提督をみつけたら   作:源治

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最近なぜか株を上げつつある残念イケメンホスト回。
そして襲い来る、やさぐれ榛名というパワーワード。
 


『ホスト』と『戦艦:榛名』

 

「……以上が本日の予定になります社長」

「はいはい、榛名は大丈夫大丈夫ですっと」

 

 年配の女性秘書が予定表を読み上げる声が豪奢な家具で彩られた寝室に響き、それに鈴の音のなるようなりんとした声が答える。

 見ると朝日を反射するカラスの濡れ羽色の長く美しい黒髪女性が、出窓の窓枠に腰掛けながら外を眺めていた。

 

 その瞳は特になにかを見ているというわけでなく、ただ気だるげな気分を紛らわせようと外を見ているだけのようで、その美しい表情は愁いを帯び覇気がまるで感じられない様子。

 

「それと、できればそのような格好はお控えください」

 

 自らを榛名と言った戦艦の艦娘の姿は、黒と白のストライプ模様を上下そろえた下着姿で、上の下着の片方の肩紐はだらりと外れている。

 榛名は年配の女性秘書のその言葉には返事を返さず、黙って外を見続けている。

 

 反応の無い榛名の様子に、女性秘書はため息を吐くと「それではご予定に遅れませぬように」と一言述べて部屋を出て行った。

 

 女性秘書が部屋から出てしばらくたち、榛名は言葉を漏らす。

 

「毎日毎日、笑顔を振りまく仕事はもう疲れました、榛名は実は大丈夫じゃないかもしれません」

 

 榛名組のフロント企業『ハルナック』は警備会社として多くの社員(組員)を有し、その中には艦娘も多く所属している強力な企業である。

 施設や個人の警備はもとより、船舶の航行の護衛任務などの大規模な作戦行動すら可能な力を有する、ある意味金剛連合の最大戦力ともいえた。(霧島組は最強戦力)

 

 榛名はその会社のトップとして、日々様々な場所に赴いては会社の【顔】として笑顔を振りまく毎日だった。

 

 もちろん榛名自身、社内で進行しているプロジェクトや業務などは把握しているし、補佐として多くの有能な人員が支えているので問題なく会社は回っている。

 だが彼女に最も“多く”求められているのはただ、この『ハルナック』が金剛連合、そして艦娘主導によって運営されている事実を示すことだった。

 

「日々は変わらず、ただ流れていく。大儀もなく、提督もなく。あるのは姉妹と仲間への義理立てのみ。もちろんそれが嫌ではなく、されどただただ退屈な日々、なぜ榛名は生きるのでしょうか?」

 

 榛名はこのところこの手の独り言が多くなっているという自覚はあったが、毎朝の習慣となりつつあるこの独白をやめることができなかった。

 

「それを考えることに意味はありません、考えるのは無駄です。自分なりの答え? 生まれてからずっと用意されたレールに沿った生き方しかして来なかった榛名が何故答えを出せましょうか」

 

 独白を続けながら榛名は体勢を変え、ごろりと窓枠に頭を乗せ空を見上げる。

 

「型にはまった人生を退屈に生き、生き続け、やがて死ぬこと。それにどのような価値がありましょうか。価値のない人生。意思のない人生。それはまるで淡々と続く……拷問のようです」

 

 独白が終わり榛名は静かに目を閉じる、そして再び目を開くとまるでスイッチが入ったかのように、世間で出回る多くの広告

 

『貴方の安全はハルナックが守ります、勝手は許しません!!』

 

と榛名とセットになった姿で見られる、元気いっぱいの明るい表情になっていた。

 

 だけど、ほんの少し、だけど確かにその表情はどこか辛そうに見えた。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

 ホスト、それは夜の住人、闇夜の時間を生きる者。

 ホスト、その本質は飢えた狼、金と女性、そして名誉に飢える者。

 ホスト、しかして彼らの仕事はきらめく世界で、夢を振りまく者。

 

