バカは死んだら治るのか?   作:夏のレモン

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お待たせしました…。今回もまた期間が空いてしまい申し訳ありません。




傷だらけのならず者 : 後編

 

 

 

そこは管理外世界の無人島と思われていた場所。テロリスト達は島一つを拠点にしていた。

地上には数え切れないほどの完全武装した兵士に無数の兵器が設置されており、空中には最新型ガジェットが巡回していた。島の地下には数々の戦争屋たちにより運び込まれた武器が大量に積まれている。

 

そんな物騒な島の中心、一番高い建物の最上階にイクスはいた。

 

「う……」

 

目が覚めるとイクスは手術台の上に拘束されていた。身体には無数の機械が取り付けられている。

 

「申し訳ありません。少々強引な手段を取ったので管理局に我等の存在がバレてしまいました」

 

「いや、どうせあの世界も破壊するんだから大した問題じゃない。むしろよくやってくれたよ」

 

話し声が聞こえイクスがゆっくりと目を開けると、此方を覗き込むトレディアと目があった。

 

「お目覚めか。まったく手間をかけさせてくれたな? お前を手に入れるのにどれだけ金をかけたか。まあ結果こうして手に入ったんだからそれでよしとしよう」

 

イクスは上機嫌に語るトレディアを睨みつけた。

 

「……私をどうするつもりですか?」

 

「んー? フフフッ」

 

トレディアは満面の笑みを浮かべマリアージュの方へ視線を向けた。マリアージュは淡々と複数の死体の状態を確認していた。

 

「アレはマリアージュの中でも別格でね。戦闘能力だけじゃなく高い知能も兼ね備えている。お陰で君の効率的な使い方を知ることができた」

 

「使い……方……?」

 

「そうだともっ!!」

 

トレディアが目で合図を送るとマリアージュは確認作業をやめ、イクスの胸に手を置いた。

 

「失礼いたします」

 

直後、マリアージュから流れてきた力がイクスの奥深くを掴んだ。

 

「あ、アァァアアアア!?!?」

 

直接心臓を握られたと錯覚するほどの激痛がイクスを襲う。逃れようと暴れても完璧に拘束されていて身動き一つ出来ない。

 

マリアージュは強引に握ったモノを摺り出す。その手には魔力の塊のようなものが握られていた。

 

「ッ……!? それ、は……!!」

 

イクスの表情が歪む。マリアージュは再度イクスの胸に手を当てた。

 

「キャァアアア!?!?」

 

その行為は何度も何度も行われた。トレディアはマリアージュの手に握られているモノを見つめ目を輝かせていた。

 

五回ほど繰り返し限界だと判断したのか、マリアージュはイクスから離れた。

 

「ハッ……ハァ……ハァ……」

 

マリアージュは喋ることすら出来なくなったイクスを無感情に一瞥し、複数あった死体に魔力の塊を入れた。すると五体の死体が目を開き何事もなかったかのように立ち上がった。

 

マリアージュは数歩ほど離れトレディアに成果を見せつけた。

 

「このようにより深く潜って取り出せば私と同等の性能を持った個体を作り出せます。通常種程度であれば機械によるコアの自動生産も可能でしょう」

 

「ッ〜〜!! 素晴らしい!! ハハハハハッ!! これで私は悲願を果たせる!」

 

トレディアは子供のようなテンションで歓喜した。目を輝かせ使命に燃えるトレディアを衰弱した声が水を差した。

 

「……バカな事はやめて」

 

「なに?」

 

息も絶え絶えになりながら呟かれた言葉に、トレディアは表情を一変させた。

 

「……今なんて言った? バカと聞こえた気がしたんだが」

 

怒気を滲ませるトレディアに怯むことなくイクスは言葉を続けた。

 

「……そんな事をしても誰も幸せになんかなれません。もう誰かを傷付けるのはやめてくださ──ッ!!」

 

パァン!!

 

トレディアはイクスの頬を思い切り平手打ちした。

 

「黙れ!! 今も昔も兵器としての価値しかないガキに何が分かる!! 俺は世のため人のために立ち上がったんだぞ!! それをバカだと!?」

 

トレディアは口調を変え、激しく怒鳴りながら拳を振り上げた。

 

「っ……!」

 

思わず目を瞑るイクスだったが、いつまで経っても衝撃はこない。恐る恐る目を開くと、マリアージュがトレディアの手を掴んでいた。

 

「落ち着いてください。彼女を殴ったところで何も得るものはありませんよ」

 

「あ、ああ……」

 

無感情に諭されたトレディアは気の抜けた返事をしイクスから離れた。マリアージュは離れていくトレディアを確認してからイクスの方を振り返った。

 

「冥府の王と呼ばれた頃とどこか違いますね。あの死んだ傭兵に何か吹き込まれましたか?」

 

「っ……!」

 

イクスは泣きそうになるのを堪えながら反論した。

 

「……死んで……ません……!」

 

その言葉にマリアージュは静かに首を振って否定した。

 

「死にました。その証拠に死体も確認したと報告が届いて──」

 

そこまで言いかけた時、マリアージュの思考に何かが引っかかった。

 

(死体を確認……?)

