ザオリクよりもベホマが欲しい   作:マゲルヌ

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最終話 師より優れた弟子など存在しねえ

 この世には、人々が生きる現実世界とは別に“夢の世界”と呼ばれる特別な場所がある。

 現世で眠っている間、人の精神は肉体を離れ、夢の世界にて別の人生を歩む。それは過去の記憶であったり、本人の願望であったりと内容は様々だが、彼らは幸福な夢の中で疲れた心を休め、明日を生きるための力を蓄えるのだ。謂わば夢の世界とは、厳しい現実に立ち向かう人々を支える、心の拠り所であった。

 

 

 

 ――その夢の世界がまさに今、存亡の危機に立たされていた。

 

 夢を束ね、人の心に安寧をもたらす夢世界の守護者・ゼニス王。彼が居城とし地上を見守っていた天空城は、今や敵の手に落ち魔性の城と化していた。

 それを成した簒奪者の名は――魔王デュラン。

 大魔王デスタムーア直属の大幹部であり、四大魔王の一角を担う強大な悪魔族の闘士だ。彼は配下を率いて天空城を強襲すると、ゼニス王以下主だった者たちを幽閉。自らを天空城の新たな主と名乗り、そのまま夢世界の支配に乗り出した。

 

 夢は人々の心に安らぎをもたらす拠り所であるが、それだけにとても繊細な場所だ。

 魂が剥き出しのまま無防備に置かれているため、悪意ある者の干渉を受けてしまえば常人に抗う術はなく、仮に夢世界で死ぬようなことがあれば、その影響は現実にも死という形で表れる。ゆえにゼニス王は、人間が悪夢などに囚われることのないよう、細心の注意を払い世界を見守ってきたのだ。

 

 そんな重要極まる世界の支配権が今、悪辣なる魔族の手に落ちようとしていた……。

 まさに由々しき事態であった。

 

 

 

 

 

「みんな、覚悟は良いかい? おそらく彼はこれまでで最強の相手だ。戦って無事に済む保証はないよ?」

「フッ……。今さらそんなことで怖気づくとでも?」

「むしろさっさと戦いたくてウズウズしてるくらいよ!」

「おう! さっさと魔王の奴にガツンとかましてやろうぜ!」

 

 だがここに、その危機に抗わんとする者たちがいた。城の最奥、玉座の間にて佇むは七人の戦士たち。いずれの顔ぶれも年若く、最年長でもおそらく二十歳には届かない、一見頼りなくも見える集団だ。

 だがその顔つきに、ルーキー特有の甘さや浮つきなど微塵も存在しない。いつ何時誰が来ようとも、全てを屠ってやらんとする、まさしく歴戦の強者の風格があった。

 

 そう……、彼らこそが、人類に残された最後の希望。

 襲い来る魔獣・魔族を数多撃退し、いくつもの町や村を守り抜き、ついには鳥獣王ジャミラス・海魔王グラコスを打倒した、最強と謳われる冒険者パーティ。

 

 ――世に名高き、“勇者一行”であった。

 

 “賢者チャモロ”

 “大魔導士バーバラ”

 “神の踊り手ミレーユ”

 “バトルマスターテリー”

 “魔物使いアマンダ”

 “格闘王ハッサン”

 “伝説の勇者レック”

 

 いずれ劣らぬ人界最高の戦士たちは、力と戦意を漲らせ、眼前の魔王を睨み据えていた。

 

「ククク、ようこそ勇者一行。ヘルクラウド城主デュランが、諸君の来訪を心から歓迎しよう」

 

 その勇者たちの殺気を正面から受けながら、魔王の余裕は小ゆるぎもしない。彼は玉座に深く腰かけたまま、まるで友人との出会いを楽しむように小さく笑う。深く被ったローブから僅かに除く口元には、欠片の緊張も浮かんではいなかった。

 

