提督をみつけたら   作:源治

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つんと澄ました顔の初風の頭をワシャワシャしたい。
 


『無職男』と『駆逐艦:初風』

 

 無職とは?

 

 

 今日も今日とて無職である。

 いくらなんでも面接したその場でお祈りされるとは思わなかった。

 

 なんでや

 

 いや、なんとなくわかってきた気がする、あれだ、多分ラリアットした元上司の陰謀だわこれ。

 有ること、有ることをいろんな同業種の奴らに言いふらしてるに違いない。

 

 取りあえずあれか、そうなると別職種とか検討するべきだろうか?

 しかしかといってなんの職種にするべきか、正直年齢的に別職種への転職は難しいんだが。

 

 だがまあぎりぎりなんとかなる年齢でもある。

 だが年齢的に別職種への転職は難しい。

 

 ……だめだ、思考がループしている。

 

 考えをまとめるため、目についた古びた喫茶店に入ることにした。

 店内に入ると香ばしいコーヒーの香りが鼻をつく、いい香りだな、焙煎からやってるのかもしれない。

 店内を見渡すと、頭を抱えてカウンターにうずくまる無精ひげの生えたワカメみたいな髪の毛の男と、片肘をついてケラケラ笑いながらその相手をするマスター? らしき長い白髪の少女が居た。

 

 店主の娘とかが手伝っているのだろうか?

 

 おーう、いらっしゃーい。と、こちらに気がついた長い白髪の少女が、元気だがどこか脱力するような癒やされる声で迎えてくれた後、お好きな席にどうぞーと続けて言う。

 なので陰気なワカメ頭の男の近くは避けて、窓際のテーブル席に座ることにした。

 

 もちろん自分でもどうかと思うが面白くてやめられない、よっこらセックスと言いながら。

 

 灰皿を手前に持ってきて煙草を取り出し一服。

 ……ぁぁ、煙が染み渡る。

 

 落ち着いてからメニューを開くと、割と沢山の種類のコーヒーと簡単なドリンク類、酒は無い。

 まあなんでもいいか、おすすめのコーヒーでもあったら頼もう。

 缶コーヒーもインスタントもドリップも俺には違いがわからない。

 

 なんてメニュー表をじっと眺めていたら、ふっと影が差す。

 いつの間にか店員がやってきていたのか、顔をあげるとどこかで見たことがあるような少女。

 

「ていと……あなたにとって私は何人目の私かしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『無職男』と『駆逐艦:初風』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 胸元に喫茶店のロゴが入った黒いエプロンを灰色のブラウスの上から掛け、下は紺色のショートパンツに黒のニーソックス。

 いかにも私服の上からバイト用のエプロンを掛けただけという服装で、注文伝票とボールペンを持ちながら、つんと澄ました顔でこちらを見てくる少女が居た。

 

 その大きな瞳と、前髪ぱっつんの長い空色の髪には見覚えが。

 

「あー、陽炎の妹の恥風(はずかぜ)だっけか。会うのはこれで二、いや三度目か?」

「なんだかひどい間違いを聞いた気がするわ……初風(はつかぜ)よ……後四人目の私よ」

 

 陽炎縁者でフィニッシュです。

 

「つかおめー、言葉の使い方おかしいぞ?」

「はあっ? あってるし!」

 

 ああ、あれか、そういう年頃か。

 不思議ちゃんってやつだな。

 最近の若者の間ではこういうキャラがはやってるのだろうか、磯風もちょっとその気があるきがしなくもないが。

 

「ああ、まぁ、うん。とりあえずなんかこのコーヒー頼むわ」

「なによやめてよその優しい目。とりあえず注文はブレンドっと、ま、いいんじゃないかしら?」

 

 めんどくさかったので、とりあえず目に付いたコーヒーを指差してみたら、意外といいチョイスだったようだ。

 初風は注文を丁寧に伝票に書き込むと、カウンターでニヤニヤしながらこっちを見ていた少女にオーダーを伝える。

 

「マスター、ブレンド一つお願いします」

「よっしゃー、淹れたろー!」

 

 え? あの子マスターなの?

