世界すべての金剛を愛す提督へ、届けこの想い。
残念イケメンホスト編:最終回
その金剛を詠った詩がある
体は凶気で出来ている
血潮は重油で、心は鉄錆
幾たびの鉄火場を越えて不敗
ただの一度も慈悲はなく
ただの一度も救いを求めず
彼の者は常に独り嵐の海で殺戮に酔う
故に、その生涯に提督はなく
その体は、きっと凶気で出来ていた
最凶の金剛
彼女がそう呼ばれる逸話や理由は数あるが、最もたる理由の一つ、それが
艦齢 百二十歳
年経た艦娘が若い提督と添い遂げるために、その意志の強さで寿命を延ばす例は多々あるが、提督なくしてここまで寿命を延ばした例はほぼ無い。
そこまで彼女が生きなければならない理由はわからないが、推測されているのは金剛という個体が現状世界で彼女一人しかいないからだと思われている。
そして恐るべきことに、結果として金剛連合会に百年近く君臨し続け、数多の戦いを越えて来た彼女は未だ衰えることなく現役である。
だが、身体は現役でもその心は、とっくに凶気に囚われていた。
もうずいぶん前から……
それでも、ずっと留めていた。
八十を越えたとき誰もが心配した。
九十を越えたとき誰もが恐怖した。
百を越えたとき、逆に誰もが安心した。
ああ、この金剛は大丈夫なのだと。
百十の時には誰もがその心配を忘れてしまっていた。
だが、それ故に誰も思い至らなかった。
今まで大丈夫だったからといって、明日、大丈夫だという保証など、
どこにも無いというのに。
■□■□■
茶会
月に一度開かれる金剛連合会、そのトップ四組織の組長が集まる月例報告会を指す言葉である。
百畳近い広大な洋室、その中央に置かれた丸いテーブルを囲み四人の艦娘
金剛、比叡、榛名、霧島
四人の意識のすり合わせと決定を行う場所。
比叡、榛名、霧島の後ろには組織の幹部が数多く控え、中には艦娘と思われる女性たちも見受けられる。
だが、その場で発言することを許されるのは金剛四姉妹のみ。
不思議なことに金剛の後ろには幹部どころか誰一人控えていない。
金剛組:構成員一名
金剛とは象徴であり、意思の決定のみを行う存在である。
そこにしがらみや他の意思が介在する余地を入れてはならない。
故に金剛組は、創立当初から常にただ一人(雑事を行う人員は存在)、だがそれでいて他の三つの組織に匹敵する力を有していた。
金剛とはそういう存在なのだ。
恐ろしいまでの緊張感が室内に張り詰める中、金剛がカップを置いた音が響く。
「……こんな所かしらね。最後になにか報告することはあるかしら?」
金剛が口を開く。
榛名によく似た美しい顔立ち、いや榛名が似ているのか、カップを見つめるその瞳は憂いを含んでいて、見るものは思わずため息をつく、そんな美しさ。
そして美しく結われた腰まで長く伸びる艶やかな髪、女性らしさを体現したかのようなその姿は正に百合のようなはかなげな美を感じさせる。
だからこそ違和感を覚える、伝えられている、向日葵のような明るい美しさを持ったイメージの一般的な金剛とのギャップに。
そして話し方も、世間が知る金剛の話し方では無い。
「……比叡組は有りません」
「……榛名組も有りません」
「……霧島組もです、有りません」
三人はカップを口につけ傾ける、味はしない、香りもだ。
当然である、中身は空だ。
「そう」
そして金剛もカップを口につけ傾ける。
こちらも中身は無い、白湯すら、なにも入って無い。
「では最後に私から」
いつの頃からか、金剛は紅茶も、なにも飲まなくなった。
それに付き合うように三姉妹も、この席ではなにも飲まない。
誰も理由を聞けなかった。
そして、金剛がカップを皿に置いた音がカチャリとなる。
「ローマとリットリオに仕掛ける、霧島、榛名、準備しておきなさい」
まるで大したことでも無いように、二つの巨大組織への攻撃決定を告げる金剛。
慌てて比叡が口を挟む。
「ま、待ってください姉様! ローマとリットリオが此方に傭兵を送り込んだという証拠はなにも見つかっていません! そう報告したはずでは!?」
「ドン・リベッチオが殺されてからでは遅いわ、そして二人が既に艦夢守市に入ったというのは確かな情報。なら先手を打って仕掛ける方がいい」
再び中身の無いカップを傾ける金剛。
その目に光は無く、ただ空虚な闇があるだけ。
頭を取れば終わる、そんな簡単な話ではない。
彼女たちもまた巨大組織を束ねる艦娘であり、彼女たちに忠誠を誓う多くの部下たちがいる。
むしろ頭を取られてしまえば、残ったものたちは最後の一人まで徹底的に闘うだろう。
それはただの泥沼でしかない、とてもではないが確かな証拠と理由無しに、有ったとしてもとっていい行動ではないのだ。
それ故、三人は気がついてしまった、金剛が正気ではないということに。
いつからだ、いつ姉様は壊れたのだ?