「けっ、余裕かましやがって。それが命取りになっても知らねえぞ?」

「落ち着きなさいよ、ハッサン。油断してくれているならむしろ好都合ってモンよ」

「そうだな、本気も出させないまま完封してやろう」

「フフフ、怖い怖い。正義の勇者がそんな物騒なことで良いのかね?」

 

 侮るような態度に血の気の多い者たちがいきり立つが、デュランはそれすらも柳のように受け流していく。お前たちごときの威圧など、そよ風ほどにも感じないと言わんばかりに。

 

 ……それも当然であろう。いかに彼らが強者とはいえ、それはあくまで人間界レベルでの話。血で血を洗う魔界の闘争を勝ち抜き、実力で魔王の地位を奪い取った彼にとって、人間の勇者など文字通り井の中の蛙に過ぎないのだ。

 

「……とはいえ。いくら蛙でも、こうもしつこく纏わりつかれては鬱陶しくなろうというものよ。……この辺りでそろそろ――

 

 

 

 

 

 ――仕置きの一つも必要か?

 

 

 

 

 ズ…………ンッ!!

 

「ッ!?」

「ぐ……ゥ!」

 

 デュランが僅かに意識を向けた瞬間、空間が歪むほどの圧が一行に降り注いだ。魔導士たちは耐えきれずその場で膝を着き、前衛の戦士たちですら大きく態勢を崩しよろめく。

 ……特に怒気などを発したわけでもない。ただほんの少し意識を向けられただけで、最強と呼ばれる戦士たちが容易く圧倒されていたのだ。

 そのあまりの実力差に、年少者たちの心は折れそうになる。

 

 ――ああそうだ……。目の前にいるのは魔界随一の闘士。

 死に物狂いで倒したあのジャミラス、グラコスをも上回る、四大魔王最強の男なのだ。

 ただの人間に過ぎない自分たちが、こんな化け物に抗うことなど――

 

 

 

「――みんな! 気を強く持つんだッ!!」

「「「ッ!」」」

 

 力ある声が響き、絶望に沈みかけた仲間たちを鼓舞する。無論のこと、それを発したのは彼。世界の希望を一身に背負う、精霊に導かれし勇ましき者。

勇者レックは圧し掛かる圧を気合いで跳ね除けると、背中に負う伝説の剣を抜き放った。

 

「舐めるなよ、魔王……。その程度の威圧で、我々が怖気づくと思ったか!」

「ほう……?」

 

 その瞳に恐怖の色は微塵もなく、レックはただ真っ直ぐに相手だけを見ていた。

 彼の心を奮い立たせているのは、五年前のあの苦い記憶……。

 ――あのとき自分は、ほとんど何もできなかった。圧倒的な力を見せつけられ、初めて感じる恐怖に震え、大人たちにただ守ってもらうばかりだった。

 そして最後は、知らぬ間に大切なものを失ってしまう結果に……。

 

(でも……、今は違う!)

 

 後悔も屈辱も振り払い、レックはただ前を向く。

 自分はもう、無力な子どもではない。時を経て力を付け、仲間と出会い、四大魔王すら倒し……、そしてついに、目指していた場所まで辿り着いた。

 今こそ遠い日に胸に抱いた、あの誓いを果たすとき!

 

「さあ、立つんだ、皆! こんなところで蹲っていたら、大魔王討伐なんて夢のまた夢だぞ!」

 

 その勇気ある姿を見て、仲間たちも次々と武器を構える。

 

「フッ、そうだな。ここでビビッてちゃあいつに笑われちまうか」

「同感! きっと指差して煽ってくるわねッ」

「自分だって、神父様の説教を散々怖がってたくせにな!」

 

 もはやこの場に、恐怖に震える人間など残っていなかった。

 

「さあ刮目しろ、魔王デュラン! 弱者の足掻きを……、人間たちの力と想いを、その身にしかと刻み込めッ!!」

 

