オレが愛した女は過剰スパルタアネゴレオン   作:ホスパッチ

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第11章~白夜の魔眼討伐編~
71話「大喧嘩」


 王撰騎士団(ロイヤルナイツ)選抜試験が終了したことで、魔法帝ユリウスから団長に選ばれたメレオレオナは試験中の戦闘を鑑みて魔法騎士達を選別を任されていた。

 帰路に着く中、リストに目を通すメレオレオナだが優勝したキリヤの成長に驚くばかりだった。

 たった十秒とはいえ、契約している全ての精霊との一体化。すでに単純な力だけで言えばメレオレオナを超えているだろう。

 

 喜ぶべきなのは分かっているが、同時に考えなければならないことがあった。

 報告によれば、キリヤは魔女の森で魔女王から解呪魔法を受け、自らにかけられていたエルフの魔力を封じていた枷を外され、スペード王国が誇る〈七剣総統〉の中でも最強クラスの《二槍》を打ち倒した。

 弟子の成長を喜ばない師匠はいない。だが身体的にもエルフの特徴が出て、記憶は戻っていないらしいがそれ以上の問題がある。

 

 選抜試験だけで考えれば、優勝に大きく貢献したキリヤは合格以外ない。

 ただ、まだキリヤは気付いていないだろうが王撰騎士団(ロイヤルナイツ)に選ばれることが、どのような意味となるか。メレオレオナはすでに気付いている。

 魔法騎士として、国を守る者として考えるならばすでにキリヤも覚悟の上だろう。

 ただ――そこまで考えた時、メレオレオナに刺さる視線に気付き、目を向ける。

 

「……来るかこちらから出向くか考えていたところだ――出て来い」

 

『あなたがメレオレオナ・ヴァーミリオン……でしょうか?』

 

 見上げれば空中から一羽の風神鳥が地に足をつける。

 選抜試験中にもキリヤの傍にいたシムルグと言ったか。問いに対しメレオレオナも首肯する。

 

「ああ。どうやら私とあの莫迦が出会ったのは、貴様の道筋があったということか」

 

『ただの偶然もありますが……まずは礼を言わせて下さい。あの子が己が境遇に悲観せず真っ直ぐ強く生きているのは、間違いなくあなたの薫陶があったからです』

 

「礼など要らん。だが貴様が知っているキリヤのことについては全て話せ」

 

『……分かりました。私が知る限りの全てを話しましょう。そして〈白夜の魔眼〉がこれから何をしようとしているのかも』

 

 メレオレオナの言葉を受け、シムルグも頷き、そして話し出す――

 

 ◎

 

 王撰騎士団(ロイヤルナイツ)選抜試験から数日後、キリヤは〈碧の野薔薇〉拠点にいた。

 だがその表情はどこかぼーっとしていて、シィナも怪訝に思っていると傍にいたトゥルーがその頬を両手で軽く引っ張る。

 

「おーいボクチャンどったの? せっかく王撰騎士団(ロイヤルナイツ)選抜試験で優勝したんだし」

 

「んー……別に何でもないぞ」

 

 いつも元気で楽しそうな様子から一変してテンションが低く、こんな時は大抵悩み事がある時だ。

 前の誕生日の一件もそうだったこともあり、シィナもされるがままのキリヤの顔を覗く。

 

「また何か悩み事ですか?」

 

「悩み事……うーん、まあそうだけど今回はオレ自身が解決することだから大丈夫さ」

 

「ですが――」

 

『邪魔するぞォオ――ッ!!』

 

 シィナが追及しようとした途端、拠点の扉の方から響く大声。

 その女性の声には酷く聞き覚えがあり、キリヤも反応して扉を見れば扉が弾き飛ばされる。

 そこに立っていたのはメレオレオナでキリヤは今までぼーっとしていたのが嘘のように飛び上がる。

 

「レオナ様! もしかしてオレに会いに来たんですか!?」

 

「そんなわけないだろう莫迦者が。私がここに来たのは別件だ。シィナ、プーリ、来い」

 

「え、私ですか?」

 

 いきなり呼ばれたシィナは驚き、見ていたプーリも驚く。

 状況が分からないようで疑問符が浮かぶようだがメレオレオナは構わず続ける。

 