いや、今だったのか?
それとももうずっと前からか……。
提督をみつけた、今なら、今の私たちだからわかる。
金剛姉さまは既に凶気を留めていない、溢れ出してしまっている。
金剛自身も気がついていない、彼女は無意識になにもかもを巻き込んで終わらせるつもりなのだ、自身も、金剛連合会すらも。
金剛以外の三人はお互い目を見合わせる。
こうなってしまった以上隠してはおけない、猶予もない、むしろよく間に合ったというべきか。
「金剛姉様、会っていただきたい方が居ます、攻撃するかの判断はどうかその後に」
「?」
比叡の進言を聞いて、金剛は童女のように首をかしげた。
金剛四姉妹がそろって来店する。
その知らせは直ぐにホストクラブ「YOKOSUKA」に通達された。
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実を言うとこの店はもうだめです。
突然こんなこと言ってごめんね。
でも本当です。
2、3日後に金剛連合会、
そのトップ四組織の組長が来ます。
それが終わりの合図です。
程なく大きめの注文が入るので
気をつけて。
それがやんだら、少しだけ間をおいて
終わりがきます。
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その知らせを聞いた日の店長の日記である。
ホスト、それは夜の住人、闇夜の時間を生きる者。
ホスト、その本質は飢えた狼、金と女性、そして名誉に飢える者。
ホスト、しかして彼らの仕事はきらめく世界で、夢を振りまく者。
『艦夢守市』その歓楽街にも彼らが住まう城があった。
ホストクラブ「YOKOSUKA」
今日も彼らは闇夜の時を駆け、飢えを満たし、そして夢を振りまくのだった……
が、その日のホストクラブ「YOKOSUKA」は異様な空気に包まれていた。
中央のホールに置かれた四角いテーブルを囲むように座るのは、
巫女服のような服にも見える艦娘としての正装に身を包んだ、金剛連合会の四つの組織の長、金剛、比叡、榛名、霧島。
そして、店の壁に背を付けるように店のホストたちが直立不動で並んで立っている。
ホストたちの誰もが緊張した面持ちで、誰もが今日出勤したことを後悔していた。
そして、霧島の少し後ろには、背を丸め極力自分を小さく見せようと必死に努力する店長の姿。
店はもちろん貸切だ。
誰もが口を開けず、ただ金剛がなにも入っていないカップを傾けては皿に置く音が規則的に響く。
ここで極めて重大な情報がある。
ショウさんから、迷子になった外人さんを交番まで連れて行くので遅れるっす。
という連絡が先ほど店に入っていた。
速報:店長 その連絡を聞いてこの時代に生まれてしまったことを後悔する
「で、こんな所に連れてきて誰に会わせたいっていうの?」
カチャリ、とカップを皿に置く音、店長はさっきからこの音を聞くたびに寿命が一日減ってるように感じていた。
「それは……」
チラリと霧島が店長のほうを見る、店長は冷や汗をぬぐいながら首を軽く横に振る。
霧島には既にショウが遅れることを伝えてあったので、言葉にはせず軽くまだ到着していない意のみを伝えたるためだ。
と、いうかこの状況で発言できるわけない。
「今こちらに向かっています、もう少しお待ちを」
「そう」
カチャリ
「そこの男、向かってるのは誰なのかしら?」
店長に特大のキラーパス!!
