転生物でよく見かける銀髪オッドアイ。時には厨二的かませキャラとして扱われるその存在に心の底からなりたいと思う転生者がいた。一体なぜそのようにしてそのような願望を抱いたのか。

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ふと思い至った話。
転生の設定自体は割と気に入ってるので他の話で使うかも


何故俺は銀髪オッドアイに転生しなかった!

さて

 

もしも今俺が過ごしている日常を観測する神の目視点、いわゆる読者と呼べる存在がいるのならばある程度の自己紹介をしなければならないだろう。

 

まあ一言で言うと俺は転生者である。

 

……今この三文字を見て「んだよ、また銀髪オッドアイ最低系転生者かよ」と思った読者よ。残念ながら俺の容姿は黒髪に焦げ茶の目の一般容姿である。

 

なぜかって? 神様に願わなかったからだよ!

 

そのせいでこんな苦労をするとは思わなかったわ!

 

ん? まずいな。どうも感情が先走ってうまく説明できていない。

 

いったん深呼吸をさせてほしい。……ふう、落ち着いた。

 

申し訳ない、どうも普段のストレスがあふれてきてしまったようだ。

 

そもそもなぜ俺は転生などをしたのか、そこから話をするとしよう。

 

 

 

 

気がつけば俺は河原に立っていた。

 

もしも1人だけでそこに立たされたならば混乱と心細さでどうにかなってしまったかもしれないが実際は異なる。

 

何故なら見渡す限り人、人、人。

 

朝の通勤ラッシュなど目ではない位にぎゅうぎゅうのおしくらまんじゅう状態だった。

 

正直考える内容など「(押し付けられて)痛い!」や「(押し付けられて)苦しい!」ばっかりだ。

 

何が起こったのかも分からないまま、ただ流れに乗って動いているうちにようやく状況がつかめてきた。

 

まずここはいわゆる賽ノ河原と呼ばれる場所でここにいる俺達は全員死んでるらしい。

 

流石に全員死んでいると聞かされて耳を疑う。ちょっと見渡しただけでも軽く数百は超えている。

 

列の先など全く見えないし最後尾もまたしかりだ。

 

一体何が起こったのかと良く聞いていると未曾有の大災害、だったらしい。

 

確証が持てないのは俺にその時の記憶がないからだ。

 

ただその災害規模は隕石が上空からおちてきたようなものを想像してくださいとさっきから頻繁に同じことを話している案内人の方に言われた。

 

それもう答えじゃねえの? と思わなくもなかったが聞いたところでどうにかなる物でもなかったのでそのまま列に並び続けた。

 

あちこちで、痛て、おい踏むな! とか ちょっとキツ! とか 誰だ今俺のケツ撫でたの!? 文句の応酬で他の皆も死んだこと云々より今のこのラッシュをどうにか抜けたいという思考の方が強いようだった。

 

押されながらも出来る限り回りを見てみるが家族や親友の姿は見当たらない。

 

1人暮らしで地方に勤めていたからせめて田舎にすむ家族達が無事であればいいなと妙に達観しながら三途の川の渡し船の順番を待ち続けた。

 

 

 

 

 

 

 

長かった……。

 

ここでは昼も夜もなく死んでるからお腹も減らないし眠くもならないからそういう意味では助かったけど時間の経過が分かりづらいのは本当に辛かった。

 

時計でもあればよかったのだけれど死んだ所為か服装も左前の死に装束に変わっていたので確認のしようもなかった。

 

体感的には何日も待たされ――実際には何時間かあるいは何十日だったかもしれないが――ようやく船に乗る事が出来た。

 

乗りこんだ船の船頭は一体何度往復したのか分からないが今にも倒れそうなほどげっそりしていた。

 

疲れ切った漕ぎ方があまりにも不安だったので「手伝いましょうか?」と伺うと泣いて喜ばれた。正直その泣きっぷりに少し引いたが。

 

漕ぎ方を教えてもらいながらここでも色々話を聞かせてもらったが今回はあまりにも死者が多くこちらでも手が回らないらしい。

 

本来ならば川を渡る前に六門銭をもらい、払えなければ衣服を剥ぐ、と言った流れがあるらしいのだがそんな事を1人1人やっていてはいつまで経っても終わらないため今回は確認なしで定員ギリギリまで船に乗せているがそれでもオーバーペースとのこと。

 

「気遣ってくれる人はたまにいたけど何回言ってもらっても嬉しいもんだ。あんたが天国へいけるのを願ってるよ」と船を降りた時の船頭の哀愁漂うヴォイスは忘れられない。

 

さて、やっとの思いで対岸に渡ったは良いがまだ終わりではなかった。

 

川を渡っている最中にも予測はついていたがここから閻魔大王のいる所までは遥か遠い。

 

だがその道もやはり人、人、人! コミ○もなんのな長蛇の列!

