番取り! ~これはときめきエクスペリエンスですか? いいえゴールドエクスペリエンスです~   作:ふたやじまこなみ

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第18話「SPACE」

暗いことばっかり考えてると気が滅入るので、こういう時はキラキラしたことを考えよう。

キラキラといえば、もちろん彼女たちである。

 

今は8月。

改めて現状を確認してみよう。

 

香澄は順調に音楽にいそしんでいるーーユーフォニアムだけど。

もはや無理にギターを勧めたりはしないことにした。諦めたともいう。

 

でもいいんだ。香澄はアニメの通りなら、高校に入ってからでも十分間に合うんだ……

 

あっちゃんが反抗期になったって泣きついてきたけど、家庭内も至って平穏なようだ。

大事なのは音楽スキルより、情操である。

このまま健やかに自己紹介で「星の鼓動が!」って話しちゃうくらい健やかに育ってほしい。

 

たえも問題ない。

懸念事項だったストーカー問題が解決したからか、実に晴れやかに吹奏楽部に精を出しているーーやっぱトランペットだけど。

 

新聞に顔写真付きで掲載されたのが良かったかな。

憎い相手とはいえ、死んでしまったことについては複雑な思いがあるらしい。

あんなストーカー相手にも思いやりをもてるとは、不思議ちゃんキャラだけどやっぱいい子だよな。初体験だとか、わけわからんこと騒いでた俺とは違うね。

 

そして朗報がある。

たえはどうやらギターに興味があるようだ。この武器かっこいいって見せてくれた広告で指差したのは、なんとあの青いスナッパーだった。

 

やはり原作効果はあったんだ! ニートが初めて仕事したぞ!

でも相変わらず武器とか言ってるのが気になる……本当に原作補正だよね?

ランダムスター使いに変態が多いように、スナッパー使いは乱闘が多いのだろうか。わからん。

 

しかしこのままの興味を育てて、ぜひギターに手を出して欲しいものだね。

たえは小中学生の頃からギターをやっていたはずだから、できるだけ早く始めてもらいたいんだよ。

たえには申し訳ないけど、習熟度な懸念がね。

 

しかしそれを考えると香澄とは一体……高校でギター始めて1年も経たずにライブ出演。やはり天才……。

まぁ、けいおんの唯みたいなのもいるし多少はね。でも蛸壷屋は勘弁。

 

それより問題なのは、ポピパの他のメンバーだよ。有咲、りみ、沙綾。なんか心配になってきた。

ここまで芸能界の闇とやらの影響が強いと、気がつかないうちに取り返しのつかないことになってるやもしれん。

様子見を予定してたメンバーにも、早急な対応が求められるかもしれんなぁ。

 

実はとあるルートから、他メンバーの手がかりを得ることができた。

そのルートとは、あのたえのストーカーが集めていた近隣小中学校生徒の個人情報だ。

 

たえのストーカーズコレクションーーそこには奴がたえを探すために債権回収会社時代から溜め込んだであろう情報が、山のように詰まっていた。

四方八方からかき集められたそれは、ちょっとしたデータベースと化している。特に学生のデータが豊富だ。こっちでもベ◯ッセは個人情報を流出させたのかもしれない。

 

俺はたえの情報を消すと同時に、それをUSBメモリに落として持ち帰っていた。

 

それに俺は、思い当たる限りの原作キャラの名前を検索にかけた。

そして見事ヒットしたのが、有咲と沙綾だ。

 

有咲と沙綾は、原作通り花咲川女子学園に中等部から通っているようだ。つまり地元もこの辺のはず。

この辺りの治安を回復することで、対応が可能だ。足取りを追うこともそれほど難しくないだろう。

 

しかし問題は牛込りみにあった。ヒットしなかったのである。

これには頭を抱えた。

 

あの子確か高等部からの編入組だよね。しかも中学の途中まで関西にいたはず。

どう捜索すればいいんだろ。もう白目しか剥けないんだけど。

 

前世でも関西って危ないイメージあったしなぁ。さらにこっちだと魔都になってそう。福岡じゃないだけマシなのかな。あそこは前世でも修羅の国って噂があったからなぁ。

……悪い方向に思考が傾くと偏見しか出てこない。

 

でも待てよ。確か牛込りみの姉ーー牛込ゆりがグリグリのメンバーだ。

アニメからだとグリグリの結成時期はイマイチわからないけど、少なくとも1年前くらいにはあったんじゃないだろうか。

少なくとも、新参者ではあるまい。

 

しかもゆりは水泳部の部長になるはずだ。部活の部長ってぽっと出でなれるもんじゃないよね。

よっぽどの実力主義高校でもない限り、人望とか貢献とかで選任されるのが普通だ。となると比較的早い段階からゆりは花咲川女子学園にいたんじゃないか? 

 

仮に高校1年目からいたとすると、りみは2つ下だから中2頃に、このあたりに引っ越してきていてもおかしくないわけか。

 

うーむ。

 

この線から探っててみるか。

グリグリといえば現在知り合っているのが鵜沢リィだ。彼女に聞いてみよう。

案外すでに知り合いだったりして!

