第1話中編【https://syosetu.org/novel/144266/2.html】
第1話後編【https://syosetu.org/novel/144266/3.html】
再・夜の森
(第1話・前編 夜の森で、中編 再・夜の森のサイドストーリーです)
セイトは針を飛ばす獣をダンジョンの方へ誘導するため走っていた。木々を盾にしながら針を避け奥へ奥へと進んで行く。すると自分が走っている方向に何やら大きな影が見えた。
「あれは…」
セイトはその獣から距離を置くべく右の道に入った。
「ツいとらんのう…ここを真っ直ぐ進めばダンジョンの入り口じゃというのに…」
走りながら木々の隙間からその獣の姿を観察しようと試みる。
「水生の獣じゃ、それに恐らく中級クラスの…本当に妙だのぉ」
針獣はセイトを追っているので時間もない。腰に着けた袋を漁って針獣を誘導するための道具を取り出したが、針の刺さった傷が痛み、道具を落としてしまう。それを拾おうと屈むとセイトの進行方向から飛んできた針が頭の上を通過した。
「挟まれた…?」
武器を手に取り、2方向に注意を向けつつ覚悟を固める。
「どれ、先に目に入った方を狩ろうかのぉ」
ボロボロの姿で凶悪な笑みを浮かべる。双方向からの足音が大きくなっていく。
数秒後、奥の方で高さが2m程の影が見えてきた。セイトは地面を蹴りそちらへ向かう。影が身震いするように体を動かし、その動きが止まった瞬間針が飛んできた。それを盾で防ぐ。
針獣とセイトとの距離は縮まり、姿が鮮明になってきた。足が6本あるハリネズミを大きくしたような姿で、針をガサガサと音を立てながら擦り合わせ威嚇する。
セイトはありったけの魔力を使って透明な球を作った。それを針獣に向けて投げ、自分は盾を前に構え目を瞑った。その球は針獣の目の前まで浮遊すると発光し、まばゆい光が森を一瞬だけ照らした。
光が消え、針獣が怯んだのと同時に、針獣との距離を一気に詰めて一太刀浴びせた。頭部から鮮血が吹き出す。
「どうじゃ!普段引きこもってるヤツらにゃキツいじゃろ!」
針獣は身を引き、ふらふらになりながらもまたセイトに向かって威嚇した。
「まだやる気かのぉ、こっちは時間がないん…」
セイトの後方から轟音とともに強い風が吹いた。針獣は身を縮め、セイトは思わず振り返る。その瞬間、セイトの横を何か小さい物がすり抜けて怯える針獣に飛びかかった。
深緑色の少女が右手に持つ銃の引き金を引き、針獣を撃ち抜いた。
「カラン!」
セイトはその少女の名を呼んだ。カランは倒れた針獣の死体を見て呟く。
「ペロネトス、ホントにダンジョンの外に出てるのか…」
カランの右腕に1本針が刺さっていた。
「やっぱりなまってるのかなぁ…」
「さっきのはお前さんか?」
セイトがカランに駆け寄って問いかける。
「よぉセイト坊、無事…じゃなさそうだね、久しぶりに鈴を使ったんだ」
「そんなに手強かったのかの?」
「んにゃ~…そういうことじゃなくて、ペロネトスを見つけたときに明らかに何かを追ってる動きだったんだ、アイツら群れで獲物を追う習性があるから…セイト坊かなりピンチなんじゃと思って」
「なんじゃ、随分心配掛けたようじゃのぉ、ラルのヤツは来たのか?」
「来たさ、お前ら一族揃って仲間のことしか頭に無いのな」
「フン、お前さんも似たようなもんじゃ」
カランはリュックの中から手の平サイズのクリスタルを6つ取り、魔力を注ぎ込んでから2人を囲むように小さい範囲に投げた。すると光がクリスタルを中継し円を作る。
「さて、随分やられたみたいだけど応急手当だけでもしとくか」
カランはリュックから包帯や薬瓶を取り出し、セイトを座らせた。
「解毒薬は何か飲んだか?」
「飲んだが気休めじゃ、そっちの薬を貰おうかの」
「ホイ」
カランはセイトに小さな玉を渡した。そして針を抜いて薬を塗り、手慣れた手つきで包帯を巻く。セイトが口を開いた。
「なぜ森にあんな獣がおるんじゃ?」
「う~ん…偶然ダンジョンから出てきたとも思えないし…。なんだろ」
「あの様子じゃアイツらだけじゃないじゃろ」
「そうだね、セイト坊、屋敷まで送るから休んでてくれ。ボクは中層の獣を片っ端からダンジョンに戻すか始末する」
「1人で大丈夫かの…?」
「へーき、魔力の余裕もあるしね」
カランはセイトの応急処置を済ますと、自分に刺さった針も抜いた。同じように処置をする。
それから屋敷に着くまで獣が出ることはなく、2人は無事ハトホルの結界内に入ることができた。屋敷の玄関を抜け暖炉のあるリビングに入ると、暖炉の前で静かに寝るラルと、その傍らに座るハトホルがいた。ハトホルが立ち上がってカランを迎える。
「お帰りなさいませ、ご無事で何よりです」
「ただいま~ハト~」
セイトは間抜けな寝顔を浮かべるラルを見て安心したように深く息を吐いた。カランはまた扉を開けて廊下に出る。
「じゃ、ボクまた行ってくるよ~」
「カラン」
セイトが呼び止めた。
「ん?」
「ラルが目覚めてもワシが屋敷におることは言わんでくれ」
「え、なんで?」
「まぁこっちにも色々考えがあるのじゃよ」
「ん~わかったよ、我が子に厳しいねぇ」
カランは笑いながら再び外へ出た。