『艦夢守市』その歓楽街にも彼らが住まう城があった。

 

 ホストクラブ「YOKOSUKA」

 

 今日も彼らは闇夜の時を駆け、飢えを満たし、そして夢を振りまくのだった……

 

 

 

「え? 五日間も店閉めちゃうんすか?」

「……ああ、店の拡張と内装工事含めてな、個室に近いVIPルームを増やすことになったんだよ、誰かのせいでな」

 

 最近どこかやつれたように見えるホストクラブ『YOKOSUKA』の店長が、閉店後の店内でショウを含めた従業員たちに通達する。

 

 ショウ以外の従業員たちは「ああ……」と納得したようにうなずいていた。

 

「まじっすかー、飯どうしよう……比叡ちゃんに甘えるっすかねぇ…ぐふぉ? あ、アザーッス?」

 

 ショウの腹に弱弱しくパンチを打ち込む店長、ショウはなんだかちっとも痛くない店長の指導パンチにとりあえず感謝を叫ぶ。

 

「ほどほどにな……」

 

 どこか背中のすすけた店長が声をかけてその場は解散となった。

 休み中は給料は出ないが、腐っても高級クラブなので給料は悪くない。

 

 各々のホストや従業員は貯蓄でどうとでも食いつなげるのだが、ショウだけは死活問題だった。

 なぜならただでさえ少ない給料を先日、雨の日に公園で雨宿りしてたら、ホームレスが傘(ビニール)をくれたので、お礼に財布の中身を全部あげてしまったからである。

 

 ショウさんホスト向いてないっすよ。(涙目ゴシゴシ)

 

 そんなわけで給料日までの一週間を店のあまり物でなんとか食いつなごうと考えていたショウは、これからの一週間をどう乗り切るか切実な危機に直面していた。

 

「ひっさびさにあれで稼ぐしかないかぁ」

 

 ショウはそうつぶやき、徒歩で住んでいる築五十年超えのぼろアパートに戻る。

 カンカンと音を鳴らしながら二階へと続く、歩くたびに塗装がはがれて落ちる錆びた階段を上り鍵のかかってないドアを開けた。

 昔は鍵をかけてたのだが、軽い衝撃でも簡単に鍵がガチャリと開いてしまうようなどうしようもないドアのため、以来鍵はかけなくなっていた。

 

 ドアを開けて直ぐの狭いキッチンとトイレがある通路を抜け、四畳半の部屋に入る。

 狭い室内には布団とカラーボックスの棚、そしてゴミ捨て場から拾ってきた丸テーブル以外に家具はなく、雑誌やら整髪料やら脱ぎ散らかされた衣服が乱雑に散らばった床、典型的な男の部屋だ。

 ショウはその部屋の一角にある押入れの中からギターケースを取り出した。

 

 ケースを開けると、古びたアコースティックギターが姿を現す。

 

「久々に俺のライブの幕が開くぜぇ!」

 

 ジャジャーンとギターを搔き鳴らすと、チューニングされていない間抜けな音が返って来る。

 その音を聞いて深夜の仕事で疲れて寝ていたとなりの住人が壁ドンした。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

 警備会社ハルナック本社ビルの最上階社長室、そこに榛名は居た。

 

「はぁ、あちらの国のファミリーが、うちの島で戦争を起こそうとしている?」

 

『今比叡に探らせてるけど、ここ最近うちへ国籍不明の傭兵の流入が確認されてる以上、その可能性は高いわ』

 

 大きな机に置かれた電話、そこからから伸びる受話器をもちながら金剛からの電話に返事を返す榛名。

 

『ただ相手はウチじゃないわね。兵隊山ほど飼ってる連中が、自分の所以外の兵隊を使う時は大体身内を手に掛ける時よ。恐らく向こうのファミリーはドン・リベッチオに手を出す気よ』

 

「しかしあの方は引退して、提督を探すために今では細々とお店をやっておられるだけなのでしょう?」

 