 

押し黙り、改めて事実を見直す。

 

(あの炎に包まれ滅茶苦茶になった店内を、しかも管理局が迫る中で死体の確認をする余裕があるのだろうか? それにまだ兵士達の帰還報告を受けていない。そろそろ戻ってもおかしくないはずなのに)

 

「っ!!!」

 

ハッと一つの答えに辿り着いた、その時だ。

 

爆音が鳴り響き島中の建物が揺れた。

 

「な、なんだ!? 何が起きてる!?」

 

あまりの揺れに尻餅をついたトレディアの前に部下のモニターが映った。

 

『て、敵襲です! 地下の倉庫が爆破されました!! 襲撃者は現在島中の建造物及び兵器を破壊して回っています!!』

 

「なんだと!?」

 

「まさか……!!」

 

部下からもたらされた情報にトレディアは驚愕し、マリアージュは思わずモニターの方に視線を向けた。

 

「数は!?」

 

モニターの映像が変わり基地内を走り回る車が映し出された。

 

『ふ、二人です!!!!』

 

「はぁっ!?!?」

 

素っ頓狂な声を上げるトレディア。そうこうしている間にも自分達の基地が質量兵器によって次々と破壊されていくのがモニターに映り続けている。

 

トレディアは額に血管を浮かべて部下を怒鳴り散らした。

 

「ッ〜〜!! 何をしているんだ!! とっとと殺せ!! 手こずるようなら新型ガジェット兵器も使え!!』

 

『そ、それがガジェット兵器も──「ギャァアアア!?」

 

悲鳴と共に先程までモニターに映っていた男がガジェットと共に窓を突き破ってきた。

 

「なぁぁああ!?!?」

 

トレディアが慌てて地上を見下ろすと、二人の男がボロボロになった車を乗り捨て生身で戦っていた。部下達が次々とチリゴミのように吹き飛ばされている。

 

「そ、そんな……バカな……!!」

 

「……」

 

あまりの事態にトレディアは唖然としたまま声を絞り出し、これまで無表情だったマリアージュは眉を顰め唇を噛んでいた。

 

 

………………

 

 

魔力弾と怒号が飛び交う中、二人の男が嵐の中心になっていた。

 

「オォォォオオッ!!!」

 

ガーラの拳の一振りはあらゆるモノを吹き飛ばし、敵の放ったあらゆる攻撃は強固な肉体に弾かれた。

 

「ラァァアアッ!!!」

 

アントの刀の一振りは流れるように敵を切り刻み、敵の攻撃は全て紙一重で躱されていった。

 

「どうなってるんだ一体!? なんで俺達が押されてるんだ!?」

 

「ひ、怯むな戦え!! たかが二人に負けるなんてあってはならない!!」

 

「ふざけるな!! これをどうやって止めろってんだ!?」

 

あまりに異常な事態に兵士達は動揺し思わず二人から距離をとった。

ガーラとアントは敵が怯んだと見るや否や、背中合わせになって呼吸を整える。

 

「おいまだか。流石にキリがねえぞ」

 

「安心しろ、見つけた。この混乱で情報が集まった場所はあそこの最上階だ」

 

ガーラはトレディアがいると思われる巨大なビルに視線を向けた。アントは建物の方を一瞥し溜息を吐いた。

 

「時間が惜しいとはいえ……ちと強引だったなぁ。見ろよ、凄え囲まれてるぞ」

 

呆れた様子で自分達を囲う敵を眺めるアント。ガーラはそんなアントへ挑発するような口調で告げた。

 

「なんだもうへばったのか。なんなら俺に任せて休んでいてもいいんだぞ?」

 

「ふざけろ。まだまだ余裕だっつの。お前こそ力み過ぎてんじゃねえか? 魔力尽きたら置いてくぞ」

 

二人は互いに憎まれ口を叩き合い、笑みを浮かべた。

 

「ククッ」

 

「クハハッ」

 

二人は各々の武器を構え直しトレディアのいる方を見据えた。

 

「お前は前だけ見てればいい」

 

「背中は任せろ」

 

ガーラとアントは目の前の敵へ襲いかかった。

 

 

………………

 

 

モニターに映るガーラとアントは益々加速しながら飛び交う魔力弾を掻い潜り真っ直ぐ猛進してくる。イクスは死んだと思っていた二人が生きていた喜びで涙を流した。

 

「ガーラさん!! アントさん!!」

 

そんなイクスとは対照的にマリアージュはどんどん迫ってくる二人を見て険しい表情を浮かべていた。

 

「……あれほど徹底したのに生き延びているとは驚きですね。しかも二人で攻め込んでくるとは……」

 

「どういうことだ!? たった二人を相手にこんな事になっているのか!? いやもうなんでもいい! 早く殺せ!!」

 

喧しく騒ぐトレディアを無視してマリアージュは思考を巡らせた。

 

(二人だけであれば侵入は容易い。それより問題は先程の揺れです。煙が上がってる場所からして地下倉庫が爆破された可能性が高いですね。その上先程の質量兵器攻撃で此方の主要施設が全て大破している……)

 

あの二人は相当手慣れているようだ。奇襲を仕掛けられた一瞬で此方の機能が大幅に削られてしまった。

 

マリアージュは無意識に唇を噛んだ。

 

(もはや兵士達には奴らを仕留めるだけの力がない。残された手段は……)

 

マリアージュはすべき対応を思案し終え、未だ騒ぎ立てるトレディアに声をかけた。

 

「落ち着いてください。この際です、彼等には実験台になってもらいましょう」

 

「実験台……?」

 

トレディアの呟きにマリアージュは頷いてみせた。

 

「通常個体のマリアージュの力は熟知していますが私のような特殊個体のデータは足りていません。見ての通り彼等であれば全力を発揮出来るかと」

 

「おお! なるほど!!」

 

トレディアは目を輝かせてマリアージュを褒め称えた。

 

「君はやはり優秀だな!! ただの兵器なのが勿体無いくらいだ!」

 

マリアージュは賞賛を軽く受け流し頭を下げた。

 

