午前中のお客も捌けて、店長と明久はお昼の賄い作りに入ろうとしていた。
「さて、何にするかな……」
「店長、良いのありますよ」
店長が腕組みしていると、明久が店長にある物を見せた。
それを見た店長は、明久の意図を察して
「なるほど。今の時期には良いな」
と頷いた。そして、十数分後。
「お待たせ」
「今日はネバトロ丼だ」
店長と明久はゴンドラで持ってきた皿を、全員の前に置いた。
「ネバトロ丼?」
「ああ。トロロ芋、オクラ、納豆を一緒にご飯に乗せた料理だ。滋養強壮に良いぞ」
アレッタが首を傾げると、店長が簡単に説明した。
全体的に白い料理で、所々に茶色と緑色が見える。
「今朝、何時もの八百屋さんが良いとろろ芋が入ったってくれたんだよ。そこに、納豆とオクラを合わせたんだ」
因みにだが、本来とろろ芋を始めとした山芋は春と秋に採取可能だが、そこから長期保存が簡単。故に、一年を通して野菜売り場や八百屋に並んでいる事が多いのだ。
「出汁醤油と温泉卵、出汁つゆと用意したから、好きに使って味付けしてくれな」
「こっちは、ネバトロにあやかってナメコの味噌汁だよ」
明久はそう言って、ゴンドラで一緒に運んできたお鍋から味噌汁をよそい、手渡していく。
そうして、全員に行き渡ったのを確認し
「いただきます」
『いただきます』
何時もの挨拶をしてから、食べ始めた。
「このとろろ、確かに良いですね。味が濃いのに、さっぱりしてます」
「だろ? 磨ってる時から、良いとろろ芋って分かったからな」
沙希の言葉に、店長が反応した。
よく言われる山芋だが、実は四種類ある。
最も流通しているのが、長芋。
長芋はサクサクしていて、細切りにしてサラダ等に使われる事が多い。
次に、大和芋(関東呼称。関西ではつくね芋とも呼ばれる)。
非常に粘り気が強くコクが強い為にとろろや揚げ物に使われる。
3つ目が、今回使っているいちょう芋。
主に関東でとろろ芋として流通しており、長芋より粘り気があり、とろろとして適している。
最後に、自然薯。
その名前の由来となった、日本古来の国有種であり、天然物は香りと粘り気が強く、高級食材としてよく使われる。
「これも、お芋なんですね……」
「自然の神秘ね。芋って一言で言っても、色んな種類があって、用途別に使われるんだから」
アレッタの言葉に、霊夢が頷いた。
アレッタが知っているのは、ダンシャクと呼ばれるジャガイモと、よくデザートで使われるサツマイモの二種類だったが、新たにとろろ芋が出てきた事になる。
しかし、霊夢からしたらとろろ芋も慣れ親しんだ種類だ。
幻想卿では、よく八百屋に並んでいる。
〈このなめこの味噌汁というのも、面白い。ヌルヌルしてるのに、固さもある。不思議な食感〉
「それも、自然の神秘だね」
クロの言葉に、明久が答えた。
因みに、なめこは胃腸に良い事が分かっており、ダイエットにも良い。
「これなら、幻想卿でも作れそうです」
「頑張りなさい、妖夢」
妖夢は妖夢で、幻想卿でも買える食材なので、再現する気らしい。
「やっぱり、とろろ芋ってお腹に貯まりますね」
「さて、午後も頑張りますか」
店長のその言葉で、ねこやは午後の営業に戻っていく。