「金剛姉さま、それは……」
「霧島には聞いてない」
ピシャリ、と霧島の言葉をさえぎる金剛、店長の胃酸が快調に逆流を始める。
なにも言えない店長、言える訳がない。
今向かってるのは下っ端のホストなのだ、金剛連合会の事実上の頭首を待たせるほどの大物が下っ端のホストです、なんて言える訳がないだろぉ!!(錯乱)
なにも言えない店長にチラリと目をやる金剛。
「……命をかけてでも霧島の命令を守る、か。その霧島への忠義立てに免じてもう少し待ってあげるわ。霧島、いい部下を持ったわね」
ここで金剛が奇跡の勘違い、店長九死に一生を得る!!
「よ、よろしければなにか飲み物をお持ちしましょうか?」
店長、ここでなんとか寿命を延ばそうと、ホストクラブの店長らしい気を利かせるプレイ!!
「貴方の目は節穴? 私がさっきからなにを飲んでるのか見えてないのかしら?」
空気ですか?
言えるわけない、店長は自らのプレイでオウンゴールをたたき出す、代償は店長の寿命である。
でもその言葉で、その場にいる誰もが、金剛がもう壊れてしまっていると、わかってしまった。
「……まぁ、なんとなく察しはつくのだけれど」
カチャリ、金剛がようやくカップを机の上に置いて手を離し、両手を膝の上に丁寧に添えるよう重ねて乗せる。
「提督なんでしょ、三人のうちの誰のかはわからないけど」
「……」
「……」
「……いえ、金剛姉さま。私たちの、金剛型の提督です」
比叡の言葉に、今まで一切表情の動かなかった金剛の眉が少し動く。
なにを馬鹿な、金剛型の艦型適性の提督?
そんな都合のいい適性を持った提督など、と、金剛は一笑しようとする。
だがあまりに真剣な比叡の表情を見て、金剛はそれが嘘ではないと理解した。
「……そう、嘘ではないのね」
短い返事だった、その返事にこめられた金剛の心中を誰も察せない、だが。
「なら、殺さないといけないわね。今更……遅すぎよ。私に提督なんて必要ないわ、私は一人で死ぬのよ、そう決めたの。例え滑稽だったとしてもその決意を汚させなんてしないわ……」
続いた搾り出すような、想像を絶する苦悶の感情、それが感じられる金剛の言葉に一同は唖然とする。
一体どれほどの悲しみや苦しみがあったのか、百二十年、その重みは、この場にいる誰にも理解できないが、確かに重いものということだけは感じられた。
静まり返るホール、比叡、榛名、霧島がどうすべきか一瞬、金剛との衝突も視野に入れた思考がよぎった、その、瞬間。
「お疲れ様っす! 店長遅くなってすみませんでしたー!」
空気を読まないタイミングで空気読まない挨拶が裏口から響く、静まり返っていたホールにその声はとてもよく響いた。
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今でも、思い出す。
先代の金剛が提督と幸せそうに去っていく姿を。
提督が見つかれば、基本的には金剛連合会の組長は世代交代をする。
決まりではないが、いろんな問題もあるし、なにより仕事よりも提督と一緒に居ることの方が大事だからだ。
なのでその時代に同型が何人いるかはわからないが、居るなら残った姉妹によって選出された後任へ世代交代をする。
「貴方にもきっと、戦艦金剛としての、そして金剛連合会に相応しい素敵な提督が必ず見つかるデース!!」
その言葉を信じてがんばった。
就任してから 一年たった、提督に出会えたらなんて言おう?
就任してから 十年たった、出会えてすぐ口づけをしても怒らないだろうか?
就任してから二十年たった、子供は何人欲しいだろうか
就任してから三十年たった、先代の金剛が提督と同じ墓に入ったと聞いた
就任してから四十年たった、まだかなまだかな、会いたいな
就任してから五十年たった、自分より年上だった妹たちはとっくに居ない
就任してから六十年たった、がんばらなくちゃ、艦娘の居場所を守らなくちゃ
就任してから七十年たった、がんばらなくちゃ、今の金剛は私しかいないのだから
就任してから八十年たった、がんばらなくちゃ、私は金剛なのだから
就任してから九十年たった、がんばらなくちゃ?
就任してから 百年たった、私は、なんでがんばってるんだろう?