 レックが先陣を切り、仲間たちが臆さず後に続いていく。

 今ここに、勇者と魔王の死闘が始まったのだ。

 

 

「くははははッ、いいぞ面白い! 選ばれし勇者の力とやら、この私に見せてみるがいいッ!」

 

 

 その勇壮なる姿を正面から迎え撃ちながら、最強の魔王デュラン(?)は悠然と笑みを浮かべ、

 

 そして――

 

 

 

 

 

 

 

「「「「なんで魔王になってんだお前はああああーーーーッ!!」」」」

「ぐっはあああああッ!?」

 

 予想外に強くなっていた弟子たちに不覚を取り、正面から殴り倒されたのだった。

 そしてそのまま周囲を取り囲まれると――

 

「えいやッ! どうだ、レック!?」

「あ、あああッ! やっぱりッ!!」

「……え? って、あぁッ!? しまった! フードが取られ――ッ」

「やっぱり先生だッ! ほらこの魔族顔、間違いない! やっぱりサンタさんだったよッ、テリー、ハッサン、アマンダ!!」

「よし中身確定ッ! 確保、確保、確保おおおおッ!!」

「ぬわあああ!? な、何をするかああッ!?」

「あ、コラッ、大人しくしろ、暴れんなバカ師匠!」

「ああもうハッサン! 正拳突きもう一発いっときなさい!」

「いや、それよりも霜降り肉だ! 食い物さえ与えとけばこいつは大人しくなる!」

「了解! 食らえッ!!」

「フガッ!? モガガガフゴーーーッ!?」

 

 

 ――哀れなり。

 卑劣なる数の暴力に屈し、魔王はロープでグルグル巻きに捕縛されてしまった。

 歴史に刻まれるはずの勇者と魔王の決戦は、こうして史上最速の早さで終了したのであった……。

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

「……な、何なんでしょうね、アレ?」

「さ、さあ……? 四人と知り合い……、だったのかなぁ?」

「多分、昔いろいろとあったのよ。……そっとしておきましょう?」

 

 いつの間にか蚊帳の外に置かれた三人は、とりあえずキリの良いところまでそっと見守ることにした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい、皆さんこんにちは。

 世直しの旅に出ていたはずが、いつの間にか魔王になっていたデュラン二世、もとい、サンタです。

 

 ……え? なんでそんな面白いことになってるのかって?

 いや、全然面白くねえよ……。過去の反逆がいつバレるか戦々恐々の日々だったよ……。

 

 それもこれも全部、あのルビスって野郎のせいなんだ。

 あんにゃろうめ……、活動場所の選定を全て任せていたら、ある日突然『夢の世界へ行きましょう!』とか言い出しやがって。

 これまでの世直しの旅、あいつの指示でうまく行っていたから、あのときも大丈夫だと思ったんだ……。『長い付き合いなんだし今更疑うこともないだろう』って、深く考えもせず乗り込んじゃったんだ……。

 

 

 

 ――まさかそこが人間界の最重要施設で、しかも魔王によって絶賛占領中とか思わないだろッ!?

 

 おかげでこっちは魔王軍と全面対決だぞ!

 武闘派集団・デュラン軍と正面衝突だぞ!

 必死の思いで数万匹の軍勢を殴り倒したと思ったら、そのまま最強の魔王デュラン様と一騎打ちだぞ! 冗談抜きで死ぬかと思ったわ!

 

 そして、極めつけはその最後……。

 ムドー戦の経験で大きく力を増していた私は、ボロボロになりながらもなんとかその死闘を制することに成功する。

 最後の一撃が決まってデュラン様が倒れたときは、人目も憚らず喜んだ。『よっしゃ生き残った! これで帰れる!』と、思わずガッツポーズまで飛び出したほどだ。

 

 だがそこで、最期にデュラン様がやらかしてくれやがった! なんとあの人、部下たちも見ている前で、

 

 ――『見事な戦いぶり。お前が次の魔王だ!』

 

 などと余計な宣言をしてくれたのだ。おかげで私はなし崩し的に“デュラン二世”を襲名することになってしまい、今じゃゼニス城――現ヘルクラウド城――の主として、お空の上をプカプカする毎日だ。ちくしょう、まったくありがたくない……ッ。

 

 ……え? だったら断われば良かったじゃん、って?