 

正直うんざりする。

 

回りの人達も精神的に来ているのか口数が減ってきている。

 

そうやって再び並んでどれだけったか。

 

急に進行が遅くなりやがて動かなくなる。

 

何が起こったのか? とざわざわ騒ぎだしてからしばらくして「えー、審判待ちの皆様方ー」と気の抜ける声が上空から聞こえてくる。

 

「大変申し訳ありませんがあまりの死者の数の所為で天国も地獄も魂の容量オーバーとなりました。よって今並んでいる皆様はどちらにも行く事が出来ません」

 

一瞬の静寂。続く罵詈雑言。

 

まあ当然だろう。あれだけ待たされてどちらへも行けないとはどうしろというのだ。かくいう俺もその1人である。

 

フザケンナ! どうしろってんだ! だからさっきから俺のケツ触ってんのだれだよ!?

 

因みに最後のセリフが俺のだ。

 

「あわわ、お、落ちついて、落ちついてください! 代わりに皆様には天国地獄に空きが出るまでちょっと他の世界に行ってもらいます! 本来ならば徳の高い人間用なのですが今回はこちらの都合と言う事で前世の記憶ありなど特典を付けますので!」

 

再び一瞬の静寂。続く拍手喝采。

 

いや、あんたら現金すぎだろ、と思わなくもなかった。しかしそんなことより家族の安否の方が気にかかってしょうがなかったのだ。

 

とは言え

 

「なお転生が嫌だと言う方は申し訳ありませんが魂の行き場がないので消滅してもらう事になります。わたくしどもも無暗矢鱈と循環すべき魂を消したくはありませんのでどうかご理解いただけますようお願いします」

 

最初から俺達に拒否権などは無かったのだが。

 

こうして俺を含めた数多の魂が転生を行う事になった。

 

その際、転生のために会った閻魔さまの疲労っぷりは船頭の比ではなかったことをここに記しておく。

 

さて、こうして俺が転生をしたと言う事は分かってもらえたとは思うがここで問題が起きた。

 

それはどういう世界に転生するか、と言う事だ。

 

俺は特に希望が無かったので閻魔様の進める世界にそのまま転生したのだが生まれ変わってしばらくしてここがある創作物の世界だと気付いた。

 

元はギャルゲーとして有名だったが萌えの他に燃えの要素も取り込まれた学園ファンタジーだった。

 

魅力的なキャラクターに多数のヒロイン。深い世界設定にやり込み要素も加えられたそのゲームはただギャルゲーとしては終わらずファンディスク、書籍化、格闘ゲーム、アニメ、と様々なジャンルで広まっていった。

 

俺自身、アニメを見てその戦闘やらヒロインたちの可愛らしさにはまった性質だがまさか自分がその世界に入るとは思わなんだ。

 

ところでこのゲーム、圧倒的人気を誇るものの1つだけユーザーから不満の声を浴びている点がある。

 

ソレはなんというかこの手の物には良くある?主人公である。

 

インターネットの大型掲示板にて「○○は俺の嫁」「いや俺のだから」「え? ○○なら今俺の隣で寝てるよ?」と盛り上がっている時に「いやあの子は剣の嫁だから」と書こうものならばすぐさま「死ね!」「死ね! 氏ねじゃなくて死ね!」「何でアイツモテんのか未だに分かんない」「グラフィックもいい。ストーリーもサウンドもいい。ヒロインは可愛いし面白い。けどアイツの所為で全部台無し」などと誹謗中傷がズラリと並ぶ。

 

主人公「剣 明(つるぎ あきら)」がここまで嫌われるのは当然ヒロインたちと結ばれるという嫉妬的な感情もあるのだろうが主な要因はテンプレすぎるほどの鈍感性とラッキースケベだろう。

 

頬染めてヒロインが「一緒にいて」とか言ってんだから気付けよ。風邪で心細いんだなとか言ってんじゃねえよ

 

毎朝起こしに来る幼馴染に「腐れ縁だ」で済ますなよ!

 

何で転んで相手とキスしてんだよ。歯が当たるだろ!

 

風呂場に先にヒロインが入ってるのに気付かなかった? 嘘言ってんじゃねえよ。絶対脱いだ服置いてあるだろうし電気もついてんだろうし物音もするだろうが!

