提督をみつけたら   作:源治

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『僕』と『正規空母:加賀』

 

 

 

 この世界は一度滅びかけたらしい。

 

 しんかいせいかんという、怪物が現れて世界をめちゃくちゃにしたんだ。

 だけどどこからか現れた艦娘と、その辺に居た提督と、あと沢山の人たちが力を合わせてしんかいせいかんをやっつけて平和を取り戻したんだって。

 

 その後、艦娘たちは妖精さんに子供を作れるようにしてもらって、提督と呼ばれた人たちと結婚して子孫を増やしたらしい。

 艦娘たちは一定まで年を取ると、死ぬまでその姿だったらしいので、ある日ぽっくりといく(なんとなくわかるらしい)その時まで、それはもう沢山沢山子供を作ったらしく、当時ものすごく減っていた人口がそれでけっこう増えたんだとか。

 

 そうやって少しずつ人口は元に戻り、とっても長い時がかかったけれど、ようやく文明もしんかいせいかんが現れるちょっと前くらいまで復興したのが今の世界。

 

 艦娘の寿命は八十年位(※気合で伸びる)らしく、当時の艦娘は今はもう居ない。

 

 でも、艦娘は今でもこの世界に居る。

 なぜなら時々、ぽろっと提督と艦娘の子孫の中から生まれることがあるからだ。

 

 ちなみに僕のおばあちゃんのお母さんも艦娘だったんだって。

 

 おばあちゃんはよく、お母さんでもあった艦娘たちのことを僕に話してくれる。

 彼女たちは生まれ持って色んな力を持っていたり、彼女たちのための法律があったり、彼女たちの中でも『駆逐艦』『軽巡洋艦』『重巡洋艦』『戦艦』『軽空母』『正規空母』『潜水艦』『その他(適当)』色んな種類があるとか。

 

 そしてその中でも特に僕が気になったのが、彼女たち艦娘は提督適性者と呼ばれる素質を持った人としか子供が作れず、好きになったりすることも無いという話だ。

 

 正確には提督適性者、というだけでも駄目らしく、その中でも自分にあった種類の艦種適性を持ってる提督じゃないと駄目らしい。

 さらに提督適性者の中には艦種適性じゃなく、一つの艦の種類しか適性のない人もいるらしく、むしろその方が多いとか。

 

 ちょっとわかり辛いかな。

 

 一つ例を上げると正に僕のひいおじいちゃん。

 おばあちゃんのお母さんは『天城』という艦娘だったらしいんだけど、ぼくのひいおじいちゃんはその『天城』という適性しかなかった。

 そしてひいおじいちゃんと出会えたことが、ひいおばあちゃんにとっては人生の中でなによりの幸せなことだったとよく話してたとか。

 

 でも僕は思ったんだ、最初から好きになる人が決まってるなんて、なんだか悲しいことなんじゃないのかなって。

 

 そうおばあちゃんに聞くと、おばあちゃんはクスリと笑って教えてくれた。

 なんでもおばあちゃんも同じことを聞いたらしい。

 

 おばあちゃんのお母さんはそのことを聞かれると

 

『私たちの中の本能とでもいうのかしらね、それを信じて大事な人を探す、そして見つける。まるで運命に導かれるようだけど、それを思うだけでもとっても幸せでいっぱいになるの。もう他のことなんか全部どうでもよくなっちゃうくらいに。個体差もあるでしょうけど、それは私たち艦娘にとってはとってもとってもうれしいことなのよ』

 

 そう、恋をして幸せで幸せで仕方が無い、そんな笑顔で答えたんだとか。

 

 僕はよくわからなかったけど、おばあちゃんはその答えを聞いてとても綺麗だと感じたらしい。

 そしておばあちゃんいわく、僕にももしかしたら、ひいおじいちゃんみたいに提督適性があって、艦娘に選ばれる日が来るかもね、そう言ってた。

 

 ちなみになんの艦娘の適性を持っているかは、周りの人や提督適性者側からは分からないらしく、適性に該当する艦娘がその適性者を見た瞬間、まるで雷が落ちたようにわかるらしい。

 一目ぼれというやつなのだろうか?