 バカヤロウ、こっちは魔王との死闘で瀕死だったんだぞ! あそこでもし断ってたらどうなるッ? 無傷の“キラーマジンガ大隊”とそのまま延長戦に突入だ! 確実に死ぬわ! そりゃ受けるしかないだろうッ!

 

 ……そして、そこからはもう、ひたすら胃の痛みと戦う日々よ。

 部下たちに舐められないよう威厳を保ちつつ、人間に危害を加えないよう手綱を握り、いつ本国に正体がバレるかと胃をキリキリさせる二代目魔王生活。

 はざまの世界からの通信では、『どうか昔の知り合いが出ませんように!』と、毎回ゴリゴリ神経を磨り減らして……。出世して逆に幸福度が下がってるとかどういうことなの……?

 

 

 そんな中で数少ない朗報と言えば、デュラン様の気質を継いでいるおかげで部下たちが無益な殺生をしないこと。それと、仕事自体は全部丸投げして楽ができている、ということか……。

 

 ……実を言うと、幽閉されていたゼニス王さんたちの身柄はすでに解放している。夢の世界の管理なんて私にはできんので、大魔王様に気付かれないよう彼らと協力を結び、夢関連の業務をまるっと全部委託しているのだ。

 最初はすごく怪訝な目で見られたが、今ではまあ、それなりに隣人として仲良くやれていると思う。まだ偶に怯えられることもあるが、魔族と神族の関係を考えればこれでも破格の扱いと言えるだろう。

 

 部下たちも特に神族を迫害することもないし、組織の運営に関してはむしろこれまで所属した中で一番まともだ。

 ゆえに、当初の予定とは若干違うけれど、

 

――『これなら胃の痛みさえ我慢すれば、“平穏な暮らし”も達成できるかも……?』

 

 と、最近はそんな風に、淡い希望を抱いていたところだったのだ。

 

 

 

 なのに、

 

 

 それなのに――

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「まさか……ずっと会いに来てくれなかった理由が……本当に――」

「『劇的に別れてすぐに再会したら気まずい』――なんてアホな理由だったとはな……」

 

 こうして弟子たちにボコボコにされて捕まることになろうとは、全くもって予想外。その上尋問まで受けて、魔王になってからの経緯を全て説明させられてしまうし……。

 ああ……、テリーの“残念なものを見る目”が心に刺さる。

 底抜けに人が好いレックですら、何とも言えない表情をしているし……。

 

「先生……、せめて無事くらいは知らせて欲しかったです。トムやフランコだって、ずいぶん気に病んでいたんですよ?」

「う……」

 

 それは、確かに申し訳なかったが……。

 ……い、いやでも、仕方ないではないか。あんなにカッコつけて一人残っておいて、後日すぐに『あ、やっぱり生きてました~、えへへ』とか、絶対居た堪れない空気になるぞ……。

 ゆえに私としては、何か劇的なイベントが起きるまで待って、そこから自然に再会・合流する予定だったのだ……。それがまさか、先に弟子たちに討伐されて尋問を受けることになろうとは、まこと人生とは予想外の連続である。

 

「ほへー、師匠本当に魔族だったんだなー。目は赤いし、肌も緑だし。あ、角も生えてるんだな(ツンツン)」

「これは確かに顔を隠すのも納得よね……。ていうか、よくこの見た目で『人間の街で暮らそう』とか思ったわね。やっぱり頭がおかしいのかしら?(ツンツン)」

「ええい、顔を突っつくんじゃない、この悪ガキども!」

 