 

と、例を上げればすぐにこのくらい上がる。

 

この点に関しては俺も同感であるし見ててたまに殴りたい衝動にかられることもある。

 

そう、『見てて』だ。

 

「なあ、さっきから何ぶつぶつ言ってんだシンヤ?」

 

「別に。というか何でお前は人の妹が起こしに行ったのに俺と同じ時間に登校してるんだアキラ?」

 

「いや、今日は俺たちはクラス発表見ていけばいいだけだし。眠かったから先行っていいよって言ったら文句言いながらでかけてったぞ?」

 

「この鈍感野郎。人の妹を誑かしやがって」

 

「やめろよ人聞きの悪い。俺にとっても美矢ちゃんは妹のようなもんだよ。美矢ちゃんだって俺の事を明おにいちゃんって呼ぶし」

 

「俺は最近呼び捨てだぞ? あとお前が兄弟とか死んでもやだ」

 

「俺もお前と兄弟はやだな」

 

苦笑混じりで同意を示すのは赤毛に若干の釣り目、しかしだからこそ笑顔のギャップに定評のある我らが主人公、イケメンの剣明君16歳。

 

そして俺は何故かその了の幼馴染となった広井 真矢として生を受けここにいる。

 

因みに先ほど話しに出てきた美矢というのは原作にて剣の隣人にて妹ポジションを持つヒロインの1人である。

 

昔は俺の事もお兄ちゃんお兄ちゃんとついてくる可愛い妹だったが最近は「は? 私に血のつながった兄なんていませんけど?」とか素で言うから俺涙目である。

 

まあそれはいい。いやよくは無いが俺を悩ませている心労はこれではない。

 

ため息をつきつつもいつの間にか到着していた我が高校、そして張り出されているクラス分けの掲示板。

 

「お! やったなシンヤ! また一緒だな」

 

「うん分かってた。最早呪いの類だと言う事は分かってた」

 

僅かな期待もあったのだが幼稚園の頃から全て同じクラスという作為的な運命からは逃れる事が出来ず晴れて連続記録達成である。

 

どうせ他のクラスになったところで“クラスメイトは皆同じ”なのだろうから大して変わりはしないのだろうがやるせないものはやるせない。

 

行こうぜ、と嬉しそうに2年の教室へ向かっていく明の後ろをいやいやながらもついていく。

 

2-Aと書かれたありふれた教室。ここが今年の俺の教室であり本格的に原作が進む舞台のスタート地点。

 

ガラリ、と明が空けた先には既に他のクラスメイト達が座っている。

 

そこには予想していた通りのあり得ない風景。

 

 

 

 

 

 

 

銀髪オッドアイ銀髪オッドアイ銀髪オッドアイ銀髪オッドアイ銀髪オッドアイ銀髪オッドアイ銀髪オッドアイ銀髪オッドアイ銀髪オッドアイ銀髪オッドアイ!

 

 

 

 

 

右を見ても銀髪オッドアイ。左を見ても銀髪オッドアイ。

 

教室の端から端までみーんな銀髪オッドアイのイケメン達!

 

それらが一斉にこちらを見やる。ホラーか。

 

そう、これが俺の胃を悩ませる最大の原因。

 

この学校、主要な原作キャラ以外みーんな転生者だった。

 

ただそれだけだったらまだ俺もここまで辛くは無かった。だが主人公とヒロイン勢と敵以外全員銀髪オッドアイってなんだよ!

 

普通銀髪オッドアイってあり得ない容姿だからこその特異点だろうにほぼ全員じゃあむしろ没個性になっちゃってんじゃん!

 

各学年合わせて15クラスだけどそのうち11クラスは全員銀髪オッドアイ。だからホラーか!

 

学校側も疑問に思えよ! それともこの学校は銀髪オッドアイなら無条件で受かる制度でもあるのか?

 

だったら男女比が99:1(ヒロイン達)レベルなのも納得だね!(ヤケクソ)

 

現実逃避ぎみに学校関係者に呪詛を放っていると彼らが皆視線に1つの感情を乗せて“俺達”を見る。

 

その感情とはずばり敵意。

 

さて、ここで問題だ。

 

ギャルゲーの主人公である「剣 明」が睨まれるのは先に話したように彼らが明を蛇蝎のごとく嫌っているからだ。

 

ではなぜ俺も睨まれているのか?

 

想像してみてほしい。

 

30人近くいるクラス。ほぼ銀髪の中にぽつりとある赤毛(主人公)と桃髪(メインヒロイン)と黒髪(俺)

 

文字で表すと

 

銀銀銀銀銀銀

銀銀

銀銀銀銀銀銀

銀銀銀銀銀銀

銀銀銀銀銀銀

 

 

違和感。圧倒的違和感。誰がどう見たって浮いている。

 

そしてほぼ全生徒が銀髪なこの学校で原作キャラでもないのに黒髪な俺を転生者な周囲はどう思うか?

 

答えは簡単。

 

『こいつ、転生者だな! 原作キャラを狙ってやがる!』

 

一言だけ言わせてくれ。

 

お前らにだけは言われたくない。

 

ひしひしと感じる刺すような視線に耐えながら何が嬉しいのか俺に話しかけてくる明におざなりな返事を返しつつもこう思わずにはいられない。

 

 

 

 

何故俺は銀髪オッドアイに転生しなかった!

 

 

 



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