきたい!!」──これに名乗りを上げたのは、娘をさらわれた者の一人でこの村で小さな食堂を営む男だった。自分達のため戦う騎空団に寝床と食事を提供する事になんの抵抗もなかった──少なくともこの時は。

 こうしてその日から村には、盗賊達から娘を取り返すため、そして度々襲撃の様子を見せる盗賊から村を護るために騎空団【星晶戦隊】が居座るようになった。

 だがこれは、村の不運の始まりだったのだ。

 盗賊達が現れた次の日、「盗賊の気配がある」と言って騎空団が村の外に出かけるとけたたましい戦いの音が村まで聞こえてきた。剣が交差する甲高い音に銃声、盗賊達の雄叫び。それらが聞こえるだけで村人達はすくみ上った。そして暫くすると騎空団が戻ってくる。みな無事だったがそれなりに消耗した様子だった。

 

「どうやら盗賊達もやるようだ。数が多いからアジトを作ったのかもしれない……」

 

 団長からそう説明を受けた村長は、破棄された鉱山の事を話した。曰く「あれは、破棄されてからは危険なので村人も近づかず、そのままのこされています。ただ、洞窟となった当時の採掘跡はそのままなので、アジトにするにはちょうど良いかもしれない」と。

 それを聞いた団長は、唸りながら、妙にわざとらしく考えこむ。

 

「娘さん達もそこに連れていかれたのでしょう。だがアジトを見つけてこちらからしかけるにも準備がいる。しばらくは、村を護りながら機をうかがおう」

 

 それからは団長は、仲間の団員達を“偵察”といって度々村の外へと出かけさせたりと色々指示を出していた。またほぼ毎日現れる盗賊からも村を護ってくれるので、最初村人達は大いに感謝していた。しかし──。

 

「今日も疲れたぜ……おい!! 飯と酒用意しなぁ!!」

「は、はい……!!」

 

 騎空団の面々が横暴な態度を取り始めたのはすぐの事だった。

 団長やその副団長を名乗る騎空団幹部達は、毎日休息の場として提供された食堂に入り浸り、あの店主の男には休む暇を与えぬほど食事と酒を催促して飲み食いを続けていた。そして「盗賊達を撃退してやった!!」と品のない笑い声と共に仲間の団員達が戻ってくると更に食堂は騒がしくなり、酒の臭いと下品な空気があふれ出す。

 意気揚々と帰ってくるのは構わない。だが店主としてみれば具体的な成果を聞きたかった。なにせ娘が攫われているのだ。気にならないわけがない。

 

「あ、あの……盗賊達は、いえそれよりも娘達は……」

「あぁ~……?」

 

 戻ってきた団員に恐る恐る店主が攫われた娘の事を尋ねると、酒瓶をラッパ飲みする団員の一人が鬱陶しそうに店主を睨みつけながら答える。

 

「あぁ~娘ね、まあ盗賊共は……特に何も言ってながったが無事だよ無事!! 人質にしてぇならなんもしてねえだろうぜ!!」

 

 実にいい加減な返事に思わず顔をしかめた店主。その表情を男は見逃さずクワっと怒りの形相を浮かべた。

 

「っだぁてめえ!? なんか文句あんのかぁ!?」

「め、滅相もない!? た、ただやはり私だけでなく他の家の娘も攫われてるので、どうしても心配で……」

「だから無事だっつってんだろうが!!」

「ひいぃぃっ!?」

 

 男は怒鳴り声をあげながら、酒瓶を机にたたきつける。酒瓶は底から砕け、あまりの剣幕に店主は床に尻餅をつき悲鳴を上げた。

 

「まあまあ落ち着けよ」

「おっと、へへへ……わりぃな団長、ふへへへ」

 

 怒鳴る男を宥めたのは優男の団長である。だが団員に「盗賊の相手をたのむ」と簡単な指示を出してからは、酒を飲んでいたこの優男の顔は、酔いで真っ赤になっていた。注意する言葉もどこか軽く感じられる。

 

「申し訳ない店主、うちの団員はひどく荒っぽくてねぇ……そう、うちの騎空団は“妙な噂”が多いだろうが確かにクセが強いんだ。すまない。まあ適当に食事をたのむ、満足すれば寝てしまうよ」

「いや、それは良いのですが……」

「わかっている。娘さん達だろう? 大丈夫、任せておきなさい。いやいや彼はああ言っていたが大丈夫だから。さあ、ともかく盗賊達の相手をしてきた彼らに食事を頼むよ」

 

 ここで店主も村の人間もみな、芝居がかった調子の優男に不信感を覚えるようになる。だが逆らえなかった。盗賊達に連れ去られた娘達を助けるには、この騎空団の力が必要だからだ。事実襲撃しに来る盗賊を追い返したりと仕事もしている。あの襲撃者達の声を聴くだけで村人はすくみ上りとても騎空団に文句は言えなかった。

 騎空団の言葉を信じ、なんとか盗賊達が倒されるまではと耐えることを選んだ村人達だったが、騎空団からの要求はエスカレートしていく。

「飯を食わせろ」「酒をもってこい」は当たり前。その食事の量はすさまじく、店主の店の食材や酒の在庫もみるみる減っていく。しかも「依頼料」として前払いの提供を約束した手前代金の請求はできない。そして更に騎空団の男共が、中でも優男が更なる要求として最初に助けた村娘達も給仕として呼べと言いだした。

「いくら何でもそれは!!」と殆どの村人が、特に娘の両親たちが声を上げた。それに対し優男達は「酒を注がせるだけだ」「悪いようにはしない」とこれもまた信用ならない言い分を述べ、そして「文句があるなら自分達で村を護れ」と帰ろうとする。

 ここで騎空団【星晶戦隊】の噂を聞いた者の一人が思い出す。この騎空団の団長は「ロリコンの年上巨乳好きで、幼馴染属性のホモの可能性がある着物女装っ子好きの腋フェチケモナー」だと聞いた事があった。

 嗚呼何たること、盗賊の次は悪魔の如き性癖デパートな団長率いる騎空団だったのだ。そんな男が村の若い娘達を要求するのは当然の事、下手をすれば人妻や男でさえ……断ろうものなら村を護る騎空団はいなくなりあの盗賊達が押し寄せ、助かった娘達さえ再び連れていかれ今度こそ村は全滅するかもしれない。

 そして肩を落とす大人達に娘達は寄り添い言った。「私達が騎空士様のお世話をするだけで村が助かるならば安いもの……」──止めろと言う言葉は、大人達から出ることはなかった。誰も言い出せなかった。

 それ以降村の食堂は、下品な騎空士のたまり場と化した。幸い娘達は、確かに給仕だけをやらされ乱暴こそされていない。だが村のため下品な目つきの騎空士の視線にも耐える娘達。必死に騎空士のため食料をかき集め提供する村人。なおも盗賊の襲撃に怯える日々が続く。

 最初出会った時の英雄にさえ見えた騎空団の姿が、今では盗賊団と変わらぬ、あるいはそれ以上に忌々しい姿に見えた。

 

「──んふふ……まあ盗賊の事は全部任せておきなさい。娘さんだって助けてあげますよ。この私達──【星晶戦隊】がね」

 

 ──そして時は今へと戻る。

 星晶戦隊の名が出た時、店主も店員も誰もが黙り込んでしまう。村に現れた希望の名は、何時の間にか恐怖の名へと変わった。

 

「……」

 

 そんな店の様子を、外からソッと覗き込む小さな影。齢12程の短髪で少し日に焼けた肌をしたヒューマンの子供が忌々しそうに店主達をこき使う星晶戦隊団長の姿を見ていた。

 

「……っ!!」

 

 歯ぎしりをしながら、その子供はその場から立ち去ったかと思うとそのまま小さな足で駆け出し、村の建物の影に隠れながら村の外を目指した。

 村は廃坑の山以外は、森に囲まれている。小さな島だが、他の村や島の端を目指すには、見た目以上の広さを感じるこの森を抜けなければならない。そしてその森の中に小さな子供が一人飛び込み走り続けた。

 

「はっ!! は……っ!!」

 

 荒く息を吐いて走った。なんとしてもこの森を抜け、他の村に、島の外に自分達の危機を知らせたかったのだ。

 しかしそれは無謀な挑戦だった。大人の足でも数日かかる森を子供が一人抜け出せるだろうか。森の中には狂暴な魔物も住んでいる。

 

「──待ちな坊主!!」

「っ!?」

 

 そして時に、魔物よりも恐ろしいモノも現れることもある。

 

「なにかコソコソ村から出たかと思えば……こんな遠くまで来やがって。森ン中追いつくのに時間かかったじゃねえか……おい、何しに行く気だ?」

「……」

「黙ってんじゃねえ!! 何する気かって聞いてんだ!!」

 

 怒鳴り声と共に現れたのは、あの星晶戦隊の仲間の一人だった。村から飛び出していった子供をみつけ、不審に思い後つけて追いついたのだ。

 男の質問に子供は、睨みつけ黙ったままだったが、男は苛立ちながら叫んだ。

 

「……た、助け呼びに行くんだ!!」

「助けぇ? なんのだ」

「ね、姉ちゃん達助けてくれる人呼ぶんだ!!」

「姉ちゃん……人質のことか……へへ」

 

 ニヤニヤと笑う男の視線に子供は恐怖を覚える。だが負けてなるかと震える足を必死に誤魔化そうと拳を握った。

 

「馬鹿言うなよ坊主、おめえの姉ちゃんは俺達が助けてやるよぉ……? 助けなんざ呼ぶ必要ねえ、な? 森はあぶねえ大人しく村帰んな」

「嘘だ!! そう言ってずっとお前ら盗賊やっつけないじゃんか!! 姉ちゃん達も助けに行かないでウチで飯食って遊んでばっかだ!!」

「ははぁ……おめ、食堂んとこの倅かよ」

「そ、そうだよ!!」

「はぁ~そう? へえ? ……てめえ誰に向かって舐めた口きいてやがる!!」

「あっぐぅっ!?」

 

 子供があの食堂の店主の子と知った男は、突然怒鳴り声をあげると子供の服を掴みあげ近くの木に押しつけた。

 

「遊んでばっかたぁ言ってくれるじゃねえか、あぁん!? 俺達ぁ毎日盗賊からおめえら護ってやってんじゃねえか!!」

「うぅ……!! じゃ、じゃあ早く……盗賊みんなやっつけろよっ!!」

「俺達には俺達のやり方があんだよっ!! おめぇの店で飯食うのも依頼料の前払いだろうが!! てめえの親父も村のやつらみんな承知の上じゃねえか、あぁん!?」

「そ、そうやって無理やり飯もなんもかんも奪うじゃないか!! お前らの方がよっぽど盗賊だ!! ほ、本当は盗賊なんて倒せないんだろ!? お前らみんな弱虫なんだ!! なにが星晶戦隊だ……名前ばかりのへっぽこ騎空団だ!!」

「この野郎……!! 子供だと思って好き勝手……このっ!!」

「ひっ!?」

 

 激昂した男は額に血管を浮かべ、木に押しつけた子供に向け拳を振りかぶった。殴られると思い目を閉じる子供。拳が迫るのを感じ痛みに耐えようと覚悟を決めた時──。

 

「──ぬおわぁぁああああ~~~~~────ッ!?」

 

 なにか上空から男の悲鳴が響いた。

 

「な、なんだ!?」

 

 振り下ろそうとした拳を止め、上を見上げる男。子供もまたビクビクと震えながらあたりを見渡した。悲鳴は確かに頭上から──いや、もっと上聞こえる。頭上より上、木よりも高い、空からだった。

 

「ち、ちくしょおぉぉ~~っ!? だから上からは嫌だって……ああぁぁ木いぃぃぃ!? ぶつかっぎゃあぁぁっ!?」

 

 悲鳴がなにか嘆きの声に代わったと思えば、今度は声の主が木に衝突しベキバキ音を立て枝を折りながら落下してくる音が聞こえてくる。

 

「あだっ!? のげっ!? いだだだぁ!?」

「こ、こっちに落ちてき──」

「ど、どいってっだばあぁぁ────っ!?」

「っぎゃああぁぁ──ッ!?」

 

 バリバリ──ゴスンッ!! 空から降ってきた何者かは、木を通り抜け落下。そのまま子供を押さえつけていた男と勢いよく衝突し、互いに悲鳴を上げて地面へと倒れる。

 子供の方は、その衝撃で解放され咳き込みながら何が起きたのか必死に確認しようとした。

 

「あだだ……くっそ、おのれのじゃ子……何度落とせば気が済むんだ……」

 

 落ちてきた者がなにか文句をブツブツ言いながら立ち上がった。体中に枝やら葉やらがまとわりついているが、声と木漏れ日で照らされて見える姿から、若い男、青年手前の少年と言った感じの風貌だった。だが顔の方は影がかかり見えない。少年は頭をさすりながら立ち上がると辺りを見渡し自分がぶつかった相手と呆然としている子供を見ると「あちゃぁ」と天を仰いだ。

 

「あぁー……怪我無い?」

 

 まず子供の安否を確認する少年。それに対し子供は、驚いたあまりまだ声が出ずとにかく頭を上下させることで答えた。

 

「ほんと? なら良か……ないか。悪い、驚かせたね。そっちのあんたは……ああ、ダメだ気絶してら……悪いことしたな」

 

 少年は衝突し気絶してしまった男を見て困った様子で頭をかいていた。

 何者だろう──子供は、妙に冷静になる自分を不思議に思いながらそう思った。村の人間ではないのは間違いなかった。村に来たことがある者でもない。生まれる前ならまだしも、小さな島の小さな村に来た事がある人間ならば、子供であっても多少記憶に残る。

 

「そ、そいつは気にしなくていいと思うよ……悪い奴だから」

「悪いやつ?」

 

 やっと声が出るようになった子供は、気絶した男を気にした様子の少年にオドオドとしながらも気にしないように言った。

 

「うん、そいつに殴られるとこだったんだ。兄ちゃんが落ちてきて助かったの。ありがと」

「ふぅん……? まあそう言う事ならいいけどね」

 

 少年は気絶している男をじっと睨んだ。

 

「ぅおーいだんちょおぉ~~!! 平気かぁ~~!!」

 

 すると上空から女の声が聞こえる。どうやら落ちてきた少年を呼ぶ声らしい。子供は空を見上げたが、重なり合う木々の枝が邪魔をしてその声の主は見えなかった。

 

「毎度の如く平気だよこの野郎ちくしょう馬鹿野郎!! お前またくしゃみで俺落としたなてめえ!? 三度目だぞ三度目っ!? お前に落とされるのっ!?」

「すまーん!! 花粉かなにかが鼻に入って我慢できなんだ!!」

「だからって俺を掴む両手を離して口をふさぐな阿呆ぅ!!」

 

 少年の「阿呆」の叫びが森に木霊する。

 

「ほんとお前は……えーいっ!! 俺はもういいから!! みんなこっちに案内してこい!! 多分道知ってそうな子いたから!!」

「あいわかった!! 直ぐ戻る」

 

 声の主が返事をすると、上空から風を切る音が聞こえなにかが高速で飛んでいく音が響いた。

 

「たくもう、俺が断るより先に飛びやがってあの野郎……」

「に、兄ちゃん今のなに?」

「ん? ああ、気にせんでいいよ。残念な説明になるから」

「そ、そうなんだ。それよりも……兄ちゃんどっから来たんだい? 空から落ちてくるなんて……まさか人間じゃなかったり……」

「人間なんだが?」

「あ、うん」

 

 木よりも更に高い位置から落下して傷一つない様子の少年を見て、子供は「もしや人型の魔物か?」とも思った。だが少年が心底不服そうに人間宣言をするものだから、ひとまずその言葉を信じることにした。

 

「こっちも訪ねるが坊や、ここら辺の子かい? 俺はこの先にある廃坑の村訪ねたいんだけど道知ってる?」

 

