とある海賊の奇妙な冒険記   作:カンさん

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威国と波紋疾走

 覇気と覇気のぶつかり合いで、空気にヒビが入らんばかりに衝撃が走る。

 その一瞬は周りにいる者達にとっては永遠にも思える程の力の衝突。

 しかし本人達には開戦の一撃でしかなく、直ぐに次の攻撃に移った。

 

「スタープラチナ!」

「ナポレオン!」

 

 それぞれの武器の名を呼ぶジョジョとビッグマム。

 ジョジョの背後からは時を越える速さを持つ魔人がその拳を固く握り締め。

 ビッグマムの手にある魔剣は、己を創り出した創造者の力を一身に受けて笑みを浮かべる。

 

 先に仕掛けたのはビッグマムだった。

 

「喰らいな!」

 

 ──威国!! 

 

 魔剣から放たれるのは、自分を追放した国の奥義を真似た技。

 しかし猿真似と言えども扱う者が化け物ならば、その技の威力に何ら劣化など無い。

 大地を破壊する剣圧がジョジョに向かって放たれた。ジョジョはその一撃を──。

 

「オラァ!」

 

 ──己の拳で殴り逸らした。

 その光景を見たビッグマム海賊団は、特に彼女の実子達は目と口を大きく開いて唖然とした。

 あり得ない。自分達の母の、四皇の一撃を真正面から受けて逸らすなど……! 

 

 しかし彼らは勘違いしている。

 ジョジョの攻撃はまだ終わっていない。

 

「スタープラチナ・ザ・ワールド!」

 

 その名を叫んだ瞬間、ジョジョ以外の時が止まる。

 自分だけの世界へと足を踏み入れたジョジョは、己の半身に命ずる。

 

『ジョジョ。絶対に何があっても諦めないでね』

 

 妹を殺した敵を討つ為に。

 取られたモノを取り返す為に。

 

「──っ、やれ! スタープラチナ!」

『オラァ!』

 

 スタープラチナの拳が無防備なビッグマムの頬にぶつかる。

 そして始まるのは高速のラッシュ。

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!』

 

 時を止められていられる時間いっぱいに、ラッシュを叩き込むスタープラチナ。

 しかし何故かジョジョの表情は優れず、時を止める限界が来ると舌打ちをしてスタープラチナを自分の中に戻した。

 

 同時に動き出す時間。

 

「ぐぼぁ……!」

 

 そして一瞬で叩き込まれるスタープラチナのラッシュ。

 瞬間ビッグマムの全身の肉が揺れ動き、窪み、衝撃が走る。

 突然の出来事に、そして何より感じる痛みにビッグマムは目を白黒とさせる。

 

 自分を傷付ける存在など、そう居ない。先ほどの覇気同士のぶつかり合いだって互角でダメージにはならなかった。

 

 しかし今の一撃は、それら全てを無視してビッグマムの体の内側に入ってきた。

 

「妙な力を使うね──だけど!」

 

 痛みはある。ダメージもある。しかし。

 

「オレを殺せる程じゃねぇ!」

 

 ナポレオンによる斬撃が飛ぶ。

 それを避けながらジョジョは内心舌打ちした。何故なら彼女が言っている事は彼が今感じた手応えと全く同じ物だったからだ。

 攻撃は当たる。ダメージも与えられる。だが倒しきれない。そんな歯痒さを感じながら、ジョジョは拳に覇気を纏わせて地を蹴った。

 

「ゼウス!」

「はいママ!」

 

 ゼウスから降りた彼女の片手に雷雲が纏わりつく。そしてそのまま天候を一変させる程の雷が収束し──。

 

 ──雷霆! 

 

 それを突っ込んで来たジョジョに向かって振り下ろした。

 

「っ……!」

「マーマママ! 馬鹿正直に向かって来るからさ!」

 

 雷の放出を継続させながらビッグマムはジョジョを掴み上から抑えつける。

 

「ひよっこがオレに敵うと思ってのぼせ上がり、そして最後は殺される! 見飽きた光景だ──ジョジョ! テメェも結局その一人でしかなかったのさ」

 

 ジョジョが膝をつく。

 

「さらには自分の妹を殺されて──お前は守れねぇよ! あの時……頂上決戦の時の様に!」

 

 ジョジョの居る地面が陥没する。

 

「お前は死なせたのさ! メアリーも! ニューゲートの奴も!」

 