 

 

「んや~? 牛込ゆり? うーん……リィちゃん知らないっ!」

 

ですよね。

こがね知ってた。

 

「んむむむ。しかーし、こがねちゃん! その前にリィちゃんに言うことがあるんじゃないかな?」

「え、何かありましたっけ?」

 

「バンドだよバンドーーっ! 一緒にバンドやるっていったのに、あの後全然音沙汰なかったのじゃー! 約束はどうなったんじゃー!?」

「はは……。私ちょっと吹奏楽が忙しくてですね。シンバルがね……」

 

藪蛇をつついてしまった。

約束とかした覚えないんだけどね。

 

「シンバルよりギターやってギター!!」

 

レジスターの机をバンバン叩く鵜沢。ぬいぐるみのデペコが飛び跳ねて落ちたので、慌てて拾っている。

どうやら俺が長らく楽器店にこなかったことにお冠のようだ。

 

ってかそのギターやるのが牛込ゆりだから!

君簡単に知らないって言ったけど、グリグリで一番大事な人よ? ギタボだからね! しかも牛込りみの姉!

 

こちとらやることだらけの過労死系JCなのだ。

絶対に流されてバンドやっちゃったりなんかしない!(キリッ

 

あれ? でもリィちゃん、なんかちょっと涙目になってない?

 

「ぐすっ。せっかく、用意してあげたのに……来ないから……」

「あわわわわわ」

 

涙ぐむ鵜沢が取り出したのは、2本角が特徴的なギターだった。

その言葉のとおりなら、これは俺のためにずっと前から見繕っていたということだろう。

 

そういう罪悪感を感じさせつつ、逃げ道を封鎖するのやめて!

 

「とってもかっこいいいですね。これを私のために? わー、うれしー」

「……ホントに嬉しい?」

 

「ええ、まぁ、それなりに……」

「フッフーーー☆ よかったぁ!」

 

自分でもわかるレベルの棒台詞だったのに、あっと言う間に機嫌がなおったぞ。

チョロい奴だな。この世界でそんなにチョロくて大丈夫だろうか。悪い奴に騙されないか心配なレベル。

 

この子には聞きたいことがまだまだあるから、ヘソを曲げられたら困るんだよね。

今は適当にヨイショしなければ。

 

「それにしてもカッコいいギターですね。エレキですか」

「そうだよ。フェンダーのストラトキャスター!

 こがねちゃんアコギあんまり好きそうじゃなかったから、こっちのほうがいいかと思ったの。カッコイイでしょー!!」

 

そうそう。前回見たかったのはこういうのなんだ。

俺の趣味なんてどーでもいいんだけどね。

大事なのは香澄’sフィーリング。

 

「ちょっと値は張るけど、最初からあんまり安すぎるギター使うと音感悪くなるしね。

 これがリィちゃんのオススメ!!

 というわけで……はいっ」

 

ん?

え、くれるの?

ストラトキャスターなんて、安いモデルでも結構するだろ。

 

「え! ちょっと、悪いですよ! そんな高そうなもの!」

「んやー! あげるわけじゃないよ。これは試奏用の店の楽器。店長から許可貰ってね。

 店長も女の子が興味持ってくれるのが嬉しいって言ってたのじゃー」

 

えぇ……

いらねー……

 

ギター持ってポピパ守るとかキカイダーかよ。俺に良心回路ないぞ。そんなものは前世(かいぞうまえ)においてきたわ。

 

「ありがとうございます……お借りします」

 

うう。

でもここは受け取っておくか。

 

俺バンドメンバーじゃないんだけど……グリグリの黒子に徹したい。

このギターは牛沢ゆりを発見したら、即イグナイトパスだな。

 

「フッフーーー☆ じゃあ後は練習あるのみだねっ!

 一応練習室はこの店の上にあって、いつでも使っていいことになってるんだけど、最近立て込んでて使えないんだよね。

 他には安いレンタルスタジオとかライブハウスでも借りられればいいだけど。うーん、オススメは前に店長が教えてくれたような……」

「あ、ちょっといいですか?

 もしご存知でしたら教えて欲しいんですけどーーSPACEってライブハウス知ってます?」

 

ちょうどいいタイミング。

これも機会があったら、聞こうと思ってたんだ。

 

SPACEは劇中で中心となるライブハウスだ。香澄はそこでグリグリのライブ見てバンド組もうと決意するし、アニメの最終目標はそこでライブをすることだ。

できれば一回くらい足を運んでおきたい。

 

でもなぜか、ぐるぐる先生とかに聞いても教えてくれないんだよね。

楽器店のバイトやってれば、そこら辺の情報には詳しいとにらんだが果たして。

 

「SPACE? うーん、なんか聞いたことある名前だけど……あ、もしかしてあそこかな?

 だけど、あー、どうだったけ? あそこはたしか……」

 

…………

 

……

 

 

「……あの、ここ何もないんですケド?」

「あちゃー。やっぱここだったんじゃー。風の噂で聞いた潰れたって話は本当だったみたい」

 

鵜沢リィに案内されて連れて行った先にあったのは、一面のまっさらな更地だった。

 

大変!

スペースが、空きスペースになっちゃった!!><


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