 少年が“廃坑の村”と言った時、子供は目を見開いた。

 

「に、兄ちゃんオレの村に行く気かい!?」

「おや、やっぱり君の村か。ちょうどいい、良ければ道案内を頼みたいんだけど」

「それより助けてほしいんだよぅ!!」

「む?」

 

 子供は泣き出しそうな声で少年に訴えかけた。自分達の住む村の現状全てを──。

 

 ■

 

 三 落ちてきた希望

 

 ■

 

「──……そうか」

 

 盗賊の襲来、騎空団星晶戦隊による暴挙。それを聞いた少年は、険しい顔を浮かべ唸り頷いた。

 

「坊や、確認だけどね……その騎空団は確かに“星晶戦隊”を名乗ったんだね?」

「う、うん」

 

 返事を聞いた少年は、今度は頭を抱えて深いため息を吐く。

 

「うわぁ……まさかと思ったけど、そんなことになってたか……」

「兄ちゃん、あいつらの事知ってんのかい?」

「……まあね」

 

 星晶戦隊の名を聞いてどこか含みのある反応をみせる少年。どうやら星晶戦隊を知っているようだったが、詳しいことは話さなかった。

 

「君も奴等について知ってたみたいだね」

「……うん。行商の人とかからたまに話聞いたんだ。オレ騎空士に憧れてるから」

 

 この子供は、小さな島の小さな村で広い空の冒険を夢想するのが好きだった。島での生活に不満があるわけではなかったが、幼い冒険心は常に空の果てへの浪漫に焦がれていたのだ。

 

「前にすっごい騎空団があるって聞いたんだ。それが星晶戦隊……星晶獣が仲間で、他の団員もとんでもなく強くって、どんな悪い奴にも負けないんだって……。父ちゃん達大人は、星晶獣が仲間なわけない、話が大げさになってるだけだって言って、なんでかあんま星晶戦隊の噂オレに知られたくなさそうだったけど、行商の人から星晶戦隊の話聞くの好きだった。新しい話聞く度に色んな活躍してて……本当に凄い騎空団だって思った。……だ、だからあいつら来た時本当に嬉しかったんだよ。あの星晶戦隊が来た、オレ達助かるんだって……な、なのにあいつら!!」

 

 星晶戦隊の村での行いを思い出し子供は、わなわなと震え怒りの声をあげ、気絶する男を睨みつけた。

 

「盗賊を倒すどころか毎日うちの店で好き放題さ……!! 盗賊には怯えて暮らして、村のみんなもう限界だ……。それでも父ちゃんは姉ちゃんが、盗賊に攫われちゃったから……必死にあいつらの機嫌とってるけど、まともに休めてない……。父ちゃんあいつらに殆どの食い物出しちゃったからろくに飯食えてないのに……オレにだけは飯用意して……く、悔しいよ!! オレだって父ちゃんの子なんだぞ!! 家族なんだ!! 姉ちゃんが助かるなら一緒に我慢できるんだ!! なのに、「父ちゃんは大丈夫だからお前は食っとけ」って……だから、だからオレ助けを呼びに行こうとしたんだ。盗賊も星晶戦隊(あいつら)も追い出してもらいたくて……けど、みつかって……そしたら兄ちゃんが落っこってきて……それで、それで……」

 

 子供の言葉に徐々に涙が混じりだす。拳を握りしめ、今まで我慢していた悔し涙が溢れてしまう。

 子供にとって、もはや星晶戦隊は当てにならない存在となった。それ以下とも言っていい。他の村人もそう思っているが盗賊から自分たちを護ってもらいそして人質を助けてもらうため耐えている。だがそんな光景を見ていたこの子は、最早我慢の限界だった。それは幼さのためではない。姉を攫われ、虐げられる父を見てこれ以上盗賊にも星晶戦隊にも好き勝手させるわけにいかないと思ったのだ。

 

「なにが、なにが星晶戦隊だよ……!! 星晶獣もいやしない!! いるのは盗賊と変わらない無法者ばかりだ!! 父ちゃん達の言う通りだった……全部嘘っぱちだったんだ……あ、あんな奴らに憧れたなんて……くそう!! くそうっ!!」

 

 少年はジッと子供を見ていた。話を聞いて、なにか真剣に考えているらしく、気絶した男を一睨みすると小さく「うむ」と呟いた。

 

「よく頑張った」

 

 少年は一枚のハンカチを取り出すと子供に渡した。

 

「村に着く前に君に会えて良かった。村の事が先にわかったからね」

「あぅ……に、兄ちゃん?」

 

 渡されたハンカチで涙を拭きながら、子供はやおら立ち上がった少年を見た。

 

「もう大丈夫だ、って言ったら……信じてくれるかな?」

「え?」

「村も君のお父さんもお姉さんも俺が、俺達が助ける」

「ほ、本当……っ!?」

「ああ、すぐに全部終わらせる。盗賊も……星晶戦隊の奴等もなんとかしよう」

 

 子供は涙も引っ込み声を上げた。

 

「兄ちゃんがあいつら追い出してくれるの?」

「ああ」

「盗賊も?」

「ああ」

「姉ちゃんも助けてくれるの?」

「ああ」

「ほ、ほんとのほんとかい?」

「ほんとのほんと」

「それじゃあ、けど……そう言ってくれるのは嬉しいけど。やっぱり無理だよ。星晶獣はいなかったけど、あいつら強かった……盗賊だって大勢いて……兄ちゃんが誰か知らないけど、一人じゃ……やっぱり助けを呼びに──」

「俺だけじゃない」

 

 また俯きだした子供の肩を掴み、少年はジッと視線を合わせる。

 

「言ったろ、“俺達”がやるって」

 

 少年が笑みを浮かべ答えた時、近くで木々が軋む音がした。“ドシ……ドシ……”と巨大な何かが歩く音がする。それに驚いた鳥達が慌てて枝から飛び立った。

 

「だんちょおぉ~!! 戻ったぞぉ!!」

 

 先ほどの女の声がまた空から聞こえる。見上げてみれば、今度は木々の隙間から上空でなにかが羽ばたき旋回しているのが見えた。

 足音は更に増え近づいていた。大きなその足音だけではない、もっと大勢の人間、そしてそれ以外のナニかが少年達の下に近づいている。

 

「ダンチョウ (´・ω・`) ダイジョウブ?」

「マタ今回モ派手ニ落チタナ」

『遠くからもよく見えた』

「──!!」

「空しい悲鳴もよく響いていたな」

「こ、こんなんばっかだね……」

 

 木々を草のようにかき分け姿を現した黒の巨人。それに続く更なる超常の存在達。

 

「あわ、あわわわ……に、兄ちゃん……兄ちゃん達は、いったい……!?」

 

 憧れは偽りと思った小さな村の子供は、その日噂が真であることを知る。

 

「俺達は──」

 

 ■

 

 四 星晶の威を借る

 

 ■

 

 ──この日“男”は上機嫌だった。好きなだけ酒を飲み、好きなだけ飯を食べ、好きなだけ女を侍らせる事が出来る事に浮かれていた。

 この“男”──星晶戦隊の団長を名乗る優男は、元々ケチな詐欺師だった。善良ながらも世間知らずのカモを見つけては、うまい話を餌に騙して哀れな被害者から金を奪う、そんな事を繰り返す。

 人を騙し、金を奪い、優越感に浸る。そのような男だった。

 ある日“男”は、相変わらずケチな儲け話を考えていた時にとある騎空団の噂を聞いた。比較的新しい騎空団らしいが、なんでもとんでもなく強くその活躍の噂を聞かない日は無いとまで言われている。

 曰く、「星晶獣を仲間にしている」「エルステ帝国に喧嘩を売った」「七曜の騎士と乱痴気騒ぎをした」「団長が地味」「けど強いらしい」「ロリコン」「ケモナー」「腋フェチ」その他云々……だんだん意味の分からない噂が増えていったが、とにかく尋常ではない騎空団だというのはわかった。妙な噂ばかりなのは、特に珍しいことではない。広い空では噂ばかりが広まり多くの者がその実像を知る事が難しいからだ。

 ここで詐欺で人を騙し生活していた“男”は、あるアイディアを思いついた。

「こいつらの名前、利用できるな」──詐欺師の頭に、様々な狡計が浮かんだ。騎空団と言う存在が騎空艇で島々をめぐるこの世界では、著名な騎空団の“なりすまし”が問題になる事がある。名の売れた騎空団を騙り、金銭を騙しとる犯罪行為だ。この“男”が思いついたのは、まさにそれであった。

 この“なりすまし”を行うには、幾つもの問題がある。そも問題の無い犯罪行為などあるわけがないが、“なりすまし”を行う側にとって最大の問題とは、当たり前であるが“ニセモノとバレる”ことだ。

 その点でこの星晶戦隊と言う騎空団は、ある意味で都合がよかった。妙な噂が多くとにかくあらゆる噂がそれぞれで独り歩きしており、騎空団の団長である男の情報が少ない。地味な少年だという話はあるが、それも不確かだ。そしてなにより、星晶獣を仲間にしているという話、これが“男”にとって実に都合がよかった。如何にも“嘘っぽい”のだ。

 

「星晶獣を仲間にしてる騎空団……誰が信じる? 全ては噂でしかないと言われて、誰が疑う?」

 

 最大の特徴に思える星晶獣が仲間(しかも複数)である事は、反面多くの者にとって懐疑的に思われている。星晶戦隊は荒唐無稽すぎたのである。だからこそ、利用できる。

 普段は一人で詐欺を働いていた“男”だが、直ぐ仲間を募った。それも大人数だ。それこそ騎空団を立ち上げるような人数が必要だが、これは適当な盗賊団に声をかければすぐに集まった。

 人手が集まれば、あとはやる事は単純だ。事件を起こして、それを解決してやればいいのだ。

 まず詐欺を働く時の常套手段、世間と関わりが少なく戦う力を持たない小さな村、そして星晶戦隊が立ち寄った事のない島を狙う。犯罪を取り締まる秩序の騎空団などの組織が普段近づかなければなお良いだろう。そんな事は少し調べればすぐにわかった。

 そして目星をつけたら、入念に打ち合わせを行い部下となった盗賊達に村を襲うように言う。面倒になる殺しなどの刃傷沙汰は無し、とにかく盗賊達が攻めて来たのを装う。当然村の人間は恐怖し怯え狼狽える事になるが、そこへタイミング良く現れるのが“男”達扮する“星晶戦隊”だ。各々噂で聞いたような星晶戦隊の特徴を模した装備を着込み颯爽と現れ「この星晶戦隊が相手だ!!」と叫ぶ。それに対し盗賊役が「なに、あの星晶戦隊!?」と大袈裟に驚けば、仮に星晶戦隊の噂を知らない村人であっても名のある騎空団だと思うだろう。そこからは、打ち合わせ通り“盗賊団と騎空団の戦い”を演じるのだ。

 盗賊役を倒す必要はなく、追い返すだけでよい。それだけで村の人間達は大いに喜び感謝する。そして「もう安心だ」と声をかければ、自分達で要求するよりも先に村人は感謝の品だと言って金銭や食料を差し出してくれる。そこで自分達が星晶戦隊と言う騎空団だと言って更に助けた礼を要求したとしても、村人は特に疑問も不満も感じないだろう。そして十分な謝礼を貰ったのち“追い返した”仲間の盗賊達と、これもまた打ち合わせ通り合流し島から離れれば仕事は終わりだ。

 そしてこの仕事の成果は、“男”の想像以上だった。当初“男”は、この方法をずっと続ける気はなかったのだが、ニセ騎空団に助けられた者達が予想以上に謝礼を差し出すため、これを何度か繰り返すと、あっという間に集めた仲間全員に分配しても余裕のある稼ぎが出たのだ。

 なにより“村を救った英雄様”になるのは気分がよかった。ケチな詐欺師が一転尊敬の眼差しを浴び、感謝の言葉を贈られる。得るはずもなかった名誉を偽りながらも手にした“男”は、更に星晶戦隊の名前を利用し始める。

 マッチポンプでの盗賊退治に合わせ、星晶戦隊の名前での飲食や買い物の支払いのツケ。名前を利用した恐喝。勝手に星晶戦隊として依頼料前払いの依頼を受けて依頼料の持ち逃げ等々。最近では盗賊退治の時に村に居座り好き放題する事も増えていた。

 だが“男”はすっかり忘れていた。この仕事で重要なのは、余計な事をせず時間をかけないことだ。村を襲い、撃退し、貰うものを貰って早々に島を去る。星晶獣がいないのも「所詮噂」と言えばそれまでで、人々は簡単にニセ星晶戦隊に騙される。そうすることで、“男”自身の情報はほとんど残る事はない。あとはさして話題になる程でもない星晶戦隊による盗賊退治の活躍が増える程度で終わることが出来る。ほんの数回であったなら、見た事も会った事もない、居るのかさえわからない星晶戦隊に自分達の事が知られる事もないだろう。しかし成功続きのニセ騎空団として “男”達は各地で野放図極まる振舞いを続けてしまった。調子に乗ってしまったのだ。

 彼らは楽観的だった。「これだけやって、本物に会いもしなければ、それらしい話もない」「やはりあんな噂通りの、星晶獣が仲間の騎空団など居るわけがない」と思うようになってしまったのだ。

 あるいは、“男”がケチな詐欺師のままであれば、ケチな詐欺師に相応な対応で秩序の騎空団なりに捕えられただろう。だが“男”はよりにもよって星晶戦隊の団長を名乗ってしまった。

 

「──酒はまだあるだろう? さあもっと持ってきてくれよ!!」

 

 酒の催促をする“男”──星晶戦隊団長を名乗る優男。今回、獲物として選んだのは小さな島にある廃坑の村、そこに居座り手慣れたマッチポンプでの盗賊退治を利用した村人からの財産の搾取を続けた。

 村に盗賊退治の名目で居座り一週間経とうとしている。酒の酔いなど関係なく、彼の頭にはもう正体が露呈する不安や心配はなかった。「どうせ今回もうまくいく。用心するのは今度でいい」とケチながらも詐欺師として培った用心深さを完全に失っていたのだ。

 とは言え村で手に入る物も少なくなってきた。頻繁に外から人が来る村ではない事は調べてあるが「そろそろ潮時だろうな」と思い、明日あたり「人質を置いて盗賊は逃げ出した」とでも言って人質を救助した英雄を演じて立ち去ろうと考えながら、精々明日までこの村から搾り取れるだけ搾り取ってやろうと笑みを浮かべ、給仕として呼んだ村娘に継がせた酒を飲もうとグラスを傾けた。

 

「──居たよ、ほんとに……はぁ」

 

 だが酒を口に運ぶより先に突如開いた食堂の扉から聞こえたその声は、ニセ騎空士達の騒ぐ食堂で妙に響いた。

 

 ■

 

 五 よく喋るっ! 