 嘲笑の声を上げながら、ビッグマムはもう片手に持っているナポレオンにて、ジョジョを上下に斬り裂こうと思いっきり薙ぎ払った。

 

「──させねぇよ」

 

 しかしジョジョは、ナポレオンの一撃を冷静に受け止め。

 

「オレはもう──死なせねぇ」

 

 そしてスタープラチナが拳を携えてジョジョの背後に現れ。

 

「だから、邪魔する奴は全部ぶち壊す!」

『オラァ!』

 

 スタープラチナの拳が、ナポレオンの刀身を半ばから殴り折った。

 

「ギャアアアアアア!?」

「ナポレオン!?」

 

 ナポレオンが悲鳴を上げ、ビッグマムが驚きの声を上げる。

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラ──オラァ!』

 

 スタープラチナの高速のラッシュがナポレオンの半身を粉々に殴り砕いた。

 その光景を見たナポレオンは痛みとショックで白目を剥き、帽子へと戻る。

 ビッグマムは舌打ちをし、ゼウスの力を引き上げるが──。

 

「ビッグマム。テメェはそこでいつまでも踏ん反り返ってな」

 

 するとビッグマムの手から抜け出したジョジョは彼女の懐に飛び込み、そしてスタープラチナを自分の中に戻す。

 

「オレは先に行くぞ」

 

 そして拳を固く握り締めて、腕を引き絞り、オーラを纏わせる。

 すると彼の拳に全てのエネルギーが収束する。空間が波打ち、震える程のエネルギーが。

 

(──その構えは!?)

 

 その光景を見たビッグマムは、ジョジョにある男の姿が重なって見えた。

 

 世界を滅ぼす力を持つと言われた男。

 最も海賊王に近い男。

 四皇“白ひげ”エドワード・ニューゲート。

 

「まず──」

「──吹き飛べ、アホんダラァ!!!」

 

 叩き込まれたジョジョの拳は、ビッグマムの体の外と内側両方から揺り動かし、その衝撃は彼女の背後まで及び──島が大きく揺れ動いた。

 

 

 ◆

 

 

「それは本当なのお兄ちゃん?」

「ああ、本当だ」

 

 鏡の世界から抜け出すと同時に放り出されたブリュレは、直ぐに兄カタクリの元へ向かい、ビッグマム──ジョジョが向かった場所に一番近い鏡へと向かっていた。

 その道中、カタクリから聞いた話は到底信じられる物では無かった。

 

「だが俺は見えた。ジョジョがママを倒す未来を」

 

 確定している未来では無いが、可能性のある未来だ。ビッグマムの子どもとしては到底信じられない話だが、実際にジョジョと戦ったカタクリは無い話では無いなと感じていた。

 

「奴はあの頂上決戦で死にかけながらも敵を倒した……いや、そもそも」

 

 ジョン・スターの血統。隠者の息子。驚異的な身体能力と武装色の覇気。時を止める力。そして成長速度。

 ジョジョは格上との戦いを繰り広げる事で強くなっていったが、ここまでの材料があれば当然と言えた。

 

「もしかしたら奴は今日──」

 

 カイドウやビッグマムの領域に足を踏み入れるのかもしれない。

 

 

 ◆

 

 

 猿真似といえども扱う者が化け物ならば、その技は奥義になる。

 ビッグマムの威国と同じ様にジョジョのその拳は一つの技として完成されていた。

 それも、ビッグマムを追い詰める事が出来る程の技として。

 

「オラァ!」

「ガハァ!?」

 

 ビッグマムに拳を叩き込むと同時に地震が起き、彼女は血を吐く。

 グラグラと意識が揺れ、久しく忘れていた痛みに意識が戻る。

 すぐ様自分も相手を殴り飛ばすが、武装色の覇気で防がれて、仕方無く覇王色の覇気を込めてダメージを与える。

 それにより距離が空くが、ジョジョはすぐに駆け出しビッグマムに殴りかかる。

 

「ハァ……ハァ……! 調子に乗るんじゃねぇぞ!」

 

 全力を込めた覇気でジョジョの地震の力が込められた拳を受け止める。

 

「オレは四皇だ! テメェに舐められたらお終いだ!」

 

 そう叫ぶとビッグマムはプロメテウスを掴み、

 

天下の炎(ヘブンリーフォイア)!!」

 

 全てを焼き尽くす炎を叩き付ける。

 

「オラァ!」

 

