【完結】アーロン帝国建国記(仮)   作:あきすて

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アーロン帝国建国記
(建国出来るとは言ってない)

これにて終了。






最終話 ノジコ love&peace

「やっぱ、これが運命(さだめ)か」

 

 そう呟いたシュヴァは項垂れた。

 シュヴァの大きな身体が小さく見える。

 

「ナミぃぃぃっ! お前は俺の仲間だぁぁ!」

 

「うんっ……!」

 

 崩れ落ちたアーロンパークのてっぺんでゴムの海賊が叫ぶと、ナミが頷いた。そこに村の皆が駆け寄り歓喜の輪が出来上がる。

 私もあの輪の中に入っていきたいけれど、頭を垂れたまま動かないシュヴァも放っておけない。

 

「シュヴァ……」

 

 アーロンが倒れ嬉しくないと言えば嘘になる。

 だけど、こんなシュヴァも見てられない。

 シュヴァなら自分たちの行いが島の人達を苦しめているって判っていたハズなのに、一体どうしてそこまでアーロン一味の為に働くの?

 

 シュヴァは子供の頃からずっとアーロン一味の為に働いてきた一方で、私達やナミの為に尽力してくれていた。

 ナミから何度か聞かされたアーロン暗殺阻止なんてその典型的なものよ。

 アーロンの暗殺が成功するならまだ良い。

 でも、下手に手傷を負わせて失敗していたら、ナミは確実に殺される。

 そうさせない為に庇ってくれている。

 私はそう考えていたけど、違うのかい?

 

「そこまでだ、貴様らぁ!」

 

 シュヴァへの二の句が告げられずにいた私の耳に聞こえてくる嫌な声。

 ぞろぞろと海兵を引き連れてやって来た、ナミのお金を奪い、私を撃ったフードを被った海軍准将。

 

「ちちちちっ。今日はなんというラッキーディ。いやぁご苦労。闘いの一部始終を見させて貰った。まぐれとはいえ貴様らの様な名もない海賊ごときに魚人どもがよもや負けよう等とは思わなかった。全員武器を捨てろ。貴様らの手柄、この海軍第16支部准将、ネズミが貰ったぁ」

 

――ダダダダダダンっ!

 

 あまりにもな海軍准将の言い分に腹を立てたのか、腹巻きの剣士が背後から近よるも、その足元に撃ち込まれる無数の銃弾。

 

「ちちちちっ……ここは完全に包囲している。次は威嚇では済まさんぞ」

 

 いつの間に!?

 周囲を見てみると、アーロンパークの三方を囲む外壁の上に銃を乗せ、多くの海兵達が狙いを付けている。

 そして、その銃口の先は倒れた魚人達だけでなく、村の皆にも向けられている。

 

 なんなのコイツら?

 コレが海軍のやることなの!?

 

「ガイハショーっ!!」

 

 えっ?

 今の……何?

 立ち上がったシュヴァの伸ばした手から、幾本もの光の帯が放たれた。

 東の外壁の上で村の皆に狙いを付けていた海兵達が、光の帯によって纏めて吹き飛んだ。

 

 それを見ていた海賊が「びーむだっ、スッゲェ!」って目を輝かせてるけど、がいはとかびーむって何なのよっ!?

 

「退いてろよ、ロロノア・ゾロ。ソイツは俺達に用が有って来てるんだ。そうだろ? 准将殿」

 

 焼け石に水だな、そう呟いたシュヴァは腹巻きの剣士を押し退け海軍准将の元に歩いて行く。

 すかさず海軍准将の側にいた海兵達が、シュヴァに銃を向けると狙いを定めた。

 

「ちちちちっ。海軍としての職責を全うするために来てやったのだよ」

 

「ご苦労なこった。でもな? たかが500やそこらで俺とやり合えると思ってんのか?」

 

「ちちちちっ……千人殺しのシュヴァ。大層な通り名だが、これでどうかな? おい! 連れてこい」

 

 准将が合図をすると、外壁に空いた穴の向こうに鎖で縛られ、顔を腫れ上がらせた魚人が姿を表した。

 

 酷いことするもんだね。

 捕まえるだけならあそこまで痛めつけなくたって良いじゃないか。

 

「チュウ……」

 

「無策で来るわけがなかろう? 暴れるしか脳がない貴様らとは違うのだよ」

 

「なるほど。どうやらお前を出世させ過ぎたみたいだな。んじゃ、まぁ、取り引きといくか」

 