 

 随分長くなっちゃった。

 

 まあ、僕がどうしてこんな長々とこんなことを思ってるのかだけど……

 

 

「航空母艦、加賀です。本名は別にあるのだけど、貴方にはそう呼んで欲しいわ。……それであなたが私の提督なの? 正直かなり期待はしているわ」

 

 

 下校途中に黒塗りの高級車から降りてきた、どうにもその艦娘らしき人に絡まれている真っ最中だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『僕』と『正規空母:加賀』

 

 

 

 

 

 

 

 

 髪を片方で結ってまとめ、高そうなスーツ姿の綺麗な顔をしたおねえさん? 艦娘だから実際に何歳なのかはわから無いけど。

 彼女はいきなり僕の前に現れて道をふさぐように立ちふさがった。

 

 ……正直逃げ出したいくらい恐い。

 

 僕はランドセルについている防犯用の笛を握り締めて、ゆっくりと後ろに下がる。

 

「ご、ごめんなさい、突然で驚いたかしら。でもどうしても聞いて欲しいことがあるの、ほんの少しの時間でいいわ」

 

 僕は悲しそうにしている彼女を見て、少し胸が痛くなる。

 なので、少しだけ彼女の話を聞いてあげることにした。

 

「その、心配いらないわ。一つだけ聞きたいことがあるだけだから」

 

 そう言って彼女はとても凛々しい真剣な顔をする。

 

「……子供は何人欲しいかしら?」

 

 

 

 僕は力いっぱい笛を吹いた。

 

 

 

■□■□■

 

 

 

 あの後『加賀』という人は、黒塗りの高級車からでてきた二人の女の人に「クマー」「にゃー」という掛け声にあわせて引っ張られ、車の中に押し込められて走り去って行った。

 

 僕が家に帰って今日の話をおばあちゃんにすると、おばあちゃんは「まあまあまあ」とうれしそうにして、本棚から『艦娘図鑑』って図鑑を持ってきて、とあるページを開いて見せてくれた。

 

「この人だったかい?」

 

 おばあちゃんが指差す写真に写ってるのは、胸当てに白い服と紺色のスカートを着て、肩の部分には大きな板のような防具? をつけている黒髪の女の人。

 同じページには『第一航空戦隊』と書かれた文字の下に、赤いスカートの同じような姿の人と、大きな弓を持って海の上を走っている姿の写真ものっていた。

 ちなみにこの姿はしんかいせいかんをやっつける為の戦装束というらしい。

 

 着ている服や髪の長さ、微妙な雰囲気みたいなのは違ったけれども、確かに今日あった人とよく似ていた。

 

「この人はばあちゃんのお母さんと一緒で、正規空母って呼ばれる艦種の人だね。やっぱりお父さんの血筋ねぇ」

 

 なんでも同じ種類の艦娘でも、親や生活環境で微妙に体つきや顔つきは変わるらしい。

 あと、同じ種類の艦娘が近くに居ると、のうはきょうしん? とかいうのが起きて、頭が痛くなっちゃうからなるべく違う場所に住むように注意してるとか。

 まあそんなに数が多くないからめったに起きないらしいけど。

 

「ぼんはこの人に選ばれちゃったみたいだねぇ……ふふふ、これから色々大変になりそうだねぇ。まぁ、ぼんの好きなようにするといいさね、どうしても困ったらばあちゃんにいいな」

 

 正直もうすでに困ってるんだけど……。

 

 でも、なんだかうれしそうな顔をしてるおばあちゃんを見てるとなにもいえなかった。

 ちなみに僕はその夜、今日あった『加賀』という人に手を引かれて海の上を走る夢を見た。

 

 

 

 めっちゃこわかった。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

「え、まじで? 提督適性持ってたのかよ、すっげーな」

 

 次の日、学校の裏庭で校舎に住み着いている野良猫に牛乳を上げながら昨日あったことを友達に話すと、ものすごく驚いていた。

 

「提督適性を持ってるって、そんなにすごいことなの?」

 