 

 おいおい大丈夫かよこの店、学祭の喫茶店に迷い込んだ気分だぜ……

 微妙に気になったがやる気満々のようなので、水をさすのも悪いかと思い黙っておく。

 

 煙草を一本吸い終わり、思考の整理をしながらぼけっと窓の外を見る。

 営業回りなのか、表の通りにはスーツ姿の企業戦士たちが行き交う。 

 

 そんな風景を見ていたら虚無の感情が心からわき出しかけた、あたりで初風によって運ばれてくるコーヒー。

 なかなか様になる格好で、目の前にカチャリとコーヒーを置きながら「ブレンドになります、それではごゆっくりどうぞ」と、一応テンプレの接客文句を添えてくれた。

 

 一抹の不安を感じながらも飲んでみると普通に美味い気がする。

 まろやかなコクというか、芳ばしい香りというか、酸味というか、なんだかとても贅沢なものを頂いてる気がしてきた。

 コーヒーなんてどれも一緒だと思ってた過去の自分さようなら、俺今日から毎日ここでコーヒー飲むわ。

 

 あれだ、もしかしてオーナーの孫とかなのだろうか? だとしたら納得の腕だな。

 なんて静かな感動を味わっている俺を、隣に立ちながらじっと見つめてくる初風。

 

 なんやのん君

 

「……なにか、用か?」

「じー…見てるだけよ? いけないの?」

 

 いけないにきまってんだろ。

 喫茶店だぞ、落ち着きを求めてきてんだよこっちは。

 

「まあ気にはなるな」

「この初風がコーヒーを運んできたってこと、忘れちゃダメよ」

 

 やだこの子、話が通じない。

 

「ははは、にいちゃん勘弁してやりなよ。そのコーヒー初風が入れたんで気になってしかたねえんだろ、『そういうの、私がやります!』ってはりきってたんだぜぇ? 味の感想聞かせてやんな」

 

 カウンターで肘を突きながらマスターが、意地悪そうな顔をして言ってきた。

 ああ、なるほどそういう。

 

「ちょッ!? マスター!」

 

 慌てたように一瞬でカウンターのマスターの元に駆け寄り、マスターの胸座をつかんでぐわんぐわんと揺らす。

 初風さんや、不思議ちゃんのキャラ崩れてんぞ。

 

 一方マスターはケタケタとした笑顔を崩さず、楽しそうに笑っていてなぞの貫禄。

 実は見た目よりもいい年してるのか?

 

「で、どうだいにいちゃん味のほうは?」

 

 おう、急にふられてしまった

 

「コーヒーの味とかよくわかんないですけど、普通に美味いですね」

「え、ほんと!?」

 

 マスターから手を放して、嬉しそうな顔で慌てて俺の元に戻ってくる初風。

 いそがしいやっちゃな。

 

「お、おう。まぁ煙草吸ってる人間の感想だけどな」

 

 もうずいぶんと長いこと煙草を吸い続けてるので、味覚も嗅覚も多少バカになってる可能性が捨てきれん。そんな俺の評価など当てにはならないだろう。

 そう言ったつもりだったのだが、初風は自慢げでとても嬉しそうである。

 

 なんというかあれだな、よほど自分の仕事が認められたのが嬉しかったのだろうか。

 

 やりがいのある仕事か、そつなくこなすというのも大事だが、失敗を恐れ批判を避けるような生き方してもアホみたいだよなと思えた。

 

 当たり前だけど。

 

 クールぶってたと思ったら急に嬉しそうになったりと、若いもんは感情の動きが激しい。

 いや、かくいう俺だって数日ごとに、躁鬱を繰り返してるが。

 

 そう思っていたら、初風は嬉しそうに厨房へ引っ込んでいった。

 満足いったのだろうか、満足いく仕事、俺にはまず仕事が無い。

 

 あまり深く考えないようにするために、二本目の煙草に火を付けて少し多めに煙を肺に入れる。

 そうしてボケッと窓の外を見ながらその二本目の煙草の煙を肺と口内で転がし、絞るようにはき出す行動を何度か繰り返した。

 

 二本目を吸い終え、ニコチンが染み渡ってきたので、適度に冷えたコーヒーをゴクゴクと飲み込む。

 あー、なんでか知らんがコーヒーを飲みながらの煙草は格別に感じる瞬間があるが、今日のはなんだか苦みが強い気がするぜ……

 

 あ、やばい、いかん方にメンタルが入りそう。

 

 無意識にうつむいてしまっていたので、頭を二度ほどトントンとたたく。

 悪いもの出ってくれ。

 

「……なにかいやなことがあった、そういった顔だ」

「うぉ!?」

 

 急に正面から聞こえてきた声に驚いて顔を上げると、先ほどまでカウンターで陰気を放っていた、ワカメ頭の男が目の前に座っていた。

 

 びっくした! すげーびっくしたよ!