「ちちちちっ。何のことかね? それに、取り引き? この状況で何を言っている? 貴様ら薄汚い魚人共は全員捕縛! アーロンパークに蓄えられた金品は全て私の物だ!!」

 

「ハァ? 状況が判ってねーのは、テメェだネズミ。そいつらに手ぇ出してみろ。一人残らず殺してやるぜ。お前らに俺を殺すことは出来ないが、俺はお前らを皆殺しに出来るんだぜ? 譲歩してやってるのはこっちなんだよ!」

 

「じゅ、准将……ここは聞いても良いのでは?」

 

「よ、良かろう。言ってみろ」

 

 身体から黒い煙の様なモノを立ち上らせたシュヴァの迫力に押された海兵が進言すると、准将は冷や汗を垂らしながら交渉に応じた。

 

 そうしてシュヴァが語った取り引き案。

 それは賞金首である自分とアーロンの身柄と引き換えに、他の魚人達は見逃せといったモノだった。

 

「馬鹿じゃないのっ!? なんでアンタがそこまでしてやらなきゃいけないのさっ!」

 

 シュヴァの側に駆け寄った私は、丸太の様な腕にしがみつくと身体を揺らせて訴える。

 

 シュヴァ一人なら絶対逃げられる。

 いえ、逃げなくたってホントに皆殺しに出来るだけの力をコイツは持っている。

 

「賞金首だし、捕まるだけの事はしてきたからな」

 

「そうじゃなくって、どうして逃げないの!? どうして闘わないのよっ!」

 

「はぁ? 闘える訳ねーだろ? ()()()()()()()()んだよ。そりゃあ3分もあれば海兵(クズ)共を皆殺しにする自信はある。でもな? この状況で俺が闘うと、魚人の誰かが殺されることになる。俺達が捕まる事で誰も死ななくて済むなら、アーロンだってこうするさ」

 

「ちちちちっ。なるほど、なるほど。そういうことなら、悪くない。先にアーロンの身柄を拘束! 貴様らが不当に蓄えた金品は没収!! それで構わぬなら受けてやろう」

 

「さすがに順序は間違えねーか。ま、交渉成立。念のために言っとくが、絶対に殺すなよ? アーロンを殺せばこの場にいる全ての人間が死ぬと思え」

 

 お手上げのポーズを取ってそう言ったシュヴァは、手は出さないとばかりに腕を組んだ。

 

「ちちちちっ。アーロンを捕らえよ!」

 

 海軍准将が指示を出すと、意識を失ったアーロンの元へ鎖を持った海兵達が群がっていく。

 

 私には理解できない。

 

「なんで……」

 

「ん?」

 

「なんでアンタが捕まらなきゃいけないのよっ。アーロンだけ差し出せば良いじゃないか!」

 

「いや、別にそこまで変な話じゃないだろ? お前らだってナミの為に命をかけて反乱を起こしたんだ。誰かの為に命を張るなんてそう珍しくもない。俺に言わせりゃ、ナミに命の危険は無かったってのに、命を賭けるお前らの方が理解に苦しむ」

 

「そっ、それは私達がナミを大切に想っているからだよ。でも、どうして!? どうしてアンタがアーロンなんかの為にそこまでしなきゃいけないか聞いてるの。もうアーロンは倒されたのよ!? 従う必要なんてないじゃないか!」

 

「お前……やっぱり思い違いしてるぞ。ノジコ達から見れば憎い侵略者のアーロンでもな? 俺やクロオビ、他の魚人達から見れば、頼り甲斐のある良いヤツなんだよ。じゃないと、これだけの数の魚人達が故郷を離れて付いてくる訳ねーだろ?」

 

「嘘っ……? アンタ、それ本気で言ってるの?」

 

 アーロンが良いヤツ?

 そんなこと考えもしなかった。

 

「本気も本気。もう時間もねーし、判りやすく言ってやるよ。俺はな、こーんなガキの頃からアーロンの世話になってるんだぞ? 俺にとってアーロンは親も同然なんだ。ちょっと失敗したくらいで親を裏切る奴が何処にいる?」

 

「親? アーロンが……? だったらっ、親だって言うんならっ、侵略的支配(こんなこと)させなきゃ良かったんだよ!」

 

 多分シュヴァが言っているのは義理の親。

 私やナミにとってのベルメールさん。

 意味は判るけど、理解が追い付かない私は変な事を叫んでる。

 親でも子供の行動を正せないのに、子供が親の行動を正すなんてもっと難しい。

 

