提督をみつけたら   作:源治

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霧島さんのラブコメ(満足げ)
 


『ホスト』と『戦艦:霧島』

 

 ホスト、それは夜の住人、闇夜の時間を生きる者。

 ホスト、その本質は飢えた狼、金と女性、そして名誉に飢える者。

 ホスト、しかして彼らの仕事はきらめく世界で、夢を振りまく者。

 

『艦夢守市』その歓楽街にも彼らが住まう城があった。

 

 ホストクラブ「YOKOSUKA」

 

 今日も彼らは闇夜の時を駆け、飢えを満たし、そして夢を振りまくのだった……。

 

 

 

「でも下っ端の仕事っていやぁ、便所掃除くらいなんだよなぁ」

 

 某国民的RPGの七作目の主人公のような髪形をした金髪の男が、そう愚痴りながら便所ブラシを持って便器を磨いていた。

 

 彼の名は、ショウ(源氏名)。

 まだこのホストクラブに勤め始めて数ヶ月のペーペーだ。

 

 一応採用された以上、そこそこの見た目と、それなりの酒耐性は有るのだが、彼にはホストとして致命的な問題があった。

 

 端的にいうとこの男、優しい馬鹿なのだ。

 

 自分の手柄を人に譲る事に疑問を抱かず、重度に貢ぎそうになる女性は諌めたりする、飢えた狼の皮をかぶった羊さんなのである。

 おまけにソフトKY(ちょっと空気読めない)が固定装備されていてはずせない。

 

 どう考えてもホストには向いてない。

 

 だがまぁ、だからこそ別のホストの当て馬として重宝されていたり、また底抜けのポジティブを兼ね備えていたため、先輩たちに微妙に気に掛けてもらえたりして、まあいいかという感じで在籍を許されていた。

 

「今にみてろよみてろよー、超ビッグになって俺は夜の帝王になってやるぜ。というわけでまずはこの便器をなめれるくらい綺麗にっと……」

 

「おいショウ!! いつまで便所掃除してんだ!! それはもういいから付いて来い、ちょっと行く所有るから運転手やれ」

 

 奥から聞こえてきた重低音ボイス、声の主である店長(あだ名:大臣)にそう怒鳴られ、ショウは「了解でウイッシュ!」と返事をしながら、駐車場に向かい車をホストクラブの前に着ける。

 

「お待たせいたしましたっす!」

 

「ちんたらしやがって、首にされてえか!!」

 

「ぐふぉ!? ……あ、アザーッス!」

 

 そう言って後部座席のドアを開けたショウの腹を殴る店長、ショウは殴られても指導してもらったと思ってるので、体育会系のノリで感謝を叫ぶ。

 ちなみに店長は恐い、ゴツイガタイに坊主頭にそりこみ、そしてサングラス。Eで始まるザイルの坊主の人にとてもよく似ていた。

 

「ったく、毎月毎月手渡しでもってこいとか言いやがってくそったれ……」

 

 そんな機嫌の悪そうにブツブツと文句を言う店長を乗せて、指示された場所まで運転するショウ。

 

 やがて車は三十分ほどして目的地であるとあるビルの前に到着した。

 そのビルはビジネス街の中にありながら、どこか他のビルとは違う、重厚感のある雰囲気で、なんというかショウとは逆の狼が羊の皮をかぶって周りに溶け込もうとしているように感じられるビルだ。

 

「帰りはタクシー使うから、お前は店に戻ってろ」

 

 そう言って、とても重そうな黒い革のバッグを両手で大事そうに抱えてビルに入っていく店長。ショウは一瞬店長がなにを持っていたのか気になったが、二秒で忘れた。

 そして店に戻ろうと車に乗り込もうとして、ビルの横に設置してある自動販売機に目が留まる。

 

「あ、新作のジュース」

 

 ホストとは常に流行に敏感でなければならない、トークのストックはホストの命綱。

 そんな訳でショウは別に好きでもなかったがそのジュースを買おうとしたのだが……。

 

「くっそ、あと十円足りないっ!」

 

 ショウは貧乏だった、ぶっちゃけ下っ端も下っ端であるショウの給料はすずめの涙。

 勝者には限りない栄光を、弱者にはどこまでもつらい屈辱を、ホストの常である。

 

「あーちくしょう、どっかに落ちてないかなぁ……」

 

 地べたにはいずり、自動販売機の下を覗くショウ、だが無常、そこにはぺんぺん草しか生えてなかった。

 

「あの、どうかされましたか?」

 

 そんなショウに声をかける存在。

 よく通る、芯が有り落ち着いたその声の主を見ようと顔を上げるショウ。

 そして二人の眼があう、その瞬間。

 

