時系列的にはGGOの後です。
これを以て『なんでコイツ等楽しんでんの?』は終了とさせていただきます。
そして最後に、
この小説はフィクションです。
実際の原作・団体・個人名・鹿児島県とは一切の関係がありません。
なお、この作品には極度のキャラ崩壊があります。苦手な方はブラウザバック推奨です。
御徒町の喫茶店『ダイシー・カフェ』。
いつもならそんなに人の居ない時間帯なのだが、今日は珍しくほぼ満員となっていた。そもそも扉に『貸し切り』の看板が立て掛けられているため、部外者が入ってくることはないのだが。
各テーブルでワイワイ騒いでいる者達を横目に、学生服の少女──朝田詩乃はカウンター席でオレンジジュースを嗜んでいた。
そこに近づくのは、店の出入り口近くのテーブルで関節技を決められている少年の妹──桐ヶ谷直葉。
「隣いいですか? ちょっと肩身が狭くって……」
「同感。こっち座る?」
「ありがとうございます、シノンさん」
「ちょ、プレイヤーネームは止めて……!」
ゲームでの名前を出されて赤面する彼女だが、「それもそうなんですが……」と直葉は頬を掻く。
「でもみんなが互いにプレイヤーネームで呼び合っているのに、本名出すと不自然じゃないですか?」
「それは……そうだけど……」
「──ははっ、確かにお前さん達には肩身が狭いな」
カウンター越しコップを磨きながら話しかけてくるスキンヘッドの店主──アンドリュー・ギルバート・ミルズは、同情するように苦笑いしながら、直葉に詩乃が飲んでいる物と同じものを出す。
素直に御礼を言う英雄の妹は、詩乃の隣の席に腰をかける。
「お兄ちゃんから誘われたから来てみたはいいけど……やっぱ場違い感が凄いなぁ」
「リーファはキリトの妹だからまだマシよ。私なんて完全に部外者じゃない。……だからってSAO生還者を羨ましいだなんて一ミリも思わないけど」
肩をすくめる二人に笑う店主。
「確かにデスゲームだって考えれば羨ましいだなんて口が裂けても言えないな。俺としてはゲーム内で死ぬ以外の要因が理由でオススメしないが」
「……それって、
苦虫を噛み潰した表情の詩乃に、スキンヘッドの店主は神妙に頷く。
よく見れば直葉も同じような表情を浮かべていた。
「よくよく考えてみれば、あの五人が二年間もログインしてたのに無事なサーバーってのも、ある意味奇跡ですよね。ALOなんて未だにサーバーが復旧してませんよ。やっぱユグドラシルをクロちゃんが片手で伐採したのが大きかったのかなぁ」
「GGOもね。最終的に銃じゃなくてプレイヤーを投げ合ったとか笑い話にもならないわ。デス=ガンとか『自分から死にに行くアホ』の意味かって疑っちゃったくらい。はぁ……お陰様でみんなが集まれる場が限られてるから困るわ」
「クロ以外の四人も同じことを思ってるだろうよ。脳筋神話生物曰く『その程度で落ちる脆いサーバーが悪い』って話だけどな。というか馴染の中では九州最南端のアイツ等が一番困ってるんじゃないか? やっぱ茅場は天才だったんだろうよ」
SAO事件が終息して一年しか経っていないにも関わらず、遠い昔を懐かしむような表情をした店主はカウンターの端に立てかけてある写真に目を移す。
写真にはSAO事件の諸悪の根源にしてVRMMOの第一人者である男性が写っていた。写真の前に冷めたコーヒーと、どっかのキチガイ共から送られてきた紫芋キャラメルが添えられている。
二人の少女は互いに顔を見合わせて店主に問う。
「どうして彼の写真があるの?」
「そりゃ今日はSAOをクリアした奴等の集まりだからな。この場には居ない立役者のアイツにもコーヒーの一杯くらいは供えたくなったのさ」
「でも茅場晶彦のせいでデスゲームに閉じ込められたんですよね。憎くないんですか?」
「そりゃ憎いに決まってる」
