四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第105話 こいつ・・・動くぞ!

 

 

 

 今年のバレンタインデーは例年通り、貰えた者と貰えなかった者。成功した者としなかった者に別れた。

 本命チョコを貰って誕生したカップルは多数いたが、第一高校の有名所で誕生したカップルはいなかった。これには想う相手がいる男女共にホッとした。

 

 だが、それは公の場で渡していないだけで、深雪や真由美達カースト上位の女子生徒は既に本命チョコを手渡している。

 そこら有象無象の者が彼女達の本命に敵うはずがないのだ。もちろん幼馴染であったり、努力で振り向かせられたのであれば彼らは勝者と言えるが、そんな稀有な出来事は滅多に存在するはずも無い。

 

 本命チョコを渡せた女子生徒のほとんどはやりきった感を纏わせ帰宅する。リーナも例外ではなかった。

 だが、彼女が自宅に帰宅して靴を脱ごうとした瞬間、見知らぬ靴が置いてある事に気が付く。これは女性用だ。

 

 シルヴィアではないのならあの人しかいない。

 そう思ったリーナは気にせずリビングの扉を開けた。

 

「お疲れ様です。ご用でしたら小官から伺いましたのに」

 

「さすがに気がついたか」

 

 中にいたのはバランス大佐だった。

 予想できたとはいえなぜここにいるのだろうか。

 

「しかしなぜ大佐が?」

 

「言っただろう。これからは私が直接指揮を執ると」

 

「それで小官の所へ・・・・・・?」

 

「貴官の行動は逐一観られている事を忘れるなよ。家の中は別だが屋外は我が軍の監視がある」

 

 観られている、という事は人工衛星を用いてリーナを監視しているのだろう。リーナ自身もそう判断した。

 まぁミアの事があるので拒否はできないが気持ちの良いものではない。

 

 納得したリーナだったが、バランスの言った言葉に引っかかる部分を覚えた。彼女は「逐一」と言った。というのであれば今日のイベントも・・・と考えた所でリーナの顔は青くなった。

 

「た、大佐・・・私は!」

 

「言い訳は結構。貴官がトモヒロ・ヨツバに贈り物をしていた事はわかっている。もちろん映像や報告書として記録もされている」

 

 やはり智宏にチョコレートを渡した事は把握されていたようだ。しかも完璧に。

 周辺に不審な人物はいなかったので近くにいたわけではないが、バランス達はリーナこの行動に対して危険視こそしなかったもののちょっとだけ問題になった。

 

 もちろん部隊内のみで上層部に報告は行っていない。ただ結果的に、任務について話すついでにバランスが釘をさしに来たという訳だ。

 

「申し訳ございません。ただ小官はトモヒロ・ヨツバに守られた恩があります。礼には礼をと思いまして」

 

「はぁ・・・・・・まぁ、かまわない。私個人としてもそれを否定する気は無い」

 

「大佐・・・・・・」

 

「しかし彼の者に対して他の男子生徒と比べて反応が違うな。まさかとは思うが?」

 

「ち、違います!私は彼の事は別に!」

 

 リーナは慌ててソファに座るバランスのもとへ駆け寄り上司の言葉を否定する。先程と異なり顔は赤い。

 バランスは「この程度で慌てるとは」と内心頭を抱えながらも、珍しく年相応の反応をするリーナを面白がっていた。外には出さないが。

 

 一方、否定したはずのリーナ自身も自分が発言した内容にハッとなり佇まいを直した。下手な言い訳は通用しないと先程の会話でわかったではないか。

 

「申し訳ございません。取り乱しました」

 

「問題無い。今回の件はこれで終わりだ。本題に入ろう」

 

 バランスはリーナに向かいのソファに座るよう促す。一応家主はリーナのはずだが、これを見た人は絶対に信じないだろう。

 リーナが座った事を確認したバランスは姿勢を正してリーナに向く。

 

「少佐。現時点を以て脱走者の追跡及び処分を中断し、今後は質量・エネルギー変換魔法の術者確保を最優先とする」

 

 ついにこの命令が来たか。とリーナはピンと背筋を伸ばす。

 

「まずはタツヤ・シバをターゲットとする。ブリオネイクを装備し適時介入せよ」

 

「ハッ!」

 

 さすがに座ったまま敬礼はできないため、リーナは力強い声で上司に応えた。

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 バレンタインデー翌日。

 第一高校の内部は前日のような浮ついた空気ではなく、困惑や恐れが漂っていた。

 