「そうだな……でも、俺には止められねぇ。アーロンにはアーロンなりにこうするだけの理由が有ったんだ。それがよく解る俺にはアーロンを止められなかった。俺に出来た事はなんとか上手にやりくりする事だけだ……こんな結果になったけどさ、これでも随分マシになってるんだぜ?」

 

 誰にも理解されねぇけどな、と小さく哀しそうに呟いたシュヴァは、ホンの少しだけ笑った。

 

 初めてかもしれないシュヴァの笑顔に、私は何も言えなくなった。

 黙る私達の視線の先で、鎖で縛られたアーロンが台車に乗せられ更に鎖で縛られた。

 アーロンが親だって言うのなら、シュヴァは今どんな気持ちでこれを見ているんだろう。

 

「すまぬ、シュヴァ。おれ達が不甲斐ないばかりに」

 

 クロオビと呼ばれている魚人がお腹を押さえ、ふらつきながらシュヴァの元にやって来た。

 

「別に大したことないさ。生きてる内は何度だってやり直せるし、方針変更は俺の十八番(おはこ)ってやつさ。とりあえず最終プランで撤退。俺とアーロンは監獄に行ってくるから、恩赦よろしく! ってジンベエに言っといてくれ」

 

「お前は……こうなる事を予期していたのか? いや、任された。必ず同胞達と魚人島へ還り、ジンベエさんに伝えておく」

 

「おうっ」

 

 短いやり取りを済ませたクロオビは、シュヴァと拳を合わせると倒れる魚人達の元へ向かった。

 揺り動かして魚人達を起こすと、何事かを囁いていく。起こされた魚人達は海へ飛び込むと、そのまま上がってくる事はなかった。

 

 

「シュヴァ……」

 

「ナミ、とベルメールか……」

 

「ゴメンっ!」

 

 ベルメールさんと並んでやってきたナミは、シュヴァの前に立つと深々と頭を下げた。

 

「はぁ? 馬鹿か? なんでお前が謝る?」

 

「はぁっ!? 人が謝ってあげてんのになによそれっ!?」

 

「ナミがルフィに助けを求めたのは、ナミなりの理由があったからだろ? だからお前は謝る必要がないし、俺もお前に謝らない。ナミから見たら理不尽だろうが、俺達にも俺達なりの理由がある」

 

 シュヴァの煽りにナミがキレるよくある光景。

 でも、何か変。

 このやり取りだけじゃない。

 今日のシュヴァは、いつにも増して物分かりが良すぎる。

 

「理由って何よ?」

 

「聞いてどうする? バカみたいに甘いお前達は、理由を聞けば俺達に同情する事になる。だけど俺達が取る行動が理不尽であることには変わらない。だったら何も知らないで憎む位がちょうど良かったんだよ」

 

「っ!?」

 

「そうかもしれないね。アンタ達への反発心があったから、苦しい時でも何がなんでも生き抜いてやる! って村のみんなは頑張れた」

 

 言葉に詰まったナミの代わりにベルメールさんが答えてる。

 

「そのまま大人しく生き延びる事だけ考えてりゃ良かったんだ。なんで今になって俺達に立ち向か…………なんだ、お前?」

 

 ベルメールさんと話していたシュヴァの様子がおかしい。

 大きな手で口元を覆ったシュヴァは、眉間に皺を寄せると絞り出す様にして声を出す。

 

「命が2つ…………身籠ってんのか?」

 

「うそっ!?」

 

 直ぐ近くにいるナミが驚いてる。

 ナミには後でちゃんと言おうと思ってたけど、どうしてシュヴァに判るんだろう?

 ベルメールさんが妊娠しているのは、つい最近判った事で島を離れていたナミにもまだ言えてない。

 

「へぇ~? 見聞色の覇気はそんなことまで判るんだ?」

 

「俺の見聞色は紛いもんだ。感じた気配を経験則で割り当ててるだけ……じゃなくって、質問に答えろよ!」

 

「あっ! アンタそれで私がアーロンを殺そうとした時に限って邪魔してたのねっ?」

 

「あんな殺気がダダ漏れなら、キロ単位で離れてたって気付くっつーの。じゃなくって、質問の答えはっ?」

 

「私はね……アンタが助けてくれたあの日から、生きてる気がしなかった。生きてるんだけど、自分じゃない様な不思議な感じ。アンタ達に対しては特にそう。不思議な位に反抗しようって気が起こらなかった。多分私はあの日、死んでいたんでしょうね?」

 

「…………それで、何が言いたい?」

 