--------------------

 ドン・リベッチオ

 

 かつてかの国にあった全てのファミリーを一代でまとめた艦娘

 

 駆逐艦の艦娘でありながら、コミュニケーションで殺し合いをするようなかの国で、抗争を収めるために立ち上がった常夏の少女。

 数多くの組織を力で、時に愛で隷下にくわえ、ついにはかの国でもっとも強大な組織

 

 リットリオファミリー、ローマファミリー

 

 この二つを和解させ、長らく平和を築いたゴッド・マザー。

 

 引退した今では、かつての戦いの日々は忘れ、ひっそりとこの艦夢守市で提督を探すためイタリア料理店を営んでいる。

--------------------

 

『トロフィーとしての価値を求めているのかも知れないわね』

「……愚かですね」

『まぁ、あいつらがどこで殺し合おうと勝手だけど、うちにきちんと義理立てしてるドン・リベッチオを、うちの島でやるなんていうなめたまねをするっていうなら黙っておけないわ。そして恐らく最後はリットリオとローマが出てくる』

 

 そうなれば人間の兵隊では役に立たない、艦娘に勝てるのは艦娘だけだ。

 

 榛名が最も【多く】求められているのは顔を売ること。

 しかし最も【強く】求められているのは……

 

『と、いうわけで榛名、近々出番があるかもしれないわ』

「はい、勝手は榛名が許しません」

 

 

『戦闘人形』と呼ばれるほどの強さを持った今代の榛名。

 

 金剛が下命し

 比叡が調べ

 霧島が切り込み

 榛名が殲滅する

 

 もっとも多くの血を浴びる任を担うのが彼女である。

 

「勝手は榛名が許しません」

 

 その言葉を三回続けて呟いた時、その場で生き残れる者は彼女以外誰もいない。

 

 それは儀式。

 或いは様式。

 

 美学めいた段階を追って、意識が切り替わる。

 やさしげな大和撫子から非情な夜叉羅刹へと。

 

 

 金剛からの電話を切り、ゆっくりと立ち上がる榛名。

 

 ふと、自分の身長よりも高い、部屋の一面のガラス窓に映る自分の姿が目に入った。

 

 その服装は、かつての大戦で彼女たち金剛型が身につけていた巫女服のような戦装束、ある程度特別な会議や要人と会うときは、彼女はこの衣装を身にまとうようにしている。

 

(まるでお飾りの人形のよう……)

 

 若い霧島や比叡はわからないが、自分は金剛姉さまと一緒で提督を探すことは疾うに諦めている。

 

 今の自分にできるのはただ意味のない戦いで、意味の無い力を振るうことのみ。

 

 ……なんと無意味なことか。

 

 なぜこんな強大な力を持って生まれてしまったのか、艦娘としての居場所は確かにあるかもしれない、いろんな方が尽力してくれたお陰で。

 

 でも、言い換えればもはやこの世界では、自分のような壊れた力を持った艦娘の居場所など……

 そしてもし提督と出会えたとしても、そんな艦娘を率いることになる提督の居場所など無いだろうに……。

 

 むなしく自分の姿を見ていると、ふと自社のビルの正面門の付近に変わった動きをするなにか。

 

「あれはなんでしょうか?」

 

 艦娘の視力でなければ把握できないような距離に、目を引く動きをするなにかの姿が見える。

 スーツ姿でもなく、かといってなにかの作業員というわけでもない。少なくとも働くものの格好ではない。

 ギターを搔き鳴らし歌い続ける男を榛名はじっと見つめている。

 

「ああ、昨日からこの辺でうろついている路上ミュージシャンというやつですね」

 

 榛名に侍る様にその部屋で仕事をしていた老年の女性秘書が報告する。

 二代の『榛名』に仕えている彼女がどれだけ信用されているのかは、金剛との会話を同じ部屋で聞いても許されていることから察せられた。

 

「警備部から連絡がありましたが、特に害がないようなので放っているようです。それよりも社長、この後の会議の件なのですが……社長?」

 