 しかしジョジョがオーラと覇気を込めて空間を殴り付けると、亀裂が走り、砕け散り、衝撃波がプロメテウスを吹き飛ばした。

 

「ギャアアアアアア!?」

「ちっ……! ゼウス!」

 

 地震の衝撃で全身の炎が掻き出されていくプロメテウスは悲鳴を上げてビッグマムの手から離れた。

 それを見たビッグマムはならばとゼウスの口に手を突っ込み雷の力を増幅させる。

 

「雷て──」

「オラァ!」

 

 しかし今度は叩き込む前にジョジョにゼウスごと殴り飛ばされた。

 

「ガ……!?」

「ギャアアアアア!?」

 

 地震の力がビッグマムの肉体と精神を揺り動かし、ゼウスは全身の雲を剥がされながらプロメテウス同様吹き飛ぶ。

 ビッグマムはズシンと大きな音を立てながら地面に横たわると血を吐きながら内心悪態を吐く。

 

(どうなってやがる……! ナポレオンも、プロメテウスも、ゼウスも効かない! いや、それどころかオレの力が……!)

 

 動揺しているビッグマムを他所に、ジョジョは己の拳を見つめる。

 胸に思い浮かぶのは背中に傷跡の無い男の姿。

 

「……今、この技の名前が決まった」

 

 その男に感謝の思いを抱きながらジョジョは呟く。

 

白色の波紋疾走(ホワイト・オーバードライブ)

 

 父の如き深く、広い色。そして、敵を打ち払う姿はあらゆる色を消す白。

 それが今この瞬間ジョジョが手に入れた力。

 

「──ビッグマム」

 

 ジョジョはその拳を握り締めながら彼女に言った。

 

「メアリーの魂を返せ──そうすれば今回は許してやる」

「──」

 

 ジョジョは不遜にもビッグマム相手に上から目線で話しかけた。

 四皇相手に、世界を統べる海の皇帝に。

 その言葉は、その態度は、ビッグマムを怒らせるのに十分だった。

 

「ハーハハハ……マーマママ!」

 

 ビッグマムは一度笑うと──覇王色の覇気を全開にしながら激しい怒気を撒き散らしながら叫んだ。

 

「オレを怒らせるのは、父親譲りみてぇだなジョジョ!」

 

 彼女の手に一つの魂が現れる。

 ジョジョはその魂が誰の物なのかを直ぐに気付く。

 メアリーだ。

 素直に返してくれる、とは考えていない。

 実際ジョジョの予想は当たっており、ビッグマムはニヤリと笑みを浮かべると見せつける様にしてその魂を自分の胸に叩き込んだ。

 

「アイツにはオレの心臓を傷付けられたからねぇ。直ぐに治るかと思ったが、テメェ相手だとその時間も惜しい」

 

 ビッグマムの能力はソルソルの実。相手から魂を引き抜き、物にその魂を注ぎ込み生命を与える事ができる。

 そして彼女は自分の骨を物として見立てて他者の魂を注ぎ込むことで、骨折していようとも継続して戦う術を持っている。

 つまり彼女が今回したのは──メアリーの魂を使って自分の傷付いた心臓に生命を宿しホーミーズ化させたという訳だ。

 それが意味する事は──。

 

「さぁ! 取り返せるものなら取り返してみな!」

「野郎……!」

 

 ジョジョに対する完全な嫌がらせ。

 その行為に怒りを燃やすジョジョだが、ビッグマムもまたキレていた。目の前の男を殺したい程に。

 

「ナポレオン! プロメテウス! ゼウス!」

 

 彼女は自分の寿命を使って三体の傷付いた体を修復、強化を行う。

 ナポレオンの刀身にプロメテウスの炎が纏わり付き、ゼウスはビッグマムを乗せて移動手段となる。

 

「さらに5年分のオレの寿命を使ってやる──お前はそうでもしないと殺せないからな!」

 

 ビッグマムが能力を使って自分の寿命で肉体を強化する。

 目が妖しく光り、肉体は巨大化し、覇気も膨れ上がっていく。

 さらにナポレオン達の存在感も上がっていき──彼女の本気が窺える。

 

「星屑のジョジョ。テメェをもう下とは見ねぇ──死ぬまでやり合うぞ!」

「──上等だ」

 

 ビッグマムの破壊の一撃とジョジョの一撃が再び激突し──最終決戦が幕を上げた。

 


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