魔法少女リリカルなのは L×F=   作:花水姫

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なのはDetonation視聴記念ウィークリー投稿3週目。

今回はテレズマさんリクエストの第三者からの中学生レヴィの話です。
ちょっとニュアンス違うかもですが、そんな話です。



モブ子運命に出会う

『#1 モブ子恋に落ちる』

 

 

 私はその日、恋に落ちました。

 

 何のことだよと思う人も多いかと思うので、まずは自己紹介を。

 私の名前は茂部(もぶ) 栄子(えいこ)

 親しい友人はモブ子とか、Aちゃんって呼びます。

 

 そんな私は近場では有名なお嬢様学校である、聖祥附属中学校女子学部への途中編入を果たしました。

 そんな私ですがとある日の下校中、怖いお兄さん方に目を付けられ、因縁をかけられていました。

 

「うわーいてー。こりゃ骨折れてるわー」

「え……ぁ……その」

「君が前方不注意で連れにぶつかったから、連れの骨折れたらしいんだわ。どうしてくれんの? なぁ!」

 

 2人組のお兄さんの片方が、歩いてる私の目の前に出てきたと思ったら、そんな事を言って来たんです。

 

 自分より大きい男の人が睨んでくる恐怖といったら筆舌にしがたく、私は竦んで反論すらできませんでした。

 

 周りの人は見て見ぬ振りをする人ばかり、誰も助けてくれません。

 

「その制服キミあの聖祥の子でしょ? とりあえず誠意を見せて欲しいわけ」

「ひっ」

 

 男の人に詰め寄られて、小さく悲鳴を漏らしてしまい、無意識のうちに後ろに下がろうとしても、気づけばもう一人が回り込んでいました。

 

「別にさぁ、とって食おうとか思ってないわけ。ただ、怪我させといてゴメンですむ訳無いよなぁ? 誠意を見せて欲しいのよ」

 

 後ろに回った男の人は私の肩を掴んで、耳元でそうささやきました囁きました。

 恐怖と嫌悪感がない交ぜになり、私はただただ硬直し、震える事しかできずできませんでした。

 

「おい」

 

 そんなときです。私が、運命に出会ったのは。

 

 

「君たち、何やってんの」

 

 

 その声は女性にしては少々低めなハスキーボイスで、男性にしてはだいぶ艶やかな声色をしてました。

 

「あん?」

「ひゅ~」

 

 私の後ろの人がドスの利いた声を出しながら振り向き、前にいた人は下手くそな口笛を吹いていました。

 

「おいおい、きれいなお姉さんじゃん」

「いや、俺らちょっとこの子と大事なお話してるからさぁ。邪魔しないでくんない?」

「ってかお姉さんそれ聖祥中の制服? コスプレ趣味でもあんのw」

「うわw 流石にその年齢で中学生のコスプレは無いでしょwww キャバ嬢かよwww」

 

 男性達の言葉に釣られて私も振り返ると、そこには言葉通り綺麗な女性が立っていました。

 

 170cmはありそうな長身にスラッとした手足。

 爽やかな水色の長髪は、毛先に向かって紺色のグラデーションをしていて、かなり奇抜な色であるはずなのに違和感を覚えない程に似合っている。

 

 ワインレッドの瞳をもつ目は今は怒りからか、鋭く細められその眼光は底冷えするような輝きを放っている。

 

 放つオーラも含め、その顔立ち、体つきは明らかに20代のものにしか見えない。

 そんなスタイル抜群な超絶美人なお姉さんは、男性達が言うように私と同じ聖祥中の制服に身を包んでいる。

 

 リボンタイの色から私より一つ上の二年生であることが伺えるが、男性の言うとおり成人女性のコスプレにしか見えない。

 

「……ボクの事はどうでも良いからその子を解放しな。遠目から見てたけど、歩いてるその子の前に急に飛び出したのはあんたらの方だろ」

「ボwwwクwww お姉さんキャラ作りすぎwwwwww 片w腹w大激痛wwwwww」

「お姉さん必死だねwww 客引き? お店教えてくれたら行ってあげようかwww」

 

