カワルミライ   作:れーるがん

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お待たせしましたぁぁぁぁぁ!!


あの時とは、色んなことが違うから。

「君たち一人一人のマンパワーに期待してるよ」

『よろしくお願いしまーす』

 

  小学生特有の間延びした声が会議室内に響く。それを受けるのは総武高校生徒会長一色いろはと、海浜総合高校生徒会長の玉縄だ。

  あれだけ派手に論破された後だと言うのに全く懲りた様子を見せない辺り、玉縄の心はきっとダイヤモンドかなにかで出来ているのだろう。引っ掻き傷に弱そう。

 

「じゃあいろはちゃん、後は頼んだよ」

「はいー」

 

  玉縄は小学生を一色に預け、自分のテリトリー、もとい海浜総合の面々が座っている方へと戻っていく。

  後を頼まれた一色はというと、小学生達に演劇の説明をしているようだ。

 

「さて、私達も作業に取り掛かりましょう」

 

  雪乃が玉縄を論破してから、既に30分は過ぎていた。

  あれから由比ヶ浜と折本が色々とフォローに回ったりしてくれたようで、正直とてもありがたい。別々にやる事になったとは言え、合同イベントである以上は向こうとの連携も必要になる。お金のこととかお金のこととか。あとはお金のこととか。

  雪乃もさっきはやり過ぎた自覚があるのか、さっき折本がこっちに来た時、一言謝っていたのを見た。自覚があるのはなによりです。控えめに言ってさっきのゆきのんめっちゃ怖かったからね。

 

「うーん、でもあたし達がやることってあるの?」

「そりゃなにかしらあるだろ」

 

  一度目の時とは違い、イベントで具体的になにをするのかは決まっているが、それでもやることがない、なんて事はない。自分の仕事は終わったと思ったら他から回された仕事に追われる。それが働くという事だ。

 

「由比ヶ浜さんは予算の管理を主にお願いするわ。会計の人と相談して頂戴。私は一色さんのサポートに回るから、八幡は......。当日の飾りなどを作っていてくれたらいいわ」

「はーい!」

「なんか俺の仕事だけ適当に決めてない? それ、小学生にやらせるやつだよね?」

 

  いや一度目の時も確かに小学生に混ざってやってたけども。でも僕の事務能力の高さも捨てたもんじゃないと思いますよ?

 

「あら、単純作業はあなたの十八番でしょう?」

「強いて言うなら十四番辺りだ」

「分かったのならさっさとやって頂戴。それなりに量があるから、時間が足りなくなるわよ?」

「へいへい......」

 

  雪ノ下の隣で由比ヶ浜が「オハコ......なんで十四番......?」とか呟いているが、由比ヶ浜には後で説明するとして。いや別に説明いらないな。ボケを説明するとか恥ずかし過ぎる。

  なにはともあれ、割り振られた仕事にさっさと取り掛かろう。

  準備してあった折り紙とノリ、ハサミを手に取って端っこの方に座り、なんかパーティとかでよく見るヒラヒラしたやつの製作を開始する。

  雪乃にああは言ったが、彼女の言う通りこの様な単純作業は嫌いではない。なにも考えることもせず、ただ黙々と手を動かすだけ。脳みそを使わない分事務作業よりもかなり楽だ。

  色とりどりの折り紙たちにハサミを入れ、次々に輪っかを繋いでいく。今この折り紙達の命運は、俺が握っていると言っても過言ではない。どの様な形にするのか、俺の裁量一つで決められるのだ。紙飛行機となって無残にも青い空に飛ばされてしまうか、鶴となって美しい姿を持つことが出来るか。よし決めた。この黄緑の折り紙君には紙飛行機になって貰おう。久しぶりに『超スーパー八幡スペシャルΧマークII』を作ろうではないか。スーパーホーネットにも負けないくらい凄いやつを作ってやる。航続距離4000キロも余裕なやつ作ってやるぜ。

 

「八幡」

「ん?」

 

  ちょっとウキウキしながら折り紙を折っていたら、不意に名前を呼ばれた。俺を名前で呼ぶのは両親と雪乃以外にいない。しかし両親がこんな所にいるわけもなく、聞こえてきたのは雪乃とも違った声。

