殺戮の凶王が竃を前に安らぐのは間違っているだろうか   作:くるりくる

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IF:殺戮の凶王が影の国の女王に鍛えられるのは間違っているだろうか

 

「何やら珍妙な世界に放り出されたと思ったが……まさかお主に会うとはな」

「あ? 何言ってんだアンタ。初対面のくせに馴れ馴れしくすんな」

「……? ふむ、ワシを忘れるとは偉くなったなセタンタ。どれ、槍を出してみろ。あの頃と同じ様に鍛錬をしてやろう。何、そうすれば思い出す」

「はぁ? 何言って――」

 

 己の前世の記憶の殆どを忘れたが神への恨みと復讐心を胸に彼がクーフーリンとして転生したしばらく経った頃、その日の仕事を終えて村の外れで身の丈を超えた木の棒を槍代わりに我流の鍛錬を行なっていた所に一人の女性が話しかけてきた。

 

 クーフーリンにとってその女性には全くの見覚えがない。彼の人生において、目の前に立つ女性の美しさは想像を絶する域にあり美の神であっても裸足で逃げ出すほどの美しさだと彼は思ってしまった。

 

 しかし神への復讐に燃えるクーフーリン。あっけに取られたのはほんの少しばかり、子供ながら並々ならぬ才気を感じさせるがその女性は当然の様に受け流した。若干、自身の容姿に対しての反応に気を良くしていた様に見えるがそれはそれ。

 

 女性は、手の中に、朱い槍を出現させた。

 

 絶世の美しさを持つ見慣れぬ女性と朱い槍。

 

 その組み合わせを見てしまったクーフーリンの体に、これまで感じたこともない様な警鐘が走り、無意識のうちに彼に戦闘態勢を取らせた。

 

「ほほう。ワシの事を覚えていないまでも体に刻み込まれた経験と恐怖は覚えているか。しかし……お主些か腑抜けたか? 構えが杜撰だ。それに恐怖が顔に出ているぞ」

「……アンタ、何者だ? 俺は……アンタに見覚えはねぇ!!」

「この私に啖呵を切るとは……大きく出たなクーフーリン!」

 

 その後、村外れでクーフーリンの絶叫と悲鳴が何度となく口から発せられた。

 

 クーフーリンと相対する女性の名前はスカサハ。影の国の女王にして、この世界とは別の、神域に至った超越者である。

 

 

 

 

「ではお主は私の知るクーフーリンではないと?」

「……だから、そう言ってるだろ。最初っからアンタに見覚えはねぇって……てかガキにマジになるとかアンタマジで鬼だろ」

「ふぅむ。てっきりワシの事を忘れておるものばかりと思っておったのだが……最初から覚えておらんと言うのならその反応は納得だな」

 

 草の生えた地面に大の字になって息絶え絶えのクーフーリン。幼くも村では大人顔負けの体力を持つクーフーリンが精魂尽きたと言わんばかりにどんよりとした顔で、腰に両手を当てて見下ろしてくるスカサハへと視線を向けた。

 

 スカサハは形の良い顎に手を当て考え込む。彼女にとってもどうやら予期せぬ事態の様で困惑しているのが分かる。だが突然槍を持ってヒャッハーと襲いかかってきた不審者に同情も憐憫も覚える事は無かった。

 

 荒々しかった息をようやく整えたクーフーリンは何とか立ち上がり、改めてスカサハに向かい合った。

 

「アンタ、強えな。それにさっきも全然だった。違うか?」

「ちんまりとした体の割によくもまぁ気付いたな。お主の見なした通り、先ほど私は全力とは程遠い。それどころかこの身は分霊……つまり本体の型落ちだ」

「マジかよ……それで型落ちとか……意味わかんねぇ」

「何、お主も鍛えれば今のワシくらいにはなる」

 

 今よりもっと強くなれる、その言葉にクーフーリンの顔に凄惨な笑顔が浮かんだ。今より強くなれると、自身よりも遥かに強い存在からのお墨付きを貰ったのだから。

 