「ちっ」

 

 男性達の嘲るような言葉に我慢の限界が来たのか、お姉さんは舌打ちをするとより剣呑な雰囲気をまとう。

 

「どこにでもクズは居るもんだ。一つ、ボクはこれでも14歳だ。二つ、骨が折れたと言ったけど本当に骨が折れてるならもっとカルシウムを採ることをオススメするよ。三つ、人の外見や口調を笑うのは止した方が良い、痛い目を見るからね」

「痛い目www なに? お姉さんやるって言うの?www」

「おいおいwww 女のくせに癖に男2人に勝てるわけ無いだろwww」

 

 忠告を含めたお姉さんの言葉は男性達には届かず、頭にくる嘲笑を止めない。

 その事にお姉さんは一周回って呆れたのか、大きな溜め息をつく。

 

「……四つ、女だからって、舐めない方が良い」

 

 お姉さんがそう言うとバチっと静電気がはじける弾けるような大きな音がする。

 

「いっ」

「うぉっ、なんだ」

 

 男性達もその音を聞き、驚きの声を上げると、そのうちの一人が後ろへと下がる。

 

「おい、驚いたのはわかるけど下がりすぎだろ」

 

 もう一人が後ろへ下がった男性に声をかけるが、声をかけられた男性はそれでも止まらず後ろへ下がり続ける。

 

「おいなにして──」

「なんだこれ、なんだこれ! 足が、足が勝手に後ろに向かって歩き続けてる! なんだよこれ! 止まんねえ!」

 

 男性はそう叫びながら、後ろ向きなためゆっくりと歩き続ける。

 ふざけているようにしか見えないが、叫ぶ声色とその形相にそれが本気なのだろうと感じとれる。

 

「……経絡秘孔の一つを突いた。お前の足は意識とは関係なく後ろへ歩き続ける。安心しろ、数分したら効果は切れる」

 

 私達が困惑する中、そう言ったのは声をかけてくれたお姉さん。

 

 その突拍子もない言葉、しかし落ち着いて当たり前のように喋るお姉さんの雰囲気に、困惑する私も、多分もう一人の男性もその言葉を無意識のうちに信じてしまっていた。

 

「な、てめえがやったのか! タクを元に戻しやがれ!」

「マサ! 俺どこに行くんだよ! 止まらねえ! たすけてくれよ!」

 

 お姉さんに向かって凄むが、狼狽している男性と、ずっと歩き続けたため大分離れてしまった男性の叫び声が路地に響く。

 

「……」

 

 お姉さんはそれに応えず、また先ほどと同じ様にバチっと静電気が弾けるような音が聞こえる。

 

「なっぐえっ! い、いてえ! いてえええええええええ」

 

 突然もう一人の男性が叫びうずくまる。

 

「お前は骨折したとかほざいてたから、経絡秘孔の一つで骨折と同じ痛みを味あわせてやる。実際には折れてないし、数分もすれば痛みは引くようにしてあるから安心しろ」

「ぐぁあああああっ、いてぇいてぇよぉぉおおおぉぉぉぉ」

 

 お姉さんは叫ぶ男性を冷たく見下しながらそう言い放つと、私の手を取って歩き出す。

 

「さぁ、行くよ」

「え? え?」

 

 理解不能な状況に、私はただただ困惑しながら手を引かれるままにその場を離れることしかできなかった。

 

 

 ***

 

 ***

 

 

「ここまで来れば良いか。大丈夫? 全く白昼堂々と迷惑な奴らだ」

 

 ある程度歩くと、お姉さんは立ち止まり私のことを気遣ってくれる。

 