「だけど、こうして命を授かって、やっと生きてるって実感が湧いたの。そうしたら、やっぱりこんなままじゃいけないと思う様になった。そんな時にアンタ達がナミのお金を盗ったから抗議に来たのよ」

 

「抗議なら代表者が一人で来い。武器を構えて全員で乗り込んだら反乱としか見なせない。いい年こいた上に身重で何やってんだ? ついでに煙草は止めろ。胎児には害しか与えない」

 

 ベルメールさんのお腹を擦りながらの告白を聞いたシュヴァが呆れた様に肩を落とした。

 

「あはは……煙草は駄目なんだ? 変な事を知ってるアンタの言うことだし聞いとくよ」

 

 それから、シュヴァとベルメールさんはよく分からないやり取りを続けた。

 

『自慢の鼻をへし折られないように、せいぜい麦わら帽子に気を付けるんだね』

 

 ベルメールさんがこの言葉を出すと、シュヴァは調べたのか? と察した様に納得すると、余計な事を喋ると命の保証は出来ないと締めくくった。

 

 それから、ナミが遠慮がちにベルメールさんに抱き付いて喜んだ。

 魚人による支配下だったけど、年を重ねて老けていくばかりのベルメールさんを見てられなくて、私とナミとで焦れったい二人を後押ししたのよね。

 

 

 

 

「終わったぞ」

 

 全ての魚人達を海へと送り出したクロオビが再びシュヴァの元へやってきた。

 

「後はネズミの始末か。ま、アレを殺るのに武力は要らねぇ」

 

「違いない」

 

「ネズミってあの海軍准将よね?」

 

「そうだな。ノジコも覚えとけよ。腐った権力者ほど(たち)が悪いモノはない。アレはまだ小物だけど、最悪だろ?」

 

「否定は出来ないね。あんなのが海軍だなんて世も末だよ」

 

「まったくだ。そういや、クロオビ。なんでナミの金を取り上げたんだ? 今更3億盗ったところで大した違いは無かっただろ?」

 

「金が目的ではない。ナミほど優れた測量士などそうはいない。アーロンさんは、いずれ魚人島に帰るお前の為にナミを手元に置いておきたかったのだ」

 

 アーロンが誰かの為に何かをするなんてね……私にとっては意外な事実だけど、話すクロオビにも聞くシュヴァにも特別な感じは見られないから、これが一味にとっての普通なんでしょうね。

 

 誰かを思いやる気持ちは、人間も魚人も変わらない。

 今のシュヴァだってそう。

 アーロンの為に、アーロン一味の魚人の為に自分の身を海軍に差し出そうとしている。

 その気持ちをもう少しだけ、私達にも向けてくれていれば……そう思わずにはいられないけど、それが出来ない理由があるってシュヴァは言っている。

 

「馬鹿かよ……そんなやり方で手元に繋ぎ止めてもナミは俺に靡かない。でも、まぁ、そういうことなら仕方ねーか。ってか、麦わら!」

 

「呼んだかぁ? ……あれ?」

 

 シュヴァが叫ぶとゴムの海賊が飛んできた。

 今は麦わら帽子を被っているけど、さっきまでは被っていなかったハズ。

 ベルメールさんが言っていた、麦わら帽子と関係がありそうだけど、シュヴァはどうしてこの海賊を麦わらって呼んでいたんだろ?

 

 判ってるつもりになってたけど、全然シュヴァの事を判ってなかった。

 

「お前、どうやってナミを口説いたんだよ? ナミの海賊嫌いは筋金入りのハズだ」

 

「おれは別に何もしてないぞ。仲間に成って欲しいから、航海士になってくれって頼んだんだ」

 

「……っ!? あーー……なるほど。そういや、俺は頼んでないな……。もし、俺が……いや、止めとくか。今更言っても詮無きことだ」

 

「ちちちちっ。話は済んだかね?」

 

 タイミングを見計らっていたのか、嫌な笑みを浮かべた海軍准将がやって来た。

 

「なんだ? 待ってたのか?」

 

「思い残しが無いよう話くらいはさせてやる。下手に暴れられても困るからな」

 

「気が利くじゃねーか」

 

「ちちちちっ。では、これをはめてもらおう。よもや貴様が魚人で、魚人の貴様が悪魔の力の持ち主だったとは思いもよらなんだが、これさえ有れば恐るるにたりん。因果なものとは思わぬか? 千人殺しよ」

 

 海軍准将が手にした手錠をこれ見よがしにジャラジャラさせているけれど、あんなものでシュヴァをどうこうできるの?