 ホスト・ミッツ・ガール

 

 

 

 

 

 

 

 

『ホスト』と『戦艦:霧島』

 

 

 

 

 

 

 

 

 声の主は眼鏡をかけた、落ち着いたパンツスーツ姿の女性、短めの黒髪に意志が強そうでいて理知的な瞳、顔立ちは控えめに表現しても美人、そうとしか形容しようの無い女性だった。

 まさに経理や秘書としてできる女性のイメージを体現したかのような、どこか近寄りがたい冷たさ漂う姿。

 

 そんな女性にショウは、

 

「あ、すんません十円貸してくれません?」(返すとは言ってない)

 

 基本装備のKYを無事発動させた。

 

「えっ? あ、はい」

 

 女性は少し驚いたが特に嫌なそぶりは見せず、むしろなぜか少しうれしそうに小銭入れから十円玉を取り出して渡す。

 ショウは十円玉を受け取ると、ピンッ、とカッコつけようと一回はじいて、無事地面に落とし慌てて拾って自動販売機に入れる。

 そして目当てのジュースのボタンを押してガコン、と音を立ててでて来た『餡子チーズしめ鯖味 強炭酸』という名前のジュースの蓋を開け一気飲みするも、

 

「マズゥゥイ!」

 

 見事に噴水のように天に向かって噴出した。

 その様子を見ていた女性は一瞬驚くも、先ほどの冷たいイメージが嘘の様なやわらかい笑みで、クスクスと笑いながら持っていたハンカチでショウの顔を丁寧に拭く。

 やがて拭き終わったハンカチをそのままポケットに戻す女性を見て、ショウが礼を言う。

 

「悪いねおねえさん。あっ、そうだ。これ俺の名刺、ペーペーだから割引とかはできないけど指名してくれたら思いっきりサービスするから良かったら来てNE☆……ってうわあぁあああ! おい待て待って待ってください駐禁とっちゃだめえぇえええ!!」

 

 ショウはビルの前に止めていた車に、駐禁を取ろうとしている監視員に向かって声をあげると慌てて車に乗り込み出発させた。

 

 女性は少し驚いた顔で走り去っていく車が見えなくなるまで見送ると、ショウからもらった名刺をいとおしそうに一撫でし、大事そうにバッグにしまう。

 

「今日は驚くことばかりですね」

 

 そしてそう一言つぶやくと、先ほどホストクラブの店長が入っていったビルに入って行った。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

 夜、今夜もホストたちの戦いが始まる。

 

 ナンバーワンという名誉、そして金という力を求めて今日も彼らは女性たちを虜にすべくしのぎを削りあうのだ。

 

 そして高級ホストクラブ「YOKOSUKA」の中央ホールにも狼たちが終結していた。

 周りにはきらびやかなシャンデリアに赤い絨毯、高級感溢れる黒檀の壁、大理石のテーブル、そして黒革のソファー、まさに高級ホストクラブに相応しい内装である。

 

「さあ開店だ! お前ら今日もバンバン貢がせろ! 貢がせられんホストに生きる意味なんてねえぞぉ!」

 

『ウイーーーーーーーーーッス!』

 

 店長の言葉に気合の入った返事を返すホスト軍団。

 

「特にショウ! お前だお前、いい加減役立たずから卒業しやがれこの能無しが!」

「う、ウイッス!」

 

 店長に名指しで怒られ気まずそうに返事をするショウに、周りのホストたちは同情の目を向ける。もはやショウの売り上げはそんなレベルだった。

 何人かの先輩ホストに「がんばれよ」と小突かれるショウ、それぞれが持ち場に就き開店時刻と同時に店の看板に明かりがともった。

 

 ホストクラブ「YOKOSUKA」の客入りは今日も上々で、開店と同時に結構な数の女性たちが各々のお目当てのホストを指名する。

 

 そんな中ポツンと取り残されたホストが一人、もちろんショウである。

 時々ヘルプや当て馬で出番はあるが、基本的にガンガンKY補正が発動してすべりまくるので出番は短い。

 今日も指名ゼロで、晩飯はモヤシオンリー野菜炒めかなと彼が思った時、ショウにホスト仲間の誰もが耳を疑う指示が入る。

 

「おいショウ、指名だぞ」

 

 受付のボーイに言われてそこに行くと、なんと今日ショウに十円をくれた(貸した)女性が一番高い席に座ってショウを待っていた。

 なんたる僥倖、日ごろの地道な営業努力(と思ってるもの)が実ったとショウは気合を入れて新天地を指差す船長のようなポーズを決めて挨拶する。

 