「えっ、あ、はい! 大丈夫です!」

「ホントに? 怪我とかしてない?」

「はい! 暴力とか、されてないです!」

「怖かったでしょ。もっと早く助けに入れば良かった」

「い、いえ! 助けていただいただけで! ホントに!」

「見たところボクの後輩みたいだからね。つまるところ王様の臣下だ。助けるのは当然さ」

 

 そう言うとお姉さんは私の頭を優しく撫でながら、先程とは打って変わって優しくて暖かい笑顔を私に向けてくれました。

 

 

「ひゅいっ」

 

 

 心臓が止まるかと思いました。

 いえ、多分一瞬止まりました。そのせいか心臓の鼓動はとても強く早くなり、息苦しさを感じさせるほど。

 

 血流が早くなったせいか、身体中が火照って熱くなり、多分私の顔は真っ赤なのでしょう。自分でもわかるほどに顔が熱くなっていました。

 

「大丈夫? 体調悪い?」

 

 そう言ってお姉さんは私の頬に手を添えます。

 

 白魚のようにシミ一つ無い美しい肌。

 頬に触れる感触は白樺のようにスベスベとし、長身も相まって一般男性と同じくらいある大きな手が頬に添えられ。それから伸びるたおやかな長い指が私の耳や首筋に触れる。

 

 私の様子を見るために近づいたお姉さん。そのためその整った顔つきがよく見える。

 

 長いまつげは数も多く、されども付けまつげには見えない自然な物。

 切れ長な目は先程の怒りに染まった眼光ではなく、優しげな光を携えている。

 二重がしっかりと刻まれ、細目がちな目は睫毛と合わさり全く持ってそんな印象は与えず、くりくりとしたワインレッド色の瞳は可愛らしい印象すら受ける。

 高い鼻筋はしっかりと綺麗な直線を描き、その延長線上にある唇は厚めで柔らかそうという感想を抱かせる程にプルプルとしている。

 見たところルージュは付けていなそうなのに、血色が良いのか薄紅の唇はしっとりとしており大変艶めかしい。

 

 完璧。

 

 日本人に在らざるその容貌は、しかして外国人にしても整いすぎている。

 

 まさに神が生んだ奇跡。神が作りたもうた芸術品。

 

 最も神に近い最初の人間の一人である、イヴの生まれ変わりとすら思えるほどに整った容姿。

 

 そんなあまりもの美しさに、触れたら壊れるのではないかと思わせる儚さを錯覚し、しかして鍛えられた刃のように、恐ろしさを感じさせる美しさと強さを持ったお姉さんは、月のような優しい光を放っている錯覚すら覚える。

 

 

 見ているだけで鼓動が強くなる。

 

 鼓動が早いから頭に血が昇る、頭が沸騰する。

 

「───?」

 

 あまりにも心臓の音が煩くて、お姉さんの言葉が聞こえない。頭に入らない。

 

 お姉さんの開いた口から見えた歯は、外国人のイメージから外れず、整った歯並びをしており、新品のタオルのように真っ白で綺麗な歯だった。

 

 

「!」

 

 なにを思ったのかお姉さんは、鞄を漁ると何かを取り出し私の口に放り込んだ。

 

「んぅ!!?」

「飴ちゃん。甘いもの食べると落ち着くからね」

 

 あまりもの衝撃に私は死んだ。

 

 死んでないけど死んだ。

 

 

 この短時間に心臓が二度も止まった。

 

 

 

 お姉さんは飴を取り出すと、包装紙を剥ぎ取り、そのまま私の口の中に差し込んできたのだ。

 

 驚きのあまり反射的に口を閉じてしまったが、そのせいで私の唇に何かが触れる感触がした。

 

 

 

 それは、飴を差し出したお姉さんの指先。

 

 

 

 

 お姉さんの指先は、甘い味がした。

 

 

 

「大丈夫? 落ち着いた?」

「ふぁ、はい」

 

 

 一周回ってなんとやら、なんとか正気を取り戻した私は、理解できるようになった目の前の女神の言葉にただただ頷く。

 

「そっか、それは良かった」

 

