提督をみつけたら   作:源治

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独断と偏見混じる翔鶴さんへのイメージ。
『人の上に立つ教育を受けたお嬢様』
 


『僕』と『正規空母:翔鶴』

 

 この世界は一度滅びかけたらしい。

 

 しんかいせいかんという、怪物が現れて世界をめちゃくちゃにしたんだ。

 だけどどこからか現れた艦娘と、その辺に居た提督と、あと沢山の人たちが力を合わせてしんかいせいかんをやっつけて平和を取り戻したんだって。

 

 その後、艦娘たちは妖精さん(以下一話参照

 

 まあ、僕がどうしてこんな長々とこんなことを思ってるのかだけど……

 

「……」

 

 今日も帰り道で、電柱に隠れてじっとこちらを見ている加賀さんを見てしまったからだ。

 隠れているつもりでも、加賀さんの乗ってきた黒塗りの高級車が大体そばにあるので直ぐに分かってしまう。

 

 あれから加賀さんは毎日僕を帰り道で待ち伏せして遠くから見ている。

 二回も笛を吹かれたのがよほどこたえたのだろうか、あれ以降は直接話しかけてくることは無くなった、んだけど……

 

「……ぐすん」

 

 こう毎日涙目でこちらを見つめてくる加賀さんを見ていると、僕の中で悪いことをしてしまったんじゃないだろうかという思いがわいてくる。

 隠し撮りした僕の写真を持っていた、ただそれだけのことだというのに。

 

 ……いや、やっぱりわいてこない、うん。

 

 ちょっと悪いかなと思ったけど、僕はなにも見なかったことにして家に帰った。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

「彼女たち艦娘は人間と変わらない姿で生まれてきます。ですが、普通の赤ん坊より成長速度が速く、一年たたないうちに自我がはっきりし、艦娘としての記憶はこの段階ですでにあるようです。そしてどんな環境で育ったとしても、その記憶にしたがって性格が形成されます。まったく違う環境で育った同じ艦種の艦娘でも、比較的近い性格になるのにはこういった背景があります」

 

 今日は学校で艦娘についての授業のある日だ。

 先生が熱心に難しいことをしゃべっているけど、あまりよくわからない部分もある、でも多分大事なことなので一生懸命聞くことにする。

 

「そして二年たった頃には差異はありますが、六~九歳程度の体つきになり、身体能力もすでに成人男性を遥かに超えるものになります。その後、艦種にもよるようですが、六歳~十二歳くらいの間に『艦娘変わり』という、人間でいう成長期的な肉体変化が起こり、艦娘の姿として固定されます、図鑑や歴史の本に載ってるのはこの状態の彼女たちですね」

 

 みんなも先生の授業を黙って、しっかりと聞いている、それくらい艦娘のことを知っておくのは大事なことなのだ。

 

「ちなみに『艦娘変わり』に関してはまた今度の授業で説明いたしますが、この期間は早くて一ヶ月、長くて一年以上続き、肉体的にも精神的にも不安定になることがあるようです。皆さんはもしなにか見てしまっても、温かい目で見守ってあげましょう」

 

 窓の外を見ると、先日屋上に居た『大鳳』さんが三階から飛び降りてるのが見えた、なるほど。

 

「つまり六歳~十二歳で大人の見た目に見える状態となる艦娘も居ます、彼女たちが別のクラスで授業を受けているのはそのためでもあります。また何時起こるかも不明で、起こらないこともありますが『第二次艦娘変わり』という、専門の用語で『改二』という状態に変わる肉体変化が起こることもあります。この状態になると新たに様々な力が備わるといわれています」

 

「うわぁ、なにそれ、なんか怖い!」

 

 隣の席の友達、健太君が大きな声を上げた。

 本心じゃないのはわかる、多分ちょっとふざけた感じで言ったのだろう。

 

「はい! 皆さん注目! いま健太君が大事なことを言いました。彼女たちのことを怖いと言いました」

 

 なんだか先生のくうき? が変わった気がした。

 

 先生はゆっくり健太君の前まで歩いていくと、健太君の両肩に手を置いてじっと眼を見つめる。

 健太君はびくってなって、先生から目を逸らせずに居た。

 

「先生程度の力でも、ちょっと加減を間違えれば健太君に怪我をさせてしまいます、車や銃を使えばもっと簡単にです。力を怖がるのは人の本能なので仕方ありません。ですが大事なのは力の大小ではなく、危害を加えてくる意思があるかどうかです」

 

 先生は、厳しく、でも優しく諭すような声で続ける。

 

