『オマケ』とは本編とは無関係の追加シーンです。
オマケファイルその一:勝利まで七十二時間(あるいは「〈ハリーだけを変えてほかのキャラはすべてそのままにしたらどうなるか〉」)
ダンブルドアは親切そうに目をきらきらとさせ、机のむこうがわにいるおさないハリーをのぞきこんだ。子どもらしい顔に、おそろしく真剣な表情——その用件がなんであれ深刻
ハリー・ジェイムズ・ポッター゠エヴァンズ゠ヴェレスは椅子から身をのりだして、にやりと笑った。「総長先生、〈組わけの祝宴〉のあいだに、ぼくのひたいの傷あとにするどい痛みがありました。この傷あとのなりたちをふまえると、無視してはいけないことのような気がしました。最初はスネイプ先生が原因かと思いましたが、現象の存在と不在とのそれぞれの条件をみつけるというベイコン的実験手法がありますので、それにしたがってやってみると、必要十分条件が分かりました。ぼくの傷あとが痛むのは、クィレル先生の後頭部、というよりあのターバンのなかにいる何者かが、こちらをむいているときであり、かつそのときだけでした。その何者かは無害なものの可能性もあるとは言え、暫定的に〈例の男〉だと仮定しておくべきだと思います——おっと、そんなぞっとした顔をしないでください——これはこのうえなく貴重な機会なんですから——」
オマケファイルその二:〈闇の王〉なんかこわくないこれは第九章の初期ヴァージョンです。さしかえた理由は——楽しんでくれた読者も多かったものの——ファンフィクションでの劇中歌に
リー・ジョーダンは(原作で)フレッドとジョージの仲間のいたずらっこです。『リー・ジョーダン』という名前はマグル生まれのようなひびきで、ハリーが知っていそうな曲をフレッドとジョージがリーからおそわることもできただろうという気がしました。このことが一部の読者にはあまり明白でなかったようです。
ドラコはスリザリンになった。ハリーは小さく安堵のためいきをついた。確実なことのように
『P』の番がちかづいてくる……
グリフィンドールのテーブルのほうには、ささやき声の会話があった。
「気にいってくれなかったらどうする?」
「気にいらないなんて言わせるかよ——」
「——あんないたずらをしてくれちゃって——」
「——やられたのはネヴィル・ロングボトムだったっけ——」
「——いまの彼はおなじくらい標的としてうってつけだ。」
「よし。自分のパートをわすれるなよ。」
「リハーサルは十分したしな——」
「——この三時間ずっと。」
そして〈主テーブル〉の演説台にたつミネルヴァ・マクゴナガルは、リストに目をおとし次の名前をみた。
「ポッター、ハリー!」
急に大広間がしずまり、ささやき声の会話がすべてとまった。
その静寂をやぶったのは、音楽をとことんばかにするような変調と転調のしかたの、ひどいブーブー音だった。
ミネルヴァはぐいっとくびを回転させ、ショックを受けた。ブーブー音はグリフィンドールのテーブルの方向からきている。〈あの二人〉が
ダンブルドアがくすくすと笑っている。
ミネルヴァの目はハリー・ポッターにもどった。彼は列からでたばかりのところで、つまづいてとまっていた。
少年はまた歩きだした。なでるようなおかしなやりかたで足をうごかし、腕を前後にゆらして、〈あの二人〉の音楽にあわせて指をならしながら。
歌はリー・ジョーダン)
心配は無用
だれを呼ぼう?
「
なんとか大丈夫
だれを呼ぼう?
「ハリー・ポッター!」今度はもっとたくさんの声がさけんでいた。
〈ウィーズリーの悪夢〉はうなるような音をだしはじめ、年長のマグル生まれ何人かも小さな器具をつくりだして伴奏にはいった。おそらく〈転成術〉で銀の食器からつくったものだ。音楽が
〈闇の王〉なんかこわくない!
とりわけグリフィンドールのテーブルからは歓声があがり、さらに多くの生徒が反楽器をつくりだした。不快なブーブー音の音量は倍増し、いやなクレシェンドへとかさなっていった:
〈闇の王〉なんかこわくない!
ミネルヴァは〈主テーブル〉の両がわを一瞥した。みるのもこわいが、どんな様子になっているかは十分想像できた。
トレロウニーは必死に自分をあおっている。フィリウスはおもしろそうにみている。ハグリッドは音楽にあわせて拍手している。スプラウトは深刻そうにしている。クィレルは皮肉っぽくたのしむ表情であの子をみつめている。すぐ左どなりのダンブルドアはハミングで音にあわせている。すぐ右どなりのスネイプはワインの杯をにぎって拳を強くかためていて、その強さに銀の素材がゆっくりと変形しはじめている。
無理難題?
だれを呼ぼう?
ハリー・ポッター!
マント姿のコウモリ?
