Fate/kaleid caster ドラまた☆リナ 作:猿野ただすみ
クレーターを抜け、街中を歩くあたし達。取り敢えずの危険は去ったと思っていいだろう。
しかし、この後はどうするか。ハッキリ言って、
そんな思考に耽っていると。
「う…」
強く風が吹き、士郎さんが小さくうめく。
「お兄ちゃん! まだ怪我が!?」
「いや、それはもう大丈夫だ。ただ、この格好はさすがに冷えるな」
そう言う士郎さんの服は、袖が破れて半袖状態であり、また、腹を切り裂かれたことで腹部が破け、お腹は丸出し。そりゃあ確かに冷えるでしょ。
「……お前も裸足だし」
「あ…」
そう。美遊も転身を解けば、敵地であてがわれた衣装姿。靴や靴下は与えられなかったようで、ここまでずっと裸足のままなのだ。
「みんな、助けてくれて本当にありがとう。それでどうだろう。もし行く当てが無いなら、ウチに来ないか?」
……ほう?
「衛宮くんの家?」
「それは
「賛成! 行きたい行きたーい!」
「わ、わたしも!」
「良いのではないでしょうか。どのみち、拠点を移す必要がありました」
『わたし共も異論はありません』
『ですねー』
凛さん、ルヴィアさん、クロエ、イリヤ、バゼットさん、サファイア、ルビーの順に答えていく。当然あたしも。
「今の拠点の急遽張った結界より、魔術師が暮らす家の結界の方が安心も出来るしね?」
まあ、凛さんとルヴィアさんなら、武闘派魔術師のバゼットさんよりもしっかりした結界を張れるとは思うけど、それだって触媒が揃っていてこそ。今の二人では、バゼットさんより多少はマシ程度が限度だろう。
おっと、それよりも。
「というわけで、目的地は衛宮邸よ。いいわね、アンジェリカ?」
「はい」
……うーん、彼女のこの薄い反応。やっぱりこれって…。いや、アンジェリカだけじゃない。多分ベアトリスも、……そしておそらくは、桜ねーちゃんも…。だから、ドールズか…。
「リナ?」
「……ううん、何でもない。それより、ギルったらどこ行ったのかしらねー?」
心配するイリヤを誤魔化すために、あたしはあからさまに話題を変えた。
「……うん、そうだね。
少し寂しそうに言うイリヤ。あたしからすれば彼の立ち位置は、前世におけるゼロスとほぼ一緒。状況に応じて、敵にも味方にもなり得る存在だ。
だが、イリヤにとっては仲良くなった存在のひとりなんだろう。ハッキリ言ってめっちゃ甘いことだが、そんなイリヤだからこそ「美遊も世界もどっちも救う」という理想を託したくもなるのだ。
「ところでリナ。話を逸らすのは構わないとして、その抜き身の剣は何なのよ」
おっと、さすがにクロエにはばれてたか。
「アーチャーの目があるクロエにはわかってると思うけど、この剣、切れ味が良すぎるのよ。だから鞘に納めようとした瞬間、鞘が斬れる」
「……なるほど。そこまで考えが及ばなかったわ」
……まあ、それに関しては対策を思いついてるけど、どちらにしても落ち着いてからの話である。
士郎さんの後をついて行って、途中で気がついた。いや、おそらくはと思っていたので正しくは、予想どおりだと気がついた。今向かっているのは…。
「これが…、シロウさんと、ミユの家…?」
イリヤが驚き混じりで言う。
「結構な邸宅じゃない」
「これは…、
「違いすぎる! ウチは普通の一軒家なのに、この差はいったい…!?」
「ミユってばお嬢様だったのねー」
みんなは口々に衛宮邸の評価をする。まあ、確かにイリヤん
「いちおー言っとくけど、向こうでもこれと同じ家、衛宮名義で所持してるわよ?」
『えっ!?』
士郎さんを含めたみんなが声を揃えて驚いた。いや、美遊やステッキ2本も驚くとは思わなかったけど。士郎さんは多分、「衛宮」の姓が出て驚いたんだと思う。
「前にロードや切嗣さんと密談したって言ったけど、その場所が向こうの世界のこの家だったのよ」
「……え? おとーさん?」
……あ。そーいやリムジンの中で説明した時、イリヤはいなかったんだっけ。
「……まあ、その辺はもう少し後でね? さすがにここで、事細かに説明することじゃないし。とはいえ、あの時はイリヤと一緒に行動してて同じく聞いてなかった美遊や、こっちの住人である士郎さんの事もあるから、一息ついてからちゃんと話すわ」