 アーロンが太い鎖で何重にも縛られていた事を思えば随分と貧相な手錠に見える。

 

「は…………? あー、そうそう。俺ってビムビムの実のビーム人間ダカらナー」

 

 あれ? 嘘を吐いてる?

 というより、シュヴァはさっき海に入っていたし、悪魔の実の能力者なんかじゃないわよね?

 私も詳しく知らないけれど、悪魔の実の能力者って海に嫌われ溺れるから、ゴムの海賊を助けるのに苦労したのよ。

 海軍は闘いの一部始終を見ていたとか言っていたのに誤認するのは、それだけシュヴァのびーむが衝撃的だったのかしら?

 

「おいっ、お前! がっかりさせんなよっ!! 頑張ったらおれもビームが撃てる様になると思ったのにっ!」

 

 ゴムの海賊も下手な嘘に騙されたみたいで、涙目になりながらシュヴァに詰め寄っている。

 

「酷い言い掛かりだな」

 

「悪魔の実の能力なら最初からそう言えよっ!」

 

「知るかよっ。ってか、最初から能力をバラすなんて阿呆のやることだぞ? まぁ、いいや。じゃぁな。未来の海賊王。お前が其くらいになってくれなきゃ、負けたアーロンの立つ瀬がねぇ」

 

 ゴムの海賊はアーロンを倒した憎い相手のハズなのに、シュヴァはどこか楽しげに話すと手錠をはめて私達に背を向けた。

 

「そんなのおれが知るかっ。……んん?」

 

「待ってよ! アンタ、私からノジコを盗んでおいてこのまま何も言わずに行くつもり!?」

 

「盗めてねーし、今はアーロンを選ぶ。俺にはまだ、アーロンとやらなきゃいけないことが残ってるんだ」

 

「は? わけわかんない! 何言ってんのよ!?」

 

「もう良いよ、ナミ。聞いてくれてスッキリしたよ。アーロンはね、シュヴァにとって父親なんだってさ。親を大切に思う気持ちなら私達にも判るだろ? 私より親を取る。それだけの事なんだよ」

 

「そんなっ……!?」

 

 こうしてシュヴァは暴れる事なく、海軍船に連行されていった。

 

 

 

 

「なんだったんだ、アイツ?」

「千人殺しっすよ! 知らねぇんっすか!?」

「千人殺しって言やぁ、何年か前にクリーク海賊団を半壊させたって野郎か」

「その千人殺しっすよ、コックの兄貴。そこの姐さんが押さえてくれてなきゃ、どれだけの被害が出たことか。まさに紙一重で助かりやした」

 

 シュヴァが去り、ゴムの海賊の仲間達が理解が出来ないモノを見たとばかりに好きな風に言っている。

 

「ん~~?」

 

「ところで、ルフィ。お前はさっきから何で首を傾げてるんだ?」

 

 ゴムの海賊が腕を組んで首を傾げていると、ウソップが突っ込みを入れている。

 

「ナミがアイツにオレたちの事を話したのか?」

 

「えっ? そんな暇なかったし話してないわよ」

 

「おかしいなー? なんでおれが未来の海賊王とか知ってたんだ? 海賊王にはなるけど、おれはアイツの前で言ってねぇ」

 

「そう言やぁ、おれを追うのも早かったな」

「おれの名前も知ってたな」

「麦わら帽子を被ってないルフィの事を麦わらって呼んでたぞ」

「って、言うか、思い出した! 私は何年も前からアイツに麦わらの海賊に会ったか聞かれてたわよ!?」

 

「ビームも撃ってたぞ」

 

「いや、それは今関係ねぇっ!」

 

「にしししし。変な奴だったなぁ。でも、気になるし今度会った時に聞いてみるか?」

 

「あんたねぇ……シュヴァは投獄されるのよ!? それに会うって事は私達も投獄されるってことよ。わかって言ってんの?」

 

「いやぁ、そんなことねぇさ。おれはまたアイツに会える気がするぞ」

 

「……どうしてよ?」

 

「ん〰️〰️? 勘?」

 

「あんたねぇ!」

 

 キレているけど、どこか愉快なやりとり。

 ナミが気に入るわけだ。

 

 良かったね、ナミ。

 アンタはやっと自分の居場所を見つけたんだよ。

 

 私は、

 私は……どうしよう?

 

「大丈夫っ。ノジコは私の自慢の娘なんだから」

 

「ベルメールさん?」

 

「シュヴァはね、今はアーロンを選ぶって言ったんだよ?」

 

「あっ……そうか」

 

 今はアーロン。

 

 じゃあ次は?