 朝一で達也に五十里から連絡があった。技術畑の達也を頼るのは正しい判断だろう。

 ただ学生の本分は勉強であるので、智宏達が原因究明に動くのは放課後となった。

 そして放課後、連絡を受けた達也は智宏や深雪達を伴ってロボット研究部のガレージへと向かう。

 

「失礼します」

 

「あ、司波君・・・皆も来てくれたんだね」

 

「詳細は達也しかしりませんけどね。それで・・・本当なんですか?」

 

 バレンタインデー翌日に何があったのか。

 智宏の質問に答えるように五十里が力強く頷く。

 端的に言えば、ロボット研究部が所有する人型家事手伝いロボットが笑みを浮かべて魔力の波を放ったらしい。

 

 このロボットは表情が固定されているため口を開く事も耳が動く事も無い。最近は表情が動くロボットも開発されているらしいが、この個体はそれに該当しないのだ。

 ただの表情を変えない人形が微笑んで魔法力を行使したとなると、部内で収まる事態では無くなる。このご時世、あらゆる現象は魔法と科学によって証明されているが、こと「ホラー」という分野に移行してしまうと不安を抱いてしまうのも無理は無い。

 

「生徒の皆も不安がっています。今日中になんとかしたいんです」

 

 生徒会長としてあずさもこの場にいた。彼女も五十里に呼ばれたのだろう。小さくてガレージにいた事に最初は気が付かなかった。

 

「教師はなんと?」

 

「さっきまで廿楽先生が調べていたんだけど結論は出せないって。一応P94のボディ・・・胸部中心部からサイオンが放出した痕跡があったみたい」

 

「はい?」

 

 五十里の返答に達也は眉を顰めた。

 

「この個体の胸部は電子頭脳と燃料電池だったと思いますが・・・やはり電子頭脳からでしょうか」

 

「まぁ誰だってそう思うよね。正解だよ」

 

 P94の上半身の構造は頭部に通信ユニットとメインセンサー、胸部に燃料電池と電子頭脳だ。この構造を理解できる者が胸部から「胸部からサイオンが」と言われれば誰だって電子頭脳を疑うだろう。

 

 もちろんこの電子頭脳にサイオンを放出する機能は備わっていないので、何だか気味が悪い感じではある。

 

「五十里先輩・・・この機体は勝手に動くんですか?」

 

 智宏の質問に女性陣がピクリと反応する。

 前述の通り、この時代ではある程度の事は魔法や科学で解明できるが、不可思議な現象に至ってはその限りではない。

 

 恐ろしい・・・というほどではないが、彼女達も年相応の反応をするのは致し方ないのだ。

 

「ううん。音声コマンドで制御はできたから勝手には動かないはずだよ。君達が来る前に確認済み」

 

「そうでしたか」

 

 どうやらいつも通りに言う事は聞くらしい。

 だが自我を持たないロボットにパラサイトという人格が芽生えているはずだ。これまでの出来事から考えるに、今も智宏達の事を認識しているに違いない。

 

 ただ五十里達の命令を聞くのであればミカエラの様にいきなり戦闘に突入するという事はないだろう。

 

「とりあえず君にもチェックしてもらいたいんだ。電子金蚕みたいなヤツが紛れ込んでないか確かめたい」

 

「了解しました。とりあえず今は時間もありませんので後にしましょう」

 

「そうだね。じゃあ部屋は僕が取っておくから連絡した時間に来てね」

 

 そうして一同は解散した。

 再び集まったのは4時限目が始まる少し前。メンバーは知った顔だけ。授業はサボる事になったが、このメンバーなら大丈夫だろう。

 

「それで五十里先輩、何があったんですか?」

 

 智宏はそう尋ねる。

 P94が動いたという情報以外にも詳しい事はわかっているはずだ。

 五十里もその気でいたのか説明を始める。

 

 本日の午前7時頃、ロボ研所属の生徒がP94・・・通称ピクシーに異常がないかカメラで確認を行った。さらに遠隔で自己診断プログラムを起動させて異常の有無を確認。問題無しと判断された。

 

 しかし、再び停止させようとした所、ピクシーは機能を停止させなかった。

 様々な方法で停止不可能の原因を探ったが発見には至らず。正体不明のウイルスに感染した事も視野に入れ、強制シャットアウトコマンドを入力した。

 なお、部員が異常を調べている最中、ピクシーは笑みを浮かべていたという。

 

