藤丸立香ちゃんの無個性ヒロアカ   作:夢ノ語部

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雄英体育祭 騎馬戦開始

 カルデアの暗黒面(ダークサイド)

 放っておけば日本までいって雄英を襲撃しかねない一触即発だった雰囲気は、己がマスター騎馬戦の姿を見て霧散していた。

 

「まぁ……うちらも受け入れるお人好しやもんなぁ」

「貴女は……そうでしたね。楽しそうで何よりです」

 

 洗脳されていた障害物競争のときとは違い、キラキラと輝いた瞳。

 洗脳した下手人は許しがたいが、マスターの上で困惑している姿は英霊達にとって非常に身に覚えのある姿だった。

 すぐに誰でも受け入れるマスターに対して、自分達も困惑していたから。

 

 そんなほんわかとした空気が流れはじめた暗黒面を見て、カルデアキッチンの主はホッと一息つく。

 しかし、何かに気付いたエミヤはテレビに映ったマスターを二度見して、苦みばしった表情で同情を滲ませた。

 

「どうしましたエミヤさん? ……あぁ」

 

 良妻賢母が声をかけるが、彼女もマスターの顔を見て察した。

 

 あの顔をしたマスターはやりすぎる(・・・・・)と。

 

「殺したかっただけで死んでほしくはなかった……なんて酷い事には騎馬戦なんて遊びで……それも時間制限がある中ではならんだろうが、あの顔をしたマスターと敵対したいとは思わんね」

 

 魔神柱に対して、どこまでの火力が叩き出せるかと、心折れるまで叩きつけはじめた彼女に、人類悪かな? と感じた封印された記憶がぼやぼやと蘇りかけてくる。

 

「心が折れなければいいがな」

 

 ◇◇◇

 

『ぜっ……』

 

 あれだけ盛り上がっていたスタジアムがしんと静まり返っていた。

 衝撃の光景が言葉を忘れさせた。

 

 プレゼント・マイクが声を出せたのは、実況という立場とプロ意識が声をあげさせただけで、一言目は言葉にもならなかった。

 プレゼント・マイクはゴクリとツバをのみ、声をあげる。

 

『全滅ぅーーーーッッ!!!』

 

『開始1秒、心操チームを除いて!! 全騎馬が崩れた!! 立ってるのは心操チームのみ! 障害物競争の王が! 頭が高いと全ての騎馬を崩して、高みから見下ろす! 民よひざまづけ! これが王だ!!』

 

 その実況を皮切りに、スタジアムが大歓声で揺れる。

 

『悪質な騎馬を崩す行為はルール違反となっているが……』

「怪我をさせない為のルールだから、このぐらいはセーフよ!」

『だ、そうだ。何チームか復帰しはじめてるが、崩れてしまっても騎馬の組み直しはルール上アリになっている。ルールに救われたな』

 

『イレイザーヘッド解説センキュー! とんでもねぇー事になったがまだまだこれからって訳だ! 盛り上がっていけリスナァァァ!』

 

 ◇◇◇

 

「わぁお、開幕宝具、思った以上にうまくいったねぇ」

「ハハッ、まじかよ……」

「これが個性に合わせたベイビーの力ですよ! 見てますか企業の皆さん!」

「敵じゃなくて本当に良かったと思ってますわ……」

 

 やったことは単純で拡声器(・・・)で叫んで挑発しただけだ。

 今までは隠れて不意をつかないと使えない個性だと思っていた。それが堂々と真正面から不意をつくだけで、こんな事になるのかと、心操人使は体が震えるのを必死で抑えながら思っていた。

 

「出鼻は挫いた。まずは1ターン」

 

 騎馬戦が始まる前の作戦会議で「開幕で一斉にかかられるとヤバいからヨロシク」と、重大な責任をかぶせてきた入試一位様は、手に持った(・・・・・)スチール製の棒をくるりと回す。

 

 八百万の出した武器。そして両手をフリーに動かせているのは、同じく八百万が俺をのせる簡易的な御輿のような道具を作ったからだ。

 

 両手がフリーなのは何も入試一位様だけじゃない。

 八百万も発目も、その個性で材料を出し組み上げ、設計図を書き上げ生産していく。

 洗脳で作った時間を有効に使って、勝つフィールドを組み上げていく。

 

「1000万ポイントを持った耐久イベだけどさ……別に全部のハチマキをとっても構わないでしょ」

 

 この作戦を立てた入試一位様は、ニヤリと笑ってみせた。

 洗脳から脱したいくつかの騎馬が起き上がり向かってくるが、それは「一斉に」には程遠く、足取りはバラバラだった。

 

「一騎ではなぁ!呼ッ!」

 

 棒を振るえば魔法でも使ったかのように人が舞う。

 物理法則を無視してるように見えるが、修行の成果であって無個性らしい。

 

「頼もしすぎるだろ……」

 

 その呟きは拡声器のスイッチを切っていたお陰で、誰に聞かれる事もなかった。開幕で叫んだあとは、俺の出番はもう少し先だ。

 

 ◇◇◇

 

 少し時間を遡る

 

 ◇◇◇

 

(君が来たっていうことを! 世の中に知らしめて欲しい!!)