 左右から纏わりつくサンマリーノ組を強引に引きはがす。

 真面目に話を聞くレックたちと対照的に、ひたすら私の身体を撫でくり回すハッサンとアマンダ。五年ぶりの再会でも相変わらず失礼な奴らである。

 

「――というかそろそろこっちの疑問にも答えんかッ。なんでお前たちは全員知り合いになっているのだ! しかも私の正体や内情まで知っている風だったし、一体どこから聞きつけた!?」

 

 魔族側にも人間側にも、私の正体は漏れないように気を付けていたのに、一体なぜ?

 ま、まさか部下の中に内通者でもいるのかッ!? ならば今すぐ内部調査を――

 

「あ、普通にルビス様からのお告げですね。『あなたの恩人、魔王としてのんびり生きてますよ~』って夢の中で知らされて……。僕らに会いたくない理由もそのとき教えてもらいました」

「あ、俺(私)たちも同じ」

「ルゥビスぅうううううッッ!!!!」

 

 あいつ何やってくれてんの!?

 魔界側にバレたら一巻の終わりだから秘密にしてって言ったじゃん!

 人間側にバレても面倒になるから言わないでって言ったじゃん!

 なのになんで神託まで使って情報開示してるのッ!?

 

「あと他にも、これまでの人助けの話とかも聞かせてくれましたよ? 二人を熱心に鍛えてあげた話とか、テリーを優しく助けてあげたこととか……。ふふ、やっぱり子ども好きだったんですね、先生!」

「俺たちは“王子を助けた優しい魔族の話”だな。いやー感動したぞ、師匠w」

「ぐああああッ!?」

 

 しかもなんか、微妙に恥ずかしいエピソードまで添えられてるしッ!?

 いや駄目だろ!? “そこ”は特にコイツらに教えちゃダメなとこだろッ!? 師匠の見栄のために命かけてまで頑張ったのに、それを本人たちに話しちゃ何の意味もないだろッ!?

 な、何なんだ、あのゴリラ女神め! 私に何か恨みでもあるのかッ!?

 

「師匠~、レックを助けるために上司に反逆したんだって? 優しい~」

「相手はかなり強い奴で、命がけの戦いだったらしいわね? カ~ッコいい~」

「しかも最終的に背中を押した理由が、“俺たちにがっかりされたくなかったから”なんだって? Foo~、いじらしい~」

「ぐあああやめろぉ! そ、そんな生暖かい目で見るんじゃないいいッ!」

 

 ニヤつく弟子どもの視線から逃れるため、ローブを被って地面に丸まる。しかし当然そんなことで追撃の手は収まらない。

 周りを輪になって跳ね回る、ハッサン&アマンダ&テリー。

 ……もう完全に師匠の面目丸潰れであった。

 

 チクショウッ……、ゆるゆるな空気にも程がある。せっかく威厳ある魔王ムーブで華麗にキメようと思っていたのに、気が付けばまたいつものコメディ展開だ。どうして私ってやつはいつもこうなってしまうのか……!

 

 

 

 

「ふうぅぅ……。ま、弟子をずっと放置してたお仕置きは、このくらいにしといてやるか」

「そうね。こんだけ言っとけば、もう無断で行方をくらませたりしないでしょ。……次またやったら、激しい炎をお見舞いしてやるけど」

「お前ら容赦ねえな。世話になったんだから、ちょっとは加減してやれよ」

「なに言ってんのよ、テリー。一番ノリノリで煽ってたのはアンタじゃないの」

「そうそう、無表情で一番怒ってたよな」

「……いや、そりゃまあ? 俺も多少はイラっとしてたし? 『レックに会わないから平等に俺たちとも会わない』ってなんだよ……。気遣いの方向がおかしいだろ、そこはちゃんと会いに来いよ……」

「あれれー? なになに、拗ねてんの? かーわいいー」

「ハハッ、最初はドライな奴だと思ってたけど、意外と繊細だよなお前」

「うっせえ! そんなんじゃねえっての!」

 

 ――ワイワイ!