 テーブル挟んでなかったら、絶対反射的にラリアット打ち込んでたわ!

 

「よければ聞かせて貰えないか、これでも小説家の端くれでね。人の感情には興味がある」

「いや別に、いやなことっつっても単純に就職面接に落ちただけだ。……ってあんた誰だ」

 

 思わず普通に答えてしまったが、なんで俺は初対面のワカメ野郎にこんなこと言ってんだよ。

 

「ふぬ、なるほど。就職面接、それはどういう感情がわき出るのだ?」

「は? どうって?」

「自分がただの労働力的な観点の価値としてしか見られず、品定めされている視線を受ける状況でわき出る感情だよ」

「……まぁ、いい気分では無いが向こうもそれが仕事だろうが」

 

 なにが嬉しいのか、ワカメ野郎はぱぁっと顔を明るくした。

 

「なるほど不愉快ということか!! にもかかわらずその面接に落ちた君はこれから何度も、そういった視線で品定めされる行為を味わい続けるのだな!!」

「そうだよチキショウ!! マスターッ!! こいつ営業妨害してるから殴っていいか!?」

「しょーがねーな、一発だけだぞー」

「ホットケーキも作ってきたわ! 味見しなさい!」

 

 もうなんなんだッ! この喫茶店は!!

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

「無条件に愛されるということは、此方からも無条件に愛してもいいということの免罪符となる、惜しみない愛情には惜しみない愛情を返す。しかしそれはどういった感情から生まれ出る物なのだ? 価値はあるから交換されるのか? それとも交換されるから価値があるのか? そこに人類の連鎖を維持する上での、人間のあり方としての正しさはあるのか?」

 

「貸し借りの話か? 物理現象と一緒だろそんなもん、貸しや借りは必要な方や足りない方に移動すんだよ。つかカウンター席に戻れよ三文小説家」

 

「なるほど現象とはおもしろい答えだ、君は感覚的に物事をとらえる人間のようだな。だが我々小説家の仕事というのは、それらを文字として生成し、知性に届けねばならない。故に現象と一言に切り捨てられないわけだ。あと……正直私も少し戸惑っている、しかしなぜだか君にはどこか私と近しい物を感じる気がしてね。初めてだよこうやって名も知らぬ他人に自分から話しかけるのは。しかしそのあだ名はなかなか自虐的な要素が含まれていて、感性に突き刺さる。別仕事の方のペンネームはそれに変えてみようか」

 

「好きにしろ、てか話長えしこっちの話も聞けよオイ」

 

 それにしてもこの三文小説家は初めて自分から他人に話しかけたのか、ぶっちゃけ死ぬほどどうでもいい情報だけどな。

 まあそらそうだろう、こんな変なのがしょっちゅう話しかけてくる喫茶店なんざ、どんなにコーヒーうまくても早々につぶれてるわい。

 

「ちょっとあなた、あっちの席に戻ってよ。せっかくの味見の練習台なんだから」

「そうだそうだ、つかオメーもなんでしれっと隣に座ってホットケーキ食ってんだよ」

 

 俺の言葉を聞いて人差し指を顎に当てながら、コテンと首をかしげる初風。

 かわいいなオイ。

 

 でも仕事はちゃんとしような、たとえ他に客が居なくても。

 まぁ休憩中の可能性も捨てきれんが。

 

「甘いもの好き?」

「いやまぁ、嫌いじゃ無いが」

 

 その様子が憂かったのでじっと見てると、初風はなにを勘違いしたのかフォークにホットケーキを一切れ刺して、俺の方に差し出してきた。

 

「そう、ならこれを上げるわ。いらない? いる?」

「つーか味見の練習台が居るんだろ、もらうよ」

「……っそう♪」

 