「配置はお任せを。万事上手くやってみせましょう。念のため、いつでも逃げれる準備だけはしておいてください」

 

「バカを言うな! たった二人に襲撃されて逃げるなんて真似出来るものか!」

 

声を荒げて逃走を拒否したトレディアをマリアージュは無感情に見つめた。

 

「……ご自由に」

 

マリアージュはそう言うとモニターを見つめ仲間達に指示を飛ばした。

 

 

………………

 

 

ガーラとアントは数人に纏わりつかれながらも更に加速しながら巨大なビルを目指し駆け抜けた。

 

「入口はここかッ!?」

 

「そこしかなかろう!!」

 

包囲網を突き抜け建物へ飛び込んだガーラとアントは同時に振り返り入り口ごと敵を砲撃で消しとばした。出入り口は瓦礫で塞がった。

 

「やっと一息つけたな」

 

「そうでもないようだぞ?」

 

崩れた出入り口から視線を移すと、部屋一面にマリアージュ達が全身を武器に変えて待ち構えていた。

 

「……まるでマリアージュの巣窟だ」

 

「第二ラウンドだ。受け切れるか?」

 

「やってみよう」

 

アントの魔力弾が飛びかかってきたマリアージュを撃ち抜いた。マリアージュは一瞬硬直した後、人の形を崩しながら熱を溜め込み始めた。

 

アントはすぐさまガーラの後ろに回り込む。ガーラは防壁を張り真正面から爆発を受けた。マリアージュの爆発はガーラの防壁に傷一つ付けられなかった。

 

「ふむ、まあまあの威力だ。ドクターには負けるがな」

 

「ああそうかい。俺からしたらどっちも変わらねえよ」

 

何故かドヤ顔のガーラにアントが呆れていると、残されたマリアージュ達が二人に組みつこうと近づいて来た。

 

「突っ込むぞ!」

 

「よっしゃ!」

 

アントはガーラを盾にしながら流れ作業のごとくマリアージュ達を処理していき、ガーラは防壁を張ったまま強引に爆炎を突き抜けた。二人はミサイルのように上階へと駆け上がっていった。

 

「こりゃあ楽でいいな! 全然衝撃がこねえや!」

 

「当然だ。熱も通さん」

 

そうやって駆け抜けていた最中、一体のマリアージュがガーラの真正面に立ち塞がった。

 

アントはこれまで同様に銃弾を放ったが、やすやすと躱されてしまった。明らかに今までの鈍重なマリアージュとは違う個体だった。

 

「ガーラ」

 

「ああ」

 

アントとガーラが立ち止まると、五体のマリアージュが並び立った。

 

マリアージュ達はガーラとアントが止まったのを見るや否や一斉に手を切り燃焼液を飛ばしてきた。

 

「「ッ!」」

 

嫌な予感がした二人が飛び退き回避すると、液体は床に着いたと同時に凄まじい爆炎を作り上げた。

 

「ぬぅ!?」

 

「うおっ!?」

 

腕を盾にして爆風に耐えながらガーラとアントは見覚えのある威力に驚き目を見開いた。

 

「これは……!?」

 

「俺の店襲ったのと同じタイプか!?」

 

爆風が止むと同時に五つの刃が二人を襲った。アントは瞬時に銃を刀に変え、ガーラの前に回り込み全ての刃を受け止めた。

 

「「「「「ッ……!!」」」」」

 

そのまま押し切ろうと力を込めたマリアージュ達だったが受け流され上手く力が伝わらない。

 

アントは刃を受け止めた状態のままガーラに声をかけた。

 

「本当は店壊した奴を相手にしたかったんだけどな。俺はこいつらで我慢してやるよ」

 

「ああ、助かる。ここは任せた」

 

ガーラは五体のマリアージュをアントに任せ次の階へ走り出した。マリアージュの一体がガーラを追おうと動き出したが、鼻先を掠めた斬撃に止められてしまう。

 

「どこ行くんだ? お前らの相手は俺だぞ」

 

「「「「「……」」」」」

 

五体のマリアージュはアントを強敵と判断したのかすぐさま距離を取り、出方を伺うようにアントを取り囲んだ。アントは刀を構えマリアージュ達を見据えた。

 

「こりゃ骨が折れそうだな」

 

そう言いながらアントの口元には笑みが浮かんでいた。

 

 

……………

 

 

ガーラが最上階に上がると、アントの店を襲ったマリアージュが待ち構えていた。背後にはバインドで拘束されたイクスと余裕の表情を浮かべるトレディアがいる。

 

「はははっ! のこのこやってきたな! 今更降伏しても遅いぞ! 貴様の死は決まっている!」

 

「その言いよう。相変わらずのようだな」

 

「なに?」

 

まるで知り合いのような話方に違和感を覚えたトレディアはガーラを凝視し、やがて何かを思い出したように目を見開いた。

 

「お、お前は!! あの忌々しいスカリエッティと一緒にいた……!」

 

「久方ぶりだなトレディア。未だにバカな妄執に取り憑かれているとは思わなかったぞ。そんなだからドクターに相手にもされないのだ」

 

「っ〜〜〜!?!?」

 

トレディアは顔を真っ赤にさせて怒鳴り散らした。

 

「殺せっ!! コイツだけは絶対許さん!!」

 

「言われなくとも」

 

マリアージュはトレディアとガーラの間に割り込んだ。ガーラはそんなマリアージュを気にしながらも背後にいるイクスに声をかけた。

 

「無事か、イクス」

 

「は……い……」

 

イクスは憔悴しきった声で答えた。明らかに弱っているイクスにガーラは表情を険しくさせた。

 

