無個性で普通の俺と魔獣母胎で病んでる彼女   作:鏡狼 嵐星

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修士論文を終え、新社会人としてはや1ヶ月半。
どうにか新生活にも慣れが来て、若干の余裕が出始めてきましたので、書きました。
待っていただいていた方、本当におまたせしました。
ただ非常に申し訳ないのですが、新しい作品に手を出しており、こちらの執筆が滞っている状況となっています(何してんねん、こいつ)。
そちらが盛り上がっていたことも有り、こちらを出すのが遅れてしまい、大変申し訳無い。
そっちがなんかもう話数が二桁くらいストックがあるんですよねえ、なんでやろなあ。
性癖に刺さってしまったんや、許して。
超ゆっくりな投稿になると思いますが、どうかお付き合いいただきたく。
まだ予定している話がありますので。

では、どうぞ。


六つの鐘

「オベロン・ヴォーティガン……!」

 

背後にいた巨大な『奈落の虫』が消滅し、それを構成していたはずの大量の虫たちが空中を蠢き、不敵な笑みを浮かべるオベロン・ヴォーティガンを守るように地面に広がる。

 

「1人くらい手元においていたほうが、都合が良かったんだけどね。ほら、君たちの勝ち筋を潰しておいたほうが面白いだろうし、さ」

 

先程と同じ満面の笑みを浮かべるものの、先程まで感じていた好青年という印象は消え失せ、なにか暗いものを感じさせるものに変化していた。対面している緑谷はその笑みに恐怖を感じながらも、その周辺全体を覆う虫たちに意識を割いていた。

 

(『奈落の虫』が小さな虫の集合体であった以上、人型の彼の能力はその司令塔のはず。つまり、本体よりも虫たちの動きを警戒しなきゃ)

 

「そんなに欲しいならあげるよ」

 

刹那、オベロンが足を振り上げ、その足元に出来上がった黒い球体を蹴り飛ばす。緑谷はそれを反射的に真正面から殴り返すが、殴った瞬間に破裂し、緑谷の周囲に群がるように変形する。

 

「ちょっとさ、露骨すぎない? 虫どもを警戒するのはわかるけどさ?」

 

虫に群がられて動けない緑谷に、虫を使って作った黒い鎌を構えながら、オベロンがゆっくりと距離を詰める。フルカウルを発動して体を震わせるも、虫たちが次々群がっていき、その動きを阻害する。

 

「動けないっ!」

 

「ほら、もう斬れるよ? 早く脱出しなきゃね」

 

オベロンが虫で出来た鎌を振りかぶる。その時、その上空から爆豪が爆発とともに回転して降ってきた。

 

榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)ォッ!!!」

 

爆豪がオベロンの間近に迫った瞬間、地面で蠢いていた虫たちが何本もの触手のように湧き上がり、盾のようにその爆発からオベロンを守る。

 

「熱っ。君もしつこいよね」

 

爆発のせいで焼け焦げた虫たちがオベロンの方の上に落ちるが、その残骸を払うために彼は手を振る。うざったそうに、だるそうに、オベロンは爆豪を見据える。

 

「うるせぇぞ、クソ虫! 防ぐんじゃねえ!」

 

「口、悪すぎない? それとその悪口やめてくれる? 嫌なやつを思い出すんだ」

 

必殺技を防がれた爆豪は、爆発による移動でオベロンから距離を取ろうとするが、オベロンも黒く染まり、霧のような虫の集合となり、爆豪を追いかける。

 

「オラァ!!」

 

オベロンの移動速度から追いつかれると判断した爆豪は、簡易手榴弾をオベロンに向けて投げる。霧の塊にぶつかり、爆発するものの、霧はそのまま進み、爆豪を吹き飛ばす。

 

「……あ~、面倒くさい」

 

爆豪を吹き飛ばした位置で、人型に戻ったオベロンを巨大な風の塊が襲う。しかし、オベロンの頭の上に集まった虫たちが、小さな『奈落の虫』となり、その風の塊を飲み込んだ。

 

「あれを飲み込めるんっスか! やべ~、知性魔獣!」

 

イナサが目をキラキラさせながら降りてくるのを見て、オベロンは心底嫌そうな顔をした。そして、後ろからフルカウルを使って蹴りを放った緑谷を、霧化して避ける。

 

「単純な物理攻撃じゃ避けられちゃう、のか」

 

「虫だからね。……あぁ、ほんと、善ってやつは気持ちが悪い」

 

緑谷、爆豪、イナサの三人と対面するような場所に移動したオベロンは頭を掻き、吐き捨てるように言い放つ。

 

「お前ら、本当に気持ち悪いよ。そんなに一生懸命になって、他人を助ける権利なんて偽善をさ、手に入れて何が楽しいのさ?」

 