  顔を上げた先にいたのは、紫がかった黒髪を小さな体で揺らす、鶴見留美だった。

 

「久しぶり」

「おぉ、ルミルミか。久しぶりだな」

「ルミルミって言わないで。キモい」

「んぐっ......」

 

  再会して直ぐにキモいと言われるとは......。俺はその道のプロと言うわけではないので、普通につらい。

  なにも留美のことを忘れていたわけではない。今日小学生が来ると言うのは聞いていたし、その時にちゃんと思い出しもした。しかし雪乃が玉縄を論破した時のインパクトが強すぎて、すっかり頭から抜け落ちていたのである。

 

「で、どうしたんだ?」

「久しぶりだから。一応挨拶はしておこうと思って。雪乃さんのも挨拶したかったんだけど忙しそうだし、八幡は暇そうだったから」

「別に暇なわけじゃない。仕事中だ。お前もなんかやらんとダメなことあるんじゃないの?」

「隣の部屋で演劇の練習だって。あのなんかちょっと変な人に私が主役だって言われた」

 

  変な人て。確か千葉村で、留美は一色を指して「俺たちとも葉山たちとも違う」と言っていたのだったか。だからって変な人は言い過ぎだろう。本人聞いたら怒るぞ。まあ、変な人であるのは諸手を挙げて賛成するけれども。

 

「んじゃさっさと練習行ってこい」

「......うん」

 

  何か言いたげな様子ではあったが、留美は素直に頷いて待っている友人達の元へ戻る。何事か言葉を交わして笑顔を浮かべているあたり、彼女の人間関係は良好なのだろう。

 

「彼女、あなたに何か言いたそうだったけれど」

 

  俺と留美のやり取りを見ていたらしい雪乃が、こちらに近づきながら声をかけてくる。手には何枚かの書類が握られている為、仕事を抜け出して来たわけではないのだろう。

 

「そうみたいだな」

「聞かないの?」

「聞いて何ができるとは限らないだろ。それに、俺たちは助けを求められたら動くんであって、こっちから能動的に助けに行くわけじゃない。そうだろ?」

「ええ。分かっているならいいわ」

「なんだよ、その言い方」

 

  チラリと雪乃の方を見てみると、俺が作業に使っている折り紙の数を数えている。どうやら備品などの確認をしているらしい。数え終えた後、書類になにごとか書き込んだ。

 

「だってあなた、年下には甘いじゃない」

「......まあ、そうかもな」

 

  一色や小町に対する態度を考えると、流石に否定することはできなかった。まあ、雪乃のやつも大概だとは思うが。彼女のようにメリハリをつけて甘やかす事が俺には出来ていないし、そう言われても仕方ないだろう。

 

「自覚があるのは良いことよ。精々、通報されないようにすることね」

「んな事、言われてもやらねぇよ」

「ならいいのだけれど。......ああ、それと。紙飛行機を作って遊ぶのも、大概にしておきなさい」

 

  最後にフッと笑みを残して、雪乃は生徒会の方に戻って行く。なんですか今の笑みは。可愛いのであと5回くらいして欲しい。なんというか母性を感じたよね。なかなか言うことを聞かない息子に対する仕方ないわね、みたいな感じ。いや、俺は手の掛かる子供じゃないけど。違うよね?

 

「さて、やりますかね」

 

  気合いを入れ直し、折り紙にジョキジョキとハサミを入れて行く。みんなが驚くようなヤバイ飾りを作ってやるぜ。

 

 

 

************

 

 

 

  今日の作業もひと段落つき、取り敢えず解散と言うことになった。

  問題点は未だいくつかあれど、それも焦ることなく順番に解決していけばいい。時間も余裕がある、と言うほどではないけれど。一度目のように切羽詰まっているわけではない。

 

「それじゃあ雪乃先輩お疲れ様です。ついでに先輩も」

「ゆきのんヒッキー、またねー」

 

  この後生徒会の人達と少し打ち合わせをする一色さんと、バス通学の由比ヶ浜さんとはここで別れることとなった。

  八幡と二人きりになり、夜の街を歩く。道を照らす灯りは街灯だけで、少し心許ない。

  だからだろうか。隣を歩く彼の手を、自然と掴んでいた。それに彼から何か言われるでもなく、それが当たり前のように、指と指が絡まり合う。

 