 そう言ってニカっと笑ったお姉さんは、今までの印象とは打って変わって、幼い子供のような快活な印象を受ける。

 

 

 

 女神のように美しく。

 

 

 男性よりも強く。

 

 

 子供のように快活で。

 

 

 母のような優しさを持ち。

 

 

 正義の心を持ち。

 

 慈しみの愛を放ち。

 

 悪意に臆さず。

 

 暴力に屈しない。

 

 

 

 

 そんな完璧な、傷一つ無い宝玉のような、欠けない満月のような。

 

 

 

 

 究極の人間が私の目の前にいた。

 

 

 

「それじゃ、ボクはもう帰るけど、君も気をつけるんだよ?」

 

 そう言ってお姉さんは屈んでいた身体を起こすと、私に背を向け歩き出す。

 

 

 神が去ってしまう。

 

 女神の美しき(かんばせ)が見えなくなる。

 

 夜闇の中、唯一の明かりであった月が雲に隠れるように、その優しい光が感じられなくなる。

 

 

「あ、あの!」

 

 

 胸に飛来した焦燥と哀愁に突き動かされ、私は大きな声でお姉さんを呼び止めていた。

 

 

「ん?」

 

 

 私の声で振り向くお姉さん。

 

「あ、あの! お名前、は……」

 

 意を決して話しかけたものの、言葉尻がか弱くなってしまった私の言葉は辛うじてお姉さんに伝わったのかお姉さんは私にこの世で最も貴い聖句(ご本名)を授けてくださりました。

 

「レヴィ。レヴィ・テスタロッサ」

 

 それだけ伝えるとお姉さんはまた歩き出します。

 

 

「レヴィ先輩! 助けていただいて、ありがとうございました!」

 

 

 レヴィ先輩の背に声をかけると、今度は振り向かず右手を上げ手を振る。

 

 その動作がその背中が「気にするな」と語っているようで、そのクールな仕草に落ち着いた筈の私の心臓が再度全力疾走を始める。

 

 ──この苦しさ、切なさ。

 

 

 これが、恋。

 

 

 そうして私は、恋に落ちたのです。

 

 

 

──────

 

 

 

『#2 深淵(レヴィ)を覗くとき、深淵(LL団)もまた、こちらを覗いているのだ』

 

 

 そんな運命的な出会いをした翌日、文字通りレヴィ先輩を夢に見た私はハイテンションのまま登校しました。

 

 

「いよちゃん! いよちゃん! 聞いて聞いて聞いて!」

 

 教室に入るなり、私と仲良くしてくれてる橋本(はしもと) 伊予(いよ)ちゃんに詰め寄ります。

 

「うわ、どうしたモブ子。今日はやたらとテンション高いね」

「あのねあのね! 私昨日ね!」

 

 ハイテンションな私に若干引きつつも話を聞いてくれる伊予ちゃんに私は昨日あった事を話し始めました。

 

 

「はー、なるほどね。聖祥の王子様にモブ子もやられちゃったかー」

「聖祥の王子様?」

 

 聞き慣れない単語に私が首を傾げると、伊予ちゃんは「マジか」と言って驚いた表情をする。

 

「あんた、入学してもう1ヶ月になるんだからそれくらい知っときなさいな」

「レヴィ先輩は有名なの? それになんで王子様?」

「それはね、」

 

 そう言って伊予ちゃんはレヴィ先輩を初めとした聖祥中女子部の有名人について話し始めました。

 

 聖祥中女子部には絶世の美少女が9人いる。

 

 聖祥小からの持ち上がり組であり、現在2年生の6人。

 

 バニングス商事の一人娘、アリサ・バニングス。

 月村重工の令嬢、月村すずか。

 その二人の友人、高町なのはに八神はやて。

 バニングス先輩と同じ金髪外人姉妹のアリシア・テスタロッサ、フェイトテスタロッサ姉妹。

 

 