三人は恨み節を言われたのに、表情を崩すことなく、答えた。

 

「「「英雄(ヒーロー)に憧れたから」」」

 

心底嫌そうな顔をしていたオベロンの表情から、感情が消える。

 

「はっ、何を言おうと無駄っぽいね。俺を産み落としたあいつらと同じだよ。馬鹿しかいない」

 

オベロンの周囲から黒いモヤが湧き出始めたその時、大きく鐘の音が響く。とても大きいが、決して不快にはならないような心地のいい音だった。

 

「なんで鐘の音!?」

 

「知るか、クソ風ェ。ただ、クソ虫の顔を見ろよ。あいつには都合の悪いことみたいだなァ!」

 

響き渡る鐘の音に、オベロンは背の羽を揺らして反応しているように見える。緑谷たちを無視して音が聞こえる方に向かおうとするオベロンに、三人は個性を駆使して攻める。

 

「行かせない!」

 

「しんどいから、来ないでくれるかな?」

 

鐘がなった方向に向かおうとするオベロンは、足元から発生した黒いモヤから大量の蝶と蜻蛉状の虫を生み出し、三人の進路を覆う。だが、緑谷はともかく、爆豪とイナサの個性とは相性が悪いのか、うまく邪魔できていない。2度目の鐘の音が鳴る。

 

「のけぇ!」

 

イナサが風でオベロンへの通り道を作り、爆豪は両手の爆発で回転して突撃する。オベロンの眼前で、バチバチと巨大な音とともに爆発を起こす。

 

「あ゛ぁ、うっざ!!」

 

怪物と化した左腕で爆発を防ぎ、黒い靄とともに伸びたその爪で爆豪を払い除ける。

 

「俺は他の魔獣共と違って、殴り合うような性能じゃないんだよ! ほんと、クソッタレだ!!」

 

再度、地面に虫の絨毯が広がる。そこから小さくも、大量の『奈落の虫』が出現し、緑谷たちの前に立ちふさがるが、その内の何匹かが切島と上鳴の方へ向かって飛んでいく。3度目の鐘の音が鳴り響く。

 

「かっちゃん!」

 

「ちっ、おい、デク! あれ、どうにかしとけ!!」

 

「わかった!」

 

ここで、緑谷が離脱すると同時に、オベロンは小さな『奈落の虫』を爆豪たちに突撃させつつ、黒い虫を大量に集めて津波のように放出する。爆豪とイナサは空中後方へと飛ぶことで避けるが、距離を取られてしまう。

 

「もういいや、めんどくさい」

 

オベロンが自身を抱くように腕を交差すると、周囲の虫たちが群がる。

 

「俺に集るな。吐き気がする」

 

4度目の鐘が鳴ると同時に、オベロンの体が崩れ落ち、本来の『奈落の虫』の姿が地面から出現する。

 

「これ以上の終末を、お前たちに用意出来るか!」

 

巨大なそれは大口を開けたまま、先ほどとは打って変わって、凄まじい速度で爆豪とイナサを食らおうと突進する。あまりの迫力に硬直したイナサを爆発で吹っ飛ばしながら、自身もその奈落が進む方向からずれることで、その攻撃を回避する。

 

「死ね、死ね、死ね。___『彼方と落ちる夢の瞳(ライ・ライク・ヴォーティガーン)』」

 

回避したのも束の間、虫のようにぐねりとその体を拗らせて、無理やり再突撃する『奈落の虫』。その大きさと速度のせいで、爆豪はそれから逃げられないことを悟る。なら出来ることは最大火力をぶちかますしかねえと、溜まった爆発の元となる汗の量を確認する。しかし、その横から巨大な炎が飛んで奈落の虫に衝突し、その速度を鈍らせる。

 

「悪い、遅くなった」

 

氷の上を滑りながらスケートをするように現れた轟に対して、爆豪は爆発による移動ののち、舌打ちをする。

 

「舐めんな、半分野郎ォッ! テメエのことなんざ、待っちゃいねえ!」

 

「そうか」

 

轟の反応は呆気のないもので、空に浮かぶそれを見据えていた。先ほど爆豪に吹き飛ばされたイナサは轟を見て、黒い感情が表に出てくるものの、『奈落の虫』というあまりに異質な敵を目の前に一切退く気配を見せない彼らに感動もしていた。5度目の鐘の音が響き渡る。

 

「虫であるせいか、炎系の技には弱い。俺たちの相性は良い」

 

「テメエに言われなくても、わかってんだよ、クソが!」

 

「羽虫どもっ!」

 

彼らは何処か急いでいるような声のオベロンと、数多の虫を引き連れながらうねりながら近づいてくる『奈落の虫』を正面から見据える。

 