「うちの兄ちゃんが詳しいんだけどさ、宝くじの一等に当たるほうがまだ現実味があるって言ってたぜ。ちなみに提督適性をもった人とその適性が合う艦娘が出会える確率は、世界一運の悪い刑事が別居中の妻の勤める商社のクリスマスパーティーに行ってテロリストに遭遇するくらいの確率なんだって」

 

 なんだかよくわからないたとえだ、すごく低い確率とも思えるし、なぜか必ず起きることのようにも思える。

 

「調べようが無いけど、俺もなんか提督適性持ってたりしてなー」

 

「自分や機械とかじゃ調べることができないらしいからね」

 

「だよなー、調べたかったらとにかく艦娘に会いまくるしかないんだろうけど、俺らの学年で艦娘っていったらあの子しかしらないんだよなぁ」

 

 僕が同級生に艦娘なんて居たっけ、と首をかしげると友達はえーっと、と言いながら「あっ」といって校舎の屋上を指差す。

 

「あの子だよあの子、確か『大鳳』って名前の艦娘だったはず。クラスは違うけど俺らと同じ学年だぜ」

 

 友達が指す方を見ると、女の子が屋上の手すりを持ちながらじっと空を見つめていた。

 うーん、普通の女の子と全然変わらない様に見えるんだけど、言われてみると加賀さんにどこかにてなくもないような。

 

 やっぱり似てないか、色んな所の大きさが。

 

「基本的に彼女たちはせんぞく? の先生が直接指導する特別クラスだからなぁ、よっぽど特別な理由がないと近づけないし、一回話しかけようとしたんだけどさ、なんていうかその子が艦娘だって思うとなんか足がすくんじゃってさ、怖いとかじゃないんだけど話しかけられないんだよなぁ」

 

「え、そうなの?」

 

 意外だった、男になると叫びながら傘を持って二階から飛び降りた、怖いもの知らずの友達の言葉とは思えない。

 

「だって艦娘が居なかったら人間って滅びてたのかもしれないんだぜ?」

 

「それぐらいは知ってるけどさ……」

 

「なんつーか、そう思うとおそれおおいって気持ちがわいちゃうんだよなぁ」

 

 よくわからないけど、ふーん、と僕がうなずいてもう一回屋上を見ると、そこにはもう誰も居なかった。

 僕がぼけっとそこを見つめてたら、牛乳を飲んでいた猫がもっともっとっていってるみたいに「にゃー」って鳴いた。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

 数日後、あの時の『加賀』という人が帰り道でガードレールに腰掛けて待っていた。

 この前の服装とは違い、丈の短い紺色のワンピースに黒いハイソックスの姿だ、この前見た写真の姿と少し似ている気がする。

 でもそんなことは関係ないので、僕はとっさに逃げようとしたけど

 

「あっ、お願い待って……」

 

 と、あの時と同じようにとてもさびしそうな声で呼び止められてしまったので、またなんだか悪いような気になってしまい、ゆっくりと『加賀』という人のそばまで歩き、少し距離をとって止まった。

 『加賀』という人は少しほっとしたようだったけれど、なにを言っていいのかわから無いようで、うつむいてもじもじしている。

 

「あの……お姉さん僕になにかごようでしょうか……」

 

 僕は正直早く帰ってトイレに行きたかったので、あまり気が乗らなかったけど自分から話しかけた。

 『加賀』という人は顔を上げてぱっとうれしそうな顔をし、話し出す。

 

「その、この前はごめんなさい。急にへんなことを言ってしまって。気分が高揚してしまったというか、その……あっ、私のことは加賀と呼んでくれていいのよ、できればその、お姉さんというのはなんだか他人行儀で好きになれないといいますか……」

 

『加賀』艦娘名で呼んで欲しいということは、つまりはそういうことなのだろうか。

 

「……加賀……さん。その、この前のことはもういいので、もう行ってもいいでしょうか」

 

 あ、思わず加賀さんの名前を呼んでしまった。

 

 というのも、彼女たち艦娘は同じ艦娘と提督適性者以外に、面と向かって自分の艦娘名を呼ばれることがあまり好きではないらしい。

 そして自分からそう呼ぶようにお願いするのは、彼女たちが選んだ提督適性者だけだとか。

 