 こちらを振り向かず、じっと外を見続ける榛名。

 その様子に、ここ最近の業務に気の入っていない榛名の様子も含めて、少し気になっていた秘書は強い言葉を投げかける。

 

 無礼であるのは承知である、だが言わねばならない忠言でもあった。

 

「社長しっかりなさってください! 貴方はわが社の、そしてそこに働くものたち全員の道しるべとなるべき方なのですよ。このところ業務に気が入っておられないのは存じておりますが……」

 

 その言葉が引き金になったのかはわからない。

 だが気がつけば榛名は、秘書を押しのけ走り出していた。

 

「だ、誰か社長をお引き止めして!」

 

 後ろから聞こえる声を振りきり、非常階段を文字通り飛び降りる。

 とてもではないが普通の人間が追いつけるような速度ではなく、追ってきていた警備員や社員たちはあっという間に引き離されていく。

 

 やがて外に出て、目的の場所に到着した榛名は見た。

 

 

 

 そこにある、地上の太陽を。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ホスト』と『戦艦:榛名』

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の手で切り開く、俺の手で掴み取る、俺の手で作り上げる、それは俺のキングダムだぜ♪」

 

 無駄にポジティブなワードを並べまくった歌が、平日昼間のビジネス街に響き渡る。

 さんさんと太陽光が降り注ぐ中、汗をかきながらショウはとある大きなビルの前のストリートで歌っていた。

 

 そんなショウをちらりと横目で見ながら、行きかうビジネスマンたちは足早で通り過ぎていく、なんというか明らかに歌う場所も時間も間違えていた。

 ショウの前に置かれた空のギターケースには、一円玉が数枚しかない。ショウのなけなしの見せ金である。

 

 ストリートライブを始めて早二日目、実入りは悪い。

 ぶっちゃけショウ的には百円でも入ればもやしが買えるので、一縷の望みをかけて熱唱を続けていたのだが、世間の風は冷たかった。

 

 いや、実は何人か聞きたいなと思ってる人は居たかもしれないが、足を止めて聞いてしまうと仕事に支障をきたすし、なんというか、青い希望に溢れた歌の内容はどうにも疲れた社会人には重過ぎる内容だった。

 多分上司にラリアットするテーマや、駆逐艦は最高だぜのテーマ、あと出張に使うク○カードつき宿泊プランはすばらしいをテーマに歌ったりしたら思わず共感して足を止めてしまう人も多いと思ったりする。

 

 しかしそんなことはお構い無しに、ショウは歌い続ける。

 

「有名な誰かが言った言葉、頭のいい誰かが書いた言葉、そんなものは俺には響かねえ♪知らない誰かの言葉より、俺は俺の言葉が聞きたい♪だから歌う、俺は歌う、誰かのためじゃなく~俺は俺のために歌うッ♪」

 

 間違ってない、今日の食費を稼ぐためにショウは歌ってる。

 やがて曲を歌い終えたショウは、ポツリとつぶやいた。

 

「もしかして場所が悪いんすかね?」

 

 遅い、気が付くのが遅いよショウさん、時間と場所をわきまえなよ。

 

 しかしポジティブしんきんぐなショウは、そうと決まればとギターをしまって場所を変えようと歩き出す、と

 

「あっ、あの……」

 

 そんなショウに声をかける存在、ショウが振り向くとそこにはなにやら巫女服のような格好をした長い黒髪の女性、榛名である。

 ショウはなんとなくコスプレに挑戦したどっかのお嬢様という印象を抱いた。

 

 なにかを伝えようと必死に言葉を探すも、なにを言ったらいいのかわから無い榛名。

 そんな榛名の姿と、後ろから何人ものスーツ姿の男たちが走ってくるのを見て、ショウはなんとなく別の方向に勘違いを膨らませた。

 

「なんだ、お嬢さん追われてるんすか、よっしこっちっすよ!」

 