「少し待っていろ。すぐに終わらせ──」

 

ガーラがイクスに意識を逸らした瞬間、首元目掛けて刃が突き出された。刃はガーラに届くことなく障壁に弾かれる。

 

「随分とご挨拶だな」

 

ガーラは刃を突き付けたままのマリアージュを見下ろした。

 

「好機と見たので攻撃しました」

 

「合理的で結構なことだ」

 

マリアージュは再度刃を突き出した。ガーラは迫る刃に拳をぶつけ合わせた。

 

ギリギリと拳と刃が競り合う。ガーラとマリアージュの力は拮抗していた。

 

「見た目に似合わず大した力だな」

 

「意外でしたか? こういう事も出来ますよ」

 

そう言うとマリアージュは刃を大砲に変え魔力弾を放った。ガーラは臆することなく冷静に魔力弾を素手で弾いた。

 

「なるほど、どんな武器でも自由自在というわけか」

 

淡々と解析するガーラ。マリアージュは一切動揺した様子のないガーラに対し攻め方を変えた。

 

「それにしても予想外でした、あなたが協力者を見捨てるとは」

 

「……なに?」

 

マリアージュの言葉にガーラの眉がピクリと動いた。

 

「見捨てた……だと?」

 

見るからに動揺したガーラを見てマリアージュは更に言葉を重ねる。

 

「ええ。お連れ様も只者ではないようですが、あのマリアージュは一体一体が戦場を左右するレベルの兵器です。彼の魔力量ではいずれ力尽きるでしょう。貴方が留まっていたなら話は別でしたが」

 

そう言いながらマリアージュは戦うアントの姿が映っているモニターに視線を向けた。視線に釣られてモニターを見たガーラは納得したように声を上げた。

 

「ああそういうことか。見捨てたなどと言うものだから誰の事かと考えこんでしまった」

 

「……?」

 

思っていた反応と違いマリアージュは動きを止めた。

 

「心配無用だ。あれでどうにかなるならとっくに俺が殺している」

 

「……はい?」

 

予想外の言葉にマリアージュは思わず声を上げてしまった。

 

「……理解できません。貴方達は仲間ではないのですか?」

 

マリアージュの言葉にガーラは笑みを浮かべた。

 

「仲間ではない。信用しているだけだ」

 

 

 

…………………

 

 

そんな信用に反して、アントは苦戦を強いられていた。

 

「うぉっ!?」

 

身をのけぞらせ燃焼液を回避するアント。飛沫となった燃焼液は一瞬遅れて爆発を起こした。

 

「くそっ! さっきからずりーぞ!! ポンポン爆発させやがって!」

 

マリアージュ達は腕をガトリングや大砲に変化させ距離を取りながらアントを常に囲み続けていた。さらに大量の魔力弾に混ざって燃焼液も飛ばされてくる。

 

アントの唯一の遠距離武器である銃弾は全て躱され床に穴を増やす程度しか出来ていなかった。

 

『どうやら急がずとも対処可能と判断されたようですね』

 

「じっくり体力削ろうってか。下にいたマリアージュ達より頭回るみたいだな」

 

そうして躱し躱されを繰り返していくうち、頃合いと見たのかマリアージュのうち二人が手を刃に変えて切りかかってきた。

 

「ッ!?」

 

アントは一人の刃は躱したものの、もう片方の刃は躱しきれず頬に傷を負った。

 

それを見たマリアージュ達は徐々に両腕の武器を鎌や剣といった近接戦闘のものに変えていった。

 

「ちっ……!」

 

アントも銃を刀に変えて対応したものの、マリアージュ達の手数が多く傷が増えていく。

 

「はぁ……はぁ……」

 

アントは限界が来たのか力が抜けたように膝をついた。それを見たマリアージュ達全員が手を刃に変えた。

 

「極度の疲労確認」

 

「仕留めよう」

 

マリアージュ達が一斉に膝をつくアントへ飛びかかった。

 

次の瞬間。

 

「神速」

 

アントが風のようにマリアージュ達の間をすり抜けた。マリアージュ達が突然の事に反応出来ずにいると背後からアントの声が響いた。

 

「不意打ち上等。騙されやすい純粋な奴らで助かったぜ」

 

アントが刀を納めると同時に足場が崩壊しマリアージュ達の四肢が落ちた。

 

「「「「「ッ!?!?」」」」」

 

思わず目を見開いたマリアージュ達の視界にアントの姿が映る。先程の疲れた様子は一切なく平然と立っていた。

 

「まさか……罠……!」

 

マリアージュ達は自分達が嵌められた事を理解した。

 

無駄に銃を撃っていたのは床を穴だらけにして脆くするため。

 

刃を避け切らず傷を負い続けたのは近接戦が有効だと思わせ此方を纏めるため。

 

全てはこの時のための布石だった。アントは徐々に落下していくマリアージュ達にニヤリと笑みを向けた。

 

「下手に傷付けたら大爆発だもんな。俺から離れてもらうのは当然だろ?」

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

マリアージュ達はなんとかしてアントを巻き込もうともがくがもう遅い。

 

全てのマリアージュ達が下階に落ちていき、轟音と共に大爆発を起こした。

 

「怖いねぇ。一体でも自爆特攻されてたら俺の負けだったな」

 

アントはとてつもない熱量を肌に感じながら自分のところまで飛んできた火に煙草を掠らせ一服した。

 

「……………さて、と」

 

束の間の休息を終え煙草を捨てるアント。爆発が収まると共に下の方が騒がしくなってきていた。

戦闘に巻き込まれないよう静観していた兵士達がマリアージュの敗北に気付いたようだ。

 