「ご指名ありがとうございマース! ショウデース! 貴方のハートを掴む男の名前どうか覚えてくださいッス!!」

 

 ……なんかどっかで見たことのある挨拶だった。

 多分普通の人ならこのホスト大丈夫だろうかと心配になる挨拶だ。

 

「っふ、ふふふ」

 

 だがショウを指名した女性は、なにがそんなに面白かったのか、ツボにはまったようにクスクスと笑いが止まらない様子だ。

 あるぇ? と何時ものお客と違う反応に戸惑いながら、ショウは女性の隣に腰を下ろす。

 

「クスクス……ごめんなさい、貴方の挨拶が姉ととてもよく似ていたもので」

 

「あれ、マジで? そりゃまた面白い偶然もあるッスね」

 

「ええ、でもお陰でますます貴方に興味がわいたわ。あとしゃべり方は無理に畏まって頂かなくてもいいんですよ」

 

 そう言って、女性はずずいとショウに身を寄せる。

 

「サンキューおねえさん、あ、良かったら名前教えてもらえる☆」

 

「そうですね……『霧島』と呼んで下さるかしら」

 

「オッケー! あ、じゃあ霧島チャンなんかお酒飲む? なんでも注文しちゃってYO、できれば高いやつ」

 

 いきなり図々しいショウのその言動に、霧島は少しも嫌な顔をせず、むしろうれしそうに

 

「じゃあとりあえず一番高いお酒頂けますか?」 

 

 と、初指名のホストに貢ぐとは思えないオーダーをした。

 

「え、大丈夫? うちで一番高いやつっていったらその、別に安いのでもいいんだよ……」

 

 自分で言っておいていきなり心配してる、ショウさんホスト向いてないっすよ。

 だが、それを聞いて霧島は、

 

「大丈夫ですよ、私こう見えてお金持ちですから」

 

 そう言って微笑んだ。

 その顔を見てショウは「んじゃ遠慮なく」と、いつか来る日のために練習しておいた取って置きの叫びを上げる。

 

「本日ご来店いただいたこちらのお嬢様ぬぃいいいいいい! ロマネ・コンティ! 頂きましたーーーーー!!」

 

 ざわめく店内。

 無理もない、ショウがオーダーしたそれは三桁万円を超える超高級オーダーだ。

 

 やがてきらびやかなカートに乗って運ばれてきた最高級酒を、ショウは霧島と自分のグラスに注ぎ乾杯する。

 二人でお酒を飲む(ショウは一気飲み)その光景、傍から見ても霧島はとても幸せなものに感じているような至福の表情だ。

 ショウはそんな霧島を見つめながら飛び切り(と思ってる)のトークを繰り出す。

 

「そうそう、霧島チャン聞いてよ。俺すごいこと発見したんだけどエレベーター乗っててワイヤーが切れても、地面に着く直前にジャンプすれば助かるんじゃね?」

 

 そんなショウの微妙なトークを聞いていても、霧島の様子は変化することはなく、むしろさらに幸せさの度合いを深めているように見えた。

 

 

「ショウクーン! 駄目だよこんなすてきなお嬢さんにそんな寒いトーク聞かせちゃあ」

 

 太客の臭いに釣られてやってきた飢えた狼のトップ、店のナンバーワンホストがショウを押しのけ霧島の隣にドスンと座る。

 

「ちょ! 先輩、霧島チャンは俺のっ!?」

 

「ショウ、まあこっちこいよ」

 

 ショウは完全にルール違反であるその行為にさすがに声をあげるも、ナンバーワンホストの取り巻きの一人に引きずられて店の奥に消えて行った。

 

「えっ、あの! ショウさん!」

 

 店の奥に連れて行かれたショウを追おうと、霧島が立ち上がろうとしたが、ナンバーワンホストに手を捕まれ、座らされる。

 

「おねーさんすごいね、このお酒この店で一番高いんだよ! もしかしておねえさんお姫様? ふふふ、じゃあぼくがさらっちゃおうかな?」

 

 ナンバーワンホストはすかさず、女を落とす最高のスマイルを浮かべながら口説きにかかった。

 静かで押しの弱そうな霧島をみて、イケイケ押せ押せモードに切り替え接客を開始するナンバーワンホスト。

 ショウにはできない客を見てあらゆる接客スタイルに切り替えるその技は、まさにナンバーワンの黄金技。

 

 だが、しかし。

 

 霧島は隣でピーチクわめくそのホストになんの感情も浮かべていない、能面のような顔で振り向いた。

 

「えっと、きりしっ!?」

 

 その表情を見て少し怯えたホストが、空気を和らげようと先ほどショウが言っていた名前を思い出し、言おうとしたその瞬間。

 

 ガシャン!