 以上の6人は見眼麗しい上に、小等部からの持ち上がりのため聖祥内での知名度は高いとのこと。

 

 

 そして、去年編入した3人。こちらはローカルな話ではなく世界的にガチの有名人だという。

 

 

 ヨーロッパでは有名な投資家にて天才少女集団の筆頭。たった一年で世界富豪格付けに名を連ねた稀代の傑物。一年生で生徒会長に就任した稀代のカリスマ、ディアーチェ・K・クローディア。

 クローディア会長の右腕にして、同じくヨーロッパでは電子工学の時代を5年進めたと謡われる天才少女集団の一人。クローディア生徒会副会長、シュテル・スタークス。

 そして最後。たった一年で約30近い数式や定理を発表し、その傍らに格闘技を含めた10種類の個人スポーツ競技計20個の公式大会で優勝を果たした天才少女集団の広告塔。クローディア生徒会会計、レヴィ・テスタロッサ。

 

 

 以上の3人をあわせて9人。

 

 

 この9人は仲が良く、よく一緒にいるため纏めて聖祥9大美少女と噂されている。

 

 

 

「──と、いうわけよ」

「ほえー」

 

 

 知りたいと言ったのは私だが、すごい情報量を捲し立てられて呆けるしかできない。

 

「なにモブ子。呆けちゃって」

「いや、伊代ちゃんはホントに良く知ってるなーって」

「まぁねぇ。情報は私の命だからね」

 

 鼻高々にそういう伊代ちゃん。

 

「ま、そんなわけであんたが知りたい王子様は、ガチの有名人でなわけよそれに――」

 

 と、伊代ちゃんがなにか言おうとした所で担任の先生がやってきて朝のSHRが始まってしまう。

 

 結局その後も移動教室が多い時間帯もあり、なかなかタイミングが合わず、伊代ちゃんからその先の話を聞くことはできなかった。

 

 

 

 そうして暫くの日が過ぎた。

 

 私はその数日、ずっとレヴィ先輩について考えていて、視界に入ればレヴィ先輩を目で追ってしまうという生活を送っていた。

 

 

 そんな私にある日の放課後、来客が来たのである。

 

「すみません。ここに茂部 栄子さんはいる?」

 

 放課後直ぐに扉の開く音と共にそんな声が聞こえた。

 

 声質がレヴィ先輩に良く似ていたせいで、私は反射的にその声を放つ人物へと顔を向ける。

 

 そこにはレヴィ先輩と良く一緒にいる姉妹の一人、フェイト・テスタロッサ先輩と、同じく良く一緒にいるシュテル・スタークス副会長がいた。

 

 

 その2人を見て私はいやな予感を感じる。背筋に悪寒が走り、身体は無意識のうちに萎縮する。

 

 フェイト先輩は決して怖い表情をしていない、それどころかとても可愛らしい笑顔を浮かべているのに、私にはその表情がとても恐ろしいものに見えた。

 

 そしてそんな見た目は楚々とした出で立ちのフェイト先輩とは打って変わり、副会長は開いた扉に体重を預けるようにもたれかかり、鋭い視線が教室中を舐めまわす。

 

 そしてそんな無言の重圧に呑まれ、騒がしかった教室が無音となるのも気にせず、副会長は私に()()()()()

 

「ひっ」

 

 その射抜くような、凍えるような視線を浴び、私はつい小さく悲鳴を上げる。

 決して大きな声では無かったはずなのに、静かな教室で発生した唯一の音は酷く大きく響く。

 

「彼女です。確保しなさい」

 

 私の悲鳴を聞くやいなや、副会長が淡々とそういい放つと、どこからともなく()()()()()()が教室になだれ込んでくる。

 

 

 不審者集団は皆一様に、頭に水色のとんがり帽子のような布を装着している。

 その布は目の部分だけに穴があり、それ以外は肩にいたるまで一切の隙間がない。

 そして額のあたりに黄色と朱色の『L』の二文字と数字だけが記載されている。

 