「やっぱり俺が足止めしなきゃだめだよなぁ」

 

『状況からしてそのようですね』

 

「……しゃーねぇ、か」

 

アントは戦闘音が鳴り響く上階を一瞥し再び刀に手を添えた。

 

 

……………

 

 

苦戦していたアントに対してガーラの方は圧倒的だった。

 

大砲やガトリングは障壁で阻み、刃は片っ端から叩き壊していた。

 

「くっ!!」

 

刃が通用しないと悟ったマリアージュは自身の燃焼液をガーラの周囲に撒き散らし爆発させたが、ガーラは一切ダメージを受けた様子もなく爆炎から出てきた。

 

「これはすでに見た。防御は容易い」

 

「ッ……!」

 

ガーラは全身から膨大な魔力を発しながらマリアージュへ歩み寄る。

 

「諦めろ。お前では俺に勝てない」

 

「……」

 

なす術がないマリアージュ。トレディアは焦った様子で声をかけた。

 

「は、話と違うぞ!? しっかりしろマリアージュ!!」

 

「黙れ」

 

「そうだ黙………へ?」

 

トレディアはポカンと口を開けマリアージュを見つめた。マリアージュは三日月のような笑みを浮かべていた。

 

「ここを戦場とするのは本意ではありませんでしたが、貴方が相手であれば申し分ありません」

 

マリアージュは爆煙を発生させガーラの目をくらますと、イクスの側まで下がった。トレディアは側まで来たマリアージュに詰め寄った。

 

「おいっ!! さっきのは一体どういう──グホッ!?」

 

「黙れと言ったはずです。もう貴方に用はありません」

 

顔面を殴られあっさり意識を失ったトレディア。マリアージュは床に転がったトレディアに見向きもせずイクスの胸元に手を置いた。

 

「っ!!」

 

イクスは目を見開き逃れようと身をよじるがマリアージュは容赦しなかった。

 

「い、いやッ!!! ッ──!?!?」

 

イクスの声にならない悲鳴と共に一際大きなコアが抜き取られる。マリアージュは取り出したコアを自身の身体に押し当て取り込んだ。

 

「グ──アアアアアア!!!」

 

苦痛の叫びと共に手の刃が溶け、全身に血管が浮かび上がる。真っ黒だった髪は血のような赤に染まり無数の蛇のように靡いていた。

 

「見かけ倒し……というわけでは無さそうだ」

 

怪物のように変化したマリアージュを前にガーラは初めて構えをとった。

 

「……」

 

マリアージュは自身の姿を改めて確認し軽く手を振ると、数滴の燃焼液がガーラへ放たれた。

 

「ッ!?」

 

猛烈に嫌な予感がしたガーラが咄嗟に身をかがめると、さっきまで頭があった空間を抉り取るように爆発が起きた。

 

見るからに上がっている威力にマリアージュは満足げに微笑んだ。

 

「力が溢れてきますね。最悪貴方ごと全て吹き飛ばすつもりでしたが上手く制御出来るようです」

 

「……なぜそこまでする?」

 

悍ましい自身の姿を見下ろし満足げなマリアージュはガーラの問いに淡々と答えた。

 

「私は破壊するために存在し、破壊されるまで戦い続ける。それだけです、それだけでいい」

 

マリアージュは無数の刃を生やしガーラへ切りかかった。速度も先程の倍以上になっている。

 

「クッ!」

 

ガーラは刃を腕で受け止めたが、斬られた箇所が火を吹き出し爆発を起こした。

 

「なに!?」

 

受けに回っていては分が悪いと瞬時に判断したガーラは巧みな足捌きで懐に潜り込みボディブローを叩き込んだ。だが拳はマリアージュの腹部に減り込んだ瞬間爆発を起こした。

 

「ッ──ならばっ!」

 

ガーラは素早く距離を取り魔力を放った。だが魔力弾は放たれたと同時にガーラの手元で爆発を起こした。

 

「なっ!?」

 

やる事なす事全てが起爆に繋がってしまう。

 

ガーラは思わず爆発の衝撃で痙攣する手を見ると、赤い糸状のものが飛び交っているのに気付いた。

 

「これは……髪か……!?」

 

いつの間にかガーラを囲むように赤い髪が漂っていた。魔力弾は髪の毛一本の爆弾に相殺されてしまったようだ。

 

「フフフ……!!」

 

マリアージュが笑みを浮かべながら指を閉じると、髪が一点に集中し絶え間ない爆撃がガーラを襲った。

 

「グッ!? ガッ!? ガハッ!?」

 

防壁を張るも数回の爆発で破壊され、ガーラの身体は徐々に後退し壁際まで追い詰められた。

 

「さあ、どうしますか? 諦めますか?」

 

髪を放ちながら挑発するマリアージュ。ガーラの周囲に再びが髪が張り巡らされる。ガーラはゆっくりと顔を上げた。

 

「……諦めるだと? 何をだ? まだ始まったばかりだろう」

 

その赤い瞳には微かに金色が混ざり始めていた。

 

「俺も全力でいくとしよう」

 

ガーラは腕にこれまでとは比較にならない量の魔力を込め、矢のように飛び出しマリアージュを殴り飛ばした。

 

「グゥッ!!」

 

マリアージュが殴られると同時にガーラにまとわりついていた髪が爆発を起こす。だがガーラは構うことなく再び拳を叩き込んだ。

 

「クッ! そう何度も──!!」

 

マリアージュは腕を盾に変え攻撃を防ごうとしたが、拳は盾を易々と貫き再びマリアージュの胴体へ突き刺さった。

 