「先生はとっても寛容な先生なので、健太君やあなたたちの個性や自主性は大いに尊重いたします。でも、艦娘に対しての認識が間違っているようならそれだけは徹底的に矯正します」

 

 先生は健太君から手を放し、教壇まで戻ってから振り向いた。

 

「彼女たちは確かに人とは成長の仕方も違いますし、大きな力を持って生まれてきます。ですがその力で、百年以上私たち人類を護る為に必死で戦ってくださいました。そして戦いの中で沢山沢山亡くなられました。私たちの御父さんお母さんおじいちゃんおばあさん、そのご先祖様たちが生まれてこれたのは彼女たちが戦ってくれたからです。私たちを、人類を護る為にです、そのための力なのです」

 

 人類の守護者、艦娘。

 おばあちゃんがよく僕に言って聞かせてくれる言葉だ。

 

「そして現代でも、彼女たちは私たちを表から影から守ってくださっています。彼女たちは私欲で人間に力を振るうことは絶対にありません。もし彼女たちが誰かに力を振るったのであれば、それは誰かに危害を加えようとしたからではなく、自分か誰かを守るためです。それを履き違えてはなりません」

 

(※注意:艦娘の行動理由には個体差があります 例:提督)

 

 健太君は泣きそうな顔をしていたが、先生の言葉になにか感じるものがあったのか、ぐっと堪えていた。

 

 男だな、健太君も。

 

「今日はここまでです、それでは当番、号令を」

 

 外では人類の守護者である『大鳳』さんが、学校に住んでる猫を追い掛け回し、他の先生が後に続き彼女を追いかけるように走り回っていた。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

 その日の帰り道にも、電柱に隠れてじっとこちらを見ている加賀さんの姿があった。

 

 今日の授業を聞いて、艦娘のことを少し知ってしまったぼくのなかの罪悪感というものが刺激されたのか、せめてと思い軽く会釈だけしておいた。

 そしたらそれを見て加賀さん、一瞬驚いた顔をし、うずくまって泣き出してしまった……

 

「えぇ……」

 

 人類の守護者を泣かせてしまった……

 

 しょうがないので僕は彼女のそばまで歩いていって、おばあちゃんが僕が泣いてくれた時にしてくれるように、彼女の頭をなでてあげる。

 でも、やっぱり恐いのでもう片方の手には笛を握り締めたままだ。

 

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい」

 

 そうこぼしながらごしごしと目をこする加賀さんを見てると、まあやはりこの人は悪い人ではないんだろうなぁ、という思いがわいてくる。

 情にほだされるというやつだろうか、こうしているとなんとなく加賀さんがかわいく見えて……

 

 そう思いかけた瞬間、加賀さんが飛びかかってきた。

 

 そして彼女の胸が目の前に迫ってきたかと思うと、顔にぐにゃっという感触がして目の前が加賀さんの着ている紺色の服で一杯になる。

 ああ、油断してしまったから捕まってしまった、僕は遅れてそう気が付いた。

 

 だが次の瞬間、なにかがぶつかるとても大きな音が聞こえた。  

 

 後からわかったんだけど、この時加賀さんは視界の端から止めてあった黒塗りの高級車に向かって、突っ込んでくる白塗りの高級車が見えたので慌てて僕をかばうように抱きついたらしい。

 

 でもそのことを説明してくれた時小さく「・・・たなぼたでした」とつぶやいたのを僕は知っている。

 

 それは置いておいて、音にびっくりした僕がゆっくりと目を開けると、加賀さんの黒塗りの高級車に白塗りの高級車が追突していて、運転席でいつものクマーにゃーの人たちが目を回しているのが見えた。

 

 僕が大丈夫だろうかと(加賀さんに抱きしめられたまま)心配していると、白塗りの高級車から、銀色の長い髪の上品そうな女の人が降りてきた。

 とても高そうな赤いドレスを着ていて、首からは白いストールをかけている。

 あまり道端では見かけないような格好だ、僕も初めて見た気がする。

 

「あらあら、ごめんなさいね。なんだか見覚えのある下品な黒い車が見えたものですから挨拶しようとしたんですけど」 

 

 そういって頬に手を当てながら謝罪の言葉を言う銀色の髪の女の人、でも正直全然悪く思ってなさそうだ。

 後なんだかどの動作も、なんというかとても板についているというのか、そう、せんれんされているという感じがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

『僕』と『正規空母:翔鶴』

 

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらず礼儀のなっていない五航戦ね。なにをわざとらしいことを。本当に免許を持ってるのかしら? 一度見せていただきたいものね、捨てるけど」

 