 そんな奇っ怪な布を被った()()()()()()を着た人達が私の周りを囲む。

 

 総勢で十数人は居るだろう。

 

 そんな多量の不審者集団に囲まれ、逃げ場を無くした私は、恐ろしさのあまり立ち上がっていた腰を自分の席に下ろす。

 

 あまりの恐怖に腰が抜けてしまったのだ。

 

 そうしていると私を取り囲んでいた人垣が割れる。

 その中を当然と言わんばかりに進み、私に近寄ってくるフェイト先輩と副会長。

 

 その2人は私の目の前に立ち、私を見下ろしてくる。

 同年代より遥かに発育の良い体格は、その雰囲気も相まって相当の威圧感を私に与える。

 

「一応確認します。あなたが、茂部栄子さんですね」

 

 副会長が私にそう問いかける。

 いや、その口振りは質問では決してない。

 言葉の通り確認なのだろう。

 

 副会長は私が茂部栄子である事を確信している。

 

 会ったことも無い人物が、雲の上の存在が己を認識し語りかけてくる。

 その恐ろしさと言ったら語る言葉が見つからない。

 

「あわ、はわわ」

 

 あまりの恐怖に身体は強張り、口がふるえる。そのせいで「はい」の二文字すらまともに口にできずにいた。

 

 

「返事は?」

 

 

 そんなライオンに睨まれたチワワのように、か弱い存在の私に、目の前に立つもう一人、フェイト先輩が声をかけてくる。

 

 その声はとても柔らかく、優しそうで、()()()()()()()()()

 

 私以外の人にはそのようには聞こえないだろう。

 

 声色も、イントネーションも、雰囲気も。何もかもが優しさと慈愛に満ちている。

 

 ()()()()()()()()()

 

「はい! 私が茂部栄子ですぅ!」

 

 あまりもの寒気。本能的に感じる恐怖。

 理性と本能が、意識と無意識が齟齬を起こす不快感。

 

 そんな耐え難い『負』の感覚に支配され、私は大きな声で自分の名前を叫んでいた。

 

 そんな、せっぱ詰まった私の叫び声に、フェイト先輩が優しく頷くと、副会長は冷たい視線のまま周りの不審者に指示をする。

 

「連行しなさい」

 

 そんな端的な言葉が放たれると、私は()()()()()()()()持ち上げられる。

 

「えっ!? え????」

 

 そしてそのまま訳も分からず胴上げ状態で椅子とともに運ばれる私。

 

 

 

 気づけば暗い部屋に放り込まれていた。

 

 

 蛍光灯は着いておらず、カーテンによって外からの灯りを調節することで意図的に薄暗さを演出させられた教室。

 

 その中心、机が円形に囲われ、中央に広い空間の作られたその中央に私は椅子毎設置されていた。

 

 周囲を見渡すと数多の不審者が私を囲っている。

 

 ある者は椅子に座り。

 ある者は棒立ちで。

 ある者は端に寄せられた机に座り。

 

 そこには私を連れ去った不審者と同じ格好をした不審者が30人は存在していた。

 

「さて、手荒な扱いをして申し訳ありませんでしたね」

 

 そんな不審者集団の視線を浴びる私に、目の前に座る副会長が声をかけてくる。

 

 

「単刀直入に聞きます」

「あなた、レヴィのこと、好きだよね?」

 

 

 副会長の言葉を、その隣に座っているフェイト先輩が引き継ぐように私に質問をしてきた。

 

「ひょえっ!? い、いきなり何を!?」

 

 あまりに唐突な言葉に私は変な声を上げてしまう。

 そんな私を気にもとめず、副会長は淡々と、冷静に言葉を連ねる。

 