即答した店主に二人は唖然となった。
「でも……」と言葉を続けるスキンヘッドの店主。
「SAOを作った茅場晶彦は確かに憎い。俺は死ぬまで大っ嫌いだと思う。……だが、クリア間近まで背中預けてきた『ヒースクリフ』ってプレイヤーは嫌いじゃないんだ。恐らく今集まってる奴等の大半はそうなんじゃねぇかな」
「……つまり茅場晶彦は嫌いだけど、同一人物のヒースクリフは嫌いじゃなかったと?」
「おかしな話だが、俺は体張ってまで一緒にSAOを楽しんだアイツを嫌いにはなれねぇんだ。あのキチガイ共に関わり過ぎたせいかもしれないが」
確かにキリトやアスナもヒースクリフという人物の話をするときは、茅場晶彦の名と違って嫌悪感などの負の感情を見せない。たとえ事実上は同一人物であろうと、彼等にとって『血盟騎士団団長ヒースクリフ』は『共にボスを倒した仲間』という認識なのだろう。どうも彼等自身も矛盾している感情を不思議に思っているため、そう納得していると詩乃は推測した。
直葉も大切な兄を二年間縛り続けたSAOと茅場晶彦に憎悪を向けたこともあったが、当の本人が気にしていないのだから何も言えない。最悪の犯罪者と世間一般で叩かれている一方、それとは真逆の感情を露わにする攻略組の面々に、彼を殺した少年の妹は複雑な心境であった。
どちらにせよ部外者の自分がとやかく言う必要もない。二人の共通した結論だ。
んなことはどうでもいいとして、と店主は扉の方に目を向ける。
あえて白目を剥いている元黒の剣士は気にしない。
「アイツ等遅ぇ、どっか道に迷ってんじゃないだろうな」
「適当に寄り道でもしてるんじゃないかしら? 放っておきましょ」
「その割にはさっきからずっと扉の方と携帯の方を確認してますよね、シノンさん。ケムッソさんを待っているんですか」
「なぁっ!? 変なこと言わないでよリーファ!」
詩乃が首筋まで赤くして全否定する。
あからさますぎる反応に二人が苦笑していると、外から騒がしい会話が貫通するが如く耳に入る。
『あー、もうクッソ! お前等のせいで一時間も遅れたじゃねぇか! だから早めにホテル出ようって散々言ったのに、このアホ共ときたら……!』
『テメェだってホテル出る二分前まで惰眠を貪ってただろうが! あァン!? というか首都高で延々と同じ道迷い続ける運転手が悪いんじゃねェのかァ?』
『僕は悪くないもんねー。長く寝てたいからって全員のタイマーを三時間ぐらいずらしたけど、僕は全然悪くないもんねー。無罪を主張する』
『いやいや、一本道の我等が高速道路と同じ感覚で喋られたら困ります。あんなの人間が通れるような道路じゃないですよ。一番悪いのはタイマー弄った自宅警備員です』
『ごっはんー、ごっはんー』
「「「………」」」
互いに目を合わせた三人は、それぞれの反応を示すのだった。
「やっぱ迷ってたじゃねぇか」
「あはは、ちょっとお兄ちゃん起こしてきます」
「何やってんのよアイツ等は……」
貸し切りだった喫茶店の扉が大きく開かれる。
そこに入ってきたのは──
SAO事件を知る者は多いだろうが、結末を知る者は少ない。
それも攻略組しか真相を語るものがいないからだ。
後に出版される『SAO事件の真相』を記したドキュメンタリー。
最後の章はこう締めくくられていた。
「ラスボスであった茅場晶彦を、《黒の剣士》キリトと《お祭り男》ヒースクリフが打倒した」と。
最後に一言
《Hamutarosaan》……読者の皆様方
《Wurmple》……長らくのご愛好
《neetsamurai》……誠にありがとうございました
《Madhatter》……また機会があればお会いいたしましょう
《Clover》……まそっぷ
次回作……https://syosetu.org/novel/170487/