 

 ■

 

 ぼやきと共に食堂の扉が開く。小さな声だったが、扉のドアベルが鳴ると店主達もニセ騎空士達も一斉に扉の方をみた。そこには、随分とくたびれた様子の──あの空から落ちた若い地味な少年が気だるそうに立って店内を見渡していた。

 村の者もニセ騎空団の面々もこの少年に見覚えはなかったため、目を細め怪訝な視線を送った。

 

「あーらら歓迎されてなさそう……そりゃそうか。面倒だねまったく」

「まあそう言わず、参りましょうか団長さん」

「へいへい」

 

 自分に向いた視線に対し特に気にした様子はない少年。するとそのそばに大きなリュックを背負ったハーヴィンの女性が現れる。彼女はニコニコと笑いながら少年をせかすと少年は頭を掻きながら、ふらっと風が運ぶ木の葉のように食堂へと足を踏み入れた。

 

「待ちな兄ちゃん、それとハーヴィンの嬢ちゃん」

 

 入り口付近にいたエルーンのニセ騎空士の一人が、空の酒瓶を少年の目の前に突き出しとめる。

 

「あ、下から失礼しまーす」

「おう……じゃねえよっ!?」

 

 だがヌッと突き出された酒瓶を見た少年は、そのまま酒瓶を潜って進んでしまい、思わず男も通しそうになったが慌てて大声で引き留めた。

 

「引き留めてんだから止まれこーゆー時は!!」

「いやあ、そう言う遊びかと」

「なわけあるか!! それより手前ら何もんだァ? 村のもんじゃねえな!?」

「ええ、まあ旅のもんですがね」

「ほうそうかい……だがわりぃが店ぁ貸し切りだ。帰んな」

「生憎そうもいかんのですよ」

「あぁん!?」

 

 睨みつけるエルーンの男、だが少年は怯えた様子もない。

 

「そう怒鳴らず、お兄さん随分酔ってんね。水も飲んだ方が良いよ?」

「……てめ、舐めてんのか?」

「舐めちゃないよ。身内に酷い酒飲みがいるんでね? 思わず心配しちゃって」

「この……!!」

 

 ニセ騎空士が酒瓶を振り上げ少年へ目掛け振り下ろそうとした。店主や店員が悲鳴を上げそうになる……が、次の瞬間。

 

「偉い人はあっちかね」

「って避けんなッタァ──ッ!?」

 

 酒瓶は大きく空振り、空ぶった分の勢いがついてしまい千鳥足のニセ騎空士はそのまま床に倒れ込んだ。少年はと言うといつの間にか優男の方へと歩いている。優男の方は、自分に向かってくる少年を睨みつけているが少年はそんな様子を気にしていないようだった。そして優男の目の前に来るとジッと相手を見て言った。

 

「聞きますが、“星晶戦隊の団長”さんってあなた?」

 

 静まり返っていた店内がにわかにざわつき始めた。ニセ騎空士達は今度は酒瓶ではなくナイフや剣に手を伸ばしている。

 

「……ええ、そうですが。君とそちらの方は?」

「俺は……まあちょっと星晶戦隊の団長に用があるしがない旅の者ですがね。こちらの方は……よろず屋さん」

「どうもどうも~」

 

 優男は穏やかな口調で少年に話しかけながら、仲間に武器をしまうようジェスチャーで伝える。

 

「そうですか……いや、初めましてお二人とも」

「……初めましてだってシェロさん」

「そうですねえ……初めましてですねえ、“団長”さん」

 

 奇妙にもよろず屋を名乗るハーヴィンの女は、どちらかと言うと横の少年の方を見ながら返事をした。

 

「ええと……どこで聞いたか知りませんが……確かに私達は騎空団【星晶戦隊】、そして私はその団長をしてます」

 

 もはやこの名前と肩書を名乗るのは慣れたものなのか、しゃあしゃあと星晶戦隊団長を名乗る優男。

 

「へえ……そう。そりゃ嬉しいなあ有名人にあえて」

 

 それを聞いた少年は、返した言葉の割に目を細め不愉快そうな表情を浮かべた。

 

「しかし、こんなところまで態々来てもらってなんだが……今我々は依頼を受けていてね。もし依頼なら今度……」

「まあ焦らないで聞いておくれよ団長さん」

 

 少年は何を思ったか酔った誰かが倒したらしい床に転がっていた椅子を手に取って優男の前へと座りだす。

 

「ちょいとあんた!! 団長は暇じゃ……!!」

「おい」

 

 あの化粧の濃い女が叫ぶが優男は手を伸ばし(とど)めた。

 

「あまり……乱暴するもんじゃないよ」

「……わかったよ」

 

 女は不服そうであったが、優男に言われ少年を睨みながらも後ろに下がった。

 

「悪いっすねどうも」

「いや、確かに話を聞くぐらいなら構わないからね。ただね、今この村は盗賊に襲われているんだ……話をしたら早めに帰ったほうがいい」

「盗賊、盗賊ね……ふぅん?」

 

 少年は妙な様子だったがすぐに話を始めた。

 

「いや、ほんと大した話じゃないんですよ。よくある依頼でしてね? 今回と同じ、至極簡単、悪い奴倒してくれってやつ……しょっちゅうじゃないすか? そんな依頼」

「……そうだね、よく受ける依頼だよ」

「でしょ? 流石星晶戦隊は違うなぁ……自ら困難に飛び込んで悪い奴らを倒すんだから……俺にはとてもできないなあ。怖くてブルっちまうんだ」

 

 少年はわざとらしく肩を震わせる。優男は、その明らかな演技を不愉快に感じていた。

 

「随分と活躍してるそうですねえ……。色んな悪い奴倒したらしいけど……アウギュステじゃ帝国とやりあって星晶獣も倒したんですってね?」

「あれは……ああ、話に尾鰭がついているが似たようなことはあったなあ」

「へえ? じゃああれは嘘なんですか?」

「嘘じゃないさ。アウギュステで幾つか依頼を受けたことはある……けれど君も我々騎空団に関しての妙な噂を聞いているんじゃないかな? まさか……“アレ”を信じてるわけじゃあるまい?」

「……じゃあ結局噂でしかないと?」

「そう所詮噂さ……誰が言い出したやら」

「そうね……噂ってろくでもないからなあ!!」

 

 何故か噂に関して急に大声になった少年。思わず優男はビクリと驚いてしまった。

 

「やあすんませんすんません。自分も噂で嫌な思いしたことありましてね。ねえシェロさん?」

「そうですねえ~……うぷぷぷ」

「ここ笑うとこ?」

 

 親しそうな様子の少年とハーヴィンの女。二人の正体がわからず優男は少し混乱し始めていた。

 

「あ、失礼しました」

「い、いや別に……」

「しかしそれじゃあ、仲間に星晶獣がいるとかも」

「は、ははは!! そのことか、いやそれこそ噂だよ君!!」

 

 優男は何とか調子を取り戻し話を続けた。

 

「よく考えみなよ。星晶獣なんて化け物を騎空団の仲間にする……いや、できる奴がいると思うかい?」

「……いやぁ~思いつかねえっすねえ」

「うぷぷ……」

 

 少年の言葉を聞いたハーヴィンの女は、また愉快そうに笑いをこらえていた。「いったい何がおかしいと言うのか……?」優男は疑問に思ったが、追及はしなかった。

 

「例えば、あそこに大きなドラフの男がいるだろう? 黒い鎧の……うちで一番の怪力だ」

 

 優男が少年を睨む巨体のドラフを指さした。自分が呼ばれたとわかり、ドラフの男は、ニヤニヤ笑い自分の怪力ぶりを見せつけるかのようにポーズをとっていた。

 

「ドラフの中でもと特に屈強……あまりの強さに“星晶獣にも負けない”みたいな噂が出てしまってね。そのせいで何時しか星晶獣が仲間にいるみたいな噂が出たのさ……」

「あ、そうですか……そうですね。強そうですね。はぁ~~……」

 

 少年は何故か深く深くため息を吐いた。そのため息の吐き方は、なにか複雑な感情があれこれこんがらがっているように思える。

 

「オイ」

 

 少年のため息を止めたのは、突然聞こえた女の声だった。声の主はいつの間にそこに居たのか、店の入り口から少年に呼びかけそのまま店へ入ると薄浅葱色をした長い髪を風に吹かれるようになびかせ、ズンズン少年元へと近づいていく。

 

「また変なのが……おい、待ちやが──」

「貴様ニ用ハナイ」

「ればっ!?」

 

 先ほど少年に襲い掛かろうとしたエルーンのニセ騎空士が、今度は現れた女に向かって襲いかかった──のだが、何故か女に掴みかかるより先に、なにか風のようなものに足をすくわれた感覚を覚えそのまま転んでしまった。

 

「阿呆メ」

「あれ、先戻ったの?」

「イランダロ“私達”ハ。B・ビィ達ダケデ十分ダ」

「あ、“みんな”か……ま、そりゃそうか」

「……こちらの美しい女性は、君のお知り合いかな?」

 

 突然現れた女、不自然に転んだ仲間、なにか妙な予感を感じつつも優男は冷静さを保ち、笑みを浮かべて女の事を聞いた。

 

「ナンダ、コノキモイノ?」

「きもっ!?」

 

 だが薄浅葱の女は、その笑みが気に入らなかったらしい。とたんに冷静さを失った優男の額に汗がたれた。

 

「こら、失礼なこと言うなよ。こちらは“あの”星晶戦隊の団長さんだぜ」

「……コイツガ?」

「うむ」

「ハァ~ン……?」

 

 優男が星晶戦隊の団長と知った薄浅葱の女は、驚いたと言うよりも呆れた様子で優男を見た。

 

「どうも申し訳ない、うちの仲間です。他にも連れてきてるんでそのうち来ます」

「ちょっとあんたいいかげんにおしよ!? こっちゃあんたみたいな小僧に構う暇ないんだよ!!」

「ナンダコノ女?」

「こっちのセリフだよ!?」

「こちらも星晶戦隊の方だそうだ」

「コイツガ? ハァ~ンッ?」

「さっきからなんだいその態度は!?」

 

 薄浅葱の女は、怒鳴る化粧の濃い女も星晶戦隊の一員と知ると、また何とも言えない呆れた表情を浮かべた。

 

「いやすんません、こう言う奴でして……それでどこまで話したかな? ああ、そうそう星晶獣、いないんでしたっけね」

「こいつ勝手に話を続けて……!!」

「よせって」

 

 今にも少年に掴みかかりそうな女だったが、直ぐ優男がそれを止める。止められた女だが、今度は苛立った様子で優男の耳元でコソコソと話し始めた。

 

「──ちょいと、こんな奴等相手にする事ないんじゃないかい? なんか妙なことばっか話して気味が悪いよ」

「──わかってる。だが変に追い返せないだろう、怪しまれる。他に仲間もいるなら厄介だ……話を合わせてお引き取り願うよ。とにかく迂闊な真似はよせよ」

 

 少年には聞こえないように話す二人。優男は少年に向き直ると笑みを浮かべなおした。

 

「失礼、それで星晶獣の仲間ね……さっきも言ったがそんなものはいないよ。屈強なドラフや有名な星晶獣がいる島出身の団員とか……そう言うのがいる。もちろん実力は十分だ。古戦場経験者だっているよ」

「ジャアナンデ星晶戦隊ナンテ名乗ッテンダ貴様ラ」

 

 随分と高圧的な態度を取る薄浅葱の女に苛立ちを覚える優男だが、なんとか怒りを抑え答えた。

 

「そうだな……箔が付くだろう?」

「箔?」

「その通り!! 考えてみなよ、名前が売れてこその騎空団さ!! 星晶獣に負けない騎空団、化け物共さえ従えるような騎空団!! 名前を聞くだけで相手が負けを認めてしまうような存在!! ……便利だろう? 名前とは武器なんだよ、少年」

 

 星晶戦隊の名を利用する優男としては、今の言葉に少年達が驚くなり感心するなりの反応を期待していた──のだが。

 

「はあぁぁ~~~~…………」

「ハアァ~~~~ンッ?」

「うぷぷぅ~……」

 

 帰ってきたのは、特大のため息と蔑みの声と笑い声だった。予想と違いすぎる反応に、怒るよりも困惑が勝る優男は、キョトンとした顔で少年達を見た。

 

「……まあ、まあまあ、名前が売れるのは確かに騎空団として重要ですからね」

「そ、そうだろう? え、なにか……気に障る事を……言ってしまったのかな?」

「いやいやいやいや……ぜんぜん?」

「マッタク」

「はいはい、お気になさらず~」

 

「なんなんだこいつらは……」──優男は、どう対応すればいいのか分からなくなってきた。ふとさっき言われたように、とっとと追い返せばよかった気もしていたが、優男達ニセ星晶戦隊にとって“それはまずい”のだ。

 

(明日には島を出ようと思った矢先……なんなんだこいつらは? 間違っても廃坑には行かせられないし、“仲間”の人数はどれぐらいだ? 最悪廃坑(あっち)に連絡を入れて先に撤収させるか……)

 

 なんとか自分のペースで会話を進めたい優男。詐欺師としても会話のペースを握られるのは、なんとか避けたいことだった。

 

「しかしまあ……団長は地味だって聞いたけどあなた随分イケメンさんですね」

「そ、そうかな? ははは!!」

 

 少年は今度はどこか恨めしそうに優男の顔を見て話す。それに優男は、これ幸いと返事をした。実のところ優男は、自分の顔に自信を持っていた。詐欺師としてこの顔を利用した事は少なくない、いわゆる結婚詐欺だ。故に先程薄浅葱の女に「キモイノ」と呼ばれかなりショックだったが、しかしこの手の話題に慣れていたので今度は妙な会話にはならないだろうと期待したのだ。恨めしそうな視線は、地味な少年の妬みや嫉妬のものだろうと思った。

 

「あっはっは……ありがとう。まあ整っている方かもしれないね。しかし珍しい程じゃない、どこにでもいる顔さ。そう言う意味ではありふれた顔だと……地味と思われるかもしれないかな?」

「へえ、そう」

「それに、噂のように地味地味言われるような顔逆に早々あるものじゃあないよ。まったく誰が言い出したのやら……騎空団の団長として名も売れてるのに、会ってピンと来ないような顔なんてね? 地味ならそもそも噂も立つまいに、ふふふ……それじゃあ地味と言うより単に存在感がないだけだよ。まったく、そんな顔あるなら見てみたいね!!」

「へえ!! そうっ!!」

 

 また突然大声をあげる少年。優男はギョッとして仰け反りそうになった。

 やはり思い通りにかない会話の展開。薄浅葱の女に至っては、少年の反応を見てゲラゲラ笑っている。

 

「あと、じゃあ最後に……黒い妙なトカゲの相棒も居るって聞きましたが?」

「そ、それは……これさ」

 

 いよいよ目の前の少年は情緒が不安定なのかと疑いつつも優男は、よりはっきりとシャツを開いて胸元を見せる。そこにはあの不気味な蜥蜴の刺青があった。

 

「私の刺青の特徴がまた噂で独り歩きしてしまったんだ。まあ愛着ある刺青さ、相棒と言ってもいいけどね。はははは!!」

「ははは……刺青ね。刺青は喋らないし変身もしないし静かで良いなあ」

「は? しゃ、喋る? 変身って……?」

「いえこっちの話」

 

 トカゲの事を聞くと、少年は急に黙ってしまった。店内に沈黙が流れる。途端に気まずい雰囲気になり、どうしたものかと考える優男の事を少年はジッと見ていた。

 

「……ま、だいたい話は聞けたか」

 

 少年は、また深いため息を一つ吐くと改めて優男を睨むようにみた。

 

「……盗賊でしたっけ? 大変そうですが、他に助け呼ばなくていいんですか? 俺帰る時近くの島で呼びますよ」

 

 少年の言葉に優男は、眉をピクリと動かした。そして今までどうしてよいのかわからずジッと置物の様に動かずにいた店主が「おおっ!!」と声を上げ少年の手を握った。

 

「た、頼むよ君!! どこの誰か知らないが助けを呼んできてくれ!!」

「あ~……今まで助けを呼びには」

「こんな小さな島定期艇だって月に数回あるかないかだ!! 個人の騎空艇なんてありゃしないし、他の村や集落だって何日かかるか……!!」

「待った!!」

 

 必死に助けを呼べない理由を話す店主だが、優男が声を上げ店主の言葉を遮った。

 

「今までは我々と村人しかいなかったが、もしかしたら君達がきた事は奴らに悟られているかもしれない。もし助けを呼びに行ったと分かれば奴ら人質をどうするかわからないぞ」

「そ、そんな……」

 

 盗賊の事を言われた時は、どうしたものか悩んだ優男だったが、しかし店主が慌てて少年に助けを求めたのでそれを利用する事にした。

 