 

 

 

 

 

 

 アーロン一味が倒れ少しの時が流れた。

 

 あれから崩れたアーロンパークから金品を探しだそうとしていた海軍准将は、()()()()()()()()によって海賊との癒着が暴かれ投獄された。

 後を継いだ別の海軍もアーロンパークに残るハズの金品を探したけれど見つからない。

 結局、金は使い切っていたと結論付けた海軍は、特に島の復興をやること無く帰っていった。

 

 島の経済は悪くなった。

 取り引き先が何処なのか判っていても、魚人が居ないと期日迄には運べない。

 泣く泣くいくつもの契約を打ち切って、近場の取り引き先に絞って頑張っているけど、以前程の売上には届かない。

 アーロン一味が金を出していた仕事は無くなり、職その物を失った人達も随分といる。

 貢ぎ金を払わなくて良くなった分だけ、いえそれ以上に収入が減った感じだけど、それでも皆は笑ってる。

 シュヴァが言う通り、魚人の支配が嫌なだけだったのかもしれないし、そうじゃなく、支配のやり方が嫌だったのかもしれない。

 

 私には、もう分からない。

 ただ、島には平和が訪れた。

 

 出産を控えたベルメールさんは、今は村の中心地の方で暮らしている。

 

 アーロン一味を倒した麦わらのルフィは、あれから世間を騒がせている。

 懸賞金は3000万から1億。

 1億から3億へと跳ね上がり、それに合わせてナミの手配書も届いた。

 元気にやってるって事だけど、海賊嫌いのあの子が賞金首になるなんてね。

 

 

 

 そして、シュヴァ。

 

 

 

「あんたは一体、何やってんだか」

 

『マリンフォード頂上戦争』

『四皇・白ひげ死す!』

 

 一面で大きく踊る文字。

 幾度となく読んだ新聞紙。

 私は紅茶を片手にそれを捲る。

 

『頂上戦争において最も多くの海兵を

 殺めた海賊【海兵殺しのシュヴァ】

 麦わらのルフィと共に監獄を抜け出

 しマリンフォードに現れたこの男は

 手当たり次第に海兵を殺める。

 大将、黄猿に接敵すると狙いを定め

 た様に執拗に攻撃を仕掛ける。

 光速の攻撃を避け続けたこの男は、

 遂には大将・黄猿を殴り飛ばした。

 殴り飛ばされた大将・黄猿は待ち構

 えていた【キリバチのアーロン】が

 手にした武器に依って重症を負う。

 その後、乱入に次ぐ乱入で混沌と化

 した戦場から姿を消した。

 元・七武海クロコダイルと共に姿を

 消したとの情報もあり、その残虐性

 戦闘力から注意が必要。

 懸賞金・1200万→

     2億4000万ベリー  』

 

 

『頂上戦争において大将・黄猿に重症

 を負わせた【キリバチのアーロン】

 麦わらのルフィと共に監獄を抜け出

 しマリンフォードに現れたこの男は

 過去8年に渡って島を支配下に納め

 ていた悪行をもつ。

 大将・黄猿に重症を負わせた武器は

 特別製とされている。

 乱入に次ぐ乱入で混沌とする戦場か

 ら元・七武海ジンベエと共に姿を消

 したとの情報があり、魚人島周辺海

 域の航行は更なる注意が必要。

 懸賞金・2000万→2億ベリー 』

 

 

「ほんと……何やってるんだか……」

 

 アイツの事だから何か理由があるんだと思いたいけど、海兵殺しって一体どれだけ殺したらそうなるのよ?

 

 それに、クロコダイルって確か、何処かの国を乗っ取ろうとしてルフィ君に倒された海賊よね?

 アーロンじゃなく、そんな奴と一緒にいるなんて、今度は一体何を考えているんだか。

 

 

――コン、コンっ

 

 

――コン、コンっ

 

 

 おかしいわね。

 この島にノックを繰り返す様な人はいない。

 

 手にした紅茶をテーブルに置いた私は、期待を込めて声をだす。

 

「はーい。空いてるわよー」

 

「邪魔をする」

 

 そう言ってドアをくぐる大男。

 

「グランドラインの海賊が何の用?」

 

 居丈高に言った私は、その男の首筋に抱き付いた。

 

 

  

 

 

 

 









読んで頂き有り難う御座いました。

大体、思い通り、書きたい様に書けました。
多分、伏線っぽいものは回収出来たと思います。

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