 

 オールマイトから言われたその言葉が、緑谷出久に重くのしかかる。

 障害物競争で2位。このポイントを守っても決勝に進出できるだろうが、それは僕が来たとは言えないと思う。

 

 守りよりも、攻める為の人選が必要だ。

 

 そう考えた時、ある光景が飛び込んでくる。

 

「藤丸さん……!?」

 

 洗脳を受けていたと聞いたから「ない」と思い込んでいた心操、藤丸ペアがうまれる。

 USJで脳無相手に戦った彼女の姿は記憶に新しく、1000万ポイントをとる難易度が跳ね上がった事を理解した。

 

(どうする、どうすれば藤丸さんに勝てる? 正面からぶつかるのは無理。最初に別チームと連携してまとめてかかれば何とかなるかもしれないけど、多分連携はとれない。それに上手く行っても、どのチームがハチマキをとるか分からなくて運に任せる事になる。ヒーローは運任せじゃ駄目なんだ。何か、何か……別に直接倒す必要は無くて動きを止められたらいい、そう、そうだ。どれだけ強くても無個性なんだから……!)

 

「緑谷」

「ハイィ!? な、何いきなり」

「いや、何回か呼んだんだが……驚かせてすまん」

 

 考え事が終わり、顔をあげた所で声をかけられる。

 驚きが収まれば、その声をかけてきた人物が丁度声をかけようと思い立った相手の1人な事に気付いた。

 

「あ、轟くん! 丁度よかった。あの、僕相手じゃ嫌かもしれないけど、で、出来たらその、チーム……」

「俺と組んでくれ」

 

 それは思いがけない一言で、緑谷は口をパクパクと開くことしか出来なかった。

 元々無個性で、ワンフォーオールの超パワーを使えば体を壊してしまう。同じ増強型の個性なら、客観的に見て砂藤くんの方がバランスが良くて強いと思う。

 僕なら僕を選ばない。それが緑谷出久の自己評価だった。

 

 何故僕なのか、ドキドキしながら轟の次の言葉を待っていると、轟は肩を落とした。

 

「駄目か……」

「駄目じゃないよ!! 組もう! チーム組もう!! 丁度轟くんを探そうとしてたんだ! ……でも、なんで僕と組もうと……?」

 

 そう言うと、轟はスッと声を潜めた。

 

「お前の力、オールマイトに似てるよな」

「エ゛ッ゛」

 

「いや、別に問い詰めようってわけじゃない。何か言えない事情があんだろ」

「エーイヤーアハハハハハー」

 

「隠し子とか……」

(な、なるほど、そう見えるのか……)

 

 右往左往して冷や汗をかく緑谷を見て、轟は不思議そうに小首をかしげるが、まぁいいかと構わず話を続ける。

 

「あいつ……藤丸には俺の氷じゃ足止めも出来なかった。もうどうしようもないって、正直絶望していた……そんな絶望した時にはオールマイトが駆けつけてくれるんだよな……って、思って。ふと、お前を見たんだ」

 

 声をかけた理由は単純で

 

「獲るつもりなんだろう、1000万P。藤丸に勝つつもりなんだろう。本気で」

 

 緑谷が来れば何とかなるような気がした。

 

「作戦を教えてくれ。緑谷」

 

 その言葉とまっすぐな瞳を見て、緑谷は体が重くなった気がした。

 期待を受けることの重さ、作戦を考え、実行する事の責任。雄英体育祭がプロヒーローや企業へのアピールの場であることも考えれば、将来の可能性まで肩にのしかかる。

 

(期待されるってこんなに重いのか……)

 

 それでも

 

(それでも前に進むって決めたんだ……!)

 

「分かった。でもその前に仲間を集めよう!」

「ああ、誰に声かける?」

 

「飯田くんと上鳴くんに。手分けして探そう!」

 

 ◇◇◇

 

『かかってこいよ!1000万ポイントはここだぞ!』

 

 突然の大音量に「うるせぇ!」「なんだぁ!?」という声や、「ああ!」とか「行くぞ!」とか「ぶっ殺す!」とかの声が聞こえた後。

 全ての騎馬が静止して、静かになった。

 

『自チームのハチマキを投げ捨てろ』

 

 僕たちの騎馬戦が始まった。




本当にどうなってしまうんだ……

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