「ふふっ」

「どうした?」

「いえ、なんでもないわ」

 

  笑みが漏れるのはどうしてだろうか。きっと幸せだからだろう。一度目にはなかったものを噛みしめる事が出来る。タイムリープなんて言う奇跡が起きなければ、存在しなかったはずの時間。

 

「そう言えば」

「......?」

 

  ふと、思い出した事があった。

 

「あなた、クリスマスプレゼントはなにがいいかしら?」

「プレゼント?」

「ええ」

 

  前は由比ヶ浜さんと一緒に湯呑みを選んだから、正真正銘、私から彼への初めてのプレゼント。

  彼からはシュシュとかメガネとか、色々と貰っているけれど、私から彼に個人的にプレゼントを渡したことは無かった。

 

「そう言うのって、なにも聞かずに当日サプライズで渡すもんじゃねぇの?」

「そうなの?」

「いや、知らんけど......」

「少なくとも、あなたはそうするつもりだった、とか?」

「......」

 

  どうやら図星のようね。本当分かりやすい人。

 

「それで、なにか欲しいものとかないの?」

「欲しいものねぇ......」

 

  そう言って考える素振りを見せる。まあ、いきなり何が欲しいかと聞かれても答えに困るわよね。八幡の事だから、本とか図書カードとか言われてもなんら不思議ではないけれど。

  やがて開いた口からは、私の予想していなかった言葉を紡いで。

 

「お前から貰えるんなら、なんでもいい」

 

  それが耳に届くと同時、頬が熱を持ってしまう。

  どうしてそんなセリフを恥ずかしげもなく言えるのかしら......。八幡の顔を見てみれば、彼も頬を赤く染めていて。恥ずかしげもなく、と言うわけではなさそうだ。

 

「なんでもいいが一番困るのだけれど」

「事実だから仕方ないだろ」

「そう......」

 

  これはハードルが上がってしまったかもしれない。元より適当に決めるつもりなんてなかったけど、一層気合いを入れて選ばなければ。

 

「お前は?」

「私?」

「お前は、なんか欲しいのあるか?」

「サプライズで用意してくれるのではないの?」

「バレちまったらサプライズって言えないだろうが。で、なんかあるのかよ」

 

  彼に贈って欲しいもの。言われて考えてみるも、今まで色んなものを貰ってきた身としては、改めて考えても特に思い浮かばない。

  となればやっぱり、返す言葉は自然と決まってしまう。

 

「あなたからなら、なんでも嬉しいわ」

「結局お前もそうなるのかよ」

 

  呆れたように笑う八幡。彼も同じ気持ちだったから、そんなことを言ったのかしら。私自身、彼に何かを贈ってあげられてるのかは分からないけれど。そうだとしたら嬉しい。

 

「ま、お互いクリスマス当日のお楽しみってことで」

「ええ、そうしましょうか」

 

  二人笑いあっていると、あっという間に駅に着いた。街灯以外にも色んな灯が道を照らしていて。例えば、木に巻きつけられた、鮮やかな色を輝かせる電飾とか。

  駅の前のショッピングモール、マリンピアにふと視線を移して、苦笑が漏れる。

  そんな私を不思議に思ったのか、八幡がこちらの顔を覗いてきた。

 

「どうした?」

「いえ、丁度今くらいの時期だったと思って」

「あぁ、そういやそうだな」

 

  あの時、この場所で。私たちの間にあった何かが、確かに終わりを見せた。

  けれど彼が、どれだけみっともなくても足掻いて、繋ぎ止めてくれた。その結果の今がある。

 

「八幡、今日はここまででいいわ」

「そうか?」

「ええ。少し、マリンピアに寄って行くから」

 

  この場所に何か意味を見出したわけではない。ただなんとなく。彼へのプレゼントは、ここで買おうと、そう思った。

 

「分かった。気をつけてな」

「ええ。また明日」

「おう。また明日」

 

  駅へと歩いて行く彼を見送って、その背が見えなくなってからマリンピアへと足を向ける。

  さて、何を買うのかはまだ決まってはいないけれど、由比ヶ浜さんや一色さんへのプレゼントも、見繕わなきゃいけないわね。

  大切な人達のためにプレゼントを選ぶと言うのは、何故だか少しワクワクした。

 

 

 

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