 ショウは呆然としていた榛名の手を取り走り出す。

 そして路肩に止めてあったおんぼろスクーターの後ろに榛名を座らせ、一つしかないヘルメットを榛名にかぶせる。

 

「ほい、ついでにこれも担いで」

 

 ショウはそういって榛名にギターケースを背負わせると、スクーター急発進させた。

 後ろからは榛名を呼ぶ声、それに対してショウが、

 

「はっはっはっは! この支配からの卒業っすよ!!」

 

 と、それっぽい青春のワンフレーズ溢れる捨て台詞を叫ぶ。

 追いかけてきていた男たちがあっという間に見えなくなった。

 

 ここまでなすがままショウに引っ張られていた榛名が、始めて大声を上げる。

 

「あ、あの、どこに行くのですか!?」

 

 風にまぎれて消えてしまわないよう、自分の出せる一番大きな声をあげる榛名。

 

「ここじゃないどこかっすよ!」

「どこかって……どこに行っても、榛名の、榛名の居場所はこの世界のどこにも……」

「なーに青いこといってんすか! 居場所が無きゃ自分で掴み取るんすよ! まぁ俺もまだまだ半端もんで職場じゃ味噌っかす扱いっすけどね!」

「それで貴方は……貴方は幸せなのですか?」

 

 彼女は思った、自分はいったいどうしてこんなことを聞いてしまったのか、でも聞かずにはいられなかった。

 空虚な退屈が続く日々、色あせた世界。この本来の意義無き戦いのない世界で自分と、そして提督の居場所はあるのだろうかと。

 

「ああ? 最高っすよ! 晴れた空、よく走るバイク、後ろには美女! こんな人生誰かに味わわせてあげたいくらいっす!」

 

 ショウはそんな不安に満ちた榛名に向かって、なに一つ迷いの無い笑顔で負けじと大声をあげる。

 その言葉を聞いて榛名の心の中にあった不安は、あふれ出んばかりの幸福によってあっさりと塗りつぶされてしまった。

 

「榛名もです提督!!」

 

 ショウにしがみつきながら涙を流し、何度も「榛名は大丈夫です!」と叫びながら笑みを浮かべる榛名。

 

 

「榛名は大丈夫です!」

 

 その言葉を三回続けて叫ぶ時、その場で彼女に魅了されない物は彼女以外誰もいない。

 

 それは儀式。

 或いは様式。

 

 美学めいた段階を追って、意識が切り替わる。

 

 存在することに疲れ果てた哀れな戦闘人形から。

 咲き誇る愛に満ちたやさしげな大和撫子へと。

 

 

 定員オーバーのスクーターが、ブスンブスンと抗議するように音を鳴らした。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

「へー、榛名ちゃんっていうんすか、いい名前っすね」

「へへへ、ありがとうございます提督!」

 

 社長とホストが並んで、立ち食いそば屋でたぬきそばを食べていた。ちなみに券売機で食券を買ったのは榛名である。

 券売機の使い方が解らなかった榛名は、ショウに買い方を教えてもらいながら、面白がって何枚も券を買っておばちゃんに怒られてしまった。

 

 ちなみになぜか返金はできないとのことだったので、余った食券はショウが全部貰うこととなり、結果的にショウの数日間の食料は無事確保された。(結果オーライ)

 

「そういやさっきから気になってたけど、その提督ってなに?」

「提督は提督です! 私たち艦娘にとって無くてはならない人です!」

「へー、そうなんすか」

 

 カンムスってなんだろう、よくわからなかったのでショウは考えることをやめた。

 

 それよりも問題なのは、面白がって榛名がたぬきそばに七味を大量に振りかけていることだ。慌ててショウが止めに入るも時すでに遅く、いつの間にかたぬきそばが赤いたぬきになってしまっていた。

 

「あーあー、榛名ちゃん。それぜってー辛いっすよ」

「いえ、榛名は大丈夫です!」

 