「大事な事です。あなたのレヴィへの想いはここ数日の調べて並大抵の物では無いことはわかっています。

 あとはそれが好意(Like)なのか、(Love )なのか。それが最重要なのです。

 さぁ、語りなさい。

 速やかに。

 隠し事無く。

 赤裸々に。

 とめどなく。

 溢れるままに。

 あなたの想いを語りなさい、露わにしなさい。

 この()()()が、()()へと変わる前に、ね」

 

 

 そう言った副会長はその冷徹な目で私を射抜く。

 焔よりも熱く、氷よりも冷たいその視線は、やると言ったらやる凄みがあった。

 

 

 

 その凄みに屈するように、私は口を開いた。

 

 

 

 ***

 

 

 気づけば長時間話していたのか、私の喉はカラカラに乾いており、外から射し込む光は夕焼けの色に染まっていた。

 少々暗くなったからか、設置されているテーブルランプ(刑事ドラマで取り調べの時に置いてあるような奴)を、壁に向けて光らせ反射光により部屋をほんのりと明るくしている。

 

 

 何故か頑なに教室の蛍光灯は使わないらしい。

 

 

 そんな日が傾くほど長時間語った私は、遂に喋ることも無くなり無言になる。

 

 なにを語ったかあまり記憶にないが、朧気に思い出すと大分恥ずかしい事まで喋った気がする気がする。

 

 

「なるほど。あなたの想い、大変理解しました。彼女の熱い想いを受け、この場で採決を取ることにします」

 

 そう言いながら副会長は立ち上がると、副会長の左手側に座っている不審者に視線を向ける。

 

 視線を受けた不審者は片手を上げ「異議なし」と一言喋った。

 

 それを皮切りに左回りで、私の周りを囲っている机に着席している人達が順番に同じ動作、同じ言葉を発していく。

 

 そうして一周する最後の一人。

 副会長の右手側に座っていたフェイト先輩の番となる。

 

 それまでスムーズに一定のテンポで言葉が発されていたが、フェイト先輩はあえてその流れに乗らず言葉をためる。

 

「異議──」

 

 ゴクリと誰かが唾を飲んだ音がする。

 

 この場の全員がフェイト先輩を注視している。

 

 鶴の一声を待つように。

 

 

 

「──なし」

 

 

 その言葉が部屋に響くと誰とも無く拍手を始める。

 

 一瞬にして拍手の音は先程までの静寂を打ち破り部屋を支配する。

 

 

 決を取るために立っていた副会長も拍手をし、最後に言葉を放ったフェイト先輩も拍手をしながら立ち上がる。

 

「讃えましょう。新たな同朋の誕生を。新たな使徒の誕生を。おめでとう」

「おめでとうございます」

 

 フェイト先輩がそう言うと副会長が私に向かって祝いの言葉を放つ。

 

 そうしてまた一人一人「おめでとう」と行って回る。

 

 しかし今度は椅子に座る数人だけではなく、部屋の中にいる全員が喋るまで続いた。

 

 

 そうして全員から祝いの言葉を贈られると、フェイト先輩が私の目の前に水色の布を差し出す。

 

 

「おめでとう、会員No237。あなたは237番目の使徒です」

 

 

 その布には、黄色と朱色の「L」が二文字と、「237」という数字が刺繍されていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 後日、あの儀式がなんなのか詳細な説明を求めたところ、あれは半公認レヴィ・テスタロッサファンクラブ『LL団』の入団面接だったのだという。

 なぜ半公認かというと、レヴィ先輩はLL団の存在は知っているが、誰が所属しているか、どんな活動をしているかは知らないかららしい。

 

 入会資格はレヴィ先輩を『愛している』こと。

 最も大切な規則はレヴィ先輩に迷惑をかけないこと。

 

 他にも細かい規則は数多くあれど、その全てがレヴィ先輩を保護するためのものだ。

 

 例を上げると、レヴィ先輩への贈り物は団長と参謀のチェックを通る必要がある。とか

 ラブレターを送れるのは入団してから一定期間以上経過した者のうち、予約順で一日一人、一週間で5人まで。とか。

 