「ガハッ!!」

 

先程のガーラのように壁に叩きつけられるマリアージュ。対するガーラも無理を通した代償は小さくなく、身体の至る所に火傷を作り、拳は痛々しく焼け爛れ機械が剥き出しになっていた。

 

マリアージュは目を見開きガーラを見つめた。

 

「……貴方も兵器でしたか」

 

「ああ、俺は戦闘機人だ。失望させてしまったか?」

 

ガーラの言葉にマリアージュは笑みを深めた。

 

「いいえ、むしろ喜ばしいです。戦争とは兵器と兵器のぶつかり合いであるべきですから」

 

マリアージュは壁から抜け出し全身から刃を出した。髪は意思があるかのようにマリアージュの周囲を漂う。

 

ガーラも呼応するように全身に膨大な魔力を巡らせた。戦闘機人としてのリミッターが外れかけているようで瞳がより金色に輝いていた。

 

「さあ、壊し合いましょう」

 

「口上はいらん。来い」

 

次の瞬間拳と刃が、爆炎と魔力がぶつかり合った。とてつもない熱と衝撃が周囲を満たす。

 

炎が肉を焼き飛び交う魔力弾は殺意で溢れている。

 

そんな地獄の中でマリアージュは狂ったような笑みを浮かべていた。

 

「ハハハッ!! これです!! これこそが私の求めていたものです!!!」

 

理不尽な力がぶつかり合う戦場を前にして、イクスは涙を流した。

 

「……やめて」

 

ガーラの血が頬に飛んだ。イクスは全身全霊で叫んだ。

 

「もうやめて!!」

 

想いが込められたイクスの声にマリアージュの動きが止まった。イクスの命令がマリアージュを縛ったのだ。

 

「戦争は遥か昔に終わりました! どうか刃を収めてください!!」

 

イクスの涙ながらの訴えにマリアージュはしばらく驚き硬直していたがやがて優しく微笑んだ。

 

「そうですか……変わったのですね、イクス」

 

マリアージュはガーラに突きつけていた刃を下ろしイクスと向き合った。

 

「貴方の苦悩は知っていました。貴方は誰よりも優しいのに戦国の世がそれを許さなかった。そして貴方もそれを受け入れてしまっていた。しかし千年の月日が過ぎた今、貴方も我々ももう戦わなくてよくなった」

 

マリアージュの言葉にイクスは期待を込めて目を合わせた。

 

「なら……!!」

 

「だからこそ、私は戦争を欲するのです、王よ」

 

「ッ……!!」

 

イクスは思わず息を呑んだ。これまで感情のなかったマリアージュの表情が深い絶望に歪んでいた。

 

「古代ベルカ時代、戦争に負け眠りについた貴方をお守りするために私も深い眠りにつきました、次の戦争を勝利するために。ですが目覚めた私を待っていたのは戦争のない平和な世界でした」

 

マリアージュは嘆くように両手で顔を覆った。

 

「こんなことになるならかつての戦場で果てればよかった。兵器である私にとって今の世は地獄です、とても耐えられない」

 

存在理由だった戦争がない。それは人間並の知能を持ってしまったマリアージュにとって想像を絶する苦痛だった。

 

「我らマリアージュはこの地にて果てます。貴方は貴方の幸せのために生きてください。私に命令できるほど強い心を手に入れた貴方なら大丈夫でしょう」

 

そう言うとマリアージュは腕から無数の刃を出した。イクスは驚愕し目を見開いた。

 

「ッ!? どうして……!?」

 

「命令は未だ有効だ。あれは無理をして動いている」

 

ガーラの言う通り、マリアージュの身体は所々が裂け始めていた。ガーラはイクスに声をかけた。

 

「イクス。命令を解いてやってはくれないか?」

 

「え……!? で、ですがそうなるとまた戦いが……!!」

 

「頼む」

 

「っ………!!」

 

真っ直ぐに頼み込むガーラ。イクスは悩み、やがてゆっくりと頷いた。

 

「分かりました……好きに動きなさい」

 

イクスの命令が解かれた。マリアージュは自由になった身体を確かめながらガーラに感謝を示した。

 

「ありがとうございます」

 

「構わん。目的が何であれ、俺は強き者に最大限の敬意を払う。最後の瞬間ぐらい自由であるべきだ」

 

ガーラの言葉にマリアージュは微笑んだ。

 

「……羨ましいですね。私と同様に兵器として作られたのに貴方は人間にしか見えない。出来ることならもっと早く貴方に出会いたかった」

 

「ふっ、どうだろうな。俺とて数々の出会いがあってここにいる」

 

「出会い……ですか。私にはなかったものですね」

 

マリアージュは諦めたように笑うと全身から刃を生やした。

 

「最後までお付き合い願います」

 

ガーラも同様に構えを取った。

 

「いいだろう、こい!」

 

ガーラとマリアージュは再度ぶつかった。もはや互いに言葉は不要だった。

 

幾重にも立ち塞がる爆炎、触れれば破裂する斬撃の嵐。ガーラはそれら全てを身一つで着実に突破していった。

 

そしてとうとうマリアージュは力をほとんど使い果たした。

 

ガーラは立ち尽くすマリアージュに拳を構えた。

 

ガーラの瞳が黄金に輝くと同時に力の制御が開放され肉体が熱を帯び始めた。あまりの高温にガーラの周囲を漂っていた髪は全て爆発する間もなく燃え尽きた。

 

「ッ……これほどの力を隠し持っていたのですね」

 

「出し惜しみしていた訳ではない。ただ時間がかかるのだ」

 