「うん。わかった」
イリヤは素直に納得して頷いた。……しかし、凛さんとルヴィアさんにも色々と保留にしてる話があるし、結構長丁場になりそうね。
士郎さんはひとつ息を吐くと、くるりと背を向けて屋敷へと進んでいく。
がらら…
引き戸を引き中へ入ったとき、彼は少し手前で立ち止まる美遊に気づく。
「……お帰り、美遊」
「……ただいま。お兄ちゃん」
……何だろう。ものすごく尊いものを見ている気がする。イリヤとクロエの視線は興味本位だと思うけど。
「……何?」
あたし達の視線に気づいたんだろう、美遊は気恥ずかしいのを誤魔化すように、短いひと言を口にする。
「ん? んん…」
「何でもなーい」
イリクロも深くは触れずに、言葉を濁したり誤魔化したりしてる。ある意味、軽いいじりみたいなもんだ。
「……リナ?」
何も答えないあたしが気になったんだろう、再び声をかけてくる。
「あたしはまあ、最年長者視点ってトコね」
おどけて言うあたしに誤魔化すだけ無駄だと悟ったのか、ふいと視線を外した。
士郎さんはそんなやり取りを温かい眼差しで見守ってから、玄関の電気をつけ。
「まずは着替えと…、その前に風呂だな」
お風呂!
あー、サッパリした。あたしとイリヤ、クロエの三人は、士郎さん、そして美遊の後にお湯をいただいた。当初はあたしと美遊で入ろうかという話も挙がったのだが、先程からかったのが原因か、美遊は恥ずかしがってひとりで入浴したため、あたし達は三人一組となった次第である。
『読者の皆さんはキャッキャウフフを楽しみにしていたはずなのに、どうして漫画やアニメでもやった入浴シーンを飛ばしますかねー』
「って、あんたはどっから湧いて出たっ!
『あぼっ!?』
相変わらず訳のわかんないこと言うルビーに烈閃槍一閃、ぼてりと落ちたそれを、あたし達は無視することに決めた。
「……それより、このパジャマって一体…」
「この年になって、着ぐるみパジャマなんてねー」
その通り。イリヤとクロエが言ってるように、あたし達は今、着ぐるみパジャマを着ている。因みにイリヤがネコ、クロエがパンダ、そしてあたしはシロクマである。これらはみんな、士郎さんが準備してくれたモノなんだけど。
「でも、これっていったい誰の…」
イリヤが呟くように言う。いや、ふつーに考えたら答えは出てんだけどね?
そんなこと話しながら廊下を歩いていると。
「お兄ちゃん。別なの出して」
部屋の中から美遊の声が聞こえてきた。あたし達は、少しだけ開いていた障子の隙間から中を覗き見る。
「でもお前、この、くまさんパジャマが一番のお気に入りだったじゃないか」
「そうだけど…今日は別なのがいい…」
うみゅ、やっぱり。イリクロはイメージじゃなかったのか、そのギャップに驚いてるけど。あと、さすがに美遊も、この趣味を知られるのは恥ずかしかったようだ。それがわからぬ士郎さんは、こちらでもやっぱり朴念仁ということか。
そして美遊は、士郎さんが代わりに出した服へと着替えてゆく。それはいわゆる和装、色
「……似合うわね」
「うん…。ミユってば、和風美人…」
何を今更。イリヤが西洋人形なら美遊は日本人形。あたしは以前からそう思ってたぞ?
「お兄ちゃん。髪やって」
「そのくらい、自分で出来るだろう?」
「いいからやって」
ぷっくり頬を膨らませる美遊。
「はいはい、お姫様」
ため息を吐きながら言いつつも、その手には櫛が握られている。
その様子をクロエは興味深そうに見つめ、イリヤは悶えている。イリヤ、スイッチが入りそうになってるわね? まあ、気持ちもわからなくはないけど、あたしはやっぱり年長者目線。どちらかといえば、ほっこりしながら眺めてる。
士郎さんは美遊の髪を
「こうやってお前の髪をいじるのも、随分と久しぶりだ。少し凝ったのにしてみるか?」
「簡単なのでいい」
「お客さんだっているんだぞ? 少しはおめかししたいだろ?」
「お兄ちゃんがやりたいだけじゃない」
「はは、ばれたか。俺も昔と比べて、髪を結うのが上手くなったからな」
むう。何とも尊い空間。何者も侵してはならない雰囲気ね。……ん? イリヤ? クロエ?