 

 と、霧島はその音が聞こえてくるよりも速い速度で、掴まれていた手を振り払い、そのホストの髪の毛を掴んで大理石のテーブルに叩きつける。そして目にも留まらぬ早業でアイスペール(氷の入れ物)に付随していたアイスピックを手に取ると、ホストの鼻先すれすれにドンッ! と突き刺した。

 

「……店長を呼びなさい」

 

 目の前の美女から発せられたとは思えない低い声と、大理石を貫通するアイスピックを見て、誰もが絶句する。

 霧島はホストをテーブルに押し付けたまま取り巻きのホストの一人に視線を向ける。その眼は先ほどショウに向けていた柔らかなものとは違い、あらゆる生物に死の恐怖を与えるかのような眼つきに変貌していた。

 

 まるで背後にまるで仁王像が居るかのような凄まじい迫力。ピキィ! ピキィ! と見ていた者は空気がはじける音が聞こえた気がした。(実際聞こえた)

 額に青筋を立てながら恐ろしい表情をする霧島のその視線を受けて、取り巻きのホストは慌てて店長を呼びに行く。

 

「店長大変です! なんかすごいおっかない客が店長呼べって!!」

 

「ぁああ!? お前らなにやってんだ! 女一人も相手にできねえのかこの玉無しども!!」

 

 そう言って呼びにきたホストの腹を一発殴り、霧島の席に向かう店長。

 そして席を見つけ、「あの女か」とそこに座る霧島にドスを聞かせた声をかける。

 

「なにかトラブルでも? おじょうさ……」

 

 

 店長は寿命が九割くらい消えたと思った。

 そこに居るのはあの『霧島』だった。

 

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『金剛連合会』

 

終戦の混乱期に仲間や争いを好まない人たちを守るために立ち上げられ、やがて強大な力を持つようになった四つの組からなるこの国最強の民間治安維持組織(任侠道組織)。

現在では企業連合体として表の看板を掲げているが、その筋の人間には今でも裏の下記の名称の方が有名である。

 

『金剛組』『比叡組』『榛名組』『霧島組』

 

 

『霧島組』は、かつて金剛型の戦艦として戦った艦娘、『霧島』が長を務める組である。

 

終戦後に発生したあらゆる戦闘の急先鋒として戦い続けた『霧島組』。

現在に至るまでその闘争の血脈を残すこの組は、平和になった現代においてもなお、金剛連合会の武力を象徴する超武闘派組織である。

 

そして組のトップは常に『霧島』が継承し、今代の『霧島』も無論その名を次ぐに相応しい艦娘と評価されている。

 

 

※伊八書房『世界のアンダーグラウンド組織』より

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 金剛連合会最強の武闘派組織『霧島組』の組長の艦娘。

 それがいま、目の前にいる彼女の持つ肩書きであり、正体。

 

 そしてこのホストクラブはその霧島組の運営する店でもあった。

 もちろん店長は知っている、なぜならまさに今日、自分や他のグループの責任者が上納した売上金を数える会計士たち、その様子を冷たい顔で見ていた張本人こそが目の前にいる彼女なのだから。

 

 店長はその様子を真近で震えながら見ていた。

 

 だって彼女の周りには頭蓋骨をトロフィーにするエイリアンとでも渡り合うコマンドーと、ボクシングの世界王者だったりヘリを弓矢で落としちゃうようなのを足して二で掛けたような強面の組員たちがごろごろ居たし、なによりもそんな組員たちですら、おびえたチワワのように恐ろしいまでの緊張感を持って霧島と接していからだ。

 

 そしてその霧島組長が、今、目の、前に……。

 

「あ、あのあのあのあのあの、く、組長さん、あの、う、うちのものがなにか……」

 

 見てるのがかわいそうなほど真っ青になり、汗をだらだらかいて震える店長がなんとか声を絞り出す。

 もはや彼にEで始まるザイルの人の面影は無く、とんちを取り上げた一休さんレベルの坊主にまでスケールダウンしていた。

 

「私がね、楽しい時間を過ごしてたのに、この人がその時間を奪ったの。ごめんなさいね、ほんと、素人さんに手を出すなんてどうかしてると自分でも思うわ。でも止められなかったの、どうしてかしら? どうして、どうして、どうしてかしら? でも奪われた、そう、奪われてしまったの。奪われたなら取り返さなければなりませんね、ええ、ほんと。うん、取り返さなきゃ」

 