だれを呼ぼう?
ハリー・ポッター!
ミネルヴァのくちびるがきつくむすばれた。あの歌の最後の部分について〈あの二人〉には説教が必要だ。まだ学校の一日目でグリフィンドールには減点すべき点がそもそもないからなにもできないだろう、とたかをくくっているのかもしれないが。居残り作業でもこりないなら、なにか別のものをさがしておこう。
そこで、ミネルヴァは急に恐怖にあえいで、スネイプの方向をみた。いまのがだれのことを言っているかをハリーは知らないはずだということに、まずまちがいなくスネイプは気づいたはず——
スネイプの表情は怒りからここちよい無関心の一種にかわっていた。かすかな笑みがくちびるにのぞいている。グリフィンドールのテーブルではなくハリー・ポッターの方向をみて、ワインの杯だったものの残骸を手ににぎっている。
そしてハリーはゴーストバスターズのダンスのなでるようなうごきで腕と足をうごかして、笑みを維持したまま、まえにすすんだ。完全に不意をつかれたが、これはいい仕掛けだ。だいなしにしないように、せめて乗せられてあげたい。
みんなは歓声をあげている。ハリーはこころがあたたかくなると同時に多少不愉快になっていた。
彼が一歳のときにした仕事についてみんなは歓声をあげている。実際には終わっていない仕事について。どこかで、どうにかして、〈闇の王〉は生きている。それを知っていたら、彼らはあれほど拍手しただろうか?
だが、〈闇の王〉のちからは一度くだかれた。
そしてハリーは彼らをもう一度まもるだろう。もし予言が実際にあってそういうことを言っていたとしたら。いや、予言がなかろうが予言がなにを言っていようがおなじだ。
この全員が自分を信じて応援してくれている。ハリーはそれをうそにしてはいられない。おおくの神童とおなじように閃光のようにちっていくこと。がっかりさせること。
それで、韻がよくあっていてこの歌にうってつけだったので、ハリーはこの即興のうそをさけんだ:
〈闇の王〉なんかこわくない!
ハリーは〈組わけ帽子〉までの最後の数歩をあるいた。グリフィンドールのテーブルにいる〈混沌の騎士団〉に一礼し、大広間の反対側にもう一礼し、拍手と笑いがおさまるのを待った……
オマケファイルその三:『自己の認識』の別の結末案いくつかどんなことが『起きるのははじめて』なのかを予想した人に結末を教えてあげますと言ったところ、おもしろい試みが
こころのかたすみで、ハリーは〈組わけ帽子〉には
講堂に静寂がもどると、ハリーは椅子に座り、その八百年もののテレパシー能力つきの失われた魔術の遺物を
懸命にこう考えながら。まだ組わけはしないで! 質問したいことがあるんです! ぼくは
そして〈組わけ帽子〉は回答した。「
「おやおや。こんなことが起きるのははじめてだ……」
は?
「きみのシャンプーはぼくの肌にあわないらしい——」
〈組わけ帽子〉は「ハクション!」と大声でくしゃみをし、その音が大広間にひびきわたった。
「さて!」ダンブルドアがうれしそうに声をはりあげた。「ハリー・ポッターは新寮ハクションに組わけされたようじゃ。マクゴナガル、きみはハクション寮監になりなさい。ハクションの時間割と授業の作成をいそいでもらいたい。明日が一日目なのだから。」
「でも、でも、でも……」とマクゴナガルは口ごもった。あたまのなかがほとんど完全な混乱状態になっている。「グリフィンドール寮監はだれが?」 思いついたのはそれだけだった。なんとかしてこれを止めなければ……
ダンブルドアはほおに指をあてて、思案する風になった。「スネイプじゃ。」
スネイプの抗議の悲鳴はマクゴナガルのそれをかきけすほどだった。「では
「ハグリッドじゃ。」
まだ組わけはしないで! 質問したいことがあるんです! ぼくは
みじかい沈黙があった。
もしもし? もう一度言いましょうか?
〈組わけ帽子〉は大広間にひびきわたるひどく甲高い音をだし、生徒たちのほとんどが両手を耳にあてた。絶望的な遠ぼえをしながら、帽子はハリー・ポッターのあたまからとびおりて、床のうえをとびはね、つばではいながら〈主テーブル〉までいく途中で、爆発した。
「スリザリン!」
ハリー・ポッターの顔に浮かんだ恐怖の表情をみて、フレッド・ウィーズリーは人生最速のはやさで考えた。まっすぐに杖をとりだし、ささやき声で「〈
「冗談さ!」とフレッド・ウィーズリー。「グリフィンドール!」
「おやおや。こんなことが起きるのははじめてだ……」
え?