「すまない、助けを呼びたいのはわかる。私もそうしようかと何度思ったか……だが人質の命のため、今は我々だけでやるしかないのです」

 

 厚かましくさも今まで村のために戦っていたかのような口ぶりで話す優男。店主も他の村の者も「本当にそんな事を思っていたのか」と疑問であったが、優男の言う事も一理あると思いこれ以上「助けてくれ」と言えなくなってしまった。

 

「……確かに、人質がいるなら人命優先ですよねえ」

「ああ、その通り……ん?」

 

 少年は天井を見上げ、ボーっとしたような表情で何か考える。どうしたのかと思い、優男が不思議そうに少年を見ているが、そんな二人の様子をハーヴィンの女は愉快そうに眺めていた。

 

「……みんなそろそろかな?」

「“私達”以外全員居ルンダゾ、モウ戻ルンジャナイカ?」

「だろうな……うん」

 

 何か考え込んでいた──と言うよりも、何かを待っている様子の少年は、薄浅葱の女と少し言葉を交わしなにか納得したらしく頷き優男の方へと向き直った。

 

「……わかりました。依頼を出すのは止めます」

「そうか、すまないね」

「ええ、その代わり──自分達でやることにしました」

「ああ、そのほうが……へ?」

 

 少年は自分の手を握る店主の手を力強くも優しく握り身体を支えてやりながら立たせる。

 

「シェロさん、アレお願いします」

「はいはい~」

 

 ハーヴィンの女はリュックからごそごそなにか大きな袋を取り出すと、それを店主へと渡す。思わずそれを受け取った店主だが予想外の重さに落としそうになった。

 

「こ、これは……えっ!?」

 

 袋の口から少し見えた中身に店主はギョッと目を見開いた。そこには見た事もないような量の金貨が隙間からも眩しい輝きを放ち詰まっていた。

 

「え、あ……あの? こ、これは……?」

「迷惑料先払い」

「め、迷惑料?」

「ええ、今から騒がしくなるし、たぶん店少し……いや、結構荒れちゃうから。店直す分には足りると思うんで」

「な、直すっ!? 直すって何が起きるんだい今から!?」

「まあ色々……」

「色々っ!?」

「いやほんと申し訳ないけどとりあえず他の人と一緒に厨房の方にでも下がってて。危ないから」

「待って、君本当になにを……」

「そうだ、君なにを言ってるんだ……? 自分でやるだと? それはどう──」

「……ごちゃごちゃまどろっこしィねえっ!!」

 

 少年に対し優男が何をする気か追求しようとした瞬間、優男の傍にいたあの化粧の濃い女がヒステリックな叫びを上げたかと思うと、引き抜いたハンドピストルの銃口を少年へと向けた。

 

「き、騎空士様なにを……!?」

「お黙りよ!!」

 

 突然の行動に驚いた店主だが、女は吊り上がった鋭い狐目で店主を睨み怒鳴る。

 

「お、おいなにしてる!? 止せって!? 乱暴は止めろと言って……」

「うるさいねぇ!! ぐだぐだぐだぐだと……もう我慢の限界だよ!! こんな意味の分からない小僧共になんで気を使わなきゃいけないんだいっ!?」

「だ、だから穏便にお引き取り願おうと……」

「あんたに任せてたら日が暮れちまうんだよっ!!」

 

 一番慌てたのは優男だった。野蛮な行為は今更だが、万が一“殺し”が出るのはまずい。「星晶戦隊が人を殺めた」と言う噂があっては、秩序の騎空団はもちろん他の治安組織にも確実に目を付けられ直ぐにでもとんでくる。余裕もなくなり、必死に女を落ち着かせようとしたが、もう彼女は優男の命令を聞こうとしない。

 

「小僧、なんのつもりかしらないけどねえ、その野暮ったい顔に穴開けられたくなきゃとっとと失せなよ……っ!!」

 

 彼女は既に銃の撃鉄に指をかけカチカチと音を鳴らしながら撃鉄を起こしかけている。直ぐに銃弾が放たれてもおかしくはなかった。

 

「穴が開くのは勘弁願いたいがね。帰るわけにはいかんのよ」

「そうかい……ならっ!!」

 

 女はキレていた。舐めた態度を取るこの目の前の闖入者共に。彼女は詐欺師である優男のように、頭で動くタイプではない。キレれば手を出すよりも先に鉛球が飛び出す。

 

「アタイら星晶戦隊に逆らった事後悔しな……っ!!」

 

 少年の答えを聞いた女は、迷いなく引き金を引き──。

 

「──痴レ者ガ」

 

 この場に居る殆どの者が、銃声が鳴ると思った。店主は目を伏せ起るであろう惨状から目を背け、優男は冷や汗を流し、荒くれニセ騎空士達は目を見開いている。

 だが聞こえたのは銃声ではなく、鋭く甲高い風の切る音だった。

 

「……あぇ?」

 

 女の口から間の抜けた声が出た。鳴るはずの銃声がならず、ただよう硝煙の煙も香りもない。確かに引いた引き金の感覚に疑問を感じた女は、ふと手に持つ銃を見てみれば、なんと銃は綺麗な断面を残し二つに切られていた。引き金ギリギリで切られた断面が見える銃口からは、撃ち損じた銃弾がコロコロ転がり落ち空しく床を転がった。

 誰しも何が起きたか理解が出来なかった。だが、確かに一瞬見えたのは、銃弾が放たれようとした瞬間、女が持つ銃の周りが歪み、薄い膜のようなものがギロチン刃のようになって銃を切ったのを。

 

「……な、なにが起きたんだい!? なんで銃が……ん?」

 

 女は急に妙な寒気を感じた。露出の高い服装で、露わになってる肌に冷たい風が当たったのだ。隙間風かと思ったが、それにしては風が強い。

 

「なんだ、この風ぅ──げぶえぇぇっ!?」

 

 冷気で鳥肌の立った腕を思わず摩ろうとした瞬間、砲弾のような突風が女目掛けて吹き付け浮き勢いよく店の壁へ向けて吹きとばした。

 女はそのまま店の壁にあったインテリア用のフックに衣類が引っ掛かり、磔刑にさらたような姿となって「うげげ……」と白目をむいて呻き声をあげた。見た目ほど重症ではないらしいが、突然の出来事に優男達はあんぐり口を開け壁にかかる女を見ていた。

 

「……嗚呼イイ加減ウンザリダ。オマエ達ガ……ナンダッテ?」

 

 店内に更に風が吹き始め、床に落ちたゴミが舞い上がりだした。隙間風でないのは明らかで、この風は店内で起きているのだ。そしてその風の中心、台風の目となっているのは薄浅葱の女である。

 

「狗盗ニモ劣ル貴様ラガ……コンナ微風程度デ吹飛ブヨウナ貴様ラガ、星晶戦隊ヲ名乗ルツモリカ……」

「……ひえっ!?」

 

 風に吹かれ薄浅葱の女の髪が怒りを表すかのようになびき始める──否、それだけではない。彼女の背後から這い出る様にして竜の首が三体現れだしたのだ。

 

「ば、ばば……ばけっ!?」

「身ノ程ヲ知レ……!! 木端風情ガッ!!」

「ばけものぉぉ!?」

 

 薄浅葱の女の叫びと重なり、竜の首が吠えた。店主が、店員が、ニセ騎空士達が悲鳴を上げる。

 

「さて、いよいよ……シェロさん、退避!! 終わるまで皆さんと隠れてて」

「はいはい~。では皆さんこちらに逃げましょうねえ」

「え、え、えぇ……っ!? あれなんですか!? わ、私の店どうなっちゃうんですか!? あの、本当に何が起きてるんですかぁ!?」

「まあまあまあまあ」

 

 少年がハーヴィンの女性に頼み店主達の避難を促した。ハーヴィンの女性は、そのまま押し込むように狼狽える店主達を厨房へと避難させる。その間にも店内に吹く風が増していく。

 

「な、なんなんだこの女ッ!?」

「やべえよ……!! 魔法か何かかっ!?」

「と、と……取り押さえろお前ら!?」

「と、取り押さえるたって!?」

「どうすりゃ……」

「いいからやれっ!!」

「へ、へいっ!!」

 

 恐怖を感じながら咄嗟に優男は、ニセ騎空士達へ風を纏い始めた女を取り押さえるように叫んだ。

 及び腰な者もいる中数名のニセ騎空士が、武器を手に襲い掛かった。それを彼女はジロリと睨みつけバッと自分に向かってくるニセ騎空士達に向けて手をかざした。すると巻き起こる風が鋭い刃へと変わり、先ほど聞こえたのと同じ風切り音を発しニセ騎空士の武器へ向かう。

 

「こ、この風の音……うおあっ!?」

「俺の剣が!?」

「ぎゃあっ!? 服が切られ……!?」

「うわあぁっ!? パ、パンツは止めてくれぇ!?」

 

 見えない刃、鎌鼬と化した風は襲い掛かろうとしたニセ騎空士の武器を、そしてその衣類を切り刻む。あの女の銃を切り裂いたのはこの風だったのだ。

 武器も無くなり、服も切られ、あっという間に全裸手前の哀れな姿にされていく。正体は野蛮な盗賊とは言え急にこんな姿にされては思わず動きも止めてしまう。その隙に薄浅葱の女は、かかげたままの両手から旋風を放った。

 

「ガアアァァ────ッ!!」

「うぎゃあぁっ!?」

「ギイィィッ!!」

「げぶっ!?」

「グガァッ!!」

「ちょ、来るんじゃっ……おげぇ──ッ!?」

 

 風だけでなく、あの竜の首も怒り狂ったように吠え太い首を振り回した。軽く当たるだけでもニセ騎空士を次々に弾きとばし気絶させる。風に竜にも襲われてニセ騎空士達は壁に叩きつけられ、あるいは窓を突き破り外に吹き飛ばされた。

 

「な、なに!? なんだコレは!? お、おいお前これはいったいどういう……!!」

「はい、あんたは大人しくね」

「ぐえ!?」

 

 優男の方は、銃を一丁取り出してはいたがオロオロと狼狽え、いったい何が起きているのかわかっている様子の少年に詰め寄った。だが取り出した銃を構えるよりも先に、少年に腕を掴まれ机に押さえ付けられてしまう。

 

「いたいいたい!? ちょ、ちょっと止めてくれ!?」

「お、おいてめえ!? 何してやがる!!」

 

 悲鳴を上げる優男を助けようと、あの黒い鎧のドラフ怒声と共に駆け出した。だが少年は、相手を見ようともしない。そして男が店の窓の前を横切って少年に剛腕を伸ばし掴みかかろうとした瞬間──。

 

「団長を離しやが──」

 

 “外から巨大な腕が生えてきた”。

 

「れえぇぇっ!?」

 

 いや、正確に言うならば“腕が窓も壁も突き破って伸びてきた”のだ。黒い巨大な鉄に覆われた腕。その腕は少年に襲い掛かろうとした大男のドラフの男をたやすく掌で掴みとった。

 

「ぎゃああぁぁっ!? な、なんだぁ!? た、助けっんぎゃああぁぁ──…………っ!?」

 

 腕が引っ込むと店に大穴を残し、男は悲鳴と共に連れていかれた。

 ニセ騎空士達は唖然として開いた壁の穴を見る。すると外には、膝から下しか見えない鉄の巨人の姿があり、連れてかれた男の悲鳴がまだ聞こえた。

 

「おっと、みんなやる気だよこりゃ」

「ひぅ!? ひっ!? み、みんな……“みんな”だと!? なに、なにが……うぎっ!?」

「おっとまだ大人しくしてるほうが良いよ……いや、真面目に全員大人しくした方が良い。マジで。脅しみたいになるけど、ほんとみんな怒って気がたってんのよ」

「だから……み、みんなって……」

 

 腕を押さえつけられた優男は、この店の周りに“ナニか”が居るのがわかった。それもあの巨人以外にも複数。

 

「なんだ、なにがいるんだ……!? “ナニ”を連れてきたんだお前っ!?」

「別に? ただ“仲間”連れてきただけですが?」

「仲間って……!?」

 

 この時頭の中で優男は、猛烈に嫌な予感とその予感に対しての確信が同時に浮かびあがった。

 

「ただもし、星晶獣だって……言ったら信じます?」

「星晶獣……っ!?」

「まあ信じようと信じまいと……大暴れだけどね」

 

 ■

 

 六 星晶獣だと!? 

 

 ■

 

「ふ、ふざけ……逃げるぞお前ら!!」

 

 少年の言葉が伝わったのかはわからないが、数人のニセ騎空士が巨人を避け店の入り口から逃げようと走り出す。だがそれを薄浅葱の女が睨みつけた。

 

「阿呆共メ、逃ガスト思ウノカ」

 

 彼女は逃げたニセ騎空士に手を向けると、そのまま軽く引っ張るように手を引いた。

 

「急いで外に……っぶわああぁぁっ!?」

「ひえええっ!?」

 

 すると扉が勝手に開き外から砲弾のような暴風が吹き込み、扉を開けようとしたニセ騎空士達を店内へと押し戻した。その暴風は、店内に居た者達も壁や床に吹き飛ばしてしまう。

 

「ぐえっ!? ま、また妙な風が……な、なんなんだこの風!?」

「い、いでぇ~よぉ~……ん?」

 

 暴風に吹き飛ばされ床に倒れた一人が、目の前に転がってきた中身の残る酒瓶をみた。しかし酒飲みたさではない。酒瓶の中身がブルブルと震えだす。巨人の足音の振動で動いたかと思ったが、次の瞬間酒はまるで意思を持ったかのように動きだしたのだ。

 

「お、おい酒が……!!」

「こんな時に酒飲んでどうする!?」

「そうじゃねえ!! 酒が動いて……でぼっ!?」

 

 仲間に異変を伝えようとした男だったが、動き出した酒は酒瓶から噴水の如く噴射した。すると店内の酒瓶全てがガタガタと震え、封をしていたものも弾け飛んで中身が噴射していく。

 

「ガボォォッ!? なにばびおぎでブエェッ!?」

「ひいぃ~~っ!? 酒が、水が襲ってオボッ!?」

「ごげっ!? ごババアァァッ!?」

 

 酒だけでなくコップの水まで際限なく噴射しはじめ、それは鞭のようにしなりニセ騎空士の口へと目掛け襲い掛かると、その身体を水で包んで外に引きずり出していった。

 

「なんだよぉ~っ!? なんだってんだよぉ~っ!?」

「どうすりゃ逃げれんだ!?」

「こうなりゃ窓から逃げっ!? べぎゃっ!?」

「今度はなっぎゃあぁあぁ!?」

 

 酒と水に怯えるニセ騎空士達が、いくつかの小さな窓に押し寄せ外に逃げ出そうとした。だが窓を開けようとした瞬間、窓を覆い塞ぐようにして蔦が生えだすと、そのままニセ騎空士まで縛り上げて壁に固定してしまった。更には店の床の底から木まで伸びはじめ次々とニセ騎空士達を天井へと押しつけていく。伸びた太い幹からは、シュルシュルと窓を覆ったのと同じような蔦が伸びてゆき、他のニセ騎空士達をとらえ始めた。

 

「うわあああっ!? き、きき木の化け物ぉ!?」

「切ってもまた伸びて……ぎゃああぁぁっ!?」

 

 葉や枝も生えだした木に取り込まれてゆき、ニセ騎空士達はみるみるうちに身動きが取れなくなってしまう。

 

「た、助けてくれぇ……」

「ふざけんな!! こんなの相手できねえ……なんとか外に……あ、お……?」

「か、体が……動けね……ぇ……──」

 