 萩風で耐性が付いてなかったら拒否してたが、正直もはやかく恥など無い。

 差し出されたフォークの先のホットケーキを、躊躇無くパクリといかせてもらう。

 

「はむっ、うむ、うまい」

「っわ!? ちょ、え、直接!? ……え、おいしいの?」

「うむ。ふわふわもちもちで、ほのかに甘くてグッドだ」

 

 初風は躊躇無く食いついた俺に少し驚いたようだったが、続くうまいの評価と味の感想を聞いて嬉しそうに目を輝かせた。

 

「そっ、そう? ふふん、よかったらもっと食べなさい」

「もらうわ、はむっ」

 

 我ながらあおはるな空気を醸し出してる気がしてきた、傍から見たらどう見えてるのだろうか。

 まあ兄と年の離れた妹、もしくは父親……友達の結婚式の招待状、送られてくる同級生の年賀状、赤ん坊の写真……うっ、頭がッ!

 

 ……これは考えるのやめよう。

 

 しかしちょっとおだてただけで食い物を貢いでくれるとは、チョロいぜ初風。

 

 ホストとかに転職したろかな……

 いやまて、早まるな俺。

 

「……ふぬ、初風くんが、ああ、そういう、成る程。ははは、私の直感や感性も捨てたものでは無いな! つまり私たちは同じ種類の小舟に乗った旅人というわけか!!」

「小舟で悪かったね、ほらこっち来な。デートの邪魔しちゃ駄目だよ」

「デッ!? デートじゃ無いです!!」

 

 ケタケタ笑いつつ初風の言葉を聞き流しながら、マスターはなんかよくわからんことを叫ぶ三文小説家を、ずるずると引きずって戻っていった。

 

 頭とか御大事にな、もうこっちくんじゃねえぞ。

 

 なんつーかでかい煤の塊みたいな奴だったな、まっくろ○ろすけのでかい版みたいな。

 雰囲気的にマスターと付き合ってるのだろうか、いやいくらなんでも年の差がきついか。

 

 そもそも、他人の恋愛事情を詮索する趣味は俺にはない。

 

 マスターがなにも言わなかったので、恐らく休憩時間だと仮定して、となりでぷらぷら足を振りながらホットケーキをつまむ初風に話しかける。

 

「で、ここでバイトしてんのか?」

「そうよ、陽炎姉さんの伝で紹介してもらったの」

 

 謎の陽炎ネットワークを垣間見た、アイツ顔広いなオイ。

 だがあの面倒見のよさなら当然っちゃ当然か、将来が楽しみである。

 それまで職が決まってなかったら俺も紹介してもらうか、何十年先か解らんが。

 

「そりゃまた頼りになる姉だな。その分怒らせたら怖そうだが」

 

 とは言ってみたものの、陽炎が怒っている姿を想像してみても、頭を抱えてツインテールをぶんぶん振り回してる姿しか思い浮かばなかった。

 

「そうね、でも……はっきり言って、妙高姉さんのほうが私は怖いわ」

 

 ぶるっと、肩を抱いてどこかおびえるように震える初風。

 

「妙高? おまえらの姉妹にそんな名前のやついたっけか? いやそれより……」

 

 親しいものに叱られる恐怖というより、もっと暗い気持ちに起因しているような、脅え方。

 嫌な予感が頭をよぎる、自分のどこかでなにかのスイッチが入った様な気がした。

 

「……おまえ、そいつに虐められてんのか?」

 

 誰かが、この少女を虐げているのか。

 この、陽炎の身内である少女を。

 

「え? 急にどうしたのよ怖い顔して……いや、別に親戚のお姉ちゃんみたいな人で、厳しい人だけど別に虐められてるわけじゃ無いわよ!?」

 

 俺の聞き方というか、少し低くなってしまった声のせいだろうか、少し驚いたように慌てたように手を振りながら否定する初風。

 いかん、怖がらせてしまったか、だが念のためもう一度確認しておく。

 

「ほんとにか?」

「ほ、ほんとよ」

 

 なら大丈夫か。

 まぁそもそもの所からして、陽炎が居るしそういうことは起きないよな。

 

 でも今度会ったときに一応言っとこう。

 

「そか、ならいいんだ。なんかあったら陽炎にちゃんと言えよ」

「……うん、ありがとう」

 