就任してから………………、そうか私はひとりで死ぬのか。
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やはり、というべきか。
誰よりも最初に動いたのは最凶の金剛、ホールに入ってきた、この日のために三人が用立てた、下ろし立ての真っ白な白装束スーツ姿のショウに向かって一気に距離をつめる。
続いて榛名が、「勝手は榛名が許しません」と凄まじい速さで三度つぶやき金剛に背後から掴みかかった。
そのかいあってか、金剛の拳はショウにかすりはしたものの直撃を避けることができた。
だがそれでも凄まじい力なのは変わらない、その拳の衝撃でショウが何メートルも吹っ飛ばされ、壁に激突する。
遅れて比叡、ショウを確保すべく少し迂回するようにショウに向かって動く。
自身の致命的な遅れを悟った霧島は少しでも時間を稼ぐために叫びを上げる。
「貴方たち!! ショウさんを守るわよ! 手伝いなさい!!」
ホストたちと店長はそれを聞いてまずこう思った。
え? 無理です。
なぜ自分たちがショウのために命を掛けねばならないのか、そもそも戦艦の艦娘を相手に自分たちがなんの役に立つというのだ。
例え霧島の命令でもそんな馬鹿なことを……
『先輩どうしたんすか? 失恋? 元気出すっすよ、俺、先輩のために失恋ソング歌うっす!』
『先輩、俺の売上げ分そっちに足してください、彼女が妊娠したんなら色々物入りっすから』
『先輩、この前のカップめんマジでありがとうございました! 超美味かったっす!!』
『先輩ここの掃除全部やっとくんで先に上がってください、おふくろさんの誕生日なんでしょ?』
『店長、拾ってくれてマジ感謝してるっす、俺、絶対店長にいつか恩返しして見せるっす!』
だが、そのとき各々の頭にショウの言葉がよぎる。
そして全員が思った。
クソッたれ。
「スクラームッ!!」
ナンバーワンホストが叫ぶ、普段のパフォーマンスフォーメーションの成果か、一瞬にしてホストたちがスクラムを組んで金剛に向かって突撃する。
ちょうど掴みかかっていた榛名を殴り飛ばした直後だったため、金剛はその突撃をもろに受けてしまう。
が、所詮人の力、あっという間に蹴散らされるホスト軍団のスクラム。
だがここで、その死角から迫り来る一人のゴツイ男がいた。
Eなザイルの坊主の人に似ているあの男。
ホストクラブYOKOSUKAを背負うその男は
「くたばれやああああッ!!」
店長。
ホスト同士の戦いには暗黙のルールがある、顔を狙わない、だ。
故にホスト同士の戦いは、下に、より下に攻撃を当てることこそが美しいとされていた。
今でこそ店長という役職を預かっている店長だが、かつては名のあるホストでもあった。
そして今ここで、現役時代最強と称えられたその技が金剛へ直撃する。
YOKOSUKA流 決闘術
ホスト式 超低空ドロップキック
精密にして捨て身のその技の直撃を足首に食らう金剛。
奇跡的にてこの原理に近い状況になり、金剛がバランスを崩す。
そして店長は満足げな表情を浮かべながら、一瞬で姿勢を立て直した金剛に吹っ飛ばされ、店の壁に激突して気絶した。
あまりに滑稽で無駄にしか見えない行為、時間にして僅かではあった、が、そのお陰で持ち直した榛名と、出遅れた霧島は金剛の正面に立つことができた。
彼らの行為は決して無駄ではなかったのである。
そして自らの提督を守るため、僅かでも時間を稼ぐため、二人は最愛の姉と戦う決心をした。
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「ショウさん! しっかりしてくださいショウさん!!」
比叡が泣きながら必死にショウに呼びかける。
「いててて、なんなんすか、あの人」
打ち身打撲、細かい傷だらけになりながらも、ショウは無事なようで体を起こす。
比叡はその様子を見てホッとするも、焦るように、しどろもどろに言葉を紡ぐ。