 木に取り込まれたニセ騎空士は、仲間に助けを求めたが殆どが無視して店の外に逃げようとしていた。だが突然逃げようとする者達の動きが鈍りだす。目がかすみ意識が朦朧とはじめ困惑するニセ騎空士達。立つことも出来なくなり、ついに床に倒れる時に見たのは、自分達の足元を覆いつくす足が見えないほどの暗黒の霧だった。

 バタバタと倒れていく仲間達。そんな彼らを見て怯えて震えている女がいた。

 

「なんだってんだい……!?」

 

 それは、吹き飛ばされたあの化粧の濃い女だった。

 騒ぎで目覚め意識が回復した彼女は、何時の間にか磔刑の状態からなんとか脱出し床を這いながらあの少年や薄浅葱の女から逃げようと必死の様子だった。

 店内の様子は、見た通りの大騒ぎ。更に外からは、まだあの巨人の足音が響きその度に彼女は、悲鳴を上げながら生まれたての小鹿のような足取りで逃げ回る。

 

「い、一体全体なにがどうなってるんだよぉ!?」

 

 彼女も他の者達同様に仲間を助けようなどと言う考えは微塵も生まれず、とにかく逃げようと必死に店内を這いずり回り、なんとか壁に背をつけて恐怖で倒れないように踏ん張った。

 

「冗談じゃないよ、こんな事になるなんて聞いちゃないんだ……ア、アタイだけでも逃げて……」

 

 逃げ道を探していた女だったが、ふいに店内の騒ぎに混ざる甲高い音が聞こえた。鈴の音か鉄の反響音にも思える音。また何か妙な事が起きるのかと怯えながらまわりを見渡していると、目の間を何かが横切った。

 

「ひいっ!? こ、こんどはなんだいっ!?」

 

 視界を横切ったモノを目で追ってみると、小さな光る宝石が彼女のまわりをフワフワ飛び回っている。宝石には、金色の紐が尾の様に伸び、四枚の小さな羽があった。

 

「は、ははは……?」

 

 壁を突き破った巨大な手でも、まだまだ仲間を襲う怪現象とも違いどこか可愛げのある姿を見て女は、思わず笑みが浮かんだ。もっとも余裕のない強張った笑みだが。

 

「ひ、ひひ……な、なんだい驚かすんじゃないよ玉っころ!!」

 

 女はつい目障りな虫を追い払うように自分の周りを飛ぶ玉を手で叩いた。叩かれた勢いで体制を崩した宝石は、空中をバウンドするように飛行したが、直ぐに態勢を整えると女を“睨みつけた”。もちろん宝石に“瞳”は無い。だが宝石は自分に危害を加えた相手を明らかに認識しており、女は球体の宝石から強い視線を感じた。

 するとあの甲高い音が更に増した──いや、増えた。女が叩いた宝石に呼ばれるようになんと同じ見た目の宙を舞う宝石が複数集まりだしたのだ。

 直ぐに女は「これはやばい」と思ったが、その時宝石達は内部を輝かせ次の瞬間光があふれ一閃、女に向かって放たれた。

 

「ひえっ!? ひええぇぇ~~~~~~~~っ!?!?」

 

 激しい閃光は、光線となって放たれた。最初の一撃に続き宝石達はまるで機関銃のように小さな光線を放ち続ける。それは女の身体の輪郭を沿うように正確に撃ち込まれてゆく。光線に貫かれた壁が焦げる臭いを感じ女はただ悲鳴を上げるしかできない。下手に動けば次に焦げるのは自分の番だからだ。

 女にとっては果てしなく長い光線の斉射は、実際はわずか数秒の事であった。宝石達は光線を撃ち終えると、女に興味を失ったかのように他の逃げようとするニセ騎空士達に向かい飛んで行った。

 

「……た、助か……あう?」

 

 生きた心地はしなかったが、身体に痛みはなかった。自分は助かったのかと思った女だったが、直ぐに身体がゆっくりと壁があるはずの後ろへと倒れる。何故かと思ったが、簡単な事だった。あの宝石達は正確無比に女の身体を一切傷つけることなく、女の輪郭に沿って壁を撃ち抜き、そしてくり貫いたのだ。くり貫かれた壁はそのまま背をもたれさせていた女の体重が乗って後ろに倒れるのみ。女はくり貫かれた自分のシルエットそのままの壁と共に外にバタンと倒れ込んだ。

 

「あがっ!? なんて玉っころ……!? あ、あ……だけど、外? あは、はは!? 外だ……い、今のうちに逃げ──」

「逃がすと思うか?」

 

 女が身体を起そうとした途端、頭上から見知らぬ声がした。ヌッと影が自分を覆い、もう勘弁してくれと思いつつも女は視線を影の主に向ける。

 

「フンッ!!」

「ひぎゃああぁぁっ!?」

 

 ザムン!! ──地面に鋭利な刃が突き刺さる音が、耳の直ぐそばで聞こえ女は涙の混ざる悲鳴を上げた。女の周りには、人間が扱うには大きい青い剣や戦斧に槍が深々と突き刺さっている。身体こそ貫いていないが、その姿はさながら昆虫標本の如く固定された女。磔刑の次は、地面に張り付け状態となってしまった。

 

「おあ……!? おあ……ひっ!?」

「大人しくそこで寝ているが良い。逃げればどうなるかわかっているな……?」

「……!! ……!!」

 

 影の主──日に照らされ輝く金色の髪を靡かせる四つの腕を生やした女騎士。彼女から忠告を受けた女は、女騎士が何者かどうかなどの疑問を感じることもなく、恐怖の涙さえ流れず、ただただ地面に刺さった刃に当たらないように頷いた。

 

「ふん……小悪党め」

「コッチ ヽ(。・`ω´・)ノ オワッタヨー!!」

 

 あの巨人の足音が聞こえ、倒れる女は近付いてくる足音に怯えながら視線だけその音の方向を見ると、あの店内から見えていた巨人の全貌がみえた。黒い鎧の鉄の巨人、先ほどよりも明らかに巨大化しており、その両手には店内から掴みさらったドラフの男以外にも、店の外で酒を飲んで好き放題遊んでいた仲間達が(にぎ)られグッタリとしていた。

 

『他愛無し……これで星晶戦隊の名を騙るとはな。身の程知らずにも程がある』

 

 次に女は、また自分の頭上をなにかが通っていくのが見えた。ソレは巨人に負けず巨大な姿をしており、宙を泳ぐように移動する蛇のように見え、その周りには大きな水球が揺らめきながら浮き、そこには先ほど水に引っ張られていった何人もの仲間が呼吸だけはできるように顔だけだして捕らえられていた。彼らがガタガタと震えているのは、水の冷たさではなく、肝が冷えた恐怖からだろう。

 

「助け──ぎゃあっ!?」

「落ちっ──ひいっ!?」

「う、動けない……」

 

 また別の処から悲鳴が聞こえた。女はわずかに動く顔を動かし視線をずらすと、なんとか外に逃げたらしい仲間が村の中を走っていたが、突然地面が“開いて”次々に仲間達を飲み込み、首から上を残して土中に捕えていく。

 

「──!!」

 

 その傍には、プリプリと怒った様子の鈴の音のような声を発する少女がいた。

 

「い、いやだああぁぁ!? 助け……引っ張られて……だれかあぁっ!?」

「助けてっ!! 助けてええぇぇ!?」

「誰かああぁぁっ!?」

 

 他にも店内から逃げようとした者がいたが、店から飛び出してすぐあの黒い暗黒の霧が足を覆うと、霧に“掴まれた”のかそのまま店内へと引きずり込まれていった。

 

「そ、そんな怖がらなくてもいいのに……ちょっと腐ってもあとで治すよう……」

 

 足元に黒い霧を漂わせながら、滑るように歩く黒衣の女性が引きずり込まれた男達を見てつぶやいている。

 

「あ、あとは団長とティアマトの方だけだね」

「あんな顔だけの小悪党主殿の相手にならんよ。戦闘すら起きんだろう、すぐに終わる」

『……おい、なんだその女?』

 

 頭上を横切るあの蛇の様な巨体が、地面で磔刑の様になっている女をチラリと見ると騎士の女に聞いた。

 

「特に往生際の悪そうな奴だったんでな。動かんようにしておいた」

「ワルイコト (´・ω・) シナキャイイノニネ」

『まあいい薬だろう』

「コロッサス、間違って踏むなよ?」

「フマナイヨ!! p(`・з・)qム~!!」

 

 何故か聞こえる鉄の巨人の“声”。どうやら自分を踏まないと言ってるようだが、顔の横で地面に突き刺さる刃に加え、全長10m以上ある巨人の足が見えるのは生きた心地がしない。

 いっそ気絶できればどれ程幸せだろう。女は完全に観念して、目を閉じ「踏まれませんように」と必死に祈ることにしたのだった。

 

 ■

 

 七 やっちゃいなよ! そんな偽物なんか! 

 

 ■

 

「あ、あ……わぁ……」

 

 自分の仲間達が次々に連れ去られ、捕らえられ、倒されていく。地味な少年の力に押さえ付けられ、身動き一つできなくなった優男は、荒い呼吸で僅か数分で起きた出来事に恐怖していた。

 

「サアテ、ドウシテクレヨウ貴様ラ」

「た、助けてくれぇ……!!」

「ガァッ!!」

「ひいぃ~っ!?」

 

 店内では、あの薄浅葱の女が生み出した風に飲まれたニセ騎空士達が、竜の首につつかれまるでお手玉のように遊ばれていた。

 

「おーい、そろそろ暴風は止めてくれ。店が吹き飛ぶ」

「オット、ソレモソウダナ」

「あ……風が止んでヴぇっ!?」

 

 少年に言われ薄浅葱の女は、店内に巻き起こしていた風を止める。するとニセ騎空士達が次々床へと落ちていった。もう逃げるどころか立ち上がる気力もないのだろう、ニセ騎空士達は、水から打ちあがり干上がる寸前の魚のように床で呻いている。

 

「やれやれ派手にやっちゃったなあ……迷惑料足りんなこりゃ」

 

 壁も床も天井もボロボロとなり、風通しと日当たりが良くなった店内を見た少年は、参った様子で呟いた。

 

「店主さんごめーん!! 迷惑料追加して……あと色々直します!!」

「い、いや……それは、いいんだけど……」

 

 厨房のカウンターから、ひょっこり覗き込むように店内の騒ぎを見ていた店主や店員達は、騒ぎそのものよりも少年が連れてきたと言う“仲間”が次々とあの【星晶戦隊】を倒してしまった事を驚いていた。同時に【星晶戦隊】が、「星晶獣にも負けない」と先ほどの優男が言うように豪語しておきながら、まるで抵抗できず倒されていく事を不思議にも思い、そしてそんな【星晶戦隊】を従える優男の団長も、どこにでもいそうな少年に手を握られたまま押さえ付けられて何も出来ないでいる。

 

「な、なんなんだ貴様ら……!?」

「さっきほぼ答えたと思うけどね」

「なに言って……!?」

 

 何がなんだかわからない優男。だが一方で最初よりも強くなっていく“確信”があるのも確か。「ああ、頼む。こいつらが“そう”でありませんように」と願いつつ、この場を誤魔化そうと頭を回転させる。

 

「お、お前達が何者かしらないが……い、いま俺達をこんな目に合わせて盗賊達がなにをするかわかってるのか!?」

「そ、そうだ……旅の方お待ちください!!」

 

 厨房の方からひょっこりと顔を出していた店主が、大慌てで少年にむけ叫んだ。

 

「もう何が何やらわかりませんが……今盗賊達に私共の娘が捕らえられています!! この方達には、娘達を助けてもらおうとして……」

「それって村の裏手にある廃坑のアジトだよね?」

「え? あ、はい……え?」

 

 少年は店主と対象的に焦った様子もなく、しかも盗賊達に関して知っているようだった。

 

「ここに来るまでに事情は聴いたからね。すぐにうちのメンバー向かわせたから……こいつらの仲間程度なら直ぐ片付くよ。絶対に娘さん達も無事、安心して」

「娘が無事……!? そ、それよりこいつらの……仲間って……君は一体なにを……」

 

 事情がまだわからない様子の店主。だが優男の額から脂汗がダラダラとあふれ出した。

 

「なんかねえ……たまにあるらしくってね。盗賊を退治する騎空団に思わせて、実は盗賊の仲間だったって言う輩が。似た輩相手にした事もあるけど、典型的なマッチポンプ犯罪だねえ」

「お、俺達がそうだっていうのか!?」

「あらら、すっかり乱暴な言葉遣いで……」

 

 呆れた様子の少年は、どうしたもんかと考えているようだった。だが直ぐに店の外から「おーい」と幾つか少年を呼ぶ声がした。

 

「噂をすれば……早いな」

「おう」

「うん」

 

 少年を呼んだ声の主が、崩壊して看板が辛うじて釣り下がっている店の入り口をくぐってきた。のしのしと歩くその姿は、筋骨隆々筋肉モリモリのマッチョマンだが顔は黒いトカゲのような顔をしていた。手にはぐったりとした盗賊の一人を荷物の様に持っており、店主達がギョッとして悲鳴をあげたがおそらく黒トカゲの方を見ての悲鳴だろう。

 後ろからついて来たのは、白い髪を揺らす褐色の少女だった。だが手には大きな盾と青い剣を携え、傍らには二匹の小さな飛竜を従えており、ただの少女ではない事がわかる。

 

「っかぁ~まるで手応えがねえでやんの。速攻で終わったんであとフェザー達に任せてオイラとゾーイだけ戻ってきた」

「こっちも気になったからな。けどやはり心配はいらなかったようだ」

「しっかし店ボロッボロじゃねえか……ティアマト加減しろよ」

「ナンデ真ッ先ニ私ニ言ウ!? 私ダケジャナイカラナッ!?」

 

 少年に近づく一体と一人。つまり優男の目の前まで黒い巨体と飛竜の少女が来る事となり、その威圧感に優男の呼吸は更に荒くなった。

 

「人質が居たと思うけど、どう?」

「最優先で助けた。大丈夫、すぐに戻るよ」

「ここって食堂だよな? 食堂の娘だって嬢ちゃんもいたぜ」

「うちの娘だ……!!」

 

 黒トカゲ(?)の言葉を聞いて、店主が顔だけでなく身も乗り出し声を上げた。

 

「む、娘は……娘は無事で……!?」

「ああ、あんたお父ちゃんか? こ~んなおさげ髪した娘さんだろ? 怪我もねえしすぐ戻っから安心して待ってな」

「おお……!! おおっ!!」

 

 娘の無事を知り喜びのあまり倒れそうになる店主。店員達に支えられながら、椅子にそっと座った。

 

「で、そいつ盗賊?」

「おう。おい……ほれ起きろい!!」

「おばばっ!?」

 

 マッチョトカゲが手に持った盗賊をガクガク揺らすと、盗賊は悲鳴を上げて目を覚ました。

 

「ひいいぃぃっ!? 俺は拳で語り合いなんて出来ねえよおおぉっ!? ……あ、あれ?」

 

 目を覚ました盗賊は、アジトでなにやら大変な目にあったらしく混乱した様子だった。

 

「こ、ここは……あ、お頭ァ!?」

「馬鹿馬鹿バカ……!?」

 

 だが混乱していた盗賊は、目の前にいた優男を見ると優男の事を「お頭」と呼んだ。優男は今にも泣きそうな声で黙らせようと叫ぶがもう遅かった。

 

「ほぉ~~~~ん? こいつお前らの親分なわけ?」

「え? ……あっ!?」

 

 盗賊は自分を持ち上げているマッチョトカゲの声を聞き自分が何処で何を言ってしまったのか気付き、周りからの視線──特に厨房から覗き見ていた店員や村人達からの強い怒りの籠った視線を感じた。

 

「はい、あんがとさん。これ以上はいいよ。少し寝てなっ!」

「んげ!?」

 

 ボディスラムのように床に落とされた盗賊は、汚い悲鳴をあげて気絶する。そして今や孤立した立場となった優男は、最早なにも挽回の手段が思いつかず、悲鳴を上げたくても声すらでない。