「貴様らは王撰騎士団(ロイヤルナイツ)選抜試験合格者だ」

 

「っ! オレは! オレのこと呼び忘れてませんか!」

 

「呼び忘れてなどいない。〈碧の野薔薇〉からは二名だ」

 

「え……」

 

 その言葉にキリヤは呆気に取られてしまう。

 だがすぐに首を振るって拳を握り、

 

「何でスか! オレ優勝したんですよ!! 選ばれない方がおかしいっスよ!」

 

「驕るな莫迦者がァアアア――ッ!!」

 

「ぐえっ!?」

 

 駆け寄れば容赦のない拳骨がキリヤの顔面に直撃し、それでも今だけは退かない。

 すぐにでも起き上がれば、メレオレオナの目を真っ直ぐ見つめる。

 

「レオナ様と離れてからオレ超強くなりましたよ!」

 

「ならば貴様は敵を殺せるのか?」

 

「それは……」

 

「今迷っただろう。それが今回貴様を不合格にした理由だ」

 

「でも、殺さずに倒すことだって出来ますし!」

 

「それが甘さだと分からんのかァアア――ッ!!」

 

 いつにも増して鬼気迫るメレオレオナの怒号は最早拠点内の窓ガラスを砕き割るほど。

 炎の魔力は昂ぶり、メレオレオナの双眸はキリヤを捉える。

 

「貴様は何かと甘い。時に敵にさえ手を差し伸べてしまうほどに」

 

 メレオレオナが目線を配った先にいたのは、柱に隠れるようにして立っていたフィオレナ。

 どうにも隠し事は出来ないらしくフィオレナが元〈七剣総統〉だということは知っているらしい。

 だが――

 

「でも強くなればなるほど誰かに優しくなれるって、オレは信じてます。あの時だって出会ったばっかだったオレにレオナ様は弟子にしてくれて、手を差し伸べてくれたじゃないですか」

 

「その考えのせいで現に貴様はすでに〈白夜の魔眼〉にいたあの魔弾の使い手を”敵”として見れなくなっている。もし魔弾の使い手と再び戦うことになったらどうする? 貴様は万全を期して戦えるのか?」

 

 サイルはキリヤとは戦わないと言った。

 しかしそれはあくまで口で言っただけに過ぎない。これから先絶対ないとは言い切れないのも事実。

 もしその時が来たとして、襲撃の際やヤミと共に向かった時のように戦えるのか。

 戦える、そう言いたいがキリヤの心は戦いたくないと思ってしまっている。

 それを見抜いてか、言葉を返さず俯くキリヤにメレオレオナは腕を組む。

 

「馴れ合いは優しさでも何でもない。重要な判断を迫られた時に今のように迷えばどうなるか。今回の作戦では団体行動を基本とする。迷えばそれだけで周りを巻き込み、下手をすれば誰かが死ぬ。そんな覚悟のない者が来て良い場所ではない」

 

「でも、オレが一緒にいなくてレオナ様に何かあったら――」

 

「見くびるなァアアアアアア――ッ!! 貴様程度に守って貰わずとも自分の身ぐらい自分でどうにかする! 私をみくびるのも大概にしろォオオオオオ――ッ!!」

 

「見くびってなんてないですよ!! レオナ様こそオレのこと下に見過ぎなんですよ!!」

 

「だったら力で示せ! この場で私に勝つことが出来たら連れて行ってやる!!」

 

「やってやりますよ!!」

 

 売り言葉に買い言葉。

 思い返せば何かあれば言葉よりも先で、実力主義なメレオレオナとは何度も戦ってきた。

 もう修行していた頃とは違う。キリヤは〈碧の野薔薇〉のローブと自らの魔導書をフィオレナへ投げ、フィオレナも慌てて受け止める。

 

「せ、先輩っ!?」

 

「これは勝手な喧嘩だからそのローブは羽織らないし精霊(なかま)の力も要らない。オレ一人で戦る!!」

 

「私相手にイイ度胸だ糞莫迦弟子。いつでもかかって来いッ!!」

 