スカリエッティが生み出した、ただ強くあれと作られた最強の戦闘機人。

 

その力への渇望は留まることを知らず、覇王の力を失ってもなお己を鍛え続けた。

 

結果、ガーラは一瞬のみ覇王をも上回る力を手に入れた。

 

空を断つと言われた拳を超えた、天を引き裂く拳。

 

「絶天拳」

 

床を踏みつけ破壊しながら、全身を霞むほどの速度で回転させる。

 

小細工をする必要がない強者であるガーラの絶対の一撃。

 

空間を歪める程の一撃が真正面からマリアージュを撃ち抜いた。

 

「ッ──!!!」

 

声をあげる暇もなく、マリアージュは衝撃に呑まれた。

 

「………あ」

 

コアが砕けていくのを感じながらマリアージュは自身を一つの存在として向き合ってくれたガーラに感謝した。

 

「あ……りが……とう……」

 

マリアージュは安らかな笑みを浮かべゆっくりと瞳を閉じた。

 

 

 

 

溜め込まれた熱が蒸気として全身から霧散していくと共に瞳の色も普段のものに戻っていく。

 

ガーラは息を荒げながらゆっくり全身の力を抜いていった。

 

「……やはり反動が大きいな」

 

ガーラが小刻みに震える手を抑えこんでいると、ちょうど邪魔者全てを排除し終えたアントが上がってきた。

 

「凄い音だったな。終わったのか?」

 

「ああ、たった今な」

 

一息ついたその時、聞き覚えのある声が響き渡った。

 

「そこまでだ! これを見ろ!」

 

「ン〜〜〜ッ!?」

 

声がした方を見ると、意識を取り戻したトレディアがイクスのこめかみに拳銃を突きつけていた。

 

「クソッ……クソッ!! お前らさえいなければ全部上手くいっていたのに!! どうしてくれるんだゴミ共!! 戦争の恐ろしさを広めるという大義の素晴らしさが何故理解できない!! お前らみたいなのが世界をダメにするんだ!!」

 

ガーラとアントは眉を顰めて顔を見合わせる。

 

「俺、頭悪いからコイツが何言ってるか分かんねえよ」

 

「安心しろ。俺にも分からん」

 

ガーラとアントの反応にトレディアは顔を真っ赤にさせて怒り、拳銃を振り回した。

 

「もういい!! お前ら二人で殺し合え!! さもないとこのガキを殺す!!」

 

「ああ、ちょっと分かりやすくなった」

 

「うむ。腹いせに死ねと言っているのだな」

 

「ッ〜〜〜〜!!」

 

どこまでも緊張感がない二人に我慢できなくなったトレディアはとうとう引き金に力を込めた。

 

「どこまでも舐めやがって!! ならもう容赦し──」

 

トレディアが視線を二人から外しイクスに向けた直後、

 

トレディアの左右の頬に拳がめり込んだ。

 

「──グェッ」

 

二人の拳が交差した直後、トレディアは宙を高速で回転し力無く床に落ちた。死んだように見えるがピクピクと動いているのでただの瀕死だ。

 

「甘いんだよ、バーカ」

 

「次からはもっと用心するといい」

 

 

アントとガーラが事後処理を行なっている間、イクスは瓦礫を見渡していた。あれほど厳重な要塞だった基地は見る影もなくなっていた。

 

「終わったぞ。お前を縛るものはなくなった」

 

イクスの側にガーラが並び立った。イクスはガーラの方を向き丁寧に頭を下げた。

 

「ガーラさん……!! 私助けられてばかりで……!」

 

「気にするな。元々コイツらは気に食わなかった」

 

「……」

 

しばらく沈黙し、イクスは悲しげにガーラを見上げた。

 

「……行ってしまうんですか?」

 

「ああ、これでも追われる身なのでな」

 

「なら私も連れて行ってください……! きっと役に立ちます……!」

 

「バカなことを言うな。平穏のために今日まで頑張ってきたのだろう? みすみす捨てるようなことはするんじゃない」

 

「っ……はい……」

 

寂しそうに俯くイクス。ガーラはチラリとイクスを見て口を開いた。

 

「イクス、お前はここから始まる。この先が良いものになるかどうかはお前次第だ」

 

イクスは驚いて思わずガーラの顔を凝視した。

 

「応援……してくれてるんですか?」

 

「ククッ、さあな」

 

その時、アントが壊れかけの船に乗って現れた。

 

「管理局が来てるってよー! とっととズラかろうぜ!!」

 

「ああ、今行く」

 

ガーラは船の方へ歩き出した。そしてもうイクスを振り返ることはなかった。

 

 

……………

 

 

「なに、これ……」

 

「酷い有様ね……」

 

ティアナとスバルは更地となったテロリスト達の基地を呆然と眺めていた。

 

「ここが本当に通報があった場所なんだよね?」

 

「そのはずだけど……」

 

なぜ執務官のティアナと特別救助隊のスバルが来たのかというと、ミッドチルダを狙っているテロリスト達に救助が必要だという意味のわからない通報がきたからだ。

 

「……事の真相はともかく、とりあえず救助を優先しましょう」

 

「わ、分かった!!」

 

ティアナの指示に従いスバルはすぐさま動き出した。

 

そうして瓦礫の山を掻き分けていた時、一人の少女が立ち尽くしているのを見つけた。

 

「君大丈夫!?」

 

スバルはすぐさま少女に駆け寄った。少女はスバルに気付き口を開いた。

 

「はい、大丈夫です。助けてもらいましたから」

 

「助けてもらった……?」

 

スバルは周囲を見回したが人影一つ見当たらなかった。

 