「ふだんならそういう質問は総長にまわすし、彼がこちらに返したければ質問し返すこともある。だがきみのもとめる情報の一部は、きみの現在のユーザーレヴェルばかりか総長のユーザーレヴェルも超えている。」
どうやればユーザーレヴェルをあげられる?
「申し訳ないが、その質問にはきみの現在のユーザーレヴェルではお答えできない。」
そこからあまり時間がたたないうちに——
「ルート!」〔訳注:UNIXの上位ユーザーレヴェル〕
「おやおや。こんなことが起きるのははじめてだ……」
え?
「生徒が母親になったとつたえないといけないことは何度かあったが——そのときみえた思考は悲痛なものだった——だれかが父親になったとつたえるのははじめてのことだ。」
は?
「ドラコ・マルフォイがきみの子を妊娠している。」
はああああ?
「くりかえす。ドラコ・マルフォイがきみの子を妊娠している。」
でもぼくたちはまだ十一歳で——
「ドラコ・マルフォイは実は十三歳だ。」
で、でも男は妊娠できない——
「そして服を脱がせれば女の子だ。」
でもぼくたちはセックスしてないだろ!
「ばかだな、きみはレイプされて
ハリー・ポッターは卒倒した。意識不明になった体が椅子から落ち、どしんと音をたてた。
「レイヴンクロー!」と彼のあたまのうえにおかれたままの〈帽子〉がさけんだ。最初の思いつきよりも笑える結末だった。
「エルフ!」
ん? ドラコは『ハウスエルフ』についてなにか言っていたな。でも結局どういう意味だったんだ?
周囲のかおにあらわれてきた愕然とした表情から判断すると、いいことではなさそうだ——
「パンケーキ!」〔訳注:菓子店チェーンのパンケーキハウス? 〕
「リプレゼンタティヴス!」〔訳注:ハウス・オヴ・リプレゼンタティヴス=下院〕
「おやおや。こんなことが起きるのははじめてだ……」
え?
「ゴドリック・グリフィンドールとサラザール・スリザリンとナルトの転生者を〈組わけ〉するのはこれがはじめてだ。」
「アトレイデ!」〔訳注:『デューン/砂の惑星』〕
「いまのも冗談! ハッフルパフ! スリザリン! ハッフルパフ!」
「〈イチゴのピクルス〉!」〔訳注:謎〕
「〈カーーーン〉!」〔訳注:スタートレック? 〕
〈主テーブル〉でダンブルドアは温和そうなほほえみをつづけた。スネイプの方向から、ワインの銀杯のなれのはてを所在なげにたたもうとする金属音がした。ミネルヴァ・マクゴナガルは手を白くなるまでかためて演台をにぎっていた。彼女はハリー・ポッターの感染する混沌がどうにかして〈組わけ帽子〉にもおよんだということを知っていた。
いくつものシナリオがつぎつぎと、段々悪化する順序で、ミネルヴァのあたまのなかをかけぬけた。〈帽子〉はハリーが各〈寮〉に平等に属していて〈組わけ〉できないと言って全部に所属させるのではないか。〈帽子〉はハリーのあたまのなかが奇妙すぎて〈組わけ〉ができないと宣言するのではないか。〈帽子〉はハリーをホグウォーツから退学させろと主張するのではないか。〈帽子〉は昏睡状態におちいったのではないか。〈帽子〉はハリー・ポッターのためだけにあたらしく〈破滅の寮〉をつくれと言うのではないか。
ミネルヴァはダイアゴン小路での破滅的な買い物の際にハリーから教えられたことを思いだした。たしか計画錯誤……ひとは楽観的すぎるということ、自分は悲観的だと思っているときでさえそうだということ。その種の情報が、彼女のあたまのなかを食いあらし、住みつき、悪夢をまきちらしていた……
でもおこりうる
それは……
それが最悪のシナリオか?
ミネルヴァは正直に言ってそれ以上わるくなる状況が思いつかなかった。
この最悪の場合さえ——ハリーに
ミネルヴァは演台をにぎるこぶしがゆるまるのを感じた。ハリーはただしかった。闇の最深部を直視し、自分はすでに最悪の恐怖に対面していて、準備ができていると思えることには一種の安心感がある。
おそろしい静寂が一言でやぶられた。
「総長!」と〈組わけ帽子〉がさけんだ。
〈主テーブル〉でダンブルドアがたちあがった。怪訝な表情をみせ、〈帽子〉にむかって答える。「はい、なにか?」
「いまのは呼びかけではない。」と〈帽子〉。「ハリー・ポッターの〈組わけ〉先だ。ホグウォーツでもっとも彼にふさわしい場所、つまり総長室へ——」
原作品の著者:J. K. Rowling
ファンフィクションの著者:Eliezer Yudkowsky
今回の非ハリポタ用語:「転生者」
オリジナルのキャラが作品知識ありで転生してきたり、他作品のキャラが転生してきたりという設定は英語の二次創作でもよくある。