 キリヤに次いでメレオレオナも魔導書を投げ捨てる。向こうも魔法はなしで戦うつもりらしい。

 互いに拳の届く距離まで近付き、双眸に闘志が滾る。

 一触即発の雰囲気。だが、周りの団員はあまりの魔力のぶつかり合いに一歩引き、拠点の壁にヒビが入る。

 直後、互いの頬を捉える拳。同時に吹き飛ばされたキリヤとメレオレオナはそれぞれ壁に叩き込まれる。

 

「だらァア!!」

 

 ”エルフ覚醒”で膨れ上がった魔力は瓦礫を吹き飛ばし、キリヤが飛び出せばメレオレオナも腕に凝縮した魔力を纏って飛び出す。

 そこからはもう武術や魔法など関係なく、ただ魔力を纏った拳骨の殴り合い。

 相手が女だとか、年上だとか、そんなものは関係ない。

 昔から、気に食わないことがあったら拳をぶつけて解決してきた。だから今回も――いや、今回だけは。

 

「絶対譲らねぇ!!」

 

「何と言おうが絶対に連れて行かん!!」

 

 メレオレオナの拳がキリヤの拳よりも先に放たれる。

 だが、ここでキリヤは退かない。むしろ前に出る。

 ――クロスカウンター。

 遠距離攻撃を基本とする魔法騎士に対しては無力だが、《四拳》ステイクとの戦いから密かに練習していた。

 

 メレオレオナの拳に合わせ、キリヤも拳を放ち、二つの拳が交錯する。散々受けてきた拳だ。

 今更どの軌道で来るかなど予想することもない。自然に身体が軌道を読み、躱そうとしていた。

 そしてキリヤの拳は確実にメレオレオナを――

 

「……来るなキリヤ」

 

 いつもの怒声とは違った。

 今まで聞いたことのない懇願する声で、そのせいでキリヤの反応は少し遅れてしまった。

 メレオレオナの拳は吸い込まれるようにキリヤの顔面を打ち、キリヤの身体は床に何度も跳ねながら壁に叩きつけられる。

 

(何でそんな顔するんですか、レオナ様……)

 

 意識が混濁し黒に染まっていく中、一瞬見えたメレオレオナの表情が嫌なほど脳に刻まれ、キリヤの意識は途切れていく――

 

 ◎

 

「……シィナ、プーリ、行くぞ」

 

 殴り飛ばしたキリヤは気絶したようで飛んだ先の壁から起き上がることはない。

 倒れたキリヤには精霊達が寄り添い、中でもシムルグはキリヤとメレオレオナを交互に見て複雑な表情を浮かべる。

 それに対しメレオレオナは何も返さず、キリヤを殴った拳を一瞬見てから踵を返す。

 

「何デ……何でこんな酷いことをするんダ……っ!」

 

「…………」

 

 声を受け、振り向けば、そこにいたのはサキムニだった。

 ”人間化(ヒトカ)”によって二メートルを超える女性となったサキムニは、近付くなりメレオレオナの胸倉を掴み上げる。

 

「ご主人は今までずっと……あなたと一緒に、肩を並べて戦えるように……そしていつか超えるために努力してきたんダ。だからあなたが……ご主人を拒絶するなヨ。ご主人を否定するなヨ……っ!」

 

『サキムー……』

 

「……殴って気が済むなら殴れ。だがキリヤは連れて行けない」

 

「こンの分からず屋ッ!!」

 

 魔力が込められたサキムニの平手がメレオレオナの頬を打つ。

 今度はメレオレオナが殴り飛ばされる番で〈碧の野薔薇〉拠点の壁を貫き吹っ飛び、その先で足を踏ん張って留まる。

 

「まともに殴られるのもそうだが、平手打ちなど人生でされたことがなかったな……」

 

 いつもの彼女らしくないしおらしさで呟き、サキムニに言われた言葉を思い返す。

 

「分からず屋か……」

 

 分かっていながらも、時に嘘を吐かなければならないこともある。

 例えそれがキリヤを傷つけることになったとしても、今回の戦いに行かなければそれで良い。

 シムルグが言っていたことが本当ならば間違いなく連れて行くべきではないことは確かだ。

 

「他者をこれほど考えるとは私も随分焼きが回ったものだ」

 

 乾いた笑いしか出ず、慌てて出てきたシィナとプーリを見れば、メレオレオナは再び踵を返した――

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