「頼むぞ、爆豪」

 

「テメエこそしくじったら殺す!」

 

両者、両手を重ね、その力を込める。轟は炎を宿す手を凍ったもう片方の手の上に、爆豪は徹甲榴弾のような手の装甲を奈落の虫へと向ける。

 

「氷冷熱炎!」

 

「パンツァー・エクス・ファウスト!」

 

轟の手から爆炎を纏う氷が発射された後、爆豪の手からは巨大な熱線が発射される。氷に熱線が直撃し、元から熱されていた氷が瞬時に溶け、水蒸気爆発となる。ただし、その爆発は周囲の虫こそ焼き殺したが、『奈落の虫』はその爆発と爆風ごと飲み込み、二人に迫る。6度目の鐘が鳴り響いたその瞬間だった。

 

「対終末、対粛清防御、はじめ」

 

何処かから飛んできた金色の剣のようなものが、二人の前まで飛んでくると巨大なドームのように広がり、『奈落の虫』の穴とぶつかる。初めて『奈落の虫』が苦しそうに体をうねらせて退く。

 

「よく頑張りました。英雄たろうとする子たち。後は任せなさい」

 

そして現れたのは金髪の少女。ただし、剣のようなものがついた杖のようなものを携え、背中には水色の剣のようなものを浮かべている。

 

「アぁルトリアぁっ!」

 

「貴方の予想は外れましたね、オベロン。お父様の言う通りでしたが、どう思いますか?」

 

『奈落の虫』の上部で黒い塊が蠢き、人間としてのオベロンを形作る。アルトリアと呼ばれた少女が彼に顔を向け、少しほほえみながら問いかけた。

 

「はっ、あんなクソ野郎を親呼ばわりかよ。どうもこうもないだろ。何も感じてなんか無いさ! お前こそどうなんだよ、俺と同じ創られたものの分際でさぁっ!」

 

「そうですね。わたしたちはそうあれと創られたもの。思うことがないとは言いません。ですが、貴方もそのあり様を受け入れているのでしょう。なら、もはや問答は無用」

 

彼女が杖を地面に差し込むと、金色のドームが再度、剣の形に収縮して、その切っ先を『奈落の虫』へと向ける。

 

「……あぁ、いいとも。付き合ってやる。三流の猿芝居の幕を引くとしよう」

 

黒いモヤが過去一番の量で湧き上がる。対して、金色の剣は回転を始めて、その外形を徐々に巨大なものへと変化し、西洋で用いられるような一本の槍に変化する。

 

「ロック・カタフラクティシフト」

 

「夜のとばり、朝のひばり。腐るような……夢の終わり」

 

オベロンが乗った状態でさらにその身体を膨らませる『奈落の虫』。宙に浮いたそれは、その一口で会場の3割を食いつぶしてしまうほどの穴を眼下に見せながら、空へ昇る。対して、アルトリアは槍を空中にいる『奈落の虫』に向けて告げる。

 

「時の終わり、なれど剣は彼の手に。城壁は固く、勝どきは万里を駆ける」

 

空の上から飛来する黒い終末。何かしらの攻撃をしようとする爆豪たちに対し、それを手で制しながら、アルトリアは銀色の盾を展開し、生徒たちを守りながら金色の槍を射出する。

 

「黄昏を喰らえ、『彼方と落ちる夢の瞳(ライ・ライク・ヴォーティガーン)』!」

 

「冷厳なる勝利を刻め、『真円集う約束の星(ラウンド・オブ・アヴァロン)』!」

 

奈落へと上がっていく金の槍。見えなくなるほど小さくなりながらも輝くそれは、突如として『奈落の虫』を消し飛ばし、空を晴天へと変える。金色の光が太陽のようにその宇宙を照らした。

 

「あぁ、なんで負けていいなんて思ってるんだ俺は。ほんと、クソ食らえだ」

 

オベロンは突撃の勢いが死ぬこと無く、地面へと墜落した。

 

 

 

 

 

 

 

小さな『奈落の虫』を退けながら、緑谷たちが避難所へとたどり着いたことで、長かった仮免試験が終了する。

 

「皆さん長いことお疲れ様でした。早速、結果発表と行きたいところですが、今回の助っ人の方に一言いただきます」

 

「失礼します」

 

目良の言葉を聞き届けるのと同時に、壇上に上がる影が一つ。アルトリアと呼ばれた少女だった。状況が状況のため、隣や周囲と顔を見合わせる受験生たち。

 

「私はアルトリア・アヴァロン。お父様から魔獣の聖剣とされたもの。貴方たちに私からも、労いの言葉を。お疲れ様でした」

 

受験生たちが、狼狽えながらも頭を下げる。

 