「あらあらあらあら、時代遅れの一航戦の遠吠えが聞こえますね、しばらく見ない間に犬にでもなられたのかしら?」

 

「……頭にきました」

 

 聞いたことの無い低い声で加賀さんが言い争っているのが聞こえる、僕が見ている加賀さんはいつもおどおどしているか泣いている姿なので少し新鮮だ。

 あと息苦しいのでそろそろ離して欲しい、なので軽くもがいてみた。

 すると加賀さんが「あっ」と何故か切なげな声を上げ、銀色の髪の人は「あら?」と始めて僕の存在に気が付いたような声を上げる。

 

「あら、その子供は……?」

 

「貴方には関係ないわ、早くどこかに行ってもらえるかしら。こう見えて忙しいの」

 

「あらあら、真昼間からこんな所に車を止めて道端にいらっしゃった方の言葉とは思えませんね?」

 

「真昼間から人様の車に突っ込んでくるような無粋な五航戦は言うことも無粋ね。私がどこでなにをしていようと関係ないのではなくて?」

 

「あらいやだ、無粋さでは一航戦の先輩方にはとてもとても敵わないと思ってたのですが。私たちが貴方たちにされたことを覚えてらっしゃらないのかしら?」

 

 何時までも終わりそうにない二人の言い争いの声を聞いて、このままでは埒が明かないと思った僕は、ぽんぽんと加賀さんの体を叩く。

 

「うっ」と叩くたびに切なそうな声を上げる加賀さん。

 

 そして何度も強くたたいていると、加賀さんは名残惜しそうにゆっくり離して地面に下ろしてくれた。

 ようやく解放された僕は、ふぅ、と一息つく。そしてそこで初めて、まともに銀色の髪の人と目が合った。 

 

 僕を見て銀色の髪の人は雷でも落ちたかのような顔をして固まっていた。

 僕はとても嫌な予感がした。

 加賀さんにいたってはとても見せられないような嫌な顔をした。

 

「は、初めまして、翔鶴型航空母艦一番艦、翔鶴です。提督を見つけておられたなんてさすがです。私も一航戦の先輩に、少しでも近づけるように頑張ります!」

 

 僕の目を見てそう挨拶し、次に加賀さんの手を握りながら翔鶴と名乗った女の人はとても楽しげに話しかける。

 その様子はさっきまでのけんのんな雰囲気とは正反対だ。

 

 そしてやはりといった所だろうか、さっきの『艦名の契り』を聞く限り、この人もどうやら『翔鶴』という名前の艦娘のようだ。

 

 加賀さんは親しげに自分の手を握るその人を見て、それはもうおぞましいものを見るような、それでいてこの世の終わりのような顔をしていてた。

 

「あの、加賀さん。この人は……」

 

「嫌ですよ提督、私のことは是非、翔鶴とよんでください!」

 

 翔鶴と名乗るのその人は、ずずいと僕の目の前に顔を寄せてくる、近くて恐い。

 

「……加賀さん、その、翔鶴……さんとは友達なんですか」

 

「いいえ、違います。どちらかといえば敵です、私が経営する会社と業種が同じライバル企業の経営者ですね。さあ提督こちらに、目を合わせてはいけませんよ」

 

 そういってさりげなく自分の車に僕を乗せようとする加賀さん、止めてほしい。

 

「なっ! 待ってください加賀さん!」

 

 そんな加賀さんを見て翔鶴さんは僕に駆け寄り持ち上げて、胸元に抱き寄せる。

 ぐにゃっという加賀さんと同じくらいの大きさの感触が伝わってくる、ほのかに花のような香りがした、あと暑い。

 

「提督、よろしければこれから翔鶴と一緒にお菓子の美味しいお店に参りましょう! ふふふ、それからこれからのことをじっくりと、ええ、じっくりとお話しましょう。うふふ、楽しみ」

 

「っ!? おやめなさい翔鶴! 提督が嫌がっておられるでしょう! それに提督と一緒にお菓子の美味しいお店に行くのは私のほうが先に約束をしていたのです!」

 

 といって、加賀さんも僕の首に手を回して胸元に抱き寄せる。

 お陰で僕は加賀さんの胸と、翔鶴さんの胸にサンドイッチされているような、ぐにゃぐにゃして息苦しいことこの上ない状態になってしまった。

 

「そもそも、どうして貴方がここにいるのかしら五航戦? もしかして昨年度の業績がうちに負けたから腹いせにでも来たのかしら? だとしたら品性を疑いますが」

 