 

「ア‼ ( ・ὢ・ ) ワルイノマダイル」

『最早死に体だな。哀れですらある』

「──!!」

「ユグドラシルの言う通り、同情する気にはなれんがな」

「わ、悪いことするからだよ……よ、よりによってうちの名前で」

 

 すると更に店の中へ、今まで外に居た者達が体の大きさを自在に変えながら悠々と入ってきた。

 こうして田舎の食堂に揃う超常の存在達。

 ──嵐竜の三つ首を従える風神。

 ──蒸気吹き出す黒き鋼鉄巨人。

 ──大海を統べる大いなる水神。

 ──大地を司る無垢なる神樹。

 ──悪を滅する聖なる騎士。

 ──死を奪い従える暗黒の霧。

 巨体を縮めながら店に集う六つの偉大なる神秘の化身達。

 

「おめえらほんと馬鹿な事したなあ。悪事するにしてもちったぁバレた時の事考えろよ」

「知らぬ事であろうが、名ばかりとは言え我々の名を使っての悪事など、空の均衡が崩れてしかたない。色々ここに来るまで調整が本当に大変だった……まったく余計な真似をしてくれたなあ」

 

 ──始まりと終わりの前身(proto)、黒銀の翼。

 ──空の守護者、世界を護る調停の翼。

 今、この小さな平和な島の小さな食堂に、島一つどころか世界を滅ぼしてもおかしくはない存在が集まっていた。そしてその中心にいるのは、それらを従える──否、それらを友とし仲間とする者。

 

「か、怪物……あ、星晶獣……?」

「ってことは、ま、ま……まさか!?」

 

 この者達を見て、【星晶戦隊】の噂を知る店員がハッとして声を上げた。

 

「と、とんでもなく強い仲間たち、星晶獣の仲間……そ、そしてその中心には“地味な少年”……!?」

 

 正しくその者達が目の前にいた。優男達のような「噂のような者達」ではなく、完全に「噂通りの者達」が本当に現れたのだ。

 

「…………や、やっぱり。お前達……お前っ!?」

「流石に気づいてると思うけどさあ」

 

 優男の口からやっと出た言葉は、苦し紛れですらない目の前の少年や怪物達の正体完全に確信した言葉。

 優男を押さえつけていた腕をずらし、さっとそのまま胸倉をつかみ上げギリギリと締め付ける少年の顔は、ヒクヒクと怒りで震え青筋がたっていた。

 

「じつぁねぇ……最近妙な話が“うち”に来たのよ……で、調べてみたらなんとここ最近“変わった名前の有名な騎空団”の名前騙って好き放題する輩ってのがいるそうじゃないの、ええ?」

「ほ、本物の……せ、せせ……!?」

「……しかもどう言うわけか、そいつらの被害やらの請求だけはキッチリ“うち”に来てんだよなあ!?」

「せ、せ、せせせ……星晶戦隊いぃぃ!?」

「てめえマジでふざけんなよこの野郎ちくしょうがドオラアアァァ────ッ!!!!」

「ぶっぎゃああああぁぁぁぁ────────…………!?!?」

 

 少年は──本当の【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の団長は、優男をそのまま凄まじい勢いで放り投げる。ここに現れた者達の名を叫んだ優男の身体と意識は、一瞬で店の天井を突き破り天に昇ったのだった。

 

 ■

 

 八 会ってみなけりゃわからない、噂だらけの騎空団

 

 ■

 

 ──あれは一月程前だろうか、突然星晶戦隊(以下略)宛ての手紙や依頼書に交ざり身に覚えのない内容の請求書や文句の手紙が来るようになった。

 会った事のない人物から「お前のところには、二度と依頼をださん」と書かれ、聞いた事もない島の村から「お前らみたいな奴と知ってれば頼らなかった」と書かれ、行った事もない国からは「領民に不当に支払わせ奪った依頼料および食料の代金を今すぐ返せ」と書かれている。

 単純に「は?」と疑問が浮かんだ。途中まで読んで本当にうち宛てか何度も宛名を確認したが、確かに星晶戦隊宛てになっている。混乱しつつも全部に目を通したが、内容はどれも似たようなもの。中には、酒代の踏み倒しを責めるものや、化粧品などの品物を返すように書かれたものまであり、一瞬団員の内特定の団員(笑)を疑ってしまったが、いくらなんでも手紙に書かれているような恥知らずな真似はしないだろうと考えなおし、心の中で謝罪しておいた。

 さてそうなるとこの手紙は何だろうかと考える。念のため団員達全員に身に覚えがないか聞いてみたが、やはりと言うか当然ながら誰も身に覚えはない。じゃあ悪戯かと言うと、悪戯にしては量も多い上に実在する国の名前で手紙を出すのも考えにくい。これはなにか妙な事に巻き込まれたかな? と、普段妙な事に巻き込まれやすい俺はこの時点ではまだ楽観的に考えていたのだが、さらに数日後、シェロさんに会いに行くと信じられない事を言われた。

 

「あの~……団長さん、実はですねえ。最近、私を通して団長さんにお金の請求が来るようになりましてぇ……」

「……………………はい?」

 

 シェロさんから「金の請求」と聞き、頭が真っ白になりかける。聞けばシェロさんにもあまり覚えがない人物や島から、俺達関係の話が来ているらしい。そのほとんどが「星晶戦隊と知り合いらしいあんたから、あいつらに金返すよう言っておいてくれ」と怒りの請求だったそうだ。

 シェロさんまで巻き込まれたとなると、楽観視してはいられない。早急に真相を究明して解決しないと俺達ばかりかシェロさんにまで迷惑がかかってしまう。そこで更に迷惑をかけて申し訳なかったがシェロさんにも協力してもらい、急ぎ情報を集めることにした。

 まず俺に文句の手紙を送った者達に会いに行った。すると向こうは、俺を見ても何も言わない。少し話をして旅の者だと言うと「ああ、それは長旅お疲れ様、何もない村だが休んでいくかね?」と歓迎してくれたほどである。そこでB・ビィやコロッサスのような明らかに人間じゃないメンバーも連れて行くと腰抜かすほど驚いていた。明らかに俺達を初めて見た反応だ。それを見た俺は、自分達が星晶戦隊(以下略)だと名乗ったところ相手はみな「えっ!?」と驚いていた。

 

「き、君達が星晶戦隊……? し、しかしあの時は」

「……あの時は何時か知りませんが、俺達今日初めてここ来たんですよ」

「初めて……!? そ、それじゃああいつ等はまさか……」

 

 こんな会話が俺に手紙をよこしたところ全部で繰り返された。更に話を聞いてみれば、どこの島でも「盗賊団に襲われ、助けに現れた星晶戦隊を名乗る騎空団に助けられたが、そのあとその騎空団は、助けた礼を寄越せと言って法外な依頼料を求められた挙句、食料も奪われたり好き放題して帰っていった」と言う話が聞けた。中には星晶戦隊の名前で料金をツケにして飲み食いしたりと本当に好き放題しているようだった。

 “俺達のニセモノがいる”──この事実は、団員みなに衝撃を与えた。

 だが、衝撃以上に深刻に焦った様子も見せたのは、ゾーイだった。

 

「まずいなあ、団長。これは本当に解決したほうが良い」

「よーし聞きたくないが聞こう。何がまずいのゾーイ?」

「我々星晶戦隊と言う存在は、今や世界に対して特異点(ジータ)の騎空団と同等の影響力をもつに至っている」

「至ってるのかい……?」

「うん、至ってるんだ」

 

 知らなかった、そんなの……。

 

「そしてそんな星晶戦隊の名を持つ騎空団が二つも存在しては、少しずつ空のバランスを崩してしまう」

「崩しちゃうのかい……!?」

「うん、崩しちゃうんだ」

 

 俺が知らない俺の設定が増えてく……。

 

「とにかく名前だけでも複数存在するのはまずい。与える影響力が強すぎる。これは……ニセモノ達を見つけるまで、色々調整しないといけないぞ」

「調整って……それ?」

 

 俺が不安げに指さしたのは、ゾーイの均衡センサー(アホ毛)である。それが今までになく荒ぶり、壊れたコンパスの如くあらゆる方角を指示していた。

 

「うむ。あっちこっちで色んな均衡を崩す事件が起きたり、起きようとしている。まずこれらを解決して均衡を保ちながらニセモノを退治するんだ。今いきなりニセモノを退治したら多分均衡が逆に崩れる」

「よけーなことしてくれたああぁぁ────っ!!」

 

 会った事もない俺のニセモノに対して思わず怒鳴ってしまう。

 そんなこんなで俺達はニセモノ退治のみならず、道中均衡を崩しかねない事件事故災害を解決しまくる羽目になった。

 魔物の大量発生なんぞは可愛い方で、ある島では封じられた強大な魔物が目覚め島崩壊の危機となっていた。慌てて駆け付け魔物をしばき倒し詫びを入れさせ……。

 またある島ではその魔物復活の影響で起きた異常気象によって起きた記録的大雨で街が水没しかけたのをリヴァイアサンの力やらを使って救い……。

 またまたある島ではその異常気象を好機とみた反乱軍による大国でのクーデターが起きておりそれに巻き込まれながらなんとかして……。

 更にまたまたある島ではその反乱軍に協力していた科学者がアウギュステ名産であるンニの大量完全養殖で一攫千金を狙い密漁し捕獲したンニに対し違法な実験を繰り返す最中に起きた事故によって生まれた数十mの二足歩行型巨大ンニ“大怪獣ンニラ”と星晶戦隊マグナシックスによる大海の大決戦……。

 果てはある島の国主催で開かれた美少女コンテストの裏でコンテスト運営委員会を牛耳る闇の組織によって進められる国家転覆計画を阻止するためコンテストに出場するシャルロッテさん達と闇の組織によって改造され復活したメカ・ンニラの事件は、まさかあんな事になるなんて……いや、これはまあ関係ないか。

 まあとにかくそんな感じで大事件の連続(イベント4~5回分程度)を短い時間でこなしつつも、ニセモノの行方を探る俺達は、疲れ以上にこの事態を起こしたニセモノ達への怒りがどんどんたまり始めていた。

 そんな時シェロさんから一報がはいる──「ニセ星晶戦隊、某島にて確認」。

 ゾーイの言う調整は十分に済んだ。その知らせを聞いた時点で即俺はエンゼラを指定の島へ向け最高速でとばした。

 そして島に到着し既に来ていたシェロさんと合流。ニセモノがいる村へ団員全員で向かい、その途中で出会った村の子供から今何が起きているかを聞いた。そしたら案の定村が少し前から盗賊に襲われており、そこに星晶戦隊を名乗る騎空団が現れた村を護ってくれることになったが、その騎空団の傍若無人な振舞いに困っていると話す。そこからはもう即行動、何するかは決まっている。

 この日までに集めた情報で、こんなものがある──各地に現れた星晶戦隊(偽)は盗賊を“撃退”するが殆どの島で捕えていないのだ。仮に捕らえた場合も「自分達で連行する」と言って連れて行ってしまうらしい。被害者は誰も、盗賊団がその後どうなったか知らない。

 その事を聞いたシェロさんは「たまにありますねえ、有名な騎空団の名前を騙って犯罪を起こす事件が」と語った。

 つまりはマッチポンプ。一つの盗賊団が騎空団と盗賊の役目に分かれ、盗賊役の仲間が起こした事件を騎空団役の者達が解決し、そして助けた礼を寄越せと多額の金をせしめる。あるいは今回の様に村で好き放題ふるいまい、潮時を見て盗賊役には逃げ帰ってもらい共に島からおさらばするわけだ。何時ぞやのクロエちゃんの村での事件が似た感じだろう。

 子供から聞いた情報、そして到着した村の疲弊具合からそろそろ盗賊達は立ち去る頃だったのがわかる──実際アジトを壊滅させたフェザー君達によれば、奴らは撤収の準備を始めていたらしい──だが一人として逃がす気はない。人の騎空団の名を勝手に使い悪事を働く輩を許す通りはないし、身に覚えのない請求が俺達(ほんもの)に来るような真似をする者を俺は断じて許さん。

 星晶戦隊──盗賊共は、村の食堂に入り浸り好き放題してると聞いて、廃坑にあるアジトは最初B・ビィ達に任せ食堂には、俺とシェロさんで向かった。

 面倒に思いつつ、食堂へと足を踏み入れ星晶戦隊の団長を名乗る人物にご対面。俺とは似ても似つかぬ雰囲気に呆れつつ、シャロさんと挨拶したら「初めまして」と言うしまつ。星晶戦隊以前にそれなりの規模である騎空団の団長が、あの“よろず屋シェロカルテ”を知らぬはずがない。星晶戦隊の詳細まで調べず名前だけ拝借した男の大ポカにまたも呆れつつ「この男どうしてくれようか」と対面して改めて湧き上がる怒りを必死に抑えた。この後すぐに起こるであろう事を思えば、冷静になれる。今まで好き放題した分のツケを払う時だぞ悪党め。いたずらに星晶獣の、いやさ星晶戦隊の名を使えばどうなるか……怒れる星晶獣の恐ろしさを知れ。

 なお結果は言うまでもない。悪事と悪党の終わりとは、常に空しいものである。

 

 ■

 

 九 俺達【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】!! 団長は俺です!! オレオレ!! 

 

 ■

 

「ありがとうございます!! ありがとうございます……!!」

「おかげで助かりました……!!」

 

 偽星晶戦隊壊滅後、村の村長の家に呼ばれた俺の目の前で何度も腰を曲げて頭を下げる、この小さな村の小さな食堂の店主と村のひげを蓄えた村長。心底腹の立つ悪党を退治してからずっとこうである。腰痛くないですかね。

 

「まあほんと気にせんでいいんで……こっちも色々迷惑かけちゃって申し訳ない」

「そんな、あなた方も被害者ではありませんか!!」

「いや、まあそうなんだけども」

「それどころか私の店をあんな立派なものに直していただいて……」

 

 ちらっと店主さんが村長宅の窓から外をみると、あの見るも無残な姿となっていた食堂が一転、元のこの村らしい素朴な雰囲気は残しつつも、密度の高い丈夫な材木で殆ど修復されテラスとルーフバルコニー付きの食堂に生まれ変わっている。そう、それはさながらザンクティンゼルにある我が家ユグドラシルハウスの如く。

 ニセモノ共を捕らえる際、ティアマトが風で扉を吹き飛ばし、コロッサスが拳で壁を突き破り、リヴァイアサンが店中水浸しにし、ユグドラシルが店内を樹木と蔦で多い、シュヴァリエがビットの光線で諸々焼き切り、セレストの霧で床がちょっと腐りだしていた。これ全部俺達がやっている。店舗としての物損としては一番俺達による被害が多いわけだ。これはよくない。

 しかし今回は、俺もみんなも怒っている。ニセモノ共の話を聞いたクロエちゃん曰く「激おこ」なのである。だからあんま加減できる気はしなかったし、ニセモノ共への戒めも込め、結果こうなるような気はしていた。

 なのでちゃんとその後の準備もしてある。新生ユグドラシル食堂がまさにそれだ。今回のニセモノ討伐で村の民家等に被害が出た場合、自分達で責任をとるつもりでいたので大工道具も持ってきていた。幸い店主さん達を避難させていた厨房周りは無事だったので、単純な外装と内装の修復だけで済んだ。これぐらいならガロンゾで大工修行をした俺とユグドラシルが居ればすぐに終わる仕事だ。

 

「あの崩れた食堂の有様を見た時はどうなるかと思いましたが、まさかあんな立派になるなんて……」

 

 店主の脳裏には、在りし日の店の姿と崩壊した店の姿が浮かんでいるだろう。崩壊からの修復&バージョンアップが早すぎて頭が追い付いてない感じだ。

 