 因みにLL団の『LL』はレヴィ(Levi)ラヴ(Love)の頭文字らしい。

 

 

 そんなやべー集団への入団を強要された私だが、結局そのまま居着くことにした。

 

 締め付けの多いファンクラブであるが、その分その恩恵は計り知れない。

 

 まずレヴィ先輩へ贈り物を贈れる。

 

 実はLL団に入団してないと、レヴィ先輩への贈り物は、渡せてもその後破棄されてしまうらしい。

 

 正確にはレヴィ先輩の家族である団長(フェイト先輩)と、プライベートでも仲が良く、レヴィ先輩からの信頼の厚い参謀(副会長)が処分してしまうとのこと。

 処分する理由は毒が入っているだとか、危険物だからだとかテキトーな理由らしいが、レヴィ先輩は疑わずに従ってくれるらしい。

 なんて清らかな心を持っているのだろう。好き。

 

 あとほかの理由、こちらが入団し続ける理由のほとんどを占めているのだが。

 LL団限定のレヴィ先輩グッズが購入できるようになるのだ。

 

 ピンナップやチェキから、レヴィ先輩の使っているシャンプーやリンス。あと上級会員向けにプレミアムでアダルティなグッズもあるらしい。その存在を教えてくれた上級会員の先輩は、そのグッズを思い出したのか語っているさなか最中に涎を垂らしていた。

 まさに文字通り垂涎ものの一品らしい。

 

 欲しい。どうしても一目お目にかかるだけでも良いから欲しいのだ。

 

 

 

 まぁそんなわけ(物に釣られて)で、私は晴れて不審者集団の仲間入りを果たしたのであった。

 

 

 

 

 レヴィ先輩へ秘めた想いを持っている人は気をつけた方が良い。

 

 

 ──レヴィ先輩を覗くとき、覗いているあなたを、LL団もまた覗いているのだから。

 

 

 





小咄解説───

経絡秘孔:
 『北斗の拳』に出てくるなんかめっちゃすごい効果のあるツボ(のようなもの)。
 今回レヴィはそれを実際に突いたわけではなく、魔力によって生成された電気を用いて似たような事象を発生させただけ。
 この世界の地球の人間に経絡秘孔はありません。

ヨーロッパ時代のマテリアルズ:
 ヨーロッパで資金稼ぎのために一年間自重無しでブイブイ言わせてた時代の3人。ユーリは中学に入学しなかったため三人娘扱いだが、ヨーロッパ時代はユーリを含めて天才少女集団四人娘だった。

聖祥の王子様:
 レヴィの聖祥での異名の一つ。別にテニスで世界を目指したりはしないが、ヨーロッパ時代ではレヴィはテニスも嗜んでいた(一回世界大会で優勝している)。
 その人気から付けられた異名だが、実際は王子様って言うより子犬様。
 黙ってる時の凛々しいレヴィが好きな王子派。
 快活に動いて笑ってるときの可愛らしさが好きな子犬派。
 うんうん、それもまたレヴィだよね。ギャップを楽しむ真性派。
 LL団の中でも派閥がある模様。

LL団:
 頭に被る頭巾はバカテスのFFF団みたいな奴。LL団は頭巾しか用意してないため、リボンタイや上履きの色で学年がわかってしまう。
 組織はNo1の団長、No2の参謀を筆頭にした完全なトップダウン。入団面接の採決は民主主義に見せかけた絶対君主制。
 幹部は10人居るらしく、上級会員の中からとびきりの優良会員が抜擢されているらしい。
 モブ子のNoが示すとおり、現在会員は200人を越えている。

────

そんなこんなでリクエスト消化?

Detonation記念ウィークリー投稿をやってるけどもう書きためが尽きもうしたので、今後の投稿は不明です。


予防線も張ったし今回はこの辺で。


ps.Detonationのなのはさんが尊すぎてなのはさんヒロインの話を書きたい欲がすごい。書きたいだけでネタも構想もない。



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