「ごめんなさいショウさん、あの人は私や榛名や霧島の姉さまで、でも姉さまは壊れてしまって、でもショウさんにあえば治せると。でも、姉さまは、ねえさまはもう……逃げてくださいショウさん、後は私たちが、全て私たちが……」
「なんかよくわかんないっすけど、あの人は比叡ちゃんたちのお姉さんで、俺に会えば治るんすか?」
「そう、思ってたんですが、今の姉さまはショウさんを傷つけてしまう……」
「なら、やることは一つッスね」
なんとか体を起こし、金剛に向かって歩き出すショウ。
止めようとした比叡を、ショウは手で制する。
榛名と霧島を戦闘不能にした金剛が、強烈な殺意をこめてショウに振り向く。
だがその顔には焦りの相が見て取れた、なにかを必死に堪えている、そう感じられる表情だ。
「く、来るな! 死にたいのか!!」
金剛が叫ぶように声を上げる、嘘ではないだろう、ショウはずっと彼女の戦いを見ていて、実際に殺されかかったのだから。
でもショウは止まらない、ゆっくりと金剛に向かって歩く。
止まらない、止まるわけがない。
なぜなら
「霧島ちゃんにおごって貰ったジュース、不味かったっすけどいい思い出になったっす」
痛めた足を引きずりながら、ショウは歩く。
「比叡チャンが差し入れてくれたカレー、あれより美味いもんは食ったこと無かったっす」
ショウの気迫に圧されてか、金剛が一歩後ろに下がる。
「榛名ちゃんが買ってくれたたぬきそば、辛かったっす、今思い出しても笑っちゃうっすよ」
ようやく金剛の前にたどり着き、涙を堪える金剛を見つめるショウ。
「みんなには世話になったっす、そんなみんなのねえちゃんが泣いてるんすから、その涙を止めるためにがんばるのは、当然っすよ」
ショウは、金剛に向かって太陽のような笑みを浮かべた。
その昔
義理がある相手を切れと恩ある人に願われた、故にその両方への顔を立てるために切るふりをして、わざと相手に切られることを選んだ不器用な男がいた。
行方不明の妹を探すのを手伝ってくれた、お陰で妹の死に目に会えた。手伝ってくれたその人が一人で戦いに赴く時、恩を返すために鉄火場へ付き合った男がいた。
雪の日に傘を借りた、その時渡してくれた柄に残ったぬくもりが忘れられないからと、ただ傘を貸してくれたというだけで、その女性のために命を懸けた男がいた。
そんな男たちの生き方をこう呼ぶ時代があった。
任侠
仁義を重んじ、困っていたり苦しんでいたりする人を見ると放っておけず、彼らを助けるために体を張る自己犠牲的精神や人の性質を指す語。
奇しくもそれは、ショウの生き方のそれとかぶっていた。
任侠道組織 金剛連合会
初代金剛が掲げた看板、それを体現する生き様の提督が目の前にいた。
金剛はその場にへたり込む。
その目からはとめどなく涙が溢れ出す。
もう限界だった、地上の太陽に照らされ、金剛の心は溶けてしまった。
百年を超える孤独の凶気に侵されていた、分厚い心の錆が剥がれ落ちていく。
ぼろぼろと剥がれ落ち、どんどん小さくなっていく心、やがて全ての錆が剥がれ落ちる。
そして残ったのは、とても小さい、でも最後に一つ残っていた一粒。
提督にあいたいと、想い続けた艦娘が長い年月大切に守り続けた、
「金剛デース……」
太陽に向けて花を咲かす、
「ヨロシク……オネガイシマース……」
向日葵の種だった。
■□■□■
ソファーに座り、治療を終えたショウに子供のように泣きじゃくりながらしがみつく金剛。
そんなショウと(対○座位)でしがみつく金剛を囲んで座る比叡、榛名、霧島。
離れたソファーで寝かされた店長。
散らかった店の後片付けをする、ホストや従業員たち。
「はぁ、つまり俺はそのテイトク? ってやつで、金剛チャンたちはカンムスってやつなんすね」
ショウ、比叡たちの必死の説明により、ようやく提督と艦娘のことを知る。
(理解したとはいってない)
「あの、ショウさんは本当にその辺ご存じなかったのですか?」
恐る恐るといった感じで聞く榛名、
「俺、学校行ってないんすよ」
さらっと闇が深いワード、みんな深く考えちゃダメだよ、説明しようと思ったら艦娘が出てこない話を一話書かなきゃならなくなるからね。(メタい)