「業績は関係ありません!! それに昨年度は設備投資に割り振ったからで……それよりも加賀さん? 貴方常々自分は赤城さんと一緒に仕事に専念するから提督探しなんてする気は一切無いとか豪語されてましたでしょう? これはどういうことなのでしょうか!?」

 

「そんなこと言ってたかしら?」

 

「あら、そういえばもう物忘れが激しくなるお年でしたかしら?」

 

「……貴方も私と大して年は変わらなかったと記憶してますが?」

 

『っう!?』(言った方も言われた方もダメージを受けている構図)

 

 

 なんだか僕を抱きしめたまま額をぶつけ合って口喧嘩を始めてしまった二人。

 正直暑いし、おまけにトイレに行きたい。

 

 しかし弱った、この状態では笛がふけない。

 

 なのでしょうがないから僕は、ポケットに入れていた虎の子の防犯ブザーを引っ張って鳴らした。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

 加賀さんと翔鶴さんは、防犯ブザーの音を聞いて目を覚ました、クマーにゃーの二人に引きずられて、車に押し込まれて走り去って行った。

 翔鶴さんの車はどこからか来たレッカー車が引っ張って行った。

 

 僕はなんだかどっと疲れてしまった。

 

 とりあえず近くの公園のトイレで用を済まし、トイレから出て公園から見える景色を眺める。

 

 ここは『艦夢守市(かんむすし)』

 

 大きな港があり、その港と街の周りをぐるっと山に囲まれている、そんな立地の場所。

 都会とまではいかないけれど、それなりに騒がしくてそれなりに穏やかな大きさの街。

 

 

 そしてこの街には一つの噂がある。

 それは提督適性者が集まるという噂だ。

 

 

 この街には沢山の人間と、居るかもしれない提督適性者たちと、その噂を聞いてやってきた割と多くの艦娘たちが平和に暮らしている。

 

 

 つまり、ここが僕の住んでいるところだ。

 

 

 

 

 後よくわからないけど、どうやら僕には『加賀』と『翔鶴』の適性があるようなのだった。

 

 

 

 正直困った。

 

 

 

 ■□■□■

 

 

 

 その後の黒塗りの高級車の車内。

 

 ぶすっとした顔の翔鶴と、深刻そうな顔をしている加賀が後部座席に並んで座っている。

 

「……球磨、料亭黒潮に向かって」

 

「了解クマー」

 

「ふん、まだなにか話があるのですか? 言っときますけど提督は……」

 

 改めて宣戦布告を告げようとする翔鶴だったが、ひどく追い詰められたような真剣な目をした加賀を見て言葉を飲み込む。

 

「ねえ、五航戦の姉のほう」

 

「なんでしょう、一航戦の青いほう」

 

「提督の適性なのですが……私と貴方が適合した以上その、個別や型の適性ではなく、艦種適性である可能性があるわ」 

 

 そういって片手で顔を覆いながら真剣な顔で呟く加賀。

 それを聞いて首を傾げ、なんのことかよくわかっていない様な翔鶴だったが、しばらくしてはっとした風に加賀に振り向く。

 

 片手で顔を覆いながらも視界の隅にその様子を捉えた加賀は、コクリとうなずく。

 

「その、もしそうならお互い真っ先に報告するべき相手は居ると思うの。でもその、なにより提督に負担がかかってしまうし、もしそのせいでなにかの争いになってしまって提督に嫌われたりしてしまったらそれこそ……」

 

 最悪の未来が頭をよぎりお互いブルリと身を震わせる。

 そして搾り出すように加賀が言葉を続ける。

 

「正直かなり抵抗はあるし私たちの『艦娘』としての常識からは外れてしまうのだけど……」

 

 言いにくそうに言葉を濁す加賀に、翔鶴は決意をしたように話しかける。

 

「いえ、その意見には賛成です。正直思うところや色々と身内の問題もあるとは思うのですが。ここは……」

 

 そして二人は向き合い手を握り合う。

 

 

 

 ここに史上(あんまり)例を見ない、加賀と翔鶴による機動部隊が結成された。

 

 

 




負けフラグがすごい機動艦隊が結成されました。
これより作戦行動に入ります。

あと加賀さんの黒塗りの高級車が、後ろから追突される展開は114514年前から決まってた。
 


■補足説明
今回、艦娘に対する熱心な学校教育の場面を書きました。
ですが、全てが全ての学校で艦娘に対して今回のような熱心な教育をするわけではなく、内容は地域や国によってはばらつきがあります。

ですので、この先大人たちが艦娘たちに対して取る行動でおかしな点があっても薄目で見てください。(予防線)
あと、艦娘とイチャイチャするのに邪魔になったらこの設定は、容赦なく変更すると思います。
 

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