「私は世間一般では知性魔獣と呼ばれるもの。ご存じの方も多いと思います。私の外見を見て、察しの良い方はお気づきかと思いますが、私は一人の個性によって生まれた人間に近い生命体です。ですが、人間として育てられたわけでもない。在り様を定義されてこの世界に立つものです」

 

何人かが苦い顔をするものの、多くはあまり気にしていない表情だった。ある視点から見れば、彼女のような強い存在が生まれてくれることは、平和の象徴を失ったこの世界ではありがたいことだからだ。

 

「同時に、今回の試験場で敵として現れたオベロン・ヴォーティガーンも私と同じ存在。つまり、我々のような存在を軽く作り出せてしまうお母様にかかれば、この世界を混沌で満たすことは簡単なことです。あなた達の当たり前が、お母様の機嫌一つで変化する。これが今の世界の現状です」

 

一気に周囲の雰囲気が凍りつく。この場に、テレビで神野区の一件を見ていない人間はいない。そして、回帰母愛という少女の個性を知らないものも存在しない。

 

「オールマイトと同様に、お母様を平和の象徴と持て囃すのは自由です。が、彼女は世界平和などどうでもいいと考えています。愛する人が一人いればそれでいいと、本気で思っていらっしゃる。今、知性魔獣がオールマイトの代わりをしているのはその愛している方の望みだからであり、お父様は優しいのでその考えを変えることはないでしょう。ですが、これはごく強力な第三者に自身の平和を預けるという、前回と同じ結末をもたらします」

 

オールマイトの陥落。平和の象徴の消失。その衝撃は目に見える形にこそなってはいないが、今まで蓋をされてきた悪意が着実にその闇を広げつつある。

 

「さて、本題です。今回の試験で我々、知性魔獣が見たかったことは『自分一人ではどうしようもない脅威を相手にどう立ち向かうか』となります。私の目で判断する場合、合格者は雄英高校の八百万百、士傑高校の毛原長昌、以上の二名だけとなります」

 

ざわざわとどよめきが走る会場に対し、アルトリアは杖で地面をならして沈黙を勝ち取る。

 

「前者は自身の持つ情報を提示し、他校に協力を要請し、後者はその重要性を理解し、全体の協力を支援しました。我々に大きく力で劣るならば、あなた達が出来ることは協力することのみ。独断で動くものや自己都合を優先するものが酷く多く、がっかりしました」

 

心当たりのあったものが視線をそらしたり、うつむいたりする中、アルトリアは胸に手を当て、声を張り上げた。

 

「その選択を否定するつもりはありません。ですが、選択をしてはいけない時の判断は誤らないように。この場でそう誓っていただけるのであれば、これから平和を維持するために動く全ての知性魔獣が貴方達、ヒーローに対して最低限の敬意(・・・・・・)を持って接することを誓いましょう」

 

隣りにいた目良が口をあんぐり開けて、目を見開く。それは事実上、知性魔獣がヒーローとして働くことを受諾したことにほかならない。現社会に対するそのインパクトは計り知れない。

 

『誓います!』

 

真っ先に叫んだのは雄英高校の生徒全員。間近で知性魔獣の強さ、頼もしさ、そして常識の無さを知っている彼らがアルトリアの真意を理解できないわけがなかった。察しの良い生徒筆頭の毛原も声を上げたことで、他の高校の面々も含めて全員が声を上げた。

 

「よろしい。お父様に良い報告ができそうです」

 

 

 

 

 

 

観客席で一部始終を見ていた北水は胸をなでおろしていた。

 

「よくやったよ、みんな~。これでどうにか次のステップに行ける!」

 

「しゅう、楽しそう」

 

彼の腕に抱きつきながら、ティアは嬉しそうに、しかし少しの嫉妬を含みながら答えた。

 

「楽しいさ。どうにか知性魔獣たちがヒーローとして動かせるような基盤ができた! あの子達は俺とティアの子供のようなものだから、活躍させてあげたいんだよ」

 

「……っ! しゅう、私も嬉しい。お腹の子も嬉しいはず」

 

彼女は腕から正面に回り、お腹をなでながら北水の胸に顔を埋める。

 

「ねぇ、しゅう。あの子達を活躍させてあげたいなら、もっといい方法があると思うの」

 

「え、どんな?」

 

「今晩、ベッドの上で教えてあげる」

 

「……身体、大丈夫?」

 

任せなさいと大きな胸を揺らす彼女に、なんともいえない顔をしながら、彼は緑谷たちの今後を思い描き、自身の苦労する姿と共に若干涙目になった。

 

 




久方ぶりの投稿ということで、よければ感想をお寄せくださいませ。

仮免、誰がいい?

  • 炎の厄災
  • 獣の厄災
  • 呪いの厄災
  • 奈落の虫
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