「「「ショウさん……」」」
金剛姉妹、何故かショウの過去を知れたこととかその内容を知って、私が幸せにしなきゃという感情が溢れだす。
というか、現状なに聞いてもあふれ出す、蛇口壊れてんな、これ。
「なら結婚しましょテイトクー! 絶対私が幸せにするネ! そして私と二十四時間ずっと一緒に居てくだサーイ!」
ショウにしがみついて泣いていた金剛が、唐突に涙をぬぐいながら宣言する。
さすが高速戦艦姉妹のネームドシップ、立ち直りも切り替えも言うことも速い。
突然のプロポーズに混乱する残りの姉妹たち。
みなさーん、ついて来てくださいネーwww(煽り)
「えええ!? ちょ、金剛姉さま待って……」
「そそそそうです! ここは私たち四人でショウさんを……」
「嫌デース! どうせ私はみんなより先に死ぬですから、残り少ない時間だけどそれまでは独占させてもらうネー!!」
絶対嘘だ、絶対ショウが死ぬまで生きるつもりだ。
三人は確信した、確実に訪れる未来をみた。
「いや、うれしいしそういう事情がある以上、いつかはみんなと一緒にならなきゃとは思うんすけど。俺はまだホスト続けるっすよ。店長に恩も返せてないし、ナンバーワンにいつかなりたいんで、待たせてすまないっすけど、それまではホストがんばるっす」
悲報 店長、この時「俺のことはいい、お前はお嬢さんたちとともに生きてやりな」と発言できれば無事ショウと縁が切れた可能性、しかし無情にも店長は気絶中。
よって当分今と変わらない状況(悪化確定)が続くことが決定する。
やったね店長! 売り上げが増えるよ!
納め先が霧島組の時点でマッチポンプだけどな!
「ウー、残念デース。でもそんなショウさんもステキだワ!」
残念がりながらも、ショウの生き方を尊重する金剛はやっぱりいい女。
しかし残りの三姉妹、この時に悪魔の直感がひらめく。
つまり、ショウはナンバーワンになるまではホストを辞めない。
と、いうことはそれまではこのホストクラブに通い続けることで、金剛姉さまに独占されずにショウとイチャイチャできる。
即座にそれに気が付いた、比叡、榛名、霧島、店の片付けをしていたナンバーワンホストに
『わかってるな? 死んでもナンバーワン守れよ?』
という意味をこめた特大のガン付け。
速報:ナンバーワンホスト 三発の流れ弾が直撃(35.6cm砲:徹甲弾)
後に艦夢守市歓楽街で『ホストの元帥』と呼ばれ、長年にわたりナンバーワンの地位を守り続けたホストが爆誕した瞬間でもある。
彼はこれまた後に、『店長大臣』と呼ばれる、ホストクラブ「YOKOSUKA」を経営し続けた男の一生の友人にもなった。
余談だが彼らの生涯は常に胃薬とともにあったという。
「とりあえず金剛チャンなんか飲むっすか? できれば高いやつだとうれしいでウイッシュ!」
涙を流しすぎた金剛のためになにか飲み物をと思って聞いたショウだったが、いつもの癖でホストの台詞を加えてしまう。
だが、それが自分の提督からの生まれて初めての命令(お願いに)に聞こえた金剛は、満面の笑みを浮かべながら、
「モチロン一番高いやつ頼むデース!!」
咲き誇るひまわりのような朗らかの声で、そうオーダーする。
ホストクラブに響き渡る金剛の注文にざわめく店内。
「「「わ、私たちも同じのお願いします!!」」」
続いて対抗する妹たちの追加オーダーが入る。
それを聞いて従業員たちは、慌てて準備に取り掛かりはじめた。
わいわいがやがや、狼たちの夜の城に少しづついつもの喧騒が戻り始める。
ホストクラブ「YOKOSUKA」は今日も大繁盛だ。
その後の金剛を詠った詩がある
体は愛で出来ている
血潮は紅茶で心は茶器
幾たびもクラブを訪れてはプロポーズ
ただ一度も時間をわきまえずに
ただ一度の場所もわきまえない
提督はここに有り
VIPの席で好意を叫ぶ
Burning Love!!
だってこの体は
貴方への愛で出来ているのだから
『ホスト』
と
『戦艦:金剛:比叡:榛名:霧島』
おわり
お疲れ様でしたショウさん。
と、店長。