 そう言って自信満々にたぬきそばを上品にフーフーとすする榛名、しかし案の定あまりの辛さに箸を落として口を押さえてしまった。

 

「ほらいわんこっちゃ無い、水っすよ」

 

 見越してセルフの水を汲んできたショウが榛名に水を手渡す、榛名は慌ててその水を受け取るとごくごくと飲み干した。

 

「……大丈夫じゃありませんでしたぁ」

「そりゃそんだけかけりゃね」

 

 そういってさらっとショウは榛名のどんぶりと自分のどんぶりを交換する。

 あっ、と榛名が止める前に、ショウは榛名のそばをすすり始め「カラァアアアイ!」と叫び声をあげる。

 榛名は慌てて慣れない手つきでセルフサービスの水を汲み、ショウに差し出した。

 ショウはその水を受け取り、ごくごくと飲み干す。

 

 やがて二人はどちらともなく見詰め合って、そして同時に笑い出した。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

「ホントにここでいいんすか?」

「はい! ありがとうございました!」

 

 ショウが榛名を降ろしたのは、先ほど逃げ出したビルの前だ。

 ならいんすけど、と、榛名がかぶっていたヘルメットを受け取り、かぶるショウ。

 

「また、お会いできますでしょうか?」

「おーっと、そういえば榛名ちゃんに渡しとかなきゃならないものがあったっすよ!」

 

 そういって懐から名刺を取り出し渡すショウ。

 

「ほすと……倶楽部ですか?」

「いえーっす! 俺と楽しくお酒が飲めてお話できる最高の場所さ! 今はまだ改装中っすけど、明々後日にはリニューアルオープンするからよかったら来てね☆」

「ショウさんと、お酒を飲みながらお話……行きます! 榛名、絶対行きます!」

「待ってるっすよ!」

 

 そう言い残し、走り出したショウの後姿を、榛名はその姿が見えなくなるまで手を振っていた。

 やがて、会社に戻った榛名は秘書や部下たちに頭を下げて謝罪を述べながら

 

「榛名はもう大丈夫です!」

 

 と朗らかに告げる。

 

 その笑顔はかつて大戦中の榛名が見せていたそれと、いや、それ以上に周りを魅了する明るく美しい生気に満ち溢れたものだった。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

 その日、色々なことが起きた。

 

 まず霧島が、「マイクチェックの時間だオラァアアア!!」と叫んだ。

 改装工事も含めて一週間以上補充できなかった提督養分(学名:テイトクニウム)が切れてしまったのだ。

 そして体と心が養分を求め、仕事を投げ出し盗んだバイク(組員の私物)でショウのホストクラブに走り出した。

 

 そして比叡がホストクラブが改装中に急ぎで組み込んだ海外出張から帰り、出張中の報告受けるも、提督養分(商品名:テイトクニウム)を一刻でも早く補給しようと霧島の予定だけ確認し終えると、そのまま倉庫にあったトラック(デコトラ)で走り出した。

 故に報告の中身の榛名がホストクラブに通いだしたことを聞き流してしまった。

 

 最後に榛名、数日前からショウの居るホストクラブに通いだしどっぷりはまってしまい、今日なんかはシャンパンタワーの予約まで入れてしまった。

 普通は秘書たちが止めそうなものなのだが、ここ数日の榛名のいい方向への変わりように、まあそれで榛名が精力的に仕事に励んでくれるならと見逃していた。

 

 

 ちなみに、ショウの予約で取られたシャンパンタワーの予約を掠め取ろうとしたナンバーワンホストだったが、予約名簿の『榛名』の文字を見た瞬間、とてもとても嫌な予感がした。

 

 なのでむしろ掠め取るどころか、ショウのためにバックダンス役に名乗りを上げ、更にショウにはシャンパンコールのいろはまで教えてくれた。

 

 さすがナンバーワンホスト、恩を売る相手を間違えない。

 

 

 そんなわけで当日。

 

 ホストクラブの店内に響き渡るショウのシャンパンコール。

 