「……やっぱりあの人は」
「
「うん」
そっか。二人とも、その事を痛感してしまったのか。あたしは早いうちから気付いてたから、既に気持ちを切り替えてるけど、二人にとってはついさっきの事だものね。魔術師寄りの思考のクロエでも、身内の異相体じゃ気持ちをすぐには切り替えられなかったか。
「……そっか。あの時のミユは、こんな気持ちだったんだ…」
あの時。多分、美遊が向こうの士郎さんに初めて対面して、縋りついていた時のことを言ってるんだろう。
その後二人は黙り込み。あたしもそんな二人の邪魔をしないよう、ただ黙ってそれに付き合った。
---それから程なくして。
「よし。これでいいだろう」
部屋の中から士郎さんの声が聞こえ。
「もう。すぐ寝るのに、こんな頭…」
美遊が文句を言う。中を覗いてはいないけど、結構凝った髪型にしたみたいだ。
「いや、寝るにはまだ早いだろう」
おっと、これは。士郎さんが立ち上がる気配を察し、あたしもすっと立ち上がる。
「みんなと話さなきゃいけないことがたくさんある。そうだろう?」
一方、障子に寄りかかって座っていたイリクロは。
すぱあああん!
勢いよく障子が開かれ、二人とも室内にコロンと転がり込む。
「君達も」
あたし達に気づいていた士郎さんは、そう声をかけた。
「え!? あ、い…いつから?」
焦って顔を真っ赤にしながら尋ねる美遊。
「くまさんパジャマの辺りから?」
クロエが、着ぐるみパジャマの頭の部分を被りながら茶化すように言うと、美遊の顔は更に真っ赤になり、座布団を持ち上げてクロエをぽむぽむと叩きだす。
「あははー。ミユが怒ったー」
「なんか、レアなミユをいっぱい見ちゃった…」
うみゅ。仲良きことは美しきかな。まあ、スイッチが入りかかってるイリヤは、ちょっとばかり興奮しすぎだけど。
「ほらほら、二人とも落ちつきなさい。美遊はようやく士郎さんと再会できたんだから、クロエはあんまり揶揄わないよーに」
「はーい」
「ほら、クロエもこう言ってるんだし、美遊も落ち着いて。……士郎さんも見てるわよ?」
囁くあたしの指摘を受け、一瞬ハッとした表情となった美遊は、軽く咳払いをして体裁を整える。士郎さんは、美遊のそういった態度も微笑ましく見ていることに、気づきもせずに。
そして全員がお風呂を済ませ、衛宮邸の居間へと集合する。
「うーん。いや、しかし。この家に、こんなに人が集まる日が来るとはなぁ…」
士郎さんは感慨深げに言った。……向こうの士郎さんは普段、イリヤやセラさん、リズさんと一緒に暮らしているし、ここ最近ではアイリさんが帰って来ていて、更にクロエも一緒に暮らしてる。
一方、時空の狭間で見た士郎さんは一人暮らしだったけど、毎日
けれどもおそらく、こちらの士郎さんは美遊との二人暮らしで、家に人が訪ねてくることもほとんど無かったという事なんだろう。どうしてそんなことになったのかはわかんないけど、きっとそれも「話さなきゃいけないこと」に含まれてるに違いない。
「お互い、聞きたいことがたくさんあるだろう。きっと、長い話になる。
だからまずは、こちらのことから話をしようと思う。俺と美遊の、これまでの
そう言って士郎さんは、落ち着いた口調で語り出すのだった。
今回のサブタイトル
映画「この素晴らしい世界に祝福を! 紅伝説」EDテーマ「マイ・ホーム・タウン」から
というわけで、ようやく過去編に突入…といきたいところですが、次回は第2回なかがき座談会に入ります。過去編の後とどちらにするか悩みましたが、前回は座談会の後にリナの過去編…というか前世編をやったので、今回も過去編の前に決めました。
次回「とある魔法少女の座談会」
見てくんないと、暴れちゃうぞっ!