「君を助けた人はどこに?」

 

「行ってしまいました」

 

そう答える少女の顔は晴れやかで、静かな笑みを浮かべていた。

 

「……」

 

スバルはなのはに助けられた頃の自分と目の前の少女の姿を重ね合わせ、なんとなく理解した。

 

「……そっか、恩人なんだね」

 

「はい、ぶっきらぼうで皮肉屋で……とても優しい人でした」

 

少女の視界には雲一つない真っ青な空が広がっていた。

 

 

……………

 

 

それから数ヶ月が経った。

 

恐ろしいテロリストがミッドチルダを狙っていたというニュースは一時期世間を騒然とさせたが、それも次第に収まり今では誰も口にしなくなった。

 

それでも管理局内では不可思議な事件として記録に残ることになった。

 

島を更地にした謎の組織、テロリスト達が蓄えていたであろう財産の行方、後日になって関わったと思われる裏の大物達の情報がリークされたこと。

 

ティアナは躍起になって真相を掴もうとしたものの首謀者と思われる男は完全に気が狂っていてまともに会話も出来ず、逮捕した者達も襲ってきたのは二人だけだと有り得ない証言しかしない。

 

これでは謎が解明されることはないだろう。

 

事件は主犯格だけを捕らえ迷宮入りした。

 

 

そんな謎だらけ事件を起こした一人は優雅にコーヒーをすすっていた。

 

「ふむ、やはり美味いな」

 

「……そりゃどーも」

 

コーヒーを楽しむガーラの前には喫茶店を建て直したアントが机に突っ伏していた。

 

「奪った金が全部消えるとは思わなかった……」

 

「いつまでも悔やんでいても仕方なかろう? 我らの痕跡を消すには金をかけるしかないのだから」

 

なぜティアナは真っ先にアントを疑わなかったのか、それはアントはずっと買い出しに行っていたというアリバイを金の力で作り上げたからだ。

 

テロリストの突発的な破壊行為に巻き込まれて店が壊されたのは災難だったけど運良く店を留守にしててよかったね、で話は終わりになった。

 

アントは顔を上げ机をバンッと叩いた。

 

「それだけじゃねえぞ! 島への侵入費、質量兵器購入費、喫茶店再建費、その他諸々! 金がかかって仕方ねえ!」

 

「俺としては喫茶店の窓ガラスを全て防弾ガラスにしたのが無駄な出費だったと思うがな」

 

アントはガーラの的確な分析を無視して再度机に突っ伏した。

 

「なぜか察したなのは達にボコボコにされるしでもう散々だ……!!」

 

「ククッ、そいつは重畳」

 

ガーラは再びコーヒーを啜りながら話を変えた。

 

「それで、イクスの様子はどうだ?」

 

「元気だよ。今はスバルの所に引き取られてお前の妹達と一緒に生活してる。幸か不幸か、無理にコア抜き取られたせいで能力が使えなくなったらしい。今のイクスは平凡普通の女の子だ」

 

「そうか」

 

アントの話を聞いたガーラはコーヒーを飲み干し立ち上がった。

 

「行くのか?」

 

「ああ」

 

「様子くらい見ていけばいいのによ。俺から聞くんじゃなく」

 

「元気なのだろう? それだけ分かれば十分だ」

 

そう言い切るとガーラはアントの店を出た。

 

 

そうして別の世界へワープしたガーラだったが訪れた隠れ家の前に松葉杖をついた男がいるのに気付いた。

 

「こんにちは。お元気そうでなによりです」

 

「マーク、生きていたのか」

 

今回の事の発端、ガーラにイクス誘拐を依頼した某国の工作員がそこにいた。

 

「貴方にはしてやられましたね。今回の件で我々は管理局に目を付けられてしまった」

 

「ああ、組織力を恐れる貴様らには最適な対処だっただろう?」

 

「ッ……」

 

マークはガーラの皮肉に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた後、大きな溜息を吐いた。

 

「……やれやれ皮肉の一つでも言ってやろうと思ったのですがやり返されてしまいましたね。まあいいです、我らの目的はあの破壊兵器が危険な組織に渡らないようにすること。冥府の王の確保はおまけです。結果的にはこれで良かったのかも知れません」

 

マークは待機させていた仲間に合図をし転送を開始した。

 

「ではそろそろ帰らせてもらいます。また依頼させていただきますよ、今度は隠し事なしで」

 

「ほう。また俺に依頼するのか?」

 

「当然でしょう? 貴方の個人の武勇は相当なものだと今回の件で思い知りましたから。敵対するより共存共栄です」

 

そうして転送しかけた時、マークは思い出したように口を開いた。

 

「ああそれと、今回は運良く上手くいったようですがこれからはもっと賢く立ち回ることをお勧めしますよ。それでは」

 

ガーラはマークが去った場所を眺めポツリと呟いた。

 

「………賢く、か」

 

信用ならない奴だが言ってることは正しくて合理的だ。本来なら人はそうあるべきで、それを求めるべきなのだろう。

 

 

 

賢く生きる。今のガーラからはかけ離れている言葉だ。何をするにも争い事が絶えない、非合理的な毎日だ。

 

 

 

いつか立ち止まる時が来るのかもしれない。傷付き前に進めなくなる時が来るかもしれない。

 

だが、それは今ではない。

 

 

 

ガーラは車に乗り込み颯爽と荒野を走った。眩い日の光を浴びながら、心地よい風が吹き抜ける。

 

「今日もいい日だ」

 

ならず者は厳しく荒々しい世界を駆け抜ける。傷だらけの自由を謳歌しながら。

 

 

 

 

 

 






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