 ――ガヤガヤ!

 ――ギャンギャン!

 

 

 

「くぅッ……、師匠の悪口をダシに盛り上がりおって……」

 

 ギャイギャイと騒ぐ弟子どもを見ながら、愚痴混じりの溜め息が漏れる。

 ……しかしまあ、それでも負の感情が欠片も湧いてこない辺り、私もずいぶんと丸くなったものである。

 あいつらが無事に成長して、目標を達成して、そして、仲間たちと楽しそうに笑い合っている姿を見ていると、怒りより遥かに大きな喜びが沸き上がってくる。それと引き替えと思えば、木っ端魔族の羞恥心や面目など安いものだ。

 

 ならば今、この場で私が言うべきはたった一つであろう……。

 

 

 

「――テリー」

「あん?」

「――ハッサン」

「おう?」

「――アマンダ」

「何よ?」

「――レック」

「はい」

 

 

 

 

 

「みんな、立派に成長したな……。また元気な姿が見られて、嬉しいぞ」

 

 

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 

「――うん」

「――おうっ」

「――ええ」

「――はい!」

 

 

 ……とりあえずこんな感じで、師匠と弟子の感動の再会は、のんびりグダグダと果たされたのであった。

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

 

 さて、その後の話だが……。これ以降も私は、レックに誘われて狭間の世界へ乗り込んだり、大魔王様と戦ったり、破壊と殺戮の神に喧嘩を売ったりと、割と過酷な冒険に巻き込まれるのだが……、まあ、今ここで語るのはやめておこう。

 

 それはあくまで、レックたちを主役としたまた別の物語。

 私自身のささやかな冒険譚は、ここらで一旦締め括りとしておきたい。

 

 そう……、思えばここまでいろいろなことがあった。

 回復魔法を求めて故郷を飛び出し、ヤクザ組織を叩き潰し、何の間違いか弟子を取り、命がけで魔王に反逆し、そして最後は自分自身が魔王になってしまうという、波乱万丈過ぎる放浪生活。

“平穏な生活”という当初の目標は全く果たされることなく、むしろ故郷より多くの危険に晒され続けるという笑えない話……。自身の不幸を嘆きながら、何度枕を濡らしたことだろう……。

 

 ――だがしかし、それでも心に後悔が過ることはなかった。

 何度も命の危機に見舞われて、今も絶えず粛清の恐怖に怯えているのに、それでも過去の選択をやり直そうとは思わない。

 その理由は多分……、いやきっと……、今目の前に広がっている、この優しい光景なのだろう。

 

 

「さあ、先生。早くゼニス王のところへ行きましょう!」

「確か師匠の協力者なんだっけ? フフフ、だったらいろいろと便宜を図ってもらえそうね? 支度金とか貰えたりして……」

「俺はとりあえず、旨い飯と豪華な部屋さえあれば充分だぜ、師匠!」

「お前らちょっとは遠慮せんか……」

 

 

 求めたものはまだ手に入れられていないし、この先も達成できるかどうかは分からない……。

 しかし、たとえ叶わなかったとしても、そのときもきっと、私が己の選択を後悔することはないのだろう。

 

 なぜなら私は、すでにもっと大切なものを――

 

 

 

 

 ――ザオリクよりも、ベホマよりも……、ずっと尊いものをこの手に掴んでいるのだから。

 

 

 

 

 

「――なーんてな? ちょっと渋くキメ過ぎてしまったかな、フハハハハッ――「なあなあ、サンタ」

「ぅん? どうしたのだ、テリーよ?」

 

 素晴らしい締め括りに自画自賛していると、隣を歩くテリーが服を引っ張っていることに気付く。どうやら何か、聞きたいことがある様子。

 