 

「こちらのぉおおお! お嬢様、榛名ちゃんに! シャンパンタワー! いただきましたあああ!」

 

「え、榛名?」

「え、榛名?」

 

 思わずカーテンで区切られた個室から出る霧島と比叡、そしてその二人と目が合う榛名。

 

 

 

 時が止まった。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

「……」

「……」

「……」

 

 ホストクラブからの帰りの車の中、後部座席に金剛姉妹の三人並んで座る車内に重い沈黙が流れる。

 正確には愛しさと切なさと心強さでコーティングされ、その中に殺害と覚悟と嫉妬強さが詰まった感じだけど、やっぱりその中に愛しさと切なさと心づry

 

 自分たちの愛する姉妹の提督が見つかってとても喜ばしい、が、まさか同じ提督だなんて……ありゃわしの提督じゃけえのぉ。が奇妙に混在する重い空気とでも思っていただきたい。

 

 ちなみ座席は【窓 比叡 榛名 霧島 窓】

 

「あの、二人はいつから……」

「……私は、三週間ほど前から」

 

 恐る恐る榛名が切り出し、まず霧島が窓の外に目を向けながら答える。

 

「私は霧島がホスト通いを始めたという報告を受けて、二週間ほど前からよ」

 

 続いて気まずそうに比叡が反対側の窓に目を向けながら答える。

 

「榛名は数日ほど前から、その、すみませんどうしてもショウさん、提督と二人っきりでお話しする甘い時間を楽しんで居たくて」

 

「わかるわ」

「わかるわ」

 

 ほぼ同時に同意を示す比叡と霧島、さすが姉妹。

 しばしの沈黙の後、再び榛名が口を開く。

 

「……次の茶会で、金剛お姉さまに報告しないわけにはいかないですよね。その、そうなるとどうなるのでしょうか?」

 

 三人が適合した以上、ショウに金剛型の適性があるのは明らかだった。

 問題は金剛型の適性を持った提督という前例が無いことだ。艦娘の中でもかなりの権力を持つ金剛型の艦娘。その提督ともなれば集まる権力は正直想像もつかない。 

 

 一応、提督を見つけた場合の推奨方針もあるにはあるのだが、それは金剛型の誰か一人の提督が見つかった場合の緩やかな引継ぎマニュアルのようなものでしかない。

 

 でも正直、三人はショウが権力をもっても全然今と変わらないと、なぜか確たる自信があった。

 それはいい、それはいいのだ。だが、あの『最凶』の金剛姉さまが提督を見つけてしまった場合のことを考えると、いろいろと予測できるような予測できないような、三人はなんともいえない気持ちに包まれる。

 

 無論、『最凶』の金剛のことを考えれば一刻でも早く、直ぐにでもこのことを教えたい気持ちもある、が……。

 

 最悪の事態が想定されるとなった場合、私たちは金剛姉さまを……。

 

 …………。

 

『はぁ……』

 

 そして同時にため息をつき、もうちょっとだけ黙ってることにしちゃう?

 と最終的に家に着く頃にはなにも言わず、そんな感じの空気になっていた。

 

 

 ……なにかのカウントダウンが進んだ音がした。

 

 

 だがそれはまだ先の話、まだ。(近日)

 

 

 

 ちなみに榛名の正体に気が付いてしまった店長は、店のトイレから四時間出てこなかった。

 

 

 




やさぐれ榛名というパワーワードを超える。
ドン・リベッチオというパワーワード。
 
あと、陸上での艦娘の戦闘能力は超強いとしか決めてないです。

金剛連合会 純粋戦闘力の目安
金剛単独>グランドキャニオン>【榛名組>霧島組>比叡組】
 

※ドンは男性に対する尊称で女性の場合ドナ又はドーニャになりますが、正直『ドン・リベッチオ』の一目で伝わるインパクトが薄れちゃうので、ドン・リベッチオで突っ切ります、ご容赦ください。
 
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