 五十里の話を聞いた智宏達の反応はそれぞれ違った。不気味な出来事に怯える生徒もいれば、面白そうにピクシーを観察する生徒もいた。

 

「外部から強い思念のようなもの・・・サイオン波を浴びたんじゃないかと僕は思う」

 

「この近くでサイオン波ですか」

 

 五十里の予測は当たっていた。

 原因となったのはもちろん前日のバレンタインデーである。

 ピクシーが置かれている建物は人通りが少なく告白スポットには持ってこいの場所だった。

 

 今年のバレンタインデーもこの場所で何組かの男女がチョコレートを渡していた。無論ほのかもそれに乗っかったタチである。

 先日、ほのかは登校時に深雪の計らいで達也と2人でこの場所に来ていた。建物の陰で2人きり。ほのかはガチガチ・・・ではないがかなり緊張していた。

 

「大丈夫だ。今日は何の日かはわかっている」

 

 達也はほのかの緊張を解すかのように優しく話しかける。

 

「は、はい・・・・・・達也さん!これ!」

 

 真っ赤な顔でほのかが差し出したのはハートの形にラッピングされたチョコレートだった。

 彼女自身、達也の精神状況を知ってもなお想いを寄せているので緊張しっぱなしだ。だがバレンタインデーは年に1度しか来ない。このチャンスに乗らない方がおかしい。

 

 一方の達也も夏休みにほのかの気持ちを知ったため、このチョコレートを無下にはできない。それに深雪の友人に対して下手な事をして悲しませる事は絶対にしない。

 達也に引くという選択肢は無かった。

 

「ありがとう。ちゃんと食べるからな」

 

「はい!」

 

 ほのかは緊張するあまり硬い笑顔となってしまったが、達也が受け取った事により彼女の雰囲気が柔らかくなった。

 

「そうだ、これはお返し」

 

 達也は小さな紙袋をほのかの小さな手に握らせる。中身は小さな珠を付けたヘアゴムだった。

 明らかに女性に渡すアクセサリーだ。

 

 なぜ達也がこれを持っているのかとほのかは疑問に思い、明らかにそれが顔に出てしまった。

 それを見た達也は珍しく微笑んた。

 

「夏休みにほのかが言った事を忘れたわけじゃない。今日の事も可能性として考えていたんだ」

 

「えっ・・・・・・」

 

「それに3月に面と向かってお返しができるかはわからないだろう?だから今日中に、とね。それに深雪にも忠告されてしまったよ」

 

 意外にもこの男なりに考えがあったらしい。

 ほのかは深雪に対して感謝しつつも、達也が自分からチョコレートを貰うかもしれないと考えてくれた事が嬉しく、頬が緩むのを抑えきれなかった。

 

 夏休み前後で比べても達也の感情に変化が訪れた事は誰よりも深雪がわかっている。

 達也自身より深雪を大切にしてくれるが、ロボットのような兄は嫌だった。他の女に気が向くのは癪だが、自分にもメリットがある事なので友人(ほのか)を気にかけるよう提案したのだ。

 

「達也さん・・・ありがとうございます!」

 

 たとえ深雪のお膳立てがあったとしても、嬉しいものは嬉しい。ほのかはヘアゴムを優しく握りしめ感動に打ち震えている。

 その想いは波紋となり周囲に広がっていく。達也でさえそれに気がつく事はなかったが、心を持たぬ人形・・・つまりピクシーはほのかの純粋な思念を浴びてしまった。

 

 まさかとは思うがほのかとのアレが関係しているのでは?と達也は考えたが、それよりも今はピクシーのチェックを優先した方がよさそうだ。

 

「という訳で司波君、頼んだよ」

 

「わかりました。ピクシー、停止モード解除」

 

 その音声コマンドにより、台車に腰掛けたピクシーはパチリと目を開ける。腕が良い人間に作られたのだろう。可愛い顔をしている。

 

「ご用でございますか」

 

「今朝7時頃の操作ログと通信ログを閲覧する。台の上に寝るんだ」

 

「この命令には管理者権限が必要となります。権限の有無を確認します」

 

 ピクシーは達也の頭の上からつま先までスキャンするように観察する。達也の胸ポケットに管理者権限のカードが入っているので拒絶される事はないだろう。

 

 だが権限の確認が終わってもピクシーは視線を達也の顔から動かさない。不審に思った達也は再度呼びかけようとしたが、それよりも早くピクシーは台座から飛び降りて彼に飛びかかった。

 

 ミツケタ

 

 という言葉と共に。

 

 

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