 彼にとって目指すべきは己の生と死を弄んだクソッタレな神に復讐する事。今より強くなれるというのなら、少なくとも今よりもクソッタレな神を殺せる確率が高いという事だ。

 

 その笑みを見る事になったスカサハは考える。このままこの人物を放っておいて良いのかと。

 

 彼女が手ずから鍛えた愛弟子のクーフーリンでは無い様だが、何の因果かその愛弟子の体を持ち、その体にはかつての経験が宿っている。スカサハが放っておいてもじきに大器となるだろう。彼女は確信を持って言えるが、その先にこの男は煉獄に落ち、その魂を堕落させる事も容易く予想できた。

 

 スカサハにとって、別にこの男が勝手に死のうが生きようがどうでも良かった。だが愛弟子の体を持つというのなら話は別だ。

 

「なぁ、アンタ。俺を鍛えてくれねぇか」

「……それが私に一体何の得がある」

「……飯とか住む場所をできる限り用意――」

「お主如きが何を献上できるというのだ。腹が空けば己で狩りに出れば良い。住む場所なら作れば良い。ワシにとって衣食住の調達など瑣末なものだ。その上で再び問う。お主は、一体何をこの私に献上する?」

 

 確かにスカサハにはこの事態は予想外だ。だが、それだけだ。スカサハにとってこの程度のこと片手間で対処出来る。

 

「頼むッ! 俺を、強くしてくれッ!」

「……」

「俺は……どうしても殺さなきゃならねぇ奴がいる! その為には、今以上に強くならなきゃならねぇ!!」

 

 クーフーリンは己の全てをかけて神を殺したかった。その為にはどんな屈辱でも耐える決意であった。体を動かし、頭を下げたクーフーリン。彼はこの世界に生まれ落ちて、初めて他人に頭を下げて頼み込んだ。

 

 黙ってそれを見つめるスカサハは、目の前の男は自分が折れぬ限りそのままで居続けると簡単に予測できた。幼い体でありながら、その身に大した物を宿していると呆れたスカサハはため息をつく。

 

 降参の合図であった。

 

 

 

 

 クーフーリン、8歳の時。

 

「ではセタンタ。ワシが槍を持って追い立てるからお主は逃げろ。それだけだ」

「アンタ、何だそのセタンタってのは。何かの合言葉か?」

「……お主は知らんでも良い、まぁ、かつての名残だな」

「あっそ……って!? 突然槍で突いてくるんじゃねぇっ!」

「黙れ。もう始まっておるのだ。死に物狂いで逃げまどえ!」

「クソが~!!」

 

 クーフーリン、12歳の時。

 

「お主も体ができた頃だ。武芸を教えてやろう」

「あぁ……。それで俺は何の武器を振るえばいい」

「全てだ」

「はぁ……?」

「剣に槍に斧に、双剣、弓や盾の扱いその他諸々、ワシの知り得る限りの全てを叩き込んでやろう。戦場において武器を一つしか使えんというのは格好が悪い。生存率がまるで違う」

「ふざけんな! んなもん――」

「ワシはやれと言った。ならばやれ」

「……クソッタレ!! やってやらぁ!!」

 

 クーフーリン、16歳の時。

 

「スカサハ。今日は何をする」

「ふむ。今日はルーン魔術の復習だな。ワシにルーンを打ち込んでこい」

「なら……【アンサズ】!」

「ほう! いい火力だ。これなら人間など容易く丸焦げにできる」

「それじゃ足りねぇんだよ。俺は……この程度じゃあな!」

「ルーンの複数同時詠唱。随分と腕を上げたものだ。なら私も……【アンサズ】!」

 

 クーフーリン、18歳の時。

 

「クーフーリン。お主にワシの槍を授けよう。銘はとうに知っておるな?」

「……礼は言わねぇ」

「お主の様な捻くれ者の礼など要らん。ただ……この槍を授けるにあたり、一つ条件がある」

「言え。アンタの事だからどうせロクでもねぇ事だろうがな」

「察しの通りだ。それはな——いずれ必ず私の下まで辿り着き、この私を殺す事だ」

 

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