 もし同年代や女が相手だと、俺が出て行ったら通報という悲しい未来が待ってるからな。

 そんな情けない俺の言葉に特に突っ込みを入れることも無く、初風が素直に礼を言う。

 

 さすが陽炎シスター、ちゃんと素直にお礼が言えるとは、ええ子や。

 初風の頭が利き手の撫でやすい場所にあったので、頭に手を乗せて撫でてやる。

 

「ちょっ! なに触ってんのよ! ぶつわよ! たたくわよ! 妙高姉さんに言いつけるわよ!」

「おお怖い、そりゃ勘弁してくれ」

 

 顔を真っ赤にしながら怒る初風、でも特に暴れたり振りほどいたりしないあたり、まぁそこまで嫌って訳でもないみたいだな。

 しばらくワシャワシャとしてから手を放すと、初風は手で髪を整え始めた。

 その様子を見ながら俺はふと気になったことを聞いてみる。

 

「しかしお前くらいの年頃だと、バイト代はなにに使うんだ?」

「別になにに使いたいって訳じゃ無いけど、なんとなくためとこうかなって」

「貯蓄が趣味か、年の割に年寄りみたいな渋い趣味してんな」

「失礼ね、“私は”見た目通りの年ですッ」

 

 見た目通りの年ねぇ、なんか微妙に引っかかる言い方だった気もするが。

 

「ははは、悪い悪い。どうだ、バイトは楽しいか?」

「うーん、そこそこかしら。コーヒーは嫌いじゃないし、マスターもいい人だし。まぁ時間帯によって暇すぎる時があるけど」

「あの三文小説家が原因な気もしなくもないが……大丈夫かこの店、経営的に」

「大丈夫じゃない? この店の裏のマンション、マスターがオーナーらしくて、そっちの収入があるから別にこの店は赤字でも平気みたいよ」

 

 ……マジか。

 

 やっぱ不動産収入って最強だな。

 あー、俺も不労所得がありゃなぁ……だから駄目だって、働けよ俺。

 

「なに? どうかしたの?」

「あー、いやなんでもない。まぁちょっとあれだが」

「……職探しうまくいってないの?」

「……まぁな」

 

 鋭いしズバッと聞いてきたな、いや、なんか変な空気出してるのかもしれん、俺も三文小説家のことどうこう言えんな。

 

「まー、色々あって前職と同じ職種じゃ厳しくてな。別の職種に移るかどうかって所だ」

「ふーん、なんになるの?」

「なにになるって、ガキじゃあるまいし別に食える仕事ならまぁ……」

「なにかやりたいことがあるから働くんでしょ? 働くこと以外でやりたいなにかがあるなら別に働かなくていいんだから」

 

 ……すごく反論したい。

 

 だが、初風が言ってることもある意味正しいといえば正しい。

 働くというのはなにかの目的を持ってやるものであって、その目的の為に働く必要がないのであれば働かなくてもいいといえばいいのだから。

 

 生きるためとか、老後のためとか、結婚して子供を育てるためとか、そういうのが基本的な目的になるから、働いて収入を得るというのが目的とイコールになるわけだが。

 

 目的、か……夢と言い換えることも人によってはできるかもしれない。

 少し目を伏せて考え込んでしまった俺に、初風が続けて言葉を投げかける。

 

「なにしょぼくれてるのよ、シャキッとしなさい。それに明日なにかにぶつかって死んじゃうかもしれないんだし、やりたいことやりなさいよ。私がお金貯めてるのもなにかやりたいことがあった時にそれができるようにするためだし。やりたかったことができずに死ぬなんて……嫌でしょ」

 

 ツンとすました顔で生意気にそう言い放つ初風。

 ガキの言うことと切り捨てることもできたが、どこか悲しそうな初風の顔を見て言葉が出なかった。

 

 しかし、なんだ、やりたいことか……。

 

「なんだったかなぁガキの頃になりたかったものって……冒険家とかになりたかった気もするが」

「冒険家?」

「世界中を飛び回って、誰も知らない場所を探検したり、まだ見つかってない生き物を探したりしたかった気がするなぁ……」

「へー、ま、いいんじゃないかしら?」

 

 自分で言ってて恥ずかしくなってきたわ、純粋すぎるだろ子供の頃の俺。

 