「それで、あのぉ……こちらなんですが」

 

 店主さんは、申し訳なさそうに俺が店に来た時シェロさんに渡してもらった金貨入りの袋を差し出した。

 

「店を直してもらった上に、やはりこんな量をもらうわけには……うちの店で使うには多過ぎます」

「いや、ほんと受け取ってどうぞ。返されても困りますんで」

「しかしですね団長さん……」

「いいからいいから」

 

 俺に金貨の袋を返そうとする店主さんの手をぐっと押し戻す。

 

「この村の被害に関しては、俺達が暴れたのもあるんで。その分だけは出させてください。店主さんの方で持て余すなら村のものとして使ってください」

 

 無論ニセモノ共の被害があった場所全てでこんなことはできない。だがたとえやはりこの村で大暴れした身としては、しっかり責任はとっておきたい。

 

「そう……ですか。村のものに、確かにそれなら」

「……おまえさん、ありがたく貰っておきなさい」

「村長……」

「団長さん、村のものにと聞いてからこんなことを言うのはお恥ずかしいのですが、正直に言えば助かります。村は勿論この者は、店で出すものどころか自分達の食料の貯えさえ殆ど奴らに出しておりますので……。しかしコレがあれば奪われた蓄えもなんとかなるでしょう……ありがたく頂戴いたします」

 

 二人はまた深々と頭を下げた。これ以上の礼も謝罪も必要なく、金貨の袋は無事村のものとなった。

 

「あとその内ニセモノ共(あいつら)にも責任は取らせますよ。ここ来る前にもう秩序の騎空団の方には話通してあるんで明日か明後日には回収しに来てくれます」

「それは助かります。ずっとあのままなのは、その……我々もどうしてよいのか……」

 

 村長達は、また更に窓から別のほうをチラリと見た。窓から見えるそこは、村の開けた広場だが鎧や服が石化して身動き取れない盗賊達やら埋められて生首状態になった盗賊達やらがズラリと並んで、とどめとばかりに“ぐっすり昏睡”状態にされていた。メドゥ子やユグドラシル、そしてヴェトルちゃん達による処置である。

 

「夢の中で反省しなさい……ね?」

「ええっと……ね、姉さん? ほどほどにね?」

 

 ヴェトルちゃん──オネイロスの力で今頃彼らは、夢の中で延々ティアマト達星晶戦隊に追いかけられる夢をみているだろう。

 大丈夫、ヴェトルちゃんは手加減を覚えた良い子です。俺達の時と違ってちゃんと目を覚ますよ。秩序の騎空団に引き渡す数日の間は、嫌がろうと強制的に寝かせて夢は見てもらうけどな。

 メドゥ子も今回の事で相当プリプリ怒っていたが、廃坑から戻ってきたら「アタシとメドゥシアナのニセモノが“コレ”とか冗談じゃないわっ!!」と激怒。彼女が廃坑から持ってきたのは、籠に入った一匹の蛇だった。それもどこの島にでもいる小さなやつ。「せめてもっと迫力のあるやつ用意しなさいよあいつら!!」と始終怒っていた。だがもっと悲惨なのは、その蛇の籠の傍にあった羽が散乱した鳥かごである。それを廃坑で見つけたガルーダは、何かを察した瞬間「わ、妾のニセモノオォォ~~~~ッ!?」と叫んだらしい。どうやらガルーダのニセモノ要因として適当な小鳥を数匹飼っていたようだが、全部メドゥ子(偽)の餌として食われたようだ。ニセモノとは言えあんまりである。名も種も知らぬ己のニセモノ(複数)の最期にガルーダは慟哭の後黙祷をささげたと言う。

 他にもなんか“団員っぽい”のがいたりいなかったり……自分のニセモノがいるならとフェザー君は「拳で語り合えると思った」そうであったが、拳を武器にするような盗賊共はおらず不完全燃焼気味だ。

 まあそんな各々思う事もあるニセモノ退治であった。

 

「ではこちらが食料など消耗品のリストになります~。盗賊に奪われてしまって直ぐ必要なものがあればなんでもおっしゃてくださいね~」

「生活用品なんかについてはこっち参考にしてや。多分これで事足りると思うで」

「ああ、これはどうもシェロカルテさんにカルテイラさん……なら、日用品などもお願いいたします。奴らに壊されたものも多くありますので」

「はいはい~」

 

 一方シェロさんの仕事はここからだ。「被害にあった人達は、なにかと入り用になりますから~」と、わざわざ危険なニセ騎空団退治について来たのもこれが理由。カルテイラさんも加わり、色々と村の立て直しのための商談を行っている。ただし儲けてやろうとかではなく、純粋に必要な物を必要とする場所に提供するためだ。

 

「秩序の騎空団来たらそっちとも相談した方がええな。何かしらの犯罪で被害にあった村の立て直しや復興の案内もある程度してくれるはずや」

「ほんとうに……何から何までしていただいて」

「こちらのリストの商品もお値段がかなりお安くして頂いてるようですが……」

「今後とも御贔屓にしていただけるなら、文字通りお安いごようですよ~」

「それは勿論です……では、他には──」

 

 まあ多少の商売っ気はあるだろうが、それで村の人が助かるのなら良いことだ。

 今後の事は、シェロさん達に任せ村長宅から外に出る。

 

「ジミー殿!」

「シャルロッテさん?」

 

 するとシャルロッテさんにコーデリアさん達が歩み寄ってきた。

 

「なんか色々調べてたみたいですが、終わりましたか?」

「はい、あらかた終わったであります」

「我々のニセモノと言う事で念のためリュミエール聖国の方にも悪い噂が出てないか調べはしたが、そちらは問題ない……と言う結論だね。リュミエール本国にも確認はとっているが、おそらく大丈夫だろう」

「流石にリュミエール聖騎士団の名まで騙っては、直ぐに確認がとられるので使わなかったようであります」

「そりゃまあ……とりあえず安心か。申し訳ない、俺のせいでシャルロッテさん達にまでご迷惑をおかけして」

「いえ、悪いのはあのニセモノ達であります!! 今回一番の被害者は、ジミー殿でありますよ!!」

「その通りだ。あまり気にし過ぎてはいけないよ」

「そう言っていただけるとありがたいです……はあ」

 

 ほんと各方面に迷惑かけるような事をよくもまあやってくれたものだ。

 

「兄ちゃあーん!!」

「ん?」

 

 ため息吐いて肩を落としていると、俺に向かって駆け寄ってくる一人の子供がいる。

 

「兄ちゃん!!」

「おっと」

 

 その子は森で出会ったあの子供だった。勢いのまま駆け寄りそのまま俺にぶつかり腹に顔を埋めた。

 

「ちょ、ちょっと!! 失礼なことしちゃだめよ!!」

 

 そして後からおさげ髪をゆらして駆け寄ってきたのは、B・ビィ達が助け出した人質の一人、食堂の娘さんでこの子のお姉さん。

 

「すみませんすみません……!! 団長さんを見たら走り出してしまって……」

「んやんや気にせんでいいっすよ。こんな感じの子にゃ慣れとるんで」

 

 思い浮かぶザンクティンゼルの暴れん坊……奴がこんな風に突撃したら俺は無事ではすむまい。

 

「すげえやすげえや!! 兄ちゃん本当にみんな助けてくれたんだね!!」

「うむ、約束を守れて俺もホッとしたよ」

 

 まあ俺は結局、ニセ団長を投げ飛ばしたぐらいしかしとらんけどね。

 

「お姉さんも無事で良かった」

「本当にありがとうございました。私はそちらの騎士様に助けていただいて……」

 

 おさげのお姉さんがコーデリアさんを見て、少し頬を赤く染めた。わかります、カッコイイもんねコーデリアさん。

 

「なに、騎士の務めを果たしたまでのこと」

「姉ちゃんもカックいーッ!! ……あれ、けど姉ちゃん達は星晶戦隊だけど騎空士じゃなくて騎士なんだよね?」

「はい、自分達は今はジミー殿の騎空団に身を置いておりますが、本来はリュミエール聖騎士団の騎士であります」

「へえ……君はオレと同じぐらいの子供なのに凄いなぁ」

「はうわっ!?」

 

 子供と言われたシャルロッテさんが短く悲鳴を上げた。なんか久々だなこの感じ。

 

「どっこい、シャルロッテさんは子供じゃないよ」

「へ?」

「ふふ……そう、彼の言う通り。シャルロッテ殿は我らリュミエール聖騎士団の団長なのだよ」

「そ、そうであります!! 自分は立派な大人であります……ふんすっ!!」

 

 フォローに入る俺とコーデリアさんだが、シャルロッテさんは小さな体を精一杯背伸びで伸ばし、そして胸を張った。そんな様子が余計に可愛らしく見えてしまい……。

 

「……本当かなぁ」

「あうっ!?」

 

 こんなこと言われちゃう。

 

「こらっ!? 失礼なこと言わないのっ!?」

「いてっ!?」

 

 慌ててお姉さんが頭を叩いてしかりつけた。

 

「すみません!! 礼儀を知らない子で……!!」

「い、いえ……お気になさらず……」

 

 気にするなと言うものの、シャルロッテさんは「うぐぐ」と悔しそうだった。そんな様子を見て俺もコーデリアさんも、気の毒に思いつつも少し笑ってしまう。

 

「(((´・ω・`)ノシ ダンチョ~」

「コッチノ仕事ハ終ワッタゾ」

 

 ドシンドシンと近づく足音。足音と声のする方を振り向けばやはりコロッサス、そして他のマグナシックス達。

 

「マグナシックスだぁ!!」

「そんな興奮する面子かいアレ?」

「だってカッコイイじゃん!!」

 

 カッコイイ……? 

 

「……そうだね、コロッサスやユグドラシルやセレストはカッコイイよな」

「オイ」

『露骨に我らを省くな』

「ちょっと嬉しくなっちゃうだろ」

 

 ほら見た事か、(笑)を省いたら文句を言うばかりかドMが一名喜ぶ始末だ。

 

「(*´ω`*) カッコイイダッテ♪」

「わ、私ってカッコイイかな……へへ」

「──!! ──!!」

「そ、そう? ユグドラシルがそう言うなら……へへ」

 

 そしてマグナシックスの良心達よ。この三人居なきゃマグナシックスは最早お笑い集団だからな。

 

「おめえらなに楽しそうにしてんの?」

「みんな集まってるなぁ」

 

 マグナシックス六人衆がわちゃわちゃしてるとB・ビィとゾーイがやってきた。

 

「別に楽しそうにはしとらんのだが」

「相棒の周りいつも愉快じゃん」

「うむ」

「同意すなゾーイ。お前達もその一員じゃ」

「へへへ、光栄だねぇ」

「うむ」

「だから同意す……まあいいや」

「姉ちゃん見てみて!! B・ビィくんマンと均衡少女ZOYだよ!!」

「え、ええ……そうね」

 

 そしてこの反応。マグナシックスで興奮できちゃうと、ゾーイはともかくB・ビィですらカッコイイらしい……。だがお姉さんはB・ビィにちょっと引き気味である。

 

「ミンッ!!」

 

 すると俺の服のフードに隠れてたミスラが飛び出してきた。

 

「姉ちゃん!! ……なんだろうこれ?」

「歯車ね……浮いてるけど」

「あ、一応星晶獣なんですこの子」

「ミミミンッ!!」

「へえ~……色んな星晶獣がいるんだなぁ」

「……ちょっとかわいい」

 

 やたら張り切って回転して浮遊するミスラ。今回出番も少なめなのでここぞとばかりに「自分も星晶獣だぞ!!」と目立ちたいようだ。わかるよお姉さん、かわいいよねこの子。

 

「ちょっとあんた達なに遊んでんのよ」

「こっちは仕事おわったのじゃ」

「盗賊達は姉さんが眠らせました」

「ふふふ……お仕置き悪夢行きだけどね」

 

 そして続けてメドゥ子達まで現れる。

 

「ほれ相棒、愉快な一員達が増えたぞ」

「誰が愉快な一員よっ!?」

「んふふ……愉快な一員だってモルフェ」

「あは、そうだね姉さん」

「ゆかいじゃのう」

「ンシャ~」

「メドゥシアナまでのらないの!!」

 

 何やら愉快でかわいい動きをしたヴェトルちゃん達に対しメドゥ子がプリプリしているが余計に愉快である。

 しかしコイツがのじゃ子達の先頭でわちゃわちゃやってるとなんだが星晶ちびっ子探検隊みたいな感じあるな。

 

「誰がちびっ子かっ!?」

「だしぬけに痛いっ!?」

 

 矢庭にメドゥ子から膝小僧へのローキックを食らってしまった。

 

「うぎぎ……な、なぜ俺の考えが……」

「顔に書いてあんのよ!! 明け透けな思考が!!」

 

 おのれ俺の表情筋……。

 

「だからってあんな迷いの無いローキックする奴があるか!?」

「大してダメージないくせに」

「いてぇもんはいてぇ!! 三つ編むぞこの野郎っ!?」

「ちょっ!? あんた報復で髪型いじくるの止めなさいよ気持ち悪いわねっ!?」

「誰が気持ちわるいじゃ!? ええい編んでくれる!! その毛編み下ろしにしてくれるてめぇこの野郎!!」

「うわあぁー!? 手慣れた手付きが怖いっ!?」

 

 編み応えのあるメドゥ子の髪。膝小僧を蹴られた恨み編み晴らしてくれる。

 

「すっげーなあ!! こんなに星晶獣がいるんなんて!! ねえ姉ちゃん!!」

「う、うん……星晶獣なのよね?」

「そりゃ星晶戦隊なんだもん」

「そうよね……なんか翼生えてる子もいるものね……」

「聞いたか相棒。相棒とヘビッ子が愉快なもんだから、普段何してるかわからない(あん)ちゃんと近所の子供達みたいに思われてるぞ」

「なんだその妙に具体的な例えは!?」

「誰が近所の子供よっ!?」

 

 普段何してるかわからないとは心外である。日々俺は色々やってるだろうが、星晶獣(笑)の相手や団員(笑)の相手とか。

 

「だが色々やりすぎて取っ散らかってしまったせいで、結局何してるかわからない正体不明の地味な少年になってしまったな団長」

「ゾーイ? 人の思考を読んだあげく酷いまとめしないで?」

「読まずともわかってしまうからなぁ」

「くそうっ!! くそうっ!!」

「わあああっ!? 考え丸わかりで悔しいからってアタシの髪型変えるなアァッ!?」

 

 勢いで編み下ろしの本数を増やす。この悔しさはメドゥ子の髪型を弄る事で晴らすしかないのだ。

 

「……星晶獣なのよねぇ」

「星晶獣だよ、姉ちゃん」

「……星晶戦隊なのねぇ」

「星晶戦隊だよ、姉ちゃん」

 

 だが結局お姉さんには、なんだか呆れたのか感心したのかわからない表情で見られてしまったのだった。

 

 ■

 

 十 噂は続くよ何処までも

 

 ■

 

 後日、村には秩序の騎空団からの一団が来て団長達の捕らえたニセ騎空団を連行していった。秩序の騎空団が村に来た時「ニセ騎空団とやらはどこか?」と聞かれた団長達は、一同そろって「あっち」と地面に埋まったり石化してるニセモノ共を指さした。それを見た秩序の騎空団の騎空士達の表情たるや驚きよりも呆れが勝るようで、「そういえば君達星晶戦隊だったね……」と呆れていた。

 最後大人しく連行されていくニセモノ共であるが、彼らに──特にあの優男に向けティアマト達星晶獣達がわざとらしく脅しをかける。

 

「次クダラン事シタラ空ノ果テマデ吹キ飛バスゾ」

「ケシズミニ (`・з・) シチャウゾ!!」

『水底に沈めてやろうか』

「──!!」

「串刺しにしてもかまわんぞ」

「た、魂奪わせてもらうよ……」

 