 世間では彼女たちがそう呼ぶように願い、そして提督適性者が受け止めて、その名前を呼ぶこと。

 それを『艦名の契り』とかすごい名前で呼ぶらしいんだけど……

 

 正直、僕は早くトイレに行きたい。

 

「あの、ごめんなさい、正直なんて言ったらいいのかわから無いのだけど。貴方とお話がしたいの、本当に、今はただそれだけでもいいから。えっと、と、とても美味しいお菓子とか食べないかしら? 直ぐ、直ぐそこにいいお店があるの」

 

 僕は知っている、それはふしんしゃと呼ばれる人たちが必ず口にする言葉だってことを。

 胡散臭げに後ずさる僕を見て、加賀さんはとてもあわてた風になる。

 

「あっ! ご、ごめんなさい待って、えっと、あの……。ぅぅぅ、助けて赤城さん……」

 

 そう言って加賀さんは泣きそうな顔で自分の服をぎゅっと握り締める。

 そんな加賀さんの姿を見て、僕はなんだか加賀さんが不器用なだけで、ただなんとか僕と仲良くできないか必死でがんばっているように見えた。

 

 ……そう考えると、加賀さんはそんなに悪い人じゃないのかもしれない。

 

「わかりました、いいですよ。少しだけ話すだけでしたら」

 

 僕がそう言うと彼女は驚いた顔をしたけど、その後とても綺麗な微笑を浮かべた。

 その顔を見て僕は不覚にもどきりとしてしまう。

 

「じゃ、じゃあ乗って、直ぐそこだから」

 

 そう慌てて車のドアを開けようとしたためか、彼女がひじからかけていたバッグがボトリと地面に落ちた。

 そしてバッグの口が開き中身が飛び出す。

 

 中から出て来たのは、僕が写っている沢山の写真。

 遠くから撮られたような感じなので、多分隠し撮りという奴だ。

 

 見ると加賀さんがすごく青い顔をしていた。

 

 僕はそれを見て自分でも驚くような、さっきの加賀さんにも負けない、いい笑みを浮かべられたと思う。

 

 

 

 そして僕は力いっぱい笛を吹いた。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

 あの後加賀さんはまた、クマーにゃーという掛け声と共に運ばれていった。

 僕はなんだかどっと疲れてしまい、近くの公園のトイレで用を済ました。

 そしてトイレから出て公園から見える景色を眺める。

 

 海と港が見えて、その近くには沢山のビルが立ち並ぶ風景が見える。

 

 

 ここは『艦夢守市(かんむすし)』

 

 

 大きな港があり、その港と街の周りをぐるっと山に囲まれている、そんな立地の場所。

 都会とまではいかないけれど、それなりに騒がしくてそれなりに穏やかな大きさの街。

 

 

 そしてこの街には一つの噂がある。

 それは提督適性者が集まるという噂だ。

 

 

 この街には居るかもしれない提督適性者たちと、その噂を聞いてやってきた割と多くの艦娘たちと、沢山の人たちが平和に暮らしている。

 

 

 つまり、ここが僕の住んでいるところだ。

 

 




※本作は一話完結の話もありますが、群像劇だったり同じ登場人物の続きものだったりするので、順番に見てもらえるほうが楽しめるかと思います。

よろしくお願いいたします。

■適性補足
・全艦適性 全ての艦娘にヒットする(登場予定なし)
・艦種適性 戦艦、駆逐艦など、該当艦種艦娘にヒットする
・艦型適性 川内型、高雄型、など該当型艦娘にヒットする
・個別適性 特定の艦娘のみにヒットする(複数の場合有り)
・複合適性 型、個別など両方の適性を持つ組み合わせ

※基本的にこの世界に居るのは個別適性者がほとんどです。
艦種適性や艦型適性は相当少ないと思っていただければ。
ですが、話の都合上取り上げられる提督は、希少な適性を持ってることが多くなります。

■大事なこと
・提督に対しての艦娘の反応や想い、意見には個人差があります、多分
・本作は基本艦娘からの呼び名を『提督』で統一しています(例外あり)
 

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