 ギシリ、という音と共に、押さえつけられたホストがつぶれたかえるのような悲鳴を上げる。

 大理石のテーブルがきしむほどの力をホストを押さえる手に掛けながら、淡々と、あったことと自分の気持ちを述べる霧島。その恐ろしく冷たい声色に店長の残りライフがガリガリ削れて行く。

 というか、すでにマイナスである、閻魔様からライフを借りてなんとか意識を保っている状態だ。

 

「ああ、これが提督を持つということなのかしら? 私の計算どおりにならないなんて、ふふふ、おかしい、おかしいわ、うれしくてとてもおかしい。ふふふふ、ふふふふふふふ」

 

 サイコパスな感じのスイッチが入りかけている霧島を見て、もう周りの全員の腰が抜けそうになる、真正面から立ってる店長にいたっては小鹿のように足がプルプルしている。

 

「どうしたらいいと思いますか?」

 

「え、あ、あの……」

 

 無感情な瞳と平坦な声の疑問の言葉を向けられ、色んな汗が噴出す店長、やめて、もう店長のライフはゼロよ。

 なにも答えない店長から目を逸らし、ホストを押さえつけていた手を離す霧島。解放されたホストは「ひっ、ひぃ」と腰を抜かしながら後ずさった。

 

 そして、そんなホストや店長など居ないかのように、霧島は片手で顔を覆いながら、ガンッ…ガンッ…と一定の間隔で、なにかを必死に耐えるように大理石の机を叩き続ける。

 

 ガンッ…ガンッ…

 

 一回叩くごとに、ピキリ、ピキリと大理石の机にヒビが入る。

 一回叩くごとに、店長たちの精神もランナウェイする

 

 ガンッ…ガンッ…

 

 誰も霧島から目を逸らすことができない。

 もはやホストクラブ内の空気は蝕の降臨を目の当たりにしてしまった、某傭兵団のそれだ。

 

 

 ガンッ…ガンッ…ゴト……

 

 

 そして、とてもとても静かに、勝手にたまごが割れるようにあっけなく机が二つに割れた。

 

 霧島は所在の無くなった方の手も顔に当て、両手で顔を覆い隠す。

 そしてほんの僅か、しかし永遠に感じられる間を置いて霧島は店長とホストたちに再び目を向けた。

 

「……ショウさんを呼んで、このテーブルで二人にさせて下さい。それだけでいいの。あの方が働く店を■■■にするのは気が乗らないから。私、難しいこと言ってますか?」

 

 店長は救いの言葉にも聞こえるそれを聞いて首が取れそうな勢いでうなずき、指示を飛ばす。

 

「おらちんたらしてんじゃね! ショウを呼んで来い!! 後このテーブルも交換だ! さっさとしやがれお願いしましゅううううう!!」

 

 泣きながら指示を飛ばし、それに従って場を片付けて空気をもとに戻す店員と客たち。

 

 

 今、彼らの心は一つになったのだ!(いい話風)

 

 

 そんなこんなで片づけが終わり、ショウを呼びにナンバーワンホストが店の裏手に行くと、そこでショウは幸せそうな顔でカップめんを食べていた。

 連れて行った先輩が悪いと思って渡したらしく、ショウはそれであっさりと許して霧島のことは忘れちゃってたらしい。

 

 泣きそうな顔で霧島のところに行くように言われたショウは、なんだったんだろうと首をかしげながら席に戻ってきた。

 

 ほかのホストや客たちが一切自分と眼を合わせないその様子に、なにがどうなったのかさっぱりわからなかったショウだったが、三秒で忘れて霧島の隣に座りまたトークを開始する。

 

「ただいま霧島チャーン! そういえばさ、エスカレーター逆走したらウォーキングマシーンとかいらなくね?」

 

 霧島はさっきの様子が嘘のような雰囲気で、楽しく嬉そうにその微妙なトークをずっと聞いていた。

 

 この日以降、霧島組の組長である極道艦娘を太客に持った、伝説のホストとしてショウの名前はとどろくことになら……ない。

 なぜならとても危険な記憶としてその場に居合わせた全員が、記憶を封印して口をつぐんだからである。

 

 提督適性者と艦娘の関係に口を挟むな関わるな貶めるな、は、現代における一般常識の分類である。

 

 ちなみに、その後も霧島は今の関係でその逢瀬を楽しみたかったのか、ショウにはそのことを隠して、今でもしげしげとホストクラブに通い続けている。

 

 

 余談だが、ショウの給料はモヤシ炒めに卵入れても平気なくらいにはアップした。

 

 




ゴクコメ(極道コメディー)のホスト・ミッツ・ゴクドー。

上がってもショウさんのお給料安すぎなのは、上げすぎたら頼ってもらえなくなって、霧島さん的に都合がわるいから説。
 

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