「いいんじゃないかしらってお前、この年で冒険家目指しますとか一周してすごすぎるだろ」

「別にそうでもないんじゃない? 例えば艦夢守島にもビッグフット? だっけ、人語をしゃべる毛むくじゃらの巨大生物の噂とかあるし。そうだ、退屈してた所だし今から探しに行きましょうよ、手伝ってあげる」

 

 すごくいいことを思いついたといわんばかりに、立ち上がって俺の手を掴む初風。

 何故君ら姉妹は、人の手を掴んで引っ張るのが好きなのかね、そして力が強い。

 

「は!? いや、働けよ、つか今からって俺スーツだぞおい!」

「初風! 出撃します!」

「おー、きいつけてなー」

「人の話聞けよ!? そしてマスターも止めろよ!?」

 

 手を振るマスターに見送られて、店の外に出る俺たち。

 あ、金払ってない。

 

「うぉい初風! 勘定! 勘定払ってないぞ!」

「……ふふふ、大丈夫よ提督。私が立て替えといてあげるわ」

 

 すましたどや顔で、嬉しそうに俺を見つめながらそう言い放つ初風。

 おいバカやめろ、女学生に奢られるとか微妙に恥ずかしいんだよ、あと提督って言うな。

 

「それじゃあ行きましょうか、絶対にUMAを捕まえてやるんだから」

「おいおいおい、本気か!?」

「本気よ本気、足手まといになるようなら置いていくわよ」

「……俺の場合本気でやりたいことをやると、大抵ろくなことにならないんだがな」

 

 俺のその言葉を聞いて、初風は

 

「言い訳してないで、本気が出せるなら出したらぁ?」

 

 そう、あまり力が入ってない感じで、俺を挑発するように言った。

 でもその顔はどこか楽しそうで、歩く速度を上げる。

 

 ああもうわかったよ、ったく。

 

 今しかできないことは今やる。

 やりたいこと、やる人生か。

 

 まあそれも今日くらいなら悪くないかもな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オマケ - 『frost』店内 -

 

 初風たちがドタバタと店の外に出て行った後、

 

「若いねぇまったく。どうだい? あたいらもどっか行くかい?」

「この店でいい……」

 

 素っ気ない三文小説家の返事を聞いて、そりゃ残念と笑いながらコーヒーを淹れ始める朝霜。それと同時に店の扉が開き、一人の男が入ってきた。

 男は三文小説家の姿を確認し、まっすぐに近づいてきて三文小説家の手前で立ち止まる。

 

「こうしてお目にかかるのは初めてですね……山田と申します」

「……ああ、例の監督か。追加の仕事は受けないぞ」

「いえ、伺ったのは別の仕事のお話です」

「同じだ、仕事は増やさない」

 

「そうですか、では一つ伺ってよろしいでしょうか?」

「なんだ」

 

「マジカルキヨシーの悪堕ち戦艦ムサシが登場する回の脚本を見て感じました。もしかして貴方は他に書きたいものがあるのでは無いのですか?」

「……」

 

 山田は微笑を浮かべる、まるで取引を持ちかける悪魔のような表情。

 

「どうでしょう、私と共に艦娘がメインの映画の脚本を書いていただけないでしょうか。貴方の書きたい物と、私が撮りたい物、もしかしたら重なる部分があるかもしれませんよ?」

 

 三文小説家は少し悩んでから、隣の席に視線を飛ばす。

 

「……話くらいは聞いてやる」

「ありがとうございます。あ、マスター珈琲を一つお願い致します」

 

 こうして二人の男が出会い、深夜にまで及ぶ長い話し合いが始まった。

 その様子はまるでこの世になにかを召喚しようと企む、黒魔術師のように見えたという。

 

 後に、業界の内外で『混ぜるなキケン(歓喜)』と呼ばれることとなる二人の出会いだった。

 

 

 




初風とつちのこを探したいだけの人生だった。
あと無職の名前も前職も特に考えてなかったりする。 

※この二人が組んではじめて手がけた作品が『独り身男』と『軽巡:川内』になります。(山田監督はドラマの監督で、映画としては川内の作品がはじめて撮ったものになる感じ)
 
2020年07月15日 追記
パテヌス様からとてもステキなイラストをいただきました。

詳細はこちら
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=234013&uid=34287
 
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