 どれもほんとに出来てしまう脅しなのでニセモノ共は心底肝が冷え、悲鳴を上げて「早く連れてってくれぇ!?」と秩序の騎空団に助けを求めていた。困った様子でこの場の責任者として来た騎空士の一人が「あまりやり過ぎないようにね?」と一応の注意をして今度こそニセモノ共を連れて行く。軽い注意にとどめたのは、彼ら秩序の騎空団もこう言ったニセ騎空団の事件に辟易していたのかもしれない。

 

「んじゃぼちぼち俺らも」

 

 数の多いニセ騎空団を秩序の騎空団に任せ、星晶戦隊がこの島でやるべき事はなくなり、最後団長達も帰ることとなる。

 

「んじゃ村長さんに皆さん、俺ら帰りますんで。なんかあったらシェロさん経由でも何でも構いませんのでご依頼ください」

「地味デ幸薄イ団長ノイル騎空団ニナ」

「借金背負った馬鹿人間が団長の騎空団にね」

「よけーな事言うんじゃねいっ!?」

 

 ティアマトとメドゥ子の言葉に団長以外の一同が思わず笑う。

 

「この度は本当にありがとうございました。このような何もない村ですが、依頼でなくとも何時か機会があればお立ち寄りください。改めて御礼をいたします」

「その時はウチの料理をどうか食べていってください。今度こそ本物の星晶戦隊に料理を出したいので」

「父ちゃんの料理は村で……ううん、島で一番なんだよ!!」

「どうせなら世界一って言ってくれよ」

 

 食堂の親子の会話に、今度は団長も含めみんなが笑みを浮かべた。

 

「兄ちゃん本当に行っちゃうの? もっと居ればいいのに」

「いやぁずっといるのは流石にね……全員で来ちゃったし」

 

 分かれの挨拶の最中からずっと団長の周りをウロチョロする食堂の子供。憧れの星晶戦隊に帰ってほしくないようで、まだ居てくれと団長の手を引っ張る。だが団長の言う通り、星晶戦隊は全員がこの場に来ている。単純に人数が多いのもあるが、それよりも今この小さな島の小さな村には、大小合わせて星晶獣が12体いる事になる。「ゾーイじゃないが、こんなん色んなバランス崩れてしかたない」と団長が考えるのも無理もないだろう。

 

「うぷぷ、好かれてしまいましたねぇ~団長さん」

「気楽に言いますがね」

「……そうだ!!」

「うおっと?」

 

 子供に絡まれる団長を見てシェロカルテが笑う。そんなシェロカルテを見た子供は、何かを思い出したらしい。

 

「どしたの?」

「なあ兄ちゃん!! 兄ちゃんって“ロリコン”ってやつなんだよな!!」

「へごおぉ────っ!!」

「ジミー殿おぉっ!?」

「団長殿おぉっ!?」

「どうして……どうして……」

 

 その瞬間団長は断末魔にしてはマヌケすぎる言葉を放ち、そのまま仰向けに倒れる。シャルロッテやユーリ達が駆け寄るが、団長は顔を両手で覆って嘆くばかりだ。

 

「子供ノ耳ニマデ噂ガ入ッタカ」

『ニセモノの悪名と共に、変な噂も余計広まったからな』

「まあ、“こっち”の噂は今更だ。気にするな主殿」

「ドンマイだぜ相棒」

「ドンマイできるかぁ……!?」

 

 星晶獣(笑)達に慰めにならない慰めを言われる団長。

 一方でロリコン発言をした子供は──。

 

「お前はなに失礼な事言ってんだっ!?」

「よりにもよって別れ際にっ!?」

「うわあぁ──っ!?」

 

 父親と姉にしこたま叱られていた。

 

「だって父ちゃん達!! 前にオレが星晶戦隊の話したら「あそこの団長はロリコンって噂があるから」とか言ってたじゃんかっ!?」

「うおおぉぉっ!? ちょっと口閉じなさい昔の事だからぁ!?」

「だ、団長さんっ!? 噂、噂を聞いただけですからっ!?」

「そですか……ヒィンッ!!」

「ああ……団長きゅんがショックのあまり変な泣声を……」

「純粋な眼差しの子供にロリコン呼ばわりされりゃね……」

 

 ラムレッダやマリーに哀れに思われる団長。

 

「え~……まず、なぜ急にジミー殿にあのような事を?」

 

 シャルロッテが怒られる子供に聞いてみる。すると怒られていたと言うのに、子供は明るい笑みを浮かべ答える。

 

「ロリコンってよくしらないけど──“オレみたいな女の子”が好きなんだろ!!」

「君女の子だったのっ!?」

 

 ある意味で衝撃の発言、今の今まで食堂の子供の事を自然と男の子と思っていた団長は、仰向けから飛び上がるように上半身を起こし驚き、他の団員もそうだったらしく、目を見開いていた。

 

「あれ、言ってなかったっけ?」

「だって俺ずっと”坊や”って呼んじゃってて……」

「そうだっけ? よく言われるから気になんなかった」

「そ、そなんだね……あ、ごめんねなんか失礼な言い方して」

 

 過去コーデリアとの出会いでは、美男と間違われがちなコーデリアの事を直ぐに女性と気付いた団長であるものの、今回の相手は幼い子供であったためか見抜く事が出来なかった。

 

「す、すみません団長さん……気にせんで下さい。私の育て方のせいか、上の娘と違って見ての通り腕白に育ってしまって」

「“妹”は村の外から来た方なんかには、いつも男の子と間違われてまして……」

「さ、さいですか……」

「それより兄ちゃん!! オレを騎空団の仲間にしてくれよっ!!」

「な、仲間に……?」

「うんっ!! 兄ちゃんがロリコンなら、オレみたいなの好きなんだよな!!」

「イヤーッ!?」

「本当にロリコンならオレも仲間にしたいよね!! ね、いいだろ!! ロリコン兄ちゃん!!」

「グワーッ!?」

「お前ほんとちょっと口閉じなさい……!!」

「すみませんすみませんすみません……っ!!」

 

 子供──幼い少女から純粋無垢に“ロリコン”と連呼され、悲鳴と言うよりもはや奇声を発し地面に倒れる団長。少女の父親は、彼女の口をふさぎ姉は何度も頭を下げ続けた。

 

「イヤァ~……ホント、毎度毎度オチガ締マランナァ」

『綺麗に締まる事件解決の方が珍しいからな我々は』

「これは噂がまた増えそうだな主殿」

「ドンマイだぜ相棒!!」

「だからドンマイできるかぁ……っ!?」

 

(笑)ーズの面々に呆れる以上、いっそ感心されてしまう団長は、地面で悶え苦しんだ。

 その後、当然少女の入団は却下される。事件の終わりで今回最大のダメージを受けダウンした団長は、マチョビィの肩に抱えられて去っていった。それを見送る村人達と始終申し訳なさそうな食堂親子、そして──。

 

「また来てね兄ちゃあぁ──んッ!!」

「あは、あはは……さいならぁ……」

 

 この場でロリコンの意味を説明できるような者はおらず、結局少女は“ロリコン”の意味をよく理解せず最後まで純粋なまま。それに対して団長は、萎れた笑みで手を振り返す。

 

「良い人なんだろうなぁ……」

「良い人なんだろうねぇ……」

「……“だから”なんだろうなぁ」

「“だから”なんだろうねぇ……」

 

 それを見た食堂の親子や村人一同は、星晶戦隊(以下略)団長の人となりを理解し、そして彼に何故良い噂以上にろくでもない噂が多いのかその苦労を背負った姿を見てもっと理解したのだった。

 

 ■

 

 十一 (笑)と癒しの星晶獣が12体(+α)いて、よく吐くドラフと、格闘馬鹿と、回る哲学者と、ちびっ子騎士団長にイケメン騎士に頑張り騎士と、名の知れた商人相場師と、始終笑い続けるキノコキチハンターと、歩く天災ファッションクレージーと、腐女子絵師と、生真面目ナイトと、スリルとお宝大好きコンビと、世界で一番可愛い美少女天才錬金術師様と、幽霊娘withペット達と、ギャルと、売れっ子デザイナー達に、侍少女と、復讐を誓う占い師と、釣り好き爺が加わったアットホームで団長の胃痛と借金が絶えない騎空団です

 

 ■

 

「星晶戦隊(以下略)の噂が増えたようだな」

「どうした急に」

 

 ファータ・グランデ空域のとある島で、噂話を始める騎空士二人。どうやら星晶戦隊(以下略)の噂を始めたらしい。

 

「いや、なんか星晶戦隊を騙るアホが居たらしいぜ。結構な事件だったらしい」

「そんな命知らずいたのか……」

「まあ噂だけ聞いて「こんな騎空団いるわけない」と思ったんだろ」

「それでも普通やんねえけどな」

 

 既にニセ星晶戦隊の話は、彼らのような騎空士にも届いたらしい。この二人も団長達星晶戦隊に会った事はないが、信頼できる“よろず屋”から噂以上の活躍をよく聞いている。騎空士としてその話を“嘘”とは思えず、故にその存在を疑わないのでいるので、よりにもよって星晶戦隊の名を騙る愚かなニセモノ達の悪い意味での度胸に呆れていた。

 

「そいで例によって、なんか新しい仲間が増えたらしい」

「お、こっちが本題か……仲間が増えるだけで噂が増える騎空団ってなんなんだろうな」

「流石としか言いようがないぜ」

 

 騎空団に仲間が増えるのは、はっきり言ってしまえば“当たり前”の事である。だが星晶戦隊(以下略)ではそれさえ大きな話題となり、怪しい噂に変わる。

 

「で、今度はどんな仲間の噂なんだ?」

「ああ、まず侍少女が仲間になったらしい」

「……“星晶戦隊に”って頭がつくとアレだな」

「ああ」

 

 侍、あるいは剣豪と言う(ジョブ)自体は、騎空士の間でも知られている。刀剣類の中で空で広く普及する両刃剣ではなく、“刀”と呼ばれる片刃の剣を主に扱う戦士の事である。

 刀はもちろん、弓の扱いにも長けており、一対一の立会いでは無類の強さを発揮する。一方で玄人向けの職ともされ、多くの騎空団で仲間の中に刀を扱う者がいたとしても、職種として侍を極め剣豪にまでなる者は多いとは言えない。

 だからこそ一目置かれる。十分に経験を積んだ騎空士ならば、騎空団に侍がいると聞いたなら「ほほう」と思わず唸り、腕に自信があるならば腕試しに勝負を挑む者もいるだろう。

 しかし、そんな侍も星晶戦隊の仲間になったと聞いてみれば──。

 

「普通」

「だな」

 

 と言う感想になってしまう。

 

「とはいえ、たぶん俺らが思ってる以上に面白い侍なんだろうな」

「ちげえねえ、なんせあの星晶戦隊だからな……」

 

 実際団長の仲間となったミリンは、実力十分の侍であるが同時に普通の侍とは少し違った“ござる少女”である。あながち間違いとは言い切れない考えが浮かぶ二人。

 

「で、占い師の男が仲間になったらしい」

「なあにっ!! 男っ!?」

 

 仲間になったのが男性と聞いて驚く男。何をそんなに驚く必要があるのか? ──と、団長がいたら思うだろう。

 

「男が仲間って久々だな……」

「それも目撃情報によると、少し陰のある大人って感じらしい」

「ほう? しかし占い師? なぜに……」

「噂じゃなんか色々わけありらしいぜ」

「あの騎空団わけありしかいなくないか……?」

「確かに」

 

 これもまたあながち間違いではない感想を述べる二人。

 

「……そう言えば、俺らも前占い受けたじゃん?」

「ああ、夢占いな」

「あの時の占い師の嬢ちゃんも仲間っぽいぞ」

「マジ?」

「うん、噂の内容聞く感じそうっぽい」

「……なんで?」

「わかんね」

 

 占い師だけで二人(実際にはモルフェもいるが)を仲間にした団長。しかもその一人ヴェトルの占いは、この男達も受けたことがある。奇妙な縁を感じつつも「そもそも占い師をなぜ仲間に……?」と思わずにはいられない二人。

 

「……あの占い師の子さ」

「おう」

「大分……幼くなかったか?」

「ああ……子供だった」

「……単純にそう言う子集まっちゃうのかな」

「かもしれねえな」

「ううむ、流石星晶戦隊団長……」

「うむ。で、最後に釣り人の爺さんが仲間になったらしい」

「どういうことなんだよ」

「わからねえ」

 

 騎空団に釣り人が仲間になった。今回最大の謎の噂であった。

 

「見かけた奴の話じゃ、ハーヴィンの爺さんで釣竿持ってたってよ」

「なるほどな……いや、しかし……こらぁまた判断に困る仲間達じゃねえか」

「まったくだぜ……」

「まさか枯れ専でもあったとは……」

「そこなのか?」

 

 侍、占い師、釣り人。この組み合わせを聞いて誰が騎空団の一員と思うだろうか。だが事実であるので、団長がこの場に居たとしても否定しようがない。本当に侍と占い師と釣り人は仲間になっているのだから。

 

「しかし出来の悪いカードゲームの絵札みたいな組み合わせだな」

「確かに」

「で、だ……毎度の様に噂を総合してみると」

「ああ」

「これからは「ロリコンの年上巨乳好きの枯れ専で、幼馴染属性とホモの可能性がある着物女装っ子好きの腋フェチ人外ケモナーの釣りキチ」か……」

「噂とはいえ、一人に集中する属性とは思えんな」

「ああ、噂とは言えな……」

「いい加減、この団長に会ってみてぇぜ……侍女子かぁ」

「お前……」

 

 こうして増え行く根も葉もないようで、ちょっとある噂。これらが少しして団長自身の耳に入ると彼は、エンゼラの甲板から広くどこまでも続く空に向かって意味もなく「空の馬鹿野郎」と吠えるのだった。




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「₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾」
「₍₍ ʅ(˘ω˘) ʃ ⁾⁾」
「コロッサスにクロエちゃん……? なに踊ってんの?」
「ニセモノ ニ (`・ω・´) ハンセイヲ ウナガス ダンスダヨ!!」
「ウェーイッ!!」

前々から「主人公のニセモノ」系を前から書いてみたかったので。
なんだか久しぶりに、アナザーエピソードじゃない本編での団長達でした。

「孤狼の墓標」、セワスチアン殿はカッコイイでありますな。
リュミエールメインのイベントはありがたいでありますよ。
なんでそろそろ、コーデリアとブリジールのSSR昇格をですね……。

メ、メデューサアァッ!? リミテッド、リミテッドなんでっ!?
姉妹復活も近いのか?

四聖も揃ってきやがりました。
実はガルーダに団長が攫われた話を書いた時、案の一つに「ダイダロイトベルト側に連れて行かれ、色々あった挙句に黄龍か黒麒麟に跨った団長が自力で帰還する」話を考えていました。
クエストマップ上ではガロンゾの下が丁度ダイダロイトベルトなのと、単純にそこのクエストに黄龍、黒麒麟戦があったからです。
書いても面白かったろうな~と思ってましたが、四聖関連キャラが出ると知って、気ままな二次創作とは言え書かなくて良かったとホッとしました。
その内アナザーストーリーな感じで四聖キャラと団長達の話書いてみたいっす。

これからは、本編として日常話やら可能なら新しい仲間やら知り合いやらの話をして、また何かしらのシナリオイベント系の話をしようかなと思ってます。アナザーエピソード的な話が思いついたら、別で投稿するか「少し違う空編 Ⅳ」の方に入れるかもしれません。
あと小ネタを「小ネタ羅列伝」にも投稿しました。イカな娘のアウギュステ侵略話です。よろしければそちらどうぞ。

年内にもう一本ぐらいは投稿したいところ。
今後ものんびり更新になりますが、よろしくお願いします。
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