「いや、大したことじゃないんだけど、ちょっと気になっててさ……。ほら、別れるときに言ってただろ。お前の旅の“目標?”だったっけ……? そいつはもう達成できたのか?」

「ん? ああ、そうか。その話はしたことがなかったな」

 

 フフフ、私の事情も気にしてくれるとは、相変わらずぶっきらぼうに見えて優しい奴よ。

 よし……、ならば全員揃っていることだし、ここらで私の成果も披露してやるか。弟子たちの活躍話は嬉しいものだが、さすがにそればかりでは師匠として格好が付かんからな。

 ――では者ども、傾注して聞くがいいッ!

 

「ふははは、教えてやろう、我が壮大なる野望を! ――それはズバリッ、回復魔法を極めること! そのために私はこの五年間ひたすら研鑽に努め、大きく力を伸ばすことに成功したのだ! ……そう、いまだ道半ばではあるものの、とうとう私は“ベホイミ”の呪文を習得――」

 

 

 

「あ、そういえば先生、実は僕らも先生を見習って回復魔法を習得したんですよ! 今ではパーティ全員が、ベホマを使えるようになりました!」

 

 

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 ……………………。

 

 

 

「――――え?」

 

 

 

「先生がベホマを使う姿に憧れて習得してみたんですけど、『どうせなら全員使えた方が良いかな?』って思って、みんなにも教えてあげたんです!」

「これを覚えてから、戦いの安定感が抜群になったんだよな」

「誰かが危なくなっても、他の人がすぐフォローできるしね」

「……でも俺は呪文苦手だから、今でも発動に手間取っちまうんだよな。覚えるのにも一年もかかっちまったし」

「あはは、まあ本職は剣士なんだから仕方ないよ」

「そうそう、最終的に習得はできたんだから上出来だぜ」

「何年もかけてできなかったらさすがに問題でしょうけど……、ま、そんなダメな奴なんて滅多にいないわよね!」

「はは、それもそうか!」

「「「あはははは!」」」

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 

 

 

「「「「――で、先生(師匠)(サンタ)は一体、どんな目標を……?」」」」

 

 

 

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

「…………う」

「「「う?」」」

 

 

 

「うぅう゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛くぁwせdrftgyふじこlpーーーーッッ!!!?」

「えッ!? ちょ、先生ッ!?」

「ど、どうしたのよ、師匠!? なんで急に走り出したの!?」

「う、うるさいッ、着いてくるな! お、お前らなんか嫌いだああああ!!」

「「「はああッ!?」」」

 

 ――前言撤回だ!

 何が“勇者”だッ、“尊いもの”だ! こんなの才能と数の暴力で相手をボコボコにする非道な連中ではないか!

 もっと人の気持ちを考えてから発言しろ! こっちは五年もかけていまだに中級なんだぞ!? これだから天才って奴らは嫌なのだッ!

 

 ええいクソッ、今さらこんなことで挫けてたまるか!

 私は不撓不屈のサタンジャネラル! たとえ望まぬ地位を押し付けられようと、弟子たち全員から追い抜かされようと、最後は絶対に夢を叶えてみせるッ!

 

 

「ちょっと待ってよ、師匠ー!」

「何か悩み事でもあるのか!?」

「僕たちでよかったら聞きますよッ!」

「ほら、言いたいことがあるなら言ってみなって!」

 

 言いたいことだぁ……!?

 そんなモン一つに決まってんだろうがッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

「ああもうッ、やっぱり……! ザオリクよりもベホマが欲しい!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『ザオリクよりもベホマが欲しい』、これにてようやく完結です。
 第一話を投稿してからおよそ二年半。展開に悩んだり、筆が進まなくなったりと、度々エタの危機に見舞われましたが、なんとか最後まで書き切ることができました。これもひとえに読み続けてくれた皆様のおかげです。
 ここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございました。(2020/07/25)

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